経営戦略11:意図された戦略と 実現された戦略 神戸大学経営学部 経営大学院 2種類の戦略 意図された戦略 意図された戦略を実現で きるように努力する 実際に実行された戦略 構想を実現することはで きないし、構想どおり実 行することが望ましいこ とだとは限らない 実際に経営成果を決める のは実行された戦略 構想された戦略と実現された戦略と が違ってくる理由 不確実性:予測できないこと、コントロールで きないこと 外界の不確実性:顧客の予期せぬ反応、競 争相手の予期せぬ反応 実行過程の不確実性 予期せぬチャンスの出現や発見 よりよい結果を生み出すために 明確な方針と実行の自由度 よい予期せぬ出来事を起こすために コントロールすべきこととコントロールすべき でないこと 即興性を訓練する 朝令暮改の意義と限界 そのための方法は? クイズ: ドイツ松下電器の乾電池事業 戦略実行の組織運営のあり方 担当者への指示の出し方 経営理念の役割 販売の開始 松下電器は、フィリップス社と合弁で生産した 乾電池をドイツで販売することになった その販売の責任者として佐久間昇治が派遣 された ドイツへの赴任の直前、佐久間は海外事業 担当副社長の高橋荒太郎に呼び出された 高橋は松下幸之助の右腕でミスター経営理 念とも呼ばれていた。 高橋との会話 「君はわが社の経営理念である共存共栄の 精神を知っているか」 「業界の他の企業に迷惑をかけず、供給会社、 販売店とうまく共存を図るということです」 「わかりやすくいうと、値引きはするなというこ とだ。具体的には、その市場で最も高い値段 をつけろということだ。ドイツでもそうして欲し い」 ドイツの市場 ドイツでは国内の過半のシェアを押さえているボル タ社が市場リーダーであった。同社は市場での知名 度を利用して最も高い値段(1.30マルク)で販売し ていた。 その他の競争相手は海外メーカーだった。日本の 日立、東芝は1.15マルクで販売し、日本のノーベ ルは1.1マルク、」香港メーカーは0.9マルクで販 売していた。 佐久間はどのような小売価格を設定すべきか 松下電器はドイツではまったく無名で、パナソ ニックというブランドも知られていなかった。 この市場で最高価格を設定することは難しい と判断した佐久間は、日本メーカーの最高価 格で売るという決定をして高橋の了解を求め た。 それに対して高橋はどのように対応すべきか 高橋の反応 高は際の答えは「ノー」だった。「君は私のいったこと をもう忘れたのか。その市場の最高価格で売れと いったではないか」 佐久間は小売店へのマージンに注目した。ボルタは、 小売店に20ペニッヒのマージンを与えている。日本 メーカーは25ペニッヒのマージンを与えていた。 佐久間は日本メーカーと同じ1.3マルク、卸値で小 売値はボルタと同等の90ペニッヒにすることを決め た この意思決定に対して高橋はどのように臨む べきか 高橋の厳命 高橋を説得すべく、佐久間は、ドイツ人の担 当者を連れて帰国した。 高橋は「それは値引きではないか。小売店が そのマージンを値引きに使えばどうなるのか」 佐久間の苦悩 高橋はドイツの市場のことを理解していない と佐久間は考えた。高橋の指示を守ろうとす ると、乾電池は売れそうになかった。 佐久間は不眠症になってしまった。 ある早朝、窓から外を眺めていると、スー パーマーケットヘ「フレッシュ・ディーンシュト (サービス)」という文字を書いた車が入って いくのが見えた そのとき、佐久間はこのアイデアを乾電池で も使えないかと考えた。 佐久間は、「松下の乾電池は新しい」というこ とを顧客にアピールすることによってボルタと 同じで価格でも売ることができるのではない かと考え、その考えを実行した。それでも、ボ ルタと同じ価格にするのは難しい。 事例の評価 数年後、佐久間が帰国するときの松下電器 のドイツでの乾電池のシェアは4%であった。 この事例は成功か失敗か。いずれにせよそ の論拠を示せ この事例を元に経営理念の機能を考 える:理念へのこだわりが何を生み出 したか 次回までのクイズ:宿題 近所ではやっているお店を取り上げ、そのお店の やっていることを記述せよ そのお店のコンセプトは何か。どのような顧客にど のような価値を提供しようとしているのか 競争相手とどこで差別化しようとしているのか 締め切りは1月14日。授業時間中に回収する。A4 サイズのレポート用紙1枚にまとめて提出。これを 提出していないと最終試験には合格できない。試験 を受けても無駄。
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