図書館とメディアの歴史 後藤嘉宏 2015年度、筑波大学大学院 1)物語としての歴史 • 歴史と物語 • フランス語では同じ言葉histoireで表す。 •仏 英 • histoire history • story • 中国の正史 いまの王朝の正統性を示す歴史 • 『古事記』『日本書紀』・・・歴史?神話? ルキアノス(120-180) • 過去と未来 • 過去・・・黄金郷? • 未来・・・輝ける未来 • 古さの正統性・・・血筋、土地所有(vonドイツ貴族 deフランス貴族)、 国土 左の人の母方の祖父は?右の人の母方の 祖父は誰? • 古いことの正統性→「物語」としての歴史 • 古いことの正統性の根拠←歴史の正しさ←科学(学)としての歴史 (実証史学) 2)歴史観と歴史 2-1)普遍史観 • 歴史は救済という目的に進んでいくという考え方。 アウグスティヌス(354-430) 2-2)進歩史観 • 自由の増大という目的のための歴史 • ・・・自由と平等へ向けて歴史が大きく動いてきたことは事実かと。 • 〔いまから見ると〕 • しかし科学技術の発展が人間を幸福にしたかとか、自由の増大が 人間に生きている意味を与えたか(デュルケム)とか。 • 自由の増大のための歴史という進歩への肯定は素直に受け入れら れない時代に • 神による生の意味づけ→人類の自然(あるべきすがた)への開花に 協力することに生の意味づけを(カントの啓蒙史観) エマニュエル・カント(1724-1804) 「世界精神が行く」 • ヘーゲル(1770-1831)の啓蒙史観 • 絶対精神=イデー=歴史の目的 • 弁証法的に歴史を捉える(弁証法の中興の祖のような存在) • 弁証法と形式論理学(アリストテレス以来の)の違い(田邊元にいわ せると) 田邊元(1985-1962) • 田邊元・・・西田幾多郎(1870-1945)に招かれて、東北大講師だった 田邊は京大哲学科助教授に。 • 西田と師弟論争をする。 • 中井正一は田邊の家での毎週の勉強会・飲み会の常連客 • 田邊の西田批判が中井の理論のなかに組み込まれている。 • 晩年、軽井沢の別荘友だちの野上弥生子と往復書簡を交わし、岩 波現代文庫に収められている。 田邊によるヘーゲルの説明 • 形式論理・・・個別<特殊<普遍・・・これら3カテゴリーの間の矛盾 はない • 歴史・・・特殊(国理)と普遍(摂理)の間で個人が揺れる・・・3つのカ テゴリーが矛盾・・・弁証法的に歴史を捉えざるを得ない。 • 弁証法・・・自己肯定のためには、反対者を通じて(媒介して)、自己 否定する必要がある。 • 田邊のいうヘーゲルの矛盾 • 歴史主義=弁証法・・・人がある Vs • 理性主義・・・目的がある 2-3)実証史学 • ヘーゲルの歴史法則性を否定 • 代表者、ランケ(1795-1886)、レオポルド=フォン、 • 各々の時代はそれぞれ神に直結する。 レオポルド・フォン・ランケ 2-4)唯物史観 • カール・マルクス • ヘーゲル弁証法の批判的継承 • 歴史の原動力・・・ヘーゲルは思想(イデー)、マルクスは経済的な関 係 • 下部構造が上部構造を規定する • 生産力と生産関係の矛盾が歴史の原動力 カール・マルクス(1818-1883) 2-4)ウェーバーの歴史観(歴史学派) • マックス・ウェーバー(1864-1920) • 『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』 • 宗教倫理→経済活動 • 文化的な差異が歴史の進展に大きく影響する • 価値自由・・・歴史記述に価値判断を持ち込むことを禁じる 2-5)アナール学派 • アナール学派 • 政治史中心の歴史からの脱却 • 政治史・文化史→社会史 • 著名な個人の織りなす歴史→民衆史 • 書物の歴史を個人蔵書や無名の人々の読書実践の記録から追う • 現在の第一線の書物史、読書史の多くは、アナール学派(あるいは • その影響)から出ている。 リュシアン・フェーブル(1878-1956) • フェーブル • アナール派の創始者の一人 • ランケの実証史学を文献だけに頼っていて無味乾燥と批判 • 社会学や経済学などの知見を援用し、芸術作品や人口統計など 様々な資料を駆使した歴史を唱える ロジェ・シャルチエ(1945-) 3)歴史と物語、双方の終焉 • 歴史と時間意識・・・密接不可分 • 我々の時間意識・・・交通(広い意味でのコミュニケーション手段)の 発達→変化の早い世の中 • 個人としても組織としても変化を追う中で一貫性を保ちにくい • 情報媒体 通読媒体→検索媒体 への変化・・・一貫性を保たないことを助長(やや技術決定論的な議論 になりうるが)。 歴史・・・我々の行為を意味づけるもの 行為を意味づけるもので歴史観が違う • 神が位置づける・・・普遍史観 • 摂理や後世(人類の目的を達成する)が位置づける・・・進歩史観 • それぞれの個人と個人を取り巻く文化・・・理解社会学(ウェーバー) とその延長上にある、歴史主義の歴史観 • 意味づけてくれるものの不在・・・物語の終焉(リオタール) 歴史の意味 • 「木を見て森を見ず」を防ぐ効能 • ただし森が形をなしていない可能性も生じてはいるかも知れない。 4)佐藤卓己『ヒューマニティーズ 歴史学』(岩波 書店,2009)の紹介 • メディア効果論研究の課題が本当に分かるのは、メディア史研究の み • 技術決定論の是非を問う場合も、新たな技術(新たなメディア)のイ ンパクトの大きさ・小ささは、長期の効果を見る歴史を通じてのみ測 れる。 5)歴史学か歴史(通史)か • 広い意味での実証史学と通史 • 人々は通史を学ぶ中で、通史の中の一こまとして現代を生きる。 • 研究業績は実証史学においてのみなされるが。 • 時代区分論か時代移行論か • 実証的に捉えると後者になる • ただし弁証法的な歴史の動きは前者でないと捉えられない →折衷であるが、組み合わせていくしかない。
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