ロシア財政悪化はプーチンの政治リスクにつながるか

リサーチ TODAY
2016 年 6 月 20 日
ロシア財政悪化はプーチンの政治リスクにつながるか
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
2015年のロシア経済は、欧米による経済制裁や原油価格の下落で▲3.7%と大幅なマイナス成長になっ
た。みずほ総合研究所は、油価低迷下のロシア経済に関するリポートを発表している1。今年2月の当社の
経済見通しでは、ロシアの2016年の成長率は▲3.3%としていた。この見通しは30ドル前後で原油安基調
が続く場合を想定したものだった。一方、5月以降、▲1.2%に上方修正したのは、年初から、原油価格が
持ち直したことを反映したものだ。すなわち、足元の50ドル近い水準を前提として2016年については大幅
に上方修正した。下記の図表はロシア連邦財政の推移である。原油価格が50ドル台で推移した2015年に、
財政状況が悪化したことがわかる。足下、原油価格は確かに底入れしたが、根本的な需給関係が改善す
るまでには至っていない。従って、原油価格が今後50ドル以上の水準まで持続的に上昇する状況ではな
いため、財政状況の悪化は続く見込みである。国家財政の悪化は、今日、圧倒的な支持率を誇るプーチ
ン政権の支持基盤の弱体化という政治リスクに繋がる可能性がある。同時に、日本に対する経済関係を重
視するスタンスに繋がる可能性をもつ。日露にとって今年は国交回復60周年の節目に当たる重要な年で、
ロシアと日本の経済関係に進展が生じる可能性がある。また、安倍政権としてもロシア外交を外交政策の
目玉にしたいインセンティブがあろう。
■図表:ロシア連邦財政の推移
歳入(石油ガス収入)
歳出(逆符号)
(GDP比:%)
歳入(その他)
収支(右目盛)
(GDP比:%)
20
15
4
9.6
9.5
9.5
9.2
3
7.3
10
2
0.7
5
1
0
0
▲ 0.1
-5
▲ 0.4
▲ 0.5
-1
-10
▲ 2.4
-2
-3
-15
-4
-20
2011
12
13
14
15
(年)
(資料)Roskazna、Rosstat よりみずほ総合研究所作成
ロシアは原油以外に有力な輸出産業に乏しく、ルーブル安が輸出の改善に結びつきにくいことが大きな
1
リサーチTODAY
2016 年 6 月 20 日
問題である。ロシアの連邦財政は、歳入の約半分が石油・天然ガス関連の税収によって占められる。従っ
て、油価が下落すると歳入も減少するので、歳出規模を維持しようとすると財政赤字の増大が避けられない。
こうした油価下落時の財政赤字のファイナンスを目的に、過去の油価高騰時の財政余剰を蓄えたのが予
備基金だ。下記の図表は予備基金と国民福祉基金の推移を示す。同基金から2015年中に400億ドル近く
が取り崩されており、2015年末の残高は約500億ドルにまで減少している。2016年連邦予算法では2016年
に340億ドルを超える予備基金が取り崩され、2016年末の残高は160億ドルになるとされる。ただし、この前
提は油価が50ドルであり、これ以下の水準の油価が続くと、予備基金は2016年で底をつくリスクもある。予
備基金のほかに、下記の図表に示される国民福祉基金がある。ただし、同基金の使途は、年金基金の赤
字補てんと国民の任意年金保険料の積み増し補助の2つに限られる。しかも、図表(右)に示されるように、
同基金の約3分の1は、すでにウクライナ国債やインフラ建設プロジェクトで活用されているので、財政赤字
のファイナンスには活用しにくい。
■図表:ロシア予備・国民福祉基金の残高推移(左)と運用先別構成(右)
(10億ドル)
200
予備基金
12.0
予備基金(右目盛)
国民福祉基金(右目盛)
175
(10億ドル)
(GDP比:%)
国民福祉基金
10.5
150
9.0
125
7.5
100
6.0
75
4.5
50
3.0
25
1.5
80
インフラ・ファイ
ナンス(VTB,
GPB経由)*
ウクライナ国債
2.3
3.0
70
3.8
60
5.7
8.9
50
銀行優先株
(VTB, GPB,
RSKhB)*
インフラ社債*
40
30
50.0
20
48.0
VEB*
10
ロシア中銀
0
0
2011
12
13
14
15
0.0
(年)
予備基金
国民福祉基金
(注)1. * は、一部または全額がルーブル建て資産による運用。その他はすべて外貨建て資産による運用。
2. VTB:ヴネシュトルグバンク、GPB:ガスプロムバンク、RSKhB:ロスセリホズバンク、
VEB:ヴネシュエコノムバンク。
(資料)Minfin よりみずほ総合研究所作成
ロシアでは今後、2018年に大統領選が予定されているが、予備基金が底をつけば、2017年には不人気
でも歳出削減を余儀なくされる。プーチン大統領は2014年末に、「経済の困難は、長くて2年続く」としてい
たが、2016年12月は、その「2年」にあたる。従って、残された半年で、経済悪化のもう一つの要因である欧
米の制裁の解除に本腰を入れて取り組む必要が生じる。さらに、日本の安倍政権がどのように対ロ政策を
行うかにロシアとしても重大な関心を寄せていると考えられる。
1
金野雄五「財政悪化に直面するロシア」(みずほ総合研究所 『みずほリサーチ』 2016 年 5 月 26 日)。
当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき
作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。
2