PowerPoint プレゼンテーション

2013年5月12日
第65回日本産科婦人科学会学術講演会
「生涯研修プログラム」
共同企画-1『事例から見た脳性まひ発症の原因と予防対策』
6.吸引鉗子分娩とクリステレル胎児圧出術に関連した脳性麻痺の注意
事項
北里大学医学部産科学教授
海野信也
第65回日本産科婦人科学会学術講演会
利益相反状態の開示
筆頭演者氏名: 海野 信也
所属:北里大学医学部産婦人科・産科
私の今回の演題に関連して、開示すべき利益相反状
態はありません。
本講演の背景
• 2012年4月15日:第64回日本産科婦人科学会学術講演会「生
涯研修プログラム」
– 共同企画-1『産科医療補償制度原因分析委員会より脳性麻痺児
発生予防のために』
• 3. 産科処置の際の基本的留意事項
– ④吸引分娩におけるクリステレル圧出法の問題点
• 我が国ではかなり多くの分娩施設で、クリステレル胎児圧出
法ー子宮底圧迫法が実施されているらしい。
• 提案:クリステレル胎児圧出術の適応と要約(現代版)
• 論点:クリステレル胎児圧出法の回数制限は必要か?
• 課題
–
–
–
–
実施実態が(全世界的に)全く明らかにされていない。
術式・用語が統一されていない。
有効性、危険性に関する質の高いエビデンスが存在しない。
長期予後、特に母体骨盤底筋群の損傷等の影響の有無がわから
ない。
基本的な考え方
クリステレル胎児圧出法という手技
についての演者の認識
•
「鉗子遂娩術」「吸引遂娩術」に比べて遙かに古くから存在している「急速遂娩術」
の一種。
•
わが国の産科の現場では非常に広汎に、多くの施設、多くの分娩で実施されて
いる。
•
欧米の教科書には、もはや記載されていない。わが国の教科書・専門書の記載
もごくわずかしかない。
•
全くやらないという施設もあるが、おそらくそれは少数なのではないか。
•
基本的に「日陰者」扱い
•
産科手術の一つであるにも関わらず、「適応」と「要約」が明確にされないまま実
施されている。
•
当事者である産婦には、実施の有無は明らかだが、分娩記録、助産録記録には
きちんと記録されていない可能性がある。
2012年4月15日:第64回日本産科婦人科学会学術講演会における発表
クリステレル胎児圧出術の適応と要約(現代版)
• クリステレル胎児圧出法は鉗子・吸引遂娩術の補助手段、あるい
は、より効果の不確実な代替手段
• 適応
– 分娩第二期、腹圧微弱による分娩進行不良
– 鉗子・吸引による急速遂娩術を施行する際の補助手段
• 要約:
– 母体が手術に耐えうる
• 母体腹部に異常所見がない
• 子宮奇形・子宮腫瘍・子宮手術の既往がない
–
–
–
–
–
–
成熟児で重度の胎児機能不全徴候がない
単胎
子宮口全開大(吸引の場合はほぼ全開大でも可)
児頭骨盤不均衡がない
既破水
「クリステレル適位」
• 吸引・鉗子分娩の補助手段の場合: 吸引・鉗子適位
• 単独で実施する場合:
児頭排臨(あるいは児頭出口部)
– (完遂出来なかった場合、帝王切開術を直ちに実施しうる)
2012年4月15日:第64回日本産科婦人科学会学術講演会における発表
論点:クリステレル胎児圧出法の回数制限は必要か?
• 吸引分娩における「総牽引時間20分以内、総牽
引回数5回以内」というルールに対応する制限が
必要なのではないか?
• 吸引分娩の補助手段として実施する場合、毎回
(5回まで)クリステレルを併用していいのだろう
か?
• 単独実施の場合、何回まで許容できるだろう
か?
2012年4月15日:第64回日本産科婦人科学会学術講演会における発表
本講演の内容
• 産科医療補償制度原因分析報告書における
クリステレル胎児圧出法実施症例の検討
• 全国周産期医療(MFICU)連絡協議会の協力
による、子宮底圧迫法実施実態調査(2013年
2-3月実施)結果の検討
• 今後の方向性に関する提言
産科医療補償制度 原因分析報告書における
クリステレル胎児圧出法
(2013年3月17日公開分まで)
• 原因分析報告書が公表されている218症例中、クリステレル
胎児圧出法が実施されていたのは42例(19%)。
• 実施以前に胎児機能不全が存在していたと考えられるのは
29例(69%)。
• クリステレル単独実施が14例、吸引遂娩術の際に実施され
たのが26例、鉗子遂娩術の際に実施されたのが4例(鉗子の
うち2例は吸引後の症例)。
• 経腟分娩が34例、帝王切開が8例。
• クリステレルの実施と児の脳性麻痺発症との因果関係の存
在を否定できないと考えられる例が14例。このうちクリステレ
ル単独実施は2例
脳性麻痺とクリステレル胎児圧出法の間の
因果関係を否定できなかった症例(1)
• 57分に及ぶ合計23回の吸引分娩と
過剰負荷
クリステレル胎児圧出法
• 双胎第II児、I児分娩時にもクリステレル
要約満たさず
• NRFSでクリステレル後鉗子による娩出まで37分
過剰負荷
• NRFS後人工破膜、オキシトシン自然滴下、
クリステレル67分、吸引2回
過剰負荷
• NRFS+吸引クリステレル
過剰負荷
• 複数回のクリステレル
過剰負荷
• 臍帯圧迫+クリステレル
過剰負荷
• 88分に及ぶ吸引分娩とクリステレル
過剰負荷
脳性麻痺とクリステレル胎児圧出法の間の
因果関係を否定できなかった症例(2)
• 遷延分娩→オキシトシン→吸引クリステレルx2
→母体搬送→帝切
• メトロ→人工破膜→II期遷延→吸引+クリステレルx2
→オキシトシン促進→吸引+クリステレル
→鉗子+クリステレル
• 自然陣発→分娩遷延→自然破水
→オキシトシン→吸引+クリステレルx5
• 自然陣発→オキシトシン→吸引クリステレルx4→
第1子娩出→人工破膜→吸引クリステレルx2
→吸引x2→吸引クリステレルx2→第2子娩出
過剰負荷
過剰負荷
過剰負荷
要約満たさず
脳性麻痺とクリステレル胎児圧出法の間の
因果関係を否定できなかった症例(2)
• 陣発→PGE2→人工破膜→オキシトシン
→陣痛に合わせたクリステレル1時間以上多数回
→肩甲難産
• 前期破水→PG誘発→NRFS →吸引+K3x
→帝切 帽状腱膜下血腫
• 陣発 → PGE2 6錠→人工破膜→PGE2+2錠
→全開大→PGE2 +1錠 →吸引+クリステレル1x
→クリステレル単独→鉗子遂娩術→クリステレル
→娩出
過剰負荷
過剰負荷
過剰負荷
クリステレル胎児圧出法に関する調査
(2013年2-3月実施)
• 共同研究者:三重中央医療センター 産科・婦人科
前田 眞
鈴鹿医療科学大学桑名地域医療再生学講座 石川 薫
対象施設:全国周産期医療(MFICU)連絡協議会のメーリングリスト参加
施設
– 参加施設数 163
– 回答数
106 65%
• 総合周産期母子医療センター64施設
• 地域周産期母子医療センター36施設
• それ以外 6施設
• 質問の内容:
•
クリステレル胎児圧出法
–
–
–
–
–
実施の有無
他の術式との併用の順序
術式・術者
データの追加、再検討の結果、
適応
抄録と数値が異なることをご了解ください。
有害事象
貴施設でのクリステレル(肩甲難産を除く)
について御回答下さい。
1.
実施しない。
2.
吸引・鉗子術併用に限って実施す
ることがある(複数回答可)。
1.
2.
3.
最初から吸引・鉗子術+クリステレル
吸引・鉗子術→娩出せず→吸引・鉗
子術+クリステレル
6.
1.
2.
3.
7.
吸引・鉗子術併用に限らず実施す
ることがある(複数回答可)。
1.
2.
クリステレル→娩出せず→吸引・鉗
子術+クリステレル
クリステレル→娩出せず→吸引・鉗
子術→娩出せず →吸引・鉗子術+
クリステレル
クリステレルの方法は(複数回答
可)
4.
1.
2.
3.
片手で軽く押す
馬乗りになって押すこともある
その他
(
)
クリステレルの実施は
5.
1.
2.
必ず医師の立会下で行う
助産師の判断に任せる場合もある
クリステレルを実施するのは(複数
回答可)
クリステレルの適応は(複数回答
可)
1.
2.
3.
4.
8.
胎児機能不全
疲労等による努責不良
硬膜外無痛分娩
その他
(
)
クリステレルによると考えられる有
害事象(子宮破裂、Ⅲ度以上裂傷
など)を2012年中の分娩で
1.
2.
9.
医師
助産師
その他
経験していない
経験した(
、 例)
貴施設の2012年の分娩数、帝王
切開数を御回答下さい。
1.
2.
分娩数 (
帝王切開数 (
)
実施することがあるか、する場合の順序
実施しない 11施設(
10%)
吸引・鉗子術併用 最初から吸引・鉗子術+ク
リステレル
に限って実施する
ことがある
吸引・鉗子術→娩出せず
→吸引・鉗子術+クリステ
22施設(21%)
レル
実施する
クリステレル→娩出せず→
95施設
吸引・鉗子術併用 吸引・鉗子術+クリステレ
(90%)
ル
に限らず実施する
6/22施設
16/22施設
67/73施設
ことがある
クリステレル→娩出せず→
吸引・鉗子術→娩出せず
73施設(69%) →吸引・鉗子術+クリステ
レル
34/73施設
術式と術者
クリステレルの方法は(複
数回答可)
片手で軽く押す
58/95施設
馬乗りになって押すこともある
38/95施設
両手で押すこともある
44/95施設
必ず医師の立会下で行う
95/95施設
クリステレルの実施は
クリステレルを実施するの
は(複数回答可)
助産師の判断に任せる場合もある
0/95施設
医師
助産師
その他
95/95施設
45/95施設
0/95施設
適応と有害事象
胎児機能不全
79/95施設
疲労等による努責不良
86/95施設
硬膜外無痛分娩
22/95施設
その他
13/95施設
経験していない
88/95施設
経験した
7/95施設
具体例
Ⅲ、Ⅳ度裂傷19例
クリステレルの適応は
(複数回答可)
クリステレルによると
考えられる有害事象
高次周産期医療機関を対象とした
クリステレル胎児圧出法に関する調査結果のまとめ
• 90%程度の施設で実施されている実態がある。
• 実施することがある施設の中では、吸引・鉗子遂娩術の補
助に限定して実施している施設が約4分の1、クリステレル
単独でも実施することのある施設が約4分の3だった。
• 医師主導で行われており、術式はよりマイルドなものを選
択している傾向が認められた。
• 適応は「胎児機能不全」と「努責不良」が多かった。
• 有害事象として、7%の施設で産道損傷を経験していた。
• 多くの産婦人科医は、この術式の臨床上の有効性を認め
る一方で、合併症リスクへの懸念も持っていた。
• 専門家の間で、術式そのものの実施の可否、実施する場
合でも単独実施の可否について、コンセンサスが存在しな
いことが確認された。
子宮底圧迫法について
私案(改定版)(1)
• 基本的な方向性
– 多くの施設で実施されている現状、有効性と合併症
リスクに関するエビデンスの欠如を認識した上で、今
後は、実施症例を限定し、最終的には、この術式を
可能な限り行わないですむ分娩管理法の確立を目
指す。
– 介入を必要としていない分娩への「補助」としては実
施しないこととし、介入を必要とする根拠、適応のあ
る症例に限定して、医療行為として、医師が主導して
実施する。
– 産科手術として、明確な適応が存在し、要約を満た
すこと、実施された術式と産道損傷の状態が明確に
示された手術記録を残す。
– 有害事象の発生率等を含め、本術式に関する臨床
研究が実施可能な環境を整備し、奨励する。
子宮底圧迫法について
私案(改定版)(2)
• 用語:「子宮底圧迫法」としてはどうか。(「クリステレ
ル」は使用しないことにする。)
• 説明と同意:必要時のみ行うことについて、産婦の事
前の文書同意を得ることとしてはどうか。
• 術式:「馬乗り」になって行うことはやめ、「産婦の横に
立って、片手または両手でおす」までにしてはどうか。
• 適応:
– 単独実施は「努責不良症例」に限定してはどうか
– 「胎児機能不全」の場合は吸引・鉗子を行い、必要に応じ
て子宮底圧迫を併用することとしてはどうか。
子宮底圧迫法について
私案(改定版)(3)
• 要約:
– 母体が手術に耐えうる
• 母体腹部に異常所見がない
• 子宮奇形・子宮腫瘍・子宮手術の既往がない
–
–
–
–
–
–
成熟児
頭位・単胎
子宮口全開大
児頭骨盤不均衡がない
既破水
「子宮底圧迫適位」
• 吸引・鉗子分娩の補助手段の場合: 吸引・鉗子適位
• 単独で実施する場合: 児頭排臨(あるいは児頭出口部)
– (完遂出来なかった場合、帝王切開術を直ちに実施しうる)
子宮底圧迫法について
私案(改定版)(4)
• 回数制限
– 単独実施の場合:2回までとし、娩出しない場合は吸
引・鉗子遂娩術に移行する。
– 子宮底圧迫単独実施と吸引遂娩術、及び吸引+子宮
底圧迫の施行回数は合計5回までとする。
– 吸引・鉗子遂娩術の補助手段として実施する場合:吸
引・鉗子遂娩術の回数制限を適用する。
今後の進め方(私案)
• 全国実態調査の実施
– 後方視的調査
– 対象:
• 全分娩施設?
• 産婦人科専攻医研修指導施設?
– 調査内容
•
•
•
•
•
実施頻度
術式
適応
要約
合併症の詳細
• 臨床研究の実施
– 前方視的研究
– デザイン:標準的と考えられる術式・適応・要約の範囲
– エンドポイント:
• 有効性
• 有害事象発生率
• ガイドラインへの掲載を検討
謝
辞
発表の機会を与えていただいた
日本産科婦人科学会第65回学術講演会
学術集会長
櫻木 範明 先生に
心より御礼を申し上げます。
座長の労をおとりいただいた
岡井 崇 愛育病院院長
池ノ上 克 宮崎大学教授
両先生に深謝いたします。