2012.11.26 宮崎県がん登録説明会 地域がん登録について (目的、仕組み、現状と課題) 国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計研究部 松田 智大 国立がん研究センタ ー がん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 1 疾病の実態を把握すること 国立がん研究センタ ー がん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 2 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー 戦後の死因別粗死亡率の推移 がん死亡数 がん粗死亡率が激増 National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 激増しているから対策? 感染症 感染症 出典:がんの統計2011 3 米国人のがんの原因 -確立したがんの要 因のがん死亡への推定寄与割合(%)- 電離放射線・ 紫外線 2% 環境汚染 2% 社会経済的 状況 3% 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 医薬品・医療 行為 1% 塩蔵品・他の 食品添加物・ 汚染物 1% 飲酒 3% 周産期要 生殖要因 3% 因・成長 ウイルス・ 5% 他の生物 因子 5% がんの 家族歴 5% 職業要因 5% 座業の生活 様式 5% 喫煙 30% 成人期の 食事・肥満 30% Harvard Center for Cancer Prevention: Harvard Report on Cancer Prevention, Volume 1: Causes of Human Cancer, Cancer Causes Control 1996 ;7:S3S59. 4 日本人のがんの原因 -確立したがんの要 因のがん死亡への推定寄与割合(%)- 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 2005年において、男性のがんの55%は、予防できるリス ク要因(PAF)に基づくものであったと推定される。女 性においてはその割合は低く、30%程度であった。 男性では、喫煙が最も重要なPAFであり (罹患30% 、死 亡35% )、次いで感染が大きかった(23% と23%)。女 性では、感染が最も重要なPAFであり、(18% と19%)つ いで喫煙であった(6%と8%)。 Annals of Oncology, 2011, Attributable causes of cancer in Japan in 2005—systematic assessment to estimate current burden of cancer attributable to known preventable risk factors in Japan M. Inoue, N. 5 がん登録とがん対策 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 現状の医学知識に基づいて、効果的な対 策できる疾患であるから対策をする 「がん登録」なくして「がん対策」は成 り立たないし、逆に、「がん対策」を実 施しないのであれば、「がん登録」は必 要ない B. K. Armstrong (1992) 6 がん対策に有用な がん登録、がん統計 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services がんをコントロールするための適切な対処 がんに罹る人を減らす – がん疫学に基づいたリスク要因のコントロール – 生活習慣病としての対策 全てにおいて、がん登 – 環境の整備 録や疫学研究に基づ がんが治る人の数を増やす いた、科学的根拠が重 – がんの早期発見、適切な診断 要 – 治療の改善 がん患者の予後の質を向上する – ケアの充実 がん登録の種類と目的 種類 地域 院内 臓器 別 対象 対象地域(都道府 県)の居住者に発 生した全がん 当該施設で診断・ 治療を受けた全が ん 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 項目 目的 標準登録票項目 がんの罹患、受 25項目、2004年 療状況、生存率 の計測 標準登録様式 施設の対がん医 必須22項目、標 療活動の評価 準49項目、2006 年 当該施設で治療し、 部位により項目 臨床病理学的特 主治医が登録対象 数、項目内容、 徴の正確な把握、 として適格と判断 改訂時期・間隔 治療指針の策定 した腫瘍 異なる 8 地域がん登録とは? Population-based Cancer Registry 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 概要 – 国あるいは地方自治体を単位として、がん診療施設などから協力を得 て、対象地域の居住者を対象に – がんの診断・治療を受けた全てのがん患者の診療情報を収集・整理し – 人口動態死亡から死亡情報を得て、登録漏れの補完、予後(生死)の 把握して – がんの実態把握に必要な各種がん統計を整備する 目的 – 当該地域のがん罹患率を求める 一定期間に新たに発生した「がん」の大きさ がん対策の企画・立案・評価に不可欠 – 当該地域のがん患者の生存率を求める 早期発見と医療水準(均てん化)の指標 – がん患者の有病数を求める ある一時点における「がん患者」の大きさ がんの医療計画に役立つ これらを実現する 唯一の仕組み 死亡率=罹患率×発見 の早さ×治療方法の選 択×治療技術×リハビリ 等の術後のケアの違い ×合併症の有無による 違い×再発の有無によ る違い… 9 地域がん登録室の概要 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 登録室設置場所 – 県庁内 8 – 委託先(大学、拠点病院、医師会、健康財団等)39 人員(全登録室合計) – 実務スタッフ(事務職84.2FTE、医療職13.3FTE、診療 情報管理士9.6FTE)(必要数124.3) – 医師5.6FTE(必要数9.3) 年間予算額(人件費含む) – 260~8,140万円(平均1,810円) – 県費80%、委託先事業費10%、研究費等10% – 届け出謝金あり20、なし15 10 がんに罹った人の数え方 地域がん登録の作業過程 がん登録から病院 への情報提出依頼 集まったデータを分析 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 公立・私立病院など 入力完了までに約3年間 がんの分類、データ ベースへの入力 重複等の 検証作業 新聞などに掲 載される 学会での発表 登録票への情 報の複写、取 得(調査員) 複数の情報源 からの情報の 統合 他の病院からの情報 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー 300 200 400 年齢調整がん死亡率の推移 National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 100 全部位 全部位 胃 肺 子宮 (上皮内がん含む) 10 乳房 肝 結腸 (上皮内がん含む) 肺 結腸 直腸 前立腺 肝 1 Rate per 100 000 50 胃 直腸 卵巣 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2011 2011 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー 300 200 400 年齢調整がん罹患率の推移 胃 100 50 10 全部位 全部位 結腸 肝 直腸 肺 胃 前立腺 乳房 子宮 (上皮内がん含む) 結腸 卵巣 直腸 (上皮内がん含む) 肺 肝 1 Rate per 100 000 National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2007 2007 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー 増えているがんと減っているがん National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 死亡 男性 女性 増加↑ なし 膵臓、乳房 減少↓ 食道、胃、結腸、大腸、肝臓、胆 のう・胆管、肺、前立腺、白血病 食道、胃、結腸、直腸、大腸、肝臓、胆 のう・胆管、子宮、悪性リンパ腫、白血病 横ばい→ 直腸、膵臓、悪性リンパ腫 肺、卵巣 罹患 増加↑ 肺、悪性リンパ腫、白血病 膵臓、肺、乳房、子宮、卵巣 減少↓ 結腸、大腸、肝臓、胆のう・胆管 肝臓、胆のう・胆管 横ばい→ 食道、胃、直腸、膵臓、前立腺 食道、胃、結腸、直腸、大腸、悪性リンパ 腫、白血病 http://ganjoho.jp/public/statistics/pub/statistics02.html 2012.10.5 腫瘍学概論 がん登録が役に立った例 – – 1989-98年に胃がん集団検診を受診し要精検とされ2次精検を受診した195,772例について、対 がん協会での精検と医療機関の精検の精度を地域がん登録と照合し、偽陰性率を比較検討。 内視鏡検査において、専門医によるDouble checkと再検査の指示、撮影法指導や症例検討のた めの研修会への参加義務付けといった精度管理対策の重要性が示された。 大阪府の胃がん検診の有効性疫学的評価の研究 – – 1985 年~89 年の大阪府内の肝がん罹患率を市区町村別に詳細に分析。 高感染地域では、住民検診にHCV 抗体検査が導入され、一般住民の中にいるHCV 保有者を早 期に見出し、適切な医療につなぐ対策が講じられるようになった。 宮城県の胃集団検診における内視鏡による2次精検の精度の検討 – 1973年~2003年の長崎市の罹患データを用いて、子宮頚がんの進行度、罹患数推移、検診発 見割合、5歳階級別罹患率を検討。 25-34歳では近年浸潤がんに増加傾向があり、若年者への対策の必要性が示唆された。 大阪府の肝がんの地理的分布とその要因 – – National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 長崎市における子宮頸がんの動向 – 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー 昭和50~平成8年に、症例対照研究、早期胃がん患者のがん登録との記録照合などを実施。 胃がん検診により、胃がん死亡は減少することが確認された。 中皮腫死亡症例数の将来予測 – – 30年以上の長期統計を集計可能な国内4地域のがん登録の中皮腫統計とばく露要因(アスベ スト輸入量、建築、造船)を用いて2043年までの中皮腫死亡数の将来推計を行った。 悲観的な予測で今後30年間に3万人以上の中皮腫死亡が発生すること等を示した。 15 登録方法の標準化と 精度向上へのチャレンジ 国立がん研究センタ ー がん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 16 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー 日本のがん登録の課題 National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 登録の項目や手順が地域により異なる 罹患率・生存率などの地域間比較や全国値 の算出が困難 地域がん登録の 標準化推進 精度基準を満たす登録でも、罹患数・率の 過小評価、地域別比較には、国際水準(< DCO10%)の達成が急務 2011年11月時点の日本の全国公表値は2006 年。英米では、既に2008年報告書 登録精度、即時 性を国際水準に 引き上げ 国のがん対策基本計画におい て、がん罹患データが利用さ れなかった 都道府県がん対策推進計画で も、地域がん登録によるがん 統計の利用が少なかった がん統計値 記述 県数 がん罹患数/率 19 年齢調整罹患率の推移 10 生存率 6 進行度 2 井岡ら:都道府県がん対策推進計画における地域がん登録資料の活用状況.JACR Monograph No.14, 2009 積 極 利 用 が ん 対 策 へ の 17 第3次対がん10か年総合戦略 地域がん登録の整備計画 がん対策推進基本計画 目標と第1期基準 の設定 第2期基準の設定 計画策定 H19年度 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 中間評価 H21年度 見直し H23年度 目標の見直し、第3期基準(案) の設定 目標の最終決定 第1期 地域がん登録の標準化と 量的精度向上に向けた 取り組みの開始 第2期 第3期 標準化と 量的精度向上の促進 地域がん登録の 目標に向けての整備 標準化推進期 完成期 標準化開始期 平成16年度 平成17年度 平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 平成23年度 平成24年度 平成25年度 第1期事前調査 (第1期支援地域 選択) 第2期事前調査 (第2期支援地域 選択) 第3期事前調査 第3期中間調査 H16年7月実施 H17年9月報告 H18年8月実施 H19年5月報告 H21年9月実施 H22年3月報告 H23年9月実施中 最終評価 モニタリング項目に従ったデータの収集(全国がん罹患モニタリング集計) 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009-10 18 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー 地域がん登録実施地域数の変遷 1951年に東北大学の瀬木三雄教授が宮城県 を対象として「地域がん登録」を開始し、 がん罹患率報告(1954年)広島市(1957)、長 崎市(1958)、愛知・大阪(1962)神奈川 (1970) ち 75 上研 げ究 班 の 立 支 83 給老 の健 開法 始に 基 づ い た 補 助 金 創 登 92 設録 地 全域 国が 協ん 議 会 廃 98 止補 助 金 の 基 対 06 本策が 法 ん 1st JACR, 1992 6th IACR, 1984 1960 1962 1964 1966 1968 1970 1972 1974 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 50 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 19 第3次対がん総合戦略事業開始前の状況 ○○県 A病院 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 人口動態統計死亡情報 報告 受診 がんの診断 主治医らが登録票記入 診療科ごとにデータ整理 独自の利用方法 独 自 の 項 目 別の病院 も受診 地域がん登録 中央登録室 独自の作業手順 B病院 がんの診断 主治医らが登録票記入 診療科ごとにデータ整理 報告 独自のシステム 独 自 の 集 計 表 ・ 報 告 書 中央集計する仕組み無し 研究班による活動 20 第3次対がん総合戦略事業開始後の状況 ○○県 A拠点病院 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 人口動態統計死亡情報 報告 がんの診断 院内がん登録へ登録 受診 別の病院 も受診 2 標準的な死亡票利用 1 標 準 登 録 票 項 目 地域がん登録 中央登録室 3 標準作業手順 B病院 がんの診断 主治医らが登録票記入 診療科ごとにデータ整理 報告 4 標準データベース システム 5 標 準 集 計 表 ・ 報 告 書 全国がん罹患モニタリング集計 (MCIJ) 21 1 地域がん登録の 標準登録票項目 国立がん研究センタ ー がん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 22 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー 標準登録項目とモニタリング項目 すべての部位 国際疾病分類ー腫瘍学第3 版(ICD-O-3)にて性状コード/2 (上皮内がん)と/3(悪性)を 登録対象 頭蓋内腫瘍では、原則的に 良性・良悪性不詳の場合で も(性状コード0もしくは1であ っても)登録対象 多重がんの判定基準の Recording ruleを適用 診断時住所が当該地域にあ る者 届出と出張採録 National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 標準登録票25項目 No 項目名 1 医療機関名 2-6 カルテ番号、姓名、性別、 生年月日、診断時住所 7-10 診断結果、初回診断日、 自施設診断日、発見経緯 11-15 診断名(原発部位名)、側性、 進展度(臨床進行度)、 組織診断名、診断根拠 16-19 外科的治療、体腔鏡的治療、 内視鏡的治療、治療の結果 20-24 放射線治療、化学療法、 免疫療法・BRM、内分泌療法、 その他の治療 25 死亡日 個人情報を含む 診断・初回治療情報 23 2 死亡転写票の 標準的利用方法 国立がん研究センタ ー がん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 24 人口の数え方 がんで死んだ人の数え方 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 厚生労働省統計情報部 が管理している人口動 態統計の死亡小票の写 医師・歯科医師による 死亡の発生 しの利用を申請する。 死亡診断書(死体検案書) 死亡転写票を1枚ずつ見 て、がん・非がんの判別 人口動態調査死亡票 市町村役場 を行い登録対象か否か の作成 を決定。登録対象の場 法務局 合は、転写票記載事項 とともに、部位・側性・組 死亡票 死亡診断書 保健所 織、診断根拠、治療の ・死亡届 有無、「がん記載区分」 都道府県 をコーディング、登録。 人口動態統計として入力 生死情報、罹患を把握 審査・死因コード付け した後に一定期間内に 厚生労働省 集計・分析 (統計情報部) 破棄する。 死亡診断書~死因統計作成 3 地域がん登録の 標準作業手順 国立がん研究センタ ー がん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 26 手引きや作業手順の作成 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 個別の作業につい て、具体的な方法 を詳述 27 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー がんのコーディング National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 国際疾病分類 腫瘍学 第3版(ICD-O-3) – 院内がん登録、地域がん登録共通 – 例)胃体部高分化腺癌: C16.2(部位)8140/31(形態) 登録時の局在と集計の局在は、別のコード体系 – 登録票・死亡(転写)票:ICD-O-3 – 罹患集計(報告書):ICD-10 死亡統計との比較のために、 ICD-10への変換が必要 例)急性リンパ性白血病 ICD-O-3: C42.1 骨髄 ICD-10: C91 リンパ性白血病の意 早見表、部位別テキストなど補助教材の作成 28 個人照合 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 同一人物に対して複数の報告がなされる可能性 – 重複届出(同じがんに対して複数施設から届出)、 重複腫瘍(同じ人に複数の種類のがんが出来る)等 同一人物に属する各記録を集めて、重複届出な のか、新規発生であるかを決定する作業 – 照合には、生年月(何年何月)、姓・名などの個人 識別指標を用いる 標準DBSによる照合システム+目視による確認。 29 腫瘍の集約の標準化 2. 3. National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 「多重がん」の発生原因 1. 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー 同一の要因が複数の異なる器官に作用する場合(例:喫煙関 連がん) 第1がんの治療が第2がんの要因となる場合(例:子宮頸がん 放射線治療後の直腸がん、など) 患者の素因が問題となる場合 他臓器からの浸潤や、再発・転移がんを、誤って多重が んと判定し、複数カウント ⇒ 誤ったがん統計 共通のルールに従い多重がんの判定を行う。 – IARC/IACRのルール(2004) – 例左肺下葉腺癌と右肺中葉扁平上皮癌(多重がん) – 胃中部の中分化型腺癌と胃上部の印環細胞癌 30 がんの拡がりと進行度 TNM、取扱い規約、臨床進行度の対応表 がんは、その拡がり方、進行度 により異なった臨床経過をたど る。がん登録でも重要な項目の 一つである。 「進展度」、「UICC TNM分類」 の2つの分類が用いられている 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services TNM悪性腫瘍の 分類 第7版 対応表の作成 – 「進展度」は地域がん登録独自の 分類で、臨床医はよく知らない。 – 「UICC TNM分類」の欄には、学会 取扱い規約TNM分類や、その他の 分類が記載されていることもある – 届出された「進展度」と、その他 の情報から登録室で推測される「 進展度」は一致しない場合もある 31 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー 生存確認調査 National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 早期診断と適切ながん治療の普及(均てん化)を包括するがん対策 の評価指標。他国、他地域と比較。 – 検診や受療行動 – 標準的ながん医療の普及、適切な医療計画の推進 登録患者の生存確認を定期的に実施 登録票の収集方法、項目・分類、分類方法、進行度の評価を標準化 しないと、生存率に大きな差が出る 種類 方法 特徴 住民票照会 住民票の閲覧、あるいは写しの交付申請 最も信頼性が高いが、自治体の協 力と人員の確保が必要 非がん死亡 との照合 非がん死亡について生年月日、氏名などを 入力して、登録患者と照合 県外転出の少ない地域では、住民 票照会に近い把握精度を得ること が可能 人口動態 テープ との照合 人口動態テープに含まれる生年月日、性別、 照合に利用可能な指標が限られ、 市区町村コードを用いて、登録患者と照合を 県内死亡であっても照合漏れとな 実施し、事件簿番号により人口動態死亡 る可能性が高い (小)票に戻る 32 4 標準データベースシステム の開発と運用 5 標準集計表の設定 国立がん研究センタ ー がん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 33 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー 標準DBSの開発の経緯 年度 H16-18 H19 H20 取り組み National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services •研究班で検討した標準方式を実現する ため、放射線影響研究所情報技術部に て開発開始 •山形県、愛知県をモデル地区として検 証、評価、手順作成 適正な導入と運用に向けた体制作り(導 入要件の策定、導入研修の提供) H21 •研究班と株式会社との開発・導入支援 委託契約、県との運用保守契約を開始 H22 •(株) を社団法人がん統計センターに移行 •地域がん登録促進事業費による導入・ 運用保守体制作り •研究班より国立がん研究センターに譲 渡 H23-25 標準登録様式の見直しにあわせたシステ ム改修(予定) 標準システムの導入・ 継続利用を希望する都 道府県は、国立がん研 究センターの示した時 期に利用申請を提出。 国立がん研究センター は「利用手続」に沿っ て申請内容を審査して 導入および運用の支援 をする。 導入時研修、集約研修 、導入一年後研修、の3 研修をプログラムして いる。 34 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー 標準システムの 導入状況 (H24.11) National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 検討中・その他(9地域) 導入作業中(1地域) 導入済 (36地域) 35 精度向上のために 国立がん研究センタ ー がん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 36 地域がん登録評価のための 精度指標 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 完全性の精度指標(量的精度) – DCN:死亡票で初めて罹患が把握された症例の割合 低い方が良い – IM比:罹患数と死亡数との比 一定水準であるのが良い(2程度) – 登録率:罹患数÷真の罹患数 真の罹患数は、数学モデルによる推定 診断精度の指標(質的精度) – HV (histologically verified case)、MV (microscopically verified case):がんの診断は、最終的には病理診断による。 – DCO:死亡診断書以外の情報がない。遡り調査(医療 機関への問い合わせ)未実施、もしくは調査後も診 断時情報が取得できなかった場合。 37 地域がん登録の精度向上の努力 量的精度と質的精度 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 出張採録(Active registration) – 中央登録室の職員が医療機関に出向いて、診療録から必要情報 を登録票に転記する。 – 登録漏れの減少、標準化された高い精度の情報の収集。 病理情報による登録精度向上 – 医療機関による届出 – 病理施設からの届出 検診情報による登録精度向上 遡り調査(死亡票をもとにした医療機関への問合せ) – 地域がん登録事業における人口動態死亡情報の利用目的の一つ で、事業への協力を求めるべき医療機関を把握する情報源とも なりうる 38 実務者育成のための研修会の実施 Eラーニング、情報提供・質問対応体制 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 行政担当者向け – 5月と12月の2回 (国立がん研究センター主催) 実務担当者向け – 6月 (NPO法人地域がん登録全国協議 会主催) – 12月 (国立がん研究センター主催) Eラーニング教材の作成、 WEB公開 地域がん登録の技術支援のペ ージ、メーリングリスト、フ ァイル共有サイト等の整備 39 国内支援のための団体設立 NPO法人地域がん登録全国協議会 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 沿革 – 平成4年12月 創立 – 平成22年1月 特定非営利活動法人認証 目的 – 広く国民に対して、がん登録によるがん罹患、死亡、生存率等の情報を提供す るとともに、公開セミナーや学術セミナー、調査及び研究、がん登録に関与す る人材の育成等を行い、地方公共団体の実施する地域がん登録事業の充実・発 展を支援する事業を通して、国民の保健、医療、療養の増進と、わが国のがん 対策の推進に寄与する 正会員(36団体、登録会員132名) 道府県市がん登録:北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、神奈川 県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、岐阜県、愛知県、滋賀県、京都府、大阪府、兵 庫県、鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、高知県、佐賀県、長崎県、熊本県、 沖縄県、広島市 研究団体:厚生労働科研第 3 次対がん「がん罹患・死亡動向の実態把握に関する」研究班、(社)がん統計センター 賛助会員(20団体) 日本対がん協会、大阪対ガン協会、明治安田生命、アメリカンファミリー生命、第一生命、大同生命厚生事業団、ア ストラゼネカ、富士レビオ、伏見製薬所、大鵬薬品工業、堀井薬品工業、大塚製薬、ノバルティスファーマ、中外製薬、 グラクソ・スミスクライン、第一三共、ヤクルト本社、日本生命、サイニクス 40 事業実施に関する法的根拠と 取り扱い情報の安全管理措置 国立がん研究センタ ー がん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 41 日本の地域がん登録の法的根拠の経緯 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 老人保健法(1982)に伴う「健康診査管理指導事業実施要綱」 – がん検診の評価や老人の健康管理を目的とした「地域がん登録」およ び「脳卒中登録」の実施 – 1998年度以降は「健康診査管理指導事業実施のための指針」 健康増進法(2002) – 十六条で「国および地方公共団体は、国民の健康増進の総合的な推進 を図るための基礎資料として、国民の生活習慣とがん、循環器病その 他の政令で定める生活習慣病(以下単に「生活習慣病」という。)と の相関関係を明らかにするため、生活習慣病の発生の状況把握に努め なければならない。」 がん対策基本法(2006) – 第十七条 第二項「国および地方公共団体は、がん患者の罹患、転帰 その他の状況を把握し、分析するための取組を支援するために必要な 施策を講ずるものとする。」 – 付帯決議 第十六項「がん登録については、がん罹患者数・罹患率な どの疫学的研究、がん検診の評価、がん医療の評価の不可欠の制度で あり、院内がん登録制度、地域がん登録制度の更なる推進と登録精度 の向上ならびに個人情報の保護を徹底するための措置について、本法 成立後、検討を行い、所要の措置を講ずること。」 42 個人情報に関わる規則 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 個人情報保護に関する法律 (2003年5月30日) – 基本法となる民間・公共に共通部分があり、施設の種類によっ て異なる法律・条例が適用される 民間企業⇒個人情報保護法 国立機関⇒行政機関個人情報保護法 独立行政法人⇒独立行政法人等個人情報保護法 地方公共団体 ⇒ 個人情報保護に関する条例 厚生労働省健康局長通知(2004) – 地域がん登録事業は「公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の 推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得る ことが困難であるとき。」の例外規定に該当と通知。 医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱い のためのガイドライン(2004) – 「地域がん登録」は個人情報保護法の第十六条、第二十三条の 「公衆衛生の向上」の例外規定に該当。 43 地域がん登録と個人情報の安全管理措置 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services EU指令を受け、IACR(国際がん登 録協議会)及びENCR(ヨーロッパ がん登録ネットワーク)でガイド ラインを改訂。 わが国の地域がん登録全国協議会 は、世界の状況や、ITの発展を受け て、1996年作成のガイドラインを 改訂し、2005年に「地域がん登録 における機密保持ガイドライン」 を作成。 2009年「地域がん登録における安 全管理措置ハンドブック」におい て、ガイドラインに示された地域 がん登録における機密保持の原則 と手段をより詳細かつ具体化。 44 地域がん登録に関する国民 意識調査の結果 国立がん研究センタ ー がん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 45 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー 問3 地域がん登録の情報は有益だと思いますか。 はい n National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services いいえ % n わからない % n % 1863 77 75 3 491 20 2737 95 68 2 69 2 60歳代 わからない 50歳代 わからない いいえ 40歳代 30歳代 いいえ はい 年 齢 に よ る 差 は な い はい 20歳代 男性のほうがポジティブなイメージを 持つ 0% 20% はい 40% いいえ 研究班による2007年全国調査 対象3000人、回答率81% 60% 80% 100% わからない 46 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー 問5 プライバシーを侵害されたと思いますか。 はい n National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services いいえ % n わからない % n % 1033 43 1029 42 366 15 446 16 2326 81 101 4 60歳代 わからない わからない はい いいえ 50歳代 40歳代 はい 30歳代 いいえ 20歳代 0% 男性のほうが プライバシーの侵害だと思わない 20% はい 40% いいえ 研究班による2007年全国調査 対象3000人、回答率81% 60% 80% 100% わからない 侵高 害年 だ齢 とほ 思ど わプ なラ いイ バ シ ー 47 これからの日本のがん登録 持続可能ながん登録のために 国立がん研究センタ ー がん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 48 地域がん登録の促進要因① がん診療連携拠点病院での院内がん登録 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services がん診療連携拠点病院( 2010年12月現在377施設)の指定要件 がん診療連携拠点病院の整備に関する指針(平成20年3月1日健発第 0301001号 厚生労働省健康局長通知) 1. 健康局総務課長が定める「標準登録様式」に基づく院内がん登録を実施すること。 2. がん対策情報センターによる研修を受講した専任の院内がん登録の実務を担う者を 1人以上配置すること。 3. 毎年、院内がん登録の集計結果等をがん対策情報センターに情報提供すること。 4. 院内がん登録を活用することにより、当該都道府県が行う地域がん登録事業に積極 的に協力すること。 院内がん登録 地域がん登録 標準的な院内がん登録の実施と地域 がん登録への届出 完全性、即時性、品質の向上 院内がん登録の品質の向上 記載不備の問い合わせ 院内がん登録の完全性の評価・向上 死亡票で初めて登録された患者の遡り調査 施設における予後調査作業の軽減 届出患者の死亡情報の還元 両者の連携によって、信頼性の高い罹患数・率、拠点病院における診療情報、地域別・施設別生 存率の効率的な整備が可能 49 地域がん登録の促進要因② 必要経費予算化・事業「業務化」、DPC 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 地域がん登録促進経費(H22年度~) – 現在38道府県において地域がん登録事業を実施しているところ であるが、未だ実施していない9都県に対し、地域がん登録を行 うよう指導するとともに、当該データの集計・分析を行い、標 準化した登録様式に適応した地域がん登録の促進を図る ※ 独立行政法人国立がん研究センター運営費交付金で措置 平成22年4月導入のDPC病院の地域医療指数(地域医療へ の貢献に係る評価)に「地域がん登録への参画」 – 平成22年4月1日時点での状況を届け出た上で、平成22年8月から の係数に反映 ○ 各評価項目の要件について 3.地域がん登録 当該医療機関の所在する都道府県に対し、院内がん登録等を活用し、当該都道府県において定 められた方法(※2)により、がん患者に関するデータを過去1年間(平成21年4月~平成22年3月)に ついて提出している病院に限る。なお、過去1年間に実際にがん登録した件数を届出書に記載する こと。※2 提出するデータに関しては、不備を最小限にするとともに、地域がん登録室からの照会 に対応する体制を整えていること等を満たすものとする。 地域医療指数(地域医療への貢献に係る評価)届出書より抜粋 50 地域がん登録の今後の展開 1. 国レベルでの方針明示と、都道府県レベルでの対策 への利用の継続 地域がん登録の法制化に関する検討 – – 3. National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services がん対策の企画・評価でのがん登録資料の活用 – 2. 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー 人口動態死亡統計の利用(住民登録の活用) 県間移動患者の罹患・予後の把握 国家事業・戦略としてのがん登録・がん対策に おける都道府県への支援機能 – 国立がん研究センターの役割 4. 院内がん登録データに基づいた、拠点病院の指 定拡大、拠点病院へのがん患者の集約の見直し 、拠点病院以外への院内がん登録の普及 51 地域がん登録の今後の展開 国立がん研究センタ ーがん対策情報センタ ー National Cancer Center Center for Cancer Control and Information Services 地域がん登録と病理検査報告書、DPC、レセプ ト情報等との連携 6. 電子データによる届出への対応 5. – 院内がん登録の登録項目改定に伴う標準登録票項目 の改訂(変換なしの提出の実現) 7. 医療の質の評価、第一次~第三次予防への直接 利用 – 診療情報と地域がん登録情報を記録照合 米国:SEER-Medicare Linked Database 英国:National Cancer Intelligence Networkによる地域がん登録全 国データとNational Health Service による診療データとのリンク – 既登録患者を対象に追加調査 52
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