FOREX WEEKLY

2016 年 6 月 24 日
市場営業統括部
FOREX WEEKLY
チーフ・エコノミスト
山下えつ子
Tel: +1-212-224-4561 (ニューヨーク)
[email protected]
Global View 「米国の長期停滞論を考える」 → p.2

イエレン議長の議会証言では、米国の長期停滞の可能性に言及があった。

短期的なビューと長期のビューが相反する方向にあり、Fed は苦慮しているようだ。
US View
… 利上げへの慎重なアプローチ
→ p.3

イエレン議長の議会証言では利上げへの慎重なアプローチが強調された。

当面、米国は材料が乏しい。
FX Outlook

… 英国の国民投票で相場乱高下
→ p.4
本レポート執筆時点では、英国の国民投票の結果は不明。途中経過で相場は乱高下。
今週のレンジ
来週の予想レンジ
9 月末の予想レンジ
12 月末の予想レンジ
ドル/円
103.58-106.84 円
103.00-108.00 円
108.00-112.00 円
105.00-115.00 円
ユーロ/ドル
1.1223-1.1428ドル
1.1200-1.1500ドル
1.1000-1.1500ドル
1.0000-1.1500ドル
ユーロ/円
116.90-122.01円
116.00-124.00 円
120.00-130.00 円
120.00-130.00 円
(今週のレンジは先週金曜日東京 7 時~本日東京 7 時(データ:Bloomberg)、
予想レンジは本日東京 7 時~来週金曜日東京 7 時)
(注:本レポートは英国の国民投票の結果発表前に執筆したものです。)
・本号はニューヨーク時間23日午後8時(東京時間24日午前9時)までの情報をもとに作成しています。
・FOREX WEEKLYに関するお問い合わせは、現在お取り引き中の営業部/支店にお願い申し上げます。
・FOREX WEEKLYは弊行ホームページでもご覧頂けます。(http://www.smbc.co.jp/ 外国為替情報→フォレックス・ウィークリー)
本レポートは情報の提供を目的としており、何らかの行動を喚起するものではありません。ここに示した意見は本レ
ポート作成日現在の筆者の意見を示すのみです。データや数値の抽出範囲・基準は任意で設定している場合がありま
す。データ・資料等については、数値等の誤りが含まれている可能性があります。本レポートに基づき、お客さまが
投資のご判断をされた結果に基づき生じた損害・損失について当行は一切責任を負いません。投資や資金運用に関す
る最終決定は、お客さまご自身で判断されるようお願い申し上げます。また、本レポートの全部または一部の無断コ
ピー使用はご遠慮ください。
1
FOREX WEEKLY 2016/6/24
Global View
… 「米国の長期停滞論を考える」
世界中が英国の国民投票に一点注目する中、21 日のイエレン議長の議会証言では議長が「長期停
滞論」に触れる箇所があり、興味深かった。正確には、長期停滞(secular stagnation)という言葉
は使われていないが、議会証言の中では「著名な経済学者たちが表明しているように」とサマーズ氏
の長期停滞論を想起させる言い回しだった。
注目すべきことは、生産性や潜在成長率が低下したという過去のことはなく、「この傾向が将来も
継続する可能性を Fed は排除できない」としたことだ。これまでも Fed が FOMC で示す longer run
の政策金利は longer run の経済成長率とともに、少しずつ引き下げられてきた。15 日の FOMC で公
表された見通しでは、longer run の成長率の中心レンジは 1.8%~2.0%、FF 金利は 3.0%~3.3%で
ある。1 年前には、これらは成長率が 2.0%~2.3%、FF 金利は 3.5%~3.75%だった。低成長からの
回復が見られないまま時間が経過し、これとともに Fed の見通しが下方修正されてきた、というわけ
である。
3.5
3.0
サマーズ氏の見解はこれまで多くの
2.5
支持を得られなかった。Fed が今回、
2.0
これを明瞭に支持した、とは言えない
1.5
が、長期化する低成長について Fed が
1.0
「あり得る回答」だと認めた、という
0.5
ことになる。
0.0
グラフで示したように、米国の潜在
成長率の低下を要因分解すると、労働
投入量がほぼゼロに近いほどの低い
1.9
1.5
1.1
1.9
1.1
1.1
1.1
1.6
1.2
1.6
1.0
潜在成長率
3.0
1.1
1950-1973
を正面から支持する米国人は少なく、
3.3
0.9
1.0
0.8
生産性
0.8
0.5
資本投入
0.2
0.3
労働投入
2008-2015
年のことである。米国経済の長期停滞
3.7
3.6
2002-2007
4.0
4.0
1991-2001
の)長期停滞論を主張したのは 2013
潜在成長率の内訳
%
1982-1990
4.5
1974-1981
サマーズ元米財務長官が(先進国
(資料)CBO
伸びでしかないことに加え、資本投入、そして生産性の伸びが金融危機後、鈍っている。結果として
金融危機後の 2008 年から 2015 年までの平均では潜在成長率は 1.6%まで低下してしまった。
労働投入の伸びの低下は、高齢化などに伴う労働力人口の伸びの低下という構造的な背景によると
ころが大きい。ベビーブーマーの引退などを前提とすると、労働投入の伸びがかつてのような 1%以
上といった高い伸びに戻る可能性は低い。これも問題ではあるが構造的な変化として仕方がない面も
ある。他方、資本投入や生産性については金融危機後も回復しないことは大きな問題だ。Fed が懸念
しているのは、この後者の部分である。議会証言でも、労働市場の弱さと同時に、企業の設備投資の
鈍さも懸念の対象だった。企業行動に何らかの下方変化が発生し、将来への実物投資・研究投資が手
控えられているとすると、資本投入や生産性(全要素生産性)の伸びは抑制されたままとなる。
サマーズ氏の主張は、単に米国を始めとする先進国の生産性の低下や潜在成長率の低下に警告を発
2
FOREX WEEKLY 2016/6/24
するものではない。このような経済に対して有効な政策は何か、という議論に繋がる。つまり、金融
政策の有効性が低下し、財政政策の出動が必要だ、という政策論である。
今年に入って、成長政策に金融政策だけでは限界があり、財政出動も必要だ、という議論が世界的
に広がっている。米国では金融正常化が始まり、次の利上げはいつかといった局面に入っている。だ
が、にも拘らず、Fed は米国経済の先行きに慎重となり、利上げにも慎重となった。金融危機後の経
済の大きな落ち込みからの回復に対する安心感や自信から金融正常化を進めたいとの考えがある一
方で、長期停滞の可能性への懸念がある。この二つの相反する方向の間で、大きく揺れているのが現
在の Fed であると言えるだろう。
US View
… 利上げへの慎重なアプローチ
今週は 23 日の英国の国民投票が米国においても重要イベントで、米国内のイベントはあまり関心
を持たれなかった。イエレン議長の上下院における議会証言が 21 日と 22 日に行われたが、FOMC が
先週開催されたばかりということもあり、大きな注目を集めなかった。
だが、イエレン議長の議会証言(定例の半期議会証言)は 15 日の FOMC 声明文や議長記者会見とト
ーンは同じだったが、いくつか注目すべき点があった。一つは、利上げについての政策アプローチが
慎重なものだと強調されたことである。「慎重なアプローチ(cautious approach)」という言葉で
表現されており、証言の中では「慎重な(cautious)」あるいは「注意深い(careful)」との言葉
が繰り返された。
議会証言の説明の中心は米国の労働市場と設備投資の弱さという国内景気への懸念だった。Brexit
リスクは考慮されていたが、今の Fed にとって中心的な懸念ではないようだ。むろん、「離脱」の結
果の場合には米国経済にも大きな影響が及ぶ、との見解だったが、「残留」の結果となっても、Fed
がすぐに利上げ実施に傾くことはないだろう。FOMC 時と同様に、今回の議会証言でも利上げが近い
とのカレンダーベースでの示唆はなく、7 月の利上げは Fed の頭にない、と考えてよいだろう。
議会証言でのもう一つの注目点が前述の Global View 欄で取り上げた長期停滞論である。イエレン
議長は楽観的だと自らの考えを説明したが(Fed 議長という立場もあるかもしれない)、説明の中で
は「過去数年に見られた低生産性が今後も続くという著名な経済学者たちの見解について、その可能
性を我々は排除することが出来ない」と述べている。
利上げの継続については、今年末の FF 金利は 1%以下、来年末は 2%以下、というのが FOMC の中
心的な見通しである。労働市場のモメンタムが失われたことを重視はしているが、リセッションの可
能性は低い、とイエレン議長は発言している(=経済の過熱によるインフレの高まりに対して Fed
が利上げを実施し、その後リセッションとなる、という従来プロセスでのリセッションは想定してい
ない)。(労働市場とリセッションについては、6/10 号、6/17 号でも取り上げた。)このため短期
的には、いずれ Fed が再び利上げに前向きになる時が来る、と考えておく必要はあるだろう。だが、
中長期的には、米国の潜在成長率の低下を背景に、現在示されているよりも更に低い水準で今後の
FF 金利が推移する可能性にも我々は留意する必要がある。
3
FOREX WEEKLY 2016/6/24
次の雇用統計は 8 日に発表される。それまでは大きな材料なく、英国の国民投票の結果を消化した
後、来週は、米国の金融市場は方向感が出難いと予想される。
FX Outlook
… 英国の国民投票で相場乱高下
日本時間 24 日午前 9 時の時点では、英国の国民投票の結果はまだ揃っていない。今回の国民投票
では有権者の投票登録者数は過去最高となり、投票後の一部報道によれば、投票日も一部では悪天候
だったにも関わらず、投票率は 70%程度の非常に高いものだったようだ。先週は残留を支持する議
員が離脱支持の市民に銃撃され死亡するという事件があった。EU 残留と離脱に国民が二分された状
況は、時代が異なれば、日本の幕末や米国の南北戦争のような状態に発展するような深刻なものなの
かもしれない。
投票締め切り直後の世論調査(YouGov)では残留 52%、離脱 48%と残留派が 4 ポイントリードし、
これを受けて、ドル円は 107 円を目指した。だが、その後、各地区の投票結果が順次発表され、離脱
派が残留派を上回ると、ドル円は 103 円近くまで急落。地区によって離脱派が優勢なところもあり、
全体の結果が判明するまで、株式相場も含め、荒れそうだ。判明した後も離脱の結果ならば、更に
そこからリスクオフ相場が始まるだろう。
先週末、世論調査で「残留」が「離脱」を上回ったところで英ポンドが買い戻され始めた。22 日
にはポンドは対ドルで年初来高値となった。国民投票に対するマーケットのメインシナリオは「残留」
である。もし「離脱」が最終結果となれば、改めてポンド売り、リスク回避で円高、となる。
6/17 号でポンド売りやユーロ売りが対ドルよりも対円の方に偏っている、と指摘した。「残留」
をメインシナリオに据えたポンド、ユーロの買戻し局面では、対円の値幅も大きいが、対ドルでの買
いも相応に大きく、こうした多通貨の売買で、結局、円は円高方向へのバイアスが、円安への戻りよ
りも大きく、Brexit というイベントを通過している最中に、円高方向にシフトしてしまった。
残留をメインシナリオとするが、離脱だった場合の為替相場の見通しについては 6/17 号に記した
通り、ドル円の 100 円割れの可能性、および為替介入の可能性を指摘しておきたい。
ポンド/ドル
1.5
ポンド/円
185
1.48
180
1.46
175
1.44
170
1.42
165
1.4
160
1.38
ポンド安
155
1.36
150
1.34
145
1.32
1/1
2/1
3/1
4/1
5/1
円高
140
6/1
1/1
(データ出所)Bloomberg
4
2/1
3/1
4/1
5/1
6/1
FOREX WEEKLY 2016/6/24
ディーラーに聞きました(来週のドル円相場の方向性~ブルベア)
週
5 月 16 日~
23 日~
30 日~
6 月 6 日~
13 日~
20 日~
27 日~
予想
-1
+2
+1
+2
+2
+1
-2
実績
ブル
中立
中立
ベア
ベア
ベア
≪見方≫
当行の為替ディーラー(マーケット、カスタマー)8 名を対象に、来週の相場予想を聴取。ドルブル(終値から1円以
上のドル高)、中立(終値から上下1円内)、ドルベア(終値から1円のドル安)の三択で、結果を(ドルブル人数-ドルベア人数)
で表記。+(プラス)は円安ドル高、-(マイナス)は円高ドル安を示す。
主要 3 通貨の動き(2015 年 1 月~)
ドル/円
ユーロ/ドル
130
1.30
125
1.25
120
1.20
115
1.15
110
1.10
105
1.05
100
1.00
ユーロ/円
150
145
140
135
130
125
115
5/1/2016
3/1/2016
1/1/2016
9/1/2015
11/1/2015
7/1/2015
5/1/2015
3/1/2015
1/1/2015
5/1/2016
3/1/2016
1/1/2016
9/1/2015
11/1/2015
7/1/2015
5/1/2015
3/1/2015
110
1/1/2015
5/1/2016
3/1/2016
1/1/2016
11/1/2015
9/1/2015
7/1/2015
5/1/2015
3/1/2015
1/1/2015
120
(データ出所:Bloomberg)
その他通貨の中期的な動向(2011 年 1 月~)
ドル/人民元
英ポンド/ドル
ドル/インド・ルピー
60
6.2
1.50
55
6.1
1.45
6.0
1.40
5.9
1.35
45
5.8
1.30
40
70
1/1/2016
7/1/2015
1/1/2015
7/1/2014
1/1/2014
7/1/2013
1/1/2013
7/1/2012
1/1/2012
7/1/2011
1/1/2011
1/1/2016
7/1/2015
1/1/2015
7/1/2014
1/1/2014
7/1/2013
1/1/2013
7/1/2012
1/1/2012
7/1/2011
50
1/1/2011
1/1/2016
65
1.55
7/1/2015
1.60
6.3
1/1/2015
6.4
7/1/2014
1.65
1/1/2014
6.5
7/1/2013
75
1.70
1/1/2013
1.75
6.6
7/1/2012
6.7
1/1/2012
80
7/1/2011
1.80
1/1/2011
6.8
(データ出所:Bloomberg)
5
70
60
50
40
30
20
株(上海総合指数)
5500
4500
3500
2500
1500
原油(WTI 先物(期近物):ドル/バレル)
6
2016/4/1
14000
2016/4/1
16000
2016/1/1
15000
2015/10/1
2015/7/1
2016/4/1
16000
2016/4/1
17000
2016/1/1
株(米ダウ)
2016/1/1
18000
2016/1/1
18000
2015/10/1
19000
2015/10/1
20000
2015/10/1
20000
2015/7/1
株(日経平均株価)
2015/7/1
22000
2015/7/1
2.6
2.4
2.2
2.0
1.8
1.6
1.4
2015/4/1
2015/1/1
2016/4/1
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/4/1
2015/1/1
%
2015/4/1
2015/1/1
2016/4/1
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/4/1
2015/1/1
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
-0.1
-0.2
-0.3
2015/4/1
2015/1/1
2016/4/1
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/4/1
2015/1/1
債券(日本国債・10 年債利回り)
2015/4/1
2015/1/1
2016/4/1
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/4/1
2015/1/1
FOREX WEEKLY 2016/6/24
通貨以外のマーケット動向(2015 年 1 月~)
債券(米国債・10 年債利回り)
%
株(ドイツ DAX 指数)
13000
12000
11000
10000
9000
8000
金(NY 先物(期近物):ドル/トロイオンス)
1500
1400
1300
1200
1100
1000
900
(データ出所:Bloomberg)
FOREX WEEKLY 2016/6/24
今週のプライスアクション(ドル円)
(出所:Reuters)
① 英国の EU 離脱懸念が後退す
る中、リスクセンチメントが
良好となり、ドル円が上昇。
② 英国国民投票当日、EU 残留
を織り込みにいく動きがみ
られ、その中でドル円も上
昇。
②
①
来週のチャ-ト分析
(出所:Reuters)
D a i l y J PY=E B S
2016/04/29 - 2016/07/19 (GMT)
Daily EUR=EBS
2016/05/02 - 2016/07/19 (TOK)
Price
Price
1.16
111
110
1.15
109
1.14
108
107
1.13
106
1.12
105
1.11
104
.12
0
02日
09日
16日
23日
30日
06日
2016年 5月
13日
20日
27日
04日
2016年 6月
11日
09日
18日
2016年 7月
16日 23日
2016年 5月
30日
06日
13日 20日
2016年 6月
27日
04日 11日 18日
2016年 7月
<ドル円、日足、一目均衡表>
<ユーロドル、日足、一目均衡表>
・現在雲の下を推移。
・現在雲の中を推移。
・7/1 の雲上限は 1.1364 ドル、下限は 1.1297 ドル。
・7/1 の雲上限は 109.68 円、下限は 109.19 円。
来週の主な材料
6/27(月)
(欧)5 月ユーロ圏 M3
6/28(火)
(米)第 1Q 実質 GDP(確定値)、6 月消費者信頼感指数
6/29(水)
(日)5 月百貨店・スーパー販売額
(米)5 月個人所得・支出(欧)6 月ユーロ圏企業景況感、6 月ユーロ圏消費者信頼感(確報)
6/30(木)
(日)5 月鉱工業生産(速報)、5 月住宅着工件数
(米)6 月シカゴ PM(欧)6 月ユーロ圏 HICP(速報)
7/1(金)
(日)5 月失業率、5 月有効求人倍率、5 月家計調査、5 月全国 CPI、日銀短観(6 月調査)、
6 月消費者態度指数
(欧)6 月ユーロ圏製造業 PMI(確報)(米)6 月製造業 ISM(中)6 月製造業 PMI
(時間は全て現地時間)
(本ページの担当:花木)
7