講義資料 - 経営教育研究センター

【経営戦略S2講義】
オープン&クローズ戦略
1.100年に一度とも言うべき第三次経済革命
*なぜ小規模企業がイノベーションの主役に躍り出たのか
*エコシステム型産業の登場、*大規模企業の経済合理性が崩壊
2.欧米企業が完成させたオープン環境の勝ちパターン
*インテル、*ヨーロッパ携帯電話、*アップル
3.モノのオープン&クローズ戦略
*IoT時代になぜオープン&クローズ戦略なのか
*イノベーション思想の中のオープン&クローズの位置付け
4.データのオープン&クローズ戦略
*第三次経済革命、インダストリー4.0、*CPSと日本政府の取り組み、
*戦略を先導する欧米企業、 *データのアクセス権、所有権、
*イノベイティブな産業創生に向けて
2016年6月27日
東京大学 政策ビジョン研究センター
小川 紘一
1
100年ぶりに出現した経済革命
18世紀末~:第一次経済革命(イギリス中心)
■所有権・知財権の強化、
■
蒸気機関<経験の産業化>
【プロパテント時代】
19世紀末~:第二次経済革命(ドイツ、アメリカ,日本)
■特許庁創設と強化(アメリカ、ドイツ、日本)
【プロパテント時代】
■自然法則の活用で新技術:<自然法則の産業化>
■大規模企業の登場:イノベーションの主役へ
■企業研究所・職業としての科学技術研究者の出現
20世紀末~:第三次経済革命(全世界)
【プロパテント時代】
■ソフトウエアに知財権(1980s),
<人工的な論理体系(デジタル、ソフトウエア)の産業化>
■小規模企業がイノベーションの主役へ
■ビジネス・エコシステム型産業の進展
© 2016 東京大学 小川紘一
2
なぜ20世紀末に
小規模企業がイノベーションの主役になったのか
製品アーキテクチャ転換とオープン標準化
■デジタル化・ソフトウエア化の進展
*製品アーキテクチャがモジュールの組み合わせ型へ転換
*モジュールの結合インタフェースもオープン標準化
アメリカの政策イノベーション
■石油危機後の経済再興に向けたアメリカ
*ソフトウエアに著作権(1980)、知財権(1981)
*SBIR法(1982),*バイドール法、*プロパテント知財高裁(1982)
*国家共同研究法(1984):当然違法の原則から合理の原則へ
技術体系の一部しか持てない小規模企業が繋がりあう
ミニコン、パソコン、インターネット
ビジネス・エコシステム型の産業が大規模に出現
© 2016 東京大学 小川紘一
3
フルセット垂直統合型の企業制度が
経済合理性を失う
しかし大規模企業は動けない:IBMの組織が機能不全
1988年ころからIBMが経営危機,
1988~1994年にIBMが15万人をレイオフ
内 5万人は組織能力を変えるための人材の入れ替え
当時のアメリカ世論
圧倒的な技術イノベーションを生み出す企業が、
なぜ見返りが取れないのか
世界最高レベルのR&D能力を持つIBMがなぜ凋落するのか
まず最初にデジタル型のエレクトロニクス産業で出現
その10~15年後に他の多くの産業領域で顕在化する
オープン化へ適応できない企業が凋落
© 2015 東京大学 小川紘一
4
日本でも1990年代から
製造業がオープン・エコシステム型へ転換
①ブラウン管TVで強かったが、デジタル型の液晶TVになると!
②アナログ型VTRで強かったが、デジタル型のDVDになると!
③アナログ電話では強かったが、デジタル携帯電話になると!
④白熱電球で強かったが、寄木細工型のLED照明になると!
⑤乾電池では強かったが、寄木細工型のリチュームイオン電池になると
⑥自前工場では強かったが、オープンなEMS工場が出現すると
⑦専用回線では強かったが、オープンなインターネットになると!
⑧クローズの専用サーバでは勝てたが、オープンなクラウドになると
⑨クローズな8インチ半導体工場では強かったが、
オープンな12インチ半導体工場になると!
“オープン化”とはビジネスのルールが変わること
日本の大規模企業が苦境に追い込まれた
© 2016 東京大学 小川紘一
5
技術と製品のイノベーションを主導したはずの日本企業
120
1990年代からエレクトロニクス産業が勝てなくなった
電池 液晶TV
日本企業の市場シェア(
%)
液晶パネル
100
〇
日本企業の特許
が世界の80%
80
〇
CD-R
〇
CD-ROM
60
カーナビ
〇
DRAMメモリー
DVD
プレイヤー
〇
40
太陽
電池
〇
〇
日本に代わって市場のリーダ
20
となったのは全て途上国企業
0
87
89
© 2016 東京大学 小川紘一
91
93
95
97
99
01
03
0
5
0
7
6
6
最初にエレクトリニクス産業がエコシステム型になり
多くの企業が国境を越えてつながりあう
製品アーキテクチャの大転換
エンドユーザのレイヤー
サプライチェーンマネージメント
低コスト組立てレイヤー
東アジアEMS(組立)
PC,DVD,液晶TV、
携帯電話、スマホ
などの設計レイヤー
半導体デハイス
の設計レイヤー
半導体製造
のレイヤー
韓国
SoC と
DRAM
日本
アメリカ
設備ベンダー
日本の
素材ベンダー
© 2016 東京大学 小川紘一
勝ちパターンを再構築したのは
①特定領域に特化する企業
②他の領域に強い影響力を
形成した企業(伸びゆく手)
台湾ASSP
ベンダー
③エコシステム型の垂直統合
モデルを追及した企業
*コア領域を持ち,
*非コア領域は調達し、
台湾ファウンダリ*ブランドを磨き
TSMC/UMC
*ブランドに相応しい製品を
全体最適のノウハウに
よって提供する企業
7
エコシステム:
*本来は生物学における生態系を意味する表現
ビジネスモデル:
*1つの企業の収益構造を意味する表現
ビジネス・エコシステム:
*互いに繫がって産業全体の収益構造を維持・発展
させる製造業のオープン化思想
* 第三次経済革命が創る産業構造を象徴する表現
2000年ころから欧米で使われはじめた
製造業がオープン化する中で、技術を経済的価値に
結びつけるには、エコシステム構造の事前設計が必要
エコシステム構造を自社優位に事前設計するには
オープン&クローズの戦略思想が必要
© 2016 東京大学 小川紘一
8
エコシステムになるとなぜ技術が経済的価値に直結し難くなるのか
5層構造のビジネス・フレームワークで考える
投資家の視点
①収益モデル(稼ぐ力ROE:株主資本利益率、投資効率)
事業戦略の視点
②稼ぐ仕組み作り(ルール作り)、エコシステムの構造が
グローバル市場の競争ルールを変えてしまう
生産の視点
③生産システム(稼ぐ仕組みを、組立加工システム、工場システム、SCM
などで具体化)
ものづくりの視点
④ものづくり
研究開発の視点
(稼ぐ仕組みを設計、製造技術、生産技術、工程管理
などから支える)
⑤技術開発・製品開発
競争ルールが急に変わると人も企業も動けない
© 2016 東京大学 小川紘一
9
“競争のルールが変わった” 事例
エコシステムになり技術が瞬時に伝播すると:液晶テレビの例
技術関連コスト
材料・部品費
製造・調達費
研究開発費
材料・部品費
経営コスト+販売コスト 国のビジネス制度設計
売上高
間接費
販売チャネル 減価
償却
コスト
特許/技術の調達費
日本企業
法人税
為替
(円高)
特許/技術の調達費(最大でも5%程度)
キャッチアップ型
販売費
の台湾/韓国企業
大企業:大規模な技術体系を持つので
クロスライセンスに引き込まれ易い、 このとき
数万件の特許でも僅か数%のコストダウン効果に過ぎない
オープン&クローズ戦略を採れば日本企業が勝てた10
© 2016 東京大学 小川紘一
オープン化の潮流とビジネス・エコシステムの進展が
*アメリカ:1980年代から1990年代初期
*ヨーロッパ:1990年代中期から2000年まで
*日本:1990年代後半から2010年代末まで
いずれも,大規模企業が市場撤退を繰り返す
日本企業だけが100年に一度の産業構造転換に
適応できなかったのではない
エレクトロニクス産業で大規模に起こったのは
デジタル化・ソフトウエア化で瞬時に競争ルールの変化
分業・ルーチン化した組織と人が変化に追従できなかった
IoTの時代はもっと大規模に起きる
© 2015 東京大学 小川紘一
11
日本のインダストリーは付加価値創出で
アメリカやドイツから引き離されてしまった
ドイツのシェア
付加価値創出で先進国のシェア減少
は大幅に向上
インダストリーの付加価値、日欧米のシェア、日本、 西欧、 米 、 アジア
1991年
約500兆円
78%
18% 36% 24% 8%
▲40% ▲30% 微減
2011年
約950兆円
58%
日本は大幅減少
特にIT/ICT産業
11% 25% 22%
急増
31%
アメリカはソフトウエアの
レバレッジを効かせて
生産性を大幅に向上
日本企業がやるべきことはインダストリーの
オープン化への対応と勝ちパターンの再構築
© 2016 東京大学 小川紘一
データの出典:RolandBergar: HINK ACT March 2014
12
欧米インダストリーは1990年代に
どんなメカニズムで蘇ったのか
© 2016 東京大学 小川紘一
13
【経営戦略S2講義】
2.欧米企業がオープン環境で
完成させたビジネスモデル
■ 主役はいずれも
当時の小規模企業であった
*例えば、インテル
*例えば、小規模企業だったノキア
の欧州携帯電話
*例えば、アップルiPhone
© 2016 東京大学 小川紘一
14
例えば当時ベンチャー企業だったインテル
オープン化の背後で必ずクローズ領域を事前設計してる
・自社特許を刷り込ませたIFとプロトコル
クローズ
MPU
Pentium Ⅲ
Pin配置
をライセンスするのでこれが必然的に
必須特許となる。
・パートナーが改版すると契約違反で脅す
“伸びゆく手”から逃げられない
AGP 標準化 Media Control Hub
Slot
メモリーコントロール・バス
オーディオ
価格競争
AC‘97
USB
周辺機器
Bus Interface
標準化
標準化
I/O Control Hub
I/O コントロール・バス
標準化
HDD
標準化
PCI Bus
オープン
標準化
Synchronize
DRAM
知財を独占できないので
コンソシアムを使って標準化
・標準化を使って知財の全てを
オープン化させる。
・誰にでも自由に使わせて多くの
パートナーを呼び込む
・全てのパートナーはインテルの
“伸びゆく手”から
逃げられない
© 2016 東京大学 小川紘一
15
知財マネージメントから見た
フルセット型とオープン& クローズ型との違い
インテルと市場の境界設計
オープン & クローズの知財思想
フルセット型
複合型の大規模技術
パソコン
イン
テル
古典的な知財独占を
オープン環境で実現
クロスライセンスが必須
通信
プロトコル
Bus
アーキテクチャ
インタフェース
MPUの
基本特許
パッケージ
プロセス
設備
1.コア領域に知財を集中
1社の特許で製品市場を支配できない。
超優良企業のIBMが
小企業に勝てない
© 2016 東京大学 小川紘一
クロスライセンスを排除:事業を守る
2.境界に特許を集中
⇒市場に影響力を持たせる
16
例えば欧州の自動車部品メーカ
ボッシュ:ECU(ソフトウエア)で自動車の環境対応と燃費向上
技術格差を利用したオープン& クローズの事業戦略
ビジネス・エコシステムを新興国で自社優位に事前設計:
ボッシュのモデルはパソコンの
インテル・インサイド型モデルと同じ
“毒饅頭モデル”
ボッシュのECUを使えばインドや中国企業は
欧米の環境規制に準拠したクルマを簡単に作れる
ボッシュが新興国で圧倒的なシェア(60%以上)
© 2016 東京大学 小川紘一
17
例えば当時はまた小規模企業だったノキア
携帯電話のオープン標準化の背後でクローズ領域を事前設計
Gateway
ゲートウエイ
交換機
交換機
交換機
基地局
基地局制御装置
無線基地局 クローズ
BTS
BTS
BTS・・・・・・
オープン
・・・・・・・・・・・
© 2016 東京大学 小川紘一
規格書に無い領域:
これが市場支配力
内部も外部も完全に
オープン標準化
18
アメリカが主導するWiFiのオープン標準化で
ノキアのオープン&クローズ戦略を切り崩す
Gateway
Switch
大規模クラウド
世界中の情報が集まる
Switch
完全Openなインターネット
BaseStation
クローズ
欧州が主役
MAC および IP通信関連の処理
Base Band信号処理
WiFi
Access Point
オープン
WiFi RF信号処理・・・・
アンテナ、アンテナ、アンテナ・・・
標準化
GSM, 3Gのプロトコル
Wi Fiプロトコル:離散的パケット通信
連続的データ通信
PC
従来の携帯電話
iPhone/Smart Phone/多機能端末
PC
従来の
パソコン
(2016 東京大学 小川紘一
19
実はアップルも
オープン(調達)&クローズ(コア領域)の事前設計
オープン: 調達・製造委託領域
プローズ: 自社の付加価値とブランドを支えるコア領域
模倣によるキャッチアップから守る領域
企業と市場の境界設計
デザイン
自社領域で知財本来の力を発揮させる
*クロスライセンスの対象になり難い
User IF
クローズ ・デザイン:意匠権やトレードドレス
iOS
・画面拡大/スクロール技術:特許権
(便利なユーザインタフェースでユーザ囲い込み)
アップルが設
・契約を重視
計する部品
汎用部品
オープン
*意匠権(20年)、・著作権(50年)、・商標権(永久)、
EMS+SCM
携帯端末
© 2015 東京大学 小川紘一
全ての出発点が企業と市場の境界設計
20
サプライチェーンに向かう
アップルの強力な伸びゆく手
ボーイングやトヨタと同じエコシステム型の垂直統合モデル
クローズ
デザイン
User IF
iOS
コア技術と繋ぐ
部分に知財集中
アップル設計
の部品
© 2016 東京大学
汎用部品
オープン
↓ ↓
*自社のコア領域と繋がる
インタフェースに知財を集中
*知財と契約マネージメントで
強力な伸びゆく手を形成
フジクラが学ぶべき戦略思想
伸びゆく手
製造コンサル
生産管理・工程管理
チャネル・コントロール
価格・マージン・展示レイアウト
低コスト
世界中の
量産のEMS
販売店
小川紘一
------- Total Supply-chain Management -------
21
オープン化の中の勝ちパターンを設計するには
オープン&クローズ戦略に基づく知財マネージメントが必須
オープン市場
結合インタフェーをオープン標準化
コア領域
ビジネスエコシステム
のパートナー企業
コア領域を完全クローズにする
①技術革新によるブラックボックス化
*次々と新技術や差別化技術
②仕組み作りによるブラックボックス化
*コア領域の知的財産を独占
*クロスライセンスの徹底排除
*エコシステム前提の契約マネージメント
③市場コントロールの伸びゆく手形成
*自社コア技術と他社技術をつなぐ
接続領域を知財で独占
1.コア領域をクロス・ライセンスの攻勢から徹底して守る
2.結合領域に知財を刷り込ませて公開(オープン標準化)
パートナー側へビジネスチャンスの期待感を形成
© 2016 東京大学
小川紘一
22
オープンなビジネス・エコシステムの中で
サプライチェーンに強い影響力を持たせる
仕組みとしての、経営者の
“伸びゆく手”の思想が、1990年ころに出現
*オープン&クローズ戦略でエコシステム構造を
自社優位に事前設計、同時に
*グローバル市場へ“伸びゆく手”形成
これを知財・契約マネージメントで支える
□神の“見えざる手”: 1770~1870年代、アダムスミスの世界
□経営者の“見える手”: 1870代から1980年代まで
フルセット統合型の巨大企業が支配する市場、チャンドラーの世界
□経営者の“消えゆく手”:1970~1990年代まで、ラングロアの世界
背後で、産業構造が垂直統合型から水平分業型へ転換
© 2016 東京大学 小川紘一
23
【経営戦略S2講義】
3.モノのオープン&クローズ戦略
なぜオープン&クローズ戦略なのか
*なぜ単なるオープンイノベーションでは
ダメなのか
■ イノベーション思想の中の
オープン&クローズの位置付け
■
© 2016 東京大学 小川紘一
24
オープン・イノベーションでは
■ いい技術が生まれ、いい製品を開発できれば
企業収益に貢献し、雇用・成長に結びつく、という
リニアーモデルが暗黙のうちに仮定されている
しかしながらオープンなビジネス・エコシステム型の産業構造では
材料や医薬品、超精密機械(部品)、巨大な技術体系などを除いて
リニーアモデルがすでに崩壊している
例:リチュームイオン電池(LIB)とこれを構成する
材料・部品の違い
先端を行く日本とキャッチ
アップ型の国で全く異なる
例:DVDとこれを構成する材料・部品の違い
多種多様なパートナーと協業が必須の
エコシステム型の産業構造になると
オープンイノベーションは単なる
必要条件に過ぎなくなる25
© 2016 東京大学 小川紘一
デジカメとDVD:日本企業の市場シェア推移
120
どこをオープン化するかで経済的価値が大きく変わる
日本企業のシェア(
%)
100
デジタルカメラ
外部インタフェース
だけを標準化
80
60
40
携帯電話用の
カメラ・モジュール
20
0
DVD 内部までオープン化
標準化によっ
て内部構造ま
でオープン化
年 年目 年目 年目 年目 年目 年目 年目 年目 目 目 目
年 1年 2年
元 2
3
4
5
6
7
8
9
0
及
1
1
1
1年目とは大量普及の開始年、携帯電話用のカメラ・モジュール;2001年
普
© 2016 東京大学 小川紘一
デジカメ:1997年(120万台)、DVDプレイヤー:1998年(90万台)
26
デジカタルカメラがオープン化したのは
外部インタフェースのみ
完全クローズ
MCU
JPEG
DCT
画像処理
A/D
アナログアンプ
信号処理
CCD
シャッタ
絞り
レンズ
アプリケーション
M/W
OS
ドライバJPEG
Decoder
LCD
擦り合わせノウハウが集中カプセル
テレビ
コントローラ:
AF、絞り、手ぶれ補正
シャッターなど、レンズ系、
シャッター系、センサー系の制御
メモリカード
パソコン
完全オープン
© 2016 東京大学 小川紘一
デジタルカメラ本体の
外部インタフェースのみ標準化
27
オープン・イノベーションに成功した企業
その本質は何れもオープン&クローズであり
以下を徹底させた企業であった
1.クローズ領域を守った上でオープン化した企業
2.ビジネス・エコシステム構造とビジネス・プラット
フォームを
*自社優位に決め、
*競争のルールも自社優位に決めた企業
3.自社のコア領域からオープン市場へ
*強力な影響力を持たせる“伸びゆく手”を
構築した企業
© 2016 東京大学 小川紘一
28
イノベーション思想の歴史的経緯
■大規模企業が主役の1930年代:
*シュンペータ型(シュンペータⅡ):内部イノベーション
*生産手段やリソースが従来と異なる形で新結合して新しい
価値を生み出す、
*暗黙の仮定、リニアーモデル、が成立し易い経済環境だった
■大規模組織の経済合理性が崩壊する1980年代
*チェスボロー型:外部活用のオープンイノベーション
*創出された価値が必ず守られるリニアーモデルが暗黙の内に
仮定されている。
しかし以下が現実であり、チェスボローの仮定は成り立たない
①背後に堅牢なクローズ領域を持ち、②技術革新を先導し、
③これを知財マネジメントと契約マネジメントで常にコア領域を独占し続け
なければ創出された内部価値がオープン化によって瞬時に漏洩
© 2016
東京大学
小川紘一
そもそもチェスボローは、
どんなメカニズムで利益を上げるかを示してない
29
オープン&クローズ戦略は3つの要素からなる
1.オープン:外部イノベーション
結合インタフェースの標準化
*市場の利用コストがゼロ、参入障壁無し、協業領域
*グローバル市場で多くのパートナーがイノベーション
2.クローズ:内部イノベーション
技術革新+知財マネジメント
*差異化、差別化の原点、参入障壁、競争領域
*個々の企業レベルで技術・製品イノベーション
3.伸び行く手
ビジネスモデル+知財と契約のマネジメント
*クローズ領域からオープン市場へ向かう市場コントロール
のメカニズム
*ビジネス・エコシステム側の外部イノベーションの成果を
自社へ取り込んで企業価値を高める仕掛け
© 2016 東京大学 小川紘一
30
オープン化は企業価値を高める
1.瞬時に10倍以上の巨大市場が生まれる:多数の事例あり
■オープン化で失うものは確かにあるが得るものが遥かに大きい
■ただしオープン&クローズ戦略を身に付ける必要あり
2.例えば産学連携の技術開発と市場創出の事例なら、
■コア技術を自社が、他の技術はサプライチェーンのパートナー
が持ち寄るので開発コスト激減、市場創出の投資も激減
*例: GEのMRI、85%の投資削減、*ペプチドリームも同じ
■技術の外部調達・エコシステム化が資本生産性(ROE)を
高め、企業価値が飛躍的に増幅 (多数の事例あり)
3.必ず背後にオープン&クローズの戦略思想を持つ
■コア技術だけを完全に守り(クローズ)、使い方だけをオープン
にすれば、オープン環境で価値を守って大量普及か可能
■使い方やインタフェースに知財を刷り込み、契約マネジメントに
知恵を絞れば、プライチェーンの価値を引き寄せられる
© 2015 東京大学 小川紘一
伸びゆく手の形成
31
それにしてもなぜ日本企業は
オープン化へ踏み出せないのか(1)
■大企業はグループ内に多種多様な技術と人材を持つので
●外部技術を取り込むとき社内調整が非常に困難
●日本企業は、雇用維持が優先されるので特に難しい
●しかし、徐々にオープン化へ踏み込んだ企業も出現
*H社は鉄道システムでオープンイノベーション
・なぜ前に出れたのか
*例えばエアコンのD社と中国企業の連携も
オープンイノベーション、・なぜ可能だったのか
自社のコア領域を共有できていない企業であっても
オープン&クローズの考え方なら
オープン化へ踏み出せる
© 2016 東京大学 小川紘一
32
それにしてもなぜ日本企業は
オープン化へ踏み出せないのか(2)
■自社/グループ会社のコア領域と
非コア(価値を生まない)領域を決められない
■自社/グループ企業のコア領域と非コア領域を
共有できていない
■ローズ領域を守った上でのオープン化
が企業価値を増幅する事実を理解できない
エコシステム型産業構造になれば
①オープン化が企業価値を高める事実
②クローズ領域を持ったオープン化が本質
© 2016 東
京大学
小川紘一
であることを、経営の視点から理解できていのではないか
33
【経営戦略S2講義】
4.データのオープン&クローズ戦略
□第三次経済革命やインダストリー4.0の中の
CPSとデータビジネスの位置付け
□日本政府の取り組み
□戦略を先導するのは誰か、
□オープン&クローズ戦略を主導するのは誰か
*欧米企業の事例
□所有権/アクセス権の発生メカニズム
□イノベイティブな産業創生に向けて
© 2016 東京大学 小川紘一
34
第三次経済革命の中のIoTとCPSの位置付け
1800s
1700s
△
イギリス
1770年代
△
1900s
ドイツ,アメリカ
1870年代
第 二次
経済革命
第 一次
経済革命
自然法の産業化
経験の産業化
△
2000s
2010s
アメリカ
1970年代
第三次
経済革命
論理体系の産業化:
デジタル技術、ソフトウエア
エコシステム、産業構造転換
インターネット
IoT
△1870~
△1784~
Industrie1.0
第一次
生産革命
最初の機械式
機織り機
イギリス
△1969~
アメリカ
Industrie2.0
第二次
生産革命
最初のベルト
コンベア工場
2020s
アメリカ
Industrie3.0
第三次
生産革命
最初のプログラマブル
ロジック・コントローㇻ
ドイツと
アメリカ
第四次経済
革命に向かう
△2025
以降
インダストリー4.0、IIC
第四次生産革命
CPSでCyber(ソフトウエ
ア)と Physical(ハードウエ
ア)を連動・結合させて
付加価値創出
IoTもインダストリー4.0も巨大なビジネス・エコシステムを作るので
35
オープン&クローズの戦略思想が必須となる
© 2016 東京大学 小川紘一
IoTが創る巨大なエコシステム型経済で
価値形成の主役となるのが
CPS:Cyber Physical System
【Cyber: コンピュータが創る仮想世界】
■ シミュレーション、エミュレーション
■ 人工知能、ビッグデータ、
【Physical: 手で触り、目で見得るモノの世界】
■ リアル、現実社会
ビッグデータや人工知能の時代になった顕在化した新たな視点
Physicalをデータ発生のエンジンと位置付ける
© 2016 東京大学 小川紘一
36
IoTからCPSを経て雇用・成長に至る俯瞰図
経済成長
「新成長戦略」
第三の矢・第二弾
付加価値生産性、雇用、成長
競争力、収益、資本生産性
ビジネスモデル
■オープン& クローズ
戦略
競争領域
プラットフォームが
ビジネスモデルを左右する
■
思想
CPS
プラットフォーム
■技術基盤
■ビジネス制度設計
ビジョン
向かうべき方向性
協調領域
IoT
© 2016 東京大学 小川紘一
37
プラットフォームの構造
ビジネスモデル
*企業の事業戦略
テクノロジー
*国のイノベーション政策
*企業の研究開発
CPS
ビジネスモデルの
設計プラットフォーム
共通の基盤システム、
共通のサービス基盤
基盤要素技術
制度設計
*エコシステム形成基盤
*ビジネスルール制定
(規制と自由競争のバランス)
© 2016 東京大学 小川紘一
IIC:OMG+テストベッド
Ind.4.0:プラットフォーム
運営委員会
38
IoT時代の到来に向けた
日本政府の取り組み
© 2016 東京大学 小川紘一
39
第五期科学技術・イノベーション政策で
内閣府が描く共通基盤システムの構造
Cyber空間の基盤技術
ビックデータ、人工知能、
データ処理基盤、クラウド基盤、センサーネットワーク
セキュリティー、記述言語、プログラム言語
モデリング:シミュレーション・エミュレーション、
編集設計、組込みシステム
共通の基盤システム
共通のサービス基盤
基盤要素技術
二つを統合したCPSの思想で
イノベーション連鎖を起こし
付加価値生産性を高める
素材、ナノテク、バイオ、センサー、
高度デバイス医療、物流、エネルギー、
ICT、マイクロプロセッサー、
アクチュエータ、ロボティクス、
© 2016 東京大学 小川紘一
Physical 空間の基盤技術
40
国の取り組み全体像
*共通の基盤システム、共通基盤技術、
*共通のIoTサービスプラットフォーム
の開発と人材育成については手を打っている
■ 経産省・総務省
・ロボット推進協議会、IoT推進コンソーシアム
・情報・人間工学領域(産総研:CPS、AI、知能システム)
・脳情報通信、多言語音声翻訳、社会知解析(NICT)
■文科省:AIP:AI,ビッグデータ、IoT,サーバーセキュリティーの
基盤技術開発
AIP:Advanced Integrated Intelligence Platform Project
■内閣府;第五期総合科学技術イノベーション会議
・超スマート社会の基盤技術に、IoT,CPSを織り込む
■その他、IVI など
© 2016 東京大学 小川紘一
しかし行政の政策は呼び水に過ぎない
41
21世紀のIoTの経済環境で
日本の企業人に必要なのは
■新たな経済的価値の創出
必要条件
■価値を長期的・持続的な生産性向上
に結び付けるメカニズムの再構築
そのための
十分条件
企業人による
CPSの活用と
オープン&クローズ戦略の活用
© 2016 東京大学 小川紘一
42
CPSの全体構造とデータ位置付け
・GEのPredix
OS型のオープン・プラットフォームで期待感
・Siemensの
形成し、パートナーと一体になって
CPS-5.0
DigitalEnterprse
イノベイティブな産業構造を創出
・GoogleCAR,・テスラモーター
繋がるメカニズムを先導し、伸び行く ・ブリジストンやミシュラン(タイヤ)
CPS-4.0
手も事前設計し、データとサービス ・Uber(タクシー),・Airbnb(ホテル)
によって価値を創出
・RollsRoys,GE(エンジン)
商談から販売・顧客サービスに至る
・VWの自動車工場
トータルなビジネス構造をデジタル化
・HDのオートバイ工場
CPS-3.0
・その他、多数
データで業務全体の見える化し
価値を創出
∑(局所最適)=全体最適
製品の編集設計、オープン&クローズ戦略に基づく シミュレーション・エミュレーション
CPS-2.0 ビジネスモデルとビジネス・エコシステムの事前設計、 ・航空機、火力発電プラント
伸びゆく手の事前設計、および知財マネージメント・
・自動車:MQB,TNGA
契約マネージメントの事前設計によって価値を創出
・工場の管理シェル(ドイツ)
組込みシステムによってモノの性能・品質を上げ、
・自動車ECU
・HV車など多数
価値を創出
・Additive
43
Manufacuturing
CPS-1.0 モノの潜在力を引き出し、新規の機能を持たせて
© 2016 東京大学 小川紘一
オープン&クローズ戦略を先導するのは誰か
【モノの世界】 主に、モノの所有権者
□どこをオープンにし、どこをクローズにするかは、
モノを所有するオーナーが判断:
*個人、企業、ビジネス・プラットフォームなど
□オーナーがオープン領域を決めて
*自社優位にエコシステム構造を設計し、
*外部イノベーションを促進、短期間で巨大市場を創る
□オーナーがクローズ領域を守る:
*技術革新、ノウハウ:
(競争相手にとって実質的にクローズに見える)
*知財と契約のマネジメント:
(クローズ領域を法的に守って維持)
© 2015 東京大学 小川紘一
44
【データ】 のオープン&クローズ戦略
=基本的な考え方はモノと同じ=
Step-1; 戦略の主導権を取るために
□ データの分析・加工処理によって価値を創出する
□ データ所有権/アクセス権の所在を明らかにする
Step-2: オープン&クローズ戦略に向けて
□ オープン:
*データのオープン共有and/or積極的に流通させる
*外部イノベイションを起こすオープンプラットフォーム
□ クローズ:
*オープン環境でデータを独占する仕組み構築
*自社データの価値を維持・増殖させて大量普及
□ 伸び行く手:
*オープン・エコシステムに強い影響力を持つ仕組み
45
構築で付加価値を引き寄せ、企業価値を高める
© 2015 東京大学
小川紘一
欧米企業の事例をもっと知ろう
□ エコシステム型産業に定着したオープ領域と
クローズ領域の考え方
□ データ起点のサービス・ビジネスに向けた
欧米企業の仕掛け作り、
□なぜオープン・プラットフォームを先導するのか
なぜルール作りを先導するのか
□戦略立案プロセス、データの所有権/アクセス権
事例紹介
© 2016 東京大学 小川紘一
46
データ駆動型サービスビジネスで
オープン&クローズ戦略を考える留意点
□エコシステム型産業に定着したオープン領域
①データ/情報流通路,コミュニケーション通路
例:イーサネット(物理層)、TCP/IP(トランスポート層/ネットワーク層)
例:OPC-UA(インダストリー4.0準拠のアプリケーション・プロトコル)
②インタネットをプラットフォームとする情報の加工・編集ツール
例:W3C:HTML,Mosaic(アプリケーション)の標準化
③テストベッド:非競争領域(オープン)だけで接続性検証
例:IICのテストベッド、インダストリー4.0のテストベッド
□エコシステム型産業に定着したクローズ領域
①オープンな通信路につながるデバイスやシステム
このどこをオープン化するかは
②データ処理アルゴリズム
ビジネスモデデルの問題
③データの加工・分析で生まれた価値(情報)
© 2015 東京大学 小川紘一
47
工場設備の管理シェルをCPSの最小単位と定義
CPSの仕組で工場設備からデータを収集
インダストリー4.0
*他の工程の装置の稼働状
態を認識して動く
*稼働時間、振動、加速度
*部品の疲労解析、予防保全
工作機械(フィジカル)を
サイバー空間に表現
オブ
ジェクト
搬送
ロボット
オブ
ジェクト
組立
ロボット
© 2016 東京大学 小川紘一
OPC-UA
官理シェル
オブ
ジェクト
工作
フィジカル
機械
*工場の装置を全て
サーバー空間で表現
*工場設備のデータを
情報層で一元管理
*データによるサービス
ビジネスへの転換
サイバー
モノの側にデータ
を出さない権利が
ある。
欧米企業はどんな
メカニズムでデー
タ収集するのか 48
データを活用して価値形へ向かう欧米企業は
階層構造のオープンプラットフォ-ム構築へ向う
データのオープン&クローズ思想がどう刷り込まれているか
Public Cloud
Managed/Private Cloud
グーグルなど
GE
など
Fog Network/Cloud
Edge
Edge Cloud
シーメンス
など
シスコなど
インテルなど
KUKAなど
Sensor/ Sensor Module
多数の企業群
© 2016
東京大学
小川紘一
モノ , ヒト
49
データ駆動型サービス・ビジネスで
戦略立案のプロセス
Step-1:
モノとデータの双方に関わるビジネス構造全体
で、オープン&クローズ戦略の枠組みを決める
Step-2:
モノとデータを連動させてデータの価値を創出、
データのアクセス権を合法的に獲得
Step-3:
データ/情報それ自身のオープン&クローズ戦略
の立案・実施
© 2015 東京大学 小川紘一
50
□ データ駆動型サービス産業の対象領域は
どこにあるのか
*例えば、スマホ、携帯端末など
*例えば、家電、家具、乗用車、個人住宅など
*例えば、店舗、オフィスビル、産業機械
建設機械、工場設備、生産工場
□ データ/情報の所有権/アクセス権は
誰が持つのか
□なぜ、そしてどんなメカニズムでデータ/情報
の所有権/アクセス権が生まるのか
© 2016 東京大学 小川紘一
51
例えば以下なら誰がデータアクセス権を持つのか
□自動車の組み立て工場データ
*工場全体のデータ: Ku社と自動車工場、
*ライン全体のデータ: Fn社と自動溶接ライン
*設備のデータ:
Hrと金型
○全自動の場合: ∑(設備データ)から細部把握可能
○人が介在する場合:∑(設備データ)だけでは困難
□自動車の走行データ
*タイヤに埋め込まれたMEMSセンサーのデータ:
*自動車のエンジンデータ,*運転データ,*稼働データ
○個人が所有する乗用車:
○法人所有の大型トラックや建設機械のケース
○Uberなどタクシーのケース
52
© 2015 東京大学 小川紘一 個人?、タイヤメーカ?、OEM,Uber?
21世紀にはじまる第四次経済革命
*データの産業化、
*データの所有権、*データへのアクセス権
、
データに関する知的資産制度は
企業人の企業人による、新たな産業創出
のための制度でなければならない
19世紀末からはじまる第二次経済革命は、
*モノの生産性を飛躍的に高める時代だった
21世紀初めからはじまる第四次経済革命は、
*サービスの生産性を飛躍的に高める時代
この視点から
データの知的資産制度を考えて欲しい
© 2016 東京大学 小川紘一
53
ご清聴ありがとうございました
参考資料
オープン&クローズ戦略の歴史的経緯や理論、ビジネス
モデルの事例及び軍師型の人材育成などについては以下
が参考になります
小川紘一著
はじめに 基本メッセ-ジとその背景
第1章 エレクトロニクス産業の失敗を越えて
第2章 製造業のグローバライセーションと
ビジネス・エコシステムの進展
第3章 欧米諸国が完成させた「伸びゆく手」
のイノベーション
第4章 アジア諸国の政策イノベーション
第5章 アジア市場で進む日本企業の
経営イノベーション
第6章 オープン&クローズ戦略に基づく
知的財産マネージメント
補論 IoTとインダストrチー4.0をめぐって
おわりに 2025年の日本
54