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知財と社会
デジタル時代の著作権とオープン化
野口祐子
渡辺智暁
第1回 講義
「著作権入門 I 文化を支えるインセンティブ制度
をどう設計するか?」
2014.4.10
担当:渡辺・野口
(*本資料のライセンスについては、最後のページをご覧下さい。)
本日の献立
・この授業について:主題、方法、評価基準など
・担当者について
・皆さんの自己紹介
・著作権入門(議論と講義)
この講義の狙い
• 著作権法の体系や成り立ち、問題点の理解
• デジタル時代における情報政策・制度のあり
方の批判的検討
• 情報における「オープン」と「クローズ」の理解
• 「オープン」を法的に可能にする手段の理解
• ディスカッション
講師紹介
野口祐子(のぐちゆうこ)
• グーグル株式会社 法務部長 弁護士
– 森・濱田松本法律事務所 パートナー (2013年11月まで)
– 知的財産権(著作権・特許権・商標権・IT関連法・国際紛争解決な
どが専門)
– 国立情報学研究所 客員准教授
– 文化庁や経済産業省の委員会の委員等
• 2001年から2005年まで米国で著作権法制度・著作権政策等を研
究
• 最近の興味は、日本版フェア・ユースの「失敗」を受けた法政策の
実現方法、情報の共有と独占のバランスとイノベーション、ビック
データが実現できることとプライバシーの関係 等
• NPO法人 コモンスフィア常務理事
*クリエイティブ・コモンズ・ジャパンを日本でホストしているNPOで
す
講師紹介
渡辺智暁(わたなべともあき)
• 国際大学GLOCOM(グローバル・コミュニケーション・セ
ンター) 主幹研究員・准教授
※インターネットの社会的側面、ITと社会を扱う研究所
• 専門は情報通信政策(特に米国の政策)、情報社会
論
• ウィキペディア日本語版で管理者ボランティアの経験
• 最近の研究テーマは、オープンデータ、教育のオープ
ン化、クラウド事業者の著作権関連リスクなど
• NPO法人 コモンスフィア常務理事
情報のパワーを示す事例
• 東日本大震災、原発事故と復興
– テレビのUSTREAM・YouTube放映(開始・取り止め)
– Twitterでのリアルタイムの専門家による分析
– ブログでの多様な意見(vs 政府会見やNHKでの専門家
のコメント)
– Internetを通じた東北支援(海外発信、復興ネットワーク
づくり)
• チュニジア・エジプトの民主革命
– ジャスミン革命の発端は青年の焼身自殺
– Facebook、Twitter、携帯録画→YouTube、ブログ等の情報
共有、メッセージ共有
今の社会において「情報」とは
• 知識
– 思想信条の自由、学問の自由、教育等に密接に
関連
– 人間の知的活動や創作の源泉
• メッセージ
– コミュニケーションのツール
– 人を動かす原動力
• 情報財
– コンテンツ・ビジネスにおける「財」
– 財の流通のあり方に多大な影響を受ける
• マーケティングツール
– ネットとリアルの融合、個人ターゲッティング
二つの大きな対立する力学
• 「情報」を「知識」や「メッセージ」や「マーケティン
グ」と捉えると
– できるだけ広く、自由に
• 「情報」を「財」と捉えると
– 囲い込み、権利者のコントロール、市場
• どうバランスを取るか?
• Cf.プライバシーという観点からは、自己コント
ロール、自己決定
クローズから…
• インターネット普及前
– 情報流通は 少数 対 多
– 少数による知識と財のコントロール
– 有体物に似せた市場モデル = 「クローズ」
オープンへ?
• インターネット普及後
– 情報流通は 多 対 多
– 情報コントロール体制の破綻 = 「クローズ」の
破綻
– では、「オープン」が解か?
– 「オープン」化と法・社会制度のズレ
Any Question?
著作権参考文献
基本書
• 中山信弘 著作権法
– 日本の知的財産権第一人
者。
– フェア・ユース論について
はこの本では慎重論を記
載しているが、その後積極
論に転じている。
基本書
• 作花 文雄 詳解著作権法
– 全体的に詳しい。近く最新版
が出る予定。
• 田村 善之 著作権法概説
– 本は少し古い。
– 判例が充実している
– 独自の考え方も多いが、近年
有力視されてきている
コンメンタール
• 加戸守行 著作権法逐条講
義
• 現著作権法の起草者による
解説
• 若干考え方が古い(例外規
定は厳しく解釈、など)。伝統
的考え方を学ぶのに良い
• かつては金科玉条だったが
現在では疑問視する裁判官
もいる
コンメンタール
• 半 田 正夫 松 田 政行 (編集)
著作権法コンメンタール 1~
3
• 最も新しいコンメンタール(20
09年初版)
• 実務家が中心に執筆
2010年の授業から
• 昨年の授業や講演等を補
足して執筆
• 2010年10月時点の情報
なので、内容が若干古い
• 古い点は授業でフォローし
ます☆
議論1
文化振興のためのインセンティブ制度
あなたが新しく生まれた国の強力な政策担当官だったら、
と想像してみてください。
この国に文学や音楽や美術や演劇や映画や建築やそ
のほか様々な文化を芽生えさせたい、
というのがあなたの思いであり、職務でもあります。
そのためにはどんなインセンティブ(動機付け)の制度を
用意するべきでしょう?
以下のような制度をどう思いますか?
・コンテストを開催して、入賞者に賞金を支払う
・作品を制作した者にはもれなく報酬を支払う
・広く人々に支持されているクリエイターに勲章を授け、名誉をたたえる
・文化関連の支出にだけ使える「文化ポイント」を毎年国民に配って、それを受け取っ
たクリエイターは、生活費に換金できるようにする
・さまざまな分野に補助金を提供して、クリエイターや文化事業を支援する
・既存のものと違う作品を作った人は、登録と簡単な審査を経て、一定期間その作品
を販売したり上演したりする権利を独占できるようにする
・自分で作品を作った人は、登録や審査もなく、一定期間その作品を販売したり上演
したりする権利を独占できるようにする(現行の著作権制度)
どういう風に適用範囲を決めます
か?
・娯楽作品を芸術作品と区別して、後者だけを対
象にしますか?
・プロの作品とアマチュアの作品を区別しますか?
・名作と駄作を平等に扱いますか?
・反社会的な作品や、多くの人々に不快感を与え
るような作品、
特定の人の差別を助長するような作品も、世の中
には存在しています。
これらも他の作品同様に扱いますか?
講義1
著作権とは
・著作権は、情報産業の「商品」である情報を、かなり広い
範囲でカバーする法律。
・ある「著作物」の「著作権」を持っている人(権利者)は、そ
の著作物の利用ができる。持っていない人は、著作権を
持っている人に許諾をもらわないと、利用できない。
※利用= コピー、ネットでの公開、翻訳、その他様々な行
為
・最初に権利者になるのは、著作物を創作した人(著作者)。
権利者は他の人に権利を譲渡することができる。
著作権法の目的
「(略)文化的所産の公正な利用に留意しつつ、
著作者等の権利の保護を図り、もって文化の
発展に寄与することを目的とする」(第一条)
公正な利用 と 権利の保護
両者はしばしば対立するが、どちらが行き過
ぎても、「文化の発展」が損なわれる。
※今日の講義のポイント
著作権保護の対象
著作権法は、思想・感情の創作的な表現を、一定期間、保護する。
「思想・感情」の保護:事実は保護しない
「創作的な」:定義(必然性のある表現)、時候の挨拶や訃報(ありふれていて創
作性がない表現)は保護されない。
「表現」:アイディアの部分は保護されない。→後述
「一定期間」:基本は著作者の死後50年間。それ以降は公有に帰す。
保護期間中、作品は「著作者のもの」となる。(独占的な利用の権利を著作者が
持つ。)
権利は「譲渡」できる。→著作者= 権利者とは限らない。
「許諾」もできる。許諾をもらっていない人は、「利用」できない。
議論2
対象物について
著作権はどのような範囲の作品をカバーするべきでしょうか?
O 絵画
O詩
O フレーズ (e.g. “Power to the people!”)
O 新しい言葉 (e.g. Facebook)
O 株価情報、気象情報
O 株価予想、天気予報
O 日記、私信
O 人形やぬいぐるみ
O ランプ
O 携帯電話の端末
O スプーン
O 細かな模様のついたカーテン
対象物について(2)
O 写真
O 音楽
O 舞踏
O 香水
O 映画
O ビデオゲーム
O 製品の包装やラベル(e.g. 飲料の缶)
O 建物
O ロゴ
O 民話、昔話
O 身振り
O 本のカバー
O 洋服
O 腕時計
O ヘアスタイル
O 屋外広告(看板やポスター)
O 電話帳
O コンピュータ・プログラム
O 政府の作成したもの(報告書など)
O 法人の作成したもの
O 各種申請用紙
O 手書きの文字
O 顔の表情
O ジグソーパズル
O アルファベットやその他の文字
O色
O 料理
対象行為
どのような行為を原則禁止にするべきでしょうか?
O 絵画を見る
O 小説を読む
O 詩を朗読する
O 歌を歌う
O パーティやお祝いの席で歌を歌う
O アマチュアのミュージシャンとして無料・無償で歌を歌う
O 報酬をもらって歌を歌う
O 自分が歌を歌ったものをYouTubeにアップロードして公開する
O 学校の合唱団が、父兄や来賓に対して歌を歌う
O 店のオーナーがCDをかけて、来客が聴けるようにする
O 先生が授業中にCDをかける
O 絵画を人々に見せる
O 絵画に手を加える
O 著作物の描かれたTシャツを着て外を歩く
O 著作物の写真を撮影する
O 小説を要約する
O 他人の書いた小説を売る
O他人の書いた小説を貸し出す(有料)
O他人の書いた小説を貸し出す(無料)
O他人の書いた小説をCDと交換する
O 小説の一部を引用する
O 有名な映画の一シーンをパロディのネタにする
O 音楽をラジオ番組中で流す
O ウェブページをプリントアウトする
O そのプリントアウトを誰かにあげる
O 路上にある彫刻を映画で撮影、上映する
講義2
保護の対象
・詩、小説、日記、手紙、書、交通標語
・絵画、彫刻、写真、漫画、絵葉書、落書き、
・音楽、演説、鼻歌、
・映画、演劇、テレビ番組、テレビゲーム
多岐にわたる。
※立体物は特に実用性がある場合「創作性」の
基準が厳しい(住宅建築)
アイディアと表現
・エッセイの語句-保護される
・エッセイの展開や構成など-保護されるかも(内的表
現形式問題)
・エッセイに述べられている考え方-保護されない
同じ考え方を述べるエッセイを書くのは、別の表現なら
OK。同じような論拠と構成になっていれば、語句が
違っていてもNGかも。
要約もNGかも。(OKとNG、アイディアと表現のはっきり
した境界線は、引きづらい。)
事実やアイディアの保護
・科学法則を著作権で保護したら?
→最初にそれを発見した人の死後50年経つ
まで他の人の研究、教育、応用に支障が出る
かも。
・「X月Y日正午の東京の気温は15℃」という事
実を保護したら?
→権利者以外が許諾なしに記録、報道できな
いかも。
※強すぎる保護は、社会の便益を減じる。
著作権保護がなかったら?
・クリエイターは収入を得ることができない。
(但し、多くのクリエイターはいずれにせよ創作活動だけでは生
計を立てられないが、
最も人気があるアーティストでもコピーされてしまう。)
・著作物を出版したり、放送したりする事業者は、設備投資や人
材発掘や、制作、宣伝などに投資しても、その成果をライバ
ル事業者にコピーされてしまい、商売にならない。
※保護が弱すぎると、創作活動や、創作物の流通が起こらない
ので、社会にとっても損失になる。
保護の範囲
・複製
・翻案(加工。含:翻訳)
※インスピレーションを得て、アイディアだけが
共通の作品を創作するのはOK
※創作性がない表現を借用するのはOK
※創作性のある表現(含:内的表現形式)を借
用するのはNG
・展示、上演・上映、口述、貸与、公衆送信、等
本資料のライセンスについて
この資料を 2 種類のライセンスで提供し、利用者が選べるようにするために、利用許
諾に関する注意書きを以下に記し ます。
・ この資料は、 CC-BY 2.1 JP (http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/ ) でライ
センスされています。
・ この資料は、 CC-BY-SA 2.1 JP (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.1/jp/ )
でライセンスされています。
なお参考までに、本作品のタイトルは「著作権入門 I 文化を支えるインセンティブ制
度をどう設計するか?」で、原著作者と許諾者は渡辺智暁です。本作 品に係る著
作権表示はなく、免責に関する注意書きもなく、許諾者が本作品に添付するよう
指定した URI もありません。
そこで、例えば、CC-BYライセンスで要求されるクレジット等の表示の義務を満たすに
は、次のような類の表示をすればよいということになります:
「著作権入門 I 文化を支えるインセンティブ制度をどう設計するか?」 by 渡辺智暁
この資料は、 CC-BY 2.1 JP (http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/ ) でライセ
ンスされています。