憲法と立憲主義の将来 2007秋 中京大学政治学B 第14回 立憲主義とは何か? 近代以前の立憲主義 と 近代以後の立憲主義 どちらが本当の意味での立憲主義か? 近代以前の立憲主義と 近代以後の立憲主義 どちらが本当の意味での立憲主義か? これをめぐる対立がある 近代以前の立憲主義=「本来的意味」での立憲 主義(八木の理解) 近代以降の立憲主義=「立憲的意味」での立憲 主義(長谷部の理解) まず、「憲法」という言葉についてですが、日本 には日本国憲法の前には大日本帝国憲法、いわ ゆる明治憲法がありました。これが日本において は初の近代憲法、つまり近代的意味における憲 法です。 一般に「憲法」という言葉には、およそ二つの意 味があります。これを「憲法の二重性」といってい いでしょう。 一つは本来的意味での「憲法」という概念です。 もう一つは、近代的意味での「憲法」というもの です。 八木秀次2003(p.19-21) 一つは本来的意味での「憲法」という概念です。「憲 法」をヨーロッパの言語に直しますと、英語やフランス語で は「コンスティテューション」、ドイツ語では「フェアファッス ング」がそれにあたります。これらはいずれも、組織とか 構成、あるいは体制とか体質、そういう意味合いがある言 葉です。 イギリスには、一つにまとめて記された憲法典がありま せん。「マグナ=カルタ」や「権利の請願」「権利の章典」な どの歴史的な文書、「王位継承法」や「人身保護律」「議会 法」などの重要な法律、慣習、判例、そういったものをまと めて「憲法」と捉えています。 その国の組織やあり様、仕組み、あるいはその仕組み が出てくるに至る政治的伝統や文化、そういったものをあ らわしたもの、これが本来的意味での「憲法」です。 八木秀次2003(p.19-21) しかし、憲法にはもう一つの意味があります。近代的意 味での「憲法」というものです。 17世紀から18世紀にかけて、欧米では絶対主義の支 配を打倒すべく、市民革命が起こりますが、この市民革 命によってでき上がった政権を正当化するために憲法が つくられたのです。 革命政権を正当化するにあたって依 拠したのは、社会契約説という政治思想でした。 これが 色濃く反映されているのが、例えばアメリカの独立宣言 やフランスの1789年人権宣言、1791年、93年の憲法で す。 八木秀次2003(p.19-21) 近代以前の立憲主義と 近代以後の立憲主義 近代以前の立憲主義=「本来的意味」での立憲 主義(八木の理解) 近代以降の立憲主義=「立憲的意味」での立憲 主義(長谷部の理解) 近代以降の立憲主義とそれ以前の立憲主義と の間には大きな断絶がある。 近代立憲主義は、価値観・世界観の多元性を 前提とし、さまざまな価値観・世界観を抱く人々 の公平な共存をはかることを目的とする。 それ以前の立憲主義は、価値観・世界観の多 元性を前提としていない。 長谷部恭男2006(p.69-70) 近代国家は、各人にその属する身分や団体ごとに異なった特権 と義務を割り当てていた封建的な身分制秩序を破壊し、政治権力 を主権者に集中するとともに、その対極に平等な個人を析出する ことで誕生した。 人々の社会生活を規律する法を定立し、変更する排他的な権限 が主権者の手に握られた以上、社会内部の伝統的な慣習法に依 拠する中世立憲主義はもはや国家権力を制約する役割を果たし えない。 近代国家成立後になお意味を持つ立憲主義は、その意味でも、 国家権力を外側から制約する狭義の立憲主義、つまり近代立憲 主義に限られる。 近代立憲主義に基づく憲法を立憲的意味の憲法ということがある。 フランス人権宣言第16条が「権利の保障が確保されず、権力の 分立が定められていない社会は、憲法を持つものとはいえない」 とするとき、そこで意味されているのは、立憲的意味の憲法である。 長谷部恭男2006(p.69-70) 何が本当の立憲主義か? ①「法の支配=制限政治」的理解 近代以前の立憲主義こそが「本来的意味」での 立憲主義である。(八木の理解) ②社会契約説的理解 近代以降の立憲主義こそが「立憲的意味」での 立憲主義である。 ②-A「自由主義=制限政治」的理解 ②-B「多元主義=制限政治」的理解(長谷部 の理解) 立法者と憲法制定権力 ①「法の支配=制限政治」的理解 ①-A「神の意思(神の法)」による権力制約 ①-B「古きよき法」による権力制約 コモン・ローとデモクラシーの関係 デモクラシーと憲法制定権力との関係 ②社会契約説的理解 ②-A「自由主義=制限政治」的理解 人民主権(国民主権)=人権保障=権力の制限 ②-B「多元主義=制限政治」的理解 立憲主義による民主主義の制限 (社会の)外側からの権力制限 民主主義の役割 民主主義はさまざまな役割を果たしうるシス テムであり、いろいろな立場から異なった仕方 で正当化できるシステムである。 しかし、最低限、民主主義が果たしているの は、人々の意見が( 対立 )する問題、しかも 社会全体として( 統一 )した( 決定 )が要 求される問題について結論を出すという役割 である。 長谷部恭男2004(p.38-41) 民主主義の役割 民主主義が期待されている最低限の役割、 つまり人々の意見の( 対立 )する問題につ いて、社会全体としての( 統一 )した結論を 下すという役割を果たしうるには、一定の条件 がある。 その条件がそろっていないところで、民主主 義が社会全体としての( 統一 )した結論を 出そうとすると、社会はむしろ( 対立 )の度 合いを深刻化させ、( 分裂 )を招きかねない。 長谷部恭男2004(p.38-41) 民主主義の役割 もちろん、戦争や独裁を通じてしか解決しえな いような深刻な問題もあるだろう。奴隷の解放 や植民地の独立は、少なくとも論理的には、 ( 平等 )な市民から構成される民主的社会が 成立する以前の問題であって、( 民主 )主義 がそれを解決しえないのは当然だという見方も ありうる。また、( 経済 )的苦境や民族的対立 があまりにも激化して、通常の( 民主 )的政 治過程によっては到底解決できないこともあり うる。 長谷部恭男2004(p.38-41) 民主主義の役割 しかし、経済的・文化的にさほどの危機にさら されているわけでもなく、かつ、( 平等 )な権 利を有するメンバーのみから成り立っている はずの民主社会であっても、なお、( 民主 ) 的には決めるべきではない問題群がある。 ( 立憲 )主義による( 民主 )主義の制限 がそれである。 長谷部恭男2004(p.38-41) 民主主義の役割 経済的・文化的な環境が整っていることも大 事であるが、それと並んで、( 民主 )主義が 良好に機能する条件の一つは、( 民主 )主 義が適切に答えを出しうる問題に、( 民主 ) 主義の決定できることがらが限定されている ことである。 その境界を線引きし、( 民主 )主義がそれを 踏み越えないように( 境界線 )を警備する のが、( 立憲 )主義の眼目である。 長谷部恭男2004(p.38-41) 本来的意味での立憲主義?か、立憲的意味の憲法?か 「どちらが本当の憲法か?」という 本家争いを越えて 憲法と立憲主義の歴史的実像の把握へ 史的憲法の実像とは? 史的立憲主義とは何か? 「歴史的に特殊なもの」としての憲法と立憲主義 立憲主義と憲法の過去・現在・未来 「本来的意味の憲法」に過度に縛られることなく、 近代国民国家的な「立憲的意味での憲法」の成立 の歴史的役割を評価しつつ、 近代立憲主義の史的把握と それぞれの時代と社会における特殊性の把握へ →憲法と立憲主義の制御工学 通常政治と憲法政治 (長谷部『何か』第4章の議論) 二元的民主政=「憲法政治」と「通常政治」の区別 「立憲主義」による「民主主義」の制限 「公」と「私」の区分 憲法制定権力と立法者の区別 社会の外側からの権力制約と内部からの権力 制約の区別 社会の外に立つコード権力の創設行為 としての立憲主義 • 「法の支配」ではなく、憲法コードによる支配 • 歴史的に特殊な過程としての憲法政治過程 • 「立憲主義とは、『憲法は遵守されなければな らないという人々の確信』である。」という定義 (M.L.ベネディクト『アメリカ憲法史』p.2) • 憲法コードの創設行為はいかに正当化され るか コンスティテューショナル・エンジニアリングへ 憲法的コードの創設と権力制限 憲法コードによる 憲法的コード権 力の創設 権力制限 天命/神の怒り 王権神授説 コモン・ローの支配 法の支配 自由主義 憲章・章典・憲法等による (国家)権力の制限 天賦人権論(社会契約説) 自然権(普遍的人権)の保 障 多元主義 公/私分離 立憲主義による民主政治 の制限 価値の多元性の承認 個人の平等性の承認とそ の公平な扱い 平和と安全と共存 「解釈改憲は不誠実な法治主義」 ←近代立憲主義による外側から の権力制約の意義 国民国家単位での権力制約 連邦憲法における州(state)権力 の制約 グローバルな立憲体制へ
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