事例研究(ミクロ経済政策・問題分析 I) - 規制産業と料金・価格制度 (第1回 – イントロダクション) 2016年 4月11日 戒能一成 0. 非常勤講師/実務家教員 紹介 戒能 一成 (カイノウ カズナリ) 学歴; 東京大学 工学部卒 (資源開発工; 再編済) 職歴; 1987-2002 通商産業省(現 経済産業省) 主要配属先; (Ⅰ種技官) 鉱業課 (取引監督・事業担当) 自動車課 (技術・部品担当) 情報システム課 (電子化法制担当) 中小企業庁 (地場産業/法制担当) 資源エネルギー庁 (需給予測担当) 他 人事院国家公務員試験専門官に併任 2 0. 非常勤講師/実務家教員 紹介 現職; 2002兼 2010兼 2011兼 2011- (独)経済産業研究所 研究員 東京大学公共政策大学院 講師 原子力損害賠償支援機構 参与 国際連合CDM理事会 常任理事 専門; - 定量的な政策評価・分析 及び 検証 - 公的統計・評価分析モデルの修理・開発 - 上記に関連した官公庁依頼研究の受託 HP・著作物; E-mail; Google で「戒能一成」を検索 [email protected] [email protected] 3 1. 「規制産業と料金・価格制度」概要 重 要 1-1. 概 要 問題設定 - 規制産業と価格・料金制度分析 テーマ - 自由選定 ( 中間報告迄変更可 ) 履修方式 – グループによるプロジェクト形式 日程概略 - ~5月: 基本的情報提供・解説 (グループ分け・テーマ選定) 5月中: 中間報告 (作業計画) ~6月: 分析ノウハウ提供・支援 (中間~最終報告迄に作業) ~7月: 夏学期 最終報告 ←(冬学期履修者は引続き応用分析へ)4 1. 「規制産業と料金・価格制度」概要 重 要 1-2. FAQ (1) 予備知識 - 前提とせず; 特に計量の履修不問 - 必要知識・ノウハウのリクエスト歓迎 夏期・冬期 - 通期を推奨するが単期完結も可 グループ - 2~3人のグループでのプロジェクト 実施が前提 (1年生・2年生の混成可) - 5人以上のグループは認めない - 1人でのプロジェクト実施は、類似 テーマの希望者やグループがない 場合に例外的に認める 5 1. 「規制産業と料金・価格制度」概要 重 要 1-3. FAQ (2) 採点基準 - 以下の 4つ、出欠不問 - テーマ選択と分析手法の「整合性」 - 作業計画・内容の「合理性」 - シミュレーション・分析の「妥当性」 - 結果の評価分析と解釈の「的確性」 成果物 - 夏学期・冬学期の報告により採点 - 採点後に松村先生HPにて一般公開 相談・質問 - 戒能メールアドレス宛 24時間可 (必ず松村先生に同時送信すること) 6 2. 概況説明 2-1. 「規制産業と料金・価格制度」とは 規制産業とは - 何らかの理由から不完全競争状態 を前提としなければならない時に 政府が規制によって経済厚生を 改善しようとしている産業 - 本講では「経済的規制産業」が対象 料金・価格制度とは - 規制産業の料金・価格を決める制度 - 主に「家計」を対象とするもの多し 7 2. 概況説明 2-2. 料金・価格制度 料金・価格制度の法的形態 法定・条例料金 - 料金を国・地方公共団体が 直接制定 認可料金 - 料金を定める場合、国(所 管大臣)の事前認可が必要 届出料金 - 料金を定める場合、国(所 管大臣)に届出が必要 ← 近年は「事後チェック型届出」など制度が多様化 8 電力・都市ガスなど「自由化」も進展 2. 概況説明 2-3. 料金・価格制度の例 料金・価格制度の具体例(現状) (法定料金) - 診療報酬、介護報酬(→別講推奨) (条例料金) - 水道・下水道料金、粗大ゴミ料金 (認可料金) - 都市ガス料金 (電気(経過措置)) - 鉄道・バス運賃、高速道路料金 (届出料金) - 電気通信料金、国内航空運賃 - 郵便料金(一部認可制) ※ 公租公課(ex. 租税、社会保険料・NHK)など 財サービスの直接的対価でないものも可 9 2. 概況説明 2-4. 料金・価格制度の現状(2009・家計調査) (法定) 保険医療費 (条例) 上下水道料 (認可) 電気代 都市ガス代 鉄道運賃 有料道路料 (届出) 移動電話料 固定電話料 航空運賃 郵便料 合計(含その他) \ 76,462 \ 49,213 \ 98,527 \ 34,992 \ 38,190 \ 7,329 \ 79,986 \ 31,418 \ 5,879 \ 4,572 \ 329,210 (対総支出 2.51%) (対総支出 1.62%) (対総支出 3.24%) ( 1.15%) ( 1.25%) ( 0.24%) (対総支出 2.63%) ( 1.03%) ( 0.19%) ( 0.15%) . ( 10.08%) 10 2. 概況説明 2-5. 料金・価格制度と規制改革 → 発端は「内外価格差の深刻化」 → 「規制緩和・改革」政策の進展に伴い’90年代 中盤から殆どの制度で「制度変更」を実施 → 電力・都市ガスの場合大きく2段階 (‘94, ’99) ヤードスティック査定化 発電部門入札化 部分自由化(小規模) 部分自由化(大規模) 部分自由化(再拡大) 完全自由化 電気事業 都市ガス事業 ‘95 ‘94 ‘95 --‘95(特定) (’94) ‘99(特高) ‘94 ‘03-05 ‘99 '16 '17(予定) 11 3. 「予察」の進め方 3-1. テーマ案 1) 規制価格・料金の政策・制度変更の影響評価 (自由化政策, 料金規制緩和など) 2) 政府サービス価格・料金制度変更の影響評価 (有償・無償化, 関税・料金一律引下げなど) 3) 特定政策目標のための価格・料金制度の評価 (ピークロード・プライシング, 補助制度など) 4) 完全独占事業体と料金・赤字補填問題 (地方公営企業, ○○公団・協会問題) ← これらのテーマはあくまで「例示」, 相談可 12 3. 「予察」の進め方 1) 規制価格・料金の政策・制度変更の影響評価 (自由化政策, 料金規制緩和など) 過去の事例; - 家庭用電気料金自由化の影響評価 - 航空運賃・貸切バス運賃・タクシー運賃の規制 緩和影響評価 - 食糧管理制度段階廃止による影響評価 - 薬価基準改定による価格影響評価 - 生命保険規制緩和の影響評価 - 「灰色」金利廃止と消費者金融業への影響評価 - MVMO規制緩和による移動体通信価格影響 13 3. 「予察」の進め方 2) 政府サービス価格・料金制度変更の影響評価 (有償・無償化, 関税・料金一律引下げ, 数量 規制など) 過去の事例; - 京都市ゴミ袋有償化の影響評価 - 東京湾アクアラインの料金割引社会実験 - 国際商用ロケット市場の経済厚生分析 - 上水道設備の適正化による料金引下の分析 - クロマグロ漁獲規制の消費者余剰分析 - (TPP)豚肉輸入関税引下げの消費者余剰分析 14 3. 「予察」の進め方 3) 特定政策目標のための価格・料金制度の評価 (ピークロードプライシング, 補助制度変更など) 過去の事例; - 東京湾アクアラインの料金割引社会実験(再掲) - 鉄道運賃によるピークロード料金制度の影響 評価 - 家庭用太陽光発電固定価格買取制度の分析 - 家計ガス消費の所得効果・価格効果の推計 15 3. 「予察」の進め方 4) 完全独占事業体と料金・赤字補填問題 (地方公営企業, ○○公団・協会など) 過去の事例; - 京阪神市バスの「管理受委託」による影響評価 - 東京湾アクアラインの料金割引社会実験(再掲) - 公営都市ガス事業の民営化による費用・価格 影響評価 - 上水道設備の適正化による料金引下(再掲) 16 3. 「予察」の進め方 5) 上記のどれにも当てはまらないもの 過去の事例; - JAL撤退・LCC参入の航空運賃への影響評価 - 訪日タイ人観光ビザ免除政策の経済影響評価 - 移民政策の導入による労働賃金への影響評価 - IT投資の生産性への影響評価(航空・鉄道) - 地方銀行の合併の費用便益分析 ← 新奇なテーマは面白いが、相応の作業負担と 失敗リスクが伴うことを十分理解して取組むこと 17 3. 「予察」の進め方 3-2. 何をしたら「評価」したことになるか - 価格・料金制度の評価上の着目点は 「費用・便益がどう変化したか」 実質費用・便益 便 益 追加的便益 政策による費用便益差 追加的費用 費 用 時 間 (政策実施前) 政策実施後 18 3. 「予察」の進め方 3-3. 部分均衡による余剰分析 - 費用・便益の変化は部分均衡による余剰分析で 定量化可能 実質価格・費用 + 消費者余剰 CS 社会的余剰 SS = 消費者余剰 CS + 生産者余剰 PS X0 平均費用 AC 規制料金・価格 P0 + 生産者余剰 PS 需要 D 0 Q0 数 量 19 3. 「予察」の進め方 3-4. 部分均衡による余剰分析を用いた「評価」 実質価格・費用 便益 (不変) 費用 (低下) 時 間 (政策実施前) 実質価格・費用 政策実施後 社会的余剰 SS X0 社会的余剰 SS 変化 = 政策の実施効果 平均費用 AC P1 X1 (=X0) 平均費用AC(低下) C0 需要 D C1 0 Q0 数 量 需要 D Q1 (=Q0) 数 量 20 3. 「予察」の進め方 3-5. 手際よく進めるには - 評価の場合(1) - 価格・料金制度の評価上の着目点は 「費用・便益がどう変化したか」 - (1) まず評価対象とする価格・料金制度の変更 などの「事象」を仮決めする; ← なるべく大きな制度上の「事象」を選ぶこと - (2) 当該「事象」の前後の期間で 5年毎・15年分 程度データを予備収集し、粗く費用・便益が 「事象」によりどう変化したかを観察 (概査) 21 3. 「予察」の進め方 3-6. 手際よく進めるには - 評価の場合(2) - (3) 「事象」前後で殆ど費用・便益の変化がない 場合・悪化した場合など、状況に応じて作業 仮説を設定し、作業計画案を立てる - (4) 外部要因の除去方法など作業仮説からの 「精査」の進め方や留意点については、今後 数回に分けて講師が「実例」で説明 - (5) 「概査」段階でブレが激しい場合、時系列で のデータがない場合には早めに「方針転換」 22 ← 「大失敗」しないコツ 3. 「予察」の進め方 3-7. 手際よく進めるには - 評価の場合(3) - 簡単なPQ図を作成すると見通しが良くなる! 家庭用都市ガス料金・費用・需給量推移 家庭用電灯料金・費用・需給量推移 \/kWh, 2000年度実質 \/m3 2000年度実質 26.0 20 03 19 96 20 03 19 96 19 89 90 80 20 03 16.0 14.0 140000 19 89 100 20.0 18.0 19 89 110 20 03 22.0 120 19 96 19 96 19 89 24.0 130 家庭用料金 総平均費用 家庭用料金 総平均費用 70 160000 180000 200000 220000 需給量 (百万kWh) 240000 260000 6750 280000 7000 7250 7500 7750 8000 8250 8500 8750 9000 需給量 (百万m3) 23 3. 「予察」の進め方 重 要 3-8. 典型的な「失敗する」パターン(1) - 具体的分析戦略を決めずデータ解析を続ける ; 「何か見つかるだろう」と漫然と作業を続ける ← 迷走の末「時間切れ」となる可能性大! - データが揃ったらいきなりSTATAで計量分析を 掛ける ; 「高度な手法」を過信し概査を軽んじる ← 高度な手法は適用範囲が限定される! - 先行研究との差異を過度に意識し過大な目標 を立てる ; 「余りに遠大な作業に疲れてしまう」 ← 納期内に「手堅く纏めること」は重要! 24 3. 「予察」の進め方 重 要 3-9. 典型的な「失敗する」パターン(2) - 締切りぎりぎりでやっと計量分析を掛ける・ 締切り直前から新しく別の分析を始める ← 「時間切れ」となるか、重要な問題を 討ち漏らしてしまう可能性大! - 2~3人で作業した結果を、調整・摺合せせずに 単に貼り合わせただけで報告としてしまう ← 報告は「読手に理解してもらう」ために あり、折角の作業が「水の泡」! 25 4. テーマ選定に有益な情報源 4-1. 制度の概略・価格・数量などの情報源(1) - 殆どの規制産業の価格・料金制度の概略 ← 消費者庁“公共料金の窓” HP http://www.caa.go.jp/seikatsu/koukyou/ ← 但し「鵜呑みにすべからず」 - 規制産業の価格・料金制度変更の経過・推移 ← 政策制度変更の際には必ず「審議会」が 開催されている ← 各所管省庁の「白書類」・「審議会資料」の うち「事象」の前後年度分を探すこと 26 4. テーマ選定に有益な情報源 4-2. 制度の概略・価格・数量などの情報源(2) - 消費者物価(含規制料金・価格)の推移 ← 総務省統計局“消費者物価指数” HP http://www.stat.go.jp/data/cpi/ - 規制料金・価格の評価対象の需給量推移 ← 各所管官庁がHP上で統計値を公開したり、 「○○統計年報」「ハンドブック」類を発行 ← 該当量がない・途切れている場合に要注意 - 一般的情報収集なら「国会図書館HP」が秀逸 http://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/ 27 4. テーマ選定に有益な情報源 4-3. 制度の概略・価格・数量などの情報源(3) - 規制料金・価格の評価対象の費用推移 ← 規制産業の財務諸表や決算報告書はその 殆どが一般公開されている ← 電力・ガスなどの場合、ここから料金・価格も 推計可能 ← 財務諸表・決算報告書の読み方は少し工夫 が必要、講師が説明する実例でノウハウを つかむこと 28 4. テーマ選定に有益な情報源 4-4. 過去の事例研究の報告書 - 過去の報告書は松村先生HPからDL・閲覧可 http://dbs.iss.u-tokyo.ac.jp/~matsumur/HPJA.html - 過去の先輩方の報告書から、量的・質的に 前期・後期にどの程度迄の作業が必要かを 推察しながら、無理のない範囲で かつ半年~ 1年の時間を掛ける意義のある事象につき テーマ選定と予察を進めること 29
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