デジタル情報学概論 2004年12月9日 第11回資料 担当 重定 如彦 電子報道 その1 報道のリアルタイム・24時間化 かつては、報道は基本的に決まった時間にしか行われなかった 新聞:朝刊と夕刊、TVやラジオ:ニュース番組の時間 しかし、実際には事件はあらゆる場所で、24時間いつでも発生するため、 起きた事件を即座にリアルタイムに知りたいという要求が高まっている 特に情報の新鮮さが非常に重要な金融情報や企業情報の分野で要求が高い 現在では、インターネットの普及により報道のリアルタイム化が進んでいる 新聞社や通信社のWWW新聞 ほぼ24時間いつでも記事を更新している 携帯情報端末への情報配信サービス いつでもどこでもでも情報の入手が可能 携帯電話、モバイル(持ち運び可能な携帯端末)、PHS、ボケベル、カーナビなど 電子報道 その2 報道コンテンツのパーソナル化 新聞やTVのニュースは見た人すべてに同じ内容を報道する それに対し、デジタル技術により、個人重視のニュース配信が可能になった ニュースのカスタマイズ化 個人が興味のある内容をピックアップし、ニュースの内容やレイアウトをカスタマイズする 事件の背景にまで踏み込んだ密度の濃いニュースの提供 新聞やTVのニュースとは異なり、インターネットのニュースは紙面や時間の 制限がないため、個人の興味に応じて詳細な情報を提供することができる 関連情報の取得が容易 インターネットのハイパーテキスト機能やデータベースを使えば、関連する過去の 記事を即座にリンクをクリックすることで表示することができる 個人による報道 報道の側でも、報道機関ではない個人やグループによる報道が盛んになっている 報道機関以外の様々な視点から情報を得ることが可能になり、情報の選択幅が広がった 電子報道 その3 WWW新聞 WWWを使ったニュース報道のサービスで、オンラインマガジンの一種 各種新聞社のウェブサイトだけでなく、TVネットワークなど様々な種類がある ニュースが入り次第随時更新する(ニュースの速報性) 過去の記事の検索機能(データベース機能) ユーザの関心に従ったニュースの表示(パーソナル化機能) 電子メール新聞 メールマガジンの新聞版、ニュースを定期的にメールで送信する 文字情報が中心で情報内容がコンパクトにまとめられている 素早くニュースを一覧するのに向いている 単独ではなく、WWW新聞を補完する意味で発行されているものもある 電子報道 その4 放送によるニュース配信 その1 インターネットだけでなく、電波を使った電子報道も行われるようになっている 文字放送 TV電波の隙間(垂直同期消去期間)を使って文字や画像情報を送るサービス 電波の受信は文字放送対応のTVで行う ニュース、天気予報、生活情報などのチャンネルがある ニュース配信は随時行われる データ放送 文字放送と同じ電波の隙間を使った放送だが、こちらはデジタル情報を配信する 受信は専用の拡張カードを備えたパソコンで行う 一日数回HTML形式でニュースを配信する 電子報道 その5 放送によるニュース配信 その2 FM文字多重放送 FM音声放送の隙間を使って文字や図形データを送るサービス 「見えるラジオ」とも呼ばれている 専用の対応端末を使って受信を行う(一画面は15文字*2行) 各地のFM放送局が独自の番組編成を行う ニュース、天気予報、交通情報、レジャー情報、芸能情報などを提供 24時間サービスを行い、災害時には自動的に緊急放送に切り替わる GPSの精度を上げるDGPSなどにも利用されている 電子報道 その6 携帯電話によるニュース配信 常に持ち歩くことが可能な携帯電話やPHSを使ったニュースの配信が行われている 常に持ち歩くことが可能なため、ニュース配信のリアルタイム化が可能 配信内容は、ニュースだけでなく街角情報など多岐に渡っている 文字だけでなく、画像、動画、ゲームなどのマルチメディアコンテンツ配信されている ストリーミングによるニュース配信 インターネットのウェブページや、電子メールを使ったニュース配信の多くは、文字と静止 画像がメインであったが、音声や動画を使ったニュース配信も盛んに行われ始めている ストリーミングとはインターネットを使って音や動画を転送しリアルタイムで再生する技術のこと ストリーミング対応ソフトの例 RealPlayer、Windows Media Player、Live Media 緊急速報や、スポーツの生中継など、ニュースのリアルタイム配信 過去のニュースの録画、録音情報の配信 電子図書館 その1 本や図鑑を電子化しインターネットなどを使って様々な情報を配信するという、 電子図書館(Digital Library)を整備しようという動きが世界で活発になっている デジタル図書館はデジタル機器を用いていることから「サイバー図書館」、実物ではなく デジタルデータの形でデータを保存することから「バーチャル図書館」とも呼ばれる 電子図書館の利点としては以下のようなものが挙げられる 自分の机上のパソコンを図書館にすることができる 自宅にいながらにして世界中の電子図書館の図書を直接読むことが可能 音声、動画といったマルチメディアデータを扱うことができる 同時に複数の利用者が遠隔地から利用することができる 他人が借りていた為に、借りることが出来ないということがない 電子図書館 その2 電子図書館の機能 電子図書館に求められる機能には以下のようなものが挙げられる 図書カードの電子化 紙の情報のデジタル化 デジタル化された情報の収集・記録 利用者への貸し出し 電子読書端末の提供 電子図書館のネットワーク化 電子図書館 その3 図書カードの電子化 通常の図書館では、所蔵する図書一つ一つに図書カードを用意することで、 図書の分類・整理を行っているが、電子図書館においても、所蔵する電子 図書の情報を整理して保存する必要がある 図書データベース 具体的には電子図書館版の図書カードとして、書名、分類、著者名、ページ数、目次などと いった様々な情報を電子化し図書データベースに保存する 図書カードデータベースシステム OPAC(On-line Public Access Catalogue)というシステムが有名。日本全国の各図書館や 研究所が自分が所蔵する蔵書のデータをOPACに登録し、インターネットなどに公開するこ とで、探したい書籍がどの図書館にあるかを電子的に検索することが可能になっている 電子図書館 その4 紙の情報のデジタル化 具体的な電子化の方法は、先週解説したドキュメントの電子化と同様である 全文テキスト 図書のテキストをすべて文字情報としてデジタル化する。データサイズが小さくて済む 検索など、テキストそのものをコンピュータで利用するという用途に向く XMLを使うことによって文章の論理構造を反映することができる 最近のDTPなどを使って作成された文章は元々電子化された状態で作成されるので、全文テキスト データにするのは容易だが、過去の紙ベースで作られた文章をテキストデータに変換するのが困難 OCRなどを使って画像を文字に変換することも可能だが、変換ミスや、対応しない言語が存在する ページイメージ 画像の形で図書を電子化。スキャンするだけでよいので作成コストが低い ページ単位での閲覧に向いているが、データサイズが大きくなってしまう 電子図書館 その5 著作権問題 電子図書館に関しても著作問題は重要な問題である 学術関係の出版物 学術関係の出版物は以下のような理由から著作権上の問題を比較的解消しやすい 学術関係の出版物は、原著者と学会との間で著作権処理がなされるのが一般的 研究者はお互いに情報を交換しあうことにより研究を進めていくため、両者の立場の理解がある 一般図書 一般図書の場合、図書のデジタル化や貸し出しには著作者や出版者の許可が必要 著作者の死後50年間保護されるという現行法では電子図書館の図書は古いものだけになる 著作権ももちろん大切であるが、厳格にしすぎると著作物という文化が後世に伝わらなくなる 電子図書館のサービスはコピーサービスと同じであるので、著作権を「許諾権」から事後的な 「報酬請求権」の方向に変えていけば、料金を課金することで電子図書館を実現可能 ネット上での簡便な支払いシステムを確立させることにより、貧富の区別なく人類の英知の蓄積を 利用できるという図書館の理念を、電子図書館にも受け継がせることができるようになる デジタルアーカイブ その1 アーカイブ(archive)とは公文書を保存しておく保管庫の事を意味し、コンピュータ 用語としては、ファイルなどを保管するという意味に使われる デジタルアーカイブとは、有形、無形の文化資産をデジタル形式に記録し、その情報 をマルチメディアデータベースにまとめたもののこと 保存性に優れ、検索や再加工が容易 人類共有の貴重財産である文化財の保存・修復、次世代への継承が可能 どんなものであれ、形あるものはいずれ壊れてしまう(劣化する)ため、世界中の貴重な文化遺産 が年々何らかの理由で破壊されている。そのような文化遺産をデジタル化して保存することにより、 後世に文化遺産を伝えていくことが可能になる。また、破損したものを一旦デジタル化し、コン ピュータ処理を行う事によって、復元する技術も開発されている 大量のコンテンツを保有している組織・団体が、電子図書館、デジタルミュージアム(電 子美術館・電子博物館)などのようにコンテンツをアーカイブ化する動きが盛んである 例:EUの電子ミュージアム計画や、米国の電子図書館プロジェクトなど デジタルアーカイブ その2 万能型文化財資料分析装置 奈良国立文化財研究所が開発したシステム。考古学の遺物や寺社などに伝わる仏像、 美術工芸品を丸ごと自動分析して材質を突き止め、コンピュータによる3次元画像にそ の成分である元素や結晶の分布を表示する装置 X線や赤外線などの分析装置を組み合わせることで、製作技術や産地の解明につながる データを容易に得ることが可能 従来の検査装置では、元素や結晶の種類がわかっても全体の中でそれがどのように分布し ているかまでは調べることが出来なかったが、この装置ではそれらがどのように分布している かを3次元画像で表示することが可能 例えばふすま絵の場合、使われた顔料の元素、染料の種類が特定できる。また、重ね塗りさ れていてもそれらの分布状況がわかるため、描画の技法や特徴までをつかむことができ、作 者の特定もできるようになる デジタルアーカイブ その3 デジタルミュージアムの構築 多くのミュージアムが収蔵物をデジタル化し、ウェブサイトで情報発信している 有名なミュージアムでは、ルーブル美術館、スミソニアン博物館、大英博物館、 サンフランシスコ現代美術館、東京国立博物館などがデジタルミュージアムを構築 インターネットを使って世界中から収蔵物を自由に見ることが可能 館内案内、展示紹介といった情報だけでなく、収蔵物に関連した解説、資料も公開 デジタルミュージアムは、収蔵物の「公開」(公開すると劣化しやすい)と、長期にわ たって劣化しないように「保存」するというミュージアムの矛盾した2つの使命を解決 することができる デジタルミュージアムでは情報の流通性が特に重要 ミュージアム間で相互にデジタルアーカイブ化された情報の関連付けを行うことができるよう になれば、地球規模に広がった人類の知のデータベースを構築することができるようになる デジタルアーカイブ その4 東京大学デジタルミュージアム その1 東京大学総合研究博物館が構築したデジタルミュージアム 創造の場としてのミュージアムを作ることを最終目的にしており、バーチャル展 示と実物展示の融合技術に力を入れている。従来のミュージアムがもってい た様々な制限を減らすことが不可欠と考え、「オープンミュージアム」というコン セプトを打ち出している。ここでいうオープンとは以下の3つからなっている 誰にでもオープン 時間と場所にオープン 非展示資料にオープン デジタルアーカイブ その5 東京大学デジタルミュージアム その2 誰にでもオープン 利用者の年齢や言語、あるいはハンディキャップによらず、ここの見学者 にとって適切な情報が得られること 利用者の特徴に合わせたガイドを行う携帯端末 入場時に、受付で自分の特徴(言語、年齢、視力など)を述べると、その人用 に調整された携帯端末を貸し出すシステム。携帯端末は、展示物付近に仕掛 けられた電子タグという通信装置と交信することで、観客が展示物に近づいた だけで、自動的にその展示物の情報を以下のように適切な方法で解説する その人の使用言語で解説する 目の不自由な観客には、音声及び、画面に大きな文字で解説する 低年齢の観客にはやさしい解説を行う デジタルアーカイブ その6 東京大学デジタルミュージアム その3 場所と時間にオープン 実際のミュージアムは、開館時間や、ミュージアムのある場所まで移動し なければならないという制限があるが、そのような制限をなくし、いつでもど こからでも展示品を見られるようにすること MMMUD (Multi-Media Multi-User Dungeon) MUDとは、もともとはRPG(ロールプレイングゲーム)をコンピュータの仮想空間上で行う 為に作られたシステム。MMMUDはMUDをマルチメディア化したもので、コンピュータの 仮想空間上に博物館を構築し、その中に実際の博物館さながらに仮想の展示物を配置 したもの。ユーザは仮想博物館上を自由に動き回り、展示物の付近で操作(レバー操作 やボタンを押す)を行うことで、展示物を拡大して表示したり、解説を見ることが可能とな る。また、マルチユーザの名の通り、マイクを使うことで、離れた場所から同時に同じ仮 想博物館に入場している他の観客とのコミュニケーションを行うこともできる デジタルアーカイブ その7 東京大学デジタルミュージアム その4 非展示資料にオープン 実際のミュージアムはスペースや、劣化、盗難防止などの理由で収蔵する すべての展示物を展示しているわけではないが、そのような制限をなくし、 展示されていない資料もみられるようにすること 絵画や古文書のデジタル化 高性能なスキャナを使い1ドットが数十分の1cmという超高精細デジタル画像として保存 土器などの立体物のデジタル化 3次元スキャナを使い、立体物の3次元の構造をスキャンしデジタル化する また、光造型装置(光を当てると固体化する液体に、3次元構造のデータを使って光を当 てて立体物を作る装置)を使って元と同じ形の立体物を作り、実際には手で触ることが不 可能な貴重な土器の形状を手で確かめたり、たたいたときの音を確かめる(音は実物を たたいた時の音を録音(デジタル化)したものを鳴らす)ことができるようになる デジタルアーカイブ その8 東京大学デジタルミュージアム その5 電子ツール 展示物をデジタル化し、それに対し電子ツールを使うことで、実物に対しては行え ないようなさまざまな観測を行うことが可能になる 虫眼鏡ツール 展示物を何十~何百倍にも拡大し、詳細を見ることが可能。展示物を高性能スキャナで 超高精細デジタル画像に変換することで可能になる 裏側を見るツール 展示物の裏側を見るツール。また、様々な角度から展示物の画像を撮ることで、裏側だ けでなく、様々な角度から展示物を見ることができるようにするツールも考えられる 計測ツール 立体の展示物の様々なデータの計測(壷の口の太さ、体積、重さなど)を計測するツー ル。長さや体積は、展示物を3次元デジタルデータに変換することで計算可能 デジタルアーカイブ その9 東京大学デジタルミュージアム その6 強化現実技術 以前紹介した強化現実(AR: Augmented Reality)技術を応用する。具体的には、 ヘッドマウントディスプレイを装着し、展示物を眺めると、展示物の付近に展示物の 解説が装着した眼鏡のディスプレイに表示される。また、展示物に近づくと展示物 の解説が音声でヘッドフォンから聞こえてくるようになる デジタル復元技術 破損した収蔵物を修復する技術。具体的には、日本の有名な映画監督である小津 安二郎の映画(残念ながら彼の作品の多くは現在保管状態が良くないものが多 い)をデジタル化し、コンピュータで計算を行うことで修復する デジタルアーカイブ その10 東京大学デジタルミュージアム その7 URLは http://www.um.u-tokyo.ac.jp/digital/
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