交通信号遵守を促進するための、随伴 性の変更 立命館大学文学部心理学科3回生 井手 暁 目的 いくつかの先行研究によると、交差点でのドライバーの 黄信号・赤信号への接近パターンを調べたところ、黄か ら赤に変わるときに交差点に近づいた場合、ほとんどの 人が停まらないことがわかった。 先行研究では1つの信号機についてしか調べられていな いため、今回は近い場所にある2つの信号機について調 べた。 潜在的な、信号タイミングについての危険な随伴性を確 かめ、それを変容させるのが目的である。 方法 状況 シカゴの、図1のように2つの信号が近くにある 場所で行った。 信号機1(T1)と信号機2(T2)は実験ストリート (Eストリート)上で45.1m離れている。 T1を通った車191台のうち、69%がT2も通過し た。(2人の観察者がカウント。一致度は100%) 方法 図1-a 信号機の位置関係 方法 図1-b 信号機の時間表 方法 T1を通る1台目の車はT2に到達するまで平均で 10秒、2台目の車は12.5秒、3台目の車は 15.6 秒かかった。(4台目以降はまったくT2を通れな いので無視する) 1台目の車はだいたい、青信号のときにT2を通 過できた。しかし2台目は黄信号か赤信号にぶ つかった。 統制ストリート(Cストリート)上にある信号機3 (T3)は、T2から40.1m離れている。 方法 手続き 観察は午後4:45~5:15に、図1のX地点で行っ た。 実験日1日につき、30試行の観察を行った。 1試行は、T1の青信号が点いてからT1の赤信 号が消えるまでと定義した。 実験試行と統制試行は交互に行った。 方法 T1からT2の間では、1日につき、平均で72の車が観察さ れた(実験群)。 T3からT2の間では、1日につき、平均で373の車が観察 された。 T2の停止線を車が越えた時、あるいは停まった時には、 毎回信号が青・黄・赤のどれだったかを記録した。 また、車がT2を通過したかしなかったかも記録した。 方法 実験デザイン ABAデザインが使われた。 ベースライン、タイムチェンジ1、タイムチェンジ2にはそ れぞれ5日間観察を行った。ベースラインに関しては、信 頼性を測るために1年後に6回目の観察を行った。その 結果、90%以上の信頼性が得られた。 ベースラインでは、T1が青になってから10.7秒でT2が 黄に変わった。タイムチェンジ1では7.3秒、タイムチェン ジ2では5.1秒に短縮された。 結果 黄 ・ 赤 信 号 で 停 車 し た 割 合 ( % ) セッション日数 図2 黄・赤信号での停車率 結果 図2は、黄・赤信号で停まった車の割合を示している。 ベースラインでは、46.8%の車が停まった。 それがタイムチェンジ1では88.8%に、タイムチェンジ2で は98.8%にまで上昇した。 統制ストリートでは全ての車が黄・赤信号で停まった。 シカゴ公共事業部の調べによると、タイムチェンジ前の 7ヶ月間(1983年2月~9月)の事故数は22件、タイム チェンジ後の1984年2月~9月の事故数は14件にまで 減った。 考察 交差点を越える際には、信号のタイミングパターンを変える ことでドライバーの行動に影響が出ることがわかった。 シカゴでは、「交通量」と「利用可能な道路数」という2つの変 数を考慮した結果、信号のパターンが決められている。 交通エンジニアは、交差点を通るのに、最初の車に5秒、後 続車に2.5秒の時間を与えるよう時間数を設定している。 しかしこの方法では、2つの信号が近くにある場合に起こりう る問題を計算できない。 本研究ではベースラインにおいて、T1が青になってからT2 が黄になるまでの間隔が10.7秒では、黄・赤信号でも通る車 が多いことがわかった。 考察 1つ目の信号から2つ目の信号へ進む場合、はじめのド ライバーは青信号で通るが、2、3人目のドライバーは 黄・赤信号で通る。 ドライバー達は既に初めの信号で最大42秒待っており、 次の信号ではさらに42秒待つ見通しになる。 信号は弁別刺激である。 「進め」(青)、「停まれ」(赤)、「速度を落とせ」または「速度 を上げろ」(黄) 考察 彼らはまた、危険信号(赤)を、衝突や逮捕とい う形で思い浮かべ、強化子(青)は旅路の終わり へ近づいていくという形で思い浮かべる。黄(警 告)のときに、ドライバーは接近回避の葛藤場面 に直面するのである。 黄や赤信号を早めに提示することで、ほとんど のドライバーは葛藤が軽減され、交差点前で停 まることができるのである。 考察 赤信号で走る車のみに注目した場合、結果は、 ベースライン:16%、タイムチェンジ1:3%、タイ ムチェンジ2:0%となった。 シカゴの交通エンジニアとの協力により、交通信 号はタイムチェンジ2のまま維持されることに なった。他の事故率の高い交差点に導入するた めの協力要請も受けている。 考察 実験室では、強化スケジュールにおいて、遅延を回避す る特性が報告されている。 あるタイプの信号パターンはドライバーの黄・赤信号で の前進率を減らし、別のタイプは増やす。 おそらく、このようなタイプの随伴性は他の状況でも働い ており、有益・有害な結果をもたらしていることだろう。 行動分析学者は、これらの随伴性の行動に及ぼす効果 を解明・説明していかなくてはならない。
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