2002.9.28 ディジタル画像の物理評価 -その実践と活用法- 名古屋市立大学病院 中央放射線部 市川勝弘 ディジタル画像の物理評価項目 ・入出力特性 - ディジタル特性曲線 ・解像度 ー MTF(modulation transfer function) (変調伝達関数) ・粒状性 - WS (Winener spectrum) 物理評価の意味(本当に必要な事か?) ・画質を定量的に表す指標 ・行うことによって,ディジタル画像の仕組みを知る アナログ的に考えられる項目 入出力特性 入出力特性(ディジタル) 特性曲線(アナログ) 4000 3.0 3000 濃度 ディジタル値 4.0 2.0 2000 1.0 1000 0 0 1.0 2.0 3.0 4.0 比露光量(Log rel. exposure) 0 10 1 10 2 10 3 10 4 露光量 ・一般的に,露光量の対数に比例して,10bit(1024)から12bit(4096) の値が割り当てられる. ・露光量が10倍で,ディジタル値が約1000上昇する設定が多い. 入出力特性(ディジタル) LUT(ルックアップテーブル) 4000 250 200 出力画像ディジタル値 ディジタル値 3000 2000 1000 150 100 50 0 0 10 1 10 2 10 3 10 4 1000 2000 3000 4000 ディジタル値 露光量 ・一般的に元データのディジタル値のガンマは約1000 (FCRは,1024/L値とほぼ等しい) ・画像のコントラスト(ガンマ)は後でLUT(Look-up table)で決める. ->自由自在にコントラストとラチチュードをコントロールできる. ディジタルの入出力特性の測定 ・露光量を変化させ,ディジタル値を測定 ・露光量の変化はタイマーで行う方法が簡便 (ディジタルでは一般的に相反則不軌がない) 適当な電圧,電流にて, 1ms,10ms,100ms,1sec,(10sec) ・露光量(タイマー値)の対数をX軸にディジタル値 をY軸にプロット 測定の意義 ・メーカ提供の資料の確認 ・低線量領域の特性の把握 IPなど 各物理評価の前に... サンプリング ディジタル化とは ・画像を離散的に採取すること ・採取したデータを画像化すること 「モザイク化」とは少し異なる ・画像を離散的に採取すること 「サンプリング」 決められた点(間隔)の位置の,画像の値を採取する. 微小な点で採取するか,ある点を中心にした範囲を採取する 「画素値」 採取された値 注)LUTを通過した後の表示画素値とは異なる. 適度なサンプリング 粗いサンプリング(Under Sampling) 細かいサンプリング(Over Sampling) サンプリングの間隔は,解像度とデータ量に関わる.さらに... サンプリングの“質”も存在する. 極短時間にサンプリング 一定時間を積分 (サンプリング間隔と 等しい時間) 一定時間を積分 (サンプリング間隔 より広い時間) サンプリングによる画質変化 一定時間を積分して サンプリング この窓で,採取する=範囲の平均→ボケる ボケた分布を極短時間に 採取したのと同等 サンプリングによる画質変化 サンプリングによってボケた場合 ボケがない場合,しかし... ・ボカさずに,サンプリングすれば,確かによい. =>ごく短時間に,細かい間隔で ・しかし,データ量も考えなければならない. =>適度な時間幅で,適度な間隔で. そこで,サンプリングの定理により, 被写体の情報量にみあった,サンプリングを行うことが必要 サンプリング定理について 被写体の持つ周波数成分の2倍以上の サンプリング周波数でサンプリングすれば そのサンプリングデータから被写体情報を 再現できる。 (例) 被写体の最高周波数5cy/mmの時 1/(5X2)=0.1 0.1mm間隔以上でサンプリング する必要がある。 ナイキスト周波数=サンプリング周波数/2 0 空間周波数 例) 0.1mm間隔のサンプリング=10cycles/mmのサンプリング周波数 5cycles/mmまでに情報が限られれば,OKだがしかし... 「被写体は,どんな情報量のものが来るか,わからない.」 1次元の波形によるシミュレーション 「被写体は,どんな情報量のものが来るか,わからない.」 では,情報量を制限して,それをサンプリングすれば良い. フィルタリング ということは, f 少し,質の低いサンプリング =有効で合理的 サンプリングデータと画像化 平均、同一値で埋める(モザイク化) 平均->代表値->補間(直線補間) サンプリング->再現 帯域制限 F(X,Y)×Q(X,Y) エリアシング(aliasing)エラー Alias….別名、偽名 ・被写体の含む、最高周波数の2倍のサンプリング 周波数以下でサンプリングした場合、高周波成分 が別の周波数成分として観測される。 ・粗いサンプリングを行ったとき、細かいものが見えな いのではなく、違ったものに見える。 0 空間周波数 折り返し+ 0 空間周波数 折り返し- 0 空間周波数 グリッドのエリアシング誤差のシミュレーション 5ピクセル間隔の縞模様を付加 2.5ピクセル間隔以下のサンプ 4ピクセル間隔でサンプリング リングが必要 元画像(10ミクロン) 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0 サンプリング画像 (100ミクロンピッチ) CRにおけるエリアシング誤差除去 IPのMTF 0 空間周波数 レーザー読取のアパーチャ 読取回路のMTF デジタル化 IPのMTFと,アパーチャによるボカしが,効果的. フラットパネルにおけるエリアシング誤差除去 ボカすことなく 入力される 直接型 この幅で少し ボカされる 蛍光体で ボカされる 間接型 蛍光体のMTFと,アパーチャによるボカしが,効果的. サンプリングデータからの画像復元 サンプリング × ○ サンプリング後のデータはどれ? デジタル化されたデータから画像を再現する のような波形を 再現したい しかし... 一定値で置き換え 補間して表示 ハードウェアの制限から,理想的な再現は難しい CRにおける画像復元 デジタル化 D-A変換 (Sample & Hold) レーザープリンタ 書込アパーチャ 書込み回路の応答 or CRTの応答 同一値で 埋める (モザイク化) 原画 直線補間 帯域制限 画像再現 階調 10bit 12bit 16bit ... どれが良い? 10bit : 1024 12bit : 4096 16bit : 65536 4000 ディジタル値 3000 2000 露光量10倍になると 10bitでは,250増える 12bitでは,1000 16bitでは,16000 1000 0 10 1 10 2 露光量 10 3 10 4 従来のフィルムの場合, 特性曲線(アナログ) 約数十倍から100倍の範囲を描出 4.0 3.0 濃度 100倍とすると, 2.0 10bitでは,500階調 12bitでは,2000階調 16bitでは,32000階調 1.0 0 0 1.0 2.0 3.0 4.0 比露光量(Log rel. exposure) 12bitは,必要? しかし,10000倍の範囲の信号を扱うことは可能か? 最大10Vの信号出力で,10/10000=0.001Vの分解が必要 ・サンプリングの質というものが存在する ・サンプリングに見合った,画像情報がある. ・場合によっては,画像をボカしてからサンプリングする ・画像の復元は,理想的ではなく,制限的に実現されている これらが原因で,ディジタル画像の画質が劣化する. 目的との関係で画質設計 物理評価 解像度測定(MTF測定) 粒状性測定(ウィナースペクトル(WS)測定) 物理評価をするための条件 ・基本的に,フィルム出力された画像からの測定ではない. ・画像データを間引きせずに取得できること. ->最近はDICOM規格の普及により,容易に. ・専用ソフトウェアが,存在すること. ・または,プログラム言語を扱えること. ・ディジタル画像の性質をよく理解して,ソフトウェアを 使えること よって,なかなか困難であることが通常 解像度測定(MTF測定) デジタル画像のMTF測定 スリット法 ごく細いスリット像を撮影=広い周波数成分を持つ信号を入力 フーリエ変換によりMTFを計算 *エリアシング対策:スリットをやや斜めにして撮影。(Fujitaら) 矩形波チャート法 矩形波チャートを撮影して,データ処理によりMTFを計算 *エリアシング対策:波形再現法と周波数選択(市川ら) ・アナログで用いられたコントラスト法は、ピーク値検出精度 と測定手技の問題がある。(畑川ら) スリット法 スリットをMTFを測りたい方向に 垂直に配置して,やや(2度程度)傾ける 測定方向 IPなど スリット画像の拡大 スリット法の問題点 センター アライメント シフト アライメント スリットを用いると,これらの状態はMTF測定値が 異なる. センター アライメント シフト アライメント いろいろな状態のLSFのデジタル値から 詳しいLSFを合成すればよい。 slit slit chart chart 垂直方向 水平方向 実際のMTF測定値の変化を 見てみましょう。 プリサンプリング(presampling)MTF ・一般的にスリット法で求められるディジタル画像のMTF ・その名の通り,サンプリングの前のMTF CRにおけるプリサンプリングMTF IP 0 空間周波数 レーザー 読取アパーチャ 読取回路の応答 ここまでのMTF(ボケ要因)を測定する. スリット法の実演 矩形波チャート法 矩形波チャートの波形を整数波数分とりだして、そのデータをフーリエ変換する ことによってMTFを得る方法。 整数波数分とりだす 入力の波高 入力波高に応じた矩形波を設 定して、それぞれフーリエ変換 する。この場合は3サイクルの フーリエ係数の比をとる。 0 cycle/mmの topとbottomの決定 各周波数の MTF計算 (b) (a) 資料撮影風景 アルミステップ (ブートストラップ法による特性曲線 作成用) (c) 矩形波チャート KYOKKO type1 撮影資料の 出力画像 矩形波チャート法の実演 Modulation transfer factor 1.0 slit chart1 chart2 chart3 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 0 1 2 3 4 5 Spatial frequency (cycles/mm) 測定法によって結果が違うという現象も観察されている. slit slit chart chart 垂直方向 水平方向 CR装置の信号処理 レーザによる IP読み取り アナログフィルタ AD変換 対数アンプ AD変換 ディジタルフィルタ スリット像 対数化によって MTFが低下 MTF MTF 1.0 × チャート像 成分値変化 ほとんど無し MTF トピック CRTの解像度測定 バーパターンによる方法 ・信号発生器による正弦波法で,電気回路の特性も反映できる.(金澤ら) ・バーパターンを専用のCCDカメラで局所的(20x20ピクセル)に撮影, フーリエ解析してMTFを求める.解析法は未提示.(proc. SPIE Blumeら) 正弦波法 専用の信号発生器必要 矩形波法 バーパターンを表示 Computer (Video interface) Video signal circuit LPFs1 Bar pattern data = square wave data Video output Display Display gamma Video signal circuit B LPFs2 Spot size Pixel structure LPFo V Light output Maximum level Minimum level Convert to luminance Interpolating with wave reproduction Convert to luminance Maximum level Minimum level Fourier analysis Mn (n = 1~6) Fourier analysis In (n = 1~6) MTF = Mn / In ( Mn, In : amplitude of fundamental frequency ) ディスプレイ測定のための撮像装置(媒体) ・カメラ(35mm一眼レフ)とフィルム 現像処理で,濃度スキャンが必要. 安定性汎用性に欠ける. ・イメージセンサ(CCDラインセンサ) 入手が困難,データ取得が困難で汎用性に欠ける. ・市販ディジタルカメラ 入手は簡単で安価.性能と信頼性に問題 *プロ用の一眼レフレックス方式のディジタルカメラ は,やや高価だが,性能的に優れる. 一眼レフレックス方式ディジタルカメラ ・横方向画素数2000~3000 ・10~12ビット/画素 ・単板CCD or CMOSセンサ カラー用なので,画素構造の考慮が必要 CRTを一眼レフタイプの高性能ディジタルカメラで撮影 ディジタルカメラによるサンプリングの問題 *限られた範囲の繰り返し波形の周波数解析には,整数周期分の 抽出が不可欠 B A 正確な成分解析は不可能 (周波数解析における漏れ が発生) 正確な成分解析が可能 1画素あたり,5ピクセルのサンプリングを行っても,上図Aのような 範囲を正確に抽出可能とは限らない. ディスプレイの1画素は0.2~0.3mm,1画素あたり20サンプリング 0.2/20 = 0.01 ディジタルカメラの画素数2000ピクセル 0.01x2000 = 20mm 撮像視野が20mm <- これは× よって,なんらかの正確な補間処理が必要. ディスプレイの画素ピッチとディジタルカメラの画素ピッチ *ディスプレイ上の1画素あたり,5点サンプリングすればナイキスト周波数 の5倍までの 周波数を測定可能である ディスプレイ上の1画素幅の バーパターン ディジタルカメラのディスプレイ上 の画素幅 画素ピッチ0.25mmの場合,ディジタルカメラの画素ピッチは0.05mm となるように撮影 0.05x2000=100 100mmの撮像視野 <- ◎ 解析画面 MTF測定結果 1.0 Vertical 0.8 MTF 0.6 Horizontal 0.4 0.2 0 fN fN /2 (fN : Nyquist frequency) Spatial frequency カラーディスプレイのMTF測定 白黒CRT カラーCRT1 カラーCRT2 シャドウマスクの影響は検討課題 周波数処理を用いた画像評価 1.0 noise image A noise image B M.T.F MTFA(u) MTFB(u) 0 spatial frequency frequency processing with FP(u) FP(u)=MTFB(u) / MTFA(u) FP(u) : frequency processing factor processed noise image A noise image B 1.0 response FP(u) 0 comparing spatial frequency Fig.1 周波数処理の実演 1.0 HSA Modulation transfer factor 0.8 PLUS4 0.6 0.4 0.2 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 Spatial frequency (cycles/mm) 1.0 周波数処理係数FP(u)=MTFPLUS4(u)/MTFHSA(u) 1.0 Processing factor 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 Spatial frequency (cycles/mm) 1.0 Modulation transfer factor PLUS4 0.8 HSA(processed) 0.6 0.4 0.2 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 Spatial frequency (cycles/mm) 1.0 (a) (b) HSA (c) HAS(処理後) PLUS4 (a) (b) HSA(処理後) PLUS4 Wiener spectrum value (mm2) 10 3 10 2 10 1 10 0 HSA(processed) 10 -1 10 -2 0 PLUS4 0.2 0.4 0.6 0.8 Spatial frequency (cycles/mm) 1.0 -1 Signal-to-noise ratio 10 -2 10 HSA -3 10 PLUS4 -4 10 0 0.2 0.4 0.6 0.8 Spatial frequency (cycles/mm) 1.0 ディジタル画像の評価の実践 ・まずやはり,特性曲線,MTF,WSを測定できる 環境(または,スキル)が必要. ・装置の仕組みを理解する. ・画像処理について理解する. ・できる事からで良いので,はじめる. ・総合評価にこだわらない. (他の特性を一致させて,視覚&物理評価をする) ・評価結果を,必ず視覚で確認する. ディジタル画像の物理評価は,今 ・現状では,誰もが使える完成されたソフトはない. ->現状では,各施設で行うのは困難. ・画像処理により,画質を自由に調節できるので 物理評価の意味は?か? ->画像処理を行う時,画像の性質を知って 行う場合は,解決が圧倒的に速い. アナログ時代に,画像評価に関心が集まったように, ディジタル画像評価への関心と,実践が大切.
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