意味表示とは

統語意味論における否定文の分析
上山あゆみ(九州大学)
[email protected]
統
語
論
の
課
題
目 次
1. 統語論の課題と評価
提
案
モ
デ
ル
2. 統語意味論のモデル(前回より少しフォーマルになりました)
否
定
文
の
分
析
3. 否定文の問題(まだ着眼点だけですが)
4. まとめ
ま
と
め
2
もともと想定されていた統語論の課題
 前提:
提示された単語列によって、その単語列が
"文法的" であるかどうかが決まっている。
 課題:
その対応関係が正しく再現できるようなモ
デルを作ること。
統
語
論
の
課
題
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
 その評価
 対応関係の正しさ
 扱える提示文の多さ
 モデルの簡潔さ
ま
と
め
3
「前提」に問題がある
 どの単語列を "文法的" であると判断してよいか、必
ずしも自明でない。
 特に日本語の場合、一見不自然に見えても、たいていの文
統
語
論
の
課
題
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
は、いろいろ文脈を補えば、解釈可能になる場合がほとん
どである。
 形態論で説明できる「非文法的文(=非文)」を別にすると、
ほとんどは「文法的」である可能性が高い。
ま
と
め
4
あらためて掲げたい統語論の課題
 前提:
提示された単語列によって、可能な意味解
釈と不可能な意味解釈の集合が決まっている。
 課題:
その対応関係が正しく再現できるようなモ
デルを作ること。
統
語
論
の
課
題
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
 その評価
 対応関係の正しさ
ま
と
め
 扱える提示文の多さ
 モデルの簡潔さ
5
統
語
論
の
課
題
この課題の前提は大丈夫なのか?
 単語列に対して「可能な意味解釈の集合」は決定可能なの
か?
 確かに、様々な揺れが観察されるが、「その単語列に対して
不可能な意味解釈の集合」については、頑健(robust)な調
査結果が得られる。
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
→ 「不可能な意味解釈の集合」は決定可能
 「可能な意味解釈」も様々ありうるので、できる場合だけを
狙って規則をつくろうとしても、きりがない。むしろ、あらゆる
可能性に対応できるようなシステムにしておいて、「不可能
な意味解釈」が出ないよう工夫をしていくべきだと思う。
→ 統語論というものは、単語の集合が持ちうる意味解釈の集合に制限
を与えるものであるという考え方ということになる。
6
ま
と
め
統
語
論
の
課
題
生成文法にとっての統語論
Lexicon
提
案
モ
デ
ル
Numeration (いくつかの単語の集合)
Computational
System
PF
(Phonological Form:
単語を構造化した、
音関連の表示)
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
LF
(Logical Form: 単語を構造化
した、意味関連の表示)
7
統
語
論
の
課
題
文理解のモデル
知覚した音連鎖
Numeration
Formation
提
案
モ
デ
ル
比較確認
Lexicon
Numeration
LF
否
定
文
の
分
析
SR
ま
と
め
Computational
System
Information
Database
意味表示
PF
Phonology
Inference rules
内的に生
成された
音韻表示
統
語
論
の
課
題
現在構築中のモデル
知覚した音連鎖
Numeration
辞書ルール
Formation
提
案
モ
デ
ル
比較確認
Lexicon
Numeration
Computational
統語ルール
System
Phonology
PF
LF
語彙意味ルール/構造読み取りルール
Information
Database
SR
意味表示形成ルール
意味表示
Inference rules
内的に生
成された
音韻表示
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
処理の流れ (1)~バラバラの単語からLFへ
 提示文に 辞書ルールを適用すると、提示文が語彙項目の
集合になる。
→ 辞書ルールの入力: 音列
→ 辞書ルールの出力: 1つの語彙項目(リスト)
 統語ルール (1): 2つのリストを1つのリストに併合する。
(● ● ● ●)
→ (● ● ● ((● ● ● ●) (● ● ● ●)))
(● ● ● ●)
→ 出力リストは、2つの入力リストを最終要素として持っている。
→ 出力リストには、入力リストの一方(=主要部)から引き継ぐ要素が
ある。
→ 出力リストも、新たに統語ルールの入力リストになりうる。
 統語ルール (2): 1つのリストの内容を変更する。
(● ● ● ●)
→
(● ● ▲ ●)
 統語ルールの適用を繰り返すと
→ 「語彙項目の集合」が1つのリスト(=LF)になる。
10
統
語
論
の
課
題
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
統
語
論
の
課
題
現在構築中のモデル
知覚した音連鎖
Numeration
辞書ルール
Formation
提
案
モ
デ
ル
比較確認
Lexicon
Numeration
Computational
統語ルール
System
Phonology
PF
LF
語彙意味ルール/構造読み取りルール
Information
Database
SR
意味表示形成ルール
意味表示
Inference rules
内的に生
成された
音韻表示
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
統
語
論
の
課
題
処理の流れ (2)~統語ルールの出力からPF表示へ
 統語ルールの出力リストは、樹形図ででも表示可能
提
案
モ
デ
ル
(● ● ● ((● ● ● ((● ● ● ●) (● ● ● ●))) (● ● ● ●)))
 PF表示(≒発音される単語列)
(● ● ● ((● ● ● ((● ● ● ●) (● ● ● ●))) (● ● ● ●)))
→ 出力リストの中で、最終要素が単一要素のものだけを拾っていくと、
「音としての文」になる。
→ それと提示文を比較することで、提示文と同じ語順の文ができてい
るかどうかを確認できる。
12
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
処理の流れ (3)~LF表示の適格性チェック
 特定の統語ルールが適用されなければならない語彙項目
もある。そういうものは、辞書ルールで解釈不可能素性を仕
込んでおき、その統語ルールが適用したときのみ、その解
釈不可能素性が取り除かれるように、統語ルールを定義し
ておく。
 統語ルールの適用が終了した時点で、リストの中に解釈不
可能素性が含まれるかどうかを検索する。
→ 残っていれば、非文法的
→ 残っていなければ、文法的
 現在のところ、用いている解釈不可能素性は2種類。
→ ARGU ... 指定されたタイプの項が取れれば、取り除かれる
→ CHK ... 特定の統語範疇の語彙項目と併合されれば、取り除かれる。
13
統
語
論
の
課
題
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
統
語
論
の
課
題
現在構築中のモデル
知覚した音連鎖
Numeration
辞書ルール
Formation
提
案
モ
デ
ル
比較確認
Lexicon
Numeration
Computational
統語ルール
System
Phonology
PF
LF
語彙意味ルール/構造読み取りルール
Information
Database
SR
意味表示形成ルール
意味表示
Inference rules
内的に生
成された
音韻表示
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
処理の流れ (4)~LFから意味表示へ
 意味表示とは?
 <xn, {<attribute1, value1>, <attribute2, value2>, ...}> を
オブジェクト、その第1項(xn) をオブジェクトidと呼ぶ。
 意味表示とは、オブジェクトの集合である。
 目標: LF から意味表示を出す関数を、なるべくすっ
きり定義したい。
 語彙意味ルールで1つ1つの語彙を意味情報に置き換え、
構造読み取りルールで樹形図に意味情報を付加して、いっ
たん LF を SR に変換する。
→ 語彙意味ルールの出力: <意味タイプ, 意味表示断片>
 意味表示形成ルールで、 SR を意味表示に変換する。
15
統
語
論
の
課
題
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
統
語
論
の
課
題
ジョンが メアリを 京都から 追いかけた(LF)
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
16
統
語
論
の
課
題
ジョンが メアリを 京都から 追いかけた
 語彙意味ルール適用後
 (参照した樹形図情報を赤で表示してある)
提
案
モ
デ
ル
(S (x1 ((名称 ジョン) (類 モノ) (類 男性))))
(U (x4 (時制 完了)))
(S (x2 ((名称 メアリ) (類 モノ) (類 女性))))
(S (x4 ((類 デキゴト) (類 追いかけ))))
(S (x3 ((名称 京都) (類 場所))))
17
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
ジョンが メアリを 京都から 追いかけた(SR)
 構造読み取りルール適用後
 (参照した樹形図情報を赤で表示してある)
提
案
モ
デ
ル
(S (x1 ((名称 ジョン) (類 モノ) (類 男性))))
(U (x4 ((Theme x2) (Agent x1))))
(U (x4 (時制 完了)))
(S (x2 ((名称 メアリ) (類 モノ) (類 女性))))
(U (x4 (Source x3)))
統
語
論
の
課
題
(S (x4 ((類 デキゴト) (類 追いかけ))))
(S (x3 ((名称 京都) (類 場所))))
18
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
統
語
論
の
課
題
意味表示形成ルール(意味タイプ: S)
(S (x1 ((名称 ジョン) (類 モノ) (類 男性))))
(U (x4 ((Theme x2) (Agent x1))))
(S (x2 ((名称 メアリ) (類 モノ) (類 女性))))
(U (x4 (Source x3)))
(S (x3 ((名称 京都) (類 場所))))
(U (x4 (時制 完了)))
提
案
モ
デ
ル
否
定
(S (x4 ((類 デキゴト) (類 追いかけ)))) 文
の
分
析
→ 第1項(意味タイプ)が S ならば、第2項をそのままオブジェクトにする。
19
ま
と
め
統
語
論
の
課
題
意味表示形成ルール(意味タイプ: S)
(U (x4 ((Theme x2) (Agent x1))))
(S (x2 ((名称 メアリ) (類 モノ) (類 女性))))
(U (x4 (Source x3)))
(S (x3 ((名称 京都) (類 場所))))
(U (x4 (時制 完了)))
提
案
モ
デ
ル
否
定
(S (x4 ((類 デキゴト) (類 追いかけ)))) 文
の
分
析
→ 第1項(意味タイプ)が S ならば、第2項をそのままオブジェクトにする。
(x1 ((名称 ジョン) (類 モノ) (類 男性)))
20
ま
と
め
統
語
論
の
課
題
意味表示形成ルール(意味タイプ: S)
(U (x4 ((Theme x2) (Agent x1))))
(U (x4 (Source x3)))
(S (x3 ((名称 京都) (類 場所))))
(U (x4 (時制 完了)))
提
案
モ
デ
ル
否
定
(S (x4 ((類 デキゴト) (類 追いかけ)))) 文
の
分
析
→ 第1項(意味タイプ)が S ならば、第2項をそのままオブジェクトにする。
(x1 ((名称 ジョン) (類 モノ) (類 男性)))
(x2 ((名称 メアリ) (類 モノ) (類 女性)))
21
ま
と
め
統
語
論
の
課
題
意味表示形成ルール(意味タイプ: S)
(U (x4 ((Theme x2) (Agent x1))))
(U (x4 (Source x3)))
(U (x4 (時制 完了)))
提
案
モ
デ
ル
否
定
(S (x4 ((類 デキゴト) (類 追いかけ)))) 文
の
分
析
→ 第1項(意味タイプ)が S ならば、第2項をそのままオブジェクトにする。
(x1 ((名称 ジョン) (類 モノ) (類 男性)))
(x2 ((名称 メアリ) (類 モノ) (類 女性)))
(x3 ((名称 京都) (類 場所)))
22
ま
と
め
統
語
論
の
課
題
意味表示形成ルール(意味タイプ: S)
(U (x4 ((Theme x2) (Agent x1))))
(U (x4 (時制 完了)))
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
(U (x4 (Source x3)))
→ 第1項(意味タイプ)が S ならば、第2項をそのままオブジェクトにする。
(x1 ((名称 ジョン) (類 モノ) (類 男性)))
(x2 ((名称 メアリ) (類 モノ) (類 女性)))
(x3 ((名称 京都) (類 場所)))
(x4 ((類 デキゴト) (類 追いかけ)))
23
ま
と
め
統
語
論
の
課
題
意味表示形成ルール(意味タイプ: U)
(U (x4 ((Theme x2) (Agent x1))))
(U (x4 (時制 完了)))
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
(U (x4 (Source x3)))
→ 第1項(意味タイプ)が U ならば、第2項のオブジェクトid のオブジェクトに
追加する。
(x1 ((名称 ジョン) (類 モノ) (類 男性)))
(x2 ((名称 メアリ) (類 モノ) (類 女性)))
(x3 ((名称 京都) (類 場所)))
(x4 ((類 デキゴト) (類 追いかけ)))
24
ま
と
め
統
語
論
の
課
題
意味表示形成ルール(意味タイプ: U)
(U (x4 (時制 完了)))
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
(U (x4 (Source x3)))
→ 第1項(意味タイプ)が U ならば、第2項のオブジェクトid のオブジェクトに
追加する。
(x1 ((名称 ジョン) (類 モノ) (類 男性)))
(x2 ((名称 メアリ) (類 モノ) (類 女性)))
(x3 ((名称 京都) (類 場所)))
(x4 ((類 デキゴト) (類 追いかけ) (Theme x2) (Agent x1) ))
25
ま
と
め
統
語
論
の
課
題
意味表示形成ルール(意味タイプ: U)
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
(U (x4 (Source x3)))
→ 第1項(意味タイプ)が U ならば、第2項のオブジェクトid のオブジェクトに
追加する。
(x1 ((名称 ジョン) (類 モノ) (類 男性)))
(x2 ((名称 メアリ) (類 モノ) (類 女性)))
(x3 ((名称 京都) (類 場所)))
(x4 ((類 デキゴト) (類 追いかけ) (Theme x2) (Agent x1) (時制 完了) ))
26
ま
と
め
統
語
論
の
課
題
意味表示形成ルール(意味タイプ: U)
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
→ 第1項(意味タイプ)が U ならば、第2項のオブジェクトid のオブジェクトに
追加する。
(x1 ((名称 ジョン) (類 モノ) (類 男性)))
ま
と
め
(x2 ((名称 メアリ) (類 モノ) (類 女性)))
(x3 ((名称 京都) (類 場所)))
(x4 ((類 デキゴト) (類 追いかけ) (Theme x2) (Agent x1) (時制 完了) (Source x3) ))
27
統
語
論
の
課
題
意味表示
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
(x1 ((名称 ジョン) (類 モノ) (類 男性)))
(x2 ((名称 メアリ) (類 モノ) (類 女性)))
(x3 ((名称 京都) (類 場所)))
(x4 ((類 デキゴト) (類 追いかけ) (Theme x2) (Agent x1) (時制 完了) (Source x3) ))
28
統
語
論
の
課
題
現在構築中のモデル
知覚した音連鎖
Numeration
辞書ルール
Formation
提
案
モ
デ
ル
比較確認
Lexicon
Numeration
Computational
統語ルール
System
Phonology
PF
LF
語彙意味ルール/構造読み取りルール
Information
Database
SR
意味表示形成ルール
意味表示
Inference rules
内的に生
成された
音韻表示
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
統
語
論
の
課
題
モデルの評価材料の1つ:必要な規則の数
 辞書ルール: 音列を語彙項目にする規則。
 語彙意味ルール: 語彙項目の意味情報を規定する規則。
→ どちらも、少なくともいわゆる単語の数だけ必要。
→ 「同じ単語」なのに便宜的にエントリーを増やすことは、なるべく避け
て、せめて単語の数と等しくなることを目指す。
否
定
文
の
分
析
 統語ルール
i.
ii.
2つのリストを1つのリストにする。 →現在、13個。
1つのリストの内容を変更する。 →現在、6個。
 構造読み取りルール
 意味表示形成規則
(意味タイプの種類
提
案
モ
デ
ル
→現在、14個。
→現在、6個。
ま
と
め
→現在、4個。)
30
現時点でできていること
 語彙語(名詞、動詞、形容詞etc.)の意味タイプの割り当て
方についての原案はできている。
→ S(elect)型 : 新たなオブジェクトを追加する。
いわゆる指示語。動詞のほとんどと名詞の多く。
→ U(pdate)型 : 既存のオブジェクトの第2項に情報を追加する。いわ
ゆる修飾語。形容詞や形容動詞のほとんど。
→ L(ink)型 : S型の操作と U型の操作の両方を含む。いわゆる関係
名詞(相対名詞)。名詞の多く。
 語彙語に対応するための統語ルール/構造読み取りルー
ル/意味表示形成ルールは、一応出揃っている。
→ (ただし、L型については、まだ考察の足りない面がある。)
31
統
語
論
の
課
題
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
これから特にやらなければならないこと
 機能語(助詞、助動詞 etc.)については、まだ基本的な格助
詞ぐらいしか登録されていないため、今後、1つ1つ語彙意
味ルールを考案していかなければならない。
 実際、いわゆる「構文」と呼ばれるものは、たいてい中心と
なる機能語が存在し、その特性を追究することが中心課題
となる。
 その結果、意味タイプが今よりも増える可能性はあり、する
と、それに対応して統語ルールや意味表示形成規則も少し
増えることは覚悟せざるをえない。
32
統
語
論
の
課
題
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
ケース・スタディ: 否定構文
 機能語の特性をどのように考察していくかという例として、
否定構文を取り上げたい。
 まだ分析が完了しているわけではなく、発案の段階である
が、以下に列挙した構文の様々な特性を、新規に追加する
ルールは7つだけで、すべて説明できる可能性があることを
述べたい。
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
「~は来なかった」 (動詞+否定辞)
「~は軽くない」 (形容詞+否定辞)
「お金がない」 (自立語としてのナイ)
「~したのではない」
「~しか~ない」
「~以外~ない」
「~のほか~ない」
「誰も~ない」
「誰もが~ない」
遊離数量詞構文
統
語
論
の
課
題
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
33
否定のナイ
 意味表示をオブジェクトの集合としてとらえるアプローチの
場合、常に、否定文をどう扱うかということが問題になる。
統
語
論
の
課
題
提
案
モ
デ
ル
 「ジョンが来た」
<x1, {<カテゴリ: モノ>, <種: 人>, <名称: ジョン>}>
<x2, {<カテゴリ: デキゴト>, <種: 来た>, <Agent: x1>}>
否
定
文
の
分
析
 「ジョンは来なかった」
<x1, {<カテゴリ: モノ>, <種: 人>, <名称: ジョン>}>
!?<x2, {<カテゴリ: デキゴト>, <種: 来なかった>, <Agent: x1>}>
ま
と
め
→ 「来なかった」というデキゴトが存在する、とは言いたくない。
34
分析の方向性
 ナイが、U型の語彙に接続する場合には、大きな問題はない。
 ジョンは若くない。
→ <x1, {<カテゴリ: モノ>, <種: 人>, <名称: ジョン>, <年齢: 若くない>}>
 先述の問題が生じるのは、S型である動詞に接続した場合
統
語
論
の
課
題
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
→ 「ジョンは来なかった」
<x1, {<カテゴリ: モノ>, <種: 人>, <名称: ジョン>}>
!?<x2, {<カテゴリ: デキゴト>, <種: 来なかった>, <Agent: x1>}>
 そこで、ナイは、併合の相手をU型に変換する働きを
持つと考えてみる。
→ (言い換えると、動詞肯定文がデキゴトの存在を述べる文であるのに
対して、動詞否定文は性質を述べる陳述文になる、と言っていることに
なる。)
35
ま
と
め
ナイは動詞をS型からU型に変換する働きを持つ
 動詞がU型になるとすると、Update の対象になるのは、どの
オブジェクトなのか?
→ たいていの場合、ハ句で表されているオブジェクトをUpdateする
→ 「ジョンは来なかった」 ... <x1, {<カテゴリ: モノ>, <種: 人>, <名称:
ジョン>, <来たこと: none>}>
→ cf. 「ジョンは、ひげがない」 ... <x1, {<カテゴリ: モノ>, <種: 人>, <名
称: ジョン>, <ひげ: none>}>
 否定文は、肯定文よりもずっと、ハ句がないと「座りが悪くな
る」ことが知られている。
ジョンが来た。
ジョンは来なかった。
?ジョンが来なかった。
今日はジョンが来なかった。
統
語
論
の
課
題
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
→ ハ句がないと「座りが悪い」と感じるのは、Update の対象となるオブ
ジェクトを自力で補う必要があるためではないか。
36
U型に変換した場合の意味表示断片
 もともとS型である動詞がU型になったとすると、SR
における、その要素 <意味タイプ, 意味表示断片>
の第2項はどのように作られるか。
統
語
論
の
課
題
提
案
モ
デ
ル
 ジョンは、メアリにビルを紹介しなかった。
→ <紹介したこと, none> ではなく、
<メアリにビルを紹介したこと, none> となってほしい。
 ナイに統語ルールが適用したときの相手がαならば、意味
表示断片は、<αこと, none>となる。
→ では、「紹介した」とナイに対して統語ルールが適用しないように定
義しなければならないのか?
→ 否。 動詞とナイとに統語ルールが適用すると、その後、動詞の項が
満たされるチャンスがなくなり、解釈不可能素性(ARGU)が残るた
め、自動的にそのLFは非文法的となる。
37
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
シカ~ナイ構文
 「ジョンしか」の意味は、「ジョン以外」と言い換えられてよさ
そうである。
→ ジョンしか来なかった。
→ ジョンのほか来なかった。/ジョンよりほか来なかった。
→ ジョン以外、来なかった。
統
語
論
の
課
題
提
案
モ
デ
ル
 普通の否定文と同様、これらの文の場合にも、原則的にハ
句で表されるオブジェクトが Update の対象である。
 1年生は、ジョンしか来なかった。
<x1, {<種: 一年生>, <来た人, ¬(ジョン以外)>}>
→ (単なる否定文のときには<来たこと, none>になったのに対して、
シカと組み合わさったときには<来た人, ¬...>)になっていてほし
いが、その仕組みについては、これから考える。)
→ 以下、この「来た人」のような attribute を動詞派生attributeと呼ぶこ
とにする。)
38
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
統
語
論
の
課
題
シカ vs. 以外
 ジョンしか来なかった。*ジョンも来なかったけどね。
ジョン以外は来なかった。ジョンも来なかったけどね。
 ジョン以外は来た。 vs. *ジョンしか来た。
→ では、なぜこのような違いが生まれるのか?
→ <x1, {<来た人, ¬(ジョン以外)>}> という意味表示からは、<来た人,
ジョン> が出てくるので、正しく矛盾が生じる。
→ 「ジョン以外は」の場合には、<x1, {<種: ジョン以外>, <来たこと,
none>}> となっているならば、矛盾が生じなくても不思議ない。
→ つまり、「ジョン以外は」は、新規のオブジェクトを作れる(=S型にな
れる)が、「ジョンしか」は動詞派生attributeのvalueにしかなれない
ため、結果的にナイとの共起が必要となるのである。
 「ジョンしか」はVPの修飾語句としての位置に併合されてお
り、その位置にあるものは、動詞派生attributeの value にし
かなれないのではないか?
→ 1年生は、ジョン以外、来なかった。*ジョンも来なかったけどね。
39
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
統
語
論
の
課
題
ダレモ
 「ダレモ」も「~シカ」と共通の性質を持っている。
 「1年生は誰も来なかった。」
提
案
モ
デ
ル
→ <x1, {<種: 一年生>, <来た人, none>}>
 「誰もが笑った」「誰もが笑わなかった」
 「?*誰も笑った」「誰も笑わなかった」
否
定
「~シカ」と同様、「誰も」もVPの修飾語句としての位置に併合されており、 文
の
動詞派生attribute の value にしかなれない。そのため、ナイとの共起
分
析
が必要となる。
ま
と
め
40
遊離数量詞
 遊離数量詞も動詞派生attributeのvalueになるものとして分
析するべきかもしれない。
 1年生は、3人来た。
統
語
論
の
課
題
提
案
モ
デ
ル
→ <x1, {<種: 一年生>, <来た人, 3人>}>
<x2, {<種: 来た>, <Agent, x1>}>
否
定
文
の
分
析
→ もちろん、この場合はナイと共起していない。
 音には表れていないが、LF表示の中には、動詞派生
attribute を作るparticle がひそんでいるのではないか?
→ だからこそ、次の文は多義的となるのではないだろうか。
 1年生は、3人来なかった。
ま
と
め
→ <x1, {<種: 一年生>, <来た人3人, none>}>
→ <x1, {<種: 一年生>, <来なかった人, 3人>}>
 cf. 3人の1年生が来なかった。
→ <x1, {<種: 一年生>, <人数: 3人>, <来たこと, none>}>
41
統
語
論
の
課
題
metalinguistic negation のナイ
 お金がほしくて言っているのではない。
 早く来たのではない。早く来過ぎたのだ。
 これは、いわゆる metalinguistic negation
 統語ルールが適用したときの相手が α ならば、その α から
生まれる意味表示をDelete せよ、という指令ではないだろ
うか。
 少なくとも、この「ナイ」が動詞派生 attribute を形成しないこ
とは明らかである。
→ *ジョンしか来たのではない。
→ *誰も来たのではない。
→ 「3人来たのではない」は、「来なかったのが3人」という意味は持た
ない。
42
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
ま
と
め
否定文についての課題
 以上の観察には、随所に共通点があるので、たとえば、次
の2点はナイそのものの特性ではなく、独立の語彙項目の
働きであると考え、その語彙項目の分布制限を考えたほう
がよい。
→ S型のαから「αこと」という attribute を作る語彙項目の語彙意味
ルール
→ attribute の「αこと」を「αした人」等に変換する語彙項目の語彙意味
ルール
 次のも、ナイだけに関わる特性ではない。
統
語
論
の
課
題
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
→ VPの修飾語句の位置にあるものに対する 構造読み取りルール
ま
と
め
 残りは、普通にルールを仮定すればよい。
→
→
→
→
シカの語彙意味ルール(=「~以外」)
ナイの語彙意味ルール(value に noneや¬ を書き込む)
metalinguistic negation のナイ の語彙意味ルール(Delete α)
Delete という指令に対する 意味表示形成規則
43
統
語
論
の
課
題
統語意味論の目標と展望
 意味表示をオブジェクトの集合と仮定する。
 語彙ごとに指定された語彙意味ルールと、構造読み取り
ルールで、LF が SR に変換される。(SR では、意味表示
断片が意味タイプが付されて樹形図の中に表示されてい
る)
 SRから、意味表示形成規則によって、意味表示全体がうま
く作られるように、各種のルールを工夫する。
 必要ならば、音形のない語彙項目を新たに仮定する。
 機能語については、まだこれからなので、1つ1つ仮説を立
てながら考えていきたい。
44
提
案
モ
デ
ル
否
定
文
の
分
析
ま
と
め