航空旅客需要と 消費者の利益 国際交通 平成22年12月7日 村上 航空需要の特性 派生的需要である。本源的な需要(目的地での 旅行やビジネスなど)があってはじめて発生する。 在庫が不可能である。 ⇒出発直前に「シートセール」と称して座席をたた き売る。 ⇒米国では「ノー・ショウズ(No Shows)」が2割。だ から航空会社はわざとダブルブッキングを行う。 実際に来ないと思われていた人が来てしまった ら座席クラスのアップグレードなどで対処する。 航空旅客需要に与える要因 航空運賃、代替交通機関(代替航空会社あるい は地表交通機関)の運賃、補完交通機関の運賃、 所得、運航頻度,遅延,運航の時間帯(朝,夕 等),曜日,季節,安全性(⇔事故),ロイヤルティ (ブランド,マイレージの加算の程度など),距離, 機内サービス・アメニティ,飛行時間,空港まで のアクセスの利便性,乗り継ぎの利便性,他の 交通機関のサービスと利便性,戦争・テロ・疫病 頻度、安全性、利便性、アメニティの充実度を「効 用」、遅延、高い事故率、非利便性を「不効用」と くくることもある。 旅客需要関数の導出(1/3) ある支出制約の下での効 用最大化。(原点に凸の 効用関数を仮定) ある効用水準の下での支 出最小化 max U q1q2 q1 , q2 s.t. p1q1 p2 q2 X min q1 , q2 p1q1 p2 q2 s.t. U q1q2 * これを生産の場合と同様の手順で解く。ちなみにq1を 航空輸送量、q2をそれ以外交通機関の輸送量、p1は 航空運賃、p2はその他の交通機関の運賃、Xは所得 (全て使い切ると仮定するので所得=支出)、Uは利用 者の効用をあらわす。 旅客需要関数の導出(2/3) ラグランジュ乗数を用いた解き方 max q1 , q2 , L q1q2 X p1q1 p2 q2 それぞれについて偏微分してゼロとおく。 q1 , q2 , q2 p1 0 (1) q1 p2 0 (2) X p1q1 p2q2 0 (3) (1)と(2)よりλを消去すると、 (4)を(3)に代入すると、 p1q1 p2 q2 (4) 旅客需要関数の導出(3/3) X q1 2 p1 X q2 2 p2 これらがマーシャル型需要(Marshallian Demand)関 数である。マーシャル型需要関数は以下の特性を持 つ。 (1)価格と所得の関数。自己価格と補完財価格の上 昇に対し非逓増、所得の増加に対して非減少。 (2)マーシャル型需要関数を予算線に代入すると所 得Xになる。(Add Upの法則) 間接効用関数と支出関数 マーシャル型需要関 2 X X X 数を元の効用関数に V p , p , X 1 2 代入すると、間接効 2 p1 2 p2 4 p1 p2 用関数Vが得られる。 この間接効用関数の 式を支出Xの式で表 X p1 , p2 ,U 2 p1 p2U すと支出関数が得ら れる。 ヒックス型旅客需要関数 生産理論の時にも出てきた「シェファードのレン マ」を用いて、支出関数をそれぞれの価格で偏微 分すると、価格と効用の関数であるヒックス型需 要(Hicksian Demand)関数が得られる(別名、補 償需要関数)。 X h1 p1 , p2 , U p1 p2U p1 X h2 p1 , p2 ,U p2 p1U p2 双対原理(Duality)(1/4) ヒックス型需要関数は、「ある効用の下で 支出を最小化する」という仮定から直接求 めることもできる。 min q1 ,q2 , L p1q1 p2 q2 U q1q2 各々の変数で微分してゼロと置く。 p1 q2 0(a), U q1q2 0(c) p2 q1 0(b), 双対原理(Duality)(2/4) (a), (b)より p1q1 p2q2 (d ) (d)より p1 q2 q1 p2 p1 2 これを(c)に代入すると U q1 p2 従って h1 p1 , p2 , U p2U p1 同様に h2 p1 , p2 ,U p1U p2 双対原理(Duality)(3/4) このヒックス型需要関数を予算線に代入す ると、支出関数が得られる。 X p1 , p2 ,U 2 p1 p2U p1h1 p2 h2 ☆ Roy(ロワ)の恒等式⇒間接効用関数 からマーシャル型需要関数を求める方法。 X2 V p, X p1 4 p12 p 2 X q1 p, X V p, X X 2 p1 X 2 p1 p 2 双対原理(4/4) max U n Dual problem k 1 ⇔ s.t. pk qk n min pk qk s.t. U U * k 1 一階条件↓ 一階条件↓↑価格を消去 Marshallian 需要関数 Hicksian 需要関数 q k p, X (補償需要関数) h p k , u 代入↓↑Roy の恒等式 代入↓↑シェファードのレンマ 間接効用関数 式変形 支出関数 V p, X ⇔ X p, u 旅客需要の双対原理は以上のように要約される。 (重要) 所得効果と代替効果(1/5) スルツキー方程式:効用が最大化されている下 では、双対原理により【ヒックス型需要関数= マーシャル型需要関数の所得に支出関数を代入 した式】の関係が成り立つ。 hi p,U * qi p, X p, U * ( ) 先の例を用いて確認すると、支出関数は X p1 , p2 ,U 2 p1 p2U X 航空のマーシャル型需要関数は q1 2 p 1 所得効果と代替効果(2/5) 支出関数をマーシャル型需要関数に代入 すると、 2 p1 p2U p2U X q1 h1 p1 , p2 , U 2 p1 2 p1 p1 さて、合成関数の微分の公式を用いて、(A)を Pjで偏微分してみよう。 hi p,U * qi p, X p, U * qi p, X p, u * X p j p j X p j 所得効果と代替効果(3/5) すなわち、下記の式が得られる。 qi p, X p, U * hi p, U * qi p, X p, U * h j p, U * p j p j X 左辺 右辺第一項 右辺第二項 右辺第一項は、他の交通機関の運賃が変化したときに、 効用を一定とするとともに所得を補償した時の効果。通常 代替効果(Substitution Effect)という。右辺第二項は、補償した 所得の変化に対する需要の変化で、所得効果(Income Effect)と いわれる。左辺は総効果(Total Effect)と呼ばれる。 所得効果と代替効果(4/5) 図解してみよう。(航空運賃が下落の場 運 他合) 賃の は交 A 相通 対機 上関 昇の B X/p1 ①航空運賃の下落により、航空輸送と 他の交通機関の選択比率はAからBへ 移動。但し効用一定。(代替効果) 航空運賃p1 下落⇒ A C B ② ①では他の交通機関の運賃は 相対的に上昇しているが、実際には 上昇していないので所得補正。これにより航空運賃下落後の 新たな均衡はBからCへ(所得効果)。A→Cが総効果である。 所得効果と代替効果(5/5) hi 0 :2財は純代替財(Net substitute) p j hi 0 :2財は純補完財(Net complement) p j qi 0 :2財は総代替財(Gross substitute) p j qi 0 :2財は総補完財(Gross complement) p j qi 0 :ギッフェン財(Giffen 財) pi 所得効果と代替効果の応用: 補償変量と等価変量(1/2) ある政策変更を行うことにより、変更前後 で価格と所得が変化したとする。価格が下 がり、所得が増加すれば明らかに消費者 に利益が発生するが、例えば価格と所得 が両方上昇したり、両方下落するような場 合も存在する。 そのような場合政策変更をどのように評価 すればよいのか? 所得効果と代替効果の応用: 補償変量と等価変量(2/2) その方法として、消費者余剰のみで評価する場 合(例えば公共財など生産者余剰が問題になら な い 場 合 ) は 補 償 変 量 ( CV, Compensating Variation)と等価変量(EV, Equivalent Variation) を計測する手段がある。 また、民間部門の供給者で供給関数が存在する 場合には生産者余剰を含めた総余剰で評価し、 供給関数が存在しない場合は消費者余剰+企 業の利潤で評価する。 消費者余剰による評価では間接効用関数を求 めることが必要である。 消費者余剰に基づく 政策評価の方法(1/2) 補償変量:ある効用関数をもつ人々に対し、 政策変更後の間接効用関数と、政策変更 前の間接効用関数を比較し、所得がどれ だけ補償されたか(あるいはされてないか) を見る方法。 V i p after i , X after i S i c V p i ↑補償変量 before i ,X before i 消費者余剰に基づく 政策評価の方法(2/2) 等価変量:政策変更を行うとして、現在の 状況にいくら所得を補償してやれば政策変 更前後で人々の間接効用が同等になるか を計測する方法。場合によっては人々に補 償しない(あるいは税率を引き上げ所得を 減らす)こともありうる。 i V p before i , X before i S i e V p i ↑等価変量 after i ,X after i 補償変量を用いた実例(1/5) ある地方政府は、東京との間に航空路線を開設 し、地元経済の活性化を図ろうとしている。現在 航空会社に路線開設を打診中である。 航空路線開設により観光及びビジネス客が訪れ、 地域所得の向上を通じた消費者余剰が増加する ことが予想される。 しかし同時に地価、ひいては物価が上昇する懸 念が存在するし、 かつこれまでは地表交通機 関を利用して100の費用で東京まで行けたのに 対し、航空運賃は120であるという。 果たして地方政府が目論むように、航空路線開 設は消費者にプラスになるであろうか? 補償変量を用いた実例(2/5) そこで、地方政府は予想される所得の上昇効果と、 それを相殺するであろう物価上昇の効果を考慮し、 消費者余剰がどのように変化するかを調べることに した. 住民の効用関数を U q1q2 とする。 2 すると間接効用関数は、 V p, X X 4 p1 p 2 である。ただしP1は東京までの運賃、P2平均 物価、Xは所得である。 補償変量を用いた実例(3/5) 東京までの従来の運賃は100、平均物価 100、所得を1000とする。 そして物価上昇は5%、所得の上昇は2% と予想する。 • CV( S c1 )は以下の通り。 V i p after i , X after i S i c V p i before i ,X before i 補償変量を用いた実例(4/5) 間接効用関数に、分かっている情報を代 入すると以下の通り。 1020 S 1 2 c 10002 4 120 105 4 100 100 これより、 S 102.5 1 c よってこの場合、物価上昇と運賃上昇により、 かえって消費者余剰が減少してしまう。 ⇒航空路線開設は消費者のためにならない。 補償変量を用いた実例(5/5) では、消費者余剰を低下させないために は、航空運賃がいくらでないといけない か? ⇒消費者余剰をゼロと置いて航空運賃を 求める。 2 2 1020 0 1000 4 ?105 4 100 100 これより?=99.09、つまり物価上昇の影響が大き いので、CVを維持するためには航空運賃は99.09 でないといけない。 参考までに ただし、航空路線開設により、時間節約効 果が期待できるので、そのプラス面を考慮 すれば、航空運賃は99.09よりも高くなって もよいはずである。 たとえば実質航空運賃を P p1 s 99.09 (ただしsは時間節約効果、あるいは速度の遅い交通機関 を利用するときに発生する機会費用)とし、仮に時間節約 効果sを20とするならば、CV不変の下での航空運賃は 99.09+20=119.09である。 等価変量を用いた場合 等価変量を用いた場合は? i before i V p , X before i S i e V p i after i ,X after i 1 S 上の式よりEV( e )は以下のように計算さ 2 れる。 1000 Se 10202 ⇒ S e 91.31 4 100 100 4 120 105 この場合も消費者余剰は減少すると考えられ る。しかし、このケースでは、補償変量の場合 よりも消費者余剰の減り方は小さい。 ご清聴有難うございました
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