デジタル情報学概論 2009年11月26日 第9回資料 担当 重定 如彦 交通情報システム その1 自動車の利点と欠点 交通といっても、自動車、電車、航空機など様々なものが存在 するが、その中でも誰でも、いつでも、自由な経路を使って移動 が可能な自動車は非常に自由の高い魅力的な移動手段である 一方、自動車には以下のような欠点も存在する 自動車事故の発生 渋滞の発生 環境破壊の問題 排ガスの問題、化石燃料の消費の問題 これらの問題を解決し、よりよい交通社会を築くために、 様々な交通情報システムが考えられている 交通情報システム その2 ITS(高度道路交通システム) その1 Intelligent Transport Systemsの略。情報技術を用いて人と車両と道路を 結び、交通事故や渋滞など様々な道路交通問題の解決を図るシステム 日本では1995年から政府を中心に様々なシステムが推進されている VICS (ヴィックス) (道路交通情報通信システム) Vehicle Information and Communication Systemの略 最新の道路交通情報をVICSセンターで収集し、発信するサービス 情報の発信は道路上に設置した電波や光ビーコン(情報通信システム)や、 FM多重放送(FM電波に音声だけでなく、文字などの情報を重畳する放送のこと) などを使って行い、それらの車内のカーナビゲーションシステム上の地図などに リアルタイムで表示する。大半の高速道路、都市圏の一般道路を対象に、渋滞、 工事、駐車場の混雑状況などの情報を提供する ITSの一環として、警察庁、総務省、国土交通省などが共同で推進しており、財団 法人道路交通情報通信システムセンターがシステムの開発・運用にあたっている 交通情報システム その3 ITS(高度道路交通システム) その2 ETC(自動料金収受システム) Electronic Toll Collection Systemの略 車載端末機と料金所ゲートに設置したアンテナとの間で瞬時に無線通信を行い、 自動的に料金を徴収するシステム(Suicaの自動車版とも言える) 渋滞の緩和、排ガスの低減、キャッシュレス決済による利便性の向上に役立つ AVM(車両位置等自動表示システム) Automatic Vehicle Monitoring Systemの略 GPSを利用して車両の位置を管理するシステム 運送会社、タクシー会社などで、移動状況管理、配車支援、ルート作成支援など、 運送・配送の効率化の支援といった目的に使われる 交通情報システム その4 ITS(高度道路交通システム) その3 AHS(自動運転道路システム) Automated Highway Systemの略 運転を支援する為のシステム 車間距離自動維持システム 先行車との車間距離を電波により測定し、一定距離を保つようにする 居眠り運転警報システム 一定時間ハンドル操作が行われなかった場合、居眠り運転とみなして警報を鳴らす タイヤ空気圧警報システム タイヤの空気圧をモニターし、一定以下になった場合に警報を鳴らす 自動走行レーン認識システム 車線をCCDカメラで画像認識し、レーンからの逸脱を防ぐシステム 交通情報システム その5 ITS(高度道路交通システム) その4 カーナビゲーションシステム 車内に搭載した機械に地図を表示し、目的地へのルート情報など、様々な運転 のナビゲーションを行うシステム。VICSなど、他のITSと連携を行うことで高度な サービスを提供することが可能。現在ではかなりの車に普及している カーナビの詳細については次に詳しく解説する その他のITS 1999年の道路交通法改正で、事故防止のため運転中に手を使った携帯電話の 使用が禁止され、近年罰金刑も課されるようになったが、それに対しハンズフ リーのシステムが作成されている。また、車の運転者に対してだけではなく歩行 者や自転車利用者などの交通弱者の安全確保システムも研究されている 道路の構造上で歩行者や自転車利用者を確認することが困難な場所では、 センサーや画像モニターを設置して安全を確保するシステムなどが考えられる 交通情報システム その6 カーナビゲーションシステム その1 カーナビの基本機能は自車の位置の検出と、電子地図の表示である 正確な位置検出 位置の検出の基本は人工衛星を用いたGPSを使って行うが、常に人工衛星と 通信を行ってしまうと人工衛星の能力を超えてしまうので、実際にはGPSは定 期的に使用する。また、トンネルの中などGPSが使えない場所が存在するため、 自律航法や、マップマッチングなど技術を併用して精度を高めている 自律航法 タイヤの回転角やジャイロ、地磁気センサーなど使って車両の移動方向を計算し、 それにタイヤの回転量から求められる移動距離を使って自車の位置を計算する方法 時間と共に誤差が発生するので定期的にGPSや位置補正用ビーコン、誘導用ライン マーカーを使って定期的に位置を補正する必要がある マップマッチング 地図の道路情報を元に、自車の位置を補正する 交通情報システム その7 カーナビゲーションシステム その2 最新の地図データ 道路地図の情報は道路工事や、ガソリンスタンドの施設の建設などによって日々変化して いるため、道路地図もそれに応じて最新のものを利用することができなければならない 従来は地図データはCDやDVDなどで配布されていたが、データを配布した時点で古い データになってしまうため、以下のような地図データの配信方法が考案されている 地図データ転送型 最新の地図データを配送局からすべて転送する。転送データが大きくなってしまうという欠点がある 経路データ転送型 全国の地図データを全て転送するのではなく、移動に必要な経路上の地図のみを転送する 転送に必要なデータ量が少量で済むという利点がある 画面データ転送型 カーナビに表示する地図データをすべて配送局で作成し、その画面データを転送し表示する リアルタイムの転送と、高い伝送品質が要求されるが、車両側ではTV受信機並の簡単な構成ですむ 交通情報システム その8 カーナビゲーションシステム その3 様々なヒューマンマシンインタフェース(HMI) Human Machine Interfaceの略。機器の操作環境のこと 音声によるナビゲーション 交差点などで音声によってナビゲーションを行う バードビュー(bird view) 地図を真上ではなく、斜め上から見たように表示することにより、直感的な地図を提供 複数の情報の提供 経路情報だけでなく、旅行計画に必要な遠方の情報を同時に表示 DRGS(Dynamic Route Guidance System) VICSと連携し、最新の渋滞情報などにあわせてリアルタイムに最適な経路を表示 電話番号による目的地設定 目的施設の電話番号を入力することで目的地を設定する。会話による設定などもある 交通情報システム その9 その他の交通情報システム 車以外の交通機関にも様々な情報交通システムが考案されている 新バス交通システム バス停留所にバスの接近を無線で知らせ、バスの位置を表示することで客の イライラを解消する。京都市バスのポケロケ(携帯に位置を表示するサービス) 運輸多目的衛星(MTSAT)を用いた航空衛星システム 人工衛星を使って、航空航法システム(GNSS)の信頼性を向上させる 自動従属監視システム(ADS) 航空機の位置情報を正確にとらえることで、管制間隔を短縮する 管制データリンクシステム 航空機と地上の管制機関との双方向のデータ通信を実現するシステム 気象・環境情報システム その1 気象衛星による観測システム 人工衛星から可視光線と赤外線センサーを用いて観測を行う 雲の移動情報からその高度における風を推定 台風の場合は、雲のパターンから中心付近の最大風速や気圧を推定 気象現象に付随した雲のパターンを識別する COSMETS(気象資料総合処理システム) Computer System for Meteorological Servicesの略 気象資料伝送網などを通じて国内外から収集した気象の観測データの 編集・解析・予測を行い、再び各種通信回線を使って国内外に伝送する 全国中枢自動資料編集中継装置(C-ADESS)と数値解析予想システム (NAPS)から構成される 気象・環境情報システム その2 数値予報 収集された様々な気象データと、前回の予測結果を利用して、気圧、気温、 風向き、風速、湿度などを可能な限り精度よく推定することで気象予報を行う 気象予報図や台風の進路予報など未来の予報は数値予報によるものである 具体的には、大気を緯度、軽度、高さによって細かな格子で区切り、格子点ご との様々なデータを集め、数分おきに計算を繰り返すことで未来のその場所 の気象データを推定する 精度を高めるためには格子点の間隔を狭めればよいが、間隔を半分に狭め ると計算量が十数倍に増えてしまうため、高い精度を得るためには、非常に 高性能なコンピュータが必要である。実際の計算には1秒間に1兆回弱の 計算を行うことが可能なスーパーコンピュータが使用されている 気象・環境情報システム その3 センサーによる海洋観測技術 地表の2/3を覆う海の中は地球の気象・環境に大きな影響を与えている しかし、水は電波を通さないため、海中の様子は人工衛星からでは観測不能 そこで、世界中の海に円筒形のセンサーを浮き沈みさせることで、海洋の様子 を観測するという試みが行われている 米国海洋大気局(NOAA)が提唱。日本では科学技術庁と運輸省が中心 世界中の海洋に3000個のセンサーを配置 船や航空機から海洋に投入し、自動的に浮き沈みを繰り返す 海の表層から水深2000mまでを往復する 水温、塩分、海流などを観測し、2週間に1度集めたデータを衛星に送信する 気象・環境情報システム その4 アメダス気象情報システム AMeDAS(Automated Meteorological Data Acquisition System) TVなどの天気予報でおなじみの全国の雨量や風速などを観測するシステム 日本全国の約800~1300箇所(約20km四方に1箇所の割合で観測所が存在)で 様々な気象データを観測する 観測の対象は、降水量、積雪量、日照時間、風向き、風速、気温など 観測は1時間おきに行われる 観測されたデータは気象庁に転送され、合成して分布図(画像)を作成する 合成された分布図は全国の約60箇所の気象台、測定所に自動的に配信される 気象・環境情報システム その5 ウィンドプロファイラシステム(Wind Profiler) 空のアメダスとも言えるシステムで、上空の十数kmまでの風向き・風速を観測し、 局地的豪雨などの予測に役立てる気象庁の新しいシステム(2001年から稼動開始) レーダーの一種で、格子状に組んだアンテナから電波を上空に発信し、大気に反射して戻ってくる 電波を観測することで、風向き、風速を観測する。全国の25箇所に設置されている 観測されたデータは1時間おきに気象庁のスーパーコンピュータに転送される データを解析することにより、高度200mごとの精密な測定が可能 豪雨・豪雪などの局地的な気象災害の要因である「湿った空気」の流れを詳細に把握することが可能 下の写真は http://www.mri-jma.go.jp/Facility/windprofiler-sjis.html より引用(現在はリン ク切れになっている模様) 防災情報システム その1 インターネットによる情報交換 インターネットそのものが災害時の情報交換の場として有効である 実際に、1995年の阪神・淡路大震災や、1999年秋の台湾中部大地震などの際に、 インターネットが大災害時の通信手段として非常に役立つことが証明されている インターネットは災害に強い 大災害時などで電話がつながらない場合でも、例えば衛星通信などを使って災害地の 外にあるインターネットの中継地点に接続すれば、インターネットを利用することが可能 リアルタイムで被災者自身が多くの情報を発信することが可能 地域情報の提供や、知人や友人の安否の情報収集手段として有効 被災した市民自らが、自分の置かれている状況を発信することが可能 「我々は今、こういう状態にあり、こういうものを必要としている」というメッセージを積極的に 発信することにより、的確な救助活動を行うことが可能になる 防災情報システム その2 国と自治体の防災システム 阪神・淡路大震災の時の教訓をもとに行政の面で様々な防災システムが作られている 各機関が即時情報を収集するシステムを整備し、被害規模を早期に把握、統合すること により各種の応急対策をスムーズに行うことができるようになりつつある 気象庁の地震活動などの総合監視システム 消防庁の消防防災通信ネットワーク 自治体レベルでの、防災計画の見直しや、防災情報システムの整備 例:兵庫県の災害対応総合情報ネットワーク(フェニックス防災システム) 即時の被害予測、ヘリコプターTV画像システム、電気ガスなどのライフライン各社との 災害情報交換システムを実現 防災情報システム その3 国際的な防災システム 国際連合やアジア防災政策会議など、様々な国際的な組織が国際協調行動を 通じた全世界の自然災害の被害軽減への取り組みを行っている 情報システムを使った、防災情報の収集・提供や、各国・関係機関の防災専門家 の交流、多国間防災協力に関する調査研究などの活動が活発に行われている ロボットを使った災害救助(RoboCup-Rescueプロジェクト) 人間と様々な情報システムを組み合わせた統合的な災害救助システムの実現 災害現場において、デジタル機器で武装化した人間の救助隊と、自律型知能ロボットや 半自律型ロボットなどが協力して作業を行う 刻一刻変化する状況を現場の人間だけでなく、様々なセンサーやロボットが情報発信し、 航空機や衛星からの情報と組み合わせることで、的確な指示を現場に提供する 防災情報システム その4 GPSによる地震・噴火予知 陸上地殻変動観測による地震・火山噴火予知 GPSにおいて、相対測位法という測位法を使うことにより、ほんの数mmの地殻変動も 観測することが可能。北海道の有珠(うす)山の噴火予想に大いに活躍した 海底地殻変動観測による地震・火山噴火予知 日本の地震の多くは海底の地殻変動がきっかけとなっているが、測定が困難であった また、水は電波を通さないので、海底の地殻変動をGPSだけで調べることは不可能 そこで、GPS、観測船、海底基準局という3つの装置で海底を観測するシステムを開発 海底基準局という音響機器や電池がはいった装置を海底に埋める 海上の観測船から海底基準局に音波を発し、返信時間などから距離を測定 GPSを使って観測船の位置を計算し、それをもとに海底基準局の地殻の変動を計測 数cmの精度で地殻の変動を観測することが可能 防災情報システム その5 新幹線地震動早期検知警報システム(ユレダス) 地震の初期微動(P波)を検知して、主要動(S波)の大きさを予測することで、 大きな揺れ(S波)が来る前にいちはやく新幹線を止めるシステム 東海道・山陽新幹線で計19箇所設置されており、P波の解析に3秒、実際に システムが発動してから新幹線が停車するのに約1分半程度の時間がかかるという また、東海道新幹線ではユレダス以外にも、沿線25箇所の変電所内に感震機を設置し、 S並の大きさが一定以上になると送電を止めるというシステムを併用している なお、ユレダスは、震源の深さが深かった場合、震源までの距離を実際よりも近く測定してしまう ため、過大な揺れを予測してしまうのではないかという問題点も指摘されている。システムの改良 や他のシステムとの併用により、より精度の高いシステムを作り上げることが重要である
© Copyright 2024 ExpyDoc