公正価値階層レベル3における fair valueの翻訳の検証 ──公正価値階層におけるレベル3の異質性の評価── 竹森一正(中部大学名誉教授) [email protected] 2015/7/4 第135回日本会計研究学会中部部会 名古屋商科大学 2015/7/4 竹森一正(#135JAA中部部会) 1 始めに 「ライシャワーのひよわな葦」 言語障壁を克服する主だった方途は翻訳であり、近年、その質が大幅 に向上したことはまぎれもない事実である。(中略)ただ、一つのことばを 他のことばに移すという作業が、しょせんは「ひよわな葦」であることも事 実で、よしんば、通訳者が日英両語に完全に通暁していた─まれにしか ないケースである─としても、他国語に移される過程で、大きな変容を蒙 ることはさけがたい。(ライシャワー著・国弘正雄訳(1979)『ザ・ジャパ ニーズ』、「世界の中の日本」章「言語」節、pp.382-383)(赤字報告者注) 2015/7/4 竹森一正(#135JAA中部部会) 2 1. 公正価値会計と「ライシャワーのひよわな葦」 これまでの「ライシャワーのひよわな葦」に関連する研究報告 2014年7月 generally accepted 第133回日本会計研究学会中部部会 一般に公正妥当と認められた⇒(正)最高と認めた 2014年9月 authoritative support 第72回日本会計研究学会大会 権威ある支持⇒ (正)引用・出典による基礎 2015年7月 fair value 第135回日本会計研究学会中部部会 公正価値(公正な価値)⇒ (正) ? 検討の基本資料 SFAS157 財務会計基準報告書第157号(FASB) SFAS159 同第159号 金融商品会計に関する実務指針(JICPA) 2015/7/4 竹森一正(#135JAA中部部会) 3 ライシャワーのひよわな葦の2パターン パターン1 原著者の意図と異なった翻訳をする 例 generally accepted 一般に公正妥当と認められた ⇒ (正)最高と認めた authoritative support 権威の支持 ⇒ (正)引用・出典による基礎 パターン2 和製英語の意味により翻訳をする 例 fair 公正な ⇒ (正)売買の結果 2015/7/4 竹森一正(#135JAA中部部会) 4 2. SFAS 157の公正価値概念の拡大 公正価値関連(赤字) 2006年 SFAS157公表 2007年 ベアスターンズ破綻(翌年J.P.Morgan Chase吸収) SFAS159公表 2008年 リーマンブラザーズ破産 現在、SFAS157とSFAS159は歴史資料の部、解決済み cf. FASB Reference Library “Superseded Standards” 2015/7/4 竹森一正(#135JAA中部部会) 5 SFAS 159の主な妥協点 1.エンティテイの都合を優先してよい(p.1)。 2.計算方法で評価する際、公正価値を使わなくてよい(〃)。 3.デリバティブ商品およびヘッジ先物商品の公正価値条項 に従わなくてよい( p.3)。 4.銀行関係者から出されていた公正価値反対論議は決着した 。(報告者注) 米金融危機関連時系列 金融危機関連(青字) 1980年代 S&L GSE Enron WorldCom 1989年 FIRREA法によりTAFがUSPAP運営主体となる 1993年 AICPA=ASA連携、MAFFを最高位の評価資格とする 2006年 SFAS157公表 2007年 ベアスターンズ破綻(翌年J.P.Morgan Chase吸収) SFAS159公表 2008年 GSEによる欠損、2007年との合計7兆6,000億ドル リーマンブラザーズ破産 FSF発足(金融安定化フォーラム、G7) 2009年 FSBへ名称変更(金融安定理事会、G20) FASBの結論⇒金融危機を所与、fair valueによる財務報告開示制度。 2015/7/4 竹森一正(#135JAA中部部会) 7 SFAS157による公正価値階層 Level 1 Level 2 入力観察可能 入力観察可能 (直接または間接) 入力不可能 市場活発 市場活発または 不活発(取引制限) 市場不活発 (市場閉鎖) 評価不要 評価不要または要 評価要 (評価専門家) 2015/7/4 竹森一正(#135JAA中部部会) Level 3 8 図表 公正価値階層のレベル別特徴とパターン区分 fair valueの階層レベル 1 階層サブカテゴリー 2 3 2-1 2-2 有 直接有 間接に有 ナシ 有 有 ナシ ゼロ 価格を参照する市場 活発 活発 不活発 閉鎖 評価モデルの使用 ナシ ナシ 報告者の 報告者の 独自仮定と 独自仮定と 独自データ有 独自データ有 インプットと価格の 観察可能性 市場の活発さ 評価専門家の関与 ナシ ナシ 有 必要 fair valueのパターン 1 2 3 4 「公正価値」 の適性度 3 3 1 1 2015/7/4 竹森一正(#135JAA中部部会) 9 3. 評価専門家によるLevel3への対応 最新のモデルを投入してもモデル自体への評価が未定であ る。 「正確な評価は困難である」[古賀、1996、p.17]、 「見積もりによる主観介入が不可避である」 [金子、2012、p.13] 貴重な証言。AICPAで進行中のFVSに触れず。 JICPAの実務指針も? 2015/7/4 竹森一正(#135JAA中部部会) 10 評価専門家によるLevel3への対応 米評価価基準 USPAP (専門評価実務統一基準、USGAAP準拠) 1989年FIRREA法(金融機関改革再興実行法) により運営のTAF※1 、間接的な国家管理。 ※1(評価財団 The Appraisal Foundation) 米主要評価専門機関 AICPA・FVS ※2、ASA ※3 etc ※2 (米公認会計士協会・法廷評価課 Forensic Valuation Section、 最高資格はNACVAと共同の上級財務法廷分析士) ※3 (米評価協会) EUの評価基準 〃 評価専門機関 IVS(IFRS準拠) IVSC ※4 、EVCA ※5 ※4(国際評価基準委員会) ※5(欧州未公開株式・ベンチャーキャピタル協会) 2015/7/4 竹森一正(#135JAA中部部会) 11 4. fair を「公正」とする翻訳上の問題 わが国の翻訳例に見るレベル3の記述 翻訳例1 レベル3の入力数値は、レベル1またはレベル2の入力数値が入手できない 場合に限り用いることができる。(中略)入力数値が属するレベルによって、 公正価値もまた以下の3つのレベルに分類される。 翻訳例2 合理的な仮説がない以上、どれだけ統計的事実を積み重ねても、レベル2 やレベル3の公正価値情報の有用性を検証することは不可能である。 翻訳例3 (レベル3インプットにおいて、筆者注)公正価値測定の目的は不変であり、つ まり、当該資産を保有しまたは負債を負担する市場参加者の観点からみて の出口価格である。 2015/7/4 竹森一正(#135JAA中部部会) 12 fair を「公正」とする翻訳上の問題 広辞苑の公正 「公平で邪曲のないこと」 ウェブスター辞典、SFAS157の fair 「売手と買手が物品の取引のために集い、商いを行うこと」 両辞典が相違する ⇒ 公正と fair は異なる。 従って fair は、公正でなく、公正は、fair でない。 日本語として定着した「fair =公正」は誤訳である。 パターン1・2は「公正価値」でも可、 パターン3・4はfair valueであって「公正な価値」ではない。「公正価値」は困難。 1語2義を今後も使用するか。 1語1義を貫くためには、fair valueをいかに訳すか? 2015/7/4 竹森一正(#135JAA中部部会) 13 補追1 金融商品取引法の和英訳例 この法律は、企業内容等 の開示の制度を整備するとともに、(中略) ①有価証券の発行及び金融商品等の取引等を公正に(中略) ②金融商品等の公正な価格形成等を図り(中略)、目的とする。 (第一条、①②は報告者注) ① to ensure fairness in, inter alia, issuance of the Securities and transactions of Financial Instruments, etc. ② to aim at fair price formation of Financial Instruments, etc. 和英対訳は『法令用語日英対訳辞書』(法務省大臣官房司法法制部 )に準拠し た例示である。使途は英語による理解のため。 2015/7/4 竹森一正(#135JAA中部部会) 14 補追2 市場状況と公正価値パターンの対応 米ブラックマンデー 1929年10月~11月 取引時間制限 10/31 P1・2 市場閉鎖(終日休場) 11/01、05 P4 1987年10月~11月 取引制限 市場閉鎖(〃) ナシ P1 2008年9月 空売規制 市場閉鎖(9/17:CP) P1・4 日本株式暴落※時(1987年─昭和62年10月~11月) 取引制限 信用取引制限 P1・2 市場閉鎖(終日休場) ナシ (あれば P3) ※ 『 JICPA実務要領』 「直近の引値・気配」(情報ベンダー利用可)の規定によりP4回避。 現在はマネーが暴落時に大量買するのですぐ回復する。長期低迷はない(D.Kansas)。 2015/7/4 竹森一正(#135JAA中部部会) 15 補追3 米金融危機一覧表(2000年前後) 発生・決着 事件名称・社名 解決金額 解決手段 救済機関 D.Kansas ref 1980- S&L $124 billion 補填 整理信託公社 p.151. 2008 GSE $7,600 billion 救済 政府・新法 p.119 2008 B.Stearns $29 billion 2008 L.Brothers $619 billion 破産 2008 AIG $335 billion 救済 2008 Merrill Lynch $50 billion 買収 2009 TARP $350 billion 救済 2015/7/4 FRB債務保証 Morgan Chase 竹森一正(#135JAA中部部会) 政府 B of America 政府 p.14 p.109 p.99 p.119 16 補追4 公正価値会計の環境と前提 1.難解な文章によるSFAS157 2.金融商品、ヘッジ商品の内容と取引 3.米金融危機の規模に関する実態 4.FSF-FSBによる実質EU金融体制 5.米金融危機・株式暴落への日米報道格差 補追5 法廷会計━米国の新会計分野 1.Paula Todd, SEC 2.Marc Siegel, FASB 3.米議会図書館蔵書の中国語『法庭会計』 4.法廷会計の大学院学位修士課程(Web通信教育) 5.評価機関による「法廷」資格のWeb通信教育
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