印刷用ページはこちら - JOGMEC 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物

カレント・トピックス No.16-24
平成28年6月23日
16-24号
カレント・トピックス
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構
市場ニーズ変化に即応して市場拡大を図る鉛亜鉛産業界と、
鉱石生産を効率的に行うための技術開発
―2016 年春季国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)報告(2)―
<金属企画部企画課 堀 琢磨 報告>
2016 年 4 月 27 日、国際鉛亜鉛研究会が開催された。同大会における発表のうち、①供給源が多
様で再生ストックのある金属(鉛)をいかに持続的に使用するかという点でも注目される自動車
用鉛電池の高機能化について、②ナノフォーム市場の拡大と規制対応を進める酸化亜鉛業界に関
する動向、③日本と似た産業構造を持ち、地金生産国・消費国であるイタリアの鉛亜鉛産業、④
安全に低コストで鉱石生産を行うための生産技術の開発について報告する。
1. 自動車分野の鉛電池市場(Exide 社の講演)
1)鉛電池の競争領域
欧米におけるハイブリッド車の主電源について、①200V 以上の高電圧を必要とする「フル・ハイブ
リッド車」には、リチウムイオン電池やニッケル・水素電池が搭載されるのに対し、②バッテリー電
圧 12V の「マイクロ・ハイブリッド車」の多くは、鉛電池が使用される。①と②の間に位置する電圧
48V の「マイルド・ハイブリッド車」については、鉛電池と、リチウムイオン電池等の競争領域である。
(出典)Exide 社講演資料
図 1 電動車等に関する世界市場ニ-ズの変化
2)鉛電池の改善
鉛電池については、電気負荷増大に対応した高性能化、軽量化、コンパクト化、低コスト化
1
カレント・トピックス No.16-24
の研究が進められている。ALABC(Advanced Lead Acid Battery Consortium)は、研究開発プロ
グラムとして、開発した Lead Carbon Battery を、実車に適用する実証試験を続けてきた。NEDC
(New European Driving Cycle) から、加速・減速のサイクルタイムに重きを置いた WLTC
(Worldwide harmonized Light duty driving Test Cycle) への移行は、始動アシストや回生に
求められる性能が高まり、48V 電池需要の追い風になる。エネルギーの効率的活用と、発進・加
速性能の向上によって、エンジンのダウンサイジングがさらに進む。
鉛電池の利点は、低コストであることに加え、冷却等のバッテリーマネジメントが比較的容易
で、システムが簡易に済むこと、リサイクルシステムが整っていることである。アイドリングス
トップ時における大電流の放電と充電受入性に優れる鉛電池が出現し、部分充電(PSOC)におけ
る最適化と耐久性、バッテリー制御システムの改善、振動環境下の耐久性は格段に向上している。
カーボンの添加によって出力と耐久性は改善され、セルのデザインは改善の余地が残っている。
表 1 ハイブリッド車に求められる電池性能
電圧
12V
ALABC ターゲット
低コスト・スーパー・
ハイブリッド・
コンセプト
12-48V
電気モーター
2-3kW
3-6kW
マイクロ
ハイブリッド
マイルド
ハイブリッド
フル
ハイブリッド
プラグイン
ハイブリッド
24-130V
200-270V
300-400V
10-15kW
20-50kW
60-70kW
始動アシスト
0
20-35kW
<15kW
>15kW
>60kW
OEM on-cost
€ 150-700
€ 750-1,500
€ 1,600-3,000
€ 3,000-5,000
€ 6,000-10,000
CO2 削減効果
4-7%
15-30%
8-12%
15-20%
20%(出典)Exide 社講演資料より JOGMEC 作成
2. 酸化亜鉛を取り巻く動向(国際亜鉛協会の講演)
1)需要
酸化亜鉛は粉末として使用され、世界需要は 1,600 千 t である。地域別には、東アジア 54%、欧州
20%、北米 15%、その他 11%である。用途別には、ゴム類 56%、ガラス及びセラミックス 19%、化学
8%、農業 7%、塗料・コーティング 3%、その他 7%である。ナノ・ジンク市場は、包装フィルム、木
材用の透明なコーティング、エラストマー(高分子材料)、ゴム、日焼け止め等の化粧品に用いられる。
2)規制
国際亜鉛協会は、欧州における化学物質の総合的な登録・評価・認可・制限に係る制度であ
る EU Reach 規則の実施や、東アジアにおける同規則に準ずる措置の実施に際して、データの提
供等の協力を行っている。また、国際調和システムの作業に加わっている。酸化亜鉛は固有の
危険有害性に対する国連の評価手法について、EU 化粧品規制の議論を経て、日焼け止めの原料
として使用されている。ユニセフのサポートによって Zinc Saves Kids キャンペーンが実施され
ているように、子供たちの健康のため、亜鉛は欠かせないものである。
3. イタリアの鉛亜鉛産業(Assofermet の講演)
1)Assofermet
鉄・非鉄製品やスクラップの取引に関するイタリア国内の団体であり、800 社が加盟する。
Assofermet Metals(非鉄製品、非鉄スクラップ)、Assofermet Scrap(鉄スクラップ、合金ス
2
カレント・トピックス No.16-24
クラップ、銑鉄、その他原料)、Assofermet Steel(鋼板、棒材)、Assofermet Ironworks(製
鉄)から構成される。うち、Metals 及び Scrap に、380 社が加盟する。
2)鉛亜鉛の生産
2015 年のイタリアの鉛地金消費が 280 千 t(欧州 2 位)であるのに対し、鉛地金の生産は 228
千 t である。一方、亜鉛については、地金消費 230 千 t(欧州 3 位)に対し、地金生産は 138 千
t である。同国における亜鉛地金の生産は、イタリアの真鍮(黄銅)産業を支えている。地金生
産に占める再生亜鉛の割合は、28%であり、世界の中でも高い割合である。
貿易については、亜鉛の鉱石及び精鉱は、米国、オランダ(経由地)、ギリシャ(経由地)、
コートジボワールから輸入する。他方、鉛の鉱石及び精鉱は、ペルー、メキシコ、米国から輸
入し、また、飛灰をベルギーから輸入する。鉛地金(HS7801:鉛の塊)は、スペインに 24 千 t
(2015 年、グロス量)ほど輸出している。
表 2 イタリアにおける鉛亜鉛製錬所
企業名
亜
鉛
鉛
場所
Portovesme Sri (Glencore plc)
Porto Vesme
Capitelli Sri
Burago Molgora
NUOVA EUROZINCO
Modena
METAL SIDER 2 SpA
Modena
Portovesme Sri (Glencore plc)
San Gavino Monreale
Eco-Bat SpA
Marcianise
Eco-Bat SpA
Pademo
Ecological Scrap Industry SpA
Pace del
MECA
Lead Recycling SpA
Piombifera
Bresciana SpA
Piomboleghe Sri
種類
一次
生産能力
(千 t)
140
10
二次
14
12
一次
Caserta
Lamezia Terme
亜鉛二次計
36
鉛一次計 85
40
Dugnato
Mela
85
生産能力計
(千 t)
亜鉛一次計 140
50
二次
10
20
Maclodia
20
Brugherio
50
鉛二次計
190
(出典)Assofermet 講演資料より JOGMEC 作成
4. 鉱山における新しい技術(ロンドン・インペリアルカレッジの講演)
鉱山開発において、センサーは、①健康・安全(例えば、作業者の健康管理、危険な場所への
侵入防止、場内を走行する無人運転車の安全走行)、②機器の管理(例えば、使用環境のモニタ
リングや稼働状況、メンテナンス)に使用され、③探査~採鉱(例えば、重力異常のマッピング、
採掘現場のモニタリング)においても利用が広がっている。衛星を利用した位置情報を連動させ、
特に坑内では、装着したビーコンと RFID(無線自動認識)を駆使することによって、システムを
さらに高めることが可能である。蛍光 X 線分析機器をはじめ、携帯型成分分析計が進化し、各種
センサーの組み合わせによって、現場の状況に応じて、フレキシブルに意思決定を下すことがで
きる。さらには、鉱床の 3D ブロックモデルをもとにして、例えば、発破等によって採鉱する際に、
品位の高い場所からの鉱石と、品位の低い場所からの鉱石に、サイズの差をつけることによって、
不要な鉱石を粒度や割れ方で識別できるようにする。鉱石を品位別にヤードにストックして、例
えば高品位の鉱石はミルへ、低品位の鉱石はリーチングへ、鉱石の特性に応じたプロセスに運び
込むシステムを構築することは、処理費や輸送コストの低減につながる。
3
カレント・トピックス No.16-24
5. まとめ
鉛亜鉛産業動向のポイントは次の通りである。また、各国の位置づけは図 2 及び図 3 のようになる。
鉛
10
年
前
亜鉛
① 指標:LME 価格と LME 在庫の相関関係。
① 指標:LME 価格と LME 在庫の相関関係。
② ILZSG 統計(単位:千 t)
2005 年 鉱石 3,445
地金生産 7,907
地金消費 7,988
*鉱石生産量は地金消費量の半分以下。
(参考)1995 年 鉱石 2,754
地金生産 5,738
消費 5,827
② ILZSG 統計(単位:千 t)
2005 年 鉱石 10,125
地金生産 10,184
地金消費 10,567
*地金消費とほぼ同量の鉱石を供給。
③ 需要:中国消費は急増。(単体塊状で使用される鉛
はリサイクルしやすいものの)再生用ストックの蓄
積が不十分な状況では、世界需給への影響大。
④ 供給:鉱石供給は亜鉛鉱等に支配。採鉱対象鉱床の低
品位化・深部化・奥地化。鉱山開発コストの上昇。中
国等の消費急拡大にともない、鉱石生産も急増。
2005 年→2015 年 世界消費 33%増
鉱石生産 32%増
(参考)1995 年→2005 年 世界消費 37%増
鉱石生産 25%増
④ 供給:米 Moorseboro の地金生産は一貫して減少。
採鉱対象鉱床の低品位化・深部化・奥地化。鉱山
開発コストの上昇。
① 指標:在庫は LME 在庫、生産者在庫、消費者在庫
① 指標:在庫は LME 在庫、SHFE 在庫、生産者在庫、
消費者在庫
② 資金流入・流出の影響:(銅のような)大きな投
資資金の流入・流出は見られず、価格のカーブは
緩やか。一方、鉱山開発投資が行きわたらないこ
とを懸念。
③ ILZSG 統計(単位:千 t)
2015 年 鉱石 4,551
地金生産 10,655
地金消費 10,617
現
在
③ 需要:地金及び鉱石の輸出国であった中国は、
2001 年から鉱石、2004 年から地金について、輸入
ポジションに変化。SHFE(Shanghai Futures
Exchange)における取引が活発化。他方、米国の
亜鉛需要は、2004 年 1,250 千 t から 2010 年 900 千
t を切り、2015 年現在 929 千 t。
② 資金流入・流出の影響:(銅のような)大きな投
資資金の流入・流出は見られない。一方、鉱山開
発投資が行きわたらないことを懸念。
③
需給バランスは均衡状態。2015 年実績 38 千 t。世
界地金生産の 59%が二次(廃バッテリー等)、
41%が鉱石。中国の地金消費 4,414 千 t、自国鉱
石 1,915 千 t。
ILZSG 統計(単位:千 t)
2015 年 鉱石 13,458
地金生産 13,907
地金消費 13,846
不足感が出始めている。2013 年▲134 千 t、2014
年▲235 千 t、2015 年▲61 千 t。
中国の地金消費 6,485 千 t、自国鉱石 4,934 千 t。
④ 需要:中国消費量は世界消費量の 47%。
2015 年、中国ユーザー産業は、自動車販売 5%
増、メッキ鋼板 2.8%増。
④ 需要:中国消費量は世界消費量の 41%。
中国消費の 1/3 を占める E-bike 向けバッテリー
需要はピークを超える。
⑤ 供給:大規模鉱山の閉鎖が相次ぐ。2015 年鉱山閉
鎖は、豪 Paroo Station85 千 t、豪 Century50 千
t、アイルランド Lisheen30 千 t、墨 Naica20 千 t。
韓国が、鉛地金の生産量を、2005 年約 250 千 t→
2015 年約 650 千 t→2016 年約 750 千 t に拡大。
4
⑤ 供給:大規模鉱山の閉鎖が相次ぐ。2015 年鉱山閉
鎖は、豪 Century500 千 t、アイルランド
Lisheen175 千 t、加 3 鉱山 114 千 t(Wolverine53
千 t、Duck Pond34 千 t、Myra Falls27 千 t)、米
Gordonsville60 千 t、墨 Naica25 千 t。
カレント・トピックス No.16-24
10
年
後
① 指標:地金で取引が生じる産業構造を持つ、消費
地の取引所に注目。
① 指標:地金で取引が生じる産業構造を持つ、消費
地の取引所に注目。
② 需給(単位:千 t):2020 年までに供給不足の感。
2016 年 鉱石 4,575、地金生産 10,904、地金消費
10,828。需給バランス 76。2016 年の世界需要は
0.5%増。地域別には中国が 9.7%増、中国以外が
6.1%減。最大の消費国である中国需要は引き続
き旺盛。需給バランスは一時的に均衡しているも
のの、鉱山開発案件が少なく、また、再生用スト
ックに乏しい国の需要増により、供給不足の感。
② 需給(単位:千 t):既に供給不足。鉱山開発案
件が少なく、供給不足継続の感。
2016 年 鉱石 13,271、地金生産 13,977、地金消費
14,329。需給バランス▲352。2016 年の世界需要は
3.5%増。地域別には中国が 4.5%増、中国以外が
2.6%。
③ 需要:中国消費の伸びは鈍化したものの、依然と
して消費は拡大。中国国内資源循環がさらに進め
ば、消費の伸びはよりフラットに変化。他方、イ
ンド、ブラジルの需要は拡大。自動車用鉛電池の
高機能化により、市場拡大の可能性あり。
④ 供給:精鉱品位の更なる低下、大規模鉱山の閉
鎖、新規開発の遅れを懸念。2016 年には、
Glencore100 千 t 減産、Doe Run ミズーリ減産、
CBH Resources 豪 Endeavoir 減産、Perilya 豪
Broken Hill 減産。鉱山開発コストの共通課題。
③ 需要:中国消費の伸びは鈍化したものの、依然と
して消費は拡大。輸送機器用亜鉛メッキ鋼板需要
は拡大。高温湿潤帯を中心に、建築用途のメッキ
需要は拡大。酸化亜鉛はナノマーケットが拡大。
④ 供給:用途(膜状のメッキ等)の特性により、リ
サイクル率の向上は容易ではなく、常に鉱石を供
給し続ける必要あり。精鉱品位の更なる低下、大
規模鉱山の閉鎖、新規開発の遅れを懸念。担い手
は、メジャーに比べて規模が小さく、供給の継続
性が懸念。探鉱開発が急務。
2016 年には、Glencore(豪、カザフスタン、ペル
ー)50 千 t 減産、CBH Resources 豪 Endeavoir 減
産、Perilya 豪 Broken Hill 減産。サウジアラビ
ア Al Masane 延期。鉱山開発コストの低減は共通
課題。
図 2 鉛需給に関する各国の位置づけ(概念図)
注:国内資源循環が進むと、「鉛地金消費国」は、「鉛地金消費国・鉛地金生産国」に移行する。
5
カレント・トピックス No.16-24
図 3 亜鉛需給に関する各国の位置づけ(概念図)
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報を
お届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結に
つき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等す
る場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
6