media_history_20150416

図書館とメディアの歴史
後藤嘉宏
2015年度、筑波大学大学院
1)物語としての歴史
• 歴史と物語
• フランス語では同じ言葉histoireで表す。
•仏
英
• histoire history
•
story
• 中国の正史 いまの王朝の正統性を示す歴史
• 『古事記』『日本書紀』・・・歴史?神話?
ルキアノス(120-180)
• 過去と未来
• 過去・・・黄金郷?
• 未来・・・輝ける未来
• 古さの正統性・・・血筋、土地所有(vonドイツ貴族 deフランス貴族)、
国土
左の人の母方の祖父は?右の人の母方の
祖父は誰?
• 古いことの正統性→「物語」としての歴史
• 古いことの正統性の根拠←歴史の正しさ←科学(学)としての歴史
(実証史学)
2)歴史観と歴史
2-1)普遍史観
• 歴史は救済という目的に進んでいくという考え方。
アウグスティヌス(354-430)
2-2)進歩史観
• 自由の増大という目的のための歴史
• ・・・自由と平等へ向けて歴史が大きく動いてきたことは事実かと。
• 〔いまから見ると〕
• しかし科学技術の発展が人間を幸福にしたかとか、自由の増大が
人間に生きている意味を与えたか(デュルケム)とか。
• 自由の増大のための歴史という進歩への肯定は素直に受け入れら
れない時代に
• 神による生の意味づけ→人類の自然(あるべきすがた)への開花に
協力することに生の意味づけを(カントの啓蒙史観)
エマニュエル・カント(1724-1804)
「世界精神が行く」
• ヘーゲル(1770-1831)の啓蒙史観
• 絶対精神=イデー=歴史の目的
• 弁証法的に歴史を捉える(弁証法の中興の祖のような存在)
• 弁証法と形式論理学(アリストテレス以来の)の違い(田邊元にいわ
せると)
田邊元(1985-1962)
• 田邊元・・・西田幾多郎(1870-1945)に招かれて、東北大講師だった
田邊は京大哲学科助教授に。
• 西田と師弟論争をする。
• 中井正一は田邊の家での毎週の勉強会・飲み会の常連客
• 田邊の西田批判が中井の理論のなかに組み込まれている。
• 晩年、軽井沢の別荘友だちの野上弥生子と往復書簡を交わし、岩
波現代文庫に収められている。
田邊によるヘーゲルの説明
• 形式論理・・・個別<特殊<普遍・・・これら3カテゴリーの間の矛盾
はない
• 歴史・・・特殊(国理)と普遍(摂理)の間で個人が揺れる・・・3つのカ
テゴリーが矛盾・・・弁証法的に歴史を捉えざるを得ない。
• 弁証法・・・自己肯定のためには、反対者を通じて(媒介して)、自己
否定する必要がある。
• 田邊のいうヘーゲルの矛盾
• 歴史主義=弁証法・・・人がある
Vs
• 理性主義・・・目的がある
2-3)実証史学
• ヘーゲルの歴史法則性を否定
• 代表者、ランケ(1795-1886)、レオポルド=フォン、
• 各々の時代はそれぞれ神に直結する。
レオポルド・フォン・ランケ
2-4)唯物史観
• カール・マルクス
• ヘーゲル弁証法の批判的継承
• 歴史の原動力・・・ヘーゲルは思想(イデー)、マルクスは経済的な関
係
• 下部構造が上部構造を規定する
• 生産力と生産関係の矛盾が歴史の原動力
カール・マルクス(1818-1883)
2-4)ウェーバーの歴史観(歴史学派)
• マックス・ウェーバー(1864-1920)
• 『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』
• 宗教倫理→経済活動
• 文化的な差異が歴史の進展に大きく影響する
• 価値自由・・・歴史記述に価値判断を持ち込むことを禁じる
2-5)アナール学派
• アナール学派
• 政治史中心の歴史からの脱却
• 政治史・文化史→社会史
• 著名な個人の織りなす歴史→民衆史
• 書物の歴史を個人蔵書や無名の人々の読書実践の記録から追う
• 現在の第一線の書物史、読書史の多くは、アナール学派(あるいは
• その影響)から出ている。
リュシアン・フェーブル(1878-1956)
• フェーブル
• アナール派の創始者の一人
• ランケの実証史学を文献だけに頼っていて無味乾燥と批判
• 社会学や経済学などの知見を援用し、芸術作品や人口統計など
様々な資料を駆使した歴史を唱える
ロジェ・シャルチエ(1945-)
3)歴史と物語、双方の終焉
• 歴史と時間意識・・・密接不可分
• 我々の時間意識・・・交通(広い意味でのコミュニケーション手段)の
発達→変化の早い世の中
• 個人としても組織としても変化を追う中で一貫性を保ちにくい
• 情報媒体 通読媒体→検索媒体
への変化・・・一貫性を保たないことを助長(やや技術決定論的な議論
になりうるが)。
歴史・・・我々の行為を意味づけるもの
行為を意味づけるもので歴史観が違う
• 神が位置づける・・・普遍史観
• 摂理や後世(人類の目的を達成する)が位置づける・・・進歩史観
• それぞれの個人と個人を取り巻く文化・・・理解社会学(ウェーバー)
とその延長上にある、歴史主義の歴史観
• 意味づけてくれるものの不在・・・物語の終焉(リオタール)
歴史の意味
• 「木を見て森を見ず」を防ぐ効能
• ただし森が形をなしていない可能性も生じてはいるかも知れない。
4)佐藤卓己『ヒューマニティーズ 歴史学』(岩波
書店,2009)の紹介
• メディア効果論研究の課題が本当に分かるのは、メディア史研究の
み
• 技術決定論の是非を問う場合も、新たな技術(新たなメディア)のイ
ンパクトの大きさ・小ささは、長期の効果を見る歴史を通じてのみ測
れる。
5)歴史学か歴史(通史)か
• 広い意味での実証史学と通史
• 人々は通史を学ぶ中で、通史の中の一こまとして現代を生きる。
• 研究業績は実証史学においてのみなされるが。
• 時代区分論か時代移行論か
• 実証的に捉えると後者になる
• ただし弁証法的な歴史の動きは前者でないと捉えられない
→折衷であるが、組み合わせていくしかない。