21世紀COE成果報告会ポスター7 軟X線光電子分光を利用した銅酸化物超伝導体 Nd1.85Ce0.15CuO4のバルク電子状態の研究 恒川雅典 [菅グループ(D2)] 【共同研究者】 阪大基礎工1 , 東大工2, JASRI3 関山明1 ,笠井修一1 ,石田祥之1 ,浜崎高志1,天野陽介1 ,福田泰洋1 ,Michael Sing 1 ,今田真1 ,菅滋正1 ,小野瀬佳文2,十倉好紀2,室隆桂之3 これまで銅酸化物超伝導体は様々な手法によって精力的に研究が進められてきた。角 度分解光電子分光(ARPES)はその代表的な手法の1つであり、超伝導体の電子状態を波 数分解して観測することが可能である。最近になって超伝導ギャップの異方性や準粒子 ピークを高精度で観測してきたことからその有効性は広く認知されている。電子ドープ型銅 酸化物超伝導体Nd1.85Ce0.15CuO4もその例外ではない[1]。これまで華々しい成果をあげて いるARPESではあるが、その結果の殆どは低エネルギー励起光(<約50meV)を利用した ものであり、固体内で励起光電子の平均自由行程は数Åよりも小さいと考えられる。これら の結果がバルク電子状態を十分反映しているかどうかについては、今のところ明らかでは ない。一方、Ce化合物や遷移金属化合物では、軟X線を利用することで光電子分光の結 果がバルク電子状態を反映することがわかっている[2]。同様に軟X線を利用することで ARPESの結果にもバルク電子状態の反映が期待できる。そこで我々は軟X線光電子分光 を利用した銅酸化物超伝導体Nd1.85Ce0.15CuO4のバルク電子状態を調べることとした。 我々はこの系のバルク敏感な軟X線ARPESと、それによるFermi面マッピングに初めて成 功した。SPring-8 BL25SUにて励起エネルギー 500eV 測定温度20Kに設定したところ、ホ ール的なFermi面が観測された。そのフェルミ面の面積や形状については、低エネルギー 励 起 光 ARPESによる既存の結果[1]と同様の傾向を示していることがわかった。 一 方 、 (0, 0)-(π, π)方向の軟X線ARPESスペクトルでは、kF 近傍のエネルギー分散スペクトル形状 が低エネルギー励起光ARPESの結果と異なっていた。軟X線光電子スペクトルがバルク敏 感であることから、これらの結果より表面とバルクでは電子状態が異なっていることが示さ れ、準粒子ピークの強度が表面とバルクでは異なることを示していると解釈できる。また、 光電子放出角度を変えて測定することで、バルク敏感なスペクトルと表面敏感なスペクト ルを両方観測することができる。 Ce 3d-4f XAS・共鳴光電子分光でこれを試みたところ表 面とバルクで電子状態が異なっているという解釈に矛盾のない結果が得られた。 当日はマッピングされたFermi面とARPESスペクトルを紹介し、バルク電子状態を議論す る。 [1] N. P. Armitage et al., Phys. Rev. Lett. 87, 147003 (2001). [2] A. Sekiyama et al. Nature 403 396 (2000)
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