C.T.ホーングレンほか、渡邊俊輔監訳 『マネジメント・アカウンティング』 ~ Introduction to Management Accounting 明治大学経営学部 鈴木研一ゼミナール 担当 斉藤 毅 岩田 幸久 第15章 間接費の配賦;直接原価計算 と全部原価計算 はじめに 会計担当者は利益を測定するときに多くの判断を行うが、その中で最 も重要なのが製品原価計算方法を選ぶこと 何が製品コストに影響するかが分かれば、マネジャーが、自分の 意思決定がどのように利益に影響するか、どうすれば自分の評価 を高められるかを予測できる 固定製造間接費の会計の課題 製造原価計算と利益計算のためには、固定製造間接費をどう処 理すべきだろうか マネジャーの業績評価では、このコストを考慮すべきなのか 本章では直接原価計算と全部原価計算の2つの製品原価計算を 取り上げる 3 直接原価計算と全部原価計算の相違点 直接原価計算(貢献利益アプローチ) 固定間製造接費を棚卸資産原価に含めない 固定製造間接費(固定工場間接費)を期間原価として扱い、直 ちに売上高に負担させる 全部原価計算(職能別アプローチ、全部原価計算アプローチ、伝統的 アプローチ) 固定製造間接費を棚卸資産原価に含める 固定製造間接費を棚卸資産に計上し、販売時に売上原価とし て売上高に負担させる つまり両者の違いは1点。固定製造間接費について、直接原価計算で は製品原価から除外するのに対して、全部原価計算では製品原価に 含めるという点 4 図表15-1 コストフローの比較 直接原価計算 会計コスト 直接材料費 直接労働費 変動間接費 固定間接費 貸借対照表上の 棚卸資産高 最初は 製品原価として 棚卸資産に計上 損益計算書上の 費用 販売時に 商 品 販 売 時 売上高に負担 直ちに 売上高に負担 5 図表15-1(続き) 全部原価計算 会計コスト 直接材料費 直接労働費 変動間接費 貸借対照表上の 棚卸資産高 損益計算書上 の費用 最初は 製品原価として 棚卸資産に計上 販売時に 商 品 販 売 時 売上高に負担 固定間接費 6 外部報告目的のための全部原価計算 全部原価計算は直接原価計算よりも広く利用されている 公認会計士もIRSも、外部報告目的や租税目的のために直接原 価計算を認めていないからである 従って全ての、全てのアメリカ企業は株主と税務当局への報 告には全部原価計算を利用している しかし、業績測定とコスト分析では貢献利益アプローチが有用である ため、内部目的には直接原価計算を利用することが多い 7 会計システムの発達 10~20年前 内部報告で直接原価計算を利用するには高いコストがかかった 外部報告用と内部報告用に2つの方法で情報を処理する必要 があるため コンピューターの利用が進み、コストも安くなったために直接原価計算 システムにかかるコストは少なくなった マネジャーにとって、もはや、別個の直接原価計算システムに投 資するかは問題でなく、単に報告の様式として直接原価計算か全 部原価計算かを選択すればよいだけになった 8 Greenberg Companyの例 Greenberg Companyの例 大型プラスチック射出成形機の交換部品を製造 機会1台につき年間4つの新しいリングが必要になる 固定製造間接費の予算額は年間$150,000で、差異はなく実 際固定製造原価も$150,000であった 年間の予定(予算)生産量は150,000個、販売価格は$5 単純化のために、リング1個あたり$0.20という単一の変動間 接費コストドライバーによってリングを製造すると仮定する 販売費一般管理費の予算額と実際額は、年間$65,000の固 定費と売上高の5%の販売手数料と仮定する 標準変動製造原価との差異はなし 9 標準コストデータと実際生産量 リング製造に要する標準製造コストは次の通りである 標準コストによる基礎的製造データ 直接材料費 $1.30 直接労務費 $1.50 変動製造間接費 $0.20 リング1個あたり標準コスト $3.00 実際生産量は次の通りである リング個数 期首在庫 生産量 販売量 期末在庫 19X8 19X9 170,000 140,000 30,000 30,000 140,000 160,000 10,000 10 損益計算書の作成と利益調整 この情報に基づいて以下のことをすることができる 直接原価計算による19X8年と19X9年の損益計算書を作成する 全部原価計算による19X8年と19X9年の損益計算書を作成する 19X8年、19X9年、二年間合計について、営業利益の差を調整す る 11 図表15-2 比較損益計算書(直接原価計算) 19X8 ① $700 140000個と160,000個の売上高 変動費 変動売上原価 期首棚卸高($3標準コストで評価) $- 加算:170,000個と140,000個の 標準変動製造原価 $510 販売可能リング170,000個 減算:期末棚卸高 ($3標準コストで評価) 変動売上原価 変動販売費(売上高の5%) 総変動費 ② 貢献利益 ③=①-② 固定費 固定製造間接費 固定販売費 総固定費 ④ 直接原価計算による営業利益 ③-④ 19X9 $800 $90 $420 $510 $510 $90 $420 $35 $30 $480 $40 $455 $245 $150 $65 $520 $280 $150 $65 $215 $30 $215 $65 12 注意点 直接原価計算の損益計算書は、第4章で学んだ貢献利益アプローチ の様式になっている 製品原価は、全ての変動製造原価をリング1個あたり$3で製品に 割り当てることによって計算する 在庫は標準変動費で評価 固定間接費はどの製品にも割り当てられず、発生した期間の費用 とする 貢献利益の計算において、売上原価の変動費と販売費・一般管 理費の変動費の両方が差し引かれている 販売費・一般管理費の変動費は在庫には計上しない 13 図表15-3 比較損益計算書(全部原価計算) 単位:$1,000 売上高 売上原価 期首棚卸高($4で評価) 製造原価($4で評価) 販売可能数 減算:期末棚卸高($4で評価) 標準売上原価 売上総利益(標準) 生産量差異 売上総利益(実際) 販売費・一般管理費 営業利益 19X8 $700 $- $680 $680 $120 19X9 $800 $120 $560 $680 $40 $560 $140 ($20) $160 $100 $60 $640 $160 $10 $150 $105 $45 14 全部原価計算の方法(1) 直接原価計算の様式とは3つの点で異なっている 第1に、売上原価の計算に用いる単位計算コストは、$3ではなく$4 である $3の変動費に$1の固定費が加わるから 製品に配賦される固定製造間接費$1は、固定製造間接 費配賦率である この値は固定間接費予算額を予定期間のコストドライ バー量(ここでは生産量)で割って算定する $150,000 固定製造間接費予算額 固定製造間接費配賦率= = 予定生産量 150,000個 =$1 15 全部原価計算の方法(2) 第2に、全部原価計算の損益計算書では、固定間接費は独立項目と しては表示しない 代わりに、売上原価の一部と生産量差異に含まれる 生産量差異は固定間接費配賦率を計算する徳に用いる予定 生産量と実際生産量とが乖離するときに生ずる 生産量差異=(実際生産量-予定生産量)×固定製造間接費配賦率 16 全部原価計算の方法(3) 第3に全部原価計算の損益計算書では、コストを製造と非製造に大別 する(直接原価計算の損益計算書では、コストを固定費と変動費とに 大別する) 全部原価計算の損益計算書では、収益から製造原価を差し引い てものが売上総利益になる(直接原価計算の損益計算書では、収 益から全ての変動費を差し引いたものが貢献利益になる) 19X9年の損益計算書(単位:$1,000)を要約、比較 直接原価計算 全部原価計算 収益 $800 収益 $800 変動費計 $520 製造原価計* $650 貢献利益 $280 売上総利益 $150 固定費計 $215 非製造原価計 $105 営業利益 $65 営業利益 $45 17 JIT生産方式による効果 これらの違いは大部分の産業にとって重要であるが、多くの企業は直 接原価計算と全部原価計算の選択に関心を持っていない。 それらの企業はJIT生産方式を導入し在庫を厳しく削減してきたた め 在庫水準が変わらなければ直接原価計算と全部原価計算の 利益に違いはなく、ほとんど在庫を持たない企業では在庫の 変化も小さいのである 18 単位あたり変動費と単位あたり固定費 前述したように、直接原価計算と全部原価計算の相違点は固定製造 間接費の処理である ここからは、全部原価計算システムにおける固定間接費の処理方法 に着目する (1)と(2)を比較する (1)部門の予算編成とコントロールに用いる変動予算における 製造間接費 (2)全部原価計算システムで製品に配賦する製造間接費 全部原価計算の背後にある基本的な前提を強調するために、ここ でも製造間接費を変動要素と固定要素に分ける(実際の全部原 価計算システムでは両者を分けないことが多い) 19 変動製造間接費の比較 変動製造間接費 変動予算 全部原価計算システム $0.20の 単位ごとに$0.20の 総 変 動 製 造 間 接 費 変動間接費 総 変 動 製 造 間 接 費 $30,000 $20,000 100,000個 150,000個 単位(リン グ) 製品単位コスト $30,000 $20,000 100,000個 150,000個 単位(リング) 20 固定製造間接費の比較 固定製造間接費 変動予算 全部原価計算システム $1の 総 固 定 製 造 間 接 費 総 固 定 製 造 間 接 費 $150,000 100,000個 150,000個 単位(リン グ) 製品単位コスト $150,000 100,000個 150,000個 単位(リング) 21 解説(1) 固定間接費の変動予算は、総額で$150,000 他方、固定製造間接費配賦額は実際生産量によって変化する 固定製造間接費配賦額=実際生産量×固定製造間接費配賦率 =実際生産量×$1 実際生産量は予定生産量と同じく150,000個だとする 固定間接費配賦額は150,000個×$1/個=$150,000となり 変動予算の金額と等しくなる 22 解説(2) しかし実際生産量と予定生産量が異なる場合には、予算編成とコント ロールに用いるコストと製品原価計算に用いるコストとは一致しない マネジャーは、予算編成とコントロールのためには、固定費の実 際残すとビヘイビアパターンを用いる 他方、全部原価アプローチではあたかも変動費のコストビヘイビア パターンをしているかのように固定費を処理する 23
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