南九州水産調査~ブリ養殖の成長戦略

南九州水産調査~ブリ養殖の成長戦略~
2016年6月
南九州支店
地域本部
地域振興部
目次
Contents
はじめに
第1部
Page
1
ブリ養殖の現状
3
Ⅰ
ブリ養殖の概要
4
Ⅱ
ブリ養殖のフードチェーン分析
6
Ⅲ
輸出の状況
18
ブリ養殖の成長戦略
23
Ⅰ
国内外の市場動向
24
Ⅱ
ブリ養殖の成長戦略
32
第2部
おわりに
42
はじめに
本調査の趣旨
㈱日本政策投資銀行では、2010年5月より地域ごとの強みや潜在力を活かした成長を後押しする「地域元気プログラ
ム」を開始しており、南九州支店では『南九州を「食・健康・環境・エネルギー」の先進地域へ』をテーマに、鹿児島
県及び宮崎県の企業に対し、情報面・資金面でのサポートに取り組んでいます。
このうち「食」についての情報提供として、これまで当地域を代表する「食」産業である焼酎業界・畜産業界について
レポートを発表してきました。今年度は、これらに引き続き、魚類養殖業界、特にブリ養殖に焦点を当て調査を実施し
ました。
ブリ養殖は我が国の魚類養殖業生産額の約5割を占める重要な産業であるとともに、近年は政府の重要輸出品目にも指
定されアメリカを中心に輸出を伸ばしています。南九州(鹿児島県・宮崎県)はそのブリ養殖の一大拠点として全国の
養殖ブリ生産額の4割を占めており、今後のブリ養殖のあり方は南九州はもちろん我が国の水産業全体に重要な位置を
占めていると言えます。本調査ではブリ養殖の成長戦略について、生産から販売に至るまで分析し、今後の成長戦略を
検討しています。
本調査の実施にあたっては、南九州の水産関係団体・企業の皆さまにインタビュー・資料提供等で多大なご協力をいた
だきました。ここに記して深く御礼を申し上げます。
©Development Bank of Japan Inc.2016
本資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、取引等を勧誘するものではありません。本資料は当行が信頼に足ると判断
した情報に基づいて作成されていますが、当行はその正確性・確実性を保証するものではありません。本資料のご利用に際しましては、
ご自身のご判断でなされますようお願い致します。本資料は著作物であり、著作権法に基づき保護されています。本資料の全文または
一部を転載・複製する際は、著作権者の許諾が必要ですので、当行までご連絡下さい。著作権法の定めに従い引用・転載・複製する際
には、必ず、『出所:日本政策投資銀行』と明記して下さい。
なお本調査に関するお問い合わせ等は、以下の連絡先までご連絡ください。
(株式会社日本政策投資銀行) 〒892-0842
(株式会社日本経済研究所) 〒101-0062
鹿児島市東千石町1番38号(鹿児島商工会議所ビル) ℡099-226-2666
東京都千代田区大手町二丁目2番1号(新大手町ビル) ℡03-6214-4602(地域本部)
1
概要
第1部 ブリ養殖の現状
我が国の魚類養殖の生産額は2013年2,148.7億円であり、そのうちブリ類は1,115.0億円と51.9%を占める。また、我が国が力を
入れている水産物輸出でも、魚類ではさばに次ぐ138億円(2015年)の輸出額となっている。
ブリ類の年間生産量は年間14~15万トンであり、そのうちブリが10~11万トン、カンパチが4~5万トンとなっており、国内の生
産地は西日本、特に九州・四国である。
ブリ養殖全体のフードチェーンを見ると、養殖経営体の減少が顕著であり、特に飼料価格や販売価格の変動の影響を受けやすい個
人経営体は大きく減ってきている。その中、大規模養殖を手掛ける企業経営体の存在感が高まっている。
ブリ加工については、HACCPの取得が進んでおり、厳しい基準で知られるEU-HACCPの認定施設も全国で6施設(うち南九州2施
設)となっている。また、全国では輸出を視野に入れた新規の加工場設立の動きもみられている。
販売については、養殖量により市場価格が大きく変動する傾向にある。また、国内のブリ消費は西日本と北陸に比べ、東日本は消
費機会が少ない。
輸出は対米向け冷凍フィレが伸びており、2015年の輸出総額は138億円と過去最高を記録している。
第2部
ブリ養殖の成長戦略
国内市場は人口減少や所得水準の低下により水産物需要は減少しており、今後も市場の縮小が続くものと思われる。一方で海外は
人口増加・経済成長・健康志向の高まり・日本食の浸透など、水産物需要を後押しする要因が多い。実際に水産物供給量はこの30
年で2倍以上に伸びている。今後も、世界的な水産物需要は伸びていくことが予想されている。特に中国・東南アジアといったア
ジア圏が水産物市場をけん引する見込みである。
この水産物需要の高まりを支えているのが、養殖業であり、世界では成長産業と目されている。その代表例がノルウェーのアトラ
ンティックサーモン養殖であり、2015年の輸出量は100万トン、輸出金額は日本円で6,000億円を超える規模に成長している。
今後のブリ養殖は、縮小しつつある国内市場で地位を確保しつつ、海外に販路を広げていくことが、成長に欠かせない視点となる。
生産量や国内市場の動向を踏まえると、海外での水産物需要の高まりをとらえ、2020年に現在の2倍(原魚ベースで2.5万トン)、
2030年にさらに倍の5万トンを目指すという具体的な方向が考えられるのではないか。
このような成長のためにはコストコントロールにより販売価格の低下・安定を実現するととともに、アメリカ以外の市場での販路
拡大が重要となる。
前者の生産面では、飼料・種苗の開発・スケールメリットの追求が、後者の販売面ではアジア・ヨーロッパなどターゲットとする
市場のニーズに合わせたプロモーションや商品設計が必要である。
(注)本レポートでは魚種の名前をカタカナのブリで統一している。また、養殖ブリにはカンパチ等のブリ類を含めない。
したがって、ブリ養殖の成長戦略には、カンパチについての記述を含んでいない。
また、「養殖ブリ」は天然ブリとの対比のうえで魚そのものを指し、「ブリ養殖」は事業としてのブリ養殖業を指す。
2
第1部
ブリ養殖の現状
Contents
Page
Ⅰ
ブリ養殖の概要
4
Ⅱ
ブリ養殖のフードチェーン分析
6
Ⅲ
輸出の状況
18
3
Ⅰ.ブリ養殖の概要 【水産物における位置】
日本の海面養殖業(魚類)の生産額は2013年度2,148.7億円であり、そのうち51.9%をぶり類が占めている。ブリ養殖
は日本の魚類養殖を代表する産業といえよう。
また、ブリ類の輸出額は2015年は138億円となっており、魚類ではさばに次ぎ2番目に高い額となっている。さばは缶
詰等への加工用として輸出されており、単価の高い魚種としてはブリが最重要品目である。
海面養殖業の魚種別生産額(2013年)
農林水産省の定める重要品目の輸出額(2015年)
その他の魚類
しまあじ
ぎんざけ
4,454
4,791
ふぐ類 2.2% 2.1%
8,579
4.0%
くろまぐろ
29,307
13.6%
7,052
3.3%
2013年度
海面養殖業生産額
(魚類)
2,148.7億円
ブリ類
111,500
51.9%
まだい
49,185
22.9%
分類
輸出額
(億円)
(構成比)
輸出数量
(トン)
トン当たり
単価
(万円)
主要輸出国
(上位3国)
水産物
2,757
-
-
-
香港・米国
中国
ホタテ貝
591
21.4%
79,779
74.1
中国・米国
ベトナム
さば
179
6.5%
186,025
9.6
タイ・エジプト
ベトナム
ブリ
138
5.0%
7,944
173.7
米国・香港
中国
さけ・ます
72
2.6%
20,362
35.4
中国・ベトナム
タイ
単位:100万円
4
出所:農林水産省「漁業生産額」「平成27年農林水産物・食品の輸出実績」
Ⅰ.ブリ養殖の概要 【生産地】
ブリ類の養殖は比較的高い海水温が必要であることから、生産地は西日本、特に九州・四国に集中している。
鹿児島はブリで26.1%、カンパチで53.2%の生産シェアを有しており、ブリ類全体では33.2%と全国1位のシェアを有している。宮崎
はブリで9.1%(全国4位)、カンパチで6.0%(全国6位)であり、ブリ類全体では8.0%(全国5位)のシェアとなっている。
世界的にはブリ類の養殖は日本が92.0%の生産シェアであり、世界の養殖ブリの全量は日本で生産されていると言ってよい状況である。
ブリ類の国内地域別生産状況(2013年)
ブリ類計
(t)
ブリ
(%)
134,608
全国
(t)
世界のブリ類養殖状況(2012年)
(%)
(t)
(%)
94,419
36,328
19,336 53.2%
鹿児島
44,681 33.2%
24,663 26.1%
大分
20,007 14.9%
15,668 16.6%
3,488
愛媛
18,185 13.5%
13,705 14.5%
高知
11,096
8.2%
7,870
宮崎
10,816
8.0%
長崎
8,217
香川
中国・台湾・韓国
その他の
ブリ類
カンパチ
(t)
(%)
その他
13,850
8.0%
3,861
682
17.7%
9.6%
851
22.0%
4,178
11.5%
302
7.8%
8.3%
3,226
8.9%
x
8,636
9.1%
2,174
6.0%
6.1%
6,094
6.5%
408
1.1%
1,715
44.4%
7,332
5.4%
4,954
5.2%
2,378
6.5%
x
-
熊本
7,104
5.3%
6,299
6.7%
806
2.2%
-
-
徳島
3,551
2.6%
3,247
3.4%
305
0.8%
-
-
三重
1,360
1.0%
1,360
1.4%
-
-
-
-
2012年
ブリ類生産量
17.4万トン
7
0.2%
日本
160,215
92.0%
単位:トン
5
出所:農林水産省「海面漁業・養殖業生産統計」、FAO FishStat
Ⅱ.ブリ養殖のフードチェーン分析【全体像】
ブリ養殖のフードチェーンは、個人・組織(企業・漁協)が養殖経営体として種苗から成魚まで養殖し、その成魚を加
工業者や卸売業者に販売するという流れとなっている。特に養殖ブリにおいては加工業者を経由するルートが重要であ
り、加工業者がフィレ等へ加工し、国内外に出荷するケースが多い。
近年では加工業者を中心としたインテグレーションが進んでおり、養殖・加工を一体的に手掛ける企業が存在感を増し
ている。
養殖ブリの生産・流通の全体像
養殖
加工
養殖経営体が種苗(モジャコ)から成魚まで
養殖する段階。
飼料メーカーをはじめとして多くの関係企業
が関係する。
養殖経営体
(個人・組織)
販売
一次加工業者は養殖経営体から成魚を仕
入れ、フィレ・ロイン等に加工。
二次加工業者はフィレ・ロイン等を仕入れ、
加工食品を製造。
成魚
卸売業者は養殖経営体や加工業者から製
品を仕入れ、最終販売業者(小売・飲食等
に販売)
輸出は卸売業者(主に商社)が担っている。
卸売業者
(中央卸売市場・商社等)
産地市場を経由する場合もある
フィレ
ロイン等
飼料
メーカー
種苗業者
(天然・人工)
養殖機材
メーカー
薬品
メーカー
加工業者
(一次加工・二次加工)
加工機器
メーカー
最終販売業者
(小売・飲食等)
海外
(現地商社・小売・飲食等)
6
出所:日本経済研究所
Ⅱ.ブリ養殖のフードチェーン分析【養殖】①生産量の推移
ブリ類の生産量は変動はあるものの、この10年は15万トン前後で推移している。そのうちブリは10万トン前後、カン
パチが4万トン前後となっている。
2014年はブリ類全体で13.4万トンとこの10年間で最も少なくなっている。ブリは9.4万トンと2010年と同水準まで減
少しているが、この原因は2013年に天然種苗が不漁であり、種苗を確保できなかった事業者が多かったことが原因とみ
られる。2015年は天然種苗が豊漁であることから、生産量は持ち直すことが予想される。
ぶり類の魚種別生産量の推移
(1000t)
ブリ
200
ブリ類計
157.6
150
3.6
46.9
150.1
3.3
47.0
159.7
4.3
51.8
155.0
4.1
47.5
カンパチ
159.8
4.7
50.1
その他のブリ類
160.2
155.1 154.9
5.7
5.6
146.2
138.9
3.7
4.8
47.3
48.7
2.9
150.4
4.6
134.6
41.7
3.9
38.8
37.9
40.5
36.3
100
50
107.0
99.8
103.6
103.4
104.9
102.1
100.6
93.6
2003
年
04
05
06
07
08
09
10
104.6
115.6
107.1
94.4
0
11
12
13
14
7
出所:農林水産省「海面漁業・養殖業生産統計」
Ⅱ.ブリ養殖のフードチェーン分析【養殖】②経営体数の推移
ブリ類の養殖経営体数は1978年の3,473経営体をピークに大きく減少しており、2013年は632経営体と1978年に比べ
約1/5に減少している。
特に個人経営体の減少が顕著である。2003年に642経営体だったものが、2013年には354経営体と4割減少している。
養殖経営体(ぶり類)の推移
養殖経営体(ぶり類)の組織別経営体数の推移
(経営体)
3,473
600
3,102
3,000
2003
(経営体)
700
642
4,000
2,841
500
2,302
2,000
-81.8%
400
1,725
2008
2013
-44.5%
503
-24.3%
354
300
350
318
265
1,284
1,023
1,000
200
839
632
100
0
1973
年
78
83
88
93
98
2003
08
13
0
個人
会社
8 6 4
10 2 1
12 10 8
漁業
協同組合
漁業
生産組合
共同経営
8
出所:農林水産省「漁業センサス」
Ⅱ.ブリ養殖のフードチェーン分析【養殖】③経営体の構造
ブリ養殖経営体の販売金額別経営体数をみると、年間販売金額が5,000万円~1億円及び1~10億円の層の経営体が多い
ことがわかるが、これらの層の経営体数はこの10年で大幅に減少している。ただしブリの養殖数が大幅に減少している
わけではないことから、より大規模な経営体に生産が集中していることが推測される。
組織別にみると販売金額の大きい経営体はおおむね組織経営体であり、企業による養殖が伸びていることがうかがえる。
ブリ養殖業の販売金額別経営体数
0
100
500万円未満
27
32
25
500~1,000
24
32
26
200
ブリ養殖業の販売金額別・組織別経営体数(2013年)
300
400 (経営体)
187
124
132
5,000万円
~1億円
2008
2013
270
167
1億円~10億円
312
228
32
11
2,000~5,000
115
17
個人経営
5,000万円
~1億円
325
17
19
11
112
55
46
1~2
5~10
1
10億円以上
0
組織経営
77
12
2~5
376
150 (経営体)
21
5
1,000~2,000
2003
100
14
11
500~1,000
2,000~5,000
10億円以上
50
500万円未満
67
50
43
1,000~2,000
0
71
21
11
9
出所:農林水産省「漁業センサス」
Ⅱ.ブリ養殖のフードチェーン分析【養殖】④経営状況-個人経営体個人経営体の経営状況は、比較的単価が上昇した2013・2014年は漁労収入が漁労支出を上回り漁労所得がプラスと
なっているが、それ以前は所得はマイナスに振れている。この経営難が個人経営体の減少につながっているものと思わ
れる。
漁労支出(コスト)は飼料代が6割、種苗代が2割とこの2つがコストの大半を占めており、特に飼料代は国際的な飼
料原料の変動に左右されやすく、経営を不安定化する最大の要因となっている。
個人経営体の経営状況の推移
(百万円)
100
86.4
漁労収入
85.5
漁労支出
89.3
漁労所得
87.6
76.8
80
個人経営体の漁労支出の構成
72.3
86.8
93.7
(百万円)
3.9
80
13.1
40
5.8
1.7
1.3
-10.2
-0.9
-3.1
3.6
60
-1.1
-6.7
14.3
19.5
(72.1)
(83.8)
(83.8)
07
08
(88.6)
100
2006
年
(78.7)
(79.9)
09
10
11
12
20.7
11.2
10.1
16.6
16.7
16.6
16.7
14.9
53.2
53.3
14.9
15.5
45.3
46.5
2006
年
07
09
10
60.4
20
60
(80.6)
19.7
9.8
40
40
80
その他
15.2
13.9
0
20
種苗代
72.0
60
20
飼料代
100
(85.5)
13
(90.2)
14
56.8
52.6
59.0
52.8
0
08
11
12
13
14
10
出所:農林水産省「漁業経営調査」
Ⅱ.ブリ養殖のフードチェーン分析【養殖】④経営状況-企業経営体企業は個人経営体と異なり2010・2011年は漁労所得はプラスであったが、2012~2014年にかけてはマイナスとなっ
ている。個人経営他と漁労所得の推移は異なる動きを示しているが、いずれにしても経営が安定していない状況である
ことが見て取れる。
生産コストにしめる飼料代の割合は約7割であり、種苗代が1割となっている。
会社経営体の経営状況の推移
(百万円)
漁労収入
漁労支出
会社経営体の漁労支出の構成
(百万円)
漁労所得
400
225.2
242.5
230.0
200
100
297.7
263.5
263.5
208.5
その他
73.5
300
54.1
55.4
2.2
2.1
1.3
0
200
-8.5
100
-5.1
-22.4
-23.4
-11.3
-23.4
36.1
40.5
40.8
26.2
28.4
29.6
(222.9)
(250.9) (252.3)
(213.6)
23.6
400
(286.9)
41.6
29.2
27.8
205.4 210.9
138.9
29.2
54.1
42.6
100
(286.9)
(312.2) (296.4)
55.3
31.3
200
300
種苗代
366.3
314.3
300
飼料代
400
500
162.7 157.8
234.1 232.1 234.1
123.0
(377.6)
500
2006
年
07
08
09
10
11
12
13
0
14
2006
年
07
08
09
10
11
12
13
14
11
出所:農林水産省「漁業経営調査」
Ⅱ.ブリ養殖のフードチェーン分析【養殖】⑤種苗
種苗は大きく天然種苗と人工種苗に分かれる。天然種苗はブリの稚魚(モジャコ)を採捕し養殖に利用するものである。天然資源である
ことから、資源量の制約があるが、その資源量は安定しているとされている。ただし年によっては不漁となることがあり、その際には種
苗代が上がってしまうリスクがある。
人工種苗は、早期採卵と早期種苗生産技術が開発されたことから、人工種苗を用いた早期養殖生産が可能となっている。近年、企業・漁
協主導の養殖現場で利用されるようになっている。また、完全養殖種苗(人口成魚からの種苗生産)を用いた養殖の事業化も、一部事業
者が手掛け始めたところである。
天然種苗の採取量と種苗代の推移
(千t)
180
人工種苗の概要
(2006=100)
140
種苗採取量
種苗代(2006年を100として指数化)
160
120
140
100
120
80
100
80
60
40
144
109
106
77
75
89
107 104
116
159
60
131
40
82
20
20
0
0
2003 04
年
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
人工種苗のメリット
• 安定的な種苗確保:種苗を採捕するコストがかからず、不漁のリス
クも回避可能
• 通年出荷が可能:天然種苗のものと出荷時期が異なるため、これま
での端境期に出荷可能(加工場の稼働率向上にも寄与)
• 赤潮被害の回避:赤潮の発生時期の養殖が1シーズンのみであり、
被害を避ける可能性が向上
天然種苗の養殖時期
2年目
月 1年目
1
2
3
4 種苗採捕
5
6
7
8
9
10
11
主に冬場
出荷
12
出所:農林水産省「漁業センサス」「海面漁業生産統計」「ブリの資源・漁業及び 資源管理について」
人工種苗の養殖時期
月 1年目
1
2
3
4
5
赤潮発生 6
7
時期
(6~9月) 8
9
10
11 採卵
12
2年目
3年目
種苗 主に初夏
出荷
12
Ⅱ.ブリ養殖のフードチェーン分析【養殖】⑥飼料
生産コストの過半をなす飼料は、大きく生餌・MP・DP(もしくはEP)の3つがある。生餌のみの養殖は品質維持・環
境配慮の面からほとんど行われていない。
ブリ養殖全体では生餌と配合飼料の使用割合がおおむね1:1となっており、生餌と配合飼料を組み合わせたMPの使用
が一般的なものとなっていることがうかがえる。ただし、企業養殖では給餌管理が行いやすいDP(特にEP)の使用が進
んでいる(ヒアリングによる)。
飼料の違い
養殖生産の際の投餌量(ブリ・マダイ、2014年)
種類
概要
配合飼料
• イワシ・アジ・サンマなどの多獲性魚種を
餌として与える。
• 季節により魚種が変わるため品質が一定
しないこと、養殖独特の魚臭さが出る。
• 過度な使用は漁場の水質悪化につながる
恐れあり。
生餌
生餌
100%
15,317
80%
185,730
60%
• 生餌と粉末配合飼料を混合し、粒上にした
半生の固形資料を与える。
• 混合する生餌の種類・品質によってエサの
質が変わり肉質にも影響がでることから、
給餌管理が重要となる。
MP
(モイストペレット)
• 魚粉・魚油・大豆油かす栄養剤などを配合
し栄養バランスを整えた乾燥固形飼料。エ
クストルーダーと呼ばれる造粒機械で高温
高圧加工して成型した飼料を特にEP(エク
ストルーダーペレット)という。
• EPは消化吸収性が高く、給餌管理が容易
であり、漁場汚染の防止にもつながる。
DP
(ドライペレット)
160,387
40%
192,130
20%
0%
ブリ
マダイ
単位:トン
13
出所:農林水産省「海面漁業生産統計」
Ⅱ.ブリ養殖のフードチェーン分析【養殖】⑥飼料
配合飼料の原料のうち4~5割を魚粉・魚油という魚由来の原料が占めている。この魚粉・魚油の大半が南米からの輸
入に依存している状況であるが、近年、原料となる魚(主にペルー産カタクチイワシ)の減産、世界的な飼料需要の増
加に加え、円安が進んだことから、輸入単価が大きく上昇しており、経営を圧迫する大きな要因となっている。
魚粉の輸入量・輸入価格の推移
(千t)
輸入量
魚油の輸入量・輸入単価の推移
(千円/t)
単価
(千t)
500
250
100
400
200
80
300
150
60
輸入量
(円/kg)
単価
300
250
200
150
200
100
40
100
100
0
2000
年
02
04
06
08
10
12
14
50
20
0
0
50
0
2000
年
02
04
06
08
10
12
14
14
出所:財務省「貿易統計」
Ⅱ.ブリ養殖のフードチェーン分析【加工】
養殖されたブリの成魚はそのまま鮮魚として出荷されるものもあるが、多くは加工場でフィレなどに一次加工された後に出荷される。特
に欧米への輸出にあたっては、HACCP認定を受けた加工場で加工されたものしか輸出不可能である。対米向けのFDA-HACCPの認定施設
は増えているが、EU向けのEU-HACCP認定施設については6施設のみ(ブリ加工に限る)であり、EU向けの輸出は限られたルートでし
か行えない状況である。
近年、養殖経営体との連携のもとブリ加工事業を開始する事業者も出てきている。特にブリの輸出に力を入れる傾向がみられる。
対EU輸出水産食品取扱認定施設(養殖ブリ関連)
近年のブリ加工事業の展開事例
地域
企業・団体名
加工場名
地域
鹿児島県
東町漁業協同組合
産地付加価値向上施設
宮崎県
黒瀬水産㈱
食品加工施設
大分県
㈱兵殖
津久見加工場
熊本県
㈱ブリミー
加工場
愛媛県
森松水産冷凍㈱
-
企業名
概要
• 総合商社三井物産㈱、養殖業の生
産・加工・販売を行う㈱ダイニチ、冷
凍加工技術を持つ㈱オンスイが共
同出資し、㈱宇和島海道を設立。
愛媛県
㈱宇和島海道
• ブリ・カンパチ・マダイなどの加工販
売事業を実施し、商社のネットワー
クで海外にも販路を広げる。
• 2016年夏に稼働開始予定
• 近畿大学有路昌彦氏(水産養殖事
業研究)を中心に、㈱自然産業研究
所、新宮埠頭㈱、㈱長崎ファーム、
徳島魚市場グループ、富士通㈱、積
水化成品工業㈱などが参画。A-FI
VE出資案件でもある。
和歌山県
和歌山県
㈱ダイニチ
㈱食縁
• ブリを中心に国内養殖魚の国内展
開・海外輸出を手掛ける。
• 2015年に工場稼働。2016年には近
畿大学が開発した完全養殖種苗に
よるブリを国内大手GMSと連携し
販売を開始。
海南シーフードセンター
15
出所:厚生労働省及び水産庁「対EU輸出水産食品取扱認定施設」、各種新聞情報
Ⅱ.ブリ養殖のフードチェーン分析【販売】①価格動向
養殖ブリの出荷時期は主に冬場であることから、市場の入荷量も冬場が主であり、夏場は大きく減少する。これに伴い
夏場の端境期は比較的単価が上昇する傾向にあるが、入荷量が増加する冬には単価が低下する動きとなる。
ただし、2014年は天然種苗の不足が原因で生産量が大きく減少したため、需要が引き締まり、価格が高値で推移するこ
ととなった。2015年は前年の影響が残っているものの、価格は落ち着きを見せ始めている。
養殖ブリの入荷量の推移(東京卸売市場)
養殖ブリの価格推移(東京卸売市場)
(円/kg)
(t)
1,300
2,500
1,200
2,000
1,100
2010
1,500
2011
2012
2013
1,000
2014
2010
1,000
2011
2012
900
2013
2014
800
2015
2015
700
500
600
0
1
月
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
500
1
月
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
16
出所:東京都中央卸売市場
(注)東京都中央卸売市場では養殖ブリを「はまち」と記載しているが、言葉の統一上、ここでは「養殖ブリ」とした。
Ⅱ.ブリ養殖のフードチェーン【販売】②地域別の消費傾向
ブリ(天然・養殖問わず)の世帯当たりの年間購入頻度をみると、江戸時代からブリの食文化が根付いている北陸を除
いて、近畿地方以西の西日本で食される機会が多いことがわかる。これは天然ブリ・養殖ブリともに西日本が主な産地
であることが理由と思われる。
今後の国内市場の開拓という点では、関東以東の東北・北海道での消費機会の増加が一つのカギとなろう。
ブリの年間購入頻度(2015年)
(100世帯当たり年間購入頻度:回)
1,400
1,230
1,200
941
1,000
864
840
850
800
659
569
600
451
400
237
169
200
0
北海道
東北
関東
北陸
東海
近畿
中国
四国
九州
沖縄
17
出所:総務省「家計調査」
Ⅲ.輸出の状況 ①輸出数量・輸出額の推移
ブリの輸出量は2015年は7,940トン(前年比25.7%増)、輸出額は138.3億円(前年比38.3%増)と前年を大きく上
回り、過去最高水準に達している。輸出数量の7,940トンを原魚換算(フィレは歩留まり60%と仮定)すると1.3万ト
ンとなるが、これはブリの平均的な生産量10万トンの10%超となる。養殖ブリにとって海外市場はすでに非常に重要な
存在となっていると言えよう。
主な輸出品目は「冷凍フィレ」であり、全輸出量のおよそ8割を占め、ブリの輸出をけん引している状態である。
ブリ(冷蔵・冷凍フィレ)の輸出数量
(t)
冷蔵フィレ
ブリ(冷蔵・冷凍フィレ)の輸出額
(百万円)
冷凍フィレ
冷蔵フィレ
冷凍フィレ
16,000
10,000
7,940
8,000
13,832
14,000
12,000
6,467 6,316
6,000
5,084
5,446
4,140
2,505
2,000
6,569
3,510
4,000
867
2,131
2,774
10,002
10,000
3,875
4,049
5,267
8,732
7,761 7,726
8,000
5,513
6,000
5,081
4,000
11,503
6,570
3,879
1,331
3,427
7,945
4,481
5,962
5,786
7,017
2,000
1,639
1,380
1,366
1,209
1,397
1,200
1,236
1,371
2008
年
09
10
11
12
13
14
15
2,548
2,086
2,088
1,799
1,941
1,715
2,057
2,329
2008
年
09
10
11
12
13
14
15
0
0
18
出所:財務省「貿易統計」
Ⅲ.輸出の状況 ②ブリの輸出相手国
国別に輸出状況をみると、米国(2015年輸出量6,650トン)、中国(401トン)、カナダ(139トン)、タイ(126ト
ン)、台湾(105トン)、シンガポール(83トン)と続いており、米国の需要が圧倒的に多い状況である。
現在はほぼアメリカの需要に応じて輸出が増えている状況であるが、リスクコントロールの観点からも売り先(輸出
先)を多様化していくことが重要であろう。
ブリ(冷蔵・冷凍フィレ合計)の輸出相手国(2015年)
北米
6,788t
ヨーロッパ
281t
イギリスベルギー
69t
42t
オランダ
32t
ドイツ
フランス
35t
50t
カナダ
139t
アジア
803t
中国
401t
韓国
52t
タイ
126t
米国
6,650t
台湾
105t
シンガポール
83t
5,000(t)
2,500
1,000
オーストラリア
28t
19
出所:財務省「貿易統計」
Ⅲ.輸出の状況 ③冷凍フィレ輸出
ブリ(冷凍フィレ)の2015年の輸出量6,569トンのうち、北米(主にアメリカ)向けが5,741トンと全体の87.4%を占
めている。北米向け輸出量は、2008年から6倍以上もの伸びを見せている。輸出額でも2015年の138.3億円のうち北
米は101.3億円を占めており、現時点で北米は最も重要なマーケットとなっている。
アジアもいまだ量は少ないものの、徐々に伸びを見せている。
ブリ(冷凍フィレ)の地域別輸出数量
(t )
アジア
7,000
ヨーロッパ
ブリ(冷凍フィレ)の地域別輸出額
(百万円)
12,000
北米
5,747
6,000
5,000
アジア
ヨーロッパ
北米
10,138
10,000
8,000
4,000
6,000
3,000
4,000
2,000
2,000
1,000
579
205
0
2008
年
09
10
11
12
13
14
15
940
352
0
2008
年
09
10
11
12
13
14
15
20
出所:財務省「貿易統計」
Ⅲ.輸出の状況 ④冷蔵フィレ輸出
冷蔵フィレも冷凍フィレと同様に、北米を主な市場としているが、北米向けの冷蔵フィレの輸出数量は減少しており、
冷凍フィレに置き換わっている状況である。
一方で、アジアへの輸出は量は少ないものの、徐々に伸びを見せており、寿司・刺身商材として認知度は徐々に高まっ
ている状況である。
ブリ(冷蔵フィレ)の地域別輸出数量
(t )
アジア
1,800
ヨーロッパ
ブリ(冷蔵フィレ)の地域別輸出額
(百万円)
3,000
北米
アジア
ヨーロッパ
北米
1,600
1,400
1,200
2,000
1,041
1,779
1,000
800
1,000
600
400
224
200
361
76
0
2008
年
09
10
11
12
13
14
134
0
2008
年
15
09
10
11
12
13
14
15
21
出所:財務省「貿易統計」
Ⅲ.輸出の状況 ⑤輸出単価の推移
輸出単価は冷蔵・冷凍フィレ間で大きな価格差はなく、2015年は1,700円程度となっている。
2011~2013年にかけて輸出単価が大幅に低下している。2011~2012年については、生産増加による国内価格の低下
と北米向け輸出量の増加による現地価格の低下圧力が原因である。2013年は前年度までの冷凍在庫が残ったこと、輸出
量が伸びたことが原因で価格低下が起きたものと考えられている。2014・2015年は国内相場の上昇、堅調な海外需要
を背景に単価が上昇に転じている。
ブリ(冷蔵フィレ)の輸出単価
(円/kg)
冷蔵フィレ
冷凍フィレ
1,800
1,751
1,699
1,600
1,400
1,200
1,000
2008
年
09
10
11
12
13
14
15
22
出所:財務省「貿易統計」
第2部
ブリ養殖の成長戦略
Contents
Page
Ⅰ
国内外の市場動向
24
Ⅱ
ブリ養殖の成長戦略
32
おわりに
42
23
Ⅰ.国内外の市場動向 【日本の水産物需要】①国内市場の停滞
1990年代後半から国内の市場環境は大きく変化をしてきている。まず重要なのが、日本の人口推移である。日本では
2010年以降総人口が減少を始めているが、それに先んじて1995年から労働・消費の中心となる生産年齢人口(15~64
歳人口)の減少が始まっている。さらに、労働者一人当たりの所得(現金給与総額)も1997年以降、低下傾向にある。
日本の人口推移(実績・推計)
(百万人)
0-14
総人口(右軸)
100
実質賃金指数(季節調整済)の推移
15-64
64+
(百万人)
140
(2010年平均=100)
115
推計値
120
110
80
100
105
60
80
60
40
100
40
95
20
20
0
0
1980
年
90
2000
10
20
30
40
50
90
1990
年
95
2000
05
10
15
(注)事業所規模30人以上の全産業の事業所における現金給与総額
24
出所:総務省「国勢調査」「毎月勤労統計調査」、国立社会保障人口問題研究所推計人口
Ⅰ.国内外の市場動向 【日本の水産物需要】②長期推移
我が国では、人口構造変化を背景に、1990年代後半から2000年代前半をピークに魚介類・肉類(牛肉・豚肉・鶏肉)
からなる動物性たんぱく源全体の消費量の減少が続いている。
また、一人当たり所得の低下を背景に、水産物や牛に比べ単価の安い鶏肉・豚肉の需要が堅調な状況にある。特に動物
性たんぱく源に占める魚の割合(魚食割合)は低下が続き、2014年には50%を切っている。今後TPPの影響で牛肉・豚
肉の価格が減少することとなれば、水産物はより畜産物に需要を奪われる可能性も想定しておく必要がある。
日本の食用魚介類・肉類の消費量(純食料)の推移
(千t)
10,000
魚介類
牛肉
豚肉
鶏肉
魚食割合
100%
90.0%
8,000
80%
6,000
60%
47.7%
4,000
40%
2,000
20%
0
0%
1960
年
65
70
75
1980
年
85
90
95
2000
05
10
25
出所:農林水産庁「食糧自給表」
Ⅰ.国内外の市場動向 【世界の水産物需要】①長期推移
日本の水産物供給量は2000年を境に減少を続けているが、その一方で、世界の水産物市場は人口増加やアジア地域の経
済成長を背景に、急拡大を続けている。
1980年の供給量は全世界で5,000万トンであったが、以降、大幅な増加が続いており、2011年は1億2,300万トンと
1980年比146%の増加となっている。
日本及び全世界の水産物供給量の推移
(百万t)
(百万t)
10
129.6
8.8
120
日本
8
140
7.5
6.8 100
6
80
全世界
60
4 50.3
40
2
20
0
0
1980
年
82
84
86
88
90
92
94
96
98
2000
02
04
06
08
10
26
出所:FAO「Food Balance Sheet」
Ⅰ.国内外の市場動向 【世界の水産物需要】②地域別の推移
地域別には中国・アジアでの水産物供給量の増加が顕著である。人口の増加だけでなく、経済成長により高所得層・中
間層が厚みを増してきたことにより、これまで贅沢品であった水産物への需要が高まったことが原因と考えられる。
ヨーロッパ・アメリカは健康志向から畜肉よりも魚が好まれる傾向があり、水産物への需要は堅調である。
世界地域別の水産物供給量の推移
(百万t)
50
中国 45.0
40
アジア(日本・中国除く)
37.0
30
20
ヨーロッパ 16.1
アメリカ 13.5
10
アフリカ 10.4
日本 6.8
0
オセアニア 0.8
1980 82
年
84
86
88
90
92
94
96
98 2000 02
04
06
08
10
27
出所:FAO「Food Balance Sheet」
Ⅰ.国内外の市場動向 【世界の水産物需要】③漁獲・養殖生産量の推移
世界の水産物需要が増加する中、養殖業の重要性が高まっている。
天然漁獲(いわゆる漁業)は天然資源量の制約があることから漁獲量の増加は望めない状況にある中、養殖業は増加す
る需要を受けとめる貴重な産業となっており、世界ではもっとも成長が見込まれる分野と目されている。
世界の漁業・養殖業生産量の推移
(百万トン)
200
183
養殖生産量
180
天然漁獲量
160
総生産量
140
90
120
100
80
60
40
20
92
20
0
1950
55
60
65
70
75
80
85
90
95
2000
05
10 (年)
28
出所:FAO「Food Balance Sheet」
Ⅰ.国内外の市場動向 【世界の水産物需要】④ノルウェーのサーモン養殖
養殖業が成長するなか、海面魚類養殖でもっとも成長を遂げているのがサーモンであり、特にノルウェーのアトラン
ティックサーモンは1990年代から急激に成長している。
輸出先はヨーロッパとアジア(主に日本)である。ノルウェーサーモンは、特に生食用商材として市場を開拓してきて
おり、世界では寿司といえばサーモンという状況になっている。
ノルウェーのサーモン生産・輸出の推移
ノルウェーのサーモンの地域別輸出量(2010・2015年)
0
200
400
600
800
1,000 (千t)
(千t)
(十億NOK)
60
1,400
826.1
+29.8%
1,200
輸出量(右軸)
50
636.5
Europe
輸出額
Africa
生産量(右軸)
1,000
40
3.3
7.5
103.7
Asia
800
+125.3%
155.7
30
+50.1%
2010
2015
600
20
North and Central
America
38.0
41.3
+8.8%
400
South America
10
200
0
Oceania
0
1980
年
85
90
95
2000
05
10
15
0.5
-34.5%
0.3
1.2
2.9
+143.9%
29
出所:Statistics Norway , ノルウェー現地調査(2014年)
Ⅰ.国内外の市場動向 【世界の水産物需要】⑤将来の需要見通し
世界銀行レポート「Fish to 2030」(2013年12月)では、人口増加・経済成長に伴い、2030年までに世界の水産物需
要は約3割増加すると予測されている。特に中国、東南アジア、インド等のアジア圏での成長が見込まれる。
この将来見通しでも世界の主要地域で需要が減少するのは日本のみであり、日本市場のみではなく、世界市場を見据え
た戦略構築が必要であるといえよう。
世界の水産物需要の将来見通し
(百万トン)
160
27.0%
140
(百万トン)
60
30.1%
2010
50
120
40
100
80
30
60
20
40
34.0%
10
20
36.3%
8.1%
-9.0%
6.1%
2020
2030
ECA = Europe and Central Asia
NAM = North America;
LAC = Latin America and Caribbean
CHN = China
JAP = Japan
EAP = other East Asia and the Pacific
SEA = Southeast Asia
IND = India
SAR = other South Asia
MNA = Middle East and North Africa
AFR = Sub-Saharan Africa
ROW = rest of the world
84.3%
45.5%
32.5%
-1.1%
29.7%
16.2%
0
(0)
0
Global
ECA
NAM
LAC
EAP
CHN
JAP
SEA
SAR
IND
MNA
AFR
ROW
30
出所: World Bank ”Fish to 2030”より日本経済研究所作成
Ⅰ.国内外の市場動向 【今後の市場見通し】
日本は人口減少や生産年齢人口の減少・高齢化、そして実質賃金の低下などによりすでに水産物需要は減少しており、
この傾向は今後も続くことが予想される。
一方で世界では人口増加、中間層の成長などによって水産物需要は増加しており、今後もその傾向は続くものと思われ
る。このような中、水産物需要を支える養殖業は、世界では成長産業と目されており、今後も成長が期待されている。
今後の水産物需要の見通し
環境変化
水産物需要の将来見通し
縮小傾向が続く
人口減少
日本
一人当たり水産物消費量は世界で最も多
いが、近年は減少傾向にある。
魚介類の消費量は、少子化・高齢化とい
う人口構造の変化、魚介類に比べ安価で
ある肉類の消費量の増加により、減少傾
向にある。
国内市場のみをターゲットにした養殖業
は縮小均衡に向かうことが予想される。
人口構造変化(生産年齢人口の減
少・高齢化の進展)
実質賃金の頭打ち
急成長が続く
世界的な人口増加
グローバル
アジアの新興国を中心とした人口増加・
経済成長により需要は急伸している。
アジアを中心とした経済成長による
富裕層・中間層の増加
欧米等、先進国でも健康志向の高まりに
より水産物需要は堅調に推移。
養殖業の成長産業化
日本食の浸透
特に養殖業は高まる需要を背景に今後も
成長が続く見込み。
31
出所:日本経済研究所
Ⅱ
ブリ養殖の成長戦略
【成長の方向性】①ブリの世界商材化
今後国内市場が縮小していく中、国内市場の規模を維持する一方で、海外への輸出量を増加させていくことが、ブリ養
殖業界の成長に必須であろう。
今後の目標として、サーモン・マグロのように世界中でブリが食される「ブリの世界商材化」を目指し、輸出を2030年
に5万トン(原魚換算)まで引き上げることを目標としてもよいのではないか。これはノルウェーの2015年のサーモン
輸出量(103.4万トン)の1/20にあたる規模である。
今後の養殖ブリの成長イメージ
(千t)
方向性
130
140
100
100
輸出を大幅拡大
112
120
輸出 13
倍増
25
国内 87
現状維持
87
50
倍増
世界の水産物需要の拡大と
日本食の浸透を追い風に、ブ
リを世界商材として売り出す。
2020年に2.5万t(フィレ換算
1.5万t)、2030年に5万t(フィレ
換算3.0万t)まで輸出を拡大。
80
60
40
微減
80
20
国内は堅守
人口減少が進む中、市場は
縮小していくが、ブリの需要を
掘り起こし、ブリ市場の規模
の減少を食い止める。
0
2015年
(予測)
2020年
2030年
32
出所:日本経済研究所
Ⅱ
ブリ養殖の成長戦略
【成長の方向性】②サーモンとブリの比較
ノルウェーサーモンの輸出量(100万トン)の1/4にあたる25万トンが寿司をはじめとした生食用と仮定すると、2030年
の養殖ブリ輸出量年間5万トンは、その1/5の規模にあたる。
日本を除く世界の寿司ネタの大半をノルウェーサーモンが占めていることを踏まえると、握り寿司パック(5貫)のうち
1貫がブリとなれば、世界に5万トンのブリの需要が発生するということになる。
5万トンのブリ需要のイメージ
いますべてがサーモンである寿司パック(5貫)のうち
1貫が養殖ブリに置き換えられれば、5万トンを達成
養殖ブリ5万トンはノルウェーサーモン(生食用)の1/5の規模、と考えると。。。
(万t)
100
80
2015年
2030年
ほぼサーモン
ほぼサーモンだが
ひとつはブリ
スモークサーモンへの加工
加熱用で使用
75
60
寿司に
例えると
40
寿司をはじめとした生食用
国内仕向け
20
25
1/5
輸出(主に生食用)
8
ブリ
5
0
ノルウェー
サーモン
(2015年)
日本
養殖ブリ
(2030年)
33
出所:日本経済研究所
Ⅱ
ブリ養殖の成長戦略
【成長の方向性】③マス戦略の必要性
すでに養殖ブリはアメリカをはじめとして、高級食材として一定の認知を受けている状況であるが、今後より市場を獲
得していくためには、より多くの実需者(レストラン・小売等)が取り扱いやすい価格に下げ、多くの販売量を獲得し
に行く、マス戦略が必要になるだろう。
ノルウェーサーモンの輸出単価(冷蔵フィレ)は750円/kgであり、この水準には及ばずとも、現在よりは単価を下げて
も利益が上がる構造を作る必要がある。
養殖ブリの成長イメージ
(円/kg)
2,000
2015年日本養殖ブリ
冷蔵・冷凍フィレともに輸出単価は約1,700円、輸出量は
1.3万トン(フィレ8,000トン)であり、輸出総額は138億円
輸出単価
1,700円
単価を下げて、販売量を取りに行く
1,500
2030年養殖ブリ
冷凍・冷蔵フィレともに1,200円程度とし、輸出量を5万
トン(フィレ3万トン)とすると、輸出総額は360億円
1200円+α
1,000
750円
500
• 東南アジアに広く展開する人気寿司チェー
ン「すし亭」(シンガポール)の握り寿司の
価格は、サーモン(3.2$)に対し、はまち
(養殖ブリ)は5.4$と1.7倍の値段である。
• そのほかロール寿司等メニューの多くは
サーモンを使用したものであるが、価格の
違いが食材としての使い勝手を下げてい
る。
• サーモンまではいかなくとも、価格を下げ
ることで、マスに売っていくことが必要では
ないか。
2015年ノルウェーサーモン
冷蔵サーモンの輸出単価は約750円/kg、年間100万トンを
輸出しており、輸出総額は6,334.5億円
0
1
万トン
5
100
輸出量
出所:Sushi Tei ウェブサイト(http://www.sushitei.com)、日本経済研究所
34
Ⅱ
ブリ養殖の成長戦略
【成長に向けた課題と対応】
養殖ブリの世界商材化のためには、生産サイド及び販売サイドそれぞれで対応するべきポイントがある。
生産サイドでは「品質・コストの徹底的なコントロール」を確かなものにするため「種苗・飼料におけるイノベーショ
ン」「スケールメリットの追求」が、販売サイドでは「安定した価格で販売量を確保」するために「国内需要の掘り起
こし」と「米国以外の販路開拓」を重点的に行う必要があろう。
世界の水産物需要の将来見通し
成長の実現
生産サイド
品質・コストの徹底的なコントロール
販売サイド
安定した価格で販売量を確保
現在の養殖経営ではコストの大半を占める飼料・種苗
に大きな変動リスクを抱えていることから、経営が不
安定になりがちである。
生産サイドでコスト・生産量を安定させることで、定
時・定量・定価販売を目指していくことが、海外での
販売拡大に重要である。
方向性
世界にブリを売り込むためには、コストと品質をコン
トロールできる体制づくりが必要であろう。
現在よりも安い価格で販売量を大幅に拡大し、成長を
図っていくことを目指すべきであろう。
種苗・飼料におけるイノベーション
国内需要の掘り起こし
人工種苗の選抜育種、魚粉・魚油割合を低減した飼料
の開発等、効率的かつ質の高い養殖ブリを生み出すこ
とが必要である。
海外展開を図るにあたって、安全な市場としての国内
市場の規模を守っていくことが重要である。今後市場
が縮小していく中、需要を掘り起こしていくことが必
要。
打ち手
スケールメリットの追求
米国以外の市場開拓
低コスト化で統一した品質の養殖魚を育てていくため
には、一定の大規模化が必要である。そのためには水
平・垂直統合を進めていくことが重要である。
現在は北米市場に傾斜しているが、今後は北米市場の
さらなる開拓に加え、アジア・EU等北米以外の市場
も深く開拓することで、販売量の拡大とリスクの分散
を図っていくことが重要。
また、将来的に輸出が伸長した場合、養殖エリアの不
足も考えられるため新たな漁場の開発も重要であろ
う。
市場開拓にあたっては、各市場のニーズを踏まえた商
品開発が重要である。今後はASC認証にも対応が必
要。
35
出所:日本経済研究所
Ⅱ
ブリ養殖の成長戦略 【生産面】①種苗・飼料におけるイノベーション
ノルウェーのアトランティックサーモンと日本の養殖ブリの生産コストを比較すると、飼料代に大きな違いがある。
アトランティックサーモンとブリでは魚種が異なり単純に比較はできないが、ブリを世界商材にする上では、ノル
ウェーが進めてきたような、種苗開発(完全養殖による選抜育種)と飼料開発(魚粉・魚油を代替する飼料)は、今後
の必須となってくるであろう。
アトランティックサーモン・ブリの養殖コスト比較(2014年)
(円/kg)
1,000
餌代
400
750
ノルウェーのコスト
には一次加工費
も含まれている。
原因
206 , 58.5%
増肉
係数
178 , 67.8%
166 , 18.5%
養殖
期間
63 , 8.5%
344
148 , 48.1%
200
その他
898
800
600
種苗代
コスト差の理由と今後の対応
509 23.7%
ブリ
• サーモンの養殖期間は約14ヶ
月であり、ブリよりも10ヶ月ほど
短い。
• この期間の差が飼料コストの
差に直結する
• 増肉係数の低下に
よる養殖期間の短
縮化(選抜育種が
必要)
• サーモン用飼料の魚粉・魚油
の割合は24%であり、ブリの40
~50%に比べ半分程度の水準
であり、ブリは魚粉・魚油価格
の変動の影響を受けやすい。
• 増肉係数・品質を
キープしたうえで
の、魚粉・魚油の
代替を進める。
日本(個人)
その他
コスト
• ノルウェーでは大規模化による
スケールメリット、機械化による
効率化が進んでいるため、飼
料調達が安価、人件費も抑え
られている。
• スケールメリットの
追求
0
アトランティックサーモン
• 魚種の違いによる
限界はあるとして
も、増肉係数の低
• ブリの増肉係数は2.8であり、
い種苗の選抜育種
単純に飼料が2.3倍必要となる。
(完全養殖化)
• サーモンは選抜育種により増
肉係数を1.2にまで下げている。
飼料
コスト
165 , 43.0%
日本(企業)
今後の対応
525 , 23.0%
31 , 8.9%
ノルウェー(企業)
理由
36
出所:農林水産省「漁業経営調査」, Marine Harvest ` Salmon Farming Handbook 2015` , 日本経済研究所ノルウェー現地調査(2014年)による
Ⅱ
ブリ養殖の成長戦略
【生産面】②スケールメリットの追求
個人経営体が苦しい状況にある中、今後のブリ養殖の成長には、養殖場の水平統合(生産委託のネットワークも含
む)、養殖場・加工場・販売機能を一体化した垂直統合を進め、スケールメリットを獲得し、コスト削減・品質の安定
を追求していくことが求められる。
また、ブリ養殖の本格的な成長にあたっては、新規に養殖場を開発することが将来的には必要となろう。環境面等に配
慮すれば、沖合でのブリ養殖に適した場所を開発していく必要があるだろう(これは行政の役割であろう)。
スケールメリットを発揮するための養殖体制の変化
養殖
加工
販売
水平統合
複数の養殖場が経営を一体化し、加工企業と生産委託でブリ養殖を実施
養殖場
養殖場
生産委託
加工場直営
養殖場
養殖場
加工場
(HACCP対応)
垂直統合
加工場直営/生産委託
新規
養殖場
新規
養殖場
販売機能
加工場が養殖経営も手掛け、自社の工夫のもと養殖を実
施。マーケットニーズに機敏に対応できるよう販売機能を
持つことが重要であろう。
新規養殖場の開発
輸出量が大幅に伸びれば既存の養殖場では生産量が不足する可能性がある。
沖合養殖等の技術開発に合わせて、良好な養殖場の開発が必要。
37
出所:日本経済研究所
Ⅱ
ブリ養殖の成長戦略
【販売面】①国内需要の掘り起こし
縮小していくことが見込まれる国内市場であるが、ブリの展開余地はまだ残されている。
地理的にはブリを食べる頻度の少ない関東・東北・北海道への販売活動を展開するべきであろう。また、季節的には夏
場のブリの供給が少なくなる時期への売り込みが求められよう。一つには夏場に出荷できる人工種苗の開発(すでに一
部事業者が実施)、高品質な冷凍フィレを夏場に提供すること等が考えられる。
家庭におけるブリの購入頻度(2015年)
養殖ブリの市場取扱量(東京卸売市場、2015年)
(100世帯当たり年間購入頻度:回)
(t)
1,400
1,400
1,230
1,200
東日本・東海・沖縄ではブリの消費
機会が少なく、これら地域でのブリ
需要を伸ばすことがカギとなる
1,000
1,200
1,000
941
864
840
1,278
1,009
850
764
800
800
634
659
607
600
569
600
夏場はブリの端境期であるが、
この時期に需要を開拓すること
ができれば、国内市場の掘り起
こしが可能
458
451
400
400
237
169
200
396 405 374
365
468
336
200
0
0
北海道 東北
関東
北陸
東海
近畿
中国
四国
九州
沖縄
1
月
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
38
出所:総務省「家計調査」、東京中央卸売市場
Ⅱ
ブリ養殖の成長戦略
【販売面】②米国以外の市場開拓-アジアー
今後もっとも成長が見込まれるアジア市場では、すでに日本食が広く浸透している。この日本食(特に寿司)の浸透を
担っているのは日系外食企業ではなく、アジア発の外食企業のレストランである。これらレストランではブリを取り
扱っているところも多いが、サーモンに比べメニューの数は非常に少ないのが現状である。
アジア市場でのプロモーションにはこれら外食企業への新メニューの提案などによる連携が有効であろう。
アジアで展開する日本食レストラン
ブランド
概要
ブランド
Sakae Sushi
栄寿司
• シンガポールの
SakaeHDが運営する
寿司チェーン
• シンガポール(29)、マ
レーシア(28)、中国
(2)を展開
Sushi King
すし金
Sushi Tei
すし亭
• シンガポールの
SushiTeiが運営する寿
司チェーン
• シンガポール(12)、マ
レーシア(11)、インド
ネシア(35)、ベトナム
(1)、オーストラリア
(2)、ブルネイ(2)に
展開
争鮮回転寿司
Suhi Express
Ichibanboshi
いちばんぼし
• シンガポールのRE&S
Groupが運営する回
転すし店。
• シンガポール(12)、マ
レーシア(4)に展開。
Sushi Train
概要
• マレーシア
TexchemGroupが経
営する寿司チェーン
• マレーシアに100店舗
以上展開
• 台湾の争鮮グループ
の寿司チェーン
• 台湾(145)、シンガ
ポール(14)香港(21)、
中国(65)を展開
• オーストラリアの
SushiTrainGroupの寿
司チェーン
• オーストラリア(46)、
ニュージーランド(2)
を展開
39
出所:各社ウェブサイト、日本経済研究所調査
Ⅱ
ブリ養殖の成長戦略
(注)表中の国名の後のかっこ内の数字は各国での運営店舗数を表す。
【販売面】③米国以外の市場開拓-ヨーロッパー
アジアと並んで今後有望な市場が、所得レベルの高い欧州である。欧州にはすでにオーストラリア産ヒラマサが年間
1,000~3,000t程度を輸出していることが見込まれ、日本のブリと競合している。
オーストラリアの大手養殖企業Cleanseas(南オーストラリア州で3,000tを養殖)は、寿司だけでなく部位別にどの料
理に適しているかという部位別提案を行っているが、このようなアプローチが日本のブリにも必要であろう。
オーストラリア養殖大手Cleanseas社の養殖ヒラマサの部位別提案
40
出所:Cleanseas社ウェブサイト
Ⅱ
ブリ養殖の成長戦略
【販売面】④ASC認証
MSC認証は天然の水産物を、ASC認証は養殖水産物を対象とした認証制度であり、資源・環境・社会に配慮した「持続可
能な漁業・養殖業」であることを証明するものである。この認証制度は欧米を中心に広く受け入れられており、大手小
売・外食事業者では「MSC・ASC認証がなければ取り扱わない」という企業も多い。
ブリを対象とした認証基準が2016年に完成する予定であり、今後、欧米をはじめとした海外で販路を拡大していくため
には、認証の取得が必要となってくるものと思われる。
ASC認証の概要
水産養殖管理協議会(ASC)は、WWF(世界自然保護基金)とIDH (オ
ランダの持続可能な貿易を推進する団体)の支援のもと、2010年に設
立された、独立した国際的な非営利団体です。
ASCの責任ある養殖水産物のための認証とラベリングの制度が世界
をリードするものになることを目指しています。ASCの主たる役割は、
WWFが主宰する円卓会議「アクアカルチャー・ダイアログ(水産養殖管
理検討会)」により策定された、責任ある養殖に関する世界基準を管理
することです。
MSC/ASC認証の拡大
事例
概要
リオデジャネイロ
オリンピック
組織員会
(ブラジル)
• 2016年リオデジャネイロオリンピック・パラリン
ピック組織委員会は、2016年のリオデジャネイ
ロオリンピックで、海洋管理協議会(MSC)ASC
認証水産物以外の水産物を、選手・職員・報
道関係者・会場内レストランでの使用を認めな
い方針。
• 2020年東京オリンピックでも同様の取り組みが
考えられるため、2020年までには取得が必要
か。
イケア
(スウェーデン)
• 2015年にイケアは世界の店舗で提供する水産
物をすべてMSC及びASC認証を受けたものとす
ること決定。
ヒルトン
シンガポール
(シンガポール)
• ヒルトンシンガポールでは運営するレストラン
でMSC及びASC認証を受けた水産物を使用す
ることを決定。
マクドナルド
(米国)
• 同社では世界で展開している店舗の多く(米
国・南米・欧州等)では、MSC及びASC認証を受
けた水産物のみを利用している。
ASCは、養殖業者、加工業者、小売業者や食品サービス業者、科学者、
環境NGOおよび消費者と協力して、次のような取り組みを行っています。
• ASC養殖認証制度と水産物認証ラベルを通じて、責任ある養殖を認
定し、その実施を支えること。
• 水産物の購入時に環境的・社会的にベストな選択をするよう奨励す
ること。
• 水産物市場の持続可能性に向けての変革に寄与すること。
(ASCウェブサイトより抜粋)
ブリ・スギ類養殖のASC認証基準(監査マニュアル)が2016年に完成予
定であり、ブリ養殖経営体もASC認証の取得を検討する必要がある。
41
出所:ASCウェブサイト
おわりに
南九州のブリを世界商材に
(株)日本政策投資銀行・(株)日本経済研究所では、南九州の「食」をテーマに、焼酎・畜産(和牛、豚、鶏)の各業
界について調査を実施しており、2015年度は水産業界でも特に南九州で盛んなブリ養殖に焦点を当て、今後の成長に向け
た戦略を検討した。
レポート内でも触れているが、我が国の水産物需要は、人口構造の変化や個人所得の低下により、減少が続いており、今
後この傾向が大きく変わることはないと考えるべきであろう。一方で海外は人口増加や経済成長により水産物需要は大き
く伸びており、この傾向も大きく変わることはない。この世界的な需要の伸びに対応して、養殖業はノルウェーのアトラ
ンティックサーモン養殖に代表されるように、有望な成長産業となっている。
しかし、日本の養殖業は、はたして世界がそうであるように成長産業となっているだろうか。ブリ養殖の生産量は、過去
10年間、15万トン/年(ブリ10~11万トン、カンパチ4~5万トン)で推移しており、輸出が伸びているとはいえ、産業全
体としては成長しているとは言い難い状況である。今後、輸出を伸ばすことは、もちろん重要であるが、国内市場の縮小
分を上回る輸出量とし、さらに国生産量を伸ばしていくという方針が、成長にとって必須であろう。
このような方針は、政府や各識者によって指摘されており、一般的な認識になってきているものと思われるが、本レポー
トでは、現在を起点に将来を考える Forecast ではなく、将来像から現在を考える Backcast を試みた。つまり、ブリ養殖
の現状を踏まえたうえで、今後どの程度まで輸出を伸ばすこと(=成長)が可能であり、その成長を実現するには何が必
要なのかという切り口から、現在のブリ養殖業界を考えるというアプローチである。
本レポートでは仮に将来の輸出目標を2030年に5万トン(原魚換算)とした。これは現在の輸出量1.3万トンの約4倍の規
模にあたる。この5万トンとは、ノルウェーのサーモン輸出量(100万トン)の1/20の規模である。世界の寿司需要の大
半を満たしているのが、同国のサーモンであることを踏まえると、その一部をブリが代替するだけで、輸出目標は達成で
きるのである。これは決して夢物語ではない成長目標であろう。
ただし、この目標を達成していくためには、現在海外で比較的高級食材として扱われているブリを、より手ごろな価格で
提供し、マスを取りに行く戦略が求められる。つまり単価を下げて、販売量を伸ばすことが必要である。そのための取組
みのいくつかの事柄は、本レポートでも言及したが、そのどれも一朝一夕でなし得ることばかりではない。
しかし、南九州の豊かな海と、我が国の優れた養殖技術の結晶であるブリが、世界に受け入れられ始めている今、サーモ
ン・マグロなどに続き、ブリが「世界商材化」することができれば、我が国の水産業、特にブリ養殖の中心地である南九
州の地域経済は大きく発展することが可能となるであろう。南九州が誇るブリが世界市場を開拓していく、今後の試みに
期待したい。本レポートがその試みに、僅かでも寄与するところがあれば、幸いである。
42