退職所得:リスクを査定 2016年 6月20日 ゼーン・ E ・ブラウン パートナー、債券ストラテジスト 足元の金利環境によって、退職所得ポートフォリオの中に債券をどのように組み入れるかに ついての選択には、いくらか注意が必要となっています。最良の選択肢はどこにあるのでし ょうか? 要旨 退職所得ポートフォリオを構築している投資家たちにとって足元の低利回り環境が意味 するのは、現在の低インフレ率についていく投資選択肢すらほとんどないということです。 したがって、投資家はこれまで以上に大きな信用リスクと償還リスクを負う検討を余儀な くされています。今回は米国内の様々なインカム投資による利回り、そしてそれに伴うリ スクについて検証します。 さらにデュレーション(金利変化に対する投資価格の感応度)、信用リスクそして経済情 勢の変化等、債券に影響を与える重要な要因を検証します。 鍵となる論旨 - 上に挙げたリスク要因を踏まえて資産クラスのパフォーマンス特性を熟 知することによって、退職所得ポートフォリオ構築がより効果的なものとなるはずです。 インカム狙いの投資家にとって、今は苛立たしい時代です。退職所得ポートフォリオを構築しよう としている投資家も、その中に含まれます。足元の低利回り環境は、現在の低インフレ率につい ていく投資選択肢すらほとんどないことを意味しています。米連邦準備理事会(FRB)の金利正常 化に向けた緩やかな政策アプローチは、短期金利の大幅上昇の可能性が目先ほとんどないこと を示唆しています。そして、米国の金利が低いとは言っても、他の諸国の状況はさらに悪い状態 にあります。他の多くの先進国でのマイナス金利が、プラス利回りの選択肢を求める世界の投資 家の目を米国市場に向かわせた結果、米国の利回りは押し下げられています。 インカム問題は、退職後の金利収入を追い求める米国の投資家にとって、とりわけ差し迫った問 題です。彼らは、(FRB の目標である)長期インフレ率見通し 2%をほんの僅か上回るだけの利回 りを獲得するために、より大きな信用リスク、償還リスク、そして恐らくレバレッジ(借入れ)を取る ことを考えざるを得なくなっています。 それでは、退職後に焦点を当てた米国の投資家たちは今何を考えるべきなのでしょうか。我々は 米国内の投資選択肢の利回り-そしてそれに伴うリスク-を今回考察することで、投資家のイン カム収入目標とリスク許容度に合う最適な選択肢が何かを判断するための視点と枠組みを提供 できると考えています。 1 デュレーションリスクと緩慢な FRB FRB による利上げペースが非常に緩やかになるとの見通しから、2016 年と 2017 年の短期金利 は極めて低く抑えられた状態が続くことが予想されます。このことは、短期投資の利回りが高め に調整される可能性は低く、したがってインカム問題の解決策としては不十分であることを意味し ています。とはいえ、同じく重要なのは、利上げサイクルが緩やかであれば、FRB の動きがより 積極的な場合に比べて、中長期投資にマイナスの影響が及ぶ度合いが低いことも意味している ということです。 中長期投資がさほど影響を受けないのであれば、投資家は償還リスクについてはより安心感を 覚える可能性が高いと言えます。しかし、投資対象として期限の短いものを選ぶことで損失を軽 減できるかもしれない一方で、投資家はやはりマイナスリターンに見舞われる恐れがあります。こ うした状況を投資家はどのように回避することができるのでしょうか。そのためには デュレーショ ン、つまり金利変化に対する投資価格の反応度を、投資インカムや利回りとの対比で検証するこ とが重要だと考えられます。 表 1 は、利回りは似ているものの全く異なるデュレーションを持つ 2 つの投資対象への利上げの 影響度を比較することによって、そうした戦略を示したものです。ここでは 2016 年 5 月 31 日時点 の 10 年物国債指数と 1 年から 3 年の米国社債指数の特徴を利用して、1 年間のリターンをそれ ぞれ 0.25%、0.50%、0.75%の利上げに対して算出し、また 10 年物米国債では 9.27、1 年から 3 年 物社債では 1.93 のデュレーションを考慮に入れています。2 つの指数の現在の利回りが 1.80%、 1.83%とほぼ同じ水準であるなかで、デュレーションで大きく下回る 1 年から 3 年の社債のパフォ ーマンスの方が各利上げシナリオで上回っていることがわかります。 [予測値は現在の市場情勢 を基にしたものであり保証ととらえるべきではありません。] 表 1.リターンの比較:短期社債と 10 年物米国債 出典: BofA メリルリンチおよびロードアベット。最終利回りと修正デュレーションデータは 2016 年 5 月 31 日時点のものです。表 1 に示されたシナリオは 2016 年 5 月 31 日から 1 年間の潜在的なパフ ォーマンスを分析したもので、2016 年 5 月 31 日時点の実際の水準からスタートした各指数の利回り の 2017 年 5 月 31 日までの推移を、FRB による 0.25%、0.50%、0.75%の利上げがあるとの前提で 予想したものです。予想パフォーマンスはその後、2016 年 5 月 31 日時点の各指数のデュレーション によって修正されます。 予測や見通しは現在の市場情勢を基にしたものであり予告なく変更される場合があります。予測値を 保証されたものととらえるべきではありません。 これらは例示を目的としたものに過ぎず、ロードアベットが運用するいかなるポートフォリオあるいはい かなる特定の投資パフォーマンスを示すものではありません。 各指数は非マネージド型であり直接投資することはできません。 FRB が利上げするにつれて利回り曲線(イールドカーブ)が平坦化すると予想することは妥当で しょう。しかしそうした見方をもってしても、デュレーションの格差を克服することはほとんどできま せん。1-3 年社債指数が 0.5%上昇しても、10 年物国債指数は 0.25%しか上昇しない可能性があ ります。そうしたシナリオでは、デュレーションの短い 1-3 年社債指数が 0.84%のプラスリターンと なる一方で、10 年物国債指数は 0.49%のマイナスリターンとなり、社債指数のパフォーマンスが 1.33%上回ります。1-3 年社債指数が 0.75%上昇し 10 年物国債指数が 0.25%しか上昇しない場合 でも、期間の短い社債指数のパフォーマンスが上回るのです。 2 こうした点から、たとえ非常に緩やかな金利上昇でも、デュレーションの長い債券は期待外れのリ ターンしか生まない可能性が高く、とりわけ利回りが低すぎてマイナスの価格の動きを埋め合わ せられなければなおさらだと言えます。利回りをデュレーションに近づける、もしくはそれを上回る 状態を保つことは、利上げ環境下の投資家にとって有効な手引きかもしれません。しかし同時に、 1-3 年社債指数にはもう一つのリスク-信用リスク-が伴います。投資証券が投資適格債だっ たとしても、国債に比べればより高いリスクが存在するのです。とはいえ、利上げを可能とするよ うな経済成長下であれば、企業業績もよくなると考えて良いでしょう。 信用リスク、金利上昇そして経済成長 もし金利上昇が経済成長ペースの加速を意味するのであれば、投資家は金利上昇環境下にお ける信用リスクについて、より安心感を覚えることができるはずです。実際、以前に発表されたロ ードアベットリサーチでは、過去 30 年間の 5 回の FRB の利上げサイクル局面でハイイールド債 のパフォーマンスが相対的に高かったことを示しています。この 5 回の利上げサイクルの内 4 回 で、ハイイールド債指数が広範な債券市場指数であるバークレイズ米国総合債券指数(バークレ イズ総合)を上回り、利回りとデュレーションの関係性がその要因を説明するのに功を奏したので す。 表 2 は、利上げ幅が 0.25%、0.50%、0.75%の場合の、ハイイールド債ベンチマーク指数であるクレ ディスイスハイイールド指数とバークレイズ総合指数のそれぞれの理論上リターンを比較したも のです。2016 年 5 月 31 日の指数の特徴を見てみると、全てのシナリオにおいてハイイールド指 数のパフォーマンスの方が上回っていることがわかります。繰り返しますが、デュレーションに対 する利回りの比率を見ることは、金利上昇ペースが小幅な場合でも、金利上昇下のパフォーマン スの特性を見分けるのに効果的だと言えます。 表 2. リターンの比較:ハイイールド債と主要な債券 出典:クレディスイス、バークレイズ、ロードアベット。最低利回りと調整デュレーションのデータは 2016 年 5 月 31 日時点のものです。表 2 に示されたシナリオは 2016 年 5 月 31 日から 1 年間の潜 在的なパフォーマンスを分析したもので、2016 年 5 月 31 日時点の実際の水準からスタートした各指 数の利回りの 2017 年 5 月 31 日までの推移を、FRB による 0.25%、0.50%、0.75%の利上げがある との前提で予想したものです。予想パフォーマンスはその後、2016 年 5 月 31 日時点の各指数のデ ュレーションによって修正されます。 *債務不履行率 4%、元金回収率 40%と仮定。 予測や見通しは現在の市場情勢を基にしたものであり予告なく変更される場合があります。予測値を 保証されたものととらえるべきではありません。 これらは例示を目的としたものに過ぎず、ロードアベットが運用するいかなるポートフォリオあるいはい かなる特定の投資パフォーマンスを示すものではありません。 各指数は非マネージド型であり直接投資することはできません。 事実、計算上のパフォーマンスは、ハイイールド債における実際のパフォーマンスより低く算出される 可能性があります。より信用力の高い債券で全般に金利が上昇する局面で、ハイイールド債はその 景気感応度の高さゆえに利回りが低下し価格が上昇することがこれまでもありました。加えて、アクテ 3 ィブ型の運用では、12 ヵ月間で債務不履行率 4%、元金回収率 40%という表 2 の仮定条件がもたら すリターンの損失をある程度回避できる可能性があります。しかし同時にダウンサイドリスクも存在す るため、ハイイールド債投資にはモニタリングが必要です。景気後退に陥れば信用力の低い債券の 価格下落につながる恐れがあり、また株式も下振れ圧力に見舞われる可能性があります。 その他の考察事項 もし利上げ環境が景気拡大を意味し、デュレーションに近い-またはそれを上回る-利回りが利 回り上昇局面における好ましい特性なのであれば、信用力に敏感な投資対象として注目に値す るのが次の 2 つ-バンクローンと株式-です。バンクローンの対利回りデュレーション比率は究 極の値となります。固定金利を支払うほとんどの典型的な債券と異なり、通常のバンクローンは 3 ヵ月 LIBOR (ロンドン銀行間取引金利)といった短期金利に対する上乗せスプレッドに基づく変 動金利を支払います。つまり、バンクローンのデュレーションはほぼゼロなのです。なぜなら、短 期金利が上昇するとほとんどのバンクローンの利回りもそれに合うよう修正調整されるからです。 インカムは信用力の一関数ですが、もし経済の堅調さから金利上昇が明らかで、投資家が新た な信用リスクを取ることをいとわないのであれば、バンクローンは金利上昇環境によく適している セクターであると言えます。 株式もまた、歴史的に見て金利上昇局面で良好なパフォーマンスを示しているセクターです。ブ ルームバーグによると、ベンチマーク指標である S&P500 種株価指数が示す約 2%という最近の 配当利回りであれば、株式はインフレ率と同程度、そして 10 年物米国債より高いインカムを提供 できると見られます。投資家は潜在的なボラティリティをいとわない覚悟が必要ですが、これまで 見てきたように債券も同様に変動幅は大きくなり得るのです。こうした点を踏まえると、ポートフォ リオを構築する際には、インカムに重点を置く投資家は賢明な株式配分によっても恩恵を受ける ことができると考えられます。 インカム選択肢一覧 表 3 は様々な投資対象について簡略化したリターンを算出したものです。パフォーマンスの差は、 インカム収入を求める際にいくつかの事項を検証すべきことを示唆していますが、同時に警告も 発する形となっています。 表 3. リターンの比較:金利上昇による影響 4 出典:BofA メリルリンチ、バークレイズ、クレディスイス、ブルームバーグ、ロードアベット。利回りと調 整デュレーションのデータは 2016 年 5 月 31 日時点のものです。表 3 に示されたシナリオは 2016 年 5 月 31 日から 1 年間の潜在的なパフォーマンスを分析したもので、2016 年 5 月 31 日時点の実際の 水準からスタートした各指数の利回りの 2017 年 5 月 31 日までの推移を、FRB による 0.25%、0.50%、 0.75%の利上げがあるとの前提で予想したものです。予想パフォーマンスはその後、2016 年 5 月 31 日時点の各指数のデュレーションによって修正されます。 1 債務不履行率 3.2%、元金回収率 60%と仮定。 2 債務不履行率 4.0%、元金回収率 40%と仮定。 予測や見通しは現在の市場情勢を基にしたものであり予告なく変更される場合があります。予測値を 保証されたものととらえるべきではありません。 これらは例示を目的としたものに過ぎず、ロードアベットが運用するいかなるポートフォリオあるいはい かなる特定の投資パフォーマンスを示すものではありません。 各指数は非マネージド型であり直接投資することはできません。 インカム収入とボラティリティとの得失評価からは、足元の環境においては、償還リスクより信用 リスクの方に軍配が上がりそうです。こうした見方は、相対的に平坦なイールドカーブとは対照的 に、ハイイールド債が平均を上回る利回りスプレッドを提供している点からも下支えされています。 とはいえ、インカム収入の重要性は、経済リスク、元本の確保、資産間の相関関係の考察を含め たポートフォリオ全体のリスクとの間でバランスが取れていなければなりません。信用リスクと償 還リスクを有する資産クラスのパフォーマンス特性を熟知することによって、投資家のインカム収 入目標と全体のリスク志向をよりよく反映した退職所得ポートフォリオ設計が可能になるはずで す。 リスクについての注記:債券の投資価値は金利変動によってまた市場動向に応じて変化します。一 般に、金利上昇時には債券価格は下落し、逆に金利低下時には債券価格は上昇します。ジャンク債 と時に称される高利回り債ではより高い価格変動リスク、流動性の低さ、適時の元利払い不履行リ スクを伴います。債券はまた期限前償還リスク、信用リスク、流動性リスク、金利リスク、そして全般 的な市場リスクといった他のリスクも伴う可能性があります。通常では、より期間の長い債券は金利 変動に対してより敏感に反応します。つまり償還日までの期間が長いほど、金利変動が債券価格に もたらす影響度は高くなります。低格付け債は高格付け債に比べて高いリスクにさらされる可能性が あります。いかなる投資戦略もすべての市場変動を克服することはできず、また将来の投資成果を 保証することはできません。 米国債は米国政府が発行する債券であり、政府の十分な信頼と信用によって担保されています。米 国債からの所得は州、地方税が免除されています。米国債の元利金は保証されていますが、市場 価格については保証されておらず市場動向に応じて変動します。 見通しや予想は現在の市場情勢を基にしたものであり予告なく変更されることがあります。予想を保 証ととらえるべきではありません。 市場が将来同様の状況下で同じようなパフォーマンスを示す保証は一切ありません。 ベンチマーク指数は投資家に対してポートフォリオのパフォーマンスを評価するための参照水準を提 供しています。 LIBOR は、銀行がロンドン銀行間市場において他の銀行から市場性のある規模の資金を借り入れる ことができる金利を指します。LIBOR は英国銀行協会によって日々決定されます。LIBOR は翌日物 から 1 年間までの規模の大きいローンについて世界で最も信用力のある銀行間の預金利率のフィル ター後平均値を基に算出されます。 修正デュレーションとは市場金利が 1%変化することによって生じる債券価値の変化です。デュレーシ ョンは年数で表され、一般にデュレーションが長いほど、ポートフォリオの原債券に対する金利リスク 5 またはリターンは大きくなります。金利総エクスポージャーを含むポートフォリオ内の加重価値の合計 を、全ての債券の市場価値(あるいは必要に応じて想定元本)の合計によって除します。 利回りは債券から受け取る年間の金利であり、通常は債券の市場価格に対するパーセントで表され ます。配当利回りは配当を株価で割ったものです。配当利回りは株式価値を計測するひとつの指標で す。配当利回りが高ければ株式は相対的に割安であることを示唆しています。 バークレイズ米国総合債券指数は SEC に登録されている課税ドル建て債券を示す指数です。同指 数は米国の投資適格債券市場を網羅しており、国債、社債、モーゲージ・パススルー証券、資産担保 証券(ABS)によって構成されています。トータルリターンは原投資額に対する価格上昇/下落と金利 収入の割合で表されます。 BofA メリルリンチ 1-3 年米国債指数は BofA メリルリンチ米国債指数の副次指数であり、最終償還 日までの残存期間が 3 年以下の全ての債券を含みます。 BofA メリルリンチ 10 年物米国債指数は米国債の 10 年物を観測する非マネージド型指数です。 BofA メリルリンチ 1-3 年米国社債インデックスは米国内市場で発行された最終償還日までの期間が 1 年から 3 年までの米ドル建て投資適格公募債で構成される非マネージド型インデックスです。 クレディスイスハイイールド指数はハイイールド指数市場の特性を映し出すために構成されている非 マネージド型トレーダー値付け型指数です。同指数には S&P またはムーディーズから BB 以下の格 付けを付与された額面 750 万ドル以上の債券が含まれます。 クレディスイスレバレッジドローン指数は米ドル建てレバレッジドローン市場での投資可能なローンを 映し出すよう設計されています。 S&P 500 種株価指数は米国株式市場の大型株パフォーマンスを示す基準として広く認識されており、 主要業界における主要企業の代表的な株価を含んでいます。 指数は非運用型であり手数料や費用控除を反映しておらず、また直接投資することはできません。 前述の経済レポートで示された見解は発表日現在のものであり、今後その内容が変更となる可能性 があります。また弊社の見解を表明するものではありません。本資料は特定の投資または一般的な 市場に関する予測、リサーチ、投資アドバイスとしての利用を目的として作成されておらず、また法的・ 税務上の助言を提供するものでもありません。本資料は当社が信頼できると思われる情報に基づい て作成されておりますが、当社はその正確性および完全性について保証するものではありません。 本資料は、情報提供を目的とした参考資料であり、有価証券の取得の申込み・取得の申込みの勧 誘・売付けの申込み・買付けの申込みの勧誘、有価証券に関する投資助言をするものではなく、以上 のいずれの行為に関しても一切用いることができません。また、本資料は金融商品取引法に基づく開 示書類ではありません。 著作権 © 2016 by Lord, Abbett & Co. 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