2008年10月23日 06F0821 黒川洵樹 はじめに 今まで学んできたファイナンスの知識は実際の企業で どのように利用されているかを学びたいと思います。 また、業績評価の際にファイナンスを利用する事による 利点と気をつけなければならない問題点について学び たいと思います。 ① ② ③ ④ ⑤ 目次 経営戦略におけるファイナンスの役割 経済的利益(EP)とは 重要な要素の説明 ・税引後事業利益(NOPAT) ・資本コスト ・バリュー・ドライバー 業績評価 まとめ ①経営戦略におけるファイナンスの役割 経営戦略は何のために? ⇒株主価値を最大化するため 株主価値が最大なら他のステークホルダー(従業員・債権者・顧客・ 仕入先・得意先・社会 等々)を蔑ろにしていいのか? ⇒ステークホルダーの価値を最大化 ≠ 株主価値の最大化 ⇒ステークホルダーの価値を最適化 = 株主価値の最大化 ステークホルダーの価値を最適化できるプロジェクトに 投資していくことが重要!! 株主価値創造のためにファイナンスが果たせる役割 1. 評価・モニタリング 2. 財務上の意思決定における 戦略の立案とその実行 株主価値創造のための経営戦略 事業上の意思決定 財務上の意思決定 経営資源の配分 企業買収 ダイベストメント 資本構成 リスクマネジメント 利益還元政策 ファイナンス 期待キャッシュフローの増大 資本コストの低減 業績評価 ②経済的利益(EP)とは EPとは・・・ 今まで授業で学んできた1株当たり利益(EPS)や当期純利益、 ROEと同様の業績評価指標です。 EPの概念 企業はプロジェクトを成功させるにあたって最低限債権者や株主を 満足させられるようなリターンを生まなければなりません(資本コスト)。 その上でさらに稼ぎ出した資本コスト以上のリターンを経済的利益 (EP)と言います。 EPの計算式 EP=NOPAT-WACC×投下資本 ③ 重要な要素の説明 ・税引後事業利益(NOPAT) NOPATとは・・・ 利息などの財務的な損益を一切含まないそのプロジェクトで 得た純粋な利益を指します。 NOPATを構成する4つの科目 1. 収入科目 ・・・ 売上高 NOPAT 2. 費用科目 ・・・ 売上原価、販管費 etc. 3. 減価償却科目 ・・・ 減価償却費 4. 資産売却による損益 ・・・ 資産売却に伴う損益 (収入-費用-減価償却±資産売却損益)÷所得税 =税引後事業利益(NOPAT) ・資本コスト 資本コストとは・・・ 債権者や株主がそのプロジェクトと同程度のリスクのある他の投資 案件でも得られると予想した最低限のリターンを指します。 ではどのように測定すればいいのか 1. そのプロジェクトと同種かつ同程度の上場した他企業(部門)に ベンチマーキング(ピュア・プレイ)します。 2. ピュア・プレイ企業の他人資本と自己資本の比率を推定し、それ ぞれ債権者と株主に支払うコストを加重平均した値が資本コス トとなります。 これを特に、加重平均資本コスト(WACC)と呼びます。 WACCを求める際に必要な3項目 1. 負債コスト WACC 2. 株主資本コスト 3. 負債と株主資本との構成比率 1. 負債コスト 負債コストは企業が債権者に支払う利子率のことです。 ただし 企業が実際に支払っている利子率は利払いに対する税控除 が働いているので、法人税率分少なくなっています。 例 利子率8%、法人税率35%の時 8×(1-0.35)=5.2% 実際支払利子率5.2% 2. 株主資本コスト 全くリスクがないプロジェクトから得られるリターン(リスクフリー・ レート) +そのプロジェクト特有のリスク(リスク・プレミアム) =株主資本コスト リスクフリー・レート=残存10年の国債の利回り リスク・プレミアム ⇒企業固有のリスク ⇒マーケット・リスク 例 労働争 議発生 自動車会社 株価 G社 130ドル T社 150ドル F社 100ドル シェアの変動 実質被害なし 自動車会社 株価 G社 70ドル T社 180ドル F社 120ドル G社 F社 アウトソー シング 自社開発 不況突入 G社 アウトソー シング 固定費が少ないので影響 小 F社 自社開発 固定費がかさみ影響 大 先の好況や不況に対する変動の感応度を表す値をβ値と言います。 β値は1を基準として、β=2ならば市場の約2倍の幅で変動し、β=0.5な らば市場の約1/2の幅で変動します。 また、市場の変動に対するリスクをマーケット・リスク・プレミアムと言 います。この値はおおむね6~7%の値を使用します。 例 β値 1.2、 マーケット・リスク・プレミアム 7% この時のリスク・プレミアムを求めよ 答え 1.2×7%=8.4% リスク・プレミアムは8.4% 以上により株主資本コストの式を変形すると、 株主資本コスト 実質0 =リスクフリー・レート+(企業固有のリスク+マーケット・リスク) 企業のβ値×マーケット・リスク・プレミアム =リスクフリー・レート+(企業のβ値×マーケット・リスク・プレミアム) この方程式を資本資産価格モデル(CAPM)という。 3. 負債と株主資本との構成比率 負債(株主資本)÷(負債+株主資本) ただし 簿価ではなく時価でなければならない! 株主資本の場合 株価×発行済株式数 負債の場合 代理変数として簿価ベース(期首と期末の平均値)で計算 有利子負債(短期&長期債務) +リース債務総額の(割引現在価値)時価 問題 負債コスト 8%、 負債の簿価 4億ドル、 現在の株価 30ドル 発行済株式数 2000万株、 株式β値 1.2、 法人税率 35% リスクフリー・レート 5%、 マーケット・リスク・プレミアム 6% この企業のWACCを求めよ。 解答 1. 税引後の負債コスト 8×(1-0.35)=5.2% 2. 株主資本コスト 5+(1.2×6)=12.2% 3. 株主資本の時価 30ドル×2000万株=6億ドル 4. 負債の時価(簿価と等しいと仮定) 4億ドル 5. 負債比率 4億ドル÷(4億ドル+6億ドル)=40% 6. 自己資本比率 60% 7. WACC 5.2×0.4+12.2×0.6=9.4% 資本100ドル、WACC9.4%の時 債権者 株主 要求リターン=8.0% 要求リターン=12.2% 資本=40ドル 1年あたりリターン =3.20ドル 1年あたりリターン =7.32ドル 資本=60ドル 1年あたりリターンの総額 =10.52ドル 負債利子の税額控除による税効果/年 =1.12ドル 1年あたりリターン =9.40ドル 資本=100ドル 事業 要求リターン=9.4% ・バリュー・ドライバー 指標などを構成する要素 特に影響が強いものを指すことが多い ex) EPのバリュー・ドライバー EP=NOPAT-資本費用 売上高 -売上原価 -販管費 営業利益 -法人税 NOPAT WACC 税引負債コスト×負債の割合 + 株主資本コスト×株主資本の割合 × 投下資本 営業運転資本 + 正味固定資本 営業流動資産 - 営業流動負債 手許キャッシュ 売上債権 在庫 前払費用 買入債務 未払費用 前受収益 典型的なバリュー・ドライバー一覧 ・売上高 価格、数量 ・費用 変動費(原材料費、労務費、動力・光熱費 etc) 固定費(マーケティング費用、販管費 etc) ・税金 所得税、地方税 ・設備投資 ・運転資本 売上債権、在庫、買入債務 ④業績評価 EPの計算式 EP=NOPAT-WACC×投下資本 注意!! EPは時価ベースで計算するので年度間 での平均値を算出しなければなりません。 ・EPによる業績評価 EPは大きさだけで評価するものではない 例 株価による株主への影響 期待EPと実現値EP 期待EP<実現値EP ・・・ 株価UP 期待EP>実現値EP ・・・ 株価DOWN 常に投資家の期待以上に応える努力をしなければなら ない! 何で期待EPを上回れなかったのか? 他に改善すべきことはないのだろう か? EPのドライバーと従業員の効果指標 ・NOPATとその構成要素 売上高事業利益率=NOPAT÷売上高 収益拡大 製品品質 顧客サービス、顧客満足 製品ミックス 価格戦略 販売組織の効率化 ロジスティックス コスト削減 単位当たり変動費 本社費、一般管理費 役職員の生産性 品質 プロセスの効率性 役員のモチベーション ・投下資本とその構成要素 資産回転率=売上高÷投下資本 固定資本削減 既存資産活用 vs 新規購入 フレキシブル生産システム シフト勤務体制 内製化 vs 外注化 メンテナンス向上による 既存資産の長期利用 運転資本削減 在庫回転率の向上 ジャスト・イン・タイム 生産合理化 生産性向上に伴う 仕掛在庫の削減 回収期間の短縮 取引先の信用力チェック 信用リスクに基づく取引条件 支払期間の延長 前払費用の削減 未払費用の増大 EPとそれ以外の業績評価指標 それぞれの欠点 ・EP ⇒ バリュー指標 ・EPS、キャッシュフロー etc. ⇒ フロー指標 ・ROE、売上高利益率 etc. ⇒ リターン指標 フロー指標 ・リスクを考慮していない ・投下資本を考慮していない(EPS除く) リターン指標 ・リスクを考慮していない ・自己資本利益率の操作などで 操作しやすい ・EPを業績評価指標を使う際の問題点 指標としての問題点 1. 会計上の問題・・・会計と実体経済との乖離 2. コストの配布問題 ・・・部門間で共有している経営資源の配布推定 インセンティブ問題 1. 近視眼的な投資の意思決定 ・・・現在のEPを増大させるために必要投資を削減 2. 見境のないコスト削減 ・・・現在のEPを増大させるために必要費用を削減 ⑤まとめ EPは、先ほどあげたようにまだまだ問題点は残 りますが、今までよく使用してきた指標よりもより 信用性のある指標であることがわかりました。 また、経営戦略におけるファイナンスは重要な 立場にいることもわかりました。 参考文献 経営戦略のためのファイナンス入門 M.P.ナラヤナン/ビクラム・K.ナンダ
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