法人課税信託 2008年6月18日 税法特論 国際企業環境コース 岡田、大西、菅野、佐々、古賀 1 目次 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 日本における信託税制 法人課税信託 特定目的信託と特定投資信託 自己信託 事業信託 受益証券発行信託 問題点・今後の課題 2 日本における信託税制 目次 1.信託の意義と機能 <参考文献>信託協会ホームページ 2.信託の利用形態の多様化と信託法改正 <参考文献>福田政之、池袋真実、大矢一郎、月岡崇(2007)「詳細 新信託法」pp.12-14 3.信託法改正に伴う信託税制 <参考文献>財務省ホームページ「平成19年度税制改正」 4.信託税制の歴史 <参考文献>鯖田豊則(2007)信託の会計と税務pp.9-12、 pp.43-85 5.信託税制の仕組み <参考文献>財務省ホームページ「平成19年度税制改正」 3 1.信託の意義と機能 • 信託とは、委託者が受託者に対して財産権 の移転その他の処分をし、信託目的に従っ て、受託者が受益者のために信託財産の 管理、処分をすることをいう。 委託者 受託者 財産権の 移転 受益者 信託利益 の交付 ①財産管理機能:財産の管理処分権が受託者に与えられる。 ②転換機能:信託財産が信託受益権という権利となり、信託の目的に応じた 形に転換できる。 ③倒産隔離機能:信託財産が委託者および受託者の倒産の影響を受けない。 4 2.信託の利用形態の多様化と信託法改正 近年、わが国における個人・法人の富の蓄積が飛躍的に進展したことや、 高齢化・核家族化が進んだことなどにともない、信託の伝統的な機能であ る財産管理に対する期待が高まってきた。 さらに、ビジネス(特にファイ ナンス)の手法の発展、多様化にともない、土地信託や証券信託、資産流 動化、さらには事業の器など多様な利用ニーズに柔軟に対応できる信託 の基本法が整備されることが強く期待されるようになった。これは、信託の 基本法としての信託法が長年改正されなかったことにより、法律と実務と の乖離が生じ、法律の定める内容が不明確であったり、そもそも法律関係 を規律すべき法文が存在しないため、実務に混乱が生じたり、あるいは逆 に、全関係当事者が合意しており、何ら弊害がないことが明らかであるに もかかわらず、信託法の強行規定の存在がネックとなって、取引を円滑に 実行できないなどの弊害が生じるようになっていたためである。 そこで、強行規定の原則任意規定化、信託が実質的には受益者のため の制度であることを前提とした受益者の権利の保護・強化、信託宣言(自 己信託)、事業信託やセキュリティ・トラストなどの多様な信託の利用形態 に対応するための規定の整備などを柱とした新しい信託法が制定された。 (平成19年9月30日施行) 5 3.信託法改正に伴う信託税制 新信託法によって、多様な信託の類型が可能となり、信託の利用機会 が大幅に拡大。 信託に対する課税上の対応の必要性 ●課税の公平・中立性の確保 ●多様な信託の類型への課税上の対応 ●法人税、相続税等の租税回避の防止 平成19年度改正 ①受益者段階発生時課税:受益者等課税信託 例)不動産・動産の管理等の一般的な信託。 ※信託損失の取込み規制の適用。 ②受益者段階分配時課税:集団投資信託、退職年金等信託、特定公益 信託等。 ③信託段階法人課税:法人課税信託 6 4.信託税制の歴史 所得税 明治20年 明治32年 大正11年 創設 所得税が分類 第3条の2 大正12年 第3条の2 第1項、 第4項 昭和15年 第13条第1項 法人税 信託税制 委託者課税 受益者が特定している場合: 受益者が信託財産を有するもの とみなして所得税を賦課。 第1種所得が独立して 法人税が創設 第12条第1項 平成12年 受益者課税 背景 受託者課税 受益者が不特定または未存在の 信託法制定。 場合: 受託者を委託者とみなして、第3 種所得として個人の所得税を賦 課。 なお、貸付信託は、第2種所得と して源泉徴収。 貸付信託による収入、支出は信 託会社の所得の計算上益金、損 金から控除。 受益者が特定している場合: 受益者が不特定または未存在の 受益者が信託財産を有するもの 場合: とみなして課税。 委託者が信託財産を有するもの とみなして、課税。 本文信託:発生時課税 本文信託:発生時課税 但書信託:分配時課税 但書信託:分配時課税 貸付信託と銀行預金者との公平 性の観点より導入。 特定信託の創設 第7条の2 特定信託(特定目的信託及び一 定の公募型投資信託以外のも の)の受託者に、信託財産から生 じた所得について法人税を課税。 資産流動化法において特定信託 制度が創設。 投資信託法の改正により不動産 等を含む特定資産を主たる投資 対象とする投資信託や投資法人 の創設が可能となった。 上記、同様の活動を行う特定目 措置法第68条の3の3 第1項第1号 一定の要件を満たした場合、利 益分配額の損金算入を認める。 的会社や証券投資法人との課 税のバランスから、ペイスルー課 税を導入。 平成19年 法人課税信託を創設 第13条第1項 受益者等課税信託 基本通達 集団投資信託、退職年金等信 法人課税信託 に係 る所 託、特定公益信託等 得の金額の計算等 第12条第1項 本文信託:発生時課税 但書信託:分配時課税 法人課税信託として、特定信 託も含めた新しい信託に対す る法人課税を規定。 改正信託法の施行による、多様 な信託類型が可能となったことへ の対応。 (租税回避への対応。) 但書信託:分配時課税 7 5.信託税制の仕組み ●信託に対する収益については、 本文信託: (1)受益者に発生時に課税される信託(受益者等課税信託) を原則 但書信託: (2)受益者に分配時に課税される信託(集団投資信託、退職年金等信託、 特定公益信託等)、 (3)受託者に発生時に法人税が課税される信託(法人課税信託)がある。 ●受益者等課税信託では、 法的には信託財産が受託者に移転するが、税制上、受益者が信託財産に属す る資産、負債、信託財産に帰属する収益、費用を直接有するものとみなして収益 の発生時に受益者に課税される。 信託財産が賃貸用不動産であれば、賃料収入は、その発生した年度に、受益者 に対して課税され、受益者が受託者から実際に収益を受取ったかどうかを問わな い。 8 法人課税信託 目次 1.概要 <参考文献>金子宏(2008)租税法pp.347-349 2.課税根拠 <参考文献>金子宏(2008)租税法pp.347-349 3.法人課税信託の定義 <参考文献>法人税法 第2条 4.法人課税信託に対する課税:信託導管理論の不適用 <参考文献>藤本幸彦・鬼頭朱実(2007)「信託の税務」pp.100-141 5.法人課税信託に対する課税:受託者 <参考文献>藤本幸彦・鬼頭朱実(2007)「信託の税務」pp.100-141 6.法人課税信託に対する課税:委託者・受益者 <参考文献>藤本幸彦・鬼頭朱実(2007)「信託の税務」pp.100-141 7. 法人課税信託に係る所得の金額の計算等 <参考文献>法人税法基本通達 9 1.概要 平成19年度の改正で、各事業年度の所得に対する法人税の一部と して、法人課税信託の所得に対する法人税が導入され、特定信託の 所得に対する法人税はそれに統合された。 法人課税信託は、新信託法の施行日(平成19年9月30日)以後に 効力が生じた法人課税信託に対して適用される。(附則1条7ロ) それよりも前に生じた特定信託は、引き続き平成19年度改正前の特 定信託に対する法人税の対象とされるが(附則32条)、実際には適用 例はないといわれている。 10 2.課税根拠 法人課税信託は、それぞれ目的や性質は異なるが、 (1)その経済活動によって生み出される利益が長期間にわたって積み 立てられ、または内部に留保される傾向があるため、課税が繰延べら れやすいこと および (2)委託者たる法人またはその特殊関係者の租税回避に利用されや すいこと という2つの問題点をもっている。 これに対処するため、これらの信託を法人課税信託として一括し、そ の所得を法人の各事業年度の所得に対する法人税の課税の対象とし たのである。 11 3.法人課税信託の定義 法人税法上の定義: 法人税法第2条 二十九の二 (1)特定受益証券発行信託に該当しない受益証券発行信託 (法人税法第2条 二十九の二イ) (2)目的信託等(受益者が存しない信託)のうち一定のもの (法人税法第2条 二十九の二ロ) (3)重要な事業の信託 (法人税法第2条 二十九の二ハ) (4)自己信託(長期の自己信託、損益分配の操作が可能な自己 信託等) (法人税法第2条 二十九の二ハ) (5)特定投資信託(投資法人法第2条第3項に規定する投資信 託) (法人税法第2条 二十九の二ニ) (6)特定目的信託(資産流動化法第2条第13項に規定する特定 目的信託) (法人税法第2条 二十九の二ホ) 12 4.法人課税信託に対する課税 :信託導管理論の不適用 法人税法上および所得税法上、集団投資信託および法人課税 信託以外の受益者等課税信託は導管として取り扱われ、受益者 が当該信託に係る資産および負債を有するものとみなされ、信託 財産に帰せられる収益および費用は受益者の収益および費用と みなして税法の規定が適用される。 しかし、集団投資信託や法人課税信託等については、信託導管理 論の適用対象外とされており、信託の受益者は信託財産を有するも のとはみなされない。 13 5.法人課税信託に対する課税 :受託者① 【信託の受託者等に関する法人税法の適用】 法人税法上、法人課税信託の受託者は、各法人課税信託の信託資産 (信託財産に属する資産および負債ならびに信託財産に帰せられる収益 および費用)および固有資産等(法人課税信託の信託資産等以外の資産 及び負債ならびに収益及び費用)ごとに、それぞれ別の者とみなして、法 人税が課される。 すなわち、法人課税信託の信託財産に帰せられる収益および費用につ いては、受託者に対して法人税が課されるものの、他の法人課税信託お よび受託者自身の所得に係る(法人課税信託以外の)収益および費用と 通算して申告すべきものではない。 14 5.法人課税信託に対する課税 :受託者② 15 5.法人課税信託に対する課税 :受託者③ 【法人課税信託の所得に係る法人税の課税計算】 法人課税信託の法人税法上の課税所得の計算は、原則として普通法人の法人税 法上の課税所得の計算と同様の規定が適用される。 例えば、特定同族会社に対する留保金課税や同族会社等の行為計算否認規定の適 用。もある。 【特定投資信託・特定目的信託】 平成19年度税制改正により、法人課税信託のうちの一類型の位置づけ。 課税の方法自体は、平成10年度税制改正による以下の特例(ペイスルー課 税)。一定の要件を満たす特定投資信託および特定目的信託の収益の分配 については、課税所得の計算上、損金算入が認められている。(投資家は、 配当控除・受取配当等の益金不算入の適用なし。) 一方、これら以外の法人課税信託については、この規定はないが、 受益者側で、収益の分配につき受け取り配当等の益金不算入や配当控除の適用(二 重課税排除のための)が認められている。 16 5.法人課税信託に対する課税 :受託者④ 具体的には、以下に定めるところにより、法人税法の規定が適用される。 (1)納税義務: 内国法人、外国法人及び個人は、法人課税信託の引受けを行うと きは、法人税を納める義務がある。(法人税法第4条) (2)課税方法の原則:受託者での法人税課税。法人課税信託の信託財産に帰せら れる所得に対しては、受託者の固有財産に帰せられる所得とは区分して法人税を課 税する。(法人税法第4条の6)。 (3)受託法人に関する法人税法の規定の適用の通則:受託法人又は法人課税信託 の受益者について法人税法の規定を適用する場合の調整規定の設置。(法人税法第 4条の7) (4)納税地: 受託法人の納税地は、受託者の固有の納税地と同一。受託法人が個 人の場合には、その個人の申告所得税の納税地となるべき場所。(法人税法第17条 の2)。 (5)タックス・ヘイブン税制や過少資本税制の適用もある。受託者が2以上ある場合: 一の法人課税信託の受託者が2以上ある場合には、各受託者の当該法人課税信託 に係る信託資産等は、一の者の信託資産等とみなして、法人税法の規定を適用。こ の場合には、各受託者は、その法人課税信託の信託事務を主宰する受託者を納税義 務者として当該法人課税信託に係る法人税を納める(法人税法第4条の8) 17 5.法人課税信託に対する課税:受託者⑤ (6)信託の併合:信託の併合は合併とみなし、併合に係る従前の法人課 税信託にかかる受託法人は被合併法人に、併合に係る新たな法人課税 信託に係る受託法人は合併法人に含まれる。 (7)信託の分割:信託の分割は分割型分割にふくまれるものとし、信託の 分割によりその信託財産の一部を受託者を同一とする他の信託または 新たな信託の信託財産として移転する法人課税信託にかかる受託法人 は分割法人に、信託の分割により受託者を同一とする他の信託からのそ の信託財産の一部の移転を受ける法人課税信託に係る受託法人は分割 承継法人に含まれる。 (8)設立及び解散:受託法人は、法人課税信託の効力が生ずる日または 法人課税信託に該当することとなった日に設立されたものとされる。 また、法人課税信託についての信託の終了があった場合または受益者 が存することとなった場合は、受託法人の解散があったものとみなされる。 (9)法人課税信託に係る所得の金額の計算:受託法人の各事業年度の 所得の金額の計算については、基本的に通常の法人と同様に行うことと なるが、受託法人特有の計算について規定を設置。 また、法人課税信託の受益者についてもその特有の計算規定を設置。 (法人税法第64条の3) (10)法人税率:30%。資本金1億円以下の軽減税率の適用なし。 18 5.法人課税信託に対する課税 :委託者・受益者① 法人課税信託の受益権: 株式または出資とみなす 法人課税信託の受益者: 株主等とする 法人課税信託(受益者が存しない信託 委託者/受益者から法人課税信託にかかる受託法人に を除く)の委託者たる個人及び法人がそ 出資があったものとみなす。 の有する資産の信託をした場合: 受益者が存しない信託の委託者たる個 委託者/受益者から法人課税信託にかかる受託法人に 人がその有する資産の信託をした場合: 贈与があったものとみなす。 ③ 収益の分配の取扱い 法人課税信託の収益の分配: 資本剰余金の減少に伴わない剰余金の配当とみなす。 法人課税信託の元本の払戻し: 資本剰余金の減少に伴う剰余金の配当とみなす。 ① 法人課税信託の受益 権の取扱い ② 法人課税信託への信 託の取扱い 19 5.法人課税信託に対する課税 :委託者・受益者(投資家)② 居住者 法人課税信託からの収益の 法人課税信託の受益権の譲 分配 渡益 20%の源泉税課税の後、法人 源泉税なし。 税の計算上益金算入。源泉 徴収された所得税は、所得税 額控除の適用あり。 受取配当等の益金不算入の 法人税の計算上益金及び損 適用あり。 金算入。 非居住者 法人課税信託からの収益の 法人課税信託の受益権の譲 分配 渡益 法人 20%(※15%)の源泉税で課税 原則課税なし。 投資家 関係終了。投資家の所在国 の租税条約により源泉 税が 軽減される可能性あり。 ただし事業譲渡類似課税、不 動産化体株式の譲渡益課税 あり。 個人 【配当所得】 【株式等に係る譲渡所得等】 【配当所得】 原則課税なし。 投資家 20%の源泉税課税の後、総合 20%(所得税15%、地方税5%) ただし事業譲渡類似課税、不 課税。支払った源泉税につき の申告分離課税。 動産化体株式の譲渡益課税 所得税額から控除できる。 あり。 配当控除の適用あり。 20%(※15%)の源泉税で課税 関係終了。投資家の所在国 の租税条約により源泉 税が 軽減される可能性あり。 ※1:特定目的信託の投資家が社債的受益権を保有している場合 20 7.法人課税信託に係る所得の金額の計算等 【法人税法基本通達 第12章の6 法人課税信託に係る所得の金額の計算等】 第2節 法人課税信託に係る所得の金額の計算 (公益法人等の法人課税信託に係る課税所得の範囲) 12の6-2-1 公益法人等が法人課税信託の受託者となった場合には、当該法人課税信託に 係る受託法人は当該公益法人等とは別の会社とみなされることから、当該法人課税信託に 係る法人税の課税所得の範囲は、収益事業から生じた所得に限られないことに留意する。 (平19年課法2-5「七」により追加) (受益者等が存しない信託に係る清算所得に対する法人税の課税関係) 12の6-2-2 法人課税信託のうち、法第2条第29号の2ロ《法人課税信託》に掲げる信託に係る 受託法人は、受益者が存することなく信託の終了があった場合に限り、清算所得に対する法 人税が課されることに留意する。(平19年課法2-5「七」により追加) (法人課税信託の収益の分配における受取配当等の益金不算入の適用) 12の6-2-3 法人課税信託の収益の分配は、資本剰余金の減少に伴わない剰余金の配当と みなされることから、法第23条《受取配当等の益金不算入》の規定の適用があることに留意 する。(平19年課法2-5「七」により追加) (注) 法人課税信託の収益の分配を受けた受益者が同条の規定を適用する場合における同条 第5項に規定する関係法人株式等の判定に当たっては、たとえ当該受益者が当該法人課税 信託の受託者である法人の株式又は出資を有していたとしても、当該受益者が有する当該 法人課税信託に係る受益権のみによりその判定を行うこととなる。 21 特定目的信託と特定投資信託 ~従前より法人課税されている 特定信託を中心に構成~ 22 目次 • 特定信託概念創設の理由 • 特定目的信託特定投資信託 の課税 • 支払配当等の主な損金算入要件 • 実務面における問題 ~支払配当損金算入要件を中心として~ 23 特定信託概念創設の理由① 立法当局者の観点 • 「特定目的会社は、資産の流動化のためにのみ用 いられる特殊な会社であって導管的な存在に過ぎ ないものであることから、税制上もこれに適合した課 税上の取り扱いをする観点」 • 証券投資法人は「実質的には運用資産の集合体に 過ぎないものであることから、税制上もこれに適合し た課税上の取扱いをする観点」 24 特定信託概念創設の理由② • 「導管的な存在」や「実質的には運用資産の 集合体」であっても、特定目的「会社」、証券 投資「法人」として法人格を有する以上は、飽 くまでも法人税制に取り込み、その枠内で対 処することが、ここでの暗黙の前提とされてい る。 • 「導管的な存在」であるから所得の性質や損 失をも伝えるスキームを考える、という発想が ここには存在していない。 25 特定信託概念創設の理由③ • ①②の基本的な発想の延長線上に、平成12年にお ける「投資法人」および「特定信託」に関する税制改 正が位置している。 • 法人格のない信託という法形式を用いて特定目的 会社と同様の経済的機能を果たす特定目的信託と、 一部の投資信託を「法人課税」の対象としつつ、投 資法人や特定目的会社と同様の要件の下で支払配 当の損金算入を認めるという同様の特例を措置した ものである。 26 特定目的信託特定投資信託 の課税① • 信託段階法人課税 • イ)信託の種類:法人課税信託 • ロ)信託の例示:特定受益証券発行信託に該 当しない受益権発行信託、目的信託のうち一 定のもの、事業信託、自己信託、投資信託、 特定目的信託 27 特定目的信託特定投資信託 の課税② 二十九の二 法人課税信託 次に掲げる信託(集団 投資信託並びに第十二条第四項第一号(信託財産 に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられ る収益及び費用の帰属)に規定する退職年金等信 託及び同項第二号に規定する特定公益信託等を除 く。)をいう。 ニ 投資信託及び投資法人に関する法律第二条第三 項 に規定する投資信託 ホ 資産の流動化に関する法律 (平成十年法律第百 五号)第二条第十三項 (定義)に規定する特定目的 信託 28 支払配当等の主な損金算入要件① 特定目的会社 (措法67条の14) 投資法人 (措法67条の15) 特定目的信託 (措法68条の3の2) ①対象 ・資産流動化法8条1項 の特定目的会社名簿に 登載。 ①対象 ・投資法人法187条の登 録を受けている。 ①対象 次のいずれかに該当 次のいずれかに該当 次のいずれかに該当 ・公募特定社債の発行価 額の総額が1億円以上 ・投資口の発行価額の総 額が1億円以上 ・特定社債が機関投資家 のみによって引き受けら れたもの ・発行済投資口が五十人 以上の者によって所有さ れているもの又は機関投 資家のみによって所有さ れているもの ・受益権の発行価額の総 額が1億円以上であるも の ・優先出資が五十人以上 の者によって引き受けら れたもの 特定投資信託 (措法68条の3の3) ①対象 ・資産の流動化に関する ・投資信託法4条1項又 法律225条1項の規定に は、49条1項の規定によ よる届出が行われている。 る届出が行われている。 ・受益権が五十人以上の 者によって引き受けられ たもの ・受益権の募集が機関投 資家私募により行われる ものであって、投資信託 約款にその旨の記載が あること ・機関投資家のみによっ て引き受けられたもの 29 支払配当等の主な損金算入要件② 特定目的会社 (措法67条の14) 投資法人 (措法67条の15) 特定目的信託 (措法68条の3の2) 特定投資信託 (措法68条の3の3) ・当該事業年度終了の時 において同族会社のうち 政令で定めるものに該当 するものでないこと ・当該事業年度終了の時 において同族会社のうち 政令で定めるものに該当 していないこと ・当該事業年度終了の時 において同族会社に該 当していないこと ・当該事業年度終了の時 において同族会社に該 当していないこと ・当該事業年度に係る利 益の配当の支払額が当 該事業年度の配当可能 所得の金額として政令で 定める金額の百分の九 十に相当する金額を超え ていること ・当該事業年度に係る配 当等の額の支払額が当 該事業年度の配当可能 所得の金額として政令で 定める金額の百分の九 十に相当する金額を超え ていること ・当該事業年度に係る利 益の分配の額が当該事 業年度の分配可能所得 の金額として政令で定め る金額の百分の九十に 相当する金額を超えてい ること ・当該事業年度に係る収 益の分配の額の分配可 能所得の金額に占める 割合として政令で定める 割合が百分の九十を超 えていること 30 実務面における問題① • • • • 平成20年度税制改正に関する要望 平成19年9月 社団法人 信託協会 特定投資信託等の収益の分配および投資法 人等の利益の配当の損金算入要件について、 宥恕規定を設けること等、一層の税制上の措 置を講ずること。 31 実務面における問題②‐Ⅰ 平成20年度不動産証券化に関する税制改正要望 ・平成19年9月 ・社団法人 不動産証券化協会より ・宥恕規定の導入 ・投資法人および資産流動化法上のSPC等が会計上 の利益と税法上の所得の乖離により支払配当損金 算入要件を満たさなくなる場合、事後の分配を認め るという宥恕規定を導入することの要望 32 実務面における問題②-Ⅱ • 利益超過分配に関する改善措置(投資法人の 支払い配当損金算入要件算定式の改善) • 投資法人の支払い配当損金算入要件の90% 超の配当要件について、配当可能額の範囲か ら利益超過分配金を除外するなどの改善を図 ることの要望 33 実務面における問題③-Ⅰ • 平成20年度税制改正に関する要望 • 平成19年9月 • 日本証券業協会・投資信託協会・全国証券 取引所・日本証券投資顧問業協会 • 不動産投資法人等及び証券投資法人に係る 支払配当損金算入要件については、制度の 円滑な運用の観点から適切に税制上の措置 を講じること 34 実務面における問題③-Ⅱ • 【具体的な措置の内容】 • (1)90%超配当要件に係る判定式については、当 該式の分母から利益超過分配金の額を控除するこ と。また、事後の税務調査等により要件違反の事実 が明らかになった場合においても、直後の決算にお いて一括で処理すること等により、当該投資法人に 係る導管性を遡及して否認しないこと • (2)減損会計により生じた減損損失については損金 算入を認めること 35 実務面における問題④-Ⅰ • • • • 平成20年度税制改正意見・要望書 平成19年6月 日本公認会計士協会 特定目的会社及び投資法人の課税所得の計 算における支払配当損金算入要件について は、計算書類等に基づく「配当限度額」の9 0%超を「配当の額」として支払うこととすること 36 実務面における問題④-Ⅱ • 現行実務上、貸倒引当金、減損会計に基づく減損 損失、その他に係る企業会計と税務の取扱いの差 異や、税務調査による過年度の課税所得計算に対 する更正処分等により、支払配当要件が満たされな いこととなる事業年度が生ずる可能性は現実的なも のである。 • これを是正するため、特別目的会社及び投資法人 の課税所得の計算における90%超支払配当要件 に関しては、「会計基準に従った計算書類に基づい て計算された配当等限度額の90%を配当等の額と して支払うこと。」とされたい 37 終わりに① • 実務面における問題点として各団体からの要 望として挙げられている支払配当損金算入要 件の規定について共通的に問題として掲げら れている項目に絞って考察した。 • 現行における支払配当損金算入要件の規定 については、その事業や投資活動の内容に 照らして、不備があることは明確である。 38 終わりに② • 特定目的信託及び特定投資信託だけに限っ た問題でなく、その事業や投資活動の内容、 経済的意義、法的性格などを踏まえ、適切な 課税を確保する観点から、その課税のあり方 について検討する必要があるのではないかと 考察する。 39 参考文献 • 佐藤英明(2002)「新しい組織体と税制」『フィ ナンシャル・レビュー』PP.100-101 • 社団法人信託協会HP • 社団法人不動産証券化協会HP • 日本証券業協会HP • 日本公認会計士協会HP 40 自己信託 目次 1. 2. 3. 4. 5. 自己信託の定義 自己信託の活用 自己信託の問題点 自己信託への規制 自己信託の税務 41 自己信託の定義 自己信託とは委託者自ら受託者となる信託であり、委託者が自己の 財産を他人のために管理処分する旨宣言(Declaration of Trust)する ことによって信託を設定することをいう。 根拠条文:信託法第3条第3号(平成19年9月30日施行) 第3条 信託は、次に掲げる方法のいずれかによってする。 三 特定の者(委託者)が一定の目的に従い自己の有する一定の財産の管理 又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を自らすべき 旨の 意思表示を公正証書その他の書面又は電磁的記録で、当該目的、当 該財産の 特定に必要な事項を記載し又は記録したものによってする方法 (自己信託に関する経過措置) 附則2 第三条第三号の規定は、この法律の施行の日から起算して一年を経過 する日までの間は、適用しない。 42 自己信託の活用 (1)流動化・証券化による企業の財務体質の改善 多額の売掛債権・貸出債権等を保有する企業が自ら受託者となって受益権を 投資家に販売できるため、時間とコストの節約をしながら資金調達が可能となる。 委託者兼受託者(法人) 受益権 売掛債権等 貸出債権等 投資家 信託財産 資 金 43 (2)不動産の流動化への活用 不動産の原所有者(オリジネーター)が、信託会社等に不動産を売却し、信託銀 行等がこれを自己信託し、受益権を販売することによって、オリジネーターの資金 調 達が容易となると同時に、信託会社等はオリジネーターの販売介入を免れることが できる。 特定目的信託 オリジネーター (原資産所有者) 収益分配金 受託者 (信託銀行) 投資家 信託受益権 信託受益権の販売 販売 オリジネーター (原資産所有者) 自己信託 不動産 資金 受益権の販売 投資家 受託財産 収益分配金 44 (3)一事業部門を自己信託することによる資金調達 企業が自らの事業部門を信託し、その受益権を販売することにより、その収益力 に応じた資金調達が可能となる。分割・現物出資・事業譲渡等に比べて、社員等の 転籍・出向は必要なく、特許権や譲渡禁止特約条項のある物件等の問題もなく、知 的財産権を自己信託するなどの活用が期待される。 (4)他社との事業連携手段 ある事業部門について、他者と事業提携する場合について、その事業部門を自 己信託により他の事業部門から切り離し、その受益権を連携事業先の会社に移転 させることで、その事業部門を他の事業部門のリスクから隔絶すると共に、経営権 をそのまま維持することが可能となる。 (5)不振事業部門以外のリストラ策 赤字事業やベンチャー事業等のリスクの大きい事業部門を設備や人材ごとセット で自己信託することにより、本体部分におけるリスク回避をしながら、新たな開発等 が可能となる。 45 委託者兼受託者(法人) 事業部門 信託財産 受益権 損 益 投資家 提携先 関連会社 資 金 (6)相続対策等 障害を抱える子等の将来の不安に備えて、親が特定の財産を自己信託することに より自己に経済的な破綻があっても、子に信託財産を承継することが可能となる。 委託者兼受託者(個人) 受益権 特定の財産 信託財産 相続人 46 自己信託の問題点 (1)債権者詐害の問題 委託者兼受託者の債権者から逃れるための、財産隠しや執行免脱 (2)分別管理の問題 自己の財産と信託財産との分別管理 (3)自己信託認知の問題 信託宣言の第三者に対する周知(自己信託=単独行為) (4)受託者の義務懈怠 委託者(受託者)の固有財産の管理が優先されることによる、信託財産の 管理懈怠 47 自己信託への規制 (1)公正証書等による信託設定(新信託法第4条3項) 信託を設定するためには、確定日付のある公正証書等によらなければならない。 (2)強制執行等の簡易化 本来、信託財産に対しては強制執行等ができないが、自己信託については簡単な 手続きで債権者は信託財産に対して強制執行等を行うことができる。 (3)裁判所の信託終了命令 債務者等が、強制執行等を免れる目的で自己信託を利用していると認められる 場合には、裁判所は利害関係人の申立てにより信託の終了を命ずることができる。 (4)信託業法による規制 自己信託では、信託業法により他の信託より厳格な手続きが設けられている。 48 自己信託の税務 (1)原則(法人税法第11条) 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、 その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、 これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。 従来の信託における実質所得者 受益者 (2)法人課税信託(法人税法第2条29の2、第12条) 信託の制度を利用したスキームの広がりと共に、租税回避の防止や類似の制度との バランスが優先され、受託者課税の範囲が広がっている。 法人が委託者となる信託のうち、次のいずれかに該当するものは、その受託者に対して 法人税が課されることとなる。 ①自己信託等で信託期間が20年を超えるもの。 ②自己信託等で損益の分配の操作が可能であるもの。 49 (3)法人課税信託の課税根拠 ①自己信託等で信託期間が20年を超えるもの。 事業信託を長期間にわたって自己信託等で行う場合には、その経済的実体は 子会社に近く、その事業に係る法人税等を免れることができる。 ②自己信託等で損益の分配の操作が可能であるもの。 自己信託等で受益権を子会社に取得させ、損益の分配を操作することにより、 事業の利益を子会社に付け替えて法人税等を回避することが可能となる。 50 事業信託 51 目次 1 事業信託の定義 <参考文献> 「詳解 新信託法」pp.88~97 2007年 福田政之・池袋真実・大矢一郎・月岡崇 2 事業信託の活用 <参考文献> 「新信託法を活用した事業承継、財産管理手法と信託ビジネスへの期待」 2007.2.28 『産業企業情報』 信用中央金庫総合研究所 『新信託法と信託実務』 pp. 329~381 田中和明 清分社 「新しい信託の活用策と税務のポイント」 pp.22~29 平川忠雄 『税理』 3 事業信託が法人課税とする帰結 <参考文献> 「事業信託は法人課税とすることは自然の帰結」 『金融財政事情』2006.4.24 森信茂樹 4 課題 <参考文献> 「事業信託は法人課税とすることは自然の帰結」 『金融財政事情』2006.4.24 森信茂樹 52 1 事業信託の定義 新信託法において明確に定義されあるいは 認めてられるわけではないが、 旧信託法下では許されないと一般的に考えら れていた信託設定時における債務の引受け が新信託法の下では可能とされたことから、 事業譲渡などに債権債務を含む1つの事業 全体を信託することができるようになったと解 される。 53 2 事業信託の活用 54 会社分割、事業譲渡などのM&Aスキーム 信託契約(事業) 委託者 (売主) 赤字 事業 受託者 (第三者) 受 益 権 事業 切り離し 受益者 (買主) 55 共同事業を営むためのジョイント・ベ ンチャー(合併事業)の代替スキーム 受益権A 受益権B (B社) 委託者=受託者 ノウハウ等提供 信託宣言 事業 56 事業信託と自己信託を併用した業務提携 ABC株式会社 (委託社=受託者) A 事 業 部 B 事 業 部 業務提携の対象 となるC事業部を 自己信託 受益者として監督権限を行使 他社(受益者) C 事 業 部 C 事 業 部 57 3 事業信託が法人課税とする帰結 58 ① 限定責任信託制度を創設 ② 事業再編への活用を見越した信託財産の 合併、分割制度を設けるなど事業信託の全 面解禁 → したがって、法人課税の対象とすることが、 アメリカの例に照らしても我が国の信託税制 の考え方に照らしても自然な帰結といえよう 59 異論 • 信託は「導管」なので課税主体にならないと いった観点 60 今回の信託法案 ①「受益者が信託にかかる損失について信託財産 よってのみにしか責任を負わない」物的有限責 任を基本とすること。損失の負担が受益者とそ の信託財産がいわば「切断された」関係にある 場合に、信託は「導管」であるという主張は、必 ずしも説得的ではない。 ②わが国税制は単純に法人格の有無という形式 論により法人課税の有無を分けるという考え方 にはよらないという立場を明らかにしつつある。 (政府税制調査会「平成18年度答申」) 61 4 課題 法人課税を課すべき事業信託とそうでない信 託との切り分け作業の基準作り。 62 受益証券発行信託とは① ①受益証券発行信託はこれまで特別法のもとでしか認められ ていなかった信託受益権の有価証券化を、信託受益権一般 について可能にした新しい制度である。 ② ①に伴い、平成19年度税制改正において、受益証券発行 信託は法人課税信託に該当することが規定された。 法人税法第2条 二十九の二 法人課税信託 次に掲げる信託(集団投資信託並びに第十二条第四項第一号(信託財産 に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属)に規定する退 職年金等信託及び同項第二号に規定する特定公益信託等を除く。)をいう。 イ 受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託 63 受益証券発行信託とは② 受益証券発行信託 (法人課税信託) 譲渡益課税 委託者 受託者 ①信託契約に基づく 資産の譲渡 信託財産 ②受益証券 ④受託者段階で法人課税 ③受益証券 取得代金 ⑤収益の分配 投資家 (受益者) 【収益の分配に対する課税】 ・配当所得 ・総合課税(20%源泉徴収・配当控除可能) 【譲渡に対する課税】 ・株式等譲渡所得 ・20%申告分離課税(地方税含む) 64 特定受益証券発行信託とは① 特定受益証券発行信託とは、一定の要件を満たす受益証券 発行信託(信託法185条3項)をいう。特定受益証券発行信託 は集団投資信託に分類され、その信託財産に属する資産負債 並びに当該信託財産に帰せられる収入及び支出については、 受託者段階で課税せず、受益者が受ける収益の分配について 所得税又は法人税を課税することとなる。 法人税法第十二条 信託の受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る。)は当該信託の信託財 産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益 及び費用は当該受益者の収益及び費用とみなして、この法律の規定を適用する。ただし、 集団投資信託、退職年金等信託、特定公益信託等又は法人課税信託の信託財産に属 する資産及び負債並びに当該信託財産に帰せられる収益及び費用については、この限 りでない。 3 法人が受託者となる集団投資信託、退職年金等信託又は特定公益信託等の信託財産に属 する資産及び負債並びに当該信託財産に帰せられる収益及び費用は、当該法人の各事業年 度の所得の金額、各連結事業年度の連結所得の金額及び清算所得の金額の計算上、当該 法人の資産及び負債並びに収益及び費用でないものとみなして、この法律の規定を適用する。 65 特定受益証券発行信託とは② 特定受益証券発行信託 (受益者段階課税) 譲渡益課税 委託者 ①信託契約に基づく 資産の譲渡 適格受託者 信託財産 ②受益証券 ③受益証券 ④元本の2.5%以上を留保した上で 残りの収益を分配 取得代金 投資家 (受益者) 【収益の分配に対する課税】 ・配当所得 ・総合課税(20%源泉徴収・配当控除不適用) 【譲渡に対する課税】 ・株式等譲渡所得 ・20%申告分離課税(地方税含む) 66 66 特定受益証券発行信託の要件① 法人税法第2条 二十九 集団投資信託 次に掲げる信託をいう ハ 特定受益証券発行信託(信託法 (平成十八年法律第百八号)第百八十五条第三項 (受益証券の発行に 関する信託行為の定め)に規定する受益証券発行信託のうち、次に掲げる要件のすべてに該当するもの (イに掲げる信託及び次号ハに掲げる信託を除く。)をいう。) (1) 信託事務の実施につき政令で定める要件に該当するものであることについて政令で定めるところに より税務署長の承認を受けた法人((1)において「承認受託者」という。)が引き受けたものであること(そ の計算期間開始の日の前日までに、当該承認受託者(当該受益証券発行信託の受託者に就任したこと によりその信託事務の引継ぎを受けた承認受託者を含む。)がその承認を取り消された場合及び当該受 益証券発行信託の受託者に承認受託者以外の者が就任した場合を除く。)。 (2) 各計算期間終了の時における未分配利益の額として政令で定めるところにより計算した金額のその 時における元本の総額に対する割合((3)において「利益留保割合」という。)が政令で定める割合を超え ない旨の信託行為における定めがあること。 (3) 各計算期間開始の時において、その時までに到来した利益留保割合の算定の時期として政令で定 めるもののいずれにおいてもその算定された利益留保割合が(2)に規定する政令で定める割合を超えて いないこと。 (4) その計算期間が一年を超えないこと。 (5) 受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る。)が存しない信託に該当したことがないこと。 67 特定受益証券発行信託の要件② 法人税法施行令第14条の六 10 法第二条第二十九号 ハ(2)に規定する政令で定めるところにより計算した金 額は、同号 ハに規定する受益証券発行信託の各計算期間終了の時における貸借 対照表に記載された利益の繰越額として財務省令で定める金額とする。 11 法第二条第二十九号 ハ(2)に規定する政令で定める割合は、千分の二十五 とする。 68 特定受益証券発行信託の要件(まとめ) 1.受託者が承認受託者であること 2.各計算期間開始時において、未分配利益が 信託元本の2.5%以下であること 3.未分配利益が信託元本の2.5%以下である ことが信託行為において定められていること 4.計算期間が1年を超えないこと 5.受益者が存在しない信託に該当したことが ないこと 69 特定受益証券発行信託のメリット 1.同族会社要件なし。 2.未分配利益が信託元本の2.5%以下であり、 留保利益についての課税もなし。 3.未分配利益の計算は会計上の利益のため、 税務との不一致の問題がない。 4.法的に担保されており、安定している。 5.社債発行ができる。 70 特定目的信託と特定受益証券発行信託の比較 (90%配当要件と2.5%要件の比較) ※前提条件 ①元本(10,000円)=総資産(10,000 円) ②期待収益率5%(500円) 1.特定目的信託 ・500円×90%=450円を配当することで損金算入が 認められる。(ペイスルーされる) ・残りの50円に対して法人課税される 2.特定受益証券発行信託 ・前提として、健全な資産の運用益を5%とし、5年間の計画とする と留保利益は、 ・500円×(100%-90%)=50円・・・A ・A×5年=250円=元本の2.5%=累積利益留保割合←課税されない 。 71 特定受益証券発行信託の疑問① 1.会計上の未分配利益の計算は「一般に公正妥当と認 められる会計処理の基準に従うこと」とされているが、 受益証券発行信託についての会計基準は社団法人信 託協会が公表したものしかない。財務諸表等規則2条 の2に規定する「特定目的信託財産の計算規則」には 該当しない。 → 2.5%要件にかかる会計基準の法的根拠が必ずしも 明確ではない。 72 問題点・今後の課題① 法人課税信託は、信託を実体(entity)とみて、受託法人に法 人税を課す仕組みである。 特定信託や、それを吸収した法人課税信託は、信託税制の下 での大きな改正であった。 前者は、同様の活動を行う同じ根拠法に基づいた他の法人と の課税のバランスをとるために導入された仕組み(ペイスルー課 税)であり、実体型か導管型かという意見は分かれるが、結果、 導管型(パススルー課税)と同様の効果をもたらしたものである。 一方、後者(前者の部分を除外すると)は、租税回避に対応す るため導入されたものであり、信託の導管型理論の例外となった。 73 問題点・今後の課題② 事業信託や自己信託に関しては、法人税課税の対象となると信託として の魅力は失せ、特定信託の二の舞になってしまうとの意見もある。 そもそも、法人税は所得課税であり、信託に関する法人税制を考える場合 には、信託の利益が誰に帰属するかという点が最も重要である。現行の信 託税制も、大正11年の創設時から、信託による事業から生ずる利益・損失 が実質的に受益者のものとなる点に着目し、受益者課税を原則としてきた。 会社と事業信託の決定的な違いは、その事業によって生じた利益・損失が、 前者においては会社のものであり、後者においては受益者のものであると いう点である。法人税の納税義務者を決める基準が、事業の性格であるべ きなのか、あるいは、資産・負債・収益・費用の帰属であるべきなのかという 点を良く考える必要がある。 また、現在の信託を見てみると、例えば、土地信託が行っている事業は賃 貸業そのものであり、既に事業の信託は存在しており、この土地信託に関し ては、法人税課税は行わず、受益者課税を行っているわけである。 事業信託に関しては、実質所得者課税の原則に従い、信託財産に属する 資産・負債・収益・費用の帰属者である受益者を納税義務者とするのが、理 論的にも正しく、かつ、実態にも合致する。自己信託等に関しても、同様であ る。 74 問題点・今後の課題③ 終わりに 現在の法人課税信託は、租税回避行為をその課税根拠としており、租 税回避行為が生ずる恐れがあることを以って税制が事実上その新制度 を使えないものとしてしまうというようなことは、適切な対応とは言えない。 租税回避行為に対しては、その行為のみを否認すれば良いのであって、 租税回避対応のための税制はいかがなものか。 今後、信託税制については、 実質的な所得の帰属者に課税を行うと いう実質所得者課税の原則の考え方に立って、検討を進めるべきであ ろう。 また、事業の信託をはじめ、自己信託、受益証券発行信託等、信託に ついては、組成方法によっては、その要件次第で、受益者等課税信託、 集団投資信託、法人課税信託のいずれかに分類され、課税関係が変わ る。従って、その要件は、とても重要であり、また、関係者からも、要件是 正等の要望も多く見られる。これらの要件についても、さらに妥当性等を 検討し、適正なものへと改善する必要があるものと思われる。 75
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