外国人児童生徒の日本語 ー学習言語の伸びをどう測るか ICU Foundation Visiting Scholar Program ICU教育研究所・リテラシー研究会・JLP/RCJLE共催 2008.12.01 5:00-7:00 p.m. 国際基督教大学 第二教育研究棟3階 301号室 中島 和子 [email protected] トーマスとコリエの大規模調査(2002) 米国5つの州、地域の教育委員会との協力態勢 対象児:21万人(幼児から高校3年生) 州統一テスト等を使用して縦断的に伸びを調べる 目的:追いつくのに何年かかるか、英語力獲得の要因 結果: 1. 母語も学習に使うプログラムが成功 2. 取り出し授業は普通学級に戻ったときギャップが大きい 3. 4年生までL1で教育を受ければ、学年レベルに追いつく 4. 中学・高校生になって入国した場合は非常に困難 5. 教科の中でもっとも困難なのが読解力 ©k.nakajima 2008 英語テスト(1999のStanford 9) 青:ESL 緑:移行型バイリンガル 赤:母語話者 黄色:サブマージョン 学年 ©k.nakajima 2008 2 ELLが高校2年時の学力(ITBS) サイエンス 社会 書く 数学 読み 滞在年数 ©k.nakajima 2008 3 コリエの研究ー母語使用の重要性 「子どもは学校でL2に切り替え、しかも教師が家でも L2で話すように勧めると、親子の会話は、年齢よりも 低い認知レベルになる。逆に、親も子どもも一番よく分 かることばで話せば、子どもの年齢に合った認知レベ ルで話すことができる。 したがって、学歴の低い親の 場合でも認知面の継続的発達が可能になる。例えば、 質問したり、いっしょに問題を解決をしたり、ものを作っ たり直したり、料理したり、人生経験について話し合っ たりすることによって、認知面が発達するのである。」 (1998, p. 4) ©k.nakajima 2008 年齢と第一言語の習得 0 1 0 2 1 3 2 4 3 5 4 6 5 7 6 8 7 9 8 109 11 12 13 14 15 (歳) 母文化 話しことば 読み書きの初歩 読解力・作文力 抽象語彙・抽象概念 ©k.nakajima 2008 5 母語・第一言語とは何か – いつ覚えたか いちばん初め – どのぐらいできるか いちばんよく分かる – どのぐらい使うか いちばんよく使う – どんな気持ちで使うか いちばん安心して使える – 1つとは限らない – 言語形成期(2〜15歳) – 母語から継承語へ(マイノリティー言語児童の場合) ©k.nakajima 2008 Early Development Instrument: A Population-based Measure for Communities (EDI) 学校環境に入るレディネス を見るもの 担当指導員が104項目の質問に答える 5つの領域(健康、言語・認知、社会性・情緒の安定、 コミュニケーション・一般常識) 3段階評価(よくできる、普通、できない、分からない) ESL(英語学習者)かSN(特殊教育が必要)か Duke & Janusが開発 (カナダ全国で標準化, 2005) ©k.nakajima 2008 Early Development Instrument (EDI) Section C – Social and Emotional Development How would you rate this child’s: 1.overall social/emotional development very good/good average poor/very poor don’t know ○ ○ ○ ○ 2. ability to get along with peers very good/good average poor/very poor don’t know ○ ○ ○ ©k.nakajima 2008 ○ Concepts of Print (リテラシーの芽生え) 印刷された文字に意味があるということ 文字と音とが1対1の関係にあること 読みには方向性があること(右から左?上から 下?) 文字と単語は異なる 大文字と小文字/平仮名とカタカナの違い 本の特徴(表紙がある、題名がある、裏と表がある) ©k.nakajima 2008 『幼児・児童読書力テスト』 モノリンガル児(5-8歳)のため(20分) 6つのサブテスト(5点満点) 《単語の理解》 《図形の弁別》 《音節の弁別》 《音節の抽出》 《ひらがなの認知》 《文・文章の理解》3.9 3ヶ月ごとに標準値 知能・読書レディネスと高い相関 ©k.nakajima 2008 『幼児・児童読書力テスト』を使用して NewISの幼児66名(平均年齢5.8歳) サブテスト結果 《単語の理解》2.7 《図形の弁別》4.1 《音節の弁別》4.4 《音節の抽出》3.6 《ひらがなの認知》4.4 《文・文章の理解》3.9 日本人1年生(飯高ら2003)と比較すると、 《単語の理解》弱い(-2) 《図形の弁別》強い(+4) ©k.nakajima 2008 豊橋教育委員会の語彙テスト (1年用、3年用)(築樋2004, 2008) 「学校生活基本用語100」(絵カード,個人面談) 被験者64名(2004):正答率80%以下の4月に1年生なる 幼児が43%(2004), 39%(2005), 49%(2006), 57%(2007) 2004年度の児童が3年になったときに「3年用語彙力テ スト」を実施 結果:「1年生の時に日本語が理解できていると3年生 でも語彙が身につき、漢字も読めるようになるが、1年 生のときに理解度がよくないと3年生時での理解度も低 いという結果になった。」(築樋2008:21) ©k.nakajima 2008 幼児の日本語の語彙力 (語彙数約100、豊橋市64名)(築樋2004) 語彙平均正答率 幼稚園 保育所 託児所 平均正答率 自宅 その他 0 50 ©k.nakajima 2008 100 13 『JDRA読書力テスト-幼児用』(一部) レベル 年齢 A 1 書名 表記 『きんぎょがにげた』(福音館) 3〜5歳 『たかい たかい』(こどものとも社) 『とってください』(福音館) ひらがな 『すべりだい』(福音館) 『かあさん』(こどものとも社) 2 4〜6歳 3 4 6 5〜7歳 『まるくておいしいよ』(こどものとも社) ひらがな ひらがな カタカナ 『かさかしてあげる』(福音館) 特殊読み 『いいきもち』(こぐま社) (は、へ) 『かえるとカレーライス』(福音館) 善元漢字 1部 『だれのあしあと?』(ちいさなかがくのとも) 『きんぎょのトトとそらのくも』(こぐま社) ©k.nakajima 2008 小学1年生 1部 レベル 3−6 特徴 語彙 繰り返しがあるもの 予測可能な言語構造 親しめる人物、動物、経験 53-73 挿絵が理解を助ける 挿絵の下に1−3行の文 8-14 子どもをテーマとし、自分に関連づけやすい話 出来事の繰り返し 会話文が入る 87-207 挿絵が状況設定になり、出来事の順序を示す 挿絵の下に2-6行の文 16-28 人間と同じ感情を持った動物 書き言葉的表現と会話文との融合 人物描写と状況描写がある 挿絵は最小限度のサポート(ほぼ全ページ文章) ©k.nakajima 2008 253-689 レベル 30−38 特徴 語彙 現実的な話に加えて、空想、動物の冒険など 詳しい状況・人物描写、複雑な問題・解決を含む 文の長さと語彙レベルが高度になる 背景知識や高度の思考力が必要となる 963-1,089 挿絵のサポートは少ない、テキストのサイズは小 さめ 40 1,325-1,359 ©k.nakajima 2008 JDRA:どう評価するか 小学校低学年(4段階評価) 予測・推測 音読の正確度(%)自己修正できなかった間違いの数 読み行動(コメント)正確度、区切り方と流暢度、抑揚など 物語再生による内容理解 6項目(24点): 事実関係の理解、詳しい情報の把握、主要 人物や出来事の理解、解釈、物語再生を 自ら進んでする、質問されて答えるだけ 読書傾向 ©k.nakajima 2008 JDRA:どう評価するか 小学校高学年以上、4段階評価 読書習慣(8点) 2項目 読書の範囲、自己評価+目標設定 音読の流暢度(16点) 4項目: 表現が豊か、区切り方、速度、正確度 黙読の速度 物語再生と要約による読解力とストラテジー (24点)6項目:予測、要約、事実関係の理解、 解釈、省察、読書ストラテジーの使用 ©k.nakajima 2008 どのぐらいで追いつくのか? (桜井ほか、中間報告) 大阪府某小学校の読書力調査(2008.7〜9月) 1. 日本人児童36名(学年男女各6名) 2. 外国人(中国系)児童76名 使用テスト:DRA-J 目的:どのぐらい本を読むか(読書習慣) どのぐらい流暢に読むか(音読) どのぐらい内容が読み取れるか(読解力と読み ストラテジー) ©k.nakajima 2008 Oral Proficiency Assessment for Bilingual Children (OBC) 2言語の口頭能力を3面に分けて捉える 基礎言語面 対話面 認知面 対面テスト(約15分)の流れ 導入会話→基礎タスク(文型中心、絵カード) 導入会話→対話タスク(ロールプレイ)→ 認知タスク(教科中心、絵カード) 評価方法(3段階評価) 各言語で3面それぞれ評価項目を設ける ©k.nakajima 2008 OBCを使用した帰国児童と一般児童 の会話力評価(小松2000) 帰国児童生徒6年生(20名)と一般児童6年生(110名) 使用したタスク 基礎タスクー導入会話、[スポーツ] 対話タスクー[誘う][問い合わせ][伝言] 認知タスクー[お話][公害][蝶の一生] 結果 基礎言語面ー発音・イントネーションに現地語の影響 対話面ー「会話を切り出す」「会話をしめくくる」「話体の区別」 消極的(不安)「言い切り」「直接的表現が多い」 認知面ー「意見を言う・理由を述べる」ではプラス、語彙不足、まとまりを欠く (だらだら文) ©k.nakajima 2008 バンドスケール(川上2003) 教師の観察によって診断(指導につなげる) 4技能(聞く、話す、読む、書く)による測定 3つの年齢集団と測定基準 小学校低学年 7段階 小学校中高学年 7段階 中学生以上 8段階 ©k.nakajima 2008 バンドスケール測定基準 話す力 レベル1(p.11) 全体的特徴:日本語に初めて触れる。母語による社会的知 識および母語、日本語の一部を使う 第二言語習得のストラテジー:ものの名前を言ったり、単 語を言ったりする・直接的な要求をするための語彙に限られる・ 大人や他の子どもが言った単語や句をそのまま繰り返す 言語運用上の特徴:コミュニケーションをするためにジェス チャーを使う・一語文、二語文で意味を伝えようとする・日本語 母語話者の子どもに第一言語で話かけることもある・学習内容 がわかったときは、動作を使って返答したり、他の人の行動を 真似たりする・他の子どもがすることを注意深く観察するが、話 さない場合もある・第1言語で話す経験や第1言語から得た知 識が「話す能力」を育成する ©k.nakajima 2008 作文力(生田2002, 2006) 対象:愛知県ブラジル人中学生64名 作文のトピック:「都会の生活と田舎の生活」 (ポルトガル語作文と日本語作文) 有意の相関があったのは、「産出量」、「構成 と内容」、「語彙の多様性」 「正確さ」「文の複雑さ」は相関なし ©k.nakajima 2008 カミンズの言語能力の分析 2面から3面へ(Cummins,2006.6.13) 会話の流暢度(CF=BICS) よく慣れている場面で対話する力 母語の流暢度は4,5歳までに高度に発達 頻度数の高い語彙と簡単な文法構造 外国語人児童生徒は、1,2年で習得 弁別的言語能力(DLS) 学校言語の初期の文字を読んで理解する力 文字の習得 音韻意識(単語が音で構成されること) 外国語人児童生徒も母語話者とほぼ同じ、1,2年で習得 学習言語能力(ALP=CALP) 複雑な話し言葉と書き言葉を理解し、産出する力(5年以上) 低頻度の語彙と複雑な文型 教科学習では言語的にも概念的にも高度な文章の理解頻度 の高い語彙と簡単な文法構造 ©k.nakajima 2008 2言語の関係は? 2言語共有説(Cummins) 2言語相互依存説ー転移(Cummins) 共通操作システム(Baker) 共通基底貯蔵庫(Genesee) 中枢機能システム(Francis) 2言語の関係(共有面がある)(カミンズ2006) ©k.nakajima 2008 転移するのは…? 概念的理解(数の概念、抽象語彙、読みのプロセス、教 科学習言語) 学習ストラテジー(視覚化、図式化、記憶術、作文スト ラテジー、読解ストラテジー) 対人交流スタイル(交流しようとする意欲、ジェス チャー、表情など) 音韻意識(語が音によって構成される) 特定の言語的要素(例:「光合成」の「光」) ©k.nakajima 2008 転移の方向性(動機づけと使用頻度) 母語・第一言語 第二言語・外国語 聞く・話す 聞く・話す 読む・書く 読む・書く ©k.nakajima 2008 CFとALPとの関係 (Coelho 2004:257) I 年目 2 年目 3 年目 4年目 ©k.nakajima 2008 5年+ 語彙力とALPとの関係 (Graves, M.F., 2007) 初めの300語 12-15,000語(4/5年) +500語 25,000語(6年生) 40,000語(高校生) +1200語 +2000語 ©k.nakajima 2008 33 どのぐらいで追いつくのか? これまでの研究成果から (Cummins 1981; Hakuta et al 2000; Thomas & Colliers 2002) – 対話力:1—3年 – 文字・読み書き初歩:2年 – 教室談話:4-5年 – 教科学習言語:8歳以前に入国の場合:7-10年 8歳以降に入国の場合:5-7年 4-8歳がキー! 長期的支援が必要! ©k.nakajima 2008
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