生活と文化 Ⅰ 民族と宗教の視点から 太田達也 「ドイツ」とは Deutschland = deutsch + Land deutschの語源:theodisca lingua 「民衆の言語」 「ドイツ語」 → 「ドイツ語を話す人々」 → 「ドイツ語を話す人々の住む地域」 「ドイツ」 ≠ すべてのドイツ語民族を 包括する国家 ドイツ語とは インド=ヨーロッパ語族 イタリック語派 ゲルマン語派 スラブ語派 東ゲルマン語系 西ゲルマン語系 北ゲルマン語系 英語 オランダ語 ドイツ語 「ドイツ」の歴史的変遷 神聖ローマ帝国(962-1806) ドイツ連邦(1815-1866) ドイツ帝国(1871-1918) ワイマール共和国(1919-1933) ナチス「第三帝国」(1933-1945) 東西ドイツ(1949-1990) 再統一後のドイツ(1990-) 多元化する「ドイツ人」 マジョリティーのいわゆる「ドイツ人」 → ドイツ国籍 土着の少数者 → ドイツ国籍 移住者 帰還者 難民 → 一定の条件を満たせば、ドイツ国籍 取得可能 → 国籍法改正以前から、ドイツ国籍 取得可能 → 認定されれば、 ドイツ国籍取得可能 シリー連邦内務大臣の発言 「今回の国籍法改正によりドイツにおける国民の概 念が現実に近いものとなる。国民という概念が民族 的均質性に依拠するとの考えは、過去に我々が犯 してきた妄想である。ことに我々ドイツ人は、社会的 まとまりが共通の言語や地理的な境界、あるいは統 一的な宗教だけでは決して達成できないことをよく 知っている。開かれた現実的な国民の概念は、平 和的に共存しつつ共同で未来を建設していこうとす る意志、さらに自由な社会の基本である諸価値への 忠誠に立脚しなければならない。その意味で新国籍 法は、異なる文化の、豊かで平和的な共存の基礎 となる。」 ドイツの歴史における宗教 現代ドイツを理解するための3つのポイント キリスト教世界の保護者としての国王 宗教改革と領邦教会制 ワイマール憲法で保障された特権 現代ドイツ国家と宗教 政教分離 - 国教、国教会はない さまざまな「特権」 - 教会財産の保障 - 補助金の交付 - 教会税の徴収 - 宗教上の祝日を祭日とすること - 宗教教育 ドイツの中の宗教 キリスト教 - カトリック教会(旧教) - プロテスタント教会(福音主義教会、新教) - その他のキリスト教 イスラム教 ユダヤ教 仏教 新宗教集団 カトリックとプロテスタント カトリック 司祭、神父(妻帯不可) 神父は神と個人の仲介者 教会は祈りの場 聖書以外の教典も 懺悔あり 聖母マリア信仰 プロテスタント 牧師(妻帯可、女性も) 牧師は聖書を説く教師 神は個人とともに 聖書のみ 懺悔なし マリアは人間 地域別にみた教会員の数 「あなたはいかなる宗教集団に属していますか?」 (1992年の調査) カトリック教会 福音派州教会 その他の集団 無所属 旧西独国民 42.3 % 41.7 % 3.6 % 12.3 % 旧東独国民 4.3 % 27.3 % 2.0 % 66.3 % 教会離脱者数の推移 300000 250000 200000 カトリック プロテスタント 150000 100000 50000 0 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 キリスト教と市民生活 信仰と礼拝 通過儀礼 - 出生、結婚、出産、死 年中行事 - 祝祭日 社会奉仕活動 - 病院、福祉施設、地域活動、市民運動など 生活習慣 キリスト教の祝祭 聖ニコラウス祭 待降節 降誕節(クリスマス) 公現日 謝肉祭 復活祭 聖霊降臨祭 など スカーフ論争 ドイツの公立学校で、イスラム教のスカーフを 教師が着用してよいか 連邦憲法裁判所の判決:「法的な根拠さえあれ ば、各州は教員のスカーフ着用を禁止できる」 → 法整備をするかどうかは、各州の判断に ラウ大統領の発言 「スカーフ禁止は信教の自由に反するものだ。 それは、宗教的シンボルを公の生活から一 切排除する世俗主義的国家への第一歩であ る。私はそれを望まない。」 ドイツ福音主義教会代表 フーバーの発言 「キリスト教的なものにせよ他宗教のものにせ よ、宗教的シンボルを公共の場から追放すべ きではない。ドイツではキリスト教以外の宗教 にも敬意を持つべきだ。」 参考文献 加藤雅彦・麻生健・木村直司・古池好・高木浩子・辻通男(編)「事 典 現代のドイツ」大修館書店 1998年 渡辺重範(編)「ドイツハンドブック」早稲田大学出版部 1997年 在間進・河合節子・山川和彦(編)「現代ドイツ情報ハンドブック [改訂版]」三修社 2003年 大西健夫・U.リンス(編)「ドイツの社会 民族の伝統とその構造」 早稲田大学出版部 1992年 連邦政府「ドイツの実情」ソシエテーツ出版 2000年 浅川千尋(編)「知の扉 新しいドイツへ」晃洋書房 1999年 早川東三・工藤幹巳(編著)「ドイツを知るための60章」明石書店 2001年 阿部謹也「物語 ドイツの歴史」中公新書 1998年 木村靖二(編)「ドイツの歴史 新ヨーロッパ中心国の軌跡」有斐閣 アルマ 2000年
© Copyright 2024 ExpyDoc