Page 1 (要 》 地域若者サポートステーションの実態と 成果に関する研究

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(要旨〉
地域若者サポートステーションの実態と
成果に関する研究
一一体験型就労支援を中心に一一
大熊
ヨIt
日
日本の総人口、生産人口が減少する中、無業状態の若者の割合が増加している o 内閣府は「若年無
業者の数は、
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2年には 6
3万人、 1
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4歳人口に占める割合は 2
.
3
%
J と報告しているが、産業構造
や就業構造、労働環境が変化したことと関係している o
(
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) は、従来型の就労モデルについて「職業の世界へのスムーズな移行を保証する役割を
学校が担っていた Jと指摘しており、 1
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0年代以降、卒業から就職への移行パターンが崩れることで
若年無業者が多数生まれた状況について、工藤 (
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) は、「移行の枠組みからいったんこぼれてし
まうと、なかなか元に戻れない状況は、社会が包摂する課題である Jと指摘している。 2
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年以降、
宮本
若者の就労支援に関する施策が行われているが、若年無業者数が減少していないということは、支援
策が十分に機能していないといえる。
本論文の構成は、第 l章では若年無業者の実態について調査し、第 2章で若年層全体に対する就労
支援策について分析し、第 3章では若年無業者に対する施策として「地域若者サポートステーション
事業」の成果と課題について分析を行い、第 4章では京都市と三鷹市で行われている体験型支援プロ
グラムの事例検討を行い、第 5章において体験型支援プログラム効果と意義について考察をする。
第 1章 若 年 無 業 者 の 実 態
内閣府では若年無業者を, 1
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歳の非労働力人口のうち、通学、家事を行っていない者」と定義
r
し、さらに(1),求職型 J(就業希望を表明し、求職活動をしている個人)、 (
2
) 非求職型 J(就業希望
を表明しながら、求職活動はしていない個人)、 (
3
),非希望型 J(就職希望を表明していない個人)の
三類型に分類した。内閣府『平成 2
5年版子ども・若者白書』では「非求職型」の
4人に 1人以上が
「進学のための勉強 Jr
病気・けがJといった明確な理由ではなく、「探したが見つからなかった Jr
希
望する仕事がありそうにない J 知識・能力に自信がない」という不明確な理由で就職活動をしてお
らず、「非希望型 Jの 5人に 1人以上が「進学のための勉強 Jr
病気・けがJといった明確な理由では
r
なく、「仕事をする自信がない J,特に理由はない Jなど不明確な理由で就業を希望していないことが
明らかとされたが、若者の就業意識が必ずしも低下・希薄化したという訳ではないことも、内閣府
『若年層の意識実態調査.]
(
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) により明らかにされた。また、内閣府の『平成 2
3年度若者の考え方
についての調査Jによると、働くことに関して不安を感じている若者が多い一方で 3人に 2人は誰に
も相談していないこと、公的な相談機関を利用したことがあるのは 5人に l人程度であるとし、工藤
(
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) は「就職活動をするにところまで至らない「非求職型」や「非希望型 Jは、誰(どこ)に相
談すればいいかすらわからなくなってしまっている」と指摘している o
第 2章 若 年 者 に 対 す る 就 労 支 援
変化する労働市場と、そこに対応しきれない若年無業者などの雇用問題への対策を講ずるため、
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3年に「若者自立・挑戦プラン Jが策定され、 2
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6年 1月の「若者の自立・挑戦のためのアクショ
ンプラン Jでは若者の職業的自立を支援する「地域若者サポートステーション Jの設置、「若年者の
J などを通じた就職支援の実施などが
ためのワンストップサービスセンター(通称:ジョブカフェ )
盛り込まれたが、一方で「若年者問題の主な原因に対して、従来のシステムが対応できていなしづと
の指摘もある o
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9年に施行された子ども・若者育成支援推進法を受け、内閣府では 2
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0年「子ど
も・若者ビジョン Jを作成し、各学校段階を通じたキャリア教育、職業体験・インターンシップ等の
活用などを進めると同時に「ニート、ひきこもり、不登校の子ども・若者への支援などJの取組を実
施した。現在実施されている若年者向けの支援策としては、高校生に対する「高等学校就職支援教員
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(ジョブ・サポート・ティーチャー )
Jの配置、大学生に対する「新卒応援ハローワークの設置Jがあ
る。既卒者を対象としたものには「若年者のためのワンストップサービスセンター(通称:ジョプカ
フェ )
Jの設置、おおむね4
5歳未満の正規雇用を目指す若年者を対象に「わかものハローワーク J(
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か所)などがある。
老年無業者が政策対象として意識されだしたのは、 2
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4年の『経済財政運営と構造改革に関する基
本方針j (経済財政諮問会議)からで、重点分野として「フリーター・無業者に対する働く意識の向
∞
∞
(
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∞
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年-)が実施された
上等」が位置づけられ、「若者の自立・挑戦のためのアクションプラン J(
24
年)へと引き継がれ、
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3年 2
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8年)、②若者自立塾 (
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5年-2 9年度末)、③合宿型若
①ヤングジョプスポット (
者自立プログラム (
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0年-)、④地域若者サポートステーション事業
第 3章
o
地域若者サポートステーションでの取り組み
厚生労働省では、 1
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歳から 3
9歳の無業状態にある若者を対象に、「地域若者サポートステーション」
を2
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6年から設置し、 2
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3年には 1
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0ヶ所に設置している o 運営は若者支援の実績やノウハウのある
NPOをはじめ、民間企業にいたるまで、多岐にわたっている。①キャリア・コンサルタントなどに
よる職業的自立に向けた専門的相談、②学校等との中退者情報の共有による中退者支援、に加え一
部では③若年無業者等集中訓練プログラム事業(合宿形式を含む生活面等のサポートと職場実習の
訓練)が実施され、 2
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年度のサポステ新規畳録者数4
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9名のうち、進路決定した者は 1
9
.
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2名で
あった。
第 4章 事 例 か ら 見 る 就 労 支 援
公益財団法人京都市ユースサービス協会では、現実の就労に近い環境の中で「達成感J
、自分の
r
「強み」、「自主性 J 主体性」を実感し、自信を持って次の就労に向かうことを目指し、 4ヶ月間にわ
たる農業体験プログラムを実施している。週 3日の農作業と、期間に 5回程度の研修、随時行う販売
から構成され、 7名の参加者が畑の開墾から収穫・販売にいたるまでの全ての行程を体験した。
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r
r行
為j と「結果」の因果関係が感じられるようになった J 生活に「やる気Jが生まれた J 人や社会と
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関わることについて肯定的になった j といった成果と、一方で「対象者が限定されてしまう J 一度
に参加できる人数に限りがある」などの課題もあった。
NPO 法人文化学習協同ネットワークでは、自宅から通いながら週に 4目、一日 5時間程度の実習
を 6ヶ月間行う「集中訓練プログラム j、コミュニテイベーカリー「風のすみか」を実施している。
働くための基礎的能力を身に付け、仲間と共に働き方を学び、成長を実感する場であり、①本物の
職場で働く、②振り返りを丁寧に行う、③人の中で働ける自信をつける、④主体的に動くことの
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大切さと面白きを実感することを意識し、「販売 J 製造J 配達」など多岐にわたっている o 訓練生
として参加した全員が何らかの仕事につくか、ハローワークへ通うようになった」という成果がある
r
一方、「このような取り組みができる場所が限られること J 受け入れ可能な人数に限りがあること J
などの課題も挙げられる o
両者には「仕事の中にこそ学びがある」、「仕事を体験した後の「ふりかえり」を重視している点」
r
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「共に学ぶ「仲間 Jの存在 J 同年代の他者との小集団体験J
、あるいは「就労先を斡旋できない J 参
加できる人数が限られる」といった共通点が見られた。
第 5章 ま と め
物質的な豊かさがピークを迎え、さらに I
T技術の発展、インターネット網の拡充により、世界が
“小さく"なった今日、人は何を目的に働くのか、あるいは、働くことの意義をどう見出すのか。こ
のことを、再び考える必要があるのではないだろうか。
学校段階からのキャリア教育の推進や、働く意欲や能力を高める総合的な対策の推進が進められる
ようになったが、いかにして職場につなげるかということが前提となっており、そもそも「なぜ人は
Jという本質的な部分へのアプローチが不十分であったと考えられる。働くことは「お金
働くのか ?
を稼ぐ」という経済活動だけでなく、「何が幸せかJあるいは「人間としてどう生きるのかJという
哲学が抜け落ちてしまっていることが、今日的な若年無業者の就労問題に関わっているのではないか
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地域若者サポートステーションの実態と成果に関する研究
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と考える。なんでもネットで手に入る今の時代だからこそ、リアルな感覚を伴う「失敗の体験J 仲
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間との出会い J 感動の共有 Jなどこそ、働くことにつまづいている若年無業者には必要なことでは
ないかと考える。