増税先送りでも国債格下げ回避、2020年頃まで低

リサーチ TODAY
2016 年 6 月 23 日
増税先送りでも国債格下げ回避、2020年頃まで低金利か
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
みずほ総合研究所は、四半期毎に発表している『内外経済見通し』の改訂版を発表した1。そこでは消費
増税の先送りで、直ちに財政破たん懸念が高まる状態でないとしている。当社の試算では、増税先送りに
よりプライマリーバランスの2020年均衡への道筋は遅れるものの、公債残高のGDP比は、2020年代前半に
ピークアウトし、その上振れも限定的である。従って、直ちに財政懸念が生じるものではないと考えた。
今回の増税先送りに伴う、格付け機関の対応が注目されていた。下記の図表にあるように、フィッチとR&I
はネガティブに変更する厳しめの見方を示したが、その他は大きな反応を示していない。先述の改訂版に
ある財政の中期見通しに示したように、中期的な変化はそう大きくないことが背景にあると考えられる。
■図表:各格付け機関の日本国債へのコメント
S&P
(A+)
・(増税先送りにより)格付けに大きな影響があるとは考えていない。
・財政健全化へのコミットメントが弱まった兆候とは思われない。
・延期後の税率引き上げ日時が可能性として示されているので、
コミットメントは健在。延期の理由は不合理ではない。
フィッチ・
レーティングス
(A)
ネガティブに変更
・増税先送り決定を発表したが、それを埋め合わせる具体的な措置
を公表していない。
・日本の格付けに対する結論を出す前に、日本政府による修正財政
計画の詳細を待つことになろう。
ムーディーズ
(A1)
・増税延期と財政出動の組み合わせは、財政再建目標を達成する
ための政府の能力と意思に対する疑念を強めるもの。信用評価上
ネガティブ。
・政府が近々公表する経済財政運営の基本方針は、計画に対する
政府のコミットメントと実行能力を判断するベンチマークである。
R&I
(AA+)
ネガティブに変更
・増税延期の決定と財政出動の方針が示されたことで財政健全化
に向けたハードルは高まった。
・財政健全化に向け、信頼性及び実効性の高い施策が提示・実行
されない限り、格下げは避けられないと考えている。
(資料) 各種報道を参考に、みずほ総合研究所作成
次ページの図表は国債のCDSの推移である。前回(2014年)の増税先送り時は、CDSが大幅に拡大した。
当時、筆者も国債市場の不安定化を心配していた。その背景には、日本国債の安定の大前提となる経常
収支の赤字があった。また、国内の財政面ではプライマリーバランス改善へのトレンドが確認されていなか
った。一方、足元では、経常収支の黒字拡大が定着するとともに、プライマリーバランスは大幅なマイナスと
はいえ、改善の状況が定着している。今回の増税先送りが2020年のプライマリーバランス黒字化にネガティ
ブな要因であるのは確かだが、国債市場の変動の蓋然性は前回よりも明らかに低い。
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2016 年 6 月 23 日
■図表:CDSプレミアム推移
80
(bp)
日本
米国
ドイツ
増税先送り
70
(2014年11月18日)
増税先送り
(2016年6月1日)
60
50
40
30
20
10
1
2014年
3
5
7
9
11
1
2015年
3
5
7
9
11
1
2016年
3
5
(月)
(注)5 年物 CDS
(資料)Datastream よりみずほ総合研究所作成
増税先送りによる財政への影響についての当社の試算において前提とした状況は、金融緩和が継続す
ることによって、名目金利が名目成長率を下回ることである。今日のように、15年国債までが既にマイナス
金利になっているなか、国債利払いの加重平均値は今後も低下を続けると考えられる。一方、金利安定の
前提が変われば、公債等の残高のGDP比にも大きな影響が及ぶ。今回の、2019年10月までの増税延期は、
少なくともそれまでの間、超緩和の金融政策スタンスは変えにくいというメッセージと解釈してもいいだろう。
このようなシナリオが、安倍政権の政治的な時間軸の一環として描かれているとすれば、2018年に期限が
来る日銀の黒田総裁は金融緩和の継続の観点から再任させざるを得ないのではないか。自民党総裁の任
期が2018年9月に来る安倍首相は、総裁規定を変更してでも2020年頃までその地位に留まることを視野に
置いているのではないか。以上を総括すると、2020年頃まで低金利の環境が続くことを市場参加者は覚悟
する必要がある。今日、多くの金融機関や企業は2020年頃までを視野に中期計画を策定する場合が多い。
その期間ではマイナス金利も含めた超低金利の環境が継続するのではないか。こうした環境を各プレイヤ
ーは直視した上で、その間の生き残り戦略を考える必要があるのではないか。
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「2016・17 年度内外経済見通し」 (みずほ総合研究所 『内外経済見通し』 2016 年 6 月 8 日)
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