地域医療 オール新潟体制で作成した

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地域医療
オール新潟体制で作成した「糖尿病患者向けテキスト」のご紹介
1)JA 新潟厚生連新潟医療センター 内分泌・糖尿病内科
2)新潟大学大学院医歯学総合研究科 血液・内分泌・代謝内科学分野
五十嵐 智雄1)、2)、阿部 孝洋2)、北澤 勝2)、曽根 博仁2)
なぜ本県で「糖尿病患者向けテキスト」を作成し
糖 尿 病 療 養 指 導 士(CDE; Certified Diabetes
たか?
Educator, 糖尿病の専門知識を持ち、患者さんへ
平成26年国民健康・栄養調査(厚生労働省)に
の療養指導を行い、糖尿病セルフケアを支援する
よれば、日本の「糖尿病が強く疑われる者」の割
医療スタッフ)
)として、患者さんがまず知って
合は、成人男性の15.5%、女性の9.8%を占めます。
おくべき最低限の知識をまとめた教育テキストが
会員の先生方におかれましても、日々多くの糖尿
あれば、と常々考えていました。
病患者さんの診療にご奮闘のことと思います。
今回、先生方の日常診療の一助とすべく、県内
2型糖尿病は「生活習慣病」の代表格であり、
の糖尿病専門スタッフが一致協力して、糖尿病患
医師・医療スタッフによる患者さん・家族への教
者向け概略版テキスト「知っておきたい『糖尿病』
育・療養指導が診療の重要部分を占めます。糖尿
~やさしく学ぶための第一歩~」を作成いたしま
病については、近年、新薬が続々と登場している
した。
ものの、それらも十分な食事・運動療法と共に用
本テキストは、新潟県糖尿病推進会議の事業の
いなければ、効果は限定的あるいは一時的である
一環として、公益財団法人新潟県健康づくり財団
ことはよく知られています。また、これらの薬剤
のご支援を得て、ほぼ全県の糖尿病専門スタッフ
の副作用を含め、糖尿病患者さんへの療養指導に
が、若手からベテランまでボランティアとして結
おける不十分な情報提供が、事故に結びつく事例
集し、
「オール新潟体制」で編集したものです。
も散見されます。先生方も、多忙な日々の診療の
編集グループを代表して、その内容とコンセプト
中、どうしたら効率と効果の高い糖尿病教育・療
を、以下に詳しくご紹介させていただきます。
養指導をなしうるか、日々頭を悩ませていらっ
しゃることと思います。
誰でも無料で自由に入手・使用可能
一方、健診あるいは糖尿病専門施設以外で初め
新潟県健康づくり財団のウェブサイト http://
て糖尿病と診断され、専門的な教育・療養指導を
www.nhf/or.jp/ から、誰でも無料で自由に PDF
十分受けることのできない状況下で、食事や運動
ファイルをダウンロードし閲覧・印刷できます(た
などを含めて具体的に何をどうしていいかわから
だし、改変ならびに診療・啓発活動以外の営利目
ないまま、インターネットなどで失明や透析・足
的での利用禁止)
。
の切断などという言葉をたくさん見つけて不安に
すなわち、各医療機関で自由に印刷し、糖尿病
なっている患者さんの話もよく耳にします。
や境界型と診断された患者さん・家族に配布し、
新潟県は人口当たりの糖尿病専門医数が最も少
診療にご利用いただけます。
ない県の一つであり、今後もしばらく、患者教育・
また、前述の平成26年国民健康・栄養調査によ
療養指導のかなりの部分を、現場のプライマリ・
ると、糖尿病患者の約3割が未治療と推測される
ケアの先生方に頼らざるを得ない状況が続きま
ことから、健診や人間ドック時の保健指導にご利
す。そのような本県の現状に少しでも役立つよう
用いただき、早期治療へ結びつけることに資する
に、県内の糖尿病専門スタッフ(専門医および
内容にもなっています。加えて、予防医学的観点
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から、各種健康教室・学校・職場などでの健康指
に吹聴したり、情報の信頼性・正確性を意図的に
導にもご活用いただけるものと思います。
歪めたりしているものも多々みられます。
更に、糖尿病について知りたい患者さん・家族
今回は、
県内の糖尿病専門スタッフが協力して、
自身や一般市民が自由に入手し自己学習すること
情報の取捨選択・日本糖尿病学会などの公式ガイ
も出来ますし、医療スタッフ・医療スタッフを目
ドラインとの照合を行い、現時点で、情報の質・
指す人の入門テキストとしても使用可能です。
量ともに妥当な、安心して使えるテキストを目指
しました(図1)
。
情報の質と量の担保
市中には様々な患者向けパンフレットや書籍が
常に最新の情報にアップデート
出回っておりますが、残念ながら質・量共に玉石
各医療機関で自前の患者教育資料を作成するこ
混交で、制作側の事情による情報の偏りも多く、
とは、医療スタッフのスキル向上のためには非常
これは、という決定版がない状況です。今までは、
に有用なのですが、ここで大きく立ちはだかる壁
その中から良さそうなものを各医療機関でめいめ
は、学会などのガイドライン・公式刊行物の改訂
いに取捨選択し診療の補助に利用していたわけで
です。特に近年、各種ガイドラインは目まぐるし
すが、数多くの資料を集めて眺めていくだけでも
く変わっており、自前の教育資料が作る後から陳
骨の折れる作業で、日常診療に忙しい先生方の貴
腐化し不良在庫になってしまうことに、私共専門
重な時間と労力が費やされてしまいます。
スタッフも頭を悩ませておりました。
また、インターネットや週刊誌を始めとする一
この問題を解決するために、本テキストでは、
般向けの情報の中には、ビジネス目的やいわゆる
日々糖尿病の診療にあたっている専門スタッフ
「大衆受け」を狙ったものも多く、一部分を誇大
が、今後とも継続的に、日本糖尿病学会や厚生労
働省などの最新のガイドライン・刊行物に対応し
たアップデートを行っていくことによって、ダウ
ンロードした時点で常に最新の情報を記載したテ
キストを利用できるようにしたいと考えています。
明るいイメージのデザイン・イラスト
「なぜ医療関係のパンフレットは、どれをみて
も暗い感じの人物のイラストやデザインなんだろ
うか。糖尿病だって言われただけでもうんざりな
のに、その上でこんなパンフレットを読めといわ
れても気が滅入る」と患者さんに言われたことが
あります。
今回は、そのような患者さんの意識にも応える
べく、新潟県内のイラストレーターが描いた分か
りやすいイラストをふんだんに利用し、明るい感
じのデザインを心掛けました(図2)
。ポスター
として掲示しても映えるようなデザインにしてい
ます。糖尿病に対して患者さんが持つ暗いイメー
ジを、このような点からも出来るだけ払拭し、患
者さんが前向きに療養に取り組むきっかけとなる
ことを意図しています。
図1 ‌テキスト内容。最低限の知識を質・量とも妥
当なレベルに集約
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図2 ‌明るいイメージのイラスト・デザイン
ポスター・チラシとしても利用可能
A1サイズまでの拡大印刷に耐える仕様となっ
ていますので、必要なページをポスターとして掲
示できます。
本テキストは全26ページですが、必要な項目だ
けを印刷してチラシとして配布することも可能で
す(図3)。先生方の柔軟なアイディアに応じて、
図3 ‌ポスター・チラシとしても利用可能
様々な活用方法をご提案下されば幸いです。
日々の患者さん・家族へのご指導、保健指導、
現在市中に出回っているテキストなどをすべて
各種健康教室、医療スタッフの教育など、様々な
凌駕し、新潟から全国に胸を張って発信できる出
場面でご活用頂き、忌憚なきご意見を頂戴できれ
来栄えのテキストを目指しました。
ば幸いです。
「オール新潟体制」の糖尿病専門ス
すでに NHK や新聞などでも紹介されています
タッフ一同、今後も、先生方からの他の教育ツー
が、
「オール新潟体制で作った糖尿病患者向けテ
ルのご要望にもお応えしていきたいと思います。
キスト」として、まず、県内の先生方から大いに
ぜひご要望をお寄せ下さい。
ご利用いただき、どんどん広めて下さってこその
ものと考えております。本テキストのコンセプト
をご理解の上、会員の先生方にはぜひご協力をお
願い申し上げます。
各医療機関などのウェブサイトから、本テキス
トのダウンロードページ(新潟県健康づくり財団
http://www.nhf.or.jp/)へのリンクも歓迎してお
ります。
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新潟県糖尿病対策推進会議 編
公益財団法人新潟県健康づくり財団 発行
「‌知っておきたい『糖尿病』
~やさしく学ぶための第一歩~」
※テキストのダウンロードは
新潟県健康づくり財団
http://www.nhf.or.jp/ から