英日翻訳ウィキペディアン 養成セミナーについて 北村紗衣(利用者:さえぼー) 武蔵大学人文学部英語英米文化学科専任講師 メールアドレス: [email protected] 自己紹介 ・教養学士(BA) - 東京大学(The University of Tokyo)、2006 ・学術修士(MA) - 東京大学(The University of Tokyo)、2008 ・PhD – King’s College London, 2013 ・2014年4月から武蔵大学専任講師(Lecturer at Musashi University) ・東京大学及び慶應義塾大学で英語の非常勤講師を兼任 ※英日翻訳ウィキペディアン養成セミナーは本務校の武蔵大学では なく、非常勤先の東京大学で実施しています。 ・専門分野…シェイクスピア、舞台芸術史、フェミニスト批評 ※情報系の研究者ではありませんが、司書・学芸員資格を 持っており、博士号は17-18世紀のシェイクスピア刊本に女 性のユーザが貼り付けた蔵書票やサインをトラッキングし、 ユーザの身元を割り出す研究で取りました。 タイムエージェントか探偵のようなお仕事です。 英日翻訳ウィキペディアン養成セミナーとは? 東京大学の1年生向け選択必修英語の授業 ○学生の英語力・調べ物技術の向上と、日本語版ウィキペディアの発展を2 本の柱とするプロジェクトである。 ・ウィキペディアの英語記事を学生に翻訳してもらい、日本語記事として公開 する。原則としてはひとりで5000バイト以上のものを2本翻訳するが、15000 バイト以上のものであれば1本でもよい。 ・記事は基本的に教員指定のリストの中から選ぶこととするが、例外もある。 ・単に英語から日本語に翻訳するばかりではなく、出典が曖昧な箇所や改善 できそうな箇所については英語の文献を中心に調査を行って記事内容を改 善することを行う。 授業をすることになったきっかけ 当初、選択必修の英語の授業では論説文などを教えていたが、授業 ・ウィキペディア…「生きた英語」?! 評価アンケートで以下のような意見があった。 ウィキペディアくらいの文章が読み書きできないと、英語圏でビジネス ・「実用的な英語を教えてほしい」 や学問をするのは難しい。 ・ウェブを使った情報リテラシー教育と、古典的な訳読を組み合わせた授 →論説文やニュースは大変実用的な英語であるように思えるが、なぜ 業ができる。 か学生の間に「生きた英語」信仰のようなものがある。 ウィキペディアにはウソが書いてあることもあるので、出典を確認しな ・「文学的テキストなどもっとおもしろいものを読んでほしい」 がら読んだり訳したりする必要がある。 →上のリクエストとかなり方向性が違う。ある程度おもしろくないとやる ・社会貢献できるというモチベーション 気が続かない。 自分が翻訳したものが日本語を話すたくさんの人の役に立つというこ ○「実用的な生きた英語」信仰と「おもしろくないとやる気が続かない」問 とで、一種の専門技術を用いたボランティア活動であるため、やる気を 題を同時に解決するには? 保ちやすいのではないか? 授業のすすめ方 • 最初の2、3回ほどはWiki記法の解説と、データベースなど記事の出 典強化に使うためのレファレンスツールの解説で終わってしまう。こ の期間にウィキペディアのアカウント作成や翻訳記事の決定を行う。 • その後はひたすら学生が翻訳を実施し、教員が全ての下書きにコメ ントして学生による修正を経た後、完成した記事をウィキペディアに アップロードする。 • 今学期はセメスター科目で夏学期より授業回数が多いので、学生に よる記事の相互評価を実施する予定。 プロジェクトページと学生の成果 • ウィキペディア内に設置したプロジェクトページ • 2015年S1タームの成果一覧…2ヶ月1学期 • 2015年S2タームの成果一覧…2ヶ月1学期 • 2015年秋学期の翻訳予定記事一覧(現在翻訳中)…4ヶ月弱で1学期 ※多数の記事がトップページ掲載用の新着記事に選ばれ、 「雪氷圏」 のように月間新記事賞を受賞した記事も。また、プロジェクト代表者と して利用者:さえぼーが2015年6月の月間感謝賞を受賞。 →予想を超える反響があり、教員も学生も驚いている。 ※成果が公表されるため、学生のモチベーションが高い。 ウィキペディアコミュニティから手厚い支援を受けることができた。 プロジェクトの課題 • 技術的なことや著作権についての決まり、ウェブコミュニティにおけ るマナーをよく理解しておらず、誤って削除対象になるような記事を アップしてしまう学生が多数発生 →二学期めにはほぼ解決。 ・翻訳記事の選び方 ・採点にかかる時間 ・東京大学にて、非常勤講師が学外からデータベースにするアクセス する権限が今年から切られたため、授業運営に支障が出る可能性 →教員の負担もあり、来年も継続できるか不透明
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