言語生活の生涯変化は多変量解析で予測可能か アクセントや敬語意識を例に 【言語変化を追跡・予測する-言語の定点経年調査から】 横山詔一*,井上文子**,阿部貴人*** 国立国語研究所 理論・構造研究系* 時空間変異研究系** 研究情報資料センター*** 2010年9月23日 日本行動計量学会第38回大会 (埼玉大学) 1 2 コーホート系列法:鶴岡共通語化調査の設計 1950 1971 1991 Random Sample 496(577) Random Sample 401(457) Random Sample 405 Panel Sample 107 Panel Sample 261 Panel Sample 53 3 横断調査:見かけ上の時間変化 縦軸はsnuck使用率, 横軸は世代(年齢)。 「臨界期に獲得した言 語運用能力は生涯変 化しない」と仮定する。 snuck使用率が sneakedを約50年前 に逆転したと推定可。 上記の仮定は妥当? 鶴岡データで検証。 図1 カナダ英語における語形交替の例 「sneaked → snuck」 【Chambers(2006)より】 4 第1回 100 90 80 共 通 語 化 率 70 60 50 □ 第3回 1991 40 △ 第2回 1971 30 ○ 第1回 1950 20 10 0 1860 1880 1900 1920 1940 1960 1980 生 年 音韻項目207「ネコ:非語頭におけるカ行有声化の有無」 5 第1回+第2回 100 90 80 共 通 語 化 率 70 60 50 □ 第3回 1991 40 △ 第2回 1971 30 ○ 第1回 1950 20 10 0 1860 1880 1900 1920 1940 1960 1980 生 年 音韻項目207「ネコ:非語頭におけるカ行有声化の有無」 6 第1回+第2回+第3回 100 90 80 共 通 語 化 率 70 60 50 □ 第3回 1991 40 △ 第2回 1971 30 ○ 第1回 1950 20 10 0 1860 1880 1900 1920 1940 1960 1980 生 年 音韻項目207「ネコ:非語頭におけるカ行有声化の有無」 7 グラフは1本につながる。 ロジスティック回帰分析で 臨界期記憶(生年)だけが有意。 100 90 80 共 通 語 化 率 70 60 50 ● 予測値111 40 □ 第3回 1991 30 △ 第2回 1971 20 ○ 第1回 1950 10 0 1860 1880 1900 1920 1940 1960 1980 生 年 音韻項目207「ネコ:非語頭におけるカ行有声化の有無」 8 第1回 100 90 80 共 通 語 化 率 70 60 50 40 30 20 □ 第3回 1991 △ 第2回 1971 ○ 第1回 1950 10 0 1870 1895 1920 1945 1970 1995 2020 2045 生 年 アクセント5項目「セナカ,ネコ,ハタ,カラス,ウチワ」 9 第1回+第2回 100 90 80 共 通 語 化 率 70 60 50 40 30 20 □ 第3回 1991 △ 第2回 1971 ○ 第1回 1950 10 0 1870 1895 1920 1945 1970 1995 2020 2045 生 年 アクセント5項目「セナカ,ネコ,ハタ,カラス,ウチワ」 10 第1回+第2回+第3回 100 90 80 共 通 語 化 率 70 60 50 40 30 20 □ 第3回 1991 △ 第2回 1971 ○ 第1回 1950 10 0 1870 1895 1920 1945 1970 1995 2020 2045 生 年 アクセント5項目「セナカ,ネコ,ハタ,カラス,ウチワ」 11 グラフは1本につながらない。 ロジスティック回帰分析で 臨界期記憶(生年)にくわえて 「加齢効果+時代効果」(調査年)も有意。 100 90 80 共 通 語 化 率 70 60 50 40 30 20 □ 第3回 1991 △ 第2回 1971 ○ 第1回 1950 10 0 1870 1895 1920 1945 1970 1995 2020 2045 生 年 アクセント5項目「セナカ,ネコ,ハタ,カラス,ウチワ」 12 アクセント共通語化の将来予測: 生年と調査年の2変量による ロジスティック回帰分析 100 90 80 共 通 語 化 率 70 60 50 40 30 20 10 第6回 2051年 第5回 2031年 第4回 2011年 ● 予測値111 □ 第3回 1991 △ 第2回 1971 ○ 第1回 1950 0 1870 1895 1920 1945 1970 1995 2020 2045 生 年 アクセント5項目「セナカ,ネコ,ハタ,カラス,ウチワ」 13 現実社会 心内辞書 接触して聞く頻度 社会的使用頻度 記憶痕跡 臨界期記憶 場面に応じた 音声表現の選択 好み(選好) 加齢効果 + 時代効果 単純接触効果 なじみ(親近度) 14 現実社会 共通語化率はロジスティック回帰モデルで予測。 log [p/ (1ーp) ]=a1×生年+a2×調査年+b 心内辞書 接触して聞く頻度 社会的使用頻度 記憶痕跡 臨界期記憶 場面に応じた 音声表現の選択 好み(選好) 加齢効果 + 時代効果 単純接触効果 なじみ(親近度) 15 ロジスティック回帰分析の模式図(横山・真田,2008) ヨコ軸は共通語化を促進する要因(生年など)の強さ タテ軸は共通語で回答するポテンシャル →影のついた面積が実際に共通語で回答する確率 16 跳ね上がり現象は首都圏出身者がたくさん流入した場合でも生じる。 パネルデータで同一人物を追跡したらどうなるか? 100 90 80 共 通 語 化 率 70 60 50 40 30 20 10 第6回 2051年 第5回 2031年 第4回 2011年 ● 予測値111 □ 第3回 1991 △ 第2回 1971 ○ 第1回 1950 0 1870 1895 1920 1945 1970 1995 2020 2045 生 年 アクセント5項目「セナカ,ネコ,ハタ,カラス,ウチワ」 17 1950 1971 1991 Random Sample 496(577) Random Sample 401(457) Random Sample 405 Panel Sample 107 Panel Sample 261 Panel Sample 53 18 1950 1971 1991 Random Sample 496(577) Random Sample 401(457) Random Sample 405 Panel Sample 107 Panel Sample 261 Panel Sample 53 19 アクセントは加齢とともに 確実に共通語化している 1.4 1.2 共 通 語 化 得 点 1 0.8 0.6 ●男性 □女性 0.4 0.2 0 1950 1971 1991 調査年 アクセント5項目「セナカ,ネコ,ハタ,カラス,ウチワ」 20 音韻は加齢とともに 方言化する傾向にある 4.5 4 共 通 語 化 得 点 3.5 3 2.5 2 1.5 ●男性 □女性 1 0.5 0 1950 1971 調査年 1991 音韻5項目「セナカ,ネコ,ハタ,カラス,ウチワ」(アクセント項目と同じ) 21 まとめ ■音韻について 1. 横断調査で共通語化の生年(世代)間格差を容易に観測できる。 2. → すでに第1回調査の時点でベースラインが高く,S字カーブの勾配が 急な部分にさしかかっていたためかもしれない。今後の検討が必要。 3. 縦断調査データにより,臨界期以後も生涯を通じて方言化する傾向に あることが判明。とりわけ男性において。 ■アクセントについて 1. 共通語化の生年(世代)間格差が小さく,ベースラインも低い。 2. → いまもなお,すべての世代で共通語化が音韻にくらべて進んでいな いため。ここから「言語変化の速度は,音韻>アクセント」説が生じた? 3. 縦断調査データにより,臨界期以後も生涯を通じて共通語化が着実に 進むことが示された。 アクセントの経年変化のように,縦断調査(実時間調査)においてのみ 観測可能な現象が存在する。 22 音韻とアクセント Voicing 100 90 Standard(%) 80 70 60 Accent 50 40 □ 3rd 1991 30 △ 2nd 1971 20 ○ 1st 1950 10 0 1870 1895 1920 1945 1970 Year of the birth 項目207「ネコ:カ行有声化の有無とアクセント」 23
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