硬X線偏光度検出器 PHENEX: 2006年かに星雲の観測結果と将来計画 穴吹直久、森本真史、林田清、常深博 (大阪大)、郡司修一、門叶冬樹、櫻井敬久、岸本祐二、石垣保博、菅野誠、伊藤智加、村山裕章 (山形大)、三原建弘、小浜光洋、鈴木素子 (理研)、斎藤芳隆、山上隆正 (ISAS/JAXA) 我々は、40-200 keV の硬X線領域において、天体の偏光を測定できる PHENEX という検出器を開発してきた。PHENEX は、コンプトン散乱の散乱方向異方性を利用した硬X線偏光計(ユニットカウンター) を複数台搭載した検出器である。2006年6月13日に、かに星雲をターゲット とした気球実験を実施し、高度約 38 km のレベルフライト 6 時間を達成 した。方向制御に問題があったものの、気球ゴンドラの方向を検知する太陽センサー、かに星雲が視野内にあることを確認するモニターカウンター、 そしてユニットカウンターのデータから、正味1 .4時間の かに星雲観測ができたことを確認した。そして、バックグラウンド観測期間中のデータからは擬似のモジュレーションが出ていないことを確認し、オンソース観測からバックグラウンドを差し引いたモジュレーションとして 39±31 % という値を得た (χ2/dof = 5.27/9)。 検出器の モジュレーション・ ファクターが 53% であるため、かに星雲の硬X線自体のモジュレーションは 74±60 %ということになる。 また、偏光方向(PA)は207±43度という値を得た (誤差は全て90%)。 本ポスターでは、PHENEX 2006年の気球実験結果と将来計画について述べる。 Polarimetry for High ENErgy Xrays PHENEX 2006 : かに星雲観測結果 姿勢制御に不具合があったため、まず、かに星雲を視野内にとらえた時間帯をデータから確認 ・硬X線偏光観測は高エネルギー宇宙物理学を切り開く新しい窓。 ・70年代のかに星雲の軟X線偏光検出以来、X線偏光観測は30年間進展なし(硬X線は未開拓)。 ・世界に先駆けて硬X線偏光観測の実現を目指すPHENEXプロジェクトを開始。 かに星雲に対する 検出器視線方向のずれ [deg] PHENEX 偏光計 (4unit) 偏光計模式図 0 シンチレータ群 (5.5 x 5.5 x 40mm) Plastic : 6 x 6 本 CsI : 28 本 偏光計を上から見た図 0 -4 [deg] -2 イベントレート ( 30-140 keV ) 25 散乱角 Crab ON とCrab OFF 時の平均イベントレート の差は~0.3Hz レベルフライト イベントレート ( 40-200 keV ) 30-140 keV における かに星雲のイベント レートの期待値と一致 ~ 0.2Hz 12 13 14 15 Crab OFF Crab ON と Crab OFF 時の平均イベントレート の差は~0.2Hz 40-200 keV における かに星雲のイベント レートの期待値と一致 かに ←Crab OFF 時 の平均レート Crab ON KEK-PF BL14Aでの性能評価試験 11 JST [hour] レベルフライト ポッツァ極大→ Crab ON 時 ←の平均レート 80keVでの性能 検出効率 η = 20% 偏光解析能力 M = 0.53 0 10 偏光計のイベントレート ~ 0.3Hz Crab ON 時 ←の平均レート ←Crab OFF 時 の平均レート Crab ON Crab OFF かに星雲を20σで検出 かに星雲を20σで検出 コリメータ透過率 > 50%の時間帯で、ほぼ確実に、かに星雲を検出器視野内にとらえていた 2006年気球実験システムは、4台の偏光計ユニットで偏光検出器を構成。さらに、上空でデータを取得する DAQシステム(兼、テレコマ)と、検出器を観測ターゲット (かに星雲) に向けるための姿勢制御システムから成る。 かに星雲の偏光解析結果 DAQシステムを2つの独立したバス(PC/104、VME) PC/104 システム 透過率とイベントレートの結果をもとに、Crab ON の時のモジュレーションを見積もる。 イベント選定条件 (プラスチックシンチレータと CsI(Tl) シンチレータが同時に光っているイベントのみ Crab ON 時のモジュレーション 使う、 アンタイカウンターが同時に光っているイベントは捨てる、エネルギーカット、ヒットチャンネル数 カット、コインシデンスカットなど) の最適化を行った後、赤道座標系での散乱角度分布を求める。 12cm そして、以下のフィティング関数でモデルフィット。 フィッティング関数 :y = A+B×sin(2x+C) A=254.31, B=-12.31, C=48.186 偏光度とP.A のconfidence contour (誤差は1パラメータに対する90%信頼区間) 12cm 58cm 0 かに星雲に対するコリメータ透過率が 50 %以上である時間 帯は、正味 1.4 時間。この時間帯を「 Crab ON 」と定義する。 モニターカウンタのイベントレート PHENEX 2006 気球実験システム システムで構成 2 ポッツァ極大→ 入射硬X線の偏光情報を取得 θ 2.4 [deg] 2006年三陸実験では かに星雲モニター用 モニターカウンタの模式図 *コリメータは偏光計と同じ カウンタを4台の偏光計 ユニットの中央に設置 S 幾何学面積 10.9cm2/ユニット 散乱X線 -2.4 50 かに星雲との離角θ とコリメータ透過率 姿勢制御システムのデータから検出器の視線方向 を求め、かに星雲の方向とのずれを見積もった 入射硬X線はプラスチック 入射 X 線の シンチレータで散乱され、 偏光方向 CsIで吸収される。散乱位 置から散乱方向を調べる。 パッシブ シールド PMT W 専用読み出し回路 PHENEX はコンプトン散乱の 異方性を利用したX線偏光計 75 0.5 E 4 64 ch MAPMT 100 Crab ON かに星雲 -4 FOP 1mm 偏光計を最大9ユニット搭載 周囲をアンタイ・カウンタで囲む 透過率 1.0 -2 パッシブシールド (Pb: 2mm, Sn: 1mm) かに星雲に対する コリメータ透過率 透過率 [%] CsI 2 コリメータ θ N 4 Pla CsI 偏光計 4台 + モニターカウンタ Crab ON - OFF のモジュレーション 24cm A=52±11, B=20±16, C=214±43 DAQ システム データ取得ブロック図 24cm 25cm 25cm DP x2 DAQ 気密容器内 CPU VME システム ・検出器、DAQは 気密容器内で室温、 大気圧に保つ ・電源は一次電池を 使用 Crab OFF 時のモジュレーション VMEシステム: 偏光データの収集、簡易解析、保存 PC/104システム: HK(電圧、温度、圧力)、検出器 視線方向回転、GPS 時刻、スケーラ、簡易解析後 の偏光データの収集、保存。テレメトリ・コマンド。 * データは全てUSBメモリに保存 PHENEX 気球ゴンドラ GAセンサ A=145.85, B=6.61, C=17.235 疑似のモジュレーションが出ないこと を確認した 太陽センサ モジュレーション: 39±31% モジュレーションファクター M = 0.53 偏光度: 74±60%、偏光方向(P.A.): 207±43deg 精度数度。360度可 偏光度、偏光方向を制限するのに十分な統計ではないが、かに星雲の硬X線偏光を示唆する結果を得た。 CCD 検出器気密箱 PSD 視線方向周り往復回転 (系統誤差削減に重要) 1往復 / 10分 精度約0.1度。視野内(60×60°)のみ 0.5-10keV 画像と偏光方向 かに星雲の硬X線強度マップ 18’’ N Torus 軟 X 線偏光観測結果 5.2keV 152° 150 cm 回転して気球ゴンドラ のアジマス方向を制御 W 132 cm 観測系重量311 kg ← ACS (姿勢制御システム) Balloon Flight Track 2006年 6月 13日 JAXA 三陸大気球センター B150気球(150,000m3) 総重量 : 840kg うち観測系 : 311kg 総浮力 : 914kg 5:32放球 S 2.6keV 19.2% 156° 5.2keV 19.5% 152° 40-200 keV Jet 2008/2009年 予想される磁場方向 K.Makishima, Y.Ogawara, M.Matsuoka, M.Oda、 “Hard X-ray structure of the Crab Nebula”, (1981) . Chandra X-ray Observatory ・PC/104ボードで構成。 ・気球の姿勢を自動調整する。 ・姿勢データを上空で保存 ・姿勢系専用のテレコマを装備 PHENEX 2006年三陸フライト P.A. Weisskopf et al. 1978 姿勢系システムの制御ブロック図 吊り下げ状態でゴンドラは0.1度程度で水平。 仰角はGPSの時刻、経度緯度より計算した理論値にセット。 方位角は地磁気と太陽位置の重み付き平均を使って制御。 Degree PHENEX の将来計画 硬 X 線偏光観測で探る宇宙(一例) ・偏光検出器の台数4台⇒9台 4時間の観測でMDP~16% ・2次電池の利用検討 ・低バックグランド化(2009) コリメータの一部をアクティブ(シンチレータ)化 ・かに星雲(2008)、Cyg X-1(2009)をターゲットとする 夜間の姿勢検出システムが必要 Minimum Detectable Polarization degree (MDP) MDP 23:20 回収終了 17:220着水後、 搭載機器を回収 2006年実験の成果 と 問題点 •システムとして動作し、電圧、温度(一部、温度読み出し系に異常動作あり)、気密容器内圧は問題なかった。 •レベルフライト6 時間のうち1.4 時間かに星雲を視野にとらえることができた(後述)。バックグランド観測は1時間。 •かに星雲の硬X線領域での偏光度について、(統計誤差は十分小さくはないが)測定結果を提示できた(後述)。 ・姿勢制御 (方位角): 制御がはずれると発振状態となり、減衰に時間がかかった。 ・姿勢検出 : 太陽が気球の影になった時間帯で、検出限界の少し上(PSD)、検出限界以下(モニター用CCD)。 ・シリアルコマンド : PIシステムノイズが大きく、ノイズ対策が要求された。複数回送信する必要、遠方では届かず。 ・テレメトリ : 一時的に特定のHK項目が出力されず ・偏光検出器MAPMT : 特定のCsI chでノイズが高い → Low Thを個々のchで調整。 ブラックホールと 降着円盤の“想像図” データ読み出し&処理装置の改良、小型化 チャンバー、回転機構は再利用 Balloon Flight Altitude 10 シンクロトロン放射であれば 偏光方向は磁力線と直交 Credit: Ben Bromley (HarvardSmithsonian Center for Astrophysics) http://imagine.gsfc.nasa.gov/Y BA/cyg-X1-mass/blackholes.html 100% 偏光度 モーメンタムホイール E 150 cm Energy 超新星残骸 SN1006 宇宙線粒子の加速の現場 磁場の向きによって加速の 効率が大きくかわる n n B 2(S B ) 2(1 ) 天体がどの程度の偏光度を SM S もっていれば有意に検出できるか SM S=1crab;B=3Crab S=0.1Crab;B=3Crab S=0.05Crab;B=3Crab 降着円盤で 反射された X線の偏光 度の期待値 10% 1% 10 50 Ex(keV) S=1Crab;B=1.5Crab S=0.1Crab;B=1.5Crab S=0.05Crab;B=1.5Crab 現在の装置で、かに星雲が視野中央に入った場合、 SRC~0.3Hz、SRC:BGD=1:3 バックグランドを低減できれば、同じ有効面積、観測時間 でもMDPがさがる。かに星雲より暗いソースではより有効 40keV以上の領域で •1Crab以上の天体 Cygnus X-1 Crab Nebula 10 2010年以降 •50mCrab-1Crabの天体 ・南半球での大陸間横断フライト 1週間以上の観測時間が確保できれば、10個以上の 天体が観測ターゲットになる ⇒ データ処理装置の省電力化、記憶装置の大容量化 1 3hours ・気球で実証した偏光観測技術を(小型)衛星に応用 ⇒ e.g. Polaris 衛星 Matt, 1993, MNRAS 260 1000 10 4 1week 1day 2weeks 10 5 10 6 Observation time (sec) 10 7 Crab Pulsar、 Sco X-1 Vela X-1、1700-377 GX 301-2、 1657-415 GX1+4、GX5-1 NGC4151、 Cen-A Cygnus X-3、 Her X-1
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