「情報倫理」 関西学院大学 理工学部 情報科学科 早藤貴範 Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 授業ガイダンス 成績評価の方法 : A. 出席点 B. 学期末筆記試験の成績 *試験時間 80分(各倫理 1問、計3問) *教科書など全て持込み可 出席重視の徹底 *授業開始後15分以降は欠席とみなす。 講義録の公開 : *http://sci-tech.ksc.kwansei.ac.jp/˜hayafuji/ index.html Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 参考図書 1.情報教育学研究会編 : 「インターネットの光と影」、 北大路書房(2000). 2.サラ・バーズ: 「IT社会の法と倫理」、 (株)ピアソン・エデュケーション(2002). 3.辰巳丈夫 :「情報化社会と情報倫理」、共立出版(2002). 4.名和小太郎、大谷和子 : 「ITユーザの法律と倫理」、 共立出版(2001). 5.名和小太郎 :「ディジタル・ミレニアムの到来」、 丸善ライブラリー(1999). 6.佐々木良一 : 「インターネット セキュリティ入門」 岩波新書(1999). Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 授業日程と内容(全4回) 第一回:11月 4日(水) *情報倫理の基礎 ・倫理と応用倫理、情報と情報倫理 第二回:11月11日(水) *法と情報倫理 ・「法律」と「慣行」と「条理」 第三回:11月 18日(水) *情報倫理の実際 ・人権としての著作権 第四回:11月 25日(水) *人権侵害とセキュリティ ・被害者・加害者・犯罪者 Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 「情報倫理」 第一回講義録 情報倫理の基礎 *倫理と応用倫理 ・科学倫理と社会倫理 *情報と情報倫理 ・情報の特殊性 *インターネットと倫理 ・現代の倫理の特徴 演習1:情報化社会おける現代の倫理の特徴について 論じなさい。 Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 「倫理」への導入(1) <沈没しようとする船から多くの乗員が投げ出されている。 救命艇は小さい。さて、どのような行動をすればよいか> <10人の人を救うために一人の人を殺してよいか> 経済倫理 「希少性」の制約下における「分配問題」 <「通信の秘密」を悪用した迷惑電話があとを たたない。 「通信の秘密」を抑制する仕掛けは許可されるか? 情報倫理 (州毎に判断が異なる 「表現の自由」 vs プライバシー保護 地方分権問題) Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 「倫理」への導入(2) ー経済倫理と経営倫理ー 経済倫理:「希少性」の制約下の「分配の正義」の問題 *全てのものが無限に存在する「夢のユトーピ」 ・倫理・経済問題は不在 ・美学と論理学の問題のみが存在 *利己主義の原則による競争 (アラン・ポー「アーサ・ゴードン・ピムの物語」) *「ルール」のある競争 倫理問題を競争的解決に委ねる (ガストン・ルルー「胸像たちの晩餐」) 経営倫理:組織の社会的責任による組織の統一的価値判断 *企業経営の価値的見直し *「効率性原理と競争性原理」に「社会性原理と人間性原理」を加える *新旧両原理間の相反性によるジレンマの自覚 参考文献: 「経済倫理学のすすめ」:竹内靖雄、中公新書(1990) 「経営倫理学のすすめ」:水谷雅一、丸善(1998) Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 「倫理」への導入(3) 「倫理」の必要性 *起源は<人間の共同生活> 公共の福祉の維持 *共同生活の維持のための自主的に守られる規則 *資源の有限性 現代社会における「倫理」の必要性 決疑論 *将来発生しうるジレンマや難問の解決のために 事前に用意しておく解決(論理的決定)の型 *ジレンマ (例:比較できない内容の比較): 「人命(A)を救うために、嘘(B)をついてもよいか」 「AよりBの方がよい。」 A ≠ B(倫理) A = B(論理) 加藤尚武:「現代倫理学入門」、講談社(1997). 水谷雅一:「経営倫理学のすすめ」、丸善(1998). Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 「倫理」への導入(4) 理念の衝突 *「表現の自由(ポルノ)」vs「公序良俗(未成年者保護)」 *「通信の秘密(プライバシー保護)」vs「国家安全保障(犯罪防止)」 *「公共性(標準化)」vs「市場競争(特許権)」 理念の衝突と倫理問題とのかかわり *法律が規定の場合、法律に従う *法律が無い場合、慣行に従う *慣行も無い場合、条理に従う 条理=物事の道理に従う Mastery for Service 倫理による判断に従う KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 「理念の衝突」と妥協策 名和小太郎:「ディジタル・ミレニアムの到来」、丸善(1999) 優先軸 表現の 知る権利 プライバ 市場原理 自由 シー保護 コピー レフト 表現の自由 知る権利 プライバ シー保護 市場原理 消費者保護 国の主権 ディジタル ミレニアム法 CDA 通信の 秘密 消費者 保護 ポルノ 電話 国の主権 EFF 納本制度 GPO アクセス P3P PGP 顧客デー タベース コーラー 50$ Vチップ I D ルール クリッパ 計画 ディジタ ル分裂 データ ヘイブン TAP CDA : Communication decency Act, P3P : Platform for Prevacy Preferences, EFF : Electronic Frontier Foundation, GPO : Government Printing Office, PGP : Pretty Good Privacy, TAP : Taxpayer Assetes Project. Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 情報倫理の基礎 -倫理と応用倫理- 倫理(学)(ethics) =純粋倫理(学) 「広辞苑」 *実際道徳の規範となる原理 道徳 :社会の成員の行為を規制する規範で一般に承認されたもの 外面的強制力を伴う法律ではなく、個人の内面的なもの *道徳の起源、発達、本質、規範について研究する学問 *哲学の三大部門:倫理学、美学、論理学 美学 :自然・芸術における美の本質や構造を解明する学問 論理学 :正しい思考の形式および法則を研究する学問 応用・実践倫理(学)(practical ethics) *道徳原理の理論的研究に対する一面 *道徳原理を具体的に応用し、実践する面を考究する学問 Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 倫理と応用倫理(1) 倫理(純粋倫理) *思想の源流 ・ギリシャ思想、キリスト教思想、仏教思想、中国思想 *西洋近現代の思想 ・ルネサンスの思想、宗教改革、近代自然科学思想、啓蒙主義、 功利主義、マルクス主義思想、実存主義思想、プラグマティズム *日本の思想 ・奈良・平安仏教、鎌倉仏教、朱子学派と陽明学派の思想、 福沢諭吉と啓蒙思想、中江兆民と民権思想 *現代社会の特質と課題 新しい思想 ・家族変動と社会変動、都市化・組織化と大衆社会、 高齢化・情報化・国際化社会 素人に専門的 実践倫理(学)(practical ethics) Mastery for Service 判断を求める KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 倫理と応用倫理(2) 実践倫理(学)(practical ethics) 素人に専門的 判断を求める ・道徳原理の理論的研究に対する他の一面 ・道徳原理を具体的に応用し、実践する面を考究する学問 *科学倫理<学習課題> ・医療倫理:インフォームド・コンセントの実践を問う ・環境倫理:未来世代の生存可能性への責任を問う ・生命倫理: <学習課題> ・情報倫理:<今回の学習課題> *社会倫理 ・経済倫理:「希少性」の制約下の「分配の正義」の問題 ・経営倫理:組織体(集団)の経営上の倫理を問う ・政治倫理: ? Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 倫理の系統図 純粋倫理 倫理 専門家の倫理 応用倫理 (実践倫理) 社会倫理 一般倫理 政治倫理 経済倫理 経営倫理 非専門家の倫理 科学倫理 Mastery for Service 医療倫理 環境倫理 生命倫理 情報倫理 KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 倫理とインターネット -インターネットについて- インターネット(computer inter-network): *コンピュータ・ネットワークをネットワーク化したもの、 ネットワーク相互の地球規模のコンピュータ・ネットワーク <inter> : ‐‐間、相互の international, intercollegiate, inter-high *1億台を越えるコンピュータが接続されている 世界の無国境化 US Japan Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY インターネットの歴史的背景 1957年 Advanced Research Projects Agecy設立(米国防省) *情報技術の研究開発、 全米大学に研究拠点(対ロ対策) 1964年 ポール・バラン(米、ランド社) *論文「分散型通信について」を米空軍に提出。 空軍拒否 *ディジタル方式、パケット交換方式を提案 1969年 ARPANETで4大学(MIT,CM,UCLA,SF)接続 1983年 ARPANET TCP/IPに移行 *軍はMILNET構築 1984年 JUNETで3大学(TU、Titech、KU)を接続 1989年 JUNET (WIDEプロジェクト)、FIX‐Westと国際接続 1991年 商用利用の解禁 爆発的普及 アカデミック・ネットワークからビジネス・ネットワークへ Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 情報倫理の定義 情報倫理とは? *「情報行動において、人間として行うべきこと、 または行ってはならない原理・原則のこと」 ・情報行動 : 情報の処理・加工・記憶・蓄積 および交換・伝達に関する行動 (日本セキュリティ・マネージメント学会) *社会の成員としての情報処理行為を規制する規範 ・情報処理 : 目的に沿ってデータを 収集・整理・記録・加工・分析し、 新たな情報を生成・伝達すること *情報社会の生活者が、ネットワークを利用して、互いに 快適な生活をおくるための規範や規律 (情報教育研究会:「インターネットの光と影」) Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY インターネットと倫理 <情報倫理の定義> 情報社会の生活者が、 ネットワークを利用して、 互いに快適な生活をおくるための規範や規律 (情報教育研究会:「インターネットの光と影」) 無国境性と不特定性(無法性) : *国毎の法律の有効性の問題 情報交換のubiquitous性(時空性) : *「いつでも、どこでも、誰とでも」の問題点 誰がどこで裁くのか 生活者と専門家の混在 汎用性と自由利用の原則 *利用法の無制限性 Mastery for Service 表現の自由の問題 KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 情報と情報倫理(1) -情報のもつ特殊性- 情報 : *意思決定に用いられるデータ(事柄)、 あるいは、主観的に意味を持つデータ(事柄) 情報の特性 *発信者と受信者の存在(受信者への影響) *意図の介在 *価値の個別性 *情報の伝搬性 インターネットによる伝播速度の飛躍的増大 *情報の残存性(無体物 有体物) インターネットの *情報の複製容易性(ディジタル情報の特性) 無国境化 Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 情報と情報倫理(2) -なぜ、今、情報倫理なのか(2)- 現代の倫理の特徴 1.功利主義的倫理 宗教を離れた世俗性 2.自由主義的倫理 市場経済を背景にした合理性 3.民主主義的倫理 普遍化した多数決原理 他者に危害を及ぼさない範囲での 自己決定権の存在 インターネットの利便性と危険性 被害者 加害者 Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 情報と情報倫理(3) -なぜ、今、情報倫理なのか(1)- 現代の倫理の特徴 功利主義的倫理 自由主義的倫理 民主主義的倫理 宗教を離れた世俗性 市場経済を背景にした合理性 普遍化した多数決原理 倫理の質的変化 生活者レベルの倫理 専門家レベルの倫理 Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 「情報倫理」の位置付け インターネットの「影」の問題解決の立場から 1. 技術的な解決方法の視点 2. 法制度による解決方法の視点 3. 情報倫理による解決方法の視点 インターネットの利用者の立場から 1. 被害者にならないための視点 2. 加害者にならないための視点 3. 犯罪者にならないための視点 情報処理関係の研究集団の立場から 1. 社会人としての視点 2. 専門家としての視点 3. 組織責任者としての視点 Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY ベスト・エフォート型 vs ユニバーサル型 ベスト・エフォート型サービス * 「サービス提供者は最善の努力をする」というサービス *インターネットワークのサービスの形態 *インターネットワークに責任者が不在であることに起因 *送受信の責任は、ネットワーク側でなく、双方の端末側 (TCP/IPの採用に起因) *歴史的背景:アカデミックネットワーク ビジネスネットワーク 行政はインターネットに対する規制手段を持っていない ギャランティ(ユニバーサル)型サービス *公衆電話網 :1つのポリシー・1つのシステム・公平なサービス Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY ベスト・エフォート型 vs ユニバーサル型 ユバーサル・サービス ベスト・エフォート(BE) BE+市場原理 理念 事業者 運用責任 ネット構築 知的財産 あまねく公平 公益事業 あり 計画的 公開 良心的無政府主義 ボランティア なし (BE) 自然成長的 共有 自由競争 営利事業 BE 機会主義的 ? ユーザ 料金 利用倫理 だれでも 公共料金 事業者まかせ 研究者 公共負担 自己責任 クラブ群 競争料金 自己責任 標準化 秩序形成 ITU標準 法律 インターネット標準 倫理 ディファクト標準 倫理+契約 参考文献:名和小太郎:「ディジタル・ミレニアムの到来」、丸善(1999). Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 「法律」と「慣行」と「条理」(1) インターネットはベスト・エフォート型 *良心的無政府主義の伝統 *インターネット原理主義 インターネット空間のガバナンス *主権の及ばない無国境化 *データ・ヘイブン(データ避難港)の低規制国の出現 これまで インターネット・コミュニティは 主権による保護は期待できない空間 Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 「法律」と「慣行」と「条理」(2) 理念の衝突への対応 ①法律の規定がある場合、「法律」に従う ②法律の規定がない場合、「慣習」に従う ③慣習がない場合、「条理」に従う 「倫理」による判断に従う 情報に関する法制度の基本的な枠組み Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 法律の構造 法律の構造 *論理性の重視 ・大原則となる基本条項 +言論、出版その他の一切の(表現の)自由は、これを保障する。 ・大原則となる条項に付加された例外規定 +国民はこれを濫用してはならない *安定性の維持 ・法律がない場合: 法律家: 慣行の重視 技術者: 慣行の軽視・無視! (技術・商品・営業において) Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 技術(者)の思想と性質 技術(者)の思想と性質 *非論理性の重視 ・事実による演繹、近似の高度化、統一理論 *不安定性への指向 ・技術的常識の打破と技術革新 ・技術による法律や慣習の陳腐化 VTR裁判、DAT裁判 研究者・技術者はルール・ブレイカーを志向!! Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY <法律>と<技術>乖離 -法律家vs技術者- 法律(家) 演繹的様式 *社会の安定性 *判断の連続的論理性 *思想・思考様式の保守性 技術研究(者) 帰納的様式 *技術の変革 *判断の不連続的論理性 *思想・思考様式の先進性、新規性、進歩性 Mastery for Service <技術>と<法律>乖離 法の欠缼(けんけつ) 法律の存在しない状態 KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY 法の欠缼(けんけつ) -法律の存在しない状態- VTR裁判 *TV放送の映画を家庭で録画する行為 : ・著作権侵害か? *1981年、ユニバーサルとディズニーがソニーを提訴 DAT裁判 *ディジタル・オーディオ機器による録音する行為の違法性 *198?年、米国、サミー・カーンがソニーを提訴 演習問題-法の欠缼1. 情報技術の発達によって、<法の欠缼>が 生じた例をあげなさい。 Mastery for Service KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY
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