エコノミーの概念史

エコノミーの概念史
配置・操舵・態勢
2014年5月17日
エコノミメーシス R&D
佐々木雄大
目次
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
なぜエコノミー概念なのか
アリストテレス:家政と習慣
ストア派:神の宇宙統治
キリスト教神学:救済の歴史
トマス:配置・統宰・配剤
百科全書派:有機体の秩序
スミス:経済学の誕生
エコノミーは経済ではない
エコノミー(economy)経済
←オイコノミア(oikonomia)家政
家(οἶκος)+法(νὀμος)= 家政(οἰκονομία)
クセノフォン「自己の家を十全に管理すること」
では、家政はなぜ経済になったのか?
Xenophon, Xenophon: Memorabilia. Oeconomicus. Symposium. Apologia., Harvard Univ.
Press, 1985, p. 362./『家政論』田中秀央・山岡亮一訳、生活社、1944年、p. 3。
現代思想におけるエコノミーの意義
アガンベン
「統治パラダイムと例外状態パラダイムはオイコノミアという理念に
おいて一致する。このオイコノミアとは、〔……〕諸事物の成り行き
を統治する経営実践のことである」(『王国と栄光』高桑和巳訳、青
土社、2010年、p. 106)
 デリダ
「エコノミーは父の法の下で、生の贈与として――あるいは同じこと
であるが――死の贈与として、贈与の非エコノミーを再び我有化す
る」(Donner la mort, Galilée, 1999, p. 133)
 レヴィナス
「全体性をかたちづくることのない諸項の関係が存在するところの一
般的エコノミーにあって生起しうるのは、したがって、《私》から
〈他〉に向かう関係、対面の関係、深度において隔たりを描くような
関係としてだけである」(『全体性と無限(上)』熊野純彦訳〈岩波
文庫〉2005年、p. 53)

バタイユにおけるエコノミー
 一般エコノミー(économie
générale)
「思考の諸対象を至高の瞬間へと関連付ける学問は、
事実、一般エコノミーのみである。それは、諸対象の
意味を相互に関連付けて考察し、最終的には意味の損
失と関連付けて考察する。この一般エコノミーの問い
は経済学の平面に位置づけられるが、この名称で指示
される学問は(商人的な価値に限定された)限定エコ
ノミーでしかない。重要なのは、富の使用を扱う学問
にとって本質的な問題である。一般エコノミーは、定
義上使用されることのないエネルギーの余剰が生産さ
れるということを第一に明らかにする」
Méthode de méditation, Œuvres Complètes, Gallimard, V, p. 215f.
目次
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
なぜエコノミー概念なのか
アリストテレス:家政と習慣
ストア派:神の宇宙統治
キリスト教神学:救済の歴史
トマス:配置・統宰・配剤
百科全書派:有機体の秩序
スミス:経済学の誕生
アリストテレス:家政と習慣
 家政の定義
 「すなわち、国家の支配は自然による自由人を対象
とするが、主人の支配は自然による奴隷を対象とす
る。また家政の支配(οἰκονομική)は単独支配
(μοναρχία)である――どんな家もただひとりに
よって治められているから――。それに対して国家
の支配(πολιτική)は自由で、たがいに平等な人び
とによる支配である」
Aristoteles, Politica, 1255b./アリストテレス『政治学』牛田徳子訳、京都大学学術出版会、
2001年、p. 23。
アリストテレス:家政と習慣
 家政と操舵術の類比
 「つぎに、子供と妻、そして家全体に対する支配が
ある。これをわれわれは家政と呼んでいるが、それ
は支配される者のためにあるか、支配する者と支配
される者の双方に共通な利益のためにある。
〔……〕それは、ちょうど船長である舵取り
(κυβερνήτης)が、いつも船員の一員であるよう
なものである。体育指導者や舵取りは、彼らの支配
のもとにある者たちの福利に気を配るのであるが、
みずからも彼らの一員となるときは、間接的にその
恩恵に浴することになる。なぜならその場合、舵取
りは船員なのであり、体育指導者は指導者でありな
がら訓練される一人になるからである」
Politica, 1278b-1279a/同上、p. 131
アリストテレス:家政と習慣
 獲得術と貨殖術
 「かくして、財獲得術(κτητική)の一つの種類は、
自然に適っているから家政術の部分である。なぜな
ら、生きるために必要な、また国家共同体や家共同
体のために有益な財の蓄積を形成するものを、ある
いは備え、あるいは備えるべくその術が調達する必
要があるからである。〔……〕しかし、それとは別
の種類の財獲得術というものがある。人びとはそれ
をとりわけ貨殖術(χρηματιστική)と呼んでいるし、
またそう呼ぶのは正当でもある。富や財産にはなん
ら際限がないと人が思うのはこの術のゆえである。
〔……〕一方はもっぱら自然によっているが、他方
は自然によらずにむしろ、なんらかの経験と技術に
よって生じるものである」
Politica, 1256b-1257a./同上、 p. 28f.
アリストテレス:家政と習慣
 習慣と態勢
 そこで、彼らの習性〔エートス〕的徳にしても、必
然的に同じようなあり方をもつと考えなければなら
ない。彼らのすべてがそれに与かるのは当然である
が、しかし同じ仕方によっているわけではない。た
だ彼らのそれぞれにとってみずからの働きを遂行す
るのに十分な程度においてそれに与かるのである。
それゆえ、支配する者は習性〔エートス〕的徳を完
全に所有していなければならない。
Politica, 1260a./同上、 p. 43f.
アリストテレス:家政と習慣
 習慣と態勢
 しかし別の意味では、配置されるものがそれによっ
て、それ自体において、あるいは、他のものとの関
係において、善くまたは悪く置かれる、そうした態
勢(διάθεσις)が状態(ἕξις)と言われる。例えば、
健康は何らかの状態である。というのも、健康とは
このような態勢だからである。さらに、そのような
態勢の構成部分がある場合に、状態と言われる。そ
れゆえ、その諸部分の徳さえも何らかの状態である。
 諸部分をもっているものの配置(τάξις)が、場所の
ゆえに、あるいは潜勢力のゆえに、あるいは形相の
ゆえに、態勢(διάθεσις)と言われる。
Metaphysica, 1022b./『形而上学』出隆訳『アリストテレス全集』第12巻、岩波書店、1976年、p. 176。
なお、訳には三重野清顕氏の助言を頂いた。
アリストテレス:家政と習慣

主人の支配としてのオイコノミア
①
家政は国政、貨殖術と区別される。
②
家政は操舵術に準えられる。
③
主人の条件は、善い態勢をもつことである。
目次
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
なぜエコノミー概念なのか
アリストテレス:家政と習慣
ストア派:神の宇宙統治
キリスト教神学:救済の歴史
トマス:配置・統宰・配剤
百科全書派:有機体の秩序
スミス:経済学の誕生
ストア派:神の宇宙統治
 アプロディシアスのアレクサンドロス
 「彼ら〔ストア派〕は、この宇宙が一つであり、あ
らゆる存在を自らの内に包括していて、生命的でロ
ゴス的で知的な自然によって統御されており、それ
らの存在の統御(διοίκησις)は永遠的で、ある種の
系列と順序に従って進行するものだと主張する。
〔……〕彼らの主張では、ほかならぬ宿命や自然や、
万有がそれにしたがって統御されているロゴスは神
であり、あらゆる存在と生成のうちにあって、その
ことによって、すべての存在の固有の本性を万有の
統御(οἰκονομία)のために役立てているのである。
彼らが宿命について土台にすえた考えとは、簡潔に
言って、このようなものである」
Arnim, SVF. II. 945./『初期ストア派断片集』第3巻、山口義久訳、京都大学学術出版会、2002
年、p. 251f.。
ストア派:神の宇宙統治
 キケロ
 「まず第一に、宇宙はそれ自身が神々と人間のため
に生み出されたのであり、宇宙にあるものはすべて、
人間の喜びのために用意され、考案されたのである。
というのも、宇宙(mundus)は、いわば神々と人
間の共通の家(domus)、ないしは国家(urbs)の
ようなものだからである。つまり、神々と人間だけ
が、理性を用いることによって正義と法にのっとっ
た生活を送ることができる」
Cicero, De Natura Deorum, Harvard Univ. Press, 1933, II. lxii, p. 272./『神々の本性につい
て』山下太郎訳、『キケロー選集』第11巻、岩波書店、2000年、p. 188。
ストア派:神の宇宙統治

宇宙の統治の原理としてのオイコノミア
①
宇宙は大きな家である。
②
神による宇宙統治がオイコノミアと呼ばれる。
③
神は宇宙内在的である。
目次
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
なぜエコノミー概念なのか
アリストテレス:家政と習慣
ストア派:神の宇宙統治
キリスト教神学:救済の歴史
トマス:配置・統宰・配剤
百科全書派:有機体の秩序
スミス:経済学の誕生
キリスト教神学:救済の歴史
 パウロ
「何故なら、私が福音を宣べ伝えるとしても、それは
私にとって誇りにはならない。私はそうせざるをえな
い、ということなのだ。もしも私が福音を宣べ伝えな
いようなことがあれば、私に禍いあれ。何故なら、も
しも私がみずから進んでそのことをなしているのであ
れば、報酬を受けるであろう。だが、みずから進んで
ではないとすれば、それは摂理(οἰκονομία)を託さ
れているということである」
1 Corinthians, 9:16-17./田川建三『新約聖書 訳と註』第3巻、作品社、p. 43。
キリスト教神学:救済の歴史
 偽パウロ
 「すべての聖者たちの中でも極小の者である私に、
異邦人に対してキリストの測り難いほど大きい富を
福音として伝えるという、この恵み(の責務)が与
えられたのだ。すなわち、一切を創造し給うた神の
中に世のはじめ以来ずっと隠されてきた秘義のオイ
コノミア(ἡ οἰκονομία τοῦ μυστηρίου)がどういう
ものであるかを、すべての者に対して明らかにする、
という(責務である)。その結果、今や、天上の支
配力、権力に対して、神の非常に多彩な知恵が教会
によって知らしめられたのである。それは、我らの
主キリスト・イエスにおいて神が実現し給うた永遠
の計画に応じるものである」
Ephesians, 3:8-11./田川建三『新約聖書 訳と註』第4巻、p. 65。
キリスト教神学:救済の歴史
 ニュッサのグレゴリオス
 「さて、「神が肉において私たちに自らを現され
た」ことの証明を求めるのであれば、神の働きを見
つめるべきである。というのも、そもそも神が存在
することの証明としては、働きそのものによる証言
以外にはないのだから。そこで、私たちが全宇宙を
鳥瞰し、この世界の摂理的統治(οἰκονομία)およ
び私達の生命に与えられる神からの恩恵を調べるな
らば、私たちは、生まれてくるものを造り出し、存
在するものを保持するなんらかの力が存在している
ことを把握できよう」
Gregorius Nyssenus, Oratio catechetica magna, PG, 45, p. 44./『教理大講話』篠崎榮訳、
『中世思想原典集成』第二巻、平凡社、1992年、p. 544。
キリスト教神学:救済の歴史
 テルトゥリアヌス
 「だがそれは単一の神にも御子がいるという配剤
(dispensatio)――私達は経綸(oeconomia)のこ
とをこのように言う――のもとにおいてである」
 「すべては一人の神から、すなわち実体の統一性を
通して生ずるのであり、それにもかかわらず統一性
を三一性へと秩序づけている経綸の秘義
(oeconomiae sacramentum)は守られている」
 「そういうわけで、むしろあなたこそ、神が望み給
うただけの数の名において構成されている単一支配
(monarchia)の配置(dispositio)と配剤
(dispensatio)をくつがえしているのだから、単一
支配を破壊しないように注意すべきである」
Tertullianus, Adversus Praxeam, PL, 2, pp. 156-160./「プラクセアス反論」『テルトゥリアヌス1〈キリ
スト教教父著作集〉第十三巻、教文館、一九八七年』土岐正策訳、pp. 21-24。
キリスト教神学:救済の歴史

歴史的救済としてのオイコノミア
①
神はオイコノミアによって人類を救済する。
②
テオロギアが永遠的であるのに対して、オイコノ
ミアは歴史的である。
③
οἰκονομίαはdispositioあるいはdispensatioと訳さ
れた。
目次
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
なぜエコノミー概念なのか
アリストテレス:家政と習慣
ストア派:神の宇宙統治
キリスト教神学:救済の歴史
トマス:配置・統宰・配剤
百科全書派:有機体の秩序
スミス:経済学の誕生
トマス:配置・統宰・配剤
 配置と統宰
 「二つのことが配慮には属している。すなわち、ひ
とつには、秩序付けの理念であり、摂理
(providentia)や配置(dispositio)といわれる。
もうひとつは、秩序付けの実行であり、統宰
(gubernatio)といわれる。前者は永遠的なもので
あり、後者は時間的なものである」
Thomas, Summa theologiae, I, q. 22, a. 1, ad. 2./『神学大全』第2巻、高田三郎訳、p.
232。
トマス:配置・統宰・配剤
 配置と統宰
 「統宰(gubernatio)ということにおける場合、
我々は、統宰の理念つまり摂理(providentia)それ
自身と、その実行という、二面を区別して考えなく
てはならぬ。いま、統宰の理念に関するかぎりにお
いては、神は一切を自ら直接に統宰する。だが統宰
の実行に関するかぎりにおいては、神は或るものを
他の或るものの媒介を通じて統宰する」
S. Th., I, q. 103 a. 6 co./ 『神学大全』第8巻、横山哲夫訳、p.20。
トマス:配置・統宰・配剤
 配剤(dispensatio)
 「しかし、物体的な事物においては、神の配剤
(divina dispensatio)によって、より高い秩序のた
めに、恩寵の顕示のために役立つかぎりにおいて、
時としてこうした秩序からの離反が行われる。例え
ば、生まれつきの盲人が光を与えられるとか、ラザ
ロが蘇生するといったことは、諸天体の働きなしに、
神によって直接なされたのである」
S. Th., I, q. 112, a. 2./同上、p. 189。
トマス:配置・統宰・配剤
神の世界統治の三様態
①配置(dispositio):秩序の理念・計画。永遠的。神の直接支配。
②統宰(gubernatio):秩序の実行。歴史的。神の間接支配。
③配剤(dispensatio):秩序の逸脱。歴史的。神の直接介入。
トマス:配置・統宰・配剤
 経営(dispensatio)
 「外的物財に関しては二つのことが人間の権能に属
する。その一つは管理および経営する権能
(potestas procurandi et dispensandi)である。そ
して、このことに関しては、人間が固有のものを所
有することは正当である」
S. Th., II-II q. 66 a. 2 co./『神学大全』第18巻、稲垣良典訳、p. 206。
トマス:配置・統宰・配剤
 統治(gubernatio)
 「都市や王国の創設がこの世の創造を模範としてい
るように、その統治の理法(gubernationis ratio)も
神の統宰(gubernatio)から学ばなければならない。
しかしながらまず初めに、この統治するということ
は統治されるものをその固有の目的へと適正に導く
ことだということを考慮に入れておかねばならない。
それだからこそ例えば船が舵取られる(navis
gubernari)とは、船乗りの働きによって船が港へと
支障なく正しい航路で導かれることをいうのである。
したがってもし或るものが、あたかも船が港へと導
かれるように、自分の外にある目的へと秩序づけら
れている場合、そのものを無傷に保つだけでなく、
さらにそれを目的へと導くことが統治者の職務なの
である」
De regno, lib. 1 cap. 15./『君主の統治について』柴田平三郎訳〈岩波文庫〉2009年、p. 84。
トマス:配置・統宰・配剤
 態勢(dispositio)
 「習慣(habitus)は事物の本性、さらにそのものの
作用もしくは目的への何らかの態勢(dispositio)を
含意する。それにもとづいてあるものはこうしたこ
とへと善く、あるいは、悪く配置される
(disponitur)のである」
 「ちょうど本性的な原理によって人間が本性に対応
する目的へと秩序づけられる(ordinatur)ように
(これも神の助力なしではないが)、人間がそれに
よって超自然的な至福へと秩序づけられるような、
何らかの諸原理が神的に人間に付け加えられること
が必要なのである」
S. Th., I-II q. 49 a. 4 co./『神学大全』第11巻、稲垣良典訳、p. 17。
q. 62 a. 1 co./同上、p. 247f.。
トマス:配置・統宰・配剤
人間の世界運営の三様態
①態勢(dispositio):習慣づけによる自己統治。自然本性。
②統治(gubernatio):王による他者統治。操舵術。
③経営(dispensatio):人間による事物統治。所有権。
目次
①
②
③
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⑤
⑥
⑦
なぜエコノミー概念なのか
アリストテレス:家政と習慣
ストア派:神の宇宙統治
キリスト教神学:救済の歴史
トマス:配置・統宰・配剤
百科全書派:有機体の秩序
スミス:経済学の誕生
百科全書派:有機体の秩序
 カルヴァン:エコノミーの復興
「神は唯一であるが、配剤(dispensatio)あるいはオ
イコノミア(oeconomia)によって、その御言葉と共
にある。神は、実体の単一性によって一つであるが、
この単一性は配剤の秘義(dispensationis mysterion)
によって三位一体へと配置(disponere)される。三
であるのは、状態ではなく度合いに関して、実体では
なく形式に関して、権能ではなく序列に関してであ
る」
J. Calvin, Opera Quae Supersunt Omnia, Corpus Reformatorum, Brunsvigae : C.A. Schwetschke,
1863, 30, p. 115.
百科全書派:有機体の秩序
 アニマル・エコノミー(économie
animale)
 「「エコノミー」という言葉は、文字通り、「家の
法」を意味している。この言葉は、ギリシャ語のオ
イコス(οἶκος)つまり「家」と、ノモス(νόμος)
つまり「法」という二つのギリシャ語からなる。
〔……〕しかし、この名称は、最も正確で最もよく
使われている意味でとれば、動物の生命を維持する
諸機能・諸運動の「秩序やメカニズム、調和」のみ
を指している。エコノミーが恒常性、活発さ、安逸
さを伴って、満遍なく完璧に働くことが、「健康」
の最良の状態をなし、そのほんのわずかな混乱はそ
れだけで「病気」であり、その完全な停止が生とは
正反対の極、すなわち、「死」である」
Encyclopédie ou dictionnaire raisonné des sciences, des arts et des métiers, publiée par
Diderot et d'Alembert, t. 11, p. 360.
百科全書派:有機体の秩序


ルソー:ポリティカル・エコノミー(économie politique)
「個別的に捉えられた政治体(le corps
politique)は、組織された生気に満ちた身体、人
間の身体に類似した身体として考えられる。至上
権は頭部を表す。法と習慣は脳であり、神経の原
理であり、悟性と意志と感覚の中枢である。その
裁判官と行政官は諸器官である。商業、工業、そ
して農業は、万人の生活の糧を用意する口であり、
胃である。公共の財政は血液である。賢明なエコ
ノミー(économie)は、心臓の機能を果たすことに
よって、この血液を送り届け、全身に栄養と生気
を分配する。市民はこの機械を動かし、活気づか
せ、作動する身体であり、手足である」
Encyclopédie, t. 5, p. 337.
百科全書派:有機体の秩序



ケネー「農業王国のエコノミーの統治の一般諸準則」
第三準則「土地が富の唯一の源泉であり、富を増
加するのは農業である」
第八準則「エコノミーの統治(le gouvernement
économique)は、生産的支出と自国の農産物の取引
を育成することだけに従事し、不生産的支出は放
任する」
F. Quesnay, Œuvres économiques et philosophiques de F. Quesnay, publiées avec une
introduction et des notes par Auguste Oncken, Francfort, 1888, p. 331, 333.
百科全書派:有機体の秩序

有機体の秩序としてのエコノミー
①アニマル・エコノミー:生物の有機的秩序。生命の原理。
②ポリティカル・エコノミー:政治体の有機的秩序。統治の原理。
③重農主義(Physiocratie):富の再生産過程としての経済。
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なぜエコノミー概念なのか
アリストテレス:家政と習慣
ストア派:神の宇宙統治
キリスト教神学:救済の歴史
トマス:配置・統宰・配剤
百科全書派:有機体の秩序
スミス:経済学の誕生
スミス:経済学の誕生



スミスにおけるエコノミーの多様な意味
「そのとき、我々は地位のある人の邸宅や家政
(oeconomy)を支配している快適性の美しさに魅
了される」
「我々は、自然とそれ〔満足〕を、我々の想像の
中で、満足を生み出す手段である組織、機械ある
いは管理(oeconomy)の秩序や規則的で調和的な
運動と混同する」
A. Smith, The Theory of Moral Sentiments, Oxford Univ. Press, 1976, IV. 1. 9, p. 183./
『道徳感情論(下)』水田洋訳〈岩波文庫〉2003年、p. 21f.
スミス:経済学の誕生


スミスにおけるエコノミーの多様な意味
「自然の秩序(oeconomy of nature)は、この点に
おいて、他の多くの場合におけるそれと一致して
いる。その特別な重要性のために、〔……〕自然
の愛好する目的とみなしていいあらゆる目的につ
いては、自然はつねにこうしたやり方で、自分が
意図する目的への欲求を、人類に与えておいただ
けでなく、同様に、この目的がもたらされうるに
はそれしかない諸手段を、この目的を生み出すと
いうそれらの傾向と関係なく、それら自身のため
に求めるという欲求を与えておいた」
A. Smith, TMS, II. i. 5. 10, p. 77./『道徳感情論(上)』p. 201。
スミス:経済学の誕生



スミスにおけるエコノミーの多様な意味
「政治家あるいは立法者の科学の一部門と考えら
れる政治経済学(political oeconomy)は、二つの
違った目標を目指している。第一に、民衆に豊富
な収入または生活資料を供給すること〔……〕そ
して第二に、公務を行うのに足りるだけの収入を、
国家または公共社会に供給することである」
「すべての体系――優先の体系であれ、抑圧の体
系であれ――がこうして完全に除去されるならば、
明白で単純な自然的自由の体系(system of natural
liberty)が、おのずと確立される」
A. Smith, An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations, Oxford Univ. Press, 1976,
p. 138, p. 687./『国富論』水田洋監訳・杉山忠平訳〈岩波文庫〉2000年、第2巻、p. 257、第3巻、 p. 339。
スミス:経済学の誕生



スミスのエコノミー概念の特殊性
「彼らの各々の才能の様々な生産物が、取引し、
交易し、交換するという一般的性向(disposition)
によって、いわば共有財産となり、誰もが他人の
才能の生産物のうち自分の必要とするどの部分で
も、そこから買うことができる」
「創造主は、こう言ってよければ、人間を人類の
直接の裁判官にしたのであり、他の多くの点と同
様にこの点で、人間を自らの似姿として創造し、
その同胞の振舞いを監督するために、人間を地上
における自らの代理人(vicegerent)に任命したの
である」
A. Smith, WN, p. 30./『国富論』第1巻、p. 42。
TMS, III. 2. 32, pp. 128-130./『道徳感情論』p. 304。
スミス:経済学の誕生

経済としてのエコノミー
①スミスはエコノミー概念を総合した。
②統治から独立した自然の体系としてのエコノミー。
③エコノミーの主体は人間へ。
日本語で読めるエコノミー概念史資料
 麻生博之編『エコノミー概念の倫理思想史的研究』研究
成果報告書、2010年。
 荒谷大輔『「経済」の哲学』せりか書房、2013年。
 大田一廣「『百科全書』におけるエコノミーの概念」
『龍谷大学経済学論集』51(4)、2012年。
 隠岐さや香『科学アカデミーと「有用な科学」』名古屋
大学出版、2011年。
 アガンベン『王国と栄光』高桑和巳訳、青土社、2010年。
 アガンベン「装置とは何か?」高桑和巳訳『現代思想』
青土社、2006年6月号。
 ロースキイ『キリスト教東方の神秘思想』宮本久雄訳、
勁草書房、1986年。
日本語で読めない重要資料:G. Richter, Oikonomia, Walter de Gruyter, 2005.