算出可能性(accountability)の背景

反証と知識の前進
1.予測と反証
落下の法則を例として説明する
2.算出可能性の概念
落下の法則
1 2
x   gt  v0 t  h0
2
x:
落下する距離、単位はメートル
g:
重力の加速度
t:
経過時間、単位は秒
v0 :
h0 :
初速度
高さ、たとえば、海抜面をゼロとして上方にプラスのY軸を設定する。
予測課題
2秒後のパチンコ玉の落下距離を
小数点2桁まで予測せよ。
単位はメートル。
ポパー・ヘンペル・モデルに即して、たとえば、2秒後のパチンコ玉の落
下距離を計算する。
法則:
初期条件:
結果:
1 2
x   gt  v0 t  h0
2
g  9.81 m 2 , t  2s, v0  0 m , h0  0m
s
s
1
x   [9.81(m 2 )][ 2( s )]2  0(m )[ 2( s )]  0(m)  19.62m
s
s
2
しかし、実際に測定してみたところ、
Xは-20mであったとする。
落下の法則は反証されたのか、それとも、なに
か別なところに原因が求められるべきなのか。
反証逃れの一種として、原因が初期条件の精度不
足に求められる場合を考えてみよう。
弁明の例:パチンコ玉を落下させるときに、わず
かに初速度がついてしまった。
反証逃れを阻止する一つの手段としての算出可能性
初期値がいい加減なものであった。初速度をゼロとしたけれど、実際は
そうではなかった。ゼロとしてしまったので、誤差が生じた。もっと精度の
高い初期値を入れれば、合致する
?
では、どのくらい精度が高ければいいのですか
どのくらいの誤差なら許容されるというのですか
そんなことは、予測課題しだいだよ。精密な予測課題が課せられれば、
当然、初期値も精密にならねばならない。
ここで、算出可能性の概念が登場する。
初期値の精度を、予測課題との相関のもとで
前もって指定するということ。
算出可能性(accountability)の定義
予測について要求される精度が与えられたな
ら、理論は、その精度で予測するに十分な初
期条件の精度を計算できなければならない。
 理論はその内部での予測課題が原則として
算出可能であるとき、「算出可能」と呼ばれて
よい。

強弱2つの意味での算出可能性
初期の条件精度を計算させてくれるというの
が、弱い意味での算出可能性。
 くわえて、測定の精度まで要求するのが、強
い意味での算出可能性。
 「科学的」決定論は、強い意味での算出可能
性を要求する。

再度の実験
新しい予測課題が与えられ、そして算出可能性の原理にもとづいて、初期値の精度
が指定され、かつその指定を満たす形で初期値の実測値が与えられたとしよう。
予測が的中した →→ 万歳!落下の法則は今のところ事実と合致して
いるぞ!
?
だが、待てよ。予測課題をだんだん精密にしていって、また、それ
にあわせて初期値も精密にしていったら、どうなるのだろう。算出可
能性の原理はこれができるといっているのだが、本当に限界はな
いのだろうか。限界があったら、それは何を意味するのか。
「科学的」決定論とのつながり
残念、予測は的中しなかった。落下の法則は、反証されてしまったの
だろうか。
いやいや、あわてずによく考えてみよう。
モデルの再構築
「科学的」決定論とのつながり
算出可能性の原理はとことん維持できる。世界はごく細部にいたるまで決定さ
れているのだから、精密な初期値が与えられれば、精密な予測ができる。
これは、ラプラスの魔(「科学的」決定論)と呼ばれている考え方である。
過去の出来事について十分に正確な記述がすべての自然法則と一緒
に与えられれば、どのような出来事も望みどおりの精度で合理的に予
測できるようになる。いかなる出来事も予測可能であるべきだとしたら、
それは望みどおりの精度で予測可能でなければならない。
ポパーはこれを論駁し、非決定論を擁護する
モデルの再構築
予測課題を果たすためには、状況をよく考えねばならない。重力加速度、初速度、
経過時間そして高さしか考えなかったのは、状況をあまりにも単純化していた。いま
や、空気抵抗のようなものも考えに入れて状況についての新しいモデルを作る必要
がある。
落下の法則のなかに、空気抵抗に関する項を入れよう。このことは、落下
の法則は反証され、新しい法則が導入されたということである。
とりあえず、これで算出可能性の原理も満たすことができる。よかった。
だが、予測課題がより精密になると、この新モデルでも駄目なことが
判明する。
モデルの再再構築
この過程に、限界はあるのかないのか。あ
るとしたら、それは何によってわかるのか。
算出可能性原理の再登場