蕁麻疹と漢方

蕁麻疹と漢方
(皮膚科)
熊本大学
寺田 英李子
現代医学における蕁麻疹
• 痒みを伴う赤い発疹が突然現れ、数時間で消えるも
の。
• 皮膚;真皮の血管拡張により、血漿成分が滲み出た
状態。
• 症状;痒み、局所の熱感、患部の膨張、声枯、むかつ
き、気分の不快
• 皮膚の血管透過性の亢進と血管拡張に基づく真皮上
層の浮腫
• マスト細胞由来のヒスタミンが関係
現代医学における蕁麻疹
原因
• 食品
• 食品添加物
• 吸収抗原
• 虫毒
• 物理的刺激
治療法
• 抗ヒスタミン剤
• 抗アレルギー剤
• 脱感作療法
現代医学における分類
原因による分類
1.アレルギー性蕁麻疹
2.コリン性蕁麻疹
3.物理的蕁麻疹
(寒冷、日光、温熱、
水性、圧迫、機械性)
4.接触蕁麻疹
5.血管性浮腫
経過による分類
1.急性蕁麻疹
2.慢性蕁麻疹
中医学における蕁麻疹
• 風疹塊、陰疹(古い文献)
• 正気と邪気が拮抗し、邪気が肌表鬱滞してい
るもの。
風邪の侵入
• 衛営の気;バランスの乱れ、不足
→邪気が侵入しやすい。
中医学における蕁麻疹
飲食の
不摂生
邪気が
皮膚表
面に鬱滞
気や血の不足
衛営の気の不調
蕁麻疹
病機
・外風;発病は急。
・内風;
・気血虚弱による生風・・・虚証。
経過は緩慢。
・血熱、血於からの生風…実証。
・衛外不固、衝任失調+風邪の感受
による反復発作・・・虚実挟雑証。
治療の方針
急性蕁麻疹;多くは外風による。
消風散など、風邪を除く
慢性蕁麻疹;内風によることが多く、様々
なタイプがある。
気や血を補う
胃腸を整える
衛営の気を養う
証によって
方針を立てる
4.弁証論治
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•
•
風熱証
風寒証
衛外不固証
血虚受風証
肝鬱化火生風証
4.弁証論治
• 風熱証; 発疹は赤みが強く
熱感があり、かゆみが非常に強い。
上半身や顔面を中心とする。
温まると増悪し冷やすと軽減する。
舌紅、苔薄黄~白、脈浮数。
疏風清熱止痒:
消風散(地黄3、石膏3,防風2、蒼朮2、木通2、牛蒡子2、知母
1.5、蝉退1、苦参1、荊艾1、甘草1、当帰、胡麻は除く)
消風散合越婢加朮湯(越婢加朮湯;麻黄6、石膏8、生姜3、大
棗3、甘草2、朮4)
十味敗毒湯加連翹(柴胡2.5、桔梗2.5、川穹2.5、茯苓2.5、防風
2.5、甘草1.5、乾生姜1、荊艾1.5、連翹2、桂皮2.5、独
活1.5)など
急性、
温熱性
蕁麻疹
に
相当
慢性蕁麻疹の一部、寒
冷蕁麻疹
4.弁証論治
• 風寒証; 発疹は淡色で、冷風、冷水で悪化し、
温めると減る。
比較的短時間で軽快することが多い。
下半身、四肢を中心に広がる。
舌淡、舌薄白、脈は浮緊あるいは遅 緩。
一時的に衛気と営気の調和が乱れた状態に、
寒を伴う風邪が侵入。
疏風散寒:
桂麻各半湯加防風荊艾(桂枝3.5、芍薬2、生姜2、甘草2
麻黄2、大棗2、杏仁2.5
麻黄附子細辛湯(寒冷蕁麻疹の基本処方、麻黄4、附子
0.5~1、細辛3)
4.弁証論治
• 衛外不固証;常に自汗が出て、汗をかいた状態で風を受
けると針頭~空豆大の皮疹が生じる。
舌淡、苔薄、脈沈細。
もともと虚弱体質の人。衛気が不足して皮膚を引き締めること
ができず汗をかきやすい。
衛営の気の虚弱→風邪を追い払えない
固表御風:
玉屏風散(黄耆18、白朮12、防風9)桂枝湯加減(桂枝4、芍
薬4、生姜4、甘草2、大棗4)
長期化した慢性蕁麻疹
4.弁証論治
• 血虚受風証; 皮疹の発作が一日のうちに何度も反復し、長
期に及び治りにくい。午後や夜間に増悪することが多
い。心煩、動悸、イライラ、口渇、不眠、眩暈などを伴う
こともある。舌体は細、脈は細。
当帰飲子加蝉退(当帰5、芍薬3、地黄4、何首烏2、川穹3、白疾斄3、
防風3、荊艾1.5、黄耆1.5、甘草1、蝉退)
当帰飲子合消風散(かゆみが強いとき) (当帰飲子プラス地黄3、石膏
3,防風2、蒼朮2 木通2、牛蒡子2、知母 1.5、蝉退1、
苦参1、荊艾1、甘草1、当帰、胡麻)
コリン性蕁麻疹、
4.弁証論治
ストレス性蕁麻疹
• 肝鬱化火生風証; ストレスや、怒りっぽい性質の人に見られる。
イライラ、ほてり、口苦、頭痛、高血圧、目の充血な
どを伴う。皮疹の消長は情緒の影響を受ける。
舌赤、脈弦数。
ストレスや怒りが溜って肝気が鬱結し、熱をおびて炎上(肝火上炎)し、体内に風
を生じる。
竜胆瀉肝湯(当帰4.地黄5.木通3.おうごん3、沢瀉3、車前子3、龍胆1、 山梔子1、
甘草1)合消風散 (地黄3、石膏3,防風2、蒼朮2、木通2、牛蒡子2、知母1.5、蝉
退1、苦参1、荊艾1、甘草1、当帰、胡麻)
、
竜胆瀉肝湯合大柴胡湯(大柴胡湯;柴胡6、黄ごん3、半夏4、大黄1、枳実3.0、
芍薬4.0、大棗3.0 生姜2.0)
4.弁証論治
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風熱証
風寒証
衛外不固証
気血両虚証
血虚受風証
衝任失調証
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心経欝熱証
脾胃不和証
虫積傷脾証
毒熱煩営証
血於経脈証
肝鬱化火生風証
漢方治療
西洋学的治療
• 左以外の場合
寒冷蕁麻疹
温熱性蕁麻疹
・・・対症療法として
抗ヒスタミン投与
心因性蕁麻疹
副作用で抗ヒスタミン剤
が使えない場合
• 各種の現代薬が効か
ない時
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慢性蕁麻疹は、ほとんどが非アレルギー性で、現代医
学的には原因不明の場合が多い。
西洋医学的な対症療法で効果がない場合、漢方薬
が用いられる。
症例2
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27歳、女性
主訴;身体各所の強いかゆみと搔破により生じる膨疹。
既往歴;アレルギー性鼻炎
数か月前より皮膚を強く圧迫したり摩擦したりすると
痒みが生じ、掻破により膨疹を生じるようになった。そ
の後徐々に症状が高度になり、ハンドバッグを下げる
ような軽度の刺激だけでも痒みと膨疹を生じるように
なった。機械的刺激だけでなく、入浴などの温熱刺激
でも蕁麻疹を生じることがある。また、水仕事によって
増悪する両手の角質層の肥厚と湿疹性の変化がある。
• 舌質は赤く、薄黄色を帯びた白苔がある。
症例2(続き)
弁証;風熱証
(舌の状態、温熱刺激での反応などから)
十味敗毒湯エキスの単独投与で、2~3日で痒
みは減少したが膨疹は変化なし。2週間後に
白虎加人参湯を合方し、痒みはさらに減少し
たが膨疹はやはり変化なかった。さらに1週
間後、十味敗毒湯合黄連解毒湯とすると、皮
疹はほぼ軽快した。
4.弁証論治
• 風熱証; 発疹は赤みが強く
熱感があり、かゆみが非常に強い。
急性、
上半身や顔面を中心とする。
温熱性
温まると増悪し冷やすと軽減する。
蕁麻疹
に
舌紅、苔薄黄~白、脈浮数。
相当
疏風清熱止痒:消風散(当帰、胡麻は除く)
消風散合越婢加朮湯、
十味敗毒湯加連翹など
症例3
2歳、男児
• 主訴;体が温まった時を中心に生じる膨疹と痒み。全身の
軽度の落屑と掻破痕。関節部のアトピー性湿疹。
• 生後六か月で離乳を始めたところ、皮膚がカサカサしてきた。
1歳頃から、体を動かして温まると躯幹を中心に膨疹が生じる。
1時間ほどで軽快するが、しばらくすると繰り返す。特に風呂
上がりがひどい。食物アレルギーだと小児科で言われたが検
査は行っていない。
• 全身皮膚の、ごく軽い落屑があり、搔破痕がみられる。肘や
膝の関節内部には湿疹性の変化があり、発赤もある。やや
色白で痩せている。知能面、身体の発育に問題はない。
腹部にわずかに膨疹がある。膨疹の色調は赤みが少ない。
症例3(続き)
• 弁証;血虚受風証
血色が悪く痩せており、皮膚の乾燥があるこ
とから、血虚が基本に存在すると考える。
治療;当帰飲子加減 と抗ヒスタミン剤を処方
した。漢方薬のみで、2~3日目には膨疹は
全く生じなくなった。皮膚の乾燥も軽快した。
長期化した慢性蕁麻疹
4.弁証論治
• 血虚受風証; 皮疹の発作が一日のうちに何
度も反復し、長期に及び治りにくい。
午後や夜間に増悪することが多い。
心煩、動悸、イライラ、口渇、不眠、
眩暈などを伴うこともある。
舌体は細、脈は細。
当帰飲子加蝉退
当帰飲子合消風散(かゆみが強いとき)
主な方剤
【急性蕁麻疹】
1.十味敗毒湯
・急性蕁麻疹の第一選択薬として用いられることが多い。
祛風・清熱解毒・解表
2.消風散
・盛り上がっている部位が赤く、痒みが強い場合
・温熱蕁麻疹
祛風養血・清熱除湿
3.葛根湯
・盛り上がっている部位が赤くないか、青白い場合
・寒冷蕁麻疹
辛温解表
【慢性蕁麻疹】
1.加味逍遙散合香蘇散
自律神経失調気味の人、ストレス、うつ状態になりやすい
人。 女性では生理が乱れがちの人や更年期障害の人な
どに効果が高い。
加味逍遙散; 疏肝解鬱・健脾補血、調経
2.十全大補湯合香蘇散
体力、気力が低下していたり、病後や、食欲がなく食が細
い人などに効果がある。
十全大補湯; 温補気血
3.防風通聖散
便秘気味、尿量が少ない、食欲がある、肥満傾向、肌が
荒れやすい、
通常は丈夫で暴飲暴食などをしやすい人など。
清熱解毒、利水、解表
その他
• 当帰飲子;
• 桂麻各半湯;
どちらかというと虚証。皮膚が乾燥し 比較的体力があり、病気の初期。体
痒みのある皮膚疾患など。
の熱や腫れ、痛みやカユミを発散
養血潤燥・祛風
発汗解表・止咳
• 竜胆瀉肝湯;
実証で、排尿痛、頻尿などの場合。 • 玉屏風散;
肝経。
虚弱、風邪に侵されやすく、疲れやす
清肝潟火・清熱利湿
い人の多汗症、寝汗、疲労倦怠感
• 越婢加朮湯;
益気固表・止汗
実証で、浮腫、熱感、尿量
減少などがある場合
宣肺利水・ 健脾
• 麻黄附子細辛湯;
虚証、寒証に用いる。
助陽解表
おしまい