平成25年8月11日 NPO介護予防研究会 第一回 講習 デイサービス

平成25年8月11日
NPO介護予防研究会 第一回 講習
デイサービス事業者のための
リスクマネジメント講座・ご家族対応
~契約前のリスク説明、契約時の
説明実施方法のポイント~
介護弁護士 外岡潤
presents
1
本講習のテーマ:
その1.介護現場での事故が原因
となるトラブルの予防の方法を
学ぶ。
その2.契約前のリスク説明、契約時
の説明実施方法のポイントを学ぶ。
2
「先手」の流れのイメージ
①
イ
ン
テ
ー
ク
ア
セ
ス
メ
ン
ト
②
利
用
契
約
③
日
常
特に最初(利用開始時)と
事故直後が肝心!
事
故
発
生 ④
事
故
直
後
⑤
事
故
後
し
ば
ら
く
保⑥
険症
査状
定固
終定
了・
3
全体のスケジュール
第1回 8月11日 1時30分~3時30分
契約書の説明の仕方を学ぶ
第2回 10月13日 時間 同上
日常業務におけるクレーム対応の技法
第3回 12月15日 時間 同上
事故時の初期対応から謝罪まで
4
自己紹介
弁護士
外岡 潤
(そとおかじゅん)
東京大学法学部 卒 東大奇術愛好会OB
2007年 弁護士登録
09年4月より巣鴨にて
「介護・福祉系法律事務所おかげさま」を設立。
ホームヘルパー2級・ガイドヘルパー資格を取得。
〒170-0002
豊島区巣鴨3-19-13 桜花苑ビル401号
℡ 03-5394-4258
Fax 03-5972-1993
E-mail: [email protected]
5
顧問弁護士としてできること
• 契約書(賃貸借、入居・ご利用契約等)の
作成・チェック
• 事故・トラブル発生時の随時対応
↑
通常1回当たり相談料が発生するところ、
何度でも無料!
トラブル回避・予防のために「紛争の芽」
の段階で摘み取ることが大切。
第一回のテーマ:
1.「介護トラブル」予防のポイントと
なる、契約書の説明の仕方を研
究する。
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事業形態ごとのトラブル類型
施設型
(特養、老
健、有料
ホーム、グ
ループホー
ム、デイ等)
在宅型
(訪問介
護・看護・リ
ハ入浴)
物理的事故多し(入所当初は生活環境が
激変するため利用者は対応が困難)。
閉鎖的になり、施設独自の論理がまかり
通る(「巨大な密室」)
外部から実態が見えづらい。虐待、集団感
染等の組織的問題が生じ得る。
利用者の生活の場に深く関わるため、プラ
イバシー侵害・個人情報漏えいの危険大。
金銭管理時や利用者の目を離れた隙の誘
惑大(モラルの維持が困難)
身体よりもモノ・財産関連のトラブル多し。
8
介護事故(過誤)の上位具体例
1.転倒事故(歩行中の転倒)
2.転落事故(ベッド、車いすから)
3.誤嚥・誤飲(飲食物、危険物)
4.介護ミス(おむつ交換時の骨折、圧迫によるあざ)
5.無断外出・徘徊
6.食中毒・感染症(インフルエンザ)
7.利用者同士のトラブル
8.火災・地震
9
現実に起きた裁判例から
青森地方裁判所弘前支部判決
(平成24年12月5日)
※ デイサービスの利用者が入浴時に
転倒・骨折した事案
10
原告(利用者)プロフィール:
89歳 要介護度3の女性(A)
平成20年1月ころ、右大腿骨転子部を骨折し
手術を受けて以降、日常生活における歩行が
困難となる。
平成21年になると下肢機能は相当程度回復
し、自立歩行は困難であるものの、立ち上がり
が上手くなったり、簡易トイレへの移動介助が
楽になるなどし、これを被告(社会福祉法人経
営の老人デイサービス)の担当者も認識してい
た。
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平成21年3月31日、Aは、他の利用者4名(い
ずれも自立歩行可能)とともに被告の入浴介護
サービスを利用した。その際の介護担当者は2
名であり、Aの担当者はBという。
Aは、脱衣後、パートナーと呼ばれる入浴補
助用簡易車椅子に移乗し、浴場に入場した。
BはAの洗身を介助し、Aも手の届くところは
自ら洗身した。BはAのほかに利用者1名を担
当しており、他方、もう1名の介護担当者は、残
り3名の利用者を浴槽に入らせて、湯温調整な
どを行っていた。
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そのころ、Bの担当するもう1名の利用者が、
背中の洗身介助を依頼したことから、Bは、Aに
対し、先に同利用者の洗身介助をするので待っ
ているようにAに告げた。
これに対しAが頷いたことから、Bはパートナ
ー椅子を同利用者のすぐ側に移動させ、Aの様
子をうかがいながら同利用者の洗身を介助して
いたが、やにわにAが前屈みになってパートナ
ー椅子ごと体勢を崩した。Bは気が付いて手を
伸ばしたが間に合わず、Aは右半身を下にして
床面に転倒した。
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事故後の経緯:
同日レントゲン撮影するも骨折を認めることは
できず、Aはいったん帰宅した。
しかし、翌4月1日になって痛みが増強したた
め、再度受診したところ、左大腿骨転子部に骨
折が判明した。Aの傷害は、平成21年8月4日
に症状固定した。
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利用者は、デイの経営法人に対し、14
78万7050円を請求。
これに対する裁判所の判決は?
①
②
➂
④
0円
122万2030円
832万4698円
1478万7050円
15
判決文:
(Aの)担当者としては、日常的な自立歩行は困
難であるものの、ある程度の挙動傾向のみられ
る対象者については、より転倒の危険が高いと
いえるのであるから、自立歩行可能な対象者に
比べて更に高度の注意を払う必要があり、具体
的には、対象者から目を離さないようにするとか
、一時的に目を離す場合には、代わりの者に見
守りを依頼したり、ひとまず対象者を転倒のおそ
れのない状態にすることを最優先とするなどの措
置を取る義務があったというべきである。
16
•
…しかしながら、Bは、Aを自らの側に移動させ
てその様子をうかがってはいたものの、Aを不
安定なパートナー椅子に座らせたままの状態で
、他の担当者に見守りを依頼することもせず(
人数的に困難であったと認められるが、そのこ
とをもって被告の注意義務が軽減されることに
はならない。)、一時的にAから目を離して別の
利用者の洗身を手伝っていたというのであるか
ら、結局、被告が上記義務に違反したことは明
らかというほかはない。
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勝訴と敗訴の分かれ目とは?
裁判官の頭の中
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裁判所が「損害賠償」を課す思考過程
① 事故が起きたこと
② その結果損害が発生したこと
③ 事故と損害の間に因果関係
(「こういう事故が起きれば、十中八九こういう結果
になるだろう、と言える関係」)があること
④ 事故を通常の方法で防ぐ手立てがあった
のに、それを怠った結果生じたこと(過失)
↑
の四要件(「要件事実」)に要素を分類し、ひとつひ
とつに多くの事実(証拠)をあてはめ、全部が立証
可能かどうかを検討する。
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裁判官は、この四要件(「要件事実」)に要素を
分類し、ひとつひとつに多くの事実(証拠)をあ
てはめ、全部が立証可能かどうかを機械的に
検討している。
20
最も重要な点は…
事業者側の「事後対応(謝罪の
有無など)」は、完全に捨象さ
れている!
21
しかし、現実には
事後対応の良し悪しで、訴訟に
持ち込まれるか否かが決まる。裁
判までする家族は、大抵金銭目的
ではなく事業所の対応に誠意がみ
られないという理由が多い。
22
また
先にみた通り、介護訴訟の類型は「転
倒骨折」が最も多いが、その過失の認
定基準は極めてあいまい!
↓ つまり
いざ提訴されれば結果はどちらにも転
び得るため、リスクが大。
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結論…
• 最低限の過失水準を見極めるのに多少
は役立つが、特に介護の世界において
裁判は不毛である!
いかに裁判を回避できるかが重要。
24
では、どうすればいいのか?
…
家族側
…
…
なほ最一
のし低言
にか限の
っの謝
た保罪
だ障と
けが、
の一つ誠
に生も意
懸りを
命だ示
対っ
し
たた
応の
しに
た
事業者側
25
これまで、「リスクマネジメント」
といえば…
どうすれば、現場の
事故を減らすことが
できるか?
26
現場の「ご利用者」にばかり目が
向き、その家族への対応が疎かに
…?
27
そこでご提案:
ご利用者ご家族への対応、
コミュニケーションの方法を
研究しよう!
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いかに初期段階で止められるか
が重要。
先手、先手で利用者家族の怒
りの芽を摘み取ること。
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事故・トラブル対応
3つのルール
1.
2.
3.
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1.「先手」の流れのイメージ
①
イ
ン
テ
ー
ク
ア
セ
ス
メ
ン
ト
②
入
所
契
約
③
日
常
特に最初(入所時)と
事故直後が肝心!
事
故
発
生 ④
事
故
直
後
⑤
事
故
後
し
ば
ら
く
保⑥
険症
査状
定固
終定
了・
31
それでは早速…
契約段階
32
そもそも
些細な事故やミスが発端でも、
なぜ「介護トラブル」はこじれる
のか?
33
最大の原因は
利用者・事業者間の
の相違
34
利用者側の
:
「・大事な親なので、自分の親だけは
大切に扱ってほしい。
(放置するのでなく、散歩や話し相手
になるなど活動させてほしい。)
・介護のプロなのだから、施設にいて
怪我をさせることなどあり得ない。」
↑ 現場を知らないが故の
過度の期待・思い込みがある。
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事業所・施設側の
「・家族側にとっては大切な親でも、事業所にし
てみれば何百といる「利用者」の一人。
・人員配置基準を満たしていても、全ての利用
者に常時目を配ることは不可能。
・ADLを向上させるためできるだけ活動しても
らいたいが、一方で安全も配慮しなければな
らないというジレンマ。」
↑ このように
実は事故を起こさない保証は無いが、
顧客に向かって不都合な真実は告
36
げづらい…
加えて、「専門家」は
日常慣れ親しんだ世界でやってきたので、
専門外の人の感覚・認識が分からない。
どうしてこんな
簡単なことが
分からないんだ?
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そこで
利用者家族側の、現場を知らない
誤解からくる「過度の期待」を修正
し、理解と同意を求めること。
この予防策を徹底しているか否かで、後のトラ
ブル後の状況は全く違ってくる。
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別の言い方をすれば…
「ハードルを下げる」
39
ちゃんと理解されているか?を確認す
るために存在する「契約書の読み合
わせ」。決して型どおりにこなせばす
む「儀式」ではない!
「適当に」深く考えず
やってしまっていませんか?
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典型的な「損害賠償規定」
「第〇条(損害賠償責任)
事業者は、本契約に基づくサービスの
実施に伴って、自己の責に帰すべき事
由により利用者の身体・生命・財産等に
損害が生じた場合、その損害について
速やかに賠償する責任を負います。」
さて、どう「説明」しますか?
41
グループワーク
やってみよう「契約書の説明」
1.グループ内で、さらに2~3人で構成さ
れる2チームに分かれます。
講師に近い側が「利用者の家族組」、
遠い側が「施設・事業所組」です。
42
2.利用者の家族に、施設側が契約前に入所
の際のリスクを説明するシーンを想定してくだ
さい。
(1)事業所の種類、利用回数などを決める。
(2)対象となる利用者のおおよそのプロフィー
ルを決める。
(例・80代女性、要介護度2、骨折歴あり、
中度の認知症など)
3.その利用者に対して説明するという状況設
定で、説明の仕方をグループごとにデモンス
トレーションして頂きます。
43
各チームの設定:
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各チームごとに分かれて、「作戦会議」をし
ます。会議中はお互い情報交換等のやり取り
はできません。
(1)利用者組は、利用者のプロフィールをさら
に細かく詰め、施設等の利用に際して心配なこ
と、疑問なことをリストアップし質問事項として用
意する(過去の経験に照らして、リアルなものを
作ってください)。
(2)事業所組は、普段しているリスク説明の仕
方をメンバー間で突き合わせ調整し、代表して
説明する人を決める。
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4.デモンストレーション
グループごとに前へ出て、利用者・事業所
組でそれぞれ分かれて向き合って座り、ま
ず自己紹介します。
事業所組から「リスク説明」を実演します。
注: 実務上の「契約書の説明」の場面のみに
限定せず、その前後のインテーク・アセスメント
も含めて一からリスク調整をしていって下さい。
「既に合意が出来上がっている」という想定では
ありません。
46
ご家族を
にする!
47
そのために、その法人の
が有効。
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例えば、「その人らしさを十分引き出
すケア」が理念だとすれば…
教なごず
えん家っ
てで族と
くすの寄
だ!協り
さぜ力添
いひがっ
。色不て
こ
々可ら
と欠れ
た
事
業
者
ご
家
族
何お分
でばか
もあり
しちま
まゃし
すんた
よの!
!た大
め切
なな
ら
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「理念」を単なるお題目ではなく、事業
者と家族の「連帯」のツール(道具)と
する。
大切なご利用者を
護る、という共同目標
を達成するための
同志!
50
ありがちな失敗…
• 説明が回りくどい
• 「事故は仕方ないのだからガマンしろ
!」とでも言いたそうな「逆切れ」の雰
囲気
• 逆に、どんな事故でも賠償が認めら
れるかのような誤解を与える説明
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具体的テクニック:
質問をする。
疑問点、不安点を引き出せれば、説明
を受ける側も安心できる。
52
利用を始めてからが
重要です。これから、
こまめにご相談・ご連
絡させてください!
文字通り一方通行の「説明」で終わ
らず、コミニュケーションで信頼関係
の基礎作りを!
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(説明の流れ)
1.自分の施設のメリット、特長を話す。
2.「ただ、それでも事故は起こり得る」と
切り出し、説明し理解を求める。
3.「それでも、ご利用者様の安全を守る
ためにこういった事がらに気をつけて実
施して参りますので、どうぞ宜しくお願い
致します。」といい、締める。
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A4の説明例は、一例です。
• 飽くまでも「自分の言葉で」説明できることが
肝心!丸暗記するのではなく、必ず自分で説
明の練習をしましょう。
↓ さらに
お互いに発表し合い、良い点、改善点を話し
合いましょう。
55