消費税のもとでの予算制約式

19 課税の同等性
19.1 消費税と労働所得税の同等性
19.2 資産所得課税と資産課税の同等性
19.3 補論*:ファンダメンタル価格と合理的バブル
19.1 消費税と労働所得税の同等性
18.5 節と 18.6 節
⇒累進所得税と累進支出税の比較
with 特殊な消費関数
本節
⇒ (一般)消費税と(比例)労働所得税の比較
with
2 期間モデル + 一般的な消費関数
<消費税も労働所得税も存在しないときの予算制約式>
消費財の税抜きの価格=1
ct :第 t 期の消費量( t  1, 2 )
wt :第t期の労働所得( t  1, 2 )
s :第1期の貯蓄
r :利子率
c1  s  w1 :第 1 期の予算制約式
c2  w2  (1  r )s :第 2 期の予算制約式
c1 
(19-1)
(19-2)
c2  w2
 w1
1 r
c2
w2
c1 
 w1 
1 r
1 r
:2 期間を通じた予算制約式
(19-3)
<労働所得税のもとでの予算制約式と労働所得税額>
t w =労働所得税率
c1  s  (1  t w ) w1 :第 1 期の予算制約式
c2  (1  t w ) w2  (1  r ) s :第 2 期の予算制約式
(19-4)
(19-5)
c2
w2 

c1 
 (1  t w ) w1 

1 r
1 r 

:2 期間を通じた予算制約式
(19-6)
第 t 期の労働税額= t w wt
Tw =第 1 期と第 2 期の労働所得税額の割引現在価値
w 

Tw = t w  w1  2 
1 r 

(19-7)
(問題 19-1)消費平面 c1c2 に、税が存在しない場合の予算制約式(19-3)と労働所得税
のもとでの予算制約式(19-6)を図示するとともに、労働所得税額の割引現
在価値 T w を図示しなさい。
c2
c1 
c2
w
 w1  2
1 r
1 r
c1 
c2
w 

 (1  t w ) w1  2 
1 r
1 r 

w2
(1  t w ) w2
1 r
(1  t w )w1
w1
c1
w2 

t w  w1 
  Tw
1

r


<消費税のもとでの予算制約式と消費税額>
t c =消費税率
(1  t c )c1  s  w1 :第 1 期の予算制約式
(1  t c )c2  w2  (1  r ) s :第 2 期の予算制約式
(1  tc )c1 
(19-8)
(19-9)
(1  tc )c2  w2
 w1
1 r
⇒
c2 
w2

(1  t c ) c1 
  w1 
1 r 
1 r

:2 期間を通じた予算制約式
(19-10)
ct* =第 t 期の最適消費量
t c c t* =第 t 期の消費税額
Tc =第 1 期と第 2 期の消費税額の割引現在価値
 *
tc 
w2 
c2* 


=
Tc = t c  c1 
 w1 


1

t
1

r
1 r 

c 

(19-11)
(c1* , c 2* ) =最適消費量の組
 * c2* 
w
  w1  2
(1  tc ) c1 
1 r 
1 r

(19-12)
tc 
w2 
Tc =
 w1 

1  tc 
1 r 
(19-13)
(問題 19-2)消費平面 c1c2 に、税が存在しない場合の予算制約式(19-3)、消費税のもとでの
予算制約式(19-10)、最適消費の組合せ (c1* , c 2* ) を図示しなさい。また、消費税額の
割引現在価値 Tc を図示しなさい。
c2
c1 
c2
w
 w1  2
1 r
1 r
c 
w

(1  t c ) c1  2   w1  2
1 r 
1 r

c2*
1 r
c1
Tc
=
c1*
t 
1 
w 
w 
w 

 w1  2   c  w1  2 
 w1  2  
1  r  1  tc 
1 r 
1  r  1  tC 

<労働所得税と消費税の同等性>
Tw = Tc
tw =
Tc 
⇒
tc
1  tc
or
1  tw =
(19-14)&(19-10)⇒
c1 
w 

Tw  t w  w1  2 
1 r 

1
1  tc
tc 
w 
 w1  2 
1  tc 
1 r 
c 
w

(1  t c ) c1  2   w1  2
1 r 
1 r

消費税のもとで
の予算制約式
労働税額の割引現在価値と消費税額の割引現在価値が一致
⇒予算制約式が一致
*
(19-13)
(19-14)
c2
1 
w 
w 


 w1  2   (1  t w ) w1  2 
1  r 1  tc 
1 r 
1 r 

*
(19-7)
⇒最適消費の組合せ (c1 , c 2 ) はどちらの税制のもとでも同一
(19-15)
(19-10)
<労働所得税と消費税の同等性>
Tw = Tc
tw =
Tc 
⇒
tc
1  tc
w 

Tw  t w  w1  2 
1 r 

or
1  tw =
(19-14)&(19-10)⇒
1
1  tc
tc 
w 
 w1  2 
1  tc 
1 r 
c 
w

(1  t c ) c1  2   w1  2
1 r 
1 r

労働所得税のもと
での予算制約式
労働税額の割引現在価値と消費税額の割引現在価値が一致
⇒予算制約式が一致
*
*
(19-13)
(19-14)
w2 
c2
1 
w2 

 (1  t w ) w1 

 w1 
  c1 
r

1
1 r
1  tc 
1 r 


消費税のもとで
の予算制約式
(19-7)
⇒最適消費の組合せ (c1 , c 2 ) はどちらの税制のもとでも同一
(19-15)
(19-10)
(関連問題)
既に(比例)労働所得税が導入されているとする。
消費税を導入 + 労働所得税の税率を低下
⇒ 税収総額が変化しないようにする。
⇒ 世代間にどのような所得再分配効果?
19.2 資産所得課税と資産課税の同等性
資産所得の捕捉が困難であるがその資産価格(価値)を把握することは相対的に容易
である場合に、資産所得を課税標準とする資産所得課税を、資産価格(価値)を課税
標準とする資産課税で代替できるかどうかについて検討しよう。
そのために、資産としては土地に着目する。
(問題 19-3)土地の地価(固定資産評価額)は捕捉しやすいが地代(不動産所得)は
捕捉しにくいケースとしてはどのようなケースが存在するであろうか。
日本の土地税制
路線価
取得時
税目
保有時
課税標準
税目
国
相続税
相続税評価額 地価税
税
登録免許税
登記時の価額
地
方
税
道府県民税
市町村税
譲渡時
課税標準
相続税評価額
不動産取得税 取得価額
固定資産税
固定資産税評価額
都市計画税
固定資産税評価額
譲渡益(譲渡所得)=収入金額(売却代金)-取得費(取得価額)-譲渡費用
譲渡費用=売却に要した費用
税目
課税標準
所得税
譲渡益
法人税
譲渡益
資産として定期預金と(1 単位の)土地があるとして、その地代(不動産所得)と地
価(資産評価額)の間に成立する関連性について検討する。
(1) 資産関連の課税(不動産所得税、固定資産税、利子所得税)が存在しないケース
R =(土地 1 ㎡から 1 年間に得られる)地代(不動産所得)
P =(土地 1 ㎡の)地価(固定資産価格)
i =(定期預金の)利子率(年利)
R =土地を所有し続けた場合に得られる年間の地代
iP =土地の売却代金 P を定期預金で運用した場合に得られる年間の利子所得
R > iP ⇒誰もが土地の購入を望む
R < iP ⇒誰もが土地の売却を望む
したがって、裁定により(その土地の需要と供給が一致するためには)、 R = iP と
いう関係が成立する。すなわち、地価 P は
P=
R
i
(19-16)
と求められる。
(問題 19-4) i =5%かつ R =300 万円のとき地価 P は幾らであろうか。
(2) 利子所得税が存在するケース
税率 t R の利子所得税が課されているとする。そして、利子所得税が存在するもとで、資産所
得税と固定資産税が同等性を持つことを説明する。
(2-1) 不動産所得税(と利子所得税)が存在するときの地代 R と地価 PR との関連性
t R =土地から得られる地代に対する不動産所得税率
=利子所得税率( 0  t R  1 )
そのとき、土地を所有し続けた場合は、
R =年間の税引き前不動産所得(地代)
t R R =不動産所得税額
(1  t R ) R =年間の税引き後不動産所得
それに対して、
t R =不動産所得税率
=利子所得税率
のもとでの地価を PR とすれば、
iPR =土地を売却して定期預金で運用した場合に得られる年間の税引き前利子所得
t R iPR =利子所得税額
(1  t R )iPR =年間の税引き後利子所得
したがって、裁定により (1  t R ) R = (1  t R )iPR が成立するので、地価 PR は資産関連
の課税が存在しない場合と一致することになる(
(19-16)参照)
。すなわち、
PR =
R
i
(19-17)
である。
P=
R
i
(19-16)
(2-2) 固定資産税(と利子所得税)が存在するときの地代 R と地価 PP との関連性
固定資産税率 t P と利子所得税率 t R のもとでの資産価格を PP とする。
t P PP =そのときの固定資産税額
R - t P PP =土地を所有し続けたときの年間の税引き後不動産所得
それに対して、土地を売却して売却代金 PP を定期預金で運用した場合は、
iPP =年間の利子所得
t R iPP =利子所得税額
(1  t R )iPP =年間の税引き後利子所得
したがって、裁定により R - t P PP = (1  t R )iPP が成立するので、地価 PP は
PP =
となる。
R
(1  t R )i  t P
R  (1  tR )i  tP PP
(19-18)
(2-3) 不動産所得税と固定資産税の同等性
PP =
R
(1  t R )i  t P
(19-18)
利子所得税に加えて、税率 t R の不動産所得税が存在するもとでの税額 t R R が、税率 t P
の固定資産税が存在するもとでの税額 t P PP と一致するようにするためには、固定資
産税率 t P をどのように設定すればよいかを検討しよう。
両者の税制度のもとでの税額が一致するとき、 t R R = t P PP が成立しなければならな
いので、(19-18)より
(19-19)
tP  i tR
と固定資産税率 t P を設定すればよい。換言すれば、税率 t R の不動産所得税を固定資
産税で代替するためには、固定資産税の税率 t P を(19-19)を満たすように設定すれば
よいことになる。
(問題 19-5)i =5%のとき、t R =20%の利子所得税が存在しているときに、t R =20%
の不動産所得税を固定資産税で代替するためには、固定資産税の税率 t P を
どのような水準に定めればよいだろうか。
(19-19)の関係が成立しているとき、(19-18)で決まる固定資産税のもとでの地価 PP
を求めよう。 (19-18)と(19-19)より、
PP 
R
R
=
i
(1  t R )i  i t R
[= PR  P ]
(19-20)
である((19-16)と(19-19)を参照)
。
PP 
R
(19  18)
(1  t R )i  t P
t P  i t R (19  19)
すなわち、利子所得税が存在するときに、その利子所得税と同じ税率の不動産所得
税のもとでの税額と固定資産税のもとでの税額が一致するように税率を設定すれば、
両税制のもとで成立する地価は一致する。
つまり、不動産所得税(資産所得課税)と固定資産税(資産課税)に「同等性」が
成立していることになる。
19.3 補論*:ファンダメンタル価格と合理的バブル
<ファンダメンタル価格>
土地の合理的なバブルが発生する可能性について検討しよう。
R =(1期間土地を貸すことで期末に得られる)地代
Pt =(t期の期首の)地価(土地の価格)
i =安全資産の収益率(=利子率)
f
とする。そして、土地のファンダメンタルズ価格 P を
Pf =
R
R
R



1  i (1  i) 2 (1  i) 3
(19-21)
と定義する。そのとき、
Pf 
R
i
(19-22)
が成立する。
(問題 19-6) (19-22)が成立することを説明しなさい。
ファンダメンタル価格は土地の転売が禁止されている場合に成立する価格として理解する
こともできる。
<確率的な合理的バブル>
土地を転売することが可能である場合に、土地の価格がどのように決定されることになる
かを以下で検討してみよう。なお、確率的に地価が形成される場合に着目するが、その分
析をなるべく簡単にするために次のように想定する。
地価 P はファンダメンタル価格 P 以上の価格であるとする( P  P f )
。そして、
f
P  Ps  Ps 1    Ps t  Ps t 1  
(19-23)
となるときの Ps t を Pt s と表すことにする。すなわち、地価 Pt s は地価が t 期間にわたり上昇
し続けている場合の地価を表している。
このとき、簡単化のため、s+t 期(の期首)の地価 Pt s のときは、s+t+1 期(の期首)の地価は確
率  で地価 P になるとともに、確率 1   で上昇して Pt s1 になると想定する( 0    1 )
。
s+t+1 期(の期首)の地価の期待値は P  (1   ) Pt s1 であるから、s+t期の土地のキャピタ
ル・ゲインは P  (1   ) Pt s1  Pt s である。
したがって、s+t期の1期間にわたって資産運用をするとき、土地で運用するときの期待
収益率と安全資産で運用するときの収益率 i が一致するためには、 Pt s と Pt s1 は、
R  P  (1   ) Pt s1  Pt s
i
s
Pt
(19-24)
の関係(裁定条件)を満たす必要がある( t  0,1,  )。
なお、このような期待収益率の大きさのみに注目して資産運用をする投資家は「危険中立
的」であると呼ばれる。また、地価が裁定条件を満たされているとき、地価は「合理的」
に決定されていると呼ぶことにする。
ここで、 qts  Pt s  P かつ   iP  R  0 とおいて、(19-24)を変形すれば
(1   )qts1  (1  i)qts  
(19-25)
が成立する。
(問題 19-7) (19-25)が成立することを説明しなさい。
(19-25)より、   0 のときは、 k  (1  i ) /(1   )  1 とおけば、
qts 

1
(k t 1  k t 2    k  1)
(19-26)
が成立するので、 qts  Pt s  P を用いれば、(19-26)より
Pt s 

1
(k t 1  k t 2    k  1)  P
(19-27)
である。すなわち、地価が上昇し続ける場合は、その上昇スピードが次第に上昇していく
ことになる。
(問題 19-8) (19-26)と(19-27)が成立することを説明しなさい。
(問題 19-9)地価 Pt s は 100%の確率で、 Pt s  (1  i ) t ( P  P f )  P f となることを示しなさ
い。
  0 のときは、s 期(の期首)の地価 Ps が P であれば( P  Ps )、s+t 期の地価は確率 (1   ) t
で Pt s となり、そのときのバブルの大きさは
Pt s  P f 

1
(k t 1  k t 2    k  1)  ( P  P f )
と求められることになる。
(問題 19-10) バブルが発生することのマイナス面について検討しなさい。
(19-28)
19 同等性な課税
19.1 消費税と労働所得税の同等性
19.2 資産所得課税と資産課税の同等性
19.3 補論*:ファンダメンタル価格と合理的バブル