Miyauchi - 大阪大学X線天文グループ

Astro-E2 XIS 裏面照射型 CCD における
信号電荷の広がりとデータ処理パラメータの最適化
宮内智文、林田清、鳥居研一、並木雅章、勝田哲、東海林雅幸、松浦大介、常深博(阪大理)、幸村孝由(工学院大)、片山晴善(JAXA)、他 Astro-E2 XIS チーム
概要
2005年2月に打ち上げ予定のAstro-E2 に搭載されるX線CCDカメラ(XIS)は、表面照射型(FI)と裏面照射型(BI)の2種類がある。BI は低エネルギー側の検出効率が格段に高いことが特徴である。また、これまでの BI
はエネルギー分解能が悪いという問題があったが、XIS BI では FI と大差ないエネルギー分解能を実現している。しかしながら、FI と BI は、信号電荷の広がりについて大きく異なる。X線が CCD 中で光電吸収された後に
生じる信号電荷は、電極に収集されるが、この過程で拡散により広がってしまう。FI に低エネルギーX線が入射した場合、電極のすぐ奥の空乏層で光電吸収される割合が高いため、ほとんどの場合シングルピクセルイベン
トになる。しかし、BI では、電極からもっとも離れた入射面(裏面)で光電吸収されるため収集距離が長く、拡散による影響を大きく受ける。その結果、多くのイベントが複数のピクセルにまたがったものとなってしまう。これら
の複数のピクセルにまたがるイベントの場合、漏れ出した周りの電荷の分を足し合わせる必要がある。その際、ある閾値を越えたもののみを足し合わせるグレード判定法を用いる。Astro-E2 XIS でもこのグレード判定法を
用いるが、現在はシングルピクセルが多数を占める FI について最適化されている。本発表では、このデータ処理パラメータを BI について検討していく。
1.X線CCDカメラ(XIS)
3.電子雲の半径
入射X線
グレード分岐比から、電子
雲の大きさを見積もること
ができる。
電極
grade0/1234567
入射X線
拡散により広がった電子雲
を一定の大きさの円と仮定
する。
grade0/01234567
表面照射型 ( Front-illuminated devices : FI ) 裏面照射型 ( Back-illuminated devices : BI )
・入射面に電極がある。
・入射面が裏面。
・低エネルギーX線は電極すぐ奥の空乏層
・低エネルギーX線は電極から離れた場所
で吸収される。
で吸収される。
FMBI1 について電子雲の大きさを考える。
電子雲
空乏層
中性領域
電極
表面照射型 FI と 裏面照射型 BI では,そ
の構造の違いから性質が異なる。
照射面に電極構造がない BI は 、FI とは
違い、低エネルギー側で高い検出効率を
もつ。
低エネルギーの方が拡散
が大きく、電子雲の半径が
大きくなるという予想に反
する。
Split threshold を一定にし
たグレード判定法では、電
子雲の大きさを正しく見積
もることができないのでは
ないか?
← X線望遠鏡、可視光遮断フィルタと XIS
CCD を組み合わせたシステムの有効面
積。
電子雲の半径 [mm]
実験で得られた grade0 の割合。
電子雲の半径と grade0 になる
割合。(幾何学的な計算値)
energy [keV]
4.データ処理パラメータの検討
今回は、グレードを決める閾値である Split threshold を FMBI1について検討していく。
実験により得られたデータについて、Split threshold を変えて検出イベント数(grade02346)の比
とエネルギー分解能の変化を見ることにより、最適な Split threshold を検討する。
2.グレード判定法
検出イベント数の比は大きいほど統計がよく、エネルギー分解能が小さいほど精度のよい測定が
※ 検出イベント数(grade02346)の比は、Split threshold 7 を 1 とした比で表している。
できる。
入射したX線は、CCD中で光電吸収した後に、電子雲を形成する。電子雲は電極で収集される
までに拡散する。
エネルギー分解能
grade4
grade5
grade2
grade6
Split threshold 以上でイベント
に含むピクセル
Split threshold 以上でイベント
に含まないピクセル
※ 大きくイベントが広がる grade7 は、
エネルギー分解能を悪くするため
データ処理には用いず、
grade02346 のみを使用する。
grade7
Split threshold [ADU]
5.89keV X線入射に対するグレード分岐比
Split threshold [ADU]
Al-K 1.48keV
Split threshold [ADU]
Split threshold [ADU]
BI-CCD(FMBI1)のグレード分岐比
検出イベント数の比
FI-CCD(FMFI0)のグレード分岐比
O-K 0.52keV
Split threshold [ADU]
Mn-K 5.89keV
Split threshold [ADU]
エネルギー分解能 [eV]
grade1
grade3
Event threshold 以上で最大の
ピクセルレベルのピクセル
※1ADU ~ 3.5-4.0eV
エネルギー分解能 [eV]
入射X線のエネルギーを見誤らないためにグレード判別を行う。
grade0
検出イベント数の比
Split threshold [ADU]
エネルギー分解能 [eV]
電極で収集
検出イベント数の比
電子雲の形成
C-K 0.27keV
検出イベント数の比
X線 入射
ある閾値(Event threshold)を越え
たものをイベントとみなす。
複数のピクセルにまたがる場合、イ
ベントの周りの電荷は、閾値(Split
threshold)
を越えるもののみを足し合わせる。
エネルギー分解能 [eV]
検出イベント数
24mm
24mm
※ ここでは、
C-K 0.27keV
O-K 0.52keV
Al-K 1.48keV
Mn-K 5.89keV
のエネルギーのX線に
対して調べた。
@Split threshold 7
電子雲の半径 [mm]
空乏層
電子雲
energy [keV]
Split threshold [ADU]
5.89keVのX線に対して、Split threshold は10 が適当であるが、低エネルギーのX線に対しては、
Split threshold 5 が適当だと考えられる。イベント中心の値をもとに Split threshold を可変にするよ
うな解析方法の構築が必要ではないだろうか。
・データ処理パラメータ Split threshold は 7 。
・シングルイベントが大部分を占める FI とは異なり、BI は grade7 などの広がったイベントが多い。
FI について最適化されているデータ処理パラメータを再検討する必要がある。
5.まとめ
グレード分岐比を調べた結果、BIについて、データ処理パラメータの再検討が必要であること
が分かった。
5.89keVのX線に対して、データ処理パラメータ Split threshold は10が妥当であるが、低エネ
ルギーX線に対しては、Split threshold は 5 が妥当であることが分かった。
参考文献
・片山晴善 修士論文 ・・・ 大阪大学 2000
・荘保信 修士論文 ・・・ 大阪大学 2000
イベント中心の値をもとに Split threshold を可変にするような解析方法の構築が必要ではない
かと考えられる。