上野 亮 - 青山学院図書館

2015 年度
博士学位申請論文
(要
主査
飯島
約)
泰裕
教授
論文題目
ソーシャルメディア時代における
地域自治と情報のあり方に関する研究
-地方自治体による Twitter・Facebook の活用をケーススタディに-
A study of the relationship between the local autonomy and information
in the social media era
-A case study of utilization of Twitter and Facebook by the local governments-
青山学院大学大学院
社会情報学研究科
社会情報学専攻
上野
亮
近年、市町村を始めとする地方自治体において、ソーシャルメディアの導入が進んでい
る。特に、東日本大震災時の活用事例に注目が集まり、その活用を考える地方自治体の数
は増えつつある。また、ソーシャルメディアの国内利用者数は急増しており、Twitter と F
acebook は市民の間でも広く活用され始めている。
情報社会論の従来研究では、ある 1 軸を観点として整理することで、情報技術の進展に
より、情報システムの活用や産業情報化が進展するなど、様々な場面において、情報社会
が進展することを示している。だが、ソーシャルメディアの誕生やスマートフォンの普及
等の情報技術の進展は、市民や議会、自治体等、多様な主体による、情報を媒介とした双
方向コミュニケーションを容易に成立させる状況をもたらした。今後、ソーシャルメディ
アの活用が進めば、地域の課題等は市民自身が解決していく、かつての古代民主主義のよ
うな、地域自治の形に回帰する可能性を有する。本研究では、ソーシャルメディアを活用
し、地域自治を実現する時代をソーシャルメディア時代とおいている。しかし、従来研究
では、情報技術の進展により、地域自治のあり方としては、将来のソーシャルメディア時
代が、古代民主主義のような時代に回帰することを明確に表現できない。
そこで、各種調査を始めるに当たり、ソーシャルメディア時代の方向性を示すため、地
域自治の考え方の源泉としての古代民主主義による自治の時代を「情報掲示時代」、直接民
主制への移行後からインターネット社会到来までの時代を「情報配布時代」
、インターネッ
ト社会到来以降の時代を「情報公開時代」
、将来の「ソーシャルメディア時代」と 4 つの時
代に分類した。ただし、
「情報公開時代」は、多くの ICT ツールが誕生、活用されたため、
初期と現在の状況を比べると、ICT ツールの種類や求められた役割には、大きな変化があ
る。そこで、情報公開時代を、ICT ツールがホームページのような情報発信主体に用いら
れていた時代「ホームページ時代」
、電子会議室や地域 SNS のような、情報発信と双方向
コミュニケーションの両面において、ICT ツールが活用され始めた時代「電子会議システ
ム時代」と 2 つの時代に分類した。
その後、ソーシャルメディア時代の方向性、4 つの時代における位置づけを表すため、従
来研究のような 1 軸による整理の仕方ではなく、X 軸を市民参加や協働が支える「地域自
治」と顧客としての市民への「行政サービス」、Y 軸を広報紙等「実社会」をベースとした
手段の活用とポータルサイト等「ICT」の活用、とする 2 軸による、歴史的な変遷の整理を
行った。これにより、ソーシャルメディア時代は、市民参加や協働の動きを加速させるこ
とで、ICT の活用により、地域自治を実現する時代とするのが理想となること。情報掲示
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時代のような、地域の課題等は市民自身が解決していく、地域自治を実現する形に回帰す
ることを示した。
本研究では、これらの点を踏まえ、次の 3 点を研究目的とした。①歴史的変遷を踏まえ
た地域自治と情報のあり方を整理した上で、将来のソーシャルメディア時代の地域自治と
情報のあり方を示す。②現時点での地方自治体における、Twitter 及び Facebook の活用実
態を把握する。③ソーシャルメディア時代における、ソーシャルメディアの活用の方向性
を示した上で、現時点での活用実態との差異を明らかし、ソーシャルメディア時代、実現
までの課題を整理する。
研究目的①を達成するため、文献調査を実施した。また、研究目的②及び③を達成する
ため、調査当時に存在した、日本全国の市町村及び特別区 1,742 団体を対象に、アンケー
ト調査を実施した(回収率は 41.7%)。更に、地方自治体の運用する Twitter アカウント及
び Facebook ページを対象に、分析ツールを用いたデータ分析調査、運用を担当する自治体
職員を対象としたヒアリング調査を実施した。
この結果、次のことが明らかにできた。研究目的①に対する結果としては、歴史的変遷
を踏まえた、地域自治と情報のあり方を整理すると、情報公開や情報共有の進展とともに、
地域自治の段階も進展していること。ICT ツールの充実が情報公開や情報共有、広聴の取
り組みの進展に寄与していること等が分かった。
研究目的②に対する結果としては、地方自治体のソーシャルメディア運営体制は、特定
部課のみが関与する体制が主流であること。自治体規模の大小と関係なく、コミュニケー
ションツールとしてよりも、行政情報を発信する手段等、情報発信ツールとしての活用に
主眼が置かれていること等を明らかにできた。また、ソーシャルメディアの分類上、Twitt
er はマイクロブログ、Facebook は SNS と違う分類に属する。しかし、両ソーシャルメデ
ィアの活用実態には、情報発信が活発になる時間、双方向コミュニケーションへの対応な
ど、共通している部分も多いことが分かった。
研究目的③に対する結果としては、地方自治体のソーシャルメディアの活用は、情報発
信ツールとしての活用に留まり、コミュニケーション面における活用には、力が入れられ
てないこと。また、多くの市民はソーシャルメディアから情報取得をするに留まっている
こと。そのため、ソーシャルメディアを活用した、協働の試みがなされる段階に留まって
おり、市民による議員の選出過程、議会による政策決定過程、行政による政策実行過程に
対して、ソーシャルメディアが関与するような段階には至っていないことが分かった。今
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後、ソーシャルメディア上に、行政情報を含む、多くの地域情報が集約され、多様な主体
との情報共有が進むとともに、それらとの双方向コミュニケーションが実現する段階に至
るには、行政による、双方向コミュニケーションの実現が大きな課題になる。
本研究で行った一連の調査結果からは、地方自治体では、こうした広聴である、多様な
主体との双方向コミュニケーションよりも、広報である、情報発信に偏重してきた歴史的
な流れに沿って、ソーシャルメディアが運営されていることが明らかとなった。しかし、
ソーシャルメディア時代に向けては、情報発信だけでなく、多様な主体との双方向コミュ
ニケーションの実現も必要になる。
現状、地方自治体では従来の広報ツールの活用方法に沿って、ソーシャルメディアを運
営している場合が多いが、そうした運営体制は、リアルタイムな情報発信や双方向コミュ
ニケーションの実現を困難としている。そこで、庁内横断的な運営体制の構築といった、
運営のあり方から改善が必要となる。また、多様な主体との双方向コミュニケーションを
実現し、行政という組織を顔の見えない何かではなく、顔の見える身近な存在と認識して
もらい、皆が自由に意見を発信できる環境を整えることが望ましい。なお、研究課題とし
ては、地方自治体による、Twitter と Facebook 以外のソーシャルメディアの活用事例の把
握、分析等がある。
本論文の構成は、以下の通りである。第 1 章「序論」では、研究の背景と目的、研究の
方法、本論文の構成を述べた。第 2 章「地域自治に向けたソーシャルメディア」では、情
報社会と行政情報化の進展、地域自治を支える市民参加や協働に関する考え方を整理し、
地域自治と情報のあり方から見たソーシャルメディア時代の位置づけを示した。その結果
は先述の通りである。
第 3 章「歴史的変遷を踏まえたソーシャルメディア時代のあり方」では、研究目的①及
び③達成に向け、歴史的変遷を踏まえた地域自治と情報のあり方を整理した。その際、ソ
ーシャルメディア時代を含む、4 つの時代の市民・議会・行政を取り巻く情報に関する手段
を整理した。その後、それらの内容を踏まえ、ソーシャルメディア時代は、協働の促進に
より、協働により政策を実施する領域が拡大、行政が市民に対し、政策を実行する領域の
一部を代替する可能性があること等を示した。更に、ソーシャルメディア時代の Twitter、
Facebook 活用の方向性を示した。
第 4 章「電子会議システム時代における協働の実践」では、電子会議室や地域 SNS の活
用事例と課題、東京都八王子市をケーススタディとした、地域情報の発信を目的とした協
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働の実践について述べた。これにより、電子会議システム時代は、ソーシャルメディア時
代へ向けた過渡期であることを示した。
第 5 章「Twitter 活用の現状」では、研究目的②及び③達成に向け、アンケート調査等に
より、現時点の地方自治体における Twitter の活用実態を把握した。その結果、地方自治体
の Twitter 運営体制は、特定部課のみが関与し、それ以外の部課は直接的には関与しない体
制が主流であること。9~11 時台、または 16~18 時台に活発に情報発信される傾向にある
こと。双方向コミュニケーションは、ほぼ実現されてないこと等を明らかにできた。
第 6 章「Facebook 活用の現状」では、第 5 章に引き続き、研究目的②及び③達成に向け、
アンケート調査等により、現時点の地方自治体における Facebook の活用実態を把握した。
その結果、地方自治体の Facebook 運営体制は、特定部課のみが関与し、それ以外の部課は、
直接的には関与しない体制が主流であること。金曜日に活発に投稿される傾向にあること。
ページ全体に対する「いいね!」やコメントも、少ない状態にあるページが多く、双方向
コミュニケーションを実施する段階には、至っていないこと等を明らかにできた。また、
市民との双方向コミュニケーションを実現するまでの障壁には、情報発信時の決裁フロー
を中心とした、運営体制に関する障壁等があることが確認できた。
第 7 章「地方自治体のソーシャルメディア活用がもたらす可能性」では、全体の内容を
補強するため、地域に通う大学生(若者)や地域で活動する企業(地域企業)などに対し、
地方自治体がソーシャルメディアを活用する利点等を検討した。若者に関しては、アンケ
ート調査の結果から、地域生活情報を発信して欲しいと考えているのは、普段から利用し
ている、Twitter と Facebook であること等が分かった。地域企業に関しては、ヒアリング
調査の結果から、普段、地方自治体との付き合いが無い、小規模な地域企業への情報発信
ツールの 1 つとして活用することで、情報が届きにくかった地域企業に対し、情報が届く
可能性の向上に繋がること等が分かった。よって、若者や地域企業に対し、地方自治体が
ソーシャルメディアを活用し、情報発信することには、一定の意義があると判断できる。
第 8 章「結論」では、これまでの内容を踏まえ、研究目的①~③に対する、研究結果を
示した。その内容は先述の通りである。その後、今後のソーシャルメディア時代の実現に
向けて、庁内横断的な運営体制の構築や双方向コミュニケーションの実現が必要であるこ
とを示した。また、本研究の課題に、地方自治体による Twitter、Facebook 以外のソーシ
ャルメディアの活用事例の把握、分析等があることを述べた。以上が本論文の構成である。
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