南極40cm赤外線望遠鏡の開発と性能評価、進捗

2009年度 第39回 天文天体物理若手 夏の学校
南極40cm赤外線望遠鏡の開発と性能評価
進捗状況の報告
○沖田博文、市川隆、吉川智裕、Ramsey Lundock、栗田健太郎(東北大学)
南極大陸の内陸高原は高い標高と低気温から地球上で最も赤外線観測に適した観測地であると考えられている。さらに安定した大気による高い晴天率と良シーイング
が得られる事も分かってきた。そこで我々のグループでは南極ドームふじ基地(標高3810m)に口径2m程度の赤外線専用望遠鏡の設置を目指し基礎技術開発を行ってい
る。具体的には-80度でも動作する駆動ユニットの開発、ダイヤモンドダスト・霜の対策、熱の有効利用と高度な制御技術の開発等を行っているが、 まだまだ克服しなけ
ればならない課題は多い。 本発表では2010年にドームふじ基地に設置予定の南極40cm赤外線望遠鏡の開発の進捗状況を報告する。
冷却実験
そもそも、何で南極なの?
多くの工業製品は南極の最低気温-80℃で動かない。すべての部品を
冷却し一つ一つ実験する必要がある。特に天体望遠鏡は導入/追尾で
モーターが必須であるので、確実に動作する方法を検討する必要が
ある。
ステッピングモーターの脱調パルス温度特性
低温で一次関数的に減少するのは
軸受けの隙間の減少と考えられる。
○赤外線ノイズは地球上で南極が最小
(1)大気90km上空からのOH輝線
(2)大気の水蒸気による吸収
(3)大気が発する赤外線放射
(4)望遠鏡が発する赤外線放射
観測地が冷たい程、影響は少ない
http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~iwamuro/LECTURE/OBS/atmos.html
○シーイングが地球上で最も良い
大気の熱放射
・接地境界層(20m?)の上なら 0.3”
Aristidi+2003&2005, Lawrence+2004, Saunders+2009
Mauna Kea
South Pole
Dome A
・大気も非常に安定している事から
測光観測にもAOにも有利
Strassmeier+2008
○夜が90日以上続く
日本フリーザー(株)CLN-70C冷凍庫
Lawrence(2004)
○南極で最も条件の良い「ドームふじ」に
日本の観測拠点が存在
ソルベイソレクシス(株)
FOMBLIN GREASE
特殊環境用グレードZLHT
-80℃まで使用可能
http://www.solvaysolexis.com/
☆部品単位では-80℃で動いても、組み上げた状態では動かない事も…
原因
・微妙な熱収縮率の違いによる隙間の変化
・
・・・だから「南極」!
で、40cmで何が出来るの?
極軸調整機構
南極40cm赤外線望遠鏡はあくまでもサイト調査・技術開発
の為の望遠鏡でそれ自身はゴールではないが、サイエンス
ももちろん出来る。
望遠鏡の設置誤差から来る
導入・追尾エラーは無視でき
ない量である。そこで南極観
測隊でも容易に設置出来る
よう調整機構を製作した。
回折限界
: 0”.8(J) 1”.1 (H) 1”.4 (K)
シーイング@5m: 1”.3
1”.2
1”.1
・回折限界は~1”
・バックグラウンドノイズはマウナケアの1/10以下
・極めて安定した大気
25cm望遠鏡@ドームC
の測光精度
・系外惑星のトランジット観測
・1日周期変光星の観測
・極低温度星サーベイ
等
アイデアあればぜひご提案を!
バランス調整装置
σ(R)=0.0042mag.
σ(V)=0.003mag.
sky + detector limit
観測装置によって重心位置が
大きく変わり、追尾エラー量が
変化する。そこでバランス調整
機構を製作した。
scintillation noise at Dome C
Strassmeier+2008
(詳しく見積もってないが、総合すると検出限界や空間分解能は岡山188cmとほぼ同等と思われる)
追尾性能の評価と改良
赤外線カメラ
南極40cm赤外線望遠鏡には±2”角のピリオディックエラー
(機械誤差が原因、回避不能)の他に原因不明の「スリップ」
(かなり問題!)がある。原因は調査中であるが、おそらく
-80℃で動作するように工夫した通常とは異なる「隙間」や
「構造」に問題があると考えられる。
・コールドストップの無い直接撮像
・VIRGO-2K(400万画素、視野φ20’)
・J、H、Kdarkの3色
南極40cm赤外線望遠鏡での初期成果
を狙う
現在開発中、年内にファーストライト?
←望遠鏡の追尾測定結果
赤い線に注目
4分周期のエラーとは別に一
定の追尾の遅れが見られる。
まとめ
地球上で最も優れた赤外線天文学の観測地である南極
に望遠鏡を設置する為の技術開発を行ってきた。熱膨張
率や用いる材料を設計段階から検討してきたが、いざ実
際に試験してみると-80℃では動かない、または動作する
が正しく機能しない、等の問題点が見つかった。
ステッピング
モーターの
パルス測定
→正しくパルスは来ているようだ。
これらの課題に対し、実験を繰り返して原因を探り、部品
の交換や改造を行い対処してきた。
望遠鏡のたわみ測定実験
→望遠鏡は多少たわむが
スリップの原因ではないようだ。
また、望遠鏡の設置や調整も厳しい環境の中での作業と
なる為、色々工夫し、容易に調整できる装置を追加した。
DIMM
RAクラッチ部のズレ測定結果 →
(固定できているなら、クラッチでのズレは常に0)
ほぼ一定のズレが見られる
量はスリップとほぼ同じ(1”/min)
スリップの原因はこれか?
南極望遠鏡でシーイングを測定する装置として、Differential
Image Motion Monitorを製作した。この装置で南極の昼間に
カノープスを用いてシーイングを測定する。(限定的ではあるが
仙台でも日出後しばらくベガを用いてシーイング測定に成功した。なお
広島大学のDIMMとの比較から測定値が妥当である事が確かめられて
いる。)
これを踏まえ、5月に製造元のIK技研株式会社でRA軸の改造
を行った。具体的にはRA軸受けを一体構造として精度を高め
る事、クラッチ部のテフロン板を除去しグリス潤滑とすることで
ある。再組立・試験観測を今後行う予定である。
東北DIMM概観
望遠鏡先端
に取り付ける
仙台での試験観測結果
その結果、南極40cm赤外線望遠鏡はまだまだ改良の余
地はあるが南極での使用に耐えうる望遠鏡になりつつあ
ると言える。
今後、市川隆教授の開発した温度コントローラーを用いた
霜・熱の管理、吉川智裕助教が開発中の制御システム
AIRTReCSを用いた操作と併せて、南極40cm赤外線望
遠鏡の2010年中の完成を目指す。
そして2010年~2011年の第52次南極観測隊でドームふじ
基地へ設置、サイト調査と学術的観測を開始する予定で
ある。