新幹線整備が浮上した際につき まとう「並行在来線問題」とは一 ければ、新幹線工事には着工して 必要になってくる。この同意がな は、在来線の沿線自治体の同意が られている。ただし、それによっ 争われた歴史」と言っても過言で 整備の歴史は並行在来線を巡って ている。なぜなら、 「西九州ルート なることが想定される。そのため、 しかし、この並行在来線問題に ついて、佐賀県は特に敏感になっ て、沿線住民の地域交通が不便に はないからだ。佐賀県と沿線自治 そのためだ。 内以外の運航を継続しているのは JR九州が鹿児島本線で八代―川 佐賀県関係者には強い。 度と起こしたくないという思いが こりを残した。こうした対立を二 年対立したことで、その後にもし り知れず、県と沿線 自治体が長 時間、労力は県、自治 体共に計 た経緯がある。それまでに要した 意を得られないまま、着工に至っ だった。結果的に沿線自治体の同 不必要という「奇策」による着工 崎本線の収支は悪化する。そこで、 され、在 来 線の八代―川 内 間が と長崎県が保有し、JR九州が期 かも、その終着点は施設を佐賀県 は新鳥栖―武雄温泉間は在来線 れがあるのだ。現在、FGT案で 三者合意による着工まで20年以上を費やした (写真は2007年) 沿線自治体との 〝対立〟 が繰り返される可能性も フル規格論再燃の一方で、 懸念される 体何なのか。例えば、博多から長 はいけない。これが「並行在来線 体が対立し続けたことで西九州ル を存続することが認められている。 けるために、沿線自治体の同意は た場 合は在 来 線の運営 支が見 込めると判 断し 側の負 担が少 なく、収 幹 線が開 業してもJR 営している。ちなみに新 薩おれんじ鉄 道」が運 「並行在来線問題」 のトラウマ 九州新幹線西九州ルートは、2022年にリレー方式によっ て開 業 する。一方で、在 来 線 を使用 するフリー ゲージトレイン (FGT)の安全性に疑問符がついたことで、佐賀県内でフル規格 論が再燃していることは先月号で述べた。しかし、財政負担は重 く、負担軽減に向けた明確な道筋も見えていない。加えて懸念さ れるのが「並行在来線問題」だ。佐賀県内関係者の間には、まだ 「 年間のトラウマ」が色濃く残っている。 崎まで新 幹 線が開 業した際、博 問題」である。 JR九 州の運 営から切 り 離され を使用するため、在来線はJR九 JRの経営から切り離される場合 多―長崎間を移動する人は在来 ートは着工できず、計画は遅れに 年に及ぶ自治体の対立 佐賀県に残る 「トラウマ」 線ではなく、新 幹 線を利 用する 仮にフル規格になった場合、こ の並行在来線問 題が浮上する恐 JRは新幹線が並行している在来 間限定で並行在来 線の運営を続 20 た。現在は第3セクターである 「肥 ことが多くなる。そうなると、長 遅れた。その期間は 年以上。し 九州新幹線鹿児島ルートでは、 鹿児島本線が並行在来線と見な 20 20 線を経営から切り離すことが認め Zaikai Kyushu / JUL.2016 57 FOCUS 九州新幹線 ㊦ 西九州ルート いずれかを経営から切り離すとな った場合、JR九州がその路線の みなされる可能性が高い。そうな 栖―肥前山口駅が並行在来 線と となると、現在の長崎本線の新鳥 っている。これが高架のフル規格 州が引き続き、運行することにな 議 論の的となる。佐賀 県に 念となった場合、在来線の行方は かし、仮に技術的にFGT導入断 現時点ではFGT導入が前提で あるため、まだ現実感は薄い。し えが返ってきた。 対せざる得ないだろう」という答 2003年に古川康知事が就任 し、各自治体の説得にあたったこ ぎることになる。 は宙に浮いたまま、時間だけが過 ねつけた。西九州ルート整備計画 されたが、鹿島市などはそれをは 営存続案なども自治体側に提案 整った。 は終わり、新幹線整備への土俵が 解決法で、これで 年に及ぶ争い 策」 「ウルトラC」とまで言われた 必要とみなされたのだ。当時、 「奇 の駅がある佐賀県のある首長に尋 だ。この問題の可能性を長崎本線 立する構図もあり得るという見方 来線問題が浮上したのは1996 う。西九州ルートで最初に並行在 在来線を巡る歴史を説明しておこ 並行在来線切り離しの可能性 を述べる前に西九州ルートの並行 かった。 し、地域振興策などにもなびかな 市の桑原允彦市長は強硬に反対 崩れてきた。しかし、依然、鹿島 ど、徐々に反対自治体の足並みが 貫いたが、議会は賛成に転じるな 町も田中源一町長は反対の姿勢を れて同意した。強硬派だった江北 良町も地域振興策などを受け入 に転じた。強硬に反対していた太 とで、反対していた自治体も同意 あった。対立が長期化することが、 体が空洞 化してしまう 憂き目に まざまなハードが老朽化し、街自 街地活性化などに着手できず、さ 案事項であり続けたため、中心市 市も新幹線反対が市の最大の懸 きずにいた。また、反対した鹿島 に、新幹線駅周辺の整備に着手で はいつ開業するかわからないため ともなった。新幹線が通る自治体 なく、まちづくりが遅れる要 因 しかし、自治体間の長 年の対 立は計画そのものの遅れだけでは 年 ねると、 「その時にならなければわ 年。JR九州が西九州ルートの 「武 れば、当 然ながら、沿 線 自 治 体 も否定できない。 以上前の悪夢がよみがえる可能性 成会を組織し、新幹線整備に反 だった。そこから沿線自治体は期 営分離すると発表したことが発端 を「肥前山口―諫早間」とし、経 雄温泉―諫早間」の並行在来線 いた。それが佐賀県、長崎県が線 九州と協議し、ある解決策を導 はその内容を受けて長崎県、JR う内容が打ち出された。古川知事 「関係者の調整を促進する」とい が有力視された際、この「三者合 実はFGTの試験走行で不具合 が発生した後で、リレー方式導入 敏感なのだ。 源問題以上に並行在来線問題に その経験があるために佐賀県は財 ことを佐賀県は身をもって知った。 対立で遅れたまちづくり 「三者合意」 問題はクリアに の同意が必要になってくる。地域 の足となっている在来線の運営が JR九州から変わるとなれば、 「首 長 も 簡 単には同 意できないだろ う」 (地元経済人)と見ている。か 対し始めた。長崎県側は次第に同 路などの設備を所有し、JR九州 網から取り残されるとあって、強 太良町の3自治体は九州の鉄道 線の運営はJR九州が継続すると あった。この同意によって、在来 を運営するという「三者合意」で いなかったからだ。そのため、三 であり、リレー方式は想定されて 者合意はFGTが三者合意の前提 再燃が懸念されていた。 年の三 07 つてのように県と沿線自治体が対 意し始めたが、佐賀県側が強硬に 硬に反対し続けた。JR九州から みなされ、沿線自治体の同意が不 20 は第3セクターによる在来線の経 反対した。中でも鹿島市、江北町、 が上下分離方式で 意」に関する並行在来 線問 題の 07 20 年間 在来 線 県全体にマイナスに働いてしまう からないが、そうなった場合は反 20 年に政府・与党検討委員会 で西九州ルートの着工に関して、 JR佐賀駅は博多への通勤客が多い 58 Zaikai Kyushu / JUL.2016 ート)の開業の在り方の合意によ わされた九州新 幹 線(西九州ル ただ、この点は3月 日に佐賀 県、長 崎 県、JR九 州の間で交 はないかという見方も出ていた。 び沿線自治体の合意が必要なので 者合意の有効性が疑問視され、再 ただ、この区間すべてをJR九 州が切 り 離すとも限 らない。た 自治体の同意が必要となってくる。 から切り離すとなった場合、沿線 る際、この路線が並行在来線とみ 北町)である。フル規格を整備す 賀市)・牛津(小城市)・肥前山口(江 今 後、 時 速 1 3 0 証試験が開始された。 術評価委員会を開き、走行試験 を踏まえ、秋には技 する。こうした検 証 べて、耐 久 度 を予 測 して部品を詳細に調 回転試験をし、分 解 ㌔で9000㌔ 分の 状 態で、時 速270 に一定の荷重をかけた 最終試験として台車 試 験を行 う。その後、 200㌔、270㌔の ㌔からスタートして、 ってクリアされた。リレー方式導 とえば、博 多駅―佐賀駅は朝夕 位 される。また、運営から切り離さ 肥前麓駅 中原駅 吉野ヶ里公園駅 神崎駅 伊賀屋駅 佐賀駅 鍋島駅 バルーンさが駅 牛津駅 肥前山口駅 新鳥栖駅 入にあたり、JR九州による肥前 の福 岡 市への通 勤 者は多い区 間 万2023人で九州第 (2014年度)だ。鹿児島本線 は で、佐賀駅の一日の平均利用者数 なされる。仮に、JR九州が運営 年 年間に延長し、上下 山口―諫早間の運営期間を 間から 本程 度としていた博 多―肥前鹿 本程度に増 の博 多駅―八代駅間のように博 島間の特急も上下 やした。これによってFGT前提 多駅―佐賀駅間を継続させる可 間の行方は懸念材料となる。この く、佐世保 線(肥 前山口―佐世 他のシナリオも考えられる。同 路線は長崎本 線の列車だけでな 断するかにかかってくる。 あたりはJR九州がどのように判 換える人も出てくるだろう。その 人が、料金次第で新幹 線に乗り を利用して博多まで通勤していた 走れば、これまで佐賀駅で在来線 フル規格の新幹線が同駅や近くを 〝仮定の域〟は出ない。 はFGTを前提にしているために が、ポイントになるが、現段階で 九州がどのような判断を示すか なくなる。いずれにしても、JR れば、沿 線 自治体の同意は必要 継続することもあり得る。そうな に上下分離方式で運営を一定期間 並行在来線問題が浮上してくるこ 味を帯びてくる。そうなった場合、 ければ、当然、フル規格論が現実 わる。ただ、安全性が確認できな した並行在来線問題は杞憂に終 ル規格の可能性はなくなり、前述 もし、この検証でFGTの安全 性が確認されて導入となれば、フ 再開を判断する。 間の長崎本 線の駅を東側から順 保)で博多―佐世保を結ぶ特急 ただ、仮にフル規格になった場 合、長崎本 線新鳥栖ー肥前山口 懸念は新鳥栖―肥前山口 運営維持は可能なのか 問題の再燃はなくなった。 に紹介すると、新鳥栖・肥前麓(以 みどりやハウステンボス号も走る。 はしておく必要はある。 ねない。そうならないための備え 衰退を加速させることにもなりか てしまっては、地域浮揚どころか、 口―諫早間のように時間がかかっ とは間違いない、かつての肥前山 き ゆ う 上、鳥栖市) ・中原(みやき町) ・ 博多―佐世保間を維持するため 佐賀県もFGT導入を主張して いる。5月には東京の鉄道総合技 吉野ケ里公園(吉野ヶ里町) ・神 に新鳥栖―佐世保間を一体的に考 術研究所でFGTの改良台車の検 FGTの検証試験開始 秋頃には結果が判明へ 埼(神埼市) ・伊賀屋・佐賀・鍋島・ えて、運営を継続することも想定 肥前山口―諫早間の並行在来線 合意として継続されることになり、 能性は十分に考えられる。しかし、 ずとも、肥前山口―諫早間のよう だった三者合意がリレー方式での 長崎本線(新鳥栖駅―肥前山口駅まで) バルーンさが・久保田(以上、佐 Zaikai Kyushu / JUL.2016 59 9 20 10 29 14 1 23
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