ILCの物理と測定器

ILCの物理・測定器
川越 清以 (九州大学)
高エネルギー物理学将来計画検討小委員会タウンミーティング
『コライダー加速器による高エネルギー物理学の将来展望』
2011.09.10@名古屋大学
2011/09/10
K. Kawagoe for ILC
1
リニアコライダー
•
1980年代からアジア(日本)、北米、ヨーロッパで次世代計画として推進
– 1986年「高エネルギー物理学将来計画(次期計画検討小委員会報告)」
1. TeV領域の電子リニアーコライダーの国内建設を目指した加速器のR&Dに直ちに着手す
る。
2. SSCにおける国際協力実験を推進する。
– 1997年「高エネルギー物理学将来計画検討小委員会報告」
1. リニアコライダーを日本における高エネルギー物理学研究の次期基幹計画とする。
2. 現在建設中のKEKB計画を予定通り遂行することは重要である。また 、そ の他の国内・
国外における加速器・非加速器実験の諸計画も、広範な学問基盤 の形成のために推進
する。
– アジア(日本)の計画と平行してNLC計画(北米)とTESLA計画(ヨーロッパ)が進め
られた。
•
2004年から、世界で一つの「国際リニアコライダー(ILC)」として推進
– 2006年「高エネルギー物理学の展望」
•
2011/09/10
日本の高エネルギーコミュニティは,エネルギーフロンティアの物理が最も重要であるとの
認識の元に,ILC の実現を最優先課題とし,ILC の実験開始以前においては,エネルギーフ
ロンティアと相補的な役割を担う フレーバー物理を共に推進するというマスタープランを
成し遂げる。
K. Kawagoe for ILC
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測定器 2大コンセプトチーム & 技術
ILD・SiD & 測定器要素技術 大型国際共同G
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K. Kawagoe for ILC
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GDEによる開発・設計(☞佐伯さん)
•2012年末にTDR
•第1期:500 GeV (全長約31 km)でスタート
•第2期:1 TeV(全長約50 km)に拡張
•いつ、どこに作るかはこれからの議論による
陽電子源
電子線形加速器
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電子源
ダンピングリング
K. Kawagoe for ILC
陽電子線形加速器
~50km
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まずは陽子, 次に電子
new road
• Open
ILCのクリーンな環境で、LHCで発見された
新粒子を調べ尽くす。
– 質量は?スピンは?結合定数は?
– 背後にある対称性や原理を探る
– 未知の粒子に対する情報を得る
– TeVの物理の全貌を明らかにするためには次
Higgs Particle Study
に何が必要かを決める。
A. Suzuki
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Make up the road
K. Kawagoe for ILC
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2010年秋の物理学会(LHCでの発見可能性)
S. Kanemura
LHCの結果(新粒子の発見)が、ILC計画に直接影響する。
初期エネルギー、アップグレードシナリオ
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2011年夏の状況
Lepton-photon 2011
Lepton-photon 2011
Lepton-photon 2011
LEP EWWG
2010
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K. Kawagoe for ILC
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2011年夏の状況
• 信頼度95%で、標準模型ヒッグス粒子の広い質量領域を排除
– 145 GeV < MH < 466 GeV のほとんどの領域を排除(ATLAS+CMS, LP2011)
• ヒッグスが軽い領域と重い領域は(まだ)生き残る。
– 軽いヒッグスはEW精密測定と合致し、超対称性の予言と矛盾しない。
• 軽い領域のexcessは最大2.8σ (@EPS2011)から最大2.1σ (@LP2011)に減少
– 重いヒッグスは、EW精密測定にも超対称性の予言とも合わない
• 超対称性以外の新物理が必要
• 超対称性や余剰次元など、標準模型を超える新粒子の兆候は(まだ)見
えない。
– カラーを持つ新粒子はとても重くないといけない
– カラーを持たない新粒子は軽くてもよい
• 要するに、まだどのシナリオも排除された訳ではない
– 2012年末までに、じわじわとシナリオが絞られていく
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現時点の個人的予想
対抗
本命
この場合、ILCをやる意義はあるか?
大穴
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シナリオ4:ILC as the Higgs Factory
•
LHCで発見されたヒッグス粒子を調べ尽くす
– 初期状態のわかった素粒子同士の反応
– バックグラウンドの少ないクリーンな環境で精密測定
– 電子(+陽電子)の偏極を利用
•
標準模型ヒッグスか否か:「ヒッグス」は未知の新粒子
– ECM〜MH+130 GeV(〜250 GeV)がベスト。
•
•
質量、生成断面積の精密測定とスピンの決定
崩壊分岐比の精密測定
– ECM〜500 GeV以上で
•
•
•
ヒッグス自己相互作用の測定
トップ湯川結合の測定
トップクォークの精密測定も可能
– ECM〜350 GeVで、ttbar threshold study
•
•
•
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質量、as(mZ)、Gtopの測定
Top-quark momentum の測定
Forward-backward asymmetry
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ヒッグスの質量、生成断面積、スピン
ee→HZ過程でヒッグス粒子を大量生産し
ヒッグス粒子の性質を精密に決める。
最も生成断面積が大きくなるのは
MH+130 GeVぐらい。
スピンの決定
ヒッグスの崩壊分岐比によらない
生成断面積の測定
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TESLA TDR 2001
K. Kawagoe for ILC
GLC project 2003
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BR accuracy with different Mh
Ecm=250 GeV, L=250 fb-1, Beam pol(e+,e-)=(+30%, -80%)
preliminarily
H. Ono
Measurement accuracies are extrapolated from Mh=120 GeV
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トップ湯川結合とヒッグス自己相互作用
高エネルギー(500GeV以上)、高ルミノシティー(数ab-1)の物理
D.Harada
理論計算のみの評価
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生成断面積および崩壊分岐比の測定
によりヒッグス粒子とクォーク、レプトン、
ゲージ粒子との結合定数を精密に決め
る。O(1)%レベルで決めることができる。
SMでは結合定数∝質量
SMからのずれで新物理を探る
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SUSY
(2 Higgs Doublet Model)
K. Kawagoe for ILC
Extra dimension
(Higgs-radion mixing)
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ヒッグス粒子精密測定によるTeV物理の探索
Extra-dim
SUSY
SUSY
ヒッグス粒子は
Electroweak baryogensis
Stongly-int light Higgs
Little Higgs with T-parity
TeVの新物理を探る道具
ACFA report
R.C. Chen et al
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J.Guasch, et al
R.Contino et al
K. Kawagoe for ILC
HEPAP report
S.Kanemura et al
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ILCにおけるヒッグス粒子とトップクォークのプログラム
ルミノシティー (ab-1)
HHZ
2
1.5
1
Light Higgsがある場合に
ILCで保証された物理
HZ
0.5
nnH
ttH
tt
200
300
400
500
600
エネルギー (GeV)
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ヒッグス以外の新粒子
• LHCで今後(比較的重い)新粒子が見つかるかもしれない
– もし見つかれば、その崩壊から軽い新粒子の質量に目安がつく
• LHCで発見不能な(比較的軽い)新粒子がILCで見つかる可能性もある
• LHC/ILCでヒッグス以外の新粒子がひとつ見つかれば、おそらくそれは
ひとつだけではない。新粒子探索の時代に突入する。
– 超対称性?余剰次元?
– 暗黒物質?
• 新粒子を詳しく調べて、次のコライダーエネルギーを決める。
– 1 TeV までならILCのアップグレード(第2期)
– それ以上ならCLIC or Muon Collider
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超対称模型の 様々な基本的な測定
SUSY relation
GUT relation
GLC Project
Seesaw neutrino mass
ILC RDR
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超対称模型の暗黒物質
LHCとILCで得られる情報を組み合
わせることにより、宇宙の残存量の計
算と比較することができる。
もし一致すれば、暗黒物質粒子を同
定できるだけでなく、宇宙の過去の状
態がわかる。
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E.A.Baltz,M.Battaglia,M.E.Peskin,and
T.Wizansky
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新粒子がなくても
精密測定で高エネルギーを探る
様々なZ’ 模型の区別
たとえILCエネルギーが新粒子の
生成に足りなくても、TeV物理に関する
重要な知見が得られることがある。
レプトンコライダーの特徴を生かす
(バックグラウンドの少なさ、
運動学の制約、偏極ビーム)
e
f
Z’
e
2011/09/10
m z’ =1,2,3TeV,Ecm=500 GeV, L=1ab-1
f
S.Godfrey, P.Kalyniak, A.Tomkins
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ILCにおけるヒッグス粒子とトップクォークのプログラム
ルミノシティー (ab-1)
HHZ
2
1.5
1
保証されたLight Higgsの物理以外に
も、様々な可能性がある。
HZ
0.5
nnH
ttH
tt
200
300
400
500
600
エネルギー (GeV)
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ILC実験のための測定器
• LHC測定器(high rate & high radiation)とは開発の方向が異なる。
• ILC加速器の性能を最大限に発揮するため、LEP測定器を大きくしのぐ
性能が必要
– Impact parameter resolution for b/c-tagging (Higgs BRの測定)
– Momentum resolution for ee  llX (recoil mass, below)
– Jet energy resolution to separate W and Z (multi-jets events)
ECM=500GeVでの
ee->HZ->llXでの
Recoil mass
Mass resolutionとS/N
の向上は実質的ルミノ
シティの向上に相当
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Jet (quark) の再構成
Goal
Current
s E / E = 0.3/ E(GeV)
s E / E = 0.6 / E(GeV)
• WとZのジェットを分離するには、 s E / E = 0.3/ E が必要。
• A promising technique : PFA (particle flow algorithm)
– 荷電粒子は飛跡検出器で、中性粒子はカロリメータで測定
– 測定したエネルギーの重複を解くことが鍵
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PFA
• ジェット中の荷電粒子によ
るエネルギー/運動量測
定の重複を解く。
– 電磁シャワーの広がりを
抑え、細分割して読み出す
– PFAに特化されたpattern
recognitionが必要
ILD
#ch
ECAL
HCAL
ILC (ILD)
100M
10M
LHC
76K (CMS)
10K (ATLAS)
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X103 for ILC
Need new technologies !
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ILC測定器が目標とする具体的な性能
■
Vertexing

■
~1/5 rbeampipe,< 1/30 pixel size (wrt LHC)
Tracking

~1/6 material, ~1/10 resolution (wrt LHC)
s (1/ p) = 2 ´10 /GeV
-5
■
Jet energy (quark reconstruction)

~1/2 resolution (wrt LHC) by PFA
s E / E = 0.3/ E(GeV)
ヒッグスの再発見を1日で達成
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ILDとSiD
• どちらもPFAに最適化したコンセプト。ソレノイド磁石はHCALの外。
ILD
SiD
• ピクセル検出器は、ILCのバンチ構造に対応できる技術を開発中
Magnetic Field
3.5 T
5T
• ILD
Vertex pixel detectors
6 (3 pairs) or 5 layers (no disks)
5 barrel layers + 4 disks
– 中央飛跡検出器:B=3.5T、TPCとシリコン検出器の組み合わせ
Technology open
Technology open
– ECAL: Si-W
and/or
Scint-W、HCAL:Analog
or Semi-digital
Si strip trackers
2 barrel
+ 7 forward
disks (3 of the disks are 5 barrel
layers + 4 forward disks/side
•
TPC
ECAL
•
HCAL
SiD
pixel), Outer and end of TPC
GEM or MicroMEGAS
None
– 中央飛跡検出器:B=5T、シリコン検出器だけで構築
Pad (or Si-pixel) readout
– ECAL:Si-W、HCAL:
Digital
Si-W or Scint-W
Si-W 30 layers, pixel (4mm)2
ひとつのIPをILDとSiDで共有。『Push-Pull』方式で入れ替え。
Scint-tile or Digital-HCAL + Fe
Digital HCAL with RPC readout with (1cm)2 cell
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K. Kawagoe for ILC
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ILC測定器の開発・設計グループ
M. Demarteau
• タテ(測定器コンセプトグループ)
• ヨコ(コンセプトグループを超えたR&Dグループ)
• CLIC測定器グループとの連携も始まっている
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ILC Detector Schedule
ILC測定器の開発・設計
H. Yamamoto
•
IDAG (International Detector Advisary Group):
– 2009年夏にILDとSiDの2測定器コンセプトのLOIsを認証
• ILD and SiD:
– DBD (Detailed Baseline Design)を2012年末までに完成させる
• 2013以降: ‘Pre-ILC lab’ ? (検討中、GDE/RDの1年延長が決まる)
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学術創成研究(2006-2010)の成果をもとに、ILCの物理と測定器R&Dの
ための特別推進研究(2011-2015)が採択された。
来週、東北大でkick-off meeting。
http://epx.phys.tohoku.ac.jp/Kickoff2011/
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K. Kawagoe for ILC
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まとめ
LHC
• LHCで素粒子物理の革命が始まる
• LHCの成果でILCの指
針が決まる
• 結果が確定するまで待
つのではなく、あり得る
シナリオに備えてILCの
準備をしておく
2011/09/10
– ヒッグス粒子:質量起源
– 超対称性:暗黒物質
– Any “SURPRISE” may still happen…
ILC
• LHCをはるかにしのぐ感度で新
らしい物理の本質を解明
K. Kawagoe for ILC
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宇宙の創成・進化
の謎の究明
ニュートリノの
CP非対称の検証
物質と力の究極像
の探究
国際リニアコライダー(ILC)
小林・益川理論を超える
クォーク理論の探求
研究成果・技術開発・人材育成
Super-KEKB
J-PARC/T2Kの増強
J-PARC
KEK-B
クォークの
CP非対称の検証
LHC
ニュートリノ
の謎の探求
nt
nm
ne
「物質の源」
6つのクォークの探求
「力の源」
ヒッグス粒子「質量の源」
本日議論したいこと
• (LHCで軽いヒッグスが発見された場合)リニアコ
ライダーの早期実現に向けて、高エネルギーコミ
ュニティが結束できるか
– 十分な物理的意義があるか
– コストとマンパワーに見合った成果を期待できるか
– 他の大規模プロジェクトのとの整合性
「学術研究の大型プロジェクトの推進について(審議のまとめ)」
(平成22年10月科学技術・学術審議会)
•まだ計画は十分に詰まっておらず、継続して研究者コミュニティや諸外国との慎重な協議が必要。
•LHCの成果等を踏まえつつ、Bファクトリー高度化の終了後の計画として位置づけるべき。
•長期に及ぶ高額な計画であり、社会的理解が得られるか不明。
•緊急性が明確でなく、関連コミュニティ及び社会や国民の理解が得られるよう努力が望まれる。
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総合科学技術会議
有識者議員懇談会
日本国の正式な会議で初めて、
場所や政治にまで突っ込んだ議
論がなされた。
http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiy
o/yusikisha/20110901.html
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