第Ⅷ次生涯教育推進委員会答申 平成28年6月 日本医師会生涯教育推進委員会 平成28年6月21日 日本医師会長 横倉 義武 殿 生涯教育推進委員会 委員長 倉本 秋 第Ⅷ次生涯教育推進委員会答申 生涯教育推進委員会は、平成26年10月29日に貴職より「日本医師会生涯教育制 度の新しい展開と専門医制度」について検討するよう諮問を受けました。今日ま でに10回の委員会を開催し、鋭意検討を重ねました結果、ここにその結果をとり まとめましたので報告いたします。 i 生 涯 教 育 推 進 委 員 会(Ⅷ) 名 簿 委員長 倉本 秋 高知医療再生機構理事長 副委員長 尾﨑 治夫 東京都医師会会長 委 員 小野 晋司 京都府医師会理事 河合 直樹 岐阜県医師会副会長 河野 文夫 熊本県医師会理事 斉藤 義昭 山梨県医師会理事 櫻井 晃洋 北海道医師会常任理事 佐藤 家隆 秋田県医師会常任理事 高井 康之 大阪府医師会副会長 洞庭 賢一 石川県医師会理事 林 正作 香川県医師会副会長 福井 次矢 聖路加国際病院院長 丸山 泉 日本プライマリ・ケア連合学会理事長 ii 目 次 Ⅰ.はじめに ·············································· 1 Ⅱ.日本医師会生涯教育カリキュラムの歴史 ··················· 2 Ⅲ.答申··················································· 4 1. 第Ⅷ次生涯教育推進委員会期中における、日本医師会生涯教 育制度の新しい専門医の仕組みの中での展開 2. 生涯教育カリキュラム2009から生涯教育カリキュラム2016へ の改訂 3. 日本医師会生涯教育制度の新しい展開と専門医の仕組み Ⅳ. 第Ⅷ次生涯教育推進委員会 審議経過 ······················ 10 Ⅴ.生涯教育制度に関するワーキンググループ 名簿 ············ 11 Ⅵ.生涯教育制度に関するワーキンググループ 審議経過 ········ 11 Ⅶ.おわりに ··············································· 12 iii Ⅰ.はじめに わが国の医学教育の場では、医学教育モデル・コア・カリキュラム(平成13年)、 医師初期臨床研修制度(平成16年)、医学部の世界医学教育連盟(WFME)認証作 業(平成28年)、そして新しい専門医の仕組み(平成29年予定)と一連の改革が 進められている。いずれも、少子高齢化の流れや疾病構造の変化を受けて、病気 のみではなく、病める人全体を診てほしい、その問題を解決してほしいという国 民の期待に応えようとする、軌を一にする動きである。 生涯学習はどの職種にとっても社会的使命であり、昭和40年にユネスコの成人 教育推進国際委員会は、「学習したいと希望する人にはだれに対しても学習の機 会を、教育に責任を持つ機関が提供すべきである。」と述べている。医学部卒業 までの教育は生涯教育の一つの段階であり、生涯にわたって学んでいける自己教 育力、プロフェッショナル・オートノミーの礎づくりに過ぎない。 わが国の医療界で、その責務を果たしてきた組織、責任を持つ機関は日本医師 会をおいて他にはなく、昭和59年に日本医師会は医師の生涯教育を施策の根幹と して取上げ、日本医師会生涯教育制度を昭和62年に発足させている。およそ30年 の歴史を持つ日本医師会生涯教育制度の理念は、 「内発的動機に基づく自己啓発」、 プロフ ェッ ショ ナル ・オー トノミーである。日本医師会が継続的専門教育 (Continuing Professional Development)に責任を持ち、医師の質の担保と日本 の医療水準の向上に寄与してきた役割は多大なものである。 平成29年からスタートが予定されている新しい専門医の仕組みを見据えながら、 第Ⅶ次、第Ⅷ次生涯教育推進委員会は4年間「日医生涯教育制度の普及と専門医制 度について」、「日本医師会生涯教育制度の新しい展開と専門医制度」という二 つの諮問と向き合ってきた。日本医師会生涯教育制度は専門職集団として地域住 民の健康を希い、地域住民が安心して受診できる医師を継続的に育むという、こ れまで直接的に果たしてきた役割と、新しい専門医の仕組みという社会システム を介して間接的に地域住民に貢献していく役割を共時的に担うことが求められて いる。 -1- Ⅱ. 日本医師会生涯教育カリキュラムの歴史 日本医師会生涯教育制度は昭和62年に発足した。日本医師会生涯教育カリキュ ラム(以下、生涯教育カリキュラム)の誕生は平成4年であり、それ以降個々の会 員の学習指針として、また都道府県医師会・郡市区医師会が開催する「日本医師 会生涯教育講座」の企画・立案に資するものとして、日本医師会生涯教育の根幹 をなしてきた。その後、生涯教育推進委員会では、①日本医師会生涯教育制度の 目標の明確化、②自己申告制度の内容及び方法の再検討(学習方略・評価の見直 し)、③生涯教育カリキュラム(目標・方略・評価)の継続的な見直し、④生涯 教育の義務化についての継続審議、⑤学会が主体となって運営してきた従来の専 門医制度と日本医師会生涯教育制度との関連性の検討、⑥新医師臨床研修制度な どについての課題などが議論されることとなった。このうち、新医師臨床研修制 度についての議論は、平成18年9月20日に発足した医師の臨床研修に関する検討委 員会(プロジェクト)に委ねられた。 生涯教育カリキュラムについては、平成7年、平成11年、平成13年、平成21年と 4度にわたり改訂が行われている。平成11年の改訂では、病める人としての患者に 共感し、深く患者を理解するために、医学以外の領域(倫理、哲学、宗教、心理、 法律、社会学、経済学など)や医療、保健、福祉等の制度について「基本的医療 課題」が設置された。豊かな人間性と使命感を具体化させた「基本的医療課題」 は、日本医師会が推進する生涯教育に欠くことのできないもので、平成21年の改 訂(生涯教育カリキュラム2009)でもカリキュラムコード(以下、CC)1~14、80 ~82に息づいている。 平成21年の改訂(生涯教育カリキュラム2009)では、日本医師会生涯教育制度 の目標の明確化が図られたことが大きい。「目標の明示なくして評価なし」、明 確な学習目標がなければ学習者個々の達成度の評価は行えず、日本医師会の生涯 教育そのものの有効性も判定できないからである。また、日常診療上頻度の高い 症状や病態について、臓器にかかわらず、年代(小児・成人・高齢者)、性別の 特性に配慮した鑑別診断と初期対応、エビデンスに基づいた治療、さらに適切な タイミングでの専門医療施設・専門医への紹介等の、日本医師会会員の日常的な 活動を「総合的な診療能力を有する医師」として言語化したものである。また、 生涯教育カリキュラム2009の運用では、専門性の高い医師や専門医を目指す勤務 医にも配慮し、CC数と単位数を合算して学習合計を求めることとして現在まで継 -2- 続している。 第Ⅶ次生涯教育推進委員会(平成24・25年度)では、「専門医の在り方に関す る検討会」の議論に合わせて総合診療専門医という名称を用いることとした。第 Ⅶ次生涯教育推進委員会の答申では、新しい専門医の仕組みの中で、専門医認定・ 更新の基礎点として日本医師会生涯教育制度を活用するよう、中立的第三者機関 「日本専門医機構」に働きかけていくこと、その過程で一定のCCの見直しが必要 であること、客観性、厳格性があり、国民にも分かりやすい評価の仕組みが必要 であることなどが提言された。この期の活動として、日本医師会、生涯教育推進 委員会の考え方は、日本医師会理事メンバーを通じて「専門医の在り方に関する 検討会」に強く反映され、同検討会の最終答申には、「専門医制度の基礎点に、 日医の生涯教育制度などを活用できないか」という視点が盛り込まれた。 -3- Ⅲ.答申 1.第Ⅷ次生涯教育推進委員会期中における、日本医師会生涯教育制 度の新しい専門医の仕組みの中での展開 第Ⅷ次生涯教育推進委員会に諮問された「日本医師会生涯教育制度の新しい展 開と専門医制度」という課題は、 「日医生涯教育制度の普及と専門医制度について」 という諮問に対する第Ⅶ次生涯教育推進委員会からの答申を受けてのものであっ た。いずれの諮問にも、 「日本医師会生涯教育制度」と「専門医制度」というキー ワードが謳われている。第Ⅷ次生涯教育推進委員会への諮問にあたり、横倉義武 会長からは「日本医師会は日本専門医機構にも積極的に参画していくが、第Ⅷ次 生涯教育推進委員会として実務的なことも行ってほしい」という見解も諮問の中 に示された。 一つの諮問に対して、2 年間の議論で答申をまとめ、それから実行していく時 代は終わり、議論と並行して実務的な作業も行い、答申をまとめ、同時に次期の 活動に繋がる指針を示す新しい時代に入っているといえる。第Ⅷ次生涯教育推進 委員会は、横倉会長の見解、要望に沿った活動を行った。 日本専門医制評価・認定機構の「第三者機関検討委員会」(平成 22 年 9 月~平 成 23 年 5 月)、厚生労働省の「専門医の在り方に関する検討会」(平成 23 年 10 月~平成 25 年 3 月)の議論を経て、平成 26 年度から、医師のオートノミー(中 立的な第三者機関:一般社団法人日本専門医機構)による、総合診療領域を含む 「専門医と養成プログラム認定の標準化」運営が開始された。 新しい専門医の仕組みでは、平成 27 年以降に卒業した医師が、平成 29 年に専 攻医研修を開始し、領域によって差異はあるものの、平成 32 年から日本専門医機 構が認定する専門医資格を順次取得していく予定となっている。平成 26 年以前卒 業で従来の学会専門医を有する医師は、これから迎える専門医資格更新の機会に 新しい専門医機構専門医の更新要件を満たして、日本専門医機構が認定する専門 医となっていき、平成 26 年以前卒業の若手医師は、今後まず各学会が認定する専 門医を取得した 5 年後に同様の更新の機会を持ち、日本専門医機構が認定する専 門医となる方向で議論が進められている。 日本医師会、生涯教育推進委員会の「専門医制度の基礎点に、日医の生涯教育 制度などを活用できないか」という視点は、平成 26 年度からは日本医師会の担当 常任理事が日本専門医機構、特に専門医認定・更新部門に対して、説明と折衝を -4- 行い、その要望に対して対応するという過程で活かされることになった。新しい 専門医の仕組みの中で、平成 27 年以降に卒業した医師が日本専門医機構認定の専 門医を取得する・更新するためにも、また平成 26 年以前卒業の医師が日本専門医 機構専門医となる専門医更新を行うためにも、すべての領域(学会)共通の専門 医更新基準が設定されている。平成 26 年に公表された勤務実態の自己申告以外の 専門医更新基準は表の通りである。 項目 取得単位 内容(抜粋) ⅰ診療実績の証明 最低5単位、最大10単位 ⅱ専門医共通講習 最低5単位、最大10単位 必修のもの (うち3単位は必修) ・医療安全 ・感染対策 ・医療倫理 望ましいもの ・医師の教育 ・医療事故・医事法制 ・医療経済(保険医療等) ・臨床研究・臨床試験 ・EBMに基づく医療 ・各専門医制度の最新情報 ・日本医師会生涯教育講習 ⅲ領域別講習 最小20単位 ⅳ学術業績・診療以外 0~10単位 の活動実績 ここに必修のもの、望ましいものとして示された学習目標の多くは、日本医師 会の生涯教育にとっては、極めてなじみの深い「基本的医療課題」と称せられて きたものである。また、第Ⅶ次生涯教育推進委員会の答申の中で、 「いずれの学会 の専門医更新においても、重要視され、審査されるのはその専門性であり、基本 的医療課題に関する CC は想定され難い」と指摘したものに他ならない。 基本領域の 19 領域すべてで、最低 5 単位、最大 10 単位が必要とされる専門医 共通講習について、各領域が学術集会の機会などで独自の講習会や参加型の学習 の機会を提供し、会員の専門医取得・更新に資することが必要になった。一方、 -5- 一人一人の医師にとっては、たとえ各領域が必修講習会を開催したとしても、日 常の診療業務を離れて、あるいは育児中の児童を連れて履修に赴くことは必ずし も容易でない。その意味で方略として、日本医師会生涯教育講習が公認されたこ と、さらには e-ラーニングを含めて公認されることには大きな意義がある。地域 の医療を担い、同時に専門医を維持・継続している会員にとっては大きな福音で ある。いずれの場合も、1 時間の講習が 1 単位と設定される。 2.生涯教育カリキュラム2009から生涯教育カリキュラム2016への 改訂 このような状況下で第Ⅷ次生涯教育推進委員会は、生涯教育カリキュラム 2009 の CC1~15 の「基本的医療課題」由来とも言える学習目標について、現状で使い やすいものとなっているかどうかを議論した。実際に都道府県医師会からも、講 習会を組む場合にどの範囲を、どんな内容(方略)で行えば良いのか、資料はど うすべきかという質問も寄せられた。こうした疑問は、生涯教育カリキュラム 2009 が目標主体で作成されていることによると考えられる。第Ⅶ次生涯教育推進 委員会答申では「CC を見直す作業は、これまでの改訂と同様に 6~7 年を目途に 行うことが必要と考えられるが、専門医制度のスタートに合わせるためには平成 27 年頃の見直しが必要であろう。」としたところであったが、平成 27 年度中に 専門医共通講習に該当する CC1~15 を他に先駆けて改訂することとし、改訂作業 を行う「生涯教育制度に関するワーキンググループ」を生涯教育推進委員会内に 設けた。生涯教育制度に関するワーキンググループの名簿及び審議経過はⅤ、Ⅵ 項に譲るが、福井次矢委員長、尾﨑治夫副委員長以下 8 名のメンバーが、平成 26 年 12 月から平成 27 年 10 月までの 11 か月間に 7 回のミーティングを持ち、カリ キュラムの改訂作業が行われた。その要点は以下の通りである。 ①カリキュラムとしての完成度を高める CC1~15 については学習目標を見直すとともに、それぞれの CC あるいは 学習項目に適した研修方略、評価方法を明示した。学習目標の全体像は 1 時 間の枠には収まりきらないので、いくつかの学習目標を組み合わせて、ある いは単独の学習目標を用いて講習会を組み立てることが可能である。加えて、 講習会企画者や参加者が使用できる代表的な参考文献を提示した。また代表 的な参考文献は月日とともに更新される可能性があるために、カリキュラム 冊子には綴じ込まず、適宜更新できる形にすることとした。 -6- ②CC を明確にして、整合性を持たせる 上記の作業によって、CC の内容はより具体的になってきたが、共通項目 と引き比べた時にはいくつかの齟齬が生じることが明らかになった。そこで、 それぞれの CC を見直して再編を行い、新しいアライアンスを完成させた。 代表例としては、「専門職としての使命感」と「継続的な学習と臨床能力の 保持」を CC1「医師のプロフェッショナリズム」に統合し、「予防活動」と 「保健活動」を CC11「予防と保健」 に統合する、逆に「医療の質と安全」 を CC7「医療の質と安全」と CC8「感 染対策」に二分するなどである。時 代の変化に合わせて、医療倫理も CC2 「医療倫理:臨床倫理」と CC3「医療 倫理:研究倫理と生命倫理」にカテ ゴリー化し、CC2 には生涯教育カリキ ュラム 2009 の「公平・公正な医療」 を含むこととした。また、CC14 に「災 害医療」を新設した。 ③「総論」「症候論」「継続的なケア」の種別と CC84 の表記変更 生涯教育カリキュラム 2009 における「基本的医療課題」由来とも言える CC1~15 の総称は、内容を明確にすることを目的に「総論」とした。CC16 以 降は引き続き、CC72 までを「症候論」、CC73~CC83 を「継続的なケア」と した。加えて、CC の 84「その他」については、第Ⅸ次以降の生涯教育推進 委員会において新たなカリキュラムの見直しが行われ、CC の追加などが生 じた場合に、適切に対応できるよう CC 0「その他」と表記を変更した。 平成 28 年 3 月になって、日本専門医機構の専門医認定・更新部門委員会(水谷 修紀委員長)から、「CC と講演内容の整合性について」の疑念が寄せられた。「日 本専門医機構として共通講習として取り扱う以上は、これまでにも増して精査を 行ったうえでコード番号を割り振ってほしい」という内容であったが、これは生 涯教育カリキュラム 2009 における CC についてであった。幸いにして、すでにカ リキュラム改訂作業の中で CC を明確にして、整合性を持たせ、カリキュラムとし ての完成度を高める作業を済ませていたことから、講習会開催責任者等が戸惑い -7- を感じることなく CC を採番することが可能となっている。 3.日本医師会生涯教育制度の新しい展開と専門医の仕組み 日本医師会生涯教育制度は、発足から約 30 年の時を経て、確実にすべての領域 の医師の生涯教育の手助けとなるものに成長しつつある。また、この間のカリキ ュラム改訂などの活動は、一医師の生涯教育のためにとどまらず、広く医師集団 のプロフェッショナル・オートノミーの一助たるべき進展と言える。日本医師会 生涯教育制度は今後も、その優位性を自らのエネルギーとして発展していく必要 がある。 基本 19 領域の共通講習の方略・手段としての貢献に加えて、早急に行うべきこ とは総合診療領域の領域別講習 20 単位への日本医師会生涯教育制度のリンクで ある。18 領域いずれの専門医更新においても重要視され、審査されるのはその専 門性であり、「他領域の症候論 CC」は想定され難いが、総合診療領域においては まさしく「他領域の症候論 CC」こそ、「自領域の症候論 CC」である。生涯教育カ リキュラム 2009、2016 と日本専門医機構総合診療領域の総合診療専門医整備基準、 モデル・プログラムの親和性にも鑑み、今後確定される総合診療領域の専門医認 定基準・更新基準の中に、日本医師会生涯教育講習が大きく貢献できるように働 きかけていく必要がある。 また、長年課題とされてきた日本医師会生涯教育制度の方略と評価についても、 いくつかの改訂を加えることを決定し、平成 28 年度からの実施に向けて事務的な 準備が進められた。まず、どの領域を何時間学習したかをより的確に評価するこ とを目的として、日本医師会生涯教育制度実施要綱において、CC と単位の指定の 方法が変更となり、1 時間の学習で 1CC を 1 単位取得ということを基本とするこ ととなった。次に、e-ラーニングの充実である。新しい専門医の仕組みの中では、 一つの講習機会が認定・更新の要件を満たすためには、評価の時間を含めて 1 時 間の講習時間が求められ、専門医の認定・更新に使用できる e-ラーニングについ ては所要時間を 1 時間とすることとした。また、セルフアセスメント等のこれま での正解率を精査したところ、年齢や所属施設の大小で正解率に差が見られない ことが確認できたので、セルフアセスメントの評価の質保証として、80%の正解 で受講単位とすることとした。また、コンテンツについては、新しい知識を catch up できるとともに、5 年に 1 回の専門医更新に対応できるよう、特に 1~15 の CC については適宜内容の追加・更新を行うことが望ましいとされた。 -8- 所要時間が 1 時間の講習であることという規程は、都道府県医師会、郡市区医 師会が主催する講習会についても、新しい専門医の仕組みに利用する限りにおい ては適用される。平成 27 年に日本医師会電子認証センターが、各種制度の講習会 管理と出席者の単位管理を都道府県医師会にて円滑に行うことを支援することを 目的とした全国医師会研修管理システムの開発を開始したが、生涯教育制度の講 習会もこのシステムにて運用できるよう、生涯教育推進委員会において随時開発 状況の説明を求めたほか、2 度の都道府県医師会生涯教育担当理事連絡協議会に おけるシステムの説明、都道府県医師会での生涯教育の管理に関するヒヤリング などを実施し、平成 28 年 4 月より運用を開始した。このシステムは、必ずしも医 師資格証を前提とせず、従来の業務範囲でも出欠と単位管理が実施できるもので あり、IT を用いた厳格な管理が可能である。また、医師資格証がある場合は自分 の研修履歴を随時確認、出力できるよう今後の機能の充実が期待される。 なお、新しい専門医の仕組みに利用する講習会でなければ、30 分 0.5 単位の講 習会設定も担保されており、新しい専門医の仕組みによらない、従来からのプロ フェッショナル・オートノミーによる生涯教育・生涯学習も同様に重視されるべ きである。 また、日本医師会では、日医かかりつけ医機能研修制度を創設し、平成 28 年度 から実施している。かかりつけ医とは「なんでも相談できるうえ、最新の医療情 報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りにな る地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」である。そして、こ の制度は、中小病院・有床診療所が多く、診療所の質が高く充実している日本の 医療体制を支えている日本医師会員をはじめとする医師を、かかりつけ医として 認定していこうとするものである。日医かかりつけ医機能研修制度は、すべての 専門医、あるいは総合診療専門医、そして専門医以外の医師を対象としており、 決して専門医の仕組みに対峙するものではない。 今後、日本医師会生涯教育制度は、新しい専門医の仕組みとかかりつけ医機能 をサポートし、すべての医師のために、医師会会員のために、そしてひいては国 民のために貢献していくことが必要である。CC 数と単位数の合算など経過的な措 置はあったものの、日医生涯教育制度、そのカリキュラムと管理システムはある べき姿に収斂しつつある。新しい専門医の仕組みが地域の医療との連携を深めな がらスタートし、新しい展開を見せることになれば、日本医師会生涯教育制度が -9- 新しい専門医の仕組みの中で、一人一人の医師の成長を助けていくことが必要で ある。そのためには、懸案となっている CC16 以降のカリキュラムコードの全面改 訂が必要であるが、それは 18 領域の症候をすべてカバーする膨大なものになるの ではなく、現行の必須の症候の CC を大幅に増やすことなく時代とともに変化して いる部分を取り込むこととして、学習方略(および資源)、評価についても検討 することが望ましい。 Ⅳ.第Ⅷ次生涯教育推進委員会 審議経過 第1回 平成 26 年 10 月 29 日(水) 第6回 平成 27 年 9月 16 日(水) 第2回 平成 26 年 12 月 11 日(木) 第7回 平成 27 年 11 月 25 日(水) 第3回 平成 27 年 1月 14 日(水) 第8回 平成 28 年 1月 21 日(木) 第4回 平成 27 年 3月 4日(水) 第9回 平成 28 年 3月 24 日(木) 第5回 平成 27 年 6月 10 日(水) 第 10 回 平成 28 年 5月 26 日(木) - 10 - Ⅴ.生涯教育制度に関するワーキンググループ名簿 委員長 副委員長 委員 福井 尾﨑 江村 次矢 治夫 正 倉本 高木 田代 秋 康 志門 前野 哲博 横山 彰仁 聖路加国際病院院長 東京都医師会会長 佐賀大学医学部附属病院卒後臨床研修センター 副センター長 高知医療再生機構理事長 昭和大学医学部卒後臨床研修センター所長 国立がん研究センター研究支援センター 生命倫理室長 日本プライマリ・ケア連合学会副理事長・ 筑波大学附属病院総合臨床教育センター部長 高知大学医学部血液・呼吸器内科学教授 Ⅵ.生涯教育制度に関するワーキンググループ審議経過 第1回 平成 26 年 12 月 11 日(木) 第5回 平成 27 年 7月 14 日(火) 第2回 平成 27 年 1月 28 日(水) 第6回 平成 27 年 8月 18 日(火) 第3回 平成 27 年 2月 23 日(月) 第7回 平成 27 年 10 月 26 日(月) 第4回 平成 27 年 3月 30 日(月) - 11 - Ⅶ.おわりに 日本の医師は日本医師会に集い、自発的意思に基づいて、必要に応じて、そし て自己に適した方略を選びながら生涯学習を続けてきた。そして日本医師会は、 そのような医師の姿勢を最大限サポートし続けてきた。自ら課題を発見し、自主 的に解決していく姿勢には「生涯学習」という用語が似つかわしいのかもしれな い。しかしながら、基本・基礎を教授する学部教育とは違って、医学部卒業から その使命を終えるまで、知識や技能、あるいは気づき(態度)を指導すること、 されることもまた、成人にとって必要なことである。 おそらく「生涯教育」と「生涯学習」という用語の違いに深入りする必要はな い。医師会員の立場に立ったカリキュラムを考え、啓発に主眼をおいた議論を続 けていくことができれば、いずれの言葉を用いても、日本医師会の役割は果たせ るものと考えられる。新しい専門医の仕組みはあくまでもプロフェッショナル・ オートノミーを基盤として設計されたものであり、医療制度とは別に、まさに医 師の内発的動機に基づく日医生涯教育制度とともに医師の生涯を支えるものであ る。従来の生涯教育システムに加えて、新しい専門医の仕組みに対応するシステ ムを載積した日本医師会生涯教育制度は、医師会員の満足度を高め、同時に地域 住民が安心して受診できる医師を育て続けることとなると考えられる。 併せて、地域医療、地域保健活動などに従事する医師の「内発的動機に基づく 自己啓発」を適切に評価する都道府県医師会の独自の活動および日医かかりつけ 医機能研修制度にも柔軟に対応することを期待したい。 - 12 -
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