図書館とメディアの歴史 担当:後藤嘉宏 第4回(くらい)配付資料(4-1古代) 画像が重く、ウィキに載せる容量の関係で分割 します。 講義の古代(4-1)の箇所で主に依拠 する本、等について • 書物の歴史と読書の歴史 • 書物についてはエリク・ド・グロリエ著・大塚幸 男訳『書物の歴史』(クセジュ文庫、白水社、1 992年)の前半部にほぼ依拠して、他の資料 も交える。略記号〔G〕 • この本の疑問の点、他の本やネット情報によ る補足及び写真を付加。 • 読書についてはシャルチエ&カヴァッロ『読む ことの歴史:ヨーロッパ読書史』(大修館書店、 2000年)にほぼ依拠。略記号(C) • 他に、 オング『声の文化と文字の文化』(藤原書店、 1991年)略記号(O) リチャード・E・ルーベンスタイン『中世の覚醒』 (紀伊國屋書店、2008年)略記号(R) 本講義での時代区分 (ウィキペディアによる) • 現在では古代、中世、近世、近代の4区分が一般的 に用いられるようになった。 • 古代、中世、近世、近代の境界は概ね以下の通りで ある。 古代 - 中世 : 西ローマ帝国の滅亡 中世 - 近世 : 東ローマ帝国の滅亡、ルネサンス、大航 海時代、宗教改革 近世 - 近代 : 市民革命(特にフランス革命)、産業革命 ヨーロッパ中心の「古代」をみていく ギリシア→マケドニア→ローマ • 古代ギリシア • マケドニア王国(ギリシア語を喋るギリシアの一応 、一員)の帝国化(BC338カイロネイアの戦いで都 市国家をほぼ統一)→ヘレニズム文化(アジア・ アフリカの文化(オリエント文明)とギリシアとの 融合) • マケドニア王国がローマによって滅ぼされる( BC168) • 古代ローマの覇権の時代へ 本日の目的 • 中井正一は古代をギリシアに求め、そのオー ラル性を強調する。 • アレント、ハーバーマス、オング等、オーラル な部分の捉え方そのものにはかなり違いは あるが、いずれも古代≒ギリシア=オーラルと はいえる。 • とはいえ、アレントはローマもソクラテス学派 も中世的な観相の兆しのある時期ともとらえ る。 • 古代-オーラルという彼らの、というか極端な 事例は(中井の図式含めて)妥当か? • 実際の歴史は、オーラルなものの歴史という より、そこから文字や紙の原型が生まれてく る技術史という側面も強くある。 • 要は紙がなかったり希少だから、オーラルな 時代だったともいえて、この推移を見るならば 、時代移行論の方が有効ともいえる。 書物の前史-最初の文字 • 粘土の書板 BC3500 スメル人(シュメール 人)〔G17〕 メソポタミア、くさび形文字 http://www.zoooone.com/2011/01/05/%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%83%AB%E6%96%87%E6% 98%8E%E3%81%AB%E3%81%AF%E3%80%81%E3%81%AA%E3%81%9C%E7%B4%99%E3%81%8C%E3%81%AA%E3%81%8B %E3%81%A3%E3%81%9F%EF%BC%9F/より 亀甲文字 • 中国 骨、亀の甲 青銅に 亀甲文字〔G17〕 • 中国・殷(商)の時代に行われた漢字書体の 一つで、知られる限り最古の漢字。甲骨文字、 甲骨文とも。亀の甲羅(腹甲)や牛や鹿の 骨(肩胛骨)に刻まれた(ウィキペディア)。 • 殷(いん、BC17世紀頃 –BC1046) 亀甲文字(画像) http://upload.wikimedia.org/wikipedia/ja/e/ef/ChinaOraclebone01.jpg http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/42/92/0f559c54b186910527cb12bc7191a b16.jpg アルファベットについて(1/2) • アルファベット・・・楔形文字の生まれたのと、 ほぼ同じ地域に、2000年後に生まれた(オ ング186)。 • セム族あるいはセム語族によってBC1500頃。 • ただしヘブライ語やアラブ語は母音を表す文 字がないので、それを補って読む(O,187)。 • 他方ギリシア人は母音をもった完全なアル ファベットを作る→他の古代文明に対する知 的優位の確立(O,188)。 アルファベットについて (2/2) • ギリシア語のアルファベットのメリット(O,189) 1)誰でも簡単に覚えられる・・・民主的 2)外国語ですら処理する術を与える・・・国際的 ・・・音を視覚的な形に還元する。 パピルスと羊皮紙・・・古代の書物 • エジプト パピルス BC3000発明→ギリシアに BC7世紀→ローマにBC3世紀→713年ガリア (現フランス)地方・・・11世紀まで教皇庁が 使う〔G18〕 パピルスの画像 • http://www.mizunomori.jp/zukan/suisei/images/a006.jpg http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/b4/Edwin_Smith_Papyrus_v2.jpg/250pxEdwin_Smith_Papyrus_v2.jpg 羊皮紙その他、紙の前身 • 中国 BC12世紀 筆と墨と絹 • ヨーロッパ 獣皮 BC25世紀から 羊皮紙 BC2世紀 獣皮・皮紙・・・メモ用 書物はパピルス〔G19〕 羊皮紙についてのネット情報 (1/2) • (http://tinyangel.jog.client.jp/Item/Parchment.htmlの情報) • 「羊皮紙」羊皮紙は紀元前200年頃のペルガ モン(Pergamum、現在のトルコ)で生まれ、 「Parchment」の語源にもなっています。 (この地に)大図書館が建造された折にパピ ルスの一大産地であったエジプトと不仲で あったため、それまであった筆記用の獣皮を 発展させ、両面とも利用でき、冊子(本)として 加工できるものとしました。 羊皮紙についてのネット情報 (2/2) • なお獣皮を記述用媒体とする文化自体は、 紀元前2,500年頃のエジプトでの使用が最古 の記録と見られています。 その後15世紀に安価な植物製紙が普及し、 貴族や芸術家などの一部の層を除いて、羊 皮紙の利用は減少していきました。ですが植 物製紙と比べて1,000年以上の保存に耐える 羊皮紙は、今日でも政治的、歴史的な用途な どで用いられ続けています。 羊皮紙の語源、ペルガモン図書館跡 http://www.youhishi.com/travel5.htmlより 「ペルガモン」の ウィキペディア情報 • ペルガモンは、小アジア(アナトリア)(現トルコ)のミュシア地方にある古代都市。 スミュルナ(現イズミール)北方のカイコス川河畔にあり、エーゲ海から25キロメー トルの位置にある。ペルガモンは、紀元前3世紀半ばから2世紀にアッタロス朝ペ ルガモン王国の都として繁栄したヘレニズム時代の都市である。 • ペルガモンの文化の発展の度合いは、図書館が一 時アレクサンドリアの図書館に次ぐ規模に達してい たことに象徴されている。蔵書の作成に使われたパ ピルスは、品不足の影響もあって、エジプトのプトレ マイオス王朝から輸出を停止されたほどであった。 そのため、パピルスの代替するものとして、同国で 羊皮紙が生産されるようになった。羊皮紙を表す言 葉の語源はペルガモンに由来する(例・英語の parchment)。 ペルガモン図書館の補足情報 • (アレクサンドリア図書館と)並び称され るのはアッタロス二世(紀元前159年没 )により建設されたペルガモンの王室図 書館であった。ここでは紀元前二世紀、 マロスのクラテスのもと、ストア派の傾向 をもち、寓意的な註釈をほどこす特別な 学問が育っていた(フォルシュティウスほ か『図書館史要説』日外、7)。 パピルスと皮紙の使い分け http://www.pauline.or.jp/imamichi/imamichi02.php より。 • イエスの時代にすでにパピルスと獣皮紙(= 羊皮紙、ペルガメーナ、パーチメントとも同 義)は ともに存在しましたが、獣皮紙は高価 だったので、パピルスの輸入がむずかしいと ころ以外では パピルスのほうが好まれました • →二つのネット情報はグロリエの獣皮紙、メモ 用、パピルス、本用という記述とだいぶ違う。 羊皮紙の巻子本の画像 http://en.wikipedia.org/wiki/File:Torah_and_jad.jpgから • 羊皮紙の巻物ヘブライ聖書 当面する問題 • 結局、古代は、アレントのいうようなオーラル な時代だったのか、書きことば優位へと向か う時代だったのか? • あるいはその場合のオーラルの意味は、演 説の意味なのか、弁証法的対話の意味なの か? • そこでまずウォルター・オング(1912-2003)の 言及、次にシャルティエ等をまず見てみる。 オングによるホメロス問題1/4 • 『イリアス』紀元前8世紀半ばにホメロスによって 作られ、紀元前6世紀頃に文字化されたとされる。 • ホメロスは決まり文句を繰り返し使っているとい うことが、明らかになった(O54)。現代の文学の 基準からすると、それはホメロスの評価を下げそ うなことである。しかし、声の文化に属する人々 の認識世界は、「きまり文句的な嗜好の組み立 てに頼ってい」(O57)て、「いったん獲得した知識 は、忘れないように絶えず反復していないくては ならな」かった。 BC5世紀のホメロス像の ローマ時代のレプリカ • http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/bc/Homeros_Glyptothek_Mu nich_273.jpg オングによるホメロス問題2/4 • 「知恵をはたらかすためにも、そしてまた効果的 にものごとを処理するためにも、固定し、型にし たがった思考パターンがどうしても欠かせなかっ た」 (O57)。 • プラトンの時代までに、人々は書くことを内面 化・・・ギリシアのアルファベットの完成(BC700年 頃)から数世紀(→アレント等の対比) • 「記憶をたすけるきまり文句のなかにではなく、 書かれたテキストのなかに、知識をたくわえる新 しい道が開かれた」(O57)。 オングによる、ホメロス問題3/4 • もっともオングに言わせるとプラトン自身葛藤 が。「書くことは、知識を処理する手段として は機械的で非人間的であり、書かれたものは 尋ねられても即座にこたらえられず、記憶力 をそこなわせるものだ、というように」(O58)。 • 書くことがない文化では、きまり文句や記憶し やすい言葉に頼らず思考して、その思考が成 功したとしても、徒労である。というのも再現 する術がないからである(O81)。 オングによる、ホメロス問題4/4 • 「韻律にあうようにつくられたきまり文句が、 古代ギリシアの叙事詩の構成を導いていた のであり、そうしたきまり文句は、話しのすじ や叙事詩のトーンをそこなわずに、まったく簡 単にいれかえることができた」(O125)とパリ ーという人のホメロス研究を通じて、オングは 述べる。 ウォルター・オング(英語版ウィキペ ディア)1/2 • Father Walter Jackson Ong, Ph.D. (November 30, 1912 – August 12, 2003), was an American Jesuit priest, professor of English literature, cultural and religious historian and philosopher. His major interest was in exploring how the transition from orality to literacy influenced culture and changed human consciousness. In 1978 Ong served as elected president of the Modern Language Association of America. ウォルター・オング(英語版ウィキ ペディア)2/2 • In 1941 Ong earned a master's degree in English at Saint Louis University. His thesis on sprung rhythm in the poetry of Gerard Manley Hopkins (see An Ong Reader, 2002: 111-74) was supervised by the young Canadian Marshall McLuhan. • →マクルーハンの一応、弟子(年齢はほぼ一 緒)。イエズス会の司祭。 オング神父の顔写真 • • • 左http://rpjohnso.myweb.usf.edu/projects/techbins/proverbs/provoral1.htmlより。 中http://www.opednews.com/populum/uploaded/farrell_tom_809-38575-20091024-1.jpgより。 右http://upload.wikimedia.org/wikipedia/en/5/55/Walter-ong.jpgより。 ホメロス問題周辺1/2 • そしてギリシアの隣国ユーゴの現代の吟遊詩 人等を調査した調査結果から、吟遊詩人は 他の吟遊詩人の歌を何年も聴くことで学び、 手本となる詩人は同じやり方で二度と物語を 歌わないが、紋切り型のテーマに結びついた 決まり文句を繰り返して用いるという(O129)。 • しかも読み書きを覚えるとテキストに囚われ て、口承詩人をダメにするともいわれるという (O128)。 ホメロス問題周辺2/2 • しかも話を聞いて、二、三日、熟成させる時を 置いてから、話しを思い出し語り直すという (O130)。 • ホメロスを声の文化の典型としてあげるオン グであるが、『聖書』についても神父でもある オングは同様に捉える。 オングによる、ホメロスから聖書につ いて(1/2) • 「テクストによって支えられたそうした宗教的 伝統においてもなお、さまざまなしかたで、声 としてのことばに関係するものの優位が確証 されつづけている。たとえば、キリスト教にお いては、聖書は礼拝において高らかに読みあ げられる。なぜなら、神は人間に「語りかけ る」ものであり、けっして人間に〔文字を〕書き おくるものとは考えられていないからである」 (O158)。 オングによる、ホメロスから聖書につ いて(2/2) • 「父なる神は、子を「語る」のであって、書きし るすのではない。神の言葉であるイエスは、 読み書きができたにもかかわらず(『ルカによ る福音書』第四章十六節)なにも書きのこさな かった。「信仰は聞くことによるのであり」と 『ローマ人への手紙』(第十章十七節)には記 されている。「文字は人を殺し、霊は人を生か す。」(『コリント人への第二の手紙』第三章六 節)」(O159)。 オングによる、プラトン1 • プラトン『パイドロス』の中でソクラテスに語らせ た、書くことへの批判(O168-)。 1)精神のなかにしかないものを精神の外にうちた てようとする点で、非人間的。 2)外的な手段に頼るため、忘れっぽくなる。書くこ とは精神を弱める。 3)書かれたテクストは、何も応答しない。説明して くれといっても同じことの繰り返しのみ。 4)話される言葉は、自らを弁護できるが、書かれ た言葉にはそれができない。 オングによる、プラトン2 • しかしイデア論的なプラトンの認識論は、上 記の発言とは逆に、「声としてのことばにもと づく生活世界の計画的な拒絶」(O170)といえ る。 • イデアideaはギリシア語idein(見る)に由来し、 形相formは見られたものとしての形を意味し、 ラテン語の「見るvideo」と同じ語源。要は視覚 的な形との類比において捉えられる。 背景にあるオングの視覚批判1 • この考え方の基本に師匠のマクルーハンと同 様の、視覚と音声の対比の議論がある。 • 「視覚は分離し、音は合体させる。視覚にお いては、見ている者が、見ている対象の外側 に、そして、その対象から離れたところに位置 づけられるのに対し、音は、聞く者の内部に 注ぎ込まれる」(O153)。 背景にあるオングの視覚批判2 • 「視覚は切り離す。視覚は、一どきに一 方向からしか人間にやって来ない。・・・ ところが、聞くときは、同時にそして瞬時 に、あらゆる方向から音が集まってくる。 つまり、わたしは、自分の聴覚の中心に いる。・・・視覚が切り離す感覚であるの に対し、音は、このように統合する感覚 である」(O153) さらに書き言葉への批判 • 「一人の話し手が聴衆に話しかけているとき、聴 衆は、ふつう、かれらのあいだで、また、話し手と のあいだにおいても、一体となっている。ところ が、もし話し手が、手渡した資料を読むようにと 聴衆に求め、聴衆の一人ひとりが自分だけの読 書の世界に入ると、聴衆の一体性はくずれ、ふ たたび口頭での話しがはじまるまではその一体 性はもどらない。書くことと印刷とは人々をたが いから分離する。読者を表すことばには、「聴衆 audience」に対応するような集合名詞や集合的 な概念がない」(O157) 次にシャルティエ等の読書論から このオーラルの問題を追う • 「オーラル時代の書き言葉・・・音読の伝統に 」という文脈で。 http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/__icsFiles/thumbnail/2010/07/29/chartierpic.gif http://www.circulobellasartes.com/fich_minerva_articulos/img_resumen_26.jpg http://www.ucm.es/info/especulo/numero15/chartier.html 共編著者のギリシア古文書学者 カヴァッロ • http://www.cisam.org/images/galleria_cisam/foto60.jpgよりカヴァッロ ギリシア時代の読書(1/18) • ギリシア・・・語られる言語が「抗いがたい権 力をふるっていた」(C33) • ホメロスの英雄が死ぬことができた・・・名声 (クレオス)を得られるがため。 • クレオス・・・名声、栄光・・・しかし語源的には 「音声」 • いわば音声として語られることで響き渡る栄 光こそが、「クレオス」(C33) ギリシア時代の読書(2/18) • ギリシア人があえてフェニキアのアルファベッ トを借用した理由もそこにある。 • 音声文字であるがゆえに、音声(栄光)を永 遠に留めうると。「文字はクレオスの増加をも たらす役に立つ。例えば墓碑銘によって死者 に今まで無かった形での後世が保証される」 (C34)。 • ギリシアの最初の読書は音読と推察させる。 ギリシア時代の読書(3/18) • →表音文字を文字文化、視覚優位の典型と マクルーハンは位置づけるが、源流において は、むしろ逆という見方だ。 →言い換えると音読前提のアルファベットは 聴覚重視、黙読普及後のアルファベットは視 覚優位の抽象性を強めたものといういい方で、 マクルーハンとシャルチエグループとの折衷 も可能? ギリシア時代の読書(4/18) • ギリシアでの「読む」という動詞「分配する」を意味する。 当初音声で記憶に残る分配、その後は、文字に残る 分配 • ギリシア最大の立法家カロンダスの法の公布・・・歌わ れることで公布(C39)。 • ギリシア語の「読む」の3つの含意 1)読み手の声が道具としての性格を持つ 2)書かれたものはそれだけでは不完全で、音声化さ れる必要がある。 3)書かれたものは読者に向けられるのではなく、聴衆 に向けられる(C44-45)。 ギリシア時代の読書(5/18) • ←連続記法、統一的な正書法の欠落・・・黙読で 理解しがたい • テクスト=織物・・・タテ糸・・・文字/ヨコ糸・・・音 声(C45) • 読まれる時の他者の肉体の占有「読まれるとい うことは、時間と空間がどれほど隔たっていよう とも、相手の肉体に力を及ぼしていることに他な らない。読んでもらうことに成功した時、書き手は 他人の発声器官に働きかけ、それを意のままに 用いている」(C46)。 ギリシア時代の読書(6/18) • そのことから来る帰結 • ギリシア・・・必然、強制から免れていることが 市民=自由人の条件 • よって、読むことは、筆者の支配を受ける楽 器のような位置に自らを置く • →読むことはいかがわしい行為(C46)。他方、 書き手は尊敬もされる。 ギリシア時代の読書(7/18) • 「読むことにおいて読み手は、少年愛における受 動的関与者と同じ役割を果たし、軽蔑される。書 き手は、同じく少年愛における能動的関与者と 同じ立場にたち、支配し、尊敬されるのである」 (C47)。 • 「・・・なぜ読み上げる任務をギリシャ人は進んで 奴隷に委ねたか、理解することが出来る。奴隷と はまさしく主人に奉仕し、服従する存在に他なら ない。奴隷は・・・「声を出す道具」である」(C47)。 ギリシア時代の読書(8/18) • 「読むことは、市民であることと真っ向から対立する行 為ではないにしても、ある種の節度をもって控えめに 実行しなければ、悪徳と化する危険のある行為だった のである」(C48)。 • →このようなシャルティエ&カヴァッロの共編著中のス ヴェンブロの記述からも、アレントや中井のいうギリシ アの文字言語への嫌悪は現代の研究水準からも裏 付けられる。 • ただアリストテレスのいう朗読に近い演説もアレント流 の演説=活動=政治だとすると、「読むこと」の受動 性への軽蔑というここでの文脈からどう評せるのかと いう問題が生じる。 ギリシア時代の読書(9/18) • 書かれたものを読む人は、書かれたものに従 属するという考えも(先に挙げたのは書いた 人に従属するという考え)。 • 主語のある墓碑銘「私はグラウコスの墓であ る」(C48)。→読み手が書かれたものの所有 に帰する(C49)。「しゃべる遺物」・・・アニミズ ムで説明されてきたが、読み手の声を予め手 に入れているとも・・・黙読の予兆(C52) ギリシア時代の読書(10/18) • このような書いた人に読む人が従属するという 思いこみからギリシア人を解放したのが、演劇 の経験(C59)。 • 観客は自分の声を介入させずして聞けるので。 • 舞台と観客の隔たり=書かれたものと読み手の 隔たり(双方とも従属しないという意味での「隔た り」)→「読み手はもはや書かれたものの道具に はならない。書かれた物が何の助けも借りずに 自分からしゃべりかけてくるからである。読み手 はただ受動的に聞くだけでよい」(C59)。 ギリシア時代の読書(11/18) • →黙読への流れ。 • 「黙読する物は書かれた物に聞き入る。それは、 劇の観客が、俳優の発する「声で書かれた物」 に聞き入るのと同じことである」「書かれたものに はしゃべる能力があり、読み手の能力が介入し ないまでも、既に声を得ているのである。読み手 はただ、自分の内面で、耳を傾ければよい」 (C60)。 • BC6世紀末に黙読が導入されたのではと(C63) ギリシア時代の読書(12/18) • ヘロドトスのような歴史家・・・大量に読み、大 量に書く必要性・・・黙読。自分の声を内面化 する必要性(C66)。ヘロドトス(BC485-420) • しかし黙読はギリシアでは基本的に専門家の みのもの。文字を書く専門家以外の「普通の 読者にとっては、読むこととは常に声を出して 読むことであり続けた」(C73)。 ギリシア時代の読書(13/18) • 本屋はBC5世紀にアテネで生まれる〔G19〕 大きな工房で奴隷が写本 • ソクラテス学派が活動・言論主体のギリシア を崩したとアレントはいいつつ、彼らの文字へ の嫌悪をいうが、本屋の成立時期と随伴。 • ソクラテス 紀元前469年頃 - 紀元前399 • プラトン 紀元前427年 - 紀元前347年 • アリストテレス 前384年 - 前322年 ギリシア時代の読書(14/18) • シャルティエらによる、プラトンの書物嫌悪へ の解釈 • プラトン《書かれた言説は絵のようなもの》・・・ 質問に答えてくれない・自分を繰り返すのみ、 と。 • しかし、自由な解釈を書物は認めてくれるは ず、とシャルティエ&カヴァッロ。 ギリシア時代の読書(15/18) • シャルティエらによると、ソクラテスはある種の書物 の所有と学問や職業の営みを自明視していた証拠 があるという(C13)。 • 紀元前5世紀末には、会話や宴といった社会生活 のなかでの読書の図や絵が一般的になる(C12)。 • ギリシアで様々な読書実践が行われていたが、5世 紀末から4世紀にかけて、読める少数者が音読して 多くの人々に伝達・情報の分配をする読書から、一 つの本を繰り返し読む精読に移ったと考えられる(イ ソクラテス(BC436-338)の証言から)(C15) ギリシア時代の読書(16/18) • ヘレニズム(アレクサンドロス大王~プトレマイオス朝が滅びるまでのギリシア文化とオリ エント文化の融合した300年間)は音声的な語りと書物の双方の重 要な時代。作品の作成、流通、保存は書物を通じて (C16)。 • 古典時代の書物には、序文等で自著の要約をするこ とで、読者の便宜を図るという流れがすでにあった (C19)。ギリシアのポリュビウス(BC202-120)の『歴史』 の序文。プリニウス(BC23,24-79)の『博物誌』の冒頭。 36巻の各巻の要約と関連する出典示す(C19)。 • →索引が出来るのはCODEXになってからとオングはい うが、索引のような本の検索媒体への流れもこの時期 からあった。 ギリシア時代の読書(17/18) • 音読理論と雄弁術(C19) • トラキアのディオニュシオス(BC170-90)(ディ オニュシオス・トラクス、品詞を最初に唱えた 文法学者) • 声の表現力を組織する • 読書は、個人的であれ、対聴衆であれ、声と 仕草による解釈・・・弁論術の口演法に由来 する・・・口演法は演劇の手法に由来 ディオニュシオス・トラクス (BC170年 - BC90年) のウィキペディア情報より1/2 • はじめアレクサンドリア、のちにロードス島で 活躍した。 • 『文法の技法』の主要な部分はギリシア語の 形態論(どう単語が変化するかなどを調べる) についてであり統語論(言語の静的な構造を 研究する)的な側面の記述はない。 ディオニュシオス・トラクス (BC170年 - BC90年) のウィキペディア情報より2/2 • トラクスはその著書の冒頭で文法を「詩人や 散文家の実用的知識、一般的な使い方」と定 義している。また彼の著作は当時の「現代語」 であるコイネーしか知らなかった人々がホメ ーロスなどの古典文学を理解する際の手助 けとなったと考えられている。 • トラクスは品詞という概念を体系的に考えた 最初の人である。 ギリシア時代の読書(18/18) 余談・仕込まれた雑談 • 戯曲や楽譜VS実演の演劇、演奏= 書物VS音読あるいは音読イメージのあった読書 という図式が本来。 • それが崩れたのが現代。 • 音楽 ほとんど演奏CDを人々有し、文字作品はほとん ど書物の方を有する。演劇は分離状況がないかも。 理由1.現代では楽譜リテラシーと文字リテラシーが分 離した 理由2.所有できるのがCDと本で実演ではない。
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