円高の「非線形性」、急激な円高の輸出への悪影響

リサーチ TODAY
2016 年 6 月 21 日
円高の「非線形性」、急激な円高の輸出への悪影響
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
みずほ総合研究所が、四半期毎に改訂している『内外経済見通し』1の直近版で重要視したのは、円高の
影響度であった。下記の図表は当社が試算した円高(10%)の影響を示す。GDPで▲0.3%、消費者物価で
▲0.2%、経常利益で▲3.8%の影響が生じると試算され、これだけでも影響は大きい。ただし、今回問題提
起したいのは、円高と円安ではその影響に「非対称性」があるのではないかという点である。2012年末以降
の急速な円安時には、円安によって輸出が伸びないことが話題になった。それでは、円高に振れたときは、
どのような影響が生じるのか。急な円高に振れた場合は、緩やかな円高に比べて、大幅な影響、すなわち為
替が持つ「非線形性」によって影響が拡大すること、が試算により示されたことを認識する必要がある。
■図表:みずほ総研による円高(10%)の影響試算
影響
(%)
項目
GDP
▲ 0.3
0.0
民間最終消費
民間企業設備投資
▲ 1.1
民間住宅投資
▲ 0.4
輸出
▲ 1.3
輸入
0.2
国内企業物価
▲ 0.8
消費者物価
▲ 0.2
法季.売上高
▲ 1.6
法季.経常利益
▲ 3.8
経常利益(除く法人税)変化率
▲ 1.3
(注)みずほ総研マクロモデルによる試算結果
(資料)みずほ総合研究所作成
次ページの図表は、実質実効為替レートの推移を示す。今年1月から3月にかけての為替変動は過去と
比べて大きい。またアベノミクスが始まった2012年後半以来の円高への転換だ。つまり今年第1四半期の
為替変動は10~90パーセンタイルの為替変動を超える大幅なものである。また、円高による変動という意
味では、2008年のリーマン・ショック以来でもある。2012年以降、アベノミクスにより円安に大きく振れるプラ
スのショックは何回かあったが、今回は、円高という初の激震である。
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2016 年 6 月 21 日
■図表:実質実効為替レートの推移(四半期ベース、前期比)
(%)
25
2016年1~3月期の為替変動は急激
20
15
10
5
0
-5
-10
10~90パーセンタイルの為替変動
-15
為替前期比
-20
1990
95
2000
05
10
15
(年)
(資料)日本銀行「外国為替市場」よりみずほ総合研究所作成
下記の図表は実質輸出の為替感応度を示す。為替変動が実質輸出に及ぼす影響は、通常の為替変
動幅の場合には、必ずしも大きくない。一方、急激な円高の場合は、輸出の為替感応度が通常の為替変
動の2~3倍に高まると推計される。すなわち、急激な円高の動きが続けば、輸出がさらに押し下げられる
可能性をもつ。さらに、仮に為替が1ドル80~90円台にまで円高が進めば、単なる輸出減少にとどまらず、
国内の生産能力再編に繋がるリスクもあることに留意が必要だ。すなわち、急な円高ショックの場合、過去3
年の円安による国内回帰の潮流が元に戻ってしまうため、政策的に変動を抑える姿勢は重要だろう。
■図表:実質輸出の為替感応度(約半年後までの累積、10%の為替変動の影響)
(%)
(注)1..次のモデルを推計(推計期間:1985 年 Q1~2016
2.5
年 Q1)。
dlog(実質輸出 t)= + dlog 実質輸出 t
2.0
+∑
dlog 世界鉱工業生産 t
+∑
dlog 実質実効為替レート t
+∑
1.5
1
s
dlog 実質実効為替レート t
s s *急激な
円高ダミーt-s
+∑
dlog 実質実効為替レート t
s *急激な
円安ダミーt-s +
1.0
急激な円高(円安)は実質実効為替の変動が 90 パ
ーセンタイル以上(10 パーセンタイル以下)変動
した際に 1 となるダミー。
0.5
2.通常の為替ショックは∑ δ 、急激な円高ショッ
クは∑ δ + ∑ θ 、急激な円安ショックは
∑
0.0
通常の為替ショック 急激な円安ショック 急激な円高ショック
1
δ +∑
θ で計算。
(資料)日本銀行「国際収支統計」などよりみずほ総合研
究所作成
「2016・17 年度内外経済見通し」(みずほ総合研究所 『内外経済見通し』 2016 年 5 月 20 日)
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