超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- ID

超次元ゲイムネプテューヌZ−血と硝煙と鋼と荒唐無稽−
アメリカ兎
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じます。
︻あらすじ︼
壊次元編
ゲイムギョウ界で頻発する自然災害。地震雷火事親父、モンスター
の大量発生。その解決に乗り出すのはお馴染みネプテューヌとネプ
ギア。そしてノワール。
調査と解決に乗り出した三人だったが、地面の隆起によって出来上
がった奇妙な亀裂に落ちてしまう。その先は崩壊していく最中で全
面戦争の巻き起こる﹁アダルトゲイムギョウ界﹂で⋮⋮
する。
果たして無事に帰れるのか。貞操は守りきれるのだろうか
んな不安と共に戦いの中へ身を投じていく。
?
それでもやっぱりハッピーエンドを〝諦めない〟アイツがやって
唐無稽の戦場に、次元を超えた救援要請。
て勃発するハァドライン同士による衝突。支離滅裂で滅茶苦茶な荒
開かれる式典の日。突如起きた謎の渦から現れたのは││。そし
きを見せていた⋮⋮。
し、女神信仰の狂信者とも言うべき集団﹁ハァドライン﹂が不穏な動
毎度おなじみゲイムギョウ界では平和な日々が続いていた。しか
超次元編
そ
壊次元││全面戦争の戦禍が渦巻く世界でネプテューヌ達は奔走
エヌラス。
そこで出会ったのは守護女神達と対をなす〝神格〟の一人である
?
くる。
※えっちぃ話には︵R︶がついてます
壊次元編
目 次 tutorial 取扱説明書 │││││││││││││
episode0 導入 ││││││││││││││││
第一章 ゲイムスタート
episode1 初戦 ││││││││││││││││
││││││││││││││││││││││││││││
e p i s o d e 3 臓 物 と そ の 他 ぶ ち め け て 死 ぬ モ ブ の 皆 様 15
episode2 危険かどうかと聞かれたらそりゃもうヤバい
4
1
8
カウントダウン │││││││││││││││││││││
れてた │││││││││││││││││││││││││
る構え │││││││││││││││││││││││││
常 │││││││││││││││││││││││││││
るボス戦 ││││││││││││││││││││││││
︵R︶ ││││││││││││││││││││││││││
弁 │││││││││││││││││││││││││││
episode11 全力で駆け抜けたレベル上げがセーブを忘
58
episode10 苦労して倒したボスの後に続くボス戦は勘
53
episode9 ベッドの下とクローゼットは男の秘密の花園
48
episode8 レベル上げが面倒で逃亡を繰り返して後悔す
42
episode7 最初から強い味方の途中離脱イベント率は異
36
episode6 殺るか殺られるかで言ったら殺られる前に殺
31
episode5 ボス前セーブは基本だけどアイテム補充は忘
26
episode4 キレてるかどうかと聞かれたらマジギレ寸前
21
│
れる大惨事 │││││││││││││││││││││││
第二章 ネクストゲイム
episode12 鋼の軍神、出撃す │││││││││
episode13 何事もなかった一夜明け ││││││
episode14 両雄、衝突 ││││││││││││
episode15 最強の三叉槍 │││││││││││
episode16 晴れ時々少女 │││││││││││
episode17 死力を尽くした先の焦土 ││││││
episode18 電脳国家インタースカイ ││││││
episode19 血の流れない国 ││││││││││
episode21 口ではそうでも身体は素直。男でも︵R︶ episode20 トライ・アンド・エラー ││││││
65
75
80
87
125 118 112 106 100 93
episode22 へんしん∼ ││││││││││││
episode23 全ての元凶。事件の発端は││ │││
第三章 セカンドステージ
episode26 カミサマ失格
││││││││││
episode30 〝最強〟という称号 ││││││││
episode29 闇を狩る鋼鉄の魔獣 ││││││││
episode28 行って帰って朝帰り ││││││││
episode27 天敵 │││││││││││││││
?
episode31 王たるものの勤めは千差万別。 │││
197 192 187 180 173 167
e p i s o d e 2 5 ゲ イ ム ギ ョ ウ 界 は い い と こ よ っ と い で episode24 〝こちら側〟と〝あちら側〟 ││││
148 139
156
133
161
│
episode32 男としての尊厳よりも大切なものは山ほど
││││││││││││││││││││││││││││
episode42 お昼休みはウキウキ
│││││││
episode41 電界突破 │││││││││││││
こんにちわ │││││││││││││││││││││││
episode40 何度やられても何回負けても諦めない魔女
││││││││││││││││││││││││││││
episode39 話の腰の骨をへし折るサブミッション達成
episode38 ツンデレの黄金比は7:3 │││││
││││││││││││││││││││││││││││
episode37 新婚でもなんでもないけれど一つ屋根の下
episode36 なんでもないような朝に地獄あり ││
第四章 ヒートアップ
引き││それがプライド︵R︶ ││││││││││││││
episode35 どんなにくだらなくても負けられない駆け
パシー︵R︶ ││││││││││││││││││││││
episode34 泡と汗と熱と、あともうなんか色々熱いシン
地雷がある │││││││││││││││││││││││
episode33 男には分かっていても踏まなきゃならない
203
209
215
220
227
237 232
242
263 256 248
ん │││││││││││││││││││││││││││
episode44 何色であってもキモいのはキモい ││
episode45 紆余曲折を経て本格的ミーティング │
episode46 ツンデレとツンデレ ││││││││
episode47 フォートクラブ生産工場制圧作戦 ││
296 288 281 275 269
episode43 ミーティングという名目のただのお昼ごは
?
episode48 軍神咆哮。吸血姫、強襲 ││││││
episode49 血と誇りと守りたいのは笑顔 ││││
episode50 〝アイ〟の証明 ││││││││││
episode51 Revenge of heart │
episode52 作戦完了。各自日常へ帰投せよ││ │
第五章 サードステージ
│││││
episode53 仕事に懸ける情熱は給料分 │││││
episode54 クスリ、ダメ、絶対⋮⋮
330 321 315 308 302
356 349 343 336
episode58 見た目は子供。中身は⋮⋮
︵R︶ │
い │││││││││││││││││││││││││││
episode61 灰燼の焼土に思い出一つ ││││││
episode63 null
s │││││││││││
episode66 唯一無二のセーブポイント │││││
episode65 メイドとスカートと短機関銃と太刀 │
episode64 九龍アマルガム ││││││││││
'
episode67 自宅で最も気の休まる場所はトイレ │
第六章 デッドヒート
423 418 411 405 400
e p i s o d e 6 2 こ の 世 は 地 獄 極 楽。天 国 は 何 処 に 在 り 387 381
episode60 女は三人寄らなくても騒がしい奴は騒がし
375 368
e p i s o d e 5 7 据 え 膳 食 わ ぬ は 男 の 恥。な ら ば 女 と は episode56 ドSのSはなんのS ││││││││
episode55 病み上がりでも現実は容赦しない ││
?
episode59 命短し恋せよ乙女 │││││││││
?
362
393
│
episode68 戦禍の破壊神 │││││││││││
episode69 守るもの。愛されるもの ││││││
e p i s o d e 7 4 不 倶 戴 天 の 怨 敵 に し て 宿 敵 に し て 仇 敵 episode73 魔人闘舞││我らは人ならざる人 ││
episode72 芸術は大爆発 │││││││││││
episode71 診察代はプライスレス │││││││
イチ︵R︶ │││││││││││││││││││││││
episode70 壊れるほど愛しても伝わるのはサンブンノ
434 429
463 457 447 440
episode75 血風戦禍 │││││││││││││
episode76 Ia Ia Zs│awia ││││
episode77 無貌の大魔導師 ││││││││││
episode78 我が道走るマイウェイ │││││││
姿は守護女神 │││││││││││││││││││││
episode80 お酒のトラブルご用心 │││││││
episode81 風呂場は裸になる場所︵R︶ ││││
episode82 懲りぬ尽きぬは男の性 │││││││
episode83 白銀と深紅 ││││││││││││
episode84 魔窟 │││││││││││││││
episode85 宣誓。雌雄を決す挑戦状 ││││││
第七章 ウォーゲイム
episode86 カウントダウン ││││││││││
episode87 喫茶店で始まる言論クロスファイト │
episode88 全てを後に今だけは││ ││││││
559 552 546
540 535 529 522 516 510 503
episode79 動けばトラブル座ればムードメーカー歩く
496 491 483 477
470
│
episode89 縛って鳴かせてしっぽりと︵R︶ ││
episode90 決戦前夜。決闘の地へと ││││││
episode91 軍事国家アゴウ ││││││││││
episode92 会いたい。相対。愛したい │││││
episode93 女も待ってるだけじゃ始まらない ││
episode94 戦場の最前線で叫んで愛して ││││
episode95 拳は口より多く語るもの ││││││
episode96 届かぬソラと無限の輝望 ││││││
episode97 神罰、疾きこと雷の如く ││││││
episode98 心に纏う刃金を振るう │││││││
e p i s o d e 1 0 3 店 の 経 営 は 正 気 の 沙 汰 で も 成 し 得 る episode102 口を開けば喧嘩するほど仲が良い │
episode101 世は事もなし ││││││││││
第八章 ラストステージ
episode100 血と硝煙と鋼と荒唐無稽 │││││
││││││││││││││││││││││││││││
e p i s o d e 9 9 戦 友 よ。輩 よ。縁 と 添 い 遂 げ 未 来 へ 生 き よ
620 615 608 602 597 591 584 578 572 565
637 629
654 647
││││││││││││││││││││││││││││
episode105 昼夜逆転生活は不摂生 ││││││
episode107 母は鬼より恐く神より強し ││││
episode108 居ても勃ってもいられない ││││
696 687
episode106 財産は用法用量を守って使いましょう 673 667
episode104 モンスターとクリーチャーの違いは語感
660
680
│
episode109 温めますか。顔面真っ赤 │││││
E p i s o d e 1 1 4 予 定 は 未 定。白 紙 に お 先 真 っ 暗 無 計 画 Episode113 いつぶりかの静かな朝 ││││││
の美女でお願いします︵R︶ │││││││││││││││
Episode112 モーニングコールは目覚ましよりも絶世
episode111 無垢なる怒り︵R︶ │││││││
は愛情ひとつ。ただし病んでる方は遠慮したい │││││││
episode110 義理より本命。料理もチョコも隠し味に
702
713 707
726 719
Episode115 おかえりくださいませ、ご主人様 │
第九章 クライマックス
ジェクトの存在感は異常 │││││││││││││││││
episode118 Unkwon Blood ││││
episode119 国王様による自分の国の破壊活動開催 753 747
E p i s o d e 1 1 7 ア ク シ ョ ン ゲ ー ム で 破 壊 で き な い オ ブ
Episode116 国王御一行様移動中 │││││││
736
742
731
題 │││││││││││││││││││││││││││
じゃない ││││││││││││││││││││││││
せん ││││││││││││││││││││││││││
episode123 死霊の秘法の主の魂 │││││││
episode124 血の霧烟る夜には通りゃんせ帰りゃしな
782 776
episode122 墓穴を掘るとは言うけれど底に私はいま
770
episode121 人を呪わば穴二つ。なければ掘ればいい
764
episode120 上から下へ流れ落ちる滝のような責任問
759
│
い │││││││││││││││││││││││││││
episode125 未来への敗走 ││││││││││
す │││││││││││││││││││││││││││
episode141 丼ものにはご飯にタレ付きでお願いしま
episode140 本日はお日柄もよく │││││││
最終章 ゲイムクリア
episode139 パーティー・イズ・オーバー │││
episode138 相当末期症状恋愛感情 ││││││
episode137 甘いモノと楽しいことは別腹 │││
episode136 諦めなければ試合は終わらない ││
episode135 バカが機神と翔んでいく │││││
episode134 ひとりぼっちは寂しいもの ││││
episode133 絶望に折れぬ剣 │││││││││
しい ││││││││││││││││││││││││││
episode132 姉より強い妹よりも誰より愛しい妹が欲
いるもの ││││││││││││││││││││││││
episode131 金無し職なし宿もなし。それでも残って
次第 ││││││││││││││││││││││││││
episode130 地獄の沙汰も金次第。この世も所詮は金
episode129 指きりげんまん、嘘つけない │││
episode128 無力なヒトと守護女神 ││││││
episode127 時計仕掛けの亡霊 ││││││││
第十章 ファイナルゲイム
││││││││││││││││││││││││││││
episode126 煮ても焼いても食えない敗北感は豚の餌
795 788
801
820 813 807
825
832
883 875 869 861 856 851 846 838
889
895
e p i s o d e 1 4 2 寝 て も 覚 め て も 考 え る こ と は 一 緒 く た
︵R︶ ││││││││││││││││││││││││││
e p i s o d e 1 5 5 鋼 の 軍 神 と 漆 黒 の ツ ン デ レ 守 護 女 神 神候補生 ││││││││││││││││││││││││
episode154 誰よりやさしい王様と誰より真面目な女
episode153 次元を超越した遊戯 │││││││
episode152 愛憎必殺。誓いにかけて │││││
episode151 攻撃は最大の防御 ││││││││
episode150 塔争 ││││││││││││││
episode149 大いなる〝C〟 │││││││││
episode148 最後の戦いへ││ ││││││││
episode147 信念と狂気は紙一重 │││││││
episode146 シャドウ・イン・ザ・ダークネス │
episode145 わたしはいつでも夢のなか ││││
episode144 旅行先での観光名所めぐりは基本 │
賑やかさ︵R︶ │││││││││││││││││││││
episode143 最後の朝食は簡素で質素でいつも通りの
900
966 961 955 950 943 937 931 926 919 912 906
971
て来るのは││ │││││││││││││││││││││
望の魔人 ││││││││││││││││││││││││
episode158 アゴウの女神と紫の守護女神 │││
episode159 ハッピーエンド │││││││││
Epilogue 壊次元ゲイムクリア │││││││││
1004 999 994 988
episode157 未来の絶望に負けた男と明日を夢見る絶
982
episode156 嘆き喰らいの竜とドSな守護女神。そし
977
│
超次元編
超次元的取り扱い説明書電子版︵03/29追記︶ ││││
超次元原作キャラクター好感度推移及び電子説明書︵仮︶ │
第一章 超次元ゲイムスタート
エ ピ ソ ー ド 3 住 所 不 定 二 十 代 男 性 │ │ 職 業 神 様。逮 捕 さ れ る エピソード2 隠しても隠し切れない物が本性という │││
エピソード1 しっちゃかめっちゃかメッチャクチャ │││
エピソード0│3 始まりはいつだってビッグイベント ││
笑い ││││││││││││││││││││││││││
エピソード0│2 思ったよりも厳しい職場。これには女神も苦
エピソード0 割といつものゲイムギョウ界 │││││││
10191011
1023
1047104210361031
││││││
エピソード4 牢屋暮らしの犯罪王 │││││││││││
エピソード5 ほわいぷらとにっくぴーぽー
?
エピソード7 姉のDVDよりも時代はブルーレイ ││││
エピソード8 女神﹀国民﹀犬﹀旧神 ││││││││││
エピソード9 プラネテューヌのはたらくロボット ││││
││││││││││││││││││││││││││││
エピソード12 よいこのトラウマ製造機 ││││││││
エピソード13 人事部大惨事。救いはないんですか大合唱コー
1107
エ ピ ソ ー ド 1 1 犬 よ り 猫 派。猫 よ り 犬 派。わ ん に ゃ ん 大 騒 動 1095
エピソード10 女は愛嬌、男は度胸。ところがどっこい時による
108910821075
エピソード6 食う寝る遊ぶの三大原則に則った人生こそ至宝 10641059
1053
1069
1101
│
ル │││││││││││││││││││││││││││
1114
エピソード14 計画は隠密かつ迅速に進行中⋮⋮
││││││
!!
ない
│││││││││││││││││││││││││
116611601153
くお仕事 ││││││││││││││││││││││││
エピソード23 敗北も逃走も認められない諦めない │││
エピソード24 自虐ネタで自殺は出来ない │││││││
│││││││││││││││││││││││││││
エピソード26 お風呂でごしごしねぷねぷ │││││││
エピソード27 何事も程々がいちばん │││││││││
エピソード28 夜はベッドで大運動会。準備体操は基本︵R︶ 120511981192
エピソード25 お風呂に入っている以上濡れるのは致し方なし
118611791172
エピソード22 グッダグダハンティングと明るく楽しく元気よ
エピソード21 旧神と体育会系ロボット ││││││││
エピソード20 プラネテューヌに現れる黒衣の英雄 │││
?
エピソード19 飼い犬を噛むことで力を誇示するのは虐待では
エピソード18 がばいねぇちゃん │││││││││││
エピソード17 かっ飛べブースターーーー
エピソード16 女神の肌は安くない ││││││││││
エピソード15 パケット料金は違法定額制 │││││││
?
第二章 プラネテューヌ編:ねっぷねぷ大騒動
│││
11461140113411271121
!
エピソード30 ウェイクアップ、ヒーロー │││││││
エピソード31 静かな田舎の森の奥から見知らぬアイツの声が
1223
エピソード29 清く正しく美しく、熱く激しく取り乱す︵R︶ 1210
1216
│
する ││││││││││││││││││││││││││
エピソード32 邪神、断つべし││ ││││││││││
エ ピ ソ ー ド 3 4 隣 町 の 美 味 し い カ フ ェ テ リ ア﹃マ グ メ ル﹄ ただの変態集団 │││││││││││││││││││││
エピソード33 B2AM特務班﹃トライアド﹄は仮の姿、本性は
12361229
1243
エピソード35 お茶と神と王と邪神 ││││││││││
エピソード36 ブリテンの王様候補が仲間になりました │
ル
エピソード37 静かに騒がしくそして賑やかに │││││
エピソード38 HADAKAの王様 ││││││││││
エピソード39 シリアルよりも食生活は健全に │││││
エピソード40 真なる漢の同志とは性癖まで明かす仲 ││
エピソード41 爆裂最強コンビ誕生カウントダウン │││
エピソード42 女神会議で発覚する事実を再認識 ││││
エピソード43 終わらぬ路の果てなき路の最果ての地 ││
エピソード44 ハチャメチャに押し寄せてくる │││││
エピソード45 不可視の霧 ││││││││││││││
エピソード46 鏡写しの湖面 │││││││││││││
てしまった │││││││││││││││││││││││
エピソード48 行くは良い良い。帰りが楽しみ │││││
エピソード49 勝利の祝杯と勝利の美酒は別会計 ││││
エピソード50 王の禅問答 ││││││││││││││
1348134313371330
エピソード47 直視現実からは逃亡推奨。しかしまわりこまれ
1324131813121305129912931286128012731268
第三章 プラネテューヌ編:これぞ男の欲望願望浪漫溢れるケモナー
12621256
1250
│
エピソード51 宴も酣
まだ夜は続く ││││││││
│
?
140814011395138813811375137013611356
││││││││││││││││││││││││││││
エピソード61 類は戦友︵とも︶を呼び、変態は集まる │
エ ピ ソ ー ド 6 2 女 神 様 の ご 褒 美 は お 値 段 以 上 プ ラ イ ス レ ス 14201414
エピソード60 乙女には、触れてはならぬ禁忌︵タブー︶がある
エピソード59 それとこれとじゃ別問題 ││││││││
エピソード58 突っ走れ、アウトロー。守れインサイド │
エピソード57 ゲイムギョウ界を駆ける一陣の風が止む │
エピソード56 今日もプラネテューヌは平和です⋮⋮
エピソード55 快楽天を衝く︵R︶ ││││││││││
エピソード54 法は人の為にある︵R︶ ││││││││
エピソード53 酒は飲んでも吐き出すな ││││││││
エピソード52 ワンショット・ワンキル ││││││││
?
││││││││││││││││││││││││││││
エピソード64 動物の可愛さ+美少女=無限の可能性 ││
エピソード66 女もヤラれるだけじゃ始まらない︵R︶ │
││││││││││││││││││││││││││││
エピソード68 猟奇的なケモで魅了して ││││││││
結構、ますます好きに
?
なりますよ││ケモミミ │││││││││││││││││
1471
エピソード69 かわいいものがお好き
14651459
エピソード67 愛しても愛しても貪り尽くして足りない愛︵R︶
1453
エピソード65 男はオオカミなのよ。お気をつけ下さい︵R︶ 14411435
エピソード63 漢は浪漫と願望に忠実││爆誕、ケモナール一号
1428
1447
│
エピソード70 俺より強い奴にI Need You ││
エピソード71 試されている大地、ルウィー ││││││
エピソード72 煮てよし焼いてよし食ってよし │││││
│││
!
エ ピ ソ ー ド 7 7 よ っ て ら っ し ゃ い、帰 っ て ら っ し ゃ い︵R︶ ︵R︶ ││││││││││││││││││││││││││
エ ピ ソ ー ド 7 6 猫 が 何 故 可 愛 い か っ て。元 々 か わ い い か ら よ
エピソード75 女神様のファッションチェッーク
エピソード74 白い聖騎士。黒衣の旧神 ││││││││
││││││││││││││││││││││││││││
エピソード73 どうだ、明るかろう。夜道を照らす予算が火の車
148914821477
151115031496
1517
第四章 ケモナール編:漢達の夢泡沫、幻の如く
エピソード78 間違った真面目の方向性、けじめ案件 ││
│││││││││││││││││││││││││││
エピソード80 勝手知ったる人の古巣は毎度の案件 │││
エピソード82 おかえりなさいませ、どちら様
││││
15611555
エピソード85 国家予算を殴り飛ばす男、大魔導師 │││
エピソード86 悪夢の再来。最凶師弟揃い踏み │││││
エ ピ ソ ー ド 8 7 こ こ は 教 会、廃 病 棟。中 身 は 魔 城 魔 窟 の 地 獄 15791573
エ ピ ソ ー ド 8 4 通 常 運 転、平 常 運 転。鈍 行 で お 願 い し ま す エピソード83 バカは死んでも治らない ││││││││
?
エ ピ ソ ー ド 8 1 本 日 も 晴 天 な り、時 々 エ リ ア ス ト レ ス 急 上 昇 15431536
エピソード79 大きいとか小さいとかそういうのは、いいんです
1530
1523
!
1549
1567
│
エピソード89 Q,此処は地獄ですか
エピソード90 物事には限度がある ││││││││││
かい ││││││││││││││││││││││││││
?
│││
イド ││││││││││││││││││││││││││
エピソード92 路地裏から始まる桃色雰囲気⋮⋮
?
エピソード94 限界を迎えた男の代打法 ││││││││
エピソード95 男には成さねばならぬ夢がある │││││
ん │││││││││││││││││││││││││││
エピソード97 変態・変人・狂人、ご注意あれ │││││
エピソード98 刃の閃きはヤバイ頭の閃き │││││││
エピソード99 マジな奴ほどキレると怖い精神鑑定 │││
エピソード100 女神信仰狂信者ハァドライン │││││
エピソード101 暇を持て余した神々 │││││││││
エピソード102 神喰い虫食い、蓼食う虫も好き好き ││
来世でどうぞ │││
エピソード103 腐れ縁は爛れ落ちても切れない ││││
エピソード104 頭のお薬ですか
?
級品 ││││││││││││││││││││││││││
1695
エピソード105 暇を持て余している国王様からの粗品は超高
169016841677167216651659165316471641
エピソード96 違うんですおさわりまん、まだなにもしていませ
16361630
エピソード93 ドンと来ないでください超常現象その他の類 16191612
エピソード91 メイドはメイドでもハンドメイドのオーダーメ
16061599
A,地獄のほうが生暖
エピソード88 教会は隔離病棟ではございません、あしからず 1585
1591
1625
│
エピソード106 お久しぶり御二方 ││││││││││
エピソード122 シャワーの熱湯注意報︵R︶ │││││
由 │││││││││││││││││││││││││││
エピソード121 雨が降る日に傘も差さずに全力疾走は人の自
る確率は異常 │││││││││││││││││││││
エピソード120 気の合う友人同士での会話の切り出しがかぶ
順 │││││││││││││││││││││││││││
エピソード119 料理もドッキリも仕込みと下準備は大事な手
れる ││││││││││││││││││││││││││
エピソード118 本当に大事なことは思い出せないので二回忘
エピソード117 全ては夢の始まり ││││││││││
第五章 ラステイション編:人と神と女神と、暇な超人化学反応
エピソード116 夢、幻の如く。現し世は五里霧中 │││
エピソード115 笑顔の絶えない職場DEATH ││││
エピソード114 刃を鳴らし命を散らす ││││││││
││││││││││││││││││││││││││││
エピソード113 割り切ったバカは手がつけられないほど強い
エピソード112 絶望の虚空に空いた胸の穴 ││││││
物 │││││││││││││││││││││││││││
エピソード111 目分量を見誤った料理は食うに堪えない廃棄
エピソード110 旧神様現在激おこムカ着火ファイヤー │
エピソード109 黒い猟犬 ││││││││││││││
エピソード108 一次選考。二次災害。大惨事 │││││
い │││││││││││││││││││││││││││
エピソード107 情緒不安定な男に起爆剤を与えないでくださ
1701
1727172117151707
17401733
1769176117551748
1778
1786
1791
1797
18091802
エピソード123 優しさで人は殺せる │││││││││
エピソード124 雨降る夜にアンニュイライフ │││││
エピソード125 心の傷は雨でも流せない︵R︶ ││││
エピソード126 二の轍踏まず、土踏まず︵R︶ ││││
1834182818211815
勘弁 ││││││││││││││││││││││││││
エピソード131 黒の守護女神は猫っぽい︵R︶ ││││
エピソード132 にゃんだふる︵R︶ │││││││││
エピソード133 目が覚めるほどの衝撃 ││││││││
はそれぞれ │││││││││││││││││││││││
││
を唸らす ││││││││││││││││││││││││
エピソード136 行って帰ってくる簡単なお仕事⋮
エピソード137 油断大敵 ││││││││││││││
?
エピソード141 薄氷の上の白い鳥は落下ン秒前 ││││
エピソード140 日常。平和││不穏 │││││││││
エピソード139 明日の予定はウキウキショッピング ││
でご自由に │││││││││││││││││││││││
?
エ ピ ソ ー ド 1 4 2 優 雅 に 泳 ぐ 鳥 で も 水 面 下 で は え ら く 必 死 1930192319181912
エピソード138 甘さはおいくつ 上白糖からサッカリンま
190518991891
エピソード135 筆を執ること電撃の如く。したためること通
1885
エピソード134 真っ当かどうかはともかくとして収入と仕事
1879187318661858
エピソード130 主よ、お許し下さい。私は愚かなのです。マジ
18531845
エ ピ ソ ー ド 1 2 7 別 次 元 で も 超 人 は 超 人 で あ り 変 態 で あ る ││││││││
?
エピソード129 しばしお暇をいただきます ││││││
エピソード128 暇の潰し方は有意義
1840
│
エピソード143 名前があろうがなかろうが怪物は怪物 │
エピソード144 酸いも甘いも噛み締めて │││││││
エピソード145 同窓会は幹事が大変苦労する │││││
エピソード146 断崖絶壁を繋ぐのは溝より架け橋 │││
エピソード147 命綱とは人生の必需品 ││││││││
││││││││││││││││││││││││││││
エピソード149 手を出す時はいつだって空いた手で ││
エピソード150 そして帰る日常へ ││││││││││
ンス ││││││││││││││││││││││││││
1997
エピソード151 羽根を伸ばしてハメを外してエンジョイバカ
ダイス波乱万丈
第六章:R18アイランド編 女神達のバカンス旅行はドキドキパラ
199119851979
エピソード148 いつだって不器用。人生器用貧乏に暇はない
19731967196119511945
1937
│
壊次元編
tutorial 取扱説明書
キャラクター紹介
主人公 エヌラス︵♂︶/戦禍の破壊神
武器 剣︵無銘の倭刀︶&銃︵レイジング・ブル マキシカスタム︶
と体術に防御魔法。万能型だが、特化型にもなる。
性格 クールで一匹狼を気取ってはいるが、その実はツンデレであ
る。ノリも良いが口が悪い。
外観 全身黒ずくめ。黒髪。黒い半袖に黒いコートを羽織り、黒い
指ぬきグローブに黒のダメージジーンズ。黒の鉄板入りブーツ。左
胸に獅子の刺青がある。
備考 本来の心臓に付け加えて〝銀鍵守護器官〟を持つ為、生存率
は非常に高い。過去に妹と恋人を失っている為か、異性に対して気を
許すことはなかった。
自らの治める国は地下帝国の犯罪国家﹃九龍アマルガム﹄
↓神化後 ブラッドソウル
武器 二闘流&体術
性格 残酷で攻撃的
外観 赤い十字ラインのフェイスペイントが入る。赤と黒のメッ
シュ髪。左右非対称の服装に変わる。右袖が短く、左袖が長い。右手
袋が赤黒、左手袋は白黒。装飾のベルトと黒いジーンズの上に脚甲を
装備している。
ドラグレイス︵♂︶/嘆き喰らいの竜
武器 両刃の半質量魔法剣
外観 竜を模したフルフェイスの兜に全身鎧
備考 自ら治める国を持たないが、傭兵組織﹃デイ・エンド・エレ
メンツ﹄を率いている。主に商業国家ユノスダス近辺の警護を受け
持っているが、金銭に応じて各国の仕事も請け負う。
1
バルド・ギア/偽りの空を翔ぶ戦機
パッ ケー ジ
武 装 仮 想 現 実 空 間 に 保 管 さ れ て い る 拡張装備。そ の 為 特 定 の 武
器はない。
外観 装甲と冷却性能に特化させた高機動型の機人。エヌラスと
幾度も衝突してきた一人︵プライベート含めて︶。
性格 冷静沈着、かつ効率重視。だが空回り︵失敗︶することもあ
る。
備考 電脳王国﹃インタースカイ﹄を治めており、高度な次元転送
技術を有している。ステラという少女を気にかけている。
↓擬人化 琴霧ソラ/♂
外観 白いシャツを羽織ったメガネを掛けた好青年。
備考 非戦闘時や、人間の暮らす国へ赴く際の姿。電脳次元に保存
している肉体データをインプットしているため、この状態ならば生殖
行為も可能。だが童貞。
アルシュベイト/護国の鬼神にして軍神
外観 重装甲型でありながら一定の機動力を有しており、見た目に
反して地上での機動力が高い
性格 熱血漢で頑固者。武人たる威風堂々。
武装 背部ラックに背負った巨大な剣と銃火器
備考 軍事国家アゴウを治める国王にしてアダルトゲイムギョウ
界最強と称される軍神。過去に暴走して〝無名の鬼神〟として世界
を脅かしていたがエヌラス達との激闘を経て今に至る。
ユウコ︵♀︶/夜でも明るい笑顔
外観 焦げ茶色の髪に赤い瞳。柑橘系の髪留めを集めるのが趣味。
参考画像 性格 元気ハツラツで世話好き
武装 調理器具︵主に攻撃用のフライパン︶
2
備考 完全非戦闘区域、商業国家ユノスダスを治める国王。ノリ良
し性格良しスタイル良しの三拍子揃っており、国民から愛されてい
る。商売根性がたくましく、あらゆる国へ援助という名の依存体勢を
作り上げた根っからの商売人。他の三人は頭が上がらないほど。さ
しずめ、アダルトゲイムギョウ界の台所を預かるお母さん的存在。昼
︶/黒より暗い狂気
間でも行動しているが本人の生活リズムは夜型の吸血鬼である。
クロックサイコ︵
外観 顔の半分がドクロとピエロの仮面。エヌラスと同じく黒ず
くめだが、こちらはマントで自らの身体を覆っている。長身痩躯では
あるがその中身は魔術的加護によって超常に等しい。腰に壊れた懐
中時計を下げていることから〝狂い時計〟とも。
性格 情緒不安定な狂人
武 装 多 機 能 型 の 銃 と 一 体 化 し た 刀。体 術。召 喚 術 と し て 蟲 を 操
る
備考 神格者の一人ではあるが、率いている組織を持たず、カルト
教団や秘密結社からの信仰によって成り立っている狂気の魔神。言
動も行動も支離滅裂な無法者だが〝狂言回し〟と呼ばれるほど的確
な助言を投げることもある。
3
?
第一章 ゲイムスタート
episode0 導入
戦いが起きていた。世界を戦禍に巻き込みながら、その中を走る一
人の男がいた。右手に剣を携え、左手に銃を構えて、ひた走る。その
先にあるのは黄金に輝く綺羅びやかな塔。憎らしく見上げて〝彼〟
﹂
﹂
は全身を苛む苦痛を歯噛みして飲み込む。
﹁止まれ
﹁この先は││﹂
﹁退・き・や・が・れェェェェッ
塔を守護する者達を蹴散らし、吹き飛ばし、彼は扉を破壊して突入
する。神聖な塔に荒々しく踏み入る姿はまるで悪党そのものだ。だ
が、それは間違いではない。今の彼はまさしく悪の道を往く鬼神だっ
た。
世界をより良くするための計画が塔の最上階で行われている。そ
れを阻止するために彼はその力を振り絞って塔の階段を駆け上がっ
ていた。
立ち塞がる警備兵達をなぎ払い、走る。走る。走る││全てが手遅
れになる前に。
塔の最上階に辿り着いた時には既に満身創痍だった。だが、その眼
に宿した闘志と決意に微塵も揺らぎはない。
巨大な装置を前にして集まるのは││この世界を守護する使命を
帯びた同志達。共に笑い、共に語り、時には剣を交え、戯れ程度に争
いながら競ってきた。
だがしかし、今だけは違う。明確な敵意と殺意を持って向かい合
﹂
貴様、何のつもりだ
﹂
う。かつて友と呼んだ者達と望まぬ刃を交えることとなろうとも。
﹁エヌラス
﹁││そいつは⋮⋮
!
る邂逅。それは無限の可能性を秘めている。だからこそ、この世界の
4
!!
!
あらゆる次元への通り道を拓くシステム。異次元への開拓、未知な
!
!
あ ら ゆ る 技 術 を 結 集 し て 作 り 上 げ た。よ り 良 い 世 界 に 導 く た め に。
次元を超えたシェアエネルギーを得るために。
全身を一分の隙もなく鎧で覆った騎士が背中の大剣を抜き放って
﹂
血 迷 っ た
彼││エヌラスと火花を散らす。身の丈を越える鉄塊を片腕一つで
押し留める。
﹂
全てが手遅れになる前に
﹁こ の 計 画 に 最 も 力 を 注 い で き た の は お 前 で は な い か
か、エヌラス
﹂
﹁そこを通しやがれ、ドラグレイス
﹁それは出来ん相談だ
いく。
﹁っ││、アルシュベイトォォォッ
﹂
空中で全て霧散したからだ。破片だけがパラパラと虚しく散って
││それが鎧に風穴を開けることはなかった。
ありえない不規則な軌道を描きながらドラグレイスに向かっていく
が左手の銃を撃つ。銀色のリボルバーから放たれる弾丸は、常識では
る。吹き飛ばされるも、受け身を取って素早く体勢を整えたエヌラス
二人は激しく打ち合う。だが、やがてドラグレイスに軍配が上が
!
!
る。
︽どういうつもりだ、エヌラス
︾
︾
!
﹂
邪魔立てするな
ブースターの独特なフォルムから、それが戦闘用であることが伺え
全 て 撃 ち 落 と し て い た。大 き く 張 り 出 し た 肩 と 後 ろ 腰 に 背 負 っ た
が、機械らしく正確なまでの射撃技術をもってしてエヌラスの弾丸を
しっかりと固定した軍用ロボ││アルシュベイトの正確無比な銃弾
騎士の背後、銃口から漂う硝煙。銃身を切り詰めたカービンを肩で
!
﹁テメェまで俺の邪魔をするんじゃ、ねぇぇぇぇ
︽お前⋮⋮
!!
!
﹂
︾
浮かんでいた。それを見たその場にいた全員が息を呑んだ。
︽本気か││やるぞ、ドラグレイス
﹁わかっている。お前たちも手を貸せ
!
装置にシェアエナジーを送り込んでいた残りの者達が武器を展開
!
5
!
!
!
高く突き上げた掌が光に包まれ、その手には光り輝くクリスタルが
!
する。
﹂
﹂
そいつは破
︽何 の つ も り か 知 ら な い が、世 界 を 繋 げ る こ の 装 置 は 命 に 代 え て も
守ってみせる︾
﹁エヌラス⋮⋮どうして
各々が武器を構えて、エヌラスと対峙する。
今ならまだ間に合うんだよ
﹁理由は言えねぇ。説明する時間も、今はねぇんだよ
壊させてもらう
神銃形態
!
は転送された赤いマグナムが握られていた。
﹂
︾
﹁コイツで、まとめて消し飛べェェッ
﹁しまッ││
﹂
︽ドラグレイス、退避だ
﹁離脱するぞ
爆炎。閃光││そして、静寂。
﹂
ネルギーが漏れ出し、それに気を取られている間にエヌラスの右手に
巨大な次元連結装置のエネルギーパイプに風穴を空ける。シェアエ
銀のリボルバーから放たれた六発の弾丸が不規則な軌道を描いて、
エヌラスは、最後の最後で一瞬の隙を突いた。
していた。だが、彼らが命懸けで守る装置の破壊こそが目的であった
に凌駕している、しかし最上階に至るまでの道中で体力を大幅に消耗
一人。また一人と変神していく。エヌラスの力は他の者達を遥か
に被害を増やしていった。
る者達が全力で衝突した余波が外にまで溢れる。やがてそれは徐々
塔の最上階で巻き起こるのは、また戦禍だった。国を治め、守護す
!
れて駆け寄り、身を案じる。
姿を見るなり彼らの臣下は自らの命が危機に晒されていることを忘
ひとつは、燻った鋼鉄の人型兵器。共に、損傷を負っていた。その
ひとつは、竜を模した西洋鎧を着込んだ騎士。
ある。
うに頭上を見上げながら逃げ惑っていた彼らの前に着地する人影が
のは各国の親衛隊達だった。落下してくる塔の瓦礫に潰されないよ
残されたのは破壊の爪痕だけ。崩れ始めた黄金の塔から逃げ出す
!!
6
!
!
?
!
!?
!
﹁ドラグレイス様
﹁ああ⋮⋮﹂
︽仔細無い
︾
ご無事ですか
︾
総員、離脱だ
︽アルシュベイト隊長
!
﹂
!?
機が訪れることだけは必至だ。
!
した。もう全てが手遅れだ。
﹁こん、チクショウがぁぁぁぁぁぁぁぁっ
鬼神の咆哮が塔を崩壊させていく。
夢を抱いていた。
希望を抱いていた。
輝く未来を描いていた。
﹁⋮⋮││俺は、絶対に諦めねぇ⋮⋮っ
﹂
﹂
ハッピーエンド
笑顔で終わる〝 幸 せ 〟
最後の一人を決める為のサバイバルバトル。
その日、全面戦争の火蓋が切って落とされた。
だけ。
世界の崩壊が始まる。それを止めることができるのは、最後の一人
以外は、絶対認めねぇ
!
どんな荒唐無稽でもいい。世界を滅ぼしてでも構わない。
虚無感が重くのしかかる。それを押しのけて彼は立ち上がった。
も胸の中に〝 諦 め 〟だけは存在しなかった。
バッドエンド
全てが絶望で塗り潰されて襲い掛かってくる。だがしかし、それで
!!!!
拳 を 叩 き つ け る。何 度 も。何 度 も。取 り 返 し の 付 か な い 過 ち を 犯
﹁⋮⋮チクショウ⋮⋮チクショウ⋮⋮
﹂
響を及ぼすのか、エヌラスは知らない。だが、この世界に未曾有の危
既に装置は起動している。それも不完全な形で。どれほどの悪影
⋮⋮涙が頬を濡らした。
が 手 に 残 る。ど う し て も っ と 早 く 気 づ く こ と が 出 来 な か っ た の か
遅 か っ た。間 に 合 わ な か っ た。手 遅 れ だ っ た。後 悔 と 憎 し み だ け
連結装置を前にして、歯噛みする。
│崩壊していく中で頑強なシールドによって原形を留めている次元
崩壊していく塔の最上階には、戦禍の破壊神であるエヌラスだけ│
!
!
!
7
!
episode1 初戦
││守護女神が治める国の一つ、プラネテューヌでは平穏な日々を
あ∼、やられちゃったぁ⋮⋮﹂
過ごしていた││かに、思われていた。
﹁ねぷっ
プラネテューヌの教会。その上層階で過ごすのは守護女神の一人
である﹃パープルハート﹄こと、ネプテューヌ。今日も仕事を放り投
げてゲーム三昧、のはずだったのだが地震が起きて操作が狂った。そ
のせいでノーセーブで進めていたアクションゲームのボス戦で負け
てしまう。
﹁もう、やんなっちゃうなー。ここ最近毎日のように揺れてばっかで
⋮⋮﹂
またお仕事サボってゲームばっか
ブツブツ言いながらネプテューヌが改めてゲームを再開しようと
ネプテューヌさん
した瞬間。
﹂
﹁こらー
り
﹂
!
﹁あ、あはは⋮⋮﹂
﹁ネプギアさんも
ネプテューヌさんを甘やかし過ぎです。たまに
はネプギアだけなんだから﹂
﹁ね∼ネプギア∼、いーすんみたいなこと言わないでよー。私の味方
つく。
れてソファーから身を起こしたネプテューヌは妹のネプギアに抱き
イストワールがゲームの電源を落とす。それにガックリとうなだ
ネテューヌは最下位をキープしている。
ず、国民からのシェアを集めることにもさほど興味が無いようでプラ
ヌの不真面目さに手を焼いていた。遊んでばかりで職務に手を付け
ワール。歴代女神の補佐役を務めてきた彼女であったが、ネプテュー
過 去 の プ ラ ネ テ ュ ー ヌ の 女 神 が 作 り 上 げ た 人 工 生 命 体 の イ ス ト
﹁ネプギアまで∼⋮⋮﹂
﹁そうだよ、お姉ちゃん。たまには真面目にお仕事しないと﹂
!?
!
8
!?
!
﹁げぇっ、いーすん
!
はバシッと言い返して下さい。本来この国を治めている女神はネプ
﹂
﹂
テューヌさんなんですから、貴方が仕事をしないでどうするんですか
﹂
﹁えー、だってぇ﹂
﹁だって、なんですか
ネプテューヌさんがやってください
﹁私が仕事するよりもネプギアの方が早いんだもん﹂
﹁そ・れ・で・も
﹁ちぇー⋮⋮﹂
︵あ、これ長くなりそうだなぁ⋮⋮︶
﹁いいですか、そもそも女神というのはですね││﹂
!
は気づいていないようだ。
何が
〟
〝でも、お姉ちゃん。最近おかしくない
〝おかしい
?
ないね
〟
〝おー、流石はネプギア。私の自慢の妹だよ
こうしちゃいられ
てて、ノワールさんが対策を練ってるってユニちゃんから聞いたの〟
起きてるみたい。ラステイションでも似たような災害が頻繁に起き
〝地震だよ。それだけじゃなくて山火事とか、地割れとか世界中で
?
〟
が耳打ちする。イストワールは説教することに夢中で二人の様子に
嫌そうな顔を隠そうともしないネプテューヌの袖を引き、ネプギア
!
?
!
!
さ
﹂
最近起きている災害のことについてなんだけど
!
くるね
お姉ちゃん
行くよ、ネプギア
﹁えっ、えっ
﹂
﹂
﹂
! !? !
あ、いーすんさん。私も行ってきますね
﹁早くしないと置いてくよ∼
﹁待ってよー
!
?
!
﹁あ、はい⋮⋮﹂
﹂
﹁ノワールが対策を練ってて、その会議に私も誘われてるから行って
﹁なんですか
﹂
﹁ねぇ、いーすん
していてくれたようだ。それには頭が上がらない。
自分がこうしてサボ⋮⋮息抜きしている間に他の国の様子を調査
!
!
9
?
?
!
〝逃げられた〟││そう思うも、どこか釈然としないままイスト
ワールは散らかった部屋を見て深い溜息をこぼす。だがそれでも、一
抹の不安が胸中をよぎる。
今までも様々な危機に晒されてきた。このゲイムギョウ界は。プ
ラネテューヌは。その度にネプテューヌが戦って、乗り越えてきた。
時には他国の女神達と協力して問題を解決してきた。それでも、この
頻繁な自然災害を前に人間が対策を練ってどうにかなるものなのだ
ろうか
守護女神﹃ブラックハート﹄こと、ノワールの治める国。ラステイ
私だって忙しいの
ション。この国でもまた、プラネテューヌ同様に頻繁に起きる自然災
別に呼んでもいないのに来たわけ
害に頭を悩ませていた。
﹁それで
よ、せっかく来てくれたのに悪いわね﹂
?
かなっている。
﹂
﹁いやーでもさぁ、私が来ないとノワールってぼっちじゃん
ぼっちじゃないし
らこうして遊びに来てあげてるんじゃない﹂
﹁だからぼっちって言うなぁ
!
だか
れでもネプテューヌ自身が憎めないキャラをしているからか、どうに
調子だからシェア最下位をキープしているのだ。しかし不思議とそ
毎度やってくると逆にプラネテューヌが心配になってくる。こんな
テューヌに呆れていた。なにも今回が初めてではないが、こうも毎度
執務室で仕事をしていたノワールはアポ無しで突撃してきたネプ
?
﹂
?
たいなのよ﹂
分かったことなんだけど、これってシェアが低い順に被害が大きいみ
よ。リーンボックスとルウィーはもっとひどいらしいわ。調査して
﹁そ う ね。最 近 起 き て い る 災 害 の 規 模 か ら す れ ば う ち は ま だ 良 い 方
言ってやりたい。
そ れ と ネ プ ギ ア は ま る っ き り 正 反 対 に 真 面 目 だ。姉 に 見 習 え と
の被害はどれくらいなんですか
﹁あ、あの。それでノワールさん。ラステイションで起きている災害
!
10
?
?
﹁そうなんですか
﹂
﹁だからかもしれないけど、こっちはまだそれほど被害が出てないの。
でも他の国がこれじゃ、私だけのんびりしてもいられないわ。国民の
不安もあるからね﹂
﹁だからプラネテューヌであんなに頻繁に起きてるんだ⋮⋮﹂
﹁そういうこと。それと、これはブランから聞いた話なんだけど、どう
やら地割れとかも起きてて一部の地形が隆起してるらしいわ﹂
﹁それって結構危険なんじゃ﹂
﹁ええ。それだけじゃなくて、その亀裂の周囲にはモンスター達が群
がるみたいなの。だからベールもブランもその駆除に乗り出してて
ご丁寧に全部説明してくれて本当に優し
大変みたいよ。分かった、ネプテューヌ﹂
﹁ありがとう、ノワール
﹁アナタね⋮⋮そのメタ発言自重しないといつか刺されるわよ そ
いんだからぁ。私だけじゃなくて読者にも﹂
!
てもらえる
﹂
﹁ユニ、私ちょっと出かけてくるけど、その間に資料とかまとめておい
護女神である自分のアピール。まさに模範解答と言うべき振る舞い。
に国を良い方向に導いているからだ。環境改善に治安維持、加えて守
ヌと違いシェアのトップを維持しているのは、ノワール自身が精力的
ノワールは実際、よくやっている。ラステイションがプラネテュー
話が本当なら周囲の住人も避難させておかないと﹂
れで、私もこれからその実態調査に向かおうとしてるってわけ。その
?
妹であるユニもノワールに瓜二つ。髪型から性格までよく似てい
る。仕事を手伝っているところはネプギアそっくりだ。対照的なの
は、慕う姉の性格だろうか⋮⋮。
﹁それじゃ行ってくるわ﹂
﹁気をつけてね、お姉ちゃん﹂
﹁まだ人の少ない街から遠く外れた場所みたいだからよかったけど、
これが街中で起きてたらと思うとゾッとするわね﹂
11
!?
﹁あ、うん。頑張るね﹂
?
ラステイションの外れに集まったノワール達の前には、地面が隆起
して出来た断層があった。そして、奇妙な光を発している。それにモ
ンスター達を引き寄せる効果でもあるのか無数に集まっていた。
﹂
﹁ネプテューヌ。変身して一気に片付けるわよ、亀裂の調査はその後。
いいわね﹂
行くよ、ノワール
﹁オッケー
!
﹂
!
﹂
﹁だって、普通モンスター達は災害とか起きたら真っ先に逃げるじゃ
﹁なにが
﹁やっぱり、何か妙ね⋮⋮﹂
感じている。
ワールでも予想外の結果に、やはりこの自然災害には何か裏があると
た。ラステイションの地形やモンスターの生息範囲も把握してたノ
達の生息する場所であったが、こうまで集まるとは思いもしなかっ
変身を解除すると、改めて周囲の調査に乗り出す。元々モンスター
﹁そう。ありがと、ネプギア﹂
﹁お姉ちゃん、こっちも終わったよ﹂
るでしょ﹂
﹁大は小を兼ねるって言うじゃない、ネプテューヌ。少しは足しにな
もならないわ﹂
﹁ま、初戦は雑魚って定番なのよね。数だけ揃ってるんじゃ経験値に
最後の一匹を仕留めて、パープルハートが着地する。
と、群がるモンスターに向かう。
そして、その妹であるネプギアもパープルシスターへと変身する
﹁よーし、私も
女神ブラックハート││ノワールの変身した姿。
女神パープルハート││ネプテューヌの変身した姿。
る変身││女神化。
ネプテューヌとノワールの手に現れるシェアクリスタル、それによ
﹄
﹃アクセス
!
ない﹂
12
!
?
﹁そうですよね。騒ぎ始めたら何かの前兆とも言いますし﹂
﹂
﹁うーん、そういうものかなぁ。ほら、もしかしたらモンスター達も物
珍しさに見に来たとかじゃないの
だって、見てよコレ。どっからど
う見ても怪しい光だよ チェレンコフ光とか目じゃないくらいに
﹁いやいやいや、あり得るってー
﹁お姉ちゃん、さすがにそれはないよ⋮⋮﹂
?
!
﹂
落ちたらどうするつ
危ない光出てるのに、こんなの見たらモンスターだって好奇心に駆ら
れるよー﹂
﹁だからってアナタも興味津々で覗かないの
もりよ﹂
﹁だーいじょうぶだってー。押すなよ、絶対押すなよ
﹁いや、フリじゃないから﹂
!
のは妙な話。単純に見ても規模がでかすぎる。
﹂
﹁もしかしたら、地底人がゲイムギョウ界侵略を企ててたりして
それで、地上と地底で戦争とか
のかもしれない。だが、このゲイムギョウ界全体でそれが起きている
出来た割れ目のようだ。もしかすると古い地層が盛り上がっている
三人の前に走っている亀裂。それは隆起した地面との境に新しく
﹁そうよね。そうでもなかったらここまで光るはずがないもの﹂
ど⋮⋮﹂
﹁でも何なんでしょうね、この亀裂。この奥に何かあるみたいですけ
!
!
﹁さぁ
でもこうまで大きい亀裂だもの。相当深い場所まで続いて
﹁あの、これってどれくらい深いんでしょうか﹂
のに突っ込んで玉砕するカミカゼ精神の人﹂
﹁あー⋮⋮でもさぁ。たまにいるんだよねぇ。自滅するの見え見えな
よ。干からびるだけじゃない﹂
﹁そ ん な ア ン ダ ー グ ラ ウ ン ド の 住 人 が 陽 の 光 浴 び て ど う す る っ て の
!
落ちたら危険だし⋮⋮って、ネプテューヌ。私の話聞いてたの
テューヌを引っ張ろうとノワールが首根っこを掴む。
﹂
危 な い、と 言 っ て い る の に 興 味 津 々 で 亀 裂 の 奥 を 覗 き こ む ネ プ
!?
13
!
るんじゃないかしら。とにかく、危険だからこの周辺は立入禁止ね。
?
﹂
﹂
早く離れなさいってば
﹁あわわわわ、危ないってノワール
﹁危ないのはアナタの方でしょう
﹁大丈夫だよ、落ちても女神化して飛べばいいんだし
入りたいなんて思わないでしょ
約束。
﹂
﹂
﹂
﹂
るのを見てネプギアが手を伸ばす↓勢い余ってまとめて落ちる↓お
わずつんのめる↓ネプテューヌに逆に引っ張られる↓落ちそうにな
手を掛けていた亀裂の縁が崩れる↓引っ張っていたノワールが思
﹁あっ﹂
﹁そうかもしれないけど、本当に何が起こるか分からな││﹂
ネプギア﹂
﹁徹夜でゲーム三昧してるのに今更健康とか気にしてらんないって、
光を見て、ネプテューヌも渋々覗きこむのを止めた。
蛍光色の緑色。明らかに長時間浴びていたら健康に支障をきたす
身体に悪そうな光だし⋮⋮﹂
﹁お姉ちゃん、本当に危ないから離れた方がいいよ。何か、見るからに
﹁穴があったら入りたくなるじゃん
﹂
﹁そうかもしれないけど、どこまで続いてるか分からない穴になんて
!
!
!
﹁﹃あっ﹄じゃないわよ、バカァァァァァッ
﹁おーちーるーーーー
!?
はずだった。
14
!
!?
!?
三人が亀裂に消えて、森の中が静かになる││
!?!?
﹂
e p i s o d e 2 危 険 か ど う か と 聞 か れ た ら そ
りゃもうヤバい
﹁イッタタタ⋮⋮ふたりとも、大丈夫
す﹂
﹁ねぷ∼⋮⋮いやー、落ちたね
るオチなんだけど⋮⋮どこなんだろうね、ここ
﹂
﹁ゲイムギョウ界であることを祈るわ﹂
﹁でも、なんだか騒がしいですね﹂
﹁すんすん⋮⋮この風、少し鉄っぽい
り込まれているのだと薄々勘づき始めていた。
﹂
わる音。そして、緊張感の漂う剣呑な空気から自分達が今、戦場へ放
聞きなれない野太い声が一斉に悲鳴へと変わった。銃声に剣の交
?
だならぬ気配を感じて三人は周囲を警戒しながら立ち上がる。
﹂
﹁なんかー、湿っぽくないね。どちらかって言うと、乾いてる感じ
お祭りかな
た臭い。まるで溶鉱炉にいるような熱気と大地を震わせる轟音にた
いに眉を寄せる。鉄サビのような、焼けた空気のような、混ざり合っ
鼻を鳴らしたネプテューヌに言われてノワールも嗅ぎ慣れない臭
?
﹁うーん、こういうのってお約束だと異世界とかに飛ばされてたりす
いた。
しい。空を見上げてもそこには見慣れた変わらない青空が広がって
にも怪我はなかったようで胸を撫で下ろす。だが、やけに周囲が騒が
森の中に落ちたネプテューヌ、ノワール、ネプギアだったが、幸い
﹁アナタね⋮⋮﹂
﹂
﹁は、はい⋮⋮ちょっと眩暈しますけど、大きな怪我はないみたいで
?
?
15
!
﹁ちょっと、物騒な気が⋮⋮銃声とか聞こえるし﹂
﹁それにしては⋮⋮﹂
?
﹁このままじゃ危ないわね。ネプテューヌ、一旦ここを離れるわよ﹂
﹁もー、ノワール仕切ってばっかなんだから。これじゃ主人公どっち
だか分かんないよ﹂
﹂
﹁タイトル見れば一目瞭然でしょ、文句言わないの。ほら早く、ネプギ
アも﹂
﹁は、はい
機械の駆動音に興味を引かれつつも、せめて一目見たかったと惜し
﹂
みながらネプギアはネプテューヌとノワールについていく。
﹁行くあてとかあるの、ノワール
況確認はその後
﹂
﹁誰かに聞いてみればいいんじゃ﹂
﹁話せる空気じゃないでしょ、さっきの
﹂
﹁今はないわ。とにかく落ち着いて話ができる場所に移動するの、状
?
﹂
?
﹁え
隠れて、ふたりとも﹂
﹁あ、見てくださいノワールさん﹂
胸にはあった。
何か違和感のようなものを感じる。確信めいたものがノワールの
〝この世界、確かにゲイムギョウ界だけど⋮⋮〟
に居座るのは危険だと思ったのだ。
ネプテューヌの言うことにも一理ある。しかし、それでもあの場所
また迷子になるだけじゃない
﹁んもー、怒ってばっかなんだから。それに、このまま闇雲に走っても
!
!
最新の軍設備のような佇まいだ。昔からここに建っていたかに見え
るが、それにしては新築同然で汚れ一つ無い。よく見るとその輪郭が
魔法のように揺れていた。
〝幻術かしら⋮⋮〟
〝凄い⋮⋮あんな設備初めて見る。どんな機械あるんだろう⋮⋮
〟
〝でも、なんだか様子がおかしいみたいだけど〟
16
!
茂みに隠れて覗き見た先には、見張り台。それも森の中に、まるで
﹁ねぷっ﹂
?
ネプテューヌの言うとおりだ。いやに静かで人の気配が感じられ
ない。そして煙が立ち昇っている。襲撃されているのか、それとも襲
﹂
撃された後なのか。どちらにせよ、アレに人は残っていない。
﹁誰か出てきますよ⋮⋮
現れたのは、黒髪の青年だった。整った顔立ちをしているが、そこ
に温情は見受けられない。例えるなら、刃物のような鋭さに獣の獰猛
さを兼ね合わせたような雰囲気を感じていた。頬に付いた血を拭い、
血痰を吐き捨てる。まるでタチの悪い不良だ。その手に持っている
ものは、紫電を散らすコンピューター。彼が破壊したものであるとす
ぐに分かった。放り捨てて髪をかき上げる。
全身黒ずくめだった。黒い上着に黒いダメージジーンズという黒
一色でありながら、その紅い瞳が鈍く輝いている。
〝おぉ∼⋮⋮見るからに悪役って感じの人⋮⋮見つかったらエロ
同人みたいにひどいことされること請け合いだね〟
〟
〝アナタ、いくらなんでも初対面、かつ話したこともない人を相手
に失礼すぎない
と、次の瞬間には電源を切られたテレビのように消えてしまった。察
〟
するに、放り捨てられたコンピューターが施設を作り出していたのだ
とネプギアはすぐに理解する。
〝どうしよっか⋮⋮声、掛けてみる
いんだし⋮⋮〟
〝じゃあ、引き返してみます
〟
〝やめといた方がいいんじゃないかしら。危険なのに変わりはな
?
枝が盛大に折れて慌てて身を隠した。
〟
〝ちょ、ちょっと何してんのよネプテューヌ
〝あの人、こっちに来ますよ
!
きた。
足音が近づいてくる││だが、それをかき消すほどの轟音が響いて
〝あはー、ごめん。でもなんとかなるって〟
〟
様子を窺っていたネプテューヌ達だったが、手を掛けていた場所の
?
!?
17
?
その相手が出てきた設備が一瞬だけ陽炎のように揺れたかと思う
?
〝あの男〟だ
﹁見つけたぞっ
﹂
!
﹂
!
おい、女の子がいるぞ﹂
﹂
﹂
?
る不快感にネプギアが身の危険を感じ取る。正確には貞操の危機だ。
背筋が凍った。友好的な視線が、全身を這いずるように見つめてく
﹁││││﹂
えているかも分かるね
﹁そんな場所に迷い込んだ、ということは⋮⋮我々がどれほど女に飢
オウム返しのノワールに、快く頷く男性。
を潰した、ということになる。
されていたとは思いもしない。とすれば、あの青年は単騎で前線基地
確かに戦場だとは薄々気づいていた。だがまさか、最前線に放り出
﹁さ、最前線
来てしまったのかなこのお嬢さん方は﹂
﹁いや失礼した。迷子、そうか迷子か。一体何を思ってこの最前線に
﹁ちょっと、何笑ってるのよ﹂
ネプギアの言葉に、軍人達から笑い声が挙がる。
次いでいるが、あの物量の前では押し返すことも出来ない。
械、そして軍人達に追われて遠ざかっていた。遠方で爆発や銃声が相
この状況ではそうとしか言えない。例の青年は警備ロボと人型機
﹁あ、ありがとうございます。あの、私達迷子になっちゃって﹂
よ﹂
﹁こんな戦場でこんな可愛い子たちをお目にかかれるとはな、驚いた
﹁あははは、どうも⋮⋮﹂
で生産コストを削減しつつ、機能性を追求されている。
機械もいる。それを見てネプギアが眼を輝かせていた。簡素な作り
軍の関係者と思わしき屈強な男性達に無人機が多数。中には人型
﹁あ、見つかっちゃった﹂
﹁ん
撫で下ろす。
見た目を裏切らない粗暴な言動に、見つからなくてよかったと胸を
間に眼の色変えやがって
テメェらだけで争ってりゃいいものを、人を見た瞬
﹁チッ、クソが
!
?
18
!
?
ノワールが咄嗟に両手剣を転送して軍人の銃を払いのける。だが、
その重い手応えに震えた。モンスター相手に振ってきた剣には、ベッ
﹂
タリと血糊が付いている。今までそんなことはなかったのに。
﹁な、なにこれ⋮⋮
ただ、自分が明確に人を斬ったという感覚だけが残る。剣で斬って
も吹き飛ぶわけでもダメージを与えるわけでもなく、分厚い生肉を切
﹂
り分けた感触にノワールがうろたえている隙に後ろから羽交い締め
にされる。
﹁ノワール
﹂
﹂
﹂
私そういう汚れ仕事にはちょっと早
﹂
俺とか俺とか、そう、俺とか
いやーやめてー
﹁おっと、お嬢ちゃんもおとなしくしようか﹂
﹁ねぷっ
いんだからー
﹁大丈夫、需要はあるから
!
﹁ここまで本物の変態紳士は遠慮したいー
﹁まぁまぁ﹂
﹂
﹁ネプギア、早く逃げて
﹁で、でも⋮⋮
!
〟
プギアがへたり込む。人型機械も無人機も三人を既に包囲している。
〝そ、そうだ。女神化すれば切り抜けられるかも
かった。
﹁そ、そんな⋮⋮
﹂
ネプギアがシェアクリスタルで変身しようとするが、何の反応もな
!
こ、来ないでください
﹂
!
武器を出すことも忘れて怯えるネプギアに男たちの屈強な手が伸
﹁ひッ⋮⋮
﹁安心したまえ。これからおじさん達が大人にしてあげるから﹂
﹁まぁまぁ﹂
か何と言いますか﹂
﹁しょ⋮⋮いや、確かにそうですし私まだそういうの全然早いという
見るからにお嬢ちゃん達⋮⋮処女だし﹂
﹁女神化でもしようとしたのかな。残念だがそいつは無理な相談だ。
!?
19
!?
足元に撃ち込まれる突撃銃から吐き出される銃弾に足が竦んだネ
!
!
!
!?
!!
!
!?
!
イヤァァァァァァァァッ
﹂
!!
20
びていく。
﹁いや⋮⋮誰か⋮⋮
!
e p i s o d e 3 臓 物 と そ の 他 ぶ ち め け て 死 ぬ モ
ブの皆様
銃声に次ぐ銃声。爆撃に次ぐ爆撃。物量を前にして形勢不利と感
﹂
じ取ったが、態勢を立て直した今では、彼にとってただの雑魚の集ま
りだ。
﹁⋮⋮
その超人的な視力と聴力を戦闘の為に研ぎ澄ませていたが、甲高い
ノイズが走る。
││女の悲鳴。声の高さからしてまだ幼いようだ。銃撃と爆撃の
轟音の最中でその声を聞き取れたのは奇跡に近い。
後ろからか﹂
﹂
その瞬間、何か彼の中で吹っ切れたものがあった。
﹁なんだ
﹂
﹁早くあの男を片付けて俺達も愉しみに行こうぜ
﹁ああ、そうだな。進軍だ
レールガン
意として。
﹁超電磁││﹂
﹁⋮⋮た、退避ィィィィィィッ
﹂
男の声が、心臓に突き立てられる。血の通っていない絶対零度の殺
死刑宣告。
不可能の一撃の予備動作。理解していても尚、避けることが叶わない
それは、必殺にして光速。幾度と無く同胞たちを葬ってきた、回避
がいた。
バチリ││。彼らの前には紫電を走らせて構えをとっている目標
!
?
?
地面に出来上がる〝砲撃の痕〟を一瞥して、消し炭になった破片や
バーが握られている。
刀を握りしめて空いた左手には装飾の施された荘厳な銀のリボル
悪鬼が、そこには佇んでいた。紫電の走る手に、血の付いていない
くたわんだ木々が根っこをひん剥いて倒れる。
既に遅い。進軍していた前線部隊が閃光の中で消し飛んだ。大き
!!
21
?
肉片の確認すると悲鳴のあった方へと一目散に駆け出していた。地
を這う獣ですらそこまでの速度で走りはしない。
自分を掻き立てる焦燥感の正体が掴めず、苛立ちながら彼はひたす
らに走った。
両手を押さえこまれ、仰向けに押し倒されたネプギアの胸には男の
﹂
手があった。ノワールの胸も素肌を晒されて陽光の下で血色の良い
ハリのある胸が男の掌で弄ばれている。
﹂
!
貞操の危機だけど
って、アレ
﹁私にはないものだから羨ましくもなんともないんだからね
﹁まぁまぁ﹂
﹂
いやー、やめてー
﹁なだめたって私にはないんだから
そっち
﹁じゃあこっちで﹂
﹁おし、おしり
後ろの危険はもっとダメー
!?
跨る男が我慢できずに、ベルトを息を荒くしながら緩める。
﹁おい、前線部隊から連絡が途絶えたぞ。こんなことしてる場合か
﹁まぁまぁ﹂
﹂
の 前 で は 今 ま さ に 妹 の ネ プ ギ ア が 貞 操 を 奪 わ れ そ う に な っ て い た。
も、今も拘束されてされるがままにされている。暴れるネプテューヌ
だ手に尻を揉みしだかれていた。それに嫌がる素振りを見せながら
貧相なスタイルのネプテューヌだけはパーカーの下から潜り込ん
!
!
ているマズルスパイクを取り付けた分厚い鈍重なマグナムリボル
ら先ほど見かけた黒ずくめの悪党が走ってくる。その左手に握られ
人型機械や無人機、兵士達が一斉に警戒態勢へ移行して構えた先か
三者の介入に歓喜の声を上げる。
かけた。吐き気すら覚える出来事の連続に、だが頭の冷静な部分が第
いた血糊と中身が垂れる光景にいよいよもってネプギアは気を失い
が隣に立っていた兵士の全身に吹きつけられる。ベッタリとくっつ
言っていた男の頭が、文字通り消し飛んだ。下顎を残して、上半分
│﹂
﹁大 丈 夫 だ ろ。ど ち ら に し ろ 長 生 き で き な い な ら 今 の う ち に 楽 し │
?
22
!?
!!
!?
バ ー は 人 間 で は な く 狩 猟 に 用 い ら れ る べ き 口 径 で 弾 丸 を 撃 ち 出 す。
マズルフラッシュが閃けば、次の瞬間には人型機械の胸部が轟と音を
立てて装甲をぶち抜かれて吹き飛んでいた。そも、片腕で扱うべき銃
器ではない。一発、二発と弾丸は然るべき暴力性で物言わぬ機械を轟
﹂
沈させていく。
ファイア
﹁発射
兵士達が突撃銃を一斉に放つ。その弾幕の中を悪夢のようにすり
抜けてくる。それは右手に持つ倭刀となめらかな体術によって。順
手から逆手に持ち変えながら重心を巧みに操りながらマグナムリボ
ルバーの排莢すら片手間にやってのけている。
助けてー
﹂
﹂
その悪魔のような青年と、ネプテューヌとノワールの眼が合う。
﹁お、おーい
﹁あれだけの人数をどうやって⋮⋮
!
﹁〝 紅 & 白 〟
デッド・ブランク
﹂
ネードが引き起こす爆炎を背に、青年は丸腰で突っ込んできた。
チャーの引き金を引く。次々と絨毯爆撃のように撃ち込まれるグレ
いと人型機械がアンダーバレルにマウントしたグレネードラン
木々に阻まれる。その間に装填を済ませるつもりだ。そうはさせま
不意に、足を止めた青年が横っ飛びで森の中へ身を隠した。銃弾が
!?
!
﹄
﹂
!
刹那。青年の脚に紫電が奔り、土煙と共に姿が掻き消える。地面に
﹁〝電導〟││アクセル・ストライク﹂
コイル
ネプテューヌとノワールは、見た。青年が笑うのを。
の被害が出るかも。しかし、青年は引き金を引かなかった。
撃に備える。あの猟銃から放たれる威力と、一度火を吹けばどれだけ
よって展開される防御力は相当なものに違いない。彼らは青年の攻
正 面 に 展 開 す る の は 大 型 の 防 御 魔 法 陣。単 独 で は な く 複 数 人 に
﹃了解
﹁防御陣形、展開急げ
左手に持つのは荘厳な銀の回転式拳銃。
右手に持つのは兇悪な赤の大型自動拳銃。
両手に再転送されたのは、また銃だった。
!
23
!
!
は穿たれた跡が出来上がり、狼狽する兵士たちとは別に人型機械と無
︾
﹂
人機は機首を上へ向けていた。
︽敵機、直上
﹁飛び越えただと
突き出される両手に握られた鋼鉄の凶器が規格外の暴力を叩きつ
ける。
大型自動拳銃から吐き出される弾丸が爆炎を巻き起こす。回転式
拳銃から吐き出される弾丸は冷酷に目標を撃ち抜く。青年は着地す
るまでの十秒足らずで両手の弾倉を空にして着地するなり、倭刀とマ
グナムを召喚してネプテューヌ達を押さえている男たちへ真っ直ぐ
に駆け寄っていく。
男たちは既に戦意を失っていた。だがそれでも情け容赦無く青年
は男の一人を切り捨てた。まだ笑っている。暴力に酔いしれる暴君
﹂
助けにきた少女がどうなってもいいって
の笑みだった。暴虐ぶりに目を背けたくなるが、ネプギアは目を離せ
﹂
ずにいる。
﹁うひゃ
のか
!
触がゲームや非現実的なものではなく、目の前に突き立てられる現実
の壁をあっさりと超えてくる。
ここにきて人質を取った男が、動きを止めた青年││エヌラスに、
笑みを浮かべた。その左手が光に包まれる。そこに握られているの
は、やはり白銀のリボルバー。その銃口があらぬ方向を向いている。
〝綺麗な色⋮⋮〟
ネプギアがその銃に見惚れていると、何の躊躇もなく引き金を引い
た。その直後、何もない地面に突き刺さるはずの弾丸が、ありえない
軌道で直角に曲がったかと思うと男の額に風穴を開ける。引き金を
引きさえすれば絶対必中の魔弾は命を奪う││その性能に絶対の自
信を誇るからこそ、青年は相手を一瞥すらしなかった。
ド サ ッ。男 が 倒 れ て か ら も 青 年 は 動 か ず に 周 囲 を 警 戒 し て い る。
24
!?
!
﹁う、動くなよエヌラス
!?
ネプテューヌのこめかみに拳銃が当てられていた。その冷たい感
!?
時折上空を見上げ、耳を澄ませていた。
﹁││││はぁ⋮⋮﹂
そして、安全が確認できると両手の武器を転送する。腰に手を当
て、口をへの字に曲げて頭を掻き、不機嫌そうにしていた。その顔に
は明らかに後悔の念が見て取れる。
﹁⋮⋮助けるんじゃなかった﹂
無慈悲に、心底後悔した呟きだった。まるで無一文で終電を逃した
ような絶望的な顔をする青年にネプギアは身体を起こす。
ノワールははだけた服を直して駆け寄る。ネプテューヌも無事を
ネプギア﹂
確認すると妹に抱きついた。
﹁大丈夫
﹁は、はい⋮⋮﹂
﹁よかったー。私より先に大人の階段上っちゃうのかと心配だったよ
∼。それにしても不埒な人達で失礼しちゃうよね。こういうのは普
私結構本気で危なかったんだけど⋮⋮﹂
通主人公たる私からでしょ﹂
﹁お姉ちゃん
﹁あの状況じゃどんな選択肢選んでも無駄だったと思うわよ﹂
かなぁ。どう思うノワール﹂
﹁やっぱここは﹃私が妹の身代わりになります﹄くらい言うべきだった
?
それより今は、お礼を言うのが先だ。
25
?
e p i s o d e 4 キ レ て る か ど う か と 聞 か れ た ら
マジギレ寸前カウントダウン
﹁あの⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
腕を組んで、不遜な態度で三人の顔を見比べる。そして、声をかけ
てきたネプギアに視線を戻した。その眼は明らかに不機嫌さを隠そ
うともしない。
﹁危ないところを助けていただいて、ありがとうございます﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
深々と頭を下げるネプギアを無言で睨み続けていた。眉を寄せて
怪訝な表情に変わると、今度はネプテューヌとノワールに視線を移
す。
﹂
﹁いやー、本当に危なかったよ。主に貞操が。助けてくれてありがと
私、ネプテューヌ﹂
べ﹂
騒 ぐ ネ プ テ ュ ー ヌ か ら 視 線 を 逸 ら し て 青 年 は 三 人 に 背 を 向 け た。
﹂
あと、自己紹介くらいし
そのまま歩き始める青年に、ノワールが思わず呼び止める。
﹁ちょ、ちょっと
﹁なんだよ﹂
﹁せめて、ここがどこなのか言いなさいよ
なさいって﹂
﹂
﹁⋮⋮戦場の、最前線。見て分かるだろ﹂
﹁えっと⋮⋮確か、エラヌス⋮⋮さん
ピクリと口の端が引きつるのを見てネプギアが命の危険を感じ取
?
!
!?
26
う
﹁あ、私は妹のネプギアです﹂
﹁ノワールよ﹂
まさかの自己紹介スルーからため息
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮はぁ﹂
﹁ため息
!?
﹁何しにこんなとこに来たのか知らねぇが、ピクニックなら場所を選
!?
!
り、咄嗟に身を防ぎながら涙目になっていた。眼光だけで人が殺せそ
うなほど凶悪な面構えになっている。
﹁エ・ヌ・ラ・ス、だ﹂
﹁ご、ごめんなさい あの、実は私達││って、ああちょっと待って
﹂
﹂
俺はこんなとこで暴れ回って長居する気はねぇん
ください。せめてお話くらい
﹁う・る・せ・ぇ
﹂
とっととここ離れねぇと面倒くせぇことになる
﹁面倒なことって
﹂
ついてくるなら好
こっから先は自分の身ぐらい自分で守れ
﹁だぁー、いちいち説明してる暇なんかねぇよ
きにしろ
合わせて距離を取りながらもついていくことにした。
﹂
なんだよ、笑い出したりして﹂
﹁んふふ﹂
﹁⋮⋮
﹁もしかして、俗に言うツンギレ属性
﹁思いの外冷静なツッコミ
﹂
﹁キレてねぇよ。ツン百パーセントだ﹂
?
〝あれ、この人見た目より悪い人じゃないのかな⋮⋮
!?
スの背中を見つめている。
〟
のか珍しく大人しい。ノワールは腕を組みながら不審な目でエヌラ
終始していた。ネプテューヌも勝手の違う世界なのは理解している
沈黙に耐え切れず声を掛けるネプギアとの質疑応答は簡素なものに
会話をするのが億劫なのか、それとも元々口数が少ない方なのか。
?
﹂
﹁あの、ところでどこに向かってるんですか
﹁拠点﹂
﹁はぁ⋮⋮遠いんですか
﹁それなりに﹂
﹁⋮⋮ど、どれくらい﹂
﹂
ネプギアがそんなことを思い、胸の中で謝罪と認識を少し改める。
?
そう言いながらこの場を離れようとするエヌラスに三人が顔を見
!
!
だよ
!
!
﹁ここからだと三時間足らず﹂
?
27
!
!
!
?
!
?
﹁ねぇ。アナタ、他に仲間は
﹁いない﹂
即答だった。
﹂
﹁へー、じゃあノワールと同じでぼっちなんだ﹂
﹁なんだ、お前ぼっちなのか⋮⋮﹂
﹂
勘 違 い さ れ る で し ょ、や め な さ い よ ネ プ
っていうかアナタも鵜呑みにしないでよ
﹁ぼ っ ち じ ゃ な い し
テューヌ
﹂
﹁すまなかったなゆるしてくれ﹂
﹁呆れるほどの棒読み
﹁思ったよりノリが良いんだね、エラヌスって﹂
﹁テメェら姉妹は揃いも揃って人の名前間違えやがって
﹂
だってんだろうが消し炭にすんぞ
きゃーこわ││﹂
﹁口で言っても実行しないでしょー
ゴガァン
エヌラス
茶化すネプテューヌの足元に銃弾が撃ち込まれた。銃口から漂う
硝煙から五十口径のマグナムリボルバーが直撃すれば人間の身体な
ど 簡 単 に 吹 っ 飛 ぶ。弾 丸 の 衝 撃 と 風 圧 で 軽 く ス カ ー ト が め く れ 上
がっていたがエヌラスは見向きなどしていない。笑顔で固まるネプ
テューヌの顔を冷や汗が伝う。
!
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
危ないって 今の当たっ
﹁次、間違えたらケツバットかタイキックな﹂
﹁警告のレベル逆じゃない 怖いよ
!
﹂
あつっ、熱い
!
だったよ
銃口当たってるから
!
﹁当てないように外してやっただろうが﹂
﹁当たってる
﹂
てたら私ちょっとグロ方向でアール指定かかって一生車椅子生活
!?
触ろうとしたネプテューヌに、エヌラスはトリガーガードに指をか
だ。よく見ればアンダーバレルにバヨネットが隠れている。
ルバーでありながら、全体的なフォルムが自動式拳銃と見紛うばかり
しくなリアクションで除けた銃をまじまじと見つめる。それがリボ
マズルスパイクを押し当てられてネプテューヌがお笑い芸人よろ
!
28
?
!
!
!
!?
?
!
!
!?
!?
﹂
けて器用に反転するとグリップを差し出した。
﹁⋮⋮いいの
なにこれ
ンと落ちる。
﹁重っ
﹁よくわかったな﹂
絶対セキュリティ的な何かだよねコレ
﹂
!?
れているのが分かる。
︽⋮⋮もういいだろうか
﹁私達も戦うよ
﹂
︾
プギア、ノワールが一列に並んだ。
てエヌラスが戦闘態勢をとって前に出る。その横にネプテューヌ、ネ
右手に倭刀。左手にレイジング・ブルマキシカスタム。首を鳴らし
﹁ご丁寧に待っててくれてありがとうよ、死ね﹂
?
れた機体は無機質な表情から変わりないが、周囲の空気で困惑して呆
人型機械の集団。量産機らしくオリーブドラブ一色で染め上げら
気づく。丁寧にも事の顛末を一部始終見守っていたらしい。
そして、そこでようやくエヌラスは自分達が包囲されていることに
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
︽⋮⋮⋮⋮︾
うとネプテューヌが両手を振っていた。
ジング・ブルの重みがまだ手に残っているのか、その残滓を振り払お
すぐに粒子の光になって分解された。マキシカスタムされたレイ
!?
それに手を触れ、両手で構えようとしたネプテューヌの両手がガク
?
﹂
!
ン。
物線を描いて回転しながら飛んで行く先にはエヌラスの頭。スコー
ネプテューヌが無銘の刀を召喚して抜き放ち、鞘を放り捨てる。放
﹁行くよ、ネプギア。ノワール
る。そんな温情がどこかに感じられた。
冷たく言い放つが、恐らく自分達がいざ窮地に陥ると助けてくれ
﹁けっ、好きにしろ。とっ捕まっても助けねぇからな﹂
﹁さっきのお礼もまだですし﹂
﹁そうね。アナタ一人で十分だろうけど、手伝うわ﹂
!
29
!?
﹁イッテェ
ゴミ捨てんならゴミ箱に捨てろ
﹂
﹂
﹂
ゴミじゃないし、ちゃんと刀の鞘だよ
﹁マジレスこわい
﹁使わねぇならちゃんと持ってろ
﹁ねぷっ
!
﹂
﹂
ルとネプギアが人型機械の群れと対峙する。
﹁あっ、出遅れた
﹁テメェのせいだろうがネプテューヌ
!
﹂
﹁凄 い 初 対 面 で 私 の 名 前 ス ト レ ー ト に 言 っ て く れ た
﹂
!
!
!
ちょっと好感度上がったよ
!!!!
とーエラヌス
﹂
あ り が
喧々囂々と騒ぎ立てるネプテューヌとエヌラスを無視してノワー
﹁アッハイ。どうぞ﹂
︽あのー、そろそろバトルフェイズ入っていいでしょうか⋮⋮︾
!?
!
﹁ブッ殺すぞテメェ
30
!
!
!?
!
!
e p i s o d e 5 ボ ス 前 セ ー ブ は 基 本 だ け ど ア イ
テム補充は忘れてた
半ば││というよりは九割方八つ当たりに等しく、残り一割は掛け
値なしでネプテューヌに対する殺意によるものでエヌラスが人型機
械を粉砕していく。その横目で三人の動きを見るが、多少ぎこちない
ところはあったものの、徐々に慣れた体捌きで攻撃を防ぎ、避けなが
ら人型機械を身軽さを武器に翻弄していった。
〝中々どうして、見込みあるな〟
しかし、あれだけの腕がありながら組み伏せられていた事実に首を
傾げながらレイジング・ブルの撃鉄を起こしてまた一体を物言わぬ鉄
屑に変える。恐らくは不意を突かれたのだろう。どんな理由にせよ、
自分が手を貸すまでもなさそうだ。目の前の敵に意識を集中させる。
ネプギアの持つ武器はビームサーベルと呼べばいいか、刀身が光輝
い て い る。そ の 前 に は 量 産 機 の 装 甲 な ど 紙 切 れ 同 然 に 裂 け て い く。
本人も基本に忠実な、お手本を実演しているようだ。だが如何せん、
その所為か相手に動きを読まれて苦戦している。
背負っていた長刀を咄嗟に防いだネプギアが後退り、その背中をエ
ヌラスが支えた。
﹁あ、ありがとうございます﹂
﹁耳塞いでろ﹂
言うが早いか、バイポッド代わりにネプギアの右肩からエヌラスの
左手が伸びる。敵を前にして耳と目を塞ぐのが極めつけの自殺行為
なのは分かっているが〝それ〟を直視すれば戦闘行為に支障をきた
すのは明白だ。レイジング・ブルがマズルフラッシュを焚く度に一
機、また一機と沈んでいく。そうして弾倉が空になると接近していた
一機を倭刀で斬り裂いて邪魔だと言わんばかりに蹴り飛ばす。
スイングアウトして、直後にイジェクターロッドを押し込み空弾倉
を吐き捨てる。再装填までの時間が隙だらけだが、元々片腕一つで相
手取るには可能な相手だ。
31
﹁次から、次へと、鬱陶しい奴らだ﹂
唯一の遠距離攻撃手段を再装填する間、倭刀を口にくわえて可能な
限りの速度で新しい弾丸を押し込んでいく。
ネプテューヌは刀を使い、たまにだが体術も織り交ぜている││と
はいえ簡単なキックだが││ようで、接近戦であれば結構な手練だろ
う。それでいて、マガジンを装填しようとする敵を瞬時に見抜いて懐
﹂
に潜り込む豪胆な踏み込み。
﹁その隙、もらったー
﹂
﹁結構辛辣ですね
﹂
﹁それぐらいしか取り柄ねぇんだから言ってやるな﹂
﹁なんて物量なのよ﹂
﹁これじゃキリがねぇな。一旦引くぞ﹂
たエヌラスが舌打ちを隠そうともせず毒づく。
人型機械の群れをひと通り撃破し終えると、増援の気配を感じ取っ
人型機械を沈黙させていった。
ここは一つ、期待に応えるとしよう。ノワールは気合を入れ直して
〝素直じゃないんだから、まったく〟
ぐに分かる。
なる動作不良ではなく、エヌラスからの援護射撃によるものなのはす
その隙に振り上げた両手剣が頭部を破壊して沈黙させた。それが単
向 け ら れ る 銃 口 が 突 然 暴 発 し て 保 持 し て い た 両 手 ご と 爆 発 す る。
﹁しまっ
は先程の人間を斬った感触を思い出してしまっていた。
ら破砕している。だがしかし、その手がどこか不安そうにしていたの
ノワールも両刃のショートソードを振るって分厚い装甲を正面か
のは高い。相手を手玉に取っていた。
も言えばいいだろうか。脳天気でお気楽そうな割に、戦闘能力そのも
戦闘技術そのもので言えば、ネプギアよりも上だ。経験の差、とで
!
したエヌラスにネプテューヌ達が続く。
とはいえ、相手の包囲網を脱することが先決だ。一点突破に乗り出
!?
32
!?
森の中を走り続け、周辺から機械の駆動音が徐々に減っていくのを
感じながらネプギアが胸を撫で下ろす。どうや追跡の手を逃れたよ
うだ。
﹁ここまで来ればもう大丈夫でしょうか⋮⋮﹂
大丈夫、ネプテューヌ﹂
﹂
しかし。エヌラスだけがまだ臨戦態勢のまま周囲を警戒している。
﹁もう、大丈夫なんじゃない
﹁無理ぃ∼もう無理ぃ∼走れないよ∼⋮⋮﹂
﹁アナタね⋮⋮しっかりしなさいよ、お姉ちゃんでしょ﹂
﹁私がどんなにぐぅたらでもネプギアだけは私の味方だもんね
﹁う、うん﹂
その銃撃つのやめてよ
﹂
騒がしかったなら普通に言えば
!?
る。
﹂
﹁何の音⋮⋮
﹂
の塊を無理やり飛ばしている奇怪な音にネプテューヌ達が眉を寄せ
大気の金切り声じみた、引き裂かれるような耳障りな音。まるで鉄
││ィィィィ⋮⋮。
口に指を当てて耳を澄ませる。
﹁⋮⋮
﹁次からそうする。ちょっと静かにしてくれ﹂
いいじゃない
﹁ひぃ
で黙らせて、エヌラスが上空を見上げた。
和気あいあいと和やかな雰囲気に包まれつつある三人を銃声一つ
!
?
取ることにした。
││ィィィイイイイイ││
!
ワールは妥協して今後舌打ちに関しては不機嫌のサインとして受け
どんな罵詈雑言が投げつけられるかわかったものではないのでノ
﹁これ以上文句言ってもいいってのか﹂
ごく不愉快よ﹂
﹁いや、その舌打ちをこっち見てやるのやめてくれないかしら⋮⋮す
﹁チッ﹂
﹁ジェット機みたいな⋮⋮戦闘機のような⋮⋮﹂
?
33
!?
!
?
爆音が上空を通過する。巨大な翼を広げた鋼鉄の鳥。背部に過剰
に取り付けた推進剤の詰め込まれたジェットエンジンが鳥の尾を彷
彿とさせる。不意に音が止んだ。
そして、ネプテューヌ達が空を見上げると太陽の光を反射して〝何
か〟が落ちてくるのが見えてくる。それはつい先刻まで戦ってきた
﹂
人型機械によく似たフォルムの量産機。だが、そのカラーリングだけ
はメタルグレーに変更されていた。
﹁おぉ、見るからにボスというかリーダー機って感じ
!
私の名前さっきちゃんと言えてたのに
﹂
﹁間違いじゃねぇが、洒落にならねぇんだよネプチューン﹂
﹁あれ
﹂
﹁うっせぇぞネプラトゥーン﹂
﹁私イカみたいにされた
!?
﹁バルド・ギア
﹂
︽見つけたぞ、エヌラス
︾
腰部ブーストを吹かしてエヌラス達の前で止まる。
限の急所を守るように配置されていた。着地の衝撃を逃がすように
であることが見て取れる。西洋鎧の甲冑を彷彿とさせる装甲が最低
輪郭が露わになってくると、それがマイナーチェンジされた改修機
!?
!
﹂
?
して低いわけではない。彼はクールを装っているが、その実は沸点が
筋を浮かべてはいるが笑顔で対応しているエヌラスの煽り耐性が決
その口ぶりが明らかに挑発の色合いを見せている。こめかみに青
りふり構っていられなくなったか︾
︽よもや貴様が││よりによって女の手を借りるとはな。ついぞ、な
﹁えっ。えっ、知り合いなんですか
を補填して、頭部のセンサーユニットにバイザーを下ろす。
二基。明らかな砲撃スタイル。追加装甲でむき出しのフレーム部分
背面に背負うコンテナミサイル二挺。ライフル二挺、脚部ミサイル
エヌラスが武器を呼び出す前にフル装備が完成していた。
演算処理性能も重視した肩部のレドーム、瞬間的な武装の転送速度は
固定概念による武装積載量を無限に等しく搭載した特化型も特化型。
人型機械││その軍用制式モデル。拡張性能を極限まで突き詰め、
!
34
!?
低い││言うなれば、中身は単純にキレる若者なのだ。
﹁うるせぇ。四六時中人のこと集中狙いしやがって。こっちだって疲
れてんだよ﹂
︾
リタイア
いい加減脱落しやがれ
﹂
︽どうかな。貴様のそのしぶとさはもはや我らにとって周知の事実。
いい加減、仕留めさせてもらうぞ
﹁ハッ、こっちの台詞だ
﹂
﹁ど、どうしようお姉ちゃん⋮⋮
﹂
﹁とにかく今は、エヌラスに加勢
﹂
そう思っていた時期がネプテューヌ達にもあったが、首を突っ込ん
苦戦するかもしれないけれど倒せるに違いない。
ムなどを駆使すれば倒せるのが定石だ。きっと四人がかりなら多少
とはいえ、加勢するほどの相手なのだろうか。最初のボスはアイテ
﹁う、うん。そうだよね
?
﹁完っ全に私達、置いてけぼりね⋮⋮﹂
﹁ポカーン⋮⋮﹂
らせて相対する。
中指を立てて挑発に挑発のサインで返答しながら、両者は闘気を漲
!
!
!
で後悔することになる。
35
!
!
こんなの避けき
e p i s o d e 6 殺 る か 殺 ら れ る か で 言 っ た ら 殺
られる前に殺る構え
﹂
﹁無理無理無理無理無理無理、無ぅぅぅ理ぃぃぃ
れないぃ
﹁きゅう∼⋮⋮﹂
﹁かわいくねぇパンツ丸出しで寝てんじゃねぇえええ
﹂
!
る。
デッド・ブランク
﹁〝 紅 & 白 〟
﹂
た。結果、分散していたマイクロミサイルが最短距離の標的を捕捉す
ら純白のパンツを恥じらいもなく︵隠す暇がない︶三人まとめて倒れ
ルに向けて全身を振りかぶって投げつける。くるくると回転しなが
ネプテューヌの細い足首を掴むなりエヌラスはネプギアとノワー
﹁ねぷー
﹂
を得たネプテューヌが爆風に煽られて樹の幹に受け止められた。
テューヌではなく森の外れで良かったと心底思いながら九死に一生
す る マ イ ク ロ ミ サ イ ル の 制 圧 射 撃 は 絨 毯 爆 撃 に 匹 敵 す る。プ ラ ネ
降り注ぐ軍用ミサイル。コンテナミサイルから更に分離して飛来
!?
﹁やだぁ∼もうやだ∼
私がかつてこれほどまでにぞんざいに扱わ
軍配が上がる。土煙が盛大に噴出した。
空中で衝突する防御魔法陣と銃弾の応酬は一方的な鋼鉄の凶器に
治める国とは同盟関係にあるからだ。
度を誇るのは一重に軍事国家の存在が要因している。バルド・ギアの
ることを前提としているからだ。無論、それが突撃銃と同等の連射速
用したのは扱う対象が人間ではなくて人の姿を模した機械人種であ
モデルが7.62mm弾を採用するはずもなく、12.7mm弾を採
ル二挺の連射を浴びせかける。軍用ライフルに制式採用された汎用
えた所をジェットパックに換装したバルド・ギアが追い掛け、ライフ
したものが至近距離に着弾して起爆。爆風に煽られて木々の頭を越
そうして、一手に引き受けたミサイルの山々を迎撃するも撃ち漏ら
!
!
36
!
!?
れた事ある
﹂
いいやないね
﹁だ、大丈夫お姉ちゃん
﹂
﹁ふえぇ、帰りたいよぉ⋮⋮﹂
るわよ
﹂
﹁助かったんだからそれくらい我慢しなさい
!
る。
︽目は覚めたか
︾
それより、追いかけ
手の指にはめたシェアリングを見て、かぶりを振りながら起き上が
む身体に不満を漏らす。だがそれで事態が好転するはずがない。右
爆風と衝撃、爆音に煽られて土汚れに塗れるエヌラスが仰向けで軋
それが挑発の一種であるとは言うまでもない。
二挺のライフルもマガジンを交換しているだけの余裕を見せていた、
くす魂胆で次々と弾薬を使い切る度に再転送している。残っている
るが、オーバーキルである点には変わりない。肉片一つ残さず焼きつ
つる。そのサイズは先程のミサイルに比べれば明らかに殺傷力は劣
な隙を晒した。そこへ脚部ミサイルを斉射してエヌラスの顔が引き
る。防御魔法陣を展開していた左腕が衝撃で跳ね上げられて無防備
アンダーマウントレールに積載したキャニスター弾が更に追撃す
テューヌもそれに続く。
泣 き 言 言 っ て る 間 も な く ノ ワ ー ル が エ ヌ ラ ス の 後 を 追 う。ネ プ
!
?
!?
﹂
私は一向に構わ
﹁この逆アイアンマン風情が調子乗りやがって⋮⋮﹂
︽ならば、彼女達に加勢してもらえばいいだろう
?
近づけねぇだろ
!
ない︾
﹁だったらせめて射撃武器外せや
!?
ない。
に特化している機人を相手に人間が射撃で対等に張り合えるはずが
いれるのが自分一人だと判断したからこそ。だが、そもそもが射撃戦
遠距離砲撃戦仕様で固めたバルド・ギアに対抗できる遠距離手段を用
エヌラスの両手にはまだ自動式拳銃と回転式拳銃が握られていた。
︽それは良かったな︾
﹁寝起きで嗅ぐ硝煙は格別だなクソッタレめ﹂
?
37
!
︽断る︾
﹁だ ろ う よ
﹂
〝女に何を期待してやがんだ、俺は
〟
出だせる││そこまで考えたエヌラスが自分を笑い飛ばした。
山。その隙を突いてバルド・ギアに一太刀浴びせてくれれば勝機が見
戦に持ち込みたいのは山々だが、今は銃撃戦でしのぎを削るのが関の
元より交渉の余地などなかったのだ。射撃で分不相応ならば接近
!
︾
﹂
!
﹂
引き起こした結果である。
﹁エヌラス、無事かしら
﹂
﹁女神化できなくたってこれくらいよゆーよゆー
放たれる飛び蹴り。
!
ことと同じ、ましてや相手は機械。引力ではなく引き離す力、すなわ
電磁力の反発は言うなれば磁石の同極同士を無理やり叩きつける
〟のだ。ネプテューヌもノワールも口をポカンと開けている。
た武装含めて優に三百キロを超えていた。それが〝蹴り飛ばされた
鋼鉄の人影が森の中へ吹き飛び、遠ざかっていく。体重は召喚され
﹁アクセル、ストライィィクッ
﹂
め ら れ る。周 囲 の 景 色 を 置 き 去 り に し た 光 速 の 短距離跳躍 に よ っ て
シ ョ ー ト・ダ ッ シ ュ
倍増された大地との反発力によって一瞬でバルド・ギアとの距離が詰
紫電が両足を駆け巡る。それは魔力による奔流、地面を蹴り込む。
﹁テメェら底抜けのお人好しだなバーカ
﹂
ネプテューヌの接近を許したのは機械にあるまじき完全なる慢心が
き出せる。だがそれは視界内の対象に限定されていた。ノワールと
よって両断される。頭部のセンサーユニットは確かに捕捉性能を引
両手を突き出していたバルド・ギアのライフルが完全な不意打ちに
うとしているお人好し共が。
││いた。バカと何とかの境界線というか完全に向こう岸に渡ろ
︽なにっ
﹁てぇやぁぁぁぁ
がこんな世界にいるはずがない。
あそこまでないがしろに扱ってまだ人に手を貸すほどのお人好し
!
!
!
?
38
!?
ち斥力。魔術的な体幹制御によって為されるアクセル・ストライクは
単純な物理攻撃だけでは引き出せない威力を誇る理由だ。
着地と同時に膝を着いたエヌラスの額がじっとりと汗ばんでいる。
〝酷使しすぎたな⋮⋮〟
ただでさえ連日連夜の戦闘。休息も十分に摂っていない。更には
想定外の〝神格〟との邂逅はエヌラスの臓腑を締め上げていた。本
マシンナーズフロントライン
来であればこの付近に拵えた拠点から引き上げているはずだったの
﹂と声を大にして叫ぼ
だ。この鋼鉄機人最前線を引っ掻き回して、混乱に陥れるのが当初の
目的だったはずなのに﹁どうしてこうなった
うにも乾いた喉は土煙を吸い込んでむせる。
知らない乙女のような輝きが眩しい。
﹁さ ぁ、こ っ か ら 大 逆 転 を 決 め さ せ て も ら う よ ー
﹂
!
が、相手はその宣言に呼応するかのように薙刀を片手で振り回しなが
ネプテューヌが刀の切っ先を消えたバルド・ギアに突きつける。だ
さーい
か か っ て き な
咳き込んで俯くエヌラスの視界に入るのは、純白の指輪。穢れ一つ
!
││いつのまに二槍流
﹂
ら上昇。急降下で仕掛けてきた。ネプテューヌがそれを受け流して
後ずさる。
︾
わっ、わわっ
!?
︽ならば、遠慮なく
﹁大人げない
!?
!
︽なら、お前の目が確かなのだろう。確かに、これは仕損じるな︾
﹁別に選んでねーよ、成り行きだ﹂
︽なるほど。エヌラスが選んだだけはある︾
当たりさえすれば、勝機はある。
だが、確信した。あれは高機動型の例に漏れず、装甲自体は薄い。
た。三人の奇襲も胸部装甲の表面を僅かに溶解させただけで止まる。
せていないことを悟り、咄嗟に槍を粒子に分解して背後へ飛び退っ
剣を構えて接近してくる。その刀身を防ぐだけの防御力を持ち合わ
た。重石代わりとなった二人の奇策に動きが鈍った瞬間、ネプギアが
ワールが踏み留まる。交差して火花を散らし、二人が柄に手を伸ばし
薙刀と長槍。バルド・ギアが振り上げる槍捌きにネプテューヌとノ
!?
39
!
空いた右手に電子の光が集まっていく、新たな武器を呼びだそうと
しているバルド・ギアに改めて構えるネプテューヌ達だったが││そ
れは大口径のハンドガン。見るからにマガジンに弾が入りそうもな
﹂
い一発限りのずんぐりむっくりな奇妙な銃だった。
﹁⋮⋮
﹂
!?
ている。
︾
︽どうする、エヌラス
だ
?
めっちゃピンチだよ
そこの三人は、死ぬより酷い目に遭うが︾
﹁⋮⋮そうかよ││﹂
﹁ど、どどどどうするの
﹂
到で完璧なまでに引き際弁えてるボスキャラとか攻略厳しくない
!
﹁落ち着きなさいよネプテューヌ。エヌラス、何か策はないの
﹁ある﹂
﹂
ここまで用意周
︽お前がただ一人。生き残るに相応しいだろう。だが、その場合⋮⋮
まれているのだ。││正確には、エヌラスただ一人が。
たかったが、そうも言っていられない状況に刻一刻と自分達が追い込
に取るように分かる。供給が望めない今としては極力温存しておき
そして、バルド・ギアが何を待っているのかも今のエヌラスには手
叩き落とすには十分すぎる物量だ。
みしめて集まってくるのが気配で分かる。その数は自分達を絶望に
ガシャッガシャッ。機械の行軍する足音。鋼鉄の軍靴が大地を踏
﹁⋮⋮││﹂
お前はこの窮地。どう切り抜けてみせるの
自分一人だけならば切り抜けられる。だが、今は足枷が三人も付い
情勢は明らかに劣勢だ。それも周到な相手の策の内に違いない。
〝⋮⋮、マズイな〟
﹁最初のボスでここまで強敵っていいの
︽ならば、私も救援を請い願うことにしよう︾
を引きながら空高く撃ち上げられたのは、信号弾。
それを、無造作に上空へ高く掲げると引き金を引く。ピンク色の尾
?
不安と恐怖に駆られるノワール達に、エヌラスが断言したがその表
?
!?
!?
40
?
情は渋い。
﹁本当ですか
﹂
⋮⋮でもどうしてそんな表情してるの
﹂
?
﹂
!?
て三人がまったく同じ表情で驚いていた。
﹁嘘⋮⋮﹂
エヌラスって、もしかして女神だったの
﹁それって、もしかしなくても﹂
﹁シェアクリスタル
﹄
﹂
?
﹂
負けても吼えんじゃねぇぞぉっ
︽覚悟の上だ︾
ア
﹂
﹁そうまで言うなら、お望み通り変神してやろうじゃねぇかバルド・ギ
とてつもなく不安な一言を残して、エヌラスが宣誓する││。
﹃││えっ
﹁⋮⋮後で泣くなよ
﹁あ、うん。だよね﹂
﹁女体化とか誰も得しねぇよ﹂
!?
?
﹂
三人を無視して、エヌラスが右手をかざす。そこに浮かぶものを見
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁私こんな顔してるの
﹁茄子押し付けられるネプテューヌみたいな顔してるわね﹂
﹁おー、流石
! !?
トランジション
!
41
?
﹁││ 変・ 神 ッ
!!
!
e p i s o d e 7 最 初 か ら 強 い 味 方 の 途 中 離 脱 イ
ベント率は異常
光に包まれるエヌラスが髪をかき上げる。跳ねた黒髪の中に赤い
メッシュが入り、黒のコートがジャケットへと変異していく。その背
に﹁N﹂字に大きく﹁/﹂が入ったマークが刻まれている。フェイス
ペイントにも赤い十字架。
身体に張り付くボディスーツの上からアシンメトリージャケット
を羽織る。右袖が短く、左袖が長い。指ぬきグローブも左右で色合い
が違っていた。
赤と黒の右手。白と黒の左手。
そして、足首までを覆う脚甲は前に大きく張り出した装甲を備えて
いた。
その手に握られるのは、魔術の施された霊装。大きく湾曲した偃月
にしてバルド・ギアと肉薄する。偃月刀とサーベルが火花を散らす。
だが今度はエヌラスに軍配が上がり、押し負けたバルド・ギアは射撃
42
刀を担ぎ、左手には無骨な銀のロングバレルリボルバー。グリップ下
部、付 け 根 の 位 置 辺 り に 備 え ら れ た リ ン グ。そ の 形 状 か ら、ト ン
ファーとしても扱えることが窺える。
かくして。バルド・ギアの増援部隊がネプテューヌ達を完全包囲す
るのとエヌラスが﹃神化﹄するのは同時だった││それから一瞬遅れ
た次の出来事は、包囲網に穴が空いた。それにはその場にいた全員が
面食らう。当事者たる一人を除いて。
その双眸が凶悪なまでの赤い瞳をギラつかせている。獲物を前に
して堪え切れない笑みを浮かべる獰猛な肉食獣を彷彿とさせるほど、
ラ
壊して解体してまと
バ
エヌラスが犬歯を覗かせて笑顔を浮かべていた。悪鬼の如く形相で。
﹁調子こいてんじゃあねぇぞぉ、鉄屑共がぁ
﹂
!
味方であるはずの三人が同時に思った。
めてもっぺんぶっ壊ぁす
││こわッ
!
威嚇射撃も警告もない殺意に溢れるエヌラスが増援部隊を踏み台
!?
武装を召喚する。
︽そうだ、それでいい。来い、ブラッドソウル
︾
﹁親指立てて溶鉱炉に沈む用意はいいかぁインテリロボット
﹂
六連装バレルのガトリング砲が回転を始めた。垂れ下がるベルト
マガジンは背部のタンクへと繋がっている。秒間千発を超える連射
速度は、もはや放つ銃弾が対象を撃ち抜くだけに留まらず、その着弾
点からごっそりと掘削していく凶悪な暴風だった。だが、暴力には暴
力でもって応えるのが礼儀。礼節で対応するなどというのは勘違い
も甚だしい。
ブラッドソウル││エヌラスは偃月刀を眼前に構え、ロングバレル
リボルバーを回転させるとトンファーのように構える。元よりその
アクセル・コイル
為の武装だ。小さく口決を結ぶ。
﹁断鎖術式一号二号、解放││〝電導加速〟﹂
バチン、││紫電が迸った。次の瞬間、悪夢のような光景が繰り広
げられる。偃月刀とトンファーがガトリング砲の弾丸をことごとく
弾き、逸し、鋼鉄同士の丁々発止が火花を散らしていた。それでも全
ては迎撃出来ないのか、時折手を逃れた弾丸がブラッドソウルの眼前
にまで迫る。直撃すれば脳幹を撃ちぬいて即死するはずの弾丸は、ま
コイル
るで見えない壁に阻まれたかのように軌道を逸れて通過する。頬に
僅かな裂傷を作るだけに留まった。
本来であれば脚部に纏わせるべき〝電導〟を全身に展開して斥力
を利用したボディアーマーとして扱うことでバルド・ギアのガトリン
︾
グ砲を凌ぐ。
︽くッ⋮⋮
その冷却に指を離した瞬間、ブラッドソウルが偃月刀を突然地面に突
き立てた。
﹁力を、与えよ││﹂
剣指を結び、手をかざす。すると、ひとりでに偃月刀が浮き上がり
回転しながらバルド・ギアへと襲いかかる。それは腕ごとガトリング
砲を切り裂くはずだったが、咄嗟に身を屈めながらベルトマガジンを
43
!
!
銃身の加熱に耐え切れず、徐々にガトリングの精度が落ちていく。
!
デッド・クリムゾン
ホ ワ イ ト・ブ ラ ン ク
廃棄して投げつけた銃身とタンクをバターのようにスライスして遠
ざかっていった。
﹂
﹁舞 踏 会 の チ ケ ッ ト は 持 っ た か 〝 破 壊 の 紅 〟 & 〝 冷厳なる白 〟
?
赤と白の自動式拳銃と回転式拳銃。だがその刻まれた文様が魔法
によって光り輝く。そして、その凶暴性を露わにして吠えた。
赤い飛礫を撃ち出した弾丸は着弾点をグレネードのごとく灼き尽
くし、白い飛礫は軌跡を凍てつかせながらバルド・ギアを執拗に追い
かける。宙へ逃れた背後を猟犬のように追い立てる弾丸はどのよう
な機動を行っても不条理な物理法則で追撃した。
偃月刀が戻ってくる。しかし、それはブラッドソウルを素通りし
て、背後で戦闘を繰り広げているネプテューヌ達の前で機人達を真っ
二つにしていった。鼻先を掠めたような気がするがきっと気のせい
﹂
だ、敵の攻撃が掠めていったんだとネプテューヌは思い込むことにし
た。
﹁チンタラお遊戯会やってんじゃねぇぞコラァ
﹁あ〟
誰だそれ﹂
﹁ぷるるんより怖い⋮⋮﹂
ドソウル﹄はそんなレベルではなかった。
だが、目の前で変身││否、
﹁変神﹂してみせたエヌラス。﹃ブラッ
にならないほど大人びている。
知っている。パープルハートとしての振る舞いは変身前とは比べ物
するのも、決してまぁ珍しくはないのだ。ネプテューヌ自身も思い
負けるはずがないという一種の慢心や思い込みに近い。性格が豹変
が、それは自信の現れでもあるし守護女神としての自負でもあった。
確かに、ゲイムギョウ界の誰もが女神化すれば好戦的になる。だ
片を撒き散らしながら倒れる。
るであろうヤクザキックだった。ただの蹴りだけで機人の頭部が破
それは、もはや、言うまでもなく。どう言い訳しようが徒労に終わ
!
愛称ぷるるん。プルルート││別次元のプラネテューヌを守護す
﹁ナンデモナイデス﹂
?
44
!
る女神﹃アイリスハート﹄もまた変身のギャップがこれまた凄いのだ
が、あちらはドが付くほどのSに変貌するとはいえ飴と鞭を使い分け
暴力
自主規制
バ キュー ン
﹂を体現するかのようなヴァ
るよく出来た人なのだが、エヌラスのこれはそれが生ぬるくすら思え
る。まさに﹁金
!
ルはドン引きである。
﹁足引っ張るようなら、一本くらい覚悟しとけよ
?
﹂
!
せる﹂
﹁は、はい
誠心誠意込めて頑張らせていただきます
﹁次で仕留める。手ぇ貸せ。しくじったらどうなるかは⋮⋮想像に任
テューヌ達の元へ戻ってくる。
れていった。バルド・ギアも追尾弾を撃ち落とすことに成功してネプ
両手を広げて引き金を引く。それだけで左右の包囲網が蹴散らさ
えながらこくこくと頷く。
ネプギアにはまだちょっと早かったのか涙目で小動物のように怯
﹁は、はひ⋮⋮肝に銘じておきます⋮⋮﹂
﹂
イオレンスぶりだった。⋮⋮ぶっちゃければ、ネプテューヌとノワー
!
︽チィッ││
﹂
まだこれだけの余力が残っていたとは想定外だ︾
〟
﹁吠え面かくなっつったろうがぁぁぁ
〝理不尽極まりないわね
!!
!
ルは既にバルド・ギアと肉薄していた。偃月刀とロングバレルリボル
バーの体術を織り交ぜた異種二刀流に対して、ビームサーベルを召喚
﹂
したバルド・ギアが拮抗する。だが、何か違和感があった。
﹁⋮⋮あれ、あの人飛べるんじゃない
女神化したネプテューヌ達にデフォルトで備わっているはずの飛
?
行能力。それが無いことにノワールが気づく。わざわざ地面を蹴っ
﹂
﹂
てまで空に跳ぶ必要はないはずだ。
﹂
﹁ノワール、来るよ
﹁ええ
﹁アクセル・ストライィィク
!
45
!
逆らったら、殺される。そんな脅迫概念がネプギアにはあった。
!
ノワールが口に出さないツッコミを入れている間に、ブラッドソウ
!?
!
!
都合二度目のアクセル・ストライクによって蹴り飛ばされたバル
ド・ギアが真っ直ぐネプテューヌ達の前に落下してくる。胸部は大き
く歪み、肩部のレドームも損傷を負って中身が見えていた。だが、今
は気にかけている場合ではない。
殺らなければ、殺られる︵エヌラスに︶のだから。背水の陣とも言
﹂
うべきか、後が無いネプテューヌ達は力を振り絞る。
﹁クロス・コンビネーション
﹂
〝ネプギア⋮⋮
〟
︽よそ見している場合か︾
﹁お姉ちゃん
テューヌの小柄な身体を吹き飛ばす。
腰 を 落 と し、背 部 バ ー ニ ア を 瞬 間 的 に 吹 か し た タ ッ ク ル が ネ プ
わりでネプギアがネプテューヌと切り結ぶバルド・ギアへ接近した。
撃を防ぐも、腰部バーニアを損傷する。切り抜けたノワールと入れ替
からノワールが回りこむ。咄嗟に転送した腕部シールドが最後の一
斬り込むネプテューヌの連撃にバルド・ギアが押し込まれ、その横
!
〝今、頭撫でて⋮⋮
〟
頭に一瞬だが置かれた手が、わずかに揺らぐ。
焦燥に駆られていた。
愚かと蔑むのだと。だが、ネプテューヌの思いとは裏腹に、その眼は
そして││目が合う。それが呆れと殺意がまぜこぜになって自分を
プテューヌの身体が不意に抱き留められた。ブラッドソウルの横顔、
スローモーションのように進む時間の中で、妹の窮地を見ていたネ
転送して交差するように切り払う。
電。粒子が飛び散る中でバルド・ギアが左右の手にビームサーベルを
サーベル同士の衝突。反発しながらも繰り返しぶつかる火花と紫
!
﹁ねぷっ
﹂
と鞭、である。
そう思った次の瞬間にはネプテューヌが突き飛ばされていた。飴
?
アの前に振り上げられたビームサーベルが振り下ろされるのを。
46
!
尻餅をついて、ネプテューヌは見た。今まさに窮地に陥ったネプギ
!
〟
﹂
どれほど口で騙ろうとも、お
そして、その間に光速の踏み込みで身体を潜り込ませるブラッドソ
ウルの背中を。
︾
︽││そうだ。お前はそういう奴だ
前は
﹁〝迅雷〟
﹂
きた。ノワールはネプギアをかばうように押し倒す。
背筋に走る悪寒と、〝危険〟だと全身の細胞が総動員して警告して
の居合はもはや剣術の域を超えた一撃を可能とする。
るのはバルド・ギアただ一人。必殺にして不可避の光速を超えた神速
溢れる電圧が物言わぬ殺意として威圧感を放つ。その眼光が捉え
﹁││抜刀術・壱式﹂
対敵を捕捉。
正面で横一文字に納刀すると、両腕に紫電が迸る。腰を深く沈め、
いた刀の鞘。
右の手には新たに日本刀が召喚される。そして、左手には撃鉄の付
﹁〝超電磁〟││﹂
レールガン
ギアがその横をすり抜けてノワールと共にバルド・ギアを逃さない。
スを崩し、それを押し返したブラッドソウルが武器を転送する。ネプ
背部バーニアに走る横一文字の亀裂。急激に落ちた出力にバラン
﹁私を忘れてもらっちゃ困るわね﹂
不意に衝撃に襲われた。
ウルもろともネプギアを斬ろうと出力を上げたバルド・ギアの身体が
ロングバレルリボルバーと偃月刀を重ねて攻撃を防ぐブラッドソ
〝この状況でノリツッコミ
﹁口で言っても身体は素直でな。って、やかましいわ
!
テューヌの姿。真っ白な無地のパンツが丸見えである。
││バルド・ギアの背後には間抜けにも尻餅をついたままのネプ
今まさに抜き放たれんとする必殺の一撃。
!
47
!?
!
!
e p i s o d e 8 レ ベ ル 上 げ が 面 倒 で 逃 亡 を 繰 り
返して後悔するボス戦
⋮⋮いや、はっきり物申してしまえば、これだけ万全を期した上で
〝外す〟という事自体あり得ないのだが、起こりえるはずがまったく
ないのだが。
結果から言ってしまえば、誰がどう見てもそれが外したものだと認
識できてしまう以上認めざるを得まい。
バルド・ギアは健在だった。直撃は免れた││と、いうよりは意図
してブラッドソウルが外した││とはいえ﹃超電磁抜刀術・壱式﹄を
食らって左腕と脇腹がまるごと消し飛んでいる。
荷電粒子を圧縮し、その臨界点に到達と同時に抜き放つ抜刀術。そ
の外観から剣撃だと高を括って余裕を見せた相手が抜刀の瞬間には
上半身ごと消し炭にしてきた。それこそは必殺だった、現時点でエヌ
ヌ
ラ
ス
48
ラスが持ちうる最大火力と言っても差し支えない必殺技だったのだ。
エ
よりにもよってそれを外したとあっては痛恨のミスである。そも
そも外すはずがない。ところがどっこいこの野郎はよりにもよって
外してしまったのだ。
︽⋮⋮⋮⋮︾
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
奇妙な沈黙が流れた。抜刀と同時に解放された荷電粒子のプラズ
マ砲による〝砲撃の爪痕〟は、地面を黒く焦がしている。その直線上
にあったのはバルド・ギアの左半身。そして生い茂る緑の木々達。│
│もし、万が一。ここで決着を着けるつもりであったのならばその上
﹂
︾
体がまるごと消えていたはずだったのだ。背後に控えるネプテュー
ヌの頭ごと。
︽なぜ、外した⋮⋮
﹁手元が狂ったんだよ
に自動式拳銃と回転式拳銃を召喚してバルド・ギアを狙う。背中に新
半ばやけくそになりながらブラッドソウルはまだ紫電の奔る両腕
!
?
たにジェットパックを背負うとすぐさま急上昇して魔弾から回避し
ようとするが白銀の追尾弾だけは残された右腕の腕部シールドで
しっかりと防ぎきる。これ以上の交戦でバルド・ギアに勝機はない。
﹂
︽やはり、貴様は危険すぎる⋮⋮此処は退かせてもらうぞ︾
﹁二度と来んな
馬鹿正直な本音だった。それにちょっと傷ついたのか︽いや、それ
は⋮⋮︾と口ごもっている。
﹁これ以上俺の邪魔するようならマジでスクラップにすっから覚悟し
とけ﹂
銃口を突きつけて警告するブラッドソウルに、バルド・ギアが小さ
く頷いた。
トランジション
︽だが、私の目的は果たした。貴様がそれだけの強気でいつまでいら
れるかな︾
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
︽あと何回、〝 変 神 〟できるか││︾
﹁││テェメェェェェェ
ラス
︾
︽貴様がシェアエネルギーを消費し切ったその時にまた来るぞ、エヌ
れた。
激情のままに撃ち出される呪術を込めた弾丸は全て避けられ、防が
れしか方法がないのもまた事実である。
た。だが、誘いに乗るしかなかったのだ。あの場を切り抜けるにはこ
それは、本気の絶叫だった。それこそが目的なのは分かりきってい
!!
尾を引いてその場から姿を消した。超加速が可能とする長距離巡航
形態。引き出しの多さがバルド・ギアの特徴であり最たる長所であ
セコい真似しやがって﹂
る。それをただ見送ることしか出来ないブラッドソウルは憎らしげ
に青空を睨むばかりだ。
﹁⋮⋮けっ、クソが⋮⋮
を走り抜けてネプテューヌがネプギアとノワールに抱きつく。
変神を解いて、ブラッドソウル/エヌラスは首を慣らした。その横
!
49
!
全身にクリアー成形された羽根を展開するなりバルド・ギアは光の
!
﹂
さっきのあれで﹁もしかして私ごとやっ
﹂とか思って軽く失禁しそうだったよー
﹁うわぁーん怖かったー
ちゃう気
!
!
これほど主人公の
私だけ投げられたり下着かわいくないとか批
判されたり名前間違えられたりしてるんだよ
!?
んだよ
﹂
乙女心はデリケートゾーン並に丁重に扱っても
﹁お前全部気にしてんのかよ
﹁当たり前でしょ
!
﹂
!
﹁わぁ、殺風景﹂
﹁うっせ﹂
﹁素直な感想言っただけだよ
﹂
ないのはそのせいかもしれない。
ているのか荷物は邪魔にならない程度の量だ。此処が見つかってい
てあるのは毛布に携帯食料とキャンプ用品が数点。身軽さを重視し
ターが住み着いていたらしいが、今は綺麗さっぱり跡形もない。置い
エヌラスが拠点にしているという場所は洞窟だった。元はモンス
戻ってしまおうと提案するエヌラスに三人はすんなりと頷いた。
何はともあれ、周囲に敵の追撃はないようだ。今のうちに拠点に
﹁そこで突き放しちゃうとかちょっと困るよ私
﹁テメェのデリケートゾーンがどうだろうと興味はねぇけどな﹂
らわないと﹂
﹂
扱いが地上最強の五歳児に出てくるうさぎのぬいぐるみ並の扱いな
!
﹁だってひどくない
﹁そうね、それはそれでドン引きは禁じ得ないわ⋮⋮﹂
﹁お、お姉ちゃん⋮⋮そういう報告いらないから⋮⋮﹂
!?
た。その三人を見比べて、エヌラスが顎に手を当てる。それから、残
適当な場所に腰を下ろして、ようやくネプテューヌ達が落ち着い
けだから、仕方ないんじゃない﹂
﹁まぁそうよね。一人で動いてるなら食料とかも最低限の量で済むわ
﹁俺も思ってんだから言うなよ⋮⋮﹂
?
﹂
50
!?
!?
りの携帯食料を見てやれやれとため息を吐いて三人に水を渡した。
﹁
?
﹁アナタは
﹂
﹁今夜の食料採ってくる。携帯食料だけじゃ足りねぇからな。おとな
しく待ってろよ﹂
そう言うなりその場を後にするエヌラスを見送ったネプギアが顔
﹂
を赤らめながら手を挙げる。
﹁ん。どうした、ネプギア
﹁え、ええっ
も、森の中で
﹂
かないところで適当に済ませてくれ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮あー⋮⋮⋮⋮その、なんだ。スマンがそれについては、人目の付
ちゃって⋮⋮﹂
﹁あ の ⋮⋮ そ の ⋮⋮ 落 ち 着 い た ら な ん だ か、ト イ レ に 行 き た く な っ
?
!?
﹂
!
だった。
﹁じゃあじゃあ、今までエヌラスはトイレとかどうしてたの
﹂
﹁タレントだってトイレ行くだろ﹂
﹁タレント
﹁そこら辺で済ませてた﹂
たりするの
﹂
!?
裏とかで﹂
い。拠点で漏らされても困るしな﹂
﹂
﹁そうそう誰か来るような場所じゃないから、早いところ済ませてこ
る言葉を選んでいた。
スに飲まれかけていたのを咳払い一つで取り戻すと、ネプギアに掛け
ボケたりツッコんだりとエヌラスも忙しい。ネプテューヌのペー
﹁楽屋裏⋮⋮
﹂
﹁まぁしょうがないよね。女神様だってトイレくらいいくもん、楽屋
﹁お前別にそこ掘り下げることじゃなくねぇ
﹂
﹁え、じゃあもしかして野生動物のとかに混じってエヌラスのもあっ
?
羞 恥 で 顔 を 赤 く す る ネ プ ギ ア。年 端 も い か ぬ 少 女 に は 酷 な 注 文
﹁う⋮⋮うぅ∼∼⋮⋮
てか。生憎とそんなもん持ち歩いてねぇんだ﹂
﹁しょうがねぇだろうが。それとも何か、携帯トイレでも持ってろっ
!?
!?
51
?
!?
?
﹁は⋮⋮はいぃ⋮⋮ぐすっ﹂
﹁⋮⋮なんか、すまん﹂
泣かれても困るのはエヌラスだって同じだ。そもそもネプテュー
ヌ達が一方的な迷惑を掛けているのだからこれでもまだ譲歩してい
る方だろう。そもそも誰かを気にかけている暇などないはずだ。
たった一人で戦場の最前線に乗り込んでいるエヌラスの目的が分
からないが、少なくともエヌラス自身は外見ほど凶悪な人ではない。
もしかするとお約
残されたネプテューヌがノワールの制止を振り切って拠点の中を調
べて回る。
﹁ちょっと、ネプテューヌ。やめなさいよ﹂
﹁えぇ∼だってさぁ。こんなとこに男一人だよ
?
﹂
読むの
﹂
束で良い子に見せられない本の一冊や二冊くらい見つかるかもしん
ないじゃん
﹂
﹁それ、見つけてどうするつもり
﹁うぅん、考えてない
?
悪気はないのだろうが如何せん疲れているノワールも止めるのは
口だけで留めていた。
52
!
?
?
e p i s o d e 9 ベ ッ ド の 下 と ク ロ ー ゼ ッ ト は 男
の秘密の花園︵R︶
エヌラスに付いていくネプギアが太ももを悩ましく擦り合わせる。
考えうる限り、最も人目につかない場所で、かつ何かあったらすぐに
駆けつけることができる場所を見つけてネプギアに背を向けた。
﹁あ、あの⋮⋮絶対。絶っ対。絶っ⋮⋮、対に。見ないでくださいね﹂
﹂
﹁誰が見るか。そういうのに興味が無いわけじゃないが好き好んで見
たいとは思わん﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁見 ね ぇ よ
目を潤ませながら上目遣いで必死に睨むネプギアに念を押してエ
ヌラスはその場を離れてため息を漏らす。何が楽しくて子守なんぞ
しなければならないのか。それもあんな真面目で清楚で可憐で純粋
な乙女を。
すぐに考えを振り払い、倭刀とレイジング・ブルを召喚して今夜の
食料探しに精を出すことにした。この近場であれば適当な食材が見
つかることだろう。
ネプギアは周囲をこれ以上ないほど注視して、耳を澄ませる。呼吸
音の一つでもあろうものなら斬りかかる覚悟だ。気配もない。近く
にエヌラスが潜んでいないかも周囲の茂みをかき分け、木々の枝も見
上げて厳重に警戒して本当に動物一匹いないことを確認した上で胸
を撫で下ろす。
〝早く済ませて、戻ろ⋮⋮〟
再三確認しても誰も見ていない。なるべく茂みの近くに姿を隠し、
パンツを下ろそうとスカートの中に手を潜り込ませた。
エヌラスの前に現れたのは、野犬だった。まぁ食えないこともない
だろうが、これを捌くとなるとそりゃもう食欲がどうとかではない。
コイル
適当に追い払うことにした。それから川の近くまで来て、釣りをしよ
うかと思ったが道具がないので〝電導〟を回して魚を適量捕獲する
53
!
ことに成功。
〝調味料ねぇけど焼けば食えるだろ〟
そして、ふと顔を上げると川の対面に大きな影が立っていることに
気づいた。それは、なんとも言えない間抜けな顔をしたモンスター。
森の中に生息する、名称は﹁べまモン﹂。総じて顔がキモいほど美味と
噂されている。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
サイズも上々。そしてキモい。どう形容したらいいか分からない
ほど邪悪な醜さは一周回って真顔でキモい。とにかく、キモかった。
メス豚のアクメ顔の方がまだ賞賛されるレベルのキモい顔にエヌラ
スは無表情でレイジング・ブルのハンマーを起こす。とりあえず顔面
を 耕 す こ と を 最 優 先 事 項 と す る。夢 に 出 そ う だ。と い う か 出 る。間
違いなく悩ませるレベルのキモさ。だが、身の危険を野生の勘で感じ
に
か
く
キ
モ
い
!
が固定されていてむしろ顔を見ない分背後から襲いかかった方がい
逃すか晩飯ぃぃッ
﹂
いのではないだろうかと思う。だが、呆然と見逃している場合ではな
い。
ア ク セ ル・ コ イ ル
﹁〝電導加速〟
!!
どうにでもなりやがれェ
〟
!
⋮⋮。
〝ええい、背に腹は変えられねぇ
!
これは来た道を戻るのではないだろうか││ということは、つまり
木の幹を足場代わりにして跳躍するエヌラスが、ふと気づく。
!
54
取ったのか、丸々と太った全長二メートルほどのキグルミじみた体型
のべまモンは小走りで川を飛び越えるとエヌラスの横を通り抜けよ
と
う と す る。横 顔 も キ モ い。走 り 方 も キ モ い。な ん と い う か も う こ の
生き物は﹁この世全ての醜さ﹂を背負う事を運命づけられて生まれた
﹂
﹂
んじゃないだろうかと思えるほどの確信がもてるキモさだった。
﹂
キモッ
﹁って、待てやゴルァァァァァァッ
﹁⋮⋮
﹁ちょっおま、早ッ
!?
ホバー移動と見紛う足の動きで走り去ろうとするべまモンは上体
!?
!
例え変態呼ばわりされようがこの際一向に構わん
﹂
べまモンの追跡を始めた。
﹁⋮⋮
エヌラスは
のモンスターが現れて恐慌状態一歩手前までネプギアは理性を手放
堪えていたダムが堰を切る││その瞬間、横顔が形状しがたい醜さ
部。
ろうとそそくさとパンツを下ろしてその場に屈んだ。露わになる局
パンツに掛けた手を止めて、ネプギアは周囲を見渡す。気のせいだ
!
すごくキモい
なに、なになになになんなんですか
しそうになった。心臓が跳ね上がり、思わず排泄が止まってしまう。
〟
〝キモい
アレ
!
﹂
マズルスパイクが顔面の骨格を粉砕し、更に撃ち込まれた弾丸が真っ
隠れていたバヨネットを展開して、べまモンの眉間に突き立てる。
それが悲鳴を抑えこむこととなる。
らこみ上げてくる吐き気に青ざめ、口を手で覆い隠す。││結果的に
ガックリと膝を着いたべまモンの目がネプギアと交錯した。胃か
げることがいよいよ出来なくなる。
タムが今度はべまモンの足を撃ち抜いて機動力を削いだ。これで逃
のそれになっている。再度、火を吹いたレイジング・ブルマキシカス
ネプギアの頭上を飛び越えたのはエヌラスだった。その顔が狩人
その胴体に二発撃ち込まれてべまモンがよろよろと後退る。
ラッター映画の収録を生本番で参加させられている状況だ。次いで、
更にそのガン開きの左目が鮮血をまき散らして爆ぜた。もはやスプ
振り返ったその顔を見てネプギアが思わずすくみ上がった。だが
﹁ヒィィィッ
ントコールを全力で抗議したくなるに違いない。
涯を費やした相手では一度限りの鉄砲玉でも地獄で閻魔にノーカウ
く狩猟用としての務めを果たした。とはいえこのようなキモさに生
%した自然が生みだしたべまモンの背中に五十口径の弾丸が、ようや
腰を抜かしてへたり込むネプギアの前で正体不明の醜さを凝縮百
!
!?
55
?
!?
﹂
赤な花を開く。反動で引き抜くと同時に氣を込めた倭刀で左腕を切
り落とし、高々と右足を振り上げる。
﹁ア・ク・セ・ルッ、インッパクトォォォッ
そうとする。
﹂
﹁えっ、や⋮⋮嘘、待って、ダメ⋮⋮
﹂
えていた手が緩やかに下ろされ、慌てて丸出しになっていた局部を隠
を完全に下ろして腰を抜かしているネプギアに気づいた。口を押さ
謎の達成感と満足感に無邪気な笑みを浮かべたエヌラスが、パンツ
﹁││││││││││││﹂
﹁はぁ。よっし、これでオーケー⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
払う。
のシリンダーをスイングアウトして、血糊の付いた倭刀の汚れを振り
きっかり装弾数五発を撃ち切ったレイジング・ブルマキシカスタム
内だった。
話、エヌラスは超電磁抜刀術・壱式〝迅雷〟で消し炭までが許容範囲
レールガン
る人間が出ることから一部で珍味として扱われるレベルで。正直な
キモいのがべまモンなのだ。そのキモさから、一目見た瞬間に気絶す
んでもないが、そう叫びたくなるのもまた否めない。それほどまでに
││いや何言ってんだこの野郎はと言いたくなる気持ちは分から
﹁悪は去ったッ
を浴びてエヌラスが満足気に髪をかき上げた。
発四散する。ベシャベシャとぶちまけられる臓腑と骨格、その返り血
べまモンはどこから首でどこから寸胴なのか分からない上半身が爆
恐らく、本日放った技の中で一番の殺意を叩きつけられた。哀れ、
!!!
﹂
!
初から最後まで。
都合、十数秒にも渡るその小水を見てしまった。一部始終、全部、最
部は排泄の一部始終を包み隠さずエヌラスの前で済ませていった。
シャアァァァ⋮⋮。まだ陰毛すら生える気配のないまっさらな秘
﹁やっ、だ⋮⋮ァ⋮⋮止まって、よ⋮⋮
再開される。滴が溢れ、それは勢い良く地面に染みていく。
ネプギアの切なる願いもむなしく、途中で寸止めされていた排泄が
!?
56
!!!
﹁⋮⋮⋮⋮ごめんな﹂
エヌラスは思わず素の声で謝ってしまう。罪悪感の塊とも言える
ズボンの中で屹立している息子には﹁テメェ節操なさすぎやしない
﹂
か﹂と言いたくなるが﹁男なんてそんなものだ﹂とギンギンに物語っ
ている。
﹁ひっ⋮⋮ひぐっ⋮⋮えぅ⋮⋮
もうどうしていいか分からなくなってパニック状態のネプギアが
泣きじゃくる。その顔を見て性的衝動に駆られ、自分がどうしようも
と
し
なく浅ましいケダモノなのだと自己嫌悪に陥った。だがしかし、一度
そこまで考えて、馬鹿馬鹿しくなっ
服を脱いでさえしまえば身体を重ねることに出会った日数も年齢の
差も無いのではないだろうか
た。自分がそうでも、そんなことをされたいたいけな少女の心にどれ
ほど深いキズを作ることになるか。生涯引きずることになるであろ
ひ
た
す
ら
に
キ
モ
い
う心的外傷を植え付けるつもりはない。いやもう手遅れかもしれな
いけれど。
やはり、べまモンとは﹁この世全ての醜さ﹂を背負った罪深きモン
スターなのだろう。貴様の生まれた価値など死んだ後の肉片でしか
ないというのに。
57
!
?
e p i s o d e 1 0 苦 労 し て 倒 し た ボ ス の 後 に 続
くボス戦は勘弁
なんと声を掛けるべきだろう。とにもかくにも武器を転送して丸
腰に戻る。泣き止むのを待つにも手持ち無沙汰でなんとも良心の呵
責が辛い。
﹁⋮⋮あー、っと。ネプギア﹂
﹁ひぅっ⋮⋮えぐっ⋮⋮ぐすっ﹂
謝罪する以外に言葉が思い浮かばない。まったくと言っていいほ
ど。
﹂
﹁とりあえず、パンツ穿いてくれ⋮⋮﹂
﹁ふぇ⋮⋮
いまだ丸出しの乙女のデリケートゾーンの白さが眩しい。血しぶ
きを浴びた自分とは大違いだ。どうりで生臭いと思ったらべまモン
を構成していた臓物その他諸々が周囲にぶちまけられている。思わ
ず顔面を跡形もなく踏み潰してしまったが、もう少しスマートに殺す
べきだった。
﹁⋮⋮⋮⋮∼∼﹂
見られたくなかったのは用を足している姿だったが、それは裸を見
られるに等しい。次第に落ち着きを取り戻しつつあるネプギアが耳
﹂
まで紅潮していく。パクパクと口を開き、声も出なかった。
﹁ぁ⋮⋮あ⋮⋮
〝あ、やべ〟
﹁き││││﹂
い。
〝敵に気づかれたらどうすんだ
頼むから落ち着いてくれ
〟
!
取り戻そうとする。周囲を見渡すエヌラスが、先ほど自分のやらかし
コクコクと頷くネプギアが鼻水まで垂らし、それでも懸命に平静を
!
せる。普通、返り血を浴びた黒ずくめの男に接近されれば誰しも怖
悲鳴を超えた絶叫を叫ばれそうになるのを口を押さえ込んで黙ら
!
58
?
た最大威力のアクセル・インパクトで誰かくるんじゃなかろうかと、
今更ながらに冷や汗を拭う。しかし、機人が来なかったのは奇跡に近
い。
﹁⋮⋮あれで誰にも気づかれてないなら、この周囲の部隊は引き上げ
たな﹂
司令塔であるバルド・ギアが撤退した以上、相手方も長居するつも
り は な か っ た の か 森 の 静 け さ を 取 り 戻 し て い る こ と に 気 づ い た。
深々と嘆息したエヌラスは恐る恐る手を離した。ネプギアも会話が
﹂
できる程度には落ち着きを取り戻しつつある。
﹁えー⋮⋮と。⋮⋮大丈夫、か
﹁は、はい⋮⋮ぐすっ﹂
﹁怪我、は⋮⋮ないよな﹂
﹁はい⋮⋮﹂
心の傷、とはあえて踏み込んで言わない。エヌラスがネプギアの当
惑した表情に肩を落とす。
﹁⋮⋮とにかく、すまん。俺がもう少し周り見るべきだった﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮なんだよ﹂
﹁えっ。いえ、あの⋮⋮﹂
穏やかな口ぶりでネプギアを気遣っていることに気づき、今度はエ
ヌラスが青ざめた。思わず素の声が出ていたことに顔が引きつるも、
落ち着きを取り戻す。しかし時既に遅し、ネプギアからの視線が柔ら
かい。
﹁気遣ってくれてるんですね﹂
﹁そりゃ、まぁ、そうだが⋮⋮とにかく、用が済んだなら戻るぞ﹂
﹁あ、はい⋮⋮﹂
﹂
﹁晩飯持ち帰らねぇとな⋮⋮﹂
﹁えっ、食べるんですかアレ
げだ﹂
キ
モ
イ
そう言いながらエヌラスは倭刀で今は顔亡きべまモンを解体し始
59
?
﹁そうでもなけりゃ殺してねぇよ。あんなんこっちから全力で願い下
!?
ほらコレコレ
﹂
めた。それを見ていたネプギアの目から光が消えていく。
﹁おぉ、見てよノワール
!
﹁フリ
﹂
﹂
﹂
!
﹂
?
﹁⋮⋮⋮⋮ぅわぁ﹂
﹁なにその顔⋮⋮⋮⋮ぅゎ⋮⋮﹂
﹁SAN値下がりそう⋮⋮﹂
﹁下がってるわね、確実に⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
お
ふらふらとした足取りで最愛の姉に身体を預ける。それにただ事で
表 情 の エ ヌ ラ ス と 目 の ハ イ ラ イ ト が 消 え た ネ プ ギ ア が 戻 っ て き た。
キャイキャイ騒ぐネプテューヌとノワールを見て、げんなりとした
!
沈黙。
﹂
﹁触手とか出てこなくてよかったね、ノワール
﹁うるさいわよ
﹂
な分類の書物。ネプテューヌは即座に本を閉じて元の場所に戻した。
ていた。コレはエロ本ではない。魔導書、それも明らかに暗黒神話的
ガリガリと削れるような支離滅裂な外宇宙言語の怪奇な挿絵が入っ
覗きこんだノワールも心底顔を歪める。目を通しただけで正気度が
そこには大人しか読んじゃいけない自主規制な内容かと思いきや、
わー
ラージュと思い込んで本を開いたネプテューヌの顔が曇った。
ネプテューヌの手にあるのは一冊の書物。無地無名の本をカモフ
﹁フリじゃないってば
﹂
﹁言うけどね、やめてよ
﹁⋮⋮旅は道連れって、言うよね
﹁それで私までとばっちり喰らいたくないんだけど
﹁大丈夫だって。ちゃんと元の場所に戻しておくから﹂
れるわよ﹂
﹁ちょっとネプテューヌ。本当にやめなさいってば。エヌラスに怒ら
!
?
﹁今戻ったぞ。って、元気だなお前ら⋮⋮﹂
!?
60
!
?
﹂
はない様子を悟った二人の目に殺意が宿る。
﹁ちょっと、ネプギアに何したの﹂
﹁何もしてねぇよ⋮⋮﹂
﹁嘘言わないで。ネプギア、何があったの
﹁何もしてねぇょ
﹂
られた感じの反応⋮⋮
﹂
﹁こ、これはもしかして⋮⋮
﹂
上も下もいいようにされて弱みを握
﹁うふふ⋮⋮お姉ちゃん、世界って広いね⋮⋮﹂
!
段登るなんて⋮⋮﹂
私 の 方 が お 姉 ち ゃ ん な の に
!
﹁お姉ちゃん⋮⋮﹂
﹂
﹁ず る い
しょ
ロ リ コ ン な ら 私 か ら で
﹁あぁ⋮⋮そんな、ネプギアが⋮⋮ネプギアが私よりも先に大人の階
﹁なんでアナタが涙目になるの
!
!
!?
!?
すッ
レー
ル
ガ
ン
〝超電磁〟抜刀術││
﹂
!
るからこの閉所でそれはダメェェェェェ
﹂
ごめん、ホントごめん 調子乗ったのは謝
!?!?!?
食料は獲れたのかしら
題を切り出した。
﹁そ、それで
エヌラスってやっぱこういうのに慣れてるの
﹁おぉ、アウトドアって感じ
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
やっぱり串に刺して丸焼きにしちゃ
あぁ。四人で食う分には十分な量だ﹂
?
﹁いや、俺がこれ以上の調理方法知らないだけだ﹂
う感じかな
!
﹁ん
﹂
半泣きというよくわからない状況を落ち着かせる為にノワールが話
アをひしと抱きしめて身体を寄せ合う。何故かその場にいた全員が
紫電の奔る鞘を召喚して構えるエヌラスにネプテューヌがネプギ
!?
﹁わぁぁぁぁぁぁぁ
!
﹁たとえ俺が命刺し違えてでも今ここでテメェだけはぜってぇぶっ殺
!
?
だろ⋮⋮﹂
﹁え∼と、ごめんエヌラス。私にやらせてもらっていい
アナタ、あ
﹁なんでいきなり不安そうな顔になるんだよお前ら⋮⋮食えりゃいい
?
!?
?
61
!?
!!
?
のロボット⋮⋮バルド・ギア、だったかしら
﹂
アレと戦って疲れて
るでしょうし、私達も助けてもらったお礼がしたいし、いいでしょ
﹁ええ、任せなさい﹂
二分過ぎる、任せてもいいか
﹂
﹁その申し出はありがたいな。俺を台所に立たせたくない理由には十
?
?
﹂
私も疲れてるんだけど﹂
あった。
﹁あ、そういえばさ。エヌラス﹂
?
﹁あ、エヌラスの下着だ﹂
退屈しのぎをしているかのように見せかけて。
しながら拠点の中で視線を彷徨わせた。さも、自分が手持ち無沙汰で
と見たのか﹁へー、そうなんだー﹂とネプテューヌは聞き流すフリを
﹁⋮⋮人並みにはな﹂と短く応えるだけに留めている。それに脈あり
ピクリ。一瞬だけ眉を吊り上げ、反応を見せたエヌラスだったが
﹁本。読んだりとかするのかなーって﹂
﹁今度は間違えなかったな。なんだ
﹂
ている。それでも、何故か二人の間に流れる空気は微妙な気まずさが
入らない、というわけでもない。悪い相手ではないというのも理解し
互いの顔を見て、視線がぶつかる。決して嫌なわけではない。気に
〝よりによってコイツとかよ⋮⋮〟
〝私も行けばよかったかな⋮⋮〟
洞窟の中に残されたのはネプテューヌとエヌラスの二人。
そして。
﹁ありがと、ネプギア﹂
﹁あ、じゃあ私が手伝いますね﹂
﹁え∼
﹁何言ってるの。アナタも手伝いなさいよ﹂
﹁じゃあ頑張ってね、ノワール
?
!
﹂
﹁ちゃんと洗ってる。勝手に触るな﹂
﹁あ、エロ本﹂
﹁持ち歩いてない﹂
﹁じゃあ部屋にあるの
?
62
?
﹁読みたいのか
﹁貸すぞ
﹂
﹂
﹂
?
﹂
﹂
いいからおとなしくしろよ、俺も疲れ
さすがの私も怒るよー
﹁気のせいだろ。多分、きっと恐らく。⋮⋮ん
﹂
ひっどーい
な厳しかったっけ
﹁え、無自覚
俺、お前にだけそん
﹁⋮⋮確かにそうだけどさぁ。エヌラス、私にだけなんか冷たくない
﹁お前とは、アレについて話す仲じゃない﹂
﹁じゃあ﹂
﹁⋮⋮いいや﹂
﹁今の、大事なものなの
ヌラスもレイジング・ブルを転送する。
のの眼光に射抜かれて、固唾を飲み込み、そっと元の場所に戻すとエ
そこで、初めてエヌラスとネプテューヌの目が合った。真剣そのも
﹁二度と。それに触るな。いいか﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ネプテューヌ﹂
離れない。
ず、マグナム弾を撃ち出す規格外の拳銃は額にピタリと照準をつけて
釘付けにする。エヌラス自身は見向きすらしていないのにも拘わら
レイジング・ブルマキシカスタムの銃口が、ネプテューヌの視線を
﹁それに、触るな﹂
﹁お。なんか見つけた。エヌラス、これ││﹂
を装って取り出した。
テューヌは話題の核心を突く、先ほどの魔導書を〝偶然〟見つけた風
思わぬカウンターからの反撃。只者ではないと感じながら、ネプ
﹁いや別にいいってば
﹂
﹁そうくるかぁー⋮⋮﹂
?
﹁もう怒ってんじゃねぇか
!?
?
そうこうしている間に、エヌラスの採って来た魚や肉︵詳細不明︶の
63
!
?
てんだよ﹂
!
!
!?
?
?
調理を終えたノワールとネプギアが戻ってきた。火を起こす道具は
あらかじめ持っていたのでそれほど苦にならなかったらしい。
64
e p i s o d e 1 1 全 力 で 駆 け 抜 け た レ ベ ル 上 げ
がセーブを忘れる大惨事
﹁ん∼、美味しい∼。何もつけてなくても自然の旨味が凝縮されてる
天然物はやっぱりそのままでも美味しいわね﹂
ノワールが魚の丸焼きを頬張りながら歓喜の声をあげていた。同
じように串焼きにされている肉︵詳細不明︶を一口食べたネプテュー
ヌの目が輝く。
﹂
私が今まで食べてきたお肉の中でも最上級
ねぇ、これどんな動物のお肉なの
﹁うほぉ∼。美味しい
だよぉ
﹁珍しいんだよね
﹂
﹁ああ。貴重な食材なんだ﹂
﹁⋮⋮美味しいけど、これ何のお肉
﹁ネプテューヌ⋮⋮﹂
﹂
?
﹂
﹁ああ。中でも珍味とされる食料だ﹂
﹁⋮⋮えっと、食用のお肉なんだよね
﹁世の中にはな、知らないほうが幸せな話題もあるんだぞ﹂
!
!
れるバカもいるんだぞ
﹂
で、これ何のお肉なの
﹂
﹁それ、私のことバカって言ってない
﹁美味いか
﹁美味しいよ
﹂
?
?
?
その肉の正体を知っているネプギアとしてはあまり食が進まない。
遣っているであろうことを知っているのはネプギアだけだ。しかし、
を伏せたいらしい。それがネプテューヌとノワールをさりげなく気
奇妙な沈黙が流れる。とにかく、どうあろうとエヌラスは肉の正体
﹁⋮⋮﹂
﹂
﹁世の中には、知らなくてもいいことを知ろうとするカミカゼ精神溢
眼は泣いている子供をあやすように慈愛に満ち溢れていた。
今日一番、優しい声色でエヌラスがネプテューヌに向き直る。その
?
?
﹁⋮⋮知らないほうが幸せだぞ﹂
?
?
65
!
今はもう赤い肉片と化して姉を喜ばせているが、これが、あの、キ
﹂
美味しいよ プリンには劣るけ
モイ生き物の肉だと思うとどれだけの美味であっても食べたいとは
思わなかった。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁あれ、ネプギア。食べないの
ど、すっごく美味しいのに食べないの
﹁あ、うん。ちょっと⋮⋮﹂
﹁そっかぁ﹂
﹁は、はい。すいません⋮⋮﹂
﹁⋮⋮エヌラスって、ロリコン
﹂
││あ、眼が本気だ
﹁今からテメェを八つ裂きにして食っちまうぞ﹂
﹁食べても美味しくないよ
じゃあ、せめて
!?
﹁嫌なら、無理して食えとは言わない。それで我慢できるか﹂
ていた魚と携帯食料を代わりに渡した。
エヌラスがネプギアの手から肉を取り上げると、自分の手元に置い
違いない。
例え少女が如何に少食といえどこれから先の行動を制限するのは間
割り当てられた携帯食料と魚と肉。その一つを胃に収めないのは、
?
﹂
﹂
プギアのプリンは私のもの。つまりそのお肉も私のお肉ってことな
んだから
﹂
﹁じゃあテメェのプリンは俺が力づくで奪ってもいいんだな
﹁極限の暴論を見た
れていく。外見や生態はともかくとして、その珍味と称される程の肉
はまさしく絶品であった。過去の偉人でこの肉を口にしようと思っ
た人物は極限状態の飢餓に窮していたに違いない。そうでなければ
誰が食うものか。もう一度言おう。誰 が 食 う も の か。
改めてこの世界の状況を
?
まだなんにも納得のいく説明されてないの
﹁さて、落ち着いたところでいいかしら
説明してもらえない
だし﹂
?
66
?
?
?
そのお肉一口だけでいいから分けてよ∼、私のプリンは私のもの。ネ
!
そう言う間にもエヌラスの胃袋に程よく火の通った肉が流し込ま
!?
?
!
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
説明を渋っていたエヌラスが怪訝な表情をしていた。
﹂
﹁お前達。まさか本当に何も知らないのか
﹁うん。全然
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ないんだな
あ、ネプギアも同じ﹂
ないんだろ
﹂
そうなんだろ﹂
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ
﹁そういうことだ⋮⋮察しろ⋮⋮﹂
﹃⋮⋮⋮⋮⋮⋮えっ
﹄
﹂
俺の聞き間違いじゃなければ、今そう
それがなに
ゲイムギョウ界
﹂
﹁え、ええ⋮⋮そうよ
言ったのか
﹁はっ
﹁〝ゲイムギョウ界〟なんだけど││﹂
﹁聞いたこと無い場所だな⋮⋮﹂
﹁私はラステイションよ﹂
﹁プラネテューヌだよ
﹁⋮⋮念の為に聞くが、どこから来た﹂
﹁胸を張って言うことじゃないよ、お姉ちゃん⋮⋮﹂
?
!?
﹁⋮⋮アダルトゲイムギョウ界って、聞き覚えとかあったりするか
エヌラスが驚いて、言葉を探している。
?
?
?
異世界。
そう。アダルトゲイムギョウ界という世界。エヌラスが言うには。
﹁あ、あだ⋮⋮アダルトってことはもしかしなくても、その⋮⋮そうい
う⋮⋮﹂
守護女神じゃなくて
﹂
って
﹁まぁ、そうなるな。バルド・ギアも国を治める国王の一人だ﹂
﹁国王
﹂
﹁ああ。まぁ、基本的に男が治める国の方が多いな。⋮⋮ん
いうかなんで守護女神なんて言葉知ってんだ
?
?
?
67
?
?
三人が神妙な面持ちで頷いた。
?
つまり、そういうことらしい。此処はゲイムギョウ界とはまた違う
!?
?
!
?
?
?
﹁えーっ、と⋮⋮実は、私達も守護女神なのよね⋮⋮﹂
ネプギアはまだ女神候補生ではあるが。
﹂
どうだ恐れ入ったかー、どやぁ
プラネテューヌの守護女神、パープルハートとは
﹁⋮⋮オーケー、ノワールとネプギアはわかるがそっちは
﹁何言ってるの
このネプテューヌ様のことだよ
﹂
﹁はんっ﹂
﹂
先鑑みない無駄に行動力のある、かつ真面目とは無縁そうな奴が﹁私
﹁いやまずありえねぇ。お前のようなお気楽で脳天気でそれでいて後
﹁鼻で笑われた
?
﹂
﹂
﹂
﹂
﹂
国を治めてるんですぅ﹂なんて言っても信じない。どうせサボってば
﹂
かりで業務すっぽかして遊び呆けてるんだろ
﹂
﹁く、悔しいけど全部当たってる
﹁ダメじゃねぇかッ
!
!
?
﹁で、でもお姉ちゃんは変身したら凄いんですよ
﹁へぇ⋮⋮﹂
﹁恐ろしいほど無関心
!
﹁まぁ、置・い・と・い・てェッ
﹁ぶん投げたー
!
!?
落ちて、私達も一緒に来ちゃったってわけ﹂
﹁⋮⋮なるほどな。経緯は分かった﹂
﹁あの、私達、元の世界に帰れるんでしょうか
﹁それについては問題ない。すぐ帰れる﹂
?
胸を撫で下ろすネプギアだったが、ノワールは怪訝な表情する。
﹁よかったぁ∼⋮⋮﹂
﹂
その調査に私達三人が乗り出したら、案の定。ネプテューヌが亀裂に
﹁⋮⋮実は今のゲイムギョウ界では奇妙な自然災害が多発してるの。
んのかってことだ﹂
﹁問題は、なんでそんな全年齢推奨のお前達がこの世界に迷い込んで
た。形があったら爆発四散していたことだろう。
それとなく脇に置かれると予想していた話題が壁に叩きつけられ
!?
68
!
!?
!?
!
﹁ねぇ、もしかしてとは思うんだけど││﹂
﹁ゲイムギョウ界の自然災害と、アダルトゲイムギョウ界が何らかの
﹂
関係があるんじゃないか。だろ
最中だ﹂
﹃││エェェェェェエエエエ
﹂
﹄
﹁だ、だだだだだだって、戦争
﹂
﹁ああ。やってんな。どこもかしこも似たような状況だ﹂
﹁一人で最前線荒らしてるって
﹁まぁ、そりゃ一身上の都合だ﹂
﹁世界が滅ぼうとしてるってのに、なんで戦争なんてしてるのよ
おかしいじゃない、他の国に協力を仰いで防ごうと思わないわけ
﹂
!? !?
﹂
﹁じ、じゃあ早くこの戦争終わらせないと。平和条約でも友好条約で
弾き出した。
質問に答える教師の如くエヌラスはノワール達が求めていた回答を
アッサリと、さも当然のように。まるで授業中に投げられた生徒の
てことだな。つまり、お互い戦争の早期終結が望ましい。以上だ﹂
ギョウ界の崩壊がそっちのゲイムギョウ界に影響を及ぼしているっ
界で自然災害や異常気象が観測されているって事は、アダルトゲイム
﹁今はどこの国でも全面戦争の真っ只中だ。だが、恐らくそっちの世
に。もう手に入らない思い出を嘆く。
を隠そうともせず、それが二度と取り返せない宝物であるかのよう
その時だけ、三人はエヌラスの本当の顔を見た気がした。郷愁の念
遠い過去に思いを馳せるように。
﹁⋮⋮それだけは、無理だ﹂
いと。
と。明確な敵意を持って断言する。手を取り合うことだけは出来な
ノワールの言い分に、エヌラスは断言した。それだけは出来ない、
﹁無理なんだよ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮知ってるも何も、今こっちの世界は崩壊に向かってる真っ
﹂
﹁ええ、そうよ。何か知ってるの
?
!?
もなんでも結んじゃえばいいじゃん
!
69
?
!?
!?
﹁生憎と、俺達がやっている戦争はそんな生温くない。白旗挙げても
﹂
旗ごと国を落とさなきゃ話が進まない﹂
﹁どうして
﹁生存競争だよ。サバイバルバトル、バトル・ロワイアル。〝殺らな
きゃ殺られる〟││最後の一人になるまで、条例も条約もクソッタレ
も関係ねぇ﹂
﹁⋮⋮だから、バルド・ギアは貴方を狙っていたのね﹂
ということはエヌラスさんも、私達守
﹁まぁな。仲間も居ない俺は格好の獲物ってわけだ﹂
﹁でも、変身してましたよね
護女神と同じで﹂
﹁俺も国王の一人だ﹂
﹁はんっ﹂
﹂
﹁俺はクールな一
﹁てんめぇ、ネプテューヌ。鼻で笑いやがったな⋮⋮
﹁え∼だってぇ∼⋮⋮エヌラスってアレでしょ
?
?
﹂って感じじゃないの
!
ないよー﹂
達だって味方と協力してたよー
戦争だよー
あのロボット
?
一人で勝てっこ
王だって言うならどうしてぼっちで戦ってるわけ
変身してからの強気な態度とかも何か小物臭するしぃ。それに、国
匹狼﹂って気取っておきながら﹁俺ツエー
!
?
?
ワールが小突く。
〝ちょっと、ネプテューヌ〟
﹁エヌラス。もしかして本当に友達いないの
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ネプテューヌ、貴方ちょっと言い過ぎよ﹂
﹁いや。別に怒ってねぇよ、気にすんな﹂
﹁えっ﹂
仲間も
﹂
?
﹁バルド・ギアは俺の友人だ﹂
葉に声を失った。
ルがその代わりに謝罪しようと口を開こうとして、エヌラスの次の言
てっきり逆上してくるかと思っていたネプテューヌが驚き、ノワー
?
さ っ き の お 返 し と 言 わ ん ば か り に 口 で 責 め る ネ プ テ ュ ー ヌ を ノ
?
70
!?
﹁││││││││﹂
﹁アイツだけじゃない。今、この世界で戦争の指揮を執っている他の
国王もだ﹂
もし。
もし、ゲイムギョウ界で同じような状況になったら⋮⋮武力による
シェアの奪い合いなどではなく、純粋な生き残りを賭けた生存競争で
刃を交える事になったら。
その時自分達は、本気で〝友達〟と呼んだ相手を斬ることができる
だろうか。
ネプテューヌには、思い浮かばな
ノ ワ ー ル を。ベ ー ル を。ブ ラ ン を。他 の 三 人 を 犠 牲 に し て で も 得
ようと思う勝利があるだろうか
かった。
エヌラスはやってみせた。〝友人〟と呼んだバルド・ギアを〝殺す
気〟で、斬ってみせたのだ。それだけでネプテューヌ達を黙らせるの
には十分過ぎるほどの効果をもたらしている。
自分が勝つために、国民の力を借りる。それは、守るべき者を戦い
に駆り出すという矛盾。守られるべき者達は戦いに赴いて、そして命
を失うこととなる。
それを良しとしないからこそ、エヌラスは国を一人離れて一人孤独
に戦っているのだと気づいて、ネプテューヌは申し訳ない気分で胸が
一杯になった。自分はなんてひどい事を口走ってしまったのだろう。
﹁エヌラス⋮⋮ごめん。私⋮⋮﹂
﹁いいさ。何も知らなかったんだろ。もし、知ってて言ったなら││
今ここで殺してる﹂
ゾッとするほどの寒気に襲われた││それが〝殺意〟だと気づく
のに、エヌラスの瞳を見る勇気はネプテューヌに、ネプギアに、ノワー
ルにはなかった。
﹁⋮⋮今日はもう遅い。明日、お前達を元の世界に帰す為に﹃インター
スカイ﹄に送り届ける﹂
﹁でも、今は戦争中って﹂
﹁戦争中でも何でも、次元を越えた迷い人を自分達の戦いに巻き込み
71
?
﹂
たくねぇよ。大体、インタースカイはバルド・ギアの国だ﹂
﹁そこ、私達が行っても大丈夫なんですか⋮⋮
る。
﹂
﹂
こんな⋮⋮くっついちゃって﹂
どしたのノワール。しっかりくっつかないとネプギアが入る
﹁照れてるの∼
﹁そ⋮⋮そうだけど⋮⋮﹂
スペース無いよ
﹁ん
ノワールがネプテューヌから距離を置いた。
一つの毛布を大きく広げ、三人で身体を寄せあって包まろうとして
﹁ええ。そうよね⋮⋮﹂
かりましたし﹂
﹁で、でもすぐに帰れそうですし良かったじゃないですか。原因も分
よね﹂
﹁アナタは悪気ないんだろうけど、たまにすごく無神経なこと言うわ
﹁⋮⋮私、エヌラスにひどいこと言っちゃったなぁ﹂
していたのだ、灯りのない森の中ではより一層、隠匿性が高まる。
もなくエヌラスの姿が夜の闇の中へと消えた。元々黒一色の服装を
その皮肉じみた笑みが、果たして自嘲であったのかを確認するまで
と一緒に寝るほどケツ軽くねぇだろ、女神様﹂
﹁もう敵はいないだろうが、念のため見張っておく。見ず知らずの男
﹁アナタは
﹂
毛布を投げ渡して立ち上がるエヌラスが武器を召喚して背を向け
﹁今日はもう寝ろ。これ以上話しても疲れるだけだ﹂
﹁不安だなぁ⋮⋮﹂
からないってことぐらいだけどな﹂
なり帰してくれるだろ。問題はそこに辿り着くまで何が起きるか分
﹁大丈夫だ。アイツはアレで良識あるからな。事情を説明すればすん
い。
仮にも自分達は刃を向けたのだ。敵視されていても文句は言えな
?
ほら、ノワールも私の事ぎゅーって﹂
﹁だ、だって当たり前でしょ
?
?
72
?
﹁私は別に構わないよ
!?
?
?
ネプテューヌとネプギアは姉妹仲睦まじく抱き合っている。だが、
ノワールは慣れていないからか中々踏み出すことが出来ない。それ
にやきもきしたネプテューヌが半ば無理やり抱き寄せ、腰に手を回し
た。みるみる顔を赤くするノワールの肩にネプテューヌが頭を預け
る。
﹂
﹁んー、ノワールのいい香り∼⋮⋮むにゃぁ﹂
﹁早っ
││夜の森を見渡すエヌラスが立っているのは、木々の頂上。足場
にしているのは、軽身功で折れずに済んでいる枝だった。人一人の体
重を支えるにはいささか不安の残る太さであっても、素知らぬ顔で成
人男性を支えている。
緑の海。その地平線を眺める瞳がライトアップされている遥か遠
方の都市を眺めていた。
電脳国家﹃インタースカイ﹄││バルド・ギアを国王とするその国
は、優れた転送技術により国内外を問わないシェアを集めている。そ
れを武器に転用したことで軍事国家とは同盟関係にあった。元々仲
の良かった二人だ。その同盟は誰もが予想していたことだったが、よ
もや全面戦争と発展した今となっては敵対関係へと早変わりすると
は誰が予想していただろう。
そして。それを引き裂いたのが他でもなく自分、エヌラスであると
いうことも。
夜空を見上げる。星々の中に祈りを込めても、きっとこの声は届か
ない。
﹁⋮⋮どうしてこんな事になっちまったんだろうなぁ⋮⋮﹂
きっと神は自分を見捨てたのだろう。そうでなければ、こんな│
│。
﹁なぁ⋮⋮聞いてんのか⋮⋮神様よぉ﹂
デ タ ラ メ で。滅 茶 苦 茶 で。荒 唐 無 稽 な 群 像 劇。誰 も 彼 も が 群 雄 割
ワ ー ル ド・ エ ン ド
拠。英雄は誰一人おらず、あるのはただ緩やかに迎える終焉だけ。刻
一刻と迫るのは〝世界の滅亡〟。最後の一人を決める生存競争。
73
!?
││それでも、自分は生き残らなければならない。
絶対 許 さ
ゼッテェ
国を守るためではなく、世界を救うためでもなく、もう一度〝やり
直す〟為に。
﹁⋮⋮ 俺 は 認 め ね ぇ ⋮⋮ こ ん な 世 界 を、認 め ね ぇ ⋮⋮
ねぇ﹂
今度こそ。
74
今度こそ││、みんなでやり直す。
笑顔で迎える未来の為に││。
!
第二章 ネクストゲイム
episode12 鋼の軍神、出撃す
││鋼の鬼神が佇んでいた。まるで地平線の彼方を眺める守護神
の 彫 像 が ご と く 威 光 に 溢 れ て い た。そ の 視 線 の 先。深 淵 が あ っ た。
虚無の宵闇であった。星の浮かばない夜よりも、なお暗い闇黒であっ
た。それを見つめる機械の身体であって、何を思っているのか。物思
いに耽る機人、というのもまた奇妙な話である。だが、彼は正しく夢
を見ていた。かつては人であった名残からその微睡みに身を任せる
ことはしばしばあったが、もはや何も感じぬ肌と鋼鉄に覆われても彼
の魂だけは生き続けている。それは、機械ではなく血の通った一人の
人間としての意識だった。
今、その鋼の鬼神が見つめるのは己の預かる軍事国家﹃アゴウ﹄で
﹂
が燃料の補給と弾薬の補充に駆り出されている整備士としての役割
を担っている。不眠不休の活動を続ける機人達をサポートするのは
専門のメカニック達だ。
それを眺めていた鋼の鬼神もまた、同じ機人の一人であった。ただ
一人、威風堂々と胸を張って国民たちが汗と涙で濡らす仕事場を見下
ろしている。
︽アルシュベイト様。耳に入れたいことがございます︾
そして、彼の背後に現れた濃紺の機人が三人。そのフォルムはアル
シュベイトと酷似していながら、全くの別物だった。腰部に装備した
大型ブースターはその設計が見直され、消音性と出力を重視されてい
る。その内蔵出来る推進剤の量も他の機人達に比べれば遥かに多い。
75
ある。見渡すかぎりの軍事基地では今も不眠不休でアゴウ国民達が
八○部隊が戻ってくるぞ
推進剤の補充急
!
忙しなく駆けていた。
ザ・ビースト
﹁第八デッキ、すぐに開けろ
︾
︽第六六六部隊﹃黒の獣﹄分隊が入れ替わりで出撃
げ
!
!
人間がいた。機人がいた。無人機がいた。武装し、それの誰も彼も
!
これは彼らに与えられている信頼の裏返しでもある。
アルシュベイトの親衛隊﹃トライデント﹄分隊が、反応を見せない
国王の返答を待っていた。だが、その威厳を前にして畏れ多く中々進
︾
言出来ずにいた。しかし、何かおかしいと三人が顔を見合わせる。
︽⋮⋮アルシュベイト様
︽⋮⋮⋮⋮︾
剣を突き立て、その柄頭に両手を置いて眺めているラインの入った
視覚バイザーユニットが輝きを取り戻した。機首を上げて、一度、二
度左右を見渡す。そして、背後に控える三人の姿を見るなり空を見上
げた。
︽⋮⋮スマン。寝てた︾
︽良いお目覚めでしたか︾
︽ああ。⋮⋮懐かしい、夢を見ていたよ。取るに足らぬノイズであっ
たが、今はなき胸が高鳴るような、温かい夢泡沫であった︾
時折、アルシュベイトは忘れたはずの夢を見る。眠ることを忘れた
機人達が、本当に忘れてしまったものを思い出すように。それは、機
人という人種で見れば明らかな欠陥であった。
︽して、何用だ︾
︽インタースカイ国王、バルド・ギア様より通信が︾
︽繋いであるか︾
︽ハッ。先方も急ぎの様子でしたので、お早めに︾
︽ご苦労。下がってよいぞ︾
頭を垂れて、三人が道を開けると、アルシュベイトは地面に突き立
てていた長刀を片腕で持ち上げるなり背負った。超重量による質量
攻撃││それはもはや〝叩き斬る〟という概念から外れて〝叩き割
る〟という表現の方が近い。剛刀であり、機人であるからこそ扱える
超重量の〝刀〟なのだ。これを標準的に装備するという機人は士気
向上の名目である側面が強く、また部隊を預かる者にとっては権力の
表れでもある。
右肩のラックが自動で起き上がり、長刀の背を挟み込んで固定する
と元の位置に戻った。左肩では突撃砲が静かに撃鉄を起こされるの
76
?
を待っている。
アルシュベイトとすれ違う者達は、どれほど急であっても手を止め
て敬礼するとすぐさま作業へ戻った。その道を開けるように次々と
資材が移動されていく。
司令部と呼ぶにはあまりに粗末な場所であったが、仮設テントの裏
でアルシュベイトが通信端末を叩いた。そこには、ひどく損傷を負っ
たバルド・ギアがオンラインで立っている。
︽手酷くやられたようだな、バルド・ギア︾
今一度手を組むという申し
︽人を待たせるとは、流石の貫禄と言ったところかな︾
︽すまんな。それで、要件とはなんだ
出ならば、断る︾
︽いいや違うよ、アルシュベイト。今回は無償の情報提供、それだけ
だ︾
それに︽ほう⋮⋮︾とアルシュベイトが低い電子音を鳴らした。
︽面白い。真偽はこの際二の次だ。聞こう︾
︽エヌラスの所在を掴んだ。いよいよ持って、手詰まりらしい。アイ
ツが、女の手を借りていた︾
︽⋮⋮︾
︽それがまた、意外にも手練で││︾
︽そのザマ、というわけか︾
モニターの向こうではバルド・ギアがやれやれと肩をすくめてみせ
る。
︽お恥ずかしながら︾
その電子音声の口ぶりが砕けたものになっていた。元より旧友で
あったのだ。こうして他人行儀な会話をするほど険悪でもない。し
かし、状況が状況である。互いに努めて情を捨てて言葉を交わそうと
していた。
︽だが、変神を繰り返してシェアエネルギーそのものは低下、もうじき
底を尽くはずだ。後は、貴方に譲るとしよう。護国の軍神と畏れられ
るアルシュベイトに︾
︽⋮⋮奴は、手負いか︾
77
?
︽さぁ。だが窮地に追い込まれていることだけは確かだ︾
アルシュベイトはしばし逡巡して、やがて顔を上げる。表情こそ変
わらないが、その機械の身体であっても尚抑え切れぬ闘志が伺えた。
︽面白い。お前の誘いに乗ってやろうではないか、バルド・ギア︾
︽こ ち ら と し て も エ ヌ ラ ス は 目 の 上 の コ ブ。健 闘 を 祈 る │ │ と は い
︾
え、アダルトゲイムギョウ界最強と呼ばれる軍神殿には、いらぬ世辞
かな
︽それは、俺ではなくアイツに││エヌラスに言ってやれ︾
一瞬だが、和やかな空気が流れる。それは、二人の知っているエヌ
ラスという男についての見解が一致していたからだ。まるで昔なじ
みの悪友を笑うように。
︽アレは、諦めるという言葉を知らん。故に、強い。同時に脆くもあ
る。アイツほど〝人間〟である魂を持つ者はこの世界におらんだろ
う︾
︽違いない。大番狂わせが起きたら、それはそれで盛り上がる。それ
では、アルシュベイト︾
︽吉報を待て、バルド・ギア。我が鋼鉄の友よ︾
通信が切れる。アルシュベイトはその鋼の五指を軋むほど握りし
︾
めて歩く。その足取りは力強く大地を踏みしめていた。
︽聞け、我が誇りあるアゴウの民よ
声を張り上げる。誰もがその一声に手を止めた。
俺は愚直な
││俺はこれより、我が全幅の信頼を置
︽インタースカイ国王、バルド・ギアより入電があった
までにその言葉を信じる
!
!
﹄
︾
我が留守の間、子ネズミ一匹寄せ付けるな
﹄
貴様らの死に場所は、何処だ
最 前 線
フロントライン
りと共に在れ
﹃サー
フロントライン
︽貴様らの墓標は何処だッ
最 前 線 ッ ﹄
﹃オオオオオオォォォッ
︽よろしい。総員、作業に戻れ
﹃サー
︾
!
︾
抜かるなよ
!
へと向かう
己の誇
くトライデント分隊と共に、戦禍の破壊神と畏れられるエヌラス討伐
!
!!
!
!
!!
!
!
!
!
78
?
!
!
﹁アルシュベイト隊長の出陣だ
我らも続くぞ
﹂
︾
我らの戦果をご期待ください 行くぞ
!
!
トライデント
﹄
遅れるな
︾
!
アルシュベイト、出
ある者は手を差し出し、互いの健闘を祈った。
ある者は頭を垂れ、その威光を見送った。
ある者は出撃し、その背を預けた。
ルシュベイトを送迎する。
魂を震わせる程の凱歌だった。アゴウ国民が一丸となり、総出でア
貴様ら、弾薬尽きるまで帰りのチケットは無しだ
︽アルシュベイト隊長っ
!
!
!
︽それでこそだ 我が愛するアゴウの民よ
撃するぞ
﹃イエッサー
!
!
!
腰部ブースターを吹かして、鋼鉄の軍神が跳躍する。
79
!
!
episode13 何事もなかった一夜明け
洞窟の中で毛布に包まっていたノワールがうめき、まぶたを開け
た。楽な姿勢ではなかったとはいえ、それでも十分すぎる休息が摂れ
たのは確かである。身体から抜け落ちている疲労感を確かめるよう
に伸びをしようとして、抱きついているネプテューヌに気づいて声を
出しそうになった。
﹁んにゃ⋮⋮プリン⋮⋮﹂
﹁⋮⋮もう、ベタな夢見てるわね﹂
﹁⋮⋮プリンが⋮⋮エヌラス⋮⋮やめてぇ∼⋮⋮後生な∼⋮⋮﹂
﹁⋮⋮どんな夢見てるのよ⋮⋮﹂
どうやら夢の中でもエヌラスと一悶着あるようだ。二人を起こさ
ないようにそっと離れて、光の差し込む外の新鮮な空気を胸いっぱい
に吸い込む。三人の中でノワールのバストは豊満である。
どこー
﹂
いノワールが、ふと何気なく上を見上げて驚いた。細い木の枝に片足
で立ちながらエヌラスは眠っていたのである。刀を抱きしめるよう
にして、腕を組みながら脇の下にレイジング・ブルを隠すようにしな
がら。
﹂
ああ、なんだ。起きたのかノワール。朝早いんだな﹂
﹁ちょ、ちょっとアナタ。なんてとこで寝てるの
﹁⋮⋮んぉ
!?
高さから音もなく着地する。まるで軽業師のような身のこなしは国
王とはにわかに信じがたい。これならばまだ暗殺者の方が信憑性が
高かった。
﹁寝てたでしょ﹂
﹁そりゃ寝るだろ⋮⋮﹂
夜明け前まで﹂
﹁見張り。してくれるんじゃなかったの﹂
﹁してたぞ
80
昨晩、見張りをすると言って離れたエヌラスの姿が見当たらない。
﹁エヌラスー
?
青々と茂る森の中に、目立つはずの全身黒ずくめの姿は見つからな
?
ふわりと枝から離れると、地面とは優に五メートルはあるであろう
?
?
ノワールが目を覚ましたのは、いつもこの時間帯で目を覚ますよう
に習慣付いていたからだ。それとは真逆にエヌラスはまるっきり夜
型の生活リズムであくびを隠そうともしない。
﹂
﹁ま、五分でも十分でも仮眠さえ取れりゃいいんだよ。顔でも洗うか。
ネプ姉妹は
﹁あの二人ならまだ寝てるわ﹂
﹁んじゃ、俺達だけで行くか﹂
近くで流れる川の水で顔を洗う。パシャパシャと水音が朝の静か
な森の中に響き渡る。昨日までの激戦が嘘のような静けさが不気味
にすら思えた。エヌラスは素知らぬ顔で洗顔を終えると髪をかきあ
げる。
﹁あぁー、やっぱ森の水ってのはいいな。目が冴える﹂
﹁そうね。冷たくていい気持ち。気合が入るわね﹂
﹁朝飯どうすっかな。昨日と同じでいいか﹂
﹁贅沢は⋮⋮言えないわね﹂
さすがに朝から詳細不明の肉という胃袋にヘヴィパンチャー級の
献立は抜きにして、二人が川魚を捕って拠点に戻ると、ネプギアが起
きていた。
﹁あ、おはようございます。ノワールさん、エヌラスさん﹂
﹂
﹁おはよ、ネプギア﹂
﹁よく寝れたか
﹁はい﹂
﹂
﹁⋮⋮どんな夢見てやがんだろうなこいつ﹂
﹁さ、さぁ⋮⋮
﹁ほれー、起きろーネプテューヌ﹂
!
﹁むにゃ⋮⋮あと⋮⋮五分だけぇ⋮⋮﹂
﹁俺の腹時計が五分縮まった。起きろおらぁ
﹂
﹁うへ⋮⋮うへへ⋮⋮エヌラス、プリンまみれ⋮⋮むにゃ⋮⋮﹂
にはにわかに信じがたい寝相である。ヨダレが出ていた。
されているネプテューヌを見下ろす。プラネテューヌの女神という
それは良かった、と言いながらエヌラスは毛布を独り占めしてうな
?
?
81
?
﹁ねぷゃー
﹂
ネプテューヌがくるまっている毛布をトイレットペーパーのよう
に引き剥がされて叩き起こされる。宙で二回転、三回転⋮⋮半、地面
﹂
とキスして最高にハードラックな目覚めとなった。
﹁お、お姉ちゃん大丈夫⋮⋮
い
﹂
﹁なんだか業界の闇を見ているようだよぅ⋮⋮何か明るい話題とかな
リによってある程度は回復したものの、焼け石に水状態らしい。
突き止めて解決するも、大きな波紋を呼んでいた。今では新しいアプ
それが致命的なエラーを吐き出し、急速にシェアが低下。その原因を
並びにバルド・ギアのシェアは桁外れに増幅した。だが、あくる日に
エヌラス曰く、そのアプリケーション開発によってインタースカイ
にいる﹂
﹁いや、それは早計だネプギア。確かにアイツは強い。だが、最強は他
に﹂
﹁す、すごい⋮⋮もしそれが本当ならアダルトゲイムギョウ界と互角
チート。チーターよ﹂
﹁だからバルド・ギアはあれだけの武器を召喚できたのね。チートよ、
﹁俺が武器を自在に召喚出来るのも、その恩恵ってわけだ﹂
アダルトゲイムギョウ界中に広まっている。
ションの開発に尽力。成功を収めて以来、インタースカイのシェアは
ある時からその技術を軍の使う無線から武装の自動召喚アプリケー
エヌラスが言うには、通信技術に優れ、元々近代的な国であったが、
ド・ギアの治める国である。
し、三 人 は 移 動 を 始 め た。目 的 地 は 電 脳 国 家 イ ン タ ー ス カ イ。バ ル
分後。軽めの朝食を摂ってエヌラスが拠点から最低限の物を持ちだ
打ちどころが悪く、結局ネプテューヌが意識を取り戻したのは三十
﹁記憶喪失になっててもおかしくない衝撃だったよ﹂
?
ネプギアが思い出したように肌身離さず持ち歩いていたNギアを
82
!?
﹁あ、でもそれだったら⋮⋮﹂
?
﹂
取り出し、起動する││が、ダメ⋮⋮
﹁な、なんで
圧倒的。圧倒的沈黙⋮⋮ッ
?
﹁エヌラス、何か気分転換に面白い話とかしてよ﹂
﹁今じゃエロアプリで一山当ててるバルド・ギアの話か
﹂
がっくりと項垂れて、太もものホルダーにNギアを落としこむ。
出てる⋮⋮うぅ。いけると思ったんだけどなぁ⋮⋮﹂
﹁あ、ホントだ。お客様の機種ではご使用できませんってメッセージ
﹁ああ。多分、規格が違うんだろ。よくある話だ﹂
!
﹁な ん か 聞 き た か っ た の と 違 う で も な に そ れ す っ ご い 気 に な る
﹂
﹂
﹁エロいほうの内容か﹂
﹁そっちじゃないよ
!
﹁えっ
﹂
﹁⋮⋮変神するのに、シェアエネルギーを消耗するんだよ﹂
エヌラスが押し黙り、間を挟んで口を開いた。
言ってたような気がするわ﹂
﹁そういえばそうね。バルド・ギアが﹃あと何回変神できるか﹄って
うとか言われてませんでしたっけ﹂
﹁あれ。でも⋮⋮エヌラスさん、シェアエネルギーが消耗⋮⋮とか、ど
!?
﹂
?
﹁エヌラスのシェアエナジーが回復できるように私達も協力するから
﹁ちょっと不安です⋮⋮﹂
で仕掛けてくるバカは││心当たりあるが﹂
らいしかいないだろうし。仮に見つかっても、インタースカイの領分
﹁大丈夫だ。お前たちをインタースカイに送り届けるまでは、雑魚く
ている。
神できないエヌラスにとっては致命傷だ。しかし、口をへの字に曲げ
女神化できないネプテューヌ達がそうであるように、この世界で変
﹁でも、変神できないんじゃマズイんじゃない
で我慢してる。それに、そう簡単に回復できるものでもない﹂
﹁ちょっとした理由があってな。不便だが、身から出たサビってこと
?
83
!?
!
!
さ。ネプテューヌさんにお任せだよー
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
﹂
﹁それで、エヌラスのシェアエネルギーってどうしたら回復できるの
かに続く。
押し黙り、またも奇妙な沈黙が生まれた。四人の足音だけが森のな
!
﹁私達の世界だと、普通は国民からの支持によって上下するわね。だ
から努めて不平不満の解消やアピールは欠かさないものだけど﹂
国王││つまりは国を治めている者であるエヌラスも同じものだ
と思っていたが、そうではないようだ。仮に、それで変神が可能なの
だとしたら、戦う都度、国民からの支持が下がるという奇妙な関係に
なってしまう。ノワールには想像がつかず、ネプギアも同じだった。
﹁⋮⋮今一度、現状を整理するぞ﹂
唐突に、エヌラスが口を開く。
﹁お前たちが来たのは、ゲイムギョウ界﹂
﹁ええ。そうよ﹂
﹁それで、守護女神なわけだ﹂
﹁あ、私は女神候補生ですけど⋮⋮そうです﹂
﹁守護女神が変身するためには国民の支持、シェアが必要﹂
﹁うん。そうだよ﹂
﹄
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹃⋮⋮⋮⋮
分かった
ればならない。
﹁あー
﹂
!
﹂
﹁ちょっと、びっくりするでしょネプテューヌ
ないでよ
いきなり大声出さ
ここが何処かと聞かれたら。アダルトゲイムギョウ界と答えなけ
て、エヌラスが問う。
深々と。マリアナ海溝に深く響くような重っ苦しいため息を吐い
﹁⋮⋮で、ここはどこだった⋮⋮⋮⋮﹂
またも奇妙な間隔。
?
!?
!
!
84
?
﹁あ、ごめんごめん﹂
﹁お姉ちゃん、分かったって
﹂
もー、野暮ったいんだからぁ。それならそ
〟
!?
か。そうでなければ、もしかして超電磁ですかァー
レールガン
ネプテューヌ
あの化け物マグナムリボルバーか。はたまたあの赤い自動式拳銃
〝もしかして、物凄く怒ってる⋮⋮
を裏切られて、ネプテューヌが冷や汗を流す。
⋮⋮⋮⋮ は ず だ っ た の だ が。こ こ で も 沈 黙 が 流 れ た。期 待 と 予 想
│と、エヌラスが間髪入れずに反撃する。
﹁おう、そういうことなら服脱いで素っ裸で股開けやネプテューヌ﹂│
うと早く言えばいいのにぃ﹂
か、そんなんでしょー
﹁エロゲとかにありがちな設定でエッチなことしないと回復しないと
?
﹁回復⋮⋮出来ないの
﹁⋮⋮できない﹂
﹂
﹁もしかして、一回変神するのに⋮⋮一回、とかですか
?
か﹂
﹁遅れてやってくるボディブロー
﹂
﹁お、お姉ちゃんじゃなくて私で我慢できませんか
﹂
﹂
﹂
命の恩人だよ
そのおっきい胸でご奉仕だよ
い、嫌よ
﹁頑張って、ノワール
﹁そこで私に振るの
﹁そこまで頑なに拒否しなくてもいいじゃん
﹂
!?
!
﹁それなら言い出しっぺであるアナタがすればいいじゃない
﹂
﹁ところで、ネプテューヌ。お前さっき協力するって言ってなかった
気まずい空気が流れ、顔を赤らめたネプギアが目を逸らす。
﹁いや、そこまで燃費悪くねぇよ。しばらく保つ﹂
﹂
﹁え⋮⋮っと⋮⋮つまり、その⋮⋮ゴニョゴニョ⋮⋮しないと﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮まぁ、そうなんだけどな﹂
うな顔をしていた。
エヌラスが立ち止まって、振り返る。困惑した表情で、バツが悪そ
が殺気に身を震わせる。だが、そのどれでもなかった。
!
!
!?
!
85
?
?
!
﹁へへーん、残念ながら貧乳がステータスである私にそこまでの胸は
!
!
!?
ないんだよーだ、恐れいったかー
はあるんじゃないかな﹂
﹁ふむ⋮⋮﹂
﹂
な、なんで私を見る
あ、ネプギアでも挟めるくらい
﹁どうしてそこで悩むんですかエヌラスさん
んですかぁ
と来てしまう。
大有りだよお姉ちゃん
﹂
﹁くっ、姉でも愛さえあれば関係ないよね⋮⋮
﹁あるよ
﹂
!
﹁あ、でもロリコンだったらもしかして私一番マズイ
!?
﹁正直お前の顔面歪ませたい。骨格的な意味で﹂
﹂
﹂
を守る。それを見ていたネプテューヌとノワールも思わず﹁ムラッ﹂
身体を抱いて、ネプギアが頬を赤らめながらエヌラスの視線から胸
!?
!
!
すごく怒ってるよね
86
!
﹁それ怒ってる
?
!?
!?
episode14 両雄、衝突
ヴィラン
指の骨を鳴らして嗜虐的な笑みを浮かべるエヌラスは悪党そのも
のの風貌でネプテューヌに詰め寄った。
その直後、ネプテューヌ、ネプギア、ノワール。そしてエヌラスの
足元に銃弾が三発撃ち込まれた。完璧なまでの威嚇射撃は同時に着
弾。そして、木々の青さを塗り分けてその三人が跳躍する。
濃紺に染め上げられたカラーリング。三叉槍のエンブレム。見間
違えるはずがない。
︾
やっぱりバルド・ギアから受け入れ拒否されて
軍事国家アゴウ国王アルシュベイト親衛隊、トライデント部隊。
フ リー ズ
︽動くな
﹂
﹁またロボットだ
るよーこれ
﹂
﹁よく見ろ、タイプがちげぇだろうが﹂
﹁ロボットなんて全部一緒だよ
ている。
!
﹁テメェらが来たってことは││来るか、最強﹂
﹂
︽我らが王の御前である。口を慎め、戦禍の破壊神
﹁ほざけ。俺とアイツの仲に口を挟む気か
︾
負う者。だが共通して、その手に突撃銃を持ってピタリと狙いを定め
背中に突撃銃を二挺背負う者。一方に剣を背負う者。両方に剣を背
同一のカラーリングでありながら、三人の装備はバラバラだった。
︽⋮⋮この一発、高くつくぞ︾
手元から離れたショートソードは地面に突き立って消える。
ノワールがショートソードを召喚したその瞬間、一発で弾かれた。
いが分かるまで講 義してやる。楽しみに待ってろ﹂
レクチャー
﹁⋮⋮テメェにはいつの日かスーパーロボットとリアルロボットの違
!
の軍神。
││そして、最強がやってくる。称号を欲しいままに謳歌する鋼鉄
突きつけるに留まった。
その言葉にはトライデントも言い返せなかったのか、銃口を改めて
?
87
!
!?
!
護国の鬼神にして守護神。
軍事国家﹃アゴウ﹄国王アルシュベイトが飛翔する。全身を塗りつ
ぶすダークグレーの機人がトライデントの前に轟音と共に着地と同
時に抜刀。するやいなや、剣を地面に突き立てた。
剣礼││得物を晒して手の内を開示するというアルシュベイトの
礼儀に、エヌラスも則った。倭刀を召喚して地面に突き立てる。
︽なるほど。バルド・ギアからの報告通りだ。三人、それもすべて女と
はな。そうまでして勝ち残りたいか、エヌラス︾
﹂
﹁こっちのセリフだ、アルシュベイト。ご自慢の三叉槍引き連れて散
歩か
︽ぬかせ。だが、我が剣礼に応じたということは太刀打ちを所望か︾
﹁テメェが先に抜いたんだろうが﹂
低く野太い電子音声が笑う。その奇妙な光景がさも当たり前のよ
うに無視してトライデント部隊はアルシュベイトの指示一つで素早
く銃口を下げた。まだ見ぬ強敵との邂逅に歓喜が抑え切れぬのだろ
う。武人としての誇りで胸が震える。
︾
﹁アルシュベイト﹂
︽ぬ
﹁足労してもらって悪いが、そっちの三人は無関係││俺達の、被害
者ってわけだ﹂
︽なんと⋮⋮︾
アルシュベイトの視線がネプテューヌたちに向けられた。その視
覚ユニットが次々と映し出す解析情報のいずれもがエヌラスの能力
に劣っている。とはいえそれは彼女達がアダルトゲイムギョウ界に
馴染めていない証拠だった。
︽秘めたる力はある、がしかし⋮⋮如何せん、お前の言葉を信じざるを
得まい︾
﹁今、インタースカイに向けて移動してる途中でな。テメェとの決闘
﹂
は受けて立つ、だがその代わりにそっちの三人を無事に送り届けて
アナタ何勝手なこと言ってるの
!
やってくれ﹂
﹁ちょ、ちょっとエヌラス
!
88
?
?
﹁そうだよ
私達も手伝うよ
﹁えっ、敗北イベント確定
﹂
﹂
﹁はっきり言うが〝勝てねぇ〟んだよ、この堅物には﹂
!
な︾
﹁⋮⋮ってーことらしい。お言葉に甘えて送ってもらえ﹂
トライデントの三人が顔を見合わせた。
︽アルシュベイト様、ですがそれは︾
︾
︽構 わ ん。も と よ り 貴 様 と の 決 着 は 俺 自 身 の 手 で 着 け る 腹 積 も り で
﹁いいのか、アルシュベイト﹂
するであろう︾
前たちの足ならば、彼女達の細足よりも遥かに速い。昼までには到着
︽お前たちに命ずる。あの三人をインタースカイまで送り届けろ。お
︽ハッ︾
︽││トライデント︾
のはそっちだろうが。分かったら黙って行けよ﹂
﹁四人まとめて死ぬよかマシだ。そもそも俺達の戦争に首突っ込んで
﹁だからって、アナタ││﹂
それが、無性に腹が立つ。
な世界の人間の手を借りようとは思わないらしい。
いる。巻き込みたくないというハッキリとした意思表示だった。別
エヌラスが言っていることは、無関係な自分達を遠ざけようとして
練らなければならないのもまた事実だ。
ていない、一刻も早く自分達のゲイムギョウ界に戻って災害の対策を
まだ不慣れなところがある。この世界での戦いに。まだ三日と経っ
喉まで出かかった怒りをノワールは飲み込む。確かに自分たちは
バカか﹂
﹁分かってるからこそ、足手まといはいらねぇって言ってんだろうが
﹁勝てないって分かってるなら﹂
申し入れを受け入れるのかネプテューヌ達には分からなかった。
ハッキリと断言した。自分は負ける、と。だがそれで、何故決闘の
!?
︽我らの死闘。無関係のものを巻き込むわけには行くまい
?
89
!
︽我ら三人は貴方様に命を捧げた身。それを、無関係と
貴様らにはまだ働いてもらう
︾
それとも、なにか
俺と、奴との太刀打ち。それに身を乗り出して無駄死
するつもりか
︽戯けがッ
!?
?
だ一人だ⋮⋮︾
﹂
﹁⋮⋮エヌラス。私達本当に行っちゃうけど、いいの
﹁ああ。いいからさっさと行けよ﹂
﹂
﹁ホントにホントに、いいの
﹂
﹂
︽勘違いするな、少女達よ。我らの魂が傅くのはアルシュベイト様た
意思表示らしい。
トライデントの三人がネプテューヌ達の前で屈む。﹁乗れ﹂という
︽手間を掛けさせるな、我が誇りの三叉槍︾
︽⋮⋮了解、しました。アルシュベイト様︾
あった。
トライデントの三人が思わず後ずさる。それこそが決定的な敗北で
凍る。あまりに強大で、あまりに熾烈な魂の放つ熱を直に当てられて
鋼鉄に覆われた体躯であっても、その殺意にネプテューヌは背筋が
ならば、撫で斬りにするぞ︾
││あの少女たちを、我らが戦禍に巻き込み、死なせたいと言うか。
!
︽行くぞ、トライデント
︾
︽おい、戦禍の破壊神。せいぜい健闘することだな︾
︽アルシュベイト様。ご武運を︾
背部ラックにしがみつくと、同時に立ち上がる。
ランス03││長刀を二本背負った機人にはノワールがそれぞれ
ランス02││突撃銃二挺を背負った機人にはネプギア。
テューヌ。
ラ ン ス 0 1 │ │ 長 刀 と 突 撃 銃 を 背 負 っ た 三 人 の 隊 長 格 に は ネ プ
の背中に乗るまで一度も振り返らなかった。
中指を立ててまでエヌラスが拒む。だが、三人がトライデント部隊
﹁二 度 と 来 ん な
﹁もう帰ってこないかもしんないんだよ
﹂
﹁しつけぇな、さっさと行け
?
!
!?
!
!
90
!
!
私達││﹂
腰部のブースターを吹かして三人が跳躍した。
﹁エヌラスさん
︾
ネプギアの言葉を遮ったのはネプテューヌの悲鳴だった。
﹂
耳元で大声出すな
!
﹁ゆ、揺れ、揺れる∼∼∼∼∼
︽おいやかましいぞ
!?!?
突撃銃をパージする。
エヌラス
手加減はせ
全身全霊、せいぜい死力を尽くして足掻け
︽だが、この世界をこうしたのは、貴様だ
ん。手心も加えん
!
だかろう
!
!
無名の鬼神であった頃のように
︾
貴様がかつての旧友であってもだ 今一度俺は貴様の前に立ちは
!
!
そこで、アルシュベイトが長刀を担ぎあげ、左肩の背部ラックから
く惜しい︾
︽⋮⋮世界がこうでなければ、共に歩むことも出来たろうに。つくづ
俺の手元に置くには眩しすぎる﹂
﹁ちげぇよ、アルシュベイト。〝だから〟俺は手放した。アイツらは
︽そうだな。惜しい女を手放したな、エヌラス︾
﹁いい奴らだよな。俺が﹁逃げろ﹂って言ってんのに留まろうとして﹂
︽ああ︾
﹁マヌケだろ、アイツら﹂
︽⋮⋮なにがおかしい、エヌラス︾
ヌラスの笑みを見ていた。
緊張感の欠片もなくなった別れの瀬戸際、アルシュベイトだけがエ
!
!
の五指は弄ぶわけでもなくただ〝ゆるり〟と広げて構えている。
﹁ああ、やめろよ昔話なんて。懐かしくって涙が出らぁ⋮⋮。だけど
な、アルシュベイト。俺に、足掻けと言ったのは失策だったな。死に
物狂いで足掻くぞ﹂
︾
︽失策も我が策の内だ。もがき苦しみ抜いた貴様に一度は遅れをとっ
た身だ。此度はそれを乗り越えるための決闘でもある
﹁││いざ﹂
︽尋常に││︾
!
91
!
エヌラスが倭刀を地面から引き抜くと、片手で構えた。空いた左手
!
機 人 と 人 間。国 王 と 国 王。護 国 の 鬼 神 と 戦 禍 の 破 壊 神。互 い に 目
指したものは、明日の笑顔。
そうであった。そうであっても尚、引けぬ道がある。だからこそ、
二人は相見える。
激闘を繰り返し、死闘を演じ、互いの手の内をひけらかしてもまだ
﹂
︾
乗り越えることの出来ぬ障害であり戦友であり無二の親友であり、同
じ夢を見た。
││だからこそ。
﹁勝負、アルシュベイト
︽雌雄を決するぞ、エヌラス
だからこそ、全力でぶつかるだけの価値がある。
92
!
!
episode15 最強の三叉槍
アルシュベイトとエヌラスの決闘が始まった。背後から甲高い剣
戟の音、木々の背丈を越える土煙が上がっている。それがアルシュベ
イトの〝ただの〟打ち下ろしであるということをトライデントの背
私達の世界にもアナタ達みた
に掴まった三人は知らない。その方が余計な心配に気を病む必要も
なくなる。
﹁ねぇ、アナタ達ってロボットなの
憤慨した様子で抗議してくる。
︾
ゼロスリー
︽ロボットじゃねぇ、機人だ。機械人類
て捨てちまったよ
はこれっきりだ
︾
ゼロワン
︽アンタらの世界がどうだか知らねぇが一緒にすんな
︽今まさに、アルシュベイト様からの命令で行動中なわけだが
!
ゼロツー
ス02に尋ねる。
﹂
しかし、その話を聞いて今度はネプギアが興味津々な面持ちでラン
︽⋮⋮だそうだ。嬢さん、悪いが私語を慎めだと、俺達の隊長が︾
︾
俺達のナマ
﹁えっ。じゃあ別にこれの中に誰か入っているわけじゃないの
!
︽作戦行動中でもねぇんだ、いいだろ01︾
﹂
とっくに肉の容れ物なん
ノワールがふとした疑問をランス 0 3に尋ねた。すると意外にも
いな外見の人はいるけど﹂
?
﹁あの、じゃあ貴方達ってどうやって産まれてきたんですか
﹂
︽⋮⋮元々は人間でした︾
﹁へ
?
は伏せさせていただきます。どうか、ご了承ください。我らの中でも
機密情報ですので︾
﹁は、はい⋮⋮そうまで言うなら﹂
〝エヌラスさん。大丈夫かな⋮⋮〟
そんなネプギアの不安を目ざとく感じ取ったのか、ランス02が
93
!?
?
!
︽03。お前、口調が戻ってるぞ︾
!
︽我々が人間であった頃の肉体を捨てたのには理由がありますが、今
?
︽大丈夫でしょう︾と小さく答えた。それに面食らったネプギアが間
﹂
の抜けたな声で答えてしまう。
﹁ほへ
︽あなた方が共に行動したエヌラスという青年。あれも我らが王、ア
ルシュベイト様と肩を並べるだけの実力を持っています。それに、あ
の二人の決闘は今に始まったことではない。今まで幾度と無く繰り
返し刃を交わしています︾
﹁じゃあ⋮⋮﹂
︽心配は無用、ということです︾
それでも、ネプギアの不安は拭えなかった。一日しかこの世界にい
なかったけれど、崩壊に向かっているアダルトゲイムギョウ界を止め
﹂
大声出さなくても私達には通信機能がありま
私達、本当にこのまま帰っていいのかなー
ることはできないだろうか。最後の一人を決める為の戦争が起こっ
ている。
﹁お姉ちゃーん
︽あのー、お嬢さん
すので⋮⋮︾
!
いた。
﹁わぁ∼∼
みたいだよぉー
︾
﹂
ノイズが入って周囲
まるでノーヘルでバイクに乗ってる
の探知がうまくいかないだろう
おいどっちかこの子と代わって
︽ええい、さっきから人の背中ではしゃぐな
!
!
︾
!!
﹃んー、でもさ。いいんじゃないかな
﹄
なんだか気恥ずかしくなってネプギアが顔を赤くする。
﹁⋮⋮姉がご迷惑おかけします﹂
︽こぉの薄情者ぉぉぉぉぉぉぉ
︽すまない、01。私もこの子がいい。おとなしいからな︾
︽悪いな01、俺はこの嬢ちゃんがいいんだ︾
くれないか
!
凄いすごーい
ではネプテューヌがジェットコースターに乗ったようにはしゃいで
シュンと落ち込むネプギアだったが、先陣を切るランス01の背中
﹁あ、ごめんなさい⋮⋮﹂
?
!
!
!!
!?
?
94
?
﹁えっ
﹂
唐突にランス02の通信機からネプテューヌの声がして驚き、先行
するランス01の背中に視線を向けるとネプテューヌが笑顔でピー
スサインをしていた。
それってつまり、両方の世界を自在に行き来できることが
﹃だって、インタースカイに到着したらゲイムギョウ界に帰れるわけ
でしょ
﹄
可能ってことなんじゃないかな。もしそうだとしたら、またこっちの
︾︾︾
世界に来ればいいんだし。ね、ポリデント部隊
︽︽︽トライデントだッ
!
たっていいだろう
︾
︽大 体、君 た ち は 無 関 係 な ん だ。わ ざ わ ざ 我 々 の 戦 争 に 参 加 し な く
慧眼にはぐぅの音も出ない。
三人同時のツッコミに通信機が音割れする。だが、ネプテューヌの
!!!
出来ないよそんなの。戦いを止
いて、知らんぷりしろっていうの
私だって国を預かる女神様なんだから、いまさ
!
私ってそんなに信頼ない
﹄
!?
⋮⋮覗きこんでいたノワールの気のせいでなければ、その真っ赤に染
地 図。そ し て、イ ン タ ー ス カ イ ま で の ル ー ト が 幾 つ か 表 示 さ れ た。
視覚ユニットに投影されるディスプレイには索敵範囲いっぱいの
︽あー、オホン。02、03。インタースカイへのルートを送る︾
別。ただの一人として同じ個体が存在しない。
感情だ。量産型とはいえその内部にある魂の記憶は十人十色、千差万
笑いのこもった電子音声は、確かに機械の身体だけでは成し得ない
︽いいってことよ。あれくらい華やかさがないとツマンネェよ︾
﹁連れが迷惑掛けて悪いわね⋮⋮﹂
︽⋮⋮信じらんねぇくらい賑やかだな、あの嬢ちゃん︾
﹃アッレェ
︽今考えたジョークにしては今世紀最高の出来だな︾
ら一つや二つくらい世界を救ったって変わんないよー﹄
﹃いやですよーだ
︽⋮⋮残念ながら、不可能なんだ。諦めてくれ︾
﹄
める方法が絶対にあるはずだって
?
﹃そういうわけにはいかないよー。世界が崩壊に向かっているって聞
?
!
!?
95
?
?
DANGER
まっている地域は﹃危険地帯﹄と表示されている。
︽最短ルートを突っ切る。モンスターの密集地帯を突破することとな
るが、構わないか︾
︽本気か、01。背中に嬢ちゃん背負って行くってのかよ︾
︽あまり得策とは言えませんね︾
︽だからこそ、だ。この少女達に、我ら親衛隊の実力を見せる意味合い
も含めてな︾
﹄
﹃ち ょ っ と し た ハ プ ニ ン グ が あ っ た 方 が 面 白 い よ ー、私 は 全 然 オ ッ
ケー
︽⋮⋮あと、ちょっと黙らせたい︾
││ああ。この人、苦労してるんだなぁ⋮⋮。ネプギアとノワール
が何となくランス01の心労を汲み取って同情した。中間管理職は
どこの世界のどの人間も胃薬が手放せないらしい。機械の身体に胃
薬が必要かどうかはともかくとして。
︾
﹂
︽我らの隊長はあえて茨の道を踏み抜くつもりですが、大丈夫ですか
︾
︽だそうだ、いいかい
!
︽危険地帯突入と同時に短距離跳躍に移行 着地点のモンスターを
ショートダッシュ
れた。危険地帯の中を突っ切るという無謀な道。
設定する。幾つか提示されていたルートが消去されて、一本だけ残さ
両者の同意を得たことにより、ランス01はその進路を最短距離に
﹁ええ。気遣ってくれてありがと。でも、問題ないわ﹂
?
スーパークルーズ
!
︾
︾
最低限排除しつつ進軍。突破と同時に音速巡航で目標地点、インター
スカイへ一気に抜けるぞ
︾
︽ランス02、了解
!
︽陣形はこのまま。右翼は02、左翼は03。中央は私が担当する
︾
︽ランス03、了解
!
間もなくして、その危険地帯へと差し掛かる。上空から眺める限
れていたかのような相槌を間髪入れず返した。
ランス01の迷いのない作戦指示に、まるでそれが予め取り決めら
!
!
96
!
﹁はい。私は大丈夫です
?
り、モンスターが地面を覆って黒く蠢いていた。それが見渡す限り続
いていた。それを見たネプテューヌ達三人が青ざめる。思わず強気
に返事してしまったが││〝コレ〟を抜けると言っているのだ。
魑魅魍魎が跳梁跋扈する地獄絵図。百鬼夜行でもここまでの過密
まるでコミケだよ
!?
地帯にはならない。
﹃な、なななななななんじゃありゃぁぁぁぁ
!?
あれ抜けるの
冗談でしょ
﹄
﹄
夏と冬とその他イベントが開催されているかのような密集地帯だ
よ
!!
ろう
︾
︽往くぞ、我らがトライデントと呼ばれる由縁。しかと見せつけてや
ワールがしっかりと掴まる。
一度着地して、二本の足で走った。大きく揺れる身体にネプギアとノ
突如としてなくなる足場。切り立った崖の壁面ギリギリで三人は
い、目先の獲物を狩ることばかりに目を取られている。
かれたような執着を見せていた。力尽きた死骸を踏み、血で血を洗
合っているこの地域はあまりにも異常すぎる。まるでここに取り憑
ネ プ テ ュ ー ヌ の 取 り 乱 し よ う は 尤 も だ。モ ン ス タ ー 同 士 が 争 い
﹃冗談じゃなくて、本当に女神なんだってばぁぁぁぁ
︽さっきのジョークよりは笑えまい︾
!?
気の戦場には不釣り合いな甘美な匂いにネプギアが顔をしかめる。
むせ返るほどの血の匂いが充満していた。吐き気を催すような狂
いが始まった。
目の前のモンスター同士にすり替わり、何事もなかったかのように争
すると、即座に短距離跳躍でその場を離れる。獲物を逃した爪と牙が
間に蜂の巣にされて肉片を踏みにじられた。各々の着地地点を確保
三人︵と少女三人︶の乱入に気づいたモンスターは上を見上げた瞬
でなく帰還するための推進剤を確保する為の移動方法でもある。
ブーストして最低限の燃費で最大限の距離を稼ぐ。これは出撃だけ
タ ー を 一 瞬 だ け 吹 か し た。体 重 が 重 力 の 縛 り を 抜 け る 瞬 間 に だ け
が、起伏の激しい壁面に目測をつけて蹴りつけると同時に腰部ブース
ランス01が崖から飛び降りる。それに続いて自由落下する三人
!
97
!
!?
︽01、大型三匹
︾
中型四匹、進路上
︽見えている 単縦陣形で突破する
してやれ
︾
どうする
︾
!
先陣を譲るぞ03、大暴れ
!
︽02
︾
﹃どうするつもりですか
﹄
例に漏れず狂ったように暴れている。
なタイムロスとなるはずだ。その股下では小型モンスターの群れが
そうなれば次の短距離跳躍は大型モンスターに進路を阻まれて大き
こ の ま ま で は 着 地 地 点 で 中 型 モ ン ス タ ー の 争 い に 巻 き 込 ま れ る。
になっていた。
中型モンスターが四匹、おそらくは番い同士の争いだろう。血みどろ
大型モンスターが三匹、三つ巴の争いを広げている。その足元では
長刀を二本取り出すなり、両肩に担ぎあげる。
いた二挺の突撃銃を前面に展開した。
たランス02が器用に片手でキャッチすると、背部ラックに背負って
に弾倉を交換した突撃銃を投げ渡す。突撃銃を左手に持ち替えてい
それは歓喜の叫びだった。跳躍したままランス03がランス02
!
!
︽ィヨッシャアアアアアアッ
!
?
ランス02が前面に展開した〝四挺〟の突撃銃を同時に発砲する。
それでまずは着地地点の確保、だが、大型モンスターの顔が乱入する
機人達にのっそりと向けられていた。岩のような体躯に、羽を失った
デカイトカゲ。地を這うドラゴンそのものの顔にランス01が突撃
銃下部に装着していたグレネードランチャーを浴びせかけた。鼻っ
︾
︾
柱に撃ち込まれてもビクともしない。だが、爆炎で視界を大きく遮ら
れた。
︽行け、03
︽ちぃと借りるぜ、大将
と、あろうことか隊長を足場にして跳躍。大型ドラゴンの眼前まで跳
││かに思われた。だが、その大きく張り出した両肩に脚を乗せる
急にブースターを停止したランス03が加速した01と衝突する
!
!
98
!!
!
ネプギアの言葉に、ランス01は号令一つで答えてみせた。
!
び上がる。
︽チェエエエエエエヤアアアアアア
︾
気迫の剛刀二閃。打ち込まれた二刀が頑強な顔面の皮を斬り裂き、
叩き割って鮮血が溢れる。真新しい傷口に脚を乗せると、ランス03
はその勢いのままに駆け上がった。
着地までの間にグレネードランチャーの装填と左肩の突撃銃を構
えたランス01がランス02にアイサインを送る。その意図を組ん
だ二人は着地と同時に銃口を大型ドラゴンの前脚へ向ける。
そして、両前足に合計六発。グレネードランチャーが直撃して前の
めりに大きく倒れこむ。その背中を足場にして二人がランス03の
後を追う。
文字通り〝切り抜けた〟三人はそれぞれの装備を戻して危険地帯
の出口まで差し掛かる。終わりが見えた矢先に、一匹のドラゴンが不
意に飛び上がった。それは、空中で三人の進路を阻むような態勢で。
だが不慮の事態でも三人は即座に対応した。
真正面からぶつかろうとするランス01に鉤爪が振り下ろされる。
だがこれを片方のブースターの推力を切って、ロールしながら回避と
︾
同時に下に回り込む。
ロックンロール
︽斉射開始
レネードランチャーを撃ち込まれたドラゴンを一瞥もくれずトライ
デント部隊は危険地帯を華々しく爆煙に見送られて通過。都合三十
分にも満たぬ激戦地区を傷一つ負わず、それも背中に少女たちを背
負ったまま。
アゴウ最強戦力であるトライデントの名に偽り一つ見せることは
なかった。
99
!!!
突撃銃の弾丸を全身に浴びせかけられ、弾倉が底を尽くと同時にグ
!
episode16 晴れ時々少女
││圧倒的だった。ネプギアもノワールも、ネプテューヌもまた
別の意味で言葉を失っている。
機動性。行動力。判断力。人間の限界を超えた性能が可能とした、
不可能を可能とした瞬間をその場に居合わせたのだから無理もない。
女神化したとしてもここまでの突破力は望めない。だが、この三人は
モンスター達の習性を含めて立案した作戦を成功させた。不慮の事
態にも即時対応で突破。間違いなく最強の三人だった。
これに、先程まで自分達が銃口を向けられていたのだと思い出すだ
けでも寒気がする。
危険地帯を抜けて、しばらくの間は警戒していたが、追ってくるモ
ンスターがいないことを確信したトライデントが音速巡航へ移行し
た。肩部装甲を畳み、空気抵抗を下げた形態からブースターの出力を
上昇させる。
次の瞬間、暴力的な加速にネプテューヌ達が襲われた。生身で新幹
線に貼り付けられているかのような暴風にトライデントの背中に
ピッタリと身体をくっつける。
段違いの加速で森を抜けた先は、海だった。見渡すかぎりの大海
原。その洋上に浮かぶ国があった。半透明のドームに覆われ、そこへ
通じる道路がいくつも見える。内部には幾つもの近代的な建造物が
伺えた。外観としてはプラネテューヌに近い。
電脳国家インタースカイ。目的地が見えてきた││。
森の中では決闘がいまだ続いている。アルシュベイトの打ち込む
豪剣が生み出す剣圧を、エヌラスはただ片腕に持った倭刀一本でいな
していた。
幾度と無く相まみえても、その現象だけはいまだに受け入れ難いア
ルシュベイトは唸る。
︽いつ見ても、誠に奇っ怪な剣術よ︾
﹁言ってろ﹂
100
それに比べて、エヌラスの額はじっとりと汗ばんでいた。気を集中
させている倭刀の重量は苦にならない。むしろ自分の手足の如く、羽
のように軽かった。だが冷や汗の原因は対敵、アルシュベイトにあ
る。畏怖の念を込めて、整息した。
どんな鍛冶技術で刀を打てばそうなるのか甚だ疑問である。
﹁むしろ、俺の剣でぶった斬れないそっちの方が俺は怖いね﹂
ただ剣を振るだけなら猿でも子供でも出来るだろう。刀同士が打
ち合うというのは愚策だ。衝突した刃同士が潰れ、最悪の場合は折れ
る可能性だってある。だからこそ、エヌラスは倭刀を添えるように相
手と衝突させて切っ先を逸らしているのだ。ところが、アルシュベイ
トの豪剣はそうではない。そも、逸らすことが精一杯なのだ。その都
度に渾身の気迫を込めた一刀を繰り返す疲労感は尋常ではない。
内蔵が締めあげられ、呼吸が乱れる。その両方を整えながら凌ぐ。
これほどの神業もそう長くは続かない。幸いにもアルシュベイトの
太刀筋は必殺、まさに一撃一撃が殺人的な破壊力を誇る。もしまとも
に叩きつけられれば原型すら留めない肉片と化す。
両者は、まさに綱渡りの状態で張り合っていた。
むしろアルシュベイトが注視していたのは、五指をゆるりと開いた
左手にある。〝あれ〟に触れられれば、むしろ窮地に追い込まれるの
はこちら側だ。かつてはそれで敗北を喫したのだから。
どれほど頑強な装甲であってもあの倭刀の前には紙切れのように
切断される。むしろ刀はブラフと言ってもいい。
それは、機人にとっては必殺にして必滅の一撃だ。末恐ろしい話で
ある。
生体電流を極限まで捻り上げて電磁パルスと化すとは、どれほどの
修練と鍛錬を重ねれば可能となるのか││機械の身体を得たアル
シュベイトには、もはや到達し得ない極致だ。
再度、両者の剣戟が鳴らされる。豪剣が生み出す暴風、倭刀が曲線
の軌跡を描く。ただそれだけ、たったそれだけのことで地面は抉ら
れ、土煙はあがり、木々が悲鳴をあげてたわむ。その只中にあってな
お、爆心地の中央に根を張った大樹のごとく動かない、人間││これ
101
が悪夢と言わずしてなんと言おう。
何度目の死合を繰り広げただろうか││突然、アルシュベイトが長
刀を振るう手を止めた。センサーに反応があったのだ。これを好機
と見て踏み込む勇気はエヌラスにはない。
恐ろしいことに、今までアルシュベイトと剣を交わしてきた中に
﹁小細工﹂という言葉は存在しなかった。
︽⋮⋮エヌラス︾
﹁⋮⋮なんだ﹂
そして、決闘の最中に口を挟んだのもまた、これが初めてのことで
ある。
﹂
︽人が落ちてくる︾
﹁はぁ
素っ頓狂な言葉に、エヌラスが思わず上空を見上げた。だが、そこ
に人影はない。肉眼では捉えきれない距離の人間を捕捉したのだろ
うが、それにしたって互いに無防備を晒していた。
やがて、アルシュベイトが長刀で方角を指し示して、そこに焦点を
合わせて目を凝らすと││辛うじて、見える。人っぽい何かが。
︽助けたほうがいいだろうな︾
﹁だったらテメェでやれや﹂
﹂
︾
﹂
︽俺の身体で受け止めた場合、逆に怪我をさせる可能性がある︾
﹁俺にやれと
︽他にいるか
﹁テンメェ、後で覚えてやがれ
いは出来るだろう︾
!
﹂
!
叫びながらもエヌラスはアルシュベイトの背中に掴まり、上空高く
﹁普通はなるわボケナスがぁぁぁぁぁ
︽なぜヤケクソ気味になっているんだ︾
﹁それはありがとうよ
﹂
︽乗れ、エヌラス。あそこまでの上昇は見込めないが、距離を稼ぐくら
た矢先にアルシュベイトが剣を地面に突き立てた。
行き場のない怒りを倭刀に叩きつけて、エヌラスが変神しようとし
!
? !?
102
!?
飛び上がっている。
﹁きゃあ∼∼∼∼∼⋮⋮﹂
︶の主は、まるで部屋着か寝間着のような格好で、靴に至っ
徐々にその輪郭がハッキリとしてきた。間延びした緊張感のない
悲鳴︵
てはスリッパである。
︽エヌラス、高度限界近いぞ︾
﹂
!
︾
﹁じゃかぁしいわ、近づけ
﹂
︽一気に口悪くなったな
︾
﹁うっせぇぞハゲ
︽ハゲとらん
!
が覗きこんでくる。
﹂
﹁え∼っとぉ∼⋮⋮だいじょうぶ∼
﹁いきてる⋮⋮だいじょうぶ⋮⋮﹂
?
ヌラスは更に眉を寄せた。
ほ∼、と胸を撫で下ろしている少女が手に持っている物を見て、エ
﹁よかったぁ∼﹂
﹂
体を起こすと眠気を堪えているかのように目尻の下がった大きな目
ポカンと口を開けて、目を白黒させていた少女が周囲を見渡して身
﹁がっ││││くそ⋮⋮
の身体が悲鳴をあげるのを聞いた。
そして、地面にぶつかる寸前に身体を滑りこませたエヌラスが自分
今度は〝電導〟を回して落下の衝撃を少しでも押さえこむ。
コイル
り、あらぬ方向に向けて発砲する。反動で横に向けて移動しながら、
それだけ短く答え、エヌラスは右手に赤い自動式拳銃を召喚するな
﹁掴まってろ﹂
高度三百メートル、絶望的な高さ。
真っ逆さまだ。
能力はない。つまりは││二人仲良く、ぐんぐん迫る地面に向かって
のようにおとなしい。が、問題が起きた。エヌラスは変神しても飛行
を受け止めた。キョトンと何が起きたか分からない様子で、借りた猫
そして、アルシュベイトの背中を蹴り出してエヌラスは空中で少女
!
!
!
103
?
これぇ∼
ぬいぐるみだよぉ∼
﹁⋮⋮何持ってんだ、それ﹂
﹁え∼
﹁⋮⋮﹂
かわいいでしょ∼﹂
?
そんなんで機嫌直るかボケがぁ
お前の運勢が一位だったぞ︾
﹁子 供 か
﹁知・る・か・よ
﹂
!!
﹁えっとぉ∼⋮⋮戦うの∼
﹂
んでいる。どこか不安そうな顔をしていた。
がった。コートの裾が何かに引っかかって、振り向くと少女が裾を掴
段々むかっ腹が立ってきたエヌラスは怪我の痛みも忘れて立ち上
!!!
﹂
︽そう怒るな⋮⋮致し方無いだろう。そうだ、今朝のテレビ占いでは
﹁ははっ、しねよ﹂
︽無事なようだな︾
起きないが、やはりそれでもあえて言わせてほしい、くたばれ。
るんだから今更骨の一本や二本折れたくらいで文句の一つ言う気も
う骨の一本や二本くらい大丈夫ですとも。人間様には250本もあ
とか言う鋼の軍神様が律儀にも心配してくれているがええそりゃも
高度三千フィートから落下してくる人間一人を無傷で受け止めろ
りしやがって⋮⋮
﹂
﹁テッメェ⋮⋮ 人がこうなると分かってて受け止めろとか無茶ぶ
︽無事か、エヌラス︾
││ダメだ。この子は、ダメだ。頭の奥が痛くなってくる。
た。
毒気を抜かれる非常にゆったりとした口調に、エヌラスが顔を覆っ
﹁わたしの∼、手作りなんだ∼﹂
な⋮⋮どこに売ってんだそんなもん⋮⋮﹂
﹁すっげぇ見覚えあるどっかのネプテューヌそっくりのぬいぐるみだ
﹁これねぇ∼⋮⋮﹂
に非常によく似ている。
かわいい。かわいいのだが、そのデフォルメされたデザインが誰か
?
!
!
︽⋮⋮ちなみに、俺は真ん中だった︾
!!
?
104
?
﹁ああ﹂
忘れそうになるが、決闘の最中だ。明らかに劣勢どころか窮地に追
い込まれたのが目に見えているエヌラスの裾を、それでもまだ離さな
い。睨みつけると、にっこりと微笑んだ。
﹂
﹁じゃ∼⋮⋮あたしも手伝ってあげるね∼﹂
﹁いい﹂
﹁どうしてぇ∼
﹂
︾
?
﹁回復薬∼、飲む∼
持ってきたんだ∼﹂
﹁都合よくできたらな⋮⋮﹂
来る︾
︽せめて、回復くらいしたらどうだ。その方が俺も気兼ねなく相手出
﹁アクシデントはあったが、付き物だ。しゃあねぇよ﹂
︽⋮⋮本気で続ける気か
エヌラスを見て考えていた。
戦いに巻き込むつもりは毛頭ない。だが、アルシュベイトもそんな
構えた。
ギシギシと軋む肋骨を押さえてエヌラスが倭刀を右手に持つなり、
﹁もう、ホント、お願いだから離れてくれ⋮⋮マジで﹂
﹁なんで∼
そこで、少女が手を離して﹁う∼んとぉ∼⋮⋮﹂と考え始める。
﹁決闘中だから﹂
?
もうこの際回復できるならワラでもいいから口にしたい。
﹁⋮⋮⋮⋮一本ください﹂
?
105
?
episode17 死力を尽くした先の焦土
ア ル シ ュ ベ イ ト の 粋 な 計 ら い に よ っ て 休 息 を 挟 む こ と に な っ た。
興が削がれた戦いを思い切って仕切り直す、その度胸に今は感謝する
ばかりである。エヌラスは空から降ってきた少女の姿を改めてまじ
﹂
まじと眺めると、小首を傾げてネプテューヌのぬいぐるみを持ち上げ
て腕を上下させた。
﹁えー⋮⋮っと。俺はエヌラス、君は
﹁⋮⋮ん
﹂
プラネテューヌの女神
ある。
だがそれと同じセリフを聞いた覚えが
﹁あたしはぁプルルートだよ∼。プラネテューヌの、女神様なんだ∼﹂
?
ねぷちゃんのお知り合いなの∼
﹂
?
エヌラスが立ち上がる。倭刀を手にして、整息。
思ってしまう。
超えた戦犯だ。だからこそ、尚更この少女を戦いから遠ざけたいと
界にすら崩壊の影響を与えてしまっている自分の行いは最早、次元を
がこれが治める国は途方もなく平和なのだろうと思える。そんな世
頭痛すら覚えてきた。緊張感とは無縁な少女を見て、言っては失礼だ
わかとした和やかな雰囲気を放つプルルートを前にしてエヌラスは
事の経緯はどうやらネプテューヌ達と同じらしい。にこにこほん
﹁そっかぁ∼、ねぷちゃんの知り合いなんだ∼﹂
﹁⋮⋮﹂
ちちゃったんだ∼﹂
﹁え∼っとね∼。プラネテューヌで災害があってぇ∼、調べてたら落
ではいかないらしい。
軋む。回復薬を分けてもらったとはいえやはりまだ完全に快復とま
プルルートと名乗る女神は息巻いた。それに思わず身を引くと、骨が
地面に倭刀は突き刺し、あぐらをかいたエヌラスに身を乗り出して
﹁あ∼
﹁プラネテューヌの女神はネプテューヌじゃ﹂
?
?
〝全力は⋮⋮現状、一発か二発が限界⋮⋮〟
106
!
魔術を嗜んだ身としては己の状況分析をする頭の冷ややかさに驚
かされる。感情や激情を理性で抑えつけて魔力と融合させる││と
は、師の教えだ。自分の身体のコンディションを確かめるように拳を
二度、三度握りしめる。
〝 ⋮⋮、限 界 を 超 え た 一 撃 は 一 発 が 精 々。シ ェ ア の 残 量 も 踏 ま え
りゃ⋮⋮これが俺の死力だな〟
これがもし、アルシュベイトが相手でなければ十分すぎるほどのお
釣りだ。
しかし。この鋼鉄の鬼神が相手となると、現状、まるで勝ち目など
トランジション
ない。腕一本持っていければ賞賛ものだ。付け加えて││まだ互い
に変 神していない状態ともなれば彼我の戦力差は絶望的なまでに
開いている。
﹁プルルート。危ないから少し離れててくれ⋮⋮﹂
﹁はぁ∼い﹂
107
﹁少しばかり全力出す﹂
その言葉に沈黙を保っていたアルシュベイトが顔を上げて反応し
た。
︽ほう⋮⋮いいだろう。来い︾
﹁なら、一手。馳走してやる、たらふく喰らえ﹂
バチィン。左手に紫電が迸る。閃光の中から現れたのは撃鉄の付
︾
いた一本の鞘。次いで、倭刀にまで紫電が伸びた。陰と陽。二極を限
界まで引き合わせる。
レールガン
︽超電磁抜刀術か⋮⋮面白い。受けて立つ
今、まさにエヌラスは隙を曝け出している。一刀、抜き放てばその
けにもいかない。
ただ一人だ。だが、それが世迷い言でもなければ戯言と聞き捨てるわ
と世迷い言を言うのはアダルトゲイムギョウ界でもアルシュベイト
光速にして必殺の一撃││それを、真正面から〝受けて立つ〟など
!
瞬間にアルシュベイトの機影は閃刃の中に消えるはずだ。それは両
者が理解している。
ザッ││
!
︽││
︾
だが、次の瞬間にアルシュベイトの姿勢が揺らいだ。エヌラスが構
﹂
えを保持したまま駆け出したのに一瞬だが対応が遅れる。二人の距
離は徐々に狭まっていた。
レールガン
﹁超電磁抜刀術・壱式。〝迅雷〟
カァ││ン⋮⋮
!
︽貴様││︾
﹁アクセル・ストライク﹂
﹂
﹁変 神 ッ
!
!
て新たに口訣を結ぶ。
ル
ガ
ン
﹂
﹁受け取れよ、アルシュベイト コレが正真正銘、俺の死力だ
レー
〝超電磁砲〟││
!
立つぞ
︾
︽貴様の全身全霊。俺の魂をぶつける価値がある
正面より受けて
一度抜き放たれれば壱式〝迅雷〟の比ではない破壊力をもたらす。
にはあまりに馬鹿げた長さのそれを、エヌラスは右肩の鞘に収めた。
るべき刀もまた、長大な野太刀である。人ひとりが担ぎあげ、振るう
右肩に担ぐやいなや、即座に金具で固定された。そして、それを収め
放つことすら一苦労するであろうその鞘の長さは二メートルに及ぶ。
新たに握りしめられるのは、長大な鞘だった。あまりの長さに抜き
!
果たして、変神を遂げたエヌラスはすぐさま両手の刀と鞘を転送し
ねた、必滅の布石││それこそが本命であった。
の神々しさに危うく長刀を取りこぼしそうになる。必殺に必殺を重
落胆が驚嘆に変わった。感激に胸が打ち震え、アルシュベイトはそ
︾
︽おぉ⋮⋮
トランジション
スタルを召喚する。
れる反発効果によって宙に飛び上がったエヌラスの手がシェアクリ
に霧散した電流が一声に手繰り寄せられた。斥力によって生み出さ
そして、次の瞬間。体内で〝電導〟を回したエヌラスの脚へ、周囲
コイル
シュベイトの振り下ろした豪剣に打ち下ろされて電流が四散する。
間の抜けた衝突音。それこそが落胆に値する、必殺であった。アル
!
!
!
108
!?
!!
れいしき
﹁抜刀術・零式ッ
ガコンッ
﹂
﹂
た野太刀を一気呵成に振り下ろす。
ヱンドゲィム
﹁終 焉 ││
!!!
リと聞こえてくる。
ドクン││。
!!!
﹂
態に陥っているような鼓動を繰り返し、やがてエヌラスが吐血した。
えた。全身の血液が恐ろしい速度で体中を駆け巡る。心臓が暴走状
地に足を着けるやいなや、エヌラスはその場に膝をついて胸を押さ
光を失う。
ルギーの残量が底を尽いたのだ。右手の指にはめたシェアリングが
陶しそうに振り払った。同時に変神が強制解除される。シェアエネ
地する。その手に、その脚に、その全身に紫電をまとわりつかせて、鬱
││焼け野原と化した森林の中に、エヌラス=ブラッドソウルが着
閃刃の中へと葬り去る││。
咆哮だった。絶叫だった。悪鬼羅刹の雄叫びがアルシュベイトを
﹁││DAAAAAY、DAAARAAAAA
﹂
口の端から気づかぬ内に血が垂れた。左胸の鼓動がやけにハッキ
ギリッ。キシッ。ミシッ。
心臓が軋む。螺子が軋む。歯車が歪む。
ルは歯噛みした。
ぬ鋼の鬼神。その手応えを感じているのか、エヌラス=ブラッドソウ
想像を絶する光景に、驚愕した。その只中にあって尚、一歩も退か
ルートが目を覆う。
世界が白く染め上げられ、そのあまりの光量に戦いを眺めていたプル
そ れ は 光 の 柱 が 振 り 下 ろ さ れ る ほ ど の 苛 烈 な 光 の 暴 力 で あ っ た。
︽チェェェストォォオオオオオオッ
︾
が野太刀を持ち上げた。刃の背が背中に触れるほど大きく振り上げ
鞘の上部が開放される。内部で限界ギリギリまで充填された圧力
!!
﹁ッハ││ハッ、はっ⋮⋮カ、ぁッ⋮⋮
!
109
!
!!
それを見かねたプルルートが駆け寄ってくる。黒く焦げ付いた焦
﹂
﹂
土がまだ熱を持っているにも拘わらず、呼吸を整えるエヌラスの傍に
屈みこんだ。
﹁だいじょうぶ∼⋮⋮
﹁││だい、じょうぶ⋮⋮だ、ッ⋮⋮
ゴフッ。
言った傍からエヌラスが口を押さえこむ。咳き込み、むせる度にそ
の口からおびただしい量の血が吐き出されていく。オロオロと戸惑
うプルルートが背中を擦る。
アルシュベイトは││健在だった。
だが、全身を超電磁圧力の一刀に呑まれて無事に済むはずがない。
駆動回路が時折ショートして関節から火花が出ていた。原型を留め
て、豪剣も健在。表面上は何も変化はないように見える。だが、その
意識を司る魂がすっぽりと抜け落ちていた。
エヌラスが立ち上がり、倭刀を召喚して深く呼吸を吸い込む。
アルシュベイトの機首が持ち上がる。その眼光に射抜かれて、半狂
﹂
乱状態になりながらエヌラスが駆けた。
﹁オオオォォォアアアア
装甲に阻まれ、長刀に遮られて防がれ、エヌラスの身体が遂には崩折
れる││その一瞬〝左手〟がアルシュベイトの腕を掴んだ。もっと
も警戒していたはずの腕に掴まれて、絶句する。
﹂
必殺のブラフから必滅の一刀を超えて││まださらにその状態か
ら、放つというのだ。
︾
﹁││〝紫電〟鬼哭掌⋮⋮ッ
︽バカ、な││⋮⋮
!
腕 一 本。そ の 目 測 は 一 寸 の 狂 い な く 読 み 通 り だ っ た。今 や ア ル
シュベイトの左腕はコネクタをカットされてダラリと力なく下げら
れている。刹那の差で切り離すことに成功した左腕の接続端子を見
て、アルシュベイトは堪えきれなくなった笑い声を上げた。
110
!
?
空しくもその剣がアルシュベイトの身体に傷を付けることはなく、
!
その一撃を最後に、エヌラスは今度こそ力尽きた。
!?
︽見事。見事だ、エヌラス
力
お前の足掻き、俺の左腕一本に相当する
流石だ、お前にはどれほどの賞賛を浴びせてもまだ尽きぬ
れだけの力が残っている
︾
これを死力と呼ばずして、なんと呼ぶ
お前の魂を掛けた一撃、しかと受け取った
﹁⋮⋮、⋮⋮ざ⋮⋮け⋮⋮﹂
連続して放つ必殺の数々が少なからず内蔵を焼き付けていたのだか
仰向けに倒れたエヌラスの身体からは焼け焦げた匂いがしていた。
きで自分は全身の回路が残さずパンクしていただろう。
イトの胸を埋め尽くしていた。かつての敗北がなければ最後の足掻
耐 え 切 っ た。凌 ぎ 切 っ た。乗 り 越 え た。そ の 達 成 感 が ア ル シ ュ ベ
!
!
を失い、国を離れ、不自由に拘束され、万策尽きてもお前にはまだこ
!
!
!
ら無理もない。満足に声も出せないエヌラスの首元に長刀の切っ先
が突きつけられた。
111
!
episode18 電脳国家インタースカイ
︽しかし、今の貴様の姿は⋮⋮俺が記憶するにはあまりに辛い。楽に
してやる︾
そうして、アルシュベイトは長刀を振り上げる。
﹁││ねぇ∼⋮⋮﹂
なのにぃ、殺しちゃう
声を掛けられて手を止めた。ぬいぐるみを持ったプルルートが、ア
ルシュベイトを見上げている。
︽⋮⋮なんだ︾
﹁どうしてぇ、そういうことしちゃうの∼﹂
︽もとより命を賭けた決闘だ︾
決着、着いてるんだよね∼﹂
﹁だって、エヌラスは力尽きてるんだよぉ∼
の∼
言われて、アルシュベイトが困惑した。
︾
︽ぬいぐる、ミ〟ッ
︾
俯いていたプルルートが顔を上げて、ぬいぐるみを持ち上げる。
︽⋮⋮
﹁そういうの∼、あたしよくないと思うんだぁ∼⋮⋮﹂
︽いや、まだだ。どちらかが死ぬまで我らの決闘は││︾
?
︽ま、待て
待て
︾
るのに∼殺しちゃう必要ないんじゃないかなってぇ﹂
﹁ねぇ∼、どうして∼。ひどいことしちゃうかなぁ∼、もう決着着いて
プルルートがその大腿部にねぷぐるみを叩きつける。
たついた。
セミの断末魔のような叫び声を出したアルシュベイトの身体がも
!?
!?
始末に戸惑いを見せている。アルシュベイトなら尚更だ。力加減一
たくないという点では共通した両者の見解だからこそ、プルルートの
止めた衝撃を逃しきれずに下がった。無関係な者を戦いに巻き込み
詰められているとは思えない重量感で殴りつけられ、胸部装甲が受け
ねぷぐるみが叩きつけられる度に、アルシュベイトが後退る。綿を
﹁そう、思うんだよねぇ∼﹂
!
112
?
?
つ間違えるだけで人間など握り潰してしまう。
﹂
頼むからそのぬいぐるみで殴
なに命令してるのかなぁ 何様の
分かった
﹁こういうのぉ⋮⋮見てて、すっごいムカつくんだよね∼﹂
︾
︽待て、待て待て待て
るのをやめろ
つもり∼
﹁やめてください、でしょ∼
!
いぞ
︾
﹂
!
ライデント部隊。
︽こちらトライデント部隊
それ以上でもなければそれ以
アルシュベイト様、マズイことになり
瞬間、緊急回線が開かれた。通信先は││インタースカイ近辺、ト
うだろう︾
︽そうだな。我らの刃は、我らの血だけで汚れるだけが望ましい。そ
い上げて突撃銃を担ぎ直す。
左腕のコネクタを再接続すると関節の動作確認を済ませて、長刀を拾
〝 諦 め な い 〟 男 の 気 迫 に 折 れ た の は ア ル シ ュ ベ イ ト の 方 だ っ た。
の魂に刻まれた誓約。
鈍くギラついている。窮地にあってもなお輝きを失わない、エヌラス
既に言葉を発するだけの気力も残されていない。その眼光だけが
﹁││、⋮⋮││﹂
︽⋮⋮エヌラス││︾
ベイトの前に立ち塞がった。
が更に酷くなる。それでも、プルルートの間に割って入り、アルシュ
した。それが今のエヌラスにとってどれだけの危険な行為か。出血
声にならない声をあげて、アクセル・ストライクで長刀を蹴り飛ば
﹁││││││
き起こし、結果的に更に命の危機に瀕させることなる。
を持ち上げている。加減はするだろうが、それはエヌラスの意識を叩
プルルートが自分の異変に気づいた。だが、アルシュベイトが長刀
﹁ふぅ∼ん⋮⋮そうなんだぁ∼⋮⋮││あれぇ
﹂
下でもない。それ以上手を出すと言うのなら、反撃もやぶさかではな
︽私はアゴウ国王アルシュベイトだ
?
!
!
!
?
?
!
113
?
!
ました︾
︽どうした︾
︾
少女たちはどうした
︾
︽インタースカイにドラグレイスが襲撃を仕掛けています
戦中
︽至急向かう。持ち堪えろ
︽援護していますが、そう長くは保ちません︾
現在応
!
スーパークルーズ
お前がそんなんでどうする
!
らず、閑散とした道で屈み込み、ネプテューヌ達が降りた。
﹁凄い乗り心地だったなぁー。ねぇねぇ、また今度乗せてよ
︽断る。二度とゴメンだ︾
﹁えー、いいじゃんいいじゃん。減るものでもないし﹂
01、しっかりしろ
︾
﹂
トライデント部隊が直通道路に着陸する。往来を走る車は見当た
⋮⋮。
││時は遡り、ネプテューヌ達がインタースカイに到着した直後
スカイへ向けて飛び去った。
アルシュベイトが腰部ブースターを吹かして音速巡航でインター
る、と︾
︽この男の治療を頼む。目が覚めたら伝えてくれ、またいつか再戦す
れる。
ルートに渡した。その背後で糸の切れた人形のようにエヌラスが倒
腿部に内蔵した携帯食料その他簡単な医療器具を取り出すと、プル
要点のみを簡潔に伝えたアルシュベイトが通信を切る。その両大
!
目的地に到着したのですか
!
︽推進剤が減る。後、私の精神が磨り減る⋮⋮︾
︽あぁ
︾
︽そうですよ、しっかりしてください
らいいじゃないですか
!
!
ネプテューヌ被害者であるノワールとしてはランス01に同情す
﹁そう⋮⋮みたいね。ちょっと同情するわ﹂
﹁⋮⋮苦労、してるんですね﹂
⋮⋮︾
︽可能ならば精神安定剤をありったけぶちこんだ培養槽に浸かりたい
!
114
!
!
!
るしかなかった。慰めても惨めなだけだ。ともあれ、目的地に到着し
た三人はインタースカイへ向けて移動を始める。
入国手続の申請はトライデント部隊が済ませ、意外にもすんなりと
通してくれた。
電脳国家というだけあり、インタースカイでは住民よりもむしろ無
人機の方が多く見受けられる。掃除ロボや警備ロボ。そして、街の中
央にそびえるタワーをネプテューヌが見上げた。
﹁ほえー⋮⋮﹂
幾つものワイヤーが伸びて固定されている真っ白な巨塔、おそらく
そこにバルド・ギアがいるのだろう。
タワーのフロントロビーで受付嬢││これもまたロボットだった
﹂
││に、用件を伝えると残念ながら面会が拒否された。
﹁えー、どうして
﹂
︽大変申し訳ありません。現在、バルド・ギア様は治療中の為、面会を
断らせていただいてます︾
﹁どれぐらいかかりそうですか
︾
わーい、じゃあ遊び放題だね
︽ところで、金はあるのか
﹁そうなの
﹂
︽幸いにもここは娯楽に恵まれている。飽きることはないだろう︾
ここで待つしかないわ﹂
から元の世界に帰ること。肝心のバルド・ギアと面会できないんじゃ
﹁どうする。って言われても、私達の目的はそもそもインタースカイ
︽さて、どうする︾
訪してください︾
面会を希望していた旨をお知らせいたしますのでまた後日改めて来
︽明朝までには、と予定されております。治療が終わり次第、お客様が
?
!
にない現実に気づき、冷や汗が流れた。これでは今日の宿が取れるか
どうかすら⋮⋮途方に暮れる三人に、トライデント部隊がやれやれと
﹂
言わんばかりにカードを差し出した。
﹁あの、コレって⋮⋮
?
115
!?
所持金を尋ねられて三人が顔を見合わせる。小銭くらいしか手元
?
!
︽インタースカイ施設のフリーパスだ。我らとアルシュベイト様がバ
ルド・ギア国王の好意によって譲り受けたものだが、もう使うことは
ないだろう︾
﹁でもそんな高価なもの﹂
︽構わん。どちらにせよ、世界がこの様な状況で〝敵国〟に遊びにく
る機会など無い︾
彼らにとってインタースカイは敵国。自分達の領土を一歩外に出
ればそこは隈なく戦場となる。アダルトゲイムギョウ界で戦争が起
きているという現実を改めて思い知らされた。踵を返し、トライデン
ト部隊がネプテューヌ達に別れを告げようとした、その時である。
車 が 通 る こ と の な く な っ た 道 路 を 悠 々 と 歩 く 騎 士 甲 冑 が あ っ た。
︾
竜を模した全身鎧に、大剣を担いでいる。
︽││ドラグレイス
入国審査を受けて、拒否された瞬間にガードロボが両断された。一
斉に警報が鳴り響く。トライデント部隊が即座に武器を構える。
その毛色の違う三人に気づいたのか、ドラグレイスはまっすぐ歩み
寄ってきた。機人達の背丈に負けぬほどの巨体、身長は二メートルを
超えている。ネプテューヌ達からすれば、巨人にすら思えた。銃口を
向けられてもまだドラグレイスはゆっくりと歩く。その進路を阻む
ガードロボ達が間合いに入った瞬間に大剣を振るいながら。
﹁⋮⋮お前たちが、何故ここにいる。アゴウ国王親衛隊﹂
︽そこにいる少女達を送り届けに来たのだ︾
﹁いつから親衛隊は女の運び屋など請け負うようになった﹂
感情を欠いた声であった。
﹁まぁ、良い。俺の邪魔立てするというのなら、斬り伏せるまでだ。道
を開けろ、トライデント﹂
︽目的は何だ︾
﹁しれたこと。バルド・ギアを討ちに来た﹂
︽こんな真っ昼間。それも正面からとはな⋮⋮イカれてるぜ、お前︾
﹁貴様らの国王とて、同じであろうに﹂
トライデント部隊が突撃銃の引き金を引いた。幅広の大剣に身を
116
!
隠し、銃弾から身を守る。
︽君たち三人も早く避難を
︾
ここは我らが食い止める
ここまで送り届けてくれたのに、見捨てることな
﹁もちろんです
﹂
ネプギア、ノワール
!
﹁何言ってるの、私達も戦うよ
!
!
!
!
トライデント﹂
︾
︽この、お人好し共め。02、支援射撃は任せる
任しとけ
!
るか︾
︽腕が鳴るってもんだぜ、大将
﹂
!
!
03、前衛を頼め
﹁そうね。バルド・ギアを今討たれたら堪らないもの。加勢するわよ、
﹂
んてできません
!
﹁⋮⋮あくまでも。俺の前に立ち塞がるというか、貴様ら
117
!
episode19 血の流れない国
銃弾を跳ね除けて、ドラグレイスが躍り出る。その隙にランス03
がランス02に突撃銃を投げ渡し、背負った長刀を二本構えて初撃を
受け止めた。それに続くようにネプテューヌ、ネプギア、ノワールの
三人も武器を召喚してドラグレイスに斬りかかる。
長刀を交差させていたランス03を力の限り蹴り飛ばし、その身体
を足場にノワールが飛びかかるも力任せのなぎ払いで地面に転がさ
れる。次いで、ネプテューヌの攻撃を防ぐなり、背後のネプギアを見
向きもせずに蹴った。そのまま大剣を持ち上げて得物を弾き上げる、
すると大剣めがけてランス02のグレネードが着弾して衝撃に取り
こぼした。ランス01が腰部ブースターを吹かして接近すると、その
︾
勢いに任せてドラグレイスを蹴り飛ばす。
︽大丈夫か、ネプ⋮⋮テユーヌ
﹂
︾
しく切り結ぶが、左手を胸部装甲にあてがった次の瞬間││まるで冗
﹂
談のようにランス03がビルに吸い込まれるように吹き飛んだ。
﹁たぁぁぁぁ
るが、表面を軽く削った程度で防がれる。
めた肩部装甲がひしゃげていた。損傷の度合いを見て、軽微と判断す
る。
︽くっ、やはり我々では相性が悪いか⋮⋮︾
﹁貴様ら程度ではまるで話にならん。俺の攻撃に〝ひと無で〟される
118
!
ランス03が再び突貫する。大剣を拾い上げたドラグレイスと激
!
﹁名前くらいちゃんと呼んで
﹂
︽ネプチューヌ︾
﹁惜しいけどさ
!?
︽漫才やってる暇ぁねぇぞ、01
!
ネプギアが取り回しの悪い大剣の攻撃をかい潜って鎧を切りつけ
!
﹂
︾
﹁邪魔だっ
︽危ない
!
間一髪のところでランス02がネプギアを抱えて距離を離すも、掠
!
だけで、その体たらくではな⋮⋮﹂
﹁あの剣││﹂
ドラグレイスの構える大剣を見ていたノワールが、何かに気づく。
あれはただの鉄の塊ではない。もっと何か、別な力││そう〝見えな
い力〟の加護が施されているようだ。
﹁⋮⋮そこな黒髪の小娘は、気づいたか。そうとも、機人というのはつ
くづく厄介な存在でな。ただの物理攻撃であれば傷一つつけるだけ
︾
でも苦労する。だが、魔法に対する防御、というのがまるで絶望的だ﹂
﹁魔法剣、ってわけね﹂
﹁いかにも﹂
︽それが、どうだってんだァァァ
ランス03の剣撃を両手で防いだドラグレイスの身体が後方へ大
きく吹き飛ばされる。そこへランス01とランス02が追撃のグレ
ネードランチャーを放つも、巧みな剣捌きで榴弾は哀れ、弾頭を両断
されて背後のビルを倒壊させた。
﹁うえぇぇ、こんなボスラッシュの世界でどうやって生き残るっての
さー⋮⋮﹂
ブツクサと文句を垂れるネプテューヌの背中を、ランス01が優し
く叩く。
︽戦うだけだ︾
空になった弾倉を交換しながら、ランス01は左肩のラックに背
負っていた突撃銃を取り出す。
﹁そうかもしんないけどぉ﹂
︽今日、生き残ることを諦めれば我らに明日はない︾
二挺の突撃銃が一斉に火を吹いた。その銃弾を大剣で凌ぎながら
逆に突撃してくるドラグレイスの大剣を飛び上がって回避する。空
中で腰部ブースターを吹かして姿勢制御と同時に豪雨のごとく銃弾
を容赦なく浴びせかけるが、片手で展開した防御魔法陣に全て防がれ
ていた。その隙だらけの左右からランス02とランス03が同時に
接敵。爆炎と紙一重の剣撃で大きく吹き飛ばした。
﹁チッ﹂
119
!!
増幅する魔力の気配に、ノワールとネプギアが二人の前に出て生み
出される衝撃波を防ぐ。
︽すまない、助かった︾
﹁さっきのお返しです﹂
あれだけの攻撃を受けて、ドラグレイスから放たれる闘気は微塵も
衰えを見せない。それどころか思わぬ苦戦に怒りのボルテージを上
げているかのようにも見えた。
﹁貴様ら││﹂
︾
その手が、シェアクリスタルを呼びだそうとした瞬間、不意にドラ
グレイスが背後の気配に振り返る。
﹂
︽チェェェェストォオオオオオオオッ
﹁アルシュベイト││
︽アルシュベイト様⋮⋮この非礼、どう侘びたらいいか⋮⋮︾
の非を詫びた。
それが自分達の緊急回線によるものであると、トライデントは自ら
話が別なのだ。
実感をアルシュベイトに与えただけであり〝それ〟と〝これ〟では
めなかった。決闘は己の過去を乗り越え、成長したという達成感と充
どちらしかない。灰色などという中途半端な結末など彼は決して認
い限りそれはアルシュベイトにとって、引き分けなのだ。白か、黒の
ほぼ勝敗は決したようなものであった。だが、完全な決着に至らな
︽むしろ、余計な邪魔が入ってな。勝負は預けた︾
﹁えっ﹂
︽エヌラスは健在だ。安心しろ、命までは奪っていない︾
観にくれそうになった三人の様子に気づいたのか。
アルシュベイトがここに来たということは、エヌラスはもう││悲
き直った。
なる。長刀を地面に突き立てて、トライデントとネプテューヌ達に向
成功したものの、その巨体がビルを三棟ほど貫通して瓦礫の下敷きに
豪剣一閃。ドラグレイスが寸でのところでその一撃を防ぐことに
!!!
︽気にするな。貴様らは我が分け御霊。貴様ら三人が揃ってこそのト
120
!!
ライデントだ。誰一人として欠けることは俺が許さぬ。貴様ら自身
が最期を望もうと、俺が赦さん︾
倒壊したビルを砕く魔力を込めた斬撃が飛んでくる。だがこれを、
アルシュベイトは正面から豪剣を打ち下ろして叩き伏せた。圧殺さ
れた衝撃は一陣の風と成り果てて土煙を舞い上げる。
︽ここは退け、ドラグレイス。貴様とて、数の不利が解らぬバカでもあ
るまい︾
﹁ふん。だからどうだと言うのだ。むしろ好都合だ、貴様もろともに
インタースカイを落とせば戦局は大きく傾く﹂
︽⋮⋮あくまでも、俺と死合を所望か、ドラグレイス︾
﹁見れば、相当に消耗しているようだ。これを好機と言わずしてなん
と言えばいい﹂
アルシュベイトは無言を貫いた。それが、怒りを表してるなどと身
近なものでしかない。
﹂
そして、その直後に桁外れの轟音が響き渡る。インタースカイの
ドームに海水が降り注いだ。まるで海面に隕石でも落ちたのではな
いかと錯覚するほどの衝撃に、電脳国家が揺れる。
︽こういうことだ︾
トライデントは、ニヤリとした笑みを含めた口調で絶対の自信を
持って言った。
121
︽││トライデント。少女達の避難を︾
﹁えっ
﹂
?
︽すぐに分かる︾
﹁な、なんで
した後の姿までは見ることは叶わなかった。
ベイトの手にシェアクリスタルが浮かび上がるのを見る。だが、変神
から全力で退避した。ぐんぐん遠ざかる戦場で、ノワールがアルシュ
有無を言わさずトライデントがネプテューヌ達を担ぐなり、その場
﹁あの、ちょっ⋮⋮﹂
︽あの痴れ者を、少しばかりぶっ飛ばす故にな⋮⋮︾
?
それから、一時間ほどして戦闘を終えたアルシュベイトが戻ってく
る。その全身に浅い切り傷をつけて、まるでそれが武勲であるかのよ
うに誇らしく胸を張って。
︽ドラグレイスは退いたようだ。よく持ってくれた、トライデント︾
︽もったいなきお言葉にございます、アルシュベイト様︾
﹂
︽そちらも。重ねて礼を言う。我が親衛隊が世話になった︾
﹁い、いえとんでもないです
﹁は、はい
そうです
﹂
﹁とにかく、ありがとってことだよ
﹂
ねー、ネプギア﹂
たと言いますかなんと言えばいいか⋮⋮﹂
﹁むしろ助けてもらってばかりだったと言いますか、迷惑ばかり掛け
ネプギアが慌てて頭を下げた。
!
!
上げた。そこには半透明状のドームが青空を映し出している。
奇妙な感覚に囚われる。まるで箱庭の中を歩いている感覚に、空を見
無人の重機が列を作って道路を走っていた。しかしそれにしたって
先 ほ ど の 戦 闘 に よ る 被 害 も 即 座 に 修 復 作 業 に 取 り 掛 か っ て い る。
﹁ホント、遊ぶこととなると体力が底無しになるんだから﹂
﹁え∼、せっかくだから遊んでいこうよ﹂
﹁あんなことがあった後だもの、疲れたわね﹂
﹁どうしよっか⋮⋮﹂
テューヌ達はこれからどうするか考えた。
に す る。そ の 機 人 達 の 背 中 が 遠 ざ か り、見 え な く な っ て か ら ネ プ
アルシュベイトがトライデントを引き連れてインタースカイを後
ぬことだ︾
︽我々は目的を果たした。命が惜しくば、我らの争いに首を突っ込ま
はぁ⋮⋮、と低く電子音声で吐息を漏らす。
ぬものよ。雌雄を決すと言いながら、情けないものだ︾
取ってきた。今回こそはという自信はあったが、如何せん上手くいか
︽あの男らしい、無謀の極みであったが⋮⋮いつも私は、それに遅れを
﹁ところで、エヌラスは本当に無事なの
!
﹁なんだか、お腹空いちゃった﹂
122
?
!
﹂
何か美味しい食べ物あるといいな∼、できればプリ
﹁言われてみればそうね。何か食べて行きましょ﹂
﹁さんせーい
ンとか、プリンとかぁ。あとプリンとか
﹁プリンばっかじゃない⋮⋮﹂
三人がインタースカイの街を散策していると、公園でオープンカ
フェを見つけた。例に漏れずここでもまた店員はタッチパネルのメ
ニューを付けたロボットだった。
︽承りました︾
そう答えると、車輪を動かしながら接客ロボはキッチンへ姿を消
す。何気なく公園を見渡して、その静けさにネプテューヌが寂しそう
な顔をした。
﹁⋮⋮静かだね﹂
﹁そうね⋮⋮﹂
人々の笑い声も、すれ違う人々の話し声も何も聞こえない静かな世
界。まるで自分達だけが取り残されたような静寂感に言い切れない
﹂
不安があった。三人だけの隔離空間。
﹁どこかに人、いないのかな
だが、何故か三人は浮かない顔をしていた。
マズイわけではない。むしろ店で出すレベルとしては上々な方なの
咀嚼の音が段々と鈍くなり、飲み込む。確かに、美味しい。決して
ぱくり。もぐもぐもぐ⋮⋮もぐ⋮⋮。
﹃いただきまーす﹄
﹁まぁいいわ。それじゃ﹂
﹁へっへーん、いいじゃんいいじゃーん。きっと美味しいよ﹂
﹁ちょっと、ネプテューヌ。アナタ勝手に追加したわね﹂
イッチにサラダに、プリンアラモード。
三人のテーブルに各々注文したメニューが運ばれてくる。サンド
︽お待たせいたしました︾
と会っていない〟のだから不安は尤もだった。
そもそもインタースカイに到着してからネプテューヌ達は〝人間
﹁一人くらいいてもいいはずよね﹂
?
123
!
!
きっと、厨房も無人なのだろう。完璧なまでに正確な味付けも皿の
盛り方も機械的な挙動で作られたに違いない。だからこそ、素直に喜
べない美味しさだった。市販で売られているプリンよりも遥かに美
味しいのだが、決定的に欠けている。
﹁⋮⋮美味しいんだけど﹂
﹁ええ⋮⋮美味しい、のよね⋮⋮﹂
﹁なんだか⋮⋮味気ない、ですね﹂
そこには、人の温もりが圧倒的に欠けていた。機械の冷たさしか感
じられない食事に喜びの声が上がるはずもない。
電脳国家インタースカイには、機械の冷たさだけが人々の温もりに
変わって流れていた。
無血都市││ここは、知る人にはそう呼ばれている。
124
episode20 トライ・アンド・エラー
少し時間の遅かった味気ない昼食を終えて、トライデントより譲り
受けたフリーパスをカードの差込口に入れると間もなく支払いが完
了 し た。娯 楽 施 設 に 恵 ま れ て い る、と い う 言 葉 を 思 い 出 し て ネ プ
テューヌ達は街の電光掲示板に映しだされているインタースカイの
地図を見る。おおまかに区分された施設のボタンを押すと、その場所
までのルートが表示された。
そして、到着したのはゲームセンター。だが、やはりそこにも人は
﹂
主人公がナイス
いなかった。無人のゲームセンターはまるで貸切のようにも感じら
れる。
﹁あ、お姉ちゃん見て
﹁おぉ∼、これはかの有名な﹃ダイナマイト婦警﹄
﹂
バディの婦警という触れ込みの割に一人称視点でまったくの矛盾を
抱え込んだという伝説のアーケードゲーム
⋮⋮見たこと無い﹂
﹁変 わ っ た も の も あ る み た い で す よ あ れ、な ん だ ろ う こ の 筐 体
﹁というか、何か一昔って話じゃない古い筐体が多いわね⋮⋮﹂
!
トライ・アンド・エラーだよ﹂
﹁あれ、でもこれ微妙に違う
﹂
どれにしようかなぁ⋮⋮﹂
﹁どうやら同一シリーズを一つにまとめた筐体みたいね﹂
わ、なんか色んなタイトル出てきた
﹁えーっと、これがショットで、こっちがボム⋮⋮こっちは低速移動
ア
﹁この手の縦シューティングって死に覚えゲーだから頑張ってネプギ
る。
るという点を重視したかのゲームに、俄然興味が湧いたネプギアが座
るようだった。プレイヤーを殺すというよりも攻撃パターンを魅せ
デモプレイでは敵から放たれる弾幕が華々しく、まるで芸術を見てい
ネプギアが見たのはシューティングゲームの筐体のようだったが、
?
!
結局ネプギアが選んだのは最初のデモプレイで流れたタイトル。
125
!
!
基本操作は同じだが、若干システムに違いがあるようだ。
!?
?
!
﹁あ、ノワール見てよこれ﹂
﹁なによ。⋮⋮対戦格闘ゲーム
ようよ﹂
﹂
!
﹁わ、わわ
しゃがみとかないの
﹂
﹂
ノワールいきなり攻撃してくるなんて卑怯だよ
﹁先手必勝よ
﹂
距離で攻撃も違うんだー
! !?
﹁ダッシュで相手の射撃は切り抜けられるのね。よーし⋮⋮﹂
へぇー﹂
﹁コマンドも波動拳とか昇竜拳じゃない
﹁う、浮いてる
ゲームとは違うシステムに二人は最初こそ戸惑った。
様 々 な キ ャ ラ ク タ ー の 中 か ら、感 性 で 選 ぶ。そ し て、普 通 の 格 闘
﹁ええ、いいわよ。ギャフンと言わせてやるんだから
﹂
﹁ネプギアがやってるゲームのキャラが出てるみたいだし、やってみ
?
﹂
?
げて喜んだ。
﹁やったー、クリアだー
⋮⋮あれ
ゲージがようやくゼロになったボスを撃破して、ネプギアが両手を挙
間 な い レ ー ザ ー 攻 撃 を か い 潜 っ て 地 道 に ラ イ フ を 減 ら し て い く。
右に抜けてから、左に切り返す。低速でその間を抜けながら、絶え
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
を繰り返しながら最後のボスへ到達していた。
展する頃、ネプギアはシューティングゲームで何度もコンティニュー
二人が白熱した泥試合から徐々に操作感覚を掴んで読み合いに発
!
!?
ギアが目を丸くした。
﹃次はノーコンティニューでがんばろう
!
これグッドエンディングじゃなくてバッドエンディン
⋮⋮よーし﹂
﹁え、えぇ
グ
﹄
エンディングが流れたまではいい。しかし、その最後の一文にネプ
!
こう繋がるんだよノワール
﹂
﹂
!
択する。
﹁こっからー、こうきて
﹁え、えぇぇぇそれ繋がっちゃうの
!?
!
126
!
!?
!?
姉譲りのゲーマー魂に火が点いたネプギアが再び同タイトルを選
!?
﹁ふっふーん、恐れいったかー
﹂
﹂
﹁いやー、楽しかったぁー。貸切のゲームセンターもオツなものだね
てしまっていた。
結局三人はとっぷりと日が暮れるまでゲームセンターに入り浸っ
!
﹁そうね。たまにはいいんじゃないかしら、ああいうのも﹂
﹁結構奥が深かったなぁ⋮⋮またじっくりやってみたいかも﹂
夜のインタースカイの景色は昼間とはまた違い、無人のイルミネー
ションは幻想的な光景へ変わっている。だが、そこに人の営みはな
い。ただ静かに機械の駆動音だけが雑踏の代わりに流れていた。こ
の国には人の生活が織り成す日常の音楽が存在しない。ノイズも走
らない世界は、死んだように静かだった。
﹁⋮⋮綺麗ね﹂
ポツリとノワールがその風景を見て呟く。目を奪われる夜景を高
台の公園から見下ろしていたネプテューヌもネプギアも頷いた。ま
るで人間こそが病原菌と言わんばかりに殺菌された清潔な世界に三
人だけが取り残されている。もし、このアダルトゲイムギョウ界が戦
争をしていなければきっと気に入っていた。
﹁ちょっと、帰るのが勿体ないですね﹂
﹁とにかく宿を取りましょ﹂
﹁クタクタだよぉ∼⋮⋮ふわぁ﹂
身体を伸ばすネプテューヌに二人が苦笑して、手頃なホテルを探
す。
﹁お、ラブホだ﹂
﹁入らないわよ﹂
ピンクの看板を無視してノワールがビジネスホテルに入った。そ
れに続き、やはり無人のフロントを見渡してここでもやはりタッチパ
﹂
ネル式のメニューが三人を迎える。希望の部屋を押していくと、部屋
の鍵がテーブルに出てきた。
﹁ルームサービスとかどうなってるのかしら
?
127
!
﹁んー、押したら来るんじゃないかな。いいから行こうよ﹂
借りたツインの部屋に入ると、ベッドが二つ並んでいる。テレビと
﹂
ソ フ ァ ー と 備 え 付 け の 小 さ な 冷 蔵 庫。ネ プ テ ュ ー ヌ が い の 一 番 に
ベッドに飛び込んだ。
﹁アハハハハ、フカフカだぁ∼
﹁ちょっと、やめなさいってば。恥ずかしいじゃない﹂
﹁誰もいないんだし、いいじゃんいいじゃーん﹂
﹁よいしょ⋮⋮っと。はぁ、でも色々ありましたね﹂
﹁そうね。とても二日間とは思えないほど濃密な日だったわ﹂
一週間分は働いたんじゃないかという疲労感がどっと押し寄せて
くる。ベッドに寝転んではしゃぐネプテューヌがネプギアに飛びつ
いて二人で倒れこんだ。それを腰に手を当てて眺め、ノワールは先に
シャワールームを覗く。
ほら、私達昨日お風呂入って
﹁私、先にシャワー浴びるけどいいかしら﹂
﹁せっかくだし三人で背中流さない
ないし﹂
持って、葉巻吸いながら猫撫でてさ﹂
うのって大抵マフィアのボスとか着てるんだよねー。片手にワイン
﹁お金持ち御用達のガウンだー、洋モノの映画とかドラマだとこうい
衣所からガウンを発見する。
こうして替えの下着の交換にも憂いがなくなり、ネプテューヌが脱
け取り、扉を閉めた。料金は部屋代と一緒に支払う形らしい。
ドアを開けたノワールが丁寧にビニール袋に梱包された品物を受
部屋のインターフォンが鳴らされる。
れぞれのサイズを選択して、注文ボタンを押した。それから数分後、
れている。無地のデザインの白と黒と素っ気ないものだが、三人はそ
だ。その中には追加料金が発生するとはいえ下着や靴下が取り扱わ
壁に埋め込まれたパネルはどうやらルームサービスを選べるよう
﹁脱衣所に洗濯機もあるみたいだし、服も洗っていきましょ﹂
﹁そういえば⋮⋮ちょっと、汗臭いかも﹂
?
﹁でも結構いい素材使ってるわね⋮⋮﹂
128
!
四着あるうちの三着を手にして、三人が服を脱ぎ始めた。
﹁さ、さすがにちょっと狭いわね⋮⋮﹂
うわぉ、広ーい
﹂
﹁何もみんな一緒に脱がなくてもよかったんじゃ﹂
﹁一番乗りー
!
う。
﹂
﹁女同士でソープランドみたいだよねこれって﹂
﹁ぶっ。な、何言ってるのよネプテューヌ
!?
くすぐったいじゃない
﹁だってさぁ、ほら。こうしてみるとぉ﹂
﹁あはっ、あはははは
んの﹂
!
ぽいよね
﹂
て、全身を鈍い痛みに襲われてまた倒れた。
失ったらしい。記憶が定かではないエヌラスが上体を起こそうとし
〝紫電〟鬼哭掌を打ち込んだまでは覚えている。だが、それから気を
アルシュベイトの左腕に〝電導〟を極限まで昂らせて一点に放つ
コイル
は雲一つない。しばらくぼう然としていた。
││エヌラスが目を覚ますと、既に日が暮れていた。満天の星空に
やかさの方が勝る。
女三人寄れば姦しいとは言うが、この三人が集まればそれよりも華
﹁だからアナタはそういうこと言わないでってば
﹂
﹁大丈夫だよー、ちゃんとマットも敷いてあるし。ますますソープっ
﹁あ、あの。危ないからその辺にしておいた方が⋮⋮﹂
様子に顔を赤らめていた。
が押し倒す。その隣ではネプギアが湯船にお湯を張っていたが、その
の胸に伸び、更にお腹から太ももを伝う。そこで反撃に出たノワール
身体を密着させて身体を洗っていたネプテューヌの手がノワール
﹁うへへぇ、お客さんええ身体してますなぁ∼なんて
﹂
ちょ、どこ触って
熱いシャワーで軽く身体を流し、泡立たせたスポンジで背中を洗
﹁これなら三人で入っても問題なさそうね﹂
!
首だけで周囲を窺うと、どうやら簡易的なテントに自分は寝かされ
129
!
!
!
!
ている。怪我の手当の具合からして、アルシュベイトの医療器具だろ
う。殺し合いをしていた敵に温情を掛けられて、エヌラスは小さく呻
いた。勝てないと分かっていたが、ああもハッキリ実力差を痛感させ
﹂
られると悔しさを通り越した虚無感に襲われる。
﹁あ∼、起きたぁ∼
そして、すっかり忘れていた。自分が助けたプラネテューヌの女神
ことプルルートのことを。怪我の手当も彼女がやってくれたのだろ
自分の命は大切にし
う。ニコニコと笑いながら顔を覗きこんでくる。
﹁怪我の具合はどうかな∼﹂
﹁⋮⋮だいぶ、楽になった。ありがと﹂
﹁どういたしまして∼。でも、ダメだよぉ∼
ないと、友達が悲しんじゃうから∼﹂
﹁⋮⋮⋮⋮、友達か﹂
﹁でしょ∼
﹂
﹁⋮⋮そうだな﹂
かりだ。自嘲したエヌラスに、プルルートは小首を傾げる。
脳裏に浮かぶのは、これから先、自分の前に立ちはだかる〝敵〟ば
?
﹂
た。残量が尽きた今となっては、鈍い銀の指輪と化している。
﹁それ、なに∼
だ∼⋮⋮﹂
﹂
﹁じゃあ、ゲイムギョウ界の災害はこっちの世界の影響ってことなん
んまったりとした口調で相槌を打っている。
た。それに驚いてるのか感心しているのか分からない表情で、のほほ
エヌラスはプルルートにアダルトゲイムギョウ界の現状を説明し
﹁俺のシェアが尽きてるからだよ。変神するだけでも消費する﹂
﹁どうしてぇ∼
﹁⋮⋮今は、ただの指輪だ﹂
﹁へぇ∼﹂
分かる﹂
﹁シェアリングだ。ちょっと特別製でな。シェアエネルギーの残量が
?
?
130
?
上体を再度、起こしてエヌラスは右手のシェアリングに視線を移し
?
﹁まぁ、そうなる。それにしたって、なんだってプラネテューヌの女神
が二人も来るんだよ⋮⋮﹂
﹂
﹁え∼っとね∼。あたしと、ねぷちゃんのプラネテューヌは、別次元な
んだ∼﹂
﹁⋮⋮⋮⋮はい
﹁昔ちょっとした事件があって∼、それで二つの次元が繋がっちゃっ
たの∼﹂
今もそのまま放置しているらしいが、そんなガバガバに緩い次元で
いいのかゲイムギョウ界。そう思ったエヌラスだったが、それはつま
り両方の世界に影響を与えているという何よりの証拠だった。改め
て自分のしたことに打ちのめされてエヌラスがこめかみを押さえる。
やはり、一刻も早くこの戦争を終わらせなければならない。しかし、
シェアエナジーも尽きた自分が変神せずにどこまで勝ち残れるか
⋮⋮自分の治めている国に戻って補充するにも、ほとんど反対側まで
来てしまっている。その道中で他の国王に襲われないとも限らない。
いや、もう一つある。シェアエネルギーを供給する方法が。それも
相手が女神とあれば、お互い損はない││だがしかし、言うだけ無駄
どうしたの∼
﹂
だ。出会ってまだ一日と経っていない相手に身体を預けるなどと。
﹁⋮⋮
でかな∼
﹂
﹁そういえば∼、変身しようとしても出来なかったんだよね∼。なん
うになった。
ことを考えた瞬間、酷い自己嫌悪に襲われて自分の頭に銃口を向けそ
何も合意の上でなくても、致してしまえば問題は解決する。そんな
?
﹁エヌラスも、変身できないんだよね∼⋮⋮﹂
とはいえ、エヌラスも変神できない現状は一刻も早く抜け出したい。
変 身 を そ ん な リ ラ ッ ク ス タ イ ム の よ う に 言 う の も ど う か と 思 う。
⋮⋮﹂
﹁そうなんだ∼。困ったな∼、ストレスかいしょうできないのやだ∼
﹁ん、あぁ⋮⋮多分、こっちでのシェアがないからだろう﹂
?
131
?
﹁いや、なんでも⋮⋮﹂
?
﹁お互い困ってるってわけだ﹂
﹁どうしたら解決できるかな∼⋮⋮﹂
やったぁ∼﹂
﹁それなら手っ取り早い方法があるぞ﹂
﹁ほんと∼
﹁ああ、俺とエッチすりゃいい。俺はシェアエネルギーが回復できる。
﹂
ホ ン ト に 女 神 だ っ て い う な ら そ っ ち も そ れ で 変 身 も 出 来 る は ず だ。
﹂
まぁ、それでいいわけねぇよな⋮⋮﹂
﹁いいよ∼
﹁そりゃそうだ。忘れってェェエエエエエエ
!?
内臓が悲鳴をあげて、のた打ち回るのも忘れてエヌラスは驚いた。
132
?
?
﹂
e p i s o d e 2 1 口 で は そ う で も 身 体 は 素 直。
男でも︵R︶
﹂
﹁だから∼、いいよぉ∼
﹁えっ、ちょっ、は
?
本当にそんなんでいいのか
﹂
?
ん達の知り合いなんでしょ∼
かそれ
﹂
じゃあ、私のお友達だよ∼﹂
﹁なんかもう友達とかそういう手順ふっ飛ばしてますが本当にいいの
?
﹁だって、あたしはプラネテューヌの女神だから∼。それにねぷちゃ
よな
﹁⋮⋮なんで、そんな簡単に。え、俺達まだ知り合って一日経ってない
に手を置いてエヌラスが呼吸を落ち着かせた。
ほんわかとした口調のまま、上着を脱ぎ始めたプルルートの細い肩
∼﹂
﹁あたし、何にもできないけど∼⋮⋮それでいいなら、してあげるね
﹁⋮⋮﹂
﹁だってぇ、エヌラスは二回も助けてくれたから∼﹂
逆に混乱しているエヌラスの前で、プルルートが跨る。
?
﹁∼∼∼∼││
﹂
﹁いま⋮⋮かなり、本気で⋮⋮
﹁きのせいだよぉ∼﹂
﹁アッハイ俺の気のせいです﹂
殴っ⋮⋮
﹂
!
を脱いで、生まれたままの姿を見せる。まだ未熟な胸も、身体も少女
ソックスを脱ごうと手を掛け、一寸だけ考えて脱ぐのをやめた。上着
トロけた吐息を漏らすプルルートの頬が赤い。ボーダー柄のハイ
﹁エヌラスは痛がりさんなんだね∼⋮⋮かわいいなぁ∼⋮⋮﹂
!
当人を前にして涼しい顔のプルルートは下着を脱いでいる。
れない新鮮な痛覚にエヌラスが声も忘れて倒れた。冷や汗が溢れる
ぼふっと叩かれた脇腹から全身に激痛が走る。何度経験しても慣
!?
133
?
﹁も∼、うるさいな∼。え∼いっ﹂
!?
の肉付きそのものだ。白い肌に目を奪われていると、プルルートが何
を思ったか突然エヌラスの傷に触れる。外傷はそれほど酷くはない
が、まだ治りきっていない傷口があった。治療する手間もなかったの
﹂
﹂
怪我はちゃぁんと治さないと∼、こうっしちゃう
で放置していた傷を││押しこむ。
﹁いっづぁ
﹁ダメだよぉ∼
﹂
んだから∼﹂
﹁││⋮⋮
﹁わかったかな∼﹂
﹁わか、りました⋮⋮
声を抑えるエヌラスに嗜虐心をそそられたのか、プルルートが妖し
く笑う。手を取ると自分の胸に当てる。まだ小さな膨らみではある
﹂
が、手には確かに柔らかな感触があった。
﹁んっ⋮⋮ひゃ
﹁怖いか
﹂
瑞々しくて、少しだけ震えていた。
まま覆いかぶさるように顔を近づけ、そして唇が触れた。小さくて、
ている内に、プルルートの目が潤んでくる。頬に手を添えると、その
で軽く弾くと驚いた様子で跳ねた。そうした愛撫を何度か繰り返し
ぴくりと小さく震える反応に、指を滑らせる。ピンク色の乳首を指
!?
﹂
突然の刺激に驚いて腰を離そうとするが、それを逃さまいともう片
﹁んぅ││
ラスの手はプルルートの小さな秘部へと伸びていく。
んできた。舌を絡ませ、唾液を貪るようなキスをしている間に、エヌ
エヌラスの頬を捕まえて、再び唇が重なる。口内に熱い感触が入り込
離した唇には銀糸が引いていた。それを辿るようにプルルートが
﹁ん⋮⋮ぷは⋮⋮﹂
うに。
スを繰り返す。まるでそれが感謝してもしきれないお礼でもあるよ
しかし、プルルートがやめようとする気配はない。何度も何度もキ
﹁⋮⋮ハァ、ん。ちょっとだけ∼﹂
?
134
!
?
!?
!
!?
方の手が腰を掴んで動きを制した。決して触れられることのなかっ
﹂
た場所に未体験の刺激が走り、体をくねらせる。
﹁ひゃ、やぁ∼⋮⋮
軽く指でなぞるだけで堪えきれないというようによがり、恍惚とし
た表情でプルルートの手がエヌラスのズボンに伸びた。ベルトとボ
タンを外し、チャックを下ろす。下着の中で息を詰まらせていたモノ
を解放した。するすると優しく包み込みながらしごく手つきは、なん
とも悩ましい快感をエヌラスの背に走らせる。
﹁わぁ∼⋮⋮﹂
﹁っ⋮⋮﹂
﹁初めて見るけど∼、おっきくてぇ⋮⋮熱いんだ∼⋮⋮﹂
いや多分それはあなたが小さいからです、とは口が裂けても言えな
い。そもそも自分のサイズが平均的なのかそれ以上なのか分からな
い。だが決して平均以下ではないと自負しているエヌラスの考えは
よそに、プルルートの顔がモノに近づけられてまじまじと観察してい
た。
鼻を近づけて、誘われるように舌を這わせる。根元から先端に向け
て、まるでアイスクリームでも舐めるような仕草でゆっくりと。その
度にエヌラスは言い様のない快感に襲われて、同時に怪我の痛みも
﹂
﹂
やってきて声を殺した。自分は今、果たしてどちらの声が出そうなの
だろうかと。
﹁プルルート⋮⋮頼む、そろそろ⋮⋮いいか
﹁お願いします、はぁ∼どうしちゃったのかな∼
﹁おねがい、します⋮⋮プルルート⋮⋮
﹂
そう言っている間にプルルートのしごきは勢いを増していく。
﹁ね∼ぇ∼﹂
分が口を挟む余地などなかった。
ない。それにこれはプルルートの献身的な好意によるものであり、自
まの現状にエヌラスは泣きたくなってきた。だが背に腹は変えられ
この見た目まんま少女、ヘタすれば幼女に等しい女神にされるがま
?
?
この女神いつか絶対腰が立たなくなるまで喘がせる││エヌラス
!
135
!
は心密かに誓った。
その言葉に満足したのか、最後にキスをして跨り、挿入しようと腰
を落とすが中々上手く入らない。エヌラスが押さえ、プルルートの熱
く疼いた割れ目に挿入するが、受け入れたことない膣は侵入を拒むよ
うに固く閉ざされていた。
﹂
それに、エヌラスは軽く触れるだけに留めていた指を先に入れる。
﹁ぴゃ⋮⋮
中は熱い雫で満たされ、かき出すと大腿まで垂れた。それに羞恥で
顔が真っ赤に染まるプルルートの未熟な胸が目の前にあったので、つ
いでにと吸いつく。立て続けの慣れない快感にエヌラスの頭にしが
みついた。指で広げたプルルートの秘部に、更にもう一本。今度は奥
まで進めていくと絡みつくような凹凸が蠕動運動にも似た動きで締
め付けてくる。
頃合いと見て、今度こそエヌラスはプルルートと繋がった。最初こ
そ受け入れることを拒否していた身体であったが、ある程度慣らされ
入っ⋮⋮ちゃっ、たぁ∼﹂
てからは間口こそきつかったものの、半ばまで咥え込んでいる。
﹁あっ、あっ││ん⋮⋮
まで腰を落としたプルルートが背を逸らした。
﹂
﹁ひっ、あ││ぁ∼⋮⋮おっき、くてぇ∼ダメ∼⋮⋮﹂
﹁やっぱ、きついか
﹁ちがっ、うの∼﹂
首を横に振り、速度を上げて腰を振り始める。
﹂
﹁苦しい、けど∼、それよりも気持ちいいんだぁ∼⋮⋮
﹂
﹂
じゅぷっ、じゅぽっ││淫猥な水音を立てながら、一番深いところ
﹁んっ、しょ∼⋮⋮はぁ、んぅ﹂
クから、今度は深く時間をかけたものに変えて。
る一点に視線を向けていた。腰を上げて、落とす。浅く短いストロー
自分のことながら驚いたプルルートは今はしっかりと繋がってい
!
﹁││プルルートそれ、マズイ⋮⋮ッ
﹁え∼
!
!
?
136
!?
エヌラスの静止する声もむなしく、プルルートが奥までくわえ込ん
?
﹂
だ瞬間にはもう先に果てていた。
﹁えっ、え⋮⋮あ││
自分の中に注がれていく熱いものに、遅れて絶頂に至ったプルルー
トが身体を震わせる。小さく痙攣しながら、力なくエヌラスに覆いか
ぶさると頭を預けた。
﹁あ∼、あぁ⋮⋮﹂
惚けた様子で荒い呼吸を繰り返し、エヌラスを見ると頬を膨らませ
る。
﹁も∼⋮⋮先に言ってよ∼⋮⋮﹂
﹁⋮⋮はぁ、はぁ⋮⋮無理、言うな⋮⋮あんな不意打ちされて﹂
あとついでに言えば数時間前まで本気で死にかけていた。││い
や、今も男としてなにかもう色々と死にかけている気もするが世界は
広い。雨の中で傘を捨てて踊ることが自由ならば、出会ったその日に
セ ッ ク ス し て も い い。自 由 と は こ う い う こ と だ。解 決。異 論 は 認 め
ない。
ニコニコと笑うプルルートがエヌラスの鼻に指を当てた。
﹁⋮⋮⋮⋮なんだよ﹂
﹁エヌラスはぁロリコンさんだ∼﹂
﹁ははっ、ちくしょう言い返せねぇ﹂
乾いた笑い声がむなしい。
滾る欲望をこの小さな身体に吐き出した今となってはもう、否定の
しようがなかった。
﹁んっ⋮⋮とぉ⋮⋮﹂
プルルートの秘部から抜き出したモノは精液で白く染まり、中に収
まりきらなかった分が股から溢れている。それを見て、プルルートが
舐め上げた。
﹁あの、プルルートさん⋮⋮何をしてらっしゃいますか﹂
﹁お掃除だよぉ∼。はむっ⋮⋮んちゅ⋮⋮﹂
眉を寄せて、顔をしかめながらも丁寧に舐めとっていく姿に扇情を
抱いてエヌラスはそれを必死に頭の中からどかしていくも身体は正
直だった。まだギンギンに勃起したままのモノを見てプルルートが
137
!
感心したように吐息を漏らす。
﹁もしかして、まだ足りないの∼
﹂
﹁はい、もうなんかごめんなさい⋮⋮﹂
﹁しょうがないにゃあ∼﹂
もう、なんか死にたい││エヌラスの思惑とはよそに、この後もめ
ちゃくちゃした。
138
?
episode22 へんしん∼
﹁はぁ∼⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁お腹いっぱい∼⋮⋮色んな意味で∼。ねぇ∼
﹁はい⋮⋮﹂
﹂
お腹を擦りながら、プルルートが満足気に話す一方でエヌラスは萎
びている。自己嫌悪と精気とその他諸々が抜け落ちた。今の彼に残
されているのはシェアエネルギーが回復したという現実である。そ
れが何を意味するかというのは語るまでもない。致してしまった、そ
れも四回も。そのうち三回が全てされるがままに自分は寝ていただ
けで騎乗位よろしくの体位だった。最後の一回はプルルートの口淫
による仕業である。完全にリードを握られていた。
後始末を終えて、脱力感に襲われていたエヌラスに添い寝するよう
にプルルートが入り込む。どうやら今夜はここでお開きらしい。
﹁ごめんね∼﹂
唐突に、プルルートが謝った。
﹂
﹁⋮⋮それで、これからどうするんだ。プラネテューヌに戻るのか
﹁え∼⋮⋮
じゃあ、エヌラスと一緒にいる∼﹂
帰っている頃だと思うが﹂
﹂
﹁今 は い な い な。今 頃 は イ ン タ ー ス カ イ か ら 元 の ゲ イ ム ギ ョ ウ 界 に
﹁ん∼っとぉ∼⋮⋮ねぷちゃん達もいるなら一緒に行動したいな∼﹂
?
﹁いや、それは﹂
139
?
﹁あ た し も 変 身 で き な く て イ ラ イ ラ し ち ゃ っ て ∼、調 子 の り す ぎ
ちゃったかな∼﹂
﹁いや、いい⋮⋮﹂
殺せ⋮⋮
﹁乗ったのはエヌラスの上だもんね∼﹂
﹁いっそ殺してくれ⋮⋮
﹁だ∼め∼﹂
!
猫のようにすりよってくる頭を撫でながら、エヌラスは顔を覆う。
!
それは、少し困る。どうしてこう首を突っ込んでくるのか。
?
﹁いいでしょ∼。それとも∼⋮⋮いやなのぉ
﹁いやじゃないです⋮⋮﹂
﹂
このほんわかとした口調で声を掛けられるとどうにもエヌラスは
強く出れなかった。しかし戦争になっていると分かっていて何故居
座ろうと思うのか、少なくとも想像できない。自分はこうも戦いから
遠ざけようとしているのに││
﹃エヌラス、私ね││﹄
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
不意に、思い出してしまった。かつてその手で愛した人の笑顔を。
〝⋮⋮もう、朝か〟
いつの間にか寝てしまっていたようだ。日の高さからして、まだ朝
だろう。身体を起こそうとして、ふと左腕の重量感に目を向けると、
そこではプルルートが静かな寝息をたてて眠っていた。その寝顔を
見て、昨晩に自分の身に起きた出来事を思い出す。
﹁ん∼⋮⋮﹂
もそりとうずくまると、小さな手が左胸に触れた。そこで、ようや
く起きる。寝ぼけ眼をこすり、大きく伸びをすると眠そうに頭を揺ら
す。
﹁⋮⋮おはよ∼﹂
﹁おはよう⋮⋮﹂
互いに半裸であった。それに気づいてプルルートが日差しに照ら
される自分の身体を見て、手で隠す。
﹁やぁん、えっち∼﹂
﹁昨晩のお前に全力で叩きつけたい言葉第一位﹂
エヌラスが包帯を解くと、左胸の心臓付近に二本足で立つ獅子の刺
青があった。それを見て、指を這わせる。
﹁これ∼⋮⋮﹂
ただの刺青ではない。エンブレムにしても、ここまで精巧緻密な物
を刻める腕の人間は達人級だ。よく見ればうっすらと浮かび上がっ
ているのは、それが純粋に彫られたものではなく魔法で刻まれた紋様
140
?
であることが伺える。
﹁〝第二の心臓〟だよ。昨日はこいつのお陰でアルシュベイトの左腕
を機能停止まで追い込めた。つっても、限界まで稼働させると俺がや
﹂
ばい。それより、いつまで裸でいるつもりだ、早く着替えて移動しち
まおう﹂
﹁は∼い。でもぉ、どこに∼
﹁⋮⋮﹂
はて、と言われてからエヌラスは服を着ながら考えた。手持ちの食
料も残り少ない。国へ戻ろうにも道は遠い。そこで思い当たったの
は、全面戦争の最中であっても誰一人として攻め入ろうとしない国。
現状ではもっとも安全と思われる場所。
﹁ユノスダスだ﹂
そこは、完全不可侵国家として全面的に領土内での戦闘行為が禁止
されている。今では非戦闘員で溢れかえっていることだろう。だが、
他の場所へ向かおうにも食料その他の不安が募る。
支度を済ませてプルルートを連れて歩く。森の中は自然の奏でる
音色だけが乾いた風と共に吹き抜けていた。ぬいぐるみは大事な物
なのかしっかりと持っている。
﹂
﹁あ、そういえばね∼﹂
﹁ん
し、ありがと∼﹂
﹁⋮⋮どういたしまして、こちらこそ﹂
むしろ礼を言うべきなのは自分の方だ。つくづく今の不便な身体
を治したいと思っている。
﹁そういえば、さっき〝第二の心臓〟って言ってたけどぉ、どうして二
つもあるのかな∼﹂
﹁あーそれは⋮⋮話すとちょっと長くなる﹂
﹁じゃあ、いいや∼﹂
﹁あっうん﹂
﹁ね∼﹂
141
?
﹁あたしぃ、変身できそうなんだ∼。昨日みたいに変な違和感もない
?
﹁んー
﹂
別にいいが⋮⋮﹂
﹁手、繋いでもいいかな∼
﹁
﹁やった∼﹂
﹂
あんなことしたのに∼﹂
﹁あ、あぁ⋮⋮それはちょっと俺が通報されかねない⋮⋮﹂
﹁どうして∼
∼﹂
﹁やめろォ
﹂
﹁ひどいなぁ、あたしこんなちっちゃな身体であんなに頑張ったのに
!
?
﹁やめろ⋮⋮やめろ⋮⋮人の真新しい心の傷をえぐるな⋮⋮
﹂
﹁こうしてるとぉ、恋人同士みたいだねぇ∼。森でぇピクニック∼﹂
も思った。
もまた別なものになっていただろうに。そう考えれば、少し惜しいと
世界がこんなことになっていなければ、ネプテューヌ達との出会い
てきた。
思い返せば、戦争が始まってから自分も職務を放り出して戦い続け
﹁そうか﹂
んまりないんだ∼﹂
﹁えへへ∼、あたし女神のお仕事一杯だから男の人とこうする機会あ
う可能性に掛けたい。
信じてもらえる可能性が微粒子レベルで存在する、かもしれないとい
ば即通報待ったなしだ。恋人同士とまではいかないが、兄妹と言えば
小柄な少女を連れて森の中を歩く黒ずくめの男。⋮⋮絵面だけ見れ
繋ぐ、というよりは腕を組むのに近い。自分の胸板ほどまでしかない
何が嬉しいのか、満面の笑みを向けてプルルートが近づいた。手を
?
?
いようだ。
?
﹁⋮⋮なにか来る。隠れててくれ﹂
﹁どうしたの∼
﹂
遠くで木の倒れる音が聞こえてくる。プルルートは気づいていな
なったが、ふとした気配に耳を澄ませた。
やめてくださいしんでしまいます︵心が︶。エヌラスは泣きそうに
!
142
?
荷物を下ろし、倭刀とレイジング・ブルを召喚して迎撃態勢を整え
る。恐らくはフロントラインの者││アルシュベイト傘下の部隊だ
ろう。現在も各地に部隊を派遣して偵察に精を出しているに違いな
い。機械の身体で精を出すとはこれ如何にってやかましいわ。一人
でツッコミを入れながらエヌラスが徐々に大きくなる振動に眉を寄
せ た。お か し い。こ れ は 機 人 の 地 響 き で は な い。確 か に 鋼 鉄 の 身 体
は重量感あるが、サイズは平均して二メートル前後。つまり、地面を
揺らすほどの重量ではない││ということはそれ以上にデカイ何か
だ。それは例えば戦車。或いは、装甲車。
それは、或いは││通称〝要塞ガニ〟と呼ばれる多脚型戦車だ。全
長六メートルほどで鋼鉄の蟹を模した堅牢な装甲と重火力が自慢の
自律型戦闘支援ユニット。開発元は、実を言うと他でもなくエヌラス
冗談じゃねぇ
﹂
の国が抱えている研究所だったりする。
﹁フォートクラブ
すぅ、と小さく息を吸い込み、目の前に迫るミサイルを一基、二基
﹁││││﹂
はさすがのエヌラスも覚悟を決めて倭刀を構えて整息した。
上部装甲が六門開いたかと思うと、ミサイルが発射される。それに
も、素早く閉じた装甲に弾かれて無駄弾に終わった。
と同時に受け身を取り、レイジング・ブルを口に向けて引き金を引く
爆炎をあげてエヌラスの身体を大きく吹き飛ばす。魔術で姿勢制御
囲に向けて口を開けた。口部グレネードランチャーが着弾と同時に
えている二つの目玉││多目的視覚センサーはその動きから予測範
二門備え付けられたガトリング砲の射角から逃れたエヌラスを捉
が削り落とされて倒れていく。
リングを始める。空転の一秒、二秒││火を吹いた瞬間に背後の木々
ハサミを開くと、その中から三連装ガトリング砲が二挺覗いてライフ
クラブの頭部センサーとぶつかった。ボクシンググローブのような
エヌラスの悲痛な叫びが全身をオレンジ色に染め上げたフォート
!
と寸断していく。六基目を切り落とすと同時にフォートクラブが閉
じたハサミを向けた。
143
!?
薬莢を排出しながら射出されたロケットパンチ、右のハサミを防御
魔法陣を展開して防ぐもその質量を防ぎきることは無理だった。あ
えなく殴り飛ばされたエヌラスが地面を転がり、視線を向ければ左手
のハサミからガトリング砲が覗いている。
﹁やっべ﹂
ワイヤーで射出した右のハサミを引き揚げながら、左のガトリング
砲で相手の動きを縫い付ける理に適った戦術的行動。この戦闘プロ
グラムはインタースカイで組み上げられたものだ。そして、その装甲
はアゴウで建造された。三カ国が共同開発したこの自律型戦闘支援
ユニットはただの戦闘支援のみならず、単独での戦闘行動においても
脅威となる。支援に留まらないその性能から幅広く活用されて今で
はその派生型が数多く存在する。今相手しているのは中でも初期に
考案された重武装型の﹃HW│フォートクラブ﹄だ。
﹁エヌラス∼、あたしも戦うよ∼﹂
﹂
﹂
ぬいぐるみでぶっ壊されたら流石に心折
を保つので精一杯のエヌラスに向けて六門のミサイルハッチを開い
てダメ押しとばかりに発射するフォートクラブ。この戦術プログラ
ムを組んだ人間に向けて言いたいことは馬鹿じゃねぇのかと。誰が
ここまでやれといった。
そのミサイルが││空中で全て迎撃される。鞭のようなもので薙
︾
ぎ払われたのだ。
︽││
ミサイルを今しがた迎撃した鞭のデータを解析していると、それが突
然巻き上げられた。逃さまいと目で追う。
﹁機械相手ってぇ、楽しくないのよねぇ。だって悲鳴あげてくれない
もの﹂
144
﹁ぬいぐるみでか
そうだよな
!?
﹁さすがに変身するよぉ∼
﹁だよな
﹂
?
!?
二門のガトリング砲による集中砲火を左手で展開した防御魔法陣
れるぞ俺
! !?
多 目 的 視 覚 ユ ニ ッ ト が 脅 威 判 定 の た め に セ ン サ ー を 切 り 替 え る。
!
やがて、巻き上げられた鞭は一本の剣としての形を取り戻した。蛇
腹剣を担いでいるのは││。
ああ、今はアイリ
黒のボンテージのようなプロセッサユニットに、青い長髪をかきあ
﹂
プルルートよ
げる女性。見覚えがまったくない。
﹁誰だお前ぇぇぇぇぇぇッ
﹂
﹁誰って、失礼ねぇ。あたしよ
スハートって呼んでね﹂
﹁エエエェェェェエエエっ
﹁この際プライドは抜きだ
変 神 ッ
トランジション
﹂
による集中砲火が緩み、エヌラスが転がり出た。
ルの装填時間を稼ごうとその場から動く。その瞬間にガトリング砲
ムを併行して起動、フォートクラブは脚部の無限軌道を展開、ミサイ
に飛んで難なく回避する。飛行型の相手に対する戦術理論プログラ
敵と認識したのか口部グレネードランチャーを発射するが、それを宙
かった。エヌラスが驚愕している間にもフォートクラブはそちらを
変身したプルルート=アイリスハートは元の面影などどこにもな
?
着が着く。
﹁〝電導〟││アクセル・ストライク
﹂
けて一気に接近する。機械であるならば、ただ一撃打ち込むだけで決
突っ込んで、偃月刀を滑らせながら切り抜けるとフォートクラブに向
ハ サ ミ と 本 体 を 繋 ぐ ワ イ ヤ ー を 切 断。ブ ラ ッ ド ソ ウ ル が 正 面 か ら
一振りで迎撃して出来た穴に向けてアイリスハートが急降下すると
明らかな落胆の色を見せて、単調なミサイルの軌道を再び蛇腹剣の
﹁はぁ⋮⋮﹂
的に走るエヌラス=ブラッドソウルにハサミを射出する。
空中に向けてミサイルを発射すると同時にフォートクラブは直線
!
側にアイリスハートが並んだ。
れた左のハサミでかち上げられたブラッドソウルが着地する。その
体の表面装甲を紫電が走った次の瞬間には四散して振り払う。残さ
トクラブは吹き飛ぶ││はずだったのだが、その目論見は外れた。機
光速の飛び蹴りによって発生する物理と斥力の相乗効果でフォー
!
145
?
!?
!?
!
﹂
﹁あなた、何がしたかったの
﹂
﹁蹴り飛ばそうとしたんだよ
﹂
﹂
喧嘩売ってんなら買うぞこら﹂
?
のぉあたし。ゾクゾクしちゃう﹂
︶︾
﹁面影残ってねぇテメェが言うかおぉん
︽⋮⋮︵あれ、ボク忘れられてない
?
!
﹂
?
自動式拳銃。
デ ッ ド・ ク リ ム ゾ ン
れた弾丸がフォートクラブの口の中へ吸い込まれていく。そして、爆
その名を喚ばれて、魔術紋様が凶悪な赤の光を放つ。魔力を込めら
﹁〝破壊の紅〟
﹂
レネードランチャーを開いた瞬間にブラッドソウルの右手には赤の
き戻そうとするもワイヤーが偃月刀で切断される。残された口部グ
るも、アクセル・インパクトで蹴り落とされて地面に埋められた。引
前にはブラッドソウルが接近している。咄嗟に左のハサミを射出す
爆発の衝撃を間近で喰らい、フォートクラブが地に伏せた。その眼
﹁あんまり単調だと、あたしってぇすぐ飽きちゃうのよね﹂
の蛇腹剣が伸びている。
上部装甲のミサイルハッチが開いた瞬間には既にアイリスハート
﹁手早くお願いねぇ
のは癪なのでスマートにぶっ壊す﹂
﹁正面からぶっ壊す、と言いたいところだが。アレを相手に本気出す
﹁じゃあどうするつもり﹂
﹂
ほとんど俺の攻撃通らねぇだろうが !
なんで対策とってんだよ死ね
クソが ふざけんな
﹁電磁装甲採用したバカはどこのどいつだ、アルシュベイトの野郎か
けられた。
とりあえず口部グレネードランチャーを発射するとあっさりと避
?
﹂
﹁変身した途端、ずいぶん強気なのねぇ。ふふっ、そういうの大好きな
﹁おーなんだ、やる気か
﹁あらあら、お仕置きされたいのかしらねぇ﹂
﹁お前に言われたかぁねぇよ
﹁⋮⋮バカなの
?
?
!
146
!
!
!
!
発と同時に黒煙を口から吐き出した。その口の周りが溶けている。
コイル
貫手の形で左手を口の中へ突っ込み、ブラッドソウルが極限まで〝
電導〟を回した一撃を内部から打ち込む。
﹁次から電磁装甲じゃなくて魔導装甲採用するこった﹂
〝紫電〟鬼哭掌がフォートクラブの動作系統から火器管制、動力部
まで食い破る。
完全に沈黙したのを確認して、二人は変身を解いた。
﹁いや、なんていうか⋮⋮プルルートって変身すると、こう、色々凄い
んだな⋮⋮﹂
ひどいよねぇ∼﹂
﹁友達にもよく言われるんだ∼。変身しちゃダメだってぇ、なんでだ
ろ∼
﹁あー、うん。まぁ俺もよく言われる。街の中だと特にな﹂
思わぬ邪魔が入ったが、二人は何事もなかったようにまた手を繋い
で森の中を歩き始める。
なんだかんだと似たもの同士、気が合うのかもしれない。
147
?
e p i s o d e 2 3 全 て の 元 凶。事 件 の 発 端 は │
│
朝を迎えたインタースカイでは、夜が明けていることに気づいたノ
ワールがのっそりとベッドから身体を起こしていた。少し寝過ぎた
かもしれない。寝心地が良くてもう一度この温もりに身を任せてし
まおうかと思ったが、顔を横に振って眠気を飛ばす。隣のベッドでは
ネプテューヌとネプギアが寝ている。そんな二人を起こさないよう
にノワールは洗面台で顔を洗い、残っていた眠気を吹き飛ばした。羽
織っていたガウンも脱ぎ捨て、備え付けの洗濯機に入れて乾燥させた
クリアドレスに身を包むと髪を結ぶ。身だしなみを整えてから、もう
一度確認する。
148
﹁うん。オッケー﹂
それから二人を起こすと、ネプギアはすぐに身体を起こす。しかし
ネプテューヌはまだ毛布にしがみついて離れなかった。
﹁う∼ん、もうちょっとでいいから寝かせてぇ⋮⋮﹂
﹁ダメよダメダメ。はい起きるったら起きる﹂
﹁うぇー⋮⋮もぞもぞ⋮⋮﹂
今日はバルド・ギアと面会してゲイムギョウ界に帰らせてもらえる
よ う に 説 得 し な け れ ば な ら な い の だ。こ ん な 朝 か ら 前 途 多 難 な ス
タートは幸先不安になる。
﹁まったくもう⋮⋮こうなったら﹂
ノワールはエヌラスがやったように毛布を掴んで、一気に巻き上げ
た。しがみついていたネプテューヌが驚いて手を離し、空中で一回
転、二回転││ぼふっとベッドに沈み込む。
﹂
﹁エヌラスみたいに上手くいかないものね⋮⋮どうやったのかしらア
レ⋮⋮﹂
﹁お姉ちゃん、だいじょうぶ
?
﹁ふぇぇ、ネプギアだけが私の癒やしだよぉ⋮⋮﹂
﹁起きないネプテューヌが悪いんでしょ。ほら起きるったら起きる﹂
そして朝食を摂るが、やはり味気ないものだった。
朝のインタースカイは機械の駆動音と先日の被害を修復する重機
の音だけが響いていた。車も通らなければ人ともすれ違うことのな
いこの国は、機械が移動することを前提としているせいか移動するだ
けでも一苦労する。
﹁あ ー あ、ト ラ イ デ ン ト の 背 中 に 乗 っ て た ら ひ と っ 飛 び な ん だ ろ う
なー﹂
﹁あの人達、乗り物じゃないんだから怒られると思うけど﹂
﹂
﹁でも、機械人類って言ってましたね。どういうプログラム組んだら
ああなるのか、私、気になります
﹁ネプギアは機械好きだからねぇ﹂
ねぇちょっと二人共。あれって⋮⋮﹂
﹂
﹁いいなぁ、ああいうの。私もプラネテューヌに欲しいなぁ﹂
て、ネプギアが目を輝かせる。
のフリーパスを差し込み、間もなく吐き出された。その背中を見送っ
三人を無事に目的地に届けた輸送用フォートクラブの口に支払い
ハサミの部分は高速移動用に大型のフロントタイヤを内蔵している。
変えられる。勿論、武装は完全に取り外されており、前脚││もとい
的地までのナビゲーションもついており、それに合わせて移動速度も
を背中に乗せて脚部の車輪を展開して高速移動するというもの。目
運搬等に運用される機種ではあるが、それを改良して車と同じく人間
ノワールが見つけたのは輸送用フォートクラブだった。元は貨物
な物がある。
た。どうして気づかなかったのだろう。普通はタクシーという便利
インタースカイの中央にそびえ立つタワーに到着して、三人が降り
ノワールが立ち止まり、指し示した先には││。
﹁どしたの、ノワール
﹁ん
!
﹁いや、流石にちょっと物騒だわ⋮⋮﹂
149
?
?
﹁あの直線的で無骨なフォルムからは想像もつかない静かなアクチュ
エーターに、看板や信号の判断。それに指示速度厳守で背中の乗り心
﹂
地もよかったな∼⋮⋮お姉ちゃん、あのカニさんプラネテューヌに
持って帰れないかな
﹁いや、それは無理だと思うなぁ。大体あんなおっきいのが道路とか
歩けるのって、ここがちょっと特殊だからだと思うんだよね。私はど
﹂
ちらかって言うと昨日みたいにトライデントの背中にしがみついて
いる方が好みだな∼
﹁そっかぁ∼⋮⋮残念﹂
ガックリと落ち込むネプギアを慰めて、ノワールは改めてタワーへ
入る。自動ドアが開いて昨日と同じように受付のロボットに声を掛
けた。すると︽少々お待ちください︾と一言挟み、沈黙。
︽すいません、お待たせしました。あちらのエレベーターにお乗りく
ださい︾
そして、開いたエレベーターに三人が乗り込み、ボタンを押そうと
﹂
して、そもそもそんなものが存在しないことに目を白黒させる。する
﹂
と独りでにドアが閉まり、動き始めた。
﹁わ、びっくりした
﹁これ、多分上の階に向かってるんですよね
がハッキリと見える。
﹁うわぁ、高所恐怖症の人には辛そうな場所﹂
﹁それ私達が普段仕事してる教会でも同じじゃない
?
汚れ一つ無い白い街並は、まるでよく出来たジオラマのようだ。そ
室内を見渡して、インタースカイを一望できる場所から見下ろす。
自分達を出迎えてくれるはずのバルド・ギアの姿が見当たらない。
﹁でも、誰もいませんね⋮⋮﹂
﹂
る足を踏み入れた。ガラス張りの殺風景な場所からは空と海の境界
三人が予想していた通り、タワーの最上階と思わしき広間に恐る恐
止まったエレベーターのドアが開く。
││どれほどの時間が経過しただろう。十分か、二十分。ようやく
﹁恐らくね。これがバルド・ギアの罠でないことを祈るわ﹂
?
150
?
!
!
こに人の営みはない。だが、それでも人々を迎え入れて生活できるだ
けの材料が揃っている。まるで戦争の被害から逃れるシェルターの
ようなドームに覆われて。ここはきっと巨大な殺菌室なのだ。選ば
れた人間だけがここで生活することを許可される。
静かな最上階に、いつか聞いた風切り音が響いてきた。それは紛れ
も無くバルド・ギアの飛行ユニットによる轟音であり、それがどこか
ら来るのかわからず三人は互いに背を預ける形で武器を手にする。
よもや、奇襲。この階ごと崩落させるつもりならば変身のできない
三人は間違いなく即死するしかない。構える三人に上空から不意に
流れこむ風が吹いた。それに驚いて上を見ると、天井が開いていく。
そこにはバルド・ギアが飛んでいた。徐々に速度を緩めて着地する。
︽お待たせしました。動作チェックの一環として飛行テストをしてい
たのですが││どうかしましたか︾
﹁あ、いえ⋮⋮﹂
何もしていないはずなのに、バルド・ギアのレドームが一瞬だけ稼
働した。すると、室内に白い丸テーブルと椅子が三つ現れる。その上
にはティーセットが置いてあった。驚いている三人に座るように促
151
︽そちらから仕掛けるというのであれば、こちらも相応の対応をさせ
ていただきますが︾
言われてから気づいた三人は慌てて武器を戻し、それを確認してか
らバルド・ギアも飛行ユニットを転送した。すっかり破損したはずの
胴体と左腕は新品同然に交換されており、時折その動作を確かめるよ
うに指を開く。
︾
︽私に客人、ということでしたが⋮⋮なるほど、あなた方でしたか。エ
ヌラスと一緒にいた︾
﹁は、はい﹂
︽⋮⋮ということは、もしや私を討つために
﹁違うよー。私達別な世界の住人で、エヌラスからここなら元の世界
?
エ ヌ ラ ス か ら ⋮⋮ 詳 し く お 聞 か せ く だ さ
に帰る方法があるって言われたんだ﹂
︽別 な 世 界 の 住 人
?
い。ああ、立ち話も辛いでしょう。今用意します︾
?
し、自らも宙に腰掛ける。
﹁アナタのそれ、呼び出せるのは武器だけじゃないのね⋮⋮驚いたわ﹂
︾
﹂
︽特殊なものでして説明は省かせていただきますが、何か他に必要な
ものはありますか
﹂
﹁じゃあ、お言葉に甘えて。私ープリン食べたいなー
﹁ちょっとネプテューヌ
﹁いいじゃん。せっかくだし﹂
︽ええ。いいでしょう︾
そして、テーブルの上に新しく用意されたプリンを見てネプテュー
ヌが喜んだのも束の間、味気ないものを想像したのかスプーンを手に
して止まった。だが、折角の厚意を無下に扱うのも気が引ける。お腹
﹂
に入ればプリンはプリン、意を決して口に入れたネプテューヌが驚愕
﹂
に目を見開いた。
﹁おいひぃ
︽気に入っていただけたなら結構です︾
﹁あの、これってどうやって出してるんですか
︽この国、インタースカイにある物は自在に呼び出すことが可能です。
﹂
私にとってはこの国そのものが武器であると言ってもいいでしょう︾
﹁えっ
能ですので、そのプリンもインタースカイ内で調合されたプリンで
す。安心して食べてください。品質も保証しますよ︾
﹁なんてデタラメな機能搭載してるのよ⋮⋮﹂
︽お恥ずかしながら、唯一の取り柄とも言うべき性能はこれだけです︾
﹁十分すぎるわよ。⋮⋮美味しいわね、この紅茶﹂
︽気に入っていただけたようで何より︾
この等身大のロボット一台にこれだけの情報量を詰め込んだ技術
﹂
力は目を見張る。だが、それでもふとした疑問が出てきた。
﹁どうしてこの国には機械しかいないんですか
﹁それね、私も気になったのよ。人間が十分生活できるのに、どうして
?
152
?
!
?
素朴な疑問を口にしたネプギアに、バルド・ギアは無言で頷く。
?
!
︽データベースから必要な情報を引き出し、一定範囲内に転送する機
?
街の中はロボットしかいないの
は
﹂
﹂
﹂
﹁この国の無人化が九割完了してるって言ってたけど⋮⋮最後の一割
この国は巨大な箱庭であり楽園だ。
のデータとして扱えば〝そちら側〟にも影響するらしい。
仮想現実とはいえ生活している国民の為に用意されている。入出荷
ドームは悪天候などから守るため。そして用意されている食材は、
︽察しがいいですね。その通りです︾
ことですか
﹁街にいるロボットは、そのメンテナンスの為に用意されているって
したものですが︾
︽彼女の手作りです。とはいえ、データ化された情報を元に私が用意
﹁じゃあ、このプリンってもしかして﹂
とした電子世界で生活を営んでいます︾
││仮想現実、とでも言えばいいでしょうか。インタースカイを基本
完了しています。彼ら、或いは彼女達が生活しているのは、電脳空間
︽ここが電脳国家たる由縁でもあります。この国の無人化はほぼ九割
ルド・ギアの側に控える。
ない。淡い水色の髪に、ワンピースを着た少女は一礼すると無言でバ
ホログラム投影された少女はネプギア達とそれほど年は離れてい
彼女達に挨拶を︾
︽⋮⋮この国は、元々は彼女のために作られた国でした。〝ステラ〟。
?
ます。とはいえ機械の身体ですがね︾
﹁でも、どうしてステラちゃんの為に建てられた国なの
﹂
す。勿論、その事件の被害者は彼女だけではありません︾
くなりました。それを見かねて私がインタースカイを建設したので
︽⋮⋮とある事件によって、彼女は電子世界から現実に戻ってこれな
?
﹂
︾
﹁もしかしてそれって、武器の転送アプリケーションのことでしょう
か
︽何故それを
?
153
?
︽今、あなた方の前にいる私がこの国の最後の人間、ということになり
?
?
﹁エヌラスさんから聞きました﹂
﹂
﹂
﹁あと、エロアプリで一山当ててるって聞いたけどそっちの話は本当
なの
﹁このタイミングでそれ聞いちゃうんだ
﹂
︽あの頃の私は⋮⋮そう、どうかしていたんでしょうね⋮⋮︾
﹁否定しないんだ
﹂
?
⋮⋮︾
?
ろしいでしょうか︾
?
がつくかどうかでしょう︾
!
必死に連絡とろうとしてるんじゃ
﹁それならきっといーすんが何とかしてくれるよー
﹂
なくなって慌ててるだろうし
ないかな
今頃私達がい
︽改良自体はそれほどではありません。しかし、そちらの世界と連絡
﹁どれくらい掛かりそうなの
﹂
︽はい、問題ありません。多少改良の手を加えることになりますが、よ
﹁規格が合わなくて通信機能が使えなかったんですけど﹂
ネプギアの見せるNギアを受け取り、バルド・ギアが観察していた。
﹁あの、私のこれじゃダメでしょうか
﹂
︽問 題 は な い で し ょ う。そ ち ら 側 の 世 界 と 連 絡 出 来 る も の が あ れ ば
﹁それより、私達は元の世界に帰ることができるの
︽あちら側の世界であれば年老いることもありません︾
カスカと身体が透ける。
ホログラムのステラがバルド・ギアを必死に叩こうとしているがス
!?
!
私責められてる
あ、そうだバルド・ギア。もう一つ聞き
!?
﹂
今この世界って崩壊に向かってる真っ最中な
?
さもそれが当たり前のように頷いた。
︽ええ︾
んだよね
んだけど、どうして
たいんだけどさ、このアダルトゲイムギョウ界が戦争している理由な
﹁あれ
︽その、いーすん、という方の苦労が目に浮かびます︾
﹁本気で一回怒られた方がいいわよ⋮⋮﹂
?
?
154
!?
!?
!?
﹁どうして戦争なんか起きたのか、教えてもらえない
ないのですか
︾
﹂
︽そ の 発 端 と な っ た 次 元 連 結 装 置 の 開 発 は 確 か に 私 が し た こ と で す
﹃⋮⋮⋮⋮⋮⋮え
﹄
のも。すべてはエヌラスの所為ですが││まさか、何も聞かされてい
︽どうしても何も⋮⋮今、この世界が崩壊していくのも、戦争になった
?
が、それを破壊したのもあの男││戦禍の破壊神たるエヌラスです︾
155
?
?
第三章 セカンドステージ
episode24 〝こちら側〟と〝あちら側〟
次元連結装置││それこそが全ての元凶だった。元は次元を超え
た シ ェ ア エ ネ ル ギ ー の 確 保 と 共 有 に よ る 拡 大 を 図 っ た も の で あ る。
未知との邂逅に胸を踊らせ、不安を抱えながらもその計画は国を超え
てアダルトゲイムギョウ界の技術を結集して作られた。
︽キンジ塔で我々の計画は最終段階を迎え、そして無事に起動しまし
た。ですが、その土壇場でエヌラスが突然襲撃を仕掛けてきたので
す。計画を持ち掛け、我々の同意を得て誰よりも情熱に満ちていたは
ずの男が。⋮⋮結果、不完全な形として装置は起動。この世界が崩壊
に至る原因となりました︾
﹁じゃあ、どうして戦争まで併発してるのよ。おかしいじゃない﹂
︽全ては〝リセット〟の為です。キンジ塔を計画の場所に選んだのに
156
は理由があります。
曰く、最後の一人は世界を〝再世〟することが出来る。
曰く、世界を支配する力を得ることが出来る。
曰く││大いなる〝C〟への挑戦権が得られるなど、様々な伝承が
あります︾
﹂
﹁大いなる⋮⋮﹂
﹁〝C〟
﹁そもそもアナタが次元連結装置なんてものを開発してなければゲイ
に重要なことだ。だが、それとこれでは話が違う。
シェアエネルギーの確保。それは、エヌラスの体質からしたら確か
かった。
プテューヌ達は知る由もないが、それでもその話には納得がいかな
アルシュベイトを差し向けたのがこのバルド・ギアであることをネ
はエヌラスの脱落ですが、上手くいくかどうか︾
そ我々は全面戦争の宣戦布告を掲げ、戦っているのです。当面の目標
︽その力を授かることが出来るのは、最後の生き残りだけ。だからこ
?
﹂
おこだよ、激おこプンプンネプテューヌ
頻発する地震のせいで実績解除のノーセーブク
ムギョウ界に被害が及ばなかったんじゃないかしら
﹁そうだそうだー
﹂
リアが失敗したんだから
様だよ
?
被害の調査と、上手くいけば
?
﹁本当ですか
﹂
もしれません︾
の話ですが⋮⋮もしかすればそちらでの災害を抑えることが可能か
ていただいてもよろしいでしょうか
︽もし、よろしければの話なのですが。そちらの世界へ私も同行させ
やめた。
ろで解決しない。ネプテューヌ達は起きてしまった以上、責めるのを
深々と頭を下げるバルド・ギアに、これ以上の非難を浴びせたとこ
︽それにつきましては、大変申し訳無いことをしたと思っています︾
﹁お姉ちゃんのそれは完全に私利私欲のような⋮⋮﹂
!
!
裏があるのではないか、と。
?
﹁ノワール、信頼してもいいんじゃないかな
エヌラスもアルシュ
たい。そうと知った以上は我々だけの問題ではありませんからね︾
問題を解消する義務があります。そうでなくとも、後方の憂いは断ち
次元連結装置を開発したインタースカイ国王のバルド・ギアにはその
の。そうであれば、原因たるアダルトゲイムギョウ界の住人であり、
︽元を言えば、私達の戦いにあなた方の世界が巻き込まれたようなも
は嬉しい申し出なんだけど、鵜呑みにするわけにはいかないの﹂
﹁⋮⋮ねぇ。それ、そちら側のメリットは何かあるの
私達として
ノワールは考えこむ。果たして信用していいものかどうか。何か
︽あくまでも仮定の話ですが⋮⋮︾
!?
バルド・ギアは重ねて頭を下げる。
︽ご理解いただけたようでありがとうございます︾
とだし⋮⋮分かったわ、アナタの言葉を信じるてあげてもいいわよ﹂
﹁ええ、そうね。それにゲイムギョウ界だったら本来の力も出せるこ
私達、他の二人も疑うことになっちゃうよ﹂
ベイトも同じこと言ってたんだし。ここでバルド・ギアだけ疑ったら
?
157
!
︽ステラ、みんなに連絡を。次元渡航の準備をしてもらえないか︾
﹂
黙って頷いた少女が消えた。恐らくは仮想現実へ戻ったのだろう。
﹁あの、国王って他にどんな方がいるんですか
九龍アマルガム︾
﹂
﹁ホントに国王だったんだ
﹂
︽ありがとうございます。次に、エヌラス。彼が治める国は地下帝国
﹁そうね。ひとまず悪い人じゃないのも分かったし﹂
でしょう︾
︽まず、私。電脳国家インタースカイ国王、バルド・ギア。もうご存知
ている間にバルド・ギアが話を続けた。
その装置にNギアを接続し、最適化されたデータをインストールし
﹁で、デカイ⋮⋮
くしていた。何しろ巨大過ぎて見上げるほどなのだから無理もない。
るのは四つのマザーコンピューター。それを見てネプギアが目を丸
ンコンピューターだった。常時稼働を続けるサーバーを動かしてい
そして案内されたのは、インタースカイの核とも言える巨大なメイ
て移動する。
言って、再びエレベーターに三人が案内された。今度は地下へ向け
にしましょう。どうぞこちらへ︾
︽改良までの時間、退屈でしょうしそれについて話しながらすること
?
﹂
﹁昨日襲撃してきた、ドラグレイスだったかしら
あれも国王なの
事国家アゴウ国王、アルシュベイト。私の無二の親友でもあります︾
︽そして、次に││アダルトゲイムギョウ界最強と呼ばれる国王。軍
﹁お姉ちゃん、本当に疑ってたんだ⋮⋮﹂
!?
?
﹂
せ ん。で す が、自 ら が 率 い る 傭 兵 組 織 を 抱 え 込 ん で い ま す。し か し
⋮⋮︾
﹁しかし
す︾
︽本 当 に 留 意 す べ き は 国 王 で は あ り ま せ ん。神 格 と 呼 ば れ る 存 在 で
?
158
!
︽いいえ、違います。あの男は自分の治める国を持ちあわせておりま
?
守護女神が国を治めるように神格と呼ばれる存在もまた国を治め
シンカ
る。だが、それは単純に神格が他人からの信仰心を必要とするから
だ。﹃国王=神格﹄であり、同時に〝神化〟することで、より力を発揮
できる。
︽ほとんどのものは国王として君臨し、名を馳せるものばかりですが
││中には無軌道・無秩序を掲げて動くものも確かにいるのです。最
も危険な存在であると同時に、そんな彼らの行動を崇拝する熱狂的な
信者もこの世界にいることを忘れないで下さい︾
﹂
﹁なるほどね。カルト教団、ってわけ。新興宗教や秘密結社のように、
犯罪者の集まりでしょ
︽ええ。無法者の集まりであるがゆえに、その信者達の行動は読めな
い。対策を練ることもできません。彼らは自らの崇拝する神格者に
シェアを送る為ならどのような非道な行いにもでます︾
それに近い存在がドラグレイスだ。自らの力を示し、傭兵達をまと
め上げている。その絶対的な力に彼らは惚れ込み、従っているのだと
いう。だがしかし、ドラグレイス自身の美学に則った以上の行動はし
ない。彼らなりに〝筋を通す〟集団だ。
﹁それを率いているのが神格者であるとなると⋮⋮相当に厄介ね﹂
︽気をつけてください。私やアルシュベイトのように無関係なものを
﹂
巻き込むのを望まない国王ばかりではないことを︾
﹁エヌラスは
壊を助長しているものです。結局のところエヌラスは、破壊神でしか
レールガン
デッド・ブランク
ないのですよ。あなた方も見たはずだ。彼の武器を︾
超電磁抜刀術然り、アクセル・ストライク然り、 紅 & 白 然り、エ
ヌ ラ ス の 持 つ 攻 撃 手 段 は 人 間 を 相 手 に す る こ と を 想 定 し て い な い。
明らかに〝それ以上の存在〟と戦うことを前提とされている。戦禍
の破壊神と呼ばれるだけのことをしてきたのだ。
そして、Nギアにデータを流し込み終えたのかステラが再び半実体
化してバルド・ギアの隣に並ぶ。
︽あ ち ら 側 と 連 絡 す る 準 備 が 整 っ た よ う で す ね。お 願 い で き ま す か
159
?
︽彼は口ではああ言ってますが、彼の起こす行動の数々は明らかに崩
?
︾
﹁は、はい
﹂
巨大なメインコンピューターに接続されたNギアに近づき、ネプギ
アが操作した││
160
!
?
e p i s o d e 2 5 ゲ イ ム ギ ョ ウ 界 は い い と こ
よっといで
プ ラ ネ テ ュ ー ヌ で は 女 神 が こ の 二 日 ほ ど 不 在 で 大 慌 て の イ ス ト
ワールがあの手この手で二人を探していた。そこには呼び出してい
たアイエフとコンパも一緒にいる。
﹁それで、イストワール様。ネプテューヌとネプギアはまだ⋮⋮﹂
﹂
﹁はい。何度も連絡をしてるんですが一向に繋がる気配がありませ│
│みゃあああぁ
コンパが受け止めた。
﹁だいじょうぶですかぁ
﹂
わわ、ホントに繋がった
﹄
﹁は、はい⋮⋮この着信││ネプギアさんから
﹃もしもし
!
?
んですよ
ネプテューヌさんは
﹂
?
﹂
そちらの次元からこちらへの移動、というのは。
私どもでなにかするべきことはあれば﹂
なのでしょうか
﹁いーすん、と呼んでくださっても構いませんよ。それで、本当に可能
トワールさん︾
︽いえ、お気になさらないでください、いーすんさん。⋮⋮失礼、イス
ちの女神達が⋮⋮﹂
﹁はじめまして。イストワールと申します。すいません、この度はう
国家インタースカイ国王、バルド・ギアです︾
︽初めまして。今ご説明いただいた通り、彼女達を保護している電脳
ネプギアは事の顛末を話し、バルド・ギアに替わった。
﹃あ、えっと││﹄
す。それで、今どちらに
﹁ラ ス テ イ シ ョ ン で も 騒 ぎ に な っ て ま し た か ら ち ょ う ど 良 か っ た で
﹃はい、一緒にいます。あとノワールさんも﹄
?
﹁よかったぁ∼、ご無事みたいですね。突然いなくなるから心配した
!?
﹂
まるで猫のように叫び、ふらふらと落ちそうになるイストワールを
!?
?
161
!
?
︽では、そうですね。そちらの次元と座標を教えていただけますか
⋮⋮え、二件
︾
?
!?
﹁はい。えーっですねぇ││﹂
︾
︽ありがとうございます。ステラ、探知は││二件
プラネテューヌで検索して二件ヒット
?
うのは⋮⋮︾
﹁実は⋮⋮こちらと同じく女神不在です﹂
!?
﹂
﹁あ、そうだ。でも今、そちらにノワールさんがご一緒なんですよね
ワールは苦笑するしかなかった。
か ん だ。確 か に 言 わ れ て み れ ば そ れ も そ う で あ る。そ れ に イ ス ト
なんというか、バルド・ギアの慌てふためく様が通信越しに目に浮
︽なんでそんな奇跡的な状況が重なってしまうんですか
︾
︽えー、それでそのもう片方のゲイムギョウ界のプラネテューヌとい
物がありまして﹂
﹁あ、言いそびれましたけど実はゲイムギョウ界の並行世界のような
!?
︽あっはい。そうですけれど⋮⋮︾
﹁それでしたら、ラステイションで検索してみてはいかがでしょうか。
そちらの検索機能がどれほどの性能かは存じませんが、女神不在のラ
ステイションと同次元の方が都合がよいでしょう﹂
万が一〝あちら〟のゲイムギョウ界に飛ばされた場合は、繋がって
いる状態なので問題はないのだがそれはそれで迷惑がかかる。何か
腑に落ちない様子でバルド・ギアが検索条件を設定したらしく、ヒッ
ト。
﹂
︽はい、確かに。⋮⋮ありがとうございます︾
﹁どうかしたんですか
﹁はいなのです∼﹂
﹁ええ、構いません。コンパ、行くわよ﹂
もよろしいでしょうか﹂
﹁それでは、お待ちしておりますね。お二人共、迎えに行ってもらって
感してるだけです⋮⋮︾
︽いえ、なんでもありません⋮⋮ただ世界は広いものだなと改めて実
?
162
?
指定された場所は、万一にも備えてプラネテューヌの外れにある草
原だった。アイエフとコンパの二人が時計を確認しながらしばらく
待っていると、やがて空から間延びした悲鳴が聞こえてくる。見上げ
ると、三人が落ちてきていた。それに続いて見慣れないロボットが一
緒に高高度から降下してくる。飛行ユニットを展開したバルド・ギア
が三人を抱えて緩やかに着地した。
︽無事に到着出来たようですね︾
﹁うぇぇぇ∼、気分悪いよう⋮⋮うっぷ﹂
﹁目が回る∼﹂
︽ああ、それは恐らく移動する前に食事とかしたからでしょうね。本
﹂
来であれば次元渡航の三十分以内は飲食禁止なのですが︾
﹁じゃあなんでプリンとか紅茶とか出したのよ
︽お客様ですしもてなそうと思ったからですが⋮⋮それにまさか別次
元から来たなんて思いもしないでしょう、普通︾
﹂
それを言われて言葉に詰まる。自分達だって別次元のゲイムギョ
ウ界の存在を知ったのはつい最近のことだ。
我が心の友よー﹂
﹁ねぷ子、ネプギア﹂
﹁おー、あいちゃん
﹁ちょ、ちょっといきなり抱きつかないでよ
馴染みのある感覚を身体に馴染ませるようにネプテューヌ達が軽
く慣らし、再会に胸を踊らせたのも束の間。地面が唐突に揺れた。
﹁ぅわっとぉ⋮⋮やっぱり地震とかまだ⋮⋮﹂
﹁ええ。最近はまた頻度が上がってるの。それほど大きいものじゃな
いからいまのところ被害は少ないけれど﹂
﹁こうしちゃいられないわ。ネプテューヌ、私はラステイションに戻
るわね。ユニも心配してるだろうし、空けていた間の仕事が溜まって
るだろうから﹂
﹁あ、ちょっとノワールー⋮⋮って、もう行っちゃった⋮⋮﹂
163
!
﹁本当に私達、ゲイムギョウ界に戻ってこれちゃったんですね⋮⋮﹂
﹁何はともあれ、二人がいるってことは⋮⋮﹂
!
!
変身してすぐに飛んでいなくなったノワールを見送り、ネプテュー
ヌ達はバルド・ギアをプラネテューヌに案内する。すれ違う人々が話
しているのはやはり災害のことだった。
﹁うーん、戻ったらまたいーすんに怒られそうだなぁ⋮⋮﹂
﹁そうでしょうね。リーンボックスではライブの中止やモンスターの
駆除で手一杯。ルウィーでも同様、災害も併発して大忙しよ。誰かさ
んと違って﹂
﹂
﹂
﹁も ー、こ れ で も 私 だ っ て す っ ご く 大 変 だ っ た し や ば か っ た し 楽 し
かったんだからね
﹁遊んできたのか危険だったのか、どっちかにしなさいよ
﹁ま ぁ ま ぁ。ね ぷ ね ぷ が 無 事 に 戻 っ て き た か ら い い じ ゃ な い で す か
∼﹂
﹁それは、まぁ、そうだけど⋮⋮﹂
歩き始めてからすぐに森を抜けて、プラネテューヌを見下ろす。
﹁うーん、見た目そんな変わってないね﹂
﹁そりゃ貴方がいなくなってから三日くらいしか経ってないもの﹂
三日。││たった、三日間の出来事なのだ。それなのに随分と長く
感 じ る。一 瞬 一 秒 の 出 来 事 が ま る で 昨 日 の 出 来 事 に も 感 じ ら れ た。
そう思うだけでネプテューヌには疲れがどっと押し寄せてくる。あ
まりにも濃密な時間だったのだ。
エヌラスと出会い、振り回され、振り回され││振り回されて⋮⋮。
〟
〝あれ、私エヌラスと出会ってから物理的に投げられてばっかじゃ
ん
﹃⋮⋮⋮⋮﹄
聞き慣れない青年の声に、四人が振り向いた。
そこにいたのは、バルド・ギア││のはずである。だが、二メート
ルに及ぶ機械の身体を有した機人はそこにはおらず、その代わりにそ
こに立っていたのは小さな丸メガネを鼻に掛けた、やや目尻の下がっ
た温厚そうな中肉中背の青年。白いシャツを羽織っており、小首を傾
げている。
164
!
!
﹁ふむ⋮⋮とても平和そうですね。興味深いです﹂
!?
﹁あの、ボクがなにか
﹃誰ェェェーーーーー
﹂
﹄
ネプテューヌ達の叫びが草原に響き渡った。
﹁いや、あの、ボクです。私ですよ、バルド・ギアです
この姿は非
戦闘区域や街の中を歩くときに使う電脳次元に保存した肉体データ
です。あ、とはいえちゃんと実体もありますのでご安心ください﹂
焦ってやや早口になっているが、ギャップがあまりにも大きすぎて
﹂
ネプテューヌはしばらく餌を待つ鯉のように口をパクパクとさせて
いた。
﹁で、ででででも、ロボットなんじゃないの
でも戦闘行動は可能です﹂
?
﹁えっと、あの。なにか
﹂
ると、少し戸惑っていた。
から下までじっくりと値踏みするようにネプテューヌが視線を投げ
年は十代半ばか、後半に差し掛かっているというところだろう。上
ても支障はありません。ご心配なく﹂
サーバーに負担は掛かりますが、次元間を隔てて武装の呼び出しをし
﹁ステラがあちらとこちらの次元ルートを確保してくれたので、少々
﹁インタースカイの武装も呼び出せるってことですか
﹂
﹁はい。普段はそちらの方が戦闘に適してますから、それにこの状態
!?
⋮⋮﹂
﹁こんなって、お姉ちゃん失礼だよ﹂
﹂
そこはエヌラスとそっくり
﹁だってあんなとんでも機能つけてるのに見た目まんまギャルゲの主
人公みたいなんだもん
マジで
見た目平凡だよね﹂
ぅあー、エヌラスとおんなじとかちょっと困る
﹁貴方も言い方に歯に衣着せませんね
です﹂
﹁ぅげ
!?
⋮⋮﹂
165
!
!?!? ?
﹁あのロボットの中身がこんなだったなんてちょっとショックだなぁ
?
!
なぁ⋮⋮ごめんね、今の前言撤回させて
!?
﹁な ん か 言 っ て る こ と に 大 し た 差 が 出 て ま せ ん が、ま ぁ 我 慢 し ま す
!
!?
﹁エヌラス
てきたの
﹁へっ
って、誰
﹂
いや違うよ
﹁です﹂
﹂
もしかしてねぷ子。貴方向こうで男作っ
﹂
誤解だよふたり共
﹁ねぷねぷが大人の階段登ってるですぅ
?
ラに通信してください﹂
?
﹂
﹁どうなの、ねぷ子
﹂
﹁そうですぅ。ねぷねぷの彼氏さん、紹介して欲しいのです∼
﹁だからエヌラスとはそんなんじゃないんだってヴぁ∼
﹁⋮⋮あの、あちらは⋮⋮﹂
﹂
そこのところハッキリ詳しく教えてもらえる
ますか。こちらの世界について知りたいことがありますし﹂
﹁ひとまずは⋮⋮そうですね。イストワールさんと会わせていただけ
﹁わかりました﹂
﹁この姿の時は、琴霧ソラ。ソラって呼んでください﹂
﹁えーっと⋮⋮バルド・ギアさん││
﹂
﹁インタースカイのサーバーを登録しておいたので、何かあればステ
﹁はい、ありがとうございます﹂
す﹂
﹁あ、それとネプギアさん。あのお借りした機械ですが、お返ししま
ギアが声を掛けた。
とりを一歩引いて眺めていたネプギアに、思い出したようにバルド・
ネプテューヌに問い詰めるアイエフとコンパ。そんな三人のやり
!?
!
?
!?
﹁慌てて隠すなんて、怪しいわね⋮⋮﹂
!?
!
166
!?
﹁えーっと⋮⋮しばらく放っておけば収まると思います⋮⋮﹂
!
!
!?
episode26 カミサマ失格
なんて女神失格ですよネプテューヌさん
﹂
﹁まったくもう、いなくなったと思ったらとうとう男遊びまで始める
?
﹁私の話聞いてる∼
﹂
尻軽になっちゃったんですか
﹂
﹂
﹁それも出会ってまだ三日も経たない人となんて、いつからそんなに
﹁いーすんまでそういうこと言っちゃう
!? !
動した。
﹁じ∼﹂
﹂
﹂
?
﹁えーっと、どうも﹂
ち、ちち違いますよ
﹁⋮⋮ネプギアさんも彼氏作ってきたんですか
﹁へっ
﹂
うなので片手を挙げる。それに気づいてイストワールが目の前に移
直しながら事が収まるのを待っていたが、このままでは延々と続きそ
りは続いていた。バルド・ギア││もとい、琴霧ソラは時々メガネを
プラネテューヌの教会に着いてからもしばらくネプテューヌいじ
﹁いーすん∼
やはり健全なお付き合いを││﹂
は悪いことではないかもしれませんね。うんうん。でも私としては
﹁あ、でもゲームばかりでなくてそういったことに興味が出てきたの
?
!
!?
行しただけですし、そういった話題とは無縁です﹂
淡々と即座に否定するソラに、イストワールはほっと一息。
﹂
﹁よかったぁ。ネプギアさんまでそんなことを始めてたらどうなるこ
とかと﹂
﹁あれ、私ネプギアより信用ないの
﹁ほーら、ねぷ子はこっちよ。国民からモンスター退治の依頼、一杯来
の事件についてお話がありますから﹂
テューヌさんはお仕事してください。私はこれからソラさんと今回
﹁当たり前です。普段の行いを見れば当然の結果でしょう、ささ、ネプ
!?
167
!
﹁はい、違います。私はあくまでも今回の件について調査のために同
!?
てるんだから﹂
﹁あーれ∼∼∼⋮⋮﹂
アイエフに引きずられていくネプテューヌと、それについていくネ
プギアを見送ってからイストワールは改めて自己紹介すると、律儀に
もソラは同じく自己紹介を返す。
﹁ボク達の世界でああいった戦いは確かに周期的に起きているのです
が、今回の戦いは別次元にまで被害を及ぼすとは想定外の事態が続い
て⋮⋮大変申し訳ありません﹂
﹁いえ、そんな。そちらの事情というのもありますしお気になさらな
﹂
いでくださいませ。そもそも次元連結装置とやらの事故なのでしょ
う
﹁はい。⋮⋮そうだと、思います﹂
﹁なにか気になることでも⋮⋮﹂
事件の発端は、確かに次元連結装置だ。シェアエネルギーを使い、
別次元との邂逅を果たすための装置。だが動作不良としても他の世
界に影響を及ぼすとは考え難い。
最終段階に差し掛かって、エヌラスが突然破壊に乗り出した。その
理由を問おうとする前にこちらに銃を向けてきて説明を聞く暇もな
く戦争が起きてうやむやになっている。
次元連結装置のプログラムは動作テストを重ねた上で完璧に稼働
していた。それに立ち会っていたエヌラスもアルシュベイトもドラ
グレイスも確認している。そうなると考えうるのは第三者によって
何らかの手が加えられた可能性だ。仮にそうだとして、それが一体誰
の手によるものなのか。それを知っていたエヌラスが破壊しようと、
計画を中止しようとしたとして││なぜ何も言わずに凶行に乗り出
したのかまでは分からない。
﹂
﹁あれは、本当に事故だったのか⋮⋮﹂
﹁ソラさん
﹁はい。ではまずこちらのゲイムギョウ界についてですが││﹂
それよりも詳しいお話を聞かせてください﹂
﹁あぁ、いえ。すいません、イストワールさん。ちょっと考え事です。
?
168
?
今はまず、この次元を超えた災害の後始末をしなければ。ソラはす
ぐにイストワールの説明に耳を傾けた。
一方で、ラステイションに戻ったノワール。溜まりに溜まった仕事
の山を見て、気合を入れて取り掛かる。
﹁お姉ちゃん、おかえりなさい﹂
﹂
調査に行ったきり連絡もなかったから心配した
﹁ただいま、ユニ。今ちょっと手が放せないから用があるなら手短に
お願い﹂
﹂
﹁どこ行ってたの
んだよ
﹁⋮⋮なに
﹂
に素直に喜びを表せないユニの会話は事務的なもので終わった。
帰ってきてから女神としての仕事に精を出すノワールと、そんな姉
﹁ええ、ありがと﹂
﹁新しい書類。置いておくね﹂
﹁ちょっとね。まぁ、いずれ話すわ。それは
?
﹂
﹂
﹁アダ⋮⋮、お姉ちゃん。それって、私が調べても大丈夫なのかな⋮⋮
調べてほしいの﹂
﹁どんな些細な情報でもいいから、アダルトゲイムギョウ界について
﹁うん
﹂
﹁そう。⋮⋮それなら、そうね⋮⋮ちょっと調べ物を頼まれてくれる
﹁えっと⋮⋮手伝えること、ないかなって⋮⋮﹂
?
﹂
﹂
﹁んー、いいんじゃないかしら。それに近い情報でもいいから、お願い
できる
﹁お姉ちゃんの頼みなら⋮⋮やってみる
﹁ありがと、ユニ﹂
戻ってきたの
﹂
?
?
﹁ええ。ネプテューヌもね。それがどうかした
﹂
﹁あ、それと。お姉ちゃんが戻ってきたってことは、ネプギアも一緒に
!
?
169
?
?
!
?
?
﹁ううん、なんでもない。それじゃ調べてみるね﹂
機嫌が良さそうに執務室を後にしたユニを見て、ノワールは首を傾
げる。やってもやっても片付かない書類の山を前に、手を休めている
暇など今はないのだ。こうして腰を落ち着けて、改めて自分が経験し
たことを思い返す。
アダルトゲイムギョウ界に踏み入ったその日に屈強な男たちの手
で自分は純潔を汚されそうになったのだ。思い出すだけでも腹が立
つと同時に、嫌悪感が増す。だが、そんな窮地を救ったのがエヌラス。
〝⋮⋮まったく、何を考えてるのかしら〟
腹 立 た し い の は 事 実 だ が、そ れ が 不 思 議 と 気 に な ら な い。多 分、
きっと、恐らくは、なまじ顔が良い上に実力も兼ね合わせているから
だ。そうに違いないとノワールは無理やり納得することにした。た
だ、変神してからのエヌラスとお近づきになりたいとは思わない。
アルシュベイトが来て、トライデントに送り届けられ、インタース
た。
﹁こうなったらもう、とっとと仕事終わらせて││終わらせて⋮⋮﹂
イムギョウ界も怪しまれる可能性が⋮⋮。
〝なにか⋮⋮なにか理由は無いかしら⋮⋮〟
?
でノワールの胸には言い様のないモヤが積もる。その都度、手が止ま
エヌラスに会って、自分は何がしたいのだろう
そう考えるだけ
が影響しています、などと公表して解決に乗り出したとしたら別なゲ
も危険すぎる。何より国民たちに不審がられる。実は別次元の戦争
四女神が揃いも揃ってゲイムギョウ界を不在にするのはあまりに
?
一人で乗り込むにも不安が
終わらせて、どうすればいいだろう
?
ベールやブランを誘って
残る。そうなるとネプテューヌ達と
?
170
カイからゲイムギョウ界にこうして帰ってこれたのだ。しかし、乗り
なんだってあんな奴のこと気にしてるのよ
かかった船。ノワールの頭の片隅にはエヌラスの姿が焼き付いて離
れない。
﹂
﹁あぁぁぁぁっ、もう
私は
!
もやもやとした気持ちに苛立ちながらノワールは手を止めなかっ
!
﹂
り、書類が進まない。これではまるっきり仕事にならなかった。
﹁あー、もう
﹂
!
﹂
うにも敵の襲撃にも備えなければならなかった。
﹁変身して飛んじゃダメなの∼
﹁え∼
﹂
﹁俺が飛べないんだ⋮⋮ごめんな﹂
?
﹁││なぁプルルート。〝おんぶ〟と〝抱っこ〟どっちがいい
﹂
ずっと歩き通しだったのだ。無理もない。かといって休息を挟も
﹁もう疲れたよぉ∼﹂
プルルートが立ち止まるなり座り込んだ。
ユノスダスを目指して森の中を歩いていたエヌラスだったが、突然
結局、書類は山積みのまま放置されている。
街へと向かっていった。
うという意味である。ノワールは執務室の扉を乱暴に開け放つなり
││なお、駆逐という言葉は一見凶悪そうに思えるが実際は追い払
片っ端から斬り伏せてやるわ
﹁国民を脅かす凶悪なモンスターは一匹残らず駆逐よ、駆逐してやる
そう、ただの〝八つ当たり〟である││。
席を立つ。
の依頼が来ていないか片っ端から調べあげ、それを全てまとめるなり
机を叩き、ノワールは憂さ晴らしと言わんばかりにモンスター退治
!
る。
││だっこ
だっこだと
冗談じゃねぇ、そんな姿見られた日
!?
スは寝る間も惜しんで血眼になりながら命を懸けて孤独に戦ってい
ようがないロリコンの烙印を押されてロリの国を作るためにエヌラ
にはなんて噂が立つか知れたもんじゃない。正真正銘言い逃れのし
?
カウンターからの強烈なアッパーが突き刺さりエヌラスが撃沈す
﹁えっとね∼、だっこがいいなぁ∼﹂
ルートは顔を少しだけ赤くして両手を突き出した。
少しだけ意地悪してやろうかとエヌラスが投げかけた問に、プル
?
?
171
!
るとか言われようものならいっそのこと自害したほうがマシな風評
被害だ。いっそ殺せ。提案しておいてなんだが、それでも満更でもな
さそうなどころか完全に受け入れ態勢、ランディングギアオッケー
バッチコーイなプルルートが笑顔で〝抱っこ〟を待っている。男に
二言はないかもしれない。二度と言えないかもしれない。そして俺
﹂↑仮にも神格者
は二度と言わないことをここに誓った。
﹁えへ∼﹂
﹁神などいない⋮⋮
﹁男の人にこういうことされるの憧れてたんだ∼﹂↑現役女神様
女神様をお姫様抱っこしながら森の中を歩くエヌラス。首元に手
を回し、頭を寄せるプルルートの胸の上にはねぷぐるみが置いてあっ
た。
﹁女神様ってぇ、出会いがないからねぷちゃん達にぃ自慢できちゃう
な∼﹂
〝俺が社会的に死刑宣告されている気がしてならない〟
もしそれを言いふらされでもしたらエヌラスがロリコンの国王と
いう不名誉極まりない二つ名で呼ばれる可能性が高い。もし本当に
そんな呼び名が広まった日には戦禍の破壊神の異名たる由縁を見せ
つけるまである。
172
!
episode27 天敵
﹁そういえば、ユノスダスってどういう国なの∼
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁エヌラス∼
﹂
﹁どんな人なのかな∼﹂
がらないんだ﹂
﹂
﹁ま、そんなだから俺もアルシュベイトもユノスダス国王には頭が上
﹁ほぇ∼、すごいね∼﹂
ゲイムギョウ界その物を敵に回すことに等しい。
もし、ユノスダスに攻め入るバカがいたとしたらそれは、アダルト
て周辺区域の警備及び、国内の治安維持などを務めていた。
意によって食料などの援助物資を受け取っている。その見返りとし
下同文。ドラグレイスの率いる傭兵組織もまた、ユノスダス国王の厚
アゴウには弾薬推進剤その他の輸出。九龍アマルガムに関しても以
ギ ョ ウ 界 の 台 所。イ ン タ ー ス カ イ に は 電 子 機 器 及 び 食 品 の 輸 出 入。
の国に対する援助活動を行っている。言うなれば、アダルトゲイム
商業国家ユノスダス。中立国として君臨しておきながら、ほぼ全て
まったく旨味がない﹂
﹁超 余 裕 っ て こ と だ。だ が 誰 も 攻 め こ ま な い、つ う か 攻 め 込 ん で も
﹁べいびー
﹁完全非戦闘区域。攻めこんで落とすのはベイビーサブミッション﹂
?
ヌラスの顔には滝のような汗が吹き出てきた。
!
は生命線とも言える手入れされた街道でエヌラスはプルルートを下
ばユノスダスまで一直線。他国への輸出入を生業とする国にとって
そして、エヌラスが森を抜けて街道に出た。道なりにまっすぐ進め
ぼ全ての国に対して胃袋を握っている恐ろしい国である。
何が起きても必ず寄らなければならないのだ。そういう意味ではほ
だがしかし、もう既に足を向けている以上、背に腹は変えられない。
﹁おもいだしたくない⋮⋮というか、会いたくない⋮⋮
﹂
どんな人か。ユノスダス国王がどんな人物であるかと聞かれて、エ
?
173
?
﹂
ろす。しばらく歩いてから、エヌラスがふと立ち止まった。
﹁どうしたの∼
﹂
﹂
!?
﹂
!?
人を追跡してきた。
﹁野生のフォートクラブとかどういう冗談だ
!
なんの冗談だ
今夜の晩飯なにがいいかなぁぁぁぁちくしょおぉぉぉぉ
い
﹂
せめて食えるカニ用意してくれねぇか
!
!!
つからカニ道楽になった
な
!
六輪駆動の本領を発揮して慣らされた街道を滑るように移動して二
ブの群れから全力で逃走する。姿勢を低くして重心を安定させると、
景気良くグレネードと二門の機関銃を斉射してくるフォートクラ
﹁きゃああ∼∼∼∼⋮⋮
﹁な││んじゃありゃぁぁぁあああっ
ライクでプルルートを抱えながら離脱するのは同時だった。
ネードランチャーが発射するのと、エヌラスが渾身のアクセル・スト
一対の多目的視覚ユニットが一斉に二人を補足する。口部のグレ
めた。
車が群れで飛び出してくる。それにはプルルートもエヌラスも青ざ
トクラブ。標準装備の全身グレーの全長六メートル、鋼鉄の多脚型戦
どこのバカかと言われたら││呼ばれて飛び出てくるのは、フォー
カだ﹂
﹁この辺りまで来ると準非戦闘区域のはずなんだけどな⋮⋮どこのバ
を掛けて出来上がったその黒い轍を見て、エヌラスが訝しむ。
動の残り香だ。見れば、街道にはタイヤの後まで付いている。急制動
そして周囲には焼け焦げた爆発の痕、弾痕まである。明らかな戦闘行
へし折れた木々。まるで猛獣になぎ倒された様な自然破壊の傷跡、
﹁え∼
﹁⋮⋮プルルート。アレ見てくれ﹂
?
ルートを抱えてフェイントを交えた変則的な機動で射撃を掻い潜る。
﹂
ユノスダスの城壁が見えてきた││だが、このフォートクラブを引き
あたし、エヌラス食べたいなぁ∼
!
連れて入国するわけにはいかない。
﹁え∼っとねぇ∼
!
174
?
やけくそで絶叫にも似たとりとめのない言葉を連ねながら、プル
!?
﹁お客様、今夜の晩飯に俺は含まれておりませぇぇぇん
﹂
をまき散らしている。
﹁お前││
﹂
グレネードが吸い込まれて一拍を置き、爆発した。
︽無事か、エヌラス︾
﹁あ、ああ⋮⋮まぁな
﹂
︽詳細は追って話す、まずはユノスダスに向かって走れ
﹁言われなくてもそうすらぁ
﹂
︾
突撃銃を取り出して構える。口を開けたフォートクラブの口へ、逆に
の前に着地した。腰部ブースターで制動しながら、左肩のラックから
一刀両断。要塞ガニを真っ二つにしながらアルシュベイトが二人
︽チェェェストォオオオオオッ
︾
した矢先││唐突に一匹が吹き飛んだ。その装甲は大きく歪み、紫電
上げすぎて呼吸が乱れつつある。それを整息しながら迎撃しようと
ル・ストライクの連続使用で心臓が悲鳴を上げ始めていた。回転数を
着地と同時に軸足で回転、フォートクラブを蹴り飛ばす。アクセ
!!
﹁っせぇなバーカ
バーカ
テメェら後で覚えてやがれ
!
﹁や か ま し い
﹂
!
いた。
!
﹂という大声にエヌラスが身体を強張らせる。
ぎこちなく振り向くと、そこには││。
瞬間﹁あーーーー
荷物を置いて即座に引き返し、今からでも一発殴りに行こうとした
﹁アイツ、ら⋮⋮ぜぇ、人の、気も知らねぇで⋮⋮言い放題⋮⋮
﹂
爆音が遠ざかるのを聞いて膝に手を当てて荒くなった呼吸を整えて
捨て台詞を吐きながらエヌラスはユノスダスへと滑り込み、背後の
!
﹂
﹁たかがカニを相手に逃げ惑うとは⋮⋮堕ちたものだな、エヌラス﹂
準を向ける一匹に飛び移ると同様に背中から力任せに叩き切る。
スだった。大剣でチーズのように装甲を溶かしながら切り裂いて照
する。その背中に乗っているのは竜を模した西洋鎧││ドラグレイ
アルシュベイトの前で、更にもう一匹が頭から串刺しにされて沈黙
!
!
?
﹁エヌラス∼、カッコ悪いよ∼⋮⋮﹂
!
!!!
175
!!
!
﹁エヌラスー、ひっさしぶり∼
﹂
﹁││││﹂
﹁⋮⋮誰ぇ
いた。
﹂
?
﹁⋮⋮それは
﹂
するような手を差し出す。
﹂
エヌラスの肩を叩きながら笑う少女が、思い出したようにおねだり
ヌラス=サン﹂
﹁あはははは、そんな他人行儀な挨拶しなくてもいいよー。ドーモ、エ
﹁ドーモ⋮⋮オヒサシブリデス、ユウコ=サン﹂
﹁何か言うこと、あるんじゃな∼い
﹂
朗らかな笑みでエヌラスの顔を覗き込む。当の相手は顔が青ざめて
屈そうにしている。柑橘の髪留めがトレードマークな茶髪の少女は
人であった。暖色系でまとめた服装に、エプロンの下で豊満な胸が窮
元気ハツラツなエプロンを着けた少女こそがユノスダス国王その
﹁よろしく∼﹂
コ。よろしくねー、ぷるちゃん﹂
﹁そっかそっかー、プルルートちゃんかー。私はユノスダス国王、ユウ
﹁えっとねぇ、あたしぃプルルートだよ∼﹂
﹁えーっと、それは私のセリフかなぁ⋮⋮どちら様
!
∼﹂
﹁手持ちがないんだよ⋮⋮﹂
﹁じゃー、働くしかないよねぇ
事いっぱい沢山用意してあるから
今すぐ、とっとと働いてくれてもいいんだよ
ろ﹂
﹁いや、待て、ちょっと休ませ││﹂
﹁働け﹂
││何か今、とてつもない殺意を感じた。だが、すぐに満面の笑み
!
!
?
﹁ウッス、ありがたくやらせてもらいます﹂
っていうか、そうし
明日にでも、何なら今日から、
だいじょうぶ、エヌラス向けのお仕
﹁お・か・ね♪ 前の未払い分、済ませてもらわないと困るんだよねぇ
?
176
?
?
を浮かべたユウコは手を叩いてプルルートをまじまじと観察する。
﹂
﹁へ∼、ふぅ∼ん。ほほぉ⋮⋮これはこれは﹂
﹁なにかな∼
﹂
ちゃんの宿はこっちで用意するから安心して
﹁俺の宿は
﹂
それとも野宿させちゃう
?
!
でもらわないと﹂
﹁俺を過労で殺す気かテメェ
!
事情があるとはいえ人様の厚意に乗っかってこれだよ むしろな
﹁そうだよねぇ、ひどいよねーコイツ。いくら一国一城の主でお国の
よぉ∼﹂
﹁うわぁ∼⋮⋮エヌラスぅ、それはちょっとあたしでもぉドン引きだ
﹁俺の骨が粉になるまで働きますごめんなさい﹂
﹁じゃあ金払え﹂
﹂
銭飲食その他の罪状があるから、その代金分ぶっ続きで働かせて稼い
エヌラスには前回と前々回と前前々回と先月分の未払いの宿代と無
﹁ちなみに私としては別な部屋の別な宿で泊まることを推奨するよ。
る。
仮にも一国の主を、アレ扱い。なんとも剛毅な精神力の持ち主であ
﹁アレと一緒の部屋がいい
﹂
﹁い や い や。エ ヌ ラ ス も ま た か わ い い 子 連 れ て き た な ー っ て。ぷ る
?
﹁えぇ∼⋮⋮
﹂
よくわからない魔術工業だっていうのに﹂
なんて金銀財宝と石油と燃料とその他ちょっと口に出せないような
んでお金持っていないのって話ですよ。エヌラスの国の主な収入源
?
こに紹介されてる仕事、片っ端から持ってきてー。うん、片っ端から。
﹁もしもーし、ユウコでーす。ユノスダス国王のユウコ様だよー。そ
出した。
企業も真っ青な容赦の無さでユウコは有無を言わさず責任者を呼び
ノスダス国内の仕事凱旋所、ニコニコ笑顔のハローワーク。ブラック
ユウコが携帯を取り出すとすぐに耳に押し当てた。電話の先はユ
﹁っと、こうしちゃいられない。ちょっと待ってね、ぷるちゃん﹂
?
177
?
!?
全部、まるごと、何もかも いいからいいからぁ♪ 大丈夫、これ
﹂
﹂
﹁じゃ、頑張って
通話終了。そして、笑顔でサムズアップ。
それじゃよっろしくぅ﹂
あ、報酬の支払いなんだけど、そっちは直接私を通してねー。はーい、
以 上 な い ほ ど 心 強 い 助 っ 人 さ ん が ま と め て 引 き 受 け て く れ る か ら。
!
そこでキミの出番
頑張って
﹂
!
国民からの依頼であり、内容はモンスター退治、犬猫の捜索、浮気の
馬車の客室に積まれているのは全て書類、書類、書類。その全てが
!
ん身体が無駄に大きいから国内のお仕事に向かないんだよね。はい、
﹁ユノスダス周辺の警備はあの二人に任せてるからいいけど、如何せ
まった。
街の中を走る馬車を見つける。それは速度を落として三人の前で止
くりとした瑞々しい唇から覗く八重歯をアピールしながらユウコが
それを自分の個性と捉えているのか〝白昼堂々〟と宣言した。ぷっ
べー、と舌を出して笑うユウコの犬歯は確かに普通よりも大きい。
﹁吸血鬼だもーん﹂
﹁鬼かテメェは
!
﹂
﹂
﹂
﹂
誰かに手伝ってもらってもいいけど、報酬は人数分
﹁キミが未払いで逃げた月からだからー、ざっと四ヶ月分くらいかな
♪﹂
﹁一人で
﹁うん、一人で
割り当てで差し引かせてもらうよ
私は汚れなき一国の主としてキミの働きを優
﹁⋮⋮神などいない⋮⋮﹂
﹁頑張れー、神格者
?
!
?
!
178
!!
調査から紛失物の探索。とにかく沢山。
﹁⋮⋮全部
﹁全部﹂
﹁全部
﹁⋮⋮全部﹂
?
﹁参考までに、何ヶ月分だこれ⋮⋮﹂
!
﹂
雅にお茶飲みながら香りを楽しんで眺めるしかできない
れ、自業自得だから﹂
﹁やりゃあいいんだろ⋮⋮
﹁え∼っとぉ⋮⋮﹂
お話聞かせてもらえると私はすっごく喜ぶよ
﹂
あとこ
﹁さーって、と。邪魔者もいなくなったし、お待たせぷるちゃん。色々
向き直る。
だった。その修羅の背中を見送って、ようやくユウコはプルルートに
そして、エヌラスは終わりそうにない地獄へと足を踏み入れるの
!
あ、そ う い え ば 宿 の 方 ど う し よ う か な ー。
﹂
﹁一緒でいいよ∼。あたしも長旅で疲れてるしぃ∼﹂
やっぱり一緒の方がいい
れてるから先に休む
﹁そーと決まればオススメのカフェテリアにレッツゴー、それとも疲
!
ユ ウ コ だ よ ー。そ っ ち
﹁そっかー、ごめんね。じゃあすぐに宿取っちゃうから。エヌラスに
は 私 か ら 伝 え て お く ね。は い も し も ー し
の宿なんだけどさ││﹂
〝あたしぃ、この人苦手かも∼⋮⋮〟
プルルートは青空を眺めて、ため息一つ。
!
ユノスダス国王、ユウコ。エヌラスのある種、天敵である。
179
!
?
?
episode28 行って帰って朝帰り
城壁の外では、アルシュベイトとドラグレイスが肩を並べて戦闘を
続けていた。通算、二十四機目のフォートクラブが破壊される。増援
の気配もなくなり、二人が武器を収めた。
﹁ようやく片付いたようだな﹂
︽⋮⋮今は、な︾
二人の前で、フォートクラブの姿が揺れる。ノイズが走り、次の瞬
間には光になって消えた。自動転送プログラムが発動してい一匹、ま
た一匹と消えていく。跡形もなく消え去った群れを前にしてドラグ
レイスは腕を組んで唸った。
﹁やはり、異常だな﹂
︽ああ︾
﹁近辺の生産工場は停止しているはずではないのか﹂
180
︽⋮⋮いいや、あれはまだ稼働している。しかし︾
﹁どちらにせよこの事態は異常、か⋮⋮﹂
︽何にしろ、エヌラスが来たのは僥倖であったな。引き上げるぞ、ドラ
グレイス︾
長刀と突撃銃を背部に収納して引き返そうとするアルシュベイト
に、ドラグレイスは魔法剣を突きつける。挑戦の意思表示に、足を止
めた。
︽⋮⋮何のつもりだ。ユノスダスでの戦闘行動は禁止されているはず
だぞ︾
﹁貴様には、インタースカイの借りがある。よもや、この俺がそのよう
な規則に縛られて動くとでも思っていたか、アルシュベイト﹂
突きつけていた大剣を地面に突き刺す。剣礼││それを向けられ
てはアルシュベイトとしては挑戦を受け取らないわけにはいかず、長
決闘は罰金請求
﹂
刀を引き抜いた、その時である。突然警笛を耳鳴りがするほど鳴らさ
変神は以ての外、厳禁
!
れて、二人が視線を向けるとユウコが立っていた。
﹁戦闘禁止
!
﹁⋮⋮ちっ。お前はいちいち口やかましい﹂
!
﹁うるさくてもなんでも、私の国なんだから従う。ほら武器しまって﹂
︽む⋮⋮言われては、仕方ないな⋮⋮︾
おとなしく長刀を背負うアルシュベイトに、ユウコはうんうんと頷
その剣はなにかなー
﹂
く。だが、納得のいかないドラグレイスはまだ大剣を構えていた。
﹁ドーラーグーレーイースー
﹁国外であれば問題はないのだろう﹂
!!
鎧の腹を打った。
﹂
﹁いーいーかーら││とっとと武器しまえってんでしょぉぉぉッ
﹁ぬぅおおあああああ││ッ
パッカァァァァ││││ン⋮⋮⋮⋮
﹂
ユウコがそれを両手で持つなり、振りかぶる。綺麗な一本足打法で
た。
││フライパンである。何をどう見ても、ただのフライパンだっ
を緩めた。
それを見てドラグレイスが大剣を担ごうとして、現れた調理器具に気
こめかみに青筋を立てて、笑顔のユウコの手に武器が召喚される。
﹁││へぇー、ふぅ∼ん⋮⋮﹂
﹁⋮⋮お前から先に始末しても構わんのだがな、ユノスダス国王﹂
ら武器しまって、早く﹂
﹁そうだけど、こんな間近で決闘されたら堪んないよ。ほら分かった
?
﹁ぶいっ
ピンチヒッターはお任せあれ、なーんてね﹂
︽見事なフルスイングだ。それなら四番も任せられる︾
それを見ていたアルシュベイトが軽く拍手している。
ている。それを手で直しながら、ユウコはふんぞり返った。
な腕力で殴りつけられたフライパンが根元からくの字に折れ曲がっ
ドラグレイスが吹き飛んだ。青空に吸い込まれるように。超常的
!
ドラグレイスが気がついた時には、夜になっていた。
変神すれば飛行能力を得ることの出来るドラグレイスであったが、
それでも徒歩で戻ってきたのには理由がある。吹き飛ばされた時は
181
?
!?
吸血鬼である超人的な身体能力を余すところなく叩きつけられた
!
ユウコに対し言い様のない憤りを感じていたが、ユノスダスから離れ
られたのは都合が良い。戻る道の途中で森林地帯を捜索していた。
フォートクラブの自動生産工場。完全無人化が進められ、今は手付
かずのはずの工場はまだ稼働している。だがしかし、アルシュベイト
ですらその稼働率に疑問を抱いていた。それを調査すべく、ドラグレ
イスはこの機に足を向けている。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
月明かりの下、背負った魔法剣が妖しく輝く。宝石のような輝きに
魅せられて引き寄せられるモンスター達を一刀の元に両断していた。
そのドラグレイスの足が、邪悪な気配に止まる。むせ返るような瘴
気。森の奥に覗く深遠からの誘いに乗ろうと剣に手を掛けて││背
後から銃を突きつけられた。
首だけで背後を振り向くと、そこに立っていのは道化師。顔の半分
が骸骨、もう半分がピエロという悪趣味な仮面を着けた奇怪な人物
﹂
182
だった。全身を覆うマントの下は長身痩躯の肉体、だがそこに非健康
的な印象は受けない。むしろ、それすら二の次。否、消し飛ぶほどの
不気味に蠢く気配があった。それを目の当たりにしてもドラグレイ
スは冷静そのものの声で、呆れる。
﹁⋮⋮貴様が、何用だ。〝狂い時計〟﹂
﹁きヒッ。つれないナァ、名前で呼んでくれヨォ﹂
﹂
﹁クロックサイコ。俺に、何の用だ。貴様が撃鉄を起こせば最後、首を
刎ね落とすぞ﹂
﹁くひっヒヒヒ。怖い怖い。その先は危険だよぉん
後の怪物からではないとしたら││。
﹂
﹁それは、なんだ。俺に向かっての、助言か
竜騎士
なぁ、
いいやぁ、と
もりは毛頭なかった。しかし、先程から全身に感じる瘴気の正体が背
とても正気とは思えない狂人の戯言に、ドラグレイスは付き合うつ
?
?
にかく危険サ。うっかり死なれてもぼかぁ楽しくないナァ
警告
﹁そーかもしんないシ、そうじゃないかもヨ
?
﹁⋮⋮ほざけ。貴様のブサイク面、耕すぞ﹂
?
?
?
﹁キ ィ ー ヒ ヒ ヒ イ ヒ ヒ ヒ ア ッ ヒ ャ ハ ハ ハ ハ
そ り ゃ 怖 い
!
!
﹁おおっとォ 遅刻しちゃうヨ、急がないとデートに遅れる。それ
ロックサイコ。腰にぶら下げた壊れた懐中時計を見て大仰に驚く。
気味な姿にゾッとした。コレもまた、神格の一人││狂い時計のク
浮かび上がっている。まるで首だけが動いているようにも見える不
向いた。闇に溶け込むような黒一色に、仮面の化粧だけがぽっかりと
がマントの下に武器をしまう。そこで、ようやくドラグレイスは振り
狂ったように笑い、突然冷めたように銃を下ろし、クロックサイコ
じゃあやめた。やめだよヤメヤメ、あーあ﹂
!
じゃわたしゃ失敬する、ネ﹂
﹂
﹁待て、クロックサイコ。貴様に一つ聞きたいことがある﹂
﹁なーんだいっ
﹁貴様⋮⋮何を知っている﹂
狂気の中に逃げ込んだ道化師の言葉。その中に真実があるとした
ら││フォートクラブの生産工場に〝何かがある〟ことを知ってい
る。
﹁知っていることは知っているし、知らないことは知らないヨォ。な
じゃーね﹂
んでもは知らない、知ってることは知ってる。それだけ、サ。じゃー
私は急いでいるので、失礼するよぉん
り、ネプテューヌ達も戻ってきた。
?
﹁いえ、ボクは遠慮しておきます。このまま災害の対策を練るために
﹁いーすん、ご飯できたよー。ソラもご飯食べてく
﹂
いて説明を受けていたソラがメガネを直す。すっかり日が暮れてお
プラネテューヌでは、イストワールからゲイムギョウ界の現状につ
食われて消えた。
森の中には砕かれた仮面だけが残され、やがて││その仮面も蟲に
﹁⋮⋮不愉快だ﹂
握り潰す。
なく消えていた。落ちている仮面を拾い上げ、ドラグレイスは即座に
仮面が突然地面に落ちたかと思うと、クロックサイコの姿は跡形も
?
183
?
?
動きますので﹂
﹁えー、でもお腹空かない
大丈夫
﹂
?
まぁいいわ﹂
︽この近辺の調査を行ってました。そちらは
︾
﹂
﹁私よ、ノワールよ。変身してるから、今はブラックハートだけどね。
?
見えた。
﹁バルド・ギア
アナタ、一体何をしているの
│すると、上空に見慣れない白髪の女性が飛行して接近してくるのが
高高度からの観測により、プラネテューヌ近辺の被害状況を確認│
飛行ユニットを召喚する。
れ、ソラは人目がないことを確認すると元の機械の身体を呼び出し、
それに言葉もなく、ステラが頷いた。夜の活気に溢れる街から離
〝とてもいい国だ。平和だよ〟
データとは料理の食材みたいなものである。
理を務めているのはステラだ。あちら側の住人である彼女にとって
のデータはインタースカイのサーバーにも送られており、その演算処
足早に教会を後にして、ソラは夜のプラネテューヌを散策する。そ
﹁あ、行っちゃった⋮⋮﹂
礼させていただきます﹂
の方ですからね。こちらでも何か進展があれば報告に来ますので、失
﹁心配はいりません。今は人間の姿をしてますが、本来の肉体は機械
?
何のために
︾
﹁⋮⋮もう一回、アダルトゲイムギョウ界に戻ろうと思ってるのよ﹂
︽正気ですか
?
それを思
理 由 を 問 わ れ て、口 ご も る ノ ワ ー ル が 突 然 閃 く。そ れ は、ゲ イ ム
ギョウ界に戻る直前の会話。
││女神不在のプラネテューヌが二つ。
﹁も、もう一つのプラネテューヌの女神も不在じゃない
い出したのよ。連れて戻ってこなくちゃ﹂
︽そういえば⋮⋮いーすんさんからもそのようなことを言われていた
?
184
?
︽失礼ですが、貴方は⋮⋮︾
?
﹁なんのためにって。そりゃ⋮⋮﹂
?
うん、そうよ
気がしますね⋮⋮︾
﹁そ、そうよね
﹂
!
が、心当たりはあるのですか
︾
︽いいでしょう。こちらからインタースカイへ転送します。⋮⋮です
る。
は苦笑した。とはいえ、女神不在の国がどれほど危険かは知ってい
我ながらちょっと苦しいとか思いつつ、ノワール=ブラックハート
?
﹁そうでしょ
﹂
﹂
︽ですが、貴方はいいんですか
﹁⋮⋮へっ
ラスの場所は分かりますか
︾
ワールさんを転送する。準備をしておいてくれ。││ところで、エヌ
︽それだけ自信満々なら、信じましょう。ステラ、今からそちらにノ
に大災害で傾きそうな現状だもの﹂
したくらいで傾くようなラステイションじゃないわ。むしろその前
﹁私を見くびらないでほしいわね、バルド・ギア。たかが二、三日放置
がする。だが、今更引き返してそれに取り掛かるのも気が重い。
まで来たものの。机の上に書類を投げっぱなしにしていたような気
モンスター退治を終わらせて、スッキリとした頭でプラネテューヌ
︽自分の国を放置して︾
︾
︽ああ。まぁ確かに⋮⋮彼と一緒なら見つかりそうですね︾
ろになんとやら、エヌラス辺りがまた巻き込まれてそうだし﹂
﹁そうね、まだいなくなってから日が浅いみたいだし。火のないとこ
痛いところを突かれたが、それもすぐに口から出てきた。
?
?
?
︽本来であれば彼からの預かり物ですので、ついでに返しておいてく
が改めてインタースカイに通信する。
た。そんなノワールの様子に明らかな落胆の色を見せてバルド・ギア
で、現在エヌラスがどこを目的としているのかが見当もつかなかっ
目指していたのは自分達をゲイムギョウ界に帰らせる為であったの
ノワールが沈黙する。まったく心当たりがない。インタースカイを
それが自分に対する問いかけであることに気づくのが少々遅れて、
?
185
?
﹂
ださいね。││ステラ、例のバイクを用意しておいてくれるかい
⋮⋮ありがとう︾
私、バイクなんて乗れないわよ
?
?
﹂
!?
いるか考えたくもない。
﹁えっと、それ安全なのよね
爆発とかしないわよね
﹂
?
冗 談 も 大 概 に し ろ。何 の た め の 車 輪 だ。タ イ ヤ を 変 形 さ
やっぱりやめます。そう言う前にはノワールはインタースカイに
︽では、転送を開始します。ご武運を︾
﹁あの││﹂
になりそうだった。
それを、預ける。そう言われたノワール=ブラックハートは半泣き
時速四百キロ││そんなもの化け物と呼ぶ以外の何者でもない。
せて空を飛ぶ前時代的なSF感の方がまだ理論的に感じる。しかも
を飛ぶ
普通はそれを平凡の二文字で片付けたりしない。バイクなのに空
︽時速四百キロ叩き出せて空を飛べる以外は平凡です︾
?
しかもそれの持ち主がエヌラスとあればどんな化け物が待ち構えて
り な い。ま さ か そ れ が 自 分 に 預 け ら れ る と は 夢 に も 思 わ な か っ た。
生きたバイクなど初めて耳にする。ゲームですら見ることはあま
﹁なにそれ怖いんだけど
うか。ある程度の自我を持ちあわせておりますので大丈夫です︾
︽自動運転機能もありますし、半有機生命体とでも言えばいいでしょ
オー ト パ イ ロッ ト
﹁⋮⋮バイク
?
送り返されていた。
186
?
episode29 闇を狩る鋼鉄の魔獣
ふらついた足取りで無人の白い街を歩く。幻想的な夜景も人の居
ない静けさも、虚脱感に足の重いノワールには気に留めるべきことで
はなかった。高度な次元転送システムを有しているまではいい。理
解できた。それがインタースカイのドーム内部に限ることも、まぁ解
る。
﹁なんで、こう⋮⋮高いところに落とすのよ⋮⋮﹂
座標の指定が大雑把だったのか、それとも単に設定ミスなのかどう
かは分からないが、ノワールはインタースカイに転送された直後に盛
大な尻もちをついた。おかげで腰が痛い。背筋を伸ばしてタワーを
目指して歩く道のりが遠い。やっとの思いで見つけたタクシー乗り
場で輸送用フォートクラブの世話になって、ようやく辿り着いた。
スーツを着込んだ少女、ステラが現れる。上から下までざっと眺め
て、ノワールは首を傾げる。
﹁どうしてスーツを着てるのよ﹂
︽⋮⋮⋮⋮︾
187
﹁はぁ⋮⋮やっと着いたわ⋮⋮案外遠いのよねぇ﹂
ああ、支払いね⋮⋮はい﹂
︽⋮⋮︾
﹁えっ
﹂
?
無人のロビーに声が響き渡った。すると、受付カウンターの前に
﹁ステラー。いるかしら
的を思い出して咳払いを挟む。
かれたソファーや観葉植物をまじまじと観察していたノワールが、目
だろうと見当をつけていたからだ。豪華とはいえないが、最低限に置
タワーに入り、フロントを見渡す。恐らく、ステラはここにいるの
リーパスなのだろうかという懸念を振り払う。
受け取ったカードを見つめると、ポケットに入れた。これ、本当にフ
満足したように去っていく背中を見て、ノワールはトライデントから
顔 を 近 づ け て き た フ ォ ー ト ク ラ ブ の 口 に フ リ ー パ ス を 差 し 込 む。
?
ステラは胸に手を当て、ふんぞり返った。どうやら〝似合うでしょ
〟と言っているらしい。
﹁ええ。とっても似合ってるわ﹂
︽⋮⋮⋮⋮︾
顔を輝かせて手を取ろうとするが、その手がノワールに触れること
はい、せーの﹂
はなかった。それに悲しそうな表情をみせるステラを見かねて、ノ
ワールが手を差し出す。
﹁こうしたかったんでしょ
どこかしら
﹂
﹁それで、えーっと⋮⋮物凄く気が引けるのだけれども⋮⋮バイクは
喜びで笑顔を見せる。
二人は手を取る素振を見せながら腕を振った。それにステラは大
?
ライトアップされた。
﹁⋮⋮⋮⋮これが、エヌラスの
﹂
ていない空間特有の寒さにノワールが身を震わせた直後にバイクが
ターが重い音を立てて開く。中は暗く、冷たい。それが人の手が入っ
カードリーダーに手をかざすとあちら側で認証を済ませたシャッ
案内された先のシャッターは固く閉ざされており、ステラが脇の
ワールの願いもむなしく、ステラは案内を始めた。
うそのまま元の持ち主の手元まで一人で戻ってくれないかと願うノ
思 い 出 し た く な い。乗 り た く な い。で き れ ば 触 れ た く も な い。も
?
幅な改修に改修を重ね、それはもはや純粋な〝技術力〟の枠から離れ
見た感じはただの重厚なマシンでしかない。しかし、駆動系には大
という乗り物を思い浮かべて、改めてそれを観察する。
い出すノワール。乗り物には詳しくないが、自分の知っているバイク
不安を隠しもせず、引きつった表情でバルド・ギアからの説明を思
うかと。
ンスターマシン。果たしてこれはバイクである必要性があるのだろ
指を触れる。時速四百キロを叩き出すという馬鹿げた性能を誇るモ
ような黒い車体を見て、その無言の威圧感を放つバイクのハンドルに
スタンドを立てて役者のようにライトアップされた光を飲み込む
?
188
?
た魔術の集大成が詰め込まれている。人の手によって積み上げられ
て裏打ちされた技術を、冒涜的なまでに〝魔術〟で穢されたこのバイ
クこそは、まさに怪物を駆り立てる為の猟犬として設計された。
え ー っ と、名 前 は 〝 闇を狩るもの 〟
ハ ン ティ ン グ ホ ラー
ス ペ ッ ク は
ステラがそんなノワールの不安を汲み取って、手元に簡単なプロ
フィールを表示する。
﹁な に な に
⋮⋮うーん、細かいところは分からないわね﹂
﹁まぁいいわ。これのキーはどこ
﹂
性能があるからこそ名付けられているのだ。
ステラはそれに首を横に振る。そのネーミングに匹敵するだけの
︽⋮⋮⋮⋮︾
グセンスね⋮⋮﹂
﹁いや、それにしたって〝闇を狩るもの〟なんて随分厨二なネーミン
ハ ン ティ ン グ ホ ラー
のも無理はない。これはエヌラスが自分専用に設計したのだ。
つくような体勢でハンドルを握るのが精一杯だが、体格に見合わない
ラー〟と銘打たれたバイクにノワールは跨る。大柄な車体にしがみ
人の手で届かない領域に、魔術で押し上げられた〝ハンティングホ
た。
い殺人的な加速に晒されるだろう││そんな予感がしてならなかっ
してはならないと悟っている。これを押したが最後、自分は途方も無
では全く分からないが、ノワールは本能的にその赤いボタンだけは押
タンだ。どんな燃料やどんな材質でその車体が構成されているかま
がなんとなく分かる。ニトロブースターとか、きっとそういう類のボ
ハンドルの手元を見ても、何のためにボタンが用意されているのか
﹁ごめんね。でも、名前がわかっただけでも嬉しいわ﹂
と。
らない。ただ、本能的に警告だけがされていた││〝コレはヤバイ〟
そのカタログスペックを見てもノワールにはどう凄いのかが分か
?
そして電子表示されるタコメーターや燃料に灯りが点いた。排気筒
たようにライトが点灯した。次に、エンジンが低い唸り声を上げる。
言われて、ステラが眠り続けていた怪物を起こす。まず、目を開い
?
189
?
から排出されるガスは驚くほど静かで、むしろその唸り声の不気味さ
にノワールは生唾を飲み込む。
獰猛な獣の唸り声を連想させる。獲物を探す猟犬の威嚇の声。本
来の主ではないことに腹を立てているかのようにも思え、背筋が震え
る。
せり上がる壁に驚くも、そのガレージがそもそも斜行エレベーター
の一部であった。警告のランプが点いている前でシャッターが開い
ていく。その先の進路はインタースカイ中央タワーから外部の高速
道路までの直通ライン。本来であればバルド・ギア、及びそれに近し
いもののみが使用されることを許可された道路だが今回は特別だ。
︽⋮⋮⋮⋮︾
ステラがハンティングホラーの頭を撫でると、機嫌を良くしたよう
に一層エンジンが唸りを挙げる。その電子表示されているタコメー
︾
ターの表記が変わった。
︽READY︳
半有機生命体││その言葉を思い出す。自らの意思を持つ怪物は
仮初めの主たるノワールのサインを待っている。頭を同じように撫
でて、ステラに笑みを向けた。
﹁ありがと、ステラ。これ、借りていくわね。ちゃんとエヌラスにも返
しておくから安心して﹂
︽⋮⋮⋮⋮︾
﹂
両手を合わせ、深々と頭を下げる少女に別れを告げて、ノワールは
今度こそハンドルを握りしめる。
﹁ええ、いつでもいいわよハンティングホラー
拍子抜けである。それが魔術的な制動制御によるものだとはなんと
る地面を静かに走っていた。その静けさを意外に思っていただけに
安を抱いていたが、いざ走らせてみると何の事はない。舗装されてい
ノワールはその速度に最初こそ心臓が跳ね上がりそうなほどの不
上がり、二輪駆動の怪物が夜のインタースカイを走る。
元へ一刻も早く馳せ参じたいが為の加速。スタンドが独りでに持ち
待ちわびていた言葉を聞いて、鋼鉄の猛獣が吠えた。かつての主の
!
190
?
なしに車体から発せられるエネルギーで分かった。
〝そうよ、考えてもみれば時速四百キロで走ると言っても結局は私
が運転するわけだから安全運転を心がければいいじゃない〟
なんて間抜けなんだろうか。たかが〝最高時速四百キロ〟で走れ
るということだ。つまり、何をどううっかり間違ったとしてもハンド
ルを握る親指の下にある赤いボタンを押さない限りは大丈夫大丈夫、
そんな馬鹿げた事にはならない││そう油断しきっていたノワール
がインタースカイの検問を抜けた瞬間、ハンティングホラーが豹変し
た。
爆発的な加速にさらされ、息が詰まる。時速二百キロにいきなり加
﹂
速したのだ。もちろんヘルメットもかぶっていないノワールはその
暴風に殴りつけられる形となる。
﹁きぃ││││やぁああああああ││││││
ハンティングホラーは、インタースカイで被っていた猫の皮を脱ぎ
捨てた。完全な無人化が進められている電脳国家における法定速度
は厳守、もしこれを破った状態で数キロでも走ろうものならドームが
閉鎖されて完全な密閉空間となり違反者は一瞬にして牢獄に閉じ込
められる。それをこのバイクは〝知っていた〟のだ。
草原に放たれた猟犬の如く、拘束を解き放たれた鋼鉄の魔獣は歓喜
に打ち震えて││時速三百キロに到達する。
191
!?!?
episode30 〝最強〟という称号
勿論そのまま走れば搭乗者の命はない。前面に防御魔法を展開し
て空気抵抗の減衰と同時に搭乗者を保護する。バイクに乗るために
必須といえるヘルメットもライダースーツも不要だ。強いて必要な
物を挙げれば、命懸けの覚悟だろう。たかがバイクと侮っていたノ
なんなの
死ぬわよこんなの、洒落になっ
ワールが、不意に和らいだ暴風に涙目になっていた。
﹂
﹁ば、バカじゃないの
てないわよ
!?
〟
!?
ろした。
〝ウソ、本当に空飛んでる
なんで
空を走っている。││何の冗談かとノワールが眼下の風景を見下
いた。
え、躊躇する。その間にもハンティングホラーは地面から遠ざかって
が、急に止めれば自分の身体が宙に投げ出されるだけであることを考
ラーが、ふと浮き上がった。ノワールがブレーキを掛けようとする
動 と 自 ら の 活 か す べ き 性 能 を。地 面 を 走 っ て い た ハ ン テ ィ ン グ ホ
うことは考えているということだ。その場その場における最適な行
に突然加速した挙句防御魔法まで勝手に発動した。生きているとい
││イカれてる。自分はハンドルを握っていただけだ。それなの
!?
乗者はしがみついているだけで精一杯のようだ。
とを〝彼/彼女〟は理解する。ただハンドルを握っているだけの搭
へ向けて降下させた。今の搭乗者に自分を駆るだけの技量がないこ
危険地帯を抜けてから、ハンティングホラーは緩やかに車体を地面
ものを不用意に危険に晒したりしない。
外法と邪道によって産み落とされた怪物であれど、自らの手綱を握る
の も ハ ン テ ィ ン グ ホ ラ ー が 半 有 機 生 命 体 で あ る が ゆ え の 気 遣 い だ。
えたスピードも百五十半ばほどまで落ちている。その速度を緩めた
速度も緩くなっていた。タコメーターを見れば、一時は時速三百を超
が切り抜けてみせた危険地帯の遥か上空を通過している。心なしか
バイクが空を飛ぶとは冗談だとばかり思っていたが、トライデント
!?
192
!?
時折小石を跳ね上げながらもハンティングホラーは森の中をひた
走る。目的地は〝嗅覚〟が嗅ぎとっていた。そして、それを邪魔する
﹂
甘美にして酸鼻極まる邪悪な気配にも││。
﹁やァ││││ホーホーホー
﹁││││﹂
﹂
﹁おやぁ、おやおやおやぁ。懐かしいモノに乗ってる、ネ。お嬢さん
ん、おねいさんかな
?
!
ないかナァ﹂
?
先を急いでいるん
?
︾
!
外の加速を放って仮面の道化師を置き去りにした。
いやぁ、嫌われたモンだ、ネェ
!
││アレは、危険だ。本能が警告してきた。ハンティングホラーを見
ノワールはハンドルにしがみついていた。その手が微かに震える。
して。
け犬の遠吠えは貴様だと言わんばかりに甲高い加速音を置き去りに
ンティングホラーは吠えた。己の敗走を誇らしく、憂うことなく。負
規格外のエンジンの回転数が限界にまで達しようとしている。ハ
ハハハハハァ││││⋮⋮﹂
ご主人にぃよーろしくネェェェェ││アーッハッハッハッハ、ギャハ
﹁アーッハッハッハッハ
キミの
〝掴まれ〟という命令にノワールはしがみついた。次の瞬間、規格
︽Catch Me︳
届ける、その為に全性能を費やすと。
る逃走であったとしても手綱を握る少女を我が主の下へ無事に送り
とも。だからこそハンティングホラーは決断した。自らの名に反す
を認識していた。その彼我の実力差も││主人の憎む怨敵であるこ
間、ハンティングホラーの咆哮が森を揺るがす。〝彼/彼女〟は、敵
キヒッ││道化の笑い声にノワールが悲鳴をあげそうになった瞬
じゃあないかな
しないで気にしないで、さささどーぞドーゾ
﹁まーまぁまぁまぁ、いいヨォ。ぼかぁ全っ然構わないヨォ 気に
〟して見せる仮面の姿。それはもはや覚めようがない悪夢であった。
すっぽりと頭から抜け落ちた。時速百五十キロで走る二輪と〝並走
ノワールは、その光景を見た瞬間。間違いなく現実という感覚が
?
!
193
?
た時とは比べ物にならない。もっとおぞましい何かだ。
視界が滲んでぼやける。ハンドルを握る手には知らず知らずのう
ちに強くなっていた。その親指が赤いボタンへ伸びていく。一刻も
早くアレから逃げなければ、そんな恐怖を拭い去る為にノワールがボ
タンを押した。
エヌラスの持つ銃が﹃魔銃﹄であるならば、ハンティングホラーこ
そは正真正銘の﹃魔獣﹄である││秘められた凶暴性がついぞその牙
を向く。
恐るべきことに、仮面の道化師はまだ追っていた。地を駆け、時速
三百キロに到達する鋼鉄の魔獣の背後にピッタリとくっつくように。
魔獣を追うのは正真正銘の神格者の一人、クロックサイコその人であ
る。無軌道無秩序にして自由奔放な振る舞いこそ目立つ狂人はその
言葉の端々から精神の不安定さを見せているが、一つだけ周知の事実
194
があるとするならば││かの敵こそがエヌラスにとって宿敵であり
怨敵であり、仇敵とも言える存在であることだ。
無論、彼とてただの神格であるが故に鋼鉄の魔獣を追随しているわ
けではない。その超常こそをなし得る術理をクロックサイコは誤ず
違えず、正しく理解して行使している。それもまた外道に落ちた業の
﹂
一つ。現に彼の足元は既に残像すら残していない。そもそも〝足が
ない〟のだ。
﹁ヒャ││││
本来であれば魔銃と併せて使うべき﹃イブン・カズイの粉薬﹄を流
コのようなモノであれば尚更。
れに晒されて平気な怪物はまず存在し得ない。それもクロックサイ
き出した圧力は、もはや殺意すら溢れる。排気筒から叩き出されるそ
ステムによってエンジンに送り込まれる霊薬を含ませたニトロが吐
真骨頂でありエヌラスが搭載した規格外の加速装置││ナイトロシ
ノワールが押した赤いボタン。それこそがハンティングホラーの
全身で加速の衝撃を受け止める事となる。
そして、彼は次の瞬間には鋼鉄の魔獣が見せる凶暴性の片鱗を前に
!?
用したのは、その加速がただの加速ではなく﹃相手を殺すための加速
装置﹄であることを物語っていた。
哀れ、クロックサイコは不意打ちを真正面から食らって地面を三
回、四回と転がって木々をなぎ倒しながらようやく止まる。それでも
まだ四肢が痙攣しているのだからもはや冗談のような不死身としか
言い様がない。下半身が闇の中で蠢くと、徐々にあるべき姿へと形を
取り戻していく。
﹁ワイルドなスピードだネェ、ん∼。猟犬の名に恥じない走りっぷり
だヨ⋮⋮﹂
時速四百キロに到達していたハンティングホラーが周囲に目を光
らせて反応がないことを確認して速度を落とした。完全に振り切っ
たついでに、目的地であるユノスダスが見えてきた。速度を緩めてエ
ンジンから冷気が吹き出す。それもまた魔術によるものだった。加
195
速と冷却に使うのが魔銃の弾丸に用いる粉薬である以上、このモンス
ターマシンもまたエヌラスの持つ〝武器〟の一つである。
ユノスダスの城壁前で柄頭に手を置いて周辺の警備をしている鋼
の軍神がいた。その姿を見てハンティングホラーが止まる。そこで、
ようやくノワールが顔をあげた。
﹂
︽お前は⋮⋮確か、エヌラスといた⋮⋮︾
﹁⋮⋮アル、シュベイト
︽〝狂い時計〟のクロックサイコ。奴もまた我らと肩を並べる神格者
シュベイトは夜の闇へ視線を投げた。
アルシュベイトの言葉に身体を竦ませる。その反応を見て、アル
︽⋮⋮仮面を着けた道化師だったか︾
﹁分からない⋮⋮何よ、アレ⋮⋮あんな、化け物﹂
︽何があった︾
の涙の理由がそれではないことを即座に察した。
アルシュベイトですらその性能に一目置いている。だが、ノワール
もないか。俺でも馬鹿げていると思っている︾
︽どうした。涙ぐんで││と、いうよりはソイツに乗っていたら無理
?
の一人だ。そして││エヌラスの全てを奪った者でもある︾
﹁⋮⋮え﹂
︽││これ以上は、俺が語るべきことではない。早く中へ入れ。俺が
﹂
ここに立つ限り、何人足りとも侵入は赦さん。それが例え、奴でもな︾
﹁敵、なの
︽俺にとって、アゴウの明日を脅かすものは全て敵だ。お前たちに刃
﹂
を向ける気にはならん。何を思って戻ってきたのかは知らんが、エヌ
ラスにそのバイクを届けることだな︾
﹁⋮⋮アナタは、国に戻らなくていいの
︽そのような肩書など毛頭いらぬ。俺が強いのではない、貴様らが未
わ﹂
﹁アナタが〝最強〟って呼ばれる理由。なんとなくわかった気がする
風堂々な佇まいには疑いの余地はなかった。
えなど、アルシュベイトの頭には一分も存在していない。武人たる威
ノワールは、言葉もなかった。シェアエネルギーという打算的な考
﹁││││﹂
りによって滅ぶならば、受け入れよう︾
アゴウを信じる。我が愛するアゴウの民を信じている。それが裏切
ならば、全ては俺の不徳が成す悪行に等しい。俺は俺の国を信じる。
︽一日空ける程度で揺らぐ信頼など、所詮その程度の王たる証拠だ。
?
熟なだけだ。俺は誰しもが到達しうる境地に、他より先に辿り着いた
だけに過ぎん機械の男だ︾
196
?
episode31 王たるものの勤めは千差万別。
││闇を見つめていた。それを飽きもせず不動の構えで睨み続け
るアルシュベイトの横を抜ける黒髪の少女。やがてユノスダス国内
へと無事に辿り着いた。
アゴウでもまた、彼は闇を見つめていた。夜の闇より暗い黒は漆
黒。それは、虚無と言うべき空間だったのかもしれない。それが世界
の終わり。絶望の色だった。〝何も無い〟という色。
︽⋮⋮調子に乗りすぎたな、クロックサイコ。それより一歩でも我が
間合いに入るというのであれば││叩き斬るぞ︾
﹁││││﹂
何かが動いた気配はなかった。だが、闇が蠢き、集まる。それは蟲
だった。やがて人の形を作ると、その中から仮面が現れる。濡れネズ
近づきにはなれないネ、残念ざーんねん☆﹂
︽俺も貴様は薄気味悪いと思っている。⋮⋮二言は無いぞ
︾
そして、道化師は仮面を蟲達に貪り食われて消え去る。その闇から
いっばーい﹂
の生産工場には日の高いうちに行くこと。じゃーねーばいばい、ば
﹁じゃあじゃあじゃあ、最後に最後にひとっつだけ。フォートクラブ
?
197
ミのように身体を震わせると一斉に蟲達が闇へと消えた。
﹁あらぁ、バレちゃってた☆﹂
︽ドラグレイスに矛先を向けるに飽きたらず、少女を追って来たか。
どれぐらい時間が経ったかナ。なのに
だが、貴様とて道理の解らぬ馬鹿でもあるまい。疾くと去れ。さもな
くば││変神するぞ︾
﹁この戦争が始まって、サ
く死んじゃうヨォ﹂
︽理解している。だから、か
?
ルシュベイトは賢い、ネ。キミは嫌いじゃないけど、怖いからサ。お
﹁そーかもしんないし、そうでもないかもしんないヨ
キヒッ。ア
貴様が動き始めたのは︾
世界は滅ぶ一方で、誰も死んでないなんて⋮⋮本腰入れなきゃ、仲良
?
?
目を背けることなくアルシュベイトはただ佇む。その絶望から逃げ
出さないように。
︽⋮⋮狂言回しめ。何が狙いだ︾
そもそもが考えてもみればすぐに分かることだ。四ヶ月も前の紛
失物の調査依頼なんて放っておけば見つかるか、親切な人が交番に届
けてくれる。それでも見つからない貴重品なんて質屋に入れられて
横領されているのが精々だ。確かに、ユノスダスでの戦闘行為は全面
的に禁止されている。だがそれで犯罪がなくなるかと言うと、そうで
はない。盗難や万引き、麻薬取引などがこの街には確かに蠢いてい
る。そしてそれらを取り締まることに傭兵が乗り気かと聞かれれば、
答えは﹃NO﹄であった。逆に彼らが目を盗んでそういった〝小遣い
稼ぎ〟に乗り出すこともある。それがドラグレイスの耳に入れば、あ
れは怒り心頭で粛清するだろうが何しろ当人が稼ぎ頭でもあった。
震え上がって会話できているのが奇跡的だ。それも、彼が年季の入っ
た闇市商売の常連客である証拠である。
198
結果として、今ユノスダス国内を奔走しているエヌラスが犯罪の取
﹂
り締まりに精を出すこととなる。なるほど確かにこれは〝向いてい
る〟仕事だ││。
﹁ひぃやぁあああ
﹂
!
品、五点。きっかり耳揃えて持ってこい﹂
うちの面子に関わる
!?
﹁おら、ネタぁ上がってんだ。テメェがブラックマーケットに流した
怪物が彼の恐怖心を煽っていた。レイジング・ブルマキシカスタム。
フリーク
た。無 理 も な い。目 の 前 に 立 つ 男 の 手 に 握 ら れ た 怪 物 を 殺 す 為 の
クリーチャー
べそをかきながら口は笑っている。あまりにも情けない姿をしてい
に靴底が叩きつけられた。腰が抜け、足は震え、歯の根は合わず、半
一人のチンピラが這々の体で転がり、壁に背を預ける。その顔の横
!?
﹁や、闇市に流した品を買い戻せってのか
﹂
﹂
﹁あ〟ぁ〟
﹁ひィッ
?
チンピラの額にゴリゴリと押し当てられるマズルスパイク。内心
!?
﹁テメェの面ぁ消し飛ばしちまっても俺は構わないんだぜ
│﹂
﹁ん
﹂
﹂
﹁へ、へへ⋮⋮やれよ。やってみろ、ユノスダスでの戦闘行為は御法│
?
あー、戦闘っていうのはな。俺がテメェを殴って、テ
﹂
必ず、必ず取り
!?
﹂
﹁あひぃぃぃ
ですからどうか命ばかりは
!
││二日以内にやれ。失敗したらテメェの骨を一日に一本
﹂
!!
ねぇか﹂
﹁違、違う
そいつは俺の││﹂
﹂
﹂
?
ウチになんの用だ
﹁見返りに鉛弾欲しけりゃ釣りはいらねぇぞ
﹁な、なんだアンタ一体
!?
﹁鬼
悪魔
﹂
たくなけりゃ今すぐ持ってこいや﹂
いい。誕生日プレゼントのサプライズにガキの頭に鉛弾ぶち込まれ
?
!?
!
﹁盗難品があるってんで邪魔すんぞ。誕生パーティー
おーそりゃ
﹁おうテメェちょっと跳ねてみろや。なんだよしこたま持ってんじゃ
ラから金品を巻き上げる生業で生計を立てているわけではない。
││念のため言っておくが、エヌラスは国王である。決してチンピ
﹁は、はははははいぃぃぃ
予があるわけだ。せいぜい気長にやれよ﹂
ずつへし折る。心配すんな、二百五十日は持つ。少なくとも半年の猶
ぞぉ
﹁ハッハッハ、物騒なことを言うなぁお前。俺はな、お願いしてるんだ
戻します
すいません、すいませんでしたァ
すのはそりゃあもう〝戦闘〟って呼べる代物じゃねぇよなぁ、あぁん
メェが俺を殴り返す殺し合いのことを言うんだ。一方的にぶちのめ
﹁戦闘行為
隠れたバヨネットを展開しながら。
まるで雑談を交わすような笑みを浮かべている。アンダーバレルに
葉が途切れた。何が起きたか分からないチンピラの前でエヌラスは
銃器は鈍器にもなり得る。男の頬が突然横殴りの衝撃に襲われ、言
?
?
!
!
199
?
!
!?
!?
﹁金出せや﹂
﹁こ れ っ ぽ っ ち し か な い で す ぅ ぅ ぅ ぅ
﹂
命 ば か り は ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ
!?
﹂
に、キーミーが
ち
の
め
し
た
そ も そ も 逆
﹂
!
!
とにかく、このお金は没収 未
!?
!
問題起こして、どーすんのさっ
払金の返済に当てるからね
までだが、平均してしまえばその建物の高さは少なくとも三階建が
ユノスダスの町並みは和洋折衷と見境ないと言ってしまえばそれ
布に入れた。してやったり。
た後にポケットを探る。隠し持っていた何枚かの紙幣をまとめて財
しかし、ユウコに奪われることを予め見越していたエヌラスは別れ
屋の設備は上質なものばかりだ。
場所を用意してくれたらしい。値段も相応にするものの、それでも部
くれた宿に向かう。プルルートも同室、ということでそれなりに良い
スは再び無一文でユノスダスを歩く。足取り重く、ユウコが用意して
稼ぎを奪われ︵それが本当に真っ当であるかは置いといて︶エヌラ
﹁ちくしょう⋮⋮ちくしょう⋮⋮
﹂
こんな調子じゃ明日にでも街から人
﹁犯罪者にも人権はあるんだよ
﹁犯罪者が悪い。俺が取り締まる側だ。キリッ﹂
!
い 人 で な し﹄と か 言 わ れ る ん だ よ ⋮⋮ と い う か
﹁キミ、そんなんだから﹃穀潰し﹄だとか﹃犯罪王﹄とか﹃ろくでもな
﹁奪ってねぇし。真っ当に返して貰った金だ﹂
よ
﹁エヌラス∼、確かにお金は稼ぐものだけどさぁ。奪うものじゃない
地するユウコがいた。
一陣の風が吹いてその手から金が消える。顔を上げると、橋の縁に着
譲渡された紙幣を数え、ずっしりと小銭の入った袋を数えていると、
エヌラスがホクホク顔でチンピラ達から恐喝││もとい、脅迫⋮⋮
件ほどの盗難品及び犯罪者をしこたま取り締まった。
ぶ
⋮⋮念を押して言っておくが、エヌラスは国王である。この日、六
!!!
がいなくなっちゃうよ﹂
!?
!
!
200
?
精々といったところだろう。アパートやマンションといった集合住
宅は見受けられない。広大な敷地を有しているが、その過半数を生産
に当てている。過剰とも言える供給を需要に合わせて送り出してい
た。生産エリアと住宅エリアの仕分けもキッチリ為されているのは
ユウコの内政がしっかりしているからだろう。
その為、今エヌラスが歩いているのは住宅街。この一軒一軒が〝宿
〟であるのだから恐ろしい。家一軒を丸ごと貸し出すとはまたとん
でもないビジネスだが、人によってはその宿を買い占めて永住する人
もいるらしい。表札代わりに飾られているナンバープレートの表記
を確認しながらエヌラスはユウコの用意してくれた宿へようやく辿
り着いた。本来ならばこの住宅エリアの送迎サービスもあるのだが、
当然ながら別料金である。稼いだばかりの金を手放すのが惜しいエ
ヌラスとしては多少の疲労を抱え込んででも節約したい。
明かりの点いた宿のインターフォンを押す。しばらくして、のんび
﹂
いるというのに、ここで更なる追い打ちを仕掛けるプルルートはエヌ
﹁そうか⋮⋮﹂
﹁お疲れ∼﹂
そ れ と も ∼ お 風 呂
感が押し寄せてきた。
そ れ と も ぉ ⋮⋮ あ た し ∼
らふらとエヌラスはリビングのソファーに腰を下ろす。どっと疲労
きゃー、と赤らめた頬に手を当てて喜ぶプルルートの横を抜けてふ
?
201
りとした声が扉を開けた。
﹁あ∼。おかえりぃエヌラス∼﹂
﹁⋮⋮ただいま﹂
﹂
﹁えへへぇ、なんだかぁこれって新婚さんみたいだよね∼
﹁俺を社会的に殺すつもりか⋮⋮
?
ただでさえ精神と肉体の両面でダブルパンチを食らって疲労して
!
ラスをいじめるのを明らかに愉しんでいた。
﹁ご 飯 に す る ぅ
﹂
?
﹁言ってみたかったんだ∼﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
?
﹂
﹁マジしんどい⋮⋮﹂
﹁それでぇ∼
﹂
﹁⋮⋮
それとも、あたし∼
﹂
?
﹁全部﹂
?
しくなると黙り込んで指先を合わせてリビングが静かになったのも
半ば冗談で言っていたのか、それとも本気だったのか。急にしおら
﹁飯、風呂、プルルート。全部﹂
﹁⋮⋮えぇ
﹂
んだ顔で目を見ながら断言する。
頬に指を当てて笑顔を向けるプルルートに、エヌラスは表情筋の死
?
?
お風呂
﹁ご飯
?
束の間、バイクのエンジン音にエヌラスが立ち上がった。
202
?
e p i s o d e 3 2 男 と し て の 尊 厳 よ り も 大 切 な
ものは山ほど
それから間を置いて鳴らされるチャイムに玄関を開けると、ノワー
お前││なんで戻ってきた﹂
ルがもたれかかってくる。
﹁おい。⋮⋮ノワール
ハンドル握ってしがみついてたの間違いじゃねぇのか。あ
え、なんで
なんでエヌラスと一緒に⋮⋮
﹁あ∼、ねぷちゃん側のノワールちゃんだ∼。久しぶり∼﹂
﹁えっと││﹂
の背後に現れたプラネテューヌの女神に持って行かれた。
の全てを奪った者という言葉の意味を聞こうと口を開こうとして、そ
いうこと。ノワールは、仮面の道化師││クロックサイコがエヌラス
聞きたいことはお互いにある。エヌラスは何故戻ってきたのかと
﹁⋮⋮﹂
﹁何があったのかって聞いてんだ。嫌なもの見た顔してたぞ﹂
﹁えっ⋮⋮﹂
﹁何があった﹂
ていたのを見逃さない。
ノワールの震えが疲れから来るものではなく、恐怖による色を残し
線に等しい百人力だ。
と頭を撫でられてすぐに転送される。今のエヌラスにとっては生命
吹かしさせた。独りでに動き出し、徐行速度でエヌラスの前まで来る
その言葉に同意したのか、ハンティングホラーが一度エンジンを空
んなん俺ぐらいしかまともに動かせねぇぞ﹂
﹁運転
﹁あ、ごめんなさい。ちょっとあのバイクの運転で疲れちゃって﹂
を離す。
た。動揺の色を見せていたことにハッとしたノワールが慌てて身体
その身体を離そうと肩に触れて、小刻みに震えている事に気づい
?
?
?
203
?
﹁⋮⋮プル、ルート
﹂
?
﹁え∼っとねぇ。大体そっちと事情はおんなじかなぁ﹂
﹁探す手間が省けたというか、都合が良いというか、トントン拍子ね
⋮⋮﹂
﹁⋮⋮あー、イマイチ俺は現状が把握出来てないんだが﹂
エヌラスはまだ半信半疑だったようだが、それでも二人が知り合い
というのを見てどうやら二つのゲイムギョウ界の存在を信じる気に
なったようである。プルルートがノワールに抱きつくと、それでどう
﹂
やら安心したのか緊張も良い感じに解れた。それに乗じてエヌラス
人の愛車かっ飛ばしてくる途中で何があったんだ
がさりげなく尋ねる。
﹁んで
た。
﹁どこだ﹂
﹁エヌラス⋮⋮
﹂
﹁そいつは、どこで会った││
﹂
仮面の神格者という単語を出した瞬間、エヌラスの目が細くなっ
﹁ああ、それね。途中で仮面を着けた神格者に追われて││﹂
?
途中から無我夢中で飛ばしたから⋮⋮﹂
!
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁なんだよ
﹁なんで、プルルートと一つ屋根の下にいるわけ
﹂
﹂
﹁お前も疲れてるだろうし、正直俺も疲れてる。中に入れよ﹂
かせ、エヌラスは項垂れる。
一度は沸点限界まで沸き上がった怒りを深々と息を吐いて落ち着
﹁⋮⋮の、野郎。余計なこと言いやがって﹂
聞いたわ﹂
﹁⋮⋮貴方の全てを奪った相手、って。アルシュベイトから、それだけ
﹁ッ││そうか⋮⋮﹂
﹁わかんないわよ
て、ノワールは首を横に振った。
食い縛ってエヌラスはノワールに詰め寄る。怒気と殺意に気圧され
全てを二の次と言わんばかりに憤怒の形相で、抑え切れない激情を
!
?
﹁その質問を今ここでするんじゃねぇ⋮⋮
!
?
?
204
?
やはり宿は別にしてもらえばよかった、今更後悔してもあまりにも
遅い。
﹁なるほどねぇ、事情は分かったわ。分かったんだけど││﹂
﹁そうなんだぁ∼。向こうのゲイムギョウ界でも同じ∼﹂
﹂
﹁なんで、プルルートはそんなにベッッッタリとエヌラスとくっつい
てるのよッ
﹁え∼
いいじゃ∼ん。ね∼﹂
変態
鬼畜
!
﹁もう好きにしろよ⋮⋮﹂
﹁このロリコン
﹂
エヌラスは疲れて抵抗する気もないのかされるがままだ。
うにベッタリとくっついている。それにプルルートが頬を膨らませ、
ソファーに深く腰を下ろしたエヌラスの膝の上で仲良し兄妹のよ
!
﹂
﹁変態と鬼畜は否定しないの
﹂
﹁俺はロリコンじゃねぇってんだろうがどいつもこいつもぉぉぉぉん
!
﹁やめてくれ⋮⋮﹂
顔を赤くしながら胸板をくるくると指でなぞる。この二人の間に
何かがあったのは明白だ。プルルートの被害者でもある、がしかし│
│ ゲ イ ム ギ ョ ウ 界 な ら ま だ し も こ こ は ア ダ ル ト ゲ イ ム ギ ョ ウ 界 だ。
何かがあったとすれば、一体ナニをしたのか想像に難くない。
﹂
﹁オホンッ。参考までに、プルルート。アナタ、こっちの世界で変身出
〟﹂
﹂
来ないのは知ってるかしら
﹁知ってるよ∼
﹁〝変身できるの
﹁え∼っとねぇ﹂
?
かわしくない妖艶な笑みだった。
うなよと語るその目に││プルルートは、妖しく笑った。少女に似つ
うな絶望的な顔でプルルートに一縷の望みを賭ける。それだけは言
滝のような冷や汗を流し、エヌラスが断頭台を前にした死刑囚のよ
?
?
205
!
?
﹁エヌラスはぁ変態さんだもんね∼﹂
!?
!!
﹁⋮⋮変身∼、できるよぉ∼
いんだからぁ﹂
それが、どうかしたかなぁ∼♪﹂
﹂
﹂
俺が今どれだけ社会的に殺されたかも
!
りだそうかと思った。
﹁も∼、ノワールちゃん
エヌラスはあたしの命の恩人だよぉ
﹂
うこの際今から特に理由もなく行き先も分からないままバイクで走
味を成すのだろうか。精神がバッキバキにへし折れたエヌラスはも
がどんな窮地に陥っていたかを説明したとして、一体それがなんの意
誤解だと言い訳したいところだが全く材料が揃っていない。自分
内に近づかないで﹂
﹁なんでよ。いいから早く離れて、あとエヌラス。半径二メートル以
∼﹂
﹁え∼、ノワールちゃん。あたしぃ、もうちょっとこっちに居たいよぉ
ギョウ界に帰りましょ。エヌラス、バイク貸して。早く。今すぐよ﹂
﹁ほらプルルート、そんな性癖こじらせた変態から早く離れてゲイム
﹁小娘ってひどいなぁ∼、あたし女神様だよ∼
知らずに言いおったなこの小娘
いってハッキリ言ったな
﹁おーなんだこの野郎
とうとう本音出しやがったな いじめた
﹁え∼、死なれちゃ困るよぉ。まだあたしぃ、エヌラスのこといじめた
ねぇ⋮⋮﹂
﹁ははははははははははは。もうやだ死のう⋮⋮死にたい。死ぬしか
﹁⋮⋮⋮⋮最低﹂
を見比べて冷たく一言。
呆気に取られて固まっていた。それからエヌラスの顔を見て、二人
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
││あ、終わった。エヌラスは寒気すら覚え、ノワールの顔を見る。
?
何か出来たでしょ
﹂
﹁だからって、恩返しにそんな簡単に身体預けてどうするのよ。他に
?
﹁││え﹂
﹁えっ﹂
206
?
!
!
!
?
﹁他に何か出来てもぉ、あたしはそうしたかなぁ⋮⋮﹂
?
ノワールとエヌラスが固まる。
﹁あたしぃ、こんなんだからそういうのと縁がないかな∼って思って
たしぃ﹂
つるぺたんな胸に手を当て、プルルートは自分の小ささをアピール
した。
﹁普通にいじめるだけじゃ、物足りないかなぁって最近思ってたから
∼⋮⋮﹂
そこで、突然プルルートの身体が光に包まれる。次の瞬間には変身
を終えてアイリスハートが君臨していた。エヌラスは膝の上に突然
美女を抱え込む形となってバランスを崩しそうになるが、その顔を捕
らえられる。
﹂
﹁だから、趣向を変えていじめてみるのもいいかと思ってたのよね。
エヌラス、かわいいもの。とってもいじめがいがあるわよ
﹁コレ以上イジメんな⋮⋮俺の心が折れる﹂
﹂
男としての尊厳なんて変身前のあたしを
?
﹂
﹂
や っ ぱ り 真 正 の ロ リ コ ン な の か し ら。そ う ね ぇ ノ ワ ー ル ち ゃ ん、
なんで私
ちょっと身体張って確かめてもらえない
﹁え、えぇ
!?
?
だったのよ﹂
言われてノワールは反論の余地もない。
﹁わ、私はアナタをプラネテューヌに連れ戻そうと思って来たのよ
﹂
笑顔で手を叩くプルルート=アイリスハートのなんと他力本願な
しぃ﹂
﹁大丈夫よ。その時はまたねぷちゃん達がなんとかしてくれるだろう
﹁前回の事件、忘れたわけじゃないでしょ。また何か問題が起きたら﹂
てるわよ﹂
﹁別に頼んでないし、戻らなくてもしばらくはいいかな∼なんて思っ
!?
207
﹁あら、まだ残ってたの
俺むしろ襲われた側だよな
ガンガンに犯してとっくにないようなものなのに﹂
﹁あれ一方的だよな
!?
?
﹁少女に逆レイプされて喜ぶ方も十分男としてどうかと思うけどぉ。
!?
﹁だ っ て ぇ、あ な た 変 身 も 出 来 な い の に 戻 っ て き て ど う す る つ も り
!?
ことか。髪をかき上げて、座っていたエヌラスを横にするとその股の
上に座り込んだ。
﹁結構いい座り心地よぉエヌラス﹂
﹁そりゃどうも⋮⋮﹂
十 時 間 ぶ っ 通 し で 働 い て き て 疲 れ て ん だ
﹁もっと嬉しそうにしなさいよ﹂
﹁ど う 喜 べ っ て ん だ よ
⋮⋮﹂
ぐぅ。腹の虫が抗議している。それに水を差されて、プルルート=
アイリスハートは堪えきれなくなって笑い出す。
﹁そういえばそうだったわね。じゃ、せっかくだしご飯にしましょ﹂
変身を解いて、プルルートはエヌラスに耳打ちした。
〝お風呂はぁ、後で一緒に入ろうね∼〟
〝ご飯だけでいいですもう⋮⋮〟
今はもう、とにかく布団に入って泥のように眠りたい。半ば放心状
態でエヌラスは台所に消えるプルルートを見送る。
208
!?
e p i s o d e 3 3 男 に は 分 か っ て い て も 踏 ま な
きゃならない地雷がある
そして、残されたノワールとエヌラスの二人の間に走る沈黙は気ま
ずいものだった。昼ドラの様相を呈して今や彼の社会的地位は落ち
るに落ちて最低辺である。洒落や冗談で言っていいことと言って悪
いことがあるが、プルルートの発言は間違いなく死刑宣告だった。
改めて││お互いに心を落ち着けて顔を見合わせる。
││考えてもみれば、そうだ。最強と呼ばれるアルシュベイトとの
一騎打ち。バルド・ギアとの戦いを終えて何回の神化を残すかという
瀬戸際で相手を選んでもいられない。そう考えると、まぁ、性癖云々
やどうのうではなく、文字通りエヌラスは死ぬ瀬戸際に立たされてい
た。少しキツく言い過ぎたかも⋮⋮。
ノワールは身体を起こすエヌラスの顔を見て、謝ろうかと思った。
﹁そうでもないらしい。宿を借りない限りは電気もガスも水道も、全
209
││ハンティングホラーを使って戻ってきたということは、トライ
デントは無事にインタースカイへ送り届けたということだろう。そ
して、これをノワールに預けたということはバルド・ギアが信用した
という証拠に他ならなかった。何より一緒にいたはずのネプテュー
ヌとネプギアがいないのは、ゲイムギョウ界に無事に戻ったというこ
と。プルルートを連れ戻しに来た、というのもウソではないはずだ。
当の相手がアレでは苦労していることだろう。
エヌラスもまた、ノワールの顔を見る。
﹁えっと、エヌラス﹂
﹁なぁ、ノワール﹂
﹂
名前を呼んだのは同時だった。会話を切り出すタイミングを逃し、
またも奇妙な沈黙が二人の間に流れる。
あ、あぁ⋮⋮﹂
﹁あの。えっと⋮⋮その、宿││なのよね。ここ
﹁えっ
?
﹁家一軒貸し出すサービスなんて、赤字じゃないのかしら﹂
?
部カットされてる﹂
宿泊日数に応じてやはり値段も上下するが、一日中電気点けっぱな
しのガス使い放題、水道垂れ流しにしても黒字になるよう調整がされ
ていた。その辺りの料金設定もまたユウコの匙加減で変わってくる。
宿を取って、鍵を差し込まない限りは死んでいるも同然。当然そのメ
ンテナンス費用も莫大な金額だが、このサービス自体がユノスダスで
は〝副業〟として取り扱われている。
﹂
﹁ただ、飯とかそういうのは全部自前で用意しろ。らしい﹂
﹁どうして
﹁働かざるもの食うべからず、仕事ならごまんとあるからな。その日
の飯にありつきたけりゃ、自分の足で仕事見つけて働いた金で食えっ
てことだ﹂
﹁へ∼、そうなのね﹂
どうにか話題を繋いで、台所で嬉しそうに料理をしているプルルー
トの鼻歌が聞こえていた。
﹂
﹁││あの、ね⋮⋮エヌラス﹂
﹁ん
ギーを消耗するって話。最初は冗談だと思ってたわ。それに││え、
エッチなことしないとダメって⋮⋮﹂
モジモジと股を擦り合わせ、顔を真赤にしながらノワールは続け
る。
﹂
﹁だ、だけどやっぱり納得いかないのよ。どうしてそれでシェアが得
られるの
一品、とか話題のゲーム、とかな。そういうのは最初の内は注目を集
れは上辺だけの信仰心の話に帰結する。例えば、そうだな⋮⋮流行の
﹁シェアって言うのは、基本的に大勢の人間から得るものだ。だがそ
それに、エヌラスも最初こそ黙秘を通していたが、やがて口を開く。
う少し確証の持てる話を本人の口から直接聞き出す必要があった。
は明確な理由がわからずにそうそう身を乗り出す気にならない。も
現にプルルートは目の前で変身して見せた。だが、ノワールとして
?
210
?
﹁アナタが最初に言っていた、その⋮⋮変神するためにシェアエネル
?
めて大勢の人間が求める。コイツをシェアと仮定しよう﹂
﹁⋮⋮ええ﹂
﹁それが長引けば、当然飽きる人間も出てくるわけだ。そうなると、人
気が落ちるな。シェアの低下ってわけだ﹂
﹁でも、それならどう回復するのよ﹂
﹁││さっきも言ったように、シェアは信仰心だ。こいつを揺るがな
いものにするには、命を預ける。身体を預ける。﹁コイツの為なら死
んでもいい﹂ってくらいに深い信頼関係を築く必要がある。〝量〟よ
﹂
り〝質〟ってわけだ。だから、つまりは﹂
﹁裸の付き合いで、回復する⋮⋮
﹁⋮⋮そういうことなんだよ。納得、できたか﹂
はぁ⋮⋮という重苦しいため息は苦悩の色がにじみ出ていた。そ
れは決して疲労だけで現せる吐息ではない。エヌラス自身もそれに
また、悩んでいるのだ。しかし、それでもまだノワールの猜疑は晴れ
﹂
なかった。量より、質。それは理解できた。夜空の星より月明かり、
そういうことだろう。
﹁でも、それでどうして私達は女神化出来るの
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
重そうに息を吐いた。
ての理由だけで終わっている。それについての言及にも、エヌラスは
けのシェアが得られる理由が不足していた。エヌラスが得る側とし
そもそも今の説明では、女神としての素質を持つものが変身するだ
由にはなってないじゃない﹂
が〝シェアを得る側〟であって、女神の〝シェアを得られる側〟の理
﹁アナタに身体を預ける意味は分かるけど、それはあくまでもアナタ
?
﹂
﹁命を預ける。身体を預けるっていうのはな、それだけで終わらない
んだよ⋮⋮﹂
﹁と、いうと
だろ。言い方はアレだが﹂
﹁そうね、最低ね﹂
211
?
﹁行為そのものだけで済むならそこらで金叩いて女買ってりゃ済む話
?
﹁ノワール、お前の物をハッキリと言うところは嫌いじゃない。で、
だ。それでどうしてかと聞かれたら││俺が、その相手に、命を預け
るだけの価値があるってことなんだよ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮││││﹂
﹁だから、プルルートが変身できるのは俺がアイツに命を懸けるだけ
信頼してるってことだ﹂
照れ臭そうに、言っていられない愛の告白だとでも言うようにエヌ
ラスは頬を赤らめてそっぽを向いた。つまりは、女神化出来るだけの
信頼をエヌラスから供給してもらう。相互関係を築く。
﹁身体を重ねた相手を、俺が命を投げ打ってでも守らなきゃならんの
は、そういうことだ。そういう関係でなくとも俺はお前達をこの戦争
に巻き込むつもりなんてなかったんだよ。もし俺がプルルートのこ
とを疑いでもしたら、アイツは変身できなくなって、巻き込まれて死
ぬかもしれん。それは、俺が許さねぇ。俺が〝自分を疑った俺を赦さ
212
ねぇ〟。まぁ、俺のこといじめて満足してるだけなら、別にいい⋮⋮
ん、だ⋮⋮けど⋮⋮な││﹂
まるでゼンマイの切れた機械のように言葉が途切れていくエヌラ
スの視線。その先をノワールが追っていくと、いつの間にか鼻歌が止
んでいた。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
顔をこれ以上ないほど真っ赤にして、出来上がった遅い夕飯を載せ
たトレイを持って、プルルートがリビングの入り口で固まっている。
半笑いの口が一体何を言いかけていたのかは分からない。だが、まる
で茶汲み人形の如くぎこちない動きでテーブルの上にトレイを置く
と、そのまま熱病に冒されたような危うい足取りでまた台所へ消え
る。
﹁⋮⋮⋮⋮聞かれてた、みたいね﹂
﹁⋮⋮右手と右足、同時に出てたぞ﹂
﹂
カチャカチャと食器の擦れる音が聞こえてきた。それにホッと胸
を撫で下ろした。
﹁でもまた、なんでそんな話したんだ
?
﹁││││それ、は。その、それよ。あれなわけよ、うん﹂
﹁いや、どれがそれでなんなのか全くわからん﹂
﹁だから、その││私も、このまま変身出来ないとアナタの迷惑になる
﹂
だろうし、シておこうかなって⋮⋮べ、別にそういう関係になりたい
とかじゃなくて、足手まといになりたくないだけなんだからね
くていいのか
﹂
﹁いや、そこまで自惚れてねぇよ⋮⋮でも、プルルートは連れて帰らな
!?
ンデレめ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮や、優しくよ﹂
﹁そこで反論されねぇと俺が困るんだよッ
﹂
!!
自分が情けなくなって泣きそうになっている。
顔真っ赤よ
?
﹂
﹁プルルート、ちょっと大丈夫
﹁ふぇ∼
﹂
﹂
胸を隠しながら恥ずかしがるノワールに、なぜかエヌラスは無性に
よ頼むから
ボケてんだよツッコめ
﹁おーうテメェどういう意味だぁこら。後できゃんきゃん鳴かすぞツ
険だし﹂
こっちに居座るわよ。今の話聞いてたら、ふたりきりにしとくのも危
﹁本人があれじゃ、無理やり連れ帰っても意味ないわ。私もしばらく
?
﹁⋮⋮ほんとに、大丈夫なの
?
﹁えへ、えへへへへぇ⋮⋮あたしぃ、おかしくなりそ∼﹂
はたから見ればもうとっくにおかしくなっているであろう恍惚と
した表情で両手を頬に当て、身体をくねらせるその姿はもう病んでい
るとしか言い様がないほど不安が押し寄せてくる。
ピッタリとエヌラスにくっついて晩御飯を食べるプルルートと、な
んとも気まずい表情で淡々と食べるエヌラスに、落ち着かない様子の
ノワール。妙な緊張感で折角のハンバーグの味がまるで分からない。
美味しい、はずだ。美味しいはずなのに、まるで味が分からない。な
んの肉なのかも分からないくらいに今の三人は心ここにあらずと
213
!
のぼせているかのような、惚けた反応にノワールは不安を覚えた。
?
?
いった様子で黙々と晩御飯を胃に落とし込んだ。
﹃ごちそうさまでした﹄
両手を合わせて合掌。片付けは三人で手早く済ませ、一段落││。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
の、はずだったのだが⋮⋮誰も口を開かない。時計を見れば十一時
を回っていた。時計の針の音がやけにうるさく感じる。
﹁風呂⋮⋮入るか﹂
214
episode34 泡と汗と熱と、あともうなんか
色々熱いシンパシー︵R︶
││浴室は一人で入るには広々とした空間だったが、三人で入るに
は少し窮屈だった。湯気の立ち込める室内は防音完備と、まさにその
為に設計されているのではないかと疑いたくなるほど。シャンプー
とリンス、それにボディソープは備え付けで置いてある。タオルも十
分な枚数が用意されているが、使い切る馬鹿はいない。そもそもドラ
ム型洗濯機まで置いてあるのだからそれを使えと言われている気が
してならなかった。
﹂
なぜか、今。脱衣場に足を運んだエヌラスの横でプルルートが服を
脱いでいる。隣で上着を脱ぎ始めていた手が止まっていた。
﹂
ねぇノワールちゃん
﹁⋮⋮プルルート。何も一緒に脱衣所に来なくても﹂
裸になるなら一緒だよぉ
恥ずかしいでしょ
?
て強引に連れて来られたノワールは二人に背を向けている。それは
それで中々に扇情的な光景ではあるのだが、如何せん狭い。三人分の
スペースなどないのだから当然な話だ。
一足先に服を脱いだエヌラスが軽くシャワーを流し始めると、背後
からプルルートがしがみついてくる。
﹁エヌラス∼、あたしぃ、我慢できないよぉ﹂
﹁はいはい⋮⋮後でな﹂
バスタオルすら巻いていない。足元には転倒防止のマットが敷い
てあるが、それを見たノワールがなにを想像したのか、顔を真赤にし
ていた。
ボディソープを泡立たせて背中を洗い始めるプルルートが、ふとそ
の手を止める。
﹂
﹁え∼い﹂
﹁のわぁ
!?
215
﹁え∼
﹁こ、こっち見ないでよエヌラス
!?
?
脱衣場にまで三人で入ることはないのだが、プルルートの手によっ
!
?
﹁こっちもぉゴシゴシしてあげる∼﹂
身体を密着させてエヌラスの胸板にスポンジを撫で付け、背中は自
分の身体で洗い始めていた。ノワールも手伝おうかと思っていたが、
あまりに大胆なその行動に釘付けになっている。
││あ、あんなにくっついちゃっていいの
その光景は恋人同士というより﹃大胆な妹に弄ばれる兄﹄のように
映っていたが、それはエヌラスとプルルートの体格差からくる印象で
あり、ノワールもそれを見て、意を決したように近づく。
﹁あ∼、ノワールちゃんも手伝ってくれるんだ∼﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
/﹂とア
前に座り込むと、一点を凝視していた。それは、バスタオルで一応
隠しておきながらも今は自分の存在感を﹁\ここに居るぞ
ピールしているエヌラスの陰茎。
﹁いちいち聞くな﹂
﹁││││⋮⋮さ、触って、いい
﹂
めて見る男性器と対面して今度こそ息を呑む。
プルルートの手でバスタオルが剥がされた。そしてノワールが初
﹁それ∼﹂
﹁ノワール、そんながっつくように見るな。逆に恥ずかしい﹂
!
応。﹁ぅわぁ⋮⋮﹂とか﹁ぁ、かた⋮⋮﹂等と言葉を漏らしながら、ノ
ワールの柔らかい手が陰茎を包み込む。その形を覚えるような優し
い手つきにエヌラスも時折反応を見せ、その度にノワールが驚いてい
た。
そこで、突然ノワールがバランスを崩す。回りこんでいたプルルー
トが背中を押したのだ。身体は自然とエヌラスの股間に向かって倒
﹂
﹂
れ、だが不思議と痛みはない。むしろ心地よさすらあった。
﹁ほらぁ、ノワールちゃんの胸でぇご奉仕だよ∼
﹂
﹂
!
?
216
?
恐る恐る手を伸ばし、指先が触れた瞬間に引っ込める初々しい反
?
﹁だ、だからなんで私の胸でそういうことになるのよ
﹁ダメか
﹁エヌラスまで何期待してるの
!?
?
﹁何って⋮⋮﹂
ぽよん。
﹁⋮⋮そりゃ﹂
﹁ナニ、だよねぇ∼
﹂
エヌラスも思わず声が漏れた。
﹁ほぉら∼、こうしてあげなきゃ∼﹂
待っ⋮⋮熱⋮⋮ちか⋮⋮
!
これ⋮⋮﹂
?
〝⋮⋮ん
確か
〟
﹁やっぱり変態だわ⋮⋮こうすればいいんでしょ⋮⋮〝確か〟﹂
﹁ん。あぁ⋮⋮なんというか、征服感あるな﹂
﹁⋮⋮気持ち、いいの
エヌラスの顔を見て交互に見比べた。
み込んだ胸の間から頭を出す陰茎に釘付けになっている。それから、
完全にこの場をリードしているのはプルルートだ。ノワールが挟
﹁んひゃ
﹂
熱で火照った血色の良い肌が触れ合う。ハリのある弾力に挟まれて
プルルートの手がノワールの身体を隠していたバスタオルを剥ぎ、
?
?
にノワールは胸を擦り合わせる。挟んだまま上下にゆっくりと動き
始 め た。プ ル ル ー ト の 手 が 胸 を 横 か ら 鷲 掴 み に し て 圧 力 を 掛 け る。
だがそれは、むしろ互いの感触がより明確に感じただけだった。それ
では滑りの悪さを感じたのか、ノワールは唾液を垂らして潤滑油代わ
りに流し込むと淫猥な水音が浴室に響き渡る。
﹁うわぁ、エロぉい⋮⋮﹂
﹁正直鼻血モノだな⋮⋮﹂
結構、大変なんだからコレ⋮⋮﹂
﹁あ、アナタ達ね、んっ、私が、頑張ってるのにその言い方はないんじゃ
ない、かしら
げる。
﹁んひィっ
﹂
た。それだけで電撃でも流されたようにノワールが情けない声を上
ねっとりとした手つきが、ノワールの尻を撫でて、更に恥部へ触れ
﹁じゃ∼、あたしも手伝ったげるね∼﹂
?
217
!?
まるでどこかで見てきたような言い方に、エヌラスが疑問を抱く前
?
!?
﹁あはっ、ノワールちゃんかわいい声出すね∼。ここかなぁ
﹂
﹁なに、これ⋮⋮一人でするのじゃ、全然違⋮⋮﹂
﹁へぇ∼、一人でしてるんだぁ∼
﹁するのか⋮⋮﹂
﹂
?
﹂
﹁う、うるさいわよ。そういうこと言うエヌラスなんて、こうよ、こう
んできていた。
墓穴を掘ってますます顔が赤くなるノワールの目尻には涙が浮か
?
﹁ますます、エロいだけだぞ、それ﹂
﹁はむっ⋮⋮んっ、るさい⋮⋮わねぇ﹂
胸で挟み込んでも顔を出していた陰茎の頭を咥え、舌で舐めとる。
それだけで先端から溢れていたカウパーが刺激を受けてますます勢
いを増した。
﹂
﹁わぁ∼、綺麗な色してる∼﹂
﹁んむぅッ
自在にナカを舐る。
〟
﹁ノワールちゃんのぉ、熱いお汁溢れてきてるよ∼
〝それは、アナタがイジるからでしょ
?
﹁∼∼っ﹂
﹁あ、ごめ⋮⋮ぷはっ、らいじょうぶ
?
身を任せたくて仕方ない。ギリギリ抑えつけているのが精一杯だっ
れを寸でのところで堪えていたエヌラスとしては堪えがたい快楽に
ビクビクと震える陰茎が、暴発しそうなほど膨れ上がっていた。そ
﹂
﹁舐めながら、喋んな⋮⋮ヤバイ⋮⋮
﹂
せた。それは繋がっているエヌラスにまで響く。
が、ふとした拍子に触れられたクリトリスからの刺激で身体を跳ねさ
口はエヌラスの陰茎を咥え、後ろはプルルートに弄ばれている。だ
そうとは思っても声に出せるほどの余裕が今のノワールにはない。
!?
﹂
に熱い感触が入り込んできた。それは膣内を押し広げてぐねぐねと
部の間近に迫っている。吐息を感じられるほど接近していたが、不意
ノワールの相手は一人ではない。プルルートの顔が指で広げた秘
!?
!
218
!
た。一度は離れたノワールの唇が吐息を漏らし、そんなエヌラスの顔
を見ながら││
﹁はぷっ﹂
亀頭を咥えて、先端を舌先で穿る。吸い上げるように根元から胸が
﹂
締め上げて、エヌラスは堪えていたモノを今度こそ手放した。
﹁ハッ││あ、っ⋮⋮
ノワールとしてもそれは予想外の勢いだったのか、最初こそ口内で
受け止めていた精液に負けて口を離すと顔から胸元まで白く染めあ
げられる。
﹁ん⋮⋮んんぅ⋮⋮ゴクッ﹂
喉を鳴らして口に入り込んだ分を飲み込んだノワールが、苦い顔を
していた。胸元から前髪までべったりとくっついた精液を見て指で
掬い上げる。
﹁変な味⋮⋮それに、こんなに出して、もう⋮⋮けほ﹂
喉の奥で絡んだのか軽く咳き込む。白くなった指先を取ってプル
﹂
ルートが舐めあげた。
﹁へっ
﹁ちょ、えっ、プル││﹂
胸元から顔にかかった精液を舐め上げていくうちに、ノワールの身
体 は 仰 向 け に 押 し 倒 さ れ て い く。自 分 の 上 に 乗 っ て い る の が プ ル
﹂
ルート、というのが如何にもマズイ状況に震え上がった。コレ以上ナ
ニをされるか分からない。
﹁エヌラス∼、ノワールちゃんの方はぁ準備万端みたいだよ∼
そうになる。恥辱に耐え切れず顔を覆った。
かでくすぶる期待が混ぜこぜになってノワールは今度こそ泣き出し
コレ以上ないほど見せびらかされたことだった。羞恥と不安と、どこ
そして、ナニをされたかと言われれば、自分のデリケートゾーンを
?
219
!
﹁も∼、こんなに溢しちゃってぇ、ダメなんだから∼﹂
!?
e p i s o d e 3 5 ど ん な に く だ ら な く て も 負 け
られない駆け引き││それがプライド︵R︶
﹁見な⋮⋮いでぇ⋮⋮﹂
絶望的なまでに顔を赤くして涙目で懇願するノワールを前にして、
見るな、という方が無理であるエヌラスとしては一度射精しただけで
は収まらない陰茎の充血ぶりに呆れる他にない。プルルートの白く
細い指がかき出した愛液でぬめってテカリを見せている。それがよ
り背徳感を増しているのは、二人でノワールをイジメているからだろ
う。しかし、やり過ぎなようも気がする。
﹁ひ、くっ⋮⋮﹂
﹁ノワール、大丈夫││じゃねぇよな﹂
当の本人からしたら自分のあられもない姿を面前に晒されたこと
が一番辛い。プルルートの頭を軽く小突くと、ポカンとした表情で見
﹂
る。唇が自然と近づき、貪るようなキスをしながらエヌラスはノワー
ルに挿入した。熱くトロけた膣をゆっくりと押し広げる感覚は陰茎
の形を覚えるように絡みつく。他の誰にも許したことない体が、自分
のモノになっていく征服感に急かされるのを堪え、浅くストロークを
220
上げてきた。
﹁やりすぎ﹂
﹁⋮⋮はぁ、ひゃひぃ
せる絡みつくような快感に身を任せていた。
﹁やられて、ばかりじゃないんだから、ね⋮⋮ちゅる﹂
﹁舐め、ちゃ、だめぇ∼⋮⋮吸っちゃうの、もっとぉだめ∼
!
エヌラスの前に、ヨダレを垂らしながら喘ぐプルルートの顔があ
﹁⋮⋮﹂
﹂
らしい。その反撃は想定していなかったのか、身体を震わせて押し寄
秘部に吸い付いていた。自分がされていたことへの仕返しのつもり
起きたのか覗きこむと、ノワールが顔のすぐ前にあったプルルートの
突然、素っ頓狂な声を上げて身体の跳ねた身体を抱きとめる。何が
!?
繰り返しながら少しずつ奥に進めていった。それは犯される側のノ
ワールが、自分の身体がエヌラスを受け入れているのだという認識を
するのに十分な〝前戯〟でもある。
﹁ア⋮⋮私の、ココ⋮⋮﹂
きゅうきゅうと締め付けながら、ノワールが繋がっている秘部に手
を伸ばした。身体の中から広げられた下腹部は、堅く、熱く勃起した
エヌラスのモノを本人の意思とは無関係に咥えている。だが、不思議
と痛みはなかった。
﹁初めて、だから、痛いと思ってたのに⋮⋮ちょっと、拍子抜けしたわ﹂
﹂
﹁ほう。つまりノワールは、じっくりネットリと時間を掛けてまぐわ
うよりも、これ以上ないほど激しくされたいと﹂
そうじゃ、あ、あっ、アッ⋮⋮んん、ふゥっ
﹁やぁ∼らしぃ∼﹂
﹁ち、違うわよ
竿が引き抜かれた後に、秘部から溢れる精液を見てプルルートが体
ワールはもう声を出すだけの体力が残っていない。
だ 精 液 を 注 ぎ 込 ん だ。そ れ に 至 る ま で 何 度 も 絶 頂 に 達 し て い た ノ
せ、腰はノワールを犯し続ける。やがて限界を迎えた陰茎が溜め込ん
を見て、エヌラスは口でだらしなくヨダレを垂らすプルルートを黙ら
だけで電流が走った刺激を受けてプルルートが喘いだ。そんな二人
さな秘部から溢れる愛液を舐め取り、舌が小さな突起に触れる。それ
上も下も塞がれたノワールは顔に押しつけられるプルルートの小
﹁ふたりばかり気持ちよくなっちゃ、やぁら∼﹂
室で反響する喘ぎ声が、ふと塞がれた。
らエヌラスとしてもムクムクと湧き上がる欲望を抑え切れない。浴
ラスは何度もピストンする。その都度、素直に嬌声を挙げるものだか
けるだけで別な生き物のような反応をみせるノワールの秘部に、エヌ
収縮する膣内を再び押し広げた。その一連の動きに速度の緩急をつ
ら突き上げる。亀頭の首が膣口まで引き抜かれて、異物がなくなって
慣れてきて余裕を見せた直後、エヌラスはゆっくりと腰を引いてか
!?
位を変えた。それはノワールに跨る形となり、エヌラスに背を向けて
いる。
221
!
﹁ノワールちゃん、すっごいかわいい声でてたね∼﹂
﹂
﹁はぁ、はぁ││プル、ルート⋮⋮アナタ、ねぇ⋮⋮私、はじめてって、
言ったじゃないのよぉ﹂
﹁でもぉ、きもちよかったんでしょ∼
﹁ん⋮⋮そりゃ、まぁ⋮⋮見聞きしてたのよりずっと││﹂
﹁ほう。つまりエッチなものを見たり聞いたり﹂
﹁一人でシたりぃ、してるんだもんね∼。女の子だもんねぇ﹂
﹁真面目そうな割に結構溜め込んでるんだな⋮⋮﹂
﹁もうやめてよぉ∼、私、恥ずかしくて死んじゃう⋮⋮こんな姿、ネプ
テューヌに見られたらなんて言われるか分かったものじゃないわ
⋮⋮﹂
﹁アイツのことだから、どうせ﹃ノワールはエロいなぁ∼エロエロだな
∼エロの国の女神様だなー﹄とかだろ﹂
﹁⋮⋮言いそうだからムカつくわね﹂
腹を抱えて大爆笑しながら言う姿が容易に想像できた。はぁ、と息
を吐いてノワールはまだ身体に残るエヌラスとの行為の余韻に浸る。
﹂
影が掛かり、目を向けるとプルルートが妖艶な笑みを浮かべていた。
﹁えへへぇ、ね∼、エヌラス。あたしはまだぁ
﹁お前⋮⋮﹂
﹁だぁって∼⋮⋮﹂
喘ぐ。
悦びながら、プルルートはくしゃくしゃの髪を湯気と汗で濡らして
﹁それはそれでスッゲェ興奮する﹂
﹁これ、あたしぃ。玩具、みたい∼﹂
何度も突き始める。
たした。すぐに奥まで到達すると、腰を掴む。そのまま抵抗も許さず
事のように呆れながら、エヌラスは小さな割れ目に二度目の挿入を果
あれだけ出してもまだ底無しの性欲は屹立させている。半ば他人
?
あん、あっ。ソコぉ、だめっ
﹂
〝うわ、うわぁ⋮⋮プルルート、こんな顔もするんだ⋮⋮〟
﹁ひンッ
!
222
?
少女の身体が跳ねる度に、その外見とは想像つかない嬌声が挙が
!?
り、だらしない顔で快楽に身を任せていた。それからやがて、エヌラ
スが三度目の射精を果たすとノワールの上にプルルートが倒れこむ。
風 呂 に 入 っ て 身 体 を 流 す つ も り が 逆 に 汚 れ て し ま っ た。洗 っ て も
﹂
らっていたはずが、すっかり熱気で汗だくになっている。
﹁身体、洗うか⋮⋮
﹂
﹂
﹁⋮⋮プルルート
﹁うふ、うふふふふ⋮⋮﹂
風呂は命に関わる。だが、プルルートの様子がおかしかった。
り持って行かれてさっさとベッドに入りたい身として、コレ以上の長
疲労が限界に達しつつあった。体力と精気と根気がまとめてごっそ
エヌラスも十時間ぶっ通しの労基ガン無視タダ働きからのコレで、
!
﹂
間違いなく頭のネジぶっ飛んでる
!
る。
﹂
絶対なってる
﹁あはははは、もうダメ。あたしおかしくなりそう
﹁なってる
目がヤバイ
!
変身するなり、一糸まとわぬ姿でエヌラスに襲いかかり、組み伏せ
﹁お、おい⋮⋮
?
体を引いている。
﹁あぁもう、うるさいわね
い顔見せてくれればいいのよ
﹂
﹁あっははははは何言ってんだぁこの女神様
﹂
女王様の間違いじゃねぇのか冗談じゃねぇぞぉオイ
﹁生意気な豚ちんぽが何言ってんのかしらねぇ
﹂
﹁どこの世界にこんな豚がいるってんだ、ふっざっけんなよぉ⋮⋮
あと仮にも国王だぞ俺⋮⋮
ギリギリギリッ││⋮⋮
﹂
!
プルルート=アイリスハートもそれに気づき、蛇を彷彿とさせる邪悪
の目が、ふと怯えるノワールに動いた。だが、それがいけなかった。
女神化した相手と対等に張り合える腕力で拮抗していたエヌラス
!?
!!
!
!
に女神か
女神か、お前ホント
おとなしくあたしに食べられて情けな
た。ノワールはプルルート=アイリスハートを見た瞬間にはもう身
どういうわけか、両手の指を絡ませてお互いに取っ組み合ってい
!
!?
!
!
223
?
!
!
!?
な笑みを向けるとカエルのようにノワールがすくみ上がる。
﹁だいじょうぶよぉ、ノワールちゃん。エヌラス共々いい声で鳴かせ
﹂
てあげるからぁ⋮⋮﹂
﹁ひぃぃぃ⋮⋮
何がおかしいのかってこの状況下で俺とノワール二人
﹂
女王様のとこだけ﹂
?
濡らした。
﹁ウフフ、エヌラス
というかどうされたいの
﹂
﹂
?
い
﹂
﹂
﹁テメェの脳みそがぶっ飛んでんだよ
休ませろよ
﹂
﹁いやよ﹂
﹁即答
どうしたらそうなるんだ、
﹁ここまで昂らせておいて、放置プレイだなんてちょっと高度過ぎな
!
あたしをそんなに悦ばせてどうしたいの
さえする。ゾクゾクと背筋を震わせて、熱い吐息を漏らして唇を舌で
だけ崩れていない。それどころか、より口角が釣り上がったような気
目が座っていた。〝トロン〟とした表情で、口元に貼り付けた笑み
﹁⋮⋮││フフッ﹂
﹁俺とノワール二人まとめて食おうとしてる女王様﹂
﹁⋮⋮もう一回言ってもらえる
まとめて食おうとしてるこの女王様か
もなんだ
﹁ちょっと待てやコラ、はははおかしいなぁ俺がおかしいのかそれと
!?
﹁何もせずにおとなしく休ませろや⋮⋮
?
?
ノにするって﹂
本気とも冗談ともつかないことを言いながら、裸で︵割と本気の︶
取っ組み合いをするプルルート=アイリスハートと、全力で今は三大
欲求の睡眠欲に身を任せたいエヌラスの間に火花が散る。だが獲物
﹂
が抵抗すればするほど、嗜虐心に火を点けるだけだ。起爆剤と言って
もいい。
﹁だ・か・らぁ││
!
224
!?
?
!
﹁だってぇあたし決めちゃったもの。何が何でもあなたはあたしのモ
!?
!
?
﹁ッ⋮⋮﹂
﹂
﹁あ な た が 他 の 子 達 と 寝 る の も 抱 く の も い い け れ ど、あ た し の モ ノ
だって身体に刻み込んでやらないと、ねぇ⋮⋮
﹁否定はしねぇ。け・ど・なぁ││
﹂
﹂
﹂
私てっきりプルルートとは一回だけかと﹂
﹁変身前のあたしに襲われて四発もヤっといて何を今更
﹂
どんなくだらないこと
﹁ホォラ、口で言っても身体は素直なんだから﹂
がなかった。
しかし﹁親に似ました﹂とギンギンに物語っているのは手の施しよう
ホント節操ねぇなドラ息子﹂と説教を小一時間垂れ流してやりたい。
される形となる。そんな状況下にあってもまだ元気な息子には﹁もう
プルルート=アイリスハートの力が一層増してエヌラスが押し倒
!
だろうが、女に負けるわけにゃいかねぇのさ⋮⋮
﹁こんなんでも、俺ぁ国王だからよぉ⋮⋮
﹁っ⋮⋮往生際の、悪い男ね⋮⋮
!
言うぜ⋮⋮
﹂
﹁そ れ も、そ う ね ⋮⋮
わっ﹂
大体瀕死の俺を襲っといてよく
﹁だ・れ・が、負けるかぁぁぁぁ⋮⋮
﹂
﹂
﹁あぁもう、いい加減〝諦め〟なさいよ
せてあげるから
痛くしないし気持よくさ
ど う せ な ら、万 全 の 状 態 で 襲 い た か っ た
﹁それはそれ、これはこれだ⋮⋮
もその絶倫ぶりには我ながら呆れているらしい。
のだろう。昨日の今日でこれだけ出すのも相当な性欲であるが、当人
みに昨晩の出来事であるというのは伏せておくが、なんとなく察した
ここまで傍観していたノワールが口を挟むなり驚いていた。ちな
﹁え、四回もしたの
!?
!
!
!
!
﹂
え冗談であってもエヌラスに言ってはならない禁句であることを知
意地があんだよ、男の子にはぁぁぁ⋮⋮
らないが故の誤算である。
﹁ざっけんなコラ⋮⋮
!!
左胸の〝銀鍵守護器官〟が魔力的な輝きを見せた。いや、まかり間
!
225
!?
プルルート=アイリスハートが地雷を踏んだ。その一言だけは、例
!
!
!
!
!
マ
ジ
違っても〝こんなこと〟に使うべきではないのだが、冷静さを欠いた
今のエヌラスには何を言っても無駄である。││ぶっちゃけ本気に
なっていた。
いいわねぇ、燃えるわ。ゾクゾクす
それだけで済まさねぇからな。ぜってぇ負
﹁テメェだけは、いつかガンッガンに犯して泣かしてやろうかと思っ
﹂
てたが気が変わった
けねぇ⋮⋮
﹁あたしに逆らうって言うの
!
﹂
﹂
るわ いつか全裸で首輪つけて散歩させてあげるから覚悟しなさ
?
!
すぎたのかプルルートが変身を解く。
﹁⋮⋮すごぉい﹂
!
﹁⋮⋮いや、ていうかなんで二人共そんなに必死なのよ﹂
﹁ハァ、はぁー⋮⋮そりゃ、どうも⋮⋮
﹂
で息をしていた。行為の最中よりも熱く激しい肉体勝負に力を出し
す。ほぼ互いに全力を出した取っ組み合いに決着が着いて、二人は肩
そして、遂にはエヌラスがプルルート=アイリスハートを押し返
﹁やれるもんなら、やってみやがれ⋮⋮
い
!
こうしてユノスダスでの夜は更けていく。
226
!
?
第四章 ヒートアップ
おはよーご
e p i s o d e 3 6 な ん で も な い よ う な 朝 に 地 獄
あり
ユノスダス国王、ユウコだよー
男の子はこんがり小麦色に
本 日 の 天 気 は 快 晴 雲 一 つ な い よ ー。ス ッ キ リ お
﹃ハァーイ、皆さん
ざいまーす
女の子はお肌のケア
夜 更 か し し た 人 も、
ユノスダス国王ユウコ
スッキリ眠った人も今日も一日頑張ろー
聞 い て ん の か モ ヤ シ 野 郎 ど も
日様、イイね
!
領したプルルートとノワールによってエヌラスの安眠は儚く消え
人分のスペースなど期待出来るはずもなく、仲良く半分ずつ身体を占
ユウコの声だけが響き渡る朝。どう考えても一人用のベッドに三
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁くぅ⋮⋮﹂
﹁んぅ⋮⋮﹂
天井を見つめる目はひたすら虚ろに彷徨う。
結局一睡もできなかった。シングルベッドの上で四肢を投げ出し、
れである。
りに就くものだって少なからずいるのだ。││エヌラスがまさにそ
いや、国民ではなく旅行者であってもそうだ。夜に働いて、朝に眠
のだが、中には当然それとは異なる生活リズムの国民もいる。
者達が純粋に労働基準に則った生活をしていれば絶好の目覚ましな
による目覚ましテロなのかという噂がチラホラ。無論、この国の労働
礼だ。旅行者の大半が抱く感想は、初めて聴いた時は大抵の場合国王
者達にとっての目覚まし時計は誰よりも元気ハツラツなユウコの朝
送によって始まる。人々はそれを合図に活動を始める。国内の労働
││朝。現在時刻は六時。ユノスダスの朝はユウコからの国内放
﹄
のモーニングコールでした。二度寝厳禁
焼けてね
!
!
!
去った。
227
!
!
!
!
!
!
目蓋を閉じれば少女達の悩ましい寝息。顔を左右どちらに向けて
もかわいい寝顔。これを両手に華と言わずなんと言おう。しかし、綺
麗な華にはトゲがある。中には毒もある。最悪の場合、死に至る。寝
返りを打つにも小さな身体と華奢な身体に挟まれては安易に体位を
変えることもできなかった。節操が無いのは下の方だけであり、その
手綱を握る理性はあくまでもエヌラスの良心に委ねられている。当
然、少女の身体を寝ているのをいいことにアレコレしてやったりも考
えなくはなかったのだが、ほぼ丸一日活動を続けていたエヌラスにそ
んな気力はなかった。あるはずがない。
二人が起きてから朝食を摂る。上機嫌なプルルートが昨夜と同じ
く台所に向かった。食材はどうやって調達したのか疑問に思ったが、
どうやらユウコが宿の紹介と一緒に色々な所からかき集めてくれた
﹂
らしい。とはいえ、この国の基本理念は﹃働かざるもの食うべからず﹄
である。
﹁だ、大丈夫なのエヌラス⋮⋮目の下にクマできてるわよ
﹁あぁ⋮⋮悪い、ノワール。コーヒー淹れてくれ⋮⋮﹂
自分で淹れろとは言わなかった。なんとなしに手が伸びたのは、下
腹部。そこから胸に手を当てて吐息を漏らす。
〝⋮⋮なんだろう。ちょっと、身体が軽い感じ〟
ゲイムギョウ界にいる時のようにシェアエネルギーが湧き上がる
感覚。変身するのに十分なほどのシェアを得ていることに驚きと感
心が半分。
﹁なんだよ⋮⋮﹂
﹁こ、こっちのセリフよ。いやらしい目で見ないでってば﹂
﹁⋮⋮はぁ﹂
疲労感の滲むため息を漏らして、エヌラスが眉間を押さえた。果て
しない疲労感を一ミリでも吐き出せれば御の字だとでも、いやそれで
出て行くのは疲労ではなく幸福だが。
ミルク
﹂
!?
228
?
﹁ノワール⋮⋮普通、健全な男性っていうのはな⋮⋮お前のようない
砂糖は
!?
やらしい身体に抱きつかれて寝れるわけがないんだよ﹂
﹁い、いやらしい身体ってなによ
!?
﹂
﹁ブラックでいい⋮⋮ドギツイくらいドス黒い外宇宙闇黒神話並みの
荘厳なる漆黒で頼む﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ほんとに、大丈夫なの
﹁ヘヘッ⋮⋮﹂
〝あ、これダメな笑い方だ〟
精神がやられている人間の笑い方をする相手に、言われた通りのド
ギツイくらいドス黒い外宇宙闇黒神話並みの荘厳なる漆黒のコー
ヒーを││いや、それはもはやコーヒーと呼べる〝飲み物〟ですらな
い。その粘りはコールタールのようにティースプーンを絡めとり、ト
ルコ風アイスの如く。それを感情の欠如した表情でかき混ぜる。濃
密にして濃厚、もはや香りの暴力と言っても過言ではない。黒い水飴
状の液体は表面に液体特有の水面が存在しなかった。あえて言うな
らばそれは、もうコップの中に閉じ込められた泥だ。汚泥である。こ
の世の邪悪を溶かして練って混ぜ込んだような不気味な物質だった。
﹁うげぇ⋮⋮﹂
自分で淹れておいてなんだが、ノワールが青ざめた顔をしている。
とりあえず保存されていたコーヒー粉末を混ぜこんでお湯を入れた
だけの液体が、どうしてああも邪悪を極めたものになってしまったの
か本人でさえ理解できなかった。だが、エヌラスは注文通りの品に対
してツッコミも何もなく、ただただ死んだ表情でかき混ぜている。そ
うすることで何が変わるわけでもない、ティースプーンが邪悪に染
まって穢れていくだけだった。
手を止めて、コップを持ち上げる。ノワールの見ている前で、それ
を飲み干していく。喉を通っていくのがスローモーションのように
ハッキリと分かる。
﹂
││たっぷりと時間を掛けて、一気に飲み干したエヌラスは、やは
り顔が死んでいた。
﹁⋮⋮美味しかった
越した渋み通り越して喉の粘膜引っぺがすクソみたいな味だ。こん
なもん飲むならティーカップ食った方がまだ腹の足しになる。俺が
229
?
﹁くっそ不味い。この世のモノとは思えないくらい不味い。苦味通り
?
今まで飲んできたコーヒーの中でも格別だな。注文通りだ⋮⋮さす
がノワールだな﹂
﹁誉 め て る ん だ か 貶 さ れ て る ん だ か 分 か ら な い 評 価 を あ り が と う
⋮⋮﹂
素直に喜ぶべきなのか、怒るべきなのか。それとも今は優しい言葉
を掛けるべきなのだろうか。疲労困憊しているエヌラスには邪悪の
塊である﹃ノワール特製ブラックコーヒーRX︵仮名︶﹄ですら活力剤
には至らなかった。胃袋に流し込んだ邪悪の名残とも言うべきコー
ヒーの汚れがコップにこびりつく前に洗おうとエヌラスがソファー
からのっそりと立ち上がる。
﹁洗ってくる⋮⋮﹂
﹁私がやるから、少しくらい休んだ方がいいわよ﹂
﹁ああ⋮⋮ああ、そうだな﹂
﹁⋮⋮ダメそうね﹂
〟
230
﹁ははっ⋮⋮﹂
〝本格的にダメな笑い方よね、今の
よく眠れたかな
?
ない不吉な予感が立っていた。
﹁やぁおはよー、エヌラス
﹂
が行くしかなかった。玄関のドアを開けると、やはりそこには裏切ら
な予感がしていたものの他の二人が台所へ行っているため結局自分
そして、来客を知らせるインターホン。エヌラスが立ち上がり、嫌
あった。なんとなくエヌラスはそれに勝負を挑み││惨敗を喫する。
お天気お姉さんの天気予報は〆として、ジャンケン勝負が定番で
ていたりする。
が空しく響く。余談ではあるがインタースカイでは気象予報も行っ
とりテレビを点けた。お天気お姉さんの元気ハツラツな今日の予報
ノワールが黒く汚れたコップを持って台所へ消えて、リビングでひ
なってしまう。しかし、現実は非情である。
が精神を壊しかけているのか、このままではエヌラスが人ではなく
心という器は一度ヒビが入れば、もう⋮⋮もう二度とは⋮⋮。疲労
!?
﹁⋮⋮俺は今日、死ぬかもしれん⋮⋮⋮⋮﹂
!
﹁えっ
えっ
﹂
睡眠の重要性を改めて思い知らされながら、天使の様な吸血鬼に朝
!?
からご対面である。
231
?
﹂
e p i s o d e 3 7 新 婚 で も な ん で も な い け れ ど
一つ屋根の下
﹁やぁ、おはよー皆の衆﹂
﹁お、おはようございます⋮⋮
﹁⋮⋮ エ ヌ ラ ス ー。キ ミ が さ ぁ、女 の 子 囲 う の も 侍 ら せ る の も 別
にぃーもう慣れたことなんだけど⋮⋮どうしてそうホイホイ新しい
子できるかなー⋮⋮あ、私ユノスダス国王のユウコ。よろしく﹂
﹁私はノワール。よろしくね﹂
﹁あれ、あまり驚かないね。私が国王って言うと大抵の人、首を傾げる
んだけど﹂
﹁まぁなんというか⋮⋮﹂
﹁お前よりヒデェ女神様がいるからな、かわいいもんさ﹂
それがどこの国のどのような女神なのかまでは名前を出さなかっ
た。それにはノワールも同意しているのかうんうんと頷く。そこへ
﹂
プルルートが戻ってきた。
﹁あれ∼
魔だったかなー
﹂
﹂
お昼からミーティングだよ﹂
﹂
﹂
!
みんなでテーブル囲みながら 仲良くお茶で
も飲みながらーご飯食べて﹂
﹁お昼十二時予定
﹁⋮⋮昼
﹁今日
﹁⋮⋮今日
フォートクラブ生産工場の制圧に乗り出してもらうから頑張って
﹁今日、アルシュベイトからの調査報告と照らしあわせて割り出した
﹁それで一体なんの用だよ⋮⋮こんな朝っぱらから⋮⋮﹂
﹁あはは、ごめんねー﹂
﹁気にしないでいいよ∼﹂
?
!
ニコニコ笑顔の国王様は昼夜問わず元気ハツラツ。その活力が一
!
?
232
?
﹁おはよ、ぷるちゃん。あ、今から朝ご飯だったんだ⋮⋮ちょっとお邪
?
?
!
体どこから湧いて出てくるのかは国民含めて付き合いの長いエヌラ
スとしても謎だった。しかし当人が吸血鬼なのだから人間の物差し
﹂
でそれを測るべきではないだろう。
﹁マジで言ってんのか⋮⋮
私はキミのところに本当は真っ先に救援依頼
?
なのにいの一番に駆けつけてきてくれたのは誰だ
﹁な∼に言ってんの
出したんだよ
?
﹂
そりゃ、キミの国からのサポートもあるけどさぁ⋮⋮
﹂
﹁うん
﹂
?
ちょっとー、エヌラス。彼女達になーんも説明してないわ
﹁あ∼。それあたしも気になる∼﹂
﹁そういえば、アナタの国ってどういうところなの
るの
気象情報やその他放送局のサポートと、うちは皆の協力で成り立って
グレイスはそもそもうちとは共存関係。バルド・ギアに関してはその
と思うのさ。アルシュベイトなんて二日と待たず来てくれたし、ドラ
?
け口として各国に輸出されていた。
﹂
﹁じゃあそこのバカに代わって、私が説明したげよう
龍アマルガム﹄とは〝犯罪国家〟なのだ
﹁朝からうっせぇぞバカ﹂
!
﹂
フライパンがエヌラスの頭に叩きつけられた。
﹁⋮⋮犯罪、国家
パカァン
!
地下帝国﹃九
九龍アマルガムで加工されて出荷されており、それがユノスダスを受
事実である。緻密な作業や工程は全てエヌラスの治める地下帝国
けど言いたいことは言いたいっていうか⋮⋮﹂
係もキミのとこだし⋮⋮いやね、私もキミに大きい顔できない立場だ
﹁まぁー、そうなんだけどね。時計に旋盤加工、装飾品とか⋮⋮医療関
﹁うるせ。俺の国の事情知ってんだろうがテメェ﹂
け
?
!
?
ヌ
ラ
ス
﹁寝てねぇよ⋮⋮﹂
赤いうちは好きにさせないから。おら起きろ﹂
王様が、そこのバカ。ああ、だけど安心して。ユノスダスで私の目が
エ
力に制御される。金と暴力、女にクスリ。〝悪徳に螺旋禍った国〟の
ね じ ま が
﹁そう。財力が暴力によって脅かされ、権力が財力で賄われ、暴力が権
?
!
233
?
逆に目が覚める。その顔が引きつっていた。犯罪国家││名前通
り、何でもありだ。アンダーグラウンドの住人達は日々を暴力で乗り
切る。
金 の 暴 力。力 の 暴 力。薬 の 暴 力。性 の 暴 力。ヴ ァ イ オ レ ン ス に 満
ちたゴッサム・シティ。スラムによって形成されるマンハッタンにし
て数多の犯罪組織や秘密結社、カルト教団に魔術結社を抱え込む闇の
巣窟。それを束ねる〝犯罪王〟にして戦禍の破壊神こそがエヌラス
その人であった。
一連の話を聞いていたノワールとプルルートが顔を見合わせ、視線
がエヌラスに集中する。見た目は二十代前半という若さに対して、無
類の非道さと残虐性と攻撃性を持ち合わせているにはそれなりの理
由があってのことだ。
﹁昔に比べたらそりゃもう丸くなったよねぇ。初めて会った時を思い
出すよ。襲われかけて返り討ちにしたっけなー﹂
﹂
おねむだよ、いっつも朝礼の時間
王様は無視してさっさと飯食っちまおうか﹂
﹁失礼な、私はもうねむねむだよ
まで起きててそれからお昼まで寝るんだから
ていく。
ユウコからの反論はない。その代わり、顔がみるみる真っ赤になっ
﹁いちいち声がデケェ。ベッドの上でもそうなのかテメェは﹂
!
!
234
﹁話を盛るんじゃねぇ。テメェとは初見で殴りかかってきたじゃねぇ
か﹂
﹂
﹂
﹁だ っ て 普 通、キ ミ み た い な 人 が 迷 子 の 少 女 と 一 緒 に い た ら 助 け る
じゃん
﹁否定しねぇけどテメェ後で覚えてやがれよ
あたし、頑張ったんだよぉ﹂
?
﹁ああそうだな。ソコのいつ寝てんだか分からねぇ四六時中元気な国
﹁ね∼、朝ご飯冷めちゃうよ∼
でもユノスダスに来る度に絡まれてウンザリしている。
はいえ、エヌラス自身はユウコに会うつもりなど毛頭なかった。それ
である事実が発覚してからというもの奇妙な関係を築いている。と
完全な濡れ衣からエヌラスとユウコは出会い、その後お互いに国王
!?
!?
﹂
﹁べ、べべべべべべ││ベッド、の上だと、私は静かだよ⋮⋮
すり寝てるよぉ⋮⋮それはもう、子猫のように⋮⋮
ぐっ
!?
﹂
﹁えへぇ。ありがと∼﹂
﹁美味しい。そんだけ言いたかった﹂
﹁なに∼
﹁プルルート﹂
徐々に不機嫌さを隠そうともしない。
を合わせてプルルートの作った朝食に箸を伸ばしていた。その顔が
明らかな動揺を見せながらどもるユウコを無視して、エヌラスは手
!?
﹂
あ。うん、うんうんそうだよ
じゃー、あの、私待って
﹁飯食ったらそのまま仕事行ってくる。昼に教会集合でいいんだろ、
ユウコ﹂
﹁⋮⋮ぇ
るから、じゃーね
!
﹁そうかなぁ∼
﹂
﹁そうね。無駄に元気なところは似てると思うわ⋮⋮﹂
﹁ネプテューヌそっくりだ、アイツ⋮⋮﹂
ていたのか分かった。
そこで、どうして自分が〝アレ〟に向かってだけ複雑な感情を抱い
新しいそっくりさんの顔を思い出す。
て、エヌラスが嘆息した。朝から騒がしい奴だと呆れつつも、記憶に
で宿を後にする。それをまるで風が吹いたような涼しい顔で見送っ
せっかく出された料理に手をつける前にユウコはドタバタと早足
!
﹁どうしたの
﹂
朝食を口に運びながら、プルルートが笑い出す。
?
﹁ぼっぶぁ
﹂
﹁エヌラスが旦那様でぇ、ノワールちゃんが娘∼﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁なんかぁ、こうしてると家族みたいだな∼って思ったのぉ﹂
?
たすらにむせる。鼻から気道への侵入拒否された汁が逆流してきた。
あたかもそれが当然であり、その反応が不思議そうにプルルートが首
235
?
!?
味 噌 ス ー プ 大 氾 濫。エ ヌ ラ ス の 鼻 に 塩 分 が 降 り 注 ぐ。む せ る。ひ
!?
﹁わ、私だって子供じゃないわよ
﹂
﹂
﹂
いってらっしゃい
﹂
﹂
いいと思うんだけどなぁ∼⋮⋮﹂
べ、別に一回くらいならいいけど⋮⋮﹂
ゲッホゲ
どうせ慌てふためいて否定するに決まっているが、それを想像して
﹁どんな反応するかなぁ、楽しみ∼﹂
﹁へっ
﹁じゃ∼ね∼、後でぇエヌラスに﹃お兄ちゃん﹄って言ってみてよ∼﹂
た。
値踏みするようにプルルートが箸をくわえてノワールを眺め、頷い
﹁⋮⋮⋮⋮じ∼﹂
じゃない。眼の色も﹂
﹁そこはほら、せめて姉妹とか。私もエヌラスも黒髪だもの、似てる
﹁え∼
﹁気持ちは分かるけど、私が娘っていうのはちょっと⋮⋮﹂
﹁⋮⋮新婚さん、憧れてたんだよね∼﹂
静かに箸を動かす。
ンティングホラーのエンジン音が遠ざかっていくと、残された二人が
半ギレになりながらエヌラスは修羅場の予感から逃げ出した。ハ
!
くるチクショウ
﹁あ、逃げた
﹂
﹁なんで朝からこんな騒がしいんだよごちそうさまでした仕事行って
!
!
を傾げている。
どちらかと言えば立場逆じゃねぇ
﹁おま、お前⋮⋮ お前、この、プルルートテメェ⋮⋮
ホッ
わざとか
﹁⋮⋮エヌラスが奥さんの方がよかったぁ
﹁違うそうじゃない
!?
﹁だぁって、あたし子供じゃないもん∼﹂
!
? !?
!?
!!!
﹁いってらっしゃ∼い﹂
!
││反撃してみるのも悪くないとノワールは意地の悪い笑みを浮か
べる。
236
!
?
!?
episode38 ツンデレの黄金比は7:3
││ゲイムギョウ界に朝が訪れる。ラステイションの女神が不在
のまま迎える朝は国民の不安を煽るには十分すぎるほどだったが、し
かし、それでもプラネテューヌに訪れる朝は変わらなかった。ネプ
テューヌをネプギアが起こして、イストワールの三人で朝食を摂って
﹂
﹂
いるとNギアに着信が入る。相手はノワールの妹、ユニからだった。
﹁もしもし、ユニちゃん
︽あ、おはよう。ネプギア︾
﹁うん、おはよー。こんな朝早くからどうしたの
﹂
︽えっと、お姉ちゃんに言われてちょっと調べ物してたんだけど⋮⋮︾
﹁そうなんだ。何を調べてたの
﹁えっ
﹂
︽その世界、何度も消滅を繰り返してるみたいなの︾
何か疑問、というよりは理解の範疇を超えた様子でユニは続けた。
紙の擦れる音から、何か文献を参照しているのが窺える。言葉には
一種には間違いないらしいんだけどね⋮⋮︾
︽アダルトゲイムギョウ界についてよ。調べたら、ゲイムギョウ界の
?
あれはそ
ウ 界 と し て 存 在 し て て、そ れ が あ る 日 を 境 に し て パ ッ タ リ と 消 え
ちゃったんだって。ほら、R18アイランドあるでしょ
?
︾
の名残みたいなことが書かれてるの⋮⋮っていうかコレ、ホントに私
﹂
が読んでていいのかな⋮⋮
﹁え、えっと、それで
?
て書いてあるのよ︾
いを繰り返し、その度にゲイムギョウ界そのものの均衡を保ってたっ
だったんだって。世界に存在できるシェアの限界に応じて彼らは戦
だそれは、シェアエネルギーをゲイムギョウ界に還元する為の戦い
起きてて〝戦い抜いた最後の一人〟の願いを叶える塔があるの。た
︽あ、あぁうん。えーと⋮⋮そこでは守護神達による闘争が周期的に
?
237
?
?
︽ずっとずっと大昔の話なんだけど、元々はもうひとつのゲイムギョ
?
﹁ゲイムギョウ界の均衡⋮⋮
たんじゃないかな
﹂
﹂
﹂
︾
﹁ほ、ほら。もしかしたら例の災害に関係あるかもしれないって思っ
果たしてどう説明するべきか。
﹁あー、えっと⋮⋮一応あるけれども⋮⋮﹂
頼まれたんだけど、なにか心当たりない
が何処にも載ってないのよ⋮⋮お姉ちゃんから突然調べてくれって
︽そうだと思うけど。でも、どうして突然消滅したのかっていう記述
﹁それってつまり〝間引き〟みたいなもの
エヌラスの姿。バルド・ギア。アルシュベイト││。
界を守る為に自らが犠牲となる戦い。ネプギアの脳裏に浮かぶのは
女神が治める国ごとに差はあるものの、その上限は一律している。世
現在のゲイムギョウ界に存在するシェアエネルギーは四人の守護
?
﹁ユ、ユニちゃん
今なんて
﹂
ちょっと違うけど⋮⋮︾
だから、地面が盛り上がっているって言ったのよ。地震って
?
ら教えてあげて︾
﹁うん、ありがとう
﹂
!
よ
︾
﹂
!
!
じゃあね
!
﹁でも、教えてくれてありがとう
︽││││話は、それだけ
﹁うん、またね﹂
︾
︽あ、ありがとうって⋮⋮べ、別にアナタの為に調べてたんじゃないわ
ユニちゃん
︽って、ネプギアに言ってどうするんだろ私⋮⋮お姉ちゃんに会った
ら⋮⋮。
│それがもし〝次元を挟んだもの〟によって起きているのだとした
地層プレートの〝ズレ〟や〝歪み〟が元に戻る際に起きる振動│
言うのは普通そういう現象のことでしょ
︽え
?
自然だもの。まるで地面が盛り上がってるみたいな││︾
︽でも確かにそうかもしれないわね。こんな規模の災害なんて絶対不
〝あぅ、鋭い⋮⋮〟
︽そう⋮⋮なのかな⋮⋮でもこれ、すっごい大昔の話だけど⋮⋮︾
?
!
238
?
?
?
?
!?
ネプギアが通話を切る。
﹂
﹁お姉ちゃん、今の話││﹂
﹁へ
﹁もー、ご飯食べるのに夢中で全然聞いてなかったのー
﹂
もごもごと口を動かすネプテューヌに、ユニから聞いた話を噛み砕
﹂
いて話すと理解しているのかどうなのか疑問符を浮かべていた。
﹁つまり││どういうことだってばよ
それで、これは仮定なんだけど、
それが、何かが原因で別々な世界になっ
ちゃったってことなんだってば
ゲイムギョウ界だったの
﹁だからぁ、元々〝こっち〟と〝あっち〟のゲイムギョウ界は一つの
?
るんだとしたら、大変な事なの
﹂
﹂
﹁ネプギアさんのお話は分かりました﹂
﹁いーすんさんは信じてくれますか
﹁⋮⋮﹂
﹃次元連結装置の不完全な起動
﹄
ちら側での戦争の影響と言えど⋮⋮﹂
﹁ええ、勿論です。でも、だとするとどうして突然こんなことに
!?
ない
﹂
﹂
﹁へっ、下
﹁うん
﹂
﹁あのさー。それだったら案外ゲイムギョウ界の下で起きてるんじゃ
故それらが地震という形で表れているのかまではやはり分からない。
全な形での次元連結ともなれば、この現象にも納得がいく。だが、何
状態で更に不完全な状態に陥っていてもおかしくない。そこへ不完
であったというのなら、別次元のゲイムギョウ界と繋がっている今の
ネプギアとイストワールが同時に思い当たる。元々ひとつの世界
?
!
!
あ
今まで起きてた頻繁な災害は二つの世界の〝歪み〟によって起きて
!
!
﹂
次元の壁を隔ててるんだったら、
!
それが上でも下でも左でも右でもBでもAでも関係ないって
!
リエイティブな思考でいこうよ
﹁んもー、ネプギアは固いな∼。常識に囚われちゃダメだよ、もっとク
﹁どうなんだろ⋮⋮﹂
?
239
!?
?
?
!
﹁なんだろう、凄くトンデモないこと言われてるのに納得しちゃう私
がいる⋮⋮﹂
﹁それに、結局は向こうで起きてる戦いを終わらせないことには私達
のゲイムギョウ界に平穏が訪れることもないんだし、やることは一緒
これも女神のお仕事だと思ってさー﹂
だよ。そういうわけだから、いーすん。私達またちょっと留守にする
ね
﹂
﹁はぁ⋮⋮分かりました。でも、お二人はどうやって再びあちらの世
界へ
︾
?
﹂
?
︽⋮⋮︾
限定されるの
﹂
﹁あとさ、私達が転送される場所ってやっぱりインタースカイ国内に
事着らしい。
ワンピース姿││ではなく、スーツ姿に変わっている。彼女なりの仕
二度、三度頷いてステラの服装が光に包まれた。それからいつもの
︽⋮⋮︾
けど、ソラさんに頼むと断られそうだから⋮⋮お願い、できます
﹁私達、もう一回アダルトゲイムギョウ界に行こうと思ってるの。だ
眠そうにしていた。それでも呼び出しには即座に応じてくれる。
繋ぐ。仮想現実でも時間の流れは一緒なのか、ステラはパジャマ姿で
Nギアを起動して、登録されたインタースカイのサーバーに通信を
︽⋮⋮⋮⋮
﹁あの、ステラちゃん﹂
た。そうなれば││。
から落ちて辿り着いたのは戦場のど真ん中だった上に、嫌な思いをし
バルド・ギアに頼もうにも、あまり良い顔はされないだろう。亀裂
やだし⋮⋮﹂
﹁あー、それは考えてなかったなー⋮⋮またあの亀裂から落ちるのも
?
く。ステラの説明では理由はともあれ、その二箇所にのみ転送が可能
らゆっくりと指を動かして、もう一点││商業国家ユノスダスを叩
イムギョウ界のマップを表示して、インタースカイを叩いた。それか
ネプテューヌの疑問に、ステラは否定のサインを示す。アダルトゲ
?
240
?
のようだ。
﹁でも、こんなに離れてたんだ⋮⋮﹂
﹁ねぇねぇ、ステラ。エヌラスの国ってどこ
﹂
﹁えっと、いつ行くか⋮⋮ですか
﹂
﹂
﹂
うんうん、とステラが頷き、デジタル表示される時計を取り出す。
﹁そういうことらしいので、お願いできます
じだと大体中間地点だし、インタースカイからだと遠いし﹂
﹁ここはユノスダスって国の方がいいんじゃないかな。地図を見た感
﹁どうしよっか、お姉ちゃん
会ったのはインタースカイとアゴウを結ぶ森の中だった。
自分達がアダルトゲイムギョウ界に落ちたあの日、エヌラスと出
南方へ進めば軍事国家アゴウ。北方は山々に覆われている。
カイから真逆だった。その中間地点辺りにユノスダス。そして更に
埋もれていて街と呼べる代物ではない。位置はちょうどインタース
言われて示したのは、何もない場所。時計塔の周囲は灰色の瓦礫に
?
?
﹁案外ユノスダスって国で合流できたりして﹂
﹁エヌラスさん、また会えるかな⋮⋮﹂
の転送先は、商業国家ユノスダス。
昼の十二時。座標は以前と同じ場所。アダルトゲイムギョウ界へ
二人に言われて、確認のスケジュールを見て時間を調整する。
﹁座標は以前と同じ場所でお願いします﹂
﹁ご飯食べたばっかりだしな∼⋮⋮じゃあ、お昼くらいがいいかな﹂
?
﹁それはちょっと都合が良すぎる気が﹂
241
?
e p i s o d e 3 9 話 の 腰 の 骨 を へ し 折 る サ ブ
ミッション達成
ネプテューヌとネプギアはアダルトゲイムギョウ界に戻る準備を
進めていると、教会のテラスにバルド・ギアが戻ってきた。どうやら
全ての被害状況についてのデータの集計が終わったらしい。ちょう
ど二人ももう一度戻るという説明をすると、不思議そうに首を傾げて
いた。
︽なぜ、そうも我々の戦いに首を突っ込むんですか︾
﹁だって、放っておけないよ﹂
﹁そうですよ。それに││﹂
ネプギアはユニから聞いた話を思い出す。だが、それを本当に言っ
てしまっていいものなのか迷っていた。
アダルトゲイムギョウ界は崩壊へ向かっている。しかし、それは繰
﹂
開発のね。だが、不慮の事故によって彼女の肉体は︾
﹁仮想現実。電脳世界に⋮⋮
﹁でも、インタースカイの技術力なら││
﹂
︽ええ。その肉体と精神の両方が、今は電脳世界に取り残されている︾
?
!
242
り返し繰り返し、何度も起きている事象だった。それは、今の彼らの
戦いの全てが〝無駄〟だと言っているのと同じこと。それはとても
残酷だ。命懸けで守ろうとしたものも、命懸けで手に入れたかった未
ゲイム
来も、何もかも無に還る。そして何事もなかったように繰り返されて
︾
﹂
いく││それはまるで終わらない〝遊戯〟のように。
︽それに⋮⋮
︾
﹁⋮⋮ステラちゃんは、大切な人なんですか
︽はい
﹁あの、ソラさん﹂
言えるはずがなかった。
﹁⋮⋮ごめんなさい、なんでもないんです﹂
?
︽⋮⋮⋮⋮私にとって彼女は、ただの仲間だった。アプリケーション
?
?
︽私もそう考えていたよ︾
途方も無い試行錯誤の果てに得られたのは、副産物である高次元転
送システムだけ。彼に残されたのは莫大なジオラマのインタースカ
イ。そして、孤独な電脳国家の王座だけだった。
﹂
﹂と
︽それでもね。彼女の肉体だけは、こちら側に持ってこれなかったん
だ⋮⋮︾
﹁どうして
︽ネプテューヌ。二次元に行きたいと思うかい︾
﹁ん∼。まぁそういうのは私あんまり思わないかな。﹁楽しそう
は思うけれど、ゲームの世界はゲームだから私達が楽しめるんだも
ん。それがリアルになったら、つまらなくなっちゃうんじゃないか
な。他人事だから笑っていられるんだよ﹂
︽次元の壁を超える。それは簡単なことだ。だけど││〝次元の壁に
消えた肉体〟を再構成するということは不可能に近い。私が見つけ
ることが出来たのは、電子世界で漂っていた彼女の意識だけだった。
肉体は見つからなかったよ︾
﹂
﹁それを繋ぎ止める為の場所が、インタースカイのサーバーってこと
ですか
タースカイは彼女の庭であり、彼女の為の世界なんだ︾
そこに、きっと想像を絶する苦労があったのだろう。ステラだけで
なく、他の被害者達も同様にインタースカイのサーバーによって仮想
現実で生きている。彼は、そんな肉体を持たない国民達に支えられて
いる国王だ。
﹄
︽実を言うと、私は変神出来なくてね︾
﹃えっ
パッ ケー ジ
︽シェアクリスタルを仮想現実のインタースカイに置いてある。彼ら
からのシェアで私はあれだけの拡張装備が使用できるんだ。この身
体もその為にある。そういう点では、ある意味では次元連結装置は成
功しているのかも知れない︾
次元を超えたシェアネルギーの確保。未知との邂逅。だがそれが
243
!
?
︽ネプギアは機械に明るいみたいだね。そういうこと。だから、イン
?
!?
よもや崩壊の共有という形で現れたのは皮肉以外の何でもなかった。
︽私が次元連結装置を開発したのは、もしかすれば彼女の肉体が見つ
かるかもしれないという淡い希望からだったんだよ。もちろん、その
基本となる思想はエヌラスからだったけれどね︾
鋼の拳を握りしめて、バルド・ギアは機械の顔で怒りを滲ませる。
次 元 連 結 が 失 敗 す る こ
︽彼は、それと知っていながら甘い話を持ち掛けて││最後に裏切っ
た。その理由も明かさないまま⋮⋮︾
﹁エ ヌ ラ ス は 知 っ て い た ん じ ゃ な い か な
と﹂
︾
︾
︾
﹂
それと知っていたら私に一言あるはずだ。そうでなくとも、ア
ルシュベイトにすら
︽心当たり⋮⋮
?
い
︽それでも私は、にわかに信じがたい⋮⋮どうして彼はそれを話さな
たら、そんなことしません﹂
﹁でも、おかしいですよ。何か細工されていたことを知っていなかっ
璧に作動していたのに
︽││馬鹿な。再三の起動テストにも彼は同席し、最終チェックも完
?
﹁どうして
﹂
︽⋮⋮⋮⋮││彼に、直接聞いてくれ。私には聞く勇気がない︾
﹁何かあるんですね﹂
のか︽まさか⋮⋮︾と呟くが信じられない様子で押し黙る。
バルド・ギアが考える素振りを見せた。何か思い当たる節があった
?
﹁││││え﹂
?
﹂
?
︽││││エヌラスが、自分で︾
﹁恋人は、誰に
ないよ、あの凄惨な現場は︾
コと呼ばれている奴に手を掛けられた。⋮⋮忘れたくても忘れられ
︽彼の妹は神格者の一人、私達の間では〝狂い時計〟のクロックサイ
﹁殺され、た⋮⋮
﹂
︽⋮⋮エヌラスには、妹がいた。恋人がいた。だが││殺された︾
?
244
?
﹁きっと何か事情があったんだよ。何か心当たりとかない
!
?
愛する人を、自らの手で殺める。それは悪鬼の所業に違いない。愛
﹂
﹂
こういうのはしんみりした夜にする
するものを失うということは、捧げていた心を殺すこと。自分を殺す
ということだ。
﹁なんで、そんなことを
﹂
﹁朝からする話題じゃないよ
べきだと思う
﹁お姉ちゃん
ね
﹂
﹁ソラさんまで
﹂
︽えーと、まぁ、そうですけれど⋮⋮︾
﹁お姉ちゃんッ
﹂
﹁それで傷心の二人が慰め合うっていうのがエロゲで定番なんだから
!
!?
フェスト︾
﹁最後のは
﹂
︽真性の吸血鬼です。遭遇しないことを祈りますよ︾
そう言うと、人間体へ姿を変えてメガネを直す。
﹁しかし、そうも簡単に国を空けていいものなんですか
﹂
ベイトに、今話したクロックサイコに、ドラグレイス。そして、ムル
対するという意味であるということを忘れないで下さい。アルシュ
︽そういうことならば私は引き止めません。ですが、それは我々と敵
﹁はい﹂
︽⋮⋮あくまで、彼と行動するつもりですか︾
﹁そんな話されたら私達、エヌラスにどんな顔で会えばいいのさ﹂
鳴っていた。
しかも満更でもなさそうに頭を掻いている。カリカリと金属音が
!?
﹁大丈夫大丈夫。私はプラネテューヌを信じてるよ それに、頼り
?
?
!
になる仲間もいることだし。ベールやブランもいざって時は駆けつ
けてきてくれるよね﹂
﹁肝心なところは他人任せですか⋮⋮﹂
どうしてですか﹂
﹁あ、もちろんバルド・ギアもだからね﹂
﹁ボクまで
?
245
!? !
!?
!
﹁だって、本当は悪い人じゃないんでしょ
そうじゃなかったらス
テラの為に建国までしないよ。次元連結装置だってわざとじゃない
みたいだし﹂
﹁それにゲイムギョウ界に私達を送ってきてくれました。災害の調査
だって﹂
﹂
﹁だから、信じるよ。エヌラスも見た目悪人で最初こそすっごく怪し
かったけど、良い人⋮⋮か、ともかくとして
﹃えぇぇぇぇっ
﹄
て今までなかったんですよ﹂
も妹も失っていますが││その事件以来、女性と行動を共にするなん
﹁いえ⋮⋮そちらではなくてですね。さきほど話した通り、彼は恋人
頼れるのは⋮⋮﹂
﹁普通、そこまでされたら誰だって近寄りたくないよね。でも私達が
﹁珍しいですね﹂
が意外そうな顔をしていた。
思い出したのか、肩を落として深い溜息をつくネプテューヌにソラ
プリンと同じだよ﹂
好感度上がるのに。ツンデレのデレがない人なんて、カラメルのない
されたり⋮⋮散々だったんだもん。あ∼あ、アレがなければちょっと
たりパンツ可愛くないって言われたり馬鹿って言われたり叩き起こ
﹁いや、だって今でもちょっと会いたくないって思うもん。投げられ
﹁お姉ちゃん、そこは断言しないと説得力が⋮⋮﹂
?
い人
﹂
どうしよう、なんか、めちゃくちゃ恥ずか
? !?
〟
風邪かな、あはは⋮⋮﹂
あぁぁぁどうしたらいいのこれぇ、助けてエロ
!
じゃなくて教えて、いーすん
!
﹁お、おねおね、お姉ちゃん。顔真っ赤だよ
!
しくなってきた私
〝うわ、ぅわぁ⋮⋮
エヌラスの行動は、全てデレの裏返しだった││
﹁∼∼∼∼、で、でも、ほら、それってつまり⋮⋮
きりシェアの回復の為に連れてきたのだとばかり⋮⋮﹂
を絶ってくれて助かりましたし、消耗させていたんですけどね。てっ
﹁まぁ、敵対していた我々としては彼がシェアエネルギーの回復手段
!?
246
?
?
!
私は普通だよぉ
﹂
﹁なんでネプギアまで顔赤くしてるの
﹁へっ
﹂
﹁そ、そうだよねぇ。災害のせいだよねぇあはは﹂
﹁あーほら、暑いからねーあはははは﹂
!
﹁⋮⋮いえ、快適な気温なんですけど⋮⋮⋮⋮言うのは野暮ですか
﹁そうですね、いーすんさん⋮⋮﹂
﹂
247
!?
気まずい空気の中に、イストワールが入ってきて困惑していた。
?
!?
e p i s o d e 4 0 何 度 や ら れ て も 何 回 負 け て も
諦めない魔女こんにちわ
二人を見送ってから、ソラはイストワールに改めて現在のゲイム
ギョウ界の被害状況とステラから逐一送信されるデータを照らし合
わせた説明をする。
﹂
﹁プラネテューヌとラステイションは分かりました。けれど、リーン
ボックスやルウィーの方は立ち入って大丈夫だったんですか
﹁ええ、まぁ。人間の姿をしていればそう怪しまれることもありませ
んし、何より観測手段にも色々ありますからね﹂
そう言いながら手元に召喚したのは、災害救助用のヘビ型ロボッ
ト。動物を模したものはそう珍しくもない。
﹁それで、調査で分かったことなんですが⋮⋮インタースカイの仲間
たちもこの現象は不可解らしく、原因はやはり次元震動だと思われま
す﹂
﹂
﹁次元震動というのは、異なる次元同士の歪みで起きるものなのです
か
る以上は可能性がゼロではないんです。まして、此処は隣の次元と一
﹂
部分が繋がった状態ですからね。その影響で一層色濃いんだと思い
ます﹂
﹁何か手はないんですか
ですが、とソラはそこで区切ってからイストワールの目を見て続け
わけでもありません﹂
﹁我々の戦争の早期集結が望ましい、とはいえそう簡単に決着が着く
﹁三つの世界が、崩壊に向かっているですか⋮⋮困りましたね﹂
桁違いですから﹂
現象が起きていると推測します。そうなれば、次元震動の規模もまた
次元と手を断つこと。恐らくは、あちらのゲイムギョウ界でも同様の
﹁⋮⋮被害を抑える形であるというなら、やはりまずは隣接している
?
248
?
﹁はい。並行世界やパラレルワールド、そういった世界が隣接してい
?
る。
﹂
﹁ですが。方法がないわけでもないんです﹂
﹁本当ですか
﹁とはいえ、問題の先送り程度の対策ですけどね﹂
苦笑しながらソラは万策尽きたことを遠回しに伝えた。アダルト
ゲイムギョウ界ならいざ知らず、ゲイムギョウ界では手を加えること
は難しい。それでも、自分に出来る手段ならばより好みしている暇は
ない。
﹁アダルトゲイムギョウ界とこちらでは、崩壊にタイムラグがあるん
です。次元の壁を隔ててるのですから当然と言えます。私達の世界
では既に消滅している場所がありますが、まだこちらではそのような
現象は見受けられません。ですので、こちらとあちらの回線を歪曲さ
せることで災害を一時的に遅延させることが出来るでしょう﹂
それがどれほど危険なことかもわかっている。下手をすればもっ
と酷いことになるかもしれない、とはいえ他に方法がないのだ。そう
すればゲイムギョウ界間の行き来も段違いに難しくなる。もしかす
ると帰ってこれない可能性だってある。
﹁ですけれど、それは﹂
﹁はい。それはつまり、向こうからネプテューヌさん達が帰ってこれ
なくなる可能性もあります﹂
﹁私もそちらの世界を検索するのは三日でも出来るかどうか⋮⋮﹂
ちなみにバルド・ギアの検索時間は0,3秒だった。インタースカ
イのバックアップもあってだが。
﹁とはいえ、信じて送り出すしかありません。ネプテューヌさん達な
らきっと止められると信じて私は待ちます﹂
﹂
﹁ボクも一度、あちらへ戻って作業に取り掛かろうと思います。いー
すんさん、もう少し詳しい情報を探しておいてもらえますか
﹁構いませんけれど、私は検索機能がちょっと⋮⋮﹂
﹁えっと⋮⋮どれぐらい﹂
﹁⋮⋮﹂
顔を赤くしながら目をそらし、指を三本立ててみせる。
?
249
!
﹁⋮⋮三時間、ですか
﹁どうかされました
﹂
﹂
異常が出たらすぐにでも分かる、今がその時だ。
は観測した亀裂や裂け目の進行速度が統計されている。その数値に
た場所だ。インタースカイのサーバーと直結しているバルド・ギアに
の方角には何もない草原がある。ネプテューヌとネプギアが向かっ
そこで、突然言葉を区切ったソラがある一点を見つめた。その視線
の準備が整い次第││﹂
﹁⋮⋮分かりました。では、また三日後にこちらへ来ます。次元歪曲
﹁はい。みっか⋮⋮﹂
﹁みっか⋮⋮﹂
﹁││三日かかりますぅ⋮⋮﹂
?
﹂
お姉ちゃん、あそこに誰かいるよ
﹂
になるな∼、鉄と硝煙の香り漂う森の中とは大違いだよ﹂
﹁ンッン∼、やっぱり外の空気は美味しいな∼。最高にハイって気分
爽やかな草原の風にのって、胸いっぱいに空気を吸い込む。
まだった。
ある。単純にピクニックがしたかったというネプテューヌのわがま
ネプテューヌとネプギアが予定の時間より早く来たのには理由が
﹁しかもあの方角、ネプギア達が向かった場所だ││﹂
﹁えっ
﹁⋮⋮おかしい。誰かが手を加えている﹂
?
誰だろ、こんな何もない草原に来るのなんてスライヌぐらい
﹁あれ
﹁え
?
二人が近づくに連れて、徐々に嫌な予感が大きくなってきた。とい
うのも、それもそのはずだ。彼女達はその姿に見覚えがある。因縁深
い相手だ││過去幾度となく現れては懲りずに邪魔ばかりしてくる
悪党。紫色を基調とした魔女の衣装。
二人に気づいたのか、相手も振り返る。その手には光り輝く宝石の
ようなものを持っていた。
250
!?
?
だと思うんだけどなぁ﹂
?
﹂
どうして貴方がこんなところに
﹁お、お前は││
﹁マジェコンヌ
﹂
﹁マザコング、今度は何をしようってのさ
ふん、まぁいい。今回の私は一味違うぞ﹂
﹂
﹂
マ・ジェ・コ・ン・ヌ、
﹁ええい貴様はいい加減に名前を覚えんか
だ
マジェコンヌだと何回言わせる気だ
﹁一文字変えればマザコンだもんね﹂
﹁うるさいぞ小娘
これを逃す機はない﹂
﹁んもー、なんで余計なことばっかりするのさ
私達これからアダ
﹁何が原因かは知らんが、今ゲイムギョウ界が崩壊に向かっている。
に気づいたのか、不敵な笑みを浮かべる。
マジェコンヌが持っている宝玉に二人の視線が集中していること
!
よー
﹂
﹂
有り金はたいて買った土地、みすみす手放せるものか
﹂
災害続きでナス農園にまで被害が及ん
ルトゲイムギョウ界に行かなきゃならないんだから邪魔しないで
!
美 し い だ ろ う こ の 宝 玉 か ら は シ ェ ア を 感 じ る。量
?
!
!
に﹂
﹁ええいうるさい
私は絶対に諦めんぞ この世界を絶望に染め
﹁何 回 や っ た っ て 負 け る ん だ か ら い い 加 減 真 っ 当 に 生 き た ら い い の
せてやる﹂
﹁この異次元からの贈り物を使って、今度こそ貴様らに絶望を味わわ
と察したのだろう。
感じられる。マジェコンヌはそれがゲイムギョウ界のものではない
シェアエネルギーを感じていた。しかし、それと同時に何か他の力も
確かに││女神であるネプテューヌとネプギアもその宝玉からは
はそれほどではないが、使わん手はないだろう﹂
な ぁ ⋮⋮
﹁だが、荒れた茄子畑を耕しているうちに偶然、こんなものを見つけて
!
﹁貴様らの都合など知らぬ
で私は苛立っているのだからな
﹁当然だ
﹁ナス農家になったんですね⋮⋮﹂
!
!
!
﹁ぅげ⋮⋮思い出したくないなぁ⋮⋮﹂
!
?
251
!
?
!
!
!?
!
!
上げて、終焉に導くまではな
﹁お姉ちゃん、あれ
﹂
﹂
から招喚される自らの下僕であることに高笑いが響き渡った。
れ上がり、確かな質量として顕現する。確信を持って、それが異次元
マジェコンヌが宝玉を掲げると、光が増していく。それは徐々に膨
!
だ
﹂
﹂
﹁マザコング、何をするつもり
からね
まさに天からの贈り物
何をするつもりかだと
貴様に絶望を味わわせてや
!
﹁フフ、可愛いやつよ⋮⋮﹂
﹂
﹁で、でかぁぁい 説明する必要ないくらいデカイドラゴン
ンシェントドラゴンよりデカァァァイ
!?
﹂
!
や っ て し ま
!
に叩きつける。地面が揺れ、青い芝生がめくれ上がった。さぞ破壊の
だ。ましてや、それが生物であれば尚更。腕を振り上げて鉤爪を草原
される。巨体であるということは、それが持つ質量だけで十分な脅威
足を振り上げて、落とす。ただの動作一つで二人は文字通り蹴散ら
え、異次元の我が下僕よ
﹁ハ ー ッ ハ ッ ハ ッ ハ。ま る で お 前 ら が ゴ ミ の よ う だ
その頭にマジェコンヌが飛び乗ると、二人を見下ろす。
まるで怪獣映画だ。ネプテューヌ達ですらその膝に届くかどうか。
!
エ
として跪く。頭を寄せ、撫でられると嬉しそうに低く喉を鳴らした。
れるドラゴンはその大きな翼を広げると、マジェコンヌに仕える奴隷
アダルトゲイムギョウ界では〝悪竜〟ジャバウォックとして知ら
つのは││竜だった。
引き裂かれていく青い空。こじ開けられていく白い雲から降り立
るのだ﹂
そんなもの決まっておるだろう
﹁マジェコンヌだと何度言えば覚えるのだ
!?
!
!
!?
!
それ以上使ったら容赦しないんだ
﹁素晴らしい⋮⋮素晴らしいぞ、この力は
時空の崩壊を目の当たりにして二人は言葉を失う。
〝空間が砕ける〟のをネプギアは見た。
〝空が割れていく〟のをネプテューヌは見た。
!
!?
252
?
光景にご満悦だろうマジェコンヌは、二人の予想通りにこれ以上ない
ほど上機嫌な笑みを浮かべている。
﹂
﹂
なーんちゃって、アクセス
﹂
これじゃ普通に戦っても勝ち目はないよ。ネプギア
女神化、だね
﹁あぁ、もう
﹂
﹁うん
﹁刮目せよ、これが勝利の鍵だ
﹁見せてあげます、これが私の⋮⋮変・身
﹂
私を誰
残念だけど貴方の天下も三日と待たず三分で
﹁さぁ、マザコング
﹂
終わらせてあげるわ
﹁ふん⋮⋮女神化したところで貴様らに勝ち目などないわ
だと思ったか、馬ー鹿ーめー
﹂
﹂
お姉ちゃん、コレって﹂
﹂
﹁⋮⋮でも流石にこれはでかすぎると思うのよね。何メートルよ﹂
﹁うん
を使われたら堪らないわ﹂
﹁ネプギア、まずはドラゴンをどうにかしましょう。これ以上あの力
﹁そうなると、マジェコンヌの持っている宝玉は向こう側の﹂
よって引き出される神化の力だった。
クの本来持つべき肉体ではない。マジェコンヌの魔力と宝玉の力に
先端に現れた濁った光を放つ宝石は明らかに〝悪竜〟ジャバウォッ
突き破り、皮膚の下から宝石が突き出る。頭、胸、爪、背中、尻尾の
口から熱気を漏らし、その身体に異変が起きた。硬質化された鱗を
GRRRRRR⋮⋮。
たいね﹂
﹁ええ、間違いないわ。この力、アダルトゲイムギョウ界からきてるみ
﹁これは⋮⋮魔力の波動⋮⋮
﹁なによ、貴方までそんな子供みたいなこと言って⋮⋮││
!
?
!
だと思っている。私がただ異次元の下僕の頭に乗って得意げなだけ
!
!
が、気圧されることもない。所詮はデカイだけのドラゴン。
威嚇ではなく、敵対者に向ける咆哮はそれだけで木々が戦慄く。だ
その怒りに呼応するかのように〝悪竜〟ジャバウォックが吼えた。
﹁ほう、まだ冗談を言えるだけの余裕があるか⋮⋮ふん、忌々しい
!
!
!
!
!
253
!
!
!
!
!
﹁十メートルくらいあるんじゃないかな
﹂
﹂
これから真面目に戦おうという時に何を言ってい
捻り潰してしまえ
﹁ええい貴様ら
る
?
﹂
﹁はぁぁぁ││
だけだ﹂
﹁くっ⋮⋮
﹂
﹂
!?
﹂
分からんよ、ただ私は自分の手に力をイメージした
﹁こんな、風になぁ
?
﹂
その剣は死ぬまで喰らいつく
!
﹁貴様らの敵は、私だけではあるまい
﹂
足元││〝悪竜〟ジャバウォックが吼えた。
した。回転の威力が落ちてマジェコンヌの手元に戻っていく。その
ギア=パープルシスターもその援護に割り込み、二人で偃月刀を迎撃
どれだけ回避しても軌跡を自在に変えて食らいついてくる。ネプ
ぞ
﹁ハッハッハ、踊れ踊れ。舞え、小娘
案の定、間一髪。だが、安心する暇もなくその偃月刀は追尾してきた。
パープルハートは、風切り音が戻ってくるのが聞こえ、急反転する。
うその剣を軽やかに避けて再び接近しようとしたネプテューヌ=
偃月刀が冷気に覆われ、マジェコンヌは投擲した。回転しながら舞
!
﹁あぁ、これか
﹁どうして貴方がその剣を
二人の剣が火花を散らす。
た。それに酷似した剣を思い出す││偃月刀。
かった。その手には歪曲した剣が握られている。それは杖でもあっ
しかし、宝玉の力によってマジェコンヌにその刃が届くことはな
﹂
﹁ふん、甘いわ
!
パープルハート。マジェコンヌの手から宝玉を奪ってしまえば││。
宝石に阻まれる。ならば、と頭部に向けて飛翔するネプテューヌ=
から身を守る為に進化した外皮ではなく、脆いはずの腹の内皮ですら
魔弾を避けながら接近して、一撃。鱗には傷一つつかなかった。外敵
両腕を振り上げた先に、光球が浮かび上がる。流星の如く降り注ぐ
GAAAAAAAAA││││
!
!
!
!
?
254
!
!
!
灼熱の飛礫が襲いかかる。直線的な弾道でありながら、二人は掠め
るだけでもその熱気で汗が吹き出てきた。直撃すればひとたまりも
デッド・ブランク
ない。その暴力的な熱もまた、偃月刀を覆った冷気も││エヌラスの
〝 紅 & 白 〟に酷似していた。
255
﹂
episode41 電界突破
﹁エヌラスさんの、力⋮⋮
﹂
まり、痛む身体を押さえながらネプギアは別なことを考えている。
〝でも、どうしてエヌラスさんの力を秘めた宝玉が私達の世界に
ううん、今はそれよりも〟
の力も圧倒的だった。
?
積年の恨み、晴らさせてもらうぞ
﹁フハハハ、どうした女神ども。私を倒すのだろう
や反則などとは言うまいなぁ
﹂
二対二だ、よも
しかし、宝玉によって神化したジャバウォックの力もマジェコンヌ
ンを倒して宝玉を取り返さないと。
││考えるのは後回しにして、今はとにかくマジェコンヌとドラゴ
?
風圧だけでも軽々と吹き飛ばされそうな勢いだ。どうにか踏み留
﹁ネプギア
巨大な腕が薙ぎ払われた。
にマジェコンヌの偃月刀が当たる。飛行のバランスを崩したそこへ、
ジャバウォックの攻撃を避けていたネプギア=パープルシスター
?
?
相応に凶悪みたいね﹂
今頃
﹂
! !?
﹁陰口言うのはちょっと感心できないよ⋮⋮﹂
﹁だって、今でも私のことなんて言ってるか分からないのよ
﹂
﹃アイツほど酷い女神はいねぇ﹄とか言ってるに違いないわ
﹁もうちょっと信頼してあげてもいいんじゃないかな
││ぶぇっくしょい
往くぞ我が下僕よ
﹂
!
!! !
﹁ええい貴様ら、何をゴチャゴチャと
と滅びてしまえ
!?
丁度良い、貴様の治める国ご
どこかでくしゃみの声が聞こえた気がする。
!?
KYYYYYYAAAAAAA││
!
256
!
﹁クッ⋮⋮エヌラスの力を借りているのだとしたら、やっぱり見た目
!
金切り声じみた咆哮と共に頭上に両腕を掲げて翼を大きく広げる
ジャバウォックに、膨大な魔力が集まっていく。それはすぐに形を成
﹂
し た。灼 熱 の 光 球 が 太 陽 の 如 く 殺 人 的 な 熱 を 持 っ て 収 束 し て い く。
この世界に終焉を
それを制御しているマジェコンヌは剣を振りかざした。
﹁もっとだ⋮⋮もっと、私に力を与えよ││
!
を失った灼熱の暴力が暴発を始めた。
おのれ⋮⋮おのれ、まさかこんなことで⋮⋮
!?
を見開いた。
﹁お前⋮⋮私を││
﹂
振り落とされる。ジャバウォックの凶暴な手に乗せられて、驚きに目
死に直面して、歯噛みしたマジェコンヌだったが突然足場が揺れて
﹁なに
﹂
めの集中力を奪うのに十分な威力を見せ、マジェコンヌの頭上で制御
対災害用冷却弾頭﹃アブソルード﹄の六発はその魔力を保持するた
く。
バウォックの翼と両腕に撃ち込まれた。その爆発から霜が降りてい
バウォックの作り出す光球を破壊しようとして、突然ミサイルがジャ
るかどうか││決死の覚悟でネプテューヌ=パープルハートがジャ
でなくとも甚大な被害が出ることは間違いない。二人でも防ぎきれ
そのサイズはプラネテューヌを破壊するに足りうる一撃だ。そう
!
を見せた。
︽〝悪竜〟ジャバウォック
﹂
何故こちらの世界に⋮⋮
﹁バルド・ギア、今のミサイルは貴方だったの
︽え⋮⋮あの、こちらの方は
︾
﹁酷いわね、私よ。ネプテューヌよ
!
?
︾
!?
どうしてわからないのかしら、
﹁ありがとうございます、ソラさん。助かりました﹂
?
!?
健在である。その衝撃で二人共にダメージを負ったが、まだ戦う気概
ネプテューヌ=パープルハートもネプギア=パープルシスターも
ていた。
た。苦悶の絶叫があがる。雄々しい翼は見るも無残なボロ布と化し
の光球が焼失する。その余波だけで草原が焼き畑のようになってい
爆発から庇うようにして身を屈めるジャバウォックの背後で灼熱
?
257
!?
ネプギアと一緒なんだからそれくらい察してもいいじゃない﹂
﹂
︽無理︾
﹁無理
﹂
︽ごめんなさい、無理です⋮⋮︾
﹁重ねて言うこと
程度に遅れを取っていては国王の名が泣きます︾
﹁なら、マザコングは私達がやるわ﹂
?
魔 女 ゴ リ ラ ⋮⋮ だ め、
マジョコング
?
﹁マジェコンヌは任せてください﹂
マジェ⋮⋮
︾
︽ジャバウォックは私がやります。姿形が多少違いますが、あの一匹
ろう。それが自分の天敵であるということも。
ド・ギアがいた。同郷の出身であることを第六感から感じ取ったのだ
唸り声をあげながら顔を上げたジャバウォックの視線の先は、バル
ないではないか。だが、感謝するぞ﹂
﹁⋮⋮ふ、ふん。バカな奴め。自分の攻撃で自滅していては、元も子も
ジャバウォックが手からそっとマジェコンヌを地面に降ろす。
たようだ。
切れない。だがネプギアと行動を共にしていることから一応納得し
ルド・ギアは信じがたいのか機械の顔でありながら猜疑の視線は隠し
ネプテューヌが変身した姿、パープルハートが同一人物であるとバ
!?
ま じ ょ、マ ジ ョ コ ン グ ⋮⋮
︽え、マザ⋮⋮
﹁ブ ッ │ │
!
?
﹂
!
様。
︽それより、二人共。時間がないのでは
ます。転送までそう時間は長くありません︾
!
?
お姉ちゃん
!
笑ってる場合じゃないんだから、早くマ
え、ええ。ささっとマジョコン││ぶふぅっ﹂
﹁あっ、もうこんな時間⋮⋮
﹁へ
﹂
ステラから話は聞いてい
パープルハートが口を押さえて笑いを堪えていたが、無理だった模
魔女のゴリラとはこれ如何に。思わぬ不意打ちにネプテューヌ=
フ⋮⋮だ、だめお腹痛い⋮⋮
ちょっと待って。ツボに入ったから⋮⋮マジョコン、グ││プッ、フ
!
258
!?
﹁もー、しっかりしてよぉ
!
?
ザコンヌ倒さ││ぷっ⋮⋮マジェ、マジェコンヌ
と⋮⋮﹂
﹂
倒して行かない
人 の 事 を マ ザ コ ン だ の ゴ リ ラ だ の、散 々 言 い
︽なんかもう、本当にごめんなさい︾
放、次元隔壁解放
二十六次元拘束、解除
︾
︽バルド・ギアよりインタースカイ、メインサーバーへ ポート解
了解。
了。肉 質 解 析 │ │ 完 了。弱 点 属 性 解 析 終 了。│ │ 電 界 突 破 推 奨 ⋮⋮
ジ ャ バ ウ ォ ッ ク の デ ー タ 照 合。解 析 完 了。対 象 の 能 力 値、測 定 完
︽ステラ、解析は⋮⋮了解。なら、加減をしている暇はなさそうだ︾
スキャン
にバルド・ギアは地面へ急降下した。
るプロセッサユニットを展開して飛行する。それと入れ替わるよう
衣装からパンク調の衣装に変わり、その背には烏の羽根を彷彿とさせ
逆上したマジェコンヌが更なる力を宝玉から引き出す││魔女の
おって貴様らぁぁぁぁ
﹁や か ま し い わ ぁ
?
!
している。それと対を成すようにマジェコンヌは風の神性を宿して
悪神竜〟ジャバウォックという一個体だ。その属性は炎の神性を宿
もはやあれは〝悪竜〟ジャバウォックとして見なすのではなく、〝
!
パッ ケー ジ
グ
ゼ
電界突破││EXE・
エ
いた。それは、紛れも無くエヌラスが持っていた力││失った能力の
一つである。
︾
︽貴様も私も〝こちら側〟の住人ではない
トランス
!
が、それでもアルシュベイトは笑わなかった。エヌラスは笑わなかっ
た。持つべき者が持つべき力を守るべきものに使う姿を認めたのだ。
それも王の在り方として。シェアクリスタルを仮想現実のインター
スカイへ設置して、シェアエネルギーで彼らの為の国を繋ぎ止める。
力を求めたのではない。
バルド・ギアは誰かの為の自分で在りたかった。肉の器を失った機
械の身体であっても、心に吹く風の冷たさには耐えられなかった││
その隙間風を一人の仲間が埋めていたことに気づくのが遅すぎたの
259
!!
!
!
変 神 は 出 来 な い。あ る の は 拡張装備 だ け。そ れ の 何 が 国 王 か。だ
!
だ。
アプリケーション開発の為の仲間。ただそれだけの関係だと思っ
ていた、しかし。今ならば確信を持って言える。ステラの為にしてき
た今までの苦労は、何一つ無駄骨ではなかった。充実した時間、電子
世界で意識を見つけた時の高揚感、安堵感││心の欠片を埋めるよう
な感覚は消し去れない記憶として残っている。その時から決めたの
だ。
︾
自分は世界の為ではなく、彼女の生きる箱庭の王で在り続けると。
︽覚悟はいいか、爬虫類
次元の壁を超えて開放されるバルド・ギアの持つ拡張性能が呼び出
したのは、飛行ユニットだった。その主翼の下に四基のミサイルポッ
ドが装着されている。高起動特化型の装甲から更に装甲をスライド
させて冷却性に特化させる。防御などもはや紙切れ同然だ。だが〝
当たらなければ〟どうだと言うのか。
翼を失ったジャバウォックの眼下で、バルド・ギアの姿が掻き消え
る。音 速 の 壁 を 突 破 し て ロ ー ル し な が ら 放 た れ る ミ サ イ ル が 四 基。
分裂した子機が十六発。巨体に避ける術もあるはずもなくその生命
力で持って全て受け切った。だが、反撃の手を許さずバルド・ギアの
両肩にはバズーカ砲が担がれている。装填数三発、両腕で合計六発。
更には脚部ミサイルランチャーの六発、合計十二発が腹部の宝石を爆
炎で飲み込んだ。
︽││││︾
解 析 完 了。腹 部 に 魔 力 障 壁 確 認。質 量 兵 器 に よ る 攻 撃 非 推 奨。光
オー ト ラ ン
学 兵 器 に よ る 魔 術 攻 撃 推 奨。了 解。武 装 召 喚 ア プ リ ケ ー シ ョ ン
自動起動モード、次元間光速回線。
ジャバウォックがよろける、黒煙の立ち込める腹部へ狙撃銃を向け
てスコープを覗くまでもなく発射する。赤い弾頭は着弾点に魔法陣
を展開。着弾点の肉質構成、及びその構成物質を脆弱化させる特別製
の弾丸は、勿論インタースカイの技術ではない。魔術的要素が加えら
︾
れているのは九龍アマルガムによる加工の賜物である。
︽〝ありったけ〟だ、持っていけッ
!!
260
!
神速にして光速の転送と召喚を繰り返す。狙撃銃榴弾砲二挺突撃
銃射突式ブレード機関銃多目的ミサイルポッド設置式無反動砲││
ありとあらゆる火器がバルド・ギアの手元に召喚されては光の如く瞬
いて弾倉を空にして消えていく。強固な外皮も、鱗も貫通して内部か
ら肉が爆ぜる。爆炎に呑まれて血が爆ぜる。血風が更に蒸発して傷
口を黒く染め上げた。それでもまだ止まない砲撃攻撃銃撃は光の奔
流。
それでも、まだジャバウォックは倒れない。片目を失い、翼を失い、
爪も牙も砕かれて、それでもまだ倒れない。生命力が命を繋ぎ止めて
いた。その口から熱が漏れ出す。業火の息吹を吐き出すが、バルド・
ギアの展開した災害用防御隔壁﹃ジークフリート﹄の前に凍りつく。
腹部に撃ち込まれた魔法陣がその影響を受けて宝石にヒビを入れた。
削ぎ落ちたはずの肉が、破壊されたはずの体組織が再生していく。
驚異的な生命力はマジェコンヌの持つ宝玉から送り込まれていた。
︽││憎いか、悪竜。この世界が︾
憐憫の情すら湧いてくる。誰のためでもなく、ただ己の為に生き
る。他 人 を 犠 牲 に し て で も 己 の 道 を 往 く。そ こ に 情 熱 は あ る の か。
そこに理由や意味はあるのかと問う。だが相手は人の言葉すら解さ
ない爬虫類だ。
︽憎いか、悪竜。この私が︾
同じ人でありながら、なぜ悪道を往くのか。なぜ正道を歩まないの
か。正しく生きるという意味は、どうであるのか。バルド・ギアは│
│琴霧ソラは、分からない。だが、誰かのために生きることを決して
悪いこととは思わなかった。自分の為でなくても、心はこんなにも救
われている。
︽私は、お前が憎い。悪の限りを尽くす暴虐の竜である貴様が憎い│
│︾
犯罪国家、九龍アマルガム。その国王、エヌラス。あれはあらゆる
悪の頂点に立たざるを得なかった可哀想な王だ。だからといって加
減はしない、容赦もしない、同情もしない。それを必要としないほど
〝強い〟からだ。それが羨ましかった。それが恨めしかった。
261
悪の只中にあっても尚、折れない心がひたすらに眩しかったのだ。
逆境の渦中にあっても、彼は諦めない。
孤独な王と、孤高の王。救われた王と報われない王。
︽貴様程度の〝悪〟は、私の敵ではない︾
そして││、ジャバウォックは電界突破したバルド・ギアの次元装
備﹃EXE FORCE﹄の前に敗れた。自らを次元間光速回線に載
せた突撃は、脆弱化した腹部に風穴を開けてジャバウォックの生命活
動を停止させる。
鮮血と臓腑が溢れ、そしてそれは悪夢のように血の霧となって風に
消えた。残されたのは悪夢のような焼け野原だけ。
262
episode42 お昼休みはウキウキ
﹂
ア=パープルシスターの攻撃を跳ね除けた。
﹁貴様にはあの時の借りがあったなぁ
﹂
﹂
﹁マジェコンヌ、その宝玉は返してもらいます
﹁貴様のモノでは、あるまい
﹁それでも、返してもらいます
﹂
偃月刀の投擲、からの多重招喚によってもう一本の偃月刀でネプギ
を繰り返している。
プテューヌ=パープルハートとネプギア=パープルシスターが激戦
算して再びロックしているバルド・ギアの頭上ではマジェコンヌとネ
するのだから機体が熱を持つのも無理はなかった。次元拘束を逆演
す。ただでさえ処理速度に特化した機能に拍車を掛けた武装を駆使
電界突破によって熱を持った装甲の冷却に、排気口が蒸気を吐き出
?
これならばどうだぁ
り落とす。それは魔術文字となって霧散した。
﹁おのれ、おのれおのれおのれぇ
﹂
!
回転して戻ってくる偃月刀をネプテューヌ=パープルハートが斬
!
!
﹁お姉ちゃん
﹂
﹂
遂には押し負けて消し飛んだ。
切り裂いて突き進んでいたが、威力を相殺し切れずに回転が弱まり、
そこへマルチプルビームランチャーを最大出力で放つ。最初こそ
﹁M.P.B.L、出力全開
ターが背中を預けた。予想通り反転して一直線に襲いかかってくる。
ネプテューヌ=パープルハートに続いてネプギア=パープルシス
た偃月刀。その全てが回転を始めて二人に襲いかかる。先陣を切る
不意に冷気を乗せた風が吹く。そして現れたのは七重に召喚され
!
る。魔法に長けたマジェコンヌは近接戦でネプテューヌ=パープル
ハートに遅れをとる。
﹂
一閃が左手の宝玉を弾き飛ばし、返す刃で下から打ち上げた。
﹁クリティカルエッジ
!
263
!
!
!
多重召喚に割いていた集中力の隙を突くように、一気に距離を詰め
!
斬り上げの衝撃で渾身の一撃を防ぐことが出来ず、マジェコンヌは
上空高くから地面に叩きつけられる。
ネプギア=パープルシスターが取りこぼした宝玉を慌ててキャッ
チして地面に降りた。
宝玉は透き通っていながら、その中で炎と氷が渦巻いている。それ
が荒れ狂う純粋な力の結晶であることに息を呑んだ。暴力性の塊で
ある。
〝これが、エヌラスさんの力の一つ⋮⋮〟
魅入られるように、手を重ねようとして││ネプギアの手が、ネプ
テューヌに止められた。その魔性の魅惑に手を出したくなる気持ち
は分かる。だが今しがた味わったばかりだ。それが、どれだけ危険な
力であるのか。
﹁ネプギア、駄目だよ。これはエヌラスに、ちゃんと返してあげない
と﹂
れた。
﹁な、なんだ
くそ、何をする
﹂
だが、まだだ⋮⋮まだ私は⋮⋮
﹂
たりとも、時間がありません。急いでください︾
﹁は、はい
﹁ありがと、バルド・ギア。でも、どうして助けてくれたの
﹂
!
﹂
粒子の中に消えた二人を見送ってからバルド・ギアは網の掛けられ
︽ねっぷねぷってなんですか││って、行っちゃいましたか⋮⋮︾
﹁悪さしたらみんなでねっぷねぷにしてやるんだからね
﹁それでは、ソラさん。私達が居ない間、よろしくお願いします﹂
Nギアの着信に、ネプギアは宝玉を手にして頷く。
えるだけです︾
︽私を信じる、と言ったのは貴方達でしょう。なら、私はその信頼に応
?
!
264
﹁⋮⋮うん、そうだよね。マジェコンヌと一緒になっちゃうもんね﹂
﹁ぐっ⋮⋮くそ、またしても⋮⋮
﹂
!
!
︽そこまでです。これ以上の戦闘は望めないでしょう、貴方も。おふ
!?
立ち上がろうとするマジェコンヌに暴徒鎮圧用のネットが被せら
!
﹂
たマジェコンヌを見下ろす。咄嗟に捕まえたはいいものの、さてどう
するか⋮⋮。思案にふける。
﹁私をどうするつもりだ﹂
︽⋮⋮考えてませんでした︾
﹁おい、貴様ふざけているのか
︽いえ、真面目なつもりなんですが⋮⋮生憎と殺生は好まないもので
して︾
動きを絡めとっていたネットが消え去り、再び自由を得たマジェコ
ンヌが立ち上がった。まだ戦闘を続ける意思があるのか、その手には
杖が握られている。
﹁甘い奴め⋮⋮﹂
︽よく言われます。彼女達が不在の間は、できるだけ大人しく療養に
努めてください。えーと⋮⋮マジェ⋮⋮︾
﹁マジェコンヌだ﹂
︽大変失礼を。マジェコンヌさん︾
軽い会釈でバルド・ギアが謝罪すると意外そうな顔をしていた。
﹁お前は良い奴だな。あの小娘は私の名前を訂正する気などさらさら
ないが﹂
︽そりゃ、名前間違えたら謝りますよ⋮⋮︾
﹂
﹁だが、私は諦めんぞ。今日私を見逃したこと、いつか後悔させてやる
からな。覚えていろ
見上げる。
いつか││そのいつかが自分に訪れるだろうか
次という日は
故って病院に搬送されたところだ。時間を見ると、そろそろ予定して
いる。今しがたハンティングホラーで追い回していた軽犯罪者が事
いたエヌラスが眠気で半分やけくそになりながら仕事に精を出して
ユノスダスでは白昼から犯罪取り締まり及び捜査に駆り出されて
心奪われていた。
来ないだろうな、そんなことを思いながらバルド・ギアは空の青さに
?
265
!?
マジェコンヌが去っていき、焼け野原に立つバルド・ギアが青空を
!
﹂
﹂
いたミーティングが近づいている。大あくびをもらし、エヌラスは一
度宿へ戻った。
﹁あ、おかえり。エヌラス。もうそんな時間
﹁ああ。ユノスダスの教会に行くぞ。プルルートは
﹁⋮⋮お昼寝中よ﹂
寝ているプルルートを起こして、三人はユノスダスの中央市場を抜
けて教会へ足を運ぶ。その途中で財布をスリしようとした盗人が半
殺しにされたが、概ね問題はなかった。
教会前ではドラグレイスが城壁に寄り掛かって待機している。そ
して、アルシュベイトもちょうど来たところなのか、上空からブース
ターを吹かして着地した。
﹁よぉ、ドラグレイス。アルシュベイト﹂
︽エヌラスも来たところか︾
﹁来るのが遅い﹂
︾
﹁うっせぇ。こっちは返済で忙しいんだよ、テメェと一緒にすんな﹂
﹁自業自得だ、犯罪王﹂
﹁知ってら﹂
︽⋮⋮その少女たちも連れてきたのには理由があるのか
﹁仲間はずれはかわいそうだろ。そんだけだ﹂
ろう、エヌラス﹂
﹁なぜそこで俺に責任が問われる。元はと言えば貴様が始めたことだ
レイスも同罪だ︾
ならん。補給を断たれて困るのは同じだろう。それを言えばドラグ
︽そう言うな。フォートクラブが群生していては他国への出荷もまま
片付けとけっつうの﹂
﹁つうかテメェの生産工場だろうが、アルシュベイト。俺が来る前に
はいえ規模は段違いだが。
壁に囲まれており、その内部には学園のような敷地となっている。と
三人の後にノワールとプルルートが続く。ユノスダスの教会は城
?
﹁元々ガードロボの強化プランだったんだよ。そいつが何を間違えた
かああなっちまったんだから仕方ないだろ﹂
266
?
?
︽うむ。アゴウでは今も現役で稼働中だ。感謝しているぞ︾
﹁ユノスダスでは良い迷惑だがな﹂
和気藹々と、まるで戦争中であることを感じさせない朗らかな会
話、内容はともかくとして。互いに敵である以前に、彼らは旧友であ
ることをノワール達は改めて思い知らされる。
﹁そもそも生産工場の位置は記憶していないのか、アルシュベイト。
何のための機械の身体だ﹂
﹂
︽記憶をログと呼ぶのなら、その消去が物忘れということになるな︾
﹁てんめ、さては生産工場の場所忘れてやがったな
︽はっはっは。スマン。俺とて多忙を極める身分だ、許せ︾
!?
まるで俺が暇人みてぇな言い方
﹁⋮⋮仕方なかろう、そこの犯罪王はともかくな﹂
﹁おーうテメェどういうこったぁ
﹂
?
女を口説くほど暇なのだろう﹂
は感心しねぇぞぉ
﹁違うのか
?
︾
︽お前ら、ユノスダスで戦闘行為は禁止されていることを忘れるなよ
?
﹂
﹁⋮⋮仲、良いのね﹂
﹁そうかなぁ∼
﹂
待ってたよ ささ、大したものは用意出来な
かったけれどご飯食べよ
!
!
俺はミーティングとしか聞いていないのだがな。ドラグレイスは
俺は食事の必要ないのだが。アルシュベイトは困惑した。
た。
ティーテーブル用意しやがる。エヌラスがげんなりと目頭を押さえ
ら っ し ゃ っ た。こ の 野 郎 は 人 の 気 も 知 ら ず よ く も ま ぁ こ ん な パ ー
そこには、豪勢な食事をテーブルに並べてふんぞり返る国王様がい
!
﹁いらっしゃーい
と、中から快活な返答が戻ってくる。
執務室の扉を叩こうとして││エヌラスに譲った。軽くノックする
途端に剣呑な二人の空気を鎮めて、アルシュベイトはユウコの待つ
?
267
﹂
﹁お〟
?
﹂
﹁あ〟
?
?
どうしたのエヌラス。全部食べてもいいんだよ う
腕を組んで嘆息する。
﹁⋮⋮あれ
ちで自慢のシェフ達が腕によりを掛けて作ったんだから﹂
﹂
﹁睡眠不足と過労が重なって食欲ねぇんだよ⋮⋮﹂
﹁勿体ないから食べてね
?
アルシュベイトが座ろうものなら椅子が壊れる。ドラグレイスに
ルルートはその反対側に陣取ることにした。
美味しそ∼。でもノワールちゃん、エヌラスの隣でズルいなぁ。プ
スの隣に座った。
そこは家庭的なのね、ノワールがそう思いながらさりげなくエヌラ
﹁あ、残したら持って帰ってもいいからね。タッパー用意するから﹂
﹁おー、やったろうじゃねぇかフードファイト。望むところだ﹂
張れ︾
︽俺は飯の食えるお前が羨ましいと思うがな、エヌラス。吐くほど頬
ベイト⋮⋮﹂
﹁今だけは飯の食えない身体が本気で羨ましいと思ったぜ、アルシュ
!
関しては壁に寄り掛かった。大剣を背負い、腰を落ち着けることはな
い。
268
?
e p i s o d e 4 3 ミ ー テ ィ ン グ と い う 名 目 の た
だのお昼ごはん
昼食会││もとい、ミーティングはテーブルを囲むエヌラス、プル
ルート、ノワール、ユウコを見守る形でアルシュベイト、ドラグレイ
スが壁際で待機するという奇妙な光景に落ち着いた。一口食べるだ
けでもその材料の質が明らかに違うことにエヌラスは驚きながらも、
悔しいので何も言わずひたすら手を動かして胃袋に料理を流し込む。
一口大に刻んだ肉に、野菜を煮込んだスープは香りだけでもないはず
の食欲をそそる。そんな自分を見て、手も動かさずニコニコ笑顔のユ
ウコに怪訝な表情をしながらもエヌラスはサラダを取り分ける。
﹁ンフフゥ⋮⋮﹂
﹂
﹁なんだよ、笑い出して⋮⋮﹂
﹁美味しい
﹂
﹁眠気と疲労がなけりゃ、泣くほど喜んで食ってた。味はともかくな﹂
﹁で、味はどうかな﹂
﹁まずい飯をかっこむ男に見えるか
︾
!!
なかったか
﹂
﹂
﹁飯食ってる最中にそれを言うんじゃねぇ
が
﹁食ったことは否定しないの
思い出しちまうだろう
︽エヌラス。お前確か、空腹のあまりネズミを丸焼きにして食ってい
?
られないのだ。明らかに引きつった顔でノワールがスプーンに乗せ
た肉を見ている。
﹁⋮⋮物凄く美味しいネズミとかじゃないわよね﹂
﹂
﹁だーいじょうぶだよ。ネズミの肉ぶっこむ料理なんてそこの馬鹿に
﹂
しか出さないから
﹁テメェ
!
︽うむ。仲睦まじき食事風景は我が腹を満たすに充分だ。なぁ、ドラ
!
269
?
?
残念ながら過去に前科有。人間、貧しくなると蓼食う虫も選んでい
!?
!
グレイス︾
﹁生憎と俺は貴様ほど呑気ではない﹂
︽相も変わらず剣呑な男よ。息抜きの一つ、休息一つ挟んでもバチは
当たるまい︾
﹁ほざけ、軍神。今こうしている間に貴様の国民がどれだけ血を流し
ていると思っている﹂
︽還らぬ命があることは百も承知。戦禍の只中にあっても〝ヒト〟を
忘れるべからず。貴様のようなケダモノと一緒にするな︾
﹁⋮⋮抜かしたな、アルシュベイト﹂
楽しそうだ
そこの二人は私達の愉しい楽しい
︽ほざいたのは貴様だ、ドラグレイス。決闘ならばいつなりとも受け
入れ││︾
バガァン││
﹁へーい、へーいへーいへーい
﹂
ランチタイムでなーにーをお話してくれるのかなー
ねぇ⋮⋮
︽⋮⋮⋮⋮︾
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
だが。
﹁た の し そ う だ ねぇ⋮⋮
︽⋮⋮すまなかった︾
﹁⋮⋮ちっ﹂
﹂
すればいつもと変わらない。⋮⋮こめかみの青筋さえなければの話
入れず、綺麗に埋まっている。笑顔で頬杖を着いているユウコは一見
調理器具の一つだが││フライパンが、壁に刺さっていた。ヒビ一つ
二人の顔の間に、壁に〝突き刺さっている〟のは鈍器だ。正確には
?
?
!
︽了解した︾
人。返事は
﹂
﹁はい、よし。じゃあご飯終わるまで大人しく待っててねーそこの二
?
﹁ほほへおへにふふんはふぇぇ﹂
﹁〝 そ こ で 俺 に 振 る ん じ ゃ ね ぇ 〟 と 言 い た い の は 分 か る が、食 い 終
270
!
﹁さっさと済ませろ、エヌラス﹂
?
わってから話せ﹂
〝今の分かるんだ
﹂
とだ。
〟
エヌラスの側にあるはずのものがない。つまりは、間接キスというこ
自分の手元にあったコップが空で、今手にしているコップも空で、
そこでノワールが気づく。
﹁⋮⋮え、あれ。エヌラス⋮⋮アナタ、いつ水飲ん││﹂
﹁怒ってないもん﹂
﹁⋮⋮なんで怒ってんだ﹂
﹁自分で取れば﹂
﹁お、おう。落ち着いて食えっての⋮⋮悪い、ユウコ。水取ってくれ﹂
わ⋮⋮﹂
﹁││ん、ハァ。危なかった⋮⋮つまらないことで死ぬところだった
なく飲み干した。
とに気づいて、エヌラスがそれとなく自分のコップを渡すと一も二も
ている。咄嗟に手を伸ばした水の入ったコップが空になっているこ
ノワールは腹立たしそうに食事に手を付けていたが、勢い余ってむせ
一 部 始 終 を 見 て い た ユ ウ コ が 頬 を 赤 ら め て 視 線 を 逸 ら し て い た。
﹁やぁだ∼﹂
﹁⋮⋮いや、普通に取れよ﹂
﹁えへぇ∼﹂
が舌の上に乗せられていた。咀嚼して飲み込む。
ると、徐々に顔を近づけて││ちゅ││口の端に付いていた食べカス
プルルートに言われて、エヌラスがスプーンをくわえて固まる。す
﹁ん
﹁エヌラス、ちょっとジッとしてて∼﹂
﹁どした、プルルート﹂
﹁あ∼﹂
き合いが長いようだ。
ノワールが驚いていたが、ユウコの反応から察するにこの三人は付
!?
﹁あ⋮⋮ぁ⋮⋮ァ││││﹂
271
?
﹂
﹁いいからはよコップ返せや、水飲まないと喉通らねえ量なんだか│
│﹂
﹂
﹁か、返すわよっ
﹁べぼぁ
!
﹂
?
た相手にねだっても仕方がない。
あたしのあげるよ∼
﹁プルルート、悪い。取ってくれるか
﹁え∼
﹂
意地でも手元に寄せた水は渡さないつもりのようだ。機嫌を損ね
﹁当店ではセルフサービスとなっておりまーす﹂
﹁水、取ってください⋮⋮﹂
﹁なにー﹂
﹁⋮⋮おい、ユウコ﹂
い。
殴打する。それを受け取り、水瓶に手を伸ばそうとしたが、やけに遠
耳まで真っ赤になりながら突き出したコップがエヌラスの顔面を
!?
のだと改めて思い知らされた。
﹂
?
︾
﹁⋮⋮何故アイツはああも女に頭が上がらないのだ
︽ふむ。察するに、性根がヒモだからではないか
﹁ヒモの神様か﹂
︽うむ。ヒモ神様だな︾
?
お 前 ら 赦 さ ね ぇ か ら な ッ
!!
﹃ハッハッハ﹄
﹁今 の 一 言 は ゼ ッ テ ェ 許 さ ね ぇ か ら な
﹂
してる。││エヌラスは自分がプルルートの良い玩具にされている
注いだお水なんです。ああほらノワールとユウコがスッゲェ怖い顔
うじゃないんです。俺が欲しいのは貴方の水ではなく私のコップに
敢えなく玉砕。エヌラスはテーブルに突っ伏した。違うんです、そ
﹁ありがとうございます⋮⋮﹂
﹁じゃあ、いいよねぇ∼。はい﹂
﹁いやじゃないです⋮⋮﹂
﹁む∼⋮⋮あたしのは嫌なのぉ
﹁いえ結構です。新しい水をください﹂
?
?
272
?
﹂
手持ち無沙汰なアルシュベイトもドラグレイスも見ているのに飽
きたのか口を挟む。
﹁甲斐性なしめが何か言っているぞ、アルシュベイト⋮⋮﹂
!?
無理無茶無謀の三段論法だ
﹂
俺の国で真っ
︽エヌラス、お前は真っ当に稼ぐということを知らんのか⋮⋮︾
﹂
!
﹁犯罪王に向かって何言ってやがんだこの鋼の軍神
当に生きろとか稼げとか無理だぞ
完・全・敗・北││
﹁ぐぅの音も出ねぇ⋮⋮
︽なら出稼ぎすればいいだろう。論破︾
!
大丈夫なのその番組
︽前回はスタジオ爆破で終わったな︾
﹁爆発オチとか最低ね
﹂
﹂
!?
﹃はーいどうも
﹄と書かれている。
!
﹄は
それでは今回のゲストをお呼びしましょう 毎
で刺激的にお送りします
聞欄には番組タイトルがあるものの、その説明には﹃いつもの生中継
のメンバーが観客席からの拍手に迎えられてお辞儀をしていた。新
ちょうどコマーシャル明けだったのか、馴染みある司会者といつも
﹁たくましい放送局ね⋮⋮﹂
﹁放送事故とか毎度だぞ
﹁何が起きても生中継がモットーだもんね﹂
!?
!
さーて今日の放送どんなハプニング起
!
﹁まともに放送終了したの見たことねぇぞ俺⋮⋮﹂
きるかなー﹂
国民的バラエティなのだ
﹁ふふん、ユノスダスではメジャーな長寿番組﹃笑えばいいとも
﹁これではただの昼飯だろう⋮⋮まぁいい、分かっていたことだ﹂
﹁いいじゃん後でも﹂
﹁⋮⋮おい、ミーティングはどうした﹂
﹁あ、そうだ。お昼のバラエティ見なきゃ、テレビの電源ポチッとね﹂
! !!
?
!
てくれました
番組スタッフ、ナイスです
﹄
ことに定評のある当番組ですが、今回は一際どえらいことをしでかし
度ながらトンデモないゲストを呼んでは番組に収拾がつかなくなる
!
!
!
273
!
いつもの司会者はマイクを手にしてハキハキと進行するが、毎度な
がらテメェはどうやって生き残ってんだと首を傾げていた。なお、前
﹂と言いながら満面の笑みで閃光の中に消
回放送終了直前では爆心地でマイク片手に﹁それではみなさんまた来
週お会いしましょう││
えている。
﹁お前の国だよな
国営放送だよなコレ
﹂
初期から毎週欠かさず出てくるし、別にいいかなって﹂
﹁実は私もあの司会者が何者の誰なのか知らないんだよね。でも放送
﹁相ッ変わらずこの司会者すげぇよな⋮⋮﹂
!
﹄
んです
ではどうぞー
﹄
﹃もー、だから私は本当に女神なんだってばー
﹄
﹄
あ、本人は
プラネテューヌの女神、ネプテューヌだよー
不束者ですがよろしくお願いします
許可取ってまーす﹄
﹃は、はひ
何やってんだあの女神は、と。
!
!
!
﹃さらにさらに、なんと妹のネプギアちゃんも特別出演
イエーイ
みんなー、見てるー
﹃なんと、別次元からやってきたという自称女神様、ネプテューヌちゃ
﹁今犠牲者って言いそうになってなかった
﹂
﹃さぁそれではご紹介しましょう。本日の犠牲││もとい特別ゲスト
!?
その場にいた全員が吹き出した。
﹄
!?!?!?
!
!
!
!
﹃ぶぅーーーーーー
!
274
!?
!?
!
!?
e p i s o d e 4 4 何 色 で あ っ て も キ モ い の は キ
モい
﹂とか聞こ
スタジオの熱気と拍手に迎え入れられて、ネプギアは戸惑いながら
も手を振る。黄色い歓声の中に﹁かわいい﹂や﹁超好み
由もない。
ま ぁ い い 千 載 一 遇 の
へい、そこな少女達よテレビに出てみ
少 女、美 少 女 ナ ン デ
﹁あぁぁぁぁダメだぁぁぁぁ
あいええええええ
﹂
チャンスはゲットバッカー
ないかい
私の番組でゲストがいないとかマジ
て出演不可能になったらしい││まぁエヌラスのせいなのだが、知る
てきた内容から察するに、本来出演予定のゲストが事故に巻き込まれ
裏。そこでは何やらスタッフが慌ただしく口論をしていた。聞こえ
ユノスダスに転送された二人が見たのは、言うならテレビの舞台
えて更に顔を赤くした。││事の顛末は十数分前に遡る。
!
ネプギアだったが、期待よりも不安が勝る。その二人の顔を見て、ス
タッフもとい番組責任者兼司会者はサングラスの奥にある瞳を光ら
せた。
お昼のバラエティ番組なんだ
カメラと観客の前で質疑応
﹁あぁスマナイ、何の説明もなく出演してくれと言っても怪しいだろ
う
!
お
頼 む よ ぉ ぉ ぉ ぉ 今 日 の ゲ ス ト が 出 演 で き な く な っ た ん だ
﹂
そこを何とかぁぁぁぁお代官さまぁぁぁ
三十
よぉぉぉ靴でもケツでも舐めるからぁぁぁぁぁお願いします
願いしますっ
分とまではいかずとも十分だけでもいいからぁぁぁ
!!!
﹂
より二人はゲスト出演を承諾したのだが思いの外、これがノリノリで
ある。
﹁イエイエーイ、みんなーありがとー
!
275
!?!?
!!
!
!?
ハイテンションに気圧されながら顔を見合わせたネプテューヌと
!!
答、ちょっとしたパーティーゲームに参加してくれるだけでいいんだ
!
結局、その熱意と謝罪と﹁楽しそう﹂というネプテューヌの理由に
!!!
!!
!
!
ネプテューヌが笑顔で手を振る度に観客からは黄色い悲鳴。掴み
は上々だ。
﹁はい、というわけで今回が初出演ということですが、よかったら今後
﹂
さぁそれでは早速お昼の一番ゲー
まずは、こちら。スタァァァァッフ
ともヨロシクお願いしまっす
ムいってみよー
ゲームのセットだった。
﹁﹃狙い撃つぜ、ロック・オン・ハート
﹂
!
︶という脅威のテクノ
!?
サミを振り上げていた。
﹁か、かわいい⋮⋮欲しい⋮⋮
﹂
﹂
﹁おっとネプギアちゃんの目が輝いてるぅー
品獲得も夢じゃない
よーし⋮⋮﹂
最高得点出したら景
!
ロジー。挨拶代わりに手のひらサイズのフォートクラブは両腕のハ
とに自立する上に電源ボタンひとつで動く︵
れている確かな質感、そして完全再現されたフォルム。しかも驚くこ
布を被せられていた景品の下からは精巧な技術によって仕上げら
クラブ︵親衛隊仕様︶﹄をプレゼント
事国家アゴウより発売されているミニチュアモデル﹃HW型フォート
!
!
回はいつもより豪華景品を視聴者プレゼント
なんとこちら。軍
﹄馴染みあるゲームですが今
華 麗 な 指 パ ッ チ ン か ら 番 組 ス タ ッ フ が 用 意 す る の は 巨 大 な 射 的
!
!
!
顔で定評のあるモンスターこと﹂
﹁あ、やな予感⋮⋮﹂
﹂
﹁べまモンのぬいぐるみだー、ブチ殺せーー
﹁ひぃぃやぁぁぁぁぁ
撃ちまくれーー
﹂
!
モ
す
ぎ
る
﹂
﹁キモいぃぃぃ
いあ
﹂
﹁おろろ
!
﹂
﹁番組スタッフふざけ
﹂
﹁いあ
この上なくキモい
!
れてもキモさに磨きがかかっている。
﹂
﹁キモい
!!
!!
﹃この世全ての醜さ﹄を詰め込んだ醜悪なぬいぐるみはデフォルメさ
キ
ネ プ ギ ア と 観 客 席 か ら 悲 鳴 が あ が っ て い た。大 量 に 現 れ る
!?!?
!
と思ったけどそんなことは記憶にございません、クソみたいにキモい
﹁はい今回の的はこちら、テメェの顔も見たくねぇことで愛嬌あるか
﹁ホントですか
!
!!
!
276
!
!
﹁ぎゃぁぁぁぁーー
ろろ⋮⋮
!
んなー
﹂﹁ふたぐん
!!
ふたぐん
!
トーにしております
﹂
﹂
オラオラァ、観客どもー
かったら静かにしやがれー
顔映されたくな
!
俺色に染まれターゲット
の詰まった水鉄砲のライフルモデル。
﹁ルールは説明不要
ぜひお子様
市販でお求めいただく際はユノス
!
詰替え用はリッターニーキュッパ
安心してお使いいただけます
﹂
ダス商店街で
にも
!
!
!
計致します﹂
﹁あ、ホントですか。ありがとうございます﹂
﹁よーし、ねっぷねっぷに染め上げてやんよー
﹂
覚悟です、べまモン
!
!
﹁それではぁぁぁ、ゲームスタート
﹁うぅ、キモいなぁ⋮⋮でも私の景品のため
﹂
﹂
﹁今回のゲストはお二人、それも姉妹ということで二人分を一つに集
会者。セットの最上部には制限時間が表示された。
いい笑顔でサムズアップしながらカメラの前でポーズを決める司
!
水性塗料だから
そして出演者に渡されるのはそれぞれカラーリングが違うインク
!
!
﹁罵 声 も 怒 声 も 聞 く 耳 持 た ず に 当 番 組 は 放 送 事 故 で も 生 中 継 を モ ッ
!
!
﹂
ていたネプテューヌとネプギアだったが、インクの残量を見てふと疑
問に感じることがある。
﹁あれ、もしこれインク使いきっちゃったらどうなるの
いんですね﹂
﹁むむ、奥が深いですね。それにこれ、相手が染めた上からでも別にい
補充に向かえばそのぶんロスにもなるからな﹂
﹁このゲームのポイントは、如何にインクの使用を控えて染めるかだ。
にも時間は減っていく。
セットの外側にそれぞれの予備タンクが用意されているが、その間
ほらあそこに補給所がある﹂
﹁ふふん、教えてやろうお嬢さん。使いきった場合は補充に戻るんだ、
?
277
!
ゲームスタートから序盤こそターゲットに向けてインクを発射し
!
﹂
﹁最終集計ポイントは塗った数だ。ならば過程や、方法など、どうでも
﹂
私達の染めたべまモンが
いいのだァーッ
﹁あぁ
例え初心者でも手加減はしないぞ
﹂
でも、そっちの方が私のやる気はうなぎ登り
よかろうなのだァー
﹂
!
う。
﹁おーっと、さすが姉妹
﹂
びせられた。
﹁ひゃぷ
﹁あ、ごめん﹂
﹁いえ、大丈夫です
﹂
これならあと三年は戦えるよー
お姉ちゃん、インク持ってきたよ
﹁おー、ありがとうネプギア
!
﹂
そ
さーん、にーい、いー
﹁さぁー、ゲームも制限時間が残り少なくなってまいりました
れではみなさん、カウントダウンご一緒にー
﹂
!
だった。
﹁お前らなんでテレビ出てんの
!?
﹂
もー、折角ゲーム楽しんでたんだから邪魔しないで
!
っていうかなんでいるのさ
!
﹁あ、エヌラス
よ
﹂
観客席の前に現れたのは││ここまでかっ飛ばしてきたエヌラス
のエンジン音と土煙が立ち込めて咳き込む司会者と出演者、ざわつく
カウントがゼロになった瞬間、スタジオの天井が崩壊する。バイク
ち
!
!
!
!
補充のタンクを二つ持ってセットに戻ったネプギアにインクが浴
カメラ目線でサムズアップも忘れない。
ンッン∼、美しきかな姉妹愛。大好物で
まさかのアイコンタクト
!
﹂
!
す
息のバッチリあったコンビネーションを
ヌに渡した。空になったタンクを受け取り、ネプギアは補給所へ向か
まだ消費の少ないネプギアが自分のタンクを取り外すとネプテュー
何名かがインクを使いきって外へ補充に走る。二人も残量を見て、
だよー
﹁なんて大人気ない
﹁インクを垂れ流すも良し、狙い撃つも良し。妨害するも良し、勝てば
!!
!
!
!
!?
278
!?
!
!
!
!
﹁俺のセリフだよなぁそれ
﹂
﹂
なんで戻ってきた挙句にテレビ出演し
てしっかり遊んでんだよバカか
﹁さぁーそれでは集計結果を見てみましょー
﹂
スタッフ根性をなめな
﹁おいぃぃハプニングだろうがカメラ止めろやぁぁぁ
﹂
﹁例え私が死んでもカメラだけは止めない
いでいただきたい
﹂
!
悪な顔、顔面テロリストがべまモンなのだ
される。
﹁ありがとうございます
﹂
﹂
﹂
﹂
テューヌ達に景品である﹃ミニチュアHW型フォートクラブ﹄が手渡
分からない。だがそこはそれ、初めてのゲスト出演ということでネプ
エヌラスの足元にあった消し炭がもはや何色であったのかまでは
﹁分かります﹂
﹁キモくて⋮⋮﹂
﹁貴方、番組の備品を⋮⋮
﹁ああ。あまりにキモくて今しがた俺が焼いた﹂
﹁あっるぇ、おかしいなぁ⋮⋮一匹足りない⋮⋮﹂
!
だ。この世の生命に対する挑戦状だ。自然から生まれてはならぬ邪
たソレはもはや一種の生物兵器と化していた。テロだ、バイオテロ
ごとに仕分けていく。しかし、悪辣な顔ぶりにめちゃくちゃに染まっ
それでもスタッフは手作業で瓦礫の下からべまモンを発掘しては色
ほどの衝撃で集計機械が故障したのか、画像がエラーを吐いていた。
エヌラスの妨害も空しく、集計結果がまとめられていく。だが、先
﹁いや、ていうか死ぬのかお前⋮⋮
!!
!
!
!?
!?
﹁いえ、こちらも良い物を拝ませていただいているので
﹁⋮⋮⋮⋮へ
!
!
を浴びせられてネプギアのワンピースがピッチリと肌に張り付いて
い る。そ こ か ら は 身 体 の ラ イ ン が ハ ッ キ リ と 浮 か び 上 が っ て い た。
それに今まで気づかずにゲームに没頭していたのだが、胸から腰、更
にはパンツまで透けて見えるようだ。
279
!?
!
ネプギアがふと、自分の服に視線を落とした。誤射とはいえインク
?
﹂
﹁釘付けだわ⋮⋮﹂
﹁あ、あわ││
﹁今日の番組は店じまいだオラァァァァァァ
﹂
﹂
﹁それではみなさんまた来週、よろしくお願いしまぁぁぁぁぁぁっす
!!!
!?
スタジオが消し飛んだが、その日の死傷者は奇跡的にゼロ人であっ
たという。
280
!!!
e p i s o d e 4 5 紆 余 曲 折 を 経 て 本 格 的 ミ ー
ティング
﹁⋮⋮⋮⋮えー、っと。それじゃ改めてミーティングを始めようと思
﹂
うんだけど││そ・の・前・に、エヌラス。キミはどうしてそう平和
的解決手段が暴力の一択しかないの
まったくもう、来週までスタ
﹁武力による鎮圧が一番手っ取り早い﹂
︽同意する︾
﹁そうだな﹂
﹁そこの軍神と傭兵は黙らっしゃい
﹂
ジオ復旧で大忙しだよ。それに、キミも。なんでわざわざハンティン
グホラー召喚してまで飛んでったの
﹁知り合いでもなけりゃああまでしてねぇよ﹂
﹁あ、知り合いなんだ⋮⋮﹂
元気にしてたー
﹂
あ
平和とは一体⋮⋮。お説教の後ろでネプテューヌがプルルートと
手を叩いていた。
﹁わぁ∼、ぷるるんだー
﹂
?
た。
う無抵抗の意思表示。もはや弁解の余地がないサンドバックと化し
床に横になっている。五体投地。煮るなり焼くなり好きにしろとい
口々にドン引きが拭えない雰囲気の三人からの言葉に、エヌラスは
してるな︾
︽なんだ、その⋮⋮お前の性的嗜好に口を挟む余地はないが⋮⋮苦労
﹁⋮⋮ぅわ⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮エヌラス、お前最低だな⋮⋮⋮⋮﹂
││││││││空気が、凍った。
﹁⋮⋮ちょ∼っと遅かったかなぁ∼﹂
れ結構ロリコンの気配あるから気をつけてね
変なことされてない
ねぷちゃんも元気そうでよかったよ∼﹂
!
﹁でもエヌラスと一緒で大丈夫だった
﹁うん∼
?
!
281
!
!
?
?
!
そんな半べそかくほどなんだ
﹂
お前がロリコ
﹂
しっかりしろ、今
早まるなエヌラス、大丈夫だ
﹁殺せ。俺を殺せドラグレイス⋮⋮今なら間に合う。頼む﹂
﹁なら一息に﹂
︽やめんかお前ら
︾
ンであろうと俺の友であることに変わりはない
﹁マジ泣き
﹁追撃したいのか慰めたいのかどっちかにしろアルシュベイト
更お前が何を恥じる必要がある犯罪王
!
るからぁ∼﹂
!
﹁ノワールちゃんもだよね∼﹂
﹁えっ、ちょ⋮⋮今言わないでよ
﹂
﹁じゃあ、ぷるるんはこっちの世界で変身できるんだ﹂
が折れるほどの勢いで殴りつけてやりたかった。
た。行き場のない憤りを込めた拳が震える。可能なら自分を首の骨
かくなる自分が憎い。男として生まれた悲しい性には逆らえなかっ
それでも頭を撫でられて悪い気はしないどころかちょっと胸が温
﹁ペット発言じゃねぇかふざけんな
﹂
﹁だいじょうぶだよ∼エヌラス。あたしがぁちゃんとお世話してあげ
かけた心の傷は深い。
てロリコンであるということを認めたわけではないが、それでも折れ
道発言に心を砕かれそうになりながらもエヌラスは復活する。決し
ナチュラルに人を死地に追いやるプルルートの天然ほんわかド外
!
!!!
!
!
!?
﹁へっ
﹂
係なんだね
﹂
﹁じゃあもう、ノワールはエヌラスとそれはもうくんずほぐれつな関
﹁ふーん﹂と呟いたネプテューヌは、笑いを堪えていた。
付 け ら れ る。謝 る べ き な の か、そ れ と も │ │ 声 を 掛 け よ う と し て
どこか悲しそうな顔のネプテューヌに、ノワールは途端に胸が締め
﹁ネプテューヌ⋮⋮﹂
﹁そっか、ノワールもなんだ⋮⋮﹂
!
﹁アナタに謝ろうとか思った私が馬鹿だったわ⋮⋮﹂
282
!?
!
﹁エロいなー、エロエロだなぁ。ノワールはエロの女神様だよー﹂
?
﹁なんで
﹂
﹁なんでって、それは⋮⋮その⋮⋮なんとなくよ﹂
プルルートを見て、ノワールを見て。アルシュベイトが納得したよ
うに頷く。
︽取っ替え引っ替えか︾
﹁そのようだな﹂
︽生物として見る男としては本懐であろうが、人間としては度し難い
クズだな︾
﹁そうだな﹂
﹁もう殺せ。頼む殺せ。俺を殺せ今すぐ殺せ即死させろ、これ以上生
き恥晒させんじゃねぇ⋮⋮﹂
﹂
︽妄言を言うな、エヌラス。生きることを恥と言っては死者に申し訳
が立たん。生き抜くことが何よりの黙祷だ︾
﹁その名言のタイミングは今じゃねぇんだよなぁぁぁぁ││
﹁先を越されたって⋮⋮﹂
も先越されちゃったなー⋮⋮そこはちょっと悔しいかも﹂
ルが良いって思ったなら別に私は口を挟んだりしないってー
で
﹁別に謝らなくてもいいよ、ノワール。自分の身体なんだからノワー
!!
!
﹂
﹁だいじょうぶだよ∼、ねぷちゃん。エヌラスなら今夜も付き合って
くれるからぁ∼﹂
﹂
﹂
﹁じゃあ今晩予約しておくね
﹁お姉ちゃん
﹁ネプギアも一緒がいい
!
が進まないよ
これ以上口喧嘩してたら話
キミ達が集まるといっっっつもそうなんだから
!
はいそこ座る。そこは黙る。そこは並んで、説明するから終わるま
!
﹁はいはいはいはい、ハーイそこまで
もこの三人が何かと突っかかるのをユウコがセーブしている。
も退かずに突っかかる様は怖いもの知らずもいいとこだ。というの
るエヌラスを盗み見る。アルシュベイトとドラグレイス相手に一歩
ぴっちり張り付いた服を見て、ネプギアが今は口論を繰り広げてい
﹁えっ、えっと⋮⋮その前に着替えたいかな⋮⋮﹂
?
!?
!
283
?
でジッとしてなさい
﹂
﹁お母さんかテメェは﹂
︽いや、委員長ポジションだな︾
﹂
﹂
﹁口やかましい幼馴染の方が良くないか
﹁キ・ミ・た・ち、ホントマジ黙れよ
ゴンッガンッベキッドゴォン││
マジ
三人はフライパンで殴られ
﹁さっきっからどんだけこの話で引っ張ってると思ってんの
なくて、単に頼りになる三人に声を掛けたらなんだよこのザマ
こ
お願いだから喧嘩しないで普通に話させてよ
い加減だよ
で被害が及んでるってわけ。アルシュベイト﹂
︽うむ︾
︽本来であれば街道、つまり人通りの多いメインルートの警戒は含ま
﹁フォートクラブの警備プログラムってどうなってるの
﹂
﹁見ての通り、うちの商業ルート。そしてキミ達の国まで続く街道ま
ている。
た。線引すると、それぞれの国の補給ルートを阻む形での事件が起き
ウ方面、そして九龍アマルガム方面とを繋ぐ三箇所に設置されてい
生産工場は全部で三つ。それらはすべてインタースカイ方面、アゴ
これをラインで結ぶと⋮⋮﹂
被 害 者 が 多 か っ た 現 場 が こ の 周 辺。そ し て こ こ か ら │ │ こ こ ま で。
﹁ユノスダス付近のフォートクラブ生産工場は、このポイント。うち、
図に注目した。
しく黙る。ネプテューヌ達もまた椅子に座って赤丸を付けられた地
フライパンで肩を叩いているユウコを前に、三人は正座しておとな
﹁女はそんなもんだ。黙ってろドラグレイス﹂
﹁なぁエヌラス。俺は今ものすごい理不尽を言われている気がする﹂
れだから男ってのは⋮⋮﹂
い
そうじゃ
別に、一緒にご飯食べて昔みたいに仲良
私はフォートクラブの生産工場その他の話が
したくて呼んだんだって
いい加減にしてよ
!?
て物理的に黙らされた。
! !?
くできたらなー、とかなんてそういうんじゃないからね
!
!
!
?
284
?
!
!?
!
!
﹂
れていない。あれはユノスダス近辺に出没するモンスター駆除の為
にしかプログラミングされていないはずだ︾
﹁街道に出没するってだけで異常事態ってこと
︽バルド・ギアの用意したプログラムのバックアップはこちらでも確
認した。その巡回ルートに街道及び補給ルートの警戒は含まれてい
ない。そうなれば、第三者が手を加えたとしか考えられん︾
︾
﹁ふん、どうだかな。あの小僧のことだ、何か裏で工作したのかもしれ
んだろう﹂
︽疑うのか、ドラグレイス。だから貴様はインタースカイの襲撃を
読みが外れた。可能ならばそのまま再びインタースカイへ進行して
ベイトもエヌラスもそちらへけしかけるだろうと高を括っていたが
らしそうになったが、堪えた。自国を守るという名目ならばアルシュ
││変なところで勘がいいガキだな。ドラグレイスは舌打ちをも
﹁だって、こうでもしないとキミ達そのまま帰りそうだもん﹂
﹁何故その配置にした、ユウコ﹂
︽妥当だな︾
ガム方面Βにはアルシュベイト。アゴウ方面Cにはドラグレイス﹂
らね。まず、インタースカイ方面Αにはエヌラス達。次に九龍アマル
もらうよ。ポイントをアルファ、ブラボー、チャーリーと呼称するか
﹁バルド・ギアは後回し。今はとにかく目の前の問題に取り掛かって
譲るほど二人は軽い男ではないからだ。
しかし、二人に謝罪の懸念はない。〝こう〟だと信じた道を簡単に
だが貴様に邪魔されたのだ﹂
﹁本人に直接問いただそうと思ったついでに、討とうと企んでいたの
?
うちで万が一に備える それとも誰
﹁待ってても退屈そうだし、私もそうするよ﹂
﹁私もです﹂
プルルート、ネプテューヌ、ネプギアの三人はすぐさまエヌラスと
?
285
?
攻め落とそうとしていただけにドラグレイスは落胆する。
﹂
﹁ぷるちゃん達はどうする
かについてく
?
﹁あたしはエヌラスに付いてくよぉ∼﹂
?
行動することを決めたが、ノワールは何か考えていた。
︾
﹁なら、私はアルシュベイトに同行するわ﹂
︽ふむ⋮⋮それはなぜだ
﹂
﹁他に何かあるかな
﹂
﹁ちゃっかりアピールしてんじゃねぇよこの守銭奴﹂
商店街で揃えてくといいよ﹂
注意するように。回復アイテムや準備は怠らないようにね、雑貨なら
その犯人がまだ生産工場に居座っている可能性は高いから十二分に
﹁よし、話はまとまったかな。第三者が手を加えた可能性を考慮して、
する旨を伝える。
状として、宣戦布告として受け取り、ノワールの身の安全を絶対保証
誇大妄想と受け取り、笑わなかった。アルシュベイトはそれを挑戦
︽その言葉、肝に銘じておこう︾
テメェを国ごと落とすからな﹂
別にいいぜ。アルシュベイト、万一にでもノワールに何かあったら、
﹁そこで俺に聞く理由がいまいちわからんが、お前がそうしたいなら
いいでしょ
﹁私個人が気になってることだから、それでいいのよ。エヌラス、別に
︽それならば、今でなくともよかろう。何も二人きりにならずとも︾
ることもないだろうからこの機会に聞きたいこともあるし﹂
﹁ちょっと気になることもあるからね。今は敵同士だけど、刃を向け
?
タを収集する為だ︾
?
善処する﹂
﹁お前に頭下げられたら断れるわけねぇだろうが、アルシュベイト。
手ではあるが、頼まれてくれるか︾
もある。その生産効率は多大な被害を被る旨、承知してくれ。自分勝
︽極論ではそういうことだ。フォートクラブは我がアゴウの生命線で
﹁極端な話、それさえ無事ならば施設は落としてもいいのだろう
﹂
傷を抑えてほしい。無論、生産プログラム及び警戒プログラムのデー
れている。その原因解明の為に可能ならば施設そのものには極力損
︽ならば、俺から一ついいだろうか。今回の事態には俺の責任も含ま
?
286
?
せ ん ゆ う
︽お前の厚意に感謝する、エヌラス。我が好敵手よ︾
まだ決着は着いていない。それを終えるまで身勝手な死は許され
作戦終了時刻は制圧終了まで
ない。ドラグレイスもそんなつまらない方法でアゴウを落とすつも
りはないようだ。
﹁以上、ミーティング本格的に終了
!
頑張って
私は国内の統治で忙しいから﹂
途 中 帰 還 は い つ で も 許 可 す る よ。で も サ ボ ら な い よ う に。じ ゃ
あ、解散
!
フォートクラブ生産工場制圧作戦が開始される。
287
!
!
episode46 ツンデレとツンデレ
││エヌラス達はまず、商店街で装備を整えてから向かうことにし
た。ただでさえ寝不足&過労&精神的疲労&気苦労&社会的地位の
失墜でフルコンボッコでドン底テンションな男が目覚ましい活躍な
ど出来るはずもなく、その前準備をするためだ。どうせなら一回や二
回くらい力尽きて眠ってしまおうかと思っていた。だが、それを許さ
ないほど元気なのが三名ほど。
胸に抱えたミニチュアHW型フォートクラブ︵親衛隊仕様︶がよほ
どお気に入りなのか、ネプギアは電源ボタンを入れて手足をバタつか
せる一挙一動に心奪われていた。
﹁ハァ∼⋮⋮かわいいなぁ。プラネテューヌでいっぱい作りたいなぁ
こういうの⋮⋮﹂
﹂
﹁なんか車とかに轢かれて問題になりそうだから量産体制は整えない
﹂
ヌラスはクレープを三人分購入した。
﹂
別にデートとか、そういうんじゃなくて本当に戦いに行くんだよ
あれ、俺達これからフォートクラブ生産工場の制圧に行くんだよな
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
!
これなら何個でもいけちゃいそうです
﹁ストロベリーの酸味が生クリームと合わさって、うンまぁ∼い
プリンとかないかな
﹁はむはむ⋮⋮美味しいっ
﹂
!
!
なこれから。俺は何も間違ってないよなユウコ。
エヌラスは目の前の現実に打ちのめされそうになりながら目頭を
押さえた。心なしか熱いものがこみ上げてくる。人は時に、現実と理
288
からね
戦いの前に腹ごしらえだよーエヌラス
﹁あ∼、美味しそうなクレープ屋さんだぁ∼﹂
﹁いいねー、甘いもの
﹁⋮⋮俺、もう昼飯これでもかってほど食っちまったよ⋮⋮﹂
!
今は食べ物など見たくないくらいに。だが、ねだる三人に負けてエ
!
?
﹁美味しいなぁ∼、甘いモノはやっぱり別腹だよぉ∼﹂
!
?
想の摩擦に心が悲鳴をあげるものだ。
﹁あの、エヌラスさん﹂
﹁なんだ⋮⋮﹂
﹂
﹁このフォートクラブですけれど、これの生産工場ってそんなに危な
いんですか
﹁それミニチュアだからな﹂
﹁でも、そんなに大きくないと思うんですけれど﹂
﹁全長六メートルだぞ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
戦車が生物的挙動をしながら大挙して押し寄せてくる光景││歩
兵でなくとも地上で生きる者にとってはそんなものは地獄絵図以外
のなんでもない。地獄だ。地獄と呼ぶ暇さえあるかどうか、阿鼻叫喚
の悲鳴すら掻き消す轟砲と銃火器による制圧、否、蹂躙は跡形も残ら
ない。ネプテューヌとネプギアが固まった。
﹂
﹁生涯最後のデザートにならないといいな⋮⋮﹂
﹁え、縁起でもないこと言わないでよエヌラス
何よりも怖いのは、今の自分が制御し切れていないことだ。自分で
がいい。
いのだ。それならばいっそ自分一人が乗り込んで片付けてしまう方
ちぶれていない。プルルートはともかくとして、守りきれる自信がな
して先行した。どちらにしろ、変身できない二人の手を借りるほど落
ハンティングホラーを召喚してエヌラスは跨がり、エンジン音を残
る、のんびり食ってろ﹂
﹁遊びに来たなら、頼むからここで大人しくしててくれ。先に行って
が望ましい。
的だ。そうなれば自然と消費も増える。そうすると短時間での制圧
もう子供の落書きのようにずさんな制御で魔力を垂れ流す方が効率
と倦怠感に、眠気。術式の詳細な制御も出来るかどうか。こうなると
今日のコンディションは、最悪だ。劣悪を極めている。頭痛と目眩
﹁うるせぇ。前みたいに守ってやれるかどうか分かんねぇんだよ﹂
!?
289
?
巻き込んでしまうよりは置いていった方がよっぽどいい。
〝ああ、チクショウが⋮⋮最悪の一日だ〟
コンディションもテンションも機嫌も運勢もイベントも何もかも、
最悪にして最低のどん底な一日はまだ半分終わったばかりだ。エヌ
ラスは城門を飛び越えて森林へと駆り出す。
一方で、アルシュベイトとノワールの二人は歩いていた。目的地ま
でのルートもマップも機人であるアルシュベイトの網膜ユニットに
ディスプレイされており、その道に疑いの余地はない。
﹁ねぇ、アルシュベイト﹂
︽どうした︾
腕を組みながら先行する大きな機械の背中を見て、ノワールがふと
﹂
疑 問 を 口 に す る。腰 部 ブ ー ス タ ー を 吹 か し て 跳 べ ば 文 字 通 り に ひ
とっ飛びのはずだ。
﹁どうして徒歩なの
︽不服か︾
︾
﹁そりゃそうよ。アナタのブースターは何のために付いてるのよ﹂
ジャンプ
︽跳躍するためだが
﹁じゃあ、背中に乗せてくれてもいいじゃない﹂
︽断る︾
即断だった。
︽確か、名前は⋮⋮︾
﹁ノワールよ﹂
︽記憶した。ノワール、俺のブースターは楽をするために使うべきも
﹂
のではない。生まれ持った二本の足があるだろう︾
﹁そうだけど⋮⋮効率が悪いと思わないの
ましいくらいよ﹂
﹁アナタって本当に、なんというか⋮⋮清々しいほど真っ直ぐね。羨
に良い︾
道すがらに鎮圧できる。見逃して無辜の民が犠牲になるよりは遥か
︽思わん。それに、こうして歩いていれば暴走するフォートクラブも
?
290
?
?
︽そうか
︾
﹂
言がね﹂
︽と、言うと
︾
﹁ええ、そうね。ずっと疑問だったのよ。トライデントから聞いた一
う。ならば用件は今のうちに済ませた方が良い︾
︽俺 に 尋 ね た い こ と が あ る か ら エ ヌ ラ ス か ら 離 れ て 同 行 し た の だ ろ
﹁えっ
︽それで︾
振る舞いが〝普通〟ということになる。
言われても疑問に首を傾げるほど、アルシュベイトにとってはその
?
ろう︾
それが〝普通〟なのだ、アルシュベイトにとって。軍事国家アゴウ
に身分の差などない︾
り〟だ。ならば、王にして民である。国に生かされている身だ、そこ
︽隠し事など、国への謀反だ。俺は国王であり、アゴウに生きる〝ひと
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
少なくとも、俺にとってはな︾
ものとして嘘偽りのない姿を晒し、民への信頼に応えるのが当然だ。
か詰まっておらん。隠し事などアゴウへの裏切りに等しい。王たる
︽それがどうした。このアルシュベイト、腹を裂いても機械の部品し
﹁い、いいの
だって、機密⋮⋮﹂
ど、今はお前の命を預かる身。全身全霊で守り通すだけだ。教えてや
︽し か し。興 味 を 持 た な け れ ば 心 は 動 か ん。死 に 至 る 好 奇 心 で あ れ
を中断しようとした││
それは、断っているということだろう。ノワールがソレ以上の言及
︽好奇心は猫を殺すという。だが俺とて、猫は愛でる性分でな︾
﹁黙秘するつもりなら別にいいわ。徒労に終わるというだけだもの﹂
︽⋮⋮⋮⋮︾
知しているわ﹂
械の身体を得たのか。それを知りたくてよ。機密事項であるのは承
﹁貴方達、機械人類。機人は、元は人間だったって。それがどうして機
?
?
291
?
国王にとって。アダルトゲイムギョウ界最強の称号を預かる軍神に
とって。││敵うはずがない。
︽我らが機人。元が人であった。俺とてその一人だ。バルド・ギアよ
﹂
り聞き及んでいるとは思うが、不慮の事故によって仮想現実に取り残
された者達がいる。それは知っているか︾
﹁ええ、聞いてるわ﹂
︽ならば説明は省く。俺もその被害者の一人だ︾
﹁それって、アナタもインタースカイの住人だったってこと
︽いいや。武装召喚アプリケーションは当時のアダルトゲイムギョウ
界には革新的でな。普及するのにそう時間は掛からなかった。その
恩恵に授かった者は国境を問わん。そして、俺やアゴウの者達は中で
もその使用頻度の高さから殆どが被害を受けた︾
今 で も ア ゴ ウ 国 民 は 当 時 の 七 割 ほ ど の 人 口 し か 残 さ れ て い な い。
残りの三割はまだ仮想現実に囚われたままだ。
︽バルド・ギアとエヌラスの二人が魔導的、技術的に救助へと乗り出し
た。ソコまでは良いな︾
﹁ええ⋮⋮﹂
エヌラスもその救助に一役買っていたというのは初耳だが、ノワー
ルは聞き流す。
︽仮想現実は、確かに魅力だ。年を取ることなく電子世界で無限に生
き続けることが出来る。しかしそれは肉体を失ったものに取っては
ただの〝偽り〟でしかないのだ。全てが電子的に取り決められた世
界に生きる。それを良しとするものもいれば、快く思わん者も居た︾
﹁それじゃあ、どうしたのよ﹂
︽││その前に、二匹だ︾
機械の駆動音。木々をなぎ倒す音にノワールが臨戦態勢を整える
までの間にアルシュベイトは既にブースターを吹かして、出会い頭の
フォートクラブを正面装甲から一刀の元に寸断した。二匹目を蹴り
飛ばし、鈍い金属音と共に後退る口に長刀を突き刺す。そのまま持ち
上げると地面に叩きつける。
流れるように二匹が沈黙すると、粒子の光となって分解して消え
292
?
た。
〟
何事もなかったようにアルシュベイトが長刀を右肩の背部ラック
に納刀する。
〝なによこれ、圧倒的じゃない⋮⋮
﹂
アナタも﹂
ただけなのだ。何一つ報われないと知っていながら、アレは俺たちを
れ、犯罪王と呼ばれるまでに悪事に手を染めた男は、ただ救いたかっ
道に走り、手段を選ばず、悪鬼と罵られ、悪魔と呼ばれ、魔王と蔑ま
だ。俺や、俺に連なる者達を救いたかったのだよ、あの愚か者は。非
︽それでもな、ノワール。あの男は、エヌラスは〝諦めなかった〟の
ルシュベイトは︽それでも︾と続ける。
けに、本人の口からそんな言葉が出てくるとは思いもしなかった。ア
が、最強の軍神がただの機械であるはずがないとばかり思っていただ
ただの機械││そう言われて、ノワールは驚く。アルシュベイト
立っているのか俺には想像もつかん︾
通り〝魂の息吹を吹き込む〟という作業が、どれほどの苦難で成り
も い た。獣 の よ う な 者 も い た。当 然 だ。こ の 〝 た だ の 機 械 〟 に 文 字
︽成功続きではなかったのだ。失敗もある。まともに言語を扱えぬ者
﹁でも、成功したんでしょ
い霊的物質である魂を転写するなど外法も外法、呪法の極み。
で済むはずがない。一度限りの大博打だ。わずか一グラムに満たな
無機物に人間の魂をインストールする。当然、する側の人間が無事
ムで流通した違法にして外法だ︾
に道理に背く技術だ。〝魂魄転写〟と言ってな、過去に九龍アマルガ
トールする。その中には非合法な部分も含まれ、呪術要素もあるため
︽インタースカイのサーバーから、機械の肉体へ意識データをインス
背中越しにアルシュベイトが頷くのが気配で分かった。
﹁⋮⋮それが、機械の身体
けられた。だが、エヌラスがその解決策を考えたのだ︾
︽話が逸れたな。そういった者達の不平不満は全てバルド・ギアに向
!
助けたかったのだ。電子世界の牢獄から︾
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
293
?
?
︽そして、俺の順番が来た。結果は失敗。俺は無意識のままに戦い続
けた。アゴウを守るためにな。プログラムされた機械のように、ただ
ひたすらに戦い続けた。アイツに、どうして〝それ〟が〝俺〟である
と分かったのかは知らんが、俺はエヌラスに敗北した。そして、意識
を取り戻した。アイツの行いの全てが報われずとも、俺は救われたの
だ。他でもないエヌラスの手によってな︾
あの男には感謝している、そう付け加える電子音声には確かな歓喜
の色が混じっていた。
︽しかし〝それ〟と〝これ〟では話が別でな。負けは負けだ、俺の敗
北 に 変 わ り は な い。命 の 恩 人 と 言 え ど 容 赦 は せ ん。加 減 も せ ん。決
着は然るべき場所、然るべき時に着ける。それまで死なれては困るの
︾
だ││ノワール、お前の聞きたい話は以上の通りだ。他に質問はある
か
﹁そこまで話してくれてありがとう、アルシュベイト。降参するわ、白
旗よ﹂
︽意味がわからぬ。勝負などしていないだろう︾
﹁ううん、そうじゃないの﹂
敵わない。これにはきっと、誰も敵わない。自分を偽り、虚勢で胸
を張って渡り合える相手ではない。
﹁アナタの心構えに感服したってことよ。私もね、ラステイションと
いう国を治める女神なの。よりよい国にしようと奮起してたけど│
│アナタの話を聞いていたら、とてもじゃないけど敵いそうにないも
の﹂
︽良い国か、そこは︾
﹁ええ、とっても﹂
︽ならば、覚えておけノワール。お前が国を愛し、誰かを愛し、お前が
お前自身を裏切らない限り、その愛はお前を裏切らない。俺はアゴウ
を愛している。アゴウに生きる民を愛している。今こうしている間
にも血は流れ、涙は流れ、声が枯れ果てるほど叫んでいる者達が戦っ
ている。だが俺は、愛しているのだ。それ故の〝最強〟だ。いずれお
前も辿り着く︾
294
?
﹁⋮⋮いつになるかしらね、そうなるのに﹂
︽誰かを愛することに罪などない。それが犯罪王と呼ばれるエヌラス
なんでエヌラスが出てくるのよ 関係
最初見た時より兄妹のように
!?
であってもな︾
﹁ば││バカじゃないの
﹂
!?
俺の見立てが間違ったか
ないじゃない
︽ふむ
!
とか、そんなこと﹂
わ、私がエヌラスのこと愛してる
アナタ本当は馬鹿でしょ、ええそうに
決まってるわ、馬鹿なんでしょ
!?
割り切れるものではない。
﹁は、早く行くわよアルシュベイト
!?
トはブースターを吹かした。
恥ずかしさを誤魔化すように走りだしたノワールに、アルシュベイ
は仕方あるまい︾
︽ハッハッハ。そのウブな反応もアイツは好みだろうな、急かされて
いよ、図体だけデカイわけじゃないでしょ
﹂
何してるのさっさと走りなさ
た。足手まといになりたくないという理由だったが、そう言われては
あった。それが、愛の裏付けだと言われて死ぬほど恥ずかしくなっ
越された二番目とはいえ、確かに今の自分は変身できるという確信が
ノワールは絶望的なまでに顔を紅くした。││プルルートに先を
でな︾
れば、アレはお前を愛している裏付けだ。アイツは口で言うのが下手
︽愛がなければ、身体を重ねることに意味は無い。変身できるのであ
!?
﹁ば、バババババ馬鹿でしょ
思えてならなくてな。俺としては我が身のように嬉しかったのだ︾
?
!
295
?
e p i s o d e 4 7 フ ォ ー ト ク ラ ブ 生 産 工 場 制 圧
作戦
││エヌラスは独り、フォートクラブ生産工場の前に止まる。倭刀
とレイジング・ブルマキシカスタムだけを準備して整息した。目蓋を
ふと閉じるだけで眠気に意識を持っていかれる。氣功││クンフー
の気を練り上げるのと魔力の制御を両方同時に行う、という離れ業は
確かにエヌラスの神経をすり減らした。その快復の為には食事と睡
眠が不可欠なのだが、今はその両方が不調である。頭を振って工場の
ドアの前に立つ。当然ながらカードキーなど持っているはずもなく、
鉄の扉を気迫一閃で切り開いた。
内部は人の手が入っていないのか、ひやりとした空気が流れてい
る。機械油と駆動音だけが規則的に聞こえてきた。生産ラインを覗
くと、外部装甲の取り付け作業を行われている作りかけのフォートク
ラブ達がズラリと並んでいる。全ての工程を終えたフォートクラブ
は然るべき場所へ稼動を始める、そのはずだ。
機能停止と同時に復旧プログラムが起動して、それによる再稼働が
見込めない場合は即座にセットされている自動転送アプリケーショ
ンによって生産工場に戻される。そうなれば後は解体作業から始ま
り、他の機体の部品として組み込まれる││可能な限り資源の消費を
抑えた生産性に配慮したこのプログラムは全てインタースカイ側の
手によって作り上げられていた。
〝⋮⋮異常生産、というわけでもなさそうだな〟
エヌラスの見立てでは、週に三体がいいところだろう。そこでまず
は管制室へ向かう。
ユノスダス周辺で被害が出始めた時期から今までの工場の稼動記
録を漁り、予め購入していたメモリにコピー&ペーストする。ひとま
ずの物的証拠を手にして、大あくびを漏らした。
どうやら、こちら側はハズレだったようだ││。
ドラグレイスが向かった生産工場Cポイントでは、道中で大量の
296
フォートクラブによる妨害もあり、遅々として生産工場に辿りつけな
かった。アゴウへ向けて移動をしていたフォートクラブと近辺の警
カニ風情が俺の邪魔をしおって
喰うぞ貴様ら
戒を行っていた機体が同時に脅威とみなしたからである。
﹁ええい、くそ
﹂
!!
︽いや、驚いた。足が速いのだな︾
!
︽どうした、ノワール︾
﹁アルシュベイト、アナタ⋮⋮この臭いに気がつかないの
︽すまんな。俺の網膜ユニットに臭いの識別機能はない︾
﹂
それはすんなりと開いたものの、ノワールが顔をしかめた。
生産工場の扉を前にしてアルシュベイトがパスワードを入力する。
けるのも相当な離れ業だが。
巻き込まれていただろう。それに追随できるだけの速度で撃破し続
あってこその走りだった。もし一瞬でも立ち止まっていたら爆発に
匹。合計九匹を立ち止まることなく撃破したアルシュベイトの腕が
立ち止まれなかっただけだ。左右に六匹、後方から二匹、正面に一
﹁そういう⋮⋮わけじゃ、ないわよ⋮⋮
﹂
までの道を駆け抜けたということになる。
ワールが相手をするよりも先に撃沈していた。結果として生産工場
途中で何体かのフォートクラブによる進路妨害があったものの、ノ
ノワールが肩で息を整え、アルシュベイトはその背後に着地する。
たんに運が悪かった、としか言いようがない││。
!
目に見えない力が香りとなって識別できるようになれば、それはも
だから。此処で待て︾
︽それはそうだろうな。本来であれば〝存在しないはずの臭い〟なの
﹁でも、こんなの今まで嗅いだことないわよ﹂
力の類だ︾
︽⋮⋮あまり多量に吸引しない方がいいだろうな。恐らくは瘴気、魔
⋮⋮﹂
﹁甘 っ た る い と い う か ⋮⋮ な ん と い う か。頭 が 痺 れ る 感 じ の 臭 い よ
?
297
!!
はや侵食されているということだ。アルシュベイトが機械の身体を
得て以来、そういった瘴気で魔力酔いということに悩まされなくなっ
たのは嬉しい誤算だが、それをノワールが嗅ぎとったということは│
│どうやら本命はココらしい。
長刀を担いでアルシュベイトは網膜ユニットを左右に向けて警戒
しながら工場の生産ラインへ近づいた。中は電源が落ちているのか、
︾
薄暗い。まだ昼間であるはずなのに、閉めきった工場の内部に射すは
この中でか
ずの光がなかった。
︽⋮⋮霧
!
を書いていたあの頃は、そう、三人共どうかしていた。
できるわけねぇって
げたのだ。最初期案││酒を片手に三人で馬鹿騒ぎしながら設計図
しかし、バルド・ギアもエヌラスも﹃これの稼動は不可能﹄と匙を投
の前で眠っていた。生産工場には確かにその設計図が残されている。
取り付けまで行って放置されていたはずの機体が今、アルシュベイト
魔導兵器搭載型 試 作 フォートクラブ││武装を含め、外部装甲の
プロトタイプ
を追加するのが精一杯だったように。
ない。腕も足も使い勝手が違うのだ。機人の装備に腰部ブースター
馴染むのは自明の理。それを要塞ガニに使うことなど出来るはずが
とは出来ない。機械人類であるには理由がある。人の魂が人の器に
人の魂を機械に写しとる〝魂魄転写〟を、フォートクラブに使うこ
た。技術的には可能だったのだが、魔術的には不可能だったのだ。
机上の空論として、あらゆる力学的観点から不可能と烙印を押され
魂に記録された彼の記憶だ。
トクラブをアルシュベイトは知っている。それはログに残らずとも、
ンサーを切り替えてデータを照合するが、存在しないタイプのフォー
まるで眠るように生産ラインへ繋がる扉の前で沈黙していた。セ
︽まさか⋮⋮︾
線の先には、見慣れないフォートクラブが一匹。
ような、雲のような水分子のわだかまりを辿って機首を上げた先。視
わずかにだが、センサーにモヤのようなものが映り込む。水蒸気の
?
﹃アッハッハッハ、いや無理だろバーカ
!
298
?
機械に魔術使わせる、だぁ
﹄
そんなん俺ぐれーしか出来ねーよ、ま
してやこんなカニとか無理無理マジ無理できっこねぇよ
だよなー、無理だよねー。じゃあもういっそや
︾
﹂
ここはフォートクラブの生産工場だ。貴様の寝る
誰か来てたのは視てたけど〟さぁ。ワタシの寝床になんの用
︽寝床だと⋮⋮
?
だって、別に誰か使ってたわけじゃないでしょー
?
場所ではない︾
﹁ん∼⋮⋮
﹂
﹁⋮⋮んにゃ∼ だれかと思えば、アルシュベイトじゃーん⋮⋮〝
︽││ムルフェスト⋮⋮なぜ、貴様がここに居る︾
ざる美女││真正の吸血鬼。神格者に名を連ねる一人。
アレは傾国の美女だ。男を誑かし、権力者を唆し、国を傾ける人なら
の足元から大あくびを漏らしながら立ち上がるのは絶世の美女。否、
まるでそこで眠りこけていたかのような素振りで、フォートクラブ
を構える。
しかけて、アルシュベイトが網膜ユニットに捉えた人影を見て、長刀
記憶が確かならば、アレに搭載されているのは││そこまで思い出
痛むはずもない。
︽くっ、頭が⋮⋮
武装案だがな││﹄
﹃ハッハッハッハッハ、良いだろう。ならば俺が以前より温めていた
もなんか面白い武装案だしてくれ﹄
﹃おーし、思いつく限りぶっこんでやる。おいアルシュベイト、テメェ
りたい放題載せちゃおうか﹄
﹃やっぱそう思う
!
?
スを翻して、指を鳴らすと血風がムルフェストを覆い、次の瞬間には
戦闘服に切り替わっていた。令嬢のドレスのような華美なデザイン
でありながら、それがどこか怖気を走らせるのは、きっと彼女自身が
放つオーラが人のソレではないからだ。
﹂
﹁じゃ、いいじゃん⋮⋮あとワタシ、昼間はダルいからさー、話がある
︾
なら夜にしてよ
︽貴様││
?
299
?
!
?
?
気怠げな口ぶりで身体を伸ばすと、たわわな胸が揺れる。ワンピー
!!
!
﹁うっさいよぉアルシュベイト。人の寝込み襲ってきてそういうこと
言うの、感心しないなー⋮⋮やっちゃっていいよ﹂
眠 り 続 け て い た フ ォ ー ト ク ラ ブ が 息 を 吹 き 返 す。生 ま れ る は ず
だった命は捨てられた。それは戯れに書き殴られた運命に抗うよう
に目を覚ます。原案たるアルシュベイトを、生まれる以前より知って
いた敵と判断して。
︽⋮⋮どうやら、今日の俺の運勢は最悪らしいな︾
﹁ん じ ゃ、ワ タ シ は も う 一 眠 り す る か ら ぁ ⋮⋮ む に ゃ ⋮⋮ よ ろ し く
ねぇ、アヴェンジャー⋮⋮﹂
復讐者││そう名付けられた魔導兵器搭載試作型フォートクラブ
はアルシュベイトと対峙する。なんと皮肉なネーミングをしてくれ
る、自嘲しながらその突進を受け止めて、工場の屋根を突き破りなが
ら外へ放り出された。
﹁ん に ゃ ー、も う ⋮⋮ 眩 し く て 寝 れ な い じ ゃ ー ん ⋮⋮ 暗 い と こ 行 こ
気をつけろノワール、他の
!
300
⋮⋮ふわぁ∼ぁ⋮⋮﹂
フラフラとおぼつかない足取りでムルフェストは寝ぼけ眼を擦り
ながら生産ラインの扉を開ける。異常繁殖したフォートクラブの群
れが外への自由を我先に手に入れようと殺到するが、その黄金の穂波
のような金色の姫君には触れようともしなかった。
﹂
何故ならば、掠ろうものなら音もなく吹き荒ぶ血風によって細切れ
にされている。
﹁アルシュベイト
︽ムルフェストめ、奴に血を分けたなッ
は魔力を感じる。それはアルシュベイトも気づいたのか、唸った。
いる。その装甲表面が赤く脈打っていた。葉脈状に広がる血管から
型化が進められる以前に生産された一回り巨体のフォートクラブが
トクラブの群れが扉を突き破って押し寄せてきた。その最後尾に、小
を制御して着地すると長刀を構える。地響きに顔を向ければ、フォー
してきたアルシュベイトを見て駆け寄った。腰部ブースターで姿勢
││外で言われるままに待機していたノワールが、工場から飛び出
!?
︾
フォートクラブはともかくあの赤いやつは他の三倍では効かんバケ
モノだ
﹁それをアナタが言うってことは、相当にヤバイ代物みたいね﹂
﹂
︾
︽バカを言うな。変神した俺からすればカニ漁のようなものだ︾
﹁じゃあ変神すればいいじゃない
﹂
︽俺は己の私利私欲の為に変神する気はない
﹁アナタって本当にバカなのね
!
!
︾
己を曲げる程度の信念、そこらの小石にくれてや
れ。チェェェストォォォ
︽バカで結構だ
!?
た。
!
漏らして目頭を押さえた。
︾
?
︽READY︳
︾
﹁⋮⋮ああ、行くしかねぇだろ
︽Fine︳
飛ばすぞ、ハンティングホラー﹂
ハンティングホラーに跨がり、一息ついていたエヌラスはため息を
﹁⋮⋮んだよ、なんか派手にやってんなぁ﹂
かの軍神を手間取らせるようならば、喰らうだけの価値がある。
ま だ 群 が る フ ォ ー ト ク ラ ブ を 無 視 し て ド ラ グ レ イ ス は 駆 け 出 す。
﹁⋮⋮成る程、面白い。加勢させてもらうぞ、護国の鬼神
﹂
都合三十体目のフォートクラブを溶断してドラグレイスは一瞥し
﹁向こうは││アルシュベイトか。派手にやっているようだな⋮⋮﹂
が開戦の合図となり、黒煙が狼煙となって他の二人もそれに気づく。
言うが早いか、アルシュベイトが先頭の一匹を両断した。その爆発
!!
!
?
い。
やり叩き起こす。後でユウコになにを言われるか知れたものではな
心配する相棒の気遣いに感謝しながらも、エヌラスは重い体を無理
から走れ﹂
﹁死ぬほどつれぇ。だけど仕事放り出すわけにゃいかねぇだろ。いい
?
301
!
episode48 軍神咆哮。吸血姫、強襲
多脚歩行戦車の群れの只中であっても退くことを知らぬ軍神は、愚
かにも突撃してくる要塞ガニを逆に轢殺していた。長刀を振るい、節
足を切り落とすなりブースターを吹かして膝蹴りでかち上げると担
ぎ直して頭部から叩きつける。装甲のへこんだ一匹に押し潰される
︾
形で後続の三匹が進行を妨害された。
︽震撃・陽炎
︾
そして、魔導兵器搭載試作型フォートクラブ。異常事態を他の場所
前線支援型RW│フォートクラブ。
重武装型HW│フォートクラブ。
る。欠点は稼働時間か。
撃用ブースターである﹃アサルトチャージャー﹄によって段違いであ
ていた。当然ながら地上における機動力も背面装甲に装備された突
とされており、正面装甲は他のタイプに比べて強固なものが採用され
突撃強襲型﹃AC│フォートクラブ﹄は近接戦闘に重点された設計
突進してくるフォートクラブを飛び越える。
もこれで動きは封じることが出来た。軽々とその背中に飛び移ると、
整備用ハッチにショートソードを突き刺す。撃破とまではいかずと
ケーブルを切断。右足を動作不能にさせると比較的脆い背部装甲の
駄なく沈黙させていく。大振りな前腕の叩きつけを避けて、膝裏の
ノワールもその横からフォートクラブの関節部を狙った攻撃で無
姿となり、撃沈した。
ブが一斉に発射されるベアリング弾によって蜂の巣にされて無残な
左拳で大盾を裏から殴りつけると、炸裂する。正面のフォートクラ
︽リアクティブ
及ぶ堅牢な防壁の前面には大量の反応炸薬装甲。
のスパイクがそのままフォートクラブを叩き潰し、全長四メートルに
アルシュベイトが召喚した武装は、城壁と見紛う重厚な大盾。下部
!
で警戒していたフォートクラブに要請したのか、まだまだその数は増
えそうだ。
302
!
﹂
﹁どうするの、アルシュベイト
フォートクラブ。
︾
﹂
︽ノワール、俺が活路を拓く
た
﹁えっ、これ全部
はずだ︾
フォートクラブは〝全て〟引き受け
!
!
は喰い飽きた﹂
︽感謝する、ドラグレイス
︾
﹁内部にいる神格者がいずれかは知らんが、俺が引き受けよう。カニ
ドラグレイスは隠れていた二人を鼻で笑った。
れを引き裂きながらアルシュベイトを見下ろす。
不意に、影が降りた。それは輝く魔法の大剣でフォートクラブの群
﹁つまらんことをしているな、軍神││
﹂
︽内部には神格者がいる。だが無用な接触を避ければ争いにはならん
危険だが、賭けるしかない。
ら瘴気の正体はあの親玉のようだからな︾
︽お前は工場の電源を落としてくれ。配電盤は管制室にある。どうや
!
し、この内部にはムルフェストがいる。正面には存在しないはずの
けていては終わりがない。工場の機能を停止させてからが││しか
とはいえ、これではジリ貧だ。このまま破壊を続けても生産され続
帰は望めない。
するためだ。つまり、構造上でフォートクラブは倒れた場合の自立復
計されている。それは稼動不可能になっても味方の盾となって活用
フォートクラブのデザインは遮蔽物としても使用できるように設
ンを出す。
脚部をへし折った。その背後に身を隠し、ノワールに来るようにサイ
感謝しながらもアルシュベイトが正面の一匹を斬り上げ、もう一匹の
た。同士討ちを恐れて自動防衛プログラムが機能している。それに
突っ込む。まるで愚策、そう思えたが相手の砲撃がパタリと止んでい
破 竹 の 勢 い で ア ル シ ュ ベ イ ト は フ ォ ー ト ク ラ ブ の 群 れ の 中 へ と
︾
全て叩き潰す
!
︽是非もなし
!
!?
303
!
!
﹁貴様の礼などいらん。走れ小娘
﹂
﹂
﹁エヌラス⋮⋮
﹂
﹁なんじゃこれは⋮⋮﹂
﹂
︽説明は後だ、工場の電源を落とせ
︾
横からかっさらわれたのだとバイクのエンジン音で遅れて理解する。
分が担がれているのだと気づくのに、時間を必要とするほどの速度で
恐怖に足が竦みそうなノワールの身体が、不意に浮いた。そして、自
は ま る で 獲 物 を 前 に し た 肉 食 獣 の よ う に 一 斉 に 視 線 を 集 中 さ せ る。
吹き飛ばされ、群れの中に戻されたノワールを囲むフォートクラブ
﹁きゃあっ
が飛んできた。
爆ぜ、爆風に煽られたノワールがよろけた傍にフォートクラブの砲撃
がまるで自らの意思を持つ蛇のように振り下ろされていく。土煙が
り攻撃性に特化させた代物だ。本来であれば射出されるだけのそれ
のはワイヤーカッターが、全部で八基。移動用に使用されるものをよ
が誰の手のものか即座に理解したようだ。上部装甲から射出される
イスが弾き飛ばされた。血のように赤い魔法陣││それを見て、それ
だが、片腕の前面に展開された防御障壁で魔力が拮抗してドラグレ
﹁退けぇい
導兵器搭載試作型フォートクラブと対峙する。
つけながら八艘飛びのように乗り継いで生産工場前に立ち塞がる魔
頃合いを見てドラグレイスが跳躍した。フォートクラブの頭を踏み
斬り伏せていく。ノワールに照準を向けた片端から撃沈されていき、
ドラグレイスの大剣が、アルシュベイトの長刀がフォートクラブを
!
!
てドラグレイスが続く。
︾
︽貴様の相手は、この俺だぁぁっ
︽││││
︾
に視線を向けた魔導兵器搭載試作型フォートクラブの頭を踏みしめ
フォートクラブの足元を抜けながら工場の扉をぶち抜いた。そちら
やる気のない声で後ろに乗せると、エヌラスはフルスロットルで
﹁へいへい。掴まってろ、ノワール﹂
!
?
304
!
!?
!
長刀を叩きつけられて吹き飛ぶフォートクラブだが、その表面装甲
には傷一つ付いていない。物質的だけでなく霊的防御、魔法防御にも
対応した堅牢な装甲を前にしても、アルシュベイトは構える。
︽悪戯に造られた命と言えど、俺はその造物主たる一人だ。ならば、俺
が引導を渡してやる︾
︽││││︾
ならば、俺は
︽俺を恨め。俺を憎め。フォートクラブ。ただの機械である貴様を突
︾
き動かすものがあるのなら、それが貴様の生き様だ
俺の魂で、全身全霊で迎え討つ
!
かかって来いッ
︾
!
︾
チェェェストオオオオッ
退転の進撃。鋼の鬼神にして護国の軍神
︽他愛なし
︽││││││
︾
!! !
から〟〝叩き伏せる〟超常現象をねじ伏せるほどの苛烈な一撃。不
出来るはずがないのだ。だが、それだどうだと言わんばかりに〝正面
侵食する。質量兵器に特化したアルシュベイトの武装では太刀打ち
幾何学文様の魔法陣からは砲撃魔法が荒れ狂う。呪法兵装は現実を
フォートクラブもまた、未知数の脅威を前にして武装を展開する。
ぬ男はいない。
俺は此処だと。貴様の敵は俺だと声高らかに吼える。それに応え
︽来いッ、アヴェンジャー
我あり││機械の肉体であっても尚、魂が叫ぶ。
退くことを知らぬ不退転の進撃。天上天下唯我独尊。我思う故に
!
り、後退る。然しながら、ムルフェストの血を分けられたフォートク
神の血を
そのような腑抜けた一撃など千発撃
ラブ、アヴェンジャーには傷一つない。魂の敗北だ。
︽貴様の一撃、なっとらんっ
ち込まれようが俺は倒れん 魂の猛りはその程度か
││ならば、貴様は生まれついての負け
︾
ジャーはアルシュベイトの一撃が打ち込まれる都度、後ろへ下がって
二 撃 │ │ 三 撃。一 歩、ま た 一 歩 と 下 が る。二 歩、三 歩 と ア ヴ ェ ン
犬だ、チェェストォオオッ
分けられてその程度かッ
!
!
!
!!
!
305
!
防御魔法陣を展開する。衝撃が襲う。踏みしめた六足が地面を削
!?
!
いった。
︽咆えろ、アヴェンジャー
︽││││︾
︾
その逆鱗を突
荒れ狂え、アヴェンジャー
ならば貴様は怒れ
!
貴様が生きた証、貴様が生きる理由。この俺に、
︽俺が憎いか 俺を恨むか
︾
!
!
ジャーが再起動した。
︽││││ス││││︾
︽⋮⋮そうだ︾
︾
コォロォォォォォォス
ならば、今この瞬間から貴様は、
︾
その怨嗟、その怨恨 生まれついて持った三千世界へ
︽││││ス││ロス⋮⋮││ツブ、ス││
︽そうだ
!
を渡してやるッ
︾
︽アル、シュベイトォォォ││
﹁チッ、あのバカめ
︾
はしゃぎ過ぎだ
!
﹂
ほどの衝撃に、ドラグレイスが舌打ちする。
イトの戦闘による余波が工場内を揺らしていた。施設に影響が出る
生産工場前で繰り広げられるフォートクラブの群れとアルシュベ
他ならぬ〝ただの機械〟であるアルシュベイトの魂の咆哮で。
い霊的物質が奮え、起こされたのだ。
憎悪を育み、機械の身体であってもその奥底に眠る一グラムに満たな
機械に〝魂〟が芽生えた瞬間である。ムルフェストの血を分けられ、
起こりえうはずのない超常現象が、否。それはもはや奇跡だった。
︽チェェェストォオオオオオッ
︾
誇れ、アダルトゲイムギョウ界最強の軍神が貴様に引導
︽よくぞ言った、アヴェンジャー
︽ツブス、ツブス││
の憎悪
︾
血 を 分 け ら れ て お き な が ら の 体 た ら く。無 様 の 極 み │ │ ア ヴ ェ ン
││アヴェンジャーの装甲に一筋の亀裂が走る。ムルフェストの
当に無駄になるのは、彼の魂が敗北したその時だ。
例え無駄だと知っていても百発でも千発でも打ち込む。それが本
見せてみろォ
き立ててみせろ
!
!
!
!!! !!
!
!
306
!
!
俺の敵だ
!!
!
!
!
!
!
もう少し静かに戦えというのも無理な注文だ。既にエヌラスは先
行して姿が見えなくなっている。騎士甲冑の擦れる音に混じって、布
を翻す音││次の瞬間、ドラグレイスは一陣の風で工場の壁面に叩き
つけられていた。
寝ぼけ眼を擦り、不機嫌で口をへの字に曲げているムルフェストが
﹂
首を鳴らしている。その無邪気に振りまかれる殺意だけで常人は卒
倒するだろう。
﹁カッ││くそ
いんだけど
﹂
﹁それを、俺に言うか、ムルフェスト││
の矢が番えられていた。
﹂
﹁でないと、今、ここで、全員ワタシが倒しちゃうよ
﹂
死 ぬ わ け に は い か ん の だ
ノーグ〟は見つかった、ドラグレイス
﹂
﹁生 憎 と ま だ 路 頭 に 彷 徨 う 有 り 様 で な
よ、吸血姫
﹁上等☆﹂
﹂
?
衝撃が工場の大気を震わせる。
﹁寝ぼけて殺しちゃったら、ごーめんねー
﹂
!
?
﹁もしそうなれば化けて出てやる、安心して殺せ
﹂
ムルフェストの手に握られ、ドラグレイスの大剣と魔力の衝突による
爪で指の腹を切り裂いて、血風が舞う。それは赤いナイフとなって
だ。獣のように地を這いながら力を込めて跳躍する。
はない。大剣で地面を叩いて自らの身体を横に飛ばして避けたから
放たれる黄金の矢が突き刺さる。しかし、そこにドラグレイスの姿
﹁小癪な
〝ティル・ナ・
指を鳴らす。その背面に浮かび上がる、空間の歪み。そこには黄金
﹁誰でもいいの。とにかくさ、ちょっと静かにして
﹂
﹁⋮⋮あぁのさ、表であんなガンガン騒がれたらワタシ、全っ然寝れな
!
?
!
307
?
!
?
!
!
episode49 血と誇りと守りたいのは笑顔
工場内部をフルスロットルで走るハンティングホラーを駆るエヌ
ラスもそうだが、それにしがみつくノワールは半分涙目になってい
た。上下左右、重力関係なしに突然宙に浮いたり壁を走ったりするも
﹂
のだからエヌラスにしがみついてピッタリと身体をくっつけている。
﹁ひゃぁぁぁあああ
﹁うるせぇぇぇええ
﹂
爆音と豪風と絶叫を置き去りにして駆け抜ける。異常生産されて
いるフォートクラブ達が外部装甲の取り付けを待たずに稼動を始め
ていた。さながら鋼の骸、ここは墓場だ。リビングデッドの只中を駆
け抜ける。ふと、しがみついていたノワールの手が濡れた。それが何
かと思い、エヌラスの肩から自分の手を覗き見る。赤い、血だった。
﹂
それは、エヌラスの口から垂れている。
﹂
﹁エヌラス、アナタ││
﹁っるっせぇぇぇ
!
す超加速が音速の壁すら越えてフォートクラブ生産工場の管制室に
突っ込む。
強引な急減速にあってもノワールが管制室の中で狂ったように生
産記録を書き続けるモニターの横、壁面に備え付けられている配電盤
を見つけた。ハンティングホラーから飛び降りてショートソードで
切り裂くと、それは紫電を奔らせてあっさりと機能を停止する。その
はッ、あ││
﹂
背後で、派手に転倒したエヌラスが立ち上がろうとしていた。
﹁ッ││ゴフッ、ゲホ⋮⋮
ちょっと、本当に大丈夫なの
!
﹂
!? !
れて、エヌラスの身体を傷つけていた。今までは消耗を抑えていただ
けに、傷口が一度開けばそれは連鎖的に体組織を血に染めていく。ム
ルフェストの魔力による汚染が進んだ工場内部は、衰弱しているエヌ
ラスの身体を蝕むのに充分なほどの濃度だった。
308
!! !?
ハンティングホラーが吼えた。霊的物質による含有成分が叩きだ
!!
〝 終 焉 〟のダメージがまだ治っていない。内部の損傷は蓄積さ
ヱンドゲィム
﹁血が⋮⋮
!?
﹂
どうしてアナタはそう自分のことを簡単
﹁せぇな⋮⋮これだから、女ってのは││おら、早く戻るぞ⋮⋮ノワー
ル﹂
どうして
﹁だったらアナタ一人で行きなさいよ﹂
﹁そうさせて││﹂
則な鼓動を重ねた。
!
﹂
あ、そうだ。誰が死ぬか⋮⋮﹂
﹁死 な ね ぇ よ。あ の 野 郎 と 決 着 着 け る ま で は な。死 ね る か よ │ │ あ
﹁そんな生き方してたら、途中で死ぬわよ﹂
ンドがお約束だろう﹂
﹁恥ずかしくて言えるかよ││ガキみたいな、お伽話さ。ハッピーエ
﹁⋮⋮どうして
やり直す為にな﹂
る〟わけにはいかねぇんだよ││最後に生き残るのは俺だ。世界を
﹁はっ、なんだろうなぁ。知らねぇよ。でもな、今日戦うことを〝諦め
﹁エヌラス、アナタは⋮⋮一体、何と戦ってるの﹂
れようと、立ち向かう。抗い続ける。
エヌラスは、諦めない。そこに絶望があろうとも、己がなんと言わ
い。分からない。だが、一つだけ教えてもらったことがある。
一体、何がエヌラスをそうまで駆り立てるのか。ノワールは知らな
ハンティングホラーのハンドルを握りしめて立ち上がる。
蒸発する血液と焼ける肉の臭いにノワールが息を呑んだ。踏ん張り、
む 激 痛 に 気 絶 し そ う に な り な が ら エ ヌ ラ ス は そ れ で も 立 ち 上 が る。
を〝焼き払う〟荒技で血涙と鼻血が噴き出す。熱湯を血液に流し込
〝銀鍵守護器官〟を起動させて血液中を侵すムルフェストの瘴気
﹁ッづ、オ││アァァアアアアッ
﹂
ラスが膝を着く。瘴気が身体を蝕む││血が侵食されて、心臓が不規
もらう、と言いかけてハンティングホラーのハンドルを握ったエヌ
!
﹁なんでよ
男は皆そうなの
だからテメェは黙ってろッ さっさと戻ってア
に犠牲に出来るのよ
﹁あぁそうだよ
!?
!
ルシュベイトの野郎に手を貸すぞ﹂
!
?
309
!?
!?
﹁⋮⋮そんな、約束。勝てるわけないじゃない⋮⋮﹂
﹁││男なんて、単純な生き物だ。テメェら女からすりゃ〝ちょれぇ
〟生き物だよ。つまらねぇことにこだわって、しなくてもいい苦労
﹂
と、なくてもいい浪漫を追い求めて生きる愚か者だ。馬鹿だと笑えば
いい。どうせ、分からねぇだろうなぁ⋮⋮
今の俺がどんな絶不調だろうが、アイツに決闘挑まれたら逃げる
なんだろうが俺はアルシュベイトと決着着けなきゃならねぇんだよ
﹁勝てるとか、勝てないじゃねぇ。勝とうが負けようが、殺されようが
るまでになりふり構わず、ただ〝救いたかっただけ〟だったのだと。
のか。悪鬼と言われ、悪魔と呼ばれ、魔王と罵られ、犯罪王と呼ばれ
ワールは知っている、そこにエヌラスがどれだけの心血を注いでいた
アルシュベイトは言っていた。︽俺はエヌラスに救われた︾と。ノ
!
﹂
わけにゃいかねぇんだ ただの意地で命張るんだから馬鹿の極み
だ、笑えよノワール
!
﹁分かるわけないでしょ
﹂
笑えないわよ⋮⋮
クデナシが、どうしてそんなことを言うの
アナタみたいなロ
!
から
バッカじゃないの
戦争だから
命を投げ出すほ
どっちもただの図体が
﹂
ならなんで殺し合うのよ
デカイだけの子供じゃない 友達なんでしょ
どの、親友なんでしょ
生き残りたいから
﹁そんなに大切な友達なら、仲良くしなさいよ
﹂
間柄を知ってしまった今ではもう、笑って聞き流せる話ではない。
泣いて、怒っている。ノワールも分からなかった。だけど、二人の
?
!
!?
!
!?
何が戦禍の破壊神よ、何が最強よ
アナタもアルシュベイトも、私からしたら〝ただの馬鹿〟なんだ
﹁人間のクズでもロリコンでも犯罪王でもなんでも言ってあげるわよ
﹁ろくでなしってハッキリ言いやがったな⋮⋮﹂
!
!?
なく、泣いていた。エヌラスが一番嫌いな顔だった。
ノワールは、泣いている。卑下するわけでも、馬鹿だと嘲笑うのでも
笑えばいいとも││だが、そんなエヌラスの身体が抱きしめられた。
赤な口で歪に笑う姿は、さぞ滑稽だろう。引きつった笑みでもいい、
内勁で体内の氣を練り上げて、鼓動を鎮める。血を吐き出して真っ
!
?
!
!
!
!
310
!
!
﹁大切だから、曖昧な部分はあっちゃならねぇんだよ。アイツの何が
良くて何が悪いかハッキリ言って、白黒着けなきゃ気がすまねぇ﹂
﹁││ホント、男って馬鹿よね⋮⋮﹂
﹁ああ、馬鹿だよ。俺はさ、バルド・ギアやアルシュベイトのように、
大切なモノが一つあればそれに命を尽くすことができねぇんだよ﹂
エヌラスの手がノワールの髪をくしゃくしゃに撫でる。ハンティ
ングホラーの運転もままならないほど、瘴気を祓うほどの魔力も体力
お前や、プルルートや、ネプ
も気力も無いのに、その手は温かった。優しかった。
﹁大切なモノは、多いほどいいだろ
テューヌや、ネプギア││手に余るほど、身の丈に合わないくれぇ抱
え込んでひぃこら言うのが俺なんだ﹂
﹁ぁ⋮⋮﹂
﹁こんなクソみてぇな戦争はとっとと終わらせる。そんでお前らの世
界とはおサラバ、ハッピーエンドだ。ほら、早く乗れよ﹂
無理やり後部座席に乗せて、エヌラスは大きく息を吸い込む。
﹁││あとな、ノワール。俺は笑顔は好きだが、女を泣かせるのはベッ
ドの上だけでいいんだよ。分かったら泣くな﹂
﹁ほんとに、度し難いクズなんだから﹂
沈黙する工場の中を走る││だが、止まるはずであったフォートク
ラブの生産は止まらなかった。速度こそ落ちたものの、それでも狂っ
たように装備を取り付けている。
﹁どうするの。電源を落としてもこれじゃあ⋮⋮﹂
﹁工場ごと潰す﹂
しれっと言いながらエヌラスは早速管制室の壁をぶち抜いて外へ
出た。
アルシュベイトとアヴェンジャーの激戦が続き、互いの近接格闘か
ら丁々発止。砲撃魔法を迎撃する突撃砲の掃射。バリエーション豊
富なフォートクラブの群れを前にして一歩も引かず、それどころか
徐々に生産速度が追いつかなくなっている。
︽いいぞ、冴えてきた││︾
311
?
しかし、生産工場内部から吹き飛ばされてくるドラグレイスを見た
瞬間、隙が生まれた。前線支援型RW│フォートクラブが吐き出す即
効粘着性のネットボールに絡め取られたアルシュベイトに突撃強襲
型AC│フォートクラブの高振動ネイルが叩きつけられ、ダメ押しと
ばかりにHW│フォートクラブがミサイルを撃ちこむ。
爆風の衝撃から各箇所の損傷をチェック。胸部、左腕部、右大腿部、
︾
﹂
駆動系に損傷を確認したアルシュベイトだが、そこに焦りはなかっ
た。
︽無事か、ドラグレイス
﹁一も二もなく他人を気遣う貴様は、不愉快だ
今しがた人の目の前で猛撃に晒されたというのに、アルシュベイト
は気にした風もない。
太陽の下に身を晒して、眩しそうにしかめっ面で出てきた吸血姫、
ムルフェストは金色の髪をかき上げると血風を纏う。ドレスから、そ
れはラフな格好に変わった。黒いシャツに、青いジーンズという打っ
て変わった外出用の服装。
﹂
﹁ぅわー、今日も憎らしいくらい良い天気。さて、二人まとめて脱落し
てもらおうかな﹂
﹁アルシュベイト、変神も辞さぬか
﹁貴様は本ッ当にむかつく男だな
﹂
︽ほざけ。俺が変神するのはアゴウの明日のためだけだ︾
?
てるの
﹂
﹁アッハハハハハ、ホントおかしーの
貴方達殺し合う意味わかっ
そんな二人を見て、ムルフェストが腹を抱えて笑っていた。
︽なんとでも言えばいい。俺には曲げられぬ信念がある︾
!
!
のも分かってるでしょ。なのにまぁ相変わらずの仲良しこよしで呑
気ねー﹂
エヌラスのレイジング・ブルマキシカスタムがムルフェストのナイ
312
!
!
﹁ワタシ達の誰かが脱落しなきゃ、キンジ塔は姿を現さないっていう
﹁当然だ﹂
︽無論承知している︾
?
︾
変神するの待った
フで弾かれた。まるでハエでも追い払うような仕草で。
﹁訂正しとくよ。三人まとめて掛かってきたら
げる﹂
﹁生憎と、俺は報酬以外の仕事に興味はなくてな﹂
︽俺もアゴウの明日以外に変神する気など毛頭ない
﹁テメェの相手してる暇はねーんだよバーカ﹂
な♪﹂
﹂
﹁おーうなんだドラグレイス、テメェ俺になんか文句あんのか、あぁん
︽エヌラスと決着を着けるまで貴様に討たれるわけにはいかんのだ︾
﹁この男には借りがある。貴様程度に殺されては堪らん﹂
ぱーに誰がやられるか﹂
﹁ア ル シ ュ ベ イ ト の 野 郎 な ら い ざ 知 ら ず、テ メ ェ み て ぇ な あ っ ぱ ら
三人同時に武器を突きつけて断言した。
﹃断る
﹄
﹁あっそ。じゃあワタシの安眠妨害の罪として││死んでくれないか
!
?
んなら此処で殺すぞ﹂
︽待てドラグレイス、先約は俺だ。貴様はその後だ︾
﹁アルシュベイト、ならば貴様から先に││﹂
喧々囂々。あーだこーだ。あーでもないこーでもない。
﹁⋮⋮アナタ達、本当は物凄く仲良しでしょ﹂
︽YES︳︾
ノワールの呟きにハンティングホラーが応じた。置いてけぼりの
ムルフェストが口を尖らせて指を弾いた。それを合図にしてフォー
﹂
トクラブ達が一斉に襲い掛かり││
︾
﹂
﹁うるっせぇぞカニ共がぁぁぁぁ
﹁邪魔だッ
︽黙っておれ
!!
が、アルシュベイトの一閃がフォートクラブを沈黙させる。三人は足
ことごとくが粉砕された。エヌラスの銃声が、ドラグレイスの剣戟
!!
!
313
!
﹁この世界がこうなったのは貴様の所為だろうがこの裏切り者め。な
?
並みを揃えて肩を並べていた。
︽あのフォートクラブ、アヴェンジャーは俺が引き受ける︾
﹁ならば、ムルフェストは俺が引き受けよう﹂
﹁今日はやる気ねぇから雑魚は任せろ﹂
﹂
﹁⋮⋮貴方達、本当に仲良しなんだから、腹立つなぁ。まぁいいよ、ワ
︾
タシも新しいペットできたからさ。やっちゃえ、アヴェンジャー
﹂
︽ツブス、コロス││アルシュベイトッ
﹁えっ、喋った
!
︽││過去は清算せねばなるまい、そうだろうエヌラス︾
いたあの日の自分だ。
い機械の執念、なんと悲しい生き物か。それを産んだのは、悪戯に描
と心を吹き抜ける風のように過ぎ去っていく。それすらも得られな
しかし、無視する。その痛みすら今は感じない。ただ〝ああそうか〟
る。それを正面から受け止め、損傷を負った関節部が悲鳴を上げた。
驚く飼い主を放って、アヴェンジャーはアルシュベイトに突進す
!
その呟きは、豪剣と前腕部の衝突によってかき消される。
314
!?
episode50 〝アイ〟の証明
魔導的加護と呪術に特化した兵装であるエヌラスの両手に握られ
る紅の自動式拳銃と白の回転式拳銃がフォートクラブの装甲を穿つ。
ドラグレイスの剣戟とムルフェストの〝拳〟が衝突した。
ノワールもまた、エヌラスのリロードの隙を補うようにしてフォー
トクラブの動きを封じていく。
デ ィ グ・ ミ ー・ ノ ー・ グ レ イ ブ
アヴェンジャーに搭載されている武装は上部装甲のワイヤーカッ
ター八基。そして、口部に備えられた呪砲兵装﹃我、埋葬にあたわず﹄
︾
はハンティングホラーと同系統が積載されているが、サイズも出力も
桁違いだ。
︽クッ││
当然ながら質量兵器に特化した機人である長のアルシュベイトに
魔法防御など皆無に等しい。ひとたび直撃しようものなら装甲が消
し飛ぶ。然しながら、卓越した戦闘技術と経験の差は埋められない。
砲撃をかいくぐり、ワイヤーカッターの六連撃を反撃の手で斬り落と
す手腕はもはや疑いようもなく彼我の実力差だ。前腕が開き、その内
部に覗くのはカメラの光学レンズのような砲塔││バルド・ギア考案
の六連装レーザーランチャーが閃き、青白い光が木々を薙ぎ払う。出
力を調整次第ではレーザーブレードのようにも使用できるのか、アル
コイル
シュベイトへ斬りかかる。長刀と斬り結び、火花が散った。擬似魔術
動力回路〝電導〟によって滑らかに地面を滑りながら幾度となく衝
﹂
突を繰り返していたが、足回りの損傷からアルシュベイトが押し負け
る。
﹁アン・ドゥ・トロワ
﹁にひっ。どうよ
﹂
げてドラグレイスが蹴り飛ばされる。
パーカットが騎士甲冑を高く宙に吹き飛ばし、しなやかに足を振り上
グレイスの顎を強烈に打ち抜いた。三手││下から打ち上げるアッ
都合、三手。一手が大剣の腹を打ち、切っ先を逸らす。二手がドラ
!
﹁今のは⋮⋮効いたぞ││﹂
?
315
!
真正の吸血鬼。生まれながらにして人ならざる者││吸血姫、ムル
フェスト。その真価は夜の闇の中でこそ発揮されるが、しかし。それ
でも人間を超越した存在の神格者であるこの女性の戦闘能力は例え
昼間であっても他のモノに遅れを取ることはない。治めるべき国を
持たず、守るべき国を持たない二人でも神格者に名を連ねるもの。エ
﹂
ヌラスの魔弾を血を含ませたカマイタチで相殺する。
﹁ちょっとー。横槍
﹁いやワリィ、手元が狂った﹂
そう言っている間にもエヌラスの指先からは血が滴り落ちていた。
その窮地にあっても目に宿した闘志だけは衰えない。
﹁ふん。死にかけのくせに﹂
﹁地獄に嫌われてるらしい﹂
冗談にムルフェストが笑うと、ドラグレイスの大剣と再び拳を交わ
す。
足回りの損傷が気になるが、問題はない
﹁おい、大丈夫かアルシュベイト﹂
︽人より先に己を案じろ
︾
!
で提案だ﹂
︽聞こう︾
乗った
︾
﹁工場ごとまとめて潰す、どうだい﹂
︽その提案、面白い
﹁そうくると信じてたぜ、アルシュベイト
!
﹂
の隣に並ぶ。
トランジション
﹁変 神 ッ
﹂
︾
〝ココ〟から工場を潰すの
︽ノワール、我らの直線上より退避せよ
﹁え、えぇっ
﹂
アヴェンジャーから大きく身を引いたアルシュベイトがエヌラス
!
!
れていた。〝ソコ〟から〝工場ごと潰す〟と宣言しているのだ。ノ
繰り返し、ムルフェストとアヴェンジャーの相手をしているうちに離
距離にしておよそ、五十メートル。フォートクラブの群れと戦闘を
!?
!
!
!?
316
?
﹁そうかよ。生産工場の電源は落としたが、止まりそうにねぇ。そこ
!
ワールの驚きも尤もだが、どこか納得もしている。
コイル
この二人ならば、或いは││エヌラス=ブラッドソウルが〝銀鍵守
護器官〟に魔力を奔らせる。それは間もなく紫電となって〝電導〟
︾
を回した。だが、それが身体に掛ける負担も今ではまさに命懸けだ。
鮮血が滴る。
︽エヌラス、身体は良いのか
よ﹂
﹂
︽ふむ、ないな。なればこそ、征くぞォッ
﹁最大出力だ、消し炭一つ残さねぇ
!
おんけん
タケミカヅチ
〝御剣・武御雷〟
︾
!
ヱンドゲィム
﹂
大上段に構えた二人が、アヴェンジャーとフォートクラブ生産工場
く刀身を輝かせていた。全身から火花が散る。
分厚く、鉄塊のようでありながら洗練されたフォルムは日本刀のごと
アルシュベイトが身の丈に匹敵する豪剣を召喚する。ひたすらに
︽乾坤一擲
その左手が鞘を顕現させて跳躍する。
エ ヌ ラ ス = ブ ラ ッ ド ソ ウ ル の 右 手 に は 長 大 な 野 太 刀 が 握 ら れ た。
!
︾
﹁はんっ、テメェにいつかブチ込むつもりだ。気遣ってる暇あんのか
?
〝 終 焉 〟
!
を睨んだ。
レー ル ガ ン
︾
﹁超電磁砲抜刀術・零式
︽いざ征かん││
!
│。
﹁DAAAARAAAAA││
!!
︾
!!
ていなかった。
でもまだ葉脈状に走る血管が脈打っている。魔力の胎動はまだ衰え
アヴェンジャーは健在だった。その装甲表面が黒く焦げ付き、それ
然しながらその中に異物が一つ││いや、今は一匹というべきか。
二百メートル余り。消し炭すら残さない魂心の一撃だった。
くその先にあった山の麓までを消し飛ばした。距離にしておおよそ、
絶大な破壊力は相乗効果により、フォートクラブ生産工場だけでな
︽チェェェストォオオオオッ
﹂
同時に振り下ろされる閃光の白刃は、世界を白く染め上げていく│
!
317
!
﹁無駄、無駄、無駄ァァ
アッハハハハ、貴方達まさかそれでワタシ
実によく馴染んでくれたよアヴェンジャーは
!
?
│
﹂
﹂
るみたいだけど、そうなるようにプログラムされてるんじゃないの│
説教垂れてくれちゃって。アゴウがなんだのこうだの理由をつけて
﹁貴方もそうだよ、アルシュベイト。たかが機械の分際でさ、偉そうに
﹁││っ⋮⋮
﹁死にかけの全力なんてたかが知れてるよ、エヌラス﹂
ドラグレイスもまた、ムルフェストの拳によって打ち崩される。
また脚部の損害が拡大していた。
ていた。その度に血管から血が爆ぜる。損傷からアルシュベイトも
ラッドソウルは自分の体を駆け巡る魔力の暴走を抑え切れなくなっ
け付いて使い物にならない。心臓の鼓動が重なる度にエヌラス=ブ
ぎこちない動きで再稼働しようとしている。機械部分は殆どが焼
︽││││ギ││︾
﹂
の血をどうにか出来ると思ってた 魔導兵器搭載ってだけあって
!
ただの機械を信仰しているあの国の人達は
﹁そうだなー、ここで貴方を倒したら、次はアゴウに行こうかな。どん
な顔するだろうねー
││﹂
︽││おい︾
﹁││││﹂
踏みしめた。長刀の切っ先をアヴェンジャーに突きつける。
威圧感が、木々を戦慄かせる。大地にすらヒビを入れるその一歩を
気に身を震わせた。
フェストを押し黙らせ、隣にいるエヌラス=ブラッドソウルですら寒
にも留めず、アヴェンジャーを前にして立っている。その怒気はムル
アルシュベイトが、立っていた。長刀を携えて、各部の損傷すら気
︽もう一度、言ってみろ。ムルフェスト︾
ギ、ギ、ギ、ギ││。
︽もう一度言ってみろ⋮⋮︾
?
318
!
︽⋮⋮⋮⋮││││︾
?
俺 を、倒 す
寝 言 を 言 う な ム ル フ ェ ス ト 貴 様 の 眷
︽貴様は今、愚弄した。俺のアゴウを毒牙に選んだ。それだけは、我慢
ならん
!
︾
あの者達の望
俺は、〝輝望〟だ。アゴウで戦う者達の
明日を照らす輝きで在り続けなければならんのだ
︾
だからこそ、ならば
みを曇らせることは、ならんのだッ
﹁││アゴウは、いずれ﹂
︽いずれ滅ぶことは百も承知
!
!
掲げた一刀。
︽貴様の道理など、言語道断ッ
﹂
!! !
︽││││││││││││││
︾
だが、そんなことは起こり得なかった。
と共にこの生涯に終わりを告げよう。
なるか。最も邪魔な障害を排除した後は、気の向くままに世界の滅び
絶望させるのだ。例え昼間であっても人の安眠を邪魔する輩がどう
される。そして、無残に轢き殺される最強の軍神の姿がエヌラス達を
アヴェンジャーの突進によってアルシュベイトの豪剣が弾き飛ば
鉄に敵うはずがない││ムルフェストは確信していた。
大上段よりの打ち下ろし。ただの機械が振るう一刀、超常を纏う鋼
!?
それは彼の魂だった。
︾
﹁ただの機械の分際で、ワタシのペットに勝てるとでも思ってるの
︽││││チェェストォオオオオオオオッ
裂帛の一閃。
!!
もはや愚策を通り越した呆れるほどの単純な一撃。
﹂
その叱咤で、再稼働する。鋼鉄の猛獣が駆け出す。憎悪で、執念で。
﹁生意気を││アヴェンジャー
︾
天上に切っ先を向ける構え││大上段より更に上を行く。頭上に
!
!
あってもこの俺は倒れん
属、貴様の隷属であろうが、例え貴様の真価を発揮する宵闇の手中で
?
!
ても、それを成すからこそ彼はこう呼ばれる。
最強の名に、偽りはない。それがどんなデタラメで荒唐無稽であっ
割。
音を超え、光を超え、更にその先へ往く魂の一撃。無想剣の極致、兜
!!
319
!
護国の鬼神にして鋼の軍神、守護神││アダルトゲイムギョウ界最
強の国王、アルシュベイト。
アヴェンジャーの正面装甲に切っ先が触れるまで、事実、ムルフェ
ストは笑っていた。だが、今はどうだ。間抜けに引きつらせた口をポ
カンと開けたまま閉じることも忘れた間抜け面をしている。││そ
の場に居た全員が呆気に取られていた。
分かるか この俺を突き動かす魂の鼓動
長刀を地面に突き立て、柄頭に手を置く││剣礼。
︽俺は〝勝つ〟のだッ
︾
は、プログラムなどではない
そう││
!
俺の胸を深く穿つ、この衝動こそは、
!
!
に割れる。
︾
そんな滅茶苦茶な理由で、ワタシの血が││
!?
︽││愛ッ
﹁愛
﹂
動きを止めたアヴェンジャーが、アルシュベイトの背後で真っ二つ
!
!!
敗北を認めよ、ムルフェスト
!
吸血姫よ
!!
︾
︽無茶でも滅茶苦茶でもへっちゃらだろうが、この俺の愛国心に敗れ
たのだッ
320
!?
!
e p i s o d e 5 1 R e v e n g e o f h e
art
│ │ い ず れ 〝 コ レ 〟 と、戦 わ な け れ ば な ら な い の だ。そ れ が、ノ
ワールの背中を寒くさせた。
エヌラスも十分メチャクチャだと思っていたが、アルシュベイトは
その上をいく。
〝コレと、決闘だなんて馬鹿げてるわよ⋮⋮〟
ムルフェストもさすがに苦い顔をしていた。アヴェンジャーは完
全に機能を停止している。鏡のように綺麗な断面部からムルフェス
トの血が溢れていく││それは、意思を持って動き出した。
不定形の液体は徐々に形を成していき、やがてフォートクラブの形
となる。鋼の骸より抜け落ちた超常の生命は、憎悪に駆り立てられて
しーらない
も言いたげに血風の中へと身を翻して消え去った。
残されたのは、フォートクラブの群れ。そして、復讐者の怨念。司
令塔を失った途端に、挙動が怪しくなる。今までは統率した動きでエ
ヌラス達に襲いかかっていたが、突然野に放されて混乱状態に陥って
いた。
﹃⋮⋮ガ、エ││シタガエ﹄
より純粋に魔力を扱う形となったアヴェンジャーがムルフェスト
より譲り受けた瘴気を噴出させてフォートクラブ達の装甲の隙間か
ら内部を侵食していく。それはやがて、駆動系から組み込まれている
人工知能を侵し、自らの指揮下に加えていった。最初こそ挙動が固
かったものの、すげ替えられた司令に従い始める。
321
いた。
﹃││ス、ロス││コワ、ス││﹄
﹁ふん、もういいよ。興醒めだよ、ふて寝するもん
じゃ、後始末頑張って﹂
!
遂にはムルフェストでさえも匙を投げる。付き合いきれないとで
!
アルシュベイトに向けて殺到しようとしていたフォートクラブ達
がエヌラスとノワール、ドラグレイスによって蹴散らされた。それに
手を貸せ
﹂
﹂
︾
手間取っているうちにアヴェンジャーがユノスダスへ向けて移動を
始める。
﹁くそ、アルシュベイト
先の一撃で駆動系がイカれた
!
エヌラス、頼めるか││︾
﹂
︽すまんが動けん
﹁早く直せ
︽やっている
﹁ノワール、此処は任せた
!
!
﹂
!?
﹂
︾
!
﹂
!?
朝のラジオ体操よりもな
!
トクラブを横薙ぎに吹き飛ばした。
︽肩慣らしにもならん
︾
機械の身体で⋮⋮﹂
︽⋮⋮してはならんのか
﹁するの
﹁するのか、ラジオ体操⋮⋮﹂
!
ラックハートはフォートクラブを翻弄するように飛びながら大剣で
不思議そうに首を傾げるアルシュベイトを余所に、ノワール=ブ
?
︾
が復帰する。長刀を地面から抜き放ち、感覚を確かめるようにフォー
最低限の破損箇所を自動修復プログラムで治したアルシュベイト
︽修復完了だ、ぬぅんッ
﹁う、うるさいわよアナタ達
﹁しかしヤることはしっかりヤってるのは本当だったようだな﹂
︽うむ。上出来だ︾
さいよエヌラス
﹁まったく、もう。本当、勝手に突っ走るんだから、後で覚えておきな
ラブを両断した。
改めて驚きながら、女神ブラックハートは大剣を振るってフォートク
ノワールはシェアクリスタルを展開して変身する││その実感に
て走りだしていた。
引き止める間もなくエヌラスは既にハンティングホラーを召喚し
るわよ
﹁え、えぇ そんな身勝手⋮⋮って、今更よね。いいわ、やってあげ
!
!
!
!
!
322
!
?
沈黙させていく││。余談だが、各関節の稼動チェックの一環として
アゴウではラジオ体操が運動メニューに組み込まれている。
一連の騒動はユノスダスでも確認していた。ネプテューヌ達が途
方に暮れながら街を歩いているとユウコが空から落ちてくる。だが
エヌラスについて行かなかった
華麗に着地すると、三人に会釈する。
﹂
﹁わっしょい。どうしたの三人共
の
﹁それがぁ∼⋮⋮﹂
﹁うん、三馬鹿
ドラグレイスは融通効かないし、アルシュベイトは
言える八重歯が覗く。
るのはユウコただ一人だ。腰に手を当てて笑うと、トレードマークと
最強と破壊神と傭兵の三人をまとめて馬鹿呼ばわりされて許され
﹁さ、三馬鹿⋮⋮﹂
﹁積もる話は、あの三馬鹿が戻ってきてからだね﹂
﹁聞きたいことも沢山ありますし⋮⋮﹂
げでこっちも大変なのに﹂
りも、なんで肝心なことは何一つ話さないのかなぁエヌラスは。おか
﹁そうそう。エヌラスのせいだから私達は気にしてないよー。それよ
﹁いえ、ユウコさんが謝ることじゃないですよ﹂
﹁なんかごめんね、面倒なことになってて﹂
うんうんと我が身のように頷くユウコ。
﹁あー⋮⋮そういうところあるからねぇアイツ﹂
﹁置いていかれちゃいました﹂
﹁エヌラス、なんか怒ってたんだよねー﹂
?
知らぬ顔で﹁だからなんだよ
﹂みたいな態度だし。もー、腹立つ
以前なんて人がご飯作ってあげたのに黙々と食べてたんだよ
あ∼思い出すだ
!
?
!
けでも腹立つ∼、人がどれだけ頑張って作ったと思ってんだあんにゃ
美味しいとかなんか一言あってもいいのにさー
!
して私があっちこっち後始末に駆り出されるし。そのくせ自分は素
戦闘以外であまり役に立たないし││エヌラスは来る度に問題起こ
!
323
?
ろめー
ムキー
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
﹂
え、あー⋮⋮今の話、忘れて
﹁え、えっと⋮⋮ユウコさん
﹁││へっ
ヌラスのこと好きなの
ない。
﹂
﹂
﹁だってさ、ほらアイツって甲斐性なしなところあるじゃん
食生活なんてグッダグダだし生活リズムなん
戦闘行為禁止って言ってるのに平気な顔で町の
!?
てクソみたいに不安定だし、不器用なくせに人のこと気遣うし
中で銃ぶっ放すし
!
キショー
見るなー、私をみるなー
みゃー
!
﹂
﹁あははは⋮⋮はは⋮⋮あの、えっと⋮⋮え、ええい何見てんだコンチ
﹁じと∼⋮⋮﹂
﹁じ∼⋮⋮﹂
﹁じー⋮⋮﹂
も、もーなんだって感じだよねぇあの野郎、あははははは⋮⋮││﹂
!
難いクズじゃん
度し
声が裏返っていた。慌てて顔を赤くしながら否定するが説得力は
!?
?
﹁好││好き、ってわけじゃないよぉ
﹂
﹁なんかやけにエヌラスだけ具体的に言ってたけど⋮⋮もしかしてエ
!
!
!
!
⋮⋮﹂
ヤーカッターを八基、まるで触手のようにくねらせながら。その姿は
フォートクラブ、アヴェンジャーが咆哮する。その頭頂部からはワイ
と、そ の 時 だ。ユ ノ ス ダ ス の 城 壁 が 崩 れ た。魔 導 生 命 体 と 化 し た
れる。そこだけは、本当に、本っ当にそこだけは、信頼してる││﹂
﹁うん。自分のことなんて簡単に投げ出して、命懸けで助けに来てく
﹁そうなの
﹂
﹁⋮⋮ で も。ア イ ツ さ、誰 か を 守 る っ て こ と だ け は 本 気 な ん だ よ ね
目になっていた。
ても隠し切れないボロが駄々漏れである。あまりの恥ずかしさに涙
真っ赤になりながらユウコがフライパンで自分の顔を隠す。隠し
!
?
324
?
?
!
もはや蟹というよりも蜘蛛のようだ。その足元を抜けて立ちはだか
るのは、血を滴らせながらレイジング・ブルマキシカスタムの引き金
を引くエヌラス。
マグナム弾は血液の凝固体であるアヴェンジャーの身体を突き抜
ける、だがそこに一切のダメージは見られない。物理攻撃は無駄だろ
う。アレは魔法で倒す他にない。
人々が悲鳴を上げて逃げ惑う、そこにユウコはどこからかメガホン
避難場所はあっち 走って
を手にして大きく息を吸い込んで高い所から声を張り上げた。
﹃コラー、勝手に逃げるな市民諸君
キビキビ動く、はいそこ
いいけど押さない喋らない
お年寄り
!
!
!
﹂
達はエヌラスの元へ駆け出した。
﹁エヌラス、大丈夫
﹁ビンビンの間違いじゃなくて
﹂
﹁見りゃ分かんだろうがピンピンしてる
!?
﹂
!?
向ける。
﹁避けろ
﹂
﹂
エヌラスは防御を仕損じて地面を転がる。
プテューヌ達に襲いかかった。なんとか防ぐネプテューヌだったが、
尾弾を発射する魔法陣を浮かび上がらせて赤い軌跡を描きながらネ
六連装レーザーランチャーは見る影もない。だが、それは魔法の追
﹃コロォォォォス
﹄
うに出来ていた。アヴェンジャーが新手を確認して、両手のハサミを
垂れている。服も黒いせいか目立たないが、ドス黒いシミが斑点のよ
冗談を言っている場合ではないのは一目瞭然だ。口端からも血が
﹁まさかの事案発生
﹂
﹁テ メ ェ あ と で 素 っ 裸 に ひ ん 剥 く か ら な 覚 悟 し と け よ ネ プ テ ュ ー ヌ
!
!
導に従って商店街方面の大橋に向かう。それとは逆に、ネプテューヌ
あらぬ方向に走り去ろうとしていた人々だったが、ユウコの避難誘
大人は子供の面倒見る、抱えて走れー
には手を貸してあげなさい
﹄
!
!
!
325
!
!
!
﹁エヌラス
﹁││ッ﹂
﹂
倭刀を握る手が震えていた。血が足りなくなってきている。指先
の感覚が薄れていた││だが、それでも立ち上がる。拳を地面に打ち
付けて、身体を押し上げ、幽鬼の如く形相でアヴェンジャーを睨む。
銃を撃つだけの力はない。だが、手に馴染んだ倭刀を構える。
八基のワイヤーカッターが打ち据えられる。先端部は音速を超え
て不規則な軌道を描いて地面を爆砕した。その破片に身体を殴打さ
れても、エヌラスは気にも留めない。ネプテューヌとネプギアが取り
付いて剣を振るうも、まるで水を殴ったかのような手応えに歯が立た
デ ィ グ・ ミ ー・ ノ ー・ グ レ イ ブ
ない。それを鬱陶しく思ったのか、アヴェンジャーが口を開いた。
﹂
魔砲陣││﹃我、埋葬にあたわず﹄が二人を吹き飛ばす。
﹁ハンティングホラー
べったりとした血糊に、背筋が凍る。
﹁││は、クソ⋮⋮手間かけさせんじゃ、ねぇ⋮⋮
!
位が崩れ、再生しようとしていた。
﹂
破 壊 の 紅 〟がアヴェンジャーの目を蒸発させる。赤黒く変色した部
デッド・クリムゾン
ド ソ ウ ル を 叩 き の め す。そ れ で も、折 れ な い。砕 け な い。〝
六連装魔法陣が、ワイヤーカッターが、魔砲陣が、エヌラス=ブラッ
て歩む背中。
ボタと血を垂らしながら、それを振り払ってアヴェンジャーに向かっ
ヌラスの血だ。ネプテューヌを庇って、さらに傷が開いている。ボタ
ている。真っ赤に染まった自分の手を見て、服を見て、それが全てエ
そんなはずがない。とうに失血死してもおかしくない量の血が出
な。 変 神﹂
トランジション
﹁ん だ よ そ の 情 け な い 顔 は。そ う 簡 単 に く た ば ら ね ぇ か ら 心 配 す ん
﹁エヌ、ラス⋮⋮﹂
﹂
トライクで自分を撃ちだしながら抱き留めて庇った。
ホラーが救助する。ネプテューヌの身体を、エヌラスはアクセル・ス
建物に叩きつけられそうになるネプギアを辛うじてハンティング
!
﹁なぁおい、どっちでもいいから魔法使えねぇか
?
326
!?
﹁か、回復魔法ならできます﹂
そ ん な 怪 我 し て た ん じ ゃ 死 ん じ ゃ う っ て
﹁必要なのは回復じゃなくて攻撃魔法なんだよなぁ⋮⋮﹂
﹂
﹁回 復 の 方 が 必 要 だ よ
﹂
﹁で
って││そんな他人事みたいに﹂
俺は〝その程度〟で守
?
えよ、ねぶた祭﹂
﹁もうそれ名前とカスってすらないよ
﹁間抜けな語感そっくりじゃねぇか﹂
がなかった。
﹁魔法││そうだ
﹂
﹂
ケッケッケと笑うエヌラス=ブラッドソウルだが、その表情に余裕
!?
らとは、何が何でも笑顔でお別れだ。ここまで来たらとことん付き合
難いクズと呼ばれようがなんだろうが、俺は〝諦めねぇ〟ぞ││お前
がある。俺のようなクソみてぇな野郎でもそれぐれぇ出来る。度し
﹁命懸けだから、面白いんじゃねぇか。命懸けで守れるからこそ、価値
た猛獣の笑み。
エヌラス=ブラッドソウルが血を拭いながら笑った。狂気を秘め
れるもん、守る価値すらねぇと思うがな﹂
大事にして、守れるもんがなんかあんのか
﹁だから、どうした。それがなんだよ、ネプテューヌ。手前の命を後生
﹁⋮⋮で
!
﹂
!
ドソウルは握りしめてアヴェンジャーに歩み寄った。その隣に、プル
ボロボロの手で、髪を撫でる。宝玉を受け取り、エヌラス=ブラッ
﹁││ありがとな、ネプギア﹂
思って持ってきたんです。使ってください
﹁私 達 の 世 界 に 落 ち て た み た い で す け ど、多 分 エ ヌ ラ ス さ ん の だ と
﹁お前、どこでこれ││﹂
﹁エヌラスさん、これを﹂
力││。
中では炎と氷が渦巻いている。マジェコンヌが拾ったと言っていた
ネプギアが思い出したようにポケットから宝玉を取り出す。その
!
327
?
?
!
﹂
ルートが並ぶ。
﹁ん
﹁あたしもぉ、混ぜてほしいな∼﹂
﹁頼りにしてるぜ、プルルート﹂
ピシッ││。
エヌラス=ブラッドソウルの手の中で宝玉がひび割れる。
││あの日、失った〝能力〟の一つだ。
﹁まずは、一つ﹂
宝玉が砕け散る。その中から溢れだした炎と氷が二重螺旋を描き
レ プ リ カ
ながらエヌラス=ブラッドソウルの身体を焼きつくし、凍てつかせ
る。
﹂
﹁こんな模造品ぶっ放す必要もなくなったぜ││なぁ、クトゥガ、イタ
カ
ク
トゥ
ガ
炎の獅子が、氷の翼竜がエヌラス=ブラッドソウルの手中に収まっ
イ
タ
カ
デッド・ブランク
て い き、銃 と な っ て 顕 現 す る │ │ 深 紅 の 自動式拳銃。白 銀 の
イア・クトゥガ
﹂
回転式拳銃。それは、今まで使っていた紅 & 白とは一線を画するほ
どの熱と冷気を放っている。
フ リー ク
﹁こいつ喰らって平気な化け物はいねぇぞぉ
!
して、沸騰している。
﹃GGGGYYYYYY
﹄
ジャーの左顔面を消し炭にした。それは再生すら敵わないほど蒸発
出し、撃ち出された灼熱を纏う弾丸は再生しようとしていたアヴェン
深紅の自動式拳銃が爆ぜた。マズルフラッシュが爆炎の如く噴き
!
﹂
!
弾点から氷が広がり、それは完全に凍結して動きを止めた。凍りつい
い、空気を凍てつかせながらワイヤーカッターの基部を直撃する。着
白銀の回転式拳銃から装填数六発、全弾放たれた弾丸は冷気を纏
﹁風に乗りて疾走れ、イア・クタカ
﹁あらぁ、化け物のくせにいっちょまえな悲鳴あげるのね﹂
た。
らがプルルート=アイリスハートの蛇腹剣で逃さず軌道を逸らされ
奇怪な雄叫びを挙げながらワイヤーカッターが振り上げられ、それ
!!!
328
?
!
た基部に向けて鞭となった剣を振るうと、それはあまりにも呆気なく
落としたガラス細工のように砕け散って再生することはなかった。
329
e p i s o d e 5 2 作 戦 完 了。各 自 日 常 へ 帰 投 せ
よ││
撃ち切った弾倉を交換しながら、エヌラス=ブラッドソウルはア
ヴェンジャーの動きを注視する。どこかにあるはずだ。魔導生命体
の核が││だが、何処にも見当たらなかった。面倒な、舌打ちを漏ら
﹂
おいユウコォ
﹂
してプルルート=アイリスハートに目配せする。
﹁どうするつもり
﹁面倒くせぇ、消し飛ばす
!
﹂
﹂
!?
﹂
イリスハートに援護してもらう必要があった。
﹂
﹁アイリス、こっち来い
﹁はいはい、なに
ジャーだが、まだハサミの六連装魔法陣と呪法兵装は健在である。砲
片 目 を 失 い、ワ イ ヤ ー カ ッ タ ー も 残 る は 二 基 と な っ た ア ヴ ェ ン
﹁ふぅん、面白いことできるのね﹂
﹁しばらくアイツの足を止めてくれ﹂
感心して、一振りすると空気との摩擦で炎が舞い上がった。
つ蛇腹剣にクトゥガの力を分け与える。剣が炎に包まれ、驚きながら
口訣を結び、五芒星を描きながらプルルート=アイリスハートの持
!
!
﹁力を与えよ││力を与えよ、力を与えよ││〝魔刃鍛造〟
﹂
一撃は洒落にならない。その分、隙もある。その間にプルルート=ア
されるが、魔法攻撃ならば通用する││しかし、これから自分が放つ
ルは暴れ狂うアヴェンジャーに偃月刀を構える。物理攻撃は無効化
断固抗議しようとしたユウコを無視して、エヌラス=ブラッドソウ
﹁││はいぃぃぃぃぃっ
﹁街の一区画消し飛ばす、許せ﹂
﹁なーにーさー
が屋根から屋根に飛び移りながらメガホン片手に答えた。
避難誘導に手を貸して、ひと通り市民を安全圏に追い出したユウコ
!
?
?
330
!
撃が吹き荒れ、だがプルルート=アイリスハートの蛇腹剣がその魔法
を焼き払う。飛びかかる蛇の如く突き伸ばした切っ先が右の魔法陣
﹂
を貫き、手元を回転させるとかき回すように焼き尽くした。ジュウ
﹂
ジュウと血液が沸騰して溶解していく。
﹁あっはははは、いいわぁコレ
﹁うわぁ、ぷるるんノリノリだぁ⋮⋮﹂
﹂
試してもいいかしら
!
絶対ダメー
﹁ねぷちゃん達に使いたいくらいよ
﹁ひぃぃ、ソレは駄目
!
!
!
もしかして私地雷踏んだ
﹂
!?
一本の棒状の物質へと再構築された。
ヘリクス・カノン
﹁消・し・飛・べェェェェェェ、〝螺旋砲塔〟神銃形態ッ
﹂
る。やがて、三日月状に歪んだ刃を持つ偃月刀は杖とも砲ともつかぬ
魔術士の杖であり、剣でもある偃月刀に力を注ぎ込んで掴み上げ
厳の白、紫電の青││。
紫電を迸らせる。熱と氷、そして雷││三種の神器。暴力の紅、冷
げる〟には。
りない。燃え盛る劫火と焼けつく霧氷を絶対破壊の破壊に〝鍛え上
矛盾の相反する属性は一つとなる。だがそれでは足りない。まだ足
光に包まれ、粒子となって混ざり合い、食らい合い、融け合い、絶対
乾いた風が吹いた。冷気を帯びた風が吹いた。両手の二挺拳銃が
力が紫電となって周囲に迸った。
〟する。〝銀鍵守護器官〟にありったけの魔力を叩き込み、溢れる魔
荒れ狂う灼熱と吹き荒ぶ吹雪の唸りを想像する││それを〝創造
﹁││││﹂
のとする。
ンして意識を研ぎ澄ませる、その際に自分の身体は気にも留めないも
魔力の精製、精錬には集中力を使う。外部の情報を一切シャットダウ
エヌラス=ブラッドソウルは偃月刀を召喚して地面に突き立てる。
﹁地雷踏んだ
﹁あたしって、駄目って言われるとやりたくなるのよね⋮⋮じゅるり﹂
!
パンパパンとマヌケな音を鳴らしながら全身の毛細血管が悲鳴をあ
鮮血が溢れた、魔力の余波で爪が剥がれ落ち、血管が幾つも爆ぜた。
!
331
!?
げる。その小さな、だが命に関わる身体の危険信号すら黙らせる膨大
な魔力が、ただただ破壊した。破壊の限りを尽くした。物質の存在を
赦さない残酷な閃光となって魔導生命体と化したアヴェンジャーの
存在を否定し尽くす。
戦禍の破壊神││その一端をネプテューヌ達は垣間見た。そして
思い出す。バルド・ギアのアレは警告だったのだ。
結局のところ、エヌラスは破壊神でしかない││誰を救おうと、誰
を助けようとしても彼は障害を破壊することでしか救えない、助けら
れない。
一言一句、エヌラス=ブラッドソウルは宣言通りにユノスダスの一
区画ごとアヴェンジャーを消し飛ばした。それは焼きつくされ、凍て
つかせて、炎と氷が融け合い、混ざり合った奇妙な破壊の痕を残して
いる。まぁ結局のところ瓦礫すら残さない焼土となっていたのだが。
なんだよ、消し飛ばすって言ったじゃねぇか﹂
﹁知るか。人的被害出なかっただけ感謝しやがれ﹂
ポタポタと落ちる血を見て、エヌラスが口をへの字に曲げる。
﹁替えの服、持ってねぇんだよな⋮⋮﹂
332
﹁⋮⋮すっご⋮⋮﹂
ネプテューヌが呆然と呟く。
﹁これが、エヌラスさんの全力⋮⋮﹂
ネプギアは呆気に取られていた。マジェコンヌが使っていた時と
は桁違いの威力を見せるその破壊神の一端に、固唾を飲み込む。
これならば、或いは││あの最強も⋮⋮そう考えていた矢先に、ユ
キミね││﹂
ウコがズカズカと肩を揺らしながらエヌラス=ブラッドソウルに大
股で歩み寄った。
﹁ちょっと、エヌラス
﹁あん
シャツも焼け焦げている。その下に覗く肩も、腹も、血に濡れていた。
をかき上げていた。羽織っていたコートはボロ布のように破れ、黒い
そして、口を押さえる。変神を解いたエヌラスが、血の固まった髪
!
﹁││││許可、してない、よ⋮⋮﹂
?
﹁買えば、いいじゃん⋮⋮﹂
胸を抑え苦しそうにするユウコの額に脂汗が滲む。││ソレは、ダ
メだ。イケナイことだと分かっている││だけど、抗えない。手を伸
ばそうとして、ユウコは身体を竦めた。
﹂
﹁金がねぇ。未払金の返済もあるしな、無駄遣いは避けたい﹂
﹁それぐらい││出すよ、立て替えとく、からさ⋮⋮
﹁⋮⋮ユウコ、我慢すんな﹂
ボロボロと大粒の涙を零しながら、頭を振る。見るのも、嗅ぐのも
駄目だ。臭いを覚えちゃダメだ。エヌラスの血を見て、吸血衝動を必
死に抑えこむユウコが息を荒くしながら首を振った。
この人は、こんなにも傷だらけで頑張ったのに自分は更に追い込も
うとしている。
ノワール達もフォートクラブを撃退したのか、戻ってきた。そし
て、ユウコの様子がおかしいことにアルシュベイトとドラグレイスが
気づいて走りだす。
﹁知ってんだろ。今日の俺が絶不調だって。死ぬかもしれんって言っ
たじゃねぇか﹂
﹁死んじゃ、ダメだよ﹂
﹁││お前にゃ、苦労ばっかだ。迷惑ばかりだな⋮⋮﹂
フラリと傾く身体が、ユウコに預けられた。その首筋から視線が離
れない。芳醇な血の香り││。
﹁だからよ、これぐれぇしかお前にしてやれなくて││ワリィな⋮⋮
ちっと、寝るわ。疲れた⋮⋮﹂
﹁ァ││││││﹂
頭の中が白く染まる。口を開けて、牙を突き立てようとして│││
│
突き飛ばされた。尻もちを着いて、その鼻先に大剣が突きつけられ
る。
意識を失ったエヌラスをアルシュベイトが抱え、ドラグレイスはユ
ウコに剣を向けていた。
﹁⋮⋮国民の不安を除け、ユノスダス国王。今はそれどころではない﹂
333
!
︽こちらの事後処理は引き受ける。早く行け、ユウコ⋮⋮︾
﹁⋮⋮ッ││││﹂
涙を流し、口元を拭いながらユウコは走り去っていく。それは吸血
何か、様子が⋮⋮﹂
鬼であることを包み隠さない超人的な速度で。
﹁ユウコさん、どうしたんですか
︽⋮⋮吸血衝動だ。アレは吸血鬼でな、ユノスダスが完全非戦闘区域
とされている要因でもある。太陽を克服した吸血鬼ではあるが、不完
全でな。どうしても性分は抑えられん時がある︾
そういえば、と思い出す。ユウコは昼食を用意してくれたが、あま
り箸が進んでいなかった。食べているエヌラスを見て一喜一憂、それ
が彼女の食事。だが吸血鬼と言えど、栄養は必要だ。
︽スマンが、預けるぞ。俺は城壁の復旧及び破壊された区画の復興作
業に取り掛かる︾
﹁ならば、俺は物資の運搬だ。部下共を使え、アルシュベイト﹂
︽感謝するぞ、ドラグレイス︾
﹁だが、貴様との共闘はそこまでだ。忘れるなよ﹂
アナタ、最後まで面倒みなさいよ
︽百も承知。いつなりとも刃を交えよう︾
﹁ちょ、ちょっとアルシュベイト
﹂
め、静かに拳を作る。鋼鉄の肌は痛みもない、感覚がない。
︽俺の身体は人を救うために作られていない。俺は、戦うための身体
をしている。この腕も、この脚も、戦うためだけの身体だ。この身を
盾に、剣を振るう。俺の身体はな、ノワール。人を救うために造られ
てはいないのだ││︾
背を向けて、アルシュベイトは崩れた城壁へと歩き出す。そこは〝
螺旋砲塔〟神銃形態によって綺麗に穿たれていた。いまだ収まらぬ
熱と冷気に触れて、異常値を叩き出す残滓にアルシュベイトは笑う。
︽一つ取り戻して、コレか、エヌラス⋮⋮全て取り返したお前に、果た
して俺は勝てるかな⋮⋮否、勝つのだったな。貴様と魂の鎬を削り、
その果てに俺は││︾
334
?
!
呼び止めようとするノワールに、アルシュベイトは己の手を見つ
!
﹁││ック、ひぐっ⋮⋮最低、最っ低⋮⋮わたし⋮⋮
の血の色を。
﹂
﹁ヒクッ⋮⋮えぐ⋮⋮ぐす。仕事、仕事しなきゃ⋮⋮
長い一日は終わりを告げる。
﹂
フォートクラブ生産工場制圧作戦は、終わったのだ。ユノスダスの
頭する。
鼻を啜り、涙を拭い、泣き腫らした目蓋を擦ってユウコは職務に没
﹂
覚えてはいけない、思い出してはいけない││その血の臭いを。そ
エヌラスを⋮⋮。
れたら間違いなく死ぬ。そうだと知っていたのに││自分は、危うく
殺しそうになった。あれだけの血を流しておきながら、更に血を吸わ
分が憎い。ああする以外にこの国を救えなかったと知っていながら、
憎い。自分が憎い。助けてくれたはずの人を殺しそうになった自
﹁う、うぅ⋮⋮あぁぁぁああああ
余していた資材がようやく陽の目を見る。
それを見越していたわけではないが、それによってユノスダスで持て
が回る、経済的には少し痛手を追うが、活力を得られる。エヌラスは
ものは直せばいい。そうして物資がまた流れていけば人も動く。国
区画を犠牲にしたとは言え、人的被害は誰一人出していない。壊れた
ユウコは教会に戻るなり、部屋に引きこもった。エヌラスは町の一
!
!
長い、長い一日だった││それでもまだ、世界は終わりに向かって
回り続ける。
335
!!
第五章 サードステージ
episode53 仕事に懸ける情熱は給料分
││破壊されたユノスダスの一区画には幸いこれといった重要施
設は存在しなかったものの、そこは居住区も兼ねており、住む家を
失った人々は当面の生活を宿で過ごすこととなる。その生活保護の
為にある程度の生活費用免除というユウコの計らいで不満は解消さ
れたが、やはりそれでもエヌラスに対する不信感は拭えない。
連日の戦闘、切り札の連続使用、更には体調不良からの最大火力。
魔力の制御にいくつかの失敗を残してエヌラスは気絶した。その意
識はユノスダス中央病院に担ぎ込まれてから、まだ戻っていない。
そんな無理も無茶も無謀も分かっていたのに、エヌラスはフォート
クラブ生産工場制圧作戦並びに魔導生命体アヴェンジャーの破壊を
成功させた。その代償に己の身体を犠牲にして。だが、珍しくもない
たわったまま意識が戻る様子はない。驚異的な回復速度も病院の医
者からすれば慣れたものらしく、唾つけておきゃ治るとまでは言わな
かったが﹃一週間もすれば目を覚ますでしょう﹄と、若干投げやり気
味に言っていた。だが、それとこれでは話が別問題だ。今も輸血と点
滴に繋がれてエヌラスは目を覚まさない。
詳細を尋ねれば、どうやら全身の魔術回路の暴走と過労が原因らし
身体の不調そのものは
い。それによる毛細血管の過負荷が出血多量とその他の怪我を引き
起こしたとは医者の話。
﹃彼、ろくに寝てなかったんじゃないかな
の綱渡りも当然だよ。まぁ、お大事に﹄
だいぶ前からのようだし、そんな状態から徹夜で魔法の制御なんて命
?
336
ことだ。誰かを守る時に自分の命を投げ出すことは、眠っている男に
とって〝普通〟なのだから。
﹂
怪我も治ったんでしょ⋮⋮﹂
﹁エヌラス、まだ意識が戻ってないんだって
﹁もうあれから三日よ
?
ネプテューヌ達が様子を見に来るも、エヌラスは病院のベッドで横
?
担当した医者はエヌラスのことをよく知っているらしく、病院に担
ぎ込まれた時も驚くどころか呆れていた。それはもう、またお前かと
でも言うように。
﹁ちょっとぉ∼、心配かなぁ∼⋮⋮﹂
今はユウコの配慮で宿代〝のみ〟免除という形で世話になってい
るが、それでもやはりこのユノスダスにおける基本理念﹃働かざるも
の食うべからず﹄は曲げるつもりがないのか食費に関しては自分達で
稼ぐ他になかった。
﹁もうこんな時間ね。私はバイトに行かなきゃ⋮⋮﹂
﹁あ、私もお手伝いに行かないと﹂
﹁あ∼あ、ノワールは喫茶店、ネプギアは電気屋さんでバイトだもん
ねぇ⋮⋮私も何かお仕事しないとダメかなー、こっちじゃゲームも出
来ないし﹂
病 院 の 廊 下 で 落 ち 込 み な が ら 歩 く ネ プ テ ュ ー ヌ の 隣 を 歩 く プ ル
337
ルートですら得意の裁縫でぬいぐるみを編んでいる。本人もそれは
楽しいのか、つい先日は部屋の中がぬいぐるみだらけになっていた。
ついつい夢中になって部屋から抜け出せなくなるほどの量、どうやっ
て材料を用意したのかまでは敢えて聞くまい。
﹁う∼ん、ぷるるんもぬいぐるみで生計立てちゃってるしな∼⋮⋮﹂
﹂
﹁ノルマ分作っちゃったからぁ、しばらくは楽できそうなんだぁ∼﹂
﹁⋮⋮もしかして私だけ手に職つけてない
事の大半を請け負っている以上、ネプテューヌが手助けしても貞操の
現時点でその仕事の稼ぎは中々見込めない。そも、傭兵部隊がその仕
アルシュベイトとドラグレイスという二重の障壁が存在する以上、
ねー⋮⋮﹂
﹁変 身 出 来 る ん だ っ た ら ち ょ ち ょ い の パ パ っ と や っ ち ゃ う ん だ け ど
で稼いでもいいんじゃないかなぁ∼って思うんだぁ﹂
﹁でも、モンスター退治とかぁねぷちゃん得意そうだし∼⋮⋮そっち
?
﹂
!?
危険しかまとわりつかなかった。
﹂
そこな美少女、お困りかね
あ、司会者
!
﹁ハァイ
﹁ねぷっ
!? !!
﹁ねぷちゃーん、病院では静かにしないと怒られるよぉ∼
はずさないのかと。
﹁だったら、うちの番組でアイドルやらない
﹂
大丈夫、夜の営業とか
しろどうやって生きているのかということと、意地でもサングラスは
身包帯まみれではあるが、その身体からはやる気が衰えていない。む
すれ違う看護師達に睨まれて司会者がヘコヘコと頭を下げる。全
?
ますぅぅぅ﹂
﹁あ、司会者さん
ネプテューヌちゃんならアイドルで
﹂
まったくもう、勝手に病室抜け出さないでくださ
のもきつそうなんだよぉぉぉ⋮⋮ゴフッ⋮⋮だからぁぁぁお願いし
﹁実はこの間欠席したゲストさんが思いの外重傷で来週の番組に出る
るのか逆に気になるんだけどー﹂
﹁えと、なんでそこまでの執念で私をアイドルデビューさせようとす
きるよ大丈夫だよ頼むよぉぉぉぉぉ⋮⋮
てくれるだけでもいいから
﹁街中食べ歩きインタビューとか、ちょっとしたコメンテーターやっ
﹁う∼ん⋮⋮﹂
無いから。お昼のバラエティだし、ヘーキヘーキ﹂
?
﹁名刺、名刺だげでぼぉぉぉぉろろろろろろ⋮⋮
せー。何名様でしょうかー﹂
﹂
﹂
﹁う る さ い わ ね。い い か ら 水 飲 ん で な さ い よ。あ、い ら っ し ゃ い ま
﹁え∼、ケチィ﹂
﹁嫌に決まってるでしょ。でもアナタだけ仕事してないのは確かね﹂
ン一つね。もちろんノワールの奢りで﹂
﹁ほらー、こういう時ってやっぱ友達に相談するものじゃん。あ、プリ
﹁アナタね、人のバイト先にまで相談しに来たの
﹁││って、いうことなんだけどね。どう思うかな、ノワール﹂
者を冷や汗を流しながら見送ってネプテューヌは病院を後にした。
のは、笑えばいいとも番組スタッフの名刺。病室に連れ戻された司会
もはや執念で看護師の手からすり抜けて患者服から差し出された
!!
?
338
!!
!
い。ほらー、血なんて吐いて汚さないでください﹂
!
喫茶店の制服を着こなすノワールは楽しそうに接客している。そ
の制服というのも、シャツにベスト、そして黒のスカートと地味なが
らも、よく似合っていた。店のマスターも年代を感じさせるいぶし銀
な落ち着いた風格を見せており、シックにまとめられた店内は気が引
き締まる。
﹁あぁ∼、新しい店員さん。心がぴょんぴょんするんじゃ∼﹂
﹁⋮⋮あの人コーヒーだけで何時間粘ってるんだろ⋮⋮﹂
確か今朝、エヌラスの見舞いに行った時も店にいたような気が⋮⋮
いや、多分気のせいだ。そういうことにしておいた。
﹂
﹁は い、注 文 の プ リ ン。感 謝 し な さ い よ。私 の 友 達 っ て こ と で オ ー
アイドルデビューとかするの
﹂
ナーさんがサービスだってさ﹂
﹁おー。ありがとう
﹁それで、どうするの
な ん か そ う い う の
?
﹂
持ち歩いてるわけないでしょ
携帯持ってない
﹁仕事中よ
﹂
﹁よーっし、そうと決まれば早速事務所に電話してみるね。ノワール、
んじゃないかしら﹂
﹁メタいわねぇ⋮⋮ま、アナタが働くようなら余裕も出てくるしいい
だからノーカンノーカン﹂
どっかで聞いたことあるような気がしないでもないけど、ゲームの話
﹁超 次 元 ア イ ド ル 目 指 す の も 悪 く な い か も ね
?
!
に行って来るね
名刺忘れてるわよ
﹂
!
まったくもう、
プリンごちそうさまー、オーナーさん
﹁あ、ちょっとネプテューヌ
落ち着きないんだから﹂
!
カメラを向けられて、大勢の前でいつもと変わらない
調子が出せるならきっと性分だろう。はいこれ、四番のお客さんに﹂
﹁そうかね
﹁そんな大層なものじゃないですってば﹂
テレビで見た時から人を集める才能はあると思っていたよ﹂
﹁ははは、ノワールちゃんのお友達は元気一杯だね。まぁ、彼女は私も
ノワールは呆れながらも、その行動力にだけは感心する。
!
339
!
!
?
!
﹁あー、だよねー⋮⋮真面目なんだからぁ。こうなったら直接事務所
!
?
﹁あ、はーい
﹁とやー
﹂
﹂
うか司会者さんの名刺に載っていた事務所前
ね
ここで合ってるよ
というわけで到着したよ、笑えばいいともスタッフとい
で対応してくれた。
ルの多少無茶な注文にもある程度の条件付きとはいえ賃金を日払い
とはいえオーナーも人が良く、この国の方針に則っている。ノワー
﹁は、はい⋮⋮変な客も多いのね⋮⋮﹂
﹁彼は常連なんだ。いつもああだから気にしないでくれ﹂
﹁⋮⋮あの、オーナー。あのお客さんは﹂
﹁あぁ⋮⋮心が⋮⋮心がピョンピョンする⋮⋮んご⋮⋮﹂
﹁では、ごゆっくりどうぞー﹂
ブルで待つ客の元へ注文の品を置いて一礼して伝票を置いた。
コーヒーとケーキのセットをトレーに載せて、ノワールは四番テー
!
﹂
﹄みたいな顔をするも、思い当たったのか大声
?
不在という状況に頭を悩ませていたのだ。
!
﹁き、君はネプクァエふじこ││﹂
誰か、誰か早く救急車ー
!?
﹁ネプテューヌだよー
﹂
﹁えーっと、確かネプチューヌちゃん﹂
切る人はじめて見た⋮⋮﹂
﹁う、うわぁ⋮⋮私の名前、言いにくいって人は一杯いたけど舌を噛み
﹁ああ、カメラマンが舌を噛み切った
﹂
中々進まないからロケが自然と町の中になるのだが肝心のゲストが
を張り上げる。意気消沈していた、というのもスタジオの復旧作業が
させて一瞬﹃え、誰
扉を開け放つネプテューヌ。中にいたスタッフの数名が目を白黒
﹁たのもー
た汚れはなかった。
びついてはいたものの、それでも一応の掃除はされているのか目立っ
ヌは合っていることを再確認してから事務所の階段を登る。多少錆
名刺に書かれている住所と、事務所の名前を確認して、ネプテュー
!
!
!
!
340
?
﹂
﹂
﹁ネプテュースちゃんね﹂
﹁わざと噛んでない
﹁失礼、かみまみた﹂
﹁やっぱりわざとじゃん
が快く承諾してくれた。
そんなアッサリ
?
た
橋の上から人喰いクロコダイルの群れの中にうっか
今の撮れた
ねぇ
﹄とか笑顔で聞いてきたけど。無傷で﹂
﹁一昨年だろ。まぁあの人サングラス片手にガッツポーズして﹃撮れ
あれ﹂
り足滑らせて落ちたの。放送禁止レベルの大惨事で大騒ぎになった
﹁いつだっけ
﹁生きた超常現象だもんな⋮⋮﹂
﹁なんで毎回生きてるんだろうなあの人⋮⋮﹂
﹁ああ。頭おかしいけど⋮⋮﹂
﹁あの人結構ぶっ飛んでるけど仕事は真面目なんだよな⋮⋮﹂
し﹂
﹁そりゃー、司会者さんが良しって言うなら俺達が口を挟む余地ない
﹁え、いいの
﹂
ネプテューヌはスタッフ達に病院での出来事を話す。すると、全員
!
!?
!?
!?
法薬物の不法投棄が原因であるがエヌラスは知る由もない。
﹁え、えーっと。私、お昼のバラエティ番組としか聞いてないんだけど
なー⋮⋮やっぱやめようかなー⋮⋮﹂
ちょっとしたハ
﹁安心してネプテューヌちゃん。そんなバカげた収録するのは司会者
﹂
さんが主演の時だけだから﹂
﹁それ以外は
﹁んー、基本的に町の新作スイーツ食べ歩きとか
だって私、暇してるからねー
﹂
一応こっちで予定してるのがこの日からなんだけど﹂
﹁全然オッケー
!
大丈夫
プニングとかあったりするけど概ね平和だよ。あ、スケジュールとか
?
?
じゃあうちのスタッフの紹介と番組の軽い打ち合わせなんだけど│
﹁いや、威張って言うほどじゃないと思うんだけど⋮⋮まぁいいか。
!
?
341
?
?
││川に大量発生したクロコダイルの原因は九龍アマルガムの違
!?
│﹂
﹁すいませーん、救急車来ましたー﹂
﹁うん、後日ね﹂
﹁アッハイ﹂
ネプテューヌは事務所を後にした。
342
episode54 クスリ、ダメ、絶対⋮⋮
ケット。自腹である。
﹁あ、ぷるちゃん。やほー﹂
﹁食べる
﹂
包丁の刃に、リンゴを当てて回転させただけだ。
そういう次元ではなく機械のような精密さ。
を取り出すなり一皮で綺麗に剥いた。その手並みは慣れているとか、
物であるとはにわかに信じがたい。ユウコはバスケットからリンゴ
の横暴な振る舞いからは想像もつかない子供のような寝顔に、同一人
ユウコが椅子を持ちだして腰掛け、エヌラスの寝顔を眺めた。普段
﹁そっか⋮⋮﹂
﹁う∼ん。まだ起きないんだぁ∼⋮⋮﹂
﹁一段落して休憩がてらって感じかな。どう、エヌラスは﹂
﹁あ∼、ゆうちゃんだぁ∼。お仕事はぁ∼
﹂
を出した。その手には差し入れとしてフルーツを盛り合わせたバス
プルルートは病室でエヌラスの目覚めを待つ。そこへ、ユウコが顔
?
すら見ていなかったが、綺麗に種を除いて均等に切り分けている。プ
ルルートは一ついただくことにした。
﹁⋮⋮コイツねー、犯罪国家とか物騒な国の王様だけど、ろくに国の仕
事してないのよ。見れば分かると思うけど。放任主義、ていうの
﹁そうなのぉ∼
﹂
場所からは結構恨まれてたりするんだよね﹂
やることなすことお構いなしって感じでさ。だからそのせいで他の
?
合法非合法を問わず大きなものだ。
とにかくもう、酷い有様らしい。しかし、その国から得られる物は
さ、そこのクスリに手を出して痛い目見て逆恨み﹂
ならず者連中も九龍アマルガムには少なからず世話になってるけど
﹁うん、そうなの。特に、傭兵組織を率いるドラグレイスとはね。あの
?
343
?
そこからの切り分け方に至ってはブラインドタッチのように手元
?
﹁とにかくやりたい放題し放題って感じの国だから、エヌラスがキミ
達に何も言わないのも無理はないよ。でも、大事なことはちゃんと
言っておかないとね。誰かが言わないと、コイツ絶対言わないし。自
分のことで手一杯だから││この世界が、こんな状況じゃなければ
ね﹂
﹂
だから私が苦労してるんだけどねー、と付け足してユウコはリンゴ
を頬張る。
﹁だからぁ、お世話してるのぉ∼
﹁やー、なんかそう言われると言うこと聞かない躾のなってないペッ
トみたいだなーコレ︵エヌラス︶のこと⋮⋮まぁ間違ってないけど。
私の国だからね、コイツのこと長居させると私が国民からバッシング
受けちゃうし﹂
理由も原因も言わずもがな。だが、増える軽犯罪の取り締まりには
エヌラスが一番最適なのだ。最も犯罪に身近な人物であると同時に
そうした連中との付き合い方も知っている。この数日でユノスダス
国内での不正取引や横領、その他の犯罪率は激減していた。エヌラス
が入国と同時に片っ端から取り締まった結果である。││有無を言
わずぶちのめしたとも言うが。
インタースカイは人いないし、アゴ
﹁で も コ イ ツ、他 に 行 く 宛 な ん て 無 い し。仕 方 な く だ よ、仕 方 な く
⋮⋮﹂
﹁じ∼⋮⋮﹂
﹁⋮⋮し、しょうがにぃじゃん
ツの気の休まるところなんてユノスダスくらいだって﹂
そのユノスダスですら安住の地であるかと聞かれれば、エヌラスは
引きつった笑みでこう答えることだろう││国王を除いて、と。
﹂
﹁だから、ちょっとだけ羨ましいんだ。ぷるちゃん達が﹂
﹁そうなのぉ
他でどうなのかなって﹂
﹁う∼ん⋮⋮﹂
344
?
ウはそれどころじゃないし、九龍アマルガムはやべーとこだし、コイ
?
﹁う ん。私 は、ほ ら。ユ ノ ス ダ ス に い る 時 の コ イ ツ し か 知 ら な い し。
?
そうは言われても、すぐに思いつくほど付き合いが長いわけでもな
い。そういうことならばアルシュベイト辺りにでも聞けばいいだろ
うに││とはいえアレもアレで結構間の抜けた男だ。
﹁変わらないかなぁ⋮⋮﹂
﹁そっかー、底抜けのバカなんだコイツ﹂
ユウコがデコピンされて額を擦る。誰がやったかは一目瞭然。プ
ルルートは膝にねぷぐるみを置いているし、ユウコの両手はリンゴで
塞がっている。
呼吸器を着けていたエヌラスが片目を開けて手を伸ばしていた。
﹁誰がバカだこのやろう⋮⋮﹂
﹁おはよ∼、エヌラス﹂
﹂
﹂
﹁俺の名誉の為に起きなきゃいかん気がした⋮⋮﹂
﹁大丈夫なの
﹁大丈夫なわけあるか馬鹿野郎⋮⋮
呼吸器を取り外し、点滴と輸血パックを腕から引き抜くとエヌラス
は大きく息を吸い込む。
﹁いいから、寝てなよ。目が覚めたのは嬉しいけどさ、無理したら死ん
じゃうよ﹂
ミー
ド
﹁死ぬときは何やっても死ぬ。身体の方はともかく、魔力はどうにも
﹂
なんねぇ⋮⋮なぁ、ユウコ。〝黄金の蜂蜜酒〟の取り扱いは││﹂
﹁あ〟んだって
﹁ミード∼
﹂
ガンギマリのマジカルケミカルドラッグ、勿論違法だからね
⋮⋮い・い・か・ら・寝てろよぉぉぉ⋮⋮
﹂
﹁寝てられっかボ・ケ・ナ・ス・がぁぁぁぁ⋮⋮
﹂
一度
そっ
かー聞いちゃうよねぇぇ⋮⋮だって私ここの国王様だもんねぇぇぇ
や・ろ・う・は、寝起きで、私に、そういうこと聞いちゃう
服用すれば世界が転覆するって言われるくらいの代物││を、こ・の・
?
?
押し倒そうとするユウコにエヌラスは必死に抵抗して身体を起き
!!
!
345
!
?
﹁あるわけねぇよなごめんなさい⋮⋮﹂
?
﹁黄金の蜂蜜酒。通称、ミード。ドラッグの一種。魔術的な含有成分
?
上がらせた。はて、この光景はつい最近見たような⋮⋮プルルートは
小首を傾げる。
﹁取り扱うわけないでしょ、あんな第一種危険違法薬物﹂
﹂
﹁第一種じゃねぇ、最重要特級魔術的違法薬物だ﹂
﹁尚更タチワリィよぉそれ
﹂
?
﹁美味しいの∼
﹂
﹂
﹁そんな異常な日常絶対嫌だからね。普通は起きないからね﹂
案件が年間数十件ほど起きてる。日常茶飯事だ﹂
体組織の構造を根本的に変化させて化け物になった奴が射殺される
﹁何言ってんだユウコ。九龍アマルガムじゃうっかり服用したバカが
﹁知ってんのかい
﹁発狂して自殺か精神錯乱で植物状態が関の山﹂
り口に入れた人がどうなったか知ってるの
﹁キミからしたらそうだけど、一般人だとそうもいかないの。うっか
⋮⋮﹂
﹁俺 か ら し た ら あ ん な ん た だ の 栄 養 ド リ ン ク み て ぇ な も ん な の に な
つ残して病室から離れた。
部屋を覗きこんだナースが﹁あぁまたか﹂みたいな表情でため息一
﹁あと、病院では静かにな﹂
!?
今のお話聞いてたの
ねぇ、聞いてたー、
﹁へ∼、そうなんだぁ∼。ちょっと飲んでみたいかもぉ∼﹂
﹂
﹁あのー、ぷるちゃん
もしもーし
?
?
話だ﹂
﹁あるとは限らないよねそれ﹂
﹁大丈夫だろ。女神だし﹂
考えてもみれば、守護女神達がバイトをしているというよくわから
ない光景がユノスダスで起きているのだ。国王であるエヌラスは町
を破壊して入院。ドラグレイスは輸出入の物資を護衛。アルシュベ
イトは復旧作業という名目の土木建築の陣頭指揮。
346
!
﹁スッキリ飲みやすい酒って感じだな。味は、まぁ薄口の蜂蜜だが﹂
?
﹁一本くらいなら平気だろ。体構造の変化は耐性無い奴が飲んだ時の
?
﹁もうこれわかんねぇなー、ユノスダス⋮⋮﹂
ユウコは仕方なく自分が譲ることにした。本来であればもうしば
﹂
らくの間はおとなしく入院していてもらいたかったが、エヌラスが大
﹂
人しくしているはずがない。
なんだこれ⋮⋮服
﹁はい、これ﹂
﹁ん
﹂
キミ
服がないなら変身すれば
﹁キミの替えの服だよ。患者服で街中出歩くつもり
﹁いや、変神して帰るつもりだったが﹂
﹁神化ってそういうものじゃないからね
!
いいじゃないとかそういうくだらないアレじゃないからね
の場合尚更だからね
!?
?
用意されていた。
?
産地で手に入れる﹂
﹂
﹁そっか⋮⋮寂しいなぁ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮夜の方か
﹁∼∼∼∼、││死んでろ、バーカ
﹂
﹁正直帰りたくねぇが、仕方ねぇだろ。黄金の蜂蜜酒が無い以上は原
﹁じゃあ、これから九龍アマルガムに帰るの⋮⋮
﹂
ジジーンズは元々擦り切れてそうなっていたのか、普通のジーンズが
エヌラスが以前着ていた黒ずくめの服が一式揃っている。ダメー
!?
﹁変態さぁ∼ん﹂
﹂
?
﹁やめろぉ⋮⋮
﹁嬉しいくせにぃ∼
﹂
く死ぬのでやめてくださいお願いします﹂
﹁事実であり現実ではあるのだけれども俺の心が悲鳴をあげる間もな
合ってるし、そこにねぷちゃん達も加わって大満足だもんねぇ∼﹂
﹁そ う だ よ ね ぇ ∼。エ ヌ ラ ス は ぁ、あ た し と ノ ワ ー ル ち ゃ ん で 間 に
﹁俺は間に合ってるしな⋮⋮ッテテテ、あの野郎、怪我人だぞ俺⋮⋮﹂
﹁そういうの、言わなきゃいいのになぁ∼⋮⋮﹂
屋から出て行ってしまった。
エヌラスの頭をフライパンで殴打して、ユウコは眉を吊り上げて部
!
?
!
347
?
?
﹁しにたい⋮⋮﹂
起きるべきではなかっただろうか。エヌラスはベッドに倒れ込み
ながら白い天井を見つめた。
九龍アマルガム。犯罪国家││自分の治める国。正直な話、帰りた
くはなかった。戻りたくないというのは本音である。
348
e p i s o d e 5 5 病 み 上 が り で も 現 実 は 容 赦 し
ない
服を着替え││その現場もプルルートはガン見していたが││担
当医に顔を出す。
﹁⋮⋮どうも﹂
﹁おや。お目覚めかい、思ったより早かったかな。毎度ながら点滴と
輸血を勝手に抜いて出歩かれるこちらの身にもなってもらいたい﹂
﹁こっちも色々と忙しいもんで﹂
﹁まぁいいよ。中央病院にあるのはほとんどキミの国から来てるもの
だし、大目に見よう。ドクターによろしく﹂
﹁次来る時も世話んなります﹂
﹁どうぞご贔屓に﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
おいおいソイツは何の冗談だいハニー。仮にも守護女神、異世界の
﹁だからぁ、アルバイトだよぉ∼。宿代はゆうちゃんが免除してくれ
たけどぉ食費は自分達で稼がないとぉ∼⋮⋮﹂
﹂
﹁ちょっと仕事してくる⋮⋮﹂
﹁無理しないでいいよぉ
これでは少女たちを働かせて自分は働かない人間のクズどころか
349
片手を振って笑顔で見送る担当医に、エヌラスは会釈した。
﹁じゃあ∼、これから九龍アマルガムを目指すの∼
とはこれ如何に。
﹁俺が寝てる間に何か変わったことはあったか
﹂
心底嫌そうな顔でガックリと項垂れる。国王が国に帰りたくない
﹁そういうことになるな。あぁ⋮⋮帰りたくねぇ⋮⋮﹂
?
﹁えっとね∼、ねぷちゃん達がバイト始めたんだ∼﹂
?
エヌラスは眉間を押さえた。
だが、それがアルバイト
?
﹂
﹁⋮⋮悪い、なんだって
?
?
逆に食わせてもらうという甲斐性なしここに極まれり。ゲスの極み
になってしまう。そういうのは斬新な音楽性のアーティストだけで
十分だ。││自分は乙女ではないが。
引き止めるプルルートに袖を引っ張られてエヌラスはギルドに向
﹂
かおうとする足を方向転換させられた。
﹁お、おいプルルート
﹁今日の夕飯の買い出しぃ﹂
﹂
﹁⋮⋮ああ、はいはい。荷物持ちってことな﹂
﹁エヌラス、何か食べたいものあるぅ
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
﹂
﹁お前は⋮⋮テメェは俺をなんだと⋮⋮
!
デートか、このペド野郎︾
﹁テメェちょっとスクラップにしてやるから面貸せコラァ
﹂
﹁そうだよぉ∼。あたし幼女じゃないよぉ∼﹂
﹂
!
﹂
︽お 前 か、破 壊 神。我 々 は 貴 様 の 尻 拭 い で 忙 し い と い う の に 幼 女 と
﹁よぉ、トライデント﹂
るランス01であるのが分かった。
紺の三叉槍であることに気づいて声を掛ける。武装から隊長格であ
に、フロントラインの者達がいた。そして、それを率いているのが濃
妹のようだ││そう思いながらも心は晴れない。すれ違う人々の中
嬉しそうにニコニコと手を繋ぐ。こうして歩いているとまるで兄
﹁はぁ∼い﹂
﹁海産物以外でお願いします﹂
所が痛む。
ラスは壁に頭を打ち付けて煩悩を爆散させた。ユウコに殴られた場
か命にかかわる。⋮⋮騎乗位ならそれはそれで、とか思い始めてエヌ
病み上がりでそこまでの性欲爆発させてたら身が持たないどころ
!
﹁あたしとノワールちゃん以外でねぇ
?
?
﹁ほれみろ、本人だって幼女否定してる
﹁処女でもな││﹂
﹁おぉっと手が滑ったぁぁぁぁ
!!
350
?
︽どわぁぁぁぁぁ
う、くそう⋮⋮
︾
︾
︽しっかりしてくださいトライデント隊長
︾
!
︾
﹂
私がしっかりしないとな すまないが手を貸し
だから早く起きてください
︽そ、そうだな
てくれ
!
!
いますから
﹁そうです。ここでへこたれていては本当に間に合わなくなってしま
す
まだ遅れは取り戻せま
︽あぁ⋮⋮このままでは今日の予定に間に合わない⋮⋮ダメだ、くそ
い。
る。後ろから口々に罵声を浴びせられているが気にしている暇は無
まんなかでひっくり返しながらエヌラスはその場から全力で走り去
プルルートの口を塞ぎ、トライデントを蹴り飛ばし、資材を町のど
!?
!
!
!
﹂
打たれ弱すぎんだろこ
!
ぞ
︾
﹁脆すぎねぇっすか
︾
私のメンタルは玉子豆腐と言われるくらいだ
﹂
︽というかそっちですか否定するの
頼むからナチュラルに俺を陥れる
!?
﹂
﹂
のやめてくれねぇかな 今ちょっと内臓が悲鳴あげてるんだけど
﹁あのな、プルルート。あのな
!?
!
!?
︽ええいやかましい
︽豆腐でもまだマシな方ですよそのメンタル︾
の人ぉ
﹁しっかりしてくれよぉトライデント隊長
︽しかし、我々は戦闘用のはずなんだがな⋮⋮なんで建築業に⋮⋮︾
も、アゴウからの緊急要請でアルシュベイトが不在だからだ。
かっている今の彼は、慣れない現場で指揮を任されていた。というの
る。アルシュベイトと入れ替わりでユノスダスで復興作業に取り掛
打たれ弱いのが珠に瑕だが、ランス01の仕事は多忙を極めてい
!
!
!?
351
!
!
﹁あ∼、ノワールちゃんだぁ∼。今お仕事終わり∼
?
!
﹁プルルート。それに、エヌラス。よかった、意識が戻ったみたいね。
今日は早上がりでいいって言われたのよ。今日の分のお給料もいた
だいてきたし﹂
﹁数十分前の病院のベッドが恋しい⋮⋮﹂
﹂
﹁なにバカなこと言ってるのよ。ほら、これから買い出し行くから荷
物持ちお願いね﹂
﹁拒否権って⋮⋮俺に人権って⋮⋮
﹁やっほ∼﹂
﹁お母さんかテメェは
﹂
に当てておくね。ユノスダス国王ユウコ﹄
当に稼いだものとは信じ難いので私があずかります。未払金の返済
﹃ポケットに入ってたやけにふくらんだ財布だけど、あのお金が真っ
に手を入れて取り出した。
三人に聞いても首を横に振った。ポケットを叩いて、紙の擦れる音
﹁⋮⋮そういや俺の財布知らねぇか﹂
﹁じゃあ、今日は豪盛にいきましょ﹂
﹁はい。お給料もいただいちゃいました﹂
﹁ネプギアも仕事上がり
﹂
﹁あ、エヌラスさん。それにノワールさんに、プルルートさんも﹂
りなのか電気屋から出てきた。
アーケード街に向かう。ふと、そこでネプギアもちょうどバイト上が
ノワールのバイト代と、プルルートの裁縫のバイト代も合わせて
!
なったことを悟る。預かるという言葉を信じてはならない。それは
特に目上の人間の言う金銭関係で。
││ユノスダス教会でユウコがくしゃみをしていた。
352
?
メッセージカードを破り捨てながら、エヌラスは自分が一文無しに
!!!!
しかも預かると書いておきながら未払金の返済にあてがいやがっ
たあの野郎
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
ぷぇっしょい。
!
﹁あぁそうだよ無一文だよ、財布もねぇよ⋮⋮笑えよ⋮⋮﹂
﹂
﹁ご、ごめんなさいエヌラス。今のアナタになんて声をかけたらいい
か⋮⋮﹂
﹁生きてればいいことあるよぉ∼﹂
﹁あ、好きなもの買ってあげますから元気出してください
街中歩くなよ﹂
﹂
︽邪魔なのは理解しているが、仕方ないだろう
ドラグレイスの傭
﹁なんでトライデントの野郎がいるんだよ、テメェら図体デケェから
︽ええ。またお会いしましたね︾
﹁あ、ランス02さん
分けろということらしい。
なエヌラスの表情に、背中の武器を指さす。突撃砲が二挺。それで見
そこへ、見覚えのある濃紺の機体色。またお前か││そう言いたげ
﹁はは、何の事情も知らないやつから見たらただのクズだわ﹂
!
﹁アゴウはいいのか
﹂
要なんだ。それを私達が引き受けている︾
兵組織は今出払っている。そうなると治安維持の名目で自警団が必
?
トライデントが言うからには本当なのだろう。アゴウに戻ったア
往来のど真ん中で大声出して。周りに
ルシュベイトの活躍はまさに一騎当千を超えた一騎当億。負けるは
ずがない。
︽しかし⋮⋮どうしたんだ
迷惑だろう︾
ネプギアがすかさずフォローを入れて、ランス02も唸った。
﹁ランス02さん。でも、あの時は仕方なかったんです﹂
︽ダメだろそれ⋮⋮︾
﹁いや、返答待たずにぶっ放した﹂
︽許可したのか、ユノスダス国王は︾
﹁俺は予めぶっ壊すって宣言した、ノーカン﹂
︽町の一区画綺麗に破壊しておいてよく言う︾
﹁立ってるだけで邪魔なテメェと一緒にすんな⋮⋮﹂
?
353
?
︽アルシュベイト様が帰還された、心配は無用だ︾
?
﹂
︽⋮⋮まぁ、この子が言うならそうなんだろうな︾
﹁俺ってそんな信頼ねぇのか⋮⋮
︾
︽八つ当たりはやめてくれよ
︾
﹁テメェのいうことは正しいが、メチャクチャ腹立つ﹂
︽なんだ
﹁なぁ、ランス02﹂
げてポケットに突っ込んだ。
せっせとエヌラスは足元に破り捨てたメッセージカードを拾い上
︽あと、ゴミを散らかすな︾
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
寝ぼけたことを︾
︽何を今更言っているんだ。大体、少女を三人も侍らせておいて何を
?
れてんだよ
︾
﹂
﹂
︽人 が、人 が 気 に し て い る こ と を ⋮⋮
だって
﹁記憶に残らねぇんだよお前
︽ゴフッ││││︾
い い だ ろ 縁 の 下 の 力 持 ち
﹁⋮⋮そんなんだからテメェは﹃トライデント随一の無個性﹄とか言わ
?
!
なかったどころか疑われた時あるから分かります﹂
︾
!
︽えっ、君が
貴方だけは信じてくれると思ったのに
!
だ。
ぷいっ
﹂
!
今ものすごく私は寝取られた気分だ
︾
!
﹁いい人だと思ったのに、怒りましたよ私
︽なんだろう、なんだろう
﹁銃抱いて寝てろ。夕飯に間に合わなくなっちまう﹂
!
!
エヌラスに泣きつくネプギアが頬を膨らませてランス02を睨ん
⋮⋮﹂
﹁姉 よ り し っ か り し て る か ら 逆 に 主 人 公 で も い い ん じ ゃ ね ぇ か な
﹁うわぁぁぁん、酷い
﹂
さい。私も主人公やってた時がありましたけど、誰も覚えていてくれ
﹁なんだろう、物凄く共感できちゃう私がいる⋮⋮元気を出してくだ
致命の一撃。クリティカル。ランス02が膝を着いた。
!!
!
?
354
?
!
落ち込んだランス02を置いて、アーケード街の中にあるスーパー
へと足を運ぶ。
﹁ママー、ロボットが落ち込んでるよー﹂
﹁あらー本当ねー﹂
﹁肩車してー﹂
﹃きゃーきゃー﹄
︽子どもたちの無邪気な笑顔が心に沁みる⋮⋮︾
流せる涙があろうものなら大号泣したい。
355
episode56 ドSのSはなんのS
スーパーで買い物をしている間、エヌラスは食材を選ぶノワール達
を見ていた。どうしてこう、女の買い物は時間が掛かるのだろう。
﹂
﹁あ、見てくださいノワールさん。こっちの凄く安いですよ﹂
﹂
﹁あら、ホントね。⋮⋮ウッソ、こんな安くていいの
﹁⋮⋮⋮⋮しっかりしてんなー﹂
﹁そうだねぇ∼﹂
﹁プルルートは選ばなくていいのか
﹁そうね、ちょっと気味悪いわ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮なんか、このお野菜人の顔に見えません
﹂
段々と二人の会話がずれてきているような気がした。
﹁そ、そうか⋮⋮﹂
なぁ∼って﹂
﹁う ∼ ん、二 人 が 選 ん で る し ぃ ⋮⋮ エ ヌ ラ ス と 一 緒 に い る 方 が い い
!?
集﹄だ﹂
﹃ヒィィィィィィ
﹄
﹁ああ、そこら辺のコーナーは﹃美味いけど絵面がヤバイ人面野菜特
?
ない超魔導的な何かで育てられた作物が入荷しているのだが、なんか
の儀式にでも使うのかと言われるほど凶悪な絵面をしている。人面
瘡人参や大根。どことなく種の位置が顔に見える百面相じゃがいも。
それなどはまだ可愛い方で、エヌラスが手にしたのは笑うピーマン。
野菜が動いているという時点でモンスターじみているが食料である。
﹂
食材である。調理する際に断末魔をあげるが、れっきとした野菜であ
る。
﹂
﹁ねぇ∼、エヌラス﹂
﹁ん∼
﹁ミード⋮⋮だっけぇ。アレの材料ってここで手に入らないのぉ
356
?
なお、八割方の原産国は九龍アマルガム。有機農薬とかでは成し得
!?
﹁代用品なら手に入るだろうが、それじゃ回復出来ないんだよ。魔術
?
?
行使に支障が出るレベルで魔術回路が損傷してるからな﹂
医者からカルテを見せてもらうまでもない。自分の身体のことは
手に取るように分かる。内氣功と魔術に精通しているからこそ、機械
の故障がどこなのか、どの程度のものなのかまで。
自己診断として弾き出される損傷レベルは、かなり酷いもので、両
腕の回路のほとんどがイカれている。幸いにして心臓、第二の心臓で
ある〝銀鍵守護器官〟からの魔力供給は滞り無く潤滑だ。だが肝心
の魔力も少ないので、機械油が足りないのと同様。それらを復旧、再
生させるためには高純度の精製方法で造られる黄金の蜂蜜酒が必要
なのだ。
﹁ここで作ったら、ただの蜂蜜酒になっちまう﹂
﹂
﹁そーなんだ∼﹂
﹁何の話よ
﹁今ちょっと、魔術が使えないって話だよ﹂
﹁それって結構致命的なような⋮⋮﹂
﹁魔術がダメなら体術使えばいいじゃないって俺の師匠が言ってた﹂
﹁文武両道って言葉の意味履き違えてそうな人ね⋮⋮﹂
﹁とりあえず、今は攻撃手段がかなり限られる。二挺拳銃無し、超電磁
抜刀術無し、決め手に欠ける状況だな。あと、一番致命的なのがハン
ティングホラーだ﹂
半有機生命体であるハンティングホラーの制御には魔術的な体幹
制御も必要なのだが、それはそれとしてもナイトロシステムの使用不
可は手痛い。
﹁ただ乗る分には問題ないけどな、っと﹂
ガサガサと両手にレジ袋を抱えてスーパーを後にする。
﹁それで、九龍アマルガムに一度向かおうって話をしてたんだ﹂
﹁九龍アマルガムってアナタの国よね﹂
﹁犯罪国家⋮⋮うぅ、ちょっと怖いかも⋮⋮﹂
﹁婦女暴行に強姦事件なんて日常茶飯事だぞ。あと人身売買と奴隷市
場﹂
﹁ホンット、犯罪に躊躇のない国ね﹂
357
?
﹄
﹁それと破壊ロボ﹂
﹃破壊ロボ
唐突に出てくる脈絡のない単語に驚きのハーモニー。
﹁大体、何でそんな無法地帯になってるのよアナタの国﹂
﹁俺が知るか。地下にシェアなんちゃらだかなんだったかがあって、
そいつを巡って戦争おっぱじめたら武器商人とか住み着いてこう
﹂
なっちまったんだよ﹂
﹁シェア⋮⋮
﹁ぐふっ﹂
﹁それであちこち女作ってるの
﹁ごふっ﹂
﹁お仕事してください﹂
最低ね﹂
﹁エヌラス、根無し草のステータス追加だねぇ∼﹂
﹁自慢じゃねぇが国内統治ほっぽってあちこち放浪してるからな俺﹂
﹁うわぁ、自分の国のことなのに何も説明できないとか⋮⋮﹂
?
の背中には長刀が二本。腕を組んで立っていた。
︽オラー、テメェら、ソコのやつ図面とズレてっぞー
早番の
家屋用のは向こうの青いシートに
怪我すんなよー
!
は城壁用だ、一緒くたにすんな
!
遅番連中は明日の作業の打ち
!
!
まとめとけって今朝言っただろうが
︾
奴らは撤収用意、引き継ぎ忘れんな
合せだ
そっちの資材
れた区画の修復作業中付近で、これまた濃紺の三叉槍を発見する。そ
クラブの工業建築型が丸太や鉄骨を担いで四人とすれ違う。破壊さ
会話を遮ろうとする建築機械の音に、見飽きたほど壊したフォート
﹁やめてくれ。その発言は俺に効く﹂
?
!
ている。それに血の気の多い連中も従っていた。
﹁張り切ってんなー⋮⋮﹂
︽誰かと思えば破壊神じゃねぇか︾
﹁頼むから人のことそれで呼ぶのやめろや。名前で呼べよ﹂
﹁ア ナ タ、最 強 の 親 衛 隊 っ て 割 に は こ う い う 現 場 の 方 が 向 い て る ん
358
!?
ランス03はコレでもかというほどハキハキと的確な指示を出し
!
じゃない
﹂
すぐ修正すっから
︾
こ ー、手 が 止 ま っ て ん ぞ な に、材 料 が ち げ ぇ
言ってみろ
!
お う ど の 辺 だ
今 は な い ん で な。仕 事 の 邪 魔 だ ぜ、早 く 行 っ た 行 っ た │ │ お ら そ
︽暇がありゃ背中に乗せてデートと洒落こみたかったが、そんな暇ぁ
﹁学習機能ついてねえのかテメェの頭はよぉ、ランス03﹂
破壊神︾
︽よ、嬢さん。久しぶりだな。ってか、よりによってテメェと一緒かよ
?
﹂
まった材木は片しとけ
﹁ヘイ
︾
︾
の一人よね﹂
︾
︾
最強の三叉槍
番号割り振っとけ
遅 番 連 中 に 解 体 さ せ る。切 っ ち
!
︽手の空いてる連中は仕入れのチェック
︽了解
︽間違えんなよー
!
ス達は宿へ戻る。
?
で宣言した。
なに言ってやがんだぁこの女神様は。お前本当に女神か
アイ
││帰宅して開口一番、ネプテューヌが腰に手を当てて満面の笑み
﹁私、アイドルやるから
﹂
夕暮れ時であってもやる気満々のランス03に背を向けてエヌラ
﹁何も言うな⋮⋮帰るぞ﹂
﹁⋮⋮スッゴク似合ってるんだけど﹂
﹁あぁ⋮⋮﹂
﹁私の間違いじゃなければ、決して建築業の人じゃないわよね⋮⋮﹂
﹁ああ﹂
!
︽う し、こ こ の 作 業 は 一 度 中 止
れに気づかず似たような資材を使ってしまったらしい。
やら運び込まれる資材の順番が手違いですれ違っていたようだ。そ
ランス03が何やら問題の起きた箇所をチェックしていると、どう
!
!?
?
!
!
359
!
﹁⋮⋮ねぇ、アレってアルシュベイトの親衛隊よね
!
!
!
ドルやるとか寝言言ってる、ドッキリかな
﹂
﹁アイドルってなんだよ
﹂
﹁このタイミングでツッコミ
﹂
お前実は女神とかじゃ
しかも私邪神じゃなくて女神だからね なんで信じてくれないのさー
﹁いや、お前が女神化出来るならそりゃ信じるけどよ⋮⋮﹂
!
﹁あれ私の話ガン無視
﹁偶像崇拝って邪神復活の儀式にもあったな⋮⋮﹂
ス﹂
あ、意識戻ってよかったよーエヌラ
そうか、これは夢じゃないのか。では改めて││
﹁痛くしてんだよ﹂
﹁いひゃいよ
﹁夢じゃねぇ﹂
かに感じる。
ぐにぃ∼。柔らかくてハリもあってモチモチとした肌の質感を確
頬を引っ張った。
エヌラスはそこまで思考を張り巡らせてから無言でネプテューヌの
ないだろ。もしかすると俺はまだ夢を見ているのかもしれない││
?
ら﹂
﹁テメェは何か
﹂
俺を命の危機に瀕させたいかこれ以上﹂
﹂
﹁だって前回結局エッチ出来なかったもん
﹁前回っていつだよ
﹂
﹂って顔真っ赤にしながらフライパン振り回して
なぁ。寝込み襲ってもよかったんだけどユウコが﹁病院でそんなこと
しちゃダメぇー
⋮⋮﹂
﹁俺が寝てる間にナニしようとしてたテメェ
﹁だってほら、エッチってアレでしょ
男と女の夜のスポーツ、ベッ
﹁なんでお前そんなオープンにエロいんだよ⋮⋮﹂
﹁だからさー、くんずほぐれつなことしようよーエヌラス﹂
そりゃもうあんなことやこんなことだろう。
!?
!
?
360
!?
!?
!?
﹁じ ゃ あ 私 と エ ッ チ す れ ば い い じ ゃ ん。そ し た ら 変 身 し て あ げ る か
!
!?
﹁うーん、正確に言えばフォートクラブ生産工場制圧作戦辺りからか
!?
!
?
ドの上で大運動会﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ノワール、なんか言ってやれ﹂
﹁基本的にバカでお気楽で脳天気だからごめんなさい、エヌラス。助
もういい分かった、ネプテューヌ﹂
けられそうにないわ﹂
﹂
﹁このやろう⋮⋮
﹁なに
いいのが腹立つなチクショウが
﹁ご飯できたよ∼﹂
﹂
﹁なんでや なんでそこで急にしおらしくなるんだよああもうかわ
﹁えー、と⋮⋮あんまりハードなのは私もちょっと怖いかな⋮⋮﹂
﹁テメェ後でベッドでギッシギシに泣かすかんな﹂
!
﹁なになに、エヌラスの弱点
﹂
﹁じゃあねぇ、ねぷちゃん。イイコト教えてあげるねぇ∼﹂
回休みだよ﹂
﹁今夜は私がエヌラス独り占めだもんねー、ぷるるんもノワールも一
ふぅ∼ん﹂と、間があったものの納得したようだ。
笑顔で戻ってくるプルルートに一連の流れを説明すると﹁⋮⋮⋮⋮
!!
!
たままだった。正直、エヌラスも背筋が震えた。
がったような気がしてエアコンを確認するが快適な室温に設定され
ドS︵寒気︶がネプテューヌの顔を青ざめさせる。部屋の温度が下
﹁││││││││はい﹂
﹁イジメていいの、あたしだけだから﹂
?
361
?
e p i s o d e 5 7 据 え 膳 食 わ ぬ は 男 の 恥。な ら
ば女とは
﹂
何事もなかったかといえばそうでもなく、夕飯は賑やかなものであ
る。
﹁エヌラス、ドレッシング取ってもらえる
﹁手元にあるじゃねぇか﹂
﹁私はそっちのがいいの﹂
﹁わかったよ。ほれ﹂
ねぇんだし﹂
﹂
﹁でもお腹の方ってそんな大量の食事入れて大丈夫なんですか
﹂
﹁う ん そ り ゃ な。寝 た き り で 点 滴 し か ま と も に 栄 養 補 給 出 来 て
﹁おいしい∼
日の食事はネプギアとプルルートの二人が頑張ってくれた。
ノワールにドレッシングを差し出して、エヌラスは箸を動かす。今
?
袋だ、心配すんな﹂
﹂
別なタイミングあるよ
﹁そうね。ネズミ丸焼きにして食っても平気なんでしょ
﹂
﹂
私食べたことないんだけど﹂
﹁だから食事中にそれを言うんじゃねぇよ
な
?
﹁ネズミ食って餓えを凌ぐ女神とか俺絶対信仰しねぇからな
﹁エヌラス、ネズミ美味しかった
!?
だ分かるが、文化的な生活圏でネズミを焼いて食う生活はしてほしく
なかった。││ネズミを食った国王がそこにいるのだが。
ひと通り食事を終えて、後片付けはエヌラスがやった。何もせずに
﹂
はいられないらしい。隣にはネプテューヌ。
﹁ねーエヌラス﹂
﹁なんだよ﹂
﹁お風呂、どうしよっか
?
362
?
﹁人一倍くたばりにくい俺の胃袋はアルシュベイトを唸らせる鋼の胃
?
?
間違っても絶対見たくない。サバイバル生活しているのならばま
!?
?
!?
﹁先に入ってろよ﹂
﹁えー、一緒に入ろうよ﹂
﹂
ネプギアー、お風呂入ろー
エヌラスは一緒
﹁勘弁しろよ⋮⋮ほれ、ネプギアと一緒に入って来い﹂
﹁じゃあそうする
じゃないけどいいよねー﹂
﹁ちょっと待て、なんでそこで俺の名前出した
ぐはめになる。
﹁⋮⋮大丈夫なの、本当に
﹂
コップを落とした。割れなかったが、横倒しになってもう一度水を注
コップに水を注いで、ノワールに手渡し││指先の感覚が狂って
﹁今洗い物終わったばっかだっつーの﹂
﹁エヌラス、水もらえないかしら﹂
状況らしい。気づかれない内に水道で流しておく。
ものが今でもどこかで悪さをしている。思いの外、切羽詰まっている
ごと焼いた。その対価だ。それでもまだ身体の奥底に溜まっていた
魔術回路の不調に加えて、ムルフェストの瘴気を焼き払うのに血管
﹁││クソ、ままならねぇな﹂
し殺して、食器を退かすなり吐血する。
がる熱い感触を抑えこんだ。なるべく、努めて声に出さないように押
れるのかと思うと深々と息を吐いて││喉の奥、腹の奥底から沸き上
六時中いるのだろうか。エヌラスはその底無しの体力に付き合わさ
へと消えていた。なんというか、あぁも台風のようなテンションで四
止めるまでもなく騒がしくネプテューヌはネプギアと一緒に浴室
!
言いなさいよ﹂
﹁わかってるさ││ん、んん
﹂
﹁強がっても別にカッコよくないわよ。無理な時は無理ってちゃんと
に必要なのではなく、戦うために必要なものだ。
もちろんノワールはそれが何なのか知っていた。生きていくため
﹁酒とクスリと女がなけりゃダメな男でね﹂
?
込もうとして││
喉に絡む痰が血を交えているのが分かる。エヌラスはそれを飲み
!
363
!?
!
﹂
﹁もう、ちゃんと私の話聞いてるの〝お兄ちゃん〟﹂
﹁ゴッハゴブッフゲホァッブァ││
意打ち
あまりにも不
!
実際ヤバイ エヌラスは洒落にならない量の血液を口
フローリングが血の海になるところだった。不覚
盛大に吐血した。辛うじて流しを向いていたからよかったものの、
!?
る。
﹂
そんなに出して大丈夫なの
﹁おま、お前、なんだよチクショウ反則だよ⋮⋮
﹁ケホッ、ケホッ、ちょちょっと
﹂
案の定、プルルートが覗きこんで首を傾げていた。
﹂
私に
﹂
﹂
裸エプロンなら考えものだけどな
してませんから
﹁エヌラス∼、ノワールちゃんと一発しちゃった∼
﹁してないから
﹁台所でまでヤらねぇよ
そういうの期待してるわけ
!?
﹂
﹂
! !?
!
﹁おいばかやめろよ字面だけで見たら勘違い待ったなしだろうが
!?
││ゴフッ、ゲッホゲホガハッ
!
﹁は、ハァ
﹁ちげぇぇぇぇぇ
?
!?
!
!
﹂
思っていなかったのか盛大に水を噴いて、鼻に入ったのかむせてい
押し留めて口元を拭った。ノワールもまさかそんな反応されるとは
から吐き出す。夕飯も胃袋から逆流しそうになるが、それを辛うじて
!
﹂
テメ、テメェら⋮⋮俺が妹を殺されてるの知ってて
﹄
言ってんのか⋮⋮
﹃││││え
だ⋮⋮今は辞めろ。文字通り萌え死ぬ﹂
ねぇところだったが、それはそれで冗談と受け取っておくにしても、
﹁呼び方が﹁お兄ちゃん﹂じゃなくて﹁兄さま﹂だったらゼッテェ許さ
!?
﹁ゲホァ⋮⋮
﹁お兄ちゃ∼ん♪﹂
よ。まさか血を吐くほど悶えるとは思わなかったわ﹂
ちゃん♪﹂って呼んでみたらって。それで試したら⋮⋮この有り様
﹁ほら、この前プルルートが言ってたでしょ。エヌラスのこと﹁お兄
﹁それでぇ、一体どうしちゃったのぉ二人共∼﹂
まで出てきた。
シャレとか冗談ではなく約一名、ツッコミで出血多量に陥る。鼻血
!!
!?
!
!
!
?
364
!
死因が﹁萌え﹂では浮かばれない。むしろ萌えの怨霊と化してこの
世界を恨み倒す。そしていつかは世の中のお兄ちゃんを支配して俺
が世界中の妹を││ってこれ完全にロリコンじゃねぇかふざけんな
﹂
エヌラスが咳き込み、真っ赤に染まった口を水ですすいで飲み込
んだ。
﹁⋮⋮それって、やっぱり仮面の神格者に
﹁あの野郎の話題出すな﹂
目に見えて不機嫌さを隠そうともしない。
﹁ごめんなさい、エヌラス。私⋮⋮﹂
﹂
﹁いいよ、別に。⋮⋮正直かわいかったしな﹂
﹁ヘッ
﹁ひゃン
﹂
﹁││││、スマン
﹂
ルの胸元へ頭を埋める形となってしまった。
うと踏ん張ったのがいけなかった││身体は前のめりに倒れ、ノワー
眩暈を覚え、手を着こうとして膝から崩れる。倒れるのだけは防ご
﹁ぷる∼ん⋮⋮﹂
程々にしてくれ﹂
﹁なんでもねェ⋮⋮プルルートもな。そういうのは⋮⋮まぁ、なんだ。
!?
つめていた。
﹁⋮⋮ねぇ、本当に大丈夫なの
﹂
﹁ちと眩暈しただけだ。大丈夫だよ﹂
﹁男に生まれた俺も、正直そう思ってる﹂
﹁男って、ホントバカね﹂
もんだ。断るわけにもいかねぇだろうがよ﹂
﹁据え膳食わぬは男の恥、ってな。男なんて面子で飯食ってるような
?
?
﹁そんな状態で本当にネプテューヌとエッチするつもり
﹂
衝撃に備えていたが、ノワールは胸元に手を置いたまま心配そうに見
た 状 態 だ。ビ ン タ の 一 発 飛 ん で き て も エ ヌ ラ ス は 文 句 が 言 え な い。
睨んでくるが、無理もない。相手からすれば突然胸に頭を突っ込ませ
白く、細い肩に手を置いてすぐさま顔を離す。顔を赤くして涙目で
!
!?
365
?
!!!
﹂
浴室からはまだネプテューヌとネプギアの楽しそうな声が聞こえ
てくる。
﹁輸血とか、いいの
﹁どうするのぉ∼
﹂
﹁どうにかって⋮⋮﹂
﹁心配いらねぇよ。その気になりゃ自前でどうにかできるしな﹂
?
﹁えっ
﹂
﹁言ったな
││冷蔵庫の中身ありったけ持ってこい﹂
﹁それぐらいでいいなら幾らでも食えばいいじゃない﹂
﹁⋮⋮ノワール、プルルート。悪いが食費がかさむ﹂
?
店が潰れた。
﹁燃費悪いから俺は滅多にやらん。基本的に金持ってねぇしな﹂
﹂
﹁え∼っと、つまりそれって⋮⋮﹂
﹁大食らいって、ことぉ∼
人一倍釜の飯かっ食らって生まれてきてごめんなさい⋮⋮
﹂
﹁⋮⋮働きもしないで大飯食らいで生きててすいませんでした⋮⋮
?
うわよ﹂
﹁最悪、生でもイケる﹂
ゴムの話
?
﹁テ メ ェ は と ん で も ね ぇ タ イ ミ ン グ で 戻 っ て く る ん じ ゃ ね ぇ よ ネ プ
﹁えっ、何
﹂
﹁そんな落ち込まなくてもいいじゃない。もちろん働いて返してもら
!
!
過去の修行において、師弟共々にその飯をひたすらに食った結果、
〟とは穀物のこと。
それこそ、エヌラスが〝穀潰し〟と言われる由縁だ。穀潰しの〝穀
えこまれたのが││早い話が大飯食らいによる即行消化﹂
も資本は身体だ。身体機能の矯正と調整、ポテンシャル向上の為に教
とは氣の巡りが悪い状況でもある。で、魔術使うのにも氣を使うのに
だが││俺の魔術理論はそいつに準じてる。回路がイカれるってこ
﹁経絡秘孔って知ってるか。まぁかいつまむと〝ツボ〟ってことなん
トントン、と。自分の左胸││〝銀鍵守護器官〟を叩く。
﹁早い話が、だ。食った飯を即行で消化して体内に取り込む﹂
?
?
366
!?
テューぬぅおわぁぁぁぁ
なんでお前裸なんだぁぁぁぁ
﹂
!!
﹂
﹂
﹁だってこの後どうせ汚れるし別に服着替えなくてもいいかなーって
﹂
﹁ちったぁ隠せよこの痴女
﹁家の中だったら別にいいじゃん
﹁逆に清々しいなこの野郎は﹂
﹁別に恥ずかしくないよ
﹂
﹁いや、現に俺に見られてるわけだが⋮⋮﹂
﹁それにほら、誰に見られるってわけでもないんだしさ﹂
?
﹁うん
ほら、エヌラスこっちだよー
﹂
﹁じゃあ∼、楽しんできてねぇ∼ねぷちゃん﹂
ほんわかとした表情で笑っている。
ぜか顔を赤くしてそっぽを向いていた。プルルートは相変わらずの
全裸でバスタオルすら巻く気のないネプテューヌにノワールはな
﹁はは、引っ叩きてぇコイツ⋮⋮﹂
?
﹁⋮⋮ま、あれはあれでお似合いよね﹂
階段を登っていった。
﹂
ネプテューヌに手を引かれ、それを嫌がったエヌラスが抱き抱えて
﹁分かったから手を引っ張るんじゃねぇ
!
!
!
﹁そうだよねぇ∼﹂
367
!?
!
!
e p i s o d e 5 8 見 た 目 は 子 供。中 身 は ⋮⋮
︵R︶
﹂
とはいえ相手が全裸である以上はこちらも脱がなければならない。
﹁なんでテメェに催促されねぇといけねぇんだよ⋮⋮﹂
言ってるんだし。分かったらほら脱いで脱いで﹂
﹁そんな深く考えこまなくたっていいよ、エヌラス。私がしたいって
﹁まぁ、プルルートもだが⋮⋮﹂
﹁え
﹁⋮⋮っていうか、そんな簡単にいいのかよ﹂
﹁よいしょっ、と﹂
はベッドに腰掛ける。
から漏れるわずかな月明かりだけだ。部屋につくなりネプテューヌ
明かりは消してあった。部屋に差し込むのは、閉めきったカーテン
らいである。
はなかった。旅支度のバッグが一つ、部屋の隅に投げ置かれているく
なもので、備え付けのベッドとソファー。それくらいしか目立つもの
エヌラスの部屋は、私物は極力持ち歩いていなかったからか殺風景
?
エヌラスが服を脱いでいくと、ネプテューヌの顔がみるみる赤くなっ
ていく。
じゃなくて⋮⋮なんで顔赤くしてんだ﹂
﹂
﹁⋮⋮なんだよ﹂
﹁││へ
﹁いや、へ
?
もなく鍛えた肉体は、というのも魔術と秘術である内氣功を扱う上で
がる筋肉質な肉体はまるで美術品の彫刻のように見える。一分の隙
げた肉体は長身の体躯を決して貧相な物には見せなかった。浮き上
今は怪我のひどい場所を隠すように包帯が巻かれているが、鍛え上
かしくなってきちゃった﹂
﹁え、え∼っと⋮⋮あはは。何か改まってエヌラスの裸見てたら恥ず
?
368
?
過不足なく必要な量の訓練を積んできた賜物。副産物であった。
﹁結構、体格いいよね﹂
﹂
だって私変身してないとこんなんだも
﹁⋮⋮お前はそりゃもう貧相で残念だけどな﹂
﹂
﹁し、しょーがないじゃん
ん
つるーん、ぺたーん。
﹂
﹁幼児体型はステータスに含まれるのか⋮⋮
﹁貧乳はステータスだよ
!
﹂
﹁テ メ ェ ⋮⋮
ロ リ コ ン は 百 歩 譲 る に し て も ペ ド は ね ぇ ぞ 俺 ⋮⋮
﹁うっ⋮⋮そこを聞かれるとエヌラスがペドフィリアに﹂
?
?
!
ないの
﹂
﹁な、なんで隣
こういう時って普通ガバーって押し倒すものじゃ
下着一枚でネプテューヌの隣に座ると、意外そうな顔をしていた。
﹁認めてねぇし﹂
﹁あ、そこ認めるんだ﹂
!
?
﹁ぴゃ⋮⋮
﹂
エヌラスはネプテューヌの頬に手を添えた。
ぼす。
理性で御する、その上で術を行使する││それが出来なければ身を滅
生憎と魔術を扱う上で最重要視されるのは理性だ。感情と激情を
﹁そういうのはな、理性が負けた男のやることだ﹂
?
唇 を 塞 ぐ。す ぐ に 離 す と、首 に 手 を 回 し て 抱 き つ い て く る ネ プ
﹁先に言ったの、エヌラスだも││ん⋮⋮﹂
﹁またバカって言いやがったな﹂
﹁バカって言ったほうがバカなんだよバカタレー﹂
このバカタレめ﹂
﹁お前がふざけたこと言うからだろ。なにが﹁アイドルやるから﹂だ、
なーって﹂
﹁だ、だって⋮⋮夕方にほっぺた引っ張られたし。またやられるのか
﹁⋮⋮やっぱ怖いんじゃねぇか、ちょっと震えてるし﹂
!
369
!
テューヌを膝の上に乗せた。向かい合う形で微笑む。
﹁もう、またそうやって⋮⋮卑怯だよ﹂
﹁やかまし⋮⋮﹂
今度はエヌラスの唇が塞がれた。離れると、悪戯っぽく笑う。
﹁ふふん、今度は私の勝ちー﹂
﹁どうやって勝敗分けるんだよ﹂
初めてなんだからハ
﹁んー、アダルティな本だと先にイッた方が負けだけど⋮⋮﹂
﹁ほう﹂
﹂
﹁ほ、ほうって何 それ絶対私負けるよね
ンデくらいいいよね
!?
﹁ねぷ
﹂
﹂
﹁そういう風に女の身体は出来てるんだろ、っと﹂
⋮⋮ホントに入るのかなこれ⋮⋮﹂
﹁ぅ││こ、こんな硬くしてぇ、もーエヌラスは仕方ないなぁ⋮⋮うわ
いいのか
﹁⋮⋮別に勝負方法それで確定したわけじゃねーんだけどな。それで
?
!?
んぅ、く
﹁お、押し倒すのは理性が負けた奴のすることだってエロイ人が言っ
てた﹂
﹁残念ながら俺はエロいんだよ﹂
﹂
﹁だよねー。ぷるるんとノワールとエロエロだも、んねぇ
すぐった⋮⋮
!
笑いを堪えていたが、やがて熱のこもった吐息が漏れた。
﹁ふぅ⋮⋮ん⋮⋮エヌラス、その触り方⋮⋮やらし⋮⋮﹂
﹁ふははーどうだエロいだろー﹂
!?
知らない綺麗な色をしている二つの胸に手を当てる。驚くほど平坦
プテューヌが身体を強ばらせた。ピンク色のまだ小さな蕾。汚れを
ふと、もの寂しげにしていた乳首を弾く。不意に襲い来る刺激にネ
﹁棒読みなの、にぃ、感じちゃうの悔しぃ∼⋮⋮いひぃん
﹂
が口元を抑えて身体をくねらせる。身体をまさぐるような手つきに
指先が触れるか、触れないかという柔らかいタッチにネプテューヌ
!
370
?
ネプテューヌの腰に手を回し、身体を反転させる。
!
だが、構いはしない。
﹁ん、ふ。フフ、くすぐった⋮⋮クフッ、ダメ⋮⋮
﹁アハ、ダメ││んんッ
﹂
﹂
〝っていうかこの野郎ホントやかましいな⋮⋮口塞いだれ〟
!
﹂
いることに気づく。
﹁私のここ、こんなちっちゃいけど⋮⋮いいの
﹁良いも悪いもねぇよ。入ればみんな一緒だ﹂
﹁ぅわ最低だ⋮⋮﹂
﹁てんめ、前戯なしでぶっこむぞ﹂
?
?
る。
﹁だから、私⋮⋮ん、ん⋮⋮こう、やってぇ⋮⋮準備、しとくね
﹁ネプテューヌ﹂
エヌラス﹂
﹂
じっくりとした緩慢な動きではあるが、それが卑猥な音で濡れ始め
そ う 言 い な が ら も ネ プ テ ュ ー ヌ の 手 は 自 慰 行 為 に 走 っ て い た。
﹁それすっごく痛い奴だよね⋮⋮﹂
﹂
だ。モジモジと股を擦り合わせて││その小さな秘部に手が伸びて
惚けた吐息を漏らすネプテューヌの様子を確かめて、小休止を挟ん
﹁酷い、なぁもう⋮⋮﹂
﹁元々ダメな女神だろうがお前﹂
﹁やじゃないけど⋮⋮こんなの、わたし、ダメだよぉ⋮⋮﹂
﹁なんだよ、嫌か
﹁んんぅ、ふあぁ、エヌラ、スゥ。こんな││んぷ、あっふぁ⋮⋮﹂
ねさせたネプテューヌを逃さまいと抱きしめる。
込ませて口内を嬲るように舌を入れた。それに驚いたのか、身体を跳
刺激されて、激しく舌を絡ませてくる。エヌラスは口内に舌を潜り
﹁ぁ、フ⋮⋮ん、ぷぁ││ん、ちゅ⋮⋮﹂
せながら前戯でイジメ倒す。
笑い声をあげそうになるネプテューヌと唇を重ねて、無理やり黙ら
!?
﹁ふぁ⋮⋮あぁ⋮⋮ん、なに
﹁エロい﹂
﹁ねぷぅ⋮⋮﹂
?
371
?
エヌラスはそれに顔を近づけると、ネプテューヌが自分で秘部を広
げた。
﹁んひ││エヌラス、息くすぐったいよぉ﹂
﹂
﹁それどころじゃなくしてやる﹂
﹁んひゃぁぁ
り込んでくる。
﹁はっ、あぁ││だ、ダメだって、ばぁ⋮⋮
﹂
!
に、ネプテューヌはそれどころではなくなっていた。
﹁あ、あ、ダメ、きちゃ、う││イく イく、から、あぁぁぁ││
あ、あー⋮⋮あぁー⋮⋮らめって、いっひゃ、のひ⋮⋮﹂
?
ここまで来て﹁いいのか
﹂等と無粋なことは聞くまい。エヌラス
好きにしろ、ということらしい。
着を脱いだエヌラスを見て身体を投げ出していた││どうやらもう
とはいえ、本番はこれからだ。ネプテューヌもそれに気づいて、下
﹁悪かったな﹂
﹁はぁー、ハァ、はぁ⋮⋮いじわる⋮⋮﹂
﹁人の頭抱きしめておいてよく言う。首折れるかと思ったわ﹂
吐く。
ちゅる││愛液を舐め取り、口元を拭いながらエヌラスが深く息を
!
めない。頭を抱きしめられていては引き離すこともできないだろう
て相当にキツイだろうな、と思いながらエヌラスは舌で濡らすのをや
入れた舌先がきゅうきゅうと締め付けられていた。身体に見合っ
││
中、おかしくなっちゃ
と頭に手を添えて、ぬるりとした熱い感触が秘部を這う。ぬるりと入
ずい状況となった。離したいのに、気持よくて離せない。引き離そう
頭を挟み込む形になる。それがますますネプテューヌにとってはま
じたことのない刺激に背を震わせた。キツく股を閉じて、エヌラスの
息を吹きかけ、悶えた隙に舌を這わせて舐め上げる。それだけで感
!?
﹁んっ、熱⋮⋮ていうか、やっぱ、入らないってぇ⋮⋮﹂
キスをして、愛液を擦りつけて滑らせた。
はすっかり勃起してしまっている陰茎を秘部に押し当てる。先端が
?
372
!
﹁全部は無理だろうな﹂
﹁縦じゃなくて、横の話だから﹂
﹁なんとかなるだろ﹂
﹂
﹁や、だって、それじゃ私、エヌラスの覚えちゃうよぉ⋮⋮﹂
﹁エロい﹂
﹁⋮⋮⋮⋮バカー、エロ魔人ー、変態国王ー⋮⋮
﹁なんだとこのエロの国の女神が﹂
する。
﹁ひぐッ⋮⋮
あっ、ん⋮⋮やっ、ぱ⋮⋮結構、キツいよ﹂
﹂
﹁だろう、な。俺も思う⋮⋮﹂
﹁でも、抜かないんでしょ
﹂
五体投地。エヌラスはキツイ入り口に押し込み、半ば無理やり挿入
﹁エロくないもーん、プラネテューヌの女神だもんー﹂
!
ん、くっ。入ってる、奥まで││来て、るからぁ⋮⋮
﹁そりゃあな﹂
﹁ひうっ
?
﹂
﹁あっ、きゅうきゅうって、締め付け⋮⋮あん
﹂
する自分の身体に、無意識の快感が背筋を電流のように駆け上がる。
エヌラスが腰を引くだけで、自分の意思とは関係なしに離さまいと
﹁分かってたことじゃんー⋮⋮﹂
﹁まぁ、な。つか、やっぱキツイな⋮⋮﹂
﹁動ける
に身体を震わせた。
ネプテューヌが膨れた下腹部を擦る。それだけでより大きな快楽
てるんだよねコレ⋮⋮﹂
﹁ぅあ⋮⋮私のお腹、ちょっと出ちゃってる⋮⋮ていうか、入っちゃっ
﹁ッ││ここまで、だな﹂
からくるサイズの差は埋められない。
がっていた。十分に濡らして広げたはずの秘部だが、それでも体格差
いく。絡みつく膣口の狭さからネプテューヌも苦しいのか、息が上
亀頭を咥え込んだ秘部から一度腰を引いて、ゆっくりと押し広げて
!
!?
﹁お前⋮⋮声、抑えろよ⋮⋮﹂
!
373
!?
?
﹂
﹂
374
﹁無理、無理無理ぃ、こんらの、我慢、できなひぃん
﹁だぁーもう、テメェ本当にこの野郎
!
!
episode59 命短し恋せよ乙女
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
リビングで待っているのは、三人。ノワール。プルルート。お風呂
そこ、ダメぇ
私、お
あがりのネプギア。テレビを点けてはいるが、肝心の内容が全くと
アッ、エヌラス、ダメぇ
言っていいほど頭に入ってこない。
││あン
かしくなっちゃうからぁ
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
!
入っていないが。
││あひ、ダメ、エヌラス。私、イク、イッちゃう││
声デカイのよネプテューヌは
!!
﹂
我慢してるのにちょっとは静かにできな
﹁││││ッ、あぁぁぁぁもう
だだ漏れよ、丸聞こえよ
﹂
﹁が、我慢してるんですかノワールさん
いのかしら
!
!
掛 け て テ レ ビ 画 面 を 凝 視 し て い た。も ち ろ ん 内 容 は ま っ た く 頭 に
半ば公開処刑を受けているような心地でネプギアはソファーに腰
⋮⋮〟
〝 う わ、う わ、お 姉 ち ゃ ん あ ん な 声 出 す ん だ ⋮⋮ 恥 ず か し い よ ぅ
硬直している。
ネプギアもそんな姉の声は聞いたことがないのか、顔を真赤にして
を赤らめていた。
い返されるのは、自分達のしてきたこと。ノワールとプルルートが顔
テューヌがあんなことやこんなことをしているのだと思うと││思
る。それでも時たま静かになる時があるが、今まさに部屋の中でネプ
ネプテューヌの喘ぎ声が聞こえる。声の高い方だから、まだ分か
!
!?
!
375
!
!
!?
﹁当たり前でしょ
どんだけ私がストレス貯めこんでると思ってる
﹂
﹂
こ
!
姉妹丼で朝までごちそ
ああ、もう思い出したら腹立ってきたわ
のよ なんでネプテューヌに向こうでもこっちでも振り回されな
いといけないのよ
うなったらもう邪魔してやるわよ
﹁わぁぁぁダメです、ダメですってば
﹂
﹁じゃあ何よ、ネプギアも混ざってくるの
うさま││ってうるわいわよ
!?
!
!
﹂
﹂
だからエヌラスイジメて愉しんでたのにぃ、ノ
〝本当かしら⋮⋮〟
﹁女神の仕事だってぇ、満足したら帰るつもりだったよぉ∼
﹁いや、でも仕事⋮⋮﹂
ワールちゃん来ちゃったし⋮⋮﹂
んまりないしぃ∼
﹁女の子ばかりイジメても真新しさないしぃ、男の人いじめる機会あ
何か不満そうに頬を膨らませてねぷぐるみの首を締める。
﹁だぁって∼⋮⋮﹂
﹁アナタも相当溜め込んでるわね、プルルート⋮⋮﹂
までムラムラしちゃうよぉ∼﹂
﹁でもぉ、ねぷちゃん凄いねぇ∼。喘ぎ声。いいなぁ、聞いてるこっち
さん
﹁ノリツッコミの逆ギレですか むしろそれ何ギレですかノワール
!
!?
えぇそうね
﹁そうだよねぇ∼﹂
﹁えっ
﹂
﹁そういえばぁ、ノワールちゃんお風呂まだだったよねぇ∼
﹂
かった。それが自分達の世界に影響を及ぼすと知れば尚更である。
かったからである。知ってしまった以上見てみぬ振りなんて出来な
を つ い て 出 て き た 言 葉 だ。本 音 を 言 え ば エ ヌ ラ ス が 放 っ て お け な
ルートが不在だったというのも後から知ったことだったし、咄嗟に口
らであってもノワールは関係がなかった。本当のことを言うとプル
いや、多分嘘だろう。もしかしたら本当かもしれないが。そのどち
?
?
?
飯作ってあげないとなー﹂
﹁⋮⋮何か身の危険を感じてきたわ⋮⋮あ、そうだ。私エヌラスにご
!?
376
!?
!
!
!?
?
﹁え、まだ食べるんですかエヌラスさん
﹂
﹂
﹂
﹂
気持ちよかったって言いました
﹁ばっちり聞いてんじゃないわよ
﹁え、今なんて言いました
﹂
気乗りしなかったんだけど││思ったより気持ちよかったし⋮⋮﹂
﹁それは⋮⋮背に腹は変えられないじゃない。ホントは、その、あまり
イメージだったんですけど﹂
﹁でもちょっと意外でした。ノワールさん、そういうの結構固そうな
﹁まぁ、アレはそういう体質らしいし⋮⋮﹂
﹁なんか、こう⋮⋮モヤモヤしたものが胸に⋮⋮﹂
打って変わって上機嫌なプルルートがエヌラスと浴室に消える。
﹁お願いだから何もすんじゃねぇぞ⋮⋮
﹁じゃあ私も一緒するねぇ∼、えへへぇ﹂
﹁⋮⋮ワリィ、風呂入るわ⋮⋮⋮⋮﹂
もうお疲れだろう。
ら少しして、エヌラスが戻ってくる。げっそりとした様子で、そりゃ
ふと、上の階が静かになった。ようやく終わったらしい││それか
﹁⋮⋮血を吐いてた、ですか
ないといけないって言ってたわよ﹂
﹁さっき、血を吐いてたわ。それの不足分を取り戻すのに大量に食べ
?
!
お 姉
犯された姉の姿を見るのは、非常に勇気が必要だったが││それで
もネプギアは心配でいてもたってもいられなかった。
エヌラスの部屋を一応ノックしてから入ると、ベッドの上で大の字
思ったより、すごかったなぁ⋮⋮﹂
になって荒れた息を整えていたネプテューヌがいる。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ハァ、ハァ⋮⋮あ、ネプギアー
﹂
まぁねー。でもこれですぐ変身できるってわけでもないみ
﹁お、お姉ちゃん。大丈夫だった
﹁うん
?
?
ティッシュティッシュ﹂
377
?
﹁ひ ぃ、ご め ん な さ い 包 丁 こ っ ち 向 け な い で く だ さ い
?
!
!
?
ちゃんの様子見てきますね﹂
!
たい。うわぁ、こんなに⋮⋮エヌラスったら出しすぎだよ、もう⋮⋮
?
枕元にあったティッシュで拭き取り、溢れる精液を拭う仕草にネプ
ギアは生唾を飲み込んだ。今は裸身を晒す姉だが、何か考えがあって
のことだろう。変身できれば、エヌラスの力になれる││というのは
﹂
分かる。だがそのための行為があまりにハード過ぎた。少なくとも、
﹂
ネプギアにとっては。
﹁⋮⋮どうして
﹁どうかしたー、ネプギア﹂
だって私、エヌラスのこと普通に好きだよ
﹁どうして、お姉ちゃん。エヌラスさんと⋮⋮﹂
﹁え
﹁││││いつ、から﹂
あんなんでも、と言うのは余計だが。
腐っても国王で神格者なんだなー、って﹂
るるんでも同じことしたんじゃないかな
あ ん な ん で も や っ ぱ
係なしに助けてくれた。ユウコでも、ネプギアでも、ノワールでも、ぷ
感触。⋮⋮凄く、嫌だった。死んじゃうって思った。でもそんなの関
かな。今でもちょっと覚えてるよ。私の両手が真っ赤になった時の
﹁うーん、そうだなー。いつからって聞かれると、私を庇ってくれた時
?
?
を決める。全裸だが。
ちゃったなぁ⋮⋮慣れないことして⋮⋮むにゃ⋮⋮﹂
?
ら﹂
﹁⋮⋮それで思い出したけど、お姉ちゃんの声、下まで聞こえてたか
∼⋮⋮﹂
﹁この後滅茶苦茶セックスするわけじゃないからだーいじょうぶだよ
﹁あれ、お姉ちゃんもしかしてエヌラスさんと一緒に寝るの
﹂
いけど、ネプギアはもっと自分の身体大事にしてね。ふぁ∼あ、疲れ
﹁やっぱヤることやっとかないと損じゃん
私はこんなんだからい
ティッシュを丸めてゴミ箱に投げると、綺麗に入ってガッツポーズ
きっと私達のしてる戦いより、もっと過激で過酷な場所だから﹂
あ る だ ろ う け ど │ │ そ れ に 此 処 は ア ダ ル ト ゲ イ ム ギ ョ ウ 界 だ し。
たくて、誰かを守りたくて、仕事もいっぱいあるし、辛いことも沢山
﹁そう思うとさ。私達ときっと何も変わらない人なんだよ。国を守り
?
?
378
?
﹁え、嘘ぉ
だ﹂
うあー、私の恥ずかしいところ丸聞こえとかそっちのが
?
んだ
﹂
﹂
思ったやばかった違う違う違うそうじゃねぇ﹂
?
エヌラスは知らないが、プルルート=アイリスハートがその後ろで
﹁⋮⋮⋮⋮黙んな、怖いから﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁んなわけあるか。命懸けで守る価値のあるやつだけだ﹂
﹁度し難い変態ね⋮⋮女の子だったら誰でもいいの
﹂
﹁滅 茶 苦 茶 │ │ じ ゃ ね ぇ、死 ぬ か と 思 っ た 正 直 な 話 マ ジ で 死 ぬ か と
﹁興奮した
﹁小さいから、そりゃまぁなんか犯罪臭ヤバかった﹂
﹁ねぷちゃんはどうだったかしら﹂
とはいえ、それ以上に何をするでもなく全身をすりあわせてくる。
ト=アイリスハートに頼んだ。ダメだった。知ってた。
で叶えてくれない願いなのを知っておきながらエヌラスはプルルー
頼むから普通にしてくれと願いながら、それが流れ星が叶える確率
﹁そうかよ⋮⋮﹂
﹁い・や・よ﹂
﹁普通に洗ってくれ⋮⋮﹂
﹁あたしの胸よ
﹂
﹁分かるけどな││俺の背中に当たっている柔らかい二つの感触はな
﹁小さいと色々不便なのよ
﹂
﹁⋮⋮じゃねぇな、アイリス。なんで変身してまで人の背中流してん
﹁なにかしら﹂
﹁⋮⋮なぁ、プルルート﹂
だけ羨ましく思った。
ところはもっと別にあるだろうに、ネプギアは寝転がる姉を見て少し
枕を抱いてゴロゴロと悶絶するネプテューヌに、いや恥じらうべき
ショック∼⋮⋮﹂
!?
?
379
?
?
耳まで真っ赤にしていた。
﹁なんでそんな簡単に守るとか言っちゃうわけ
﹂
﹂
だからせめて、この戦争終わるまではお前達のことしっかり守っ
めて考えりゃ、これじゃ俺が助けられてばっかだ。割に合わねぇだろ
ルド・ギアの野郎に負けてただろうし││悔しいけどな、事実だ。改
に殺されてたんだろうな俺。ネプテューヌ達と出会わなかったらバ
機能ないからな。だから、お前と出会ってなかったらアルシュベイト
も、俺はバカだからやっぱ誰かいてくれないと戦えねぇんだよ。学習
﹁妹 が い た。助 け ら れ な か っ た。恋 人 も い た。結 局 殺 し た。そ れ で
〝あ、本当にクズなのね。叩きなおしてやろうかしら〟
﹁開き直ってる﹂
﹁自分でそういうこと言ってて悲しくならない
﹁罪深くて強欲で身の程弁えねぇクズの極みだからだよ﹂
?
?
て笑顔でお別れしねぇと、なんつうかよ。後味ワリィだろ﹂
そこで向き直って、少しだけ笑う。
﹂
会えて良かったと心底思う││そんなセリフ言えたものではない
が。
﹁ありがとな、プルルート﹂
﹁⋮⋮ねぷちゃん達に、言えばいいじゃない﹂
﹁こっ恥ずかしくて言えるか﹂
﹁じゃあなによ。あたしに言うのは恥ずかしくないっていうわけ
﹁素っ裸でこれ以上恥ずかしいことねぇだろうが﹂
﹁あ││││﹂
﹁洗い終わったならさっさと流して上がるぞ。もう眠い⋮⋮﹂
たいの
﹂
﹁そ、そんなにあたしとフラグ建ててなによ。ホントにペットにされ
?
﹂
あとまだ諦めてねぇのかよそれ
﹂
﹁諦めるわけないでしょ
よ
﹂
﹁フラグとか言うんじゃねぇよ人がせっかく素直にお礼言ってんのに
!?
!
380
?
﹁全力で否定すんな
!
!?
!
e p i s o d e 6 0 女 は 三 人 寄 ら な く て も 騒 が し
い奴は騒がしい
一夜明けて、ついでに冷蔵庫の中身も空にして││エヌラスはユウ
コのいるであろう教会に顔を出した。旅支度を整えてユノスダスを
﹂
後にする旨を知らせると、眠そうに目蓋を擦りながら頷く。
﹁ん∼⋮⋮﹂
﹁あんま目擦ると悪くなるぞ
﹂
!
ダスを出て九龍アマルガムに向かう。
︾
﹄
︽ッシャオラー 野郎ども、今日もやる気出してくぞー
遅れを取り戻せー
﹃ウオオオオオオォォォッ
朝からやかましい。
昨日の
員でもそこまで仕事にやる気出さないぞと思いながら尻目にユノス
の額のねじり鉢巻は何のために用意したのだろうか。今時の新入社
お前のそのモチベーションはどっから来るんだと問い詰めたい。そ
興 作 業 に 精 を 出 す ラ ン ス 0 3 は 昨 日 に 増 し て や る 気 を 出 し て い る。
テメェの方はどうなんだと言う気にはならなかった。早朝から復
﹁へいへい﹂
﹁ちゃんと金返してよー
﹁ま、そんなわけだから。機会があったらまた来る﹂
﹁言われなくても知ってるよ、子供じゃないんだし⋮⋮﹂
?
﹁ノー
絶対にノー
﹂
﹂ということ。
﹂
よーし、ちょっと試しにやってみ
﹁結構頻繁に変身するわよ、私達﹂
﹁そんな気軽に変身していいものなのか
ようかな
﹁あ、なんか私変身出来そうかも
!
381
?
移動方法が何故徒歩かと聞かれれば、プルルートの変身は全員で
!
!
!
﹁戦闘以外でも移動するのに変身しますよね﹂
?
!
!
!
﹁俺の苦労が馬鹿げてきた⋮⋮﹂
そんなわけで、ネプテューヌはエヌラスの前で実際に変身してみせ
た。
﹁││へぇ、変身の感覚としてはゲイムギョウ界と変わらないみたい
ね﹂
﹁だれおま﹂
﹂
ネプテューヌよ。今は女神
?
眉間押さえてどうかした
﹁目の前で変身してみせたのに聞くの
パープルハートだけど﹂
どうしたの
変身する前と
?
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁エヌラス
?
一瞬誰だか分かんなくなるだろうが
﹁どうしてこう、どうしてこうお前らってよぉ⋮⋮
後でそんなに変わるんだよ
﹂
!
?
﹁ちげぇよ
後、お前に関してはもうずっとそのままの方がいい﹂
﹁そんなキレられても困るわ⋮⋮やっぱりロリの方がいいの﹂
!
した。
﹁残念だったなー、私だー。どやぁ
﹁さーて先行くか﹂
﹂
!?
!
ねぇノワール、エヌラスって酷くない
!?
たわよ
﹂
﹁ノワールちゃんも我慢してたもんねぇ∼﹂
こら待ちなさいよ
逃げるなー
﹂
﹁ほらー、ぷるるんが言うんだからノワールはエロエロだー
﹁アナタねー
!
そのテンションに付き合わされる身にもなれ。エヌラスは心底苦
!
﹂
﹁ちょ、エロは余計よ⋮⋮大体それを言ったらアナタの方がエロかっ
よぅ﹂
﹁う わ ぁ ∼ ん、ネ プ ギ ア ー。い じ め る ぅ、エ ロ ノ ワ ー ル が い じ め る
しろ尤もな反応よ﹂
﹁だってアナタ、私達の中で一番変身のギャップすごいじゃない。む
﹁ナチュラルに酷くない
﹂
言い終わるが早いか、ネプテューヌ=パープルハートは変身を解除
!?
﹁⋮⋮頼むから、朝っぱらから騒ぐなよ⋮⋮﹂
!
!
!
382
!
労したため息を吐き出した。
犯罪国家。九龍アマルガム││これから向かう先ほどアダルトゲ
イムギョウ界で危険な場所もない。そんなところへ少女四人を連れ
て帰国するというのは犯罪王と呼ばれるエヌラスであっても無謀に
等しかった。誰がどんな目に遭うか知れたものではないし、ただでさ
え人口過密地帯の街中ではぐれたら何をされるか分からない。ただ
でさえ気が重いというのに⋮⋮。
﹁やっぱ胸でご奉仕とかしちゃったんでしょー、そうなんでしょー。
そこのところどうなのさぷるるん﹂
﹂
﹂
﹁エロエロだったよぉ∼
﹁ちょちょ、ちょっと
?
﹂
てんで国ごと潰したんだよ﹂
﹁⋮⋮あの、自分の国。なんですよね
それ、自分で潰したって﹂
た。地下から地上に出てきたはいいが、それじゃあまりに他が迷惑っ
﹁ああ、そりゃそうだ。元・教会の時計塔残して後は全部俺がぶっ壊し
ましたけど││﹂
﹁そ、そういえば九龍アマルガムって何もない衛星写真見せてもらい
﹁頭痛がしてきた⋮⋮﹂
﹁騒がしくってごめんなさい⋮⋮﹂
﹁なんだ、ネプギア﹂
﹁あの、エヌラスさん﹂
四人も集まったらただただやかましい。
女三人寄れば姦しいとは言うが、ネプテューヌ一人で騒がしいのに
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁やめてってばぁ∼
﹁かわいかったなぁ∼ノワールちゃん﹂
!?
とだ。基点は地下。上にある時計塔は教会の名残。
地下からの発展で地上に進出したものの結局は失敗だったというこ
その結果として、上下関係が生まれた。土地としても、国としても。
敵同士っつぅ奇妙な関係が出来上がった﹂
﹁上と下でちょっとしたすれ違いがあってな。同じ名前の同じ国だが
?
383
!
﹂
﹁でも、どうしてそんなことしたんですか
﹁⋮⋮⋮⋮俺の師匠の話、したか
﹂
﹁えーっと、とりあえずトンデモナイ人ですよね
?
﹂
﹂
?
﹁じゃあ、正式な手続きを踏んで継承したのね﹂
﹁いや。殺して奪った﹂
?
﹃えぇっ
﹄
﹁俺が使ってた﹂
人じみた体長じゃない。ていうかそれどっから出てくるのよ﹂
﹁いや、その全長六十メートルって尺の時点でおかしいから。光の巨
身で殴り飛ばす〟んだから﹂
﹁しょうがねぇだろ。俺の師匠、全長六十メートルあるロボット〝生
﹁ていうか、国一つ滅ぼすって⋮⋮﹂
﹁とんだ師弟喧嘩があったものね⋮⋮﹂
と﹂
﹁結局はまぁ、師弟関係の拗れが痴情のもつれで国一つ滅んだってこ
国王であるエヌラスだけだ。
のお陰で地上と地下を自由に行き来できる人間は限られる。業者と、
時計塔だけはどういうわけか傷一つつかなかったらしい。だが、そ
と潰した〟﹂
体俺の恋人寝取ったの師匠だしな。んで、地上に出てきた時に〝国ご
﹁だから九龍アマルガムには帰りたくねぇって言ってんだろうが。大
﹁⋮⋮アナタ、身の回りの人死んだり殺し過ぎじゃない
﹂
ギアみたいな時があったんだ。国王候補生、みたいな感じでよ﹂
ム治めてたのは俺の師匠だ。厳密に言えばそうだな、俺も一時期ネプ
﹁お前、師匠生きてたら殺されてるぞ。本来、地下帝国の九龍アマルガ
なの
﹁エヌラスのお師匠さんってどんな人だったの やっぱクズの極み
だ思い出したくねぇ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮とんでもないの領域ぶっ飛んでたんだよなぁあの人⋮⋮あぁ嫌
?
?
左胸を指して、それから魔術回路がそのロボットの技術を流用した
﹁もう二度と使わねぇって決めたけどな﹂
!?
384
?
ものであることを話す。無尽蔵の魔力貯蔵庫││のはずなのだが、回
路が焼き付いて使えなければ宝の持ち腐れでしかない。
﹂
﹁でも、魔術回路とかそういうのなくても、私達は普通に魔法使えます
よ
﹁俺が色々と特殊なだけだ﹂
﹂
﹁そりゃそんな巨大ロボ使ったら国一つ滅ぼせるわよ⋮⋮﹂
﹁でもそれ使ったら普通に勝てるんじゃない
ネプギアは隣に着地する。
ノワール、普通に踏みやがったな
﹂
ったく⋮⋮﹂
!?
﹁あ、ごめんエヌラス﹂
﹁ゴメンじゃねぇよ
﹁だ、だって突然足場なくなるんだもの
﹁俺だってこんな段差出来てたの初めて知ったわ
﹂
れ、ノワールに踏まれ、立ち上がろうとしてプルルートに潰された。
そう言いながらエヌラスは段差を飛び降り、ネプテューヌに潰さ
し﹂
﹁使えたらな。今の俺じゃ使い物にならねぇよ。使用条件限られてる
?
記憶を辿っても思い当たる節がない。
﹁⋮⋮妙だな。こんなんなかったのに﹂
﹁あー、エヌラス。ぷるるんおぶさってずるいよー
い﹂
私も楽したー
の地層の盛り上がりに首を傾げる。はて、こんなのがあっただろうか
振り返れば、確かに出来ていた。二メートルほどの段差が。等身大
寄せた。││段差
ぶつくさ言いながらプルルートをそのまま背負い、エヌラスが眉を
!
!
!?
?
∼﹂
﹂
﹁いつから俺はお前専用になったプルルート﹂
﹁⋮⋮聞きたい
﹁聞きたくないです⋮⋮﹂
﹁教えてあげよっかぁ∼﹂
﹁言わなくていいです﹂
?
385
?
﹁えへ∼、だめだよぉ∼ねぷちゃん。エヌラスはあたし用だもんねぇ
!
?
﹂
﹁え∼っとねぇ∼﹂
﹁ヤメロォ
﹂
﹁││はぷっ﹂
﹁ぬぉわぁ
耳に近づけていた口が、耳たぶを甘咬みすると吐息を吹きかけて離
れた。じろりと睨めば何も知らぬニコニコ笑顔。
﹁にこ∼﹂
﹁⋮⋮こんにゃろめ﹂
﹁ぶーぶー。朝からイチャつくなんてズルいぞーぷるるん﹂
﹁いいじゃ∼ん。昨日はねぷちゃんが独り占めだったんだからぁ∼﹂
﹁でも、一緒にお風呂入ってたじゃない﹂
﹁⋮⋮││ぷる∼﹂
死ぬ⋮⋮
﹂
顔を赤くして押し黙るプルルートに首を絞められてエヌラスの顔
が青ざめていく。
﹁プルルート、タンマ、ストップ⋮⋮
!
ホラーで来たらいいじゃない﹂
﹂
﹂
エ ヌ ラ ス や ば い ほ ん と 死 ん
て、ネプギアを連れて飛ぶからエヌラスはプルルートとハンティング
﹁絶 対 何 か あ る わ よ ね そ れ。は い 提 案。私 と ネ プ テ ュ ー ヌ が 変 身 し
﹁三日も歩けば着くだろ。何もなけりゃあな﹂
﹁歩いていたら何日くらいでつくのさー。疲れたよぉ﹂
!
!
﹁││││、││││
離したげて
﹁わ ぁ ぁ ぁ ぁ ぷ る る ん、待 っ て
じゃう
!
!
!?
引き剥がし、ノワールの提案を採用した。
386
!
!?
タップしていても照れ隠しのあまり気づいていないプルルートを
!
episode61 灰燼の焼土に思い出一つ
││九龍アマルガム・地表焼土。
ハンティングホラーでかっ飛ばし、何か途中で人を轢いたような気
がするがみるからにやばげな人だったというのと人もどきと何かよ
くわからない怪物を轢いた気がするがエヌラスは何一つ気にしな
かった。と、言うのも全部見覚えがあったからである。
﹁ねぇ、エヌラス。貴方、涼しい顔して普通に何人か轢いてなかった
﹂
﹁見覚えあるバカどもだった﹂
﹁普通に死人出てたわよ⋮⋮﹂
﹁なぁに、生まれてきて地獄に落ちても役に立たねぇクズでも死んだ
﹂
後には野菜の養分になって逆に生産性出てくる﹂
﹁アナタ死者に対する冒涜よそれ
﹁トカゲだろ
﹂
﹁ねぇ、あの黒いトカゲみたいなのなに
﹂
き物が視線を合わせるなり瓦礫の隙間に身を潜り込ませている。
た歳月を感じさせない威厳で迎えていた。時折、トカゲの様な黒い生
歩く。それでも君臨し続ける時計塔だけが無傷で雨風に晒されてき
焼け野原には草木一本生えてすらいない。灰燼に帰した街の中を
﹁見事に瓦礫しかないわね﹂
﹁ここが九龍アマルガムの地表⋮⋮﹂
ドン引きを禁じ得ない発言にノワールが軽く身を引いた。
﹁うわ、うわぁ⋮⋮﹂
﹁俺の国で言うならむしろ死体の方が有用性ある。ほれ着いた﹂
!?
?
﹁何言ってんだ、煮魚だって食うぞ
﹂
﹁アナタ本当に調理方法それしか知らないの
!
﹂
﹁丸焼きにして食うと中々美味くてなー。よく食ってた﹂
人間大くらいあるんだけど。ていうかリザードマンと違うの
!?
﹂
﹁私達が知っているトカゲとは明らかにサイズが違うんですけどー、
?
?
387
?
﹁丸煮込みじゃないそれ
﹂
﹂
﹁ほんっと、料理出来ないのねアナタ⋮⋮﹂
かくな
﹁調味料ぶっこんで煮て焼いて食えりゃいいんだよ俺は
!?
言ってんのに虫の湧いたパン作るんだからな
﹁あ、成虫の方な﹂
!?
﹂
味はとも
だが、自分は確かに負けた。この、ただの時計塔を破壊することすら
う な 荒 唐 無 稽 で デ タ ラ メ な 術 式 を 組 み 込 ん だ の か さ え 分 か ら な い。
た、九龍アマルガムのシンボルは、その師匠が建てた。そこにどのよ
時計塔を見上げる。││ミスカトル大時計塔。傷一つつかなかっ
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
からお前は負けたのだ。ただの魔導師であるこの俺にな﹄
んな超常に晒されても決して屈しない。何故か分かるか ⋮⋮だ
嵐だ。戦禍を巻き起こし、平和を蹂躙する自然災害だ。だが、人はそ
﹃││確かにお前は破壊神だ。善悪の関係もなく暴れまわる、ただの
なかった。
はもう、それが何処に建っていたのかさえ分からない。覚えてすらい
そのサイズから、小さな教会だったのだろうと容易に推測出来た。今
瓦礫の傍に落ちていたのは、恐らくは教会のシンボルである十字架。
た後の土を踏んでも乾いた灰が靴底に踏みにじられるだけだ。ふと、
エヌラスは郷愁の念もなく、笑いながら歩く。かつて自分が蹂躙し
﹁その情報いらなかったよ
﹂
﹁うわぁ、それは私も流石にないかなぁ⋮⋮﹂
﹁カブトムシうめぇとか言って自分で食ってた﹂
だろう。
せている。誰も見るものはいなくても時は動き続け、いずれ止まるの
げる風が時々吹くものの、未だ動き続ける時計塔の針が昼過ぎを知ら
でもパンの作り方は知っている辺り、多分わざとだ。土埃を舞い上
!?
!
﹁それもう料理って言葉知らないレベルじゃないの
﹂
暗 黒 物 質 だ し。俺 の 師 匠 の 料 理 ス キ ル 舐 め ん な よ。蒸 し パ ン っ て
﹁大体煮ても焼いても食えない食材なんて食材じゃねぇし、それもう
!
?
388
!
叶わなかった。
﹃そんなお前が、どうしたら俺に勝てると思う
﹁エヌラス
どうしたの
﹂
ふと、時計塔に近づいていた足が止まる。
届いた。それを忘れるな⋮⋮﹄
レクチャー
簡単だ。だが、誰で
憎悪に灼けたお前の心でも⋮⋮〝諦めなかった〟からこそ、俺に刃が
﹃││ああ、そうだ。それでいい。エヌラス⋮⋮絶望に身を焦がして、
らいない。だが、一つだけ覚えているのは││諦めないこと。
わっただろう。どれだけの苦楽を共にしただろうか。もう覚えてす
それからどれだけの日々を共にしただろう。どれだけの地獄を味
教えるのは唯一つ││〝諦めるな〟﹄
││決して道を誤るな。違えるな。絶望に折れるな。いいか、俺から
も出来るわけじゃない。心せよ。胸に刻め。俺からの最初の講 義だ
?
達が心配そうに振り返って待っている。感傷に浸っていたらいつの
││気がつけば、立ち止まっていた。先に歩いていたネプテューヌ
地上最強の魔導師だった師匠は。
た。最後まで。エヌラスの凶刃によって斃されるまで││あの人は、
たお
それが〝何〟なのかまでは、知らなかった。教えてもらえなかっ
戦ってた時にアンタは俺以外の何かと戦ってた〟
〝 ⋮⋮ な ぁ、師 匠。ア ン タ は 一 体、何 と 戦 っ て い た ん だ ⋮⋮ 俺 と
│﹄
俺は⋮⋮少し、疲れたよ。エヌラス⋮⋮もう、やすませてくれ│││
あらゆる邪悪と戦える。それなら〝諦めないお前〟が、必ず勝つ││
願い、何かを守りたいと祈るのなら⋮⋮悪の限りを尽くしたお前は、
﹃俺から最後の教えだ⋮⋮お前が、もし⋮⋮本当に誰かを守りたいと
ではない。前に進むことでもない。その一歩。
くても歩くことを〝諦めない〟のだ。大事なのは足を止めないこと
だから、どんなに惨めでもどんなにみっともなくてもどんなに情けな
どこかで立ち止まってしまえば、きっと二度と歩き出せなくなる。
﹁⋮⋮ああ、いや、悪い。なんでもねぇよ﹂
?
間にか置いていかれていた。
389
?
エヌラスは、何気なく自分の背後を振り返る。そこには誰もいな
かった。だけど││師匠の、鼻で笑う声が聞こえた気がする。それに
俺の後ろに誰かいたか
﹂
背中を押されてエヌラスは歩き出した。
﹁なんだよ
﹁悪竜ジャバウォック││
﹂
一匹の竜が飛び去っていった。
見上げる。ネプテューヌ達も釣られて見上げると、太陽の光を遮って
││その時、竜の羽ばたきを聞いた。エヌラスが立ち止まり、空を
は正確に流れていく。
時計の針が動き出す。デタラメに、めちゃくちゃに、それでも時間
であった男の築いた一世一代の大仕掛。
その先に││ミスカトル大時計塔。地上最強の魔導師であり国王
頭を歩き始めた。
情けないと思いながらも、頭を掻いてエヌラスは四人を素通りして先
ああ、また結局自分はこうしてネプテューヌ達に助けられている。
﹁⋮⋮そりゃそうか。悪いな﹂
﹁早くぅ∼﹂
﹁エヌラスさんが道案内してくれないと分からないですし﹂
﹁そうよ。ほら早くしなさいってば﹂
ん﹂
﹁何言ってるの、エヌラスがセンチメンタルに立ち止まったんじゃー
?
られた大剣が突き刺さる。
?
﹁つまらねぇもの持ってきやがって、返品だ。わざわざついてこなく
の日の殺意、二つの心臓に突き立ててやる﹂
﹁忘れ物か。ああ、相違ないな││受け取れ、エヌラス。殺し損ねたあ
﹁なんの用だよ、ドラグレイス。忘れ物でも届けに来たか
﹂
の隙もなく全身を包んだ神格者の一人。その傍らに魔法で鍛えあげ
空から落ちてきたのは、ドラグレイス││竜を模した西洋鎧に一分
としてくる。
光の中から黒い影が飛び降りてくる。その輪郭が徐々にハッキリ
﹁⋮⋮いや、ちげぇな。アイツは﹂
?
390
?
てもいいだろうに﹂
言ってる間に踏み込んだ一刀が振り下ろされていた。エヌラスは
それを後ろへ跳んで避ける。
いざ仰げ、我が眷属よ﹂
﹁ほざけ。貴様の足取りが掴め、更にはユノスダスを離れるとあれば
これほどの好機はあるまい
﹁それがどうした
﹂
﹁⋮⋮もしかしなくてもこのトカゲ共、テメェのか﹂
?
﹂
貴様のそういうすっとぼけた所が嫌いなのだ
!
まま四足で威嚇するトカゲがいた。
﹁俺は
﹂
い影の群れは百や二百ではきかないだろう。地上にも変異をしない
次の瞬間には新たに翼を生やして飛び上がっている。頭上を覆う黒
がる。そしてその変異はすぐに表れた。背中が膨張したかと思えば、
ドラグレイスの一声に、隠れ潜んでいたトカゲ達が集まり、立ち上
﹁貴様ァァァァーー
ダスの店に仕入れてくれ﹂
﹁いや、丸焼きにして食ったら中々美味かったもんでな。今度ユノス
?
ぜ、相手してやる。ワリィが雑魚は任せるぞ﹂
ドラグレイスは恐らく、エヌラスの不調を知っている。仮にも共闘
していた立場だ、心配を装って診断記録を覗くことなど造作も無い。
今、この世界で最も焦っているのがドラグレイスだろう。
持つべき国を持たず、ユノスダスでなければ孤独な神格者。ムル
フェストのように自由奔放でもなければクロックサイコのようにサ
バイバルバトルに興味が無いわけでもない。明確な目的を持ってい
ながら、いまだ誰ひとりとして脱落していない現状に危機感を覚えて
いる。なりふり構ってもいられない。
﹂
エヌラスは倭刀を召喚して構えた。それに大剣を持ち上げて、ドラ
グレイスが応じる。
﹁よーっし、それじゃ私達もパパっと片付けちゃおっか﹂
﹁それもそうね。一度共闘した身とはいえ、容赦しないわよ
﹁じゃ∼、あたしはこっちでがんばるねぇ∼﹂
!
391
!!!
﹁俺 は テ メ ェ の そ う い う こ す っ か ら い 所 が 嫌 い だ け ど な。ま ぁ い い
!
﹁地上は私に任せてください﹂
﹂
﹁見事に少女揃いだな、このロリコンめが﹂
﹁テメェちょっとマジで殺させろ
地上に戦風が吹き荒れた。空では変身したネプテューヌ=パープ
ルハートとノワール=ブラックハートがワイバーンを相手に。地上
では変身したプルルート=アイリスハートとネプギアが黒いトカゲ
を相手にしていた。
﹂
﹂
丸めて焼いて食っちまうぞ
大人しく認めろ、このロリコン
そして、エヌラスは神格者、ドラグレイスと剣戟を鳴らしている。
﹁貴様は、いつもそうだな
﹁じゃかぁしぃわこのトカゲ野郎
﹁だったら喰ってみろ、腹を壊してやる﹂
﹁やってみやがれ。俺の鋼の胃袋舐めんじゃねぇ﹂
!
!
ふざけているようだが、二人は大真面目で刃を滑らせていた。
392
!
!
!
﹂
e p i s o d e 6 2 こ の 世 は 地 獄 極 楽。天 国 は 何
処に在り
﹁この、すばしっこいんだから
﹂
﹂
くなった。青ざめるエヌラス。鞭が振り上げられて││
﹁アッハハハハハハハハ
﹂
﹂
﹂
﹁餌場って⋮⋮餌食の間違いじゃないの
!
込んでくる。││それを見てプルルート=アイリスハートの目が細
そこに、ドラグレイスの一撃で大きく吹き飛んだエヌラスが転がり
けて弾かれるように吹き飛んでいた。
達が薙ぎ払われていく。強靭な鱗も鞭の先端が叩き出す暴力には負
地上でもプルルート=アイリスハートの蛇腹剣で逃げ惑うトカゲ
ね﹂
﹁チョロチョロ這いつくばってばかりの爬虫類が、数だけ揃ってるわ
当たり、同士討ちの形となって儲けものである。
バーンが腹を裂かれてブレスを暴発させた。その火球は別な一匹に
ネプテューヌ=パープルハートの背後で喉を膨らませていたワイ
てないの、よ
﹁うるさいわね、つい最近まで地上ばかりで戦闘だったから感覚掴め
﹁久しぶりの戦闘で身体が鈍ってるんじゃない、ノワール﹂
り落とされる。
突進してきた。その首をネプテューヌ=パープルハートによって切
剣を避ける。いい具合におちょくられ、その横から別なワイバーンが
ワイバーンの一匹が後ろに羽ばたき、ノワール=ブラックハートの
!
﹁ああ、エヌラスがぷるるんの餌場に
﹁どぉわぁぁぁぁぁぁ
!!
と、腹の下に潜り込んで担ぎあげた。背中からトカゲの苦悶の声が聞
と一緒にエヌラスが逃げ惑う。だが、隣の一匹を殴りつけたかと思う
哄笑と共に振り下ろされる蛇腹剣に巻き添えを食らってトカゲ達
?
!
!
393
!
こえてくる。背に腹は変えられない、すまん許せ。そう謝罪していた
む し ろ お 前 よ り 先 に 殺 さ れ そ う
矢先に目の前にはドラグレイス。横一文字に構えた大剣の腹でエヌ
﹂
ラスは殴り飛ばされた。
﹁遊んでいる場合か
﹂
﹁遊 ん で ね ー よ、命 の 危 機 だ よ
だったわ
﹂
?
貴様が〝殺した〟のだ、エヌラス
あの日貴様が次元連結装置を破壊してから全
!
たァァァッ
貴 様 が 壊 し
俺が愛したかの地を、俺が愛した女を、生きる人全て
﹂
が 笑 う あ の 黄 金 郷 を、貴 様 が、貴 様 が 殺 し た
てが狂った
戦禍の破壊神
﹁貴様が││貴様が、貴様が⋮⋮
らドラグレイスの殺意に気圧されて近寄ろうともしない。
溢れる殺意が瓦礫をさらに瓦解させる。粉塵となって舞う土埃す
﹁││││﹂
にかつて夢見た〝ティル・ナ・ノーグ〟はないぜ
﹁おいおい、夢に敗れて現実から目を背けるのは勘弁しろよ││そこ
﹁黙れよ、破壊神。この世界をこうしたのは貴様だ⋮⋮﹂
﹁〝それ〟使うほどのことか、ドラグレイス﹂
﹁││そうか﹂
に揺らめいて、黄金の輝きを見せていた。
ドラグレイスの持つ大剣が魔力の光を帯びる。それは陽炎のよう
打ちしそうなほど眉を寄せていた。
指差す先には不満そうなプルルート=アイリスハート。今にも舌
!
?
!
をすくめてみせた。
誰もが妄言だと言っていた。永遠があると。絶対の安住があると。
そんな黄金郷があるのだと。だが一人。ただ一人だけがそこに辿り
着いた││ドラグレイス。かつて国に仕える騎士であり教会職員で
あ っ た 彼 は 誰 よ り も 先 ん じ て そ の 黄 金 郷 に 辿 り 着 い た。だ か ら 〝
狂った〟
戻ってきてからの人々を蔑み、世界が醜いものであると。こんな世
394
!
やれやれ、と。呆れて物も言えないとでも言いたげにエヌラスは肩
!
!
!
!
界は起こり得てはならなかったのだと。
﹁だから俺は貴様の計画に乗った。俺は次元連結装置を用いての黄金
善悪の隔て無
貴様の言う、人々が笑顔で明日を
﹂
善人か 悪人か
そんなものは有り得ぬ
郷を呼び出すつもりだったのだ
迎える世界
﹁││﹂
﹁貴様が言う人々とはなんだ
狂っているのだ 貴様は、
そんなデタラメな世界など、認められるものか││
!
!
く人々が笑う世界など、狂っている
狂っている
﹂
トランジション
?
!
!
!
まった﹂
﹁キサマが、壊したのだろうに
﹂
あるんじゃないかと││だけどな、ぶち壊しにしちまった、壊されち
を迎えることの出来る世界にできるんじゃないかと。そんな世界が
の邂逅でこの世界は変えられるんじゃないかと。人々が笑って明日
﹁だから、俺は夢を見た。どこか別の世界なら、異世界なら、異次元と
が握られていた。変神しても魔術回路が補強されるわけではない。
エヌラス=ブラッドソウルの手には偃月刀ではなく、変わらず倭刀
荒唐無稽で何でもありの異常が日常の世界だ﹂
れだけ世界に絶望しようが憎もうが恨もうが、この世界はデタラメで
﹁夢を、笑うな。人の夢を糾弾するなよ、嘆き喰らいの竜。テメェがど
その頭を撫でる。
光の如く一撃を与えた魔獣が飼い主の隣でスタンドを立てて止まる。
鋼 の 魔 獣 が 時 速 四 百 キ ロ で ド ラ グ レ イ ス の 身 体 を 跳 ね 飛 ば し た。
﹁ハンティングホラー。〝轢き殺せ〟﹂
美しくなどない
﹂
誰も彼もが笑顔であり続けられるほど、世界は⋮⋮この、世界は
﹁人は、笑うべきではない。涙を流さぬ世界こそが平穏ではないのか
いている。
神した。背筋が凍りつくほどその瞳は赤く、紅く、血のように朱く輝
一切の警告も予兆も予告もない、予備動作なくエヌラスは即座に変
﹁変 神﹂
?
!
!
?
!
395
!
!
ド ラ グ レ イ ス の 手 に は シ ェ ア ク リ ス タ ル が 浮 か び 上 が っ て い た。
それが、体内に取り込まれていく││。
﹁俺が気づくのが遅かった。俺が悪いのさ。結局は同じことだろう
俺がこの世界を破滅に追いやった﹂
﹁どうするんですか
﹂
﹁ペンドラゴンにでもなったつもりかよ、笑えねぇ﹂
つく世界の全てが敵であると。
けている。白銀の竜、ドラグレイス=シルバーソウルは吼えた。目に
ワイバーン達が、トカゲ達が嘶く。キィキィと賞賛の声を浴びせか
手に欠ける。││〝電導加速〟を除いて。
アクセルコイル
用 不 可。超 電 磁 抜 刀 術 使 用 不 可。二 挺 拳 銃 使 用 不 可。絶 望 的 に 決 め
そうに舌打ちを漏らした。体長は三メートル。ナイトロシステム使
理性を失いかけて狂暴化しているドラグレイスに、頭を掻いて面倒
﹁あー駄目だこりゃ。いっぺんぶっ飛ばさねぇと話通じねぇ﹂
﹁グルルルル⋮⋮﹂
く、次元連結装置に﹂
﹁誰が手を加えたと思う 俺たち神格者の誰にも気づかれることな
りこんでいた。ハンドルを掴み、スロットルを回す。
ブラッドソウルはそれを避けて、ハンティングホラーが着地地点に回
担いでいた大剣をまるで片手剣のように振り下ろす。エヌラス=
﹁次元連結装置は最終段階まで誰の手も加えられていなかった﹂
てのドラゴンであった。
それは、竜。全身を鎧で覆った竜。もはや騎士ではない一生物とし
へと変神していった。
持つ肉体であるかのようにドラグレイスの体が徐々に人ではない姿
鎧が膨れ上がっていく。だが、ゴムのように、まるでそれが意思を
?
とはいうものの││今、ドラグレイスが翼を広げて展開する魔法
陣。その数にして七つ。
ラ
ン
ス
﹁││イ、ケ⋮⋮ワガ、七姉妹││﹂
顕現するは七つの突撃槍、否。それは杭だ。サイズがあまりに巨大
396
?
﹁いつもどおりぶっ飛ばす。吹き飛ばされねぇように気をつけろ﹂
?
﹂
すぎてそうとしか見えないだけである。
ハウンド
﹁ハンティングホラー
︽YES︳︾
アヴァタール
﹁化 身 :モード猟犬
﹂
主の号令に魔獣が応じる。大型自動二輪が変異していく。機械か
ら 魔 導 へ。鋼 鉄 の 魔 獣 が 獣 へ と 変 貌 し て い く。前 脚 が 生 え た。後 ろ
ハウンド
脚が生えた。短い尾が跳ねる。カウルが引き締まり、鋼鉄の体躯を覆
ハ ン ティ ン グ ホ ラー
う。
﹂
闇を狩るもの か ら 猟犬 へ と。半 有 機 生 命 体 は 半 魔 導 生 命 体 へ と 姿
を変える。
﹁〝ティンダロス〟、喰い破れ
﹁││
﹂
カンッ。カカンッ。
﹁あんなデカイだけの││﹂
さりと回避してみせる。
けて発射されたのは二つ。だが、それは単調な動きで直線的だ。あっ
ネプテューヌ=パープルハートとノワール=ブラックハートに向
た。
ティングホラーが瓦礫の隙間へと身を滑らせて消えたのは同時だっ
七つの突撃槍が発射されるのと、ティンダロスへと変貌したハン
!
﹂
ルハートが振り向いて目を丸くした。
﹂
﹁ノワール、避けなさい
﹁え
!
と、ビリヤードのように空中で衝突した二つの突撃槍が更に何もない
宙で反射して再度、二人に襲いかかってきた。
プルルート=アイリスハートもそれを横目で見ていたが、どうやら
当たるまで追尾してくる性質を持っているらしい。蛇腹剣で弾いて、
地面に突き刺さった突撃槍がドリルのように瓦礫に突き刺さり、止
まった。
397
!
!
空中で〝何かに〟〝反射する音〟を聞いて、ネプテューヌ=パープ
?
突撃槍が〝反転〟して来ている。間一髪のところで二人が避ける
?
﹁ふ∼ん、回転してたのね﹂
腕が痺れている。女神化してもこれを防ぐのは一苦労するであろ
う││そして、ネプギアに視線を向けると案の定、苦戦している。
﹂
避けても追ってくる。かといって防げるほどの防御力も今は望め
ない。
﹁ネプギア
脚を瓦礫に引っ掛けて尻もちを着いたそこへ、突撃槍が迫り〝あり
えない角度〟からティンダロスが突撃槍を横から喰らいついて消え
る。
﹁││今﹂
何が起きたのか。呆気に取られていると、トカゲが更にネプギアに
迫る。慌てて立ち上がり、ビームソードを構えて││またティンダロ
スが〝足元〟から突然現れてトカゲの喉笛を引き裂いた。その身体
にトカゲ達が鋭い爪を振り下ろすと、今度は倒れたトカゲと地面の隙
間に〝身体を滑り込ませて〟消える。そしてまた、不定形の角度から
次々とトカゲ達を食い荒らしていく。口元から血を滴らせる猟犬に
は、貌が無かった。眼も鼻もない。だが口だけが存在して牙をむき出
しにしている。まるでドーベルマンのようにしなやかで強靭な鋼鉄
の体躯はネプギアの隣にチョコンと座ると一声、鳴いた。小さな尻尾
が揺れている。
﹁⋮⋮ありがとう、ございます﹂
恐る恐る頭に触れると、機械のように冷たかった。それでも、確か
にハンティングホラーは生きている。人ならざるモノの人ならざる
形で。
残り三本の突撃槍は全てエヌラスへ向けて飛翔していた。その内
の二本は既に地面に突き刺さって停止している。だが最後の一本だ
け動きが他と違っていた。
直角に反射するわけでもなければ、鋭角に反転するわけでもなく、
〟
曲線的に曲がってエヌラス=ブラッドソウルを追尾している。
〝コイツ││
魔術文字の解読に全力を注いだ。高速で回転している突撃槍はま
!
398
!?
るで止まって見えるが││解読していた一文に刻まれている意味は
﹂
﹃嫉妬﹄である。
﹁解呪完了││
相手の魔術文字にこちらから魔力を反転させて消滅させる││だ
が、今は両手の回路が焼き切れている為に使い物にならない。なら
ば、と。
エヌラスは両足に紫電を奔らせて、蹴り飛ばした。バチッ、と突撃
槍に紫電が移ったかと思った瞬間、それは構成してた術式を逆算され
て光の粒となって消えていく。
﹁地 上 最 強 の 魔 導 師 の 一 番 弟 子、舐 め ん な。あ の 程 度 の 術 式 解 除、
﹂
ティータイムでも出来る﹂
﹁⋮⋮グルルル⋮⋮
グランドマスター
その男の名は、彼の偉大なる名を称えて〝大魔導師〟と呼ばれてい
王
かつて、九龍アマルガムを支配していた地上最強の魔導師にして国
!
た。ドラグレイスがかつて尊敬していた人物でもある。
399
!
episode63 null
︾
テメェまでどうした
︽その勝負、それまでだ
ぞ
︾
﹁数は
﹂
s
︾
見てねぇで
〝奴ら〟が此処に向かっている
故に共闘を申し出る
!
パープル、ブラック
!
︽おおよそ、三千
﹂
﹁データよこせ、協力してやる
降りてこい
!
!
は復旧作業に全力を注いでいる
例の崩壊によって前衛を勤めていた三百名余りが〝消滅〟して現在
︽スマン、俺の不徳が成すところ││アゴウの右翼防壁が破られた。
﹁アルシュベイト
﹂
平線を見上げた。濃紺の三機、それを率いる一機の軍神。
次の一手を放とうとして││ドラグレイス=シルバーソウルが地
'
!
!
﹂
ぎきったのか、息を上げて降りてきた。
﹁なんで私達を名前で呼ばないの
﹁今のお前をネプテューヌと呼ぶのは納得いかない﹂
ちょっとショックだわ⋮⋮﹂
中身残念だよな﹂
︽⋮⋮美人なのに残念だ︾
﹁だろ
︽ああ。残念女神だ⋮⋮︾
﹂
!?
ドラグレイス、まだやるか
!
﹁貴方達、本当に失礼ね
︽茶番はそこまでだ
﹁グッ⋮⋮⋮⋮﹂
︾
﹁ラ ン ス 0 1、貴 方 ま で 私 の こ と を や か ま し か っ た と 言 う の ?
?
︽え、もしかしなくても君はあのやかましかったちっちゃい子
︾
二人はドラグレイス=シルバーソウルの﹃セブンス﹄をようやく防
!
?
逆回転の捻りを加えた突きが、物理的に突撃槍の限界耐久を越えた
をアルシュベイトがただの一突きで消滅させた。
唸り、一本だけ突撃槍を発射させる。だが、その高速回転する一撃
?
?
400
!?
!
!
!
威力で叩きこまれ自壊する。
︽俺を貫きたくば、あと百本は持ってこい。して、どうする。お前から
相手をしても俺は構わぬ︾
﹁││││イイ、ダロウ⋮⋮﹂
変神解除したドラグレイスが大剣を担いで、エヌラスを睨んだ。
﹁貴様は絶対に殺す。覚えておけ﹂
﹁やってみやがれ。今はそれどころじゃねぇ﹂
﹂
﹁えーっと、いいかしら。アルシュベイト、アナタさっきどれぐらいの
数が来ているって
ちょ、ちょっとそれでどうしろって﹂
︽三千だ。接敵予想時刻まで、百二十秒︾
﹁残り時間二分
︾
近づいてくる連中を一匹残らずこの場で迎撃
︽黙れ。作戦は無い
﹂
以上で作戦の説明を終了する
それだけだ
する
﹁十秒足らずでブリーフィング終了
!
相手が作戦を持たぬ輩である以上はこちらも頭を悩ませる必要はな
そんな大雑把に拍車をかけたような作戦でいいのだろうか。だが、
!?
﹂
い。正面から叩き潰す。これが最適解となる。
﹁〝奴ら〟って、なんなんですか
︽説明していないのか、エヌラス︾
?
﹁テメェの国に連れて行く予定はなかったんでな﹂
︾
︾
︽それもそうか。説明は││︾
潰しながらだ
︽アルシュベイト様、来ます
︽応ッ
!
的に行動する。その進行速度は土煙が上がるほど怒涛の勢いで差し
によって構成されるものの知能は持ちあわせておらず、ただただ本能
その数、三千。圧倒的物量でありながら、その種族は多様な生態系
﹁││││﹂
望││〝ヌルズ〟だ︾
︽アレこそ俺が三千世界に唯ひとつ、討ち滅ぼすと決めた無尽蔵の絶
長刀と突撃砲を両手に携えて切っ先を向けた。
対敵を確認したランス01が武装を構え、アルシュベイトが背中の
!
401
?
!
!?
!
!
!!
フ ル オー プ ン
迫るがアルシュベイト達に恐怖はなかった。
︾
︾
︽全武装展開で征くぞ 彼奴らを誰一人九龍アマルガムへ侵入させ
先陣はランス03、貴様と俺だ
るな
︽了解です
︾
﹂
!
﹂
!
︾
!!
︾
!!
︽震撃・陽炎
︾
ヘ
ヴィ
シュベイトが腕を振り上げた。
キャノン
ミッ ド
手取るようなものではあるが、それがどうだと言わんばかりにアル
はその全長がアルシュベイトの身の丈程もある。純粋に二百人を相
い。それどころか踏み潰せるほど脆弱な存在ではあるが、中型タイプ
前衛を務める斥候の小型タイプはいくら相手しても苦にもならな
格闘型タイプ三百。重量級タイプ四百。砲撃タイプ六百。
ファイター
ヌ ル ズ の 構 成 陣 形 │ │ 小型 タ イ プ 千 五 百。中型 タ イ プ 二 百。
ミニオン
き、それに向けて引き金を引いた。
をすかさず掃射する。網膜ユニットには次々と目標が補足されてい
気迫一閃。土煙が源泉の如く舞い上がり、アルシュベイトが突撃砲
︽チェェェヤァアアアアッ
︽チェェェストォォオオオッ
鼻先に着地と同時に長刀を振り下ろす。
るように移動するアルシュベイトとランス03がヌルズの先陣、その
アルシュベイトが腰部ブースターを吹かして跳躍する。地を跳ね
﹁腐っても縁は縁だ。切って離せぬ情けありってな
︽貴様と肩を再三、並べることになるとはな⋮⋮此度は奇妙な縁だ︾
して顔を背ける。
倭刀を構えるエヌラスに、アルシュベイトがその不調を尋ねようと
﹁聞くならやらせんじゃねーよ、やってやらぁ
︽エヌラス達は俺達の討ち漏らしを排除してくれ。出来るな︾
﹁⋮⋮フン﹂
!
!
︽殿はランス02,並びにドラグレイス
︾
︽応ッ
!
型タイプも巻き込んで引き潰していく。何匹か抜けた││とはいえ
炸裂する反応炸薬装甲が小型タイプをなぎ払い、ベアリング弾が中
!
402
!
!
!
百匹程度だが、エヌラス達の手によって残らず倒された││次には、
格闘型タイプ。その数にして三百。
大きく盛り上がった両肩に頭が埋まりかけている間の抜けた図体
で野牛の如く野太い脚で一歩一歩大地を踏みしめる。拳と呼ぶのも
おこがましい両手は、指さえ無かった。ただただ鉄球の如く堅牢な皮
膚があるだけだ。
ランス03が突貫する。アルシュベイトはその場で留まり、進軍す
る中型タイプを食い止めていた。
拳を振り上げ、脚を使い、長刀を振りぬき、突撃砲で胴を撃ち抜く。
孤軍奮闘にして万物不当。ヌルズはアルシュベイトに傷一つつける
ことは敵わなかった。
腰部ブースターを片側だけ点火して軸足で回転しながら切り払う。
接地と同時に長刀を下げ、切っ先を地面に当てる。次いで、逆側の推
進剤を点火しながら切り上げると衝撃波が中型タイプの中央に大き
チェェェストォオオオオオオッ
︾
た。陣形を大きく崩されたヌルズは習性である無意識集合によって
進軍する足を止める。奴らは群れで行動し、必ず陣形を崩されればそ
れを直すために動く。それを知って、アルシュベイトは愚行とも言え
る一刀を振り下ろした。
その場で大きく跳躍し、背部ラックに武装を戻すと上空から状況を
︾
即座に判断する。
︽トーネード
は破壊力が違う。それに使用される弾薬は対物質量に匹敵する││
本来ならば城壁や機甲兵器に用いられる物を改良した徹甲芯炸薬弾
は、もはや小型グレネードライフルとして空中からヌルズ達を〝爆撃
〟していく。集合しようとするヌルズが更に分散され、孤立した矢先
にランス03の二刀流で血の雨となって消え失せる。ランス02も
403
な穴を開けた。陣形が崩れたそこへ、アルシュベイトは両腕を天に掲
げる。
︽御剣・武御雷ッ
!!
稲光が鉄槌のように叩きつけられ、ヌルズの陣形は二つに分かたれ
!
両腕で保持される大型ライフル。樽のような弾倉を持ち、突撃砲と
!
今ならば烏合の衆も同然
残敵は五百を
遠距離からグレネードによる援護射撃によって正確な射撃で相手の
動きを妨害していた。
︾
︽エヌラス、切り込め
切った
おら行くぞぉぉぉッ
﹂
しぶとく九龍アマルガムを目指そうとするものは残らずランス02
ヌルズ達を一匹残らず全滅させていく。それでも包囲網を抜け出し、
エヌラス。ランス01、そしてネプテューヌ達が散り散りとなった
﹁俺達いらねぇじゃねぇか
!
!!
!
の射撃とドラグレイスの魔法剣によって余さず瓦礫の染みとなって
消えていった。
404
!
!
episode64 九龍アマルガム
重量級タイプ、そう呼称される個体は他の個体に比べて遥かに防御
力が高い。四足の雄牛のような外見から、まるで闘牛を彷彿とさせ
る。その体構造の特性上から直線的な突進による攻撃に留意すれば
何一つ恐るるに足らぬ相手だ。アルシュベイトの長刀が重量級タイ
プの膝元を断つと、呆気なく転んで息絶える。
もっとも厄介なのが砲撃タイプ。名のごとく、他にはない唯一の遠
距離攻撃を有している。進行速度は他の個体より遅いが、その砲弾が
数に物を言わせて撃ちこんでくるものだから爆撃に晒されているか
のような脅威だ。拳大程もある結晶が空から落ちてくる。ランス0
3はそれを避けると、地面にめり込んだ。着弾地点で震えたかと思え
ば次の瞬間には石柱のように肥大化し、破裂する。周辺には柳葉状の
逆にその腹へアクセル・ストライクを叩き込んでいた。軽々と吹っ飛
んだ個体は他のタイプも巻き込んで大地に沈む。
ネプテューヌ=パープルハート達は空高く飛んで結晶の破壊を始
め、砲撃の憂いがなくなったことによりアルシュベイト達の勢いは一
気に増した。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
ドラグレイスはただその光景を遠巻きに眺める。魔法剣を担ぎ、ラ
ンス02が弾倉を交換していた。何故、こうなってしまったのだろ
う。エヌラスを討ち、ともすればこの世界の崩壊は収まるというのに
││アルシュベイトを相手するのは得策とは言えなかった。その上、
405
破片が幾つも突き立つが、ランス03は長刀を交差させて被弾を最低
﹂
限に抑えた。そこへランス01が加勢し、上空から降り注ぐ結晶を撃
上空のアレ、頼めるか
!
ち抜く。
﹁パープル、ブラック、アイリス
﹂
﹁飛行能力がないって不便ね﹂
﹁ああそうだな
!
ヤケクソ気味に叫びながらエヌラスが格闘型タイプの拳を避けて、
!
最強の親衛隊であるトライデントまでもが同伴となれば勝機は薄い。
残っていたワイバーン達が砲撃型の結晶に巻き込まれて落ちてく
る。ドラグレイスは無感情にそれを切り捨てた。地を這うトカゲ達
も重量級タイプに轢かれ、踏み潰され、中には小型タイプにまとわり
つかれて死んでいく。
ネ メ シ ス
魔法剣が怒りを滲ませた陽炎を纏っていく。
﹁││復讐鬼よ﹂
黄金の輝きが赤みを帯びていき、やがてそれは真紅の血色となっ
た。切っ先から滴が垂れ落ちる。奇妙なことに、獲物を切ってすらい
ないはずの魔法剣からは血が滴っていた。ドラグレイスが剣を振り
上げてエヌラス=ブラッドソウルに向けて振り下ろすと、その血は自
らの意思を持つように尾を引いて進路上の全てを切り裂きながら爆
︾
ぜる。赤い魔力の爆発がヌルズ諸共にエヌラス=ブラッドソウルを
呑み込んだ。
︽ドラグレイス、貴様││
﹁⋮⋮言ったはずだ、アルシュベイト。貴様との共闘はあの日までだ
〝今まで〟のように
﹂
︾
このまま世界の崩壊に巻き込まれれば、全てが
俺達は戦争をしているはずだ、それが何故手を組
とな。なぜ俺が貴様に命じられ、貴様のみならずエヌラスと轡を並べ
なければならん
まねばならんのだ
消えてなくなるのだぞ
﹂
︽そのようなこと〝識っている〟とも︾
﹁││││今、なんだと⋮⋮
この馬鹿は引き受けよう
!
ドソウルは振り上げていた脚を下ろす。両腕の魔術回路が使えない
今では両足の回路だけが頼みの綱であった。ヌルズの残党をトライ
識っているって⋮⋮もしかして、あの二
デントが一匹残らず殲滅すると、アルシュベイトの隣に着地する。
〝今までのように⋮⋮
人〟
アダルトゲイムギョウ界では戦いが繰り返されてきた││世界に
ネプギアは、ユニから聞いた話を思い返していた。
?
406
!
︽エヌラス、九龍アマルガムへ急げ
!
?
魔力の波動を感じ取って防御態勢をとっていたエヌラス=ブラッ
!
!
!
!
﹂
シェアエネルギーを還元して均衡を保ち、平穏を守ってきた。だが、
何か引っかかる。
﹁あの││ひゃわぁ
﹂
﹁ここ⋮⋮﹂
﹂
を覚えてふらついた。
〝規則的〟に。足元がおぼつかない浮遊感に、ネプテューヌ達が眩暈
〝噛み合って〟動いていた。チクタクと、カチカチと〝デタラメ〟で
けの機械仕掛、大小様々な歯車が〝噛み合っていない〟にも拘わらず
ミスカトル大時計塔の扉を蹴破り、踏み入った内部はぜんまい仕掛
顔無し︾
フェイスレス
︽そ う 睨 む な。瞳 の な い 貴 様 に 睨 ま れ る と ゾ ッ と す る も の で な │ │
﹁貴様││
番弟子の〝好敵手〟である俺にもかじり程度の知識はある︾
せ ん ゆ う
︽何も驚くことはあるまい、ドラグレイス。地上最強の魔導師、その一
た術式が光の粒となって消えた。
ち抜かれ、魔法陣に向けてトライデントが攻撃を加えると構成してい
その背中に向けてセブンスを召喚し、発射して││トーネードに撃
塔に向かってネプテューヌ=パープルハート達も急いでいた。
ラッドソウルがネプギアを肩に担いで走りだす。ミスカトル大時計
そう口を開きかけた瞬間、身体が持ち上げられた。エヌラス=ブ
!?
ク ロッ ク ワー ク
﹂
!?
曰く、大魔導師は化け物であった。
曰く、大魔導師は怪物であった。
でもあり〟だった、つーのが一番ヤバイ﹂
いところだ。なにやってもおかしくねぇしなあの人。つうか〝なん
﹁不思議なことにそれに誰も疑問を抱かないってのが俺の師匠がすご
﹁作った本人も分からないって、それ相当に危険じゃ⋮⋮﹂
﹁え、そんな無責任な
らんし、師匠も知らん﹂
﹁俺の師匠が組んだ時計じかけだよ。どうやって組んだんだか俺も知
﹁時空が歪んでる
?
407
!
曰く、大魔導師は神ならざる神であった。
曰く、大魔導師は獣であった。
曰く、大魔導師は世界を終焉に導いた。
曰く││大魔導師は大いなる〝C〟の子息であった、等⋮⋮例を挙
げれば素っ頓狂でとんでもない話が彼の英雄譚であり怪奇譚のごと
く語られる。それでも何一つ大魔導師の本質を語るに至らない、まさ
に深淵のような御仁であった。
﹁あの人〝無限熱量〟ぶちこまれて生きてたしな⋮⋮やったの俺だけ
ど﹂
﹁アナタ、自分の師匠になにやってるのよ⋮⋮﹂
﹁というか無限熱量ってまた途方も無い技持ってるんですね﹂
﹁今は使えねぇけどな、っておーい、大丈夫かネプテューヌ﹂
﹂
﹁うぇ∼∼、ここ気持ち悪いよぉ∼吐きそう∼エヌラス∼、私赤ちゃん
出来ちゃう∼﹂
﹂
ころか世界が三回は滅ぶ﹂
﹁こわっ
﹂
魔導師、エヌラスの師匠がどれほど常識という概念からぶっ飛んだ存
在であるかを味わった。
408
﹁腹パン﹂
﹁無慈悲過ぎない
きにも思えた。
﹁開けゴマって言えば開いたりするの
門﹂
オープン・セサミ
﹁正解。 開
!
?
セキュリティガバガバじゃん
!
﹁アホ言うな。コレ開けるのに失敗するだけで人間一人焼き切れるど
﹁ホントにそれで開くんだ
﹂
るというのはなんとなく分かったが、その情報量はまるで子供の落書
枚。その表面に描かれている紋様が全て魔術に関する構成術式であ
車だけが詰められたただの時計塔で、中にあったのは巨大な門が一
前に立ち止まる。大時計塔と言われていたが、その中はゼンマイや歯
ネプテューヌの悲鳴を無視してエヌラスは時計塔の中にある扉を
!?
事実であるというのが何よりも恐ろしい。そんなものを組んだ大
!?
カチ、カチ││││チク、タク。時計の針の音が一瞬だけ止まる。
そして、それはすぐに高速で動き始めたかと思うとすぐに止まった。
やがて、デタラメで規則的な歯車の音が鳴り響くと、浮遊感が消えて
いることに気づく。空間が固定されたのだ。それでも車酔いのよう
な感覚が付きまとっている頭を振ると、すぐに治る。
﹁││ようこそ、犯罪国家九龍アマルガムへ﹂
心底嫌そうにエヌラスは皮肉をたっぷり込めた笑みで〝門〟を押
し開けた。
﹂
﹂
﹂
﹂
││九龍アマルガム。地下帝国であり犯罪国家。エヌラスの治め
る国。
﹂
﹁死ねよやぁぁぁぁぁぁぁ
﹁ぎゃあああああ
﹁ヒャッハァァァ酒だぁぁぁ
!!
事 件 が 起 き て い た。街 は き ら び や か に 人 々 の 活 気 で 息 づ い て い た。
足を一歩踏み出す前にネプテューヌ達の前で三人くらいが死んでい
﹂
る。車に轢かれて人が死んだ。まるで冗談のようにボンネットにぶ
勝手に出て来んじゃねぇ、くたばれ
つかって倒れた人間は歩道に戻される。
﹁バカヤロー
!
てて運転手は走り去っていく。誰も止めなかった。いや、それどころ
ではなかった。トンプソン機関銃を持って整列した黒スーツ姿の覆
面達が一斉に引き金を引いている。逃げ惑う市民。荒れ狂う熱気と
409
!!
﹁金目のもん置いてけやぁ、あぁん
﹁くたばれぇえええ
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
!?
!!!
マ フ ィ ア の 抗 争 が 起 き て い た。ひ っ た く り が い た。強 盗 が い た。
!!!
いや今あなたが轢き殺しました。そんなことを言う前に中指を立
!
狂気。絶えることのない活気となって街を盛り上げていた。
顔面蒼白となって立ち止まっているネプテューヌ達。
大黄金にして大混乱にして大暗黒の町並み││スチームパンクの
蒸気が人々の熱意なのではないかと卒倒しそうになる。と、そこへサ
﹂
﹂
イレンの音が幾つも重なって現場に急行した警察だと目を輝かせた。
V8
﹁ヨォーホォーーー
﹁V8
!
撃にネプテューヌ達は身動き一つ出来ない。
何気なく捨てたマッチに引火して大爆発が起きた。熱風と破片と衝
クローリーに流れ弾が当たって燃料が漏れ出し、次の瞬間に通行人が
そこにトラックが突っ込んできた。燃料をたっぷり詰めた装甲タン
という有りさまで車両から犯人を引きずり出して袋叩きにしている。
死んだ。それを追っていた警察官らしき集団も、まさに世に情けなし
モヒカンだった。盗んだパトカー乗り回して事故ってポシャって
!
﹄
﹁いやー、平和だな﹂
﹃どこがッ
!?!?
総ツッコミだった。
410
!
e p i s o d e 6 5 メ イ ド と ス カ ー ト と 短 機 関 銃
と太刀
息をするように犯罪起きてたよ
人が大勢死んで
﹁い、今ちょっと言葉じゃ説明しきれないくらいトンデモナイ大事件
﹂
起きてたよ
たよ
﹂
!
なくなくなーい
﹂
おかしく
!?
﹂
変質しちまったんだろう﹂
﹁大惨事だよね
﹁世界大戦みたいな騒動の街で何言ってやがるお前﹂
﹁あ、うん⋮⋮﹂
﹁見てください、あそこに人が取り残されてますよ
│﹂
助けないと│
﹁あー、ありゃどっかの魔導プラントで事故でも起きたかな。人間が
で人々を襲っていた。一般市民はそれから逃げようと必死に走る。
な鳴き声を上げている。明らかに自然の摂理から外れた生物が集団
獣がライトアップされたビルの壁面に張り付いていた。怪鳥のよう
ああいうの││エヌラスが指さした方角。なにか、四足歩行の肉食
のを言うんだ﹂
﹁いいか、大事件って言うのはこの街じゃ││ちょうどいい、ああいう
しかも普通に停車して客を乗せて走り去っていく。
炎 上 し て 人 が 転 が り 出 て き た か と 思 え ば タ ク シ ー に 轢 か れ て い た。
今こうして話している間に建物に火炎瓶が投げ込まれている。大
﹁大体この程度BGMレベルで起きてる街だぞ
﹂
﹁あっれー私がおかしいみたいな言い方おかしくなーい
﹁テロリストが市民なはずねぇだろ何言ってんだこの幼女﹂
なにこの市民テロ
﹁こんな事件起きてたらプラネテューヌじゃ一週間は緊急報道だよ
﹁いつものことだよ﹂
!?
ネプギアに言われて、肉食獣の群れの中に取り残された市民が一
!
!?
411
!?
?
!?
!
!?
人。いや、逃げようとすらしていなかった。ただ猛獣の中で佇んでい
る。その風貌はまるで時代に取り残された錯誤な和風の浪人││そ
こで﹁ああ﹂とエヌラスがすぐに思い当たった。助ける必要はない。
﹁ありゃ大丈夫だ﹂
あっというまに、それこそ一寸の間を置かずして肉食獣の群れが一
匹残らず寸断されていた。
群れに残されていた和風の人物の手にはいつの間にやら刀が二本。
それも太刀である。恐るべき怪力であるがそれ以上に神速の一刀、一
閃はネプテューヌ達ですら見えなかった。エヌラスでさえも。こと
剣術の腕前に関しては大魔導師ですら一目置いていたというこの男
が、ただの用心棒であるという恐怖││エヌラスは片手を挙げてその
﹂
男を呼んだ。
﹁ブシドー
﹁⋮⋮おぉ﹂
ブシドー。それは名前ではなく、愛称のようなものであった。彼自
身が己の名に無頓着であるのをいい事にエヌラスが勝手にそう呼ん
でいたが、ブシドーと呼ばれるのを快く思っている。
﹁久方ぶりですな、国王﹂
歳は三十代だろうか。羽織った服の下から覗く鍛えげられた肉体
は刃物のように強靭でしなやかな肉付きをしていた。ブシドーは見
慣れない少女達に眉を寄せる。
﹁ああ、紹介する。こちらはブシドー、つっても俺が勝手にそう呼んで
るだけだけどな。俺の剣術││超電磁抜刀術とかの師匠筋に当たる
人だ﹂
﹁お見知り置きを、お嬢様がた﹂
﹁わぁ、本当にサムライって感じの話し方⋮⋮あ、私はネプギアです﹂
﹁プルルートだよぉ∼﹂
﹂
﹁私はノワール、よろしくねブシドーさん﹂
﹁私はネプテューヌ
リ
コ
ン
が、大魔導師様ともども少女性愛というのはいかがなものかと﹂
ロ
﹁記憶しました。しかし⋮⋮拙僧が口を挟むべきことではありませぬ
!
412
!
﹁ハッハッハ、殺すぞ﹂
﹁ははは、ご冗談を﹂
朗らかに笑う二人はまるで親子のように肩を叩いた。
なん
﹁超電磁抜刀術などと剣術の外法でなければ、拙者に一矢届かぬ御仁。
笑えぬ冗談にしか聞こえますまい﹂
﹁剣の道究めてたら冥府魔道に通じたアンタよりはマシだよ
切るって馬鹿じゃねぇの
﹁それが我が剣術ゆえに﹂
﹂
﹁ああ。何か変わったことは
﹂
﹁長らく国を空けていた模様ですが﹂
を取る気など毛頭ない。
限りの剣術創始者。ただひたすらに剣の道を究めんとする彼は弟子
心影流││それがブシドーの流派であった。門外不出にして一代
シンカゲ
﹁だからそれが訳ワカメってんだろうが
﹂
だよわけわかんねぇよ、なんでただの日本刀で法則曲げる術式ぶった
!
た腕前には無言の説得力がつきまとう。ネプテューヌ達は口元を引
獣が土煙の中に消えていった。微動だにせずしてビルを一刀両断し
ルが袈裟斬りにされて倒壊していく。それに押し潰されて魔導肉食
そして、光が走った。鯉口を切った音すら聞こえなかったが││ビ
﹁心影流抜刀術││〝 疾 〟﹂
ハシリ
言うなりブシドーは腰を落として刀に手を伸ばし、整息する。
﹁一寸ばかり、失礼を。仕事の最中でしてな。一刀で済ませます﹂
ら巣窟と化しているようだ。
肉食獣の群れが現れた。その数は先ほどよりも遥かに多い。どうや
ノワールが一安心していると、その背後でビルの窓ガラスを破って
〝やってることはとんでもないけど、中身はただの良い人ね⋮⋮〟
﹃はっはっは﹄
﹁ちげぇねぇや﹂
な﹂
﹁⋮⋮別段、生憎とこの国にあっては毎日がこのような有り様でして
?
きつらせていた。本人はそれが当たり前のように涼しい顔。
413
!?
!
ビルまで一体どれほどの距離が空いていたと思っているのだろう。
﹂
少なくとも百メートルやそこらはあった。崩れ落ちるビルに背を向
けて、改めてエヌラスと向かい合う。
﹁しかし、此度はなにゆえに帰国なされましたか﹂
﹂
﹁ちょっと私用で。高純度の黄金の蜂蜜酒が必要なんだ﹂
﹁と、申されますと⋮⋮教会へ一度お戻りに
﹁そうなる。悪いがブシドー、彼女たちの護衛を任せてもいいか
﹁勿論ですとも。羽虫一匹近づけませぬ。国王の客人、その護衛を任
されるとあっては身に余る光栄に存じます﹂
ネプテューヌ達は絶対の安心をブシドーに委ねて、エヌラスと共に
教会へと向かう。
その道中で巻き込まれた事件の数は両手の指では足りないが、少な
くとも今までがどれだけ平和であったかを噛みしめると同時に一刻
も早くこんな国からは離れたい。そして二度と近づきたくないとい
﹂
うのが本音だった。今ならば分かる。帰りたくないと言っていたエ
ヌラスの気持ちが。
﹁うーし、着いた。おい大丈夫かお前ら
﹂
﹁はっはっは﹂
﹁ははは﹂
二人の間で剣呑な火花が散った。
﹁ふふ⋮⋮まさか私の真横で人が死ぬとは思わなかったなぁ⋮⋮﹂
﹁初めて見たよ、自爆テロ⋮⋮凄惨だね⋮⋮﹂
﹁あんな超魔導生命体がいるのね⋮⋮﹂
﹁触手、すごかったなぁ∼⋮⋮﹂
茫然自失。心ここにあらず。町の活気と狂気と熱気に負けて心身
共に疲労困憊のネプテューヌ達だったが、教会に辿り着いたとあって
414
?
?
﹁や は り 年 端 も い か ぬ 少 女 達 に こ の 街 は 少 々 刺 激 が 強 す ぎ た の で は
?
﹁いえ、そういうご趣味であるのは存じてありますが﹂
﹁かもしれんな﹂
?
は気も休めることができよう。それなら││
溢れかえっている。
垂らす。
﹃おかえりなさいませ、エヌラス様﹄
﹁せめて来客の顔を確認してから斬りかかれよ
﹂
!?
遊山に来たのかとばかり
﹂
﹁誠心誠意喧嘩売ってんだなテメェ
﹂
﹁大変申し訳ありませんでした てっきり少女趣味の変質者が物見
撃てよ
ミニスカートのメイドは赤い太刀を担ぎ、エヌラスの顔を見て頭を
カートのメイドが目を白黒させながら頭を下げた。
バヨネット一体型クリスヴェクターを二挺、両手に構えたロングス
たのか刃を下げる。
ミニスカートのメイドであり││それにはブシドーも見覚えがあっ
回転して着地するのは、ロングスカートのメイドだった。もう片方は
に両断された銃弾が足元に転がった。空中でスカートを翻しながら
れどころか片手で全ていなすと、木の葉のようにパラパラと真っ二つ
それは銃弾。それは凶刃。二つの猛撃を前にして一歩も引かず、そ
人影が二つ。ブシドーが歩み出て腰から刀を抜いた。
ネプテューヌ達は絶叫した。その悲鳴を聞いて、物陰から飛び出す
﹃ギャアアアアアアァァッ
﹄
物で切られて絶命している。苦悶の表情を浮かべて血生臭い液体が
現ではなく、文字通り人が積み重なっていた。一様に銃で撃たれ、刃
教会と思わしき病院の前には死体が山積みにされていた。比喩表
!
!?
﹁ったく、この最高傑作のポンコツどもめ。久しぶりに顔出したらこ
﹁ありがたきお言葉﹂
﹁恐悦至極でございます、ブシドー様﹂
ブシドーが一言褒めると、ふたりのメイドは会釈した。
﹁いやしかし、相変わらずの手並み。惚れ惚れする﹂
﹁ははは、テメェ後で覚えとけ﹂
輩であればとっくに殺してますしこのロリコン﹂
﹁ご心配ありませんわ、エヌラス様。私どもにやられるような程度の
!?
!
415
!?
!
れだ、ヒデェと思わねぇか﹂
オー ト マ タ
ス
チー
ム
パ
ン
ク
よく見れば、二人共関節が人間のソレとは違って球体のようなもの
ファ ン タ ジー
が 埋 ま っ て い る。球 体 関 節 │ │ 自動人形 だ。蒸気文化世界観 で あ り
﹂
魔導文化の九龍アマルガムでは代替の利く人員として広く普及して
いる。
﹁えと、このお二人って⋮⋮ヒトじゃないんですか
﹁俺が作った最高傑作の自動人形だよ。ほれ、自己紹介﹂
﹁はい。私がエヌラス様の最高傑作の一人、スピカでございます﹂
半袖にロングスカートのメイドが深々と頭を垂らす。ツインテー
ルが揺れていたが、その手に持っている物騒極まりない得物は何かと
聞きたかったが怖くて誰もツッコめなかった。
﹂
﹁それで、私がエヌラス様の趣味の最高潮の逸品。カルネです﹂
﹁テメェその誤解を招く発言撤回しねぇとぶっ壊すぞ⋮⋮
やかな足は程よい肉付きで白いガーターベルトを着用している。そ
るように腰に手を当てる。銀色のポニーテールが揺れていた。しな
長袖にミニスカートのメイドは程よい膨らみの胸を張って自慢す
!
﹁テメェはその手つきをやめろ
ヌラスが殴る。
﹁イッタァ∼∼イ
﹂
﹂
!
いくらでもどうぞ
﹂
﹂
テメェは口を開けばあーだこーだと人を陥れようとしや
﹂
﹁え、お口で致したいの
﹁いっぺんぶっ壊して作り直してやろうかなこいつ⋮⋮
?
﹁うっせ
殴らなくてもいいじゃん、ご主人様
太い棒をしごく代わりに、朱い太刀を擦ってみせるカルネの頭をエ
!
﹁この最高傑作のポンコツ野郎が
﹂
﹁やぁん、壊れるほど激しくだなんてエヌラス様ったら∼﹂
!
?
がって
!
!!
416
?
のカルネを上から下まで見てから、エヌラスを見て﹁あぁ⋮⋮﹂と心
﹂
底残念そうにネプテューヌ達が頷いた。
大体戦闘用だ
﹁やっぱりロリコン⋮⋮﹂
﹁ちげぇ
!
﹁あ、もちろん致すこともできるわよ﹂
!
!
!
妹がいつもいつも本当
自分の作品に頭を悩ませる造物主が一人。主をからかって小悪魔
のように笑うカルネをスピカが鎮圧した。
﹂
﹁た、大変申し訳ございませんエヌラス様
のことですが大変無礼を
やめろよ⋮⋮﹂
﹁テメェもな、丁寧な言葉づかいの中でナチュラルに人を罵倒すんの
!
性能は最高級だが、中身まではそうとはいかなかったらしい。
417
!
episode66 唯一無二のセーブポイント
容 姿 端 麗。眉 目 秀 麗。上 か ら 下 ま で ス タ イ ル 良 し。し か し 中 身 は
ポンコツ。さらに言えば戦闘用自動人形であり、業務上のサポートを
目的とした設計のはずであり、目的そのものは完璧に達成した。これ
以上ないほどに。
スピカはクリスヴェクター・コンバットカスタムを二挺。.45A
CP弾を使用する短機関銃であり、その特殊機構によって反動を抑え
ているのをいい事にこれでもかとアホのように改造したのがエヌラ
ス。それを平気な顔で使いこなすのが、ロングスカートの中身は乙女
の武器庫、スピカ。サプレッサー、ロングバレルの類には手を付けず、
フォアグリップがあるべき場所に超大なサバイバルナイフがバヨ
ネットとして追加されており、それを覆う形でトリガーガードまでカ
﹁⋮⋮死姦
死姦ですか Hello,New Worldです
!
!
メンなー﹂
グリグリと背中を踏みつけてやると﹁んひぃぃんんっ
﹂と恍惚と
﹁ごめんなーコイツなー有能なんだけどポンコツでなーホントなーゴ
アクセル・ストライクがカルネを即座に黙らせた。
﹂
かエヌラス様フンスフンス
!
418
バーしているものだからまるで獣の頭を持ち歩いてるように見える。
そ れ と は 正 反 対 に カ ル ネ の 装 備 は 極 め て 軽 装 だ。朱 い 太 刀 一 本。
それだけだ。然しながら、その腕前は目を見張るものがある。エヌラ
スが言うにはカルネの使う太刀は特別な逸品らしい。ちなみに、とあ
る ア パ ー ト の 近 く で ゴ ミ 捨 て 場 か ら 〝 拾 っ て き た 〟 と 言 っ て い た。
果たして本当に拾ってきたのかどうかは神のみぞ知る⋮⋮。
﹁まぁそのようなことは置きまして、無事で何よりです﹂
いき
やっぱりカル
?
疼いちゃいました
?
﹁そうそう。それで、どうして戻ってきたんですか
﹂
ネ達が恋しくなって来ちゃいました
り勃ってます
?
﹁首から上をふっ飛ばされたくなかった今すぐ口閉じろ、カルネ﹂
?
!
エヌラス様ぁ、もっとぉ⋮⋮﹂
した艶かしい声をあげるカルネを更に強く踏みつける。
﹁あふぅ
﹂
﹂
?
﹂
?
﹁少ねぇな﹂
!?
﹁結界⋮⋮
﹂
い壁のようなものを抜けた感覚にノワールが振り返った。
九龍アマルガムの教会である病院の敷地に入った瞬間、何か見えな
でいたらキリがない。
街に限っては犯罪行為の数々を黙殺することにした。首を突っ込ん
ている。だが誰も止めようとしない。ネプテューヌ達も流石にこの
それには同意する。今もBGM程度の気軽さで殺人事件とか起き
すか。外は危険しかねぇし﹂
には今頃五万人くれぇ担ぎ込まれてんだろ。立ち話もなんだ、中で話
﹁多いって言うのは、万単位からだ。まぁウチでこれだから中央病院
﹁す、少ない
﹂
﹁1890名ですわ。困り果てました﹂
﹁数は﹂
に気づいた。
の。明らかに人間以外の姿形をしているものたちが占めていたこと
に腕が鉤爪状になったもの、翼が生えたもの、両足が盛り上がったも
言われて、改めて目を背けたくなるような死体の山を見て、その中
困りましたわ、しかも特異変質体構造患者が殆どですもの﹂
﹁ですがここは教会ですので、生憎と診断は受け付けておりません。
﹁患者
﹁患者ですけれど
﹁えっと、この死体の山ってなんなの
話の通じるスピカに近況を尋ねる。特に変わりはないとのことだ。
ていた。眉間を押さえて深々とため息を吐きながら比較的まともに
残念ながら叶わぬ夢。今となっては手の付けられない変態と化し
﹁頭の中身も自分好みにできたらよかったんだけどな⋮⋮﹂
!
﹁ええ、なにか違和感のようなものがあったからね。でも、どうして
﹁お気づきになられましたか﹂
?
419
!?
﹂
﹁街がこのような状態では教会を保護するのは至極当然。賊に入られ
てはたまりませんもの﹂
それもそうだ。だが、人間ではなく霊的な物を相手にした結界のよ
うに感じられて、はてと首を傾げる。それにスピカは﹁ウフフ﹂と笑っ
〟
て口元をクリスヴェクターコンバットカスタムで隠す。
﹁人間でしたら殺せますから﹂
〝言ってることがメチャクチャ怖い
﹂
﹂
﹂
﹂
﹁ええ、それこそ百でも二百でも千でも、なんなら今から万単位で少し
!
そういうのそこまでしなくていいから
ばかり虐殺してきてもよろしくて
﹁いい、全然いいから
﹁聞いてませんからブシドーさん
!
﹁百万人死のうが別に問題ねぇけどな﹂
﹁ちょっと、アナタ国王よね
﹂
﹁死体のほうが以下略﹂
﹁もぉおおおお
!
?
﹁拙者であれば三日もあれば造作も無いこと﹂
!
!?
未確認生物までも捕獲されて檻の中で喚き散らしている。エヌラ
即座に手を引っ込めた。
﹁やっぱやめよ﹂
﹁いや、遊ぶなよ。そこにあるやつだけで街一つ消し飛ぶんだから﹂
かも。もう一回﹂
﹁イッタ∼イ。ビリっときたよビリっとー。でもちょっと楽しかった
る。
手に取ろうとしたネプテューヌが防御障壁に弾かれて手を擦ってい
け る。ま る で 趣 味 の 悪 い 骨 董 品 を 集 め て い る か の よ う で も あ っ た。
魔導遺物が並んでいた。病院、というよりは博物館のような印象を受
アーティファクト
病院のような外観から、中は一転して様々な生き物の標本や奇怪な
入れる。
ノワールが半ギレになる以外は概ね平凡に教会の中へと足を踏み
!!!
スが一喝すると怯えて隅の方に逃げ込んだ。
420
?
さらに奥、風変わりな扉を開けると景色が一変する。そこに広がる
広大な敷地。そして大豪邸。芝生の敷き詰められた青々とした庭│
│エヌラスの本拠点、自宅だった。
﹁教会から位相をズラして異空間の自宅に通じる扉だ﹂
﹁青いタヌキのどこでもいけるドアみたいだね﹂
﹁でも自宅って⋮⋮﹂
﹁自宅兼作業場兼仕事場だ。教会の方で出来ない仕事やるから、まぁ
九龍アマルガムに関してはこっちの方が本拠地だな﹂
﹁じゃあさっきの趣味の悪い博物館って﹂
﹁⋮⋮師匠の収集品。自慢したくて置いている﹂
ヘタすれば世界が滅ぶような代物をまるで見世物のように放置し
ておくというのは豪胆と言うべきか世紀の大馬鹿野郎と罵るべきか
判断に迷う。
エヌラスが正面玄関の扉を開けると自動人形のメイド達がせっせ
いただく﹂
そうしてネプテューヌ達は応接室へと案内された。豪華な調度品
に、見るからに高級品で埋め尽くされた室内はそれとなく気が引き締
められる。カーペットにシミひとつ作ろうものなら一体幾ら請求さ
れるものやら⋮⋮ネプテューヌが生唾を呑み込んだ。
421
と掃除に精を出していた。それも十人十色、全員の容姿が違ってい
た。
﹃おかえりなさいませ、エヌラス様﹄
﹂
﹁出迎えご苦労。仕事に戻ってくれ﹂
﹁⋮⋮人形趣味
片付けてくる﹂
?
﹁拙者に気遣いは無用。然しながら、護衛を任された身。同伴させて
﹁かしこまりました。では、こちらへ。ブシドー様は
﹂
﹁スピカ、カルネ。四人をもてなしてやってくれ。俺は着替えて仕事
﹁アナタの自宅に一体なにがあるってのよ⋮⋮﹂
らねぇよ﹂
﹁アホ言え。普通のメイドだったら半日経たずに発狂して使い物にな
?
﹂
ここにあるの全部あ
﹁⋮⋮ も し か し て、エ ヌ ラ ス っ て ホ ン ト は も の す ご く お 金 持 ち な ん
じゃないかな﹂
﹂
こ、この豪邸も
﹁あら、エヌラス様のことご存じなかったの
の方の私物ですよ
﹁どえぇぇぇぇぇぇっ
?
﹁うっひゃあああ
﹂
﹁カルネ、手元が狂いました﹂
は趣味の良い方ですので目指せ玉の輿
﹂
し。一度購入してから自宅でバラしてもう一度組み立てるくらいに
﹁はい。そりゃもう当然。他のメイド達だって全部ご自分のお金です
!?
とはいえ、これで一段落だ。四人は大きく息を吐き出す。ブシドー
﹁⋮⋮気の休まらない自宅ね﹂
れてきますので。ほら、いきますよ﹂
﹁うふふふふ、どうにも出来の悪い妹でごめんなさいねー今お茶を淹
クリスヴェクターと朱い太刀が火花を散らす。
!
だけは腰を下ろさずに壁に寄り掛かっていた。
422
!?
?
!?
e p i s o d e 6 7 自 宅 で 最 も 気 の 休 ま る 場 所 は
トイレ
スピカとカルネの二人が用意したティーセットからは芳醇な紅茶
の香りが漂い、応接室を彩る。ブシドーにだけは抹茶を差し出され
た。
﹁気遣い感無量。かたじけない﹂
胡座をかいて床に腰を下ろすも、やはり腰に差した刀だけは離そう
としていない。
スピカの後ろ腰にもホルダーに収められたクリスヴェクターがあ
﹂
る。カルネも脇に差した朱い太刀は鞘に収められていた。
﹁あ、美味しい⋮⋮﹂
います﹂
﹁ふむ⋮⋮悪くない。悪くないぞ⋮⋮﹂
自然と頬が緩んでいたブシドーに、何とも言えない大人の渋さを感
423
﹁喜んでいただけたようで何よりです﹂
﹁それで││四人はどういう集まりなんだっけ
パカーンとカルネの頭がトレイで叩かれる。
﹁お客様ですよ、カルネ﹂
﹁⋮⋮む、この茶葉⋮⋮﹂
﹁あら、お気づきになりました
なんでも、ブシドー様が来訪された
はぁ、とため息を吐いて一言謝罪を挟んだ。
したね﹂
﹁そうは言われましても、カルネほど頭が悪くないもので⋮⋮困りま
だって久しぶりに帰ってきたんだし﹂
﹁だ っ て さ ー、ス ピ カ。も う ち ょ っ と 気 楽 に い こ う よ。エ ヌ ラ ス 様
に話せるし﹂
﹁別に気にしてないからいーよー、スピカ。私達もそっちの方が気楽
?
ら振る舞うようにとエヌラス様から言伝を預かっていた茶葉でござ
?
じてノワール達は顔を背ける。破顔するとあんなにも穏やかな顔を
するのかと意外な一面を見た。
﹁⋮⋮では、私達から茶飲み話を一つ。よろしいでしょうか﹂
﹁はい﹂
プルルートが茶菓子のクッキーに手を出して一口。頬に手を当て
て喜んでいた。
﹁まずはエヌラス様とご同行いただいていること。従者として感謝さ
せてください﹂
開口一番、スピカが深々と頭を下げる。
﹁あの方はご自宅を空けることが多く、その留守を預かっている身分
である私達にはあの方の安否を知る術がありません。いつご帰宅な
されるのかも。アダルトゲイムギョウ界が全面戦争の渦中にあると
あっては⋮⋮もしかすれば二度と帰還されない可能性もあります﹂
﹁この世界がこうなった直後、全面戦争の火蓋が切って落とされ、それ
確信が持てず私達で試しましたが、結果はイマイチでしたね﹂
﹁前戯はすごかったけどね∼。本番はもっと││﹂
﹁ちぇいさっ﹂
カルネがカーペットに沈んだ。
﹁コホン。失礼を。それでユノスダス国王と一夜を共にしてからその
424
から一週間足らずで一度エヌラス様は他の国王全員同時に相手して
﹂
ますしねー﹂
﹁えぇ
トゥガとイタカを。
﹂
﹁はいはーい。質問
のっていつから
!
﹁そうですね、そちらは能力を失った頃からです。本人もその不調は
?
エヌラスが変神するのにエッチするの必要な
そ れ で も、よ う や く ひ と つ 取 り 戻 し た の だ。二 挺 拳 銃 の 能 力。ク
発見には至りませんでした﹂
りません。私達も一度九龍アマルガム内を隈なく探し回りましたが、
した。その紛失された能力がどこへ消えたのかまでは把握できてお
ロスト
﹁ですが、ご帰還なされた時には自らの能力をほとんど失っておりま
!?
ことに確信を抱いたようで難儀しておりました﹂
﹁あ、エヌラスってユウコとエッチしてたんだ⋮⋮知らなかった﹂
しかし、そう言われるとあの二人の関係にも納得がいく。それでも
ウブな反応のユウコと違ってエヌラスは平気な顔をしているが。
﹁だからエヌラス、ユウコの国をあんなに必死になって⋮⋮﹂
﹂
﹁いえ、あれはあの方の性分です﹂
﹁へ
間の抜けた声を挙げるネプテューヌに、スピカが困ったようにため
息を吐く。
﹁妹君の一件から続けざまに、恋人。ひいては大魔導師様との件もあ
りまして﹂
﹁エヌラス様、誰かを守ることに躊躇がないと言うか⋮⋮誰かを愛す
ることができなくなっちゃったのよねー⋮⋮特定個人、というか誰か
一人を﹂
﹁あの方も狂ってしまった一人なのです。そこをどうかご理解くださ
い﹂
深々と頭を下げる二人に、ネプテューヌ達が顔を見合わせた。誰か
を愛することができなくなったと言うのなら、あの蜜のような一夜は
なんだったのだろう。そう言いたげに。
﹁不憫よの、国王も⋮⋮哀れを通り越し、憐憫の情すら湧かぬ。アレは
最早、己の心を預けることが出来るものがおらぬからな⋮⋮己の手
で、殺したのだ。愛憎必殺││それをもたらしたのは大魔導師様で
あった﹂
身を焦がすほどの愛があった。心を焦がすほどの憎しみがあった。
それを諸共に自分の手で殺した。殺さざるを得なかったのだ││。
﹁今では、自棄になっておられる。その様ががむしゃらに思えてなら
ぬのだ。一目見れば分かるとも。アレは死に場所を求める幽鬼、悪鬼
の類と落ちぶれておる﹂
﹁それでも〝諦めない〟という信条がある限り、あの方の心が決して
折れない限り、道を踏み外さない限りは歩き続けるでしょう﹂
﹁死に場所を求めながら、世界を救おうと戦ってるっていうの⋮⋮矛
425
?
盾してるわ﹂
﹁はい、ノワール様の仰る通りでございます。自己矛盾と自己嫌悪の
板挟みの中で、かつて友と呼んだ者達と刃を交える。とても正気の沙
汰とは思えません﹂
﹁だから、さ││﹂
﹁ですので、どうか﹂
スピカとカルネが深く頭を下げる。それは、主人の安全を第一に願
う従者の鑑として。完璧なまでに作法に則った一礼であった。
今、主の心を支えているのは少なからず目の前にいる彼女たちなの
だから。彼女達だけが主人を救えるのだ。
﹁エヌラス様を﹂
﹁私達のご主人様を﹂
﹃どうか、よろしくお願い致します﹄
﹁⋮⋮改まって言われるまでもないよ。ねー、ネプギア、ノワール、ぷ
⋮⋮﹂
紅茶のおかわりを注ぎながらスピカの進言は願ってもない。ネプ
テューヌ達は頷いた。
426
るるん﹂
﹁そうね。もうここまで来たらとことん付き合うつもりよ﹂
﹂
﹂
﹁はい。むしろ、私達の方がお世話になっちゃってるって言うか⋮⋮﹂
﹁助けてもらってばっかりだからぁ∼、いいよ∼﹂
﹁⋮⋮ありがとう、ございます。感謝の極みですわ﹂
﹁ウルッときちゃった⋮⋮やだ、もう﹂
目尻に浮かぶ涙を拭って、二人が改めて会釈する。
﹁では、今夜はとっておきの晩餐を用意いたしますわ﹂
それじゃー楽しみに待ってるね
﹂
!
﹂
﹁楽しみに待っちゃっててねー。残したら承知しないよ
﹁ホント
﹁かしこまりました﹂
﹁そうね、じゃあ紅茶のおかわりお願いできる
﹁お茶のおかわりや茶菓子のおかわりはございますか
!
﹁それと、もしよろしければお屋敷のご案内もさせていただきますが
?
?
!?
﹁では、カルネ。ご案内の方をお願いします﹂
﹁はいほーい。じゃあスピカはご飯の用意お願いね。こっちも案内終
わったら行くから﹂
││エヌラスは執務室で溜まりに溜まった書類の山と向き合って
いた。その量たるや尋常ではない。向こう一年は書類整理にかかり
きりになるのではあるまいかという書類地獄を前にして頭痛がする
も、一枚一枚確認してサインしていく。その内容は八割方が被害報
告。近 況 報 告。街 の 状 態 に 関 す る も の。内 政 に 至 っ て は ほ と ん ど
ノータッチだった。犯罪国家。それは要するに合法的な手段では成
り立たないからこそ、他国では非合法とされる手段すら用いて経済を
回すということ。それがいつしか﹁犯罪をしても良い﹂という認識で
広まってこのような状況となってしまっている。だが、これはこれで
良いものだ。毎日千単位で人が死んでいるが概ね問題はない。生き
た人間よりも死体の方が有用性がある、とはエヌラスの言葉。
﹁ん、第八区画の転換炉の不調か⋮⋮﹂
転換炉││要するに焼却炉のようなものだが。肉体的、物質的だけ
でなく霊的にも肉体の持っていた質量を別なモノに変化させて有機
溶媒として活用している。絵面だけなら地獄絵図だが食料として振
る舞われ、飢餓問題の解消にも一役買っていた。勿論、振る舞われて
いる側の難民には一切情報を伏せている。
九龍アマルガムは、危ういバランスで奇跡的な均衡を保っていた。
魔 術 結 社 同 士 の 衝 突。マ フ ィ ア の 抗 争。正 面 衝 突。秘 密 結 社 の 儀 式
による被害や自動人形の暴走や違法改造によって起きる人的被害は
それこそ未曾有の大事件だ。それがランチセットのドリンクばりに
気 軽 さ で 執 務 室 に 放 り 込 ま れ て く る。ぶ っ ち ゃ け 知 っ た こ っ ち ゃ
ねぇ。
市民の起こす暴動や国民の起こす事件は放っておけば市民同士、国
民同士で解決する。要は。自分のケツは自分でどうにかしろ、という
こと。正直それで成り立っている。国王がアレコレ禁止令出したと
ころで自国の経済の首を締めるだけで何一つ得をしない。もちろん
427
それらを取り締まる自治体も存在する。ブシドーがその一人だ。
幹部構成わずか七名。末端構成員は数知れず。
誰が呼んだか、対魔導超常管理自治団体﹃アサイラム﹄││その幹
部達がひと暴れするだけで九龍アマルガムが傾く。とはいえまとも
に働いているのはブシドー程度だが。それですら日々の食事の為に
最低限の仕事をするだけで、残りはもっぱら剣を究めようと精を出し
ている。
エヌラスは書類にサインを繰り返し、一息入れた。一山の中腹辺り
まで減らして、身体を慣らす。凝り固まった部位がゴキバキと折れて
るんじゃねーのって音をあげているが気のせい気のせい。時計の類
は置いていない為、腹時計だけが唯一の頼り。師、曰く﹃時の流れに
身を任せると時の流れに肉体と精神は支配される﹄とのこと。時間超
越とか出来るのテメーだけだよ、とは何度思ったことやら。その為、
エヌラスの部屋には時計は置いていない。
428
執務室にノック音が響いた。入ってくるのは三人の自動人形のメ
イド達。
﹁失礼しま∼す、ご主人様ぁ。書類です﹂
﹁失礼するッスよーご主人。書類追加ッス﹂
﹂
﹁失礼を。ご主人様、こちら本日分の書類をお持ちしました﹂
﹁ぬわぁぁぁぁぁん疲れたぁぁぁぁんもぉぉぉぉう
ドサッ。ドサッ。バッサァ
!!!
追加で持って来られた書類の山が三つほど増えた。
!
第六章 デッドヒート
episode68 戦禍の破壊神
││ソコには、何もなかった。真っ暗だった。闇黒。きっと、そん
な言葉が似合う場所だった。自分が誰かも分からなかった。そもそ
も意識すらあるのか疑問を抱いて〝俺〟が生まれた。自意識が自己
の存在を確立する。何もない暗闇の中に、手があった。足があった。
身体があった。服すら着ていなかった。生まれたままの姿で暗闇を
漂流する。
そうして、どれほどの時間が経過しただろう。いや、時間という概
念すら知らなかった。
ソ
ラ
果たして自分は何者で、何処にいるのかということすら││その〝
無意識〟が、認識させた。
そこは宇宙だった。限りなく広大で、深遠の宇宙の中に一人、取り
残されている。
星が瞬いていた。その光に照らされて、自分の肉体を改めて認識す
る。頭、首。首を動かす。右を見て、星が光っていた。手を伸ばす。
届かない。〝諦めて〟左を向いた。
そこに、少女がいた。眠っている。一糸まとわぬ姿で、自分と同じ
ようにこの闇黒の宇宙に放り出されていた。幼さの残る顔立ち。成
長の兆しを見せる四肢の白さに目を奪われる。左手を伸ばすと、届い
た。その頬を撫でる。温かい。すぅすぅと寝息を立てるそれが、妹で
あると理解した。
唇を奪い、貪るように名前も知らない妹を何もない宇宙の中で犯
す。その白さも何もかもが自分のモノであると。その肉欲に満ちた
行為の中で、眠り続けていた妹が目を開ける。微睡みの中で、瑞々し
い唇を奪って目を覚ました。
﹃兄さま││﹄
何度目になるかも数え忘れた欲を吐き出して、妹の身体を抱いて宇
429
宙の星を眺める。何もない、寒い寒い宇宙で。ここは、独りでいるに
は寒すぎた。だけど、ふたりなら。
﹃⋮⋮あの星全てが、人の営み﹄
﹃ああ﹄
星のひとつひとつは、まるで映画のように人々の営みを映し出して
いた。涙を誘うドラマも、血の滾るようなアクションも、胸を射すよ
う な ロ マ ン ス も。そ こ に は 全 て が あ っ た。俺 に は 何 も な い の に。妹
には着る服すらないのに││俺達は、孤独だった。
何も持たず、何も与えられず生まれた。そんな時、ふと妹が口を開
く。
﹃あんな世界、滅びてしまえばいいのに﹄
﹃⋮⋮ああ﹄
妹は、世界を憎んだ。人々の幸福を妬んだ。何もない自分たちを蔑
み、恨んだ。
俺は、それを羨んだ。人々の幸福を願った。何もない自分たちを嘆
き、憤った。
││そして、ソレが与えられた。
背後に現れたのは途方も無い巨大な質量。振り返れば、いつの間に
かそれがいた。
鋼の巨神。そうとしか言えない。ただひたすらに馬鹿げた圧倒的
な質量とスケールを前に声を失う俺の手を取って、妹はまるでとびっ
きりのオモチャを与えられた子供のようにはしゃいだ。満面の笑み
で手を引いてそのコックピットを指差して。
﹃兄さま。行きましょう。世界の全てを壊しましょう﹄
どうしてか、コックピットに乗り込んでからすぐに操縦方法が分
かった。まだ服を着ていないことに気づいて、妹が笑う。俺も、なん
と間の抜けた格好だと笑った。
妹は血のように紅いドレスを纏った。俺は││それに倣った。鮮
烈な赤の衣装に身を包んで、巨神を駆る。
││それが、破壊神と呼ばれる名の始まり。原初の記憶。
星に降り立ち、次元を超えて目につく世界に普く全てを破壊する。
430
星 が 一 つ 滅 ぶ。次 の 次 元 へ。そ の ま た 次 の 世 界 へ。更 に そ の 先 の 次
元を越えた世界へ。何度も何度も繰り返し破壊してきた。時には困
難があった。予想以上の敵と相まみえた。巨神に匹敵する強大な敵
が い た。正 義 を 背 負 う 獅 子 が い た。死 闘 を 繰 り 広 げ、激 闘 を 繰 り 広
げ、その末に破壊した。胸を満たす感動で世界を破壊する。
時には趣向を変えて巨神から降り立ち、自分たちの手で人々の営み
を壊した。まるで冗談のように、よく出来たジオラマのように。壊す
ためにあるようなセットを壊して、無邪気に笑った。時には女を捕ら
え、攫い、壊れるまで弄んだ。飽きたら捨てて土地ごと焼いた。そう
すると妹が機嫌を損ねるので慰めるのが大変だったのを身体が覚え
ている。
そんなことを繰り返してきて││〝あの人〟に出会った。
﹃こ れ は ま た、デ タ ラ メ な モ ノ を 持 っ て き た な ぁ ⋮⋮ た ま げ た な ぁ
⋮⋮﹄
拳を振るう。その衝撃波だけで街一つ壊滅しそうなものだが、事も
無げに〝片手〟で防いでみせた。背筋を寒いものが駆け上がる。〝
アレ〟を初めて目の当たりにした時、死を覚悟した。
﹄
﹃危ないって言ってるだろうが、っと﹄
﹃んな││アアアァァァ
アッパーカット。顎を打ち抜いて、涼しい顔で子供のじゃれあいの
!?
431
逃げ惑う人々を無視して、まるで未確認飛行物体でも見たかのよう
な間の抜けた顔で。その人は俺たちを見上げていた。巨神の脚を持
ち上げて、踏み潰した。
﹄
﹃おいおい、危ないだろう﹄
﹃││││
﹃ふむ││こいつはまた、荒唐無稽な機械仕掛だ。実に興味深い﹄
人は浮かんでいた。
で建物が幾つも崩壊した。ようやく起き上がった俺たちの前で、その
そして、バランスを崩す。妹に叱咤されて機体を起こす。それだけ
!?
﹄
﹃兄さま
!
﹄
﹃オウッ
!
ような一撃。それだけで鋼の巨神は空高く打ち上げられていた。ぐ
んぐん地面が近づき、受け身を取ることも忘れて衝撃に打ちのめされ
そうなら引っ込めろ。迷惑だ﹄
る。大の字で寝転がって、ポカンと間抜けに口を開けていた。妹も恐
怖で身体がすくんでいる。
﹃おおい、出し物はデカイだけか
まるで路端の大道芸を注意するかの気楽さだった。言われるまま
に巨神を転送して、改めて対峙する。
瓦礫の上で髪をかき上げ、大仰なマントを羽織った男││大魔導
師。そう呼ばれる地上最強の魔導師にして国王。九龍アマルガムを
治める鋼の男は、俺達を見下ろして﹁ふむ﹂とひとりで納得するなり
││笑った。
﹃まぁ、悪戯小僧にはお仕置きが必要だな。││変神﹄
そして、俺達は負けた。何一つその人には届かなかった。ただの一
撃ですらも。最大の必殺││必滅呪法ですらも。
鋼の巨神、その右腕だけを召喚して放った渾身の必滅呪法││〝無
限熱量〟シャイニング・インパクト。その渦中に捉えた時は勝利を確
信した。だが、しかし。
﹃術式の構成が甘い﹄
﹃││││﹄
﹃基本格子の構成も緩いな。術の制御もなっていない。まるでワラの
牢屋だ。この程度の術式解除であれば、コンビニのクロスワードパズ
ルの方がまた手強い﹄
その中から落胆の声色が聞こえた瞬間、敗北は絶対的なものである
と 確 信 し た。昇 華 す る 前 に そ の 最 強 は 崩 れ 去 っ た。瓦 解 し て い く。
霧散していった。
﹃が、その発想は良い。しかしあぁもずさんな魔術では、到底俺を殺す
ことはできんよ。破壊神﹄
俺は││﹄
﹃アンタ││何者だ﹄
﹃俺か
様々なことを学んだ。様々なことを教えてもらった。
432
?
その人は、何を思って俺を弟子にしたのだろう。大魔導師は。
?
﹄
﹄
食うのか、食う
捕まえろエヌラス
﹃師匠、蒸しパンは虫の湧いたパンじゃねぇ
﹄
えんがちょ えんがちょー
﹃む、こんなところに蟲パンの原料が
﹃汚ァァーーッ
のかそれ師匠
!
!
││っはぁ、カブトムシうめぇ﹄
!
!
れた状態で、そいつは妹の頭を手にしてこう言った。
﹃妹さんはサ、君にこうして全てを曝け出したかったんだってサ
キレイだろう、妹さんのハ・ダ・カ││﹄
│どうしてだろう。
もう俺に〝アイ〟はいらない。何もいらない。そのはずなのに│
吐の中を這いずり回って、空しい復讐心で心を焦がしながら。
俺は││、何もかも失った。そして、今日も戦い続けている。血反
焼土だけが俺の眼前に広がっていた。
⋮⋮その後の記憶は、俺にはない。ただ、血に濡れた師匠と恋人と
いをしたのサ
だからボクァ止めたんだよ。だからワタシャはちょいとそのお手伝
!
腹を裂かれ、臓腑を引きずり出され、首を刎ねられて、全てを剥か
死に方をしたのだ││。
れた。人ならざる者の手で、人ならざる殺され方をした。人ならざる
〝狂い時計〟のクロックサイコ。狂気の魔人。神格者。妹は、殺さ
吐き気を催す。
││いや、もう一人いる。妹が心を開いた相手が。思い出すだけで
いじゃなかったようだけど、俺にしか心を開かなかった。
もらったものが多すぎて数えきれない。妹もそんな師匠のことは嫌
あの人には振り回されっ放しだった。学ぶことが多すぎて、与えて
⋮⋮うん、思い出さなくていいこともあるけれど。
﹃胃に入れば何でも同じよ
!
彼女達の笑顔だけが、目に焼き付いて離れない││。
433
!
!?
!?
!
episode69 守るもの。愛されるもの
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
騒がしくも賑やかで楽しい夕飯を終えて、エヌラスは自室の天蓋付
きベッドに倒れこんでいた。自室には様々な魔術骨董品を置いてあ
るが全てが戦闘用であり、同時に偃月刀や二挺拳銃のレプリカモデル
達だ。性能は劣るが、それでも形から入れば多少なりとも見栄えは映
える。
目蓋を強く閉じて、眉間を押さえたエヌラスは深いため息を吐い
た。シ ャ ワ ー も 浴 び た。さ っ ぱ り と し た 気 分 だ。気 分 も い く ら か 晴
れた。書類は投げた。やってられっか。
今、心地良い重量感を感じていた。
﹁⋮⋮プルルート。俺の部屋に何の用だ﹂
434
倒れているというよりは、押し倒されている。どうしてか、夕飯の
後にまとわりついてきた。軽い仮眠を摂りたくて部屋に戻ってきた
というのに、これでは眠れない。
両手を押さえる形で馬乗りになって、プルルートは目尻の下がった
瞳で見つめてくる。そこに言葉はない。身体を起こすと、息を吸い込
む。
﹁││どうしてぇ﹂
何故かと聞かれていることに気づくのに、数秒。質問の意図が読め
ず、考えるのに更に数秒。結果として言えば一分近く黙り込んでいた
エヌラスの目を見つめるプルルートが顔を近づけた。部屋の灯りは
﹂
点けていない。突然変身すると、更に顔を近づけてくる。
﹁どうして、エヌラス⋮⋮
﹁⋮⋮なにが﹂
﹁どうして││﹂
賞賛しようとする唇が塞がれた。
自分がいる。綺麗な青い髪、透き通るような紅い瞳。綺麗だと素直に
覗きこんでくる瞳の中に、自分がいた。顔色一つ変えない鉄面皮の
?
﹁どうして〝誰も愛さない〟のよ﹂
﹁││││﹂
心臓を刺されたような気さえする一言に、エヌラスは茫然自失とな
声を張り
る。言葉を失い、脱力した。プルルート=アイリスハートは両手を頬
に添える。
﹁妹を殺されて、恋人を殺して、師匠を失って。辛いのに
上げて泣き叫びたいのにどうして││我慢しているの
イリス﹂
﹁⋮⋮嘘ね﹂
﹁どうしてそう思う﹂
﹂
﹁目を逸らしたからよ。目は口ほどに物を言うの、知ってる
?
﹁⋮⋮抜け殻か﹂
まるで抜け殻よ。あたしが見たいのは、本当の顔﹂
﹁我慢している顔を見るのは好きよ。すごく。でも、今のエヌラスは
できたアイリスハートの手が胸板までをなぞってきた。
知るかよ、と思いながらエヌラスは首を傾げる。するりと潜り込ん
てか分かるかしら﹂
﹁ええ、とっても。凄く愉しいわ。でもね、今は愉しくないの。どうし
﹁俺をイジメて、愉しいか。アイリス﹂
﹂
﹁俺には、何もないからだ⋮⋮元々、そんなものは無かったんだよ、ア
どうしてだろうか。言われて考えたが、答えはすぐに出た。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
?
?
嗚呼、そうだろう。それはそうだ││自分は何もかも、すべて亡く
435
﹁知ってるさ﹂
﹁じゃあ、どうして﹂
﹂
﹁⋮⋮さっきも言ったろ。俺に、そんなものは無い﹂
﹁妹を愛してなかったの
﹂
﹁││││﹂
﹁恋人も
?
﹁どうして。エヌラス⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
?
なってしまったのだから。孤独な王様だ。この胸の穴を満たすこと
は、きっと、もう叶わないと〝諦めて〟しまいそうになる。それでも、
本当はあるのではないか。人々が明日を笑顔で迎えることのできる
世界ならば。〝ああ良かった〟と穏やかな気持に。
││いいや、きっと、もう。そんなものではダメだろう。分かって
いることだ。だが、それは叶わない。
﹂
﹁⋮⋮アイリス﹂
﹁なに
﹁俺は、きっと││お前達を愛せない﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁怖いんだよ﹂
その頬に手を当てて、撫でる。こんなにも近いのに、こんなにも温
かいのに、こんなにも心は冷たい。
﹁俺は、怖いんだ⋮⋮﹂
この柔らかさも、美しさも、また││脳裏に蘇る││失ってしまう
のでは、と。壊れるほど強く抱きしめても、狂ってしまうほど熱く抱
いても、心だけが不安に駆られている。
誰かを愛そうと思うと、アイツの顔が出て
﹁アイリス││俺は、怖いんだ。もう、嫌なんだよ⋮⋮誰も、失いたく
なんてねぇんだよ││
﹁⋮⋮怖くて愛せないの
﹁そうだよ﹂
﹂
?
﹂
﹁また、殺されてしまうから
﹁そうだよ⋮⋮﹂
﹁だから、命懸けで守るの
﹁それの何が悪い﹂
﹁⋮⋮何もかもよ、バカ﹂
?
﹁バカよバカ。バカの極みよバーーーーカ。アホみたい﹂
﹁バ││、テメェ﹂
﹂
髪を梳いて、細首に触れて、肩を撫でて。
堪らない⋮⋮﹂
くる。殺された妹の顔が出てくる。そうなるんじゃないかと、怖くて
!
?
436
?
ねぇねぇどんな気分
﹁人が、どんな気持ちでいるかも知らないくせに﹂
﹂
﹁へぇ、じゃあどんな気分
﹁クッソ性格悪ィ⋮⋮
くすくす⋮⋮﹂
?
﹁俺が、裏切るかもしれないぞ
﹂
切ったりしない。あぁ勿論、あたしもよ
﹂
﹁ねぷちゃんも、ぎあちゃんも、ノワールちゃんも。あなたのことを裏
﹁どこがだよ﹂
﹁エヌラス。あたし達はね、大丈夫﹂
﹁⋮⋮アイリス﹂
唐突に、優しい声色で。子供をあやす母親のように。
﹁だいじょうぶよ││﹂
﹁俺の心にグッサグサ刺さる⋮⋮﹂
﹁ええ、そうね。度し難いクズで救いようのないバカよ﹂
﹁⋮⋮クズでバカって救いようがねぇな﹂
﹁じゃあバカ代表ね﹂
﹁⋮⋮男はバカなんだよ﹂
﹁バカね、本当に⋮⋮﹂
クスクスと笑うアイリスハートの手が、エヌラスの頬に触れた。
﹁こういう女なのよ、あ・た・し・は﹂
?
?
﹁どうして
﹂
﹁⋮⋮それは、俺が赦さねぇ﹂
﹁愛して、いいのよ。あなたは愛されていい﹂
で、裸身を露わにしてエヌラスに身体を擦り合わせる。
豊満なスタイルを辛うじて隠していたボンテージスタイルを脱い
﹁だから、ね﹂
﹁おっかねぇな⋮⋮﹂
﹁その時は地獄の果てまで追い詰めるわよ﹂
?
壊するその前に、俺の手で必ず殺さなきゃならない奴がいるんだ。ソ
イツを殺さない限り〝俺は誰かを愛さない〟し〝誰にも愛されちゃ
いけない〟んだよ﹂
437
!
﹁⋮⋮まだ、ダメだ。俺には殺さなきゃならない奴がいる。世界が崩
?
﹁ひとりよがりもいい加減にしなさいよ﹂
﹁俺は独りなんだよ﹂
﹁強情で意地っ張りで傲慢で度し難いクズのくせに﹂
﹁男なんてそんなものだ﹂
﹁そのくせ人一倍命を張るくせに﹂
﹁他に出来る事がない﹂
どうして、あなたは⋮⋮﹂
﹂
﹁性欲だって底なしなのに﹂
﹁それ関係なくねぇ
﹁なのに││どうして
ポ タ、ポ タ と。熱 い 雫 が エ ヌ ラ ス の 頬 を 濡 ら し た。雨 漏 り で は な
い、アイリスハートの瞳から溢れる涙だった。
﹂
﹁あたしの心をこんなにも、かき回すのよ⋮⋮どうして⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ん⋮⋮な、なによ。慰めてるつもり
﹁あたし達を何だと思ってるのよ。守護女神よ
﹂
で守るだけの価値がある存在だ。それだけは信じてくれ﹂
﹁アイリス。俺はさ、お前達を愛することができない。だけど、命懸け
計。
ど愛されたい。だけど、それが壊されるのが何よりも怖い││狂い時
もネプギアも。みんな、愛したい。壊れるほど愛したい。壊されるほ
ない。ネプテューヌもパープルハートもノワールもブラックハート
とも思っている。アイリスハートだけではない、プルルートだけでは
愛したいと思っている。涙を拭って、頬に手を添えて。愛されたい
?
スに身体を重ねた。二人の鼓動が重なる。
手が上着を脱がし始める。されるがままに受け入れて、半裸のエヌラ
そう言って笑うと、アイリスハートも冗談のように笑った。その両
﹁生憎と俺は破壊神でね。守る前に敵をぶっ潰しちまう﹂
﹁あなたにも同じこと言えるわよ﹂
る﹂
答えは﹃愛するもの﹄だ。お前達は誰かを守る時、誰かに守られてい
﹁俺の師匠が言っていた。﹃守護者を守るものは誰だ﹄ってな││その
?
438
?
!?
﹂
﹁ねぇ、エヌラス﹂
﹁ん
﹁⋮⋮今夜は、あたしがリードを取ってもいいかしら﹂
﹁聞かなくてもそうするくせに﹂
﹁答えは聞いてない﹂
﹁だろうと思った。ああ、いいぜ。好きにしろよ﹂
439
?
e p i s o d e 7 0 壊 れ る ほ ど 愛 し て も 伝 わ る の
はサンブンノイチ︵R︶
ギシ││ベッドが軋む。ひとりふたり程度ならば壊れることもな
いように設計されているエヌラスのベッドであるが、その夜の二人の
ちゃんと我慢、しなきゃ﹂
ほ ら、こ う か し
激しさに黄色い悲鳴をあげていた。腰をくねらせ、それだけで耐え難
そ ん な に キ モ チ イ イ の
い快楽に身体が跳ねる。
﹁│ │ フ フ、な ぁ に
らぁ﹂
た。
?
﹁ぬぅぅぅぅ⋮⋮
﹂
﹁そうよねぇ、だってあたしの中でこんな、ギンギンになってるもの﹂
﹁無理、言うな。こんなん耐えられるか⋮⋮﹂
﹁あハッ、なぁにエヌラス
あなたもしかして、射精しそうなのぉ﹂
ヒダと擦れていくとアイリスハートは再び緩やかに腰を落としてっ
ぬるりと愛液に包まれて、引き抜かれていくだけで亀頭が絡みつく
﹁だぁめよ∼
﹁アイリス、それ、待て⋮⋮﹂
?
変身した後のあたしはスゴイでしょ﹂
?
﹂
!
﹂
﹁││││﹂
﹁⋮⋮
﹁俺の、身体が、不調なの、忘れてないよな⋮⋮
﹂
﹁なによそんな苦悶の声出して。我慢しなさいって﹂
﹁ひぎぃぃぃぁぁぁぁ⋮⋮
﹁むっ。あたし以外の女のことを言うとこうよ、こう﹂
﹁いや、お前に限らず全員スゴイと思うけどな﹂
﹁んッ⋮⋮、フフッ。どう
は確かな重量感と柔らかさがある。
トは自分の胸に当てた。変身前からは想像もつかない豊満な乳房に
いる。ハリのある肌を汗が伝い、エヌラスの手を取るとアイリスハー
堪え、言われて我慢している欲望がこれ以上ないほど膨れ上がって
!
440
?
?
!?
?
﹂
﹁あぁ、そういえばそうね。で
﹁命の問題だよ
それのなにが問題
?
﹂
?
然腰の振りを早める。
﹁それで、あたしが、止まると思うの
﹂
﹂
?
るだけで腰が抜けそうな快楽に襲われるも、平然を装う。
?
﹁んひゥッ
﹂
そこでクリトリスを剥いて刺激した。
を見てエヌラスは胸から腰に手を下ろし、さらにお腹、窮鼠部││と、
アイリスハートは射精が落ち着くまで腰を落としていたが、その隙
﹁ふゥ、ン⋮⋮ふふ、こんなに、出して⋮⋮あ、嘘、まだ出るの⋮⋮
﹂
中に溜め込んでいた精液を残さず吐き出す。それを子宮で受け止め
まで奥深く咥え込まれた瞬間にエヌラスは果てて、アイリスハートの
ど く っ ⋮⋮。先 端 か ら 溢 れ る と 思 っ た 時 に は 既 に 遅 か っ た。根 元
﹁││││ッ、⋮⋮││くっ
ほぉら、イッちゃいなさいよ
まで忘れていたかのようにとぼけてみせた。そして、妖しく笑うと突
一刻を争う緊急事態でもアイリスハートはまるでそれを言われる
!
ている。
?
イキそうなのか
い快感に口元が緩んでいる。
﹁なんだ
﹂
?
﹁そんなわけ、ないじゃなぁひぃ
﹂
は耳まで真っ赤に染まり、怒りに震えていたが、どうにも堪え切れな
肩はプルプルと小刻みに震え、その目元には涙が溜まっていた。顔
﹁いや、なに。あまりに手持ち無沙汰だったものでな﹂
﹁ちょっと⋮⋮
なに、勝手にしてるのよ、ォ﹂
きゅうと欲深い身体は正直な反応を示していた。目尻がつり上がっ
アイリスハートが艶かしい声を出して、膣が急激に絞まる。きゅう
!
ラスの陰茎を見てヨダレを垂らしながら腰を浮かせると深く沈み込
手を添えるだけだ。溢れ出る精液に愛液が混じり、卑猥にテカるエヌ
アイリスハートがエヌラスの手を止めようとするが、力が入らずに
﹁ふむ。弱いのは、ココらへんか﹂
!?
?
441
!
!
ませる。射精を終えたばかりでも一向に衰える気配のない硬さに熱
く突き上げられて、身体を掻き抱いた。
〝余裕なくなってきたな⋮⋮〟
自分が有利なのだと思っていたのだろうが、実際はどちらも限界に
近い。
﹁はぁ、ハァ││エヌラス、あたし⋮⋮﹂
﹁俺もそろそろ⋮⋮﹂
﹁ぁ⋮⋮いっしょ、に﹂
勃起した陰核を弄る手を取り、指を絡ませる。強く握りしめて、ど
ちらともなく唇を寄せた。
﹁一人で、イカせないんだから﹂
﹂
﹁ほんっと、お前は││この、っ⋮⋮﹂
﹁あ││ああ、はあぁぁぁっ
二人は同時に絶頂に達し、プルルート=アイリスハートは変身を保
てなくなったのか身体を小さく戻すとエヌラスの胸板に頭を預ける。
一糸纏わぬ裸で、息を荒くして奥まで深く咥えこんでいた陰茎を抜く
と精液がこれでもかと溢れでた。
﹁あたし、ぃ∼⋮⋮白い、オシッコしてる、みたいでぇ⋮⋮エッチぃ
よぉ∼﹂
﹁⋮⋮ド変態のスケベが何言ってやがる⋮⋮﹂
﹁エヌラスが出したのにぃ∼⋮⋮﹂
﹁お前が搾り取ったんだろうが⋮⋮ほら、拭くから脚開けって﹂
﹁ぷるぅ⋮⋮﹂
言われるままにプルルートはエヌラスの上で脚を開く。それだけ
ん、ん。あフ⋮⋮﹂
﹂
で 割 れ 目 か ら 精 液 が 太 も も か ら 垂 れ 落 ち る。手 繰 り 寄 せ た テ ィ ッ
エヌ、ラス、かき回しちゃ、やだぁ∼⋮⋮
シュでそれを丹念に拭き取ると、小さな秘部に指を入れた。
﹁んくゥ⋮⋮
﹁聞い、てる∼
!
こそ腰を抜かしてエヌラスに身体を預ける。ぐっしょりと濡れた手
442
!
﹁指入れるだけでキツイな⋮⋮﹂
!
ピクピクと身体を震わせ、何度目かになる絶頂にプルルートは今度
?
を見せると顔を赤くしながら頬を膨らませていた。
﹁いじわるぅ⋮⋮﹂
﹁はは、おまいう﹂
﹁あたしが変身するのぉ、一人で二人分じゃないんだからぁ∼﹂
﹁大きいと逆に遠慮しなくていいからそれはそれでおいしい﹂
﹁⋮⋮エヌラスのえっち⋮⋮﹂
小さな身体を抱いて、脇に寄せるとプルルートがふてくされたよう
にそっぽを向く。
﹁なんで怒ってるんだよ﹂
﹁⋮⋮だってぇ、あたしがリード取るって言ったのにぃエヌラスがイ
ジメるんだもん∼﹂
﹁あ、あぁ⋮⋮悪い﹂
﹂
髪を梳くように撫でると、心地よさそうに小さく声を出した。
﹁⋮⋮エヌラス﹂
﹂
ゴ
ア
大切に思えば思うほど、心が恐怖する。大切な物は、自分の手から必
ずこぼれ落ちていく。
443
﹁んー
﹁あたしぃ、好きだから∼⋮⋮忘れないでね∼
﹁⋮⋮ああ﹂
﹁⋮⋮ごめんな﹂
?
それでも、手放すことは出来ない。だけど大事にすればするほど、
﹁どうして謝るの∼
﹂
﹁んぅ∼、苦しいよぉ﹂
くプルルートに構わず。
いた心だけは冷えたままだった。強く抱きしめる。苦しそうにうめ
手の中にある小さな身体から伝わってくる温もりでも、芯と凍てつ
ルガムのどこかに潜んでいるのかもしれない。
ロックサイコ。今もこのアダルトゲイムギョウ界のどこか、九龍アマ
あの狂気の魔人を。狂気を望む者達が生んだ、狂気の神格者││ク
出す。
俺も││とは、言えなかった。言い出せなかった。どうしても思い
?
?
九龍アマルガムで高純度の黄金の蜂蜜酒を製造している場所はか
なり限られる。精製方法には少なからず酒造の知識が要求されるし、
ソレ以上に求められるのは魔導に関する知識。そう、黄金の蜂蜜酒を
作るには魔術を施されたハチが必要だ。もちろん、違法である。そし
てそのハチ達が蜜として集める花も魔術に使用される植物。当然の
ごとく植えるだけで御法度モノである。更に言ってしまえばそれを
作る為に必要な道具も施設もさも当たり前のように違法。これが高
純 度 の 黄 金 の 蜂 蜜 酒 が 入 手 困 難 な 謂 れ だ っ た。言 っ て し ま え ば グ
レーゾーンを突っ切ってアウトラインギリギリを攻め損ねた結果、未
開拓の世界で原住民を轢き殺しながら新世界に足を踏み入れて尚も
アクセルをべた踏みしているようなものである。これには﹃アサイラ
ム﹄の所属員達も匙を投げた。そもそも何が違法かと聞かれたら、驚
らうとノワールに投げ渡した。小さな瓶に入ったソレはまるで栄養
投げ売り上等
﹄と書かれて
ドリンクのような気軽さで箱詰めにされて置かれている。そこに店
主と思わしき人間の文字で﹃超特価
!
ていた瓶を元の場所に戻してダッシュで戻ってきた。その隣で交通
店の人間が顔を出すと、人間ですらなかった。ノワールは手に持っ
いた。ミミズがサンバ踊る方がマシな汚い文字で。
!
444
きの含有成分100%だ。
だがしかし、そこは犯罪国家。用法と用量を規定して、更に純度を
薄めた物を〝一般的に〟普及させることで事なきを得ている。薬も
そん
過ぎれば毒となる。だが、要は程度の問題。ある程度までなら許容範
囲とした。
﹁いや、それ根本的な解決になってないし﹂
ノワールにツッコまれる。そりゃそうだ。
﹂
﹁つまりは、手がつけられないから目を瞑るってことでしょ
なんでいいの
﹁ほれ﹂
?
エヌラスが何食わぬ顔で薬局の展示品から黄金の蜂蜜酒をかっさ
?
事故が連続して起きている。車が爆発した。衝突に巻き込まれた市
﹂
民の懐から財布を抜き出す不良共がいたが何も見ていない、いいね
﹁こ、こここっココって人間以外でもお仕事してるの
?
の人間じゃないわよね
﹂
﹁おいノワール。どんなブサイクにも人権はあるんだぞ
いこと言うなよ﹂
﹁エヌラスさんの言ってることも相当に酷いような⋮⋮﹂
バトラー
﹁律儀ですね、相変わらず﹂
とあれば、少女たちの護衛もやぶさかではあるまい
﹂
﹁うむ。久方ぶりに顔を拝見してな。その上一宿一飯の世話になった
﹁ブシドー。貴方もご一緒でしたか﹂
燕尾服とピッタリだと納得している。
たアダ名が総統と執事だ。衣装もおあつらえ向きに令嬢のドレスに
クイーン
パッと見、主人とその従者にしか見えないことからエヌラスが付け
﹁あら、懐かしい顔﹂
﹁国王様、お久しぶりでございます﹂
り返る。
気さくに声を掛けるエヌラスにその二人も気づいたのか、パッと振
﹁よぉ、クイーンとバトラー﹂
と思いつつも覗き見た現場にはアサイラムのメンバーが二人。
そして、エヌラス達のいる通りで人だかりができていた。邪魔臭い
されている。南無。
今しがた財布を抜き取ろうとしたチンピラの両腕が背後で切り落と
サイラム幹部ともなれば、国王以上にその危険性が知れ渡っていた。
必要な行為だったが、ブシドーを連れているだけで雑踏が割れる。ア
ネプテューヌ達を連れて九龍アマルガムを歩くのは相当に勇気の
聞こえないふり。
そんな酷
﹁だってあんなイソギンチャクみたいな頭に目玉ギョロギョロ付いた
﹁まぁな。たまーに言葉通じない変な奴とかいるけど﹂
?
?
445
?
!?
アサイラムの面子がどうしてこんな場所に﹂
﹁そちらこそ﹂
﹁で
?
﹁こんな場所ってアナタの街でしょうが⋮⋮﹂
聞 こ え な い 聞 こ え な い。ノ ワ ー ル か ら の ツ ッ コ ミ な ん て 聞 こ え
なーい。エヌラスは見ないふりをした。
446
episode71 診察代はプライスレス
割と頻発
﹂
﹁実は、つい最近起きた魔導プラントの事故で職員が何名か行方不明
になっておりまして⋮⋮﹂
それ毎度なの
﹁毎度のことじゃねぇか﹂
﹁毎度なの
!?
話すとどんな感じなの
﹂
﹁うーん、私ってさー。長い話とか苦手なんだよねー。かいつまんで
﹁特異変質体構造患者の中にいないか身元の特定を急いでいます﹂
!?
テ
ル
﹂
?
﹁空間歪曲率局
﹂
﹁そうなっちまうと空間歪曲率局に連絡だなぁ。面倒くせぇ﹂
なってる可能性も⋮⋮﹂
﹁はい。ご存知かと思いますが、霊的物質の類です。最悪、ゴーストに
エー
﹁で、その魔導プラントで取り扱ってたのは││
そう端的に説明した。これ以上ないほど分かりやすい。
﹁化け物になった職員を探しています﹂
ネプテューヌの言葉にバトラーが一瞬だけ悩み。
?
視してエヌラスは現場を覗く。
﹁んで、このなんの肉だか分からないひき肉は何なんだ
﹁人肉ではないようですが⋮⋮﹂
?
﹁では、道中お気をつけて﹂
こっちからも何か進展あったら連絡する。行くぞ﹂
﹁│ │ あ あ、ク ソ。嫌 な こ と 思 い 出 し ち ま う。悪 い が こ こ は 任 せ る。
﹁身分を示す物は何一つ﹂
﹂
かった情報にネプテューヌ達が引きつった笑いを浮かべているが、無
き込まれて変死体になって発見されているとか。もっと聞きたくな
そんな注意報聞きたくない。しかも月一で市民の誰かが運悪く巻
﹁へ、へー⋮⋮そうなんですかぁ⋮⋮﹂
わりにそういうのがテレビで流れる﹂
で、今日の瘴気がどれぐらい濃いとか。地下帝国だからな、天候の代
﹁天 気 予 報 み た い な も ん だ よ。九 龍 ア マ ル ガ ム の ど こ で 空 間 が 歪 ん
?
447
!?
﹁気を使うだけ無駄だ。この国じゃあな﹂
エヌラスはクイーンとバトラーの二人を置いてネプテューヌ達と
共に先に行く。その最後尾に着いていたブシドーが目配せをすると、
気付かれないように頷いた。
〝この事件、早急に対応を〟
〝承知しております〟
これがただの傷害事件、魔導事件ならば収拾は朝飯前だが、クイー
ンとバトラーは何か嫌な予感がしていた。犯罪国家と言えど、その許
容範囲にも限りがある。これに気づかないエヌラスではない。なぜ
なら、かつての事件の被害者であるからだ。
戻 っ て き た の か も し れ な い。狂 気 の 魔 人 が。だ が 何 の た め に
﹁
﹂
廃屋の扉を開ける手が、壁に伸びていく。
の神は国王である神格者、エヌラスと疫病神と貧乏神だが。
い事から﹃触らぬ神に祟りなし﹄が適切だろう。もっとも、その場合
正すべき点は、君子と呼ばれるほど徳の高い人間がこの街に存在しな
た。この街で長生きするコツは﹃君子危うきに近寄らず﹄である。訂
迫られて散り散りになる。それきり誰も声を掛けようとはしなかっ
絡まれるも、頭が吹き飛ばされるか胴体が切り落とされるかの二択を
れた小さな路地裏の店だった。その途中で明らかに自由業の面々に
エヌラスが立ち寄ったのは、一見すればただの廃屋。寂れて錆に塗
ている。
決まっている。││彼の周囲の誰かが、またその犠牲となろうとし
が、それでもやはり疑問は付きまとう。何のために
││エヌラスが戻ってきたからだ。それに何の疑いようもない。だ
?
いった。それに来るように指示を出すとエヌラスは壁の中へと消え
ていく。ブシドーが続き、ネプテューヌ達も恐る恐る手を差し出して
壁の中を確認する。
﹁うぇぇ、なんか泥に手を突っ込んでるみたいな感しょ、くぅぅぅぅ
﹂
448
?
全員が怪訝な表情を浮かべる。すると、壁の中に手が吸い込まれて
?
!?
見えていないが、エヌラスがワタワタと動かしていたネプテューヌ
の手を引っ張った。それとは気づかずノワール達も慌てて続き、エヌ
ラスが全員分の体重を下敷きとなって受け止める羽目となる。
﹁あだだだ⋮⋮何も全員ついてこなくてもいいだろ⋮⋮﹂
な
﹁だ っ て あ ん な 寂 れ た 路 地 裏 に 放 置 さ れ た ら 薄 い 本 待 っ た な し だ よ
﹂
﹁あぁうん、そうだな。はいはい﹂
﹁あれー、相変わらずなんか私だけ反応がちょっと冷たいぞー
んでさ﹂
﹁気のせいだよ。あと早く退け﹂
﹁えー、もうちょっとだけいいじゃーん﹂
上体を起こして、ネプテューヌの身体を起こすと││本人は気づい
ていないのか、上着とワンピースの隙間から平たい胸が見えそうに
なっていた。首を傾げて、そのまま﹁まぁいっか﹂とすぐに離れる。
﹁やはりロリコン﹂
﹁死ねよブシドー﹂
直球勝負で言葉を投げるが相手はさらりと送りバント。
起き上がってエヌラスは周囲を見渡す。馴染みある寂れた店の中
には九龍アマルガムでも流通させられそうにない品物がズラリと並
んでいた。大魔導師の旧友とあってやはりその悪趣味には付き合い
きれなかったが、またこうして世話になることになろうとは。
﹁くたばってっかー、夜鷹の爺さん﹂
﹁勝手に殺すでない。何のようじゃ﹂
﹁いやなに。高純度の蜂蜜酒が欲しくてね﹂
﹁ふん。お前に売る蜂蜜酒はない﹂
﹁黄金の蜂蜜酒の方だよ、もうろくじじい﹂
﹂
﹁⋮⋮ちょいとこっちに来い。あと服は脱いでおけ﹂
﹁え、まさかのおじいさん相手のホモ
﹁蹴り殺すぞネプテューヌ﹂
﹂
﹁足で壁ドンとかされても私の心臓がロック刻むだけだからやめてぇ
!
449
?
!?
!
ネプテューヌの頭の真横にエヌラスの足が叩き込まれていた。言
われるままに半裸で夜鷹の爺さん││本名はアーウィルらしい││
の前に座り込むと、丸メガネを直してヒゲを撫でながらマジマジと鍛
えあげられた肉体を診察する。
腕を取り、掌まで触診して、顎で背中を向けるように指示すると指
で背中を突く。だが、何の反応も示さないことに不機嫌そうに鼻を鳴
らすと﹁もうよい﹂と冷たく言い放った。
﹁このバカモンが。腕の回路が焼き切れておるではないか。ちょっと
やそっとじゃ治らんぞ﹂
﹁だから治す為に黄金の蜂蜜酒寄越せって言ってんだろうが﹂
﹁回路の精錬に黄金の蜂蜜酒を使ったところで付け焼き刃にしかなら
んぞい。大魔導師様の元で何を習ったんじゃ﹂
﹁蒸しパンの作り方﹂
﹁⋮⋮そうじゃな。蒸しパンはもふもふふわふわのパンじゃな。わし
だが、アーウィルはそれには目もくれず、机の下から医療器具を取り
出していた。
﹁なんじゃ。年若いおなごをぞろぞろと引き連れおって。例の奴隷市
﹂
場でめぼしい女を買い漁ったのかこのロリコンめ。師弟共々揃いも
揃って﹂
﹁残り少ない寿命、もっと縮めてやろうかクソじじい
﹁〝競り落とした〟ではなくか
﹂
﹁その奴隷市場なら拙者が一刻足らずで切り落とした﹂
!
にやりと笑うアーウィルが新たに取り出したのは、電気工学などに
?
450
は食えんが﹂
どうやらアーウィルも蟲パンの被害者の一人らしい。
﹂
﹁まったく、何をどうしたらそうなるのか話せ。そうでなければ治さ
んぞ
﹂
?
ネ プ ギ ア が 絶 句 し て い た。ネ プ テ ュ ー ヌ 達 も 一 様 に 驚 い て い る。
﹁え⋮⋮そんな危険なことだったんですか⋮⋮
﹁それでよく身体が破裂しなかったものじゃな。呆れたやつだ﹂
﹁ちょいと寝不足と過労の状態で〝螺旋砲塔〟神銃形態ぶっ放した﹂
?
﹂
使う道具。電極や電池まで取り出し、何を思ったのか突然片方の電極
せめて前振りいれろよ
をエヌラスの肩に突き刺した。
﹁イッテェ
り様よ。ほれ動くな﹂
﹁いでででっでっっでえぇぇぇ
﹂
巡らせる電線みたいなものでな。制御ひとつしくじるだけでこの有
﹁こやつの魔術回路は制御だけでなく無尽蔵に精製される魔力を張り
!
ばさんか馬鹿者﹂
﹁くそじじぃぃぃぃぃ⋮⋮
﹂
﹁これがな、本来はこっちまで続いておるはずなのじゃ。ほれ、指を伸
﹁うんうん﹂
﹁ほれ、分かるか。このケーブルを千切られたような先端﹂
する。
いる。それを指し示しながら、アーウィルはネプテューヌ達を手招き
く紋様が浮かび上がった。それは所々で千切られたように広がって
答えを聞かず、発電機のスイッチを入れるとエヌラスの腕に光り輝
よ。ほれ行くぞ﹂
﹁お嬢さん方がどうかは知らぬが、こやつの魔術は命の綱渡りも同然
赦なく発電機を取り出す。
箇所に及んだ。わずかに血が滲んで、当事者の目に涙が浮かんでも容
の悲鳴は聞こえていないらしい。その差した箇所は右腕だけで十数
ブスブスと平たい電極を遠慮無く突き刺すアーウィルにエヌラス
!
そのままにちぎれていた回路へと突き立てられる。魔術的な医療施
│メスとピンセットを持ち、エヌラスの手に当てた。すると、皮膚は
ネプテューヌ達の見ている前でアーウィルはその腕に医療器具│
い己の未熟を嘆くことだ﹂
者。片腕一本くらい吹き飛んでもおかしくなかったわ。まぁせいぜ
﹁よく腕二本くっついておったな。腕の血管ごとやらかしおって未熟
断されている。
捕まえて固定した。その爪の先まで続いてたはずの回路が今では切
痙攣する指先を言われたように伸ばすと、それを標本のようにとっ
!!
451
!
術を行うアーウィルの腕は大魔導師のお墨付きだ。
﹁⋮⋮こんなになってまで、私達のこと守ってくれたんだ﹂
﹁で、何が相手だったんじゃ﹂
﹂
﹁〝核〟のない魔導生命体。神格者の血をわけられたっテェェェエエ
エエ
﹁バ カ も ん め。あ あ バ カ も ん め。そ ん な 物 を 相 手 に 不 調 で や ら か す
か、この馬鹿﹂
電極を一つ。更に強く差し込まれてエヌラスが悲鳴をあげる。
﹁よいか。魔術回路は魔法の神経じゃ。そんなものが焼き切れて、治
﹂
せるのがわし以外におるとでも思っておるのか未熟者め﹂
﹁思ってねぇから早く治せクソじじいぃぃぃっ
の﹂
﹁こ⋮⋮の⋮⋮くそじじい⋮⋮覚えてやがれ⋮⋮
﹂
﹁汗臭くてかなわんでな。拭いてやれい。わしは他の準備があるから
ネプテューヌ達にタオルが渡された。
エヌラスが脂汗をベッタリと浮かべて球のような汗をかいていると
焼き切れた回路の施術が終わり、魔術回路は綺麗に切り揃えられ、
がない。
極を剣山のように刺されて、しかも魔導電流まで流されて両腕の感覚
言をぐちぐち言われながらエヌラスは激痛に耐えていた。両腕に電
そして、左腕も同じように電極をグサグサと刺されて同じように小
せい﹂
﹁言われる前に右腕は終わっとる。ほれ、次はそっちの腕じゃ。はよ
!!
﹁ううん。なんでも﹂
﹁なんだよ⋮⋮﹂
見つめる。
汗を拭き取っていると、歯を食いしばっていたエヌラスの目をジッと
アーウィルに言われるままネプテューヌとネプギアがエヌラスの
にな﹂
ガキめが。ああ、電極は抜くとこやつの腕が破裂するから触れんよう
﹁その憎まれ口はわしの手術に耐えられる歳になってから言え、クソ
!
452
!!
﹁むぅ∼⋮⋮﹂
﹂
﹂
﹂
ぐりっとプルルートが左腕の電極を差しこんだ。
﹁ほぐぉあ
﹁ぷるるん、もしかしてヤキモチ
﹁そうじゃないよぉ∼﹂
﹂
﹁いや、あからさまに⋮⋮﹂
ぐりぃ。
﹁おぐぉあぁぁぁぁ⋮⋮
﹁こういうのもアリかなぁって∼﹂
﹁今、超絶命の危機が迫ってる気がする⋮⋮
﹂
腕の電極がぁぁぁぁアア
﹁えー、絶対ヤキモチだよー。ほら、エヌラスに私がべったりしちゃう
とー
﹁ねぷちゃんズルいよ∼、あたしも∼﹂
﹂
﹁アダダダダ ヤメロ、まじでヤメロ
アアアア
げたら
﹂
﹁お、お姉ちゃん。エヌラスさんが危険なことになってるからやめた
ず、ただ歯を砕けるほど食い縛って耐えていた。
か、最悪片腕か両腕を失うハメになる。そのせいで身動き一つ出来
にでも外れようものならエヌラスは今後二度と魔術が使えなくなる
発電機に繋がっているケーブルは最低限の長さしかない。万が一
!
﹁えー、やだよ。こうしてエヌラスが抵抗できない今がチャンスだっ
てー﹂
﹁そっか∼、エヌラス、今大変なんだもんね∼﹂
プルルートの笑顔に陰りが見える。ゾッとするような悪寒に、助け
舟を求めてブシドーにチラリと目線を運ぶ。
﹁⋮⋮助けてください、ブシドー﹂
﹂
﹁拙者に色恋沙汰に手を出せと申すか﹂
﹁クソが
﹁よーし、ズボン脱がしちゃうぞー﹂
!
453
!
!
?
!?
!?
!
?
﹁プルルートも。今大事な手術中なんだから。ほら離れなさいって﹂
?
﹁よ∼し﹂
﹁やめんかぁ
﹂
﹁なーにをのろけておるかこの色ボケ色情魔。ほれ、退けい﹂
戻ってきたアーウィルに首根っこを掴まれてネコでも捨てるよう
に放られたネプテューヌと引き離されるプルルート。今だけは心底
﹂
感謝したい気分だったが、その手に持っている注射器を見て一気に青
ざめる。
﹁ちょっと待てや﹂
﹁待たん﹂
﹁それ、黄金の蜂蜜酒か
﹁そうじゃ﹂
﹂
!
﹂
?
﹁││││る、せぇ⋮⋮
﹂
﹁女に抱きつかれた程度で声を殺されたら堪らんわい﹂
あげられ、やがて五指の全てに再錬成された。
ら最適な形へと繋ぎ直していく。それはまるで機を織るように紡ぎ
のが幾つも浮かび上がる。あみだくじのような網目状の回路候補か
焼き切れていた魔術回路が無理やり励起されて光る筋のようなも
蜜酒を多分に流し込む。
ウィルが面白くなさそうに﹁ふん﹂と鼻を鳴らすと、右腕に黄金の蜂
無理なものは無理なのだ。それでも、いくらか気が晴れて││アー
﹁ほら、しっかりしなさいよ。男でしょ
こにある。背中に柔らかい感触がふたつ。
スの首に手が回され、それが誰かと振り向けばノワールの顔がすぐそ
せられているのにも等しかった。苦悶の声をあげそうになるエヌラ
の高いアルコールを浴びせているような感触は神経を剥き出しにさ
出来るものの、目尻から垂れる涙は堪えようがない。直接血管に度数
今度こそ、エヌラスは絶叫を押し殺す。内氣功である程度の制御は
﹁ノロケた罰じゃ。精々気を保て、若造﹂
﹁さっき付け焼き刃にしかならないって││││
を押し出す。腕を掴むなり針先を魔術回路に向けた。
試験官に入れられている黄金色の液体を注射器で吸い上げて、気泡
?
!
454
!
﹁大丈夫
﹂
耳元で囁くノワールの優しい声が色っぽい。正直無理です。蜂蜜
酒、とあるように当然ながら酒の一種だ。そんなものを血管に打ち込
まれたら脳みそがおかしくなる。それを﹁耐えろ﹂と言っているのが
アーウィルだ。耐えることは出来ないかもしれない。だが、制御する
ことは出来る。
今度は左腕に流し込まれる黄金の蜂蜜酒。それによって編まれる
新たな魔術回路。その感覚を一つ一つ組んでいく。レールを組まれ
た電車のように思考を駆け巡らせて││。
﹁すごい汗⋮⋮﹂
﹁││││ふ、﹂
ノワールのおっぱいに全部持ってかれた。途中まで半ば離してい
た意識が帰還して、腕の痛覚をダイレクトに脳が処理する。アーウィ
ルの手元が狂い、精錬途中の回路が跳ねた。
﹁む﹂
それだけで神経に砂利を擦り込まれたような激痛と言い難い何か
﹂
が、痛いという言葉では表現し切れない痛みがエヌラスを絶叫させ
る。
﹁アァァァァァオォォォォァァァァァ
﹁ふぅ。ヒヤヒヤさせおってこのバカモンが。途中まで耐えておった
バーしたアーウィルが左腕の施術を終えて額の汗を拭った。
獣のような悲鳴だった。予期せぬミスとは言え、それを事もなくカ
!?
二度と来ねぇ⋮⋮二度と来ねぇ⋮⋮二 度
のに突然悲鳴をあげおって情けない﹂
﹂
﹁フーッ、フーッ⋮⋮
と 来 ね ぇ
!
﹂
じゃろうが堪えろ。そいつの手当が終わったら茶でも飲まんか
?
﹂
﹁人の、連れを⋮⋮茶に誘ってんじゃ、ねぇよ⋮⋮じじい⋮⋮
!
﹁わ し か ら の 手 術 は 終 わ り じ ゃ。回 路 が 馴 染 む ま で 腕 に 痺 れ は あ る
れに救急箱を置いた。
が垂れる。それをノワールが慌ててタオルで押さえ、アーウィルはそ
発電機の電源を落とし、次に電極をぶっきらぼうに抜いていくと血
!
455
?
﹁若いおなごに触れる機会がないんじゃよ﹂
﹁地獄でやってろ⋮⋮﹂
グッタリと脱力しきったエヌラスは、ノワールとネプギアの手当が
終わるまでの間、死んだように動かなかった。終わっても動けなかっ
いくらすると思っとるんじゃ。
た。両腕の感覚だけがポッカリと抜け落ちている。
﹁なら治療代払ってもらおうかの
それを茶飲み話で濁そうと言っておるのだから悪い話ではなかろう
よ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮クソが。地獄に落ちろ、夜鷹のジジイ⋮⋮﹂
456
?
episode72 芸術は大爆発
死人のようなエヌラスは腕が動かない為にお茶を飲むネプテュー
ヌ達を眺めるに留まる。その恨めしい視線と、ふくれっ面にアーウィ
ルが﹁オモチャを取り上げられた子供じゃあるまいし我慢せい﹂と一
言。それとこれとは話が別。心底楽しくなさそうに唸るエヌラスが
両腕の魔術回路に魔力を試しに流すと焼けつくような激痛が走った。
死に物狂いで悶える。テーブルに頭を打ち付けて涙目になりながら
どうにか乗り切った。
﹁馬鹿者。繋いだばかりで定着しておらぬ回路に魔力を流せば痛いに
決まっとるだろうが。焦らず治せ。その状態ならば三日も掛からん
だろうよ。黄金の蜂蜜酒であれば、半日足らずだろうがの﹂
﹁じゃあ⋮⋮寄越せよ⋮⋮﹂
﹁すっかり希少品でなぁ、手に入らなんだ。代わりに嬢ちゃんの誰か
貸してくれると言うのなら考えてやらなくも││﹂
カタ⋮⋮カタカタ、カタ。
││不意に、アーウィルの収集品が震えた。動かないはずの腕が拳
を作ろうと動き、その目から放たれる殺意と敵意と戦意に大気が震え
ている。エヌラスの周囲の景色だけが歪んで見えた。
﹁殺すぞ﹂
それこそ純粋な殺意でエヌラスはアーウィルに叩きつける。それ
にやれやれと首を横に振り、テーブルの上に小瓶を幾つか並べた。そ
の中身はいずれも黄金の蜂蜜酒だ。
﹁やれやれ、老いぼれの冗談ひとつ聞き流せんとはな。持っていけ。
二度と来ないならばワシが持っておっても仕方あるまい﹂
譲り受ける数は思ったよりも多い。しかし、その全てが試験官の中
に入れられていた。栄養ドリンクサイズの小瓶で販売されているの
は一般品だ。アーウィルの用意した黄金の蜂蜜酒は高純度の中でも
熟成させた品。他では滅多にお目にかかれない逸品だ。当然ながら
その効力も他に比べれば遥かに高い。一本で家一軒建つほどの価値
があるとアーウィルが言うとネプテューヌ達が目を丸くしていた。
457
﹁どえぇぇぇ
そんな高級品いいの、アーウィルおじいちゃん
﹂
﹁構わん。持っていけ﹂
﹁うん、ありがと
﹂
!?
﹂
?
よ﹂
している。
常人なら今頃別世界の扉を開いて精神的陶酔感と共に身体が変質
﹁大丈夫って聞かれてそこまでハッキリ言う方も珍しいわね﹂
﹁無理⋮⋮﹂
﹁大丈夫ですか、エヌラスさん﹂
るのか、足取りが覚束ない。その体をノワールとネプギアが支えた。
だ身体に打ち込まれた黄金の蜂蜜酒の酩酊感と格闘を繰り広げてい
ネプテューヌ達を自宅兼診療所から追い出した。エヌラスだけはま
しっしっとまるで犬猫を追い払う仕草を見せながらアーウィルを
これ持って早く出て行けい﹂
﹁悪酔いされてわしのコレクションが壊されたら堪らん。分かったら
﹁どうしてですか
﹂
﹁う む。こ れ で ど れ ほ ど の 効 果 が 出 る か じ ゃ が ⋮⋮ こ こ で は 飲 む な
﹁試験用ってこと∼
いじゃろう。同じものじゃがこっちのが効果は薄い﹂
﹁そうじゃな。もし嬢ちゃん達が飲みたいというなら、こっちのでい
すればいい迷惑である。
者の危機感の欠如からくるものだから、後始末をするブシドー達から
服用者が人ではなくなる事案は日常茶飯事だ。その主な原因が服用
それがアサイラムの悩みの種の一つ。こうした魔術的ドラッグの
﹁拙者もそれには手を焼いておる﹂
てな﹂
れないどころか、身体を乗っ取られて化け物になる奴が後を断たなく
は刺激が強すぎる。うっかり向こう側の世界に踏み入って帰ってこ
﹁やめておけ。慣れているそこのバカならともかく、お嬢ちゃん達に
﹁ちょっと、気になりますね﹂
﹁でもこれ、私達が服用したらどうなっちゃうのかしら⋮⋮﹂
!
?
458
!?
﹁⋮⋮む∼⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
﹁ズルいよー、二人共。エヌラスふたりじめなんて﹂
﹁じゃあネプテューヌが背負っていく
﹁⋮⋮そうだ、変身しよう﹂
﹁思い出したように言わないの﹂
﹁変身は⋮⋮やめとけ⋮⋮絶対目立つ⋮⋮﹂
そして、目立つということはそれだけこの街での犯罪に巻き込まれ
る可能性が高まるということでもあるからだ。路地裏から表通りに
抜ければそこで待ち受ける大喧騒と交通事故とガス爆発のイルミ
ネ ー シ ョ ン。今 日 も 概 ね 平 和 で あ る。平 和 な の だ。ノ ワ ー ル は 思 い
込むことにした。
その衝突事故やガス爆発を神懸かりなドライビングテクニックで
避ける一台のクラシックカーが路肩に止まる。その車窓を開けてク
イーンがにこやかに手を振っていた。
やったー、乗る乗る
﹂
ネプテューヌの楽観的なゴーサインにこの後地獄が待ち受けてい
たとは思いもよらない。
助手席にはブシドー。後部座席は向かい合うように席が三つずつ。
ネプテューヌを挟むようにクイーンとネプギア。そして、仰向けに寝
かされたエヌラスを膝枕するようにノワール。プルルートはその〝
腹の上〟に座っている。
﹂
﹂
﹂
﹁⋮⋮なんで俺の腹の上に座ってんだ。重いってぇぇぇぇっぇあああ
ああごめんなさい
﹁お仕置き、されたいのかなぁ∼
﹁してるされてます勘弁して下さい
﹁ほら、無理しないの﹂
毛混じりの髪を優しく梳いた。
汗ばむその額にノワールは手を置いて髪を撫でる。少し跳ねた、くせ
ミシミシと悲鳴をあげる胸骨にエヌラスが絶叫した。じっとりと
!
?
!
459
?
﹁皆さん、よろしければ乗っていきませんか﹂
﹁ホント
!
﹁⋮⋮⋮⋮後でゼッテェ後悔するからな﹂
?
﹁してねぇし⋮⋮無理してねぇし⋮⋮むしろ殺されかけてるし⋮⋮﹂
﹂
﹁泣き言言っちゃうとこうだよぉ∼﹂
﹁ひぎぃぃああああごめんなしあ
﹂
﹁⋮⋮彼はいつもああなのですか
﹁割とそうだよ
﹂
? !?
る。
﹁ふぁっ
なになに何なのさ
﹂
﹁申し訳ありませんが、クイーン。それは無理な相談というもの
﹁バトラー、もう少し静かに運転してください﹂
!?
テューヌ達も顔を出した。
﹂
﹁なにー、また魔導プラントとかの爆発ぅー
﹂
﹁それともなに、どっかで爆破テロ
﹁実は地割れとかですか
?
相当規模がデカイ。
!
だが、ネプテューヌ達の予想はいずれも外れた。
!
味 違 う 合 金 製 ∼ が 本 日 も 元 気 に 街 の 一 区 画 を 破 壊 し て 参 り ま ー す。
龍アマルガム名物、天災ジェノサイダー君二十七号∼今年度の私は一
﹃やぁやぁやぁ、ハァイ皆さん 今日も元気にしてるかなぁ
九
は車の中にいるので外の様子は伺えないが、震動の大きさからすれば
エヌラスから離れるわけにもいかないのでノワールとプルルート
?
﹂
車すると、バトラーとブシドーの二人が車外に出て、何事かとネプ
しかし、地響きにも似た震動はまだ止まなかった。安全な場所で停
めている。
り開かれていた。ブシドーの手がいつの間にか車の外で刀を握りし
る。衝突の直前に眼前のタンクローリーが真っ二つになって道が切
重に回避して、今度こそぶつかると覚悟を決めた直後、一筋の光が走
横転する車や突然飛び出してくるタンクローリーの障害物を紙一
﹁ふむ。拙者も迎撃に参ろう﹂
﹂
突然、車が揺れた。クイーンの胸にネプテューヌが頭を突っ込ませ
﹁はい、大体あんな感じです⋮⋮﹂
?
﹁なんでもいいよぉ∼⋮⋮﹂
?
460
!
!?
﹄
なんか重要施設とかぶっ壊してる気がするけど気のせいだ
﹃何あれェェェェーーーーーーー
﹄
︶が九龍アマルガムを破壊している。
!
﹂
﹁ザッケンナコラー
﹂﹁人の迷惑考えろー
﹂﹁死に腐れー
!
﹂
﹃あァ∼、見える。見えるぞォ。私を褒め称える市民の叫び﹄
というか完全にトリップ状態で向こう側に行ってる気がする。
はさぞかし腕がいいのだろう。天才か、はたまたバカなのか紙一重。
かし、ガラクタの寄せ集めとはいえあれだけの巨体を作り出す技術者
街を破壊するロボットではなく、破壊するのが簡単なロボット。し
﹁あ、破壊ロボってそういう⋮⋮﹂
で破壊は容易です﹂
﹁ですが、素材はそこら辺から拾ってきたガラクタの寄せ集めですの
ちゃった⋮⋮﹂
﹁あ、あ は は ⋮⋮ な ん か も う デ タ ラ メ 過 ぎ て ど う で も よ く な っ て き
﹁研究ラボとやらがあるようだが拙者達も足取りは掴めておらぬ﹂
からともなく﹂
﹁はい。週に一度、多い時は二度。あの破壊ロボは出没します。どこ
﹁え、毎度なの
﹁おぉ、もう今日はそんな日でしたか。すっかり忘れていました﹂
爆発と悲鳴が起きている。
いた。そのせいで足元にある施設やら車やら人やら何やらが潰れて
の天災ジェノサイダー君︵以下略︶はまっすぐ教会に向かって進んで
リルをくっつけたドラム缶。寸胴ボディに無限軌道をくっつけたそ
て回るアレは一体何なのか。全長は高層ビルを優に越え、両腕にはド
層世界と言ってもいいほどに広大な空間に収まっている国を破壊し
地下帝国なので青空は仰ぎ見れないが、アダルトゲイムギョウ界の下
途方もなくデカイロボット︵
!?!?
?
!
熱くて飲めらぃぃ⋮⋮
ハッ
お寝坊さん
!
﹄
!
ではなく、精神的に││いや、超常的に思考がヤバイ人間の言動は破
完全にヤバイ人だった。クスリとかキメてるとかそういうレベル
!
クホワイトドリップアッツアツと同様に超濃いぃ⋮⋮あひぃらめぇ。
﹃ンッン∼。今日の瘴気は実に濃い。私が今朝飲んだコンデンスミル
!
461
?
壊ロボの操作にダイレクトに伝わってドリルが高層ビルを破壊する。
その中に巣食っていた魔導生命体が溢れ出し、逃げ出すなり人々を襲
い始めた。
混沌と破壊と悲鳴と大暗黒にして大黄金にして大混乱。九龍アマ
ルガムに誰も近寄らない理由であった。
462
レッツ、エンジョイ・ジェノサイ
e p i s o d e 7 3 魔 人 闘 舞 │ │ 我 ら は 人 な ら ざ
る人
﹃さぁ∼∼、それでは皆さァん
そーら走れ逃げろ逃げ惑えぇ、路頭に彷徨う僕らの愛犬ロシ
目覚ましテロ、テロな
ああ、なんだかボクはとても眠いんだ⋮⋮おはよう
ナンテの如く
朝刊一部くださいなァー
ございまぁす
﹄
!
ドォ
!
︶
?
撃だった。
?
?
﹁じゃあ今回もそうしろよ﹂
﹂
﹁出来る限り楽したいではありませんか
﹁そーだそーだー
﹂
!
﹂
﹁分かってくれますかネプテューヌさん
楽したいよね
﹁分かるよクイーン
﹂
﹂﹁だよね
!
﹂
!
呻きながら苦しみもがいて、悶え抜いたエヌラスが身体を起き上が
﹁ぬぅぅおぉぉぉあぁぁぁ⋮⋮
﹁しっかりして、エヌラス。大丈夫よ、大丈夫⋮⋮よしよし﹂
よる脳の仮想収縮は副作用のようなものである。
膝から頭を持ち上げようとして、頭痛に襲われた。急激な効能低下に
いいが街の壊滅的打撃は現在進行中である。エヌラスはノワールの
二人はがっしりと手を取り合って抱き合った。意気投合するのは
﹁ですわ
!
!
!
!
﹂
﹁それはもちろん、アサイラムが全力で潰してました﹂
うしてたんだよ﹂
﹁手術直後で両腕の感覚がない俺にどうしろと ていうか今までど
﹁エヌラス、どうにかできませんの
﹂
のだが、それによってもたらされる被害の拡大は並々ならぬ経済的打
壊れるのではないかと時折怪しい挙動を見せながら歩いている︵
けて移動している。その移動速度は亀より遅い。むしろ進行途中で
奇怪な言葉を垂れ流しながらも天災ジェノサイダー君は教会へ向
のねぇん
!
!?
!
463
!
!!
らせた。
﹁クイーン。携帯貸してくれ⋮⋮﹂
﹂
﹂
﹂
﹁そのようなモノ、持ち歩いておりませんわ﹂
﹁ぬぅおおおぉぉい
でかしたネプギア
﹁あ、じゃあ私のNギアでどうですか
﹁それだ
﹁スピカ。俺だ、エヌラスだ﹂
﹃あら、エヌラス様。どうかなさいましたか
?
﹃スピカー、ゲームしよう
暇してるしさー
掃除も終わったし、
!
に穴開けておいたから││﹄
チュドンボガンダダダダダダダ││
スピカが本気で撃ったぁぁぁぁぁ
﹃大変申し訳ありません、今しがた仕事が増えました﹄
﹃びゃあああああ
!!
﹂
﹄
ほ、ほらカルネ。支度しなさい
以上俺を怒らせるつもりか
﹃いえ、そのような⋮⋮
﹄
!
?
﹄
﹃ああほら、いいこいいこ∼⋮⋮で、ではご主人様。すぐに参りますね
!!
!
﹃グスッ⋮⋮だってぇスピカが撃ったぁぁぁ⋮⋮うぇええええん
﹄
したい気分だよ。いいから来いっつってんだよバカヤロウが。これ
﹁泣きたい通り越して死にたい通り越していますぐ帰ってテメェら殺
!!!
!
ご主人様の部屋でお気に入りのエロ本も堪能したし、それとなくゴム
!
﹃そうは言われましても、私共も掃除などで忙しく││﹄
﹁街でいつもの破壊ロボが出た。その駆除にお前達の手を借りたい﹂
ですが﹄
ノイズがひどいよう
﹃お待たせいたしました。ご用件の方をお願い致します﹄
た通りに操作するとすぐに自宅に繋がる。
なさそうに頬を膨らませた。Nギアを取り出して、エヌラスに言われ
褒めるだけに留めておく。それを見て、やはりネプテューヌが面白く
頭をくしゃくしゃに撫でてやりたいところだが、腕が動かないので
!
?
!?
﹃は、ははははいぃ
今すぐに
!
﹄
!!
464
!
﹁三分で来い。それ以上は俺がブチ切れる﹂
!
魔導施術を受けてまだ一時間も経過していない。だがエヌラスは
怒りで頭がどうにかなりそうだった。それを理性で制御して流し込
んだ両腕の感覚は痺れるようだが、戻りつつある。驚異的な回復力に
はブシドーもバトラーも感心していた。
それから、二分足らずでスピカとカルネが飛んでくる。文字通り。
ああ、いやなに。お
息一つ乱さず、身だしなみ一つ崩さずに主人の下に馳せ参じて直立不
動の体勢から一礼。
﹃大変お待たせ致しました、エヌラス様﹄
﹁言われた通り三分以内に来たな、上出来だ﹂
それにホッと一息、安堵した二人だが││
﹁帰ったら首から下はぶっ壊す。覚悟しとけ﹂
次の一言で、一気に顔から血の気が引いた。
﹁そうされたくなけりゃ、どうするか分かるな
前らは俺が手がけた、これ以上ない〝最高傑作〟だ。優秀なのは分
﹂
かってる││だから、これ以上、俺の手を煩わせるようなことは、万
が一にもねぇよなぁ
ているかは分からないが、その頬がひきつっている。こめかみに浮か
オー ト マ タ
ぶ青筋に二人の背中は氷柱でも刺したように冷たく震えていた。
﹄
﹁限界駆動を許可する。せいぜいぶっ壊れるまで役に立て、自動人形﹂
﹃ありがとうございます
外す。
﹁魔導燃焼機関︽ハザード・ランプ︾最大燃焼││
﹂
!
!
ギギギギ││、鈍重な歯車の音を立てて││ガチン
〝噛み合っ
カルネが胸元を開き、スピカがロングスカートを留めていたピンを
の棲息域で順応したものである。
テリトリー
い進化を遂げたものたちもいるが、それは人間が変質したものが彼ら
の群れは翼竜や四足の肉食獣、巨大トカゲが殆どだ。中には見慣れな
き相手を認識する。朽ち捨てられたビルに巣食っていた魔導生命体
て破壊ロボを見上げて、二人は跳ねるようにその場で最善を尽くすべ
エヌラスを見て、ブシドー達を見て、ネプテューヌ達を見て、そし
!
465
?
怒っている。エヌラスは今、完全にキレていた。本人がどう意識し
!
た歯車〟の音と共にカルネの髪留めがはじけ飛んだ。そして、その銀
﹂
の髪が根本から毛先まで紅く染まっていく。その口から熱い吐息が
漏れた。
﹁いィィのちを、燃ォォやせェェェーーーー
と共に舞い散る。
﹂
今日の私は一味違うぞー 死ぬほど怖いぞご主人様ー
﹁そ ぉ ー ら、そ ら そ ら そ ら そ ら そ ら ぁ
ラー
オ ラ オ ラ オ ラ オ ラ オ ラ オ
界ですら越えた超神速の抜刀がカルネの周囲で血風となって火の粉
にその更に、加速していく斬撃は留まるところを知らない。人間の限
上の恐怖に駆られて││カルネが飛び込む。一閃、更に一閃。更に更
の炎だ。ぐっと身を屈めて、群れの只中に臆することなく││それ以
魔導炎熱の属性付与は、物理のみならず超常現象すら灼き尽くす神性
く。限界まで燃焼させた魔導燃焼機関︽ハザード・ランプ︾による超
左手の剣指で朱い太刀をひと無ですると、真っ赤な陽炎が揺らめ
!!!
﹁死ぬまで踊れ、タップダンスの時間だ﹂
た。それが紡ぐのは││。
る。それはすぐに消えて見えなくなってしまったが、確かに存在し
掌で踊るピックにも似た髪留めから、〝はらり〟と一筋の光が垂れ
﹁拘束制御:任意解除││〝無間心臓〟稼動開始﹂
にツインテールの髪留めを外した。
破片が何十と地面に降り注ぐが、知ったこっちゃねぇと言わんばかり
せて、飛びかかる翼竜達を避ける為に壁面を蹴り飛ばす。それだけで
スピカは、ビルの壁に〝張り付いていた〟。片腕を壁面にめり込ま
く。
〟から聞いて絶命した。乾いた破裂音に頭を撃ち抜かれて死んでい
達が殺到しようと││ガチャリ、と鈍重な音が構えられるのを〝頭上
走っていく。刀を担いだメイドが群れに突っ込んで来て、それに翼竜
目 に も 留 ま ら ぬ 斬 撃 を 周 囲 に 奔 ら せ な が ら 自 動 車 を 追 い 越 し て
!
!
あーっはっはっは、やべぇ超涙出てくるぅぅーー
!
スカートの中に隠し持っていた多重次元位相偏差空間へ保管して
いた無限の銃火器。
466
!!
!
キリリリィ││。〝見えない〟はずの鋼糸が張り詰める音。それ
を手繰るのはスピカの両手だ。
まるで流星群がスカートの中から溢れ出すように翼竜達は残らず
肉片となって絶叫しながら死んでいく。
一
ピーピー泣いてんじゃねぇぞ害獣共
﹂
死ね、死んでしまえ、死んで腐って死に絶えろ
﹁オラオラオラァどうしたぁ
がァァァァ
匹残さずブチ殺しにしてやる
スカートの範囲外、背後から接近した翼竜が頭を〝握り潰されて〟
死んだ。クリスヴェクターコンバットカスタムを構えて、今度こそは
全方位に弾幕を張りながらスピカはビルの壁を蹴りながら翼竜達の
肉片を地上にプレゼントしていく。
そして、地上と上空で二人のメイドが暴れ回っていたが、それでも
増え続ける魔導生命体の数は計り知れない。破壊ロボ自体の破壊は、
至極簡単なのだ。だが、その巨体と鈍重な動きによってもたらされる
被害はご覧の有様。これが破壊ロボが破壊ロボたる由縁なのだが老
朽化した建物を無料でぶっ壊してくれるのでそれはそれで一部の解
体業者から嬉しい悲鳴。いや仕事しろよ、職務放棄すんな。そうすれ
ばここまで被害はでかくならないだろうに。
﹂
ブシドーとバトラーの目前にまで魔導生命体は迫っていた。
﹁喝ッ
ます切りにするブシドー。その隣、燕尾服を着た執事は無手だった。
﹂
だが、革手袋を鳴らすほど握りしめた拳が消える。
﹁シッ
ほんの短い動作、牽制程度のジャブ。だがそれは、類人猿のような
魔導生命体の骨格をタコのように砕きながら全身に打ち込まれてい
た。都合、十六発。全てが急所と関節を砕いている。
ブシドーは肩に刀を担ぎあげながら歩み出る。
その隣でバトラーは革手袋の爪先を詰め、ネクタイを緩めていた。
この狂気の混沌とした街の中で、その狂気に正面から正気で挑むは
二人。荒れ狂う瘴気を、狂気の沙汰にも等しく日本刀と拳で斬り裂
467
!
!
!
!!
短く、一息で目前に迫る等身大の恐竜じみた骨格の魔導生命体をな
!
!
き、打ち砕く。
﹁懐かしいものよな、こうしてお主に背を預ける形とは﹂
﹁ええ、そうですね﹂
大魔導師に挑むとき以来だ││この二人で持ってしてもあくびを
しながら片腕一本であしらわれたものだ。
﹂
﹁あの御方に比べればこの程度、困難にも数えられませんね。行きま
すよ、ブシドー﹂
﹁違いない。推して参る
﹁あん
﹂
﹂
﹁⋮⋮ねぇ、エヌラス﹂
が、チラリとネプテューヌを盗み見る。
怒りの源がスピカとカルネの二人であるというのは言うまでもない
談のような怒り方ではなく本気で頭に来ているのが分かった。その
ノワールの背筋が震える。今のエヌラスは、何というかいつもの冗
﹁こわ⋮⋮﹂
の二人の首から下が無くなってる﹂
﹁生き残りが一匹でも俺達の足元に転がり込んできたら、その時はあ
﹁⋮⋮これ、私達必要
した魔導生命体だけだ。
クイーンを含めた女性陣と、エヌラスの足元に転がってくるのは即死
か、ブシドーに斬られるか、バトラーの拳で砕かれていたからである。
なぜなら辿り着く前にスピカに撃ち抜かれるか、カルネに斬られる
かった。
そして、ネプテューヌ達の下に走ってくる魔導生命体は一匹もいな
!
て⋮⋮﹂
﹂
カルネが私に性格似てるからだよね
﹁カルネに似てんだよ﹂
﹁逆じゃないそれ
﹁ぶっ殺すぞ﹂
﹁まさかのブッコロリ宣言
﹂
!
﹁⋮⋮今、俺の両腕が動かないことに死ぬほど感謝しとけネプテュー
!?
!
468
?
﹁そんな睨まないでよ。もしかしてネプテューヌにだけ冷たい理由っ
?
ヌ﹂
﹂
﹂
﹂
﹁え∼っと⋮⋮あんまり聞きたくないけど聞いておくね。腕が動いて
たら、どうしてたの
死んじゃうから
﹁〝螺旋砲塔〟神銃形態と超電磁抜刀術のどっちがいい
﹁どっちもやだよっ
﹂
﹂
﹂
本気でネプテューヌが嫌がって涙目になりながらエヌラスに泣き
ついた。
﹁なんでそんな怒るのさー、私そんなにウザいー
﹂
﹂
ドヤァ
﹁あと基本的にテンション高ぇから付き合うのが大変なんだよ
﹁多分、気づいてませんよエヌラスさん⋮⋮﹂
﹁っていうかさりげなくかわいいって言ってるし⋮⋮﹂
﹁なにそれ超理不尽
﹁テメェがぐぅかわなのがすんげぇムカつくんだよ
!?
﹁メソメソしてたってやりたいことやったもん勝ちだよー
﹂
﹁ぶん殴りてぇぇぇぇ⋮⋮
!
!
ていた酔っぱらいの足元を引っ掛けた。口から吐き出される飲み過
魔導生命体が滑りこんできたが、エヌラスに蹴り飛ばされて逃げ遅れ
ノワールがさりげなく同意している足元に全身の関節を砕かれた
!
ぎた昨夜の消化物と思い出に名も知らぬ酔っぱらいが沈む。
469
!!!
?
?
!!
!
﹁あ、テンション高くて大変っていうのは分かるわ﹂
!!
!
e p i s o d e 7 4 不 倶 戴 天 の 怨 敵 に し て 宿 敵 に
して仇敵
そうこうして騒いでいる間にもスピカとカルネの二人は破壊ロボ
の解体作業に取り掛かっていた。装甲はそれほど厚くないのか、カル
ネの朱い太刀で溶断されると中に詰められている部品がボロボロと
こぼれ落ちていく。スピカの縦横無尽な弾幕に晒されて何箇所も爆
あ、そ ー れ
お代官様そのよ
発していった。それに搭乗している技術者の悲鳴が音響兵器の如く
九龍アマルガムに響き渡っていく。
ヤメテー、ヤァメェテェー
天 誅
!
!
された。
﹃あ、ダメだこれ
デ ィ グ・ ミ ー・ ノ ー・ グ レ イ ブ
壊ロボは頭頂部の大爆発で操作系が停止。その動きが止まった。
﹃鳴神・火雷﹄と携行魔砲﹃我、埋葬にあたわず﹄を同時に受けた破
カートの中からである。
スピカの手には、棺桶。どこから取り出したのかと聞かれればス
た。
き刺され、その内部で燃えている超常燃料物質を直接太刀に纏わせ
突如、カルネは自害する││︽ハザード・ランプ︾に朱い太刀が突
すべきだ。
ればまさしくこの台風を引き起こしている破壊ロボは一刻も早く壊
様は破壊ロボの頭こそが台風の目とでも言いたげに││もしそうな
観としか言い様がない。まさに、混沌の渦中とでも言うべき街の有り
に二人が着地すると、それぞれの得物を構えた。そこからの眺めは壮
重力に引かれて落下していくドリルが足元に落ちる。その頭頂部
﹄
巨大なドリルを振るうが、一対のアームは根本から二人の手で破壊
!
﹃ぎにゃあーーー
﹄
う な ご 無 体 な ー お の れ お の れ 大 岡 越 前
! !?
!
球体関節から煙を吐きながらカルネは大きく息を吸い込み、吐き出
470
!
ぎゃおー﹂
す。その熱い吐息はまるで竜の息吹のように小さく火をまとってい
た。
﹁ねぇねぇスピカ。これ、ドラゴンみたいじゃない
﹁遊んでねぇでとっとと引きずり出すぞ。一発シメる﹂
﹁へいへいほーい﹂
粗暴な口調でスピカが棺桶状の魔砲を担ぎ上げて振り下ろす。衝
撃でグラリと身体が傾き││。
﹃あ﹄
破壊ロボは横転した。街が倒壊していく。魔導生命体が大勢潰れ、
ついでに施設がいくつも潰れていった。その被害は破壊ロボの登場
と進行よりも遥かに多い。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
それを見ていたエヌラスは悟りを開いたような表情で見上げてい
た。
ネプテューヌは﹁おー⋮⋮﹂と何か感心している。
ネプギアは呆然としていた。
ノワールは﹁あー⋮⋮﹂とこの後の事後処理を想像して眉間を押さ
える。
プルルートは足元で絶命している魔導生命体をつついていた。
街に乾いた風が吹いていく。瘴気を纏った、混沌とした風││キ
チッ││蟲の羽音が混じる。
﹁む﹂
ブシドーがふと、手を止めた。魔導生命体達の様子がおかしい。何
かを畏れるような、目に見えぬ恐怖に怯えて、或いは抵抗するように
威嚇の声をあげる。対敵である彼らに背を向けて、皆一様に横転した
破壊ロボを睨んでいた。
〟
バトラーがすん、と鼻を鳴らす。嗅ぎ慣れない臭いに顔をしかめ│
│。
〝まさか││
﹁クイーン、此処は危険です﹂
471
?
脳裏に蘇る恐怖の記憶に、クイーンの側へ移動した。
!?
﹂
﹁ですが、バトラー。まだ調査の方が﹂
﹁それどころではありません
メェェン
﹂
アーッヒャッヒャッヒャ
感動的だネェ
すごいネ、素晴らしいネ
!
﹂
宿敵にして仇敵。不倶戴天の敵の名前を。
﹁クロォォォォォックッ
!
!
た携行魔砲﹃我、埋葬にあたわず﹄が邪悪な臭気を充填していく。
デ ィ グ・ ミ ー・ ノ ー・ グ レ イ ブ
そう言って、クロックサイコが担ぎ上げたのは││スピカが落とし
﹁あァこれ。返すヨ﹂
に懐から取り出した奇怪な銃を取り出すとアッサリと相殺された。
うが、しかし、それを阻むように無数の蟲が威力を削ぎ落とす。そこ
灼熱の魔弾と冷厳の魔弾が絡みあうようにクロックサイコに向か
銃を〝握りしめて〟引き金を引いた。
の灼けるような痛みをねじ伏せて〝動かない〟はずの両腕に二挺拳
エヌラスの身体から迸る怒りが魔術回路を奮起させる。両腕から
然、ゼェェェェンゼン気づいてなかったけどネェェェ
﹂
と言っても君は全然、全っ
﹁やぁやぁやぁ、ハローハロー 元気ぃしてたかナ
〝腕の怪我
からエヌラスは両腕の感覚がないことを忘れて吠える。怨敵にして
不気味に不快に不可解なけたたましく笑う道化師を見た、その瞬間
!
﹁レィディィィィーーースゥ、アーーーン、ジェェェェェントォォル
は声を張り上げた。
破壊ロボの壇上、まるでスポットライトを浴びた役者のようにそれ
物を飼い慣らし、魔蟲を操る狂気の神格者││クロックサイコ。
どの臓腑を詰められているのか予想もつかない。超常の中に生き、魔
骸骨と道化の仮面。身を覆い隠すマント。長身痩躯の中にどれほ
﹁よもや││貴様とは﹂
その白肌に虫が一匹、這っていたがすぐに逃げ出した。
シドーとバトラーが受け止める。
ない、それはスピカとカルネだった。メイド服の裾が擦り切れて、ブ
言うが早いか、破壊ロボから吹き飛ぶ二つの人影。見間違えようも
!
〟は治ったようだねぇ、感心感心だヨ
?
!
!!!
472
!
!
﹂
﹁エエーット、なんだっケ
たネ
﹂
あぁそうだそうダ。妹さんの棺桶だっ
﹂
中身はカラッポだったけどネェェェーー
﹁││││テェメェェェェェッ
﹁我、埋葬にあたわず
!!
?
﹂
テメェだけは、絶対に赦さねぇ
テューヌ達が防御しようとして、エヌラスは飛び出した。
﹁あ、ちょっと
﹁テメェだけは許さねぇ
﹂
!
﹂
役者はキミ
今殺してやる、今すぐにでも殺してや
ステージ
来てもいいヨォ 舞台は、ココ
﹂
熱心だネ
ダ・ケ・ド││﹂
そこまでしちゃう、そこまで
感心だヨ
﹁アァーッヒャッヒャッヒャッヒャ
ヤっちゃう
!
!
る
﹁アアいいとも
!
!
これから始まる復讐劇 喜劇と悲劇を彩る激情と感情
﹁変・ 神 ッ ﹂
トランジション
素晴らしいネェ
とボク
!
﹁そこ動くんじゃねぇぞぉ
に身体を竦めた。その爆風に煽られて、ノワールが思わず目を覆う。
り返す。クロックサイコもそれは予想だにしていなかったのか、驚愕
の爆発。痺れるような指先の感覚を握りしめた防御障壁で魔砲を殴
それは、純粋な怒りだった。大切な物を奪われた一人の男の、感情
﹁ヒャ
﹂
ス ピ カ が 放 っ た 時 と は ま た 毛 色 の 違 う 魔 砲 が 放 た れ る。ネ プ
!
!
!
撃は何一つクロックサイコには届かなかった。掠りもせず、ただの一
撃すら触れることが出来ずに終わる。刀と一体化した多機能型の奇
怪な銃を巧みに取り回して、フェイントからの蹴りがエヌラスの頬骨
を打った。
駄目だヨ、駄目だネ、駄目駄目だネ
﹂
﹁無駄、なんだよネェ。今のキミじゃ弱すぎてま・る・で、お話になら
ないネ
!
みにするが今度は蹴り飛ばされる。
で、尚も進もうとする身体を貫いた。それでも止まらず、仮面を鷲掴
刀が跳ね上がり、銃口の下からエヌラスを切り裂く。たたらを踏ん
!
473
!!!
!
!?
!
!?
!
!
偃月刀の一撃も、二挺拳銃も、光速の飛び蹴りも││エヌラスの攻
!
!
!?
!
!
﹁ああ、そウそウ☆﹂
思い出したように指を立てて、それが手首ごとふっ飛ばされた。エ
ヌラスの右手には真紅の自動式拳銃が握られている。だが、羽虫の耳
障りな音と節足をわななかせてムカデが集まるとすぐに元通りに手
が形成された。二度、三度その感触を確かめると││再現シーンのよ
うにもう一度指を立てる。
﹁ああ、そうそう☆ ボクに構うのはいいけど││誰が彼女達を守る
んダァイ﹂
﹁││││﹂
ネプテューヌ達を見やって、そこでエヌラスは背筋が凍った。ブシ
﹂
ドーとバトラーが魔導生命体の生き残りを駆逐している。クイーン
も側にいる。
﹁テメェ││
﹁キミはそうだよネェ、そうしちゃうだろうネ。こうしちゃうだろう
ネ。自分以外の誰かがボクの手に掛かって殺されちゃうのがイヤで
敵 わ な
嫌 で 堪 ら な い だ ろ う ネ。だ か ら こ う し ち ゃ う ん だ ろ う
だってキミの本質は〝憎悪〟と〝怒り〟なんだ
そうだ
いって分かってても、どうしても魂の衝動は抑え込めない
﹂
!
に火花が散る。
﹁ブ チ 殺 し た く て 堪 ら な い だ ろ ウ
﹂
そこでヒントをあげようと思ってネ
!
!?
て、キミはワタシをそうしたくて堪らないってのは知ってるヨ
とし物は〝あと何個〟かナ
﹂
!
コは鼻先に指を当てた。
が優っている。それを面白くなさそうに鼻を鳴らして、クロックサイ
刀が抉るように傷口を広げた。だが、今はその痛みよりも怒りの方
﹁傷口に塩を塗りこまれるよりはイイダロ∼
﹁くたばれ﹂
落
殺 し て 殺 し て 殺 し 尽 く し た く
仮面が眼前に迫った。視界を覆い、鼻先が触れるほどに近い二人の間
クロックサイコの刀が起き上がろうとするエヌラスの肩口を貫き、
からサァッ
ろう、エヌラスっ
?
!
474
!
!
?
!
教えよう
アヅール
!
だからそこ
教えてあげるとも、サ
﹁ボクが拾ったキミの能力。洞窟に置いてきちゃった☆ それがどこ
か知りたいかい
﹂
でも道中は危険が一杯で大変だろうネ
でキミに試練を与えよう
洞窟だヨ
!
でボクが逃げる側
それとも鬼ごっこ もちろんキミが鬼
?
﹁アイツは逃げねぇ﹂
﹂
﹁そーっだったそうだっタ。それは盲点
﹂
今のキミを見たら鬼でも逃げ出すだろうネ
?
鋼の鬼神でも例外じゃないヨ
!
らキミは死に物狂いで探しに来て欲しいんだ﹂
﹁││││﹂
ん、彼女達の誰を酷い目に遭わせたいかナ
?
ハハハハハ
﹂
﹁テメ、待ちやがれぇ
﹂
﹁ごはァ││ッ
﹂
﹂
その方が盛り上がるだろう、ギャーハ
!
﹁待ーたないっ。じゃあ十秒数えてから追いかけてきてねぇ∼
!
なって消え去る姿に手を伸ばす、が││届かない。
エヌラスは破壊ロボの装甲にめり込んだ。その目の前で無数の蟲と
起き上がろうとする身体を細身とは思えない脚力で踏みつけると
!
﹁決ーめた。彼女にしよう
ロックサイコがエヌラスに視線を戻す。
中で一人だけ、変身しないまま立ち向かう少女がいた。手を叩き、ク
ブシドー達の不利を悟ったのかネプテューヌ達が変身する││その
ジロリと仮面の視線がネプテューヌ達に向けられて││さすがに
﹁誰がイイ
﹂
﹁││で、話を戻すとね。つまり彼女達の誰かをボクが連れ去らうか
で理不尽に立ちはだかる。
然としていた。稀代の怪物にして狂気の魔人は冗談のように不死性
何事もないように胴を流れた蟲が無数に地面に散らばるだけで平
!
!
!
﹁かくれんぼがいいかい
クサイコの胴体が横薙ぎに真っ二つにされる。だが、
い傷を即座に魔力で塞ぐなりエヌラスは偃月刀を振るった。クロッ
大仰に手を広げると、エヌラスの肩から血が吹き出る。その真新し
!
?
!
475
!
!
?
!
﹂
476
﹁待、ち⋮⋮やがれェ││クロォォォォックッ
絶叫だけが空しく響く。
!!
episode75 血風戦禍
ネプテューヌ達の前に、それは突然現れた。魔導生命体が群がり、
食いつかれ、噛み付かれ、牙を立てられて、爪で裂かれても平然と一
礼する。あまりに異常で異様な光景に一瞬、現実感を打ちのめされ
た。
﹁邪魔﹂
そして、魔導生命体が一蹴される。苦悶の声を上げてのたうつその
肌に無数の蟲が這い回っていた。その顎が肉を裂き、身体の中から食
い漁っている激痛に魔導生命体は為す術もない。羽虫でも払うかの
ようにマントを二度三度叩いて、ノワール=ブラックハートの剣が仮
﹂
面を直撃した。
﹁ッ
﹂
﹁⋮⋮ッタイなぁ。今はキミに用はないんだヨ﹂
﹁ノワール、下がって
﹂
今度はネプギアの真後ろに現れた。
﹂
﹁ネプギア││
﹁え⋮⋮
﹁いや、やめて││お姉ちゃん
﹂
﹂
に剣を振るう。身体があっさりと切り落とされて、無数の蟲になると
ネプテューヌ=パープルハートに言われて下がり、入れ替わるよう
!
﹁ちょぉ∼∼∼っとだけ。彼女の身柄を預かるヨ
!?
ネプテューヌ=パープルハートが顔を覆う。
イクがクロックサイコの立っていた箇所を穿つが、既に姿はない。
された魔術回路は半強制的に覚醒させられていた。アクセル・ストラ
爆炎を背負ったエヌラスが歩く。その腕の怪我は既に完治し、施術
最後にそう言い残して││破壊ロボが爆発した。
﹁十秒だ││﹂
数の蟲となって消え去る。
マントで視界を塞がれて、そのままネプギアとクロックサイコは無
!
!
?
477
!?
ネプギアの匂いは覚えてるな﹂
﹁ネプギアが⋮⋮そん、な││﹂
﹁〝ティンダロス〟
︾
﹁││⋮⋮﹂
突っ込む気か﹂
﹁テ メ ェ ら に 何 が 出 来 る。街 が こ の 有 様 で、神 格 者 同 士 の 戦 闘 に 首
﹁ですが、なりませぬ。クロックサイコは我らアサイラムに││﹂
る﹂
﹁今こうしてお前が邪魔している一秒でネプギアが危険に晒されてい
まらせた。
い顔で口元を覆う。真正面から受け止めるブシドーですら言葉を詰
かつてないほどの殺意が溢れる。それに当てられたクイーンが青
﹁なりません﹂
﹁退け﹂
構えていた。
立ち塞がるのは⋮⋮ブシドー。そして、その背後ではバトラーが拳を
イリスハートに一瞥もくれず復讐心に駆られていたエヌラスの前に
と、それを慰めるノワール=ブラックハート。そしてプルルート=ア
ろう。だが、しかし。今、泣き崩れるネプテューヌ=パープルハート
ティンダロスならばネプギアを見つけるのに十分も掛からないだ
﹁││なりませぬ﹂
﹁追うぞ﹂
い。
た、ではない。〝今度こそ〟だ。もう二度と、アレの好きにはさせな
││〝またか〟と。そんな胸中の言葉を振り払う。いや、違う。ま
は天を仰ぎ見る││そこには空を覆う暗黒の屋根があるばかり。
そして、靴底と地面の隙間に身体を滑り込ませて消えた。エヌラス
︽YES︳
﹁行け。死んでも喰らいつけ﹂
主人の命に一声で答える。
顕現するは〝猟犬〟ティンダロスへ変形したハンティングホラー。
!
左右の街灯が両断される。ブシドーから放たれる闘気はエヌラス
478
!
││エヌ
の殺意に負けず劣らずのキレを見せていた。背後からはバトラーの
威圧に挟まれて緊張感が高まる。
﹂
﹁然らば、我ら二人の屍を踏み越えて行け││エヌラス﹂
﹁本気か
﹁貴様の覚悟次第だ﹂
そこで、不意に。笑い声が漏れた。笑っていた。誰が
ラスだ。
唐突に、それは突然のことだった。まるで最高の冗談でも聞いたよ
そうか、そう
うな笑いだった。だが、それが異様に恐ろしかった││中身の無い、
いや、感情を一回りした笑い。
﹁ハッ││ハハッ││ハッハッハ、ハハハハハハハッ
か、フフッ、お前ら││あぁ、ッハハハハ﹂
﹁血││
﹂
﹁なに、これ⋮⋮
﹂
た。鉄臭さに顔をしかめ、ズルリと嫌な音を聞いて眉を寄せる。
変神を解いて、むせ返るような死臭にネプテューヌ達が鼻を覆っ
!
﹃投げやがった
﹄
察して構築する。お前の場合は││まぁ自分で考えろ﹄
らの起源、根源。魔術の源泉となるモノを第三の視点から客観的に観
﹃いいか。魔導師というのは己の本質を見抜いてからスタートだ。自
教えを問う。
戦禍の破壊神は大魔導師に教えを乞い、大魔導師は戦禍の破壊神に
導師と呼ばれた男がいた。一人は弟子で、一人は師匠だった。
││かつて、戦禍の破壊神と呼ばれていた男がいた。かつて、大魔
?
﹁││エヌラス﹂
﹁血とは我が魔術﹂
れが﹃ブラッドソウル﹄たる名の由来。
エヌラスが自分を自分たらしめているモノは〝血液〟だった。そ
けた。
考えぬき、起源、根源、源泉となるモノを常に探求し続けて││見つ
そこで自分が何者なのか考えた。自分が何なのか、四六時中悩み、
!
479
?
?
?
﹁血とは我が根源﹂
﹁⋮⋮そうまでして、貴方は
﹁血とは我が起源﹂
﹂
どうして
﹂
ア ダ ル ト ゲ イ ム
自分の失敗に巻き込んだから
自
?
ギョウ界の住人ではないから
?
どれも自分を納得させるのには今一つな理由だ。ならば何故
分は何故
?
?
り た い。⋮⋮ 何 故 戦 争 に 巻 き 込 ま れ た か ら
誰も愛せない。誰からも愛されない。しかし、ネプテューヌ達は守
〝俺は⋮⋮││〟
初めて見る。
段。それはアルシュベイトがやったように。ブシドーもその構えは
倭刀を構える。両手で握って、大上段に││天を突くような大上
ると決めた命が危機にさらされるのなら、そんなものはいらない。
二度と使わないと、そう決めていた。だがそれで守れない命が、守
には倭刀が握られている。
血風が街風を凪いだ。赤い霧が周囲を覆う。そして、エヌラスの手
命が、守りたい命があった。
破壊を繰り返してきた男は過ちを繰り返す││それでも、救うべき
を憎み、憤っていた頃の服。
それは、真紅の衣装。かつて自身がイメージした原初の創造。全て
﹁変身││﹂
アクセス
⋮⋮
﹁そうまでして、かつての過ちを掘り返してまで殺したいというのか
!
?
?
││嗚呼、こんなにも簡単な事だったのだ。
エヌラスの頬が歪む。ブシドーが刀を振るう。
こんな単純なこと、どうして気付かなかったのだろう。
平和な世界に生きる人間の、底抜けた明るさに、目を奪われたのだ。
それが何よりも眩しかった。汚れを知らない無邪気な笑顔だった。
〝嗚呼、そうか〟
だ。
自問自答を繰り返し、そして││彼女達の笑う顔が脳裏に浮かん
?
480
!
神速の抜刀と棒立ちの打ち下ろし。そのどちらもが超常の手を借
りた剣戟。しかしながら、一方的に得物を断たれのはブシドーのみで
あった。絶句して刀身を根元から断たれた日本刀を握りしめて膝を
つく。
チラと背後を見やれば、バトラーは闘気を抑えて構えを解いた。
﹁生憎と、私はそこまで命知らずではありませんので﹂
﹁⋮⋮通るぞ﹂
これ以上時間を無駄にしている暇はない。エヌラスの足がまだ見
ぬネプギアの下へ行こうとして、その服が掴まれた。崩折れていたネ
プテューヌ=パープルハートが立ち上がる。
﹁待って、エヌラス。私も行くわ﹂
﹁どうして﹂
﹁ネプギアは、私の妹だからよ。姉として放っておける訳ないでしょ﹂
﹁俺はお前に人殺しをさせるつもりは毛頭ない﹂
愛したい。守りたいとさえ願ってしまった。そう、想ってしまうほど
││心を奪われている。
懐かしい感情だ。妹の為に世界を滅ぼしてきた時を思い出す。願
﹂
わくは、彼女達の戻る世界に永劫久遠の平穏が訪れるように││その
為にはまず、己の尻拭いからだ。
﹁││待たれよ、ブラッドハート
﹁くどい﹂
﹁拙者も同行する﹂
481
手を払って、エヌラスは歩き去ろうとするがそれでもネプテューヌ
﹂
=パープルハートはしがみついた。それを鬱陶しそうに舌打ちする
と、立ち止まる。
﹂
﹁人を殺して、返り血を浴びた手で妹を抱きしめたいと思うか
﹁っ⋮⋮││﹂
﹁そうまでして守りたいと思うか
﹁⋮⋮ええ﹂
?
血に濡れて、血を浴びて、屍山血河を築いてでもこの手に余るほど
﹁なら好きにしろ。俺が殺す。お前が助ける。それだけだ﹂
?
!
﹁だったら早くしろ、浪人﹂
ブラッドフリーク
ブラッドハート││かつて九龍アマルガムを恐怖に陥れたモノの
名。そ れ は 通 称 〝 血の怪異 〟 事 件 と し て 知 ら れ て い る。フ ラ フ ラ と
﹂
立ち上がるブシドーが懐から鞘を捨てた。
﹁無手で役に立つのか
﹁無論﹂
﹁なら来い﹂
短く告げて、エヌラス=ブラッドハートは目前で破壊ロボの下から
リビングデッド
這い出してくる魔導生命体の群れと不法投棄され、野ざらしにされた
屍 体 が 霊 的 物 質 に よ っ て 再 起 さ せ ら れ た 生きた屍 の 前 に 歩 み 出 る。
オー ト マ タ
その背後にネプテューヌ=パープルハートとブシドーが続いた。
﹁バ ト ラ ー。ノ ワ ー ル 達 を 頼 む。寝 て ん じ ゃ ね ぇ 起 き ろ 自動人形。
アゾート
とっとと掃除に戻れ﹂
水銀の涙と血を流しながらスピカとカルネが立ち上がる。一礼す
ると、即座に跳び去っていった。そこに感情は欠片もない。
﹁血風を纏う││穿て﹂
霧がゆらめき動く。屍者の群れと魔導生命たちの身体に無数の穴
が空いた。鮮血が噴き出し、街はいよいよ持って混沌を極めていく。
その只中を行く二人の男と一人の女神は目の前に現れることごとく
の障害を蹴散らした。三人の誰も手を動かさず、まるで素通りしてい
く。
エヌラス=ブラッドハートの纏う血風が、血刃が、刃金がその障害
を鏖殺していたからだ。
482
?
episode76 Ia Ia Zs│awia
﹁⋮⋮ぅ⋮⋮んん⋮⋮﹂
気を失い、倒れていたネプギアが目を覚ます。何か、自分の身にと
ても恐ろしい事が起きたような気がして││道化師の仮面を思い出
した。背筋が凍るような恐怖だった。周囲を見渡して、そこがどこか
退廃した部屋であることを把握すると、どうやら自分は拉致されたら
しい。薄暗くて中の様子はよく分からないが、ひどく冷えた空気に身
体を抱いて壁際に寄せた。
壁にある落書きの紋様はデタラメで、一目見ればよからぬ輩が描い
たものだと分かるが⋮⋮ネプギアは眉を寄せた。何度も書き直して
書き加えて書き続けて、それが何度も重ね書きされて埋め尽くすよう
な取り留めのない絵画になっている。それを解読しようと太ももか
らNギアを取り出し、画面の﹃通信不可﹄という表示に落胆した。だ
う。此処は何だろう。
483
が画面の明かりで壁を照らすと││
タスケテ
﹁││││﹂
シニタクナイ。タスケテ。ヤメテ。
懇願。悲願。赤い文字。赤黒い文字は擦り切れている。
これは、なんだろう││何を意味している文字なのだろう。文字、
なのだろうか。そもそもなんでこんなにラクガキがたくさんあるの
だろう。
﹁⋮⋮え﹂
わけもなく手が震えた。これは、駄目だ││見てはいけないモノだ
││Nギアを戻そうとして、手から抜け落ちた。歯の根が合わず、風
ピンクと
邪を引いているわけでもないのに背筋が寒い。拾い上げようとした
Nギアで照らされた床が、蠢いていた。肉色の、肉⋮⋮
﹂
赤と綺麗な色をして時折脈打っている。
﹁ヒッ││││││
?
喉の奥からこみ上げる嘔吐感を手で抑えこむ。此処は、何処だろ
!?
一体自分は、何処に連れて来られたのだろう。ネプギアは胸を押さ
﹂
えて呼吸を整える。涙と嗚咽を漏らし、必死に恐怖を拭う。
﹁お姉ちゃん⋮⋮
姉の凛々しい姿を思い出す。女神化して敵を倒す姿、手を差し伸べ
る姿。何度も世界の危機を救い、困難に立ち向かってきた姿││それ
に少しだけ勇気をもらって、ネプギアは涙を拭うとNギアを拾って改
めて足元を照らす。生唾を飲み込み、その脈動する肉の床に触れた。
粘液が手について不快感しか残らない。
﹁うえぇぇ⋮⋮触らなきゃよかったなぁ⋮⋮﹂
壁に塗りつけて汚れを落とす。
部屋を照らすと、真っ赤な汚ればかりが目立つ。一度深呼吸をして
から歩き出した。寂れた室内はドアが壊れており、そのまま廊下に出
ると奥まで暗闇と沈黙が続いている。まるで肝試しに来たような気
分だ。事態はそれ以上に深刻だが、そう楽観的に捉えなければ心が悲
鳴に耐えられそうにない。
濃密な魔力の気配と瘴気で気分が悪くなってきたネプギアが袖で
口元を覆う。時折足元の不快な感触に眉を寄せて顔をしかめながら
も、足元を照らして一歩一歩廊下を進んでいた。ふと、そこで階段を
見つける。上に行くか、それとも下か。今自分がいる場所が何階なの
かもわからない。階層を示す表記も見当たらない。だが、その静寂の
中で風が吹いた││隙間風なのかもしれない。亀裂の入った壁の中
でネズミが走り回っている。割れた窓から外の様子を伺っても暗闇
ばかりが広がっていた。
風に乗って聞こえてきたのは、賛美歌。荘厳な音楽に混じり、人の
声が聞こえてきた。まるで儀式のように、祝うように、呪いのように
奏でられる歌。ネプギアはそれに導かれるように階段を降りていく。
〝⋮⋮あれ〟
ネプギアの足がふと、止まった。
クロックサイコに連れて来られた場所、だと思う。それなのになぜ
﹁狂気の魔人が連れてきた場所﹂の﹁人がいる方向﹂へ向かっているの
だろうか││不思議なことに、足は再び歩き出す。
484
!
行ってはいけない。そんな本能からの警告。
ネプギアはそれに従う事ができなかった││そして、目にしてし
まった。
邪神を崇拝する儀式の大広間。
荘厳な協奏曲を狂ったように奏でる伴奏者は、人ではなかった。い
や、かつては人であったのだろうか。それとも人ではなくなってし
まったのだろう。それは〝頭蓋を開けられて〟〝脳をさらけ出しな
がら〟パイプオルガンを奏でている。狂ったように身体を揺らして
リズムを執りながら、デタラメに指揮棒を振るう指揮者もまた、人で
はなく、魔物だった。全身を黒い炎に焼かれながら、苦しみ悶えて苦
痛と共に歓喜の声を上げて。
﹁アァァァァ、イ⋮⋮アァァァァ、ィ﹂
呻きながらタクトを振り、デタラメな軌道で魔法陣を描く。それに
よって生まれる瘴気と魔力の流れに世界が歪み、侵されていく。その
壇上から下に目線を向ければ無数の信徒が肉欲に身を任せて互いに
犯し、貪るように奇妙な香の煙が漂う中で食らいあっていた。淫靡な
水音を響かせながら女が大勢の男に囲まれ、その全身を白く染め上げ
ていく。
ただ、ただただ呆然とその光景に目を奪われ、魂を奪われ、しばし
立ち竦み、その中の一人。全裸の男性と目が合ってしまった。
逃げなければと本能的に身体が動き、その背中が壁にぶつかる。
﹁やぁ☆﹂
﹁││││ぁ⋮⋮﹂
﹁うんうん、一人は寂しいネ。じゃー、カウントダウンを始めよっか﹂
言葉を失う。喉の奥からひゅうひゅうと吐息が漏れた。狂気の魔
人を前にして、ネプギアは自身が女神候補生であるということを完全
に忘れる。一人の少女が今、邪神崇拝の儀式の贄のひとりとして捕ら
えられそうになるその瞬間に││〝猟犬〟ティンダロスは異常な角
度から信徒の腕を噛みちぎった。男が絶叫し、激痛に身を転がすとネ
プギアに視線が集中する。だが、今はそれを阻むように鋼鉄の魔獣が
立ちはだかり、唸り声を上げた。腰を抜かした少女の肩に手を置いて
485
クロックサイコは優しく告げる。
﹁││彼には〝正しく怒って〟もらわないと困るんだヨ﹂
﹁⋮⋮それって、どういう﹂
﹁彼には〝正しい憎しみ〟を抱いて貰わなきゃ、ネ﹂
﹁どうして⋮⋮﹂
そういう弱いコが彼は大の大好きだから、死に物狂いで助け
﹁だから、キミが適任だったのサ。まだ彼に抱いてもらってないんだ
ろう
に来てくれる﹂
何故か、その時だけは狂気の魔人の言葉に嘘偽りがないものだと信
じ る こ と が 出 来 た。ど う し て か 分 か ら な い。だ が、そ の 時 だ け は ク
ロックサイコは狂ってなどいなかった。壊れた懐中時計を見て、大げ
さに驚いてみせる。
いあ⋮⋮いあ⋮⋮ふたぐん。
ずあ、うぃあ⋮⋮。
ふんぐるい⋮⋮むぐる⋮⋮うなふ⋮⋮。
いあ⋮⋮ずあ、うぃあ⋮⋮。
﹁いあ、ずあうぃあ⋮⋮﹂
信徒たちが虚ろな目で、魂の抜けた動きでゆらゆらと身体を揺らし
﹂と間の抜
ながらゆっくりと歩み寄る。既にネプギアに逃げ場はない。だが│
│。
突如として崩壊した天井にクロックサイコが﹁ヒャー
ドン・キホーテ
人もの信徒の身体が膨れ上がり、爆ぜた。肉片と鮮血を撒き散らしな
指を鳴らすと、それだけでエヌラス=ブラッドハートを取り巻く何
パキィン││。
﹁役者が途中退場はねぇだろ、 道 化 師﹂
る。
上げた刀で一閃すると五人ほどまとめて胴体に別れを告げて即死す
シドーの三人が落下して着地した。その際にブシドーは道中で拾い
真紅のブラッドハート、ネプテューヌ=パープルハート、そしてブ
となっていく。
けた驚きの声を上げた。破片に潰されて何人もの信徒達が床の染み
!?
486
?
がら死んでいき、その血で頬を汚しながら拭おうともせずにクロック
サイコに向かって歩む。まるで羽虫でも払うように、虫けらを踏み潰
すように鬱陶しそうにするだけで大勢が血だまりの中へ沈んでいっ
た。その血が更にエヌラス=ブラッドハートによって操られてより
トランジション
強固に、より強靭な術式を編み上げていく。
﹁変 神には、二つ種類があってネぇ。一つはアルシュベイトやドラ
グレイスがするような通常の神格化なんだけど││もう一つ﹂
赤い結晶。神聖なはずのクリスタルは禍々しく歪められて鈍く紅
く輝いていた。その十字架状の結晶にはネプテューヌもネプギアも
見覚えがある。
﹁人々の希望が、信仰が、正しくシェアエネルギーを生み出すなら││
ボク達のコレは、人々の絶望と破滅を望むアンチエナジーとでも言え
﹂
そうさそうだよ、そうだよネ
﹂
ボクを殺せりゃ、それでい
ばいいのカナ☆ ⋮⋮おおっと、まぁキミにはどちらでもイイコトだ
よネ
いもんネェ
﹂
﹁ネプギアは返してもらうわよ、クロックサイコ
﹁イイヨー﹂
﹁⋮⋮なんですって
人々の信仰心で変身するシェアクリスタルと正反対の性質を持つ
アンチクリスタル││それを用いた変神は、まさに邪神と呼ぶに相応
しい。その残虐性、残忍性、悪のカリスマ性。一切合切に躊躇なく刃
を突き立てる様は、邪神を崇拝する信徒達には救いの神と映り、彼ら
は一様に跪いて殺されていった。
﹁国王、この者達は邪教徒││それも秘密結社の大本たる﹃緑龍会﹄の﹂
﹁知ってる﹂
それは、虐殺だった。抹殺だった。ネプテューヌの目の前でティン
ダロスが信徒の喉笛を食い破る。酸鼻を極める虐殺の光景に胸が不
今 日 こ こ に い る 信 者 共 は
快感で一杯になった。そんな只中であって、エヌラス=ブラッドハー
トは笑っていたのだ。
﹁誰 一 人 生 か し て 帰 す つ も り は ね ぇ よ
?
487
!
﹁と、いうよりも││これは予想外でネ。さて、どうしよ﹂
?
!
!
!
な﹂
﹁⋮⋮エヌ、ラスさん⋮⋮
﹂
﹁ああ、心配すんなネプギア││今、殺してやる。ここにいる、全員﹂
クロックサイコを指さし、
﹁そいつを含めてな﹂
そう断言した。
﹁⋮⋮真逆、まさかだよネ。邪神となってまで殺しに来るとは思わな
かったヨ﹂
﹁││エヌラス、貴方⋮⋮そんな力を使って大丈夫なの﹂
ダ ガー
ネプテューヌ=パープルハートの懸念をよそにエヌラス=ブラッ
ドハートの両手に二振りの小刃が握られる。
﹁でも、そのお陰で今回は間に合っ││﹂
クロックサイコが言葉を終えるより先に、その首が薙がれていた。
当然だよネ それは本来〝あっちゃなら
宙に舞う仮面、頭部に十字に組み上げられたダガーが突き刺さり、壁
に縫い付ける。
﹃大丈夫じゃないヨ∼
﹄
!
背後で無数の蟲となってクロックサイコの身体が崩れ落ちた。それ
をネプテューヌ=パープルハートは剣で振り払うと妹を抱きしめて
即座に離脱する。
﹁ティンダロス﹂
︽YES︳︾
﹁〝吼えろ〟﹂
無 貌 な る 猟 犬 の 口 が、耳 元 ま で 裂 け た。そ の 口 を 大 き く 開 け て、
キャッスル・オブ・ハウリング
ティンダロスが吼える。
﹁〝城塞の咆哮〟││﹂
耳鳴りにも似た空気の震動は激しい嘔吐感と平衡感覚を喪失させ
た。だが、それだけではなくそのティンダロスの進路上にいた信徒達
の身体が突如として膨れ上がり、やがて││ぱん││破裂する。平然
と大量殺戮を繰り広げ、エヌラス=ブラッドハートの視線がそこにい
488
?
どこからともなく拡声器を通したような声が響き渡り、ネプギアの
ない力〟なんだかラ
!
!
ない気配を辿っていた。やがて、呆れたため息を吐き出すと血のよう
に赤い魔法陣を描き出す。
〝ダメ⋮⋮〟
〟
冷水を浴びせかけられたようにネプギアは全身が冷たくなってい
くのを感じていた。
〝ダメです、エヌラスさん││
クロックサイコは言っていた。﹁正しく怒って﹂もらわないと困る、
と。それが何を思っているのかは狂人の戯言かも知れない。それで
も、何か、今はそれがとても危険なのだと全身が危険信号を発してい
た。
信徒達が呪詛のように呻きながら転がっていく。いあ。いあ。
﹂
エヌラスの血刃が。ブシドーの閃刃が信徒達を血に伏せていった。
ずあ、うぃあ。
﹂
﹁ああ、もう面倒くせぇ。まとめて潰してやる││﹂
﹁ネプギア。大丈夫
﹂
自分を此処に連れてきたのだろう。秘密結社﹃緑竜会﹄の根城に。彼
らは何を崇拝していただろう。邪神だ。そして今││エヌラスの振
るっている力は⋮⋮
﹁││ネプギア
﹂
﹁エヌラスさん、ダメェェェ
﹂
左胸の〝銀鍵守護器官〟が魔力を帯びて││。
!
!
﹁っ⋮⋮何しやがる
﹂
﹁ご、ごめんなさい││でも
!
!
地面が、胎動する。心臓の鼓動に似た震動に、エヌラス=ブラッド
どくん。
﹂
す。それに面食らって編んでいた術式が解除された。
駆け出したネプギアの身体がエヌラス=ブラッドハートを突き飛ば
その詠唱が、半ば強制的に止められた。青ざめて、それでも懸命に
!?
489
!
﹁⋮⋮お姉、ちゃん。止めて。エヌラスさんを、止めて
﹁えっ
!
?
なにか、とてつもなく嫌な予感がする。クロックサイコはどうして
?
惜しいネ まぁどちらでも良かったんだけどネ
ハートが眉を寄せた。
﹃ああ惜しい
!
ル
ハ
ザー
ド
聞いていたはずだよねぇ
﹄
キミには試練を与えようってサ
聞いてたよね
言ったろう、エヌラス
聞いてたかな
ヘ
おぉっと、とは言っても君はネプギアちゃんを助けるの
﹄
に頭が一杯で邪神の儀式なんてドーデモイイことだったねぇ
所﹄だよ
﹃此処が何処だか、忘れたかナ ││〝邪神災害〟の﹃神意なき場
!
サ
彼らが望んでいたのは破滅だったし、ボクァどうでもよかったから
!
赤黒いコールタールにも似た液体が、溢れ出す。
?
!
?
!
!
!
ギャーハハハハハハハ
490
!
?
!
!!
episode77 無貌の大魔導師
││かつて、大魔導師ですら手間取り、封神するに留まった怪物が
いた。それはまさしく、絶望より生まれた混沌と絶望であった。その
地では人々の信仰心は生まれず、心を病んでいく。国の守護者たる神
格者ですら近寄ろうとはしない場所。
神 意 な き 場 所。彼 の 地 に 眠 る 邪 神 ズ ア ウ ィ ア が 眠 り か ら 覚 め る。
そこに大魔導師はいない。求めるものはただひとつ。世界の破滅と
滅亡。
ソレは、一つの形態を取った。赤黒いコールタールが蠢き、脈打ち、
徐々に形を成していく。のっぺらぼうの人間││だが、そのフォルム
は││服飾は││、エヌラス=ブラッドハートが師と仰いだその人
だった。
491
邪神〝大魔導師〟は手をかざす。そこから放たれる衝撃波だけで
大勢の信徒が吹き飛ばされ、トマトのように壁で潰れていった。
﹁││師匠﹂
エヌラス=ブラッドハートに呼ばれて、無貌の大魔導師が笑う。邪
神が最も恐れ、最も憎み、最も恨んだ怨敵の姿を取ったのは、数奇な
運命か。その一番弟子であるエヌラスの前に現れた。敵として。
大魔導師は、邪神ズアウィアは、髪をかき上げてあくびをもらしな
がら、首を慣らして││ネプテューヌ=パープルハート達をぐるりと
見渡す。すると、鬱陶しそうに手で追い払う仕草を見せた。それだけ
で突風が吹き荒れ、信徒達は為す術もなく壁に叩きつけられていく。
辛うじて耐えたネプテューヌ=パープルハートの前にブシドーが立
ち、日本刀で一閃すると魔力を孕んだ空気が断たれて風が止む。その
頬は緩んでいた。
﹄
完全なる再現
﹁⋮⋮なんと、数奇な運命よな。これも貴方様の御業か、大魔導師よ
⋮⋮﹂
﹃⋮⋮⋮⋮
﹁邪神の化身と言えど、その実力に一分の偽りなし
!
?
にして複製
け〟はな﹄
恐れ入る
﹂
故に、我が一刀。受けてもらうぞ邪神﹂
大魔導師の得意とする術のひとつ。目の前にいる無貌の大魔導師は、
日本刀が砕け散る。構成物質そのものを分解された。それもまた
﹃ちげーよバーカ。お前から教わるものなんて一つも無い﹄
﹃拙者に、弟子になれと⋮⋮﹄
ての果てを俺にも見せろ﹄
﹃道は違えど、求めるものは同じ。俺と来い、サムライ。お前の剣の果
手を取った時、完全に敗北した。完膚なきまでに。
子供のように笑って、大魔導師はブシドーに手を差し伸べる。その
の探求だからな﹄
﹃そう言われて悪い気はしない。なぜなら魔導師は尽くがバケモノへ
﹃怪物め⋮⋮
﹄
﹃大したもんだ。魔術を斬るとはな⋮⋮そこだけは認める、そこ〝だ
して尚も届かなかった。
そんな冗談のような言葉を投げながら、ブシドーの技は死力を尽く
﹃受けたら死ぬだろ。馬鹿かお前﹄
﹃拙者の剣、受けてみよ。魔導師﹄
だ。
止めるとガラスのように割れて霧散した。構成術式を解除されたの
エヌラス=ブラッドハートが血刃を放つ。それを指先一つで受け
強の魔導師に。
││しかし、出会ったのだ。あのデタラメで、荒唐無稽を極めた、最
で全て断ち切る。
旋風が渦巻いて無数のカマイタチとなる。その全てを剣圧の一手
﹃⋮⋮⋮⋮﹄
﹁おぉ││ッ
││己の剣こそが至高と信じて止まなかった。
でいた再戦が、まさかこのような形で叶うとは思いもしなかった。
けして叶わぬ邂逅を果たしてブシドーは歓喜に打ち震える。望ん
!
完全なる再現であることをエヌラス=ブラッドハートは認めた。ネ
492
!
!
!
プテューヌ=パープルハートが隙だらけの横から剣を一閃して、人差
し指と中指の間で受け止められる。
﹂
そのまま、同じように剣指を立てて剣を腹から叩くとアッサリと折
られた。
﹁⋮⋮なん⋮⋮ですって⋮⋮
﹂
?
口元の血を拭う。
﹁赤ちゃん出来なくなっちゃう⋮⋮責任とってもらえるかしら
﹁冗談言える余裕があるならもっかい逝ってこい﹂
﹁あれ、私なにか間違えたかしら﹂
﹂
﹁出来ようが出来なくなっても責任はとってやるよ﹂
﹁⋮⋮今、なにか言った
﹂
まるで空気の塊で殴りつけられたような衝撃だった。お腹を擦り、
﹁ええ、なんとかね⋮⋮﹂
﹁大丈夫か
﹁ゲホッ、ゴホッ││﹂
き抱えて着地する。
ハートの身体が弾き飛ばされ、エヌラス=ブラッドハートはそれを抱
デ コ ピ ン ひ と つ で 〝 触 れ て も い な い 〟 ネ プ テ ュ ー ヌ = パ ー プ ル
恐怖で統治されていたのだ。
こそ地上最強の魔導師は畏れられていた。九龍アマルガムの誰もが
来ないことである。それをまるで息をするように〝しでかす〟から
ない程度は二流﹄とのこと。ちなみに三流は魔術の構成術式解除が出
大魔導師曰く、﹃この世にある物質を構成している術式を解除出来
!?
ス=ブラッドハート達は重力の海に沈められる。全身を押し潰すか
行き場がなくなったように手を下ろすと││次の瞬間にはエヌラ
その構えに見覚えがあった。
無貌の大魔導師がブシドーを吹き飛ばし、頭上に手を掲げている。
張った。
言いながら、エヌラス=ブラッドハートはゾッとする寒気に目を見
アレはどうにか押さえる﹂
﹁何も言ってねぇよバーカ。いいからネプギア連れて一旦離脱しろ、
?
493
?
﹂
のような四方からの見えない圧力に膝を着いた。
﹁グッ⋮⋮
﹂
魔術に耐性のないブシドーですら口端から血が一筋流れる。
﹁く⋮⋮
を封じられていた。
!
﹄
ルに消し飛ばすぞ﹄
﹄
るようなものだ。分かったらさっさと結界解除しろ。ブラックホー
だ。言ってみれば、分厚い支離滅裂な論文レポートでぶん殴りあって
﹃いいか。魔導師と戦うとき、大事なのは相手の術式をいかに潰すか
る術式を探る。そもそも魔術とは﹃論理外の論理﹄を振るうことだ。
く視界は明瞭で、エヌラス=ブラッドハートは重力結界の〝核〟とな
怒りで脳が沸騰するほど熱を持った。だがそれとは裏腹に恐ろし
に腕を組んで立っている。
で勝敗は決するというのに、無貌の大魔導師はまるで何かを待つよう
た。本当に、見ているだけだ。その状態から何か一つ手を加えるだけ
ス=ブラッドハートが重力結界の中で悶えているのを笑って見てい
今にして思えば。トンデモナイ教え方をされたものだ⋮⋮エヌラ
飯までに間に合わせろ。というか腹減った﹄
﹃轢き潰されたヒキガエルのような声を出すな。自力で脱出しろ、夕
﹃ぐえぇっ
﹃口で説明するより早い。ほら行くぞ﹄
﹃むちゃくちゃだな⋮⋮﹄
実践して覚えろ﹄
何でもありということになる。それでコレの解除方法についてだが
術式によって編まれる超常現象だ。まぁ早い話がイメージ次第じゃ
﹃いいかエヌラス。魔術というのは基本格子、基礎骨格の形成、そして
いる。ああ、そうだ、この人はこういう人だ││。
エヌラス=ブラッドハートが無貌の大魔導師を睨むと││笑って
﹁ド、チクショウがぁ⋮⋮
﹂
ネプテューヌ=パープルハートも、ネプギアもそれによって身動き
!
﹃ぐぉぉぉぉぉ⋮⋮こンの、クソ師匠ぉぉぉぉぅ⋮⋮
!
494
!
!?
﹄
﹃抵抗して立ち上がってどうするバカが。ほーれ重力マシマシだ﹄
﹃ぐへぉあ
エヌラスは潰れた。コンクリートにめり込んで漫画のような状態
﹄
お前、まさかそんな、アハハハハハ
マ、マ
になって大魔導師はそれを見て腹を抱えて涙が出るほど笑う。
﹃ブッハハハハハハ
ぶっ殺す
!
何が何でもテメェは後でぶっ飛ばす
ンガみたいに潰れる奴がいるか
﹃ゼッテェ殺す
から覚えてやがれぇぇぇ⋮⋮
!
!
力結界が緩む。
!
を殴り飛ばした。
﹂
﹄
テメェ程度の邪神が真似したところで骨粗しょう症みてぇな
﹁││の、くそ野郎が
師匠の術式は解除すんのに三日は掛かんだ
襲った。重力酔いでふらつく足を紫電で跳ね飛ばし、無貌の大魔導師
た。空間が割れる。歪められていた景色が元に戻り、全身を疲労感が
あらぬ方向に撃った灼熱の魔弾が重力結界の構成術式を爆散させ
﹁イア・クトゥガ
﹂
こに自らの編んだ術式を介入させて構成に綻びを入れると、僅かに重
エヌラス=ブラッドハートの手が見えない術式を〝掴んだ〟。そ
﹃おうあくしろよ﹄
!
!
!
構成術式、余裕だバーカ
よ
!
勝つ。
495
!?
しょせんは複製。過去の再現だ。それならば││成長した自分が
!
!
﹂
episode78 我が道走るマイウェイ
﹄
﹁おォッ││
﹃⋮⋮
﹁いかん、エヌラス
﹂
パープル、離脱だ
!
!
﹂
たネプテューヌが苦しそうにお腹を擦る。
﹁うぅ、今日の晩御飯食べれるかなぁ⋮⋮﹂
?
﹁本当に大丈夫かよ。ちょっと見せてみろ﹂
﹁え、私ワンピースだから⋮⋮パンツごと見せることになるよ
﹁やっぱいい。腹抱えて呻いてろ﹂
﹂
が、無貌の大魔導師という目下の障害は残されたままだ。変身を解い
ルガムの一画で腰を落ち着ける。ようやく一段落と言ったところだ
エヌラス=ブラッドハート達が﹃緑竜会﹄から離脱して、九龍アマ
る様子は見せない。その口元は笑みが張り付いたままだった。
崩壊していく建物の中で、無貌の大魔導師は見上げていた。離脱す
﹁はい
﹁ええ。ネプギア、しっかり掴まってて﹂
﹁分かってる
﹂
ヌラス=ブラッドハートは舌打ちする。
の気配は何処にもなかった。騒ぎに乗じて既に姿を消したことにエ
の亀裂がとうとう耐え切れずに崩壊していく。既にクロックサイコ
もはや﹃緑竜会﹄の根城は見る影もなくなっていた。壁に走る無数
どれほどの実力であったのかなど計り知れない。
テューヌ=パープルハート達を片手で相手するほど。ならば本物は
理 は 見 よ う 見 ま ね で し か 再 現 出 来 な か っ た。そ れ だ け で も ネ プ
からこそ。しかしながら、それでも大魔導師が構築していた論外の論
た地上最強の魔導師を複製することが出来たのは邪神ズアウィアだ
く。複製品、過去の遺物と言えど││未曾有の怪物として君臨してい
だ。超高速で編まれていく術式と術式が魔術回路を熱暴走させてい
衝突する魔風と血風。拮抗して空間が歪み、衝撃で指揮者が死ん
!
!
496
!
!
﹁⋮⋮ねぇ、見たい⋮⋮
﹂
﹄って
﹂
というかあ
見たくないの
カルネが﹃ご主人様はこういう下着がお好み
﹁ええい頬を赤らめるなスカートの裾を持ち上げるな見せるなァァァ
﹂
﹁なんでさー
紐パン勧めてくれたんだよ 今穿いてるんだよ
﹂
﹁テメェのパンツが何色の何だろうがどうでもいいわ
の野郎、帰ったら小指へし折ってやる﹂
﹂
﹁やはり⋮⋮ロリコンッ
﹂
﹁うっせぇ死ねブシドー
﹂
そこ掘り下げなくていいぞネプギア
﹁というかエヌラスさん、紐パンが好きなんですか⋮⋮
!
!
﹄
そんなの聞いたっけ
?
なのか﹂
﹁えっ
﹁テメェ⋮⋮﹂
﹂
﹁ネプテューヌ。お前はいつだったか俺に聞いたな。あの魔導書が何
あるのか。
もとより守りぬくと決めた相手だ。それならば、何を惜しむ必要が
﹁いや。なんでもねぇよ⋮⋮なんでもな﹂
二人は首を傾げ、エヌラスは自嘲する。
﹃
ギアの顔を見比べた。
ある。しかし、もしこれを解除された場合は⋮⋮ネプテューヌとネプ
エヌラスは左胸に手を当てる。〝コレ〟を使えば、或いは可能性が
││ただ一つを除いて。
ことなど出来ない。
まる。一度は殺した相手だ。だが、それがこと邪神とあっては滅ぼす
だ。さて、どうやって倒してやろうか⋮⋮そこまで考えて、答えに詰
大魔導師の姿を模して現れた。それだけで国家転覆レベルの大事件
邪神ズアウィア││まさか復活するとは思いもしなかった邪神が、
胸の動悸を抑えながら、エヌラスは改めて現状を整理した。
﹁づぉぉぉぉぉぉうッ
!
!
!
?
497
?
!
!?
?
!?
!
!
!?
?
﹁あ、思い出した。エロ本だっけー﹂
﹁短っ
﹂
﹂
ごめん嘘だから
﹁だ、だろうなって﹂
﹁だろうな﹂
いよ
﹁ど、どうするの⋮⋮
嘘だからー覚えてますです
﹂
アンチクリスタルじゃ、私達の攻撃通用しな
﹁来やがったな、邪神﹂
悪な赤黒い十字架だった。
│そのはずであったが、その手に握られているのは似ても似つかぬ邪
人の姿に紅の竜の翼を背負い、金色に輝く十字架を手にしている│
そして、無貌の大魔導師は神化した。
その口が結んだ言葉。紡いだ絶望の宣言││﹃トランジション﹄
﹃││││﹄
クリスタル。
の大魔導師が立っている。その手には赤い十字架の結晶││アンチ
ふと、そこに邪神の気配が流れ込んだ。見上げると、そこには無貌
えまだ解読し切れていなかった。
いまだにその全容は本人同様に不明瞭な部分が多い。エヌラスでさ
大魔導師御用達の魔導書。何が記されていたのかまでは言うまい。
!
﹁ようしお兄さん頭かち割っちゃうぞー﹂
﹁ひぎゃあ
!
﹁あの魔導書な。師匠の形見だ。以上﹂
!
ピッタリと収まる。
テューヌの左手薬指にはめこんだ。そのサイズは自動で修正されて
エヌラスは自分の右手の指にはめていたシェアリングを外し、ネプ
﹁過信は禁物だが、ちょっとは保つだろ。ほら、手ぇ出せ﹂
﹁それって⋮⋮﹂
﹁俺はともかくとして、お前ならこいつでどうにかなるだろ﹂
プテューヌを抱え、ブシドーはネプギアを小脇に抱えて避けていた。
が揺れた。地震が起きたように老朽化した建物が倒壊していく。ネ
十字架が振り下ろされて地面が穿たれ、隆起する。その余波で地面
?
498
!?
!
﹁⋮⋮﹂
﹁何赤くなってんだお前⋮⋮﹂
﹁しまった墓穴掘った
﹂
﹂
﹂
﹁ウヒョーウ、私のテンションがうなぎ登りだよー
﹁ドチクショウがぁぁぁぁ
﹁⋮⋮賑やかだな﹂
﹂
﹂
!
﹂
と決めた我が身とは違い、エヌラスには己を照らす者が﹂
﹁それが、お姉ちゃんなんですか
﹁本人から凄い否定されてますけど﹂
﹂
﹂
後で返せよ、返せよ
ロマンチックだね
﹁大体なーお前なー、それ俺の手製だからな
対壊すなよ
﹁お手製の婚約指輪
﹁てんめぇぇぇぇぇぇ
﹁えへー、やだ﹂
﹂
﹂
﹁変態性癖もそこまでこじらせると逆にキモいよエヌラス
﹂
ネプテューヌを下ろして、エヌラスは││変神した。
チャンスは一度きり。
いる。
﹂
アマルガムの蒸気を吐き出すビルを何棟も切断して大騒ぎになって
アクセル・ストライクが十字架の軌道を逸らした。その斬撃が九龍
﹁ロリコンじゃねぇって言ってんだろうがァァァァァァッ
ロリコ
ぶっ壊すなよ 絶
﹁ふむ。然しながら、ロリコンであるというのは否めんな⋮⋮﹂
?
ンなのは別に私が得するからいいけどさ
!
﹁いや、良い。あの男にはあのような伴侶が必要だ。剣の道に生きる
﹁すいません、私の姉が⋮⋮﹂
!
﹂
ゼッテェしねぇからなテメェとは
﹁何か結婚申し込まれたみたいですっごくドキドキした
﹁しねぇからな
﹁でも責任取ってくれるんだよね
﹂
!?
﹁あ、聞き間違いじゃなかったんだ﹂
﹁しっかり聞いてんじゃねぇか
!
!
﹁手首ごともぎ取るぞテメェ
!
!?
!
!
!
!!
!!
499
!!
!
!
!!
!?
!
﹂
ブシドーもまた、ネプギアを下ろすと素手で無貌の大魔導師に向か
う。
﹁ブシドーさん
﹁心配ご無用。我が身は既に冥府魔道に堕ちた一振りの刀。然らば、
折れるまでが我が寿命││しばしの間、剣を忘れて楽しませてもらっ
たよ。礼を言う﹂
左手を腹の前に持ち上げ、右手の甲を向けるように緩やかに構え
ツルギ
た。ブシドーに無貌の大魔導師は十字架を振り上げる││。
﹁心影流奥秘││〝劔冑〟﹂
キィン、││
それは、金属音だった。甲高い衝突音に、エヌラス=ブラッドソウ
ルもネプテューヌ=パープルハートもネプギアも、対敵である無貌の
大魔導師ですらも呆気に取られる。
五指を並べ立てた徒手空拳のブシドーに向けて再び十字架が振り
下ろされた。だが、それに突き刺すような手刀を向けて〝ガキィン
﹁驚くことはあるまい、大魔導師。貴方が見たかった我が剣の道の果
んとする男の辿り着いた境地。
い。それこそは論外の論理であった。ただひたすらに剣の道を究め
砕きながら鎖骨、胸骨、心臓の順に切り落とされていなければならな
〟と金属音が鳴り響く。通常、ブシドーの腕は断たれ、肉を裂き骨を
!
ガ
イ
﹂
﹂
ての果て。拙者が辿り着いた境地、コレこそが我が心影流の秘剣にし
て魔剣。〝魔を断つ劔冑〟よ﹂
﹁なん、つぅ⋮⋮デタラメな﹂
チ
﹂
﹁論外の論理を競うこそが魔術師の闘争ではなかったか
キ
﹁そういうのは︻自主規制︼って言うんだよ
﹁常軌を逸脱した者に言われるとあっては我が本懐
﹁冗談が通じねぇ⋮⋮﹂
?
空いた左手で見向きもせずに衝撃波が吹き飛ばす。
をひと薙ぎした。だが、それは浅く表面を切り裂いただけで留まり、
巧みに捌き、その隙を突いてネプテューヌ=パープルハートが剣で胴
無貌の大魔導師が振るう十字架と金属音を奏でながらブシドーは
!
!
500
!?
!
﹂
﹂
﹁くっ││でも、エヌラスの婚約指輪のお陰でなんとかやれそうね﹂
﹂
後生大事にさせてもらうからね
﹁婚約指輪じゃねぇってんだろうがやっぱ返せよお前
﹁嫌に決まってるでしょ
﹁返せやコラァァァァアアア
!
!
がった。
ぞ
﹂
﹁アレは論外
﹂
﹂
﹂
││と、言ってやりてぇが、あるんだなこ
此奴を討つ術は無いのか
ねぇよんなもん
!?
るの味気ないのよ﹂
!?
くわよ
いいの
﹂
﹂
!
?
﹁よくねぇよ何なんだよお前はよぉ
テューヌ
わかったよ 頼むぞ、ネプ
﹁ほら、ネプテューヌって名前で呼ばないと私ダメな方向に全力で行
﹁お前このタイミングでそういうことぶっこむの
﹂
﹁ねぇ、そのパープルって呼ぶのやめてくれないかしら。色で呼ばれ
れが。任せろ。パープル、少しだけでいい。時間を稼いでくれ﹂
﹁あ
﹁エヌラス
いるブシドーの前には超重力弾ですら脅威ではなくなっていた。
潰せば恐るるに足らないのだが││それを、よもや〝直感〟で潰して
魔導師の放つ魔術は構成術式となる〝核〟が存在する。それさえ
!
!
﹁超小型のブラックホールみてぇなもんだ。当たれば跡形も残らねぇ
﹁な、なにあれ
﹂
発が足元を直撃する。まるでくり抜いたようなクレーターが出来上
ウルのイタカによって相殺されたが、その攻撃をかい潜って抜けた数
な曲線を描きながら追尾してくる黒い球体は、エヌラス=ブラッドソ
その左手に黒い粒のような球体が幾つも浮かび、放たれる。緩やか
タールのような液体。すぐに元通りに再生した。
シドーの手刀が斬り落とした。だが、相手は元を辿れば赤黒いコール
に無貌の大魔導師と肉薄する。同時に両腕を切り落とし、その首をブ
エヌラス=ブラッドソウルはネプテューヌ=パープルハートと共
!
!
!
!
!
!
?
501
!?
﹁でもブシドーは切り落としてるわよ
!
?
﹁もっちろん。任せなさい
﹂
〝後でゼッテェ泣かす⋮⋮〟
エヌラス=ブラッドソウルは人知れず誓っていた。泣かせると決
めたのはこれで二人目である。だが、今はそれよりもやらなければな
らないことがあった。
〝銀鍵守護器官〟の完全開放だ││。
502
!
e p i s o d e 7 9 動 け ば ト ラ ブ ル 座 れ ば ム ー ド
メーカー歩く姿は守護女神
十字架による攻撃も超重力弾も通用しないことを認めたのか、無貌
の大魔導師は大きく跳躍してブシドーから距離を離した。その左手
に大弓を顕現させると、矢を番える。││本来であれば、それもまた
黄金の輝きに包まれているはずであった。だがやはりしょせんは贋
作、色だけは似ても似つかない。
閃光が放たれ、穿たれる。そこにブシドーの姿はない。ネプテュー
ヌ=パープルハートも難なく避けて接近しようとしてギョッとした。
指の間に挟みこむようにして数十発の矢が番えられている。邪神
ズアウィアがかつてこれで串刺しにされた経験から再現してみせた
〝シリウス〟は、九龍アマルガムにも何発か逸れてスラムを崩壊させ
ていった。
接近戦に持ち込んで十字架と激しく打ち合っていたネプテューヌ
=パープルハートだったが、その挙動に一瞬だけフェイントを入れる
と無貌の大魔導師はバランスを崩す。そこに蹴りを入れて叩き落と
すと、ブシドーがすかさず肉薄した。
エヌラス=ブラッドソウルは呼吸を整えて、魔法陣を展開する。左
胸の獅子と同じ紋章を中心とした魔法陣は銀色に輝き、全身の魔術回
路が励起された。
無尽蔵の魔力精製と貯蔵庫にしてエヌラスの〝第二の心臓〟であ
る〝銀鍵守護器官〟は、その魔術回路とその無限に等しい魔力による
暴走を抑えこむ為に身体に組み込んだ。その分離には、一度全身の魔
術回路を引き離さなければならない。
﹁ヅッ││││﹂
制御を一歩しくじれば、魔法の神経である回路は余さず消滅する。
それこそは無謀に等しい逆算だった。しかし、銀鍵守護器官を完全開
放するには自分の身体から摘出しなければ効果を発揮できない。神
経をすり減らす。魔術回路とは、そもそも銀鍵守護器官から発生する
503
魔力を行使する為の術式だ。これがなければエヌラスは満足に魔術
が使えない。
﹂
つまり、今は││魔術の使えない、ただの人間である。ただひとつ
の論外の論理を除いて。
﹁銀鍵守護器官、完全開放││
セー フ ティ
不意に、魔法陣が消えた。そして、エヌラスの左胸の前で激しく輝
き を 増 し て い く。だ が 〝 安全装置 〟 が も う 一 つ 残 っ て い る。こ の シ
ステムを組んだ人間は、エヌラスではないからだ。
その濃密な魔力の香りは、邪神にとって堪らなく食欲をそそるもの
だろう。二人を無視して無貌の大魔導師はエヌラスに狙いを定めた。
﹂
十字架を番えて射出する。それを防御障壁で軌道を逸らして走り抜
けた。
﹁我が運命は掴めない。例え御身が神であろうと││
﹁〝此処に大魔導師の権能を代行する〟
﹂
増幅する魔力と憎悪。左胸に当てた右手が、見えない鍵を掴む。
!
﹃a││
aaaAAAGAAAYYYY
﹄
た。杖だった。門を開ける鍵の形をしていた。
引きずり出され、顕現するのは〝銀色の鍵〟だった。それは剣だっ
!
!!
﹁埋葬の花に誓って﹂
十字架の攻撃も、やぶれかぶれの触手による攻撃もエヌラス=ブ
ラッドソウルには届かない。ネプテューヌ=パープルハートとブシ
ドーの二人が命懸けで攻撃を防いでいた。
﹂
邪神の核││そのアンチクリスタルへ向けて鍵を突き刺す。
﹁我は世界を閉ざす者なり││
か踏み留まっている。
体を掴んだ。それでもまだ、無貌の大魔導師は術式を解除しているの
闇。無 数 の 闇。暗 黒 の 果 て。そ こ か ら 伸 び る 無 数 の 手 が 邪 神 の 身
神の背後で空間が割れた。
がてその構成をメチャクチャにされていく。二歩、三歩と後退った邪
無尽蔵の魔力を叩き込まれた邪神を形成する人ならざる術式は、や
!
504
!
邪神が気づく。それこそは必滅にして必殺の呪いなのだと。
!
﹁しぶてぇ野郎だ││﹂
だが、やがてその全身を覆うように闇の触手が絡めとり、割れた空
間へと押し込んだ。何事もなかったかのように瘴気の一陣の風が吹
いて││静寂。
右手の〝銀の鍵〟を見て、エヌラス=ブラッドソウルは皮肉な笑み
を浮かべた。
﹁⋮⋮結局、最後までアンタに頼っちまったな、師匠﹂
根元に獅子を刻み込んだ〝銀の鍵〟は、大魔導師が保有していたコ
││それす
レ ク シ ョ ン の 一 つ だ。そ れ を あ ま り に 不 出 来 な 弟 子 に 施 し た の は、
きっとこうなることを想定していたからではないか
﹂
こともエヌラスは理解する。
﹃G││Gyaaaaaaaaaa
﹄
た。そして、それが途方も無い情報量をつめ込まれた〝魔術〟である
一度も鳴ることのなかった大鐘楼の奏でる音は、とても澄んでい
││カーン⋮⋮。
く涙が溢れる。
鐘の音色だった。聞いたことのない音だが││エヌラスは、訳もな
││カーン⋮⋮。
よる追放空間から出ようとするソレが、突然動きを止めた。
とする絶望の混沌が雄叫びをあげる。銀の鍵による無尽蔵の魔力に
ひび割れていく空間の奥に見える、邪神。そこからまだ這い出よう
﹁エヌラス
ピシッ││。
たとしても何ら不思議ではない。
らあり得る。何しろ常識の外で生きていた人だ。全てを想定してい
?
エヌラスだけは違った。涙を流し、膝を着いた。その手から銀の鍵
いる。
ギアもブシドーもただ呆然と一連の出来事に茫然自失と突っ立って
何が起きたのかネプテューヌ=パープルハートは理解できず、ネプ
れ││消滅した。
そして、邪神は二度と帰ってこれない無限の追放空間へと押し込ま
!!
505
!
がこぼれ落ちる。
﹁││なん、て││なんて⋮⋮メチャクチャやりやがる、師匠⋮⋮
る﹄
﹃出来なくても生き残るわボケェ
﹄
デ
ウ
ス・ エ
ク
ス・ マ
キ
ナ
﹂
﹃夢を見ながら空間を調整出来ないようならこの先生きのこれんぞ﹄
﹃アンタと一緒にすんな
﹄
﹃心配するな。死ぬほど痛いのは未熟な証拠だ、俺なら寝てても出来
﹃修行という名目で殺しに来てる野郎がなんか言ってる⋮⋮﹄
しな﹄
﹃お前には手に余る代物だが、まぁこうでもしないとお前死にそうだ
しょせん過去は過去だ。
去の亡霊を消し去った。
みを〝強制的に修正〟する時計仕掛けの機械仕掛の大番狂わせは、過
ク ロッ ク ワー ク
ル大時計塔││九龍アマルガム内部で起きる第三者による空間の歪
大魔導師は〝時空そのもの〟にすら術式を編んでいた。ミスカト
!
土にして丸投げした。とんでもねぇ恐怖政治である。その事後処理
〝螺旋砲塔〟神銃形態と超電磁砲抜刀術〝終焉〟を放って街ごと焼
たと一言宣言すると一気に静まり返った。現に、エヌラスはその場で
もはや凄惨と凶悪を極めたような暴動であり、それを当の国王がやっ
先にと他の同業者へカチコミに入った。それによって起きる事件は
それによって抑えこまれていた秘密結社達は楔を抜かれたように我
壊滅。それは魔術結社、マフィア、各政界の者達に静かな波紋を広げ、
製作者は何者なのか不明なままだった。次に、秘密結社﹃緑竜会﹄の
技術者の確保だったが、気がつけば無人になっており相変わらずその
であっても騒ぎになる時は騒ぎになる。まず破壊ロボの撤去とその
九龍アマルガムでは大騒ぎだった。いや、日常的に大惨事なこの街
││そんな馬鹿な話も、今はもう出来ないのだ。
!
にアサイラムは総力を注ぎ込み、死ぬほど多忙だとクイーンが嘆いて
いたがエヌラスは素知らぬ振り。
506
!
ここまで一日の出来事である。
そして、今。エヌラスはネプテューヌとネプギアを連れて自宅へと
帰ってきた。そこにはプルルートとノワールが心配そうな面持ちで
どこか痛む
怪我してるの
﹂
応接室で待っており、三人の顔を見るなり涙目になりながら抱きつい
てくる。
﹁よかった⋮⋮よかったぁ、無事で﹂
どうしたの
?
﹁いやぁ、割と無事じゃねぇんだよな⋮⋮﹂
﹁嘘、ホント
?
回路がな﹂
﹁アナタね⋮⋮
﹂
ワナワナとノワールのこめかみに青筋が浮かんでいた。
﹂
馬鹿なのなんなの死ぬの
﹂
﹁もう、どうしてそう二回も三回も同じこと繰り返すのよ
力ってものが無いの
﹁そこまで言わなくてもよくねぇ
﹂
どうせバカだよ
この
どうやったら
﹂
心配する身にもなりなさいよバカ
﹁大体アナタの戦闘プラン毎回メチャクチャなのよ
バーカ
そんな無茶できるの
バカ
﹂
﹁三回もバカって言いやがったな
﹁開き直り
!?
学習能
﹁いや、甲斐甲斐しく尽くしてくれるのは嬉しいんだが││また魔術
?
までは良かった。だがそれによって再び魔術回路の構築の必要性が
﹁エヌラス
出てきている。簡単なものなら良いが、詳細な制御は厳しい。そうな
ると当然ながら頼れるのはアーウィル一人だ。
﹁でも∼、ノワールちゃんすっごく心配してたんだよ∼
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁え、ちょ⋮⋮﹂
ねぇ﹂
が死んじゃってたらどうしよう﹂なんて、一人で涙目になってたもん
?
﹂
507
?
!
!?
!?
!
!
!
!
!
!
〝銀鍵守護器官〟完全開放によって邪神ズアウィアを消滅させた
!?
!
!
﹁ねぷちゃん達が酷い目に遭ってないか心配で心配で震えてたもんね
∼
?
﹁ちょ、ちょっとプルルート
﹂
﹁ん、あぁ⋮⋮﹂
﹂
もう、ツンデレなんだか
﹂
?
﹁こ、婚約指輪
⋮⋮﹂
﹁嫌よ﹂
婚約指輪じゃないからな
﹂
﹂
それに私の左手薬指には
!
見せびらかすように左手を差し出した。
﹂
﹁私が変身するのに必要な時間は僅か0,1秒にも満たないわ
の変身プロセスをもう一度見せようかしら
﹁脱ぐ
脱ぐわよ
脱いだら凄いわよ
﹂
?
﹁はは、殺すぞ。というかマジで元気だなチクショウが
﹂
!
?
﹁その一瞬の全裸を目蓋に焼き付けられたくなかったら黙ってろ﹂
!
そ
誇らしげに胸を張るネプテューヌ=パープルハートが﹁フフン﹂と
﹁いつの間に変身しやがったテメェ
!
!
﹁お前頼むから喋るなネプテューヌ
﹁そうなんだ∼、エヌラス、ねぷちゃんに指輪はめてあげたんだ∼﹂
めてくれたじゃん﹂
﹂
そんな、まさかネプテューヌに先を越されるなんて
!
いた。
﹂
﹁あ、見て見てぷるるん
でしょ
エヌラスお手製の婚約指輪だよ 凄い
面蒼白となって打ち揚げられた魚のようにエヌラスは言葉を失って
滝 の よ う な 汗 が 吹 き 出 た。顔 が 青 ざ め た。唇 が 血 の 気 を 失 う。顔
﹁││それで、ねぷちゃんの左手薬指のアレはな・に・か・な・ぁ∼
﹂
﹁お疲れ様∼エヌラス。ぎあちゃんも無事みたいだし良かったよ∼﹂
れる形になり、エヌラスはやれやれと首を慣らす。
エヌラスに抱きついていたノワールが横からネプテューヌに倒さ
﹁わ、わわっ。ちょっと抱きつかないでよ
らー
﹁うわーん、ノワールー。怖かったよー
!?
﹁⋮⋮へぇ∼、そうなんだぁ∼﹂
!
﹁じゃあ何でこんな綺麗な色の指輪なの
﹁違うからな
!?
!
508
!
!
!
!
?
!
?
プルルートの手が振り上げたのは、ぬいぐるみ││ネプテューヌを
﹂
あたしぃ、ちょ∼っとだけ、お話あるんだ∼⋮⋮二人
模したそれが床に叩きつけられ、背中から踏みにじられていく。
﹁エヌラス∼
きりでぇ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ひゃい﹂
﹁一緒にぃ、来てほしいな∼
﹁⋮⋮ちょっと、逝ってくる﹂
親指を立ててエヌラスはプルルートと一緒に応接室を出て行った。
南無。ネプテューヌ達は扉に向かって合掌する。
509
?
?
episode80 お酒のトラブルご用心
││それから、しばらくエヌラスの悲鳴が聞こえていたが、彼の声
が聞こえなくなる頃には既に夕食の時間となっており、スピカとカル
ネの二人が呼び出しに顔を出した。後から遅れて入ってきたエヌラ
スとプルルートだが、エヌラスは心底疲労困憊しており、それとは対
照的にプルルートは満足したように満面の笑みを浮かべている。何
﹂と何故か頬を赤らめながら言っていた。
をしてきたのかと尋ねると、プルルートは笑顔で﹁え∼っとね∼、お
仕置き、かなぁ∼
﹁それで、これからのことなんだが⋮⋮﹂
げっそりとパスタをフォークでグルグルと絡めながら綿菓子よろ
しく、麺の塊が皿の上で回っている。
﹂
﹁あの野郎が言っていたアヅール洞窟に行こうと思う﹂
﹁⋮⋮罠、じゃないの
﹁ご苦労さん﹂
道標を目印にしていただければよろしいかと﹂
通しています。その為、内部の開拓やある程度のルートは先達による
で採れる鉱石や生息している天然の魔導生命体は貴重な品として流
蟻の巣状に広がっており、複雑化しています。然しながら、その内部
﹁アヅール洞窟は九龍アマルガムの東部に位置する鍾乳洞です。中は
めた。
一度、咳払いを挟んでからスピカはアヅール洞窟について説明を始
﹁は、はい。では僭越ながら私が⋮⋮﹂
﹁アヅール洞窟、説明﹂
を震わせる。
ば好都合だ。壁際で控えているスピカに指を鳴らすと、ビクリと身体
どちらにしろ、次の目的地が決まっていなかったので好都合と言え
﹁不思議なことにあの野郎はイカれてるが、嘘は言わないんだよ﹂
?
﹁ありがとうございます﹂
あ、はい
えーと、昨今の現状と致しましては瘴気によっ
!
510
?
﹁が、そいつは昔の話だ。今のアヅール洞窟はどうなってる、カルネ﹂
﹁ほへ
!?
て活発化した魔導生命体による被害が増加の一途を辿ってます
中には変異体と呼ばれる特殊な個体も確認されており立ち入りを禁
!
以上
﹂
じられていまして九龍アマルガムの経済に軽微ながら損害を与えて
まっす
﹁あざます
んひぃ
﹂
﹁うるせぇけど、ご苦労。下がっていいぞ﹂
!
!?
﹂
!?
﹂
あ、ごめんエヌラス。食べるのに夢中で全然聞いてなかっ
たよー。もう一回お願いできる
よ、エヌラス﹂
﹁テメェに言われたくねぇよ
﹂
﹁と、とにかく次の目的地はアヅール洞窟ってことよね
﹁そうだよ⋮⋮﹂
﹂
﹁もー、ひどいなー。あんまり馬鹿馬鹿言ってるとバカになっちゃう
なんだな﹂
﹁ネプテューヌお前⋮⋮あんま言いたくないけど、ほんっとうにバカ
?
﹁ふぇ
﹁⋮⋮と、まぁアヅール洞窟の説明は聞いてのとおりだ﹂
すごすごと下がるカルネは息を一つ吐くと、背筋を伸ばす。
﹁あ、はい⋮⋮以後、気をつけます⋮⋮﹂
﹁客の前だ、もう少し品良くしてくれ﹂
﹁なんでですか
ヌラスが見向きもせずに投げたのだ。
元気よく頭を下げたカルネの顔の横にフォークが突き刺さる。エ
!
﹁ちょっと待っててほしいッス﹂と言うなり両手に替えの服とタオル
に、ミ ニ ス カ か ら ス パ ッ ツ の 覗 く 如 何 に も 体 育 会 系 の 自 動 人 形 が
お風呂に入る旨を伝えると、メイドの一人││金のショートカット
た。
ぶ。片付け等は自動人形のメイド達がこれ以上ない手際で終えてい
夕飯をいつもどおり騒がしく終えて、ネプギアは大浴場へ足を運
を頬張った。
げんなりとしてエヌラスは一口で綿菓子の如く丸められたパスタ
!
!
511
!
?
と下着と持ってくる。その替えの服が自分の着ているワンピースと
同様のものであることもそうだが、寝間着として渡されたのがどう見
ても男物のシャツというのはどういうことかと首を傾げた。
﹁あ、それウチの寝間着ッスね。すぐ持ってくるっす。パジャマとキ
グルミどっちがいいッスか﹂
﹁普通にパジャマでお願いします⋮⋮﹂
﹁了解ッスー﹂
そして、淡い水色の普通のパジャマを持ってきてくれたことに安堵
そう疑問に思っていたネプギア
する。と、いうよりも男物のシャツを寝巻きにしているのはやはりエ
ヌラスの趣味なのだろうか⋮⋮
の視線に気づいたのか。
﹂
﹁あ、これはウチの趣味ッス﹂
﹁そうなんですか
﹁わ、わぁ⋮⋮
﹂
充実ぶりにネプギアが目を丸くしていた。
ているだけあってそれだけでもう温泉施設として客が見込める程の
流石と言うべきか、豪邸に恥じぬ広々とした空間を余さず浴室にし
浴場へ踏み入る。
ハァ、と深く息を吐いて、ネプギアはバスタオルを身体に巻いて大
〝今日は⋮⋮色々あったなぁ⋮⋮〟
着の寝間着を持って脱衣場で服を脱いでいた。
押しつけられて、いい笑顔に何も言い返せずネプギアはこうして二
﹁ご主人様も特に何も言わないッスから、よかったら着てみるッス﹂
?
出したなど想像もしたくない。それを貸し切り状態で使うともなれ
ば、こんな贅沢は二度とないだろう。
﹁お姉ちゃん達には悪いけど、貸し切りでゆっくりさせてもらおうか
な﹂
呟きながらシャワーで軽く汗を流し、ネプギアは髪を上げてまとめ
ると湯船に足を入れる。温度は少し熱いくらいだが、身体を芯から温
めるには心地よいくらいだ。
512
?
それこそ金を湯水のごとく注ぎ込んだのだろう。一体総額で幾ら
!?
そろりそろりとゆっくり浸かっていたネプギアが、ふと湯気に人影
﹂
を見つける。
﹁⋮⋮
﹂
﹁でも、着替え⋮⋮﹂
﹂
﹁更衣室一緒くたにすると思ったか
﹁∼∼∼∼
?
││
!
﹃風呂に入りながらダイビング。画期的とは思わないか
﹄と笑顔で
の風呂である。何故プールではないのかと聞かれれば、大魔導師曰く
そこだけは大魔導師御用達の﹃ディープ湾﹄というダイビング専用
頭の先まで沈んだ。エヌラスが黄金の蜂蜜酒を噴き出した。
湯船に全身を浸かって隠そうとしたのだろうが││ドボォン
ネプギアの顔が見る見る紅潮していき、慌てて両手で身体を隠すと
!?
﹂
﹁⋮⋮いや。俺、入ってたんだが⋮⋮﹂
﹁⋮⋮え。あれ⋮⋮貸し切り⋮⋮﹂
隔てた場所の湯気だけ色が違っている。
す。よく見れば、ネプギアが今まさに入ろうとしていた浴槽と壁一枚
の蜂蜜酒を服用していた。まるで熱燗のような軽さで一息に飲み干
エヌラスだった。タオルは巻いているが、湯船の縁に腰掛けて黄金
﹁ん
?
がったばかりの傷口が生々しく刻まれている。忘れそうになる。こ
チラリと盗み見た背中は、傷だらけだった。古傷だらけの中に、塞
﹁⋮⋮││││﹂
気力もない。
酒で魔術回路を調整していたし、ネプギアは一日の疲れから口を開く
妙な気まずさから二人は終始無言だった。エヌラスは黄金の蜂蜜
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
ヌラスの浸かっている場所とは背中合わせになる。
ネプギアを救出すると、普通の湯船を案内した。そこはちょうどエ
い。
サムズアップ。たまにエヌラスも潜るが、床に手が届いた試しがな
!
513
?
の人はこの数日だけで死線を彷徨う大怪我をしたばかりだ。ネプギ
アが言葉を失い、手を伸ばして傷口に触れると、エヌラスは驚いたよ
どうしたネプギア
くすぐったいだろ﹂
うに振り返る。危うく黄金の蜂蜜酒を湯船に落とすところだった。
﹁な、なんだ
?
⋮⋮﹂
﹂
﹂
ほら、早く上がったほう
﹁私⋮⋮どうしちゃったのかな⋮⋮なんだか、すごく⋮⋮熱っぽくて
目が据わって、ネプギアは息を荒くしながら熱っぽく囁いた。
めて近い。
していた。それも悪い方向に。言うなれば、酒に酔っている状態に極
そこから香る芳醇な魔術的ドラッグは間接的にネプギアの脳を刺激
ミード、黄金の蜂蜜酒だ。それを専用の湯船で空けていたのだが││
そこで、唐突に気づいた。今、自分が手にしているもの。高純度の
あ﹂
﹁ど、どうしたんだネプギア⋮⋮お前、こんな積極的な⋮⋮││││
﹁エヌラスさん⋮⋮﹂
跳ねる。
の見込める胸の感触が濡れたバスタオル越しに伝わってきて心臓が
ヌラスが少しだけ距離を取ると、今度はしがみついてきた。まだ成長
つつぅ⋮⋮、ネプギアの指が背中をなぞる。それがこそばゆくてエ
せない。記憶に蓋をしたかのように。
どうやって自分は大魔導師を殺したのだろう。それだけが思い出
なんだ﹂
人だったよ。俺みたいなやつじゃどう足掻いても届かなかったはず
﹁⋮⋮あの人は、天地がひっくり返っても平気な顔で生きてるような
かりですね﹂
﹁なんだか、ここに来てからエヌラスさん、ずっとお師匠さんのことば
﹁毎度のことだ。未熟者って師匠に怒られちまう﹂
﹁⋮⋮エヌラスさん、こんな大怪我してたんですね﹂
?
﹁そ、そーだなー。のぼせたんじゃないか
がいいぞぉ
﹁そう、でしょうか⋮⋮
?
514
?
!
﹂
﹁ああうん、そうだ。そうに決まってる。ほら、少し熱めにしてある
し﹂
﹁嘘ですよね﹂
﹁ああうん││しまったぁぁぁぁ
﹂
らねぇ
﹂
﹁うふふふふ、エヌラスさん。逃げようったってそうはいきませんか
焦って勢い余ったエヌラスの失言にネプギアが怪しく笑う。
!!!
!
らぁ∼﹂
!
﹁酒癖ワリィなおい
さわ、触んな
﹂
!
﹁││││﹂
﹁エヌラスさん⋮⋮据え膳、ですよ
﹂
﹂
﹁こんなにしちゃってぇ⋮⋮カチカチですね⋮⋮﹂
!
﹁どこがヤバくなっちゃうのか教えてくださいよぉー﹂
寄ってくると色々とヤバイから﹂
﹁ネプギア、恐ろしい子││
ってそうじゃねぇ⋮⋮ほら、俺の方に
しませんよぉ⋮⋮お姉ちゃんと一緒じゃないと呪っちゃうんですか
﹁私を遠ざけようとしたって、絶対、絶対。ゼッッッッッタイに、逃が
なんかこわいこの子
﹁こわい
?
﹁⋮⋮お前ら姉妹って⋮⋮お前らって⋮⋮
!
?
515
!
episode81 風呂場は裸になる場所︵R︶
ネプギアの手をどかして、向き直る。バスタオルは取らずに、その
ま ま 正 面 か ら 見 据 え て 頬 に 手 を 伸 ば す と 少 し だ け 身 体 を 震 わ せ た。
﹂
酔って積極的になっているとはいえ、やはり怖いらしい。
﹁⋮⋮ネプギア﹂
﹁はい⋮⋮﹂
﹁今日は、ごめんな。俺のせいで怖い思いしたろ
﹁エヌラスさんの所為じゃ、ないです⋮⋮それに、ちゃんと助けに来て
くれました。だから気にしないでください﹂
﹁そうか﹂
頬に軽く唇を添えるとネプギアもお返しと言わんばかりに頬にキ
スをした。エヌラスは前髪をかき上げて今度は額に口づけすると、首
元にお返しされる。舌を這わせて、イタズラっぽく微笑む。
今 の 話 聞 い て た か ネ プ ギ
ヌラスの顔が赤くなる。硬く勃起したソレにネプギアが手を添えて
撫でるとぴくりと反応を示した。
顔を近づけてマジマジと眺めると、固唾を飲み込む。
﹂
﹁⋮⋮酔った勢いとはいえ、無理しなくていいぞ﹂
﹁む、無理なんかしてません。がんばります
﹁そうか⋮⋮﹂
﹁はい⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
握ったまま動かない。それはそれで生殺しなのだが、ネプギアが困
!
516
?
﹁首元にキスマーク付けたら、怒られちゃうかな⋮⋮﹂
﹁間違いなく俺が命の危機に瀕するな﹂
﹁じゃあ、遠慮なく⋮⋮﹂
﹂
﹁あ れ ー お か し い ぞ ー、待 て や こ ら ー
アー﹂
﹁こっちの方が、いいですか
?
腰に巻いていたタオルを剥がれ、隠していた股間が露わにされてエ
?
惑している様子が窺えた。多分、と言うよりは絶対に経験不足から来
る不安感で身動きがとれない状態に陥っている。
﹁ネプギア お前まさか〝いろは〟の〝い〟も知らないわけじゃな
いよな﹂
﹁そ、それぐらい知っています。ネットサーフィンとかしてるとよく
バナー広告とかで⋮⋮﹂
﹂
﹁あーあれな。邪魔だよな﹂
﹁えっと、こう⋮⋮ですか
て⋮⋮ちゅ﹂
それとも⋮⋮﹂
﹁ん、はひ⋮⋮はひめて、れふよ
﹂
﹂
!?
こうしたら、キモチイイのかなっ
﹁ホントに、初めてなんだろうな⋮⋮
亀頭を舐めながら両手はしっかりと根元から擦っている。
り、吸い始める。思わぬ大胆な行動にエヌラスが震えた。舌で丹念に
ごくりとツバを飲み込んで、ネプギアが先端から溢れる汁を舐め取
﹁⋮⋮﹂
﹁いや、気持ちいいんだ。気持ちいいんだが、ちょっとな⋮⋮﹂
﹁ぁ、痛かった⋮⋮ですか
﹁はぁ、ふぅ⋮⋮ネプギア⋮⋮﹂
ネプギアの顔がすぐそばにあった。
根元と先端で別な刺激を受けてエヌラスが反射的に前屈みになると
いた。先端から透明な液体が溢れ出てくるともう左手で塗りたくる。
温かい手に包まれてしごかれる陰茎が震えると、その様子を観察して
鋭敏化された感覚が余計にネプギアの手を意識させる。柔らかく、
〝あ、やべ⋮⋮蜂蜜酒で調整中だったから余計に⋮⋮〟
﹁よかった、キモチイイんですね⋮⋮﹂
﹁ん、ああ⋮⋮その調子﹂
プギアは緩急をつけながらエヌラスの顔を窺っていた。
筋を這うような刺激に震える。その反応を見て少し安心したのか、ネ
するりと白く細い指がなぞり始めた。指先がカリ首を擦る度に背
?
?
?
﹁咥えながら喋んな、くすぐったい﹂
﹁こうれすか∼
?
517
?
﹁ネプギアてめ、ぇ⋮⋮
﹂
吸い上げて、不意に離すと今度は擦る手の速度を上げていた。それ
に震えるエヌラスの顔を見て、ネプギアも熱い吐息を漏らしている。
﹂
﹁ふふ、我慢してるエヌラスさんかわいいです﹂
﹁プルルートみてぇなこと、言いやがって⋮⋮
﹂
﹁出していいですよ。えいっえいっ﹂
﹁テメ、後で覚えてろ││
!
ちゃいました﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮エヌラスさん
﹂
あ、あのちょっとあのその、顔が怖いです
﹂
﹂
﹂
﹁んっ、ふ⋮⋮ホントに、こんな勢いよく出るんですね⋮⋮ビックリし
いた精液と顔に掛かった二つを掬い取ると、臭いを嗅いで舐め取る。
ヌラスの射精が終わるまで〝とろん〟とした顔をしていた。手につ
の顔を汚していく。その勢いに驚いて手が止まり、汚されるままにエ
ピクッと震えたかと思うと、勢いよく絞り出された精液がネプギア
!
を隠す。その隙に身体を反転させて背中から抱え込むと足を広げて
股に指を伸ばした。そこは既に熱く濡れており、くちゅりと卑猥な音
を立ててネプギアが身体を跳ねさせる。
﹁ひゃふっ⋮⋮﹂
あの、ごめんなさい⋮⋮﹂
﹁とびっきり辱めてやるから覚悟しろ﹂
﹁え、えぇ
太ももを擦っていた手を胸に伸ばすと、口元を押さえて声を抑えな
る。
が、抵抗する素振りは一切見せない。それがエヌラスの嗜虐心を煽
その度にネプギアの口からは熱い吐息と艶かしい声が出ていた。だ
じっくり内太ももを撫でながら秘部を擦り、身体を慣らしていく。
﹁今更遅い﹂
!?
518
!
﹁俺ばっかり気持ちよくっちゃ不 公 平 だよなぁ⋮⋮
﹁ひゃ
﹁生まれつきだ
!
!
?
ネプギアの手を取り、バスタオルを剥ぐと顔を真赤にして両手で胸
!
!?
﹂大きな声が漏れる。
がらネプギアはされるままに耐えていた。そこで耳たぶを甘噛する
と﹁ふあぁ
﹁そろそろいいか⋮⋮指、入れるぞ﹂
﹁あふっ、あっあ⋮⋮エヌラスさんの指⋮⋮入って、きて、ェ⋮⋮﹂
中指を入れてネプギアの膣を探るように肉壷を押し広げながら、エ
ヌラスはチャンスを窺っていた。膣口で弄っていた指を奥まで進め
ながら、中から押し上げる。そのまま指を引き抜きながら、やがてと
﹂
ダメ、キ
ある場所でネプギアが我慢しきれず嬌声をあげた。それにニヤリと
﹂
笑ってそこを何度も叩くようにじっくりと攻める。
﹁どうした、ネプギア。ココが気持ちいいのか
﹁ダメ、そこダメですぅ。イジメちゃ、やぁぁぁ⋮⋮
!
?
変態みたいですよぉ⋮⋮あひぃん
﹂
!?
﹁どうなんだ、ネプギア﹂
﹁う、うぅぅひふッ
チャ⋮⋮なんかきちゃいます
!?
好きにして⋮⋮﹂
﹂
!
指で慣らしていたとはいえ、それでもやはり初めてなのには変わり
﹁エヌラスさんには、負けますよぉ、っ
﹁むしろ真面目な分、お前の方がエロさは負けてないぞ、っと﹂
﹁お、お姉ちゃんはともかく私はエロくないですぅ﹂
﹁⋮⋮なんでお前ら姉妹ってエロいんだ⋮⋮﹂
﹁あっ⋮⋮いい、ですよ⋮⋮
たネプギアが押し当てられる熱い肉棒に気づく。
たしていた。向かい合うように抱え込むと、疑問符を頭に浮かべてい
グッタリとしたネプギアには可哀想だが、エヌラスの方は復帰を果
﹁何だとこのスケベめ。あんなにしゃぶりついといて﹂
﹁⋮⋮エヌラスさんの変態⋮⋮﹂
﹁⋮⋮そういやそうだな﹂
られたの、二回目です、よぉ⋮⋮﹂
﹁はぁー⋮⋮ハァー⋮⋮はぁ、ふぅ⋮⋮うぅぅ⋮⋮これで、オシッコ見
く。
を震わせて小水を漏らした。他のお湯に混じって排水口に流れてい
ぐりっと強く押しこむと、ネプギアも我慢しきれず快楽のまま身体
!
?
519
!
ないのか、ネプギアが中で押し広げながら挿入されるエヌラスの肉棒
に身体を震わせて抱きついてきた。
奥まで入れて抱きしめあうと、ネプギアがふと見つけたのは黄金の
蜂蜜酒。
﹁エヌラス、さん⋮⋮おさけ⋮⋮﹂
﹁酒、っていうかクスリだけどな。お前にゃ早い﹂
﹁一口⋮⋮﹂
﹂
﹁⋮⋮悪い子にはお仕置きだべ∼﹂
﹁あひぃ、ごめんなひゃい
た。
﹂
﹁エヌラスさんの、中でビクビクってぇ⋮⋮
﹂
﹁ネプギアも、こんなに締め付けてきて、気持ちいいか
﹁は、はい⋮⋮すごく、イイ、です││∼∼
いる。
﹂
で入浴するも、チラチラとネプギアの視線が時折エヌラスを盗み見て
黙が流れていた。黄金の蜂蜜酒はひとまず遠いところに置いて、並ん
身体を洗い流して、普通の湯船に浸かっていた二人の間に奇妙な沈
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
膣中で射精を果たした陰茎を引き抜くと、精液が溢れてくる。
状態のままエヌラスに身体を預けた。
出される精液を受け止めたネプギアの身体は二度、三度と震えて放心
ペースを上げて、エヌラスはそのままネプギアの中で果てる。吐き
﹁ん、ア││あひぃぃ││
﹁そうか。んじゃ、そろそろ出すからな⋮⋮しっかり受け止めろ﹂
?
!
!
﹂
震えて⋮⋮﹂
と汗が混ざり合い、密着させている身体の境界線が曖昧になってい
もそれに背筋をゾワゾワと刺激されながら唇を奪う。大浴場の熱気
突き上げる度にネプギアの口からは喘ぎ声が出ていた。エヌラス
﹁はひ、はひぃ
﹁ダメなものはダメって、言ってんだろうが﹂
!?
!
520
!
﹁⋮⋮なんだよ﹂
﹁な、なんでもないです﹂
﹁嘘つけ。絶対見てたぞ﹂
﹁⋮⋮えっ⋮⋮と、その⋮⋮どうでした、か
﹁⋮⋮感想を聞くな﹂
﹂
﹁だって、気になります⋮⋮お姉ちゃんとどっちが良かったですか
己嫌悪に陥るからちょっと待ってくれ﹂
﹁え、いえ、その⋮⋮じゃあ、私の身体気持ちよかったですか
﹁気持ちよかったに決まってんだろ⋮⋮﹂
理性がボディブローで沈む程には。
﹁⋮⋮誰も、入ってきませんでしたね﹂
?
﹂
﹂
﹁よかったぁ、他のみんなに見られたらどうしようとかちょっと思っ
﹁そういやそうだな⋮⋮﹂
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮改めて考えりゃとんでもねぇことしでかしているという自
?
?
﹁ひゃう
おっぱい触らないでくださいよ
﹂
エヌラスさんのエッチィ⋮⋮﹂
!
た。
521
てたんですよ﹂
﹂
﹂
全然ないですから
﹁つまりネプギアは露出性癖が﹂
﹁ないです
﹁ないのか⋮⋮
﹁⋮⋮ないです、よ
!
そうは言いながらも、ネプギアはエヌラスに再び身体を預けてい
﹁も、も∼
﹁ふむ、これはまた中々⋮⋮﹂
!?
﹁そう言われるとなぁ⋮⋮やりたくなっちまうな﹂
?
?
!
!
episode82 懲りぬ尽きぬは男の性
││エヌラスとネプギアが入浴する少し前。
ネプテューヌが思い出したように取り出したのはアーウィルから
譲り受けた黄金の蜂蜜酒。受け取ったはいいものの、濃度の高い小瓶
は全部エヌラスが持って行ってしまった。揺らして見れば、透き通る
ような黄金色の液体が中で跳ねる。それがただの輝きだけではなく
魔術的な発光も見せていることにネプテューヌはノワールに渡した。
栄養ドリンクみたいなものだろうし﹂
﹁そういえばコレ、飲んでも大丈夫なのかしら⋮⋮﹂
﹁んー、大丈夫なんじゃない
﹁でもぉ∼、あたしも気になってたんだぁ。どんな味なのかな∼って﹂
元気一発ぐらい
﹁じゃあ飲んでみよっか。鬼のいぬ間に何とやらって言うし﹂
その鬼がエヌラスであるとは敢えて言うまい。
﹁じゃあ一口だけ⋮⋮﹂
﹂
!
なってしまった。サイズにしておよそ100mlに及ばない少量な
なんかもう色々見えちゃって∼﹂
がら、その効果はすぐに表れる。
﹁わ∼⋮⋮コレすごいよぉ∼
﹁⋮⋮コレ、持って帰れないかなぁ∼﹂
とだったし、意識すれば透視も出来た。
〝視界を切り替える〟という事すら今のプルルートには容易なこ
切れると一時的な倦怠感と脱力感に襲われるというリスクも背負う。
リアになって眠気も吹っ飛ぶ、がしかし。それは副作用として効果が
色もまた霊的物質すら捉えられるほど鮮明に変わっていた。脳がク
る。プルルートの頭は今までにないほど冴えており、その目に映る景
常用者ではない限り、低濃度の市販用でも酷似した効能は得られ
?
522
?
﹁そう言わずにさー、グイッといこうよノワール
の勢いで
﹁ぐび∼﹂
!?
何の躊躇もなく開けた中身を飲み干すプルルートだが、すぐに空に
﹁プルルート
﹂
﹁そんな無謀な真似││﹂
!
﹁駄目よ。一応合法ってことにはなってるけども、本来は違法ドラッ
最重要特級魔術的違法薬物だってエヌラス言ってた
グなんだから﹂
﹂
﹁違うよぉ∼
よ∼
﹁ぶほっ││
﹂
飲みかけていたノワールがむせている。だが、それでも残りを飲も
うとして││。
ゲッホゲホゲホ
﹂
﹁でもこれ、オシッコみたいな色してるよね﹂
﹁ゴフッ、ゲホッゲホッ
ませんからね﹂
﹁ゼリー飲料⋮⋮
﹂
﹂
﹁礼には及びません。従者たるもの、客人のケアも怠るわけにもいき
﹁ありがとー、スピカ﹂
蜂蜜酒を服用後の効果を鎮める軽い栄養剤を持っている。
カが﹁失礼します﹂と一言断ってから入ってきた。その手には黄金の
と脱力感に襲われてグッタリとソファーに身体を沈めていると、スピ
ていたが、それも一時間と待たずにすぐに切れてしまう。軽い倦怠感
とはいえ、それでもなんとか飲み干した。二人もその効果には驚い
﹁話聞いてないでしょ⋮⋮﹂
ないかな⋮⋮﹂
﹁んー、飲みくちとしてはスッキリ爽やかなんだけどちょっと物足り
﹁ネプテューヌわざと
﹂
! !?
グイッと
!
﹁まぁいいや、いただきまーす
絶対わざとでしょ
!
!
!?
れた魂の縮退効果によるものですから﹂
?
﹁その通りでございます。ああ、ご安心を。こちらはミードと違って
﹁人じゃなくなってしまう││﹂
用も効果が大きくなり﹂
﹁はい。ですが、その効果に取り憑かれて常用している人ですと副作
﹁じゃあ、実際は身体に何の不調もないってこと
﹂
用した後の倦怠感、脱力感は霊的物質によって半ば無理矢理活性化さ
﹁はい。精神活力剤として常備しております。特に黄金の蜂蜜酒を服
?
523
?
!?
?
﹂
完全に合法化されているものですから、ユノスダスでも輸入と販売の
許可が出ている、といえば信頼していただけますか
戻ってきた。
!
⋮⋮﹂
﹁精神活力剤、てーの
﹁ふむ。呪術薬物の類は
﹂
﹁もちろん、特別製の物をご用意してあります。こちらですわ﹂
﹁ああ、それか。俺にも一つくれるか
全身だるい﹂
スピカから貰ったんだけど﹂
﹁風呂だよ。魔術回路の調整するのに。ていうかお前ら何飲んでんだ
﹁あ、エヌラス。いないと思ったら何処行ってたのさー
﹂
け取り、三人がそれを飲んでいると湯上がりのエヌラスとネプギアが
あのユウコが認めた精神活力剤、と言うのなら疑う余地はない。受
?
﹁ネプギアー﹂
﹁な、なにかな
ちゃったもんねー﹂
﹂
﹁うんうんそっかー。昨日私達、寝室に備え付けのシャワーで済ませ
﹁そ、それはもう凄かったよ﹂
﹁お風呂、どうだった
﹂
お姉ちゃん﹂
呂に入っていたという事実は火を見るより明らかである。
湯船に浸かってきたという理由だけではない。然しながら、二人が風
ネプギアは黄金の蜂蜜酒を見て、顔を赤らめていた。それは決して
器をスピカに渡す。
スポーツドリンクのように一気に喉に流し込み、エヌラスは空の容
﹁感謝の極み﹂
﹁パーフェクトだ、スピカ﹂
﹁まさかそのような。勿論、ええ〝奪って〟きましたわ﹂
﹁分けてもらったのか
のハナアルキが調合した供物からエキスを多少ながら﹂
﹁ニグラスの粉薬を少々。それとショゴスの体液を適量。加えて野生
?
﹁つ、疲れてたから⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ネプギア﹂
524
?
?
?
?
?
﹁な、なぁに。お姉ちゃん
﹂
﹁エヌラスと、お風呂、どうだった
﹁えと⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
らネプギアの次の一言を待っていた。
〝こ、ここは悪く言っちゃダメだよね⋮⋮〟
﹂
﹁えっと、それは、もちろん﹂
﹁うんうん、もろちん
﹂
まだお仕置きされ足りなかったかなぁ
﹁⋮⋮凄かった、かな⋮⋮﹂
﹁エ∼ヌ∼ラ∼ス∼
﹂
﹁もうむしろお腹いっぱいで満足でございましたぁぁぁぁ
﹁あ、逃げた﹂
﹁││あたしから逃げられると思ってんのかしら
﹁あ、変身した⋮⋮﹂
﹂
横目で盗み見たエヌラスが顔を背けて冷や汗ダラッダラ流しなが
﹁え、えっとあの⋮⋮そのぉ⋮⋮﹂
﹁ああ、まさかネプギアが私に隠し事だなんて⋮⋮﹂
?
?
ヴォーウルフ
手を挙げると、それはすぐに止まった。
﹁よ、人狼局のオッサン﹂
感心しないね﹂
くたびれたスーツに、くわえタバコのタクシー運転手にエヌラスが
﹁書類に追われてるか、刑務所の手配で忙しいんだろ﹂
﹁機動隊とか、自治体とか何してんのかしら﹂
ひったくり恐喝の三拍子まとめて警察のお世話になっている。
珍騒動は今日も止むことを知らない。交通事故など日常茶飯事、強盗
予定通り、アヅール洞窟へと向かっている道中で九龍アマルガムの
想像に易かった。
らっていたということから相当酷いものであるとネプテューヌ達は
のエヌラスが死んだ顔をしながら黄金の蜂蜜酒と活力剤をかっ食
まで続いた。その後どのようなお仕置きが繰り広げられたかは、翌朝
変身したプルルート=アイリスハートとエヌラスの逃走劇は、深夜
?
?
﹁なんだお前さんか、美少女連れて観光か
?
525
!?
!!
?
﹁アヅール洞窟まで宝探しでね﹂
﹁またあんな辺鄙な所に、物好きだねアンタも﹂
銀のウルフカット、野性的な鈍い輝きを見せる金の瞳はどこか神秘
性すら感じさせる。何より身体から放たれているオーラが年齢の衰
えを感じさせないどころか、生気に満ちていた。タクシーの運転手に
あるまじき態度で﹁ふん﹂と鼻を鳴らすと、助手席に投げていた新聞
紙をエヌラスに渡す。それに目を通すと、﹃九龍アマルガム自治体自
﹂
慢の二輪駆動装甲兵器奪取される。犯人は不明﹄と見出しが大きく
載っていた。
﹁⋮⋮なぁ、これの型番は
ぜ⋮⋮﹂
﹁両方だよ﹂
﹁これ、どっち
﹂
ており、その周囲に二脚のロボットが集まっている。
二輪の装甲車、とでも言えばいいだろうか。そんな画像が掲載され
る。
ネプテューヌ達も新聞に目を通すと、参考画像を見て首を傾げてい
﹁そっくりそのまま返す。またな﹂
に気をつけて﹂
混沌としたこの街で仕事なんてやってらんねぇよ、んじゃあな。事故
こうの領分、俺達は俺達の領分で仕事するだけだ。そうでもなけりゃ
﹁声掛けるわけにはいかねぇだろ、あんなトンデモ集団。向こうは向
﹁アサイラムに救援は
﹂
﹁それでウチにもお声が掛かったってわけさ。まったく冗談じゃねぇ
﹁冗談じゃねぇ⋮⋮〝悪魔憑き〟専門対策の機体じゃねぇか⋮⋮﹂
﹁下に載ってる。﹃X│AT 聖騎士﹄だそうだ﹂
?
﹁だから、二輪駆動の装甲兵器。他にもいくらかあるんだが、量産型の
ソイツかー。手間取るだろうなー足つけるのに﹂
ゴミ箱に突き刺した新聞紙をホームレスと思わしき男性がすぐさ
ま拾い上げて目を通しながら持ち去っていく。置き去りにされた新
526
?
﹁言われてみれば、似通ってるっていうか共通点ありますね⋮⋮﹂
?
聞紙がこうして持ち主を転々と変えるのは珍しくもない。
ちょうど話をしていると、まったく同タイプの車両が通過していっ
た。エンブレムに〝絆〟と書かれていたような気がするが多分見間
﹂
違いだろう。
﹁⋮⋮今の
﹂
﹁ああ、今の車両だ。まぁ街のゴタゴタは無視して行くぞ﹂
﹁破壊ロボが出たら∼
﹁消し飛ばす﹂
即答だった。
﹁ど、どうなの
﹂
てるな。とはいえそれ以外の損傷は無し、と⋮⋮﹂
﹁骨は綺麗に残ってる。衣類も⋮⋮ボロ雑巾なのは、こりゃ相当経っ
が白骨死体を足で転がしながら死因を探っていた。
発している。引きつった笑みで固まるノワール達をよそに、エヌラス
と周辺に転がる白骨死体や採掘道具を見て早速第六感が危険信号を
ヅール洞窟に到着したものの、その洞窟から流れ出てくる瘴気と悪臭
││街のトラブルには巻き込まれそうになりながらも無視して、ア
?
私そんな死に方絶対嫌だからね
﹂
﹁アナタさらっと言っているけどそれって結構残酷な死に方だからね
われたかなんかだ﹂
てとこだろうな。骨はともかくとして他の部分は湧いた虫にでも食
﹁うむ。察するに││魔導生命体に全身の体液吸い取られて死んだっ
?
!?
洞窟の中に一歩踏み入れば、まさに魔窟と呼ぶに相応しい雰囲気で
迎えてくれる。
結晶に、屍体に、魔導生命体の昆虫達。踏み慣らされた道を歩きな
がら、足元を照らしてくれる魔術結晶の灯りを目印に進む。
﹂
人間の頭ほどのクワガタを捕まえてネプテューヌが振り回してい
た。
﹁見て見てエヌラスー、デッカクないこれ
!
527
?
﹁アホ言うな、死なせるわけねぇだろ。ほれいくぞー﹂
!?
元気に暮らしてねー
﹁それ、ヒトクイクワガタなんだけどな﹂
﹁じゃーねーばいばーい
﹁投げたらかわいそうだよ、お姉ちゃん﹂
﹂
で顎のハサミを振り上げて、キシャー、と震えている。そして始まる
かったかのように緩慢な動きで地面を這いながら同族と縄張り争い
投 げ 飛 ば さ れ た ヒ ト ク イ ク ワ ガ タ は 結 晶 に ぶ つ か る と 何 事 も な
!
凄惨な生存競争の顛末から目を背けてネプテューヌ達は先に進む。
528
!
episode83 白銀と深紅
陰鬱とした雰囲気に鬱蒼とした空気。湿気が肌に張り付いて不快
感しかない。エヌラスは勝手知ったる自分の庭のように時折足を止
めては突然道を逸れたり、かと思えば立ち止まって考えたりしてい
た。
﹂
﹂
﹂
﹁⋮⋮お前ら﹂
﹁なに
﹁なによ﹂
﹁なんですか
﹁折れるわ
﹂
﹂
アホか 何かあったらどうすんだよ、咄嗟に動けな
﹁その時は守ってくれるんでしょ
!
旅の駄賃だと思って〝諦めたら〟
﹂
返せソレ 作るのスゲェ苦労したんだからな
な身体を生かして簡単に避けた。
スがそれを見て思い出したように手を伸ばすとネプテューヌは小柄
ドヤァ、と言わんばかりに見せる左手薬指のシェアリング。エヌラ
﹁フフン﹂
﹁⋮⋮なんだよニコニコ笑いやがって﹂
﹁ふーん﹂
﹁だからそうするために少し離れろって言ってんだよ﹂
?
!
じゃーん
﹁ん も ー、こ こ ま で 歩 い て き た ん だ か ら も う ち ょ っ と 先 ま で い い
らす。
いていた。何の筋トレメニューだと思いながら引き剥がして首を慣
ワール、コートの裾をネプギアが掴み、ネプテューヌは首にしがみつ
ピッタリとエヌラスにくっつく四人。右腕はプルルート、左腕はノ
﹁くっつき過ぎて歩きにくい﹂
﹁どうかした∼
?
﹁テメ、この⋮⋮
﹂
﹁やーだよー
!
!
529
?
?
いだろ﹂
!
!
!
!
﹂
本気でやる気
﹁││ゼッテェ取り返す
﹁え、ウソ
あーれー
﹂
!
﹁ひゃあぁぁ∼
今こいつしばくから
﹂
お尻ペンペンはやだー
﹂
いいから返しやがれ
﹂
!
る。
﹁ひゃン
﹁脇﹂
エヌラス、どこ触っ﹂
﹁ひゃ、アッハハハハハハ ダメ、そこダメ
私が悪かったから﹂
アヒ、ダメ、エヌラスやめ、てぇ⋮⋮
ごめん悪かった
からぁアッハハハハ
!
﹂
ア
なんかイケない気分になっ
!
白い太ももにノワールとエヌラスが顔を背けた。
﹁うぅ、もうー、イジワルするとやり返しちゃうんだからね
!
﹁なにをー そこまで言うと今からでも││やり返してやろうかし
﹁はん、やってみやがれ﹂
﹂
衣服も乱れ、胸を上下させて頬を赤らめて横たわるネプテューヌの
﹁ハァ、ハァ、ハァ⋮⋮﹂
返し、右手の薬指にはめ直す。
笑いすぎて呼吸を乱すネプテューヌの手からシェアリングを取り
﹁大人しく返せばいいものを﹂
ちゃうからこれ以上はダメェー
⋮⋮はぁー⋮⋮アハハハハッハッハ
﹁アハハハ、ダ、ダメ、笑い死ぬ⋮⋮返すから、ちゃんと返す、からぁ
ほーれ﹂
﹁反 省 し て る の は い い が、ち ゃ ん と 返 さ な い と 止 め な い か ら な ー。
!
!
!
ハハハハッ
!
私弱いから、脇弱い
何を思ったかネプテューヌの上着、パーカーの下に手を潜り込ませ
スが一寸、考えこみ││無防備な脇を見た。
が、手を強く握って身体を丸められては取り戻せない。それにエヌラ
暴れるネプテューヌを捕まえてシェアリングを取り返そうとした
﹁ガキかテメェは
!
﹁ちょっと待ってろプルルート
﹁いいなぁ∼、ねぷちゃん⋮⋮ねー、エヌラスー。あたしも欲しい∼﹂
﹁⋮⋮はたから聞いてたらただのノロケよね﹂
!?
!
!
!
!?
!
!
!
530
!?
!
!
ら
﹂
﹁なんでそんな気軽に変身しちゃうんだよ
﹂
﹁こっちの方がアナタに仕返ししやすいもの。さぁ、覚悟はいい
﹂
?
﹂
!?
バシャバシャバシャバシャ
﹂
││二人は即座に手と足を丁寧に
﹁いや、服以外を溶かす溶解液だ。水で洗っとけよ﹂
服だけを溶かす都合の良い液体
﹁も、もしや⋮⋮これはエロを題材としたRPGとかで定番、お約束の
﹁なにこれ⋮⋮
ワールが転びそうになる。
せて転ぶ。それにノワールがすぐに手を貸して立たせると、今度はノ
ジリジリと詰め寄るネプテューヌ=パープルハートだが、足を滑ら
?
!?
!?
とまたエヌラスにしがみつく。
﹁しかし、どっから流れてんだ
を選ぶ。
﹁迷路は右手法則。ダンジョンはしらみ潰しよ
﹁まぁいいけどよ⋮⋮﹂
﹂
!
荒れた道はまだ整備されていなかったのか、足元を照らしていた魔
﹁何言ってんだ。入り口近くの茂みで朽ち果ててたぞ﹂
﹁立ち入り禁止って看板なかった
さ、行きましょ﹂
ちらを選ぶのか悩んでいると、ネプテューヌ=パープルハートが右側
がどうでもいい。エヌラスは先を急ぐと、道が二手に別れていた。ど
す溶解液の運搬方法はタオルで浸して持って帰るという方法らしい
うよくわからない超常現象が混ざり合って出来上がる服以外を溶か
魔導結晶からにじみ出る天然の溶媒に加え、瘴気とその他なんかも
﹁襲われなくてよかったぜまったく⋮⋮アレ相手すんの面倒なんだ﹂
﹁そうだよねぇ∼﹂
ぽい﹂
﹁さっき馬鹿でかいカミキリムシもいたわよね。なんかやけに甲鉄っ
﹁ヒトクイクワガタとかいますもんね⋮⋮﹂
生息してたっけな﹂
こんなん使うモンスターこの辺に
洗って溶解液を落とした。若干涙目になっている。その後、ぴったり
!
?
?
531
!
導結晶の存在もなくなっていた。エヌラスはそれに、短く詠唱を唱え
ると偃月刀を召喚。剣全体を炎に包んで松明代わりにする。前方に
浮かべてコンパス代わりにしながら更に奥へと進む。
﹂
﹁ねぇ、エヌラス。アナタ結構ズンズン進んじゃってるけれど、道分か
るの
﹁⋮⋮昔、修行の一環で一ヶ月くらい閉じ込められた。一日三回は死
ぬかと思ったな﹂
﹁ホント良く生きてたわね⋮⋮﹂
まず、洞窟全体に漂う瘴気に対する耐性。その次に生息するモンス
ター達の活動範囲と生態系、食料の確保。それからはひたすらに第六
感だけが頼りだった。
﹁エヌラスさん、ちゃんと修行してたんですね⋮⋮それも国王候補生
で﹂
﹂
﹁いや、俺の師匠の面白半分冗談半分で殺されかけた﹂
﹁えぇ
﹁エヌラスって案外ちゃんとした修行積んでたんだ﹂
﹁そうでもなけりゃここまで魔術使いこなせねぇよ。どんだけ術式組
んでると思ってんだ﹂
ふと、偃月刀の炎が揺らめいてエヌラスが足を止める。甲鉄の擦れ
﹂
る音に警戒心が一気に高まった。鎧武者が歩み寄ってくる││。
﹁な、なにコイツら⋮⋮﹂
アナタの庭みたいなものでしょ
?
﹁知るか﹂
﹁知るかって
変化してておかしくねぇんだよ
来るぞ
﹂
!
エヌラス、これって⋮⋮﹂
?
﹁生体甲冑の一種だな。まったく誰だよ、エーテルの類を捨てたバカ
リビングアーマー
﹁中身がカラッポ
鎧武者の中身は空洞だった。
追撃で首と胴体を切り払う。ガラガラと無数の破片となって崩れた
エヌラスは蹴り返した。そこにノワールとネプテューヌがすかさず
太刀を引き抜き、中段に構える鎧武者の攻撃を偃月刀で受け止めて
!
﹁いや、そうなんだが⋮⋮何年前だと思ってる。俺がいない間に環境
!
532
?
!?
は﹂
だが、更に奥から何体もの鎧武者達が押し寄せてくる。緩慢な動き
ながらもその物量は通路を埋め尽くしており、進路を塞がれていた。
エヌラスの感覚がその最奥部に潜む馴染みある感触を捉える。どう
やら地獄で鍛えげられた第六感に間違いはなかったようだ。
﹂
﹁この奥に間違いないみたいだな。さっさと突破するぞ﹂
﹂
﹁ええそうね。行くわよ
﹁アクセス
!
﹂
!
ちを着く。
﹂
﹁いたっ、ちょっと何すんのよ
﹁こっちのセリフだ
﹂
ハリのある弾力にぶつかり、ちょっと気持ちいいとか思いながら尻も
ラ ス は ノ ワ ー ル = ブ ラ ッ ク ハ ー ト の 臀 部 に 顔 を 思 い 切 り ぶ つ け た。
の糸に絡め取られてあられもない姿を晒す。突然動きが止まり、エヌ
眉を寄せた直後、目の前でネプテューヌ=パープルハート達が蜘蛛
﹁
つも編まれていた。
は駆け出す。顔に掛かる感触を拭い、天井を見上げると││銀糸が幾
変身して一気に蹴散らしていくネプテューヌ達に続いてエヌラス
!
襲われる。
﹂
黒い髪に、白いワンピース姿の少女││それを見て、激しい頭痛に
進しようとした矢先に、横道で一人の少女を見つけた。
蜘蛛の糸から抜けだしたネプテューヌ=パープルハートが再び前
達を一気に凍りつかせて粉砕していく。
とも区別の付かない形をしていた。極冷温の波動が進路上の鎧武者
それは〝螺旋砲塔〟神銃形態の片割れとでも言うべきか、杖とも砲
﹁イタカ、神銃形態
う翼竜の紋章が浮かび上がる。
変神した。左手に回転式拳銃を召喚すると、手の甲に凍てつく風を纏
の糸を焼き切ると更に奥から溢れ出てくる邪悪な気配にエヌラスは
背後から迫る鎧武者を再び蹴り飛ばし、ノワール達を捕らえた蜘蛛
!
!
533
?
あそこに﹂
﹂
寝ぼけたこと││﹂
﹁こんなところに、少女
る。
!
!
鋳潰して、仏像にしてやる
﹂
﹂
だったらテメェに用
蛛は巣に掛かった獲物を見て、何もしなかった。ただジッと待ってい
銀の鎧武者。そして、もう一匹。ネプテューヌ達を捕らえた深紅の蜘
甲鉄鋼殻虫と呼ばれる魔導生命体が二匹。エヌラスの前に立つ白
追いかけ回してくれたっけなぁ﹂
﹁││やっぱりテメェらか。忘れもしねぇぞ修行時代。散々人のこと
る。無手で構える姿に偃月刀を向けて、もう一匹の気配を辿った。
て崩れ落ちたかと思った瞬間、それは白い鎧武者となって再構築され
ネプテューヌ達が見ている前で、白銀の女王蟻が無数の破片となっ
﹁││コイツ、まさか﹂
に走る波紋に見覚えがあった。
し、銃弾は見えない壁に阻まれて地面に落ちた。エヌラスはその空間
きてエヌラスが吹き飛ばされた。すかさず着地して、反撃する。しか
白銀の女王蟻。それも人間大サイズのそれが蜂のように突進して
きを封じられて、エヌラスが助けようとして││悪寒が走る。
鬱陶しそうにしていると、今度は蜘蛛の巣に掴まった。瞬く間に身動
徐々に増えつつある蜘蛛の糸にネプテューヌ=パープルハート達が
エ ヌ ラ ス の 言 う 通 り、先 に 進 む し か 道 は な く な っ て い る。だ が、
退路が塞がれつつある﹂
﹁幻覚を見せて人間に取り憑く悪魔みてぇな生物だよ。先を急ぐぞ、
﹁ええ⋮⋮でも、一体なんだったのかしら﹂
封鎖しとかねぇと⋮⋮大丈夫か、ネプテューヌ﹂
﹁俺が修行に使った頃より、環境汚染が酷いらしい。近いうちにでも
塊││エヌラスは自動式拳銃を呼び出すと通路ごと焼き払った。
顔をしかめるエヌラスやノワール達の目に映るのは、醜悪な蠢く肉
﹁⋮⋮ネプテューヌ。お前⋮⋮〝あれ〟が少女に見えてるのか
﹁本当よ
﹁あん
?
﹁俺の能力持ってんのは、そっちの赤い方か
はねぇんだよ女王蟻
!
534
?
!
?
episode84 魔窟
││甲鉄鋼殻虫。名の如く、甲鉄の肌を持つ昆虫である。その生態
は凶暴にして凶悪ながら、天然の甲鉄を持つことから鉄鋼業者にとっ
て貴重な資源とされていた。だが捕獲の際には文字通り命懸け。〝
喰う〟か〝喰われる〟かの生存競争に投じることとなる。
﹃いいかエヌラス。所詮は虫だ、その生態は多種多様。だが確かに文
明の利器の一つ。ともすれば││この通りだ﹄
﹄
﹃いや、掌に作ったブラックホールに消えた奴がいる時点で常識の範
疇外﹄
﹃何言ってんだ。要は〝ぶっ壊せる〟って事が大事なんだぞ
﹃俺の理解の外で話すのやめてくれねぇかな師匠⋮⋮﹄
その頂点に立つ甲鉄鋼殻虫││白銀と深紅の昆虫がいるとは聞い
ていたが、まさかこんな形で死合う形になるとは思わなかった。二本
角を持つ漆黒の大甲虫も存在したらしいが、大魔導師はそれを鋳潰し
て野太刀と日本刀として新たに鍛え上げ、それは今、エヌラスの手元
に残っている。
偃月刀と白銀の手刀が甲高い金属音を奏で、その感覚に舌打ちし
た。甲 鉄 表 面 に ビ ッ シ リ と 並 ぶ 術 式 は 大 魔 導 師 の 重 力 結 界 に 及 ぶ。
術式が脈動して掴み取れず、解除するには力づくということになる。
自動式拳銃と回転式拳銃の二挺を召喚して乱射すると、表面装甲を
流れるように軌道を逸らされて一気に距離を詰めてくる。重力を無
視した動きにエヌラスはゾッとした。
〝確か、師匠の話じゃ重力結界を平然と凌いだってことだが⋮⋮な
んつう天然危険物だよ〟
偃月刀を投げ放つと、人差し指と中指で挟み込んで受け止められ
る。それをまじまじと観察すると、溶けた飴のように〝グニャリ〟と
折り曲げられて捨てられた。エヌラスの頬が引きつった笑みを浮か
べる。
﹁俺の師匠みてぇなことしやがって⋮⋮﹂
││もっとも、大魔導師は触れてすらいない状態でアルミ缶のよう
535
?
に潰してゴミ箱に捨てたが。
捕まっていたパープルハート達がどうにか抜け出そうともがけば
もう、これ、どうにか⋮⋮
﹂
もがくほど蜘蛛の糸は絡み、身動きが封じられていく。
﹁んっ⋮⋮
﹂
﹂
!
せませんか
﹁ハァ、無理に決まってるでしょ
﹂
これで││精一杯よ
﹁ちょっと危険ですけど⋮⋮ノワールさん、そこからどうにか身を離
る。力でどうにかなるような素材ではないようだ。
腕に力を入れて引き離そうとするが、高い粘着力に再び引き戻され
!
﹁へぇ、四人相手にやるつもり
いい度胸、ねッ
﹂
の前に立ちはだかる。その手には打刀が握られていた。
かるとすぐに無数の破片となって散らばり、赤い鎧武者となって四人
付いてジッと動かない深紅の蜘蛛に向けてパープルハートが斬りか
力を加えて引き剥がし、どうにか蜘蛛の巣から脱出する。天井に張り
を掠めるかどうかのラインに綻びが生じた。緩んだ隙に一気呵成に
ハートがギョッとする。出力は抑えてあるのか、ブラックハートの肩
徐 々 に 桜 色 の 光 が 充 填 さ れ て い く M.P.B.L を 見 て パ ー プ ル
﹁ネプギア、貴方どうするつもり
? !?
!
た、と言葉は続かなかった。かざした掌に紫電が奔り、二人の身体
﹁もらっ││﹂
背後からパープルハートとブラックハートが迫る。
取った。
胸を逸らして避けようとしたのだろうが、切っ先が薄く表面を削り
うにネプギアが攻撃を防ぐと、返し刃で胸部を逆袈裟に斬り上げる。
れた鋼糸で逆に手繰り寄せられて体勢を崩す。それをカバーするよ
が手元を巧みに操って足元を掬いあげた。だが、その手首から飛ばさ
蛇腹剣で打刀と衝突する直前に鞭へ変形させると、アイリスハート
﹁へぇ、剣の腕は上々みたいね。それじゃ、こういうのはどうかしら﹂
てすり抜けた背中を蹴り飛ばす。
される。続けざまにパープルハートが剣を振ると、大きく身体を沈め
ノワールが大剣を振り下ろすと、切っ先を横から打ち付けられて躱
?
536
!
?
﹂
が受け止められた。そこから弾き飛ばされて壁に激突する。
﹁⋮⋮今のは﹂
コイル
﹁エヌラスの〝電導〟と、同じ⋮⋮
﹂
された。まるで磁力の壁にでも阻まれたように。
!
ラス
﹂
﹁みんなのフォローばかりであたし活躍できないじゃない。ねぇエヌ
止められた。
中では躱すことも出来ず、パープルシスターがアイリスハートに受け
の腹から熱気が噴射されて赤い鎧武者が突進してくる。狭い通路の
やはりこれも打刀で難なく捌かれてしまった。背負った大きな蜘蛛
M.P.B.Lを射撃モードに切り替えて連射する。だがしかし、
﹁普通に攻めるだけじゃ突破できそうにないですね⋮⋮それなら
﹂
セイバーで赤い鎧武者の打刀と火花を散らす。だが、すぐに弾き飛ば
アイリスハートが素早く糸を断ち切り、パープルシスターがビーム
﹁まったくもう││世話が焼けるわね、ノワールちゃんは﹂
﹁しまった
鋼糸に捕まった。
鎧武者に妨害される。そちらに気を取られた隙に、ブラックハートが
剣筋を見切ってから手堅く反撃に移ろうとして背後から接近する
わよ﹂
﹁ええ。エヌラスの能力を持っているからには、気を引き締めていく
﹁思ったより手こずりそうね⋮⋮﹂
いが、悪鬼のような笑みを浮かべていた。
その顔は、笑っている││装甲の表面がそう見えるからかもしれな
者が妖しく照らされた。
周囲に生える鉱石が電流の余波を浴びて綺羅綺羅と輝き、赤い鎧武
?
で鎧武者の群れに叩き戻されている。かと思えば偃月刀を多重召喚
して蹴散らし、それを白銀の鎧武者に投げつけた。その全てが徒手空
今 そ れ ど こ ろ じ ゃ ね ぇ ん だ よ プ ル ル ー ト
拳で砕かれ、逸らされ、一刀も届くことはなく不発に終わる。
﹁な ん だ よ う っ せ ぇ な
!
537
!?
そのエヌラスも右、左、右の正拳突きをまともに食らって吹き飛ん
?
﹂
﹁なによ。人がせっかく声をかけてるのにそんなに怒鳴らなくてもい
邪魔だテメェ
﹂
いじゃない。それに聞こえてるわよ、大声出さなくても﹂
﹁そりゃ悪かったな
!
そこまで言うなら素手で相手してやろうじゃねぇ
﹂
﹁それには同意するわね﹂
!?
﹂
﹂
外にでも出るつもり
﹁場所を変える。ついて来い
﹁どこに行くのよ
﹁こいつら連れて外になんか出れるか
!?
!
する。パープルハート達は飛んで追撃の手を躱し、唯一追ってきたの
鎧武者達の頭を踏み付けて足場にしながらエヌラスは群れを突破
!
﹂
武者を横から蹴り飛ばし、パープルハート達から引き離す。
エヌラスはわざと相手のヒザ蹴りを受けて大きく飛び退くと赤い鎧
飛 行 能 力 も 意 味 が 無 い。地 の 利 も 状 況 も 完 全 に こ ち ら 側 が 不 利 だ。
包囲されている上に、狭い通路の中では変身したネプテューヌ達の
〝⋮⋮場所が悪いな〟
くのは容易いことではない。殴りつけた拳がヒリヒリと痛む。
ち上げて無防備な脇に一撃を叩きこむ。中は空洞だが、その装甲を抜
がって間一髪のところで躱す。髪の毛が数本切り落とされて、肘を打
場所を思い出そうとした眼と鼻の先に、眼球を狙った手刀が目一杯広
が出てきて顔が熱くなった。その時はどこに逃げこんだか⋮⋮その
たコレに本気でビビりながら無我夢中で逃げまわった情けない記憶
修行時代の記憶を引っ張り出せば、明かりもなく暗闇の中で突然現れ
はて、とエヌラスは目の前の白銀の鎧武者と無手で対峙する。││
﹁お前ら揃いも揃って酷くねぇか
﹂
﹁変神前の方がまだ愛嬌あっていいわ﹂
﹁うわー、三下みたいなセリフ吐いてる⋮⋮﹂
か、ぶっ潰してやる
﹁こーのー野郎
と言っているらしい。
散らした。白銀の鎧武者は指を揃えて手招きする。﹁かかって来い﹂
日本刀を振り上げた鎧武者が鉱石に頭を突っ込まれて破片を撒き
!
!
!
!
538
!
は白銀と深紅の鎧武者の二体だけだった。
迷路のような洞窟をエヌラスは迷いなく突き進み、やがて行き止ま
りに当たるとその壁を蹴り壊して奥へと向かう。なんという滅茶苦
茶な⋮⋮そんなパープルハート達の考えを置き去りにして辿り着い
たのは広大な鍾乳洞。ドーム状に広がる空間へ飛び降りたエヌラス
が周囲を見渡して、修行時代と何一つ変わりない事に安堵するのも束
の間、白銀の鎧武者の踵落としを避けた。
﹁こんな場所があったのね﹂
﹁⋮⋮なに、ここ﹂
人骨やら屍体やら魔導結晶やら虫やらが朽ち果てている。よく見
れば、焚き火の跡や寄せ集められている素材の数々が生活の痕跡を残
していた。
修行時代、足を踏み外して偶然見つけた場所である。運良くまだ誰
にも発見されていなかったようだ。
﹁ここなら思う存分やり合えるだろ。仕切り直しだ、かかってきやが
れ﹂
同じように挑発のサインをしてみせると、白銀の鎧武者が構える。
完全に標的にされたらしい。パープルハート達を盗み見れば、赤い鎧
武者と空中戦を繰り広げていた。
ここならば早々邪魔が入ることもあるまい││白銀の鎧武者と拳
を交わしながらエヌラスはその重力障壁とでも言うべきバリアを突
破するべく術式を練り始める。
539
episode85 宣誓。雌雄を決す挑戦状
白銀の鎧武者は防御にも攻撃にも重力を使用しているのか、中身が
空洞とは思えぬほどの重い一撃でエヌラスの身体を打つ。軽々と吹
き飛び、口端から血が垂れる。それを拭いながら構え直し、接近して
くる鎧武者の腕を掴むなり背中から地面に叩きつけた。損害なし。
振り上げた足を防ぐと両腕が衝撃で痺れる。
﹁ったく、どういう装甲してやがんだ⋮⋮﹂
毒づきながら血痰を吐き捨て、ブラッドソウルはアクセル・ストラ
イクで踵落としを相殺した。周囲に紫電が弾け飛び、閃光に包まれ
る。その〝返し〟の足を振り上げて二連撃││奇しくも相手と同じ
行動に再び二人は大きく距離を離した。
跳躍しながら日本刀と撃鉄の付いた鞘を召喚して納刀しながら着
レールガン
地する。
ただの昆虫のくせに生意気な
﹂
シドーのそれに近い。右肩に担いだ打刀を下方に向けて打ち下ろす。
﹂
重力と加速によって増した一撃はパープルハートの長剣を弾き、その
﹂
まま斬り抜けた。
﹁くっ││
﹁お姉ちゃん、大丈夫
﹁ええ。とはいっても、そう何度も受けていいような攻撃じゃないわ
!?
!
540
﹁〝超電磁〟抜刀術・壱式﹂
迅雷を放つ、が既にそこに白銀の姿は無かった。先を読まれた││
そう気づいた頃には既に遅く、肩に全身を使った重力を纏わせた踵落
としが叩きつけられて地面を跳ねる。骨という骨が砕かれたような
〟
衝撃だったが、それに既視感を覚えていた。
〝こいつの、攻撃は││そう、か⋮⋮
﹁もう
予想以上の剣術にブラックハートが歯噛みした。
赤い鎧武者とパープルハート達の戦闘は激化の一途を辿っている。
どうして気づかなかったのだろう。大魔導師の重力結界と同じだ。
!
!
基本に忠実。というよりは勝ち気に早らない落ち着いた剣筋はブ
!
ね⋮⋮みんな、アレに上を取られると厄介よ
背中の噴射装置を破壊した。
﹂
﹁これでもう飛行能力は失ったはず⋮⋮
﹁じゃあ後は、叩きつけるだけね
﹂
﹂
払う。磁力の壁で防がれる││だがその背後。パープルシスターが
そこに、横合いからブラックハートが両手で大剣を振り上げて薙ぎ
絡み付かせて引き寄せると大きく足が止まった。
り下ろす。それは上手く受け流されたが、振り返り様に足に蛇腹剣を
上昇しようとする赤い鎧武者の前にアイリスハートが立ち、剣を振
能力を持っているのならば、取り返さなくては。
としても、精々が二発。だが、負けるわけにはいかない。エヌラスの
プロセッサユニットの損傷は決して軽いものではない。受けれた
!
瞬間には直線上のアイリスハートとブラックハートが電流の剣戟に
打刀を右肩に担ぐと紫電が奔る││その構えに既視感を覚え、次の
けられる。だが、まだ動けるのかぎこちないながらも立ち上がった。
全身を使って振り下ろすと、地面に土煙が上がるほど勢い良く叩きつ
者を更にパープルハートが追い打ちと言わんばかりに長剣を担いで
アイリスハートの手に引き寄せられながら墜落していく赤い鎧武
!
ヱンドゲィム
よって壁に激突し、墜落していく。その一撃はまさしく、エヌラスの
ぷるるん
﹂
大丈夫
﹂
!?
寸でのところで回避に成功して直撃は免れたものの、電撃による麻
痺状態で身動きが取れなくなっている。なんとか戦線に復帰しよう
と身体を起こそうとしても腕に力が入らない。二人が回復するまで
の間、パープルハートとパープルシスターは赤い鎧武者に休みなく攻
撃を加えた。だが、剣の腕は二人とほぼ互角かそれ以上。その剣閃に
﹂
!
は僅かながら電撃の尾を引いている。
下手に受けるとビリビリよ
!
今は私達で時間を稼がないと⋮⋮﹂
﹁ネプギア、気をつけて
﹁うん、分かってる
!
541
!
超電磁砲抜刀術・零式〝 終 焉 〟だった。
﹁ノワール
﹁なん、とかね⋮⋮
!
﹁あたし、痛めつける方が好きなのよね⋮⋮﹂
!
!
ブラッドソウルは白銀の鎧武者と交互に拳を交わし、今度は押し負
けた。純粋な技量の差に歯噛みするも、その顔は笑っている。位置取
りは完璧だ。立ち回りも、多少ながら犠牲を払うことにはなったが完
璧に近い。
白銀の鎧武者が踵落としを放つ││それを待っていた。
両足に紫電を纏わせてアクセル・インパクトを叩きつけ、その場か
ら大きく吹き飛ぶ先にいるのは赤い鎧武者。
〝紫電〟鬼哭掌をまともに受けて、哀れにも一瞬だけ機能が停止す
る。その胸部装甲の亀裂に向けて貫手を突き刺し、空洞の腹から紫電
を封じ込めた宝玉を抜き取って蹴り飛ばした。
﹂
返してもらった
覚悟はいいかぁ
﹁ハン、最初っから俺はコイツが狙いだったんだ
らもうテメェらに用はねぇんだよ
﹁うわぁ⋮⋮言っていることがまんま悪役だわ﹂
﹁うぅ⋮⋮やっぱりちょっと怖い⋮⋮﹂
﹁ふむ⋮⋮良し
﹂
チを〝慣らし〟に放った。
そして、神性の炎を刀身に装飾││即興とは言えプラズマのカマイタ
魔力、呪力が込められている。 霊 子を纏う電撃が日本刀を召喚する。
アヱテュル
パリッ││今までとは毛色の違う紫電が走る。そこには明らかな
潰す。
白銀の鎧武者が赤い鎧武者を受け止め、その隙に両手で宝玉を握り
!?
!
﹁ああ、多分長いことアイツの身体にあったからかもしれん﹂
言うなり、カマイタチを防いだ白銀の鎧武者の顔に浴びせたのは赤
﹂
い鎧武者が放っていた鋼糸の束、蜘蛛の糸だった。そのまま力任せに
地面に叩きつける。
﹁便利だなこれ⋮⋮﹂
ポツリとブラッドソウルが呟いた。
﹁やったわねエヌラス。これで怪人、蜘蛛男よ
!
542
!
手応えに納得して、ブラッドソウルが頷く。
!
なんかオマケ付いてきた﹂
﹁⋮⋮ん
?
﹂
﹁オマケ
?
﹂
﹁何一つとしてやってねぇ
な
﹂
﹁当たり前でしょ﹂
﹁クソが
お前変身しても中身はそのままなんだ
!
いた。
﹂
レールガン
なく両腕が断ち切られる。
!
トゥ
ガ
胴 体 が 薙 が れ て 白 銀 の 鎧 武 者 は 地 面 に 墜 落 す る と 無 数 の 破 片 と
﹁手間取らせるんじゃ、ないわよォッ
﹂
スハートが同時に斬りかかった。装甲はそもそも薄かったのか、呆気
その全身から放たれる威圧感が消失して、ブラックハートとアイリ
アを解除させる。
相手の術式に、強引にねじ込んだ一撃が白銀の鎧武者の纏う重力バリ
光速で放つ居合が超電磁抜刀術ならば、それは〝超電導〟特攻術。
コイルガン
ど赤い鎧武者に放ったものとは違う。五指を広げず、拳を握りしめて
極限まで高めた紫電を掌に集中させて放つ〝紫電〟鬼哭掌は、先ほ
つアクセル・ストライクで自らを発射する。
た。断 鎖 術 式 │ │ 重 力 の 鎖。自 ら を 縛 る 空 間 の 鎖 を 断 つ。全 力 で 放
〝銀鍵守護器官〟の〝電導〟を回す。足元に蜘蛛の紋様が広がっ
コイル
きを止められればそれで良かった。
の全身に電撃が流される。それでも重力バリアは抜けない。一寸、動
五指から広げられるのは蜘蛛の巣。網に掛けられて白銀の鎧武者
だった。
な動きで上空から襲い掛かる││それに、エヌラスは手をかざすだけ
焼け付いた全身が崩れ落ちて、白銀の鎧武者が重力を無視した自在
シスターのM.P.B.L.最大出力で全身が飲み込まれた。
者の顔面が爆ぜる。次いで、パープルハートの長剣で左肩。パープル
た。弾かれる日本刀、空いた左手に握られる深紅の自動型拳銃。鎧武
ク
わけではない。欺瞞の振り下ろし、それに見事に引っかかってくれ
がら相手の方が一枚上手だ││がしかし。生憎と剣の腕を競いたい
八つ当たり気味に赤い鎧武者と刀を打ち鳴らす。剣の腕は残念な
!
﹁〝電磁特攻〟雪風
!
543
!
なって砕け散った。
﹂
ようやく一段落して、アイリスハートが感覚を確かめるようにブ
ラッドソウルの頬をつまむ。そのまま引っ張る。
﹂
﹁⋮⋮なんだよ﹂
﹁痛いかしら
﹁いや、あんまり﹂
﹁まだちょっと痺れてるのよね⋮⋮﹂
﹁感覚確かめるのに俺の頬を引っ張るのはどうかと思うぞ
フン、と鼻を鳴らしてアイリスハートが背を向ける。
﹁痛がってくれないと面白くないわ﹂
﹁んじゃ、さっさと治せよ﹂
﹁治せたら苦労しないわよ﹂
﹁なんにせよ、今は無理すんな﹂
わ し ゃ り と 髪 を 撫 で て エ ヌ ラ ス が 変 神 を 解 除 し た。そ れ に ネ プ
テューヌ達も変身を解き、アヅール洞窟を後にする。
その出入口。ようやく外に出て││アルシュベイトが立っていた。
それに身構えるノワールだったが、何か様子がおかしい。長刀を地面
に突き刺して、柄頭に手を置いたまま動かない。
エヌラスは両腕に組み付いて言い争っていたネプテューヌとプル
ルートを引き離してアルシュベイトの前に歩み出た。
﹁⋮⋮アルシュベイト﹂
︽⋮⋮エヌラス。すまん︾
開口一番、アルシュベイトは謝罪する。
︽すまんな⋮⋮。俺にはもう、時間がないのだ││︾
そこで、ふと。背後から迫る甲冑の音にネプテューヌ達が振り返
る。そこには仕留めたはずの鎧武者がいた。脇に下げた鞘に打刀を
納めようとして││アルシュベイトが動く。
武者上段から叩きつけられる長刀は重力と力任せに打刀を呆気な
くへし折り、そのまま左肩から右脇腹へ抜けて装甲を砕いた。返し刃
の逆袈裟で、赤い鎧武者は首を跳ね飛ばされて膝から崩れ落ちる。歯
544
?
?
牙にも掛けぬ手並みに、その場にいた全員が悪寒に背を震わせた。
︽決着をつけよう︾
﹁⋮⋮﹂
││いつかはこうなると、分かっていたことだ。
︽⋮⋮アゴウで待っている。来ると信じているぞ、エヌラス︾
長刀を背負い、アルシュベイトは振り返ることもなく跳躍ユニット
を吹かしてエヌラス達の下から飛び去っていく。
それは、死刑宣告に等しい宣戦布告だった。
鋼 の 軍 神。護 国 の 鬼 神。最 強 の 守 護 神。ア ル シ ュ ベ イ ト │ │ そ の
決闘が、目前に突きつけられる。
545
第七章 ウォーゲイム
episode86 カウントダウン
││時間が、ないのだ。
アルシュベイトは跳躍ユニットで自らの身体を飛ばしながら、急か
されるように九龍アマルガムを後にした。
││時間がないのだ、エヌラス。
惜 し い と 思 う。夢 の 様 な 時 間 で あ っ た。好 敵 手 と 語 ら い、刃 を 交
え、背を預け、目的を共にして戦う。そして、今。刃を再び交えなけ
ればならない。
││俺にはもう、時間がない⋮⋮。
胸中を駆け抜ける思いは一刻の猶予もなく帰国せねばなるまいと
いう焦燥感。
アルシュベイトは表層に出るなり、アゴウへ進路を向けて全速力で
騎行する。その道中を阻む障害は何一つ無かった。足止めすら叶わ
ず、粉砕されていく。
︽││エヌラス。俺は⋮⋮︾
世界を一つ背負って戦える器ではないのだ。
九龍アマルガムの教会に戻るまでの間、エヌラスは一言も話さな
かった。ネプテューヌ達が騒ぎ、ノワールが振り回され、ネプギアが
巻き込まれても何も喋らなかった。声を掛けられるような空気でも
ない。
教会に辿り着いてからも、エヌラスが放ったのは一言だけだ。
﹁ユノスダスに行くぞ﹂
それだけを告げるなり、スピカとカルネの会釈も冗談も聞き捨てて
部屋に戻る。
﹁⋮⋮エヌラス、大丈夫かな﹂
﹁無理もないわね。アルシュベイトに決闘を挑まれたんだもの﹂
546
﹁でも、無理に行かなくてもよくない
﹁⋮⋮そうだけど﹂
﹁どしたのさノワールまで。脱ぐ
﹂
﹂
﹁脱がないわよ。なんでそこで脱ぐのよ﹂
﹁ここはほら、エヌラスの為に一肌脱いであげたらどうかな
﹁エヌラス、夕食の時間だけど⋮⋮
﹂
の代わりにノワールが来たものの、何とも気まずかった。
夕飯の時間になって部屋の扉をノックしても反応はない。スピカ
エヌラスは嫌というほど理解しているはずだ。
て、愛されている守護神のなんと心強いことか。
は常識の蚊帳の外で生きている、次元の違う生き物なのだと。愛し
プルルートですらアルシュベイトと対面して理解している。アレ
い熱量の魂を持つ輝望の王なのだ。
国を愛し、国に生きる者を愛し、その一つで万物に勝る。途方も無
強の国王だ。
ノワールは知っている。骨身に染みている。あれは、間違いなく最
ネプテューヌとネプギアは、アルシュベイトの実力を知らない。
﹁励ましの言葉なんて思いつかないわよ﹂
﹂
はいかないと思うんだよね。それに、ほら。私達も一緒だよ﹂
﹁う∼ん⋮⋮エヌラスも、今は能力を取り戻してるから以前のように
﹁なに言ってるのよネプテューヌ。そんなの出来るはずないでしょ﹂
?
﹁エヌラス
﹂
〝もしかして、一人で行ったんじゃ
〟
コン、コン││ドアノブに手を掛けてみると、鍵が開いていた。
?
!?
ワールの剣幕に跳ね起きて二挺拳銃を構える。素早く周囲を警戒す
﹂
るが、何事も無かったように深く息を吐いてベッドに倒れこんだ。
﹁⋮⋮なんだよ
ねぇ﹂
﹁こ っ ち の セ リ フ だ。あ ん な 剣 幕 で い き な り 部 屋 に 入 っ て く ん じ ゃ
﹁居たなら返事くらいしなさいよ、ビックリさせないで﹂
?
547
!
?
ドアを開け放つと、エヌラスはベッドに突っ伏して眠っており、ノ
!
﹁てっきりアナタが一人でアゴウに行ったのかと思ったじゃない﹂
﹁行くわけねぇだろ。こっちも疲れてんだ﹂
甲鉄鋼殻虫との戦闘で能力を一つ取り戻したとはいえ、そんなすぐ
に行くはずがない。まずは焦らずに体力と魔力を快復させて、腰を落
ち着けてから決闘に臨む。その予定だ。
ひとまず、エヌラスが居たという安心感で胸を撫で下ろし、ノワー
アルシュベイトに﹂
ルはベッドに腰を下ろす。仰向けで大の字に寝転がる姿を見てから、
ため息を一つ。
﹂
﹁⋮⋮本当に、挑むの
﹁ああ﹂
﹁どうしても
﹁どうあってもだ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
?
﹁え、そんな機能あるの
﹂
もんだからヤバイのなんの﹂
ミッター解除してまで挑んできやがったし、他の機人を操作してくる
﹁暴走状態のアルシュベイトにな。滅茶苦茶強かった。あの野郎、リ
﹁⋮⋮でも、アナタは勝ったんでしょ
﹁だが、逃げるわけにゃいかん。白黒はっきりつけるまではな﹂
をする。
だ。あまりに非効率的で、非合理的な判断にノワールは間の抜けた顔
そう、勝てるはずがない││そう理解していても尚、挑むというの
た。
意外にもアッサリとエヌラスは自らの敗北を戦う前から受け入れ
﹁知ってる﹂
﹁そりゃ、言いたくもなるわよ。勝てるわけないじゃない﹂
﹁何か言いたそうだな、ノワール﹂
?
に、ふわりと漂う柔らかい香りに片目を開けるとノワールが覆いかぶ
当時の状況を思い出すように、エヌラスはまぶたを閉じた。そこ
なけりゃ勝てなかったな﹂
﹁あるんだよ。元々指揮官タイプの機体だ。バルド・ギアと協力して
?
548
?
さっている。その目は、今にも泣き出しそうなほど潤んでいた。
﹁││分からないわ、やっぱり。どうして男って、そうつまんない事に
こだわるのよ﹂
﹁国を守りたい気持ちは分かるな﹂
﹁ええ﹂
﹁どうしても負けたくない相手がいるっていうのは、分かるな﹂
﹁ええ﹂
﹁自分に置き換えて考えてみても、無理か﹂
﹁⋮⋮シェアを武力で奪う時代もあったわ。だけど、今じゃもう考え
られないことよ﹂
命を懸けるほどなの
﹂
﹁全力でぶつかって、全力で競い合って、全力で勝負して。そこに命を
懸ける、それだけだ﹂
﹁だから、それが分からないのよ
ワール﹂
﹁アルシュベイトが強くて、アナタが弱い
それでいいじゃない
!
﹁そうなんだよ。俺とアイツの間柄じゃ、そういうものなんだよ。ノ
!?
﹂
勝てないって分かっていて挑むなんて無謀も無謀よ、ただのバカよ
!
バ
カ
﹂
負って、民の明日を願い、日々の平和を望む、ただの国王なんだよ﹂
﹁⋮⋮自分の師匠を殺して奪った、王の座じゃない﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁アルシュベイトは、国民の総意でそうなったんでしょ
││アゴウの歴史を決めた作戦名﹃桜花﹄において、無謀とも言え
やがて部屋の扉が閉まる音に、エヌラスは深く息を吐き出す。
目を覆うエヌラスに、ノワールは呆れて身体を離した。
い﹂
﹁そうか。んじゃ、悪いが俺の夕飯は抜いといてくれ。疲れの方が強
﹁いいわよ。聞きたくないわ。夕飯が冷めるわ、早く来てよ﹂
国がどうなってるか一度も話してなかったな﹂
﹁⋮⋮アイツも、俺と似たような状態でそうなったんだよ。アイツの
?
549
!
﹁た だ の バ カ だ な。と こ ろ が 俺 も ア イ ツ も、た だ の 国 王 だ。国 を 背
!
るヌルズの巣窟攻略戦は死闘を極めた。エヌラスもそれに九龍アマ
ルガム国王候補生として参加し、アルシュベイトと共に最前線へ赴い
ている。当時の国王は、女性であった。正しく守護女神であった。凛
とした空気に決して折れない剣のような人だった。色恋には無縁で
あり、本人もまた﹃そのように軟派なものに興味はない﹄と一蹴して
いる。だが、エヌラスは知っていた。アルシュベイトと当時のアゴウ
国王である守護女神が恋仲に近しい間柄であったのを。互いに言葉
を告げなくても思惑を理解しあえる程の理解者であった。
しかし、その作戦の佳境でアゴウの守護女神は命を落とし、九死に
一生を得る形でアルシュベイトが帰還。エヌラスもまた、その訃報に
涙した。アレほど良き人もいない、と国民の誰もが膝を折る中││た
だ一人、涙を流さず、膝を折らず立ち上がった男がいる。
声高らかに宣言した。﹃己はアゴウ国王を愛していた﹄と。言葉を
続ける。
俺はアゴウを
俺は、この国に生きるお前たちを愛そ
無尽蔵の絶望に挑み続けた英霊達を、愛そう
し得ない一人の軍人であったが、しかし。いつしか彼は軍神と畏れら
れる。アプリケーションの事件に巻き込まれた時はそれこそダメか
と思った。だが、現実は違った。三人の機人が帰国するなり目覚まし
い活躍を見せて持ち堪えたのだ││トライデント。最強の三叉槍。
アルシュベイトが機人となって、暴走状態に陥った。それでも、彼
は何かに取り憑かれたかのようにアゴウを目指して進撃した。その
道中でクロックサイコ、ムルフェスト、ドラグレイスの三人を相手に
して、そこで変神能力を得たことにより神格者に名を連ねることとな
る。
アゴウに到着したアルシュベイトは、誰一人近寄らせることもな
く、また誰一人国から出ることを許可しなかった。鋼の鬼神、護国の
550
﹃俺は、この国を愛している
う
お前たちの死に場所も墓標も、最前線
アイツが愛したこの国を無限の愛で守り抜くと宣誓
立てよアゴウ国民
愛している
する
﹄
!
!
!
アルシュベイトは、その日。その瞬間から王となった。変神すら成
だ
!
!
!
!
軍神。最強の守護神として君臨した││だが、それが無意識下の暴走
であることをエヌラスは良しとせず、大魔導師が引き止めるのも聞か
ずに挑んだ。
││今にして思えば勝てたのが奇跡としか言いようがない。
それからというもの、アルシュベイトは国内の統治とヌルズの排除
に手を取られて思うように動けていなかった。しかし、不眠不休の身
体を駆使するというのは国王冥利に尽きる。アルシュベイトは喜々
と し て 話 し て い た。﹃国 の 為 に 絶 え ず 身 体 を 動 か せ る の は、こ う も
清々しいものか﹄と。機械の身体で。機械の顔で。電子音声で嬉しそ
うに語る姿が、どうしようもなくバルド・ギアの心を抉った。人の姿
であったなら。人の顔であったなら。貴方は別な生き方があったか
もしれないのに││そして、後を追うようにバルド・ギア⋮⋮琴霧ソ
ラも自らの能力に限界を感じて機人へと。
人であり続ける事すら、彼らには許されなかったのだ。
551
e p i s o d e 8 7 喫 茶 店 で 始 ま る 言 論 ク ロ ス
ファイト
エヌラス達はユノスダスへ一度足を向けた。そこではユウコが相
変わらず忙しそうにバインダー片手に東西奔走、だがネプテューヌ達
﹂
﹂
の姿を見るなり屋根の上から飛び降りてくる。
﹁やっほう
﹁やっほー、ユウコ
﹁なんで飛び降りてくるのよ。ていうか歩道走りなさいよ、車とか﹂
屋根から屋根を飛
﹁うーん、私が走った方が早いんだよね。信号機とかに捕まっちゃう
﹂
﹂
とイライラするし。だから私は基本的に徒歩
び移るのさ
﹁スカート、大丈夫なんですか
!
返済よろしく﹂
﹁それで、今日はどうしたの
あ、そこのバカは今すぐ働いて未払金
れていた。サンキューゴッド。
くていいユノスダスの一面。なお、一部では天を仰ぐレベルで感謝さ
それを見た男達の大半が壁を殴りつけているとはユウコの知らな
﹁大丈夫。今日は下に短パン穿いてるし﹂
?
﹁ハンティングホラー﹂
﹂
﹁あんにゃろうバイクで逃げやがった
こらー
﹂
しかも堂々信号無視してる
!
!
﹁生まれ持った二本の足で走り回れー
﹁言われなくてもそのつもりだっつうの。仕事持ってきてんのか﹂
?
﹂
一つ挟んでネプテューヌ達に向き直る。その浮かない顔に、何か気づ
いた。
﹁⋮⋮なにか、あったの
﹁アルシュベイトに、決闘を挑まれたのよ﹂
?
552
!
!
!
!
怒って見せるユウコだが、その頬が明らかに緩んでいた。咳払いを
!
﹁そっか。んじゃ、アイツからは目を離さないでね。絶対。ユノスダ
スにいる間は私も目を光らせておくけど、逃げるの上手いから。この
際手段は問わないよ﹂
じゃ、と言うなりエヌラスが走り去った方角に向けてユウコが跳ん
でいく。残されたネプテューヌ達も旅の支度でもしようかと思って
商店街まで来て、自分たちの手持ちの金銭に不安を覚えた。
﹁うーん⋮⋮﹂
﹁ちょっと、足りないかもしれませんね﹂
﹁この先が不安になるわね⋮⋮﹂
﹁そうだよねぇ∼⋮⋮﹂
そうなれば、取るべき手段は一つ。郷に入りては郷に従え。
﹁こんにちわー﹂
﹁いらっしゃい││おや、ノワールちゃん﹂
﹂
﹁すいません、マスター。またちょっと、お仕事させていただいてもい
いですか
﹁もちろん。うちは年中人手不足だからね。年寄りには厳しいんだ。
制服なら前と同じロッカーに入れてあるよ﹂
﹁はい、ありがとうございます﹂
ノワールは以前、短い間だが働いた喫茶店へ。
﹁こんにちわー﹂
﹁い ら っ し ゃ い ま せ ー。ネ プ ギ ア ち ゃ ん じ ゃ な い か。ど う し た ん だ
い﹂
﹂
じゃあ早速着替えて入ってもらえるかな。実は一
﹁あの、またバイトさせてもらえないかな、なんて⋮⋮﹂
﹁全然オッケー
よろしくお願いします
人、風邪で休んじゃってて﹂
﹁はい
ネプテューヌとプルルートが歩いていると、メガネを掛けた青年に
らえた。
ネプギアもまた、同じように電気屋へ足を運ぶと快く受け入れても
﹁えと、それでお願いします⋮⋮﹂
!
!
553
?
﹁お給料は日払いでいいかな﹂
!
﹂みたいな顔をすると青年は目頭を押さえて唸っていた。
声を掛けられる。プルルートが首を傾げている横で、ネプテューヌが
﹁誰だっけ
やーゴメンゴメン。ロボットの方が特徴的だ
﹁ほら、ボクです。琴霧ソラですよ﹂
﹁あー、バルド・ギア
から﹂
﹁それで何か用かな
﹂
?
?
﹁ん
ソラじゃねぇか。何してんだ﹂
きた。鼻血を流す男性を容赦なく靴底で踏みつけるのは││。
そう思案にふけるソラの横に、スーツを着込んだ中年男性が転がって
テューヌともう一人。果たして話してしまっていいものなのか⋮⋮
ネ プ ギ ア も エ ヌ ラ ス も 不 在 で、ノ ワ ー ル も い な い と な る と ネ プ
﹁いいけど、どうしたの﹂
﹁違 い ま す。ボクはステラ一筋なので﹂
∼﹂
﹁もしかしてぇ、ナンパかな∼ だったらぁ、お断りなんだけどぉ
﹁えーと、今時間あります
﹂
﹁なんで、こう⋮⋮グサグサと人が気にしてることを⋮⋮﹂
﹁でもホント、モブみたいだよね。人間体の時﹂
﹁無個性なのはもういいです⋮⋮﹂
!
?
﹁未払金の返済の為に悪徳ブローカーとっちめてる。おらさっさと留
置所行くぞオッサン。市中引きずり回しの刑にされたくなけりゃお
となしくしやがれ﹂
コクコクと頷いた中年男性を引き渡し、エヌラスはギルドから渡さ
﹂
れた書類にチェックを入れて次の書類を捲った。
﹁それ、全部ここでの仕事
?
私プリン食べたい
﹂
﹁そうだよ。しかも未払に当てられてほぼタダ働き﹂
ヤッター
!
﹁⋮⋮お茶くらい奢るよ﹂
﹁ホント
!
﹁いや悪いな。三人も﹂
﹁あたしも∼﹂
?
554
?
﹁いや、こっちのセリフなんだけど⋮⋮何してんの﹂
?
﹁なんでこうなるの
レか⋮⋮﹂
﹂
﹁⋮⋮災害がなければか﹂
﹁ああ、そうだね。そうなる﹂
﹁⋮⋮なぁ、ソラ。一つ頼みがある﹂
﹁奇遇だね。ボクもだ﹂
﹁ちょっと死んでくれ﹂
?
﹁ちょっとは動じたらどうなのキミたち
え∼いこの野郎はブラッ
﹁なにしやがんだ。コーヒー持ってきたならテーブルに置けよ﹂
﹁ユウコ、何するんだ﹂
のユウコが腰に手を当ててふんぞり返っていた。
ケーキ。なんて無礼な店員だ、と睨めばそこにはいつものエプロン姿
られた。ポペン、とマヌケな音を立てて載せられるコーヒーとチーズ
完全非戦闘区域で剣呑な会話をする二人の頭にトレイが叩きつけ
﹁同じこと考えてるなんて酷い偶然だと思わない
﹂
﹁良い世界だったよ。とても穏やかで、平和な世界だった﹂
﹁それで、どんな世界だった。向こうのゲイムギョウ界は﹂
スは涼しい顔でコーヒーを追加で注文している。
はネプテューヌ達を驚かせるのに十分なインパクトだったが、エヌラ
とはいえ、それが次元の位相を〝ズラす〟という離れ業であること
﹁順調に拡大中かな。一応手は打っておいたけど﹂
﹁どうだった。被害状況は﹂
たよ﹂
﹁ああ、そうだよ。現地調査に赴いてた。幸いにも移動自体は楽だっ
﹁⋮⋮ネプテューヌ達の世界か﹂
﹁なんかあったの
﹂
﹁はぁ⋮⋮ゲイムギョウ界でも散々な目に遭ったのに、こっちでもコ
だった。
しかも一番遠慮なしに頼んでいるのがネプテューヌというのが尚更
近場のカフェテリアに席を取るなり、ソラの財布が悲鳴を上げる。
!?
!?
クで飲もうとしやがって ミルクと砂糖マシマシにしてやる、だ
!
555
?
ばぁ∼
﹂
﹂
﹁だー、テメェ何しやがる
たのに
﹂
人がせっかくそのまま飲もうと思って
なんで、ボクが⋮⋮﹂
﹁はーいこちら伝票でーす。受け取れやぁー
﹁ほぐぁ
﹂
?
の美味しさでも浮かばなかった。
﹁⋮⋮エヌラス。アルシュベイトとの決闘、本当に受けるつもり
ほんひなのひゃい
取っ組み合いを始めたソラとエヌラスの動きが止まる。
﹁あるふへいととけっほう
?
﹂
郷に従えー
﹂
﹁此処は私の国なの
旅行者だろうが浮浪者だろうが郷に入りては
﹁従う気はないよ、ユウコ﹂
﹁多数決だし﹂
﹁ふざけんな﹂
﹁はい決まり。決闘は無しの方向で﹂
手を挙げたのはエヌラスとソラの二人││。
﹁はい、賛成の人﹂
ユウコ、ネプテューヌ、プルルートの三人が手を挙げる。
﹁はーい突然多数決。反対の人、挙手﹂
﹁当たり前だ﹂
ろう
﹁ふぅ⋮⋮││それで、アルシュベイトと決闘。当然、受けて立つんだ
﹁キミたち仲いいのか悪いのか分かんない⋮⋮﹂
﹁うるへぇ、分かる言葉でしゃへれ﹂
?
﹂
る。和気藹々と和やかな空気が広がるが、ネプテューヌの顔はプリン
キョンシーよろしく、顔面に伝票を叩きつけられてソラがダウンす
!
!?
!
!
!?
!
﹂
?
それに、三人からの冷ややかな視線が突き刺さる。だが、エヌラス
﹁││││⋮⋮﹂
﹁知るか﹂
﹁二度目はあるのかい
﹁二度と来ねぇから心配すんな﹂
!
556
?
は退く気はないのかコーヒーをかき混ぜて渋い顔で飲み始めた。
﹁⋮⋮ボクとしては、エヌラスかアルシュベイト。どちらがリタイア
しても美味しい展開だからね。引き止める理由はないよ﹂
﹁それを堂々と俺の前で言うか、テメェは﹂
﹁陰でコソコソ言わないだけボクの人の良さを理解してくれよ﹂
なんでそ
﹁お人好しなのは知ってる。だからステラと﹁いい人﹂止まりなんだ
よ﹂
﹂
﹁か、彼女とボクの間柄は別に君には関係ない話だろう
こでステラが出てくるんだ
﹁ステラは、お前が死んだら一番悲しむだろ﹂
他を当たればいいのに、どうしてだい
﹂
﹁⋮⋮ ボ ク は 君 が 嫌 い だ、エ ヌ ラ ス。肝 心 な 時 は い つ も ボ ク を 頼 る。
﹁だろうな。だからその時は││頼むぜ、ソラ。どうにかしてくれ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮それなら、彼女達だって同じだ。キミが死んだら悲しむ﹂
!?
﹁ボクは君を執拗に狙ったんだぞ﹂
﹂
﹁だからどうした。それがテメェの作戦だろう
﹂
もー
店員さー
大体テメェの金だ、俺が食っても同じ
チーズケーキ貰ったぁ
マった俺が悪い。はい終了﹂
﹁だけど││﹂
﹁弁解の余地なし
﹁あぁ、それボクのだぞ
﹁うるへぇ、口直しによこせ
﹂
最低野郎だな
!
だろ
﹁ホンットウに君は最低だな
﹂
だったら術中にハ
たコーヒーにエヌラスが﹁うげぇ⋮⋮﹂と呻いていた。
それでも、納得がいかないのかソラは眉を寄せる。甘ったるくなっ
﹁肝心な時に頼れるお人好しがお前だけだからだよ、バルド・ギア﹂
?
文する。
?
﹁今ぐらい許せよ、ネプテューヌ。どうせ死ぬ目に遭うんだ﹂
﹁エヌラス。冗談言ってる場合じゃないって理解してる
﹂
半分涙目になりながらソラは追加でチーズケーキとコーヒーを注
ん、追加いいですかー
!
?
!
!
557
!?
!
!?
!
!
!
﹁だから、決闘すんなって言ってんだろうがバカ
﹂
!
﹁決闘罪でとっ捕まえたかったら警察でも呼ぶこったな、ユウコ。犯
バカ アホ
!
﹁否定するの、そこだけなんだ⋮⋮﹂
変態 ロリ
!
!
﹂
﹁⋮⋮ん
なんかそこまで罵倒したのがボクみたいにされてないか
だって言いたいのか、ソラ﹂
﹁俺は最低でクズでバカでアホで間抜けでトンチンカンで鬼畜で変態
鬼畜
!
罪王をとっ捕まえられる警察を、ユノスダスが持ってんなら話は別だ
クズ
!
がね﹂
﹂
﹁ッ⋮⋮最、低
コン
!
﹁ロリコンじゃねぇってんだろうが殴るぞ﹂
!
ほんとやめろよそういうの
﹂
!
ざ
け
エヌラスの足を奮わせ、歩ませるのはネプテューヌ達だ。たった四
アルシュベイトの双肩にアゴウの明日がかかっているならば。
好敵手の誓い。
せ ん ゆ う
最 強 の 軍 神 に、戦 禍 の 破 壊 神 は 挑 ま な け れ ば な ら な い。そ れ が
われても││どんな結末が待っていようとも。
挑む他にない。受けて立つより他に道はないのだ。どんな手段を使
時間がないと、そう言っていた。ならば退く道理はない。ならば、
イトとの決着は世界の命運より以前に決めていたことだ。
われてもエヌラスも止まるつもりはなかった。なぜなら、アルシュベ
何を言ってもネプテューヌ達は自分を引き止めるだろう。何を言
アと巫山戯ていられる。どうせ言っても聞かないのはお互い様だ。
ふ
かっているからこそ、エヌラスは本来ならば敵対するべきバルド・ギ
る 前 の、穏 や か な 時 間。こ れ が 最 後 に な る か も し れ な い。そ う と 分
今だけは。そう、今だけは││アルシュベイトと真っ向から対峙す
﹁やめろよ
﹁よーし、次のケーキも美味しく頂いてやろう﹂
?
!
人の女神を護り抜く。それだけの為だ。
558
!?
episode88 全てを後に今だけは││
散々喫茶店で腹八分目と言わんばかりに飲み食いして、ソラが店員
から手渡された伝票の金額に目を丸くしてテーブルに突っ伏す。少
なくともその数字は喫茶店という軽食がメインの店で出していい数
字ではなかった。店員もコレには苦笑いしている。
それでも全額、キッチリと支払うソラが恨めしくエヌラス達を見て
美味しかった
﹂
いた。ネプテューヌは口の端についたプリンの食べかすを残して腰
に手を当てる。
﹁ごちになったよー、ソラ
ていた。
﹁ねぇエヌラス。私、もう少し身長小さいほうが良かった
﹁そのままで頼む﹂
﹁よし﹂
﹂
それを見て、何故かユウコは自分の豊満なバストを持ち上げて唸っ
﹁むー⋮⋮﹂
い。
不覚にも心臓の鼓動が跳ね上がった。プルルートからの視線が痛
﹁⋮⋮おう﹂
﹁ぷはー、ゴメンね﹂
りとした熱い唾液に包まれて、すぐに離れる。
指で掬うとエヌラスの手にネプテューヌがしゃぶりついた。ぬる
﹁その前に、お前はプリンついてるぞ。ほれ﹂
!
ても大好きだからぁ∼﹂
何
あ、でもそういえば⋮⋮あぁいや待て
﹁大丈夫だよぉ∼ゆうちゃん。エヌラスはぁ、おっきくてもちいさく
た。
ガッツポーズ。その肩を、ポンポンと叩いたのはプルルートだっ
?
絶対なし
!
﹁そ、そうなんだぁ、へぇ∼
﹂
!
559
!
!
待て何思い出そうとしてんだ私。無し、今のナシ
でもなし
!
﹂
﹁何赤くなってんだユウコ﹂
﹁何でもないなっしー
んだ﹂
﹂
﹁そうなんだ⋮⋮それで
﹂
﹁インタースカイから送られるデータに、こっちの崩壊状況があった
﹁なに
﹁⋮⋮ユウコ﹂
れるお兄さんのようで、どこか微笑ましくもソラは笑っていない。
ルートに拘束されて連れ回される姿はまるで親戚の子供に振り回さ
喫茶店を後にしてからもソラは付いてきた。ネプテューヌとプル
﹁どこぞのマスコットかテメェは﹂
!
﹁⋮⋮彼女の側にいてあげないの
﹂
となんだけれどね⋮⋮それでも、やっぱり辛いな﹂
﹁⋮⋮ステラは、インタースカイから離れられない。分かっているこ
目頭を押さえる。
機械の身体であっても尚、少女一人救うことすら叶わない。ソラは
も実力が出せない状態にある。それがユノスダスにいる理由だった。
スのサーバーに移動中だ。一部の機能が制限されて、今は全力の半分
バー、バルド・ギアの武装データは全てバックアップとしてユノスダ
既 に イ ン タ ー ス カ イ は 崩 壊 に 巻 き 込 ま れ つ つ あ る。メ イ ン サ ー
﹁今の調子で行くなら、七日持つかどうか﹂
﹁そっか││どれぐらいなの﹂
ギョウ界に置き去りだったろうね﹂
同じさ。ステラから教えてもらえなかったら多分、向こうのゲイム
﹁⋮⋮アルシュベイトだけじゃなくて、残り時間が少ないのはボクも
?
そうなると、残るのはドラグレイス。ムルフェスト。クロックサイ
がないかな﹂
﹁ああ。だろうね⋮⋮シェアの優位性が仇となったのは、まぁしょう
⋮⋮﹂
﹁滅ぶのはアゴウとインタースカイ、かぁ⋮⋮一気に傾くだろうなぁ
﹁そうしたいけれど、ステラに怒られてね﹂
?
560
?
コの三人。エヌラスは九龍アマルガムが滅んだところでネプテュー
ヌ達がいる。
﹂
キンジ塔の決戦に臨めるのは、この四人。ユウコもソラも、それは
どうするつもり
理解した。
﹁それで
﹁それが正解かな﹂
﹁じゃあ、どうしろって
黙って見送れって言うの
﹁どこ行くつもり
﹂
﹁ちょっと探し物。それじゃ﹂
そう言って曲がり角に消えて、首を傾げる。探し物
﹂
﹂
﹂じゃねぇよ。お前がそこで突っ立ってるからこっち
﹁何してんだ、ユウコ。置いてくぞ﹂
﹁え
﹂
すればそうするだけ、エヌラスは君達のことを遠ざけるから﹂
﹁彼が無茶でも無理でも何でも、止めるべきじゃないと思うよ。そう
それに口を閉ざし、押し黙るユウコにソラは続ける。
ね。むしろ、ユウコ達が足を引っ張っているくらいだ﹂
﹁ボクはアルシュベイトとエヌラスの決闘を止めるつもりはないから
?
ソラは足を止めて、ユウコに手を振った。
?
ほら早く
が待ちくたびれてんだ﹂
﹁あのな、
﹁え
?
?
?
﹁そうだよー、ユウコ
!
﹁そうまで言ってねぇ
﹂
﹁よっしゃー、そこまで言うならユノスダス国王お墨付きの娯楽施設
きっと、今回みたいに奇跡の連続は起きないから。
〝⋮⋮必ず帰ってきて、エヌラス〟
祈りの空に、ユウコは切に願った。
〝││お願い〟
世界の中で、この祈りを聞き届けてくれるのは神様じゃない。
ユウコは雑念を振り払って、エヌラスに駆け寄った。滅びに向かう
﹁も、もー⋮⋮しょうがないにゃあ⋮⋮﹂
!
561
?
﹁ゆうちゃんも一緒じゃないと∼、エヌラスが嫌だってぇ∼﹂
!
?
?
巡りだ
今夜は寝かさないぞ
﹁おお、何かユウコが燃えてる
﹂
﹂
﹁ふっふーん。私はなんかもう、こう、吹っ切れた
﹂
ここで遊び倒し
﹂
てエヌラスを疲労困憊にして明日の朝は筋肉痛で苦しめてやるの
だぁーフハハハ
﹁じゃあ∼、夜はあたし達の出番だねぇ∼、ねぷちゃん﹂
﹁ぷるるんとタッグマッチ。これはエヌラスも鼻血モノだね
﹂
﹁今すぐハンティングホラーで逃げるぞテメェら⋮⋮﹂
﹁はい、逃がさない
しっかりと抱きしめられた。
﹁ていうか、お前仕事いいのかよ
﹂
﹂
これも仕事だよね
﹁息抜きも大事﹂
﹁うん、うん
﹁息抜きもぉ、お仕事だよぉ∼﹂
﹁お前らが言っても説得力皆無﹂
っていうかユウコちょっと待て、腕
﹂
﹂
からちょっと力緩めろ
﹁ダメ
﹁逃げねぇよ
﹂
逃げるから
﹁試練
腕いてぇ
頼む
﹁よーっし、それならまずユノスダス第一の試練。行ってみよー
!
?
!
そいつのことよろしくね
﹂
!
﹁む、無理ィ。もう歩けない⋮⋮﹂
たが、疲労困憊のネプテューヌとプルルートを見て更に驚く。
玄関でぶっ倒れるエヌラスを見てノワールとネプギアが驚いてい
﹁んじゃ
持ったお土産が入った紙袋を軽々と担ぐ。
以前と同じ宿に五人で集まり、ユウコはそれを見届けてから両手に
ヌラスもネプテューヌもプルルートも予想していなかった││。
それからたっぷり十二時間連続で遊び倒されることになるとはエ
!
﹂
む。その細腕のどこにこんな腕力が隠れているのか、折れそうなほど
ガッチリとネプテューヌを押しのけてユウコがエヌラスと腕を組
!
!
!
!
!
!
!
!
!
562
!
!
!
!
!?
!
﹂
﹁あたしもぉ∼⋮⋮だめぇ∼⋮⋮﹂
﹁何があったの
﹂
﹁遊んできた、みたいですけれど⋮⋮お姉ちゃん、大丈夫
﹁ううん、ダメ﹂
﹁ダメってはっきり言っちゃう
﹂
﹂
﹁指一本動かせないからエヌラス∼私をお風呂に連れてって∼﹂
﹁服着たまま湯船で沈んでろテメェ⋮⋮
ルルートが座り込む。
ぐえぇ⋮⋮
﹂
!
﹁ぐえっ
﹂
なんでぇあたしの時だけ﹁ぐえっ
﹁⋮⋮ねぇ∼エヌラス∼
﹂
﹂なの
グに入るなりソファーへ倒れこんだ。その背中にネプテューヌとプ
エヌラスは男の意地なのかどうにか立ち上がり、フラフラとリビン
!
﹁飛び乗ってきたらそんな声も出るわ⋮⋮
﹂
﹁もぉ∼、えいっ。え∼いっ
﹁ぐぉあああ⋮⋮
!
﹁おっぐぉ
重││﹂
なんですって
?
た。背筋が凍りつく。
﹂
﹁││重、さが、気持ちいいです⋮⋮
﹁あら、そう
!
﹂
!
﹁じゃあマゾ マゾなのね
マゾヒストだったのね
!
﹂
やったわ
!
ね、ぷるるん。これで思う存分イジメることが出来るわよ
!
?
ら、いい笑顔でプルルート=アイリスハートに向き合う。
た抗議の声をあげるが、相手は聞く耳持たずにガッツポーズをしなが
心底残念そうに言うネプテューヌ=パープルハートに呪詛にも似
﹁ロリコンじゃねぇってのは死んでも主張するからなぁぁぁ⋮⋮
﹁ロリコンでマゾって、とうとう手が付けられないわね、エヌラス﹂
?
﹂
二人の手に長剣と蛇腹剣が召喚されてエヌラスの身体に当てられ
﹃重⋮⋮
﹄
が同時に変身して、一際大きい悲鳴があがる。
ぐりごりとエヌラスの身体が悲鳴を上げていた。その背中で二人
!
!
﹂
!
かなぁ∼
?
!?
563
!?
?
?
!
?
?
﹁ねぷちゃんでも、イジメていいのはあたしだけよぉ
﹁ちょっとくらい﹂
﹁そうね⋮⋮じゃんけんで決めましょうか﹂
﹂
?
﹁俺の命運決めるのがジャンケンってのはどうなんだ⋮⋮﹂
﹄
﹂
﹃じゃんけん、ポン
﹁無 視 か よ
﹂
﹃あいこで││﹄
﹁続くんかい
!
﹁交ざる
﹂
﹁借りるも何も、ほとんどネプテューヌ達で独占してるじゃない﹂
﹁じゃあノワール、ネプギア。ちょっとエヌラス借りるわね﹂
られてエヌラスが引きずられていく。
言うなり、右手をパープルハート。左手をアイリスハートに捕まえ
﹁なんか恐ろしい会話が成立してないかお前ら⋮⋮﹂
﹁それなら公平ね﹂
﹁もう面倒ね。右半分と左半分で分けましょう﹂
だが、二人とも中々決着がつかず。
!
﹁ぎあちゃんは
﹂
﹁わ、私も今日は遠慮しておきます⋮⋮﹂
?
564
!
﹁交ざらないわよ。私だって疲れてるんだし、お風呂入って寝るわよ﹂
?
e p i s o d e 8 9 縛 っ て 鳴 か せ て し っ ぽ り と
︵R︶
そして、二階に消えたエヌラスを見送ってからノワールとネプギア
は改めて腰を落ち着かせる。九龍アマルガムからこっち、ユノスダス
まで来るのに変身して飛行してきたからいいものの、それでもバイト
の疲れはそれとはまた別に溜まっていた。湯船にゆっくりと浸かっ
て布団に飛び込みたい気分である。それにしてもネプテューヌとプ
ルルートの元気なことこの上ない。それに付き合わされるエヌラス
に同情しながらも、どうせ後になればその二人が腰も立たなくなって
いるのだろうが。
口で言うより身体で伝え
﹁アルシュベイトと決闘って分かってんのかしら、あの二人⋮⋮﹂
﹁多分、理解してるからじゃないですか
たほうが早い。って多分お姉ちゃんなら考えそうなことですし﹂
﹁それは、あり得るわね。なんせ楽しければ万事良しのネプテューヌ
ですもの﹂
││エヌラスは改めて現状を把握する。
いったい何がどうなってこんな状態になってしまったのか。
﹁感謝してよ、エヌラス。プラネテューヌの女神が二人も同時に相手
してくれるんだから﹂
﹁そうよ。きっと世界一の幸せ者ね﹂
言いながら服を脱がしていく二人の呼吸が少し熱っぽい。コート
とシャツが投げ捨てられ、パープルハートもアイリスハートも身体を
寄せてくる。耳に吐息を吹きかけられてくすぐったい。身体を震わ
せると、今度は二人が着ているユニットを脱ぎ始めた。
豊かな乳房に細い腰のラインがすぐに露わになる。パープルハー
トが手を取り、すぐに自分の胸に当てると得意気に鼻を鳴らす。
﹁ふふん、どう、エヌラス。脱いだら凄いでしょ、私﹂
﹁変身前と似ても似つかねぇ﹂
565
?
それを言ったらあたしだって、ふ
﹁失礼ね。それを言ったらぷるるんだって同じじゃない﹂
﹁そこであたしに振っちゃうの
ふ⋮⋮﹂
﹂
﹁い い じ ゃ な い 別 に ぃ。ど う せ ね ぷ ち ゃ ん も 気 持 ち よ く な る ん だ し
﹁あ、ずるいわよぷるるん。抜け駆けなんて﹂
嬉しそうに離す。
ジッパーを下ろすなり咥え込んだ。口の中ですぐに固くなる陰茎に、
アイリスハートも負けじと髪をかき上げながら顔を股間に埋めて
?
﹁そうだけど、なんか⋮⋮もう。えい﹂
﹂
パープルハートが胸で挟み込み、それに負けじと胸を当てるアイリ
スハートの間で火花が散る。
﹁うふふ、ねぷちゃん。もしかして、ヤキモチ
し、それをパープルハートが舐め取り、二人でむしゃぶりつく姿はな
スが震えた。胸の間から顔を出す頭にアイリスハートが唾液を垂ら
二人の胸に挟まれて、上下に動かされる度に言い難い快楽でエヌラ
﹁正直じゃないわねぇ﹂
﹁だ、だってぷるるんがそんなことするから⋮⋮﹂
?
﹂
んとも背徳的で、堪らなく刺激的だ。先端から溢れる汁をアイリス
ハートが吸い上げる。
﹁ぅ││、プルルート⋮⋮
﹂
はぷっ。んちゅ⋮⋮﹂
﹁ココ弱いわねぇ、ねぷちゃんもどう
﹁へぇ、そうなの
?
!
﹁イキそう⋮⋮
﹂
スハートが妖しく微笑んだ。
感に襲われてどうにか堪えているが、息を荒らげるエヌラスにアイリ
舌と唇を使って舐められる度に、柔らかい感触に腰が抜けそうな快
?
﹁で・も、ダァメ﹂
指先で亀頭を撫でられるだけで痛いほど膨れあがる。
﹁出したいわよねぇ、そうよね。こんなになってるんだもの﹂
﹁⋮⋮ああ、そうだよ﹂
?
566
?
﹁なん、で⋮⋮
せた。
﹂
﹁あっ、ちょっと
﹁うるせい﹂
﹂
!?
﹁││││
﹂
それとも胸
﹂
﹁ネプテューヌ、悪い。一回抜いてもらっていいか⋮⋮
限界だ﹂
﹁ええ、いいわよ。口に出す
﹁胸で頼む﹂
?
そろそろ
﹁ぷるるんのここも、綺麗な色してるのね⋮⋮ふぅん⋮⋮﹂
すぐさま束になった鋼糸が締め上げ、猿轡のように口を閉ざす。
﹁ふぐっ⋮⋮
なに勝手に││﹂
を抱き寄せて膝の上におくと、パープルハートの前で秘部を広げてみ
キョトンと、何が起きたのかわからない様子で呆けている間に身体
に縛り上げている。
からは死角となっている背中から鋼糸が広がり││それは、次の瞬間
エヌラスが一瞬だけ、手元に魔力の輝きを見せた。アイリスハート
〝イラッ〟
﹁なんでって、そりゃあたしがイジメたいからよ﹂
!
パープルハートが胸で上下にしごきながら口も使ってエヌラスの
陰茎から精液を絞りだすと、胸の間が真っ白に染め上がった。射精を
終えてもまだ屹立する固い肉棒を、今度はアイリスハートの割れ目に
﹂
当てる。擦るように塗りたくると、声を押し殺して身体をよがらせ
た。
﹁ふぅ⋮⋮んんっ
﹁んんんゥッ
﹂
﹁どうなん、だっと﹂
﹁ふぅー⋮⋮ふぅ⋮⋮﹂
﹁お前は、俺をイジメてそんなに愉しいか﹂
!
キリッ││人形師のように指先を巧みに操ると、アイリスハートの
!?
567
!?
﹁素直でいいわ。じゃ、遠慮なくいくわよー。ていっ﹂
?
?
!
身体を縛る鋼糸が形を変えて足を開かせる。それに真っ赤な顔で睨
みつけてくるのを、エヌラスは睨み返した。
﹁左半分はお前の領分だったな。右半分は⋮⋮﹂
﹁私ね。ナニしてやろうかしら、ふふふ⋮⋮わきわき﹂
⋮⋮え、エヌラス
え、ちょっと⋮⋮本、気
﹂
﹁そうだなー、腰が抜けるくらいガンッガンに喘がせてやりたいな﹂
﹁なんでいい笑顔
?
?
﹂
﹂
﹁そうか。俺がまだ変神してなかったな﹂
気づいたように手を叩く。
首をブンブンと横に振るアイリスハートに、エヌラスは﹁ああ﹂と
﹁つまりイジメられたいってことだ。覚悟はいいな、アイリスハート﹂
﹁へぇ∼⋮⋮初耳だわ﹂
﹁ドSって潜在的なマゾヒストらしいぞ﹂
﹁なにを
﹁ネプテューヌ。知ってるか﹂
の手が大腿を撫でていくと身体を震わせた。
れるだけで竦み上がりそうな程の鬼気迫るものがあったが、エヌラス
まっていた。だが、その目だけは怒りで眉がつり上がっている。睨ま
防備な姿を晒すこととなった顔は羞恥と屈辱で耳元まで真っ赤に染
イリスハートを後ろ手に縛ってベッドに寝かせる。これで完全に無
引きつった笑みのパープルハートに、エヌラスは膝に乗せていたア
?
たことで変神したことが分かった。指先に付いた愛液を舐め取りな
がら、ブラッドソウルはパープルハートを抱き寄せる。
﹁さて、どうしてやろうかな⋮⋮今まで散っ々人をイジメたお返しに
心バッキバキにへし折ってやろうか﹂
﹁変身したぷるるんも怖いけど、貴方も負けないくらい怖いのだけれ
ど⋮⋮﹂
目尻に涙を浮かべるアイリスハートの頬に手を添えて、優しく撫で
る。
568
?
服は着ていないが、顔の赤い十字のペイントと赤のメッシュが入っ
﹁変 神﹂
トランジション
﹁えっ
!?
﹂
﹁なぁに心配すんな。テメェと一緒で痛くするわけじゃねぇからなぁ
⋮⋮
﹂
!
こう、とかね﹂
﹁そう睨まないでよ、ぷるるん。私だって気持ちいいことしたいのよ
﹁むぅ∼⋮⋮
こんなにしちゃって⋮⋮﹂
﹁ぷるるんも、結構おっきいのよねぇ。ふふ、気持ちよくってもう乳首
めた。
ジモジと恥ずかしがりながらも縛られた乳房に手を伸ばして揉み始
その様子をパープルハートも見ていたが、我慢できなくなったのかモ
けるが決して挿入はしない。溢れる愛液でぬるぬると滑らかに動く。
呆れるほど元気な息子をアイリスハートの割れ目に当てて、擦り付
﹁あ、怒ってる。これ怒ってるわ絶対⋮⋮﹂
!
硬くなった乳首を摘むと、それだけで秘部が締まる。下から持ち上
げるように胸を揉みながら、耳を責めるとアイリスハートが腰を浮か
せ て い た。先 端 を 挿 入 す る と、す ん な り 入 り 込 む。し か し そ れ だ け
ん、んぅ
﹂
﹂
だ。奥まで突き上げたい衝動を堪えて浅いストロークを繰り返す。
﹁ん∼
﹁緊縛3Pって結構マニアックじゃない
!
﹁ふぅ、んん
﹂
﹁んじゃプルルートにお前の恥ずかしい姿見てもらうか﹂
﹁次は私だからね、エヌラス﹂
はパープルハートが口で陰茎を伝う精液を舐めとる。
の射精を果たした。それでも奥まで挿入することはなく、抜くと今度
核を軽く擦り上げるとキツく膣口が締まり、ブラッドソウルは二回目
浅いストロークを繰り返しながら、エヌラスはアイリスハートの陰
?
!?
﹁俺も弱いが、お前もココ⋮⋮弱かったよなぁ
﹂
﹁拗ねるなよ。今回は軽いお仕置きだ、プルルート。⋮⋮そういやぁ﹂
だもの⋮⋮﹂
﹁だって私もしたいのに、エヌラスはぷるるんイジメて楽しんでるん
﹁今更過ぎやしねぇかネプテューヌ。あと空気読め﹂
?
!
569
?
﹁え、それちょっと癖になりそうで怖いんだけど﹂
﹂
﹁癖になったらなったで、刺激的なプレイが今後楽しめるな﹂
﹁⋮⋮変なこと考えてない
エロいことは考えてる﹂
﹂
優っているのか嬌声を交えた吐息が漏れる。
あ、待って。私もうちょっと﹂
﹁動くぞ、ネプテューヌ﹂
﹁え
やだ、これ、感じ過ぎて││ダメぇ
﹁待たない﹂
﹁あッハァ
﹂
まだ少し慣れていなかったのか、少し苦しそうに呻くも、快楽が
む。
ソウルは触診を中断して、割れ目にあてがうと一気に奥まで押しこ
きれないのか、その魅力的な尻を押し付けてきた。仕方なくブラッド
てくる。撫で回すだけでも十分楽しめる、が。パープルハートは待ち
少ないわけでもなかった。手で触れれば確かな弾力が指に吸い付い
の形をしており、無駄に肉が付いているわけでもなければ、肉付きが
い。ブラッドソウルの前に突き出される臀部は大きさもハリも理想
ヌであることに変わりはないのだが││如何せん、スタイルがまず
口ぶりも態度も真面目かと思いきや、それでもやっぱりネプテュー
﹁⋮⋮エロいな﹂
﹁誘ってんのよ。ほら、早く﹂
﹁それはそれとして、お前ケツ丸出しだぞ﹂
良いかも
﹁へぇ∼、ぷるるんはいつもこんな目線だったのね⋮⋮これは、確かに
背筋をゾクリと駆け上がる。
パープルハートがアイリスハートに跨がり、新鮮な目線に嗜虐心が
﹁いいや
?
プルハートは身体から力が抜けてアイリスハートにもたれかかって
ダメ、子宮だか、らぁ││あひぃ﹂
だらしのない顔をしている。
﹁そこ、奥ぅ⋮⋮
ブラッドソウルが腰を掴み、ゆっくりと引き抜いていく。それを逃
!
570
?
!
!
肉壷の奥、壁のようなものに遮られた。そこを何度も突く度にパー
!
?
さまいと絡みつくヒダに戻されそうになるが、膣で擦れるだけで射精
しそうになる。それをグッと堪えて、ブラッドソウルは激しく突き始
めた。それにパープルハートもキツく締めて射精を促すと、より強く
擦れて間もなくお互いに果てる。
息を荒げ、淫靡な熱気に包まれるベッドに二人が倒れこむと。
アイリスハートを拘束していた鋼糸が緩んで、今度はエヌラスが押
し倒される。その顔は笑っていながらこめかみに青筋が浮かんでい
た。
﹁⋮⋮酷いことするわね、エヌラス。あたしを、まさか、縛って、放置
﹂
あたしがブチ切れるわよ
﹂
してその上でねぷちゃんを犯して倒れこんでくるなんて。緊縛放置
プレイとか流石にハード過ぎない
﹁いやキレてる。間違いなくお冠だろお前﹂
呆れるほどタフね
﹁うるさいわね、今度はさっきみたいに││﹂
﹁ほぉれ﹂
﹁んもぉ、どんだけ元気なのよ
!
?
?
アイリスハートは呆れながらもエヌラスに跨がり、腰を落とす。
571
!
episode90 決戦前夜。決闘の地へと
││それから、どれほどの時間をそうして過ごしただろう。明かり
を消した室内は薄暗く、パープルハートとアイリスハートの二人に挟
まれてブラッドソウルは変神を解いた。それに続けてネプテューヌ
とプルルートも変身を解いて、エヌラスの身体を左右から挟み込む。
腕に体全体を使って抱きつかれては離すことも出来ない。
﹂
﹁エヌラス﹂
﹁んー
﹁一人で、アルシュベイトの決戦なんて行かせないんだから⋮⋮絶対
に絶対だからね﹂
﹁⋮⋮優しいな、お前は。ネプテューヌ﹂
﹁あたしだってぇ、一緒なんだからねぇ∼﹂
﹁ああ、そうだな⋮⋮﹂
分かっている。
分かっていることだった⋮⋮だから、エヌラスは尚更心が締め付け
られる。
二人の体を抱き寄せて、頭を撫でた。髪を梳いて、額にキスをする
││そして、次の瞬間にはネプテューヌとプルルートの身体が跳ねて
意識が途切れていた。糸の切れた人形のように気絶した二人の首か
ら、紫電を纏わせたエヌラスの手がパチッと音を鳴らす。
コイル
出力は抑えてあるが、人間相手でも意識を奪う程度の事は出来る。
能力のひとつである〝電導〟を取り戻せたから出来る調整に、エヌラ
スは身体の調子を確かめた。
わかっている。分かっていた。理解していた││アルシュベイト
との決闘に彼女達はあまりに無力であることを。
静かにベッドから降りて、着替えを手にして部屋を出る。階段を降
﹂
﹂とは敢
りて、浴室で身体を洗い、後は誰にも気付かれずに宿を出れば││。
﹁どこ行くつもり
リビングに居たノワールに、呼び止められる。﹁いつから
えて聞くまい。ずっとそこに居たのだろう。
?
?
572
?
エヌラスは、何も言わなかった。
﹁⋮⋮なんて、聞くだけ野暮よね。どうせアルシュベイトのところで
しょ﹂
分かっているのなら何故聞くのかと、エヌラスは頭を掻く。だが、
ノワールは止めようとはしなかった。自分が止める前にネプテュー
ヌ達が止めようとしたのだろう。それが今、ここにいるということは
あの二人を説得したのだと││そう思っていた。
﹂
玄関の前で立ち止まるエヌラスの頬を軽く叩いて、ノワールは胸ぐ
らを掴んで引き寄せるなりキスをして離れる。
﹁アルシュベイトは強いわ。アレに、どうして挑むの
﹂
﹁⋮⋮挑まれたからだ﹂
﹁負けるわよ﹂
﹁負けねぇよ﹂
﹁⋮⋮死ぬわよ
﹁生き残るさ﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁引き止めても、無駄なんでしょ
﹂
てた。その根拠の無い自信がどこから出てくるのか││わからない。
はぁ、と呆れたため息を吐いてノワールはエヌラスの胸板に額を当
?
ないが、記憶にあるのは││破壊神となる前。人々の営みを見ていた
空を見上げれば、満天の星空。どれがどの星座であるかなど分から
い。
玄関の扉を閉めて、エヌラスは宿を後にする。不思議と恐怖はな
﹁行ってくる﹂
﹁バカ⋮⋮続きがしたかったら、生きて帰って来なさいよ﹂
﹁いや、お前とは一回しかしてねぇなと思ってな﹂
の中に舌が入り込んだ。
頭を抱き寄せて、唇を重ねる。驚いて離れようとしたノワールの口
﹁なに││﹂
﹁ノワール﹂
﹁行ってらっしゃい。私、もう寝るわ﹂
?
573
?
あの頃の記憶。
孤独だった。隣には誰も居ない。しかし、それで良いと思った。こ
れから自分は死地に赴くのだから。
エヌラスは夜の散歩とでも言いたげにユノスダスを歩く。戦闘の
痕跡ひとつない、平和な非戦闘国家。そこに巣食う悪徳業者は後を絶
たないが、それをぶちのめして金銭を稼ぐ自分としてはありがたいこ
とこの上なかった。夜間営業の店も静まり返る深夜。明かりの少な
﹂
い町並みに、あまりに似つかわしくない騎士が一人。まるで月を背負
うように大剣を携えていた。
﹁⋮⋮よぉ、ドラグレイス。深夜徘徊か
﹂
﹂
?
聞き及んでいる﹂
﹁そうかい。邪魔する気か
﹁
﹁静観する。俺も気になることがひとつあってな﹂
それとも加担してくるのか
﹁アルシュベイトと決着をつけてくるそうだな⋮⋮バルド・ギアから
?
﹁知るわけねぇだろうが﹂
﹁⋮⋮〝探し物〟だそうだ﹂
電子の大海原に消えた女の肉体
クックック、と笑いを堪えるだけで鎧が擦れる。
﹁あの男が、アイツが、探し物だぞ
が忘れるな
この俺からティル・ナ・ノーグへの道を奪った罪は万
﹁││だといいが、な。邪魔をする気はない。行け、戦禍の破壊神。だ
﹁共闘した覚えはねぇよ。アイツはただのお人好しだ﹂
﹁アイツが探しているのはお前の失った能力だ。今更、何故手を組む﹂
きつけられた。
ドラグレイスを無視して行こうとするエヌラスの眼前に、大剣が突
﹁知らないね﹂
ひとつ見つけられないアイツが何を探すというのだ﹂
?
﹁億千万回殺されたって俺は諦めねぇよ。じゃあな﹂
死に値する﹂
?
574
?
﹁バルド・ギアが妙な動きをしている││何か知っているか﹂
?
魔法文字が剣を余さず埋め尽くし、そこに刻まれている術式は無数
の魔術行使を可能とする。これは剣でありながら、魔法使いの杖でも
ある。ドラグレイスが強力な魔法を使用できる一因でもあり、これが
狂 気 の 元 凶 で も あ っ た。一 度 足 を 踏 み 入 れ た 楽 園 で 賜 わ っ た 逸 品。
これを振るい続けることで己を奮わせていた。
エヌラスが歩き去って、一人残されたドラグレイスも大剣を背負っ
て歩き出す。
﹁億千万回殺して、貴様が立ち止まった試しはない﹂
急がねばならない。どちらかが倒れて、キンジ塔が現れたその時。
自分は大願成就に一縷の望みを懸けねばならない。││懐を探っ
て取り出すのは、ひとつの宝玉。その中では歯車が狂ったように詰め
込まれていた。不可思議なことに、全てが噛み合っていながら不規則
な向きで回っている。エヌラスが失った能力のひとつであるが、厳重
に重ねた防御魔法によって気づく素振りは見せなかった。
575
ティル・ナ・ノーグに辿り着けるのならば、今一度あの楽園の土を
踏めるのならば。
世界がどうなろうと知ったことではない。
ユノスダスの商店街へ続く大橋を抜けて、アゴウまでの城門を見れ
ば硬く閉ざされている。誰の仕業かなど考えずとも分かった。こん
な暴挙が出来るのは国王ただ一人。
ハンティングホラーを召喚して、そこで城壁の上に誰か立っている
ことに気づいた。
両腕を組んで仁王立ちしているユウコが鬼の形相で睨んでいるが、
今のエヌラスにはどうでもいいことだ。鋼鉄の魔獣に跨がろうとし
夜間外出は感心しないよ﹂
て、足元に何本ものナイフが突き立つ。
﹁何処行くつもり
﹁死んだら帰ってこれないっての﹂
﹁そりゃいい。帰ってくる理由になる﹂
﹁まだ未払金の返済、終わってないんだけど﹂
﹁どこ行ったっていいだろ﹂
?
﹁死体送られても困るだろうが。誰が葬儀代出すんだよ﹂
コイル
ハンティングホラーからやんわりと離れて、エヌラスは指を鳴ら
す。〝電導〟を取り戻したことによってまた一つ、鋼鉄の魔獣は本来
アヴァタール
トリプルシックス
の性能を取り戻しつつある。
﹁化 身 :〝黙示録の獣〟﹂
メーターが振りきれて﹃666﹄の数値を叩き出た直後、パチリと
紫電が迸り、ハンティングホラーが変異していった。
二輪駆動は前輪を二輪に、後輪を一輪の三輪駆動の魔物へと赤く変
異を遂げていく。機体から持ち上げるのは鎌を取り付けたような長
柄の戦斧だった。
﹁そこを退け。ていうか城門開けろ﹂
﹁アゴウ方面には全面通行禁止。次の輸出入で取引は終了。そういう
通達が来てる﹂
﹁どこの誰から﹂
﹂
それも吸血鬼であるユウコの手に渡れば十分な凶器となる。白刃取
りから刃を折り、胸ぐらを掴みあげて地面に叩きつけた。その眼前に
戦斧を突きつける。くぐり抜けてきた死線が違うのだ、敵うはずがな
い。
576
﹁ここにいる私に、アゴウのアルシュベイトから﹂
﹁俺は無関係だ﹂
空気を裂いて迫る出刃包丁を弾き落とし、ハンティングホラーは自
律操縦で後退する。ユウコが振り下ろすフライパンを戦斧で受け止
めると、それだけで砕けそうな衝撃が全身に叩きつけられた。すぐさ
ま弾き、柄で殴りつけて引き離す。
﹂
﹂
﹁だから、行くなって言ってんでしょうが
﹂
﹂
﹂
﹁何が何でも行くって言ってんだろうが
﹁なんで
﹁どうしてもだ
﹁私が行くなって言ってるのに
!
戦斧と火花を散らすのは、魚介を捌く為の長包丁。戦闘用ではない
﹁俺が行くって言ったら退かねぇんだよ
!
!
!?
!
!?
泣きじゃくり始めるユウコに背を向けて、エヌラスの隣に〝黙示録
の獣〟が止まる。前輪が二股に別れて左右に展開し、後輪が横向きに
倒れて浮力を生み出す。当然、そこに純粋な科学の力は存在しない。
燃料などと前時代的な燃焼機関を搭載しているはずもなかった。空
﹂
を飛ぶエイのようなフォルムにエヌラスが飛び乗るが、そのコートの
﹂
﹂
バカー
裾をユウコに掴まれて落ちそうになる。
﹁行かない、で
﹁やなこった﹂
﹁││じゃあ、帰ってきて
﹁生きてたらな﹂
﹁死んでも帰って来いバカヤロー
れる。
そんな事を独り言ちながら笑って、まったく口やかましい奴だと呆
﹁⋮⋮他に行く宛ねぇんだから帰ってくるに決まってんだろ﹂
させて跨った。
機首を上げて城門を飛び越えるなり、エヌラスは黙示録の獣を自走
!
エヌラスは一人、ただトライクを走らせた。
577
!
!
!
episode91 軍事国家アゴウ
││軍事国家アゴウ。
その城壁はもはや要塞と呼ぶべき威容を放っており、大小様々な火
器を搭載している。それらが全て国外ではなく〝国内〟へ向けられ
ているのは、もはやそこに居住空間が存在していないからだ。彼らの
生活出来る空間はこの城壁とも言える砦だけ。アゴウを覆う分厚い
城壁の中は格納庫であり生活スペースであり最前線であり、同時に彼
らが唯一帰ってくる為の家でもあった。
そして今。
︾
残り弾薬僅か
︾
︾
その城門より背を向けて一人、好敵手を待つ国王の姿があった。
︽三六部隊、通信途絶
︽八七分隊、現在交戦中
今補給部隊が向かってる
ザ・ビースト
︽持ちこたえろ
!
絶望は押し寄せる。
指示を
︾
最前線は││︾
︽アルシュベイト隊長
︽もはや持ちません
︽持ち堪えろ︾
︾
!
︽出来なくば、アゴウの土となるだけだ︾
︽││││ですが︾
!
︽⋮⋮了解。白兵戦用意 弾薬の消費を抑えろ
持ち堪えるぞ
救助が来るまで
アゴウは崩壊の兆しを見せていた。然しながら、それでも無尽蔵の
│。
機械の鼓膜を打つ国民達の一騎当千の武勇も、もはやこれまで│
︽こちら〝黒の獣〟分隊。救助へ向かう。まだ死ぬなよ︾
!
!
!
!
者達に謝罪する。だがそれは無駄な犠牲ではない。
怒りに震える肩を抑えこみ、勇猛果敢に最前線で絶望を押し留める
〝まだか、エヌラス⋮⋮まだなのか││〟
の柄を握りしめていた。
胸中でただひたすら焦りと葛藤に苛まれて、アルシュベイトは長刀
!
!
578
!
!
︽アルシュベイト様。戦禍の破壊神は来るでしょうか︾
︽来るとも︾
︽⋮⋮ヌルズと交戦中の国民が既に数百名、消滅しております。いつ
まで待たれるつもりですか︾
︽⋮⋮⋮⋮︾
︽貴方の力が我々には必要なのです、アルシュベイト国王︾
ランス01││トライデントの長たる男の言葉に、アルシュベイト
は逡巡する。
︽⋮⋮夜明けまで待て︾
︽了解しました︾
︽それまでにアイツが来なければ、俺は無尽蔵の絶望と共に滅ぼう︾
︽ご冗談を。貴方は我らアゴウにとって、無限の希望です︾
︾
跳躍ユニットを吹かして、ランス01は城壁の上で待っていたラン
ス02とランス03に視線を投げかけた。
︽おい、大将。俺達の国王様はなんだって
︽明朝まで持ち堪えろ、だそうだ。出撃するぞ、トライデント。前線指
揮 は 各 自 采 配 に 委 ね る。右 翼 は ラ ン ス 0 3。左 翼 は ラ ン ス 0 2。中
央は私が最前線で指揮を執る。奴らの波状攻撃は第何波まで確認出
来た︾
︽既に13フェイズを突破。残り17フェイズ。今が折り返しです、
隊長︾
︾
︽ならば、我らで10カウント稼ぐぞ︾
︽それは命令かい
首を縦に振る。しかし、すぐに否定した。
︾
︽⋮⋮いや、違うな。これは〝神命〟だ。我らが天に仰ぎ見るべき王
ランス03了解
の勅命だ。期待に背くわけにはいかん︾
︽ハッ、そう言われちゃ仕方ねぇ
!
︽行くぞ、トライデント
︾
︽ランス02、了解。10カウント、死力で突破させてもらいます︾
!
長刀を構え、突撃砲を携えて、指揮を執って最前線へ赴くトライデ
!
579
?
腕を組み、呆れているランス03にトライデント隊長は︽ああ︾と
?
ントがバーニアの尾を引いて出撃する。
︾
残り
分隊長、現
眼下の光景では既に出撃準備を済ませていた大隊が行進していた。
親衛隊が救援に来たぞ
大型支援砲を発射してヌルズの大群に穴を開けている。
︽トライデント部隊
︾
︾
どいつがどこの部隊か把握している暇がない
︾
︽ならば再編成の暇を与えてやる
十四名だ
︽絶望的だ
状を報告せよ
︽こちらランス01、中央の部隊指揮は私が引き受ける
!
︾
︾
所属は
と後列で統制が崩れて進軍が一気に遅れる。
︽こちらランス01
︽あちこち混ざって分かるか
ロックンロール
!
!
に進軍する。
︽ワールド・エンドに巻き込まれるぞ
︾
︽世界の終わりにロックンロールを響かせろ
︾
!
!
!
︽いつからダンスホールになっちまったんだ、ここはよォ
︾
ていく。その穴に落ちていく大群を無視して後続の者達はひたすら
のヌルズに踏み潰されていった。ランス01の眼前で世界が崩壊し
く。赤黒い液体を撒き散らしながら腐臭にも似た死臭を放って後続
最前列のミニオン型ヌルズが弾幕を浴びて血飛沫の中に倒れてい
斉射開始
!
!
︽じゃあ今から貴様らはキメラ部隊だ
︾
空の弾倉を交換して、バレル下部のグレネードを投射すると、前列
時にお礼と言わんばかりの弾丸が頭部を破壊していった。
ヌルズの背中に叩きつける。足が止まった頭を踏み付けて、跳躍と同
らブースターを吹かし、姿勢制御と同時に離脱しつつ長刀をヘヴィ型
崩したまま発射された結晶が暴発して自爆していく。宙返りしなが
り突撃砲を横薙ぎに斉射。一発残らず足に風穴を開けてバランスを
がら単機で突入していくが、やがてキャノン型ヌルズの前で止まるな
ス01によって摩り下ろされていく。敵陣のど真ん中に穴を開けな
た。ミッド型ヌルズが重量で潰され、腰部ブースターを吹かしたラン
ランス01が降下体勢に入り、地表を歩くヌルズの一体に着地し
!
!
!
!?
!
580
!
!
!
︽音楽は心を奮わせる。鳴り止ませるな
撃ちまくれ
︾
世界の全てを秤に懸けてもまだ足らぬ。俺にはアゴウが全てだ。な
︽人の愛の、なんと業の深い事よ。なんて理不尽なのだ、この愛は││
エヌラスに敗北したということ。
だがそれでもハッキリと覚えていることがある。
ること。守護鬼神として戦った記憶はもはやログに存在していない。
無名の鬼神として君臨したその時、自分が行った蛮行はアゴウを守
に愛され、愛していたからこそ俺はお前を愛したのだ︾
よ⋮⋮だがそれはもはや貴様が愛したからではない。貴様がアゴウ
︽貴様が愛したアゴウを愛し、貴様が愛したアゴウの民を愛している
それを証明できるのは誰もいない。己を除いては。
るぞ。貴様の愛したものを愛している︾
︽⋮⋮先代よ。俺が愛した唯一人の王よ。俺は今でも貴様を愛してい
と。
己こそはアダルトゲイムギョウ界最強の国王、アルシュベイトだ
であるのならば、己は孤独の王座で高らかに叫ぼう。
んなにも奮えている。最強で在り続けるということがアゴウの輝望
強の孤独だった。此処はとても寂しい所だ。││断じて、否。心がこ
得た今となっては全て遠き理想郷。だが、新たに辿り着いた境地は最
て笑っていた時の記憶。なんと生の華やかなことか。鋼鉄の身体を
に生き、戦い、エヌラスと酒を酌み交わし、バルド・ギアと肩を並べ
思い出すのは、人であった頃の記憶⋮⋮かつて先代アゴウ国王と共
アルシュベイトは、ただ待っていた。
鋼と硝煙の戦場に血の雨が降り注ぐ。撃鉄の音が止まない││。
!
アルシュベイ
らば、俺の愛は蹂躙され続けてきた。俺の愛は犯され続けてきたの
だ。世界の終わりに、無尽蔵の絶望に︾
断じて否
!
581
!
!
健やかなる時も病める時も、愛
ならば、救済の道はないのか⋮⋮否
トは顔を上げた。
︽ならば俺は、愛と共に滅びゆこう
!
し続けると誓ったのだ その誓約に嘘偽りのないことを証明しよ
!
う
エヌラス
︾
神の慈悲など皆目いらぬ
可侵領域
俺の愛は、全能の神であっても不
!
間が経過していた。
!
敗北を続けてきたのだ
俺
!
それに
ゲイム
なんの、不満もない
俺は運
アゴウの王として俺は君臨し、戦禍の破壊神
として貴様は君臨する
命を受け入れる︾
!
!
!
﹁流石、最強。言うことがちげぇな⋮⋮でもな、いいんだよ。いいん
︽俺は構わんぞ。絆もお前の力の一つだ︾
﹁置いてきたよ。テメェと俺との決闘には邪魔だからな﹂
︽エヌラス。彼女達はどうした︾
と。
あの者達ならば、或いは││世界の希望に成り得る存在ではないか
見出した。
それも失敗に終わったが、しかし。異次元からの来訪者に可能性を
なかったのだ。
い。無限連鎖の繁栄と滅亡に終わりを告げることが出来るかもしれ
の邂逅。それならば、世界の滅びを綻ばせることが出来るかもしれな
引き起こしたのはエヌラスの計画だ。次元連結装置。異なる次元と
だが││それでも一つ。また今回の遊戯でも大番狂わせが起きた。
!
は一向に構わんのだ
の度にお前は死に、俺は死に、戦い続けてきた。だが、構わん
繰り返されている。繁栄と滅亡が繰り返されているのだ。そしてそ
︽お前は覚えていないだろうが、俺は記憶している。││この世界は、
﹁⋮⋮アルシュベイト﹂
︾
過去永劫、幾度と無く繰り返した光景でありながら、俺は貴様に
︽俺は、貴様を待っていたぞ
この瞬間を、この時を待ち侘びていた
既に夜は明け始めている。トライデント部隊が作戦参加より三時
てて剣の礼節を交わした。
魔獣から降りる。その手に倭刀を召喚して、同じように地面に突き立
ヘッドライトで照らされる鬼神の姿を見て、戦禍の破壊神は鋼鉄の
!
!
だ、これで││もう十分過ぎるほど俺はあいつらに支えてもらって助
582
!
!
!
けてもらったからな﹂
︽⋮⋮そうか。ならば、決闘の前に教えておこう︾
アルシュベイトが胸部装甲を開く。胸のハッチを開けて取り出し
たのは、光熱を封じ込めた宝玉だった。エヌラスの失った能力のひと
つであり、最強にして必殺の魔術。
︽お前の力は、俺が預かっている。気付かなかったようだがな︾
﹁気づくわけねぇだろ。使いでもすりゃ一発で気づくが﹂
︽使わんよ。お前の力に頼る理由がない。取り戻したくば、勝ってみ
せろ。この俺に︾
無理を言ってくれる。エヌラスは笑った。アルシュベイトが再び
胸部装甲に宝玉をしまい込み、体内に収納する。
夜が明けていく││陽が後光のようにアルシュベイトを照らして
いく。アゴウを背負う鬼神の姿は神々しく、何人たりとて触れること
の敵わない威容を放っていた。
﹂
583
︽日が昇るな︾
﹁ああ。日が昇ると、どうなるんだ
︽夜が明ける︾
﹁⋮⋮それで。どうなるんだ﹂
だ﹂
﹁いや、なに││太陽より眩しい笑顔ってのを思い出しちまっただけ
︽何がおかしい︾
笑った。
只中で、何故かネプテューヌ達の笑う顔が脳裏を掠めてエヌラスは
改めて対峙するだけで絶望的な状況であると認識する。││その
︽人々が希望に照らされる。始めるか、エヌラス︾
?
episode92 会いたい。相対。愛したい
夜明けと共に決闘は始まる。いつ終わるとも知れぬ戦いの幕開け
から、二人は全力で刃を振り下ろす。金属音と共に弾かれるように距
離を離して、エヌラスは構えた。アルシュベイトは駆ける。
丁々発止。今までにないほど氣の張り巡らされた倭刀は長刀の一
撃をいとも簡単に受け流していた。だが、それ以上にアルシュベイト
の豪剣は気迫が込められている。もはや〝鬼迫〟と呼ぶべき一撃は
大木の幹を横薙ぎに両断した。宙を舞う大木を掴んだ直後、アルシュ
︾
ベイトはそれを叩きつける。
︽ぬぅんっ
片 腕 で 振 り 下 ろ さ れ た 大 木 が ま る で 枯 れ 枝 の 如 く、へ し 折 れ る。
瑞々しい木の張りは見た目以上に頑強さを誇るものの、それすら鋼の
鬼神にしてみれば竹刀のようなものだ。
エヌラスは鋼糸を飛ばして引き寄せ、自らの身体を滑らせながら避
ける。その姿を目視したアルシュベイトが左肩のラックから突撃砲
を展開した。片腕で照星を合わせて撃つ。ブレることなく放たれて
いく12.7mmの弾丸は仕留め損ねた代わりに木々を削りとって
いった。
自動式拳銃と回転式拳銃を召喚するなり連射する。弾丸の隙間を
縫う白銀の弾頭を視認して、アルシュベイトはフルオートからセミ
オートへ変更。あろうことか弾丸を〝相殺〟させた。だが深紅の弾
丸までは防げまい││そう睨んでいたが、真正面から長刀で叩き割ら
れる。背後で爆炎が舞い上がった。
︽どうしたエヌラス。よく狙え。俺はここだ︾
﹁狙ったっつうの⋮⋮﹂
神性の炎を込めた弾丸と神性の氷を込めた弾丸を物理攻撃で相殺
する。そんな話を聞いたら大魔導師でも間の抜けた顔をするだろう。
お返しと言わんばかりに突撃砲の銃身下部に取り付けられている
グレネードランチャーから榴弾が放たれるも、エヌラスはそれを倭刀
で両断する。背後で爆炎が舞い上がる││それにアルシュベイトは
584
!
突撃砲を担ぎ直した。
︽見事だ。そうでなくてはな︾
その言葉には、明らかな歓喜の色を含ませている。この程度で終
わってしまっては困るとでも。
二人の決闘は激化の一途を辿る。だが、それでも終始エヌラスの劣
勢のまま変わりはなかった。
そう思っていた
アゴウ城壁、格納庫ブロックが衝撃で揺れる。整備兵と補給兵達が
咄嗟に戦闘態勢へ移行した。もしやヌルズ⋮⋮
︽やかましいわッ
︾
︾
をはたき落としながら、エヌラスは首を慣らす。
を足で受け止めたアルシュベイトは横に跳ね除けた。コートの汚れ
エヌラスが跳ね起きて木箱を蹴り飛ばす。無機質な床を滑り、それ
︽ならば、相手は⋮⋮︾
︽アルシュベイト隊長
ルシュベイトを見た瞬間、格納庫内が沸いた。
チャに散らかしながら格納庫内を転がっていく。その後から続くア
が、開いていたハッチから一人の人間が吹き飛んで資材をメチャク
?
補給作業
だが貴様らが戦いに沸いてい
打たれたようにピシャリと歓声が残響を残して静まり返る。
︽この俺への万来の賞賛、痛み入る
︾
︾
るその一秒、何人の仲間が待ち詫びていると思っている
に戻れ
︽り、了解
!
!
るぞエヌラス︾
その背後。カタパルトが展開していく。隔壁をそのまま倒し、レー
ル の 敷 か れ た 基 部 に 足 を 乗 せ て 何 人 か の 機 人 達 が 出 撃 し て い っ た。
アルシュベイトはエヌラスの攻撃を凌ぎ、頭を掴んだかと思えばカタ
﹂
585
!
沸き立つ格納庫でアルシュベイトが一喝した。それだけで冷水を
!
︽││しかしながら、此処は戦場にすべき場所ではない。場所を変え
!
!
パルトに向けて投げつける。
﹁は
?
︽射出
︾
︾
﹁││ああああああぁぁぁぁ
︽続くぞ
﹂
無 茶 な 体 勢 か ら 上 空 高 く に 放 り 出 さ れ た エ ヌ ラ ス を 追 っ て ア ル
シュベイトがカタパルトで射出された。
空中で姿勢を直し、跳躍ユニットである腰部ブースターを吹かしな
がら迫る鋼の鬼神と切り結ぶ。その眼下では地獄のような光景が繰
り広げられていた。
鋼鉄の魔獣を召喚する。そして、即座に黙示録の獣へと変異させ
﹂
た。その背中に着地して戦斧を取り出す。
﹁どぉりゃああああぁぁぁっ
ファイター型ヌルズを自重で頭から踏み砕きながら着地した。もは
推進剤の残量を確認して、アルシュベイトは眼下で拳を振り上げる
スターの出力をカットしているのを見て舌打ちする。
ベイトにエヌラスは戦斧を叩き付けた。だが、その衝撃の瞬間にブー
では〝黙示録の獣〟が上回るのか徐々に高度が落ちていくアルシュ
戦斧と長刀が火花を散らして幾度も衝突していく。だが、飛行能力
!
﹂
やこれまでと諦めていた軍人が涙と鼻水と血飛沫で顔を歪ませてい
る。
﹁アル、シュベイト様⋮⋮
!?
︾
︽窮地を救う形となったが、手を差し伸べる暇がない。助かりたくば
﹂
己の足で走れ
﹁は、はい
!
が長刀を振り上げた。
!
刃の一刀が続く第二陣を木の葉のように吹き飛ばす。そこに上空か
地が土煙を巻き上げながら衝撃でヌルズの先陣を壊滅させた。返し
怒りがあった。純粋な敵意しか残っていない。片腕で薙がれた大
︽己の戦場に無頼者はいらぬ。疾くと去ねぇいッ
︾
ば無尽蔵の絶望が遠慮なしに迫り来る。それを見て、アルシュベイト
すぐさま機人の部隊に救助されて城壁へと撤退していく。振り返れ
その男の腕はあらぬ方向に折れ曲がり、足はろくに動かなかったが
!
586
!
!?
!
ら〝螺旋砲塔〟神銃形態が放たれて、地面を穿つ。そこへエヌラスが
着地した。
︽いらぬ助けをしてくれる︾
﹁バカ言え。着地する場所に雑魚がいただけだ﹂
││その気になれば上空から奇襲を仕掛けることも出来たはずだ。
アルシュベイトとエヌラスの決闘は最前線を転々としながら繰り
広げられる。ヌルズを巻き込み、アゴウ国民を奮わせ、時には互いに
背を向けて闘いながら。二人の決闘は続く。
︾
最 終 フ ェ イ ズ で す
!
貴様らの力で切り抜けられるはずだ
︽ア ル シ ュ ベ イ ト 様 第 1 9 フ ェ イ ズ 突 破
︾
︽後にしろ
︽ならぬ
俺が引き受ける
貴様らは下がれ
!
︾
︽十分に可能です、がしかし││多少の犠牲はご容赦を︾
!
!
!
共に酌み交わした日を覚えている。
共に語り合った夜を覚えていた。
る。
戦場。地獄のような最前線に一時、訪れる静寂の中で国王が鎬を削
そして、二人は再び休む間もなく剣戟を鳴らし始めた。死屍累々の
﹁応よ﹂
︽仕切り直しだ。ゆくぞ︾
﹁なぁに、肩慣らしがいいとこだ﹂
︽⋮⋮いらぬ邪魔が入ったな︾
極寒の結界でヌルズ達を焼滅させていく。
た多重召喚した偃月刀を幾重にも投げ放ち、それを基点とした灼熱と
れ る。一 瞬 の 静 寂。そ し て │ │ 突 風 が 吹 い た。そ こ に エ ヌ ラ ス も ま
乾坤一擲。両腕で握りしめた豪剣が大気を引き裂きながら振るわ
ら迫り来る無尽蔵の物量にアルシュベイトは吼えた。
闇が怒涛に押し寄せてくる。地の果てからアゴウの地を蹂躙しなが
て、最終フェイズ││これまでの量が斥候にさえ思えるほどの蠢く暗
トライデントが下がり、最前線に残されるのは二人の国王。そし
!
共に誓った。戦友に。好敵手に。
587
!
!
鋼の鬼神。戦禍の破壊神。
共に願ったのは、明日の平和││。
俺はア
世界の滅びも、大いなる〝
︽俺には、いらぬッ 世界を背負うだけの価値もないッ
︾
魂の叫びに刃
今、この瞬間。この時のためだけに、
ゴウがあればただそれだけでいいのだ
︾
C〟への挑戦権もいらぬッ
俺はッ
!
貴様は、何故
︽俺は俺の〝愛〟の証明の為にこの生命を燃やそう
﹂
何のために刃を交わす
貴様は、どうだぁっ
エヌラスッ
だっ
﹁俺は││
!
たして今。本当にその為だと胸を張って言えるだろうか
︾
!
イムギョウ界の為か
︾
責 務 か
そ の ど れ で も
それともその手で命
俺が愛するアゴウの在る、アダルトゲ
﹂
大 義 か
貴様が愛した妹か
を 奪 っ た 恋 人 か 恩 師 か
ないはずだッ
﹁テ、メェに⋮⋮何が分かる
だが貴様が己を偽っていることぐらい知っている
!
︾
今の貴様に必要なのは過去の贖罪ではな
ように。一番大事な人が、一番身近な誰かに。
れ な い か も し れ な い。奪 わ れ る か も し れ な い。妹 の よ う に。恋 人 の
それでも、それでもだ││自分は誰かを愛することが出来ない。守
﹁││││﹂
いはずだ、違うか
して、貴様の好敵手だッ
せ ん ゆ う
この俺を誰だと心得る。アダルトゲイムギョウ界最強の国王に
︽分からぬとも
!
!
︽この世界の為か、エヌラス
ベイトは前蹴りを放った。胸骨が悲鳴をあげて大きく吹っ飛ぶ。
上げられ、エヌラスの身体を打つ。バランスを崩したそこにアルシュ
長刀を受け流し、その切っ先がヌルズの屍体に埋まる。屍体が振り
かぁぁぁっ
︽震 え、惑 い、迷 う 心 の 刃 が、こ の 俺 に 届 く と で も 思 っ て い る の
?
世界をやり直せるのなら││、世界をやり直す為に。⋮⋮だが、果
!
!
!
!
を振るおう
!
アルシュベイトは獅子吼の如く、吠える。
!
!
!
588
!
!
!
!
!
!
!
!
!
!
!
!
〝最弱無敵〟の英雄となれ、エヌラスッ 俺は最強で
﹁俺は、テメェみてぇに強くねぇんだよ、アルシュベイトォォオオオッ
﹂
︽ならば
在り続ける、このアゴウの為に
俺は最早、
無尽蔵の絶望を前に挑み続ける英
!
!
お前は違うだろう、エヌラス
〝最も弱い人間〟
バルド・ギアも、我が鋼鉄の友も人ではなくなってし
霊達の為に お前は、お前の愛するものを守る為に
人ではない
まった。だが
!
らば
それ、ならば││
︾
があるだろう。その肉の喜びは、鋼鉄の俺達には得難いものだ
!
な
で在り続けるお前だからこそ、守れるものがあるだろう。愛せるもの
!
!
!
し得ない領分だ
鋼の血潮に
それは貴様ら人間では成
機械の身体である、俺達の歓びだ
この無尽蔵の絶望に
︾
俺の愛するアゴウの為に
魂の熱量を込めて、俺は無限に戦い続けよう
!
!
!
エヌラス、貴様の愛は何処に在る
!
抗い続ける無限の輝望であり続けよう
俺の愛の為に
!
!
︽俺は〝戦い続ける歓び〟を謳歌しよう
中で反転、回し蹴りがエヌラスの身体を打つ。
が頬っ面を蹴り飛ばしていた。腰部ブースターを巧みに噴射して空
す。転がり、受け身を取る。だが眼前には既に距離を詰めた鋼鉄の膝
アルシュベイトの長刀がエヌラスの倭刀を叩き、身体を吹き飛ば
!
ち上がって、何度でもへし折れて、何度でも足掻いてやる﹂
﹁俺は諦めねぇぞ⋮⋮アルシュベイト。テメェに勝つまで何度でも立
〝こんな戦場に彼女達を立たせたくない〟と、叫んでいる。
それなのに身体はこんなにも奮えている。心は沸き立っている。
〝⋮⋮なんで、だろうなぁ〟
れなのに││。
血潮。痛くて、辛くて、立つのをやめてしまえばいいとさえ思う。そ
上がる嫌な感触に、喉がつっかえていた。吐き捨てれば、それは赤い
倭刀を再錬成してエヌラスは構える。むせる度に胃の奥からせり
入れた心の剣は折れていない。
ほどかき上げる。屍体に抱えられて、血に濡れて、それでもまだ手に
││大地を転がり、泥に塗れ、乾いた風が鉄の臭いを胸糞悪くなる
!
589
!
!
!
!
!
︽⋮⋮だろうな。お前は、そういう男だ。だが、それが〝何のため〟か
認めぬお前に、勝機はないぞ︾
﹁〝勝つ〟んだよ、俺は。││折るぜ、最強。覚悟しやがれ﹂
︽やってみろ。俺はそれが楽しみで仕方ない︾
戦鬼が二人、刃を鳴らす。火花を散らす。
590
e p i s o d e 9 3 女 も 待 っ て る だ け じ ゃ 始 ま ら
ない
﹁⋮⋮ん、んぅ﹂
いつの間にか眠ってしまっていた││そう気づいたネプテューヌ
がベッドから跳ね起きる。いるはずの人がいない。そこにあったは
﹂
ずの人の温もりがいなくなっていた。
﹁ぷるるん、起きて
エヌラスがいないんだよ
﹂
もうちょっとだけぇ、寝かせてぇ∼⋮⋮﹂
﹁起きてってば
見渡す。
﹁きっと一人でアゴウに行ったんだよ
﹂
﹂
﹁でもぉ、その前にぃ∼⋮⋮﹂
ぐぅ。腹の音が鳴る。
﹁朝ごはん。食べよぉ∼
﹁も∼、そんな暇ないのにー
早く追いかけないと﹂
寝ぼけていたとは思えない速度で跳ね起きてプルルートが部屋を
!?
﹁ん∼⋮⋮
!
﹁や、おはよう
﹂
ね ぷ ち ゃ ん も ぷ る ち ゃ ん も 座 っ て
﹁おはよう、ユウコ⋮⋮なにしてるの
﹁朝 ご は ん 作 っ て る ん だ け ど
待ってて﹂
﹂
を付けて、台所狭しと並べた食材を刻んでいる。
外にもそこにいたのはユウコだった。いつものエプロン姿に三角巾
ている。ノワールとネプギアが用意していたのだと思っていたが、意
リビングからは既に空腹に厳しい美味しそうな朝食の香りが漂っ
﹁そうだよぉ∼﹂
﹁⋮⋮お腹は空くよね﹂
ぐぅ∼⋮⋮。一際大きな腹の音にネプテューヌが顔を赤くした。
!
?
!
?
!
?
591
!
?
﹂
なんでエヌラス止めてくれなかったの
﹂
既にノワールとネプギアは前菜と言わんばかりのサラダに手を付
けていた。
﹁もう、ノワール
﹁それを言ったらアナタ達だってそうでしょ
!?
﹁だって気づいたら私達寝ちゃってだんだもん 寝ちゃったってい
うか気絶してたに近いけど⋮⋮﹂
﹁そんなはずないでしょ
モグモグ﹂
﹁私はてっきり説得されたのかと思ってたけど⋮⋮﹂
!
カカカカカッ││
﹁ごめん、何言ってるか全然分からない⋮⋮﹂
﹁モグモグモグ、ハフッ、ハムッ、モグモグッ
﹂
﹁お姉ちゃん。食べるか喋るかにした方がいいと思うんだけど﹂
!
!
﹂
?
三角巾で拭う。
﹁いやー、作った作った。冷蔵庫が空っぽだぜ
﹂
﹂
作り過ぎじゃないの
じゃなくて
いくらでもいけそう
そして、朝食を終えて綺麗に拭かれたテーブルの上で満足そうにネ
の手際は家政婦を雇うまでもない手早さだった。
さることながら、空にされた食器を手早く回収して洗い始めるユウコ
止まらない箸が次々と小皿の漬物や味噌汁を空にしていく。量も
﹁なにこれ美味ひい
﹁あ、うん⋮⋮美味しいのが腹立つわ⋮⋮﹂
﹁うっさい。食え﹂
﹁だぜ
!
!
﹂
山。作った本人は作るだけ作って満足した笑みを浮かべて額の汗を
出来上がるのは御膳料理の如くテーブル狭しと並べられた料理の
ネプテューヌがサラダを頬張りながら頷く。
﹁⋮⋮もぐ﹂
﹁食べるか喋るか静かに黙って飯喰うかにしてねぇー
ないように思えるが、不思議なことにそれが恐ろしかった。
ごく一般的な調理道具の一つ。ニッコリと笑う顔はいつもと変わら
枝。いつの間にかユウコの指の間に挟まれていたそれは、あくまで、
痴話喧嘩のやかましいテーブルの上に無数に突き刺さる││爪楊
!
!
592
!
!
?
!
!
ゆっくりしてる場合じゃない 早くエヌラス追っ
プテューヌ達がくつろぐのも束の間、すぐに身体を起こす。
﹁ってそうだ
てば
﹂
﹁プリン﹂
﹂
﹁食べりゅうううう
﹂
!
あんなに食べてお腹に入らないっ
!
ただのお節介ってわけでもなさそうだし﹂
ユウコ、アナタがわざわざ私達に朝食作ってくれたのは
理由があるんでしょ
﹁それで
れていた。
差し出されるプリンに飛びつくネプテューヌを見て、ノワールが呆
﹁手のひら返し早すぎない
﹂
﹁もー、食べてる暇ないのにー
﹁食後のデザートいかがっすかー﹂
かけないと
!
!
ト先への連絡とかは私がやっておくよ﹂
﹁ま、まぁお仕置きはともかく⋮⋮よろしくね。あ、宿の掃除とかバイ
に居た全員が抱える。プルルートの笑いがいつにも増して怖い。
││生きて帰ってこれるだろうか、エヌラス。そんな思いがその場
くちゃねぇ∼⋮⋮﹂
﹁そうだよぉ∼。エヌラスにはキッッッッツイお仕置き、してあげな
﹁⋮⋮そんなの、言われなくても連れてくるよ﹂
くれないかな。ユノスダス国王としてじゃなくて、一個人のお願い﹂
﹁決闘の邪魔をするな、とは言わないから。せめて連れて帰ってきて
る。
エヌラスがユノスダスを後にして、既に六時間余りが経過してい
になったが、それが冗談ではない状態であるということも事実だ。
縁起でもないことを平然と言ってのけるユウコに腰を浮かせそう
際死んでてもいいから﹂
﹁ううん。その逆だよ。あのバカ、何が何でも連れ戻してきて。この
﹁言っておくけど。エヌラスを助けに行くな、とかならお断りよ﹂
﹁うん、そりゃあね。みんなにお願いがあって﹂
?
?
﹁ごめんね、ユウコ。私達、迷惑ばかりで﹂
593
?
!
!
﹁いいっていいって。気にしないで。それじゃ、行ってらっしゃい﹂
ユウコに見送られて、ネプテューヌ達はアゴウを目指す。
││巨大な怪鳥と、一人の機人が鎬を削っていた。魔力を纏った突
風とカマイタチを変則的な機動で回避して放たれる銃弾が四枚羽の
怪鳥を傷つける。だが、傷口に魔術紋様が浮かび上がるとすぐさま治
癒されていった。回復能力が上回るのであれば、それを越えた速度で
損傷させればいい。
機人は光速を超えた速度で怪鳥の羽を穿ち、胴を撃ち抜き、頭を叩
き潰し。首を刎ねた。鮮血を撒きながらその体躯が徐々に矮小化し
ていくと、それは一匹の鴉となって地面に落ちる。
着地したバルド・ギアが展開した装甲を閉じて宝玉を手にした。そ
の中では無機質な銀に輝く鴉の羽が舞い上げられている。エヌラス
の失った飛行能力を入手した野生動物でさえ神格者の一人、バルド・
││そう聞きたげに怪訝な表情を見せる少女に、バ
今、ユノスダスから離れた北方の山々に来ていた。ここから飛行ユ
ニットの推力を全開にしても追いつけるかどうか。記憶が正しけれ
ば、もう一つはアルシュベイトが保有している。
頭上を見上げれば怪鳥の群れ。テリトリーを荒らされてけたたま
しい鳴き声をあげていた。
Nギアにインタースカイのサーバーを登録した時からステラが逐
594
ギアの手を煩わせる程の変異を遂げた。これを他の神格者が手にし
たと考えると││。
︽⋮⋮急がないとな︾
各部の損傷をチェックする。全体的な損傷は軽微、戦闘に支障はな
⋮⋮そうか、彼女達が︾
い。飛行ユニットを展開したバルド・ギアに通信が入った。それはス
テラから。
︽どうかしたのかい
どうするの
告。ネプテューヌ達がアゴウを目指しているという。
それは、Nギアにインストールしたサーバーデータを逆探知した報
?
ルド・ギアは手にした宝玉を見つめる。
?
一報告してくれていたが、その後の足取りからすれば恐らくは失った
能力を集めているのだろう。
︾
世界の崩壊が早まっていた。今までにない決着の遅れを急かすよ
うに。
︽すまない、エヌラス。少しだけ借りるぞ、君の力
バルド・ギアが飛翔する。その背部に背負った飛行ユニットが生物
的な変貌を遂げていった。
爆音を置き去りにして怪鳥の群れを突破して、アゴウを一直線に目
指す。
変身して上空を飛んでいたネプテューヌ達がアゴウと思わしき要
塞を視認した。その全容はまるで隔離施設のようだ。国内から誰一
人として逃さないように、国外から誰一人侵入を許さない鋼鉄の牢
獄。その右の防壁だけが真新しくなっていた。だが補修作業自体は
まだ終わっていないのか、黄色と黒のツートンカラーで彩られた軍事
工事用フォートクラブがクランチワイヤーを引っ掛けて壁面を歩き
ながら作業を続けている。
﹁かわいい⋮⋮﹂
ポツリとネプギア=パープルシスターが呟いた。
﹁ネプギア。言っておくけれど、絶対にプラネテューヌでは造らない
からね﹂
﹁あ、はい⋮⋮﹂
言われて、ガックリと項垂れる。
アゴウの奥。国内に巨大な穴が開いていた。まるで上空から隕石
でも落ちてきたようなクレーター、その中心部だけが大きく削れてい
る。よくよく見ると、その周囲で動く影があった。
﹁⋮⋮もしかして、あれ全部⋮⋮﹂
﹁ヌルズだって言うの⋮⋮﹂
その物量たるや尋常ではない、相手にしようなどと正気の沙汰では
ない。
軍事国家アゴウは、無尽蔵の絶望に食い荒らされていた。それを押
595
!
し留めるための要塞城壁が彼らの全て。帰るべき家も、住む場所も、
全てその分厚い城壁一枚で賄っている。
世界の崩壊が進んでいるのか、国土のあらゆる場所で虫食い穴が開
い て い た。そ こ に は 暗 闇 だ け が あ る。何 も な か っ た。虚 無 の 果 て に
何も残らない。押し寄せる絶望と迫り来る滅亡を前にして尚も戦い
続ける二人の戦鬼がいた。
爆炎が舞い上がり、戦風が吹き荒れ、剣戟が打ち鳴らされ、鮮血が、
咆哮が、決闘が。血闘が続いていた。世界の終わりを前に、剣舞を続
けるバカが二人││楽しそうにしている。
596
episode94 戦場の最前線で叫んで愛して
パープルハート達がエヌラスの下へ行こうとして、等身大の凶鳥が
﹂
通過した。反転し、空中で静止している。
﹁⋮⋮アナタ、バルド・ギア
ている。
いまさら邪魔をしに来たの
︽なんとか間に合ったか⋮⋮︾
﹁何のつもり
?
つ。
﹁あの、これは⋮⋮
﹂
ターが受け取り、バルド・ギアはやんわりと離れた。そして、もう一
言うなり、バルド・ギアは宝玉の力を手放す。それをパープルシス
︽いいや、これを彼に届けてほしい︾
﹂
飛行ユニットもまた、無機質な羽が幾重にも折り込まれて羽ばたい
その左手には宝玉が握られており、それで合点がいった。
た 装 甲 の 脆 い 部 分 を カ バ ー す る よ う に 生 物 的 な 鋼 殻 が 覆 っ て い た。
鋼の凶鳥││そんな言葉が似合う。冷却性能と処理速度に特化し
?
︽インタースカイで遊んだだろう
その時のゲームのデータが残っ
それはNギアの規格に合わせたメモリーカードだった。
?
しまった︾
の不覚はまだ覚えている︾
残したくない。││決着をつけよう。君達と初めて出会ったあの日
かは、彼女の為ではなく、ボク自身が決めることだ。だから、悔いは
︽⋮⋮彼女は、最後までボクを気にかけてくれた。これからどうする
バルド・ギアは首を横に振る。
﹁そんな⋮⋮
それじゃあ、ステラちゃんは⋮⋮﹂
ある。メインサーバーもマザーコンピューターも全部、海中に沈んで
︽⋮⋮インタースカイはもう、世界の崩壊に巻き込まれて水没しつつ
﹁貴方はどうするの、バルド・ギア﹂
﹁あ、ありがとうございます﹂
てたから、コピーして持ってきた︾
?
597
?
!
トントン、と胸部装甲を叩いた。
﹁結局は、邪魔をしに来たってことでいいのね
﹂
﹂
無個性な形状となって人気は出なかったものの性能はお墨付きであ
状ではあるが、こちらはより無骨だ。性能を突き詰めた結果として、
にビーム・サーベルが閃いた。パープルシスターの武装によく似た形
両腕に召喚される武装は、二挺の突撃銃。その銃身下部を覆うよう
︽構わないよ。こっちも全武装を使い切るつもりでいかせてもらう︾
﹁遠慮無く、初っ端からクライマックスで行くわよ﹂
││勝利の女神だ。
彼女達は女神なのだと。
胸の中には奇妙な思いが同居していた。改めて対峙して分かる。
ている。
電子保管前線基地を提供していたが、全て無駄に終わって今日を迎え
まなかった。アゴウからも追撃部隊が派遣され、目的が同じことから
いた。戦禍の破壊神が誰よりも先に脱落するのだと誰もが信じて止
あの日。エヌラスを追い詰めたあの日、決着がつけられると思って
ネプギア=パープルシスター。
ノワール=ブラックハート。
ネプテューヌ=パープルハート。
アは追わなかった。もとより用があったのはこの三人。
宝玉を受け取り、アゴウへと先行するアイリスハートをバルド・ギ
﹁そういうことなら遠慮無く叩かせてもらおうかしら﹂
ら、先に行ってエヌラスを引っ叩いておいて﹂
﹁え え。ア ナ タ が 居 な く て も 私 達 で ケ チ ョ ン ケ チ ョ ン に し ち ゃ う か
﹁いいの
﹁行って、ぷるるん﹂
た。その代わりに渡されるのは宝玉。
アイリスハートが蛇腹剣を構えて、パープルハートに手で制され
?
る。バルド・ギアはこの銃が一番手に馴染んでいた。
そして、空でも決闘が始まった。
598
?
宝 玉 を 手 に し て ア イ リ ス ハ ー ト は ア ゴ ウ の 要 塞 城 壁 に 飛 行 す る。
その姿を視認したトライデントが弾薬の補充と推進剤の補給及び追
それ以上の接近
加武装を装着し終えると城壁上に昇降機から現れた。一斉に銃器を
︾
邪魔をするって言うな
この先は軍事国家アゴウ領空となる
構えて警告する。
フ リー ズ
︽止まれ
は国土侵犯と見なし、発砲するぞ
﹂
﹁うるっさいわね。こっちは急いでるのよ
ら貴方達から痛い目に遭わせるわよ
︽我らの王が決闘の最中、何人足りとも││︾
││馬鹿者がァッ
!
つけられた。
そ の 一 発、高 く つ く ぞ
︽貴様らの銃は誰に向けるものだ
つけるものだ
邪 魔 立 て す る で な い っ
一国を預かる王
粗相を働くことは罷りならぬ
︾
銃を下げよ、我が愛するアゴウ
!
︾
︽しかし││︾
︾
﹂
よく来た、守護女神よ
として、要件を聞こう
﹁用があるのはそこのバカよ
あれは客人だ
歓迎しよう
この男が呼んだわけでもなく招かれた客、ならば受け
!
!
!
︽口説いッ
無尽蔵の絶望に、ヌルズに突き
そこに腰部ブースターを吹かして飛び蹴りで追撃すると城壁に叩き
前線の決闘場でエヌラスが長刀を防ぎきれずに吹き飛ばされていく。
ウ国民が竦み上がり、反射的に直立不動の姿勢を取る。城壁の奥、最
それは、アルシュベイトの咆哮だった。怒号一つで迎撃体制のアゴ
!!
︽ならば良し 入国を許可する
国民よ
!
入れよ
!
くつも朽ち果てている、それは無惨に踏み砕かれ、戦場の土となって
いる。それを塗りつぶすほどの血と硝煙と鉄の香り。機人の骸がい
地表に近づけば近づくほど鼻を覆いたくなるほどの死臭に塗れて
に降下していった。
る。それに面食らいながらも城壁を越えてアイリスハートは緩やか
アルシュベイトの言葉に、一糸乱れぬ統制で銃を下げて道を開け
!
!
!!
599
!
!
!
!
!
!
!
!
!
!
いた。赤い荒野││そんな言葉が脳裏をよぎる。
エヌラスは、やはりボロボロだった。血を流し、血を吐き出し、血
に 濡 れ て い た。そ の 身 体 で ま だ 立 ち 上 が る。諦 め て い な い。知 っ て
いたことだ。この人が諦めるということを知らないのは。
﹁⋮⋮なん、で来た││﹂
﹁││││﹂
ああもう、本当にこの男は救いようがないバカだ。アイリスハート
は宝玉を宙に放り投げて、それから││鉄拳をエヌラスの頬に殴りつ
ける。落ちてきた宝玉をキャッチして、間の抜けた顔をするエヌラス
に額を打ち付ける。
﹁あなた、本当に⋮⋮ホンットウにバカなのね。救いようがないバカ
だったのね。どうしようもないバカでしょ。実はとんでもなくバカ
でアホで間抜けで変態でロリコンでしょ﹂
﹁なん││﹂
投げ出す覚悟もないの
﹁なによ
﹂
﹂
﹂
文句あんのか
文句あるわけ
﹁なんだよ
バカじゃないの
﹂
なん
バカしか言えないほど貧相なボキャブ
﹁人類は万年発情期だ文句あっか
﹂
あんだけアンアン言ってたくせ
ラリしか持ちあわせてない万年発情期の癖に﹂
!
!
にいざこういう時だけ態度デケェんだよプルルート
!
﹁文句しかないわよ
!
!?
﹁どんだけバカって言いたいんだよバーカ
﹂
﹂
い。それなのに││こんなにも心だけが遠く感じる。
額を当てて、お互いの目に自分の姿が映っているのが見えるほど近
﹁テメェさりげなく人のこと死刑宣告してねぇか
!
!?
!?
﹁あ、バカって言ったわね
!
!
!?
600
﹁あたしが。あたしやねぷちゃんやノワールちゃんやぎあちゃんが、
﹂
﹂
どれだけ裏切られた気持ちかも知らないで、よく言えるわね
で一人で決闘なんか
﹁俺と、アイツの間に口を挟める間柄か
!
﹁ベッドと貴方の間に身体を挟む関係でしょう 今更一つや二つ命
!
!
!
!
﹁そういう貴方だって同じじゃない
あれだけ気持ちよさそうに腰
度し難いク
!
!
振ってた癖にこういう時だけなに格好つけてんのよ
こ の ク ズ 変 態
バ カ 鬼 畜 外 道
!
!
!
にそっくりそのまま同じ言葉返してやるよ
どんだけ人をイジメ
あなたはあたしのモ
縛って焦らして散々いたぶって悦んでたの
﹂
エヌラス
だから勝手に死なれちゃ困るのよ
﹁ああ、もう、本ッ気で頭に来た
はテメェの方じゃねぇか
るのが好きなんだよ
!
﹂
!
!
!
!
!
﹂
﹁どうして
﹂
﹂
﹁なんでだよ
!
しいわね
﹂
﹂
﹂
﹁お前さっき包み隠さず全部言わなかったっけ
﹁どうしてよ
﹁あ、この野郎、話聞くつもりねぇな
﹂
の周囲を無視した喧嘩を前にして失笑が漏れた。
たし、アルシュベイトは蚊帳の外。完全にエヌラスとアイリスハート
二人の痴話喧嘩は城壁で待機していたアゴウ国民にも筒抜けだっ
!?
﹂
愛してもい
なにが悪いのよ ハッキリ言いなさいよ女々
﹂
どうしてあたし達を置いて行ったのよ
﹁誰も悪いなんて言ってねぇだろ
!?
ないのにちょっと人には言えないプレイとかしたのはどうして
﹁じゃあッ
!
!?
!?
!?
!
!
﹁愛しちゃ悪いの
だ、歯を食い縛る。
エヌラスが何かを言い返そうとして⋮⋮言葉が続かなかった。た
!?
!?
﹁あなたが好きなのが、そんなにも迷惑
﹂
﹁だ っ た ら こ っ ち だ っ て 同 じ だ テ メ ェ に 死 な れ ち ゃ 困 る ん だ よ
ノなの
テメェ
装 甲 悪 鬼
ズで緊縛プレイが好きで放置プレイまでして、そのうえで置いていっ
たくせに
﹂
!
﹁最後のは何かおかしいような気がするがこの際二の次だ
!
!?
!
!
601
!
!
!
!
︾
episode95 拳は口より多く語るもの
︽フフッ⋮⋮ハッハッハッハ
︾
ていうか退けよプルルート あの野郎との決闘
﹂
の邪魔すんな
!
﹁ぐぉあっ⋮⋮
﹂
す術もなく押し潰された。
引っ掛けるなり転んだ背中に座り込む。疲弊していたエヌラスは為
エヌラスの伸ばした手をするりと避けて、アイリスハートは足を
﹂
﹁い・や・よ
﹁ドチクショウ
らぬ身体でな、すまぬ︾
︽生憎と肉の悦びはとうに捨てた身。肉欲に身を任せることもままな
﹁テメェも見てねぇでちょっとは擁護してくれ﹂
︽気にするな、存分に続けよ
き立てて、それに身構える姿を手で制した。
不意に、アルシュベイトが堪え切れずに笑い出す。長刀を地面に突
!
!
﹂
?
﹂
!
﹂
﹂
!
だそれを見ている。水を差されても気にした様子はない。アゴウが
また土に顔を埋めて、倒れこんだ。アルシュベイトは腕を組んでた
﹁ッデェ
﹁⋮⋮ふん﹂
﹁ぬ、ぅ、ぉぉぉりゃあああ⋮⋮
情けなくもがいて、苦しみ喘いで。それでもまだ諦めない。
い。それが、なぜかアイリスハートを苛立たせる。惨めに足掻いて、
に身動きを封じられていた。肉体を制しても、心だけが屈服していな
ルで踏み付けられる。頭を上げようとすれば押さえつけられて完全
を向いていた。エヌラスが起き上がろうとすると、その手がハイヒー
眼と鼻の先に蛇腹剣が突き立てられる。アイリスハートはそっぽ
﹁じゃあ好きにしたら
﹁今は、それどころじゃねぇんだよ⋮⋮
﹁貴方が、愛しています、と言うまで退かないわ﹂
!?
602
!
!
!
!?
崩壊に向かう最中、その二人の行く末をただ眺めていた。
﹁⋮⋮なんでよ﹂
自分に屈しない者はいないと思っていた。自分が調教できない相
手はいないと思っていた。それなのに、エヌラスはまだ立ち上がろう
とする。
﹁なんで、あなたはあたしの思い通りにならないのよ﹂
それが酷く苛立たしい。腹が立って仕方ない。首筋に掛かる違和
﹂
感を掴み取り、手で払いのけて睨めば案の定、エヌラスの指先から鋼
糸が伸びていた。
﹁二度も同じ手を食うと思ってるわけ
の表情を見せている。
﹁⋮⋮折るわよ。本気で折るけど、いいわけ
﹂
?
向いている隙に〝ぷち〟アクセル・ストライクが地面を蹴った。土煙
指一本犠牲にして、形勢逆転が狙えるなら安いもの。注意が指先に
﹁││い・い・わ・け、あるかァッ
﹂
あげた。アイリスハートが徐々に力を強めていくと、エヌラスが苦悶
指を絡め、関節を逆に曲げる。ミシリと嫌な音を立てて骨が悲鳴を
?
﹂
がアイリスハートの胴を打った。バランスを崩して首筋に倭刀を押
﹂
し当てて城壁に押さえ込む。僅かに揺らめいた蛇腹剣をエヌラスは
拳で殴りつけて封じた。
﹁⋮⋮こんな過激な壁ドン、見たことないわ﹂
﹁俺も今までやったことねぇよ﹂
﹁││エヌラス、あなたはあたしを愛してないの
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
みんなを愛していると叫びたい。それが││できない。
だが、一人じゃ足りない。まだ足りない。彼女達の優しさに甘えて、
押し黙り、俯く。声を張り上げて叫びたい。お前を愛している、と。
?
603
!
が上がり、土埃が目に入ったアイリスハートが咄嗟に目を瞑った隙に
足癖の悪い
エヌラスは身体を跳ね上げる。
﹁こ、の
!
蛇腹剣を引き抜いて振るう。しかし、それを倭刀で打ち払い、掌打
!
脳裏に蘇る鮮烈な記憶。鮮明に思い出される凄惨な酸鼻極める惨
殺の光景。愛した人の胸に刃を突き立てた記憶が蘇る││。また繰
これじゃあたしがバカみたいでしょ﹂
り返してしまうのでは。そんな思いが、喉の奥まで出かかった言葉を
押し留めていた。
﹁なんとか言いなさいよ
﹁⋮⋮ごめんな⋮⋮すまない⋮⋮プルルート。俺は、お前達を││こ
んなにも愛したいのに、それが、怖くて出来ないんだ﹂
最後の勇気が踏み出せない。愛すれば愛するほどに、心が壊れそう
なほど苦しくて悲鳴をあげている。
﹂
︽⋮⋮ならば、エヌラス。己の愛を証明してみせろ︾
﹁アルシュベイト⋮⋮
ならば
拳 で 語 る が 我 ら の 流 儀 我 ら の 間 に 言 葉 は 不 要
然
!
貴様の愛が、この俺の愛国心を勝るに足
!
︽お前が言葉よりも多く語るには、これしかあるまい。口で語れぬ愛
長刀を引き抜き、切っ先を二人に突きつける。
?
そ の 証 明 の 決 闘 と し よ う、雌 雄 を 決 し よ う で は な い
らば、刃を交わすのみだ
︾
る か、否 か
かッ
!
れ、口づけを交わすと蛇腹剣を構えた。
﹁⋮⋮勝ちなさいよ。負けたら呪うから﹂
﹁ああ、そりゃおっかねぇ。泣きそうだ﹂
伴侶のように寄り添う二人を見て、アルシュベイトは鋼の顔に笑み
を浮かべる。それに気づいたのは本人だけだったが、しかし。そんな
二人の姿を見て、思い出していた。先代のアゴウ国王と共に肩を並べ
て戦場を駆けたあの日々に思いを馳せる。
何も感じない肌でも、鋼鉄の身体でも、こんなにも心が熱い。胸の
奥で叫んでいる。
愛を。三千世界に轟かせる己を己たらしめるたった一つの愛が燃
えていた。
アルシュベイトが一歩踏み出す。それだけで大地が揺れるほどの
震動が起こり、戦場が崩壊していく。時間が迫っている。だが鬼神の
604
!
!
!
エヌラスは目尻を伝う涙を拭う。その手がアイリスハートに掴ま
!
歩みに恐れはない。世界が崩壊しようともこの胸に愛がある限り敗
北はない。
︾
もし負ける、その時は││世界の滅びすら超越した愛だけだ。
﹂
︽征くぞッ
﹁応ッ
ヌルズの動向は
安心感を抱いていた。
︽観測班
︾
!
︾
﹁連中も世界の崩壊に巻き込まれて、思うように進軍できてない
︽そのまま続けろ
﹂
それを見ていたアゴウ国民達は、なおも退かぬ最強の国王に絶対の
剣戟が打ち鳴らされる。一人の女神が加勢して。
!
ターを逆噴射して止まった。
︾
邪魔をした
!
︽バルド・ギア
︽││ああ、すまない
︾
出されて城壁上をスライディングしながら飛行ユニットのスラス
その空でもまた決闘が起こっている。そこから一人の機人が弾き
ゴウ国王こそが無限の希望であると信じているからだ。
かび、頭を振った。絶望は許されない。悲観も、諦観も。なぜならア
なら、絶望は全てを覆う暗闇なのだろう。そんな月並な言葉が思い浮
は星も輝かない暗闇だけが残されている。希望が光り輝く人の願い
ランス01が、ふと空を見上げる。青空に走る亀裂と裂け目の先に
!
!
!
︾
?
片腕で防御しながらもう一方の腕でトリガーを引いた。
が、そこにパープルシスターがM.P.B.Lを振り下ろしてくる。
払いをロールして回避。カウンターキックが二人のバランスを崩す
パープルハートと火花を散らし、即座に離れてブラックハートの薙ぎ
手強い││そう思う。両腕のブレイドライフル﹃ブリューナク﹄で
した。
ランス03のからかうような言葉に、すぐさまバルド・ギアは飛翔
︽いや、いいよ。一人で戦える︾
︽手伝ってやろうか
すぐさま立ち上がり、空を見上げる。その先には三人の守護女神。
!
!
605
!
﹂
﹂
空気圧縮されたスラグ弾で大きく吹き飛ばされてパープルハート
達に受け止められる。
﹁流石に、強いわね⋮⋮﹂
﹁そうね。でも負けるわけないでしょ
まだいけます
﹁当然。ネプギアもまだいけるわね﹂
﹁あ、はい
?
︾
から砕け散る。パープルハートを寄せ付けない弾幕に、既視感を覚え
ブラックハートの大剣とブリューナクが衝突して互いに刀身半ば
だが、相手も飛行ユニットの主翼が半壊していた。
し、パープルシスターのプロセッサユニットの翼が大きく損傷する。
勢を整えて追撃に向かってくるバルド・ギアの攻撃と紙一重で交錯
とコンテナミサイルの群れによって敢えなく撃墜された。空中で姿
ト達はバルド・ギアの猛攻を凌ぐ。しかし、それもマイクロミサイル
光速で射出される射撃武装の数々を切り抜けながらパープルハー
プログラムだった。
││光を超えて、その先にあると信じた彼女の笑顔の為に開発した
︽電界突破
腹は変えられない。
装甲を展開し、より冷却性に特化させる。防御が犠牲となるが背に
︽二十六次元拘束解除開始││︾
どちらにせよ、このまま勝負を長引かせても仕方がなかった。
︽やるしかないか︾
間にして三十秒。それ以上は持たない。
メインサーバーが落ちた今、稼働時間が限られる。恐らく限界稼働時
当にいいのか。全力を尽くす、そのはずだ。しかしインタースカイの
武装召喚。それを使えば勝機はあるだろう。だが、果たしてそれで本
電界突破を││二十六次元拘束解除による超光速並列処理による
ルド・ギアの装甲が展開していく。
数の不利もある。だがしかし、それでも力の限りは尽くしたい。バ
!
無理よ
﹂
てパープルシスターが先導した。
﹁ネプギア
!
606
!
!
!?
﹁大丈夫
任せて
﹂
ゲーム。あれで嫌というほどコンティニューさせられたボスの攻撃
射撃の弾道が、今ならよく分かる。インタースカイで遊んだ弾幕
!
││バルド・ギアの高速弾、誘導弾を織り交ぜた射撃は似ていた。
607
!
episode96 届かぬソラと無限の輝望
左手の壊れたブリューナクを捨て去り、バルド・ギアは新たに拳銃
を転送する。小回りの利くハンドガンだが、その照準からパープルシ
スターは避けた。パープルハートが銃弾を弾いて一直線に突撃する。
そこにサイドワインダーを召喚して迎撃しようとするも、閃光が走っ
たかと思った次の瞬間には速度を失って失墜していく。
﹂
ブラックハートが大剣を担ぎ直して、パープルハートを打ち出す。
﹂
﹁これで決めなさいよ、ネプテューヌ
﹁もちろんよ
││どうする
思考が光よりも速く駆け抜ける。ともすれば、打
ていることに危機を覚えた。
一気に速度の増した突進にバルド・ギアは電界突破稼働限界が迫っ
!
︾
!
セッサユニットが大きく損傷するも肉薄する。
!
られて木々が戦慄いた。
﹂
パープルシスターとバルド・ギアの間で閃光が爆発する。衝撃に煽
していく。全身から発せられる高熱にアラートが鳴り止まない。
紫電が奔る。頭部カメラが、左肩のレドームが小さな爆発を噴き出
に対し、バルド・ギアはブリューナクを放った。拮抗する光と光。
パ ー プ ル シ ス タ ー が M.P.B.L を 構 え て 最 大 出 力 で 放 つ。そ れ
脚 部 の ア ク チ ュ エ ー タ ー が 衝 撃 を 受 け 止 め き れ ず に 損 壊 す る。
つけて地面に叩きつけられた。
る。重力に従って落下する身体めがけてブラックハートが更に斬り
をまともに背負う形となったバルド・ギアの身体が宙に投げ出され
飛行ユニットが切断され、ジェネレータが暴発した。背面から衝撃
﹁人の恋路とゲームを邪魔する奴は、電源引っこ抜いて、こうよ
﹂
を正面に構えて衝突して防いだ。互いに大きくバランスを崩し、プロ
次元装備による突貫攻撃。だが、それすらもパープルハートは長剣
︽EXE FORCE
つ手は一つ。逃げるわけにはいかない。
!?
﹁ハァ、ハァ││これで⋮⋮
!
608
!
M.P.B.L.か ら 湯 気 が 立 ち 込 め て い る。限 界 ま で 稼 働 さ せ
た結果として銃の発射機構が故障してしまった。
バルド・ギアのブリューナクは銃身が溶解している。あれでは銃ど
ころか剣としての機能も使用できない。使い物にならなくなった銃
を見て、膝を着いた。全身から火花が散っている。展開した装甲も半
﹂
開きのまま冷却中なのか、黒煙を吹いている。
﹁どうするの、まだやるつもり
︽⋮⋮流石に強いな、君達は。守護女神を名乗るだけはあるよ︾
ギギ、││。
もうまともに動けないのだろう。顔を上げるだけで精一杯だった。
ブリューナクを取りこぼし、バルド・ギアは項垂れて自らの手を見つ
める。
︽⋮⋮人を辞めれば、彼女が取り戻せると思っていた。機械の身体で
あれば、ステラを助けられると思っていた││だけど、ボクにはダメ
だったよ⋮⋮好きな女の子一人、救うことが出来なかったんだ︾
﹁⋮⋮ソラさん﹂
︽ありがとう。ボクの最後のワガママに付き合ってくれて⋮⋮行って
くれ。彼の下に。エヌラスの所に︾
頷 き、パ ー プ ル ハ ー ト と ブ ラ ッ ク ハ ー ト は ア ゴ ウ へ と 向 か っ た。
パープルシスター=ネプギアはそんなバルド・ギアの手を取る。
お礼を言われるようなことは何一つ︾
﹁こちらこそ、ありがとうございました﹂
︽⋮⋮どうしてだい
の世界を救おうとしてくれました。だから、その御礼です﹂
︽⋮⋮あれはボクが勝手にしたことだよ︾
﹁それでも。ありがとうございます﹂
深々と頭を下げて、ネプギアはゆるりと手を離す。
︽アルシュベイトは、強いよ。だから、彼を支えてあげてくれ︾
﹁はい﹂
︽どうしようもなくクズで度し難いバカで、人に迷惑ばかりかけるよ
うな奴だけど⋮⋮︾
609
?
﹁ソラさんもアダルトゲイムギョウ界の戦争で時間がないのに、私達
?
思い返せば、それでもあの毎日は楽しかったのだ││。
︽エヌラスは、ボクの友達だから。⋮⋮彼を、頼んだよ││︾
﹁⋮⋮はい﹂
ネプギアは変身して、パープルハート達の後を追う。
バルド・ギアは空を見上げた。青い空、白い雲。彼女が大好きだっ
たソラを見ながら、一人の機人が静かに機能を停止する。
アルシュベイトとエヌラス、アイリスハートの戦闘は防戦一方のま
ま状況は好転していなかった。二挺拳銃を突撃砲でいなして蛇腹剣
の変幻自在な攻撃を長刀一本で捻じ伏せる。不退転の進撃を前にし
﹂
て二人が吹き飛ばされた。
﹁ティンダロス
ハンティングホラーが長刀の切っ先から突然出現して喉元に食ら
い付こうと顎を大きく開いて飛びかかる。だが、その頭を鷲掴みにし
己の剣で来い
︾
たかと思うとアルシュベイトは地面に叩きつけてから放り捨てた。
︽小細工不要ッ
﹁デタラメ過ぎるわよ⋮⋮﹂
﹁だから最強なんだよアイツ﹂
〝紫電〟鬼哭掌。かつてアルシュベイトを敗北に追いやった鬼を
る、そのはずだ。
剣戟を鳴らす。一手、二手、三手││丁々発止。一撃加えれば勝て
張っている。守ることも勝つことも諦めていない男がひた駆ける。
らも劣勢は続いている。それどころか庇おうとされて逆に足を引っ
み見て、アイリスハートが呆れた溜め息を吐いた。自分が加勢してか
そんなものを相手に三時間。対等に張り合っていたエヌラスを盗
切言語道断。不退転の震撃を繰り返す怪物だ。
守護神にして国王アルシュベイト。己の土俵以外での勝負以外は一
を練ってもなお超えられぬ壁がある。鋼の鬼神、護国の軍神、最強の
長 刀 一 本。突 撃 砲 一 門。武 装 は そ れ だ け だ。そ れ な の に │ │ 万 策
!
哭かせる掌打。それが今、届かない。必殺に必滅を重ねた一撃を超え
て、ようやく届いた魂の一撃だ。
610
!
!
それが、こんなにも遠い。
エヌラスの倭刀が砕かれ、膝をついて頬っ面に鋼拳が打ち込まれ
た。エヌラスが吹き飛び、地面を滑りながら二挺拳銃を構えて連射す
るが全て震撃・陽炎の前に無駄弾に終わる。
︽リアクティブ︾
返礼のベアリング弾が殺到した。防御魔法で防ぎ、アイリスハート
を 抱 え て そ の 場 か ら 離 脱 し た エ ヌ ラ ス の 掌 か ら は 血 が 滴 っ て い る。
質量攻撃が魔術障壁を突破していた。そのダメージは術者の基点と
なる手にも与えられている。
その出血を煩わしそうに振り払うと、歩み出す。
﹁なんでよ⋮⋮﹂
その背中を見送って、アイリスハートは歯を食い縛った。目を背け
る。
傷つき、吹き飛ばされ、立ち上がり、挑んで。また繰り返す。倭刀
れで十分だ﹂
宝玉を手にして、エヌラスの身体に押し付ける。砕け、溶けこんで
いく力の充実感に胸が掬われれた。
﹁⋮⋮言葉にしなきゃ伝わらない思いってのはあるのよ、分かってる
611
が砕ける度に再錬成する。膝が折れる度に身体を起こす。勝機も作
戦も何もない。
﹁なんで、そうまでして﹂
グ レ ネ ー ド ラ ン チ ャ ー を 足 元 に 撃 ち こ ん で 二 人 が 距 離 を 離 し た。
鋼鉄の身体を持つアルシュベイトはともかく、エヌラスは爆風に煽ら
れて衝撃で身動きが止まった。そこに腰部ブースターを吹かした強
烈な飛び蹴りが突き刺さり、城壁に身体を張り付ける。崩折れて、や
はり立ち上がった。倭刀を杖代わりにして、銀鍵守護器官で身体を再
﹂
生しながら前に進む。その手を取ってアイリスハートは引き止めた。
﹂
﹂
﹁そうまでして、愛してるって言いたくないわけ
﹁⋮⋮プルルート。俺を愛してるか
﹁な、なによ突然⋮⋮そりゃ、好きよ⋮⋮
!?
﹁そうか。なら、アイツの愛に負けるわけにゃいかねぇな。理由はそ
?
?
﹂
﹁知ってるさ﹂
﹁直接聞きたいの﹂
﹁俺が〝最強〟の称号を手にしたらな、いくらでも言ってやる。メガ
ホン片手に街のど真ん中で一日中叫んでやるよ﹂
アゴウ城壁上が騒がしい。すると、パープルハート達がアルシュベ
イトへ向けて急降下しながら剣を振り下ろす。三人の攻撃を長刀で
﹂
防ぎきると、押し返した。
﹁エヌラス
がって⋮⋮﹂
﹁この、バカ
アホ
なんで一人で来たのよ
﹂
一人で来るなんてどうかしてるわ
あれだけ一緒に
アナタ本格的にバ
救いようがないバカでしょ、呆れて文句しか出てこない
﹁そうよ
﹂
﹄
﹂
!
俺は三人の話も同時に聞け
どうしてこんな無茶するんですか 今回復します
からジッとしてください
﹁そうですよ
わ
カでしょ
行くって言ったじゃない
!
﹁テメェらいっぺんに喋るんじゃねぇ
﹂
﹃黙って聞きなさい
﹁あ、はい⋮⋮﹂
!
!
!
︽無論だ︾
?
︽数の不利がどうした。無尽蔵の絶望を前に相手しているこの俺が、
﹁なの⋮⋮えっ
﹂
けるつもり││﹂
﹁女神が四人。加えてエヌラスが一人。どう、これでもまだ決闘を続
﹁貴方がどれだけ強かろうと、私達は負けないわよ﹂
に突きつけてアイリスハートも蛇腹剣を担いだ。
している間、パープルハートとブラックハートが剣をアルシュベイト
ひどい剣幕で怒鳴られてエヌラスがパープルシスターの手で回復
!
ねぇ
!
!
!
!
﹁⋮⋮なんだよ、まったく。お前ら揃いも揃って人の親切無駄にしや
!
!
!
612
?
!
!
たかが両手の指に届かぬ人数で攻め入られて音を上げるとでも思っ
たか︾
﹂
﹁何を負け惜しみ言ってるのかしらね、この鉄面皮は。ガッチガチな
のは身体だけじゃなくて脳みそまでそうなの
︽記憶媒体がメモリーカードならあながち間違いではないな︾
﹁いや、そこで素直に返答されても困るんだけど⋮⋮﹂
︽それとも、お前達はまさか││この俺に、頭数を揃えれば勝てると
思っているのか︾
その言葉にカチンと来たのか。ブラックハートが眉をつり上げた。
﹁ホンットウに大層な自信ね﹂
﹁貴方が最強であろうと関係ないわ﹂
︽あ あ、そ う だ な。最 強 と い う 称 号 に 意 味 は 無 い。俺 に と っ て は な。
何故ならば俺は最強であり続けなければならなかったからだ︾
長刀を地面に突き刺し、アルシュベイトは剣礼を保持したまま続け
る。
︽無尽蔵の絶望に、ヌルズの終わりなき侵略を防ぎ、止め続ける我がア
ゴウの国民がどれほどの犠牲と血と涙の上に立っているかも知らぬ
だろうな。だからこそ俺は皆の希望であり続けたのだ。世界の滅び
を目前にしても諦めぬ英霊達の為に 俺は最強であり続けたのだ
出すに足る理由となる
︾
││アルシュベイトは、まだ変神していないことを。
遠からずば
︽思えば貴様らを相手に変神していなかったな。それがその自信とな
これが俺の変神だ
!
!
いざ仰げ、これが絶対勝利
るならば、俺は示さねばならん。その目に灼き付けろ
音にも聞けェッ
︾
の輝望だッ
!
!
三唱
︽我が愛するアゴウの民よ
!
││軍事国家アゴウ万歳
!
︾
目にしたアゴウ国民が声を張り上げた。
閃光が突風と共に召喚される。シェアクリスタルを
轟ッ││
!
!
613
?
この一戦がアゴウの愛の証明となるならば、これ即ち俺が全力を
!
そこで、パープルハート達は思い出した。
!
!
││アゴウ国王アルシュベイト隊長万歳
││シャイニングソウル様、万歳ッ
︽その万来の喝采に、この俺は応えようッ
︾
││││オオオオオオオォォォォォォッ
トランジション
刮目せよ││ 変・ 神 ッ
ダークグレーの装甲が白く染め上げられていく。閃光の中でアル
シュベイトが神化していく姿は白銀の武神として顕現する。穢れを
知らぬ白、恐れを祓う白。残酷なまでに闇夜を照らす白銀の装甲に赤
のツートンカラー。日の丸を彷彿とさせる武神が長刀を担ぎ上げる。
︾
我らが国王、シャイニングソウ
我が名を讃えよ、無限の輝望をッ
その背には二挺の突撃砲を背負って、大地を踏みしめた。
︽我が魂に一点の曇り無し
││シャイニングソウル様万歳
万歳ッ
貴様らの信念、この俺を折るに足りえる物であ
己の勝利を絶対のものだと信じて止まぬか
なら
これでもなお、吠える
軍事国家アゴウ国王最強の武神、シャイニングソウル様
万歳
ル様万歳
!
推 し て 参 る ぞ 我 が 不 退 転 の 神 撃、止 め て み よ
!
か守護女神
︽国家一丸となった我が一刀、阻むものなし
万歳
!
!
!
!
ば証明してみせよ
!
!
るかどうかッ
︾
!
!
!
!
!
614
!
!
!
!!!
!
!
episode97 神罰、疾きこと雷の如く
二刀流となったアルシュベイト=シャイニングソウルはアゴウ国
民からの絶大な支持の元、パープルハート達に向かって歩み出す。両
腕を広げた構えのままに無防備に全身を晒し、切っ先を横へ向けてい
︾
る。その一歩一歩が言い知れぬ威圧感と威容を持って足を竦ませた。
︽来ないならば、俺から行こう
冗談じゃないわよ
〟
!
戦禍の破壊神。鋼の鬼神。二人の刃が衝突して金属音が甲高く奏
を構えて歩み寄る。
その衝撃波をシャイニングソウルは事も無げに切り払う。偃月刀
エヌラス=ブラッドソウルが空中を〝蹴った〟。
げている。ブーツから直接生えているようなすね当てに紫電が奔り、
ニットが装着されていた。無機質で無骨で、その背には銀色の羽を広
エヌラスが変神し、その手に、足に。今まで無かったプロセッサユ
﹁変・ 神﹂
トランジション
アクリスタルを召喚する。
ソウルと真っ向から向かい合っていた。互いに睨み合い、そしてシェ
に冷や汗を流す。空中へと逃れた中に、エヌラスだけはシャイニング
パープルハートとブラックハートは同じ事を考えていたのか、互い
〝ただの一撃でコレ
の骸と破片と朽ちた長刀、突撃砲が舞い上がる。
大地が割れる。土埃が噴出した。まくれ上がった地面の中から無数
が長刀を振り上げ、叩きつける。パープルハート達はそれを避けた。
一歩踏み出して腰部ブースターが推進剤を噴射する。白銀の武神
!
︾
でられた。衝撃の余波が戦場を荒らしていく。
﹂
︽チェェストォォオオオオ
﹁ォォアアアア
!
トライクですら防ぎ、逆に蹴り飛ばされる。それを見てパープルハー
ト達が加勢に走った。
上空からの切り下ろしを、長刀を振り上げて跳ね返す。背の反った
615
!?
偃月刀を二本。長刀二本。互いの得物で鎬を削った。アクセル・ス
!!
長刀で大剣を受け止めて流すと地面に切っ先を埋めるそこへもう一
方の長刀を振り下ろした。だが、偃月刀が投げ放たれて軌道を逸らさ
れ る。そ の 隙 に ブ ラ ッ ク ハ ー ト が 離 脱。左 右 か ら 同 時 に ア イ リ ス
ハートとパープルハートが斬りかかるが、一刀を投げる。回転しなが
ら迫る長刀は丸鋸のように空気を裂きながらアイリスハートを弾き、
パープルハートの奇襲をシャイニングソウルは片腕で受け止めた。
空いた手が掴むのは、朽ちた長刀。錆つき、刃は欠け、いつ砕けて
もおかしくない風化した剣でパープルハートを殴りつける。そして
砕け散ったそれを地面に突き刺して、ブラックハートとパープルシス
ターの二人の同時攻撃を両手で持った長刀一本で受け止めた。その
場から一歩も退くことなく二人を跳ね飛ばす。
腰部ブースターを吹かして向かった先にはアイリスハートへ投げ
放った長刀。シャイニングソウルはそれを掴むなり、上空から偃月刀
︾
を振り下ろすブラッドソウルと切り結ぶ。
︽ぬるいッ
一喝してブラッドソウルを弾き飛ばした。
パープルハートがその下、死角から長剣を振り上げる。その切っ先
が装甲に触れて││止められた。薄く表面装甲を掠めて止まる。目
﹂
が合って、長刀が振り上げられた。
﹁お姉ちゃん
︽ふンッ
︾
ルギーを充填していたパープルシスターが引き金を引く。
叱咤の声でその場から離脱する、上空ではM.P.B.L.にエネ
!
ンチャーと拮抗していたが、後退りそうになると腰部ブースターを点
火して、あろうことかビームを斬り裂きながらシャイニングソウルが
飛翔した。
長 刀 で 跳 ね 除 け ら れ た M.P.B.L.が パ ー プ ル シ ス タ ー の 手
を離れ、その眼前には白銀の武神が一閃を放とうとしている。ブラッ
ド ソ ウ ル が 偃 月 刀 を 多 重 召 喚 し て 放 つ。そ れ は 全 て パ ー プ ル シ ス
ターを避けるようにしながらシャイニングソウルへと殺到した。そ
616
!
振り下ろそうとしていた長刀を叩きつける。照射されるビームラ
!
の隙にブラックハートが持ち前の機動力で引き連れて離脱する。
七重の偃月刀がただの二振りで全て砕かれた。
││強い、などとは次元が違う。かすり傷一つ付けるのですら五人
がかりでやっとだ。
︽それで全力か。お前達の本気は︾
﹁見くびらないでほしいわね、アルシュベイト。まだまだここからが
本番よ﹂
︽ならば準備体操は終わったな こちらも気兼ねなく使わせてもら
おうか︾
﹁えっ、ちょ⋮⋮﹂
言うなり、シャイニングソウルの長刀がオーラを纏い始める。
︽不知火・錦︾
剣圧によって放たれる衝撃が地面を裂き穿ちながら迫り、防ごうと
したブラックハートが吹き飛ぶ。ブラッドソウルが避けて鋼糸を長
刀に巻きつけた。それにアイリスハートは蛇腹剣でシャイニングソ
﹂
﹂
ウルの長刀を絡め取ったが、逆に引き寄せられて二人が仲良く地面に
叩きつけられる。
﹁ミラージュダンス
﹁クリティカルエッジ
ルを斬り抜ける。
││これなら
この、⋮⋮
﹂
投射した。爆風に飲まれ、爆炎から転がり出た二人の変身が解除され
る。
﹁ネプテューヌ、ネプギア
!
ブラッドソウルとアイリスハートの二人が駆け出す。長刀で振り
が解ける。
鋼拳が打ち鳴らされて大きく吹っ飛んだブラックハートもまた、変身
閃が大剣諸共にプロセッサユニットを破壊した。よろめいたそこへ
ブラックハートが駆け出す。大剣と火花を散らし、二刀を束ねた一
!
617
?
互いの攻撃の隙間を縫うように剣閃を奔らせて、シャイニングソウ
!
!
振り向いた二人の前に、背負った突撃砲がグレネードランチャーを
!
﹂
払われ、吹き飛ぶがすぐさま態勢を立て直す。
﹂
﹁力を与えよ││〝魔刃鍛造〟
﹁これならどうよ
の付いた鞘と日本刀。
レールガン
﹁〝迅雷〟
﹂
に拳を握りしめる。
その不可解な現象を前に口を開けて絶句しているネプテューヌ達
るのか、唸っていた。
あろうことか││〝帯電〟している。新鮮な感覚に心奪われてい
つめていた。
バチリ。紫電を鳴らしながら、シャイニングソウルが自らの拳を見
︽⋮⋮⋮⋮ふむ︾
⋮⋮。
グ ソ ウ ル の 機 能 を 大 幅 に 制 限 す る は ず だ っ た。そ の は ず だ っ た が
い。想定内だ。しかし、紫電を纏わせた一撃は機人であるシャイニン
刀は空しくも届かない。長刀を交差させて防がれた。それまでは良
シャイニングソウルが閃光の中に飲まれていく││だが、必殺の一
だが、その更に上を行く一言がエヌラス達に突きつけられた。
︾
る。〝それ〟は、理解していたのだ││。
かすり傷ひとつ付けることが出来るならば、倒せる。理解してい
﹁〝超電磁〟抜刀術・壱式││
﹂
地面に倒れこみ、だがすぐさま起き上がったエヌラスの手には撃鉄
の疑問に答えを出す前に長刀で薙ぎ払われて変神が解かれた。
│だが、その手応えにブラッドソウルは訝しんだ。音が軽すぎる。そ
アクセル・ストライクでシャイニングソウルの身体を蹴り飛ばし│
多重召喚して投げ放ち、その中に自らも踊り出る。
スハートが吹き飛び、変身が解除された。ブラッドソウルが偃月刀を
れる。しかし、切り払われて再び放たれた不知火・錦によってアイリ
炎の属性を付与された蛇腹剣がシャイニングソウルに打ち据えら
!
!
!
︽この俺が、何の意味もなくフォートクラブに電導装甲を採用すると
618
!
︽その一撃を〝待っていた〟ぞ
!
でも思っていたのか
﹁││││﹂
︾
感を覚え、戦慄した。
︽返礼する︾
紫電が奔る。
レー ル ガ ン
︾
先から放たれた光速の打ち下ろしは、正に神罰に等しい雷撃となって
片腕一本。その抜刀術がブラッドソウルに叩きつけられる。切っ
︽〝神雷〟
それは抜刀術・零式を模した一撃だった。
︽〝電磁抜刀〟││ッ
︾
右手の長刀を背負い、腰を落として構える。それにエヌラスは既視
かった。
ものとなったエヌラス達に、だがシャイニングソウルは手加減をしな
〝超電磁〟抜刀術、〝紫電〟鬼哭掌、敗れたり││敗北は決定的な
鬼哭掌は最早俺に決定打とならんぞ、エヌラス︾
その為のな。いつまでも貴様の紫電に遅れを取るわけにはいくまい。
︽アレは〝俺に使う〟為の実験だ。どれほどの性能向上が測れるか、
?
!
戦禍の破壊神に敗北を突きつけた。
619
!
episode98 心に纏う刃金を振るう
崩折れ、地に伏せるエヌラスを見て、ネプテューヌ達は立ち上がろ
うとする。シャイニングソウルはその様を帯電しながらただ見つめ
ていた。長刀を地面に突き刺して、柄頭に手を置いて律儀に待ってい
る。呻きながら何とか立ち上がろうとする少女達がシャイニングソ
︾
ウルと目が合い、やがて力なく俯く。││勝てない。そう思ったのだ
ろう。
︽⋮⋮〝諦める〟のか
そこに敢えて、シャイニングソウルは自ら愚策を弄した。一人の男
の起爆剤を踏み抜く。
︽この俺にかすり傷ひとつ付けて、それで満足か。これで終わりか。
それで全力を尽くしたか︾
国内の圧倒的支持によるシェアエネルギー。機械の身体に、類まれ
な 剣 術 と 射 撃 の 腕 前。そ こ に 電 撃 も 無 効 化 さ れ れ ば 打 つ 手 は 無 い。
勝ち目すら。
立ちはだかる鋼鉄の絶望にネプテューヌ達は立ち上がる気力すら
起きなかった。
ゲイムギョウ界を守る為に戦うのは、良い。何度でも立ち上がろう
と思う。どんな敵が相手でも負けない。しかしこの決闘になんの意
味 が あ る た だ の 喧 嘩 だ。た だ の 意 地 の 張 り 合 い だ。ど ち ら が 強
し合いじみた事をしなければならないのか。││それでも、エヌラス
は立ち上がる。
﹂
﹁エヌ、ラス⋮⋮
だ早い。早すぎる││
﹁テメ、ェと一緒に⋮⋮すんじゃねぇ⋮⋮ こちとら弱くて脆い人
!
とも、ネプテューヌ達と笑顔でお別れも、復讐も何もかも。決着はま
何も諦めていない。何一つ諦めていない。この世界をやり直すこ
その言葉が、どうしてか。何故か心をこんなに
││諦めるのか
?
も叩き起こす。
?
!
620
?
くて、どちらが弱くて。白黒ハッキリつける為だけの喧嘩に、何故殺
?
﹂
間様だ⋮⋮少しくらい、休憩させろよ⋮⋮何時間テメェと張り合って
ると思ってんだ⋮⋮
﹁無理よ⋮⋮エヌラス。勝ち目なんて﹂
﹁そうだよ⋮⋮。あの鍵でも使わない限り、無理だってば﹂
︽⋮⋮銀の鍵か。確かにな。それを使えば俺に為す術は無い。防ぐ手
立てはないだろう︾
﹁使わねぇよ。安心しろ、アルシュベイト﹂
倭刀と偃月刀を召喚して、杖代わりに身体を押し上げる。立ち上が
り、二刀流の剣礼に返礼する。それにシャイニングソウルは長刀を担
ぎ上げた。エヌラスはふらつく足取りで歩き出す。歪曲した刃を持
つ偃月刀を逆手に構え、防御に専念する。倭刀で攻防一体の剣技を踊
らせながら長刀の一撃必殺を凌ぐ。二天一流の胴薙ぎを防いで、防御
障壁が破壊された。それに伴って偃月刀が折れ、だが長刀の間合いに
は近すぎる距離。その鼻っ柱に鋼拳が打ち込まれてエヌラスの身体
︾
が地面を転がった。
︽立てェいッ
︽お前らの守りたいものはなんだ
お前達の愛は、そんなものか
!
立ち上がれ、
!
世界の全てを秤に掛けてなお足らぬ信念、見せてみ
愛への冒涜だ そんなものは俺が赦さぬッ
︾
武器を取れッ
だ
勝てぬと屈し、膝を折り、頭を垂れて赦しを乞う誇りはもはや冒涜
!
﹁変││神⋮⋮っ
﹂
ち上がる、羽織っていたコートを脱ぎ捨てて血を流しながら。
無駄だ。だが、しかし。果たしてそうだろうか。エヌラスはまだ立
それでも、立ち上がれない。こんな戦い、意味が無い。
ろ
!
偃月刀が長刀と鎬を削る。一撃を受けるだけで大きく姿勢が崩れ、
そんな疑問がアゴウの国民達も含めた全員が首を傾げる。
││どうして
拭った血がネプテューヌの前に垂れる。プルルートの頬を濡らした。
そ の 指 先 か ら 血 が 滴 る。そ れ が す れ 違 う ノ ワ ー ル の 頬 に 掛 か り、
!
?
621
!
シャイニングソウルの喝に、ネプテューヌ達が身体を竦ませる。
!!
!!
!
!
持ち直した矢先に返しの一刀が迫った。それを受け流してヒザ蹴り
をまともにもらうブラッドソウルが吐血する。柄で殴りつけて、続く
前蹴りが距離を離した。そこへ、長刀を振り下ろす。
直撃を受けて袈裟懸けに剣閃が走り、血が噴き出す。それでも寸で
のところで回避したが、避けきれなかった。倒れそうになる足がたた
らを踏み、歯を食いしばって踏み止まる。偃月刀の切っ先が地面から
︾
土を跳ね上げてシャイニングソウルの顔に浴びせられた。
︽ぬっ
一瞬だが視界を塞がれ、やぶれかぶれに振るった一刀が避けられ
る。燃える偃月刀を防ぎれないと察知したシャイニングソウルが背
負った二門の突撃砲を前面に展開してグレネードランチャーを発射
﹂
した。爆風に呑まれて二人の距離が大きく離れる。
ヘリクス・カノン
﹁││〝螺旋砲塔〟神銃、形態⋮⋮ッ
紫電が奔る。
︽チェストォォォオオオオッ
︾
ニングソウルもまた、逆手に一刀を構えてもう一方を担ぐ。
とも砲とも取れぬ棒状の物体を赤く塗り潰しながら構えた。シャイ
悲鳴を上げた。鮮血が傷口から噴き出す。両手を真っ赤に染めて、杖
激痛をねじ伏せて、冷酷なまでに自らの身体を総動員して体細胞が
!!
の魂には、届かない。まだ足りない。〝覚悟〟が足りていないのだ。
走る一閃だが、それも致命傷には至らない。まだ届かない。この武神
二天一流を凌ぎ、刹那の隙。偃月刀が振り下ろされる。胸部装甲に
唐無稽な決戦場。
らの血で赤く染まる人間。荒野を駆ける風は血と鋼と硝煙の香る荒
丁々発止。剣戟が鳴らされる。鮮血を浴びて赤く染まる機体に、自
神はどちらともなく駆け出した。
が白く染め上げられ││そして、未だ健在の白銀の武神と戦禍の破壊
となって差し迫る。衝突する二刀と一門の最大火力が爆ぜる。世界
爆炎。閃光。二重螺旋に絡まる炎熱と極寒の属性が純粋な破壊力
!!
貴様が本当に恐れることはなんだ
︾
それでも、果たして勝てるのか。この最強を豪語する白銀の武神に。
︽エヌラァァスッ
!
!
622
!?
偃月刀が砕ける。間もなく再錬成される。
︽愛 し た も の が 殺 さ れ る こ と か 愛 し た も の に 裏 切 ら れ る こ と か
︾
中に収めるものだ
奪われるものだ 一時、この世から己の手
︾
││何が足りないというのか。
歩み続けろ
人である貴
││覚悟か、否。違う。本当に足りていないのは⋮⋮。
〝人間〟だからこそだ
!
愛を恐れるな、エヌ
︽その足が止まったその時、支えるものがいるのなら
様を愛するものだ
︾
!
愛するものに愛される時、世界は素晴らしい
は起き上がる。
︽恐れるな
なんと業の深いことよ
︾
アイ
おのれ
己の
た。それでも彼女は、その胸に剣を突き立てられたその時に││笑っ
麗 な そ の 人 を、愛 し て し ま っ た。奪 っ て し ま っ た。奪 わ れ て し ま っ
下帝国で起こる騒動、暴動、凶悪事件の渦中で生き残るには健気で綺
犯罪国家と称される九龍アマルガムで、その少女は生きていた。地
遠だと思うの﹄
﹃雨の降る日に傘を捨てて踊るのが自由なら。人が人を愛する日は永
脳に残響が響く。それは、かつてこの手で愛した伴侶の言葉。
﹃エヌラス、私ね││﹄
何が足りていないのか。そんなものは、とうに知っている。
砕け⋮⋮││それでもまだ、心が叫んでいる。
空の青さだけがひたすらに腹立たしい。血に濡れ、土に汚れ、体は
愛の
!! !
倭刀が折れる。偃月刀が砕かれる。膝が崩折れ、それでもまだ身体
ラス
︾
未来へ
守れぬ時があったのならば、守り
今度こそはと、次を〝諦めるな〟
!
︽ならば、何を恐れることがある
抜け
!
不退転の進撃、生まれ持った二本の足でひたすらに駆け抜けろ
!
︽愛とは奪うものだ
偃月刀が砕け散る。再錬成している暇もなく倭刀で凌ぐ。
!
!
!
!
!
生きる世界を美しいと思える心こそ、今の俺を支える愛国心
!
吹き飛ばされ、転がり、無様に五体を投げ出す。
!
623
!
!
!
!
ていたのだ。
﹃││エヌラス⋮⋮私、貴方の笑顔が見たかったな⋮⋮⋮⋮﹄
〝⋮⋮⋮⋮嗚呼〟
思い出した。
泣きもせず、笑いもせず、あの頃の自分はひたすらに憎悪と憤怒に
身を任せていた。
世界が憎いと思った。世界が醜いと思った。〝こんな世界壊れて
しまえばいい〟とさえ、思った。事実、そうしようとしていたのだ。
地上に出て、そして││己の恩師が、恋人を掻き抱いているのを見た
その時、全ての憎悪と憤怒の矛先が決まった。過去の贖罪を求めて
も、誰も裁いてくれない。この痛みが、救いようのない胸を深く穿つ
痛みだけが自分を唯一苛む。
〝俺は││││死んだほうがいいのかもしれねぇな⋮⋮〟
││もういいだろう。
諦めるのか
﹁││││
﹂
﹁││、││││
﹂
〝⋮⋮ド畜生が〟
││て││
!
!
ねぇな⋮⋮。
諦めるのか
﹂
答えは出ている。││諦めきれるものか
﹁エヌラス││起きてよ
塞いでいる。ノワールは変身してシャイニングソウルと剣戟を鳴ら
テューヌが泣いていた。ネプギアも涙を拭いながらヒールで傷口を
ボ ロ ボ ロ と 涙 を こ ぼ し て、顔 を ク シ ャ ク シ ャ に 歪 ま せ て、ネ プ
﹁うる⋮⋮⋮⋮せぇ、な⋮⋮ホンットウに、テメェらはよ⋮⋮﹂
!
!
人の耳元でギャーギャーピーピー泣き喚いて、うるせぇことこの上
﹁││⋮⋮
﹂
嗚呼、チクショウ││静かにしてくれ。これじゃあ眠れない。
た。
自分を呼び起こす声が聴こえる。遠のく意識が、繋ぎ止められてい
⋮⋮諦めるのか。
││もう、休ませてくれ。
諦めるのか
?
?
624
?
!
!
している。
プルルートの膝の上に頭を乗せられて、額に手が当てられていた。
心地よい温もりに身を任せそうになる。だが、足りない。全くもって
足りていない。
﹁⋮⋮エヌラス﹂
﹁なん、だよ⋮⋮﹂
﹁あたし達を愛してるって言わないならぁ∼、死んでも勝たなきゃ駄
目だよぉ∼﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ああ⋮⋮ああ││分かってる﹂
この心を打つ鼓動の熱さを鎮めるには、全くもって足りていない。
エヌラスは身体を起こして、立ち上がる。その口は笑っていた。血
を吐き、血を流し、血に濡れて、それでもまだ立ち上がる。身体の骨
が軋み、筋肉が悲鳴をあげている。それがこんなにも心地良い。生き
ている││自分はまだ、生きている。それが、こんなにも心を高鳴ら
せる。
人が人を愛する日々が永遠に続くなら、悲劇と絶望と恐怖に彩られ
た世界などどうでもいい。
ブラックハートがシャイニングソウルの一撃を受けて吹き飛び、そ
の身体を抱きとめられた。目尻に涙の跡が残っているのを土まみれ
の指先で拭い、変神する。
﹁エヌラス││﹂
親指を立てて、歩み寄る。最強の国王に、白銀の武神に。
紫電が奔る、右手には長大な野太刀。左手には撃鉄の付いた長大な
鞘。右 肩 に 担 ぎ 上 げ て 納 刀 す る。銀 鍵 守 護 器 官 が 唸 り を 上 げ た。心
レー ル ガ ン
臓の鼓動が脈打つ。
︽⋮⋮〝超電磁砲〟抜刀術を、その体で撃つ気か︾
﹁ったりめぇだ﹂
︽死ぬぞ︾
﹁死んでも勝つ﹂
︽で、あろうな。ならばその死力に俺も応えねばなるまい︾
シャイニングソウルもまた、同様に構える。右肩に長刀を担ぎ上
625
げ、左手の長刀を横一文字に構えた。紫電が奔る。
互いの身体から奔る電流が地面を駆け巡っていた。
次の一撃が雌雄を決すものだと、そう直感する。
エヌラス=ブラッドソウルはこれが限界だった。
アルシュベイト=シャイニングソウルもまた、臨界点を超えそうに
なっていた。
互いに、疲弊している。だが、それでも彼我の実力差は圧倒的であ
る。
人は脆く、弱い。機人は強い。疲れも知らず眠りも恐れも知らぬ。
﹁⋮⋮一手、馳走││﹂
﹂
︽いつなりとも、参れ︾
﹁応││ッ
人間は、脆い。弱い存在だ。いつでも淘汰される存在だ。人々を守
るのが守護女神の役割。彼女達は守らねばならない。だが、女神は誰
﹂
が守るのか。守られている人々の願いが守ってくれるのだろうか。
レー ル ガ ン
﹁〝超電磁砲〟抜刀術・零式ッ
でも││
ヱンドゲィム
レー ル ガ ン
﹁〝 終 焉 〟││ッ
﹂
何も持たず。何もかも失い、何も無い無力で愚かな人間だった自分
│それでも、と。エヌラスは思う。
に苦しみ喘ぐ。立ち止まり、目を背け、耳を塞ぎ、殻に閉じこもる。│
最強とは遠い存在である。絶望に打ちのめされ、恐怖に竦み、混沌
人は、無力だ。いつでも淘汰される存在だ。
!!
沌に挑むその時、世界に向かって叫びたい。
︾
お前達を愛していると││お前達を愛する人が此処に居ると
︽││神雷ッ
!
愛した相手が守護女神だったのなら、絶望と恐怖に立ち止まり、混
︽〝電磁抜刀〟││︾
!
アゴウ国民は目を奪われた。心奪われていた。信じていた。
戦場を荒れ狂う。神の裁きが振り下ろされているかのような光景に、
電磁圧縮された光速の抜刀術が衝突する。拮抗する。光の奔流が
!!
626
!
!
天に仰ぎ見る最強の国王に敗北はない。
最前線の戦場で土に汚れ、血に濡れて女神達は目を奪われていた。
心奪われていた。信じた。
ボロボロで、血塗れで、それでもまだ絶望に挑む弱いヒトの背中を。
絶対に負けない。
拮抗する││まだ紫電が疾走っていた。その死中で、シャイニング
ソウルは見た。
﹂
ブラッドソウルが、笑う。
﹁アルシュベイトォォォッ
︾
﹂
光の奔流、電撃の暴風雨に新たな音が聞こえた。
﹁俺の限界に、ついてきてみやがれぇぇぇぇぇぇ││││││ッ
吼えた。軍神の咆哮だった。
︽エヌラァァァスッ
吼えた。獅子の咆哮だった。
!
刀が収められている。
ツインレールガン
︾
﹁〝双翼電磁砲〟││
︽バカ、な││
か││
﹂
知らない。そんな馬鹿げた一撃など今の今まで何故隠してきたの
!
ブラッドソウルの左腰に召喚されている撃鉄の付いた鞘││日本
バチリ││
!!
!!
﹂
︾
じ構え。ならば次なる一手も必然的に同様。
﹁〝比翼〟
︽チィィェストオオオオオオオォッ
﹁││俺の限界を、テメェが決めるんじゃねぇぞォォォッ
﹂
対して、シャイニングソウル。その豪剣が半ばより消失している。
ブラッドソウルの両手には野太刀と日本刀が健在していた。
互いに両腕を開く形となった。しかし、決定的な相違点が一つ。
さる。
ングソウルの長刀を二本とも砕いた。宙に舞う刀身が地面に突き刺
がら空きの懐に打ち込まれる一撃は││〝二撃一刀〟はシャイニ
!!
!
!
627
!
!
左手で野太刀を押さえつけて、右手が脇の太刀を掴む。奇しくも同
!
野太刀と日本刀が転送される。エヌラスが踏み込む││紫電が奔
る。この期に及んでまだ放つか〝紫電〟鬼哭掌││否、それは拳だっ
た。
鮮血が舞い上がる。自ら流した血が帯電する。流れ出た血が霧散
する。赤い血風となって血霧が右手に装甲を纏う。両足の断鎖術式
が起動。
光速を超えた魔拳がシャイニングソウルの顔面に打ち込まれた。
〝電磁特攻〟雪風││が、崩し。〝刃金〟が纏い、〝契〟
﹁人間舐めんな、最強。言ったろう、折るぜ││ってな﹂
アルシュベイト=シャイニングソウルは変神が解かれて仰向けに
倒れていく。
そのまま受け身を取ることもなく、五体を投げ出していた。
628
e p i s o d e 9 9 戦 友 よ。輩 よ。縁 と 添 い 遂 げ
未来へ生きよ
﹁俺の勝ちだ、アルシュベイト。テメェの負けだ﹂
︽││フッ︾
アルシュベイトは、笑う。腹の底からの笑い声だった。なんの苦も
なく上体を起こし、立ち上がる。それにネプテューヌ達も身構えた。
︽幾星霜、繰り返してもお前との決闘は血沸き肉踊る真に迫る血闘よ
││そして俺は何度敗れても学ばんなぁ⋮⋮俺の負けだ、エヌラス。
敗北を認めよう︾
﹂
﹁ありがとうよ、最強││﹂
﹁エヌラス
倒れそうになる身体をノワールが支える。立っているのが奇跡的
だ。もう一歩も歩けない。
︾
︽血肉を糧とする人の為せる技、か⋮⋮││だがなエヌラス。お前少
し無理し過ぎではないか
バーカ
﹂
﹁う っ せ ぇ。こ う で も し な き ゃ 倒 れ な か っ た テ メ ェ が 言 う セ リ フ か
?
する。一歩間違えれば死んでいるぞ︾
﹁魔術の心構えの一つ、魔道は踏み外せば破滅行きだアホンダラ﹂
急に砕けた口調で談笑する二人にノワールが顔を見比べる。
瀕死のエヌラスと、まるで先ほどの一撃を苦にもしていないアル
シュベイト。
なにか腑に落ちなかった。
これで⋮⋮決着
︽俺の負けだ︾
﹁⋮⋮アナタ、まだ全然戦えるじゃない﹂
﹂
﹁えーっと、決闘は
?
﹁俺の勝ち﹂
?
629
!?
︽自らの血を電気分解して魔力に変換とは、またとんでもないことを
!
︽うむ。敗北を喫したが戦闘行動に支障は一切ない。勝って兜の緒を
﹂
締める、負けて涙を飲むのなら切磋琢磨は基本だろう︾
﹁最強、なのよね
︽勝利の美酒も敗北の苦汁も味わってこその〝最強〟だ。勝利一辺倒
だけでは最強足り得ぬよ︾
つくづく怪物で傑物であると痛感する。ネプテューヌ達も戦闘が
終わった和やかな空気を察したのか、ほっと胸を撫で下ろす。最強の
称号に何一つ偽りはなかった。
﹁私達が今まで戦った中で、一番強かったです⋮⋮﹂
︽賞賛、痛み入る︾
地面が揺れ、アゴウの城壁の一部が崩れていく。奈落の闇へと落ち
ていった。
︽直に限界か。間もなくアゴウは陥落する。世界の滅びに選ばれたと
あっては致し方あるまい︾
﹁なら、早く逃げないと⋮⋮﹂
︽いいや︾
アルシュベイトは首を横に振る。
︽俺は軍事国家アゴウ国王、アルシュベイトだ。王が国を捨て、民を見
捨てて背を向けるなど言語道断。俺が愛した国だ。滅び行くならば
︾
共 に 受 け 入 れ よ う。あ の 無 尽 蔵 の 絶 望 を 滅 ぼ す に は そ れ し か な い。
俺が食い止める。お前達は行け︾
﹁そんな││そんなことで﹂
︽そんなこととはなんだ、戯けッ
と共に滅ぶ
俺はアゴウを愛した。故に、愛
そんな世界、生き
大いなる〝C〟への挑戦権など俺はいらん︾
愛なき世界など愚昧にして醜悪
るに値せんッ
!
︽共に散る覚悟もなく俺は愛さぬ
ピシャリと怒鳴られてネプギアが身体を竦めた。
!
!
淡い光となって身体へ溶けこんでいき、やがて静かに消滅した。
﹁アル││﹂
︽生きろ、エヌラス。生き抜け。生き続けろ。何があっても、彼女達と
630
?
胸部装甲を開いて宝玉を取り出すと、エヌラスが受け取る。それは
!
!
共に未来を拓け。敗北も敗退も俺が赦さぬ。お前が未来へ生きる限
り、俺は過去と戦い続けることを誓う︾
﹁││││⋮⋮﹂
せ ん ゆ う
︽埋葬の華に誓って││俺は絶望と戦い続ける。さらばだ、我が最愛
の好敵手︾
アルシュベイトは背を向ける。無尽蔵の絶望が巣を突かれた蜂の
ごとく溢れ出る。見上げるほどの巨体も確認できた。だが、それに立
喝采せよ
ち向かう鋼の鬼神に恐れはない。なぜならば││彼は絶望を恐怖さ
賞賛せよ
!
せる無限の輝望。
︾
︽軍事国家アゴウに生きる最愛の民よ
勝者に一時の祝福を
!
りてくる。
︽お乗りください、戦禍の破壊神︾
﹁お前ら⋮⋮﹂
﹂
ウへ戻ろうとしたトライデント達が呼び止められる。
﹁どうして⋮⋮戦いに行くんですか
﹁国内に留まっていたら、そのまま消えちゃうんだよ
﹂
アゴウの城壁外でネプテューヌ達は降ろされる。踵を返してアゴ
ルルートと、エヌラスを担いで軽々と飛翔した。
おいて、トライデントに次ぐ最大戦力とされている。背中に乗ったプ
達と違う装飾と装備は彼らが懲罰部隊であると同時にアゴウ戦力に
左肩のエンブレム。第666部隊、通称〝黒の獣〟分隊。他の機人
ザ・ビースト
それに頷いて三人が背に乗ると、今度は見慣れない漆黒の機影が降
︽最後の戦争に遅れちまう。頼むぜ︾
︽時間がありません。お急ぎを︾
︽乗れ。俺達が城壁の外まで送り出す︾
トライデントがネプテューヌ達の前に着地して跪いた。
霊達の叫び。そして、彼らはこれから滅び行く。
れる凱歌が城壁から轟く。胸の奥まで響くような名前も知らない英
エヌラス達に浴びせられるアゴウ国民からの大喝采。勝者へ送ら
!
?
?
631
!
︽⋮⋮⋮⋮それが〝何故〟かと聞かれれば、我らはそうと決めていた
からとしか答えられません︾
﹁じゃあ、もしかして最初から﹂
︽はい。アルシュベイト様も、我らアゴウ国民一同。その為に︾
︽ま、そういうこった。無尽蔵の絶望相手に俺達はやれることやり切
るだけだ︾
︽それではな、異次元の守護女神達よ︾
﹂
背を向けて飛び去ろうとする機人達に、ネプテューヌは声を張り上
げた。
︾︾︾
﹁ありがトライデント
︽︽︽略すなっ
たと︾
﹂
︽大将はロリコンだったのか
︾
︽ああ││俺は今、初めて心の底から思っているよ。出会って良かっ
︽そんな事を言われたのは今日が初めてですね︾
か⋮⋮︾
︽無尽蔵の絶望相手にする俺達に向かって、よりによって〝頑張れ〟
︽⋮⋮頑張って、か。聞いたかお前ら︾
を仰いで。
鋼鉄機人最前線 を 構 成 す る 軍 団 が 整 列 し て い く。そ の 筆 頭 に 国 王
マシンナーズ・フロントライン
で最前線へ送り出す。
なく、フォートクラブ達の背中にありったけの武器・弾薬を積み込ん
動員で武装を運び出していた。城壁上へ続く昇降機に載せるだけで
││トライデントがアゴウ城壁内部。要塞格納庫へ帰還すると総
﹁だから││頑張って
三人の同時ツッコミに、〝黒の獣〟部隊が笑いを堪えている。
!
!!
く。絶望の戦場へ勇み行く。
と長刀のメンテナンスを確認して万全の態勢を期して三人は歩みゆ
そんな冗談のような言葉を投げ合いながら推進剤を補充して、弾薬
︽彼女なら、或いは悪くないかもしれんな︾
?
632
!!!
︽勝つぞ、お前ら︾
︽何が無尽蔵の絶望だ、馬鹿馬鹿しい。こちとら両手の指以上数えた
こたぁねぇよ︾
ザ・ビースト
︽数えてる暇あったのかい、ランス03︾
〝 黒の獣 〟 分 隊 も ま た、黙 々 と 推 進 剤 の 補 充 を 急 ぐ。腰 部 ブ ー ス
ターの接続部をカットして取り外し、給油口にチューブを差し込んで
液体燃料を流し込む。
彼らが元・九龍アマルガムの国民であったという事実を知るものは
限りなく少ない。そんな彼らの複眼型網膜ユニットの端に捉えたの
は、電脳国家インタースカイ国王の姿。
電池の切れた玩具のように横たわり、その身体には無数のケーブル
リ ブー ト
が接続されている。
︽⋮⋮再起動までの時間と可能性は︾
︽五分でしょうか︾
我がアゴウの民達よ 今日この日まで戦い続
列した全ての機人、軍人、要塞ガニ達に響き渡った。世界に宣誓する
演説である。今、この瞬間から彼らの戦争が幕を開けた。
633
︽そうか︾
淡々と感情の欠落した電子音声が何よりも機械的な挙動で││突
︾と間の抜
然、バルド・ギアの頭を叩いた。それに何事かと目を向けるトライデ
ントが覗き込む。
︽叩いて起きたら苦労しねーよ︾
︽考えてみればそうだな。テレビじゃあるまいし︾
彼らが冗談を言うのを初めて聞いたランス03が︽は
けた声を出して背中を見送っている。
最強の三叉槍︾
︽今日は死ぬにはいい日だ。冗談の一つ、口からも出てくる。行くぞ、
?
︽貴様らに言われるまでもない。行こう、我らの輝望が待っている︾
︽││時は満ちた
︾
!
アルシュベイトが長刀を大地に立てて声を張り上げる。それは整
けた英雄たちよ
!
!
第一幕は、演説。
俺はアゴウを愛している
アゴウ
無尽蔵
俺は、俺の愛するア
俺の愛は、奪われ続けてきた
︽俺はこの国を愛しているッ
にお前達を愛しているッ
︾
ならば、取り返す
奪い返すぞっ
の絶望に、ヌルズ達に
ゴウを取り戻す
!
!
する。
︾
その目に灼きつ
俺は王たる者の務めを果たすっ
こ
神は、居ないッ
︽虚無の彼方より飛来したあの絶望に、無限の輝望を見せつけよう
神は居ない
俺の名を言ってみろォ
そ れ で も お 前 達 の 願 い は 聞 き 届 け ら れ た
人の輝く願いは聞き届けられた
だ が し か し
の俺に、鋼の軍神に
││軍事国家アゴウ国王アルシュベイト様
││鋼の軍神、アルシュベイト隊長
アルシュベイト国王
万歳ッ
ならばどうする
万歳ッ
││護国の鬼神
万歳
︽宜しい
!
これが、お前達の願う〝無限の輝望〟だッ
︾
!
いざ天に仰げッ 遠からずば音にも聞けぇッ
けろ
トランジション
││ 変・ 神 ッ
軍事国家アゴウ国王アルシュベイト様ッ
白銀の武神、シャイニングソウル様ッ
我らの無限の輝望、シャイニングソウル様
!
明 日 を 〝 諦 め る な 〟
ならば││
人 の 未 来 は 永 遠 だ。〝 死 す ら も 殺
︾
今、この瞬間から我らの勝利だッ
!
勝鬨の声を張り上げろオオオオオォォォォッ
せぬ永劫〟だッ
!
ア ゴ ウ に 生 き て。ア ゴ ウ で 死 ぬ。そ こ に 絶 望 も 諦 観 も 恐 怖 も 無
望への勝利。
最前線の戦場が熱狂する。それは機人達の願って止まなかった絶
!!!
!
るッ
︽俺 は お 前 達 が 人 の 未 来 を 願 う 限 り 戦 い 続 け る こ と を こ こ に 宣 誓 す
迎する。
白銀の武神が顕現する。長刀を携えて、剣礼を持って国民たちを歓
!!
!
!
!
!
!
!
!
一斉に沸き立つアゴウの全国民達が思い思いの武器を掲げて喝采
!!
!
!
!
! !!
!
!
!!
!
!
!
!
!
!
!!
!
!
634
!
!
!
!
!!
かった。
聞こえるか、無尽蔵の絶望よ
︾
これが我らアゴウの〝未来への咆哮〟ッ
︽聞こえるか、ヌルズよッ
〝アゴウ〟だ
︾
これが
絶望
未来永劫、希望に敗北し続
!
した武装は、長大な電磁投射砲であった。
!
装弾数一発。
︾
︽M.u.V │ L │ │ オ ル タ ナ テ ィ ヴ ッ
れェェェェ││││
こ の 俺 の 愛 ッ、受 け 取
シャイニングソウルが飛翔する。鋼の鬼神が飛翔し、その手に召喚
第二幕が上がる。それは、狼煙だった。開戦の合図だった。
けるがいいッ
︽貴様らに勝利の二文字は無いぞ、絶望
かし、シャイニングソウルの演説は止まない。
ヌルズ達が迫る。既に目視できる距離まで接近していた。だがし
ですら塗り潰せぬ、熱き人の魂ッ
!
!
!!
フロントライン
フロントライン
最 前 線 ッ
︾
最 前 線 ッ
!
││そして、全てを呑み込んだ。
フロントライン
最 前 線
︽火蓋は切って落とされた。征くぞ、貴様ら
︾
フロントライン
││ 最 前 線
フロントライン
最 前 線
︾
!!
!!
︽貴様達の墓標は何処だッ
フロントライン
︽ならば、己の墓標を突き立てろッ
││ 最 前 線
! !! !
死に場所は何処だッ
ル。ヌルズ達の群れを突き進み、深く穿たれた穿孔の淵に突き刺さり
弾道を歪ませ、軌跡を飲み込みながら突き進む弾丸ブラックホー
て歪む。
前。国内最大火力とされる﹃要塞攻略砲門﹄が自らの一撃に耐え兼ね
アゴウに撃ち込まれた。││かつて、アゴウが軍事国家と呼ばれる以
せた﹃特異点断裂弾頭﹄が発射される。光の軌跡を描きながらそれは、
バルド・ギアの電界突破並びにエヌラスの断鎖術式を同時に複合さ
=オルタナティヴ﹄
正式名称﹃マルチプル・アンリミテッド・ヴァリアント・ランチャー
!!!
剣を地面に突き立てる。名前のない墓標が無数に立てられる。
!!
!
635
!!
!
!
!
!
︽行くぞォォォォォッ
︾
││軍事国家アゴウ万歳ッ
︽トライデント部隊が先に行くぞ
︾
︽最強の三叉槍が一番槍は頂くぜえええっ
︾
︽我らの希望に遅れを取るな。続けェェェェェェェェェェェッ
││我らの無限の輝望、シャイニングソウル様万歳ッ
││アゴウ国王アルシュベイト様万歳ッ
!
何故ならば
︾
︾
我らは〝戦うために造られた〟からだ
絶望を攻略するぞ
!
続けよう
︽戦うことが人の愚かさの象徴ならば、我らはひたすらに愚かであり
に、世界の未来に。
彼らには無尽蔵の絶望に匹敵する希望を抱いている。人類の明日
な戦局にあってなお、それがとうしたというのか。
対する、アゴウ戦力、総勢五百万足らず。圧倒的な戦力差、絶望的
ヴィ型∞、キャノン型∞。
ヌルズ戦力、∞。ミニオン型∞、ミッド型∞、ファイター型∞、ヘ
!!
!!!
!
!
!!!
!
戦い続ける悦びを謳歌せよ
砕を敢行せよ。
636
!
!
!
作戦名〝謳歌〟発令。繰り返す。作戦名〝謳歌〟発令││総員、玉
!
episode100 血と硝煙と鋼と荒唐無稽
圧倒的物量。圧倒的戦力差であってもなお、ヌルズは五百万という
アゴウの壁を超えることが出来なかった。崩落した地盤、崩壊した地
面 に 飲 み 込 ま れ て 落 ち て い く 度 に 本 能 に 従 っ て 集 合 し よ う と す る。
だが、それが叶わずに右往左往している隙に長刀が、突撃砲が、支援
火器が、フォートクラブが蹂躙していく。殲滅していった。
シャイニングソウルの一振りでヌルズ達が木の葉の如く舞い上が
り、吹き飛ぶ。剣風が容赦なく肉片にしていく。
目的地は唯一つ。かの作戦﹁桜花﹂において届かなかったヌルズの
巣窟。その最深部への到達だ。撃ち込まれた特異点断裂弾頭によっ
て後続の部隊は続かない。黒い闇が渦巻い崖から登ろうとしている
ヌルズを吸い込んでいく。徐々に収縮されていく闇の先に何がある
のかは分からない。
637
今まで見たことのない巨体のヌルズが彼らの前へと歩み出る。高
︾
層ビルほどの見上げる巨躯を前に足を止めたその瞬間││
︽邪魔だ、チェストォォォッ
﹃国を想う。その一心において俺はお前を凌駕するぞ﹄
﹃よりにもよって女神であるこの私と、何を思って共にする﹄
というものを知らなかった頃の記憶。
先代、アゴウ国王の守護女神と月を見上げなから交わした盃。絶望
﹃アルシュベイト、お前は本当に物好きな男だな﹄
それは、魂の記憶││人が言う思い出だ。
はノイズを聞いていた。機人となった今ではもはや忘れてしまった
眼下に見える無数の絶望。それを飛び越えながらアルシュベイト
03の死角から襲い掛かるヌルズを撃つ。
ランス01が突撃砲で突破口を開き、ランス02が突貫するランス
追ってトライデントが続く。
が 死 ん で い っ た。シ ャ イ ニ ン グ ソ ウ ル は ひ た 駆 け る。そ の 背 中 を
真っ二つにされて倒れていく。その下敷きになって無数のヌルズ達
シャイニングソウルの召喚した﹃御剣・武御雷﹄によって一刀の下、
!!
﹃ほざくか、人間め。女神である私と比肩どころか、超越していると﹄
﹃この愛に人も神も関係ない﹄
ヌルズ達の鮮血が身体に浴びせられる。背中の突撃砲を展開して
キャノン型ヌルズを制圧していく。
﹃ハハハ、そうか。うむ。そうだな。お前が国を想うからこそ私は戦
えているのだな﹄
︾
﹃そして、我らアゴウの民は貴方が守るからこそ笑えるのだ﹄
︽退けぇいッ
正面に立ち塞がるファイター型ヌルズに鋼拳を打ち込んで吹き飛
ばす。骨を砕き、肉を穿ち、血をまき散らして大きく吹っ飛んで踏み
潰されていった。
絶望の巣窟を前にして五百万の軍勢は既に半数以上が戦死してい
る。しかし、それでもこの足を止めるわけにはいかない。
︽行け、トライデント︾
︽何のつもりだ︾
︽最高戦力が揃って行っては撃ち漏らしが気になる。殿は任せろ︾
︽食い残すなよ、獣共︾
︽貴様らもな︾
〝黒の獣〟分隊は巣窟付近に陣取り、他の部隊との連携してヌルズ
達を迎え撃つ。
︽俺達の出撃から何分が経過した︾
︽十五分です︾
︽そうか︾
淡々とした口調で話していた仲間がキャノン型ヌルズの砲撃を受
けてバランスを崩し、ヘヴィ型ヌルズに踏み潰された。あまりに呆気
なく死んだ仲間から目を背けてひたすらに射撃で敵の動きを牽制す
る。
││電子音が無人の城壁に静かに鼓動した。
︽⋮⋮ここ、は︾
バルド・ギアが全システムのチェックを済ませて、一部の機能にア
638
!
ラートが出ているが、まだ十分に動ける。周囲を見渡して、ここがア
ゴウであることを確認するが、誰もいないということが気になった。
昇降機で城壁上に出て周囲を見渡す。青空が迎え入れて、そしてヌ
ルズ達に挑む機人達の姿を確認した。振り返れば、エヌラスに肩を貸
してユノスダスを目指しているであろうネプテューヌ達の姿。
そこで、選択肢が脳裏に浮かぶ。
︽⋮⋮⋮⋮︾
どちらを選ぶべきかしばらく悩んで、バルド・ギアは自分らしいな
と思った。
絶望に挑むか。それとも、背を向けるか。
シャイニングソウルとトライデントがヌルズ巣窟へと突入する。
〝黒の獣〟分隊が次々とはい出てくる姿に射撃で歓迎した。砲撃
も榴弾砲もミサイルも次々と撃ち込んでいく。フォートクラブもま
639
た、遮蔽物代わりに前進しては何匹かのヌルズを撃破していった。だ
が、それでも絶望は止まらない。だがしかし、それでもアゴウは止ま
らない。
そこへ、突然上空から無数のマイクロミサイルが撃ち込まれた。何
事かと目を見張っていた彼らが聞いたのは、飛行音。爆音。
││⋮⋮ィィィィィ。
︾
飛行ユニットから推進剤を噴射しながら飛来する人型機械。次々
と空爆でヌルズ達を蹂躙していく。
││ィィィイイイイイ││
︽やれやれ、まったく。見ていられないな、っと
クラブが猛烈な勢いで爆進してきている。多種多様なフォートクラ
彼らがアゴウ城壁に群がる無数の反応を捉え、振り返るとフォート
︽無尽蔵の絶望を相手にするなら、これぐらいお安いご用さ︾
︽感謝する、バルド・ギア︾
︽好きに使ってくれ。弾薬も自由に︾
た武器を次々とコンテナに詰めて降ろす。
やがて緩やかに着地すると、ユノスダスのサーバーに移転させてい
!
!
ブの軍勢は十や二十ではない。それに何事かと目を向けられたバル
ド・ギアが呆れた様子で首を横に振る。
︽元々フォートクラブ生産工場は君達アゴウの所有物だ。生産プログ
ラ ム の 設 計 は 確 か に ボ ク だ け ど ね。な ら、返 し て お く よ。も う イ ン
タースカイは〝無い〟からね︾
そして、バルド・ギアは指揮権を黒の獣分隊長に譲るなり予備の飛
行ユニットを展開してヌルズの巣窟へと突入した。
その背中にアゴウ国民達からの声が投げられる。
││このお人好し
ヌルズの巣窟は、肉の壁と肉の床で構成されていた。それが全て蠢
くヌルズだと知っている。突入作戦の参加はこれで二度目となるア
ルシュベイトにしてみれば悪夢のような光景でしかない。
巣への侵入者を確認したヌルズ達が殺到する。それを長刀で薙ぎ
払い、着地した。
︽うぇ、まるでハラワタの中みてぇだ︾
ランス03が気持ち悪そうに呻きながら二刀流でファイター型を
︾
一 刀 両 断 す る。射 撃 の 腕 は 殊 更 に 下 手 く そ だ が 剣 の 腕 だ け は ア ル
シュベイトも認めていた。
︽アルシュベイト隊長、この最深部にヌルズの親玉が
トに送信される。
中枢を破壊してしまえばいいだけのこと。巣のデータがトライデン
無尽蔵に生成されるヌルズ達だが、何の事はない。それを生み出す
とって一筋の希望であった。
大勢の犠牲が出た。しかし、そのデータは今後ヌルズと戦う者達に
︽かつての桜花作戦において、連中の巣窟を徹底的に調べあげた︾
伸びてくる触手を切り払う。
脈動する肉の壁と肉の床を歩きながらシャイニングソウルは時折
る。
射撃の腕は目を見張るものがあるものの、近接格闘に若干の難があ
ランス02がセミオート射撃でミッド型ヌルズの急所を撃ち抜く。
?
640
!
︽一箇所だけ、他と違う場所があるな
そこが最深部だ︾
︾
によって一匹残らず轢殺されている。アゴウの軍事力が一時的にと
受けられた。事実、巣窟から這い出たヌルズは無数のフォートクラブ
ヌルズ達の数が増えてきている。彼らの前で産み落とされる姿も見
最深部までの道のりはそれほどの苦難は無かった││だが、徐々に
ろう朽ち果てた日本刀。そして、白骨化した屍体だった。
シャイニングソウルが見つけたのは、かつての突入作戦の名残であ
︽⋮⋮︾
︽やけに静かだな⋮⋮︾
は長い。
やがて、大きく広がる空間に出た。マップを確認する。まだまだ先
い。
型が多数見受けられたが、ここではキャノン型のヌルズは居ないらし
まれたのか、時折落とし穴のように虫喰い穴が開いていた。ミニオン
五人はヌルズ達の巣窟を進む。その内部でも世界の崩壊に巻き込
︽ああ、行こうか。アルシュベイト︾
︽皆目いらぬ。なら行こうか、我が鋼鉄の戦友よ︾
ライフルを取り出す。
ランス01の問いに、さも当然のようにバルド・ギアは言いながら
︽友達を助けるのに理由はいるかい
︽バルド・ギア││貴様が何をしに来た︾
かのヌルズを撃破しながら。
そこへ飛行ユニットをつけたバルド・ギアが着地する。途中で何匹
つまり、奴らは進化していないということだ。
ない。
入を許すことのなかったヌルズがそうそう生態系を変えるとは思え
兵器でマッピングされたデータは過去の物であるが、今日まで敵の侵
所は一箇所。その前には幾つもの隔壁のようなものがあった。音響
巨大な空洞がいくつもの道に分かれているが、最終的に辿り着く場
?
はいえヌルズの生産能力を上回った瞬間であった。しかし、それも長
くは続かない。
641
?
先を急ごうと一枚目の隔壁を切り裂いた彼らの前に現れたのは、無
︾
数のヌルズ達。暗闇の中にただ赤い瞳だけが光っていた。
︽押し通るッ
長刀を投げ放ったシャイニングソウルが空いた両手に突撃支援火
器を二挺召喚する。発射される小型炸薬弾頭によって何匹も吹き飛
んで肉片と化していった。極力弾薬を節約していたランス02もこ
こぞとばかりに掃射していく。突然の奇襲に慌てふためいていたヌ
ルズ達が動き出す。
バルド・ギアとランス03が先陣を切り、次の隔壁を破壊した。だ
が、その先に、更にその先。まだ奥がある。無数のヌルズ達が所狭し
と敷き詰められている。絶望的な光景出会っても尚、五人は諦めな
かった。
巣に侵入者を確認したその時から戦力を集中的に温存させていた
ヌルズ達が一気呵成の反撃に出る。背水の陣となったただただ本能
的に生きるだけの醜悪な生態系は目の前の敵を蹂躙する存在となっ
た。
だが││そこに魂がないのならば、ただの一匹たりとてシャイニン
グソウルに届かない。
︾
地面が揺れ、突如として群れの中心に穴が空いた。
︽ここでも崩壊は始まっているのか
本丸は近いぜ、大将
るみてぇだな
︾
︽となれば、連中は帰巣本能ってやつのせいで此処で固まっちまって
!
!
︽お前達││
︾
︾
︽こんなところでくたばんな、アルシュベイト国王
︽そうです。貴方は私達アゴウの希望
!
は 深 遠 の 闇。上 昇 す る こ と は こ れ 以 上 叶 わ な い。な ら ば、と 二 人 は
手を掴み、腰部ブースターを吹かすと二人で持ち上げる。だが、下
!
︾
と、遮二無二ランス02とランス03は飛び込んだ。
が、その足元が崩れ落ちる。シャイニングソウルが落下しそうになる
大型シールドを召喚して、通路を圧殺する小型ベアリング弾││だ
︾
︽神撃・陽炎
!
642
!
!
!?
︾
シャイニングソウルの足を両手で持ち上げる。
そうだろう
︽俺達は、犠牲じゃねぇ
︾
!
!
アルシュベイト様
︽我々は未来への礎です
︾
!
︾
!!!
作戦は失敗だ
﹄
﹄
お前の愛する国のために、生き延びるん
お前を置いていけるか
﹃アルシュベイト、退け
﹃何を言う馬鹿が
﹄
﹃ならお前は愛に生きろ
だ
││届かなかった。
!
!
︾
眼前には無数のヌルズ。あの日と同じ絶望と悪夢の光景。だが違
︽アルシュベイトッ
届かなかった希望を、届けに来た。絶望に。
!
!
!
無尽蔵の絶望を前に、無限の輝望が吼えた。
声を張り上げた。俺は此処だと。お前達の敵はここに居るぞと。
吼える。ひた吼える。その咆哮が本能的に絶望を恐怖させる。
︽││ォォォォオオオオオッ
││最強の三叉槍の、呆気無い最後だった。
ルは突き立てられた長刀を掴みとる。
倒れゆく身体の手を取り、固い握手を交わして、シャイニングソウ
⋮⋮︾
︽武運長久を、祈ります││││願います⋮⋮我らの、アゴウ││国王
︽⋮⋮ならば、それほど死ぬに良い日はあるまい。そうだろう︾
たよ⋮⋮︾
︽貴方は〝今日〟死ぬのです││今朝の運勢占いは、貴方が一位でし
︽⋮⋮ランス01︾
︽││アル、シュベイト、隊長⋮⋮貴方は、〝今〟死ぬべきではない︾
上がった。
膝を付き、それでも機首を持ち上げたランス01の身体から黒煙が
に出ていた。バルド・ギアもその物量を相手取るので精一杯である。
ランス01がファイター型の拳を受けて大きく損傷しながらも反撃
二人を踏み台にして、シャイニングソウルが飛翔する。その眼前で
︽││スマヌ
!
!
643
!
!
う。あの日と違うのは、己の肉体が人ではないことだ。
拳の一撃が紫電を纏う。正拳突きが風圧でファイター型ヌルズを
これが
!
殴り飛ばして血風を吹き荒らした。
貴様らに届けに来たぞ 希望を
︽俺は、来たぞ絶望
!
真っ二つにした。
!
俺 達 の 魂 が
︽〝あいとゆうきのおとぎばなし〟だ
ぬ、だがそれがどうした
︾
此 処 に 在 る 俺 達 の 生 き 様 が
ぬ〝いのちの詩〟を聞けェ
貴 様 ら に 消 せ
!
!
我らに救いはないかも知れ
て 斬 り 祓 わ れ る。魂 の 熱 量 が 込 め ら れ た 一 刀 は へ ヴ ィ 型 ヌ ル ズ を
その足取りは恐れを知らぬ不退転の神撃。阻むものは血煙となっ
︾
我らアゴウの英雄譚
!
が、絶望を脅かしていた。
!!
だ走る。
へ踏み入り、ヌルズ達によって押し留められる。
最後の絶望へ。無限の輝望が││その魔力に押されて、最後の大広間
ま だ 走 る。絶 望 の 根 源 へ。ひ た 走 る。絶 望 の 根 源 へ。突 き 進 む。
︽オオオオオオオオオォォォォッ
︾
しかし、それでもまだ進む。道を阻む全てを斬り裂き、撃ち抜き、ま
神気が放たれて、浴びせられてシャイニングソウルが踏ん張る。だが
くも神々しい、悍ましくも輝かしい虹色に輝くねじれた双角錐。その
箱。口を開けた宝石箱の中にあるのは、見たこともない宝石。禍々し
絶望の根源は、ちっぽけな箱だった。とてもちいさな、パンドラの
い、那由多の果てに見えるヌルズの親玉。
裂かれる。だが、その最深部に覗くのは無数のヌルズ。果てしなく遠
振り上げた二天一流の長刀が巻き起こす剣圧で最後の隔壁が切り
︽チェェェストォオオオオオッ
︾
〝恐怖〟だった。今まで自分たちが脅かしていた生命の熱い鼓動
赴くままに存在していたヌルズ達が抱いた原初の感情。
グソウルに││その瞬間、初めて彼らに感情が芽生えた。ただ本能の
空気が震える。無数のヌルズ達を前にして尚も退かぬシャイニン
!
!
!!!
644
!
!
││届か、ないのか⋮⋮
処で待っていた。
︾
││アルシュベイト││
名前を呼ばれた気さえする。
︽││││︾
死骸を振り捨て、日本刀を掴み取る。胸が震えた。
俺が愛したアゴウの守護女神よ
!
無窮の愛を、寵愛を誓うッ
!
︽今ここに、契りを結ぼうッ
俺は、お前と未来永劫添い遂げようッ
ずっと待っていた。ずっと此処に居たのだ。絶望の只中に一人、此
覚えている。嗚呼、覚えているとも││俺が愛した女だ。
ていたのは、赤黒く滲んだ鉢巻だった。
にも砕けそうな小さな刀。人間が持つべきその柄頭に巻きつけられ
その目が見たのは││突き立てられた日本刀。刃は欠け、綻び、今
ズの死骸に長刀を突き刺して盾代わりにして走る。
ぽけな絶望だったのか。吐き出される無尽蔵の魔力を前にして、ヌル
た。そして再び走りだす。宝石箱││なんとちっぽけな、なんてちっ
持って叩きつける。ヌルズ達が押し潰され、やがてブースターが壊れ
の 力 は 残 さ れ て い な い。自 ら 腰 部 ブ ー ス タ ー を 切 り 離 す と 両 手 に
る。バランスを崩して地面を滑り、立ち上がる。もはや変神するだけ
アルシュベイトが走る。腰部ブースターを触手が掠め、燃料が漏れ
アはヘヴィ型ヌルズに圧殺された。
最後に見た光景が、何よりも希望に満ちていたから││バルド・ギ
はない。
既に足は半壊し、片腕だけでヌルズ達に囲まれていた。それに恐れ
︽またいつか││あの空の下で逢おう︾
︽感謝する、鋼鉄の友よ
︽行ってくれ、アルシュベイト。これが最後だ︾
大広間を覆う魔力に綻びを生んだ。
バルド・ギアの狙撃銃が宝石箱の縁を掠めた。その僅かなズレが、
る魔力の風を切り裂く。
そんな刹那の諦観を振り払う。殴り飛ばす。長刀を使い、自らを縛
!?
!
645
!
共に、愛そう。アゴウを
︾
まったくもって、足りぬッ 貴様に足りぬもの││そ
︾
!
すとくれてやるわけにはいかん
︾
貴様らなどにやすや
!
行くぞ、我が妻よ
!
︽この俺の腕一本、最愛の好敵手に匹敵する
せ ん ゆ う
左肩の装甲が消失している。だが、構わぬ。
う、それは愛だッ
︽足りぬ
それに機人が呑まれては跡形も無い││はずだった。
の魔砲である。機人にとって最大の天敵である魔法だった。
宝石が煌めく。それは、間違いなく魔力の砲撃であった。自動防御
!
れもがまったくもって足りていない。
︾
︽この俺に、唯一つ使える魔法があるのなら││
だァァァ││ッ
!
め
超えて放つ一撃。
な
!!!
ても、その刹那。
││アゴウの希望が、絶望を打ち砕く。諸共に滅び行く運命であっ
︽人類を無礼るなよ絶望ッ
︾
跳躍する。足元が瓦解する。世界の滅びを超えて、無尽蔵の絶望を
!
それは、愛の魔法
走る、走る、走る。宝石箱から無数の魔砲が放たれる。だがそのど
!
!!!
!
無尽蔵の絶望は、無限の輝望に敗北した。
646
!
第八章 ラストステージ
episode101 世は事もなし
││軍事国家アゴウ。並びに電脳国家インタースカイが消失した
事により、シェアエネルギーが世界へと還元される形となってアダル
トゲイムギョウ界の崩壊は一時的に遅延することとなった。最強の
軍神と、箱庭の王を犠牲として⋮⋮。
ユノスダスへと戻ったネプテューヌ達は瀕死のエヌラスを有無を
言わさず病院へと担ぎ込み、即座に輸血と治療に専念させた。脱走の
前科有り。監視役として四人の中から一人、ローテーションで見張り
を付けることになったのだが、ユウコがその話を聞いて教会からすっ
バーカ
フラ
!
らって退室した。毎度のことらしい。
しかし││エヌラスはアルシュベイトとバルド・ギアがいなくなっ
たというのに悲しむ素振り一つ見せなかった。それがネプテューヌ
達には不思議でならない。誰だって友達が死んだのなら悲しいのに。
647
飛んでくる。
このバカ
!
﹁瀕死の重傷で死にかけているどうしようもないバカで度し難いクズ
野郎が担ぎ込まれたと聞いて飛んできた
﹂
!
バカかテメェは
どの面下げて生きて帰ってきたんだよぅ
﹂
﹁うるせぇ⋮⋮いてぇ⋮⋮マジイッテェ
イパンとかシャレになってねぇぞ
!
!
!?
騒がしくなる病室で、主治医が呆れ﹁ま、程々にね﹂と適当にあし
!
それが例え、決闘を果たした好敵手であっても。
﹂
﹁⋮⋮エヌラス﹂
﹁なんだよ﹂
﹁辛く、ないの
﹁だって、アルシュベイトは⋮⋮﹂
﹁⋮⋮なんでそんなことを聞く﹂
?
そう言いかけて、エヌラスは毛布をかぶって横になった。
﹁分かってるが、今はそれどころじゃねぇ⋮⋮ゆっくり休ませろ⋮⋮﹂
アルシュベイトと三時間以上も激闘を繰り広げていたのだ、その疲
労は尋常ではない。すでに日は暮れていた。
あれからまだ、一日も経過していない。その事実を改めて実感し
て、自分たちが無茶を言っていることに気づく。
﹁とりあえず、今日は私がこのバカ見張っておくから。ねぷちゃん達
はゆっくりお休みよ。大丈夫、抜けだそうものなら足の一本くらい切
り落とすから﹂
﹁サラッと怖いこと言うな、ユウコ﹂
﹁駄目だよぉ、エヌラスをイジメるのあたしなんだからぁ∼﹂
﹁サ ラ ッ と 何 言 っ て ん だ こ の 女 神。い い か ら と に か く さ っ さ と 今 す
ぐ、休ませてくれ⋮⋮死ぬほど疲れてる﹂
﹁死んじゃ駄目ですからね﹂
648
﹁冗談だ、真に受けるなネプギア﹂
間もなく、エヌラスの寝息が聞こえ始めるとネプテューヌ達は今ま
でどおりの宿に向かって病院を後にした。ユウコはそれを病室から
見送り、溜め息を一つ漏らすと丸椅子に腰を下ろす。
﹁⋮⋮あと七日だってさ﹂
そんなことを呟く。
﹁ソラが言ってたよ。何もなければ、あと七日でアダルトゲイムギョ
ウ界は消えちゃうんだってさ。だから、その前にキンジ塔で決着つけ
ないといけないよ⋮⋮エヌラス﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ああ﹂
狸寝入りを決め込んでいたエヌラスが押し寄せる眠気を振りほど
きながら相槌を打つ。
﹂
?
﹁最後の一人になるまで戦わないといけないんだよね⋮⋮﹂
何を願うの
?
﹁⋮⋮んー﹂
﹂
﹁もしそうなったら⋮⋮エヌラスはどうするの
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁世界をやり直そうって思ってる
?
﹁さぁな⋮⋮﹂
﹁それとも、大いなる〝C〟に挑むの
﹂
﹁⋮⋮俺が知るか﹂
﹁もう一つは
﹂
喚び出す〟方法。最初はコイツだな﹂
﹂
﹂
﹂
﹁大きく分ければ二つ。一つは神格者がシェアエネルギーを使って〝
仕方ないと思ったのだろう。
エヌラスはあくびを漏らし、眠そうに説明を始めた。嘘を言っても
﹁キンジ塔の出現に必要な条件って、なに
?
?
日って皆が居たよね。それは、どうして
﹁で も さ、次 元 連 結 装 置 を 起 動 さ せ よ う と キ ン ジ 塔 に 集 ま っ た あ の
﹁突然どうした。確か、そうだな﹂
﹁⋮⋮ねぇ、エヌラス。最後の一人ってさ、神格者のことなんだよね﹂
﹁よせよ。俺はあそこまでデタラメじゃねぇ﹂
﹁神の摂理に挑むなんて、大魔導師みたい﹂
﹁俺は掌の上で踊りたくねぇだけだ。それが例え〝神の手〟でもな﹂
ゴッドハンド
正真正銘のバカなんだな、と。ユウコは笑いを堪え切れなかった。
﹁理由は一つだ。ムカつく﹂
﹁どうして
選ぶかもしれねぇな﹂
﹁願いを叶えるか、大いなる〝C〟に挑むかの二択なら。俺は後者を
?
誰から とユウコは聞かなかった。その相手が決まって大魔導
る為だ。救済措置ってやつだよ。聞いた話だけどな﹂
﹁⋮⋮現時点でわかるだろ。世界が滅ぶその時に、最後の一人を決め
?
師と知っている。
次元連結装置を使えば、みんなは自分たちの願いが叶うと信じてい
た。きっと救いがあるのだと。だが、そんなものはどこにもなかった
のだ。自分たちは悪戯に被害を拡大しただけ││その責任を一番重
く感じているのはエヌラスだ。それも異次元の守護女神たちと行動
を共にしていれば尚更である。
﹁前よりも怪我する頻度上がったね。毎度毎度担ぎ込まれる気分はど
649
?
?
う
﹂
﹂
﹁もうちょい寝心地の良いベッドにしてくれ﹂
﹁じゃあ、テメェの懐からお金出してねー
﹂
うるせェよお前
﹁死んだように寝てろよぉう、も∼
﹁じゃあ寝かせろよ
﹁お二人ともー、病院ではお静かに﹂
﹃アッハイ。すいません﹄
看護師に怒られて二人は黙った。
﹂
﹁なんでそこでしおらしくなるんだよ、似合わねぇ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮││か、看病くらい付きっきりでもいいけど
﹁何ならテメェの部屋のベッドでもいいぞ﹂
?
し﹂
﹁は、はぁー
﹂
泣いてないですし、目にゴミ入っただけの花粉症だ
﹁⋮⋮なんで泣くんだよ﹂
⋮⋮それぐらい、分かれよこのバカぁ⋮⋮﹂
﹁キミはそう言うけどね。待ってるだけって、スッゴク怖いんだから
﹁死ぬわけねぇだろ﹂
﹁生きてて良かった﹂
﹁⋮⋮ただいま﹂
﹁⋮⋮⋮⋮おかえり、エヌラス﹂
る。
まぁ自業自得でしかない。ユウコが少しくせっ毛混じりの髪を撫で
完治には至らなかった。そんな暇もなかったので仕方ないと言えば、
ている。ネプギアのヒールのお陰で傷口は塞がっていたが、それでも
ベッドに横たわるエヌラスには点滴が繋がれ、全身に包帯が巻かれ
!
!
いつもなら触るなとか言って嫌がるのに。
髪を撫でて、頭を撫でて嫌がらなかったのが少しだけ嬉しかった。
すっかり眠りに落ちたらしい。
に な っ て き た の か エ ヌ ラ ス か ら の 返 事 が な く な っ た。顔 を 覗 く と、
売り言葉に買い言葉。そんな話を続けていたが、相手するのが億劫
﹁マスク付けて口裂け女ごっこでもしてろ﹂
?
650
!
?
?
﹁⋮⋮いつまで撫でてんだ⋮⋮﹂
﹁ずっと﹂
﹁そう、か││││﹂
ユウコは、安らかな寝息を立てるエヌラスの寝顔をずっと見つめて
いた。空いた手はずっと髪を撫でていたが、やがて頬に触れて唇をな
ぞって、自分の唇に当てる。ほんのり小さな間接キスでも僅かに感じ
る相手の温もりに胸が温かくなった。
ネプテューヌ達はここ最近拠点にしているいつもの宿に到着する
なり思い思いの行動をとった。ソファーにへたり込むネプテューヌ。
お 茶 の 用 意 を す る ネ プ ギ ア。椅 子 に 座 っ て テ ー ブ ル に 突 っ 伏 す ノ
ワール。ネプテューヌ同様、ソファーにへたり込むプルルート。疲労
困憊といったムードが漂う。
﹁ぐぇ∼、私もう駄目∼、動けない∼。今日はもうお風呂とかご飯とか
651
いいからベッドに入って寝たいよ∼﹂
﹁じゃあそうすればいいじゃない⋮⋮﹂
﹁ノワール∼、おんぶ∼﹂
﹁自分で行きなさいよ。私だって動きたくないわ⋮⋮﹂
﹁とりあえず、お水持ってきたけど⋮⋮﹂
﹁ジュースとかなかったの∼ネプギア∼﹂
﹁う、うーん⋮⋮でも、私達が今朝宿を出た時に冷蔵庫の中って空っぽ
にしちゃったし⋮⋮﹂
﹁ゆうちゃんの朝食美味しかったなぁ∼﹂
﹁はい、すっごく美味しかったです。また食べたいなぁ⋮⋮﹂
冷蔵庫の中身が空っぽ⋮⋮⋮⋮
﹁⋮⋮ねぇ、私達の晩御飯って﹂
本理念がネプテューヌ達に突きつけられた。
ら消えた生活感。それに感心したのも束の間、無慈悲なまでに国の基
ハウスキーパーの如く、ゴミひとつ残されていない新築同然の宿か
です﹂
﹁はい⋮⋮炊飯器も冷蔵庫も冷凍食品もお野菜も、全部綺麗に空っぽ
?
働かざるもの食うべからず││この一軒家の貸出サービス宿屋シ
ステムは長期契約者ではない場合はこういった無慈悲な制裁によっ
て涙を呑むものが後を絶たない。それに苦情を申し込もうものなら
ユウコの商魂によって上手く言いくるめられてしまう。
﹂
如何なる理由であっても宿から退去した者は中に残した私物など
没収される。
﹁⋮⋮││ってことはもしかして
﹂
﹁そうねぇ、賢いわぁ⋮⋮﹂
﹁うーん、よかったねぇー﹂
てたみたいです
﹁良かったぁ、見てください
ちゃんとベッドの下でおとなしくし
で戻ってきたネプギアが満面の笑みで全員に見せた。
没収を辛うじて免れている。抱えるように持ち上げて浮かれた気分
顔を上げて音源をたどると、それはベッドの下に隠れていたようで
こに、かすかにだがキュイキュイと稼動音が聞こえてきた。
アHW型フォートクラブも没収されたのかとガックリ項垂れる。そ
パタパタとネプギアが階段を駆け上がり、室内を見渡す。ミニチュ
!
﹁明日、電気屋さんのバイトで聞いてみようかな﹂
﹁そういえば、そっちのシフトってどうなってるの
﹂
いた。メモリーカードやケーブルを繋げられるらしい。
背面の装甲にツマミがあり、それを開くと様々なポートが隠されて
つとは思えないが。
どうやらミニちゃんという名前で決まったらしい。機械なので育
﹁かわいいなぁ∼⋮⋮あ、充電とかどうしたらいいんだろ⋮⋮﹂
︽キュイー︾
な⋮⋮ねー、ミニちゃん﹂
﹁もうちょっとノッてくれてもいいと思うけれど、さすがに厳しいか
も残っていない。
意気消沈。もうネプテューヌ達には喜びを分かち合う気力も体力
﹁ベッドの下ってぇ、まるでエッチな本隠してたみたいだよねぇ∼﹂
!
﹁私は短期で不定期ですけれど、日払いということになってます﹂
?
652
!
﹁そう。私と同じなのね﹂
﹁それにしてもすごくバイトの採用とか、緩いですよね⋮⋮﹂
一箇所じゃなくてあち
﹁そうね。忙しいけれど働き口に困らないってのはいいことだわ。あ
ちこちで仕事できるし﹂
﹁ギルドもお仕事沢山貼ってあったよぉ∼
こちにあるみたいぃ∼﹂
普段の職務から解放されて普通の生活をし
ネプテューヌにしてみれば、口うるさいイストワールが居ない分、
﹁アナタはもうちょっと真面目に仕事した方がいいと思うわよ⋮⋮﹂
﹁えー、私は一日中教会でゲームしていたいけどなー﹂
てみるっていうのも﹂
﹁ま、いいんじゃない
﹁なんで私達女神なのにバイトの話とかしてるんだろ⋮⋮﹂
?
こっちで羽目を外していられる。鬼のいぬ間に何とやら。
653
?
e p i s o d e 1 0 2 口 を 開 け ば 喧 嘩 す る ほ ど 仲
が良い
││翌日、やはりというか当然というべきか。エヌラスが退院して
いた。ユウコはその隣で口をへの字に曲げて不機嫌さを隠そうとも
せず、頬を膨らませている。
﹁あのさー、私さぁ。言いたいことめっちょあるんだけど、オーケー
﹂
﹁言いたいことは言ったもん勝ちだ﹂
﹂
﹂
!
!
だの必滅呪法だけどな﹂
?
﹁撃つなよ
ユノスダスでぶっぱすんなよエヌラス﹂
﹁制御が難しくてな。下手すりゃ国一つ滅ぶ﹂
﹁魔法とは違うんですか
﹂
アルシュベイトから取り返した能力のオマケってわけだ。本来はた
﹁治癒ってのとはまたちょっと語弊があるが、正確に言えば自己再生。
﹁ねぇ、エヌラス。銀鍵守護器官の魔力を治癒能力に回すって⋮⋮﹂
四人はそんなエヌラスとユウコのやりとりを見ていた。
﹃⋮⋮⋮⋮﹄
こんにゃろ
﹁銀鍵守護器官の魔力を治癒能力にガン振りするってのもどうかと思
ふざけんあ
うんだ。そうまでして私の看病受けたくないってか
う、一体どれだけツンデレなんだ
﹁ほへ
﹁別にお前の看病受けたくないわけじゃねぇよ﹂
!
﹁ただ単純に寝てる場合じゃねぇってだけだ﹂
!?
﹁じぃ∼⋮⋮﹂
渡っていればどうなっていたことやら。
トというのは不幸中の幸いだ。もしこれがドラグレイスの手にでも
ルはこめかみを押さえる。だが、それを奪っていたのがアルシュベイ
国一つ滅ぶような必殺技、なんで取り戻してしまったのか。ノワー
﹁撃たねぇよ⋮⋮そんな睨むな﹂
?
654
?
﹁なんだ、プルルート
﹂
﹁二人共ぉ、仲良いよねぇ∼﹂
不躾な犬みたいなも
誰 か リ ー ド 握 っ て や ん な い と 何 し で か す か 分 か ら ん
﹁ま、まぁねー。コイツとかほら、アレじゃん
んじゃん
﹂
?
﹁うっさい駄犬
お手
﹂
!
﹂
!
﹂
エヌラス、また無理していないかなーって触って確かめて
﹁じゃあ脱いで﹂
﹁どうしてそうなった
﹂
?
﹁あの、脱いでもらってもいいでしょうか⋮⋮﹂
﹁││お前ら、顔を赤らめてるのはどういうことだ⋮⋮⋮⋮
﹃まぁまぁいいから﹄
!
物が容易に想像できた。エヌラスがコートを脱ぎ、ソファーの背もた
で従わなかった場合は女神化してでも服を剥ぎに掛かるであろう人
明らかに、怪我の確認以外の意図が感じられる。だがしかし、ここ
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
﹁治ってなかったらぁ、グリグリィってしちゃうからねぇ∼﹂
﹁そうね。念のためチェックさせてもらおうかしら﹂
﹁え、えぇぇぇ⋮⋮なんだこの公開処刑⋮⋮﹂
﹁服着てたら分かんないじゃん
ほら早く脱いで脱いで﹂
﹁だから、もう怪我は治ってるっつうの﹂
るんだよ。嘘言ってないかどうかなって﹂
﹁えー
﹁な、なんだよネプテューヌ。くすぐったいだろ﹂
タとエヌラスの身体に触れる。
無茶をしているんじゃないかと心配になってネプテューヌがペタペ
自己再生能力によって一晩で完治したのはいいが、それでもやはり
ネプギアが顔を赤くしていた。
﹁や ら ね ぇ よ
﹁じゃあぁ∼、ちんちん∼﹂
﹁誰がするか
!
﹁人のこと犬呼ばわりかよ﹂
じゃん
?
?
!!
!?
655
?
?
れに掛ける。下に着込んでいた上着は半袖なので、それだけで十分か
﹂
と思っていた。││だが、予想に反してジト目でネプテューヌ達が睨
んできている。
﹁⋮⋮そこだけ
﹁お前ら⋮⋮俺になんか恨みでもあんのか﹂
﹁恨みはないけど﹂
﹁嘘吐いたしぃ∼﹂
﹁ちゃんと見せてもらわないと安心できないわ。別に恥ずかしがる理
由ないじゃない﹂
﹁そ う で す。そ れ よ り 恥 ず か し い こ と 沢 山 し て き て る じ ゃ な い で す
か﹂
﹂
﹂
ネプギアの言葉に、笑顔でユウコがフライパンを構える。
﹁ほっほう﹂
﹁待てユウコ。ストップ。怪我増やす気か﹂
﹁大丈夫大丈夫。今更たんこぶ一つくらい⋮⋮ね
﹁あれ⋮⋮もしかして私、言っちゃまずかったですか
!?
ミの場合﹂
﹂
﹁怪我は怪我だし傷は傷で俺だって普通の││ぉぉぉああああッ
﹁にゃぁああああ
﹂
﹁でぇじょうぶだよ。たんこぶ一つくらい傷の内に入らないって、キ
?
?
痛いだろー
﹁にゃにすんだバーカ
なにすんだ
﹁イッテェだろバーカ
﹂
﹂
!? !
﹁こ っ ち の 台 詞 だ よ な ん で い き な り 投 げ る ん だ よ ぅ
!
﹂
料理の時に使え
﹂
!
るぞー
﹁テメェも調理器具投げるなよ
!
受 け 身
取ってなかったらソファーぶっ壊れて器物破損含めた借金上乗せす
!
!
反撃のおたまが飛んできてエヌラスの額に見事直撃した。
﹁あ、やっべ⋮⋮大丈夫かユウコ﹂
ウコがソファーごと倒れる。
その後、つい癖で反撃に出てしまい、手首を捻られて投げ飛ばしたユ
ギリギリのところでエヌラスはユウコのフライパンを受け止めた。
!?
656
?
!
!
﹁私 の 調 理 器 具 は 武 器 だ し
﹂
﹂
調 理 用 は ま た 別 に 用 意 し て あ る の ー
﹂
文句あっかー
﹁なんでお前武器が調理器具なんだよ
﹁手に馴染んでるからだよ
﹂
口を開けばすぐ口論に転じる二人を見比べて、呆れたようにノワー
ルが溜め息を吐いた。
﹄
﹁アナタ達ね⋮⋮口を開く度に夫婦漫才しないと気が済まないの
﹃夫婦じゃねーし
?
││ロリコンじゃねぇ
ツッコミは無視しておく。
﹁ゴホン、まぁそこのロリコンは置いといて﹂
を切り出す。
て、ユウコは咳払いを一つ挟んでノワールとネプギアの常識人組に話
ルートも悪ノリして寄ってきた。二人に追われるエヌラスを無視し
ネプテューヌのくすぐり攻撃から逃げていたエヌラスを見て、プル
﹁だから、この⋮⋮くすぐってぇだろ﹂
﹁えーいいじゃーん。それそれー﹂
﹁触んな、くすぐったい﹂
﹁ホントだ。ちゃんと治ってる⋮⋮﹂
らと走る微かな新しい傷口を見て、ネプテューヌが指先でなぞる。
言われるままに仕方なく上着を脱いで上体を晒す。全身にうっす
﹁ほーら、早く脱いでってば。ドキドキ、ワクワク﹂
﹁⋮⋮プルルート、お前が言うと犯罪臭がヤバイな﹂
﹁いいから早く脱いでよぉ∼⋮⋮﹂
﹁息ピッタリじゃない⋮⋮﹂
!
と言って九龍アマルガムからの救援は絶望的。来るわけねーしあの
﹁ついでに言えば行商ルートも閉鎖。モンスターもウジャウジャ。か
﹁それで⋮⋮﹂
出来ないし﹂
カイとアゴウが消滅してフォートクラブによるモンスターの駆除も
約破棄の申請書が教会に送られてきたんだよね。しかもインタース
﹁実はさ、うちの警備を請け負ってたドラグレイスの傭兵組織から契
!
657
!
!
!
!
!
犯罪国家から協力者なんて﹂
﹁でも⋮⋮アサイラムなら﹂
﹂
﹁国内の仕事で他のことなんてかまけてらんないでしょ
﹁つまり
﹁誰ェェェーーーー
﹂
に掴まって足蹴にされている。
﹂
チラリと後ろを振り返れば││パープルハートとアイリスハート
そこで、テメーの出番なわけですよ、エヌラス﹂
タ ー い る ん だ よ ね。だ か ら ギ ル ド の 仕 事 も モ ン ス タ ー 退 治 だ ら け。
﹁つ ー ま ー り ⋮⋮ 今、ユ ノ ス ダ ス の 周 り っ て め っ ち ゃ く ち ゃ モ ン ス
?
らした。
?
﹂
?
﹂
!
メよ
﹂
﹁むー⋮⋮﹂
﹂
﹁いい、分かってるエヌラス
メよ
﹂
﹁ふんぬぎぎぎぎ⋮⋮
﹂
﹁聞・い・て・るぅ∼
﹁聞いてるわボケがぁぁぁぁ⋮⋮
﹂
﹁⋮⋮口の聞き方がわかってないわね。躾が必要かしら
﹂
?
!
ラされ、パープルハートもあっさり避けると、二人は倒れたエヌラス
ターで跳ね上げられた足に鞭を絡ませて逆に縛り上げる。軌道をズ
エヌラスが反撃に打って出るが、そこでアイリスハートがカウン
﹁いらんわ
﹂
あなたも私以外にイジメられちゃダ
ちゃんもねぷちゃんもぎあちゃんも、ノワールちゃんもイジメちゃダ
﹁ダ・メ・よ。エヌラスイジメていいのはあたしだけなんだから。ゆう
ていいなら私も交ざる
﹁いつの間にM属性まで付いたんだよぅ、ズルいぞー二人共。イジメ
いだけで結構な頻度よ
﹁そうよ、ユウコ。それにエヌラスがこんな状態なのも貴方が知らな
﹁あ∼ら、ゆうちゃん。あたしの変身した姿知ってるでしょ
﹂
背中と顔を踏まれ、鞭を片手に舌を出しているアイリスハートが鳴
!?
!
!
658
?
?
?
?
?
に座り込んだ。
﹁いつまでも反撃出来ると思っていたら間違いよ、エヌラス﹂
﹁そうよ。今回は私達が主導権握らせてもら││﹂
こ っ ち
次の瞬間には鋼糸で簀巻きにされて転がされている二人が何事か
と目を白黒させている。
﹁俺 だ っ て い つ ま で も 以 前 の よ う に 遠 慮 す る と 思 う な よ
直った。
﹁⋮⋮んじゃ、朝飯食ってから﹂
増中でねぇ﹂
﹁うんにゃ。未払金返済の為に犯罪者ぶちのめして来いって依頼。急
﹁それで。俺に頼みたい仕事ってのはモンスター退治か
﹂
脱いだ上着を着直して、コートを羽織ったエヌラスがユウコに向き
だって能力取り戻して本調子出せるようになってきてんだからな﹂
?
﹁あのー⋮⋮エヌラスさん。非常に言いにくいんですけど﹂
﹁冷蔵庫の中身、空っぽだから朝ごはんは抜きよ﹂
﹁マジかよ犯罪者ぶちのめしてくる﹂
659
?
e p i s o d e 1 0 3 店 の 経 営 は 正 気 の 沙 汰 で も
成し得る
お昼時。それぞれが仕事に向かい、集合したのはノワールがバイト
﹂
をしている喫茶店。落ち着いた店の風格ながら、利用客もまた物静か
な雰囲気を好んでいる者が多い。
﹁ぴょん⋮⋮ぴょん⋮⋮﹂
││変人も多数いるが、基本的に善人なので放置。
﹁⋮⋮それで、午前中の稼ぎだけでお昼食べに来たわけ
﹁サンドイッチだけでも頼む⋮⋮﹂
﹁はいはい﹂
午前中に稼いだ金額だけでも昼食を摂る分には十分な金額となっ
ていた。それだけエヌラスの仕事がハイリスクという事であるが、ユ
ノスダスの基準で判断されているために参考にならない。午後から
は ユ ウ コ の 言 っ て い た ユ ノ ス ダ ス 周 辺 に 出 没 す る モ ン ス タ ー 退 治。
その為に集合場所をノワールの喫茶店としていたのだが、プルルート
しかいない。
﹂
﹁はい、これぇ∼﹂
﹁ん
﹁そりゃ助かる。普段ぽやっとしてるのに有能だな﹂
普段が普段だけにイマイチ信用ならないが、やる時はやるようだ。
テ ー ブ ル の 上 に 置 か れ る セ ッ ト メ ニ ュ ー は サ ン ド イ ッ チ と コ ー
ヒー。一番安いセットを頼むのを見て、ノワールが不満そうにしてい
た。
﹁⋮⋮なんだよ﹂
﹂
﹁もうちょっと高いのでもいいじゃない﹂
﹂
﹁俺は庶民派なんだよ﹂
﹁ほんとにぃ∼
﹁お金ないだけじゃないの
?
?
660
?
﹁先にギルドでモンスター退治のクエスト、受注しておいたんだぁ∼﹂
?
﹁あるっつうの﹂
エヌラスのことぉジッと見て
単純に、金に困っていた頃の癖で注文したとは言えない。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ノワールちゃん、どうかしたぁ∼
るけどぉ∼﹂
﹁べ、別になんでもないわよ。昨日の今日でよく食事できるわね。あ
んな大怪我してたのに﹂
﹁まぁな﹂
しっかり食べなきゃ
考えてもみれば││自分たちと出会う前から一人でずっと戦って
いたのだ。
﹁死ななきゃ安いって言葉があってだな﹂
﹁もう。これからモンスター退治なんでしょ
ダメじゃない﹂
れた皿を平らげ始める。
疑問符を浮かべるノワールから視線を外して、テーブルの上に置か
﹁こっちの台詞だ﹂
﹁助けられてばかりよ、私達﹂
﹁⋮⋮頼ってばっかじゃ悪いだろ﹂
ら少しは頼りにしてくれてもいいのよ﹂
﹁今はもう、アナタ一人の問題じゃないし、私達の問題でもあるんだか
テーブルに置いた。
それからオーナーと話をつけて、ケーキとサラダとスープを二人の
ノワールが伝票を取り、メニューを付け加えてテーブルを離れる。
?
それじゃ、ゆっくりしていってね﹂
﹁すいませーん、注文いいですかー﹂
﹁はーい
﹂
トの方に寄せた。
﹁いいのぉ∼
﹁ああ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁じゃ∼﹁あーん﹂して、ほしいなぁ∼﹂
?
661
?
別なテーブルに向かう姿を見てから、エヌラスはケーキをプルルー
!
﹁エヌラスのだしぃ、ダメェ∼
﹂
﹁わぁったよ。まったく﹂
﹁⋮⋮ほぇ
﹁えっ
﹂
﹂
顔赤いぞ、プルルート。今更照れるようなアレでもな
らね。出来る限り笑顔で頼むよ。今、すごい顔してたからね﹂
﹁ノワールちゃん。ヤキモチ焼くのはいいけれど、お客さん仕事だか
笑っていた。
ノワールがカウンターに戻ってきて、初老のマスターが朗らかに
﹁オーダー入りまーす﹂
﹁は、はい⋮⋮お願いします﹂
ニューで宜しかったでしょうか﹂
﹁ご注文を繰り返します。ブレンドコーヒーとパニーニのBセットメ
﹁││で、以上でお願いします﹂
攻撃は最大の防御、ゆえに〝攻め〟は攻められるのに弱い。
﹁⋮⋮女ってのは分かんねぇなぁ⋮⋮﹂
﹁そうだけどぉ⋮⋮なんだか恥ずかしいよぉ∼⋮⋮﹂
いだろ⋮⋮﹂
﹁どうした
モグと咀嚼する⋮⋮が、味が分からない。
小さな口を大きく開けて、差し出されるチーズケーキを一口。モグ
﹁⋮⋮あ、あ∼ん﹂
﹁ほら、あーん﹂
外あっさりと承諾されたのが意外だったのか、固まっていた。
チーズケーキをフォークで刺して、プルルートに差し出す。思いの
?
﹁⋮⋮すいませんでした﹂
﹁そこのテーブルでイチャつくボウズも。うちはそういうのが似合う
店じゃないんでね、できればよそでやってくれないか﹂
オーナーの言葉に、エヌラスが﹁へいへい﹂と相槌を適当に打ちな
がらコーヒーを冷ます。口ぶりから察するに、知り合いなのだろう
か。
662
?
?
﹁ハハ、まぁ恋する乙女は複雑だから仕方ないか﹂
!?
﹁オーナー、知り合いなんですか⋮⋮
﹂
﹁昔 の 話 だ ろ う 今 は し が な い 喫 茶 店 の オ ー ナ ー だ よ。老 骨 に は
人 狼 局の役員だった伝説の吸血鬼狩人だぞ﹂
ヴェアヴォルフ
﹁ノワール。知らねぇと思うから言っておくが、そのオッサンは元・
さ﹂
的だった、というのと九龍アマルガムの国王だからそりゃあ知ってる
﹁そりゃあね。以前は一人で一番安いメニューを頻繁に頼んでて印象
?
ハードワーク過ぎる﹂
﹁ユノスダスって一体⋮⋮﹂
││九龍アマルガムの黎明期において跳梁跋扈した吸血鬼の群れ
を一人で半数壊滅させた。
││真祖と呼ばれる吸血鬼の親玉と相打ちになった。
││拳で吸血鬼を半殺しにした。
││単身、一大麻薬組織を素手で壊滅させた等、功績を挙げればキ
リがない。とにかく凄い御仁で大魔導師の旧友とも噂されていた。
﹁アレ、でも確かユウコって⋮⋮﹂
﹁吸血鬼だな﹂
﹁国王様をどうこうしようってつもりはないんだが。もし、万が一彼
ブラストブリッツ
女が暴走した時は私の出番かもしれないねぇ⋮⋮﹂
﹁その時は見せてくれよ、〝銀槍葬送曲〟。いつか体得してみてぇん
だ﹂
﹁ハハ、その時は身を持って教授してあげよう﹂
グ ラ ス を 磨 い て い る 様 は ま る で 喫 茶 店 の オ ー ナ ー と い う よ り は
バーテンダーだ。元々この店も古いバーを改装したものらしく、店内
の色合いがシックにまとめあげられているのもその色合いが濃く残
されているからである。
昼食を終えて、会計を済ませたエヌラスとプルルートの二人がモン
﹂
スター退治の準備をしているとネプテューヌとネプギアが小走りで
やってきた。
﹁遅ぇぞ。なにかあったのか
﹁いやー、ごめんごめん。収録が思ったより長引いちゃってさ。でも
?
663
?
お弁当は美味しかったよ
﹂
スの城門を抜ける。
﹂
?
く注文を取っていた。
﹁なんで今日、こんなに忙しいんですか
﹁う∼ん。心当たりはないねぇ⋮⋮﹂
﹂
﹁そうですよね。エヌラスとプルルートが来たくらいですし⋮⋮
もしかして、それが原因なのだろうか
﹁おー、本当だ。美人のウェイトレスさんがいるって噂﹂
﹂
一気に混み始めた喫茶店では息をつく暇もなくノワールが忙しな
﹁お会計ー﹂
﹁心がぴょんぴょんするかもしれんじゃ∼⋮⋮﹂
﹁ウェイトレスさーん。こっちもお願いしまーす﹂
﹁すいませーん、注文いいですかー
﹂
ノワールからは後から合流すると聞いているので四人はユノスダ
﹁そっかー。じゃあ私達だけで行こっか﹂
﹁昼時は混むらしくてな、遅れるってよ﹂
﹁ノワールは
﹁どんだけ機械好きなんだよ⋮⋮﹂
間に⋮⋮﹂
﹁私はミニちゃんに接続できるケーブルについて聞いてたらこんな時
﹁いや、弁当の感想は聞いてねぇ﹂
!
龍アマルガム国王ロリコン疑惑﹄とかあったのにいなくね
〟
﹂
〝なんで世界が崩壊に向かってるのにこんな呑気なのよこの国
?
﹁じゃあ、少し下がってもらえるかな﹂
﹁は、はい⋮⋮すいませんオーナー﹂
﹁はは、ノワールちゃん一人じゃ流石に厳しいかな﹂
りの品を運んでいく。
ノワールは胸中でツッコミを入れながらテーブルに次々と注文通
!?
﹁あれ、でもさっきネットからの書き込みで﹃幼女キタコレ﹄とか﹃九
?
!?
?
664
?
﹁⋮⋮
﹂
﹂
﹁私かい
ははは、ただの人間だよ。九龍アマルガムじゃこれぐら
﹁⋮⋮オーナーって一体、何者なんですか﹂
めるオーナー。
会釈して、何事もなかったかのようにお気に入りのグラスを磨き始
﹁では、どうぞごゆっくり。お客様方﹂
れはもはや神業と呼ぶに相応しい所業である。
空中でサンドイッチを完成させ、投げたグラスは一滴も零さず、そ
は正確無比なコントロールによって全ての注文を片付けた。
伝票を確認して、メニューをテーブルの上に投げるオーナーの手際
ワールと、静まり返る店内。
が、表面張力ギリギリで落ち着いて止まった。目を白黒させていたノ
違わぬ正確さで着地する。グラグラと回転して水が零れそうだった
水の入ったグラスを回転を利かせて投げるとテーブルの上へ寸分
﹁次は、四番か⋮⋮ふん﹂
﹁へ
まった。
の 上 に 滑 り こ む。そ の ま ま テ ー ブ ル の 上 へ ス ラ イ デ ィ ン グ し て 止
と思いきや、オーナーの投げ放った爪楊枝によって串刺しにされて皿
注文されたテーブル。だが、挟み込んだ具材が空中で散らばる││か
そして、何を思ったのか突然それを放り投げた。向かっていく先は
﹁ほっ﹂
の手にはサンドイッチの載せられた皿。
言われて、ノワールがカウンターから二歩、三歩下がる。オーナー
?
﹁さて、ノワールちゃん。お昼のラッシュもさっきのお客さんで最後
平和な商業国家であることに心底感謝した。
危険人物は大概の経営者﹄とのこと。ノワールはユノスダスが改めて
い。頼まれたって勘弁願いたい││エヌラス曰く﹃九龍アマルガムの
一度も利用したことはないが、この先一生利用したいとも思わな
﹁向こうの飲食店ってどうなってるんだろう⋮⋮﹂
い出来ないと店なんて開けないからね﹂
?
665
?
﹂
﹂
のようだからね、今日はもう上がって大丈夫だよ。これからモンス
ター退治なんだろう
﹁あ、はい⋮⋮でもいいんですか
﹁構わないよ。それとこれは私から、ほんの心ばかりのお給料さ﹂
そう言ってオーナーが差し出したのは、サンドイッチとコーヒーに
ケーキのセットメニュー。
﹁朝ご飯食べてないのに頑張ってくれたからね。お昼くらいはしっか
り食べておきな﹂
﹁心遣い、ありがとうございます﹂
﹂
﹁小さな子に負けないくらいの魅力でしっかりハートを掴んであげる
といい﹂
﹁ゴッホゴホゲッホッ
むせた。
666
?
?
!?
e p i s o d e 1 0 4 モ ン ス タ ー と ク リ ー チ ャ ー
の違いは語感
﹂
││エヌラスとネプテューヌ達はひとまず、周辺街道に蔓延る手短
なモンスターの駆除に乗り出した。
﹂
﹁ねぇ、エヌラス﹂
﹁ん
﹁アダルトゲイムギョウ界のモンスターって、どんなのがいるの
﹁一般的なのはやっぱスライムとかそういうファンタジックな奴らだ
な。ほら、あんな感じの﹂
たどたどしい足取りで一歩進む度に身体を揺らして歩く細身の宇
宙人を指差して、エヌラスはレイジングブルマキシカスタムで頭を撃
﹂
ち抜く。緑色の血液を撒き散らしながら玩具のように吹き飛び、消滅
した。
あっち﹂
﹁⋮⋮あれ、スライム
﹁いや
?
もっとさ、こう、愛嬌が
塊が蠢いている。芋虫のように地面を這っていた。
﹁なんか私が想像してたスライムと違う
﹂
あんなのスライムじゃないー
思ってたのに何アレ
﹁スライム﹂
﹁ちがーう
んだよあいつら﹂
﹁火炎放射器で燃やしてた。塩ふっかけられたナメクジみたいに縮む
?
?
フォートクラブ達は撃破していたんですか
﹂
で も そ れ な ら ど う や っ て
﹁ちなみに物理がほとんど無効化される﹂
﹂
あんな海外で売って
あって肉まんみたいなフォルムで、かつマスコット的存在感のだと
!?
るような芋虫ゼリー、私はスライムと認めないんだからねー
!
!?
﹁い、意 外 と 強 敵 な ん で す ね ⋮⋮ あ れ
!
!
667
?
?
そう言ってエヌラスが顎で差した先には、無数の牙が生えた粘液の
?
言うなり、自動式拳銃を召喚してスライムに一発。灼熱の魔弾が胴
体に刺さり、苦悶の声をあげながらのたうち回ってスライムはやがて
痙攣して動かなくなった。その身体がドロリと溶け始める。その臭
いにつられて先ほどの宇宙人がフラフラと集まってきた。
今私達の目の前で広がっている光景はそれど
﹁と、まぁこんな感じだ。動きは鈍いし、対処は簡単だ﹂
﹁いやいやいやいや
ころじゃないですよ
﹂
﹂
﹁うわーグロ⋮⋮なんだろう、すごくバイオがハザードしたような光
景⋮⋮﹂
﹁で、あの群れに向かってこれをな
﹁薄い本﹂
﹁どうなるの
﹂
だ。ただしとっ捕まると非常に面倒くさい﹂
﹁ま、弱点多いし動きは緩慢だし数だけ多い文字通りの雑魚、ってわけ
て死んでいった。
て群れの中心地に着弾すると、細身の宇宙人が一匹残らず炎に巻かれ
される弾丸は神性の炎を込められている。魔術的な小爆発を起こし
意識を拳銃に集中させて引き金を引いた。雷管を叩かれて弾き出
﹁こうだ﹂
口を宇宙人の群れに向ける。
エヌラスの手には赤い凶悪な魔術紋様を輝かせる自動式拳銃。銃
?
﹂
ど う な る か わ か ら な い よ ぉ ∼。エ ヌ ラ ス、ち ょ っ と 捕
早々に何かを察したネプテューヌはそれ以上の言及を諦める。
﹁え ぇ ∼
﹂
まってみてくれるぅ∼
なんで俺なんだ
﹁イヤに決まってんだろ
!
﹁即答されたぁ∼﹂
﹁ごめんなさい無理です﹂
﹁むぅ∼⋮⋮ぎあちゃ﹂
﹁え、ごめん。ぷるるんのお願いでも嫌かな﹂
﹁ねぷちゃん∼﹂
?
668
!? !?
﹁うん、分かった。それ以上聞きたくないや﹂
?
!
?
怒っているつもりなのか、ユノスダスで購入したヌイグルミを振り
回したプルルートは、ユラユラと近づいてきた宇宙人││ミッド・グ
レイを殴りつけた。恐ろしく鈍い打撃音と共に複雑骨折しているが
息の音があるのか、しばらく呻き声をあげながら悶えて、間もなく息
絶える。
﹂
﹁ホントだぁ∼。結構、簡単に壊れちゃうんだねぇ∼﹂
﹁お、おう⋮⋮﹂
﹂
﹁エヌラスさん、後ろ││
﹁ん
﹁どうしたの
﹂
﹁あの緑色のモンスターですよね
﹁こうなる﹂
﹂
どうなるんですか﹂
﹁それ、完ッ全にエヌラスの所為じゃない
﹂
わからない化学物質で突然変異した歩く爆薬﹂
﹁ああ。九龍アマルガムから不法投棄されている魔術的物質とかよく
よね
﹁なんかすっごい身体に悪い色してたけど、あれもモンスター、なんだ
﹁あっぶねぇ⋮⋮﹂
規模たるや、生きた爆弾だ。小さなクレーターが出来上がっている。
を開けたモンスターの身体がだんだんと膨れ上がり、爆発する。その
ら通過して奥にいる緑色のモンスターだけを射抜いた。眉間に風穴
白銀の回転式拳銃を召喚すると、群れの中を複雑な軌跡を描きなが
?
﹁ネプテューヌ、ネプギア、プルルート。少し離れてろ﹂
│緑色のモンスターを見たエヌラスが距離を取る。
と、森の奥からゾロゾロと現れる群れを転倒させた。その群れの奥│
回転させる。宙に浮いている華奢な体躯に二、三発の蹴りを叩き込む
ていた。その手を逆に手首から掴み、捻りながら足を掛けて空中で一
よそ見をしていたエヌラスの背後からミッド・グレイが手を伸ばし
!
﹁ヤバイ奴がいる。近づくなよ﹂
?
﹁なんかちょっと意味合いが違うような⋮⋮って、本当にホバー移動
﹁ホバーマインってよく言われてるけどな﹂
!?
669
?
?
してる
﹂
マイン
﹁それで近づくと爆発するから地雷って訳だ﹂
﹂
﹁あと、モンスターが湧く原因って九龍アマルガムでしょ﹂
﹁⋮⋮九分九厘﹂
﹁完全十割ですよ
げていた。
﹁ねぇ、エヌラス。剣とか銃とか使ったほうが早いんじゃない
﹁ブン殴った方が気分がいい﹂
?
﹂
!
﹁こんな攻撃すんのキモイ奴以来だな﹂
﹁⋮⋮思い出したくないです⋮⋮﹂
﹁うわぁ⋮⋮﹂
?
い﹂
な
そう
!?
﹁そっかぁ∼。じゃぁ∼、ベッドの上ならぁ∼﹂
﹂
﹁そういうのは日が沈んでからにしようなプルルート
いう話題にはまだちょっと早いから
﹂
﹁あ、エヌラスさん。後ろ││﹂
﹁へっ
!
﹁ジ ワ ジ ワ と な ぶ り 殺 し に し た と こ ろ で こ い つ ら 相 手 じ ゃ 楽 し く な
﹁わぁ∼⋮⋮なんで一息に殺っちゃうのぉ∼
﹂
ミッド・グレイは頭から内容物を撒き散らして絶命する。
るなり頭から地面に蹴り落とした。防御する間もない連撃を受けて
グレイを、その反動で振り上げた踵で顎を横薙ぎに蹴りつけ、跳躍す
コートの裾を翻して相手の死角から蹴り上げる。反対側のミッド・
﹁気のせいだろ、っと
﹁なんか、久々にそういうエヌラスさんの言葉聞いた気がします⋮⋮﹂
﹁うわぁ⋮⋮﹂
﹂
は格闘で相手を沈めていく。それを見ていたネプテューヌが、首を傾
ネプギアに怒られながらもモンスター達を退治していくエヌラス
!
にノワールがユノスダスの城門をくぐる。
エヌラスがホバーマインの自爆に巻き込まれて負傷したのと同時
!
670
!?
?
﹁⋮⋮なんで向こうで爆発が起きてるのよ﹂
おおかたエヌラス辺りが大暴れでもしているのだろう。そう思っ
て先を急ごうとしたノワールが人の気配に見上げると、そこでは大木
の太い枝の上で眠っていたであろうムルフェストが金色の髪を垂ら
して寝転がっていた。よく落ちないものだと感心しながら、よく見れ
ば網目状に広げた血液をハンモック代わりにしている。そこまでし
て寝ていたいのかと思ったが、相手は大あくびを漏らしていた。
﹂
﹁ん も ∼ ⋮⋮ う っ さ い な ぁ ⋮⋮ 人 が 静 か に お 昼 寝 し て た の に ∼
⋮⋮⋮⋮﹂
⋮⋮だれだっけ
﹂
だれー
﹁ムルフェスト
﹁んー
?
﹁⋮⋮だっけ
ごめん、私って人の名前覚えるの苦手でさぁー﹂
﹁⋮⋮ノワールよ。エヌラスと一緒にいた﹂
?
?
分に敗北はないと身構える。
﹁えーっと⋮⋮で、ノワールだっけ
私に何か用
﹂
?
ね﹂
﹁⋮⋮へ
﹂
﹁私は楽しければ何でもいいの。寝起きの体操に一緒にさせてもらう
﹁楽しそうって⋮⋮﹂
﹁へー。楽しそう﹂
モンスター退治をするところなの﹂
﹁別にアナタに用はないわよ。ユウコからの頼みでユノスダス周辺の
?
持っていることを考えれば、ノワールは多少の不利を認めながらも自
ムルフェストではあるが、ドラグレイスを退けるほどの身体能力を
血鬼というよりは気ままな猫だ。神性の欠片もおくびにも出さない
くぁ∼と欠伸を挟んで寝ぼけ眼を擦る。その姿はまるで神格者、吸
?
﹁そい﹂
ターの頭を掴むなり握りつぶした。
戦闘衣装らしい。準備体操で軽く身体を慣らしてから手短なモンス
フなシャツとジーンズ姿へと服装を変えた。どうやらそれが普段の
ハンモックから飛び降りてムルフェストは寝間着のドレスからラ
!?
671
?
ゴシャッ。
まるでトマトでも潰したかのようにドロリと赤い血液がムルフェ
﹂
ストの手を汚していく。当人はそれを気にした風もなく放り捨てて
次の獲物へ。
﹁そりゃそりゃー
ち ぎ っ て は 投 げ。ち ぎ っ て は 投 げ。文 字 通 り、腕 や 足、首 を ね じ
切って放り捨てる姿はやはり吸血鬼であるということを雄弁に語っ
ていた。
﹁だ、大丈夫なのかしらコレ﹂
どっせい﹂
﹁あー大丈夫大丈夫。どうせこいつらすぐ消えるし。いくら殺しても
罪には問われないし、むしろ感謝されるくらいだし
奇妙な共同戦線を張ることになってしまったことに頭を悩ませな
いる。
メゴシャッ。地面に頭から埋められて人型モンスターが絶命して
?
がらも、ノワールはひとまずモンスター退治に専念することにした。
672
!
episode105 昼夜逆転生活は不摂生
やはり、と言うべきかノワールは改めてムルフェストを横目で見や
る。主な攻撃方法は格闘だった。ドラグレイスの大剣すら拳で弾く
とやー
﹂
ほど、それに時折魔力を使って範囲を広げている。
﹁ブルース・インパクトー
!
こっちまで当たったらどうするのよ
﹂
!?
らない。
?
﹁⋮⋮候補
﹂
﹁そうだよー。吸血鬼で神様候補﹂
﹁アナタ、本当に神格者なの
﹂
い溜息を吐く。どうしてこんなのが神格者なのだろうかと疑問でな
どことなくネプテューヌを相手している気分になるノワールが重
﹁んもぅ、口うるさいな。いいじゃん﹂
﹁子供じゃないんだから拾わないでよ⋮⋮﹂
﹁お、棒きれ見っけ﹂
ワールとムルフェストは移動を始めた。
囲のモンスター達を駆除し終えて、幾らかの砲撃の痕を残しながらノ
ただ本人が楽観主義の過ぎる所があるかも知れない。ひと通り周
﹁あ、ごめん﹂
﹁ちょっ、危ないわね
空を振るった足から青い魔法が放たれてモンスター達をなぎ払う。
!
だって女神でしょ
ねー﹂
﹂
に﹁力が欲しい﹂ってことだろうし﹂
繋ぎ止めてたし、使い方次第なんじゃないかな
変神するのは純粋
﹁んー。バルド・ギアは自分のシェアで仮想現実のインタースカイを
﹁どうして
﹂
で変神できる。私やユウコ、クロックサイコは変神できないんだけど
﹁アルシュベイトやエヌラス、ドラグレイスはそのシェアエネルギー
﹁それは、そうだけど⋮⋮﹂
?
?
673
!
﹁そう。候補。神格者って言うのは﹁神に値する者﹂って意味。キミ
?
?
それが何のためかは知らないけどねー、と拾った棒切れを振りなが
らムルフェストは話を続ける。つまり、神格者は神様候補であり、自
分たちの女神候補生のようなもの。だが、それにしても妙な話だ。国
王が神格者であり﹁神格者=守護女神﹂であるならばその当人達が神
様候補、と何か噛み合わない。
つまり、国を守る守護神なのよね
﹂
﹁私が聞いた話とちょっと噛み合ってないわね。国王って神格者なん
でしょ
じゃないじゃん
ほら、私とか私とか私とか﹂
﹁あ、そ れ っ て あ く ま で も 代 表 的 な 例 の ひ と つ だ か ら 必 ず し も そ う
?
﹂
?
﹁⋮⋮それ、国って言えるの
﹂
﹁そこら辺は全然大丈夫。だって城も国も私一人しかいないし﹂
るじゃない。自由奔放に歩き回ってて大丈夫なの
﹁だいたいね。お姫様って言うならお城とか、国とか、側近とか色々い
﹁人は見た目に寄らないもの﹂
か、というツッコミは敢えて伏せておく。
それを言ったら生活のためにバイトする女神というのはどうなの
振り回すお姫様がいるのよ﹂
﹁どこの世界にラフなシャツとジーンズで拾った木の棒を楽しそうに
はー⋮⋮まぁ吸血鬼のお姫様だし﹂
﹁ドラグレイスは亡国の教会職員、クロックサイコは狂気の魔人。私
﹁それで自分を棚に上げるのはどうかと思うわ⋮⋮まぁいいけれど﹂
?
倫理観は人間から大きく外れている。吸血姫││そんな言葉が脳裏
ノワールは言葉を失っていた。楽観的な言葉で誤魔化しても、その
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
誰もいないし、何もないからこっちで遊んでるの﹂
﹁あれが、私の国。あれが私の城。あそこが、私の治めている月の都。
空の上に、月が薄らと浮かんでいる。
そう言いながらムルフェストが棒切れで指し示した先││壊れた
﹁眷属はいくらでも増やせるし、シェアも困ったら取り出せるし﹂
背筋が凍るような言葉だった。
﹁そだよー。だって私以外〝皆殺し〟にしたし﹂
?
674
?
をよぎった。
﹁神格者同士が殺しあって、最後の一人になれば大いなる〝C〟への
挑戦権が得られる。世界をやり直せるかもしれないって話なんだけ
ど、私は正直どうでもいいんだよね∼。興味無いし。今が楽しかった
﹂
ら そ れ で い い の。あ、モ ン ス タ ー だ。ラ ッ キ ー エ ン カ ウ ン ト、ど
りゃー
ト
世界を変えて、
投げた棒きれが回転しながら頭に直撃して、首の骨が折れたミッ
セッ
ド・グレイが音もなく倒れる。
リ
﹁人生にやり直しがあったって、変わんないじゃん
待ったなしだよ﹂
﹁じゃあ、アナタはこれからどうするの
﹂
て、人間は言うけどさ。どっかでぶった切られたらそれこそ人類滅亡
自分が変わらなかったら見える世界は同じよ。歴史は繰り返すなん
?
﹂
滅びに向かってることだし加速させるのもいいかもしんない﹂
﹁んー、どうしよっかなー。何も考えてないんだよね。いっそ世界が
?
〝もう実行した〟から﹂
﹁私がさせると思ってるの
﹁んじゃ、止めてみたら
?
多分衝突まで一週間くらい まぁそこは私のさじ加減かな。もし
﹁うん、もう何もないし。帰るつもりもないから、今落としたところ。
﹁││││もしかして﹂
﹁涙がこぼれないように空を見上げてごーらーん﹂
いる。眩しい無邪気な笑顔だった。
な表情を見せて、ムルフェストが笑った。口から大きな犬歯が覗いて
そんな挙動は、一挙一足見逃していなかったはずのノワールが怪訝
?
い
﹂
かしたら気まぐれで加速させるかもしんないし中断するかもしんな
?
ショートソードで斬りかかって、バックステップで避けられる。踏
エヌラスが言ってた。私も実は使えちゃったりす
み込んだ矢先に拳が当てられて背中まで突き抜ける衝撃に咳き込む。
﹁発勁、だっけ
るんだよね。それはそれとしても、私を殺しても止まんないよ﹂
?
675
!
﹁この││﹂
!
﹁何が、望みよ⋮⋮
﹂
﹂
私は私が楽しいことをするだけ﹂
﹁アクセス
﹂
数秒を要して、ノワールが呆れを通り越して怒りを覚えた。
あまりに間の抜けた相槌がムルフェストの腹の音だと気づくのに
ぐ∼。
しいみたいじゃん﹂
﹁失礼だなーもう。そんなこと言ったら楽しんでる人間みんな頭おか
﹁⋮⋮アナタ、イカれてるわよ﹂
する姿とか見て満足したら止めてもいいだろうし﹂
﹁んー、どちらかって言うと反応が見たいかなー。慌てふためいたり
﹁世界を滅ぼすのが、楽しいの
﹁別に
!
﹁輝く星に願いを込めて、煌めく星に祈りを込めて﹂
られている。
ブラックハートが本能的に駆け出す。〝危険〟だと直感的に告げ
それは、聖歌。それは聖句。詠唱の一節。
を。覚め覚め止まぬ儚い星を﹂
﹁│ │ 夜 を 始 め ま し ょ う。終 わ ら な い 虚 言 の 夜 を。明 け な い 人 の 夢
た。ムルフェストが空に腕を掲げる。
ポツリと呟いた一言が、余りに突拍子のない言葉で思わず首を傾げ
﹁⋮⋮邪魔だなぁ、太陽﹂
す。
緊張感のないムルフェストに歯噛みしたブラックハートが構え直
ことばっか﹂
﹁お腹減ってるし、昼間ってダルいんだよね∼。太陽は眩しいし嫌な
﹁アナタみたいな神格者を最後の一人にするわけにはいかないわ﹂
た。
ノワール=ブラックハートが大剣で斬り抜ける。だが、拳で弾かれ
﹁おぉ、変身した﹂
!
舞うように避けて、大剣を受け止めて血風が吹き飛ばす。詩は止ま
ない。
676
?
?
うそぶ
﹁終わらない夜に人の夢を奏でて。希望を嘯きながら、絶望を鳴らし
﹂
ながら夜が来る﹂
﹁くぅ││
舞の片手間、ブラックハートへ向けた魔法が次々と放たれる。それ
ワ
ラ
キ
ア
を防ぎ、避け、躱して再度ムルフェストへと斬りかかった。
﹁〝終わらない嘘つきの一夜〟が訪れる。覚め止まぬ悪夢を、終わら
ない夜を始めましょう﹂
聖歌が止む。聖句が止まる。静かに風が木々を駆け抜けて││世
界が止まった。
うそぶ
﹁朝は来ない。朝は来ない。終わらぬ虚言の夜に塗り潰されて。夜は
明 け な い。夜 は 明 け な い。希 望 を 嘯 い て。七 夜 を 越 え て な お 暗 く 深
い夜﹂
ムルフェストから溢れ出す途方も無い魔力。それが世界を侵食す
る。
ダ ー ク ネ ス・ ド ー ン
﹁月 は 魔 な る 太 陽。世 界 に 〝 黄 金 の 夜 明 け 〟 は 訪 れ な い │ │ 〝
闇色の夜明け〟﹂
アダルトゲイムギョウ界が、暗転する。
﹁││嘘でしょ⋮⋮﹂
ブラックハートが〝夜空〟を見上げた。太陽は消えて、星々だけが
瞬いている。幻想的な光景ながら、それが有り得ない事だと理解して
いた。世界の昼夜逆転。信じられない出来事を目の当たりにして顔
が引きつる。つい今しがたまで昼過ぎだったはずだ。
﹂
﹁嘘じゃない。これは現実﹂
﹁何をしたの
けるってだけだし﹂
!
﹁そんなこと言ったらエヌラスはどうなるのさ。あいつはその気にな
﹁それが十分脅威なのよ
﹂
﹁だーいじょうぶだって。夜が明けないだけだから。私が本調子でい
それだけの理由で世界を闇色に包まれてはたまったものではない。
ん﹂
﹁見 て の 通 り。世 界 を 夜 に し た だ け。だ っ て 日 差 し が 邪 魔 な ん だ も
!
677
!
﹂
れば世界の一つ滅ぼせる﹂
﹁アナタも同じでしょ
﹂
?
﹁捨て││
﹂
﹁そこら辺にでも落ちてるんじゃない
﹂
私まで吸血鬼になるじゃない
!
﹂
﹂
いいじゃん、タダなんだし ちょっと血ぐらい吸わせて
﹂
﹁しないからさぁ。ちょっとくらい、ね
﹁嫌に決まってるでしょ
も
﹁ケチ
﹁脅しにはのらないわよ﹂
したら気分が変わって月落とすの止めるかもしんないんだけどなー﹂
前にお腹減っちゃったなー。誰かご飯おごってくれないかなー、そう
﹁さーて、これでムルフェストさんは全力出せるわけだけど⋮⋮その
それがマジェコンヌの手にわたっていたとは神のみぞ知る││。
し﹂
誰か拾ってるかもしんない
﹁悪いけど私は持ってないよ。いらないから捨てちゃった﹂
﹁だったら、返してもらうわよ﹂
るみたいだけど﹂
アイツから能力を片端から奪った。でもキミ達の協力で取り戻して
権化││それをアイツは持っている。それを使わせない為に私達は
﹁ううん、違う。〝機械仕掛けの神様〟を使った。戦禍の破壊神、その
﹁⋮⋮無限熱量、でしょ﹂
生き残ってた大魔導師を殺した。どうやったと思う
﹁アイツは違う。九龍アマルガム表層を一撃で焼滅させた。それでも
現在進行形で落下している月を小さく指差しながら。
﹁違うんだよねぇ。私はほら。アレ、使って落とすし﹂
!?
ノワール、今日
受け止められた。その指に挟むように握られているのは十字剣。
﹂
!
アナタのご飯には絶対ならないから
﹁ちぇー、ケチ。じゃあいいよ、力づくでやるから
のご飯決定ね
﹁ふざけんじゃ、ないわよぉ
!
!
678
?
!?
﹁お断り、よ
!
!
ブラックハートの大剣がムルフェストに迫り││甲高い金属音で
!
?
!
!
ね
﹂
!
679
e p i s o d e 1 0 6 財 産 は 用 法 用 量 を 守 っ て 使
いましょう
﹂
││ホバーマインの爆発に巻き込まれていたエヌラスがフラフラ
と起き上がる。
﹁エヌラス、なんで後ろは不注意なの
﹂
ねぇねぇどんな気持
?
﹁ごめんなさい﹂
﹁お姉ちゃんが素で謝ってる
﹂
﹁︵N︶ネプテューヌを、︵D︶ど突き回して、︵K︶殺したい﹂
ち
﹁舐めプして逆にやられるってどんな気持ち
﹁おとなしく剣とか使ったほうがいいと思います﹂
?
﹁ねぷっ
﹂
﹂
あの野郎なに考えてや
さっきまであんなにお日様上ってたのに⋮⋮﹂
急に暗くなった
それが強がりだと問い詰めようとして││世界が暗転した。
﹁まぁ、そういう時もある﹂
土埃を払い落として、身体を慣らしながら調子を確かめていた。
に⋮⋮﹂
﹁そうですよね。エヌラスさん、後ろに目がついてるみたいに倒すの
いのにぃ﹂
﹁でも、エヌラスどうしちゃったの∼。あんな不注意、いつもならしな
!?
!
﹁う∼ん。どうしちゃったんだろぉ∼﹂
﹁あ、あれ
!?
﹁こんなことすんのは⋮⋮ムルフェストか
がる
!
?
仮面と憤怒の形相が至近距離で火花を散らしていた。
る。
暗闇に浮かび上がる仮面を見て、エヌラスの飛び蹴りが突き刺さ
聞こえてきた。
ルフェストと交戦しているのだと駆け出そうとした矢先、蟲の羽音が
すぐ近くで戦闘音が聞こえてくる。金属の衝突音。ノワールがム
!
680
?
﹁よぉ、ブサイク野郎﹂
﹁やァ☆元気にしてたかイ
﹂
﹁ムルフェストが月を落とした。それだけ伝えに来たヨ﹂
﹂
決着はキンジ塔でつけようじゃないカ ソッチの
﹁ありがとよ、死ね﹂
﹁じゃあネ∼
方が盛り上がるだろう
くりと大きくなっているのが見える。
﹂
走るぞ
!
﹁どうするの
﹁ひとまずノワールと合流だ
﹂
確かに月が動いていた。限界まで視覚強化を重ねて、その輪郭がゆっ
クロックサイコの目的は不明だが、エヌラスが夜空を見上げると、
!
﹁なんの用だ﹂
﹁そういうわけにはいかないサ﹂
﹁ご覧のとおりだ。くたばれ﹂
?
﹂
﹂
﹁大丈夫に見える⋮⋮
﹁ノワール、無事か
ハートを抱き上げる。
に打ちながら吹き飛ぶ吸血姫を二の次にしてノワール=ブラック
挨拶抜きでアクセル・ストライクが叩き込まれた。その頬骨を強烈
﹁やぁ、エヌラ││﹂
身創痍だった。ムルフェストは身体を伸ばしている。
森を抜けて、エヌラス達がノワールの元へ辿り着いた頃には既に満
!
今ヒール使うので、じっとしてて
!
たっていいんだよ
﹂
!
恨めしいノワールの言葉にネプテューヌが﹁うへぇ⋮⋮﹂と嫌そう
﹁ネプテューヌ⋮⋮アナタ後で覚えときなさいよ⋮⋮
﹂
﹁ノ ワ ー ル、い く ら ぼ っ ち だ か ら っ て 一 人 で 目 立 と う と 頑 張 ら な く
﹁ありがと、ネプギア﹂
ください﹂
﹁だ、大丈夫ですかノワールさん
ネプテューヌも駆け寄ってノワールの身を案じていた。
﹁いや、重傷に見える。任せろ﹂
?
?
?
681
!
!
!
な顔をしている。
﹁イッタイなぁ、いきなり蹴り飛ばさなくてもいいじゃん﹂
﹁ウッセェ、吸血姫。何のつもりだ﹂
﹁なにって⋮⋮太陽邪魔だったんだけど﹂
﹁元に戻せ﹂
﹂
私と一戦交える
﹁無理。だって今のでシェアエネルギー使っちゃったし﹂
﹁お前ホント計画性ねぇな⋮⋮﹂
﹁楽観主義万歳﹂
﹁うっせぇわ﹂
﹁ふふん、そうまで言うならどうするつもり
腹ペコのワタシと、彼女達を庇って戦える
﹁以前のままだと思ってんじゃねぇぞ﹂
﹁なーんか、殺気立ってんねぇエヌラス。らしくなーい﹂
ということは⋮⋮そっかぁ、アルシュベイトとバルド・ギアの二
﹁あー、わかった。アゴウとインタースカイ無くなっちゃってるから
周囲を見渡して、唸って首を傾げたムルフェストが手を叩いた。
?
械 だ し 不 眠 不 休 で 動 く も ん だ か ら 相 手 す る の 面 倒 だ っ た ん だ よ ね。
儲けもの﹂
ネプテューヌ達が睨んでも、ムルフェストは気にした風もなく笑っ
ている。その無邪気さがエヌラスの神経を逆撫でていた。
〝次
?
別に知っ
﹁どうせ繰り返される歴史なら、嘆くこともないんじゃない
もある〟んだし﹂
ネプギアが眉を寄せる。
確かキミはあれだね。異次元の女神達だっけ
﹁次もあるって⋮⋮どういうことですか﹂
﹁んー
?
﹁だからアルシュベイトもバルド・ギアも死んだって悲しむことはな
﹁⋮⋮だから、なんだ﹂
ていることくらい﹂
外は覚えてるよ。アダルトゲイムギョウ界が滅亡と再生を繰り返し
たところでどうにもならないと思うから言っておくけど、エヌラス以
?
682
?
?
人、同時にいなくなったのかぁ⋮⋮うん、ラッキー。あの二人って機
?
﹂
いって言ってるの。キミの為でもあるんだよ
﹁だから、どうした
﹂
?
﹂
?
ても、大いなる〝C〟には勝てない﹂
〝 聖 戦 〟だよ。ワ
Crusade
﹁だからといって諦めるわけにはいかねぇんだよ⋮⋮
!
〟の
﹂
アッカンベー
﹂
﹂
﹁と い う わ け で ご 飯 食 べ て く る ね
!
ブルース・インパクト
﹂
戦 闘 行 為 は 禁 止 だ も ん ね ー、
ムルフェストが跳躍した先││ユノスダス。完全非戦闘区域。
とは言ったけど戦えそうにないくらいお腹空いたから﹂
﹁さすがのワタシも馬鹿じゃないし、一旦引かせてもらうよ。腹ペコ
﹁それで、どうする。こっちは五人だ﹂
で。なんて、これは大魔導師の受け売りだけど﹂
﹁そして歴史は〝0〟へと至る、か││原点回帰、全ては輪廻の導き
ゼロ
れた十字剣と衝突して相殺される。
距離を離したムルフェストに二挺拳銃が火を噴いた。だが投擲さ
ちゃったし﹂
﹁そ う だ よ ね、知 る わ け な い か。知 っ て そ う な 人 間 は、キ ミ が 殺 し
﹁俺が、知るかよ
﹂
タシさ、不思議に思ってるんだよね││なんで〝キミだけ覚えてない
﹁⋮⋮この生存競争、なんて言うか知ってる
?
﹂
﹁エヌラス。無駄なんだよ、全部。キミがどれだけ頑張って、諦めなく
エヌラスの倭刀とムルフェストの十字剣が火花を散らした。
だったら今を楽しんだ方が断然いいじゃん
達がいることくらいかな。まぁどうせ全部無駄だろうし、そんなん
﹁そんな怒らなくてもいいでしょ、エヌラス。いつもと違うのは彼女
!
﹁ハンティングホラー
﹁させるか
!
!
!
﹁お前達は変身してムルフェストを追ってくれ﹂
た。そうしている間にもモンスターの群れが集まってくる。
横切る。間一髪で避けたが、ムルフェストとは大きく離されてしまっ
足から放出される魔力の砲撃による薙ぎ払いがエヌラス達の前を
!
683
!
?
﹁エヌラスは
﹂
﹂
﹂
!
めた結界だ。
!
﹂
!!!
せ ん ゆ う
﹂
好敵手は、もういないのだ││。
!
﹂
﹁こらー、待ちなさいムルフェスト
﹁なに、一緒にご飯
?
﹂
乾いた風が胸を締め付ける。この荒野、焦土を駆け抜けた鋼鉄の
滅をもたらす必滅呪法。
消し飛ばしたのだ。大魔導師と出会う以前より使っていた究極の破
何も残らなかった。何もなかった。自分の放った一撃が、何もかも
訪れる静寂。何事もなかったかのように夜風が吹く。
﹁││昇華っ
導師だけが立っていた。ミスカトル大時計塔だけが残った。
││生身の腕ではなく機械の腕が滅ぼし尽くした焦土の上で、大魔
忌まわしい記憶。九龍アマルガムを焼滅させた記憶が蘇った。
﹁シャイニング・インッパクトォォォッ
がて、その限界に達する時に収縮される。
よって生み出される魔力は結界の内部で無尽蔵に膨れ上がる││や
の内部に入り込んだ異物は一つ残らず燃え尽きた。銀鍵守護器官に
闇すら飲み込む白い闇、ホワイトホールが森林地帯を包み込む。そ
﹁ユノスダスでぶっぱさなきゃ文句はねぇんだろぉ、ユウコッ
﹂
熱の光球を生み出す。白い闇││渦巻くのは〝無限熱量〟を封じ込
化したモンスターの群れにエヌラス=ブラッドソウルは右の掌に灼
背後へ向き直り、変神する。夜の太陽、月明かりに照らされて活発
﹁⋮⋮くそ、胸糞悪ぃ﹂
た。
残されたエヌラスはその姿が見えなくなったところで肩を落とし
ネプテューヌ達が次々と変身してムルフェストの後を追う。
﹁うっせぇ
﹁たまには甲斐性あるところ見せてよね
﹁仕事だ。今日の晩飯代ぐらいは自分で稼ぐ﹂
!?
!
684
!
﹁違うわよ
っていうかなんでそうなるのよ
﹂
!
前に立ち塞がる。
?
るのよ
﹂
﹂
﹁私が純粋に楽しそうと思ったからさ
﹂
﹂
!?
論破
﹁はた迷惑にもほどがあるわよ
﹁自分良ければ全て良し
﹂
﹁それには同意するわ﹂
﹁ネプテューヌ
!
?
無駄に終わるであろう。
﹁月を落としたら貴方も死ぬのよ、分かってる
﹂
﹂
どうやって、とまでは解決策が思い浮かばない。説得しても恐らく
﹁ゲフンゲフン⋮⋮と、とにかく月の落下を止めるわよ﹂
!
﹂
﹁なんでこんな三日で世界を救う緑色の勇者の伝説みたいなことさせ
パープルハートが後を追い、跳躍したムルフェストを迎撃した。
﹁知らないわよ
﹁そんなことしてどうするつもりなのかしら、ムルフェスト﹂
﹁それで流石に月を落とすのはどうかと⋮⋮﹂
﹁ムルフェストが﹁楽しそう﹂の一言でこんなことになってるのよ﹂
﹁なんでこんなことになってるの、ノワール
﹂
空中で切り結ぶ二人が弾かれるように吹き飛び、ブラックハートが
!
かなーって﹂
﹁このアッパラパー
どこまでおめでたい頭してるのよ
﹂
!
﹁止めるつもりならワタシしか出来ないし、ぶっ壊すつもりならどう
﹁奇遇ね、ねぷちゃん。あたしもよ﹂
﹁⋮⋮ねぇ、私もしかして物凄く嫌な予感がするんだけど﹂
ちゃったし、回復しないと止められそうにないんだよね﹂
﹁さっきも言ったと思うけど、アレ落とすのにシェアエネルギー使っ
事態は言及すればするほどに最悪な方向へと転がっているようだ。
!
685
!
?
!
!
﹁あー、ごめん。それは考えてなかった、いや別に世界が滅ぶならいい
!
﹂
﹁え
?
じゃなくて
﹁え
?
ぞご自由に﹂
﹂という程度の問題。そんな気軽さで月を落
どうやら本当に後先考えない行動だったらしい。それも﹁まぁ多分
どうにかなるんじゃね
ら
﹂
﹁そんな暇ないわよ
﹂
アナタのせいで偉いことになってるんだから
﹁まぁまぁ落ち着きたまえよ女神達。ほら、素数を数えて落ち着いた
とされてもネプテューヌ達にはどうしようもない。
?
止まった。
﹂
?
非常識にも程があるわ
!
﹁⋮⋮⋮⋮月くらいぶっ壊してくれるでしょ
﹁くらい、の範疇がぶっ飛びすぎでしょ
!
﹂
ただでさえ世界の崩壊が進んでるのにこんなこと、
絶対に許しませんからね
!
れないの
﹂
﹁フォートクラブ生産工場の件といい、アナタって他人の迷惑考えら
﹁えー、なんでそんな怒るの⋮⋮﹂
!
﹁そうですよ
﹂
城壁前でネプテューヌ達が先回りに成功してムルフェストが立ち
﹁お姉ちゃん、相手しなくてもいいと思います⋮⋮﹂
﹁素数って1からだったかしら﹂
!
?
えてならない。
これ︵ムルフェスト︶の相手をしていたドラグレイスが可哀想に思
﹁頭痛くなってきたわ⋮⋮﹂
﹁楽観主義もここまでくるとただの迷惑ね⋮⋮﹂
月のひとつやふたつ﹂
﹁そんなもん考えてたら楽しい人生送れないし。ワタシが楽しければ
!?
686
!
も
episode107 母は鬼より恐く神より強し
﹁目くじら立てて私を怒ったって時間は進むし月は落ちている
﹂
﹂
ネ プ
ムルフェストを迎え討つわよ
ほ ん っ と う に 腹 立 つ わ ね こ の 吸 血 姫
うやったことだから反省してない
﹁あ ぁ ぁ ぁ ぁ も う
テューヌ、ネプギア、プルルート
﹁なんで貴方が仕切るのよ﹂
﹂
とにかくあの頭がおめでたい吸血姫をどうにか
しないことには現状、どうすることも出来ないんだから
﹁別にいいでしょ
!
ワールちゃん
﹂
﹁なんでもないです
﹂
﹁なにか言った、ネプギア﹂
﹁それってムルフェストさんと変わってないような⋮⋮﹂
﹁後で考えるわよ
﹂
﹁ど う に か し て も ど う に も な ら な か っ た 場 合 は ど う す る つ も り、ノ
!
暗くてよく見えないが、その手には確かに赤い針が握られていた。
﹁それはそれでいいんだけどねー、こぼすと勿体無いし﹂
﹁もっとこう、首筋に噛み付くのを想像してたのだけれど﹂
﹁思ったより小奇麗な吸血ね﹂
﹁うっげぇ⋮⋮美味しくない⋮⋮﹂
ストの表情が苦い。
りは体液を抜かれてミイラのように乾いた屍体が崩れた。ムルフェ
る。それは首筋に突き立ち、やがて干からびていく。血液、というよ
フラフラと歩くミッド・グレイの一匹に赤い針のようなものを投げ
﹁むー。じゃあいいや、仕方ない。そこら辺ので我慢しよ﹂
﹁アナタの都合なんて知らないわよ﹂
﹁ワタシ、ご飯食べたいんだけどな⋮⋮﹂
うにしていた。
いる。渋々パープルハート達も武器を向けるが、相手がやる気なさそ
怒り心頭のブラックハートには聞こえていないのか、大剣を構えて
!
ユノスダスの城門を背負ってネプテューヌが斬りかかる。それを十
687
!
!
!
!
!
!?
!
?
字剣で受け止めて離れた。
わかってるの
﹂
﹁いくら自分が楽しいからって、やっていいことといけないことくら
いあるわよ
!?
も楽しくない
﹂
﹁アナタが周囲の迷惑考えないからでしょう
﹂
もういいよ 別に相手する必要ないし、放っておいて
!
!
!
手を振った。
?
電気代跳ね上がるから今すぐ戻して
﹂
何が起きてるのか順番に説明し
﹁あ、やっほーユウコ。元気にしてる
﹂
﹁元気だけど大絶賛ご機嫌斜めだ
てもらうから
!
﹁えーっと、太陽が邪魔だから夜にした﹂
﹁またそんなことしたの
﹁で、電気代⋮⋮﹂
!?
﹁だってぇ﹂
﹁だってじゃないよ
何考えてんの
一日中夜だったら洗濯物は
!
乾かないし新聞読めないし電気代は跳ね上がるしゴミ出しだって面
!
というよりも、また、ということは以前もやったことがあるようだ。
!
!
﹂
トが同じ吸血鬼であるユウコを見て不機嫌そうな表情から一変して
だ。それに国王本人が我慢できずに出てきたのだろう。ムルフェス
どうやらユノスダスでも突然の出来事に大騒ぎになっているよう
ててこちらも怒り心頭、といった様子である。
城門が開かれていき、そこから現れたのはユウコだった。腰に手を当
べー、と舌を出して逃げようとするムルフェストの動きが止まる。
もどうせ世界は滅ぶんだからいいもんね
﹁ふんだ
﹂
﹁なんでワタシってこう、邪魔ばかりされるんだろ。キミ達と戦って
ターが弾き落とした。
り、二人の剣を同時に躱す。赤い針を投げるも、それをパープルシス
肩を落とすムルフェストにブラックハートとアイリスハートが迫
﹁もー、なんで揃いも揃って人のこと怒るかなー⋮⋮﹂
!
わかる
﹂
!?
688
!
!
倒だし犯罪者はあちこち悪さするしで私の仕事が増えるばかりなん
だよ
!
月がなに
月が落ちてくるからなんだっての
だから何
﹁え、えっとユウコ。夜が明けないよりも月のほうが⋮⋮﹂
﹁月
!?
!
私はそんなものより先に国内の電気代維持の方が大事なんだよ
!?
﹂
ユウコの脳内では﹁電気代︵国家予算︶﹀﹀
︵越えられない壁︶﹀﹀月が
月はいいから夜
落ちてくる︵世界の危機︶﹂ということになっている。流石は商業国家
というべきか肝が座っていた。金は命より重い。
﹂
﹁だ・か・ら、とっとと元に戻せこのアッパラパー
は戻せ
!
出 来 な い の や る の、や ら な い の ど っ ち
﹂
!?
!
ている。
﹁出 来 る の
さっさとしろ
!?
なんで月落としてるの
?
上らしい。
﹁⋮⋮で
﹁ヒィ⋮⋮﹂
﹂
にユウコの方が年下のはずなのだが、どうにも立場は遥かにユウコが
頭を撫でて、ムルフェストが涙ぐんでいた。傍目から見れば明らか
﹁グス⋮⋮﹂
﹁よしよし、それでいいの﹂
い。
たらしい。だが、月は落ちてきている。そればかりはどうしようもな
が昇ってきた。ムルフェストが泣く泣く〝闇色の夜明け〟を解除し
徐々に世界が白んでくる。創りだされた夜が明け始めていき、太陽
﹁うん、じゃあやって﹂
﹁やります⋮⋮﹂
をすすり始めた。
いる。ネプテューヌ達が言っても気にしなかったムルフェストが鼻
折角自分がやったことを盛大に頭ごなしで叱りつけられてしょげて
眉 を 吊 り 上 げ て 睨 む ユ ウ コ に ム ル フ ェ ス ト が 涙 目 に な っ て い た。
!
!
ムルフェストが気圧されていた。事実、ネプテューヌ達も唖然とし
﹁う、ぅぅ⋮⋮﹂
!
?
689
!
!
ことと次第によっちゃあ私の堪忍袋
﹁な・ん・で、こんなことになってんのか聞いてるの。さぁー元気よく
答えよっかー、ムルフェスト
ぞー
いいのかなー
んー
いいのかなー
?
﹂
?
﹂
?
ユウコは、笑っていた。
満面の笑みだった。
?
何考えてんだ馬鹿 バーカ
!
もう一度地面に叩きつける。
﹁バカかテメェは
!
!
調子に乗ってると天日干しにするぞこんにゃろう
いいか
!
予算の下方修正に国内
それ
太陽が邪魔な
の労働力でどうやりくりするか考えないといけない一日目
!
でテメェは何をしやがった 夜にしてどうする
!
のユノスダスの経営状況は結構傾いてる
インタースカイとアゴウが無くなって商売相手がいなくなった今
!
ノスダスの周辺で彷徨いてても黙ってたのにこんなことしでかして
何もしないから今までユ
て私が黙ってると思ってんじゃねぇぞ
そんなことし
を留めていた。ユウコはその顔を横から鷲掴みにするなり頭突きで
さっている。綺麗な金髪を掴んで引き起こすと、流石は神格者。原型
ンコツが叩き込まれて、舗装された地面に吸血姫が哀れにも突き刺
ユウコの拳が震えていた。顔がひきつったムルフェストの頭にゲ
なんだ﹂
﹁それってね。つまり、今の私は限界突破してブチ切れてるって意味
﹁う、うん⋮⋮﹂
﹁ねぇ、ムルフェスト。私さ、コレ以上怒ったりしないって言ったよ﹂
深々と、深っ々と溜め息を吐いてムルフェストの肩に手を置く。
﹁⋮⋮ユウコ、メチャクチャ怒ってない
﹂
﹁そっかー楽しそうだったからかーそっかそっかーへぇ∼⋮⋮﹂
﹁⋮⋮楽しそう、だったから﹂
﹁あはは、コレ以上怒ったりしないから。素直に言ってご覧﹂
﹁お⋮⋮怒らない
全にムルフェストは詰んでいた。自業自得である。
それがよもや﹁楽しそう﹂という理由などでは鉄拳制裁不可避。完
?
の尾が限界迎えてストレスマッハパンチがテメェの顔面ぶち抜く
?
!?
!
690
?
!
!
のくらい私だって知っとるわボケェ
﹁で、でも﹂
﹂
﹁ふんがー
﹂
!
コの説教は続く。
﹁電気だって無料じゃねぇしガスと水道はまだいい
!
うしてくれんだ
ど
!
数分とはいえこっちは予定が大いに狂って国内
じゃないからあちこちで節約してるのにテメーはこのやろう
力会社とかでまかなえる電気だって国内全体に行き渡ってるわけ
的な予算占有率は自然と電気代が一番高いんだよ
そこら辺の電
つまり国の全体
!
!
は街灯その他設備に使う重要な生活の灯りなの
だけど電気代
鼻っ柱に頭突きをかまして胸ぐらを掴みあげて揺らしながら、ユウ
﹂
﹁あぎゃぱ
!
九龍アマルガムだけが商売相
!?
﹂
聞いてんのか住
!
ごめんなさいも言えない反省出来な
テメェの働き口なんて水商売以外に幾らで
も用意出来んだよこっちは
!
アハハハハハハ
ちくしょーーーーう
﹂
壊れたりしないだろうから顧客はいくらでも拾えるだろうしなー
!!
ろしい。なだめようとパープルハート達が近づいて、ムルフェストが
怒りの余り我を忘れて泣きながら笑っているユウコが何よりも恐
!!!!
!
いようなら身体で返してもらうぞ 吸血姫だからそう簡単にぶっ
!
所不定無職の吸血姫
持て余してるわけでもねぇんだよ、忙しいんだよ
﹁アンタと違ってこっちは暇を持て余してるわけでもなけりゃあ力を
それもムルフェストのせいである。
﹁そういえば壊れた城壁まだ修復作業途中だったような﹂
﹁あたし、やっぱりゆうちゃん苦手だわ⋮⋮﹂
﹁ユウコ、キレると怖いわね⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ポカーン﹂
首を締め上げていただけでなく今度は振り回し始める。
ラァァァァァァッ
手じゃこっちだってどうにも出来ねぇんだよどうしてくれんだゴ
分かってんのか 分かってんの
の騒動を収めるのにどれだけ仕事を後回しにしないといけないのか
!
!?
!!!
!
691
!
ねぷちゃん達はそこでなに突っ立ってんの
﹂
地面に叩きつけられて﹁ぐぇっ﹂潰れたカエルのような鳴き声をあげ
た。
﹁で
ら止めようと⋮⋮﹂
﹁モンスター退治は
﹂
﹁えっと、ボチボチ進んでます⋮⋮﹂
﹁へぇ⋮⋮﹂
﹂
コレに言え
ひぎぃ
文句は
あう
﹁そういう
﹁ぐえ
!
!
﹂
﹁どうなってんだこりゃ⋮⋮生活リズムとち狂うっつの﹂
たのだろう。
ラス=ブラッドソウルが戻ってくる。状況を見て、大体の事情を察し
だけに腰が引けていた。だが、そこへモンスターを片付けてきたエヌ
自分たちも何か怒られるんじゃないだろうか
そう思っていた
わ、私達はムルフェストがユノスダスに逃げ込もうとしたか
?
?
?
﹁へ
!? !?
!
ボロになっていた。
﹁っつーかエヌラス
﹂
﹁胸は関係ねーだろが
﹂
!
ラッドソウルに泣きつく。
﹁びぇぇぇぇ、ユウコ怖いぃぃ⋮⋮
ぐすっ、エグッ﹂
モンスターだけ
エヌラス助けてぇぇぇぇ⋮⋮
ギャンギャン叫ぶユウコの足元から抜けだしたムルフェストがブ
!
!?
なに清々しい顔で大自然破壊してく
一応あの辺り森林保護地区だよ
﹁んもぉぉぉぉっ
﹁尊い犠牲だったな﹂
じゃなくて自然動物とか││﹂
れてんだよ
!
﹁牛みてぇに喚くな、うっせぇぞ乳牛﹂
!!!
!?
﹁スッキリした、じゃないよ
﹁シャイニング・インパクトぶっぱなした。スッキリした﹂
!?
!
なんかあっちの方すごい見晴らし良くなってない
﹂
テメェもなにやってくれちゃってるんだ 背中を三回も踏まれているムルフェストは土と涙とその他でボロ
!
!
!
692
!
﹁なんだか子供みたいになってるわね﹂
﹁中身はガキみてぇなもんだからなコイツ⋮⋮鼻水流しながら人に抱
きつくな汚ぇな﹂
﹂
髪を梳いて汚れを落としてやりながらエヌラスが変神を解いた。
﹁おこってない
﹁別に﹂
﹁別に、ってエヌラス。アナタね、このまま放っておいたら﹂
﹁むしろ感謝してる。キンジ塔はこのままじゃどうせ出てこないだろ
うしな。世界が滅びに向かう中での救済措置として出現するなら崩
壊を加速させてくれた方が俺としては助かる。どちらにしろ次の目
的地はそこだしな。出てくるまでこっちも動きようがない﹂
﹁でも、エヌラス。ムルフェストは敵なんじゃ﹂
﹁俺 の 敵 は ク ロ ッ ク サ イ コ だ け だ。そ れ 以 外 の 神 格 者 は │ │ あ ぁ、
まぁいいだろ⋮⋮﹂
涙ぐむムルフェストを立たせて汚れを払い落とす。
﹂
﹁別に俺、こいつのこと嫌いじゃねぇしな﹂
﹁ほんと
せいで迷惑って点では、多分全員と同意権。そこだけ直せ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ぅゅ﹂
﹁エヌラス。キミ⋮⋮何考えてるの﹂
﹁なんでもいいだろ、うるせぇな。今日はもう疲れた、モンスター退治
の報酬分もらってくる。テメェはいつまでひっついてんだムルフェ
スト、離れろ﹂
エヌラスは呼び止める声も聞かず、そのままユノスダスの城門をく
﹂
ぐって消えた。ネプテューヌ達も変身を解き、眉を寄せる。
﹁なんか⋮⋮エヌラス、様子がおかしくなかった
﹁そうね﹂
﹁いつもなら﹁月を落とすとか何考えてんだテメェ
﹂とか言いそうな
﹁ゆうちゃんの怒り方、エヌラスそっくりだったねぇ∼﹂
ものなのに⋮⋮﹂
?
!
693
?
﹁お前と敵対する理由なんて生存競争ぐらいだ。後先考えない行動の
?
四人の視線が集まる先のユウコはムルフェストを正座させてお叱
り中だ。その姿はまるっきりお母さんである。
﹁⋮⋮ハァ。もういいや。これ以上怒っても時間の無駄だし。時は金
わかった
﹂
なり、タイムイズマネー。ムルフェスト、これ以上勝手なことしない
でよ。いい
﹁はい⋮⋮﹂
﹁じゃあ、ごめんなさいは
﹂
﹁ごめんなさい⋮⋮もうしません⋮⋮﹂
﹁うん、良し。次やったらぶちのめすからね﹂
﹁はい⋮⋮﹂
すっかり意気消沈したムルフェストの頭を撫でて、ユウコが手を引
いて立ち上がらせる。
﹂
﹁じゃあ、まずはお風呂入ろうか。汚れたまんまじゃお仕事できない
し﹂
﹁仕事⋮⋮
﹂
﹁大丈夫大丈夫。逃げないように私の仕事手伝ってくれるだけでいい
から。⋮⋮ね
﹂にどれだけ多くの意味が込められているかと言うと
!
﹂
?
らせないようにしよ⋮⋮﹂
﹁うぅ、胃袋握られている側の人間としてはユウコは怖いなぁ⋮⋮怒
じゃなくて、本当はユウコなんじゃない
﹁⋮⋮⋮⋮ ね ぇ。ア ダ ル ト ゲ イ ム ギ ョ ウ 界 最 強 っ て ア ル シ ュ ベ イ ト
と足を運んでいく。
そう言いながら、月を落とした張本人の手を引いてユウコも教会へ
﹁ほらー、じゃあ行くよムルフェスト﹂
﹁あ、うん⋮⋮﹂
らいいけど、気をつけてね﹂
﹁じゃーねぷちゃん達もお疲れ モンスター退治を引き続きやるな
ルフェストはただただ頷くことしか出来ない。
黙って従え。オメーの拒否権ねぇから﹂である。それとなく察したム
﹁私 の 目 が 黒 い う ち に 他 所 様 に 迷 惑 か け た ら た だ じ ゃ お か ね ぇ か ら
最後の﹁ね
?
?
694
?
?
?
!?
﹁⋮⋮ひとまずは、一件落着⋮⋮なんでしょうか
﹂
﹁でもぉ、お月様は落っこちてきてるんだよねぇ∼﹂
﹁はぁ、結局世界滅亡まで一週間っていうのは変わらないわけね⋮⋮﹂
だが月ばかりはどうしようもない。それよりも、今はエヌラスが気
になっていた。明らかに様子がおかしい。
695
?
episode108 居ても勃ってもいられない
ネプテューヌ達が報酬を受け取って宿に戻ってきてからも、エヌラ
スは心ここにあらずと言った様子でボーっとしていた。ソファーに
もたれかかって、天井を眺めている。
〟
〝どうしちゃったんだろ〟
〝さぁ⋮⋮
そんなエヌラスの隣にプルルートが座り、声を掛けてみても曖昧な
返答しかしなかった。
﹂
﹁エヌラス、今日の晩御飯どうする∼﹂
﹁んーなんでもいい﹂
﹁怪我、だいじょうぶぅ∼
﹁あぁ⋮⋮﹂
このロリコンめ
﹂
﹁もう、しっかりしなさいよ。どうしちゃったのよいきなり﹂
﹁そうだよ
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁あ、あれ
本当に大丈夫
﹂
?
?
!
﹁本当にそれだけかしら⋮⋮﹂
?
ネプギアがミニちゃんと手を合わせて遊んでいると、思い出したよ
なー﹂
てもやっぱり見えないところでダメージ残ってると思うんだけど
﹁えー、だって他に何かある
銀鍵守護器官で怪我を治したと言っ
﹁戦闘中も注意力散漫でしたから、多分そうなんじゃないかな﹂
ダメージが響いてるのかな﹂
﹁うーん、調子狂っちゃうなぁ。やっぱりアルシュベイトとの決闘の
それを誰も止めなかった。
腰を上げてコートを脱いでハンガーに掛けてリビングを後にする。
んな﹂
﹁テメェは人を心配するところはそこかよ⋮⋮何でもねぇよ、気にす
?
696
?
いつものツッコミ期待してたのにどうしちゃったの
!
?
うにNギアを取り出す。端末のカバーを開けて、ケーブルを繋いだ。
﹂
カチカチと画面を切り替えながら鼻歌交じりに操作している。
﹁ネプギア、何してんの
﹂
のことが気がかりだ。
どうしたのよ﹂
﹁あ、そういえば﹂
﹁なに
﹂
﹁私だけエヌラスとお風呂イベントこなしてない
だけフラグ立ってなくね
﹂
﹂
﹁なんで今になってそういうことを思い出すのよアナタはー
いう状況かも分かってるでしょ
﹁ノワール、吊り橋効果って知らないの
﹂
馬鹿にしないでよね﹂
﹁そうと決まれば突撃隣のお風呂場ー
﹁知ってるわよそれくらい
?
!?
!
!
?
﹂
まま脱衣場へと消えていく後ろ姿を呼び止める。
﹂
﹁エヌラス、一緒にお風呂入ろー
﹁⋮⋮別にいいけどよ﹂
﹁よっしゃー、フラグ成立
﹁なんでそんなテンション高いんだよお前﹂
﹁エヌラスがいつもに比べて沈んでるだけだよ﹂
﹁いつも通りだろ﹂
﹁そう思ってるのエヌラスだけだよ。ほら、早くお風呂入ろう
疲れたような笑みを浮かべてエヌラスはネプテューヌが着替えを
?
!
﹁⋮⋮はぁ⋮⋮お前に振り回されてばっかだな⋮⋮﹂
﹂
階段を降りてくるエヌラスの手には着替えが用意されており、その
!
!
どう
やっべ、これ私
しばらく画面と睨み合いを続けるネプギアを放って、今はエヌラス
それはそれでちょっと心配だよ﹂
﹁う∼ん、このまま悪い方向に転がることはないと思うんだけどなぁ。
い
﹁ネプテューヌ、アナタの妹。段々機械好きからハッカーになってな
認してるんです。あ、こっちのプロテクト結構固いなぁ⋮⋮﹂
﹁ミニちゃんに繋ぐ汎用ケーブルをいただいたので、早速データを確
?
?
!
697
?
持ってくるまでの間に脱衣場で服を脱いで先に入った。
あぁ、悪いな﹂
﹁エヌラスー、背中洗ったげるね﹂
﹁ん
﹂
﹁人 が 素 直 に 感 謝 し て ん の に ど ん だ け ア マ ノ ジ ャ ク な ん だ よ テ メ ェ
カウンター決めてくれないと私の調子が狂っちゃうんだってば﹂
﹁んもー、そこは素直に﹁ありがとう﹂じゃなくていつもみたいに何か
?
﹁うんうん、その調子じゃないとやっぱエヌラスらしくないね。じゃ
あ洗うよー﹂
﹁この野郎⋮⋮はぁ﹂
ネプテューヌの小さな手がスポンジを泡立たせてエヌラスの背中
を洗い始める。
﹁うーん、普通に洗うんじゃ刺激足りないかなぁ⋮⋮﹂
﹁別に刺激的な洗い方しなくていいぞ﹂
﹁ほら、変身しておっぱいで﹂
クッソー、じゃあ今の姿でやるしかないかなぁ﹂
﹁もうプルルートでやった﹂
﹁マジで
もん
それに残り一週間しかないんでしょ
それなら楽しめる
﹁やーだよ。せっかくのアダルトゲイムギョウ界、楽しまないと損だ
﹁やらんでいい。普通にやってくれ﹂
!?
?
えーいっ﹂
!
﹂
!?
﹁まさかのお兄ちゃんフラグへし折り
えーいいじゃん。お姉ちゃ
﹁ウザいとかウザいじゃなくて根本的に妹扱いしたくない﹂
﹁そこまで私ウザい
﹁死んでもテメェだけは妹だとは認めねぇ﹂
じゃただ甘えてるだけの元気な美少女の妹みたい﹂
﹁う ぅ ⋮⋮ な ん だ ろ う、す ご く 空 し い こ と し て る 気 が す る ⋮⋮ こ れ
ぺたん。つるーん。しょぼーん。
﹁無抵抗な今がチャンス
﹁お前の気楽さには世界の滅亡も敵わねぇな⋮⋮﹂
だけ楽しまないと﹂
!
!?
698
!
んだって大変なんだよ
﹂
﹂
私の活躍クソのようなもの
何でも私も怒るよエヌラス
﹁クソ
ひっどーい、今のはいくら
﹁ネプギアに比べたら姉の苦労なんてクソのようなもんだ﹂
?
が﹂
﹂
﹁今のはカウンターと言う名前の暴力だよ
﹁カウンターも暴力だろうが
!
﹁悪かったな。許してくれ﹂
﹁いいか許さない、絶対ニダ
!
を抱き合わせてくるのをエヌラスは黙って受け入れた。
?
俺まで調子狂うだろ﹂
﹁元はといえばエヌラスのせいじゃん
重しろ
﹂
﹁わたしは楽しませたいし、人を笑顔にするのが生きがいなのー
私がこうすることで笑顔にならないものなどいなかったのにー
﹂
﹁イテテテ、爪立てるな。そんな強く抱きしめたら動けねぇだろ﹂
﹁ぐすん⋮⋮﹂
!
!
じゃん﹂
﹁泣きたくもなるよ⋮⋮こんなんじゃわたし⋮⋮迷惑掛けてる、だけ
﹁⋮⋮泣くなよ﹂
﹁こんな状況下でもネタぶっこむテメェの度胸は認めるがちょっと自
生きのこれるの﹂
そんな沈んだ調子でこの先
﹁だから、なんでもねぇって言ってるだろ。お前までそんな調子じゃ
﹁⋮⋮楽しくないよ。面白くない。エヌラス、どうしちゃったの
﹂
背中を洗っていたネプテューヌの手が、ふと止まる。そのまま身体
﹁はいはい﹂
﹂
﹁せっかくのお風呂イベントなのにあんまり楽しくないなぁ⋮⋮﹂
﹁そうしてくれ﹂
﹁はぁ⋮⋮仕方ない、普通に洗ってあげる﹂
そこでお互いに一旦落ち着いてからエヌラスは背を向けた。
!
﹂
﹁なんだようるせぇ、キレのあるカウンター欲しがったのお前だろう
!?
!
699
!
!?
!?
﹁⋮⋮考えることとやることが多過ぎて、ちょっと頭と心の整理がつ
いてないんだよ。この数日、ろくに立ち止まれなかったからな﹂
フォートクラブ生産工場制圧から、ドラグレイスとの交戦。九龍ア
マルガムでのクロックサイコと戦闘。邪神ズアウィアが変身した大
魔導師の模倣体との激闘。失った能力を取り戻す甲鉄鋼殻虫との戦
闘││それから間もなくしてアルシュベイトとの死闘。戦って、戦っ
て、戦って。得たのは能力だけ。失ったものは鋼鉄の好敵手。立ち止
まっていたら死んでいたかもしれない。
﹁今にして考えりゃどうやって生きてんだろうな俺⋮⋮﹂
考えるまでもなく、間の抜けたことを口にしてることに気づいた。
ネ プ テ ュ ー ヌ 達 が い た か ら だ。自 分 一 人 で は こ こ ま で 生 き 残 れ な
かったのは、事実だ。折れそうな時に、挫けそうな時には彼女達のお
かげで立ち上がることが出来た。命に代えて守るべき者がいる││
それがなんと心地良いことなのだろう。
﹂
﹂
ね、ねっぷねぷにしちゃうよ
ズルい
沈黙。ネプテューヌの顔が赤くなっていく。そして、エヌラスも自
分の顔が赤くなっているのが分かった。
ズルくない
されちゃうよ
﹁な、なななななんで今さらそんなお礼とか言っちゃうの
よ
﹂
﹁えっと、えっと困ったときは﹂
﹁なにやってるのかしら私⋮⋮﹂
風呂場で何をしているのだろうかと二人が冷静に戻るまで数秒。
﹁﹁変身︵神︶﹂﹂
﹂
お前がそんなキョド
!
るとかちょっと俺も予想外でどう反応したらいいんだコレ
﹁いや待て落ち着け。落ち着けネプテューヌ
あれ、私されてる側
!?
!?
!?
?
!?
!
700
﹁まぁでも、そういうのって結局はお前達がいたからなんだよな。だ
から⋮⋮﹂
﹁⋮⋮だから
﹁
﹁⋮⋮あー⋮⋮⋮あ││﹂
?
﹁⋮⋮ありがとな﹂
?
!
﹁なにやってんだ俺⋮⋮﹂
数秒後の二人がこちら。全裸で泡だらけになりながら自分のやっ
た こ と に 落 ち 込 ん で い る。ノ リ と 勢 い に 身 を 任 せ た 結 果 が こ れ で
あった。ともあれ、改めて二人は向き直る。
﹂
﹁⋮⋮こうしてみると、結構いい身体してるのね﹂
﹁お前もな⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮勃ってる
﹁なんでよ ここはスタンドアップでスタンディングオベーション
﹁勃ってねぇよ⋮⋮﹂
?
﹂
﹂
﹂
!
いいから背中向
テメェのそのノリで色々ともう台無しだ
ウェイクアップ
決めておかないとスタートダッシュに乗り遅れるわよ ウェイク
アップ
﹁うるせぇよ
﹁ワッツシャット・アップ
﹂
﹂
!?
!
﹁なんでそこだけ英語押しなんだよテメェはよぉ
けろ
﹁まさかの背中フェチ
!
!
!
﹂
701
!
!
!
﹁たわしで洗うぞテメェ⋮⋮
?
!
episode109 温めますか。顔面真っ赤
パープルハートの背中に泡立てたスポンジを当て、洗っていく。小
刻みに震える肩が、笑いをこらえているのだと分かった。こうした裸
の付き合いが無いわけではなかったが、こうして照明の下で観察すれ
ばするほどに、その肌のハリや美しさが女神だと納得させる││変身
前はともかく。
﹂
そんな背中を洗っているうちに、パープルハートは手を掴んで引き
寄せる。
﹁⋮⋮おい﹂
﹁前も。⋮⋮いいでしょ
﹁自分で洗えよ﹂
﹂
﹁洗ってほしいのよ﹂
﹁嫌だと言ったら
﹂
﹁乗り気じゃないのね﹂
﹁まぁ、な⋮⋮でも洗ってほしいんだろ
﹁ん⋮⋮もう、くすぐったいわ﹂
﹂
インに沿ってスポンジでなぞっていくと小さく声を漏らした。
そう言いながらエヌラスの手を胸に当てて、悪戯っぽく微笑む。ラ
﹁これでも、嫌かしら
?
﹂
﹁だ っ て 普 段 見 ら れ て な い と こ ろ 見 ら れ る っ て ⋮⋮ 恥 ず か し く な い
﹁なんでだよ。裸はいいのに﹂
﹁なんだか、恥ずかしいわ﹂
を背けた。
上げて脇から洗っていくと気恥ずかしさからかパープルハートが顔
胸だけでなく全体的なスタイルのバランスが整っており、腕を持ち
胸を下から持ち上げて外側から内側に向けて手を滑らせる。
言 わ れ た 通 り に ス ポ ン ジ で パ ー プ ル ハ ー ト の 身 体 を 洗 っ て い く。
?
﹁裸なんて服の上から見られてるじゃない﹂
702
?
?
﹁いや、だから裸⋮⋮﹂
?
﹁とんでもねぇこと言ってんなこの女神。いいからジッとしてろよ﹂
﹂
腕を伸ばして隅々まで洗うエヌラスの手つきを見て、パープルハー
トが疑問符を浮かべる。
﹂
﹁ねぇ、エヌラス。貴方なんだか手慣れてない
﹁⋮⋮そうか
﹁片端から黙らせた﹂
﹁その時はどうしたの
﹂
なったこともあったな﹂
﹁よ く 言 わ れ る。雇 っ た ば か り の メ イ ド が 間 違 っ て 通 報 し て 騒 ぎ に
﹁そ、そうだったのね。作業風景見たら猟奇殺人の現場みたいだわ﹂
身解体して一から作り直してんだぞ﹂
﹁スピカとカルネの身体ぶっ壊れた時に誰が直すと思ってやがる。全
﹁ええ。もう少し抵抗あったり、手間取りそうなのに﹂
?
﹁それだけ
﹂
扱いに差がある。
りは自分たちで治すようにしているらしい。だが、それとこれとでは
現在は予備の身体を用意している為、そうそう手ひどく壊れない限
?
﹂
﹁本当にそれだけで、私の身体を洗うのにこんなに慣れた手つきで出
来るものなの
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁アイツはよく、俺にくっついてたな。飯も風呂も、寝る時もずっと一
まま撫で始めた。
な顔をしていたが、エヌラスはそれに笑って返すと小さな身体をその
変身を解除したネプテューヌ=パープルハートが申し訳無さそう
﹁いいさ、気にすんなよ。今のお前は似ても似つかねぇ﹂
﹁⋮⋮ごめんなさい。辛いこと思い出させて﹂
いと嫌だ﹂なんて言って﹂
﹁⋮⋮妹がな、よく駄々こねたんだよ。﹁兄さまと一緒のお風呂じゃな
を閉じた。それに構わず手を滑り込ませていくと熱い吐息が漏れる。
太ももから膝、内股にまで手を滑り込ませるとパープルハートが足
?
703
?
﹁なにがだよ﹂
?
緒だった。俺が大魔導師に弟子入りしてからはいっつも機嫌悪そう
じゃあもしかして兄妹でアレコ
にしてたっけな。﹁兄さまは修行ばかりでわたしを見てくれない﹂な
﹂
﹂
お風呂も、寝る時も
んて喧嘩したこともある﹂
﹁⋮⋮ん
レしちゃってたの
﹁ああ﹂
﹁なんだよ﹂
﹁││││││﹂
﹁どっちも﹂
﹁どっちのわたしが好み
﹂
﹁お前は本当に変身前と後じゃ別人だな⋮⋮﹂
﹁そこ平然と答えちゃうところ
?
﹂
ははー、わたしは知ってるぞぉ。エヌラスがその場
しのぎで適当に答えてるなんてまるっとお見通しだよー
﹁ど、どの辺が
平然と応えるエヌラスに、ネプテューヌが笑顔で固まっている。
?
﹂
﹂
!?
﹁ユウコが言ってた。誰かを守る時のエヌラスは、信頼してるって。
る。その頬が紅いのは、浴場の熱気だろうか。
テューヌは身体を反転させてエヌラスの首に手を回して笑顔を見せ
自 分 で 言 っ て お き な が ら ち ょ っ と 泣 き た く な っ た。だ が、ネ プ
﹁テメェ全肯定かよ
﹁確かにそうかもしんないけど、それだけじゃないよ﹂
﹁別にいい。俺なんて戦闘能力以外クソみてぇな奴だからな﹂
いけないじゃん
いよエヌラス。そ、そんなに言われたらわたしだって言い返さないと
﹁だ、だってそんな風に言われるなんて思ってなかったもん⋮⋮ズル
﹁なんで黙るんだよ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
スタイル。背中預けるくらいには頼りにしてる﹂
変身後はそうだな⋮⋮ま、落ち着いた物腰と凛とした雰囲気と抜群の
ないんだろうが、ズケズケ言うところはちょっと傷だが、もう慣れた。
﹁変身前はやかましいところはあるが、無邪気なところだな。悪気は
!
?
?
704
!?
?
?
あの時さ、わたしごと斬ってたら倒せてたはずなのにそうしな
わたしだけじゃないよ。初めて会った時、バルド・ギアと戦ったじゃ
ん
かったよね﹂
﹁⋮⋮手元が狂っただけだ﹂
あれがユノスダスに入ってきた時だっ
﹁そんなはずないよ。⋮⋮そんな嘘、言わなくてもわかるもん。他に
も、フォートクラブだっけ
ら﹂
﹁⋮⋮流すぞ﹂
お気楽至上主義の享楽主
今度は最後まで、ずっと一緒だか
﹁水に流さないでちゃんと聞いてってば
?
や め、そ れ 水 だ か ら シ ャ
﹂
﹂
﹁なにをー、バカって言った方がバカなんだからねバカー
お返しだよー
﹂
﹂
こっち向けんな
冷てぇだろうが
﹁先にやったのはエヌラスの方でしょ
﹁あっちゃぁあああーーー
﹂
りと熱湯側に全開でツマミを捻っておく。
テューヌに奪われたエヌラスが咄嗟に奪い返した。その際にしっか
冷水を流すシャワーの頭を向け合いながら浴びせていたが、ネプ
!
!
!
﹁なんだとバーカ
!
馬鹿は風邪引かねぇって相場が決まってんだよ
ワーやめて、風邪引いちゃうからー
﹁うっせぇバーカ
﹂
!
!
ス な 台 詞 な ん だ か ら、っ て 冷 た い
義者であるこのネプテューヌ様が百年に一度あるかないかのシリア
!
﹁もう││置いて行かないでよ
﹁なんだ、てっきり忘れてんのかと思った﹂
るし覚えてるんだから﹂
出てきた時も、エヌラスはいつも守ってくれたからさ。ちゃんと見て
﹁ネプギアがクロックサイコに攫われた時も、邪神がわたし達の前に
けでボロボロになりながら、それでも立ち向かってきた。
た。無傷の勝利も、無血の勝利も得たことがない。いつだって傷だら
自分の未熟だと言うが、違うとネプテューヌは断言して首を横に振っ
エヌラスの身体には無数の傷跡が薄っすらと残っている。それを
てあんなに傷だらけになりながら、それでも守ろうとしてたから﹂
?
!
!
!
!!!
705
?
!
!
ノワールに負けず劣らずのツンデレさんめ
﹂
﹂
照れ隠しにしたっていくら何でもやりすぎだと思うんだわ
﹁ザマァみやがれ﹂
﹁もー
たし
﹁アイツほどツンデレじゃねぇだろ俺
﹂
││アナタ達、人のことツンデレとか言わないでよ
﹁聞こえてんのかよ
脱衣場から人の気配がして、エヌラスが振り向くとそこにはプル
﹂
ルート、ネプギア、ノワールがバスタオルを巻いている。
﹁いつまでお風呂でイチャついてるつもりよ、もう
﹁なんでみんなバスタオル巻いてるの
﹂
﹁待ちきれなくなって、来ちゃいました⋮⋮﹂
﹁そうだよ∼。二人だけでズルいよぉ、ねぷちゃん﹂
!
﹁アナタと一緒にしないでよ、タオルも巻かずによく入れるわね﹂
?
﹂
﹁だって今更隠すような仲でもないじゃん。仲間なんだし﹂
﹂
﹁仲間の定義、ちょっと広すぎない
﹁んー、じゃあ恋人
?
﹁胸焼けしそうだ﹂
﹂
﹁お、お姉ちゃん
いでよ
﹂
じゃあ、エヌラスと二人きりだったらいいの
﹂
﹂
?
﹁⋮⋮いい、かも⋮⋮﹂
テューヌを見比べて、小さく頷いた。
み る み る う ち に 顔 が 真 っ 赤 に な っ た ネ プ ギ ア が エ ヌ ラ ス と ネ プ
﹁えっ
﹁ん
!?
そういうのはノワールさん達がいる前で言わな
﹁ネプギアとわたしの二人で姉妹丼、どう
﹁やめろ、今ちょっとその事実を再認識して頭抱えてる﹂
﹁もしそうなら、エヌラスは四股だねぇ∼﹂
?
!
﹂
﹁じゃあエヌラス、今夜は姉妹丼﹂
﹁いらんわ
全力で拒否。
!
706
!?
!
!
!
!
!
?
!
!?
e p i s o d e 1 1 0 義 理 よ り 本 命。料 理 も チ ョ
コ も 隠 し 味 に は 愛 情 ひ と つ。た だ し 病 ん で る 方 は 遠
慮したい
││五人で風呂場に集まるともなると、流石に狭い。湯船はネプ
テューヌとエヌラスが入り、今はプルルートがノワールの背中を流し
ている。ノワールはネプギアの背中を流していた。
﹁んー⋮⋮エヌラスに背中洗ってもらいたいな∼﹂
﹂
﹁どんだけ俺をこき使う気だよ⋮⋮﹂
﹁だめ∼
﹁はいはい。もう少しゆっくりしたらな﹂
こうしてのんびりと風呂に入るというのも久々のような気もする。
⋮⋮果たして本当にのんびりという表現が正しいのかはともかくと
して。
﹁へへー。エヌラス独占状態ー﹂
﹁も∼、ねぷちゃんのイジワル∼﹂
﹁だけどさすがに五人も入れないですよね⋮⋮﹂
﹁そうね。入れても⋮⋮三人かしら﹂
﹁ふっふーん﹂
どや顔でネプテューヌはエヌラスに背中を預ける。足の間に身体
羨ましい
﹂
を滑りこませて密着した体勢にノワールが顔を赤くした。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ん、なにノワール
﹁へ
﹂
?
ああ。そりゃあな﹂
﹁エヌラスは友達よね
﹂
﹁もー、素直じゃないなぁ。そんなんだから友達いないんだよ﹂
﹁べ、別に羨ましくなんてないし
?
!
?
﹁んもー、エヌラス。そこは嘘でも﹁ノー﹂と言わないと﹂
707
?
﹁ほら見なさい。もうぼっちなんて言わせないんだから﹂
?
﹁いや、それただのクズの所業だからな
﹁エヌラスだってクズじゃん﹂
﹁そうだよ﹂
﹁そうなのぉ∼
﹂
﹂
﹂
﹁これでも優しくしてるつもりなんだけどな﹂
﹁エヌラス、くすぐったいよ∼﹂
すぐったいのか身をよじらせる。
エヌラスはプルルートの後ろに座り、背中を流し始めた。それがく
﹁いつからお前のモノになったんだよ⋮⋮﹂
﹁ねぷぅ⋮⋮はぁ、しょうがないかー。ぷるるんに譲ったげる﹂
﹁あぁ、はいはい﹂
﹁むぅ∼、二人だけ恋人っぽくてズルいよ∼。エヌラス、早く∼﹂
く。
身体を震わせるネプテューヌにエヌラスが抱き寄せて頭を軽く叩
﹁う、うぅ⋮⋮背筋が寒い⋮⋮﹂
﹁お前に対する殺意しか湧かない﹂
﹁うわぁ⋮⋮言ってて悲しくならない
﹁俺は度し難いクズだからただのクズと一緒にされちゃあ困る﹂
?
俺が老けて見えるってか
﹂
﹂
大人っぽいって意味です
?
に﹂
﹁それはなにか
﹁ち、違いますよ
!
がら九割の確立で事情の知らない人間は前者である。事情を知って
に囲まれている面倒見のいいお兄さん﹂に大きく二分される。残念な
﹁少女たちを引き連れる危ない趣味の犯罪者﹂か、はたまた﹁親戚の子
ンバーと差はそれほど開いていない。それでも周囲からの視線では
エヌラスは男性ということもあるが、外見年齢で言えば変身後のメ
うら若い乙女だ。
ネプテューヌとプルルートはともかく、ネプギアもノワールもまだ
!
708
?
﹁でも、エヌラスさんって私達の中では一番年長者ですよね。外見的
﹁誰がおじさんだ﹂
﹁便乗おじさん⋮⋮﹂
?
?
いても後者を選ぶ確率は一割に満たない。可哀想なことに。
﹂
﹁なんかー、こうして見るとエヌラスって意外に〝お兄ちゃん〟って
感じだよ﹂
﹁なんだかんだで面倒見はいいですし﹂
﹁そうね。手は掛かるけど﹂
﹁えへ∼。お兄ちゃんだねぇ∼﹂
﹁やめろ、妹は一人でいい。十二人もいらねぇ﹂
﹁えー、でもでも義理の妹とかって恋愛ゲームじゃ定番じゃない
﹂
﹁血縁だろうが非血縁だろうが妹ルートだけは選ばねぇ﹂
﹁二次より三次
﹁義理より本命だ﹂
﹁なんかぁ、チョコレートみたい∼﹂
﹁時には甘くほろ苦い⋮⋮ってやかましいわ。ほら、もういいか
﹁え∼。もっとぉ∼﹂
﹁もう背中はいいだろ。他に││﹂
﹁前も∼⋮⋮ダメかなぁ⋮⋮﹂
﹂
顔を赤くしながら言うプルルートが上目遣いで懇願してくる。悔
しいことにかわいい││そんなことを思いながらエヌラスの手が
迷 っ て い た。い い の か。本 当 に い い の か。本 当 に 前 の 方 ま で 手 を 出
していいのか。いや何を今更迷う必要があるのか。いや、だがしかし
それではまるっきりロリに趣味のある人種ではないか いや待て
るか
ロリコンではない、断じてロリコンではない
再三重ねて
逆に考えるんだ。ロリコンでもいいさと思っちゃっても、いいわけあ
?
!
してロリにのみ興味があるわけではないのだ。強いて言うならばロ
リもまた女性なわけで、未発達な少女体型の成人女性もいるわけで。
それは例えばユウコとかいう胸と態度ばかりデカイくせにやたら家
庭的で手料理は舌鼓を打つほどに美味いお節介な国王とか。ロリ巨
乳に匹敵するかと聞かれれば微妙なラインなのでこの話題は保留と
だが敢えて言おう
俺はロリコン
する。つまり何が言いたいかと言うと││この状況下ではロリコン
なのを、強いられているんだ
!
!
709
?
?
?
言えば、ロリに欲情している時点でそれはもう手遅れな気もするが決
!
別に恥ずかしがらなくてもいいんだよ∼
﹂
?
じゃない。
﹁⋮⋮エヌラス∼
その、前の方も﹂
?
ヌラスー﹂
﹁おっとー
わたしの時と態度が全然違うぞー
もうちょっと優しくしてくれてもいいじゃん﹂
?
﹂
ねーぷるるん﹂
な、なに言ってるのよネプテューヌ
﹁えー、だって本当のことだよー
﹁そうだよ∼﹂
!
ツリ目なのは生まれつきよ
﹂
!
眉つり上げてるの欲求不満だったんだ﹂
﹁ち、違うわよ
﹁じゃー、今晩のオカズはノワールだね
﹂
﹁ごめんノワール。そうだよね、溜まってるよね。いっつもこーんな
ごめんね、ノワールちゃん﹂
﹁あ∼、そっかぁ∼。いっつもねぷちゃんとあたしだったもんねぇ。
ルの顔を見てプルルートが思い当たったのか手を叩いた。
赤面しているのは密事のことを思い出しているのか、そんなノワー
⋮⋮﹂
﹁そ ん な こ と 言 わ れ た っ て ⋮⋮ そ の、私 一 回 し か ⋮⋮ ゴ ニ ョ ゴ ニ ョ
?
﹁っ││
﹁あ、でもエッチしてる時のエヌラスは優しいから好きかも﹂
﹁百歩どころかこれ以上どう譲歩しろってんだ﹂
﹁ひどっ
どういうことエ
エヌラスの手がプルルートの肩から腕に掛けて洗い流していく。
﹁ひゃん﹂
﹁そういうことなら⋮⋮まぁ、しょうがねぇな﹂
から﹂
﹁あたしはぁ、全然構わないよ∼。むしろぉ⋮⋮して欲しいくらいだ
﹁⋮⋮本当にいいのか
﹁聞いてるだけで恥ずかしくなってきました⋮⋮﹂
﹁見てるこっちの身にもなりなさいよ、プルルート﹂
?
﹁お前には遠慮しない。情けも掛けない﹂
?
で流している。
エヌラスは話半分なのか、プルルートの身体を洗い終えてシャワー
!
!
710
!?
!?
﹁なんか言ったか
とか言うのに﹂
﹂
﹁いや、プルルートの身体洗うのに夢中だった﹂
﹁ロリコン﹂
﹁ぷるぅ⋮⋮エヌラスの変態さん⋮⋮﹂
で、なんの話だったんだ
!?
ながら口を開く。
﹁だから、その⋮⋮今夜は私と寝ない
理にとは言わないわ﹂
﹁わたしとネプギアの姉妹丼でもいいよ﹂
﹁だからお姉ちゃん、そういうこと⋮⋮もう∼⋮⋮﹂
い、いいの
ネプテューヌとかじゃなくて
﹁⋮⋮ノワールで頼む⋮⋮﹂
﹁へッ
俺がそんなにロリコンに見えるか !
?
テメェら俺をなんだと思ってやが││いやいい、聞きたくない
﹂
う想像できたから言わなくていい
﹂
﹁ロリコンで変態の度し難いクズ
﹁えっとぉ、ロリコンで変態さんかなぁ∼﹂
﹁意識高いロリコンの神様﹂
﹂
!
﹂
﹂
筋肉モリモリマッチョマンの変態め
﹂
﹂
!
﹁だったら変身すればいいだろ
﹁なにその神様理論
﹁そこまで筋肉モリモリでもねぇだろ
﹂
﹁ありがちな細マッチョの美味しそうな身体のくせにー
﹁逆に食っちまうぞテメェ
!
!
﹂
も
﹁だ っ て わ た し や ぷ る る ん に 欲 情 す る っ て こ と は そ う だ と 思 う ん だ
ロリコン評価ってどういうことだよ
﹁オブラートに表現を包んだネプギアだけが俺の癒やしだった。ほぼ
﹁えっとえっと⋮⋮エッチなお兄さん⋮⋮﹂
!?
!
!?
﹁なんで意外そうなんだよ
﹂
って話なんだけど⋮⋮む、無
強引に話題を変えようとするエヌラスに、ノワールが耳まで赤くし
﹁そういう意味じゃねぇし
﹂
﹁んもぉ、いつもならそこで﹁手を出すならオカズじゃねぇ、ご飯だ﹂
?
!
!
711
!
!
!?
!
!
!
!
﹂
そうしたらロリコンの評価ステータスうなぎ登りだよー
﹂
﹁へっへーんだ、美味しくいただかれた後だからおかわり自由だもん
ねー
﹁テメェ絶対いつか泣かすから覚悟しとけぇぇぇぇぇぇッ
ダスでの夜が更けていく。
712
!
わおーん。遠くでオオカミの遠吠えが聞こえた。こうしてユノス
!!!
!
episode111 無垢なる怒り︵R︶
集団入浴から上がって、エヌラスは自分の部屋に戻ってくるなり
ベッドへ倒れこんだ。あの後からずっとネプテューヌやプルルート
にイジられて気が休まらなかった。
﹁まったく⋮⋮元気すぎんだろネプテューヌ﹂
昼間にモンスター退治をしたというのに、どれだけ体力が有り余っ
ているのか。本人は仕事が大嫌いなようだが、やる時はちゃんと仕事
をしている。それでも文句を言いながらぶつくさと、だが不思議とミ
ス は し て い な い。不 思 議 な 事 に。本 当 に 不 思 議 な こ と に。む し ろ 七
不 思 議。ネ プ テ ュ ー ヌ 七 不 思 議 の 一 つ。仕 事 は ミ ス し な い。だ が や
りたがらない。
そういえば、と思い出す。自分もミスは無いように仕事はしている
713
つもりだが、その様子を見ていたスピカが言った言葉││。
﹃ご主人様は普段から粗雑で乱暴な振る舞いと言動なのに仕事はとん
とミスしませんね。つまらないです﹄
﹃お前後でぶっ壊すからな﹄
﹄
﹃大変失礼しました。つい本音││げふん、本当の││いえ、取り繕う
のは止めましょう。ミスしてくれてもよろしいですよ
﹃死ねよお前⋮⋮﹄
﹃丁重にお断りさせていただきますわ﹄
ら腕やら撃ち抜かれてひどい思いをした。今ではすっかり慣れたも
事が多々ある。当然ながら返り討ちにするのだが、最初の頃は脇腹や
どで部屋の灯りを点けていると物取りが銃を片手に押し開けてくる
いないのは九龍アマルガムで身についたクセのようなものだ。宿な
うになるのをどうにか押し留めながら物思いに耽る。電気を点けて
沈ませてエヌラスは深く息を吐いた。眠気に意識を持っていかれそ
枕に頭を預けて、重力に身を任せる。程よい寝心地の固さに身体を
にある。カルネはメイド長補佐、という立ち位置だ。
最高傑作のポンコツ代表、スピカ││自宅ではメイド長という立場
?
ので、自室の灯りは極力点けないことにしている。
夜目の方が利く、というのもあるが。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
家が恋しいというわけではない。あそこには何もないからだ。一
財産を築いて、自分の必要なものを必要なだけ詰め込んだ空間。九龍
アマルガムにありながら、そこではないどこかに存在する自分の家│
│その空間編成術も大魔導師からのプレゼントだ。考えるだけでも
頭が痛くなる。
教会はいつも無人。大魔導師が一人でいつも仕事をしていた。教
﹄
祖、と呼ばれる人物もいるらしいがエヌラスはただの一度も会ったこ
とがない。
﹃師匠。教祖ってどういう人なんだ
﹄
ち、背中を壁に預けた。
﹃⋮⋮エヌラス、起きてる
﹁⋮⋮ノワールか﹂
﹃その、いいかしら﹄
﹄
部屋の扉がノックされる。エヌラスは身体を起こして扉の横に立
ろくでもない物だったが⋮⋮。
てくる詳細不明のアーティファクトを土産に持ってくる。十中八九、
大魔導師は││たまに屋敷に来ては飲み食いして、どこからか持っ
への扉を用意したのだ。
るというよく分からない構造をしている。だからこそ教会から自宅
大魔導師の用事があるときにだけ他の部屋への立ち入りが許可され
そもそも教会、と言っても何もない。見た目は病院、中身は教会。
﹃ああ、じゃあ沈黙に耐えられそうにねぇや⋮⋮﹄
﹃会ったところで、何も意味は無いからな。まず喋らない﹄
﹃なんでだ
﹃人ではないが、お前が会うべきではない﹄
?
﹁起きてたなら電気くらい点けなさいよ﹂
を吐く。ゆっくりドアを開けると、ノワールが寝間着で立っていた。
エヌラスは改めて自分のしている間抜けさに気づいて深く溜め息
?
714
?
﹁⋮⋮癖でな﹂
ノワールを部屋に入れて、静かにドアを閉める。
﹁昔、ベルボーイが来たのかとノックに応じたら扉越しにショットガ
ン撃たれて死にかけた﹂
﹁九龍アマルガムは物騒過ぎるわ⋮⋮﹂
﹁身を持って知ってるし、学んだ。赤の他人が一番怖いってな。どん
なバケモノよりもな。何も知らない隣人がナイフ持って飛び出して
くる。銃を頭に突きつけて引き金を引いてくる。生きる為に持って
るかもしれない金を狙ってな﹂
﹁⋮⋮暗い話ね﹂
﹁地下帝国だからな﹂
﹁冗談じゃないわよ﹂
エヌラスはベッドに腰掛けて、そのまま仰向けに倒れて深く息を吐
き出す。時々、月明かりすら眩しいと思う時がある。朝も昼も夜も、
715
一日中真っ暗な闇の中。街を照らすのは人々の生活の営みだけ。│
﹂
│九龍アマルガムは、懐かしかった。あそこは自分が生まれた場所に
よく似ている。
﹁││エヌラス
﹁なんだ⋮⋮﹂
﹂
落ち着いて話をしている暇もなかったじゃない﹂
﹁今だからよ⋮⋮ずっと戦ってばかりで、エヌラスは入院したりして、
﹁⋮⋮今になって、なんでだよ﹂
覆いかぶさるようにノワールが顔を覗き込んでいた。
﹁私はアナタのことを知りたいの。それじゃダメかしら﹂
﹁どうしてだ﹂
﹁話してくれる
﹁昔と││今までのこと﹂
﹁⋮⋮何考えてるの﹂
た。羨ましいとも。人の生きる世界を星の瞬く夜空のように眺める。
人々の灯りを遥か遠くから眺めていた。それが、愛おしいと思っ
人々の温もりを。
?
?
﹁話すことが多すぎて、どれから言えばいいか分からねぇな﹂
思えば、ノワール達には何一つ肝心な事を言っていない。ひたむき
に過去を隠してきた。口にしなかった気がする。頬に手を添えて、撫
でる。髪を手櫛で梳かす。それだけで胸が満たされた。
﹁ゆっくりでいいわ。ちゃんと順序立てて話してくれたら聞いてあげ
る﹂
﹁今夜はやけに優しいな。いつもはツンツンしてるのに﹂
﹂
﹁⋮⋮ネプテューヌ達に言われたからね。﹁今夜はエヌラス独り占め
していいよ﹂って﹂
﹁俺の意思完全に無視かよ⋮⋮
﹁だから、今夜は私が慰めてあげる。いっつもイジられてるし﹂
││失うものなど、なにもないと思っていた。妹を奪われ、恋人を
奪われ、恩師を失い、救いなどこの世界には無いのだと。何も失うも
のなど無い。だから、何が起きてもどうでもよかった。そのはずだっ
た。だが、今は違う。
﹁ノワール⋮⋮﹂
エヌラス⋮⋮
﹂
が湧き上がる。なんと言えばいいのか分からない感情。きっと、無く
してしまったものだ。失った感情が胸を満たす。空洞を満たす充実
感は、失ってから久しい。
そんなコト⋮⋮言わないでぇ﹂
﹁熱いな、お前の中﹂
﹁ひぅ
﹁本当のことだからいいだろ﹂
﹂
出る⋮⋮﹂
﹁そんなこと言ったら、アナタのだって⋮⋮こんなに硬くして、熱い
じゃない⋮⋮
﹁そんな締めつけるな⋮⋮
深く繋がった陰部同士がノワールの愛液で熱く濡れていた。まだ
!
!
716
!
名前を呼んで、指を絡ませて、深く繋がった身体を重ねるだけでノ
はっ、あっ
!
ワールが跳ねた。
﹁んぅ
!
目尻には涙を浮かべて微笑む顔に、自分ではどうしようもない感情
!
!?
受け入れるのに慣れていない秘部は程良い締りでエヌラスの射精を
促す。それだけでも我慢できそうにない。お互いに身体を重ねて、裸
で抱き合うだけでエヌラスはノワールの子宮にまで精液を注ぎ込む。
﹁ハァ⋮⋮あぁ⋮⋮ん⋮⋮出てる﹂
﹁だから、言ったろ⋮⋮出るって⋮⋮﹂
ぬるりと秘部から引き出すと、白く染まった陰茎をティッシュで拭
﹂
き取る。それを見ていたノワールが小さく声を漏らした。
﹁あ⋮⋮勿体無いわね﹂
﹁下だけじゃ足りなかったか
﹁それ、アナタの方じゃないの。そんなに勃てて﹂
﹁こればかりは俺も困ってる⋮⋮﹂
﹁性欲旺盛というか、絶倫というか⋮⋮満足するまで付き合ったら身
体が持たなそうね﹂
﹁だから相手にペースを合わせてるんだよ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
ノワールの視線が陰茎に集中している。ツバを飲み込む音が聞こ
えてきた。
﹂
﹁⋮⋮その、あのね⋮⋮エヌラス﹂
﹁ん
﹁ああ、そうだな﹂
﹁それで、その⋮⋮ネプテューヌやプルルートばっかりだったみたい
だし⋮⋮私だけ不公平だと思うのよ﹂
﹁⋮⋮それは、そのー⋮⋮なんだ。つまりは﹂
今までの穴埋めをしろと それはそれで素晴らしく魅力的な提
﹁な、なによ⋮⋮
﹂
﹁ノワール、どうしたんだ﹂
引っかかった。なんだか、少しノワールらしくない。
案だ。││提案なのだが、断る理由もないのだが、エヌラスはなにか
?
﹁アナタの思ってる私ってどんな感じなのよ﹂
﹁お前らしくもない、と。ちょっと思ってな﹂
?
717
?
﹁私⋮⋮アナタとするの、二回目じゃない﹂
?
﹁勝ち気で一生懸命、真面目でツンデレ。自分のことを大切にするの
﹂
だとばかり思ってたが││﹂
﹂
﹁⋮⋮ないの⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ノワール
﹁悲しく、ないの⋮⋮
﹁悲しいさ。辛いに決まってるだろ。何度味わっても慣れないな﹂
それでも立ち止まってる暇も、泣いている暇もなかった。きっと、
自分は涙を流すことはこの先ないのだろう。エヌラスは、自分の中か
ら何かがゴッソリと抜け落ちていることに気づいた。
失うものが多すぎた。失うことに慣れすぎた。妹も、恋人も。奪う
ことに慣れすぎて、奪われた時にどうしたらいいのかも分からない。
││ただただ、純粋な怒りだけが残った。
718
?
?
E p i s o d e 1 1 2 モ ー ニ ン グ コ ー ル は 目 覚 ま
しよりも絶世の美女でお願いします︵R︶
﹁⋮⋮慣れたくないけどな﹂
エヌラスはそう付け加えて、ノワールに身体を預ける。何も言わ
ず、ただ頭を抱きしめて撫でていた。
﹁アナタは真面目に考え過ぎなのよ。ネプテューヌくらいに気楽にな
れとは言わないわ﹂
﹁あそこまでいくと逆に清々しいな﹂
﹁シリアスも度が過ぎると呆れられるわよ﹂
﹁む⋮⋮﹂
一理ある。
突然、なによ⋮⋮﹂
﹁ノワール、俺のことどう思ってるんだ﹂
﹁へ
エヌラスは考える。
﹂
全員、ていう答えは無しよ﹂
﹁⋮⋮お前以外選んだらロリコン確定じゃね
﹁そういうのいいから﹂
﹁あー⋮⋮そういうことなら、プルルート﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁なんか言いたげだな﹂
﹁ちゃんと理由も添えて﹂
﹂
ヤキモチを妬いているのか、少しだけ不機嫌そうに言った。
?
719
﹁いや、まぁ⋮⋮一応聞いておきたかった﹂
﹁⋮⋮好きよ﹂
﹁⋮⋮ありがとな。俺もだ﹂
﹁じゃあ、私達の中で誰が一番好き
﹁マジかよ⋮⋮﹂
﹁ふむ⋮⋮﹂
﹁曖昧な答えより、ハッキリ言った方が男らしいわよ
?
誰が一番、とまで考えてはいなかった。ノワールと抱き合いながら
?
?
﹁そうだな⋮⋮やっぱり、なんだかんだ言って放っておけないんだよ
な。それにかわいいし、抱きやすいし。まぁ、変身後はちょっとアレ
だが⋮⋮嫌いじゃない﹂
人のことは言えないのでそこはごまかしておく。
どうして
﹂
﹁と言っても、別に誰が嫌いとかは無いからな。正直、お前か迷った﹂
﹁そ、そうなの
?
照れてるお前は可愛いぞ﹂
﹂
﹂
!?
﹁おま言う﹂
﹂
﹁今夜は寝かさないわよ﹂
﹁それ、俺が言うべき台詞だと思うんだけどな﹂
﹁ふふん。口はそうでも体は素直ね﹂
クハートが得意げな笑みを浮かべた。
てやりたいが﹁男ですから﹂と言わんばかりに硬くなるモノにブラッ
憐憫の情すら湧き上がる。﹁どうしてそう我慢できないのか﹂と聞い
でいきり勃つ息子には呆れを通り越した怒りすら湧かない。むしろ
合ってエヌラスの陰茎を濡らしていく。その柔らかく、熱い刺激だけ
ぐ り ぐ り と 擦 り つ け て く る 秘 部 か ら は 熱 い 愛 液 が 精 液 と 混 ざ り
﹁なにか言った
﹁だからと言ってこれは反則じゃねぇかな⋮⋮﹂
絶対に私が一番になるんだから﹂
かないわよ。プルルートが一番好きなら好きでいいじゃない。でも
﹁そうやって人のことまで褒めて、言い逃れしようったってそうはい
﹁お、おい。なんで変身した
れる。そこには変身してブラックハートとなった白髪の美女がいた。
突然起き上がり、エヌラスの上に跨ったノワールの身体が光に包ま
﹁う、うぅぅぅ∼⋮⋮⋮⋮もう
﹁そうか
﹁い、いいから。もう言わなくていいからぁ⋮⋮﹂
られて分からない。
指で掬いあげて、サラサラと垂らす。ノワールの顔色は胸板に埋め
いいし⋮⋮髪、綺麗だしな﹂
﹁髪色とか似てるからだ。親近感湧いてな。名前も黒いし。スタイル
?
?
720
!
?
唇に指を当てて、小首を傾げるブラックハートの目は優しかった。
子供をあやすような、そんな慈愛に満ちた瞳。
﹁言ったでしょ、慰めてあげるって。だから私に任せなさいよ。コレ
くらいしか、できないけど﹂
言いながら秘部に陰茎をあてがい、飲み込み始める。ゆっくりと奥
まで挿入して固い感触に触れた。そこが子宮なのだと分かった。
そこで、やっと傷ついた自分を慰める為にノワールが身体を張って
いるのだとエヌラスは理解する。腰を持ち上げて、落とす。それだけ
﹂
で耐え難い快感に襲われた。まだ少しぎこちない動きで何度も腰を
振る。
﹁不器用なヤツだなお前も﹂
﹁なに、よ。何か、文句でもあるの
何 も な い。何 も 言 え な い。言 え る は ず が な か っ た。た だ ひ た す ら
に愛おしいと思っている。
﹂
﹁どうしたのよ、泣いたりして﹂
﹁え
た。自分でも分からない。どうしてこんなにも涙が溢れてくるのか。
﹂
﹁なんでだろうな﹂
﹁嫌だった
﹁そうか
﹂
﹁そう、よ。あん
﹁⋮⋮ノワール﹂
﹂
﹁だって、アナタが笑うの⋮⋮初めて見た気がするから﹂
﹁動き、止まってるぞ﹂
たブラックハートが突然持ち上がる腰に驚いていた。
忘れて久しい感情に、エヌラスは笑った。それを意外そうに見てい
るのも初めてではないのに。
嬉しくて涙が出てくるなんて、初めてだった。愛されるのも、愛す
﹁嫌なはずないだろ││嬉しいんだ﹂
?
頬に手を添えて、名前を呼んで。心に誓う。心の底から、誓った。
!
?
721
?
ブラックハートの指が触れた目尻からは、どうしてか涙が流れてい
?
誰にでもなく。
必 ず 守 り 抜 く。誰 が 相 手 で も。最 後 は 笑 っ て お 別 れ を し よ う と。
その為にならこの生命を燃やし尽くしてもいい。
﹁今夜は寝かさないからな﹂
﹂
﹂
﹁それ、私の││うそ、ちょっと⋮⋮止め││こんな格好⋮⋮恥ずかし
⋮⋮っ
﹁丸見えだしな﹂
﹁言わない、でよぉ⋮⋮
体位を変えて、ブラックハートを四つん這いにする。それだけでも
耐え切れないとでも言いたげに顔を真赤にする。だが、それでは完全
に無防備になって攻めてくれと言わんばかりだ。エヌラスは腰を掴
﹂
私が、するのぉ
﹁ふぅ、あ⋮⋮んぅぅぅぅぅッ
﹂
﹂
﹂
んで奥まで何度も突いた。その度に締め付けてくるブラックハート
ダメぇ
の膣のヒダが亀頭を擦って腰が抜けそうな快楽に襲われる。
﹁や、だぁ⋮⋮
あっ﹂
!
﹁っ││、お前がそんな声出すから⋮⋮我慢出来ないだろ⋮⋮
﹁え、もう⋮⋮
﹁ノワール、そろそろいいか⋮⋮
!
﹁冗談よ﹂
﹁あっ││││﹂
﹁このヤロ⋮⋮
そういうこと言う女神は、お仕置きだ﹂
﹁いや、お前が悪いわけじゃ⋮⋮﹂
﹁謝らないでよ。私が悪いみたいじゃない﹂
き寄せて、火照った身体を重ね合わせる。
引き抜くと、仰向けになってエヌラスの首に手を回す。そのまま抱
﹁悪い⋮⋮﹂
﹁ハァ⋮⋮ハァ、ハァ⋮⋮むぅ∼もう、イジワルするんだから⋮⋮﹂
らせる。
くベッドに身体を伏せた。息を荒くして、責めるような視線で唇を尖
半ば不意打ちに近い形で精液を受け止めて、ブラックハートが力な
!
!
?
!
?
!
722
!
!
││翌朝。
白んできた外の風景に、エヌラスは朝からシャワーを浴びてリビン
グに入る。まだ誰も起きていないようなので、その間に外の空気を吸
い込む。空を見上げれば輪郭が昨夜に比べて大きくなった月が迫っ
ていた。忘れそうになるが、現在進行形で世界の危機が迫っているの
だ。二重の意味で。
月光城。神格者、ムルフェストの教会兼居城がある月。シェアエネ
ルギーを使って落とした、と言っていたが││本当に後先考えていな
い行動には頭を痛める。基本的に昼間は寝て過ごし、夜は気の向くま
まに動く。自由奔放な吸血姫。だが、その天敵とも言える機人││機
械人類達は全滅した。無尽蔵の絶望を道連れにして。
アルシュベイトは、それが目的だった。異世界との邂逅に望んだの
は絶望を打ち砕く手段。だが本当はそんなことを望んでいなかった
他でもない自分だ。なのに今でも心の何処かでまだ生きているので
はないかと勘ぐってしまう。邪神ですらも畏怖したその存在はかつ
てのアダルトゲイムギョウ界において先代アゴウの守護女神と肩を
723
のかもしれない。無尽蔵の絶望、ヌルズ。アゴウを侵す無限の侵略者
││思えば、アレを倒すのに異世界の助けはいらなかったはずだ。
〝なぁ、アルシュベイト⋮⋮本当は、あの場でお前だけは⋮⋮お前
だけが望んでいたんじゃないのか⋮⋮世界の終わりを〟
し か し、次 元 連 結 装 置 の 起 動 失 敗 は 既 に 予 期 さ れ た も の だ っ た。
シェアエネルギーを束ねてキンジ塔を喚び出し、装置を設置して││
その起動の為に先を急ぐ自分の前に現れたのはクロックサイコ。一
も二もなく交戦した去り際に残した言葉。
﹃次元連結装置は失敗する﹄
││じゃあ、急いだ方がいい
そんなはずはないと切り捨てた。だが、それに続く言葉が背筋を悪
寒で貫いた。
手遅れになる前に、サ☆﹄
﹃大魔導師がそれを赦すと思うかい
ヨォ
?
殺した││。大魔導師は、死んだのだ。心臓に剣を突き立てたのは
!
並べていた。
エヌラスは思う。アゴウがヌルズの侵略を受け、先代アゴウの守護
女神が成せなかった事をアルシュベイトは引き継いだ。そして、成し
遂げたのだ。ならば自分は、九龍アマルガムを奪った自分は何をすべ
きなのだろうかと。
ユノスダスの通りで腰を下ろし、ボーっと人の少ない早朝の町並み
を眺める。答えはまだ出ていない。
ネプテューヌ達と出会い、そして別れの時が近づいている。それ
は、そう遠くない話だ。
今更ながらに別れを惜しむ自分がいることにエヌラスは呆然とす
る。そんな感傷的な自分は似合わないというのに。彼女達と別れる
のがこんなにも辛い。胸が締め付けられる思いだった。
独りだった。戦う時も、寝る時も食う時も、何をする時でも。ずっ
と、孤独だったのだ││慣れてしまってからは苦にもならない。その
724
はずなのに、やかましいと思っていた頃の自分は、もうそこにはいな
かった。今はただ、ひたすらに彼女達が愛おしい。
﹁おや、こんな朝早くに珍しいのに会った﹂
目を向ければ、そこにはジャージ姿の初老の男性。シワの刻まれた
顔に笑みを浮かべていた。ノワールのバイト先の喫茶店、そのオー
ナーであり九龍アマルガムに存在する人狼局の生きる伝説。
﹁シルヴィオの爺さん﹂
﹂
いま幾つだよ﹂
﹁ハッハ、オーナーと呼べ小僧。こんなところで日向ぼっこという歳
でもあるまい
﹁アンタだってそうだろ
?
と笑った。
﹁して、どうした
が﹂
以前ここに座り込んでいた時は頭を抱えていた
しい。身体に悪いぞと忠告すると、そんなヤワな肺活量をしていない
エヌラスの隣に腰を下ろした。毎朝欠かさずランニングしているら
ふがふが、と冗談めいて言いながら伝説のヴァンパイアハンターは
﹁数えるのも億劫になったわい﹂
?
?
﹁思い出させないでくれ⋮⋮﹂
ユノスダスに初めて来た頃。紹介される仕事のあまりの多さに嫌
気が差して全力で逃げようと考えていた。その理由というのも、エヌ
ラスが大魔導師とちょっとした好みの違いで大げんかをしたからで
ある。
﹄
﹄
﹃冷やしたぬきは人類の食べ物じゃねぇぞこの糞馬鹿ナメクジみじん
こ
﹃なめくじなのかみじんこなのかどっちかにしやがれ
そんなものを頼もうとする貴様は破門どころか瀕死にし
﹃うっせ
﹄
フライパンは武器じゃねぇよ
﹄
!?
ユウコに出会ってしまった。お互い第一印象は最悪。
﹃あっぶねぇなお前
﹄
﹃うるさいよ、この顔面どころか風貌犯罪者
﹃とんでもねぇ冤罪じゃねぇか
!
!
﹄
﹄
ら離れてママのところに行こうねー
成敗
﹃なんだよテメェはぁぁぁぁ
え、迷子
もしや誘拐犯
?
││うん、思い出すべきではなかった。エヌラスは頭を抱える。
!?
?
!?
﹃ほらー、お嬢ちゃん。お姉さんが怖いお兄さんどうにかしちゃうか
!!!
﹄
外の世界を知らなかった自分が、初めて立ち寄った他の国。そして、
ユノスダスに来たのは││本当に偶然だった。九龍アマルガム以
まったものである。今は完全リニューアルで通常営業している。
少ない九龍アマルガムの安全地帯である食堂通りを壊滅させてし
⋮⋮今にして思えば。非常にくだらないことで店一軒どころか数
﹃冗談じゃねぇ
﹄
てくれる
!
!
725
!
!
!
!!
Episode113 いつぶりかの静かな朝
﹁なんかもう、全て投げ出して逃げたい⋮⋮﹂
﹁あの日と同じ事を言っておるな⋮⋮﹂
それでも、だが、なぜかは分からない。ユノスダスに来る都度、顔
を合わせる度に喧嘩して、嫌だの何だのと愚痴を言いながらも結局は
お互いに会ってしまう。インタースカイに行く途中でも、アゴウに行
﹄
く寄り道でも、居心地がいいのだ。ユウコの傍は、その隣にいるのは。
神格者であり同時に国王と聞いた時は度肝を抜かれたが。
世界が平和でありますように
神に値する力で何を願うのか。そう尋ねた。
﹃私が願うのはただひとつ││
ゼニ持ってる奴が偉いんじゃい
﹄
スラムダンクシュートの掃き溜め
﹃ハッ、ありえねぇ。九龍アマルガム来たことあんのかお前﹄
﹄
﹃誰が行くかあんな犯罪国家
ゴミ
何が最強だ
スダスは平和なのだから。不思議な事に、ユウコを前にするとアル
シュベイトもドラグレイスも、あの大魔導師でさえ頭が上がらなかっ
た。
﹂
﹁だが、あの日と違うのは⋮⋮そうだな。お前さんの顔か﹂
﹁え
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
〝幸せ〟という言葉の意味が、よく分からない。運がいいとか、幸
﹂
福だとか。実感が湧かなかった。
﹁そう、なのか⋮⋮
﹁ハッハッハ、絶世の美少女たちを引き連れて何を贅沢言うか。世が
﹁俺は、幸せなのか⋮⋮﹂
に目聡くなるものだ﹂
﹁この歳になるとな、人生の酸いも甘いも噛み締めた分、他人の幸不幸
?
726
﹃お前仮にも最強の大魔導師の国をスゲェ言いようだな⋮⋮﹄
﹃ハッハァン
!
!
!
!
冗談だと思っていたが、あながちそれは嘘ではなかった。現にユノ
!
!
!
!
﹁今はとても幸せそうだ﹂
?
世なら世界中の男を敵に回しているところだ﹂
﹁んじゃ、男らしくまとめてかかってこいって言えばいいか
﹂
﹁││││﹂
だと何故気づかん﹂
大体、
ということは、つまり、そういうことだ。口に出せるほど身近な存在
﹁戦禍の破壊神と呼ばれ、畏れられるお前さんがそれだけ他人を語る
重い溜息を吐いて、オーナーは言う。
﹁
﹁やれやれ⋮⋮自分では気づいていないのが尚更⋮⋮﹂
﹁知るかよ。大体、惚気けてねぇよ﹂
﹁朝からノロケ話を聞かされる老骨に身にもなれ﹂
回されっぱなしだ﹂
るみたいだ。俺みたいに。プルルートだって、変身前も変身後も振り
いところもあるけど一番まともだしな。あれもあれで結構苦労して
になると周り見えなくなるのは玉に瑕だが⋮⋮ノワールは口うるさ
ジメたくなるし、あれはあれで結構意外にスタイルいいし、機械の事
い元気有り余ってるし。ネプギアは真面目過ぎてなんかちょっとイ
駄に元気だし。いやマジでなんであんな元気なのか分からねぇくら
言うほど良いものでもないんだぜ。ネプテューヌはやかましいし、無
?
﹁もう少し、自分と話をすることだな、青二才。では私はランニングの
﹂
途中でな。まだ後半が残っとる﹂
街をぐるりと一周だが
﹁何キロ走るんだよ⋮⋮﹂
﹁ん
?
かった。バケモノ勢揃い過ぎて泣き出したくなる。むしろ国王不在
ヌラスは九龍アマルガム国王であるという職責に耐えられそうにな
御仁。常識の範疇外が常識なのだろう。そうだと納得しなければエ
んな脚力をしているのだろう││とはいえ、人狼局の伝説と呼ばれる
しかもこの早朝から走って、昼頃には店の準備を済ませている。ど
﹁⋮⋮バケモンかよ﹂
見えなくなってからエヌラスは呟いた。
朗らかに笑って走り去る背中が小さくなっていく。それが完全に
?
727
?
でよくね
そんな事を思いながら、帰路に着いた。
宿に戻ってきてからリビングに入ると、ネプテューヌ達が寝ぼけ眼
を擦ってだらけている。朝食の用意すらしていなかった。
﹁おはよ∼エヌラス⋮⋮﹂
﹁お、おう⋮⋮どうしたお前ら。そんなに眠そうにして﹂
﹃⋮⋮⋮⋮﹄
ネプギア、プルルートからの視線が痛い。ノワールはまだ寝ている
のかリビングには来ていなかった。責めるような視線にエヌラスは
苦笑いを浮かべる。
﹁えっとさぁ、エヌラス⋮⋮一晩中あんなギシギシアンアンされてた
らわたし達、全然眠れないのは当然だよねぇ⋮⋮﹂
ネプテューヌが恨めしく欠伸をもらした。
﹁そうだよぉ∼。ノワールちゃんの声、かわいくって我慢するの大変
だったんだから∼﹂
﹂
﹁そ、そうですよ⋮⋮しかも、外が明るくなるまで⋮⋮あ、あんなの激
しすぎます
とりあえず謝っておく。というよりも、なぜずっと聞いていたのか
││いや、聞こえていたということが問題だった。もしかすると宿屋
自体が防音性に問題を抱えているのかもしれない。と、思ったのだが
よく考えて見れば外に声が漏れていたわけではないので防音性につ
いては問題なさそうだ。あのユウコがまさかそんなずさんな宿の設
計をするはずがない。
それに付き合ったらその、あんな時間になっちまった﹂
﹁ノワールが、あー⋮⋮なんだ。色々溜まってた⋮⋮みたいだったか
らな
だったの。出しすぎは命に関わるよ
げた。その表情は輝いている。
﹂
サムズアップで応えるエヌラスにネプテューヌがガバッと顔を上
﹁ん、あぁ、問題ない。そのための銀鍵守護器官だ﹂
?
728
?
﹁えぇぇ⋮⋮そこかよ⋮⋮いや、まぁその⋮⋮悪かった﹂
!
﹁な ん と な く わ か る ん だ け ど さ ー、エ ヌ ラ ス。あ ん な に し て 大 丈 夫
?
﹁じゃあエヌラス
薄い本の﹁オラ
孕め
俺の子を孕め
!
﹂とかそ
!
るパーンチ
﹁ふむ⋮⋮﹂
﹂
﹁それでー、今日はどうするの∼
﹂
変わりするであろう。具体的には潰れたトマトのように。
ロックしていた。そこに力を込めればこめかみから無惨な姿へと早
より強化されたエヌラスの右手がネプテューヌの頭をしっかりと
パンチと言っておきながら実際はアイアンクローである。魔術に
﹁ねっぷぁぁぁぁぁぁごめんなばいッ
﹂
﹁宿の中でレイジングブルをぶっぱなせない憤った俺の拳が怒りで唸
ういう種付けおじさ││﹂
!
回収したらリセットするから。な
﹂
﹂
﹁なにそのロマンのないゲーム攻略方法
うの
﹂
﹂
何度同じ選択肢を繰り返せばいいんだよ
何も答えちゃくれないんだからな
﹁クリアするまでだよ││って微妙に力入れてない
﹁チッ、気づきやがったか⋮⋮﹂
ゲームは
!
!
ぴょん。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
すっ⋮⋮ぴょん。
﹁エヌラス、どうしたの。わたしの髪がそんなに気になる
﹁髪がぴょんぴょんしてるんだよ。気になって仕方ねぇ﹂
?
チャついているような光景にプルルートがぬいぐるみを投げつけた。
ぴょんぴょん。髪が跳ねる度にエヌラスが手で押さえて、まるでイ
﹁くすぐったいってばぁ∼﹂
﹂
の寝癖を直す。だが、髪がまた跳ねたので同じように押さえると。
さりげなく恐ろしい事を呟くエヌラスは、離した手でネプテューヌ
!?
﹁うるせぇ
駄目だよエヌラスそうい
﹁お前の頭握りつぶさないとイベントCGが埋まらないんだ、許せ。
よー﹂
﹁と り あ え ず ー、わ た し の 頭 か ら 手 を 離 し て く れ る と 好 感 度 上 が る
?
?
!
729
!
!?
!
!
!
いや、別にこれは﹂
﹁ずるいよ∼。ねぷちゃんだけじゃなくてあたしもぉ∼
﹁へっ
﹁あ∼た∼し∼も∼﹂
それ本当に綿だよな
中身綿なんだよな
﹂
なんかイテェぞ
﹁分かった 分かったからそのヌイグルミで殴るの止めてくれ
!
を軽く抱き上げるとそのままソファーに座り込んだ。
﹁ほら、これでいいのか﹂
﹁む∼。なでなでしてくれないとやだ∼﹂
﹂
﹁胸焼けするな⋮⋮別に大したことじゃねぇよ。お前達との別れが近
?
﹁ああ、はいはい﹂
なんか今日はいつもより甘いよ
?
髪を撫でればすぐに気持ちよさそうに擦り寄ってくる。
﹂
﹁でもどうしたのエヌラス
﹁そうか
﹂
を損ねるのはあまり良くない。エヌラスはプルルートの小さな身体
うやって作っているのかが気になるが、頬を膨らませてこれ以上機嫌
やけに鈍い音を鳴らすぬいぐるみはプルルートお手製である。ど
!?
!
﹁うん。生クリームたっぷりプリン・ア・ラ・モードくらい﹂
?
づいてきてると思うと、少し寂しくてな﹂
730
!?
!
!
!?
E p i s o d e 1 1 4 予 定 は 未 定。白 紙 に お 先
真っ暗無計画
思いの外、口からすんなりと出てきた言葉に後から気恥ずかしさが
押し寄せてきた。ごまかすようにプルルートを抱き寄せる。
脳みそ入れ替えられてたりしない
﹂
仮にそん
別人だったり
その哀れむような慈しむよ
﹁あー⋮⋮なんでもない。いまのは、わすれてくれ⋮⋮ええいやめろ
﹂
俺をそんな目で見るんじゃねぇ
うな慈悲にあふれた視線をやめろ
しない
﹁だ、だってエヌラス⋮⋮大丈夫 頭打ってない
!
﹂
クリーチャー
?
﹁そんなのでいいんですか
﹂
﹁というプルルートの予定により今日は一日遊ぶか﹂
﹁たまにはぁのんびり遊びたいな∼﹂
﹁まぁ、とにかく今日の予定を立てるか⋮⋮﹂
収まらないが。
少なくともそれは現地住民を含めて。一部の国民はそんな領域に
﹁九龍アマルガムにいるのは化け物じゃねぇ。 怪 物だ﹂
モンスター
﹁クリーチャーって⋮⋮モンスターと違うんですか
なこと出来る知り合いは言葉の通じないクリーチャーくらいだ﹂
﹁生憎と知り合いに脳みそ瓶詰めにされた覚えはねぇよ
?
?
!
レイスだからな﹂
﹁ムルフェストは
﹁え、そうなの
﹂
でも吸血姫⋮⋮﹂
とは言って
﹁まぁ、気を緩めるってわけにもいかんし⋮⋮正直、厄介なのはドラグ
ど豪胆でもない。
正直、まったくよろしくない。こんな状態で遊びに夢中になれるほ
!?
﹁その気になれば弾丸一発で殺せる﹂
?
﹁吸血鬼跋扈してる街で対策練ってないわけないだろ
も、六発限りだ﹂
?
?
731
!
?
?
!
当たれば死ぬ。間違いなく、一発で殺せる。問題は﹁当てられる相
手﹂ではないということだ。
﹂
﹁ちなみに今までで四発使った﹂
﹁残り二発
﹁四発中三発は師匠の作った吸血鬼紛いの合成獣相手だった⋮⋮﹂
素材、吸血鬼。その他クリーチャー。出来上がったのは││アサイ
ラムの幹部半数を導入して互角に渡り合うこと五分。体組織耐久力
にクリーチャー部分が耐え切れずに自壊した、までは良かった。だが
その直後にクリーチャー部位が再生して変異。結果、三時間に及ぶ戦
闘。九龍アマルガムの三区画を生活危険領域にまで陥れた。一匹相
﹂
手にである。合計四匹。半日に及んだ戦闘行為によって被害は大魔
導師が頭を抱えるレベルに収まった。
﹁じゃあ残り一発はどうしたんですか
﹁でも、どうしてドラグレイスが厄介なの
﹂
力を失っただけで済んだだけでも奇跡的だった。
それが何故なのかは言うまい。全ての神格者を同時に相手して能
てな。正直、無駄弾だった﹂
﹁ムルフェスト相手に撃った。ところが、あの野郎うまく避けやがっ
?
﹁俺が九龍アマルガムの自宅に逃げ込むまで執拗に追ってきたのはあ
はずだ││自分以上に。
キンジ塔だけでは、意味が無い。それはドラグレイスも知っている
は不明だ。
よりも先に到着する為だろう。捜索に向かっているであろうが、目的
の様子はない。ユウコとの一方的な契約破棄は恐らくキンジ塔に誰
る。最悪、ユノスダス諸共に狙ってくる可能性もあるが現時点ではそ
し討ち、なんでもありだ。勝つためならば手段は選ばないところがあ
面から挑んでくるが、ドラグレイスだけは違う。不意打ち、闇討ち、騙
クロックサイコはその冗談じみた不死性と卓越した戦闘技術で正
率いる長だからな﹂
よってはクロックサイコのド外道よりも強敵だ。仮にも傭兵組織を
﹁あ の 野 郎 は 手 段 を 選 ば な い か ら 相 手 す る の 面 倒 な ん だ よ。場 合 に
?
732
!?
﹂
の野郎だけだった。途中で山を爆破してでも殺しに来たからな﹂
﹁環境破壊待ったなしですか
﹂
﹁俺も人のこと言えねぇけどな⋮⋮﹂
﹁エヌラス、なんか言った
﹂
る。まぁ、そんな間の抜けた死に方はしないだろうが。
﹁飯にしよう。さすがに腹減った﹂
﹁たまにはエヌラスのご飯、食べたいなぁ∼﹂
﹂
﹁俺の料理スキルは正直言うが壊滅的だぞ﹂
﹁エヌラス、何か作れないの
﹁⋮⋮うーん。焼き肉か﹂
﹂
!?
刻んで焼くだけだからな
!
﹁朝から食う料理じゃないよねそれ
﹁それぐらいしか作れねぇんだよ
﹁め、目玉焼きくらいは⋮⋮﹂
﹁焦がす﹂
﹁えーと、じゃあ卵焼きは⋮⋮﹂
﹂
プルルートの頭を撫でながらエヌラスは皮肉じみた笑みを浮かべ
巻き込まれて死んでりゃ御の字だ﹂
﹁キンジ塔を探してるとは思うが、気が早いことで。そのまま崩壊に
﹁でも行方不明なんでしょ
けは何をするかわからねぇ﹂
﹁だから、目下の障害はドラグレイスただ一人ってわけだ。アイツだ
ない。
そこに、敢えてユウコの名前を挙げなかったことを言及する者はい
だけは、どうにも苦手でな⋮⋮﹂
イク野郎も手段は選ばず必ず殺す。問題はドラグレイスだ。アイツ
﹁ムルフェストは対策があるからまだマシだ。クロックサイコのブサ
コに滅茶苦茶怒鳴られた。
い。ちなみにそこはユノスダスが指定した森林保護地区であり、ユウ
自然が豊富な山岳地帯を丸裸の荒野にしたことがあるとは言わな
﹁いや、なんも言ってねぇ﹂
?
?
﹁⋮⋮まず、俺は卵が割れない﹂
!
733
!?
?
﹁うわぁ⋮⋮﹂
卵を割ろうものなら殻ごと粉砕する。殻を取ろうものなら異物混
切って焼くだけだからな﹂
入溶き卵が出来上がり、隣で見ていたユウコが泣きそうな顔をしてい
た苦い記憶。
﹁焼き肉でもいいじゃねぇか
﹁朝から重すぎるよぉ⋮⋮﹂
﹁もうちょっと軽い料理を﹂
していた。
﹁すぅ⋮⋮﹂
﹁おい、プルルート
﹁もう朝だぞ、ノワール﹂
﹁⋮⋮エヌラス﹂
髪を撫でると気持ちよさそうに寝息を立てる。
ベッドに腰を下ろすと、ノワールが薄く目を開けて微睡んでいた。
抱いた白い肌が朝日を浴びて艶やかに映る。
入室するとノワールがシーツ一枚を羽織ってまだ寝ていた。夜通し
念のためドアをノックして、中から返事がないことを確認してから
いる。
階段を昇った。ネプテューヌとネプギアはソファーに座ってだれて
で眠っている。仕方なくエヌラスは抱えたままノワールを起こしに
寝息を立て始めるプルルートを下ろそうにも、しっかりと服を掴ん
﹁寝ちゃったよ、おい﹂
﹁むにゃ∼⋮⋮﹂
もしもーし﹂
ルルートも今は料理する気分ではないのか、うつらうつらと頭を揺ら
こうなれば作れる人間を台所に立たせる以外に選択肢がない。プ
くる﹂
﹁⋮⋮俺に作らせるのだけは、マジでやめてくれ。ノワール起こして
!
﹂
﹁んー⋮⋮身体が重いわ⋮⋮﹂
﹁大丈夫か
﹁十中八九驚きの十割、俺﹂
734
?
﹁誰のせいだと思ってるの⋮⋮﹂
?
ノワールが唇を尖らせて睨んでくるが、枕に頭を埋めるとシーツを
掴んで身体を隠しながら上体を起こした。
﹁もう、まさか本当に朝までするとは思わなかったわ﹂
﹂
﹁誘ったのはそっちだろ﹂
﹁∼∼∼∼
思い出したのか、みるみる耳まで紅潮していく。エヌラスの肩に頭
を 預 け て 深 い 溜 め 息 を ひ と つ。ゴ ミ 箱 を チ ラ リ と 見 れ ば 丸 め た
ティッシュが山のよう。
﹁シャワー浴びたいわ﹂
﹁行ってくりゃいいだろ﹂
ほら、早く出てって﹂
﹁⋮⋮そこに居られると着替えられないんだけど﹂
﹁いいだろ﹂
﹁よくないわよ
故かノワールはそれが嫌らしい。女心はやはりよく分からない││
裸を見せた仲なのだから着替えくらい見てもいいと思うのだが、何
﹁分からん⋮⋮なんでだ﹂
!
エヌラスは部屋を出ると、リビングでネプテューヌ達同様に朝食を
待った。
735
!
Episode115 おかえりくださいませ、ご主
人様
朝食を摂ってからいつものように街でクエストを受けようとして、
にわかに騒がしい。毎度のことだとは思うが、人だかりが気になって
近づくものの、背の低いネプテューヌ達はよく見えないのかジャンプ
したり背伸びしようとしているが見えないようだ。
﹁エヌラス、おんぶして﹂
﹁却下﹂
﹂
﹂
﹁お姫様だっこ∼﹂
﹁却下ぁ
﹁じゃあ肩車
﹂
﹁地獄行きで良けりゃやってやろうか﹂
﹁素直にしてくれてもいいじゃん
葉を漏らしている。エヌラス自身、背丈はあるものの人だかりに阻ま
冗談を挟みながらネプテューヌを肩車で担ぎ上げると﹁おー﹂と言
!
﹂
﹂
れてその中心がよく見えていなかった。
﹁で、なにが見える
﹁うーんとね。人混みかな
よ
﹂
﹁やめて
打ち所悪かったら記憶喪失でラブコメ展開待ったなしだ
﹁このまま倒れるぞテメェ﹂
!
?
﹁不安要素しかないってば
らす。
﹂
﹁うんとねー、なんか大道芸
みたいなのやってるみたい﹂
呆れるノワールをよそに、ネプテューヌが人だかりの中心に目を凝
﹁どうして、こう口を開けば漫才なのよアナタ達⋮⋮﹂
!
﹁んー⋮⋮多分だけど、人形劇みたいなのかな﹂
﹁そんなん飽きるほどやってるだろ。具体的には﹂
?
736
!
!
!
﹁そんときゃ洗脳してやる、心配すんな﹂
!
﹁そりゃ珍しいな。今時﹂
﹁なんかー⋮⋮メイドっぽいよ﹂
﹁はは、何の冗談だ﹂
﹂
﹁マジマジ。ほら、エヌラスも見ればいいよ﹂
﹁飛べと
﹁あ﹂
﹁どうした
﹂
いたメイドと目が合った。
とをしているのだろうかと思った直後、ネプテューヌと大道芸をして
しても狙い過ぎではなかろうか。エヌラスがどんな神経でそんなこ
のだ。客引きの為にメイド服を着用しているのだとは思うが、それに
しかしメイドで人形劇とはまた酔狂なことをする芸達者もいるも
?
﹂
メイドで二人組で大道芸 ますます正気の沙汰を疑う。いくら
﹁二人
﹁目が合ったけど⋮⋮もしかしてあの二人﹂
?
﹁いくら見えないからって冗談が過ぎるぞネプテューヌ﹂
!
そうだと
!
﹂
仮に職業メイドじゃなくても神経疑うわ
﹂
﹁ごぉーーーーーー主人様ぁああああああーーーーー
したら何してんだと聞いてやりたいわ
だろうが
﹁大体そんなことするメイドなんてどっからどう考えても頭おかしい
﹁もー、冗談でも嘘でもなくてまるっとマジなんだってヴぁー
﹂
なんでも訳が分からない。エヌラスはネプテューヌを下ろした。
?
﹁しまった、つい癖で蹴り返しちまった
﹁今の声⋮⋮﹂
﹂
﹁もしかしてぇ﹂
﹁カルネさん
?
﹂続
!?
﹂トドメと言わん
!?
﹂足に紫電を纏わせた回し蹴りがメイ
!?
﹂
ドを大きく吹き飛ばして人混みの中心地まで叩き戻した。
ばかりに蹴りあげて﹁はふん
いて上段回し蹴りを二段、重ねた﹁はぐっあぐぉ
ラスは咄嗟に防衛本能が働いてハイキックで受け止め﹁ぐぇッ
人混みから影が飛び出してきた。正確には、飛び越えてきた。エヌ
!!!
!
!
!
737
?
通常のモンスターなら即死級の連撃を受けても平然と起き上がる
最高傑作のポンコツ、その片割れであるカルネが飛び起きた。パンツ
﹂
は赤のレース。見られても平然としている。
神経通ってねぇだろ
!
﹂
﹁イッタイじゃないですかエヌラス様
﹁うっせぇ
!
﹂
﹁言うな﹂
ぞテメェ﹂
﹁ユノスダスだったら
﹂
なんの用だ最高傑作のポンコツ共﹂
なって強制国外退去となった。
﹁で
﹁はぇー⋮⋮スピカお星様になってる⋮⋮へ
実は九龍アマルガムが今ヤバイんですよ
﹁どれぐらいヤバイかジェスチャーで頼む﹂
﹂
﹂
﹂
と、とにかくなんかもうスゴイパネェでスモ
イことになっていてヤバイんですよ
﹁もういい、具体的に説明しろ﹂
﹁初めからそれでいいじゃないですかーやだー
!
!
言われてみれば確かに、なんかヤバイことが色々起きている国では
!
すね
え、ああ。ご用件で
神 性 の 炎 熱 を 込 め た 拳 で 顔 を 殴 ら れ た ス ピ カ が 名 前 通 り の 星 と
!!!
?
﹁こうするんだアホタレがぁぁぁぁぁぁ
﹂
﹁ここがユノスダスじゃなけりゃあシャイニング・インパクトもんだ
こってり濃厚︻バキューン︼をいたいけな少女たちに与えて﹂
﹁探しておりました、エヌラス様。朝も早くから︻自主規制︼な内容で
せていたスピカが造物主を前にして深く頭を下げる。
無数の鋼糸を巧みに操りながら大量のデッサン人形で演劇を舞わ
る。その隣には、やはり居た。
いつつ、エヌラスは人混みをかき分けながらカルネの傍へと歩み寄
案の定、自分が作ったメイドだったことに精神的ダメージを若干負
﹁ゲーム感覚なんだ
﹂
﹁でもゲームやってる時にダメージ食らったら﹁痛い﹂って言いません
!
﹁えーっと、えーっと
!
?
?
!
738
!?
?
あるが││内政は最低限しかやってこなかっただけにえらいことに
なっていそうではある。それでもアサイラムと人狼局が動いている
だけまだマシだ。
﹁対悪魔憑き専門のX│AT聖騎士が違法生産されていて、それでデ
モンスレイブユニットが奪還されて、街中にエーテルが溢れて怨霊警
報が勧告、更には壊滅した緑竜会のメンバーが復興を目指して国中で
﹂
クスリばらまいててとにかくもう大惨事大戦なんですってばー
どうしてこんなになるまで放っておいたんですかご主人様
﹂
﹁知るか﹂
﹁三文字
!
﹁ダメだよ∼。めっ﹂
﹁流石に責任取りましょうよ⋮⋮﹂
﹁最悪ね﹂
﹁最低﹂
ねぇ﹂
﹁世 界 が 滅 ぼ う と し て る 一 週 間 前 に 国 一 つ 滅 ん で も 知 っ た こ っ ち ゃ
なんとわずか三文字で片付けた。
とにかく国家滅亡レベルの危機が迫っているようだが、エヌラスは
!
﹂
困るんだよぉーーーー
﹂
﹁いや、だってなぁ⋮⋮俺、九龍アマルガム帰る気ねぇし。誰も困ら│
│﹂
﹁私が
﹁おぶぎゃ
!!
その後を追うようにしてムルフェストも寝ぼけ眼を擦って着地する。
﹁街のど真ん中らへんで許可もなく無断で大道芸で大儲けした挙句交
﹂
﹂
通機関麻痺させている二人組のメイドがいると聞いて飛んできまし
た、ユウコです
﹁ユウコにボコボコにされた方の吸血姫、ムルフェストです
ふたりはヴァンパイア
﹂
そこの二人の稼ぎはボッシュート 寝てんな起
はいシャキッと
!
﹁はい責任問題
きろエヌラス
!
!
!
!
!
!
739
!?
ど こ か ら と も な く 飛 ん で き た ユ ウ コ に よ っ て エ ヌ ラ ス が 潰 れ た。
!?
!
﹁お前、人のこと踏んでおいて酷くねぇか
﹂
﹁ムルフェスト連れてって国内の騒動を治めるまで帰ってくんな
商売相手がいな
!
い
﹂
まだマシかもしれない。
﹁どうせすっことないんだろ
食料自給率は六割で、つま
分かったら行ってこー
じゃあ私の為に頑張れ﹂
しかしユウコは他国の滅亡=自国の崩壊という危機感があるだけ
﹁人の命より金勘定かよ
﹂
り十人中四人は今日の飯にありつけない
給自足の生活しか出来ないんだからな
かったらユノスダスはユノスダスとして商業国家の機能を失って自
犯罪大国家九龍アマルガムしかないんだからな
いいか、今ユノスダスの商売相手は正直もんのすごくご遠慮願いたい
!
!?
!
!
﹂
!
﹁もちろんだよ
﹂
﹁一応、聞くが⋮⋮手伝う気か
﹂
せめて今日一日くらいはゆっくりとしていたかった。
いで﹂
﹁しゃあねぇ⋮⋮行くか。ドラグレイスとキンジ塔探すついでだ、つ
﹁全戦力を総動員してますけど拮抗状態でっす
﹁カルネ。アサイラムと人狼局はなにしてんだ﹂
を吐いた。拒否権はない。ユウコが相手では尚更である。
包丁を首元に当てられて両手を挙げたエヌラスは深く深く溜め息
﹁その返しは新しいな、やべぇ﹂
﹁じゃあ自分の命の危機だと思って頑張って﹂
﹁テメェのためとか死んでもごめんだ﹂
!
?
﹁もちろーん
﹂
?
ぶっちゃけユウコが怖いし⋮⋮﹂
ムルフェストも来るんだろ
﹁ありがてぇこと。んじゃ、行くか。カルネ、スピカ引きずって来い。
﹁ずっと一緒だよぉ∼﹂
﹁お手伝いさせていただきます﹂
﹁そのつもりよ﹂
!
﹁なんか言ったかなームルフェスト﹂
!
740
!
!
﹁なんでもない
﹁俺 か よ
﹂
﹂
い目見るからね。特にエヌラスから﹂
﹁いーい、ムルフェスト。吸血姫だからってあんま調子乗ってると痛
が、腕を組む。
首を横に振るムルフェストに、ユウコは疑いの眼差しを向けていた
!
分かった
﹂
なんなんだよ 俺そんなこと
けるからね、絶対怒らせないように
﹂
?
!
正 直 あ れ だ け で い っ ぱ い い っ ぱ い だ よ
﹁その上下前後注意報はなんだよ
してねぇだろお前に
﹂
﹁さ れ て た ま る か バ カ ー
﹂
﹁どれだよ
!?
逝ってこい
﹂
﹂
半ば追い出される形でエヌラス達はユノスダスを出て、現在大惨事
!
﹁どれだよ⋮⋮﹂
﹁いいから行けー
!
﹁なんか腑に落ちないが仕方ねぇ、殺される前に行くぞ
!
﹁ど、どどどどどれってそりゃ⋮⋮もう、その⋮⋮アレだよ﹂
!
!
!
﹁上も下も前も後ろもいいようにされてちょっと人に言えない辱め受
!
大戦絶賛勃発中の九龍アマルガムに︵非常に嫌々ながら︶進路を向け
た。
741
!?
!
第九章 クライマックス
Episode116 国王御一行様移動中
九龍アマルガムへ向けて歩く八人の男女。七:一というちょっとお
﹂
かしい比率でありながら、誰も特に疑問に思っていなかった。
﹁そういえばこれってハーレムじゃね
⋮⋮と、言うのはさっきまでの話だったが、誰も何も言わなかった。
ネプテューヌがチラリとネプギアを横目で見れば、九龍アマルガムで
起きた事件の当事者││エヌラスの妹を惨殺した張本人であるク
ロックサイコに誘拐された思い出が蘇ったのか、顔色があまり良くな
い。そんなネプギアの手を繋いで、ネプテューヌは満面の笑みを見せ
た。
﹁大丈夫だよ、ネプギア。今度はちゃんと守ってみせるから﹂
﹁お姉ちゃん⋮⋮﹂
俺が露出狂みてぇになってんだろう
からに凶悪そうな風貌の青年、エヌラスがコートを翻して段差を飛び
﹂
降りた。そこめがけて飛び降りるネプテューヌを素早く避けて、最後
なんでわたしは受け止めてくれないのさ
﹁見てて不安になるんだよ﹂
しない。それでも降ろそうとすると、頬を膨らませて唇が触れる。や
プルルートをそっと降ろそうとするが、首に手を回して降りようと
!
に降りてきたプルルートを受け止める。
﹁イッタ∼イ
﹂
?
﹁も∼、あたしそこまで間抜けじゃないよ∼﹂
﹁転けそうだし﹂
﹁ぷるるんは受け止めたのに
﹁人の上に飛び降りてくる奴が悪い﹂
!
742
?
﹁絶 対 だ よ。い ざ っ て 時 は エ ヌ ラ ス が 脱 い で な ん と か し て く れ る か
ら﹂
﹂
﹁そこに一肌って付け足せよ
が
!
すかさずツッコミが飛んでくる。先頭を歩く黒髪に赤い瞳の見る
!
んわりと離れてから嬉しそうに笑った。
﹁えへへぇ∼﹂
﹁ご主人様って、結構手の掛かる子が好みですよね﹂
﹁そ う い え ば そ う で し た。本 人 も 生 活 基 盤 ガ バ ガ バ な 方 で す け れ ど
も﹂
﹁だからこそロリコン呼ばわりされるんだけどご本人様全否定ですし
﹂
ゴ ン ッ 響 き 渡 る 鈍 い 打 撃 音。地 面 に 埋 ま る 二 人 の
﹁そこのポンコツ。ちょっと頭出せ﹂
ガ ン ッ
!
﹂
ドってわけだな﹂
﹁⋮⋮こういうので稼いでいけるんじゃない
﹂
﹁髪の毛一本から足の爪一つ残さず、全部だ。文字通りのハンドメイ
﹁これ、全部エヌラスが手がけたのよね﹂
る冒涜感が溢れて嫌悪感を隠し切れないノワールが眉を寄せた。
を見せる。そこに内臓的なグロテスクさはないが、一種の生命に対す
そう言いながらスピカが左手の皮膚を取り外し、その中で動く筋肉
の気になればコレで敵をなます切りに出来ますし﹂
﹁骨格はヒヒイロカネ。人工筋肉は特別製超硬度ワイヤーですわ。そ
﹁この二人の強度って一体⋮⋮﹂
﹁その程度では傷一つつきませんわ﹂
﹁なんたってご主人様の特別製、ですし私達﹂
きだ。
撃たれようが傷一つ付かないという代物だけに、その強度は折り紙つ
がここに一人。基礎骨格だけでもトラックに轢かれようが機関銃を
そして自分で作った自動人形を殴って拳を痛める間抜けな造物主
﹁カッテェ
であるが知らぬ顔。
自宅の工房で手を加えた特別製││ヒヒイロカネ。当然ながら違法
メイド。素材は自動人形の基本として使用されるものにエヌラスが
!
!
か死んでもゴメンだ﹂
﹁あくまでも、俺が俺の為に造った俺の為のメイドだから他人の為と
?
743
!
﹁クズだわ⋮⋮﹂
﹂
﹁クズですね﹂
﹁クズー
﹂
るよー、盛大にね
﹂
﹁だったらエヌラスもプラネテューヌに来ればいいんだよ
歓迎す
ネプテューヌ達の知っているイストワールは人形のように小さい。
スピカとカルネの二人は成人女性相応のサイズをしている。だが、
﹁でも、ここまで大きくないですけど﹂
﹁へぇ⋮⋮会ってみてぇな﹂
いーすんさんって呼んでます﹂
造った人工生命体。プラネテューヌの教祖を務めてるんです。私は
﹁あ、イストワールさんのことです。過去のプラネテューヌの女神が
﹁いーすん
﹁人工生命体かー⋮⋮いーすん、どうしてるかな﹂
人権主張するバカもいるが、どうだか﹂
く扱われてるからな。人形工学は一通り学んだ。人工生命体として
﹁九龍アマルガムじゃ、人間に取って代わる労働力のひとつとして広
﹁そうですね﹂
﹁へ∼、凄いなぁエヌラス。こういうの作れちゃうんだもんね﹂
とカルネ、そしてノワールが降参のサイン。
両手に顕現する真紅の自動式拳銃、白銀の回転式拳銃を見てスピカ
﹁グズグズ言ってるとぶっ放すぞ﹂
!
!
!
かった。
いやー、エヌラスってモテるんだなって思ってた
﹂
にいたのだが、いつものお気楽さはなりを潜めて静かなのが気にか
そこでふと、エヌラスがムルフェストの姿を探す。振り返れば確か
耳が痛い。人のことは言えなかった。
﹁内政放置して大惨事になっている人がなんか言ってるわね⋮⋮﹂
事も片付けないで遊びほうけてられるか﹂
﹁そうしたいのは山々だが、まずは手前の仕事を片付けねぇとな。仕
!
744
?
﹁どうした、ムルフェスト。なんか静かだが⋮⋮﹂
﹁うん
?
﹁うーむ、あまり自覚はないんだけどな﹂
﹁そりゃもうモテモテだよ。男性から殺意抱かれるくらいには﹂
﹁いや、殺意抱かれるのは日常茶飯事だし﹂
﹁皮肉が通じない⋮⋮﹂
常日頃から九龍アマルガムのような狂気に満ち満ち溢れた異常が
日常の国で過ごしてもいれば神経が太くもなる。
﹁しっかし、緑竜会の連中も懲りねぇな。本部ぶっ壊されてそれでも
まだ復興しようなんて﹂
﹁や、むしろガソリンにニトロぶち込んで火炎放射器ぶっ放したよう
なご主人様が言う台詞じゃねーですと思ったりします﹂
﹁大体どこのバカだよ、対悪魔憑き専門機体ギッたの﹂
﹂
﹁人狼局の調査によればテロリストとのことです﹂
﹁所属は
﹁まだ明らかにされていませんが⋮⋮反抗勢力に間違いはありません
ので、思う存分ぶちころがしてよろしいかと﹂
﹁それな﹂
﹂
それでも聞いてて明るい話題じゃない
﹁なんでエヌラス周りの話ってこんなに物騒なの
﹁お国柄、って奴じゃない
わね﹂
?
んな相手なのか。
﹁⋮⋮﹂
﹁どしたノワール
﹂
しかし、アサイラムと人狼局を総動員しても拮抗状態とは。一体ど
﹁プルルートが想像してるお祭りとは程遠いとは思うけどね﹂
﹁毎日がお祭りで楽しそうだねぇ∼﹂
﹁テロリストとか、私達の世界の比じゃありませんよね⋮⋮﹂
?
﹂
?
だ。
そこの滞在期間よりも戦いに明け暮れる方が長い、というのが問題
﹁少なくとも俺の知ってる平和はユノスダスだけだ﹂
と思っただけよ。平和という言葉を知らないんじゃない
﹁略さないでよ。エヌラスは、もうちょっと戦いから離れた方がいい
?
745
?
﹂
﹁この戦いが終わって、アダルトゲイムギョウ界の戦争が片付いたら
﹂
ゲイムギョウ界に遊びに来なさいよ
﹁⋮⋮ああ﹂
﹁どうしたの∼
いや、なんていうかな。平和に暮らす、っていうのがイマイチ
?
﹁やめろぉ
﹂
﹁ちっちゃい子大好きだもんねぇ∼﹂
﹁仕事ほったらかして旅してるし﹂
﹁甲斐性ないし﹂
﹁そうだよねぇ。料理出来ないし﹂
闘能力以外ダメダメだからな﹂
思いつかない。どんな生活なんだろうなって。知っての通り俺は戦
﹁ん
?
!
テューヌそっくりじゃない﹂
﹂
﹁えー、わたしでもここまで酷くないよ
﹁俺はそこまで酷くねぇぞ
!
﹁口で言っても体は素直なロリコンであるのが﹂
﹁そうかよ﹂
が嬉しいのでございます﹂
﹁ふふ⋮⋮いえ、ご主人様がこのような微笑ましい風景の中にいるの
﹁なんだよ﹂
が小さく笑った。
くしゃにしてエヌラスはそっぽを向く。そんな姿を見ていたスピカ
ノワールに言われて二人が睨み合うが、ネプテューヌの髪をくしゃ
﹁そっくりだわ⋮⋮﹂
﹂
﹁国 王 じ ゃ な か っ た ら 野 垂 れ 死 に し て そ う ね ⋮⋮ っ て 考 え る と ネ プ
!
スピカが星となったのは本日二度目である。
746
?
E p i s o d e 1 1 7 ア ク シ ョ ン ゲ ー ム で 破 壊 で
きないオブジェクトの存在感は異常
﹁自分で作ったものだから俺が何しても文句はねぇよな﹂
紫電の奔る足を地面に着けるとすぐに四散して消えた。それに全
員が頷く。拳と蹴りを食らってもピンピンしているスピカの耐久力
は末恐ろしくなる。
九龍アマルガム表層焼土に到着したエヌラス達を待っていたのは、
つい先程蹴り飛ばされたスピカだった。深々と頭を下げる。
﹂
﹁先回りしてお待ちしておりましたわ、ご主人様﹂
﹂
﹁はは、ぶっ壊してぇコイツ⋮⋮
﹁というかちゃんと壊せるの
靴でもケツでも舐めますから
﹂
それは流石に耐えられる自信ないですからおやめくださ
いご主人様ぁ
時計仕掛けによって永久に追放された。その果てがどこなのかは分
で生まれ、封印された忌まわしい怪物。それも最期は、〝銀の鍵〟と
ウィア││人々の絶望と混沌と恐怖が具現化した〝神意なき場所〟
世一代の時計仕掛け。それによって一度は命を救われた。邪神ズア
い。そびえ立つ大時計塔に違和感を覚える。大魔導師の手がけた一
嫌な予感、というか胸が締め付けられるような感覚。何も変わらな
﹁いや⋮⋮なんか﹂
﹁どうしたのさ、エヌラス﹂
言い知れない違和感のようなものが込み上げ、目を凝らした。
エヌラスが眉を寄せる。
何はともあれ、無事に到着した。ミスカトル大時計塔を見上げて、
﹁肝に銘じておきますですわ⋮⋮﹂
エヌラスの不機嫌+変神状態=ここから先はR指定。
!
﹁ヒィッ
﹁殺す気でやれば五分も掛からない。シャイニング││﹂
!
からない。果てなど無いのかもしれない。
747
?
﹁あんまり俺の機嫌損ねるなよ、変神すんぞ﹂
!
!?
消えたはずなのに。倒したはずなのに、そのはずなのに││最後の
一瞬に見た無貌の大魔導師が忘れられない。悲鳴を上げて、抜け出そ
うとしていた。だが、それは果たして〝どちらの意思〟だったのだろ
う。
封印された邪神が二度目の避け得ぬ死を目の当たりにしたからか。
はたまた、形だけを真似た大魔導師の意思か。それとも、果たして。
絶望よりもなお暗く深い、無尽蔵の絶望と恐怖から逃れようとした
からか。常軌を逸した偉大なる魔導師であれば生死の境など関係な
いのかも知れない。
〝忘れろ⋮⋮忘れろ〟
本物の大魔導師であれば、あの程度ではないはずだ。邪神が真似た
ところで所詮取るに足らぬ贋作どまりが精々のいいところだ。だが
しかし、エヌラスの胸の奥に小さな傷がカリカリと警告している。
何故恋人を奪ったのだろう││その疑問と答えだけは、まだ見つ
ヘリクス・カノン
〝螺旋砲塔〟神銃形
﹂
始
!
秒後。そこには元気に街をぶっ壊すエヌラスの姿があった。
焼却炉に放り込んで風呂でも沸かしとけ
﹁スピカ、カルネ 今日だけは街を好きにぶっ壊していいぞ
末書
!
!
らったぁ
﹂
﹁か し こ ま り よ っ し ゃ ー、ご 主 人 様 か ら 直 々 に ぶ っ 壊 し 宣 言 も
?
!!
!
748
かっていなかったからだ。今になって思い出すことでもないのは百
も承知である。だが、どうしてか⋮⋮地表焼土に来る度に思い出すの
は答えの出ない疑問ばかり。まるで思い出せない記憶をかき回され
ているような、言いようのない不快感だった。
﹁行くぞ﹂
クトゥガ、イタカ
答えはやはり出ない。その苛立ちを全てぶつけられる九龍アマル
ガムの明日は││。
﹁ギャーッハッハッハ
!
﹂
消し飛べぶっ飛べ反抗勢力テロリスト
!
到着するなり事情を察したネプテューヌ達が変身して、から僅か十
態
!
!
朱い太刀を引き抜いてカルネが走る。スピカは一礼すると、クリス
ヴェクター・コンバットカスタムを構える。
﹁そういうことでしたら、遠慮無くいきますわ﹂
││九龍アマルガムに入国したその瞬間からブラッドソウルが大
暴れを始めて、阿鼻叫喚から地獄の黙示録へ早変わりした。国王が帰
還するなり街の破壊活動に精を出すという事態に反抗勢力も戸惑い
を隠せない。螺旋砲塔を解除して、偃月刀を召喚して担ぐと首を鳴ら
す。
ネプテューヌ達も上空から見下ろすその光景にはドン引きしてい
る。
﹁今まで無双ゲームとか派手なアクションが取り柄だと思ってたんだ
けども、いざリアルでやられると結構エグいことになってるわね﹂
﹁流石はアダルトゲイムギョウ界、内臓とか色々飛び散ってるわ⋮⋮﹂
嬉々として頭を掴み、壁に叩きつける。壁に赤いインクを撒いたよ
749
うな模様が広がり、頭が消えた人間は崩折れた。幸いなことに車道を
走る姿は何もない。避難勧告でも出てるのだろう。
﹂
鮮血の舞う戦場を蹂躙する戦禍の破壊神がひとりで大暴れしてい
るそこへ、吸血姫が参戦する。
﹁あははははは、血が一杯。あはははは
﹁⋮⋮楽しそうねあの二人﹂
もなく倒れていった。血飛沫を浴びながら笑い、蹴散らしながら笑
を受け止めたテロリストの同胞達がまとめて胴体と別れを告げる暇
けて紫電を奔らせる。そのまま放り投げて、偃月刀を投げ放つ。男性
エヌラス=ブラッドソウルは背広を着た男性のうなじに足首を掛
げられている光景に近づきたいとはあまり思いたくなかった。
の雑魚だ。女神であるネプテューヌ達の敵ではない。眼下で繰り広
かれて半ば自分の意思で動いているはた迷惑な代物であるが数だけ
で動く機械。とはいえ、どっかのバカが垂れ流した霊的物質に取り憑
した。まるで気球のようなソレは、現代で言うドローンのような無線
ブラックハートは地下帝国である上空に浮かぶ小型の蒸気船を撃墜
水浴びならぬ血液浴びをして大はしゃぎのムルフェストを横目に
!
い、エヌラスは秘めていた暴力性を惜しげも無く解き放つ。その〝お
こぼれ〟とも言うべき戦意喪失した者達を、まるで鬼ごっこのように
追いかけるムルフェストが血の爪で引き裂いた。
﹂
﹂
こ ま け ぇ こ た ぁ い い
それ以外は屠殺された家畜同然だ
テメェどうせ吸血するなら屍体から吸え 生
﹁逃がすかー、最近まともに食べてなくてお腹ぺこぺこなんだワタシ
はー
﹁ムルフェストォ
きてる奴は俺の獲物だ
﹂
﹁死 ん で る 奴 よ り 生 き て る の が 美 味 し い の
じゃん
!
!
﹁そうよね∼﹂
﹁呆れる性欲よねぇ﹂
﹂
﹂
そんなこと言ってる場合じゃないでしょ
ほらドローンの大群来てるから、早く
!
﹁今それどころじゃないの、わかってんでしょー
!
﹁ちょ、ちょっと二人共
﹁ノワールだけじゃ足りなかったのかもしれないわね﹂
﹁溜まってたのかしら、エヌラス。あんなに暴れて﹂
思っていた。
変神させちゃいけない、絶対に。惨状を目の当たりにしてしみじみと
の会話に、ノワールが引きつった笑いを浮かべた。街中でエヌラスは
人の生き死にが細かいことで済まされる倫理観がぶっ壊れる二人
!
!
!
!
かし、際限なく送り込まれてくるドローンの群れに辟易してきたとこ
ろに、炎熱を込めた弾丸が炸裂した。ビルの壁を駆け上がってきたブ
キリねぇな
﹂
ラッドソウルが合流する。
﹁クソが
!
﹁今更経験値なんぞ気にしてられるか
﹁それにしても、どうするつもりよ﹂
﹂
!
!
話はそっからだ
!
飛行能力を取り戻したおかげか、ブラッドソウルの身のこなしは以
﹁アサイラムの連中と合流
﹂
﹁経験値もまずくてレベル上がりそうにないわ﹂
﹁そうね、流石にこの数は厳しいわ﹂
!
750
!
言いながらブラックハートが次々とドローンを撃墜していく。し
!
!
前よりも軽い。適度に敵を蹴散らしながらアサイラムのメンバーを
探して九龍アマルガムを彷徨うこと数分、ネプギアが発見した。
浪人風の男性と執事風の男性二人が大通りを埋め尽くすグールの
群れを相手にしている。そこへ降下するなりブラッドソウルは撃鉄
﹂
の付いた鞘と日本刀を召喚し、構えた。
﹁国王││﹂
レールガン
﹁超電磁抜刀術・壱式、〝迅雷〟
ガコンッ
﹁上等だ、消し炭一つ残さねぇ
超電磁砲抜刀術・零式││
﹂
な鞘へと姿を変えている。右手の日本刀も打刀から野太刀へと。
鞘を右肩に乗せた。紫電が奔り、消えたかと思った次の瞬間には長大
掃する。しかしそれでも後続の途絶えない姿に舌打ちすると、左手の
光速で抜き放たれる居合が大通りを埋め尽くすグールの群れを一
!
!!
かった。
﹂
﹁あースッキリした﹂
﹁いや、すっきりしたとかじゃなくて
﹁滅茶苦茶ぶっ壊してますね⋮⋮﹂
!?
﹂
?
﹂
﹂
﹁⋮⋮如何にも。しかし、避難が済んでおるとは一言も﹂
返ってくる。
非難轟々のエヌラスがさも当然のように話題を振るが、重い沈黙が
﹁避難勧告は出してあるんだよな、ブシドー﹂
﹁自分の国だからってここまでやる
﹂
テロリストの被害よりも国王の戦闘による被害の方が圧倒的に大き
た。瓦礫の山から沸き立つ土煙はまるで入道雲のよう。ぶっちゃけ
並び立つビルがいくつも倒壊していき、目も当てられない惨状となっ
大通り諸共にグールの群れは焼滅する。その衝撃の余波で左右に
﹁〝 終 焉 〟
ヱンドゲィム
となって振り下ろされた。
鞘の根元が開き、野太刀を持ち上げる。刀身を覆う電撃が白い閃光
!!
﹁⋮⋮⋮⋮尊い犠牲だったな、以上
﹁このクズゥゥゥ
!!!
!
751
!
!
ブラッドソウルはブラックハートの大剣で峰打ちで地面に沈んだ。
752
episode118 Unkwon Blood
││アサイラムのメンバーと合流を果たしたエヌラス達は一度教
会へ撤退し、人狼局のメンバーとも合わせて作戦を練るべく移動して
いる。スピカとカルネの二人は陽動、ならびに威力偵察という名目で
街中を走っていた。
寂れた廃病院、という外見ながらその中も同じようなものである。
正面エントランスから病室代わりの室内には大魔導師が趣味で集め
ている謎のアーティファクトが並べられていた。室内には強力な防
御壁が拵えてある為、一度破れた場合は⋮⋮想像もしたくない。
﹁教会っていう割には、本当に誰もいないのね﹂
﹁ああ。俺も師匠以外にここで働く人間見たことねぇ﹂
不思議な事に、教祖すらその姿を見たことがなかった。だが今はそ
れよりも目の前のことに集中する。
前、原因である守護神達はいらねぇんだと。アホくさ。テロリストど
もの主張じゃ、生存競争も何もかも蚊帳の外の話だからそういうこと
言えるんだろうな。元は市民だ、貧富の差は関係なく﹂
女 神 不 要 論 │ │ そ ん な 事 を 唱 え て い た 団 体 が あ っ た こ と を ネ プ
753
アサイラムからはブシドーとバトラー、そしてクイーンの三名。人
狼局からはタクシーの運転手であった男性一人が現在テーブルを挟
んで座っていた。エヌラスの隣にはムルフェスト、そしてネプテュー
ヌ達が並んでいる。
﹁さて、それじゃ改めて情報を整理しよう。まずは他のメンバーがど
うしてるか聞かせてくれ﹂
﹂
﹁市民を避難させるべく奮闘中ですね﹂
﹁どれぐらい終わってる
﹂
?
﹁あんがとよ。││んで、その内容だが。世界の崩壊が起きている手
﹁ああ﹂
通してある一点を主張⋮⋮の前にタバコいいかい
﹁こっちはテロリスト達の身柄を割ってる。所属はバラバラ、だが共
﹁半数はどうにか。なにしろ急な出来事でしたので⋮⋮﹂
?
テューヌは思い出していた。それがもし実現していたら、こうなって
いたのだろうか。そう考えるだけで寒気がする。九龍アマルガムは、
こうなってしまった。
﹁エヌラス⋮⋮﹂
﹁ハッ、馬鹿馬鹿しい。言わせとけ。俺が大魔導師の代わりを務めら
れないくらい知ってらぁ﹂
﹁ま、だからこそ俺達の仕事が増えて忙しいんだけどよ﹂
﹂
﹁う し。次 は │ │ 相 手 方 の 戦 力 だ。聞 い た 話 じ ゃ デ モ ン ス レ イ ブ ユ
ニット奪われたらしいな﹂
﹁そのユニットって何なの
﹁物理で除霊装置﹂
﹁これ以上ないほど分かりやすい説明ありがと⋮⋮﹂
霊的物質に対する物理攻撃を可能とする装置。本来なら通じない
攻撃を通じるようにする、整波装置のようなものだ。一種の空間歪曲
とも言える。それを可能とするものが奪われるとなるとどんな形で
タッ ク ス
悪用されるか分からない。
﹁TAXの連中も何してやがんだか﹂
﹁向こうは技術頼みなところがあるゆえの慢心。同情の余地はない﹂
﹁現在確認出来てるだけでも聖騎士は十六機が奪還されている。工場
も潰されてるらしい。随分と周到な手の回し方だ、どうすんだい、ボ
ウズ﹂
﹁面倒クセェ、街ごと潰すか﹂
﹁地表焼土の二の舞いは勘弁だぞ、俺ァ﹂
﹁街中でシャイニング・インパクトは二度とぶっ放さねぇよ。師匠で
も出てこねぇ限り﹂
本人は冗談のつもりだったらしいが、全員の表情が深く沈んだ。
﹁⋮⋮悪かったよ、冗談が過ぎた﹂
﹁││いや、あながち過ぎた冗談と笑い飛ばせぬ﹂
今度はエヌラスの顔から血の気が引く。口端が引きつり、力のない
笑みが浮かべられた。
﹁どういう││﹂
754
?
﹁そこから先は私がお話します。エヌラスさん、貴方なら身に沁みて
いるはずです。血の怪異事件のことが⋮⋮当事者として﹂
暴走したエヌラスが引き起こした事件。その犯人であるエヌラス
﹂
が捕まっていないのは、現在国王の座に着いているからに他ならな
い。だがすでに事件は解決済みだ。
﹁ああ、覚えてる﹂
﹂
﹁交戦中、何度か見かけたのです。動く血の化け物を﹂
﹁血が動くって普通じゃない
﹁はいそこ黙れよー吸血姫ー。テメェと一緒にすんなー
しかし、動く血の化け物││気になる話ではある。
﹁あれは一体⋮⋮﹂
﹁⋮⋮俺の場合は、自分の血液が魔力の源だからな。そいつに軽く魔
力を流して、即興の使い魔代わりにできる﹂
﹁へ∼、エヌラスって思ってたより器用なんだね∼﹂
﹁あんまりやらなくなったけどな。だから、それがいるって言うなら
﹂
そいつは同じようなことをやっているって考えられる﹂
﹁ですが、何のために
ぶっ潰す方向で行こう﹂
﹂
まるで避けたい話題のようにエヌラスは早々に打ち切った。
﹁その、血の怪異の写真がコイツだ││〝それ〟でもか
もなく。ただ九龍アマルガムで起きている異常事態の〝ひとつ〟と
何かがおかしい││この時はまだ、誰もが思っただけだった。確信
﹁次、見かけたら俺に教えてくれ﹂
徨っているようで﹂
﹁アゴウが消滅してから、頻繁に。ですが、何をするでもなくただ彷
写真を凝視しているエヌラスの表情は険しい。
﹁⋮⋮いつからだ﹂
やけた輪郭に、ドレスのような尾を引いて。
る。そこに映っているのは、小柄な少女を真似た血の怪異だった。ぼ
その写真は人狼局が撮ったモノだが、エヌラスは言葉を失ってい
?
755
?
?
﹁知るか。おおかた、混乱を助長させる為じゃねぇかな。見かけ次第
?
して捉えていた。
﹂
﹁んー、つまりさ。状況をまとめるとー、国王様不要論者︵テロリスト︶
が装置とか奪ってやりたい放題って解釈でいいの
﹂
ギーも∼
﹂
﹁ん∼っとぉ∼⋮⋮え∼っとぉ⋮⋮それってつまり∼、シェアエネル
﹁え
ああ⋮⋮﹂
﹁物理で除霊ってことは〝見えない力〟も相手できるって、ことぉ∼
トだけは厄介だな。何のために奪取したのか目的は不明なままだが﹂
﹁ネプテューヌの見解で大体合ってる。ただ、デモンスレイブユニッ
?
その恐ろしさを知っているだけに、邪神復活だけは避けたい。それを
仮にも大魔導師の姿で現れた相手。次はどんな手を使うのか││
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁うむ。今一度、あの邪神が喚び出されてしまえばどうなるか⋮⋮﹂
頷く。
﹁邪神││ってわけね﹂
残りが喚び出すものは﹂
﹁そも、緑竜会は世界の滅びを望む者達の集まり。となれば、その生き
エヌラスも同様に。
ノワールの疑問に﹁ふむ⋮⋮﹂と唸ったブシドーがもしやと思った。
﹁そんな大掛かりな召喚陣で何を喚び出すつもりなのよ﹂
にはミスカトル大時計塔が配置されることとなります﹂
﹁それだけではありません。地表焼土の地図も合わせれば、この中央
﹁⋮⋮クソッタレ、街ごと召喚陣にするつもりか連中は﹂
これらを結ぶと﹂
﹁まず、第一事件の発生場所が北区。次に南西、東区、西区、南東区。
現場だ。それらをなぞる。
生現場から、今まで追った足取りをなぞるように。赤いバツ印はその
バトラーが九龍アマルガムの全体図を指し示す。それは事件の発
﹁││││可能性は、あり得ますね﹂
?
止めるためには、まずデモンスレイブユニットを奪取しなければ。
756
?
?
大魔導師の姿形を真似るだけでなくその魔術すら行使してみせた
相手。できることなら二度と相手にしたくない。
﹂
﹁これからの動きを決めよう。デモンスレイブユニットの捜索。テロ
リスト共の制圧﹂
﹁鎮圧じゃなくて⋮⋮
﹁制圧﹂
﹁制圧⋮⋮﹂
﹁可能なら抹殺﹂
﹁抹殺﹂
﹂
﹁私 が 見 つ け た 場 合 は ペ ロ リ ン チ ョ し ち ゃ う か も し れ な い け れ ど ね
﹁血の化け物を見かけた場合は俺に知らせろ、いいな﹂
恐ろしい圧政もあったものである。
?
﹁そんなことしてみろ。俺ァお前をどうするか分からんぞ﹂
﹁ひゃい⋮⋮﹂
調子に乗る吸血姫を即座に黙らせる犯罪王。そんな光景も今の状
況では頼もしく思える。
﹂
﹁まー、なんだ。仮にも神様が二人もいてくれて助かるな﹂
﹁私達も女神だよー
わざとか﹂
﹁もう、失礼だなぁ。私達そんなチンクルじゃないよ﹂
﹁なんだその緑の妖精みたいな聞き間違い
﹁あーもう会議がメチャクチャじゃねぇか﹂
ユウコの時もこうだった気がする。
わたしはシリアスな空気が苦手なのさ
恐れいった
!
!?
﹁ネプテューヌが口を開くとすーぐ真面目な雰囲気ぶち壊しだな﹂
﹁ふふん、何を隠そう
﹂
﹂
!
!
だからどんなに暗くったって明るくするんだよーっ
か
﹁酷くないッ
﹁嘘こけ。そんなちんちくりんな嬢ちゃん達が女神なわけあるかい﹂
!
﹁それに救われてるのも確かだが、もうちょい自重すれ﹂
!?
757
!
﹁恐ろしくバカなのは分かった﹂
!
﹂
﹁むー、それならお礼のひとつくらいくれてもいいじゃん﹂
﹁指輪とキス、どっちがいい
﹂
﹁んー、わたしとしてはゲーム機が一番うれしいかな﹂
﹁夢も希望もロマンもねぇ返答で泣くぞテメェ
758
?
!!!
e p i s o d e 1 1 9 国 王 様 に よ る 自 分 の 国 の 破
壊活動開催
人狼局はデモンスレイブユニットの捜索。アサイラムメンバーは
引き続き避難誘導と血の化け物の捜索に当てて、エヌラス達はテロリ
スト達の制圧に当たった。スピカとカルネの二人は別行動で暴れさ
せているものの、焼け石に水。いちいち被害など気にしていたら一向
に終わらない。
召 喚 陣 の 錬 成 だ け は な ん と し て も 阻 止 し な く て は な ら な か っ た。
だが、魔法陣というのは全て描いて完成するもの。最悪、一箇所だけ
でも破壊してしまえばその効果は削がれる。
﹂
﹁うし、というわけで俺達は引き続き反抗勢力どもを皆殺しだ﹂
﹁いや私達そこまでするつもりは⋮⋮﹂
﹁もうちょっとこう全年齢な方向で解決できませんか
﹁はっはっは﹂
笑って誤魔化されてネプギアは全年齢の方向では解決できないこ
とを悟った。
九龍アマルガムの教会から三手に別れて行動を開始する。ボロの
タ ク シ ー に 乗 り 込 む な り ロ メ ロ は ア ク セ ル を 踏 ん で 去 っ て い っ た。
﹂
ブシドーとバトラーの二人もまだ避難の済んでいない区画に向けて
歩き出す。
なんだよ、クイーン﹂
﹁エヌラス﹂
﹁ん
﹁先ほどの血の化け物ですが、本当に貴方ではないのですね
ポ ー ト し っ か り 頼 む ぜ。お 前 の 取 り 柄 な ん て そ れ く ら い だ か ら な。
後、事後処理﹂
﹁ええ、貴方のオフィスにたんまりと送りつけてやりますわよ﹂
そんな憎まれ口を叩きながら、エヌラス達は九龍アマルガム制圧作
戦へと乗り出した。
759
?
﹁俺がそんなことをしでかす理由がない。そんだけだ。それよりもサ
?
?
││聖騎士。そう呼ばれる悪魔憑き対策専門の機体は、二輪装甲車
への変形機構がある。その為、機動力は中々なものだが生産コストを
考 え る と 高 価 な 点 は 否 め な い。武 装 は 携 行 型 プ ラ ズ マ ガ ン。レ ー
ザーブレード。ミサイル六門。市街地でも無理なく性能を発揮でき
る戦車として設計された機体は、軍事国家アゴウの全面協力によって
﹂
完成した。当然ながら並の機関銃が通用するはずもなく⋮⋮。
﹁うわぁぁぁーー
形骸化した警察機構も流石にこの事態には重い腰を上げたのか、総
力を挙げている。だがしかし、凶悪犯罪を前に強化された武器も、聖
騎士の重装甲にはかすり傷が精々だった。同盟関係にあるマフィア
達が構えた粗悪な銃器で蜂の巣にしていく。
﹂
その様子を高層ビルの屋上から見下ろすネプギアが口を押さえた。
﹁⋮⋮酷い﹂
﹁止められたんじゃないの
留める﹂
﹁うわぁ、凄い短絡的⋮⋮﹂
﹁コックピットの位置は、ミサイルの発射口が見えるな
あそこの
﹁仲間を呼ばれる前に潰す。聖騎士を一体ずつ、迅速にかつ確実に仕
﹁じゃあどうするんですか﹂
﹁仮に止めたとして、仲間を呼ばれて囲まれるだけだ﹂
?
通した。
士。偃月刀を逆手に構えて突き立てると、それはすんなりと装甲を貫
高層ビルから降下して、エヌラスは変神する。着地点には││聖騎
敵である以上は情けをかけるつもりもなかった。
機関銃を持っている。顔は覆面で隠しており、素顔は定かではない。
見たところ、随伴歩兵とも呼ぶべき戦闘員はスーツ姿にトンプソン
うし、遅れを取ることもないだろ﹂
﹁相手は殺す気で来るだろうが、ただの人間だ。取るに足らないだろ
﹁ええ、勿論よ﹂
て、だ。他の戦闘員は任せてもいいな﹂
中央だ。横からだと機体中央部付近。それは俺がどうにかするとし
?
760
!!
﹁
国王
﹂
﹂
ものによっては手
?
﹂
こいつの稼動記録のデータを確認しようと思ってな。ネプギ
﹁はい。なんですか
ア﹂
﹁ん
﹁何をしてるのよ﹂
そう言いながら整備用のハッチを開き、操作し始める。
﹁それは敵に言ってくれ。俺に言われても手加減できねぇぞ﹂
﹁程々にお願いするわ﹂
強いぜ﹂
﹁それなら、戦闘用の自動人形でも敵に回すか
﹁呆気無いわね。もうちょっと手応えあると思ってたのに﹂
シュが入った髪をかき上げた。
ブ ラ ッ ド ソ ウ ル が 首 を 鳴 ら し て 偃 月 刀 を 担 ぐ。黒 髪 に 赤 の メ ッ
うだな﹂
﹁うし、まずは一体だ。この調子で行けば人的被害は最小限に出来そ
も搭乗者が息絶えたのか、活動を停止する。
ルルート。続けざまに振るわれた一撃で敢えなく気絶した。聖騎士
続けて着地したのは変身したネプテューヌ、ノワール、ネプギア、プ
トンプソン機関銃を向けるも、それらはすぐに真っ二つにされる。
﹁よぉ、反抗勢力共。鬼のいぬ間に何とやら、ってか
!?
イーンに送信する。
﹁ねぇー、エヌラス。別にワタシいなくてもよくなーい
か女神さん達十分強いしさ﹂
﹂
﹁じゃあお前なにすんだよ﹂
﹁えっとー。吸血
?
﹁んじゃ、血の化け物を探知してくれ。嗅ぎ分けられるだろ、お前な
?
ほら、なん
そのデータから、生産工場と移動ルート、通信記録をまとめてク
ロードとインストールが終わった。
ネプギアがケーブルを繋ぎ、それからすぐに目的のデータのダウン
﹁わかりました﹂
﹁Nギアを繋いでくれ。多分、それでデータがとれるはずだ﹂
?
?
761
?
!?
ら﹂
﹁人を犬みたいに使う気
﹂
だニャン﹂
﹁取ってつけたようなネコ属性
﹁この役立たずめ﹂
﹁しょうがないでしょうが
だって霊薬とか蒸気とか排気ガスとか
﹁⋮⋮臭いが混ざりすぎててワカンナイ﹂
すんすん、と鼻を鳴らすもムルフェストは顔をしかめた。
﹁まぁ、待ってて。すぐ探すから﹂
!?
?
﹂
クイーンさんから返信です。血の化け物らし
!
﹂
﹂
なんかヤバゲな魔力の臭いがプンプンする
トが臭いを嗅ぎ分けたのか方角を指し示した。
﹁んー、あっち
﹁今更かよこのアッパラパー
﹁酷いよぉ⋮⋮えぐえぐ﹂
!
﹁でも、エヌラス。あの血の化け物がなんだっていうの 貴方が過
るだけでもありがたい話だ。
があることは身を持って知っている。それが今、こうして協力してい
しかし、そんな間の抜けた相手でも自分たちに引けをとらない実力
﹁結構打たれ弱いのね、ムルフェストって﹂
﹂
反応があった場所をマーカーで印されている。それに、ムルフェス
﹁えっと、私達が今⋮⋮ここだから⋮⋮﹂
﹁場所は
き相手をアサイラムのメンバーが発見したみたいです﹂
﹁││エヌラスさん
が避難誘導を行っている区画に聖騎士達が進軍していた。
ブラッドソウルのいうことは尤もで││現在、ブシドーとバトラー
﹁何言ってんだ、危険じゃない場所なんて今更ねぇよ﹂
﹁まかり間違っても危ないクスリじゃないでしょ﹂
﹁それどころか甘い匂いすらするわよね﹂
よね。スラムみたいな国なのに﹂
﹁確かにね。九龍アマルガムって不思議とゴミっぽい臭いはしないの
んだもん
血の臭いに混じっててついでに言えばなんかクスリっぽい臭いする
!
!
!
?
762
!
?
去に起こした事件となにか関係が﹂
﹁⋮⋮アレは、俺が起こした事件だ。だから、俺以外の誰かができるは
ずがねぇんだよ﹂
﹁だけど現に起きてるじゃない﹂
﹂
﹁だから、妙なんだよ。それに││﹂
﹁それに
﹁あのドレス。妹が着てた服に似てるってのが気に食わん﹂
静かに闘志を燃やすブラッドソウルの鬼気迫る表情に、パープル
ハートが固唾を飲み込む。その頭をアイリスハートが撫でた。
﹁なんだよ﹂
﹁そんな怖い顔してたらダメよ もっと犬らしくそそる顔してない
と﹂
﹁犬呼ばわりすんじゃねぇ﹂
﹁駄犬﹂
﹁メス犬﹂
﹁俺に喧嘩売ってんだな
﹂
﹁あら、生意気にもアタシに口ごたえ﹂
?
﹁そうです、ね⋮⋮
﹂
﹁でもあれは喧嘩というより、じゃれ合ってる感じじゃない
﹂
﹁なんでエヌラスとぷるるんって、変身するとギスギスするのよ⋮⋮﹂
ため息が漏れる。
それとこれとは別問題。口を開けばすぐに一触即発の二人を見て、
?
?
動を始めた。その途中で聖騎士と遭遇したが、難なく切り抜ける。
ともあれ、血の化け物がまた消えないうちにブラッドソウル達は移
﹁喧嘩するほどなんとやらー﹂
?
763
?
e p i s o d e 1 2 0 上 か ら 下 へ 流 れ 落 ち る 滝 の
ような責任問題
到着したのは、小さな教会前の噴水がある広場。血の霧が漂う場所
では、ブラッドソウルですら顔をしかめる程の濃密な魔力が満ちてい
た。赤い視界の中に突如人影が落ちてくる。
それは、服の裾などが擦り切れたスピカとカルネの二人。手傷を
大丈夫
﹂
﹂
﹂
負っているのは、聖騎士を相手にしていたからではない。
﹁スピカ、カルネ
﹁面ァ貸せやテンメェ
がった。
﹁痛いですわ﹂
﹁痛くしてんだよ﹂
カルネは膝を着いて乱れた呼吸を整えている。
﹂
﹂
﹁何が起きてるの
﹁わかんねっす
﹁うひぃ、ご主人様ぁ
変神してるとホント容赦ないですね
﹂
!?
スピカが地面に叩きつけられるも、何事もなかったように立ち上
﹁照れ隠しヴァイオレンス
﹂
﹁その声は、ご主人様お気に入りの女神様方
!?
ガゴォンッ
反抗勢力達を余裕でブッチッパッ ス
﹁じゃじゃーん、ドラグレイスでーす
﹂
﹁ほう、まだ生きていたか⋮⋮エヌラス﹂
ピカと二人で相手してたら驚きのサプライズで現れたのは││
!
深紅の自動式拳銃で頭を殴られて、カルネが沈んだ。
!
﹂
!
!
﹁血の化け物が出ました
思いつく限りの要素を簡潔にまとめた。
眉間に突きつけられる深紅の自動式拳銃に涙目のカルネが自分が
!?
764
!
!
!
!
?
﹁おい馬鹿野郎。頭蓋骨ぶちまけたくなかったら正直に話せ﹂
!
!
﹁先に謝る。空気読めない最高傑作のポンコツですまない﹂
﹁お前の周りはいつもそんなのばかりだな⋮⋮﹂
﹁失礼ね。私は空気読むわよ﹂
﹁変身前で言え、そういうの﹂
パープルハートにツッコミつつも、エヌラスは咳払いを挟んでドラ
グレイスと向き合う。
﹁で、だ。お前何でここにいる、ドラグレイス﹂
﹁決まっているだろう。キンジ塔を喚び出す為だ﹂
﹁それが、どうして俺の国で絶賛テロ祭りになるんだよ﹂
﹁どちらにせよ。世界の滅亡を前にしなければこの〝塔争〟に決着は
つかん││最後の一人が大いなる〝C〟へ挑戦するか、否かでな﹂
﹁お前はどっちだ、ドラグレイス。挑むか、やり直すか﹂
﹁貴様と同じだ、エヌラス。挑むとも﹂
﹁そうかよ。じゃあ││﹂
それを追おうとして、弾き出されたのはブラッドソウルだった。
﹁この視界の中では射撃も通りませんし﹂
﹁メッチャ戦いにくかったです﹂
それならば、なるほどと納得する。この濃密な魔力の中では探知能
力も死ぬ。ドラグレイスが操っているのかと思っていたが、どうやら
違うらしい。当人ですら鬱陶しそうにしていた。
765
﹁ならば││﹂
偃月刀と大剣を突きつけて、二人の間に流れる緊張感が高まる。そ
して、どちらともなく駆け出して火花を散らした。血の霧が鬱蒼と視
界を覆う中で剣戟が重ねられる。その剣圧に押されても、剣風に振り
払われても一向に晴れる気配のない霧に、ブラックハートが大剣を担
﹂
いだ。この霧が魔力の気配の源であるのは疑いようがない。ならば
と。
﹁でぇやぁぁぁ
﹂
!
霧の奥まで火花を散らす二人が離れていき、姿が遠ざかっていく。
﹁なによこれ⋮⋮エヌラス、聞こえてたら返事しなさい
勢い良く振りぬき、風を起こす。が、まるで手応えがない。
!
﹁なぜかは知らんがな、この霧は俺がこの国に踏み入ってからという
ものまとわりついて鬱陶しいことこの上ない。だからこそ利用して
やろうと思ったのだ﹂
﹂
ブッころがしてやる
﹂
﹁なら、血の化け物の騒動はテメェが犯人ってことで間違いないさそ
うだなぁ
﹁⋮⋮なんのことだ
!
ている。
?
手を広げていた。
﹁理 由 な ど ど う で も い い
ティル・ナ・ノーグ〟への旅路を壊した貴様だけは、許さん
﹁⋮⋮﹂
﹂
俺 の 夢。俺 の 理 想 郷。俺 の 目 指 し た 〝
血の霧が晴れる。白銀の甲冑に身を包んでいるドラグレイスは両
キンジ塔の出現にはこの国が滅ぼなければならん﹂
在、内政は不況の極み。法を犯さなければ生きていけない程の国だ。
ぼす、その為にこれほどおあつらえ向きな国はないだろう。国王は不
﹁⋮⋮何の話だ。俺が血の化け物を率いる
冗談を言うな。国を滅
りを溜め込んでいるのが分かった。しかし、ドラグレイスは首を傾げ
地面に突き立てた偃月刀から陽炎が揺らめく。抑え込んでいる怒
似やがって、趣味悪いにも程があるだろうが﹂
﹁すっとぼけてんじゃねぇぞスットコドッコイ 人の妹の姿まで真
!
だ独り。
元連結装置に誰が手を加えたというのか。答えを知っているのはた
終段階において││その土壇場で破壊された。厳重に管理された次
れぞれの持つシェアエネルギーを注入して他の次元へと渡る為の最
だ。再三に渡る起動テスト。実験結果は全て完璧だった。そして、そ
次元連結装置の起動。それを妨害したのは他でもない、エヌラス
言葉は聞き逃せない。
て国内の反抗勢力が集結しつつある状況下で、エヌラスに向けられた
ムルフェストもその言葉には動きが止める。この騒動を聞きつけ
次元連結装置に手を加えた命知らずは誰だ﹂
﹁││だがその前にエヌラス。ひとつ聞きたいことがある。あの日、
!
!
766
?
!
﹁⋮⋮次元連結装置は、完璧な設計だった。当然だ、他でもない大魔導
師の設計なんだからよ﹂
﹁││││﹂
﹁装置の装甲も、プログラムも。インタースカイとアゴウで完璧に設
計された。非の打ち所がない程の完成度でな。九龍アマルガムの魔
術理論も合わせれば失敗するはずがなかった﹂
﹁だからこそ、だ。答えろ、エヌラス。一体、誰が、何の目的で﹂
パープルハート達もその答えを聞こうと、手を止めていた。
﹁俺は最初、クロックサイコの奴かと思っていた。だが、見当違いだっ
た﹂
﹁アレはもとより正気などない。狂気の魔人だ﹂
﹁次元連結装置の失敗はな、そもそもがその紐を解いたことだ││犯
人はな、ドラグレイス。
││大魔導師だ﹂
た。
﹁でもおかしくない
なんで死んでるのに犯人
お前が殺したの
﹂
﹂
中に、一番大事な事を見落としてた点を指摘されて慌てて見返した
ら、案の定﹂
﹁えっ、じゃあそもそもあの装置って次元連結できなかったの
局は、それを見つけて、お前達と一緒に作ろうとしていた俺が悪い。
も一緒くたになるわけだからな、あながち間違いじゃねぇ。だから結
突させる、次元崩壊装置だったってわけだ。ぶっ壊れちまえばそもそ
﹁ああ。あれは、そもそも次元連結装置じゃなかった。次元の壁を衝
?
767
乾いた風が吹き抜ける。あり得るはずがない事に、起こりえない現
大魔導師は、死んだ
実に、起こし得る人物の名を挙げられて。
時が止まる。
﹂
﹁デ││タラメを、言うな
だ
﹂
!
?
﹁クロックサイコの野郎に、キンジ塔に行く前に襲われてな。その最
?
そこで一瞬言い淀んでしまったドラグレイスの敗北は決定的だっ
﹁本当にそう言い切れるか
!
?
!
死人を咎めても仕方ねぇだろ﹂
全ては、そう。結局は全て、エヌラスがやったこと。その夢の始ま
りも、夢の幕引きも。始まったのは悪夢の惨劇。生存競争。幾度と無
﹂
今までお前が犯人
くこの世界で繰り返されてきた世界の滅亡を回避するために。
﹁ならば何故お前は、そうだと言わなかったッ
だと、お前が全ての元凶だと糾弾されてきて、なぜだ
﹁それはな、あながち間違いじゃなかったからだ。次元連結装置なん
て見つけなきゃよかったぜ⋮⋮まったくよ。カッコ悪くて言えねぇ
だろうが││俺達が追い求めていた夢は、世界の終わりだなんて﹂
自嘲した笑みで、ブラッドソウルは偃月刀を担ぐ。
﹂
﹁だから、全部終わらせるぞ。テメェをぶっ飛ばす。俺が勝つ。大い
なる〝C〟に挑んで、コイツ等とは笑顔で別れる﹂
﹁││クッ⋮⋮ォォォォォォアアアアアガアアアアァァァ
ぐ。その声量にパープルハート達が耳を塞いだ。
竜の咆哮が大気を震わせた。ビルのガラスが割れて破片が降り注
!!
貴様、だけだエヌラスッ
何故俺が唯一羨んだ男が、
ア ル シ ュ ベ イ ト も だ
バ ル
たモノが、今まさに崩壊している。その為に九龍アマルガムを落とそ
うとしていた。しかし。
﹁貴 様 と は 刃 を 幾 度 と な く 交 え た
!
﹂
だがそれは全て己の鍛錬だ、互いの実力を高める為
だった││殺意を持って応えて、何故⋮⋮嗚呼⋮⋮
ド・ギアとも
!
付き纏う血の霧に、今度は魔法剣を引き抜いて切り裂いた。
膝を支える。血の霧が漂い、それを鬱陶しそうに振り払う。それでも
黄金の輝きを放つ魔法剣を地面に突き立てて、崩れ落ちそうになる
!
!
貴様は此処で、俺が殺す
それがせめてもの、夢の手向け
﹁そ れ で も 俺 は │ │ 俺 達 は も う 後 戻 り が 出 来 な い と こ ろ ま で 来 た の
だッ
!
!
768
!
!?
﹁なんて声量よ⋮⋮マイクがあったら壊れてるわ﹂
﹁耳がキンキンするわね﹂
﹁俺が、俺が今まで憎んでいたのは貴様だ
﹂
それがどうして、大魔導師なのだ
俺の全てを奪った
!!
!
矛先を失った怒りが爆発していた。ドラグレイスの足を支えてい
!?
!
だ
﹂
死人は責めることが出来ない。死人は咎められない。裁くことが
できるのは生きている者だけだ。
﹁エヌラス、マズイわよ⋮⋮﹂
﹂
﹁緑竜会の連中が集まってきているみたいよ﹂
﹁聖騎士もです
﹁手段は選ばぬ、ここで││死ね
﹁⋮⋮
気のせいかしら﹂
││クス⋮⋮。
戦禍の破壊神
﹁お断りだ馬鹿野郎。テメェがくたばれ﹂
!
!
囲には血の霧が漂うばかりだ。緑竜会も、聖騎士も反抗勢力も雁首揃
アイリスハートは、誰かの笑い声を聞いたような気がしたが││周
﹁ええ、分かってるわよ。ねぷちゃん﹂
﹂
包囲網が出来上がりつつある。だが、逃げ場はない。
!
﹁どうかした、ぷるるん。油断大敵よ﹂
?
えて集まっている。
769
!
e p i s o d e 1 2 1 人 を 呪 わ ば 穴 二 つ。な け れ
ば掘ればいいじゃない
ドラグレイスとブラッドソウルの剣が衝突する度に路面がひび割
れ、周囲のテロリスト達がその余波で吹き飛ばされてゆく。
機関銃の連射も、上空を自在に舞う女神たちには照準が合わずに見
当違いの方向へ向かって飛んで行く。聖騎士の装甲も悪魔憑きを相
手にすることを専門にしているだけあって頑強だが、ブラックハート
の敵ではない。背面ミサイルポッドが開かれる。だが、その発射口か
﹂
ら不規則な軌道を描くミサイルを上手く誘導してパープルシスター
が迎撃した。
﹁よし、今です
左右からアイリスハートとパープルハートが切り込み、脚部が切断
された聖騎士はその場で前のめりに倒れる。その上をブラッドソウ
ルが通過して、着地すると倒れたばかりの聖騎士をアクセル・ストラ
﹂
﹂
イクで蹴り飛ばした。
﹁あぁ、中の人
﹁中の人などいねぇ
﹁ふんっ
ていた。
﹂
!
﹂
!
後退った。
ワタシごと
!?
﹂
こへムルフェストが見よう見まねの飛び蹴りを加えると、僅かにだが
カルネの朱い太刀を弾き、スピカの銃撃を剣の腹で受け止める。そ
﹁退け、自動人形ども
﹂
外眼中になかったのか、スピカとカルネの援護攻撃も適当に受け流し
ドラグレイスが聖騎士の胴体を真っ二つにして猛進。エヌラス以
﹁中の人ぉーー
﹂
断言するが、中に人が入っている。
!
﹁消し炭になりたくなけりゃ退いてろムルフェスト
﹁えっ、ちょ
!?
770
!
!?
!?
!
﹁〝超電磁〟抜刀術・壱式││〝迅雷〟
ソウルが顕現している。
﹂
﹂
︽この吸血姫めが
﹁ほぇ
︾
﹄
﹂
聖騎士が全速力で特攻を仕掛ける。
﹁ムルフェスト、後ろよ
!
︾
﹂
﹂
神格者と言えども二輪装甲車に撥ねられれば一溜まりも││
︽⋮⋮え
!
た。
﹃ギャアアアァァァァーー
﹁いらん世話だ
?
切っては投げ。テロリスト達がまるで木の葉のように宙を待ってい
ムルフェストも殴る蹴る投げ飛ばすで文字通り千切っては投げ千
ウルは背を向けて聖騎士の団体へと向かう。
て瓦礫の下敷きにした。時間稼ぎぐらいにはなるだろう、ブラッドソ
を踏み台にする。その勢いのままに建物に突っ込むと、偃月刀を投げ
でしかなく、その異常なまでの生命力で突進してきたシルバーソウル
していた。だが、剣で防がれるか弾丸を切り落とされるかのどちらか
毒づきながらブラッドソウルはシルバーソウルに二挺拳銃を連射
﹁クソが、アレに耐えるとかどんだけしぶてぇんだよトカゲ野郎﹂
﹁キサ、マハ⋮⋮ココデ
﹂
ルギーの鼓動を察知した直後には変神したドラグレイス=シルバー
光速を超えた居合がドラグレイスを飲み込む││だが、シェアエネ
!
﹁うーん、不協和音。エヌラスー、ワタシも手伝おっかー
!?
﹁むぅ、人が折角親切にしてやろうかと思ってたのに⋮⋮﹂
!
た。体の不調もなく、それどころか絶好調に近い。
が差さない地下帝国はまるで古巣のような居心地の良さを感じてい
とは違うのだと││月光の守護神たるムルフェストにとって陽の光
吸血姫であり神格者であるムルフェストは、そもそも根本的に人間
テューヌ達も。だがひとつ忘れていた。
そう、思っていた時期がテロリストにもあった。緑竜会にも。ネプ
?
771
!
!
?
衝突、衝撃││異様な静寂から前転宙返りという状況下にあって、
﹂
︾
聖騎士のパイロットが逆さまの視界で見たものは、拳を引いて構えて
いる吸血姫。
﹁どぉらっしゃぁぁぁいッ
︽んな、アホなぁぁぁぁぁぁぁ
﹂
﹂
﹂
!
ネテューヌ散歩したり﹂
﹂
﹂
ゲームしたりプリン食べたりプラ
﹁へぇ、ネプチューヌもワタシみたいに堕落的なんだ
相手に四苦八苦しているパープルシスター。
?
﹂
さっきのちょっと当たりそうになりましたけど、なんと
?
ルがパープルハートの頭を軽く小突いた。
﹂
〝螺旋砲塔〟神銃形態を薙ぎ払って焼け野原にしたブラッドソウ
﹁隠しキャラに俺もいるぞ
﹁色々混ぜすぎてわけがわからないわよ⋮⋮﹂
パイアーズよ﹂
﹁ぷるるんの言うとおりね。こうなったら四女神無双オフラインエン
﹁アタシ達、ものすっごく追い込まれてるの分かってる
﹂
アイリスハートに声をかけられて振り向けばそこには大勢の敵を
?
?
﹁楽しそうなお話してるところ悪いんだけどねぇ、ねぷちゃん達
!
﹁失礼ね。私だって忙しいのよ
﹁まるでアナタみたいね、ネプテューヌ﹂
﹁な、なんて自堕落的な私生活⋮⋮
て、朝になったらまたぐぅたらしてるけど﹂
﹁えー、結構。いつもはぐぅたらして、夜になったらあちこち散歩し
力持て余してるの
﹁仮にも二輪装甲の戦車を殴り飛ばすって、貴方一体どれだけ身体能
﹁うーん、新記録
フェストは肩を回してガッツポーズ。
聖騎士の一体がビルを貫通して吹き飛び││爆発、炎上した。ムル
!?
!!
!
772
?
?
﹁冗談言ってる場合か、ったく。ネプギア、大丈夫か
﹂
﹁は、はい
か
!
﹁そうか、悪いな﹂
!
相変わらず血の霧は晴れない。だが、先ほどの一撃で大多数がやら
﹂
れたのか、目に見えて数は減っている。
﹁さぁ、ここからは私達のターンよ
﹁グルルルル⋮⋮
﹂
﹁むしろ憂鬱なんじゃない
辛い思い出くらいしかないし。だから
﹁エヌラスさん、自分の国なのに⋮⋮﹂
﹁うーん、さっきのでほとんどいなくなっちゃってるね﹂
ぐるりと周囲を見渡した。
セッサユニットの羽を広げる。ムルフェストはそれを見届けてから
広げて飛び立つシルバーソウルをブラッドソウルが追おうとプロ
竜の鱗のように変異した鎧が擦れて不快な金属音を鳴らす。翼を
﹁知るかよ、当人に聞いてみろ﹂
﹁理性残ってるのかしら、アレ
﹂
瓦礫を押しのけてシルバーソウルが立ち上がり、吼えた。
!
﹁ムルフェスト⋮⋮
﹂
いっそのこと消し飛ばしたいと思うよ。ワタシみたいに﹂
?
﹂
と違った方法で供給してたから﹂
﹁
シェアエネルギーに出来ちゃうんだよね﹂
﹁吸血鬼って便利ね﹂
﹁そのせいで国内の反感も凄かったけども、まぁそこはそれ。ワタシ
の圧倒的大勝利で終わっちゃったし﹂
そう言いながら、ムルフェストは自分の手のひらを見つめる。
﹁でも、彼らのシェアエネルギーはワタシの中に残ってる。もう使い
本 当 に 楽 し そ う だ か ら、な ん て 理 由
切っちゃってほぼほぼ底を尽きかけてるけども﹂
﹁な ん で あ ん な こ と し た の
じゃないわよね﹂
﹂
﹁ん∼、それもあるけど﹂
﹁否定しないんですか
!?
?
773
?
!
﹁ワタシもねー、苦労してたんだ。シェアを得るためには他とちょっ
?
﹁ほら、ワタシって吸血鬼だし。信仰するしない関係なく吸血すれば
?
﹁一番は、やっぱりモヤモヤしてたからかな。なんかこう、引きずって
﹂
﹂
る気がして嫌だったんだよね。なにか形にして使い切りたかった、そ
んだけ
﹁だからと言って、月ごと落とさなくてもいいでしょ
ブ ラ ッ ク ハ ー ト が ミ サ イ ル を 切 り 落 と し て い た。そ の 爆 発 に 混
じってシルバーソウルとブラッドソウルが空中で激しく切り結び、七
Crusade
つの軍槍が乱反射しながら迫る、それを七重に召喚した偃月刀で迎撃
する様は異様な光景だった。
この戦いをムルフェストは〝 聖 戦 〟と言う。
この戦いをドラグレイスは〝塔争〟と言った。
ならば、エヌラスにとってこの戦いは只のリセットなのだろう。こ
﹂
の世界をやり直す。壊れた世界のその先にあるはずの未来を掴むた
めに。
﹁DAAAIDARAAAA││
けられる。
!
﹁グッ⋮⋮
﹂
大稼動させた。
その号令に、スピカは無間心臓を。カルネはハザード・ランプを最
﹁おらポンコツ共、遊んでんじゃねぇ
﹂
転したブラッドソウルのアクセル・インパクトによって地面に叩きつ
果て、火花と閃光の最中から飛び出した迅雷が片羽を消し飛ばし、反
そして、シルバーソウルが遂には押し負けた。幾千にも及ぶ剣戟の
!!
﹁コイツで││
﹂
血の霧が濃くなる││だが、構わない。
右肩に長大な鞘を担ぐ。
うと、此処でドラグレイスを仕留めるつもりでいた。
か手があるのだろう。ブラッドソウルはその最後の手段が何であろ
が、それでも退かないのはここで決着をつけるつもりか。或いはなに
を追ったカルネの一閃を大剣で防ぐ。形勢は明らかな劣勢ではある
カの銃火器による流星群が石畳にクレーターを作りだす。その動き
ドラグレイスは変神を解除してその場から大きく飛び退くと、スピ
!
!
774
!
!
紫電が奔る。抜刀するその瞬間に、ブラッドソウルは見た。血の霧
の中に浮かぶ人影を。
それは、いないはずの人で。帰らぬ人のはずで。
まるで悪夢のように、その人は立っていた。ドラグレイスもその視
﹄
線に気づき、振り返る。
﹃││大魔導師⋮⋮
名 は、言 霊。最 も 恐 怖 す る 者 の 名 を 呼 ん だ そ の 瞬 間 に、緑 竜 会 が
行っていた決死のテロ活動は成就した。
その光景を見下ろしているのは、一人の道化師。仮面をかぶり、狂
気を振りまく人ならざる魔人。守護神たちの対敵にして、ひとりの男
の怨敵であり宿敵であり仇敵。クロックサイコ。
﹁あーあ、復活しちゃったカ。まぁでも、塔の出現が早まる分にはいい
かナ☆﹂
血の霧が凝縮されていく。顔を挙げれば血相を変えて走るアサイ
サムと人狼局。既に大半の制圧作戦は完了している。だがしかし、一
手遅かった。
エヌラス達の元へ集まった緑竜会とその協力者達の中にデモンス
レイブユニットを搭載した聖騎士は無く、そも、ユニットを搭載した
聖騎士はいなかったのだ。彼らはそれを車両で運搬しており、この緊
急時にそんな行動を取るとは誰も思わない。偶然、ロメロのタクシー
とすれ違っていなければ気づくことはなかった。
﹁おやおやまぁまぁ。誰も彼も皆さん大忙しの大慌て。だけど、ネェ
もうとっくに大魔導師の手のひらの上なんだヨ。何時から
らなかった。
誰も知らない。彼がいつからそうなってしまったのかも神ですら知
れた懐中時計は、ただ揺れている。いつから壊れているのか、それは
ケタケタと笑うクロックサイコの腰のベルトに下げられている壊
?
775
!?
さぁー何時からだろう、ね。エヌラス﹂
?
﹂
デモンスレイブユニットはど
e p i s o d e 1 2 2 墓 穴 を 掘 る と は 言 う け れ ど
すまねぇ、ドジった
底に私はいません
﹁坊主
﹂
崩した。
﹁今度はなに
﹂
だ││そう睨んだブシドー達が動こうとして、突然の地響きに体勢を
数に囲まれる中で血の化け物が徐々に形を整えていく。今ならばま
グレイス、ムルフェスト。神格者三名、女神が四人。それだけの大人
アサイラムの戦闘要員、人狼局。エヌラス、ネプテューヌ達。ドラ
﹁後でクイーンが頭抱える姿が目に浮かぶ﹂
な﹂
﹁回収が困難だったから車ごとぶっ壊した。手遅れだったみてぇだが
うした
﹁んなもん見りゃあ分かるわボケが
!
を漏らす。
!!!
惑な破壊ロボである。
︽さぁ皆様お待ちかね
テレフォンショッキング
今回の目玉商品はこちら、天
!
!
ございます
︾
!
﹁犯罪王がなんか言ってるわよ、ねぷちゃん﹂
﹁んな悪徳商法止めちまえ
﹂
災超合金メタルジェノサイダー第ン号∼本編別売り劇場版特典∼で
まぁす
九龍アマルガム破壊活動のお時間でござい
その場にいた全員が叫んだ。本当に余計なことしかしないはた迷
﹃またお前かッ
﹄
れていた。瓦礫を押し退けて見下ろすその姿に一同が一斉に溜め息
顔面が一体化しているためにどうにもならないアンバランス感に溢
ム缶にスタイリッシュな手足が付いている。しかし如何せん、胴体と
地面から現れるのはいつぞやの巨大な破壊ロボット。今回はドラ
!?
!
776
!
!
!
!
ききき、貴様は犯罪王
﹂
九龍アマルガム国王ではないで
︾
つぅかコックピットから出てこいこのクソが
今じゃ豆粒のような目の上のたんこぶ
!
﹁説得力皆無ね⋮⋮﹂
︽んナ
すか
﹁おできじゃねぇか
﹂
! !!
﹂
?
﹂
る。それは液体を切る手応えを返して、元通りになった。
まだ形が定まっていない
!
ドラグレイス、共闘しない
?
﹁此奴⋮⋮
﹂
﹁殺るなら今のうちってわけね
﹂
あっぶな
﹁ふざけろ、吸血姫
﹁うわったぁ
!
!
!
!
﹂
!
﹂
﹂
!
〝それ〟がヤバイ代物であると誰もが知っていた。蘇らせてはい
ブシドーの日本刀とドラグレイスの魔法剣が拮抗する。
﹁断る
﹁退けぃ、竜騎士
甲冑の姿を目に入れてもまるで気にした風もなく周囲を見渡す。
言葉はなく、瞳は虚無を見つめていた。その視線がさまよい、騎士
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁大魔導師
退くと大魔導師の近くで着地する。
それとなく持ちかけた話を大剣で切り捨てたドラグレイスは飛び
!?
﹂
らの手を見つめ下ろす半裸の大魔導師に、ブシドーが一閃を滑らせ
自分が何故蘇ったのかすら理解していないように、不思議そうに自
﹁⋮⋮⋮⋮
﹁死んだはずだ⋮⋮貴方は﹂
﹁⋮⋮大魔導師⋮⋮﹂
シャーにムルフェストが固唾を飲み込む。
属性、とでも言うべきか。君臨するだけでその場を圧倒するプレッ
じく、容姿もさることながら、その言葉にし難い本人特有の雰囲気。
ハッキリとその姿形を整えつつある。色彩もかつての大魔導師と同
し か し な が ら │ │ 不 定 形 の 輪 郭 で 漂 流 し て い た 血 の 化 物 が 今 や
﹁なんか物騒なこと言ってる
焼滅させてやる
!
!?
!
!
777
!?
!
けないのだと。あらゆる条理を逸脱した禁忌だ。
その背景ではブラッドソウルが天災超合金メタルジェノサイダー
とまだ喧々囂々と口論を続けている。それどころではないというの
片腹どころか吾輩の腹筋大崩壊、貴様
は目に見えいているが、何やら譲れない一線がある模様。
︽ぶひゃひゃひゃひゃひゃ
︾
情であーる
書
万年オイルショック事
!
﹂
!
ノーカン
﹂
!
︽つまりは この国がメチャクチャでハチャメチャが押し寄せてく
カウント
﹁あれは俺が俺による俺だけの勉強だ。ぶっちゃけ趣味の範疇、ノー
﹁え、でも人形工学は⋮⋮﹂
なってんだよ分けわかんねぇ
類にハンコ押してそれでどうにかなると思ってたらどうしてこう
!
りどころかおむすびコロコロどんぶらこ
のような若造が国王を務めてからこの国の政治は悪い方向にどんぐ
!
こっちは勉強なんかろくにしたことねぇんだよ
﹁っせぇな
!
喰らえェェェェーイ
スタイリッシュアー
る這いずりまわる混沌な治安と化したのは貴様のせいなので、死んで
︾
罪を償うがよろし
ムパーンチ
!
﹁││││﹂
︽グ、ぐぐぐぐぐら、グラタ││グランドマスター
︾
!?
青年の声だった。凛と通る声色で、だが感情を欠いた声は透き通る
﹁⋮⋮││相も変わらず、この街の喧騒は寝起きの頭に厳しいな﹂
イーンを除いて。
被 害 を 気 に す る 気 に は な ら な か っ た。│ │ 事 後 処 理 を 担 当 す る ク
いでちょっとした大惨事になっているが毎度のことなので最早誰も
弾き返した。いくつか部品が散らばっている。それが街中に降り注
天災超合金メタルジェノサイダーの右前腕を音もなく受け止めて、
押し潰される、その瞬間に大魔導師は片手をかざして。
れない止まらない
拳は急に止めら
だが、その横を通り過ぎるのは大魔導師の姿を模した血の化物。
迫り来る巨大な鉄の拳に向けて、ブラッドソウルは拳を引いた││
!
!
778
!
!
!
!
ようにその場に居た者達の耳に届く。不思議なことに。
大魔導師││かつて、先代アゴウの守護女神と双角を成す最強の魔
導 師 に し て 国 王。間 違 え る は ず が な か っ た。見 間 違 え る は ず が な
かった。
エヌラスの恩師にして最大の障害とも呼べる、全ての元凶が今。ネ
プテューヌ達の前に現れてしまった。全ては緑竜会の思想の為に│
│願うものはただ一つ﹃世界の終わり﹄だけ。
﹁⋮⋮師匠﹂
﹂
﹁よぉ、バカ弟子。まだ生きていたか。とはいえ、あれからどれほどの
歳月が流れたかも分からん。⋮⋮この騒ぎはなんだ
﹁見ての通りだ﹂
﹁⋮⋮まぁ、見ての通りか。街中滅茶苦茶だな﹂
呆れた吐息を漏らして、体の調子を確かめている大魔導師が、ふと
思い出したように破壊ロボットを見上げた。コックピットにいる搭
乗者の恐れがそのままダイレクトに動きに出ているのか、一瞬だが身
体をビクつかせた気さえする。それに、大魔導師はやはり手をかざし
た。
﹁邪魔だ、鉄屑﹂
静かに手を持ち上げる。それに、何か不穏な気配を感じたのかネプ
お、重い 愛が空か
ら火花を吐いたと思えば、突如膝を着き、次いで装甲がひしゃげた。
﹂
そのまま垂直に崩れ落ちていく様はまるで倒壊していくタワーのよ
うである。
﹁⋮⋮何が起きているの
﹁もしかして、重力操作でしょうか⋮⋮﹂
﹁見て、ネプテューヌ。あの周りだけ風景が歪んでるわよ﹂
?
779
?
テューヌ達だけが眉を寄せた。この波長はシェアエネルギーに近い
グラビトンフォール
何かだと。
ははははははハィィィィィィイ
!
﹁││ 重 力 落 下﹂
︽はひ
︾
!? !?
その異変は、まず天災超合金︵以下略︶の脚部から起きた。関節か
ら落ちてくるほど重いこの重力は一体││
?
﹁あり得るわねぇ﹂
脚部が全壊し、胴体が落下する。今度は接合部が耐え切れずに両腕
が地面に落ちた。地響きだけが起こり、土煙はそよ風すら吹かない。
そのまま今度は胴体が徐々に潰れていく。まるで踏み潰されたアル
ミ缶のように。
﹁ふむ、ここに置いたところで観光名所にもならんな⋮⋮﹂
それから胴体を半ばほど潰した破壊ロボットに歩み寄り、大魔導師
は装甲表面を軽く触れた。
二、三回ほど軽くノックしてから、若干音の軽い場所を探ると、発
見して頷くと拳を作る。そして、殴りつけた││破壊ロボットがまる
でカーリングのような滑らかさで地面を滑って遠ざかっていく。途
中で瓦礫に乗って宙に飛んだかと思えば、そのまま遥か遠方に放物線
を描いて││脱出ポッドらしきものが飛んで行く││大爆発を起こ
した。
﹁││疲れ、た
一体、何に⋮⋮
﹂
﹂
?
﹁俺はとうに〝未来を諦めた〟男だ。この世界に、このアダルトゲイ
ル・
事
ユ ー・
象
ニー
ド・
だ。 結
イ
ズ・
果
キ
は
ル
い
つ
も
変
わ
ら
な
い。
ムギョウ界に未来などない。あるのはただ惰性的に繰り返される同
オー
じ
生きて、戦って、死んで、生きる の 繰 り 返 し。そ ん な 世 界 で お 前 達
780
﹁ヒロイックに作り直して出直せ﹂
パン、パンと手の汚れを落として気だるげに呟く大魔導師に戦慄す
る。髪をかき上げる仕草一つとっても流麗で、誰もが見惚れるような
魅力に溢れていて││それでも、何故か恐怖が心に語りかけてくる。
全ての元凶││次元連結装置、その本質は次元衝突装置。それを作
何故だ
り出した神格者の大魔導師の目的は何なのか。
﹂
!?
なぜ次元衝突装置など││﹂
﹁教えてくれ、大魔導師
﹁なにがだ
﹁何故、何故なのだ
!
その短い言葉に大魔導師の全てが込められていた。
﹁未来に。全てに﹂
?
﹁⋮⋮ああ、アレか。アレはな、俺が〝疲れた〟からだ﹂
!
?
はどうしてまだ未来に縋ろうとする
﹃││││││││﹄
は闇の中だ﹂
﹁貴方は││
﹂
﹂
グランドフィナーレ
今生が最期だ。キンジ塔も、大いなる〝C〟への門も、その鍵も全て
﹁だから、終わらせる。この俺の手で、全てな。お前達に次などない。
もない大魔導師。
言葉を失う他にない。誰よりも世界の終焉を望んでいたのは、他で
?
﹁闇黒神話の幕を閉じようじゃないか、お前ら。││ 大 閉 幕は目前
だ、せいぜい足掻いてみせろ﹂
781
!
episode123 死霊の秘法の主の魂
常識の蚊帳の外で生きてきた。言外の論理を構築し、術理を扱う稀
代の怪物は、九龍アマルガムという古巣に戻ってきた。
﹁大魔導師﹂
﹁お、ブシドーか。久しぶりだな、とはいえどれほど久しいかも時間の
感覚がほっとんど無いわけだが﹂
﹁今の貴方は、一体何だ﹂
﹁⋮⋮なに、と聞かれると応えようがない。俺は神格者であり、国王
だった。だが死んだ。弟子に殺された。不覚を取ってな。いやぁ、あ
れは参った﹂
いや当たり前だろう。生きてる以上死ぬこともある。俺はそ
﹁自分が殺されたということをそんな軽く語れるものなのか⋮⋮﹂
﹁ん
れを経験しただけのこと⋮⋮とはいえ、だ。それを記憶しているとい
うのは今回が初めてだがな﹂
言葉にされても理解できない。だが、それこそが大魔導師という男
だった。
﹁だが、まぁなんだ。俺も本調子じゃなくてな﹂
﹁あれで本調子じゃないって⋮⋮﹂
ブラックハートが見るのは無残に爆発した破壊ロボット。それに
巻き込まれた廃墟と化した街の一画。殴り飛ばすというだけでも驚
異的だというのに、それが全力ではないとは信じられない様子で表情
が引きつった。
﹁俺の血肉と成り得るモノが手元になくてな。相応に気を引き締めて
いないと俺はまた意識のない血の化物になってしまう。いやぁ、まま
ならん││﹂
その言葉を聞いた瞬間に、ドラグレイスとムルフェストが誰よりも
﹂
早く大魔導師に襲い掛かった。次いで、ブシドーとバトラーが。
﹁ぬゥんッ
受け流し、刃を掴んだままブシドーの日本刀とバトラーの拳を防ぎ、
ドラグレイスの大剣を素手で受け止め、ムルフェストの蹴りを軽く
!!
782
?
ドラグレイス諸共に三人が吹き飛んだ。まるで悪夢のように、軽くあ
しらわれてしまう。
エヌラス⋮⋮ブラッドソウルは、その一挙一動を見て確信する。あ
れは間違いなく本物だ、邪神が模倣した偽物ではなく、中身までもが
完全に再現された怪物なのだと。だからこそ、その恐ろしさが骨身に
見慣れない顔が増えているようだが⋮⋮何処の誰だ﹂
染みて分かる。
﹁さて
﹁私達はゲイムギョウ界の守護女神よ。話だけは聞いているわよ、大
魔導師﹂
﹁ゲイムギョウ界⋮⋮ま、こことは異なる次元の女神ということか﹂
﹁ええ、理解が早くて助かるわ。貴方の作った装置のせいで私達の世
界までメチャクチャになったのよ﹂
﹁それは僥倖﹂
﹁謝罪する気なんてなさそうねぇ﹂
﹁当然だ。俺は、この世界に未来がないことを知っている。諦めたの
だ。いずれ他の誰かも同じ道を辿るというのなら、いっそそうなる前
﹂
に消滅してしまった方が幸せというもの。真実は時に残酷だ、だから
﹄
こそ、知る前に死ぬことも幸福だとは思わないか
﹃思わないわよ
?
エヌラス﹂
?
蒸すぞ
﹂
﹁健康にはいいんだがな⋮⋮﹂
﹂
﹁なんだその浮かない顔は。少しは喜べ。大丈夫か。パンでも食うか
﹁⋮⋮師匠﹂
のだがな⋮⋮そうだろう
﹁やぁれやれ、少しは老婆心というものを労ってくれてもいいと思う
に肩をすかした。
パープルハート達に武器を突きつけられて、大魔導師は呆れたよう
!
﹁もう蟲パンはいらねぇっつうの
?
朗らかに笑いながらもドラグレイスの剣を防ぎ、ムルフェストの拳
を受け止める姿にアサイラムの構成員達も攻撃を仕掛ける。
783
?
﹁アンタは台所に立つんじゃねぇ。黒魔術が発動する﹂
!
?
﹂
俺はあくまでもこの
﹁貴方の作った装置のせいでゲイムギョウ界まで崩壊の危機が迫って
るんだから
﹁それは、よっと。俺のせいではないだろう
世界を滅ぼそうとしたわけだからな。危ないだろうが。人にロケッ
トランチャーは向けるな。ほーれ返すぞ、弾頭﹂
飛んできた炸薬弾頭をキャッチボールのごとく投げ返す。
﹁だが次元衝突装置は確かに、一つの世界だけでは収まらない。二つ
の世界を引きあわせて衝突させる為の装置だからな。だからこそ、起
動にシェアエネルギーが必要だった。信仰心と信仰心の共鳴によっ
﹂
本来であれば起動から
て引き起こされる〝奇跡〟が、世界を滅ぼす││そういう仕組だった
んだが、ふむ。どこで設計を間違ったんだ
半日以内には消滅しているはずだったんだが﹂
﹁それを、途中で破壊して止めたのがエヌラスだ
﹁余計なことをしやがったな、このバカ弟子﹂
﹂
!
﹁ええ、大丈夫よ﹂
﹁お姉ちゃん、大丈夫
﹂
ルシスターが受け止める。
追尾してきた重力弾によって身体を弾き飛ばされた。それをパープ
いく。重力弾││パープルハートはその場から横に飛び退く。だが、
導師が人差し指を伸ばし、その周囲に幾つもの黒い球体が形成されて
パープルハートが長剣を振り下ろす。その場から飛び退いた大魔
﹁こっちは生まれたての赤子だというのに、加減も無しか﹂
﹁とにもかくにも、貴方を倒させてもらうわよ
いうことか。それでよくもまぁここまで引き伸ばしたものだ﹂
﹁なるほど、大体の事情は理解した。つまるところは、弟子の不始末と
ように軽やかな跳躍で街灯の上に降り立った。
再三、ドラグレイスの攻撃を防いでいた大魔導師が宙に舞う羽毛の
!
?
大魔導師の手にはステッキが握られていた。それがブラックハー
い金属音。
魔導師は﹁ふむ﹂と一声唸った。指が空間をなぞり、そして││甲高
ブラックハートとアイリスハートが左右から挟み撃ちにするが、大
!?
784
?
!
そんな、細っこい棒のどこにこんな力⋮⋮
トの大剣を受け止めている。
﹁嘘で、しょ⋮⋮
いや重力操作で強化してあるただのステッキだ。ほれ﹂
﹂
!
は何の皮肉だ
ギーグ好みのジョークか何かか
﹂
﹁よもや、吸血鬼狩りの為にあった組織が吸血姫と手を組んでいると
転させたステッキを肩に当てて、大魔導師は人狼局を睨む。
ハートの蛇腹剣を弾くと、二人を重力弾で吹き飛ばす。くるくると回
ツ ン と 軽 く 小 突 く だ け で 跳 ね 上 げ ら れ た。そ の 返 し で ア イ リ ス
﹁ん
!?
?
﹂
?
思ってこの国を作った﹂
﹁⋮⋮﹂
﹂
国一つ使ってアンタは何を喚び出そうって
﹁出来過ぎなんだよ、この国は
でなんかの魔法陣だ
!
地表に出ていた九龍アマルガムは焼滅しちまったがな
!
!
﹁⋮⋮なに
﹂
完成させたその時からな﹂
いことだ。それにな、召喚陣は既に発動している。俺があの時計塔を
﹁なにを喚び出そう、とは⋮⋮そんなものはお前達が知っても仕方な
んだ
魔術的観点から見たこの国は、まる
い は ず が ね ぇ ⋮⋮ で も な、だ か ら こ そ 聞 き て ぇ。ア ン タ、一 体 何 を
たったアンタはこの国を建てた王様だもんなぁ、不平不満も出てこな
が 国 王 務 め て も 何 一 つ 変 わ ら な か っ た。そ り ゃ そ う だ。な ん て っ
﹁抑止力であり、楔だったアンタが死んで││なし崩し的にエヌラス
﹁死んだ俺の知ったことではない﹂
バルだ。凶悪事件のオンパレードに辟易してるんだぜ
んでからというものどこの組織も殺気立って街中毎日が殺人カーニ
﹁オレたちにしてみりゃタチの悪い冗談だぜ、大魔導師。アンタが死
?
﹁シリウス││﹂
に輝く、身の丈程の巨大な弓だった。
物にならない威圧感は、やがてひとつの大弓を手にする。それは金色
あふれだす魔力の波動にブラッドソウルの全身が総毛立つ。比べ
くなる〟のだから﹂
﹁知っても仕方ないことだ。忘れろ、どうせ〝お前らみんな消えてな
?
785
?
!?
一本の矢がつがえられる。それを、おもむろに天上へ向けて放っ
た。誰もが怪訝な表情をする中でネプテューヌ達は手を上空に掲げ
て防御する。
そして、次の瞬間には雨のように金色の矢が降り注いだ。瞬きする
暇もなく串刺しとなった人々は即死して地面に倒れていく。石畳の
溝をなぞるように血が流れていった。
﹂
﹁さてどうする。俺とやり合うというのなら止めはしないが││エヌ
ラス、お前はどうだ
﹁⋮⋮⋮⋮俺は﹂
聞きたいことは山程あった。知りたいこともある。だが、その為に
ネプテューヌ達を危険に晒すのが躊躇われた。この期に及んで、最後
の最後で捨てきれない思いがある。未練というものだ。
奪われてきた。だからこそ、躊躇いがある。特に、相対すると思わ
なかった大魔導師が相手では尚更だ。
﹁俺は││アンタに聞きたいことがある。知りたいことがある。それ
がどんなに残酷な真実だとしても、このまま倒したら後味悪くてやっ
てらんねぇんだよ﹂
﹁ならば、手を貸してやる﹂
ムルフェストとドラグレイスもまた、ブラッドソウルの隣に並ぶ。
﹁勘違いするなよ。俺も大魔導師に聞きたいことがある、それだけだ。
貴様を赦すつもりはない﹂
﹂
﹂
十秒に一割の利子付
﹁さすがに不安だからねぇ、ワタシも手伝うよ。大魔導師、あんま好き
じゃないし﹂
﹂
﹂
﹁⋮⋮ワリィな、二人共。ネプテューヌ
﹁なに
﹁いくぞ﹂
﹁⋮⋮ええ。やるわよ、みんな
!
﹁元凶がそこにいるって言うなら、当然よね
きでやり返してやるわよ
﹁ここで、倒させていただきます
﹂
!
786
?
﹁泣いて謝って豚のように鳴いても許さないから覚悟しなさい﹂
!
!
!
?
ブシドーとバトラーは多少の手傷を負ったようだが無事だ。ロメ
ロもスピカとカルネに守られており、怪我はない。
それだけの戦力が揃ってもまだ││何故か、どうしてか分からな
い。
大魔導師は、笑みを浮かべていた。
﹁いやぁ、人間どうしようもないと笑うしかないものだな。ああいや、
俺は人間を辞めた身だったな﹂
他人事のように言いながらステッキを突きつけて、変神する。
﹁な ら お 前 達 に 絶 望 を 教 授 し て や る。身 を 持 っ て 学 べ。そ し て 諦 め
ろ。この世界に未来などない﹂
大魔導師││ネクロソウルは両肩のプロセッサユニットを羽のよ
うに広げながら宣誓した。
787
e p i s o d e 1 2 4 血 の 霧 烟 る 夜 に は 通 り ゃ ん
せ帰りゃしない
ステッキをトンファーのように構え、右手は黄金の粒子を集めて金
色の十字架を構える。師弟共に共通した異種二刀流。だがしかし、そ
の構えはエヌラスが攻撃一辺倒なのに対して、大魔導師の構えは攻防
一体を主体としたもの。
ブシドーとバトラーが仕掛ける。それに続けてロメロ。スピカと
カルネが大魔導師=ネクロソウルへと。
﹂
日本刀が疾走った。その一刀を十字架で受けて捌き、続くバトラー
の拳。
﹁ハァッ
気迫の籠もった一撃を、逆手に構えたステッキで防ぎ、蹴り上げが
水月を深く突き上げた。咳き込むバトラーをそのまま打ち上げて、死
角に潜り込んだロメロ。人狼局に配備されている銀のナイフを突き
出す。
﹂
﹁ふっ⋮⋮﹂
﹁チッ
﹂
十字架で肩口から脇腹へ抜けていく。
﹁がッ
ロメロの身体に先端を突き刺して、それをカルネに放り投げた。ス
ピカが髪留めを外す。スカートを翻して、流星の銃弾が降り注ぐ││
だが、その全てが空中に静止している。水面のように揺れている空間
は重力障壁によって生み出された歪んだ壁。
﹂
﹁弾代もバカにならんだろう。返すぞ﹂
﹁そんな││クソ
炎を纏わせる。
めした。ロメロを受け止めたカルネが緋色の太刀に魔導燃焼機関の
指で弾く。それだけで放たれた銃弾は全て持ち主の身体を打ちの
!
788
!
鼻で笑い、手元で回転させたステッキの先端でナイフを受け止めて
!?
!
﹁くぉんのぉぉぉ
ガオンッ
﹂
﹁銃は剣より強し、とな﹂
れた。
ネクロソウルの右手││金色の十字架が光の粒子となって形が崩
!!!
﹂
﹂
お前達か、神格者﹂
バトラーさん
異世界の女神か
﹁ブシドーさん
﹁次は誰だ
!?
ラッドソウルも、偃月刀を担いで並ぶ。
﹂
﹁うっはー、えげつねぇ強さぁ⋮⋮マジで
る
﹁足引っ張んじゃねぇぞ、ドラグレイス﹂
?
フェストが駆け出した。その背後で一触即発の空気が流れている。
売り言葉に買い言葉。二人の喧嘩腰をなだめることもなく、ムル
﹁それはこちらの台詞だエヌラス﹂
ワタシ達あれマジでや
ドラグレイス、ムルフェストの二人が前に出る。それに続いてブ
労の色など微塵も感じられない。
両手を広げて、呆れたように肩をすくめてみせるネクロソウルに疲
?
!?
そして、二人の身体が爆ぜるように転がって動かなくなる。
﹁フォウマルハウトの炎よ。ウェンディゴの氷よ││撃ち抜け﹂
ている。その二人に照星を合わせて、引き金を引いた。
二人の身体を縛り上げる、黄色の布はネクロソウルの袖口から伸び
﹁踊れ、黄衣﹂
ハスター
のようにすり抜けた。
ブシドーの居合が、バトラーの拳撃。その両者をネクロソウルは風
﹁疾ッ
り込む。
重力で延長された刀身がカルネの身体を打ち据えて地面に深くめ
ロソウルがステッキを振り下ろした。
ルネの腕を吹き飛ばす。空中で吹き飛ばされたカルネに向けて、ネク
深紅の自動式拳銃から灼熱の石礫。ルビーのように紅い魔弾がカ
!
?
789
!
﹁弱気になるなら帰れ、ムルフェスト﹂
?
ムルフェストの爪とネクロソウルのステッキが衝突した。
﹁吸血姫。大概お前も、暇なやつだな﹂
俺には暇を持て余しているように見えるが﹂
﹁こう見えても忙しいんですよーだ﹂
﹁そうか
﹂
どんだけこの世に未練たらたらなんだよ、アンタ
!
﹂
?
﹁望むところだ、先にくたばるなよ
⋮⋮
﹂
﹂
﹁貴方は││貴方は、何故だ。この俺のティル・ナ・ノーグを奪った
い、ブラッドソウルの偃月刀を、同じ偃月刀で受け止めていた。
レイスが魔法剣を振り下ろす。金色に輝く大剣と十字架が鍔迫り合
どの口が言うのか、まるで気にしていない普段通りの口調にドラグ
﹁ふむ、これは所謂⋮⋮ピンチ、というやつだな﹂
見えていた。
ソウルへと矛先を変えて駆け出す。その背後には四人の守護女神が
?
!
どういう経緯かは分からないが、意気投合した︵
︶二人がネクロ
﹁テメェとは後でとことん殴りあうぞ、ドラグレイス﹂
キを振り上げると今度は魔弾によって遠くへ弾き飛ばされた。
にも下から蹴り上げる。顎を掠めた反撃に肝を冷やしながら、ステッ
で受け止めていた。勢いを生かして片腕で身体を回転させると、器用
ムルフェストのこめかみを撃ち抜く││ことはなく、その弾丸を指先
突きつけられる深紅の自動式拳銃の銃口が爆ぜる。閃光と爆音が
﹁にゃんだとぉ
﹁この世の終わりをこの目で見るまでは﹂
血を纏わせた爪の一振りでビルが倒壊した。
は
﹁うっしゃいな
まるで慣れた組手のようにいなされている。
吸血鬼である身体能力を活かした高速の連撃も、大魔導師の前では
?
ないぞ﹂
肉体を失い、精神だけが生きる貴様に││黄金の魔女は二度と微笑ま
い。誰より強く、気高い心の持ち主だけが入ることのできる世界だ。
﹁答えは簡単だ、竜騎士。何故ならば、あの楽園は人間しか受け入れな
!
790
!
十字架を消したネクロソウルの右手が白い輝きを纏う。貫手の形
でドラグレイスの身体を貫いた。だが、そこから出血する様子はな
い。そして、その中身は空洞だった。
﹁〝極冷温〟ゼロ・ドライブ││お前の模倣だ、エヌラス。アレは中々
に良い技だったからな、俺なりのアレンジを加えさせてもらった﹂
﹁││変、神﹂
目の前で変異していく鎧が奇怪な音を立てて脈動する。だが、その
﹂
頭に当てられて手から重力の波動を流し込まれてシルバーソウルが
転がっていった。
死人はおとなしく、死にやがれェェェェ
﹁師弟水入らず、と言いたいところだが邪魔が多いな﹂
﹁っせぇな⋮⋮
﹁っの野郎⋮⋮
﹂
﹁俺を誰だと思っている
お前の師だぞ﹂
﹁殺意だけは一流だな、怖いものだ﹂
は溜め息ひとつ吐いて、僅か二振りで凌いでみせる。
剣戟。幾千にも及ぶ七重の偃月刀によるその全てをネクロソウル
!!
ろす。
﹁こぉの⋮⋮
﹁ほれ﹂
﹂
段からエヌラスを飛び越えるようにブラックハートが大剣を振り下
の横から長剣を斬り上げる。だが、ステッキで防がれていた。その上
金色の十字架と偃月刀が火花を散らし、そしてパープルハートがそ
?
を 打 ち 付 け る と 引 っ 張 ら れ る よ う に 三 人 が 飛 ん だ。パ ー プ ル シ ス
ターのM.P.B.L.を白銀の回転式拳銃で相殺しながら、蛇腹剣
を片手であしらう。十字架で絡めとると、それをパープルシスターに
﹂
放って視界を防ぎながら深紅の自動式拳銃で二人まとめて引き離し
た。
﹁変な体勢で寝るなよ
手を。
大魔導師が片腕を上げる。それが、何よりも物語っている。次の一
?
791
!
!
足で二人の剣を持ち上げてブラックハートの攻撃を防ぐなり、掌底
!
アンダー・ザ・ドーム
﹁重 縛 結 界﹂
まるで巨人に踏み潰されているかのような重力に、全員が身動きを
封じられた。その魔術を構成している核を探り当てて、ブラッドソウ
﹂
ルが即座に破壊すると意外そうな表情をしている。
﹁舐めんな
そして、深紅の自動式拳銃がネクロソウルの無防備な胴体に撃ち込
まれて││血が爆ぜた。熱で焼かれた不快な異臭に顔をしかめなが
らも、ネクロソウルは風穴の空いた自らの腹を見て、間の抜けた顔を
している。
﹁⋮⋮││お見事、というべきか﹂
パチ、パチ。拍手。手を叩いてブラッドソウルの健闘を褒め称えて
いた。
一撃││たった一撃がこんなにも遠い。致命傷を与えるまでにど
れほどの障害と苦難を乗り越えなければならないのかと考えるだけ
﹂
でも気が遠くなる。だが、ネクロソウルはそんなことはお構いなしに
笑っていた。
﹁そもそも、絶望の始まりは何処だと思う
ルー ル
﹁何の、話だ⋮⋮
﹂
﹁アダルトゲイムギョウ界の崩壊は、どこから始まっていたと思う﹂
唐突にそんなことを語り始める。誰もが眉根を寄せた。
?
てた﹂
アイツは死んだ。無尽蔵の絶望を相手に、ヌルズを相手にして朽ち果
││先代のアゴウ国王、守護女神は言っていた。だが現実はどうだ。
﹁ああ、そうだろう。異世界の守護女神。お前達と同じ事を、あの女は
﹁私達は、絶望なんかに屈したりは││﹂
頭を垂れていつかは地に果てる﹂
だ。誰もが思うだろう。誰もが苦難を前に挫折を味わい、膝を折り、
﹁絶望だよ、エヌラス。諦めが人を殺すのだ。それが、世界を殺すの
大仰に手を開いて演説を始める大魔導師の言葉に、耳を傾ける。
達が到達し得ない、世界の真理。全ての元凶は、〝何か〟だ﹂
﹁この世界の規則の話だよ、エヌラス。お前が知り得ない真実。お前
!
792
!
ヌルズ。アゴウを脅かす無尽蔵の絶望。いや、今は過去の話。アレ
無尽蔵の絶望とは何か。答えは
はもう、アルシュベイトが討った。そのはずだ││だが、何かが引っ
かかる。
﹁そもそも、ヌルズとは〝何だ〟
簡単だ﹂
ネクロソウルが指し示すのは⋮⋮。
イレギュラー
﹁虚無だ。〝何もない〟ということこそが、絶望だ。分かるか、エヌラ
ス⋮⋮絶望の魔人﹂
﹁││││⋮⋮⋮⋮﹂
エヌラス。この世界に生きる一人にして唯一の規格外。
﹁お前だけがこの世界の事象を記憶〝しない〟﹂
他の神格者は覚えている。記憶している。
﹁お前だけがこの世界の事象を前に〝諦めない〟﹂
エヌラス。俺がお前を、そうだと名付ける以前
他の神格者は諦めた。受け入れてさえいる。あのアルシュベイト
でさえ。
﹁なら、お前は何だ
た││〝名前が無かったのだから〟
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁エヌラス。お前は自分が〝何者〟であるかを知らないだろうな。記
憶すらしていないだろう。当然だ。俺が願ったのだ、この世界の終わ
Null
s
りを。アダルトゲイムギョウ界の滅びを。そして、お前が喚び出され
た││いいや、違うな﹂
﹂
﹁エヌラスが⋮⋮﹂
﹁魔人⋮⋮
││フフ⋮⋮⋮⋮アハハ⋮⋮
'
てきた。
ように。絶望の鐘の音のようにパープルハート達の頭に直接聞こえ
少女の笑い声が響き渡る。それはまるで九龍アマルガムを鳴らす
!
793
?
覚えていない。覚えてさえいない。記憶に無い、在るはずがなかっ
のお前の名前はなんだ﹂
?
﹁正確には〝お前達〟か││エヌラス。いや、ヌルズ﹂
?
││アハハハハハハ
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
そうよ、兄さま。そうなの⋮⋮
﹁お前は⋮⋮どうして⋮⋮
﹂
た。この世界で生きていこうとした﹂
﹁その、はずだったのに⋮⋮兄さまは、この世界を気に入ってしまっ
して。
少女は、泣いていた。血の涙を流して慟哭している。嗚咽を押し殺
│そうして生きていくだけのはずだった。そのはずだったのに⋮⋮﹂
人々の営みを妬み、憎み、憤って、破壊して、蹂躙して、駆逐して│
⋮⋮。わたしと兄さまは、その為に生まれた。その為に生きている。
﹁そうよ、兄さま。わたし達は〝そう〟なの⋮⋮それなのに、酷いわ
ていた。
全身を血のように紅いドレスで着飾った真紅の少女が、そこに立っ
は小柄な少女。
そこに、居た。ネクロソウルは消えて、その代わりに立っていたの
﹁ァ││││││﹂
見えないほどの濃密な魔力の気配に、ブラッドソウルが立ち上がる。
血の霧が濃くなる。ネクロソウルの姿を覆い隠すほど。一寸先も
!
これほど適した人もいないでしょう
﹂
わ・た・し。大魔導師は都合が良かったの。この国を脅威に晒すのに、
﹁決まっているでしょう、兄さま。緑竜会が本当に望む世界の滅びは、
?
?
794
!
わたしには兄さまがいればそれでよかった
episode125 未来への敗走
﹁何も、いらないの
!
それなのに
なのに兄さまは大魔導師について行っ
わたしには兄さましか無かったのに
それだけでよかったの
﹂
てしまった
││
!
!
!
わたしから兄さまを〝
﹁この世界が、アダルトゲイムギョウ界が
﹂
想ってしたことなのに﹂
だからいらないの
ま で に 頑 張 っ ち ゃ う ん だ も の ⋮⋮ 酷 か っ た わ。わ た し は 兄 さ ま を
﹁なのに兄さまは義侠心に駆られて東西奔走。犯罪王なんて呼ばれる
この世界を滅ぼす為に。
学べば、ね
﹁そうよ、兄さま。あれもわたしがした事。簡単じゃない。ちょっと
﹁⋮⋮アプリケーションの転送事故は﹂
だかった﹂
た。絶望には屈しないと。だけど最期まで結局、機械の身体で立ちは
﹁先代アゴウの守護女神は敗れた。なのに、ひとりの男が立ち上がっ
ように抱きしめる。
どす黒い絶望の宝石。ひび割れ、今にも砕けそうなその宝石を慈しむ
少女の手には歪な双角錐が浮かび上がっていた。赤く、闇色に輝く
⋮⋮﹂
場 所 が、絶 望 に 堕 ち た 時 か ら 既 に 世 界 の 終 わ り は 始 ま っ て い た の
﹁アゴウが始まりなのよ、兄さま。この世界で最も美しい希望の輝く
﹁││││それで、世界を⋮⋮﹂
!
!
さえ、希望ですらいらない
﹂
この世界も、大魔導師も、緑竜会も、明日
の世界はわたしから兄さまを奪っていった
!
もういらない、何も
!
理不尽に、不条理にこ
わたしには兄さまだけだった
!
!
奪った〟
!
なく続いていた。ただひとりの家族を奪われた少女の悲痛な叫び。
叩きつけるように叫ぶ少女の心を抉る闇は、深い。どこまでも限り
!
?
795
!
﹁それのどこがエヌラスの為になるのよ
い。
﹂
して 読み解いたその時にわたしを生き返らせようとでもしてい
﹁大魔導師の書物を兄さまは肌身離さず持ってたけれど、それはどう
あの惨劇ですら、少女の││エヌラスの妹の掌の上だった。
くさんあったから﹂
死ぬことにしたのよ、わたし。だって人のままじゃ出来ないことたっ
この世界の未来を、絶望の一色に染め上げようと願ったの。その為に
﹁だからわたしは、全て壊すことにしたの。塗り潰すことにしたの。
踊るように少女はくるりとスカートを翻す。赤い霧が舞う。
かったわ。兄さまがこの世界に染まっていく姿が﹂
﹁でもね、もう限界なの。兄さま。わたしはとてもとても耐えられな
から。それ以外の世界を知らなかった。破壊してきたから。
かった。なぜなら、いつも側にいた少女は自分を兄と呼び慕っていた
自 分 が 何 者 で あ る か。自 分 が 誰 で あ る か。名 前 す ら 思 い 出 せ な
かった。
パープルハート達の縋るような視線に、エヌラスは何も答えられな
名前なんてない。そうでしょう、兄さま﹂
﹁エ ヌ ラ ス
違 う わ。わ た し も、兄 さ ま も。た だ の 〝 ヌ ル ズ 〟 よ。
ブラックハートの怒鳴り声に、少女は不愉快さを隠そうともしな
!
﹁兄さま。もういいの。もう、いいのよ⋮⋮もう兄さまは〝いらない
人〟だから﹂
﹁だからな、エヌラス。お前はここで、死んでいけ﹂
血の化物が再び現れる。今度は少女の隣に。大魔導師と、自らをヌ
ルズと名乗った少女が並ぶ姿はエヌラスにとってしてみればこれ以
上ない程の仕打ちだ。膝を折り、立ち上がろうとする身体が言うこと
を聞かない。
ニトロ
心だけが怒りに打ち震えている。いつだってそうだ。悲しみに暮
れるよりも先に、心が折れるよりも先にその怒りが身体を突き動かす
796
?
﹁⋮⋮俺は⋮⋮﹂
たの﹂
?
原動力になる。
﹁テメェは││
﹁兄さま││﹂
﹂
が一歩前に出る。
﹁俺の妹は、死んだんだ
それがどうして今、俺の前に立つ
﹂
!
!
!
んなにも手間の掛かる仕掛けをしたの﹂
ブッ壊ぁぁぁすッ
!
鍵守護器官。
﹁もうお前に、コレは不要だな﹂
!
その空いた左手の掌打が軽く打ち込まれるだけで変神を解除させら
ず 持 っ て い か れ る。大 魔 導 師 の 右 手 に は 白 く 輝 く 鍵 の よ う な 剣 が。
強制的に引き剥がされた〝銀の鍵〟に、エヌラスの魔術回路は余さ
﹁ガッ││アァァァアアアア││
﹂
大魔導師がブラッドソウルの胸板に手を当てる││左胸に輝く銀
き飛ばされた。
引き寄せる。偃月刀で切り裂こうとするがそれを金色の十字架で弾
そして袖口から伸びる黄色い布が捕らえ、ブラッドソウルの身体を
さった。
ス が 僅 か に 躊 躇 す る。そ の 一 瞬 の 隙 で 肩 口 に 白 銀 の 魔 弾 が 突 き 刺
ていた銃撃戦だったが、ヌルズが一歩その場に踏み入るだけでエヌラ
れ、二挺拳銃の応酬が始まった。一糸乱れぬ動きで完全な相殺を続け
大魔導師の十字架と偃月刀が衝突する。互いに弾かれるように離
﹁どんな仕掛けだろうが││
﹂
な苦難や逆境を前にしても立ち向かってきた兄さまを、折るためにこ
よ。い つ だ っ て 立 ち 上 が っ て き た。ど ん な 希 望 を 前 に し て も。ど ん
﹁鈍いのね、兄さま。決まっているでしょう
兄さまを〝折る〟為
クロックサイコの奴が惨めに殺したんだ
える拳を地面に打ち付けて立ち上がり、偃月刀を構える姿に大魔導師
まるで哀れむようにヌルズはエヌラスを見つめていた。怒りに震
!!
れたエヌラスの身体は簡単に吹き飛び、パープルハート達の後方まで
﹂
転がっていく。
﹁エヌラス
!?
797
?
!
﹁さて⋮⋮こいつも返してもらったことだしな﹂
大魔導師の左手には、エヌラスが持っていた魔道書。
﹁いい加減、全員に用はなくなった﹂
﹁後は仲良く滅ぶだけね﹂
数の上ではこちらが圧倒的に有利││そのはずだ。しかし、大魔導
師が手にした魔道書からページが舞い飛ぶ。その背後で言葉に出来
な い 威 圧 感 が 膨 れ 上 が っ て い く。そ の 臭 気 に 思 わ ず 顔 を し か め た
パープルシスターが、その奥に潜むものを感じ取った。
﹁あれは⋮⋮邪神││﹂
空間に亀裂が走る。おぞましい気配に街中を駆け巡る召喚陣が励
起され、九龍アマルガムが赤く照らされていった。それはさながら〝
逢魔ヶ刻〟のように。降るはずのない雨が降り注ぐ。血の雨だった。
そして、無限追放の彼方。虚無へと弾き出された邪神は、かつての
宿敵と再会する。今度は対敵としてではなく、血肉とされる為に。
798
﹁⋮⋮どうするの、あなた達は﹂
それとも││﹂
不意に少女が、パープルハート達に問う。
﹁一緒に滅ぶ
?
拳を握りしめる。
﹁お加減はど∼お、大魔導師
﹂
邪神の血肉を取り込んだ大魔導師は身体の感覚を確かめるように
た。魔道書がバラリと解けると、全身を包み込む。
える。光を放った次の瞬間には掌に乗るほどに小さな鍵となってい
戦う意思を見せるパープルハート達の前で、大魔導師が銀の鍵を構
んとかするしかないわね﹂
﹁おとなしく逃がしてくれるような人には到底思えないのだけど、な
﹁今はエヌラスをどこかで治療した方がいいわね﹂
が守ってきた人々と変わらない青年の身体。
身体は以前のような力強さはない。ひとりの人間だった。自分たち
全身の魔術回路を引き剥がされ、口端から血の線を引いて咳き込む
方が気がかりだった。
立ち向かう以外の選択肢は無い。だが今はそれよりも、エヌラスの
?
﹁⋮⋮悪くない。悪くないぞ﹂
﹁これって所謂絶体絶命ってやつかしら⋮⋮﹂
ボヤくアイリスハートの言葉に応えるように、ブシドーとバトラー
﹂
﹂
﹂
国王を連れ
が大魔導師に仕掛けた。それを一瞥もくれず弾き返すと、億劫そうに
振り返る。
﹂
﹁征けぇぇ
﹁え
﹁だけど⋮⋮
!
でもまだ、動いていた。
早く
﹂
!
此 処 は 私 共 に 任 せ て 早 く 行 っ て く だ さ い ま せ
﹁ご主人さまより先に寝るメイドがいるか、って話
﹁カルネ⋮⋮﹂
﹁愚 妹 の 言 う 通 り
﹂
!
ネ。ボロボロの身体に、壊れた頭蓋から中の部品が覗いている。それ
銃を握りしめていた。灼熱の魔弾を斬り落としたのは、片腕のカル
バトラーの身体が吹き飛ばされ、大魔導師の右手が真紅の自動式拳
﹁いいからお行きなさい
﹂
ブシドーが吐血しながら叫ぶ。
て、走れぇぇ
﹁この御方は、我らが││ゴフッ⋮⋮くっ、引き受ける
!
﹂
!
も素知らぬ顔でどこ吹く風とも知らぬ涼しい顔してさ﹂
﹁こんにゃろー、昔っからそのすまし顔が気に食わなかった。いっつ
ムルフェストの踵落としを片腕で受け止め、放り投げる。
﹁していたとでも言うつも、り
﹁揃いもそろってくたばり損ないが。今度は加減などしないぞ﹂
﹁ご主人様を、お任せしましたよ。女神様方﹂
く。全力稼動から限界稼動域にまで達している証拠だ。
無間心臓、ハザード・ランプから発せられる魔力の輝きが増してい
と。お急ぎ下さいませ﹂
﹁私達はエヌラス様のメイドですから、命を挺して守るのは当然のこ
!
799
!!
!
!
?
﹁スピカまで﹂
!
﹂
﹁まぁ、以前の俺はそうだったな。今の俺は違うが﹂
﹁へぇ、そう
﹁ああ。今は世界を滅ぼすその一歩手前ということで、浮足立ってワ
﹂
クワクさんだ﹂
﹁大惨事だよ
﹂
月を落とした本人がいう台詞ではないが││時間を稼いでいられ
るのもそう長くはないだろう。
﹁ごめんなさい、みなさん⋮⋮
以外にいないですからね﹂
﹁まぁ⋮⋮そういう、こった⋮⋮
頼んだぜ、嬢ちゃん達⋮⋮﹂
﹁この絶望が打ち砕けるのだとしたら、それは⋮⋮女神である貴方達
﹁ふっ。構うな⋮⋮所詮は我らは神ならざる者だ﹂
!
る。その下では既に再生が始まっていた。
くたびれたスーツの上着を脱ぎ捨てて、ロメロが血痰を吐き捨て
!
パープルハート達はエヌラスを連れて逃げるまでの間、決して後ろ
を振り返らなかった。
800
?
!!
e p i s o d e 1 2 6 煮 て も 焼 い て も 食 え な い 敗
北感は豚の餌
││ユノスダスまでどうにか戻ってきたが、既に夜が訪れている。
中央病院に急患で担ぎ込まれたエヌラスを見て、ナース達は慌ただし
く手術の準備を始めた。その報せがユウコの耳に届いたのか、やはり
屋根の上を飛び移りながら病院前へ滑り込んでくるなりネプテュー
ヌ達に事情を尋ねる。それに、九龍アマルガムで起きた一連の事件を
話した。
﹁⋮⋮大魔導師が復活して、それにエヌラスの妹が関わってて、エヌラ
スがヌルズねぇ⋮⋮﹂
﹁信じてもらえるか分からないけど、わたし達も頭がどうにかなりそ
うだよ﹂
﹂
801
﹁エヌラスがあんな状態じゃ信じる他にないでしょ。銀鍵守護器官も
ないんじゃ﹂
﹁ゆうちゃんはぁ、大魔導師のこと知ってるの∼
﹁え、いいのそれ﹂
けどさぁ。半分近くグレーゾーンなんだよね﹂
﹁うちで貴金属や薬品の取り扱いがあるのも大魔導師のおかげなんだ
男は、世界を滅ぼすことにした。
まう。アダルトゲイムギョウ界に未来が無いことを知ってしまった
その目的を知ってしまった今となってはなんとなしに理解出来てし
その結果があのような無法地帯では本人も浮かばれない。とはいえ、
導師であり、建国したその時から自国の発展に尽力していたという。
ユノスダスと九龍アマルガムの輸出入ルートを開拓したのが大魔
﹁知ってるよー。そりゃもう知ってるよー。超知ってる﹂
?
﹁まぁね。私もユノスダスが潤う分には文句ないし﹂
﹂
とはいえ、だ。それとこれとは別問題。
﹁エヌラスさん、大丈夫なんですか
?
﹁万一に失敗はあり得ないからだいじょーぶ
﹂
﹂
もし失敗したら金銭
それに、前みたいに
エヌラスが瀕死で、世界が滅びようとしてるのにお祭
りのことなんて考えてる場合
﹁あのバカが簡単に死ぬわけ無いでしょうが
応急処置から自己再生ですぐに完治出来るわけじゃないんだし
上はユノスダスの法に則ってもらう
金は命より重い
﹂
大体アイツがヌルズだろうがなんだろうが、私の国に担ぎ込まれた以
!
﹁ちょっと
ムーン現象並にデカく見れるんだし盛大にやれそう﹂
﹁あ、それならそれでお月見パーティーとかやればいいか。スーパー
ようだが││。
真剣に悩み始めたユウコだったが、すぐに顔を上げた。何か閃いた
﹁うーん、そうだねぇ⋮⋮﹂
﹁どうするの
落ちてきているし﹂
﹁着々と世界滅亡へのカウントダウンは始まってるし、刻一刻と月は
全員がそう思ったという。
〝ユノスダス国王、おっかねぇー〟
親指を立てるユウコに、ネプテューヌ達は背中を震わせた。
と社会的に抹殺して二度と太陽拝めない姿にするから﹂
!
!
!?
!
ら﹂
?
らどうでもいい﹂
﹁ど、どうでもいい
﹂
!?
お 金 を 落 と す モ ン ス
!
ターとお金を落とさないモンスターと国を脅かすモンスターとモン
﹁い い か ぁ、よ く 聞 け ね ぷ ち ゃ ん 私 は
割りと衝撃の事実なのに
﹁うぅん、今さっき初めて聞いた。っていうか金にならない情報だか
﹁絶望の魔人って話、ユウコは知ってたの
﹂
者と渡り合ってたけど、それがないんじゃアイツはただの人間だか
﹁悪いけどここでリタイアかもね。今までは銀鍵守護器官で他の神格
﹁じゃあ、エヌラスは⋮⋮﹂
勘定の対象であるらしい。
根っからの守銭奴││ユウコの商売根性には世界滅亡ですら金銭
!
!
!?
802
?
!!
だからアイツが絶望の魔
スター・ペアレントその他大勢の連中に、どうやったら自分の利益を
守れるかを常に考えて国を運営してる
﹂
!!!
る﹂
﹁あ⋮⋮﹂
﹁だからどうするかって
﹁まぁー、死ぬのは怖いよ
〝次〟に会ってもエヌラスは忘れてる
ユウコはユノスダスの為に。エヌラスはこの世界の未来の為に。
喧嘩するほど仲が良いとは、この二人の為にあるのかもしれない。
うにしてる。お互い好きにやるだけ﹂
﹁まぁね。私はどんな形でエヌラスとお別れになっても悔いがないよ
﹁ユウコ⋮⋮アナタもしかして﹂
向き合うので忙しいの﹂
そんなもん、運に任せてる。私は帳簿と
﹁それに、私はさ。どうあってもこの聖戦に生き残れないのを知って
を失った。
先述の通り、金は命より重い。その鬼迫に、ネプテューヌ達は言葉
│金を出してくれりゃ何ひとつ文句は、ないッ
人だとか人間だとか二十代無職ホームレスだろうがなんだろうが│
!
いる﹂
﹁そんな⋮⋮
﹂
﹁何とかならないの
﹁残念ながら⋮⋮﹂
﹂
﹂
しょう。以前のように、というのは無理ですね。それが全身に至って
﹁⋮⋮魔術回路が無理矢理引き剥がされた際に、神経を傷つけたので
﹁全治までにどれぐらい
﹁彼があそこまでの重傷を負ったのは初めて見ました﹂
マスクを外しながら深く息を吐き出す。
手術が終わったのか、手術室のランプが消えた。出てきた主治医が
てるから﹂
し、辛いと思ってる。でも二度と会えないより私はずっといいと思っ
?
んと唸っていた。
803
?
?
主治医は申し訳無さそうに首を横に振る。それにユウコはうんう
!?
!
﹁ちなみに。どんな状態
﹁へ
﹂
﹂
神格者って人間なんじゃ﹂
アエネルギーで生きてるし﹂
﹁まぁぶっちゃけ無理だから止めといたほうがいいよ。アイツ、シェ
﹁今すぐにでも大魔導師を倒さないと﹂
と、いい
﹁とにかく、今日はもう遅いから四人とも。明朝までしっかり休むこ
える。それから、沸々と怒りが湧いてきた。
振られるだけだった。泣き崩れそうになる身体を、ネプテューヌが支
ネプギアが涙ながらに主治医に懇願する。だが、それでも重く首を
﹁なんとか、ならないんですか⋮⋮﹂
﹁怪我も治るまでに何ヶ月か⋮⋮﹂
業自得﹂
﹁あー、そっかぁ⋮⋮魔術回路に頼りっきりだった弊害だね。うん、自
態になりますね﹂
﹁意識は鮮明、五感はほぼ薄れ、手足は満足に動かすことが出来ない状
?
にあるか、知ってる
﹂
シェアの結晶﹂
誰も彼もが求めて戦争おっぱじめるに
?
されることのない女神の存在。
威かは女神であるネプテューヌ達がよく知っている。信仰心に左右
国民の信仰心に頼らないシェアエネルギー。それがどれほどの脅
決まってんじゃん﹂
知ったらどうなると思う
な 力 を 得 ら れ る っ て の が 問 題 な ん だ よ ね。そ ん な も の が あ る っ て
龍アマルガム。どうして厄介かって、それさ。誰でも守護女神のよう
﹁それが液状になった、シェアブラッドってのが発見された場所が、九
﹁ええ﹂
ない
﹁そう。それが一際厄介な代物でね。シェアクリスタルってあるじゃ
とかがあるって﹂
﹁確か⋮⋮エヌラスさんからの話だと、地下に巨大なシェア⋮⋮なん
?
804
?
﹁うん、基本的にそうなんだけどね⋮⋮九龍アマルガムがなんで地下
?
?
﹁大魔導師は、それを自分にぶち込んだ。だからアイツにとって自国
の信仰心なんて副産物に過ぎない。常に全開の状態なんだから。そ
﹂
れと肩を並べてた先代アゴウの女神はもういないし﹂
﹁じゃあどうやって倒すの
﹁で、でも
シェアエネルギーはどうあっても﹂
ドを全部引っこ抜けば消滅するんじゃないかな﹂
﹁そうだねぇ。消耗戦になるけど、大魔導師の体内からシェアブラッ
?
﹁え
答えは簡単﹂
なに
今まで食べたパンの枚数
﹂
?
⋮⋮﹂
﹁アンチクリスタルよ
﹂
﹁あ、それなら確かにシェアエネルギーを打ち消せますね
達じゃ使えないんじゃ﹂
﹁うっ⋮⋮そうだったわ⋮⋮﹂
でも、私
﹁うーん、マザコングは毎回出てきてるからちょっとどれのことだか
ヌに捕らえられた時のこと﹂
﹁違うわよ。無理にネタぶち込まなくていいから。ほら、マジェコン
?
﹁ネプテューヌ。アナタ、覚えてるかしら﹂
ノワールが唐突に思いついた。
法がないか。シェアエネルギーを打ち消す方法⋮⋮││││そこで、
敗北感だけが重くのしかかる。どうにか⋮⋮どうにかして勝つ方
﹁⋮⋮エヌラス⋮⋮﹂
﹁私達四人でも足りないわね⋮⋮﹂
たら
﹁うん、十割が限界。だけどそれに追加でシェアエネルギーが足され
!
不気味だからわたしと
?
﹁そもそも∼、会えるのかって話だよねぇ∼﹂
﹁神出鬼没なアイツが、話の通じる相手だといいけどね﹂
してはあんまり会いたくないけど⋮⋮﹂
﹁クロックサイコなら知ってるんじゃない
かる。それでも││〝諦める〟わけにはいかない。
ていた。だが、それを使う手段がない。どうあっても絶望が立ちはだ
シェアエネルギーを打ち消すアンチクリスタル。その存在を忘れ
!
!
805
?
?
勝算だけが薄れていく。そんな敗色濃厚な空気をかき消すように
ユウコが手を叩いた。
腹いっぱ
!
疲れてるから
﹁はいはい、この話はこれまで。やめやめ。まずは、ご飯
﹂
!
教会に連絡入れ
い食べて、お風呂入って、朝までグッスリ寝なさい
俯いちゃうんだよ。顔上げて
﹁ユウコはホント、強いわね﹂
﹁あったぼうよー。ユノスダス国王舐めんなって
﹂
ておくから四人とも、好きに使っていいよ﹂
﹂
﹁あの、ユウコ様
﹁なに
!
!
﹁病院内では携帯電話のご使用を控えてください⋮⋮﹂
?
﹁あっはい、ごめんなさい﹂
806
?
第十章 ファイナルゲイム
episode127 時計仕掛けの亡霊
九龍アマルガムでは、アサイラムと人狼局が総力を挙げて大魔導師
の撃退を試みていた。だがしかし、その全てが失敗に終わっている。
その傍らの少女は退屈そうに壊れた自動車に腰を降ろして欠伸を漏
らしていた。
﹁俺が変神するまでもない﹂
﹁流石ね、大魔導師。兄さまが弟子入りするだけはあるわ。でも、どう
して﹂
﹁俺はこの世界の明日に絶望した。この世界の未来に絶望した。この
無限に続く絶望に、絶望したのだ。俺は希望を失った。失望した││
ゲイムギョウ界に。だから終わらせることにした。俺達の世界を、俺
﹂
です。責任は大人の義務ですよ、大魔導師﹂
﹁そうか﹂
バトラーが最後の一歩を踏み出して、胸を金色の矢に貫かれて膝を
着く。
807
達だけで﹂
﹁ふぅん、そう
﹂
?
﹁⋮⋮私達、は⋮⋮アサイラム││この国を、守るのが職務であり責務
﹁お前達はどうして諦めない
ドラグレイスは動かず、ムルフェストも血を流していた。
ている。
ロは胴体を両断され、スピカとカルネは全身を砕かれて機能を停止し
服が擦り切れて残っているのは赤く染まった白いシャツだけ。ロメ
ブシドーは倒れ、バトラーも瀕死の重傷で立つのもやっとだ。燕尾
﹁大いなる〝C〟だ。なにが塔争だ、馬鹿馬鹿しい││それなのに﹂
﹁それが﹂
た。決して超えることの出来ない壁を隔ててな﹂
﹁その結果として、ゲイムギョウ界とアダルトゲイムギョウ界は別れ
?
﹁もう休め、バトラー⋮⋮大儀だ。お前達の今までの働きは無聊の慰
み に も な ら な い が、そ れ で も 俺 は 言 お う │ │ ご 苦 労 だ っ た。ブ シ
ドー。お前の心影流の極致、確かに俺の心に刻みこんだ。満足して逝
け﹂
その言葉に、身体を大の字に投げ出していたブシドーが僅かに笑っ
た。両腕が切られ、全身を刻まれて死にかけていた男は、最後に少し
﹂
だけ救われて逝った。例え報われないともしても、彼が選んだ道は剣
﹂
﹂
の道。悪鬼羅刹の修羅道だったのだから。
﹁ムルフェスト﹂
﹁ハァ、ハァ⋮⋮なによ
﹁お前はまだ、俺に挑むか
﹁正直ぶっちゃけ全力で逃げ出したいけど、ムカツクからヤダ
﹁子供か﹂
ざまぁ
呆れたような溜め息を吐いて、大魔導師は魔導書を取り出した。
﹂
﹁へっへーん、だけど残念だったね、大魔導師﹂
﹁ん
てるよ
﹂
月を落下させているからタイムリミットは確か残り一週間切っ
!
﹂
﹂
﹁つ ま り、ワ タ シ が こ こ で 貴 方 を 一 週 間 足 止 め す れ ば ワ タ シ の 勝 ち
だー
﹁無理だろ﹂
﹁うん、無理
﹁吸血姫が言えた台詞か﹂
?
本領を見せてやる﹂
﹁なに、ちょっと││地上を侵略しようと思ってな。ネクロソウルの
﹁ところで大魔導師、その魔道書で何をするつもり
﹂
﹁えぇぇぇぇ⋮⋮何言ってくれちゃってんのこの化物⋮⋮﹂
﹁なら、仕方ない。地上に出たら一番最初に月でも壊すか﹂
しかし、そうとは知らない大魔導師にしてみれば厄介な話である。
!
!
808
!
?
?
﹁既に世界滅亡のカウントダウンはワタシがやっておいた
?
﹁マジか﹂
!
!
魔道書││死霊秘術の書が魔術の光を帯びる。それは禍々しい赤
いシェアエネルギーの力を浴びてテロリスト達の血によって描かれ
た召喚陣を起こす。
兄さまのいない世界なんてもういらないもの﹂
﹁令嬢、一手間借りてもいいか﹂
﹁別にいいわよ
九龍アマルガムが胎動する。それは心臓の鼓動。地下帝国であり、
揺らぐはずのない地盤が揺れ始めた。
﹁俺は賭けた。待ち続けた。この時を﹂
﹁一体、いつから││﹂
﹂
﹁幾星霜。億千万。いや、もう忘れてしまった。過去があまりに多く
てな﹂
﹁何を仕掛けたの、この震動はなにさ、大魔導師
﹁なに。ただの〝時計仕掛け〟だよ。月の姫﹂
それは、未来を刻む詩。
﹂
九龍アマルガムの天上が崩落する。見上げたムルフェストが見た
﹁貴方も神格者だろうに││﹂
だ。神のいるこの世界を﹂
﹁神を殺すのはいつだって人間だ。人の愚かさだ。だから俺は殺すの
が顕現したのだと。
その気配は、地下にいるムルフェストも感じていた。圧倒的な質量
〝機械仕掛けの神〟として。
れる。
車となって。無数の部品となって。聖歌に従い、時を越えて再構築さ
パー ツ
││地上焼土で、ミスカトル大時計塔が崩壊する。それは無数の歯
﹁││刻め、時の轍を。〝時計仕掛けの亡霊〟よ
ク ロ ッ ク ワ ー ク・ フ ァ ン ト ム
﹁時は流れる。憂うこと無く、笑うこと無く無貌に、非情に﹂
それは世界を殺す詩。
﹁時は流れる。残酷に、無情に。人の世を知らず忘れ流れる﹂
に苛まれている死の詩。
それは、聖句。それは呪詛。未来を憂い、過去を忘れ、現在も絶望
!
!
809
?
のは、顔のない時計仕掛けの亡霊。何も無い、真っ白な機械仕掛けの
神。今は亡き神の姿。思わず失笑が漏れた。
無貌なる漆黒が覗いている。その背中に月を背負って。絶望的で、
幻想的で、現実味も何も無い光景はまるで夢のようで││悪夢だっ
た。
﹁ああ、そうだ。だが俺は一度死んだ身だ。神に値しない人間だ、〝神
﹂
様失格者〟だ。故に、聖戦への参加権はない。塔争に左右されない、
この世界の一部だ﹂
﹁エヌラスに殺されることですら計算済みだったっての
﹁そうだとしたら、どうだというのだ﹂
﹁⋮⋮大魔導師。貴方は人間じゃない﹂
時計仕掛けの亡霊が、無数の歯車を奇妙に噛み合わせた巨大な拳を
振り上げる。
﹁││邪神なんかより、ずっと恐ろしい悪魔だよ﹂
拳の下敷きになったムルフェストが、赤い花を咲かせて消えた。大
魔導師はそれを無感情に見届けてから時計仕掛けの亡霊を見上げる。
その顎の下、首元辺りが開いていた。コックピットは無人、そして漆
黒。闇黒が広がっている。
﹂
﹂
ただ一人。世界が兄さまを必要としないなら滅ぼすわ。兄さまが世
界を必要としないから滅ぼすの。それだけの話なの││理解して
ゲイム
絶望は笑っていた。希望に囚われた哀れな兄を一心に想う、歪んだ
ら⋮⋮すぐ、解放してあげるわ⋮⋮可哀想な兄さま﹂
﹁嗚呼、兄さま。待っていて││すぐにこの〝遊戯〟を終わらせるか
トに向かって軽やかに歩き出した。
エヌラスの妹は、差し出される大魔導師の手を取らずにコックピッ
手を貸してくれ、絶望﹂
﹁ああ。俺はこの世界の未来が無い事を知っている。それだけの為に
?
810
?
﹁行こうか、絶望の令嬢。この世界を終わらせるために﹂
﹂
﹁ええ、大魔導師。でも勘違いしないでね
﹁⋮⋮
?
﹁わたしが愛するのは、兄さま。世界を憎んで恨んで怒り狂う兄さま
?
曇りの無い無邪気な笑みで。
日が昇る。世界が滅ぶその時までのタイムリミットが迫り、キンジ
塔は未だ姿を見せず、絶望的に足取りが重い。だがそれでも、悲しい
ことに腹は減るものだ。昨夜の夕飯がどれだけの絶品料理のバイキ
ン グ よ ろ し く な 量 だ っ た と し て も、時 間 が 経 て ば や は り 腹 は 減 る。
ぐぅ。
ネプテューヌ達が目を覚まして、ユウコに言われるまま食堂へ行く
とそこには食欲をそそる料理が並べられていた。朝食は胃に優しい
野菜がメインの軽いメニューで統一されている。
ユ ノ ス ダ ス の 国 内 放 送 の チ ャ イ ム が 鳴 っ た。そ れ を 合 図 に ネ プ
テューヌ達は手を合わせる。覇気のない﹁いただきます﹂から、箸を
おらぁ稼げ稼げー 世界滅亡のカウントダ
ユノスダス国内に住む愛しの銭の申し子たちよー
持つ手すら動かすのが億劫だ。
﹃おっハロー
儲かりまっかー
!
ウンが刻一刻と迫っているけどユノスダスは本日も通常営業で参り
!
今
!
稼いでい
の沙汰も金次第。金は天下の回り物、血税なんぞ献血行きだー
入れて
生最後の商売になるかもしれないから気合
!
﹄
﹂
おはようねぷちゃん達
信じらんねぇ
﹁どぉらっせぇぇぇい
たって
﹃マジで
あのバカ、起き
!
ミミズを食らったような衝撃で目が覚めた。てっきりもう最後まで
携帯電話片手にユウコが滑り込んできて、ネプテューヌ達は寝耳に
!
!
バタバタバタバタバタ││廊下から近づいてくる足音。
そんなことをボンヤリと寝ぼけた頭で考える。
月が衝突するまで、あとどれぐらいの時間が残されているだろう。
見上げた。
いつになく気合の入った朝の放送が終わり、ネプテューヌ達は空を
﹄
ユノスダス国王、ユウコからでした
!
こー
!
!
811
!
!
月も落ちてきていてコレもうまじやばくねキャンペーン
まっす
!
今夜までに屋台を出せる店は適当に出して稼いで。地獄
の開催
!
!? !
目覚めないものだと思っていたが、流石にタフである。そうと聞いた
﹄
瞬間にネプテューヌ達は朝食を胃袋に叩き落とす。
﹃ごちそうさまでした
た。
!
食器を水に浸けておいて貰えると洗うの助かるか
﹁ゆうちゃん、止めないでぇ∼
﹂
﹁行・く・前・に
な
﹁こ、細かい⋮⋮
﹂
手を合わせて、中央病院に行こうとする四人をユウコが食い止め
!
﹂
伊達に神格者達の胃袋は握りしめていない。
812
!
!
!
episode128 無力なヒトと守護女神
ネプテューヌ達が朝のユノスダスを走る。いつになく賑やかなの
俺も倉庫売り払うぜ
﹂
それ反則じゃねぇのか
﹂
﹂
﹂
は、間違いなくユウコの放送を聞いたからだろう。ふと耳を傾ければ
﹁おお
﹁テメェふざけんな
﹁稼げばよかろうなのだァーーー
強いと、ノワールは思う。脳天気とも言うが。
プルルート、もっと速く走れないの
!?
﹁みんな∼、走るの速いよ∼﹂
﹁ああ、もう
﹂
変身してもいいなら∼⋮⋮﹂
﹁ペース落とすから変身するのは待って
﹁無∼理∼
!
今夜のセール準備はできてるかー
﹄
気合は足りてるかーー
﹄
﹄
﹂
﹂
お ら ー、守 銭 奴 ど
﹂
!
﹂
﹂
﹁よーし、しっかり掴まってー、ぷるちゃん。ゆうちゃんタクシー発進
﹁ふえ∼
中央病院を指差す。
ケラケラと底なしに明るい笑みでユウコはプルルートを背負うと、
﹃理 不 尽 過 ぎ る
!
!!
﹃オオオォォォォーーー
﹁よっしゃーーー
﹃うおおおおぉぉぉーーー
!!
﹁じゃあ喋ってないで店の準備しろぉぉぉっ
!!!
!!
!!
!!!!
もー
﹁洗 い 物 終 わ っ た か ら 来 ち ゃ っ た ユ ウ コ で す
やはりユウコがスカートなのにも関わらず屋根を飛び移っていた。
ふと、ネプギアが上から聞こえてきた足音に顔を上げる。そこでは
!?
!
﹂
朝の喧騒も不安からは程遠いものだ。ユノスダスの人間達は心底
!?
!
!
││。
ユウコ様が世界滅亡キャンペーンやるってよ
﹁おい聞いたか
﹂
!
﹁そうと決まれば倉庫から商品引っ張りだして在庫処分セールだ
乗るしかねぇ、このビッグウェーブに
﹁勿論聞いたぜ
!
?
813
!!!
!
!
!
!
!
風になーれー、私
﹂
﹂
﹂
﹂
﹂
ネプギア、急ぐよ
お先
﹂
一緒か⋮⋮で、そっちは⋮⋮ああ、ユウコか。テメェ朝っぱらからな
テューヌ、だよな。となると⋮⋮ノワール、ネプギア、プルルートも
﹁いや、悪い。よく見えなくてな、えーと⋮⋮多分ちんちくりんはネプ
眉を眉間に寄せて、睨むようにネプテューヌ達を見つめていた。
﹁⋮⋮﹂
ラスがこめかみを押さえる。
扉を開けると、ちょうど呼吸器を取り外して点滴を抜いていたエヌ
﹁エヌラス
﹂
コまでもが走っていた。
急ぐ。病院の廊下を走らないでくださいという注意を無視してユウ
ルシスター。変身解除して病院に入り、エヌラスがいる集中治療室へ
続いて二番手にブラックハート。最後にパープルハートとパープ
ね﹂
﹁ああ⋮⋮またタイムを縮めてしまった⋮⋮こりゃ世界記録も狙える
﹁きゅう∼⋮⋮フラフラするぅ∼∼⋮⋮﹂
中央病院前で合流したものの、プルルートは目を回している。
には追いつけなかった。
して後を追う。しかし、それでもゆうちゃんタクシー︵ほぼ全力疾走︶
疾走した。こうしてはいられないとネプテューヌとネプギアも変身
持ち前の機動力を活かして、ブラックハートがユノスダスの上空を
!
テューヌ達が慌てて駆け出す。
﹂
﹁ぷるるんに先越されるー
﹁は、はい
﹁アクセス
!
﹁ちょっ、ノワール。変身しちゃう
﹁速けりゃいいのよ
!
﹂
あっという間に遠ざかるプルルートを見送って、我に返ったネプ
﹁あ∼∼∼∼∼れ∼∼∼∼∼∼⋮⋮⋮⋮
!
﹁もー、負けず嫌いなんだからぁー
!
!?
!
! !!
!
814
!
!
んつう頭の悪い放送流してんだ﹂
再度点滴を抜こうとして、空を掴む。空振った手に血を巡らせるよ
うに軽く振ってからもう一度掴もうとして、また外す。手を顔に近づ
けて、面倒になったのか点滴を口で引き抜いた。心電図に繋がれた電
極も片端から外していき、立ち上がろうとしたエヌラスの身体がたた
﹂
らを踏む。
﹁お
そのまま力が入らないのか、ベッドに座り込んだ。
﹁⋮⋮参ったな。動きづれぇ﹂
まるで他人事のようにボヤくと、ごまかすように包帯を外し始め
る。
﹁んで、いきなり朝からなんの用だよ。仮にも重病人だぞ、俺﹂
本当は分かっている、それでも聞かずにはいられなかったのだろ
う。
﹁⋮⋮エヌラス﹂
﹁心配すんなよ。大丈夫だ﹂
包帯の下。無理矢理引き剥がされた魔術回路の跡がミミズ腫れの
ように赤くなっていた。何もしなくても指先が震えている。
﹁大丈夫じゃないでしょ。満足に立ち上がれなくて、なに強がってる
のよ﹂
ノワールに言われて、苦虫を噛み潰したように顔を渋らせたエヌラ
スは頭を掻いた。一朝一夕で治るような怪我ではない。今までなら
ともかく、今の身体では常人のように時間を掛けて療養すべきだ。
その様子を見ていたユウコが大股でズカズカと近づくなり、頭を叩
いた。
﹁絶対安静。いいな﹂
﹂
﹁ふざけんな。時間がねぇんだよ﹂
﹁そのためなら死んでもいいって
﹁エヌラス。銀鍵守護器官がなくても戦える
﹂
﹁当たり前でしょ。葬儀代だってお金かかるんだから﹂
﹁その質問は聞き飽きた。タダじゃ死なねぇよ﹂
?
?
815
?
ないっての
﹂
﹁ああ。いける、問題ない。ただ、今はちょっと目が霞んでな⋮⋮メガ
問題じゃ
!
ネ買ってくるか﹂
﹁そういう
!
﹂
﹂
お前どんだけ自分を追い込
﹂
締 め 切 り 直 前 の 漫 画 家 と か 同 人 作 家 じ ゃ
戦うなって言ってんだよ
めば気が済むんだよ
ねぇんだからちょっとは休め
﹁え
﹁えっと。エヌラス⋮⋮気絶しちゃってる⋮⋮﹂
﹁大体銀鍵守護器官を奪われたお前が││って、なに
﹁ユウコ﹂
!
﹁えっ嘘、なんで
マジコレ
な、なんで
あれ
?
エヌラス、大丈夫 しっかりし
﹁あたしもビックリだよぉ∼⋮⋮﹂
﹂
﹁驚いてる場合じゃないでしょ
なさいよ、もう
﹁刻が見える⋮⋮﹂
?
エヌラス、しっかりー
!?
!?
﹁なんか見えちゃいけないもの見えてない
﹂
﹂
だっていつ
?
もなら、え⋮⋮銀鍵守護器官ないとコイツこんなにもろいの
?
瞭然だった。それにはユウコも思わず涙目で狼狽えている。
顕著に現れているのは、頭突き一発で気絶したエヌラスを見れば一目
のスペック自体は人間とさほど変わりはない。その身体能力の差が
ユウコは仮にも吸血鬼であり、エヌラスは絶望の魔人とはいえ、そ
?
!
んだよ
﹁戦えるとか戦えないとか、私が聞きたいのはそういうことじゃない
ユウコの頭突きにエヌラスが悲鳴を挙げてベッドに沈む。
!
!
!
傷は浅いよ
?
?
!
!
身体に負担は⋮⋮﹂
五人の背後で看護師が申し訳無さそうに進言していた。
意識を取り戻したエヌラスに、体の不調を主治医から説明すると、
苦い顔をする。無理もない。この先に待っているのはかつての恩師
と、死んだはずの妹だったのだから。そして、クロックサイコもキン
816
?
﹁あのー、病室では静かに⋮⋮あと、その人重傷なのでできればあまり
!
ジ塔で待つと言ってそれきり姿を見せていなかった。この土壇場に
リタイアでは浮かばれない。
﹁⋮⋮なぁ、先生。どうにかならねぇか﹂
﹁無理ですね。ユノスダスの医療技術ではこれが限度です﹂
専門の医師が言うのだから、これ以上というのは有り得ないのだろ
う。その原因が銀鍵守護器官の強制摘出であるのはエヌラスも身体
を見て十分理解している。回路の損傷も酷く、再生は不可能と診断さ
れた。それは、つまり死刑宣告に等しく。
﹁今の俺は魔術が使えない。そういうことか﹂
﹁ええ。残念なことに﹂
ネプテューヌ達も覚悟していたことだが、改めて突きつけられるエ
ヌラスの身体状況に言葉が出てこなかった。
﹁完全に足手まといだな、こりゃ﹂
自分を客観的に観察して、自分のことをそう判断する程度の冷静さ
は失ってはいない。以前のように、無理矢理〝螺旋砲塔〟神銃形態で
両腕の回路を焼き切ったのとは理由が違う。そもそも精製と貯蔵が
出来ないのだから。アクセル・ストライクですら使用できない状態で
ある。エヌラスは気まずそうに言葉を探していたが、どうにもならな
いのだ。怪我そのものですら命に関わる状態で戦闘に参加すら出来
ない。今まで無理をしていたツケが全てやってきた結果が││コレ
だ。
無力感に苛まれて、それでも考えて、考えて。考え抜いて⋮⋮エヌ
ラスは、うなだれる。
何 も か も 無 く し て し ま っ た。大 魔 導 師 に 全 て 奪 わ れ て し ま っ た。
リ タ ー ン・ ザ・ ピ リ オ ド
当 然 の 報 い だ。自 分 は 大 魔 導 師 か ら 未 来 を 奪 っ た の だ か ら。
因果応報。天罰覿面。
﹁エヌラス⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮俺は、ここまでか。先生﹂
﹁そんな身体で戦おうとする精神力は認めます。が、無理です﹂
﹁⋮⋮俺は﹂
﹁〝諦めてください〟﹂
817
﹁││││││││││││﹂
何か言い返そうとして、それでも材料がなくて。エヌラスは何も言
い返せなかった。
無理なのだ。そう、戦えない。自分に出来るのは〝諦める〟しかな
い。それだけが残された。
空いた左胸を掴んで、そこに在るはずのものがなくなって、たった
それだけでエヌラスは何も出来なくなっている。脆くて、弱い人間と
して。
﹁ネプテューヌ、ノワール、ネプギア、プルルート⋮⋮﹂
﹁⋮⋮エヌラス。いいよ、分かってるから﹂
﹁そうよ、私たちに任せなさい﹂
﹂
違う││自分が聞きたいのはそうではない。言いたいことは、そう
ではないのだ。
﹁ここから先は、私達が頑張ります
﹁だからぁ、安心して∼﹂
﹁⋮⋮﹂
彼女たちは戦おうとしている。挑もうとしている。大魔導師に、妹
に。
それを止める是非もない。ただ、そこに自分が共に行けないという
ことだけが辛かった。
﹂
無力だと、言葉にされなくても言われているような気がして。
﹁ねぷちゃん達、ホントに行くつもり
﹂
﹁じゃあ、エヌラス。わたし達行ってくるよ﹂
﹁今までで一番きつい戦いになると思いますし、準備はちゃんとして
いきましょう﹂
﹂
ネプテューヌ達が中央病院を後に去っていく。ユウコとエヌラス
置いて行っちゃうよ
?
はそれを見送った。
﹁あれ、ぷるるん
?
818
!
﹁もちろん これ以上待っててもアダルトゲイムギョウ界が滅ぶだ
?
﹁そうならない為に私達がいるんだから、当然でしょ、ユウコ﹂
けだからね
!
!
﹁え∼っとねぇ∼、すぐ行くから∼﹂
﹁そっか。じゃあわたし達先に外で待ってるから抜け駆けしないでよ
﹂
﹁え∼。どうしよっかな∼﹂
﹂
﹂
頬を赤らめるプルルートは、うなだれるエヌラスの頭に手を置くと
髪を梳くように撫でる。
﹁よしよし∼﹂
﹁⋮⋮慰めてるつもりか
﹁そのつもりだったんだけどぉ∼⋮⋮イヤ、だった∼
﹁いや⋮⋮ありがとな﹂
﹁じゃ∼、あたしにもしてほしいなぁ∼﹂
﹁⋮⋮ほら﹂
﹁だからぁ∼、今度はあたし達がエヌラスの為に頑張るよ∼﹂
ニコニコと笑いながら頬を指を当てて。
張ってきてくれたから∼﹂
﹁ううん、いいよぉ。だってエヌラスはぁ、今まであたし達の為に頑
﹁プルルート、悪いな。最後に全部、お前達に押しつけて﹂
﹁えへへ∼﹂
うに笑った。
寝癖だらけのボサボサに跳ねた頭を撫でると、プルルートは嬉しそ
?
?
﹁お前達だって、頑張ってきただろ。お互い様だ﹂
819
?
episode129 指きりげんまん、嘘つけない
決戦の地は、どんな因果か九龍アマルガム。その地上焼土。かつて
トランジション
大魔導師とエヌラスが血で血を洗う死闘を繰り広げて消滅した土地。
神意なき場所に佇むのはミスカトル大時計塔が変 神した機械仕掛
の神にして、時計仕掛けの亡霊。大魔導師の最高傑作が立っていた。
その全長は見上げるほどであり、背丈にしておよそ六十メートル。
大時計塔の質量では成し得ない超魔導的、呪術的に精通した大魔導師
が成し得る偉業で作り上げられた異形。
﹂
ネプテューヌ達はユノスダスで一通りの装備を整えてから決戦の
地へと赴いていた。
﹁ねぇ、ぷるるん。エヌラスと何してきたの
﹁え∼っとねぇ。頭ナデナデしてもらってきたんだ∼﹂
﹁いいなぁ⋮⋮﹂
﹁それならわたしもしてもらってくればよかったなー。ずるいぞー、
ぷるるん﹂
﹁じゃあ∼、あたしがねぷちゃんなでなでする∼。な∼でな∼で∼﹂
﹁はぁ⋮⋮気楽でいいわね。これから大魔導師と決戦なのに⋮⋮﹂
﹁ま、まぁいいじゃないですかノワールさん。お姉ちゃん達らしくて﹂
﹁それもそうね﹂
ノワールが肩に止まった虫を払いのける。
﹁それにしても⋮⋮長いようで短かったわね﹂
﹁そうですね。一月もいなかったはずなのに⋮⋮﹂
ネプギアは自分の前を飛んでいた羽虫を追い払い、ノワールは足元
﹂
﹁虫⋮⋮というと、クロックサイコだよねぇ⋮⋮﹂
﹁あたしぃ、苦手∼﹂
820
?
に潜り込みそうになっていたムカデを避けて歩いた。
ノワール﹂
﹁⋮⋮ねぇ、私の気のせいかしら
﹁どうかしたの
?
﹁なんか、虫が多い気がするのよね﹂
?
﹁わたしもだよー、ぷるるん﹂
﹂
﹁というか、得意な人の方が珍しいと思うんだけど⋮⋮どうせ居るん
でしょ、クロックサイコ。隠れてないで出てきなさい
おどけてみせた。
にしている。クロックサイコは大仰に身振り手振りで嫌がる仕草で
まるで親友同士の気さくな挨拶に、ネプテューヌ達は警戒心を露わ
﹁やァ☆﹂
太い枝の上で人の姿に形作ると、そこから一人の魔人が現れた。
ノワールの言葉に応じるように、木の幹に虫が集まり這い上がる。
!
﹂
﹂
ただ僕が困る
﹁つれないなぁ、つれないネ。君達と戦いに来たわけじゃないんだヨ。
アナタが、私達に
ちょっと忠告をね﹂
﹁忠告
﹂
﹁そうだよ。なにかいけないことでも
﹁どうして
そうかな
どうだろうねぇ﹂
﹁どうしてかって聞かれると、どうしてだろうネ∼
だけってだけかな
?
音もなく着地する。
﹁それで。挑むつもりかい
あの大魔導師に﹂
るけれど解決じゃないのサ﹂
﹁それってつまり⋮⋮﹂
?
なぜなら大魔導師はこの聖戦、塔争から既に脱落してる
﹁大魔導師を倒しても世界の滅亡は止まらないってことですか
﹁ソウっ
﹂
﹁大魔導師はあくまでも始まり。終わりじゃないんだヨ。元凶ではあ
そんな考えはクロックサイコの落胆の吐息によって疑問が浮かんだ。
それにネプテューヌ達は頷いた。アレさえ倒せば全てが解決する。
?
どうすればこの戦いを終わらせることが出来るのだろう。塔争を。
﹁じゃあ、一体どうすれば﹂
しての地位も名誉も捨てて、国王という椅子すらも投げ打って。
だからこそ、そこに目をつけた。部外者としての存在に。神格者と
からね。エントリー外の乱入じゃ意味はないのさ﹂
!
821
?
ケタケタと不快な笑い声を挙げてクロックサイコは飛び降りると、
?
?
?
?
?
世界の滅亡を止める為には大魔導師という敵はあまりに強大過ぎた。
クロックサイコは笑いを堪えている。
﹂
﹁簡単サァ。この世界を司る大いなる〝C〟に挑めばいい。勝てばい
いのサ。簡単な話だろう
﹁それはそうだけど⋮⋮﹂
らしい。
生きてるかどうかは知らないヨ。バルド・ギア、アルシュベ
﹁ドラグレイスさんは
﹂
それさえなければ今頃はキンジ塔が出現していた。そういうこと
トが自分のシェアを使いきったことなんだけどネ∼﹂
して、キンジ塔を喚び出さなきゃ、ネ。計算外だったのはムルフェス
﹁その為には、まず神格者が持つシェアエネルギーをこの世界に還元
?
﹂
?
その目論見が外れて、クロックサイコは大仰に嘆いてみせた。
んだけど、ボクとしては
イト、そしてムルフェストがいなくなったことで出現する予定だった
﹁サァ
?
﹂
﹁嗚呼まったくヤんなるね。上手くいかないものだヨ﹂
﹂
﹁あなたの目的は何
﹁なんだと思う
?
﹁まぁ、エヌラスのおかげかな。諦めなかったら絶対になんとかなる
﹁アナタ、こんな時でもよく言えるわね⋮⋮﹂
考えてらんないなー﹂
﹁アレに挑むのかぁ⋮⋮説明不要なくらいデカすぎて、部位破壊とか
害になるだろうネぇ﹂
﹁だけど、どちらにせよ大魔導師はキミ達の前に立ち塞がる最大の障
びえ立つ巨人を見上げる。
肩をすくめて、壊れた懐中時計を見るとクロックサイコは遠方にそ
﹁そのままの意味サ﹂
どういう意味ですか﹂
﹁エヌラスさんに、正しく怒ってもらうって言ってましたね。あれは
﹁ぼかぁどっちでもいいじゃないか。時と場合によりけり、カナ﹂
﹁そうね。敵なの、味方なの﹂
?
822
?
よーノワール﹂
﹁はぁ⋮⋮そうね。主人公補正でなんとかなるんじゃない
﹂
﹁珍しくノワールさんがツッコミ放棄してる﹂
﹁どうしちゃったの∼
﹁でもどうしてアナタが持ってるの
﹂
﹁そうサ。彼はああ見えて手先が器用だからネ﹂
﹁これ、エヌラスさんが付けているのと同じ⋮⋮﹂
リングと瓜二つだった。
﹂
がら確かな存在感を見せる指輪は、エヌラスが身につけていたシェア
汚れを知らない乙女の純潔のような白さ。透き通るようでありな
の装丁には見覚えがあった。
マントの下から取り出したのは小箱。その中には指輪が四つ。そ
ら一つ贈り物をしようかな﹂
﹁いいね。いいねぇ。それでこそ、女神様☆ そんなキミ達にボクか
る。
│そう胸に誓うネプテューヌ達に、クロックサイコは小さな拍手を送
ちがボロボロになっても戦う番だ。絶対に諦めたりなんかしない│
まで共に戦ってきて、ここまで来れたのだから。だから、今度はこっ
きた。そのボロボロで、お世辞にもカッコいいとは言えない青年と今
がない。挫けそうになっても、折れそうになっても必ず立ち上がって
医者は諦めろと言っていた。だが、エヌラスが諦める姿を見たこと
じゃないかって思ってるの﹂
﹁ネ プ テ ュ ー ヌ と 同 じ よ。エ ヌ ラ ス に 感 化 さ れ て、な ん と か な る ん
?
もキミ達には関係がないだろうし、どちらにせよ敵に塩を送るのも悪
﹁そうだねぇ⋮⋮なぜ、と聞かれたら答えられないね。答えたとして
?
﹂
くないかな。まぁまぁいいじゃないか。キミ達に死なれてもボクは
困るのさァ﹂
﹁⋮⋮どうして
﹂
﹂
!
823
?
﹁彼には正しく怒ってもらいたいからね☆ じゃあ一足先にキンジ塔
?
で待ってるヨ∼∼
﹁あ、ちょ
!?
呼び止める暇もなく、クロックサイコはネプテューヌ達の前から姿
を消している。立っていた場所には四つのシェアリングを残して。
ノワールは小箱を拾い上げてシェアリングをひとつ手にする。注
意深く観察するが、何か仕掛けのようなものがあるわけでもなさそう
だ。魔術的な仕掛けも施されていない、まっさらな指輪。
〝エヌラスと、お揃いなのよね⋮⋮〟
そ う 考 え る だ け で │ │ ノ ワ ー ル の 視 線 は 自 然 と 左 手 の 薬 指 に 向
別に婚約指輪ってわけじゃないし
!
かっていた。頬が熱くなる。
〝や、やだ何考えてるのよ
くまでも装備よ装備
アクセサリ
装備欄
〟
!
﹂
指輪を取り、迷うこと無く左手の薬指に嵌めた。
﹁あっ
あたしぃ∼
う∼ん⋮⋮そうだなぁ∼⋮⋮﹂
﹁装備してみたけど、特に変化はないかなー。ぷるるんは
﹁え∼
プルルートはしばらく左手を見つめて、頬を赤らめる。
﹂
悶々と悩んでいるノワールの横からネプテューヌとプルルートが
!
け、けけけ結婚を前提にお付き合いしてるわけでもないしこれはあ
!?
﹁えーっと、お姉ちゃんが聞きたいのはそういうことではないような
気が⋮⋮﹂
そうは言いつつも、ちゃっかりネプギアも左手の薬指に指輪を付け
ていた。そうなると引くに引けないノワールはやはり同じ指に。
そんな疑問が浮かび上がるが、自分の薬指に付けている
装着してみても、確かに変化は感じられない。ただの指輪だったの
だろうか
まれた魔人の片割れであるエヌラスの妹││無尽蔵の絶望、ヌルズ。
大 魔 導 師。エ ヌ ラ ス の 師 に し て 全 て の 元 凶。も う 一 人。絶 望 か ら 生
塔が〝変神〟した時計仕掛けの亡霊。そのコックピットに坐するは、
を覆わんばかりの月を背負って立ちはだかるのはミスカトル大時計
そして、九龍アマルガム地表焼土にネプテューヌ達は辿り着く。空
というだけで特別な感情が湧き上がってきた。
?
824
!
?
﹁なんだかぁ、胸がポカポカして頭がホワァ∼って感じかな∼﹂
?
!
?
e p i s o d e 1 3 0 地 獄 の 沙 汰 も 金 次 第。こ の
世も所詮は金次第
﹁⋮⋮来たか、別次元の女神達﹂
﹂
その声は互いの距離など関係なく、ネプテューヌ達の頭に透き通る
ように聞こえてきた。
﹁コイツ、直接脳内に⋮⋮
銀の鍵を無理矢理引き剥
﹁いや、ちょっとした魔術の応用で声の通りを良くしてるだけだ﹂
﹁案外ノリが良い方なんですね⋮⋮﹂
﹁まぁ、それは良い。アイツはどうした
てもらうわ
﹂
﹁ええ、そうよ。だけど貴方が私達の前に立ち塞がる以上、押し通らせ
立ち尽くしていた。
ている。だが、まるで構える素振り一つ見せずに時計仕掛けの亡霊は
ネプテューヌ達はその言葉が終わるより先に変身して武器を構え
とも思えんが││キンジ塔はまだ出現しない﹂
がされた以上、それなりに身体に影響は出ただろうがな。それで死ぬ
?
うぞ﹂
時計仕掛けの亡霊が起動する。全身の歯車がギチギチと回り始め、
奇妙に噛み合いながらパープルハート達の前で拳を作ると、大きく振
り上げた。
﹁ウォーミングアップだ。コイツを上手く動かせるかは俺もまだ半信
半疑でな、上手く加減してくれよ﹂
﹁ああ、そう。なら準備体操で完膚なきまでにぶっ壊してあげるわよ
﹂
れていない内部機関へ向けて大剣を突き刺す。だがその刃先が内部
に到達することはなく、装甲の隙間を覆う見えない壁に阻まれてい
825
!
﹁それは殊勝な心掛けだな││ならば俺も相応の手合でいかせてもら
!
ブラックハートが振り下ろされる拳を軽やかに避けて、装甲に覆わ
!
た。パープルハート達も同様にかすり傷一つつけることが出来ずに
一度距離を置く。
﹁コイツをただのロボットだと思うなよ。俺が一世一代の浪漫を注ぎ
﹂
込んだ〝機械仕掛けの神〟なのだからな﹂
﹁この波長は⋮⋮シェアエネルギー
﹂
﹁ご明察だ、紫の女神。さしずめ、シェアシールドと言ったところか﹂
﹁シェアを世界の破壊に使うなんて
﹁ところが、だ。世の中には一定数、必ずいるものなのだよ。不思議で
はない。お前達の世界にもいるはずだ││世界の終わりを願う者が
な。コイツも俺も、その信仰心で動いている﹂
大魔導師の言葉でパープルハートの脳裏に浮かぶのはひとりの魔
女の姿だった。
手遅れかもしれない。いや、そんなはずはない。
お前達はその微かなシェアで俺達に挑むというのか﹂
ここで諦めるようなことなんか絶対にしないはずだ。あの人なら
ば。
﹁それで
﹁絶望的だろうがな﹂
確かに絶望的かもしれない。女神といえど、その絶対的な質量差は
覆せない。それでもと願い、想い、信じている。この状況を自分たち
ならば何とかできると。
どこかに必ず弱点があるはずだ。大魔導師も神格者と言えど、完璧
﹂
﹂
ではないはずなのだから。
﹁レイジーズダンス
﹁クリティカルエッジ
﹁ニコラ・テスラ﹂
クロックワーク・ファントムの体表を紫電が奔る。
い。
装甲を破ることは叶わなかった。届いているのかどうかすらも危う
を試みる。が、しかし異なるシェア同士の反発によって二人の攻撃は
ブラックハートとパープルハートの二人が剣撃を重ねて一点突破
!
!
826
?
!
﹁賭けるだけの可能性はあるわ、大魔導師﹂
?
指先から光球が放たれ、パープルハート達が避けようとするが追尾
を振りきれず、防御に転じた。弾かれるように吹き飛び、歯噛みする
間にも絶え間なく迫る光球が視界を白く灼き尽くす││。
││ユノスダス中央病院の一室へと向かうエヌラスに手を貸して、
ユウコは隣を歩く。時折、転びそうになる身体を支えていた。
病室に辿り着いて、ベッドに腰掛ける。その表情は、どこか遠くを
見つめていた。
﹁⋮⋮﹂
無力感に苛まれて、エヌラスは髪をかき上げる。ここまで来て、諦
めるしかないのか││最後は全部ネプテューヌ達に押しつけて、自分
はユノスダスでただ待つことしか出来ないのだろうか。
大魔導師も、ただひとりの妹も。クロックサイコとの因縁も。大い
なる〝C〟への挑戦も。まだやるべきことは残っている。こんなと
今のエヌラスじゃどう頑張っても、それこそ天地
827
ころで悠長に休んでいる場合ではないというのに。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
ユウコの顔を盗み見ると、口をへの字に曲げて腕を組んでいる。豊
満な胸を邪魔そうに持ち上げながらふんぞり返っていた。面白くな
さそうな表情で。
﹁なに考えてんだ、バカ﹂
﹁バカってなんだよ﹂
唐突に口を開いたと思えば罵倒が出てきた。訝しむエヌラスを余
所に、ユウコは続ける。
﹂
﹁まさかとは思うけれど病院を抜けだしてねぷちゃん達を追っかけよ
うとか思ってない
﹁止めとけよー
深々と息を吐いて、ユウコは更に続ける。
わっていない。
待っているわけにはいかないのだ。何故なら、自分の戦いはまだ終
そんなことはない、と断言したかった。だが本音を言えば、ここで
?
がひっくり返っても足手まとい以上にはならないんだから。迷惑か
?
けたくなかったらおとなしくしてろって﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
分かっていた。誰よりも自分の身体を理解しているつもりだ。な
のに、空いた左胸の鼓動がやけに熱い。無理だと言われて、諦めろと
言われて。これ以上はもう戦えないのだと専門家に宣告されて、この
体はまだ動こうとしている。無謀の極みに思わず鼻で笑ってしまっ
た。
﹁そうだな⋮⋮﹂
ここまで来たのだ││もう、いいだろう。そろそろ休ませてくれて
も⋮⋮。
﹂
エヌラスがベッドに身体を預けようとして、ユウコがその肩を掴ん
だ。
﹁ホントにいいの
﹁しょうがねぇだろ﹂
これ以上は無理なのだから、そう言おうとしていたエヌラスの襟首
を掴みあげてユウコが肩を揺らす。
﹂
!
脳 み そ 揺 れ る 俺 に 何 が 出 来 る っ て ん だ
﹁だから、ホントにいいのかって聞いてんの
﹁お い ば か や め ⋮⋮
﹂
!
!
回路が身体に影響を及ぼす損傷を負ったのだから、これほど深刻なダ
諦めんな
メージで何が出来る。複雑骨折した状態でスポーツするようなもの
だ。
﹂
﹁なんでだよ どうしてそこで諦めるんだよ、そこで
よ
いいか、俺は元々〝ただ
今まであんな無茶できたのも全部
の人間〟と変わらねぇんだよ
!
﹂
!
ラスと同じことが出来る。身体に埋め込みさえすればその機能は正
そう。無限の魔力貯蔵庫である銀鍵守護器官があれば、誰でもエヌ
てるやつなら誰でも出来るんだよ
俺ぐらいのことなんて銀の鍵持っ
〝銀鍵守護器官〟のおかげだ
!
﹁他人事だと思ってるから言えるんだよ
!
828
?
銀の鍵をただ無くしたというだけならまだいい。だが全身の魔術
!
!
!
!
しく稼働する。
誰でも出来
確かにそうだよ、銀の鍵があれ
﹁ただの人間が自惚れて、女神と対等になろうだなんて思い上がった
バチが当たったんだろうよ﹂
﹁神格者はその為の役職だろうが
ば誰でもお前くらい強くなれるさ、ああそうだろうよ
﹂
﹂
るかもしんないけど、でも、それでもエヌラス││お前は諦めなかっ
たじゃんか
出来るわけないだろ
﹁それぐれぇ、誰でも﹂
﹁出来ないよ
﹂
﹁テメェを前例に出すんじゃねぇよ
﹂
﹂
﹁誰でも出来るとか言ったの、誰 だ よ
﹁俺 だ よ
!
﹁諦めたらお前じゃないだろ
﹂
﹂
﹂
!
れんだ
﹁││││の、バカ野郎ッ
一緒に来い
ロボロで、満足に身体も動かせない奴が、アイツ等の為に何がしてや
!
!
﹁だったらどうしろってんだよ
銀の鍵も奪われて、魔術回路もボ
二人に睨まれたナースが涙目で病室から離れていく。
﹁あのーですから病院では静かに⋮⋮﹂
﹂
﹁銀の鍵があるからといってアルシュベイトと決闘とか私、無理だし
頭ごなしに否定されて、エヌラスは反論のタイミングを逃した。
!
!
!
!
!
庫。
﹁テッメ⋮⋮馬鹿か⋮⋮死ぬかと思ったろうが⋮⋮
!
﹂
﹁馬鹿は死んでも治らない不治の病だバーーーーカ
﹂
エヌラスが連れてこられたのは、ユノスダスの教会。その地下倉
しに突っ走っていた。
風患者の如く全身に激痛が走る。だがユウコはそんなことお構いな
していた。当然ながら重傷患者であるエヌラスには寒風を浴びる痛
言うが早いかユウコはエヌラスの腕を掴んで病室の窓から飛び出
!
!
829
!
!
!
!
﹁今すぐにでも殴り倒してぇ⋮⋮
﹂
それが叶えばいいが、今の身体では無理だ。ユウコが胸の谷間から
鍵を取り出して南京錠を外す。厳重な管理下にある地下倉庫に立ち
入るのはエヌラスも初めてだ。もしかすると以前は知っていたのか
もしれないが〝今回〟は初めてである。
長年開けられることのなかった地下倉庫の錠前が外され、地下の冷
えた空気がエヌラスに吹き付けた。そして、ユウコが灯りを点ける。
エヌラスは眼前に広がる光景に言葉を失った。
﹁お前、これ⋮⋮﹂
それは、犯罪国家九龍アマルガムがまだ可愛く見えるほどのおびた
だしい量が敷き詰められた違法薬物、違法改造車両、違法改造の銃火
器。九龍アマルガムがまだ発展途上だった頃に流通したような超特
級危険物までもが保管されていた。ここにある品々だけで一国を征
商業国家ユノスダスだぞ
何が必要なのか言ってみろ
﹂
出すもん出
金で全て解決出来
!
服するなど容易い。ユウコが得意げに腕を組む。
﹁お前、ここを何処だと思ってるんだ
﹁││││﹂
せばこっちも対価に見合う商品用意してやる
る国を馬鹿にすんな
金さえあれば命も安い商業国家舐めんなよ
?
年代物。その危険性はと言うと、それ一本で魂まで根こそぎ持ってい
かれるような高揚感と魔術的感覚の鋭敏化。使用した人間が僅か一
ガロンで廃人同然になる危険物。臭いだけでも一般流通品の百本分
に相当する。
イブン・カズイの粉薬││これも材料に遺体の埋葬された墳墓の土
を使用することから、墓荒しとして厳しく取り締まりされることから
入手は困難を極める。
偃月刀。霊的物質を高める装飾の施された弾丸。威力が高過ぎる
が故に採用の見送られた軍事国家アゴウの開発した超長距離支援火
カ タ コ ン ベ
砲。まさにアダルトゲイムギョウ界のパンドラの箱とも言うべき絶
望が所狭しと押し込まれた技術力の巨大墓地だった。
830
!!
高純度の黄金の蜂蜜酒、それもまだ法律が緩かった頃に製造された
!
!
!
!
商業国家ユノスダス。金さえあれば問答無用に合法違法問わずの
品が手に入る世界の台所。
831
e p i s o d e 1 3 1 金 無 し 職 な し 宿 も な し。そ
れでも残っているもの
ユウコがここに自分を案内したということは││その意図は分か
る。だが生憎と、今の自分は一文無しだ。一生払いきれないような金
銭額を要求されたとしても返せる見込みなどない。いや、そもそも以
前から支払いに駆り出されていた未払金の返済さえ満足に終わって
いるかも危ういというのに。
﹁ユウコ、悪いが││﹂
全部持ってけセーラー服
﹂
今日は世界滅亡キャンペーンだって。在
出血大サービス
今更何を悪びれて謝ろうとしてるのさ﹂
さが足りてない
﹂
そして何よりもォォォ││自分らし
!
まったくこれっぽっちも
!
理念理想気品優雅さ勤勉さ
﹁知ってるよ、それくらい。お前に足りないもの、それは││情熱思想
らユウコがエヌラスの肩を叩いた。
呆れた溜め息を深々とそりゃもう呆れ果てて、眉を八の字にしなが
!
﹁言ったろうエヌラスー
庫処分セールだ
﹁いや、女装趣味はねぇよ﹂
﹁んで
﹁買わねぇ﹂
﹁呪いのセーラー服なら裏路地の怪しい露店で売ってるけど﹂
!
?
ど知ってるわ
﹂
﹁職はあるっつの﹂
﹂
﹁だけど、なんだよ
くない
呆れるほ
!
今のお前はまるっきり、いつものエヌラスらし
﹁お前が金無し宿なし職なしなことぐらい知ってんだよ
﹁気品と優雅からはかけ離れてるが、勤勉さはあるぞ。状況次第で﹂
!
一筋の涙が流れている。泣いたり怒ったりと忙しい女だなと間の抜
薄暗くて見づらかったが、目を細めてユウコの顔を見ると頬を伝う
!
!
832
!
﹁俺は、金が無い。分かるだろ、それぐれぇ﹂
?
!
諦めないお前が
けた事を考えながら、どうして泣いているのか分からなかった。
やれよ
﹂
仕事なくても、幾ら
持ってけよ、全部
だけどさ⋮⋮
ま
諦めなかったお前だったから、今まで
﹁専門家に言われたくらいでなんで諦めるんだよ
だ戦えるだろ
ずっと好きだったのに、なのに⋮⋮なんで、この程度で諦めた
好きな私が馬鹿みたいだろ
!
!
!
!
﹂
お前のその、諦めの悪さ
宿がなくてもいいよ
﹁││││ユウコ⋮⋮﹂
﹁金が無くてもいい
!
自分に改めて尋ねる。そうだ、と胸を張れる自分がい
あるやつ。ありったけな﹂
﹁返してくれるなら、借りてけ。返せないなら持ってけー﹂
﹁んじゃ、貰ってくわ﹂
﹁まったくもう、こんな太っ腹な私は二度と無いんだからな
﹂
﹁ありがとな、ユウコ。そういうことなら遠慮無く借りてくぞ、ここに
女神達の為に。
好敵手〟と約束した││最弱無敵の英雄になれと。世界の為でなく、
せ ん ゆ う
だ か ら 今。こ こ で 自 分 が 折 れ る わ け に は い か な い。最 強 の 〝
だ。
最後は、ハッピーエンドでお別れしようと彼女たちと約束したの
を込めて。足掻いて、藻掻いて、どれだけ惨めで情けなくてもいい。
剣が折れても腕に括りつけて戦おう。矢が尽き、弾が尽きても骨肉
の体が動いて、壊れて、本当に指一本動かなくなるまで。
が れ な い。立 ち 止 ま る 暇 さ え な い の だ。あ と は 走 り 抜 け る だ け。こ
た。後悔が無いと言えば嘘になる。だが、ここまで来た以上は引き下
当にそうか
ネプテューヌ達の為にならこの命の全てを投げ捨ててもいい。本
悟だけだ。
改めて││地下倉庫内を見渡し、自分に足りていないものは戦う覚
外、自分も鈍い男だったのだと思い知らされる。
好きだと言われて、そう思われていたとは全く気づかなくて。案
だけはお前じゃなきゃどうしようもないだろ
!
!
でも紹介してやるから
!
!
!
!
見捨ててくれてもいいのに。何もせずともいいのに、ユウコは背中
!
833
?
を押した。エヌラスが何を考えているか、本当は彼女たちの傍に居た
いのだと知っている。
私は好き嫌いしないから全身にバランスよく肉が
﹁脂肪集まるの、胸だけじゃねぇんだな⋮⋮﹂
﹂
﹁あったぼうよ
つくの
﹂
?
﹂
弱点は〝ソコ〟しかなかった。
﹁こうなったら、コックピットを直接叩くわよ
﹂
﹁最初からそれで行ければ、苦労しないわよっとォ
﹂
る。しかし、所詮は巨大なロボット。機械仕掛けの神と豪語した所で
多種多様な魔術行使による攻撃に晒されて突破口が見いだせずにい
に劣勢を強いられていた。装甲表面を覆うシェアシールド。そして
パープルハート達は、大魔導師の操るクロックワーク・ファントム
い﹂
﹁ああ、頼りにしてる。俺が食ってきた中でお前の手料理が一番美味
エヌラスはユウコに顔を向けず、ただ親指を立てて見せた。
てやれるだけしてやる余裕、私にはあるから﹂
だから││いつでも来ていいからさ。キミの胃袋はいつでも満たし
﹁これだけは、忘れんな。うちじゃ衣食住、全部用意してやれるから。
﹁んー
﹁エヌラス﹂
ヌラスは見向きもせずに装備を吟味している。
照れ隠しに笑って見せるが、その頬が真っ赤になっていた。当のエ
私、尽くされるより尽くしたいし
﹁あー⋮⋮うん、まぁ、そのぉ⋮⋮エヌラスは、今のままでいいよ⋮⋮
なんでなけりゃ嫁に欲しかったよ﹂
﹁お前はホント、いい女だな。世界がこんなんじゃなけりゃ、俺がこん
!
う重力弾をなぎ払う。
して攻撃を未然に防いでいた。アイリスハートの蛇腹剣が周囲を覆
の 進 路 を カ バ ー す る 形 で パ ー プ ル シ ス タ ー が M.P.B.L を 連 射
光球を大剣で防ぎ、弾き返しながらブラックハートが先行する。そ
!
!
834
!
?
眼前までたどり着き、一気に叩こうとして││悪寒が走った。無防
備に晒される機械仕掛けの亡霊の首元にある搭乗席が開き、そこから
身を乗り出したのは鮮血の如く赤いドレスを纏った小柄な少女。エ
ヌラスの妹、絶望の令嬢、ヌルズ。スカートの裾を持ち上げて一礼す
ると、薄く微笑む。
﹁流石ねぇ、女神様達⋮⋮﹂
﹁退きなさい。貴方じゃなくて、用があるのは大魔導師よ﹂
﹂
﹁そうはいかないわ。だって、まだ兄さまが来ていないもの﹂
﹁どういうこと
﹁貴方達を倒すのは、兄さまが来てから。目を覚まさせて、打ちひしが
れて、絶望に帰依した兄さまを開放してこそなの﹂
﹁⋮⋮言っている意味が分からないけれど、私達を倒そうっての
上等よ﹂
﹁そうね⋮⋮﹂
﹁⋮⋮
﹂
﹁私や兄さまは、絶望。あらゆる人が願った、零の始まり﹂
く。
伸ばした。その刀身をまるで愛でるように指先でなぞり、触れてい
髪を弄りながらヌルズはブラックハートの突きつける大剣に手を
?
ね、私達が生まれた場所はその零すら無い次元││存在すら許されな
かった場所﹂
ヱンドゲイム
少女の手に浮かぶのは、双角錐。歪に輝く黒のトラペジウム。
﹁これは、私達の〝 終 焉 〟なの。兄さまも望んでる、終わりの終わ
﹂
り。始 ま り す ら 無 い 場 所 │ │ だ っ て 私 達 絶 望 を 貴 方 達 は 望 ま な い。
そうでしょう
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
エヌラスはそうかもしれない。絶望の魔人かもしれない。そうだ
とでは話が違う。
そうだ。少女の言う言葉に否定する材料はない。しかし、それとこれ
守護女神として。ゲイムギョウ界の女神としての役割を考えれば、
?
835
?
﹁分かるかしら⋮⋮守護女神とは間逆なの。女神は未来の為に。でも
?
としても、今まで隣で見てきたのは何一つ諦めなかった往生際の悪い
神格者。神に値する価値のある人間、神様候補生。
どうしようもない馬鹿で、度し難いクズで、ロリコンなのかもしれ
ない気があるが本人全否定の説得力皆無ではあるが││だが。
﹁絶望、ね。そうね。確かに私達守護女神はそれを望まないわ。ゲイ
ムギョウ界の為に、全てを無かった事にする絶望、ヌルズの存在を許
﹂
すことは出来ない﹂
﹁でしょう
﹂
﹁だけどね、あの人はヌルズなんかじゃない。私達が知っているのは、
度し難いクズでロリコンのエヌラスなのよ
﹂
やすい方がいいでしょう
﹁んー、そうねぇ⋮⋮ゼロクリスタルとでも名づけておく
わかり
言う通り、大剣を再度呼び出してブラックハートは改めて構える。
ない、私達の能力││無に還す。消滅じゃないわ﹂
﹁こういうことなの。シェアクリスタルでも、アンチクリスタルでも
がら笑った。
を見つめるブラックハートに、ヌルズはクスクスと口元を手で隠しな
の意思とは関係なしに武装が解除される。呆気に取られて自分の手
トン。ヌルズがブラックハートの大剣を軽く叩いた。すると本人
﹁ひどい言い草⋮⋮でも、それを知るほど兄さまと深い仲なのね﹂
!
?
﹂
﹁あら、別に不思議じゃないでしょう うふふ、だって私、兄さまの
﹁今の⋮⋮
体勢を整える。
ルズは手を添える形で受け流してブラックハートを投げた。空中で
体を逸らす形で更に避ける。切っ先を沈めた返し刃の切り上げをヌ
振り下ろされる大剣を軽やかに避けて、その後を追う薙ぎ払いを上
﹂
﹁そこを退いてもらうわよ
?
﹁嫌よ﹂
!
徒手空拳。得物らしい得物を持つこと無く、ブラックハートの攻撃を
ヌルズの手に纏うのは、黒い手袋││ただ、それのみ。素手。無手。
妹だもの。当然、こういうのは習ってても当然よ、女神様﹂
?
836
?
!?
凌ぐ。
アイリスハートが高速で振るう鞭の先端も一瞬だけ腕をしならせ
ると拳で弾いた。武術の腕だけで言うなれば、エヌラスと互角かそれ
以上。
﹁とんでもない妹がいたものね⋮⋮﹂
﹂
﹁古今東西、兄より強い妹は常識なのよ。守られるばかりじゃなくっ
てよ
パープルハートの剣筋に合わせて拳を打ち込み、掌打で太刀を逸ら
すと正拳突きが身体を吹き飛ばした。スカートの裾を持ち上げて頭
を下げる。
﹁はしたなくってぇ、ごめんなさい﹂
﹁なんか言い方がいちいちエロいわね⋮⋮﹂
だが、コックピットの間近まで接近したことによりクロックワー
ク・ファントムからの攻撃はない。大魔導師も出てくる様子はなかっ
た。
837
?
e p i s o d e 1 3 2 姉 よ り 強 い 妹 よ り も 誰 よ り
愛しい妹が欲しい
ヌルズ。エヌラスの妹の徒手空拳の実力はパープルハート達が予
想している以上だった。護身術で収まるレベルの技ではなく、活殺自
﹂
在な達人の手並み。
﹁食らいなさい
﹁やぁん、怖い﹂
素手と太刀が丁々発止。金属同士の衝突音はない。空気を切り裂
く音だけが流れ、鈍い打撃音と共に突き飛ばされる。その横からパー
プルシスターがビームを連射するも、赤い血の魔法陣によって防がれ
た。
﹂
﹁血風を放つ││断て﹂
﹁きゃあっ
撃にパープルシスターは動揺してクロックワーク・ファントムの胸部
装甲に落下する。すぐに体勢を直すも、続けざまに迫る血の鞭に捕縛
された。だが、ブラックハートが切断する。
﹂
ありがとうございます、ノワールさん﹂
﹁大丈夫、ネプギア
﹁はい
!
﹂
﹁ヤンデレ妹に愛され過ぎて世界がヤバイことになっているもの。ネ
清く正しく美しい姉妹愛しかありません
プギアは病んでないわよね﹂
﹁だ、大丈夫です
!
﹁いいわねぇ、ねぷちゃん達は妹がいて。アタシも欲しいわぁ、かわい
〝ユニ、大丈夫かしら⋮⋮〟
いた。
ラックハートもラステイションに置いてきた妹の顔を思い浮かべて
それを聞いて安心したのか、パープルハートが胸を撫で下ろす。ブ
!
838
!
一度だけ見せたエヌラスの変身、その時に使った血の魔法と同じ攻
!?
﹁しっかし、エヌラスもこんな妹でさぞ苦労したでしょうね⋮⋮﹂
!
い妹⋮⋮ふふ、何でも言うこと聞いてくれるような従順な子がね、欲
しいわぁ﹂
﹁な、なんだろう。物凄く寒気がする⋮⋮﹂
﹂
アイリスハートの視線が捉えられたパープルシスターはまるで蛇
ネプギアは私だけの妹なんだから
に絡み付かれたように背筋を強張らせる。
﹁だ、ダメよぷるるん
﹂
エヌラスは貴方のペットじゃないわよ
がいるからいいもの﹂
﹁ちょ、ちょっと
ん∼
﹂
﹁はーい、わかってるわよ。まぁアタシにはかわいいかわいいペット
!
!?
ほら、目の前の敵に集
﹁あらぁ、じゃあノワールちゃんの何かしら
﹂
﹁そ、そそそそんなの今は関係ないじゃない
中しなさいって
?
﹂
﹁な、なんで
いや確かに貴方を無視してたのは悪いと思うけれど
﹁楽しそうでなによりなんだけど││ムカツクわ﹂
である。髪を手櫛で梳きながら。
会話に、ヌルズは特にこれといった感情を見せずに眺めていた。真顔
パープルハート達の剣呑とした空気とは縁のない和気藹々とした
!
﹁筋金入りのブラコンね⋮⋮﹂
﹁だって私、友達いないもの﹂
その一言に、若干の間が空いた。
﹁貴方もノワールと同じぼっちなのね﹂
あとのせサクサクの天丼
あとこの流れ、序盤にやらな
デジャヴかしらこれ
﹁だから私はぼっちじゃないってば
かったかしら
﹂
!
握りしめた。
ゲフンゲフン、ブラックハートが咳払いを挟むとヌルズは拳を固く
﹁そ、そうね⋮⋮私としたことが取り乱したわ﹂
﹁ノワールさん、メタい発言はちょっと控えたほうが⋮⋮﹂
!
それだけで十分よ﹂
﹁蚊帳の外は別にいいの、慣れてるから。兄さまが私を見てくれれば
!?
!
839
!
?
!
!
!
!?
﹂
﹁だからちょぉっとだけ、本気出させてもらうわ﹂
けいふう
﹁来るわよ、ノワール
﹂
!?
き飛ばす。
﹁ブシドーの流派
嘘でしょ
叩く。その一撃に魔力を込めて放たれた衝撃はブラックハートを吹
気が抜けるほどリラックスした構えから、ほんの僅か一寸││空を
﹁心影流││〝勁風〟﹂
!
﹂
﹁そこ
利からパープルハートが隙を見つけて割り込んだ。
は紛れも無くエヌラスの妹であると知らしめられる。だが、手数の不
隙のない構えから、守護女神を四人相手にして遅れを取らない実力
﹁兄さまの見様見真似だけど、ねぇ﹂
!?
ターが踊り出る。
﹁ミラージュダンス
﹂
﹂
!
破れた衣装を見て残念そうに吐息を漏らした。
﹂
!?
お淑やかよ
﹂
﹁そ、そこまでエロくないわよ私
﹁アタシだってそうよぉ
﹁私は兄さま限定だけど﹂
?
﹂
﹁酷いわね、ねぷちゃん。オープンにエロいねぷちゃんよりアタシは
?
﹁お気に入りなのにぃ⋮⋮﹂
﹂
﹁⋮⋮既視感があると思ったら、あの子ぷるるんに似てない
﹁そうかしら
﹂
撃波が少女の小柄な身体を吹き飛ばす。しかし、軽やかに着地すると
刺さった。大剣を振りかぶり、上空から体ごと回転して叩きつけた衝
立て直しを図ろうとするヌルズに今度はアイリスハートの魔法が
﹁踊り子さんには触れないでほしいけれども⋮⋮
!
槍 で 挟 み 込 む。受 け 止 め ら れ て 出 来 た 僅 か な ラ グ に パ ー プ ル シ ス
パープルシスターに打ち込まれるはずだった掌打に、太刀の腹を横
﹂
﹁あら
!
﹁そうね。常時エロいぷるるんみたいよ﹂
?
?
840
?
﹁まさかの近親相姦
﹂
﹂
﹁こんな、ところで⋮⋮
﹂
﹁うぅ、絶体絶命ってヤツ⋮⋮
何とか出来る人がいるなら
助けに来てくれるって相場が決まってるんだからー
﹂
!
!
!
﹁そういうのは他人任せって言うのよ
呼んでみなさいよー
﹂
でもこういう時は、強力な助っ人が
トソードを手にして立ち上がろうとするが膝から崩れ落ちる。
全身が痺れ、思うように身体が動かないノワールが諦めずにショー
⋮⋮﹂
﹁女神様達もシェアがなければヒトと変わらないのね、名残惜しいわ
は途方も無く巨大過ぎた機械仕掛けの亡霊だった。
に倒れたネプテューヌ達を覆う黒い影││それは、人間が見上げるに
エネルギーが絶たれたことにより、変身が強制的に解除される。地面
ト達の身体に落ちた。ゼロクリスタルの力によって一時的にシェア
ヌルズが光球を叩く。それは紫電を赤黒く侵食してパープルハー
﹁心影流、魔導が崩し││〝春雷〟﹂
でいる。
止まり、体勢を崩したアイリスハートが見上げた空には光球が浮かん
ト達めがけて殺到した。防ぎ、避けて凌いでいたがやがて迎撃の手が
車が飛び出し、空中に留まったかと思うと次の瞬間にはパープルハー
クロックワーク・ファントムが再起動する。全身から大小様々な歯
﹁マズイわよ
飛んで来る重力弾に大きく吹き飛ばされた。
突風に晒されてパープルハート達が踏み留まろうとするが、続けて
去ね、女神﹂
﹁コックピット前で暴れ回られるとこちらも冷や汗ものでな。疾くと
﹁つれないのねぇ、大魔導師。まぁいいけれど﹂
﹁人語を喋れ﹂
﹁にゃおうん﹂
﹁いつまで遊んでる、令嬢。キャットファイトはそこまでだ﹂
ヌルズの背後、そのコックピットから大魔導師が姿を現す。
!?
!
!
841
!
﹁助けてーーーエヌラスーーーーー
ネプテューヌが声を張り上げた。
﹂
!!!
だらしねぇな
﹂
半ばヤケクソになったような叫びだったが、それでも││。
﹁あぁん
!!
声。
!?
テューヌ達を抱えて距離を取った。
どうしてここに
!?
した。
ヘリクス・カノン
﹂
だが、今のエヌラスにそんな力も、魔術回
﹁今のは││〝螺旋砲塔〟⋮⋮
エヌラスの魔術⋮⋮
?
直撃する。思わぬ衝撃で足取りが揺れた巨神はバランスを大きく崩
熱と冷温が混ざり合った砲撃がクロックワーク・ファントムの顔面を
言われるままに頭を手でガードすると、全身を焦がさんばかりの灼
﹁説明の前に、頭を低くしたほうが良い﹂
﹁お、オーナー
﹂
る。飛び出してきた影は殴りつけた勢いのままに着地すると、ネプ
クロックワーク・ファントムの脚部が軋んだ。表面装甲が凹んでい
﹁││
﹂
聞こえてきたのは、粗暴で野蛮で、凶悪な、猛烈に聞き覚えのある
!?
﹁うっせぇな、んなこた知ってんだよ﹂
かわたしはいつでもかわいいんだからね
﹂
﹁人のパンツ見ながら助けに来てくれるとは思わなかった
!
という
﹁おう、ネプテューヌ。今日のパンツはそれなりにかわいいぞ﹂
た。
〝螺旋砲塔〟神獣形態を解除すると、エヌラスは力なく笑ってみせ
黒のコートを羽織って、指先から血が滴り落ちている。その手から
コから紫煙を吐き出しながら││立っていた。
プル容器とペン型注射器を巻きつけて、今まで咥えていなかったタバ
ボロボロで、包帯だらけの身体を引きずって、両足の太ももにアン
何一つ諦めきれず、それでも尚手放そうとしない。戦禍の破壊神。
る。
路も無いはずだ。驚くネプテューヌ達が振り返った先に、立ってい
?
!
842
!?
﹁あ、うん⋮⋮なんだろ、否定されるどころか肯定されて反応に困る
⋮⋮﹂
起き上がったネプテューヌ達がエヌラスの傍に近づくと、顔をしか
める。
﹁う⋮⋮この、脳に直接響くアルコールの匂いってもしかして⋮⋮﹂
﹁おう。禁酒法が出来上がる直前に製造された〝黄金の蜂蜜酒〟だ。
﹂
ヴィンテージ仕様で今じゃ二度と手に入らない値打ちもんだ。これ
一本で軽く死ねる﹂
﹁そんなの使っちゃダメじゃないですか
﹂
﹁はぁ∼∼⋮⋮ダメだなぁネプギア。駄目だお前。全然駄目だ、いい
なんでですか
子すぎてダメだな﹂
﹁怒涛のダメ出し
﹁でも﹂
悪い子になってもいいんだぞネプギア﹂
﹁緊急事態の際は、多少の法律違反とか目をつむっていいんだぞ
!
だよ
﹂
﹂
﹁まぁ、そうさな。後は、ボウズに教授すべき技もある﹂
﹁大魔導師と⋮⋮
た、といったところかな﹂
﹁彼一人では心許ない、というのと││私自身の因縁の片を付けに来
見えなかった。
戦をくぐり抜けてきた初老の男性。しかし、そこに老いによる衰えは
している。気の良い喫茶店のオーナーというより、今の姿はまるで歴
それは、軍服だった。トレンチコートに、両腕には銀の籠手を装着
姿ではないことに気づいた。
起き上がったノワールがオーナーに尋ねようとして、いつもの制服
りも更に劣化が激しい状態にも拘らず。
スはプロセッサユニットの大半を失っていた。初めて出会った時よ
変神してもやはり銀の鍵を奪われた状態というのは厳しく、エヌラ
﹁なんか物凄い理論持ち出されちゃった
﹂
﹁世界の危機に火事場泥棒なんぞ気にしてたら女神なんかいらねぇん
?
!?
?
843
!?
!?
!
﹂
そしてオーナーは胸の内ポケットからノワールに封筒を渡す。
﹁これは
﹁なに、短い間だったけれどうちの店を手伝ってくれた謝礼だよ。そ
ういうのはキッチリしておきたかった、老いぼれのワガママさ﹂
﹂
見上げる先には、大魔導師。人狼局の伝説とまで言われた幹部と、
国王。
﹁久方ぶりだ、大魔導師よ﹂
﹁││〝銀狼〟シルヴィオか。老いたな﹂
﹁老骨に鞭打ってまで来たのだから、拳で語ることもあろう
銀の軌跡が流れる。
ブラストブリッツ
ブラストブリッツ
﹁〝銀槍葬送曲〟││絶唱の〝 舞 踏 祭 〟
カルネヴァーレ
﹂
抜けていく。トン、トン、タタン。刻まれる合間のステップが終わる。
銀の髪が跳ねる、跳ねる、駆ける。獲物を歯牙にも掛けず、ただ駆け
シルヴィオの姿が掻き消える。そこに銀の尾を残して。色あせた
﹁伝説と呼ばれた〝銀槍葬送曲〟、一曲奏でてやろうではないか﹂
た。
出される。銀の尾を引いて流れる姿はまるで狼の尻尾を彷彿とさせ
反射して綺羅綺羅と輝いていた。粉雪のように舞う中から拳が打ち
ギチッ││銀の籠手が唸る。腕を持ち上げると、銀の鱗粉が光を乱
く見ておけ﹂
﹁この歳ではラジオ体操の方が身体にキツくての。おい、ボウズ。よ
﹁それで身体でも慣らしてくれるか﹂
││つまりはゾンビの群れだった。
は腐乱死体であったり、五体の欠落している人だったモノであったり
崩落した九龍アマルガムの地表から、何かが這い出してくる。それ
代わりに﹂
﹁そ う だ な ⋮⋮ と、言 い た い と こ ろ だ が。生 憎 と 俺 は 手 が 離 せ な い。
?
レードの如く奏でられていく人体破壊の舞踏祭が終わる。
関節を砕かれておかしな人形のように倒れる者がいた。華やかなパ
爆ぜていく。中には首が斬られた者がいた。胴体が爆ぜた者がいた。
親指を立てて十字架を切った瞬間から、次々と動く屍者達の身体が
!
844
?
﹂
そこにはただ、銀の尾が鮮烈に焼きついていた。
﹁⋮⋮ゾンビ軍団とか目じゃなくねぇ
﹁好評発売中だ﹂
る。
てんだ。何言うかわかんねぇぞ俺﹂
﹁いや、酒とクスリとタバコがいーい具合に作用して軽くトリップし
﹁何言ってんの
﹂
ネプテューヌの思わず口をついて出た言葉に、エヌラスは首を傾げ
?
ノワールに言われて自分でも首を傾げていた。頭は大丈夫かと心
配されても仕方がない。
845
?
episode133 絶望に折れぬ剣
﹂
終始真顔で、どこか気だるそうにしていた少女の顔が歓喜に染ま
る。
﹁兄さま││ああ、兄さま。来てしまったの
それとは反対にエヌラスの表情はあくまで険しい。脳が悲鳴を挙
げてこめかみが痛い。頭痛が酷く、吐き気すらある。酩酊感に五感が
狂いながらも意識だけはハッキリと周囲の光景を認識していた。お
ぼつかない足元はまるで船酔いのように揺れ、魂は空へと飛び立って
いる。
﹁⋮⋮﹂
妹の名前を呼ぼうとして││そこで、自分がただの一度も妹の名前
を呼んだことが無いことに気づいた。両手を頬に当てて、少女は頬を
紅潮させて吐息を漏らす。
﹁ハァ⋮⋮素敵、兄さま。何も出来ないのに、何かをしようとして、そ
あの頃の兄さまは私に言うがまま、される
れでも進もうとあがく兄さまの姿はいつでも素敵⋮⋮﹂
﹁何も出来ない、ね﹂
﹁だってそうでしょう
だったじゃない﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁狭い狭いコックピットで、私と兄さまのふたりきり││嗚呼、思い出
すだけでも身体が火照っちゃう﹂
ポリポリとエヌラスは頭を掻き、タバコを吹かしていた。
﹁で も、だ け ど も う 兄 さ ま は 私 の 兄 さ ま じ ゃ な い の。こ の 世 界 に 染
いつかはきっと、いつかなんて甘
まってしまった。希望に穢れてしまった。だからもう、いらないの。
わたし
明日に向
!
絶望に、そんなのはいらないの
未来が憎い
!
!
輝望が憎い
い夢を見て、見せられて
﹂
かって生きる人達が││
!
﹁うるせぇよ﹂
!
846
?
がまま。ふたりきりで世界を滅ぼして回っていた、絶望の毎日はそう
?
まくし立てる妹に向かって、エヌラスは聞いていられないとでも言
いたげに不快な顔をする。
﹁こちとら酒、ドラッグ、タバコの三つで脳みそガンガンに揺らされて
立ってるだけでもキツイってのにそんな大声出すなよ、頭が割れる﹂
短くなったタバコを捨てて靴で踏みにじり、肩を回した。
﹁お前にはいらねぇかもしれないだろうな。夢もキボーも、何もかも
││だけどな。俺には必要なんだよ﹂
ネプテューヌ達に一度視線を戻してから、エヌラスは笑う。懐から
タバコの箱を取り出して一本だけ咥えて、指を鳴らして火を点けると
吸い込み、紫煙をくゆらせた。
﹁テメェが俺を見限るってなら、上等だ。絶望をくれてやる﹂
どうするつもり﹂
﹁だけどね、兄さま││今の貴方に〝機械仕掛けの神〟は使えないの
よ
確かにそうだ。
たかが人間ひとり。死にかけた男が来たところで何にもならない。
シルヴィオの方がまだ役に立っている。地下から這い出す群れを一
人で掃討していた。所詮は女神達に守られる足手まといの人間だ。
﹁エヌラス⋮⋮﹂
ノワールの心配する一声に、背中を押されて拳を作る。
│ │ も う 二 度 と、使 う つ も り な ど な か っ た。こ の 力 だ け は。し か
し、今はそんなことを言ってもいられない状況だ。
﹂
﹁使えないって決めつけてんじゃねぇぞ﹂
﹁││え
ゴォン││
﹂
!
全身が激痛に苛まれ、エヌラスの表情が険しくなる。足りない物を
証明。
向けに倒れた。巨神の一撃は、その拳のスケールが同等の質量を持つ
けてクロックワーク・ファントムがゆっくりと身体を傾けていき、仰
突如として現れたのは、機械の腕││不意打ちの一撃をまともに受
!!
﹁機神││招喚ッ
拳を引き絞り、クロックワーク・ファントムに向ける。
?
847
?
﹂
無理矢理補っているせいで本来の性能を引き出せないが、それが精一
杯だ。
﹁機械の、腕⋮⋮
﹂
﹁片腕一本で、何が出来る
﹂
﹁テメェの面をぶん殴れる。おら、行くぞォ
﹂
クロックワーク・ファントムが起き上がる。
たエヌラスにしてみれば機神の右腕は自らの半身と同様。
有しているということでもあった。極限状態まで感覚を鋭敏化され
が〝混ぜこぜ〟になっている。つまりは、そうなるまで深く感覚を共
アではなく、その中にゼロクリスタルとアンチクリスタルの力までも
奇怪な噛み合わせで作用していた。純粋な魔力ではなく、純粋なシェ
アと、致死量の魔術ドラッグで促された魔術回路で組み上げた術式は
破壊神││デモン・フリークス。ネプテューヌ達から与えられるシェ
時計仕掛けの亡霊、そのオリジナルは機械仕掛けの神にして戦禍の
る次元を渡り、あらゆる希望を粉砕してきた破壊神たる由縁の腕。
喚したのは機械仕掛けの神、その右腕一本だけである。かつてあらゆ
ネプギアと、プルルートが浮かべる疑問符の通り││エヌラスが召
﹁⋮⋮⋮⋮だけ
?
﹂
!
蜂蜜酒。一般流通している品とも、高純度の品とも一線を画する魔術
││〝生涯〟で通して摂取量が一ガロンと定められている黄金の
す。
もからアンプル容器を取り出すと蓋を指で押し割り、一息に飲み干
それに安堵して、エヌラスは二本目のタバコを吐き捨てて右の太も
焦がしながら蒸発して消えていった。
く。全身に銀の槍が突き刺さった動く屍者達はブスブスと肉を焼け
末が拳によって撃ち出され、群がるゾンビ達を針のむしろにしてい
鳴り響く銀の魔弾による軍歌。籠手から散りばめられる水銀の粉
﹁銀槍葬送曲││〝銃撃行軍協奏曲〟
ガ ン パ レ ー ド・オ ー ケ ス ト ラ
たシルヴィオは素早く身を翻してエヌラスの隣に並んだ。
に突き刺さる破壊神の拳。鈍重な金属音が響き渡り、足元で戦ってい
大魔導師の言葉に、エヌラスは拳で応えた。立ち上がる巨神の顔面
!
!
848
?
ドラッグはエヌラスの魂を確実に蝕んでいた。消化しきれない不純
物を流し込まれた血液が、臓腑が悲鳴を越えて絶叫している。それぐ
らい耐えろと己に言い聞かせて﹁無理なものは無理です﹂と応えてみ
﹂
﹂
﹂
エナドリ飲み過ぎで鼻血出るのと一緒 原稿
せる五臓六腑がエヌラスを吐血させた。
﹁エヌラス
﹁でぇじょうぶだ
締め切り前の徹夜と一緒
﹁計画性が無いからそうなるのよ
UMAだUMA
﹂
大体守ってる奴なんて生まれてこの方
伝説の生物だろそんなん
!
﹁あってもねぇような物だ
見たことねぇ
!
﹂
!
刀を握り締めていた。
﹁おい、変身しねぇのか
﹁無理やり解除されたのよ
﹂
?
﹁うふふ、そう
だって、あんなにも破滅的な兄さまは初めて見るも
﹁⋮⋮嬉しそうだな。楽しそうだな、令嬢﹂
んて││自殺行為以外の何でもないわ﹂
﹁見ての通りよ、大魔導師。片腕が限界なの。ましてやそれで魔術な
﹁まさか、召喚するとはな。あれはまともに動くのか
霊を動かすのは主に大魔導師だが、その補助として手を貸していた。
ヌルズは満面の笑みでコックピットに潜り込む。時計仕掛けの亡
その前に身体がどうにかなりそうだが、やるしかない。
﹁じゃあ、それまでどうにかしてやる﹂
﹁まだぁ無理そう∼﹂
﹂
﹂
神の腕が炎を掴んだかと思うと、横薙ぎに振り払って鍛え上げた偃月
魔刃鍛造、とはいえそのスケールは桁違いの大きさで行われる。機
﹁ヴーアの無敵の印において││力を与えよっ
心配するノワールを余所にして、エヌラスは新たに口訣を結ぶ。
!
!
!
?
ヌルズは操縦桿を握り、ゼロクリスタルをセットする。
魔導師﹂
愉しみで││どうにかなっちゃいそう。だから、手伝ってあげるわ大
の。どうなっちゃうのかしら、凄く楽しみなの。楽しみで、愉しみで、
?
849
!
!
!
!
!?
時計仕掛けの亡霊の身体に流れる動力が侵食され、シェアシールド
の内部で異変が起きていた。複層シールドを形成して盤石の如き防
御力を得ている実感に、大魔導師は驚いている。
﹁これもちょっとしたエナジーの応用なのよ、っと﹂
古今東西、妹より強い兄なんていないの﹂
﹁⋮⋮お前は兄よりも出来の良い妹だな﹂
﹁あらぁ、言ったはずよ
クスクスと笑いながらヌルズは操縦桿を動かす。大魔導師の動き
に合わせてクロックワーク・ファントムは動き出した。今ならば魔術
の使用に制限もないはず││そして、金色の十字架が携える。そのス
エヌラス││﹂
ケールはやはり巨神に合わせた規格外のサイズで構えられる。
﹁機神の右腕一本で、どう戦う
850
?
?
episode134 ひとりぼっちは寂しいもの
巨神同士の剣が衝突する。剣風だけで台風じみた突風が起きて吹
き飛ばされそうになるネプテューヌ達は身体を屈めて飛ばされない
﹂
ようにしていた。シルヴィオは逆にその風圧を利用してゾンビの群
れを掃討する。
﹁オ、オオオオォォォ
エヌラスが吼えた。鬼神の如き形相で叩きつける。偃月刀が金色
の十字架を払いのけ、切っ先が脚部の装甲を切断した。が、浅い。ま
だ内部の動力を破壊するには至らない。その上、片腕というハンデは
余りに大きい。クロックワーク・ファントムは左腕に光球を浮かび上
がらせる。
防御魔法を展開して防いでいる合間に十字架が核となる箇所を突
﹂
﹂
き崩した。ヒビ割れた防御に光球が叩きつけられ、崩壊する。
﹁クソッ
の右腕からも鮮血が溢れる。
﹁エヌラスさん、血が﹂
﹂
﹁怪 我 し て ん だ か ら 血 ぐ れ ぇ 出 る わ
いる。
﹁イア・クトゥガ
﹂
姿勢を崩した間にも機神の手には深紅の自動式拳銃を握りしめて
によって右肩と左足が大きく損傷した。
き││二つに増えて戻ってくる。背後から飛んできた二本の偃月刀
は偃月刀を投げ放つ。それを十字架で弾くとあらぬ方向へ飛んでい
ワーク・ファントムの肩口に打ち込んだ。後ずさる巨体に、エヌラス
傷 口 を 押 さ え な が ら 絶 叫 し て、振 り 払 う。拳 を 作 る と、ク ロ ッ ク
がぁぁぁ
あ ぁ ぁ ぁ イ ッ テ ェ ェ ェ ク ソ
十字架が機神の右腕に深く刺さった。それと同じくしてエヌラス
!
!
大砲のような銃声が響き渡り、衝撃が地面を揺らした。僅かに身体
!
851
!!
﹁相変わらず術式の基礎骨格が甘いな
!
!!
を逸らして避けた大魔導師は内心冷水を浴びせられたような心地で
損傷した箇所を修復する。
﹂
その背後で、小型の太陽が二つ。花火のように瞬いて消えた。
﹁大魔導師、右肩と左足が損傷してるわよ
﹁修復しろ﹂
﹁はいはい﹂
﹂
﹁油断してていいのぉ
﹂
﹁⋮⋮それは否めないな。バカの一念、神にも通ずか﹂
いのよ、大魔導師
﹁あの人は、バカだから。神に値するバカな人。バカにつける薬はな
が笑っていた。
ら発狂しているか体組織の構造が変異している。くすくすとヌルズ
とっくに身体が壊れてもおかしくない薬物乱用と消耗量。常人な
﹁しかし、どうなっている。あいつは不死身か﹂
?
﹁早く言え
﹂
ラーメッセージに、大魔導師は苛立った。
言い終わる前に、衝撃がコックピットを揺らす。吐き出されるエ
?
クロックワーク・ファントムはぎこちない動きで機体を制動しよう
とするが、その前に機神の裏拳で顔面を強打された。
﹁ふッ││﹂
構え、整息。体内の氣を練り上げて発勁。短い突きの挙動ではある
が、重心の安定しない体勢から大きく吹き飛ばされたクロックワー
ク・ファントムが仰向けに倒れた。
﹁そんなんじゃ転けちまうぞ、大魔導師﹂
こと、魔術に関する知識量では大魔導師に敵うはずがない。だが、
機械仕掛けの神を操ることに関してはエヌラスの方が日が長い。増
して、相手は初めて扱うのだから勝手も違う。とはいえ、手加減して
﹂
やる理由など無い。ここで徹底的に破壊する。
﹁⋮⋮これが、エヌラスの本来の力
?
852
?
ヌルズは捉えようのない笑みを浮かべながら操縦桿を握り直す。
﹁はぁいはい﹂
!
﹁こ ん な の ゲ イ ム ギ ョ ウ 界 で 使 わ れ た ら そ れ こ そ 一 巻 の 終 わ り だ
よぉ﹂
たった一時間に満たない戦闘で周囲の木々がたわみ、暴風に晒され
たようになっていた。周囲に何も残っていない九龍アマルガムの地
表 焼 土 だ か ら ま だ い い が、こ こ に 建 造 物 が あ っ た ら と 思 う と ネ プ
テューヌ達はゾッとする。片腕一本、それを振るうだけで教会もプラ
ネテューヌも何もかも壊されてしまう。
﹂
神格者、神に値する者。守護神であるはずの者達にひとりだけ破壊
神がいた。
バルド・ギアは想い人を。
アルシュベイトは国を。
ドラグレイスは夢を。
﹂
どぉらっせぇぇぇぇいッ
﹁エヌラス、ゲイムギョウ界でそれ使ったら絶交だかんねー
﹁テメェの為以外に使う理由がねぇ
エヌラスは、ただ目の前の対敵を破壊する。
れて数発が直撃する。装甲が抉れ、部品が撒き散らされた。それに合
転式拳銃を召喚すると迫る重力弾を相殺。だがリロードの隙を突か
大魔導師も不利を悟ったのか、距離を離して魔術を放つ。白銀の回
!!
!
あーあ、骨見えてるし﹂
ていく。それは治癒ではなく再生に近い。まるで高速で巻き戻して
﹂
﹂
いるかのような光景に、ネプギアとノワールの顔から血の気が引いて
いた。
﹁うわ、グロ
治したばっかだから超イテェよ
﹁塩とか塗りこんだら染みそう∼﹂
﹁やめろよ
!?
!
で燃焼させて空いた〝第二の心臓〟の代用を、己の肉体一つで補おう
としているのだから無理もない。爆発しそうなほど鼓動の早まる心
853
!!
わせてエヌラスの右腕からも血が吹き出し、顔をしかめる。
﹂
﹁ッテェなクソが
﹁ほ、骨
!
ゴッソリと抉れた腕の肉だったが、すぐに真新しい肉が傷口を覆っ
!?
エヌラスは疲弊していた、肉体的にではなく精神的に。魂を限界ま
!?
臓を左手で押さえ、酸素を求める肺に大きく息を吸い込む。朦朧とす
る意識と、赤く染まる視界を拭う。鼻血が止まらず、血涙までもが流
れ始めた。
それでもまだ、身体は動く。
魔術と剣撃の交差を繰り返し、損傷の都度、修復を繰り返す。そん
な泥仕合とも言えるイタチごっこの幾度目かに、ヌルズは嘆息した。
大魔導師に聞こえるように深々と。
〝このままじゃダメね〟
││兄が、まさか片腕だけの機神招喚を使うとは思いもしなかっ
た。使えるとも思わず、時計仕掛けの亡霊は苦戦を強いられている。
今一度、自分が握る操縦桿から伝わる機体の操作性を確かめて、違和
感の原因を探した。
流石は稀代の大魔導師、その魔術の知識量を最大に活かした機体の
構築。システム理論、全てにおいて神業の域でまとめ上げられてい
た。奇々怪々な程に組み上げられたこの機械仕掛けの神は、なるほど
確かに最強の機体だ。シェアエネルギーもゼロクリスタルも組み込
まれても問題なく順応している。
ならば、何が原因か││││ヌルズはチラと後ろを振り返った。
﹁駄目ねぇ、大魔導師。このままじゃ兄さまに負けるわ﹂
﹁何を言っている﹂
﹁そのままの意味よ﹂
大魔導師。九龍アマルガム国王、ネクロソウル。一度は兄の憎悪と
フルメタルデーモン
憤怒を一身に受けて敗北を喫している。あの時は、機神の右腕だけで
なく全身を招喚していた。
全身を真紅の血に染めた悪鬼羅刹の機神││ 装 甲 悪 鬼。
今の大魔導師は完璧なまでに生前と差異はない。その内面を構成
しているのが邪神の血肉である点を除いて。ならば、その思想や魂は
どうなのか。恐らく、まったくの別物だ。
﹁〝生前〟の貴方なら、話は別だけど﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ならばどうする﹂
854
﹁簡単よ。私が操縦するわ、だから貴方は降りて﹂
﹁バカを││﹂
言うな、と続けようとした大魔導師の言葉はコックピットを揺らす
衝撃によって遮られる。機神の一撃によって左腕が大破し、歯車や部
品を撒き散らしていた。すぐさま修復を始めるヌルズは呆れている。
ちょっと手を加
﹁残念だけど、機械仕掛けの神様を操作するという点では兄さまは私
達を凌駕しているわ﹂
﹁ならばどうする﹂
﹁ふふ⋮⋮簡単よ。私を、誰の妹だと思ってるの
えさせてもらうけど﹂
逡巡していた大魔導師の思考は、すぐさま最適解を弾き出した。そ
の考えに一も二もなく大魔導師は太鼓判を押す。
﹁⋮⋮積もる話もある。足元をウロチョロとする老いぼれた狼の相手
をしてくる﹂
﹁女神様達も余裕があればお願いねぇ。私から兄さまを奪った憎らし
い人達に変わりはないから﹂
大魔導師は操縦席から身を翻し、開けたコックピットから飛び出し
た。
狭いコックピットに一人残されたヌルズは深く吐息を吐き出す。
か
﹂
855
?
﹁⋮⋮兄さま。ひとりは寂しいわ⋮⋮ここは、ひとりで居るには寒い
わ
の⋮⋮理解って
?
episode135 バカが機神と翔んでいく
エヌラス達の前に、大魔導師││ネクロソウルは変神して着地し
た。機神の操縦だけで疲労困憊している前に、シルヴィオが庇うよう
﹂
に立ち塞がる。死霊秘術の魔道書によって生み出されたゾンビの群
れは余さず土へと還っていた。
﹁ウォーミングアップは済んだか
﹁朝飯前よ﹂
拳を鳴らす。
﹁おい⋮⋮ネプテューヌ、ネプギア、ノワール、プルルート⋮⋮爺さん
を、頼む﹂
﹂
﹁こっちもちょうど変身出来るだけ回復したわ。任せなさい、エヌラ
ス﹂
﹁はっ。頼りになるこった⋮⋮
ファントムを見上げる。
﹂
﹁ここは、私達に狭すぎるわねぇ、兄さま
きりになれる場所に行きましょう
だから、ちょっとふたり
ボタボタと右腕から滴る血を左腕で押さえながらクロックワーク・
!
﹂
うに右腕で掴むと巨神が宙へと浮かび上がった。
﹂
兄さま
その行く先には││接近している月。
﹁ハネムーンと洒落こみましょう
﹁ちょっと月行ってくるぅぅぅ││││
炎が巻き起こる。
先はシルヴィオだ。どこにでもあるようなステッキを一振りすると
それを見届けることなく、ネクロソウルはステッキを突き出す。矛
ざかっていく。
掴まれた機神の右腕に引っ張られるようにエヌラスはぐんぐん遠
!?
!
﹁そんな﹁コンビニ行ってくる﹂みたいな気軽さで言われても
﹂
らエヌラスは反撃の拳を突き出す。しかし、それを読んでいたかのよ
左腕をかざして、重力弾を生成すると動き出した。それを防ぎなが
?
!!
856
?
?
!
﹁ヴーアの無敵の印において││力を与えよ﹂
そして、大きく刃の反り返った太刀の如く偃月刀が鍛え上げられ
た。エヌラスに魔術を教えたのは他でもない大魔導師、なんら不思議
ではない。
ネプテューヌ達もまた、シェアクリスタルを取り出して変身する。
﹁大魔導師⋮⋮なぜ未来を悲観する﹂
﹁⋮⋮大いなる〝C〟へと辿り着いた者だけが理解できる話だ。シル
ヴィオ、お前の気に留める事ではない﹂
﹁そこに辿り着いた貴方は、一体何を見たと言うの﹂
﹁そうだな。言うなれば、虚無とでも。何もなかったのだ。意味など
無い、この俺に。俺達の世界に、アダルトゲイムギョウ界の未来に│
│この塔争にすらも﹂
﹂
自分たちの全てが徒労に終わると、神の摂理に宣
﹁全てが無駄だと言うの
﹁耐えられるか
何度乗り越えてきたのだろう、この絶望を。
何度繰り返したのだろう、この戦争を。
何度繰り返したのだろう、この戦いを。
悴し切った人の表情を浮かべている。
上最強の称号など何処にもなく、ただただ疲労し、疲弊し、摩耗し、憔
世界の全てを巻き込んだ自殺願望。そう語る大魔導師の顔には地
〝お前達の守ろうとする人など何処にも居ない〟﹂
だ。俺は、ようやく終われそうなんだ⋮⋮邪魔をするな、守護女神。
の だ。だ か ら こ そ 絶 望 を 望 ん だ。無 尽 蔵 の 絶 望 を。そ の 結 果 が コ レ
だ。そんな戦いの繰り返しに俺は飽きた。〝俺はとっくに諦めた〟
浅ましき無遠慮さも、何もかもがゼロへと戻る。振り出しに戻るの
﹁お前達が今日この日までしてきた苦労も。世界を救おうとするその
守護女神達は答えない。
告されて﹂
!?
絶望こそが救いだったのだ、大魔導師には。
﹂
857
?
﹁⋮⋮哀れね、大魔導師。未来を憂う、たったそれだけで貴方は絶望し
たの
?
﹁ああ、そうだとも。紫の守護女神﹂
﹁貴方はそうでも、エヌラスは違うわ。何故なら彼は、〝絶対に諦めな
い〟からよ﹂
﹁そう教えたのは俺だ。アレは神をも殺すバカだ﹂
声を殺して笑う。││思い出すのは生前、今際の際。
﹁俺を殺すほどにな。アイツの爆発力は尋常ではない。妹を殺され、
﹂
恋人をこの俺に奪われたアイツの怒りは間違いない﹂
﹁⋮⋮まさか、それを試すために
﹁ああそうだ。命を捨てるだけの価値はあったよ。間違いない。あい
つは〝神殺しの刃〟に成り得る程のバカだった。今、思い出すだけで
も身震いする﹂
全てを見境なく際限なく破壊する。復讐の憎悪に身を焦がし、何一
つ諦めなかったあの時のエヌラスは││破壊神として負の極限に
至った悪鬼。
﹁あの時は、俺という矛先があった。だからこそ、九龍アマルガムの地
表都市だけで済んだ。だが、今度はそうもいくまい。俺を殺しても止
﹂
まらないのだからな。今度のアイツは││次元すら破壊するだろう﹂
﹁貴方の目論見が、上手くいくかしら
﹂
!
みせます﹂
﹁当然でしょ
だってアタシ達ぃ、女神様なんだもの
﹁私達は、アダルトゲイムギョウ界も、私達のゲイムギョウ界も守って
﹁その為に││お前達には消えてもらわなければならない﹂
?
クハートの大剣と火花を散らす。パープルハートの太刀と幾度とな
く衝突し、パープルシスターの射撃を防ぎきる。
シルヴィオの籠手と刃がせめぎ合う。
﹁まっこと、哀れよの。国王⋮⋮九龍アマルガムの成長を共に見届け
てきた身として同情の念は禁じえんよ﹂
﹁俺は、救われない。だからこそ、この道を選んだのだ。俺を止められ
﹂
なかった貴様らの敗北は決定的だぞ﹂
﹁果たして、そうかな││
?
858
?
ネクロソウルの偃月刀とアイリスハートの蛇腹剣が交差し、ブラッ
?
ニヤリと口端をつり上げるシルヴィオの拳が、ネクロソウルの腹部
を強打した。
﹁貴様は、何故だ。銀狼よ﹂
銀槍葬送曲・遥かな嘆き
ブ ラ ス ト ブ リ ッ ツ・ フ ァ ー ク ラ イ
﹂
﹁人間というのは老いると若い者に縋りたくなるものよ。年金とかで
の﹂
﹁生々しいな⋮⋮﹂
﹁だからこその、人間よ
す。
﹁プレシャス・ストリーム
﹂
ラックハートが身体を独楽のように回転させながら大剣を振り下ろ
空間を掌打で叩く。銀の壁がネクロソウルの偃月刀を受け止め、ブ
!
もしかして﹂
で私は今まで戦って来れた﹂
﹁だから、オーナーさんは大魔導師とも互角に
﹂
えるシェアエネルギー。守護神にも至る力を得られるコレのおかげ
﹁そう。私の籠手にはシェアブラッドが貯蔵されている。人間にも使
れた。
ると、それは自分たちの持つシェアエネルギーとは別な波長が感じ取
シルヴィオの拳から放たれていることにブラックハートが注視す
﹁これは⋮⋮シェアの欠片
人が離れた。その後を追うように光の欠片がパラパラと舞い散る。
互いのシェアエネルギーがぶつかり、やがて弾かれるようにして二
!
?
﹁如何にも。真正の吸血鬼ともこれで対等に渡り合えた﹂
?
果たしてその老いぼれの身体がどこまで持つか﹂
﹁吸血殲鬼とは言われたものだな。一心不乱に吸血鬼を殺し続けてき
たお前の伝説﹂
﹁シ ル ヴ ィ オ。後 は 私 達 に 任 せ て ち ょ う だ い。も う 銀 槍 葬 送 曲 は │
│﹂
﹁いいや﹂
859
!
﹁だが、お前の使う銀槍葬送曲。水銀の粉末とシェアブラッドを兼ね
﹂
たものだろう
﹁││
?
ネクロソウルの言葉に、シルヴィオは否定も肯定もしない。
!
静かに首を横に振る。穏やかな表情をしていた。
﹁この葬送曲は、亡き者達に捧ぐ鎮魂歌だ。九龍アマルガムは私の故
郷だ。私が生まれ、育ち、そして捨てた故郷だ。この葬送曲は、貴方
の為に奏でるのだ││大魔導師。もう二度と、地獄から這い上がれん
ようにな﹂
﹁俺にとってはこの生涯こそが地獄だ。どうせ鳴らすのならば﹂
﹂
貴
ネクロソウルが掲げるは金色の弓矢。そこに束ねた矢は無数に分
裂して射出される。金と銀の軌跡が光速で撃ち出される。
﹂
﹁黙示録のラッパでも鳴らしてくれれば、この俺の魂は安らぐ
様の子守唄など、俺には雑音でしかない
大魔導師
﹁どうせフーフー吹くなら、ファンファーレにしてほしいものね
!
弾かれるように後退り、それを追うようにネクロソウルが接近し
して防ぐと、高速の剣撃が二人の間を疾走る。
壊され、そこへパープルハートが一気に距離を詰めた。偃月刀を錬成
パ ー プ ル シ ス タ ー の 放 っ た M.P.B.L に よ っ て 金 色 の 弓 が 破
!
!
た。それを待っていたとばかりにパープルハートは太刀を構える。
﹂
﹂
やってくれる
﹁ネプUスラッシュ
﹁ッ
!
!
が離脱しようとして、ガクンと何かに引っ張られるように動きを止め
﹂
た。その足に黄色の布が巻きついている。
﹁返礼するぞ。クトゥグア
﹁くっ⋮⋮
さすがに、エヌラスの師匠というだけはあるわね﹂
丸は、防御など意味を為さない。
トのプロセッサユニットは損傷していた。破壊力だけを追求した弾
太刀で銃弾を防ぐが、爆発に呑まれて大きく下がったパープルハー
!
すら与えてくれはしなかった。
そこでふと、月を見上げようとするが││ネクロソウルはそんな暇
!
860
!
神速の踏み込みから放つ十文字斬り。斬り抜けたパープルハート
!
e p i s o d e 1 3 6 諦 め な け れ ば 試 合 は 終 わ ら
ない
││月面へと叩きつけられそうになったエヌラスは防御魔法を可
能な限り全力で構成し、衝撃を防ぐ。源泉でも掘り当てたような土煙
が噴出し、全身を砕かれたような衝撃を無理やり意識の外側でかなぐ
り捨てて立ち上がる。
﹁シェアエネルギーが無けりゃ、即死だった⋮⋮﹂
とはいえ、その衝撃で変神が解除されてしまった。周囲を見渡す限
りの赤い建造物。見上げればそこには満天のアダルトゲイムギョウ
界。多分、途中で宇宙とか通過したのだろうがどういうわけか死に至
らなかった。案外放射線とか生身でもどうにかなるものなのかもし
れない。但し、シェアエネルギーがあるときに限る。
に笑っていた。
﹁ゴーストタウンより、俺は賑やかな方がいいね﹂
﹁此処なら邪魔は入らないわ⋮⋮そうでしょう﹂
﹂
確かに、そうだ。ムルフェストはもういないが、遠慮無く破壊させ
てもらおう。機神の右腕を構えた瞬間に、エヌラスの背筋を悪寒が
走った。それは目の前の亡霊から。
コックピットから闇が溢れだす。その下を這うように赤い血管が
861
﹁マジで月に来たのか⋮⋮﹂
膝が笑う。左足の太ももからペン型注射器を取り出すと、キャップ
を外して中身を確認する。黄金色の液体を首筋に直接打ち込み、注入
すると血管を焼き焦がすような激痛が全身に流れ始めた。
暴走する血液を脳の冷静な部分で制御して、どうにか意識を保つ。
無人の国。吸血姫が自ら滅ぼしたという異例の国家。
血のように赤い国。私達に相応しいと思わない
月面国家、ナナイト。ムルフェストがかつて治めていた国である。
﹁どう、兄さま
?
クロックワーク・ファントムから身を乗り出した妹が心底嬉しそう
?
侵食していく。
﹁ごめんなさいねぇ、大魔導師
﹂
合わないの﹂
﹁お前⋮⋮
得ない現象。
貴方の浪漫は、ちょっと⋮⋮私には
﹁そうねぇ││兄さまみたいに言うなら、こう、かしら
トランジション
ヌルズはゼロクリスタルを掲げ、宣誓した。
?
復讐神へと。
血のように紅い装甲。竜の翼を広げた人型。
﹂
ウ
ス・
マ
キ
ナ
﹂
チクショ
リヴェル・レギルス。初めてにしては、上出来だとは思わない
兄さま⋮⋮これが私の救いの神、〝機械仕掛けの神〟││
デ
未来を殺す亡霊ではなく、世界を恨み、妬み、呪い、絶望へと落とす
果たして、時計仕掛けの亡霊は神化する。過去の清算をするために
﹁変・ 神 ││﹂
﹂
装甲が歪み、ひしゃげ、折り畳まれていく。それは超常でしかなり
バギン││バギ、ゴキ⋮⋮。
﹁だから、ね。〝創り変えさせてもらう〟わ﹂
?
押し通る
﹂
ずぅっと⋮⋮世界が壊れて無くなってしまうまで﹂
﹁悪いが、俺の未来は予約済みだ
﹁そう。じゃあ⋮⋮きて、兄さま﹂
!
!
!
﹂
全身の氣を練り上げて踏み込んだ拳を、リヴェル・レギルスは片腕
で受け止めた。
﹂
﹁〝極冷温〟ゼロ・ドライブ
﹁ちッ
!
を避ける。
私はここ
﹂
此処にいるの、ふふ││アハハ
!
全部、ぜんぶここにあるから
﹁忘れないで、兄さま
ハハ
!
!
エヌラスは悪寒と共に機神の右腕を引き戻し、白く凍てついた手刀
!
!!
862
!
﹁⋮⋮ああ、最高だ。最高にクソッタレなジョークだよ
ウ
?
﹁どう
?
﹁じ ゃ あ、兄 さ ま。遊 び ま し ょ う。ふ た り っ き り で、ず っ と ず っ と。
!
金色の十字架を携える真紅の機神に、エヌラスは歯噛みした。偃月
刀と激しくぶつかり合い、その度に衝撃で建物が崩壊していく。
大魔導師の術式によって構成された時計仕掛けの亡霊を、独自にア
﹂
レンジした機体はそっくりそのまま大魔導師の魔術を使用していた。
﹁〝天狼星〟
﹂
﹁壊れそうになる兄さまも素敵よ⋮⋮﹂
瓦礫が憤怒する。
﹁おおおおおおおおおおおおお、らァァァァッ
!!
﹂
!!
構えた。
!
﹁ニコラ・テスラ
﹂
あらゆる物質が溶解し、凍結し、融解して崩壊した。
破壊の奔流がナナイトの城下町を灰燼に帰す。通過するだけでも
﹁〝螺旋砲塔〟神銃形態ッ
﹂
教会を崩壊させながら機神の右腕は杖とも砲ともつかない物体を
﹁だけど、立ち上がる兄さまはもっと素敵っ
﹂
ピクリとも動かない機神の右腕に、ヌルズは熱い吐息を漏らした。
吸 血 姫 の 根 城 を 破 壊 し な が ら エ ヌ ラ ス は 瓦 礫 の 布 団 に 埋 も れ る。
のはナナイトの教会。
防御魔法が間に合わず、重力弾に吹き飛ばされた身体を受け止めた
重力弾が鉄砲水のように押し寄せる。
ように構えた真紅の機神。前面を覆わんばかりに展開された無数の
空中で態勢を整えようとするエヌラスが見たのは、両腕を突き出す
が大きく宙を舞う。
割れる。そこにさらに金色の十字架が叩きこまれてエヌラスの身体
を打ちのめした。激痛で乱れた呼吸が術式を弛め、機神の右腕がヒビ
数発がエヌラスの至近距離に突き刺さり、瓦礫が木の葉のように身体
深紅の自動式拳銃を召喚して矢を撃ち落とす。だが、撃ち漏らした
﹁ぃヤッベ
!
た。既に機神の右腕は冷厳な白い回転式拳銃を握りしめている。そ
決死の一撃を相殺させる。だが、その足と羽を白銀の魔弾が撃ち貫い
全身から放たれる赤と黒の交じり合った稲妻がエヌラスの放った
!
863
!?
﹂
!
の指先からオイルを流しながら。
痛いわ
!
そして悦びやがれェェェェ
イタァイ、兄さま
叫べ
﹂
!!!
﹁アッハハハハ
﹂
﹁痛くしてんだよ、泣け
﹁重縛結界
!
く。
!!
﹁兄さま、痛い
痛いでしょう
﹂
﹂
﹁ったりめぇだバカかテメェはバーカ
ガバにしてやろうかぁ
!!
!?
﹁兄さまぁぁぁぁぁぁぁぁッ
﹂
管が破裂して魔術回路が焼き切れる。
イニング・インパクトで左肩から焼滅させた。その反動で幾つもの血
滅茶苦茶になった右手でリヴェル・レギルスの顔を殴りつけ、シャ
!
ケツに手ぇ突っ込んでガバ
ロ・ドライブが機神の右手を破壊する。
み、崩落させた。全身が結界から解放されて呼吸をしたその瞬間、ゼ
偃月刀を召喚して、逆手に構えた状態から核となる術式に差し込
﹁ガッ、アアアア││
﹂
刻な損傷はエヌラスの右腕にも同調し、骨から直接軋む音が脳に届
面から支えるが、圧倒的な過重に耐え切れず機体にヒビが入った。深
力操作による結界がエヌラスを大地に押し付ける。機神の右腕で地
黒煙をあげる機体の損傷など気に留めず、大魔導師が得意とする重
!
!
?
﹂
助けに行きたかった。止めてやりたかった。力になりたいと思っ
いに。
ら生まれたはずなのに、血で血を洗う殺し合いに。本気の命の奪い合
言葉を失う。ひたすらに熾烈で苛烈な兄妹の戦いに。共に絶望か
に。
絶句していた。ただただ呆然とその戦いが巻き起こす戦禍の規模
﹁││││││││││﹂
見えていた。
機神の拳が衝突する││その爆発は、地上で戦う守護女神達からも
﹁おおおおおおぉぉぉぉぉッ
!!! !!!
864
!!
た。だが、此処から月までは遥かに遠い。自分たちが飛んで辿り着く
かどうかさえ分からない。信じるしかなかった。
あの人は絶対に諦めない。だからこそ、ここまで来れた。
笑って、別れるのだと約束したのだから、自分達も負けていられな
い。
ネクロソウルにパープルハート達は刃を向けた。
││ナナイトは名目上、崩壊していた。そして、エヌラスとヌルズ
との戦いによって名実ともに崩壊した。
機神の右腕は、内部フレームが見えるほど壊れている。エヌラスの
右腕も同じくして。
愉しいわ、兄さま⋮⋮
﹂
対する、真紅の機神。左半身、半壊。両足が欠落し、動いているの
が不思議なほどだった。
﹁あァっ⋮⋮はぁ││ッ
だった。
〝││││││お、れは││││
〟
ど う し て 自 分 が 生 き て い る の か。立 っ て い ら れ る の か が 不 思 議
れる。心臓の鼓動すら今は遠くに聞こえた。
い込むと咳き込み、こぼれ落ちた。ボタボタと眼と口と鼻から血が流
奥から干からびるような感覚に息が詰まる。タバコを咥え、一息に吸
器で血管に打ち込む。これで都合三度目の服用だ。手先が震え、喉の
エヌラスはアンプル容器から黄金の蜂蜜酒を摂取して、ペン型注射
まるで絶頂にでも達したかのような、ヌルズの熱い吐息が漏れる。
!
〝チックタック〟と時計の針が動く音に、損傷が直っていく。それ
しかし、その目の前で真紅の機神に異変が起きる。
ラスは意気込んだ。
を無理やり畳み込んで作り上げた拳は不格好だが、確かな感覚にエヌ
右腕を動かす。指を折り、拳を作ろうとする。歪にひしゃげた装甲
!
﹂
はやがて、間もなく全てを元通りにした。
﹁さぁ、兄さま。続けましょう
﹁││││││⋮⋮⋮⋮﹂
?
865
!
絶望が立ち塞がる。諦めそうになる膝を奮い立たせて、天を仰ぐ。
そこでは、守護女神達が戦っていた。ひとりの国王を相手にして、
ようやく互角の戦いを繰り広げている。
彼女たちが、戦っている││負けるわけにはいかない。折れるわけ
にはいかない。諦めるわけにはいかない。
崩壊が進んだアダルトゲイムギョウ界は、電脳国家インタースカイ
が消失していた。軍事国家アゴウが消失していた。バルド・ギア。ア
ルシュベイト。九龍アマルガムが崩壊していた。
そんな中で唯一無傷に近い、商業国家ユノスダスが目に映る。
〝⋮⋮⋮⋮⋮ユウ、コ││││〟
こんなにも意識は遠く、身体は冷たいのに。それでもまだ心が叫ん
でいる。
彼女達を守るのだと。
私
構えるエヌラスを見て、ヌルズは笑わなかった。ただ冷たい瞳が天
ラスだったが、違った。
重力が収束されていく。
﹁私は、ただ兄さまの隣にいたかった
兄さまが傍にいるだけでよ
なのに、それなのにこの世界が兄さまを輝望で穢した
何も無かった私に与え
!
かった
﹂
絶望するだけでこんなにも救われるのに
﹂
られた唯一のヒトなのにィィィィッ
﹁││やめ、ろ⋮⋮
!
!
!!!
一切合切の色を赦さない黒。
一点に集中された重力はやがて黒い点となった。光すら飲み込む
る。だが、それは叶わない。
魂が凍りつくような悪寒が走り、エヌラスは思わず止めようとす
!
866
を仰ぐ。
﹁││そう。あれが兄さまを穢す輝望なのね⋮⋮﹂
真紅の機神が宙へと舞い上がった。
﹂
﹁兄さまには、私がいるのに。兄さまは私だけの兄さまなのに
は││
!
リヴェル・レギルスが腕を宙へ掲げる。重縛結界かと身構えたエヌ
!
!
﹂
希望を逃さず食らい込む絶望の虚無。
﹁私を││││
エヌラスは喉が潰れるほど叫ぶ。吼えていた。最愛の妹が言おう
とした言葉をかき消すほど、天へと届かんばかりの絶叫。
手を伸ばそうとして、あまりにも遠くて届かない。
それなのに、ぶっ壊れた身体の朦朧とする意識だけは鮮烈に地上の
景色を望遠鏡のように拡大していた。
││ユノスダスでは、世界滅亡キャンペーンという頭の悪い国王が
開催したセール準備に街中がお祭り騒ぎだった。当然ながら国王も
それに参加しようと、教会にある押収品を片端からひっくり返して出
店している。それに反発しない国民はいないわけで、現在教会前では
国王がブーイングの嵐に笑顔で対応していた。
吸血鬼とは思えないほど、太陽より眩しい笑顔がそこにはあった。
目があった気がする。それは、何の前振りもなく迫る自分の最期を
悟ったように笑っていた。
その笑顔が鮮烈に目に焼き付く。唇が動いていた。
││何をしているんだ、早く逃げろ。聞こえるはずもない声で叫
ぶ。
笑って、空に向かってピースサインさえしている。まるで自分がそ
﹂
こにいることを知っているかのように。
﹁ユウコォォォォォォォォォォッッ
を背け続けて。
ユウコもまた神格者であり、この塔争の参加者のひとりであると目
と。そうして、キンジ塔に行って、全部終わらせようとしていた。
だと。泣きながら怒る胸と態度のデカイ吸血鬼と押し問答するのだ
に転がり込んで、病室に押しかけてくるユウコと互いに軽口を叩くの
また、帰るのだと。いつものようにボロボロになりながら中央病院
ダルトゲイムギョウ界から消えた。
せられたのでもなく、まるで最初から何も無かったかのように││ア
き込まれたわけではなく、シャイニング・インパクトによって焼滅さ
次の瞬間に商業国家ユノスダスは〝消滅〟した。世界の滅亡に巻
!!!
867
!!
〝なんとかなる〟と思っていた。誰か一人くらい見逃してくれる
かもしれないと。キンジ塔の出現も、大いなる〝C〟への挑戦権も。
コンシューマ
ユウコを見逃してくれるだろうと。
この世界は、全年齢ほど甘くはない。
868
e p i s o d e 1 3 7 甘 い モ ノ と 楽 し い こ と は 別
腹
エヌラスが伸ばした手の先で、漆黒が広がっていた。決して届かな
い先にあったはずの希望が、灯りが全て消し飛んでいる。守ろうとし
て、守れなくて。それでも諦められなくて、歯を食いしばって血を流
し、涙を流して嗚咽を殺し、ひた憎む。憎む。そこにいるのは最愛の
妹のはずなのに。
機神の右腕を振りかぶり、真紅の人型に叩きつける。
受け止めたはずの片腕が紫電を散らして肘まで粉砕されて、ヌルズ
は嗤う。その灼熱の痛みを受け止めて。痛覚よりも快楽が勝ってい
それでもまだ輝望に縋るの、兄さま
る。最愛の兄の一番大切な物を壊してしまった。
﹁守りたくて 守れなくて
﹂
薬はない。
﹁どうして
﹂
﹂
﹂
ヌラスの腕も酷い凍傷を負うが、構わず肘で殴りつける。怒りに勝る
ヌルズは憤怒の表情で拳を受け止め、極冷温の手刀で粉砕した。エ
﹁││どうして
ユノスダスにはなんの罪もないはずだ。自分とは違う。
返せ。もう取り戻せないものを、返してくれ。アイツは、ユウコは。
﹁うるっせぇぇぇええええッ
!
!?
身体を起こそうと仰向けになったエヌラスは、それが限界だった。
がった。全身を激しく打ちのめし、煉瓦の上で止まる。
撃を防御しないまままともに衝撃を受けて、エヌラスは瓦礫の街を転
リヴェル・レギルスの振り上げた脚が重力波を叩きつける。その一
ないそれは、ただひたすらに純粋な憎悪と怒りを込めた魂の咆哮。
を使うための精神統制も、感情の制御も、ましてや理性すら感じられ
一方的な暴力が無機質な轟音と共にゴーストタウンへと響く。魔術
繰り返すヌルズの叫びに、エヌラスは壊れた前腕部を叩きつけた。
!
869
!
!!!
!
変神は解除され、指の一本も動かせない。機神の右腕は螺子と歯車の
無数の部品となって光の粒子になって消えていく。
真紅の復讐神が見下ろしている││そのコックピットから目が痛
くなるほど紅い衣装のヌルズが飛び降りると、エヌラスに跨った。
細い指先が砂埃と血と涙で汚れた頬を優しく撫でていく。
﹁⋮⋮可哀想な兄さま﹂
その指を振りほどいて、今すぐにでも反撃に出たかった。だが、エ
ヌラスの思考に身体は全くついてこなかった。限界に限界を重ねた
疲労は最早、致命傷に等しい。それでもまだ、驚異的な精神力が生命
を繋ぎ止めていた。
ヌルズの指は頬から喉へ。そのまま胸板をなぞっていく。
﹂
遅かれ早かれ、いつか別れは訪れる。例え
言いやがる⋮⋮
﹁勘違いしないで。私は、兄さまを救ってあげたの﹂
﹁││の、口が⋮⋮
ちがう
兄さま﹂
〝今だけでも〟と願っても、それはただ、苦痛を長引かせるだけ⋮⋮
﹁だってそうでしょう
!
一本で制した。
﹁目を背けないで。絶望から。現実から。兄さまの見ている世界が何
よりの証拠なの。アダルトゲイムギョウ界はもう終わり。あんな世
界にもう縛られることもない。救いもなく、未来もなく、明日もなく。
ア
ン
ダー
グ
ラ
ウ
ン
ド
ただただ、落ちぶれていくだけの世界。誰にも知られることのない〝
ゲイムギョウ界の深層世界〟での戦いはもうおしまい﹂
空を仰ぐ。ナナイトから見える満天の地上は、崩壊している。まる
で ガ ン 細 胞 に 侵 さ れ た 内 蔵 の よ う に 絶 望 に よ っ て 侵 食 さ れ て い た。
そんな世界に希望など抱けるはずがない。
ドラグレイスは言っていた。この世界は醜いと。救うに値しない
いたくて、つらいのはもう
世界、故にティル・ナ・ノーグを目指しているのだと。
﹁だから、兄さま⋮⋮もう止めましょう
んで、妬んで。希望に穢されることなく、永遠に静かな終わりを迎え
おしまい││私とずっと、ずぅっとふたりきりで。世界を憎んで、恨
?
870
?
!
だからと言って││納得できるはずがないエヌラスを、ヌルズは指
?
て眠り続けるの﹂
右腕はもう、繋がっているのかもわからない。感覚が死んでいた。
全身から血の気が引いていくのが分かる。寒気さえするエヌラスの
身体を温めようと、ヌルズが覆いかぶさった。身にまとっていた真紅
の衣装がドロリと赤い血となって溶けていく。
一糸まとわぬ裸身を重ねて、ヌルズは惚けた声色で呟いた。
﹁だいじょうぶよ、兄さま⋮⋮私が暖めてあげる。寒くないわ﹂
﹁⋮⋮││││﹂
脳の奥まで痺れるような感覚に身を委ねて││ネプテューヌ達の
顔が脳裏をよぎる││エヌラスは、茫然自失と空を仰ぐ。
﹁││ユノスダス、が⋮⋮﹂
パープルハート達はブラックホールに消えた商業国家のあった場
871
所を振り返る。綺麗さっぱり跡形もなく、地面すら残さず穴が空いて
いた。
﹁令嬢め。はしゃぎ過ぎだ。しかし、流石というべきか⋮⋮こうも俺
﹂
の魔術を使いこなすとは﹂
﹁なんですって
今の俺はアンチクリスタルとも言うべき邪神の血肉を糧にしている。
﹁お前達守護女神はシェアエネルギーによって力を発揮する。だが、
より先に大魔導師が更に重力を倍加させて凪いだ。
緩んだ拘束にブラックハートが駆ける。だがしかし、刃を振り下ろす
天狼星を放とうとするが銀の槍が大魔導師の手を弾いた。一瞬だけ
シ リ ウ ス
た。全身が貼り付けられたように動かない。地面に束縛され、そこへ
空間が歪むほどの重圧にパープルハート達が地面に叩き伏せられ
﹁こんな風にな﹂
を掲げる。
そこに至るまでの苦労を滲ませた吐息を漏らして、大魔導師は右手
ろしいものだ﹂
﹁重力操作の極致にまさか兄への執着だけで辿り着くとは、愛とは恐
!?
﹂
そうなれば、お前達の攻撃は俺にとって決定打には成り得ない。⋮⋮
理解したか
成る程、道理だ││だがそれで〝諦める〟守護女神ではない。
変身を解除され、衝撃で痺れる身体を起こして武器を手にする。
それが何を意味しているのか、大魔導師は不思議そうに首を傾げて
いた。
﹁ええ。理解したわよ⋮⋮﹂
﹁〝理解しない〟ということを理解したもんね﹂
﹂
ノワールとネプテューヌは大魔導師に武器を向ける。
﹁でも、だからと言って││
﹁そう
ありがたいわね⋮⋮﹂
﹁休憩がてら昔話でもしてやろう﹂
それに毒気を抜かれたように大魔導師は肩を竦めた。
﹁女神とは、絶望を知らんらしい。羨ましいものだ﹂
ギリッ││銀の籠手を鳴らして、構える。
〝⋮⋮私の銀槍葬送曲も限界が近いか〟
シルヴィオは整息して、身体の不調を押し殺す。
ネプギアとプルルートも立ち上がった。
﹁それでぇ、諦めるわけにはいかないの∼﹂
!
だ﹂
﹁それって⋮⋮もしかして﹂
﹁俺と。そこにいる、老いぼれた狼の話だ﹂
シルヴィオの表情は、あくまでも険しい。共に九龍アマルガムのた
めに尽力してきたはずだった。道を違えたあの日から、二人はすれ
違ったまま。
﹁守護神の居ない国がどうなるか、お前達は知っているはずだ。国は
荒れ、モンスターは増え、戦火が巻き起こる。そうならない為には誰
かが犠牲にならなければならなかった││行く宛のないアダルトゲ
イムギョウ界を彷徨うシェアの源。シェアブラッドを管理せねば﹂
﹁⋮⋮そうとも。だからこそ人狼局は設立された﹂
872
?
﹁だ が │ │ こ れ は 決 し て 英 雄 の 物 語 で は な い。絶 望 に 折 れ た 男 の 話
?
﹁それを付け狙う吸血鬼達を相手に俺達は戦い続けた﹂
﹁だが、戦いは終わらなかった。何故なら、その一部を神格者の一人が
奪ったからだ。あの忌々しい吸血姫めがな﹂
その言葉に、ネプテューヌ達はムルフェストを思い浮かべた。
﹁戦いは激化した。その最中で軍事国家アゴウが生まれ、そして守護
女神が生まれた。国民の総意を得て、一人の女が神へと至った。シェ
アブラッドではなく、純粋なシェアエネルギーでな﹂
だがその人も、大魔導師が望んだ無尽蔵の絶望、ヌルズとの戦いで
命 を 落 と し て い る。そ れ か ら 間 も な く し て 新 し い 守 護 神 が 立 ち 上
がった。全ては己の愛した人の為、国家のため││最強の軍神、アル
シュベイト。
﹁九龍アマルガムはな、この世界でも異質とも言うべき国家だ。シェ
アブラッド。アンチクリスタル││俺が国民のシェアによって変神
しないからこそ、あの国は犯罪国家となった。だが、そうする以外に
生き残る術はなかった﹂
﹁そう。守護神が、国民の為ではなく己の為に力を振るう国家││私
は裏切られた。他でもない貴方に、大魔導師﹂
﹁俺 は ど う す れ ば こ の 国 が 救 え る か を 考 え た。│ │ あ の 男 の よ う に
な﹂
全ては大いなる〝C〟によって委ねられていた。だからこそ、覆そ
うとした。この世界が夢泡沫と消えようと、意味はあるのだと信じて
⋮⋮。
だが、大魔導師は裏切られた。人ではなく、国ではなく、世界に。
﹁救えない。報われない戦い。終わらない無限怨嗟に俺は絶望した﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁だから、全てを終わらせることにした。リセットも、コンティニュー
もない、ワールドエンドによって﹂
﹁その為にエヌラスを利用したっていうわけ﹂
﹁ア イ ツ だ け で は な い。利 用 で き る も の は 全 て 利 用 し た。ア イ ツ の
妹。アイツの恋人。次元連結装置、武装召喚アプリケーションに魂魄
転写⋮⋮全部だ﹂
873
﹂
﹁吐 き 気 を 催 す 邪 悪 っ て 言 う の は、こ う い う こ と を 言 う の か し ら ね
⋮⋮﹂
﹁許せない⋮⋮﹂
﹂
﹁⋮⋮許せなければ、どうする
﹁貴方を、倒します
きなくても、諦めたりなんかしない。
﹂
!
プリンとゲーム
﹁わたし達は、絶対に絶望に負けたりなんかしないんだから
﹁お前達がそうでも、アイツは││
﹂
﹁絶望の魔人だったとしても、エヌラスは別だよ
は別腹なんだからー、とりゃー
﹁まったく、底抜けに気楽なものだ。女神とは││
﹂
!
!
!
﹂
ネプテューヌ達は武器を手にして大魔導師へと挑む。例え変身で
?
!
金色の十字架と、ネプテューヌの太刀が火花を散らす。
874
!
episode138 相当末期症状恋愛感情
││嗚呼。嗚呼、なんて馬鹿なのだろうか。誰が、とか。どっちが
とかじゃなくてなんかもうどうしようもないくらいに、どっちも大馬
鹿野郎だ。
どうしてそこで諦めないんだ。どうしてそこで、引き下がらないん
だ。お前達が傷つく理由も、戦う理由もないはずで││自分もそうだ
と気づいて、嗚呼もうまったく度し難い馬鹿だった。ここまで来ると
もう、バカの背比べでしかない。
結局のところ。バカとバカで、どうしようもなくお似合いだったの
﹂
かもしれない。
﹁││││﹂
﹁⋮⋮兄さま
愛している、今でもそうだ。愛していない時などなかった。だが│
│だがもう、お前は死んだんだ。
あの日。無残に惨めに惨たらしく凄惨な殺され方をしたやつが生
きてちゃいけない。
だから、殺そう。今度は他の誰にもやらせない。自分の手で。
││ヌルズの胸に、短剣が突き立てられた。
﹁││││││││││││えっ﹂
それが信じられなくて、エヌラスの左手が握っていることに顔を歪
ませる。
﹂
﹁愛しているよ。今でもそうだ。そう言い切れる﹂
﹁⋮⋮兄、さま⋮⋮
﹂
てきちゃいけねぇんだよ
﹁兄さまぁッ
﹂
引いた頃にはエヌラスの上からヌルズは姿を消してリヴェル・レギル
左手に深紅の自動式拳銃が握られ、撃鉄を起こす。だがトリガーを
!
!
﹁俺は、テメェほど世界に絶望なんかしちゃいねぇ
﹂
﹁でも⋮⋮ごめんな。お前はもう死んだんだ。だから、死んだ奴が出
?
875
?
!!!
スの胸部装甲に降り立っていた。
不思議なほど、痛みが和らいでいる。全身の神経がとうとう気でも
触れたのかと自嘲して、あながち間違ってもいないことに笑うしかな
かった。
自分はもう、とっくにどうかなっていたのだ。ネプテューヌ達の笑
大 い に 結 構
な ん と で も 呼 べ ば い い。│
う顔を見て、一緒に過ごしていたあの日々を繰り返したいと思ったそ
の日から。
輝 望 に 穢 れ た 絶 望
!
もっぺん殺すわ
﹂
死に
!
て い う か や っ ぱ
!
るから、そこぉ動くんじゃねぇぞ﹂
!
﹁何ができる、だぁ 誰に物言ってやがる。お前が愛するお兄さま
﹁そんな身体で、私に何ができるの
﹂
﹁あー心配すんな、最愛の妹よ。痛くねぇように一瞬で終わらせてや
右腕だけは、どうしても動かせそうにない。
するほど死が近くて。だけど何故か、身体は動く。
全身はもうボロボロで、魔術回路も使い物にはならなくて、寒気が
﹁││││兄さま⋮⋮ッ
﹂
別れた妹が俺を殺しに来るんじゃねぇ泣くぞ
そっちに誘うな。テメェは〝そっち〟で俺は〝こっち〟だ
兄 妹 だ。お 前 は 唯 一 の 家 族 だ よ。だ け ど な、だ か ら と い っ て 俺 ま で
﹁おい聞け、絶望。確かにそうだよ。俺も、お前も同じ場所で生まれた
│ロリコン以外で頼む。
?
﹁ッ∼∼∼∼
﹂
に向かってなんて口聞きやがる、ぶっ殺すぞ﹂
?
取り出すと鷲掴みにする。ヒビ割れ、砕け散るクリスタルから溢れる
光は絶望のアンチクリスタルの赤。鮮血の赤。鮮烈で強烈な命の色。
自分が何者であるかを再認識する││決して、女神と肩を並べられ
る人ではない。
何 故 な ら、絶 望 の 魔 人 だ か ら。こ の ア ン チ ク リ ス タ ル の 輝 き は、
人々の負の結晶。
876
!
!
顔を怒りで赤くするヌルズの前で、エヌラスはシェアクリスタルを
!!
終わりを望む声。終焉を求める切なる叫び。そこに救いがあると
おわりをはじめる
信じる、絶望への信仰心。
﹁終焉執行﹂
だからこそ、救わなければならない人達がいる。一刻も早く、その
希望に穢れた心を救済しなければならない。
戦禍の破壊神として。絶望の魔人として。
││守護女神達は〝あちら側〟で、自分は〝こちら側〟だ。
足元の血溜まりに波紋が広がる。││かつて、自分がそうしたよう
ド ン・キ ホ ー テ
兄さま
﹂
絶望が、希望を信じるな
に。妹がそうしたように真紅のプロセッサユニットを纏う。
﹂
なんで私と来てくれないの
﹁なんて││なんて、道化役者
んて
﹁誰が信じるか﹂
﹁だったら、どうして
!
﹁ッ⋮⋮
﹂
出会っちまったんだから﹂
﹁俺は希望なんて信じちゃいない。だけどな、しょうがねぇだろ││
!
!
﹁わたし、よりも⋮⋮
﹂
﹁それによ。アイツ等のこと、俺は好きで好きでしょうがないんだよ﹂
!
思考して、思案して、模索して、決断する。男らしく一点突破でぶ
とか筋肉とか嫌な音を立てているけど気にしない。
ターがナナイトの町並みを跡形もなく削り取っていく。動く度に骨
重力弾が無数に生成されて射出される。避ける度に小さなクレー
殺されてやるつもりなど微塵も欠片もなかった。
は 途 方 に 暮 れ た。な に せ ど う 殺 す か と い う 選 択 肢 が あ ま り に 多 い。
大見得を切ったものの、どうやって殺してやろうか、と。エヌラス
はて。
瓦礫が塵となって吹き荒ぶ。
リヴェル・レギルスが絶対の殺意を持って応える。起動するだけで
﹁││││殺すわ、兄さま﹂
﹁生憎と俺に、屍体を愛する性癖はねぇからな﹂
わななく声に、エヌラスはバツが悪そうにしていた。
?
877
!?
!
ち抜こう。
﹁ゼロ・ドライブ
﹂
極冷温の手刀が振り下ろされていた。だが、相手があまりに小柄過
ぎ る。ミ ス テ イ ク と も 言 え る 選 択 に エ ヌ ラ ス は 鼻 で 笑 っ て し ま う。
懐に潜り込んで、左手に魔力をありったけ詰め込んだ。
﹁そら、よっと﹂
胸部を下からかち上げる。アッパーカットが綺麗に決まり、リヴェ
ル・レギルスが宙に浮いた。││つまりは、殴り飛ばしたということ
になるのだが。間抜けなことに、相手は受け身も取らずに四肢を投げ
出して倒れた。
ヱンドゲィム
動かせない右腕を左手で掴み、無理に動かす。右肩に担いだ野太刀
を掴み、振り上げる。血を魔術で電気に分解して叩き込んだ〝 終 焉
〟が左腕を斬り落とした。
かざしたリヴェル・レギルスの右手からニコラ・テスラの電撃が奔
﹂
る。光の奔流へと消えた兄に鼻を鳴らすヌルズ。
﹁馬鹿、みたい⋮⋮
い。さむい││衝撃で揺れる機体は、涙を拭う暇すら与えてはくれな
かった。
兄さまはもう、魔術が使えないはず〟
動かせないはずの右腕。機械の右腕。それが、今。真紅の復讐神を
殴りつけていた。
〝どういうこと
そこまで考えて、我なが
ミードの過剰摂取によってとっくに精魂尽き果ててもおかしくな
い。どこからそんな力が⋮⋮まさか、愛
散る。
﹂
も失われた機械仕掛けの神はもはやデカイだけの鉄塊となって砕け
難なく右腕を掴み、ゼロ・ドライブによって粉々に砕く。その神威
﹁お望み通り、ジャンクにしてあげるわよ
いるようなものだ。そんなもののどこに脅威があるというのか。
見れば、ボロボロのガラクタ同然の右腕。ジャンク品を振り回して
ら馬鹿馬鹿しいとヌルズは顔を横に振った。
?
!
878
!!
ひとりぼっちのコックピットで、涙を流しながら操縦桿を握る。寒
!
?
﹁なにが││なにが
出来るっていうの
﹁ハンティングホラー﹂
遠い。ならばどうするか
﹂
いる。コックピットにいるはずの妹を。そこまでの距離はあまりに
バチリ。紫電が奔る。それはつがえた矢のように、ヌルズを狙って
まった装甲、深紅の右腕。異形の片腕だった。
ならない右腕を血糊でコーティングしていた。それはまるで血に染
血染めの右腕。血液こそが自らの根源であるエヌラスは、使い物に
そ言葉を失う。
思っていたヌルズが、モニターに映し出されるエヌラスを見て今度こ
た も 同 然 だ。使 い 物 に す ら な ら な い 邪 魔 な 腕 で し か な い │ │ そ う
ガラガラと無数の部品が落下していく。これでもう、右腕は失われ
!
ない
﹂
﹁ハッ││││あはは。アハハハハハハ
ほら、やっぱり限界じゃ
に狙いを逸れた。赤い軌跡を残して││。
た決死の一撃。防御も反撃も回避も間に合わない、神速の制裁は僅か
撃ち出されるエヌラス、リヴェル・レギルスのコックピット目掛け
冒涜的なまでに穢された大型二輪の心臓が爆発した。
イブン・カズイの粉薬〟がナイトロ・システムを魔術的に汚染する。
名前を呼ばれた鋼鉄の獣が吼える。新たに充填された高純度の〝
?
!
体の顔を半分消し飛ばしているが、それが限界だ。
﹂
﹁アホ言うなよ。お前の死に顔が見れねぇじゃねぇか﹂
﹁││││││えっ﹂
﹁外して〝やった〟んだよ、ありがたく思いやがれぇ
そこにあるのは憤怒の形相。憎悪の容貌。だが、構わない。
紅い瞳にヌルズは射止められた。
なって、ボロ雑巾のような衣装を纏って、それでもまだ諦めていない
反転する。交錯する視線と視線。血と汗と涙と土埃でボロボロに
!!
今、あの人は私を見てくれている。こんなにも求められている。
こんなにも、こんなにも││
!
879
!
強 が っ て い て も 身 体 は 正 直 だ。も う 動 け な い。だ か ら 外 し た。機
!
﹁兄さま││﹂
闇を狩る獣がさらなる鼓動を爆発させる。それは自らを破滅へと
追いやりながら。空中で四散する獣に一瞥くれることなく、エヌラス
はむき出しのコックピットに鎮座する妹に拳を突き出す。
ヌルズは避けなかった。受け入れるように手を広げ、華奢な体躯の
し
て
﹂
胸板を拳で貫かれても微笑んでいた。
愛
﹂
﹁わたしを││││ころして
﹁││アクセスッ
に。
それはとても優しい声色だった。まるで子守唄でも聴かせるよう
だってな﹂
﹁⋮⋮ お 前 の 命 は 俺 の モ ン だ。も う 誰 に も 奪 わ せ ね ぇ よ │ │ 神 様 に
兄は、泣いていた。血の涙を流して。
妹は、死んでいた。その胸を兄の拳を貫かれて。
の兄妹が降り立つ。
瓦礫の街に。失われた九龍アマルガムの地表都市、その焦土に一組
灰は灰に。塵は塵に。屍者は、ただ地に伏せる。悪夢は覚める。
いた楔を抜かれて元の時間に戻っていく。
速に錆びて朽ち果てていく。時の流れに逆らった存在が、繋ぎ止めて
真紅の復讐神が崩壊した。地面に降り注ぐ無数の部品はやがて急
い。
のように紅い一条の流星││それが一体、誰なのか考えるまでもな
ナナイトが崩壊する。正確には月面が割れ、飛び出してくるのは血
た。
り得ない。ジリ貧の戦いは、しかし確実に守護女神達を追い込んでい
も対等に渡り合う。相性の問題もある。シェアの力では決定打に成
いつつあった。守護女神が四人に加えて一人の銀狼を相手どって尚
ネプテューヌ達が変身する。ネクロソウルとの死闘は終局へ向か
?
﹁だから、もういいんだ。辛すぎる現実は見なくていい⋮⋮眠れ﹂
﹁に、い⋮⋮⋮⋮さま⋮⋮﹂
880
!
最愛の兄の手に抱かれて、殺されて。無尽蔵の絶望はドロリと溶け
た。赤いコールタールのような液体となり、それから赤い血霧となっ
て霧散する。
エヌラスの手には、歪んだ双角錐だけが残された。ゼロクリスタル
││全ての絶望の始まり。己の起源たるヌルズの象徴。ひび割れ、今
にも砕けそうなそれを愛おしむように握り締める。
﹁││││よぉ、大魔導師﹂
﹁⋮⋮⋮⋮来たか、絶望﹂
どうして生きているのか不思議でならない。だが、アレはそういう
化物なのだ。
﹂
希望がある限り戦い続ける絶望。矛盾を孕んだ最弱無敵の怪物。
﹁エヌラス⋮⋮貴方、大丈夫なの
﹁ぶっちゃけ死にそうだ﹂
﹁素直で結構よ﹂
﹁死んだら許さないわよ﹂
﹁死なねぇよ。もしくたばったら不死鳥の尻尾ちぎって持ってきてく
れ﹂
この化物め。俺の最高傑作を妹もろとも
滑稽だ。あまりに滑稽な光景に、大魔導師は笑った。
﹁はっ、ははははははは
で来るか
出鱈目だな、荒唐無稽の極みだな
﹂
!
!
﹁クズに言われたくないが﹂
﹁今世紀最高のおまいう﹂
抑制剤のタバコを取り出そうとして、箱の中身が空になっているこ
とに気づく。エヌラスはそれを残念そうに握り潰して、パープルハー
ト達の隣に並んだ。むせ返るほど濃い血の臭いに、思わず顔をしかめ
る。右腕だけが血糊でベッタリとコーティングされていた。それは、
自らの魔術の源である血で造られた鎧⋮⋮鋼の右腕だ。その中にあ
る本来の腕がどうなっているかなど、指先まで覆われた姿を見れば想
像に易い。
881
?
殺す。まさに悪鬼羅刹の所業だ 紛い物とは言え神殺しの領域ま
!
﹁テメェが言うかよ、クソが。守護女神四人とか俺でも無理だわ﹂
!
﹁倒せるの
あんな化物﹂
﹁任せろ、ノワール﹂
操り人形のように右腕が動き出す。ぎこちなく、まるで歯車が噛み
合わないカラクリの動きにパープルシスターが思わず口元を押さえ
る。
﹁⋮⋮おい、ボウズ。銀槍葬送曲を伝授してやる﹂
﹁そりゃ⋮⋮ありがてぇな﹂
シルヴィオは限界だった。パープルハート達も満身創痍で、対する
大魔導師はと言うと消耗していた。だが、それだけだ。
エヌラスは、とっくに限界など越えている。立ち止まってしまえ
ば、もう指一本動かすことさえ敵わない。
882
?
episode139 パーティー・イズ・オーバー
前に向かう。絶望が立ち塞がる。未来への障害││ネプテューヌ
達を苦しめる最大の敵。
金色の十字架が打ち据えられる。シルヴィオが銀の籠手で刀身の
腹を横殴りにして軌道を逸らす。エヌラスが走る。パープルハート
達が続く。
左手に白銀の自動式拳銃。すかさず弾倉を空にする。赤と黒の混
じった尾を引いて、全て打ち払われる。パープルハートの太刀を左腕
の重力弾で相殺し、ブラックハートの大剣をゼロ・ドライブで粉砕し、
パープルシスターに投げつけ、アイリスハートの蛇腹剣が十字架を絡
シ リ ウ ス
め取った。
天狼星の弓へと変化させて拘束を逃れ、一矢報いる。
エヌラスは走った、自らの射程圏へと。偃月刀と金色の十字架が交
﹂
﹂
﹂
れる。だが、その刀身を伝う血が大魔導師の身体を汚した。ブラック
ハートが受け止める。
﹁馬鹿、前に出過ぎなのよ
!
883
差し、偃月刀は硝子のように砕け散った。
ブラストブリッツ
﹁銀槍葬送曲││
る。
E v i l s h i n e
み合っていた。
俺は、もう折れるつもりも諦めるつもりもねぇ
﹁いい加減、貴様も諦めたらどうだ
﹁ゼッテェ嫌だね
!?
互いの身体を蹴り飛ばし、エヌラスの振りかぶった偃月刀は避けら
んだよォォォッ
﹂
エヌラスの拳を受け止める。大魔導師は頭突きを受けて二人は睨
せる。着地と同時にシルヴィオが多量に吐血し、膝を着いた。
銀の流星が降下した。左腕を食い千切られた大魔導師が顔を歪ま
﹁魔を灼く閃光っ
﹂
血の線を引いていた。酷使される老いた肉体にはあまりに過酷過ぎ
シルヴィオが跳ねる。シェアブラッドを煌めかせながら、口端から
!
!
!
!!
﹁知ってる
﹂
﹂
﹁いくわよぉ、ねぷちゃん﹂
﹁いいわよ、ぷるるん
片腕は再生している最中だ。
!
ソウルは〝銀の鍵〟を取り出した。
例え御身が神であろうとも││
!!
﹂
!
魔力を受ければ消滅は免れない、最凶の魔刃。
﹂
﹁此処に││大いなる〝C〟の権能を代行する
﹁さァせる、かァァァァァッ
!!!
夢も希望も明日もない世界を、認めねぇ
重縛結界が解呪される。
﹁俺は、認めねぇ
﹂
!
かぬ形状ではなく、歪み、捻れた刃のない長大な神剣。溢れる無限の
その誓言に、銀の鍵が変異する。エヌラスが使う剣のとも鍵ともつ
﹁我が運命は救えない
﹂
ないのだと。重縛結界に捕らわれたパープルハート達を前に、ネクロ
断 言 す る。宣 告 す る。こ の 世 界 は 救 わ れ な い。救 わ れ る べ き で は
﹁ッ⋮⋮俺を、照らすな。貴様らの希望で、救える世界などない
﹂
片 腕 の 大 魔 導 師 は 一 気 呵 成 に 攻 め 込 む 守 護 女 神 達 に 歯 噛 み し た。
!
!
例え御身が神であろうとっ
﹂
﹂
!
!
食い潰している。
〟
〝さっきの偃月刀は、血を飛ばすためか⋮⋮
侵食はマズイ││
﹂
くっ、これ以上の
貯蔵庫とも言える魔道書を赤く侵食しながら、記載されている内容を
もしや、と思うと身体に浴びた血が蠢いていた。大魔導師の魔力の
!
のか。
﹁││我が運命は折らせない
貴様
!
次の瞬間、ネクロソウルの変神が強制解除される。
﹁ッ、馬鹿な││
﹁此処に大魔導師の原稿を代筆する
果たして。エヌラスが握るのは、無貌なる漆黒の魔剣。
﹁⋮⋮その〝権能〟は││﹂
その宣誓は、大魔導師の祝詞。
!
絶望が吼える。そこに輝望があるのだと。だが、どう足掻くという
!!
!?
!
884
!
ディス・イズ・ジ・エンド
大魔導師が〝銀の鍵〟を振るう││だが、その動きを押さえ込む者
﹂
がいた。シルヴィオだ。
﹁銀狼││
﹁諦めよ、大魔導師。貴様の未来は、 こ こ が 終 焉だ﹂
﹁埋葬の華に││﹂
剣を振るおうとして、力なく崩れ落ちそうになるエヌラスの手をア
﹂
イリスハートが握る。倒れそうになる背中をパープルハートが支え
た。
﹂
﹁アタシが大サービスで手伝ってあげるわよ
﹂
﹁││ああ、頼むぜ⋮⋮﹂
﹁埋葬の華に誓って
﹁我は世界を、螺子る者なり││
?
止めそうになる。
﹁⋮⋮終わったの
﹂
いう現実。だが、それでも崩壊の一途を辿っているという事実に足を
後に残るのは途方も無い疲労感と、虚無感。全ての元凶を倒したと
そして。大魔導師は、エヌラス達の前から跡形もなく消え去った。
エネルギーを吐き出すために。
きこまれ、空間が割れた。アダルトゲイムギョウ界の許容量を超えた
ち塞がる。その神剣に身体を貫かれた瞬間に果てしない情報量を叩
希望を奪い、色を奪い、全てを奪う絶望の魔刃が大魔導師の前に立
漆黒に塗り尽くされた魔剣は銀色に輝く。
所有権を失った手から弾かれるようにエヌラスは奪い取り、無貌なる
〝銀の鍵〟の所有権が大魔導師からエヌラスへと書き換えられる。
!
!
﹁エヌラス⋮⋮
﹂
﹁勝っ、た⋮⋮のよね﹂
?
て、涙を流す。
そこで、エヌラスはようやく││ユウコがもういないのだと認識し
﹁⋮⋮││││﹂
して、荒唐無稽な機神同士の血闘はようやく終わりを迎えた。
空を見上げれば月が割れていた。ユノスダスは消滅している。そ
?
885
!
失うものが大きすぎた。手に入れたのは、起死回生の鍵。小さな小
さな銀色の鍵だった。
〝第二の心臓〟として銀の鍵を左胸に当てると、身体の中へと吸い
込まれていく。
﹁││悪い﹂
﹁なによ今更﹂
﹁そうだよ、便乗するけどもエヌラスはいっつもいっつも﹂
﹄
﹁ちょっと、くたばるわ﹂
﹃││││へっ
ネプテューヌ達が呆気にとられている目の前で、エヌラスは糸の切
れた人形のようにガックリと崩れ落ちる。その身体をプルルートと
エヌラス、大丈夫
ネプテューヌで抱きとめるには無理があったのか、ノワールも慌てて
受け止めた。
﹁あ、あわわわわわ⋮⋮ま、まさか死ん││﹂
﹁縁起でもないこと言わないでよネプテューヌ
﹂
!
﹂
﹁目も当てられませんね⋮⋮と、とにかく今はどこかで落ち着かせな
いと
﹂
?
いるかもしれない﹂
?
﹁はは。情けないことに、キミ達の戦いにこれ以上私の年齢がついて
﹁じゃあ、ここでお別れですか⋮⋮
﹂
でも生き残っている人がいるだろう。それに、モンスターに襲われて
﹁私はアダルトゲイムギョウ界の生存者を探すさ。世界がこんな状況
﹁オーナーさんは
方がいい。キミ達の体力の回復も必要だろうし﹂
﹁そうだな⋮⋮キンジ塔が現れるまでは、もう少し身を潜めておいた
声を掛けた。
パニック寸前のノワール達に、シルヴィオは口端の血を拭いながら
⋮⋮﹂
﹁い い や ぁ、ま ず は 嬢 ち ゃ ん 達 が 落 ち 着 い た ほ う が い い と 思 う が ね
!
886
!?
﹁全然だいじょうぶそうじゃないよ∼。右手とか⋮⋮ちょっと﹂
!?
いけそうにない﹂
笑ってはぐらかしながら背を向ける。
﹁どこに出るかは、神のみぞ知るというところかな。では、頑張りたま
えよ。希望の女神諸君﹂
そして、シルヴィオの姿が掻き消えた。銀の粒子を残して。
﹁⋮⋮オーナーさん、すごい人でしたね﹂
﹂
﹁というか、コレの周りがトンデモ奇天烈な人達ばかりなだけじゃな
い
﹁あはは⋮⋮かもしれません﹂
寝息はとても小さな虫の息だったが、それでも心臓が小さく脈打っ
ていた。まだ、生きている。それだけでネプテューヌ達は胸が温かく
なった。
残る神格者は、ひとり││。
エヌラスの怨敵にして宿敵にして仇敵、クロックサイコだけだ。
くしゃくしゃになった髪を梳くようにして、ネプテューヌとプル
ルートが撫でる。
﹁⋮⋮お疲れ様、エヌラス。ありがと﹂
﹁えへへぇ。あたしの膝枕気持ち良そう∼﹂
﹂
﹁まぁ、なんというか。勝ててよかったわ﹂
﹁もちろん勝てるに決まってるじゃん
?
うなってたことやら﹂
﹁そういえばノワール。謝礼渡されてたけど、中身は
﹁⋮⋮そうね。ちょっと開けてみましょ﹂
﹂
﹁強がり言わないの。途中でエヌラスとオーナーが来てなかったらど
!
こんな時にまさか金銭を渡すとも考えにくい。ユノスダスはもう
無いのだから、使い道にも困る。
﹂
﹁今思うと、重いわねこの封筒﹂
﹁結構ずっしり入ってない
?
﹂
改めて封を切り、中身を取り出すと││。
﹁⋮⋮これ﹂
﹁白い、粉⋮⋮
?
887
?
﹁これ空港とかで絶対監査に引っ掛かる白い粉末だよー
まっさか∼
⋮⋮あ、ホントだ﹂
﹁でも、シェアが感じられるのよね﹂
﹁えー
﹂
!
﹂
最期ではあったが、その顔に陰りはなかった。
ひとりの銀狼が静かに息を引き取る。誰にも看取られない孤独な
﹁⋮⋮スマンなぁ、女神様方。私の仕事を押し付けて⋮⋮﹂
う。
なかったことだけが心残りではあるが、彼女達ならやってくれるだろ
師。三 す く み の 塔 争 に 介 入 す る 不確定要素 で あ る 化 物 を 仕 留 め き れ
イ レ ギュ ラー
真正の吸血姫││アゴウの先代守護女神、九龍アマルガムの大魔導
のだ。シルヴィオは空を見上げる。
めて静かに生きようと決めていたが⋮⋮やはり、歳はとりたくないも
リットもついて回った。大魔導師に裏切られた日から、戦うことはや
のもある。だがそれ以上に、人間以上の力を振るうというのはデメ
女神達との戦いに、これ以上肉体はついていけない。老いによるも
押さえていた掌には銀の粉末が混じった血痰が塗りたくられていた。
││老いた銀狼が、大木に背を預けて座り込む。咳き込み、口元を
ルは少しだけ胸が痛んだ。
せめて、なにか一言。お礼を言ってやれればよかったのに、ノワー
﹁そんな大事なもの││﹂
すか
﹁じゃあ、もしかしてこれってシェアブラッドの粉末なんじゃないで
?
未来を宅せる希望の女神達を一目拝むことが出来たのだから、長生
きはするものだ││。
888
?
?
最終章 ゲイムクリア
﹂
episode140 本日はお日柄もよく
﹁ハァァッ
女神ブラックハートの気迫の籠もった一撃を受けて、モンスターが
﹂
吹き飛ばされてゆく。
﹁逃しません
を訝しむように掌を見つめていた。
?
の不調はないのに⋮⋮﹂
﹁ノワールさんもですか
ないというか﹂
﹁どうしてかしら﹂
じつは、私もなんです。うまく力が入ら
ほんっとうに戦闘以外でなんかの役に立つの
﹂
﹁大体エヌラスは自己管理が出来てないのよ。財布も。体調管理も。
ないのか。
ノワールが呆れた溜め息をつく。どうしてそう自分の身体を労れ
ね。ホントに呆れるわ﹂
﹁変 身 す る だ け の シ ェ ア を 送 れ な い く ら い 今 は 瀕 死 の 状 態 っ て わ け
から﹂
﹁それは、多分⋮⋮私達の女神化って、エヌラスさんからのシェアです
?
﹁女神化してからの調子が悪いと思ったのよ。おかしいわね、特に体
﹁どうかしたんですか、ノワールさん
﹂
周囲を見渡してから二人は女神化を解く。ノワールは自分の調子
て敵わないと思い知ったのか蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
そして、パープルシスターの射撃で残るモンスター達は蹴散らされ
!
﹁言わなきゃ私の気がすまないのよ。ラステイションで徹底的に性根
が⋮⋮﹂
﹁多分、それは本人が自覚してて気にしていると思うので言わない方
?
889
!
を叩きなおして真人間にしないとこの先なにを言われるかわからな
いわ﹂
﹁た、確かに⋮⋮今のエヌラスさんがゲイムギョウ界に来たら⋮⋮﹂
想像に易い。
﹁⋮⋮絶対にブランさんとベールさんに怒られますよね﹂
﹁それどころか取り返しのつかない被害が出るくらいしか思い浮かば
ないわよ﹂
崩 壊 す る プ ラ ネ テ ュ ー ヌ、ラ ス テ イ シ ョ ン、リ ー ン ボ ッ ク ス、ル
ていうかゴミだな
﹄
ウィー⋮⋮そこまで考えて、なぜか二人は同時に悪の幹部のような笑
人がゴミのようだ
い声をあげるエヌラスを想像した。
﹃ハッハッハ
!
利用料金は無料と守銭奴のユウコにしてはやけに太っ腹な施設管理
水道電気ガスの三つが揃い、寝床も完備されている簡素な宿ながら
じながらも今は非常事態ゆえに致し方なし。
のような施設を無断で借りている。そこに少しだけ後ろめたさを感
元々はユノスダスの管理下にある輸送業者の休憩所、サービスエリア
保 し た と し て ネ プ テ ュ ー ヌ と プ ル ル ー ト の 待 つ 山 小 屋 へ 戻 っ た。
ネプギアとノワールは周囲の警戒を終えて、今のところは安全を確
別れをしようと決めている。
ネプギアは少し、胸が締め付けられる思いだった。だけど、笑ってお
その後はエヌラスと別れなければならない。それを考えるだけで
だ。
アダルトゲイムギョウ界の崩壊も、ゲイムギョウ界も救えるはず
﹁そうですね。そうすればきっと﹂
て終わりよ﹂
﹁││まぁ、ともあれ。キンジ塔が出現したらクロックサイコを倒し
はずだ。多分きっと恐らくは。
まで酷いことは言わない││言わない⋮⋮イワナ⋮⋮うん、言わない
ハマり過ぎで怖い変神後の言動にかぶりを振る。いやまさかそこ
!
に首を傾げるも、貼られていたスケジュール表を見れば理由が一目瞭
然だった。
890
!
何時何分、いつ頃にどこの誰が使用するのかを一月分びっしりと書
き込まれたスケジュール表には流石に顔が青ざめる。その下に赤い
文字で﹃当施設の賠償請求は管理維持費込の三割増しで要求させてい
ノワールもお疲れ様ー
﹂
ただきます。予めご了承ください。ユノスダス国王ユウコ﹄と、いつ
もの調子からは想像出来ない文面に恐怖しか感じなかった。
おかえりー、ネプギア
﹁ただいまー、お姉ちゃん。プルルートさん﹂
﹁おー
﹂
!
﹁でも、本当に使ってもよかったのでしょうか
﹂
良さから、ユウコと国民の間に結ばれる連携の良さが伺える。
の輸出入管理業務をほぼ一人で片付けるという要領の良さと手際の
な稼ぎではないというところがユウコの恐ろしいところだ。各国へ
ただし、これはあくまでも商業国家の〝副業サービス〟であり、主
﹁食料の備蓄と生活に必要な家具も備え付けられてますし﹂
﹁それにしても、ユノスダスの宿泊サービスには驚かされてばかりね﹂
﹁はい。今戻りました﹂
﹁おかえり∼、ぎあちゃん、ノワールちゃん﹂
る。
ているものの、冷えたタオルを額に当ててプルルートが看護してい
ているのか体温は非常に高かった。その反動からか、高熱でうなされ
いつ死んでもおかしくない。だが、銀鍵守護器官を身体の再生に回し
二段ベッドの下段側でエヌラスは眠っていた。呼吸はとても浅く、
とノワールは靴を脱いで寝室へと急ぐ。
出迎えてくれるネプテューヌに緊張をほぐされながらも、ネプギア
﹁無理もないわね、滅茶苦茶やりすぎなのよ﹂
﹁うーん、相変わらずかなー。目が覚める気配もないし⋮⋮﹂
﹁ネプテューヌ、エヌラスの様子はどう
!
だが、そのユウコも今はもういないのだ。
﹁そうかなぁ⋮⋮﹂
るって﹂
﹁んもー、ネプギアは固いんだからぁ。ユウコならきっと許してくれ
﹁しょうがないでしょ。エヌラスがこんな状態だもの﹂
?
891
?
!
﹁ノワール。外の様子は
﹂
﹁相変わらずね。崩壊は今のところ止まっているし、モンスターはわ
んさかいるしでキンジ塔はまだ出てきた気配はないわね﹂
﹁そっかぁ⋮⋮うーん、でもそろそろ出てきてもいい頃だと思うけど﹂
﹁ユノスダスが世界の崩壊じゃなくて、消滅させられたからじゃない
かな﹂
﹁そうかもしれないわね﹂
ヌルズの手によってユノスダスは消滅し、本来であればアダルトゲ
イムギョウ界に還元されるはずだったシェアも消えている。
﹁あ∼﹂
﹁どうしたの、ぷるるん﹂
﹁おはよ∼、エヌラス∼﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
意識を取り戻したのか、目を開けたエヌラスは身体を起こすことも
ユノスダスの管理してる国
出来ないようだ。首も僅かに動かすのが精々らしい。
﹁││││﹂
﹁ん、どうかした。ここがどこかって
外宿泊施設だよ﹂
﹂
?
﹁そっか∼﹂
﹁じゃあ今のエヌラスは悪戯し放題ってこと
﹁⋮⋮へぇ∼、そうなんだ∼﹂
﹂
﹁ちょっと、ふたりとも。よしなさいよ。エヌラス、大丈夫
?
?
だけ辛うじて聞こえた。
﹁何かしてほしいことはある
﹁││││﹂
﹂
ノワールが顔を近づけると、蚊の羽音のように小さな声で﹁むり﹂と
動かせるかしら﹂
身体、
なかった。どうやらその通りらしく、ほんの僅かにだが頷く。
唇を動かしているのは分かるが、肝心の伝えたい内容が聞こえてこ
﹁⋮⋮もしかしてアナタ、声出せないの
?
ぐぅ∼∼きゅるるるふたぐぅん⋮⋮。
?
892
?
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁いま、すごいお腹の音しませんでした
﹂
﹁はぁ⋮⋮もう、しょうがないわね。ご飯作ってくるからエヌラスの
こと頼んだわよ﹂
﹁は∼い﹂
﹂
ノワールが台所へと消えて、ネプテューヌはエヌラスの額に手を当
てる。
﹁エヌラス、お疲れ様。だけどもうちょっとだけ頑張れる
﹁⋮⋮﹂
くらい分かる。
ているのか泣きそうなのかわからないが、あまり良い顔ではないこと
分はそれでいいと思っている。プルルートの眉を寄せた表情は怒っ
が起ころうと守ると決めた。こんなやり方しか知らないけれども自
││悪いがそれは無理な相談だ。何がなんでも、何があろうと。何
姿見たくないぃ∼﹂
自分のこと大事にしないと、あたしぃやだな∼⋮⋮エヌラスのこんな
﹁あたし達の為にしてくれてるってのはわかるんだけどぉ⋮⋮もっと
ぐぅの音も出ない。
﹁エヌラスの∼おバカさん∼﹂
プルルートに頭を小突かれた。
のの、やはり激痛が走って動かせない。それに顔をしかめると今度は
指先が僅かに震えるだけだ。仕方なく左腕を持ち上げようとするも
とするが、思うように身体が動かない。右腕を持ち上げようとしても
落ち込む素振りを見せるネプテューヌにエヌラスが頭を撫でよう
たけどやっぱ無理だったのはちょっとショックだなぁ⋮⋮﹂
て思ってなかったもん。わたし達で頑張る、なんて偉そうなこと言っ
なんて言ったけどさ。まさか本当に病院抜けだして来てくれるなん
﹁それとね、ありがとう。なんかもう結構ヤケクソになって助けてー
声で﹁当たり前だ﹂と呟いていた。
何かを言おうとしていて、ネプテューヌが耳を近づけると、か細い
?
﹁エヌラスのこといじめていいのぉ、あたしだけなんだから∼﹂
893
?
うん、前言撤回。自分がイジメたいだけだこの女神様。
894
e p i s o d e 1 4 1 丼 も の に は ご 飯 に タ レ 付 き
でお願いします
﹁はい、エヌラス。あ∼ん﹂
ノワールが仰向けに寝ているエヌラスの口元にスプーンを持って
﹂
いく。唇を僅かに動かす口内に乗せた食事を入れると、途端に咳き込
む。
﹁ちょっと、大丈夫
慌てて身体を起こして背中を叩くと、むせながらもなんとか頷い
た。
致死量レベルの高純度ミードを過剰摂取して更には抑制剤を過分
に体内に取り込んだダメージは銀鍵守護器官でさえも快復させるに
は手間取る。
﹁ま と も に 食 事 も 飲 み 込 め な い と か ち ょ っ と 洒 落 に な ら な い ん だ け
ど﹂
﹁ノワール、ほらほらわたしもー。あーん﹂
﹁自分で食べなさいよ。なんで私がアナタの分まで食べさせなきゃな
らないの﹂
エヌラスがこんな状態なんだから﹂
﹁んもー、冷たいなぁ﹂
﹁しょうがないでしょ
り込む。熱い感触に、流し込まれる噛みほぐされた食事。それを飲み
げられる状態ではないが││掴んで引き寄せた。唇が触れて、舌が入
しばらく噛んでからエヌラスの顔を逃がさないように││元から逃
そ う 言 う と ノ ワ ー ル は 作 っ た 食 事 を 自 分 の 口 に 運 ん で 反 芻 す る。
いわね﹂
﹁はいはいわかったわよ。急かさないの。⋮⋮もう、こうするしかな
い。とはいえ、身体は正直なもので、再び腹の音が鳴り出す。
そんな意思を汲み取ってくれる女神様は残念ながらここにはいな
〝こんな状態で悪かったな⋮⋮〟
!?
895
!?
込むと顔を離した。
﹁ッ、はぁ⋮⋮どう
美味しい
﹂
?
い。
﹁もぐもぐもぐもぐ﹂
〟
〝⋮⋮おい、ちょっと待てネプテューヌ
んなに噛み始める
?
〟
﹂
?
﹂
げるからノワールはゆっくり食べてていいよ﹂
﹁なんでそうなるのよ
が最高のお食事を提供してあげるから
居合わせていなかった。
﹂
﹁ぬぅぅぅぅう〟う〟う〟う〟う〟う〟う〟う〟
!!!!
﹂
なにその夜中に小さい子が聞いたら泣き出しそうなトラ
ウマものの唸り声
﹁ねぷっ
﹂
声なき声を聞き届けてくれる察しのいい相手は、生憎とこの場には
!
!
〝その前に俺の命が風前の灯火だっつうの
〟
﹁というわけでー、安心していいよエヌラス。プラネテューヌの女神
!
!?
〝プラネテューヌの女神ってのはこんなんばっかか
〟
﹁そうそう。だからー、わたしとぷるるんもエヌラスに食べさせてあ
﹁ノワールちゃんだけじゃ∼、食べてる暇ないしぃ∼
﹁だからわたし達も手伝うよ。ノワールばかりずる⋮⋮﹂
ないんだから﹂
﹁な、なによ二人共 仕方ないでしょ。今のコレまともに食事でき
事なきを得る。
道が驚いてむせた。その背中をネプギアが優しく叩くことによって
乗っかってくる。急に栄養源を流し込まれたエヌラスの傷ついた食
口移ししてくる。それを飲み込んだ後に、今度はプルルートまでもが
まず、ネプテューヌが首に手を回して全身を使って抱きつきながら
││
〝プルルートまでどうした。おい、待て。お前らまさかとは思うが
﹁モグモグ∼﹂
お前までなんで突然そ
うんともすんとも言えない。ネプテューヌ達の表情が心なしか怖
?
?
!?
!
!?
896
!
﹁怖いわよ
どうしたのよエヌラス
﹁あのままではしぬきがした﹂
﹁でもぉ、自分で食べられる∼
?
か、ネプギアが優しく抱きしめる。
﹂
﹁エヌラスさん﹂
﹁⋮⋮ん
﹂
﹂
﹂
ようにぼやけていた。そんな自分の不調を嘆いているのを察したの
も全身に重石をつけられたように動きが鈍い。視界も靄がかかった
が、日常生活に支障をきたしているのは変わりない。立ち上がろうに
態からなんとか声を出せるくらいには︵無理やりだが︶快復した。だ
食事の後、エヌラスは自分の身体の調子を確かめる。寝たきりの状
恨み殺されても仕方ないと、子供並の感想しか湧かなかった。
されるしかないエヌラスは今の自分はゲイムギョウ界の男性諸君に
でも背に腹は代えられない。結局はネプテューヌ達にいいように
﹁やめてくださいしんでしまいます﹂
﹁じゃあ、あたし達が食べさせてあげるしかないよねぇ∼﹂
実は無理だったりする││ということは、だ。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
﹁というか、さすがの回復力ね⋮⋮﹂
﹁わぁ片言﹂
﹁ころすきか⋮⋮﹂
る。
でぎこちなく上体を起こして、支えてくれていたネプギアから離れ
な理由の神業であることに唸っていた。いくらかマシになった身体
から燃焼して第二の心臓に焚べている。それがあまりにもあんまり
使って身体に残る黄金の蜂蜜酒、その含有成分である有毒な物を片端
唯一察してくれたネプギアの言う通り、エヌラスは銀鍵守護器官を
﹁あ、もしかしてエヌラスさん銀鍵守護器官使ってます
﹁エヌラスこわいぃ∼⋮⋮﹂
!
﹁キンジ塔って、何処に出るんですか
897
?
!
?
?
﹁しらん⋮⋮﹂
その都度場所を変える、神出鬼没のラストダンジョン。本来であれ
ばもうとっくに出現しているはずだが、まだその姿を現していないこ
とにネプギアは不安が募る。つい、エヌラスを抱きしめる手にも力が
こもっていた。
〝⋮⋮これは、これでマズイよなぁ〟
後頭部に当たる、柔らかい小さな膨らみが二つ。決してロリコンで
あるわけではないが、いやもうここまで来るとその否定要素など皆無
に等しいがそこはそれで譲れない一線。断固拒否る。
エヌラスがふと、ゼロクリスタルを手にして眺めた。気を紛らわす
為に出来ることと言えばこれぐらいのことしかない。
﹁それが、エヌラスさんのなんですよね﹂
﹁⋮⋮﹂
歪んだ双角錐。捻れたクリスタルは奇妙な形で浮いていた。ゼロ
あ、別に深い意味はないです。私の純粋な興味本
あらゆる次元、あらゆる世界。様々なゲイムギョウ界││まるで
星々のように輝く場所。何も無い闇黒の宇宙。きっとそこは、どの世
界にも属さない場所だったんだろう。
898
ク リ ス タ ル。絶 望 の 始 ま り。全 て の 終 わ り を 告 げ る 負 の 根 源。そ し
﹂
て、己の存在証明。女神の信仰心とは真逆の負の結晶。
﹁ああ⋮⋮﹂
﹁触ってみてもいいですか
﹁いいや﹂
﹁はい⋮⋮﹂
まれたんですか
﹁⋮⋮エヌラスさんは、絶望の魔人って言われてましたけど、どこで生
険な物をネプギアに触らせるわけにはいかなかった。
力を一時的に失うのだろう。その先は││消滅しかない。そんな危
戦闘で強制的に女神化が解除されたことを鑑みると、恐らくは変身能
〝コレ〟に女神が触れたことなど考えたことはない。ヌルズとの
?
﹁どこ⋮⋮だったんだろうな⋮⋮考えたことねぇや⋮⋮﹂
位なんですけれど⋮⋮﹂
?
﹁おれは││⋮⋮そうだな⋮⋮どこで⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮エヌラスさん、寝ちゃった﹂
静かな寝息をたてるエヌラスをそっと横に寝かせて、ネプギアはネ
プテューヌ達がまだ浴室から上がってこないのを確認してから身体
を寄り添わせて横になる。身体と腕の間に潜り込み、目を閉じてみ
た。
すぅ、と息を吸い込めば寄り添ったエヌラスの服の匂い。血と硝煙
の香りに混じって少し汗も混じっていた。嗅ぎ慣れない甘い匂いは
黄金の蜂蜜酒だろうか。
﹁ちょっとだけ⋮⋮ちょっとだけなら⋮⋮いいよね⋮⋮﹂
これは姉としてやるべき
身体をすり寄せて、少しだけ甘えてみる。最後の戦いが始まる前
の、ほんの小さな安らぎ。
﹂
﹁あー、ネプギアがエヌラスに甘えてる
ことはただ一つだよね
﹂
エヌラスさん寝てるからそんなに騒いだら﹂
﹁そんなこと知るかー、とやー
﹁お、お姉ちゃん
!
せるネプテューヌ。
﹁やっぱ姉妹丼は定番だよね﹂
﹁でも∼他人丼っていうのもあるよねぇ∼﹂
なぜかノワールが顔を赤くしてそっぽを向いていた。
899
!
ネプギアの反対側。エヌラスの右腕と身体の間に身体を滑り込ま
!
!?
e p i s o d e 1 4 2 寝 て も 覚 め て も 考 え る こ と
は一緒くた︵R︶
翌朝。エヌラスは寝苦しさに目を覚ます。
﹁⋮⋮⋮⋮どう、なってんだ⋮⋮﹂
右を向けばネプテューヌ。左を向けばネプギア。寝返りが打てな
い自分の胸板にプルルート。隣の二段ベッドではノワールが寂しく
ひとりで寝ていた。プラネテューヌの女神てんこ盛りである。重く
はない、むしろ心地良い。だが身動きがまったくとれないのはいただ
けなかった。
﹁ぬっ⋮⋮ほっ⋮⋮﹂
抜けだそうと試みるが││。
﹁すぅ⋮⋮﹂
900
﹁ん∼⋮⋮﹂
﹁むにゃ⋮⋮プリン⋮⋮﹂
﹂
ロック&ロック&ホールド。完璧に動きを封じられている。むし
ろ動くと﹁お前は黙って抱きまくらにでもなってればいいんだよ
欠伸を漏らしながらプルルートが身体を起こし、違和感に気づいた
﹁ねぷちゃん達ぃ∼まだ寝てるんだぁ∼⋮⋮ふあ∼⋮⋮﹂
﹁⋮⋮おはようございます﹂
﹁おはよ∼、エヌラスぅ∼⋮⋮﹂
寝ぼけ眼を擦り、見つめ合うこと数秒。
﹁ん⋮⋮ぅ∼⋮⋮﹂
く。
エヌラスが二度寝を決め込もうとして、もぞりとプルルートが動
の状態が健全な男性には少々よろしくないが。
幸せそうに眠り込んでいる三人を起こす気など到底ない。ただ、今
かった。
と言わんばかりに身体を締め付ける女神達にエヌラスは何も出来な
?
のか首を傾げた。エヌラスの表情が引きつる。
﹁⋮⋮えぇ∼っとぉ∼⋮⋮なんでおっきくなってるのぉ∼
﹁生理現象です⋮⋮﹂
震え声で言う他になかった。
﹁ふぅん、そ∼なんだぁ∼⋮⋮﹂
﹂
乗位という体勢があまりにもマズイ。
﹁ねぇ∼﹂
﹁お、おう⋮⋮
﹁男って悲しい生き物なのね⋮⋮﹂
﹁デスヨネー﹂
﹁わからないわよ。だって女神だもの﹂
﹂
全世界の男が朝起きて元気な息子に挨拶されるんだよわかれよ
﹂
﹁別に誘うとかそういう意図は欠片もなかったんだよ。信じてくれ。
﹁だめじゃない、エヌラス。あたしをそんな風に誘っちゃ⋮⋮﹂
それも跨った状態で。
に嗜虐心をそそられたのか朝っぱらからアイリスハートが君臨する。
すぐったい。起きるんじゃないかと冷や汗もののエヌラスを見て、更
プルルートが腰を落として擦り付ける。ネプテューヌの寝息がく
﹁俺の理性がどうにかなるので勘弁してつかぁさい﹂
﹁こうしちゃうとぉ、どうなっちゃうの∼
﹂
隠れする本性。両腕をネプ姉妹に拘束され、その上でプルルートが騎
目元に影を落として、ニタリと笑うプルルートの妖艶な笑みに見え
?
く止めろください﹂
﹁ここから見下ろしてると、なんだかぁねぷちゃん達から寝とってる
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
眺めること数秒。
ていた男根を取り出す。朝から元気に屹立しているのをまじまじと
アイリスハートの手がズボンのチャックを下ろし、押さえつけられ
﹁あらぁ、おバカさん。あたしがやめろと言われてやめると思う
﹂
﹁そう思うんなら艶めかしく前後している腰のストロークを一秒も早
!
?
901
?
?
﹂
気持ちよさそうに寝ているねぷ
擬似NTRでどんだけだ
みたいでめちゃくちゃ興奮するわね﹂
﹁歪み過ぎだろお前の性癖
﹁あら、大声出していいのかしら
!
﹂
ねぇ。どうかしらぁエヌラス 身動きできずにあたしにいいよう
﹁激しいのも好きだけど、たまにはこういうスローセックスもいいわ
ではなくゆっくりとした腰の動きで背中を震わせていた。
悲しい。アイリスハートもこの状況を楽しんでいるのか、激しい動き
それでも熱い感触に包み込まれる快感に逆らえないのが男として
﹁じゃあじゃねぇぇ⋮⋮
﹁うふふふふ、じゃあいただきまぁす﹂
の動きを止めて、エヌラスの頬を撫でる。
睡している二人には難しい。アイリスハートが擦り合わせていた腰
むしろ今すぐ一刻も早く起きて俺を助けてくれと懇願したいが、爆
ちゃん達が起きちゃうかもしれないわよ﹂
?
!?
﹂
﹂
最初はあたし、ノワールちゃん。それからね
ぷちゃんとぎあちゃん。ほ∼、らっ
員抱いてるんでしょ
﹁別に、いいじゃない。今更二人に見られたって。だってあたし達全
アの寝息がかかる。
両脇でスゥスゥと何も知らずに眠っているネプテューヌとネプギ
ておけよぉぉぉほぉ⋮⋮
﹁何一つ反論の余地がねぇがテメェだけはぜってぇ許さねぇから覚え
起してるんだもの﹂
にされちゃうのは。もちろん気持ちいいわよねぇ、だってこんなに勃
?
ヌラスも息が乱れてきた。
﹁読者諸兄に殺されるほど憎まれても仕方ないわよ
﹂
﹂
!?
?
﹁唐突にぶっこむメタ発言で人を不安に陥れるんじゃねぇよ
﹂
﹁何言ってるのよ、女神囲っておきながら﹂
﹁反論できねぇ弾丸論破ぁぁぁぁ⋮⋮
!
﹂
902
!
!
ゆっくりと上げた腰を一気に落とすアイリスハートの腰使いにエ
!
?
﹁ほら、我慢せずにイっちゃいなさいよ。こんなにビクビクさせて、出
したいんでしょ
?
﹁お前がそんないやらしい腰使いするからだろ﹂
﹁生意気なこと言ってると、イかせてあげないわよ﹂
そう言って腰を持ち上げるアイリスハートに、エヌラスは不意打ち
で腰を打ちつける。抜けそうになる男根が突然深く突き上げられ、嬌
﹂
声と共に腰を落とした。
﹁ひ、ンぅっ
﹁∼∼∼∼
﹂
というべきか、なんというべきか。
動させて新しく体組織を生成している最中だ。││まぁ、その副作用
の毒素が抜けていったのかもしれない。今は銀鍵守護器官をフル稼
少なくとも失血死一歩手前ぐらいには。恐らくそのせいで血液中
﹁今までに無いほど出血したからな⋮⋮﹂
﹁あれだけクスリやっておきながらよく無事ね﹂
﹁うっせ⋮⋮こっちだって、色々とキツイんだよ⋮⋮﹂
﹁ふぅ⋮⋮ん、ちゅぱ⋮⋮こぉんなに出しといてまだ元気なのね﹂
うにしている竿に顔を近づけて舌を這わせた。
て搾り取り、出しきった所でようやく抜く。それでもまだ物足りなそ
スハートの膣内で果てた。流し込まれる精液の勢いに背中を震わせ
我慢の限界が近づき、エヌラスはネプギアを抱き寄せながらアイリ
けか﹂
﹁むしろお前からされるんだったら何でもご褒美な気がするが、俺だ
﹁だってこれ、ただのご褒美にしかならないじゃない﹂
﹁コレ以上のお仕置きがあるってのかおっかねぇな﹂
置きが必要みたいね﹂
﹁本当に悪い子なんだか、らァ。そんなことする変態ちんぽにはお仕
腰を前後させる。
し混乱していたのも束の間、アイリスハートが根本まで咥えて何度も
頬を引っ張るという、らしくない子供のような責めにエヌラスが少
﹁いふぇふぇふぇふぇふぇ
﹂
﹁エロい声出すなよ、女神様﹂
!
﹁悪い、プルルート⋮⋮出るッ﹂
903
!?
!
﹁ふぇ
んく、んんっ││
﹁俺が聞きてぇよ
﹂
﹂
﹁なんで二回も出せるほど元気なのよ﹂
ながら蛇のように睨んでくる。
をべったりと白濁液で汚し、舐め取りながら飲み込む姿に興奮を覚え
全身の感覚が少しばかり、洗練化されている為に刺激に弱い。口元
!?
り目が合った。
﹁⋮⋮おはよう、ネプギア﹂
﹁あ、はい⋮⋮おはようございます⋮⋮﹂
﹁おはよ∼、ぎあちゃん﹂
﹁はい、おは⋮⋮ってなんで変身してるんですかプルルートさん
﹁バッ、声がデカイっての﹂
!?
な﹂
﹂
?
お風呂入る前に寝ちゃっ
﹁さて、と⋮⋮じゃあエヌラス。お風呂入りましょうか
んも﹂
﹁え、わたしもですか
﹁だってぇ、二人共ちょっと汗臭いわよ
ぎあちゃ
﹁⋮⋮こんな情けない寝顔の女神が治める国を一度でいいから見てぇ
かもごもごと口が動いてヨダレが出ていた。
ている夢を見ている最中らしい。それを食べて倒そうとしているの
だが不安をよそに、ネプテューヌは相変わらず巨大なプリンと戦っ
﹁ご、ごめんなしあ﹂
﹂
もぞもぞとネプギアが動き、薄く目蓋を開ける。エヌラスとばっち
﹁ん、んー⋮⋮﹂
言われて否定できないのが辛いところ。
その精力絶倫は死んでも治らないんじゃないかしら﹂
﹁あ∼あ、朝からこんなに汚して⋮⋮お風呂入りたいわぁ。あなたの
!
る。
指摘されて、何気なく自分の臭いを嗅いでみると確かに少し気にな
し﹂
たし、ぎあちゃん。エヌラスはそもそもお風呂に入れる暇なかった
?
?
904
?
﹂
﹁と、いうわけで二人共まとめてお風呂に連れて行くわ﹂
﹁きょ、拒否権はぁ⋮⋮﹂
﹁あると思ってるのぉぎあちゃん
い
〟
〝⋮⋮あ、朝からなにしてんのよもぉう
変な気分になるじゃな
そして、浴室に音を立てないように入る三人。
﹁俺も犠牲になるから心配すんな⋮⋮﹂
﹁で、ですよね⋮⋮エヌラスさん、助けてください﹂
?
!
終始狸寝入りしていたノワールがひっそりと起きていたのは誰も
知らなかった。
905
!
e p i s o d e 1 4 3 最 後 の 朝 食 は 簡 素 で 質 素 で
いつも通りの賑やかさ︵R︶
狭 い 浴 室 に 三 人。一 人 用 の シ ャ ワ ー に、一 人 用 の 浴 槽。ど う 見 積
もっても二人が限度だ。小柄なネプギアはともかく、変身しているプ
ルルートことアイリスハートと成人男性のエヌラスではそれだけで
狭い。脱衣場も狭い。本当に﹁とりあえずつけるだけつけました﹂と
いう最低限の配慮が見え隠れしている。
﹁ふんふんふ∼ん♪﹂
﹂
﹂
鼻歌混じりにそれはもう楽しそうにシャワーを浴びながらアイリ
スハートがスポンジを泡立ててエヌラスの背中を洗い始めた。
﹁⋮⋮あの、プルルートさん﹂
﹁あら、どうかしたの、ぎあちゃん﹂
﹂
?
﹂
アはぎこちない手つきでエヌラスの身体にスポンジをあてがう。
﹂
﹁ネプギア。気持ちは分かるが⋮⋮﹂
﹁はい
﹁頼むから俺の股間を凝視するな⋮⋮﹂
﹁ご、ごめんなさい﹂
﹁あらぁ、ぎあちゃんったら。そぉんなにコレが欲しいの
﹂
める。思わず見てしまうネプギアは手が止まり、顔を真っ赤にしてい
た。ゴクリと固唾を飲み込み、吐息を漏らす。
﹁どうなのかしらぁホラホラ﹂
﹁それで犠牲になってるのは俺だってわかれよぉぉぉ⋮⋮
!
906
﹁どうしてわたしが、そのぉ⋮⋮エヌラスさんの前を洗うことに
﹁ただの役割分担よぉ。それが
﹁あ、はい
﹁ほら、ぎあちゃん。手が止まってるわよ﹂
﹁⋮⋮いえ、なんでもありません﹂
?
すっかりこの場の主導権をアイリスハートに握られたまま、ネプギ
!
後ろから伸びたアイリスハートの手が、エヌラスの男根をしごき始
?
?
背中に柔らかい感触が二つ。付け加えて、耳たぶに熱い吐息と舌遣
い。
﹂
﹁正直に言わないとエヌラスはあたしがもらっちゃうわよ﹂
﹁俺の身体の所有権どうなってんだ
﹂
?
ぐ。
﹂
﹁あ、あの⋮⋮エヌラス、さん﹂
﹁もうこの後の流れが分かる。好きにしろよもぉう
こうなればやけくそだ。
﹁じゃ、じゃあ遠慮無く。えいっ﹂
﹂
ドロリと粘ついた精液を指ですくい上げて、ネプギアは匂いを嗅
﹁すごく、エッチな⋮⋮匂いです﹂
が出ても困る為に放置していた。
する。自己再生を制御できればいいのだが、下手に手を加えて不具合
するという再生方式の為に、身体の一部である精巣も当然ながら復活
膨大な魔力の盛大な無駄遣いである。身体の足りない部分を補填
⋮⋮
﹁お前、出す度に⋮⋮銀鍵守護器官が使用される俺の気持ちにもなれ
かったのかしらぁ。三回目なのに随分と濃いの出るのね
﹁派手にイッちゃったみたいねぇあたしの手で。そぉんなに気持ちよ
た。
いく。ビクビクと震える股間にアイリスハートも背中を震わせてい
切れずエヌラスが射精してネプギアの顔だけでなく白い肌を染めて
指先が優しく亀頭を包み込み、撫でるように触る。その刺激に耐え
﹁人権無視とかどうなってんだこの女神﹂
﹁あるわけないじゃない。何言ってるのこの破壊神﹂
!?
﹁ぎあちゃんはともかく、エヌラスはどうしたのよ﹂
﹁だ、だってその⋮⋮わたし、まだこういうの慣れなくて﹂
﹁なに照れてるのよ、二人とも﹂
上がってきた。
が胸に押し当てられて互いの鼓動が伝わり、妙な気恥ずかしさが湧き
身体をピッタリとすり寄せて、ネプギアが抱きつく。小さな膨らみ
!
907
!
あたしは変身前の方がいいって言うの
﹁それとこれとでは話が違うんだよ﹂
﹁じゃあなに
﹁もう少し優しさをくれ⋮⋮﹂
﹂
﹁あたしの半分は優しさでできているわよ﹂
﹁どの口が言うんだよ
﹁この口よ﹂
﹂
?
﹂
!?
ぜぇんぶ﹂
﹁いっ、あふ、イッちゃ
エヌラスさん、わたし﹂
﹁いいのよぉ、ぎあちゃん。だめになっちゃっても﹂
﹁んっぷぁ、これじゃ⋮⋮わたし、だめになっちゃいますぅ﹂
せた。撫でるように優しく触りながらも、先端を摘む。
たのか、アイリスハートが唇を塞ぐとエヌラスも動く左手を乳房に寄
突き上げられて感じているネプギアの羞恥に染まる顔にそそられ
﹁ほぉらえっちなところはねぷちゃんに負けず劣らずなんだからぁ﹂
﹁やっ、ひぅ
﹂
﹁いいじゃなぁい、見てもらえばぁ。ぎあちゃんの、えっちなところ
﹁ひゃ、これじゃ全部見え⋮⋮
りと背後に回ると両手を取って広げさせる。
標的をエヌラスからネプギアに変えたのか、アイリスハートはする
﹁⋮⋮やぁねぇ二人揃って、あたしを置いてけぼりなんて﹂
﹁だ、だって、気持ちいいんです⋮⋮あ、これ奥まできちゃう﹂
てきてるぞ﹂
﹁エロいこと言うな⋮⋮ネプギアの中だって、きゅうきゅう締め付け
⋮⋮﹂
﹁ん っ ⋮⋮ エ ヌ ラ ス さ ん の、お っ き い で す ⋮⋮ 熱 く て、硬 く っ て ぇ
腰を落として挿入する。
右腕は動かない。左腕を腰に回して軽く抱き寄せると、ネプギアは
には目を潤ませるネプギアの顔があった。
ちらりと舌を覗かせる色気のある唇に思わず目を背ける。目の前
!?
の中にたぁっぷり濃いの出してあげなさい
﹂
﹁姉妹揃ってホントえろいんだからぁ。ほら、エヌラス。ぎあちゃん
!
?
908
?
!
アイリスハートに言い終わるやいなや、エヌラスはネプギアの中で
果てた。注ぎ込まれる熱い感触に身体をよがらせるネプギアは腰を
抜かしたようにトロけた表情で脱力する。
﹂
﹁ハァ、はぁ⋮⋮このままだと、エヌラスさんじゃないとだめになっ
ちゃう⋮⋮﹂
﹃⋮⋮⋮⋮﹄
誰のせいだと思ってるんですかぁ⋮⋮
アイリスハートとエヌラスが顔を見合わせた。
﹃エロい﹄
﹁も、もぉ∼
言わんばかりに身体を伸ばしている。
﹁あ、あらおはようエヌラス。身体はどう
﹂
浴室から三人が出ると、ノワールがあたかも今さっき起きましたと
!
﹂
る。エヌラスがシーツの裾を掴み、深呼吸。
﹂
﹁起きろってんだろうがねぷりん
﹁ねぴゃー
床に落
軽く揺さぶると、寝ぼけているのかむにゃむにゃと寝言を言ってい
!?
むにゃ﹂
全然元気じゃないアナタ
﹂
﹁あはぁー、エヌラスのすけべぇ⋮⋮そこはプリンじゃないよぉ⋮⋮
るまっていた。
微妙に気まずい空気が流れる中、もそりとネプテューヌが毛布にく
﹁おはようございます⋮⋮﹂
﹁えへへぇ、おはよ∼ノワールちゃん﹂
﹁へ、へー、そうなのね﹂
﹁右腕以外は動けるくらいにまで快復したが、さすがに腹減ったな﹂
?
﹁二、三発ぶん殴って起こしたほうがいいのかコイツは﹂
﹂
﹁なんで左手に魔力充填してるのよ
﹁大丈夫だろ、女神だし﹂
﹁なにその根拠の無い自信は
!?
﹁仕方ねぇ、普通に起こせばいいんだろ﹂
!?
!
909
!
くるまっていたネプテューヌが一回転、半⋮⋮ビタァン
!
!?
下した。
﹁イッタァ∼イ なに、なにごと
﹂
寝ぼけて天地魔闘でもされた
ラスボス級のカウンター
﹁目覚ましよりうるせぇなコイツ⋮⋮﹂
のわたし
!?
﹂
!
る。
﹁はい﹂
﹁ありがとな﹂
﹁エヌラス、缶詰はいいの
開けてあげるわよ
﹂
?
んっ⋮⋮
あ、あれ、固いわね⋮⋮
この⋮⋮っ
?
﹁あー、じゃあ⋮⋮そうだな。そっちの開けてくれるか﹂
﹁これ
!
﹁いや、無理しなくてもいいぞ
﹂
!
﹂
?
﹁はい、開いたわよ。どうかしら﹂
かった⋮⋮﹂
﹂
﹁ま さ か 素 手 で 缶 詰 開 け る 女 神 を 拝 む こ と に な る と は 思 っ ち ゃ い な
!
?
けようとするが、横からノワールが取り上げて開けるなり渡してく
乾燥した携帯食料を食べるには水も必須だ。ペットボトルの蓋を開
とはいえ、長持ちさせる為に真空密閉された袋に入れられている。
を開けていた。
い﹄と小さく注意書きがされているがなんのその。エヌラスは二袋目
ロリーたるや女性の天敵である。﹃一日一袋を目安に摂取してくださ
素をこれでもかと凝縮したお菓子のようだが、一袋に詰め込まれたカ
左手と口で器用に封を開けてエヌラスは携帯食料を食べる。栄養
ぐらいしか出てこない。
簡易的な宿の為備え付けの食料と言えば保存の利く缶詰や携帯食料
エヌラスの言う通りに食事の用意をするノワールだが、あくまでも
﹁お前もな。とりあえず飯にしよう。全員起きたことだしな﹂
ヌラス。元気そうで何よりだよー
﹁えぇ、起きるなりなんで罵倒されてるのわたしぃ⋮⋮あ、おはようエ
!?
!?
ふんっ
﹁アクセス
!
ねじ切られる缶詰の哀れな姿。
パキィン
!
910
!?
ノワールが桃の缶詰を開けようとするが、中々開けられない。
?
﹂
持ってたなら貸してよぉ
﹂
﹁仕方ないじゃない。缶切りなかったんだもの﹂
﹁これぇ∼
﹁ちょっと
いるのは賞味期限がひと目で確認出来るからである。
付いており、本来ならばそこから開けられた模様。逆さまに置かれて
ちなみに││ノワールが持っていた缶詰の底側。実はプルタブが
!
なお、それにノワール達が気づいたのは食後のことであった。
911
!? ?
e p i s o d e 1 4 4 旅 行 先 で の 観 光 名 所 め ぐ り
は基本
エヌラス達はアダルトゲイムギョウ界を歩く。キンジ塔が出現す
るまでにまだ猶予があるとみて、寄りたいところがあると言い出した
のだ。
最初に立ち寄ったのは、ユノスダス。ヌルズと大魔導師との激闘の
最中で消滅させられたユウコの治める国。そこには何も残っておら
ず、ただ他の場所と同じように虚無だけが広がっている。
最後に││せめて、最後にしてやれることでもあればよかった。そ
んな後悔も後先に立たず。ユウコの為にしてやれることと言えば、自
分がこの戦いの最後の勝者になることくらいだ。
﹁エヌラス⋮⋮﹂
﹁センチメンタルは趣味じゃねぇけど、やっぱり⋮⋮なんつーかな。
﹂
フォートクラブって全部破壊したんじゃ⋮⋮﹂
んだろ﹂
﹁確かに⋮⋮武装とかつけてないですね﹂
背中に取り付けられているカーゴは空になっていた。元は物資輸
送用の機体だったのだろう。何処に向かっていたのかまでは分から
ないが、その挙動は機械的に自分に課せられた仕事をこなしている。
﹂な
﹁ったく、ユウコのやつめ。しっかり稼働停止させとけっての。どう
せ後で帳簿見て﹁この電気代とガソリン代使った覚えねぇぇー
んて騒ぐんだからよ⋮⋮﹂
フォートクラブと並んで歩きながらアゴウへ向かう道中。特に何
!
912
何も無くなっても、最後に一目見ておきたいんだよ﹂
﹁じゃあ、次はアゴウ
﹁あれ
見かける。
街道沿いを歩いていると、フォートクラブが隊列を組んで歩く姿を
﹁そうだな。そっちに行くか﹂
?
﹁いや、生産工場はぶっ壊したが輸送用とか民間用の機体が残ってる
?
かあるわけでもなく、ただ城壁の前に辿り着いた。
そこは、アルシュベイトとの死闘の傷跡もそのままにされており、
﹂
薙ぎ払われた木々や打ち倒された大木、数少ない自然がこれでもかと
環境破壊されている。改めて見て││思う。
﹁これだけ甚大な被害出したのよね﹂
﹁おう﹂
﹁⋮⋮アナタとアルシュベイトの二人で﹂
﹁おう﹂
﹁それでも壊れなかった城壁って一体なんなのよ
﹁いやー、考えたことねぇや﹂
見上げるほどに築きあげられた城壁にして城門。最後の防壁。無
尽蔵の絶望を押しとどめる最前線の防衛戦線、軍事国家アゴウの最た
る特徴。笑ってごまかすエヌラスだが、本当に考えたことはない。む
しろどういう素材で造ればそうなるのか逆に聞きたいくらいだ。
城壁の向こう側には何も残っていない。ただ断崖絶壁のように暗
闇が広がっている。アゴウ国民が総力を挙げて守りぬいたという国
は、跡形も無い。
﹁兵どもが夢の跡、ってか⋮⋮これじゃ報われねぇな﹂
軍事国家アゴウから電脳国家インタースカイまでの道中、初めてネ
プテューヌ達と出会った場所にも道すがら立ち寄る。見晴らしの良
くなった一部の焼け野原は、〝超電磁〟抜刀術の跡だ。改めて、思う。
その火力の直撃を受けてまともに立っていたアルシュベイトが荒唐
無稽な鬼神だったのだと。
﹁懐かしいなー。この辺りでわたし、エヌラスに投げられたり転がさ
れたり吹き飛ばされそうになってたっけ﹂
﹁あー、思い出した。バルド・ギアの野郎に追い回されてシェアエネル
ギー底をつきそうになってたっけな﹂
﹁それでぇ∼、あたしと出会ったんだよね∼﹂
﹁そこは思い出したくても思い出したくない﹂
既にその時点で上下関係が決定づけられたようなものだ。いたい
けな少女に襲われた経歴を思い出すだけでもエヌラスは頭痛がして
913
!?
くる。とはいえ、自分のいいようにしていたとしても通報待ったなし
の事案なのでそれはそれでかなりマズイ。結局のところ、いいように
されるしかないのだ。
インタースカイに繋がるはずの海上高速道路は、途中からぷっつり
と切れている。その先にはやはり他と同じように崩壊に巻き込まれ
て消滅していた。
﹁ドラグレイスと初めて出会った場所でもあるのよね﹂
﹁そうなのか﹂
﹁ええ。インタースカイに突然現れたと思ったら、わたし達とトライ
﹂
デントを相手にして一歩も退かなかったんだから。結局のところ、一
体何者なの
﹁あの鎧の中も空っぽだったみたいですし⋮⋮﹂
﹁なんなんだろうな、あの野郎⋮⋮﹂
そのドラグレイスでさえも大魔導師との交戦で胸部を貫かれてい
る。生命力に関して言えばエヌラスと同等かそれ以上のしぶとさを
誇っていたが、最期は呆気ないものだ。
﹁さて││んじゃ、歩き通しで疲れたしそろそろ休むか﹂
﹁そうね﹂
﹂
﹁んもー、なんでそこで一番にノワールが賛成するかな。そこは主人
公たるわたしでしょー
エヌラス∼﹂
?
ぷるるんズルーい
﹂
!
﹁え、あー。いいんじゃね
﹁あー
﹂
﹁じゃあ∼、ヒロインの座はあたしがもらっちゃってもいいよねぇ∼
るんだし﹂
﹁別にいいでしょ。そんなこと言ったら私だって主役やってたことあ
?
ちょっとぉ、寂しいな∼。同じプラネテューヌの女神なのに、ズルい
よぉ∼﹂
タ イ ト ル で も う 名 前 出 ち ゃ っ て る し
﹁うぅ、それを言われちゃうとわたしとしてもちょっとぷるるんに言
い 返 せ な い。で、で も ほ ら
!
914
?
﹁だってぇ、ねぷちゃん達主人公するのにあたしだけ仲間はずれ∼。
!
﹂
﹂
ホントそこまでにしとけ
これ以上すると収拾つかねぇからな
﹁お前らメタい発言そこまでにしとけよ
よ
﹃はぁ∼い﹄
が⋮⋮﹂
﹁大 丈 夫 だ よ ー ネ プ ギ ア
﹂
﹁プリン扱いかよ﹂
﹁そういえば、エヌラス。アナタ右腕の調子はいいの
﹂
プ リ ン は 別 腹。そ れ と お ん な じ だ か ら
﹁なんだか、段々お姉ちゃんがエヌラスさんと距離が近くなってる気
スの隣に移動する。
座り込み、渋々口を閉じたネプテューヌだったがそれとなくエヌラ
!
左腕に抱きついた。
﹁ねぇ∼いいじゃーん
しにも優しくしてよ﹂
﹁してんだろうが﹂
﹂
優しくしてるつもりだぞ俺
﹁あ、夜の方じゃなくて日常的にね
﹁その注釈いらなくねぇ
﹁むぅー。でもプリン⋮⋮﹂
﹂
ノワールばっかりじゃなくてさぁー、わた
それに若干の不満を抱いているのがネプテューヌ。頬を膨らませて
エヌラスの右隣には一日中ノワールがピッタリとくっついていた。
が支えてくれてるおかげで平気だけどな﹂
﹁まるっきり駄目に決まってんだろうが。指一本動かねぇ。ノワール
?
!
から﹂
﹁今食べたーい﹂
今、非常に恨んでいるのが当の本人である。
く抱きしめるが、神経が死んでいるので全く何も感じない。それを
ヌラスの膝の上に座っている。それに負けじとノワールが右腕を強
そう言いながらも擦り寄ってくるネプテューヌはいつの間にかエ
﹁どうしろってんだ⋮⋮
﹂
﹁どんだけプリン食いたいんだよ⋮⋮遊びに行く時にでも買ってやる
!?
?
!
!?
!
915
!?
!?
!
!
﹁エヌラス∼﹂
﹁なんだ、プルルート﹂
﹁えっとねぇ∼﹂
﹁おう﹂
言 わ な く て よ
﹁遠目から見てるとねぇ、犯罪者っぽいよ∼って思ったんだけどぉ﹂
﹂
﹁思 う だ け に し て く れ る と 俺 は 凄 く 嬉 し か っ た な
かったなそういうの
!
を片腕で凌ぐというのは無理だ。
﹂
!
なんでわたしを起こしてくれなかった
ぷるるんはともかくネプギアまでそんなことしてたの
﹁んもー、朝からネプギアとプルルートはえっちなことしてるし
﹁ねぷっ
﹂
お姉ちゃんは悲しいよ
のさ
!?
か考えていた。この先に残っているクロックサイコとの戦い。それ
ネプテューヌの頭を撫でながら、エヌラスは右腕の神経をどうする
﹁はいはい分かってますよコンチクショウ﹂
﹁キンジ塔が出るまでの間だけなんだからね、こういうの﹂
!
﹂
﹁べ、別にお姉ちゃんに秘密にしてたわけじゃないよ
││九龍アマルガム
﹂
崩壊した地上。落下した岩盤によって地下帝国は壊滅的打撃を受
けており、大魔導師とアサイラム、人狼局との交戦。そして国家規模
のテロリストとの総力戦で焼け野原となっている。瓦礫と廃墟だけ
の忘れ去られたスチームパンク・ファンタジック。そこに一匹の蟲が
湧 い て い た。ま た 一 匹、二 匹 と 増 え て い く。集 合 し た 蟲 は 人 の 姿 へ
と。異形な魔人へ姿を変えた。
その仮面の見つめる先には、瓦礫に埋もれている朽ち果てた竜の騎
グッドイブニング
いつまで寝てい
士。大剣を握りしめて、がらんどうの胴体には風穴が空いている。
﹁やァ、オハヨーオハヨー
!
!
916
!
!?
﹁あたしはともかくってぇ∼、どういう意味かな∼ノワールちゃん∼
!
⋮⋮頼むから少しは静かにしてくれないと考えがまとまらない。
!?
?
るつもりダイ
﹂
だぁいじょうぶかい
?
なんで識ってるかって
込んだ騎士がギチギチと全身を鳴らしながら動き始める。
なぜだろうねぇ。なんでかナ
﹁││││貴、様⋮⋮何故それを⋮⋮﹂
﹁さァ
そりゃあキミと同じ理由だろうネ﹂
?
として大剣を支えにする。
﹁死んだふりはそこまでにして、サ。クライマックスを飾ろうカ
てるヨ﹂
!
怖いね﹂
中を反らせて避けた。
﹁おォっと
﹁俺の前から、失せろ⋮⋮
ティル・ナ・ノーグへ、行くのだ││
﹂
キャーッハッハッハ
﹁じゃあまずはその為にキンジ塔へ急ごうか
手をしなきゃいけないからサァ
﹂
!
!?
!
!
だ取り出そうとしているようだ。この崩壊に飲まれて終わるのでは、
まっている。キンジ塔を出現させるために足りないエネルギーをま
ガムから消えた。ドラグレイスが周囲を見渡せば、世界の崩壊が始
無数の羽虫となってクロックサイコは地響きの起こる九龍アマル
!
ぼかぁエヌラスの相
貴様に言われるまでもなく、俺は⋮⋮
ドラグレイスが振るった剣の軌跡からクロックサイコは大きく背
﹁言われる、筋合いは⋮⋮ない││
﹂
彼女達のいる黄金の理想郷││ティル・ナ・ノーグはもう目前まで来
?
が、風穴の空いた胴体では思うように身体が動かないのか膝をつこう
ガラガラと瓦礫から身体を抜き出して立ち上がるドラグレイスだ
?
ピク、と。僅かに指先が動いた。動くはずのない鎧兜が、甲冑を着
ダ﹂
﹁キンジ塔なら明朝にでも、でーてくるよ。さァ、さぁおはようの時間
?
しめているきらびやかに輝く黄金の大剣が空しい。
﹂
﹁ドラグレイス 竜騎士
〟だろう
まだ〝一回目
語りかけても反応はない。当然だ、死んでいるのだから。彼の握り
?
?
﹁││││││﹂
?
!?
917
?
あまりにも味気ない。
ひび割れたシェアクリスタルを取り出す。その輝きは今にも消え
﹂
失せそうだが、ドラグレイスは自らの身体に埋め込んだ。
﹁変⋮⋮神││
大剣を担ぎあげて竜が羽ばたく。地上目掛けて飛び去った後の街
が奈落へと落ちていく様に一瞥をくれて。
918
!
episode145 わたしはいつでも夢のなか
││エヌラス達は急いでいた。それは何度目かの地震で現れ、今ま
さに目指そうとしていた黄金の塔。キンジ塔に間違いない。
出現した場所はモンスター達が大挙して争っている。その道中を
﹂
駆け抜けようとネプテューヌ達が変身。女神の力を存分に発揮して
﹂
突破する。
トランジション
﹁変 神
﹂
﹁エヌラス、いけるの
﹁肩慣らしだ
左腕に白銀の回転式拳銃を握り、口に偃月刀を咥えてブラッドソウ
ルがパープルシスターの隣に並ぶ。後方からの支援と露払いだ。
﹂
﹂
﹂
﹂
行儀悪いわよ
と、とりあえず、はい
﹁いふほねふひあ
﹁え、え
﹁口に入れたまま喋らない
﹂
﹁かんふめふへへあけふぁお前がいうふぁ
﹁今のはなんとなく分かったわよ
!
裂く。
走る。走る││ひた走る。
﹁ッ、流石にアレはデカイわね
﹂
山のような巨体のドラゴン。
﹁退いてろ、ネプテューヌ
!
﹂
││奇しくも、大魔導師から学んだ魔術のひとつ。相反する属性の
﹁ゼロドライブッ
上げた極冷温の手刀を振り上げて、脳天から叩き込む。
護器官を起動させた。左腕の魔術回路を励起する。限界まで出力を
背中のプロセッサユニットが羽ばたく。ブラッドソウルが銀鍵守
!
﹂
に撃ちぬく白銀の魔弾。射撃の連続。頭を振りかぶって喉元を切り
ンスター達を蛇腹剣で弾き返す。不規則な軌道を描いて頭部を的確
行して切り抜ける。アイリスハートが並行して横から襲いかかるモ
ブラックハートがモンスターの群れを薙ぎ払い、ネプテューヌが先
!
!
!
!
!
!
919
!
!
!
!?
最大火力を打ち込まれたドラゴンは頭部から決壊してゆっくりと横
に倒れていった。その下敷きになっていくモンスターには目もくれ
ず、パープルハート達はキンジ塔へと辿り着く。
扉を押し入る強盗のようにアクセル・ストライクで蹴破ったブラッ
ドソウルは塔内に銃を向けて敵を警戒した。だが、恐ろしくなるほど
﹂
静寂が広がっている。振り返れば、殺到しようとするモンスター達。
﹁もう、しつこいわね
ブラックハートが迎撃しようと大剣を構えて││次の瞬間、モンス
ターの群れが一陣の風とともに頭部を切り落とされる。その死骸を
押し退け、駆け込むのは竜騎士だった。全身を血に汚して大剣を軽々
﹂
と振り回すシルバーソウルが一心不乱にモンスターの群れを切り刻
んでいる。
﹁ガァァァ││オオオオォォォォ
﹂
ブラッドソウル達を飛び越えた。
﹁野郎ッ││
今日はなんの
その隙にシルバーソウルが羽ばたきひとつでキンジ塔へ飛び込み、
動きを止める。
度はマントを翻して巨大なムカデが大柄なモンスターに噛み付いて
械の兵器を巧みに操って周囲のモンスターを瞬く間に掃討すると、今
の得物を握り締めていた。銃と刀の複合武器。奇怪にして奇妙な機
魔人が出現する。ズルリと身体から這い出るようにして、両手に自慢
シルバーソウルを足止めしていたモンスター達の中からひとりの
た。
配を感じ取る。直感とも言うべきものが警告信号を発して、振り返っ
た姿にブラッドソウルが背中を向けて先を急ごうとして││嫌な気
ター達が更に襲いかかる。結果として足止めを食らう形となってい
竜の咆哮に大気が震えた。だが、その脅威を見過ごせないとモンス
!!
仲間はずれはよくないなぁ、よくない
!?
920
!
血祭りかい
!
!
!
﹁ヒャッホーーーウ、血みどろパラダァァァイスッ
﹂
お祭りだい
ネェ
!
﹁エヌラス、どうするの
﹂
約 束 通 り
ドラグレイスに先を越されるわよ
﹂
﹁お 前 ら は 先 に 行 け ア イ ツ と は こ こ で ケ リ つ け る
そうだろう
そうだねぇそうだよぉ エン
!
だ、クロックサイコ
﹁アッハハハハハハハハハハハハ
﹂
!?
!
!
私達はドラグレイスを止めるわ﹂
ルの背中を見比べて、パープルハート達は頷く。
﹁エヌラス
﹂
﹁ああ、そうしてくれ。俺もすぐ行く﹂
﹁⋮⋮ちょっと
﹁ちょっと
﹂
﹂
ここは主人公たる私よね
﹂
﹁なぁに、負けるわけねぇだろ。ヨユーだヨユー﹂
﹁あなたフラグ立ててそんなに死にたいの
ねぇ誰と
!
!?
﹁俺、この戦いが終わったら結婚するんだ﹂
﹁誰と
!
ねぇ
﹂
﹂
あ、でも私とならそれはそれで
﹁お前らそこにだけ滅茶苦茶食いつくのやめろよ
で言い争うなよ
﹁誰のせいだと思ってるんですか
﹂
完全に消えてから、互いに銃口を下ろす。
コは銃口をブラッドソウルから一寸もズラさなかった。その気配が
パープルハート達がシルバーソウルの背中を追う中、クロックサイ
レイス追いかけてくれぇぇぇい
!?
⋮⋮﹂
!
頼むからこいつら止めて早くドラグ
!?
!?
﹁うおおおおおぃネプギアー
一刻を争う状況
﹁あ ら、二 人 揃 っ て ア タ シ を 差 し 置 い て 何 盛 り 上 が っ て る の か し ら
﹂
ルだけは一目散に最上階を目指していた。その背中とブラッドソウ
た。相手も銃 刀を向ける一触即発の空気が流れる中でシルバーソウ
ガンカタナ
ち止まり、頭を下げる。大仰な一礼に、鼻を鳴らして銃口を突きつけ
クロックサイコが跳躍する。ご丁寧にブラッドソウル達の前で立
トリィィィィッ
!
!
!
﹁心配すんな、すぐ追いつく﹂
?
!
921
!!
!
!
!
!?
﹁何言ってるの、私に決まってるでしょネプテューヌ
!?
?
﹁きひひひひ。彼女達は、賑やかだねぇ。実に賑やかだ﹂
﹁ああまったくだ。一緒にいると飽きがこねぇ。ほんっとうにありが
てぇことにな﹂
﹁永かったねぇ、此処に来るまで﹂
﹁ああ、永かった。とんでもねぇ苦労したぜ。過労死するんじゃねぇ
かと思った﹂
﹁住所不定無職二十代が過労死、怖い世の中だヨ﹂
﹁その字面はやめろ。色々と物議催すから﹂
﹁││ああ、永かった。永かったよ。ほんっっっとうに永かった。実
に気が遠くなるほど永い戦いだったよ⋮⋮キミは何一つ覚えちゃな
いだろうけど、ネ﹂
﹁一 つ だ け 覚 え て る の は、テ メ ェ が 俺 の 妹 を 殺 し た 不 倶 戴 天 の 仇 敵
﹂
感動の再会も血で血を洗って、血は争えないねぇ
だってことだ、糞野郎ッ
﹁アハハハハ
ハゲヒャアハハハハハ
﹂
﹂
﹂
シルバーソウルが弱々しく羽ばたくと、変神が解除されて床に倒れ
ている。それが次元連結装置なのだとすぐに分かった。
線が壁と床に走り、その先には破壊された装置が無残に打ち棄てられ
そこだけは今まで見てきた室内と装飾が違っていた。幾つもの配
﹁ここは⋮⋮
切り抜けて、追いついた先は巨大な広間。
ゴンに足を止められていた。
人ですら思うように魔術の制御が出来ないのかキンジ塔を守るドラ
度も魔術によって足を止められて思うように追いつけない。その当
││パープルハート達がシルバーソウルの背中を追うが、道中で何
気の魔人と絶望の魔人の二重奏がキンジ塔で開かれた。
デュエット
して甲高い不協和音を奏でる。音符も楽譜も拍子もない無軌道な狂
引鉄が銃弾を吐き出す。雷管を叩かれた弾丸は空中で無数に相殺
!
じゃあ魔人同士水入らずで戯れようカァアーッハッハハハハハハ
!
!
﹁上等だぁ、そう簡単にぶっ壊れんじゃねぇぞぉ狂い時計
!!
る。だが、すぐに大剣を突き立てて立ち上がった。胴体に空いた穴か
922
!!
?
守護女神
らは、やはり何も無い。空っぽの鎧兜。甲冑騎士。
﹁お、れの⋮⋮邪魔を、する気か⋮⋮
﹂
!
﹂
ノーグを⋮⋮
おれは、行かねば││行かねば、ならんのだ⋮⋮ッ
﹁俺は││諦めるわけには、いかんのだ。この夢を⋮⋮ティル・ナ・
ラグレイスは立ち上がる。
もう立ち上がれないほどボロボロのはずなのに、そのはずなのにド
!
くしたこの俺の何が分かる⋮⋮
﹂
るの 自分の不幸ばかりを他人に押しつけるのはどうかと思うけ
?
!
﹁それを言ったら貴方だって同じじゃなぁい
アタシ達の何が分か
﹁貴様らに、何が分かる││夢を奪われ、無駄だと嗤われ、故郷すら亡
だが、刃を交えなければならない。
これから、止めなければならない。夢に取り憑かれた竜の騎士を。
﹁ドラグレイス⋮⋮﹂
!
﹂
﹁お前達は、お前達の世界を救いたいが為に俺を止めるのだろう⋮⋮
ギリッ││大剣の柄が鳴り締められる。
﹁お前達が俺を止めるのは、エヌラスの為だろう⋮⋮﹂
どぉ﹂
?
﹁⋮⋮ええ、そうよ﹂
﹁あの〝絶望〟を俺達に押しつけてお前達は世界を救うのか﹂
﹁っ⋮⋮それは⋮⋮﹂
この世界に
﹁この先のない世界で。終わらない戦いの中で帰結させる気か、守護
女神⋮⋮未来永劫、救済措置のない無限に続く破壊を
﹂
!
!
何が見える
何が、お前達の目に映って
見ろ、俺達のアダルトゲイムギョウ界
私達は、この世界も私達のゲイムギョウ界も││﹂
押しつけるつもりか、貴様らは
﹁それは違うわ
何が残っている
﹂
!
﹁救ってみせるというのか
を
いるのか言ってみろ
!
!?
!
何も残ってはいなかった。そこにはただただ暗闇だけが広がってい
923
!
!
キンジ塔の最上階から見晴らせるアダルトゲイムギョウ界は、もう
!
!
る。もはやこの場所だけが最期に残っていた。
何も無い。夢も希望も未来も明日も。ネプテューヌ達が望むもの
はそこにはない。
﹁俺 は │ │ こ の 醜 い 世 界 を 救 う に 値 し な い と 判 断 し た。だ か ら こ そ
〝 次 に 会 う こ と が で き れ ば、世 界 を 救 い ま
ティル・ナ・ノーグを目指したのだ⋮⋮一度は辿り着いた。約束した
の だ、彼 女 達 に ⋮⋮
しょう〟と││﹂
の希望を止めると言うのか あの絶望の為に
﹂
己の世界の為に
!
くれ。夢を笑わないでくれ。
﹁俺は、諦めるわけにはいかんのだッ
彼女達の為に
﹂
!
るのなら
俺は││
﹂
﹁いい、だろう││貴様ら守護女神が、この俺に残された全てを否定す
﹁⋮⋮やるしかないわ、みんな﹂
のがある。
守りたいものがある。奪い返したいものがある。手に入れたいも
うのは。
だから、と思う。だからなのだ。ドラグレイスとエヌラスが戦い合
男とまったく同じなのだ。
そこでようやく気づいた。エヌラスと同じだと。絶対に諦めない
!
身体すら残っていない竜騎士の魂の咆哮││俺の夢を奪わないで
けだった。今、自分達はそれすら奪おうとしている。
くし、失い、奪われて。縋れるものはかつて辿り着いた理想郷の夢だ
憫の情すら湧き上がるような一人の騎士の届かない望み。全てを無
その叫びは、パープルハート達の目にはあまりに熾烈で苛烈で。憐
!
﹁お前達までもが俺の夢を嗤うのか⋮⋮貴様ら守護女神でさえも、俺
〝⋮⋮ドラグレイスさんも、この世界を救おうとしてたんだ〟
!
!
幾つもの歯車が宙に舞い、地面に落ちる。ギリリリリリッ││││
潰す。
最後の一つ。幾重にも防御魔法が張られたそれを自らの左腕で握り
ドラグレイスが取り出すのは、宝玉。エヌラスの能力が込められた
!
924
!
そして、〝巻き戻されて〟ドラグレイスの左腕に円盤状の盾として再
構成された。歪に歪んだ砂時計。メビウスリング。
﹂
!
ここで倒させてもら
﹁俺の全身全霊を懸けて、貴様らの信じる絶望を砕くだけだ
﹂
925
﹁それでも私達は、ゲイムギョウ界を救うわ
うわよ、ドラグレイス
!
!
﹂
episode146 シャドウ・イン・ザ・ダーク
ネス
﹂
﹁〝電導〟アクセル・ストライィィクッ
﹁Empress Dark
引鉄を引きながら接近していく。
﹁アアッハッハッハッッハ、ギャハハハハ
イカれちまいそうだよぉぉぉホーホーホー
﹂
!?
銃撃戦。
﹂
﹁片腕でここまで出来ると曲芸師にでもなれるんじゃあないかナ
﹁大道芸でその日暮らしも悪かねぇ
ガォンッ││。
﹂
飛び交う銃弾と銃弾。魔弾と魔弾。魔術と呪術の応酬、一進一退の
!
!! !!
﹁とっくの昔にイカれた野郎が何キチがってんだァ
﹂
愉しすぎて楽し過ぎて
身体を独楽のように回転させながら弾丸を装填して立ち止まり、再び
ソウルの足がもう片方の銃刀を跳ね除ける。銃弾が掠める。二人は
の瞬間に二人の手が相手の銃口をずらした。弾丸が逸れる、ブラッド
け飛ぶ光と影。至近距離で銃口が互いの額を狙う。撃鉄が起きる、そ
紫電を纏った飛び蹴りと蟲を纏わせた回し蹴りが衝突する。はじ
!
いじゃないカ﹂
﹁ヤーダヨ。神性の熱量を込めた魔弾なんて、まともに食らったら痛
﹁クソッタレめ、おとなしく直撃喰らえよ﹂
﹁ホッホウ危ないネ﹂
サマーソルトがブラッドソウルの顎を掠める。
直撃は避けた。更に地面に刀を突き立てて身体を跳ね上げながらの
相手へ立て続けに引鉄を引くが、大きく身体をのけぞらせて頭部への
銀の回転式拳銃は深紅の自動式拳銃へと姿を変える。体勢の崩れた
それは無数の魔弾をかいくぐって足を撃ち抜いた。左手を振ると、白
ク ロ ッ ク サ イ コ が 避 け た 弾 丸 が 不 規 則 な 軌 道 を 描 い て 反 転 す る。
!
926
!!
じゃあ次はこっちで遊ぼうか
﹁癖になるかもしれねぇぞ﹂
﹁それでもご遠慮だネ
﹂
!
﹂
!
﹂
いーい一撃だったヨォ
が、射出される日本刀に身体を撃ち抜かれた。
﹁〝火雷〟﹂
﹁││カッ∼∼∼効ィくネェ
﹂
!
とだけは忌避していた。
片腕一本、加えて左目一つ。サァ、さぁさぁさぁ
﹁さァてさて
﹂
力者だ。だからこそアルシュベイトでさえも正面きって相手するこ
言えば少なくともアダルトゲイムギョウ界でも指折り数える程の実
れた口調のイカれた風貌でイカれた態度ではあるが、その実力だけで
思った以上に深い。そして、狂っているがやはり強い。普段からイカ
ポ タ ポ タ と 左 目 か ら 伝 う 赤 い 滴 が 垂 れ る。一 直 線 に 走 る 刀 傷 は、
?
ガチリと起こされる撃鉄にクロックサイコが飛び退けようとする
﹁〝が、打ち崩し〟﹂
﹁片手でやる気かい
﹁返礼する。〝超電磁〟抜刀術・壱式││﹂
日本刀を召喚してクロックサイコの腹に柄頭をあてがう。
一刀。衝撃で引いた返し刃が左目を切り裂いた。だが、撃鉄の付いた
ブラッドソウルの眼前に刃が迫る。三寸、横にずれて躱して││もう
黒い三日月を防いだ瞬間に、刀身が爆ぜた。衝撃と爆発で後ずさる
﹁BLACK DETONATOR
もおかしくない。トチ狂ってるのだから無理もない。
強度があるのか甚だ疑問ではあるが、相手は狂気の魔人。何をしてて
コの刀と丁々発止。細長い太刀のどこに偃月刀の魔術を防ぐだけの
銃撃から剣撃へ。ブラッドソウルは偃月刀を担いでクロックサイ
!
﹁ほざきやがれ、ピンピンしてんじゃねぇか﹂
!
﹂
かれた。
﹁ヒャ
927
?
﹁テメェの得物をぶっ壊す
﹂
次はどうする
?
偃月刀と二挺の銃刀が打ち鳴らされる。刃が欠けて片方の刀が砕
!
?
!?
﹁どぉりゃああああ
頷く。
﹂
﹂
﹁じゃあ続けよっカ
﹁用意がいいこと
﹂
刀身を排出した。マントの中から新しい刀身を取り出すと装着して
一歩飛び退ったクロックサイコが折れた刀身をまじまじと眺めて、
なら別なものを詰め込んだ袋を蹴ったような感触。
た感触にブラッドソウルが訝しんだ。まるで手応えがない。例える
空いた脇腹へと胴回し蹴りを叩き込む。だが、骨のない肉身を蹴っ
!!!
!
のようにクロックサイコの攻撃は激しさを増していった。
﹂
﹁大いなる〝C〟が一体何者なのか考えたことはあるかい
﹁ねぇよ
?
﹁アハハ、そりゃそぉうだよねぇ
﹂
﹁テメェの都合で、こっちは動いてねぇんだよ
﹂
てそれから大いなる〝C〟を倒してくれなきゃ困るんダ﹂
﹁アララ∼それじゃダメだよダメダメ。キミにはボクを倒してもらっ
ぎこちなく動くブラッドソウルの頬に横蹴りが入る。
﹂
る。離されないようについていくので必死なエヌラスをあざ笑うか
片腕片目、そのハンデが開くに連れて力量の差が徐々に現れ始め
!
!
り、妙な違和感。
?
はりそのハンデ分は大きい。クロックサイコの読めない軌道に対応
の際左目は捨てる。その他の快復に専念することにした。しかし、や
かる。眼球にまで届いた刃は再生能力でも完治は難しいだろう。こ
左手の甲で血を拭う。乾きつつある血糊がペリペリと肌に引っ掛
てんじゃねぇよ、消し炭にすんぞ﹂
﹁うっせぇわボケナスが。テメェは鼻が曲がりそうな瘴気撒き散らし
﹁片目が使えなくなって距離感掴めないんじゃないカナ
﹂
ラッドソウルの足がクロックサイコの胸板を蹴り飛ばす。││やは
を、全て迎撃して動きを変えて急速に距離を詰める。排莢していたブ
ウルが白銀の回転式拳銃を立て続けに六連射。空を奔る白銀の魔弾
クロックサイコののらりくらりとした回避に苛立ったブラッドソ
!
928
!
するので四苦八苦だった。ブラッドソウルに裏拳が打ち込まれ、次い
で後ろ回し蹴りから更に二段蹴り。前蹴りで床を転がる姿に両手の
銃刀を連射して追い込む。しかし、器用にも片手で防御魔法を展開し
﹂
スゴイスゴイ
﹂
ながら態勢を立て直して反撃してくる。
﹁ヒャハッ
﹂
!
気がまとわりついている。
これかい 別に驚くこたぁないヨ
﹁⋮⋮テメェ、その力は﹂
﹁ン∼
だってぼかぁキミ
救われない
世界に。救えない世界に。あまりにも報われない世界が多過ぎて
と同じ魔人の一人だからね キミは絶望したろう
?
を
そんな終焉を迎えた世界を
迎えようとしていた次元
!
あらゆる次元を渡り、世界を壊し続けてきた〝禍動破壊神〟
!
てきた
希望を諦めきれず、笑顔を捨てきれず、後味悪くて、だから破壊し
!
?
?
炎獣の身体が闇に飲まれて穴だらけになった。その手には黒い瘴
パァン
﹁悪いコにはお仕置きだ﹂
を破ろうと喰いつく猛獣に、クロックサイコは片手を額にあてがう。
右足と右手の欠けた黒い五芒星が灼熱の炎獣を阻んだ。その障壁
﹁Elder
し子に対して、クロックサイコは銃刀に黒い陽炎を纏わせる。
熱の炎獣。直線上に存在する全てを焼きつくしながら迫る破壊の申
特別製の弾丸を装填された深紅の自動式拳銃から放たれるのは灼
﹁クトゥガ、神獣形態
!
!
!
来る
⋮⋮かもネェ
﹂
セッサユニットを展開して避けた床には暗闇が広がっていた。世界
空 間 が ガ ラ ス 細 工 の よ う に 割 れ て い く。ブ ラ ッ ド ソ ウ ル が プ ロ
﹁〝フィスト・オブ・■■=■■■〟﹂
う。こっちはもっと〝タチが悪い〟
い球が浮かび上がった。大魔導師の使う超重力弾に似たものだが、違
ケタケタケタと不気味に嗤うクロックサイコの周囲に幾つもの黒
?
929
!
!
!
?
!
キミなら大いなる〝C〟が作り上げた神のロジックすらも破壊出
!
の崩壊と同じ現象││それが出来るということは。
﹂
ヒ ン ト に し て は 大 き す ぎ た か ナ
さ ぁ
﹁コイツが使えるってことは大いなる〝C〟の隷属ってことで間違い
ねぇんだなッ
﹁ピ ン ポ ン ピ ン ポ ー ン
さぁどうするつも││﹂
ガゴンッ
!?
!!
﹂
ル・マキシカスタムが握られている。
ワォ
﹁WoW
魔術で勝てねぇなら、こうだ
!
〝さて⋮⋮こっちはともかく⋮⋮あいつら大丈夫だろうな〟
ほんの、わずかにだが││右手の指が動く。
﹂
グレイスを追いかけたネプテューヌ達の身を案じている暇など無い。
ブラッドソウルがちらりと見やるのは上へと続く螺旋階段。ドラ
!
操を始めていた。
﹁目覚めスッキリ、爽快気分ッ☆ やぁオハヨウ
﹁⋮⋮目覚め最悪だぜ、クソが﹂
エヌラス
へと戻る。そこには無傷のクロックサイコがマントを広げて準備体
ボロ布から無数の蟲が湧き出し、仮面を食い散らかして再び人の姿
常の存在であるならば││。
通常であれば、間違いなく即死級の連撃だ。だがしかし、相手が超
れる。
電磁〟抜刀術・壱式、迅雷を奔らせると胴体から真っ二つに斬り裂か
の頭部を横薙ぎに蹴り飛ばした。地面を転がる姿に向け、片腕で〝超
ラッドソウルがリロードを後回しにして膝を着いたクロックサイコ
胴 体 に 二 発、肩 に 一 発。顔 に 一 発。装 弾 数、五 発 を 撃 ち 切 っ て ブ
﹁コイツは流石に効くぜ
﹂
式拳銃でもない、無骨で鈍重にして凶悪なフォルムのレイジングブ
ブラッドソウルの手には白銀の回転式拳銃でもなければ深紅の自動
凶 悪 な 銃 声 が ク ロ ッ ク サ イ コ の 掲 げ て い た 片 手 を 吹 き 飛 ば し た。
!
まるで効果が無くてもおかしくない。相手の頭以外は。
!
930
!
?
!?
episode147 信念と狂気は紙一重
ブラックハートの大剣とドラグレイスの大剣が衝突する。重厚な
衝突音、そして互いに弾き飛ばされた。パープルハートの一閃を左腕
の円盤で受け流し、柄頭を打ち込んで反撃すると蹴り飛ばした。その
姿をパープルシスターが受け止める。
﹁ありがと、ネプギア﹂
﹁ううん、大丈夫﹂
﹂
アイリスハートの蛇腹剣で絡め取られた片腕だが、逆に自ら手繰り
寄せると壁に投げつけた。
﹂
﹁っ∼、馬鹿力なんだからぁ
﹁オオオオォォォッ
﹂
デカイ大剣と甲冑を着込んでいた相手が、だ。
﹁消えた⋮⋮
﹁そうみたいねぇ﹂
﹁でも、逃げたわけじゃなさそうね﹂
私達まで巻き込まないで
﹂
﹂
!?
﹂
その姿が霧のように消えていく。気配すらも感じない。あれだけ
﹁狼隠し││﹂
る。二人の攻撃を凌ぎ、一度身を引いたドラグレイスが大剣を担ぐ。
パープルハートが一気に距離を詰め、パープルシスターも接近す
防御が間に合った。
タックルから盾で打ち上げ、大剣の腹を叩きつける。だが、辛うじて
今 度 は ド ラ グ レ イ ス の 大 剣 が ブ ラ ッ ク ハ ー ト の 大 剣 を 打 ち 払 う。
!
﹁それじゃあ炙り出してあげるわ。サンダーブレードキック
﹁ちょっとぷるるん
﹂
ノワールさんが
﹁のわぁあああああ
﹁ああ
!
スが出てこなければまったくの骨折り損になるわけだが││出てき
た。
931
!!
!? !
!
?
ブラックハートが思いの外直撃を受けていた。これでドラグレイ
!
私になんの恨みが⋮⋮
﹂
!?
別にアタシ、ノワールちゃんに恨みはないわよぉ
﹁あ、アナタね⋮⋮
﹁あらぁ∼
?
!
﹂
!
れません⋮⋮﹂
﹂
なんでもありません
﹁ぎあちゃ∼ん
﹂
﹁はひ
ん
!
?
﹁心労を察してやりたいが、こちらも退けんのだ
﹂
!
!?
の猛攻を防ぎきる。
﹁さっきのお返しよ、プルルート
インフィニットスラッシュ
﹂
!
!
オーライなので何も言わずにおく。
ネプチューンブレイクで一気に決めるわ
!
﹁時駆││﹂
カチン。
穴の空いたドラグレイス。
四人は、気がつけば並んで武器を手にしていた。その前には胴体に
﹁││││え
﹂
左腕の盾が開く。砂時計が起動する。
げた瞬間に、〝それ〟は起こった。
パープルハートが膝を着いたドラグレイスに向けて太刀を振り上
﹁畳み掛けるわよ
﹂
した。高速の斬撃を食らったのはドラグレイスただひとり、だが結果
きつかせると今度は自分から引き寄せて滑るようにその場から離脱
アイリスハートがドラグレイスの攻撃を捌き、その腕に蛇腹剣を巻
!
魔術による炎の剣舞。斬撃と魔術の二重攻撃がパープルハート達
神楽迦具土
覚悟してくださいドラグレイスさ
﹁えと、普段はこういうことしませんけれど⋮⋮あ、いや、やるかもし
﹁⋮⋮仲間ごと、やるか普通⋮⋮
れてただのドSな笑みにしかならない。
をしても、アイリスハートがやるとあまりにもサディスティックに溢
小さく舌を出してかわいらしく〝てへぺろ☆〟と言うような仕草
から。ごめんなさいね﹂
ただー、そうね。あまりにもかわいい背中が踏んでほしそうにしてた
?
?
932
!
!
﹂
自分達はさっきまでドラグレイスと戦っていた。それは、間違いな
﹂
い。だが、この配置は〝戦闘が始まる前の状態〟だ。
﹁征け、我が七姉妹
﹂
気づいたらこうなってたんだから
﹁な、なにが起きているの
﹁わからないわよ
!
上げている。
ネ メ シ ス
生意気ね
﹂
!
﹁くっ⋮⋮
﹂
﹁魔女の薔薇の庭園だ、存分に味わえ﹂
ハート達は距離感を失う。
て生み出される幻影だとわかっていても視界を塞がれてパープル
ひらりひらりと舞い上がる赤いバラの花びら。それが魔術によっ
﹁なんとでも言え﹂
﹁さっきのお返しぃ
受け身を取るが、そのダメージは大きい。
赤い魔力の斬撃がアイリスハートの身体を吹き飛ばす。どうにか
﹁復讐鬼││
﹂
取っている間にドラグレイスがアイリスハートに向けて大剣を振り
迫る七本の軍槍。それをそれぞれが全力で迎撃するが、その相手
!
!?
!
?
切っ先を床に沈め、身体をひねるようにして全身を使い、振り上げる。
﹂
剣風が花びらを吹き飛ばした。だが、そこにドラグレイスの姿はな
い。狼隠し。
﹁この、姿を消したり幻術使ったりと卑怯なんだから
﹃手段を選んでやられたら反論も出来まい﹄
﹁ネプテューヌ。どうするつもり
﹂
﹁正論ね。ならこちらもそうさせてもらうわよ﹂
どこからか声が聞こえてくる。だが、出処が掴めない。
!
異常まで備えているとは考えもしなかった。
﹂
!
!
具体的に言いなさいよ
﹂
エヌラスから手段を選ばない実力派の傭兵とは聞いていたが、状態
?
﹁そんなの決まってるでしょ。どうにかするのよ
﹁答えになってないじゃない
!
933
!
鮮烈な深紅の舞う視界に足元がくらむ。ブラックハートが大剣の
!
﹃この一刀を捧ぐ││﹄
薔薇の花弁が舞う。竜騎士がその手に掲げるのは黄金の輝きを放
つ大剣。
﹁宣誓する。この黄金の輝きに。片翼の夜鷹に。絶対の戒律を持って
宣言する﹂
魔術によって起こる旋風が吹き荒れる。パープルハート達は全力
で迎撃せんと構えた。
﹂
﹁この俺は所詮、魔女の駒でしかない。だが構わん。俺は愛そう。た
だ一人、お前の理想郷を││ルール・オブ・ベアトリーチェ
剣の質量となっていた。
放つ。
ノー
﹁オ、オオ││ガァァァアアアアアアッッ
バ
﹂
ディ
保たないはずだ。それなのに││まだこんなにも彼は鮮烈な輝きを
る夢の輝き。甲冑は崩れ、パラパラと破片が落ちている。もう身体が
胴体に風穴が空いた、心臓抜きの、肉体を持たないが唯一追いすが
ハー ト レ ス
﹁ッ、こんなのを今まで振り回してたっていうの⋮⋮
﹂
も踏みとどまる。極大の刃は魔力によって構成されており、それが大
四人でドラグレイスの一撃を防ぐ。押し負けそうになるが、それで
!
最上階で薔薇の風が吹き荒ぶ。倒れた四人の女神化が解除された。
ガランと重厚な音に目をやれば、ドラグレイスの右腕が崩壊してい
る。先ほどの全力の一撃に自分の身体が持ち堪えられなかったのだ
ろう。それに無感情な視線を向けていた。兜の下にあったはずの顔
は今、どんな表情をしているのだろうか。わからない。
﹁⋮⋮俺もかつては、人の身だった。この中に肉体があった﹂
カラカラと落ちていく破片の中にシェアリングがいくつも混じっ
ていた。
テ ィ ル・ ナ・ ノ ー グ
﹁だがそれも今となってはもう、戻らぬ。俺は全てを置いてきた。あ
の黄金の理想郷に﹂
よすが
足で柄を持ち上げると、左手で掴んで肩に担ぐ。
﹁この世界に俺の縁は無い。北方の山岳地帯に位置する、ほんの小さ
934
!?
振り抜いた大剣が、守護女神を四人諸共に吹き飛ばす。キンジ塔の
!!!!
な国であった。だがそれが奪われた。それが、俺の唯一羨んだ大魔導
師の喚んだ絶望の魔人とあっては、俺は││もう、この世界に残る意
味が無い﹂
﹁⋮⋮ドラグレイス⋮⋮﹂
﹁俺はもう、夢を見ることでしか救われん。夢を追うことでしか俺は、
救われないのだ⋮⋮いつか見た彼女達の笑顔を思い浮かべることだ
けでしか俺は⋮⋮俺は、救われんのだ⋮⋮﹂
左腕の盾が開く。砂時計が巡る。
﹁続けるぞ、守護女神。貴様らが果てるか、俺が朽ちるかのどちらかで
しかこの戦いは終わらん﹂
カチッ││。
ドラグレイスが立っていた。
パープルハート達が立っていた。
対するは竜騎士。対するは守護女神。
その配置は戦闘開始前の繰り返し。時間を巻き戻されている。〝
無かったことにされている時間〟が確かに存在した。
それでも、確かに残るものもある。時間も空間も超越したものが胸
に込み上げてくる。
﹁││バカね﹂
﹁ええ、バカね⋮⋮﹂
﹁⋮⋮救いようがないバカがここにもいたのねぇ﹂
なんと言われようと、彼は引かないだろう。何が来ても彼は諦めな
いだろう。
何度繰り返す事になっても、ドラグレイスは夢を追い続けるだろ
う。決して届かない那由多の果ての、最果てのそのまた先の⋮⋮そう
す る こ と で し か 彼 の 心 は 救 わ れ な い。叶 わ ぬ 夢 の ラ ン ナ ー ズ ハ イ。
立ち止まってしまえば、きっと彼は崩れてしまう。心が折れてしまう
から。
だから││だから、こうすることでしか彼を救うことが出来ない。
守護女神は人々を守らなければならない存在だ。これ以上彼が壊
935
れていくのを見ていられない。それが例え、自分達の自己満足だった
としても。
﹁ドラグレイスさん⋮⋮此処で、私達が貴方を止めてみせます﹂
﹁これ以上、貴方がその夢に押し潰されるのを見ていられないわ﹂
片腕の竜騎士が構える。時間を巻き戻しても自分の身体は治せな
いのか、崩れた右腕はそのまま消えていた。恐らくは術者の身体から
離れたからだろう。
﹁俺を哀れと言うな。俺を哀れむな、守護女神。俺は確かに救われて
いるのだ。俺は救われている、この夢に守られている││俺は、騎士
なのだ。守るべきものがある限り俺は立たねばならん。守らねばな
らん。それが俺の使命だ。宿命だ、因果だ。お前たち守護女神と同じ
ようにな﹂
936
episode148 最後の戦いへ││
剣撃の音が鳴り響く。まるで弔鐘のように。悲しい音色を響かせ
ながら、パープルハートの太刀がドラグレイスの肩口に傷を刻む。ブ
ラックハートの大剣が脇腹を削ぎ落とした。
パ ー プ ル シ ス タ ー の M.P.B.L が 兜 の 半 面 を 砕 く。ア イ リ ス
ハートの蛇腹剣が大剣の軌跡を逸らして首に巻き付いた。襟首から
頭が破壊される。それでもまだ、ドラグレイスは立っていた。
顔を見合わせて、頷く。
﹁ネプチューンブレイク││﹂
パ ー プ ル ハ ー ト が 持 ち う る 最 大 火 力 で 斬 る。斬 る、斬 る │ │。だ
が、その最中で再び時間が巻き戻される。
﹂
立っているドラグレイスに、ブラックハートが遮二無二突っ込ん
だ。
﹁レイジーズダンス
蹴り上げからの斬撃のコンビネーション。だが、やられるだけでな
く反撃してきた。距離を取るとパープルシスターが入れ替わりでミ
ラージュダンスによってドラグレイスの肩鎧を破壊する。
地面に叩きつけられたドラグレイスの手には、今にも砕けそうな
﹂
シェアクリスタルが握られていた。
﹁もう⋮⋮もういいでしょう
﹁││││変⋮⋮神⋮⋮ッ﹂
﹂
!
クハートが前衛を務める。アイリスハートは距離を取った。
それももう、幕引きだ。アイコンタクトでパープルハートとブラッ
﹁この二人の戦いが長引く理由がなんとなく解ったわ﹂
﹁呆れるほどタフね。エヌラスといい勝負よ﹂
﹁オ、レハ⋮⋮マダ⋮⋮タタカ、エル⋮⋮
でくれ。俺の夢を笑わないでくれ。俺は救われているのだから。
残っていない惨めな姿だった。それでも吼える。俺の夢を奪わない
いつつあるシルバーソウルが竜の翼を広げる。ボロボロで、片羽しか
身体の一部を再生しながらドラグレイスは立ち上がる。理性を失
!?
937
!
﹂
﹁インフィニットスラッシュ
﹁ネプチューンブレイク
﹂
!
﹂
﹂
!
クハートに、左腕の盾を開いて││。
﹁トリックが分かる手品は見栄えしないわよ、大バカさぁん
?
﹂
!
やればいいわけ
﹂
﹂
﹁どうしてやれば気が済むのよ。身体が木っ端微塵になるまで砕いて
﹁⋮⋮貴様らは甘いな。俺はまだ生きているぞ﹂
う、これ以上は止めて﹂
﹁ええ、そうよドラグレイス⋮⋮私達の勝ち。貴方の負け。だからも
戦闘は無理だ。
頭を失い、胴体は辛うじて繋がり、両腕を失っている。これ以上の
﹁⋮⋮俺の、負けか﹂
動かなかった。
シェアクリスタルが砕け散る。変神が解除されたドラグレイスは
の床へ強烈に叩きつけられた。
シルバーソウルの身体がブラックハートの大剣によってキンジ塔
﹁ヴォルケーノダイブッ
パープルハートの手から放たれる剣が左腕を切り落とす。
﹁32式、エクスブレイド
真っ直ぐに伸びた蛇腹剣の切っ先がむき出しの歯車を止めた。
ガキッ
﹂
らつく。そこに挟みこむように斬りかかるパープルハートとブラッ
大剣の腹で受け止めていたシルバーソウルがその勢いに負けてふ
﹁グッ││
﹁M.P.B.L、最大出力です
の身体で受け止めると二人を神楽迦具土で吹き飛ばす。
その全身に無数の剣を受けたシルバーソウルだが、最後の一撃を自ら
ブ ラ ッ ク ハ ー ト の 攻 撃 に よ っ て 半 数 が 破 壊 さ れ て 切 り 抜 け ら れ る。
今度こそはと二人の猛攻に、七姉妹を召喚するがパープルハートと
!
!!
突き立つ。左腕と盾がくっついたまま。
次元連結装置に背中を預け、立ち上がるドラグレイスの前に大剣が
!?
938
!
!
﹁⋮⋮⋮⋮次元連結装置、か。俺の夢が叶うはずだったんだがな⋮⋮
大魔導師。やはり貴方は雲の上の存在だったか。俺達がどれだけ足
掻こうと、掌の上だと言うのか﹂
歩み始める。その先は、崩壊している壁の向こう側。かつてエヌラ
スが放った〝螺旋砲塔〟神銃形態による破壊の爪痕。
皮肉なことに、あの時は夢の近道を置いて逃げ去った足取りを自分
は繰り返している。
﹂
﹁俺の夢は、此処に置いていく。この世界の最後の希望に﹂
﹁⋮⋮
﹁肉体を失った俺ではあるが││﹂
パープルハート達がドラグレイスが何をしようとしているかに気
づいて、止めようと手を伸ばした。だが、それを拒むかのように赤い
薔薇が舞う。
﹁貴様らに人殺しは似合わんよ。後味が悪すぎる││そうだろう、エ
ヌラス⋮⋮﹂
そして。
ドラグレイスはキンジ塔から身を投げた。絶望へと身を委ねて、奈
落へとその姿が消えていく。
ただ伸ばした手だけが無情に行き場を失っていた。此処で、終わら
せるはずだった。自分達が止めるはずだったのだ。だがそれを良し
としなかったのだ。
竜騎士は夢に身を任せた。高すぎる望みは身を滅ぼすと知ってい
ながら、それを手放すことが出来なかった。
最後まで、自分の夢を信じたのだ││ティル・ナ・ノーグはあるの
だと。
﹁⋮⋮先に、進みましょう﹂
﹁エヌラスさんは⋮⋮﹂
ネプギアが階段を振り返る。まだ階下ではエヌラスとクロックサ
イコが死闘を繰り広げているに違いない。その助けに行こうとする
ネプギアを、ノワールが止めた。
﹁ダメよ、ネプギア﹂
939
!
﹁どうしてですか
﹂
﹁エヌラスはぁ∼、必ず後から来るって言ってたよぉ∼
置いて行かなくちゃ∼﹂
じするもん。でもなんかボロっちぃよねぇ﹂
﹁エヌラスが壊したって言ってなかったかしら
﹂
﹂
だから∼、
﹁あ、そういえばそうだったっけ。どうなってるんだろうこれ
プギアー、こっち来て見てもらえる﹂
﹂
﹁うん、いいよ。でも、直せないと思うよ
﹁え、どうして
?
?
ほら、なんかここに﹁繋いでください﹂っ
﹁じゃあNギア繋げない
﹁ダメかぁ⋮⋮﹂
配線まみれになって﹂
ねぇみんな∼、こっち来てぇ∼﹂
﹁せめてこれだけでもどうにかできたらいいんだけどね﹂
﹁あ∼
﹁どうしたのーぷるるん
﹂
上の階にいけるっぽいんだ∼﹂
?
なんだか、そこだけ意図して配線で隠
よーし、気合入れて行ってみようか
﹁えっとねぇ∼階段あったよぉ∼
﹁おお∼、グッジョーブ
﹁でも、なんだか妙じゃない
?
先ほどの戦いで切れた配線がのれんのようになっていた。
おきながら、そこをまるで隠すようにぐるぐると何周もさせている。
を目で追うと、確かに妙な配置にされていた。上の階から引っ張って
ノワールに言われてネプギアが次元連結装置から伸びるケーブル
された感じよね﹂
!
いるようだ。
Nギアを接続してみるが、応答はない。中のシステムが既に死んで
﹁あ、ホントだ。じゃあちょっとやってみようかな﹂
﹂
て感じのポートあるし
﹁直すのもタダじゃないだよ、お姉ちゃん⋮⋮部品が無いと無理だよ﹂
?
ネ
﹁んー。これが次元連結装置なんだよね。なんとなくだけどそんな感
ネプテューヌが次元連結装置をぺちぺちと叩いている。
﹁⋮⋮はい﹂
﹁いや、そうなんだけどそうじゃないのよね⋮⋮信じてあげましょ﹂
?
?
?
!
940
!?
!
?
!
﹂
﹁ほらほら、ネプギアも置いてっちゃうよ
﹁待ってーお姉ちゃん
く。
﹂
何言ってるのアナタ
﹁⋮⋮扉
﹁は
﹁⋮⋮扉ね﹂
﹂
扉なんてどこに﹂
引きつった笑みのネプテューヌが周囲を見渡して、ふと唐突に気づ
嫌だなぁ﹂
﹁えっと、さすがのわたしも落下できる地面の無い場所に落ちるのは
﹁そうだよねぇ∼、ねぷちゃん自由落下のプロだもんねぇ∼﹂
いわね﹂
﹁いくら高所からの飛び降りが趣味のアナタでもこれは洒落にならな
﹁うわー、落ちたら地面まで真っ逆さまだろうなーここ﹂
られていた。それが消えている。
途中からプッツリと切れていたが、確かに此処にある〝何か〟に繋げ
うべき場所だった。壁も何も無い。だが、配線が伸びている。それも
ネプテューヌ達が辿り着いた場所は、見晴らしの良い展望台とも言
││点滅した画面があることに気付かずに。
︽...|︾
う。
Nギアのケーブルを引き抜いて、ネプギアがネプテューヌの後を追
?
た。奇妙なことにそれだけ巨大な門のような物に気づかなかったの
だ。
静かに、ゆっくりとだが扉が開く。その先に次元が渦巻いていた。
そこに大いなる〝C〟がいるのだろうと見当をつけて、ネプテューヌ
達は顔を見合わせる。既に答えは決まっていた。
﹁泣いても笑っても、これが最後の戦いね﹂
﹁大いなる〝C〟に勝って、それで全部解決なんですよね﹂
941
!
何も残らないアダルトゲイムギョウ界に、扉が一つだけ浮いてい
?
?
﹁ほら、あそこ﹂
?
﹁じゃあみんな、行くよ
﹂
女神化して、ネプテューヌ達は扉の中へと消えていく。そして、緩
やかにその門が閉じられた。
942
!
episode149 大いなる〝C〟
││クロックサイコの腕が爆ぜる。頭部を横薙ぎにされ、胴体が別
﹂
れを告げた。宙を舞う上半身が動く。切断面から無数の蟲が湧きだ
した。
﹁イア・クトゥガ
しぶといッ
ネェ
!
が着地するとエヌラスを蹴り飛ばした。
﹁ン∼ン、実に
﹂
!
﹁アッハハハ
﹂
考え
キミは本当におめでたいヤツダネ もうとっくに
タネを明かそうか
ドラグレイスとキミの、どちらかが
﹂
ほら、とっくに最後の一人は決
ボクは大いなる〝C〟の隷属、いわ
最後の一人は決まってたじゃないカ
てもみれば簡単じゃあないカ
!?
!
!
?
!
ばトーナメントのシード枠ダヨ
まってた
!
じゃねぇのか
﹁どういう意味だ。最後の一人にならないとその扉は開かれないはず
着いたみたいだヨ﹂
﹁残念だけど、タイムリミットだネ。彼女達が大いなる〝C〟に辿り
時計を取り出すと、すぐに蓋を閉じた。
が押し負ける。クロックサイコは尻もちをつくその隙に壊れた懐中
銃刀と偃月刀が二人の間で何度も火花を散らして、やはりエヌラス
﹁こっちの、台詞だッ
﹂
しかし、その両方を凌ぐ間に既に身体の再生を終えたクロックサイコ
下半身に向けて深紅の自動式拳銃。上体に手放しの偃月刀が迫る。
!
この世界の真実に││そして、キミは良
﹁そうみたいだネ。だけど大いなる〝C〟へと辿り着いた彼女達は、
果たして耐えられるカナ
﹂
?
口元の血を拭いながらエヌラスは立ち上がった。だが果たして、本
﹁上等じゃねぇか。死ぬまでぶっ殺してやる﹂
﹁そういうコトさ﹂
﹁つまり、俺は世界が滅ぶまでテメェとふたりきりってことか
かったのカナ。大いなる〝C〟には、最後のひとりだけが辿り着く﹂
?
943
!
!
!? !
﹁⋮⋮ってことはアイツら、ドラグレイスを倒したのか﹂
!
ど ぉ ∼ ∼ ∼
見ての通りご覧のとおり見て分
か な ど う や っ て
当にこの不死の狂気を殺しつくすことが出来るだろうか││
﹁キ ミ に ボ ク が 殺 せ る か な
やってボクを殺すつもりだぁい
﹂
?
!
な﹂
﹂
﹁キミは片腕が使えず、片目を失ってる
なんだい
それでどぉぉするつもり
﹁ああ、そうみてぇだな。テメェの腸、全部蟲で出来てるみてぇだし
かる通りボクぁ不死身だよ
?
﹁どうしてだい
﹂
﹁俺は、お前が憎い。憎くて憎くて仕方ねぇんだよ﹂
ことに意味などない。だがしかし、それがなんだというのか。
術も自分の一歩先をいっているようだ。勝算などない戦いを続ける
骨 も な い。内 臓 も な い。弱 点 な ど 皆 無。物 理 は ほ ぼ 効 果 な し。魔
﹁さぁて、どうしてやろうかな﹂
?
だから俺はお前を赦さねぇ
!
﹂
﹂
でもテメェがまだ死にたりねぇって言うなら、上等だッ
殺すっ
﹁キミのその怒りは、正しいのかい
賛の意を込めて。
﹁キミは、正しい
それが正解だ
誰もがそうサ
﹂
それは、弱者
神 様 の 作 っ た ル ー ル を 壊 す ま
さぁ、ソコまで来たらもう一歩だよエヌラス
戦 禍 の 破 壊 神
を虐げられる怒りだ
絶 望 の 魔 人
!
カミサマロジックは手を伸ばせばスグソコだ
!
!
!
﹂
からさぁぁぁァハハハハハハハッ、ギャハハハハゲーハハハハハハハ
でもうちょっとだ
!
充填されていく殺意に、その怒りにクロックサイコが手を叩いた。賞
し込まれたエンジンが稼働する。全身の魔術回路が励起されていく。
純粋なその魂の怒りが銀鍵守護器官に焚べられていく。熱量を流
﹁家族を奪われて、怒らねぇ奴のほうがどうかしてんだよッ
?
ぶッッッ
何度でも殺してやる。殺して殺して殺して、殺し尽くして、それ
だっていい。テメェが殺したんだッ
﹁お前は、俺の妹を殺した。この世界の為に。いや、理由なんかどう
?
!!
!
944
!?
?
?
?
!!!
!!!
!!
!
!
!!!
﹁う・る・せ・えんだよ糞野郎がァァァァァ
﹂
テメェを
殺させろ
テメェをぶっ殺す口実が出来た
俺に
﹂
!
﹁ああ、どうでもいいんだよ
アイツの死は、それだけだ
!
﹂
どーしても彼女の死は必要だったわ
﹁いわゆる、コラテラルダメージってヤツサ
犠牲だったんだよ
犠牲
妹さんは目的の為の
れた皮膚を、何もかもを鮮明に覚えている。今でも腸が煮えくり返る
き散らかされた妹の肉片を、インテリアに飾られた内臓を、床に敷か
覚 え て い る。覚 え て る。忘 れ た こ と な ど 一 度 も な い。部 屋 中 に 巻
!!
?
﹁なぁんにもないわねぇ
﹂
﹁みんな、はぐれないように﹂
げられたように。
囲を見渡せば、そこには仲間たちしかいなかった。ただ暗闇に放り投
絶望だけが広がる空間だった。前後左右、上下の感覚さえもない。周
そこには、何も無い。アダルトゲイムギョウ界を覆ってきた虚無の
ていた。
パープルハート達は、大いなる〝C〟の扉を越えた先の空間に漂っ
﹁││││⋮⋮⋮⋮ここは⋮⋮
﹂
クロックサイコがエヌラスの猛攻を前に退いた。
さ せ る。そ の 熱 量 が 自 分 に 牙 を 向 く 前 に 片 端 か ら 消 化 さ せ て い く。
急激に燃焼を始める第二の心臓から供給される魔力が全身を沸騰
!
! !!
!
!
!
キミにとっちゃドーデモイイコトかもしんないけどねぇ
けさ
!
ることが分かった。きらびやかな座席には、誰もいない。
広がっていき、ハッキリと認識できた時には、それが黄金の玉座であ
やがて、暗闇の先。ポツンと何かが見え始める。その輪郭が徐々に
始めた。
パープルハートは何が来てもいいように慎重に前へ向かって進み
﹁とにかく、先へ進みましょ﹂
﹁そうね。敵どころか大いなる〝C〟ですら⋮⋮﹂
?
945
!
!
!
﹁⋮⋮何かしら、この玉座は
﹂
﹂
﹂
?
の
﹂
﹂
﹁そんな常識、誰が決めた
話が進まない。気を取り直して太刀を構える。無防備な相手に向け
とはいえ、だ。パープルハート達が大いなる〝C〟を倒さなければ
﹁うわー、盛り上がらないわねぇこんなラスボス⋮⋮﹂
う﹂
話が始まって、終わる。それだけだろ
﹁こういうのって普通、口上とかあって盛り上がるのが定番じゃない
﹁この塔争の最後の敵、という意味であれば。私がラスボスだな﹂
﹁⋮⋮えっ。貴方、ラスボスよね﹂
〝C〟は玉座に腰掛ける。
呆気にとられるパープルハート達が顔を見合わせる間に、大いなる
るがいい。私は抵抗しない﹂
﹁お前たちが私を倒して、世界を救いたいと言うのであれば好きにす
﹁え
﹁好きにするがいいさ﹂
﹁貴方を倒させてもらうわ。私達のゲイムギョウ界を救うために﹂
た。
そう不遜に語る相手に向けて、パープルハート達が武器を突きつけ
﹁如何にも、そうだ。よくここまで辿り着いた﹂
﹁⋮⋮貴方が、大いなる〝C〟
身から放たれる神気が人を遥かに超越した存在なのだと語っている。
それは、何処にでも居るような一人の人間だった。しかし、その全
玉座の後ろから影のようにひとりの男性が歩み出る。
﹁だが、それも此度は終わる。お前たちのおかげだ﹂
それぞれが背中を合わせて周囲に武器を向ける。
﹁誰
美声。
唐突に。そう声が聞こえてきた。男性とも女性ともつかぬ、魔性の
﹁││この世界は、敗北を続けてきた﹂
﹁きっと、ここに最後の一人が座るのね﹂
?
?
946
!?
?
?
て武器を振るうというのは躊躇われる、が││倒さなければゲイム
ギョウ界も、エヌラスの今までの戦いも救われないのだ。
それなのに、何故かパープルハート達の本能が、直感が告げている。
〝倒してはならない〟と。
﹂
早くしてくれ。次の〝遊戯〟
ゲイム
躊躇している守護女神達を一瞥して、大いなる〝C〟は足を組み替
える。
﹁⋮⋮私を倒すのではなかったのか
が始まらない﹂
﹁どうしてそんなに余裕なのよ﹂
﹂
貴方を倒したら、終わりなのよ
!?
﹁どうして、とは⋮⋮どういう意味だ
﹁意味がわかってるの
?
?
⋮⋮
﹂
いや、アルシュベイトだったかな。まぁ、どちらでもいいか。
﹁〝 前 回 〟 は ⋮⋮ 確 か、そ う だ な。誰 だ っ た か。大 魔 導 師 だ っ た か
﹁今回⋮⋮
回〟は、確かにそれで終わるだろうな﹂
終わり〟なのに、何故焦らないのか、と。先ほども言ったとおり〝今
﹁ああ⋮⋮そういうことか。つまり、お前の疑問は、こうか。〝ここで
?
にとってしてみれば、たったそれだけの違いなのだがな﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
ゲイム
言葉を失うパープルハート達に、大いなる〝C〟は嘆息してみせ
た。
﹁いやはや、私にはわからないのだがな。どうしてたかが〝遊戯〟に、
そこまで本気なのだ貴様らは そうまでしてなにを残したいんだ、
げた。武器を握る手に力がこもる。
時間の無駄││。そう言われた瞬間に、言い様のない怒りが込み上
貴様らは。〝何も残りはしない〟というのに。時間の無駄だ﹂
?
無駄と言うのか。アルシュベイトの死が。バルド・ギアの戦いが。
﹂
﹂
ドラグレイスの夢が。
﹁貴方は││
﹁待って、ノワール
!
!
947
?
〝それで終わった〟が、今回は違う。お前たちが来た。とはいえ、私
?
﹁放しなさいよネプテューヌ
﹂
﹂
どうせ無抵抗なラスボスなんでしょ
何かおかしいと思わない
だったら一発でスッキリ終わらせてやるわよ
﹂
﹁そうじゃないわ
﹁なにがよ
﹁無論だ﹂
?
﹂
?
ベイトか
ゲイム
バルド・ギアか
ドラグレイスか
エンディング
大魔導師か
?
まぁ誰であろうと構いはしないさ。結
?
際はそうではない。
絶望を越えて、最後の敵を打ち崩せば終わると思っていた。だが実
果は目に見えている。私はここで座って、待つだけだ﹂
それとも、ムルフェストか
?
﹁次の〝遊戯〟で私に辿り着くのは、果たして誰だろうな。アルシュ
界で。
ゴ ウ で。イ ン タ ー ス カ イ で。ユ ノ ス ダ ス で。ア ダ ル ト ゲ イ ム ギ ョ ウ
そして、またいつもの日々が始まるだろう。九龍アマルガムで。ア
ゲイムギョウ界で。
ネテューヌで。ラステイションで。リーンボックスで。ルウィーで。
をなかったコトにされて〟またいつもの日々が始まるだろう。プラ
ギョウ界で起きていた異変も何もかも〝元通り〟になって。〝全て
怖 気 が 走 っ た。自 分 達 が 倒 し て し ま え ば、助 か る だ ろ う。ゲ イ ム
て﹂
﹁〝元通り、また戦いが始まる〟だろうな。この私を倒すことを夢見
を待った。それに、不敵な笑みで応えてみせる。
ターの言葉を遮って、パープルハートは大いなる〝C〟の言葉の続き
じゃあ、倒せばいいんじゃ。そう言おうとしていたパープルシス
﹁えっ
﹁待って、ネプギア。まだ続きがあるわ﹂
﹁じゃあ﹂
うなればお前たちの世界は救われるだろう。この世界も元通りだ﹂
﹁私を倒すことによって、お前たちが辿り着くのは〝終わり〟だ。そ
﹁それは、どうして
﹂
﹁大いなる〝C〟。貴方は、私達が倒すことになんの抵抗もないのね﹂
?
!
!
?
?
948
?
!
!
Continue
トゥ ルー エ ン ド
た だ、振 り 出 し に 戻 る だ け だ。本当の真実 に 辿 り 着 く こ と な く、
最初からだ。
949
episode150 塔争
ゲイム
﹁だ が、こ こ に お 前 た ち が 辿 り 着 い た。こ の 〝 遊戯 〟 へ の イ レ ギ ュ
ラーのお前達がな。それだけが私にとって、無聊の慰みとなった。感
謝するぞ、女神達よ﹂
言葉もなく、ただ立ち尽くすパープルハート達に大いなる〝C〟は
賞賛の拍手を向けた。パチ、パチとその小さな喝采だけが胸に響く。
何もしていないはずの相手に、パープルハート達は封殺された。倒す
べき相手を、倒せない。
﹁だけど、エヌラスなら││﹂
﹁ああ、あの男か。あの男は決して此処に辿り着くことはない。この
世界の真実に、この私に辿り着くことは一生ないだろう﹂
﹁どうしてそう言い切れるのよ﹂
﹁さて⋮⋮それを何故、と聞いたのはお前が初めてだな。何故、か⋮⋮
ふむ﹂
そこで、初めて大いなる〝C〟が悩む素振りを見せた。
﹁私は、元々はあらゆる次元の境界線に位置する存在だった。決して
世界に干渉することはなく、同時に干渉されることはなかった。異な
950
﹁それを何故、とお前達が言うのか。本来ならば、此処へ辿り着くこと
﹄
が出来るのは〝ひとりだけ〟だ。ところが、お前達が来た﹂
﹃││
﹂
?
﹁どうして、貴方は大いなる〝C〟と呼ばれているんですか﹂
﹁なんだ
﹁⋮⋮その前に、ひとつだけいいでしょうか﹂
に残された希望だ。〝諦めろ〟守護女神﹂
﹁あの男は、決して真実に辿り着くことはないだろう。それがあの男
ラスは戦い続けている。
狂い時計、クロックサイコ。最狂最悪の狂気の魔人を相手に、エヌ
ていない﹂
﹁あの男には、私の隷属を相手にこの世界諸共滅ぶ以外に道が残され
!
る次元同士の衝突を防ぐ、いわば壁役だった。ところが、ある時を境
にして次元の歪みが生じ始めた。あらゆる次元、あらゆる世界が徐々
に狂い始めた。私はそれを防ごうと原因を調査した││その結果、あ
る 一 つ の 理 由 が 判 明 し た の だ。私 の 拘 束 を 抜 け 出 す 者 達 が 現 れ た。
﹂
このままでは世界が消滅すると思い、私は箱庭を作り出し、そこに脱
走者を放り込んだ﹂
﹁⋮⋮それが、アダルトゲイムギョウ界⋮⋮
﹂
〟
﹁⋮⋮それが、貴方の名前なのね。大いなる〝C〟││いえ、セロン
││〝セロン〟とな﹂
た。
だ。次元を隔つ壁なのだ││私を感知できるものは、こう呼んでい
ひとつと言っていいだろう。ゲイムギョウ界に人知れず存在する壁
﹁私はあらゆる世界に存在するし、どの次元にも存在しない。概念の
なんじゃ⋮⋮
〝もしかして、ユニちゃんの言っていた突然の消滅って、このこと
?
セロン
大いなる〝 C 〟は、パープルシスターの問いに気を良くしたのか
饒舌に話を続けた。
﹁次元の拘束を抜け出した者達が、箱庭で暮らし続けている内に国が
出来上がった。それは最初こそ穏やかに時が流れていたが、互いに力
を持つに連れて衝突した。そして、滅ぼし合った。そのままではあま
りにも勿体無いと思った私は、そんな彼らに救いの手を差し伸べて
Crusade
ゲイム
や っ た の だ。終 わ り の な い 戦 い に、目 的 を 与 え た │ │ そ れ が こ の
塔 争の始まりだ。気づけば私の唯一の愉しみは、そんな〝遊戯〟だ
けとなっていたよ﹂
A
B
D
﹁もしかしなくても、貴方の拘束を抜け出した連中っていうのは⋮⋮
﹂
G
﹁ああ、そうだ。アルシュベイト、バルド・ギア、ドラグレイス││そ
して、大魔導師だ。実際、彼らの能力は凄まじかった。それこそ、お
前達と同じようにな﹂
951
!
﹁だが驚いたのはそれだけではない﹂
!
!
グランドマスター
だが、と一言区切り。セロンは頭を振る。
﹁だが、そんなことを続けているうちに大魔導師が挫折した。もっと
Z
も力を持っていた男だけに、途方も無い戦いに心が折れたのだろう。
あの男は、ひとつの絶望を呼び寄せたよ﹂
﹁⋮⋮エヌラスのことね﹂
﹁私としても困り果てているのだ、あの男の扱いに。実際のところ、私
の力は彼らをこの世界に留めることで手一杯なのだ。かといってこ
のまま野放しにするわけにもいかん⋮⋮だからこそ私はこの塔争を
ゲイム
続けている。続けさせている。彼らは朽ちることによりその力を私
﹂
に還元し、次の〝遊戯〟が始まれば何事もなかったかのように戻る﹂
﹁じゃあ、記憶が残っている人達は
﹁私に辿り着いた褒美、といったところだろうな。〝前世〟の記憶を
持ち越せるのも、最後の一人だけだ。それが積み重なり、もはや一部
の者達にとっては薄々感づき始めているようだがな⋮⋮ただ一人の
例外を除いては﹂
それが誰を指しているのかは、もはや聞くまでもない。エヌラスの
﹂
お前達の知りたいことは﹂
ことだ。ただ一人だけが何も覚えていない。
﹁これで満足か
C
﹁⋮⋮クロックサイコは、一体何者なの
だ。状況が停滞した際に次のステップへと進ませる為の狂言回しだ。
故に、狂ってもらった﹂
﹂
それがどうした。実際に死ぬわけではない。
﹁貴方は││人の命をなんだと思っているの
﹁ただの、駒だが⋮⋮
!?
な﹂
﹁私とて、辟易しているよ。こんな光景ばかりが繰り返されていては
遊戯〟だと。
ゲイム
ように、眉一つ動かさない子供のようにセロンは嗤う。しょせん〝
悪の根源がそこにいた。画面の向こう側で人が死ぬのを当たり前の
吐き気を催す。絶対に許してはおけない邪悪が、醜悪極まりない諸
〝どうせやり直される〟のだ、そう怒ることもないだろう﹂
?
952
!
﹁ああ、アイツか。クロックサイコは知っての通り、私の隷属。私の駒
?
?
パチン。セロンが指を鳴らして世界が一変した。まるでスクリー
ンをいくつも映しだしたかのように無数の画面がパープルハート達
の視界を埋め尽くした。あまりの情報量の多さに目が眩んだ。だが、
﹂
そのうちの一つに視線を集中させると││。
﹁アルシュベイト⋮⋮
最強の鬼神が、立っていた。ボロボロになりながら、刃は折れて片
腕を無くし、膝を着いて、ヌルズを前にただひとり残されていた。
﹁バルド・ギア⋮⋮﹂
孤独な王様が戦っていた。無尽蔵の絶望を前にあらゆる銃火器を
駆使して、望まない戦いに身を投じていたが、徐々に劣勢に追い込ま
﹂
れていく。弾が尽きかけていた。
﹁⋮⋮あっちはドラグレイス
﹁もう、やめて⋮⋮
﹂
も。ずっと、ずっと││。
そ ん な 戦 い を 彼 ら は 続 け て き た。前 回 も、そ の 前 も。そ の ま た 前
﹁⋮⋮やめて⋮⋮﹂
に闘って、無様に殺された。
わけではなく、誰かに背中を預けていたわけではなく、ただただ孤独
ず死んだ。目を覆いたくなるような最期だった。誰かに看取られた
戦っていた。戦って、闘って、戦い続けて⋮⋮そして、彼らは余さ
ち。ただひたすらに絶望に灼けた偃月刀を振るい続けていた。
して、それでもまだ戦っていた。彼の眼前に広がるのは無数の魔物た
地上最強の国王が、膝をついている。終わらない戦いに嗚咽を漏ら
﹁大魔導師⋮⋮﹂
ほど血に濡れている。ボロボロだった。
金の輝きを放つ大剣を振るって、だがその刀身がもはや見る影もない
竜騎士が戦い続けていた。醜い世界だと一笑に付した世界で。黄
?
こんな戦い、何の意味があるの
﹂
アが、ドラグレイスが死んでいく。何度も何度も。何度でも。
﹁もうやめてよ
!?
953
?
守護女神達の悲痛な叫びも空しく、アルシュベイトが、バルド・ギ
!
﹁言ったはずだ。〝なんの意味もない〟とな﹂
!
守護女神達よ。だ
敗北の歴史。最期の瞬間のリピートから目を逸らすようにパープ
ルハート達はセロンに武器を構えた。
﹁だが、お前達はそれを良しとしないのだろう
からお前達も戦い続けるのだろう、彼らと同じように﹂
玉座から立ち上がる。その一身に守護女神達の憤怒と憎悪の視線
を浴びて。
﹁ならば、いいだろう。此処に、アダルトゲイムギョウ界の権能を執行
する││﹂
指が鳴らされた。空間にノイズが走る。
﹁この試練を、超えてみせろ守護女神。お前達が辿り着くのは希望か、
絶望のどちらかだ﹂
そして、そこに現れるのは││モノクロの神格者達。
アルシュベイト。
バルド・ギア。
ドラグレイス。
大魔導師。
ゲイムエンド
﹁この者達を打ち倒し、見事私に一太刀浴びせてみせろ。そうすれば、
〝遊戯終了〟だ﹂
四人は顔を見合わせる。元より、倒す他に先に進む道はない。だが
〟
しかし、それまでにエヌラスが来なければ、その時は││とても辛い
別れになるかもしれない。
〝⋮⋮エヌラス、お願い。早く私達のところに来て⋮⋮
!
954
?
episode151 攻撃は最大の防御
アルシュベイトが駆ける。ブラックハートがその長刀を受け止め
た瞬間に吹き飛ばされた。バルド・ギアのミサイルをパープルシス
ターが迎撃する。ドラグレイスの大剣とアイリスハートの蛇腹剣が
拮抗していた。
大魔導師の偃月刀とパープルハートの太刀が衝突する。セロンは
ただその光景を眺めていた。玉座へと腰を下ろして。
﹁私にできることなど、その程度のことだよ。それ以外は何も出来ん﹂
﹂
﹁神格者を四人も喚び出しておいて、その程度ってどういう了見よ
キャアァァァ
!
された。
た。
﹁お姉ちゃん
﹂
けられる。動きを止められたそこへ、深紅の自動式拳銃が魔弾を放っ
大魔導師の攻撃をすり抜けたパープルハートに黄色の布が巻きつ
﹁ノワール
﹂
ブラックハートがアルシュベイトの一撃を受けて大きく吹き飛ば
!
もかもが消えてしまう。何もなかったことにされてしまう。それだ
にここで自分達がセロンを倒してしまえば、エヌラスとの思い出も何
絶望的な状況で守護女神達は四肢を投げ出して漂っていた。もし、仮
アルシュベイトただ一人でも手に余るというのに、神格者が四人。
れた。
くる。全身を使った振り上げによってアイリスハートが吹き飛ばさ
のように伸縮させて全身を切り刻むが、意に介さず一直線に突進して
ドラグレイスの大剣がアイリスハートを弾き飛ばす。すぐさま鞭
た。
スターが、折りたたみ式グレネードランチャーの爆炎に呑み込まれ
らすぐさま反転。距離を選ばない戦法に翻弄されていたパープルシ
パープルシスターの射撃をかいくぐってバルド・ギアが近接戦闘か
!
955
!?
けは絶対に駄目だ。笑ってお別れをしようと約束したではないか。
だからこそ、手も足も出ない。倒さなければならない神格者です
〟
ら、今までエヌラスと共に戦ってきたからどうにかなってきた相手
だ。
〝⋮⋮ここまで、なの⋮⋮
ブラックハートの胸中に、諦めに似た心境が湧いてくる。頭を振ろ
うとしても、拭えない敗色に涙が溢れてきた。ここまで頑張ってきた
のに、その努力が全て無駄だった。それでもまだ続けることが出来る
だろうか。
視線の先。敗北の歴史から目を背けて、目を閉じようとした││そ
の時、偶然目についた。探そうと思って探したわけではない。だが、
それに守護女神達が気づく。
そこに映っていたのは、エヌラスだった。対するは、アルシュベイ
ト。バルド・ギア。ドラグレイス。ムルフェスト。大魔導師。おおよ
そ考えうる最悪の状況だった。アダルトゲイムギョウ界の全てを敵
に回したような様相に、血の気が引く。だが、エヌラスの手には妹の
亡骸があった。血塗れで泣いて、怒って、剣を執っている。この後に
起きることを彼女達は知っていた。
気づかない内に、手を伸ばす。届かないはずの手を伸ばして、引き
止めようとする。勝てるはずがない││だが、その手が届くことはな
くエヌラスは全身に剣を突き立てられて死んだ。
思わず小さな悲鳴が漏れる。それでも、その男はそれで終わらな
い。
自分もろともシャイニング・インパクトを放って全てを巻き込ん
だ。そして、映像が途切れる。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
流石、というべきかバカと言うべきか。ただでは終わらない。探せ
ば、無数に存在する。まるで星のように、塔争の歴史を眺めた。
エヌラスが戦っていた。戦い続けていた。アルシュベイトと共に。
バルド・ギアと共に。ドラグレイスと共に。大魔導師と、ムルフェス
トと共に。その中には、ユウコと一緒に映っているものもある。
956
?
〟
何度折れても立ち上がった。何度挫けても起き上がった。何度で
も││。
〝⋮⋮どうして
﹁⋮⋮ほう﹂
﹂
﹁⋮⋮諦め、ないわ⋮⋮⋮⋮
﹂
から。底抜けのバカにも程がある。
〝後味悪い〟という理由だけで、出来てしまうのがエヌラスなのだ
いうのはどうでもいいのだ。
死にかけながら。きっと、そういう性分なんだろう。理屈とか、そう
れた。助けてくれた。救ってくれた。死にそうになりながら、何度も
た時もある。だけど、口だけじゃなかった。本当に命がけで守ってく
た。守護女神を守るだなんて、何をカッコつけているんだろうと思っ
そういえば、エヌラスは││いつだって私達の為に戦ってきてくれ
〝⋮⋮嗚呼、そうか〟
らない。
て、パープルハート達は態勢を整えた。だが、神格者達の攻撃は止ま
る。大魔導師が唱える。その攻撃を避けて、防いで、反撃して、躱し
アルシュベイトが迫る。バルド・ギアが狙う。ドラグレイスが構え
そうさせる
﹁正直、あの男のしぶとさは私も疑問に思っている。なにがあの男を
転がっていた。
だけど、そんなエヌラスの傍らにはいつだって誰かがいて、亡骸が
う。そこで立ち止まってしまえば他の道もあるはずなのに。
どうして、諦めないのだろう。なんで諦めることを知らないのだろ
?
﹂
!
﹁それだけは、しちゃいけない⋮⋮無かったことになんか、できないわ
戦ってきたエヌラスさんの戦いが無駄になります﹂
﹁⋮⋮分かりません⋮⋮だけど、今、ここで諦めてしまったら、今まで
﹁なにがお前達をそうさせる﹂
アイリスハートもまた、立ち上がる。
﹁そう、ね⋮⋮やられっぱなしは、いやだもの⋮⋮
大魔導師の攻撃を受けて、パープルハートが立ち上がった。
!
957
?
⋮⋮
﹂
ても結果は変わらん﹂
ゲイム
パープルハートが太刀を向ける。
ゲイム
﹂
ゲームというのはね、自由で孤独で⋮⋮大勢で楽しめな
私に、誰が刃を届ける。誰も届きはしない。願い
?
続ける狂気の魔人には焼け石に水。
!
キミが中途半端に私を殺すもの
﹁ハァ、ハァ、ハァー⋮⋮テッメ、いい加減、マジでくたばれ⋮⋮
﹂
﹁うーん、そうしたいんだけどネ
だからそうもいかないネ
?
を再生した。
今のキミじゃまるで〝神殺しの刃〟に成り得ないからネ
﹁なんってったって
ボクは大いなる〝C〟の隷属だからネ、仕方
仮面を破壊する。すると蟲が散り散りになり、すぐに集まって身体
〝⋮⋮コイツの心臓、どこにあんだよ〟
既に何度殺したかさえ記憶に無い。というよりは手応えがない。
?
﹂
せたことにより、エヌラスに軍配が上がった。しかし、無限に再生を
エヌラスとクロックサイコとの戦いは、銀鍵守護器官を最大駆動さ
だから││。
最後の勝者が誰であっても構わない。どうせ結果は変わらないの
も救いも何も無い。私はただここで待つだけだ﹂
﹁私を誰が殺す
映される映画のように思える。
目の前で繰り広げられる激闘ですら、セロンの目にはスクリーンに
ど無い、ただの暇つぶしになれさえすればいい﹂
﹁⋮⋮それができればいいが、生憎と私は孤独なのだ。楽しむ必要な
いく。大魔導師の肩口が裂ける。そして、胸板を蹴り飛ばした。
偃月刀と幾度も火花を散らしてはプロセッサユニットが損傷して
きゃダメなのよ﹂
﹁セロン
﹁いいや、〝遊戯〟だよ、守護女神。次元を超越した〝遊戯〟だ﹂
!
?
﹁〝次〟なんて、無いわ。これは〝遊戯〟じゃないんだから
ゲイム
﹁ならば、どうする。〝次〟に持ち越すか お前達が勝っても負け
!
ないネ
!
958
!
!
ダメだったらその時は、死ぬしかぁないよねぇ
る。
﹁コッチだよぉ∼
﹂
﹂
がそこにクロックサイコの姿はない。無数の蟲が部屋中に溢れてい
がら防ぎ、反撃の機会を伺う。銃声が鳴り止むと同時に銃を向ける、
銃刀が無数の銃弾をばらまく。それを片腕で防御魔法を展開しな
!
き込み、吐血した。
?
分かるわボケが⋮⋮﹂
?
〝あと、もう少し⋮⋮
〟
﹁ボクとしてもねぇ、我慢してるんだヨォ
まるで黄金の果実
知恵の実
﹂
!
!
?
!
ても、トォっても美味しそうだから食欲がそそられるネ
リンコだ
!
お腹ペコ
キミの心臓はとてもと
る現状では、火力不足が否めない。一刻も早い快復が望まれる。
にはそれが叶わない。銀鍵守護器官の機能の大半を治癒に回してい
ようやく理解した。コイツを殺しきる方法が。だが、今のエヌラス
﹁じゃあボクの殺し方が分かるかな
﹂
﹁這 い 寄 る ⋮⋮ 混 沌 だ ろ う よ ⋮⋮ ん な 腐 臭 撒 き 散 ら さ れ た ら 嫌 で も
CHAOS
﹁ボクの正体がなにか分かるかな
﹂
大いなる〝C〟の隷属だけかな
た。それが引き抜かれ、背中からの衝撃につんのめる。エヌラスが咳
背後から聞こえた声に振り返ろうとした瞬間、胸板を刀が貫いてい
!
﹁ヒャ
﹂
﹁││繋がっ、たァ
﹂
立てる││だが、その姿がガラスのように砕け散った。
銃刀を鳴らして、クロックサイコがその刃をエヌラスの心臓に突き
!
よぉ
大魔導師が得意としてたネ﹂
ああいや、疑問はナンセンスだ。識ってる、知ってる
ニトクリスの鏡だろう
?
プッ。血痰を吐き捨ててエヌラスは口元を拭う。首を鳴らして、調
?
﹁今のは一体
蟲が這い集まる。身体が形成される。狂気の魔人が形作られた。
コの仮面が粉砕される。
鏡像による幻影もまた、大魔導師からの教えの一つ。クロックサイ
!!
!?
?
959
!
?
子を悪そうにしていた。
﹁⋮⋮〝右腕〟は使えないはずじゃなかったのかい
ドとクスリの服用で﹂
中できる﹂
どうして、悪かないぜ
﹂
致死量のミー
﹁魔術回路を組み込んだ。足りねぇ部品はそいつで賄ったが⋮⋮中々
ろう。
クロックサイコの悲痛な叫び。それだけは予想できなかったのだ
﹁ドウヤッテ
﹂
〟。おかげでテメェとの戦いに集中できなかったがこれでやっと集
﹁ああそうだよ。神経が死んでたからな。だから〝一から繋ぎ直した
?
﹂
ぶっ殺させてもらうぞ、
﹁さて││覚悟はいいか、大道芸人。テメェをぶっ殺してネプテュー
拳を鳴らしてみるが、特に不具合は見当たらなかった。
?
ヌ達を追いかけねぇといけねぇんでなぁ
クロックサイコ
960
!?
!
!
episode152 愛憎必殺。誓いにかけて
右手に偃月刀を召喚し、左手にレイジング・ブルマキシカスタムを
握るエヌラスは変神する。クロックサイコが銃刀を構えた瞬間から
元気にくたばれ
﹂
両腕を撃ち落とし、胴体をアクセル・ストライクで壁まで蹴り飛ばし
た。
﹁準備体操だ
!
ガォン 仮面が砕け散る。無数の蟲が散り散りになって再び地
!
﹂
面からクロックサイコが這い出した。
﹁いやはや、元気になったねェ
﹂
退くと床から刀が生えてきた。
﹂
﹁ウフフフフフフ、ボクァ死なないよ。どうやっても、殺せないヨ
キミがある方法で殺らないかぎりねェ
﹁ヘ
﹂
﹂
?
﹂
今までの仕返しと言わんばかりに攻撃を叩き込んだ。
﹁こいつは、ノワールを追いかけ回した分
アクセル・インパクトが胴体を引き千切った。
﹁こいつは、ネプギアを緑竜会の本部に連れ去った分
超電磁抜刀が姿を焼き消した。
﹂
﹁こいつは、邪神を呼び起こしてネプテューヌに苦労かけた分
﹂
ち抜かれる。その度に再生していく狂気の魔人にブラッドソウルは
クロックサイコの仮面が砕かれる。腕が切り落とされる。足が撃
﹁そいつは愉しみだぁゲェーハハハハハ
形もなく消し飛ばす。静寂が訪れて││羽虫の音にその場から飛び
ウルはクロックサイコを壁に磔にする。〝螺旋砲塔〟神銃形態が跡
銃刀の弾丸と剣閃を偃月刀と二挺拳銃で相殺しながらブラッドソ
だからな
﹁ったりめぇだ。こちとら酒とクスリとタバコとありったけぶち込ん
!?
更に、超電磁抜刀術・零式がキンジ塔の一部ごと消し飛ばす。それ
!!!
!!
!
961
!
!
﹁お、そうか。つまりそれまで殺し放題ってことだよな﹂
!
!!
!?
でもまだ再生を続ける。復活し続けていた。
﹁コイツはキモいテメェにプルルートが不快感マックスな分
﹁ヒィアァァァ
﹂
あるべき形を与えられた。
﹂
﹂
込まれていた。形を持たないからこその混沌は今、狂気の魔人として
マントを翻して自分の胸を見れば、ソコには歪に輝く双角錐が埋め
存在を掛けてテメェを否定してやる、狂い時計。一生ぶっ壊れろ﹂
﹁〝心臓〟を持たないテメェに、心臓をくれてやった。俺達兄妹の全
﹁ナニを、したんだい⋮⋮
手先が震え、力が入らない。
クサイコが銃刀を構えようとして、身体の不調から武器を落とした。
ゴキ、バキバキ。指の骨を鳴らして迫るブラッドソウルに、クロッ
﹁そしてこっから先は全部、俺の分だ﹂
うな感触にブラッドソウルが手を振った。
イコの胸板に深々と拳を叩き込む。ズルリと汚泥を引き剥がしたよ
ヒビ割れたゼロクリスタルを握りしめて、再生しているクロックサ
﹁そしてコイツは、俺の妹を殺した分だ﹂
濡れ衣ではあるが、エヌラスにとってはどうでも良い模様。
!!!!
と拳を叩き込む。乱暴に、知性を感じられないような攻撃に打ちのめ
されて身動きが取れない姿に慈悲など無い。
﹂
シャイニング
﹂
﹁テメェが〝無限熱量〟ぶち込まれて生きていられるかどうか、試し
てやる
聞こえねぇなぁ
﹂
﹁そ、ソイツはちょっとやりすぎじゃあナイカナァ
﹁なぁにぃ
!!
!!
充填されていく。
﹂
逃げ出そうとするクロックサイコの足に左の手首から蜘蛛の鋼糸
が絡みついて逃さない。
﹁インッパクトォォォォ││
そして、クロックサイコの全身が無限熱量の結界へと呑み込まれて
!
962
!?
命を与えられた、怯えるクロックサイコにブラッドソウルは偃月刀
!?
右の掌に生み出される光球。銀鍵守護器官が生み出す最大熱量が
?
!?
!
いく。
﹁ギィィィヤァァァァァアアアアア
などない。
﹁││ォォォオオオオオオッ
﹂
﹂
を増していく。無論、それにブラッドソウルは一切の手心を加える気
絶叫が鼓膜を叩いた。だが、その結界の中の熱量は無慈悲にも温度
!!!?
﹂
!!!
を焼滅させる。
キミは
﹁ア ア ア ア ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ
ヤァット
ヤ ッ ト ダ、
灼き尽くす。肉片の一欠片、魂の一片残さず、この狂い時計の全て
!!!
化物のキミハ
﹂
﹂
ようやくここまで来た 〝神殺しの
﹂
ボクが狂った理由にナレタンダネェ
刃〟に、成れるんだ
﹁││昇華ぁッ
﹁嗚呼、ヤットダ││ヤット、ボカァ⋮⋮終われる⋮⋮
﹂
﹁ウルッセぇ野郎だ
!
てブラッドソウルの前に立つ。
顔のない、闇黒のファラオ││クロックサイコの〝本体〟が、初め
ついた液体であり、膨張して人の姿を取ると、仮面が現れる。
から飛び出した影があった。それはまるでコールタールのように粘
ガチャリと銃口を向けた先は、自らの影。引き金を引くと、影の中
﹁⋮⋮〝ソコ〟にいやがったのか、テメェ﹂
臨戦態勢を解いてはいない。
クロックサイコは焼滅した。だが、しかし。ブラッドソウルはまだ
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
た。
ヒビ割れたゼロクリスタルも、仮面すらもそこには残りはしなかっ
気の残滓だけがキンジ塔に漂う。
そして、〝無限熱量〟の結界が収縮した。残るのは静寂と灼けた空
!
!
!
!
﹁キミハ
冷えたがブラッドソウルは構わず熱量を更に上げる。
無限熱量の只中にいてもなお、哄笑を挙げるだけの生命力には肝が
!
!
!
963
!
!
﹁⋮⋮ヨク、分かったナ
﹂
﹁ずっと疑問だった。まぁ、まさか逆探知がうまくいくとも思っちゃ
いなかったがね﹂
﹁形の無い私に、まさか命を与えて諸共焼滅させるとはナ﹂
﹁死んだ妹の形見だ。後悔はねぇよ。つーわけで、だ。改めて死ね、ク
ロックサイコ﹂
銃撃を銃刀で弾く。やはり、そう簡単にやられてはくれないらし
い。だが生憎とこちらも長く付き合うつもりはない。
綺羅綺羅と舞い散る銀の粉末⋮⋮それに、クロックサイコがハッと
する。シェアブラッド。
﹁マサカ⋮⋮﹂
﹁弔いの鐘だ。コイツを亡き妹に捧ぐ││﹂
深紅の自動式拳銃が炎と共に現れる。白銀の回転式拳銃が氷と共
ブラストブリッツ
に現れる。偃月刀が雷と共に現れる。無数の偃月刀が舞い踊る。
﹁銃鳴葬送曲││﹂
アンビバレンス
鮮血が溢れた。
﹁血闘の〝善悪相殺〟﹂
灼 熱 の 魔 弾 が 踊 る。冷 厳 な 魔 弾 が 舞 う。偃 月 刀 が 狂 い 踊 る。水 銀
の粉末と共にクロックサイコが撃たれ、刻まれ、踊り狂う。銃撃乱舞、
絢爛舞踏の鎮魂歌。
薬莢が無数に床に転がる。偃月刀が地面に突き立てられる。
﹁⋮⋮⋮⋮アア、良い⋮⋮一曲ダッタよ⋮⋮﹂
﹁くたばれ﹂
ガゴンッ
にして、ブラッドソウルは深く息を吐いた。途方も無い量の魔力を総
動員して、妹の仇を討った、そのはずなのに胸には虚しさだけが残る。
当然だ。クロックサイコを殺すことに〝なんの意味もない〟のだ
から││。
﹁⋮⋮復讐ってのは割がいい。スカッとする。さて、これで何の憂い
もなくネプテューヌ達を追えるな﹂
964
?
狂気の魔人は、頭を吹き飛ばされて絶命した。硝煙の漂う拳銃を手
!
左目の血を拭って、エヌラスは階段を登り始めた。
階段を歩いて登る。あの日のことを思い出しながら、のんびりと身
体を快復させて。
次元連結装置は、あの日のままだった。最初で最後の起動を、自分
が食い止めた。〝螺旋砲塔〟神銃形態を放ったキンジ塔の壁がごっ
そりと削れており、そして、そこにドラグレイスの大剣が突き立てら
れている。左腕には見覚えのない盾がついていた。それに手を触れ
ると、歯車が奇妙に捻くれた宝玉となってエヌラスの掌に収まる。最
後の一つ││次元渡航能力。
ドラグレイスならば、これを使って何処にでも行けたはずだ。だ
俺の愛する
が、ここにあるということはネプテューヌ達と戦う為に使ったという
ことだ。
﹁⋮⋮お前もバカだな、ドラグレイス。強かったろう
女神達は﹂
答えは返ってこない。エヌラスは背中を大剣に預けて、その場に座
り込んだ。
アダルトゲイムギョウ界は、滅んだ。キンジ塔を残して。
最後の一人となったエヌラスは、大いなる〝C〟へと辿り着くこと
もない。この世界の明日を、ゲイムギョウ界の未来を決めるのは守護
女神である彼女達こそが相応しい。
﹁⋮⋮さて、どうやって追い掛けるかな⋮⋮⋮⋮いや、流石に万に一つ
でも負けるわけがねぇんだけどよアイツ等が。甲斐性なしって言わ
行くしかねぇ
れんだろうなぁ、少しくらい休んでても文句言われねぇよなぁ⋮⋮で
﹂
も絶対なんか言われるだろうな。あー、チクショウ
か
た。
﹁少し待ってろ
﹂
今からそっち行って大いなる〝C〟だか〝D〟だ
か知らねぇが、ぶん殴ってやる
希望を救うために。
掌に握りしめた宝玉を叩き割って、絶望の魔人は立ち上がる。
!
!
965
?
!
それなりに大きい独り言を漏らしながら、エヌラスは立ち上がっ
!
episode153 次元を超越した遊戯
セロンの見ている前で繰り広げられる激闘は、パープルハート達が
終始押されていた。
守護女神とはいえ、その同等の実力を持つ神格者達が相手では手間
取る。彼らはこの輪廻の中で永遠に戦い続けてきた。その経験の差
が実力として両者を引き離している。
大魔導師の超重力弾がパープルハートを吹き飛ばした。アルシュ
ベイトの豪剣がブラックハートの大剣を叩き壊し、プロセッサユニッ
トが破壊される。バルド・ギアが放つ怒涛の射撃がパープルシスター
を撃ち抜いた。ドラグレイスの大剣が蛇腹剣を絡め取り、アイリス
ハートは続けざまに放たれる魔法によって空間を漂う。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
玉座に頬杖をついて、セロンは立ち上がるパープルハート達を待っ
た。だが、結果は同じ。
〝最強〟の名を冠する神格者がふたりもいるのだから当然の結果
とも言える。かたや物理最強、かたや魔術に精通した魔法最強の神格
者。アルシュベイトと大魔導師が相手ではあまりに分が悪すぎる。
﹁⋮⋮勝てる道理など、ないのだがな。何故諦めない﹂
ほとほと呆れた口調でセロンは疑問を口にしていた。立ち上がる
だけの体力もなくなったのか、パープルハート達は余さずプロセッサ
ユニットが破壊されている。
﹁お前達が痛い思いをする理由もない。辛い戦いに身を投じる理由な
どない。諦めろ﹂
966
セロンは、ただその結果を〝ああそうか〟と受け取った。守護女神
達の敗北だ││そう思った瞬間、パープルハート達が体勢を整える。
私達はまだ、戦えるわ⋮⋮﹂
﹂
﹁まだ、よ⋮⋮セロン⋮⋮
﹁⋮⋮﹂
﹁〝コンティニュー〟よ
!
﹁⋮⋮好きにするがいいさ﹂
!
﹁⋮⋮││││﹂
﹁お前達が守護女神の使命を全うしようとしたところで、この世界は
救えない。アダルトゲイムギョウ界に、お前達の居場所は無いのだ
⋮⋮﹂
自分達の限界を、思い知らされた気がした。確かにそうかもしれな
い。此処に、私達の居場所は││そう思いかけた時、ふと左手の薬指
に嵌めた指輪が目に映った。
﹁⋮⋮⋮⋮エヌ、ラス⋮⋮﹂
無限に続く敗北の歴史。その光景に自分達が刻まれる。
││だが、絶望に屈しそうになる瞬間に。今際の際に、そこに映る
神格者達の最期に共通するものがあった。
アルシュベイトが、戦い続けていた。先代アゴウの女神に背を預
け、戦っていた。刃が折れる、片腕が食われる。弾が尽きる。無尽蔵
の絶望に包囲され、信じるものは己の肉体だけ。だが、それでも⋮⋮
先代アゴウの女神の背中を押して、ただ一人残った。跳躍ユニットを
廃棄して、自らの手に持って叩きつける。腕部に収納されているナイ
フを取り出して、戦う。戦う。戦い続ける││││そして、死んだ。
無尽蔵の絶望を前にして、バルド・ギアが。ドラグレイスが、大魔
導師が。誰もが。
││彼らは、死ぬ最期の瞬間まで諦めていない。命あるかぎり、戦
い続けていた。
きっとその先に平和があると信じて、戦っている。
﹁お前達があの男を愛したところで、あの男がお前達を愛している証
明など、何処にもないだろう。愛などない。誰がそれを証明する﹂
﹁││││││││││﹂
そこで、気づいた。どうして自分達がまだ戦えるのか。戦おうとさ
え思うのか。自分達の姿を見て、思い出す。
││俺がアイツに命を懸けるだけの価値があるってことなんだよ。
エヌラスが言っていた、いつかの言葉。
ただの一度も〝愛している〟なんて、言ってくれなかったけれど、
言葉にしなくても分かる。
967
﹁ぁ⋮⋮⋮⋮あ、あ⋮⋮⋮⋮﹂
涙が溢れてくる。
そうだ。
一体、何を忘れようとしていたのだろう。
〝アダルトゲイムギョウ界で変身出来る〟ということが、何を意味
しているのか。
﹁私達は⋮⋮﹂
愛されていた。いや、愛されている。今でも。今までも。
祈るように。慈しむように。シェアリングを握り締める。
﹁エヌラス││﹂
だいじょうぶ。私達は、だいじょうぶ││だから、だから。
あ い し て
脳裏に浮かぶのは、いつだってボロボロになってきた絶望の魔人。
﹃私達を、守って﹄
光 が 生 ま れ る。シ ェ ア の 光。そ の 輝 き を セ ロ ン は 知 っ て い た。〝
﹂
な神様﹂
﹁それは違う。私は歪めてなどいない。彼らが望んだのだ﹂
﹁彼らが望んだのは、平和よ。アダルトゲイムギョウ界の明日﹂
﹁なぜ、そう言い切れる﹂
﹁それは、私達が彼らの〝いのちの歌〟を知っているからです﹂
968
それ〟が何を意味するのか。
﹁⋮⋮トランジスターか﹂
足の欠けた星形のシェアクリスタルが、パープルハート達の掌に包
み込まれていた。
﹂
﹁〝神々の神像〟とも呼ばれる、善なる属性の結晶。知っているとも。
それでお前達は何を願う
﹁││明日を。未来を﹂
﹁ほう
﹁今なら分かるわ⋮⋮この世界が、侵されていのだと﹂
達はトランジスターへ埋め込む。
自分達の身体からシェアクリスタルを取り出すと、パープルハート
?
﹁大いなる〝C〟。貴方は、邪神よ。この世界を歪め続けてきた、邪悪
?
﹁ここでずっと独りぼっち、そんな貴方は知らないでしょうけどね
になんかしない
﹂
﹂
﹁私達は、人々の切なる叫びを胸に、明日へと向かうわ。ここで終わり
く。
言葉もなく、セロンは呆れた。目の前で守護女神達の傷が治ってい
!
を﹂
トランジション
ギョウ界の善なる属性が顕現したもの││
神よ
﹂
来 る か、
!
﹁そうだ。私が大いなる〝C〟と呼ばれる以前より、選ばれたものだ
なく、シェアエネルギーによって形成されていた。
女神トランス・パープルハートが、太刀を担ぐ。その刃は実体では
旧
エルダー・ゴッド
今 の お 前 達 は 〝 も っ と も 新 し き 旧 き 神 〟 に 相 応 し い
!
飽きさせない。祈りの空より来たるもの。切なる叫びに応えるもの。
﹁見事だ。実に見事だよ、守護女神。いつ見ても、その輝きだけは私を
護女神達。その姿にセロンは喝采の拍手を送った。
光の中から生まれるのは、新たなプロセッサユニットを装着した守
宣誓する。世界を越えて守るべきものの為に。
﹃変・ 神
﹄
けの力がある。さぁ、見せてみろ││その〝斬魔大星〟が魅せる輝き
﹁ならば、お前達の願いを込めるがいい。トランジスターには、それだ
!
こ の 私 の 敵 と し て
だ が、お 前 達 の 敵 は │ │ こ の 者 達 だ
!
ルを手にしている。
﹁いずれ神へと至る、神に値する願いを持つ者達││神格者
者達を討ち倒さないかぎり、この私に刃は届かんよ﹂
﹁私がアルシュベイトをやるわ﹂
に包まれる、電界突破。
この
そして、一斉に変神した。バルド・ギアだけは装甲を展開して輝き
!
969
!
!
けがその輝きを身に宿してきた。あらゆる次元。あらゆる世界を超
えて
﹂
!
アルシュベイトが、ドラグレイスが、大魔導師が。シェアクリスタ
!
女神トランス・ブラックハートが背丈を超える大剣を構えた。両肩
から浮かぶユニットの中には冷却用のファンが回転している。
﹁なら、お願いね、ノワール﹂
﹁任せなさいよ。ゲイムギョウ界トップシェアの女神の力、見ておき
なさいよ﹂
﹁それじゃあ、私はソラさんを相手します﹂
女 神 ト ラ ン ス・パ ー プ ル シ ス タ ー は 両 手 に 先 鋭 化 さ れ た M.P.
B.Lを構えてドレスのように広がるプロセッサユニットを翻した。
バルド・ギアの姿が掻き消える。その光の尾を追って、トランス・パー
別にいいわ
プルシスターが飛翔した。光速の銃撃戦が繰り広げられる。
﹂
﹁なら、アタシはドラグレイスをイジメようかしらぁ
よねぇ
﹁私達は、諦めないわ。何度でもコンティニューよ
﹂
ネクロソウルが長大な刃の偃月刀を担いで首を傾げている。
蛇腹剣で捌くとその背中を追った。
の竜が襲いかかるが、それを事も無げにトランス・アイリスハートは
より凶悪なフォルムへと神化を遂げている。理性を失ったモノクロ
プロセッサユニットに無数の剣を携えていた。得物である蛇腹剣も
女神トランス・アイリスハートは、まるで剣の女王のように背中の
?
世界を超えた〝神々の遊戯〟だ。楽しませてくれ﹂
ゲイム
﹁ならこれは、超次元遊戯だ。異なる次元同士の狭間で起こる、ヒトの
!
970
!
e p i s o d e 1 5 4 誰 よ り や さ し い 王 様 と 誰 よ
り真面目な女神候補生
無限に続く敗北の歴史││それから目を背けてトランス・パープル
シスターはモノクロのバルド・ギアの背中を追う。だが、その背中を
追っている内に背面へ向けたマイクロミサイルが分裂してトランス・
パープルシスターの行く手を阻んだ。その全てを片端から撃ち落と
す。だが、射撃に気を取られて距離が離されていく。
自分の両手に持つ、新たなM.P.B.Lを見やる。
〝威力は抑えられてるみたいだけど⋮⋮〟
今は迎撃に向けて引き金を引いているが、本格的に狙うとなるとバ
ルド・ギアの飛行能力と機動性を前に命中させるのは至難の業だ。ど
うしても、あと一歩のところで避けられてしまう。相手の射撃を避け
るのにも精一杯だ。
﹂
ルド・ギアを収めながらM.P.B.Lを連射した。一発が主翼を掠
めて、残りは避けられる。相手もトランス・パープルシスターの射撃
性能に警戒心を露わにして背中ではなく、正面から向き合う。ロール
しながら射線から身を逸らす。互いに間一髪の回避を繰り返すうち
に、バルド・ギアの攻撃が複雑化していく。
両手のライフルからマイクロミサイル、その迎撃と回避に気を取ら
れている間に機関銃を持ち出してトランス・パープルシスターの死角
から射撃を加える。M.P.B.Lの刃で弾き、攻撃から身を躱すが
971
狙いは正確。そして回避に映るまでの行動も早い。中々当てるこ
とができなかった。
〝せめて、私がもっと速く飛べたら〟
そう思った矢先に、プロセッサユニットからフレアが排出されてト
加速してる
ランス・パープルシスターの視界にバルド・ギアの飛行ユニットが迫
えっ
!?
る。
﹁え
?
その出力に振り回されそうになりながらも制御して、射程距離にバ
?
﹂
その後を火砲が追う。
﹁くぅ⋮⋮っ
﹂
﹂
?
﹂
﹂
!
︽⋮⋮⋮⋮、︾
〟
で表情は読めないが││被弾した箇所に視線を向けている。
甲が破損した。奔る紫電に、意外そうな顔で││とはいえ、機械の顔
つもの光線が放たれる。範囲の広がった射撃を避けきれずに肩の装
武器の周囲にプロセッサビットを待機させてトリガーを引くと、幾
﹁うん。なんとなくだけど、勝手が分かってきた⋮⋮
その声に応じて、即座に光の壁を形成すると攻撃を防いだ。
﹁防いで
一旦、距離を離したバルド・ギアのビームランチャーに手をかざす。
﹁これ⋮⋮もしかして、私の思い通りに動くのかな⋮⋮
ニットを見つめる。それは、鏃のような形状をした誘導兵器だった。
排熱口から湯気が漂う。その間に、自分の周囲を舞うプロセッサユ
引き金を引くより先にその姿が消えていた。
まった隙にトランス・パープルシスターが銃口を突きつける。だが、
と な っ て 光 の 壁 を 形 成 し、刺 突 を 防 い だ。バ ル ド・ギ ア の 動 き が 止
やられる││、そう思った瞬間。プロセッサユニットが無数の部品
﹁っ⋮⋮
がぐらつく。
の特性を活かした攻撃を捌くのでトランス・パープルシスターの体勢
異種二槍流で接近戦を挑む。中距離の刺突、横薙ぎ、切り払いと機人
く。前髪が数本、斬撃を掠めて宙を舞った。両手には槍と矛を持った
消えた、と周囲を見渡している間に、寒気がしてその場から飛び退
﹁どこに││﹂
む形になり、黒煙から出てくるとバルド・ギアの姿を見失う。
関部に直撃する。煙を吹いたユニットをパージ。爆発の中に突っ込
両 手 の M.P.B.L を 連 射 し た。今 度 は 数 発 が 飛 行 ユ ニ ッ ト の 機
が追い抜く。今度はトランス・パープルシスターが背後から追う形で
ゆるやかな曲線を描いた回避から、急制動を掛けるとバルド・ギア
!
〝⋮⋮笑った
?
972
!
!
セロンによって造られた偽物であっても、その内面は自分達の思い
描く人物に限りなく近い。
軍事国家アゴウ前で交戦した、バルド・ギアを思い出す││。
﹁⋮⋮ソラさんは、いいんですか﹂
︽⋮⋮⋮⋮︾
トランス・パープルシスターの問いに、バルド・ギアは銃を構える。
鋼鉄の肌に、鋼鉄の四肢。冷たく機械的な、無慈悲な銃。それを握る
こんなアダルトゲイムギョウ界で、いいんですか
﹂
ことを彼は良しとしなかったはずだ。光速の射撃が互いの身体を掠
めていく。
﹁ソラさん
︽││││︾
﹁まだ⋮⋮まだです
﹂
トランス・パープルシスターの処理速度は疲弊していく。
電界突破したバルド・ギアの武装の展開速度についていくだけで、
がチリチリと熱を持つ。
プロセッサビットを臨機応変に攻防へ展開する。しかし、頭の片隅
い︾と。お人好しの彼が憤慨する姿が目に浮かぶ。
なる。きっと、今のソラならこう応えるはずだ││︽そんなはずはな
言葉を遮るように、その先の言葉を拒絶するかのように攻撃が激しく
モノクロの神格者は応えない。ただ無感情に引き金を引き続ける。
!
いた。しかし、そう簡単にやられはしない。
プロセッサビットを破壊することでこちらの戦力を削ごうとして
〝やっぱり、ソラさんは気づいてる〟
撃に揺れると、シールドの基部が一つ破壊される。
何度も瞬きを繰り返して頭を振ると、ようやく目が見えてきた。衝
に、全方位をプロセッサビットで防御しながら快復を待つ。
ス・パープルシスターの三半規管を揺らした。〝遊び〟のない攻撃
ネードを放って全速力で離脱していく。強烈な閃光と爆音がトラン
矛で防御しようとするが、受け止めた穂先が粉砕される。それにグレ
セッサビットを光刃で包み、バルド・ギアの召喚した槍を切断した。
攻撃を最低限の防御だけで凌ぎながら接近する。連結させたプロ
!
973
!
﹁やぁぁぁっ
﹂
射撃戦から近接戦に移行して、逃げようとするバルド・ギアに肉薄
﹂
する。プロセッサビットを推進力にして、M.P.B.Lを振るう。
肩のレドームが破壊された。
﹁同じ手は、二度も食いません
を破棄して突貫する。黒い煤を拭いながら、真っ直ぐな瞳がバルド・
いたトランス・パープルシスターはヒビ割れて力なく落ちていく武装
その轟音と爆風から身を守るようにプロセッサビットを展開して
狭間を灼き尽くす。
型榴弾投射砲││セフィロトは神樹の如く弾頭を広げながら次元の
ンダーを固定。指先ひとつで怪物は六門の咆哮を一声に放つ。携行
砲身と機関部を接続する。左手のグリップを回転させて内部シリ
一挺。
殊炸薬弾頭。時世から戦場に送り出されることは見送られた禁忌の
に携行型榴弾投射砲を装着する。砲口は六門、装填されているのは特
念は一体何だったのだろうか││疑問に答えを出すまでもなく、両手
いていない。周囲に浮かぶ誘導兵器も。ならば、その刹那の雑音、雑
れた。それが敵の攻撃だと瞬時に判断するが、相手の銃はこちらを向
モノクロのバルド・ギアは、視界に一瞬だけ走るノイズに気を取ら
︽││││︾
らショートは免れられない。全身全霊。
突破で展開している装甲の隙間は脆く、射撃の一発でも通ろうものな
バルド・ギアの胸部装甲に一文字が走る。だが浅い。それでも電界
プロセッサビットがまた破壊される。残りは、六つ。
返す。
衝突と離脱を繰り返して二人は螺旋を描くように一進一退を繰り
方角に向かって突進した。
する。煙幕によって視界を塞がれるが、プロセッサビットが探知した
緩やかなアンダースローから投擲されるスタン・グレネードを切断
!
ギアを射抜いた。その周囲を舞うプロセッサビットは数が更に減っ
て四つ。
974
!
﹁M.P.B.L、バーストモード
﹂
〝どうしたら⋮⋮
〟
残るプロセッサビットは二つ。
﹂
た。しかし、すれ違いざまの一撃が左腕を掠めている。
はずはないと、モノクロの神格者は〝前世〟の記憶から自負してい
続ける限り稼動する。演算処理性能に特化させた自分に追いつける
元間転送システムに乗せた光速の突貫攻撃は冷却システムが排熱を
機人は光となってトランス・パープルシスターを轢いた。自らを次
﹁きゃあっ
電界突破最終兵装、解除││﹃EXE FORCE﹄起動。
けて破壊される。プロセッサビットが狙う。
わっていた。右脇に抱えた携行型榴弾投射砲、セフィロトが斬撃を受
ムによって排莢とリロードを同時に行って、二回転もする頃には終
れをトリガーガードに指を引っ掛けて回転させながら装填プログラ
ムリボルバーで撃ち抜いた。相殺されるが、六発目で弾が切れる。そ
撃を放つ。三日月形の衝撃波をバルド・ギアはサイドアームのマグナ
内部機構の変動により、延長された銃身を覆うビームセイバーが斬
!
ロー ル
バルド・ギアの特攻を受け止めた。
!
ランス・パープルシスターの攻撃の合間にバルド・ギアの全身に射撃
フル展開させたプロセッサビットが踊るように斬撃を繰り返すト
﹁M.P.B.L・デュアルコンビネーション
﹂
ばかりに畳み掛ける。プロセッサビットを自分の周囲に待機させて
崩していた。勝機を見つけたトランス・パープルシスターがここぞと
しかし、間一髪のところで回避した姿は右腕を飲まれてバランスを
込む。
た。引き金を引くと桁違いの出力で砲撃がバルド・ギアの身体を包み
と、まるでそうべきであったかのように一挺の巨大な銃が出来上がっ
巨大な刃を形成する。両腕を引き寄せられるように二挺を合わせる
サビットが呼応した。両手のM.P.B.Lの銃身下部に装着され、
は〝螺旋砲塔〟神銃形態││電撃に打たれたような衝撃に、プロセッ
トランス・パープルシスターは思考を加速させる。脳裏に浮かぶの
!
975
!
を撃ちこむ。斬り抜けて、反転しながら連射して二挺を組み合わせ
る。相手と正面から向き合う形でエネルギーを充填する間に、バル
〟
ド・ギアは残る左腕に剣を召喚すると予備の飛行ユニットで加速す
る。
〝間に合って││
引き金を引く。光の中へ消えていくバルド・ギアは電子防御障壁を
展開しながらトランス・パープルシスターへと突貫する││その光の
奔流の中で見たものは、とても悲しそうな表情の少女だった。
︽││││⋮⋮︾
どうしてか。何故か。その少女の泣き顔が、有りもしない胸の鼓動
を深く穿つ。そして、気づいた。その少女は、自分が武器を持つこと
をひどく悲しんでいるのだと。
││同じ場所で、隣に並んで。笑って、パソコンに向き合う日々が。
二人で過ごした時間が、バルド・ギアの演算処理能力をパンクさせた。
マルチプルビームランチャー・バーストモードの限界出力を超えた
砲撃が収束されていく。光の帯が消えた跡には、全身を焼き焦がした
バルド・ギアが漂っていた。
﹁⋮⋮どうして、ですかソラさん﹂
︽⋮⋮⋮⋮︾
孤独な王様は答えない。
﹁あのまま突撃していたら、私がやられていたのかもしれないのに﹂
飛行ユニットの推進力を上げていたら、負けていた可能性だってあ
る。それなのに、バルド・ギアは最後の最後でエンジンを切っていた。
まるで自分がやられることを望むかのように⋮⋮。
無限に続く敗北の歴史の中で、虚空を彷徨う機人の瞳から光が消え
つ つ あ っ た。そ れ で も、壊 れ そ う な 左 腕 が ト ラ ン ス・パ ー プ ル シ ス
ターの頬を伝う涙を拭って││力尽きる。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
そこで、この人がどうしようもないほど。神様ですらどうにもでき
ないお人好しである事に、トランス・パープルシスターは気づいて。
拭ってもらったばかりの頬を涙で濡らした。
976
!
e p i s o d e 1 5 5 鋼 の 軍 神 と 漆 黒 の ツ ン デ レ
守護女神
トランス・ブラックハートはアルシュベイト││シャイニングソウ
ルの長刀を防ぐ。弾かれるように引いた互いの得物から、もう片方の
手に握られた長刀の切っ先が残像を残して突き出された。それに、身
の丈を超える大剣の腹に当てた手から剣を引き出して弾き返すと距
離を取る。
﹁へぇ⋮⋮﹂
まじまじと自分の手が咄嗟に握った剣を眺めた。どうやら剣の集
﹂
合体らしく、幾つもの機能が隠されているようだ。
﹁面白いじゃない、気に入ったわ
剣を再び収めてトランス・ブラックハートが駆ける。すれ違いざま
の一閃をシャイニングソウルは逆手で捌いた。鋼の鬼神にして護国
の軍神を相手に、漆黒の女神は歯噛みする。
長刀と大剣が衝突する。返し刃の剣閃を、柄を引き伸ばして光刃で
防いだ。二分した長剣で丁々発止、トランス・ブラックハートの手か
らこぼれた剣に、すかさずシャイニングソウルは豪剣を振るう。片腕
でいなして、足を伸ばすと足首のプロセッサユニットが柄をキャッチ
した。回転しながら振り下ろした剣を、更に片方の手で弾き返す。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
やはり、強い。洒落になっていない。完全な奇襲、不意打ちに即座
に反応していた。機人特有の網膜ユニットは視界に収まるすべての
情報を拾い上げる。それを処理する脳の負荷も機械によって賄われ
る。疲労を知らない人間の最大スペックが常時発揮されるというこ
とがどれほどの脅威をもたらすか。││だが、しかし。ここに来て一
騎打ちを望むトランス・ブラックハートは奇妙な違和感を覚えてい
た。
なぜかはわからない。ただ実感として残っている感触。
977
!
〝アレに勝てる〟という確かな感覚があった。自分でも鼻で笑っ
てしまう。
シャイニングソウルが駆ける。跳躍ユニットから推進剤を吹いて、
豪剣が迫った。それを防ぐだけで両腕が痺れるほどの衝撃に襲われ
る。次いで、蹴り。これも防ぐ。更に両脇から覗く銃口にトランス・
ブラックハートは柄を押し上げると、大剣の幅が広がって一瞬だけ
シェアシールドを展開した。衝撃と爆風から逃れる姿を逃さまいと
迫る。
﹁││っ﹂
それは、確かに逃げようのない、逃れようのない恐怖だ。彼が無限
愚 者 の 極 み の よ う な 問 い に、ト ラ ン
の輝望であり続けた証拠だ。敵対するものに余さず絶望を叩きつけ
る無慈悲なまでの光。
誰 の 為 に 何 の た め に
﹁今のアナタにはわからないでしょうね。今までアナタに敵わないっ
それを訝しむように、小首を傾げた。
人だったわ。でもね││悪いけど、今は私の方が強いわよ﹂
﹁確かに、アナタは強いわ。私達が戦ってきた中でも、群を抜いて強い
らトランス・ブラックハートは続ける。
替えて、ご丁寧に両手の刃を地面へ向けた。それに、思わず笑いなが
やがて、振り上げた長刀を緩やかに下ろすと器用に掌で逆手に持ち
︽⋮⋮⋮⋮︾
の動きが止まる。
儀式。得物を晒すという腹を割った話し合いに、シャイニングソウル
てる仕草をする。││剣礼。軍事国家アゴウで執り行われる一種の
トランス・ブラックハートは大剣の切っ先を地面に向けて、突き立
いわね。だけど、聞いて﹂
﹁⋮⋮アルシュベイト。今のアナタには何を言っても無駄かもしれな
負けるはずがない。それが今、確固たる自信となった。
ス・ブラックハートは失笑が漏れる。
?
て思ってたわ。一騎打ちで勝てるなんて更々思ってなかったわ。つ
い、今さっきまではね﹂
978
?
だけど、所詮は偽物だ。神の創りあげる贋作に他ならない。
﹁アルシュベイト。今のアナタには、〝愛〟が無いわ。誰よりも純粋
で、真っ直ぐで、疑いの知らないような、目も眩む愛国心。それが感
じられないのよ﹂
彼は、声を大にしてこう応えてきた││︽俺はアゴウを愛している
︾と。国の善も悪も分け隔てなく、万物を愛していた。国に愛され
ているとさえ豪語している。何一つ見返りを求めず、何一つ代償を求
私は、エヌラスのこと│
めず、何一つ救えず、報われず⋮⋮それでも愛した。愛し続けていた。
﹁だから、私が勝つわよ、アルシュベイト
│大好きなんだから﹂
シャイニングソウルは、ただ静かに長刀を引き抜いて構える。二天
大剣を引き抜いて構えた。
いアイツが悪い。トランス・ブラックハートはそう思うことにして、
顔が熱い。多分これもエヌラスのせいだきっとそうだそうに違いな
愛している、と言い切りたかったが、どうしてか言えない。無性に
!
一流。今までに見ない構え方ではあるが、恐れはない。負けるはずが
ないのだから。
﹂
﹁ハァァッ
!
﹁ハァドアクセル・リミテッドドライブ
﹂
的機動を描きながら無数の剣閃が疾走る。奔る。
剣を残して。残像を残して。軌跡を残して。左右前後上下、三次元
がいた。更に姿が掻き消える。
を振るうと、またも衝撃。そこには消えたトランス・ブラックハート
だが、シャイニングソウルは知覚していた。反射的に左後方に長刀
︽⋮⋮⋮⋮︾
た。そこに漆黒の女神の姿はない。
持つ。音速を超えた一撃がシャイニングソウルの長刀に打ち込まれ
に速く、まだ速く││。願うほどに応えるプロセッサユニットが熱を
しながら、トランス・ブラックハートのファンが回る。もっと速く、更
裂帛の一閃。鬼気迫る剣撃。幾度と無く鳴らした剣の音を繰り返
︾
︽││││
!
!
979
!
赤 い 剣 閃。赤 熱 化 さ れ た 剣 を 防 ぐ。蒼 い 剣 閃。白 く 凍 て つ い た 炎
を纏う剣を防ぐ。トランス・ブラックハートの剣が更に鋭く、更に速
くなる。大剣は装飾されていた剣を次々と宙に舞わせていた。
ここまで来て、未だに致命傷を一撃ももらっていないシャイニング
ソウルが、脚に装着した長剣を防ぎきれずに肩部装甲を掠める。だ
﹂
が、その反撃で振るった長刀にトランス・ブラックハートの剣が叩き
折られた。
﹁ッ││││
そして、シャイニングソウルが長刀を担ぐ││白と黒の電流が装甲
を走る。
電磁抜刀の構えに、トランス・ブラックハートは大きく距離を離し
た。白煙を漂わせるほどに熱を持った全身のプロセッサユニットに
加えて、大剣の表面には大きな亀裂が走っている。だが、地を這うほ
どに身を屈めてトランス・ブラックハートは小さく呼吸を整えた。
脳裏に思い浮かべるのは〝超電磁〟抜刀術。次の瞬間、トランス・
ブラックハートの全身を紫電が疾走る。
稲光のような閃光が振り下ろされた。電磁抜刀・神雷が漆黒の女神
を裁こうとする。
﹁ソニック・ラストレイション││﹂
それよりも速い踏み込みが、一条の閃光と化した。圧倒的な破壊力
に身を晒す自殺行為だが、大きな亀裂の入った大剣が神雷を防ぐと破
片を撒き散らして崩壊する。
︽││││︾
その一瞬。刹那の隙が、漆黒の女神を更に加速させた。大きく亀裂
の入った大剣から姿を現したのは蒼い光を放つ光の刃。極限まで軽
﹂
量化を重ねた大剣。長刀を振り下ろしたシャイニングソウルの隙を
逃さず振るわれた。
︾
﹁チェエストォオオオッ
︽││
!!!
ても、彼は最後まで抗い続ける。甲高い衝突音││そして、静寂。
980
!!
それでも、鋼の軍神は刃を振るう。己の敗北が突きつけられたとし
!
﹁っ、嘘でしょ⋮⋮
いた。
﹂
!
﹁え││
﹂
﹂
まま自らの腹部に深々と突き立てて背中まで貫通させた。
シャイニングソウルの手が長刀を逆手に持ち変える。そして、その
いない。
たれたら負ける││そう思っていた。だが、次の一撃は予想だにして
ようとしてシャイニングソウルが長刀を持ち上げる。電磁抜刀を放
けではない。トランス・ブラックハートが宙を漂う無数の剣を手にし
ユナイト・ソード
片腕一本。それが今の自分の限界だ。だが、まだ敗北が決まったわ
﹁くっ⋮⋮
決して浅くはない一撃、だがそれでも致命傷には程遠い。
片 腕 が 無 く な っ て い る。胸 部 装 甲 に も 一 閃 の 亀 裂 が 走 っ て い た。
〝アルシュベイトは⋮⋮
〟
真っ二つに切られている。シャイニングソウルの兜割が極められて
トランス・ブラックハートの大剣は、折れていた。刀身が半ばより
!?
膝を着き、シャイニングソウルは顔を上げた。網膜ユニットと見つ
め合う。
片腕一本。それが、ノワールとエヌラスに対する想いの限界││そ
の答えに。その答えに満足したようにシャイニングソウルは親指を
立てた。
そして、空間にノイズが走ったかと思うと最強の軍神は消えてい
た。
﹁⋮⋮アルシュベイト⋮⋮アナタって、本当に⋮⋮まぁ、いいわ。今度
は勝つわよ。またいつか会いましょう﹂
トランス・ブラックハートはシャイニングソウルが最後に立ってい
た場所に向けて剣を一本放って、背を向ける。
愛国者に言葉は不要だ││。
981
!
︽⋮⋮⋮⋮︾
?
e p i s o d e 1 5 6 嘆 き 喰 ら い の 竜 と ド S な 守
護女神。そして来るのは││
トランス・アイリスハートはシルバーソウルの背中に向けて蛇腹剣
﹂
を振るう。延長された刀身を大剣で防ぎ、火球を吐いた。
﹁そぉ、れっ
それに、背中のプロセッサユニットから剣を一本取り出して投げ
る。火球と相殺して爆炎が巻き起こり、その真っ只中を突っ切ってシ
ルバーソウルが大剣を振り上げていた。蛇腹剣を戻し、受け止める。
ドラゴンブレス
竜の口から火の粉が漏れているのを見てトランス・アイリスハートは
距離を取った。
火球ではなく竜の息吹が後を追う。
﹁まったくもう、まるで怪獣みたいねぇ﹂
軽やかな軌道を描いて息吹を避け、トランス・アイリスハートは背
中の剣を手にする。指の間に挟んで投擲すると弾丸のような速度で
﹂
シルバーソウルの装甲を貫いた。だが、それを意に介した様子もなく
口に咥えて引き抜くと、逆に投げ返す。
﹁あ∼ら、ご丁寧にありがとう。それじゃあこれはご褒美よ
空洞。となれば││跡形もなく破壊するしかない。トランス・アイリ
現に、シルバーソウルは胴体を貫いた剣を物ともしていない。中も
うだし﹂
﹁それにさっき戦ったばかりで長く相手してらんないのよ。反応薄そ
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁可哀想ねぇ。だけど、同情の余地もないし憐憫の情もないわ﹂
蹴した竜騎士の今の姿に、トランス・アイリスハートは呆れた。
夢に取り憑かれ、夢を追い求めるあまりに目に映る全てを醜悪と一
すらも白黒になっている。
ず胴体を刺し貫くが、シルバーソウルは止まらなかった。大剣の輝き
キャッチした剣を更に増やして投擲する。三本の剣が今度は余さ
!
982
!
スハートは、はて、と考える。どうしてくれよう
わよぉ
﹂
どうしてやろう
﹁本当はソフトから始めるのが定番だけど、とびっきりハードにイく
ゾクゾクと自分の中で凶暴な感情が奮い立ってきた。
﹁フフ⋮⋮﹂
る﹂ような相手でもない。
た。ア レ は 人 で は な い。ま し て や ち ょ っ と や そ っ と で﹁ど う に か な
そこで、ゾクリと背中を駆け上がる快感のようなものが湧き上がっ
?
ランス・ブラックハートが並び立つ。
﹁あら﹂
﹁手を貸すわよ、プルルート﹂
?
ヤるわよ﹂
﹁じゃあ。徹底的に
嫌というほど、イジメてあげるわ 嫌でも
たが、それを引き受けると言った手前、何も言えない。
ていた。一番の貧乏くじを引いたのはトランス・ブラックハートだっ
アルシュベイトとの一騎打ちでユナイトソードは大半の剣を失っ
だってそんなに余裕はないの﹂
﹁そんなつもりはないわよ。思う存分、イジメ倒してやりなさい。私
﹁アタシの獲物なのに横取りするつもり
﹂
剣閃が奔り、七つの軍槍は一つ残らず両断されていた。そこにはト
全て捕縛される。
出された七つの軌跡は空中で乱反射して獲物を狙っていた。それが
シルバーソウルが声なき咆哮を上げて七つの軍槍を召喚する。射
たげていた。
リスハートを覆う。それぞれが自らの意思を持つかのように頭をも
ジャラリ││背中に背負った無数の剣が鎖となってトランス・アイ
!
!
る。そこへ向けて蛇腹剣を突き刺す。伸長された刃を防ぐが、続いた
意思を持ち、四方に散った剣のひとつがシルバーソウルの姿を捉え
ン││それにトランス・アイリスハートは背中の蛇剣を放つ。自らの
シルバーソウルの前に黒い薔薇が舞う。幻術魔法、ローズ・ガーデ
!
983
?
紙一重の剣技をまともに受けて胴体に横一文字の亀裂が入った。
目にも止まらない光速斬撃を受けて、尚もシルバーソウルは自らの
生命力を武器に立ち向かう。トランス・アイリスハートの蛇腹剣が首
を絞めあげていく。四肢を拘束して万力のようにじっくりと力を込
めて行った。ギリギリと軋みあがる四肢に亀裂が入る。
﹁このままフィニッシュでもいいけどぉ⋮⋮もうちょっと愉しみたい
わ﹂
拘束を解いて、蛇剣がシルバーソウルを無数に打ち据えられた。何
度打たれても立ち上がろうとする姿に段々と哀れみの情が浮かんで
そのへんでいいんじゃない
﹂
きたトランス・ブラックハートが止めようとする。
﹁プルルート
﹁嫌よ﹂
﹁いつの話よそれ﹂
のってぇ、赦せると思う∼
﹂
﹁嫌・な・の。エヌラスを追い回してたって話じゃない そういう
﹁いや、だってもうドラグレイスボロボロじゃない﹂
?
?
ア ハ ハ ハ ハ ハ ハ
を出すなんてバカな真似できないくらい徹底的に痛めつけるのよ
ホ ラ ホ ラ、ど う し た の ぉ ホ ラ ホ ラ ホ ラ ァ
﹂
││バキィン
!
﹁アタシの記憶にある話よ。だ・か・ら、もう二度とアタシの玩具に手
?
?
!
﹂
﹁そうよぉ、それぐらい反抗的じゃないと調教しがいがないのよねぇ
払っている。
な笑みを浮かべた。シルバーソウルの大剣が何本かをまとめて薙ぎ
甲高い金属音。砕け散る蛇剣に、トランス・アイリスハートが妖艶
!
気にした風もなくトランス・アイリスハートが肉薄した。マントを
翻すように蛇剣を揺らすと、それは無数の斬撃となってシルバーソウ
ルの片羽を奪う。トランス・ブラックハートの剣が更に片羽を切り裂
いた。それによって変神が解除される。
984
?
﹁どっちが敵かわからないわねこれじゃ⋮⋮﹂
!
!!
﹂
高めた魔力を圧縮して放つ斬撃││〝復讐鬼〟が二人の間を抜け
た。
﹁ハァッ
﹂
﹂
!
﹂
﹂
!
る外道の知識の集大成を繰り広げる大魔導師││ネクロソウルの前
二挺拳銃が踊る。偃月刀が舞う。黄布が揺らめく。多種多様、あらゆ
ハ ー ト の 演 舞 だ っ た。金 色 の 弓 が 放 た れ る。十 字 架 が 振 る わ れ る。
ン。その眼前で繰り広げられる激闘は大魔導師とトランス・パープル
二人の見つめる先には玉座に座して、退屈そうに眺めているセロ
﹁そうなると後は⋮⋮﹂
﹁さぁ∼て、こっちも片付いたわねぇ﹂
た。
アイリスハートの手によって真っ二つに両断されると霧散して消え
白い闇が膨れ上がる。それは抱え込むほどに膨張して、トランス・
ラグレイスを拘束して、その光球の輝きの中へと消えていく。
それに歓喜しているのかどうなのか。蛇剣達は一層力を込めてド
﹁いいコねぇ、貴方達。後でご褒美あげるわ﹂
が、蛇腹剣が逃さない。蛇剣が縛り付けて決して離さなかった。
触れた瞬間に、焼滅した。消滅していく身体から逃れようとする
﹁││││
﹁アンリミテッド・デザイア
レイスの身体を引き寄せて飛ぶ。
その光球を左手にかざしながらトランス・アイリスハートはドラグ
﹁まぁ││アタシが殺してあげるんだけど
あわせる。そして出来上がるのは全てに破壊をもたらす白い闇。
まぁ、と区切り、紫電・炎熱・極冷温の三属性を交えた光球を混ぜ
死刑ものよ
﹁エヌラスだけじゃなくて、ノワールちゃんまでイジメようだなんて
蛇剣が魔法の輝きを放つ。
その背中に大剣を振り下ろそうとして、蛇腹剣に絡め取られた。
トランス・ブラックハートの剣を受け止め、手首を返して受け流す。
!
に苦戦している姿を見て、二人が加勢しようとした。その時。
985
?
!
﹂
次元が震撼する。それはセロンですらも予期していなかったのか、
驚いた顔をしていた。
﹂
アナタ一体何をしたの
﹁な、なにこの振動は
﹁セロン
﹁私は何もしていない﹂
つと消えていく。ひび割れ、景色が崩壊していく。
﹁憎悪のソラより来たりて││﹂
その声は、聖句を述べる。
!?
に挑むというのか、お前は
﹂
﹁私が創りあげた箱庭から、貴様は抜け出すというのか││神の摂理
その男の声が響き渡るのか。
﹁││正しき怒りを胸に﹂
何故。
世界の崩壊を待つだけだったはずだ、それなのに⋮⋮それなのに、
ないからだ。何故ならば、その声は潰えているはずだ。
セロンは今度こそ狼狽えていた。何故ならば、その声が届くはずが
﹁││バカな⋮⋮そんなはずがない。在り得るはずがない
﹂
その言葉は本当なのか、無限に広がる敗北の歴史がひとつ、また一
!
!?
﹂
ると信じた者たちの夢想夏郷。
﹁我は神を断つ剣を執る││
﹂
ゆっくりと。ひどくゆっくりと次元の狭間に亀裂が入った。扉が
開かれようとしていて││。
﹁││面倒くせぇとっとと開けやコラァ
なぜ、ここまで辿り着いた
!!
り飛ばされた扉がこじ開けられる。
﹁お前は、何故だ⋮⋮
無尽蔵の絶望
⋮⋮蹴り破られた。借金を取り立てる自由業よろしくな勢いで蹴
!!
傲岸不遜そのものの足取りで空間を歩く。左目に走る刀傷が痛々
﹁そいつはナンセンスな質問だ。何故ならそいつは﹂
望を消してきた、お前が││
﹂
あらゆる次元を渡り、あらゆる世界を破壊し、ありとあらゆる希
!
986
!
││それは、かつて夢を見た者達の怒り。その戦いの先に平和があ
!
!
!
!
しい。だが、そう思わせない程に不敵な笑みを浮かべて、嗜虐的に、残
虐的に、残酷なまでに絶望は笑う。
並ぶ四人の守護女神達の姿を見て、胸の中に湧き上がる充足感に満
たされる。
〝此処にある〟のだと、心が応える。
﹂
﹁俺が守る輝望が、ここにあるからだ。人間舐めんじゃねぇぞ、ええ
カ・ミ・サ・マよぉ
ンドサイン。逆十字を切りながら、絶望の魔人は辿り着いた。
親指を立てて、セロンに向けるとそのまま首を切り、下へ向けるハ
?
そして、ハッピーエンドでめでた
次元の狭間に。愛する守護女神達の元へと、神の摂理を超えて│
﹂
!
│。
覚悟しやがれ
987
!!
﹁これからテメェをぶちのめす
しだ
!
!
e p i s o d e 1 5 7 未 来 の 絶 望 に 負 け た 男 と 明
日を夢見る絶望の魔人
│ │ や っ て き た。や っ と 来 た。辿 り 着 い た。そ の こ と が、ネ プ
﹂
テューヌ達の胸を暖かく満たした。
﹁エヌラス
ああ、これか。クロックサイコの野郎に持ってかれた﹂
﹂
エヌラスの手からぶら下げられているのは、銀色の懐中時計。チク
﹁なぁに、これもちょっとした次元連結装置の応用って奴だ﹂
﹁如何にもだ。しかし、解せん。貴様、どうやってここに来た﹂
﹁テメェが大いなる〝C〟で間違いないんだよな﹂
つける。
それにホッと胸を撫で下ろすエヌラスが、玉座に座るセロンを睨み
﹁ちょっとやそっとじゃ嫌いになったりしないわよ﹂
﹁全力で治しますので嫌いにならないでください⋮⋮﹂
わ⋮⋮﹂
﹁そうね。隣を歩いてたら女神の沽券に係わりそうな感じになってる
な人相も相まって﹂
﹁でも、貴方の顔がちょっと近寄りがたい印象になってるわよ。凶悪
﹁心配すんな。お前達の顔が見れないわけじゃねぇんだから﹂
てみせた。
心配そうに見つめるトランス・ブラックハートに、エヌラスは笑っ
の損傷は残ってしまう。
銀鍵守護器官も万能ではない。処置が遅れれば、当然ながらその分
﹁傷が深すぎるし、手遅れだ﹂
﹁⋮⋮治せないの
﹁ん
﹁アナタ、左目⋮⋮﹂
﹁よぉ、また随分と派手にイメチェンしたな﹂
!
タクと針が〝あべこべ〟な振れ方をしている。
988
?
?
﹁次元連結装置って、もう壊れてたじゃない﹂
﹁機能は停止していたが、どっかの誰かが電源を供給してくれたらし
くてな。中身を書き換えて再生させた。後はそいつを使って、無理や
り〝門〟をこじ開けたってわけだ﹂
進んだり、戻ったり。止まったり急に回ったりと分針も秒針も狂っ
﹂
たような動きをしている蓋を閉じて、ポケットにしまう。
﹂
﹁つまり││次元衝突装置は再稼働したってことだな
﹁⋮⋮えっ
!
﹂
ア ホ な の
てると見た。さぁ、急ぐぞ
﹁こ の ク ズ バ カ
﹂
俺 が ど ん だ け 死 ぬ 思 い で 戦 っ て た の か も 知 ら
右腕の神経を一から繋ぎ直しながらクロックサイコ
﹁う っ せ ぇ バ ー カ
!
!
たと思ってんだ
﹂
誰の為にしたと思ってんだよ
﹁もしかしなくてもアタシ達のためよねぇ
﹂
!
﹂
無事だったんですね﹂
顔見りゃ分かんだろうが
﹂
い。そこへトランス・パープルシスターも戻ってきた。
﹁エヌラス
﹁エヌラスさん
﹁無事じゃねぇよ
!
﹂
﹁なんか、ますます犯罪者っぽくなってるわよ。大丈夫
﹁だいじょばねぇよ
?
!
!
精神的苦痛によって若干涙目になりつつあるエヌラスが咳払いを
!!!
﹂
ばされるが、体勢を立て直す為に自分から飛んだようでダメージはな
トランス・パープルハートがネクロソウルの偃月刀によって吹き飛
﹃⋮⋮││││﹄
じゃねぇよ恥ずかしい﹂
﹁ああそうだよ。大好きなお前らの為にしてやってんだから言わせん
?
!
と戦って次元連結装置のプログラム復旧させんのにどんだけ苦労し
ねぇのかよ
ど う し て そ ん な こ と し た の よ
﹁俺の計算が正しければ完全に消滅するまで残り時間は一時間を切っ
?
!
!?
!
あのモノクロ大魔導師はなんだ﹂
一つ。改めて状況を確認する。
﹁んで
?
989
!
!
!?
﹁セロンが召喚したのよ﹂
﹁全盛期の大魔導師じゃねぇか。んじゃ、ま。アレは俺がやる││変
神﹂
﹂
偃月刀を担ぎ上げて、エヌラス││ブラッドソウルは首を鳴らす。
﹁勝てるの
﹁勝てなきゃ話にならねぇ、誰に物言ってやがんだ﹂
ブラッドソウルがプロセッサユニットの翼を広げて飛翔する。そ
の先にいるネクロソウルの二挺拳銃が火を噴いた。その軌跡を避け
ながら、弾きながら迫り、偃月刀同士がぶつかりあう。衝撃、閃光、衝
突 と 離 脱 を 繰 り 返 し な が ら 二 人 の 間 を 赤 と 白 の 弾 道 が 無 数 に 走 る。
金色の矢が放たれ、ガラス細工のように砕け散っていく。漆黒の重力
弾が神獣によって食い破られていった。
無限熱量と極々冷温の拳と手刀が爆ぜる。師弟の勝負は互角だっ
た。
﹁こうしてると思い出すな、大魔導師。俺とアンタが初めて出会った
日を││﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
モノクロの大魔導師は答えない。あの日と違うのは、自分が機神を
駆っていないこと。そして、妹がいないこと。
こうして真っ向からの一対一の勝負は、九龍アマルガムの地表都市
を焼滅させた時以来だ。
﹁街を滅茶苦茶にしたっけな。ろくに覚えてねぇけどよ、きっと俺は
どうかしてたんだろうな﹂
黄衣が迫る。偃月刀で切り払う。
﹁あぁ悪い。どうかしてんのは今でもそうだった﹂
恋人を奪われた。愛していた。そんな彼女が赦せなくて、そんな大
魔導師が赦せなくて、心の拠り所をなくした自分が求め、望んだのは
世界の破滅。〝こんな世界は消えてしまえばいい〟とさえ思った。
大魔導師を手に掛けて、恋人を手に掛けて、崩れ落ちる姿を見て気
づいた。遅すぎた││。
自分は今まで、そうしてきたのだ。大切な人を。大切なモノをぶち
990
?
壊しにしてきたのだと。ちっぽけで儚い人の願いと想いを無に還し
てきた。だから、やり直せると信じて手を出したのだ。次元連結装置
に。
﹁││ホント、どうかしてんだろうな﹂
金色の弓││天狼星が放つは無数の殺意。流星群が降り注ぐ。そ
れに魔法障壁をかざして凌ぐと〝螺旋砲塔〟神銃形態で返す。同じ
ように防がれる。
何もかもが模倣だ。教授されてきた全てだ。教えを乞うて学んで
きた。それが今日までの自分を活かしてきた。
〝超電磁〟抜刀術・壱式〝迅雷〟が大魔導師の十字架を砕く。灼熱
の魔弾が日本刀を溶解させた。白銀の魔弾を蜘蛛の鋼糸を広げて絡
めとる。
全てが仕組まれたことだった。妹の死も。恋人を奪われたことも。
次元連結装置でさえ。全てが、ひとりの男が望んだ絶望だった。神殺
がれぇぇぇぇぇッ
﹂
右腕に組み込まれた魔術回路を介した神経が銀鍵守護器官に蓄え
!!!
991
しの刃とさえなり得る自分に用意された運命だったが││そうはい
かない。
﹁今更謝る気もねぇけどな、大魔導師。俺は、あの守護女神達が好き
だ。大好きなんだ。愛してると言っても過言じゃねぇ﹂
偃月刀同士が衝突する。砕け散り、無数の破片が魔力によって撃ち
﹂
出される。火花がバチバチと爆ぜていく。そんな中で二人の手が輝
きを増していった。
﹁だから、テメェの絶望にこれ以上は付き合ってらんねぇんだよ
り合う。
﹁││││
﹂
名を冠する、白い闇が衝突する。互いが互いの術式を食い破ろうと貪
無限熱量の拳││シャイニング・インパクト。奇しくも〝輝望〟の
もの全てを決壊させる。
極々冷温の手刀││ゼロ・ドライブ。白く灼きついた手刀は触れた
!!
﹁そんなに滅びたけりゃあ、テメェひとりで勝手にく・た・ば・り・や
!
られている無限の魔力を術式に無理やりねじ込まれる。それはやが
てゼロ・ドライブの術式にすら介入し、崩壊させた。呑み込まれてい
﹂
く大魔導師の肉体を結界に閉じ込める。
﹁││昇華ァっ
収縮される無限熱量の結界は、その中に存在する全てを焼きつくし
て消滅した。後に残るのは、男の絶望を見限った絶望の魔人。
﹁俺はアイツ等の笑顔が見れるなら幾らでも世界を滅ぼしてやるが、
テメェの為には二度と御免だ﹂
ブラッドソウルは何も残らない空間に吐き捨てるように言うと、ネ
プテューヌ達の元へ向かって飛び立つ。
﹁││もう出し物はおしまいかしら、セロン﹂
トランス・パープルハートが太刀の切っ先を突きつけていた。シャ
イニング・インパクトに呑み込まれる大魔導師の姿を見て、勝利を確
信したからだ。
相変わらず足を組んで玉座に座るセロンの目は落ち着きを取り戻
して、退屈そうにしている。
﹁正直、あの男が来た時は驚いたが⋮⋮そうだな﹂
﹂
視線を彷徨わせて、どうするか悩んでいる様子だった。
﹁⋮⋮〝とっておき〟が残っているが││見たいか
﹁まだ誰か出すっていうの いいわ、好きにしなさい。ムルフェス
?
女神だった。
空間にノイズが走る。雑音が、雑念が、妄念が生み出すのは、守護
パチン││。セロンが指を鳴らす。
前達であれば、この者が相応しいであろう﹂
﹁いいやぁ、違う。あの神格者では話にならん。そうだな││今のお
それに拒絶のサインを見せる。
言いくるめられそうで怖い。勝ち目もなさそうだ。だが、セロンは
﹁⋮⋮話し合いで解決ね﹂
﹁もしユウコさんだったらどうするの、お姉ちゃん﹂
トでもクロックサイコでも呼び出しなさい。切り捨てるだけよ﹂
?
992
!!!
﹃││││﹄
その姿に、誰もが絶句する。ブラッドソウルでさえも息を呑んだ。
凛とした眼差し。額に巻いた鉢金。モノクロではあるが、その神威
に微塵の衰えはない。このアダルトゲイムギョウ界においてただ一
人、唯一正しく存在していた守護女神││軍事国家アゴウの女神にし
てアルシュベイトの想い人。
﹂
﹂
﹁果たして、お前達はその守護女神を超えることが出来るかな⋮⋮私
ゲィ ム
冗談じゃねぇぞ⋮⋮
の〝遊戯〟に最期まで付き合ってくれよ
ツルギヒメ
﹁⋮⋮アゴウの、守護女神⋮⋮
の進撃として受け継がれている。
民を救うために振り返らなかった。それが、アルシュベイトの不退転
シュベイトただ一人だった。孤高にして孤独な守護女神はアゴウの
剣 姫 ││そう、呼ばれていた。だが、彼女の名を呼ぶものはアル
!
?
手には日本刀が一本。だがそれだけだ。静かに腰を落として、整息
││その眼差しが語る。
﹃寄らば、斬る﹄
993
!?
e p i s o d e 1 5 8 ア ゴ ウ の 女 神 と 紫 の 守 護 女
神
軍事国家アゴウ・国防剣術の使い手にして、武人。その生涯に一切
の華がなくとも彼女こそが戦場に咲く一輪の仇花。遍く国家の敵、屠
るべし││。
ブラッドソウルが両手に二挺拳銃を召喚して引き金を引いた。灼
熱の魔弾、白銀の魔弾は異なる属性として魔術的な加護によって守ら
れている。
白銀の魔弾は不規則な弾道を描く。それに、アゴウの守護女神は静
かに目蓋を閉じていた。
﹁⋮⋮﹂
一閃││したように見えたが、果たして本当に抜刀したのかすら怪
しい。しかし、セロンにもアゴウの女神にも弾丸は届いていなかっ
994
た。何故なら一振りで全ての弾丸が切り落とされていたからだ。
常軌を逸している剣技に、冷や汗が伝う。
﹁⋮⋮行くぞ﹂
﹁ええ﹂
ブラッドソウルの声に、トランス・パープルハートが応える。飛翔
する。偃月刀が、太刀が別角度から絶妙な時間差によって振り下ろさ
れた。それにアゴウの女神は応じる。
鞘で偃月刀の腹を打ち、逆手の抜刀術が太刀を一瞬だけ弾いた。納
刀、掌底がブラッドソウルの顎に打ち込まれ、肘打ちと胴蹴りがトラ
ンス・パープルハートを押しのける。
そこへトランス・ブラックハートが駆け込む。光速の斬撃に、無数
﹂
の剣戟を繰り返してもなお、その場からアゴウの女神は動かない。
鞘を握る手元が揺らぐ。
﹂
﹁ッ││避けろ、ノワール
﹁間に合って
!
陽炎型抜刀術弐式・不知火に、トランス・パープルシスターがプロ
!
セッサビットを咄嗟に支援防御に回すものの、それを上回る速度で
走った剣閃が燃え盛る軌跡を描いて爆炎と共にトランス・ブラック
ハートを吹き飛ばした。
トランス・アイリスハートの蛇剣が迫る。それに、何を思ったか日
﹂
本刀を〝ひょい〟と放り投げた。
﹁えっ
一瞬だが虚を突かれて、目の前で三戦の構えを見せたアゴウの女神
が放った正拳突きによってトランス・アイリスハートも大きく吹き飛
ばされる。残心││日本刀を手にして、音もなく構えた。
二人を抱きかかえて、ブラッドソウルは冷や汗を流す。
軍事国家アゴウ国防剣術││徹底的に〝守る〟という一点を極め
た抜刀術。それはつまり﹁攻撃は最大の防御﹂ということを体現して
時間を稼げ
﹂
いる。攻撃までの動作は一瞬。一意専心にして専守防衛。見敵必殺。
﹂
!
銀鍵守護器官最大出力だ│
﹁⋮⋮アレを相手に手段を選んでいられるか
﹁エヌラス、貴方まさか⋮⋮
﹂
﹁他に手がねぇ、時間もねぇ俺の所為
│
!
私達が守るもの
﹂
!
だにしない。
﹂
﹁エヌラスは、やらせないわ││
﹁⋮⋮⋮⋮
!
ハートの太刀。刃の部分だけが光に包まれていた半実体の剣が微動
気配を察知して刃を奔らせる。それを防いだのはトランス・パープル
それに、ピクリとアゴウの女神が眉をひそめた。ただならぬ魔力の
!
!
神が。
ただ愛おしいと思っていた。その恋慕に身を焦がす異世界の守護女
笑っていた。薄く微笑んでいる。戦いを楽しんでいるわけではない。
神 速 の 攻 防 が 二 人 の 間 で 繰 り 返 さ れ る。そ れ に ア ゴ ウ の 女 神 が
展開していく。
トランス・パープルハートは構え直している。プロセッサユニットが
キィン││、互いの剣が離れた刹那。既にアゴウの女神は納刀し、
!
995
?
﹁││﹂
!
無数の剣が舞う。その剣を手にしながら残像を残し、トランス・ブ
ラックハートがアゴウの女神に振り下ろす。しかしながら、十文字で
受け止めると反撃の掌底によって腹部を強打された。その身体を掴
﹂
んでトランス・パープルハートに押し退ける。蛇腹剣を鞘で受け止め
ると、絡みつく。
﹁離さないわよっ
しかし、抜刀した刃が隠れているワイヤーを斬り落とした。鬱陶し
そうにジャラリと蛇腹剣の先端を持つと手首を返してヌンチャクの
ように振り回す。それによってトランス・パープルシスターの射撃が
全て弾き落とされた。
﹁││││﹂
吐息が聞こえてきそうなほど口を開けて、息を吸い込んだアゴウの
女神が日本刀を構える。
国防剣術、空戦抜刀術・震電が大気を震わせて振り下ろされた。ま
るで鉄槌のような剣圧に歯を食いしばって堪える。それに、ますます
アゴウの女神は破顔した。面白い、美しいとさえ手を叩いて賞賛した
﹂
だろう。彼女達の放つ魂の輝きに魅せられて、剣技は更に冴え渡る。
﹁エヌラス、まだなの││
れた。
!?
ターは蹴り飛ばされる。
﹂
!
た。
﹁││
﹂
その詠唱を始めた瞬間、ブツリと電源を切られたように右腕が垂れ
﹁││我が運命は、砕けない。例え御身が神であろうと
誰が遅漏だと叫んでやりたいが術式の逆算に全神経を集中させる。
﹁急ぎなさいよ、この遅漏
﹂
プロセッサビットが一振りで両断され、トランス・パープルシス
﹁エヌラスさん、このままじゃ⋮⋮ッ
﹂
急かすトランス・ブラックハートが発勁によって大きく吹き飛ばさ
!?
!
散る。満面の笑みを浮かべ、その姿に見惚れながらアゴウの女神の剣
996
!
アゴウの女神とトランス・パープルハートの間で幾度と無く火花が
!
閃 は 間 違 い な く 命 を 散 ら そ う と 必 殺 の 刃 を 繰 り 返 し て い た。そ の
切っ先が頬を掠め、髪を切り落としても構わず斬りかかる。
笑う剣姫に、トランス・パープルハートは眉を釣り上げながら迫っ
ていた。
﹁何がおかしいの﹂
首を横に振る。いや、何もおかしくないと。その眼が慈愛に満ちて
いることに、トランス・パープルハートは気づく。
愛している。軍事国家アゴウを。私の生きたアダルトゲイムギョ
ウ 界 を。│ │ 言 葉 は な い。だ が、そ の 唇 が 紡 ぐ の は 〝 い の ち の 歌 〟
だった。
無尽蔵の絶望を前に散ったアゴウの守護女神。自らを犠牲にして
国の命を繋いだ。それはアルシュベイトが紡いだ。世界の全てを背
負うことを捨て、愛する者の愛した国を愛する。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
997
アゴウの女神は、ハッキリと言葉を続けた。
〝おわりにしよう〟
しかし、そこに加減の文字はない。トランス・パープルハートの腹
に押し当てた前蹴りから、神速の抜刀が振り下ろされる。
辛うじて太刀で防いだが半ばから叩き切られ、切っ先が額を掠めて
鮮血が僅かに流れた。さらなる掌打が今度こそ吹き飛ばす。受け身
を取ろうにもプロセッサユニットがいつの間にか切断されていた。
セロンとアゴウの女神が遠ざかっていく││そんな自分の身体が、
﹂
ふとした拍子にガクンと止まる。
﹁エヌラス
を咥えたエヌラスだった。
﹂
﹁みっともねぇ姿晒してんじゃ、ねぇええええええ
﹁ねぷぅううううううっ
落とされるトランス・アイリスハートの姿。折れた太刀で日本刀を受
る。眼前に迫るのはアゴウの守護女神の抜刀術によって蛇剣が切り
トランス・パープルハートはまるで逆再生のように投げ飛ばされ
!?
!!!!
自分の足を掴んでいたのは右腕をダラリと垂らし、口に〝銀の鍵〟
!?
け止める。
﹂
﹁此 処 に ア ダ ル ト ゲ イ ム ギ ョ ウ 界 の 権 能 を 代 行 す る │ │
えぇぇぇぇぇぇ、ネプテューヌッ
﹁えっ
﹂
その先には││セロンが目を丸くして玉座に腰掛けていた。
向くが、それよりも先に空間を蹴って走り出している。
使
トランス・パープルハートは〝銀の鍵〟をエヌラスに返そうと振り
女神﹂
﹁⋮⋮こんな形でなければ、貴方と話してみたかったわね。アゴウの
彼女が愛していたのは││。
きしめて、すぐに離した。
その最期の瞬間に、アゴウの女神はトランス・パープルハートを抱
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
身体を侵食していく。
の 魔 力 を 叩 き こ ま れ た。無 数 の 闇 が。無 数 の 光 が。ア ゴ ウ の 女 神 の
その一閃を受け入れるように両手を広げて、アゴウの女神は無尽蔵
プルハートが大上段からアゴウの女神に向けて振り下ろす。
太刀を投げ捨て、放物線を描く〝銀の鍵〟を掴んだトランス・パー
ああ、なんて美しい滅びなのだと││。
らした。
穢れを知らない白銀の輝きに照らされて、アゴウの女神は吐息を漏
!
とにより、ネプテューヌ達の勝利は決まったも同然だ。事実、セロン
もまたそんな腹積もりでいたのだろう。エヌラスの凶行を止められ
るものはこの場にはいなかった。
﹁テメェのその面ァ、一発ぶん殴らせろぉぉぉぉおおおりゃああああ
あああ
﹂
﹁いや、待っ││﹂
盛大に横っ面をぶん殴られたセロンに、ただただトランス・パープ
ルハート達は呆然とする。
998
!!
誰もが呆然とする。もう勝負は着いた。アゴウの女神を倒したこ
?
!!!!!
episode159 ハッピーエンド
ゲィ ム
パチ、パチ、パチ││。セロンが手を叩く。その右の頬が何やら膨
れ上がっていた。
﹁滅茶苦茶痛かったぞ﹂
﹁ったりめぇだ、殺す気で殴ったからな﹂
﹁とはいえ││おめでとうだ。これにて今回の〝遊戯〟は終わりとな
る﹂
エヌラスがセロンの胸ぐらを掴みあげて玉座から立たせる。その
あまりに不遜な態度に、さすがのトランス・パープルハート達も静止
の声を上げた。
﹁あ、あのそんなに乱暴にしちゃ⋮⋮﹂
ネプギアが恐る恐る進言すると、バツが悪そうに放す。変神を解除
﹂
999
したノワール達が大きく息を吐き出した。
﹁これで、終わりなのね
﹂
今一度自分の胸に手を
?
﹁セロン。このままだと、この世界はどうなる﹂
当てて、考える。
果たして、本当にこれで良いのだろうか
思い返す。自らの手に浮かぶ〝旧神〟の紋章を見つめていた。
エヌラスは、トランジスターに手を伸ばして││これまでの戦いを
とな。お前はどうする
﹁既に彼女達の願いは聞き届けられた。明日を守る。未来を守るのだ
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
だろう﹂
﹁お前の願いを言ってみるがいい。この〝斬魔大星〟は叶えてくれる
ていた。
ルトゲイムギョウ界に存在するシェアエネルギーによって構成され
トランジスターがセロンの手に浮かべられる。その五芒星は、アダ
さて、勝者には褒美を与えねばな││﹂
﹁ああ、もちろんだ。此処まで辿り着いたのは、お前達が初めてだよ。
?
?
﹁⋮⋮〝存在しなかった〟ということになる。アルシュベイトも、バ
ルド・ギアも、ドラグレイスも大魔導師も何もかもが〝無かった世界
〟になる。お前も、私もあの世界に縛られることはない。お前はただ
﹂
の絶望の魔人、ヌルズと成り果てるだけだ。私はただの〝境界〟とな
る﹂
﹁そうか。なら、ネプテューヌ達のゲイムギョウ界はどうなる
﹁││││﹂
﹁だけど、それは時間を掛ければなんとかなるわ
﹂
﹂
だから﹂
﹁お前達の世界も俺のせいで大変なことになったんだろ
﹁でも、エヌラス。全部〝リセット〟しちゃったらわたし達││﹂
ような表情をしていた。
ネプテューヌ達の顔を見渡せば、不安そうな、心配そうな、子犬の
救った英雄などではない。そんな器ではない。
自分は、〝正しい〟と思う選択を選ばなければならない。世界を
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
世界は傷ついたままになるだろうが、それがどうした
﹁無かったことになるのはアダルトゲイムギョウ界だけだ。彼女達の
?
ネ プ テ ュ ー ヌ と 出 会 っ た。ネ プ ギ ア と 出 会 っ た。ノ ワ ー ル と 出
会った。プルルートと出会った││それだけじゃない。アダルトゲ
イムギョウ界で数えきれないほどの思い出が出来た。忘れることな
んて出来ない。忘れてしまうことも、無に還すことも出来ない。
ゼロになんて出来ない。できるはずがないのだ。
﹁⋮⋮それでも、俺は││世界をやり直したい。今度は誰かの掌の上
﹂
じゃなくて、自分の意思で戦う﹂
﹁エヌラス
うぅ∼
﹂
﹁記憶も全部、何もかも無かったことになるのよ
﹂
!?
た。
案の定、非難轟々だ。それにエヌラスは大仰なため息をついてみせ
わかってる
﹁そんなことしたらぁ∼、あたし達と出会わなかったことになっちゃ
!?
1000
?
?
それでも。嗚呼、だけどそれでも││忘れられない思い出がある。
!
!?
!
﹁ハァ∼∼∼∼∼⋮⋮﹂
﹁本気で言っているのか、絶望の魔人。此処に至るまでのお前の戦い
﹂
も、犠牲も、彼女達との思い出すらも全て〝リセット〟してでも、お
前はあのアダルトゲイムギョウ界をやり直すというのか
﹁ああ、本気だよ。大本気だ。出来ない、とは言わせねぇぞテメェ﹂
?
わたし達との思い出な
!
﹁不可能はない。お前が望むのであればな﹂
﹂
﹁││どうして どうしてさ、エヌラス
んていらないっていうの
﹁んなわけ、あるかぁ いいか
誰が忘れるか
!
お前達との出
ネプテューヌの頭を小突き、エヌラスは右目で睨みつける。
!
!?
何度でもやり直す
何度でも、俺が満足いくまで俺は戦う。ア
絶対に諦めねぇからな、セロン
!
﹂
覚悟しとけ
﹂
俺は必ず全員連れて、ネプ
テューヌ達のゲイムギョウ界に遊びに行くからな
﹂
﹁で、でもぉ⋮⋮あたしの次元には遊びにきてくれないのぉ∼
﹂
﹁行きます行かせてください行かせていただきます
﹂
﹁わぁ∼い。今の台詞ぅ、もう一回言ってぇ∼
﹁いきますいかせてください
﹁えへぇ∼∼⋮⋮﹂
!
!
!
﹂
﹁⋮⋮エヌラス。絶対だよ﹂
﹁ああ、勿論だ﹂
﹁絶対に絶対だからね
﹁わぁってるよ﹂
﹁絶対に絶対に絶対だからね
﹂
いいから行けよ
!!
!!
﹁ま、待って﹂
﹁その先はお前達の次元に繋がっている。往くといい﹂
セロンが指を鳴らすと、虚空に穴が開いた。
﹁し・つ・け・ぇ・な
﹂
べながらエヌラスはトランジスターを浮かべる。
何故か頬を赤らめて身体をくねらせるプルルートに苦笑いを浮か
!
?
だ
ルシュベイトも、バルド・ギアも、ドラグレイスも、ユウコも、全員
!
会いなんかとっくに次元超えてんだから今更なんだって言うんだよ
!
!
!
!!!
1001
!
!
!
ノワールが駆け出し、エヌラスの首に手を回すとキスをする。やが
てゆっくりと唇を離した。
﹂
﹂
やっぱりツンだけじゃなくてぇ、プ
﹁ラステイションに、遊びに来なさいよ。歓迎してあげるから﹂
﹁遊び倒すつもりだ﹂
﹁おぉ∼。ノワールがデレた
リンのように甘いデレも必要だよね
﹂
ほら行くわよ
あたしもぉ∼∼∼∼⋮⋮
﹁う、ううううるさいわねネプテューヌ
﹁あ∼、待ってぇ
﹁あっ﹂
!
とめてお約束☆
﹂
?
﹁あぁぁぁぁ∼∼∼∼れぇぇぇぇぇ∼∼∼∼∼⋮⋮
﹁⋮⋮なんとも、緊張感に欠ける別れだな。あれで良いのか
!!!
目を開ける。そこには、ボロボロで、片目を失い、片腕を失い、そ
﹁ふっ⋮⋮それは、怖いな﹂
の最果て。無限地獄まで追い詰めてやる﹂
﹁飽きて投げ出したら承知しねぇからな、セロン。地獄の果ての果て
合ってやる﹂
こで待っているよ。いつでも、いつまでも││お前の〝遊戯〟に付き
ゲィ ム
明日を夢見て、未来の光を掴むその時までお前は戦い続けろ。私はこ
﹁ならば、行くがいいさ。無尽蔵の絶望よ。無限の希望を夢見て、輝く
た。
トランジスターがまばゆい輝きを放つ。それに、セロンは目を伏せ
続けるさ。俺にできることなんて、これくらいだからな││﹂
﹁そうだ。〝だからこそ〟俺は命を懸けた。俺の命に代えてでも愛し
﹁だからこそ﹂
は〝こっち〟で、アイツ等は〝あっち〟だからな﹂
﹁ああ、いいんだよ。その方が平和ボケしたアイツ等らしい。││俺
の魔人よ﹂
絶望
たネプテューヌをネプギアが掴む↓咄嗟にノワールを掴む↓全員ま
ノワールが掴む↓プルルートが逃げようとする↓バランスを崩し
!!
!
!
!
れでもまだ戦い続けようと足掻く最弱無敵の魔人の背中があった。
1002
!
﹁││無尽蔵の絶望よ。お前には似つかわしくない言葉ではあるが、
この言葉を送らせてもらおう﹂
世界が、再構成されていく。大いなる〝C〟の創りあげた箱庭が、
再び戦火に呑み込まれようとしている最中で言葉を続ける。
﹁絶望の魔人よ。エヌラス││祝福の華に誓って﹂
汝は世界を紡ぐ者なり││││││。
1003
Epilogue 壊次元ゲイムクリア
││││ネプテューヌ達が、目を覚ました。そこは、ラステイショ
ンの外れにある、なんでもないような地域だった。
﹁ぬら∼﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
目蓋を開けて真っ先に目に入ってきたのは、水色のスライム状のモ
ンスター。犬耳と尻尾の生えたかわいらしい外見のスライヌ。ペロ
ペロと顔を舐められて、ネプテューヌが身体を起こした。
﹁ほらー。しっしっ﹂
﹁ぬらっ、ぬらぁ∼﹂
ネプテューヌに追い払われてスライヌがピョンピョンと跳ねるよ
てるの、わたし達
﹂
はて、と顔を見合わせて、二人は首を揃って傾げる。
﹁な、なんでかしらね⋮⋮﹂
﹁でも今日は天気もいいですし、仕方ないと思います﹂
﹁だよねぇ∼。こんな日はピクニックとかしたら気持ちよさそう。そ
これから
﹂
﹂
うだ、あいちゃんとコンパを呼んでみんなでピクニックに行かない
﹂
﹁え、えぇ
﹁わ、たたっ⋮⋮ま、待ってよお姉ちゃーん
あ、ノワールさん。す
﹁そうと決まればプラネテューヌにダッシュで戻るよー、ネプギア
!?
!
⋮⋮でもたまには悪びれてもいいと思うのよね﹂
1004
うに去っていく。寝ぼけた目を擦って周囲を見渡して、眠っているノ
﹂
?
ワールとネプギアの身体を揺らすと小さな呻き声を上げて身体を起
どうしたの⋮⋮
?
こす。
ネプテューヌ
﹂
﹁んっ⋮⋮⋮⋮あれ
﹁お姉ちゃん⋮⋮
?
﹁どうしたのー、はこっちの台詞だよ。││なんでこんなところで寝
?
?
﹁いいわよ、気にしてないわ。ネプテューヌの気まぐれはいつもだし
いませんいつも﹂
!
!?
?
﹁あはは⋮⋮すいません。それじゃ、私もいきますね。予定が決まっ
たらユニちゃんに連絡させてもらいます。それでは﹂
お 辞 儀 を し て か ら パ タ パ タ と 走 り 去 る ネ プ ギ ア が 変 身 し て ネ プ
テューヌの後を追って飛んでいった。
﹁⋮⋮さて、と﹂
ノワールも身体を起こしてツインテールをなびかせると、ふと左手
﹂
に見慣れない物がついていることに気がつく。
﹁何かしらこれ⋮⋮
入れて無くさないように大事にしまう。
?
そんなことを思いながら、ノワールは一度自分が眠っていた場所
教会に戻ったらユニと一緒に出かける準備でもしてみようかしら
﹁⋮⋮ホント、いい天気ねー。たまには息抜きも必要かしら
﹂
めている内に何故か頬が熱くなってきた。慌てて外すと、ポケットに
左手の薬指に装備された真っ白な指輪に首を傾げて、まじまじと眺
?
を振り返る。
木漏れ日の当たる森の中を爽やかな風が吹き抜けていった││。
﹁ま、そういう日もあるわよね。気にしない気にしなーいっと﹂
││プラネテューヌを元気に走る子供の姿があった。街中から抜
けて、それは近隣の森林保護区へと向かっていく。
﹂
そこでは、気持ちよさそうに眠っている一人の少女の姿があった。
﹁あーーーーーー
身体を揺さぶる。
﹁おーきーる、ぷるると
起きてー
﹂
!
おはよう∼﹂
﹁うん、おはよ
ぷるると
﹂
!
﹁えぇ∼っとぉ∼⋮⋮あたしぃ、寝ちゃってたぁ∼
﹂
﹁んぅ∼∼⋮⋮⋮⋮ほえぇぇ⋮⋮あぁ∼、ピーシェちゃんだぁ∼⋮⋮
!
大声を出して、子供は元気よく走ると眠っている少女の傍で屈むと
!!!
うんうんと元気に首を振る子供に、プルルートはほわほわとした笑
?
!
1005
?
みを浮かべて小さく手を叩く。
﹂
﹁んぅ∼っとぉ⋮⋮何しに来たんだっけぇ∼
﹁ぷるると。ピィ、プリン食べたい
まぁ、いっかな∼﹂
?
∼﹂
﹁やったぁー
ぷるると、早く早く
置いてかないでぇ∼
﹂
﹁あぁ∼、待ってぇ∼ピーシェちゃん∼
﹂
﹁そっかぁ∼。じゃ∼あ、プラネテューヌでプリン買って帰ろっかぁ
!
る。
﹁あ、プルルートさん。戻ってきたんですね︵^^︶﹂
ヽ︵`Д
Д`︶﹂と溜息を漏らした。これ以上言及するとまた寝
てしまうかもしれないからだ。
︶﹂
?
︳
?
﹁う∼ん⋮⋮
﹂
﹁真っ黒くろすけですねー︵・∀・︶﹂
る。
るみ作りを始めていたが、それにイストワールが疑問符を浮かべてい
プリンを食べているピーシェをよそに、プルルートが趣味のぬいぐ
?
﹁はぁ⋮⋮︵
う∼ん、う∼んと唸り始めたプルルートに、小さなイストワールは
´
﹁ただいまぁ∼、いーすん﹂
﹁もう、今度はどこでお昼寝してきたんですか
!
﹁えぇ∼っとねぇ∼⋮⋮どこだったかなぁ∼⋮⋮﹂
︶ノ﹂
約束通りにプリンを買って教会へと戻るとすぐに食べる準備を始め
その背中に追いつく頃には既にプラネテューヌに辿り着いており、
えなくなってしまった。
ピーシェと呼ばれた子供はみるみる遠ざかってあっという間に見
!
!
だっただろう
全身真っ黒の、髪が黒い、ちょっと怖そうな人相の男性⋮⋮はて、誰
のぬいぐるみを掲げてみた。
言われてから疑問に持ち始めたのか、プルルートは作っている途中
?
?
1006
!
!
´
プルルートさん、それは誰のぬいぐるみですか ︵
﹁あれ
?
﹂
﹁え∼
?
﹁誰、だろう∼
分かんないけどぉ⋮⋮えへへぇ﹂
胸の辺りが、ほわほわする。だから、多分。悪い人じゃないはずだ。
∀`︶﹂
﹁かわいいから、いっかなぁ∼﹂
﹁そ、そうですか⋮⋮︵;
﹂
て。亡骸を抱いて、ただ歩く。
そ れ で も、繰 り 返 す。そ の 身 体 を 血 に 染 め て。そ の 手 を 血 に 染 め
﹁俺は、諦めねぇぞ﹂
狼││にも係わらず、青年は笑った。悪鬼のように笑う。
振り返れば、屍山血河。前を見れば、魑魅魍魎。前門の虎、後門の
﹁⋮⋮なんでだろうな。なんでかは知らねぇが、胸糞悪ぃんだわ﹂
誰かも分からない少女たちの笑顔が浮かぶ││。
走った。
理由もまた、ないはずだ││そう思いかけていた男の脳裏にノイズが
どうしてかは、分からない。諦めない理由などないはずだ。諦める
た耳垢のように繰り返されてきた言葉だった。
声が聞こえてくる。それは、聞き飽きるほどに、鼓膜にこびりつい
﹁お前はどうして諦めない
易してきた。疲れてきた、膝を着いて諦めてしまおうかとさえ思う。
た。何度も失敗してきていた。結果は、失敗続きだ。だからこそ、辟
直す。失敗した、やり直す││そんなことを何度も繰り返してきてい
失敗した││舌打ちを漏らす。だから、やり直す。失敗した。やり
所の、どこの次元かも定かではない無限宇宙の何処か。
最初のスタートはいつだってそこだ。何も無い世界の何も無い場
世界の狭間。何も、無い場所だった。
││││どこかの次元。どこかの世界。そこはどこにも属さない
賢明だ。
て、せっかく上機嫌なのだから藪の中の蛇をつつくのは止したほうが
の笑みを浮かべながら楽しそうに作っているプルルートの横顔を見
イストワールはそれ以上追求することをやめた。にこにこと満面
´
?
1007
?
﹁お前の望んだ世界だ││﹂
見慣れた風景。見慣れた光景。見慣れた顔に、見慣れた声。息づく
﹂
世界の中で、独りぼっちだった。
﹁││それでも、諦めないのか
商業国家ユノスダスの噴水公園。ベンチに腰掛けながら、空を見上
げる。アホみたいに透き抜けた青空を無心で眺めていると、腹の虫が
鳴った。
ぐぅ∼∼∼るるるふたぐぅん⋮⋮。
この三日、いや四日ほどだったろうか。まともに口にしたのは雑草
とよく分からないモンスターぐらいだった。
﹁⋮⋮⋮⋮ひもじい﹂
ポツリと呟く。もはや公園の鳩ですら脅威とみなしていないのか
足元にまとわりつく始末。とっ捕まえて焼き鳥にしてやろうかと思
﹂
い、視線を巡らせばそこには﹃鳩を食べないでください﹄の看板。貧
乏人に慈悲はない。
﹁⋮⋮なにしてんの、キミ
りと香る柑橘系のシャンプーに、焦げ茶色の髪が鼻をくすぐる。
赤い瞳がこちらをじっと見ていた。
﹁えーっと、もしかしてとは思うけど⋮⋮﹂
﹁住所不特定無職二十代の男性です﹂
﹁うわ、字面がヤベェ⋮⋮﹂
﹁死因は餓死な﹂
﹁あー⋮⋮公園で野垂れ死なれても国王である私が困るんだよねぇ。
うわ、どーっすかなーこの不良債権⋮⋮﹂
﹂
﹁丸聞こえなんですけお﹂
﹁いや事実っしょ
それに見かねたのか、商業国家ユノスダス国王は仕方なさそうに紙
1008
?
背後から聞こえてきた声に、青年は振り向くことなく応えた。ふわ
﹁死にそうになってる⋮⋮﹂
?
ぐぅ。お腹の音しか鳴らない。
?
袋を持ち上げると、そこに突っ込まれていたパンを一つ差し出してく
る。
﹁なんか、放っておくのも後味悪いし││ご飯作ってあげるからウチ
﹂
に来なさい、キミ﹂
﹁⋮⋮いいのか
慈悲くらいあるから
﹁働かざるもの食うべからず。貧乏人は死ね﹂
﹁貧乏人のくだりはねぇよっ
!
﹂
で、キミの名前
知っててそこまで追い込まれてんの逆にすごいからねキミ
に着くまでパンひとつで我慢できる
﹁我慢します⋮⋮﹂
私はユウコ﹂
﹁うん、よし。偉いぞ住所不特定無職二十代の男性
は
﹁││││エヌラスだ﹂
!?
!
望、その妹さえもいない。
﹁⋮⋮諦められるかよ﹂
││諦めんな、エヌラス。もう二度とご飯作ってやんないぞ
﹂
?
様﹂
﹁んー
なんか言った
﹁⋮⋮コイツの手料理食ったことねえとか、人生の十割損してるぜ神
?
そこには、落ちてくる月もなければ月面都市もない。無尽蔵の絶
空を見上げる。
の後ろに貧血で倒れそうになりながらエヌラスはパンを口にする。
れっつらごーと言いながら、ユウコは紙袋を抱えて歩き始めた。そ
こんところ覚悟しとけー﹂
﹁さぁー、お腹いっぱい食べたら馬車馬のごとく働いてもらうからそ
!
?
教会
っていうか
﹁まぁ当然ながら、我が商業国家ユノスダスの座右の銘は││﹂
?
守らなきゃいけない少女の笑顔と││心に焼きついた名前を忘れ
ど、此処にある。
思い出された言葉が、一体いつの言葉かも忘れてしまった。だけ
﹁お、言うねぇ。私の手料理は高いぞぉ﹂
﹁なんでも。世界一美味い手料理が食えると思うと、楽しみだ﹂
?
1009
?
た少女たちの笑顔が。
1010
超次元編
超次元的取り扱い説明書電子版︵03/29追記︶
超次元編
キャラクター紹介
名前 エヌラス
性別 男性
職業 無職︵旧神︶
風 貌 跳 ね た 黒 髪。ツ リ 目 で 赤 い 瞳。左 目 に は 刀 傷 が あ る。左 胸
に獅子の刺青︵銀鍵守護器官︶。
服 装 黒 の ロ ン グ コ ー ト に 黒 の ジ ー ン ズ。コ ン バ ッ ト ブ ー ツ︵鉄
製︶
備考 壊次元での戦いを経てネプテューヌ達と別れた後、孤独な戦
いに身を投じていた。今はアダルトゲイムギョウ界を脅かす邪神達
との戦いに明け暮れている日々。そんな中で出会った仮面を付けた
邪神を追っている内に超次元に来てしまった。予期せぬ再会に記憶
を取り戻したようだが、曖昧な所もある模様。変神後のブラッドソウ
ルは以前にも増して過激になっている。
変神後:ブラッドソウル
風貌 変神以前とさほど変わりはないが、強いて挙げればより強面
になっている
服装 ノースリーブのタイトスーツに、上からジャケットを羽織っ
ている。
プ ロ セ ッ サ ユ ニ ッ ト D・ク ロ ウ:背 中 に 銀 色 の Y 字 型 の 羽 根 と
ブーツと一体化した脚甲が特徴の基本形態。以前より改良されてお
り、使い勝手が良い。
備考 孤独な戦いによって変神後は手加減容赦一切の慈悲はない。
対敵殺すべし。││ではあるものの、根本的な性格は変わらないのか
四女神達に振り回される時が多々ある模様。しかしながら、周囲の被
害を鑑みずに戦う様は﹁戦禍の破壊神﹂という異名通り。
1011
マ
ウ
ザー
マ
テ
バ
武 装 無 銘 の 倭 刀。レ イ ジ ン グ ブ ル・マ キ シ カ ス タ ム の 異 種 二 闘
流。遠距離では深紅の自動式拳銃:クトゥガと白銀の回転式拳銃:イ
タカの二挺拳銃で対応。
青いソード││ブルースシミター。赤いハルバード││ヘルサイ
2。撃鉄の付いた日本刀と、野太
ハ ン ティ ン グ ホ ラー
スキラー。投擲武器になるダガー
刀。変身機能付きの大型二輪、闇夜を狩るもの
︵2016/01/31追記キャラ︶
名前 ユウコ
性別 女性
職業 商業国家ユノスダス国王
風貌 焦げ茶色の髪に、柑橘類の髪留めを付けている。吸血鬼らし
く隠れ八重歯。
服装 エプロンを付けたブレザー。学校の制服のような格好では
あるが曰く﹃動きやすい﹄とのこと。スカートはひざ上三センチを死
守。
備考 エヌラスの天敵にして最強のオカン。姉とも幼なじみとも
言える関係ではあるが、生活基盤がネズミ以下の旧神を唯一真っ当に
生活を保障してくれる相手。趣味は家事全般。性格は明朗快活で何
事も明るく取り組むが、お金が絡むと商業国家国王らしく眼の色変え
て突っ込んでくる根っからの守銭奴。〝今回〟のエヌラスのことを
変な奴とは思っているが、不思議と一緒にいて心地よく思っているこ
とに疑問を抱いている。││なお、根っこはうら若い乙女である。
武装 調理器具。メインはフライパン︵調理用︶だが、フライパン
︵戦闘用︶も常備している。
グランドマスター
︵2016/03/29追加キャラ︶
名前 大魔導師
性別 男性
職業 犯罪国家九龍アマルガム国王
風貌 肩まで伸ばした癖のない金髪と金の瞳。ところどころ黒の
メッシュ混じり。
服装 その時々で変える為に一定の服装はないものの、基本的には
1012
×
マントを羽織った紳士服
備考 暇潰しの一言で大概の事を片付けてしまう超人。元・人間で
あるがそれを信じるものは天文学的数字でいない。得意魔法は辰気
︵重力︶操作と禁忌の死霊秘法。自分の身の回りで起きている出来事
や日々に違和感を覚えている為、現状でもっともエヌラスが危惧して
いる一人でもある。
オリジン
武装 徒手空拳に交えた魔術、並びにステッキ。偃月刀。黄衣のボ
ロ布。赤と白の二挺拳銃︵余談だが、エヌラスが扱う二挺の原種であ
る︶
ハァドライン︵女神信仰の狂信者集団︶
B2AM
名前 レオルド
性別 男性
職業 プラネテューヌ国境警備隊北方第一線部隊
風貌 中量型の二足歩行型ロボット。両足の大腿部にブースター
を装着している。踵にはローラー。
服装 ロボなので割愛。
備考 女神信仰の狂信者集団、ハァドラインとして登録されている
B2AMに所属しているロボット。だが、プラネテューヌの女神パー
プルハートが基本的にゆるい為か他の組織に比べて温厚な者が多い。
レオルドも多分に漏れず、シロトラの教導の下で厳しい訓練を受けな
がら日々平和を守る為に尽力している。
絵に描いたような体育会系熱血漢であり、B2AMの合言葉である
﹁限界を超えろ﹂を尊守する一方で部隊でのランクは最下位続き。な
お、女神パープルハートよりもネプテューヌ派。
武装 武器は全て背中にマウントされている。主な武器は二挺一
対のロングマガジンのサブマシンガン。左腕前腕部に収納されてい
る 手 榴 弾。背 面 中 央 に 装 備 し て い る 白 兵 戦 用 の グ レ ー ト ソ ー ド。
バックパックの下部にはブースターの燃焼促進剤を投入するチャー
ジングシステムを搭載している。
名前 シロトラ
1013
性別 男性
職業 プラネテューヌ国境警備隊総合教導隊
風貌 ラインの入ったバイザーに、中量型の長身。背部には背負っ
た一対の大型バーニア。
備考 B2AMを古くから支えている古株の一人ではあるものの、
過去の経歴には謎が多い。現在は新参者である国境警備隊の教導隊
として日々教鞭を振るっている。背部のバーニアによる特殊三次元
機動を武器に敵を翻弄する。
武装 複合機能型の大型両刃剣。可変機構搭載。射撃と斬撃、両方
に対応可能。グレネードも複数所持。
︵01/20追加キャラ︶
名前 セイン
職業 プラネテューヌ第三資源採掘場作業員︵B2AM強襲部門第
二部隊所属:総合特務班トライアド班長︶
1014
風貌 バイザーで覆われたモノアイレンズに、細身のフォルム。漆
黒の機体色に緑のラインが入っている
備考 プラネテューヌ第三資源採掘場に勤務するB2AMの隠密
強襲型ロボット。戦闘では主に索敵と拠点強襲に陽動撹乱と持ち前
の機動力で相手をかき回す。以前は製薬会社で務めていたが、ある
切っ掛けからB2AMに転職した。
武装 三点バーストのエネルギーライフル。日本刀型のレーザー
ブレード。威力特化型グレネードランチャー。出力を抑えた全方向
型チャージングシステム。
名前 ディル
職業 プラネテューヌ第三資源採掘場作業員︵B2AM重火力部門
第二部隊所属:総合特務班トライアド︶
風貌 丸みを帯びた装甲と西洋鎧のようなフォルムが特徴。機体
色は白。
備考 セインとは昔馴染みのライバルであり良き理解者。重火力
︶らしく、何かと衝突しがちで
部門としての所属は古参。重量型らしく怪力だが、それが良くも悪く
も味方に活かされている。年長者︵
?
グダグダなメンバーのまとめ役でもあるが暴走しがちなので結局
ジーンが全部被害を被っている。
武装 単門の大口径機関砲。左腕に蒸気式の杭打ち機︵工具︶。左
肩には多連装ミサイルランチャー。重装迫撃砲を背負っている。
名前 ジーン
職業 プラネテューヌ第三資源採掘場作業員︵B2AM狙撃部門第
三部隊所属:総合特務班トライアド︶
風貌 鋭角的なフォルムで機体色はタイガーストライプ。
備考 第三資源採掘場に勤めているが、最近は部署の仲間達に頭を
悩ませて転属も考えている苦労人。常に一歩身を引いた位置から仲
間を見守っている。趣味は日記。
武 装 高 出 力 の 光 学 狙 撃 銃。大 口 径 ハ ン ド ガ ン。サ ブ マ シ ン ガ ン
搭載のセントリーガン。充電式シールド発生装置
名前 シュラ
職業 プラネテューヌ第三資源採掘場作業員︵B2AM支援部門第
一部隊所属:総合特務班トライアド︶
風貌 限界まで軽量化された細身の装甲。機体色はダークグレー。
備考 B2AMではレオルドと同期。ではあるが、優れた戦況の観
察眼と機動力で部隊全体の足並みを整える腕をシロトラに見込まれ
ている。
武装 ベアリング弾を発射するポンプアクション式散弾銃。広範
囲爆発型の地雷︵の形をしたトラバサミ︶。高電圧のテーザー銃。遠
隔型の修理装置
名前 シャニ
職業 プラネテューヌ国境警備隊︵B2AM強襲部門特務部隊所
属︶
風貌 濃いブルーの機体色に、リーダーアンテナ付きの流線型の
フォルム。
備考 生真面目でいつも苛立っているような口調だが、自他共に厳
しい隊長機。強襲部門での成績は優秀で万年最下位のレオルドとは
一方的な犬猿の仲。
1015
武 装 突 撃 銃。時 限 式 の グ レ ネ ー ド。伸 縮 式 の 槍。高 出 力 の
チャージングシステム。
名前 ロゼ
職業 プラネテューヌ土木作業員︵B2AM重火力部門第一部隊所
属︶
風貌 全体的に角ばったフォルムで鈍重なホバータイプ。機体色
はグリーン。
備考 のんびりとした口調で常にシャニが頭を痛める張本人。良
くも悪くもマイペースで、本人曰く︽真面目にやってるぞー︾とのこ
と。だが、戦場においてはその重装甲と火力で正面から蹂躙してい
く。
武装 大口径三連装ガトリング。高出力のエネルギーランチャー。
衝撃波を発生する特殊手榴弾。試験型の光学障壁発生装置。
︵02/04追加キャラ︶
名前 ジンガ
職業 カフェテリア﹃マグメル﹄従業員︵B2AM総合部門第一部
隊所属︶
風貌 全体的に丸みを帯びたフォルム。機体色はレッド。
備考 プラネテューヌとB2AM双方を経済的に支えられないか
とカフェテリアで働いている構成員の一人。趣味はお菓子作りで職
場で働く女性スタッフからは好評。性格は温和だが、ちゃっかり者。
名前 ドバル
職業 プラネテューヌ配送業者︵B2AM重火力部門第二部隊所
属︶
風貌 装甲と積載量を両立させた重量型二脚タイプ。脚部の履帯
が特徴。
備考 独特な脚部の機構によって通常では配達できないような局
地へも配送を受けるB2AMの構成員。何事も程々で熱中するよう
なことのない平凡な性格だが、戦績は上位をキープしている。
武 装 高 出 力 レ ー ザ ー 機 関 砲。レ ー ザ ー 誘 導 型 ロ ケ ッ ト ラ ン
チャー。ECMグレネード。空中炸薬榴弾砲
1016
を搭載。
︵2016/03/29追加キャラ︶
名前 ゴウ
職業 プラネテューヌ森林警備隊︵B2AM重火力部門第一部隊所
属︶
風貌 装甲の一点のみを求めた旧型の重装甲モデル。機体色はオ
リーブドラブ
備考 B2AMでは最古参に数えられる一人。レオルドの先輩で
もある。旧式というだけあり、機体各部の老朽化が目立つものの、日
常生活には支障を来さないので誤魔化している。戦闘行動には難あ
りなものの、蓄積された戦闘データによって確実な戦果を挙げてい
る。
武装 瞬間火力に特化したガトリング砲。破壊力特化のロケット
ランチャー。バトルチェーンソー。空中炸薬式榴弾砲。
1017
アームドソウルス
名前 ナイルス
性別 風貌 白のカラーリングで統一された中量二脚ロボット。
職業 リーンボックス企業連盟
性別 男性
名前 J.O
事によって武器を変える。
ンガンと左腕のブレードがメイン武装。しかし、換装が容易なのか仕
武装 背部に大型グレネードランチャーとミサイル。右腕にマシ
に引けを取らない。
分古く、滅多に見られないものの戦闘能力だけは異様に高く、最新型
ている。ラステイションで製造されたロボットのタイプとしては大
て他のメンバーとの交流はほぼ無い。主にジョッシュと共に行動し
備考 無口で滅多に喋らないが、仕事は一流。だが、それが災いし
風貌 赤と黒のツートンカラーの中量型二脚ロボット。
職業 ラステイション企業連盟
?
備考 通称ジョッシュ、又はジャックと呼ばれている。常に冷静で
紳士的な態度を崩さない。持ち前のリーダーシップによって現場監
督を務める事が多い。一癖も二癖もある部下達に頭を悩ませている
ものの、今の環境を悪くないと思っている。リーンボックスで見られ
るロボットとしては現在のタイプよりも一世代前に主流だった。ラ
ステイションとリーンボックスの企業連盟に所属している為か、度々
衝突しそうになるメンバーを現地でまとめている。ナイルスとは気
が合うのか、よく一緒にいる姿が見かけられる。
武装 背部にレーザーキャノン。右腕にライフルと左腕にブレー
ドを装備。
1018
超次元原作キャラクター好感度推移及び電子説明書
︵仮︶
原作キャラクター好感度推移
プラネテューヌ
ネプテューヌ︵変身後:パープルハート︶
好感度:高
備 考 シ リ ー ズ お 馴 染 み の 主 人 公 オ ブ 主 人 公。ア ダ ル ト ゲ イ ム
ギョウ界での戦いを経てからはいつものようにダラダラとした平和
な日常を過ごしていたものの、セレモニーの最中に現れた仮面の邪神
とエヌラスに出会ったことで〝リセット〟されていた記憶を取り戻
した。エヌラスにはイジられつつもそれも自分の特権だとして楽し
んでいる。
ネプギア︵変身後:パープルシスター︶
好感度:高
備考 ネプテューヌの妹。同様に〝リセット〟された記憶を取り
戻してからは生活基盤が人間として危ういエヌラスの世話を焼くこ
とが楽しみの一つになっている。自分よりもネプテューヌを優先し
て欲しい反面、自分にもかまって欲しいと思っている。
アイエフ
好感度:高
備 考 プ ラ ネ テ ュ ー ヌ の 諜 報 部 員。な に か と 苦 労 役。ケ モ ナ ー ル
最大の被害者。エヌラスのことは真面目にしていれば普通にいい奴
だと思っているものの、もう少し加減できないかと頭を悩ませてい
る。内心、厨二仲間が出来たと喜んでいる。
コンパ
好感度:普通
備考 プラネテューヌの病院に勤める見習いナース。怪我ばかり
のエヌラスのことはネプテューヌ以上に手がかかると思いつつも、み
1019
んなと仲良くしているようなので悪い人ではないと信じている。
イストワール
好感度:普通
備考 プラネテューヌ教祖であり、ネプテューヌ達に代わって国政
を取り仕切っている。エヌラスは絶望の魔人、女神に敵対する存在
だったこともありまだ気を許している様子はないが、それが旧神、格
上のランクで塗り替えられていることに疑問を抱いている。
ネ プ テ ュ ー ヌ 以 上 に 仕 事 が 出 来 る エ ヌ ラ ス に プ ラ ネ テ ュ ー ヌ の
シェアが揺らぐのではないかと危機感を覚えている一人。
プルルート︵変身後:アイリスハート︶
好感度:激高
備考 超次元とはまた別次元である神次元のプラネテューヌの女
神。い つ で も ゆ る ふ わ ほ ん わ か ∼ な 雰 囲 気 で エ ヌ ラ ス を 振 り 回 す。
戦ってばかりのエヌラスを気にかけながらも、本人はお昼寝デートし
たいと常々考えている。あと肉体的にも精神的にも性的にもイジメ
たいとも思ってる。
ピーシェ︵変身後:イエローハート︶
好感度:普通
備考 プルルートと一緒に超次元に来た元気いっぱいな幼女女神。
エヌラスのことはよくわからないけれど、ねぷてぬとぷるるとが仲良
しなので良い人なのだと思っている。⋮⋮なお、ユウコへの好感度は
ストップ高で振り切れている模様。所定位置は肩車かおんぶ。
ラステイション
ノワール︵変身後:ブラックハート︶
好感度:高
備考 ラステイションの守護女神。リセットされた後の記憶を取
り戻し、いつラステイションに来てもいいように今まで以上に女神と
しての仕事に精を出している││ものの、中々訪れないので若干苛
立っている。だがあくまでも平静を保っている。
ユニ︵変身後:ブラックシスター︶
好感度:低
1020
備考 ラステイションの女神候補生。姉のノワールだけでなく、親
友のネプギアまでも取られた気持ちで一杯。それだけでなく人間と
してもちょっと敬遠気味。なので、エヌラスにはついつい強く当たっ
てしまうが悪気はない。
ルウィー
ブラン︵変身後:ホワイトハート︶
好感度:やや低
備 考 ル ウ ィ ー の 守 護 女 神。趣 味 は 読 書 と 執 筆。普 段 は 物 静 か だ
が怒ると怖い。エヌラスのことは妹達には刺激が強すぎるので近づ
かせないように気をつけている。ブラン自身もあまり良くは思って
いない。
ロム︵変身後:ホワイトシスター︶
好感度:低
備考 ルウィーの女神候補生。引っ込み思案でいつもラムにくっ
ついているが、ロムの方がお姉ちゃん。顔がこわいのでエヌラスのこ
とはちょっと苦手。
ラム︵変身後:ホワイトシスター︶
好感度:低
備 考 ル ウ ィ ー の 女 神 候 補 生。い つ も 元 気 で や ん ち ゃ な い た ず
らっこ。顔だけでなくて初対面で変神状態だったからか、ロムと一緒
でエヌラスは近寄りがたい模様。
シーシャ
好感度:やや高
備考 ルウィーの山中でエヌラスが出会ったナイスバディな狩人。
拳だけでなく連絡先も交換した仲だが、再会したその時は全力で勝負
することを約束した。
リーンボックス
ベール︵変身後:グリーンハート︶
好感度:やや普通
備考 リーンボックスの守護女神。他の女神達と違って女神候補
生がいないことが悩み。妹がほしいようで、主にネプギアがターゲッ
1021
ト。自分と同じかそれ以上の年長者が出てきたことを嬉しく思って
いる。しかも男性なので今まで以上に滾っている模様。なにがとは
言わない。
その他
大人ネプテューヌ
好感度:やや高
備考 どこかの次元のネプテューヌ。二刀流と拳銃を武器に今日
もどこかで昆虫探し。エヌラスのことは見た目凶悪そうだが、意外と
一緒に居て楽しいらしい。
クロワール
好感度:やや低
備考 おっきなネプテューヌの持つ﹁ねぷのーと﹂に昼寝をしてい
たら標本にされてしまった人工生命体。その正体はどこかの次元の
イストワールがグレている模様。
5pb.ちゃん
好感度:普通
備考 ゲイムギョウ界のスーパーアイドル。ステージの上では抜
群の歌唱力で観客を魅了するが、普段は物凄く人見知り。
ミリオンアーサー
好感度:やや高
備考 ブリテンというゲイムギョウ界の外の大陸から来た、百万人
いるアーサー王候補のひとり。エヌラスも国王であったという過去
を持つことから親近感が湧いて意気投合している。ではあるものの、
別な世界線で滅んだブリテンの話から不安を覚えている。美少女大
好き。
チーカマ
好感度:やや普通
備考 アーサーのサポート妖精。よく名前を間違えられているの
だが、わざとなのかそれとも本気なのか分からず反応に困っている。
エ ヌ ラ ス の こ と は そ れ な り に 気 に か け て い る。主 に ミ リ オ ン ア ー
サーと良からぬことを企まないように。
1022
第一章 超次元ゲイムスタート
エピソード0 割といつものゲイムギョウ界
ゲイムギョウ界のプラネテューヌではいつものようにネプテュー
ヌがゲーム三昧。そしてイストワールに怒られること小一時間。女
神 の 何 た る か と 延 々 と 聞 か さ れ て、解 放 さ れ た と 思 っ た ら プ ラ ネ
﹂
い ー す ん っ た ら
うわーん
テューヌの見回りと女神のお仕事を強制された。そのお目付け役に
アイエフまでもが駆り出されている。
﹁うぅぅ∼∼あァァァんまりだァァァァ
﹁自業自得でしょ。ほら、泣かないの﹂
﹁だ っ て だ っ て 酷 い と 思 わ な い あ い ち ゃ ん
!
﹂
わたしのゲームのデータをだよ
﹁えー、だってさぁ。プラネテューヌは毎日平和だよ
﹁それだけ貴方が仕事をしていないって証拠じゃないの
なんて言ってきたんだよ
﹂
﹁今度女神のお仕事をサボったらゲームのデータを消しますからね﹂
!
!
女神のお仕
!?
﹂
?
﹁式典⋮⋮
なんかあったっけ
﹂
アイエフに言われて、ネプテューヌは首を傾げた。
より、式典の準備とかもあるんじゃない
﹁残りの一パーセントがとんでもない地雷でないことを祈るわ。それ
事とかないないナインティナインだよー﹂
?
?
!?
?
﹂
﹂
﹁ほら。ゲイムギョウ界の式典よ。他の女神様達と一緒に何か開くん
じゃなかったの
﹁あ、忘れてた﹂
なんで忘れてるのよ
﹁一大イベントじゃない
!
まぁまぁ思い出せたからいいじゃん﹂
﹁んーっと⋮⋮平和ボケ
!
﹁そうね﹂
?
?
1023
!
これには堪らず、頭痛がしてくる。
﹁はぁ⋮⋮﹂
?
呆れながらも適当に相槌を打って、プラネテューヌのギルドへ立ち
寄る。主に仕事を紹介してくれる場所でその内容も多種多様、十人十
色。困っている人達が真っ先に頼る場所でもある。
いつの間にかわたしをギルドに引っ張っ
﹁それじゃ、クエストでも受けていきましょ﹂
﹂
﹁謀ったな、あいちゃん
てくるなんて
!
惹かれた││。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
どうしたの
﹂
?
あー、うん。なんだろ⋮⋮今の人、あいちゃん知ってる
﹂
背の高い男性で、ロングコートを着た黒い髪にネプテューヌは目が
持って行ってしまう。
つか引き受けた。その横から伸びた手がクエストの依頼書を読んで、
とりあえず、言われたままにネプテューヌは近場のクエストをいく
﹁うぅ∼、あいちゃんのイジワル﹂
﹁貴方の仕事ぶりが悪いのよ。ほら、ちゃっちゃと受ける﹂
!
⋮⋮﹂
いえ、知らないわよ。ギルドでクエストを受け
よーし、パパっと終わらせてゲームするぞー
が一通。相手は誰かと画面を開くと、リーンボックスから。
つものように女神の仕事に精を出していた。すると、パソコンに着信
その一方で、ラステイションの教会。その執務室ではノワールがい
トへと向かう。
サクッと気を取り直して、ネプテューヌはアイエフと二人でクエス
!
﹁クエストでもこなしてればスッキリするわよ﹂
﹁だよね
﹂
﹁う ー ん、そ う な ん だ け ど ⋮⋮ な ん だ ろ。な ん か モ ヤ モ ヤ す る な ぁ
るのは何も女神だけじゃないし、珍しくもないでしょ﹂
?
﹁遊ぶことしか考えてないのはどうなのよ⋮⋮﹂
!
1024
?
﹁ああ、さっきの人
?
﹁ネプ子
﹁えっ
?
﹂
﹁え
?
いやだから、さっきクエストを受けた人だよ﹂
﹁え
?
どうしたの、ベール。珍しいわね﹂
相手はリーンボックスの女神、グリーンハート。ベールだった。
﹁もしもし
︾
?
自国の
?
た。
﹂
︽⋮⋮どうかされました
︾
しかし何故か、思い描いた軍事国家という言葉に違和感を覚えてい
インの軍事国家。その分技術力も最先端をいっている。
はベールの意向で萌え文化を取り入れてはいるが、元は軍事産業がメ
そこで、ノワールが言葉を詰まらせた。リーンボックスはここ最近
し、そっちも軍事国家だったわけだし││﹂
﹁そ れ は ち ょ っ と 面 倒 な 事 に な り そ う ね。う ち は 重 工 業 が メ イ ン だ
ハァドラインがこの数ヶ月、不穏な動きをしているらしいのです︾
︽あら、私としたことが⋮⋮実は、リーンボックスとラステイションの
⋮⋮﹂
﹁わ た し も 式 典 の 原 稿 ま と め て る 途 中 な の。で き れ ば 手 短 に お 願 い
︽まぁ。要点だけを簡潔にまとめた解説は流石ですわね︾
それが
女神を信仰するあまりに他の女神に対して攻撃的なはた迷惑な連中。
﹁ええ、聞いたことがあるわよ。女神信仰の狂信者、でしょ
︽〝ハァドライン〟という集団については、ご存知でしょうか︾
のだが││約一名を除いて。
ノワールとて暇ではない。まぁそれを言ったらどの女神も同じな
﹁いや、いいから早く用件言いなさいよ⋮⋮﹂
う︾
︽そ れ に し て も 私 の 出 番 が ス カ イ ポ 通 話 と い う の は ど う な の で し ょ
﹁ええ、構わないわよ﹂
あるのですが⋮⋮今、よろしいでしょうか
︽ああ、ノワール。実は、今度開かれる式典のことで、ちょっと相談が
?
﹁じゃあ、お願いできる
場所は││﹂
︽私も同伴させていただきますわ︾
なったら大変ね。一応こっちから出向いて警告だけはしておくわ﹂
﹁う う ん。な ん で も な い わ。ま か り 間 違 っ て 手 を 組 む こ と に な ん て
?
?
1025
?
ラステイションとリーンボックスの国境近辺にある森林地帯。以
前は工場などが栄えていたが、事業の収縮に伴って現在は撤退してい
る。その跡地をハァドラインが根城にしているとの情報があった。
ノワールが合流場所に到着してから間もなくして、豊満なスタイル
のグリーンハートが降りてくる。すぐに変身を解くと、金髪の美女へ
と姿を変えた。
﹁来たわね。ベール﹂
﹁ええ。本当は四女神オンライン2のイベントに集中したかったので
﹂
すが⋮⋮サーバーの緊急メンテナンスが入ってしまって﹂
﹁あ、ああ⋮⋮そうなの
生粋のゲーム廃人としてもベールを知っているノワールは緊急メ
ンテナンスに感謝しつつも、気を取り直して森の中へと入っていく。
やがて、崖から廃工場を見下ろすと、そこではリーンボックスで見
かけられる防衛ロボが稼働していた。その中には見慣れない人型の
軍用ロボも確認される。明らかに、怪しい││よく見ると重機までも
が運びだされていた。
﹁どっからどう見ても﹂
﹁怪しいですわね⋮⋮﹂
あなた達
﹂
二人が顔を見合わせて頷く。放置しておくわけにはいかない。
﹁ちょっと
﹁ハァドラインの連中ね
責任者は誰
出てきなさい
﹂
!
︽⋮⋮︾
﹁あなたがリーダー
﹂
ノワールとベールの前に立つ。
赤と黒のカラーリング。何世代か前の人型軍用ロボットは黙って
︽⋮⋮⋮⋮︾
任者を呼び出す。その相手もまた、軍用ロボだった。
ザワザワと騒ぐロボット達だったが、その一声に顔を見合わせて責
!
うんうん、と頷く。すると、そこに遅れてもう一人がやってくる。
?
1026
?
!
!
ノワールが廃工場の前で声を張り上げると、一斉に手が止まった。
!!
白いカラーリングの人型軍用ロボット。リーンボックスで見受けら
れる型としては一世代前の機体だ。両方共に武装を解除しているの
か機体各所のハードポイントに武装はマウントしていない。
﹂
︽すまんな。こいつはあまり喋らないのだ。話があるならば、私が応
じよう︾
﹁そう。じゃあまずは、所属と名前を教えてもらえる
﹂
︽マジだ⋮⋮マジで女神様だ
を一目見ようと集まる。
見れるとは思いもしなかった
握手いいですか
︾
くぅー、まさか生きている間に生で
衛ロボ達も警戒態勢を解除した。やがて一人、また一人と憧れの女神
ジョッシュの紳士的な対応に空気もいくらか解れたのか、周囲の防
葉も出ないのだろう。会えて光栄だ、守護女神︾
︽この男は、ナイルス。見ての通り無口でな。女神を前に緊張して言
︽⋮⋮︾
﹁そう。そっちは
﹃ジョッシュ﹄又は﹃ジャック﹄と呼ぶ︾
︽私はリーンボックス企業連盟傘下に所属する、J.Oだ。皆は私を
?
手を洗ってきます
アルコール
アルコールはどこだ
︾
!
やら同盟関係にあると見て間違いはないらしい。
この廃工場であなた達は一体何をしているの
?
﹁返答次第じゃ、こっちもそれなりの対応させてもらうわ。覚悟しな
済みですわ﹂
﹁この近辺であなた方が不穏な動きをしている、というのは既に調査
﹁それで
﹂
ボックスの軍用ロボがこうして一挙に行動しているのを見ると、どう
なんとも緊張感の無いハァドラインだが、ラステイションとリーン
いないらしい。ナイルスは名目上のリーダー、ということだろう。
どうやらこの場を取り仕切っているのは事実上、ジョッシュで間違
︽やめんかお前ら、見苦しい。気持ちは分かるが作業の手を止めるな︾
!
︽あ、でも俺、さっきオイルいじってて汚れてる⋮⋮すいません、すぐ
!
︾
︽あ、あのグリーンハート様
!
﹁ええ、構いませんわよ﹂
!
!
1027
?
!
?
さいよ﹂
二人の真剣な眼差しに緊張が走るが、ジョッシュはナイルスを横目
で見る。
︽なるほど。そういうことか⋮⋮︾
﹁答えなさい﹂
︽いや、すまない。我々ハァドラインと呼ばれている者達がこうして
﹂
大挙していれば、世間体は確かに不安を感じるだろう。そのことに配
慮が足らなかった︾
﹁それでは、あなた方は此処で何を
︽我々は現在、解体作業中だ。事業収縮に伴い、稼動を停止させた工場
や施設。その解体事業を執り行っている。これにはそれぞれの企業
に正式な許可証も貰っている︾
そう言って、ジョッシュに書類が手渡される。それに目を通すと、
確かにラステイションとリーンボックスの両方の企業からそれぞれ
許可が降りていた。しっかり納期も決められている。
﹁えっ、じゃあ⋮⋮あなた達ってもしかして⋮⋮﹂
︽この規模の廃工場となると、中にある道具も再利用できる。我々は
解体作業を請け負う一方で工業部品の修理も現在行っているんだ︾
ノワールとベールが作業スペースを覗かせてもらうと、錆びた鎖や
壊れた工業製品を解体して部品をチェックしていた。それが正常に
﹂
動くかどうかの動作チェックも行っている。
﹁じゃ、じゃあ周りの軍用ロボはなに
仕事でやっているのでな︾
﹁そうだったのね⋮⋮﹂
飛行能力のある自分達と違って彼らは陸路で来るしかない。確か
に、こんなモンスターだらけの危険地帯で解体作業を請け負う業者は
早々見つからないだろう。人間ならまだしも彼らは軍用機械。うっ
てつけの仕事だ。
﹁ごめんなさい。ハァドラインとだけであなた達を危険視して⋮⋮﹂
︽なに、気にすることはない。こちらも迷惑を掛けた、お互い様だ︾
1028
?
︽この周辺にはモンスターも多数生息している。自衛の為だ。我々も
?
﹁リーンボックスとラステイションの企業が提携してこの工場の解体
を依頼しているとあっては、私達にはどうすることも出来ませんわ
ね﹂
要するに、早とちりだった。式典が近いということもあってピリピ
リしていた自分達の勘違いに謝罪すると、ジョッシュは気にした風も
なく頭を下げる。
︽こちらこそ、すまなかった︾
﹁いいえ、わたし達の方こそごめんなさい﹂
﹁ええ。今回は私達に非がありますわ﹂
︽守護女神の仕事は多忙を極めるのだろう。私達の国を統治している
とあっては漏れがあっても仕方ない。責める気はない、どうか頭を上
げてくれ︾
うんうん、とナイルスも頷いていた。
︽むしろ感謝さえしている。ご存知の通り、我々は女神を信仰してい
︽ああ。これからの活躍を期待させてもらう、武運を︾
﹁ありがと。行きましょ、ベール﹂
﹁ええ。それでは皆様、がんばってくださいませ﹂
ノワールとベールが去っていく。その背中を眺めていたナイルス
とジョッシュに通信が入る。
︽││こちらアームドソウルス、ジョッシュだ⋮⋮ああ、首尾は上々
だ。今しがた、守護女神が視察に来た。我々の動きを警戒しているら
しい。⋮⋮問題はない。勘違いだと上機嫌で去っていったよ︾
1029
る最たるモノだ。こういった形でしか一目見ることは叶わない。彼
︾
らもやる気を出してくれているようだしな︾
︽ドォラッシャァァァァァァッ
︾
おーい、中の奴大丈夫かー
︾
︾
ブルドーザーが派手に廃工場の壁に風穴を開けていた。
!!
﹁そ、そう⋮⋮それじゃ、わたし達はもう行くけれど﹂
!
︽何やってんだバカ
︽なにをしてんだお前
︽やっぱりかぁぁぁぁぁ
!
︽⋮⋮気にしないでくれ。いつもああなんだ︾
!!
!
ブルドーザーが空けた壁の中。廃工場内では解体作業が続けられ
ていた。
︽期 日 ま で に こ ち ら の 作 業 は 完 了 す る。そ れ で は な │ │ プ レ ジ レ ン
ト︾
通信を切ると、ジョッシュは中を覗く。そこでは解体作業に使用さ
れる工具以外に、元から備え付けられていたクレーン等も利用して組
み上げられている物があった。
︽向こうのハァドラインとも互角に渡り合えるだろう︾
︽⋮⋮⋮⋮︾
それにナイルスは肯定も否定もしない。ただ組み上げられていく
巨大なブースターを眺めていた。
1030
エ ピ ソ ー ド 0 │ 2 思 っ た よ り も 厳 し い 職 場。こ れ
には女神も苦笑い
どうしたの
﹂
ネプテューヌとアイエフがクエストをこなしていると、携帯が鳴り
響く。
﹁はい、もしもし。ネプギア
?
﹁今の電話、ネプギアから
﹂
相槌を打っていると、アイエフがすぐに通話を切った。
?
﹁うーん、 戦
姉 の 代 わ り に 仕 事 に 精 を 出 し て く れ た ん だ
場 的な
バトルフィールド
﹂
んだけど⋮⋮ハァドラインって知ってるわよね﹂
﹁ここまで不出来な姉もどうなのよ。それで、ネプギアからの連絡な
ね﹂
﹁流 石 は わ た し の 妹
﹁ええ。朝から女神の仕事をしてたらしいんだけど﹂
?
達って国民からの信仰心が必要じゃない
その信仰がいき過ぎた
﹁まぁ、あながち間違いじゃないわね⋮⋮ほら、ネプ子みたいな女神
苦笑いを浮かべる。
曖昧なネプテューヌの認識に、本当にプラネテューヌは大丈夫かと
?
﹂
タールを構え、ネプテューヌも太刀を向ける。
言っている傍から不穏な物音が接近してきていた。アイエフはカ
までは││﹂
﹁ええ。姿を見るなり慌てて逃げたみたい。ただ、どこに逃げたのか
﹁ネプギアは無事なの
を近辺で見かけたから気をつけてって話よ﹂
﹁そういう認識で間違いはないと思うわ。それで、そのハァドライン
ポーツとかの観客席にいる人達だよね﹂
﹁あー、たまにいるよねぇ。熱中するあまり周囲に迷惑かける人、ス
起こしたりするんだけど⋮⋮﹂
狂信者とも言うべき集団のことよ。そんなんだから他の国で問題を
?
1031
!
?
ブースターを吹かしながら地面を滑る音。ふたりが見上げた先の
崖から飛び出してきたのは、一機のロボットだった。
アイエフとネプテューヌが見ている前で両足の大腿部に外付され
たバーニアを吹かして着地の衝撃を和らげると二挺のサブマシンガ
ンを回転させながら構える。そして、背後から迫っていた小型の機械
﹂
││ビットの群れに向けて連射すると一掃した。
﹁危ない
﹂
﹂
咄嗟にネプテューヌが撃ち漏らしたであろうビットを一閃する。
﹁ネプ子、大丈夫
﹁うん。ほとんど倒されてたみたいだからこれくらい余裕余裕
ヌを見て││。
︽ヒィヤァァァ
︾
ガンを背中にマウントするなりアイエフを見て、それからネプテュー
背中に武器を背負っていたハァドラインのロボットは、サブマシン
一味は﹂
貴方ね。ネプギアを見るなり逃げ出したっていうハァドラインの
﹁はぁ⋮⋮まったく、気をつけなさいよ。それより、そこのロボット
!
?
る。
︽た、たたた大変申し訳ありませんでしたぁ
︾
︽な ん か ち ょ っ と 格 好 良 く 登 場 で き た と か 思 っ て ホ ン ト す い ま せ ん
涙ながらの電子音声に呆気を取られた二人がポカンと口を開けた。
!
!!
ハート様とは気づかずこのような失態を晒してしまい
︾
まさか女神パープル
悲鳴と共に飛び上がって頭を下げた。ジャパニーズ・ドゲザであ
!?
﹁それより。貴方の所属と名前は
︾
﹂
自分はプラネテューヌ国境警備隊、北方第一線部隊所属レ
オルドです
︽ハイ
?
﹂
?
︽いえ、その⋮⋮実は、部隊の実践演習中だったのですが⋮⋮そこに女
なり逃げ出したの
﹁えーっと⋮⋮それじゃあレオルド。どうして貴方はネプギアを見る
!
!
1032
?
!
﹁う、うわぁ⋮⋮ここまで腰の低いロボット初めて見たかも⋮⋮﹂
!
﹂
神候補生の方が出てきたもので︾
﹁テンパって逃げたってこと
︾
あっては国境警備隊の名折れ⋮⋮
︾
やはり俺は劣等生なのか
﹂
プラネテューヌ国境警備隊の劣等生なのか自分はぁぁぁ⋮⋮
﹁え、えーっととにかく落ち着いてくれないかな
︽グスン⋮⋮︾
!
︽シロトラ教官殿
︾
︽レオルド、そこで何をしている︾
キュイィィィィィ││。
が近づいてくる。
冷や汗を流すアイエフが同情していると、新たに甲高いバーニア音
﹁け、結構シビアな職場なのね⋮⋮﹂
げられて左遷される⋮⋮︾
︽戦績は最下位。貢献度も最下位、このままでは警備隊のランクを下
が装着されている。レオルドは立ち上がり、肩を落としていた。
レートソード。そのバックパックの下部には追加のジェネレーター
背中にマウントされている武装は二挺のサブマシンガン、そしてグ
?
!!
!
︽そ れ だ け に 留 ま ら ず、女 神 パ ー プ ル ハ ー ト 様 の お 手 を 煩 わ せ る と
悔しさのあまりにレオルドは地面を殴る。
︽あるまじき醜態です⋮⋮
?
ルドとはまたタイプが違うのか、背中に一対のバーニアを背負ってい
る。緩やかに着地すると、手にしている自身の背丈を同等サイズの剣
を突き立てた。ネプテューヌを見るなり敬礼をする。
︽女神パープルハート様。私はプラネテューヌ国境警備隊の教導隊所
属、シロトラ。お見知りおきを。そちらの方は諜報機関の⋮⋮確か、
アイエフさんでしたか︾
﹁あら、わたしの事を知っているのね﹂
︽ええ。女神パープルハート様に親しい方と存じています。我々、国
﹂
境警備隊も諜報機関の情報網には助けられていますので︾
﹁ハァドラインの一味って言う話は本当なの
?
1033
!
全身を白で統一したカラーリングの機体が飛び降りてきた。レオ
!?
︽はい。ですが我々を他の連中と同類に見てもらっては困ります。友
好 条 約 が 結 ば れ た あ の 日、女 神 パ ー プ ル ハ ー ト 様 の お 言 葉 に 従 い、
我々も自らの立場を見直しました。それ以来、我ら﹃B2AM﹄はこ
うしてプラネテューヌ国境警備隊として日夜活動しております︾
しかし、その友好条約もすぐに破棄された。それでも彼らはこうし
て国境警備隊としての役割を果たしていた。
︽我 々 を テ ロ リ ス ト と し て 見 る 世 間 の 目 も あ る の は 重 々 承 知。そ の
為、こうすることでしか女神パープルハート様の力になれません︾
﹁わ た し の 為 に 頑 張 っ て く れ て る ん な ら 感 謝 感 激 ひ な あ ら れ だ よ ー
﹂
︾
︽労いのお言葉、恐悦至極。それでは、我々は演習に戻ります。レオル
ド︾
ヤー
︽了解
わ﹂
﹁うんうん。これもわたしの人徳ってやつだよね
いーすんが心配
﹁そうね。でもまさか国境警備隊として活動してるとは思わなかった
たね﹂
﹁なんか、女神信仰の狂信者って聞いていた割にはまともな人達だっ
機へ転送された。
る。レオルドは信号弾を発射すると、その場から上空を通過する輸送
壁を駆け上がり始めた。姿勢を低くして剣を抱えるように走り抜け
うするかと見ていると、シロトラはバーニアを吹かしながら跳躍して
レオルドとシロトラは二人に敬礼すると崖を見上げる。そこをど
!
おそらく、飛行能力が無いために編み出された機動なのだろう。
﹁アレには私も驚いたわ⋮⋮﹂
﹁でもビックリしたなぁ。まさか崖を駆け上がるなんて﹂
査が済んだら報告するわね﹂
と気になるわね。私の方でちょっと過去の経歴を洗ってみるわ。調
﹁それにしても、ハァドラインの﹃B2AM﹄だったかしら⋮⋮ちょっ
の平和は守られてるんだから﹂
し過ぎなだけなんだよ。女神のお仕事しなくたってプラネテューヌ
!
1034
!
﹁それで、ネプ子。クエストは終わったの
︽遅れるな、レオルド︾
︽マジすか
︾
降格させて僻地の雑草取りだ︾
﹂
︽女神パープルハート様を一目見れたのだ、これ以上最下位が続けば
︽了解です。シロトラ教官
︾
いた二機の機影は障害物を前にしても減速することなく走っていた。
ネレーターがブースターに燃焼剤を投入して加速させる。並走して
に降下してくるのはレオルドだった。バックパック下部の追加ジェ
背部のブースターを吹かしながら高速で駆け抜けるシロトラの隣
﹁ええ。サクッと終わらせて帰りましょ﹂
てカタールを構え直した。
警備隊に触発されて多少はやる気を出したのか、アイエフも一安心し
ネプテューヌが気合を入れなおしてクエストに取り掛かる。国境
﹁もうちょっとでクエスト達成だから頑張ろ、あいちゃん﹂
?
︾
︽先を譲る。制限時間内に突破してお前の限界を超えてみせろ︾
︽り、了解です
む。
!!
弾を投げる。
気合を入れて二挺を連射しながら左前腕部に収納されている手榴
︽レッツ・ボーダー
︾
弾数を確認。燃焼剤の投入をカットしてモンスターの群れに飛び込
レオルドはマウントされている二挺のサブマシンガンを装備して
!
1035
!
眼前に広がるモンスターの群れを前にして、シロトラは減速する。
!?
エ ピ ソ ー ド 0 │ 3 始 ま り は い つ だ っ て ビ ッ グ イ ベ
ント
││そこは、どこかの次元。全てが滅び、娯楽も何も無い世界。そ
んな世界の何処かに存在する大図書館。
来訪者など滅多に来ないそこでは、ひとりの人工生命体が書籍の管
理を行っていた。本棚を埋め尽くす膨大な量のそれらは、全てが歴史
を記した由緒あるもの。ありとあらゆる歴史を記した書物の管理人
の名は、イストワール。
今日も今日とて本の管理に大忙しだったが、その日はいつもと違っ
た。
こんなところに来るなんて⋮⋮﹂
大図書館の扉を叩く音に、はたと手を止める。
﹁誰でしょうか
ふわりと浮かぶ本に乗って移動すると、来訪者は扉を開けて中へと
﹂
踏み入っていた。その、見るからに怪しい人物は大図書館の中を見渡
している。
﹁すいません。お待たせしました。ご用件はなんでしょう
ルが警戒心を露わにしていた。見てくれは物取り、或いはアウトロー
いったところだろうか⋮⋮しかし、それ以上に陰気臭さにイストワー
套も、裾が擦り切れてボロボロになっている。年齢は二十代前半と
血のように赤い瞳は、影を帯びて暗く沈んでいた。身に纏う黒の外
?
といった感じだ。だが此処は大図書館。名前通りに本しかない。
﹂
﹁⋮⋮本を読みに来た﹂
﹁はい
﹂
﹁え、えーっと。本を読みに、ですか
﹁閲覧の許可は貰えるか
﹂
?
イストワールが言っている傍から、一冊の本を手にして読み始め
﹁は、はい。構いませんけれど⋮⋮﹂
?
1036
?
至極当然な答えに、素っ頓狂な声を上げた。
?
る。ページを捲り、静かに佇む後ろ姿に一応注意だけはしておく。
﹁くれぐれも、本に傷などをつけないでくださいね﹂
﹁読むだけだ﹂
﹂
﹁でも、本を読みたいだなんて。貴方も変わっていますね﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁ここでないとダメなんですか
﹁ああ。ありとあらゆる歴史を記した、この大図書館でないとダメな
んだ││俺の探しものは、きっと此処でしか見つからない﹂
その声は、まるで疲れていた。今にも倒れそうなほど疲弊した声と
は裏腹に、その青年からは鬼気迫るものを感じたイストワールは不審
に思いながらも、今は静かに読書に没頭している姿を尻目に自分の仕
事へと戻る。
イストワールがふと、時計を見ると既に日付が変わりそうになって
﹂
いた。もう帰っただろうと思い、青年の立っていた場所を確認する
と、そこに姿は無かった。
﹁もう帰ったのでしょうか⋮⋮
﹁まだ読んでいる最中だ﹂
独り言に返事が戻ってくるとは思わず、イストワールが慌てて声の
した方角を見る。すると、立っているのに疲れたのかソファーにふて
ぶてしく腰を下ろしながら本を山積みにした青年がいた。見れば、本
棚がひとつ、ゴッソリと空っぽになっている。
﹁ビ、ビックリさせないでくださいぃ⋮⋮﹂
﹁悪いな﹂
抑揚を失った声を不気味に思いながらも、青年の傍まで近づいた。
﹂
みっかかかりますけど⋮⋮﹂
﹁もしかして、此処に有る本を全部読む気ですか
﹁そのつもりだ﹂
﹁探し物でしたら、私がしますよ
読み終えた本を閉じて、棚に向かって投げるとストンと小気味良い
﹁はぁ⋮⋮そうですか⋮⋮﹂
?
1037
?
?
﹁いや、いい。他人の手は借りない﹂
?
音を立てて収まる。それに感心しながらも、もう少し丁寧に扱ってく
れと注意しておいた。青年は小さく頷いてそれきり読書に没頭する。
それからというもの、膨大な量の歴史書を驚異的な速度で読み進め
ていく青年とイストワールの奇妙な生活が続いた。言葉は少ないも
のの、本当に本を読みに来ただけらしく一日中飲まず食わずで読み進
めていく姿には不気味さを隠せないが、きっちり睡眠はするようでた
まに本を抱いたまま眠る。それにシーツを掛けるという業務が追加
されたが苦にならなかった。
手持ち無沙汰になった時や、業務の暇を見つけては声を掛ける。
どこから来たのか。名前はなにか。探し物は何なのか。だが、青年
はそれらの質問には全て答えてはくれなかった。徹底して自分の事
を語らない。
それでも独りぼっちでいた大図書館よりも居心地の良さを感じて
いたイストワールだったが、どれほどの月日が流れただろう││青年
﹂
せめてそれぐらいは記録させてく
もう出口はすぐそこだ。だけど、青年は結局、何一つとして語らない
まま去ろうとしている。
﹁││それで、貴方のお名前は
ださい﹂
﹁⋮⋮イストワール﹂
初めて、青年は大図書館の司書の名前を読んだ。目を閉じて、まる
1038
は大図書館に存在する全ての本を読み終えた。
﹁すごいですね、まさか本当に大図書館に存在する全ての歴史書を読
破するとは思いませんでした﹂
パタン、と本を閉じて棚に戻す。それに青年は吐息を漏らした。イ
ストワールが傍まで来ると、横目で見るだけで声は掛けない。
﹁ちなみに、あなたが来てから││﹂
探し物は見つかったんですか
イストワールの言葉を聞こうともせず、青年は大図書館の扉へ向
かっていく。
﹁あ、ちょっと待ってください
﹁ああ。おかげ様でな﹂
?
呼び止めようとして先回りするイストワールに青年が足を止めた。
!
?
﹂と相槌を打つ。
で恋人のように。思わず赤面したイストワールが裏返った声で﹁ぴゃ
い
青年が、目蓋を開けるとイストワールに指を突きつける。その左目
が、黄金の輝きを灯していた││。
﹂
﹁お前に⋮⋮いや、この世界に。〝俺がいた〟という記憶はいらない﹂
﹁な、何を言っているんですか
の記憶はいらない﹂
界。あらゆる結末に辿り着いた〝俺〟を殺すんだ。だから、お前に俺
﹁俺 は な。〝 俺 〟 を 殺 し に い く ん だ │ │ あ ら ゆ る 次 元。あ ら ゆ る 世
大図書館を一度だけ振り返る。
外には、何も無い。ただ荒れ果てた荒野だけが続いていた。最後に
﹁イストワール。俺の探しものが何か、お前は聞いたな﹂
に手を掛ける。
スヤスヤと寝息を漏らす司書の顔に掛かる前髪を軽く除けると、扉
た。
うになる。その小さな身体を受け止めて、青年はソファーに寝かせ
パチン、と身体を跳ね上がらせてイストワールはフラフラと落ちそ
﹁ぁ⋮⋮﹂
さく電流が流れた。
青年の瞳に吸い込まれるようにイストワールが錯覚を覚えると、小
?
私⋮⋮眠っていた⋮⋮
﹂
青年は、その手に仮面を召喚した。無貌なる漆黒の仮面を着ける
トランジション
と、宣告する。
﹁││ 変 神﹂
あれ
?
﹁ぅ、うん⋮⋮
?
そして大図書館の司書はいつものように本の整理へと戻っていく。
なんていませんか﹂
﹁うーん、誰も来ていないといいのですけれど⋮⋮まぁ、此処に来る人
書館を見渡す。そこにはやはり、誰もいなかった。
気がついたイストワールがよろよろと浮かび上がると、無人の大図
?
1039
!
││超次元ゲイム編、開幕。
﹁お姉ちゃん、準備出来たよー﹂
プラネテューヌの教会では、式典の開催に向けてネプギアがドレス
を着ていた。
﹁そう、私の方も終わったところよ﹂
落ち着き払った女性の声に、カーテンを開けるとそこには女神パー
プルハートが紺色のドレスを着飾っている。その隣に浮かぶのはプ
ラネテューヌの教祖であるイストワール。
﹁よくお似合いですよ、ネプギアさん。ネプテューヌさんも﹂
﹁ありがとう、いーすん。それじゃ、行ってくるわね﹂
﹁うん。頑張って、お姉ちゃん﹂
﹁それでは私達も行きましょうか、ネプギアさん。アイエフさん達は
もう先に行ったようですし﹂
1040
﹁はい﹂
開会の言葉は四女神によって宣誓される。その為、パープルハート
だけはネプギア達とはまた別な場所へ集合となっていた。
﹁お待たせ、みんな﹂
﹁来んのがおせーぞ、ネプテューヌ﹂
部屋に入るなり、ルウィーの女神ホワイトハートが口をへの字に曲
げる。既にグリーンハート、ブラックハートの二人も揃って待ってい
たようだ。
﹁そう怒らなくてもいいじゃない、ブラン﹂
﹁プラネテューヌで開催だっていうから来てやったのに、寝坊した奴
が言うことかよ﹂
﹁うっ⋮⋮それは、その⋮⋮悪いと思っているわ﹂
昨夜遅くまでゲームに熱中していた。式典の開催に案の定寝坊し
た 身 で あ る パ ー プ ル ハ ー ト は ホ ワ イ ト ハ ー ト に 何 も 言 い 返 せ な い。
﹂
大慌てで準備をしていたからか、パープルハートの髪が少し跳ねてい
る。
﹁ああ、もうほらネプテューヌ。髪の毛跳ねてるわよ
?
﹁そうかしら﹂
﹁この辺りよ。ベール、そこのクシ、取ってもらえないかしら﹂
﹁これですわね﹂
﹁ジッとしてなさい。まったく、世話が焼けるわね﹂
時計を見れば、開会式までそう時間は残されていない。それでも、
女 神 の 身 だ し な み は 完 璧 で な く て は な ら な い。例 え 他 国 の 女 神 で
あってもだ。
﹁多 少 緩 い ほ う が プ ラ ネ テ ュ ー ヌ ら し い ん で し ょ う け ど、そ ん な ん
じゃ私達まで笑われるわ。はい、出来たわよ﹂
﹁ありがと、ノワール。それじゃ、行きましょうか﹂
パープルハートが全員の顔を見ると、他の女神達は深く頷いた。
今日はゲイムギョウ界総出の式典││日頃から自分達を支えてく
れる国民達への感謝を述べる大事な日だ。
1041
エ ピ ソ ー ド 1 し っ ち ゃ か め っ ち ゃ か メ ッ チ ャ ク
チャ
超次元ゲイムギョウ界国民感謝セレモニーと銘打たれたその式典
の様子は全国へ生中継という形で放映される。プラネテューヌはも
とより、ラステイション、リーンボックス、ルウィーでもそれぞれの
国に向けてそれぞれの女神達が感謝の言葉を述べていく。
ハァドライン││アームドソウルスもラジオと携帯で音声を流し
ながらその様子を録画していた。
プラネテューヌ国境警備隊、B2AMもまた、他国からの不法侵入
者がいないかどうか目を光らせている。
開会の言葉が終わり、次に女神達が自国に向けて今年度の抱負、も
とい運営方針の演説を執り行う。とはいっても、大体いつも通りの意
﹂
﹁それもそうね⋮⋮でも、今の揺れは一体││﹂
﹁皆さん、空を見れば理由が分かりますわよ﹂
グリーンハートの言葉に、会場の誰もが空を見上げた。カメラも自
1042
思表明なのだが⋮⋮。
プラネテューヌでは今後益々の発展。
ラステイションでは更なる事業の拡大。
リーンボックスでは新たな技術の開発に、より国民に寄り添ったイ
ベントの開催。
ルウィーでは治安維持。それぞれの運営方針ではあるが、共通して
ゲイムギョウ界の平和を願っていた。そして、この後はリーンボック
スより来訪しているゲイムギョウ界が誇る大スター、5pbちゃんに
よる感謝ライブが行われる││はずだったのだが席を立った瞬間、突
然地面が揺れた。
地震
その衝撃はまるで爆弾でも落ちたかのような揺れで、会場がどよめ
く。
﹁な、なに
!?
﹁落ち着けよ。地震だったら私達までバランス崩してねえだろ﹂
!?
然とそちらを映す。だが、そんな必要はなかった。
何故なら、海上の空に出来た渦は全ての国から観測できるほど巨大
﹂
﹂
な物だったからだ。
﹁何なの、アレは
﹁何か出てくるわよ
その巨大な渦から吐き出されるように出てくる赤い軌跡││黒い
羽を広げて空に踏み留まった姿に、目を凝らす。それは、人だった。
全身が血のように赤いプロセッサユニットを広げ、黒い翼を広げてい
る。そ の 後 を 追 う よ う に 現 れ た の は 無 数 の モ ン ス タ ー 達。そ れ に、
パープルハート達が迎撃に向かおうとした矢先に、突然渦の中から閃
光が放たれる。
海水を蒸発させて湯気が立ち込め、霧のように広がった。海面は一
部は沸騰し、一部が氷結するという奇妙な光景が出来上がる。
﹁⋮⋮今のは﹂
それに、何故か懐かしさを覚えるパープルハートが頭を振る。気の
せいだと、振り払う。
渦の中から現れる大量のモンスター達が反転して渦から出てきた
もう一人の姿へと殺到していく。だが、次々と翼を断ち切られて絶命
していった。遂には、仮面を着けた相手に向けて三日月形の歪な刃を
持つ偃月刀を振り下ろしている。
﹂
交戦しながら移動を続ける二人が、徐々に迫っていた││。
﹂
﹁こっちに来るぞ
﹁なんで
している。その後を追うのは、のっぺらぼうの翼竜達。それを鬱陶し
く思ったのか、後から現れた人物は手にしていた偃月刀を投げる。高
速で回転しながらモンスター達を海に沈めていくが、肝心の仮面を着
けた相手に向ける武器がない。しかし、次の瞬間には既に二挺拳銃が
握りしめられていた。
赤と白の弾道が獲物を狙う。それらを日本刀で弾きながら自らの
距離に相手を収めると、一閃。その白刃をブーツで受け止めながら二
1043
!
!?
!
何故か。プラネテューヌ目掛けてその二人は衝突と離脱を繰り返
!?
人が弾かれたように距離を取る。
﹂
徐々にその輪郭がハッキリとしてきた││。
﹁逃ィがすかァァァァアアアッ
来るぞ
﹂
!!
﹂
!
アが既視感を覚えた。
﹂
!
〝この人⋮⋮どこかで⋮⋮
﹂
なにボサッとしてんの
﹁ユニちゃん
﹁ネプギア
ううん、そんなはずない〟
黒い髪に、血のように赤いプロセッサユニット││それに、ネプギ
した人物は獣のように這いつくばりながら着地する。
に迫り、そこへ容赦のない追撃が入った。きりもみ状態で地面に落下
仮面を着けた赤い男性が胸板を押さえながらプラネテューヌの会場
鍔迫り合いから離れた相手を、電流を纏わせた蹴りで吹き飛ばす。
﹁駄目だ、間に合わねぇ
﹁会場の皆さんは早く避難してください
き慣れた物に思えてならない。初めて見るはずの相手なのに。
声に、ブラックハートが眉を寄せた。何故か、どうしてかその声が聞
聞こえてきたのは、怒号。大気を震わせながら吼える相手に、その
!!
?
が最優先だ。黒髪の少女、ユニが光に包まれる││女神化したブラッ
〟
クシスターは大型のライフルを構えて翼竜の群れを撃ち始めた。
﹁ネプギアちゃん。わたし達も⋮⋮﹂
〝そうだ。今はとにかく、みんなを安全な場所に⋮⋮
ネプギアの視線が、イストワールとアイエフ、そしてコンパへ向け
!
こちらです
﹂
﹂
﹂
られる。アイコンタクトで頷くと、教会に向けて避難誘導が始められ
た。
﹁皆さん
﹁は、はい
﹁5pbちゃんも、こっちです∼
!
え、長槍を携え、戦斧を担ぐ。
に包まれてプロセッサユニットを装着する。太刀を向け、大剣を構
その様子を見て、避難誘導を任せたパープルハート達もドレスが光
!
!
1044
!
名前を呼ばれて、気を取り直す。今はそんなことよりも国民の避難
?
!
!
﹁どっちを相手にするの﹂
﹂
﹁なら、私とベールであっちのワケわかんねぇ剣持った野郎だ﹂
﹁私とネプテューヌで仮面を着けた相手ね。行くわよ
﹁ねぇ、ノワール﹂
﹂
﹁ネプテューヌ、まさかとは思うけれど⋮⋮貴方も
﹁なんとなくだけど、分かるのよ﹂
﹁ええ。ま、相手してみればハッキリするわ
﹂
ている仮面を着けた人物に、謎の違和感を覚えていた。
二手に別れたネプテューヌとノワールは自分達が相手しようとし
!
あの渦は一体なんなの
﹂
で躱し、更にバックステップで距離を取った。
﹁貴方の目的は何
﹁せっかくの式典。ぶち壊しにしてくれた罪は重いわよ
!
﹁おい、テメェ
何のつもりだ
﹂
無言の抵抗と見た二人が斬りかかる。
仮面の男性は答えない。ただ手にした日本刀を構え直す。それを
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
こへパープルハートが太刀を振るう。それを僅かに身を逸らすだけ
顔を上げる仮面を着けた人物へ大剣を振り下ろす。飛びのいたそ
!
?
!
ハートが長槍を突き出す。最小限の動きから繰り出される高速の刺
何しやがるアブねぇだろうが
﹂
この女神
突に進行を妨害された相手は足を止めた。その前に二人が並び立つ。
﹁こっちの台詞だ
﹂
何を言っているのですか
お前ほぼ全裸じゃねぇか
﹁そこにキレるべきではないと思うんですが﹂
﹁うっせぇわこの痴女
﹁わ、私のこの格好を痴女
!
﹁チッ⋮⋮チッ。チッ
チッ
﹂
﹁何を今更怒っているのです、ブラン
﹂
!!
貴方と私が並び立つという
﹁隣に立ってぽよんぽよんと邪魔な脂肪揺らしやがって⋮⋮
隣でホワイトハートが不機嫌さ全開で舌打ちを繰り返していた。
!!!
﹂
完璧なプロポーション その魅力を余すことなく見せ
!
!
!
!
?
1045
!
?
振り下ろされる戦斧を避けて、そのまますり抜けた相手にグリーン
!
つける私のプロセッサユニットに何の不満があるというのです
的女体
!?
!
!
!?
!
﹂
ことは、こういうことですのよ
﹁どういうことだよ
かってんのかテメェ
﹂
﹂
﹁なんでキレられてるんだ俺
﹁同情するなら胸よこせ
﹂
﹂
﹁いやそれ男に求めるものじゃなくねぇか
﹂
あの野郎ぶっ飛ばすぞ
あぁもう、テメェ等の
﹁うるせぇ 初対面の男性に同情される私が今どれだけみじめか分
員がそういうの趣味なわけじゃねぇんだし﹂
﹁まぁ、そういうことなんだろうな⋮⋮元気出せよ。世の中の男性全
?
漫才に付き合ってる暇はねぇんだからどきやがれ
﹂
!
!?
﹁そういうわけにはいかねぇ、ベール
話はそれからだ
!
!
!?
!!
﹁承知しましたわ。観念なさい、このロリコン﹂
!
﹂
﹁初対面でロリコン呼ばわりするお前から徹底的に集中狙いにするこ
とにした、今
1046
!
!!
!
!
エ ピ ソ ー ド 2 隠 し て も 隠 し 切 れ な い 物 が 本 性 と い
う
ホワイトハートの戦斧を偃月刀で防ぐと、その重量に押し負けて男
性が飛び退く。そこへすかさずグリーンハートの刺突が飛んでくる
ものの、それはすぐさま切り払って接近する。自分の間合いに詰めよ
うとする相手から離れようと身を引いたそこへ、男性の左手に光の粒
子が集まっていった。それは魔力的な輝きを有しており、光が収まる
し
﹂
とそこには白銀の回転式拳銃。
は
﹁疾走れ、イタカ
六連射される白銀の魔弾。それぞれが不規則な弾道、不可解な角度
からグリーンハート目掛けて牙を剥くが回転させた長槍によって弾
き落とされる。
﹂
﹁ふふ、そのような目眩まし。私には効きませ││﹂
﹁じゃあの﹂
待ちなさい
まさかのスルー。
﹁あっ、ちょ
﹁何やってんだホルスタイン
﹂
﹂
その横をあっという間に通り抜けた男性の後を慌てて二人が追い
﹁誰が乳牛ですか
!
ソイツを止めろ
﹂
かけようとするが、加速力は相手の方が上なのか一向に追いつけな
ロム、ラム
!
い。
﹁くっそ
!
頭上に氷塊を作り上げて、そのまま男性目掛けて振り下ろす。
氷山のような塊を見た男性は偃月刀を投擲すると、氷に突き立つ。
その脚に紫電を纏い、更に深く突き刺すと剣を伝導体にして氷山の内
﹂
1047
!
!
!
!?
姉の声に、変身していたロムとラム││ホワイトシスターが頷いて
!
部から電撃を炸裂させて氷塊を破壊した。
﹁ウソ
!?
﹁足止めなら私に任せて
﹂
﹂
﹁さぁ、観念なさいな﹂
!
﹁うっ⋮⋮
﹁ネプギア
﹂
﹂
﹁││あぁ、ったく どいつもこいつも
﹂
ロ リ コ ン の 風 上 に も 置 け ま せ ん わ
!
!
魔ばかりする奴で頭イテェのはコッチの方だ
よ
﹁な ん て 人 な の で す か 貴 方 は
ね﹂
泣かれても困んだ
どこに行っても俺の邪
脳裏に走るノイズ。雑音、雑念の情報量に、思わず頭を押さえた。
〝なんで、だろう⋮⋮あの人の声⋮⋮私││〟
叫びに懐かしさと心地よさを覚える。
すら一瞬動けなくなった。だが、パープルシスターはどうしてかその
スターの二人が身体を竦ませる。その迫力にはブラックシスターで
青年の怒気を超えた殺意まで滲む叫びに、年少者であるホワイトシ
﹁俺の邪魔をすんじゃねぇ
﹂
だ仮面を着けた人物だけを注視していた。
打ちを漏らした。その視線の先には女神も女神候補生もいない。た
偃月刀二本で防いだものの、衝撃に負けて足を止められた青年は舌
﹁ヘッ、ザマァねぇな
食いしばり、衝撃に備える。
するが、それよりも先に回りこんだのはホワイトハートの戦斧。歯を
つ偃月刀を左手にも召喚した青年が盾代わりにして突っ切っろうと
同 じ よ う に 別 角 度 か ら M.P.B.L.を 撃 つ。幅 の 広 い 刀 身 を 持
光線が的確に男性の進路を妨害し、それに乗じてパープルシスターも
ブラックシスターがスコープを覗いてX.M.Bの引き金を引く。
!
この羞恥の女神
﹂
!!
﹂
﹁私はリーンボックスの守護女神、グリーンハート
は一体誰なのですか
﹁俺は││﹂
!
そういう貴方
!
!!
1048
!
!!
!? !
﹁ロリコンじゃねぇって言ってんじゃねぇかッ お前は何なんだよ
!
!
﹁⋮⋮エヌラス、さん
﹂
その一言が冷水のように青年に浴びせられる。
﹁││││⋮⋮ッ﹂
顔を歪ませて、偃月刀を突きつけるが、それでもパープルシスター
ネプギアです
﹂
は接近した。ブラックシスターが止めようとするも制止の手を振り
きって。
﹁エヌラスさん、私です
!
私のネプギアちゃんと一体どのよ
?
無く貫かせていただきますがよろしいですねッ
﹂
﹂
﹁なんか先程よりも殺気立ってねぇかなそこの緑の女神
せいであってくれねぇ
俺の気の
事と次第によっては手加減容赦一切の慈悲
?
さい⋮⋮﹂
﹁いいじゃありませんか少しくらい
くっ。ネプギアちゃんが私の
﹁ベールさんもさりげなく私のことを自分の妹みたいにしないでくだ
ではない。
その場に居る全員が思った││それは間違いなく絶対に気のせい
!
!?
うな関係なのですか
すわね、貴方は何者なのですか
﹁ネプギアちゃんの⋮⋮お知り合いなのですか ますます怪しいで
!
これも全部そこの方の所為ですわね
﹁どこへ││
﹂
覚悟
﹂
し。青年は眼の色を変えて爆音と突風を置き去りにして空を駆ける。
が懐に潜り込む。偃月刀を振り上げる││刹那の攻防に、だがしか
せて石突が顔を捉えていた。こめかみを掠めて、なおも接近する青年
ようとするがそのタイミングを見計らったかのように手元を回転さ
青年は偃月刀でグリーンハートの長槍を捌く。穂先を逸らし、接近し
向けられていた。背中のY字型に生えた銀の翼をはためかせながら
グリーンハートの神速の刺突が手加減容赦一切の慈悲なく青年に
!?
!
﹁うぉぉぉぉいただの八つ当たりじゃねぇかなコレぇぇぇぇ
﹂
妹にならないのも、四女神オンライン2の緊急メンテナンスもそれも
!
!
ハートが仮面の男性を相手に敗北しそうになっていた。
1049
?
?
!?
視線の先。そこで、ようやく気づいたパープルハートとブラック
!?
パープルハートの太刀が当たらない。ブラックハートの大剣が、躱
される。そして、双方ともに掌打と強烈な蹴りを打ち込まれた。日本
﹂
刀を納刀し、剣撃から打撃へと切り替えた相手に対応し切れずに押さ
れている。
﹁くっ⋮⋮
その左手に紫電が走る││本能的に、感覚的に思い出される戦慄が
背筋を凍らせた。
腰を落として、緩やかに伸びる右手が臨界点を超えそうになる刀の
﹂
柄 を 握 り し め ⋮⋮ 閃 刃 が 閃 く。視 界 が 覆 わ れ る。衝 撃。轟 音。そ し
て、懐かしい声にパープルハートが顔を歪ませた。
〟
﹁人のこと無視して女と洒落こんでんじゃねぇぞぉぉぉぉ
〝この人の背中を⋮⋮私は、知っている⋮⋮
!!
﹁貴方は⋮⋮
﹂
光に身を灼いている人を自分は知っている。
一体何なのか分からない。だけど、今まさに、自分に背中を見せて閃
だけど、思い出せない。何かが自分の記憶を邪魔していた。それが
?
﹂
﹁ええ⋮⋮
そのつもりよ
﹂
﹁よし行け
﹁えっ、ええ
私﹂
⋮⋮なんで命令されてるのかしら、
﹁何してんだ、テメェは。さっさと立て﹂
て睨みつけた。
光が収まり、自らの負傷を気にした風もなく青年が首だけ振り向い
!
!?
頭を押さえて膝を着いた。
﹁お姉ちゃん、どうしたの
﹂
か、紋章が光っている。赤い五芒星││それを見たブラックハートが
先は││教会。盛大に殴り飛ばした相手は防御魔法を使っていたの
で相手が吹き飛ぶ。更に青年が駆け込み、相手を殴り飛ばした。その
す。そこへブラックハートが全身を使って大剣を振り下ろすと、衝撃
パープルハートが太刀を振り下ろす。袈裟懸けに日本刀が受け流
?
?
1050
!
!
?
﹁頭が⋮⋮
﹂
﹂
﹁テメェは絶対逃さねぇ⋮⋮
!!
は既に距離を詰めていた。
!?
た。
﹁ごはっ
﹂
まで蹴られた仕返しと言わんばかりに強烈な回し蹴りが叩きこまれ
残像すら見えるその速度に翻弄されて青年が僅かに後退った隙に、今
そ れ を 好 機 と 見 た の か 仮 面 の 男 性 は 教 会 の 床 を 強 く 踏 み し め る。
た。
人がいる。相手の攻撃を避けるわけにもいかず、防戦一方となってい
比べて動きが悪い。それもそのはずだ、背中に逃げ遅れた子どもや老
ていた。だが、今度は青年が追いつめられる側となっている。先程に
国民達からも巻き込まれるのではないかと我先に奥へ逃げようとし
教会の職員達から悲鳴が挙がっている。避難したプラネテューヌ
﹁ちょ、ちょっとここでやり合うつもり
﹂
床を滑りながら立ち上がった青年が偃月刀を担ぐ。その間に相手
込めて投げ飛ばした。
てて青年の胸ぐらを掴み、膝蹴りがみぞおちに入る。一瞬の隙に氣を
が走り、目にも止まらない速度で衝突を繰り返していた。鞘を放り捨
た。だが、すぐに体勢を整えると丁々発止。ふたりの間で無数の剣閃
尋常ではない殺気と執念に、負傷も相まって仮面の男性が押し負け
﹁││││、﹂
何がなんでも俺が殺してやる⋮⋮ッ
いかかる影に日本刀を向けた。火花が散る。
していた者達には目もくれず胴を押さえながら整息すると、扉から襲
とコンパが武器を手にして仮面の男性から守ろうと前に出る。避難
後を振り向いた。そこでは教会の職員達が集まっていたが、アイエフ
吹き飛ばされた仮面の男性は転がるように受け身を取ると、ふと背
する。
その不調には目もくれず、青年は偃月刀を担いで教会の中へと突入
!
咳き込み、吹き飛ばされそうになる身体をどうにか押し留めるも、
!
1051
!
続く二発目をまともに受けて教会の床を滑る。
再び立ち上がろうとした時、青い髪にヘッドフォンを付けた少女が
﹂
子供の手を引いていた。仮面の男性は既に跳躍して、刀身が白く閃い
ている。
﹂
﹁5pbちゃん、危ないですぅ
﹁えっ││
てしまった。
!!
﹁だ、大丈夫
怪我とかしてない
﹂
チラと横目で見ると、頭を軽く撫でて手を振りながら背中を向けた。
教会から追い出す。ポカンと口を開けて涙目になっている5pbを
力任せに叩きつけた偃月刀の衝撃と、続く飛び蹴りが仮面の男性を
﹁││∼∼ッ、ッてぇだろうがぁボケがぁ
﹂
その先には黒い服││青年の胸を切り裂いて鮮血が溢れる瞬間を見
眼前と鼻先を冷たい刀身が走り抜けて、ついつい目で追ってしまう。
られて〝カクン〟と姿勢を崩した自分の身体が引き倒された。その
小さく悲鳴を挙げそうになる前に刃が迫っていたが、突然膝裏を蹴
!
?
いるっていうのに﹂
〝さっきの人⋮⋮助けてくれた⋮⋮
〟
﹁まったく、なんて常識知らずなのかしら。ここには大勢の避難者が
﹁う、うん⋮⋮ボクは大丈夫、だけど﹂
!?
動を鎮める。死ぬかと思った。
あまりにも一瞬の出来事過ぎて実感がないが、跳ね上がった胸の鼓
?
1052
!
エ ピ ソ ー ド 3 住 所 不 定 二 十 代 男 性 │ │ 職 業 神 様。
逮捕される
仮面の男性が教会から蹴り飛ばされてから周囲を見渡すと、守護女
神達による完全な包囲網が出来ている。その輪の中に放り込まれた
相手の視線は、教会の出入り口に向けられていた。
斬り裂かれた胸から血を流し、それでもつり上がった目尻が怒りの
﹂
形相を表している。ポタポタと血が滴っていた。血に濡れた偃月刀
の切っ先を突きつける。
﹁お互い、年貢の納め時らしいな
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
あの渦は何なんだよ 答えろ
はぁ、とさえため息の聞こえてくるような落胆ぶりに、仮面の男性
は日本刀を手放した。
﹁おい、テメェ等の目的はなんだ
﹂
!
偃月刀を振り上げようとした青年が、鼻を鳴らして立ち止まる。昂
﹂
ぶる魔力の濃厚な気配にホワイトシスターが気づいた。
﹂
﹁なにかする気よ、アイツ
﹁させない⋮⋮
!
年の顔が青ざめていた。
!!
る。その掌には漆黒の闇が生まれていた。
相手はそれよりも速い││だが、上空で反転すると右腕を高く掲げ
撃をすり抜けた。そのまま上昇する仮面の男性を止めようとするが、
る。しかし、相手は破片のような小さな剣を手にすると踊るように攻
それが、一体何を意味するのかを誰よりも先に察知した青年が走
﹁││ぉぉおおおおおおおおっ
﹂
蹴り上げの一撃で砕けた。紫電が走る。〝右腕〟に集まる魔力に、青
それを妨げようと二人で氷山を落とそうとするが、高く振り上げた
!
1053
?
!
﹁コイツぶっ殺してから答えてやる﹂
!
﹁ッ、まさか
﹂
﹁えっ
﹂
此処でシャイニング・インパクト使っちゃうんですか││
その手には白い闇を掲げて。
視界が闇黒に呑まれそうになる瞬間、青年が飛び出す。同じように
!
トが揃って声を張り上げた。
﹃エヌラス、ストーーーーーップッ
!!
﹂
!!
﹁っだぁぁぁーーーーー
逃げられたぁぁぁぁっ テメェ等が邪
!!
しかも見失っちまったし⋮⋮﹂
ターが目を点にしていた。
﹁な、なんて馬鹿力⋮⋮﹂
!
ネプギアちゃんとはどのような関係なのですか
﹂
!
﹁おい、テメェ結局のところ私の質問に答えてねぇじゃねぇか
﹁そうですわ
!
﹂
レーターが出来上がる。大きく亀裂の入った地面に、ブラックシス
ようのない怒りを地面に拳という形で振り下ろすと、一瞬にしてク
当の相手はと言うと、怒り心頭といった様子で喚いていた。ぶつけ
よッ
魔さえしてなけりゃあの野郎を此処で仕留められるはずだったんだ
!!!!
しむような視線を向けるだけである。
し、パープルハートとパープルシスター、ブラックハートの三人は訝
守護女神達に囲まれ、それぞれから武器を向けられていた。しか
な風貌に身元が一切不明の怪しい青年。
きていた渦は消失した。結局残ったのは││跳ねた黒髪に凶悪そう
あれから間もなくして仮面を付けた相手は飛び去り、海上の空にで
られ、街にも一部被害が出ているほど。
場の飾り付けは戦闘の余波でこれでもかと破壊され、教会の扉は蹴破
プラネテューヌの会場は、燦々たる有様だった。用意されていた会
う雲すら消滅させる熱量の衝突によって閉幕となる。
そして、その日││超次元ゲイムギョウ界感謝セレモニーは空を覆
﹁止めたら死んじまうだろうがぁ
﹄
パープルシスターが驚愕する声に、パープルハートとブラックハー
!?
!!
1054
!?
﹁オイ
﹂
そういうのは後にしろよ
﹂
﹁どこまでお付き合いしている関係なのです、貴方は
﹁オイ、ベール
﹁ルウィーの守護女神、ホワイトハートだ
﹂
覚えなくてもいいぜ﹂
﹁さっきから人に質問ばっかのお前は誰だよ﹂
ターが姉の背中に隠れる。
曲げて睨みつけると、その凶悪な風貌と態度も相まってホワイトシス
ガリガリと機嫌を損ねたのか頭を掻いていた青年が口をへの字に
!
まだ追いつけるかもしんねぇだろうが
﹂
﹂
!
ハートの二人。
﹁離せよ
﹁人違いです
﹂
歩き去ろうとする青年を捕まえたのは、ブラックハートとパープル
いかけ回すつもりだから此処に長居するつもりはねぇよ、じゃあな﹂
﹁ああそうかよ。悪いが俺はさっきの仮面を付けた野郎を死ぬまで追
!
﹂
﹁あの、私達のこと忘れちゃってるんですか⋮⋮
﹂
﹁土 下 座 強 制 し て も 文 句 言 わ れ な い レ ベ ル の 暴 言 じ ゃ ね ぇ か な そ れ
凶悪犯罪みたいな顔の人
﹂
だって他にいないもの、人を殺して回ってる歩く
﹁エヌラス。貴方でしょ
﹁いいえ、そういうわけにはいかないわ﹂
!
﹁絶対にウソよ
!
?
!
!
〟
しばらく見つめ合っていたが、目を逸らす相手に、確信のようなもの
を持っていた。
〝エヌラスさん、わたし達のことを思い出してくれたんだ⋮⋮
間違えてんだよ﹂
﹁アダルトゲイムギョウ界のエヌラスとよ。違うかしら
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ほら見なさい。否定出来ないくせに﹂
﹂
﹁⋮⋮だから、人違いだし、俺はお前達のことを知らない。どこの誰と
!
ブラックハートが女神化を解除したのを皮切りに、他の全員も女神
?
1055
!
!
!
女神化を解除したネプギアが、青年││エヌラスの前に詰め寄る。
?
!?
化を解除した。その中でエヌラスだけは変神を解除せずにいる。
﹂
﹁ネプギアちゃんは、この方を知っているみたいですが⋮⋮﹂
﹁はい
﹂
この見るからに犯罪者は﹂
介するわね﹂
﹁彼氏ですの
?
﹂
?
スの妹だった。あれの、義姉⋮⋮
﹂
!!
﹂
わ た し も エ ヌ ラ ス と 感 動 の 再 会 シ ー ン あ る
差し置いて、どうして二人が恋人オーラ全開なのさー
ず る い
ワール
!
!
﹁ガーンッ ここに来てまさかわたしのシリアスブレイカーが裏目
﹁いや、お前の今の一言で完全に空気ぶち壊しだわ⋮⋮﹂
!
!
いーじゃん
じゃん
!
せこいよノ
﹁ちょっとちょっとちょっとー 主人公=ヒロインであるわたしを
な﹂
﹁メチャクチャ時間掛かったけどな。傷跡までは治せなかった、悪い
﹁左目。治ったのね﹂
いている。
ノワールが小さく微笑んだ。その下で閉じられているはずの目が開
変神を解除したエヌラスは、肩を落とす。左目に走る刀傷を見て、
﹁はぁ⋮⋮テメェ等といると調子狂うぜ⋮⋮わぁったよ、クソが﹂
﹁ガーン
﹁今お前、俺との結婚フラグ全部へし折ったからな﹂
﹁これと血縁関係だけはご遠慮願いたいわ⋮⋮﹂
?
兄妹││その一言に、ノワールが思い出すのは高笑いをするエヌラ
﹁兄妹とか
﹂
﹁そっか、ブランとベールは初対面よね⋮⋮じゃあコレに代わって紹
﹁犯罪者なのね⋮⋮﹂
﹁否定したいが否定できねぇ⋮⋮﹂
の
﹁ノワールもこの人のこと知っているみたいだけれど⋮⋮一体何者な
わね
﹁私には見せたこと無い、屈託のない笑み⋮⋮ますます気になります
!
?
!
!
1056
?
﹂
泣かないもん
ちょっとくらいは手加減して
に出るとは⋮⋮でも私はめげない くじけない
ねー
﹁うわうるせぇ﹂
﹁ごめん、やっぱ泣きそう⋮⋮もー
もいいじゃん﹂
﹁はんっ、す る わ け ねぇ﹂
﹂
!
﹁え、えーっと。改めて紹介するわね。ブラン、ベール。この人はアダ
が説明を始める。
頭を軽く叩いた。置いてけぼりのブランやベールに慌ててノワール
泣きつくネプテューヌを鬱陶しそうに引き離しながら、エヌラスは
﹁うわぁーん
!
ルトゲイムギョウ界のエヌラスよ。神格者と言って、まぁわたし達守
﹂
って⋮⋮﹂
?
護女神みたいな人なの﹂
それで
﹁まぁ、そうでしたか。それで
﹁えっ
?
﹂
?
とに様子を見に来ていた。
﹁コホン。よろしいでしょうか
?
﹁へ
なにが
﹂
﹁では、早速でしょうがよろしいですか
﹁はい﹂
﹂
﹁いーすん。この人はエヌラス、よろしくね﹂
ルと申します﹂
﹁初めまして。私はプラネテューヌの教祖を務めている、イストワー
﹁あ、いーすん﹂
﹂
ワールが咳払いを一つ挟む。アイエフ達も騒動が収束しつつあるこ
ブランもにやりと笑って問い詰めようとしていた。そこにイスト
﹁そうね。そこはわたしも気になってたわ⋮⋮﹂
﹁う、うわぁ⋮⋮ベールの顔が笑顔なのに凄く寒気がするよぉ⋮⋮﹂
いみたいですが、三人はどういった関係なのでしょうか
﹁ネプギアちゃんだけじゃなくて、ネプテューヌやノワールとも親し
?
﹁アイエフさん﹂
?
?
1057
!!
!
!
?
ガチャン。エヌラスの両手にはめられる手錠。
﹂
﹁え
﹁⋮⋮まぁ、そうなるよな﹂
﹃えぇぇぇぇぇぇーーーーー
﹄
﹁器物破損に領土侵犯に加えてその他諸々の罪状で逮捕ね﹂
﹂
﹁ん
?
としていた。
﹁な、なななななんで
なんでさアイちゃん
﹂
!?
﹁エヌラスも
﹂
貴方も女神なんだから、和やか
なんでアナタそんなに冷静なのよ
﹂
﹁いや、とっ捕まるの慣れてるしな﹂
﹁さ、流石犯罪王は格が違った⋮⋮
﹂
﹂
そ の 辺 も 詳 し く 聞 か せ て も ら う わ
﹁なんで慣れてるのですかこの方
﹁て い う か 犯 罪 王 っ て な に よ
エヌラス。二十代男性。職業、神様。
﹁か、仮にも世界を救った神様が牢屋からスタートって⋮⋮
﹁んじゃちょっと牢屋にぶち込まれてくる﹂
よ。ほら、歩きなさい﹂
!
牢屋にぶち込まれてゲイムギョウ界での生活がスタートした││。
!
!?
な会話と空気に入る前にしょっ引いときなさいよ﹂
?
!?
!
とっ捕まえるに決まってるでしょ
﹁はぁ⋮⋮あのね、普通はこんな被害をセレモニーで叩きだされたら
!?
恐ろしく冷静にエヌラスは自分の両手を拘束する手枷に視線を落
!!!?
?
1058
?
エピソード4 牢屋暮らしの犯罪王
式典の開催から数日││プラネテューヌでは復興作業が超スピー
ドで進められ、既に街は元通りとなっている。いつになく全力で働い
た国民の中にはハァドラインの姿があった。国境警備隊であるB2
AMの構成員達は元は採掘や建築用として開発されたロボットがメ
イン。その為か裏方での仕事はお手の物、まさに縁の下の力持ち。
ネプテューヌ達はというと、一時解散はしたものの留置所に拘束さ
れているエヌラスに面会しようと集まっていた。当の相手も特に抵
﹂
抗することなく、おとなしく連行されて今日まで何の問題も起こして
いない。
﹁ねぇ、あいちゃん。エヌラスの様子はどうなの
﹁一応警察と連絡は取って逐一確認してるけれども⋮⋮﹂
なんとも歯切れが悪い。アイエフを先頭に、プラネテューヌの留置
所へ到着すると女神が勢揃いという光景に勤務していた職員が思わ
﹂
ず直立不動で固まった。
﹁どうかしたんですか
﹁何度か起こそうとはしたみたいだけど、結界張って寝てるらしいの
よ﹂
﹁一体どれだけ寝たいのよ⋮⋮﹂
この数日、ずっと寝ているという報告が続いてアイエフもため息し
か出てこない。﹁今日こそは。いやもしかしたら次こそは﹂と連絡す
る度に警察側から﹁寝ています。とても気持ちよさそうに﹂という返
答が続くと、さすがに仕事へのモチベーションも下がる。
﹁もうあの犯罪者⋮⋮犯罪王だったかしら。寝たきりにしとけばいい
﹂
じゃない。どうしてそんなに入れ込むのよ。わたし達の立場として
は犯罪組織に連なる連中を放置しておくわけにはいかないのよ
﹁あいちゃんの言うことは正論なんだけど⋮⋮うーん、どう言えばい
?
1059
?
﹁剛毅というか、剛胆というか⋮⋮なんとも気楽な方ですわね﹂
﹁⋮⋮爆睡してるらしいわ﹂
?
いのかなぁ⋮⋮﹂
﹁えっと、わたし達で釈放というわけにはいきませんか
ね﹂
犯罪王
﹂
﹂
﹁大丈夫よ。寝返り打ってたみたいだし。ほらー、起きなさいそこの
﹁死んでないわよね﹂
動きしない。
檻を軽く揺らしてみる。ガシャガシャと音を立ててみるが、相手は身
で片付けられるような相手ではないが。それはさておき、アイエフが
ブランの例えに全員が納得してしまった。猛獣などというレベル
﹁動物園の猛獣を見に来たら眠っていたみたいな心境よ、今⋮⋮﹂
﹁寝てますわね⋮⋮﹂
﹁寝てますね⋮⋮﹂
という牢屋に辿り着いた。無機質な部屋には簡易ベッドだけ。
さりげに失礼な事を考えつつも、一行はエヌラスが拘束されている
〝エヌラスさんに温厚な振る舞いは期待するだけダメかな⋮⋮〟
﹁まぁいいわ。相手の出方次第でこっちの対応も変えるから﹂
﹁怪しいですわ⋮⋮﹂
﹁怪しい⋮⋮﹂
憶。顔を赤くしながら必死に否定する姿にユニからジッと睨まれる。
││脳裏に蘇るのは、いやんばかんいちゃこらうっふんな桃色の記
﹁ち、ちちち違います
別にそういうわけ││﹂
﹁ネ プ ギ ア ま で ど う し た の よ。ま さ か 惚 れ 込 ん だ と か じ ゃ な い わ よ
?
﹁起きなさいよ、エヌラス﹂
ノワールが呼びかけるも、モソモソと薄手のシーツをかぶって動か
ない。
﹁起きませんわね、あのロリコンの方││﹂
バゴォン
!!
1060
!
﹁完全に寝太郎と化してますね﹂
反応無し。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
!
銃声。いや、砲声に等しい発砲音が響く。いつの間にかエヌラスの
手には硝煙を漂わせる凶悪な外観のレイジングブル・マキシカスタム
﹂
なんで俺銃持ってんだ⋮⋮
﹂
が握られていた。ちなみに銃弾はベールの頭数センチ上を通過して
壁に弾痕を残している。
﹁⋮⋮││ん、あー⋮⋮あれ
﹁無意識レベルで銃ぶっ放すとか危険すぎませんか
?
テューヌ達に気づいた。
?
﹂
いる。
﹁あー⋮⋮それで、全員揃って俺になんの用だ
け寝てた﹂
﹁⋮⋮戦闘狂
﹂
﹁基本的に四六時中ぶっ続けで戦闘してる﹂
﹁あなた、普段どういう生活してるのよ⋮⋮﹂
ぶって寝たの﹂
ていうか俺、どんだ
﹁意 外 に 寝 心 地 よ く て な ー。久 々 だ わ、屋 根 の あ る 場 所 で シ ー ツ か
﹁ざっと五日くらいね。どう、寝起きの気分は﹂
?
大あくびをかみ殺しながらエヌラスは邪魔そうに手錠を鳴らして
没収できなかったの﹂
﹁武器を持っているのは確かなんだけど、全身調べても反応がなくて
て
はなくグロ方面に閲覧注意出てましたわよ、あんまりな扱いではなく
﹁というか、武器を没収してなかったのですか
今、私の頭がエロで
首 を 傾 げ て い る。全 身 の 骨 を 慣 ら し て 立 ち 上 が る と、そ こ で ネ プ
ようやく起きた。まだ寝ぼけている様子だが、左手に持った愛銃に
!?
?
﹁えっと、アイエフさん。ものすごく言い難いことなんですけれど﹂
つろぐ犯罪者は初めてだわ⋮⋮﹂
﹁今まで多くの犯罪組織を相手にしてきたけれど、ここまで牢屋でく
ヌラスにほとほと呆れていた。
ぐぅ∼。腹の虫が鳴るものの、アイエフはあまりに緊張感のないエ
減った⋮⋮﹂
﹁そ ん な ん だ か ら 睡 眠 時 間 も 削 り に 削 ら れ て な ⋮⋮ ふ あ ∼ あ ⋮⋮ 腹
?
1061
!
﹁なに、ネプギア﹂
﹁⋮⋮エヌラスさんに拘束とかしても多分、意味無いです⋮⋮﹂
まさかそんなはずはない。何を言っているのかとエヌラスを見れ
ば、結界を解除したのかガラスの砕ける音がしたと思った瞬間には見
えない壁のようなものが消えた。手錠を見下ろして呼吸を整える。
﹁││ハッ﹂
﹂
﹂
小さく息を吐きながら氣を込めて、手錠の鎖を引きちぎった。
﹁ウソォッ
﹁思ったより硬かったな⋮⋮﹂
﹁な、なんでそんな簡単に壊せるのに捕まってたのアナタ
留置所は
﹁いや、だってなぁ⋮⋮無料で寝床提供してくれたら俺が逃げる理由
なくなっちまうし﹂
﹂
﹂
﹁貴方自分が捕まってるってこと忘れてないでしょうね
宿じゃないのよ
﹂
﹁ベッドと屋根があったら俺にとっては宿なんだよ
﹁普段どれだけ貧相な生活送ってるのこの男
﹂
!
?
はいかないわよ。下手な真似はしないことね﹂
﹁いや、留置所で銃ぶっ放した時点でもう⋮⋮なぁ
?
罪の意識はあるらしい。
﹁とにかく、面倒事なら手短に頼むぜ
腹減って死にそうだ⋮⋮﹂
ハァ⋮⋮、重苦しいため息をついてエヌラスは肩を落とす。一応、
んやらかしてるしな⋮⋮﹂
それにあんな
﹁そ、そうだったわ。危うくペースに呑まれるところだったけど、そう
﹁とにかく、起きた以上は事情聴取が最優先ではなくて
!?
!
!?
﹁とはいえ、一銭も持ってねぇぞ俺﹂
﹁ご飯食べないと話にならないわね⋮⋮﹂
﹁五日も寝たきりだったらそりゃあお腹も空くよねぇ﹂
きっと聞き間違いだ。
こ え て き て は い け な い よ う な 音 も 混 じ っ て い た よ う な 気 が す る が、
││果たして今のは本当に腹から出てきた音なのか。明らかに聞
ぐぅ∼きゅるるるいあふんむるいふたぐぅん⋮⋮。
?
1062
!?
!?
免許証は
﹂
?
﹂
﹁⋮⋮身分証明書とか、身元を保証する物、ないの
﹁ねぇな﹂
﹁ほ、ほらバイク持ってるじゃない
?
じゃあなんでバイクの形してるのよ
なのであって、免許証なんていらない﹂
﹁まさか無免許だったの
﹂
﹂
!
テューヌとノワールに拘束され、その背後にネプギア。そしてその一
側 も 納 得 せ ざ る を 得 な か っ た。不 満 も な い。が っ ち り 両 脇 を ネ プ
が一にでも不慮の事態が起きたら即座に対応するということで警察
結局。エヌラスの身柄は四女神が拘束するという形で仮釈放。万
﹂
﹁あれは厳密に言うと﹃大型自動二輪の形をした半無機物魔導生命体﹄
!
﹁もしかしなくてもバカでしょアナタぁぁぁっ
﹁⋮⋮カッコいいだろ
!?
歩後ろをユニ、ベール、ブラン、ロムラムという順番で続いていた。
1063
!
?
エピソード5 ほわいぷらとにっくぴーぽー
﹂
﹁ここはプラネテューヌよ﹂
﹁今更
﹁そういや、ここどこなんだ
﹂
スにネプテューヌが自慢気な顔をしている。
プラネテューヌの街並みを見渡して、物珍しそうにしているエヌラ
?
﹁ふっふーん、ドヤァ⋮⋮﹂
﹁いや、なんでお前が胸を張ってるんだ
わたし=プ
な、なに言ってるのさエヌラス プラネテューヌは女
?
!
神パープルハート=わたしが治めている国なんだよ
﹁ズコー
﹂
引っ付いているネプテューヌに視線を落とした。
先頭を歩いていたアイエフが答えると、意外そうな表情で左腕に
?
い
﹂
﹂
﹂
﹁あ、ごめんノワール。っていうかそれなら先に歩けばいいんじゃな
にくいじゃない﹂
﹁ああもう、あんまりそっちに引っ張らないでよネプテューヌ。歩き
ら歩いていた。
がくっつく。それにムッとした表情でノワールが腕を引っ張りなが
今の今まで忘れていたかのような言い草にますますネプテューヌ
﹁ヒドッ
﹁ああ、そういやお前女神だったな﹂
んだよ
ラネテューヌって言っても過言じゃないくらいプラトニックな国な
!?
!
!?
﹁逃げも隠れもしねぇから腕離せよお前ら⋮⋮﹂
一番被害を受けているエヌラスの言葉に耳を貸す者はいつものよ
うにこの場にはいない。火花を散らすネプテューヌとノワールに挟
まれて、助けを求めるように視線を後ろに向けるとネプギアと目が
合 っ た。助 け て く れ、と い う 声 な き 声 に 応 え て、ネ プ ギ ア は ネ プ
テューヌの手を取る。
1064
!?
!
﹁そういうあなたこそ﹂
?
﹁お姉ちゃん﹂
﹁ん、どしたの
﹂
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
ネプギア。あ、そっか。せっかく再会出来たんだし
﹁今はGC2015よ﹂
﹁⋮⋮そういや今何年だ
﹂
れだけ経ったと思ってるのさ﹂
﹁む。なにその、会いたくなかったーみたいな言い方
あれからど
﹁まさか暴れた場所がお前の国だとは、ツイてねぇな⋮⋮﹂
周辺の被害を改めて見て││深い溜息を吐く。
エヌラスが見上げる先にはプラネテューヌの教会があった。その
ましょう﹂
﹁わたしね。その辺はおいおい聞かせてもらうから、今は教会に行き
﹁俺に手錠かけたのも確か﹂
テューヌの諜報機関に所属しているの﹂
﹁あ あ、自 己 紹 介 が ま だ だ っ た わ ね。わ た し は ア イ エ フ。プ ラ ネ
﹁悪い⋮⋮えーっと﹂
﹁さっきから後ろでイチャついてないで早く着いてきなさいよ﹂
一瞬悲鳴が聞こえたがキコエナーイ。
ネ プ テ ュ ー ヌ が エ ヌ ラ ス の 首 に 手 を 回 し て 背 後 か ら 飛 び つ い た。
﹁ぐえっ
﹁うーん、そういうことならわたしはそーだなー⋮⋮てやっ
﹁えっ
ネプギアもくっつきたいよね﹂
?
!
ンパが昼食の用意をしていた。
ネプテューヌとネプギアの主な生活スペースではイストワールとコ
教会に到着してから、最上階へと移動する。女神の執務室、もとい
﹁⋮⋮たった二年しか経ってねぇのか、こっちで﹂
遠い目をして、その歳月を噛みしめる。
﹁そうか﹂
﹁アナタと別れてから大体二年くらい経ってるんだけど﹂
?
1065
!?
!
?
﹁お待ちしておりました、みなさん﹂
﹁ただいま、いーすん﹂
﹁ええ、おかえりなさい。ネプテューヌさん、ネプギアさん。それにみ
なさんも、ようこそいらっしゃいました﹂
馴染みのある顔は各々行動するが、イストワールはエヌラスの背中
﹂
﹂
にくっついているネプテューヌを見て頬を膨らませる。
くっついてるんだけど
﹁ネプテューヌさん。そこで何をしているんですか
﹁え
?
させた人でしょ
﹂
﹁分かってるよ。プラネテューヌだけでなく、ゲイムギョウ界を震撼
﹁それは見れば分かります。ですがその人は﹂
?
﹃超次元国民感謝セレモニーの最中、突如
﹃ゲイムギョウ界に現る謎の人物、四女神の活躍に
より逮捕﹄⋮⋮えーっと
﹁どれどれ⋮⋮
﹁どの国でも一面記事を飾っていましたよ。こちらです﹂
報がない。
尋ねた。自分は即刻牢屋送りとなって爆睡していたのでまったく情
降りるネプテューヌの言葉に、エヌラスはあの後どうなったのかを
?
?
﹂
﹂
疑問に思っていたんですが、その方
﹁ア ダ ル ト、ゲ イ ム ギ ョ ウ 界 ⋮⋮
⋮⋮﹂
聞 い た こ と は あ り ま す け れ ど
面識があるもなにも、エヌラスはわたし達と一緒にアダルト
?
?
ゲイムギョウ界を救った仲間だよ﹂
﹁え
と面識があるのですか
﹁ですから、ネプテューヌさん
嫌がるわけでもなく、人懐っこいとはいえ限度がある。
と、それにイストワールが首を傾げていた。特に抵抗するわけでも、
記事から目を離さずにネプテューヌの頭をワシャワシャと撫でる
﹁ああうん、悪かった﹂
﹁大変だったんだからね
た人物は依然行方不明﹄﹂
ものの、四女神とその候補生達の活躍により逮捕となる。仮面を付け
大量のモンスターと謎の人物がプラネテューヌで破壊活動を行った
?
!
?
1066
?
?
﹁知ってるの、いーすん
﹂
﹁知ってるもなにも。大昔にゲイムギョウ界から滅んだはずでは
その世界を救った、というのは││少々信じがたいです﹂
﹂
何処でその名前を
﹁でもでも、大いなる〝C〟は││﹂
﹁大いなる⋮⋮〝C〟
﹂
?
きゅるん。
﹂
﹁⋮⋮まずはご飯と、お風呂ですね﹂
﹁風呂
﹁そのような格好で平然と歩かれていたんですか
というより、ネ
よろしくな、という言葉の代わりに空気を読まない腹の音。ぐぅ
﹁俺はエヌラス。聞いての通り、アダルトゲイムギョウ界の住人だ﹂
ております﹂
自己紹介を。私はイストワール。プラネテューヌの教祖を務めさせ
﹁⋮⋮⋮⋮これは、詳しく聞かせてもらう必要がありますね。改めて
﹁アダルトゲイムギョウ界だよー
﹂
しー大陸とR18アイランドという場所がありますけれど﹂
きていて、ゲイムギョウ界から突然姿を消したんです。まぁ今はぴー
﹁どういうことも何も、言葉通りです。その界隈では諍いが絶えず起
﹁ど、どどどういうこといーすん
││言葉を失った。それにエヌラスは視線を逸らす。
イストワールの言葉に、ネプテューヌも、ネプギアも、ノワールも
?
!
﹁うーん、割りとエヌラスってこういう人だし。これより酷い時だっ
てあったし﹂
言われて、自分の格好を見直す。確かに汗臭い。服も戦闘続きで汚
れ、イストワールの言う通りだった。ネプギアに一言二言伝えると、
すぐに頷いて浴室に向かっていく。
﹁まずは身だしなみを整えてください﹂
﹁俺、替えの服持ってきてないんだけどな⋮⋮﹂
﹁お風呂に入っている間に洗濯と乾燥させておきますので﹂
﹁一文無しです﹂
1067
!?
!
?
プテューヌさんもよく平気な顔でくっついていましたね﹂
?
?
﹂
﹁お代はいりません。あくまでも厚意として受け取ってください﹂
﹁⋮⋮な、なんか企んでたりしないよな
どうぞ﹂
が未知なる恐怖を覚えて震えている。⋮⋮なお、幼女には刺激の強い
ちょっと形容しがたい笑みを浮かべている二人の顔に、ロムとラム
﹁まるで獲物を狙う肉食獣みたい⋮⋮﹂
﹁ふ、ふえぇ⋮⋮お姉ちゃんとベールさんが怖い顔してるよぉ⋮⋮﹂
﹁ええ。それには激しく同意いたしますわ、ブラン﹂
﹁││でも、良い身体してそうだわ﹂
﹁四六時中戦闘していたというのは、あながち嘘ではないようですね﹂
﹁⋮⋮一体、どういう生き方をしていればあんな風になるのかしら﹂
配していた。
ネプギアに案内されて浴室に向かっていった後、妙な沈黙が場を支
﹁悪い、気にしないでくれ﹂
ヌラスも気づいたのかコートで隠す。
黒いシャツから覗く腕に傷跡が見えた。思わずそれに目を取られ、エ
羽織っていた黒のロングコートを脱ぐと、その下に着ていた半袖の
﹁ああ⋮⋮そういうことなら﹂
たか
﹁ありがとうございます、ネプギアさん。では、エヌラスさん⋮⋮でし
﹁いーすんさん、お風呂の準備できました﹂
憫に思えて仕方ない。
た。そんなエヌラスの姿を知っているネプテューヌとノワールは不
他人の親切と好意を受け取ったが最後、死ぬほどこき使われてき
なもんで⋮⋮﹂
﹁すまない。ちょっとそういう生活と身の回りにそういう相手ばかり
﹁どうしてそう、人の親切を素直に受け取れないんですか⋮⋮﹂
?
﹂
世界がブランとベールの脳内に繰り広げられていた。
﹂
﹁胸が熱くなりますわ
﹁抉れちまえッ
!
は切実な叫びだった。
ガッツポーズをするベールに、思わずブランが叫んでしまう。それ
!!
1068
?
エ ピ ソ ー ド 6 食 う 寝 る 遊 ぶ の 三 大 原 則 に 則 っ た 人
生こそ至宝
浴室でシャワーを浴びて一通り身体を洗い終えたエヌラスが出て
くる頃には、既に全員は昼食を食べ終えてゆっくりしている。
肩にタオルを掛けて、黒シャツ一枚を着てジーンズを穿いた水も滴
るいい男が一人。
﹁ハァー、生き返った。ありがとな﹂
﹁いえ、気にしないでください。お食事の方も取ってありますので、ど
うぞ﹂
﹁なんかもうホント申し訳ねぇ気持ちでいっぱいだわ⋮⋮﹂
テーブルの上に取り分けられていたエヌラスの分の食事は温め直
﹂
してコンパが持ってきた。手を合わせてから、口に運ぶ。
﹁わたしの手作りです∼。おいしいですか
﹁素直に美味しい。久々にまともな食事をした気がする⋮⋮そうだよ
な、人間の食事って本来はこういう物なんだよな⋮⋮何もかもが懐か
しい⋮⋮﹂
﹁ホントどういう食生活してたのよ⋮⋮﹂
﹁飯時に話せる内容じゃねぇからまた今度な﹂
﹁何食って生きてんのよ、この男は﹂
ジロリとアイエフの視線がネプテューヌとネプギアに向けられる
が、二人は揃って目を逸らした。本当に普段なにを食べて生きている
のだろうか⋮⋮。アイエフは好奇心がそそられると共に、それを聞い
てはいけない気がした。
﹁││ごちそうさまでした﹂
﹁お粗末さまですぅ。じゃあ食器下げちゃいますね﹂
﹁ん、あぁ⋮⋮悪い﹂
自分が後片付けをしようかとも思ったが、目の前に出されたお茶に
足を止められる。
﹁さて、それでは。改めて││エヌラスさん。あなたの事を聞かせて
1069
?
いただいてもよろしいでしょうか﹂
この見るからに
﹁そうね⋮⋮ネプテューヌやノワールとの関係も気になるし﹂
﹁私のネプギアちゃんもですわ﹂
何よりも今は
﹁あの、ですから私はベールさんのじゃ⋮⋮﹂
﹁こまけぇこたぁいいのですわ
﹂
ロ││﹂
﹁ロ〟
!
い人﹄だからだ。なにせ初対面で変神後の姿を見てしまっている。そ
控えめな自己紹介は、エヌラスの第一印象が﹃とんでもなく恐ろし
﹁わたしはラムよ﹂
﹁あの⋮⋮女神候補生のロムです⋮⋮﹂
﹁ええ。こっちはわたしの妹達﹂
﹁ああ、斧振り回してた白い方か﹂
ウィーの守護女神、ブランよ﹂
﹁な ら こ ち ら も 改 め て 自 己 紹 介 さ せ て も ら う わ ね ⋮⋮ わ た し は ル
わない﹂
〝一応〟神格者だ。こっちでいうところの女神だと思ってくれて構
﹁まぁ自己紹介は今更だとは思うが⋮⋮俺はエヌラス。こんなんでも
序立てて整理する。
ズズ⋮⋮、出されたお茶が冷めない内に空にしてからエヌラスは順
﹁分かったから質問は一回ずつにしてくれ﹂
﹁それに、大いなる〝C〟という言葉についても﹂
﹁そうね﹂
なったのか﹂
﹁わ た し も 気 に な る な ぁ。あ の 後 の ア ダ ル ト ゲ イ ム ギ ョ ウ 界 が ど う
のは再三に渡って身を持って味わっていた。
冷や汗をダラダラと流しながら顔を背ける。ロリコン禁句である
﹁││ろ、狼藉者⋮⋮﹂
感した。
一瞬、エヌラスの目が殺意を交えた眼光を光らせてベールが死を直
!
れに苦虫を噛み潰したような渋い表情をしていたエヌラスがちょっ
1070
?
と傷ついていたりしていた。
﹁私はリーンボックスの守護女神、ベールですわ﹂
﹁今後とも宜しく﹂
﹁ええ。よろしくお願いしますわ﹂
﹂
﹁エヌラス。私の妹を紹介するわね。ほらユニ、自己紹介してないで
しょ
﹂
﹁そうだ、コンパ。あなたも自己紹介しておいた方がいいんじゃない
コンパが戻ってくると、そこでようやく全員が揃う。
れた﹂
﹁よろしくな、ユニ。むしろ俺のほうが数えきれないくらいに助けら
になったみたいで﹂
﹁ラステイションの女神候補生、ユニです。⋮⋮お姉ちゃんがお世話
?
﹁あ、すっかり忘れてたですぅ。初めまして、わたしはコンパですぅ。
よろしくです、えぬえぬ﹂
﹂
﹁さっきの昼飯は美味かった。よろしくな││って、えぬえぬってな
んだ
﹂
?
﹁いーすんはセロンについて何か知ってるの
﹂
﹁││それはもう、並の者が相手できる次元ではありませんね﹂
ている、まぁ門番みてぇな相手だ﹂
﹁大いなる〝C〟ってのは、セロンって奴だな。次元の境界に存在し
﹁なるほど、そうなのですか。では次に、大いなる〝C〟については﹂
隔離された状態だな﹂
﹁正確には、あらゆる次元からの観測がされない状況下だ。つまりは
﹁と、言いますと
│滅んだって言うのは少し語弊がある﹂
﹁ああ、分かってる。まずは、アダルトゲイムギョウ界についてだが│
﹁それでは皆さんお揃いのようなので﹂
なんとも気が抜ける相手に、エヌラスが苦笑いを浮かべていた。
﹁そ、そうか⋮⋮﹂
﹁エヌラスですから、えぬえぬですぅ﹂
?
?
1071
?
﹁知ってるも何も、格付けで言うなら女神よりも上ですよ
﹁極限状態って燃えね
﹂
﹁続けてもよろしいですか
﹁⋮⋮今は、何とかうまくやってる﹂
﹁歯切れが悪いようですが、何か不都合でも
﹁まー、その⋮⋮なんというか⋮⋮﹂
﹂
視線を彷徨わせて、エヌラスは言葉を探している。
﹁あの、仮面を付けた人物と関連のあることなのでしょうか
﹁アレは一体、何だったの
﹂
けを取らない程の実力を持っていた。
国が女
いる。大勢のモンスターを引き連れ、守護女神を二人相手にしても引
たのはエヌラスだけではない。それよりも先に仮面を付けた人物が
イストワールの助け舟に乗ることにした。セレモニーの最中、現れ
﹁⋮⋮そうなるな﹂
﹂
﹁では、現状のアダルトゲイムギョウ界についてお聞かせください﹂
ネプテューヌと違って軌道修正が早かった。
脱 線 し そ う に な る 話 題 に 先 手 を 打 っ て 封 殺 す る 様 は さ す が 教 祖。
﹁あっはい﹂
﹂
﹁そうなのよね⋮⋮色々とギリギリだったわ﹂
﹁九分九厘消滅してたけどな﹂
が滅ぶ直前だったし﹂
﹁あの時はわたし達も必死だったんだよー。アダルトゲイムギョウ界
﹁そのような次元神を相手にするなんて何を考えてるんですか﹂
ている。なお住所不定無職︵前科持ち︶の模様。
そのセロンを左ストレートでぶん殴った大馬鹿野郎がそこに座っ
﹁⋮⋮改めて考えると、わたし達ってとんでもないことしてたのね﹂
を生み出す神なのですから﹂
神を生み出すのと同じように、その規模は段違いです。世界そのもの
?
?
?
!?
﹁⋮⋮その、まぁなんだ。邪神だ﹂
﹁そんなサラッと言われても困るんだけど
﹂
﹁うんうん。メチャクチャ強かったんだけど﹂
?
1072
?
?
邪神と言われても様々だ。とりあえず、漠然と悪い神様という認識
しか浮かばない。
﹁アダルトゲイムギョウ界が今のところうまくやれてた時に、突然あ
の野郎がやってきてな。神格者総出で相手して、逃げようとしてたか
ら死ぬまで徹底的に追い詰めてた﹂
〝あの〟神格者達が総出でやってくる。その光景を思い浮かべた
顔から血の気引いてるけど﹂
ネプテューヌとネプギア、ノワールが顔面蒼白となっていた。
﹁大丈夫
﹁だ、大丈夫だよ、あいちゃん﹂
﹁あんなん全員同時相手とか裸足で逃げ出すわよ⋮⋮﹂
﹁俺とアイツが戦ってるうちに色んな次元を飛び回っててな。まぁ軽
﹂
﹂
く二つ三つくらい滅ぼしたような気がしないでもないが││﹂
﹂
﹁それもうアンタも邪神と大差ないじゃない
﹁仕方ねぇだろ逃げるんだから
⋮⋮妙な沈黙が訪れる。
﹁味方がいないんだから手加減するわけがねぇ﹂
﹁全責任を邪神に押しつけても、もうちょっとやり方ないの
!?
あの邪神は結局なんなの
旧神だ。敵対する理由なんてそれだけで十分だ﹂
﹁あれはアダルトゲイムギョウ界を滅ぼしにきた邪神だ。俺は仮にも
?
継いだニューゲームを。
﹁そ、それで
﹁知らん﹂
﹂
界を正しく導こうと一人で戦い続けてきた。自分だけが記憶を引き
ゲイムギョウ界で過ごしてきたが、エヌラスはアダルトゲイムギョウ
ことはネプテューヌにも容易に想像できた。自分達は二年の歳月を
腕の傷跡も、恐らくはその服の下も傷跡だらけになっているだろう
飽きた﹂
﹁それどころか、俺以外は全員記憶ないからな。﹁初めまして﹂は聞き
ラスだけなんだっけ⋮⋮﹂
﹁そっか。アダルトゲイムギョウ界で次元を移動できるのって、エヌ
?
!
﹁知らないのに戦ってたの⋮⋮﹂
?
1073
?
神
エルダー・ゴッド
﹁⋮⋮旧
﹂
﹁それって、どんなかみさまなの
﹂
﹂
﹁そうだなー。邪神が〝わるいかみさま〟なら、旧神は〝いいかみさ
ま〟だな﹂
﹁牢屋送りにされましたのに
なるならオッケー
﹂
どうぞ﹂
﹁じゃあ、次。いいかしら
﹂
﹁なんか腑に落ちないけど、わたしのお陰でその場の空気が賑やかに
てから﹁まぁそういう神様もいるよな﹂ということで落ち着いた。
るかという視線がエヌラスに突き刺さっていたが、ネプテューヌを見
しかも世界を軽くぶっ壊している。お前のような神様がいてたま
﹁⋮⋮俺は庶民派な旧神なんだよ﹂
﹁神様の威厳、欠片もないわ⋮⋮﹂
?
﹂
?
﹂
﹁ん、ああ。それは普段、魔力に変換してるからだな﹂
なかったの。それはどうして
﹁警察に引き渡す時、武器を没収しようと思ったのに検査には反応が
﹁アイエフさん
?
!
﹁持ってる武器、全部出してもらえる
﹁別にいいが⋮⋮﹂
?
1074
?
?
?
エピソード7 姉のDVDよりも時代はブルーレイ
││その場にいた全員が、絶句していた。
アイエフが予想していたのは、歪んだ刃の偃月刀と拳銃くらいだろ
うと。
だが今、エヌラスが立ち上がって持っている武器を〝全部〟出した
ところ⋮⋮。
﹁よっ、と﹂
常時魔力変換された武装を次から次へと取り出す。
まずは、無銘の倭刀。レイジングブル・マキシカスタム。これはネ
プテューヌも見慣れていた。
次に、深紅の自動式拳銃。更に、白銀の回転式拳銃。これもまぁ予
想していた。
撃鉄の付いた日本刀。更には二メートルはあろう野太刀。カタン、
1075
ゴトッ。テーブルに立てかけられるのを見てノワールもまぁ何とか
頷く。見覚えがある。
﹁よいしょ﹂
﹂
次に、破片のような小剣が二本。あまり馴染みのない形にネプギア
が疑問符を浮かべた。
﹁あれ、エヌラスさん。そんな武器持ってました
隠れていた剣が
次から次へと武器を取り出すエヌラスに、イストワールも、言い出
﹃⋮⋮⋮⋮﹄
で移動にも使えると説明しておく。
更に、青いソード。刀身がエネルギーワイヤーによって伸縮するの
る。先端が鎖で伸縮する。
取り出すのは、赤いハルバード。石突に小さな鎌の刃が付いてい
﹁あー、とは⋮⋮これか﹂
並べるとネプギアがポカンとしていた。
無数に生えて手裏剣のような投擲武器となる。そのままテーブルに
その小剣を二つ組み合わせると││バシャン
﹁ん、ああ。使う機会があまりなくてな。これはな、こうなるんだ﹂
?
!
しっぺのアイエフも目を点にしていた。まだ出てくる。
﹁ハンティングホラー﹂
パチン、と指を鳴らせば自らの影から出てくるのは一台の大型二
輪。一度は壊れたはずの愛車は幾度と無く戦いを繰り返す合間に修
繕されて新車となっている。そのサドルを軽く叩いて紹介した。
﹁俺の愛車だ。見てくれはバイクだが、中身は生きてる。変身機能も
あるが、まぁそれは追々﹂
そして、ポケットを探って取り出すのは見慣れない携帯電話。タッ
チパネル式の奇妙なデザインをした電話にはアイエフも首を傾げる。
﹁携帯⋮⋮にしてはちょっと変わってるわね﹂
﹁ああ、コレはD│Phoneだな﹂
﹁どうせまともな携帯じゃないんでしょうけど﹂
﹁当然。熱源感知すると自動でアプリケーション開いて防御してくれ
る││んだが、バッテリー食うから普段はただの電話だな﹂
だよね﹂
﹂
非常識極まりない武装の山にはベール達も興味津々と言った感じ
である。
﹁すごいわね⋮⋮これ、全部使うの
﹁場合によるな﹂
?
﹂
1076
なんで携帯に防御機能が付いているんだ。
﹁後は、こいつか﹂
炎が眼前に浮かび、その中に手を突っ込むと〝鍛え上げた〟偃月刀
﹂
が出てくる。熱を持った刀身を軽く冷ましてからテーブルに立てか
けた。
﹁なぁ、まだ必要か
﹂
!
﹁あいちゃん、常識人だからこういうことされるとちょっと堪えそう
﹁おう⋮⋮涙目になられても困る﹂
しが悪かったからこれ以上はもう出さなくていいから
﹁もういいわ⋮⋮ごめんなさい、もういいわ。軽率なこと言ったわた
?
﹁ですけど、これ全部しまうの大変そうですね﹂
﹁うんにゃ
?
﹂
エヌラスが指を鳴らすと、今まで取り出した武器の全てが淡い光の
粒子となって魔力に還元された。
﹁とまぁ、こんな感じだ﹂
﹁ですけど、それでは魔力が足りなくなるのでは
な﹂
どこに
﹁ほぼ不死身じゃない﹂
﹁ただし死ぬほどイテェぞ﹂
﹁││ですが、身体のどこにそのようなものが
﹂
臓だ。最悪片方潰れても再生できるようにしてある﹂
﹁俺は心臓が二つあってな。片方は生身の心臓、もう片方が魔力の心
叩く。
という問いを投げかける視線に、エヌラスは左胸を軽く
﹁それについては問題ない。俺の方で無限の魔力貯蔵庫持ってるから
?
鋭 く 光 る 野 獣 の 眼 光。寒 気 さ え 覚 え る 視 線 に ノ ワ ー ル と ネ プ
﹁是 非 お 願 い し ま す わ﹂
﹁⋮⋮まぁ、その、脱げば一目で分かるだろうが﹂
?
ええ
テューヌがドン引きだった。ただ、エヌラスは全員の顔を一度見渡
す。
﹁わ、わたしは別にいいけど⋮⋮﹂
﹁わたしもですぅ⋮⋮﹂
﹂
﹁ベールさんが望むなら、構いませんけれど﹂
﹁⋮⋮まぁ、見せてもらえるなら﹂
﹁どんなのかな⋮⋮わくわく﹂
﹁たのしみー﹂
﹂
?
眼の色変えて手を叩くな
﹁ちょ、ちょっとだけならいいですよね
﹂
さぁ
﹁なんだこの羞恥プレイ
﹁さぁ。さぁ、早く
﹂
﹁ちょっと待てなんだこの女神
い迫るな
!
!!
!?
﹁私の目ではなく胸を見て話してくださいませんこと
﹂
エヌラスが押しのけようとするが、ベールはそれを防いだ。
!
!
?
1077
?
!
﹂
﹁何言ってんだこの女神様⋮⋮ 生憎こちとらでけぇ胸は見慣れて
んだよ⋮⋮
﹂
﹁でかいだけの胸など邪道ですわ
﹂
私のより上ですの⋮⋮
﹁知・る・か・よ
!?
形、ハリの良さ、それらを含めて
!!
ぶっ潰すぞテメェ
﹂
!!
けた。
?
に見たいなぁなんて思ってたり⋮⋮
﹂
!
?
﹁ほ ん と う に 大 丈 夫 か こ の 世 界 の 女 神
﹂
マ ジ で こ ん な ん ば っ か か
﹁えー、だってだって。エヌラスの身体、いい身体してるから久しぶり
﹁お前もかネプテューヌ﹂
しが返ってきていた。
だろ何とかしろよ、というエヌラスの目には頬を赤らめて期待の眼差
助けを乞うような視線がネプテューヌに投げられる。お前が女神
﹁なんで俺、プラネテューヌの教会で脱がなきゃならないんだ⋮⋮
﹂
も、エヌラスは鬱陶しそうに振りほどいてベールをネプギアに押しつ
ヌラスの背後に回り、羽交い締めにする。豊満なバストが当てられる
に穴でも開けんばかりの勢いで振り上げていた。素早くベールがエ
遂にはブランがブチ切れる。その手には戦鎚が握られて教会の床
よッ
﹁あのね││いいから乳繰り合ってねぇでとっとと脱げっつってんだ
!
!
!
﹁良くねぇよ
﹁わぁ⋮⋮﹂
﹂
ムとユニの女神候補生達は純粋に感心している。
かに魔力が感じられた。それに食い入るように見入っていたロムラ
トントンと左胸の紋章を叩く。魔術で刻印されたその刺青には、確
﹁⋮⋮ほれ、これでいいんだろ﹂
少し頬が赤い。
口をへの字に曲げて、見知らぬ女性の前で脱ぐのは気恥ずかしいのか
ブランに脅されて、結局エヌラスは残っていた黒シャツを脱いだ。
!?
1078
!!
﹁いい加減脱がねぇとテメェの脳髄が教会の染みになるぞ、いいのか﹂
!!
﹁綺麗⋮⋮ねぇねぇ、触ってみてもいい
﹁ん、まぁ少しくらいなら⋮⋮﹂
﹁そういうことでしたら遠慮無く⋮⋮﹂
﹂
﹂
﹁人の背後に回ってベタベタ触ってるベールを誰か引き剥がしてくれ
?
﹁ハイハイ、ちょっと暴走し過ぎなのよアナタ﹂
﹁あぁ∼酷いですわノワール∼⋮⋮﹂
﹂
﹂
小さな手が無尽蔵の魔力貯蔵庫、〝銀鍵守護器官〟に触れた。
﹂
えっと、わたしも⋮⋮
﹁お姉ちゃんも触ってみたら
﹁えっ⋮⋮
﹁⋮⋮ちょっとだけよ﹂
﹁減るもんじゃないしな、いいぞ﹂
﹁エヌラスさんもいいって言ってるんだし。ね
?
?
﹁それー﹂
﹁きゃふっ││
﹂
なラムが立つと││。
に慣れていないせいか、慎重に手を伸ばしている背後にイタズラ好き
ブランがエヌラスの前に立って、手を伸ばす。男性の肌に触れるの
?
?
﹁⋮⋮││∼∼∼∼
﹂
なにしやがんだ、ラム
﹁アハハー、お姉ちゃん顔真っ赤っかー
﹂
!
れていた。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ブラン
?
﹁やはりロリコンなのですか⋮⋮
﹂
﹁ちょっと静かにして⋮⋮今いいところなの﹂
﹁あのー、ブランさーん。もしもーし﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
間近で見る男性の裸体に興味があったのか物珍しそうに少しずつ触
慌てて離れると、妹に向かって怒声を飛ばす。とはいえ、ブランも
!
!!
に体勢が崩れて、胸の中に顔を埋める形となった。
その背中を押した。エヌラスの銀鍵守護器官を注視していただけ
!
?
1079
!
﹁俺をそんな哀れむような目で見んじゃねぇよベール
ろ﹂
ルがひっつく。
﹁あら、まだ私が触ってないですわ
﹂
!?
していた。
﹁コンパは、その⋮⋮平気なの
男の人の裸とか﹂
﹁はいですぅ。お仕事で見慣れてますから﹂
﹁そういえばそうだったわね﹂
﹂
もういいだ
﹂
イストワール様
わ、わたしはその、あんまり、かしら⋮⋮
﹁あいちゃんはえぬえぬの裸に興味あるです
﹁ヘッ
﹁そーなのですかぁ﹂
﹂
﹁⋮⋮コンパがいるし﹂
﹁なにか言ったです
あ、そうだ
せっかく
!
がらコンパを盗み見ると、いつものようにあっけらかんとした表情を
女神と戯れる姿を遠巻きに見ていたアイエフが少し頬を赤くしな
﹁大人の時間にはまだ早いからな
﹂
ブランから逃げるようにエヌラスは黒いシャツを手にするが、ベー
!!
?
?
?
﹂
!
なに慌てて
﹂
﹁別に構いませんけれど⋮⋮どうしたのですか、アイエフさん。そん
インの調査結果を報告させてもらってもいいでしょうか
ですしエヌラスにもこの世界の現状を把握してもらう為にハァドラ
﹁な、なんでもないわ
?
!
﹂
﹄
!?
﹁エヌラス⋮⋮貴方には失望したわ。せっかくの再会だというのに私
﹃なんでーーーー
か、お互いに引かない。
スとパープルハートが取っ組み合っている。ふたりの力は互角なの
イストワールがネプテューヌ達に視線を戻すと││何故かエヌラ
﹁そうですね。ではみなさん、もうそのあたりで⋮⋮﹂
思って
いても話しておきたいところですし、こういうのは早い方が良いと
﹁ぷ、プラネテューヌ近辺で活動しているハァドライン、B2AMにつ
?
1080
?
!
?
!
にはお触り厳禁だなんて⋮⋮
﹂
﹂
﹁だからって女神化するほどかよお前はよぉ⋮⋮
﹁ちょっとくらいいいじゃない⋮⋮
﹂
﹂
﹁その〝ちょっと〟が信用ならねぇんだよお前は⋮⋮
﹁ちょっと、全身まさぐるくらいはいいじゃない
﹂
﹁それはちょっとと言わないんだよこの野郎がぁぁぁぁっ
﹂
この後、イストワールにメチャクチャ怒られた二人はアイエフの話
が終わるまで正座待機という罰を受ける。
1081
!!
!!
!
!!
!
!
﹂
エピソード8 女神﹀国民﹀犬﹀旧神
﹁それじゃいいかしら、ネプ子
﹁う、うーん。なんでわたしまで正座させられるんだろ⋮⋮﹂
その辺
最前列にエヌラスとネプテューヌ。その後ろにイストワールが待
機している。
﹁エヌラスはゲイムギョウ界に来るのは初めてなんでしょ
も踏まえて教えてあげるわ﹂
﹁ご丁寧にどうも﹂
﹁ハァドライン
﹂
﹁それで、今はハァドラインと呼ばれる組織が活動しているの﹂
脳裏に地図を描きながらアイエフの説明に耳を傾けていた。
にはラステイション﹂
位置してるわ。北方にはルウィー、南方はリーンボックス。そして東
﹁まずは此処、プラネテューヌなんだけど⋮⋮ゲイムギョウ界の西に
?
﹁なるほど⋮⋮〝超〟女神信仰ってことか﹂
﹁ええ、まぁそういうこと。そのせいか、自国以外の女神に対して攻撃
的なのが多いわ。そんな連中ばかりだから主な活動場所は国境付近
なの。それで、プラネテューヌの国境近辺で活動しているハァドライ
ン││﹃B2AM﹄という組織について調査した結果報告なんだけど﹂
そこで一度アイエフは区切り、エヌラスの表情を窺う。真面目に話
を聞いているのか、正座で待機しているのに比べて⋮⋮ネプテューヌ
と来たらあくびを漏らしている。
﹁うーん、ご飯食べたばっかで眠くなってきたなぁ⋮⋮﹂
しっかりしなさいよ﹂
﹁ちょっとネプ子。この中で一番真面目に話を聞かなきゃいけないの
アンタでしょ
﹁えー、だってエヌラスに説明するためじゃーん﹂
﹁はぁ⋮⋮﹂
﹁続けてくれ﹂
1082
?
﹁基本的には、女神信仰の狂信者ね﹂
?
?
﹁ええ、そうさせてもらうわ﹂
思いの外、真剣に話を聞いてくれているエヌラスを見直しながら手
元の資料に目を落とした。
﹁現在は国境警備隊として主に活動しているみたいよ。中には採掘や
土木建築業、まぁ裏方で活動しているのがほとんど。そのごく一部に
﹂
ついてはまだ明らかになっていない点も多数﹂
﹁ただの民間企業じゃないんですか
﹁ええ。〝現在は〟ね。昔の経歴を洗ったら、次から次へと出てくる
のよ。黒い噂というか、怪しい点が山程ね。違法採掘や資源の強奪、
それだけじゃないわ。他国からの移住者を拒絶したり、攻撃したり│
│っていうのが過去の活動内容ね﹂
﹁よく捕まらなかったな、そいつら﹂
﹁なんというか、動きが良いというか惚れ惚れするくらいの引き際よ。
しかもそれが、信仰心からの行動なんだから女神としてはやりにくい
ことこの上ないでしょうね。やり過ぎなのは否めないけど﹂
﹁そうだな﹂
﹁それで、構成員についても調べたんだけども││現在はほぼ中身は
入れ替わってるみたいだわ。過去に所属していたメンバーは大半が
戦死か行方知れず。唯一、確認できたのは⋮⋮シロトラ。例の白い機
体だけだわ﹂
﹂
つまり、古株として存在しているのは実質ひとりということにな
る。
﹁その、シロトラさんはどういった方なんですか
きてるわ﹂
?
強襲部門、重火力部門、狙撃部門、支援部門ね。その下に国境警備隊
﹁内部構成に関しては、全責任者がシロトラ。四つの部門があるの。
﹁そのB2AMって組織。どんな構成になってるんだ
﹂
ばれた辺りからね。それから教導隊として活動しているのが確認で
らが国境警備隊として活動を始めたのが、ちょうど││友好条約が結
プラネテューヌに国籍はないし、出自不明その他諸々も謎だらけ。彼
﹁ロボット││なんだけど、妙な点が多いわ。製造会社に登録なし。
?
1083
?
の某部隊、って感じね。と言っても、昔の体制からほとんど変わって
ないから名前が物騒なだけよ﹂
ふんふん、とエヌラスは頷いていた。プラネテューヌの国境付近で
活動するハァドラインはまだ穏やかな方だ。特に、ここ最近は無償で
モンスター退治を引き受けていたりするらしい。
﹁プラネテューヌのハァドライン、ってことは││﹂
﹁お察しの通り、ラステイションとリーンボックスの二つにも存在す
るわ﹂
﹁ルウィーではハァドラインの活動は確認できてないわ⋮⋮﹂
﹂
﹁そ う み た い ね。ハ ァ ド ラ イ ン に つ い て は 一 通 り 調 べ た け れ ど、ル
ウィーだけはシロね﹂
﹁ホワイトハートだけに
﹁面白くないわ、ネプテューヌ﹂
うまいことを言ったつもりだったが、ブランの冷めた視線にネプ
テューヌは肩を落とす。
﹁ラステイション、リーンボックスのハァドライン。アームドソウル
スについてなんだけど﹂
ノワールとベールに視線を向けると、二人もその存在については
知っているらしい。だが、今日まで放っておいたので詳しい情報は
持っていなかった。エヌラスも新たな組織に眉を寄せている。
一体いつから
﹂
﹁このアームドソウルスという組織は、国家を超えて合併しているみ
たい﹂
﹁そうなの
?
クスの企業が手を組んだからごちゃ混ぜみたいよ
﹁ロボに人権を与えれば問題ありませんわ﹂
﹁ロボット三大原則は大丈夫なんだろうな﹂
﹂
だったみたいだわ。リーンボックス在籍の軍用人型ロボット﹂
﹁そ の 企 業 連 盟 の 責 任 者 が、プ レ ジ レ ン ト。元 々 こ う い っ た 事 業 家
うのも珍しい話じゃないわ﹂
﹁まぁ、ラステイションはなんといっても交易が盛んだもの。そうい
?
1084
?
﹁いつの間にか、って感じ。ラステイションの合併企業とリーンボッ
?
﹁さりげに怖いこと言ってねぇかそれ﹂
﹁ふふ、リーンボックスではロボットでも罪を犯せば即刻裁判沙汰に
なりますわ﹂
笑顔で言うベールに寒気さえ覚えた。
﹁続けるわよ。ラステイション側の企業連盟代表はプレジレントにC
EOの席を譲って退職してるみたい。今はラステイションの地下重
工業会社に務めているのも調査済みよ﹂
﹂
﹁ね ぇ、ア イ エ フ。そ の 調 査 結 果 に、ナ イ ル ス と J.O ⋮⋮ ジ ョ ッ
シュって名前は載ってる
﹂
?
﹂
み合っているみたいよ。片や二大国家の大企業連盟。片や国境警備
﹁と、まぁ││大体こんな感じかしら。実質二つのハァドラインが睨
﹁お願いね。こっちでも調べてみるわ﹂
きたら報告させてもらいますね﹂
﹁その名前は載っていませんね。こちらでまた改めて調査して、出て
﹁ナイルスについては
で指揮を執っている、現場監督といった感じかと﹂
﹁プレジレントの右腕、まぁ副官といった立場みたいです。主に現場
﹁そう、そのロボット﹂
もしかすると、ジャックって人ですか
﹁ちょっと待ってもらえますか⋮⋮えーっと⋮⋮載っていませんね。
?
プラネテューヌで暴れられたら堪んないよ
﹂
隊。戦 力 差 は 歴 然 ね。だ け ど、不 思 議 な 事 に 両 陣 営 は 大 人 し い の よ
ね﹂
﹁そりゃそーだよ
﹁ゴフッ││﹂
!
治している女神の口で言われては大ダメージだ。しかも思いがけな
い再会で、来た直後にやらかした事もあってできれば触れてほしくな
かった事を唐突に言われたものだから瀕死になっている。それに気
づいたネプテューヌは、悪びれもなく笑っていた。
﹁あ、ゴメンゴメン。そうだよね、エヌラスって周りのもの壊さずには
戦えないもんね﹂
1085
?
エヌラスがダウン。人知れず気に掛けていた事を、よりによって統
!
﹂
﹁お姉ちゃん、それってフォローになってないから⋮⋮﹂
﹁あの、大丈夫ですかエヌラスさん⋮⋮
﹁土に還りたい⋮⋮﹂
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮
﹂
﹂
﹁アイエフさん、お疲れ様です。さて、それでは││﹂
﹁わたしからは以上です、イストワール様﹂
る。
せよ飛行能力を持たない彼らにとっては地形という敵が立ちはだか
場所はリーンボックスとラステイション。山越えにせよ海を渡るに
うってつけの場所と言える。とはいえアームドソウルスの主な活動
場所で言うならば、シロトラの機動性能を活かす為に市街地戦は
ンに繋がるってことで変な動きは控えてるみたいだけど﹂
じゃ済まないからってことらしいわ。向こうも会社のイメージダウ
に手出しが出来ないって。それに今は国境警備隊。手を出せばタダ
﹁シロトラよ。アレの実力だけはずば抜けてて高いから、相手も下手
すか
﹁それで、どうしてその両陣営が睨み合っている状態が続いてるんで
見てて可哀想になってくる。
﹁いや、そういうわけにもいかないでしょ⋮⋮﹂
ちゃん﹂
夫。ちょっと放置したら快復するから気にしなくてもいいよ、アイ
﹁エヌラス、わたし達からの攻撃にはめっぽう弱いからね。でも大丈
﹁⋮⋮ネプ子。この人のメンタル大丈夫
?
?
た。
﹁この人の扱いをどうするか、ですね﹂
?
﹁こういう場合って大抵は﹂
教会で面倒見ようと思うんだけどいいかな
!
﹂
﹁ダメです﹂
ワール様
﹁ネ プ 子 の こ と だ か ら そ う 言 う と 思 っ て た わ。ど う し ま す、イ ス ト
﹁ハイハイハーイ
﹂
視線が殺到するのは、この中にいるイレギュラー。エヌラスだっ
?
?
1086
?
﹁まさかの受け入れ拒否
なんでさいーすん
﹂
!
いですか
﹂
いるのでしょう
それを追うのがエヌラスさんの仕事なのではな
﹁話が本当なら、例の取り逃がした邪神は今もどこかで悪事を働いて
!?
﹁⋮⋮見失っている、ということですか
﹂
﹁残念ながら手がかりはないんだなこれが﹂
?
﹂
?
﹂
?
﹂
!!
てその場に倒れる。
﹁あ、足がぁぁぁ⋮⋮うぉぉぉ⋮⋮
﹁⋮⋮うわぁ、情けない﹂
﹂
!
ちゃんと面倒見るから
﹁ねぇいーすん、お願い
﹁ダメです﹂
﹁お願いだからー
!
もう⋮⋮﹂
?
﹂
﹁う⋮⋮頭では理解していても、心が⋮⋮﹂
それに、プリンは一個。わかりましたか
﹂
﹂
ネプテューヌさん、ゲームは一日一時間までですからね。
﹁やったー
﹁はぁ⋮⋮分かりました。そこまで言うのなら﹂
並の扱いなのはどうなのだろう。
姿勢には非常にありがたいのだが、その扱いが捨てられていたペット
イストワールを説得しようとしているネプテューヌとネプギアの
﹁女神のお仕事も、ちゃんとやりますから﹂
﹁ネプギアさんまで
﹁いーすんさん、わたしからもお願いします﹂
きちんとできていないじゃありませんか﹂
﹁ダメなものはダメです。大体、ネプテューヌさんは女神のお仕事も
!
躍らせるのも束の間、エヌラスが立ち上がろうとするが││足が痺れ
これ以上ゲイムギョウ界にいても迷惑を掛けるだけだ。再会に心
﹁⋮⋮ダメか
﹁じゃあ、アダルトゲイムギョウ界に帰っちゃうんですか⋮⋮
かと言って俺が長居していると、アイツが来るかも知れんしな﹂
﹁面目丸潰れだ。何処に行ったのか分からない以上、お手上げ状態。
?
?
﹁ただし
!
1087
?
!
そこは歩合制で
﹂
﹁俺はゲームとプリンで揺らぐ程度なのか⋮⋮﹂
﹁ぐ、ぐぬぬぬぬぬぅ⋮⋮
﹁わおん⋮⋮﹂
は扱ってあげるから﹂
﹁⋮⋮エヌラス。捨てられたらラステイションに来なさい。人並みに
強調して、イストワールはニッコリと笑った。
日から〝も〟女神のお仕事頑張ってくださいね﹂
﹁それで妥協しましょう。ではネプテューヌさん、ネプギアさん。明
!
もはや、アダルトゲイムギョウ界を救った神様に人間としての尊厳
など欠片もなかった。
犬扱いである。
1088
!!
エピソード9 プラネテューヌのはたらくロボット
﹁さーて、それじゃせっかくみんな集まったんだし││﹂
気を取り直してネプテューヌが元気に立ち上がった。エヌラスと
違って足が痺れて動けないということはないらしい。
四女神が集まり、女神候補生達も集まっている。ゲイムギョウ界の
エヌラスはちょっと真面目なネプテューヌ
平和を守る為の女神一同が集まっているということは女神会議とか
でもするのだろうか
﹂
││遊ぶのかよ
エヌラスのツッコミに、アイエフは諦めたよう
総ツッコミに困ったような笑みを見せた。
﹃それはダメでしょ﹄
ら﹂
﹁な に を ー わ た し だ っ て や り 過 ぎ て 式 典 の 日 に 寝 坊 し た ん だ か
﹁ふふ、わたくしのやりこみを甘くみてもらっては困りますわ﹂
﹁ルウィーの女神の実力、見せてあげるわ﹂
﹁ええ、いいわよ。今度は負けないんだから﹂
﹁遊ぼっか
⋮⋮⋮⋮ゲーム機
の姿を目で追うが、ゲーム機の電源を入れている。
?
?
イ ス ト ワ ー ル な ら そ う 思 い、視 線 を 向 け る
!
﹁どうにかって⋮⋮﹂
﹁⋮⋮頼むアイエフ、俺をこの空間からどうにか出してくれ﹂
るぞ俺は詳しいんだ。
やかしたらまた明日からこうなるんじゃねぇのかこの女神。知って
おいぃそこは止めないのかよ教祖様。今日だけってそんな風に甘
﹁⋮⋮﹂
﹁今日だけですからね﹂
も、教祖様ですら諦めがちにため息ひとつ。
イ ス ト ワ ー ル
て通信プレイを始めている。
に首を振った。女神候補生達も持ち寄った携帯ゲーム機を取り出し
!?
!
1089
!
!
﹁俺の頭がどうにかなりそうだ⋮⋮﹂
﹁ま、まぁこういう感じだからどうにか慣れなさい﹂
﹁平和過ぎて俺の脳みそがおかしくなる﹂
﹁⋮⋮アンタ、本当に人並みの生活してないのね﹂
﹁起きる。戦う。飯。寝る。俺の生活なんてそれの繰り返しだ。失敗
したらやり直す﹂
﹁失礼かもしれないけど、まるで戦う為に生きてるみたいね﹂
﹁そうする以外、何してりゃいいのか分からねぇからな﹂
﹁││││﹂
エヌラスとアイエフの話を聞いていたネプテューヌとノワールの
手が思わず止まる。
﹂
﹂
﹁隙だらけよ、ノワール﹂
﹁あ、ちょっと
﹂
﹁がら空きですわよ
﹁ねぷっ
いる。だが、アイエフと一緒となれば何かしらの関係者として見られ
て使われていた。本来であれば関係者以外の立ち入りは禁じられて
プラネタワー。プラネテューヌの教会であり、周囲は公務の場とし
を背けて、エヌラスはアイエフに付いて行く。
発売されたばかりのゲームを楽しそうにやっている四女神から目
﹁ああ﹂
﹁なにかあったらすぐに連絡します。それじゃ、行きましょうか﹂
﹁はい。お願いしますね、アイエフさん﹂
﹁決まりね。イストワール様﹂
﹁それはいい﹂
あげるけど﹂
﹁そうね⋮⋮じゃあ、わたしで良かったらプラネテューヌを案内して
ていた。
そこからどうにか持ち直し、バトル・ロワイアル方式の勝負は続い
!
!?
るのか誰も引き止めようとはしなかった。
1090
!?
﹁ねぇ。アダルトゲイムギョウ界ってどういう場所なの
ている限りではかなり物騒な所みたいだけど﹂
やってる﹂
る﹂
﹁でも、エヌラスは邪神を追っていたんでしょ
﹂
話を聞い
規模は大小様々だが、大きく分けてその国々で毎日適当に過ごして
国 家 ア ゴ ウ。〝 地 下 帝 国 〟 九 龍 ア マ ル ガ ム の 四 つ の 国 が あ っ て な。
﹁ああ。商業国家ユノスダスを中心に、電脳国家インタースカイ、軍事
﹁へぇ、そうなの
﹂
﹁⋮⋮ 〝 昔 〟 は な、そ う だ っ た。〝 今 〟 は ど う に か こ う に か う ま く
?
な風だった。それが世界を滅ぼせる程の邪神が相手では、並大抵の精
というような時間ではなく、何日も何週間も、何年も戦ってきたよう
向こうの時間軸がどうなのかは分からない。しかし、それは一日二日
に疲れていた。気の遠くなるような時間を戦い続けてきたのだろう。
アイエフは横を歩くエヌラスの顔を盗み見る。その表情は、明らか
﹁んで、それをどうにかしてたのが俺ってわけだ﹂
﹁冗談で世界一つ滅ぼせるとかキツイわね⋮⋮﹂
が、冗談半分で門を半開きにしたらそんな事になってな﹂
大いなる〝C〟、まぁ次元神セロンって言えばいいか。ソイツなんだ
﹁さっきも話したが、今のアダルトゲイムギョウ界を隔離してるのが
﹁そもそも、なんで邪神がそんなにいるのよ。おかしいじゃない﹂
仮に邪神が来たとしても、相手が地獄を見るだけだ。
等に限って内乱はほぼ無いだろうな⋮⋮﹂
﹁内乱で滅ぶか、邪神の手で滅ぶかのどちらかだろうが。今のあいつ
う。
万が一にでもそうなっていた場合は⋮⋮⋮⋮その時にでも考えよ
でる可能性もあるしな﹂
﹁そのせいで、今はどうなってるのか俺も分からん。下手すりゃ滅ん
?
神力ではない。むしろ五日も寝ていたぐらいで大丈夫なのかと不安
心配してくれてんのか
﹂
?
1091
?
になる視線に気づいたのか、エヌラスがアイエフの顔を見る。
﹁なんだ
?
﹁べ、別にそういうわけじゃないわよ。なんでそんなことしてるのか
疑問に思っただけ﹂
﹁俺はハッピーエンド至上主義者でな。アダルトゲイムギョウ界が平
和になるまで戦い続けるさ﹂
金も無ければ帰る家もない。身元を証明できる物も持っていない。
職業神様とはいえど、そのあんまりな風体にはそれなりの理由があ
る。
﹁庶 民 派 が 聞 い て 呆 れ る わ ね。と っ く に も う そ ん な 次 元 超 越 し て る
じゃない﹂
お金が必要ない。帰る家がないのは戦い続けているから。身元を
保証できるものは必要ない。何故なら誰も悲しまない。自分はただ
﹂
ただ〝人類の守護者〟であり続ける為に。
﹁独りぼっちで寂しくないの
﹁寂しいさ。人肌恋しい時もある。だけどそんな弱音吐いたら最期、
連中につけ込まれて死んじまう﹂
﹁そんな心配はいらないわよ。此処はゲイムギョウ界なんだから﹂
﹁⋮⋮そうだな﹂
ネ プ テ ュ ー ヌ も、ネ プ ギ ア も、ノ ワ ー ル も。ち ゃ ん と 元 の 次 元 に
帰って来て、元気にやっている。その姿を見れただけで満足だ。
﹂
﹁ま、でもそれを言ったら人並みの生活できるくらいになってもらわ
ないとゲイムギョウ界でこの先生きのこれないわよ﹂
﹁最悪野良犬とドッグファイトしてでも生き残る﹂
﹁ヒエラルキーの比較対象が野良犬っていいのこの旧神
プラネテューヌの主な施設を案内していると、B2AMの作業員達
知らないだけアイエフは幸せかもしれない。
飢えたあまりネズミをとっ捕まえて食べる前科持ちであることを
!?
とすれ違う。そこにはレオルドの姿もあった。武装は外しているが、
代わりに資材を背負っている。
﹁あら、レオルドじゃない﹂
⋮⋮そちらの方は
!
︾
1092
?
どうも 自分は現在プラネテューヌの修繕作業
はい
?
︽アイエフさん
中であります
!
!
!
﹁プラネテューヌの会場近辺ぶっ壊した張本人よ。今は教会で身柄を
拘束しているの﹂
︽なるほど。そうなんですね。自分は国境警備隊のレオルドです︾
﹁エヌラスだ。仕事増やして悪い⋮⋮﹂
残業手当出ませんけど
﹂
はい
︾
︽いえいえそんなことは むしろプラネテューヌを仕事の名目で歩
けるので感謝です
﹁それはちょっとどうなのかしら
!
リバリやってます
︾
︾
﹂
自分、こういう作業の方が得意ですんでバ
﹁後どれぐらいで終わりそうなんだ
﹁何事も無ければ、ね⋮⋮﹂
︽何事も無ければ二、三日くらいです
?
︽でもご安心ください
にアイエフは立ち入り調査も必要かと考える。
かった。労働基準法を守ってるのかどうか怪しい国境警備隊の仕事
ちょっとそれに心苦しい思いが浮かぶが、エヌラスは言葉にしな
!
!
︽了解
︾
﹁じゃあレオルド、残りの作業頑張ってね﹂
い。
平和なプラネテューヌに限ってそうそう問題が起きるとは思えな
!
!
腰のブースターは外しているようだ。安全第一のタスキを付けたロ
ボット達はぞろぞろと続く。
﹂
﹁じゃあ、まずはギルドに案内してあげるわ﹂
﹁ギルド
﹂
﹂
?
金の為なら法律ですらガン無視どころか札束で殴りつけてくる商
﹁か、神様って労基法で守れるかしら⋮⋮﹂
﹁十時間ぶっ続けのタダ働きとかな⋮⋮﹂
﹁なんで
﹁トラウマならある﹂
ればいいわ。そっちには無いの
﹁そう。クエストを受ける場所なの。まぁ仕事凱旋所だと思ってくれ
?
!?
1093
!?
!
!
若 干 テ ン シ ョ ン が 上 が っ た レ オ ル ド が 資 材 を 担 い で 走 っ て い く。
!
業国家ユノスダス。その国家運営方針は﹃働かざるもの食うべから
ず﹄であり、職にありつけなければ貧乏人は死ぬしかない。
1094
エピソード10 女は愛嬌、男は度胸。ところがどっ
こい時による
アイエフの案内でプラネテューヌのギルドに来たエヌラスはクエ
ストが張り付けられているボードを眺める。クエストランクによっ
て割り振られているようだが、当然ながら初めて受ける人間がいきな
り高難易度のクエストを受注できるわけもない。
﹂
ここにクエスト出す奴らは﹂
﹁普段から邪神を相手にしているようなら、子供のお使いみたいなも
のだけど﹂
﹁んー、でも困ってるんだろ
﹁そうね。といってもほんの些細なことだったりするわよ
﹁理由はどうでもいいさ。今の俺はパンすら買えないあまりゴミ捨て
場で飢えを凌ぐレベルの財布だからな﹂
﹂
﹁いや、パンぐらい買ってあげるからもうちょっとこう、人間として振
る舞ってもらえない
﹁⋮⋮スライヌ大量発生
﹂
﹂
?
大きな違いは、こちらは街が賑やかであることだ。あちらは九割の
な﹂
﹁いや。プラネテューヌが電脳国家インタースカイに似てると思って
﹁どうしたのよ﹂
れが自分の見知った国であることに納得した。
プラネテューヌの街並みを見ながら歩いていると既視感を覚え、そ
向かう。
特に異論もない。エヌラスとアイエフはギルドを離れて目的地に
なら場所も近いし、いいんじゃないかしら
こんな風に大量発生するの。腐ってもモンスターってことね。これ
﹁ええ。一匹二匹くらいなら別に怖くないんだけど、放置しておくと
?
1095
?
?
﹁そうね。じゃあまずはこの辺でいいかしら﹂
不憫過ぎて涙が出てくる。
?
﹂と一言短く相槌を打った。
無人化が成功している││国民を含めて。それにはアイエフも関心
したのか﹁へぇ
⋮⋮﹂
?
ど﹂
﹁なんだ
﹂
﹁⋮⋮ネプ子達と、どういう関係なわけ
﹂
﹂
いえ誤魔化してしまうとそれはそれで機嫌を損ねてしまいそうでは
イエフ自身がそういったことに厳しそうな印象があるからだ。とは
かにしてしまえば軽蔑不可避なことになるのは目に見えている。ア
さすがというべきかなんというべきか。ただ関係性について明ら
ほしいものね﹂
﹁ええ、そうなのよ。他はどうだか知らないけど、諜報部員舐めないで
﹁そうか
妙に猫なで声なのよ﹂
﹁まずベタベタくっつきすぎだし、次にやたら甘やかしてるし、あと。
ぐぅの音も出ない。
﹁全体的によ﹂
﹁どう怪しいんだ
﹁一緒に世界を救った、にしては随分懐っこいのよね。怪しいわ﹂
﹁え、いや⋮⋮その、なんだ﹂
ない。
ういう、と言われると、それは⋮⋮世界を共に救った仲間としか言え
ダラダラと冷や汗が吹き出す。舌の根が乾き、口が引きつった。ど
﹁││││﹂
﹂
﹁そういうことにしておくわ││それで、もう一つ聞きたいのだけれ
〟の記憶ってことにしといてくれ﹂
﹁それはちょっと説明し難いな。一番分かりやすく例えるなら〝前世
たー、なんて言ってたけども一体いつ行ったのかしら⋮⋮﹂
﹁でもネプ子達は行ったんでしょ
アダルトゲイムギョウ界を救っ
﹁あまりアダルトゲイムギョウ界に来るのはオススメできねぇけどな
﹁そう。ちょっと行ってみたいわね﹂
?
?
1096
?
?
?
ある。
﹂
﹂
﹁⋮⋮ ま さ か、と は 思 う け ど。ネ プ 子 に 手 を 出 し た と か じ ゃ な い で
しょうね
﹁か、仮にそうだとしたら⋮⋮
﹁もっかい牢屋送りか裁判沙汰ね﹂
﹁ちなみに罪状は﹂
﹁不純異性交遊と異常性癖ってことでいいかしら﹂
﹁全く欠片もよろしくねぇんですアイエフ﹂
絶体絶命││エヌラス、プラネテューヌに来て早々に立場が危うい
事になっていた。だがいずれ通らなきゃいけない道。なるべく平静
に努めながらエヌラスは順序立てて道すがらに説明した。
﹁アダルトゲイムギョウ界では、シェアの獲得がちょっと特殊なんだ
⋮⋮﹂
﹁そう﹂
﹂
﹁特に、俺の場合は治めるべき国を持たないから尚更﹂
﹁それで
﹁〝昔〟のアダルトゲイムギョウ界じゃ、変神││トランジションで
きなきゃ話にならないレベルで戦いが起きてた﹂
﹁うんうん﹂
﹁そんな時に出会ったのがネプテューヌなわけだ﹂
この際他の二人は割愛しておく。
﹁ネプギアとノワール様もね﹂
﹂
うん、無理だった。
﹁で
ました﹂
﹂
﹁手を出したのね﹂
﹁はい⋮⋮﹂
﹁合意の上で
﹁⋮⋮なるほどね﹂
﹁はい⋮⋮⋮⋮﹂
?
1097
?
?
?
﹁⋮⋮その、来たばかりのネプテューヌ達も女神化できなくて困って
?
今すぐ地面に穴を掘って誰かが埋葬してくれるんだったらどれほ
どありがたいことか。残念だがここはゲイムギョウ界。エヌラスの
自棄糞に付き合ってくれる気のいいフレンドはいない。その優しさ
が死ぬほど痛い。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
よりによって、ネプ
アイエフは無言で歩いていた。エヌラスもビクビクしながら付い
て行く。
﹁変態﹂
﹁何も言い返せなくて死にたい﹂
だってネプ子よ
!?
ノワール様はともかくとして、あの二人⋮⋮
﹁だってそうでしょ普通
子とネプギアでしょ
!?
えぇ⋮⋮ あの二人に⋮⋮ちょっと信じられないんだけど⋮⋮ほ
!?
﹂
二名ほど。候補生一名。
﹄
!
の三人がエヌラスとの関係を明らかにしてしまったからだ。
不可抗力だよ
!
女神化できないままじゃ生き残れなかったんだ
﹁ほ、ほんとにほんとにやばかったんだってばー
﹁そ、そうなのよ
し﹂
﹂
その原因は言わずもがな、ネプテューヌとノワール。そしてネプギア
プ ラ ネ タ ワ ー 最 上 階 で ガ ラ ス を 割 ら ん ば か り に 響 き 渡 る 大 絶 叫。
﹃どえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ
!!!???
││と、まではいかなくとも同じような状況に陥っている女神が約
し込んで苦しみ悶えたい。
致死量レベルの睡眠薬をありったけ度数の高い薬物で胃袋に落と
﹁俺はもう、ダメかもしれない⋮⋮﹂
んとに
?
間なので確かめるべくもない。
る手段が日の高いうちから幼女に見せるわけにはいかない大人の時
記憶だけがある。という状態なのかも分からないが、それを確かめ
かったことにされてますし﹂
﹁それに、あくまでも〝前世〟のことであって、今は多分⋮⋮その、無
!
1098
?
﹁あ、あわわ⋮⋮わたくしの⋮⋮わたくしの、かわいい⋮⋮ネプギア
ちゃんの純潔が⋮⋮﹂
バタン。
﹁ベールが気絶したんだけど⋮⋮﹂
﹁うるさいからほっときなさいよ、ブラン﹂
﹂
﹁そうね⋮⋮というよりもネプテューヌがわたしより先に経験済みっ
ていうのが気に食わねぇ
だ、大丈夫だよーブラン。エヌラスだったらブランでも
ノワールも
﹂
﹁仕方ないじゃない∼
﹂
大体、女神がそんなんでいいのかよ
特に九龍アマルガムとか
﹂
九龍アマルガムとか
﹂
う、うぅ⋮⋮うにゃあぁーん
﹁あ、あう⋮⋮ごめんなさい﹂
﹁謝られても困るのよー
﹁う、ぅぅ⋮⋮﹂
!
﹂
﹂
なんでいっ
!
ればいいよ
犯罪国家九龍アマルガムとかっ
﹁誰が行くかそんな名前からして超危険な国
うんうん、と頷く他一同。
﹂
なんでよー
﹁ネプギアがぁ∼∼⋮⋮ネプギアが∼⋮⋮
﹁ゆ、ユニちゃんも落ち着いて⋮⋮﹂
﹁落ち着いていられるわけないでしょ
!!
!
!
つもいっつもネプギアばっかりなのよー、もうやだ信じられない
!?
泣きたいくらいだ。
﹁ねぷねぷ、えぬえぬとねぷねぷしてたですか
⋮⋮つまりこれは、ネプテューヌがエッチな女神だったってことね﹂
﹁で も、ね ぷ ね ぷ っ て ち ょ っ と エ ッ チ な 言 葉 に 聞 こ え な く も な い わ
!?
!
﹁わたしの名前をそんな隠語みたいに使わないで
﹂
﹂
泣かれてもネプギアにはどうすることも出来ない。逆にこっちが
!!
!
!!
!
﹁そうまで言うならブランもアダルトゲイムギョウ界に一回行ってみ
なかったんだものぉ
!
わたしだってあんなことになるなんて思わ
﹁それはそれでどうなんだ
ちゃんと手を出すはずだから﹂
﹁ねぷっ
!!
!!
1099
!
!
!
!
!?
﹂
﹁ちがうちがうちがーう えろえろなのはむしろノワールの方だっ
﹂
わたしに振らないでよ
!
おっぱいであんなことやこんなこと⋮⋮し
!!
てばー
﹁のわっ
﹂
﹁だってそうじゃーん
たんでしょ
!
じゃない
﹂
女神として一歩リードした
﹁おっぱいおっぱいうるせぇんだよテメェ等ぁぁぁぁぁぁぁっ
への当て付けか それともなにか
﹂
!
﹁お待ちなさい、ブラン
﹂
﹁うっせぇぞおっぱい代表女神
!
﹂
?
﹂
﹁うわー⋮⋮すっごく嫌な予感する⋮⋮﹂
先を向ける相手はひとりですわ
持つノワールの二人に先を越されたことは悔しいですけれど、その矛
﹁確かに、見た目幼女のネプテューヌ。幅広い層に人気のスタイルを
﹁⋮⋮どういうことだ﹂
で二人に矛先を向けるのは間違いではなくて
﹁それは紛うことなき真実ですわ。痛くも痒くもありませんが、そこ
﹂
チューの具にでもしてしまいそうな勢いだ。
けるブランの手には戦鎚が握られている。今にでも二人を潰してシ
身を寄せあってガタガタブルブルと震える二人を容赦なく睨みつ
﹁あ、あわわわわ⋮⋮﹂
私
﹁そ れ を 言 っ た ら あ な た だ っ て 女 神 化 し て お っ ぱ い お っ ぱ い し て た
!
から調子乗ってんのか、アァン
!!
!!
!
﹁ヒ、ヒィィ⋮⋮ブランがいつにも増してブチギレだよぉ⋮⋮﹂
!?
!
!
1100
!? !
エ ピ ソ ー ド 1 1 犬 よ り 猫 派。猫 よ り 犬 派。わ ん
にゃん大騒動
アイエフとエヌラスの二人は若干気まずい空気のままクエストの
発注場所へ到着した。見渡す限りスライヌの山。ぬらぬら言いなが
ら自由に跳ね回っている。
﹁ここみたいね﹂
﹁綺麗だな、ここ﹂
﹁サクラナミキはいつでもこんな感じよ﹂
﹁年中行楽シーズンだろうな﹂
﹁むしろ逆ね。来れば何時でも見られるから風情もなにもあったもの
じゃないわ﹂
﹁なに
﹂
﹁どんなの想像してたのよ﹂
﹁俺の知っているスライムはこんな風に愛嬌があるやつじゃなくて、
﹂
もっとこう。ゲル状の身体に無数の牙が生えてて地面を這いずりま
わってるようなやつなんだがな﹂
﹁それこそわたしの知ってるスライムと違うんだけど
﹁主食人間﹂
!?
1101
﹁あー⋮⋮確かに、飽きそうだ﹂
﹂
﹁それに、わたし達は遊びに来たんじゃなくてクエストをしに来たの。
分かってる
砲した。
﹁ぬらっ
﹂
左手にレイジングブル・マキシカスタムを握るとスライヌに向けて発
両手にカタールを装備するアイエフと、倭刀を装備するエヌラスは
﹁分かってる。デートじゃねぇんだから真面目にやるさ﹂
?
﹁⋮⋮アイエフ﹂
!
﹁なんか俺が想像していたスライムと違うんだが﹂
?
﹁こわっ
﹂
それに比べればスライヌなど国民的マスコットに等しい愛くるし
さ。これを討伐⋮⋮心が痛む││。
﹂
﹁まぁいいか。雑魚ばかりなら楽するに越したことねぇし。ヒャア我
慢出来ねぇ
﹂
いくら雑魚モンスターと言っても群れの真ん中に飛び込む
﹂
とか自殺行為よ
﹁問題ねぇ
﹂
︶を掴み、地面へ力一杯叩きつけて蹴り飛ばす。弾丸のよ
﹂
!
残り何匹だー
﹂
驚異的な速度でスライヌの群れを討伐していた。
﹁アイエフー
!
う。
﹂
境破壊待ったなし。綺麗な桜が一瞬のうちに焼け野原になってしま
一気に片付ける方法が無いわけではない。しかし、それをやれば環
﹁それな﹂
じゃない
﹁討伐数が多いだけの雑魚中の雑魚なんだからこれぐらいが妥当なん
﹁見渡す限りってお前これ⋮⋮絶対ランク詐欺だろ﹂
ヌラスと合流して背中を合わせる。
目の前の一匹と、振り返りざまに一匹を始末しながらアイエフがエ
!
!
﹁クエストには、見える限りって書いてあるわ、よ
﹂
守護器官から発電される魔力で身体機能を補助しながらエヌラスは
らレイジングブルと倭刀で手短なスライヌ達を撃破していく。銀鍵
一匹を蹴り、反動で更に反対側の一匹を蹴る。踏み越えていきなが
﹁アクセル・ストライク
エヌラスの足は紫電を纏っている。
うな速度で他のスライヌ達を巻き込みながら吹っ飛んで川に落ちた。
頭︵体
﹁ぬらーっ
おうかと見やれば、そこでは爆発が起きていた。
飛びかかるスライヌを両断するアイエフがエヌラスの援護に向か
!?
﹁えっ
はずもなく嬉々としてスライヌの群れに飛び込む。
!
!
!
?
?
1102
!
!?
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁一気に片付けようとか考えてるでしょ﹂
﹁よく分かったな﹂
﹁言っておくけど、一応この辺の植物は文化財に登録されてるから下
﹂
手に壊すと罪状が増えるわよ﹂
﹁善処する
面倒な場所で湧いたものだと思いながら、エヌラスはまだまだ増え
るスライヌの群れに向けて発砲する。眉間を撃ちぬかれて一匹、また
一匹と片付けていたが埒が明かない。
﹁クトゥ││﹂
深紅の自動式拳銃を喚び出そうとして、その破壊力の余波が周囲に
悪影響を与えると容易に想像が出来て、躊躇した。
﹂
﹂
﹁ぬらーっ
﹁おふっ
﹂
﹄
!
﹁のぉぉぉぉぉぉっ
﹃ぬらぬらぬらー
ポヨンとした弾力があるものの顔に来れば衝撃でふらついた。
そ の 隙 を 突 い て ス ラ イ ヌ の 一 匹 が エ ヌ ラ ス の 顔 に 体 当 た り す る。
!
﹁このっ﹂
して││突然、スライヌタワーが爆ぜた。
!
赤い戦斧││ハルバードの先端が突き出されている。
﹁ぬらぬらうっせぇんだよ犬耳生やしたスライム風情が
変神前であっても、キレる時はキレる。
﹂
ヌラスの上に山積みとなっているスライヌに向かって駆け出そうと
地を這うような斬撃で目の前の一匹を片付けてから立ち上がり、エ
﹁ぬらーっ
﹂
足を取られて倒れるアイエフの周囲にはスライヌ。
﹁きゃっ﹂
﹁ぬらん﹂
けようとアイエフが目の前の一匹に背中を向ける。
そこに殺到して飛びかかるスライヌに押し潰されたエヌラスを助
!!?
1103
!
!!
!?
﹂
﹁片っ端から地獄送りにしてやる
おるぁああああ
﹁ぬらぁぁぁぁっ
﹂
貪り尽くせ、夜明けまでー
!
まえるなり腕と足に紫電を纏わせる。
プラネテューヌ限定、スライヌレールガンッ
視線の先には怯えるスライヌの群れ。
﹁喰らいやがれ
﹂
︶したスライヌが涙を流
!!!
﹁超、エキサイティンッ
大丈夫か、アイエフ﹂
して感電したスライヌが消滅して一気に数が減った。
しながら蹴り飛ばされる。群れに合流した直後、放電した電流が四散
?
﹁ぬらぁぁぁぁぁぁぁぁっ
﹂
囲の攻撃に切り替えたエヌラスが地面に突き立てて、手短な一匹を捕
する背中に向けて、先端が鎖に繋がれて蛇のように追い掛けた。広範
回転させて周囲のスライヌ達を一掃する。それでも逃げ出そうと
!
電磁投射砲の弾丸よろしく、帯電︵感電
!?!?
﹂
?
頭痛が痛くなってくる。とはいえ、二人で片付けられるような量の
﹁そういやそうだった﹂
﹁ゲームやってるわよ﹂
は﹂
﹁それにしても、ほんとキリがねぇな。なにやってんだこの国の女神
か大丈夫よ、ちょっと膝をすりむいたくらいかしら
﹁言ってることはふざけてるのに、やってることは真面目ね。なんと
!
﹂
モンスターでもないことは確かだ。
﹂
﹁見つけましたわよ
﹁ん
!
降ってくる。その中心にいたスライヌ達が舞い上がった。その先で
﹂
は、大きく戦斧を担いだ小柄な体躯の女神が待機している。
﹁おらぁぁぁぁっ
緑の女神、グリーンハート。
れ、着地地点の安全を確保した二人の女神が降り立つ。
回転しながら振り回す戦斧によって無防備なスライヌ達が一掃さ
!!
1104
!? !!!
!
上空から聞こえてくる声に視線を向けるより先に、突風と共に槍が
?
白の女神、ホワイトハート。
﹁おふたりとも、どうしたんですか
立ってるんだ
﹂
﹁おだまりなさいこの色情魔
︵あの野郎、後で覚えとけ⋮⋮︶
﹂
﹁ネプテューヌから聞いたぞ。お前死にたいんだってなぁ
!
か わ い い
﹂
妹 で あ る ネ プ ギ ア ち ゃ ん に ま で ッ
ネプテューヌとノワールだけに飽きたらず、わた
﹁いや、待て。誤解だ。別に俺は死にたいわけじゃ﹂
﹂
ネプテューヌ辺りが口を滑らせて関係をバラしたとかそんな感じ。
いうことだろう。
察した。もうその一言で何もかもまるっと察した。つまりは、そう
﹁あっ⋮⋮﹂
﹂
﹁あー、ちょい待ち。なんだ。なんで二人共俺に向かってそんな殺気
モニー開催の日に相手をしたくらいのものだが⋮⋮。
何か恨まれるようなことでもしただろうか。心当たりと言えば、セレ
どうも、手伝いに来てくれたような雰囲気ではないらしい。はて、
﹁だな。巻き込まれても文句言えねーぞ﹂
﹁アイエフさん。下がっていてくださいませ﹂
?
!
青姦ですの
くっ、三次元の男は狼なのですね⋮⋮﹂
人気のないサクラナミキで白昼堂々と行為
に及ぶつもりでしたのね
!
﹁青姦
﹁いや、あの、別にそういうわけじゃ﹂
⋮⋮﹂
﹁そ の 三 人 に 飽 き た ら ず ア イ エ フ と ま で よ ろ し く し て る じ ゃ ね ー か
だがそれを見て、ますます二人の眉がつり上がる。
ア イ エ フ が と ば っ ち り 食 ら っ て も 困 る。エ ヌ ラ ス は 下 が ら せ た。
﹁うん、だろうな。下がっててくれ﹂
⋮⋮﹂
﹁エヌラス。悪いけどこればっかりはアンタに手を貸せそうにないわ
!!!
﹁お黙りなさい
くしの
万死に値しますわ
!
!?
1105
!
?
!
﹁うーん、誤解じゃないし間違いでもないんだが⋮⋮﹂
!!
!
!
﹁ハハッ、言われたい放題﹂
﹂
その命、女神に還しなさい
特にネプギアちゃんの
﹁あ、青姦とかそんなつもりで来たわけじゃなくてわたし達はクエス
トで││﹂
﹁問答無用
純潔を穢した罪
﹁お前さっきからそればかりじゃねぇか⋮⋮﹂
!
グリーンハートの嫉妬の炎に、隣に並び立つホワイトハートですら
呆れ返っていた。
1106
!!
!
エピソード12 よいこのトラウマ製造機
さて、ここですっとぼけた所で火に油。レーシングカーにナイトロ
の よ う な も の。こ の 二 人 を 説 得 と な る と 相 当 に 根 気 が い る だ ろ う。
エヌラスは赤いハルバードを担ぎあげながらどうするか考えるもの
の⋮⋮二人の女神はやる気満々だ。
﹂
﹁セレモニーじゃうやむやになっちまったからな。白黒ハッキリつけ
てやる
ホワイトハートさんはやる気満々で戦斧を構えている。その小さ
な身体のどこにそんな怪力があるのか疑問に思いながら、エヌラスは
ハルバードを向ける。
﹁話し合いってわけにはいかねぇか⋮⋮﹂
﹁当然ですわ。わたくしより弱い殿方にネプギアちゃんを任せられる
﹂
!?
はずがありませんもの﹂
﹂
﹁お前はさっきっからネプギアの何なんだよ
﹁お姉ちゃんですわっ
﹂
!?
いった。
﹁っ∼∼、この馬鹿力め⋮⋮
﹂
イトハートの横殴りの戦斧をまともに防いでエヌラスが吹き飛んで
する。ハルバードでどうにか打ち払いながら防ぐものの、そこへホワ
にか防ぎながら飛び退くと更にグリーンハートが風を纏う槍を射出
氷塊が噴き出してエヌラスを襲う。それを防御障壁を展開してどう
ホワイトハートが入れ替わりざまに戦斧を振り下ろすと、地面から
鎌で続く刺突を払う。しかし、相手はひとりではない。
のリーチも伸びている。穂先で払いのけ、柄を回転させながら石突の
を詰め、槍を突き出した。だが、以前と違って今回はエヌラスの得物
グリーンハートがプロセッサユニットの羽を広げて一気に間合い
﹁それネプテューヌじゃねぇの
!!
﹁アダルトゲイムギョウ界の旧神、ってのも大したことなさそうだな
る。
腕を振りながら痺れを取り、背中を受け止めた桜の木から立ち上が
!
1107
!
﹂
﹁アホ言え。俺が本気出したらゲイムギョウ界なんぞ焼け野原になっ
ちまう﹂
二人の攻撃をうまく避けながら凌いでエヌラスはハルバードから
青いソードへ持ち替える。さっきまでスライヌ達を相手していたか
ら使っていたが、一撃の重いホワイトハートと、リーチが長く一撃離
脱を繰り返すグリーンハートが相手では少々厳しい。
﹁まぁーなんだ。とにかくお前ら二人を倒さなきゃいかんっていうの
はよく分かった⋮⋮﹂
﹂
﹁ようやくやる気になりましたか。あ、いえ、やる気と言ってもそちら
のヤる気ではないのですが﹂
﹁逆に殺意溢れてくるわぁそこの女神⋮⋮
撃に手こずって中々攻勢に出れない。攻めあぐねているエヌラスを
スシミターへ持ち替えたことでどうにか二人の攻撃を防ぐものの、反
赤いハルバード││ヘルサイスキラーから、青いソード││ブルー
!
﹂
嘲笑うかのようにグリーンハートの攻撃は苛烈さを増していく。
﹂
﹁守るのは上手ですのね
﹁そりゃあな
!
﹂
﹂
おとなしくお縄について裁判所へ突き出さ
穂先をエヌラスに向ける。
舌打ちを漏らすホワイトハートに、グリーンハートは殺意混じりの
﹁うまく避けやがって⋮⋮﹂
つくと引き寄せて攻撃を避ける。着地と同時にふたりを見上げた。
ブルースシミターの刀身が解けて鞭のように変化し、桜の幹に巻き
﹁くそったれ
うと二人が飛ぶ。
ションがエヌラスの身体を上空高くに放り上げた。そこへ追撃しよ
がら空きの身体目掛けてホワイトハートと息のあったコンビネー
る。一瞬の隙を見せて、そこへ釣られた相手から一気に距離を離す。
手首を返し、逆手に持ち替えながらグリーンハートの猛攻を防ぎき
!
!
﹁ええいチョロマカと
れなさい
!
!
1108
!
﹁嫌・だ・よッ
誰が裁判所なんぞに行くかぁ
﹂
﹂
﹂
﹂
〝諦めて〟私の槍の餌食になりなさいな
冷静に人の牢屋暮らし年数を数えるな
﹁多分、余罪だけでン十年は固いわよ
﹁そこ
﹁ああ、もう
﹁観念しやがれこの〝ロリコン〟野郎が
ブチッ。聞こえちゃいけない堪忍袋の音。
﹂
そう思った二人とは裏腹に、アイエフが眉を寄
スライヌ達が⋮⋮﹂
?
﹂
﹁エ ン シ ェ ン ト ド ラ ゴ ン が 確 認 で き た わ。こ っ ち に 気 づ い た み た い
がおかしい。手当たり次第に暴れまわっている。
その周囲から小型モンスター達が逃げ惑っている。どうにも様子
いだろう。
来であればこの周辺には確認されないはずのモンスターが現れたせ
大きな翼を広げて桜の花びらを舞い散らせる大型のドラゴン。本
たわ﹂
﹁なるほどね、サクラナミキにスライヌが大量発生した原因がわかっ
思い、アイエフが枝に昇って注視すると││。
が、違う。全部同じ方角に背を向けて逃げ出している。なにか妙だと
女神たちの戦いに恐れをなして逃げ出していたのかと思っていた
﹁あれ
せていた。
覚悟を決めたか
スシミターは魔力に還元されて消えている。
地面に降り立った二人が武器を向けるが、エヌラスの手からブルー
││NGワードを同時に踏み抜かれたエヌラスから表情が消えた。
!
!
!
?
!
なれば、一応はクエスト達成ということだ。とはいえ、その原因と思
わしきエンシェントドラゴンは放っておけない。
グリーンハートとホワイトハートが顔を見合わせて、頷く。一時休
戦。まずは先にモンスター退治からだ││振り向いた二人の間を抜
勝負はまだ﹂
けて背中を向ける姿がひとつ。
﹁あ、おい
!
1109
!!
!!
!
?
スライヌ達はもう四方に散り散りになっていなくなっていた。と
!
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
ちょっと人には見せられないような顔をしていたエヌラスに気圧
されて、ホワイトハートが言葉を詰まらせた。
﹂
﹁テメェ等下がってろ⋮⋮﹂
﹁ひとりで倒す気ですの
﹁死にたきゃ勝手にしろ﹂
それにしては変わった形をしています
カチンと来たグリーンハートだが、その手に浮び上がる五芒星を見
て立ち止まる。
﹁⋮⋮シェア、クリスタル
けど⋮⋮﹂
﹃はい
﹄
上げた。
﹂
ない。だが、目の前でブラッドソウルは腕を掴んで。掴んで││持ち
巨体から繰り出される鉤爪の威力は、女神といえど決して無視でき
肩に担いでエンシェントドラゴンに立ち向かう。
ウルが立っていた。炎の中から鍛え上げた偃月刀を引きずり出すと
とそこにはプロセッサユニットを装着したエヌラス││ブラッドソ
エヌラスの全身が光に包まれる。眩しさに目を細めて、光が収まる
嫌斜めだ。││ 変・ 神 ッ
トランジション
﹁今の俺はぶつけようのない怒りと憎しみとその他諸々の感情でご機
ヌラスは憤怒の形相で応えた。
エンシェントドラゴンが吼える。対敵を見つけた威嚇の咆哮に、エ
?
!!
く打ち上げられたエンシェントドラゴンの姿にそれこそ信じられな
﹄
いといった様子で絶叫する。
﹃はいぃぃぃぃっ
れほどの苦難と困難と死線を越えたかも知らない二人に言われては
言われて言い返せない。こちらの事情を察しているならまだしも、ど
神。半殺しにでもしようものなら絶交待ったなし。加えて好き放題
るにも相手はネプテューヌ達の友人でありゲイムギョウ界の守護女
今のブラッドソウルは、限りなく殺意に満ち溢れていた。傷めつけ
!?
1110
?
三人同時に素っ頓狂な声を上げて、次の瞬間。アッパーカットで高
?
流石にエヌラスと言えどキレる。ブチギレても致し方なし。そんな
ところへ出てきたモンスター。人様に迷惑を掛けるだけの害獣を発
見したらそれはもう、絶好の的だ。
そう、八つ当たりである。紛うことなき八つ当たりである
宙を飛ぶエンシェントドラゴンに向かってブラッドソウルが偃月
刀を投てきすると、ふたりの女神に向き直った。
﹁あぁなりてぇなら覚悟してろ﹂
怒り以外の感情が微塵も感じられないような声色で、眼光だけで人
が死ぬんじゃねぇかと思わせるような凶悪な面構えでブラッドソウ
ルは背中の羽を広げて飛び立つ。
背中の羽根がボロボロに斬り裂かれ、飛行能力を失ったエンシェン
ト ド ラ ゴ ン の 巨 体 目 掛 け て ブ ラ ッ ド ソ ウ ル の 拳 が 深 く 腹 部 を 穿 つ。
一瞬の静寂から、その手にヘルサイスキラーを構えると羽を根本から
斬り落とす。続けて紫電を纏わせた踵落とし││アクセル・インパク
トが頭部に叩きこまれた。背中から地面に落下したエンシェントド
ラゴン目掛けて矢のように降り立つブラッドソウルの手にはブルー
スシミターが握られている。
﹂
﹄
﹁こ っ か ら 先 は R 指 定 だ。悲 鳴 を 上 げ ろ、豚 の よ う に な ぁ ぁ ぁ ぁ
⋮⋮ッ
﹃ブギャァァァアアアァァァァ⋮⋮
深々と腹部に突き刺すと次から次へと武器を召喚していく。斬って、
刺して、穿って、傷口を広げて鮮血を浴びながら解体していく。ドラ
ゴンの返り血で狂気じみた笑みを浮かべてブラッドソウルは溜まり
に溜まった鬱憤を晴らしていた。ビクンビクンと痙攣するドラゴン
から飛び降りると、そこには竜の活造り︵瀕死︶が出来ている。
返り血が滴り落ちる服を拭うこと無く、ブラッドソウルの手に召喚
うん、運が悪かったとしか言
された偃月刀がエンシェントドラゴンの頭部に突き立てられる。
﹁まぁなんだ。テメェに罪はねぇよ
いようがねぇわ﹂
﹃ア、アババ⋮⋮﹄
?
1111
!
苦悶の声を上げるエンシェントドラゴンに耳を貸すことなく、剣を
!!
!!
﹁でも死ね﹂
高く振り上げた脚から振り下ろされるアクセル・インパクトがエン
シェントドラゴンの頭部を踏み砕く。モンスターの姿が消えて、残る
のは返り血を全身に浴びて偃月刀を担ぐブラッドソウルひとり。
﹃⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹄
言葉を失って、ただ呆然と引き止める暇もなく、何の罪もないはず
のエンシェントドラゴンが暴力の限りを尽くされるのを見届けるこ
としか出来なかったグリーンハート、ホワイトハート、アイエフの三
〝あぁ
あの人、ラスボスとかじゃないわよね⋮⋮﹂
人がブラッドソウルと目が合って思わず身体を竦ませた。
﹁あ、あれ⋮⋮
アイエフが涙目で声を震わせている。
﹁わーりぃワリィ。愉しくてつい調子乗っちまった⋮⋮で
首を高速で横に振る。
なりてぇ〟のか、テメェ等﹂
ブンブンブンブン
逃げ遅れ、木の後ろに隠れていたスライヌに向けてノーモーション
の銃声が突き刺さった。頭部を一発で撃ち抜かれて蒸発する。
﹁ぬ〟ら〟ぁ〟ぁ〟ぁ〟ぁ〟⋮⋮﹂
その手には深紅の自動式拳銃。威力を最低限にまで抑えた結果、夏
場のアイスのように溶けていくスライヌにはゴア表現としか言いよ
うのない状態となっていた。
気がつけば││周囲にいたスライヌ以外の小型モンスター達も居
なくなっている。
﹁三秒以内に女神化を解除しない場合。お前ら二人を俺の敵と認識し
てぶちのめす。さ││﹂
女神化を解除した。アイエフは両手を上げた。
︶
﹁││ん⋮⋮チッ﹂
︵舌打ち
﹂
﹁わ、わたくし達も頭に血が上っていたみたいですわ⋮⋮おほほ⋮⋮﹂
﹂
﹁はいそうですかで済ませると思ってんのかコラァ
﹁ヒィ、ごめんなさい
!
!!
1112
!!
?
?
﹁テメェ等俺に何の不満があんだよ。喧嘩売ってんなら買うぞ﹂
!?
ベールが涙目で謝ると、ブラッドソウルが地面に偃月刀を突き立て
て熱量を注ぎ込む。熱気が陽炎のように揺れて悪鬼の形相で睨む。
﹁ネプテューヌの野郎が何言ったんだか知らねぇし、テメェ等二人が
!
それを好き勝手言い
どう受け止めたのかも俺が知る由もねぇがな。あいつらと関係持っ
﹂
ちまったのにはそれ相応の事情があんだよ
やがるのは構わねぇが、加減しろバカ
﹂
﹂
﹁⋮⋮今のあなたが言えること
ご、ごめんなさい⋮⋮
﹁ひん剥くぞ﹂
﹁
?
!
﹂
ぶっ殺すぞ
﹂
!
﹁わ、わたしよ⋮⋮﹂
﹂
﹁手加減するに決まってんだろうがッ
﹁どっちなの
!!
﹁さ っ き 旧 神 が 大 し た こ と ね ぇ と か ほ ざ い た の は ど っ ち だ っ け な ぁ
!
しょ
ね
﹂
﹁え、え っ と ほ ら ⋮⋮ ク エ ス ト も 達 成 し た み た い だ し 報 告 に 戻 り ま
涙目で震える二人に代わって、アイエフが恐る恐る手を上げる。
!?
?
そう思ったアイエフの背筋を冷たい感覚が撫でる。だが、思
﹄
!
対に敵対してはならないと心に固く誓った。
も怖い。命の危険さえ覚える恐怖に腰を抜かしそうになりながら、絶
この人は絶対に変神させちゃいけない人だと││プルルートより
その場にいた三人の心がひとつになった。
﹃は、はい
﹁返事はどうした﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁今後。俺に〝諦めろ〟と〝ロリコン〟って言ったら容赦なく殴る﹂
いの外素直にブラッドソウルが変神を解除した。
いか
もしかすると今、自分はものすごくバカな真似をしているんじゃな
﹁ほら、変神も解除してくれない⋮⋮かしら⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
?
?
1113
!
!?
エ ピ ソ ー ド 1 3 人 事 部 大 惨 事。救 い は な い ん で す
か大合唱コール
││ギルドにクエスト達成の報告はアイエフが﹁わたしがやってお
﹂
くわね﹂と言って別れ、エヌラスとベールとブランの三人はその足で
おかえりー
プラネタワーへ戻ってきた。
﹁エヌラスー
!
﹂
る。
﹁その、なんだ⋮⋮ただいま⋮⋮で、いいんだよな﹂
﹁うんうん。それでいいんだよー﹂
﹁ベールさんも、ブランさんもおかえりなさい﹂
﹁ええ、ただいま⋮⋮﹂
﹂
﹁もー、二人とも止める暇もなく飛んでっちゃうんだもん
怪我とかしてない
?
エヌラ
とかなんとか言って、ホントは怪我してたりするん
ス大丈夫だった
﹁いや特には﹂
﹂
﹁ほんとにー
じゃない
?
!
言いたげにしていたが、ごまかすようにエヌラスは笑って頭を撫で
本気とも冗談とも取れない言葉に、ネプテューヌとノワールが何か
帰ってくるなり飛びついてきたネプテューヌを受け止める。
まってな。なんて言えばいいんだっけ﹂
﹁⋮⋮いや、悪い。そんなこと言われたの、いつ以来だったか忘れち
﹁
﹁どわっぷ⋮⋮、あー。うん、その⋮⋮﹂
!
?
教会から飛び立つ前は﹁ッシャオラー
?
﹂って感じだったのに随分大人しくなったわね﹂
﹁ねぇ、どうしたの二人とも
かおかしいことにノワールが気づいてそれとなく尋ねた。
イチャつく二人を見ていたブランとベールだったが、その様子が何
﹁マジだよ。そんな気にすんな﹂
?
﹁ノワール﹂
1114
?
!
﹁へ
わ﹂
な、なによベール⋮⋮﹂
﹁えっ
ええ⋮⋮そう⋮⋮﹂
頭でも打った
﹂
﹁ネプギアちゃんも。とても大変だったでしょう
﹁あ⋮⋮はい⋮⋮﹂
﹁ど、どうしたのベール
﹁いいえ、わたくしは至って正気ですわよ
あまりにも態度を改め過ぎて逆に怖い。
﹁ネプテューヌも﹂
﹂
﹂
変なことしてない
﹂
﹂
エヌラス、二人に何したの﹂
!?
﹁いや、何もしてないぞ
﹁ほんとに
?
?
断つかないんだけど
﹁な、なんかブランが一周回って正気に戻ったのか洗脳されたのか判
ら一人くらいはいてもおかしくないものね⋮⋮﹂
﹁悪かったわ⋮⋮確かに、あなたくらい誰からでも愛されるキャラな
﹁ブラン
?
?
?
﹂
いたかも知らず、あのような事を言ってしまったのが恥ずかしいです
﹁アダルトゲイムギョウ界での戦いがどれほどの苦難と困難に満ちて
かべながらベールは目尻に浮かぶ涙を拭う。
ノワールの手を取り、まるで聖母のように慈愛に満ちた微笑みを浮
﹁わたくしが間違っていましたわ﹂
?
!
!
いぞ﹂
﹁してるから
﹂
ものすごくしてるから というか原因それだから
﹁あと、変神してモンスター八つ裂きにしたくらいで、特に何もしてな
﹁軽くって⋮⋮﹂
ら〝軽く〟相手したぐらいだ﹂
﹁そうだな、強いて言うならそこの二人が眼の色変えて襲ってきたか
具体的にはアダルティックなことを。してません。即答した。
?
神は生命の危機に瀕する。
1115
?
?
?
プルルートの変身が貞操の危機であるというのなら、エヌラスの変
!!
﹁ぐ、具体的には何したの⋮⋮
﹂
﹂
﹁そんなの刺激が強すぎてトラウマものになるわよ
﹁ドラゴンの活造り︵瀕死︶ぐらいで、別に⋮⋮﹂
?
その謝り方、許されない気がする
﹁すまなかったな、許してくれ﹂
﹁なんだろう
﹂
謝りなさいよ
﹂
だが、ネプテューヌの予想に反してベールとブランの二人は腰が引
けていた。
﹁い、いえ⋮⋮お気になさらず
てくるものがあるんだが﹂
﹁そ、そんなに怖いの⋮⋮
﹂
﹁やだなぁ⋮⋮怖いの⋮⋮びくびく﹂
﹁う、うん⋮⋮式場で見た時も思ったけど、怖い人はきらい
﹂
﹁⋮⋮なんか、こう、あからさまに遠ざけられてる気がすると込み上げ
﹁ブランの言う通りですわ﹂
いわ﹂
﹁そ、そうよ。わたし達の早とちりが原因なんだし⋮⋮謝ることはな
!
つ無慈悲。
﹁ロム、ラム。いい
エヌラスはまだゲイムギョウ界での生活に慣
アダルトゲイムギョウ界に居た時よりも更に手数が増えて、なおか
もドン引きする。
それを目の当たりにすれば無理も無い。ぶっちゃけネプテューヌ達
動がどういったものであるのかだ。月とスッポンくらいの差がある
べきもの。つまり││本当にぶちのめしていい敵を前にした時の行
し、今日ブランとベールが見たのはエヌラスの本性の片鱗とでも言う
ユニとロムラムの三人もエヌラスの変神後の姿は見ている。しか
!
?
分かった
﹂
れてないの。だから、ミスしたり失敗したりしても責めちゃダメよ。
?
﹂
﹁ユニも。万が一にでもエヌラスが変神しそうな時はできるだけ離れ
﹁はーい
﹁うん、分かった﹂
?
!
1116
!
!
!
!
ておきなさい﹂
﹁そんなに危険なの
﹁はい
﹂
でも、お姉ちゃんが言うなら覚えておく⋮⋮﹂
!
﹂
あ、でも⋮⋮できれば変神は控えてくれた方が、助かります
ねー、ネプギア
ス。な ん て っ た っ て こ れ か ら は わ た し 達 が ず っ と 一 緒 だ も ん
ね。ず っ と 独 り ぼ っ ち だ っ た ん だ も ん ね。で も 大 丈 夫 だ よ、エ ヌ ラ
﹁む し ろ 今 ま で 自 覚 な か っ た ん だ ⋮⋮ っ て 言 っ て も し ょ う が な い よ
イのか⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮なぁ、ネプテューヌ。俺ってそんなに変神した後ってヤバ
?
﹂
わたしはあくまでも一連の流れを案内しただけだも
?
ない﹂
﹁⋮⋮ネプテューヌさん。なにか思うところはないんですか
﹂
﹁まぁ、たまに。それ以外だと金にならない邪神退治で飯を食う暇も
ギョウ界でお仕事の方は﹂
﹁エ ヌ ラ ス さ ん。つ か ぬ こ と を お 聞 き し ま す が ⋮⋮ ア ダ ル ト ゲ イ ム
拭っていた。
み上げてくる。流石にイストワールもそれは不憫に思ったのか涙を
泣いた。誰もが涙を浮かべた。ちょっと言いようのない感情がこ
﹁⋮⋮すげぇ、仕事して報酬がまともに支払われた﹂
それに全員が疑問符を浮かべる。
エ ヌ ラ ス は ア イ エ フ か ら 受 け 取 っ た 報 酬 を ま じ ま じ と 見 て い た。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
の。報酬目当てじゃないの、だからこれは貴方の分よ﹂
﹁当然でしょ
﹁⋮⋮⋮⋮俺の
﹁今戻ったわ。はい、エヌラス。今回の報酬よ﹂
手にはクエストの達成報酬である賃金とアイテム。
ソファーに座って一休みしていると、アイエフが戻ってくる。その
ラスだった。
もうゲイムギョウ界では変神しないように努めることにしたエヌ
﹁⋮⋮泣きたい⋮⋮⋮⋮
⋮⋮﹂
!
?
?
1117
!!
!
﹁エヌラス。プリン食べよ
ね
ほら、疲れてるよね﹂
?
﹁モンスター﹂
ンナイ。食べ、え
食べ物
?
いやちょっと待って何言ってるかわかんない。ナニソレイミワカ
﹁いや、だから⋮⋮モンスター。邪神とか食ってた﹂
﹃⋮⋮⋮⋮えっ
﹄
なってきたわね⋮⋮﹂
﹁と い う か、ほ ん と に 今 ま で ど う や っ て 食 い 繋 い で き た の か 疑 問 に
?
くなよ。なんだ、どうした
﹂
なんで
催涙ガスでも投げ込まれたか
どうしてそういう物騒な発想に至ってしまうんだろう
?
﹂
﹂
!
来てください
お願いしますから
﹂
!
﹁いや、なんかそう言われるとちょっと遠慮﹂
﹁そんなこと言わずに
!
﹁⋮⋮そ、そういうことなら頼っていいんだよ、な⋮⋮
!
﹁ルウィーでも歓迎するわ⋮⋮﹂
?
﹂
﹁もう全面的に承諾する他にありません⋮⋮いつでも来てください﹂
﹁イストワール様、その、エヌラスを教会で保護という件は﹂
﹁えっ、あ⋮⋮おう
達、頑張るからぁぁぁ⋮⋮
﹁ごべんねぇぇぇエヌラスゥゥ⋮⋮ぐすっ、わだし、ひぐっ。わたし
まりに哀れ過ぎて女神たちは涙を流した。
この人、そんな可哀想な環境で戦い続けることができるんだろう。あ
?
?
﹁お、おいどうしたんだお前ら⋮⋮なんで泣くんだよ⋮⋮やめろよ、泣
環境。
四六時中戦って。しかも仕事をしてもまともに報酬が支払われない
まっとうな職にありつけず、まともな食事も摂れず、ただひたすら
れに対峙している人類の守護者である旧神が。
ずっと孤独に戦い続けていた男が。世界を滅ぼそうとする邪神の群
仮にも。仮にも││アダルトゲイムギョウ界を救い、それからも
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
処にでもいるから困らないんだ。味はお察しだけどな﹂
﹁戦いながら食ってた。大抵食えたものじゃねぇけどな。生だし。何
?
?
1118
?
﹁ラステイションでもよ﹂
なんでお前ら手のひら返
﹁リーンボックスで最高のおもてなしをしますわ﹂
﹂
﹁え、えーっと⋮⋮どういうことだ⋮⋮
してそんな事言い始める
諜報部員⋮⋮それに見知らぬ男⋮⋮何者だ ⋮⋮メッチャ怖かっ
︽女神パープルハート様が来るものと思い、発注したはいいがよもや
を見せる。
系が戻っていた。気ままなモンスター達が生息するそこで、落胆の色
周囲を見渡せばそこにはスライヌ達が去った後にはいつもの生態
︽あてが外れた、か⋮⋮︾
電子音声は、唸る。
︽⋮⋮ふぅむ︾
その宵闇に紛れて歩く機体があった。
を散らせている。
││夜のサクラナミキ。月明かりに照らされる桜の木々が花びら
す女神達にエヌラスは困惑していた。
だってもう││可哀想過ぎる。言葉にするよりもオイオイ泣き出
?
︽何分、試験対象がモンスターでありますので⋮⋮︾
︽⋮⋮実用には至らないか︾
︽小型モンスターの異常繁殖。及び、大型モンスターの凶暴化︾
︽結果は︾
︽ハッ。実験結果を観測していました︾
︽何をしている︾
黒の機体は敬礼する。
そこへ、甲高いブースター音。月明かりを受ける純白の機体に、漆
を触れると掬いあげて、指先を擦り合わせる。
ともあれ、計画は失敗に終わったということだ。足元のぬめりに指
ル圏内から離れててよかったぁ⋮⋮︾
たけど⋮⋮ああ怖かった⋮⋮気づかれないように半径百二十メート
?
1119
?
︽まぁいい。時間はある。向こうの連中が利口であれば、な。引き上
げるぞ︾
︽了解であります。││シロトラ教官︾
まだ計画は始まったばかりだ。
1120
第二章 プラネテューヌ編:ねっぷねぷ大騒動
エ ピ ソ ー ド 1 4 計 画 は 隠 密 か つ 迅 速 に 進 行 中 ⋮⋮
プラネテューヌ資源採掘場││そこでは、B2AMに所属する作業
用ロボット達が集まって式典の録画を眺めていた。友好条約が結ば
れる日の映像は色褪せること無く彼らの信仰する女神の姿を映して
いる。
︽⋮⋮はぁ⋮⋮何回見ても麗しいよなぁ、パープルハート様⋮⋮︾
︽だよな⋮⋮一度でいいから話してみたいものだ︾
︾
軽量型のロボットと、重量型の二脚ロボットは揃って画面を食い入
る様に見入っていた。
︽何をしているんだ⋮⋮
だ︾
︽そうだそうだ
︾
︽う る せ い や い。こ ち と ら 来 る 日 も 来 る 日 も 資 源 採 掘 で 疲 れ て る ん
︽また友好条約の宣誓シーンか。飽きないものだな︾
て頷いた。
ていた武装を解除してラックに立てかけているが、ちらつく画面を見
そこへ、漆黒の機体色のロボットが戻ってくる。背部にマウントし
?
︽観ないとは言っていないだろ
︾
!
︾
︽って、結局オマエも見るのかよ
三人の視線が集中するテレビの画面。
を極めているだろう。
め上げている。それだけでなく戦技教導までしているのだから多忙
シロトラは寝る間も惜しんでB2AMに所属するロボット達をまと
残念ながら。シロトラの指示には逆らえない。最高責任者である
︽それは⋮⋮そうだけどなぁ⋮⋮︾
︽だったらプラネテューヌに行けばよかったじゃないか︾
!
!
1121
?
︽でも︾
︾
ガン見する谷間││たわわなバストに三人は顔がぶつかっても気
にした風もなく食い入る。
︾
お前何処に行ってたんだ
︽⋮⋮何してんだ︾
︽おお、ジーン
︽後片付けだけど
?
︽ニ年⋮⋮くらいか
︾
︾
︽そんなことはどうでもいい
?
︽レンダリング処理は任せろー
を言わせて引っ張った。
?
︾
︾
ということもあるが彼らからすれば信仰する女神の為に何かできな
女神パープルハート、もといネプテューヌがシェアにこだわらない
︽だが、不思議とプラネテューヌの国民は幸せそうだよなぁ⋮⋮︾
な︾
︽それはつまり、パープルハート様への信仰心が足りていない証拠だ
下位なんだろう
︽しかし不思議だよな。プラネテューヌのシェアは四つの国の中で最
りつつもジーンは手を振りほどく。
若干引き気味のメンバーにちょっと自分が異常なのかな、と振り返
︽え、十五回観たんだが⋮⋮︾
︽私は六回だ⋮⋮︾
︽俺まだ四回しか観てないんだけどな⋮⋮︾
︽この録画は既に五十三回観た︾
︽お前、何も思わないのか
︾
掴み、重量二脚のロボットは丸みを帯びた手で力士のような腕力に物
呆れ果てて何も言えない。早々に立ち去ろうとするジーンの肩を
︽⋮⋮ハァ︾
パープルハート様メッチャ綺麗だろ
︽何年前の録画を観ているんだ︾
ピッケルや工具の詰まった箱をその場に下ろした。
鋭角的なシルエットが特徴の中量二脚のロボットは呆れたように
?
!
?
1122
!
!
!
いだろうか、と思い悩ませている。
︾
︽⋮⋮待てよ、閃いた。パープルハート様の魅力を他の国民達に見せ
つけてやればいんじゃないか
︽そ れ だ︾
︾
ントリーガン。接続がうまくいっているかどうかの確認をしてから、
ボタンを押して中から出てくるのは、サブマシンガンを搭載したセ
負うと、今度は小さなコンテナを持ち出す。
高めに設定してある。二つ折りにして背部のバックパック右側に背
ある特性として距離による減衰が少ない。その為、スコープの倍率も
入れを終えたのかスコープを覗く。高出力のエネルギーライフルで
もない。三人が話し込んでいるのを余所にして、ジーンは狙撃銃の手
あーだこーだ。あーでもないこーでもない。あれでもないこれで
︽はげどう。だが、それだけではなぁ⋮⋮︾
︽雑魚モンスターとはいえ、無双するパープルハート様。良くないか︾
せながら親指を立てる。
漆黒の機体││セインは索敵に特化したモノアイをキラリと光ら
︽隠れて何をしてるかと思ったら、お前そんなことしてたのかセイン︾
るんだが、中々調整がうまく行かなくてな⋮⋮︾
︽その為にモンスターをおびき寄せる特殊なフェロモン剤を開発して
︽だがそれがいい︾
全員がうんうん、と頷いていた。
︽だが普段は仕事しない方だからな⋮⋮︾
圧倒的強さを国民に見せるべきだと思うんだがな⋮⋮︾
︽うーむ。やはり私としては、女神パープルハート様のチートじみた
︽じゃあどうすればいいんだ︾
日の通常業務は終了、後は自由時間である。
カチャカチャとジーンは愛用の狙撃銃の手入れを始めていた。本
︽選挙カーばりに迷惑じゃないかそれ⋮⋮︾
中で叫ぶつもりか
︽いや待て。それだじゃねえ。どうするつもりだ。メガホン片手に街
?
給弾機構をチェックする。自動砲台の特性上、設置してからは破壊さ
1123
?
︾
お前も黙々と装備の点検してないでこっちに混ざれ
れるか残弾が尽きるまで確実に稼動しなくてはならない。
︽おいジーン
︾
めた機械はロックするなり射撃を始めている。
︾
! !!!
だから邪魔するなって言った
!
︽あーばばばばばば
アホ
!
ない。
︽任せろ
とりゃー
︾
!
たれたテレビの画面。
?
︽そんなー︵
・ω・`︶︾
!
た。
︽まぁまぁ。やってしまったものは仕方ないじゃないか。な
︽ディルは甘いな︾
?
︽そ う ま で 言 う な ら 犬 耳 で も 猫 耳 で も 生 や し て や れ ば い い じ ゃ な い
︽それより。何かいい案はないか、ジーン︾
︾
ジーンのキレ気味な電子音声にセインがしょんぼりと肩を落とし
︽溶鉱炉に出荷するぞ貴様
︾
︽セイン。これはお前持ちな︾
︽シロトラ教官の地獄メニュー付きでならな︾
︽⋮⋮これ、経費で落ちるか
︾
室内に充満する硝煙の香り。そして見るも無残に弾丸によって穿
がその隙にスイッチを切る。
と、光球が爆ぜて電子機器の機能を一時的にショートさせた。ジーン
うにも見えるそれに電流が充填され、セントリーガンに向けて放つ
軽量型の機体が手にしたのは、大型のスタンガン。テーザー銃のよ
!
てくる。光学障壁によって射撃は防がれているものの、身動きが取れ
した。自分の射撃を自分で防ぐという間抜けっぷりに頭が痛くなっ
咄嗟にジーンは特殊兵装のシールド発生装置に手を伸ばして設置
︽このバカ
︾
の瞬間││マズルフラッシュが室内をしつこく照らした。照準を定
キュイーン⋮⋮。起動音に︽あっ⋮⋮︾と四人の声が重なった。次
︽バカ、やめろ。セントリーガンの手入れ中だ
!
´
1124
!
!
か︾
半ば面倒そうに、投げやりに言ってからセントリーガンの動作確認
を身を持ってチェックしたので左腕にマウントする。サイドアーム
に大口径のハンドガンを一挺。シールドの電源を切って、背部バック
パックのエネルギータンクに接続して充電しておく。
︽ジーン、お前⋮⋮︾
ワナワナと声を震わせて、ディルと呼ばれた重量型ロボットが肩を
掴んだ。丸みを帯びたフォルムは傾斜装甲の特性を活かして高い防
御力を誇るものの、その重量はどちらかと言えば中量型のジーンに近
い。あまりに適当でぞんざいな答えに、頭に来たのかもしれない。謝
︾
ろうかと思った瞬間、バシバシと肩を叩かれてちょっと装甲が凹ん
だ。
︾
︽お前││天才かッ
︽⋮⋮は
レ達は
︾
︾
流石はジーン、俺達に気づかない答えを見つけると
︽そうだ、何故そんなシンプルで最強の答えに気づかなかったんだオ
!!
やはりプラネテューヌ第三資源採掘場の参謀は違うぜ
︽まったくだ
は
!
!
︾
!
がら、シュラはいそいそと散らかった部品を掃除している。
シロトラ様も喜ぶだろう
!
ちょうど難航していた気晴らしに作ってやろうじゃ
︽よし、そうと決まれば計画変更だ
︾
︽ああ任せろ
ないか
!
︾
!
日 今日の天気 晴れ れた。パープルハート様を信仰するのはいいけれど、後片付けをしな
事を終えてから、みんなと演習でもしようと思っていたら置いて行か
今日もプラネテューヌ第三資源採掘場での仕事。いつも通りの仕
﹃○月
盛り上がる三人を遠巻きに眺めて、ジーンは転職を考えていた。
ただし報酬は彼らの給料から差し引かれているのを知らない。
てくれるだろうしな
︽材料を集めるのに関してはギルドに発注しておけば親切な人がやっ
!
×
1125
?
!
親指を立てて褒め称える軽量型の機体││テーザー銃を背負いな
!
いのはどうかと思う。せめてそれをしてくれたらもうちょっとこち
らの態度も改めるのに。それと、何やら私の一言で余計なスイッチが
入ってしまったのか彼らがめっちゃやる気出してる。それぐらい仕
事にも励んでくれたら演習に時間が割けるのに。やっぱりみんなバ
カなんだと思いました﹄││ジーンの日記より
1126
エピソード15 パケット料金は違法定額制
プラネテューヌに夜が訪れる。ネプテューヌ達が入浴している間、
イストワールはエヌラスを探していた。ノワール達は自分達の国へ
戻り、アイエフは調査に出掛けている。そしてコンパも今日は夜勤ら
しく外出していた。
風邪引いちゃいますよ﹂
ああ、イストワールか﹂
﹁ここにいたんですか﹂
﹁ん
﹁何をしているんですか
﹁バカと何とかは紙一重ってな。風邪なんか早々引かない。仮にも神
格者だしな﹂
教会のテラスから眺める夜景に、イストワールがエヌラスの横顔を
﹂
盗み見る。なんの事はなく、ただ目を細めていた。その口元が緩んで
いる。
﹁なにか楽しいことでもありましたか
﹁突然だな⋮⋮﹂
﹁なんだか、嬉しそうにしてるので﹂
﹁そう、なんですか
でもどうして﹂
﹁││俺は、元々魔人の一人だった﹂
た。それは、何がそこまで彼を戦いに駆り立てるのかということ。
エヌラスの人並み外れた生き方に、イストワールは疑問を持ってい
悪くないなこういうのも﹂
﹁⋮⋮そうだな。今日は、楽しかった。戦ってばっかりだけど、偶には
?
﹂
ある時を境にアダルトゲイムギョウ界に喚ばれてな﹂
﹁次元神セロンによってですか
?
妹も、恋人も犠牲にさせられた。だが、結果としてそれが今の自分
としてな﹂
よってだ。繰り返される結末と戦いに疲れたから、世界ごと滅ぼそう
﹁いや、違う。地下帝国、九龍アマルガムを統治していた大魔導師に
グランドマスター
だった。滅ぶを願う人々の叫びに応えるだけの存在⋮⋮そんな俺が、
﹁無 尽 蔵 の 絶 望。ヌ ル ズ と 呼 ば れ る 魔 人 で、終 焉 を 望 む 人 々 の 救 い
?
1127
?
?
に繋がっている。
﹁それも、〝前世〟の記憶ですか
﹂
て形で渡してもいいか﹂
﹂
?
る。
﹁くんくん⋮⋮なんですか、それ
香りですけど⋮⋮﹂
ミントのような、柑橘類のような
煙たさが感じられなかった。それどころか爽やかさに近いものがあ
イストワールが眉を寄せた。嗅ぎ慣れない甘い香り。予想していた
指先を鳴らして火を点ける。紫煙をくゆらせると、タバコの臭いに
﹁そうでもないと、戦い続けられなくてな﹂
﹁まるで犯罪犯すために生きてるみたいですよ、それだと﹂
ね﹂
﹁タバコも酒もクスリもやるが、金が本当に必要なわけじゃないんで
コを取り出した。
そう言ってイストワールに渡した賃金の代わりに、エヌラスはタバ
げりゃ御の字だ﹂
﹁俺が金なんか持ってたってしょうがねぇしな。その日の食い扶持稼
﹁ネプテューヌさんの為に⋮⋮ですか﹂
ヌ達の為だな﹂
﹁出来ることなら、この国の為に使いたい。というか、まぁネプテュー
﹁えっ⋮⋮いえ、構いませんけれど。それはどうしてですか
﹂
﹁そのー、まぁなんだ。この金なんだが⋮⋮プラネテューヌに寄付っ
﹁はい。なんですか
﹁⋮⋮イストワール﹂
がある。
ヌラスはアイエフから受け取った報酬を取り出して考えていたこと
しかし、プラネテューヌに迷惑を掛けてしまったことは事実だ。エ
﹁そうな⋮⋮﹂
﹁はた迷惑そうな呼び名ですね﹂
〝戦禍の破壊神〟なんて呼ばれてたし﹂
﹁前世って言うか⋮⋮俺が旧神になる原初の記憶だな。それより前は
?
?
1128
?
ちゃんと理由があるんだよ
﹂
ダメですよそんなの めっ、めっ
﹁ああ、九龍アマルガムで俺が製造したドラッグシガーレットだ﹂
﹁結局は麻薬じゃないですか
﹂
﹂
﹁お、おお落ち着けイストワール
これなきゃ死んじまう
﹁末期症状の中毒じゃないですか
!
﹁││右腕が動かせない
﹂
上げてタバコを取り上げようとするがエヌラスはうまく躱した。
プラネ警察24時待ったなしの発言に、イストワールが両手を振り
!
!?
﹂
指差しながら咥えたタバコを揺らす。
﹁⋮⋮ちなみに、合法ですか
﹁没収です
ボッシュートです
﹂
﹂
頼むよ
!
!!!
教会でそんなの吸ったらいけません
﹁おいばか待てやめろください
えねぇんだから
﹁だーめーでーすー
﹂
これないと俺マジで戦
﹁脱法ハーブ多数使用。常人なら一箱で廃人レベル﹂
?
れた奇妙な画面。その表示にイストワールがちょっと引いている。
して電源を入れた。待受画像は幾何学模様の中に目がいくつも書か
そこで、ふと思い出したようにエヌラスがD│PHONEを取り出
!
るの苦労したんだぞ、これ﹂
しても出来る限り周囲に迷惑掛からないようなもの使ったしな。造
﹁ドラッグといっても、蜂蜜酒の一種を使ってるくらいだ。臭いに関
た方が財布にも優しいし、補給も容易だ。
然ながら増えていく。そんなことをするくらいならばクスリで抑え
当然、燃費は悪くなる。その為のエネルギーを補給する食事の量も当
かといって右腕の神経と魔術回路に魔力を回して動かしていれば
﹁まぁな⋮⋮﹂
﹁だからそのお薬が手放せないんですね﹂
抜くと右腕の感覚が無くなる﹂
﹁そう。俺の身体、というか銀鍵守護器官が特殊なんだ。今でも気を
?
﹁これ買うのだってユノスダスに戻らなきゃならん││﹂
!
!
!
!
1129
!
!
!
!
電波繋がってるんですか
﹂
﹁⋮⋮着信件数116件ってなんだ﹂
﹁えっ
﹁それ。持ち歩く意味あります
﹂
発したんだが⋮⋮まぁ普段は電源切ってるしな﹂
イの国王だ。俺がどの次元に居ても連絡取れるように、ってことで開
﹁ああ。これを開発したのも俺だし、共同開発したのはインタースカ
?
﹁お相手は誰からです
﹂
ずっと掛かっていたようだ。
エヌラスが邪神を追ってアダルトゲイムギョウ界から離れた時から
何のために携帯しているのか分からない。履歴を遡ると、どうやら
?
﹂
?
﹃生きてる
確認したらメールの返信よろしく﹄
﹃無事だったらメール頂戴﹄
き込んだ。
メールも何件か来ており、内容を確認する手元をイストワールが覗
︵どんなに恐ろしい方なんでしょう⋮⋮︶
﹁俺にとっては邪神より怖い﹂
﹁そんなに怖い方なのですか
﹁⋮⋮ユノスダス国王から⋮⋮﹂
が落ちそうになっている。
のどちらよりも恐ろしい相手からの履歴にエヌラスの口からタバコ
架空請求の業者かはたまた借金の返済か。そのどちらでもなく、そ
?
えていた。
!
﹁で、でも連絡してあげないと可哀想ですよ。ほら、こんなに心待ちに
﹁││││無理だ。超こええぇ⋮⋮
﹂
帳からユノスダス国王を選んで通話ボタンを押そうとするが指が震
エヌラスの顔が、青ざめている。恐る恐る、ボタンを操作して電話
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹃今度の週末、みんなでパーティーするから早く帰ってきて﹄
れ︵以下略︶﹄
﹃昨日ユノスダスで子猫見つけたんだけど、餌あげたらメッチャ懐か
?
1130
!?
してますし﹂
﹁イストワール﹂
﹁はい、なんでしょう﹂
﹂
﹁⋮⋮短い付き合いだったな。骨は拾ってくれ﹂
﹁えぇ
そう思っていた
?
﹂
?
︾
﹁年単位で音信不通だったんですか
﹂
﹂
ちょっと替わってもらえる
﹁バッ、声がデケェよイストワール
︽え、誰か居るの
︽いいから替われ︾
﹁あ、あのー﹂
エヌラスが画面をイストワールに向ける。
﹁ウッス⋮⋮﹂
! !?
ズの極みとはどういったご関係ですか︾
︾
見えない外面ばかり良い、内面海の藻屑にすらなりえない度し難いク
︽それで単刀直入に聞きますけど、そこにいるパッと見殺人犯にしか
﹁いえいえそんな。ありがとうございます﹂
︽こちらこそ。イストワールさん、声がかわいいですね︾
お願いしますね、ユウコさん﹂
﹁ご丁寧にありがとうございます。わたしはイストワール。よろしく
︽コホン。初めまして、私は商業国家ユノスダス国王のユウコです︾
?
︽いや、ここ数年連絡取れなかったから本人かどうかわかんないし︾
﹁⋮⋮エヌラスだ。つうか着信画面見れば分かんだろ﹂
︽誰
﹁あー⋮⋮その、俺だ⋮⋮です⋮⋮はい﹂
︽⋮⋮⋮⋮︾
﹁││も⋮⋮もしもし
エヌラスが手を下げようとした、八回目のコール音で繋がった。
と続いて五回目のコール。これは繋がらないか
走ったもののすぐにコール音へと変わる。一回、二回││三回、四回
遺言を残してから意を決し、通話ボタンを押すと最初はノイズが
!?
﹁あっ、いや、これは違うんだ﹂
?
1131
?
﹁あの、加減してあげた方がよいかと⋮⋮﹂
エヌラスが今ちょっと死にそうなことになっていた。とはいえ、事
情 を 説 明 す る と 相 手 は す ん な り と 頷 い て 受 け 入 れ て く れ た ら し い。
理解のある相手で良かったとイストワールは胸を撫で下ろす。
︽なぁるほどー、そうだったんですかー。いやホントごめんなさい。
うちで面倒見てたバカが邪神追っかけて音信不通になった挙句にそ
ちらで破壊活動を行ってとんだ迷惑掛けたようで、ええ︾
﹁はい、そうなんです。ですがお気になさらないでください﹂
﹂
︽じ ゃ あ ち ょ っ と 話 し た い こ と あ る の で バ カ に 替 わ っ て も ら え ま す
︾
﹁わかりました。⋮⋮ナチュラルに罵倒されていませんか
︽アッハッハ︾
笑って誤魔化すユノスダス国王の声色からは﹁うるせぇ黙って聞き
流せ﹂と言われた気がしてイストワールは背筋が寒くなった。
﹂
︾
テメ、こっちがどんな思いで待っ
﹁まぁ、その⋮⋮聞いてのとおりだ⋮⋮﹂
︽何考えてんだバァァァーカッ
﹁うるせぇよ仕方ねぇだろ
てたかも知らねぇでなにしてんだよ
!!!
連絡返せよ
﹂
迷子かよ
︾
斬り掛かっておいてそっから音信不通とかどんだけ酔ってんだよ
帰ってこいよ
﹁連絡入れる暇もねぇんだよ察しろよ
︽しかもなんで別な次元で保護されてんのッ
お前なに暮らしだよ
生きてたなら連絡のひと
!!
﹁泣・く・な・よ
﹂
︽うるせぇバカぁ、アホー
だけ待ったと思ってんだぁぁ⋮⋮心配してたんだかんなぁ⋮⋮
﹁だーかーら、死なねぇって言ってんじゃねぇかよ﹂
言われる身にもなれバカアホうすら
︽言うだけなら簡単だよなぁ
︾
トンカチハゲセックスデビル
!
!
!
!
︾
こっちが、ぐす、こっちがどんな、どん
つくらい返せよバカァァァァ⋮⋮グスッ、ひぐっ⋮⋮うぇぇぇん︾
その日暮らしのナニエッティだよ
!!
!!
!
!
︽ユノスダスで飲み会やってた時に現れた邪神相手に酔っ払いながら
!?
!!!
!
!
!!
1132
?
?
!
﹂
さ も な い と 私 か ら そ っ ち 行 く か ら な
﹁好き放題言ってくれんじゃねぇか胸と態度ばかりデケェ吸血鬼の守
銭奴が
︾
︽い い か ら 一 回 帰 っ て 来 い
!!
︾
!!
﹂
﹁なら、いいじゃないですか
どうしてそんなに気が乗らない顔を
﹁そりゃ││俺だってそうだけど⋮⋮﹂
せん﹂
﹁それだけ大事に思われてるんですよ。そういうこと言ってはいけま
﹁泣くこたぁねぇだろ⋮⋮卑怯だろ、そんなん﹂
ようにエヌラスは通話を切った。
プ ッ。ツ ー ツ ー ツ ー ⋮⋮。泣 き そ う な 声 の 相 手 か ら の 通 話 を 遮 る
﹁⋮⋮切るぞ﹂
︽ご飯作って待ってるから︾
﹁なんだよ、しつけぇな﹂
︽││エヌラス︾
通話を切ろうとして、ユウコからの言葉に手を止める。
﹁⋮⋮わぁったよ⋮⋮んじゃな﹂
︽いいから
﹁いや、帰って来いったって⋮⋮﹂
!!
これは顔を合わせたら色々と聞かなきゃならない。
聞 い て い る 限 り は エ ヌ ラ ス を 不 当 に 雇 っ て 働 か せ て い る 張 本 人。
﹁ああ、そういう方なんですね⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮俺、帰ったら何日タダ働きすればいいんだろうな﹂
?
1133
!
?
エピソード16 女神の肌は安くない
タバコを吸い終えて、携帯灰皿に捨てるとイストワールとエヌラス
は夜風で身体が冷える前に中へと戻った。まだネプテューヌとネプ
ギアは入浴中なのか、楽しそうな姉妹の声が聞こえてくる。
一日中ゲームをやっていたのにまだあれだけの元気があるのは、流
﹂
石ネプテューヌというべきか。恐るべきスタミナだ。
﹁では、あちらに一度お戻りに
﹁とはいっても、すぐこっち来るつもりだけどな。場所と行き方さえ
分かれば自由に行き来できるようになるし﹂
﹁便利ですね﹂
﹁ま、そんなんだからあちこちでトラブルに巻き込まれてるんだけど
な﹂
その過半数が自分から引き起こしてるものだという自覚がないの
で言及は敢えてしないものとする。
﹂
シャンプーの替えってどこにあったっけー﹂
エヌラスがソファーに座って身体を休めていると、ネプテューヌの
声が聞こえてきた。
﹁あれー、いーすーん
﹁それでしたら、確か││って、ネプテューヌさん
﹂
糸まとわぬ全裸のネプテューヌが首からタオルを下げて立っていた。
お風呂に入っている途中だからまだポタポタと雫が滴っている。未
成熟で未発達な幼女体型を恥ずかしげもなく腰に手を当てながら晒
タオルくらい巻いてくださ
しているネプテューヌは、疑問符を浮かべて首を傾げていた。
﹂
﹁な、なんて格好で歩いてるんですか
い
!
﹂
﹁えー、いいじゃん。別に誰かに見られるってわけでもないんだしぃ﹂
﹁わたしに見られてますから
﹁いーすんだったら別に問題ないよー﹂
!
1134
?
?
!?
!
どしたの、いーすん
﹂
﹁うん
﹁ん
?
イストワールの驚愕する声につられて振り向けば││そこには、一
?
!
見ちゃダメです
わー
﹂
って、なんで見て
!
わー
!
﹁そ、そそそれに、エヌラスさんだっていますし
るんですか
!
﹁わぷっ、ちょ、イストワール。前が見えねぇ﹂
!
﹂
﹁見えなくていいんです ネプテューヌさんの未熟な発達の裸は見
なくていいですから
!
﹂
!
!
裸を見せるのが問題なら一緒にお風呂に入ればいいじゃ
﹂
ないって、ゲイムギョウ界の偉い人が言ってた
﹂
﹂
と に か く ネ プ テ ュ ー ヌ さ ん、シ ャ ン
﹂
﹁女神より偉い人って教祖様くれぇじゃね⋮⋮
﹁そっかー、ありがと
プーの替えでしたら脱衣場にありますから
!
しているのだろう、心労は尋常じゃない。
﹁⋮⋮ネプテューヌさんの裸、見ましたか
﹁そりゃ⋮⋮見えちまったものは﹂
﹁忘れていただけませんでしょうか⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ちょっと、無理かもなぁ﹂
久々に見た。しかも照明付きで堂々と。
﹁綺麗な肌してるよな﹂
﹁その発言はどうかと⋮⋮﹂
?
さんの裸﹂
﹁流石に、ちょっと引きます。だって、見たんですよね。ネプテューヌ
﹁なんでだ⋮⋮﹂
﹂
トワールが大きな溜息を吐き出す。自由奔放なネプテューヌに苦労
全裸のネプテューヌが浴場へ戻った後、顔を真っ赤にしていたイス
!
﹁言 っ た 覚 え は あ り ま せ ん
!
いよね
﹁もー、うるさいなーいーすんは⋮⋮じゃあ一緒にお風呂なら問題な
す、ネプテューヌさん
﹁そ う い う 問 題 じ ゃ あ り ま せ ん 女 神 と し て の 自 覚 が な さ す ぎ ま
﹁減るもんじゃないし、いいよー。エヌラスになら見られたって﹂
の行動にネプテューヌがますます疑問符を浮かべていた。
イストワールが必死にエヌラスの顔に引っ付いて視界を塞ぐ。そ
﹁なんだろう、そんな必死に言われるとちょっと傷つくなぁ﹂
!
!
1135
!
?
!
﹁ごめんなさい﹂
﹁謝るのはまぁいいですけれど。普通、そんな風に言わないと思いま
﹂
す﹂
﹁
﹁かわいかったー、とか。ビックリしたー、とか。ネプテューヌさんが
裸で出てきたことに対するリアクションを取るはずなんです。なの
にエヌラスさん⋮⋮綺麗な肌って、ネプテューヌさんへの感想言って
ますし﹂
通常、目の前の出来事に対するリアクションや感想などが口から出
てくる。アクシデントなら尚更だ。咄嗟の判断で行動する。なのに、
今。﹁入浴中のネプテューヌが裸で出てくる﹂という出来事に対する
エヌラスの反応らしい反応は、ネプテューヌに対する感想だった。し
かもまじまじと見た挙句に、しみじみと言っている。イストワールの
﹂
顔が不審者を見るそれになっていた。
﹁俺、なんか変なこと言ったか
││ルウィーでくしゃみをする女神がひとり。
﹁へぷち。⋮⋮なんでだろうな、今スゲェ腹が立ったッ
﹁いや、別に未成熟な青い果実の幼女が好みなわけじゃないぞ
﹂
テューヌさんやブランさんみたいな方が好みなんでしょうか
﹂
﹁は い。言 い ま し た。色 々 と 危 険 な 発 言 で す。も し か し て、ネ プ
?
﹂
﹂
﹁守らなきゃいけない相手って。ネプテューヌさんは守護女神ですよ
いけない相手にしか手を出さないしな﹂
﹁出会った相手が幼女で女神だったというだけで。基本、守らなきゃ
﹁ホントでしょうか⋮⋮﹂
?
?
!
女神を守る。そんな事を言う人が目の前にいる。だが、イストワー
ルにはそれが不思議でならなかった。国が生まれ、国民が望み、女神
が生まれる。そしてその女神は国を治め、脅威から国民を守る為に戦
う││その女神が守られるというのは矛盾していた。
﹁確かに。そうだな⋮⋮でもな、イストワール。俺が戦ってきた相手
1136
?
?
は、そういう奴らばかりだった﹂
記憶を無くして、〝リセット〟されたアダルトゲイムギョウ界で戦
火に身を投じてきた。命の危険に晒されて、何度も折れそうになっ
た。挫 け そ う に な っ た。妥 協 し て し ま お う か と も 悩 ん だ 時 も あ る。
邪神に命を奪われるその刹那に、〝諦めてしまおう〟と思った時に│
│必ず脳裏に浮かんだのは四人の少女達の笑顔だった。
それが奪われる。それだけは、何故か、どうしてか許諾できなかっ
た。全てを犠牲にしてでも守らなきゃいけないと駆り立てられて、そ
れが誰なのかも分からないまま戦い続けてきた自分がいる。
その答えが、やっと見つかった。思い返せば、記憶を無くした後も、
ずっと守られていた。
女神の笑顔に。笑うネプテューヌ達の姿に。頭ではなく、心が。魂
が覚えていた。
自分に敗北は認められない。撤退は許可できない。自分が退けば、
﹂
なってネプテューヌさん達を救えるとしたら、どうしますか
﹂
﹁んー、犠牲になってやりたいところだが⋮⋮それだと絶対恨まれる
?
1137
邪神は女神に手を伸ばす。それだけは許せない。だから戦い続けた。
﹁国一つ。世界一つ滅ぼせるような邪神が相手だった。俺の敵はいつ
だって俺と同等かそれ以上の実力を持った化物どもだ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁万が一にでもそいつらにネプテューヌ達が負けるとも思えないが、
﹂
俺は強欲でね。女神と一緒に肩を並べて戦いたいと思ってる。実力
と立場が対等なら、そりゃこうもなるさ﹂
﹁ネプテューヌさん達が女性で、エヌラスさんが男性だからですか
ら。黙って見てるなんて、後味悪ィだろ
﹁俺はネプテューヌ達を守りたい。邪神の脅威から、世界の終わりか
だけが守られるのは赦せなかった。
戦えるのに見過ごす事なんて出来ない。彼女達が傷つくのに自分
うのもなんだけどよ﹂
﹁男なんてバカばっかりだ。その救いがたい大馬鹿野郎代表の俺が言
?
﹁⋮⋮では、お聞きします。エヌラスさん。もしも││自分が犠牲と
?
からなぁ⋮⋮どうすっかな。保留、ってことでいいか
答えが思い浮かばない﹂
﹁じゃあ、そういうことにしておきましょうか﹂
たを突いた。
﹁あぅあぅ⋮⋮もう、何をするんですか
﹂
今の俺には
イストワールは笑う。エヌラスは何気なく、そんな教祖様のほっぺ
?
﹂
ず る い ぞ ー、
!
違います 別にイチャツイてるわけで
いつからそんな攻略キャラになっちゃったのさー
い ー す ん が エ ヌ ラ ス と イ チ ャ ツ イ て る
いーすん
﹂
﹁ネ、ネプテューヌさん
は
!
﹁あ ー
こんな風に穏やかな時間を過ごしたのは、いつ以来だろう││。
﹁以後気をつけます﹂
﹁今回だけですからね﹂
﹁そんな睨まないでくれよ﹂
﹁むぅ∼⋮⋮﹂
﹁イジワルな質問をした、ちょっとした仕返しだ﹂
!
!
てたじゃん
﹂
﹁別に嬉しくなんてありません
教祖なんですよ﹂
﹂
大体、わたしはプラネテューヌの
﹁でも、今はオフだよね。プライベートな時間なんだよね
﹁え、ええ⋮⋮そういうことになりますけれど⋮⋮﹂
﹂
いーすんでも駄目だからね プラネテューヌ
にいる間はエヌラスはわたしのなんだから
!!
!
﹁ネプギアもする
﹂
﹁お、お姉ちゃん。もー、エヌラスさんに抱きついたりして⋮⋮﹂
玩具を取られた子犬のようだ。着替えたネプギアも戻ってくる。
すようにしてエヌラスへ抱き着く。頬を膨らませて睨む様は、まるで
ナイトウェアに着替えたネプテューヌがイストワールから引き離
一転して、穏やかな時間は賑やかな時間へと。
﹁おいー、ちょっと。なんで俺が私物扱いなんだよ﹂
!
﹁もーーーーーー
?
!
!
?
1138
!?
!
!
﹁うっそだー、だってほっぺたぷにぷにされてちょっと嬉しそうにし
!
﹁えと⋮⋮﹂
﹂
﹂
チラリとエヌラスの顔を盗み見ると、それに気づいたのか手招きし
ていた。
﹁俺はいいぞ
﹁だってさー、ほらほらネプギアも思う存分甘えちゃいなよ
﹁うーん、でも﹂
今 度 は イ ス ト ワ ー ル の 顔 を 窺 う。だ が、怒 っ て は い な い。む し ろ
ちょっと眉を寄せて困った様子だ。
﹁えっと、いーすんさん﹂
﹁構いませんよ。今日はもう遅いですし﹂
﹁すいません。じゃあ、そういうことなら⋮⋮えいっ﹂
ネプテューヌは少しずれて、ネプギアはその空いたスペースに腰を
落として座り込む。その頭を抱き寄せて、エヌラスは髪を梳くように
撫でた。
﹂
﹁ぅぅ⋮⋮恥ずかしいよぉ⋮⋮﹂
﹁いやならやめるが
る。
わたしの時だけどうしてそんな風に撫でるのさー、エヌラ
わしゃわしゃとネプテューヌの頭を撫でると、不満そうにしてい
﹁はいはい⋮⋮﹂
﹁ネプギアばかりずるいなぁ。エヌラス、わたしもー﹂
﹁い、嫌じゃないです。むしろちょっと気持ちいいって言うか⋮⋮﹂
?
忘れてたとばかり思ってたけど、い
﹁そりゃそうに決まってるじゃーん。だって、一緒にアダルトゲイム
ギョウ界を救った仲間でしょ
?
﹂
ゲームで取れないのに見えてる宝箱が取
ざこうして思い出すとやっぱり違うなぁ⋮⋮﹂
﹁どんな気分だ
﹂
﹁うー、んとねぇ⋮⋮あ
れた気分
!
?
ネプテューヌらしい例え方に、エヌラスは笑うしかなかった。
!
1139
!
?
もっと優しくしてよ﹂
﹁もー
ス
!
﹁の割に嬉しそうだよな⋮⋮﹂
!
エピソード17 かっ飛べブースターーーー
次の日。エヌラスは朝からアダルトゲイムギョウ界に一度戻ると
言って出かけていた。すぐに戻るとは言っていたものの、まるでその
姿が死ににいくような覚悟を決めていたのは一体どういうことだろ
う。
﹁うーん、エヌラス。どうしたんだろなー⋮⋮﹂
﹁なんかすごく嫌そうにしてたけど、どうしたんだろう﹂
ネプテューヌはいつものパーカーワンピに着替えていた。今日は
ネプギアとギルドに来て女神のお仕事だ。イストワールと約束した
以上、三日坊主で終わらせるわけにはいかない。エヌラスが教会に滞
在する限りは毎日こうしてクエストをこなしていかなければならな
かった。しかし、やはりネプテューヌはそれが苦痛なのか、肩を落と
している。
﹁はぁ∼⋮⋮﹂
﹂
﹁お姉ちゃん、無理しなくてもいいんだよ
もプリンも触っちゃいけない食っちゃいけないっていーすんから禁
止令出てるもん﹂
︵いーすんさん、そこまでするなんて結構本気なんだなぁ⋮⋮︶
女神との交際。特に男女間。今まで陽の目を見なかったその事態
に、しかもネプテューヌが遭遇している。それがイストワールにとっ
ては﹁不出来な娘︵姉のほう︶に馬の骨の男が出来た﹂という状態。危
険人物というオマケつきではそれは当然、警戒もする。どれほど本気
なのかを試されている、ということに違いない。
︵うん、頑張ろう。ここでわたし達が頑張らないと、エヌラスさんがま
た捨てられちゃう︶
ネプギアの気合の入れ方もそうだが││まるっきり犬扱いである
という自覚がなかった。
ギルドを出れば、そこではB2AMのロボット達が片付けを始めて
いる。修繕作業の全工程を終えて、現在は仕上げの最中らしい。現場
1140
!!
仕事をしないとゲーム
やるったらやるからね
?
﹁ううん、やる
!
!
で指揮を執っている濃いブルーの機体は隊長機らしく、角が生えてい
た。機械オタクであるネプギアはそれに目を輝かせている。
軽量化された装甲に、大容量のブースターを装着した隊長機は、ラ
︾
インの入ったマスクで顔を覆っていた。時折、手元の資料に視線を向
けては周囲を見渡している。
︽指揮官殿ー、こちらの機材はどちらにー
︽それは向こうのA地点だ︾
︽了解ですー︾
装甲に装甲を重ね、重量級も重量級。まるで浮かぶ要塞。ホバー型
の最重量級ロボットがのんびりとした口調で隊長機に尋ねると、キビ
キビとした口調で場所を指し示した。だが機動力が犠牲となるのは
﹂
﹂
しかたのないことなのか、ブオーッと鈍い低重音を鳴らしながら緩や
おーい、ネプギアー
かに移動している。
﹁ネプギア
﹂
?
どうしたの
﹂
なかった。まるで危険物でも見るかのような。それに彼らも気づい
周囲の人々の視線は、その作業から目を背けるように一瞥もしてい
こうして目の前の仕事に没頭している。
き起こそうなら、それこそ国境警備隊の沽券に関わる。だからこそ、
普段はプラネテューヌの中を歩くことさえ叶わない境遇。問題を引
女 神 信 仰 の 狂 信 者。だ が 総 指 揮 官 で あ る シ ロ ト ラ に 従 っ て い る。
⋮⋮︶
︵そ う だ、忘 れ ち ゃ い け な い ん だ っ た。こ の 人 達 は ハ ァ ド ラ イ ン の
沢山動いてるの見たことないよ﹂
﹁わたしも。プラネテューヌはあちこちお散歩してるけどもこんなに
がいたんだ﹂
﹁凄いなぁ、って。でも、プラネテューヌにこんなに沢山のロボット達
?
1141
?
!?
﹁⋮⋮⋮⋮││﹂
ねぷぎゃー
?
ど、どうかしたの、お姉ちゃん
﹁ネップーギアー
﹁ハッ
?
?
﹁なんか凄いキラキラした顔であのロボット達見てたみたいだけど、
!
﹂
ているのか、黙々と作業を続けている。
﹁ほら、ネプギア。お仕事行くよ
﹁う、うん﹂
││でも、やっぱり少し可哀想。後ろ髪を引かれる思いを残して、
ネプテューヌとネプギアがその場を後にする。
アイエフは、諜報機関から調査結果の報告を受けていた。携帯を耳
にあてて公園のベンチに腰を下ろして、頷く。
﹁なるほどねぇ⋮⋮﹂
ハァドラインの調査。特にアームドソウルスについての調べに、ア
イエフは感慨深く相槌を打っていた。元々はラステイションで生ま
れた企業。それが長い時間を掛けて発展し、幾つかの中小企業をまと
め上げる企業連盟として成長した。交易を繰り返す内にリーンボッ
クスへも進出、だがそちら側での事業は半ば手放した状態で、謂わば
片 手 間。そ れ を 事 業 家 で あ る プ レ ジ レ ン ト が 株 を 買 い 占 め て 独 占。
後に、国家間を超えた一大企業連盟として君臨した。ということらし
い。
しかし不思議なのは、なぜラステイション企業連盟代表がプレジレ
﹂
ントに席を譲ったのか、ということだ。アイエフにはそれが不思議に
思えてならない。
﹁それで、辞任した代表なんだけど、その理由については
の為なら地位も名誉も投げ捨てて国の地下にこもる筋金入りだ。
んで両国の儲けとなっては面白くないのだろう。腐っても狂信者、そ
利益のみを求めているから﹂とのコメント。リーンボックスと手を組
直接聞いてきたところ、辞任の理由については﹁ラステイションの
るんだもの﹂
﹁ふんふん⋮⋮まぁ、そりゃそうよね。自分の国の女神を信仰してい
無粋なツッコミ。
社はあるが、黒い噂が絶えない││ブラックハートだけにというのは
テイションでも過酷な労働環境に作業用ロボットを導入している会
地下重工業会社に就職して、今は警備隊長の任を受けている。ラス
?
1142
?
﹁プレジレントについての調べは
﹂
重量型のロボット、とは聞いている。とりあえず、仕事の方針につ
いてはイケイケタイプらしく、事業の多角化に積極的ではあるが、手
堅い攻め方をしているようだ。試験段階で導入した経営を波に乗れ
ないと見るやいなや早々に手を切っている。そのせいか、名目上は幾
つもの工業廃棄物を抱え込んでいるらしい。多額の負債を抱え込ん
でいるかと言えばそうではなく、あくまでも自分の趣味の範疇でして
いることらしく会社の損害は極めて少なかった。
こちらもリーンボックスの女神を信仰しているらしいが、ラステイ
ションの代表とは違う。リーンボックスの観光会社の経営だけでな
く特産品を積極的に国外に売り出している。
そんな冗
﹁お金を搦めて自国に引きこもうなんて、一癖ありそうね。とても軍
用ロボットとは思えないわ﹂
国の経理部にでもいた方が良いんじゃないだろうか
談の一つでも出てくる。
﹁それで、頼んでいたその部下についてだけど⋮⋮﹂
それ以外のスタッフについて調べていたら何年あっても足りない。
じゃ﹂
﹁ええ、ありがと。残りはこっちで目を通しておくわ。⋮⋮うん、それ
はそれ以上の調査を打ち切った。
等しい。よくも今まで壊れずにいたものだと感心しながら、アイエフ
が建国されて以来から存在している。旧型どころか古代ロボットに
が、名前以外の一切が不明。ただその履歴を遡ると、ラステイション
の調査は一向に進んでいない。名簿には確かに表記されているのだ
もうひとり。気になっていた人物││ナイルスについて。こちら
督役。新人の教育係も兼任していた。
トの勧誘によってさっぱりと足を洗っている。現在は事業の現場監
副官、ジョッシュ。元は腕利きの傭兵だったらしいが、プレジレン
?
何しろ古株から新人までで数えきれない数を抱え込んでいる。揃い
も揃ってロボットばかり。
﹁⋮⋮ふぅ﹂
1143
?
リーンボックスが軍事国家であった頃の面影が色濃いハァドライ
ン、アームドソウルスについて警戒すべきだろう。謎が多く、表向き
は確かにただの企業連盟ではあるが、裏があるはずだ。疑ってかかっ
ても問題はないだろう。
﹁なーんか、引っ掛かるのよね⋮⋮﹂
ここ最近の動きを見るに、手を出していた事業の撤退や縮小。大人
という疑問が浮かぶ。廃棄された工業の解体作業、壊れ
しい、というよりは手を引いているような状態だ。それも何故このタ
イミングで
た部品の修理に最近は精を出しているらしいが⋮⋮。アイエフには
︾とかそんなノリなのではなかろうか。
それが引っ掛かった。何しろ気まぐれプレジレントのすることだ、ど
うせ︽大片付けでもしよう
している。⋮⋮地震
だが、ベンチに腰掛けている自分のお尻に伝
タカタと震えていた。紙コップに注がれている飲料水が波紋を揺ら
アイエフが自分の買ってきたジュースに手を伸ばそうとするが、カ
﹁ま、いずれにせよ。要調査ってことね﹂
いや、会ったことはないが││。
!
を見渡していた。
と、周囲を見渡す。道行くプラネテューヌの国民達も不安そうに周囲
わるはずの振動がなかった。ならばなぜ紙コップが揺れているのか
?
なんの音かしら﹂
││ォォォォォ⋮⋮
﹁⋮⋮
!
ような豪快なタービン音。燃料をありったけ注がれたエンジンが悲
鳴を上げているようにも思える。
空を見上げると、段々とその振動が腹に響くほど接近しているのが
分かった。目を細めてみると、異常なまでのスピードでそれが飛行し
ている。
巨大なブースター。ただただ、そうとしか言いようがなかった。戦
闘機ほどのサイズのそれが、まるごと燃料と推進剤を注ぎ込まれて飛
んでいる。申し訳程度の主翼と副翼によって生まれる揚力ではなく、
生み出される膨大な量の加速によって文字通り弾丸のようにかっ飛
1144
?
例えるなら、巨大なエンジン音。低空で飛ぶジャンボジェット機の
?
ばされていた。言うなれば航空力学を正面から燃料でぶん殴ってる
│ │ そ れ も、二 機。片 方 は 黒 い カ ラ ー リ ン
ようなものだ。そんな馬鹿げた科学の産み落とした変態の産物が、な
ぜプラネテューヌに
る。
﹁ちょっ
なによアレ
誰が作ったのよ
﹂
!?
トと思わしき物体が見えた気がした。
﹁⋮⋮なんかのデモンストレーション
?
いたバイクに跨ると、エンジンを掛けてスタンドを上げた。馬鹿げた
を見てアイエフが走りだす。その進路上には、プラネタワー。止めて
揺れさざめく木々がようやく収まった頃に、通り過ぎた先の建造物
よね﹂
にしてはちょっと派手すぎ
音と豪風を置き去りにして吹っ飛ぶブースターの先頭に、人型ロボッ
飛び去っていく││というよりは青空に突き抜けていくに近い。爆
それに答える間もなく、アイエフとプラネテューヌ国民達の上空を
!
グ。もう一基は白いカラーリングに塗装が申し訳程度に施されてい
?
速度で飛行する物体に追いつけるはずがないが、それでも向かわずに
はいられない。
1145
!?
エピソード18 がばいねぇちゃん
︽││こちらジョッシュ。聞こえるか、ナイルス。そちらの調子は
⋮⋮そうか、ならいい︾
︽⋮⋮︾
︽どうするか
だと。決まっているだろう。我々と、あそこにシロ
︽⋮⋮なるほど、これは厄介なことになりそうだ︾
映る影に注意を促すと唸っている。
てはくれそうにもないようだ。ジョッシュにそれとなくレーダーに
肯定する。だが、どうにも教会近辺で行動している相手はそうさせ
脱だ︾
燃料タンクもろとも爆発四散するな。頃合いを見て放棄と同時に離
︽なるほど。どうやら耐久力が足りていないらしい││このままでは
ジョッシュも同様の症状が出ていた。
リ ア の 表 示 に 変 わ っ た。動 作 系 統 に は 何 ら 不 具 合 は な い。し か し、
そう思って各部の状態をチェックするが、それは一秒足らずで全てク
ようとした瞬間にブースターから警告が発せられる。燃料漏れ
けを見ていた。教会が迫る。だが、その教会近辺の森林地帯を通過し
肯定する。眼下をめまぐるしく過ぎ去る風景には目もくれず、前だ
︽直に、プラネテューヌの国境を越える。コースは覚えているな︾
ブースターの速度を若干落として並んだ。
ナイルスに伝わる。それに肯定のサインを返すと、ジョッシュは白い
全身に叩きつけられる暴風に晒されていても、やけに明瞭な音声が
?
した超大型ブースターの切り離しに取り掛かる。既にいくつかの部
お互い、とんだ不良品を積まさ
品がはじけ飛んで黒煙をあげていた。
︽これ以上は無理だな、パージする
れたものだな︾
!
1146
?
肯定。ナイルスは頷き、ギシッ、ミシッと限界を訴える背面に接続
︽││︾
トラがいる。ならばやることはひとつだ。違うか︾
?
毒づきながらも、その声色はどこか嬉しそうだった。それも当然
だ。リーンボックスの腕利き傭兵として名を馳せていたジョッシュ
としては、工事現場で指揮を執るよりも戦場に身を置いていた方が長
い。ナイルスもまた、接続を解除して落下していく。視界に広がる市
街地と、舗装工事途中のロボット達。
プラネテューヌの街中であろうが、辺境の土地であろうが、どこで
あっても構わない。
︽戦場は良い⋮⋮私にはそれが必要なんだ︾
︽││︾
メインブースターを吹かして着地の衝撃を和らげて緩やかに接地
すると、道行く市民達が逃げ出していた。
︽親方ー、空から戦闘ロボットがー︾
︽誰が親方だ。総員、作業中断。市民の避難誘導を最優先だ︾
︽了解ー︾
1147
︽⋮⋮おいロゼ。貴様、もっと急げ︾
︽無ー理ー︾
まるで飼い慣らされた水牛のようにのんびりとした動きで重量級
ロボット││ロゼは両手を広げて市民を誘導し始める。濃いブルー
の隊長機││シャニは武装したジョッシュとナイルスを前にして、手
元のバインダーに挟んだ指示書をめくった。
︽何の用だ。アームドソウルスのナンバー2ともあろう輩が。現在は
プラネテューヌ近辺の修繕工事の途中、その仕上げ中だぞ。これ以上
仕事を増やしてもらいたくはないのだが︾
何をバカなことを言っている。白昼堂々とプラネテュー
︽それは済まなかった。こちらも想定外の事態でな︾
︽想定外
フルを向けて警戒していた。人混みを飛び越え、ビルの壁面を滑るよ
甲高いバーニア音。近づいてくる方角に向けてジョッシュがライ
︽何も出来ないさ。だが、運が悪かったな︾
ペラリとめくり、残りの工程を数え終えたシャニが両手を上げる。
︽ならば、どうする。丸腰のお前になにができる︾
ヌの空と地に軍靴で踏み入った罪は重いぞ︾
?
うに駆け下りてくる純白の機体││。
︽我らが総司令官、シロトラ様が視察に来ておられる︾
︽総司令官はやめろと言ったはずだぞ、シャニ︾
︽申し訳ありませんでした、シロトラ様︾
︽この場は私が引き受ける。退避しろ︾
それに黙って頷くと、シャニもロゼと同じく市民の避難誘導を始め
る。
︽押さないでください。老人と子供には手を貸して。慌てないで︾
︽こーっちだぞー︾
こっちっすー
︾
そこには、レオルドの姿もあった。
︽みなさーん
倍頑張れ︾
︽頑張ってるっすよ
よって出鼻を挫かれる。
そこのロボット一号、二号、三号
!
と指を差されて、三人の動きが止まった。何事かと視線
﹁こぉらぁーーーー
ビシッ
﹂
ラ││だったのだが、次の瞬間に鳴らされたけたたましい警笛の音に
動こうとしたジョッシュと、それを迎え撃とうと僅かに動くシロト
︽││いくぞ︾
のなら被害は免れない。それだけは避けたかった。
バー2とナイルスのコンビがシロトラを相手に戦闘でも始まろうも
一触即発の空気が流れる市街地。ここでアームドソウルスのナン
入することによって収まる。
││なお、 凸 凹 □ トリオとして二人のやり取りは毎回第三者が介
でこぼこしかく
︽喧嘩はダメだぞー︾
位︾
︽そういう生意気な口は私に戦績で勝ってから言うんだな、万年最下
にかした方がいいと思います
︾
シャニさんこそ、もうちょっと言葉遣いどう
︽レオルド。お前はこういう時くらいしか役に立たないんだから人一
!
!
!
!!
1148
!
を向けると⋮⋮いや、本当に何事なんだ。
!
避難誘導の手をすり抜けて臆することなく三人に向かって叫んだ
のは、ブラウンの髪にエプロンをつけた、うら若い女性。若妻、とい
うよりは﹁料理中の女子高生﹂のような印象が半々くらいだろうか
?
一般常識
マナー
﹂
!
なにし
に来てウキウキ
一部が豊満に育ったスタイルを恥ずかしげもなく胸を張りながら
︾
目をつり上げていた。
︽一号⋮⋮
︽私が二号か⋮⋮︾
︽⋮⋮︾
となれば、ナイルスが三号。
﹁人がプラネチュ⋮⋮テ、ユ⋮⋮プラネテューヌ
他人の迷惑考えろ
してたのになんでいきなりこんなことになってんだよぉ
てんだ
︽⋮⋮⋮⋮⋮⋮︾
!
﹁ん
なに
﹂
︽その、いいだろうか
?
︾
脅かそうとしている。非常識極まりないことだ。なのだが││。
言っていることは分かる。確かにそうだ。自分達は国民の生活を
!
!
!
?
?
﹁ああ、これ
きてる
気にしなくていいよ﹂
れてテディベアよろしくな状態で身動き一つしてない。というか生
うして作業している原因になった、とんでもない危険人物が襟首掴ま
で見たことあるような気がする。プラネテューヌ国境警備隊が今こ
多分、人間だ。黒い擦り切れたコートを羽織った人間だ。確か新聞
?
なさい﹂
わかる
﹂
?
!
︽いや、しかし︾
納期
!
﹁いやしかしもだがしかしも無いんだよ
現場をよぉ
!
見ろよそこの無様な工事
﹁オホン。まぁとにかく。街中で戦闘するくらいなら別な場所でやり
⋮⋮とは言い出せないほどまくし立てられた。
人間らしき物体を片手に持っている相手に一般常識を説かれても
?
1149
!
︽⋮⋮その手に持っているボロ雑巾のようなものは、一体何だ︾
?
︽わかる、が⋮⋮︾
﹁時は金なり、タイム・イズ・マネー
﹂
﹂
旅行に来ている一分一秒を金
で解決できるなら出すもん出せよオラァン
回れ右
︽あ、いや、今は手持ちが⋮⋮︾
﹁じゃあ帰れ
!
!
︾
んばろうとするも、綺麗に均された地面に踏み止まれない。
貴様、人間か
﹂
!
︽な、なんだこの力⋮⋮
はよ
! !?
貴様も見ていないで助けろ
私のことはいいから、はよ
くっ、ナイルス
!
﹁吸血鬼だ
︽おいやめろ
!
落とした。
︽大体、なぜ我々なんだ
じゃないか︾
﹁どの口ー、お前どの口ー
︾
馬鹿でかいブースターで空飛んでるの
﹂
?
⋮⋮︾
﹁⋮⋮誰、あれ
主婦 にしては随分と怖いもの知らずでパワフ
︽ア ー ム ド ソ ウ ル ス が 侵 入 し て き た。私 が 迎 え 撃 と う と し た の だ が
﹁ちょっと、何が起きてるのよ
ら降りるなりシロトラに駆け寄った。
追いかけていたアイエフがこうして現場に到着している。バイクか
いや。まかり間違っても追いつける代物ではないし、現にバイクで
︽走っ⋮⋮
しっかり見ましたしー。走って追いかけたんだから間違いない﹂
?
もしかすると向こうが悪いのかもしれん
うに移動していくナイルス。逃げるように遠ざかっていく姿に肩を
背中を押されるジョッシュの横を、バーニアを吹かしながら滑るよ
︽⋮⋮⋮⋮︾
︾
ジョッシュが出鼻を挫かれた挙句、ぐいぐいと押されて回れ右。ふ
!
!?
!
?
アンタ、ちょっ、大丈夫なの
!?
か思い当たった。
﹁エヌラス
﹂
た。成人男性。左目に刀傷。黒い衣装に、そこまで見てそれが誰なの
アイエフが眉を寄せる。その手に持っている人間に、見覚えがあっ
﹂
ルね。⋮⋮んん
?
?
1150
!
!
!
!?
!?
﹁んにゃ
コレの知り合い
﹁こ、コレって⋮⋮﹂
﹂
ようなエヌラスを揺らすと、息も絶え絶えといった様子だ。
﹁アイエフ⋮⋮俺はもう、ダメかも知れん⋮⋮﹂
﹁そうみたいね。はい、ネプビタン﹂
﹁ありがてぇ⋮⋮﹂
震える手で受け取り、飲み干す。
︾
らしき女性は肩を回した。
このユノスダス国王様に喧嘩売ろうってか
?
︽ええい、私の邪魔をするな
なんだー
ジョッシュの手を避けて、主婦
﹁おー
?
旧神をコレ扱い。しかもゴミのように捨てられてる。ボロ雑巾の
?
!
︽え
︾
﹁せーの、せっ
﹂
備に、それも棒立ちで構えてしまった。
かける調理器具の一種。それに間の抜けた声が上がる。思わず無防
誰が見ても調理器具。紛うことなき調理器具。どこのご家庭でも見
そして、その手にはフライパンが握られる。どう見ても調理器具。
ジョッシュはこの女性に加減する気は無かった。
光 が 集 ま り、武 器 を 形 成 す る。そ れ が ど の よ う な 得 物 で あ れ、
よーし、やってやんよ﹂
?
ム。ジョッシュの胴体をぶん殴り、身体が宙に浮き││そして、吹っ
飛んだ。ぐんぐん遠ざかる。青空に吸い込まれるように吹き飛び│
│星になった。
﹁おー、飛んだ飛んだ。軽いなー⋮⋮あ、曲がってる﹂
メギョッ。持ち手の曲がったフライパンをまるで針金のような軽
さで曲げ直す。
﹁⋮⋮⋮⋮馬鹿げてるわ﹂
﹁吸血鬼だからな⋮⋮身体の元がちげぇ⋮⋮﹂
﹂
その凄さは今しがた目の前に見せつけられた。
﹁で、一体誰なの
?
1151
?
?
それを振りかぶる。野球選手のごとき見事なバッティングフォー
!
?
女性は振り返り、アイエフに向き直ると満面の笑みを見せる。その
よろしくねー﹂
下から覗く八重歯は吸血鬼の証。柑橘類の髪留めに、ふわりと広がっ
私は商業国家ユノスダス国王、ユウコ
た髪から香るのは柑橘系のシャンプー。
﹁私
ニコニコと太陽のようなまぶしい笑みで手を振る女性こそが││
!
アダルトゲイムギョウ界でエヌラスが最も信頼し、世話になっている
保護者のような人だった。
1152
?
エ ピ ソ ー ド 1 9 飼 い 犬 を 噛 む こ と で 力 を 誇 示 す る
のは虐待ではない
エヌラス曰く││邪神より怖い。アダルトゲイムギョウ界で誰よ
り も 相 手 に し た く な い。言 う な れ ば 天 敵。カ エ ル に と っ て の 蛇。蛇
にとってのなめくじ。なめくじに塩。
プラネテューヌの教会に招き、イストワールに経緯を話した。それ
は予め聞いていたのか、困惑した表情をしている。それもそのはず
だ。
アイエフから渡されたネプビタンによって一度は快復したエヌラ
スだったが││その後、ユウコの手によって再びボロ雑巾と化してい
る。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
合掌。今は床にぞんざいに投げられていた。というか捨てられて
いる。
﹁この度はうちのバカが本ッ当にご迷惑おかけしたようで大変申し訳
ご ざ い ま せ ん。あ、こ れ 良 か っ た ら ど う ぞ。つ ま ら な い も の で す け
ど、ユノスダスのお土産です﹂
﹁これはご丁寧にどうもありがとうございます、ユウコさん﹂
﹁本当は一番美味しい名産の﹃べまモンまんじゅう﹄を持ってこようと
したんですけど、なーんか知らないけどコイツがやめろやめろうるさ
くってごめんなさい。また今度持ってきますね﹂
﹁いえ、そんなお気遣いなく⋮⋮﹂
邪神より怖いと聞いていただけに、その常識的で良識的な姿勢にイ
ストワールは何度も頭を下げた。
﹁あんなもん初対面で出されてみろ、お前の第一印象が﹁キモい饅頭の
人﹂になっちまうぞ﹂
﹁ムカッ。なんだよぅ、べまモンまんじゅう結構売上いいんだぞ
高級品なんだぞ﹂
顔もデフォルメにしてあるし、デザイン頑張ったんだからな。しかも
?
1153
?
﹁何人犠牲になった﹂
﹁えーっと、デザイナーだけで六人。製造工場でうっかり生のべまモ
ン見て精神病棟行きが三人。発狂した患者一人。いやー、商品化まで
すごい苦労したなぁ⋮⋮﹂
商品よりも製造工程の時点で既に犠牲者が出ている饅頭とは一体
なんなのだろうか。逆に気になるが、ユウコが持ってきてくれたユノ
スダスのお土産は﹁ユウコ印の柑橘大福﹂だった。甘い皮に包まれた
﹂
こし餡と、わずかに含まれる柑橘の酸味が程良く合わさって、お茶と
よく合う。
﹁美味しいですね﹂
﹁それは勿論、一番人気の商品ですから
!
ユウコ印は教会から直売だから安全面でも一番だし
﹁お前の教会で作って売り出してるしな﹂
﹁そらそうよ
まぁ作ったの私なんですけどねー﹂
!
たはー、とちょっと笑って見せるユウコに、イストワールは大福を
頬張る。
﹁あむあむ⋮⋮これは。美味しいです﹂
﹁気に入って貰えたのなら良かったぁー、朝一で作った甲斐がありま
﹂
?
す﹂
﹂
﹁アイエフ⋮⋮今の俺を見て何か思うことはないか
﹂
﹁そうね⋮⋮。立たないの
﹁立てたらな
?
いのかー
﹂
﹁反省しとるわ﹂
﹁街のどまんなかでシャイニング・インパクトぶっ放したって
﹁⋮⋮﹂
?
近接昇華呪法、撃ったんだろー
?
﹂
﹂
﹁ははっ、うっせーぞー。人様に迷惑掛けるだけかけといて反省しな
していた。
で重石でも乗せられているかのような圧力に、エヌラスは床に突っ伏
立ち上がろうにもユウコに踏まれていては立ち上がれない。まる
!
﹁〝無限熱量〟、撃ったって
?
?
1154
!
﹁あい⋮⋮﹂
﹂
﹁バ カ か お 前 は
の
うちならともかくよそさまで何してん
!
﹁あ〟
今なんつった
﹂
次元世界幾つかぶっ壊したしな﹂
﹁無茶言うな。あの邪神の魔術、俺並に被害叩き出すんだぞ 現に
﹁そうらしいけどさぁ。もうちょっと出力抑えろよぅ﹂
﹁いや、撃たなきゃ逆にここら一帯が消滅してたんだが⋮⋮﹂
!
?
なってんの﹂
邪神との戦いで お前今までそんな
こと一回もしたことねぇじゃん
?
なんでアイツだけそんなことに
?
﹂
﹂
!
挙 句 こ ん な 事 に な っ て ん じ ゃ ね ぇ か
!
ユウコの脚がエヌラスの背中を強烈に踏みつけ
﹁ひぎぃあごめんなしあ
メゴシャァッ
!
﹁はい
アダルトゲイムギョウ界随一の商品流通、商業国家ユノス
﹁いえ、気になさらないでください。それで、ユウコさんは﹂
﹁ゴホン⋮⋮すいません、見苦しいところを﹂
を止めた。
もぐもぐと柑橘大福を食べる二人はその様子を眺めながら、ユウコ
す、イストワール様⋮⋮﹂
﹁多分、人間としての地位がネズミ以下だからではないかと思われま
ずなのですけれど﹂
﹁⋮⋮おかしいですね。旧神、とは仮にも次元神に匹敵する役職のは
ている。
﹂
﹁だ っ た ら ど う に か し ろ よ
俺一人でどうにか出来たら苦労してねぇわ
﹁今まではアルシュベイトとかソラとかいたからどうにかなってたが
!
﹁次元世界ぶっ壊したって
グリと背中を踏まれてちょっと背骨がヤバイことになっていた。
た。それに肝を冷やされてイストワールとアイエフが固まる。グリ
笑顔でドスの利いた声でユウコが足元のエヌラスに視線を落とし
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
?
!
1155
?
!
!
ダス国王でっす
﹁ぐほぉあ
﹂
趣 味 特 技 は 料 理
勝手に付け加えんな
﹂
家 事 全 般
かざるもの食うべからず﹁貧乏人は野垂れ死ね﹂
!
﹁そういう契約だろー
﹂
邪神との戦いを口実に﹂
﹁それって、もしかしてわざとやっていませんか
﹁実質タダ働きってわけなんだよな﹂
?
トワールさん﹂
﹁ああ、そりゃないな﹂
﹁あ、あははは⋮⋮な、ないよな
﹁ねぇよ﹂
﹁うわ、かわいくねぇー⋮⋮﹂
座 右 の 銘 は 働
エヌラスさん。
ないよね、エヌラス﹂
﹁││ア、アハハ。ないない。コイツに限ってそれはないですよ、イス
?
かげで報酬貰いそびれるわ勝手に懐に入れられてるわで﹂
﹁なんでか知らねぇが俺が仕事すると毎回トラブル起きるよな⋮⋮お
くて⋮⋮﹂
﹁正確には、キチンと仕事はするんですよコイツ。でも報酬が渡せな
も、タダ働きをさせられていると﹂
﹁それで、不当に雇用しているというお話を耳にしましたが。なんで
む。
なんとか抜け出たエヌラスは、這うようにしてソファーに座り込
﹁ふ、ふふ⋮⋮俺もそう思い始めてきた⋮⋮﹂
﹂
ってオイコラぁ
!
﹁エヌラス。アンタそろそろ抜け出さないと殺されるんじゃない
!
!
!
るが、エヌラスが嘘を言っているのが分かった。
﹁っていうかなんでお前邪神と戦ってるんだっけ
?
そんな自分勝手な理由で相手ぶちのめすようなろくでもない人でな
﹁ほらー、コイツこういう奴ですよ。気に食わないとかムカツクとか、
﹁知らん。忘れた﹂
﹂
てから口に含む。だが、イストワールとアイエフはなんとなくではあ
断言するエヌラスに、ユウコは口をへの字にしながらお茶を冷まし
?
1156
?
!?
!
しの穀潰し
﹁ほっとけ﹂
﹁
﹂
ちゃう
﹂
どこがいいのやら⋮⋮﹂
極的に取り入れたいし、願わくはユノスダスの商品も市場進出狙っ
たいな。初めての次元旅行、やっぱり物資の流通とかそういうのは積
﹁うーん、そうだねぇ。私としてはやっぱプラネテューヌを見て回り
﹁んで、ユウコ。お前はこれからどうすんだ
﹂
﹁⋮⋮まぁ。エヌラスさんがそういうなら、別に構いませんけれど﹂
た。
ずずず⋮⋮、お茶を啜りながらエヌラスはユウコを横目で盗み見
!
﹂
!
!
ヌとネプギアが帰ってきた。
いーすん
!
テューヌさんです﹂
﹁はじめま││って、あれ
﹂
ユウコじゃん
ぅわー、久しぶりー
?
元気にしてた
!
でもあれ 私と会った
!
うーん、おかしいなぁ。職業柄、人の顔と名前は忘れな
﹁うんうん、私はいつでも超元気だよー
ことある
!
?
?
すね。こちらがプラネテューヌの守護女神、パープルハートことネプ
どお客様がお見えになっていますので、自己紹介をさせていただきま
﹁あら、おかえりなさい。ネプテューヌさん。ネプギアさん。ちょう
﹁たっだいまー
﹂
親指を立てるユウコ。すると、そこにクエストを終えたネプテュー
﹁惚れ惚れするくらい商魂たくましいわねー⋮⋮﹂
﹁ほんとうに筋金入りの商売人なのですね﹂
﹁ばっきゃろう、商業国家国王舐めんな
﹁次元超えてまで商売の話とか勘弁しろよお前⋮⋮﹂
?
⋮⋮﹂
﹁あ ⋮⋮ そ っ か。ユ ウ コ も わ た し を 知 っ て る ユ ウ コ じ ゃ な い ん だ
と思うんだけどね﹂
ん、うーん⋮⋮ごめーん、思い出せないや。どこかで会ったことある
いようにしてるつもりなんだけど⋮⋮ネプテューヌちゃん⋮⋮うー
?
1157
?
?
何度も謝るユウコだったが、そこはやはりネプテューヌの知ってい
﹂
なぁエヌラスー
﹂
るユウコだった。すぐさまニコニコと笑いながら打ち解ける。
﹂
﹁ユウコも教会に泊まってくの
﹁も
﹁へぇ∼∼∼∼⋮⋮そうなんだぁ∼∼∼
言うな。頼むからお願いしますマジで
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮アダルトゲイムギョウ界には帰ってこないの
ぶ っ ち ゃ
?
﹁ん
﹂
うかな
﹂
﹁じゃあさ ユウコは教会でハウスキーパーとして雇うってのはど
﹁ふぅ⋮⋮まぁ、いいけどさぁ⋮⋮﹂
白くなさそうにしていた。腕を組んで、胸を持ち上げる。
線には気づいているのだろうが、無視して柑橘大福を口に運ぶ姿に面
むくれながらそっぽを向いて、ユウコがエヌラスを横目で睨む。視
﹁むぅー⋮⋮そっかぁ⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ん、そうか。んじゃもうしばらくはこっちの世話になるかな﹂
るしさ、だから別にお前が一人で頑張らなくても大丈夫だよ﹂
けアゴウの軍隊総動員すりゃどうとでもなってたし。大魔導師もい
か や っ ぱ 来 た け ど。そ こ は ほ ら。最 強 さ ん 勢 揃 い だ し
﹁いつも通りって感じ。お前がいなくなってから、しばらくは邪神と
?
!
﹁⋮⋮そういや、向こうはどんな調子だ﹂
﹂
﹁いい、分かってる。お前が言いたいことが痛いほど分かるから何も
?
﹁エヌラスは教会で保護、って言う形で泊めてるけど﹂
?
よね、いーすん
﹂
いいんですか
私結構そういうの頑張っちゃいますよ。
﹁そうですね。ユウコさんがよろしければ、どうでしょうか
﹁えー
?
ネプギアもいいよね
﹂
あ、でも本業は疎かに出来ないのでたまにで良ければ⋮⋮﹂
﹁全然オッケー
?
!
!
﹂
で保護してあげてるんだもん、ユウコもそれぐらいしてあげてもいい
ごしていいよー。エヌラスだって私のお仕事を手伝ってくれる名目
﹁わたし達のお世話をしてくれる代わりに、滞在中は教会で好きに過
!
?
1158
?
?
?
?
?
﹁お姉ちゃんがいいなら、私もいいよ。ユウコさんの手料理、凄く楽し
みですし﹂
﹁お、私の手料理は次元を超えて好評かぁ。さてはお前が広めたなー、
エヌラス﹂
﹁美味いもんは美味いからな﹂
適当に口裏を合わせるエヌラスに、ユウコは満更でもなさそうに頬
を赤くしていた。
﹁さて。んじゃ、俺は午後からギルドに行って仕事でもしてくる。ア
イエフにやり方は教えてもらったしな﹂
﹁わたしも今日は色々と忙しいの、手伝えなくてごめんなさい﹂
﹁いいさ、気にすんな﹂
﹂
﹁わたしは午後からはゲームをするって決めてたからテコでも動かな
いからねー
﹂
﹁お前にゃ期待してねぇから心配すんな。たっぷり遊んでろ﹂
そう言いながら、エヌラスは教会を後にする。
﹁⋮⋮プラネテューヌのシェア、大丈夫でしょうか
?
それに一抹の不安を抱えるのはイストワールだけだった。
1159
!
エ ピ ソ ー ド 2 0 プ ラ ネ テ ュ ー ヌ に 現 れ る 黒 衣 の 英
雄
エヌラスがギルドに到着すると、昨日に比べると人が少ない。ギル
ドに貼り付けられているクエストをザッと眺める。この周辺の地理
には疎いが、まぁプラネテューヌ周辺の案内看板でも見ればどうにか
なるだろう。
内容を見れば、千差万別。理由はともあれ、人々の出す依頼には多
少なりとも報酬が支払われる。日々の金銭を稼ぐにはここで仕事を
受ける他にない。とくに自分のような人間には。
﹁ふーむ⋮⋮﹂
だが、ひとまずは簡単なクエストを受注しておく。準備体操はしっ
これ
スはそのクエストを受けることにした。人にはそれぞれの事情があ
るのだろう。ひとまず、近場で済ませられるものから片付ける順番に
並べ替えながらギルドを後にする。
元通りに舗装工事を終えた場所では、一人のロボットが周囲を見渡
﹂
しながらしきりに手元のメモに視線を落としていた。
﹁おーい、そこのロボット││確か、レオルド
﹂
︽あ、エヌラスさん。どうもっす︾
︾
﹁よう。何してんだ
︽パシリっす
?
親指を立ててみせるレオルドは、背中にマウントするはずの武装が
1160
かりと。
ヤンキーキャットの耳、納品⋮⋮ん
その中に、ふと、目を引くものがあった。手に取って内容に目を通
しておく。
﹁スライヌの耳、納品
同じ相手からか⋮⋮﹂
?
どうして一枚にまとめておかないのか疑問を抱きながらも、エヌラ
?
?
﹁そこまで自信満々に自覚のあるパシリ初めて見た﹂
!
全て買い物袋で埋まっている。
でも、その⋮⋮︾
自分、今回の演習で最下位を記録して先輩方からパシリ頼
﹁すげぇ量だな⋮⋮﹂
︽はい
大丈夫っす、慣れてるんで
まれました
﹂
﹁どうした
﹂
﹄と書かれて
!!!
︽結構、馴染みあるコンビニなんす⋮⋮︾
躊躇われた。
笑顔の、うら若い女性店員。だからこそエロ本を会計するというのが
ジに立っているのは女性の店員だった。ポニーテールにさわやかな
レオルドの視線の先にはコンビニ。眼と鼻の先にあるが、そこでレ
﹁
︽いや、流石に自分でもこれは無理です⋮⋮しかも︾
﹁高校生かよ⋮⋮﹂
いた。
イランド特別号・壮観なる特殊性癖特集﹄に﹃超重要
メモを指差す。そこには赤い丸で﹃ビニコンのエロ雑誌。R18ア
︽コンビニでコレ買ってくるように頼まれて困ってるっす⋮⋮︾
!
マジすか
︾
﹁なんだ。んじゃ俺が買ってくる。ちょっと待ってろ。金借りるぞ﹂
︽あ、えっ
!?
な女性というのは珍しい。だが忘れてはならない││そう、女は化粧
れた観察眼が、なるほどと再度頷く。おそらくは、処女だ。純真無垢
手がどういった人物かを見抜けないと命に関わる環境で鍛え上げら
背丈にコンビニの制服が似合っていた。育ちが育ちだけに、一目で相
いった感じである。小顔ながら、まるっとした瞳に女性らしい小さな
本を差し出すという行為を躊躇うわけだ。見立ては悪くない、上々と
す。そのまま左手側で足を向ける。成る程、確かに。レオルドがエロ
店員の快活な挨拶。女性店員の顔を一度チラリと見て、視線を外
﹁いらっしゃいませー﹂
エヌラスはコンビニへと足を踏み入れる││。
手にしていた財布を流れるように抜き取ると、引き止める暇もなく
!?
1161
!
!
?
?
で化ける。かわいい顔などいくらでも作れる
だが、エヌラスは仮
にも魔術を扱う身分。ゆえに、その副産物とも言うべき術も幾つか嗜
んでいる。まぁ私生活に全く活かされないスキルなのだが。その中
にある占術、俗にいう占いの類。名は体を現し、態度は服装に出て、顔
は 生 活 を 表 す。そ れ ら の 点 か ら 彼 女 の 人 物 像 を 成 人 向 け 雑 誌 コ ー
ナーに立ちながら考える。
名 前 は 二 の 次。ま ず 制 服。ピ シ ッ と 着 こ な し、清 潔 さ を 保 っ て い
健康的な肌に、
た。そして使用頻度の高いペンなどもしっかりと自ら保持している。
規律を重んじて、かつ用意周到。顔立ちはどうか
眼鏡を直しながら、男性客はあくまでも平静を務めて視線を投げか
﹃何のために﹄
小さく頷き、男性客は雑誌を棚に戻した。
﹃ああ。そのつもりだ﹄
﹃君は⋮⋮そのエロ本を買うというのか﹄
読みしている男性客の視線に、横目で応える。
に塗れている。白昼堂々と手にするようなものでもない。隣で立ち
表紙の時点で既に、豊満なスタイルの女性が触手責めにされて粘液
向けて、手にした卑猥な雑誌を差し出すというのは些か良心が痛む。
という下世話な勘ぐりはこの際どうでもいい。確かに、そんな女性へ
ビニ店員の彼女は実に良い振る舞いの女性だ。男がいるのかどうか、
││さて、そこまでで構築された人物像。要約してしまえば、コン
容姿に不満がそれほどないのだろう。
という感じで済ませている。それは元が良いということか。自分の
メイクが許可されていないのは当然だ。だが、その中でも軽く整える
これもまた、控えめにしてある。接客業という職業柄、そう派手な
ないような、清涼感のある生活基盤。化粧はどうか
ンスの良い食事に睡眠。私生活においてストレスを抱え込むことの
小ぶりな顔のライン。食生活がしっかりとしているのだろう。バラ
?
?
ける。エヌラスの視線の先、コンビニのガラス越しに見守るロボット
が一人。立ち尽くしている。
﹃悲しいものだな。本能を凌駕する理性は﹄
1162
!
﹃⋮⋮彼のためにか﹄
興味本位でパラパラとページを捲ってみると、確かにそこには特殊
性壁が凝縮されていた。触手だけでなく、後ろの穴や異種姦。拘束や
フィストファック。エヌラスは一通りのページを流し見てから、閉じ
る。週間コミック雑誌ほどの厚さがあるそれを手にしてレジへと向
かった。
全年齢の雑誌でカモフラージュすることもなく、白昼堂々と他に女
性客がいる中で、手にした雑誌はR18アイランド特別号・壮観なる
特殊性癖特集。人目につくことすら憚られる雑誌を手に、エヌラスは
純粋な目をしている女性店員の前に立った。
﹁いらっしゃいませ﹂
雑誌を差し出す。それは女性の純潔を奪うに等しい行為だ。聖域
への侵略行為。だがエヌラスは、さもそれが日常茶飯事であるかのよ
うに、静かに差し出した。女性店員が受け取り、手元に視線を落とす。
す。それを受け取り、腫れ物でも扱うように差し出される成人向け雑
1163
顔を赤くして、裏表紙のバーコードをスキャンする。エヌラスはそれ
に釣り銭がないように金額を支払おうと財布の中を探った。一方で、
女性店員は見ていられないとでも言うように袋を探し始める。コレ
を包装して自分から遠ざけようというのだ。
﹁そのままで﹂
だが、それに先手を打ったのはエヌラスだった。
││そのまま、だと⋮⋮
男性客
!?
きっちり釣り銭無しでピッタリ支払うと、女性店員はレシートを渡
は戦慄していた。
ず。それを正面から殴りにいっている、この男は一体⋮⋮
くのと同じこと。それは、もはや侵してはならない暗黙のルールのは
らなくてはならない。つまりはそれを衆人環視の中に、手で持って行
望していた。だが忘れてはならない。商品は、買ってから家に持ち帰
るはずの産物を、よもや一切隠さずに。それも女性店員の手渡しを所
でひっそりと片隅で埃をかぶり、深夜営業の中で戦々恐々と手にされ
店内に居た男性客がざわめく。特殊性癖の、それもコンビニの店内
!?
誌を手にする。
﹁あ、ぁりがとうございましたぁ⋮⋮﹂
頬を赤くして、女性店員は言葉を尻すぼみにしながらその背中を見
送った。
男は戦利品を手にして颯爽と店を後にする││その姿に、コンビニ
H.ERO
に来ていた男性客は知らず知らずの内に親指を立てていた。
後に、男性客達によって語られる﹃黒衣のアダルト 英 雄﹄が誕生し
た瞬間である。
自分、今すごく感動してるっす
エヌラスはコンビニを出ると財布を返して、雑誌とレシートを渡し
た。
﹂
感謝っす
﹁ほれ。これでいいんだろ
︽あ、アザーッス
!
﹁よせやい﹂
﹂
はい
いいのか
︽ありがとうございます
﹁ん
︽もちろんです
︾
︾
待ち
ひとり
そうだ、自分も何か手伝えないっすかね︾
命の恩人ですから
﹁そういうことなら、ちょっとクエスト手伝ってくれるか
じゃあちょっと荷物届けてくるっす
︾
!
でも良いんだが、二人のほうが効率はいいだろうしな﹂
︽お安いご用っすよ
合わせ場所はバーチャフォレストっていいすか
︾
﹁ああ、いいぜ。先に行ってる﹂
︽了解です
?
!
?
!
本の会計初めて見ました
まさか昼間から女性店員に向けて威風堂々と、あんな貫禄のあるエロ
!!
?
!
!
!
?
後から視線を感じて振り向くとそこには││。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
?
コンパが立っていた。少し頬を赤くしている。
﹁えぬえぬ⋮⋮え、えっちなことに興味⋮⋮あるですか
﹂
走り去るレオルドを見送ってから、エヌラスは頭を掻く。ふと、背
!
1164
!
!
?
﹁⋮⋮いつからいた
﹂
の鼻が世界一周する﹂
?
ぐに打ち解けた。
﹁ねぷねぷー﹂
どうしたのさコンパ
?
﹃ブゥーーーーー
﹄
﹁さっき、えぬえぬがコンビニでえっちな本を買ってたですぅ﹂
﹁んー
﹂
プラネタワーへやってきたコンパにユウコを紹介すると、二人はす
﹁はいですぅ⋮⋮﹂
﹁理論上は。だからな、その、なんだ⋮⋮何も言わないでくれ﹂
﹁そんなに伸びるです
﹂
﹁⋮⋮コンパ。俺は健全な成人男性だ。興味が無いといえばピノキオ
たかも完全に見られていたということだ。
一連のやり取りを目撃されていた模様。つまりは、何を手にしてい
﹁ちょうど、コンビニに入る辺りからですぅ﹂
?
性の方は大変だと聞きますし﹂
﹁ずっと戦い詰めだったみたいですから、致し方ないことかと⋮⋮男
﹁⋮⋮や、やーっぱ。溜まってるのかな⋮⋮﹂
にしたネプテューヌが、その場にいた全員が噴き出す。
お茶を飲んでいたネプギアが、座っていたユウコが、ジュースを口
!!!
﹁う、うぅ⋮⋮エヌラスさん、なにしてるんだろう⋮⋮﹂
1165
?
エピソード21 旧神と体育会系ロボット
バーチャフォレストでレオルドを待っていたエヌラスが、上空から
の騒音に見上げると一台の輸送ヘリが飛んできていた。VTOL機
らしく、主翼にプロペラが付いている。
側部ハッチが開き、そこに固定されたレオルドが居た。機体を傾け
て固定しているラックを解除。上空から落下してくるレオルドはエ
︾
﹂
ヌラスの姿を見ると、ブースターを吹かして着地の衝撃を和らげなが
ら降りた。
︽お待たせしたっす
﹁よう。にしても、なんだあの輸送ヘリ
オペレーターのヨルドさんが操縦する輸送用ヘリです ︽まぁいいっす
!
シャニさんもロゼさんも、朝のアームドソウルス
﹁いるよな、そういうの﹂
美人なんですけど、ちょっと性格キツイんすよ⋮⋮︾
︽はい
?
!
︾
?
﹁マジかよ﹂
ないっすよ
︾
︽ふんふん。スライヌの耳⋮⋮でも、ヤンキーキャットはこの辺にい
﹁ほれ﹂
︽それで、クエストの内容は何ですか
をシロトラに任せて作業員達は早々に撤収。
残された作業はやり残しがないかのチェックだけだったので、それ
今日は暇してたっすから︾
の襲撃があったせいで修繕工事切り上げて帰っちゃったですし、俺も
!
いって書いてあるしな
﹂
﹁悪いな。んじゃま、スライヌの耳集めだ。オマケで尻尾も持って来
︽まぁ、終わったら一緒に行きましょう︾
オルドの情報はとてもありがたいものだった。
ゲイムギョウ界の地理には疎いエヌラスにとって、仕事柄詳しいレ
︽そうっすね⋮⋮洞窟とか、その辺りに︾
?
!
1166
!
エヌラスは右手に無銘の倭刀を、左手にレイジングブル・マキシカ
︾
﹂
スタムを召喚する。レオルドも両手にサブマシンガンを持ち、弾倉を
オリャー
チェックして構えた。
︽レッツ・ボーダー
狩りの時間だー
!
!
﹁ふむ﹂
︽ガーンッ
ちょっと貸してみてくれ﹂
︾
﹁強いていうならお前の頭が悪い﹂
︽どうっすか
やっぱり、なんか悪いところとか︾
片腕で反動を吸収して、更には狙いを付け続けなければならない。
トリガーガードに指を引っ掛けて回す。これを片手に持って、撃つ。
その銃は確かに携行性に優れて閉所でバラ撒く分には効果的だろう。
と照星を合わせる。二連装マガジンによって装弾数を大幅に上げた
エヌラスはレオルドからサブマシンガンを預かり、銃身のバランス
︽どうぞ︾
﹁いや、狙え
︽うっ。面目ない⋮⋮数撃ちゃ当たる戦法なんすけど︾
﹁結構外すのな﹂
手さにエヌラスが眉を寄せた。
て二挺のサブマシンガンを連射する。ロボットらしからぬ射撃の下
イヌの顔を正面から粉砕した。レオルドも一匹のモンスターに向け
レイジングブル・マキシカスタムのバヨネットを持ち上げて、スラ
二人が意気揚々と武器を手にしてスライヌを中心に狩り始める。
﹁っしゃーのやろー
! !!
なってんだ
﹂
︽それ、頭部のFCSっすか
良くって感じっす︾
﹁なるほどね﹂
まぁ要領の都合で全体的にバランス
!
ねる。
﹁いいかー、この手の銃ってのはな⋮⋮こう使うんだよ、っと
﹂
グリップを握り、残弾を軽く確認するとエヌラスはその場で軽く跳
?
1167
?
?
﹁連射力は確かにあるみたいだが⋮⋮お前の火器管制システム、どう
!
?
言うが早いか、エヌラスはモンスターに向かって駆け出していた。
接近して、外さない距離まで接近してから引き金を引く。反動は控え
めであるが、それは採用されている銃弾の口径が小さいことを意味し
ていた。連射重視の設計であるということは、恐らく││こう使うの
が妥当だろう。
ほぼ銃口を突きつけている状態で、一匹が蜂の巣にされた。続けて
二匹目。攻撃を避けると同時に、ノールックで背後に向けて片方を連
射する。背中に弾丸を暴雨のように受けたスライヌが息絶えた。空
を飛んでいるトカゲ、リザードマンの攻撃を歩きながら避けてこめか
みに当てた銃口がマズルフラッシュで焼いた。蹴り飛ばして、銃を横
﹂
にして回転するようにモンスターを牽制。残弾は僅か。
﹁ふんっ
手短な一匹を蹴り飛ばし、正面に立つモンスターを足蹴にして宙返
り し な が ら 残 り の 弾 丸 を 全 て 叩 き 出 す。着 地 と 同 時 に 残 弾 が 0 に
外すくらいなら当たる距離で撃て。こん
なったサブマシンガンをレオルドに返した。
﹁と、まぁこんな感じか
﹂
な感じに﹂
﹁ぬらっ
︽どりゃー
︾
﹁ぬっらぁぁぁ
﹂
も、エヌラスの動きを真似てみた。
若干引いているレオルドはサブマシンガンの弾倉を交換しながら
︽え、えげつねぇっす⋮⋮︾
になっている。
を全て撃ち込んだ。哀れスライヌは跡形も残らないゼリー状の何か
マキシカスタムの撃鉄が叩く50口径の弾丸を容赦なく、装弾数五発
さえつける。その愛くるしい顔に向けてエヌラスはレイジングブル・
体当たりしてくるスライヌの頭を掴み、地面に叩きつけると足で押
?
し か し 勢 い あ ま っ て ス ラ イ ヌ を 蹴 り 飛 ば し て し ま っ て い る。ロ
ボットが蹴ればそうもなるだろうに、エヌラスはそんなレオルドの間
1168
!
!?
︽あれ、蹴っただけなのに⋮⋮︾
!?
!
の抜けた行動に思わず笑ってしまった。
︾
﹁お前、なんかロボットらしくねぇな﹂
︽そ、そうですか
ソードに向けられる。
?
掃した。
︾
︽こんな感じっすけど⋮⋮どうっすか
﹁すげぇ重量感だな⋮⋮﹂
︽これ一本で五百は固いですね︾
︾
銃と白銀の回転式拳銃でレオルドの周囲に集まるモンスター達を一
反っている。その隙をカバーするようにエヌラスは深紅の自動式拳
るった。それだけで三匹、のみならず剣圧で小型モンスターが仰け
埃を舞い上げながら、レオルドは回転するようにグレートソードを振
大腿部のブースターを吹かして接地性を高める踵のローラーで土
コロコロと吹っ飛ばされていた。
属が相当重量のあるものであるのが窺える。スライヌは風圧だけで
ブンッ。重い、空気を裂く音。その風切り音だけで使われている金
︽せいっ
流派らしい。
広の大剣を切っ先を下に向けている。正眼に構えないのは、そういう
ソードを構えた。刀身を収納していたのか、スライドして展開した幅
サブマシンガンを組み合わせ、背面中央にマウントしたグレート
︽あ、コレっすか。よっこいせ︾
﹁白兵戦はどうなんだ
﹂
ヌラスの視線は、続けて背中に背負っている巨大な片刃のグレート
一周回って愛嬌がある。出来の悪い後輩、というような感じだ。エ
?
る〟ことはできる。
!
サイズより一回りほど大きく、幅が広い。
視して鍛造するのはおよそ同等のサイズの偃月刀。自分が普段使う
眼前に突如現れる炎にレオルドが︽アッツイっす
︾と叫んだが、無
て魔術師だ。その基本構成から似た形状の物を、その場で〝鍛え上げ
それは流石に手本代わりに振れる重量ではない。だが、エヌラスと
?
1169
!
﹁これくらいか
︾
﹂
﹂
︽お ぉ ⋮⋮ す げ ぇ っ す
そ ん な ん 今 ま で 考 え た こ と 無 か っ た で す
踏み止め、軸を据えた切り上げで吹っ飛ばす。
烈にリザードマンの腹部を打ち付けていた。反動で後ずさる身体を
肩口からタックル││のように見せかけて抜身の居合。柄頭が強
﹁そうだなぁ、こいつだと⋮⋮牽制にジャブだな、後はこうやって﹂
考えると、自然と左手が飛んでいる。
た。地面に埋まった切っ先を引き抜いて、最も効果的な初撃は何かを
土煙が上がり、飛びかかってきたスライヌは真っ二つになってい
ズドォンッ
馬偃月刀とでも命名する││を全身を使って振り下ろす。
突進してくるスライヌを避けて、二匹目の体当たりに偃月刀││斬
﹁お、っと﹂
﹁ぬらーっ
オルドの構えを真似てみる。
軽さから西洋剣のような重みのあるものに変わっていた。両手でレ
軽くにしても、片腕で振るには多少堪える。風切り音も刀のような
﹁うし、こんなもんか﹂
スはもう一工夫を施した。
てくるほどだが、それでは軽すぎる。重量をかさ増しする為にエヌラ
ヒュンッ││。風を切る音も軽い。振ってから一瞬遅れて聞こえ
?
!!
!
でスライヌの顔に拳がめり込んで面白いように吹き飛ぶ。
あれぇ
︾
自分のことは
それより、スライヌの耳は集
﹁いや、お前がやると⋮⋮まぁそうなるわな﹂
︽あ、あれー
?
不思議そうに首を傾げていた。
︾
︽ま、まぁいいっす
まったっすか
﹁あ﹂
!
すっかり忘れていたエヌラスは、うっかりとでも言うように声を挙
!
?
?
1170
!
素直に感心するレオルドも真似てみるが││やはり殴られただけ
!
げる。
︽まさかとは思うっすけど⋮⋮忘れてましたね
︽ダメじゃないっすか︾
﹁うるへ。いくらでもいるんだからいいだろ
︾
﹂
﹁いやー⋮⋮はは。雑魚敵倒すのが愉しくてすっかり忘れてた﹂
?
気を取り直して、エヌラスとレオルドはスライヌの耳集めを始め
た。ついでに尻尾もいくつか。
1171
?
エ ピ ソ ー ド 2 2 グ ッ ダ グ ダ ハ ン テ ィ ン グ と 明 る く
楽しく元気よくお仕事
︽よーし。こっちは大体集まった⋮⋮っすけど⋮⋮︾
レオルドが倒したスライヌから耳を採る。相手は既に死んでいる
のでいいが││。
﹁ぬ、ぬらぁぁ⋮⋮﹂
﹁へっへっへ⋮⋮﹂
涙目で震えるスライヌは、壁際に追い込まれて逃げ場がない。その
怯えきったスライヌを捕まえると、エヌラスは尻尾を鷲掴みにして力
﹂
一杯引き千切った。
﹁ぬアッーーーー
ねて逃げていく。
﹁ちょれぇ﹂
︽ひでぇ⋮⋮︾
まさかの生け捕りだった。既にその手で犠牲となったスライヌが
何匹か逃げ出している。
︽これなら二手に分かれた方が早そうっすね。スライヌくらいでした
ら自分でもどうにかなりますし︾
﹁んじゃ、俺は向こうで集めてくる﹂
︽了解っす︾
二手に分かれて、レオルドは引き続きスライヌ達を狩り始めた。二
挺のサブマシンガンを構えて、倒したスライヌから耳を剥ぐ。
︽よいしょ、よいしょ︾
外さない距離で狙う。エヌラスがそうしてたように、剣の間合いか
ら や や 離 れ た 位 置 に 相 手 を 捕 ら え て か ら 掃 射。瞬 く 間 に 蜂 の 巣 に
なった相手に手応えを感じながら頷く。
︽俺の戦い方が今まで悪かったんすね⋮⋮︾
1172
絶叫が響き渡り、捨てるように投げられたスライヌは泣きながら跳
!!!!
ただ撃って、ただ斬って。おそらくそれがダメだったんだろう。シ
ロトラ教官との訓練では演習用ビットを大量に相手していただけに、
そんな戦法が身についてしまっていた。
武器の効率的な使い方を学んだ気がして、レオルドはサブマシンガ
ン の 残 弾 が 想 定 以 上 に 少 な く な っ て い る こ と に 気 づ く の に 遅 れ る。
残りのマガジンはひとつだ。背部に背負って、グレートソードを構え
る。
まず牽制。体勢を崩し、出鼻を挫いた相手に向けて一閃。分厚い大
剣を力任せに叩きつけるだけでも相当な打撃力になる。
︽ちょっとコツが分かった気がするっす︾
これなら││とスライヌ達を狩りたて、他のモンスター達の相手も
︾
しつつ素材を集めていたレオルドだったが、スライヌ達が一斉に逃げ
出すと後を追った。
︽こらー、逃がさないっすよ
チャージングシステムを起動。即座に群れを一薙ぎで蹴散らすと、
︾
グレートソードを地面に突き立てて満足そうに頷く。
︽よし
﹁ぬらぁ∼﹂
︽⋮⋮⋮⋮︾
スライヌがいた。だが、その全長はレオルドが見上げるほどにでか
い。
一方、エヌラスはと言うと。もう武器を使うのが面倒になってきた
のか素手でスライヌを捕まえては耳を千切っては投げ、尻尾を掴んで
は千切っては投げ。猟奇的な光景に他のモンスター達が恐れをなし
て逃げていく。だんだんそれを追い掛けるのも面倒になってきてレ
イジングブル・マキシカスタムで背中を撃つともんどり打って倒れ
る。このままではバーチャフォレストの生態系が崩れるんじゃない
だろうかと危ぶまれるかに思われた。
その時、レオルドの悲鳴が聞こえてきた。
1173
!
耳と尻尾を集めるレオルドが、背後からの気配に振り返る。
!
﹂
︽ヒィィィィィィ
﹁ん
たぁぁすけてぇぇぇぇぇ
︾
!!!
!
︾
!!
こっち来んなぁぁぁぁ
!!
ヌ。ビッグスライヌ││いや、キングスライヌだった。
お前、バカ
﹂
﹂
が逃げてきている。その後ろを追いかけてくるのは、巨大なスライ
振り向くと、ブースターに燃焼剤を追加投与して加速したレオルド
!!
︽こんなん聞いてないっすよぉぉぉっ
﹁どぉぉぉぉ
﹁ぬらぁぁ∼∼
!?
するか相談する。
︾
﹂
︽ど、どどどうするっすか
︾
﹁仕方ねぇ、迎え撃つぞ
︽足速いっすね
他になんか武器はねぇのか
︾
!?
﹁今はそれどころじゃねぇ
でもこれめっちゃ危ないっすよ
!
!?
!
!
︾
﹁無計画にも程があるだろうが
﹂
いいか、俺がどうにか足止めするからあいつの口に
︽手榴弾あるっす
﹂
﹁構わん、やれ
︾
ねじ込め
︽あ
﹂
!
︽燃焼剤切れたっす
﹁なんだ
﹂
で巻き込まれた。全身に紫電を纏いながら並走しながらボスをどう
定外の事態に、レオルドが慌てて逃げ出していたがそれにエヌラスま
どうやら仲間を大量にやられて親玉が出てきたらしい。流石に想
!!
!
!
る。
力があった。それに、エヌラスは足に紫電を更に集中させて地面を蹴
を震わせながら迫る姿には少し緊張感が欠けるものの、図体だけに迫
眉をつり上げてキングスライヌが突進してくる。ぷよぷよと身体
ポーチから手榴弾を取り出す。
当たって足を止めた隙にレオルドが左前腕部に装着したグレネード
てキングスライヌに向かって斬馬偃月刀を投擲。回転する刃が顔に
一気に減速したレオルドに、急制動を掛けたエヌラスはUターンし
!!
!
!
!
1174
?
!
﹁〝電導〟││アクセル・ストライィィクッ
一回転させながら更にもう一撃││。
﹁││かーらーの、アクセル・インパクトォ
﹂
なっていた。
︽お、おぉわぁぁぁ
﹁のぉぉぉぉぉぉぉっ
﹂
︾
﹂
きるだけ近づいて、投げようと振りかぶり││足元の注意が疎かに
その間にレオルドは既に手榴弾の起動スイッチを押している。で
きく仰け反った。
眉間に叩きこまれた強烈な踵落としによってキングスライヌは大
﹁ぬらぁっ
﹂
身体に弾かれてエヌラスの身体が宙に飛んだ。しかし、空中で身体を
魔術による電流を叩きこまれたキングスライヌだが、弾力性のある
!
!
﹁おま、バッ、お前
お前ぇぇぇ
マジごめんなさい
正だろうが死ぬからな
﹂
だ、大丈夫っすか
致命傷だからな
﹂
︶を撒
手榴弾顔面直撃とかいくらなんでもギャグ補
!?
しかも一撃でキングスライヌが跡形もなく肉片︵ゼリー片
!?
︽スマンっす
! !?
︾
分っすかね
﹂
!
﹁はぁー⋮⋮まぁいいや。とにかくスライヌの耳と尻尾も集まったし
たくなかった。一発限りであってくれと切に願う。
そんなものが、あと二つほど手元に残っている。そんな報告は聴き
死ぬわボケェ
﹁殺す気か
︽そ う っ す ね ぇ ⋮⋮ こ れ 一 個 で 燃 料 た っ ぷ り タ ン ク ロ ー リ ー が 一 台
﹁ちなみにあの手榴弾、威力で言うならどれぐらいなんだ﹂
あったらしい。それが直撃││考えたくもなかった。
き散らして死んでいるところを見るに、あの手榴弾は相当な火力が
?
!?
﹁死ぬかと思ったわ
︾
怒りで肩を揺らしながらエヌラスはレオルドを立ち上がらせる。
て、その場から遠ざかる。次の瞬間、キングスライヌが爆発四散した。
キャッチしてキングスライヌの口に向かって全力で投げる。着地し
手 元 が 狂 い、手 榴 弾 は エ ヌ ラ ス に 向 か っ て 飛 ん で い く。咄 嗟 に
!?
!?
!
!
!
?
1175
!?
!
⋮⋮次行こうぜ、次﹂
︽そ っ す ね。ヤ ン キ ー キ ャ ッ ト の 生 息 す る 洞 窟 ま で だ っ た ら 案 内 す
るっす︾
案の定、そこでも二人はグッダグダな戦いを繰り広げることになっ
た。
プラネタワーではユウコが部屋の間取りやキッチンの使い勝手を
調べて回っている。どうやらハウスキーパーとして雇われることに
興味が尽きないようだ。
﹁う ー ん、よ し。大 体 は 把 握 で き た か な。じ ゃ ー 次 は ⋮⋮ プ ラ ネ
テューヌの案内かなぁ﹂
﹁あ、それでしたらわたしが案内してあげますよ。ちょうど買い出し
も頼まれていましたし﹂
ありがとー、ギアちゃん﹂
﹂
﹂
く っ
って、あー
﹂
1176
﹁ほんと
そー、もう一回
﹂
どういう品質でど
﹁それで、プラネテューヌのどの辺りを案内すればいいんですか
﹁そうだねぇ。やっぱりスーパーとか、商店街
カンガルーのように
!
﹁いや、今朝の騒ぎもそうだけどさぁ。こんなんでいいの
﹁はい⋮⋮﹂
﹂
わたし他の次元に来るなんて今日が初体験だ
﹁よーし、ここでジャーンプッ
ネプテューヌは寝っ転がってゲームに夢中になっている。
もん﹂
﹁そりゃー⋮⋮ねぇ
﹁や、やっぱり商売人として見る所なんですね⋮⋮﹂
れぐらいの値段でどんな風に陳列されてるとか、そこら辺かな
?
落 ち た ぁ、嘘 だ ー 今 絶 対 わ た し ボ タ ン 押 し た よ ー
!
﹁⋮⋮ネプちゃん、女神様だよね﹂
!
なにかあったんですか
?
!
?
あ、そっか。アイちゃんはすぐ仕事で行っちゃったから何
﹁今朝の騒ぎ
?
!
?
?
も聞いてないのかー⋮⋮いやね、なんかロボットがデッカイブース
﹁あれ
?
?
!
!
ターでかっ飛んできて街中に着陸してたんだよね﹂
事の顛末を話すと、ネプギアがユウコに現在のゲイムギョウ界の近
況を述べる。そこは商業国家国王、すんなりと理解した。
﹁にゃるほどね∼。つまり、そのハァドラインって連中は厄介なんだ。
じゃあ今朝やってきたあいつらはリーンボックス側のアームドソウ
ルスか⋮⋮ふんふん﹂
﹁B2AMは今国境警備隊などでプラネテューヌの治安維持活動に精
﹂
力的に励んでるみたいですけど﹂
﹁うーん⋮⋮﹂
﹁どうか、したんですか
﹂
﹁どうしてですか
﹂
﹁だからさー、なんか気になるんだよね。そのB2AM
﹂
さらりと怖いことを言っているが聞き流すことにした。
倒だから。そういう連中は片っ端からムショ送りにしてるし﹂
るんだよね。商売で裏をかかれたり不正な取引に巻き込まれても面
﹁ほら、私って職業柄、こう言っちゃなんだけど結構他人を疑ってかか
﹁え
﹁いやさ。なーんか怪しいなぁって﹂
それにユウコは顎に手を当てて考え込んでいる。
?
?
プラネテューヌの
?
分かります
﹂
﹁い、イーちゃん⋮⋮﹂
﹁そ れ で し た ら お 調 べ で き ま す よ
みっかかかりますけど﹂
﹁三日かー⋮⋮﹂
た だ、デ ー タ を ま と め る の に
肝心な肝を押さえてる感じがして。イーちゃん、国内の経済状態とか
か。国境警備隊とか、後はそのー⋮⋮資源採掘
﹁んー、なんつーか⋮⋮こう、仕事を建前に国内を歩いてるところと
?
とって三日待つというのは少々苦行だ。だが、無いものは無い。情報
秒での計算速度がモノを言う商業国家、それをまとめ上げるユウコに
る。魚介類以上の新鮮さはすぐに劣化し、それは株と同じだ。一分一
それに﹁うーん﹂と唸る。ユウコにしてみれば、情報には鮮度があ
?
?
1177
?
﹂
が無ければ算出もできない。
﹁お願いできます
﹂
﹂
﹁いってらっしゃーい、ネプ││ぎゃあああああ
ボスエンカウントとかセーブしてないよー
こんなところで
じゃあお姉ちゃん、いーすんさん。行ってきますね﹂
!
﹁はい。気をつけて行ってきてください﹂
﹁は、はい
テューヌの案内よっろしくぅ
﹁よーし、後は自分の足で見てみようかな。じゃあギアちゃん、プラネ
﹁分かりました﹂
﹁あと出来れば、管理会社とかも一緒に﹂
﹁はい、いいですよ﹂
?
ネプテューヌの悲鳴はさておき、二人は街へ繰り出した。
1178
!?
!!
!
エ ピ ソ ー ド 2 3 敗 北 も 逃 走 も 認 め ら れ な い 諦 め な
い
ネプギアの案内でユウコはプラネテューヌを見て歩いて回る。そ
ギアちゃん﹂
の途中で買い出しも含めて、休憩がてら公園のベンチに腰を下ろす。
﹁いやー、歩いた歩いた。大丈夫
﹁は、はい⋮⋮﹂
﹂
られていたかもしれない。
顔色悪いよ
﹂
?
いる。休憩しようと言い出さなかったらプラネテューヌを一周させ
疲労困憊のネプギアと違って、ユウコはと言うとニコニコと笑って
﹁
んだけどなぁ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮わたし、女神候補生なのに⋮⋮これでも結構頑張ってたはずな
女神候補生が現在、足が棒になるほど膝を震わせていた。
?
でも、少し休ませてください⋮⋮﹂
﹁ギアちゃん、大丈夫
﹁だ、大丈夫です
?
み ん な ニ コ ニ コ と 幸 せ そ う だ し。私 っ て 旅 行 と か あ ん ま り
﹂
!
なんかそういうの、デート
?
なったどこぞの旧神と違って。
な、ななんでアイツと一緒に
﹁エヌラスさんとでかけたりとか、しないんですか
﹁えっ
﹂
たくらいで全然かわいいものだ。少なくとも教会をぶっ壊しそうに
込む。ユウコのしたことと言うと、街のゴミ拾いや少し小言を漏らし
エヌラスさんに比べれば││危うく言いそうになった言葉を飲み
﹁いえ、そんなことないです
じゃって⋮⋮ごめんね、ギアちゃん。迷惑だったでしょ﹂
行ったことないから、こういう他の場所に来るとついついはしゃい
て
﹁そっか。いやー、それにしても面白いところだねプラネテューヌっ
!
?
﹁でも、一緒にプラネテューヌに来たじゃないですか﹂
みたいじゃん﹂
!?
1179
?
!
﹂
デートとかじゃ
﹁それはそれ、これはこれ。他所様に迷惑掛けたんだから、一応身元保
証人である私が頭を下げに来るのは当然でしょ
ないよ﹂
﹁じゃあ、今度プラネテューヌを一緒に歩いてみたらどうですか
お互い忙しいし、さ⋮⋮私はユノスダスの仕事山積みだし、アイ
﹁よ、よせよー。そういうの、ほら⋮⋮そのぉ⋮⋮恥ずかしいし。ほら
?
?
ツは邪神狩りで大変だから﹂
﹂
﹁いいじゃないですか、たまには﹂
﹁たまには、かぁ⋮⋮﹂
﹁どうか、したんですか
?
流れていた。
と、突然ですね﹂
﹁⋮⋮ギアちゃんはさ。アイツのこと、どう思う
﹁えっ
﹂
ユウコの目は遠い空を眺める。夕暮れに染まり、茜色の空には雲が
?
らいだし﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁もー、聞いて
しかも壁によりかかって
私最初、それが人間だなんて気づ
?
?
私が気合入れて外に出たらさ。何が居たと思う
よ
人間雪だるまだ
アイツと初めて会った時なんて、雪の降る寒い日に
言えば、決まって野垂れ死にそうになりながら教会の前で倒れてるく
るのかも、どうして私を気にかけてくれてるのかも。知ってることと
﹁だって。私、アイツの事全然知らないんだよ。なんで邪神と戦って
!?
!
﹁⋮⋮めし。しぬ﹂だったんだよ
﹁え、えーっと⋮⋮﹂
どう思うよ﹂
それから話を聞くと、旧神だなん
も邪神が現れたと思ったらすっ飛んでって倒して帰ってくるもんだ
て言うもんだからうわー、面倒くさいの拾ったなぁとか思ったよ。で
﹁とりあえずご飯あげるじゃん
?
?
死ぬ
﹂ってそれしか言えねーのかって、ね﹂
から更にビックリした。ボロボロで傷だらけの血塗れで、顔を見るな
り﹁飯
!
エヌラスが繰り返してきた戦いを、ユウコは知らない。エヌラスが
!
1180
!
か な く て め っ ち ゃ く ち ゃ ビ ッ ク リ し た ん だ か ら。し か も 第 一 声 が
?
旧神となった日の事を覚えていない。塔争の最中││ユウコは死ん
でいる。エヌラスの妹の手によって。
あの日のことを思い出す。ネプギア達が大魔導師と死闘を繰り広
げている最中、ユノスダスがブラックホールによって消滅したのを。
﹂
﹂
多分、こっちと同じだと思うよ
﹂
ユウコは何も知らない。覚えていない。自分達がいなくなってか
らもエヌラスは戦い続けている。
なに
﹁あの、ユウコさん﹂
﹁んにゃ
ど
﹁んー
〝AD2013〟だけ
﹁えっと、アダルトゲイムギョウ界は今何年ですか
?
?
﹂
﹂
?
そうだなぁ⋮⋮確か││五年、か六年くら
?
とだ。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
顔、青いよ
﹂
?
飲み物買ってきますね
﹂
!
﹁本当に大丈夫
﹁あ⋮⋮だ、大丈夫です
!
?
あの戦いから、塔争を勝ち続けているのがエヌラスであるというこ
ない。分からないが、ひとつだけ確信を持って言えることがある。
一体、どれほどの時間を戦い続けてきたのか。ネプギアには分から
確かな亀裂を生み出している。
た。本来であれば進むべき時間が巻き戻っているからこその時差は、
つまり、それはエヌラスがまだ〝繰り返している〟という証拠だっ
いない。
たった二年。そう││ゲイムギョウ界では、たった二年しか経って
心臓を鷲掴みにされた気がする。
い前
﹁アイツと出会ったの
﹁エヌラスさんと出会ったのは、一体いつですか
そうであるならば、同じ年号でなければ辻褄が合わない。
ギョウ界から切り離された世界。つまり、元の時間軸は同じはずだ。
何 か が、お か し い。元 々、ア ダ ル ト ゲ イ ム ギ ョ ウ 界 は こ の ゲ イ ム
﹁││││﹂
?
?
?
?
1181
?
﹁え、いいの
﹂
ユウコさんは荷物の見張りお願いしま
私が買ってくるよ
﹁大丈夫、大丈夫ですから
﹁大丈夫⋮⋮ですか
﹂
﹁ハァ、ハァ⋮⋮あぁ、ネプギア⋮⋮、どうした﹂
﹁エヌラスさーん﹂
エヌラスとレオルドが歩いている姿を見つける。それに声を掛けた。
ネプギアがベンチから離れて自動販売機で飲み物を買っていると、
﹁はい﹂
で﹂
﹁うーん、そういうなら甘えちゃおうかな。あ、私はオレンジジュース
すね﹂
?
かった﹂
︽う、うぅ⋮⋮それを言ったらエヌラスさんも同じじゃないっすか
すよ
怖いっす
︾ ﹁集めりゃいいんだよ集めりゃ
﹂
敵を蹴るわモンスターから生きたまま素材を剥ぐわでドン引きっ
!
崩れるわ生き埋めになりかけるわ道に迷うわで、めちゃくちゃやば
﹁このやろうがな、次から次へと。モンスターを呼んで、しかも天井は
エヌラスが横目でレオルドを睨む。
見れば、ふたりともボロボロだった。何があったのかを尋ねると、
︽め、面目ねぇっす⋮⋮︾
﹁だいじょばねぇ⋮⋮﹂
?
!
﹁こいつのお陰でな﹂
︽すいませんでした⋮⋮︾
レオルドが綺麗に頭を下げる。それにエヌラスは怒る気力もない
のか、そもそも散々叱ったのか呆れていた。
ありがとうございます︾
﹁もういいさ、気にしてねぇよ。また機会があったら一緒に行こうぜ﹂
︽マジっすか
︽あ、じゃあ自分が納品してくるっすよ︾
﹁とりあえず、ギルドに報告行ってくる⋮⋮﹂
?
1182
!
?
﹁なんか、大変だったみたいですね⋮⋮﹂
!
!
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
︽なんすかその目は
大丈夫ですって
クエストの発注元である
!
りしませんから
マジっす
︾
プラネテューヌ第三資源採掘場は自分の知り合いがいるから迷った
!
!
た
︾
色々勉強になりまし
それに、癖のある人達っすから⋮⋮︾
では、またそのうち
︽了解っす。今日はありがとうございました
﹁尚更頼む﹂
︽はい
﹁なら、頼むわ⋮⋮俺は疲れた﹂
!
ネプギア﹂
?
ですか
﹂
?
﹁⋮⋮⋮⋮さぁな。忘れた﹂
﹁じゃあ〝今回〟はどれくらい、戦っているんですか
﹂
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮俺の記憶が正しければ、十年くらいだ﹂
﹁じゅ││
﹁それがどうかしたか
!?
ねーよ、俺は
何してたんだ﹂
﹁あ ー や め だ や め。こ ん な 辛 気 臭 い 話 が し た く て こ っ ち 来 た ん じ ゃ
目を逸らしてエヌラスは呟く。
﹁そうする為に、何回繰り返したかな俺は⋮⋮﹂
﹁じゃあ、神格者同士による戦争は起きていないんですね﹂
としてな﹂
﹁塔争は、無いことにされている。今は、あくまでも伝承に残る空物語
﹁キンジ塔は⋮⋮﹂
だ。
十年か、それ以上の時間を戦い続けても失敗すれば、また最初から
ヌラスは邪神と戦っている。誰かに助けを乞うこともなく。
どうかしたどころの話ではない。ユウコと出会うよりも前からエ
?
﹂
﹁あの、エヌラスさん⋮⋮あれから一体どれくらい戦い続けているん
﹁なんだ
エヌラスは去っていくレオルドを見送って、肩を落とす。
!
!
!
?
﹁えっ、あの、ユウコさんにプラネテューヌを案内してました。それで
!
1183
!
今は休憩してて、飲み物を⋮⋮﹂
﹁そうか﹂
﹁エヌラスさんもなにか飲みます
﹁水﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
﹂
﹁おかえり、ギアちゃん。ありがとう。エヌラスもお疲れ﹂
﹁マジ疲れた﹂
ほれー﹂
﹁はっはっは、でも荷物持ちな﹂
﹁勘弁しろよお前よぉ⋮⋮﹂
﹁頼られるのは男の本懐だろ∼
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ユウコさん﹂
﹁ん
﹁どうしたの
置で睨む。
﹂
〝何も言うな〟
その目が、そう言っていた。
何が天然水だよ
﹁へっへっへ、女神候補生との間接キスだ﹂
﹂
水﹂
﹁うわ、最低だなお前
﹁お前も飲むか
﹁水が飲みたきゃ公園の水道で飲めよ
﹁うるせぇよお前
﹂
﹂
だ。その間に荷物を持って、固まるネプギアをユウコから見えない位
言いかけた口を、エヌラスは自分が飲んでいたペットボトルで塞い
﹁だって││﹂
﹂
自販機のおいしい水を一緒に買って、ユウコの座るベンチに戻る。
?
﹁もうちょっと、エヌラスさんを労ってあげてもらえますか
?
﹁なにしてんだ、いくぞ﹂
アに手を差し出した。
ラスを蹴飛ばしている。それに頬を綻ばせながら、エヌラスはネプギ
ユウコが顔を赤くしながら、荷物を持って両手の塞がっているエヌ
!
!
!
﹁りんごジュースなんて黄金水じゃねぇか﹂
!
?
1184
?
?
?
﹁あ⋮⋮はい││﹂
よく見ると、やはりその手は傷だらけだった。無数の傷跡を誤魔化
すように銀鍵守護器官で治してある。だが、やはり間に合わせの治療
なのか薄っすらと残っていた。
その手を取ると、ネプギアは強く握る。ほんのりと温かい手に抱き
着くようにして。
﹂
﹂
﹁むっ。ギアちゃんが恋人ポジションに⋮⋮なら私はこっちの手で│
│
﹁お客様。当店の右手は荷物で塞がっております﹂
﹁そんなこったろうと思ったわ、ばっきゃろうめーーー
ユウコの張り手を防御しようがないエヌラスの頬から小気味良い
音がプラネテューヌの公園に響き渡った。
1185
!
!
エピソード24 自虐ネタで自殺は出来ない
誰かいますかー
︾
││プラネテューヌ第三資源採掘場
︽すいませーん
︾
?
耳と尻尾集めって︾
?
︾
うるせぇぞ
︾
なんでそれ観
ってお前、レオルドじゃないか
︽何見てんすかーーーー
︽シッ
︾
消 さ れ た ん
それこそ光の速度で一足お先
昔 ネ ッ ト に 流 出 し た 映 像 っ す よ ね
︽ディルさん、こんちゃっす。ってそうじゃなくて
てるんすか
じゃないっすか
!
!?
︽馬鹿野郎お前俺は保存したぞお前
︾
!
!
むしろそれのせいで逆にいかがわしい映像作品に仕上がっているが、
しかも綺麗にパープルハート以外はモザイク処理を施されている。
︽シュラ、相変わらずお前の煩悩は振り切れてるよな⋮⋮︾
にな
︾
にネットで流れた四女神達の拘束された姿が大画面で流れていた。
一応ノックしてから隣の視聴覚室へと入る。するとそこでは、過去
︽うむ︾
︽じゃあ挨拶だけでもしてきます︾
︽向こうの視聴覚室でなんか観てる︾
ね。他の人達は
︽あ、いえ、自分はお手伝いしただけです。とりあえず置いておくっす
︽お前がやったのか
︾
︽どうしたはこっちの台詞です。何ですか、このギルドへのクエスト。
︽⋮⋮レオルドか。どうした
︽ジーンさん、こんちゃっす︾
のフォルムの機体が狙撃銃を調整していた。
り上げたものの、誰も出てこない。詰め所に向かうと、そこでは細身
キャットの耳と尻尾も入った袋。薄暗い洞窟の中に向かって声を張
る。そ の 手 に は 集 め た ス ラ イ ヌ の 耳 と 尻 尾。合 わ せ て ヤ ン キ ー
レオルドが稼働している掘削機に負けないくらいに声を張り上げ
!!
!
!?
1186
!!
?
!?
!?
!
!
個人的視聴が目的の為なので決して外部には漏らしていなかった。
︽⋮⋮⋮⋮︾
︽⋮⋮⋮⋮︾
︽⋮⋮⋮⋮︾
︽⋮⋮⋮⋮︾
セイン、ディル、シュラ。そしてレオルドも正座でプロジェクター
に映し出される女神パープルハートの拘束シーンを薄暗い視聴覚室
で食い入る様に視聴中。
︽そういえば、珍しいな。レオルドが此処に来るなんて︾
︾
︾
︽あ、ギルドに発注してたクエスト。やっといたっす︾
ありがとな
︾
女神パープルハート様が ケモミ
たまらんだろ
!
︽おお、本当か
ミのモッフモフだぞ
ない
︾
神でねっぷねぷ﹄だ
︾
名づけて﹃ケモミミ女
!
︽もうそれだけでプラネテューヌのシェアは爆発的に増大するに違い
!
︽想像してみろお前。いいか
︽でも、モンスターの耳とか尻尾とか何に使うんです
!
?
ケ モ ミ ミ と 尻 尾 の パ ー プ ル
凄 い だ ろ や ば
︽歯 切 れ が 悪 い な、レ オ ル ド。パ ー プ ル ハ ー ト 様 に 対 す る 萌 え エ ネ
!
!
ハ ー ト 様 も ふ も ふ し た く て 堪 ら ん だ ろ う
︾
!
︽ど う だ、レ オ ル ド。想 像 し て み ろ
塊というか⋮⋮とどのつまり、変人しかいない。
良くも悪くも、欲望に忠実というか。愛すべきバカというか、煩悩の
れる。とはいえ、悪い人たちではない。悪い人達ではないのだが││
温度の上下が激しいノリには、慣れたレオルドですら久しぶりで疲
︽あ、そうっすか⋮⋮︾
︽ごめん、今ノリと勢いで名付けた︾
たんですか、セインさん︾
︽一歩間違えたら通報待ったなしのネーミングはどうにかならなかっ
!
︽は、はぁ⋮⋮ディルさんの言う通りっすけど⋮⋮︾
いだろう
!
!
1187
!
?
!
︽これぞプラネテューヌのシェア増加作戦
!
ジーでシェア増加待ったなしだと思わないか
︽もー、何が不満なんだ
言ってみろ
︾
︾
︽いやまぁ、確かにかわいいと思いますよセインさん⋮⋮︾
?
︽この裏切り者め⋮⋮︾
!
︽でもそれはそれとして納品ありがとうな⋮⋮⋮⋮︾
やめてくださいよ
!?
︾
トンカツ︵サクサク衣の豚の揚げ物︶
?!
さいね
もーいいっす
じゃあみなさんまた今度
︾
ちゃんと報酬は届けてくだ
失礼しましたっす
!
︽流石に怒るっすよ
︽いや、用が済んだら帰れよお前⋮⋮ガッカリだよガチペドロリコン︾
の話題してないっすよね
︽絶対分かってないっすよね
イレベルの信仰活動︶だよな︾
︽いいんだ、分かってる。うんうん、それもまたトンカツ︵トンデモナ
る。
先ほどまでのテンションから打って変わって静かな緊張感が流れ
︽な、何ですかこのお通夜ムード
︾
︽お前にはガッカリだよ、万年最下位ドベ太郎⋮⋮⋮⋮︾
間。そして視聴覚室に響くくっそでかい溜息の三重奏。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
︽いえ、自分⋮⋮パープルハート様よりネプテューヌ様派っす︾
!
!?
くレオルドは、狙撃銃の調整を終えたジーンがカリカリと何かノート
︾
を書いている姿を見て会釈しながら横を通った。
報告書ですか
︽ジーンさん、お疲れ様でした︾
︽ん︾
︽何書いてるっすか
︽日記だ︾
?
ノートから視線は外さずに、ジーンはレオルドに手を振る。
︽元気でな︾
︽そうですか。じゃあ、また今度合同演習の時にでもよろしくっす︾
?
1188
!
!
!
!?
文句は言いながらもキチンとお辞儀をしてから視聴覚室を出て行
!
ジーンの日記││﹃○月○日 今日の天気 晴れ 今日は他の三人
が隣の視聴覚室で昔流出したネットの動画を垂れ流してました。夢
に出るくらい観たので自分は遠慮していましたが、珍しくレオルドが
訪ねてきたのでテンションが上がりました。どうやら以前に発注し
たクエストをやってくれたみたいです。万年最下位とはいえ、やっぱ
りアイツは良い奴なんだなと思う。アレぐらいまともな人達に囲ま
れた職場に異動したいと考えているので今度シロトラ教官に異動届
を出してみよう﹄
││余談ではあるが、その申請が却下されて荒れたジーンは演習で
滅茶苦茶突撃した。圧勝だった。
教会に戻ってきたネプギアとユウコ、それにエヌラスはネプテュー
﹂
ヌとイストワールに迎えられて一段落。コンパとアイエフも夕飯前
じゃあ今夜はユウコちゃん頑張っちゃうぞ
﹂
﹁人見知りしないし、後は仕事柄だ。いちいち相手の顔色窺ってたら
キリがねぇ﹂
ソファーに座ってくつろぐエヌラスが天井を見上げた。
﹁帰ってくるなりどうしたのよ、だらしないわねぇ﹂
どうしたのよ、エ
﹁あぁ、いや⋮⋮悪い。思ったより疲れてるみたいでな﹂
﹁邪神退治に比べたらなんともないはずでしょ
ヌラス﹂
﹁他人といると気を遣ってしょうがないんだ。一人で暴れる時と違っ
?
1189
に帰ってきた。
﹁よーっし
﹁自分をちゃん付けすんな﹂
﹁食材にされてぇか﹂
﹁こわい﹂
﹁コホン。腕によりをかけて私と
﹁わたしが、頑張るです∼﹂
!
﹁ユウコさん、まるで昔から居たみたいにすぐ皆と打ち解けてますね﹂
ユウコとコンパの二人が台所へと仲良く消える。
!
!
﹂
て、巻き込まないようにしなきゃいけないしな﹂
﹁つまり、心労ってわけ
﹁国 境 警 備 隊 と
ハ ァ ド ラ イ ン の 連 中 と も う 付 き 合 い 始 め て る と
スト行ったせいで尚更な﹂
﹁情けないことになー⋮⋮特に今日は、レオルドって奴と一緒にクエ
?
﹁か
じゃあ今は
﹂
﹁⋮⋮か﹂
﹁へー
﹂
﹁それを言わないでくれ⋮⋮昔の話だ﹂
か、流石は犯罪王ね﹂
?
てタバコ吸ってたっけ
﹂
﹁ですがそのタバコでしたら、臭いの心配はないのでは
?
プテューヌが疑問符を浮かべる。
いーすんはエヌラスがタバコ吸うの知ってたの
?
﹂
?
術ドラッグらしいですよ﹂
!?
﹁はい。邪神と真っ向から戦い続けるという意味を考えれば、多少、彼
﹁え、それを知ってて止めないんですかイストワール様
﹂
﹁なんでも、一箱で常人を廃人にするという脱法ハーブ多数使用の魔
﹁じゃあ、あれ本当は何なんですか
れど⋮⋮まぁ、そのような形をしているので仕方ありませんね﹂
﹁はい。とはいえ、アレがタバコというのはちょっと気が引けますけ
﹁あれ
﹂
外に出て火を点けるエヌラスの背中を見ていたイストワールに、ネ
﹁いや、そうもいかねぇさ﹂
﹂
﹁うんうん。ゲーム機とかに臭い移っちゃうし、というかエヌラスっ
﹁タバコを吸うのはちょっと感心しないわね﹂
﹁悪い。外行ってくる﹂
を咥える。だが、視線を感じて火を点けるのを止めた。
ラスはコートの裏ポケットからシガレットケースを取り出すと、煙草
いたたまれなくて目を背ける始末。とはいえ、疲労は疲労だ。エヌ
﹁自虐ネタも程々にしなさいよ⋮⋮﹂
﹁仮住まいのエヌラッティ⋮⋮﹂
?
?
?
1190
?
?
のやることは大目に見ることにします。それに、あれが無いと〝右腕
〟が動かせなくなるらしいですからね﹂
右腕││その単語に、ネプテューヌとネプギアの脳裏には凄惨な酸
鼻を極める血闘が蘇った。
無尽蔵の絶望、ヌルズ。そしてエヌラスの招喚した〝機械仕掛けの
神様〟同士の決戦は、瀕死の重傷を負いながらもエヌラスが勝利を収
めたものの、右腕は⋮⋮。
あいちゃんまでどうしたのさ﹂
?
﹁やったー、あいちゃんから許可出た
いーすんは
﹂
﹁⋮⋮後でわたし達も入るんだから、変なことしないでよ
?
﹂
ひとつひとつ確かめるようにアイエフが言葉を噛みしめる。
に、お風呂。よね﹂
と、ごめんやっぱ待って。えーっと⋮⋮エヌラスと、ネプ子が、一緒
﹁⋮⋮ま、まぁ⋮⋮そういう関係っていうのは知ってたけど⋮⋮えっ
﹁えっ
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ねぇ、いーすん。わたし、今日エヌラスと一緒にお風呂入っ
てもいいかな
﹂
﹁え
?
﹂
﹁え
?
?
﹂
?
許可は降りた。
目元が笑っていないイストワールに背筋を震わせながらも、一応。
﹁わ、わぁい⋮⋮﹂
保障致しませんが。││よろしいですか、ネプテューヌさん
﹁ただし、浴場での淫行が発覚した場合はエヌラスさんの身の安全は
﹁わーい﹂
﹁そうですね⋮⋮まぁ、背中を流すくらいでしたら構いませんよ﹂
!
1191
?
エ ピ ソ ー ド 2 5 お 風 呂 に 入 っ て い る 以 上 濡 れ る の
は致し方なし
﹂
テーブルの上に並べられる料理の山に、ネプテューヌ達が目を白黒
させている。
﹁ふぅ⋮⋮いやー、頑張っちゃったね
﹁頑張っちゃったですぅ﹂
﹃いえーい︵ですぅ︶﹄
?
アイエフが頭を痛めている。
﹂
﹂
﹁いやいやいや、いくらなんでも作り過ぎじゃないかしら
に食いきれないわよ
﹂
﹁おい、タダ飯喰らいの大食らいの穀潰し。出番だ
﹁俺に全部食えってのかよ⋮⋮﹂
﹁残飯処理はお前の仕事の一つだろ
﹂
こんな
た。もはやバイキング料理の盛り合わせ状態に度が過ぎた量を見て
山盛りサラダに、山盛りポテト。何からなにまで山積みにされてい
!
﹁はいはいありがたく食べさせていただきます
﹃いただきまーす﹄
!
?
す。えぬえぬ、い∼っぱい食べるですよ∼﹂
﹁もぐもぐもぐ⋮⋮おう﹂
?
挟みつつ、空っぽの茶碗を差し出す。
モグモグ。エヌラスはポテトサラダを頬張りながらご飯を合間に
食ったこともないしな﹂
﹁ユ ウ コ の 作 る 料 理 は 大 抵 美 味 い。ま ず い も ん 作 っ た の 見 た こ と も
﹁エヌラスさん、ポテトサラダ美味しいですか
﹂
﹁ユウコさんのおかげで今日のお料理はすっごい量になっちゃったで
﹁あら、美味しい⋮⋮﹂
違う味に驚いた。
手を合わせて、全員が箸を手にして食べ始めると、すぐにいつもと
!
?
1192
!
﹁はいはい、おかわりなー﹂
﹁エヌラス食べるの早いね﹂
﹁もっと良く噛んで食べなさいよ。身体に悪いわよ
﹁分かっちゃいるが、俺は燃費悪いんだ﹂
﹂
銀鍵守護器官が無限の魔力を生み出すとはいえ、それとは別にエヌ
ラスの身体を動かすための熱量││カロリーは別途必要となる。常
に燃料を焚べている蒸気機関車のようなものだ。その上、今は箸を
持って料理をつついている右腕の神経と魔術回路の同調にも常に使
用されている。
﹁ほい﹂
ご飯を山盛りに盛ってエヌラスに茶碗を渡す。受け取るなり、他の
料理と一緒に胃袋に収め始めた。その食いっぷりは淡々としている
のに異様な速度でかきこまれていく。がっつくような浅ましい真似
じゃあトマトジュース持ってくるです
﹂
はしないが、その遠慮のない食事風景を見てユウコは笑っていた。
﹁お前、どんだけ腹減ってたんだよぅ﹂
﹁そうだったですか
?
﹂
?
もぐもぐ⋮⋮。
﹁一体何を食べたらそんなに大きくなるです
﹂
﹁ぐぬぬ⋮⋮分かっているけど、なんか悔しいわ⋮⋮﹂
テーブルの上に乗っかっている大きな胸が二つ。
﹁ん
﹁食べないのに、そんな胸⋮⋮﹂
けでお腹が満たされる。
テーブルに頬杖をついてネプテューヌ達の食べる姿を見ているだ
し﹂
﹁いやいや、気にしなくていいよーコンちゃん。見てるだけで楽しい
!?
1193
?
﹁うるへ。美味いんだからしょうがねぇだろ。おかわり﹂
﹂
﹁あーはいはい。好きに食えよもう﹂
ユウコは食べないの
?
あー、私はいいかな。普通の食事じゃないし﹂
﹁あれ
﹁え
?
﹁お前吸血鬼だもんな﹂
?
?
﹁えー、コンちゃんも私に負けず劣らず大きいと思うけど﹂
﹁もぐもぐもぐもぐ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮エヌラスさん、全然動じないでご飯食べてますね﹂
イストワールも自分用の小さな食器に載せられた料理を食べなが
茶碗
らエヌラスの様子を見るが、全く動じる様子はなく、ただただご飯を
食べる機械となっていた。
﹂
おかわりだよな
﹁ユウコの胸のでかさとか気にしてたら身が持たねぇからな﹂
﹁やっぱり触ったり揉んだり
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
﹁そこは否定しろやオメー おかわり
寄越せよ
!
コンパが片付け始めた。
﹁ふたりでか
﹂
ね、エヌラス﹂
いいんですか﹂
﹁ネプギアも一緒がいい
﹂
らは猜疑の視線、イストワールは我関せずといった様子だ。
言われてから、イストワールとアイエフの顔色を窺う。アイエフか
!
﹃ごちそうさまでした﹄
﹁はい、お粗末さまでした。んじゃーパパっと洗っちゃうか
﹂
どした、ネプテューヌ﹂
﹁エヌラスー﹂
﹁ん
﹁お風呂入ろ
﹂
結局大半をエヌラスが平らげて、綺麗に空となった食器をユウコと
にショックかも⋮⋮﹂
﹁よく家庭的とか言われるけど、お母さんとまで言われるのは個人的
﹁あ、あはは⋮⋮何というかユウコさん、お母さんみたいですね﹂
碗に山盛りのご飯を乗せて渡す。
顔を真っ赤にしたユウコがキャンキャン騒ぎながらエヌラスの茶
?
?
!
﹁ひとりやふたりも変わんないって
?
﹁いやー、まぁ⋮⋮そうかもしれんが﹂
!
﹁え、わたしも⋮⋮
?
?
1194
!
﹁え、あー⋮⋮﹂
!
?
﹁じゃあいいよね
オッケー
お風呂場にレッツゴーだよー
じゃあネプギア、着替えを持って
﹂
﹁人の話まったく聞きやがらねぇ⋮⋮﹂
ただ、ここで断るとまた後でうるさい。エヌラスは仕方なくネプ
テューヌ達と一緒にお風呂に入ることにした。
教会のお風呂は確かに広い。シャワーで軽く汗を流していると、脱
衣場で服を脱いだネプテューヌとネプギアが入ってくる。ちゃんと
身体にタオルは巻いていた。
﹁なんかこうしてエヌラスと一緒にお風呂って久しぶりだよね﹂
﹁というか俺も人並な生活出来るようになったの、ほんっとうについ
最近だしな﹂
教会で保護と言い出さなかったら今でも邪神を追って社会の最底
辺をぶっちぎりで突っ走っていたに違いない。
﹁背中流してあげるね﹂
なにが
﹂
泡立てたスポンジでエヌラスの背中を洗い始めるネプテューヌに、
エヌラスは眉を寄せていた。確かにいつも人を振り回す元気なネプ
テューヌだが、今日は普段に比べると強引な気がする。
そろそろいい頃合じゃ
﹁んもー、エヌラスは固いんだから。だってこっち来る前とか、来てか
﹂
らも結局わたしなんも出来てないんだよ
ん
そんなのネプテューヌ困っちゃーう﹂
そりゃ⋮⋮もう、エヌラスはエッチなんだからぁ。わたし
の口から言わせる気
﹁えー
﹁なんのタイミング図ってんだよお前⋮⋮﹂
?
﹁でも、エヌラスさん。アダルトゲイムギョウ界で戦い続けて、こんな
それとは別に、ネプギアはエヌラスの背中を流していた。
なー⋮⋮﹂
﹁う わ ー、お 前 の そ の ノ リ 久 々 過 ぎ て つ い て い け ね ー ⋮⋮ 俺 も 歳 だ
?
?
1195
!
!
!
﹁お、おう⋮⋮急にどうしたんだよ、ネプテューヌ﹂
﹁え
?
﹁いや、なんか唐突だと思ってな﹂
?
!
に身体傷だらけになってます﹂
﹁傷なんてほっときゃ治る。ツバでもつけときゃいいさ﹂
﹁な ん か 歴 戦 の 勇 士 っ て 感 じ だ ね。わ た し の 知 っ て る エ ヌ ラ ス の 身
体、もうちょっと綺麗だった気がするんだけどなぁ﹂
﹁見苦しくて悪かったな﹂
﹁あ、ううん。別に嫌とかじゃないんだ。⋮⋮嫌じゃ、ないんだけど
さ。エヌラスがこうして戦い続けてたのにゲイムギョウ界は平和続
きでわたしはゲーム三昧してたとか思うとちょっと良心の呵責が∼
⋮⋮﹂
﹂
女神に向かってバカ
バカって言ったほうがバカな
﹁⋮⋮⋮⋮んなもん、お前が気にしてどうすんだバーカ﹂
﹁バ、バカ
んだからねバカー
﹁開き直った
大人ってずるい汚い
﹂
﹁はいはいそうですね、俺もバカだよ﹂
!?
!
﹁何度も負けたさ。死ななきゃ安いもんだ﹂
﹁⋮⋮よく負けませんでしたね﹂
ゴウの守護女神まで敵に回して戦ってんだぜ
こうもなるさ﹂
グレイスとムルフェスト、クロックサイコ。大魔導師に極めつけはア
﹁考えてもみろよ。俺ひとりで、アルシュベイトとバルド・ギアとドラ
﹁でも、だって⋮⋮こんな傷﹂
せいじゃない﹂
﹁元はと言えば、俺が始めた戦いだ。俺がすべての元凶だ。お前達の
﹁そうですよ﹂
﹁⋮⋮気にするよ﹂
のだろうか。
背中に刻まれている傷跡をエヌラスは自分の目で見たことがある
だが、ネプギアとネプテューヌの手が止まる。
﹁俺が好きでやってんだ。気に病むことねぇよ﹂
!
﹁って、いつまで人の背中流してんだ。もういいだろ﹂
た。
簡単に言うが、相手をしたネプテューヌたちだからこそ笑えなかっ
?
1196
!
!?
﹁あ、ごめん。やっぱり前も洗ってほしいよねぇ。もーエヌラスはエ
ロエロで困っちゃうなぁ﹂
﹁お前の頭悪すぎて俺も困ってる。たすけてネプギア﹂
なんで頬を赤らめてちょっと上目遣いで頼んでんだぁ
﹁⋮⋮えーっと、ダメでしょうか﹂
﹁んん∼
?
ぞぉ
﹂
﹁だって、ほらー。エヌラス。そろそろ濡れ場は必要だよ
とかでも序盤に軽く⋮⋮ね﹂
﹂
﹁あのな、ネプギア。フリだけでも身体を洗ってくれるのは嬉しいん
す。そ、そういうことなので⋮⋮ゴシゴシ﹂
﹁そうですよ。身体洗っているんですからこうするのは仕方ないんで
﹁大丈夫だって。ほら、身体洗ってるんだからしょうがないよ﹂
﹁ね、じゃなくて⋮⋮ん、こら。触るな﹂
ゲーム
お っ か し ぃ な ぁ 俺 が 知 っ て る ネ プ ギ ア の 反 応 と ち ょ っ と ち げ ぇ
?
だがガン見するのやめろ
1197
?
?
?
エピソード26 お風呂でごしごしねぷねぷ
エヌラスの股間を集中的に洗っていたネプテューヌだったが、ふと
その手を止めた。お預け、かとも思ったがその表情には迷いが見て取
れる。
﹁どうしたの、お姉ちゃん﹂
﹂
﹁うーん。やっぱりいーすんに言われたことが気になって集中できな
いなぁ﹂
﹁なに言われたんだ
﹂
﹂
!?
﹂
別に、そんあ、ことないでしよ
﹂
﹁なんかネプギアが物欲しそうにしてるけど、エヌラス⋮⋮どうする
﹁ゴクリ⋮⋮﹂
る。いつの間にか手が止まっていた。
エヌラスの股間を凝視していた。姉の話は右から左にすり抜けてい
しゅん、と落ち込む姿に少し物珍しさを覚えたがネプギアの視線は
﹁俺のかよ
﹁エヌラスの﹂
﹁それでもなお事に及ぼうとしたお前の勇気すげぇな
﹁お風呂場でエッチなことしたら身の安全は保障しないって﹂
?
ンだし﹂
﹁誰のせいだと思ってんだよ﹂
﹁⋮⋮い、一回くらいなら抜いてもいいよ
﹁そうしたいのは山々だが││﹂
﹂
?
わたしにいい考えがあるよ、エヌラス
﹂
生憎と、一回や二回で満足するようなタマではない。不審に思われ
閃いた
!
!
れば最期だ。
﹁あ、そうか
﹁ろくでもなさそうだ﹂
!
1198
!?
﹁そうは言われてもなぁ﹂
﹁へっ
!?
﹁いや、すっごいうろたえてるし⋮⋮エヌラスもなんか、ココがギンギ
!?
?
﹁お風呂場がダメならベッドですればいいんだよ﹂
﹁うん、ネプテューヌ。お前やっぱバカだわ⋮⋮﹂
﹂
﹂
﹁だっていーすんからはお風呂場でエッチ禁止としか言われてないも
んねー
﹁それは⋮⋮どうなんだ
﹁よーし、そうと決まれば││﹂
そこで、ネプテューヌは身体に巻いていたバスタオルを豪快に脱ぎ
捨てる。露わになる白い肌は熱気でほんのりと色気づいていた。そ
の未熟な発育の身体を恥ずかしげもなくエヌラスの前に晒し、あまつ
さえ擦り寄ってくる。
﹁ね∼え∼、エヌラス∼。わたしの身体ゴシゴシ洗ってほしいなぁ﹂
﹂
﹁⋮⋮多分、確実に間違いなくいやらしい手つきでお前の身体をまさ
ぐるが、それでもいいか
いですか
﹂
﹁エヌラスさん、目が本気ですよ⋮⋮なんて、わたしもお願いしてもい
﹁よし﹂
﹁えっと、程々にしてくれると後でわたしがサービスしてあげる﹂
?
﹁ゃ、ダメ⋮⋮くすぐった⋮⋮
んふ⋮⋮
﹂
!
﹁そ う で す ね。こ れ は ち ょ っ と 厳 し く 問 い た だ す 必 要 性 が あ り ま す
﹁お風呂場でナニしてるんでしょうね、イストワール様﹂
の疑いもなく疑問符を浮かべていた。
ストワール、アイエフ、ユウコの三人が押し黙っている。コンパは何
一部の会話が聞こえてしまっているリビングの空気はと言うと、イ
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ええいこの、変な声出すな。我慢できなくなるだろうが﹂
!
﹁人が優しくしてやってんのになんだよ。ほら、落ち着けって﹂
﹁エヌラス、手がくすぐったいってば﹂
中を洗い始めるとすぐにくすぐったそうに身体をくねらせた。
ネプギアの手から泡立ったスポンジを受け取り、ネプテューヌの背
﹁じゃあ順番な。背中の流し合いくらい、普通だもんな﹂
?
1199
?
!
ね、アイエフさん﹂
﹁あの野郎やっぱりアダルトゲイムギョウ界に連れて帰りますか﹂
﹁えぬえぬとねぷねぷ、仲良しさんで羨ましいですぅ﹂
総天然頭100%のコンパが、今だけは羨ましいと思った一同。
﹁あいちゃんあいちゃん﹂
﹁なによ、コンパ﹂
﹁えぬえぬがねぷねぷとお風呂に入って仲良しさんしてるの、嫌です
﹂
﹂
﹁別に嫌なわけじゃないわよ。ただ、そこでナニしてんのかって話﹂
いや、そうなんだけど﹂
﹁じゃあ一緒に入れば分かるです﹂
﹁えっ
﹂
﹁あいちゃん、お風呂入らないですか
﹁⋮⋮コンパは
?
!?
﹂
です
?
パーなわけだから最後でいいよ﹂
マナーですから
﹁なんでしどろもどろなのよ﹂
﹁常識だから
﹂
!
ている。
ごしごし。
﹁あははは、エヌラス、そこだめ。くすぐったい、ダメ
あはははは
脇はだめぇ﹂
﹂
お腹痛い
﹁あーもう、お前はもうちょっとおとなしく出来ないのかよ
﹁無理、むりぃ
﹂
!
今度こそはと洗うと、声を押し殺している。
げ よ う と す る の で 今 度 は 後 ろ か ら 抱 き し め る よ う に し て 捕 ま え た。
ぐったがって逃げようとするので腕を掴んでいたが、それでもまだ逃
泡立てたスポンジで脇の下を洗っていたが、ネプテューヌがくす
!
!
!
とはいえ、コンパはニコニコ笑顔でアイエフの手を取って席を立っ
かじゃないから
別にアイツとお風呂入りたいと
あー、いや、ほら私は仮にも客人だし、使用人でハウスキー
﹁えっ
?
﹁わたしは入るです。お片づけも終わりましたし。ユウコさんはいい
?
!
!
!
1200
?
﹁⋮⋮ん、ふぅ⋮⋮っ⋮⋮ふ、ぁ⋮⋮
﹁触ってねぇよ
﹂
﹂
﹁だ、だってエヌラスの手が、わたしのおっぱい触るんだもん﹂
﹁お姉ちゃん。なんかエッチな声出てるよ⋮⋮﹂
!
﹁わざとじゃねぇよ
﹂
﹂
﹁触ってもいいんだよ
﹂
﹁お前もう、なんなんだよ
足まで洗ってやる
そこも
﹂
!?
﹁にゃーん
﹂
﹁猫かお前は﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
となしくなってしまっていた。首を傾げながら視線を落とす。
ら丹念に足を洗っていくと、ネプテューヌが顔を真っ赤にしながらお
そこにどうしたらあんな戦闘力が秘められているのかと思いなが
﹁ネプテューヌ、足細いなー﹂
﹁ひゃ、やぁ
洗い始めると、今度はネプテューヌが顔を赤くして腕に手を回した。
やけくそ気味に股下に手を入れて太ももの内側から膝に向かって
!?
?
!?
!
ええいこのやろう。こうなりゃやけだ、
﹁うっそだー。軽く乳首辺りに触れたもん﹂
!
い よ い よ 持 っ て エ ヌ ラ ス の 理 性 が 重 い ヘ ヴ ィ ブ ロ ー で ぐ ら つ い た。
︶
だがそこは魔術師の端くれ。制御して早々にネプテューヌの身体を
洗い流す。
︵や、やばかった⋮⋮なんかもう色々とやばかった⋮⋮
﹁えと、じゃあ次はわたしも⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
やっべ、忘れてた。口が割けても言えない。
﹁ネプギア﹂
﹁はい﹂
﹁え、えぇ
﹂
﹁うっかり襲いそうになったら全力で俺を張り倒してくれ﹂
!
1201
!
膝の上で丸まっているネプテューヌが猫の鳴きマネをするもので、
!
!?
結い上げた髪によって見えるうなじから、背筋までスポンジで洗っ
ていく。ネプテューヌと比べればやはり若干の発育が見られる背中
は、少女特有の幼さと肌のハリが相まって艶やかに火照っていた。
はい、ありがとうございます⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ネプギアも肌、綺麗だな﹂
﹁え
﹂
﹁でも変身した私はボン、キュ、ボンでネプギアに負けないもんねー
﹁えと、それはなんかごめんなさい﹂
﹁胸もわたしよりおっきいもんね﹂
!?
﹁うぅ、なんで私だけ女神化しても変化少ないんだろう⋮⋮﹂
そういえば、とエヌラスもネプギアの女神化した後の姿を思い浮か
べる。
﹂
ダイミダラーネプギア
﹁ネプギアって、変身すると髪の色、桃色っぽくなるよな﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
﹁ピンクは﹂
﹂
色々とアウトだよお姉ちゃん
﹁淫乱。つまりネプギアは淫らな妹だった
ンダムだったの
﹁なにその新しいネタ
!
!?
自分で洗えますから
﹁あの⋮⋮ごめんなさい、やっぱりお願いします﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ん﹂
向かって手を伸ばして洗っていく。
﹂
る。やはりまだ恥ずかしいのか、胸を手で隠した。それに構わず脇へ
エヌラスが二の腕から手のひらまで洗っていくと、腕を持ち上げ
高等テクニック使う子になっちゃったのかな﹂
﹁最初から素直に言えばいいのにー。ネプギアはいつからそんな風に
!
ように身体を竦ませた。
﹂
﹁え、えと、エヌラスさん
﹁ん、そうか
﹁ぁ⋮⋮﹂
!?
背中を洗い終えて、次は手を取って洗い始めるとネプギアが驚いた
!?
!?
﹁その物足りなさそうな目は何だ⋮⋮﹂
?
1202
!
﹁ほら、やっぱりエヌラスの手つきがいやらしいからネプギアが感じ
ちゃってる﹂
﹁でも悪い気はしないです⋮⋮﹂
我慢弱い姉と違ってよくできた妹だ。感心しながら今度は逆の手
を取って洗っていく。それから足へ向けて手を伸ばすと、太ももをつ
ま先に向けてゆっくりとした手つきで洗う。
﹁あ、これ⋮⋮恥ずかしいかも⋮⋮﹂
﹁ネプギア、今日はユウコに連れ回されて大変だったみたいだしな。
イタっ
でもこれ、気持ちい││
﹂
丹念に丁寧にこれでもかと言うほど揉んでやる。ほーれほれ﹂
﹁ひゃ、や
﹂
!
﹁ん
﹂
﹁ぁ││﹂
動させる。足裏のマッサージをしようと持ち上げたのがまずかった。
ネプギアの太ももを指圧で解しながら、ふくらはぎに向けて手を移
﹁いいなぁ⋮⋮﹂
﹁エヌラスさん、マッサージうまいです⋮⋮
﹁特別サービスだからな﹂
!
片足を持ち上げた、目線の高さに合わせる。そうすると、自然とネ
プギアの足は隠したい場所を隠せずに丸見えになっていた。そこは
恥ずかしいのか、さすがに手で隠している。
ガラッ
﹁あ、あ、あ⋮⋮⋮﹂
になってまるでそういうお店のような雰囲気になっていたりする。
を覗こうとしている犯罪者︵前科あり︶の図。しかも全員が泡まみれ
││傍から見ると、ネプギアの足を無理やり持ち上げて乙女の花園
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁コ、コンパが入るって言うから仕方なく││﹂
﹁ねぷねぷ∼、えぬえぬと仲良しさんしてるで││﹂
!
1203
!
!
﹁⋮⋮⋮⋮あの、この体勢って⋮⋮すごく、マズイんじゃ﹂
?
それを見たコンパが﹁わぁ⋮⋮﹂と顔を赤くして、アイエフはワナ
ワナと震えていた。
こ れ は エ ヌ ラ ス が マ ッ
﹁いや、あのな。アイエフ。これは違うんだ⋮⋮﹂
﹂
﹁う、う ん う ん そ う だ よ あ い ち ゃ ん
サージしてただけで
よぉぉぉ
隠しなさいよ
セ ー フ だ か ら
﹂
落 ち 着 い て
いかがわしい臭いしかしないわ
いくらなんでもそれはないでしょ
しかもマッサージってなによ
﹂
﹁ま だ 事 に 及 ん で な い か ら セ ー フ
セウトよセウト
﹂
﹁セーフかアウトで言ったらギリギリアウト
﹁えぬえぬのマッサージ、気持ちいいです
!
﹂
!?
﹁ア ン タ 達 は、な ん で バ ス タ オ ル も 巻 か な い で 一 緒 に 入 っ て る の
!
?
ネプギアも
﹂
﹂
ぐぬぬぬ⋮⋮もー ネプ子は金輪際、エヌラス
﹁あ、はい⋮⋮すごく、イイです⋮⋮﹂
!
!
!
﹁コンパまでぇ
とお風呂禁止
﹂
!?
!
それは勘弁してよ∼あいちゃーん
﹁わ、わたしもですか
﹁ねぷっ
んだから
﹂
﹁後生な∼∼
﹂
﹁はは、やべぇ⋮⋮﹂
!
!
!
1204
!
!
!
!
﹁うるさいうるさいうるさーい イストワール様に言いつけてやる
!
!!
!?
!
!
!
!
!
エピソード27 何事も程々がいちばん
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮さて。ネプテューヌさん ネプギアさん
がお二人を呼んだかは、もうわかっていますね
﹁は、はい⋮⋮﹂
どうして私
い、と。ネプテューヌさんはこれに承諾したはずですね
﹁しました⋮⋮﹂
﹂
﹁なのに、エヌラスさんとお風呂場で一体なにをしていたんですか
?
?
﹁い い で す か 一 緒 に お 風 呂 に 入 る の は 確 か に 構 い ま せ ん。で す
うと、現在はエヌラスを正座させている。
こで待ち受けていたのは笑顔のイストワールだった。ユウコはと言
お風呂から上がったエヌラスとネプテューヌ、ネプギアだったがそ
﹁背中を洗いっこしただけなのにぃ⋮⋮﹂
﹂
﹁確かに、私は言いました。お風呂場でエッチなことはしてはいけな
﹁聞いてるよー﹂
﹁ネプテューヌさん。聞いていましたか﹂
﹁うー、まさか本当に言いつけるなんてあいちゃん酷い⋮⋮﹂
?
は遅いんですよ
﹁はい⋮⋮﹂
﹁はーい⋮⋮﹂
﹂
呂に入りたいと仰ったのですか
﹂
今、なんと
﹁ぅ⋮⋮流石いーすん⋮⋮鋭い﹂
﹁ネプテューヌさん⋮⋮
?
?
そんなはずはないよぉ
﹂
!
?
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
で睨まれてネプテューヌは堪らず目をそらしている。
づいて、イストワールは睨みつけていた。鼻先が触れるほど近い場所
ナイトウェアに着替えて冷や汗をダラダラ流すネプテューヌに近
﹁ま、まさかぁ
﹂
﹁⋮⋮というより、もしかしますけれども。それが目的で一緒にお風
?
1205
?
?
が、万が一のことを考えて私は言ったのです。間違いが起きてからで
?
!
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
﹂
その一方でエヌラスはと言うと、押し黙るユウコの前でただ正座さ
せられていた。
﹁⋮⋮怒ってるか
﹁別に怒ってないけど﹂
﹁⋮⋮なら、なんで俺正座させられてんだ
﹂
﹁そりゃー、形だけでもお叱りしとかないと私にも立場ってものがあ
るし﹂
﹂
?
﹁しっかりしてやがる⋮⋮﹂
﹂
﹂
﹁はぁ⋮⋮本当に、いかがわしいことしてないんだよね
﹁背中洗っただけだっつーの﹂
﹂
﹁マッサージって、あのマッサージ
﹁そのマッサージ﹂
﹁意味深じゃなくて
﹁特に意味は無い﹂
?
﹁意味ねえなら不用意に乙女の肌に触れんな
﹁理不尽じゃねぇこれ
!?
﹁まぁ、私はできる女だから別にお前が誰に手を出そうといいけどさ
⋮⋮ネプちゃん達はそういう相手じゃないんだから、気をつけろよ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁わ、私なら別にいいけど⋮⋮その、でも、ユノスダスだけでだからな﹂
﹁あー⋮⋮うん、おう。その時が来たら、頼む﹂
﹂
顔を赤くしながらそっぽを向いたユウコが咳払いを一つ挟んでネ
プテューヌたちの方へ向き直る。
﹁││ですから、聞いていますか
き合いを期待しているんですから﹂
﹁むっ。つまりいーすんはエヌラスのこと信用してないの
﹂
﹁当然です 私はネプテューヌさんとネプギアさんには健全なお付
﹁はーい。聞いてまーす⋮⋮むぅー、いーすんは固いんだから⋮⋮﹂
?
1206
?
?
頭をぺちぺちと叩かれる。一応、怒っているつもりらしい。
!
?
﹁むしろネプテューヌさんのほうが信用なりません﹂
!
!
﹁酷くない
﹂
﹁まぁそれは置いておきましょう。とにかく
今回は見逃してあげ
ますが、今後このような事が起きた場合はネプテューヌさんだけでな
く、エヌラスさんの処遇についても考えなければなりませんからね。
そのことも考えておいてください﹂
﹁はい⋮⋮ごめんなさい、いーすんさん﹂
﹁もー、背中を流してただけなのになんでこんなに怒られなきゃいけ
ないかなぁ⋮⋮﹂
イストワールからの折檻が終わって、ネプテューヌとネプギアが立
ち上がる。
﹁⋮⋮でもま、考えてもみればエヌラスは邪神とずっと戦ってたわけ
だし少しくらいは大目に見てやってもいいかな﹂
﹁ユウコ⋮⋮﹂
﹁そういうの、本当は真っ先に私に頼ってほしかったけど⋮⋮なんか
こう、色々複雑みたいだし﹂
エヌラスにネプテューヌが飛びついて、思わぬ重量に姿勢を崩し
た。
﹁ユウコもエヌラスのお説教はそこまでにして、お風呂入ってきたら
﹂
な。後は朝食の用意とか﹂
﹁もう朝ごはんのこと考えてるんですか
﹂
﹁あはは。商業国家は私じゃないと回んないし、それはダメかなー﹂
﹁ユウコは優しいなぁ∼。いーすんと交代してくれないかな﹂
﹁はい。ありがとうございます﹂
ん。程々にね。イーちゃんにまた怒られちゃうから﹂
﹁ま、あんま口うるさく言う気はないけど││ネプちゃん、ギアちゃ
上がり、抱きつかれたまま立ち上がる。
横目で見るのは、ネプテューヌに潰されたエヌラス。なんとか起き
し。仕込んどかないと⋮⋮﹂
﹁そりゃね。夕飯が残ってたらそのまま出すけど、全部食っちゃった
?
1207
!
!?
﹁んー、そうしたいんだけどせっかくだし温かい飲み物でも作ろうか
?
笑いながらキッチンへと向かうユウコにイストワールは胸を撫で
下ろした。
﹁ふぅ⋮⋮またエヌラスさんがボロ雑巾になるかと思いましたが、杞
憂で済みました﹂
﹁俺の身の安全考えてくれてありがとうな⋮⋮﹂
﹁アイエフさんとコンパさんはもう寝てしまいましたし⋮⋮私は今の
﹂
うちに頼まれごとを片付けてしまいましょう﹂
﹁何か頼まれたのか
﹂
﹂
?
﹂
?
い出してしまいそうになる。
?
﹂
﹂
﹁分 か っ た よ。お 前 の わ が ま ま に 付 き 合 う が、俺 も 疲 れ て ん だ か ら
﹁それとも⋮⋮そういう気分じゃない
﹂
ネプテューヌとネプギアの裸を見てだけでなく触れた実感まで思
﹁⋮⋮思い出させんな﹂
もあんまりだよぉ∼。エヌラスだってそうでしょ
﹁だって∼、さっきまでのアレでおあずけっていうのはいくらなんで
﹁今から
﹁⋮⋮ね、エヌラス。ベッド行こ
会を降りて行ってしまった。残るのは三人。
イストワールも自分の仕事に集中するためか、執務室を後にして教
のことなので﹂
﹁はい。ユウコさんがハァドラインについて気になることがある、と
?
ちょっとは加減しろよ
﹁やったー
?
﹁だってぇ、前はぷるるんだけじゃなくてノワールにまで先を越され
﹂
たからね。こっちでぐらいわたしが一番乗りじゃないとヒロインの
名が廃るってもんだよー。それにほら、主人公だし
﹁ぷるるん⋮⋮﹂
その名前に聞き覚えがあるが、思い出そうとして││どうしてか悪
!
﹂
寒が走った。なぜかはわからないがどうしても背筋が薄ら寒くなる。
﹁どうしたの、エヌラス
?
1208
?
﹁お姉ちゃん、喜びすぎじゃ⋮⋮﹂
!
﹁い、いや⋮⋮なんというか寒気がした﹂
﹁そーだ、今度ぷるるんも呼んでおかなきゃ
来たの知ったらきっと大喜びだよ﹂
う。
﹂
エヌラスがこっちに
も う、ほ ん と エ ヌ ラ ス は エ ロ エ ロ だ
﹁あの、わたし││どうなっちゃうの
﹂
硬直するネプテューヌを連れて、ネプギアと一緒にベッドへ向か
﹁え﹂
﹁⋮⋮ネプテューヌ。テメェベッドで覚えとけよ﹂
なぁ﹂
﹁泥 の よ う に ま ぐ わ い た い
﹁まぁいいか。今はもうベッドで泥のように寝たい﹂
メージを払拭する。
ま ぁ 悪 い 気 は し な い か な と か 思 っ て い た 自 分。頭 を 振 っ て そ の イ
思い出す。イジメられて││イジられて││弄ばれて⋮⋮それも
﹁なんで、だろうな⋮⋮すげぇ嫌な予感しかしない﹂
﹁どうして顔青いんですか
﹁あー⋮⋮うん、俺もプルルートに会うのは楽しみだ⋮⋮はは﹂
!
る﹂
﹁なんですか
﹂
﹁後のお楽しみだ、たっぷりとなぁ。もうひとつ思い出したことがあ
?
﹁まさかの初回ハードコア仕様
でもちょっと楽しみかも﹂
テューヌを背負いながら部屋へと入った。
そ ん な こ と 言 っ て い ら れ る の も 今 の う ち だ。エ ヌ ラ ス は ネ プ
!?
1209
?
?
﹁ネプテューヌ。泣いても許さねぇからな、覚悟しとけ﹂
?
エ ピ ソ ー ド 2 8 夜 は ベ ッ ド で 大 運 動 会。準 備 体 操
は基本︵R︶
ネプテューヌの自室に入り、降ろすとネプギアもベッドに腰掛けて
エヌラスも隣に座る。
﹂
﹁なんだか、ドキドキしちゃいますね﹂
﹁慣れないか
﹁はい⋮⋮﹂
﹁ウブな反応はネプギアの特権だな﹂
髪を梳くように撫でると、緊張しているのか身体を強張らせた。ネ
プテューヌも甘えるように擦り寄ってくる。
﹁じゃあ積極的なのはわたしの特権だね﹂
﹁お前はさっきからくっつき過ぎなんだよ﹂
﹁きゃーん﹂
押し倒すと、戯れるような声をあげながらネプテューヌはエヌラス
﹂
の首に手を回していた。覆いかぶさるようにして見つめると、段々と
頬が紅潮していく。
﹁⋮⋮はずかしい⋮⋮﹂
﹁お前は、もう⋮⋮誘い受けはやめろ⋮⋮
﹁なにかしら﹂
﹁なんで女神化した
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮一応、聞いておくぞ﹂
││パープルハートが座っていた。
部屋の照明を消して振り返ると、そこには女神化したネプテューヌ
﹁消すぞ﹂
がる。
ネプテューヌに言われて、エヌラスが部屋の電気を消そうと立ち上
﹁え、えっとエヌラス。電気⋮⋮消してもらってもいいかな⋮⋮﹂
!
気を遣ってくれたのは嬉しいが、むしろそっちの方がエヌラスに
﹁だって⋮⋮コッチのほうが色々しやすいんじゃないかと思って﹂
?
1210
?
とって都合がいい。
パープルハートの寝間着はそういう魂胆だったのか、意図せずなの
か、セクシーなネグリジェだった。服に手を掛けてゆっくりと脱がし
ていくと抵抗もせずに受け入れる。
変身前とは打って変わったおとなしい態度だが、表情を見る限りは
状況を楽しんでいるようだ。口端が緩んでいるのが薄暗くても分か
る。だが、今夜の相手は一人だけではない。
﹁ネプギアも脱いでくれるか﹂
﹁⋮⋮はい﹂
顔を赤くしながら、ボタンをひとつずつ外していくネプギアは前を
はだけさせて座り込む。
﹁ちょっと、エヌラス。今は私だけを見てくれる﹂
﹁わたしは大丈夫ですから、今はお姉ちゃんに集中してあげてくださ
い﹂
﹁そういうことなら、遠慮無く﹂
パープルハートの頬にキスをすると、今度は唇を軽く重ねる。緊張
を解すように徐々に触れていくと強張らせた身体から力が抜けてい
く。胸に手を置くと、身体を震わせた。
﹁ん。ちゅ⋮⋮ん、ん⋮⋮ぷは⋮⋮エヌラス⋮⋮﹂
甘えるような、誘うような声に駆られる衝動を抑えこみながら豊か
な乳房を撫でるように揉んでいく。その度に身体を震わせて小さな
声を漏らすパープルハートの胸にエヌラスは吸い付く。
﹁ひゃ。ん、ちょっと⋮⋮くすぐった⋮⋮﹂
もう片方の手で乳輪をなぞるように擦ると、声を押し殺して頭を抱
き寄せた。
﹁なんだか、エヌラスさん⋮⋮赤ちゃんみたいですね﹂
﹁ぷは⋮⋮うるへ﹂
パープルハートの胸から顔を離して、今度はネプギアに軽いキスを
する。
﹁こっちはもう、パンパンみたいね⋮⋮﹂
﹁⋮⋮そりゃ、風呂場であんなにされたらな﹂
1211
ネプテューヌの小さな手でしごかれて、それで終わった。だが今度
は最後まで付き合ってもらう。上着を脱いで、ズボンを下ろす。パン
ツの膨らみにパープルハートが手を伸ばして、窮屈そうにしていたモ
ノを取り出すと、生唾を飲み込む音が聞こえた。
﹁ごくり⋮⋮これから私、色々されちゃうのよね﹂
﹁そうだな⋮⋮﹂
そして今回はとびきりハードコア仕様で泣いても止めるつもりは
ない。だが、入念に下準備はしておく。露わになっていた秘部はまだ
それほど湿ってはいなかった。
﹂
﹁パ ー プ ル ハ ー ト。ち ょ っ と、刺 激 が 強 い か も し ん な い が │ │ 気 を
しっかり持てよ﹂
﹁えっ⋮⋮何をするつもりなの⋮⋮
﹁なぁに。アダルトゲイムギョウ界で俺を散々イジメた仕返しとその
他諸々の、調教だ﹂
パチッ││パリパリ。
小さな電気の跳ねる音に、パープルハートは自分が何をされるのか
不安そうにしていたが、エヌラスが唇を塞いで舌を入れるとそれに絡
みつくようなキスで応える。その間に微弱な電流を纏った片手を胸
に押し当て、乳首に何度も指で擦りつけると目を見開いて驚いたよう
んむっ、ァ││﹂
に身体を跳ねさせた。
﹁んっ、んんぅ││
立った乳首を摘む。刺激の連続にパープルハートが涙目で抱きつい
てくる。
﹁なに、これぇ⋮⋮ビリビリして、こんなの││だめぇ⋮⋮﹂
そんなの耐えられないか
﹁これで終わりじゃないんだからしっかりしろよ﹂
﹁えっ。あっ、ちょっと。そっちはダメ
らぁ﹂
制止しようとするが、不安よりも好奇心が勝っている。
こに指を這わせるのかを察したパープルハートが力のない甘い声で
胸から腹へ指を滑らせていく。へそから下腹部を撫でて、そこでど
!
1212
?
徐々に調整していき、程良い加減にまで出力を落としこむとピンと
!?
やがてエヌラスの指がパープルハートの敏感な突起に触れた。そ
んん、んーっ
﹂
の瞬間に身体を駆け抜ける快感が反射的に背中を反らせる。
﹁ふッ││
!
﹂
﹁エヌラス、これだめ⋮⋮きもち、よすぎて⋮⋮頭おかしくなっちゃう
は我慢しきれずパープルハートが唇を離した。
をまさぐる。上下を擦るようにして指を滑りこませていくと、それに
その反応を楽しみながら、エヌラスは指で愛液を掬って挿入して中
︵かわいい声出すな⋮⋮我慢できなくなるだろうが︶
!?
﹁俺もなりそうだ﹂
正直、我慢の限界だった。今すぐにでも前戯を切り上げてパープル
ハートに挿入して貪るように犯したい。だが、それではお仕置きにも
ならない。
﹂
﹁よいせ、っと﹂
﹁ふぁ⋮⋮
﹁口でしてもらえないか
俺もちょっと、我慢できそうにない﹂
れる愛液で妖しく濡れていく。
た。今すぐにでも射精したそうに勃起している男根が止めどなく溢
を弄る。パープルハートの口からは熱い吐息と唾液が垂れ始めてい
後ろから抱きかかえるようにパープルハートの身体を座らせ、秘部
﹁は、はい﹂
﹁ネプギア﹂
?
﹁ちょっと、ネプギ││ん、ふぅ
あン
﹂
!
﹂
﹁エヌラスさんのここも、こんなに熱くて、かたくて⋮⋮おっきぃで
る。
ネプギアの舌がエヌラスの男根を、パープルハートの愛液を舐めと
お汁、いっぱい出てるよ
﹁ちゅ⋮⋮ん。ちゅぱ⋮⋮じゅる⋮⋮お姉ちゃんのここ⋮⋮えっちな
!
﹁⋮⋮ゴクリ。お姉ちゃん、ごめんなさい﹂
﹁ネプギア、だめ⋮⋮みないでぇ﹂
﹁あ、でも⋮⋮その姿勢だとお姉ちゃんの丸見えで⋮⋮﹂
?
?
1213
!
す。あれ、先っぽの方から何か出てますよ。はぷっ⋮⋮ちゅう﹂
亀頭にしゃぶりつくと、ネプギアが吸い上げ始めた。その間にもエ
ヌラスの手はパープルハートの身体をもてあそぶ。胸を触り、秘部を
弄り、首に舌を這わせていく。それに力なく手を添えながら絶え間な
く 与 え ら れ る 快 楽 に 身 を 任 せ る パ ー プ ル ハ ー ト の 絶 頂 は 近 か っ た。
キュンキュンと締め付けてくる肉襞に指が擦れ、弱いところを指先で
﹂
刺激されたパープルハートの身体が跳ねる。
﹁んん、んぅぅぅ││ッ
唇を塞がれたまま達したパープルハートの身体が脱力してエヌラ
スに身体を預けた。熱い吐息を漏らしながら頬を赤らめ、目を潤ませ
ている。
﹁ハァ、ハァ⋮⋮エヌラ、ス⋮⋮﹂
﹁ッ││﹂
ん、っく⋮⋮こく⋮⋮﹂
それに興奮を覚えないはずがない。エヌラスはネプギアの口内で
んぅ、んんっ⋮⋮
昂ぶる欲望を爆発させた。
﹁ふッ
!?
らす。しかし、受け止めきれずに溢れる白濁液を手で受け止めながら
ネプギアは射精が終わるまでエヌラスの陰茎を咥えていた。
しばらくして収まったのを見計らってから、口を離す。
﹁ん、んぅ⋮⋮﹂
口の中をモゴモゴとしながら唾液と絡ませて、ネプギアの顔がパー
﹂
プルハートに近づけられる。
﹁ネプギア⋮⋮
﹁││んっ﹂
手で受け止めた溢れた精液もパープルハートは丹念に舐め取って
﹁エヌラスの、熱くて濃いのいっぱいもらっちゃったわ⋮⋮﹂
﹁けふっ⋮⋮お姉ちゃんにも、おすそ分けしてあげるね﹂
む。お互いの口の中が空になると、銀糸を引いて唇を離した。
姉妹で舌を絡ませながら、唾液と一緒に流し込まれる精液を飲み込
﹁⋮⋮ぁ。ん、んくっ⋮⋮ごく⋮⋮﹂
?
1214
!!
突然口の中に溢れる熱い精液に驚くがそれを飲み干そうと喉を鳴
!?
いき、ネプギアの下着はすっかり濡れてしまっている。
﹂
﹁なんだか、お漏らししちゃったみたいになっちゃいました⋮⋮﹂
﹁へぇ⋮⋮見せてくれるか
﹁え、そんな⋮⋮恥ずかしいですよぉ⋮⋮﹂
﹂
﹁もっと恥ずかしいことするぞ﹂
﹁お姉ちゃんよりもですか
﹁ああ、パープルハートよりも﹂
﹁⋮⋮ちょっと、それはそれで期待しちゃいます﹂
﹃エロい﹄
﹁もう、なんでわたしの時だけぇ⋮⋮﹂
そう言いながらもネプギアの手は下着を脱いで、パンツを広げて見
せていた。そこはすっかり大きな染みが出来ており、ふたりの前戯を
見ていて興奮した証拠だ。今も疼く下半身を抑えようと太ももを擦
り合わせている。
1215
?
?
エピソード29 清く正しく美しく、熱く激しく取り
乱す︵R︶
惚けた吐息を漏らすパープルハートの身体を抱き抱えて、既に熱く
濡れた秘部に亀頭を押し当てると小さく声を漏らした。だが、抵抗す
﹂
る素振りは全くない。というよりも、そうすることが出来るほど力が
入らないようだ。
﹁エヌラス⋮⋮﹂
﹁⋮⋮挿れるからな﹂
﹁ん、ふっ⋮⋮ぁ、熱っくってぇ⋮⋮
ぐっと押し込めると、まだ誰も受け入れたことのない膣が押し広げ
﹂
られる。半ばまで挿入すると、パープルハートは息を荒げていた。手
を繋ぐと、指を搦めて強く握る。
﹂
﹁はぁ⋮⋮入ってる⋮⋮エヌラス﹂
﹁ん
﹁⋮⋮前はそうだったが、こっちじゃそうもいかんだろ﹂
﹁あぁ、んっ
﹂
﹂
﹁ちゃんと、呼び方変えてやらないと、な
﹁ふぁぁ、深いィィ⋮⋮
﹂
ると今度は奥まで響く熱い挿入で嬌声が漏れる。
が腰を引くと小さく声を出して、切なそうにしている。深く突き上げ
とした笑みを浮かべて繋がっている秘所を見つめていた。エヌラス
深く腰を落として根本まで挿入を果たすと、パープルハートが恍惚
?
!
で抱き寄せる。
﹁だめ、だめ、もう││私
﹂
いる回復力に腰を抜かしながらパープルハートはエヌラスの腰を足
膣中の肉襞が一層締まっていく。出したばかりなのにもう復活して
愛液で陰茎が濡れていく。豊潤な潤滑油によってスムーズに動くと
何度も腰を出し入れするたびに淫猥な水音が立てられ、溢れる熱い
!
!
!
1216
!
﹁前みたいに、ネプテューヌって、名前で呼んでくれない
?
﹁イきそうか⋮⋮
﹂
﹁う、ん⋮⋮んぅ、イく。イっちゃうぅぅ
﹂
手を繋ぎ、腰を深く落とし込んで子宮に押し当てるとパープルハー
トの身体が跳ねて震えた。痙攣するように何度も締め付けてくる膣
肉が、絶頂に達したことを表している。それにあますところなく包ま
ん、んん⋮⋮っ
あ、今イったばかり、なのぉ﹂
れた陰茎が我慢できずに中から込み上げてくるモノがあった。
﹁エヌラス、エヌラス⋮⋮
よわい、からぁ
!?
﹁俺も出すぞ、パープルハート﹂
﹂
﹁ひぅ、そこっ、奥はだめぇ
ハァ、あぁぁぁっ
!
!
!
んっ、ふ⋮⋮⋮⋮でてる⋮⋮エヌラスの、いっぱ
﹁んぅ。もう、休ませてくれない⋮⋮
﹂
﹁っ、はぁ⋮⋮久しぶりだから、やっぱ溜まってるな⋮⋮﹂
い﹂
﹁あ⋮⋮あぁ⋮⋮
覚に、腰を抜かして受け入れている表情はトロけていた。
ハートの足で抱かれて子宮に精液を吐き出す。注ぎ込まれる熱い感
激しく出し入れして、エヌラスは我慢の限界に達するとパープル
!
﹁ん
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ぃ﹂
﹁欲しかったらそう言えよ⋮⋮俺も結構理性の限界なんだ﹂
﹁え、でもぉ⋮⋮﹂
﹁休みたいのか、もっとしたいのかどっちかだ﹂
茎で入口を何度も擦る。
な女神に、エヌラスは何も言わず唇を塞いだ。そのまま一度抜いた陰
めて唇を差し出す。涎を垂らしただらしなさを繕うともしない艶美
てくる。熱い吐息を漏らしながら、ねだるような潤んだ瞳。目蓋を細
そう言いながらも手は首に回し、頬に何度もキスを繰り返して甘え
?
細く声を紡いだ。
﹁エ⋮⋮エヌラスの、おちんちん⋮⋮もっと、ほしいの⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
1217
!
!
!
羞恥で頬を赤らめていたパープルハートが手で顔を隠しながら、か
?
﹁だめ⋮⋮
﹂
!
涙を流しながらエヌラスに抱き着く。
﹁これ、イイのぉ 好き、これ好きぃ⋮⋮
﹂
!
﹁ふぁ⋮⋮ぁ、これイイかも⋮⋮
﹂
胸を触りながら、もう片方の手はクリトリスに触れる。
うちに、それが自然と敏感なところを探すように弄っていた。自分の
指が勝手に動く。手持ち無沙汰な片手で自分の身体を慰めている
︵お姉ちゃん、あんなに気持ちよさそうにして⋮⋮すごく幸せそう︶
くちゅ。
﹁⋮⋮ん﹂
伸びていた。
ような深く深く貪るセックスを見るうちに、自然と手が自分の秘部に
ることに気づいて、パジャマを脱ぐ。お互いの汗と体液が混ざり合う
それを横から見つめていたネプギアは火照った身体が汗ばんでい
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
夢中になっていた。
名前を繰り返し呼びながら、パープルハートはエヌラスとの交尾に
│
エヌラス、エヌラス│
度も絶頂に達しながらも悦びに喘ぎ声を繰り返すパープルハートが
きしめて激しく腰を動かす。その不意打ちに身体がついていけず、何
エヌラスは一気に奥まで突き上げると、パープルハートの身体を抱
﹁え││﹂
﹁悪い、もうむり。我慢の限界﹂
﹁んっ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮〝ネプテューヌ〟﹂
?
﹂
!
﹁んっ⋮⋮ふぅ⋮⋮あ⋮⋮﹂
引き抜かれると、割れ目から精液が溢れた。
﹁はぁー⋮⋮はぁ⋮⋮はぁ、はぁ⋮⋮⋮⋮
シーツを掴み、中で射精されるのをただ受け入れる。
の 絶 頂 に 達 し て 身 体 を ベ ッ ド の 上 に 投 げ 出 し た。汗 だ く に な っ て
そうして自慰行為に耽っているうちに、パープルハートも何度目か
!
1218
!
それを寂しそうに見つめるパープルハートの身体を抱き寄せて、エ
ヌラスは首元にキスをする。手を取ると、両手首を鋼糸で縛り上げて
ベッドに縫い付けた。頬に軽い口づけを交わし、頬を撫でる。
﹂
﹁パープルハート。少しだけ、おあずけだ﹂
﹁ふえぇ⋮⋮
束ねた鋼糸で目隠しを作ると、エヌラスはネプギアに視線を移して
﹂
手招きした。自慰に耽っていたネプギアが我に返って、一層強い刺激
あ、あぁ﹂
に腰を震わせながら潮を吹く。
﹁ふぅ、んぁあああ
﹁ネプギア﹂
﹁ぁ、エヌラス⋮⋮さん⋮⋮﹂
﹁ひとりでする程、寂しかったのか
でも分かるほど耳まで真っ赤になっていた。
﹁こんなにして、ネプギアは悪い子だな﹂
﹁ご、ごめんなさい⋮⋮﹂
﹁そんなネプギアにはお仕置きだ﹂
﹁あの、お手柔らかにお願いしますね⋮⋮﹂
ネプギアを押し倒して、ゆっくりと挿入していく。
﹁お姉ちゃんだけで、満足できなかったんですか⋮⋮
﹂
﹁多分、ネプギアでも満足しないぞ俺は﹂
﹁んぅ、エヌラス⋮⋮まだぁ
﹁⋮⋮向こうもな﹂
﹂
?
熱く濡れた秘所に指を当てて、愛液を掬って見せると、暗い部屋の中
ネプギアの頬にキスをして、それから身体を抱き寄せる。すっかり
﹁だ、だってあんな激しいの見てたら⋮⋮あふ﹂
?
!
苦し⋮⋮です⋮⋮エヌラスさぁん﹂
﹁それは、大丈夫ですから⋮⋮エヌラスさんの好きにしちゃってくだ
﹁結構⋮⋮キツイな。痛くないか、ネプギア﹂
﹁ぁ、ああん
か、ネプギアが背中を丸めて抱き着く。
ませてしまおうと考え、奥まで突き上げるとそれだけで一杯一杯なの
苦しそうに息をするネプギアの負担も考えてエヌラスは早々に済
?
1219
?
!
さい﹂
それ、ダメ 激しすぎですから、ぁ││
これ、全部
﹁あー、もう。ナチュラルにエロイんだよなぁ、この、この﹂
﹁ひぐッ
見えちゃ﹂
!
﹂
おねえちゃ││
﹂
﹂
たす熱い精液にネプギアが身体を震わせていた。
﹁ふあぁぁぁ
﹁よい、しょ﹂
﹁え、あん⋮⋮
﹁ネプギア⋮⋮声が、近い気がするわ
!
!
﹁ネプギア、ん、ちょっとぉ⋮⋮﹂
﹁はぷっ、んちゅ⋮⋮ちゅう。ん⋮⋮
﹂
こんなの、がまんできひいぃ
﹁そんなに吸い上げたら、はぁ、ダメよ﹂
﹁だって、だってぇ
﹂
!
!
いっぱい、出してください﹂
﹁ネプギア、出すぞ││
!
せるように擦りつけていた。
﹁ぁ⋮⋮中に、欲しかったなぁ⋮⋮﹂
?
﹁お前ら姉妹はどうしてそう、エロイんだ﹂
まだなの
?
今か今かと待ちわびているパープルハートの尻を浮かせて、艶やか
﹁エヌラス⋮⋮もういいでしょ⋮⋮
﹂
ルハートと重なるネプギアが塗りたくられた精液を身体に染み込ま
吐き出す直前に引き抜いて、二人の身体を白く染め上げる。パープ
﹁はひ、はひぃ
!
﹂
﹁ぁ⋮⋮お姉ちゃんの乳首、こんなになって⋮⋮えっちな感じ﹂
た。
する。それで身体から力が抜けたのか、胸に顔を埋めながら喘ぎ始め
ネプギアを抱えて、パープルハートの上に寝かせると後ろから挿入
﹁やだ、おねえちゃんに、見られながらは、ダメです
﹂
何度も出しているせいで通りが良くなったからか勢い良く子宮を満
を伸ばすネプギアの姿に、背徳的な快感を覚えながら射精を果たす。
つける。恥ずかしさのあまり、顔を覆い隠しながら秘部に向かって手
足を持ち上げて掴みながらエヌラスはその小柄な身体に腰を打ち
!
!
?
!
!
1220
!?
﹂
﹂
な肉に隠された穴を広げると驚きに身体を震わせる。
﹁え⋮⋮そっちは││
そんな、能力の無駄使いぃ
﹁かなり強引だが、すぐに解れる﹂
﹁ふぅ、あぁぁぁ
す。
﹁おしり、そこ、おしりだからぁ
きにされちゃったら、私││﹂
こんな、縛られ、てぇ⋮⋮
好
!
としか考えられなくなっちゃう
﹂
!
おしりだけは、だめぇ
いや││あ
!
﹁そんなこと言わないでネプギア⋮⋮これじゃ、私││エヌラスのこ
﹁お姉ちゃん、すごく可愛い声出てる⋮⋮﹂
た。そんな自分の上にはネプギアが馬乗りになっている。
しかし、ベッドに縛り上げられた身体はエヌラスの好きにされてい
前 の 方 と は ま た 別 な 刺 激 に パ ー プ ル ハ ー ト が 身 体 を よ が ら せ る。
!
た。すぐにキツく締まる穴に愛液が垂れ込み、潤滑油の役目を果た
緩させたアナルにエヌラスはまだ元気に屹立している陰茎を挿入し
銀鍵守護器官によって生み出される電気を流して、半ば無理やり弛
!
!
﹁ネプテューヌ││出すぞ﹂
﹂
!
を白く満たしていく。
﹁ふッ⋮⋮ぅ⋮⋮ん⋮⋮⋮⋮でて、るぅ⋮⋮ダメって、言ったのにぃ
⋮⋮﹂
﹁我慢出来るか、こんなん⋮⋮﹂
そろそろ体力の限界が近い。自分よりも、二人の方が。
エヌラスはパープルハートの身体を拘束していた鋼糸を解除する。
それに合わせて、ネプテューヌも女神化を保てなくなったのか解除し
て身体を大の字に投げ出していた。
﹁もう、むりぃ⋮⋮わたし、えっちなことで頭いっぱいだよぉ⋮⋮﹂
﹁んー﹂
その隣に寝転ぶと、ネプギアとネプテューヌの二人が抱きついてく
1221
!
﹁え、うそ だめ、だめッ
⋮⋮
!?
拒絶しようとする意思も空しく、エヌラスはパープルハートの腸内
!
る。
﹂
﹁⋮⋮エヌラス﹂
﹁なんだ
﹁えっと、ね⋮⋮ごちそうさま﹂
﹁⋮⋮俺の台詞だ﹂
疲労感に襲われて、やがて三人は抱き合いながら静かな寝息を立て
始めた。
1222
?
エピソード30 ウェイクアップ、ヒーロー
翌日││。
﹁おはよー、あいちゃん﹂
﹁おはようございます、アイエフさん。コンパさんも﹂
﹁あら、おはよう││今日は珍しいのね、早起きで﹂
今日も一日晴れだってさ、イイネ
﹁おはようですぅ、ねぷねぷ﹂
﹁やっほうおはよう天気予報
﹂
!
﹂
ありがとうですぅ﹂
?
﹁いやー、楽しいね 私こういうのやってみたかったんだよ。さぁ
﹁お、お弁当まで作ってくれたですか
﹁そらぁもう。あ、これ二人のお弁当ね。はい﹂
﹁そういうことでしたら遠慮なく。早起きなんですね﹂
﹁私のことはユウコでいいよーアイエフちゃん﹂
﹁そ、そういえば泊まっていったのよね⋮⋮あの、ユウコさん﹂
﹁わっ、ビックリしたぁ
せた朝食を並べていくユウコに、ネプテューヌ達が驚く。
器用なことに、両腕に料理の皿を持っているだけでなく頭にまで載
!
寝起きの胃袋に流しこむには程良い軽食は、まるで喫茶店のモーニ
ングセットのような献立で並べられていた。サンドイッチにスコッ
チエッグ、ウインナーとオニオンスープ。
﹁さーて、後はねぼすけサンタマリアを叩き起こすだけだ。へっへっ
へ、私のフライパンとお玉が奏でる目覚まし音頭で鼓膜はち切れさせ
てやるぜ⋮⋮﹂
﹂
﹂
朝だぞー
﹁いや、普通に起こしてもらえないですか
﹁そうするよ。ほらーエヌラス
!
?
そして、ネプテューヌの部屋に入っていくのを見て││昨晩の出来
!
換気しろ換気
﹂
事にネプギアが﹁あっ﹂という間に部屋へ入っていく。
﹂
!
!
1223
!?
さぁ冷めない内に食べちゃって﹂
!
﹁うわ、エロイ臭いする
﹁ブッホゴフッ
!!
ユウコの叫びにアイエフが飲んでいたオニオンスープを食道から
逆流させて盛大にむせていた。ネプテューヌは顔を赤くして背け、ネ
﹂
プギアは小さくなっている。コンパだけはモグモグとサンドイッチ
を頬張っていた。
﹁ねぷねぷ。えぬえぬとえっちぃことしてたです
﹁ユウコさん、声が大きいよぅ⋮⋮﹂
﹁あいちゃん、だいじょうぶです∼
ないです﹂
﹂
アンタ
こんなにこぼしたらもったい
﹁う、うん⋮⋮ちょっとやり過ぎたかなー、とは思うけど⋮⋮﹂
?
﹁げほ、えほっ⋮⋮ あ、ありがとコンパ。もう、ネプ子
一体何してたのよ
!?
?
﹁うぅぅ∼⋮⋮ なにしてたってナニしてたに決まってんじゃん
!
﹂
だってベッドでギシアン事案はいーすんに禁止されてないもんね
!
!
!
案の定││朝から大惨事である。
プラネテューヌで正座するのは二度目である。三度目の正直とい
う言葉があるが、果たして。
ネプテューヌ、ネプギア、エヌラスの三人が仲良く正座している前
アイエフさん﹂
には、腕を組んでいるアイエフとイストワール。
﹁一体何事ですか
よぅ﹂
自分がどういう立場にあるか分かってんの
﹁いるよなー、そういう優等生のお手本みたいなの﹂
﹁アンタらうっさい
犯罪よ犯罪﹂
?
﹁う ぅ、あ い ち ゃ ん が 先 生 に 告 口 す る 委 員 長 み た い な ポ ジ シ ョ ン だ
﹁ふんふんなるほど││﹂
﹁聞いてくださいイストワール様。ネプ子がですね││﹂
?
﹁いってくるで∼す﹂
なくすなぁ⋮⋮﹂
﹁そんなに怒らなくてもいいじゃんかぁ⋮⋮はぁ∼あ、朝からやる気
!
1224
!
﹁はーい、いってらっしゃーい。気をつけてねーコンちゃーん﹂
﹂
笑顔で弁当を手にしてコンパは勤務先の病院へ。それにユウコは
プリン禁止令出しますか
わたしにとっ
?
笑顔で手を振って送り出す。
﹁それで、処罰はどうしますか
﹂
﹁そ、そんな││ 正気の沙汰とは思えない処罰
ては地獄すら生ぬるい
!
?
イストワール様﹂
﹁⋮⋮別にいいんではないでしょうか
﹂
一国を預かる女神がそんな肌を許すなんて許していいと思いますか、
﹁アンタはそんだけのことしたのよ。わかってんの、ネプ子。仮にも
!
!?
﹂
﹂
?
﹁うん﹂
﹁互いに合意の上で、同意を求めたから行為に及んだんですか
﹁そうだよ。ねー、ネプギア﹂
﹁はい、そうです﹂
本気ですかイストワール様
﹁それでしたら、私からは何も言うことはありません﹂
﹁えっ
﹂
﹁言葉通りの意味ですが。ひとつお聞きします、ネプテューヌさん﹂
﹁えっと、その⋮⋮別にいいとは、どういう﹂
た。相手が相手だけにちょっと脳の理解が追いついていないらしい。
イストワールはあっけらかんと答え、アイエフの頬が引きつってい
﹁いえ、ですから。別に良いと思いますよ﹂
│││え
﹁そうですよね。別にいいですよね。そうと決まれば│││││││
?
!?
でしょう。まぁ、本来ですと許されないことなんですが⋮⋮それはそ
れです。男女の恋の営み、それぐらいは普通です﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁そんなに目くじらを立てなくてもいいではありませんか﹂
昨晩まで、アイエフと一緒になってエヌラスを警戒していたイスト
ワールがまさかの許可。それに面食らってパクパクと口を開ける姿
に、ネプテューヌもポカンとしている。
1225
?
﹁アイエフさん。女神といえど、恋仲になる殿方との付き合いもある
!?
﹁えっ、いーすん
えっと、どうしたの
て軽い気持ちでは困りますよ
﹂
﹂
ネ
﹁じゃあ、ベッドでだったらいくらでもエッチなことしてもいいの
﹂
けでなく、今はユウコさんまで使うのですから。掃除するから、なん
場所でキチンとしてほしいからです。アイエフさんやコンパさんだ
さんとお風呂場で淫行に及ぶことを禁止しました。それは然るべき
﹁ネプテューヌさん。ネプギアさん。私は確かに、お二人がエヌラス
?
?
の前で止まった。
﹁エヌラスさん﹂
﹁はい﹂
﹂
﹁ネプテューヌさんとネプギアさんを、愛していますか
﹁愛してるさ﹂
﹂
﹂
﹁はい。ですので、ハァドラインへの対抗策をお願いします﹂
﹁俺の本業は邪神狩りで⋮⋮﹂
て活躍していることを、このゲイムギョウ界で﹂
いる問題を解決してください。アダルトゲイムギョウ界で旧神とし
﹁そうですね⋮⋮では、こうしましょう。今、ゲイムギョウ界で抱えて
﹁⋮⋮どうやって
でもその覚悟を、ちゃんと見せてくれますか﹂
﹁⋮⋮えと、コホン。口先だけでなら、まぁ言えるかもしれませんね。
掃除と洗濯を併行して始めている。
も尋ねたイストワールも赤面していた。ユウコだけは鼻歌混じりに
即答する。それにネプテューヌもネプギアも、聞いていたアイエフ
?
ニッッッッコリと笑ってイストワールはエヌラスに視線を移し、顔
﹁分かってくれたのなら、結構です﹂
﹁⋮⋮⋮⋮は、はい﹂
で す か ら
プテューヌさん、ネプギアさん。プラネテューヌの、女 神 な ん
﹁た・だ・し、ですよ。場所を弁えて、時間も考えてくださいね
!
?
﹁臨むところだ。もとよりそのつもりだったしな、手間が省けた﹂
﹁アイエフさん﹂
1226
?
?
?
﹁⋮⋮はい。なんですか、イストワール様﹂
﹁出来る限り、エヌラスさんのサポートをお願いしますね﹂
﹁わかりました﹂
アイエフからエヌラスに向けられる視線はあくまでも平静を努め
ているが、どこか軽蔑の眼差しも含まれていた。
﹁そういうことだから、今日は全員でクエストに行くわよ。文句はな
いわね、ネプ子﹂
﹁うぅ、お仕事嫌だなぁ⋮⋮あ、わたしぷるるん達に連絡しないと│
│﹂
﹂
﹁仕事終わってからでもいいでしょ。ほら行くわよー﹂
﹁あぁんヒンドゥー
アイエフにパーカーのフードを掴まれてネプテューヌが引きずら
れていく。それにネプギアが付いて行き、エヌラスが最後に立ち上
がった。その表情はどこか浮かない。朝からの叱責に落ち込んでい
るのかと思ったが、そうではない剣呑さを感じ取ったイストワールが
﹂
横から顔を覗きこむ。その様子に気づいたのか、ユウコも掃除機を
持ってきて顔色を窺う。
﹁エヌラスさん、どうかしましたか
うん。││そっち
う ん、じ ゃ あ 良 か っ た。
?
⋮⋮⋮⋮ありがと、それじゃ﹂
ちょっと聞きたいことがあったんだけどいい
で邪神とか、見なかった
?
﹁も し も し、私。ユ ウ コ だ よ。起 き て た
とすぐに電話を始めた。それはすぐに繋がる。
顔を見合わせて、ユウコはエプロンのポケットから携帯を取り出す
﹁俺の気のせいであってほしいんだがな﹂
﹁エヌラス。それって、もしかして⋮⋮﹂
うな、神経を逆撫でされてるような嫌な気分だ﹂
﹁⋮⋮あぁ、なんかな。すげぇ嫌な感じする。胸の辺りがざわつくよ
?
れを退治するのが旧神││エヌラスの役目。その為、ココ最近はパタ
ロンが冗談半分で〝門〟を開いたからだ。そこから溢れる邪神の群
アダルトゲイムギョウ界で邪神が来るようになったのは、次元神セ
通話を切り上げ、ユウコが腰に手を当てて深い溜息を吐き出した。
?
1227
!
リと襲撃されることなんてなかった。それでも、時折思い出したよう
に奴らは侵略してくる。エヌラスが居なくなってもだ。
﹂
﹁エヌラス、キミってほんとこういう時の野生の勘って未来予知レベ
ルだよなぁ﹂
﹁向こうはなんだって
メールの着信。それに画面を開くと、画像が添付された本文には短
く一言だけが添えてあった。
﹃邪神が来て、追い払うのが精一杯だった﹄
恐らくは衛星カメラだろう。望遠レンズを目一杯拡大した画像は
粗いが、全容を確認するには十分な解像度で映し出されている邪神
は、エヌラスも見覚えがあったのかユウコの横から食い入る様に画面
に顔を近づける。
﹂
﹁エヌラス、近い⋮⋮近いって﹂
﹁⋮⋮コイツは││﹂
﹁知っているのですか
全身に黒い霧を纏った、人型の邪神。そのモヤに包まれた姿にエヌ
ラスは思い出す。
﹁││俺が仮面を付けた邪神を追って戦っていたのは知っているな﹂
﹁はい﹂
﹁そいつが呼び寄せた、邪神の眷属とでも言えばいいか⋮⋮コイツの
せいで、俺がどれだけあの野郎を相手に苦戦したか。間違いない、俺
が殺し損ねた奴だ﹂
それがどこに追い払われたのかは分からない。だが、エヌラスが今
感じているのは天敵を目の前にしたような、そんな暗示じみた感覚。
﹁⋮⋮多分、いや。十中八九、この野郎はゲイムギョウ界に来るだろう
な﹂
エヌラスは、静かに宣告した││。
﹂
﹁今度は俺の全生命力を費やしてでもこの次元世界から消滅させてや
る⋮⋮
1228
?
?
憎悪と憤怒に塗れた形相で画面越しに殺意を滾らせる。
!
エ ピ ソ ー ド 3 1 静 か な 田 舎 の 森 の 奥 か ら 見 知 ら ぬ
アイツの声がする
││プラネテューヌ第三資源採掘場では朝から掘削機による資源
採掘と原料の抽出の為に溶鉱炉が稼働していた。熱気と蒸気と機械
油が混じり、そこに土臭さと泥臭さが融け込んだ労働環境は、健常な
嗅覚の持ち主であればまず間違いなく顔をしかめるであろう。容易
に想像できるそんな劣悪な環境に加えて、作業工程上で発生する汚染
物質の除去作業。こればかりは人間に任せるわけにはいかない。
︽エッホ、エッホ︾
そこで彼らのような作業用ロボットが開発された。動力源は、現在
採掘している環境汚染物質。プラネテューヌの土壌深くに埋もれて
型ミサイルタレットだった。それはあくまでも設置するものではな
く、担いで運用する為に大きさはコンパクトにまとめられている。弾
数は六発。それぞれの近接信管の調整もシュラの仕事だ。武装の改
︾
1229
いるその物質の除去と共に加工するのが彼ら第三資源採掘場での主
な仕事だった。活動メンバーは四人とごく少数だが、それは言い換え
てしまえば四人が職場の中でも浮いているからである。他のメンツ
とソリが合わないというのもあるが、彼らの性能が特化型であるのも
要因だ。
シロトラの目指す部隊運用に、セイン、ディル、ジーン、シュラの
︾
四人は敵わない。だが、それを彼らは気にしたことなどなかった。
︽おーい、シュラ。そっちの作業はどうだー
直る。
︽リペアならもうそろそろ仕上がる頃ー
︾
バーナーを手にしていたシュラがバイザーを上げてディルに向き
!
そのシュラの作業台に置かれているのは、ディルの使用する多連装
!
良、整備点検のみならず修復作業では一番の技師と言ってもいい。
︽どこが悪かったー
!
︾
︽強いて言うなら、やっぱミサイルのハッチー
化してるー
留め具の部分が劣
いるかがまるでレントゲンのように表示され、エラーメッセージが表
タレットに照準を合わせる。動力部から正常にエネルギーが通って
バックパックに背負った修理装置のユニットを手にして、整備中の
状況も芳しくない。直せるものは直し、使えるものは使う。
ら壊れたりする。しかしそれをいちいち新調していては組織の経済
演習で使用する武装は実戦と変わらない。その為、装備も当然なが
!
︾
記 さ れ る 画 面 を タ ッ プ。す る と、円 盤 状 の 遠 隔 修 理 装 置 が 起 動。タ
レットを自動で修復し始める。
︾
︽とりあえずコッチはオッケー
︽おーう、ありがとなー
!
︽ジーン
︾
割り当てている。
掘出来るようで、それを知ったシロトラがそちらも副業で選別作業を
に転がり落ちてくるのは、原石だった。この辺りでは鉱石も多分に採
ディルは太い腕で重いレバーを下げる。目の前のベルトコンベア
!
︾
黙々と、原石の選別作業を始めるジーンは淡々と手を動かし始め
た。
︽ディルー、ちょっと背負ってみてくれ
た。
︾
ルの背部に繋げる。すぐにラックで固定されて問題なく稼動を始め
バックパックに接続したタレットを持ち上げて、背中を向けたディ
!
なら次はスチームパイクだな︾
︽重心が寄ってたりとかはない
︽うむ。大丈夫だ
?
は変わりない。
ミサイルタレットに比べれば作業は楽ではあるが、それでも仕事に
︽おーうふ、まさかこき使われる可能性︾
!
︾
1230
!
︽わかってる︾
!
︽でぇぇぇぇぇきたぁぁぁぁぁあああああきええええぇぇぁああああ
あ
!!!
︾
俺は天才だぁぁぁぁああっはっはっ
突如、第三資源採掘場に響き渡る奇声。
フゥーハッハッハ
︽キエエエエァァァァアアア
は
!!
︽そっとしておこう︾
出前
︾
︽そうだな、疲れてるんだろう︾
︽今日のお昼どうする
?
︽いやいやいやツッコめぇぇぇいお前らぁぁぁぁぁ
がらがらぴしゃん。
︾
︾
ペンキでも塗りたくったような空間に、三人が無言で戸を閉める。
耳、耳、耳。足元にはよく分からない謎の液体だらけのセインがいた。
三人が顔を見合わせて、声の主の姿を探すとそこには││机の上に
!
何も言わずセインを隔離した。
︽ガラッ
!!!
?
いいから聞け
めっちゃ続き気になる
備員だった俺は出来心から媚薬を以下略︾
︽そこを端折るなよ
製薬会社に勤め、警
この狂気のマッドなサイエンテイス
!
ティングによって生み出された化学の申し子
︽うるさい
︽いやお前、それ別な人のネタだろう。あぶねえな︾
!
今の職についた
︾
俺 の 経 験 が 活 き た
ひょおおおおほほろろろおおおおお
︽どうするディル。処す
処す
︾
?
︾
活 き ま し た ぞ ぉ ぉ ぉ ぉ
!
崇 め 奉 れ
た い
俺は、俺には出来た
しかねた。せめて色だけでもどうにか出来なかったのかと。
遂にできたんだ
ほ め ろ 褒 め 称 え ろ
︽ケモミミが生えるお薬︾
!
!
!
︽出来た、できたんだよ
流 石 俺 だ
︾
!
!
︽駄目だこりゃ。で、なにができたんだ︾
よぉぉぉう
!
!
確実に人体に悪影響を与えるであろう謎の暗黒物質には三人も同意
フラスコの入っている液体は、なんというか緑色に発光している。
?
︽⋮⋮いつにもまして頭のネジが飛んでるな︾
!!
!
︽││それによってクビを言い渡された俺はシロトラ教官と出会い、
!
!
!
!
!!
1231
!!
︽お前は天才だセイン
︾
なんかゴメンな
ココ最近ひとりで部屋
!
から友達やめようとか思ってたけど、お前流石天才だな
︾
!
!
そしてありがとう
!
︽バンザーイ
︾
!
︾
バンザーイ
どぉりゃああーー
バンザーイ
︾
︽よーし、胴上げだ
︽ぎゃああ
!!
!
ジーンは鉱石を選別し終えて、コンベアの電源を切った。
三 人 は 固 く 肩 を 組 み 合 わ せ る。そ の 光 景 を 遠 巻 き に 眺 め な が ら
︽エロ本はジーンが置いた︾
︽シュラ、お前だったのか⋮⋮使い捨てオナホとエロ本置いたのは︾
な差し入れいらなかったよな︾
︽部屋の前にオナホ置いたの俺なんだ⋮⋮へへ、バカみてーだ。そん
︽ディル⋮⋮まぁいいや、ありがとう
︾
にこもってブツブツと独り言言いながらネチョネチョ変な音がする
︽お前、お前天才だな
交わす。それにシュラも交ざってハイタッチをしていた。
即落ち二コマばりの手のひら返しに、セインとディルが固い握手を
!
!
ン。
ディルの手で上空に投げられたセインが天井にぶつかり、落下して
とりあ
くるときにコンテナの縁に頭部と背中を強打。地面に倒れる。
︽あ、スマン⋮⋮︾
︽ふふ、今の俺は歓喜のあまり何をしでかすか分からない
えず外の空気を吸いに行ってくる︾
ソがつくド田舎の辺鄙な場所でありながら、なんと清々しい空気だろ
見渡すかぎりの大自然。青々と生い茂る緑の海、普段は何も無いク
︵名称未定︶を持って朝日を浴びた。
途端に冷静になったセインが出来上がったケモミミの生えるお薬
!
う。胸いっぱいに取り入れるだけで目が覚めるような清浄さに、身体
︾
だけでなく心まで清らかになった気さえする。
︽ケモミミ、最高
!
1232
!
!
ガ ラ ガ ラ ガ シ ャ ー ン。ド ゴ ー ン パ リ ー ン。ゴ ロ ゴ ロ。ビ ク ン ビ ク
!!
︾
穢れしか残らなかった。これには青空に浮かぶ仏も苦笑い。
なんだ、今の声は⋮⋮
││Arrr⋮⋮
︽││
︽今のはなんだ
敵襲か
︾
気をつけながら詰め所へ戻ろうとする。
称未定︶を持っていることを思い出したセインは、落とさないように
の鳥達に、獣達が逃げ出していた。片手にケモミミが生えるお薬︵名
どうしてかその方角に向けて頭を向ける。バサバサと飛び立つ無数
獣の遠吠えのような、森を震わせるような咆哮だった。セインは、
!
!!
!?
︽マジで
︾
見せろお前︾
︽⋮⋮交尾している野鳥︾
︽何か見えるか
がスコープを覗き込んだ。セインもそれを受け取る。
各自が背面に武装ラックの付いたバックパックを装着して、ジーン
︽了解だ︾
ンのバックパックを︾
︽どちらにせよ、武装しておいたほうが良さそうだな。シュラ。セイ
︽獣の声だったか⋮⋮、いや、今のはもっと違う、別な⋮⋮︾
!
?
スコープの倍率をさらに上げる。
エンシェントドラゴンか
?
何が見える︾
︽詳細は︾
︽⋮⋮分からん。分からんが││凄く、嫌な感じのする奴だ︾
︽それで
︽さーせん︾
︽うるさいよお前ら。少し静かにしろ︾
ドガンを取り出して装填された十二発を撃ち尽くした。
親指を立てるシュラの足元に向けてジーンはサイドアームのハン
ぜ︾
︽言われてみればそうだな。よし、今日のお昼はハンバーグにしよう
︽なんか今日は肉が食いたい気分だな︾
︽なんだ
︾
︽思春期のガキか。⋮⋮いたぞ、六時の方角︾
!?
?
?
1233
!?
︽││言わずとも分かる。来るぞ
︽まぁそうなるよな。発砲音で︾
︽うむ、銃声で︾
︽今日の日記は捗りそうだ⋮⋮
︾
︾
︽まぁ大口径ハンドガンだよなぁ︾
!
︾
獣のような唸り声だった。
﹃Ar││⋮⋮Guaaaa
﹄
兜の中からくぐもった声。だがそれは理性も知性も感じられない
﹃││a⋮⋮﹄
︽なんだ、コイツは⋮⋮
なって全身を包み隠す甲冑であるのが辛うじて見て取れる。
切わからない。だが、その無骨さと流麗さが奇跡的なまでの芸術と
カチャリと金属の擦れる音に、センサーの倍率を上げる。詳細は一
人型。
と猛スピードで森の奥から飛び出してくるのは││黒い霧を纏った
キレ気味のジーンが覗いていたスコープから目を離す。ガサガサ
!!
た。
︽ッ、なんて邪気だ︾
︽俺達にやれるか││
︾
獣が咆哮する。威圧感が大気を震わせ、その邪悪さに森が震えてい
!!
ンをリロードして、シュラはポンプアクション式のショットガンを向
ける。
地面を這うような、前屈姿勢からの跳躍。それをセインが避けよう
︾
薄いガラス容器が割れるような音に、一瞬だが静寂
とするが、蹴り飛ばされる。
︽どわぁっ
ぱりん。
││ぱりん
が流れた。
︽あ⋮⋮⋮⋮︾
1234
?
ディルが単式の大口径機関砲を構える。ジーンは片手でハンドガ
?
セインが自分の右手を見る。綺麗に割れたフラスコ。こぼれた液
?
!?
︾
あ、
体。蛍光色の緑色。宇宙生命体の体液じみた謎の液体が地面のシミ
となって消えていく。
﹄
︽アアアアァァァァァァアアアァァアアア
﹃Arrrr││││
あ ぁ ぁ ぁ 俺 の、あ え え え あ あ あ
︾
グ ゥ ゥ ォ オ オ オ ア ア ア ア ア
!?
!?!?!?
︽ぎええええあああぁぁぁほぉう、嘘、うそだぁぁぁぁあああ
!!!
!?
かぁぁぁぁ
︽神 は 死 ん だ
︾
神 は 死 ん だ こ の 世 に 救 い は な い ん で す
空を仰ぎ、両腕を広げた。
這いになってそれがもう手遅れであることを示している。
セインが絶叫していた。膝から崩れ落ち、地面のシミを前に四つん
!?
!!!!
!
!!
吼える。ひた吼える。血の滲むような絶叫が森を震わせる。
1235
!?
エピソード32 邪神、断つべし││
うなだれるセインには目もくれず、謎の全身鎧の怪物は無手のまま
臨戦態勢で構えるディルとジーン、シュラの三人に襲いかかった。
︾
︾
︽くそ、なんなんだコイツ
︽射撃が効いていないぞ
!?
﹃Gaaaa││
﹄
ディルが機関砲を連射する。
にはならない。排莢動作を挟んで、更にもう一発。今度は吹き飛び、
回りこんでショットガンを放つ。だが体勢がぐらつく程度で決定打
衝撃はあるのか、機関砲の弾丸を受けて動きを鈍らせる。シュラが
!
︽なに
くっ
︾
だが、高熱の弾頭を捉え、弾く。
!!
︽助かる
︾
︽世話を掛けるな。装填に難があるんだぞ︾
く。
ジーンの高出力光学狙撃銃の銃口からは熱が漏れて陽炎が揺らめ
纏う怪物に閃光が突き刺さる。
るが、姿勢を低く構えると先程よりも早くディルに迫った。黒い霧を
組み付こうとする怪物に機関砲の先端を振り上げて咄嗟に迎撃す
!
︾
︽⋮⋮許さんぞ、貴様⋮⋮ 貴様は俺を怒らせた。本気で怒らせた
︽セイン
︽││許さん⋮⋮︾
ない。
怪物と対峙する三人だが、相手は一向にダメージを食らった様子は
︽減俸ものだぞ、これ︾
︽弾代の無駄だな︾
かのっそりと起き上がった。
銃が全身を打ちのめし、大きく距離を離す。だが、ダメージはないの
体勢の崩れた怪物にディルがタックルで突き放した。そこへ散弾
!
?
!
1236
!?
︾
俺の十二時間かそこらの努力と血と汗と涙とよく分からない体
液とその他諸々の欲望を費やした時間を無駄にした貴様だけは
身体を起こして、右手に荷電圧縮されたエネルギーを射出するアサ
挑ませてもらうぞ、貴様
ルトライフルを持つ。その原料は環境汚染物質ではあるが、電圧を加
えて変異させている。
︽⋮⋮セインが切れてるな︾
三人がそれとなく怪物から距離を離す。
︽B2AM強襲部門第二部隊所属、セイン
⋮⋮︾
﹃││﹄
﹃││
﹄
レードが形成され、怪物の脇腹に一閃する。
構えて鍔元のスイッチを押す。薄っすらと刃を包むような緑色のブ
視界が塞がれた一瞬で背後に回りこみ、背負っている日本刀を左手に
交錯する刹那、三点射のエネルギーが怪物の顔を撃つ。面食らって
た。
る燃焼剤が出力を増幅させて、赤い炎を吹きながら加速。怪物に迫っ
チャージングシステムが起動する。腰部ブースターから排出され
!
喜の色を込めて。
!!
﹁どうしたの、エヌラス
﹂
アイエフ達に一言断りを入れる。
││その頃、プラネテューヌではエヌラスが邪神の気配を察知して
まるで戦いに生きる狂戦士の如く、奮い猛っていた。
﹃Arrrr││⋮⋮
﹄
だが、人型の怪物はそれでもなお引く気はないのか││吼える。歓
︽最初からそうしていろ、元B2AM特務隊︾
︽了解︾
ンは援護を頼む︾
︽銃はダメか。白兵戦が有効のようだ。ディル、行くぞ。シュラ、ジー
浅手ではあるが、確かな損傷を認めた。
!
?
1237
!
!
急にどうしたのよ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮悪い。今日は一緒にいけそうにない﹂
﹁えっ
﹁俺の予想以上に早かったな。多分だが、邪神がもう来てる﹂
﹂
その一言に、緊張が走った。
﹁仮面の邪神
︽READY︳
︾
エンジンを暖めて、主が背に乗るのを待っていた。
の │ │ ハ ン テ ィ ン グ ホ ラ ー が エ ヌ ラ ス の 影 の 中 か ら 這 い 出 て く る。
パチンと指を鳴らし、声を掛けられるのもまた獣だ。闇夜を狩るも
﹁ハンティングホラー﹂
るままに。
命を燃やすだけの狂暴な戦士。理性もなく知性もなく、本能に駆られ
言うなれば、狂犬。狂った猟犬だ。ただひたすらに目の前の闘争に
ない﹂
﹁ま、俺の個人的なわがままだ。邪神と戦ってる時の姿は見てほしく
﹁そんな⋮⋮﹂
﹁お前達の手は借りない。俺が片付ける﹂
﹁エヌラスさん、わたし達も││﹂
﹁いや、違う。だが⋮⋮アイツを野放しにしておくわけにはいかねぇ﹂
?
よ﹂
﹂
なんと言わ
好 き に し な さ い
?
﹁んもーそうやってまたわたし達を遠ざけるんだから
れても付いて行くからね
﹁追いつけたらな﹂
ガォォォォ││
!
よって生み出される浮力が﹁空中を走る大型バイク﹂という謎の物体
走 る。前 輪 と 後 輪 の リ ム に 刻 み 込 ま れ た 魔 術 文 様 を 読 み 込 む 事 に
かっていった。その大型自動二輪の前輪が浮き、そしてそのまま宙を
な瞬間加速によってネプテューヌ達の前からエヌラスの姿が遠ざ
ハンティングホラーの機関部が唸る。獣の咆哮が生み出す爆発的
!!
!
﹁は い は い。ど う せ 言 っ て も 違 反 す る ん で し ょ
﹁アイエフ。スピード違反するが、今回は目を瞑ってくれ﹂
?
1238
?
を実現させた。一から設計したハンティングホラーは比べ物になら
ない推力と馬力によって既にプラネテューヌから走り去っている。
﹁ポカーン⋮⋮﹂
﹂
﹁⋮⋮空中を走るバイク、かぁ⋮⋮なかなか良い趣味してるじゃない。
ほんとよ
⋮⋮わたしのバイクも改造してもらえるかしら﹂
﹂
﹂
いや、別に頼もうとか考えてないわよ
﹁あの、アイエフさん
﹁へ
﹂
仕事しなさい
﹁って、エヌラス追いかけないと
﹁そーのーまーえーに
なんだよねぇ⋮⋮﹂
﹁エヌラスさんはどうしよう
﹂
﹁うっ、そうだった⋮⋮女神のお仕事しないとゲームもプリンも禁止
!?
﹂
ゲームとプリンの確保が最優先
の手伝いに行こう
仕事優先
それからエヌラス
﹁まぁ早々やられるなんてこともないと思うから、今はわたし達のお
?
!
に怒られる。
﹁でもどうして邪神と戦うのを避けさせたんだろ⋮⋮﹂
﹁変神されたら堪ったものじゃないわよ。だからじゃないの
?
﹃お前は一体いつまで戦い続けるつもりだ
﹄
﹃だがそれは同時にお前自身の破滅にも繋がる﹄
﹃お前の選んだ道は、確かに正しいのかもしれない﹄
││次元神セロンは言っていた。
のだ。
プテューヌにとって、引いてはプラネテューヌの平和の為にも必要な
とはいえ、今は自分の仕事に集中しなければ。ゲームもプリンもネ
﹁⋮⋮なんだか、それ以外の理由がある気がするなぁ﹂
﹂
テューヌの意見。それにはなんとなく同意出来てしまう。後で絶対
ど う せ 暴 れ る か ら す ぐ に 場 所 も 分 か る だ ろ う、と い う の が ネ プ
!
!
その問いに、自分はなんと答えたのだろう。
?
1239
!
!?
?
!
!
?
気づけば戦っていた。邪神と戦い続けている。だからかもしれな
い。
人一倍その気配には敏感だった。何が正しくて、何が間違っている
かはわからない。ただ││邪神の手で悲しむ人達が大勢生み出され
るのは、後味が悪くて放っておけなかった。
︾
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
︽︳︳
﹁ああ、なんでもない。気にするな、ハンティングホラー﹂
気遣うような、表示される電子メッセージにエヌラスはハンドルを
握り締める。
どの次元世界であっても、自分は邪神を相手にしてきた。まるで自
分 に 呼 び 寄 せ ら れ て い る か の よ う に 集 ま る 群 れ を 倒 し て き て い る。
それが、このゲイムギョウ界でも起きていた。
みなごろ
ネプテューヌ達のいる超次元で。エヌラスは奥歯を噛みしめる。
﹁邪神は皆殺しだ⋮⋮一匹残らず、 鏖す﹂
ハンティングホラーが嗅ぎつけた邪神の気配は、プラネテューヌか
ら遠く離れた辺鄙な場所だった。見渡す限り大自然しか見当たらな
いような、人気のない山奥で爆発が起きている。そちらへ向けてハン
ドルを切るまでもなく、ひとりでに動いていた。自ら判断して思考
し、動くこの無機物生命体は魔力で動いている。その動力源は何か。
答えは魔導書だ。それがハンティングホラーの﹃マギウス心臓﹄であ
り、ナコト写本と呼ばれる魔道書のさらなる写し││ナコト写本機械
言語版。機械の部品もヒヒイロカネをふんだんに使用している。こ
れは〝リセット〟を繰り返しながら集めた。自動修復プログラムも
搭載し、ナノマシンまで導入している。
││次元神セロンは言っていた。
ボーダーライン
﹃私は、お前が戦い続ける限り此処で待とう。次元の狭間で。次元の
境界で。この境 界 線でお前の戦いを見届ける﹄
﹃三千世界の果ての果て。無限宇宙の果てなき闘争。あらゆる邪神が
お前の魂を狙うだろう﹄
﹃││心せよ、エヌラス。これは英雄の物語ではないのだからな﹄
1240
?
﹁⋮⋮⋮⋮わかってるさ、セロン。これは英雄の物語なんかじゃねぇ﹂
かお
邪神と交戦しているのは、四人のロボット。
﹁これは、愚かな男の話だよ。自分の持つべき貌を持たない、空っぽの
物語だ﹂
自分は果たして、人間なのか。魔人なのか。それとも旧神なのか。
かつてはそうだった。
魔人であり人間であり、旧神に至った自分は今││果たして何者な
のだろう。答えがないままエヌラスはハンティングホラーで邪神を
横から撥ねた。
理由なんかどうだっていい。今はただ、戦い続けるのみ。
︾
ここには守らなければならない彼女達がいるのだから。
︽貴様、何者だ
﹁通りすがりの暇な神様だよ。アレは俺の獲物だ、悪いがやらせても
らうぜ﹂
︽我々の味方と見ていいのか︾
﹁お前達が敵対しなければな﹂
無銘の倭刀とレイジングブルを召喚して、構える。
﹄
﹁当方の一身上の都合により、お前を封神させてもらう││﹂
ロ ー ド・オ ブ・イ ン フ ィ ニ テ ィ
身体を起こす邪神の名は││。
﹁〝終わらぬ怨恨の声〟﹂
アァ
﹃││Ar⋮⋮GAAAAAAAAA
︽セインだ︾
﹁エヌラス。お前は﹂
︽名前は︾
そうでなくては説明がつかなかった。
始末だ。だが恐らくは││仮面の邪神が再び喚んだのだろう。
きた。遂には、相手しきれずにエヌラスが次元の狭間に蹴り飛ばした
町を、国を、文化も思想も何もかも。終わらない戦いの犠牲に吠えて
の邪神を追うエヌラスの前に現れて、その戦いに巻き込まれた村を、
もの全てを滅ぼさんと吼える。現にこの邪神は滅ぼしてきた。仮面
まるで、まるで己の名を忌み嫌うかのような憤怒の咆哮が前に立つ
!
1241
!?
︽俺はディル︾
︽シュラだ、よろしく頼む︾
︽⋮⋮ジーン。一発だけなら誤射かもしれん︾
﹁そんときゃスクラップだ、覚悟しとけテメェ﹂
改めて対峙する。邪神を相手に遅れを取らなかった四人││シロ
トラがB2AM内で目指すチームプレーを誰よりも先に体現してい
た。打ち合わせ無しの即時連携。スタンドプレーによって生み出さ
れる自然なチームワーク。アイコンタクトも、号令もなく動くこの四
人はむしろ他のメンバーからは頭がひとつ抜きでたスコアを叩き出
︾
す。だからこそシロトラはこの四人を隔離した、辺境の土地へと。
︽時にエヌラスよ、君はケモミミは好きか︾
﹁大好物だ。それが﹂
︽オーケー。今この瞬間から君は俺達のソウル・ブラザーだ
││もうひとつ言うなれば、癖の強い変人しかいないので協調性が
なかった。
1242
!
エピソード33 B2AM特務班﹃トライアド﹄は仮
の姿、本性はただの変態集団
親指を立ててディルが先行する。機関砲を背面に背負い、左腕に装
備したスチームパイクの充填を始めた。蒸気圧縮される基部には相
応の時間が掛かるが、直撃を受ければ邪神と言えど一溜まりもない。
﹂
︽こちらはスチームパイクの装填中だ。時間を稼いでくれ︾
﹁その前に倒しちまっても恨むなよ
エヌラスが走る。ロード・オブ・インフィニティは無手で姿勢を低
く構えていた。セインもその隣でブースターを吹かして走る。
︽俺は隠密強襲型だ。隙を作る、任せたぞソウル・ブラザー︾
﹁いや、そこまで信頼されても困るけどよ⋮⋮﹂
まさかケモミミに賛同するだけでここまで信頼関係が築けるとは
思ってもみない。だが、これから死線をくぐり抜ける仲だ。四の五の
︾
︽セイン、上だ
︽邪魔だ
も
︾
夏と冬の戦場、激戦の最前線に突入を敢行して
イドで弾く。ガキャンと甲鉄同士の擦れる音。
︾
b︾
︽││分かち合う喜びを共にしてこそ、最愛の友
﹄
感できるこのシンパシーが
﹃ARRRRRッ
︽君がソウル・ブラザーだと告げている
﹂
部ブースターを稼働させた回り込みによって背中合わせの状態から
親指を立てながら全身鎧の邪神の猛攻を捌く。身を屈めながら腰
﹁いや、お前さりげなく神がかってるからなそれ
!
!
!
!?
!!!
魂の昂ぶりを共
飛びかかる邪神を〝あしらい〟〝見向きもせずに〟レーザーブレ
!
1243
!
変態的趣味嗜好が賛同されることほど男に嬉しい事
言ってもいられない。
︽何を言うか
と
戦友よ
!
!
戦利品を分かち合う││︾
はない
!
!
切り上げる。背後からの攻撃に体勢を崩した邪神に、エヌラスの飛び
蹴りが突き刺さり大きく距離を離した。そこへジーンのスナイプが
更に頭部を直撃する。
︽⋮⋮強化し過ぎたか⋮⋮︾
ポツリと呟く声は、加熱された銃身の状態を見ていた。出力の微調
整を誤ったらしく、威力が上がったはいいがその分負担が普段よりも
大きい。その場で即座に軌道修正に入るとジーンを狙って邪神が走
りだす。だが、その足元にフリスビーのように投げられるのはシュラ
の投げ放つ地雷││の、形をしたトラバサミ。
バチンと見事に踏み抜いた邪神がつんのめって、そこへセインとエ
ヌラスの斬撃が叩き込まれる。
︾
︽オマケだ、持ってけ
まれ、邪神が爆風に呑まれた。
︾
︽うむ、見込み以上だ。ますます気に入ったぞソウル・ブラザー
︽ナイスジョブ
︾
︽グッジョブ
︾
!
はいらないな︾
﹄
﹁みてぇだな。来るぞ
﹃GAAAA
﹂
﹂
そうだが、君も知り合いなのか。ならば尚更、お互いに遠慮
?
あれだけの攻撃を食らってもまだ邪神が弱る気配はない。流石は、
!
︽うん
﹁⋮⋮もしかして、お前らレオルドの知り合いか
えど、レオルドと同じのようだ。背面に背負った武装ラックも。
している。腰、もとい大腿部に装着しているブースターは形状こそ違
しかし、とエヌラスは思う。改めて見れば、その装備の規格は共通
︽記憶に無い
﹁お前らノリと勢いで生きてるって言われたことねぇか⋮⋮﹂
︽転属したい︾
︾
︽グッボーイ
!
︾
左肩に担いでいたグレネードランチャーと実弾が連続して撃ち込
﹂
﹁レイジングブルもだ
!
!
!
!!
1244
!
!
?
と思う。
そして、近くに転がっていた鉄パイプを拾い上げて││エヌラスが
舌打ちを漏らした。
︾
﹁くそ⋮⋮こっからはマジでやべぇぞ﹂
︽たかが鉄パイプだろう
﹁お前ら子供か
稿したりしない
﹂
︾
﹁お前ら本当は頭悪いだろ
﹂
殺陣シーンを俺たちで再現してみた動画﹄なんてインターネットに投
︽馬鹿言うな ただのチャンバラじゃないぞ
子供は﹃時代劇の
︽よくチャンバラごっこで使ってて割りとボロいけどな︾
?
く。
!!
邪神が鉄パイプを持ってセインに殴りかかる。幅広の刀身を持つ
るような、サバイバル生活のような心境に近い。
うにハイパワーでもない。なんというか、過酷な環境に身を置いてい
る。ネプテューヌのようにハイテンションでもなければ、ユウコのよ
疲れる。付き合ってて会話するだけで体力と気力が持っていかれ
﹁一生寝てろよお前⋮⋮﹂
︽フラグを立てるな。俺は踏み抜いた挙句寝込む男だ︾
﹁セイン。武器取られないように気をつけろよ﹂
た。となれば、次の獲物である得物は⋮⋮。
エヌラスも偃月刀を奪われ、それが壊れるまで散々苦労させられ
﹁くそが、拾ったもんは何でもかんでも自分の得物にしやがって⋮⋮﹂
禍々しい赤と黒のオーラが付き纏う。
二 刀 流。鉄 パ イ プ か ら は 金 属 質 な 光 沢 が 消 え 失 せ て い る 代 わ り に、
それが、二本。両手に携えられる。長さにすれば、ちょうど大小の
﹃Guu⋮⋮Ar⋮⋮
﹄
言っている間にも邪神の手にした鉄パイプがみるみる変色してい
!
!
︾
刀型のレーザーブレイド︽ジリオス︾が火花を散らす。
︽なに
1245
!
!?
!
長い鉄パイプで捌き、短い方の鉄パイプが手首を絡める。それを押
!?
さえこんだまま逆にひねり、関節部が悲鳴を上げた。身体を蹴り飛ば
︾
され、もぎ取るようにジリオスが奪われる。
﹂
︽ホラ見ろ、俺はフラグ回収が上手いんだ
﹁威張るなやコラァァァァァアアアア
!
︾
︽フゥンッ
︾
突っ込ませて、多少の損害を覚悟して右腕で邪神の左腕を掴んだ。
迫った。丁々発止、目にも止まらない神速の剣技の応酬へと身体を
円盤状のスラスターから大容量のブースターを吹かして、ディルが
︽おうッ
︽彼が来てくれたのは嬉しい誤算だった。かましてやれ、ディル︾
︽スチームパイクの充填完了だ。時間通りだ、流石だなセイン︾
蒸気によって圧縮された機関部が弾芯を装填する。
バシュン││プシュー⋮⋮ガチャン。
た。セインはその場から後退する。目配せすると、ディルが頷いた。
く。緑色に発光していた刃は赤く濁り、刀身は黒い霧が覆い隠してい
鉄パイプを捨て去り、新たに手にした得物がみるみる変色してい
!!
﹃G、A││
﹄
から潰れていた。
神が初めて苦悶の声を挙げる。しかし、弾芯もまた、一発限りで先端
炸裂する弾芯は邪神の加護を貫いて直接ダメージを与えたのか、邪
!
の手を離さずに踏み留まった。
!!!
そこへ、一条の光線が突き刺さった。無防備な邪神には防ぐすべもな
げのように上空高くへ放り投げられた邪神が姿勢を整えようとする。
とスラスターを吹かしながらその場で旋回を繰り返す。ハンマー投
両手で邪神の身体を持ち上げ、そのまま地面に背中から叩きつける
︽おぉっと。俺から逃げようなんて││思うなぁぁぁぁ
︾
弾を受けた邪神が身体を吹き飛ばされる││だが、怪力のディルはそ
ディルの肩口から引き金を引く。超至近距離から全身にベアリング
巨 体 の 後 ろ か ら シ ョ ッ ト ガ ン が 伸 び る。シ ュ ラ が 担 架 代 わ り に
︽ディル、耳を塞げ︾
!
1246
!
ガゴォン││ッ
!!
く、更に体勢を崩される。
ディルは左肩に背負っていたミサイルターレットを展開。上空の
邪神に全弾ロックする。しかし、それを予想していたのか、ジリオス
を逆手に構えると投擲。
先端が空気を裂きながら矢のように迫る。
︽⋮⋮︾
ジーンはシールド発生装置を手にすると、シュラへ向けて投げた。
それを受け取り、角度をつけて設置する。そこへセインがチャージン
グシステムを起動しながら、光学障壁を足場にして飛び上がった。
ディルの頭部火器管制システムがミサイルを全て発射状態へ移行
するのと、セインがその視界を一瞬だけ塞ぎながら身体をひねってジ
リオスを掴み、離脱するのは同時だった。直後、着地と同じタイミン
グでミサイルターレットから装填数六発全てが発射される。
邪神に向けて白い尾を引きながら迫るミサイルは一発を掴まれ、二
1247
発目と相殺された。その爆風で軌道が逸れるも、追尾するミサイルを
足で、腕で迎撃する姿にセインが面倒そうにグレネードランチャーを
発射した。
ポン、と間の抜けた音を立てながら邪神が都合四発の爆炎に呑み込
まれて森の中へ落ちていく。
エヌラスがそれを追いかけようとするが、その下は崖になってい
た。水柱が上がり、そのまま川に流されていく。
︵⋮⋮こいつら︶
まるで打ち合わせていたかのような連携。それぞれの装備を熟知
した上で、完璧なまでの適応性を見せていた。自分の迎撃に武器を投
げるだろうという予感を含めて。恐らくはあらゆる戦場に身を置い
たその瞬間から彼らは適応する。それは、相手の地の利を自らの土俵
映画
にしてしまうという地形の得手不得手を無視した即応性。敵に回し
たくはない││そう思いながら振り返ると⋮⋮。
︾
!!!
俺、すっげぇスタイリッシュに刀掴んだ
!
︽イエエエエエエェェェェェイ
見た
!?
無邪気にハイタッチをしていた。
︽見た
?
ばりのアクションで
︾
︾
︽それよりシュラ。スチームパイクの弾芯が潰れたぞ、これ直せるか
のに︾
︽くっそー、録画しときたかったなー。あの連携とかマジ最高だった
!
︽今日の日記は長くなりそうだ︾
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
エヌラスは頭が痛くなってきた。出来ることならこれ以上、関わり
合いになりたくない。お前らのそのテンションの落差はなんなんだ。
﹁俺はあの邪神を追うから、お前らはここにいろよ⋮⋮﹂
︽あ、あぁ⋮⋮すまなかったなソウル・ブラザー︾
︽俺たちはいつでもここにいいる。困ったことがあったらいつでも来
てくれソウル・ブラザー︾
︽秘蔵のコレクションを共に眺めながら紳士的な時間を過ごそうじゃ
ないか、ソウル・ブラザー︾
﹂
︽良ければまた来てくれ、ソウル・ブラザー︾
﹁誰が来るか
回線を開く。
シロトラ教官います
?
︽こちらB2AM本部、オペレーター︾
︽あ、ちっひー
︾
││その姿と生体反応が遠ざかったことを確認して、セインは通信
び降りた。
頼まれても来ない。エヌラスは川に落ちた邪神を追って崖から飛
!!!
イアド。想定外の事態が発生した。緊急で頼む︾
︽はぁ⋮⋮どうしてそう、いつも真面目に出来ないんですか
︽私は煩悩で動いている︾
?
︽あぁ、ちっひーの息遣いがマイク越しに⋮⋮あ、切られた︾
︽はいはい⋮⋮はぁ︾
︾
︽なら、シロトラ総司令官に連絡を。こちらB2AM総合特務班、トラ
︽気軽に呼ばないでください、勤務中です︾
?
1248
?
B2AMでは、彼ら総合特務班をこう呼ぶ。
〝頭のおかしい連中〟だと。
1249
エピソード34 隣町の美味しいカフェテリア﹃マグ
メル﹄
バーチャフォレスト近辺。プラネテューヌへ続く街道を歩く二人
の少女が居た。
片方は赤い衣装に身を包み、王冠をかぶった少女。もう片方は淡い
実に興味深い場所だな
﹂
水色のツインテールの少女だった。
﹁うむ
﹂
﹂
﹁どうしたの
﹁││うむ
それに混じって、何か別な音も聞こえてきた。
木々の音。爽やかな青臭い風の匂いを胸一杯に吸い込む。
アーサーと呼ばれた少女は目を閉じて小鳥の鳴き声、風に揺れる
あるぞ﹂
こうして足を止めて自然の環境音に耳を澄ませるというのも風情が
﹁まぁまぁそうふてくされるな。これぞ旅の醍醐味、というやつだ。
だから﹂
﹁しょうがないでしょ。わたしはあくまでも貴方のサポート妖精なん
﹁むぅ。私は早く街に行きたいのだが⋮⋮﹂
二人は街道を歩いていたが、休憩を挟むことにする。
だから私は一刻も早くだな││﹂
﹁何を言うかチーカマ。せっかく〝ゲイムギョウ界〟とやらに来たの
﹁ちょっとアーサー。少し、休ませなさいって⋮⋮﹂
!
法の類も感じられる。しかし、どうにも大人数で戦闘しているような
と奏でられる戦闘音に、アーサーは首を傾げた。銃声、剣戟、打撃、魔
激しく打ち合っている金属同士の衝突音、かと思えば打撃音。転々
﹁⋮⋮これは、戦の音だな。片方は⋮⋮甲冑騎士のようだ﹂
﹁どっちなのよ﹂
音が聞こえてくるのだ﹂
﹁いや、なんだろうな⋮⋮聞き慣れたような、そうでもないような戦闘
?
?
1250
!
様子ではないらしい。
まさかとは思うけれど、首を突っ込むつもり
﹁これは妙だな、気になる﹂
﹁ちょっと
増えているらしい。
﹂
﹁ねぇ、あいちゃん。こっちの方角ってラステイション方面だよね
﹁そうね﹂
?
エフさん︾
︽これは、女神パープルハート様にパープルシスター様。並びにアイ
カラーのロボットを引き連れている。
掛けた。隣には赤いカラーリングのロボットと黄色と黒のツートン
噂をすればなんとやら。街中を歩く白い機体色に、アイエフが声を
でしょ﹂
﹁それを言うなら、国境警備隊に言いなさいよ。本来なら彼らの仕事
﹁んもー、ノワールは何してるんだろ﹂
﹂
たクエストは、近隣のモンスター駆除。ここ最近はそういった被害が
││その頃、ネプテューヌ達は隣町に来ていた。アイエフが受注し
ろう。
を運ぶ。少しだけ覗く、とは言ったが場合によっては手助けも必要だ
そう言い残して、アーサーは戦闘音の聞こえてくる方角へ向けて足
﹁チーカマは此処で休んでおれ。すぐ戻る﹂
﹁仮にそうだとしても、厄介事に首を突っ込むのはやめなさいよ⋮⋮﹂
を掛けまいと鍛錬しているかもしれんしな﹂
﹁案ずるな、少し覗くだけだ。もしかすれば美少女同士が誰にも迷惑
?
︾
なに油売って
﹁ちょうどよかったわ。アンタに聞きたいことがあったのよ﹂
︽なにか
﹁近隣のモンスター駆除、国境警備隊の領分でしょ
るのよ﹂
る︾
﹁職務怠慢も甚だしいわよ﹂
1251
?
︽⋮⋮ラステイション方面に関しては、あちら側の防衛隊に任せてい
?
?
﹁あいちゃん、今日はどうしたの
もう、モヤモヤするわ﹂
やけに機嫌悪いけど⋮⋮﹂
﹁誰のせいだと思ってるのよ、誰の
こちらはドバル︾
︽よろしく︾
︽此処でお会いしたのも何かの縁。休憩がてら寄って行きませんか
﹂
もちろん、厚意でメニューは無料で提供させていただきますが︾
﹁えっ、いいんですか
﹁⋮⋮何か企んでないわよね﹂
︾
﹂
?
︽シロトラ様は
︾
赤いカラーの機体、ジンガは自分の働くカフェへと案内した。
︽それはもちろん
茶でも飲みながら話そうよ。ねぇねぇ、プリンはある
﹁まぁまぁあいちゃん、落ち着いて。向こうはああ言ってるんだし、お
?
︽初めまして。自分はカフェテリア︽マグメル︾の従業員、ジンガです。
ラは赤いカラーリングのロボットに目配せする。
冷静さを欠いているのは誰が見ても明らかだった。それにシロト
!
?
︽はい。なにせプラネテューヌの女神様ですから︾
!?
︽了解︾
ファイルを受け取り、それに目を通すとジンガに渡した。
カフェテリア︽マグメル︾ではロボットも人間も利用できるように
店内を仕切りで隔てていた。ネプテューヌ達が案内されたのは人間
用のスペース、もちろん禁煙席だ。
﹁へぇ。こんなお店があったのね﹂
︽はい。最近オープンしたばかりですが、味には自信があります︾
アイエフがぐるりと店内を見渡すと、女性客が多い。団欒とした食
事風景には確かに何も仕掛けはなさそうだ。
︽ジンガ。私は配達に出てくる︾
1252
!
︽すまない、本部から緊急の伝達だ。ここを離れる、任せたぞドバル︾
?
︽ん、済まないな。こちらも呼び止めてしまって︾
﹂
︽気にするな︾
﹁配達
?
︽私の担当は、配送業者です︾
言われて、ネプギアがドバルの脚部を見ると、履帯と一体化した二
足歩行。接地性を重視した重厚なフォルムに目を奪われる。
﹁わぁ⋮⋮﹂
︽過酷な環境下に置いても確実な配送を可能とするのが、私のコンセ
プトですので。ルウィーへの配達なども承っています︾
﹁おぉ∼﹂
︽ですが、リーンボックスだけはどうにも︾
﹁あぁ⋮⋮﹂
陸続きならば問題はないらしい。少しだけ名残惜しそうにしなが
らドバルは店の裏口から配達に向かっていった。
ジンガはと言うと、エプロンを着けて他のスタッフへの指示などを
出している。シロトラと同伴していた以上は、彼らもB2AM││
ハァドラインの手の者だ。油断だけはしないようにアイエフが身構
﹂
1253
える。
︽お待たせしました。プリンとケーキセットです︾
﹁わぁ⋮⋮﹂
︽甘味は頭の働きを良くしますからね。あとこちら、サービスで飲み
物です︾
食事と飲み物を用意した上で、ジンガはその場に腰を下ろした。
︽色々と、尋ねたいこともあるでしょう。自分で良ければ話を聞きま
す││例えば、シロトラさんのこととか︾
﹁あら。意外と協力的なのね﹂
︽はい。自分はB2AMでは裏方に回る方ですから。国境警備隊など
﹂
の前線に立つよりは、こうして裏から支える方が性に合っています︾
﹁あなた達って、戦闘用じゃないんですか
﹁シロトラは
負っているだけなので︾
偶々武装運用に適していたので最近はモンスター退治なども請け
︽いえ、違います。元は全員、作業用ロボットです。ただ、その機構が
?
︽あの方は、純粋な戦闘用の機体です。その戦闘力は我々の比ではあ
?
りません︾
ジンガの下に女性スタッフが駆け寄り、耳打ちする。頷くと厨房に
回るように手配した。
︽実は、経営難でして︾
﹁いきなり重いわね﹂
︽あ、違います。この店ではなく、B2AMがです。ほら、最近はそう
いった不穏な噂も絶えないので⋮⋮ウチも仕事がめっきり減って︾
﹁世知辛いわね⋮⋮﹂
︽そこで、こうした形で組織とプラネテューヌの両方を支えられない
か と 思 っ た の で す。ち な み に 此 処 は 二 号 店 で す。い つ か は プ ラ ネ
テューヌに進出したいと考えていますね︾
﹂
﹁しっかりしてるわねぇ。⋮⋮どこかのプリン頬張ってる女神と違っ
て﹂
﹁ねふっ
美味しそうに食べて皿を空っぽにすると、満面の笑みを浮かべてい
るネプテューヌにアイエフが毒気を抜かれて呆れている。どうして
そう、気楽なのか。
﹁まぁいいわ。しばらくゆっくりさせてもらうわよ﹂
︽はい。どうぞごゆっくり。何かあればお呼びください︾
それにしても、と紅茶を一口含みながらアイエフは考えていた。B
2AMが経営難という話は気にかかる。それならば当面の資金をや
りくりするために様々な仕事に手を出しているというのも納得が
いった。ハァドラインと言えど、お金には勝てないらしい。
﹁はぁ。なんだか拍子抜けしたわ。B2AMに関する調査はもう切り
上げようかしら﹂
﹁ただのいい人達みたいですし⋮⋮﹂
﹁そ う ね。今 は プ ラ ネ テ ュ ー ヌ の 為 に 働 い て る み た い だ し ⋮⋮ こ の
ケーキもらうわね﹂
﹁はい、どうぞ﹂
ケーキセットから取ったチーズケーキをフォークで切り分けて、口
に運ぶとその意外な風味にアイエフが目を丸くしていた。
1254
?
﹁⋮⋮おいしいわね。持って帰れるかしら﹂
それでしたらレジで注文の方を︾
ジンガさんの手作りなんですかこのケーキ
﹁女子力たけぇー⋮⋮﹂
﹂
ありがと。知り合いにも食べさせてあげたいと思った
︽お持ち帰りですか
﹁できるの
﹁えっ
︽それは嬉しいですね。作った甲斐がありました︾
のよ﹂
?
妙な加減に思わず手が止まってしまった。
﹁これ、いーすんにも食べさせてあげたいなぁ
﹂
!
経営難なのにわたし達のメニューは無料だ
︽お持ち帰りでしたら大歓迎です︾
﹁でも、いいんですか
?
ても私には菓子作りがありますし︾
︽店の経営には問題ありませんので。仮にB2AMが経営破綻で潰れ
なんて﹂
すっごくおいしい
コレートの風味になめらかな舌触り。とろけるようなクリームの絶
ひとくち食べると、口の中に広がる甘みとほんのりとした苦味、チョ
そう言いながらネプテューヌもチョコレートケーキに手を伸ばす。
!?
?
︽はい。お菓子作り、楽しいですよね︾
!?
﹁ちゃっかりしてるわねホント⋮⋮﹂
1255
!
エピソード35 お茶と神と王と邪神
﹁⋮⋮って、のんびりお茶会してる場合じゃなかった。エヌラスの助
けにいかないと﹂
﹁珍しいわねぇ。こんなやる気あるネプ子見るの初めてかも﹂
﹁モチベーションとかの問題じゃなくって、エヌラスはひとりで戦わ
せると何をするかわからない不安で一杯なんだよー、あいちゃん﹂
﹁そんなにヤバイなら首輪でも繋いどきなさいよ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮エヌラスに﹂
﹁首輪⋮⋮⋮⋮﹂
ネプテューヌとネプギアの脳内に浮かび上がるのは、首輪をつけら
れて困惑しているエヌラスの姿。
﹂
﹁なんだろ。ムクムクと湧き上がるこのえっちな気分は⋮⋮好奇心旺
いてねー
いく。
﹂
﹂
もう知らないわよ 行くなら勝手にしな
﹂
﹁もう、まったく⋮⋮なんでわたしがこんなにイライラしないといけ
ないのよ﹂
﹁アイエフさん。そんなにエヌラスさんが嫌いですか
﹁別にどうとも思ってないわ。それよりもネプ子よ、ネプ子。なんで
?
あんなにエヌラスにベッタリなわけ リア充になって浮かれ過ぎ
じゃないかしら﹂
﹁はい﹂
﹁ネプギアも
﹂
﹁お姉ちゃん、エヌラスさんのこと好きですし﹂
?
恥ずかしそうに、だが幸せそうに言うネプギアにアイエフは﹁ふー
?
1256
盛なわたしの魂に火が点いた気がするよ
﹁ア・ン・タ・は∼∼∼
さい。わたしは此処でお茶でも飲んでゆっくり頭冷やしてるから
!
!
﹁うぅ⋮⋮あいちゃんが怖いよぅ⋮⋮あ、ネプギア。ケーキ貰ってお
!
!!
ネプテューヌが逃げるようにカフェ﹃マグメル﹄を後にして去って
!
ん⋮⋮﹂と呟く。
﹁不思議なのよね。エヌラスってそんなに良い奴かしら
﹂
﹁まぁ、少なくとも⋮⋮あまり素行がいい人とは言えませんね﹂
どうしようもないバカの度し難いクズ、であるというのはネプギア
も知っている。しかし、それとは別にエヌラスの素性を知っている側
からすればアイエフの抱いている意見にも否を唱えた。
﹁確かに、アイエフさんの考えている通り。エヌラスさんは自分勝手
なところもありますし、生活基準が怪しい所もあります﹂
﹁そこは言うまでもなく自覚があるのね﹂
﹁でも││﹂
それでも。
あの人は優しかった。助けてくれた。命がけで何度でも戦ってく
れた。自分が命の危機に晒されても、誰よりも自分を優先してくれ
悪いところ
た。それがどんなに危険なことも知っている。だけど、エヌラスはど
んな時でも自分が困っている時に助けに来てくれる。
﹁でも、エヌラスさんは本当に良い人なんですよ⋮⋮
﹂
ばかり目立ちますけど、でもそれ以上に││優しいんです﹂
﹁⋮⋮それだけ、かしら
います⋮⋮﹂
ネプギアの記憶が正しければ、エヌラスはユノスダスではキチンと
仕事していたし、気配りも出来る。環境が悪かったのだろう、と予測
を立てていた。確かに││九龍アマルガムは犯罪国家と呼ばれるほ
どに治安が悪い。そこで国王など勤めれば治安改善など徒労に終わ
る。だからああなってしまったのだろうと考える。
﹁ねぇネプギア。わたしの話を聞いてくれるかしら﹂
﹁はい﹂
﹁貴方が言うように、確かにエヌラスは本当は良い人なのかもしれな
そのせいで
いわ。でも、わたしが言っているのはそういうことじゃないのよ﹂
﹁というと⋮⋮﹂
﹁下世話な話になるけど、エッチなことしたんでしょ
?
1257
?
?
﹁えと、他にも⋮⋮ちゃんと仕事はしますし、多分環境が悪いんだと思
?
悪く言えないんじゃないかって勘ぐっているの﹂
︵あ ⋮⋮ ア イ エ フ さ ん が 悪 く 思 っ て い る の は そ う い う こ と だ っ た ん
だ︶
なら話はもっと単純で簡単だ。誤解を解くのもそう難しくない。
﹁えと、お姉ちゃんやわたし、ノワールさんがアダルトゲイムギョウ界
に行ったって話はしましたよね﹂
﹁ええ﹂
﹁そこでは世界の滅亡が始まってて、全面戦争の真っ只中で。そんな
時に出会ったのがエヌラスさんなんです﹂
バルド・ギアとの戦闘から、ドラグレイス。そして軍事国家アゴウ
のアルシュベイト。彼らとの激戦を語る。クロックサイコ、ムルフェ
スト││そして、大魔導師とヌルズとの死闘。
アイエフはネプギアの話に耳を傾けて、静かに頷いていた。
右腕を潰し、左目を奪われて。それでもまだ戦い続けている。生き
残り、再会を果たした。
笑ってお別れをしようと約束をして、そして今││笑って、一緒に
生きたいと考えている。
﹁││アイエフさん。だから、エヌラスさんをあまり﹂
﹁わかったわよ。反省してるわ⋮⋮まったく、そうならそうと言えば
いいのに﹂
﹁エヌラスさん、自分のことを話すのは苦手ですから﹂
﹁そ う や っ て 甘 や か す と ろ く な こ と に な ら な い わ よ。ネ プ 子 み た い
に﹂
﹁そういえば、お姉ちゃん⋮⋮﹂
エヌラスの助けに行くと行っていたが、ひとりで行かせて大丈夫だ
ろうか。
││アーサーは、木陰に身を潜めて戦闘の行われている場所へと辿
り着いた。そこでは、異様な戦闘光景が繰り広げられている。
かたや、一切の華麗さもない漆黒の甲冑騎士。一部の隙もない全身
鎧でありながら、その動きは肉食獣のように軽やかだ。だが理性を
1258
失っているのか狂ったように猛攻を繰り出している。
対する相手もまた、黒一色。赤い瞳だけが業火のように燃えてい
た。
︵見たこともない騎士甲冑だが⋮⋮︶
そんな二人が、武器も持たずに徒手空拳で殴りあっている。騎士甲
冑の甲手で殴りつけられれば相応の威力が見込めるであろうが、青年
の動きは柔らかい。剛を制する柔││アーサーは知る良しもないが、
エヌラスの扱う武術は由緒ある歴史のあるものだ││騎士甲冑の
禍々しいオーラを受け流し、やおら隙を見つけると転じて鋭い蹴撃を
見舞う。一撃、二撃と蹴りあげて空中で更に回転しながら側頭部を強
烈にブーツで横殴りに蹴りつける。それは流石に効いたのか、騎士甲
冑の身体が横っ飛びに転がっていた。残心。
﹁はぁ⋮⋮はぁ、はぁ││クソが﹂
しかし、疲労の色が見て取れる。毒づきながら口端から垂れる血を
ル
ル
ル
﹄
疲労している。しかし邪神の方はダメージが通っていないのか、動き
に全く疲労の色が見えない。一方的な防戦を強いられている青年は
﹂
相手の攻撃をうまく捌いていた。一瞬の隙を突き、相手を吹き飛ば
す。
﹁クソ⋮⋮ッ
チームパイクを食らってヒビ割れた胸部に空けた手のひらを当てて、
腕を搦めとり、足元を蹴飛ばす。崩れた相手の腹部││ディルのス
の動きが転じて、騎士甲冑の邪神を押し返していた。
思えない││しかし、不思議なことにタバコをくわえたまま戦う青年
い始めていた。戦闘中にそんな余裕を見せるだけの余裕があるとは
懐に手を入れて、取り出すのは一本のタバコ。火をつけるなり、吸
!
1259
拭う。整息して構える。騎士甲冑が起き上がり、両手を広げて姿勢を
ル
低く構えていた。
グ
﹃Grrrr⋮⋮⋮⋮
邪神 アーサーは禍々しいオーラを纏う騎士甲冑に視線を向け
﹁しぶてぇな⋮⋮腐っても邪神なだけはあるな﹂
!
る。なるほど確かに、普通の敵ではなさそうだ。加えて、青年の方は
?
掌打を打ち込む。地面に深く沈み込む騎士甲冑に向けて、更に拳を打
ちつけて地面に縫い付ける。容赦のない追撃に、しかし青年は立て続
けに拳を何度も打ち込んだ。
一方的な、徹底した暴力。思わず制止の声を掛けてしまおうかと思
うほどに苛烈な攻撃に、アーサーは腰を浮かしそうになる。
﹄
││だが、青年の顔が掴まれて今度は地面に叩きつけられた。
﹃Aaaaaa
﹂
﹄
﹁はぁぁぁっ
なったアーサーが飛び出した。
かけようとする邪神に、いよいよ持っていてもたってもいられなく
離を放す。すると、青年が吐血した。膝を着く相手に更に追い討ちを
て、脇腹を殴られ、顔を殴りつけて、互いの腹に蹴りを押し当てて距
かし今度は邪神の拳が腹部を深々と穿つ。顔面を殴打して、殴り返し
地面を転がり、蹴り飛ばされて受け身を取りながら立ち上がる。し
!!!
邪神が飛び退く。
!
﹂
何をする
ランスを崩した。
﹁ぅわ
﹂
﹂
﹁俺の回復は後回しだ
!?
﹃Ar││Guuuaaa
﹄
カードを取り出して、騎士の力を借りようとするアーサーの体がバ
じっとしていろ﹂
﹁わたしは││いや、名乗るのは後だ。今はお主の手当が優先だな、
﹁誰だ、お前
が、乾いている。時間の経過からして少し前だろう。
近くで顔を見れば、全身傷だらけだった。額からも血が流れている
﹁お主、大丈夫か
﹂
その手に持った、エクスカリバーから響く確かな手応え。金属音に
﹃GA││
!!
?
肉の焼けるような音に顔をしかめてアーサーは音源を探る。
﹁くそが。人の胃袋潰しやがって。今日の晩飯食えなかったらどうす
1260
!?
飛びかかる邪神の体を、エヌラスは蹴り返す。〝ジュージュー〟と
!!
!
!?
んだ⋮⋮﹂
もご、と口の中で咀嚼してから唾を吐き捨てる。それは損傷した体
﹂
組織も混じえて吐き出されていた。
﹁お主、もしや再生しているのか
す﹂
﹁なんと奇遇な﹂
﹁いや、俺も一応一時期は国王だったんだがな⋮⋮﹂
﹁王の施しを無下にするとはなんて傲慢な⋮⋮﹂
﹁ああそうかよ﹂
﹁何を言うか
そんな怪我だらけで言われても説得力などないぞ﹂
﹁何はともあれ、手を貸すって言うなら余計な世話だ。アレは俺が殺
エヌラスは構える。
銀鍵守護器官で補助魔法と自動回復を並行して自らにかけながら、
﹁ああそうだよ。あの野郎を相手に回復なんてしてる余裕がねぇ﹂
?
今度は破顔して笑みを見せる少女と肩を並べて、エヌラスは邪神に
向かう。
1261
!
エ ピ ソ ー ド 3 6 ブ リ テ ン の 王 様 候 補 が 仲 間 に な り
ました
突然の乱入者に邪神も警戒したが、それを敵だと認識してからの動
﹂
きは機敏だった。エヌラスを相手取りながら、アーサーの持つ魔法剣
を防ぐ。
﹁お主、武器はないのか
無手で戦い続けるエヌラスにアーサーが問う。口元を拭いながら、
コートを脱ぎ捨てる。
﹁あの野郎相手に武器を出すとか、ただの自殺行為だと知ってるから
な。ガチで殴り合ったほうがいい﹂
﹂
﹁むぅ⋮⋮それではわたしの出番が⋮⋮﹂
コイル
﹁魔法で援護でもしてくれりゃ御の字だ
なるが、その異様さにアーサーが言葉を呑んだ。
き飛んでいく。全身を覆う黒い霧が晴れてようやく全貌が明らかに
それにアーサーはエクスカリバーを振り下ろすと、閃光に呑まれて吹
エヌラスは歯噛みしながら、邪神の攻撃をわざと受けて下がった。
﹁離れよ、黒い││二人とも黒いな⋮⋮﹂
バーに纏わせる。
繰り広げた。その横からアーサーがカードを取り出してエクスカリ
〝電導〟を回して、エヌラスが帯電すると邪神と一進一退の攻防を
!
仕切り直しだ
﹂
﹁うぅむ。やはり名前がわからぬと不便だな﹂
﹁チッ⋮⋮仕方ねぇ
!
﹂
クから繋ぐのは、撃鉄のついた日本刀。更に〝電導〟を回して、鞘の
先端で打ち上げる。
レールガン
﹁〝超電磁〟抜刀術壱式││〝迅雷・昇竜〟
がら邪神は滝に呑まれて落ちていく。これで水落ちは二度目だが、倒
天高く伸びる閃刃が邪神の姿をかき消した。全身を焼け焦がしな
!
1262
?
エヌラスが足に紫電を集中させて蹴り飛ばす。アクセル・ストライ
!
したとは思えない。エヌラスは日本刀を転送すると、深く息を吐い
た。連続三時間戦闘││邪神と命の綱渡りをしてもいれば神経がす
り減る。
胸ポケットからタバコを取り出そうとして、自分が脱ぎ捨てたこと
﹂
を思い出すと少女がコートを差し出していた。
﹁ほれ、探し物はこれであろう
﹁⋮⋮ありがとよ﹂
﹁しかし驚いた。お主、相当な腕を持っているようだな﹂
エヌラスはドラッグシガーを取り出すと、その日二本目となる喫煙
に 火 を 点 け る。本 来 な ら こ ん な 短 期 間 で 吸 っ て い い 品 物 で も な い。
だが、常時魔術を使用しながらの肉弾戦は想定以上に疲労が早かっ
た。
﹁さ て 邪 魔 者 も い な く な っ た。改 め て │ │ わ た し の 名 前 は ミ リ オ ン
アーサー。百万人のアーサーの頂点に立つ、アーサー王の候補だ﹂
とは、なんだ
﹂
﹁⋮⋮エヌラスだ。こんなんでも一応は旧神だ﹂
﹁〝えるだー・ごっど〟
?
﹁大丈夫か
顔色が悪いぞ﹂
り払おうとするが今度は足元がおぼつかなくなっていた。踏みとど
まり、荒れる呼吸をなんとか整えようとするがふんだんに使用した黄
金の蜂蜜酒を原料とするドラッグシガーのもたらす酩酊感にエヌラ
スがバランスを崩す。
﹁ふぐっ││﹂
ぽよん。平均よりもややサイズの大きいミリオンアーサーの胸に、
頭を預けてしまった。左手でタバコを持っているのでそちらの手を
使うわけにもいかず、かといって右腕は連続した魔術の行使に神経接
続が難航している。
見ず知らずの人の胸に頭を預ける
驚きに目を見開いて、顔を赤らめながら狼狽えるミリオンアーサー
な、何をするかお主
!?
1263
?
﹁人類の守護者とでも思ってくれれば、いい⋮⋮﹂
?
頭がふらつく。かぶりを振って、エヌラスはモヤが掛かる視界を振
?
がどうするべきか迷っていた。
﹁わ、わ
!?
とは﹂
﹁わるい⋮⋮、すぐ、離れる⋮⋮﹂
﹂
﹁いや、まぁ悪い気はしないが⋮⋮王たるもの、そう簡単に肌を預ける
わけにもいかんのだ。すまないが離れてくれるか
﹁そうしたい、が⋮⋮﹂
しっかりせよ
﹁││くそ⋮⋮﹂
﹁あ、おい
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
体的な過労を訴えていてもそれは当然の見返りだ。
うとは正気の沙汰ではない。酷使される全身の神経と魔術回路が肉
身体強化の補助に、再生も併行して、更には正面から邪神と殴りあ
するが全身に力が入らない。それもそのはずだ。
エヌラスが膝をつき、タバコを持ったままどうにか立ち上がろうと
?
﹁む
﹂
﹁エヌラス
﹂
状況を確認して、アーサーはエヌラスをどうするべきか考えた。
﹁ふむ⋮⋮﹂
程度の信頼を寄せていることになる。
ラスはミリオンアーサーに対して、寝込みを襲うような真似はしない
あれば敵に隙をさらけ出すような睡眠はしない。ということは、エヌ
戦うだけ戦って、終わったら寝る。まるで獣だ。だが、通常の獣で
﹁⋮⋮こいつ寝おった﹂
こそうとして、ミリオンアーサーは微かな寝息に手を止めた。
タバコを持ったままエヌラスの体が横に倒れる。慌てて身体を起
!
﹂
こそプラネテューヌの守護女神、パープルハートその人だった。
﹁ひどい怪我⋮⋮貴方は
﹁あなたがプラネテューヌ領の女神、ネプテューヌね﹂
連れて紹介する。
事情を説明すると、納得してくれたのかサポート妖精のチーカマを
﹁う、うむ。通りすがりのミリオンアーサーだ﹂
?
1264
!
!
凛とした女性の声に、空を見上げると紫の美女が降りてくる。それ
?
﹁うん、そうだよー
﹂
よろしくねチーカマちゃん、ミリオンアーサー
⋮⋮って、ちょっと呼びにくいからミリアサちゃんでいい
﹁うむ。わたしは一向に構わんぞ﹂
木陰で休ませているエヌラスの状態はあまり良くない。今は眠っ
ているが、うなされているようだ。額に手を当てると、その熱にネプ
テューヌが驚いていた。
﹂
﹁ひどい熱。とりあえず、一旦教会に戻らなきゃ。ミリアサちゃんも
チーカマちゃんも来るよね
﹁すごい⋮⋮﹂
﹁か、片手で持ち上げたぞあの女性⋮⋮
﹂
ベッドに寝かせた。それにアーサーとチーカマが目を丸くする。
そう言うと、ユウコはうなされるエヌラスを〝ひょい〟と背負うと
病は私に任せて﹂
﹁あちゃー⋮⋮こいつやっぱこうなってきやがったか⋮⋮コイツの看
キを落としそうになる。
とアイエフも戻ってきたが、エヌラスの姿を見て持ち帰ってきたケー
とイストワールが慌てていた。隣町でカフェに寄っていたネプギア
れるエヌラスを担いで教会に戻ってくるとお茶を飲んでいたユウコ
ミリオンアーサーとチーカマの二人を連れて、高熱を出してうなさ
﹁うむ、勿論だ。国の守護女神が一緒とあっては心強い﹂
?
﹁││というわけだ。エヌラスは﹁アレを相手に武器を出すのは自殺
あのような相手はいなかった。
いずれにも該当しない。ブリテンと呼ばれる地を攻める﹃外敵﹄にも
身体を覆われて不鮮明ではあったが、あの禍々しさは自分が見てきた
自分が見た騎士甲冑に全身を包んだ邪神。黒い霧のようなものに
﹁うむ。といっても、わたしが見たのも曖昧でな⋮⋮﹂
伺いしてもよろしいでしょうか﹂
﹁さて⋮⋮では、ミリオンアーサーさん。貴方の見た、邪神についてお
人です﹂
﹁えっと、あの人はユウコさん。教会でハウスキーパーとして雇った
!?
1265
?
!
行為﹂と言っておったな﹂
﹁なるほど、わかりました﹂
﹁よいしょー。とりあえずあのバカ、応急手当してベッドに寝かしつ
けといたよ﹂
﹂
テキパキと汚れた服を洗濯機にぶち込んで回し始める。
﹁ユウコ、エヌラスの容態はどうなの
﹁心配するだけ無駄無駄。熱にうなされてるけど、全身の補強した身
体機能を元に戻してるだけだし。邪神と戦ってアレなら、まだ軽症だ
よ。まぁ風邪引いたもんだと思っておけばいいよ。怪我なんてほっ
ときゃ治るし﹂
付き合いが長いだけあって、流石手馴れていた。しかし、口をへの
字に曲げて少し不満そうにしている。というのも、相変わらず怪我だ
らけな事が不服らしい。
﹂
﹁ま っ た く よ ー、あ の 野 郎 は 着 替 え 用 意 す る こ っ ち の 身 に も な れ っ
てーの﹂
﹁でも、エヌラスひとりで倒せる相手なの
﹂
﹁倒せると思うよ。⋮⋮ただ﹂
﹁ただ
?
言いにくそうにしていた。
﹁疑問なんだよね。変神して、シャイニング・インパクトを撃てば大概
それで焼滅するのに、アイツなんでか知らないけど毎回あんな感じに
怪我してるんだよ。周りの被害を抑えこもうとして、テメェで怪我し
てりゃ世話ないっての⋮⋮まったく、変なところで気を遣うんだか
ら﹂
心当たりは沢山ある。周りの被害を鑑みなければ、エヌラスは即決
するだろう。だが、アダルトゲイムギョウ界も、このゲイムギョウ界
もエヌラスにとっては守らなければならない大切な場所だ。
﹁他の国にも、一応連絡は入れておきますね。もし、また邪神が出てき
1266
?
なんだ、その程度の相手か。胸を撫で下ろそうとするが、ユウコは
?
たその時は⋮⋮ミリオンアーサーさん、力を貸していただけますか
﹂
?
賑やかなの
﹁う む。願 っ て も な い こ と だ。わ た し で 良 け れ ば 力 を 貸 そ う。聞 け
わたし達までお世話になって﹂
ば、このゲイムギョウ界も今は大変なようだからな﹂
﹁でもいいんですか
﹂
﹁わたし的には全然オッケーだよー、チーカマちゃん
が一番だもん
い﹂
﹁ネプテューヌさんもこう言っていますし、遠慮なさらないでくださ
!
?
その日は、ミリオンアーサーもチーカマも教会で世話になることに
した。
1267
!
第三章 プラネテューヌ編:これぞ男の欲望願望浪漫
溢れるケモナール
エピソード37 静かに騒がしくそして賑やかに
││キンジ塔を走る。手を繋いで、離さないように強く握りしめ
て。
満身創痍のエヌラスに連れられて螺旋階段を登る。
﹁⋮⋮エヌラス﹂
﹁だい、じょうぶだ⋮⋮もうすぐ、終わる⋮⋮﹂
せめて││せめて、彼女だけでもと。ユウコだけでもと。アルシュ
ベイトも、バルド・ギアも、大魔導師も、ドラグレイスも全て犠牲に
して。それでも選んだひとりを救おうと、エヌラスはユウコを連れて
て、叫ぶ。
﹁開けろ││
﹂
開けてくれよ⋮⋮ふざ、けんなよ⋮⋮ ここまで
!
限界だった。もう、懲り懲りだった。折れて、砕けてしまいそうな
心が悲鳴を上げている。もうこれ以上は、耐えられない。全てが救え
ないのなら、ひとりずつ助けてやりたかった。だが、次元神セロンは
それを許さない。門は固く閉ざされて、エヌラスの拳から骨の砕ける
音と血の滴る音にユウコは目を背けずに、優しく手を取った。
﹁いいんだ﹂
俺は│
﹁⋮⋮っ、いいわけがあるかよ。俺が、どれだけ犠牲にしたと思ってる
俺は、ただ⋮⋮﹂
!
1268
キンジ塔を登る。
なんでだ、どうして
それでも、世界は非情だった。世界を作るシステムはイレギュラー
を認めない。
﹁││││ん、でだよ⋮⋮なんでだよ⋮⋮
!!
悲鳴に近い叫びと共に、エヌラスは〝門〟を叩いた。拳を打ちつけ
!
来たんだ、頼むぜ⋮⋮セロン。こいつ、だけでも││俺は﹂
!!
俺がどんな思いであいつらを殺したと思ってやがる
!
│
!!
﹁分かってる。お前はそうしてまで、私を助けたかったんだろ
す。
﹁エヌラス⋮⋮私、痛いのは嫌だから﹂
﹁⋮⋮嘘、だろ⋮⋮やめろよ⋮⋮よせよ││
遅くはない、だから││止してくれ。
﹁泣くなよ、バーカ。お前はいっぱい戦って来たんだろ
私
それで、ど
れない、ここで諦めたくはない。他に方法があるはずだ。今からでも
嫌 だ。駄 目 だ。ダ メ だ ダ メ だ ダ メ だ ダ メ だ
そ れ だ け は 認 め ら
﹂
はにかみながらユウコはエヌラスを抱きしめて、軽く口づけを交わ
な一銭の得にもならないようなことをして、一文無しのくせに﹂
を救おうとしたんだろ。バカだなぁお前は。本当に、バカだよ。そん
?
撃鉄を起こす。
﹁⋮⋮そうだとしても。私は知ってる。信じてるよ、エヌラス﹂
﹁││だい、じょうぶなわけ、ねぇだろ⋮⋮﹂
﹁そ、そんな顔するなよう。次は大丈夫だって﹂
噛み締めてエヌラスをまっすぐ見つめる。
コツン、とマズルスパイクに額を押し当てて。ユウコは震える唇を
械的な動作で一連の動作を終えた。
に銀の銃弾を装填する。泣きながら、嗚咽を殺して。それでも手は機
れ、ただ怪物を殺すために作られたレイジングブル・マキシカスタム
エヌラスの手には、銃が握られていた。吸血鬼を殺すために造ら
てきただろう。
何度繰り返しただろう。何度目を背けて、何度この光景を繰り返し
﹁いいんだ。知ってる⋮⋮分かってる。エヌラス﹂
﹁⋮⋮ユウコ﹂
てきたんじゃないのか﹂
うしようもなくなって、私だけでもと思ったからこんな所にまで連れ
?
﹁私は、この意味を知ってる。お前が、私を選んでくれたのは本気で嬉
﹂
しいんだ。だからさ、大丈夫。約束する﹂
﹁││ユウコ⋮⋮
1269
!
!
﹁何度繰り返したって、どんな世界だったとしても││私はお前の面
!
倒を見てやるからさ。だから││﹂
ユウコは静かに涙を流していた。
﹁││だから、また一緒にごはん食べような﹂
発砲音は、銃声というよりは砲声のように鈍重に響き渡る。
﹁││││││││﹂
物言わぬ死体が倒れていた。脳天を撃ち抜かれて、即死している。
そこにあったはずの顔は銃弾で無残に噛み千切られて原型を留めて
いない。
﹁││││ぁ﹂
涙が止まらなかった。誰もいなくなったキンジ塔で、ただひとり残
されたエヌラスは泣き喚いた。迷子の子供が雑踏に残された恐怖に
涙するように。嘔吐して、死体を抱き上げて、冷たくなった女性の身
体を抱きしめてエヌラスはただ、泣いた。だが、もう彼女は帰ってこ
ない。
ユウ、コ││俺は⋮⋮
﹂
門が開かれていた。その先に待つのは、次元神セロン。大いなる〝
C〟だ。
﹁││俺は、何度でも繰り返す⋮⋮何度繰り返してでも、俺は⋮⋮必ず
ダ ス ク フ レ ア
俺 は 辿 り 着 い て
お前達を、救ってみせる。例えそれが、どんな欺瞞や自己満足だとし
﹂
て も。傲 岸 不 遜 の 黄昏の業火 と 罵 ら れ て も ⋮⋮
やる
!
それまで誰が諦めるものか││折れかけた心を繋ぎ止めて、立ち上
がる。その先にどんな地獄があろうと歩き続けると誓ったのだ。
その手に抱いた少女の亡骸に。物言わぬ骸の山に。
︵││││││⋮⋮⋮⋮︶
それは、いつかの夢泡沫。何度目だったか数えるのも億劫になるほ
どの、遠い過去の記憶。どうしてそんなものを見てしまったのだろう
1270
他でもない自分が、その手で殺してしまったのだから。
﹁ユウコ⋮⋮
!!
何度コンティニューしたって、絶対に諦めない。
!
世界のすべてが笑顔で染まる、ハッピーエンドに。
!
かと、寝起きの頭でぼんやりと考えるがやはり分からない。記憶を
辿っても、自分は確か邪神と戦って││それからどうしただろう。気
を失ったような気がする。
此処がどこかと上体を起こすと、夜になっていたのか部屋は暗かっ
た。外を見ればプラネテューヌの街並みが夜景に染まっている。
︵⋮⋮ああ。ここ、教会か⋮⋮⋮⋮︶
右腕の感覚がなくなっていることに気づいて、エヌラスはコートを
探した。しかし、暗い室内で黒のコートを探すのは難しい。それでも
ボンヤリと見えるシルエットを探ると、シガレットケースを取り出
す。ちょっとした空間魔術の応用で、見た目はコンパクトだが中身は
ン次元ポケットのように山程ドラッグシガーが詰まっていた。
火を点けようとして、エヌラスはバルコニーに出てから吸おうと思
い立って部屋を出る。
そこではネプテューヌとネプギアの二人が楽しそうにゲームをし
﹁ああ﹂
﹂
れにノる気分ではなかった。
﹂
ネプテューヌがどうだと言わんばかりに胸を張るが、エヌラスはそ
シャンプーとかもそっち系の匂いで統一してるんだよねぇー﹂
!
1271
ていた。イストワールはアイエフとコンパと共にお茶を飲んでくつ
ろいでいる。
﹁あら、エヌラスさん。ご気分はどうですか
﹁⋮⋮あんまり、良くない﹂
て柑橘の香りなのですか
﹁エヌラスってミカンとかゆずとか好きだったっけ
あんまりそう
﹁そういえば。その煙草って変わった匂いがしますけれど⋮⋮どうし
に尋ねる。
バコを吸いに外に出ようとして、ふとイストワールが気になったよう
倦怠感と頭痛に襲われてテンションが低い。夢見も悪かった。タ
?
ああ、別に。大した理由じゃねぇよ﹂
いう印象なかったんだけど﹂
﹁⋮⋮んー
?
?
﹁分 か っ た。ユ ウ コ で し ょ い っ つ も 柑 橘 系 の 髪 留 め し て る し、
?
﹁やっぱり
でも、どうして
好きだから
﹂
?
ね⋮⋮﹂
﹂
出るタイミング逃し
?
﹁あれ、そういえばユウコは
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮え、えっとー。なんか
たとか、そんな系﹂
私
﹁エヌラスさん、やっぱりユウコさんのこと大事に思っているんです
﹁ロマンチックですぅ∼﹂
エヌラスはフラフラとバルコニーに出て、タバコに火を点ける。
これがないと落ち着かねぇ﹂
﹁⋮⋮守らなきゃいけないやつのこと、忘れるわけにいかねぇからな。
?
﹁さっきの話、聞いてたの
﹂
れとして小さめのプリンパフェがトレイに載せられていた。
キッチンから戻ってきたユウコの手にはネプテューヌへの差し入
?
?
よう⋮⋮うぅ﹂
﹂
そういうこと言うネプちゃんプリンはこうして
﹁ユウコ顔真っ赤っかでかーわいー
﹁にゃんだとう
﹂
わたしのプリンがぁぁぁぁぁ ぷるぷるプリン
﹂
イーちゃんの口にあ∼んだ
を、どうするつもりだぁーユウコー
﹁これをな
!
ジ怖い﹂
﹂
それを⋮⋮それ
﹁うぅぅ。胃袋を握られるってこういうことなんだなぁ⋮⋮ユウコマ
﹁ふふん、私を辱めた罰はな。怖いぞ﹂
は腰に手を当てる。
ユウコ特製ネプちゃんプリンパフェ︵食いかけ︶を置いて、ユウコ
﹁あ、あ、あぁ⋮⋮わたしのプリンが⋮⋮﹂
﹁はぷっ。⋮⋮モグモグ⋮⋮こくん。大変美味しくいただきました﹂
!
!
! !!
こうだぁ
!
タイミング掴めなくて⋮⋮そしたらあの野郎、何言ってんだまったく
﹁いや、盗み聞きとか立ち聞きとかするつもりなかったんだけど出る
?
をスプーンで掬う、最初の一口はまた格別なのに
﹁あぁーーーー
?
!!!
1272
?
!
?
エピソード38 HADAKAの王様
││バルコニーでタバコをくゆらせながら、エヌラスは呆然とプラ
ネテューヌの夜景を眺めていた。感傷的になることなんてもう無い
と思っていたが、存外自分はそうでもないらしい。
﹁⋮⋮まじぃ﹂
いつも吸っているはずのタバコの味が、今日はいつになく苦く感じ
る。半分ほどまで吸ってから、エヌラスはドラッグシガーケースの片
脇についている携帯灰皿へ落とし込んだ。
夜風を浴びながら室内の明かりに目を向ければ、ゲームをしている
ネ プ テ ュ ー ヌ が プ リ ン パ フ ェ を 泣 き な が ら 食 っ て い る。ふ ん ぞ り
返っているユウコにネプギアが苦笑していた。
こ う し て 蚊 帳 の 外 か ら 眺 め て い る の が 自 分 に は 分 相 応 だ。そ う
笑む。
﹁えぬえぬ。怪我の具合はどーですか
﹂
塞ぐという医療とも呼べない再生魔術で済ませてしまう。
自分でやると、どうしても雑になる。傷口を真新しく生成した肉で
﹁はいですぅ﹂
﹁そうか。それは助かる、その時はよろしくな。コンパ﹂
﹁手当だったらわたしがやるですよ﹂
﹁んー。まぁ悪くないな。自分で治したんだから﹂
?
1273
思っていると、くしゃみが出る。やけに寒いと思ったら、包帯だらけ
だった。右腕の調子を確かめて、指先までの感覚がしっかりと戻って
いることを確認するとエヌラスは包帯を外す。教会を覗き見るバカ
﹁あの時はあの時で心の準備があったからいいのよ
﹂
バカ、服くらい着なさいよ なに半裸で出てきてるのよ
はいないと思うが、半裸で部屋に戻った。
﹁ちょ
﹂
!?
﹁いや、お前ら俺の上半身見ただろが⋮⋮﹂
!?
取り乱すアイエフに比べて、コンパはと言うとジッと見てから、微
!
!
﹁わり、先に風呂入る⋮⋮なんかもう、身体がダルい﹂
エヌラスがのっそりと部屋を横切って脱衣場の扉に手を掛けた。
﹁あ、お風呂は今││﹂
誰かが呼び止めようとしているが、まだふらつく頭のエヌラスには
遠く聞こえる。
﹂
ガラガラガラ⋮⋮⋮⋮。
﹁ほぇ
﹁えっ⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮あー﹂
ちょうどお風呂から上がったばかりなのか、艶やかな肌を伝う水滴
に、ほんのりと赤みのついた頬と肢体が二人分並んでいた。垂れる金
髪は湯に濡れて妖艶な雰囲気を醸し出し、女性らしく肉付きの良い肉
体は程よく鍛えられており、引き締まっているところは締まり、余分
な肉が落とされていた。だがそれでいて筋張っているような印象は
ない。そして、もうひとり。結んでいた髪を解いたチーカマの髪は背
中を覆い隠す程長く、発展途上の身体は小柄な背丈相応に貧相な肉付
きだった。しかしそれでいて、色気づいている。
見つめ合うこと数秒、時間が停止していた。
﹂
﹁⋮⋮入ってたのか﹂
﹁ぁ⋮⋮あ、あ⋮⋮
イヤーー
なんで見てるのぉ
!?
チーカマの裸よりもわたしの方が断然肉付
!
エヌラスは難なくそれをキャッチしてしまった。
﹁キャーーー
﹂
コップがエヌラスの顔を強打する。かに見えたが、戦闘慣れしている
間抜けなことを考えていると、二人の悲鳴と一緒に投げつけられた
ど、こっちはこれで⋮⋮︶
︵あー、やっぱ二人とも身体綺麗だなー。ネプテューヌ達もそうだけ
!
いや、そういう趣味であるならばわたしは口を挟まんが
﹁そうだぞ、エヌラス
きが良い
⋮⋮﹂
!
!
ガラガラガラ⋮⋮。エヌラスは気の抜けた返事を返しながら脱衣
﹁あぁ、悪い﹂
!
1274
?
場の扉を閉めた。
振り返ると、静まり返った室内。痛い視線が突き刺さる。深呼吸を
してから、エヌラスは深い溜息を吐き出して目頭を押さえていた手を
放す。
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮なぁ、誰でもいいんだ。俺をぶん殴ってくれ﹂
﹁かしこまりィ
アイアンクローからの、叩きつけ。ユウコの腕力によって床に叩き
つけられたエヌラスが悶絶する。
﹂
﹁あ、気絶してない﹂
﹁ッ∼∼∼∼∼⋮⋮
いやぁ、こうい
!
﹂
!
﹁ネプギア﹂
﹂
まさかの美少女拒否 わたしが美少女じゃなかっ
ていないんだぁー
﹂
姉より強い妹なんていねぇ 姉より強い妹なん
たら誰がそのポジションなのさーエヌラス
!?
エヌラス、まだ調子悪いなら寝ていなさ
?
えた。ぐぅ∼⋮⋮。
アイエフが様子のおかしいエヌラスを気遣うが、それに腹の音が応
いよ﹂
﹁⋮⋮ねぇ、本当に大丈夫
﹁なんだかんだ言って、ちゃんと見るところは見てるんだから﹂
場合は変身後に全部持っていかれてる印象しかない﹂
﹁ネプテューヌもかわいいのは認める。だけど何分、ネプテューヌの
と思います﹂
﹁え、えと、わたしなんかよりお姉ちゃんの方がずっとずっとかわいい
ている。
エヌラスに美少女認定されたネプギアが顔を真っ赤にして硬直し
!
!?
﹁即答されたぁ
!
﹁なんですと
﹁お前が美少女っていうのはちょっとどうなんだろうな﹂
よね。あ、ノワールは別だけど
うのってわたしみたいな美少女がやっても同性だから反応薄いんだ
﹁おぉ⋮⋮これが噂にまで聞いたラッキースケベ
後頭部を押さえながら涙目で転げ回るが、なんとか立ち上がった。
!!
!
1275
!!
!
﹂
その視線が向かうのは、目が合って頬を赤らめるユウコ。
﹁晩飯の残りとか、あるか
という理由だけではない。
﹂
﹁うぅ⋮⋮まさか裸を見られるとは思わなかったぞ﹂
﹁ぐすん⋮⋮﹂
﹁裸の王様はいねぇ﹂
﹁なるほど。つまりお主の前では私もただの少女、ということか
その発想はなかったぞ﹂
﹁うわぁん、男の人に裸見られたぁ。責任取りなさいよ﹂
でも引き裂かれたような痕だ⋮⋮﹂
﹁それも、刀剣によるものばかりではないな。この傷はまるで猛獣に
﹁ん、おい⋮⋮﹂
﹁お主の身体、傷だらけではないか。それも古傷ばかりだ﹂
エヌラスを見て眉を寄せるなり近づいた。
どういう判断基準なのだろう。だが、そこでふとアーサーが半裸の
あるが⋮⋮﹂
ただ、見られたのが美少女ではなくエヌラスというのが気がかりでは
﹁良いではないかチーカマ。こういうドッキリイベントも醍醐味だ。
!
出てくる。ふたりは顔を赤くしていた。というのも、湯上がりだから
く。アーサーとチーカマがようやく着替えを終えたのか脱衣場から
そそくさとネプギアも乾燥機に入れたエヌラスの上着を探しにい
てきますね﹂
﹁ユウコさんが洗濯しちゃって。あ、でも乾燥したと思うので今持っ
﹁⋮⋮⋮⋮なぁ、俺の上着は
半裸のまま椅子に腰を下ろすと、天井を仰ぐ。
そういって足早にユウコはキッチンへと消えていく。エヌラスは
﹁んじゃーちょっと待ってて。今準備するから﹂
﹁なら頼む⋮⋮腹の中空っぽで何もやる気しねぇ﹂
ろうと思って用意してあるけど﹂
﹁え、あー。そりゃもちろん。どうせお前が寝起きでバカスカ食うだ
?
﹁勝手に触んなって、くすぐったいだろ﹂
1276
?
﹁まぁまぁ、よいではないかよいではないか。わたしの裸を見た以上
はお主のも見せてくれ﹂
それを言われては何も言い返せない。仕方なく興味津々といった
﹂
様子で触るアーサーの好きにさせていると、ネプテューヌが飛びつい
てきた。
﹁んもー、ミリアサちゃんばっかりずるいー。わたしもわたしもー
﹁なんでだよ﹂
れ﹂
﹁それそれー﹂
﹁ん
どうした﹂
﹁ユウコ﹂
夕飯に手を合わせ││ちょっと待ったと手を止める。
らユウコも両手いっぱいに夕飯を持ってきた。袖を通し、できたての
三人で戯れてる内に、ネプギアが上着を持って戻ってくる。それか
﹁やめろ、バカ、くすぐってぇだろ
﹂
﹁は は は。ネ プ テ ュ ー ヌ と エ ヌ ラ ス は 仲 が 良 い の だ な。ほ ー れ ほ ー
!
﹁残り物もあるだろ
﹂
﹂
ご飯残ってたからどうしようか考え
これわたし食べてないよ
﹁そうなんだが﹂
﹁あれ
﹁あー、うん。バレちゃった
?
?
肉 大 盛 り。ご 飯 山 盛 り。刻 み ネ ギ 多 数。卵 複 数。エ ヌ ラ ス は レ ン
﹂
ゲでチャーハンを食いながら夕飯の残り物である惣菜にも手を伸ば
した。
﹁うまいか
﹁ふふん。アーちゃん、こいつの胃袋は宇宙だよ﹂
﹁驚いた。この量をまさか一人で食い切るつもりか⋮⋮﹂
サーが目を白黒させる。
みるみるうちに減っていく山盛りチャーハンと料理の群れに、アー
﹁もぐもぐもぐもぐ⋮⋮マズイわけがねぇ﹂
?
1277
!
﹁いや、残り物で良かったんだが⋮⋮﹂
?
てたんだけど、手っ取り早く大盛りチャーハンで全部片付けたんだ﹂
?
?
﹁なんと
﹂
エヌラスの胃はそのように偉大なのか
﹂
﹁しかもお腹壊さないし。腐ってても食う
﹁それは人としてどうなのだ
﹁だって生で肉にかぶりつくし﹂
﹂
﹁いや、調理はしてやれ。それでは扱いが犬や猫と同義ではないか﹂
!?
﹂
あながち間違いでもない指摘に、全員が苦笑していた。
んじゃ片付けるね。食後のお茶は
﹁ごちそうさん﹂
﹁おそまつ
﹂
?
﹁⋮⋮﹂
﹂
合っていたではないか﹂
を負ってまで戦っているのだ
出 会 っ た 時 も 邪 神 と や ら と 殴 り
﹁いや、少し疑問に思うところがあってな。お主はどうしてそんな傷
﹁なんだ
サーの視線に気づいた。
手持ち無沙汰なエヌラスは、さてどうするか、と考えているとアー
﹁それじゃわたしはゲームでもしよっかな﹂
すね﹂
﹁じゃあわたしは、今のうちに諜報部で集めた情報をまとめておきま
ういう事があるかもしれませんので﹂
絡をしておきますね。もしかするとあちらのゲイムギョウ界でもそ
﹁さて。それでは一段落したようなのでわたしは別次元のわたしに連
消す。
エヌラスの意思を完全に無視してユウコが再びキッチンへと姿を
﹁聞けよ
﹁はーいプリンパフェ一丁ー入りまーす﹂
﹁いらねっての﹂
﹁じゃあデザート﹂
﹁いや、いい﹂
!
言っておったぞ﹂
﹁そ の よ う な 無 謀 を せ ず と も、も っ と 楽 に 片 付 け ら れ る と ユ ウ コ は
?
1278
?
!
!?
!?
?
確かに、そうだ。一撃でカタをつけることだって容易なはずであ
る。
﹁俺が〝本気〟になれば、楽だろうな﹂
﹁ならば﹂
﹁だが生憎と、こっちじゃ本気出せないんだよ。全部ぶっ壊しちまう﹂
エヌラスの真価を発揮するためには、ゲイムギョウ界はあまりに窮
屈 過 ぎ た。か つ て の 通 り 名 で あ っ た 戦 禍 の 破 壊 神 は 伊 達 で は な い。
だが、邪神を相手にするためにはそれだけの破壊をもたらさなければ
勝ち目はなかった。ただ倒すだけではなく、消滅させる為には。
1279
エピソード39 シリアルよりも食生活は健全に
﹂
﹁人様の土地で好き勝手暴れても迷惑だろうしな。だから今、どうす
ればアイツを殺せるか考えてる﹂
﹁ふむ⋮⋮あの邪神か﹂
﹁そんなに危険な相手なんですか
﹁まず、コッチの武器を奪う。そうでなくても周りにあるものは全部
自分の得物にしちまう。そこらの廃材だろうがなんだろうがな﹂
そうなると、戦う場所は何も無い場所が望まれる。山奥では木々を
なぎ倒して、丸太を持つ可能性がある。そうなると、海辺が最も好ま
﹂
しい。人的被害を極力出さない為には、海上が一番適している。
﹁それって、わたしが女神化しても
んでんだよあの邪神﹂
﹁じゃあエヌラスが戦っていた仮面の邪神は
﹁⋮⋮⋮⋮分からん﹂
﹂
?
えてくれていた。
れなくしている。それでも半分が限度らしく、時折セロンは助言を与
話だ。しかし、一つの誤算がある。何者かが、開け放たれた門を閉じ
次元神セロンこそが元凶ではあるが、そもそもそれを閉じればいい
ない路を恨み憎む怨恨が形となった神らしい﹂
﹁とにかく今は〝終わらぬ怨嗟の声〟だ。セロンが言うには、終わら
ロ ー ド・オ ブ・イ ン フ ィ ニ テ ィ
ノワールが勝てなかったんだから相当ヤバイやつに違いないって﹂
﹁あの真っ黒で、のっぺらぼうの仮面を付けた邪神だよね。わたしと
間違いなく仮面の邪神だ﹂
﹁他の邪神の眷属││ないし、邪神を呼び寄せる原因になってるのは
規格外すぎる。
││否。邪神の一柱に間違いない。だがそれにしたってあまりにも
あれは果たして、一体何者なのだろう。本当に邪神だったのか
?
﹁シェアエナジーとかアンチエナジーとか、そういう領分からぶっ飛
?
﹁果てなき旅路、か⋮⋮永遠と続く道を歩むうちに絶望したのであろ
1280
?
う。終わりなき戦いほど疲れるものもあるまい﹂
﹁⋮⋮アーサーの言うとおりだな﹂
それに賛同するエヌラスの表情は、やはり陰が落ちている。
﹁だから、此処で終わりにさせないとな。これ以上、あの野郎を生かし
とく理由がねぇ﹂
﹂
わたしの国
﹁もー、エヌラスはそうやってまたシリアス方面に話を持って行くん
﹂
だから
﹁え
﹂
﹁此処をどこだと思ってるのさ。プラネテューヌだよ
なんだからそういう重い話は禁止なんだから
﹁あ、いや、そうは言われてもな⋮⋮﹂
﹂
﹁悩んだってどうしようもないんだから、一緒にゲームしようよ
わたしが勝ったらエヌラスのプリンパフェもらうからねー
有無を言わさない女神発言と共に、エヌラスにコントローラを手渡
す。
エヌラスのバカー
﹂
バカって言った人がバカなんだか
﹁⋮⋮まったく、お前ってやつは本当にバカだな﹂
﹂
﹁んもー、またバカって言った
らねバカー
!
バーカバーカ
!
﹁なんだとこのバカ野郎﹂
﹁またバカって言った
!
!
じられないという顔をしている。
﹂
い、今時ゲームもやったことがないなんて⋮⋮
インタースカイでゲームとかしないんですか
﹁ねぷっ
﹁あれ
﹂
ゲームに関してはまるっきり初心者だ。それにネプテューヌが信
れても困るんだが﹂
﹁いや、というか⋮⋮俺、ゲームやったことねぇぞ。コントローラ渡さ
!
!
﹁じゃあわたしがエヌラスの初めて奪ったげるよー
﹂
﹁だから、ゲーム機に触るっていうのは⋮⋮多分今日が初めてだ﹂
﹁あ、TRPGってやつですね。サイコロとかでやる﹂
な﹂
﹁俺がやるのは専らテーブルトークロールプレイングゲームだったし
?
!?
!
1281
!
!
!
!
?
!
?
﹁誤解しか招かない発言自重しろ﹂
対戦格闘ゲーム。三本先取。
﹁ふふーん、ハンデもあげるよ﹂
﹁せめて説明書読ませろ⋮⋮﹂
﹁あ、はい。こちらです﹂
勝ったらプリンだからね﹂
﹂
そういう意味で言ったわけじゃねぇぞ
﹁じゃあ俺が勝ったらお前のプリンな﹂
﹁⋮⋮意味深﹂
﹁いや、ちげぇ
﹁変態。ロリコン。スケベ﹂
﹂
﹁チータラ、俺はロリコンじゃねぇ﹂
﹁チーカマだってば
﹂
﹁わたしはエヌラスにハンデとして超必殺技は使わない宣言するよー
?
﹁ああ、サンキュー。ネプギア﹂
チーカマもやらんか
別にいいけど﹂
﹁ほほう⋮⋮面白そうだな
﹁えっ、わたしも
!
ワイワイと集まって画面を見つめる。
?
﹂
た。チーカマも少し興味が惹かれたのか一緒に説明書を読んでいる。
﹁ほほう、興味深いな﹂
﹁じゃあエヌラス。プリンを賭けてわたしと勝負だ
﹁へいへい﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ネギどこにいった﹂
てはカモが鍋背負ってるのと一緒だよー
﹂
﹁攻めるねーエヌラス。だけどゲームをやりこんでいるわたしにとっ
のエヌラスはピーキーな性能のキャラを選んだ。
ネプテューヌは手堅く主人公キャラ。それに引き換え、初心者同然
!
SE﹄の文字がデカデカと表示されている。エヌラスはと言うと、感
ネプテューヌがガックリと床に倒れている。ゲーム画面には﹃LO
!
1282
!
軽く操作説明を受けて、それにアーサーは興味深そうに頷いてい
!
!?
!
慨深そうにコントローラを見ていた。
﹁⋮⋮面白いな、このゲーム﹂
﹁えと、エヌラスさん。本当に初心者なんですよね⋮⋮
﹁ゲームに関しては﹂
﹁もしかしてとは思いますけど⋮⋮﹂
﹁ああ。ドットと発生フレーム見てから避けた﹂
﹁そんな人間チートみたいなことしないでください
﹂
﹁泣くなよ⋮⋮﹂
うわぁーん
﹁真剣勝負だよぉ
﹂
﹂
あーもう、しょうがねぇな﹂
﹁あんなに差し込みされたら勝てないもん
﹂
わたしにとってプリンは生命線なんだから ﹁えーっと、ごめんなネプテューヌ。でもこれ、勝負だから﹂
メージが大きいらしい。
ハンデ付きとはいえ初心者に敗北&プリン争奪戦による精神的ダ
﹁プリン⋮⋮わたしの、プリンがぁ∼∼⋮⋮﹂
テューヌの様子を見ると目が死んでいた。
子供のような言い訳を言いながら、床に突っ伏して動かないネプ
無駄遣い。
視覚強化と反射神経を魔術で補強してゲームをやるという魔力の
﹁いや、だって負けたらプリン⋮⋮﹂
﹂
﹁コマンド入力は難しいが、案外どうにかなるもんだな﹂
スが勝利。
と、それを機に簡単なコンボで確実に体力を削り、結果としてエヌラ
ネプテューヌの攻撃を凌ぎ、確実に反撃していた。攻め手が弱まる
エヌラスはほぼジャストガードとカウンター、パリングを駆使して
多少なりとも、その判定に詐欺があって最初こそ苦戦したものの。
?
!
勝者の景品であるプリンパフェを受け取る。膝にネプテューヌを座
ヒョイとネプテューヌの身体を持ち上げて、エヌラスはユウコから
!
1283
!
﹁やめろよそういう不埒な発言で俺を社会的に責めてくるの
﹁エヌラス初めてなのにうますぎだよぉ⋮⋮﹂
!
﹁だからやめろください頼むから
!
!
!!
らせて、抱き抱えながらプリンを掬って顔の前に持ってきた。
﹁ほら。あーん﹂
﹂
﹁あ∼ん⋮⋮もぐ。もぐもぐ⋮⋮うぅ∼、やっぱり美味しいなぁプリ
ン
﹂
﹁俺も食うんだからあんまり食うなよ﹂
﹁ねぇねぇエヌラス、もう一口だけ
﹁はいはい﹂
仲の良さを見せつけてやろうではないか﹂
﹁しないわよ﹂
そんな顔してもダメだからね
!
﹁うぅ∼⋮⋮そう言わずに﹂
﹁しないってば
﹂
ザートとは、負けず劣らず甘い光景だ。ならばチーカマよ
我らの
な い か。し か し う ら や ま け し か ら ん ⋮⋮ 少 女 を 抱 き 抱 え な が ら デ
﹁やれやれ、あれじゃまるでネプテューヌはエヌラスの妹みたいでは
テューヌはとても幸せそうに笑う。
エ ヌ ラ ス に 背 中 を 預 け て 寄 り か か り な が ら プ リ ン を 食 べ る ネ プ
!
!
らったら
﹂
!
それでいいのアーサー
﹁なるほど、その手があったか
﹁えっ
﹂
﹂
﹁そ ん な に し て ほ し か っ た ら 後 で ネ プ テ ュ ー ヌ と 場 所 を 変 わ っ て も
﹁しょんぼり⋮⋮﹂
!
わたしはある重大な事に気づいたのだ。エヌラスにとって
!?
?
はあるまい
﹂
﹁うわぁ。なんか振りきれた発言してる⋮⋮﹂
しかもさりげなく美少女宣言している。
刮目せよ
﹂
﹂
ミリアサちゃ
﹁ねぷっ、ミリアサちゃんがわたしの特等席狙っちゃってる
はいくかー
﹁おいぃ、シェアの無駄遣いぃ
﹁││変身完了。女神パープルハート、ここに見参
!
!
!
!?
!
!
そう
つまり、あの者にとってわたしはただの美少女だ。この機会を逃す手
は王のUTSUWAもアーサーも国王も関係がない、対等なのだと。
﹁うむ
! !?
1284
!
﹂
んでも此処は譲れないわ﹂
﹁なんと
﹁どうしてもというのなら、奪ってみせるのね﹂
﹁良いだろう。このミリオンアーサー、負けはせん
ポチ。ウィーン。
ただ眺めていた。
征くぞ
﹂
そして仲良く並んでゲームをやり始める二人の背中を、エヌラスは
!
﹁⋮⋮なんだろうな、このテンション。俺はつい最近出会った気がす
る﹂
?
思い出そうとしても思い出せない連中が引っ掛かる。はて、あいつ
らは一体何者だったのだろうか
1285
!
!?
エ ピ ソ ー ド 4 0 真 な る 漢 の 同 志 と は 性 癖 ま で 明 か
す仲
夜のプラネテューヌ第三資源採掘場では、セイン達がシロトラを前
に整列していた。
B2AM総合特務班﹃トライアド﹄のメンバー構成、僅か四名。
シロトラの隣にはシャニも完全武装で並んでいる。腕を組んでセ
インを睨みつけていた。
︽久しいな、〝元〟特務隊︾
︽うむ。元気そうだな、シャニ。相変わらずカリカリベーコンもビッ
クリな苛立ちよう︾
︾
!
︾
頃のセインは成績優秀、単独行動でも連携行動においてもシャニを上
回る戦績トップに輝いていた││のだが、その性格が災いしてか部隊
内での衝突が絶えず、ついでに言えばそれに付き合う仲間が非常に限
られている。そこでシロトラが取った措置が、特務隊より除隊。新た
に設立した小規模の精鋭、総合特務班﹃トライアド﹄班長として任命
︾
することだった。だからこそシャニは嫌味と皮肉を込めてセインを
〝元〟特務隊と蔑んでいる。
︽それで報告にあった例の怪物とは
シュラが渡すのは、映像記録と撮影データの入ったメモリ。それを
しています︾
︽例の、教会近辺に甚大な被害をもたらした破壊神です。写真と一致
︽決定打にはならなかった、か。もう一人は︾
︽はい。全身を黒い霧に覆われた人型です。交戦したものの︾
?
1286
︽お前のそういう所が俺は嫌いだ。その飄々としたバカな発言さえな
ところだ
!
ければ、特務隊隊長も務められただろうに︾
そういう
︽片腹痛いわー、マジ片腹痛いわー。やめ、ちょ、脇腹痛い
︽貴様の
!
シャニがセインの脇を執拗に殴っていた。特務隊に所属していた
!
シロトラが読み取る。
︽⋮⋮確認した︾
︽名前はエヌラス。成人男性。年齢不詳。左目に刀傷。黒服。主な使
用武器は刀剣、それ以外にも大型自動二輪を自らの影へ収納。恐らく
は魔術の類でしょう︾
︽他に情報は︾
︽ケモミミ好きです︾
︽なるほど。話が合いそうだ⋮⋮︾
シロトラが少し好意を含めて頷いた。
︽それで、セイン。例の薬は出来たのか︾
︾
︽あ、いえ。ジーンが素晴らしい提案をしたのでそちらを息抜きに製
造していました︾
︽ほう⋮⋮効果は︾
︽はい。ケモミミとしっぽが生える、素晴らしい薬です
シロトラが固まる。シャニが固まった。
︽⋮⋮⋮⋮︾
︽これをパープルハート様に飲ませた日には突然生えたケモミミに慌
︾
の色と見て間違いはなさそうだ。
︾
︽⋮⋮生えるのは耳と尻尾だけか
︽⋮⋮はい
︾
?
︽それで⋮⋮︾
︾
どこか圧のある問いに、セインがしどろもどろに応える。
︽あ、いや⋮⋮はい。現時点ではそうです、ね︾
︽生えるのは、ケモミミと尻尾だけかと聞いている︾
?
1287
!
てふためき、更にはモフモフな尻尾を揺らす姿にはこれはもうシェア
爆増し間違いなしです
︽確かに素晴らしい提案だ︾
︽ご理解いただけますか、シロトラ教官
︾
︽⋮⋮セイン︾
︽はい
!
!!
静かに告げるシロトラの言葉は、どこか残念そうにしている。落胆
!
︽セイン。確かにケモミミパープルハート様は私も見たい。大いに見
たい。内臓はじけ飛ぶほど見たい││むしろ見れない生涯に意味な
本気ですか このバカの、言うこと間に受けているんで
ど無い︾
︽教官
︾
まだ調合の配分とその他不安な点はあるが、
そんな薬作れるはずがないでしょう
︾
に見たいのはな︾
︽はい︾
︾
︾
︽ふたなりパープルハート様が一番見たい
︽なんですってぇぇぇっ
︾
!
い
涙目で懇願してくるくらいにまで調教したい
︾
触れてからその快楽の虜になるまでひたすらに射精管理してやりた
!
!?
︽見たくはないか。自分に本来無いものがあって戸惑う姿
そして
︽そいつは直々に私が手を下すとして││セイン。いいか、私が本当
その一言にシロトラが唸った。
︽割られた。例の怪物に︾
︽で、その薬は
形にはなっている
︽俺は現に作ったぞ
すか
!?
!
!
!
せん⋮⋮︾
俺達の性癖の一歩上を常に
どうやらこの場において唯一冷静なのはシャニとジーンだけのよ
うだが││。
︾
︽す、素晴らしい。流石シロトラ教官
行く方だ
︾
︽一生ついていきます、シロトラ教官
︽俺、B2AMで良かった⋮⋮
︾
!
︾
帰りましょうシロトラ
!!!
︽いえ、その⋮⋮嫌いとかそういうのではなく⋮⋮︾
︽嫌いか、ふたなり︾
総司令官
︽こぉの変態狂人集団共がぁぁぁぁぁぁっ
︽ふたなり女神のガチイキアクメか⋮⋮ご飯十杯は固いな⋮⋮︾
!
!
!
!
1288
?
!?
!?
!?
︽シロトラ総司令官⋮⋮時々自分は貴方の考えていることが分かりま
!
︽嫌いか、シャニ︾
︽⋮⋮いや、その⋮⋮目的からあまり道を外れるのはどうかと⋮⋮そ
︾
それを他国に向けて発射、モンスター被害によって各
もそも、セインが製造しているのはモンスターを誘引するフェロモン
剤でしょう
国のシェアを低下させよう、という計画だったのでは⋮⋮
その為に様々な薬の調合を任せているが、何分モンスターの体液な
どを使用したフェロモン剤は特定のモンスターだけでは意味が無い。
その薬の調合にも金が必要になる。B2AMの経営難、というのも製
薬に資金を割いているのが原因だった。
︾
︽そんなもの、ケモミミふたなりパープルハート様に比べればどうで
もよくないか
吐が出る︾
︾
︽ポリ袋持ってくるか
︾
?
れなアーサーはあと一歩のところで負けている。
ミリアサちゃん恐るるに足らずだよー
﹂
!
ネプテューヌよ、もう一回だ
﹂
!
﹁貧弱貧弱ぅ
﹁うぅー、なぜ勝てんのだぁー
!
﹁ふっふーん。何度やっても無駄無駄ぁ
!
﹂
慣れてきたはいいが、それでもやはりコマンドの入力ミスなどで不慣
るのは変身を解除したネプテューヌだった。既に十二連敗。操作に
教会の床に突っ伏すミリオンアーサーと、どや顔で仁王立ちしてい
プラネテューヌの夜は長い││。
︽気難しいやつだなぁ、シャニは︾
︽いらんわ
︾
︽⋮⋮こんな奴に俺は一時期連敗記録を更新していたかと思うと、反
ニは一度セインに向き直ると、深い溜息をこぼす。
四人が敬礼をすると、シロトラが背を向けて走り去っていく。シャ
︽了解です
︽まぁいい。報告、ご苦労だったトライアド。引き続き任務にあたれ︾
で一番頭がおかしいんじゃないかと思う時があります。時々ですが︾
︽たまに思うのですが、シロトラ総司令官。貴方もしかして我々の中
?
!
1289
?
?
!
!!
二 人 が 仲 良 く ゲ ー ム を し て い る の を チ ー カ マ と エ ヌ ラ ス が ソ
ファーに座って眺めていた。その隣にネプギアが座る。
﹁まったく。アーサーもいい加減に諦めたらいいのに﹂
﹁つーかよく続くなあの二人⋮⋮﹂
﹁お姉ちゃん、お風呂入らなくていいのかなぁ﹂
﹁そろそろ日付変わりそうなんだが⋮⋮﹂
﹂
エヌラスがやれやれと重い腰を上げて、ネプテューヌの隣に座っ
た。
いや、別に﹂
﹁どうしたの、エヌラス
﹁んー
﹁ねぷっ
う、うぅどうしたのさエヌラス﹂
かかえるようにして顎を乗せた。
ひょいと持ち上げて、自分の足の間にネプテューヌを下ろす。抱き
?
立たしいな
﹂
次こそは負けん
﹁そうこなくちゃ
王の意地を見せてやる
!
﹂
!
た。
﹁そりゃそりゃー
﹂
﹂
ここだ
てりゃー
!
!
﹁くっ、なにくそぉ
﹁まだまだぁ
!
!
﹂
とやー
﹁くっ、うぅん
﹁そこか
﹂
ま、まだだ、まだ終わらんよ
!
!
!
ていうかエヌラス、今わたしの足触らなかった
﹂
!?
﹁ねぷっ
いもんね
次の試合で持ち返せばい
しているネプテューヌにすれば、それは完全に不意打ちだった。
が、ほんの少しではあるが太ももに当てられた。ゲームに意識を集中
ヌに気づかれないようにエヌラスの手が僅かに魔力を帯びる。それ
二人の熱い攻防が繰り広げられる画面。熱中しているネプテュー
!
﹂
向けてウインクしてみせる。それに何かの意図を含ませて、気づい
上機嫌なネプテューヌから見えない位置で、エヌラスはアーサーに
!
!
﹁むぅ。こう目の前でネプテューヌとイチャイチャされると、実に腹
﹁いやー、連勝してるからちょっとしたご褒美だ﹂
!
! !? !
1290
?
﹂
脇、脇はらめぇ
﹁触ってねぇよ。ほれ﹂
﹂
﹁あはははははは
﹁先手必勝ー
!
るのだめぇ﹂
﹁ほれ﹂
﹁ミリアサちゃんもこんなので勝っていいの
﹂
﹂
負けたぁぁ
これで決まり
んもー、エヌラスのバ
とも、我が勝利に繋がるのなら利用させてもらおう
如何なる状況だろう
! !?
!
だ、ネプテューヌ
﹁あっ、あっ、あっーーーー
負けちゃったじゃーん
!
﹂
らこその味なのだが﹂
イチだな。勝利の美酒というのは、こう、もっと達成感と共に飲むか
﹁うむ、確かに勝利はしたが⋮⋮やはり自分の実力で勝たないとイマ
エヌラスはソファーに戻る。
笑顔でネプテューヌと一緒に着替えを取りに行く二人を見送って、
﹁うん
﹁釈然としないけど、しょうがないなぁ。ネプギア、お風呂入ろ﹂
ら行け﹂
﹁ネプギアだってずっとお前のこと待ってるんだぞ。ほら、わかった
﹁えー、あんな負け方納得いかないんだけどなぁ⋮⋮﹂
呂入って寝ろ﹂
﹁もうとっくに日付変わりそうなのにいつまでゲームしてんだよ。風
きかかえていた。
むにーっと頬を引っ張られながらも、エヌラスはネプテューヌを抱
﹁バカはどっちだ﹂
カー
!!!
!
!
﹁王たるもの、勝機は逃してはならんのでな
﹂
﹁エ、エヌラス⋮⋮ダメ、わたしミリアサちゃんに負けるから、くすぐ
る。
集中力を削がれたネプテューヌに、アーサーは容赦なく攻め立て
﹂
負けちゃう
!
﹁あはは,あは、だめ
!
!
!!
﹁そうは言っても、あぁでもしないと勝てなかっただろ。それに、いい
1291
!
!
加減ゲーム止めて寝ないとお互い明日に響く﹂
﹁⋮⋮お主、もしかしてそれを見越していたのか
てたし﹂
﹂
ユウコはと言うと、吸血鬼らしく夜型の生活リズム。
トワールは先に就寝している。
さて、今夜はどこで寝ようかと考えていた。アイエフとコンパ、イス
アーサーとチーカマが別室に去って行き、エヌラスは天井を仰ぐ。
﹁おやすみなさい、覗きの変態さん﹂
﹁ああ。おやすみ、エヌラス﹂
﹁あいよ。おやすみ﹂
﹁それはすまなかった。ではすまん、エヌラス。我々は先に寝るぞ﹂
﹁もう別にいいわよ。今は眠いし⋮⋮﹂
﹁チーカマはやらんのか
﹂
﹁そうね。アーサーもネプテューヌも、熱中して周りが見えなくなっ
テューヌだったら夜通しやりかねん﹂
﹁ど ー せ 勝 つ ま で や る つ も り だ っ た ん だ ろ。お 前 は と も か く、ネ プ
?
ああ、分かった。んじゃ俺はお前を向こうに送ったらこっち
﹁エヌラス。私、明日の朝早くに一回ユノスダスに戻るからよろしく﹂
﹁ん
﹁はいはい。別に誰も心配してなかったけどね﹂
﹁だろうよ﹂
1292
?
にすぐ戻る。他の奴らによろしく言っといてくれ﹂
?
エ ピ ソ ー ド 4 1 爆 裂 最 強 コ ン ビ 誕 生 カ ウ ン ト ダ ウ
ン
翌日。早朝よりユウコはエヌラスと共にアダルトゲイムギョウ界
へと戻った。だがその前にしっかりと朝食と全員分のお弁当を用意
していく余裕を見せたのはさすが最強のおかんである。イストワー
ルも別次元の自分と連絡を入れて、ネプテューヌに言われて向こうの
プラネテューヌの女神││プルルートへも連絡すると、こちらのゲイ
ムギョウ界に来るそうだ。
﹁ふむ。ユウコとエヌラスは別次元の者だったのか﹂
それは初耳だったのか、アーサーは頷いている。
﹁アダルトゲイムギョウ界という世界の神様候補生、とでも言えばい
人類の守護者、と名
文字通り我々とは次元が違うわけだ﹂
その指摘は尤もで、ネプギアもネプテューヌも苦笑していた。
ね
﹂
﹁うぅ∼、ゲームとプリンの為とはいえこう毎日女神のお仕事するの
はつらいよぉ∼﹂
﹁お姉ちゃん、そう言わずに頑張ろ
?
れに、いざというときはどうにかなってしまう性分だ。
やる気こそないがしっかりとやることはやるのがネプテューヌ。そ
ネプテューヌのテンションが低いのは仕方がない。仕事となると
﹁そうは言われてもわたしはいつになっても慣れないなー⋮⋮はぁ﹂
﹁うむ、ネプギアの言うとおりだ。いずれ慣れる﹂
?
1293
いんでしょうか。わたし達でいうところの守護女神が神格者で、それ
がユウコさんなんです﹂
﹁ならば、エヌラスの旧神というのは何なのだ
乗っていたが﹂
﹁えっと⋮⋮世界を守る神様ですね﹂
益々面白い
﹁なるほど。一国一城の主のみならず、世界一つを牛耳る者なのだな。
?
﹁の割には、威厳もクソもないみたいだけどね﹂
!
﹁エヌラスはユウコと一緒にアダルトゲイムギョウ界に行っちゃった
し﹂
﹁でもすぐに戻ってくるって言ってました﹂
エヌラスの為に頑張っているとはいえ、当の本人がいないのではや
る気も出ないというのがネプテューヌの本音。だが、商業国家ユノス
ダスの経営はユウコ本人が教会にいなければどう転がるか分からな
い。何しろ国内でも悪徳業者がのさばり、それを取り締まるのも一苦
労だ。そういう時に便利なのが、エヌラスである。犯罪国家、九龍ア
マルガムで生活していた時期が長いだけにそういった相手をするの
は十八番だ。
ネプテューヌ、ネプギア、アーサーとチーカマの四人はギルドでク
エストをいくつか適当に受けて今日の仕事を開始する。
エヌラスが教会に帰ってきたのは、それから二日後のことだった│
│。
﹂
いった面々。積もる話もあったのだろう。エヌラスは邪神と戦い続
けてこの数年間、向こうの世界に顔どころか連絡ひとつ取る暇さえな
かったのだから。ふてくされるネプテューヌの頭を撫でながらエヌ
ラスは申し訳無さそうに荷物を下ろす。バッグひとつだけの軽い支
﹂
度にイストワールが首を傾げた。
﹁エヌラスさん。それは
﹁ぶぅー⋮⋮﹂
﹁お節介だっての、まったく。俺はいらねぇって言ったのによ﹂
﹁⋮⋮本当に世話好きなんですね﹂
﹁ああ。ユウコが渡してくれた着替えとか、その他諸々﹂
?
1294
﹂
﹂
!?
﹁嘘つきーーーー
﹂
!
﹂
帰ってきて早々に嘘つき呼ばわり
﹁いや、他の奴らに捕まった﹂
﹁もしかして、また邪神の被害ですか
﹁そりゃそうだが、俺も色々あったんだよ
﹁だってすぐに帰ってくるって言ってたじゃん
﹁お、おおう
!!!!
というと││脳裏に浮かぶのはアルシュベイトやバルド・ギアと
?
!
!?
﹁いい加減機嫌直せよネプテューヌ﹂
﹁じゃあキスしてくれたら考えてあげてもいいかなー﹂
﹁お前⋮⋮﹂
笑顔でそわそわしながら今か今かと待ち構えるネプテューヌに、エ
﹂
おらー
ヌラスは仕方なく頬にキスをする。軽く唇を添えるフレンチ・キス
だったが、それで満足して頬を赤らめた。
あはははははは
!
﹁んもぉ、エヌラスったら甘えん坊なんだからぁ﹂
くすぐりはやめてぇぇ
﹁⋮⋮イラッ。調子乗るのもそこまでにしとけよこの野郎
﹂
﹁きゃー
!!!
﹁はい、なんでしょうか
﹂
﹁そうか。イストワール﹂
た﹂
﹂
﹁プ ラ ネ テ ュ ー ヌ を ゆ っ く り 散 策 し た い と 言 っ て 出 か け ち ゃ い ま し
﹁ただいま。アーサーとチーカマは
﹁えと。おかえりなさい、エヌラスさん﹂
﹁はぁー、はぁー⋮⋮笑い死んじゃうかと思った⋮⋮﹂
胸を上下させながらソファーに倒れていた。
エヌラスのくすぐり攻撃の前に、ネプテューヌが撃沈する。涙目で
!?
?
﹂
?
﹂
?
決まってる。まぁ俺が次元渡航すればユウコくらいはすぐに連れて
﹁それに関しては問題ない。人数制限を設けて、一度に一人までって
﹁悪用されるような事がなければいいのですが﹂
なるほど、とイストワールが考えこむ。
﹁かいつまんで言えばそうなるな﹂
に行き来できるようになる、ということでしょうか
﹁それはつまり⋮⋮アダルトゲイムギョウ界とゲイムギョウ界を自由
いいって話なんだがどうする
﹁そいつが言うには、こっちで許可さえ取れればゲートを用意しても
﹁メ、メガネ⋮⋮﹂
んだが﹂
﹁俺の知り合いに、次元回線を繋げられるやたら頭いいメガネがいる
?
1295
!
!
これるんだけどな﹂
しかしそれで毎回向こうとこちらを行き来するのは面倒、という理
﹂
由からだ。だが異なる次元同士を繋ぐゲートを展開するという言葉
に不安がよぎる。
﹁えと。もしかして次元連結装置ですか⋮⋮
﹁いや、違う。〝今回〟はちゃんとバルド・ギアが設計したワープホー
ルだ。こっちで場所さえ確保できればインタースカイから転送され
る﹂
﹁あ、そうなんですね﹂
﹁よかったぁ。また前回みたいに次元衝突装置なんてトンデモビック
リ開発かと思ったよ﹂
﹁そんな頭のネジ吹っ飛んだの設計できるの大魔導師ぐれぇだよ﹂
イストワールがまだ考え込んでいた。
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮分かりました。ですが、現状では信ぴょう性が薄いのでユ
ウコさんの利用に限らせていただいてもよろしいでしょうか
アダルトゲイムギョウ界にはエヌラスに負けず劣らずの実力者が
達とは疎遠だが。そろそろ文句の一つ飛んできてもおかしくない。
る。とはいえ、ここ最近はプラネテューヌに入り浸っていてノワール
にワガママだ。再会出来た相手と一緒にいたい、ただそれだけであ
だが、それでもエヌラスがゲイムギョウ界に居座っているのは単純
ろ、邪神の脅威は健在だ﹂
﹁賢明だな。というか、向こうも元々そのつもりだったらしい。何し
?
﹂
だよな﹂
﹂
揃っている。むしろあちら側の方が過剰防衛と言わんばかりに。
﹂
﹁あ、そういえば。エヌラス﹂
﹁なんだ
﹂
1296
?
﹁えっとね。ぷるるんも今日こっちに来るらしいよ
ぷるるん
﹁⋮⋮⋮⋮ぷるるん﹂
﹁うん
﹁そうだよ
﹁⋮⋮││プル、ルート
!
?
?
﹁マジで言ってんのか﹂
?
?
!
﹂
﹁エヌラスさん、口元緩んでますよ﹂
﹁へ
ネプギアに言われて、自分の口元を手で隠す。それに何故か気恥ず
かしさが押し寄せてきてエヌラスの顔が少し赤みを帯びた。それを
誤魔化すようにイストワールに向き直り、エヌラスはD│Phone
を取り出すと向こうと連絡を取り始める。
﹂
門は半開きでガ
﹁と、とにかく。ゲートの許可は降りたってことでいいんだよな
﹂
﹁あくまでも仮決定ですけれど﹂
﹁でもセロンの方はいいの
﹁まぁ、俺も一応アイツに聞いてみたが﹂
││次元神セロン曰く﹃今更いいのではないか
?
と疑ってしまう。
﹁あぁ、もしもし
今飲んでるって
なんだよ二日酔い
ブドウ糖。え、なに
味噌汁でも飲んでろ、あと
そうか。こっちで一応許
?
?
あ ま り 大 事 に し た く な い。は 教 会
!?
起 動 し た っ
俺 の 携 帯 の G P S 同 期
﹂
ち ょ、お い こ ら 待 て
て、テンメェ帰ったら覚悟しと││うごぉえぁ
ふ ざ け ん な よ メ ガ ネ ザ ル
?
閉じられる。
くその下敷きにされた。そして何事もなかったかのようにゲートが
はユウコがバッグを持って落ちてくる。エヌラスは身構える暇もな
電話の最中、エヌラスの頭上で妙な穴が開いたと思った次の瞬間に
!?
!
?
﹁んじゃ、こっちでも適当に人目につかない場所に転送してくれよ。
に胸が痛くなった。
思い出す。それが、互いに銃と剣を突きつけて殺し合う世界だった事
の良い友人同士だったのだろうとネプギアは思い、ふと前世の記憶を
それにしても、楽しそうに話している。本当だったらこんな風に仲
﹁だと思うけど﹂
﹁電話の相手ってバルド・ギアだよね﹂
可は降りたぞ。ユウコは││ああ、もう準備してんのか﹂
?
?
もしかして本人もどうしようもなくて匙を投げているんじゃないか
バガバだからな﹄と、以前に増して人間臭く笑いながら言っていた。
?
?
!
1297
?
﹁イタタ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮あのメガネ。帰ったら割ってやる﹂
ユウコのお尻に潰されながらエヌラスが恨み言を呟いていた。
1298
エピソード42 女神会議で発覚する事実を再認識
プルルートが来る。ということで各国の女神達に連絡を入れると、
ノワール達もプラネテューヌに集まった。ブランとベールもユウコ
とは初対面だったので互いに軽く自己紹介をする。
﹂
﹁⋮⋮あなたが、ユウコさんですね﹂
﹁そうだよ
﹁な る ほ ど。確 か に わ た く し の 地 位 を 脅 か す 胸 囲 に 違 い あ り ま せ ん
わ﹂
﹁文字間違ってねぇか⋮⋮﹂
ブランがどことなく不機嫌なのは、やはり揺れる二人の大きな胸が
原因だろうことは容易に想像できた。それとは別に││。
﹁ちょっとエヌラス。あなた一体いつまでプラネテューヌにいるつも
りなのよ。ラステイションにも来なさいってば﹂
﹂
﹁いや、そうしたかったんだが色々と混みいった事情があってな﹂
﹁どういう事情よ。言ってみなさい
もう
!?
﹂
ちょっとおとなしくしてなさいよ、ネプテューヌもネプテューヌなん
﹁どーしてそうアナタはトラブル起こさないといられないの
﹁あー、邪神と遭遇したりハァドラインの連中と面倒事だったりだ﹂
!
﹁邪神、ですの
﹂
それにエヌラスの稼ぎと
﹂
どうどう、となだめようとしても事の発端が当人である。
ネ プ テ ュ ー ヌ と ノ ワ ー ル の 言 い 争 い に エ ヌ ラ ス が 捕 ま っ て い た。
わたしのお仕事は別会計なんだからいいじゃん
!
﹂
﹁耳がいてぇ⋮⋮﹂
ど
﹁むしろ心配なのはアナタがどれだけ周りに被害を与えるかなんだけ
次に会ったら何が何でも消滅させるから心配すんな﹂
﹁ああ⋮⋮どうにも、向こうで撃退した奴が俺を追ってきたらしい。
?
1299
?
女神のお仕事は自分でやりなさいよ
だから
!
ノワールに言われたくないよ
﹁もー
!
!
!
?
﹂
お茶とお菓子用意するからそれまで
そうしないための女神会議︵プラスα︶だ。
﹁はいはいはーい、そこまで
﹂
﹂
?
い﹂
無いって言うの
﹂
武器を奪われないようにすればいいだけじゃな
﹁じゃあ、霧を剥がさずにそのまま倒すっていうには素手で倒すしか
る。そいつを引剥さないことには話が始まらないんだよ﹂
﹁ブランの言う通りだがアイツは魔法や射撃を無効化する霧を纏って
わ⋮⋮魔法や遠距離攻撃じゃダメなの
﹁それに対抗できる策が、素手での殴り合いというのもどうかと思う
﹁武器を奪う、というのは厄介ですわね﹂
る。
ひとまず、エヌラスが現在確認できている邪神の簡単な説明を始め
の地雷を踏みに行こうとはしない。
不機嫌のままなのが約一名。触らぬ話題に爆破なし。誰もブラン
﹁ちっ⋮⋮﹂
敵視するだけ無駄だったみたい﹂
があって、それでいて気遣いも出来るユウコさんは良い人ですわね。
﹁是非、ベルちゃんでお願いいたしますわ。ふふ、胸が大きくて包容力
﹁呼び方は、ベールさんかベルちゃん。どっちがいい
﹁はい
おとなしく待っててねみんな。ところでベール、さん
!
﹁手馴れていますわね。⋮⋮まぁ、良い香りの紅茶ですわ。きっと良
クッキーを焼き上げていると言って再びキッチンへ戻っていった。
な 芳 香 な 匂 い。キ ッ チ ン か ら 出 て き た ユ ウ コ が お 茶 を 並 べ て い き、
うーん、と唸っている女神たちの鼻をくすぐる焼きたての菓子独特
﹁それは非常に厄介ですわね⋮⋮﹂
が手にしたその瞬間から立派な凶器になるんだよ﹂
〟ってことなんだ。そこらの棒きれだろうが空き缶だろうが、アイツ
﹁俺の言い方がマズかったな。正確には〝なんでも武器にしてしまう
?
これ、ユノスダスで売ってるやつじゃねぇか。アイツ勝
い茶葉を使っているのですわね﹂
﹁⋮⋮ん
?
1300
?
?
?
﹂
手に持ってきやがったな
﹁飲んで分かるの
﹁あら
﹂
﹂
プラネテューヌは論外。かといって人気のない場
なにか不満がありますの、ノワール﹂
﹁それはどうかしらね﹂
てもすぐに対応できますもの﹂
﹁ええ。四方が海に囲まれておりますし、もしその邪神が現れたとし
﹁リーンボックスは⋮⋮ベールの治めてる国か﹂
﹁それでしたら。リーンボックスはいかがかしら﹂
所でも環境破壊待ったなし、そうなるともう、海ぐらいしかないだろ﹂
﹁どこで撃てと
ほど。それも大規模で。早々撃っていいものではない。
める、という魔術ではあるがその威力と言えば放った跡に焼土が残る
る無限の魔力を魔術回路に直結して生成される結界に相手を封じ込
して必滅の昇華呪法。第二の心臓である銀鍵守護器官から生成され
〝無限熱量〟シャイニング・インパクト││エヌラスが持つ必殺に
﹁そりゃそうだが﹂
ぬんじゃないの
﹁というか、エヌラス。アナタがシャイニング・インパクトを撃てば死
当面の目的は邪神をどうするか、だ。
もな﹂
﹁そりゃあな。毎回出されてりゃ味も覚える。俺みたいな味覚音痴で
?
ンボックスには武器がごまんとあるじゃない。それを利用されたら
どうするのよ﹂
﹁あら。わたくしとしたことが、失念していましたわ⋮⋮﹂
かといってラステイションでも以下同文。
ならば、魔法文化が発展しているルウィーならどうか
ネテューヌしか残されていない。
小さい子だって沢山いる。論外だ。そうなるともう、消去法でプラ
ないといけないのよ﹂
﹁冗談じゃないわ。そんな危険な相手、どうしてルウィーに連れてこ
?
1301
?
?
?
﹁地形を活かすなら確かに、一番適しているかもしれないけど。リー
?
な ん て っ
﹁ふ っ ふ ー ん。困 っ た 時 の た め の プ ラ ネ テ ュ ー ヌ だ よ
﹂
﹂
﹂
たって、わたしの国なんだから話の中心になるのは当然
﹁えっ
﹂
﹁そうね。ネプテューヌなら何とかしてくれるみたいだし
﹁ねぷっ
﹂
!
お願いしますわ﹂
異議あり
﹃さんせーい﹄
﹁待ったー
異議ありだよ
﹂
確かにそう言ったけど
!
プラネテューヌは極力壊さないでほしいなぁ
!
くわえた。
﹁悪い、ちょっと吸ってくる﹂
シェアは少しだけど上がってるし﹂
﹁わたしはそういうの気にしてないけどなー。現にプラネテューヌの
がついて回るんじゃないかって﹂
﹁そうじゃなくて。タバコの臭いが移ったら色々と困るのよ、変な噂
いう感じがして良いではありませんか﹂
﹁あら、そうかしら。わたくしは良いと思いますわよ。大人の男性、と
﹁⋮⋮エヌラス、タバコ吸うようになったのね。ちょっと残念だわ﹂
持しながら横切る。
バルコニーへと向かうエヌラスは、右手ではなく左手でタバコを保
みたいなもんだ﹂
﹁そんじょそこいらで売ってるタバコなんて、コイツに比べたら香水
﹁タバコは身体に悪いですわよ
﹂
震えている。席を立ち、コートからドラッグシガーを取り出して口に
エヌラスがふと、挙手していた右手に視線を落とすと、僅かにだが
もいかないようだ。
満場一致で丸く収まるかにみえた女神会議だったが、どうやらそう
!
!
﹁ではプラネテューヌで邪神を迎撃、という形でよろしい方は挙手を
﹁ど、どういうことだってばよ⋮⋮
﹁後でイストワールにしこたま説教される姿が目に浮かぶわ⋮⋮﹂
!?
?
﹁んじゃあ思いっきりぶっ壊すか﹂
!
?
1302
!
!?
﹁それ、多分アナタがまじめに仕事してるからじゃないかしら⋮⋮﹂
普段の行いから考えれば、当然とも言えた。
﹁ノワールは考えすぎですわ。古今東西、美しい者に惹かれて異性が
集まるのは当然のこと。女神であるわたくし達が異性の一人や二人
││﹂
﹁今まで、いたかしらね⋮⋮﹂
﹁言われてみれば縁が無かったような⋮⋮﹂
﹁うんうん。このシリーズ女の子がメインだし﹂
﹁⋮⋮﹂
││そこで、四女神の間に緊張感が走る。そう。考えてもみれば女
神生活の中で異性と遊ぶという経験があまりにも少なかった。役職
上、国の統治に追われて恋にうつつを抜かしている暇すら無い。まし
てや国民と関係を持てばそれはもうスキャンダル報道待ったなし、引
いてはシェアの低下に繋がる為に恋愛禁止とまで暗黙の了承とさえ
﹂
?
だけではないことを││。
ずどーん。
﹂
突如、教会を揺らす衝撃にネプテューヌ達が何事かと立ち上がる。
﹁今の音はなに
﹂
1303
されていた、かはともかくとして。
とにかく。絶望的なまでに男性とお近づきになれたことさえない。
それに一番危機感を覚えたのがベールだった。次にノワール、ブラン
と続いて勝ち誇った顔のネプテューヌ。この時点では一番乗りで乗
り越えたと言っても過言ではない勝者の余裕に、三人が悔しそうにし
ている。
﹁⋮⋮これは、邪神以上に由々しき事態ですわね﹂
﹁考えてみれば、私もエヌラスとの関係はリセットされてるわけだし﹂
どややぁ
﹁よりによってネプテューヌがと考えるだけで悔しいわね﹂
﹂
﹁ふっふーん、どやぁ
﹁クソが⋮⋮
?
しかし、忘れてはならない。彼女たちのライバルはその場にいる者
!
﹁バルコニーの方から聞こえてきましたわ
!
!?
﹂
﹁確か、エヌラスがタバコを吸いに行ってなかったかしら
しょ
四人が急いで駆けつけたそこには⋮⋮。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
合掌。潰れたエヌラスがいた。
ぴぃ、大丈夫
﹂
﹂
﹂
急ぎま
?
﹁あはは∼。落ちちゃったぁ∼、ピーシェちゃん。だいじょうぶ∼
﹁うん
ピィもう一回とびたい
!
ている。
﹁ぷるるん
﹂
た口調で座っている少女のお尻に潰されるようにして仰向けに倒れ
足元で潰れている相手を無視してほんわかのんびりほわほわとし
﹁危ないからだめぇ∼﹂
﹁ぷるると
﹁怪我しなくて本当によかったよぉ∼﹂
!
﹂
久しぶりー
!
た。
出会い頭に、カンガルーパンチがネプテューヌをノックアウトし
!
﹁わーい、ねぷてぬだ
﹂
﹁ピィ子まで
﹁どーん
﹂
﹂
﹁あ∼。ねぷちゃんだぁ∼。やっほ∼、久しぶりだねぇ﹂
!?
﹁ねっぷぁっ
!
!?
!
1304
!
?
!
!
エ ピ ソ ー ド 4 3 終 わ ら ぬ 路 の 果 て な き 路 の 最 果 て
の地
ピーシェはネプテューヌとの再会に浮足立って全身で喜んでいる。
倒れた身体にのしかかると、ぐりぐりと頭を擦りつけていた。
﹁あぁ∼、ピーシェちゃんだめだよぉ∼。ねぷちゃんが潰れちゃう∼﹂
﹂
﹁⋮⋮その、前に⋮⋮俺が、潰れてるんだが⋮⋮⋮⋮﹂
﹁
言われて、ようやく自分が下敷きにしている相手に気づいたのかプ
ルルートが怪訝な表情をしながら自分の足元に視線を向ける。エヌ
ラスの視界にはプルルートのパンツが一杯に映っていた。一刻も早
くこの状況を打開してもらいたいのだが、相手は不思議そうに顔を赤
らめている。
﹁ええっとぉ∼⋮⋮﹂
﹁お願いだから、はやくそこを退いてくれないか⋮⋮﹂
﹁えっとぉ、あたしぃ、困っちゃうなぁ∼﹂
﹂
ネプテューヌが撃沈し、エヌラスは潰され、混沌とした状況のバル
クッキー焼き上がったよ
コニーに顔を覗かせるのはユウコだった。
﹁あれ。みんなどうしたの
?
ヌラスは首を慣らしていた。
プルルートなりに力になりたい、と思っているらしい。しかし、エ
∼﹂
﹁だぁってぇ、ねぷちゃん達が困ってるの∼放っておけないんだもん
らびっくりしたよ﹂
﹁でもどうしたの、ぷるるん。コッチに来るーなんて突然言われたか
﹁え、えぇ。久しぶりね、プルルート⋮⋮﹂
﹁え∼っと、みんなぁ久しぶりぃ﹂
いる。
どうやら先程の騒ぎを聞いていなかったようで、不思議そうにして
?
1305
?
﹁大丈夫
エヌラス﹂
﹁首の骨が折れるかと思った⋮⋮﹂
﹁今更一本や二本グチグチ言わないの﹂
﹁いや、首は一箇所しかないんだが﹂
流 石 に 少 女 二 人 分 の 体 重 を 受 け て 無 事 な 程 頑 丈 な 骨 格 で も な い。
正直な話、邪神との戦い以前に空から落ちてくる二人を受け止めて死
亡ではいたたまれない。
﹁くだらん理由で死ぬところだった﹂
エヌラスが首を慣らしつつ、銀鍵守護器官で損傷箇所を修復。邪神
との戦いが続いていたせいで、自分の身体を修復する時は機械的な挙
動で再生にとりかかってしまう癖がついてしまった。頭の奥の冷静
な場所がコンディションを最高の状態を維持する。そのせいで睡眠
を摂るのですら一苦労だ。
プルルートはネプテューヌと会うのは久しぶりなのか、嬉しそうに
ニコニコと笑いながら手を叩いている。お互い同じプラネテューヌ
の 守 護 女 神 と あ っ て だ け か 息 は ぴ っ た り だ。も う 一 人 │ │ ネ プ
﹂
テューヌがピィ子と呼んだ幼女はユウコの作ったクッキーを食べて
﹂
目を輝かせている。
﹁これ、おいしい
嬉しいなぁ、ピィちゃん。ジュース飲む
﹁そーお
?
!
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮え∼
﹂
﹁〝プルルート〟﹂
〝あくまでも期待せずに〟声をかけた。
の方に視線が自然と向いている。
してか年下相手には好まれていた。エヌラスはと言うとプルルート
子供の相手となると、持ち前の包容力というか面倒見の良さが幸い
﹂
﹁のむー
?
声を掛けられて、プルルートは困っている。それにネプテューヌは
思い出したように肩を寄せた。
1306
?
!
﹁えっとぉ⋮⋮﹂
?
﹁ほら、ぷるるん。覚えてない
﹂
ただ、あいつは携帯持ってないからな﹂
悪く、ないん
!
い子に甘いんだから
なってきた﹂
って、うぅ、言ってて悲しく
なんだかんだ言って、ちっちゃ
!
よしよし﹂
わたしとか
﹁え∼、ねぷちゃん大丈夫∼
!
でちゃんと謝れば許してくれるよ
﹁ま、まぁぷるるん。別にエヌラスは怒ってるわけじゃないんだし、後
﹁う∼ん⋮⋮下敷きにしたのは、謝りたかったのにぃ∼﹂
する言葉だ。禁句と言ってもいい。それはロリコンと同じくして。
から聞かされる﹁初めまして﹂は、エヌラスにとっては何よりも忌避
て、それはまるで呪詛のように耳に染み付いている。見知っている顔
セット〟を繰り返して〝コンティニュー〟してきたエヌラスにとっ
決して。プルルートが悪いわけではない、だがそれでも││〝リ
だけど⋮⋮どうしたんだろ﹂
﹁あ、うぅん。別にぷるるんが悪いわけじゃないんだ
﹁⋮⋮ねぷちゃん∼、あたし、悪いことしたかなぁ⋮⋮﹂
た。
そう言うと、一切の言葉を拒絶するようにエヌラスは部屋を後にし
いだろ
﹁アーサーを探してくる。アイツの事もお前らに紹介しないといけな
﹁エヌラス、どこに行くのよ﹂
向ける。
手短に自己紹介を済ませると、エヌラスはコートを翻しながら背を
だ、よろしくな﹂
﹁〝初めまして〟は、聞き飽きてる。悪いな、プルルート。エヌラス
﹁ごめんねぇ⋮⋮、えっと││はじめ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁え∼っとぉ⋮⋮んっとぉ⋮⋮う∼ん⋮⋮﹂
?
どう
﹂
いつものわたし、参上だよー
?
する。
ありがとー、ピィ子
﹂
!
﹁ねぷてぬ、いたいのいたいのとんでけー
﹁うん
!
!
プルルートがネプテューヌの頭を撫でると、ピーシェもそれを真似
?
!
1307
?
!
﹂
﹁ほらー、ぴぃちゃん。美味しいクッキーあるよー﹂
﹁たべるー
すっかりピーシェはユウコに餌付けされてしまったようだ。
││そして、誰も知らない。今この時からゲイムギョウ界地上最強
の爆裂コンビが誕生したことを。
エ ヌ ラ ス は プ ラ ネ テ ュ ー ヌ を 歩 い て い た。我 な が ら 下 手 な 嘘 を
言ったと思っている。ミリオンアーサーを他の女神たちに紹介した
いだなんてよくもまぁ平然と嘘を言えるものだと。
そこまで気が回せるほど、自分は器用ではないことを他でもない自
分が知っている。
⋮⋮そうか。ならば、俺の名は││﹄
││そうか。〝初めまして〟だな。我が名は││﹄
﹃そうか、君の名前はエヌラスか││〝初めまして〟、ボクは││﹄
﹃お前の名は
﹃お前は一体何者だ
きドラッグシガーをストレス解消などと魔術師ならば精神剥離でど
悪い癖だ。本来ならば右腕の魔術回路と神経接続の補助に使うべ
︵ああ、クソが⋮⋮︶
嗅ぎ慣れない匂いに鼻を鳴らしながら振り返っている。
スパンで二本目のドラッグシガーを吸い始めた。道行く人々の顔が
を見合わせただけで記憶が戻れば苦労しない。内心、苛立ちながら短
リセットから記憶を取り戻すためには何か刺激が必要だ。一目顔
わかっている。知っている。
エヌラスは知らず知らずの内に、タバコに手を伸ばしていた。
えたかった。それでも次元神の決定は覆らない。
の先に待ち受けている運命すらも知っている。そして、その結末を変
俺は〝お前達以上にお前達を知っている〟のだから││きっと、こ
お前は大魔導師││。
お前はアルシュベイト。
お前はバルド・ギア。
知っている、知っているとも。知り尽くしているとも││││。
?
?
うにでもなる初歩中の初歩で使用している。なにが感情を理性で制
1308
!
御するのが魔術師の基本だ。今でも自分はどこか感情任せに生きて
いた。
空を見上げる。腹立たしいほどの快晴││エヌラスは紫煙を吐き
出す。柑橘の匂いにしたのを今だけは後悔していた。嫌でも思い出
される光景の数々に、タバコの味が段々と苦味を増してくる。
︵ああ、嫌だねぇ。無駄に年は食いたくないものだ︶
気晴らしにどこかへフラリと足を伸ばそうか思って、携帯灰皿にタ
ゲイム
バコを落とし込もうと視線を下に下げた││その時。
﹂
﹁││〝遊戯〟再開だ﹂
﹁ッ
エヌラスが慌てて顔を上げて周囲を見渡す。だが、そこに声の主は
︶
い な い。背 後 を 振 り 返 る。し か し や は り、そ こ に 声 の 主 は い な か っ
た。
︵今のは││
いや、今のはアイツの声じゃない。だったら誰だ、今
﹂
!
街並みを見るというのは旅行の醍醐味でもある。だがなによりも王
ていた。自分の見知っているブリテンとは違い、科学技術の発展した
ミリオンアーサーとチーカマの二人は、プラネテューヌを見て回っ
⋮⋮ことは数分ほど前に遡る。
直な話、不謹慎ではあるが邪神だったら大歓迎だ。
る。誰でもいいからぶちのめしてやりたい気分で一杯だった││正
エヌラスの足は、既に駆け出している。今はむしゃくしゃしてい
﹁向こうの方角か
テューヌ市民の悲鳴が聞こえてくるのは同時だった。
嫌な予感がする││エヌラスが背筋に悪寒を感じるのと、プラネ
のは︶
︵セロン⋮⋮
と自分の第六感が訴えている。
は、初めて聞いたはずだ。だが、どうしてかそれが不吉を招くものだ
テューヌの市民たちは不思議そうにしていた。エヌラスが聞いた声
ハッキリと聞こえた声に、血眼で周囲を探す。だが、やはりプラネ
!
?
1309
!?
を目指しているアーサーからしてみれば自分がいずれ作るであろう
国の基盤としての学習も含まれていた。とはいえ、結局は技術の差か
ら違いも生じるだろう。
しかし不思議な事に、プラネテューヌですれ違う人々は揃って笑顔
だった。
﹁ふむ。実に充実した時間だな﹂
﹁ええそうね。アーサーがわたしのことを無視してガンガン進んでい
かなければ﹂
さ っ き 新 作 ク レ ー プ を 見 か け て 全 力 で 人 を お い て
﹁何を言っている、チーカマ。これでもわたしは気遣っているのだぞ
﹂
﹁ほ ん と う に
行ったの誰だったかしら﹂
﹁あ、あー⋮⋮あはは。それは、それだ﹂
誤魔化すように笑うアーサーの耳が、どうしてかその音を聞き取っ
﹂
てしまう。││カチャリ、と鎧の金属同士が擦れる微かな音。
﹁││この音は﹂
﹂
!
﹄
!
この猛獣はわたしが引きつける
!
!
サーは聖剣を抜き放ちながら車道に飛び出している。
﹁皆の者は逃げよ
﹂
唸る。獲物は誰かと辺りをめまぐるしく見渡している中に、アー
﹃Urr⋮⋮
ウゥゥ
﹁こやつは⋮⋮
いる。通行途中の車がハンドルを切って歩道に突っ込んでいた。
に四つん這いになりながら着地すると、それだけで地面がひび割れて
飛び降りているのは、人型の影が落ちていた。アスファルトの地面
て空を見上げる。
せながら音の発生源を辿るが、それはすぐに上空からだと見当がつい
それは、まるで野獣の咆哮。雄叫びに近いものだった。大気を震わ
﹄
﹂
﹁どうしたのよ、アーサー
﹁チーカマ、隠れていろ
﹂
!
﹃Arrrrrr││││
﹁えっ
?
!!!!
!
1310
?
?
﹁アーサー
﹂
﹁案ずるな、チーカマ。このようなものに遅れは取らぬ││﹂
﹄
そこで、ゾッと背筋を駆け上がる粘着くような悪寒が走った。
﹃⋮⋮Ar⋮⋮
﹁⋮⋮なんだ﹂
サァァ
﹄
!
たのだろうか。
アァァァァ
サァァァァ
﹃Arrrrrthurッ
﹄
それを受け止めるアーサーの聖剣エクスカリバーと、衝突する金属
遮二無二、一切の策もない。まるで猪武者のような猛突進。
!!!!
果 た し て │ │ 〝 終わらぬ怨嗟の声 〟 は ど の よ う な 路 を 目 指 し て い
ロ ー ド・オ ブ・イ ン フ ィ ニ テ ィ
地獄の底から手を伸ばす声、地を這うような怨念。
﹃││Ar⋮⋮Thur⋮⋮ッ
アァ
姿とは裏腹に、今は照準を定めた銃のように視線で射抜いていた。
程まで誰が敵か分からずに手当たり次第に襲いかかろうとしていた
邪神の視線がアーサーひとりに向けられていることに気づく。先
!?
音││戦闘の火蓋は切って落とされた。
1311
!
エピソード44 ハチャメチャに押し寄せてくる
無手の格闘。剣撃で応じる。剣道三倍段という言葉があるが、この
狂戦士じみた邪神にしてその段ですら意味は成さない。切っ先を甲
手で受けて、流す。返し刃が翻るよりも先に拳を伸ばすがアーサーは
その脇を抜けるように身を屈めている。すれ違いざまに避けて、カー
ドを取り出した。
アーサーの魔法剣が準備を整えるよりも先に邪神は既に自らの得
﹂
物を手にしている。
﹁なに
それは下水道への道を塞いでいたマンホールの蓋だった。力任せ
に引き剥がしたそれを、バックラーに見立てて魔法剣を受け止める。
表面が軽く溶解したそれを、今度はフリスビーのように投げた。一瞬
だけ背後に気を配ると、まだ避難途中の市民がいる。アーサーはマン
ホールの蓋を受け止め、歯噛みした。衝撃で痺れる手を振り払うと、
今度はエクスカリバーで拳を防ぐ。
﹁くっ⋮⋮﹂
人々が逃げるまでの時間を稼がなければ││剣を構え直す。邪神
﹄
の手が伸びる先には、街灯。
﹃Aaaaaa
﹁││お主は﹂
ている〟ことでもあった。
剣の間合いを把握した立ち回り││それはエクスカリバーを〝知っ
硬い感触、アーサーはその突きが浅手である手応えに悪寒が走る。
払って邪神の胸部に鋭い突きを食らわせた。
に手に馴染んだ聖剣ではない証明に、アーサーは街灯を横から打ち
を削るというのは悪夢でしかない。しかし、多芸は無芸と言う。伊達
アーサーを選定してきた王の聖剣、エクスカリバーがただの街灯と鎬
う い う こ と だ っ た の か と ア ー サ ー は 身 を 持 っ て 理 解 し た。数 多 の
ねじ切り、長槍の如く先端を構える。エヌラスが言っていたのはこ
!!
1312
!?
素早く剣を引いて、距離を取る。一度や二度、戦っただけで剣の間
ア ー サ ー は 記 憶 を 巡 る
合いを指し図るだけではなくそれに準じた動き。〝敵はこの剣を以
前から知っている〟かのように。
﹄
﹁⋮⋮もしや、私を知っているのか﹂
﹂
﹃││Ar⋮⋮Thur
﹁やはり││
お 前 は 一 体 何 者 な の だ
﹂
私の知人に邪神などはおらぬぞ 並み居
が、そこにはやはり該当する者はいなかった。
﹁だが、貴様は何者だ
﹄
るアーサーの中にもいなかった
﹃Gaaaaa
狂 犬 め
﹂
私 以 外 の ア ー
!
人違いではないのか
﹁え え い、私 に 分 か る 言 葉 で 喋 ら ん か
!
サーなど五万どころか百万人いるぞ
!?
!
だ が、誰 だ
!
!
︵これは、まずいか
︶
カリバーが跳ね上げられた。
その動きに石突を入れ替えるように下段から振り上げると、エクス
込めない。
ける、攻めこむ暇も与えない怒涛の攻勢に加えて自分のリーチに持ち
心部を持って回転させて動きを読ませずにしながら突き出した。避
しかし相手は聞く耳を持たずにアーサーへと街灯を振り回す。中
!
!
!!
﹂
身体を叩きつけられる。
﹁くァ⋮⋮ッ
!!
﹁アーサー
﹂
するが、強かに打ち付けた身体が思うように動かない。
逆手に持ち上げた街灯を投げつけようとする邪神から逃れようと
﹃Ar││Thurrrrr⋮⋮ッ
﹄
踏み込み、横殴りの衝撃にアーサーの身体が吹き飛ばされて軒先に
!
1313
?
!
?
!?
チーカマが叫ぶ、そこに助けに行く人影はなかった。だが││、代
!?
わりに横から差し出されるのはレジ袋。中には駄菓子が山程入って
﹂
いる。
﹁え
?
︾
︽持っててくれるっすか
﹂
なっていた。
﹁お主は
︽国境警備隊、レオルドっす
理由はともかく、助太刀します
﹄
﹂
︾
かたじけない、私はミリオンアーサー。アーサーとでもミ
﹃Grrrrr⋮⋮
リアサとでも呼ぶが良い
﹁うむ
!
!
る。
!!
﹂
!
﹂
!
﹁エヌラス
助けに来てくれたのか
﹂
プラネテューヌ市民は全力で逃げ出した。
﹁テメェ等、後でしばき倒すから逃げんなよ﹂
﹁まさに性癖の英雄⋮⋮
﹁ビニ本を白昼堂々と女性スタッフに差し出した、勇者だ﹂
﹁間違いない。黒衣の英雄だ⋮⋮﹂
﹁あ、あれは⋮⋮
ヌ市民が立ち止まる。
翻しながら着地するその青年に、避難しようとしていたプラネテュー
紫電を纏わせた強力な踵落としを防ぎ、弾き返した。黒衣の外套を
﹁ア、ク、セ、ル・インッパクトォ
﹂
派手に転がりながら受け身を取って態勢を整える邪神に影が降り
いた。
に呆気に取られているのも束の間、そこには無人のバイクが停まって
獣のように唸る邪神の身体が、突如横殴りに吹き飛ばされる。それ
!!
!
た
プラネテューヌにはパシリで来まし
配 が 消 え て い く。地 面 を 転 が る 頃 に は た だ の ね じ 切 ら れ た 街 灯 と
て軌道を逸らされた。アーサーの横に突き立つ街灯からどす黒い気
邪神の手から投げ放たれた槍は、レオルドのジャンプキックによっ
ジングシステムを起動させる。
出して機体を走らせた。その背中には武装の数々を背負ってチャー
大腿部に装着されているスラスターがバーニア炎を勢い良く吹き
﹂
﹁あ、うん⋮⋮あなたは
!
!
!
1314
?
?
!
!
︽エヌラスさん
︾
アーサーだけじゃなくてレオルドもいるのか。どうしたん
︾
!
﹁あ、おい
﹂
︽素手なんて無茶っす
︾
は拳の骨を鳴らす。邪神を睨みつけながら歩み寄る。
エヌラスの影の中へとハンティングホラーが収納されて、エヌラス
うとプラネテューヌの平和を脅かすなら容赦はしないっすよ
︽話には聞いていたっすけど⋮⋮禍々しいっすね⋮⋮だが、誰であろ
回頼まれた品々が軽いものだけだったからだ。
今回は北方第一線部隊での小規模演習。武装もそのままなのは、今
﹁ご苦労なこって﹂
︽今日もパシリっす︾
だ、今日は﹂
﹁あん
!
右腕の回路に注ぎ込む。
﹄
﹁イライラしてたんだ、テメェちょっとばかし殴らせろぉ
﹃Aaaaaaa
!!
い
﹂
﹁ねぷっ
言っているそばから出てくるなんてフラグ回収早すぎな
が出現したとの通報が﹂
﹁みなさん、緊急事態が発生しました。プラネテューヌの街中に邪神
だ。
この苛立ちをぶつけることの出来る相手がいる、というのが大事
とって重要ではない。
当然、殴った側もただでは済まないがそんなことは今、エヌラスに
邪神の面頬に思い切り拳を叩きつけると、騎士甲冑が宙を飛んだ。
!!!
﹂
邪神の拳を受け止めて、殴り返した。銀鍵守護器官の出力を上げて
うもなくむしゃくしゃしている。
無茶だと言われて、エヌラスは人知れず笑っていた。今はどうしよ
!
!
!?
﹁ええ。タイミングが悪かったですわね﹂
1315
?
﹁そんなこと言っている場合じゃないでしょ。ほら行くわよ﹂
!?
﹁よりによって四人が集まっている時に出てくるなんてね⋮⋮﹂
教会に入った通報によってネプテューヌ達は女神化するなりバル
コニーから飛び立っていく。その後姿をピーシェとプルルート、ユウ
コとイストワールが見送る。
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ぷるると
﹁う∼ん⋮⋮なんだろ∼⋮⋮胸のあたりがぁ、モヤモヤするんだぁ∼﹂
ユウコは既に飲みかけのジュースやクッキーの片付けに入ってい
胸焼け
﹂
た。しっかり小分けにして持って帰れるように準備だけはしておく。
﹁プルちゃん、大丈夫
?
﹁⋮⋮
﹂
横からそっと覗きこむ。
﹁すぅ⋮⋮﹂
﹂
﹁あらら、寝ちゃってる﹂
﹁ぷるると、お昼寝
?
﹂
﹁そうみたい。ピィちゃんはどうする
﹁ピィ、遊びたい
﹂
首を傾げて悩んでいる内に、プルルートが押し黙ってしまった。
﹁そうじゃないけどぉ∼⋮⋮う∼ん、う∼∼ん⋮⋮﹂
?
﹁うん
﹂
しっかりとベッドに運んでシーツを掛けてから、ユウコはピーシェ
と二人で遊び始めた。
パープルハート達がプラネテューヌの上空を飛び、連絡のあった場
所に向けて高度を下げていく。そこにはアイエフが携帯を片手に他
﹂
の諜報部と情報を交換しながら待機していた。
﹁あいちゃん
﹂
こっちよ。市民の避難誘導は済んでるみたい﹂
﹁今はどうなってるの
﹁ネプ子
!
﹁そうね。被害はまだ少ないわ。ミリアサが避難するまでの時間を稼
?
!
1316
?
﹁そっか。じゃあプルちゃん起こさないように、向こうで遊ぼっか﹂
!
?
?
!
いでくれたみたいよ。それに、偶然買い物に来ていた国境警備隊が一
名、加勢してくれてるわ﹂
﹁なら、さっさと片付けてしまいましょう﹂
﹁気をつけなさいよ。ああ、それと││エヌラスも戦ってるわ﹂
﹂
その言葉に、ホワイトハートとグリーンハートの顔が渋る。
﹂
﹁⋮⋮あの方も、ご一緒ですの
﹁なにか問題が
﹁いくわよ、みんな﹂
ば。四女神は顔を見合わせて、頷いた。
これ以上街の被害が拡大する前に、一刻も早く邪神を撃退しなけれ
﹁一体エヌラス、どれだけやらかしたのよ⋮⋮﹂
﹁ええ⋮⋮気乗りはしませんが﹂
﹁ま、まぁ今はそうも言ってらんねぇ。行くぞ、ベール﹂
?
パープルハートを先頭に、四人が現場へと急行する。
1317
?
エピソード45 不可視の霧
邪神が現れたという場所へ到着した四人が見たものは││、形容し
がたい喧嘩のようなどつき合いだった。だがそれは喧嘩と呼ぶには
あまりに完成された武術による攻防の応酬。コートの裾を翻して、目
眩ましの後ろから回し蹴りが邪神の頭部を横から蹴りこむ。そこへ、
レオルドが飛び蹴りで更に吹き飛ばすと邪神が道路を派手に転がっ
ていった。それを援護と見るか妨害と見るかだが、エヌラスにとって
は後者。舌打ちを漏らす。
﹁なんだよ、いいとこだったのに﹂
オーケーか
﹂
俺はイライラしてんの
援護に来たわよ﹂
アイツ殴
︽いや、確かにそうっすけど⋮⋮あれ、あんまり効いてないみたいっす
︾
︾
!
よ
俺、スッキリ
﹁エヌラス
︽えっ
﹁全員並ぶと壮観だな﹂
!
る。
︽ヒ、ヒィエエエエエエッ
︾
どうしたのよ、レオルド﹂
︽ア、アババ。も、もしかして一緒に戦うんですか
︾
﹁まぁいいか。仕方ねぇ。さっさとあの野郎片付けるか﹂
﹁
!?
?
お、俺にはそんなの恐れ多くて絶対無理です
﹁ええ、そのつもりよ﹂
︽む││無理です
!?
︾
!?
ワタワタと手を振るレオルドを見て﹁ああ。そういえばコイツは
わかったもんじゃないんすよ
パープルハート様と一緒に肩を並べるなんて、帰ったら何されるか
!
レオルドが固まり、集合する四女神の顔ぶれを見るなり悲鳴を挙げ
?
1318
﹁知ってんだよそんなこたぁ
る
︾
!?
というよりも余裕しゃくしゃくといった様子だった。
︽なんで片言っすか
!? !
!
?
!
?
これしかないです
別に悪気はないんで
︾
!!! !
﹁ちっ⋮⋮いや、別にカツアゲする気はねぇよ﹂
︽ほ、ホントっすか⋮⋮︾
﹁スクラップになりたきゃ話は別だがな﹂
︾
︾
ハァドラインの手のものだったな﹂と他人事のように思い出してい
﹂
た。だが今はそんなことを言っている場合ではない。
﹂
﹁なら、私達と一緒に戦うのは出来ないの
︽あ、他の女神様なら別に⋮⋮︾
勘弁して下さい
﹂
ホワイトハートさん小さいのに怖いっす
﹁別にってどういう意味だテメェ
す
︽ぎゃあああああごめんなさいごめんなさい
﹁誰 の 何 が 小 さ いって言ったぁぁぁっ
︽ヒィ、怖い
?
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
?
Gaaaa││
!!!
がら威嚇しているまで。
﹃Urrr⋮⋮
﹄
冗談を言っていられるのも、邪神が増えた顔ぶれに唸り声をあげな
な気分なだけですわ﹂
﹁あ、いえ。特別扱いされるのがネプテューヌ、というのは中々に新鮮
﹁どうかしたの、ベール
﹂
︽あ、はい。よろしくです、グリーンハートさん︾
﹁まぁ、手伝ってくださるのならありがたいですわ﹂
Mというのも大したことはなさそうだ。
ハートが頬に手を当てながら吐息を漏らす。噂に聞いていたB2A
ガタガタ震えながらエヌラスの背中に隠れるレオルドに、グリーン
︽ぴぎぃ⋮⋮
!
!!
チャリーン︵レオルドの財布から小銭が落ちる音︶
!
!
!
!?
﹁知るかよ。おい、レオルド
﹂
?
アーサーを守りながら守護女神を援
﹁こやつ││なぜ私だけを狙うのだ
だが、その視線が向くのは、ミリオンアーサーただ一人だった。
スが割れる。放たれるプレッシャーも他のモンスターの比ではない。
胸が張り裂けんばかりの咆哮。その雄叫びで路面がヒビ割れ、ガラ
!!
!
1319
!
護、出来るな
﹂
︾
自 信 を 持 て
ア ー
大丈夫っす むしろ俺みたいな弱小万年戦績最下位
﹁うむ。私を誰だと思っている﹂
サー、俺とレオルドで守る。魔法で支援できるな﹂
﹁自 分 を そ こ ま で 卑 下 し な く て も い い ぞ
ドベ太郎には相応しい仕事です
!
﹁どわ
﹂
﹂
大丈夫か、ベール﹂
﹁きゃあっ
与えようとしていたホワイトハートにぶつけられる。
上げた。グリーンハートが長槍ごと投げられて上空から重い一撃を
うにしながら寸でのところで避けると柄を握りしめて思い切り振り
す。着地の隙を狙ったグリーンハートの刺突。それを、全身を捻るよ
しかし、片手で刃を掴みとると宙に飛んで二人を同時に蹴り飛ば
た。
食が始まるが、それを横からパープルハートががら空きの胴体を狙っ
振り上げた大剣を、白刃取りで受け止める。手の触れた部分から侵
﹁ハァァァッ
パープルハート達は邪神へと迫っている。一番手はノワール。
エヌラスが引腰のレオルドに喝を入れながら指示を出す間に、既に
!?
︽あ、はい
!
!
それは、猛獣のように怒り狂ったわけでもなく、激戦の中で鍛え上
げられた確かな〝技〟だった。多勢に無勢。それはまるで数多の戰
場を駆け抜けてきたかのような。
決闘のように一対一で競う勝負よりも、一対複数。そちらの方が邪
私ほどじゃないけれど、ね
神にとって都合の良い状況であるかのように。
﹁狂ってる割に、中々腕が立つじゃない
﹂
!
を沈み込ませて、振り上げた衝撃波で邪神の身体を吹き飛ばす。その
身体が路駐の車に激突する。ボンネットの上でバク転すると、掌を車
両に当てて構えていた。
1320
!?
!
!
!?
﹁ええ。あの邪神⋮⋮狂ったようにみえて、戦い慣れていますわよ﹂
!
ブラックハートの大剣がアスファルトに突き立てられる。切っ先
!
﹃Grrrr⋮⋮
﹄
﹁嘘、そんなのまで武器にするっていうの
﹂
邪神の手によって汚染されていく車両。運転手がいないはずの鉄
の箱が、エンジン音を鳴らした。それをまるで自らの慣れ親しんだ軍
馬であるかのように走らせ始める。それには堪らず女神達は宙に飛
﹂
んで避けた。だが、飛行能力のないアーサーもレオルドもその場から
││また来るぞ
︾
逃れるので精一杯だった。
︽大丈夫ですか
﹁ああ、問題ない
﹁おまえらアホか﹂
がった。
﹁へっ。バッチリだぜ
﹂
邪神の駆る鉄の軍馬は、即席のジャンプ台によって空高く舞い上
急に止まれない。こと尚更、相手を轢殺しようとする暴走車両は。
投げつけた。その間隔は、ちょうど車両のタイヤが乗る位置││車は
エヌラスが両手に偃月刀を召喚する。そして、角度をつけて道路に
!
﹁シレットスピアー
﹂
﹁32式、エクスブレイド
﹂
大剣を突き刺して地面に向けて串刺しにすると即座に離脱する。
ごと車両を叩き潰す。ひっくり返った腹に向けて、ブラックハートが
全身を使って振り下ろされる戦斧によって、ホワイトハートが邪神
!
!
﹂
!
﹁ああ。間違いなくネガティブエネルギーだ。負の感情、恨みや憎し
﹁⋮⋮あの光、もしかして﹂
赤黒い光が漏れている。それに、パープルハート達が眉を寄せた。
全身を覆っていた霧が晴れ、ヒビ割れていた胸部はそのままなのか
が爆炎の中から飛び出す。
ヴォルケーノダイブによって更に打ち上げられる形となった邪神
﹁オマケよ、持っていきなさい
に向けて、ブラックハートが更に急降下していた。
の剣と槍が次々と突き立てられて車両が爆破。炎上する。黒煙の中
そこへ、パープルハートとグリーンハートの二人から放たれる無数
!
1321
!?
!!
!
!?
みでアイツが動いているんだとしたら相当厄介だぜ﹂
﹃Guu⋮⋮﹄
だが、先ほどの車両の爆発に巻き込まれて痛手を負ったのか無数の
破片によって全身に傷跡がついていた。霧が腫れている今ならば│
│さらに追い込もうとして、異変に気がつく。
晴れたはずの霧が集まっていた。それは全身を覆うようにではな
く、一箇所に集中して。その霧の中へ邪神が手を伸ばす。
左腰に顕現したのは、装飾もなく、ただ機能性のみを求めたかのよ
うな。のっぺらぼうの剣。特徴らしい特徴を持たないそれは、優美さ
﹂
に欠けておりながら人目を惹きつける何かがあった。
﹁アイツ、武器持ってないんじゃねぇのかよ
ホワイトハートの疑問は尤もだが、静かに抜き放たれたその剣に
アーサーは目を疑う。そして、目を凝らして、擦り、やはり眉を寄せ
ている。
﹁⋮⋮なんだ、あの異様な不気味さは﹂
霧に覆われた剣は、その拵えも刃渡りも刀身の厚さも長さも不鮮明
に揺れていた。さしずめ〝インビジブル・ミスト〟といったところか
││邪神が構える。
浅く握り締めた剣は、薄らぼんやりとだがアーサーの持つエクスカ
リバーと似ていた。まるで瓜二つの血を分けた兄弟のように。鏡写
しのように立ちはだかる剣の切っ先は、やはりアーサーをピタリと
狙っている。
﹃││Ar、thur⋮⋮﹄
﹁どうやら、ミリアサちゃんにご執心のようですわね﹂
﹄
﹁だけどここから先は一方通行よ。貴方はここで私達守護女神が倒す
わ﹂
﹃Guuaaaaaッ
た。それを阻もうとするホワイトハートの戦斧を滑りこんで避ける。
地面を叩いて身体を跳ね上げ、振り下ろされるブラックハートの大剣
を避けた邪神の動きは、騎士甲冑を着込んでいるとは思えない軽やか
1322
!?
それが、全て障害であるかと言うように邪神が剣を手にして走っ
!!!
さだった。
1323
サァァァァ
エピソード46 鏡写しの湖面
アァァァ
﹃Arrrthurrrrr││││ッ
﹄
それは、まるで呪詛のように。まるで自らを縛る呪いであるかのよ
うに。狂ったように求め、繰り返す名前。レオルドが背中のグレート
ソードを展開する。邪神の振り下ろす剣と衝突して、恐るべき腕力に
後退った。仮にも標準型の重量とはいえ、それは人間の体重の彼我で
はない。それが押し負けるとあっては先程までの攻撃とは比べ物に
ならない破壊力だ。そこに魔法は一切感じられない。それは詰まる
ところ、この邪神の本領でもあった。
弾かれるように互いの剣が離れる。重量で叩き潰すグレートソー
ドよりも、邪神の持つ剣は軽やかに曲線を描きながらレオルドの関節
滅茶苦茶やべぇですよ
︾
部を狙った。しかし大腿部のスラスターを逆噴射させて後ろに下が
何なんですか、コイツ
ると、僅かに切っ先が掠めるだけに留まる。
︽あっぶなっ
!
るなり首元目掛けて鋭い突きを繰り出した。だがそれを阻むように
エヌラスの偃月刀が刀身で受け止める。そこから繰り広げられる攻
︾
防は何度繰り返したかも分からない。空いた手に更に偃月刀を召喚
して斬り合う。
︽どぉりゃあああ
しい。だが、それに狙われるミリオンアーサーは身に覚えが全くな
自身ですらもそれを動力源としているとなると、なるほど邪神に相応
される霧。加えて、本来の得物を手にした剣技の冴え。更には、自分
シェアエネルギーとは真逆の性質を持つエネルギーによって形成
﹁⋮⋮どうやら、あの霧もネガティブエネルギーの産物みたいね﹂
通り抜けていく。
れた。カキン、と軽い金属音と共に離脱すると切っ先が目と鼻の先を
パープルハートが太刀を滑らせる。しかし、一瞬早く全身が霧に包ま
そ し て、そ れ に 横 か ら 飛 び 蹴 り が 入 っ た。邪 神 が 転 が り、そ こ へ
!!!
1324
!!
!
距離を取って、グレートソードを振るうが一撃の重い攻撃を掻い潜
!?
かった。だからこそ、不気味に思う。
なぜ名前を知っているのか。なぜその剣を持っているのか。思い
出せない。
﹂
﹁お主は、一体何者なのだ⋮⋮誰なのだ﹂
﹃⋮⋮⋮⋮﹄
﹁答えろ、狂犬
﹂
!
﹂
﹁ノワールがそれを言えるのかしら。ぼっちなのに﹂
﹂
﹁エヌラス⋮⋮お主、もしやアイツの正体を知っているのではないか
る剣技に益々アーサーは困惑する。分からない。一体誰なのか。
パープルハート、ブラックハートの二人に挟撃されてもなお冴え渡
﹁ぼっちじゃないって毎回言ってるでしょネプテューヌ
﹂
﹁ええそうね。こんな知り合いいるなら友達は選んだほうがいいわよ
﹁話すだけ無駄よ、ミリアサちゃん
その返答は、剣戟によって遮られた。
!
﹁いいや、知らねぇ﹂
﹁本当か﹂
﹁⋮⋮ああ﹂
﹁それは、私をアーサーと知ってなおも言えるか﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
エ ヌ ラ ス は、左 手 の 偃 月 刀 を 投 げ 放 っ た。そ れ を 邪 神 が 難 な く
コイツに武器を与えてどうすんだ
﹂
キャッチすると、今度は二刀流の剣技によって二人の女神が跳ね除け
られる。
﹁エヌラス、バカ野郎
!
像、ニトクリスの鏡によって形だけ作られた偃月刀は呆気無く粉砕さ
戦斧の一撃を受けた偃月刀が、ガラスのように砕ける。幻惑の鏡
てもだ。
手の延長のように自在に扱う、例えそれが〝ガラス細工〟だったとし
確かにその邪神はどんなものでも自分の得物にしてしまう。自分の
ホワイトハートの言葉に、エヌラスは肩を竦ませた。││そうだ。
!
1325
!
!
?
れて、それに一瞬だが動きが止まった邪神の胴体をグリーンハートの
連続突きが一瞬のうちに吹き飛ばした。
﹂
﹁⋮⋮心当たりは、無くはない﹂
﹁ならば
﹁そうだとしても、アイツはお前の知っている騎士じゃない﹂
﹁││やはり、私に縁のあるものなのだな﹂
﹁〝名前〟だけならな。理性のないアイツが執着するのは、お前の名
前だけだ﹂
そこで、エヌラスは不意に自分とあの邪神を比較する。⋮⋮嗚呼。
なんておあつらえ向きなのだろう。
理性のある自分が、執着して固執して。こんなにも恋い焦がれて、
それでもなお救われない世界。報われない人々の命。盟友も戦友も、
愛すべき絆も何もかも無に還してきた。それでもまた繰り返す││
﹄
〝終わりなき路〟を歩んでいるのは、自分も同じではないか。
﹃GAAAAAAAAッ
││Arthurrrrr
︾
﹄
剣圧が一瞬の静寂を引き連れて、周囲をなぎ払う。衝撃でホワイト
!!
ハートが吹き飛ばされる。
﹃Ar⋮⋮
︽ここは、どわぁぁ
!!!
い、邪神は蹴り飛ばした。
││鏡写しのように、二人は相対する。
この邪神の目に自分はどのように映っているのだろう。きっと、ひ
どい顔をしているに違いない。
こんな風に、狂っているのだろう。こんな風に壊れているのかもし
れない。
﹁⋮⋮⋮⋮そんなに死にてぇか﹂
﹃⋮⋮⋮⋮﹄
それは、冷たく感情の欠けた言葉だった。だが、どうしてかその瞬
間にその場は静まり返り、邪神ですらも止まっている。
﹁ああ、今更ようやく理解したよ。どうしてテメェが、アイツの手で俺
1326
!
羽虫でも払うかのようにレオルドのグレートソードを拳で打ち払
!?
!!
ロ ー ド・ オ ブ・ イ ン フ ィ ニ テ ィ
に 差 し 向 け ら れ て い た の か。 俺 も お 前 と 同 じ だ よ 〝
﹂
終わりなき怨嗟の声〟││﹂
﹁⋮⋮エヌラス
パープルハートが訝しむ。ブラックハートも機を窺う。
﹁胸糞悪ィ、吐き気がする。くそったれが⋮⋮﹂
これは││ただの、嫌がらせだ。あの仮面の邪神による、ただの嫌
がらせなのだ。﹁お前のやっている事は、傍から見ればこんなにも頭
がおかしいことだ﹂と言っている。なんて性格の悪い野郎だ。エヌラ
スは内心で毒づき、もはや見るに耐えないほど哀れに思えてきた目の
前の邪神に溜息をつく。
こいつも、自分も結局は安らかな死に場所を求めているのだ。そん
﹂
なもの、生きている限りはどこにもありはしないというのに。
﹁そんなに死にたきゃ、望み通りにしてやる││
﹁変 神 ││﹂
トランジション
ハートである。
それに、苦い顔をするのが二人ほどいた。ホワイトハートとグリーン
エヌラスの左手に浮かび上がるのは、五芒星のシェアクリスタル。
止められようか。
いるエヌラスの背中を、どうしてパープルハートとブラックハートが
それを抑制するためのドラッグシガー。そうまでして戦い続けて
﹁⋮⋮﹂
﹁あ⋮⋮﹂
こまで自分の身体を削った証拠でもある。
らされていた。決死の﹁機神招喚﹂によって潰れた腕を治す為に、そ
た魔術回路で光る。それは葉脈のようでありながら機械的に張り巡
指先だけでなく、二の腕、肩から更に右の顔半分までもが励起され
側から光輝き、エヌラスの右腕を照らす。
取られる。励起された右腕の魔術回路が輝いていた。それは、肌の内
身の一撃で殴りつけた。冗談のように吹き飛ぶ姿に四女神が呆気に
剣が揺れ動く。それを右手で掴みとり、エヌラスは邪神の面頬を渾
!
光に包まれていき、エヌラスは変神を果たすとその手に偃月刀を構
1327
?
えていた。ブラッドソウルはプロセッサユニットを装着すると左手
にも偃月刀を握りしめる。二刀流だが、先ほどのようなブラフはな
﹂
い。正真正銘、二本とも本物の得物だ。
﹄
﹁テメェの旅路はここまでだ、狂犬
﹃Gaaaaaッ
!!
﹂
?
る視線に気づいて狼狽えていた。
俺がどうかしました
足を引っ張っ
アーサーの手を借りて立ち上がるレオルドが、自分に向けられてい
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
︽あ、はい。大丈夫っす︾
﹁レオルド、大丈夫か﹂
めた手榴弾。
お手頃価格。手のひらサイズにタンクローリー一台分の破壊力を秘
││待てよ。と、ブラッドソウルは思いつく。脳裏に浮かぶのは、
だが、その度に一般市民の車を犠牲にするわけにもいかない。
﹁さっきみたいに爆発に巻き込めりゃいいんだが⋮⋮﹂
﹁ええ。有効打を与えられるのは霧が晴れた時だけみたいですけど﹂
﹁どうやら、本当に厄介な相手みたいね﹂
左手に握り締めた偃月刀で相殺すると今度こそ砕け散った。
方を掴み、もう片方を霧を纏う剣で弾く。だが、執拗に狙う偃月刀と、
描きながら邪神の身体を打ちのめして更に反転して戻ってくる。片
がその剣本来の切断能力。ヒビ割れた刃の偃月刀を投げ放つと弧を
よって鍛造された物。汚染されているわけではない。となれば、それ
し得ない。ただの実体剣ではなく、ならばそれは人ならざる者の手に
させるほどの切れ味││それは間違いなく、物理的な威力のみでは成
基礎骨格と魔術格子、その両方を超えた先にある術式に介入。破断
﹁冗談じゃねぇ
にして防いだ偃月刀に亀裂が走ったことで戦慄した。
ブラッドソウルもまた、振り下ろされる邪神の剣を交差させるよう
けて流しながら切迫する邪神の剣技には目を丸くする。
二刀流の猛攻、それを手にした剣一本で打ち払い、捌き、時には受
!!
︽えっ、あの⋮⋮何ですか
?
1328
!
たのは間違いないですけど⋮⋮︾
1329
エ ピ ソ ー ド 4 7 直 視 現 実 か ら は 逃 亡 推 奨。し か し
まわりこまれてしまった
﹂
﹂
﹁あの野郎を浜辺まで連れてくぞ﹂
﹁でも、どうやって
﹁んなもん戦いながら考えろ
言うが早いか、ブラッドソウルは邪神へと駆け出している。丁々発
止、幾度もぶつかる金属音が奏でる戦闘音に銃声が交えられた。魔法
も射撃も効かないが、それでも衝撃で動きを鈍らせる程度のことは出
来る。
二挺拳銃が撃ちだす弾丸に身体を撃ち抜かれて、衝撃で動きが鈍っ
たところへブラックハートの大剣が邪神の身体を大きく吹き飛ばし
た。態勢を整えるよりも先にグリーンハートが既に距離を詰めてい
る。
﹂
長槍のリーチを活かした立ち回りに、邪神が攻めあぐねていると不
意に距離を離した。
﹁食らいやがれぇぇぇええ
目配せして頷いた。
﹁いくわよ、エヌラス
﹂
﹂
﹁タイミングはテメェの好きにしろ
﹁ついてこれるかしら
﹂
邪神の周囲に突き立つ偃月刀。全部で六本。指を鳴らすと、結界が
はその剣にブラッドソウルがタイミングを合わせていることだった。
も与えない。ブラックハートもそうだが、ホワイトハートが驚いたの
して追従する。その処理速度は邪神の汚染よりも早く、武器を取る暇
ブラックハートの高速剣技に、ブラッドソウルは偃月刀を多重投影
﹁テメェがついてきやがれ
﹂
かし、それでも踏みとどまる姿にブラッドソウルとブラックハートが
それと入れ替わるように飛んできた戦斧が邪神の顔面を強打。し
!
!
!
!
?
1330
!
?
発動して邪神の身体が焦熱結界へと閉じ込められた。逃げ場のない
﹄
魔術に、更にブラックハートが術が切れると同時に一閃する。
﹃Grrrr⋮⋮
﹁向こうよ﹂
︾
﹁ありがとよ。レオルド、突っ込むぞ
︽自分っすか
﹂
︶音が聞こえてきたが、多分レオルドは泣いて
⋮⋮ぐすん︾
﹁ゴチャゴチャほざくなロボット凡骨
︽うっす
﹂
﹁パープルハート、海はどっちの方角だ﹂
﹁しぶっといわねぇ、狂犬の分際で﹂
!!
る。
﹁で
なんに使うんすか
︾
これ、時限式だよな。何秒だ﹂
眺め、ブラッドソウルは手で感謝のサイン。
拳銃に左前腕部の手榴弾をおずおずと差し出す。それを受け取ると
ガチャリ。レオルドは自分の眉間に突きつけられる深紅の自動式
?
﹁レオルド。手榴弾﹂
︽えっ
︽嫌っす
︾
ドを叩きつけた。引っ張られるように飛んでいく姿に、更に追撃す
た邪神に向けてレオルドは全身を回転させて、遠心力でグレートソー
地面を這うように飛びながら足元を掬う。不意にバランスを崩し
起動して邪神に迫る横に、ブラッドソウルが滑空する。
いた。とはいえそれとこれでは話が別だ。チャージングシステムを
若干鼻をすする︵
!
!
!?
﹁鉛球くれるから﹂
!
﹁ああ、だから安全ピンついてねぇのか﹂
掌サイズ。具体的にはソフトボール程の大きさ。おにぎりのよう
な手榴弾をブラッドソウルは片手に持ってパープルハートと肩を並
べた。
1331
?
!
﹁いいからよこせ﹂
?
︽スイッチ入れてから、三秒っす⋮⋮︾
?
﹁それで
それをどうするつもり﹂
﹂
﹁まずはアイツの霧を引っぺがす。だが街でこれ以上戦うわけにもい
かねぇだろ﹂
﹁どうしてイライラしてるの
せぇだけだ
﹂
うるせぇ
﹂
﹁今、暴れたいって言わなかった
﹁あっはっは
﹂
﹁思ったように暴れ││ゲフン。思うように戦えないってのが面倒く
?
﹃Gaaaaa
﹄
﹂
!?
﹂
きゃテメェを海の藻屑にしてやるからな
﹁悪いが深海生物に知り合いはいねぇ
﹂
﹁おい、エヌラス ここまで連れて来てやったんだ、トドメさせな
﹁これだけやっても、まだ倒れませんの
こへグリーンハートが無数に召喚した槍で追撃した。
る。全身を打ちのめす銃弾の雨あられに身動きが出来ずにいると、そ
浜辺を転がる邪神に、レオルドが二挺のサブマシンガンを連射す
!!!!
体を引き寄せるようにしながら飛び蹴りで街から引き離していった。
スシミターが鞭状に解けて霧を纏う剣を絡め取る。それに自分の身
バーが弾かれた。それをカバーするようにブラッドソウルのブルー
アーサーと邪神が激しく斬り合う。だが、邪神の猛撃にエクスカリ
!
?
!
!
ていた。
?
﹁威力高すぎねぇか⋮⋮﹂
︽あ、いや。一応アレ、災害用です。瓦礫の撤去とか︾
﹁貴方、あんな危険物常に持っていますの
﹂
そんな威力の代物を常備しているレオルドを女神たちが白い目で見
足元に転がる手榴弾が爆発し、その爆炎の中に邪神の姿が消える。
援魔法が邪神の足を引き止めた。
あることを察知したのか、避けようとするそこへグリーンハートの支
イミングを見計らって投げつける。邪神も本能的にそれが危険物で
ブラッドソウルが先陣を切る。左手に持った手榴弾を起動させ、タ
!
!
!
1332
?
︽自分も思ってます⋮⋮︾
とはいえ、霧が晴れている。その隙にアーサーがデッキからカード
を取っていた。
﹂
記憶が正しければ││。
﹄
﹁頼むぞ、騎士たちよ
﹃GA
﹂
!
﹂
﹂
も気づき、阻止しようとするが四女神が立ちはだかった。
限の魔力が右腕の魔術回路を通して掌に集まっていく。それに邪神
ブラッドソウルの左胸の刺青││魔術紋様が光を放っていた。無
﹁銀鍵守護器官、最大出力││
ているとはいえ、それにも限界はある。
ガティブエネルギーによってシェアエネルギーをある程度打ち消し
れていく。しかしそれでもまだ驚異の生命力で持ち堪えていた。ネ
光属性の魔法剣によって身体を貫かれた邪神の胸部が更にひび割
!
﹁エヌラスの邪魔はさせないわよ
︾
﹁征くぞ、レオルド
︽了解です
!
!
﹂
!
﹂
!?
︾
!
﹁畳みかけるわよ
﹂
はただの蹴りと侮れない。
一応重心のバランスを取る為に使っているが割愛。だが、その威力
﹁いや、剣を使え
︽グレートソード││キィック
に、レオルドがグレートソードの切っ先を下げた。
一閃。刹那││無数の剣閃が邪神の身体を刻みつける。怯んだ隙
﹁この剣技、見切れるか
た。壊れるのも時間の問題かに見えたが。
防いでいたが、合金製であってもさすがにその猛撃に軋みを上げてい
が立たない。グレートソードの背に手を当てて叩きつけられる剣を
けだった。それをカバーしているのがレオルドだが、邪神を相手に刃
る。しかし、その激戦の最中でも見据えるのはただ一人、アーサーだ
アーサーとレオルド、そして四女神を前にして邪神はなおも吼え
!
!
1333
!?
霧を纏っていない今ならば、シェアエネルギーを叩きこめばダメー
ジが通るはずだ。パープルハートの太刀が、ブラックハートの大剣
ロ ー ド・ オ ブ・ イ ン フ ィ ニ テ ィ
が、ホ ワ イ ト ハ ー ト の 戦 斧 が、グ リ ー ン ハ ー ト の 長 槍 が 邪 神 〝
終わりなき怨嗟の声 〟 を 完 膚 な き ま で に 叩 き の め し て い く。だ が │
│なおもその執着心はドス黒く燃え上がる。
﹄
太刀に肩鎧を砕かれ、大剣を肩口に受けて、戦斧を塞いだ左腕を千
切ろうと、長槍が兜を貫こうとも。
﹃Ar││Arthurrrrrrr
﹃URRRRRR
﹄
﹄
剣の切っ先がアーサーの額をピタリと狙っている。
の刺突が命を刈り取ろうと待ち構えていた。
リバーが宙を舞う。痺れる右腕に、どう足掻こうと避けられない必殺
叩きつけられる剣を防いでいたアーサーの手から、遂にはエクスカ
を相手にしている時の彼我ではない。
それでいて剛撃。美しく、それでいて強力無比なる剣の圧力は女神達
が、徐々にアーサーが劣勢に押し込まれていった。流麗にして華美、
エ ク ス カ リ バ ー が、能 面 の 如 く 無 貌 の 剣 と。激 し く 打 ち 合 う。だ
﹃Arrrrrrr││
﹁なんという鬼迫だ⋮⋮﹂
い合う。
身体を剣撃で吹き飛ばして││遂に邪神はアーサーと正面から向か
その声は、怨恨は止まらなかった。四女神を出し抜き、レオルドの
!!
視界が塞がれる。そして、頬に熱い感触││切っ先が掠めたのか、頬
に薄い線が走った。だが、それ以上に鼻についたのは鉄の香り。いや
渇かず飢えず、無に還りやがれ邪
違う、とアーサーは頭の中で冷静に判断している。これは、血の臭い
だ。
﹂
﹁悪いがテメェは此処で終いだ
神ッ
!
パープルハート達がサッと青ざめた。レオルドもそれは本能的に死
1334
!!
それは、まさに一瞬の出来事だった。剣が消えたと思った瞬間に、
!!!
ブラッドソウルの右掌に浮かぶ白い闇。渦巻く無限熱量の結界に、
!
を予感して全力でその場から退避する。
邪神が貫いていたのは、ブラッドソウルの左腕だった。それで軌道
を 無 理 や り 逸 ら し た 腕 か ら は 鮮 血 が 垂 れ て 砂 浜 を 赤 く 染 め て い く。
﹂
だが、引き抜こうとする邪神の頭に押し当てられるのは、絶対必滅の
近接昇華呪法。
﹄
﹁シャイニング││インパクトォォォッ
﹃AIEEEEEEEEEE
直していた。
らねぇぞ﹂
﹄
﹁そうですわね。誰もいなくてよかったですわ﹂
﹁ま、こんな時期に海に出てるバカなんていないでしょ
﹁それもそうですわね﹂
﹂
﹁⋮⋮とんでもねぇな、オイ。あんなの街中で撃たれてたら跡形も残
か。答えは出ないまま邪神の脅威は消え去った。
結局││あの邪神は、なぜ自分をあんなにも求めていたのだろう
麗に輝いている。
ターが出来上がっており、熱く照りつける太陽によってキラキラと綺
シャイニング・インパクトが直撃した砂浜はガラス化したクレー
そうになって││、塵も灰も残らない空間へ行き場がなくなった。
量の結界の中へ消えていく邪神の姿にアーサーは思わず手を伸ばし
銀鍵守護器官が更なる熱量を結界に注ぎ込んでいく。その無限熱
!!!
﹃││Ar││thur││││
﹂
超至近距離から放たれるその迫力に、アーサーは思わずその場で硬
!!!
﹁限界出力だ、消し飛びやがれぇぇぇええええッ
!!!
﹁あ
⋮⋮あぁ、これか﹂
﹁エヌラス、左腕﹂
四女神が変身を解除する。レオルドも胸を撫で下ろしていた。
?
ている。それを無造作に掴むと、躊躇なく引き抜いた。
﹁うわ、痛そう⋮⋮﹂
﹁これぐれぇ日常茶飯事だよ。俺にとっちゃな。戦利品の一つくらい
1335
!!
ブラッドソウルの左腕には、邪神が突き刺した剣がそのまま残され
?
ねぇと、割に合わねぇだろ﹂
そして、エヌラスもまた変神を解除する。アーサーの視線は、見れ
ば見るほどにエクスカリバーと瓜二つの剣へ向けられていた。
﹁それにしても、まさかあそこまでしぶといとは思いませんでした﹂
わたし達を手伝ってくれて。感謝感
﹁ええ、そうね。流石に疲れたわ⋮⋮﹂
﹂
﹁レオルドもありがとうねー
謝だよー
自分なんて足引っ張ってばっかでむしろ居ない
︾
!
﹁それに、わたしのことはパープルハート様、だなんて堅苦しく呼ばな
﹁なんでアナタ、そんなに腰が低いのよ⋮⋮﹂
ナサイというか生きててすいませんでした
パープルハート様と一緒に戦うなんてことして生まれてきてゴメン
ほうがマシだったっていうか自分のようなぽっと出の新キャラが
︽はっ、いや、その
!
無理ですゴメンナサイ そればっ
くてもいいよ。ほら、ネプテューヌって﹂
︾
︽む、無理無理無理無理無理
かりは出来ないです
いうの
この反国民
!!
これは命令
!
!
﹂
﹁んもー、プラネテューヌを守る守護女神様の言うこと聞けないって
!
!
﹂
﹂
︾
!!!
﹁うん
逃げた
︽ネプ││││││無理ですごめんなさぁぁぁぁぁぁいッ
﹁ねぷっ
!
を図る。
レオルドは身に起きた出来事を直視できず、その場から全力で逃亡
!?
1336
!?
!
︽あ、あわわわわ⋮⋮あの、その⋮⋮パ、じゃなくて⋮⋮ネ、ネプ⋮⋮︾
!
!
エピソード48 行くは良い良い。帰りが楽しみ
﹁⋮⋮あっという間に行っちゃったわね﹂
﹁そうね。でも、彼のおかげで邪神を倒すチャンスが出来たのも事実
だわ﹂
﹁それに、ミリアサちゃんもですわ。あのカードのような召喚術は気
になるところですし﹂
﹁なにはともあれ。邪神は撃破完了ね﹂
││パチ、パチ、パチ。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
その場に、突然拍手の音が届いた。一体誰かと音の主を探すと、い
つからいたのか。
仮面の邪神が立っていた。全身黒ずくめで、付けている仮面には貌
1337
が無かった。虚無の仮面││無貌なる漆黒。だが、その全身から放た
﹂
れる神気が人ではないことを物語っていた。
﹁テメェは⋮⋮
せてもらう﹂
﹁俺もいい加減、あの狂犬の扱いに困っていたところでな。礼を言わ
と同等の性質を持っている物だ。その一画が薄れていた。
が、それがただの刺青ではなく魔術紋様││エヌラスの銀鍵守護器官
仮面の邪神が袖を捲る。そこには無数の刺青が彫り込まれていた
れている気分に、ノワールが腹を立てていた。
だが、なぜそれを差し向けたであろう当人が祝福するのか。バカにさ
狂犬││先ほどの邪神のことであるというのは容易に想像がつく。
﹁まぁ。まずは、狂犬の駆除おめでとう、といったところか﹂
﹁喋れたのかよ﹂
﹁⋮⋮勘違いをするな。戦いにきたわけじゃない﹂
面の邪神は手で制した。
ない。忘れられるものか。ネプテューヌ達もまた構えるが、それを仮
それに、怒りを露わにしてエヌラスは奥歯を噛み締める。忘れもし
!
﹂
﹁その物言い。気に喰わないわね﹂
﹁テメェは何が目的だ
﹁⋮⋮目的、ね﹂
だろう
邪神は邪神らしく、振る舞うだけだ﹂
﹁〝俺〟や〝俺達〟に、目的なんて無い。ただあるがままさ││そう
呆れ果てたように肩を竦めて、仮面の邪神は首を振る。
!
ね﹂
﹂
﹂
一体何のためにわたし達の前に姿を現したのかしら⋮⋮
﹁それは、お前が自分で調べればいいさ││アーサー王
﹁
﹁まぁ。太っ腹ですのね
﹂
﹁ソレはお前達にくれてやる。必要ない﹂
面の邪神は手にしている無貌の剣に顔を向ける。
﹂
なぜ、名前を知っているのか。驚愕に目を見開いたアーサーに、仮
?
﹁ならば答えてもらおうか。アレは一体、誰だ。なぜ私を知っていた
﹁ああ。とはいえ、手綱も満足に握らなかった放任主義だがね﹂
﹁貴様が、あの狂犬の主なのだな﹂
明々白々。四人が武器を手にするが、アーサーは違った。
とはいえ、相手は邪神だ。放置しておいて良い相手ではないことは
﹁⋮⋮そうだ、と言ったら
﹂
まさか、本当にお礼を言うためだけに出てきたわけじゃないわよ
﹁それで
?
?
!
でも楽しめ、旧神﹂
﹁ほざけよ。ここでテメェを逃がす理由がどこにある、邪神
﹂
﹁気が向いたらまた暇潰しの相手でも送ってやる。それまでバカンス
いた。
背を向けて、その先の空間が歪む。その先には暗闇だけが広がって
﹁少なくとも。お前の知っている騎士じゃないがね⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
とあってはな。無用の長物だ﹂
﹁元々はアイツを呼び出すための触媒だった。その結果があんな狂犬
?
1338
?
?
!
!
﹁最初に言ったとおりだが││﹂
仮面の邪神は背を向けたまま、ゆるりと手を挙げる。そして、指を
鳴らしながら振り下ろす。すると、巨人の鉄槌でも落とされたかのよ
﹂
﹂
うな重力にネプテューヌ達が砂浜に沈む。
﹁くっ、あぁ⋮⋮
﹁これは、何ですの⋮⋮
神様方﹂
﹁待ち、やがれ⋮⋮
﹂
﹁俺はお前達と戦いに来たわけじゃない。それじゃあな、超次元の女
!?
!
うぅー、砂が口に入ったぁ
﹂
!
を差し出す。
﹁ほら、手﹂
﹂
﹁あ、ああ⋮⋮すまぬ、エヌラス﹂
﹁大丈夫か
﹁うむ。小難しく考えるのはやめだ
戦いに勝ったというのに落ち
エヌラスが身体を起こすと、浮かない顔で沈んでいるアーサーに手
﹁⋮⋮﹂
﹁逃げられたわね⋮⋮﹂
﹁ぺっ、ぺっ
テューヌ達を地面に縛り付けていた重力も効力を失っていた。
仮面の邪神は暗闇の中へと消えていき、渦が消えると同時にネプ
行ってくるさ﹂
に、まだ時間がかかりそうなんだ。それまで俺もおとなしく旅行でも
﹁生憎とそういうわけにもいかなくてね。お前にやられた身体の回復
!
ところでこの剣、どうするのだ
﹁いらないわよ、そんな曰く付きの装備。貰った日から呪われそうだ
し﹂
﹁だ、そうだ。遠慮無く戦利品として取っとけ﹂
﹁しかし││﹂
アーサーの視線が、エヌラスの左腕に向けられていた。その頭に手
1339
!
込んでいては民が不安がるからな
﹂
!
!
?
﹁アーサーが持ってていいと思うが。ノワールは使えそうだけどな﹂
?
を置いて、無理やり撫で回す。
﹂
﹁怪我なんて、毎度のこった。気にすんなよ、アーサー。王様らしくふ
んぞり返ってろ﹂
﹁⋮⋮うむ、分かった
な
﹂
んじゃないのぉ∼﹂
﹂
﹂
!
﹁なんですってぇ∼
﹁うわ、ノワールが怒った
逃げろー
﹁そんなこと言って、ノワールだってかまってもらいたくて仕方ない
﹁いいんじゃない
少なくともアナタよりはマシだと思うけど﹂
﹁エヌラスが順調にミリアサちゃんとフラグ立ててくけど、いいのか
!
もの超次元な日常。
?
﹂
﹁ユウコさん。少しよろしいでしょうか
﹁あ、イーちゃん。どうしたの
﹂
の削り合いを邪神としていたような剣呑さはなく、あるのはただいつ
逃げ出すネプテューヌをノワールが追い回した。つい先程まで命
!
!
﹂
﹁ダメですよ。ピーシェさんはあちらの次元の女神なのですから﹂
な気がするんだけど﹂
に持って帰っちゃダメかなぁ。そしたら私めちゃくちゃ頑張れそう
﹁あぁ∼、かわいいなぁピィちゃん。ほんとかわいいなぁ、ユノスダス
ていた。髪を撫でて、ほう、と溜息を吐く。
ユウコのエプロンを握りながらピーシェは気持ちよさそうに眠っ
﹁分かりました。では、夕飯の後にでも改めて﹂
もあるから後でもいいですか
﹁ありがとう。でも今はピィちゃん眠ってるし⋮⋮それに夕飯の支度
でも﹂
﹁はい。以前頼まれていた資料がまとまりましたのでそのご報告だけ
てて起こさないように促しながら話を聞く。
らユウコがネプテューヌ達の帰りを待っていた。それに、指を唇に当
プラネテューヌの教会では、膝の上で眠るピーシェの頭を撫でなが
?
?
1340
?
?
﹁あ、そうなんだ。へー⋮⋮へぇぇぇえええええ
﹂
起きてしまいますからもうちょっとお静かに﹂
起こしちゃった
﹁⋮⋮ゆっこ⋮⋮﹂
﹁んー
﹁おなかすいた﹂
ごめんねー、ピィちゃん。よしよし﹂
もぞりと動くピーシェを抱き抱えて、ユウコが立ち上がった。
﹁むぅ∼⋮⋮﹂
﹁ごめんなさい⋮⋮﹂
﹁シッ
!?
音が鳴り始めた。相手はエヌラス。
?
ア ー ち ゃ ん の 提 案 で ん ー、し ょ う が に ぃ な ぁ ⋮⋮ ん
?
?
だけはしておくから。それじゃ﹂
﹁では、ネプテューヌさん達は例の邪神を撃退したのですね
﹁ユウコ、顔まっか
﹂
﹂
くらい。ほんのり隠し味程度くらいには、優しさくれてやろうかな﹂
てやろうかな。ギアちゃんにも言われてるし。ちょっと、ちょーっと
﹁伊達に女神様じゃないね。さーて、たまには私もエヌラスでも労っ
なることかと思いましたが、流石はネプテューヌさん達です﹂
﹁ひとまずの危機は去りましたね。邪神が現れたと言われた時はどう
は置いといて。
囲をぐるぐる回ってノワールから逃げていただけなのだが││それ
はしゃいでいた、というよりは逃げるネプテューヌがエヌラスの周
たし﹂
﹁そうみたい。後ろの方でネプちゃんとかノワちゃんとかはしゃいで
?
じゃ材料とかそっちで用意してよ。こっちもあるもの使って下準備
ティー
思ってたんだけど││え、なに 邪神撃退記念の勝利の祝杯パー
﹁はーいもしもし。どうした穀潰し。今日の夕飯
今から作ろうと
紐を直し始めるユウコのポケットで携帯がブラスバンド演奏の着信
くぅ。小さなお腹の音に、笑ってご飯の支度を始める。エプロンの
?
﹁うきゃー
﹂
﹁んー。ほら、ピィちゃんがかわいいからだよー。ぐりぐり∼﹂
!
ユウコが頬ずりすると、ピーシェからは黄色い悲鳴。すっかり仲良
!
1341
!
?
?
くなった二人の和やかな姿に、イストワールも自然と頬が緩んでい
た。
1342
邪神撃破を記念して││カンパーイ
﹂
エピソード49 勝利の祝杯と勝利の美酒は別会計
﹄
﹁それじゃー
﹃乾杯
!
ユウコさん特製山盛り唐揚げだよー﹂
!
﹂
わたしプリンがいいな
﹂
!
﹁お安いご用
﹁ユウコ
﹁あいよー
﹂
﹁そういうことでしたら遠慮なく頼ませて頂きますわ﹂
ざれ﹂
﹁注文あるなら受け付けるよ。和風洋風中華にスイーツ、なんでもご
﹁あら、美味しそうですわね﹂
﹁へぇーい、お待ちぃ
べられている料理が追加される。
チリン││。グラスを鳴らして、乾杯するとテーブルの上に山程並
!
!
出された料理に手を伸ばしている。
﹁むぐむぐむぐ⋮⋮うむ。実に美味だな
!
﹁で し ょ ー ユ ウ コ の 作 る 料 理 っ て 美 味 し い か ら い く ら で も 入 っ
に迎えたいくらいだ﹂
ユウコを私の専属コック
たのだが、チーカマに止められたのでネプテューヌ達同様に遠慮無く
じって飲み食いしていた。主催者であるアーサーも手伝おうとはし
か、夜の方がテンションが高い。アイエフもコンパもパーティーに混
が、ユウコにしてみればこれくらいは朝飯前らしい。吸血鬼だから
それらを全て用意しているのがたった一人というのが驚かされる
!
!
﹁いいの
アーサー。勝手にこんな企画しちゃって
﹂
スダスでは言われていた。男性からは概ね好評である。
そのせいでユウコの料理は女性からは﹁食べると太る料理﹂とユノ
ちゃうんだよね﹂
?
?
講だ﹂
引くに引けなくなったのだ。とはいえ私も立役者、ということで無礼
﹁正直ダメ元で提案したのだが、思いの外ネプテューヌがノリ気でな。
?
1343
!
﹁まぁ。ネプテューヌがいいって言うならいいんでしょうけども﹂
当のネプテューヌはノワール達と一緒にお酒を飲みながら料理を
食べていた。お酒はエヌラスがプラネテューヌの店で適当に選んで
買ってきたらしい。ちなみに代金は全員の財布から出ている。
﹁ん∼、いい香りね。流石エヌラスだわ﹂
﹁ちょっとノワール。それを言うなら美味しいお酒を取り扱っている
プラネテューヌを褒めてよ∼﹂
﹁はいはいそうね。プラネテューヌには良い職人がいるのね﹂
﹂
それとこれとは話が別なの﹂
﹁勿論、それを治めている女神様も
﹂
﹁いや無いわね﹂
﹁ガビーン
﹁無慈悲
﹂
﹁俺もお前をいじめてやろうか
﹂
﹁うわぁ∼、、エヌえもん。ノワールがいじめるぅ﹂
ファーに腰掛けてくつろいでいたエヌラスの胸に飛び込んだ。
オ ー バ ー リ ア ク シ ョ ン で シ ョ ッ ク を 受 け る ネ プ テ ュ ー ヌ は ソ
﹁当たり前でしょ
!
?
膝の上でくつろぎ始めるネプテューヌに呆れながらエヌラスは片
手に持ったワイン瓶をそのまま飲み始める。背もたれに背中を預け、
腕を広げて座る様はまるで犯罪組織の幹部の如く風格。その上で全
身が黒一色ともなれば﹁どこのマフィアですか﹂と聞かれること総受
けだ。
なんだ、ベール﹂
﹁⋮⋮エヌラス﹂
﹁ん
﹂
か鼻血が出ている。そこに、受け皿に料理を載せたネプギアがやって
くると驚いていた。
﹁ど、どうしたんですかベールさん
﹁いやなんというか、それで鼻血を出されても俺はすごい困るぞ
﹂
﹁そ、そんなアダルティなフインキを出されては困りますわ⋮⋮﹂
!?
?
1344
?
!
﹁人をどこぞのネコ型ロボットと一緒にしてんじゃねーっての﹂
!
名前を呼ぶなんて珍しいな、と思いながら視線を向けると││何故
?
それに、片手にお酒
!
それでありながらネプテューヌに見せる優しさ
﹁だ、だってその下着の上から覗く、鎖骨
更にはその風貌
﹂
!
﹂
イチャイチャしてるんだよー﹂
!
た。
﹁のわっ
﹁なにって見てわかんなーい
ちょっとネプテューヌ、なにしてんのよ
ネプテューヌが首に手を回すと、それにノワールが小さく悲鳴を上げ
しかも目線がものすごくイヤラシイ方向に全力で向けられている。
﹁そっか。すげぇはた迷惑﹂
の刺激に飢えてるのよ⋮⋮﹂
﹁わたし達の中で年長者扱いされることが多いから、そういうオトナ
るのかわからない﹂
﹁ありがとな、ブラン。正直俺はどうしてベールがこんなに興奮して
﹁⋮⋮ギャップ萌え、って言いたいんだと思うわ﹂
!
ぷるるん﹂
?
﹁そうするねぇ∼。すりすり∼﹂
へるぷ俺ミー
!
﹁すりすりすり∼﹂
誰か
!
﹂
よもや、よもや私の前で少女二人を
侍らせて頬ずりさせるとは⋮⋮エヌラス、恐ろしい男
!!
﹂
!
サー
﹁別に悔しくなどないぞ
本当だからな なぜなら私には切り札
﹁俺 の 意 思 全 く 関 係 な い と こ ろ で 対 抗 心 燃 や す の や め ろ そ こ の ア ー
!
﹁ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬ⋮⋮⋮⋮
て、アーサーがこれ以上ないほど悔しそうにしていた。
ネプテューヌとプルルートに頬ずりされて身動きできない姿を見
﹁助けろ
﹂
﹁じゃあぷるるんも一緒にしようよー﹂
たりがモワモワ∼ってする∼﹂
﹁なぁんか∼。ねぷちゃんがそうしてるの見てたら、あたしも胸のあ
﹁あ、どうかした
ルートが少しだけ頬を膨らませる。
ス リ ス リ と エ ヌ ラ ス に 頬 ず り す る ネ プ テ ュ ー ヌ を 見 て い た プ ル
?
!?
!
がある。因子を集めてさえしまえば││﹂
!
!
1345
!
﹁はーい、ちょっとそこのアーサー
い﹂
﹁⋮⋮
﹂
﹁││││﹂
﹁なんでだろうな﹂
ち着くの∼。なんでだろう∼
﹂
お話しあるからコッチ来なさ
﹁え∼っとぉ⋮⋮なんでかわかんないけど、こうしてるとすっごく落
﹁どうした、プルルート﹂
﹁う∼ん⋮⋮﹂
かった。
テューヌとプルルートの二人がくっついているので身動きが出来な
皿を空にして、エヌラスは他の料理を取りに行こうとするがネプ
らくいなかったという。
チーカマに連れて行かれたアーサーの姿をその後、見たものはしば
?
れていた。
﹁ぷるるん
どうし││﹂
る衝動をぐっと堪えながら見つめ合うふたりの間に妙な緊張感が流
プルルートの大きな瞳に吸い込まれそうになる。唇を重ねたくな
?
﹂
﹂
?
﹂
!
﹁それは、嬉しいな。うん⋮⋮ものすごく嬉しい﹂
﹁もちろんだよぉ∼
﹁おもいだしてくれましたか﹂
﹁ん∼
﹁⋮⋮⋮⋮あの、プルルート
﹁えへへぇ∼。エヌラスだ∼﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁││││っぷは﹂
キッチンから戻ってきたユウコですら満面の笑みで硬直した。
﹁はぁーい、ネプちゃんプリンお待た││﹂
ブランも、ベールも、アイエフどころかその場にいた全員が固まる。
プルルートが近づけた唇がエヌラスと触れ合っていた。ノワールも、
たの、とまでネプテューヌの言葉は続かない。なぜなら、その前に
?
1346
?
?
嬉しいんだが││どうしてこう、ナチュラルに人を社会的に陥れる
タイミングで思い出してくれるのだろうかこの女神様は。案の定、事
情を知らないメンバーからの視線が不審者のソレである。ちがうん
です国家権力、これには色々あるんです。上等だ喧嘩売ってんなら買
うぞ国家権力チクショウ││エヌラスは半ばやけくそになっていた。
﹂
﹂
え っ と ね ぇ、こ う し て 馬 乗 り に な っ て た ら 懐 か し く っ
﹁ぷるるんもエヌラスのこと思い出したんだ
﹁う ん ∼
面貸せや、な
﹁へぇーい、そこのエヌラス。エヌラスー ちょぉっとコッチきて
絶叫もむなしく、プルルートは既に前世の記憶を思い出している。
﹁そんな理由で思い出されてたまるかぁぁぁぁぁああああ
てぇ﹂
!
ネプちゃんはプリン食べておとなしく待っててね﹂
?
が滲み出ている。
笑顔で手を振るユウコだが、その後ろで形容しがたい怒りのオーラ
紙に書いてキッチンに置いといて﹂
﹁ユウコさんオーダーはちょっと休憩するねー。注文あったら適当な
片手で持ち上げた。
ネプテューヌにプリンを手渡すなり、エヌラスの首根っこを掴んで
﹁あ、うん。おいしく食べてるね⋮⋮ユウコが笑顔なのに寒気がする﹂
?
誰からともなく、全員が黙祷を捧げていた。南無。
1347
!!
!
エピソード50 王の禅問答
││ユウコから解放されたエヌラスは、顔が死んでいた。チーカマ
の説教からようやく解放されたミリアサもまた、沈み込んでいる。
﹃はぁ∼∼⋮⋮﹄
そして、ふたり同時に盛大に幸運が激減すること間違いなしな溜息
をついていた。
何
﹁まったく。邪神を倒す旧神様が聞いて呆れるわ、この倒錯性癖め。
変態﹂
﹁アーサーもよ。そんな理由でこの国に来たんじゃないでしょ
回言えば分かるのよ、もう﹂
ユウコとチーカマはそんな落ち込む二人の背中に向けて厳しい視
﹁あー⋮⋮﹂
﹁うん
﹂
﹂
﹂
﹂
﹁もー、じゃあちょっとだけだからね。ピィちゃん﹂
膝の上に座らせた。
りについているナポリタンソースを拭き取ると、ユウコは抱き抱えて
頬を膨らませていたピーシェが満面の笑みを浮かべる。その口周
!
ろで﹂
﹁あ、そうだ。イーちゃん、例の資料。いいかな
﹂
?
﹂
﹁はい。ちょうどお渡ししようかと思っていたところですが⋮⋮よろ
しいのですか
?
1348
?
線を向けている。だがこれ以上パーティーに水を差す気はないのか、
﹂
!
ユウコはキッチンへと足を向けようとするがピーシェがエプロンを
掴んで引き止めていた。
﹁どうしたのピィちゃん
﹁え
﹁ピィ、ユウコもいっしょがいい
?
﹁さっきから料理ばっかでユウコたべてない
?
﹁ピーシェさんは本当にユウコさんがお気に入りみたいですね。とこ
!
﹂
﹁ぜんぜん大丈夫。これくらいチョロいチョロい﹂
﹁ユウコ、あーん
﹂
﹂
だこのド変態
ら
﹂
﹁えっ
﹂
むしろ俺の尊厳はボドボドだ
﹂
﹂
激怒するブランに、余裕たっぷりのベールが異を唱えた。
﹂
ネプテューヌやネプギアちゃん、プ
?
なのに自分から好感度を下げるような発言はどうかと﹂
ルルート。と、くれば次は当然、あなたの可能性だってありますのよ
﹁だってそうじゃありません
喜ば
エヌラスそんな風にいじめると喜んじゃうか
ワールもだ。でもな、プルルートまで手を出してるってどういうこと
﹁ネプテューヌとネプギアだけなら、まぁまだ許せなくもねぇ⋮⋮ノ
﹁ちがうんです、コレには深いワケがあるんです⋮⋮﹂
正座している旧神とそれを取り囲む女神勢。
家族団らんのような和やかな風景から視線を移せば││そこには
﹁やったー
﹁うん、ピィちゃんの唐揚げすっごく美味しいよー。ぐりぐり∼﹂
﹁おいしい
﹁あーん。もぐもぐ⋮⋮﹂
!
﹁ブラン、ダメだよ
!
﹁テメェの息の根から止めてやろうかネプテューヌこの野郎
ねぇよ
!
!
!
ばせてもらうわ﹂
﹂
む し ろ 黙 ら せ て や ろ う か
エヌラスは何にも悪くないよ。むしろちょっと
﹁エヌラスの何がいけないんですの
﹂
﹁お 前 も う ホ ン ト 黙 っ て ろ よ 頼 む か ら
性癖が手広いだけで﹂
﹁そうだそうだー
?
にはヘッドロックで物理的に。
半泣きになりながらエヌラスはネプテューヌを黙らせる。具体的
!
!
1349
?
!
﹁まぁ、ブランったら。自分からフラグを折っていくんですの
!
?
?
!
﹁仮にそうだとしても、ルウィーの守護女神として相手はちゃんと選
?
!?
﹁じゃあ聞くけど。ベールはエヌラスの何がいいって言うの
の主人公みたいなところでしょうか
﹂
﹂
﹁そうですわねぇ⋮⋮強いて挙げるならば、まるでアダルトなゲーム
?
﹁今ちょっと折れそうになってるんだけどな⋮⋮﹂
﹂
﹂
﹁他には、そうですわね⋮⋮ネプテューヌ﹂
﹁なに
﹁⋮⋮痛かったですか
!
﹂
﹂
お前はァァアアアアア
むしろ気持ち良すぎるくらいかな
お前は
﹂
﹂
﹁後はちょっとやそっとじゃ折れそうにないところですわね﹂
﹁いや、俺一応アダルトゲイムギョウ界の住人なんだが⋮⋮﹂
?
えっと、その⋮⋮││││す、すごく元気、かしら
!
﹁うぅん、全然
﹁あぁぁぁぁああぁぁああああ
﹂
私
﹁⋮⋮ノワールはどうでしたの
﹁へっ
!!!
?
!
?
?
!?
けではないのか
﹂
﹁そ、そうですわ﹂
﹁あ、ベールテメェ
﹂
!
?
聞いていたわけではありませんわ。あくまでも参考のために﹂
﹁別にわたくしはそのような意図があってネプテューヌやノワールに
逃げるのかよ
エヌラスを外堀からいじめていた癖に自分は
﹁なぜだ、プルルートよ。エヌラスを糾弾しているのは現在ブランだ
サーだけは疑問符を浮かべていた。
汲みとった賢明な者はソレ以上の言及をやめたが、何も知らないアー
その、不穏な発言に一瞬だが場の空気が凍る。含まれている意味を
﹁もぉ∼。みんな、エヌラスのことイジメちゃやだなぁ∼⋮⋮﹂
てプルルートが首を傾げていた。
犬以下からミトコンドリア級にまで格下げされているのをよそにし
即座に燃焼されて貯蔵されていく。エヌラスが今、社会的地位を野良
たい。だが残念なことに銀鍵守護器官は常に燃料を求めているので
可能ならば今すぐ大量の睡眠薬を極めて度数の高い酒で飲み下し
﹁オオオオオォォォォォ⋮⋮
!?
!
1350
!!
?
!!!
﹁なんのだよ﹂
絶倫
﹂
﹁それはもちろん、男と女の夜の営みですわ。お二人の発言から察す
るに、エヌラスは││エッチは上手くて、精力旺盛
!
﹂
もに思えてきたぞ
﹂
﹁バカしかいねぇのか
﹂
むしろ俺を怒鳴りつけていたブランがまと
スは普通の女性では満足できない身体の持ち主だと
﹁なるほど。ベールよ、つまりお主の言いたいことはこうか。エヌラ
﹁⋮⋮⋮⋮言われてみれば確かに。みんな女神ね﹂
わ﹂
と﹁ただの女性には興味が無い倒錯趣味﹂であると見当をつけました
﹁まぁとにかく。わたくしとしてはエヌラスの性癖はどちらかと言う
いっそ地獄に落ちろ。人知れず心の声で叫ぶ。
﹁歯に衣着せなかったら死ねばいいと思ってる﹂
﹁褒めてますの
﹁一周回ってお前の頭の悪さは清々しく感じてきたぞ、ベール﹂
!
!
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
ブランの怒声が今は何よりも精神安定剤だ。ブランなら││
!?
えねー⋮⋮︶
小説
﹂
!?
﹁そんな身体なら、まぁ、仕方ないわね﹂
﹂
﹁どうしてそれで納得しようと思ったホワイトハァァァァトッ
ワーイオカシイダルルォー
!?
ホ
さそうなんだろうこの幼女女神。しかもかわいいから尚更なにも言
︵あっれーおかしいなー。どうしてちょっと顔を赤らめて満更でもな
!
!
エヌラス、何か食べたいのある
仕方ないわ。ユウコの料理でも食べましょう﹂
﹁さんせーい
﹂
?
持とうとして、波紋が広がっているのを見て下ろす。
むしろ吐き気すら覚えてきた。エヌラスが右手でワイングラスを
﹁もうお腹いっぱいだっつーの⋮⋮﹂
!
1351
?
﹁⋮⋮それはそれで、小説のネタになりそうね﹂
﹁へ
?
﹁なんでもないわ。とにかく、これ以上パーティーを台無しにしても
?
エヌラス、ちょっと吸い過ぎじゃない
﹁悪い、タバコ吸ってくる﹂
﹁また
﹂
?
﹂
﹂
?
﹁常用してりゃ、中毒にもなるさ﹂
﹁そこまでの代物。なぜお主は手放さない﹂
﹁風下に立つなよ。脳みそ溶けるぞ﹂
﹁甘くて良い香りだな﹂
に服用されるタバコよりもよっぽど有害なのだから。
術回路に作用するものとはいえ余り気の良いものではない。一般的
囲にいる人間もだ。性質上、周囲の人間よりもエヌラスの体内││魔
吸い込む。身体に良くないのは喫煙者もそうだが、二次喫煙である周
ガーに火を灯す。すぐに紫煙が漂い始め、アーサーがその香りに息を
バルコニーに出て、エヌラスは自らの指を発火させてドラッグシ
﹁吸わん。安心せよ﹂
﹁別にいいけどよ。タバコはやらねぇぞ﹂
﹁私も少し、夜風を浴びたくなってな。なに、すぐに戻る﹂
﹁アーサー
ニーに一人逃げ出す。だが、その後をついてくる姿があった。
ノ ワ ー ル の 言 葉 は 聞 こ え な か っ た ふ り を し て エ ヌ ラ ス は バ ル コ
よ
﹁言っちゃ悪いけど、アナタ達なんだかんだで似た者同士でお似合い
かなー⋮⋮﹂
美しい女神が口を開くと超絶至極残念頭なのどうにかしてくれねぇ
﹁あー、誰か今すぐめっちゃ目の前にいる黙ってればヴィーナス級に
の前にいると思うだけでわたくしは滾りますわ⋮⋮﹂
﹁あぁ⋮⋮普段はクールを装いながらもその実残念なイケメン⋮⋮目
出す仕草に、ベールが熱い吐息を漏らしていた。
そう言いながらも器用にシガレットケースから一本だけ口で取り
だから﹂
﹁しょうがないだろ。邪神と戦ってる時だってこいつは手放せないん
?
冗談のように笑いながら、エヌラスは白い煙を吐き出す。バルコ
1352
?
ニーから一望するプラネテューヌの夜景、夜風で揺れる金髪を押さえ
ながらアーサーは遠くを見つめていた。
黙っていれば、女神にも負けない美女だろうに。エヌラスはそれを
惜しく思いながらアーサーの横顔を見ていた。
﹂
なぜわざわざ私が二人きりになろうとし
﹁⋮⋮何も聞かないのだな﹂
﹁聞いて欲しいのか
﹁だって、そうであろう
たと思っておる﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁例えば、私がどこから来たとか。ゲイムギョウ界に来た目的とか、
色々あるであろう﹂
﹁まぁ、話題は探せば事欠かさないな﹂
﹁ならば聞けばいいではないか。私のUTSUWAは大きいぞ﹂
そう言いながら破顔するアーサーは月明かりを浴びて輝いていた
が、それがどこか無理に作っている笑顔だとエヌラスはすぐに見抜
く。しかし、敢えてそれには触れずにドラッグシガーの灰を携帯灰皿
に落とし込んだ。
﹁旅の目的は﹂
﹁いきなり核心を突いてきたな⋮⋮それを話すには、まず私の故郷に
ついて話さねばな﹂
﹁結局両方話すのかよ﹂
﹁一石二鳥、というやつだ。ここではない遠い土地、ブリテンという土
地から私はゲイムギョウ界に来たのだ﹂
﹁⋮⋮ブリテン、ね﹂
﹁知っておるのか﹂
﹁まぁ。なんというかね⋮⋮知り合いがいる。奇妙なことに、そいつ
もアーサーって言う名前で、エクスカリバーを持ってて、金髪だ﹂
﹁なんだ、私か﹂
﹁あと、胸が小さい﹂
﹁私ではないな。自慢ではないが小さくはないぞ﹂
﹁見りゃ分かるさ﹂
1353
?
?
少なくとも揺れる程度には〝ある〟のがアーサーの胸だが、今は置
いておく。
﹁会うのが楽しみだ。そのアーサーとやらにも﹂
なぜだ
﹂
﹁⋮⋮会えることはないだろうな﹂
﹁む
スは王ではない。最早、人ですらないのだ││。
﹁だから私は││﹂
ない﹂
何もせず、ただ
﹁俺はゴメンだね。王にはなれない││そんな〝罪の王冠〟は、いら
ギルティクラウン
王であるならば当然だ。守るべき騎士が必要になる。だがエヌラ
続けるエヌラス。
騎士を探し求める旅をするアーサーと、仲間が居ない孤独な戦いを
に親近感が湧いた。だが、決定的な相違点が一つだけある。
し合わせる。同じ状況だ。だからかも知れない。少しだけ、アーサー
エヌラスはそのブリテンの様相に、アダルトゲイムギョウ界を照ら
﹁内乱だけでなく、外敵の侵略まで受けている国、か⋮⋮﹂
きっといつか。いや、必ず終わらせてみせる﹂
ず れ 戦 い は 終 わ る で あ ろ う。私 が 全 て の ア ー サ ー の 頂 点 に 立 て ば、
アーサーに負けないほどの強い騎士の力を借りることが出来れば、い
﹁⋮⋮ 私 の 旅 の 目 的 は、優 秀 な 騎 士 の 因 子 を 探 し に 来 た の だ。他 の
ずだ。
を窺う。別次元とはいえ、同じ名前の土地を滅ぼされては堪らないは
らない。エヌラスはドラッグシガーを燻らせながら、アーサーの顔色
国を一つ滅ぼしても。世界を一つ滅ぼしても、邪神との戦いは終わ
⋮⋮それはもう、燦々たる有様だった﹂
しくは話せないが、俺とあの仮面の邪神との戦いに巻き込まれてな
﹁そして、そいつのいたブリテンは〝とっくに滅んでいる〟んだ。詳
﹁別次元のブリテンということか﹂
らな﹂
﹁││俺の知っているブリテンと、アーサーのブリテンは別だろうか
?
﹁⋮⋮エヌラス、お主は私の戦いが罪だと言うのか
?
1354
?
涙を呑んでいろと﹂
﹁民 が 望 む の は な ん だ。平 和 な 世 の 中 だ。天 下 泰 平 だ。そ し て い ず
れ、戦いが終われば英雄を糾弾する。当然だ。いつの時代も〝一番弱
﹂
いのが強い〟世界だ。戦う力も罪もない国民に、いずれお前は追われ
ることになる﹂
﹁そんなことにはならぬ
﹂
﹁俺はもう、ブリテンが滅ぶのを見たくない。そして││人の心が分
﹁⋮⋮﹂
﹁アーサー﹂
い。
馬鹿馬鹿しい││お前達のそんな言葉が聞きたくて戦ったんじゃな
雄を賞賛しておきながら、満身創痍の戦士を危険だと糾弾する者達。
戦いの最中で見てきた。目の当たりにしたのは、邪神に立ち向かう英
を。そんな都合の良い振る舞いが許されてたまるものか。邪神との
何度も見てきた。繰り返す都度、見てきた。民衆に殺される王の姿
﹁││││﹂
⋮⋮
﹁させるつもりはない。そんな下らん理由で、滅ぼされてたまるかよ
!
からない王の姿も見たくない﹂
1355
!
エピソード51 宴も酣
まだ夜は続く
││仮面の邪神は、驚くべきことに次元渡航能力を持っていた。そ
れに対抗出来るのは、同じく単独で次元を移動出来る手段を持ってい
るエヌラスだけ。自然、二人の戦いはあらゆる多次元宇宙を巡って繰
り広げられた。エヌラスの知るブリテンもまた、そのひとつ。国を救
うべくして立ち上がった一人の少女が王の剣を抜いたその日から、戦
い続けていた。ただひたすらに理想を追い求める姿があまりに鮮烈
で、その世界で築いた絆の数々があまりにも眩しくて、共に轡を並べ
て邪神退治の片手間に戦った日々。
しかし。騎士の一人が行方知れずとなってから歯車が狂い││最
期には、全てが滅んだ。最後に残されたのは王と、エヌラスだけ。
頬を我が子の血で濡らしながら、剣を手にした少女が泣き縋る。
﹃お願いだ、エヌラス。私を糾弾してくれ⋮⋮﹄
全て、手遅れだった。その丘は血で染まり、黄昏に照らされるまで
もなく赤い大地が広がっていた。どこで間違えていたのだろう。耐
え切れなくなった少女の、王の弱音にエヌラスは何も答えない。それ
も そ の は ず だ。自 分 た ち は 出 会 っ て は い け な か っ た。お 前 の せ い
じゃないとでも言ってやれば、上辺だけでも救われたかもしれない。
誰のせいで滅んだのか。それはエヌラスが一番理解している。こ
んな結末には至らなかったはずだ。だがこの期に及んで、その王は自
らを責めていた。
﹄
﹃俺がお前を止めてやれれば、きっとこの国は滅ばなかった﹄
﹃なぜ、止めてくれなかった
共に盃を交わしながら酒を浴びた。命を預けた仲だ。だが、自分の
やるべきことはこんな寄り道ではない。我が子に剣を突き立てたま
ま、王は動かなかった。
﹃誓う。アーサー⋮⋮いいや││﹄
初めて、少女をその名前で呼んだ。お前は王ではなく、ひとりの少
1356
?
﹃││それは、俺がお前達と同じ世界の住人じゃないからだ﹄
!
女だと。
貴方は﹄
﹃俺は必ずあの邪神を殺す。この国が滅んだ原因は、恐らく俺だ﹄
﹃そんなはずはない
﹃俺がお前達と出会っていなければ、アイツが円卓の騎士を狂わせる
ことはなかった。この国も﹄
逃げるように背を向けて、邪神の後を追うエヌラスは王の顔を見る
ことが出来なかった。
││果たして、あのアーサー王はあの後どうしたのだろう。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
ミリオンアーサーは、エヌラスの顔を見る。
﹁疲れた顔をしておるな﹂
﹁今日はくたびれた﹂
﹁そうではない。一日二日の疲労ではなく、もっと前からだ。そうだ
な、具体的には││来る日も来る日も右斜め四十五度を延々と走り続
けている顔だ﹂
﹁そ の 角 度 に 意 味 が あ る の か ど う か は と も か く と し て、た だ の 苦 行
じゃねぇかそれ。なんの拷問だ﹂
﹁そんな顔をしている、と言っておるのだ﹂
アーサーが近づき、頬に手を添えた。柔らかい指先が輪郭を撫でて
くすぐったい。
﹁エヌラス。お主は王ではないのだ。ひとりで全てを背負うな﹂
﹁アーサー。お前は王の器だ。だがひとりで全部背負うな﹂
﹁器ではない。UTSUWAだ﹂
﹁そこ、大事なんだな⋮⋮﹂
毒気を抜かれた気がして、エヌラスは微笑んだ。夜景と月明かりに
照らされた笑みに、アーサーの頬が少しだけ紅潮する。
﹁う、うむ⋮⋮﹂
﹁俺からのアドバイスとしては、理想を追い求めるのも結構だが程々
にな、ってことだ﹂
﹁⋮⋮実は、な。エヌラス。私は考えていることがあるのだ。私の旅
1357
!
の目的は話しただろう﹂
﹁ああ。優秀な騎士の因子がどうのこうの﹂
﹁そ う だ。だ か ら こ そ、お 主 に 折 り 入 っ て 頼 み が あ る。私 の 騎 士 に
なってくれ﹂
﹂
﹁守ってくれ、って言うなら言われるまでもねぇよ﹂
﹁││へっ
﹁俺はお前と一緒に戦うし、お前を守るって言ってんだ﹂
あっけらかんと言うエヌラスの前で、アーサーが目を白黒させなが
ら顔を赤くしていくが更に畳み掛けた。
﹁お前を死なせるわけにはいかないだろ。お前は俺の知っているアー
サーよりも人の心が分かるみたいだしな。だから、別にいいぞ。ただ
俺もこう見えて多忙でな﹂
アーサーの手を取り、エヌラスは手の甲にキスをする。騎士の忠義
の誓い││それに今度こそアーサーは顔を真っ赤にしていた。
﹁多少なりとも、かなりの頻度で無茶をするが目を瞑ってくれ。ミリ
美少女ならともかく喜々として言ってのける
わ、私がどれだけ自分を奮い立たせて言ったと思って
オンアーサー﹂
﹁∼∼∼∼
いるこにょ馬鹿者
この
﹂
何しやがる
恥をかかせるのだこの
イッテェ
叩くな
﹂
貴 様 を
!
﹁イテ
既 成 事 実 も や む 無 し だ
私に恥をかかせるだけでなく裸まで見られたの
も う こ れ は 決 定 事 項 だ
﹂
!
﹁ええいうるさい
だ
婿に引き入れてやる
﹂
!
!
うむ、全て解決した
﹂
!
﹁うわぁ、すげぇ正論⋮⋮﹂
﹁それがお主だ
﹁俺はむしろ困惑しているんだが
﹂
は出来ぬ。となれば、私自身が相応しい者を探すしかあるまい﹂
るであろう。そうなればどれほど美少女を侍らせたところで世継ぎ
﹁考えてもみればそう、一世一代の王ではダメだ。跡継ぎも必要にな
﹁んん
!
!
!?
!
1358
!?
!
のを、お主が異性で男性で男だから頑張ったのに、どうしてそう私に
!
!
!
!
!?
!
!
﹂
酔ってるだろお前
﹁ええいうるさい、黙って私を孕ませろ
﹁ちょっと待って落ち着け
﹂
!
!
﹂
﹁つまりは〝本能的になる〟ってことなんだが﹂
﹁なるほど││││││﹂
⋮⋮⋮⋮。
つまり、それはなにか
それだけでな
?
待て待て待ておかしいだろ まぁいや確かに戦闘
?
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ん
﹂
エヌラスとエッチがしたいということになるのか
く子供も産みたいと
﹁いや、待て
私は本能的に
﹁なるほど、そうだったのか。恐ろしい煙草だな⋮⋮﹂
作用したせいでタガが外れたんだろう﹂
部だけでなく、霊的な物。ようはエーテルの類なんだが、多分それが
﹁魔術回路の励起だけでなく精神高揚の効能もあるからな。しかも外
﹁む
﹁多分、ドラッグシガーのせいだ﹂
だ。
心当たりがあるものをコートの裏ポケットにしまいこんだばかり
﹁あー⋮⋮﹂
れない衝動のようなものに駆り立てられてな﹂
﹁取り乱したのはすまぬと思っている。ただ、何故かこう⋮⋮抑えき
﹁頭悪すぎて俺も頭痛がする⋮⋮﹂
﹁頭が痛い⋮⋮﹂
はタバコの火を消して携帯灰皿に落とす。
どうにか落ち着かせると、アーサーは頭を押さえている。エヌラス
!
?
エヌラスは何も言わず、顔を背けている。
?
!
﹂
!
どう
!
﹁私はともかく、エヌラスはどうなのだ。私と子作りしたいと思って
かと思います﹂
﹁⋮⋮いや、まぁ。王のUTSUWAなら胸を張ればいいんじゃない
なのだそれは。そこんところどうなのだエヌラス
ではないがそこまでかと聞かれたら正直首を傾げるぞ私は
中のお主に少しばかり惚れ込んだ可能性は決して否定しきれたもの
!
1359
?
いるのか
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮子供が出来るかどうかはともかくとしてすげぇエッチした
﹂
い身体であるのは馬鹿正直に言わせてくれ、アーサー﹂
﹁││││││﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁││││ぃ、いのか⋮⋮私と
﹂
けると、人が少なくなっていた。
?
﹂
﹁ごー、よーん、さーん││ヒャア我慢できねぇゼロだ﹂
降参、降参
!?
﹁ぅわわわわわ
体いつからそこにおったのだ﹂
﹁え、えっとえっと⋮⋮﹂
ということは││﹂
﹁ミリアサさんの旅の目的辺りから、です⋮⋮﹂
﹁ほぼ全部ではないか
リ聞いていましたわ﹂
﹁うぅおおおおおおおおおおおお
﹂
アーサーの悲鳴が夜のプラネテューヌに木霊した。
!?!?
﹁ええ。ミリアサさんがエヌラスとエッチしたがっているのもバッチ
!?
一
浮かべるが、右手に深紅の自動式拳銃を召喚すると銃口を向ける。
エヌラスが視線を投げるが、無言を貫き通す。アーサーが疑問符を
﹁⋮⋮って、お前等。いつから盗み聞きしてた
﹂
て悲しくなってきたエヌラスが手すりに体重を預けて室内に目を向
ようもない馬鹿の極みに身体を預けないでください。自分で言って
俺のような穀潰しのろくでなしの人でなしで度し難いクズでどうし
い。お 前 ら も う 少 し 色 恋 沙 汰 に 手 を 出 し て く だ さ い お 願 い し ま す。
がこんなにも異性に飢えているのかエヌラスは疑問に感じて仕方な
半ば悲痛な叫びになりつつあった。どうしてこう、身の回りの女性
つもよぉ
﹁頼むから俺の理性のタガを外そうとするのはやめろよどいつもこい
?
!
﹁ネプテューヌ それだけでなくネプギアに、他の女神まで
!? !?
1360
?
!!
エピソード52 ワンショット・ワンキル
﹁うぅ∼。このままでは私がただのエロイ王様になってしまう∼。知
恵を貸してくれぇ、チーカマ﹂
﹁どう知恵を貸せばいいのよ⋮⋮﹂
ひとりで料理を食べていたチーカマは泣き縋るアーサーに困惑し
ている。だが、ネプテューヌ達から向けられている視線が生暖かいこ
とから、なにかよくない事があったのだろうとは察しがついた。とは
いえどうサポートしてやればいいのやら⋮⋮エビフライを食べなが
らチーカマは考える。サクサクの衣に、新鮮なエビの弾力が口の中で
﹂
混ざり合う。ユウコ特製のソースもまた味を引き立て、チーカマは尻
尾まで食べていた。
﹁大体エロイ王様ってなに
﹁うむー。実はかくかくしかじか﹂
﹁わからないから端折らない﹂
﹁⋮⋮実は先ほど、ドラッグシガーとやらの効能でうっかり口を滑ら
せてな﹂
﹁へぇ。モグモグ﹂
﹂
﹁エヌラスとエッチしたいと言ってしまった﹂
﹁モグぶぅーーーっ
﹁本気で
﹂
﹁というか、そんなの常用しているエヌラスって大丈夫なのかしら﹂
﹁本人は大丈夫そうだが﹂
﹂
エヌラスは今、ネプテューヌ達に囲まれて酒を飲んでいた。
﹁そういえばプルルート。酒、飲めるのか
﹁飲めるよぉ∼。女神様だも∼ん﹂
﹁そうか⋮⋮﹂
けな少女達﹂という表現以外にない状況が頭痛の種でもある。頼むか
ただ、その絵面が﹁近所の悪いお兄さんにお酒を飲まされるいたい
?
1361
?
チーカマが盛大に吹き出す。
!!
﹁それがわからんのだぁ∼﹂
?
らせめて外見年齢を自分並みに引き上げてくれと切に願いながら、エ
ヌラスは手にしていたワインボトルを空にした。
﹁エヌラスさん、お酒強いんですね﹂
まぁそりゃー、飲む必要ないしな﹂
﹁そういえばお酒飲んでるの見たことないかも﹂
﹁ん
金もない。
﹂
﹁基本、酔わないし﹂
﹁そうなの⋮⋮
は、スキットル。
﹁中身はウイスキーですの
でしょうか﹂
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ワンショットな﹂
﹁あー、ベールずるい。わたしも飲む
﹁まーたこの女神は⋮⋮﹂
刮目せよー
﹂
!
﹂
?
﹁おぉい
﹂
﹁あら、そういうことでしたらわたくしも││変身﹂
﹁飲み比べといきましょうか、ベール
パープルハートがパーティードレスで参上。ベールと並ぶ。
!
﹁そう言われると好奇心が止まりませんわ。一口だけでも、よろしい
?
?
﹁そんじょそこらの酒だと思うとひどい目に遭うから飲むなよ
﹂
そう言いながらエヌラスがコートの裏ポケットから取り出したの
﹁一応そういうのは持っているが⋮⋮﹂
?
﹁大惨事だよ
﹂
なんだこの状況
﹁ノワールはいいの
﹂
!
﹁そう
﹂
﹁あら⋮⋮﹂
﹁私は別にいいわよ﹂
声を掛けられて、ノワールもグラスを空にした。
?
!
﹁女神グリーンハート、参上ですわ﹂
?
﹁ええそうね。そんな得体のしれないお酒を飲むリスクに見合う報酬
1362
?
﹁女神化してまで飲もうとは思わないもの。ね、ブラン﹂
?
がないし﹂
言われて、エヌラスがふと、考える。
﹁これ、秘蔵の酒だしな⋮⋮そうだな。飲めたら││俺のこと好きに
﹂
していいぞ﹂
﹂
﹁アクセス
﹁変身
﹂
﹂
じゃあ本気で飲むわよ﹂
?
﹂
?
﹃せーの
﹄
﹁じゃあみんな、せーのでいくわよ﹂
﹁呑んでから言え、そういうの﹂
﹁ねぇ、これ本当に凄いお酒なの
れ以外に目立った特徴が無い。女神たちが首を傾げる。
を嗅ぐ。これもまた無臭。ほんのりとアルコールの香りがするが、そ
ぐ。見た目は透き通った色をしている、ただの水のようだが││匂い
エヌラスは全員分のワンショットグラスにスキットルの中身を注
﹁あ、はい⋮⋮﹂
﹁私だけ除け者にされるっていうのもつまんねぇからな、飲むぞ﹂
﹁それに、ネプテューヌに負けるのはなんか癪だし。付き合うわ﹂
﹁だってぇ、好きにしていいのよねぇ
衣装のプロセッサではなくドレスを着ていた。
四女神が揃い踏み、そしてアイリスハートもまた普段のボンテージ
﹁なんで全員本気出した
﹁へんしん∼
!
﹁お姉ちゃん
ベールさん達まで大丈夫ですか
﹂
!?
返答無し。全員が目を回していた。
﹁えっと、エヌラスさん。そのお酒って一体なんですか
﹂
?
ぐいっと一口だけ含んでエヌラスはスキットルの蓋を閉める。
﹁んー
﹂
﹁だーから言わんこっちゃねぇ⋮⋮おーい、大丈夫かアイリスハート﹂
!?
を置いて、二杯目を待つ││次の瞬間全員が卒倒する。
女神達がワンショットグラスの中身を一息に飲み干した。グラス
ぐいっ。
!
1363
!?
!
!
?
﹁製造元は九龍アマルガム。ただの酒かと思ったら大間違い。まず人
間の手で造れない。大魔導師の蒐集品のひとつ、そいつがこのスピリ
チュアルなアルコール││鬼殺しならぬ神殺しだ﹂
﹁すごい名前ですね﹂
﹁そう名付けたの大魔導師だけどな﹂
正式名称は﹃アフトゥ﹄という銘柄の酒だ。もちろんこれを手にす
る為にどれだけ大魔導師が苦労したかは、入手した直後に半径数キロ
を永久凍土にしたほど。その原料が何か。正気の沙汰ではとても思
えない代物なのだが、要点のみを簡潔にまとめたエヌラスの説明では
﹃邪神の血肉を一部使った秘蔵酒﹄とのこと。そんなものを酒にした
挙句、趣味でオカルト品を蒐集する大魔導師は頭が病んでいるのだろ
うか。その加工工程だけでも腕利きの酒造が何人犠牲になったこと
か。
﹁ン・ガイの森に生えてる黒い木々の中でも特に長老級、瘴気を振りま
1364
く樹木があってな。そいつの樹液を使ったらしいが﹂
﹁な ん だ ろ う、だ ん だ ん わ た し が 聞 い ち ゃ い け な い 領 域 の 話 の 気 が
⋮⋮﹂
﹂
﹁アルコール度数89%﹂
﹁え
う﹂
らな、そのせいで酒だろうがなんだろうがあっという間に消えちま
﹁銀鍵守護器官がなんでもかんでも分解して自分の魔力にしちまうか
すね﹂
﹁はい。でも、そんなお酒呑んで大丈夫なエヌラスさんってすごいで
﹁ネプギア、こいつらベッドに運ぶの手伝ってくれ﹂
が顔を背ける。
一杯で、一口飲んだだけで酔い潰れた。あられもない姿にエヌラス
﹁しかもただの酒じゃないって言ったろうに、こいつらときたら﹂
も間違いではない。
それをワンショット。女神ワンキル。あながち神殺しという名称
﹁度数89。ストレートな﹂
?
その生成を抑えるためのドラッグシガーでもあるのだが、どちらに
せよまともな身体ではない。
﹁よい、しょっと﹂
エヌラスがアイリスハートを抱きかかえる。
﹁ぅ、ん⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
艶めかしい声をあげる酩酊した女神に湧き上がる情欲をぐっと堪
えて、エヌラスは寝室に運びこむ。ベッドに寝かせて、次。
﹁ん、はぁ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮っ﹂
パープルハートを運び込み、ホワイトハートはネプギアがなんとか
寝かせている。次だ次、エヌラスは考えるのを止めた。
﹁あつ、い⋮⋮﹂
﹁脱ごうとすんな﹂
1365
ブラックハートを運びだして、寝かせる。そろそろ我慢の限界なの
で勘弁して下さい、最後。
﹁はぁ││﹂
﹁││││││﹂
グリーンハートをベッドに寝かしつけてエヌラスは戻ってくるな
りスキットルを取り出すと再び中身を呷った。喉が焼けただれるよ
うな痛みを訴えるが飲み干して蓋を閉める。脳を揺さぶられる感覚
が平衡感覚を奪い、急速に回る酒の主成分が視界を朦朧とさせるだけ
でなく精神を別世界にトリップさせられているような幸福感すらも
飲み下し││まるごと女神たちの寝顔も銀鍵守護器官で燃焼させて
俺の理性がぶっ壊れてケダモノになるとこ
エヌラスは立ち直った。
﹁死ぬかと思った││
女神を酔い潰れさせて襲うとかあんまりにも鬼畜
﹂
﹂
!
﹁今、かなりの量飲みませんでした
!
?
﹁結構いった。ガッツリ飲んだ 正直ちょっと酔ってる
これた
そこはちゃんと互いの合意を得た上でキチンとしておきたい。
の所業だろう俺⋮⋮
ろだった││
!
!
!
だの酒じゃねぇからな、飲んだらアレやぞ。どれだ、あーっと。精神
﹂
的にちょっとアレな方向にかっ飛ぶぞ、ガンギマリになる程度には
酔っ払うからな﹂
﹁えっと、お水持ってきますか
﹁お願いする﹂
ソファーに腰を下ろしてひと休みするエヌラスの隣に、アーサーが
腰掛ける。
﹁あー⋮⋮久々に飲んだ⋮⋮﹂
﹁まさか女神達が一口で潰れるとは、そんなものをよく飲めるな﹂
﹁こうでもしないと、酔えない﹂
﹁無理に酔わんでもいいではないか﹂
﹁ひとりだけ素面ってのもつまんねぇよ﹂
あー、と天井を仰ぎながら呻く姿に少しだけ距離を詰めた。気づか
れていないと思い、肩が触れ合うほど近づくとエヌラスが抱き寄せ
る。
﹂
﹁アーサー、ダメだー、めっちゃ酔ってるー⋮⋮頭フラフラする﹂
﹁だ、大丈夫かお主⋮⋮
﹁サンキュー、ネプギア﹂
﹂
なぁエヌラス﹂
﹁えと、お邪魔でしたか
﹁い、いや気にするな
﹁はい。任せて下さい﹂
ネプギアがそそくさとその場を後にして、女神たちのいないパー
ティーは静かなものだった。
﹁エヌラス、私ピィちゃんとお風呂入ったら後片付けしてイーちゃん
の資料読んだら寝るからよろしく﹂
﹁あいよー﹂
﹁わたし達も遅いからもう寝るわね、それじゃ一足お先に﹂
﹁ああ、おやすみアイエフ﹂
﹁うむ、良い夢を﹂
1366
?
﹁エヌラスさん、お水持ってきました﹂
?
?
﹁ぐびぐび⋮⋮悪い、ネプギア、もう一杯貰えるか⋮⋮﹂
!
﹁アーサー。悪いけどわたしももう寝るわ﹂
﹁あ、うむ⋮⋮﹂
﹁おやすみ、チータラ﹂
﹁だからチーカマだってば﹂
残されたアーサーとエヌラスの間に、妙な空気が流れる。というの
も、バルコニーでのドラッグシガーの件があるからどうにも意識して
ネプテュー
しまう。両手でグラスを持って硬直しているアーサーが思考を張り
巡らせる。
︵い、いや待て。これはある意味チャンスではないか
︶
ヌ達は酔い潰れ、ユウコも風呂に行った。アイエフ達も先に寝ると
言っておったし、二人きりだ⋮⋮いや、だがネプギアはどうする
││もしや、エヌラスはこの状況を作り出す
﹂と一撃必殺。
︵逃すのか、この好機
ちゃいいんだよ
訴えかけるが、アーサーの中で渦巻く情念が﹁うるせぇワンパンで勝
目を覆っていた。酔った勢いで情事に持ち込むのはどうかと良心が
チラと横を盗み見るとエヌラスはまだ酔いが回っているのか腕で
!?
そこまで
ネプテューヌ達を酔い潰れさせ
恐ろしい、恐ろしいぞこの男⋮⋮
為に酒を用意したのではないか
たのもこのためか
!
る。
︵臆するのか、私
ティストレイン
いいのか私 ジャスティストレイン、ジャス
︶
︶
れがエヌラスが口をつけていたボトルであるというのはひとまず置
アーサーが立ち上がり、飲みかけのワインボトルに手を伸ばす。そ
︵ええい、ままよ
そんな時に便利なのが目に入った。
サーだったが、もう後ひと押し。背中を押してくれる勇気が欲しい。
も は や よ く 分 か ら な い 言 葉 で 自 ら を 奮 い 立 た せ よ う と す る ア ー
!
ゆくぞ ジャスティストレイン、ミリ
!
いておくとして。
﹁酒が飲めずに何が王か
!
1367
?
││なお、少なからず酔いが回っているのはアーサーも同義であ
考えておるとは⋮⋮︶
!
?
!
!
!
!
!
オンアーサー
﹂
﹂
﹁ごぷっはぁぁぁぁぁ
お主は私をどれだけ辱めれば気が済むのだ
﹁お、おおう。それ、俺が飲みかけてた奴だったような﹂
!!
﹁なんだ
﹂
﹁エヌラス﹂
しでも心の整理をしておく。
深呼吸を繰り返して、頭に酸素をしっかりと送り込んでアーサーは少
が 回 っ て 赤 く な っ た 顔 の ま ま ア ー サ ー が エ ヌ ラ ス の 隣 に 座 り 込 む。
それでもちゃんとボトルを空にして置いておく辺り、律儀だ。酔い
!?
これ以上私をど
ハッキリ言えばいいのであろう
のなのか具体的な想像が出来ない事は認めよう﹂
ああもう、面倒だ
﹂
﹂
そ、それじゃ
!
全て遠き理想郷でしかないのか﹂
﹁もうだめだ⋮⋮おしまいだぁ⋮⋮
私のジャスティストレインは
﹁落ち着けアーサー。暗黒面だだ漏れてるぞ﹂
在を消すにはどうすれば良いと思うエヌラス⋮⋮﹂
﹁可能ならば今すぐにでもネプギアの記憶を消し去りたいのだが、存
れ以上ないほど落ち込み、うなだれていた。
ネプギアが気を遣ってグラスを置いて去っていく。アーサーはこ
ごゆっくり
す⋮⋮ごめんなさい。あの、お水置いておきますね
﹁ちょうどミリアサさんがエヌラスさんに、その││を、言うところで
﹁ネプギア、お主、いつ戻ってきた⋮⋮﹂
!
﹁何の話だ⋮⋮﹂
﹁だから
﹁エヌラスさん、お水││﹂
!
﹁私と子作りしろと言っているのだこの馬鹿者め
うする気だ
間。
!
﹂
行練習というやつだ、何分私もそういうことには疎い。どういったも
﹁その、だなぁ⋮⋮予習というか、練習というか⋮⋮そう、そうだ。予
?
!
﹁⋮⋮うわぁ、すごいタイミングで戻って来ちゃった⋮⋮﹂
!
!
!
1368
!
﹁しなびた野菜みたいな事言うなよ。そうだな⋮⋮お互い酔いが回っ
てるし、外の空気でも吸いに散歩でも行かないか﹂
﹁うむ⋮⋮そうしよう﹂
1369
エピソード53 酒は飲んでも吐き出すな
夜のプラネテューヌは昼間の賑やかさは潜み、優れた科学技術に
よって発展を遂げた街並みが幻想的に照らされていた。ほろ酔い気
分で歩く二人の火照った身体を冷やすにはちょうどいい心地よさの
歩きにくかったら離す﹂
夜 風 が 吹 き 抜 け て い く。そ れ で も 酔 い が ま だ 足 元 を ふ ら つ か せ る
アーサーがエヌラスに寄りかかった。
﹁おぉっとと⋮⋮す、すまぬ﹂
﹁気にすんな﹂
﹁⋮⋮⋮⋮エヌラス、このままでも良いか
﹁ああ、このままでいい﹂
﹁そうか﹂
腕を組んで歩く。目的などない。ただ頭を冷やそうと外に連れ出
二人で夜の街
しただけだ。少なくとも、エヌラスはそのはずなのだが││。
︵う、うぅむ。これはいわゆるデートではないのか
﹁そうなのか
﹂
﹁なんだ、そんなことか。よく聞かれるから慣れてる﹂
﹁お主の左目の傷が気になったのだ。気に障ったなら謝る﹂
﹁どうした、アーサー﹂
た。その視線に気づいたのか、二人の視線がぶつかった。
であると思い知らされる。顔を盗み見ると、左目の刀傷が気になっ
だった。何もかもが初めてで、今の自分がまるっきり恋愛に疎い少女
異性と腕を組んで歩くという経験は、アーサーにとって新鮮なもの
たがそれとこれとでは違う︶
を歩くなど⋮⋮いや、確かに今までもチーカマと一緒に歩いたりはし
?
﹁自由業の方ですか
﹂なんて聞かれる﹂
もある。そのせいでユウコに地面に頭を埋められたりもした。常人
商業国家ユノスダスに至っては顔を見るなり子供が泣き出すこと
﹁なんか、すまぬ⋮⋮﹂
?
1370
?
﹁ああ。アダルトゲイムギョウ界じゃ﹁どこの組のもんですか﹂とか
?
なら死んでいるところだが手加減無しでやるものだから非常に痛い。
ギャグ補正とかそういうの抜きで。
﹁俺の妹を惨殺したやつがいてな。そいつと決闘してたら不覚を取っ
て、このザマだ﹂
〝狂い時計〟のクロックサイコ││リセットを繰り返した世界線
では真っ当な人形師であり時計職人として九龍アマルガムで生活し
ているが、それでもやはり過去の因縁は拭えない。今だに苦手意識が
ある。大いなる〝C〟の隷属として操られていたとはいえ、だ。
﹂
﹁結構ざっくりいってたみたいでな。治すのにすげぇ時間かかった﹂
﹁不便ではないのか
﹁最初はそうだったな。今はもう慣れた、しっかり見えてる﹂
ついでならば、と。色々と視覚強化をしたせいで左目だけがやたら
視力が良い。それに合わせていたら人体改造ばりに身体強化に魔術
回路を使用していた。その反面、最も回路を使用している右腕が魔力
を喰い始めた。それでは食費と身体と燃費が悪いことから、ドラッグ
シガーを製造したのだが、今度はそれを手放せなくなったと本末転
倒。
その経緯を歩きながら話しているうちに酒も抜けてきた。
﹁││と、まぁそういうわけだ﹂
﹁お主はそうまでして、ネプテューヌ達を愛しておるのか﹂
﹂
﹁まぁな。あいつに言うと調子乗るから言わないけどな﹂
﹁⋮⋮私では、不服ではないか
﹁どうして﹂
﹁自称王様でもか
﹂
﹁お前に不満なんてねぇよ、アーサー﹂
百万人いるアーサーの一人、アーサー王候補生なのだぞ﹂
﹁どうして、とは⋮⋮それは、私が女神などではないからだ。それに、
?
﹂
座ってたが内政放ったらかしにして自分の国滅ぼしかけたっつーか
﹂
滅んだしな。まぁ気にすんなって
﹁いや、それは一大事だぞ
!?
!
1371
?
﹁王様︵予定︶の間違いだろ。それに俺なんて、一時期国王の椅子に
?
笑い飛ばすエヌラスだが、アーサーはまだ酔いが残っているのか
ピッタリとくっついて離れない。
﹁うぅむ、大声を出したら気分が⋮⋮﹂
﹂
﹁結構歩いたしな。どうする、適当に宿でも取って朝にでも戻るか﹂
﹁それはそれで問い詰められそうだが⋮⋮良いのか
﹁俺の社会的な評価なんて微塵も残っちゃいねぇよ⋮⋮このまま最底
辺突っ走りながらどうにかする﹂
││で、泊まるのは良かったのだが⋮⋮。
プラネテューヌのホテルは質もサービスも良い。働く人々の為に
開放されていたビジネスホテルは片っ端から全滅。どこも満室だっ
た。アーサーが気分を悪そうにしていたのでエヌラスが急いで駆け
込んだ先はネオンの自己主張が激しい、俗に言うラブホテル。なんで
あるんだプラネテューヌと首を傾げたが、それはそれ。ホテルの一軒
や二軒、探せばあるだろう。無いほうがどうかしている。そもそもネ
プテューヌ達のような国を治める女神がラブホテルを利用していた
らそれは大問題だ。
エヌラスに関しては論外。受付が顔を見るなり引きつった笑みを
浮かべた。一泊、一部屋と間髪入れずに言うなり代金を支払って無言
で出された鍵を受け取る。
さて。室内はと言うと││まぁ、そういういかがわしいお店である
以上はそういう拵えになっているのだが、アーサーの顔色がいよいよ
危ない。それもそのはずだ。エヌラスが自分用に買ったワインは陳
列されていた中でもキツイ方の部類に入る。ほろ酔い気分は最初だ
けだ、後から押し寄せるアルコールが胃袋の中身をかき回していた。
トイレの扉を開けて、アーサーを座らせる。
﹁うぅ∼、目が回るぅ∼﹂
﹁大丈夫かよ、本当に﹂
﹁喉の奥から熱い何かが込み上げてくる⋮⋮だが、ここで吐いてたま
るものか⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
1372
?
エヌラスがスキットルの蓋を開けて、中身を一口だけ舌の上で転が
す。唾液と混ぜ合わせて、口内が痺れを訴える。アーサーの顔を捕ま
ぁ、んぅ⋮⋮う⋮⋮﹂
えると、舌を入れて唾液と一緒に口の中に流し込む。
﹁んふぅ
ごくり、と飲み干す音にエヌラスは顔を離してアーサーの背中を擦
﹂
りながら便器に顔を向けさせた。
﹁何をす││うぅっぷ
﹂
﹁ユウコ、おっきい
ぼいんぼいん
﹂
!
﹁そうなの
﹂
﹁でも、ピィもおっきいよ
﹂
﹁こらこらーあはは。ピィちゃんくすぐったいからやめようねー﹂
!
を眺めていたピーシェの手がバスタオルで隠している胸を掴んだ。
ピーシェの身体を洗い、ユウコは自分の髪を洗い始める。その様子
﹁はーい
﹁ほら、ピィちゃん暴れない暴れなーい。ごしごし∼﹂
護のため、入浴するピーシェとユウコの様子を御覧ください。
││あまりにショッキング&ミリオンアーサーのプライバシー保
!!
?
へんしーん
シェは胸を張る。
﹁見ててね
﹂
わたしもおっきいでしょ
が全裸で腰に手を当てていた。
﹁どう、ユウコ
﹂
﹂
これならユウコと背中洗いっこ出来るよ
﹁私よりでけぇじゃん
﹁そーだ
ね﹂
!
﹂
﹁え、いや今はちょっと髪洗ってるんだけど﹂
﹁いいから。洗うよー、それー
洗ったげる
光りに包まれて、身体がみるみる成長して⋮⋮女神イエローハート
!
言うなり手にとったボディシャンプーを泡立たせてユウコの背中
!
!
!?
!
1373
!?
!
女神化││その言葉が脳裏をよぎり、ユウコがそう聞く前にピー
?
!
!
に塗りたくる。それから、自分の胸を押し当てて洗い始めた。未だ経
あれ、そういうお
験の無い未体験の感触と流し方にユウコが髪を洗っていた手を止め
なんで背中に柔らかいのが
﹂
!?
る。
なに
どこで覚えたのこんなの
﹁えっ
店
!?
んしょ、んしょ﹂
?
﹂
!
﹂
?
自分のアイデンティティが若干危機感を覚え、それがベールも通っ
︵絶対にエヌラスと一緒にお風呂入らせないようにしとこう⋮⋮︶
﹁うん、わかった
で私がちゃんと教えてあげるからちょっと待ってねー
﹁気持ちよくって嬉しいんだけどねー、ピィちゃん。背中の流し方、後
﹁どーお、ユウコ。うまく洗えてる
││その頃ベッドではホワイトハートが鬼のような形相をしていた。
それが別次元のべるべるであることは敢えて触れないものとする。
﹁そっかー。じゃあ後でベルちゃんにはお仕置きだな、しばいとこ﹂
て﹂
﹁べるべるが教えてくれたんだ。おっぱい大きい人はこうするんだっ
!?
!?
た道である事をユウコは知らない。
1374
!?
エピソード54 法は人の為にある︵R︶
││ホテルの一室。ベッドに腰掛けてバスタオルを身体に巻いた
アーサーが世界の終わりを前にした表情で沈み込んでいた。
﹁⋮⋮吐いた。ふふ、盛大に吐いたぞ、私は⋮⋮それも男の前で⋮⋮終
わった⋮⋮我が生涯がいっぺんに台無し⋮⋮﹂
トイレに向かって盛大にぶちまけた結果として、アーサーは上の服
が少々汚れたので現在エヌラスが洗濯中だ。ありがたいことに、脱衣
場にはコインランドリーが用意されている。ただし一人用だが。
アーサーの介抱をしていたエヌラスのコートと上着も被害をこう
むったので自分の服を手洗いしていた。乾燥させるにはアーサーの
上着が洗い終わってからである。
﹁おーい、いつまで落ち込んでるんだよ﹂
が壊れて脱落。その飲み比べ大会も勝利が決まった後、大魔導師は盛
1375
﹁お主には分かるまい⋮⋮私の身体を通して出るこのオーラが⋮⋮﹂
﹁嫌というほど分かるよ、その負の感情⋮⋮どうしてこう酒に負けて
吐いた奴は同じ顔するんだ﹂
つい最近、見かけた気が││酒樽を用意してアホのように飲み比べ
をしていたパーティー。大魔導師とエヌラスと、ソラ。そしてドラグ
レイスも含めた﹃第ン回だか忘れたけれども折角だから開催したよ
パーティー︵発案者、大魔導師︶﹄の最早恒例となっていた。ちなみに
第一脱落者は言うまでもなく、ソラだったりする。その後すぐにアル
シュベイトの世話になりながら吐いて││アーサーとまったく同じ
ような事をしていた。
﹃どうして君らはそう、アホみたいに酒飲めるんだよ馬鹿じゃないの
﹄
か⋮⋮飲まなくても生きていけるだろおかしいよ君ら⋮⋮おぉっぷ
⋮⋮﹄
次持ってこーい
﹃おい、ソラがまた吐いたぞ。エヌラス﹄
﹃ゲロでも飲ませとけ
!
大魔導師が最終的に残り、ドラグレイスは酔い潰れ、エヌラスは樽
!
大に吐いてクロックサイコの世話になっていたが。
﹁お主も吐けば分かる⋮⋮﹂
﹁分かりたくない﹂
﹁頼みがある。誰にも言わないでくれるか、特にチーカマには﹂
﹁あー、うん﹂
口うるさいチーカマのことだ。どうなるかが目に浮かぶ。
﹁とりあえず、明日の朝になったら教会に戻って適当言っておくか。
そんな目で見るなよ、心配すんな。悪く言ったりしないから﹂
﹁うむ⋮⋮﹂
少し落ち着きを取り戻したのか、だがアーサーの顔色はまだ優れな
い。エヌラスは備え付けの冷蔵庫の中身を見ると、ご丁寧に飲料水が
いくつか入っていた。その中から天然水を持ち出すと手渡す。力な
く受け取り、一度だけラベルを確認してから飲み始めた。
エヌラスは隣に座り込む。ベッドに半裸で腰掛ける男女││それ
うーむ、これか
﹂
顔 を 覆 う。な ん で 見 知 ら ぬ そ れ を 手 に し て し ま う の だ ア ー サ ー。
なんで置いてある
?
﹂
だが、本人もソレはよく知らない物体なのか首を傾げている。
﹁それで、ゴムというのは何なのだ
愛を営む為に必要なのか
﹂
?
?
1376
に思い当たったのは同時なのか、盗み見た視線がぶつかった。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁その、なんだ。ホテルに泊まるのには慣れているが、こういう場所は
初めてなのだ﹂
﹁そ、そうか﹂
うむ、好奇心がそそられなくはな
緊張感をはぐらかすようにアーサーは室内を見渡す。
﹁普通のホテルとは、また違うな
いな﹂
!
﹁こういう時って大抵お約束で、ゴムとか見つけるよな﹂
﹁ゴム
?
﹁なんで見つけちゃうの⋮⋮﹂
?
﹁それはだな、アーサー。ここが愛を営む為の場所だからだ﹂
﹁む
?
﹁そ う だ な。夜 の 営 み の 心 強 い お 供 だ。か く い う 俺 も 何 度 か 世 話 に
なってる﹂
﹁ほう。経験豊富なのだな﹂
﹁まぁ⋮⋮かなり﹂
両手の指でも足りるかどうか。それどころか、リセットも含めると
﹂
││考えたくない。ありがたい事にそれで死ぬことはないのが銀鍵
守護器官のおかげだ。
﹁⋮⋮私もその一人になるのか
﹁お前が望むなら、そうするが﹂
﹁⋮⋮これを、どう使うのだ﹂
口をゴムで隠しながらアーサーはエヌラスの顔を見上げる。バス
タオルで隠された身体が見え隠れしていた。
﹁使い方を教えてやってもいいが⋮⋮そうするとだな、その⋮⋮﹂
﹁言ったであろう。予行演習だと﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮正直、私はすごく怖いのだが││﹂
アーサーが脳裏に浮かべたのは、邪神を相手にしていた時のエヌラ
ス。真っ先に脅威へ身を投げ出して戦う姿。惚れ込んだわけではな
いのだが、その姿がどうしてか目に焼き付いていた。
きっとそんな戦いを繰り返したのだろう。それが当たり前の日常
で、それが彼にとって当然のことだった。その背中に││その姿に、
騎士が重なる。相手の脅威など関係なく、ただ一点││〝守る〟とい
うことに全身全霊を懸けた行動。
﹁お主は、そんな騎士ではないと信じている﹂
バスタオルをはだけさせて、アーサーはゴムを咥えていた。紅潮し
ている頬と、差し出すように口を出すと、目を閉じる。
﹁ん﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮んっ﹂
﹂
1377
?
ぐいっと迫るアーサーの顔から、エヌラスが思わず身を引いた。
﹁んー
!
﹂
﹁わかったよ。ただし、痛かったらすぐ言えよ﹂
﹁痛いと言ったら、やめるのか
﹁変神してやろうか
加減しねぇぞ﹂
﹁⋮⋮変なところで優しいのだな﹂
﹁そりゃ⋮⋮なんか後味悪いしな﹂
?
﹁んぅ﹂
慣れているのではないのか﹂
﹁がっつくような真似はしたくない﹂
﹁くすぐったいぞ、こそばゆいな。もっと、こう⋮⋮﹂
ではなく、これがエヌラスなりの気遣いだと思うことにした。
体をよがらせる。焦らされるような、それでいて触れるのを躊躇う風
して、肌に触れるかどうかのギリギリを責めるタッチにアーサーが身
エヌラスの口づけは徐々に鎖骨から下へ向かっていく。手を伸ば
﹁むぅ、されるがままというのも⋮⋮中々いじらしい、な﹂
握る手に力が込められている。
降りていく。舌を這わせるとアーサーの身体が強張った。シーツを
はなく、頬に口づけする。何度かそれを繰り返して、少しずつ首元へ
尻すぼみになるアーサーの言葉に、エヌラスは顔を近づけた。唇で
﹁ん⋮⋮ぁ、いや今のはちょっと驚いただけだ。気に、するな⋮⋮﹂
触れられて少し驚いたアーサーが身体を震わせる。
頬に手を添えて、撫でる。ふっくらとした弾力が癖になりそうだ。
も気を遣うんだよ﹂
﹁お前とは正真正銘、初めてだから緊張してるんだよこれでも⋮⋮俺
﹁なぜだ
﹁⋮⋮俺も﹂
﹁き、緊張⋮⋮するな﹂
ず、落ち着かない様子だ。
はぁ、と吐息を漏らす。アーサーは初めての事に戸惑いを隠しきれ
く、ゆっくりと。まるで病人でも寝かせるようにして見つめ合う。
もちろん冗談だが、アーサーをベッドに押し倒す。強引にではな
?
ピク、と身体の奥底。下腹部がじんわりと熱を持ち始めている。
﹁⋮⋮キス﹂
1378
?
﹁ん
﹂
﹁エヌラス⋮⋮やはり、私とキスをするのはイヤか
﹁いや、別に。どうしたんだいきなり﹂
﹂
﹁吐く前に、口移しで酒を飲ませただろう。だから、もう一度⋮⋮した
いのだが﹂
気にしているらしい。エヌラスはそれを無視してアーサーと唇を
重ねた。
私がアーサー王となった日の為に⋮⋮﹂
﹁││ふ。これは⋮⋮良いな、エヌラス⋮⋮ん、ちゅ⋮⋮よ、予行練習
だからな
背筋を撫でて、そのまま下着を脱がせていく。
の身体を弄り始めている。
る人だ。手を回して抱き合っているうちにエヌラスの手は、アーサー
ああそうだとも。この手に抱く以上は、命に換えても守る価値のあ
﹁当たり前だ││﹂
差し伸べた輩も奪う権限はない。
例え、どんな神の摂理であろうとも││この手に抱いた女も、手を
エヌラスはアーサーの唇を塞いだ。
﹁だが、お主は旧神だ。神を縛る法などありはしないではないか﹂
﹁騎士が王様とこんな事をするなんて、過去の英霊に殺されそうだ﹂
﹁││ん、ハァ⋮⋮こく⋮⋮癖になりそうだ﹂
抱き寄せた身体が。触れ合う肌と肌の境界が曖昧になってくる。
く耳に入ってくる。
を嬲る。水音が鳴り始めた。ぴちゃ、くちゅとその音が塞ぎようもな
からどこまでが自分のなのかが分からなくなるくらいお互いの口内
アーサーだったが、自らも舌を絡め始める。唾液が混ざり合い、どこ
手を回して抱き寄せた。最初こそエヌラスにリードを握らせていた
物にアーサーの身体が僅かに跳ねたが、すぐに受け入れて首の後ろに
触れ合った唇を少しだけ離し、舌を入れる。口の中に入り込んだ異
﹁⋮⋮ん﹂
﹁分かってるって﹂
?
生まれたままの姿で、アーサーが身体を抱き寄せていた。
1379
?
?
﹁は、裸の王様というのも⋮⋮いないのだぞ
少女だ﹂
﹁⋮⋮美少女の間違いだろ﹂
だから私は今、ただの
髪を梳いて、解いていく。それに顔をこれ以上無いほど真っ赤にし
ている。髪は女の命というが、その結び目を解くというのは一番恥ず
かしいのだろう。
1380
?
エピソード55 快楽天を衝く︵R︶
強張るアーサーの身体に、愛撫を続ける。肌に触れて、緊張を解す
ようなマッサージ。それに少しずつ慣れてきたのか、力を抜いてい
く。時折声が漏れているのを気にしてか、口元を押さえていた。
エヌラスはそれで手が塞がっているのをいいことに、アーサーの足
を持ち上げて押さえる。
﹁ば、バカ⋮⋮これでは、見えてしまうではないか﹂
ぴたりと閉じられた割れ目を隠そうと伸ばす手よりも早く、エヌラ
スの頭が股に吸い付いていた。鍛えられた太もものハリがある弾力
﹂
そんなところを嗅ぐな、変態﹂
に挟まれながらも、それは決して強くない。むしろ心地よさすら感じ
る。
﹁ひぁ⋮⋮
﹁呼吸するなと
無理な注文だ。エヌラスはその割れ目に触れて、指で広げる。まだ
誰にも触れられたことのない箇所の敏感な刺激にアーサーが反射的
に震えた。だが、痛みはない。熱く、柔らかい肉厚な大陰唇を指先で
な ぞ る。そ れ だ け で 嬌 声 を 押 し 殺 し て い る ア ー サ ー の 顔 は 涙 目 に
ま、待て、なにをす││んっアァ
そこ、ダメ⋮⋮お
なっていた。陰核を舌でなぞられてアーサーの背中が仰け反る。
﹁ふゥ⋮⋮
かしくなってしまう﹂
手は愛撫を続けていた。
る未体験の快感に、未知の恐怖があるのだろう。それでもエヌラスの
が分かる。首に手を回して、縋り付いてきた。自分の身体を駆け抜け
頬に手を添えてキスを繰り返すと、徐々に身体の力が抜けていくの
﹁アーサー﹂
てきて、僅かにだが濡れていた。
じられていた膣口が痛いほど締め付けてくる。熱い肉襞が絡みつい
れ目に指を濡らしてから挿入した。中指で軽く中を探ると、キツく閉
舌を離し、エヌラスはそのまま身体を投げ出しているアーサーの割
!
1381
?
!
!
﹂
﹁なんだ、これ、はぁ⋮⋮私は、知らないぞこんにゃの⋮⋮﹂
﹁⋮⋮大丈夫か
れ﹂
エヌラ、ス⋮⋮なんだか、私﹂
﹁入れるんだよ﹂
﹁⋮⋮エヌラス、頼みがある。手を握ってくれないか
﹂
﹁ほう。そうやって使うものなのだな⋮⋮というか、入るのか⋮⋮そ
た。
目で追っていき、エヌラスの陰茎に薄い膜のようなものが着けられ
顔の横に置いていたゴムを取ると、封を開ける。それをアーサーが
括ったのか、呼吸を整えていた。
の如く一糸まとわぬ裸体を重ねる。それにいよいよアーサーも腹を
むしろここからが本番だ。エヌラスも下着を脱ぐと、お互いに赤子
﹁死なれちゃ困るんだが⋮⋮﹂
﹁見せる、な⋮⋮恥ずかしさで死んでしまう﹂
先を合わせると、部屋の照明でてらてらと妖しく輝いていた。
指を引き抜くと、すっかりシーツまでシミになっている。濡れた指
﹁はぁ、あ
せる度にアーサーからは甘い声が漏れていた。
いく。押しこむようにして、強弱をつけながら不規則に快感が押し寄
間隔を開けながら指先でノックするとそれだけで指が熱く濡れて
浮かべる。
跳ねた。ウィークポイントを見つけて、エヌラスは意地の悪い笑みを
がある。再び挿入した指で中を弄ると、ある一点でアーサーの身体が
情欲も抑えが効かなくなってしまう。それでもエヌラスなりに意地
乱れている。そんな無防備で、気丈に振る舞われていては湧き上がる
涙目で紅潮しながらも、強がってみせるアーサーは、少しだけ髪が
﹁だい、じょうぶじゃないかもしれぬ⋮⋮胸が高鳴って仕方ない⋮⋮﹂
?
していく。最初こそ侵入を拒んでいたが、先端が入ると後は愛液で滑
れる愛液でしっかりと濡らしてからエヌラスはゆっくりと腰を落と
手で押さえながら、キツく閉じられた割れ目の入り口にあてがう。溢
アーサーの伸ばす手を、エヌラスは指を絡めてしっかりと握る。片
?
1382
!
る よ う に 挿 入 を 果 た す。身 体 の 中 か ら 圧 迫 さ れ て 苦 し そ う に 喘 ぐ
﹂
アーサーだったが、エヌラスの頬に手を添えて笑ってみせた。
﹁おい、無理するなよ
﹁お主は、本当に⋮⋮優しいな。案ずるな、これくらい平気だ﹂
腰を引いて、ゆっくりと押しこむ。グリ、ゴリと膣内で肉襞が陰茎
を包み込んでいるのが分かった。薄いゴムの上からでも分かるほど
アーサーの中は蠢いて、余さず咥えこんでいる。その甘い刺激を貪る
ように犯したい情欲をぐっと堪えながらエヌラスも膨れ上がる陰茎
﹂
を動かしていた。浅いストロークだけでもアーサーの口からは甘い
嬌声が小さく漏れる。
﹁あっ、ん。あっあっ⋮⋮
﹁⋮⋮
エヌラス││﹂
かべる。
腰を引いて、動きを止めるとアーサーが息を乱しながら疑問符を浮
したくなってしまう。
いるのだろう。そんなことをされてはエヌラスも少しばかり意地悪
絡めた指先の力が強くなった。押し寄せる快楽に負けまいとして
!
ひぅん
﹂
にならない快楽が押し寄せてきた。アーサーの身体が震え、背中が仰
はぁ、突くな、ぁ
!!
け反るほど跳ね上がる。
﹁そんにゃ、とこぉ⋮⋮
!
﹂
あ、にゃに⋮⋮﹂
﹁出る⋮⋮
﹁へ
﹁アーサー、そろそろ⋮⋮
﹂
胸までもが柔らかそうに震えていた。
ヌラスの名前を繰り返す。身体が揺れるのに合わせて均整の取れた
なかった。すっかり惚けた顔でアーサーは手を繋ぎながら何度もエ
こうなってしまっては王の威厳もなにもない。ただの少女と変わり
呂 律 の 回 ら な い だ ら し な く 開 け た 口 か ら 熱 い 吐 息 を 漏 ら し て い た。
こらえきれない快感の虜になっているアーサーは涎を流しながら、
!
!
1383
?
そこで、一気に根本まで突き上げると今までの浅い刺激とは比べ物
?
言うが早いか、エヌラスは射精する。ゴム越しに伝わる熱い感触に
!
?
犯されてアーサーは放心していた。ただ、自分の中で何かが満たされ
ていく感触だけが分かる。何度か震えた陰茎が一通りの射精を終え
てからエヌラスは引き抜いた。
ゴムの先端は真っ白な液体で満たされており、プルプルと揺れてい
る。エ ヌ ラ ス も そ れ が 零 れ な い よ う に 引 き 抜 く と 口 を 縛 っ た。
ティッシュで汚れを拭き取ると、丸めて捨てる。
﹁ふぅ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁どうだった、アーサー﹂
﹁気持ち良くて、ただもうそれしか考えられんかったな⋮⋮まだ頭が
ボーっとしている﹂
身体をベッドに投げ出して、火照った身体からは汗が滲んでいた。
それが尚更、アーサーの身体を艶めいて飾り付けている。照明の色合
﹂
いもまた、そんな感情を焚きつける為のものだ。
﹁はぁ、はぁ││エヌラス⋮⋮
ああ、構わんぞ⋮⋮お主とは身体を重ねた仲だ。今更肌を預
﹁⋮⋮アーサー、少しだけ胸借りてもいいか﹂
﹁胸
谷間に挟ませる。手で胸を揉みながら腰を動かし始める行為に、疎い
アーサーでもそれが何のためにしているのかが分かった。
﹂
アーサーの視線は胸の谷間から顔を出す亀頭に釘付けになる。
﹁気持ち良いのか
﹁ん、あぁ⋮⋮﹂
エヌラスが再び腰を動かし始めると、唾液が谷間に潤滑油の役割を
け濡らせば良いだろう﹂
﹁んぶっ⋮⋮ふぅ、変な味だな⋮⋮はぷっ⋮⋮じゅる⋮⋮ふぅ、これだ
た。
アーサーが自分で胸を押さえながら、エヌラスの亀頭に舌を這わせ
﹁これなら、私でも手伝えそうだ。少しよいか﹂
?
1384
?
エヌラスはアーサーの身体に跨ると、まだ勃起している陰茎を胸の
練習とはいえだ。
けることに遠慮はいらぬ﹂
?
果たしてスムーズに動き出す。擦り付けられる陰茎の熱に驚きなが
らも、アーサーはその行為を受け入れていた。乳首を弄られて身体が
疼きだすが、今はエヌラスの貪欲な性行為に夢中になっている。
﹁どうだ。私のおっぱいは。気持ち良いだろう﹂
﹁ああ、癖になる。たまに借りたいくらいにはな﹂
﹁ん⋮⋮そうか﹂
﹁ッ││﹂
やがて、胸の弾力に挟まれた陰茎が二度目の射精を果たしてアー
サーの顔に盛大に精液をぶちまけた。それに驚いて目を閉じていた
が、やがて収まると自らの顔を汚した精子に口をへの字に曲げる。
﹁出すなら出すと、言ってくれ。汚れたではないか⋮⋮髪まで⋮⋮こ
んなに出して﹂
﹁あー、悪い。アーサー⋮⋮﹂
﹁むぅ⋮⋮﹂
﹁ふむ﹂
これも身体を洗うのに使うのか
﹂
アーサーの手に少量垂らし、お湯で薄めるととろみが出てきた。
1385
﹁せっかくだし、風呂で流すか。まだ入ってなかったしな﹂
﹁⋮⋮これだけ出して、まだそんなに元気とは恐れ入るぞ﹂
アーサーの視線はまだ元気なエヌラスの息子に向けられていた。
ただしゴム
﹁もうここまで来ると、私がどれだけ搾り取れるか試したいところで
はあるな。よし、風呂場だ﹂
﹁うわー、この王様スゲー切り替え早い﹂
﹁なんだか私も楽しくなってきてな、まだまだするぞ
は必須だ﹂
た。シャンプーやリンスなどは一通り揃っているが、その中にひとつ
シャワールームは思いの外広く、代わりに浴槽は一人分となってい
どうやらアーサーの王のUTSUWAは寛大らしい。
!
見慣れない物があって興味津々な様子でアーサーが手にする。
﹁ローション
?
﹁いや、これはどちらかと言うと、こう手にとって﹂
?
﹁身体に塗ったり﹂
﹁ふむふむ﹂
﹂
言われたとおりに実践する。
﹁それで
∼∼っ⋮⋮こ、こうするの、か
﹂
?
ここが弱いのであろう
含み笑い。
﹁ここか
?
堪え性がないのだな﹂
?
た。
﹁出したくて堪らないのだな、エヌラスよ⋮⋮どうなのだ
﹁││、出したいです。すごく﹂
?
﹂
!
それはなんだ﹂
?
﹁ひグぅ
こ、これではまるでケダモノではない、かァ
はぁ
!
﹂
壁に手をつかせて、ゴムを着けたエヌラスが後ろから突き上げる。
﹁倍返しだ
﹁む、そうなのか
﹁││でもな、ひとつだけ代償があるんだ﹂
﹁ふふん、ほうほう。こういう喜ばせ方もあるのだな﹂
めて、機嫌が良さそうに笑う。
液が吐き出され、アーサーの身体を白く汚していく。その熱を受け止
両手で包み込み、アーサーが何度も擦り上げるとやがて勢い良く精
﹁仕方のないやつめ﹂
﹂
サーの表情は、先程までの初な反応からは信じられないほど妖艶だっ
が 溢 れ る。そ れ を 掬 う よ う に 指 先 で 裏 筋 を な ぞ り 上 げ て い く ア ー
ふと、アーサーが手を離した。焦らされて震える鈴口からカウパー
﹁ん、もう出そうなのか
﹁アーサーの手、思ったより柔らかくて、予想以上に良いな⋮⋮﹂
いだろう﹂
ほれほれ、どうだ。気持ち良
辺り、カリ首を責めるとエヌラスが声を押し殺した。それにニヤリと
というのは胸で実感済みだと学習している。特に反応のある亀頭の
驚いて手を離すが、すぐに上下にしごき始めた。擦ると気持ち良い
﹁ひぁ
エヌラスはアーサーの手を自分のペニスにあてがう。
﹁こう、したりだな﹂
?
?
!?
!
1386
!?
こんなの、あと四十六回もされたら狂ってし
﹁四十八手全部テメェの身体に叩きこむぞこんにゃろう﹂
﹂
﹁そ、そんな、むりぃ
まう
!
込んだ陰茎からの快楽に腰が抜けていく。
﹂
﹁エヌラス、わるかった。私が、悪かったからぁ⋮⋮
ゆるひてくれぇ∼∼
﹁だーめーだ﹂
﹁ひぃん
!
﹂
スの手がアーサーの身体を抱き寄せて座り込む。自重で奥まで咥え
根本まで入れて、それからゆっくりと引いて緩やかに責めるエヌラ
!
する。
ながら、精力旺盛で絶倫なのは洒落や冗談ではないと身を持って体験
相手があまりにも悪かった。アーサーはエヌラスに何度も突かれ
!
││案の定、二人が眠りに落ちて目が覚めたのは昼頃だったが。
1387
!
エ ピ ソ ー ド 5 6 今 日 も プ ラ ネ テ ュ ー ヌ は 平 和 で す
⋮⋮
次元渡航。多次元宇宙を自由に移動できる能力というほど便利な
も の は な い。あ ら ゆ る 次 元、あ ら ゆ る 世 界 に 顔 を 出 す。そ れ は 彼 に
とってしてみれば、軽い旅行のような感覚だった。ただひとつ問題が
あるとするならば、その移動には少なからず代償が伴う。自然、移動
を頻繁に行えばそれだけ消耗する。そんなわけで、彼は自分がどの次
元に移動したとしても休息を摂ろうと決めていた。
辿り着いた先は、見知らぬ廃墟。既に崩壊した後の次元。彼にとっ
てしてみれば、見慣れた世界。
自分がいた世界は、いつだってこういう結末だ。自分が望み、思い、
願うままに破壊してきた。それに理由はない。なぜならそれが自分
という存在定義。意味などない。ただそうするべくして生まれたの
だから当然だ。
廃墟から飛び降りて、歩く。辛うじて原型を留めている街並みは優
れた科学技術があったことを物語っているが、それも今となっては文
明の欠片さえ感じられない背景となっていた。一体どうして滅んだ
のかまで気にするほどでもないので彼は歩く。
﹁へぇ⋮⋮珍しい。こんなところにお客さんとはね。こんにちわ﹂
││声を掛けられるとは思わなかった。むしろ、人がいることに驚
いて振り返る。
少女だった。ツインテールに、黒い服を着たその少女は、不気味な
﹂
ほど不敵な笑みを浮かべて優しい声色をして彼に近づく。
﹁どこから来たんだい
﹁⋮⋮何処でもない﹂
かさえも分からない。
嘘は言っていない。彼は何処にでも行ける。故に、どこがスタート
?
﹂
1388
?
﹁へぇ、それは困った。どこから来たのかも分からないなんて、迷子か
い
?
﹁⋮⋮俺の起源が何処から、という意味なら││終焉だ﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁だから〝何処でもない〟﹂
全ての始まりには終わりがある。スタートした以上、ゴールには必
ず辿り着く。しかしその是非は問わない。彼の場合は、それが逆なだ
け。ゴールに辿り着いて、スタート地点に向けて引き返している。
それに、少女が笑みを浮かべて顔を覗き込んだ。仮面を付けている
良ければ顔を見せ
ことを思い出して、彼は少女の瞳をまっすぐ見返す。
﹁仮面を付けてまで、君は何を隠しているんだ
てほしいんだけどね﹂
﹁⋮⋮﹂
どうしてか、少女の隣が心地よい。何も無い世界で、滅んだ後の次
元で出会ったこの少女の瞳には自分と同じ物を感じたからかもしれ
ない。
彼は仮面を外した。左目だけが黄金の輝きを灯していたが、すぐに
血のように赤い瞳の色に変わる。
﹁これでいいか﹂
﹁これは、驚いたなぁ。まるでオレと同じじゃないか﹂
﹁奇遇だな。俺もそう思った﹂
﹁ふふっ。これは思わぬ出会いだ。きっと運命ってやつなんじゃない
か﹂
﹁だとしたら、黒い糸だ。血のように赤い糸だ﹂
﹁おっと、オレとしたことが⋮⋮まだ自己紹介をしてなかったね﹂
少女が名乗り、彼は自分の名前を考えた。なにせ今までろくに名乗
ることさえしなかった。
﹁⋮⋮俺は、名前がない。〝貌〟すらない、邪神だ。形が定まらない、
だからこその混沌だ﹂
﹂
﹁それは困ったなぁ。オレは君が気に入った。だから名前くらいは呼
ばせてくれないか
1389
?
邪神は、思う。自分はなぜ生まれたのだろう。自分は何処から生ま
﹁⋮⋮そうだな⋮⋮俺は││﹂
?
れて来たのだろう。女神が人々の信仰で生まれるのなら、自分は一体
何で生まれてきたのか。
﹁俺は││絶望から生まれた邪神だ﹂
そうしたら、ここにある物は全部
﹁そうか。じゃあ、そうだね⋮⋮オレが名前をつけてあげよう。その
代わり、オレと手を組まないか
好きにして構わないよ。⋮⋮オレでさえも﹂
チャンス
少女が手を差し出す。その条件に乗るか、どうするか邪神は悩まな
かった。
フェイト
きっと、この少女との出会いは必然だ。全ては〝偶然〟からなる〝
フェイト
チャンス
必然〟なのだろう。いや⋮⋮だがしかし││彼にとってしてみれば
その逆だ。
﹁俺にとって〝必然〟なんてものはない。全てが〝偶然〟だ。あらゆ
るものは意味を持たない﹂
﹁本当に面白い事を言うね、君は﹂
そうか。うん、そうだ。そうに
﹁俺は既に〝終わっている〟││お前と同じようにな﹂
チャンス
﹁⋮⋮ふふ、あはは、あははははは
B2AM総合特務班トライアド同士による正面衝突。四つ巴の激
散弾銃が穿つ地面をセインが飛び退いて避ける。
撃銃を片手に仲間を狙う。
毎度のことながらその騒動に頭を悩ませているジーンですらも狙
と滅茶苦茶なことが起きていた。
ちょっと形容しがたい奇声と騒音と銃撃音とかなんかこう、もう色々
プ ラ ネ テ ュ ー ヌ 第 三 資 源 採 掘 場 │ │ そ こ で は、い つ も の 日 常 に
そして││邪神は、少女と手を繋ぐ。
ろしく頼むよ、絶望さん﹂
﹁はぁ、こんなに笑ったのはいつぶりかな。まぁいいか。これからよ
﹁お前と手を組もう﹂
少女が腹を抱えて笑う。それに、邪神は手を差し伸べた。
違いない。これは〝偶然〟なんだ、オレにとって。君にとっても﹂
!
闘は誰が制したわけでもなく、互いに互いの銃口を額に向けて膠着状
1390
?
︾
態で決着となった。
︽イヌミミだ
︽いいや、ネコミミだ
︾
︾
︽キツネミミこそ至高︾
︽タヌキミミ
││バカしかいないのは毎度のことではあるが、その戦場における
雌雄を決すべく理由はその一点。
果たして、女神パープルハートに生やすケモミミの種類とは何か、
である。然して、その製薬の為に必要な材料の種類によって左右され
るのがこの内輪もめの原因だった。
︾
誰がどれを見たいかだけで死闘を繰り広げられる総合特務班トラ
︾
イアドだが、誰も止められないのだから手がつけられない。
アホか貴様ら
︾
濃いのが出るな⋮⋮
女子高生じゃないぞ
︽イヌミミバンザイだろうが
︽ネコミミだろうJK
︽セーラーパープルハート様だと⋮⋮
ど太もものラインとかすげぇエロイと思う
︾
いや、いつもスク水のようなものだったけ
!
!
!
!
﹁そ れ で。ア ー サ ー エ ヌ ラ ス と 一 緒 に パ ー テ ィ ー 会 場 抜 け 出 し
││エヌラスとアーサーは正座している。
ただし、教会を除いて。
程にプラネテューヌは平和だった。
変態しか居ない戦場がカオスを頼まれもしないのに加速していく
!
︽スク水は何処いった
!?
!
!
た﹂
﹁ところが、気分が悪くなったと言っていたのでホテルに泊まりまし
﹁はい﹂
した﹂
﹁昨夜、アーサーと酔いを覚ますために夜のプラネテューヌを歩きま
現在、二人の前にはイストワールとチーカマの二人が並んでいた。
﹁何か弁明はありますか、エヌラスさん﹂
て、お昼に帰ってきて今までどこで何してたの﹂
?
1391
!
!
!
﹁へぇ。それで
﹂
﹁起きたらお昼。急いで戻ってきたわけです、以上﹂
エヌラスは一言一句、嘘を言っていない。ちなみにネプテューヌと
プルルートは二日酔いで頭痛のあまり寝込んでいる。本日の女神の
お仕事は無理であると判断、ネプギアが看病中だ。
﹁イーちゃん、こいつの場合なに言っても無駄だよ﹂
﹁ですが、ユウコさん﹂
洗濯カゴを持って家事をしながらユウコが足を止める。ピーシェ
は肩車しておとなしくしていた。
だって恋人何人いても神様文句言
﹁あー無理無理。ふんじばろうが何だろうが、こいつは誰かを守るっ
﹂
て決めたら絶対に折れないし﹂
﹁それで良いのですか
﹁うん。別に私は気にしないよ
わないし﹂
﹁吸血鬼が言うことかよ⋮⋮﹂
﹂
?
で無し。
﹁む。それともなに
﹁⋮⋮﹂
エヌラスにはずっと戦ってろって
その神様当人が言って良いのだろうか、というツッコミは野暮なの
?
?
﹂
度ってものはあるけどね。ねー、ピィちゃん﹂
﹁ねー
﹂
﹁よーし、ユウコさんタクシー安全運転ではっしーん
﹁はっしーん
﹂
だけのこと今までしてるんだし、大目に見てあげないと。それにも程
﹁私は嫌だけど。言っておくけど、禁欲しろとも考えてないし。それ
?
はエヌラスがいなければ邪神が撃破できていなかった点も考慮して、
不問にした。
﹁あまり他人の厚意に依存するのもよくないですよ、エヌラスさん﹂
﹁真っ当に生活出来る金が稼げたら教会出ていく予定だったんだよ。
ユウコまで泊まるとは思ってなかったからな﹂
1392
?
キャッキャッとはしゃぎながら二人が去っていく。イストワール
!
!
!
﹁えっ
﹂
﹁だってそうだろ
俺の本業は邪神退治なわけだし、プラネテュー
﹄
ヌに居ずっぱりなわけにも││﹂
﹃えぇぇぇぇーー
﹂
それでしたら﹂
?
アイちゃんは、ちょっと調査に行ってもらってるよ。私が
﹁アイエフさんですか
﹁そういえば、アイエフは
気消沈している姿にまだ足りないのか説教は続く。
カマはまだアーサーに向かって説教している。すっかりしょげて意
エヌラスの面倒見の良さに、イストワールは苦笑した。だが、チー
﹃は∼い﹄
ら、養生してろ。いいな﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ 明 日 か ら な。今 日 は お 前 の 代 わ り に 仕 事 し て き て や る か
てよー﹂
﹁そうだよぉー、ぷるるんがこう言ってるんだしまだゆっくりしてっ
∼﹂
﹁だってぇ、エヌラスと再会できたのにお別れなんてあたしやだよぉ
そうとしか見えないのだから仕方ない。
﹁こう見えてって失礼だな⋮⋮﹂
てもエヌラスさんなりに考えて﹂
﹁子供みたいな事言わないでください、ネプテューヌさん。こう見え
﹁見事なまでのシンクロニシティ。流石プラネテューヌの女神﹂
﹃頭いたい∼﹄
﹁そうだそうだぁー⋮⋮﹂
﹁そんなのやだぁ∼⋮⋮﹂
いうよりはまるで幽霊のようだった。
ながらフラフラになって壁に寄りかかりながら出てくる姿は女神と
ネプテューヌとプルルートの声が重なる。二日酔いで青い顔をし
!?
﹁はい。引いては、プラネテューヌの。ハァドラインに関する調査で
﹁ユウコの用事か﹂
出回るわけにはいかないし﹂
﹁んー
?
1393
?
?
?
す﹂
﹁なんかあったのか
﹂
﹂
﹂
!
﹁なるほどな⋮⋮﹂
﹁と、いうわけ。だからそこの調査をアイちゃんにお願いしたんだ﹂
ではなく個人によるものだと思われます﹂
れていることが判明しました。その出荷ルートは不明、恐らくは企業
﹁本来であれば稼働停止中である資源採掘場から、物資の輸送が行わ
﹁そっちはともかくとして││洗いざらい読んでたら﹂
﹁で、それで⋮⋮﹂
プテューヌとプルルートが顔をしかめている。
関係ないオチに思わずツッコミを入れてしまった。その大声にネ
﹁ただの生活困難かよ
﹁単に給料が良いからみたい﹂
ちの首を絞めるような真似をするわけがない。だが、続きがある。
だがそれにしては妙な話だ。女神信仰の狂信者がわざわざ自分た
でも首を押さえられるようにって感じなんだけど﹂
つ。生活に必要なそこら辺の企業にB2AMの手が回ってた。いつ
﹁うん。例の資料を読んだら、プラネテューヌの電気とガス、水道の三
﹁うきゃー
シェでそれが楽しいのかニコニコと笑っていた。
傾けている。振り落とされまいとしがみついているピーシェはピー
ユウコは肩車しているピーシェを喜ばそうとしているのか、身体を
?
あのアイエフのことだ。問題はないだろう。
1394
!
エ ピ ソ ー ド 5 7 ゲ イ ム ギ ョ ウ 界 を 駆 け る 一 陣 の 風
が止む
プラネテューヌを駆け抜ける一陣の風。高速で移動する為にアイ
エフが購入した大型自動二輪は順調に稼働していた。
街並みを抜けて、外れていく。休息を取りながらアイエフは街から
遠 く 離 れ た あ る 施 設 を 目 指 し て 移 動 を 続 け る。峠 を 攻 め る よ う に
カーブして、遠方に僅かながら見える建造物にスピードを落として止
まった。確かに稼働しているようだ。過去にプラネテューヌで資源
採掘に使われていた施設は、現在はそのエネルギー問題も解決したこ
とから既に運用停止となっているはずだった。それが今、動いてい
る。
見たところハァドラインみたいね︶
けでも彼らの身内に向ける殺意が感じ取れる。
1395
どこの犯罪組織に名を連ねる者かは分からない。だが、アイエフは
如何なる組織に連なるものであっても容赦する気はなかった。そし
て、それが例えハァドラインであっても││再びバイクを走らせる。
﹁⋮⋮ここからは徒歩ね﹂
施設に繋がる道路は途中から封鎖されており、それもそのはずだ。
一体誰とだろうか。
こんな場所に来る物好きは居ない。森の中を歩いていると、徐々に戦
闘音が大きくなっていく。交戦
空の弾倉を交換しながら身を引いて避けるそこへ、今度は散弾銃がベ
連射されるハンドガンの弾丸を手にしている刀で弾きながら迫る。
た。
四体のロボットが銃器を巧みに操って躊躇なく引き金を引いてい
アイエフは身を隠しながらゆっくりとその様子を眺める。
?
アリング弾を扇状に放つ。だが、それをシールド発生装置で防ぐとリ
仲間割れ⋮⋮
ロードを済ませる。
︵なに
?
だが、一体何が起きているのだろう。こうして隠れて眺めているだ
?
ミサイルが降り注ぎ、それを全て迎撃するとグレネードランチャー
︾
︾
が榴弾を撃ち出して土煙と爆風が四人を引き離した。
︽貴様ら⋮⋮なぜ分からんか
︽それはこちらのセリフだ、セイン
︽ドバル
すっこんでろ
︾
︽おーい、お前ら。何しているんだ︾
がある││確か、隣町でシロトラと一緒に居たロボット。
が、その重量を物ともせずに行動していた。それはアイエフも見覚え
そこへ、新たなロボットが現れる。背中にはコンテナを積んでいる
今しがた見せつけられた。流石に四人を相手にするのは厳しい。
いないようだが、どうするか。彼らの仲裁に入ろうにも、その実力は
どうも、何やら揉めているらしい。アイエフがいることに気づいて
︽冗談じゃない、譲り合う気はないのかお前ら。人のこと言えないが︾
︽どうやらお前達とはこうなるしかないらしいな︾
!
!
︽ちゃんと直しとけ
俺は知らんぞ︾
めではあの教官のことだ。酷い目に遭うのは目に浮かぶ。
ドバルが指差すのは、えぐれた地面。戦闘の痕跡が、よもや内輪揉
これ︾
︽いや、そうもいかんだろ。シロトラ教官が来たらお前らやばいだろ、
!
整備もしたい︾
見たことがない。ドバルは空になったコンテナを背負い、背を向け
︵ルウィーから⋮⋮
だけどあの薬品は一体⋮⋮︶
︽こっちだって一日でルウィーからここまで移動して疲れてるんだ。
︽いつも悪いなドバル︾
︵⋮⋮何かの取引、いえ補給物資かしら︶
れだけでなく、中には危険物の印が押されているものまである。
そこには弾薬だけでなく生活用品││薬品と思わしき瓶の山。そ
た。
その場にかがんでコンテナを降ろすと、錠前を外して中身を渡し
︽無理だ。配達が山程ある、とりあえず置いていくぞ︾
︽む、むぐぐぐ⋮⋮分かった⋮⋮せめて手伝ってくれないか︾
?
?
1396
!
て走り去る。ギャリギャリと地面に履帯を押し付けながら移動する
後ろ姿を見送って、四人のロボットは手にしていた武器を見下ろして
から背面に背負った。
︽⋮⋮まず、片付けするか︾
︽そうだな︾
水を差されて頭を冷やしたのか、四人はすっかり大人しくなって片
付けを始める。それがシャベルを四人で持ち出してひたすら穴を埋
めるという地味な作業は眺めているアイエフも退屈極まりなかった。
とはいえ、彼らがここで違法な資源採掘を行っているのは火を見るよ
り明らか。ここを拠点としていると見て間違いはなさそうだ。
︵わたし一人じゃ手に負えそうにないわね⋮⋮︶
︾
ひとまず、クロと見ていい。アイエフはばれないように隠れながら
イヌミミしかないだろう
その場を後にしようとするが││四人がまた揉めている。
︽だーかーら、何故分からんか貴様ら
︽いーや、ネコミミだ。そこは譲れんな︾
︽キツネミミこそ至高だと言っても聞かないのか⋮⋮︾
た。
剣戟。また始まった⋮⋮そう思いながらも足を止めることはなかっ
呆れながらアイエフが離れようとするが、再び銃声と砲声。そして
︵はぁ、バカしかいないのかしら⋮⋮︶
の尻尾なんだけど︾
︽どーして分かってもらえないんだ、タヌキミミ⋮⋮いや、厳密にはそ
!?
しかし、交戦の最中でジーンが背負っていたセントリーガンを起
動。それによって戦局が有利に傾きつつある。
誤作動か⋮⋮︾
キュイー⋮⋮キュ⋮⋮││ウィー⋮⋮
︽ん
!
お前もネコミミ派になるか
︾
スコープを覗き込む。木々の間で揺れる双葉リボンに、片手を挙げて
降参か
!?
他の三人を制した。
︽どうした、ジーン
!
︽うるさい。俺はキツネミミから抜けるつもりはない、侵入者だ︾
!
1397
!
設置したセントリーガンがあらぬ方角を向いて、ジーンがそちらへ
?
︵見つかった││
︶
アイエフはその場から全力で走り出す。それを障害対象と判別し
たのか、セントリーガンから吐き出される銃弾が森の中へ向けて斉射
されるものの、アイエフは立ち止まらなかった。
︽まずいな⋮⋮どうする。トライアド班長︾
︽││バカな遊びは此処までだ。取り逃がすなよ、シュラ︾
︽分かってる。ジーン、援護を頼む︾
︽相手は人間。俺の火力では生け捕りは難しい。お前たちに任せる︾
ディルを残してセイン、ジーン、シュラの三人が森の中へ消えてい
く。そして、ふと足元を見れば新たに出来上がったクレーターに落胆
した。
︽しまった⋮⋮これ、俺が一人で片付けるのか⋮⋮︾
こ の 状 態 じ ゃ 流 石 に ま ず い わ
逃げられたと気づいた時には既に遅い。三人の姿は消えていた。
︵わ た し と し た 事 が し く じ っ た わ
ね︶
体だけ追跡してくる姿がバックミラーに映る。黒いカラーに緑のラ
フは運転に集中した。フルスロットルで走り出すバイクに、しかし一
接近してくるブースター音に歯噛みして、コールを中断してアイエ
ない。
ドを上げる。そのまま走り出す、だが、まだネプギアに繋がる気配は
板を飛び越えて、停めていたバイクに跨るとエンジンを掛けてスタン
携帯電話を取り出して、急いでネプギアに繋ぐ。立ち入り禁止の看
!
︾
インが入った隠密強襲機││セインだ。
﹂
︾
︽俺から逃げられると思うなよ
﹁嘘でしょ
︽マルチチャージャー起動
!
が起動する。赤いバーニア炎を噴き出しながらセインがアイエフの
バイクに迫っていた。装甲を犠牲にした軽量型の挙動は、最低限の加
速だけでも他の追随を許すことはない。
1398
!?
出力を抑えて稼働時間を重視された設計のチャージングシステム
!
!?
﹁この、
﹂
バックミラーを確認しながらアイエフは拳銃を取り出し、ミラーに
映る姿を頼りに引き金を引いた。しかし、セインはアイススケートの
ように軽やかに避けながら背面に背負う幅広の刀を抜き放る。その
刃を緑色の粒子が包み始めた。二発三発と命中するはずの弾丸は、セ
インの斬撃によって真っ二つにされて失速すると路面を転がる。
追いつかれる││そう思っていたアイエフだったが、相手が急に失
速して距離が離れていった。チャージングシステムの容量が尽きた
のか、セインが緩やかに速度を落とすと背面に背負うグレネードラン
チャーを構える。
ポン、と間の抜けた音と共にアイエフの頭上を超えて越えて、空中
で炸裂する衝撃波に舵が取られた。それでも転ばないようになんと
か操舵するとバイクのエンジンを更に吹かして、しかし。
地面に撒かれていた三菱型の地雷を正面から踏み抜いた。タイヤ
を挟みこむように勢い良く食いつかれて、バイクから投げ出されたア
﹂
イエフの身体が宙を舞う。
﹁くっ││
た と 言 え る。両 手 に カ タ ー ル を 構 え て 迎 撃 し よ う と す る ア イ エ フ
︶
だったが、その刃だけが撃ち抜かれて衝撃に手放してしまった。
︵狙撃、どこから
バチィン
アイエフの身体が跳ねると、意識を失ったようにその
﹁っ⋮⋮あんた達は一体││﹂
ないな︾
ば見逃すのも一考。しかしながらその様子では││交渉はすべくも
︽お前が今日、あの場で見聞きしたことを他言しないというのであれ
りながら刀を突きつける。
だが、警戒した第二射は飛んでこない。セインがゆっくりと歩み寄
!?
︽なに、これくらいはお安いご用さ。彼女が此処に来るまでの移動手
︽シュラ、先回りご苦労だった︾
場に崩折れて横たわった。その背後には、テーザー銃を持つシュラ。
!
1399
!
道路を転がり、軽い打ち身程度で済んだのは持ち前の身軽さが活き
!?
段に徒歩とは考え難かったからな︾
︽ジーンも。武装の無力化、見事だった︾
︾
セインが親指を立てる。その様子を、スコープを覗きながら樹の枝
に腰掛けていたジーンが見つめて鼻で笑う。
︽⋮⋮お望みなら、ここからお前の頭でもふっ飛ばしてやれるが
︽それが必要な時は頼む││さて︾
セインとシュラの二人が、気を失っているアイエフに視線を落と
す。
︽⋮⋮思わず捕まえてしまったが、どうしようなこれ︾
︽やっべー、何も考えてなかった⋮⋮︾
咄嗟の事態に対応は出来たものの、その後の事は全く考えていな
かった。
1400
?
エピソード58 突っ走れ、アウトロー。守れインサ
イド
エヌラスはギルドでクエストを受けて、ネプテューヌの代わりに仕
事を終えると報酬を受け取って夕焼けに染まるプラネテューヌを歩
﹂
く。そこに、ちょうど見慣れた後ろ姿があったので声を掛ける。
﹁コンパ﹂
﹁あ、えぬえぬですぅ。どうしたですか
﹁今ちょうど、ギルドで仕事終わって帰るところ。そっちは﹂
﹁はい、わたしもお仕事終わって帰るところですぅ﹂
﹁そうか﹂
ごく自然と、二人で肩を並べて歩いて教会に向かう。帰り道で互い
に話すのは、他愛のない雑談。それでもコンパは話の内容に一喜一
憂、少し天然なところはあるが、それが不思議と嫌味にならない。そ
れどころか癒やしにさえ思える。
きゅっきゅっ、とプラネテューヌの街の中を歩くネズミが一匹││
その大きさはそこいらで見かける野生のネズミとはまた違う。子供
ほどの大きさがある。二足歩行で歩く黒いネズミは、手に持っている
札束を数えながらほくほく顔をしていた。
﹁チュッチュッチュッ、オバハンのナス農園の手伝いだけじゃ稼ぎが
悪 い っ ち ゅ か ら ね。根 っ か ら の 悪 党 の オ イ ラ に は こ れ が 一 番 似 合
うっちゅよ﹂
ワレチューは、売りさばいたゲーム機などを横流しして得た金銭を
数えて懐にしまう。もちろん、この稼ぎに関してはオバハン││ナス
農家のマジェコンヌには秘密だ。
﹁オ バ ハ ン は す っ か り ナ ス 農 家 と し て の 生 活 が 馴 染 ん で る み た い っ
ちゅがオイラは違うっちゅよ。土いじりばっかのオバハンなんかと
一緒にしてもらっちゃ困るっちゅ﹂
1401
?
悪態を吐きながら歩くワレチューが小石を蹴飛ばす。
﹁大体、人が優しさを見せてやったというのに人使いの荒さは変わら
ないんじゃ、付き合いきれないっちゅよ⋮⋮﹂
重い溜息と吐いて、ふと顔を上げるとそこには灰色の世界を歩く高
嶺の花。愛しのコンパが道路を挟んで歩いていた。楽しそうに笑っ
ている顔を見るだけで、ワレチューの心臓が胸を突き破りそうなほど
高鳴る。
﹁コ、コ、コ││コンパちゅわん⋮⋮今日のオイラはツイてるっちゅ
﹂
今すぐ行き交う自動車を無視して飛び出したい気持ちを抑えなが
らワレチューは信号機の前で待っていた。一応毛並みを整えて、意気
込む。こうして立ち止まっている間にもどんどん遠ざかっていく姿
にもどかしさを覚えるも、しかしやはりその距離を詰めるまでの高揚
感は抑えきれない。はちきれんばかりの胸の鼓動に急かされてワレ
チューは信号が変わるやいなや猛ダッシュで横断歩道を渡り切る。
そして││。
﹁コンパちゅわ││││││⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
そこで見たものは、見知らぬ男と二人で仲良く笑う愛しの人の姿
だった。
﹁コン、パ⋮⋮ちゃ⋮⋮
間。
話してるこっちとしては、えらい迷惑だったんだぞ
﹁ふふ。えぬえぬのお話は面白いですぅ﹂
﹁そうかぁ
?
るが、喉の奥からヒューヒューとした息しか出てこなかった。
遠ざかる。嗚呼、遠ざかっていく。ワレチューは声をかけようとす
﹁うーむ、そんなつもりはないんだけどな⋮⋮﹂
﹂
寄り添うのは一匹の獣、それは真っ黒な猛獣。漆黒の狂犬のような人
気づく様子もなく、笑顔を向ける相手は見知らぬ男性。高嶺の花に
すら喪失したワレチューの手から財布が落ちた。
頭を金槌で殴られるようではまだ浅い。平衡感覚どころか現実感
?
﹁でも、話している時のえぬえぬ。嬉しそうですぅ﹂
?
1402
!
﹁ちゅ⋮⋮コン⋮⋮コン、パ││ちゅわ⋮⋮﹂
ワレチューに振り向く素振りすら見せず、コンパは曲がり角に消え
ていく。伸ばした手が虚空を掴み、しばし呆然と立っていた。
やがて、我に返ったワレチューは財布を拾い上げて帰り道を歩く。
﹁遅いぞ、ワレチュー。買い出しに行くだけでどれだけ時間を掛けて
いるのだ、ノロマめ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁おい、聞いているのか﹂
貴様、それはどういうことだ﹂
﹁オバハン。オイラ、今日限りでもう手伝いをやめるっちゅ⋮⋮﹂
﹁なにぃ
エプロンを着けたマジェコンヌの言葉にも茫然自失、魂此処にあら
ず ど い っ た 様 子 で 財 布 か ら い く ら か の ク レ ジ ッ ト を 置 い て、ワ レ
チューは荷物をまとめていた。
﹁おい、何をしている﹂
﹁オ イ ラ、気 づ い た っ ち ゅ。真 面 目 に 生 き る な ん て バ カ の す る こ と
だったっちゅ⋮⋮やっぱりナス農家なんかよりオイラは悪の道で生
⋮⋮全く、今日の夕飯は茄子カレーだというのに
きるのがお似合いっちゅよ﹂
﹁待たんか、オイ
スプーンで口に運ぶ。マジェコンヌは考えていた。果たしてこの
る。
で完成してしまった。テーブルの上にはカレーだけが空しく置かれ
うサラダの材料を買いに行かせたはいいが、中々戻ってこなかったの
グツグツと煮立つカレーのスパイスが鼻をくすぐる。カレーに合
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
買ったのか。女神に復讐する為だ。
て買い占めたナス農園も経済は潤っている。だが、何のためにここを
は本当にこれから先、ナス農家のままでいいのかと。有り金をはたい
ジェコンヌはルーの味見をしながらふと思い悩んだ。果たして自分
様子がおかしいのはそうだが、ワレチューの言葉にも一理ある。マ
一人では食いきれんではないか﹂
!
1403
?
ままでいいのか、と。だが自分に世界をどうこうするだけの力は無
い。女神がいる限り、自分はどうしようもないのだ。そう考えるだけ
で途端に自分がみじめに思えてきて仕方がなかった。
﹁⋮⋮私は一体、何をしているのだろうな﹂
真っ当に生きる意味さえ分からなくなっている。ナス農家として
その筋の相手に名が売れてきたが、それでもやはり胸を満たす充実感
が、何かが足りていなかった。
﹁くそっ﹂
テーブルに拳を叩きつける。何年か前に女神達を捕らえ、その妹達
すら追い込んだというのに結局は失敗した。今度こそはと女神パー
何
プルハートの嫌いなナス農園まで買い占めて、あしらわれている。そ
﹂
れから││脳裏にノイズが走る││なにがあった
﹁っ⋮⋮なんだ、今のは⋮⋮待てよ││
﹁⋮⋮⋮⋮宝玉、だったか
私はアレをどこで拾ったのだ⋮⋮﹂
感覚にマジェコンヌは眉を寄せながら自慢のナスカレーを食べる。
いような空白。気に留める程でもない、だが気にしだすと止まらない
かかるささくれのようなもの。パズルのピースがはめ込まれていな
かが引っ掛かっていた。そう、それは例えるならば記憶の一部に引っ
私は、ただナスの収穫と出荷に精を出していただけではない
?
﹁ただいま﹂
﹁ただいまですぅ﹂
エヌラスとコンパが戻ってくると、ネプギアが顔を出した。
﹁あ、おかえりなさい。エヌラスさん、コンパさん﹂
ちょっと、恥ずかしいですよぉ﹂
﹁おう、ネプギア。出迎えご苦労さん。頭撫でてやる﹂
﹁わ、わ⋮⋮
が頭を振る。
えぬらすだー
おかえりー
!
﹂
!
1404
?
?
そして、それは一体どこから来たものなのか。
?
嫌がる様子を見せず、だがその心地よさを振り払うようにネプギア
!
﹁って、そうじゃなかった。エヌラスさん、実は││﹂
﹁あー
!
﹂
﹂
﹁ん、ピーシェが。なんつーか、元気だよ﹂
﹁どーん
﹁なっぼぉあぁ
全身を使ったタックルがエヌラスのみぞおちを直撃。それが狙っ
たものなのか、果たして無意識によるものなのか。どちらにせよ、天
性の才能だろう。早々狙って虚を突きながら急所を一撃など出来る
ものではない。
﹂
﹁こらー、ピィちゃん。走っちゃダメって言ってるでしょー おか
えり、穀潰し一名とコンちゃん﹂
﹁ただいまですぅ。えぬえぬ、穀潰しです
?
﹂
跳ねるように移動するピーシェがいたずらっぽく笑いながら、ユウ
﹁はーい
﹁ほらー、ピィちゃんも行くよ﹂
﹁はいですぅ﹂
伝ってくれると嬉しいな﹂
まぁいいや、コンちゃん。帰ってきて早速で悪いんだけど、お料理手
﹁んー、まぁ正直こっちで真っ当に生きようとしているのが驚きかな。
?
﹂
そうはいかないぞー
﹂
コに向かってエヌラスと同じように有り余る元気をぶつけようと飛
びつく。
﹁どーん
﹁おっとー
!
まま一回転、二回転││メリーゴーランドから、流れるように肩車に
移行した。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
﹁ふふーん、ピィちゃんは元気だね。でも私だって元気さだったら負
もいっかい
!!
﹂
﹂
もっかいやって
よっしゃこーい
!
けないぞー
いいよー
﹂
!
﹁││ユウコすごいすごーい
﹁もう一回
﹂
!!
!
﹁ぐるぐるぅ、どーーーん
﹁どすこーーい
!!
!!
?
1405
!?
!!
!
!!
両手を突き出して飛びかかるピーシェを受け止めて、ユウコはその
!
?
腕を回してから殴りかかるピーシェの拳を受け止めるだけでなく、
﹂
そのまま振り回して抱きかかえるとユウコは頬ずりする。
くぁいいよぉー
!!
﹂
﹂
ぴぃのパンチ受け止めた ねぷてぬよ
﹁んもー、ピィちゃんかわいい
﹁ユウコすごいすごーい
﹂
!!
!
んふふ、ピィちゃんも一緒に晩ごはんつくる
りすごーい
﹁そーお
﹁つくるー
?
!
痛みに耐えながらただ恐怖した。
﹁ユウコとピーシェとか、俺でも無理だぞ⋮⋮
!
﹂
?
﹂
﹁俺は大丈夫だが⋮⋮ネプギア、さっきなにか言い掛けてなかったか
﹁あの、エヌラスさん。だいじょうぶですか
﹂
││爆裂最強元気コンビが結成された事に、エヌラスはみぞおちの
!
?
!
﹁あ、そうだ。忘れるところだった。あの、実はアイエフさんがまだ
﹂
戻ってきてないんです﹂
﹁アイエフが
と聞こうとして、のそりと出てきたのはすっかり気
まぬが私はもう、今日はダメだ⋮⋮心が折れそうだ﹂
﹁夕飯時ということでようやくチーカマが解放してくれたのだ⋮⋮す
﹁だ、大丈夫かお前⋮⋮﹂
﹁あぁ、エヌラス⋮⋮帰ってきてたのか⋮⋮﹂
力を無くした少女の姿。
アーサーは
俺とネプギアと││﹂
﹁そうだな⋮⋮とりあえず、飯を食ってから考えよう。今動けるのは
切れたりして⋮⋮何かあったのかなって。わたし、心配で﹂
﹁それに電波も良くないみたいなんです。着信音が鳴っても、たまに
それは、確かに気になる。
﹁⋮⋮﹂
ないみたいで⋮⋮﹂
くって⋮⋮それでこちらからかけ直しているんですが中々出てくれ
﹁は い。そ れ で、着 信 が あ っ た ん で す け れ ど わ た し も 全 然 気 づ か な
?
?
1406
?
﹁ゆっくり休め⋮⋮ごめんな、なんか﹂
﹁なに、お主が気にすることではないさ﹂
どうやら現時点で動けるのはエヌラスとネプギアしかいないよう
だ。
﹁うぇ∼、きもぢわるいよぉ∼⋮⋮﹂
﹁うぅ∼⋮⋮まだ頭いたいぃ∼﹂
ネプテューヌとプルルートに関しては、もう論外である。
1407
エピソード59 それとこれとじゃ別問題
││どれほどの時間、気を失っていただろう。アイエフは痛む身体
の節々に起こされて目を覚ます。固い感触に、自分が地面に横に倒れ
ているのが分かった。薄暗く、土の臭いに混じって機械油の臭いに顔
をしかめるも、立ち上がろうとして身動きが出来ない。見れば、自分
の腕と足が縛られていた。
記憶が前後している。頭を振って、口の中に入った砂利を吐き捨て
ながら今一度自分の置かれている状況を整理する。
イストワールからの調査結果、それを見たユウコが不審に思った点
があり、その為の調査に赴いた││すると、そこがハァドライン、B
2AMが違法占拠している拠点の一つだった。プラネテューヌ第三
資源採掘場は数年前のエネルギー問題の解決に伴って停止している。
1408
そのはずだ、しかし現実は違った。
なんとか逃亡を試みたが、失敗に終わる。と、大体はそんなところ
だ。アイエフは改めて自分の置かれている状況に嘆息する。
﹁あ ん な 変 な ロ ボ ッ ト 達 に 遅 れ を 取 る な ん て、わ た し も ま だ ま だ ね
⋮⋮﹂
とはいえ、いつまでも捕まっているつもりもない。誰もいない今の
うちに何とか抜けだそうと身じろぎするが、しっかりと縛られてい
る。これを抜けだすのは苦労するだろう。携帯電話は無事なようだ
が、武器は没収されていた。恐らくはバイクも接収されている。万事
休す││誰かが助けに来てくれることを祈りたいが、それも今の状態
では難しい。
︽ふっふっふ⋮⋮︾
︽フッフッフ⋮⋮︾
﹂
︽ふっふっふ⋮⋮︾
﹁っ
んでいた。腕を組んでアイエフを見下ろしている。
不気味な笑い声に、身じろぎしてそちらを向くとロボットが三体並
!?
﹁くっ⋮⋮わたしをどうするつもり⋮⋮
︽ふっふっふ⋮⋮考えていなかった︾
ない
﹂
﹁アンタ達バカなの
﹂
普通はもうちょっとこう、なんかあるんじゃ
︽ふっふっふ、俺たちこれからどうすればいいんだろうな︾
︽フッフッフ⋮⋮さてどうしようなこれ︾
!?
撃してしまったのだ︾
?
﹁は
﹂
︽いや、だってなぁ⋮⋮殺人はマズイだろ︾
︽それも女の子⋮⋮︾
︽死体の処理とか色々面倒だし︾
﹁いや、それ以前に不法占拠も立派な犯罪よ
︽それはそれ︾
︽これはこれ︾
わかってる
﹂
?
たいと行動してるのね﹂
﹁││つまり、貴方達なりにネプ子⋮⋮パープルハート様の力になり
に悩んでいることも話した。
ルハートを信仰していることも、プラネテューヌのシェアが低いこと
行っていること。それが違法なのも承知していること。女神パープ
自分たちがB2AMのロボットであること。ここでは資源採掘を
すと自己紹介を挟んだ。
覚めてしまったらしく、咳払いを一つ挟んでディルが話題を仕切り直
る状態らしい。そこであれやこれやと話し合いをしているうちに目
セインとシュラが見えない荷物を置いといて。お互いに困ってい
?
︽⋮⋮うーむ、そのことなんだが⋮⋮我々もものすごく困っている︾
﹁どうかしらね。口封じでもするつもり
﹂
︽まぁまぁ、落ち着いてくれお嬢さん。こちらも突然のことでつい反
汚れも払い落とす。
のディルがアイエフの身体を起こして椅子に座らせた。ついでに土
思わずツッコミを入れてしまったが、それをなだめるように重量型
!?
︽そういうことになります。ですが、これは私事になりますけれども
1409
!?
?
﹂
︾
││プラネテューヌを襲ったかつてのエネルギー問題。その環境汚
どういうこと
染物質で我々は動いているのです︾
﹁
﹂
?
B2AMなのです︾
?
﹁⋮⋮シロトラは
﹂
ようとこの国の為に、ひいてはパープルハート様の為に動こうと︾
︽はい。目的のないロボットであることよりも、例え犯罪者と罵られ
﹁ハァドラインって知ってて
﹂
くなってしまったのです。路頭に彷徨う我々が行き着いた先がここ、
ためでしたが、それが問題視されて稼動停止された以上、行き場がな
︽元々、我々のようなロボットが開発されたのもニュード採掘をする
すぐに撤退させられた。それも既に十年以上前の出来事だ。
人体にも影響を及ぼすことから、ニュードの採掘や関連した事業は
︽その通りです︾
⋮⋮﹂
﹁著 し く 環 境 を 汚 染 す る こ と か ら そ の 採 掘 は す ぐ に 取 り 止 め ら れ た
ギー物質ですが、その反面︾
り、特定の条件下においてその形状を変化させます。万能のエネル
︽は い。ニ ュ ー ド は そ の 性 質 か ら 電 圧 を 加 え る こ と に よ り 変 異 し た
﹃ニュード﹄だったかしら
﹁え え、も ち ろ ん よ。植 物 の よ う な 性 質 を 持 つ 無 機 物、た し か ⋮⋮
︽数年前に発見されたエネルギー物質はご存じですか
?
︽そのとおりだ、セイン。すまないと思っている︾
︽今、彼女に明かすべき情報はそれではない。違うか︾
少しだけ名残惜しそうにディルは押し黙り、セインに譲った。
︽あまり我々の情報を公開すると後が厄介だ︾
ろうと思ったのだが︾
︽⋮⋮そうか。いや、すまないなセイン。話せば理解をしてくれるだ
︽ディル、話し過ぎだぞ︾
小さな組織でした︾
︽あの方は別です。元は、シロトラ教官と、オペレーターの二人という
?
1410
?
?
︽そう落ち込まないでくれ、ディル。二人で港のコンテナ置き場に忍
び込んで﹃洋画のクライマックスシーンあるある動画﹄を撮ってネッ
トに投稿した仲じゃないか︾
﹁そこ。何してんのよ﹂
︽警備員に見つかってメチャクチャ焦ったなー、あの時︾
﹂
︽そうそう。クレーン勝手に動かしてコンテナ倒したりな︾
﹁バカなんでしょ
しく続編を希望する声があるとかないとか。
?
﹂
ンテナンスくらいしか︾
?
︽へいへーい、いいこと言うなぁ。このこの︾
︽よせやい、照れるだろぅ︾
わたしをどうする
︽おいおいおーい、嬉しいこと言ってくれるじゃないかシュラー︾
ディルが肩に手を置いてからかうように胸を小突く。
シ ュ ラ が 少 し 照 れ く さ そ う に 頭 を 掻 い て い た。そ れ に セ イ ン と
何だかな、と︾
︽いえ、俺には大切な仲間がいるので。ひとりだけ鞍替えというのも
﹁ハァドラインじゃなくてそっちで食っていけるんじゃない
﹂
︽うーん、エンジンオイル交換とブレーキパッド交換とある程度のメ
﹁え、あ、ありがと⋮⋮変なことしてないでしょうね﹂
ンクしたので直しておきました︾
︽あなたの武器は我々で預かっています。それとバイクもタイヤがパ
するべきかだ。
組織の生い立ちや自分たちのことではない。アイエフの処遇をどう
さて。と、一度話を区切ってセインは腕を組んだ。今大事なのは、
さん︾
︽プリベイトなウインドさんと同じ香りがする。よろしく、アイエフ
しら
﹁アイエフよ。ゲイムギョウ界に吹く一陣の風、とでも言えばいいか
︽まぁそれはさておいて、だ。時にお嬢さん、お名前は
︾
ちなみにその時の動画は今だに一部の層から根強い人気があるら
!?
﹁仲良し三人組なのはいいのだけれど。それで
?
1411
?
つもりなのよ﹂
︽う∼∼∼∼∼ん⋮⋮⋮⋮
れた。
︽目が覚めたのか︾
︾
?
︽それで
︾
︽先ほど、本部に連絡を入れた。侵入者有り、とな︾
していない。
少しだけ苛立った口調に、他の三人と違ってひとりだけ武装を解除
︽掘削機の停止と後片付け。毎回俺に片付けを押しつけるな︾
︽ああ、ジーン。お前、何してたんだ
︾
本気で悩み始める三人の後ろから、もう一体。細身のロボットが現
!!!
︽マジかよ⋮⋮︾
︾
?
﹁それに⋮⋮
﹂
︽後は見張りとか、それに││︾
︽ご飯とかどうするんだ
︾
それに落胆の色を隠そうともせずにセイン達が重い溜息をついた。
ろう︾
︽さぁな。時折、フラリと出かける方だ。数日は預かることになるだ
︽教官は今何処に
相手してくれるらしいが、いつになるやらな︾
︽一応、捕縛してはあるとも追加で連絡した。シロトラ教官が直々に
?
に上下する。
︽女の子、だもんな⋮⋮︾
︽お風呂とか、髪の毛のケアとか、そういうのもな。出来るか
?
﹂
?
なくていいわよ
︾
﹂
︽風呂ってあったっけ
いか
﹁お風呂入るの
普段俺らの使ってるシャワーくらいじゃな
﹁えー、と⋮⋮気遣ってくれるのは嬉しいんだけど、そこまでしてくれ
︽ちょっと待っててくれ、ネットで検索してくる︾
︾
ジッ、と四人の視線がアイエフの頭からつま先まで値踏みするよう
?
1412
?
?
!?
?
汚れるし︾
︽え、そりゃあ⋮⋮︾
︽ねぇ⋮⋮
とでも言いたげにセイン達が顔
1413
え、俺たちおかしいこと言った
を見合わせて首を傾げていた。
?
?
エピソード60 乙女には、触れてはならぬ禁忌︵タ
ブー︶がある
ジーンだけは腕を組んでアイエフを見下ろしている。この状況を
危惧しているのはどうやらひとりだけらしい。
︽本部に移送という形でも良いが、どこの誰かも分からない相手だ。
不用意な詮索は止めておけ︾
︽むーん、面白くないこと言うなよジーン。お前そういうキャラだっ
け︾
︽うるさい。今何時だと思ってる。日付が変わる前に日記を書いてお
きたいんだ︾
︽じゃあ行ってらっしゃい︾
1414
日付が変わる、というとアイエフは相当な時間気を失っていたよう
だ。今頃ネプ子達は心配してるだろうな、と考えながらコートの腰周
りに付けていた携帯を後ろ手で探る。せめてメールのひとつでも入
れられればこの状況を打破出来るだろう││と。
︽ああ、外部と連絡しようとするなら無駄だからやめておいた方が良
い。ここは電波が悪い。特に坑内はな︾
︵っ、気づかれてる⋮⋮︶
︽そう睨まないでくれ。今はあまりジーンを刺激しない方が良い︾
うんうんと他のメンバーが頷く。
﹂
︽アイツ、狙撃の名手なんだがなーんかなぁ︾
︽ノリ悪い時あるよな︾
﹁多分それ、普通の反応よ
︽ははは、まさかそんな︾
ないか︾
﹁⋮⋮トライアド
﹂
︽B2AM総合特務班トライアドのメンバーがまともなわけないじゃ
?
︽うん、俺達の所属している部隊。といっても四人だけなんだけど︾
?
﹁四人なのに、トライアドなの
﹂
場の空気が凍った。言われるまで何も疑問に思っていなかったら
しい。
﹂
﹁トライアドの原義は、三人組よね。一人多くないかしら﹂
︽⋮⋮⋮⋮︾
︽⋮⋮⋮⋮︾
︽⋮⋮⋮⋮︾
﹁⋮⋮えっ、何この空気。わたし変なこと言った
﹁わ、わかったわ⋮⋮﹂
︽おい。妙なことは言うなよ︾
︽了解だ︾
︽ディル、携帯を取れ︾
でリロードを済ませたハンドガンの銃口を突きつける。
弾撃ち始めた。身を竦ませるアイエフの額に、目にも止まらない速度
クから大口径のハンドガンを取り出すとアイエフの足元に向けて全
戻ってきたジーンにセイン達の視線が殺到する。それに、背部ラッ
︽おい、うるさいぞ︾
て、相手もそれをどうするか考えているのか動かない。
のだろうか、それに出たいが今は身動き出来ない状態である。そし
の携帯から鳴り響く着信音は止む気配がなかった。誰からの着信な
電波が悪いはずだ、たまに繋がることもあるだろう。しかしアイエフ
感が一斉に高まり、咄嗟に身構えるもののそれ以上動かない。坑内は
その時、アイエフの携帯電話が鳴り始めた。それにセイン達の緊張
?
︽これだろ
えーっと、着信は││︾
﹂
よかったぁ。電波が悪いみたいで中々繋が
ぎこちない動きで通話ボタンを押すとアイエフの耳元に当てた。
﹁⋮⋮もしもし
︽あ、やっと繋がった
!
?
1415
?
これ、でもないな⋮⋮こっちか︾
﹂
︽えーと、どれだ
﹁壊さないでよ
?
︽むぅん。シュラ、すまんが頼む︾
?
画面に表示されているのは﹃ネプギア﹄の四文字。それにシュラが
?
﹂
らなくて不安だったんです︾
﹁そ、そうなの。それで
街中探してもいないから心配で︾
︽本当ですか
︾
﹁その、ちょっと連絡入れる暇が無かったのよ。だから心配しないで﹂
いた。
チラリとアイエフの視線がジーンを一瞥する。銃口が額を睨んで
﹁ごめんなさい、ネプギア。心配かけたみたいね。わたしは大丈夫よ﹂
だろう、バイクのエンジン音が微かに聞こえた。
から恐らくは飛行しているのだと分かる。エヌラスも一緒にいるの
少しだけ涙声になっているネプギアに、背後から聞こえる風切り音
か
電波を引っ張ってるんですけど、アイエフさん、今どこにいるんです
︽エヌラスさんのD│Phoneでテザリングしてもらって無理やり
?
︽はい
でも、何かあったらすぐに連絡してください︾
ちにもよろしくね﹂
かったの。近いうちに戻れるとは思うから心配しないで。ネプ子た
﹁え え。思 っ た よ り 楽 な 仕 事 だ っ た か ら、ち ょ っ と バ イ ク で 走 り た
?
ん、替わりますね︾
﹂
︽俺だ。聞こえるか、アイエフ︾
﹁聞こえてるわよ、なに
︽電波の悪い場所らしいが││お前今どこにいる
︾
?
エフはそう踏んでいた。
だろう。他の三人とは違って、このロボットだけは何かがある。アイ
た。口を滑らせようものなら自分を亡き者にするくらいわけもない
ジーンの突きつける銃口に睨まれながら、緊張感が場を支配してい
﹁⋮⋮だとしたら、なによ﹂
とまぁ電波が悪いんだな。森の中か
︽バイクで気ままにツーリングしてるみたいだが、屋外にしては随分
?
?
その一言に、アイエフが言葉を詰まらせる。
︾
︽あ、ちょっと待って下さい。なんですか、エヌラスさん││すいませ
﹁そうさせてもらうわ﹂
!
1416
?
︽携帯電話をコートの周りにぶら下げてるお前が電波の悪い場所で長
︾
休憩がてら、お昼寝してただけよ﹂
居するのは妙だと思ってな︾
﹁││そうかしら
︽連絡があった八時間以上前からか
アンタはわたしの保護者かなんか
︽なぁ、アイエフ。まさかとは思うがお前︾
﹁あぁもう、別にいいじゃない
﹂
たまには一人で気楽に過ごしたい時だってあるのよ
︽⋮⋮⋮⋮︾
察しなさいよそれくらい
なわけ
!
﹁ちょっと
﹂
︽そういう日もあるよな。女の子だもんな。ごめんな︾
﹁わかればいいのよ││﹂
︽その、まぁなんだ。すまなかった︾
怒鳴りつけられて、電話越しに唸るエヌラスの様子が思い浮かぶ。
!
転する気配はない。
今だけはエヌラスの察しの良さを恨む。だが、状況は劣悪なまま好
︵なんでそう、鋭く痛いところを突いてくるのよ⋮⋮︶
?
?
﹁もういいわよ⋮⋮﹂
︽⋮⋮⋮⋮すまなかった、銃を突きつけたりして︾
た。
話を元のホルスターに戻す。ジーンも突き付けていた銃口を下ろし
緊張感から気まずい物に変わっていた。シュラがおとなしく携帯電
ツー、ツー、ツー││⋮⋮。ピッ。通話を終えてから、場の空気が
︽それじゃ、切りますね︾
﹁気にしないで⋮⋮﹂
︽ごめんなさい。わたしもそういうの配慮が足りなかったみたいで︾
﹁なによ﹂
︽ネプギアです。あ、あのアイエフさん⋮⋮︾
何か変な誤解を招いたような気がする。
に代わるわ。悪かった︾
︽男の俺には分からない事もあるよな。まぁ、その⋮⋮うん、ネプギア
?
1417
!
!
︽ごめん、俺達はそういうのに疎いんだ︾
﹁だから﹂
バカばっかりかぁぁぁ
﹂
︽その、縄解いたほうがいいかな。身体に障るし⋮⋮︾
﹁あぁぁぁぁもぉぉぉう
!!
﹂
﹂
﹁というと
﹂
で潜り込んでるわけでもないのにおかしいと思わないか﹂
﹁そうか。別にお前を責めるわけじゃないが、ダンジョンとかひとり
﹁えっと、ごめんなさい。流石にわたしもそこまでは⋮⋮﹂
るか
﹁ネプギア。プラネテューヌで電波が入らない場所、悪い場所は分か
スはD│Phoneを操作する。
ハンティングホラーでプラネテューヌの夜空を駆けながらエヌラ
﹁えっ
﹁どうだろうな﹂
﹁よかった。アイエフさん無事みたいで﹂
く。
││Nギアを太もものホルダーに戻して、ネプギアはホッと一息吐
ら腫れ物を扱うように丁重にもてなされる羽目になった。
エヌラスのせいであらぬ誤解を招かれたアイエフは、トライアドか
!!
だったんだよ﹂
?
あのアイエフが﹂
?
るかもな﹂
﹁もしかすると、何か事件に巻き込まれてる可能性が高い。捕まって
と不自然な点が浮かび上がる。
││そういう日ではなく、通話を打ち切りたかったからだ。そうなる
ネプギアも察しがついたのだろう。それにあの怒りようは、恐らく
﹁あっ﹂
ンだぞ。そこで昼寝とか考えられるか
﹁それだけならいいんだけどな⋮⋮モンスターがいるようなダンジョ
﹁電波が悪かったからじゃないですか
﹂
﹁さっきの通話、音がおかしかった。なんというかな、反響してる感じ
?
1418
?
?
﹁それなら、早く助けに行きましょう
アイエフさんが﹂
﹁落ち着けネプギア。問題はアイエフの居場所が分からないことだ。
街中探していないなら、街を外れた場所になる﹂
と言っても、探すのは容易ではない。何しろ街の中よりも街の外と
いうのは広すぎる。国境を越えるかその付近まで視野に入れると一
月や二月ではとてもではないが人探しなど困難だ。
﹁じゃあ、どうすれば⋮⋮﹂
﹁一旦教会に戻るぞ。ユウコからの頼みで調査を頼まれた場所を片っ
端から潰して回る﹂
ハンティングホラーを反転させて、教会に向けて進路を取る。後ろ
から抱きついているネプギアの手が少しだけ力を込めてエヌラスの
身体にしがみついた。
﹁アイエフさん⋮⋮﹂
﹁大丈夫だ。何がなんでも見つけて、必ず助ける││事と次第によっ
ちゃ問答無用でシャイニング・インパクトだ﹂
﹁えっと、地形が変わらない程度にお願いします⋮⋮﹂
本気でやりかねない。というよりも、口ぶりから察するにエヌラス
は本気でやるだろう。ネプギアはそうならない事を祈った。
1419
!
エピソード61 類は戦友︵とも︶を呼び、変態は集
まる
││翌日。エヌラスはイストワールに事情を話し、ユウコに渡した
資料のコピーに目を通す。アイエフに調査を頼んだ施設や企業を片
端からピックアップしていき、リストにまとめるとプラネテューヌに
プルルート﹂
繰り出した。
﹁大丈夫か
﹁う∼ん、まだちょっと気分悪いけどぉ⋮⋮がんばるぅ∼﹂
﹁そうか。無理だけはするなよ﹂
﹁はぁ∼い﹂
ネプテューヌも女神の仕事に復帰しているが、やはりまだ気分が悪
いらしくネプギアとアーサーの監視の下でやる気なさそうにしてい
たが大丈夫だろうか。今回は別行動で、ネプギアが気を遣ってくれた
のかプルルートとふたりきりだ。ユウコとピーシェも買い出しに行
﹂
くと言っていたが、あの二人はあの二人で別な意味で心配になってく
る。主に周囲の被害が。
﹁それでぇ、アイエフちゃんをさがすんだよね∼
も手っ取り早い方法があった。
そこで、ふとエヌラスは思う。そんなまどろっこしい事をしなくて
すという選択肢は自然と後回しになった。
た場所に捕らえられているとは考えにくい。そうなると、街の中を探
街の中とは考えにくい。それに加えて、あの時の音の悪さ。整備され
のだから仕方ない。だが、電波の入りが悪かった点を考慮してみれば
確かにそうだが、そう言われても他に効率的な方法が見当たらない
﹁だぁってぇ、疲れそうなんだもん﹂
﹁⋮⋮不満そうだな﹂
﹁えぇ∼⋮⋮﹂
当たってみる﹂
﹁ああ。とりあえず、B2AMの手が回ってる企業と施設。片端から
?
1420
?
﹂
﹁よし﹂
﹁
﹁ハンティングホラー﹂
街の中で、突然歩いている人間の影から大型二輪が出てくれば通行
﹂
人の悲鳴も納得がいく。それに跨がり、エヌラスは後ろの座席を指差
した。
﹁プルルート、行くぞ﹂
﹁うん∼﹂
﹁しっかり掴まってろよ
﹁はぁ∼い﹂
﹁エヌラス∼﹂
﹁なんだ﹂
﹁どこいくのぉ∼
﹂
﹂
﹁わ∼い、デートだぁ∼
﹁ファッキン国家権力
﹂
﹂
手っ取り早く行くぞ
﹃あー、あー。そこの大型自動二輪、止まりなさーい﹄
でくれないような気が││。
が出てくるとさすがにちょっと世間様はそういうのをデートと呼ん
れないがそれはそれとしても自分とプルルートでデートという単語
確かに世間的には男女二人で出かけるさまをデートと言うのかもし
ティングホラーが自律的に踏み留まってくれたおかげで難は逃れる。
エヌラスがうっかりハンドル操作を誤って転倒しかけるが、ハン
!
!
そうすんなりと話が通るとは思ってないが、その時はその時だ。
部に赴けばいいじゃないか、とエヌラスは考えた。
る。││考えてみれば、相手方の組織が判明しているのだから直接本
一応、スピード違反にはならない程度の速度でプラネテューヌを走
?
﹁B2AM本部だ。場所は一応メモしてきた
?
らうのに三十分ほど時間を取られた。呼び止めた警官をエヌラスが
情を説明すること数分、イストワールに連絡を入れてどうにかしても
ありがたくもないことに、親切な誰かが通報してくれたらしい。事
!!
1421
?
!
思う存分睨みつけて、顔面蒼白になって歯の根が合わず、涙目になり
ながら何度も頭を下げて去っていく。暴言のひとつ出てこなかった
ことが我ながら奇跡的だと思いながらも深呼吸。
その通報内容が﹃少女が誘拐されている﹄だったことが尚更エヌラ
スの腹を立てていた。
﹁プルルート。俺、悪くないよな⋮⋮﹂
﹁なでなでしてあげるからぁ元気出して∼。なでなで∼、えへへぇ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
命拾いしたな親切な通報した一般市民。エヌラスはプルルートに
頭を撫でられて、怒りを腹の底に落とし込んだ。撫でている相手は少
﹂
しだけ頬を赤らめて楽しそうにしている。
﹁元気出たかなぁ
﹁ああ、うん。結構﹂
﹁そっか∼﹂
﹁じゃあ、気を取り直して。行くか﹂
エヌラスは改めてハンティングホラーを走らせた。次、呼び止めら
れたら何が何でも振り切るか暴れるの二択だ││そんな願いが通じ
たのか、エヌラスは何事も無くB2AM本部近辺、ルウィー国境付近
にひっそりと建てられている施設に到着した。
レオルドの所属する国境警備隊北方部隊はB2AM本部直轄とな
る。その為、そこで警備に当たる人員も大所帯となっていた。その中
でも万年最下位のレオルドがヒィヒィ言いながらどうにか部隊の最
後尾に並ぶ。
基本、部隊演習は陣営をふたつに別けて行われる。時折開催される
﹃スクランブル﹄は個人戦、他にも﹃スカッド﹄という少数での対抗戦
や﹃大攻防﹄と呼ばれる攻撃側と防御側に分かれた大規模演習も行わ
れていた。ただし、それらの演習は非常に大規模な戦場となるために
他の陣地での許可を得なければならない上に運用費もバカにならな
そこまでよ
﹄
い額が動く為、経営難という状況下ではここ最近は行われていない。
﹃││作戦時間、終了
!
!
1422
?
上空を滞空していた輸送用ヘリから大音量で響き渡る合図を皮切
りにして、北方部隊演習は終了した。逐一記録された戦績を元にし
て、今回の最優秀戦闘、最優秀貢献、最優秀占拠の三人が両陣営から
選出される。そこから更に最優秀総合戦績が選ばれるのだが││今
回はシャニが制した。前回は他の仕事の都合で不参加となっていた
が腕に衰えはないらしく、本人もそれは満足そうにしている。
それとは反対に、最下位戦績はやはりレオルドだった。
﹃お疲れ様、シャニ。相変わらず凄い活躍ね﹄
︽当然だ。私はシロトラ様の右腕となるべく日々組織に尽力している
のだからな︾
﹃みんなもお疲れ様、ゆっくり休んでちょうだい﹄
普段よりも柔らかい口調のオペレーター、ヨルドの言葉に各々が各
部の自己診断テストを行いながら武装を解除していく。徐々に高度
を下げる輸送ヘリに乗り込むB2AMのロボット達だが、それを見送
﹄
ありがとうございます、ヨルドさん
出しなさい﹄
︽オッス
︾
!
に視線を向ける。
プラネテューヌ、ルウィー国境付近に位置するB2AMの活動拠点
︾
││北方防衛拠点︽ベルスク︾でレオルドは一人、演習の後片付けを
始めた。だが、そこにもう一体。
︽おーいー、レオルドー︾
︾
︽あ、ロゼさん。どうかしたっすか
︽みんなはー
?
今回の最優秀戦闘賞に輝いたのは他でもないロゼだが、本人はそん
︽そっかー。んー⋮⋮︾
︽もう帰っちゃいましたよ︾
?
1423
る姿があった。
﹃レオルド、貴方はいいの
︾
!
﹃そう。今までよりは良い動きだったわ、その調子で最下位から抜け
︽自分は後片付けをしておくっす
?
頭を下げて高度を上げる輸送ヘリを見送って、レオルドはルウィー
!
な も の に 興 味 が 無 い の か こ の 通 り の マ イ ペ ー ス を 貫 き 通 し て い る。
武装を背負ったまま、ロゼはレオルドが持ち上げていた鉄骨を担ぎ始
めると鈍重なホバー音と共に動き出した。
︽片付け、手伝うぞー︾
︽すまねっす⋮⋮︾
悪路であってもホバー型脚部のロゼには関係がない。だが、重装甲
の為に機動力が死んでいるものの有り余る馬力を誇る。眠そうな闘
牛、というのがロゼへ抱かれる印象だった。
そこへ、エヌラスがハンティングホラーでドリフトしながら着陸す
る。チラホラと雪が降る中で吐く息は白く染まっていた。
﹁うぃ∼、寒ぃなおい﹂
︽あ、エヌラスさん。こんちゃっす︾
︾
﹁おう、レオルド。なんだ、お前ここの所属だったのか﹂
︽⋮⋮そちらの方は
﹁あたしぃ∼ え∼っとねぇ、プラネテューヌのぉ女神さま∼。プ
?
︾
プラネテューヌの女神様って、パープルハート様じゃない
ルルートって言うんだぁ∼、よろしくね∼﹂
︽⋮⋮
んですか
﹁うん。よろしく∼﹂
レオルドの疑問は無視して、のんびり屋のロゼとプルルートは馬が
合うのか早速意気投合している。エヌラスは白い息を吐きながら周
囲に見られる戦闘の痕跡に眉を寄せた。
﹁だいぶ激しい戦闘があったみたいだが﹂
﹂
︽北方部隊の合同演習っす。今さっき終わったばかりで、これから俺
が後片付けするところなんです︾
﹁エヌラス∼、さむい∼﹂
﹂
﹁ああ、悪い。ほら、これでいいか
﹁わ∼い
?
きついてくる。それを見ていたロゼが羨ましそうにしていた。
プルルートを抱き抱えてコートで軽くくるむと、首に手を回して抱
!
1424
?
︽おれはロゼだー。よーろしくねー︾
?
?
︽いーなー⋮⋮あったかそうだー︾
一応ここ、B2
︽まぁ、俺らは寒いとか暑いとか関係ないっすけどね︾
︽そだなー、あははー︾
︽えっと、それで。エヌラスさん、どうしたんすか
AM本部直轄の私有地なんで見つかると色々と面倒なことになるっ
すよ︾
﹁ああ。そうだな、お前がいるなら丁度いい。聞きたいことがあるん
だ﹂
︽俺に分かる範囲と答えられる範囲でいいなら、いいっすよ︾
エヌラスはレオルドに、アイエフが何か事件に巻き込まれた事を簡
﹂
潔に話す。そして、それにB2AMが関与している可能性が高いこと
も付け加えた。
︽そんな││でもなんのメリットがあって︾
﹁ああ、だから俺も疑問に思ってな。何か心当たりはないか
︽うぅーん⋮⋮︾
︽なー︾
﹁なんだ、ロゼ﹂
︽それならー多分ートライアドだと思うぞー︾
﹁根拠は﹂
トライアド 初めて聞く名前に首を傾げる。レオルドはそれに
︽ちっひーはー若いけどーいい子だぞー︾
本当は、チヒロさんです︾
︽あ、ちっひーさんは愛称です。みんな親しみ込めてそう呼んでます。
誰だ﹂
﹁ヨルド⋮⋮は、レオルドの言ってたオペレーターか。ちっひーって
い形相で通信してたからー︾
︽うんとなー。昨日ーヨルドさんとちっひーちゃんがー、もんのすご
?
﹁どんな連中だ
﹂
︽えっとですね⋮⋮端的に言うなら物凄く強い連中なんですよ。総合
特務班トライアド。少数精鋭ながらその実力はB2AMでも指折り
1425
?
思い当たる節があるのか︽あー⋮⋮︾と唸っていた。
?
?
に入ります︾
︽でもなー、変人なんだー︾
︽いつだったか、ちっひーさんのシャンプー飲んで謹慎食らってまし
たし⋮⋮︾
︽他にもー、超高速屈伸運動で膝の関節ぶっ壊してグラさんに徹夜さ
せたりなー︾
﹁なんか心当たりあるわそいつら⋮⋮﹂
主に邪神との戦いで出会った二度と関わり合いになりたくない連
中のことを指す。だがしかし、そんな情報を明かしていいのかと、ロ
ゼに尋ねる。
︽べつにーいいんだー。おれ、そういう面倒事わかんないしー︾
﹁そうか⋮⋮﹂
︽それにー、困ってるならー助け舟くらい出さないとなー。なー、レオ
ルドー︾
銃を下ろしてくれ︾
⋮⋮何をしているレオルド、ロゼ。そいつは我らB2AMの私有地に
違う、この人達は敵じゃない
!
1426
︽そ っ す ね。な ん だ か 仲 間 を 売 っ て い る み た い で あ ん ま り い い 気 分
じゃないっすけど⋮⋮まぁ、トライアドですし︾
︽そだなー、トライアドだしー。いいんだー、あいつら滅茶苦茶強いの
に変態だからー︾
﹂
﹁オーケー分かった。ありがとな、ロゼ、レオルド。そいつらの居場
所、分かるか
︾
!
︽ふ ん │ │ 何 か 妙 な 生 体 反 応 が 接 近 し て い る と 思 え ば、人 間 と は な
︽今の、もしかして⋮⋮
を飛ばそうと思った矢先、銃声に飛び退いた。
エヌラスがはにかんでレオルドに礼を言ってハンティングホラー
た﹂
それにしても昨日の今日ですぐ場所が分かるのは僥倖だな、助かっ
﹁いや、いい。大体の座標教えてくれたらバイクでかっ飛ばす。いや、
︽プラネテューヌ第三資源採掘場っす。良かったら案内しますけど︾
?
侵入した敵だぞ。何を悠長に雑談など︾
︽シャニ
!
︽貴様も食らうか
蠍の一突き︾
ガチャリと銃口を向けられてレオルドがたじろぐ。三点バースト
ながら、その貫通力と弾速は並み居る武装の中でも優れ、総合バラン
スでも一二を争う程の逸品だ。シャニの機体性能とそのAIM力が
加わればまさに蠍の毒針である。
﹂
﹂
起きてくれー
プルルート
︽シロトラ様が不在の今、B2AMは私が守る。覚悟は良いか、侵入者
︾
﹁くそ、そうやすやすと行かせちゃくれねぇか
﹁⋮⋮すやぁ∼﹂
﹁うぉーい、なんて穏やかな寝顔だよ女神様ー
︽寝顔かわいいなー。写真撮りたいくらいだー︾
くたばれブリキ野郎
﹂
貴様からはあの変態狂人集団と同じ
﹁俺の携帯貸すから撮ってくれ。後で送るから﹂
︽いいぞー︾
︽⋮⋮戦闘前に巫山戯るなよ
︾
﹁あの変人共と一緒にすんじゃねぇぞ
臭いがする
!
!
!!
neでプルルートの寝顔を撮っていた。
1427
?
割りと本気で切れそうになったエヌラスの横で、ロゼがD│Pho
!
!
!
!
!
!
エ ピ ソ ー ド 6 2 女 神 様 の ご 褒 美 は お 値 段 以 上 プ ラ
イスレス
︽こんなもんでどうだー︾
﹁もうちょい角度浅めで頼む﹂
︽わかったー︾
︾
カシャッ。
︽こうかー
﹁ありがとな。後で送っとくからメアド頼む﹂
︽じゃあ登録しとくぞー︾
ロゼが携帯のタッチパネルを器用に操作して自分の番号を登録す
︾
る。ついでにレオルドの番号も一緒に登録しておいた。
︽⋮⋮イライライライラ⋮⋮
そうになっている。
︽これー、待受にするかー
︾
律儀にそれを見守っていたシャニの苛立ちがそろそろ限界に達し
!
﹁うーん、さすがにそれは恥ずかしいな⋮⋮﹂
?
もういいか
なんなんだ貴様らのその余裕は
︾
︽あ、俺の番号も登録してくれたんですね。あざます、ロゼさん︾
︽オイ
!!
!
侵入者
るんでおく。気持ちよさそうに眠っているのだからもう少し静かに
してほしいものだ。
﹁寝てるんだから静かにしろよ﹂
︽そっすよ。空気読んでください︾
︽シャニー、お前ホント空気読まないなー︾
︾
︽この場において空気を読んでいないのは貴様らだろうが
となに悠長に連絡先の交換とかしてるんだ
!
引き止めてるのがお前なんだよ﹂
﹁いや、話し終わったから俺たちもう帰るんだけどな。それを無理に
!
1428
?
はぁ、エヌラスは嘆息した。プルルートを抱え直して、コートでく
!
︽それでも不法侵入に変わりはない
哀れみの視線を投げる。
︾
レオルド、貴様もついでだ
﹁⋮⋮かわいそうな奴なんだな、お前﹂
︾
︽││キッサマァァァァァァァッ
二人まとめて相手してやる
︾
!
をマンツーマンとか羨ましいわ
︾
銃器の信頼性は高く、いかなる環境下においても確実に動作する。そ
三点射の突撃銃、ヴォルペと名付けられたB2AMで普及している
の弾丸を避けて、スラスターを吹かした。
ない。レイジングブル・マキシカスタムが銃声を鳴らす。シャニはそ
ロリコンは許さないが、それ以上ともなると流石に生かしてはおけ
りの貫禄あるんですけど︾
︽真顔で言うと滅茶苦茶怖いっすよ、エヌラスさん。往年の殺人鬼ば
﹁││殺すか﹂
︽ふん。やっとやる気になったかこのペドフィリア︾
シャニが鼻を鳴らす。
コ ー ト を 脱 い で 羽 織 ら せ た。半 袖 シ ャ ツ 一 枚 で 武 器 を 構 え る 姿 に
そっとプルルートを引き渡して、エヌラスは寒そうに震える姿に
︽わかったー︾
﹁はぁ、仕方ねぇ⋮⋮ロゼ、プルルートを頼む﹂
︽ただの嫉妬じゃねぇっすか
︾
︽うるさい 相変わらずの戦績最下位で貴様だけシロトラ様の指導
︽なんで俺まで
まるでノワールとイストワールを足したような相手に、エヌラスが
たいって敬遠してるんですよね︾
︽そうなんすよ。いっつも仕事仕事で仕事の鬼だからみんな近寄りが
﹁ぼっちなのか、あれ﹂
︽そうっすよシャニ。そんなんだからお前友達いないんだよ︾
︽こんなにかわいい子の安眠妨害するなー︾
﹁もうちょい静かにしろよ。プルルート起きちまうだろうが﹂
!
!!
れは寒暖の気候などものともせず、正しく三発の弾丸を発射した。エ
1429
!?
!
!
!
!
私はつい先程補
ヌラスの倭刀がその全てを斬り落とす。レオルドもまた、背負ってい
た二挺のサブマシンガンを構えた。
︽ふん、レオルド 貴様は相変わらずバカだな
て、補給すらままならないだろう
︾
給を済ませてきた、だが貴様はどうだ。後片付けをするなどと残っ
!
﹃無理だ
﹄
︾
︽もっと静かに戦ってくれーみんなー︾
﹁んぅ∼⋮⋮﹂
の騒音に顔をしかめていた。
エヌラスのコートにくるまって穏やかな寝息を立てていたが、戦闘
プルルートをそっと下ろす。
る││その三人の戦闘を遠くから眺めるロゼは、施設の暖房を点けて
に判断して対応していた。流石は最優秀総合戦績賞に輝くだけはあ
ち前の機動力、判断力。そして行動力の三つを武器にして戦況を即座
エヌラスとレオルドの二人を相手にしてもシャニは引かない。持
成績が悪い。
されるのだが、どういうことかレオルドだけは他の同系統に比べると
評のあるシリーズブランド﹃玖珂﹄はAIの力量によって大きく左右
まっているレオルドの機体││最初期に大量生産された安定感に定
る。決 し て 機 動 力 は 低 く な い の だ が 良 く も 悪 く も 平 凡 な 性 能 で 収
前に出るまでの間に戦闘が大半、終わっているのが原因だったりす
︽それ以前の問題か
︽いや、そもそもそんなに撃ってないし︾
!
れ弾が飛んできたのを察知した。背面に背負った試験型のバリアユ
ニットが起動。機体前面に展開される薄い膜上の障壁が弾丸を弾く。
︾
︽シャニー、危ないだろー︾
︽知るか
︽この野郎ー、怒ったからなー︾
ガコン、とロゼが右肩に背負っていた大口径のガトリングを持ち出
す。その銃口、三門。ライフリングを始めて││高鳴る機械音にエヌ
1430
!
!
満場一致のノーサインに、ロゼが頬を掻く。どうするか考えて、流
!
!
﹂
ラスが青ざめた。そんなものを人間が食らえばひき肉になる。
︾
﹁ぬぅおおおあああああ
︽どわぁあああああ
︽おりゃー︾
かし、機動力を活かして遮蔽物に隠れるとリロードを済ませる。
!
﹂
!
バカな、女神でもあるまいし
オルドとシャニは驚いて固まっていた。
︽変身、だと⋮⋮
ど
あれ、でもパープ
妹のパープルシスター様とか⋮⋮んん
︾
?
︽プラネテューヌの守護女神ってマジなんすか
!
イリスハートが君臨する。
?
言っても分からないな
﹁ど う し て こ う、バ カ ば っ か り な の か し ら ね ぇ
テューヌの守護女神って言ってるでしょ
?
﹂
?
﹁素直な子は好きよぉ。見逃してあげるからそこでジッとしてなさぁ
︽それほどでもないぞー︾
﹁ありがと。フフ、よく見ると結構愛嬌ある顔してるじゃないあなた﹂
だー︾
︽お ー、女 神 様 だ ー ⋮⋮ こ ん な に 近 く で 見 た の 初 め て だ ぞ ー、感 動
﹁身体に教えるしかないでしょ
蛇腹剣を地面に打ちつけて、アイリスハートが髪をかき上げた。
ら﹂
ア タ シ が プ ラ ネ
理解の追いついていない二人の前で、ロゼの後ろでプルルート=ア
うなってるんだってばよ
ルハート様が、あれ
︾
間違いなく、この場にいる全員が無事では済まないことを。だが、レ
エヌラスはプルルートが変身する姿を見た瞬間、覚悟を決める││
﹁あ、やべ﹂
﹁おこったもん∼。へんし∼ん
と抱き寄せて頬を膨らませていた。
寝ぼけ眼を擦りながら、プルルートがエヌラスのコートをしっかり
﹁⋮⋮││むぅ∼。あたしぃ、気持よくお昼寝してたのにぃ∼⋮⋮
﹂
た口調のままでガトリングを掃射しながらシャニを狙っていた。し
反動を押さえ込んでいる当人はあくまでも平常通り、のんびりとし
!?
?
1431
!?
?
!?
?
い
﹂
ふん、貴様がどこの守護女神であるかなど最早関係
︾
い い 度 胸
ない。プラネテューヌの守護女神はパープルハート様だけだ
?
?
︾
!
﹂
﹁アッハハハハハ、ますます気に入ったわぁおバカさん。エヌラス∼
︽やれるものならやってみろ。私の信仰心に揺るぎはない
ねぇ、アタシの前で他の女神の話なんてイジメ甲斐がありそうだわ﹂
﹁へ ぇ。あ た し よ り ね ぷ ち ゃ ん の 方 が お 好 み っ て わ け
!
︽私のことか
﹁そっちのおバカさんは特にキツく教えてやらないとダメみたいね﹂
れた。だが、不意に視線が外れてシャニに向けられる。
て、蛇のように睨みながら絡みつく視線がレオルドとエヌラスに注が
アイリスハートに頭を撫でられて、ロゼはその場に着地する。そし
︽わかったー︾
?
﹁はい。なんでございましょうか女神様﹂
﹁別に、アタシが倒しても構わないのでしょう﹂
﹁そりゃあもう思う存分ご自由に、煮るなり焼くなり﹂
﹁だそうだから、遠慮無くいくわよ﹂
それにシャニが銃口を向けた。アイリスハートがプラネテューヌ
の守護女神であることはこの際二の次としても自分に矛先が向けら
れているのは間違いなさそうだ。
︾
︽貴 様 の よ う な ボ ン テ ー ジ 衣 装 の 女 神 な ど、胸 だ け で か い グ リ ー ン
ハートと同じようなものだ
﹁へぇ⋮⋮﹂
﹂
?
鞭で叩かれてシャニが情けない声を挙げる。
﹁ほぉら、さっきまでの威勢はどうしたのぉ
は抵抗するだけの気力もなくなったのか時折痙攣するだけだった。
その頭を踏みつけて、ハイヒールの踵でグリグリと踏みにじるが相手
無残な姿で無様な醜態を晒しながらベルスクの大地に転がっている。
女神にロボット風情が勝てるはずもなく││シャニは、それはもう
︽あ、アガガガガガ⋮⋮⋮⋮深刻なエラーが⋮⋮︾
!
1432
?
︽あひぃ
︾
こんな屈辱は、初めてだ⋮⋮︾
﹁態度の割にいい声で鳴くじゃなぁい﹂
︽く、屈辱的だ⋮⋮
﹂
︾
プラネテューヌの守護女神であるアタシに、こんなご褒
美貰っておきながら⋮⋮屈辱ですってぇ
︽めめめめめ滅相もございませんありませんすいません
﹂
ありがとうございます
誠意を込めて
︽ありがとうございます
﹁もっと
︾
!
︾
︽ぶひぃぃぃぃぃ
︾
﹂
ありがとうございます、ありが
!
﹁それでいいのよ。じゃあこれは特別サービスよ
とうございます
ございます女神アイリスハート様
︽このような無様な私めにかような褒美を与えてくださりありがとう
!
!
﹁じゃあもっと、豚らしく相応しい言葉があるじゃない﹂
!
?
﹁なぁに
!
︽どぇぇぇぇぇ
︾
!!
いた。
!!
︽いーなー、楽しそうだー︾
﹁楽しくぬぅえぇぇぇぇぇぇぇ
﹂
る。それを大人しく座り込んで眺めていたロゼは羨ましそうに見て
今度はレオルドとエヌラスの二人がアイリスハートから逃げまわ
﹁やっぱりこうなんのかぁぁぁぁぁ
﹂
﹁でもぉ、なんだか二人も物欲しそうだからついでにしてあげるわ﹂
︽機嫌直ったみたいでよかったっす⋮⋮︾
﹁その⋮⋮良かったな、アイリスハート⋮⋮﹂
﹁ああ、スッゴイ久しぶりに良い獲物を見つけた気がするわぁ⋮⋮﹂
を当てた。
している。アイリスハートは恍惚とした笑みを浮かべながら頬に手
モードに入ったかのどちらかだが、いずれにせよシャニは機能を停止
ているのだろう。もしくは人工知能が過負荷を抑える為にスリープ
たのか、身体に雪が積もっていく。動き出す気配はないが、気を失っ
シャニが情けない声を挙げながら白い地面に沈んだ。機能停止し
!!
!
!
!?
1433
!
?
!
白い雪原にエヌラスの絶叫が響き渡る││。
1434
エピソード63 漢は浪漫と願望に忠実││爆誕、ケ
モナール一号
エヌラス達が北方拠点ベルスクで酷い目に遭っている一方の、プラ
ネテューヌ第三資源採掘場。
そこでは、アイエフが縛り付けられたまま問答している四人がい
た。
︽ふむ。やはり縛り方に問題があると思うんだ︾
︽腕と足だけだもんな、動きを封じようと焦りすぎた感は否めない︾
︽やはり、縛るならそれ相応にやり方があると思うが⋮⋮︾
︽問題はどういう縛り方にするかだよな︾
1435
﹁いや、アンタ達ね⋮⋮本人を目の前に何の話してるのよ﹂
︽アイエフさんの縛り方です︾
現在のアイエフは、後ろ手で縛られ、足首も縛り付けられている。
ごく一般的な拘束方法だが、それに何が問題があるのだろう。武器も
ない今のアイエフは普通の女の子と変わりはないというのに、それ以
︾
︾
上何を求めているのかと聞かれれば、彼らはためらいもなく応える│
│男の浪漫
﹂
︽やはりここは定番の、こう⋮⋮あるだろ
﹁何の話
︽やってみるか⋮⋮︾
︽でもコートどうする
︽ならば俺に任せてもらおうか︾
はいなかった。
│やはり、追い求めずにはいられない男のリビドーを止められるもの
つ。流石に取るわけにもいかない。とはいえ、それはそれとしても│
アイエフの着ている厚手のコート、そして腰回りには携帯電話が九
?
?
!
︽まぁ、そうなんだけどなぁ︾
?
︾
﹂
ゆくぞぉ
ネットのアダルトサイトで培った﹃女性の縛り方百選通
︽やるのか、セイン
︽任せろ
︾
信カタログ﹄は伊達じゃない
︾
︽なんて頼もしいんだこの変態
﹁どうしようもない変態しかいないの
︽そして、この俺の性能を活かした目にも止まらぬ縛法
︾
﹁っ⋮⋮
﹂
︽ふむん、基本だよな︾
︽まぁオーソドックスに亀甲縛りだな︾
げられていた。
ぐるりと一周したかと思うと、事態を飲み込むより先に全身が縛り上
ロープの端を持ったセインのモノアイが光る。アイエフの身体を
!
!?
︽縄がキツイとかあります
︾
﹂
﹁そんな美容院の﹁かゆいところありますか
じゃないわよ、この変態
﹁いやー、誰かー
﹂
︽⋮⋮なんだろう、胸の奥から湧き上がるこの情欲は︾
?
?
!
﹂みたいなノリで聞くん
スタイルを浮かび上がらせるようなロープの結びに、顔が熱くなる。
の無駄な知識であるがアイエフは手も足も出ない状態だ。控えめな
コートの下、器用な真似をするものだと感心しながらもそれが全く
!
︾
﹂
次いくぞ
していく。股間の股縄に羞恥のあまりで涙目になっていた。
レーンに縛り付けられていた。みるみるうちにアイエフの顔が紅潮
る。俗 に い う﹁M 字 開 脚﹂だ。そ の 姿 勢 で 両 手 を つ り 上 げ ら れ て ク
セインの手で、アイエフは宙吊りにされた状態で足を広げさせられ
!
﹁亀甲縛りしておいてどの口が言うのよ
﹂
︽なんかちょっと楽しくなってきたぞ俺
﹁まだやるつもりなの
! !!
!
勘弁してほしいが、相手はノリ気だ。
!?
︾
︽ご 安 心 く だ さ い ア イ エ フ さ ん 卑 猥 な こ と は 一 切 し ま せ ん か ら
!
1436
!
!
!
!
!
!
︽ほほう。これはこれで⋮⋮︾
︵こ ん な 奴 ら に こ ん な 格 好 さ せ ら れ て │ │
⋮⋮︶
な気がするよな
︾
︽いや、空は飛べないだろ︾
︾
﹂
︽羽ばたけー、鳥になれ俺の頭ー
だぜぇーぃ
﹁しにたい⋮⋮
一 生 も の の 恥 だ わ
最高の眺め
!
︽まぁな
︾
第一段階だから何とも言えないが、ドバルが持ってきて
︽完成なのか
︽おっと、そろそろ頃合いか︾
た。
セインが時計を確認すると、丁度いいタイミングでタイマーが鳴っ
そんな趣味などないと自分に言い聞かせる。
さかこんな仕打ちを受けて興奮しているなんてことがあるはずない、
ない姿のアイエフだが、自分でも信じられないことに身体が熱い。ま
いっそ許されるなら舌を噛み切ってやりたいとも思う。あられも
ヒャッホォーイ
︽徹夜明けのテンションってなんかタガが外れて今なら空も飛べそう
!
分からない薬品とか混ぜたけど大丈夫だ
︵⋮⋮なんの、話よ︶
︽うわ、うわぁ⋮⋮何だその色⋮⋮
︾
︾
︽仕方ないだろ。どう調合してもこうなるんだよ
誰 も が 一 度 は 考 え る
その名も││︾
!
﹁なによ、それ﹂
︾
が引きつった。他の三人もさすがにそれはドン引きしている。
中身の液体がちょっと形容しがたい色彩を放っており、アイエフの顔
られた個室に入るとすぐに出てきた。その手には試験官││しかし
ありったけの怒りの形相で睨みつけるものの、セインが坑内に設け
!
︽こ れ は 男 の 浪 漫 を 詰 め 込 ん だ 欲 望 の 結 晶
﹁見れたら良いな﹂を叶える秘蔵のお薬
﹁その名も⋮⋮﹂
!
!
!
1437
!
!
!
!
?
くれたルウィーで採取されたモンスターの体液とかなんか、こうよく
!
仰々しく掲げた手が、止まった。
︽⋮⋮考えてなかった。なぁ、なんか良い名前ない
︽唐突だな。そうだな、うーん⋮⋮︾
︽はーい︾
︽はいそこ、シュラ︾
︾
タイトルコールは基本だな、決まりだ
︾
!
慎重に保管しないとな︾
︽臨床実験とかしなくていいのか︾
︽モルモットでも捕まえてこいと
とはいってもハダカデバネズミ
︽試薬第一号は邪神によって砕かれたが、今度はそうならないように
る。
というわけで名称決定、ケモナール││を片手に、セインが胸を張
﹁ネプ子ばりのメタ発言にわたしもビックリなんだけど﹂
︽なるほど
︽ケモミミ生えーるお薬だから︽ケモナール︾ってのはどうだろうか︾
?
た。
﹂
﹂
近付かないでってば
﹁ちょっと⋮⋮まさかとは思うけれど⋮⋮
︽⋮⋮⋮⋮︾
やめなさい
!
︽そうなるとちょうどいい相手がいないんだ⋮⋮︾
!
︽ジリ、ジリ⋮⋮︾
﹁にじり寄らないでよ
!
ん〟ーっ
﹂
!
﹁むーっ
少しだけだから 美味しいかもしれな
が唇を固く閉ざして顔を背ける。
嫌がるアイエフの身体を押さえ、セインが口元に試験官を近づける
︽こうなる流れが自然なんだよなぁ︾
﹂
せると、静かに頷く。それに自分の察しの良さを恨んだ時はなかっ
うーん、と悩む四人の視線が⋮⋮アイエフで止まった。顔を見合わ
﹁そのチョイスは限定的すぎるわよ
ぐらいしか俺ネズミの種類分からないしな︾
?
!?
︽ぶっつけ本番で使うわけにはいかないし︾
︽いや、だってねぇ⋮⋮︾
!
!!
1438
!
︽大丈夫、ちょっとだけ
!
!
いから
﹂
飲んでもケモミミが生えるだけだから
﹁んんんーっ
︽全部か
︾
││、∼∼∼ッ
全部いくか
﹂
てもこの世のものとは思えないゲロのような味
︽うわぁ、女の子とは思えない嗚咽⋮⋮︾
︾
﹂
!
﹁∼∼∼∼
験官を口の中に入れる。ディルの手がそのまま頭を仰向けにさせた。
ツくした。擦れた股縄の刺激に驚いて身を竦ませた隙に、セインが試
それでも嫌がるアイエフに、ジーンがアイエフの身体を縛る縄をキ
!
なにそれゲロまずいわ 控えめに言っ
!!!?
︾
に、セイン達が慌てる。
!
︽ほ、ホントに大丈夫なんだよな
!
俺 を 信 じ ろ、こ と 欲 望 に 付 き
!?
︾
︽大 丈 夫 だ っ て 言 っ た じ ゃ な い か
従った俺の成功率は九分九厘だ
︾
︾
エフの身体が傾いて椅子から転がり落ちた。呼吸が荒いまま唸る姿
世界が逆転するような、まるで海に揺られているような五感にアイ
︵なに⋮⋮これ⋮⋮めまいがする⋮⋮意識、が││││︶
︽いや、そんなはずはない︾
︽失敗か
⋮⋮はぁ⋮⋮あっ、ハァ⋮⋮﹂
﹁最悪よ⋮⋮頭はボーッとするし、身体は熱いし、変態しかいないし
︽ど、どうですか⋮⋮︾
いる。
に座らされたアイエフは呼吸を荒くして玉のような汗が吹き出して
下ろし││ついでに縛り方も直して││鼻と涎を拭い取った。椅子
ている。それではあんまりにも可哀想なのでシュラがクレーンから
あまりのまずさに、アイエフが涙と鼻水まで垂らし、涎まで出てき
︽今後の課題にしておくさ︾
︽そんなにマズイのか⋮⋮味くらいは改良しておけ、セイン︾
!
﹁ごっぶぅおぉぉええぇ
!!? !
!?
︽残りの一厘は
︽良心︾
?
1439
!!
!
!
?
︾
それが失敗の種になるならドブに捨ててしまえと怒られたセイン
がしょげる。
︽ど、どうするんだアイエフさん⋮⋮︾
︾
︾
︽とりあえず安静にして様子を見よう︾
︽⋮⋮ん
︽どうした、ジーン。漏れたか
︽死んでしまえ。いや、誰か来たようだぞ⋮⋮
︽確かに。俺のセンサーも生体反応をキャッチした。誰だろうな︾
シュラが言うのなら間違いはないのだろう。
﹁こ、ここか⋮⋮プラネテューヌ第三資源採掘場⋮⋮﹂
息も絶え絶えになりながら鼻水を拭うエヌラスはくしゃみをした。
ハンティングホラーの後部座席でエヌラスにしがみついているプル
ルートはと言うと上機嫌なのかニコニコと満面の笑みを浮かべてい
る。心なしかその頬がツヤツヤとしている。
あの後、たっぷりとアイリスハートの手によってレオルドが再起不
能となり、エヌラスまでもが毒牙によって倒れそうだったが、説得し
て本来の目的を思い出したことで何とか事なきを得た。今回の被害
者は二名。エヌラスは胸中でレオルドに謝罪しながらも先を急ぐ身
﹂
なので挨拶も程々にして逃げてきた。
﹁だいじょうぶ∼
うのは無理な相談だろうか。
できることならその優しさを女神化した後にもお願いします、とい
﹁ありがたくって涙が出てくる⋮⋮﹂
﹁帰ったらぁ、膝枕してあげるねぇ∼﹂
﹁大丈夫だよ、心配すんな⋮⋮ちょっと疲れてるだけだ﹂
?
1440
?
?
?
エ ピ ソ ー ド 6 4 動 物 の 可 愛 さ + 美 少 女 = 無 限 の 可
能性
とはいえ目的地に到着した。エヌラスの表情はまるで苦虫をすり
潰した青汁を飲んだように、非常に渋い顔をしている。││思い起こ
される変人共の巣窟。ここにアイエフが捕らえられていると考える
だけでも危険性がグンと高まる。しかも今回はプルルートが一緒だ。
﹂
尚更エヌラスの足を鈍らせるには十分な理由である。
﹁あぁぁぁ、行きたくねぇぇぇぇ⋮⋮
﹁でもぉ∼アイエフちゃんここにいるんだよね∼﹂
﹁そうなんだけどなぁ﹂
あの変態どもの相手をしないといけないのか⋮⋮、そんなエヌラス
の気など知らずに出てくる四人組。今回も珍しく全員が武装してい
お前だったのか
︾
たが、エヌラスの顔を見るなり片手を挙げて挨拶してきた。
︽ソウル・ブラザー
︽今日はどうしたソウル・ブラザー
!
﹂
︽ゆっくりしていってね、ソウル・ブラザー︾
﹁だぁぁぁもぉぉぉう帰りてぇぇぇぇ
うな∼﹂
?
物理的に殺すのならいくらでも大歓迎だ。いくらでも殺してやれ
﹁テメェら俺を社会的に殺す気か、おぉん
﹂
﹁えへへへぇ∼、エヌラスの彼女さんだってぇ∼。なんかぁ照れちゃ
︽そうすると俺達の方がヤバイからやめてくれ、ジーン︾
︽通報したほうがいいのかこれ︾
ウル・ブラザー︾
︽リア充の輝きに当てられると俺は蒸発するんだ、知らなかったかソ
︽⋮⋮彼女でも紹介しに来たのか、ソウル・ブラザー︾
プルルートを見比べて、しばらく考え込んでいた。
出来ることなら口も利きたくない。だが、そんな四人はエヌラスと
!!
1441
!!
︽茶でも飲んでくか、ソウル・ブラザー︾
!
!
﹂
る。エヌラスの精神力がガリガリと削れていく。癒やしを求めてプ
ルルートを抱っこする。
﹁どうしたの、エヌラス∼
︽あれじゃないか
急成長するバブみ経済︾
︽そういえば⋮⋮幼女に母性を求める男性、最近増えたな︾
︽俺たちは事案発生の現場を目の当たりにした︾
︽幼女に癒やしを求める犯罪者︾
﹁うん、今ちょっと色々と辛いから癒やしてくれ⋮⋮﹂
?
す。手短に用件を伝えた。
なんでまた︾
﹁なぁ、昨日あたりに誰か来なかったか
︽此処に
?
︽あー⋮⋮まぁ一応は︾
﹁中見せてもらってもいいか
?
︽見ても面白くないぞ
それに今は採掘作業中断してるし︾
︽いやー、まぁーそのー⋮⋮︾
﹁なんだ、なんか問題あるのか﹂
︽えっ⋮⋮︾
﹂
﹁なぁ。此処って資源採掘場なんだよな﹂
嘘だと分かっていた。既に調べはついている。
うんうん、とディルの言葉に全員が頷く。エヌラスはそれがすぐに
︽こんな田舎のド辺境に好き好んでくる物好きは早々いない︾
︽特にこれといって︾
﹁他には﹂
︽来たな。うちの知り合いの配送業者だ︾
﹁まー、ちょっとした人探しだ﹂
﹂
ながら、エヌラスはプルルートから癒やし成分を補給したので下ろ
帰 り た い。あ あ 帰 り た い。お 布 団 に 潜 り た い。そ ん な こ と を 考 え
﹃勘弁してくれ、ソウル・ブラザー﹄
﹁テメェ等後でまとめて溶鉱炉に沈めてやっから覚悟しろ﹂
?
︽そこまで言うなら、まぁお好きに⋮⋮︾
﹁軽く見せてもらうだけでいいんだよ。入ってもいいか﹂
?
1442
?
﹁そうか。サンキュー、行くぞ。プルルート﹂
﹁はぁ∼い﹂
エヌラスとプルルートが鉱山の中へ入っていくのを、四人は付いて
行くふりをして││静かに回れ右してから全力で逃げ出した。
︾
︾
︾
どっから情報が漏れた
︾
︾
︽いやいやいやいやいや 絶対ヤバイあれヤバイマジでかなりヤバ
イ
︽何故だ
︽シュラ、本部に緊急連絡だ︾
︽既に入れてるけど混雑中らしい
︾
ざまぁ
!
離れていく。
︽おいセイン
ケモナールはいいのか
︽⋮⋮しまった︾
︽どうかしたのか、ジーン
︾
︽日記帳を置いてきてしまった︾
︾
︽日記帳くらい後で買ってやるから、行くぞ
︽⋮⋮仕方ない︾
︾
︽大丈夫だ。こんなこともあろうかとしっかりメモは持ってる
!
﹁別な意味でな⋮⋮﹂
﹁ドキドキするね∼﹂
﹁だとすると、お目当ての宝はアイエフってことになるのか﹂
﹁なんかぁ、宝探ししてるみたい∼﹂
リとエヌラスにくっついて歩く。
︾
ン音が微かにだが空気を震わせていた。それに、プルルートがピッタ
でなく、一応足元を照らす非常灯も備えられている。発電機のタービ
は天井にぶら下げられている豆電球だけだ。年季の入ったそれだけ
エヌラスとプルルートは暗く湿った坑内を歩く。灯りらしい灯り
!
!
!
清々しいクズ発言のセインが咳払いを挟んで、第三資源採掘場から
︽マジで
︽シャニが気絶して緊急搬送されたって
︽何かあったのか
!?
!
?
1443
!?
!
?
!
!
!
狭い坑内を進み、広間に出た。そこは作業場だったのか、コンベア
やコンテナ。各種資材だけでなく加工用の道具が乱雑に置かれてい
る。その中に、一台のバイク。この場にはあまりに似つかわしくない
ものにエヌラスが眉を寄せた。
そのすぐそばに置かれていたカタールと拳銃に見覚えがある。確
かアイエフが使用していた││そうなるとどうやらここに居るのは
間違いないようだ。
﹁あ∼﹂
﹁どうした﹂
﹁アイエフちゃんが∼﹂
プルルートの間延びした声に、視線を向けると仰向けに倒れている
﹂
アイエフがいる。腕と足を縛られているのか、まるでまな板の上の鯉
﹂
のようにピクリともしない。
﹁アイエフ
エヌラス⋮⋮
口の中に入った土を吐き出して、まだくらむ視界にまばたきを繰り返
してピントを合わせる。不安そうな表情に、力なく笑ってみせた。
﹂
﹁⋮⋮なによ、その顔は。一日戻らなかったくらいで、そんな心配しな
﹂
くてもいいじゃない。過保護なのも嫌われるわよ
﹁││││あ、ああ⋮⋮そうか。怪我、は
?
﹁見てないで早く、これ解いてくれない
﹂
ギチッ。身体を縛るロープが煩わしい。
﹁そうね⋮⋮特にはないわ。ちょっと身体が痛むくらいで││つっ﹂
?
右から左に抜けていき、コートに染み付いている匂いを嗅いでいた。
かエヌラスのことをやけに意識してしまう。気にかけている言葉も
る。風邪を引いたような感覚に、気だるさが伴って││それに、何故
徐々に身体の感覚が戻ってきた。だが、まだ少し頭が熱を帯びてい
﹁大丈夫って言ってるでしょ﹂
﹁⋮⋮ああ。アイエフ⋮⋮その、本当に大丈夫か﹂
?
1444
エヌラスが駆け寄り││言葉を失った。
﹁││││ぅ⋮⋮⋮⋮う、ん⋮⋮
?
身じろぎして、意識を取り戻したアイエフが軽くかぶりを振った。
?
!
柑橘系の香りはドラッグシガーの残香だろうか。それに、プルルー
トの少し甘い匂い⋮⋮上着から僅かに漂う汗臭さに眉を寄せながら
も、癖になる香りがアイエフの肺を満たしていく。
﹂
あ⋮⋮わたし、何してるのかしら﹂
﹁お、おい
﹁││へ
帯びる下腹部が疼く。
﹁ふーっ、ふーっ、ふーっ⋮⋮
!
﹂
﹂
?
激が背中を駆け巡った。
⋮⋮もふっ
!
ぴこぴこ動くきつね耳に、もふもふ動く尻尾に当人が凍りついてい
⋮⋮﹂
﹁い や、ど う 見 て も ⋮⋮ 生 え て る ん だ よ な ⋮⋮ ど う な っ て ん だ こ れ
﹁アイエフちゃん、かわいい∼。いいなぁ∼、あたしもほしいぃ∼﹂
外に特に目立った変化はない。
揺れている。パニック寸前になりながら自分の身体を触るが、それ以
映っていた。しかもコートの下から覗くように大きな尻尾までもが
そこには││綺麗な毛並みのキツネミミが生えたアイエフの姿が
クリスの鏡でアイエフの姿を映す。
体が増えていた。助けを乞うようにエヌラスに視線を向けると、ニト
アイエフが自分の身体に触れる。頭に触れると、一対の慣れない物
なに、これぇ
﹂
もふっ、とプルルートの触れた頭から、電流を浴びたように甘い刺
﹁ぁっ││
﹁これ∼、なぁにぃ∼
﹁な、なんですかプルルート様⋮⋮﹂
﹁アイエフちゃん∼﹂
﹂
い。身体を掻き抱いてどうにか堪らえようとするが、じんわりと熱を
深呼吸して落ち着けようにも、エヌラスの匂いが気になって仕方な
身 体 の 奥 か ら 湧 き 上 が る 熱 が ど う し て も 呼 吸 を 乱 れ さ せ て い た。
︵やだ⋮⋮どうしちゃったのよ。身体が熱いし、それになんだか││︶
﹁えーっと⋮⋮まぁ、無事で何よりだ﹂
?
﹁へっ、えっ
!? ?
1445
?
!
た。エヌラスも、その動物の愛くるしさと涙目で頬を赤らめているア
イエフの上目遣いに胸がときめいて言葉を失っている。プルルート
も純粋にそれが可愛らしいと褒めていた。
1446
エ ピ ソ ー ド 6 5 男 は オ オ カ ミ な の よ。お 気 を つ け
下さい︵R︶
しかし、まぁ見事に生えているケモミミにエヌラスは感心を隠せな
い。九龍アマルガムでこの手の効果を得ようとすれば、まず間違いな
く失敗作絡みになる。人体変化の薬というのはどうしても使用者の
身体に負担がかかる為に製造が難しい。それをこうも作られてしま
うと、改めて文化圏の違いというのを感じる。息を荒くしながらも立
ち上がろうとするアイエフだが、身体に力が入らないのかエヌラスに
﹂
もたれかかった。それを支えると、コートの裾を強く握られる。││
これは、もしかすると⋮⋮。
﹁⋮⋮アイエフ﹂
﹂
タールを戻す。
﹂
﹂
アイエフは気づいていないが、コートを捲り上げて揺れる尻尾が
ちょうど短パンと上着の隙間から出ているものだから、少しだけパン
ツが見えていた。前かがみになってテーブルに手をついているもの
だからそれが強調されて誘っているような仕草になっている上に、い
じらしく太ももを擦り合わせていた。そんなことをしても身体の奥
底で火照る痴情は治まる気配はないどころか、中途半端な刺激に貪欲
1447
﹁な、に
﹁まさかとは思うがお前、発情してないか﹂
﹁えぇ∼、アイエフちゃんムラムラしてるのぉ∼
﹁そん、なわけぇ、え⋮⋮﹂
﹁ひゃぁ、んぅ
﹁アイエフちゃん∼、えっちな声でてるよぉ
さわら、ないでエヌラス⋮⋮
!
千鳥足でバイクのもとにたどり着くと、胸を押さえながら拳銃とカ
!
?
!
﹁こ、れは⋮⋮違うの
﹂
すと、溢れていた愛液に本人が身体を跳ね上げて驚いた。
エヌラスの視線が、アイエフの内股に向けられる。それに手を伸ば
?
?
さを隠そうともしない。
︵ダメ、ダメよわたし⋮⋮落ち着いて。深呼吸して⋮⋮
へっちゃらよ︶
﹁アイエフ││
﹂
に浮かされた脳は悪魔の誘惑を繰り返す。
こんなの
と指が股間に向かっていく││それを頭を振って振り払おうにも、熱
がる情欲は止めどなく身体を弄る。快楽に身を任せてしまうと、自然
アイエフがよだれを拭いながら必死に抑えこもうとするが、湧き上
!
﹂
タールが前髪を掠めた。
﹁あっぶねぇ
﹂
﹁わわ。エヌラス∼、だいじょうぶぅ∼
﹁⋮⋮⋮⋮アイエフ
﹂
ら、アイエフはコクンと喉を鳴らしながら唾液を飲み込む。
離した舌と舌を結ぶ銀糸が垂れる。悔しそうに唇を噛み締めなが
ディープキスにエヌラスが困惑していた。
名前を呼ぼうとする唇が、塞がれた。遠慮も躊躇もない貪るような
﹁おい、アイエ││﹂
イエフを抱きとめたことにより尻もちを着く。
の一撃を避けるために重心が後ろに集中していた。そこへ追加でア
懐に飛び込むアイエフの全体重を受け止めたエヌラスだが、先ほど
﹁なにしやがんだいきなり
﹂
エヌラスが声をかけようとすると、振り向きざまに振るわれたカ
?
﹁あー﹂
噛するとエヌラスが少しだけ声を漏らした。その様子を横で屈みな
熱い吐息が首元に掛かる。首筋に舌を這わせて、いたずらっぽく甘
﹁││││ハァ⋮⋮フゥ⋮⋮﹂
んだ。
参の意思表示をするとアイエフが胸板に顔を埋めて深く息を吸い込
カタールが頬を掠めて、鬼気迫る表情にエヌラスが両手を挙げて降
﹁何も言うなっての
﹂
﹁なにも、言わないで﹂
?
!
1448
!
?
!?
がらプルルートが頬を赤くして眺める。
﹁わぁ∼⋮⋮﹂
︶
︵エヌラスの、匂い⋮⋮これ、癖になりそう⋮⋮ダメ││我慢、できな
い⋮⋮
服の裾を掴んだまま、アイエフが胸板から下に下がっていく。腹筋
から、更に下へ。
チャックを口で軽く噛んだまま、下ろしていく。ズボンの中で押さ
えられていた男根の臭いに、アイエフの表情が惚ける。
﹁はぁ、はぁ⋮⋮ぁ││ん﹂
両手でズボンの中から取り出したソレに、アイエフは我慢できずに
舌を這わせていた。
﹁んぶっ、ん││あふ、はぁ⋮⋮ぁ﹂
懸命に咥え込んで何度も上下する。それだけで唾液がとめどなく
溢れてエヌラスは声を抑えた。
あのアイエフが、こんな獣のように自分の身体を求めている││そ
の状況が望まないものとはいえ、狐の耳を生やして尻尾を振る姿を見
せつけられては湧き上がる欲望を抑えることもままならない。
﹁っ⋮⋮アイエフ⋮⋮﹂
﹁エヌラス、お願い。なにも、言わないで⋮⋮わたし、おかしくなりそ
﹂
お 願