IFRS 第 9 号(最終版)に関する 金融機関への影響 ヘッジ会計 2016年6月29日 Summary EY Japan FSO Thought Leadership • IFRS 第 9 号「金融商品」が最終基準化されたことにより、IFRS 金融商品 会計基準の影響度の調査や課題の把握など IFRS が財政状態や純損益に 与える影響を具体的に分析できる環境が整ってきています。 新日本有限責任監査法人 金融部 マネージャー 内藤 裕 • 本稿では、日本の金融機関が IFRS 第 9 号のヘッジ会計を適用する上での ポイントを中心に紹介します。 Ⅰ. 本稿の目的 金融機関に多大な影響を与える IFRS 第 9 号「金融商品」が最終基準化された こ と に よ り 、 金 融 商 品 会 計 へ の 影 響 度 の 調 査 や 課 題 の 把 握 な ど 、 IFRS が 財政状態や純損益に与える影響を具体的に分析できる環境が整ってきています。 このような環境を踏まえ、今後、金融機関において IFRS 第 9 号「金融商品」における 影響度の調査・課題の把握などといったプロジェクトが加速することが予想されます。 今回は、ヘッジ会計をテーマとしています。特に、IFRS では、日本基準における 金利スワップの特例処理や為替予約の振当処理といった特例がなく、ヘッジ有効性要 件を満たす場合でも非有効部分を純損益に認識することが求められます。また、IFRS 第 9 号「金融商品」がクローズド・ポートフォリオを前提としているため、日本公認会計士 協会が公表する業種別監査委員会報告の包括ヘッジを適用している銀行業において は、IFRS を適用する場合にヘッジ会計の見直しが(場合によっては ALM による管理、 IT インフラの見直しも)必要となる可能性があり、財政状態や純損益等に重要な影響を 与える可能性があります。 本稿では、IFRS 第9 号のヘッジ会計を概説するとともに、日本の金融機関における 適用上の主なポイントを紹介します。 Ⅱ. ヘッジ会計概説 ヘッジ会計とは、ヘッジ対象(例えば、預金、貸出および国債等の金利リスク)とヘッジ 手段(例えば、金利リスクをヘッジするための金利スワップ)の損益計上のタイミングを 合わせることによってリスク管理におけるヘッジ活動の成果を財務諸表に反映させる ための会計処理です。ヘッジ活動の成果を財務諸表に反映させ、会計上のミスマッチ を解消するという基本コンセプトは、日本基準と IFRS で相違はありませんが、 「ヘッジ会計処理の適用方法」については相違する部分があります(図 1 参照)。 図 1 各ヘッジ行動と IFRS9 号および日本基準の会計処理 ヘッジ活動の目的 IFRS 第 9 号 相場変動リスクの回避 公正価値ヘッジ キャッシュ・フロー変動の 回避 キャッシュ・フロー・ヘッジ 在外営業活動体に係る 為替変動リスク 純投資ヘッジ 日本基準 繰延ヘッジ (例外:時価ヘッジ) ヘッジ活動の目的に対応 したヘッジ会計処理がある 図 2 IFRS 第 9 号の各ヘッジ関係の会計処理概要 公正価値ヘッジ 財務諸表に与える影響 ヘッジ対象 10 ヘッジ手段 6 当期純損益 4 非有効部分 4 (ヘッジ対象が FVOCI※の資本 性金融商品の場合は OCI※) 有効部分 6 当期純損益 +6-6=0 キャッシュ・フロー・ヘッジおよび純投資ヘッジ 財務諸表に与える影響 ヘッジ対象 6 ヘッジ手段 10 非有効部分 4 当期純損益 4 有効部分 6 OCI 6 ※ FVOCI:その他の包括利益を通じた公正価値 OCI:その他の包括利益 2 | IFRS 第 9 号(最終版)に関する金融機関への影響 ― ヘッジ会計 日本基準ではヘッジ有効性要件を満たしていればヘッジ非有効部分を純損益に計上 する必要がありませんが、図2の通り、IFRSではヘッジ有効性要件を満たしている場合 でもヘッジ非有効部分を純損益に計上する必要があります。なお、ヘッジ有効性とは、 ヘッジ手段の公正価値またはキャッシュ・フローの変動が、ヘッジ対象の公正 価値またはキャッシュ・フローの変動をどの程度相殺しているかであり、ヘッジ非有効 部分とは、ヘッジ手段の公正価値またはキャッシュ・フローの変動がヘッジ対象の変動 よりもどの程度大きいかまたは小さいかです。 図2の通り、公正価値ヘッジではヘッジ手段の公正価値変動とヘッジしているリスクに 関連するヘッジ対象の価値変動(価値変動累計を以下「公正価値変動調整額」)の両方 が純損益に認識されるため、ヘッジ手段とヘッジ対象の価値変動の差額である非有効 部分は自動的に純損益に認識されます。一方、キャッシュ・フロー・ヘッジでは、ヘッジ 手段の公正価値変動の絶対値とヘッジしているリスクに関連するヘッジ対象の価値 変動の絶対値の、いずれか小さい方(有効部分)を財政状態計算書のキャッシュ・ フロー・ヘッジ剰余金に計上し、キャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金の前期末残高との差額 をOCIとして認識します(ヘッジ手段の利得または損失のうち、非有効部分は純損益に 認識)。なお、キャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金の事後の会計処理は、図3の通りです。 図3 キャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金の会計処理 非金融商品に係る予定取引 が確定約定となった場合 リサイクリング する 上記以外(ヘッジ対象が金融 商品の場合等) リサイクリング しない 予定取引の実行により非金融 商品が生じる場合 .... OCIを通さず 、直接ヘッジ対象の帳簿 価額に含める (ベーシス調整) キャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金 xx/ 非金融商品 xx ヘッジ対象のキャッシュ・フローが 純損益に与えるのと同じ期間(貸付金 であれば、金利収益が認識される .... 期間)に、OCIを通じて、純損益に振替 OCI xx/純損益 xx IFRS 第 9 号(最終版)に関する金融機関への影響 ― ヘッジ会計 | 3 1. ヘッジ会計の適格要件とヘッジ会計の中止 ヘッジ会計を適用するには図4のすべてを満たす必要があります。 図4 ヘッジ会計の適格要件 適格なヘッジ対象 ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ 適格なヘッジ手段 外貨建取引の確定約定における為替 リスクのヘッジ 上記以外の未認識の確定約定のヘッジ (キャッシュ・フロー・ヘッジ不可) 発生可能性が非常に高い予定取引 (公正価値ヘッジ不可) 会計上認識済み資産・負債 一定の指定方法(項目全体、構成要素 [比例的、階層等]、項目グループ、 合成エクスポージャー) ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ デリバティブ取引 (スワップ、為替予約、買建オプション等) FVPL※評価の現物金融商品 一定の要件の下、売建オプションを含む ヘッジ手段 デリバティブと現物商品の組合わせによ るヘッジ手段 ヘッジコストの指定除外も可 適格要件 次の要件をすべて満たす場合 【ヘッジ対象およびヘッジ手段】 ▶ ▶ ▶ 経済的関係(ヘッジ対象とヘッジ手段が同 一のリスクにより一般的に反対に動く関 係)がある 経済的関係が信用リスク(代表的な非有 効要因)の影響に阻害されない 実態に合ったヘッジ比率 有効性評価 ヘッジ開始時のヘッジ関係ならびにリスク管 理目的および戦略の公式な指定と文書化 ▶ ▶ ▶ ヘッジ手段、ヘッジ対象 ヘッジされるリスクの性質 ヘッジ有効性判定方法(ヘッジ非有効の 発生原因の分析およびヘッジ比率の決定 方法を含む) 文書化 ※ FVPL:純損益を通じた公正価値 IFRSのヘッジの有効性評価は、日本基準と異なり、必ずしも過去を対象に評価 する必要はなく、将来に向かってのみ行われます。また、日本基準では原則 として定量的評価(80~125%テスト)が求められますが、IFRSではヘッジ 手段とヘッジ対象の重要な条件(名目金額、満期、金利改定日、参照指標等) が一致または密接に関連していれば主に定性的評価により行われ、一致または 密接に関連していない場合には回帰分析等の定量的評価を行う場合があると されています。ここで、有効性評価とは別に、非有効部分を純損益に計上する ため、結果的に定量的なテストが必要となる場合がある点に留意する必要が あります。 ヘッジ会計を適用した後に、図4のヘッジ会計の適格要件が満たされなくなった 場合には、ヘッジ関係の全部または一部についてヘッジ会計を将来に向かって 中止する必要があります。ただし、ヘッジ比率に起因して満たさなくなった有効 性要件が、リバランスにより適格となる場合は、その限りではありません。なお、 ヘッジ非有効部分の算定は、リバランス直前に行う必要があります。リスク管理 目的に依然として合致しており、他の適格要件を満たす場合に、任意にヘッジ 会計を中止することはできません。 4 | IFRS 第 9 号(最終版)に関する金融機関への影響 ― ヘッジ会計 ヘッジ会計を中止する場合の会計処理は以下の通りです。 ヘッジ関係 公正価値ヘッジ 中止時の会計処理 ヘッジ対象が償却原価で測定される金融商品である場合 には、ヘッジ対象の公正価値変動調整額を償却開始日に 再計算した実効金利により償却する。ここで、償却は、調整額 が発生した時点から開始することができ、遅くとも、ヘッジ対象 がヘッジ手段の利得および損失について調整されなくなった 時点には開始しなければならない。 また、ヘッジ対象がOCIオプションを適用した資本性金融商品の 場合、OCI累計額は純損益にリサイクリングしてはならない。 ヘッジされた将来キャッシュ・フローの発生がまだ見込まれる 場合には、キャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金の認識を継続し、 将来キャッシュ・フローが発生した場合に図3の事後的な会計 処理に従う。 キャッシュ・フロー・ ヘッジ ただし、以下のいずれかの場合、直ちに純損益にリサイク リングを行う。 1) ヘッジされた将来キャッシュ・フローの発生がもはや見込まれ ない場合 2) キャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金が損失であり、当該損失 の全部または一部が将来の期間において回収されないと 予想する場合(回収が見込まれない金額のみ組替調整の 対象) 純投資のヘッジ 在外営業活動体の処分時または部分的な処分時に、累積 されたOCIを純損益にリサイクリングする。 2. ヘッジ対象の指定方法 図4の通り、ヘッジ対象の指定方法には複数の選択肢が存在しますが、本稿では (1)構成要素の指定(2)項目グループの指定に係るポイントを解説します。 また、日本基準では明確に規定されていないもののIFRS第9号で認められる (3)信用エクスポージャーのヘッジについても解説します。 (1) ヘッジ対象の構成要素の指定 日本基準では明確に規定されていないヘッジ対象の構成要素の指定がIFRS では認められて います。構成要素の指定の方法としては、以下の 1)~4)があります。なお、構成要素の指定は、単一の項目だけでなく、 後述の項目グループの指定においても適用することができます。 1) 独立して識別可能な場合、キャッシュ・フローまたは公正価値の変動の うち特定のリスク(例えば、Liborの変動)に起因する部分 2) 一部のキャッシュ・フロー(例えば、最初の5年間の利払い) 3) 全体の比例的部分(例えば、貸出金の契約上のキャッシュ・フローの 50%) 4) 階層要素(例えば、期限前返済可能な1億円の貸出金グループの中の 底溜り階層の3,000万円) IFRS 第 9 号(最終版)に関する金融機関への影響 ― ヘッジ会計 | 5 なお、上記 1)の特定のリスクに起因する部分の指定を行う場合には、その 構成要素はその項目のキャッシュ・フロー全体の合計額以下でなければ ならないとされています。例えば、実効金利が Libor よりも低い金融負債の 場合、Libor 金利(公正価値ヘッジの場合、元本金額を加算)と同額の構成 要素のみをヘッジ対象に指定することはできません。ただし、その構成 要素がその項目全体のキャッシュ・フローの合計額以下である場合で あっても、キャッシュ・フロー全体をヘッジ対象に指定して、ある特定の リスクだけについて(例えば、Libor の変動に起因する金利リスクの変動 のみについて)ヘッジすることができるとされています。ここで、上記 キャッシュ・フロー全体を指定する場合には、ゼロフロアに抵触した場合 (例えば、3 カ月 Libor マイナス 20bp の場合に 3 カ月 Libor が 20bp を 下回る場合)など、負の残余要素部分(例えば、3 カ月 Libor マイナス 20bp の場合の 20bp)に起因した非有効部分が生じる可能性がある点に留意 する必要があります。 (2) 項目グループの指定 項目グループのヘッジは、次の場合にのみ適格とされています。 1) 個々に適格なヘッジ対象項目で構成されている 2) 当該グループの各項目が、リスク管理の目的上、グループとして一括 して管理されている 3) キャッシュ・フロー・ヘッジの場合(公正価値ヘッジに当条件は関係ない) で、かつ、純額ポジションを指定する場合、 ① 為替リスクのヘッジであり、かつ、 ② その純額ポジションの指定が、予定取引が純損益に影響すると 見込まれる報告期間を、その内容および数量とともに、特定して いる 資産と負債が含まれるポートフォリオにおいて、項目グループのヘッジ指定 を行う場合、IFRSでは総額ポジション(資産または負債グループ全体)の 部分指定( 比率指定ま た は 階層要素の 指定) と 純額ポ ジ シ ョ ン ( 資産 グループと負債グループまたはキャッシュ・イン・フローとアウトフローを一括 指定)の指定の二つの方法があります。総額ポジションの指定は日本基準 でも包括ヘッジとして認められていますが、純額ポジションの指定は日本 基準では認められていません。 例えば、為替リスクに係るキャッシュ・フロー・ヘッジの場合で、資産グループと 負債グループのヘッジ対象期間が異なる場合に、総額ポジションの部分 指定と純額ポジションの指定ではキャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金からの リサイクリングのタイミングに違いが生じます。総額ポジションを指定している 場合、指定された資産グループまたは負債グループのどちらかのヘッジ対象 期間に応じてリサイクリングが行われます。一方、純額ポジションの指定の 場合、各予定取引に対応するキャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金が特定され、各 予定取引が純損益に与える報告期間に対応してリサイクリングが行われます。 従って、予定取引が純損益に影響するタイミング等の予想の確度が高い企業 にとっては、純額ポジションを指定する方がリスク管理(ヘッジ)活動の成果を 財務諸表により適切に反映できると考えられます。一方、予想の確度が低い 企業にとっては、ヘッジ手段の見直しが頻繁に生じるおそれがあるため、 適用について慎重な検討が求められます。 6 | IFRS 第 9 号(最終版)に関する金融機関への影響 ― ヘッジ会計 また、IFRS第9号では、グループ内の個別項目のリスク感応度が同一で ない構成要素も一括してヘッジすることが認められるため、例えば、日経 225やTOPIXに連動する(OCIオプションを適用する)株式ポートフォリオを ヘッジ対象として、日経225先物やTOPIX先物をヘッジ手段とするヘッジ 会計もヘッジ有効性要件を満たす限りにおいて認められます。 3. 信用エクスポージャーのヘッジ 金融機関においては、リスク管理および規制対応(自己資本比率規制および レバレッジ比率における信用エクスポージャー削減)の観点から、クレジット・ デリバティブを用いて貸付金やローン・コミットメントといった信用エクスポージャー の信用リスクをヘッジする場合があります。ここで、ヘッジ対象である貸付金が 償却原価で測定される場合、ヘッジ手段であるクレジット・デリバティブがFVPL で測定されることから、会計上のミスマッチが生じます。これを解消するため、 IFRS第9号は、ヘッジ会計の適用ではなく、公正価値オプション(当初認識時に FVPLで測定する金融資産または金融負債として指定する選択肢)の適用要件 を拡大することにより対応しています。 具体的には、信用エクスポージャーとクレジット・デリバティブの①参照企業の 一致②優先劣後関係の一致の両方を満たす場合に、公正価値オプションの指 定を当初認識時だけでなく、当初認識前(ローン・コミットメントに対応)および当 初認識後(当初認識後にヘッジ活動を行う場合に対応)においても指定すること を認めています。また、①当該金融商品の信用リスクを、もはやクレジット・ デ リ バ テ ィ ブ を 用い て 公正価値ベ ー ス で 管理し て い な い 場合ま た は 信用 エクスポージャーとクレジット・デリバティブのどちらかが消滅、売却、終了、決済と なる場合、②信用エクスポージャーは指定がなければFVPL測定とならない、の 両方を満たす場合には当FVPL指定を中止しなければなりません。さらに、 適用においては、以下の会計処理が求められる点に留意する必要があります。 1) 当初認識日以外に指定を行う場合、指定日における帳簿価額と公正価値 との差額を、直ちに純損益に認識(損失評価引当金の戻入れも必要) 2) 中止する場合、中止時の公正価値を新たな帳簿価額とし、指定前と同じ 測定方法を適用する(実効金利は中止時の帳簿価額[公正価値]に基づき 再計算) Ⅲ. 銀行業の包括ヘッジにおける IFRS ヘッジ会計適用上の主なポイント 1. 日本基準の業種別監査委員会報告第 24 号および第 25 号の概要 日本基準にて、銀行業においては、金融商品会計基準の一般的なヘッジ会計 に加えて、期限前償還リスクにさらされる小口多数の金銭債権債務を抱える その特性から、以下の通り、業種別監査委員会報告第 24 号および第 25 号にて 動的リスク管理に対応する特別な包括ヘッジの会計処理が定められています。 IFRS 第 9 号(最終版)に関する金融機関への影響 ― ヘッジ会計 | 7 業種別監査委員会報告第 号 金利リスクの包括ヘッジ 24 公正価値ヘッジ • 一般ヘッジ会計の包括ヘッジにおけるグルーピング要件(ポートフォリオ全体の 変動割合に対する個々の資産・負債の変動割合は 10%以内)の例外として、 通貨種類ごとに、個々の資産または負債を残存期間(金利リスクに対する反応が 同一グループ内の個々の資産または負債の間でほぼ一様になるよう)を基準に グルーピングすれば包括ヘッジの要件を満たす。 • 有効性評価の例外として、ヘッジ対象について 1 年以内の期間により残存期間の グルーピングを行い、ヘッジ手段についてもヘッジ対象と同様の期間によるグルー ピングを行っている場合には、金利の状況を検証すること(例えば、イールドカーブが 通常の状態を前提に最短期間および最長期間のヘッジ対象とヘッジ手段に係る市場 金利の相関の検証等)をもってヘッジ有効性評価に代替できる。 • 一般ヘッジ会計で明確でない部分指定について、事後的な検証(予想期限前償還 率>実際の期限前償還率)を前提に、期限前償還リスク部分を除いた部分を ヘッジ対象として指定することを認める。 • 銀行業の金銭債権債務は他動的に時々刻々と変動するため、ヘッジ会計の終了 処理の例外として、ヘッジ対象とヘッジ手段の対応を捕捉せず、ヘッジ対象の 減少がポートフォリオ全体から平均的に発生したとみなしてヘッジ手段の評価 差額を当期の損益に配分できる。 キャッシュ・フロー・ヘッジ • グルーピング判定方法の例外として、グルーピングの判定基準として回帰分析に よる判定(銀行のヘッジ方針に照らして合理的に定め、文書化した方法)を利用 することができる。 • 有効性評価の例外として、ヘッジ対象とヘッジ手段の金利変動要素の相関に係る 回帰分析により有効性判定を行うことができる。また、ヘッジ対象とヘッジ手段が、 同一の金利インデックス、かつ、金利インターバル、金利改定日がほぼ同一(ヘッジ 対象とヘッジ手段の差異が 3 カ月以内)であれば、有効性評価を省略できる。 • 予定取引を含めヘッジ対象資産・負債が存在する限り、具体的な取引や取引種類 を指定せず、元本総額のみをヘッジ対象として指定する方法を認める。 • 短期固定金利取引に係る予定取引についても、実行時の金利が金利インデックスに 連動している場合には、(変動金利とみなして)キャッシュ・フロー・ヘッジのヘッジ 対象として指定できる。 業種別監査委員会報告第 号外貨建取引の包括ヘッジ 25 • 振当処理しか認められていない外貨建金銭債権債務および外貨建有価証券 (債券)について、振当処理に求められる個別ひも付けが困難であることを踏まえ、 実質的な外貨資金調達・運用手段となる通貨スワップ取引等にヘッジ会計(繰延 ヘッジ)を適用することを認める。 • ヘッジ取引時の要件 • ヘッジするリスクを外 貨 建 金 銭 債 権 債 務 等 に係 る為 替 変 動 相 場 リスクに 限 定 し、当 該 外 貨 建 金 銭 債 権 債 務 等 をヘッジ対 象 、通 貨 スワップ取 引 等 をヘッジ手段として指定すること • ヘッジ手段の残存期間を通じてヘッジ手段の元本相当額を上回る外貨建金銭 債権債務等の元本が存在することが合理的に見込まれること • ヘッジ手段の残存期間を通じてヘッジ手段の発生主義に基づく利息相当額を 上回る外貨建金銭債権債務等の発生主義に基づく利息が存在することが合理的に 見込まれること • 特定の外貨を管理通貨として為替リスク管理を行っている場合、為替リスク管理が 適切に行われていれば、ヘッジ対象金銭債権債務等から生じるキャッシュ・フロー を当該外貨建金銭債権債務の管理通貨に変換させる通貨スワップ等をヘッジ手段 として指定できる。 8 | IFRS 第 9 号(最終版)に関する金融機関への影響 ― ヘッジ会計 2. IFRS における包括ヘッジ会計の概要 IFRSにおいては業種別の基準が存在しないため、単一のヘッジ会計モデルが すべての業種に適用されます。業種別監査委員会報告の包括ヘッジが適用 されるポートフォリオに対してIFRS第9号に基づくヘッジ会計を適用する場合、 IFRS第9号ではヘッジ対象とヘッジ手段のひも付けを指定する必要があるため、 クローズド・ポートフォリオの連続として扱うことが強いられます。 この点、IFRS第9号は、金融資産または金融負債のポートフォリオの金利エクス ポージャーの公正価値ヘッジについて、IFRS第9号の要求事項に代えて、IAS 第39号の「金利リスクのポートフォリオ・ヘッジに対する公正価値ヘッジ会計」 の要求事項を適用することを認めています。このIAS第39号の「金利リスクの ポートフォリオ・ヘッジに対する公正価値ヘッジ会計」は、以下の点で動的なリスク 管理に一部対応していますが、①IFRS第9号には適合しないものの、動的 リスク管理の会計処理に係る会計基準(後述)が公表されるまで継続適用が 認められた例外措置である点、②IAS第39号の他の要求事項(過去を対象とした 80~125%テスト等)にも従う必要がある点に留意する必要があります。 1) 契約上の金利改定日ではなく予想金利改定日(予想満期または予想金利 改定日のいずれか早い方)に基づくヘッジ会計を認めることにより、ヘッジ 手段になく非有効の要因となる期限前償還オプションの公正価値に係る 金利変動の影響額の算定を不要とする(ただし予想返済時期が変化した 場合は、非有効が発生する)。 2) ヘッジ対象を個々の資産または負債としてではなく、資産または負債の通貨 金額の総額とすることにより、金利変動の影響額を個別に算定するのでは なく、総額で算定することを認める。 3) IFRSでは、要求払預金の公正価値は要求払金額以下とならないと定めて いるため、その公正価値が金利変動リスクにさらされていない扱いとなる。 このため、要求払預金は、公正価値ヘッジのヘッジ対象として適格では ないが、ヘッジ対象として指定する金額(純額エクスポージャーまたはそれ 以下の金額)の決定に使用することができる。例えば、ヘッジ対象の純額 エクスポージャーが負債であり、負債が要求払預金と要求払の特徴のない 負債で構成されている場合、要求払の特徴のない負債金額以下に ヘッジ対象として指定する金額を決定することができる。 また、IASBは、IFRS第9号とは別個のプロジェクトとして、動的リスク管理の会計 処理を検討しており、2014年4月にディスカッション・ペーパーを公表しています が、最終化については不透明な状況です。 3. 銀行業における IFRS 第 9 号に基づくヘッジ会計適用上のポイント 銀行業において、業種別監査委員会報告の包括ヘッジが適用されるポート フォリオに対して、IFRS 第 9 号に基づくヘッジ会計の要件を満たしつつ ヘッジ実務として実現させるためには、さまざまな課題が存在します。また、 ヘッジ対象・手段の規模や複雑性によっては ALM による管理、IT インフラの 見直しも視野に入れる必要があります。その課題の中で想定される主な会計 制度上の論点を以下に掲げます。 IFRS 第 9 号(最終版)に関する金融機関への影響 ― ヘッジ会計 | 9 検討項目 検討ポイント ヘッジ対象の 指定方法 ヘッジ対象が期限前償還リスクを有する場合、ヘッジ指定に工夫 が必要と考えられますが、一つの対応方法として項目グループの うち底溜りの階層要素をヘッジ対象として指定する方法が考えられ ます。ただし、公正価値ヘッジの場合、業種別監査委員会第 24 号 と異なり、金利変動による期限前償還オプションの公正価値への 影響を織り込まない限り、階層要素の指定はできない点に留意 する必要があります。 業種別監査委員会報告第 24 号では、以下の指標が示されています。 • キャッシュ・フロー・ヘッジについて、ヘッジ対象とヘッジ手段が、 同一の金利インデックス、かつ、金利インターバル、金利改定日 がほぼ同一(ヘッジ対象とヘッジ手段の差異が 3 カ月以内)で あれば、有効性評価を省略できる。 グルーピング • 公正価値ヘッジについて、1 年以内の期間により残存期間の グルーピングを行っている場合には、金利の状況を検証する ことをもってヘッジ有効性評価に代替できる。 この点、IFRS では非有効部分を純損益で認識する必要があること を踏まえ、現状のグルーピング方法で問題ないかを確認する必要 があります。 有効性評価の 頻度 有効性評価をヘッジ開始日に行い、それ以降は最低限、①報告日 ごとと、②ヘッジ有効性要件に影響を与える重要な変化が生じた時 のいずれか早い時期に行う必要があります。 多数の予定取引を含む包括ヘッジの場合、より短い期間で有効性 評価を行う必要があるかもしれません。ここで、有効性評価の タイミングごとに非有効部分の算定およびヘッジの指定を行うこと が想定されます。 非有効部分の 計測 各項目グループのポートフォリオの非有効部分の計測方法の一つ として、仮想デリバティブ(ヘッジ対象の価値変動を算定するための 仮想のデリバティブ)を使用する方法も考えられます。仮想デリバ ティブについては、①ヘッジ対象と重要な条件が一致する、②ヘッジ 開始時に価値ゼロに調整されるデリバティブを表す、③ヘッジ手段 にのみ存在する要素を用いてはならない、と定められています。 公正価値ヘッジ におけるヘッジ 対象減少時の ヘ ッ ジ 手段の 特定 業種別委員会報告第 24 号では、公正価値ヘッジにてヘッジ対象が 減少した場合に、ヘッジ手段とヘッジ対象の対応を捕捉することを 要しない特殊な会計処理(ヘッジ対象の減少がポートフォリオ全体 から平均的に発生したとみなしてヘッジ手段の評価差額を当期の 純損益に配分できる)が認められていますが、IFRS 第 9 号ではヘッジ 対象とヘッジ手段の対応を特定する必要があります。 キャッシュ・ フ ロー ・ ヘ ッ ジ にてオーバー ヘッジしたヘッジ 手段の特定 キャッシュ・フロー・ヘッジにて、特定のグループでオーバーヘッジと なった場合、ヘッジ手段の損益を純損益に認識する必要がありますが、 ヘッジ手段が複数ある場合、どのヘッジ手段がオーバーヘッジなのか 特定するルールを事前に定めることを検討する必要があります。 10 | IFRS 第 9 号(最終版)に関する金融機関への影響 ― ヘッジ会計 How we see it • IFRS 第 9 号では非有効部分を純損益に認識する必要があるため、ヘッジ 活動の実態(ヘッジの有効性それ自体やテナーベーシス等の利鞘が含まれる ヘッジ活動の影響)が損益計算書にタイムリーに反映されます。 • 経済的関係を重視し、将来に向かって行われる有効性判定に加えて、多様な ヘッジ指定の方法が認められているため、よりヘッジ活動の実態を財務 諸表に反映させることが可能になります。 • 業種別監査委員会報告の包括ヘッジが適用されるポートフォリオに IFRS 第 9 号のヘッジ会計をどのように適用するかについては、海外の先行事例 等も踏まえ、慎重に検討する必要があると考えます。 新日本有限責任監査法人 金融部 マネージャー 内藤 裕 2005 年 12 月に新日本有限責任監査法人入所後、銀行、証券会社、投資 運用会社、IT系コンサルティング会社等の会計監査業務、J-SOX対応支援 業務、受託業務に係る内部統制の保証報告書作成業務等に従事。 2012 年 7 月から 2014 年 6 月まで証券取引等監視委員会事務局証券検査 課にて証券検査官(金融庁監督局証券課併任)として、金融商品取引業者等 の情報収集や分析、大手国内系・外資系証券会社および投資運用会社に 対する証券検査業務に従事。 2014 年 7 月より新日本有限責任監査法人金融部に復帰し、銀行、証券会社 および投資運用会社等に対するアドバイザリー業務(規制対応、IFRS 導入支 援等)に従事。 IFRS 第 9 号(最終版)に関する金融機関への影響 ― ヘッジ会計 | 11 お問合わせ先 新日本有限責任監査法人 金融部 Tel: 03 3503 1088 E-mail: [email protected] 本資料は、2016 年 5 月 20 日現在の情報に基づき作成いたしました。 最新の状況につきましては、当法人の貴社担当者または上記窓口までお気軽にお問い合わせください。 EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory EY について EY は、アシュアランス、税務、トランザクションおよびアドバイザリーなどの分野における世界的なリーダーです。私たちの深い洞察と 高品質なサービスは、世界中の資本市場や経済活動に信頼をもたらします。私たちはさまざまなステークホルダーの期待に応える チームを率いるリーダーを生み出していきます。そうすることで、構成員、クライアント、そして地域社会のために、より良い社会の構築に 貢献します。 EY とは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを 指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社で あり、顧客サービスは提供していません。詳しくは、ey.com をご覧ください。 EY FSO(日本エリア)について EY フィナンシャル・サービス・オフィス(FSO)は、競争激化と規制強化の流れの中で様々な要望に応えることが求められている銀行業、 証券業、保険業、アセットマネジメントなどの金融サービス業に特化するため、それぞれの業務に精通した職業的専門家をグローバルに 有しています。また、各業界の規制動向を予測し、潜在的な課題に対する見解を提示するため、業種別にグローバル・ナレッジ・センター を設け、規制動向の収集や業界分析を行っています。EY FSO(日本エリア)は、グローバルネットワークと連携して、金融サービス業に 精通した職業的専門家が一貫して高品質なサービスを提供しています。 © 2016 Ernst & Young ShinNihon LLC. All Rights Reserved. 本書は一般的な参考情報の提供のみを目的に作成されており、会計、税務およびその他の専門的なアドバイスを行うものではありません。新日本有限責任監査法人および 他の EY メンバーファームは、皆様が本書を利用したことにより被ったいかなる損害についても、一切の責任を負いません。具体的なアドバイスが必要な場合は、個別に専門家 にご相談ください。 ED None
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