PMS Forum 重篤副作用疾患シリーズ(18) 薬剤性パーキンソニズム PMS担当者研修テキスト(12) PMSフォーラム作成 重篤副作用疾患シリーズ(18) 薬剤性パーキンソニズム 1 PMS Forum 患者へのインフォメーション 【薬剤性パーキンソニズムとは】 体内のドーパミンという物質が不足して起きるパー キンソン病と同じような症状を示す病態をパーキン ソニズム(パーキンソン症候群)と呼び、そのうち、 医薬品の副作用としてパーキンソン症状が現れるも のを薬剤性パーキンソニズムという 発生頻度:抗精神病薬では15~60%の発症頻度 発症メカニズムについては、医薬品によりドーパミン の作用が弱められ、パーキンソン病と同じ症状を引 き起こす 重篤副作用疾患シリーズ(18) 薬剤性パーキンソニズム 2 PMS Forum 患者へのインフォメーション 【原因薬剤】 一部の胃腸薬、抗精神病薬 【初期症状】 「動作が遅くなった」、「声が小さくなった」、 「表情が少なくなった」、「歩き方がふらふらす る」、「歩幅がせまくなった(小刻み歩行)」、 「一歩目が出ない」、「手が震える」、「止まれ ず走り出すことがある」、「手足が固い」など の症状 重篤副作用疾患シリーズ(18) 薬剤性パーキンソニズム 3 PMS Forum 患者へのインフォメーション 【早期対応のポイント】 放置せずに、ただちに医師・薬剤師に連絡 原因と考えられる医薬品の服用数日から数 週間以内に発症 することが多く、90%の症例が20日以内で発症。薬剤によっ ては数週から数ヶ月、また、一年以上のこともある 症状を比較的簡単に判定するため、パーキンソニズムに関 係する評価項目につき、症状の程度で0 点(全くない)、1 点 (ほとんどない)、2 点(時々ある)、3 点(良くある)、4 点(頻 繁にある)で評価し、合計点が6 点を超えたら、薬剤性パー キンソニズムが疑う。 ・筋肉がつる ・筋肉が固い運動がゆっくりになった ・体の一部が勝手に動く ・揺れる感じがある ・落ち着きがない ・よだれが出る 重篤副作用疾患シリーズ(18) 薬剤性パーキンソニズム 4 PMS Forum 薬剤性パーキンソニズム 副作用名(日本語、慣用名含、英語等) 早期発見のポイント ⇒前駆症状、鑑別診断法(特殊検査含) 副作用としての概要(薬物起因性の病態) ⇒原因薬剤とその発現機序、危険因子、病態生理(疫学的 情報含)、頻度、死亡率等予後 副作用の判別基準(薬物起因性、因果関係等の判別基準) 判別が必要な疾患と判別方法 治療方法(早期対応のポイント含) 典型的症例概要⇒公表副作用症例より その他(特に早期発見・対応に必要な事項) ⇒これまでの安全対策 重篤副作用疾患シリーズ(18) 薬剤性パーキンソニズム 5 PMS Forum 副作用名(日本語、慣用名含、英語等) 日本語 薬剤性パーキンソニズム 同義語 薬剤性パーキンソン症候群 英 語 Drug-induced Parkinsonism 病 態 パーキンソニズムとは、パーキンソン症候群とも言われ、 パーキンソン病の時に見られる症状あるいはそれらを呈す る疾患の総称であり無動、固縮、振戦、突進現象、姿勢反 射障害、仮面様顔貌などの症状を呈する。症状の軽い時 点で、家族・本人が気づく場合は、動作が遅くなった、手が 震える、方向転換がしにくい、走り出して止まれない(突進 現象)、声が小さくなった、表情が少なくなった、歩き方が ふらふらする、歩幅が狭くなった(小刻み歩行)、一歩目が 出ない等と訴える事が多い。 重篤副作用疾患シリーズ(18) 薬剤性パーキンソニズム 6 PMS Forum 早期発見のポイント (1)自覚症状 パーキンソン病の初期症状 「手がふるえる」、「動きが鈍くなる」、「顔がひきつる」、「手足がこわばる」、「表情が 固くなったといわれる」などの症状 (2)他覚症状 ・「表情が固くなる」、「今までに普通にできた日常生活の動作(着替え、階段の昇り 降り、食事など)ができなくなる、またはとても遅くなる」などの変化 ・Liverpool University Neuroleptic Side-Effect Rating Scale (LUMSERS)の錐体 外路症状に関する項目を評価し6点を超えたら副作用を疑う。 0点 全くない 1点 ほとんどない 2点 3点 時々ある よくある 4点 頻繁にある 筋肉がつる 筋肉が固い 動きが遅くなった 体の一部が勝手に動く ゆれる感じがある 落ち着きがない よだれが出る 重篤副作用疾患シリーズ(18) 薬剤性パーキンソニズム 7 PMS Forum 副作用としての概要(薬物起因性の病態) 原因薬剤とその発現機序、危険因子 薬剤性パーキンソニズムの機序は、単純に説明出来るものでな く、それぞれの医薬品によっても少しずつ違った要素があると考 えられる。また、多くの場合パーキンソニズムの原因になるとと もに、遅発性ジスキネジアをはじめとする不随意運動の原因とも なりうる。そして、その発生機序もお互いに関連している。 リスクファクターについては、高齢者・女性・薬物の量が多いこと が、薬剤性パーキンソニズムと有意に相関した。 副作用発現頻度 抗精神病薬の発症頻度は、15~60%と報告に幅があり、ドーパ ミン拮抗薬では、軽い症状まで入れると発症頻度は50%以上の 可能性があるが、臨床的に問題になる頻度は15%くらい。 自然発症の頻度 自然発症の頻度は明らかではない。 重篤副作用疾患シリーズ(18) 薬剤性パーキンソニズム 8 PMS Forum 副作用としての概要 発現機序と医薬品ごとの特長 薬剤性パーキンソニズムの機序は、医薬品個々によっても少しずつ違っ た要素があると考えられ、また、多くの場合パーキンソニズムの原因にな るとともに、遅発性ジスキネジアをはじめとする不随意運動の原因ともな りうる。そして、その発生機序もお互いに関連している。 ①ドーパミン拮抗作用がある医薬品 ドーパミン拮抗作用のある医薬品は精神症状を起こす機序が、中脳-皮質 あるいは中脳-辺縁系の機能過剰状態であるという仮説に基づき、ドーパ ミン拮抗薬が使用され脳でのドーパミン機能を障害し、パーキンソン症状 を出すと考えられる。約80%のドーパミン受容体(D2 受容体)がブロック されるとパーキンソン症状が出現すると言われる。 ②カルシウム拮抗薬 脳代謝改善薬としてカルシウム拮抗薬が広く使われた時には、発現頻度 は非常に高かった。発生機序としては、線条体でのシナプス後で受容体 を医薬品がブロックする、シナプス前でドーパミンの再取り込みを障害す る等の機序が提唱されている。これら両者の機序が合わさっているのか もしれない。 重篤副作用疾患シリーズ(18) 薬剤性パーキンソニズム 9 PMS Forum ③抗がん剤 テガフールをはじめとする抗がん剤が、原因医薬品として列挙されている。 この機序は、これらの医薬品による白質脳症の結果として、パーキンソニ ズムが発症するわけで、白質脳症としての他の多くの症状とともにパーキ ンソニズムを呈するという事になる。 ④血圧降下剤 レセルピンによる発生機序は、シナプスでのドーパミンを枯渇させるという、 レセルピンの持つ本来の作用による。 ⑤頻尿治療薬 尿失禁などに頻回に使われる塩酸プロピベリン等が、パーキンソン症状 の原因になると報告されている。構造式が、抗精神病薬などと類似してい るため、同様な作用が出現する可能性が考えられている。本剤は、脳血 管障害のある患者などに使用されることが多く、副作用が出現しやすい 状況がしばしばある。副作用発現時には、服用を中止する事を念頭にお いて使用すべきである。 重篤副作用疾患シリーズ(18) 薬剤性パーキンソニズム 10 PMS Forum ⑥免疫抑制剤 神経ベーチェット病患者に免疫抑制剤を投与すると、ベーチェット病の症状の一部 として、パーキンソニズムを呈することがある。この場合、その他のベーチェット病 の症状を呈することから、判別は難しくない。 ⑦認知症薬 認知症の治療薬として使用されている塩酸ドネペジルは、元来がアセチルコリン 作動薬のため、パーキンソニズムを悪化させる可能性が理論的にはある。予測ど おり、副作用として発現したという報告もあるが、1例のみの報告であり、結論は 得られていない。 ⑧抗てんかん薬 抗てんかん薬は、てんかん発作を抑制すると言う本来の目的以外に、種々な不随 意運動の治療薬としても使われている一方、副作用としても不随意運動を誘発す るという性質を持っている。中毒性脳症の症状としての不随意運動から、てんか ん自体の症状の一部としての不随意運動、更に医薬品へのアナフィラキシー的な 反応としての生じる不随意運動まで様々である。その中で、抗てんかん薬でパー キンソニズムが出現するのは、非常に珍しい副作用の機序としては、元々小さい 病変を持っている患者で、しかもある医薬品に特異的な反応を示すという機序で 出現する場合と、いわゆる薬物中毒という機序で出現する場合、さらに両者の機 序が合わさって起こっている場合があると言われる。バルプロ酸での頻度の高い 報告をした著者らは、バルプロ酸がミトコンドリアの機能障害を誘発したためと推 測している 重篤副作用疾患シリーズ(18) 薬剤性パーキンソニズム 11 PMS Forum 副作用の判別基準 (薬物起因性、因果関係等の判別基準) パーキンソン病と薬剤性パーキンソニズムとの判別では、常に以下の3 つ のうちのどれにあたるかを考えながら、診療に当たる必要がある。 (1)純粋に薬剤性パーキンソニズムだけの患者 (2)偶然純粋にパーキンソン病が発症した患者 (3)今回薬剤により元々あった軽いパーキンソン病が明白となった患者 (1)の場合、投与中止だけで症状は消失するはずである。(2)の場合は、投与を中 止しても全く症状は影響を受けない。(3)の場合は、投与の中止により症状のある 程度の改善は見られるが、臨床的にコントロールするのに、抗パーキンソン病薬が 必要となる。 理論的には、この3 種類の可能性が考えられるが、実際にはこれほど明 確でない事が多い。特に長期間投与した場合、本来(1)の状況であった患 者でも、長期投与による二次的変化のため、投与中止をしても一部のパー キンソニズムの症状を残す事もよくある。(3)の可能性が頻度としては多 いと考えられる(発症前パーキンソニズム)。 重篤副作用疾患シリーズ(18) 薬剤性パーキンソニズム 12 PMS Forum 副作用の判別基準 • 3種類の可能性を判別する客観的手法はほとんどないが、近 年注目を浴びているMIBG 心筋シンチ検査が判別に役立つと 思われる。 • 取り込みが異常に低下していればパーキンソン病(Lewy 小体 病)ということができる。これは決定的な鑑別法ではなく、パー キンソン症状がある患者で、副作用の発現が知られている医 薬品を投与されているか調べる事が大切である。 • 医薬品の投与が確認されたら、その投与をまず中止してみて、 その後の経過から上述のどのパターンの患者かを判断するの が、オーソドックスなやり方であり、唯一の方法でる。 • もちろんこの過程で、パーキンソニズムを呈する多くの疾患の 鑑別のために、電気生理学的検査、画像検査、生化学検査な どを行っておく必要がある。 以上より、とにかく疑わしい医薬品を中止してみることが大切で ある。 重篤副作用疾患シリーズ(18) 薬剤性パーキンソニズム 13 PMS Forum 判別が必要な疾患と判別方法 特発性パーキンソン病と薬物性パーキンソニズムの 差として、薬剤性パーキンソン病の方が、「進行が はやい」、「突進現象が少ない」、「左右差は少なく、 対称性の事が多い」、「姿勢時・動作時振戦が出現 しやすい」、「ジスキネジア・アカシジアを伴う事が多 い」、「抗パーキンソン剤の効果が少ない」があげら れるが、この区別は絶対的なものではない。 もともと精神疾患患者に使用する医薬品によりパー キンソニズムが生じる事が多いため、統合失調症の カタトニアと副作用での無動の極端な状態を区別し にくい場合もある。 重篤副作用疾患シリーズ(18) 薬剤性パーキンソニズム 14 PMS Forum 治療方法(早期対応のポイント含) 治療の基本は、原因となった治療薬の中止である。 多くの場合、投与中止により症状は可逆的に改善 する。 ほとんどが中止から2、3 ヵ月で症状が消失するが、 時に半年くらいかかることもある。 症状の改善を待つ間には、抗コリン薬やアマンタジ ンを使用して、対症療法を行なうのが一般的である。 抗精神病薬などをどうしても中止出来ないときは、 薬剤性パーキンソニズムを起こしにくい非定型抗精 神病薬を使用する。 特に高齢者では、この投与薬の選択とともに、使用 する医薬品の量を最小限にとどめることも考慮する。 重篤副作用疾患シリーズ(18) 薬剤性パーキンソニズム 15 PMS Forum ① 投与開始から併用する予防的治療 抗精神病薬、消化性潰瘍用薬、その他の消化器官用薬で ドーパミン拮抗作用のある医薬品においては予防的治療と して、医薬品を開始するときにパーキンソン病の家族歴が有 り、高齢者で、女性の患者では、抗コリン薬またはアマンタジ ンを一緒に投与するのが一般的である。 ② 急性期治療 急激にパーキンソン症状が出現した時には抗コリン薬や抗ヒ スタミン薬で急性期は対処する。この場合、ドーパミンやドー パミンアゴニストは有効でないことが多い。また、アマンタジ ンは有効であるという報告がある。かなり重症の場合は、そ れでもドーパミンを点滴で使用する方法もあるが、その有効 性に関しては結論が出ていない。 ③ 長期間抗精神病薬を使用する場合の予防治療 3ヶ月以上抗精神病薬を使用するときは、長期的に予防をす る必要から、抗コリン薬を使用する。 重篤副作用疾患シリーズ(18) 薬剤性パーキンソニズム 16 PMS Forum ドーパミン拮抗作用のある医薬品による薬剤性パーキンソニ ズムでは、ほとんどの場合、投与の中止で症状の改善を見 るが、改善しないときは薬剤性パーキンソニズムを誘発しに くい非定型抗精神病薬に変更する。 ドーパミン拮抗薬以外の薬剤性パーキンソニズムは、投与 の中止だけで治療可能であるが、時に症状が中止後も持続 することがある。この場合、特発性パーキンソニズムを医薬 品が顕在化させただけなのかもしれないが、治療としては医 薬品の投与を中止して様子を見る。 重篤副作用疾患シリーズ(18) 薬剤性パーキンソニズム 17 PMS Forum 典型的症例概要 【症例】60歳代、男性 (主訴):パーキンソン症状 (現病歴):虚血性心疾患にてバイパス手術を施行。術後、創部の痛みが強 く、不眠が続いていた。 投与開始日 不眠に対して、塩酸チアプリド25mgを1日1回投与開始 投与2日目 小刻み歩行の傾向が出現 投与5日目 さらに不眠が増強したため、塩酸チアプリド75 mg を1 日3 回に 分けて増用投与開始 投与開始6 日 振戦、固縮、無動、突進現象、転倒傾向、仮面様顔貌、姿勢 反射障害などのパーキンソン症状を認める 投与開始8 日 症状が薬剤性パーキンソン病によると考え、塩酸チアプリドを 中止し、フマル酸クエチアピン4 mg を一日3 錠、3 回に分けて投与開始 投与開始15日(投薬中止して、約一週間)パーキンソン病の症状は、消失し た。 重篤副作用疾患シリーズ(18) 薬剤性パーキンソニズム 18 PMS Forum その他(特に早期発見・対応に必要な事項) パーキンソン病は大脳基底核疾患の一つであり、大脳基底核疾患では 様々な不随意運動を呈することが多い。 不随意運動を呈する疾患がすべてパーキンソニズムではない。 不随意運動一般に関して言うと、その診断は、良い生物学的マーカーが なく、臨床観察・診察に頼る所が大きい。 薬剤性を疑った時には、医薬品投与に関する問診が重要な診断の情報 になる。 不随意運動の中には、バリスム、舞踏運動、ジストニア、チック、ミオク ローヌス、振戦、下肢静止不能症候群(restless leg syndrome)、発作性 ジスキネジア(paroxysmal dyskinesia)、アカシジア等がある。 このほか遅発性ジスキネジアと呼ばれる病態がある。 この場合、ジスキネジアの本態は、ジストニアだったり、舞踏運動だった り、ミオクローヌスの要素が入っていたりするが、どの病態かを詳細に調 べることができない場合も多いので、便宜的にジスキネジアと総称するこ とが多い。 重篤副作用疾患シリーズ(18) 薬剤性パーキンソニズム 19 PMS Forum 参考 MedDRAにおける関連用語 名称 ○PT:基本語 (Preferred Term) パーキンソニズム ○LLT:下層語 (Lowest Level Term) パーキンソニズム パーキンソニズムの増悪 パーキンソン症候群 偽性パーキンソン症候群 続発性パーキンソン症候群 脳炎後パーキンソン症候群 薬剤誘発性パーキンソニズム 重篤副作用疾患シリーズ(18) 英語名 Parkinsonism Parkinsonism Parkinsonism aggravated Parkinson's syndrome Pseudoparkinsonism Secondary parkinsonism Parkinsonism post encephalitic Drug-induced Parkinsonism 薬剤性パーキンソニズム 20
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