介護保険の改革 鈴木亘 1.介護保険制度の概要 • (保険者、規模) • 日本の介護保険制度は大まかにいうと、40歳以上 の全住民から介護保険料を徴収し、原則65歳以上 で要介護状態になった場合に、介護保険サービスを 1割の自己負担で受給できるという制度 • 保険の運営者は、基本的に各市町村である。 • 介護保険の給付費は、2006年度現在で6.6兆円で あるが、実はその財源の半分は公費により賄われ ており、保険方式と税方式を混合した「保険制度」で あるという特徴がある。 • (保険料、公費負担) • 保険料の徴収ベースは、65歳以上を第1号 被保険者、40-64歳を第2号被保険者として 負担が分けられている。 • 前者は年金給付額からの天引き、後者は医 療保険と合算して徴収 • それぞれの負担する額は、マクロ的には、1 号被保険者と2号被保険者の人口割合(約1: 2)に応じて給付費のそれぞれ17%と33% (合わせて50%)を負担することになっている。 • 第1号被保険者の保険料負担は、現在、平均 的には月当たり3,300円であるが、住んでいる 自治体、そして本人の所得によって大きく異な る。 • 自治体ごとに決められている保険料基準額を 元に、収入によって5段階の保険料(最大基準 額の1.5倍、最小基準額の0.5)が徴収される。 • 保険料基準額も、自治体の運営状況によって 地域差がある。 • 一方、第2号被保険者の保険料負担は、現在、 賃金収入の約1.0%の保険料率が課されてい る。 • (認定) • 介護保険で介護サービスを受けられるのは、 基本的には65歳以上で、介護が必要と認定 された要介護者である 。 • 要介護者は、まず、保険者に申請を行う。 • すると、市町村職員や後述するケアマネー ジャーが派遣され、79項目の調査表につい て日常生活動作にかかる時間や状況の調査 を行い、機械的にコンピューターによる要介 護度の判定を行う(1次判定)。 • ただ、コンピューターによる判定では、認知症 などについての負担状況が勘案しにくいため、 医師による意見書も判断材料とされた後、保 険者に設置された介護審査会において最終 判断(2次判定)が行われて、申請者に通知さ れる。 • 通知される要介護認定の区分は非該当(自 立)・要支援(1,2)・要介護(1-5)に分けられる。 要介護度によって、利用可能なサービスの上 限額が設定されている。 • その後、介護サービス計画(ケアプラン)とい う介護サービス利用のスケジュール表を作成 しなければならないが、これは通常、本人や 家族ではなく、市町村から配布される一覧表 の中から選ばれたケアマネージャーが行う • ケアマネージャーは、要介護者の状況に合わ せてケアプランを作成し、利用業者の選定か ら発注までを実施する 。 • もちろん、利用者本人や家族がケアプランを 作成してもよい。ケアプランの作成には、1割 の自己負担はかからない。 状態区分 要支援1 身体の状態例 (目安) 利用できるサービスの 水準(目安) 月利用 限度額 49,700円 日常生活の一部に介護 が必要だが、介護サー ビスを適応に利用すれ ば心身の機能の維持・ 改善が見込める。 目標を設定してそれを 達成するための「介護 予防サービス」が利用 できる。 要介護1 立ち上がりや歩行が不 安定。排泄や入浴など に部分的介助が必要。 訪問介護・訪問看護・ 通所リハビリテーショ ンなど 165,800円 要介護2 立ち上がりや歩行など が自力では困難。排 泄・入浴などに一部ま たは全介助が必要。 週3回の訪問介護また は通所リハビリテー ションなど 194,800円 要支援2 104,000円 立ち上がりや歩行など が自力ではできない。 排泄・入浴・衣服の着 脱など全面的な介助が 必要。 訪問介護や夜間または 早朝の巡回訪問介護・ 訪問看護・通所介護ま たは通所リハビリテー ションなど(1日2回程 度のサービス) 267,500円 要介護4 日常生活能力の低下が みられ、排泄・入浴・ 衣服の着脱など全般に 全面的な介助が必要。 訪問介護や夜間または 早朝の巡回訪問介護・ 訪問看護・通所介護ま たは通所リハビリテー ションなど(1日2~3 回程度のサービス) 306,000円 要介護5 訪問介護や夜間または 早朝の巡回訪問介護・ 日常生活全般について 訪問看護・通所介護ま 全面的な介助が必要。 たは通所リハビリテー 意志の伝達も困難。 ションなど(1日3~4 回程度のサービス) 358,300円 要介護3 (サービスの給付) • 利用できるサービスの種類は、在宅サービスと施設 サービスの2つに分かれる。 • 在宅サービスは、訪問介護(ホームヘルプサービス)、 訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、 通所介護(ディサービス)、通所リハビリテーション (ディケア)、福祉用具貸与、短期入所生活介護 (ショートステイ)、短期入所療養介護(ショートステ イ)、居宅療養管理指導のほか、擬似的な施設介護 である痴呆対応型共同生活介護(グループホーム)、 特定施設入所者生活介護(有料老人ホーム、ケアハ ウス等)が存在する。 • 施設介護は、介護老人福祉施設(特別養護 老人ホーム)、介護老人保健施設(老人保健 施設)、介護療養型医療施設(療養型病床) の3種類の施設が存在しており、後者ほど医 療的なケアが実施される施設となっている。 • 各サービスは時間当たりの利用料が、「介護 報酬単価」として固定価格で設定されており、 その1割を利用者が自己負担をし、残りの9割 を保険者が支払う。 • 新予防給付と介護給付(予防給付は要支援 者と要介護1の一部) • 施設サービスと居宅(在宅)サービス、居住系 サービス • 地域密着型サービス(介護予防事業、包括的 支援事業、任意事業)、居宅介護支援(ケアマ ネジメント)、介護予防支援(介護予防ケアマ ネジメント) • H18年4月から3施設の部屋代、食費徴収、 経過措置、低所得者上限あり。 • (上乗せサービス・横だしサービス) • 上乗せ・・・支給限度額を超えた分を市町村 が独自に条例で給付。 • 横だし・・・介護保険以外のサービス、寝具感 想、移送サービスの給付 • いずれも第1号被保険者の保険料でまかなう。 (介護報酬単価) • 地域によって1単位あたりの金額が異なる (生活保護、措置費と同様) • 介護報酬は一種の包括払い方式 • 介護報酬は値段の上限。 • 介護報酬請求の審査支払いは、都道府県の 国民健康保険連合会が担当 (サービス提供業者) • 介護保険施設、居宅サービス提供業者、居 宅支援事業者の種別 • 都道府県知事の指定、許可を受けなければ、 サービスは保険給付の対象とはならない。 • 介護保険施設は営利法人は設置できない。 特養は自治体か社会福祉法人。老健は、自 治体か、社福か医療法人。療養型病床群は、 自治体か医師か医療法人。 • 居宅サービス提供事業、居宅介護支援事業 はすべての法人の参入が認められる。当然、 営利法人も可能。 • 法人格を持たないものは事業は出来るが指 定はうけられない。給付を市町村が認めた場 合には、償還払い。 • 指定や許可を受けるには、人員基準、設備・ 運営基準を満たすことが必要。指定や許可 は6年ごとの更新制。サービス内容や運営事 業について公表が義務付け。 • (特徴) • 日本の介護保険は、ドイツ(独)やオランダ (蘭)の制度に比較的に近いものだと言われ ているが、独・蘭の制度と比較してみると(表 3)、いくつかの特徴があることが分かる。 • 第一に、独・蘭では、被保険者の対象となる のは全住民であり、若年・障害者もサービス の受給対象となる。一方、日本では、被保険 者は40歳以上の住民で、サービスの受給対 象は原則として65歳以上の高齢者のみであ る。 • 第二に、ドイツでは3段階の要介護度しか設 定されておらず、日本の要支援や要介護1程 度の認定ではサービスを受けられない。その 意味では、日本の介護保険はドイツよりも「範 囲が広い」といえる。 • 第三に、独・蘭では、サービスや施設入所と いった現物支給のほか、家族介護者に対し て一定額の現金給付も行われているが、日 本では原則として現金給付を行っていない 。 ドイツ オランダ 日本 制度名 Pfegeversicherrung Algemene WetBijzonder 介護保険制度 保険者 介護金庫 国 市町村 財源 保険料 保険料+自己負担 保険料+公費+自己負担 被保険者 ほぼ全住民 全住民 ・40~60歳(第2号) ・65歳~(第1号) 若年・障害者 受給対象とする 受給対象とする 受給対象としない あり(6段階) 段階別要介護度 あり(3段階) なし 現金給付 あり あり なし (参考資料)厚生労働省第12回社会保障審議会介護保険部会 資料2「諸外国における介護保障制度の比較」(200 介護保険成立の背景 • 高齢化とともに爆発的に増える要介護 者・・・・介護が必要な寝たきり老人、痴呆性 老人、虚弱高齢者は、1993年で約200万人 存在していたものが、2000年には約280万人 と増加しており、厚生労働省の予測によれば、 この数は2025年には520万人になるという急 速なペースである。 • 措置制度の不備・・・こうした介護サービス需 要の増加に対して、介護保険設立前の全額 公費の介護福祉システムである「措置制度」 は、利用対象者は、ほぼ低所得者で身寄り がないといった事情のある高齢者に限定され ており、施設やヘルパー事業の供給数も予 算の制限のためにキャパティシーが小さかっ たこともあり、通常の要介護者を抱える世帯 は社会的な手助け無しで、家族介護をせざる を得ない状況であった。 • 介護地獄・・・このため、家族介護はしばしば「介護地 獄」と呼ばれる長時間介護者が目立つようになって きた。内閣府(2003)によれば1999年において主な 介護者が1日8時間以上介護している要介護世帯が 21.7%、12時間以上が10%となっていた。 • これに対して、介護する側も、84%が女性、約半数は 60歳以上の高齢者であり、負担感が大きく共倒れが 社会問題化した。また、なかには、介護の疲れから 世話の放棄、暴言、暴力などの虐待事件も急増し、 連合総研「介護サービス実態調査」では、介護者の2 人に1人が介護される高齢者に何らかの虐待を加え たことが報告されるにいたった。 • さらに、低所得者以外で、家族介護十分に得 ることができない高齢者などは、行き場所が なく、やむなく重度の疾患もないのに長期入 院をする「社会的入院」患者となるケースも増 加してきた。厚生労働省行った平成11年の患 者調査によれば、社会的入院と目される患者 数は27万5000人、これにかかる医療費は2 兆円と推定されている。 介護保険成立後の推移 • こうした介護サービス供給の不足を補うために、保 険料を支払えば、誰もが1割の自己負担率で介護 サービスを受けられるという介護保険制度がスター トしたのである • ドラスティックに変化したのは在宅介護市場である。 • 株式会社を含む営利法人やNPOなどすべての業者 が参入できることになった。 • また、介護報酬単価は、固定価格の元で業者の採 算レートよりも高い水準に設定されたため、需要拡 大の期待も伴って、多くの新規業者が参入すること になった。 表1 サービス事業者数の推移(サービス種類別) サービス名 訪問介護(ホームヘルプサービス) 訪問入浴介護 訪問看護 訪問リハビリテーション 通所介護(ディサービス) 通所リハビリテーション(ディケア) 在 福祉用具貸与 宅 短期入所生活介護(ショットステイ) 短期入所療養介護(ショットステイ) 居宅療養管理指導 痴呆対応型共同生活介護(グループホーム) 特定施設入所者生活介護(有料老人ホーム、ケアハウス等) 居宅介護支援 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム) 施 介護老人保健施設(老人保健施設) 設 介護療養型医療施設(療養型病床) (出所)WAM-NETデータベース 2000年5月末 12,650 2,624 41,044 29,421 7,740 5,224 3,653 4,607 6,214 93,367 535 2004年5月末 21,112 2,936 65,446 52,251 14,256 5,982 7,985 5,695 6,815 145,447 5,003 増加率 66.9% 11.9% 59.5% 77.6% 84.2% 14.5% 118.6% 23.6% 9.7% 55.8% 835.1% 257 21,545 4,416 2,532 3,782 832 27,698 5,226 3,100 3,877 223.7% 28.6% 18.3% 22.4% 2.5% 図1 在宅介護分野の利用回数の推移 万回(月) 900 816 800 743 700 600 539 500 400 300 437 355 457 340 250 200 100 0 1999平均 2000年11月 2001年10月 2002年4月 訪問介護 通所介護 表2 介護サービス施設・事業所の常勤換算従事者数 2000年 2001年 2002年 2003年 増加率(00-03) 訪問介護 76,973 104,019 118,178 151,499 96.8% 訪問入浴介護 9,426 10,890 10,836 11,535 22.4% 訪問看護ステーション 22,302 21,534 23,027 24,289 8.9% 通所介護 70,949 83,092 101,350 122,709 73.0% 21,964 23,089 26,217 22,172 22,598 22,915 51,629 60,484 63,492 在宅 通所リハビリテーション(介護老人保健施設) サー 98,796 ビス 通所リハビリテーション(医療施設) 短期入所生活介護 14.0% 痴呆対応型共同生活介護 4,375 9,566 18,616 35,907 720.7% 福祉用具貸与 8,800 11,984 14,559 17,005 93.2% 居宅介護支援事業所 32,884 39,991 48,872 51,234 55.8% 施設 介護老人福祉施設 サー 介護老人保健施設 ビス 介護療養型医療施設 168,257 174,875 188,423 202,764 20.5% 137,059 148,753 140,912 151,759 10.7% 93,736 96,872 110,770 114,050 21.7% 723,557 797,341 881,714 995,375 37.6% 合計 (出所)厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」(各年) 表3 介護認定者、サービス受給者数の推移 要介護認定者数 2000 2,562 サービス受給者数 1,687 うち居宅サービス受給者数 1,134 うち施設介護サービス受給者数 (参考)65歳以上人口 554 22,422 2001 2,983 16.4% 2,175 28.9% 1,520 34.1% 655 18.3% 23,168 3.3% 2002 3,445 15.5% 2,540 16.7% 1,840 21.0% 700 6.8% 23,934 3.3% 単位:千人、下段伸び率 2003 2004(見込み) 3,839 4,162 11.4% 8.4% 2,868 3,156 12.9% 10.0% 2,136 2,393 16.1% 12.0% 732 763 4.6% 4.2% 24,494 25,229 2.3% 3.0% • 在宅介護分野と施設介護分野に分けてみると、そ の増加率に著しい違いがある。たとえば、図2は、 介護保険給付費の在宅・施設別の推移であるが、 介護給付費の伸びの大部分は、実は在宅介護分野 で起きたものであり、施設介護分野の伸びは低いこ とがわかる。 • 介護保険開始後に顕現化した需要増に対して、表1、 2にあるようにわずかなキャパティシーの増加しか 見られず、圧倒的な超過需要が生じ、待ち行列が 発生しているのである。その数は、30万から40万人 程度。特別養護老人ホームの平均待機年数は5.1 から6.8年程度という計算になる。 図2 介護保険給付費の在宅・施設別推移 兆円 6.00 5.00 2.72 4.00 1.97 2.36 在宅介護 施設介護 1.59 3.00 1.10 2.00 1.00 2.13 2.50 2.66 2.71 2.83 2001 2002 2003 2004(見込み) 0.00 2000 • このため、在宅介護分野で施設介護の代替性が高いグ ループホームやケアハウスなどの擬似的な施設介護分野 が急激に利用を伸ばしており、給付費についてみると、こう した擬似施設介護が入っている「その他単品サービス分野」 の伸び率が著しい。 訪問通所サービス 2000 0.83 短期入所サービス 0.09 その他の単品サービス 0.14 福祉用具・住宅改修 0.02 施設介護サービス 2.13 2001 1.18 41.1% 0.17 76.5% 0.21 47.0% 0.04 81.9% 2.50 17.3% 2002 1.43 21.9% 0.21 24.0% 0.28 32.8% 0.05 25.0% 2.66 6.5% 単位:兆円、下段伸び率 2003 2004 1.67 1.89 16.5% 13.1% 0.23 0.26 11.9% 10.8% 0.40 0.52 44.2% 29.2% 0.05 0.05 7.3% -2.2% 2.71 2.83 1.9% 4.3% • 介護保険開始直後は、むしろ高い要介護度 で高い伸び率となっていたが、近年は要支援 や要介護1といった軽度の介護度の伸びが 高くなってきている。 • 急速に拡大する財政規模を維持可能なもの にするために、軽要介護者への給付削減や 施設介護の自己負担増が検討されているが、 今後、高齢化によって拡大する財政規模をど の点で落ち着けさせるのかという点も大きな 政策課題となってきている。 表5 要介護度別保険給付額の推移 要支援 2000 0.10 要介護1 0.50 要介護2 0.53 要介護3 0.60 要介護4 0.80 要介護5 0.69 2001 0.11 8.2% 0.63 24.8% 0.70 32.1% 0.74 22.7% 0.96 20.5% 0.96 38.5% 2002 0.12 18.3% 0.74 18.7% 0.81 14.9% 0.82 11.3% 1.05 9.0% 1.08 13.3% 単位:兆円、下段伸び率 2003 2004(見込み) 0.15 0.18 23.9% 18.6% 0.85 0.97 13.6% 14.4% 0.82 0.81 0.7% -0.8% 0.89 1.01 9.2% 12.6% 1.14 1.26 9.2% 10.1% 1.21 1.32 12.1% 8.7% 表6 要介護度別人数の推移 要支援 2000 321.50 要介護1 701.49 要介護2 483.80 要介護3 354.83 要介護4 363.28 要介護5 336.70 2001 2002 389.87 498.99 21.3% 28.0% 874.72 1056.27 24.7% 20.8% 562.94 635.83 16.4% 12.9% 388.65 425.71 9.5% 9.5% 389.08 419.29 7.1% 7.8% 377.43 409.09 12.1% 8.4% 単位:千人、下段伸び率 2003 2004(見込み) 584.09 670.15 17.1% 14.7% 1198.09 1329.18 13.4% 10.9% 567.31 608.51 -10.8% 7.3% 465.67 517.98 9.4% 11.2% 456.85 491.44 9.0% 7.6% 432.09 464.32 5.6% 7.5% 介護保険制度の課題 • 2.需要面の変化と課題 • 2.1 家族介護者の負担感の変化 • まず、家族介護者に対するアンケート調査 を見てみると、介護地獄といわれるような長 時間介護の状況は、それほど改善していな いとするものがある。 • 内閣府「介護サービス価格に関する研究 会」(2002)の調査(N=1005) 。主な介護者 が1日8時間以上介護を行っている世帯の 割合は1999年21.7%から2001年の20.5% と殆ど減っていない。 • 三鷹市で行った介護保険実施前と実施後の実態調 査(N=9045)である杉澤ほか(2005)でも確認。 • 1998年と2002年に実施したアンケート調査を比較。 「かかりきりではないが毎日お世話をしている」世帯 が58.0%から49.5%へ減少している一方、より深刻 な主介護者が「毎日かかりきりでお世話をしている」 世帯が25.0%から24.2%と殆ど変わっていないこと を指摘。 • 身体障害が軽度で痴呆の程度が中度・重度である 「動ける痴呆」では、ホームヘルパーの利用率は6% に過ぎず、9割以上が家族介護であり、加えて、介 護保険設立後かえって利用率が減少していた。 • 介護者の「負担感」についても改善に否定的 な調査が多い。たとえば、連合総研が2001 年に行った「介護サービス実態調査」 (N=773)では、介護保険導入前後の身体的 な負担の変化について尋ねているが、「増え た」、「変わらない」、「減った」と答えた家族介 護者の割合はそれぞれ12.3%、63.3%と 22.1%となっている。介護保険制度が実施さ れて間もない時期ではあるが、介護保険の導 入後に身体的な負担が減ったと感じた人は、 全体の2割程度に過ぎない • 介護負担感に影響するのは自由時間。介護保険導 入後も家族介護者の自由な時間がそれほどに増え ていないのは現状である(上田2004)。 • その原因は、機密性の低い日本の住宅では、介護 サービスを受ける時にも家族は家を留守できないこ とが多いからである。 • 杉澤ほか(2005)は、介護に関して相談できる人が むしろ介護保険導入後減っていることが、家族の負 担感が変わらない原因と分析している。 • こうした長時間介護の持続や負担感の改善がなさ れない背景の一つは、日本の介護サービスが在宅 中心であり、介護が社会化されても、自宅の介護に なるとなかなか開放されないという面があるのかも しれない。 • 2.2 要介護度・要介護者の状態の変化 • 介護保険導入によるアウトカムとしては、介 護者の負担と共に、要介護者の状況の変化 • 井伊・大日(2001)は、介護保険制度に介護 予防や要介護度改善へのインセンティブが存 在せず、むしろ要介護状態を悪化させる方が 給付費が増えるという負のインセンティブが 存在するため、介護保険導入によってむしろ 要介護状態が悪化するというモラルハザード 仮説を指示。 • 川越(2003)は、島根県の要介護世帯のパネ ルデータを作成して、2000年10月の要介護 世帯の要介護度や痴呆のランクがその後ど のように変化をしたのかを追跡した。 • 在宅介護よりも特養、老健、療養型病床群で 悪化が著しく改善者が少なく、また在宅よりも、 ケアハウス・グループホームなどの在宅分野 の擬似施設で改善が著しい。 在宅 特養 老健 改善 維持 悪化 療養型 グループホーム ケアハウス等 0% 20% 40% 60% 80% 100% 10000 9500 9455 9000 9064 8760 8500 8770 8854 8462 採算価格 報酬単価 8370 8000 7970 7570 7500 7170 7000 要介護1 要介護2 要介護3 要介護4 要介護5 • • • 介護者の就労についての変化 介護保険制度が家族介護者にもたらすもう 一つの変化は、就労への可能性が広がっ たとのことである。 つまり、これまでに介護に縛り付けられてい た世帯員が介護サービスの充実によって新 規の労働供給に転じる可能性が出てきたの である。こうした可能性については、介護制 度が導入される前から盛んに分析が行わ れてきた。 • 内閣府「介護サービス価格研究会」(2002)の 調査によると、単に介護者の就業割合の変 化をみた場合、就業割合は、介護保険導入 後かえって減少していた。 • この背景には、「老老介護」と言われるように、 介護者の多くが既に高齢者になりつつあり、 既に労働市場に出現することが難しいことが あげられる。ホームヘルプサービスの充足量 も、介護者が労働市場に出るほど十分では ない可能性もある。 • 3. 供給面の変化と課題 • 3.1 介護業者のサービスの質、効率化 • 福祉関係者の間には営利法人は機会主義 的な行動をとるとの否定的な見解が多かった。 また、効率性の達成についても、例えば、南 部(2000)は、介護報酬単価が固定されてい ることから、価格競争が働かず、したがって 新規参入をした業者もレントシーキング等の 競争を行う • 鈴木らの一連の研究は、日本銀行や内閣府 において実施した介護保険業者への大規模 なアンケート調査に基づいて、サービスの質 やサービスの質をコントロールした上での効 率性を計測している。その結果をまとめると、 ①様々なサービスの質の指標を営利・非営利 業者間で比較すると、両者の差異はほとんど 無いが、公的業者は質が明確に低い、②事 業者密度の高い(市場競争の激しい)地域ほ ど訪問介護サービスの質が高い、③サービス の質をコントロールしたコストは、介護保険導 入後参入した新規業者が低く効率的である、 となる。 • 3.2 介護施設利用の効率化 • 従来の措置制度では、特に施設介護において、本 当に介護が必要な人が利用できないという問題が あった。 • 介護保険開始後の施設入所者の要介護度別分布 をみたものである。時の推移とともに要介護状態が 悪化してゆくことや、2.2で触れたモラルハザードの 問題もあり、一概には言えないが、要介護度の分布 は明らかに、要介護4や5などの重いものが中心と なってきており、これが新規入所者の動向を反映し ているのであれば、資源配分が効率化してきている といえよう。 • 3.3 社会的入院の変化 • 厚生労働省「制度別概算医療費」によれば、 老健の医療費の前年同期比は1998年度 6.1%、1999年度8.4%と増加してきたものが、 介護保険導入後2000年度に-6.8%と減少 したものの、2001年度には5.5%とほぼ同水 準に戻っており、介護保険制度の導入による 老人医療費の抑制効果は一時的であったよ うである • 最近、河口(2004)は、栃木県大田原市の協力を得 て、医療保険と介護保険のレセプトデータを分析し た結果、介護保険開始後、長期入院者の多くは退 院後には介護保険にスムーズに移行したものの、 新たな長期入院者が医療保険側で毎年発生してお り、量的にあまり変化がないことを発見 • これは、医療機関にとって社会的入院が非常に大 きな収益となっていることが根本的な原因であり、 施設待機者の受け皿となり続けており、退院した患 者についても、実は同一の法人が経営している医 療機関と介護保険機関との間で、一種のキャッチ ボールがなされている場合が多い 財政問題と近年の改革 • 介護給付費の急速な増加が予想されている。 • このため、2005年改正のもっとも大きな課題 は、財政の維持可能性をどうするかという点。 • 社会保障審議会・介護保険部会の議論 • ①低要介護度の伸びが著しい⇒予防給付を 導入する一方、介護給付からこの点を外す。 • ②予防の促進によって、要介護状態になる人 を抑制 • ③ホテルコストや食事療養費を徴収 • ④療養型病床の廃止(2006年医療制度改正 で導入) • ⑤保険料負担の20歳からの実施と障害者保 険との合併⇒次回の改正で導入がほぼ確実 視されている。 • 地方への裁量余地と財政負担の移譲。 • 詳細はパンフレットと、審議会議事録。 • 2006年4月から、地域支援事業。 • ①要介護・要支援ではない被保険者への介 護予防、②介護予防ケアマネジメント、総合 相談、虐待防止などの包括的支援が内容。 • 財源は保険料。 • ①の介護予防は通常通り。②包括的支援は 1号保険料と公費のみ。 • 市町村は包括的支援を地域包括支援セン ターに委託可能。 • 地域包括支援センターには、保健師、主任ケ アマネ、社会福祉士がいなければならない。 • 地域密着型サービス • 保険者の身近な市町村の枠内で提供される サービスについては、地域密着型サービスと して、市町村長が指定を行う。市町村住民し か利用が出来ない。指定基準や介護報酬も 市町村の実情に応じて変えられる。 • 単価抑制と予防給付の導入。 • H18年4月から3施設の部屋代、食費徴収、 経過措置、低所得者上限あり。 • 保険料引上げ 改革をどのように進めるか • 財政不均衡ははじめから予想できたこと。 • 財政悪化の根本的な原因は、年金と同じ賦 課方式を取っており、なおかつ、最初の世代 をほぼただにしてしまったこと。 • このため、これまで用意されてきた地域資源 や介護のための資産形成が無駄に。 • 今からでも遅くないので、高齢者から徴収す る制度を考えるべきである。 • 地域の資源をもう一度活用(甑島の例)。 • なおかつ、低要介護については自助努力を 進めるために、給付カットを進める(ドイツは 要介護3程度から)。これはもともと介護地獄 を抑制するのが目的であるから。 • 一方、施設介護分野は、規制緩和を進めて、 拡大を行う。ただし、それに対する居住コスト 徴収は低所得者を除いては別途市場額でき ちんと行う。 • 介護予防や要介護度改善に対するインセン ティブを導入する。 • 介護負担感という意味では、それを減少させ るサービスの導入は、配分が重要。自由度を 高める必要がある。デイ、ショートステイ、夜 間介護、介護者への健康支援などは課題。 • そのためには、混合診療ならぬ、混合介護の 導入(プラスアルファは自己負担)も検討すべ き。実質的な価格競争にもなる。 • 社会的入院のキャッチボールをやめさせる制 度改正。 • 医療とともに介護についても積立貯蓄 (MSA)の導入。
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